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リチウムイオン電池の開発(1):新しい正極材/負極材の採用

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リチウムイオン電池の開発(1):新しい正極材/負極材の採用
2016/4/5
リチウムイ オン 電池の開発:新しい正極材/負極材の採用も進展 ­ マークラ イ ン ズ 自動車産業ポータル
リチウムイオン電池の開発(1):新しい正極材/負極材の採用も進展
正極でニッケル酸リチウムとリン酸鉄リチウム、負極でチタン酸リチウムと合金系材料
2009.8.31 No.808
東芝:負極にチタン酸リチウムを採用、充放電特性とサイクル寿命を大幅改善
パナソニック:正極に高容量のニッケル酸リチウムを採用
SONY:正極がリン酸鉄リチウムのリチウムイオン電池を、量産開始
金属リチウムの回収/再生が容易な、新しい形式のリチウムイオン電池
要 約
ハイブリッド車 (HEV) の投入拡大に加えて、Plug-in ハイブリッド車 (PHEV) と電気自動車 (EV) の投入も始まり
つつあるが、搭載するリチウムイオン電池は、低コスト化と高容量化、加えて電池材料の資源制約への対応に、まだ
多くの課題を残している。
日本の電池メーカーが商品化している自動車用リチウムイオン電池のほとんどは、正極にマンガン系 (ノートPC用
ではコバルト系)、負極にカーボン(炭素)系材料を採用しているが、ノート PC を主用途とするリチウムイオン電池も含
めると、新たな正極材/負極材の採用が始まっている。
以下は、マンガン系正極/カーボン系負極ではない、新たな極材の採用動向である。正極ではパナソニックが高容
量のニッケル酸リチウム、SONY が日本では実用化が遅れていたリン酸鉄リチウム、負極では東芝がチタン酸リチウ
ムの採用を開始した。パナソニックは、合金系負極を採用したリチウムイオン電池の試作も発表している。
主要電池メーカーの自動車用リチウムイオン電池セル
製品
正極
第 2世代
日立ビークル
エナジー
第 3世代
マンガン系
HEV用
第 4世代
マンガン系
EV用
エネル
ギー密度
出力密度
V
g
5.5
3.6
300
66
2600
4.4
3.6
260
61
3000
4.8
3.6
240
72
4500
チタン酸
3.3
2.5
156
53
3900
リチウム
20
100
1000
アモルファス
マンガン系
SCiB
重量
Ah
カーボン
HEV用
東芝
負極
容量 電圧
Wh/kg
W/kg
三洋電機
VW 向け
HEV用
3元系
カーボン系
5
3.6
206
90
3500
ブルーエナジー
EH6
HEV用
3元系
カーボン系
6
3.7
331
67.1
3600
LEV50
EV用
3元系
カーボン系
50
3.7
1700
109
550
オートモティブ
L3-3
HEV用
3.6
210
63
2250
エナジーサプライ
カーボン系
3.7
マンガン系
L3-10
EV用
13
3.6
527
89
2060
リチウムエナジー
ジャパン
(注) 1.特性の一部は MarkLines 算出値 (推定も含む)。パナソニックEVエナジーがトヨタに供給している HEV 用
ニッケル水素電池モジュールは、6セルの直列構成で、容量 6.5Ah, 電圧 7.2V, 重量 1840g, 重量エネルギ
ー密度 46Wh/kg, 出力密度 1300W/kg。
2.リチウムイオン電池は、充電/放電に伴い、リチウムイオンが正極と負極の間を往復するだけの反応であり、電
池内部で化学変化は生じない。リチウムイオン電池の離脱と挿入が可能な、多様な材料を極材とすることがで
き、同系統の極材でもバリエーションは無数で、各社とも材料組成は発表していない。
3.マンガン系正極は、マンガン酸リチウムベース。オートモティブエナジーサプライは、マンガン系正極がスピネ
ル構造 (LiMn2O4 ベース) であることを明らかにしている。層状構造のマンガン系正極 (LiMnO2 ベース)
は、過充電等によって結晶構造が崩壊し、熱暴走が生じる可能性がある。スピネル構造は、過充電状態でも
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結晶構造は変化しないとされるが、リチウムイオンの脱離・挿入反応による格子体積の変化が大きく、充放電
の繰り返しによって結晶構造が崩れる可能性がある。
4.三元系正極は、リチウムの他に、コバルト (Co), ニッケル (Ni), マンガン (Mn) を含む複合酸化物で、
LiNiCoMnO2 ベース。
5.日立ビークルエナジーの第 2世代は量産中 ( 09年 5月発表によれば、商用車を中心に 5年間で 60万セル
を出荷)。第 3世代は、2010年量産開始予定 (GM に供給)。第 4世代は、2013年の量産開始を視野に、
2009年秋にサンプル出荷を開始予定。
6.日立ビークルエナジーの第 4世代のマンガン系正極は、粒子設計を最適化して薄膜化と大面積化した、第 3
世代までとは異なる材料。最低 15年/15万マイルの耐久性が目標。
7.東芝は HEV 用をサンプル出荷中、EV 用も2009年秋からサンプル出荷予定。
8.東芝の負極のチタン酸リチウム (Li4Ti5O12) の主成分の酸化チタンは、絵の具や塗料などにも使用されて
いるセラミックスの一種。
9.東芝の EV 用のエネルギー密度は小型車用 (さらに 120~150 Wh/kg を目標に開発中)。中型/大型 EV
用も 150Wh/kg を目標に開発中。
10.東芝の EV 用の出力密度は小型車用 (さらに 1300 W/kg を目標に開発中)。
11.三洋電機の HEV 用は VW/Audi 向けで、2009年内に量産開始予定。
12.三洋電機は、容量 20Ah クラスの PHEV 用電池の2011年の量産化を計画しているとされる (HEV 用の 4倍
の大容量で、SOC 0~100% で利用でき、1回/日の充放電で 20年を超える 10,000サイクルの寿命が目標)。
13.ブルーエナジーは、ホンダと GS ユアサの合弁会社で2010年秋に工場稼動予定。EH6 はGSユアサ製品で
低温特性にも優れ、零下 30℃でも 90% の容量を維持する。
14.リチウムエナジージャパンは三菱自動車とGSユアサの合弁会社。EV 用を量産中で、三菱自動車に供給して
いる。出力特性は、300A の大電流放電時でも 500W/kg を維持。低温特性にも優れ、零下 25℃ でも 86%
の容量を維持する。寿命は、25℃ の環境下でフル充電とフル放電を繰り返すサイクル寿命試験で、1000サ
イクル後でも 85% の容量を維持する。
15.オートモティブエナジーサプライは、日産と NEC グループの合弁会社で、HEV/EV 用とも量産中。HEV用
はエネルギー密度 70Wh/kg、出力密度 3000W/kg、程度を目指している。EV用は、エネルギー密度
90Wh/kg、出力密度 1900W/kg 程度を目指している。
東芝:負極にチタン酸リチウムを採用、充放電特性とサイクル寿命を大幅改善
現在のリチウムイオン電池負極は、ほぼ全てがカーボン系負極であるが、東芝は、チタン酸リチウムを負極に採用
したリチウムイオン電池を商品化し、自動車用もサンプル出荷している。
チタン酸リチウムの採用により、充放電特性とサイクル寿命を改善したのに加えて、安全性も高めている。
東芝のSCiB:負極にチタン酸リチウムを採用
東芝は,高い安全性を確保しつつ、急速な充放電を繰り返しても 10年を超える長寿命を備えるリチウムイオン電
池の SCiB (東芝の商標で、Super Charge ion Battery を意味する)を開発した (07年12月発表)。2008年 3月に
量産を開始し、10セルを直列に接続した標準モジュール TBP シリーズを発売した。
負極材に炭素系ではなく、それ自体が燃えることのない熱的に安定なチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)を、ナノレ
ベルの微粒子にして採用したことが特徴。引火点が高く発熱しにくい電解液と、耐熱性の高いセパレータも採用し
て、内部短絡が生じても熱暴走しにくく、破裂や発火の可能性は極めて低いとしている。正極材は、当初はコバル
ト酸リチウムベースだったが、サンプル出荷を開始した HEV 用はマンガン酸リチウム系正極とされている。
チタン酸リチウムは結晶格子の構造・サイズを変化させることなくリチウムイオンを吸蔵・放出できる材料のため、
サイクル劣化が小さく、電池寿命も長くすることができる。しかし、その作動電位 (起電力) が高いため、電極の組
み合わせで決まる電圧やエネルギー密度では不利となり、SCiB セルの公称電圧は 2.4V にとどまる (実用化され
ているリチウムイオン電池の多くは 3.6V)。容量は 4.2Ah、エネルギー密度は約 67Wh/kg。
しかし、充放電サイクル特性は秀でており、急速な充放電条件下で (25℃,10C(42A)充電,15A放電)約
3,000回の充放電を繰り返しても容量低下は 10% 未満で、5,000回を超える繰り返し充放電が可能としている。ま
た、50A の大電流での急速充電も可能で、5分間で電池容量の 90% 以上を充電可能。零下 30℃で 80% 以上の
放電容量も確保できるとしている。
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■エネルギー密度や充電性能を高めた、HEV 用と EV 用を開発中
開発中の HEV 用 SCiB は、容量が 3.3Ah、出力密度と入力密度が 3,900W/kg (サンプル出荷を既に開始)。
小型 EV 用は、容量が 20Ah、エネルギー密度が 100Wh/kg 級 (2009年秋にサンプル出荷を開始する見込み)。
中型/大型 EV 用は、エネルギー密度 150Wh/kg 程度としている。
この他、HEV 用 SCiB は急速充電時間も 1.5分に短縮したとしており、減速エネルギーの回生効率を高めること
も可能。また、SCiB は、SOC (State of Charge) 20~80% の広い充電率の範囲で 2600W/kg 以上の高い出入
力特性を持つため、EV 用に必要な電池特性にもマッチし、あるいはその分、電池搭載量を減らすことも可能 (エ
ネルギー密度の不利も、実用上ではカバーできる SOC 特性としている)。
資料:東芝レビュー Vol.64(2009)/Vol.63 (2008), 東芝広報資料 09.8.7, その他
(注) 東芝は、SCiB を、慶応義塾大学等が参画する "電動フルフラットバスの地域先導的普及モデル策定とシステ
ム化の実証研究" に提供する (09年8月発表)。発表資料のなかで、SCiB は、6,000回以上の充放電が可能な
長寿命としている。
パナソニック:正極に高容量のニッケル酸リチウムを採用
トヨタに HEV用ニッケル水素電池を供給しているパナソニックEVエナジー (PEVE) は、自動車用リチウムイオン電
池の開発状況を明らかにしていないが、トヨタは PEVE で2009年にリチウムイオン電池の少量生産を開始し、2010
年から本格生産することを明らかにしている。
パナソニックは、ノートPC 用を主用途とするリチウムイオン電池で、次世代技術のひとつに位置付けられている、
高容量化が可能なニッケル酸リチウムを正極に採用したリチウムイオン電池を商品化している。負極についても、次
世代技術に位置付けられている、飛躍的な高容量化が可能とされている合金系材料を採用したリチウムイオン電池
の試作を発表した。
パナソニック:ニッケル酸系正極と合金系負極を採用したリチウムイオン電池
トヨタは、2008年 6月に開催した環境フォーラムで、(1) 電池研究部を新設し、リチウムイオン電池の性能を超え
る革新的な次世代電池の研究開発を推進し、(2) パナソニックEVエナジー (PEVE:トヨタとパナソニックが出資) で
は、リチウムイオン電池の少量生産を2009年に開始し、2010年から本格生産をすると発表した。
パナソニックと PEVE は自動車用リチウムイオン電池の開発状況を発表していないが、パナソニックはノート PC
を主用途とするリチウム電池で、正極材にニッケル酸リチウムを使用した体積エネルギ-密度 620Wh/L の第 2世
代リチウム電池 (パナソニックの呼称) の量産を、2006年に開始した。
パナソニックは、2007年 1月には、ニッケル酸リチウム正極と合金系負極 (リチウムを含む複数金属の化合物) を
採用した体積エネルギー密度 740Wh/L の第 3世代リチウムイオン電池 (パナソニックの呼称) の試作を発表した
(開発中の技術試作品で、商品化時期等は未定)。
資料:パナソニック広報資料 09.7.31/07.1.19/06.4.25, トヨタ広報資料 08.6.11
(注) パナソニックは、オーストラリアで2009年10月に開催される、グローバル・グリーン・チャレンジ (ダーウィンからア
デレードまで 3,021km を縦断する) のソーラーカー部門に出場する、米国 MIT の SEVT (MIT Solar
Electric Vehicle Team)と東海大学チームに、高容量 (2.9Ah) のリチウムイオン電池セルを提供する (09年 7
月31日発表)。提供するのは、06年に量産を開始した、ノートPC 向けを主用途とする円筒形の 18650サイズの
電池。ニッケル酸リチウム正極を採用した第 2世代リチウムイオン電池で、エネルギ-密度は 620Wh/L。
■ニッケル酸系正極を採用したパナソニックの第 2世代リチウムイオン電池
パナソニックは、ニッケル酸系正極を採用した、高容量の第 2世代リチウムイオン電池の量産出荷を06年 4月に
開始した。新正極材料の採用と利用電圧範囲の拡大により、電池容量は、コバルト酸系正極の第 1世代電池の
2.2Ah (2.0~2.6Ah)よりも約 30% 大きい 2.9Ah。エネルギー密度は 620Wh/L (第 1世代は 525Wh/L)。
充電電圧は 4.2V で第 1世代と同じだが、放電終止電圧は 2.5V で (第 1世代は 3.0V)、利用電圧範囲が拡大
したことも容量拡大につながっている。また、高温化における充電放置後の容量劣化も小さく、低温放電性能も改
善した。
資料:パナソニック広報資料 06.4.25, その他
(注) 1.ニッケル酸系正極のベースとなるニッケル酸リチウム (LiNiO2) を正極に使用した場合のエネルギー密度は
170~210mAh/g で、自動車用で開発が進んでいるマンガン酸リチウム (LiMnO2) の 100~120mAh/g より
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大きく、性能バランスのよい高容量極材として実用化されたコバルト酸リチウム (LiCoO2) の 140mAh/g より
も大きい。
2.しかし、コバルト酸リチウムと同様、充放電の繰り返しで結晶構造が崩れやすい層状岩塩型結晶で、4.2V で
充電すると 200度付近で酸素放出が急増するなど熱安定性にも劣るため、安全性を確保するのが難しいとさ
れてきた。実用化例は少ないが、トヨタが2003年に Vitz のアイドリングストップ仕様に搭載したリチウムイオン
電池は、ニッケル酸リチウム正極とされている (MarkLines Report
No.160 http://www.marklines.com/ja/report/rep160_200304)。
3.電池は、使い始めは定格電圧を起電力として出力する。しかし、放電につれて電圧が徐々に降下し、ある電
圧を境に急低下して、電源としての機能を失う。急低下が始まる電圧が放電終止電圧で、これに達した時点
で電池を使い切ったことになる。
4.リチウムイオン電池は、一般的に、充電状態で高温下に放置すると容量が低下し、その後充電しても回復し
ないことがある。また、零下での極低温化では、電気化学反応が進行しにくくなり、電圧が低下することがあ
る。
■合金系負極を採用したパナソニックの第 3世代リチウムイオン電池
パナソニックは、リチウムイオン電池用の合金系負極を開発し、高容量の第 3世代リチウムイオン電池を試作した
(07年 1月発表)。カーボン系負極を採用した、パナソニックの第 2世代電池より 20%、第 1世代電池より 40%、エネ
ルギー密度を高めることが可能としている。
合金系負極は、リチウムと、シリコン (Si) やスズ (Sn), アルミニウム (Al), 亜鉛 (Zn) 等との金属間化合物で (パ
ナソニックは組成を明らかにしていない)、実用化されているリチウムイオン電池で一般的なカーボン系負極と比較
し、飛躍的な高容量化が可能とされている (コストと資源的な問題も改善する)。しかし、充放電の繰り返しで極板
が膨張・収縮して破壊されるため、現状ではサイクル寿命性能が低く、実用化は困難とされている。
パナソニックは、負極組成の最適化と新工法の採用により、極板の膨張・収縮を緩和させることに目処をつけ、負
極の寿命性能はカーボン負極と同等レベルに向上したとしている。試作した第 3世代電池のエネルギー密度は
740Wh/L。充電電圧は 4.2V。放電終止電圧は 2.0V としている。
資料:パナソニック広報資料 07.1.9, その他
SONY:正極がリン酸鉄リチウムのリチウムイオン電池を、量産開始
SONY は、2009年 6月、リン酸鉄リチウムを正極に採用したリチウムイオン電池の量産出荷を開始した。リン酸鉄リ
チウムは、原材料コストが安く、資源面の制約が少なく、エネルギー密度も高いため、自動車用リチウムイオン電池の
正極材としても有望視されているが、日本での実用化は遅れていた。
三井造船や住友大阪セメントなど、多様な業種から、リン酸鉄リチウム正極材に参入する動きも、日本で生じてい
る。
SONY:正極がリン酸鉄リチウムの高出力型/長寿命リチウムイオン電池を量産出荷
SONY は、自動車用リチウムイオン電池への関心を示していないが、1991年に世界で初めてリチウムイオンイオ
ン電池量産を開始し、その後もリチウムイオン電池開発をリードする技術を実用化している。
2005年には、スズ, コバルト, 炭素などの複数元素を原子レベルで均質混合してアモルファスにした負極と (注
1)、コバルト, ニッケル, マンガンなど複数の金属元素を結晶構造中で最適原子比で混合した複合酸化物材料とコ
バルト酸リチウム(LiCoO2)を組合わせた正極を採用して、エネルギー密度 158wh/kg の高容量リチウムイオン電
池を商品化した。
SONY が開発したスズ系アモルファス負極は、黒鉛負極に比べてリチウムイオンの受け入れ性がよいため、30分
間で満充電容量の約 90% 充電が可能。低温度特性にも優れ、0℃環境下でも、25℃の常温環境における放電容
量の 90% 放電が可能。
2009年 6月には、結晶構造が強固で、高温下での熱安定性も高いリン酸鉄リチウムを正極材料として用いた、
1800W/kg の高出力密度で、約 2000回の充放電が可能な長寿命のリチウムイオン電池の出荷を開始した。
SONY のリン酸鉄リチウムイオン電池の主な仕様は、形状は筒型 18650 (直径 18mm, 高さ 65mm)、重量 40g、
容量 1.1Ah、公称電圧 3.2V、エネルギー密度 95Wh/kg、出力密度 1800W/kg、連続最大放電電流 20A、急速
充電は 30分で 99% が可能。
http://www.marklines.com/ja/report/rep808_200909
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リチウムイ オン 電池の開発:新しい正極材/負極材の採用も進展 ­ マークラ イ ン ズ 自動車産業ポータル
資料:SONY広報資料 09.8.11, その他
(注) 1.通常の金属・合金は、原子が周期的に配列した規則正しい結晶構造を持っている。しかし、金属を高温に熱
して溶かすと液体になり、原子の周期的な配列が崩れる。液体はアモルファス状態であり、通常低温で凝固
すると結晶に変化する。しかし、ある種の合金は液体状態から急速に冷却することによって、液体状態の構造
を持った固体を形成することができる。このような合金を非晶質合金またはアモルファス合金と呼ぶ。
2.リン酸鉄リチウム (LiFePO4) は、全ての酸素がリンと強固に共有結合しているため、温度上昇に伴う O2 の
発生がない。リチウムイオン電池正極として使えば、O2 が発生しにくい状況を維持する安全対策ではなく,
O2 発生の可能性をなくす安全対策が可能。原材料コストが安く、資源的な制約も少なく、エネルギー密度も
160mAh/g と大きい。
3.しかし、LiFePO4 の電子伝導性が低いため (実際に取り出せるエネルギーが小さくなる)、日本での実用化
は遅れていた。そのため、電子伝導性の高いカーボンを LiFePO4 に担持する方法が検討されてきた。
SONY は、電気抵抗を低減することで高出力を可能にするソニー独自の粉体設計技術と、高出力型リチウム
イオン電池で培ってきたセル構造技術によって、実用化を果たしたとしている。
■カーボン被覆したリン酸鉄リチウムの、超微粒子化
産業技術総合研究所 (産総研) と日本学術振興会 (JSPS) は、リチウムイオン電池用の正極材料として有望な、
カーボン (炭素) 膜を被覆したオリビン構造 (結晶構造の一種) の LiFePO4 (リン酸鉄リチウム) を、ナノメートルオ
ーダーの超微粒子に合成することに成功した (08年 8月発表)。
LiFePO4 は安価で、電気自動車用大型リチウムイオン電池の正極材料として注目されているが、高出力に必要
なハイレート (短時間で大きな電流を流す)で充放電させると、容量が急激に低下するとされていた。
産総研によれば、直径を 20~40nm に制御したオリビン構造 LiFePO4 の超微粒子は、表面を厚さ 1~2nm の
黒鉛に類似したカーボン層 (セミグラファイト膜) で覆うことで、30C や 60C というハイレートで充・放電した場合で
も、それぞれ、112mAh/g、90mAh/g の高容量を維持する。さらに、100% の充放電深度で 1,100回の充放電サイ
クルを繰り返しても、容量は 165mAh/gと 初期容量を維持する。
産総研は、リチウムイオン電池を大出力化できる可能性のある技術として、電極材料のナノ構造化の研究成果を
数多く発表している。ナノ構造化によって、電池出力が向上する理由としては、(1) 活物質材料内でのリチウムイオ
ンの拡散距離が減少する。(2) 比表面積が大きくなり単位面積当たりの電流密度が減少する。(3) ナノ細孔により
充放電過程における体積膨張が緩和され、サイクル特性が向上する、等としている。
ただし、ナノ構造化によって、電解液と正極材料が接触する表面積が著しく大きくなり、放熱などにより、発火の
危険性やサイクル特性の劣化などもあるとしている。
資料:産業技術総合研究所広報資料 08.8.28
(注) 1.産業技術総合研究所(産総研)の前身は通商産業省工業技術院で、2001年に独立行政法人化された。英語
名称は、AIST:National Institute of Advanced Industrial Science and Technology。
2.日本におけるリン酸鉄リチウムイオン電池の実用化は遅れているが、三井造船は2006年に LiFePO4 系の正
極材を開発、実証プラントを設置した。量産効率を向上させ、2011年度を目処にコバルト系の 1/2 程度の価
格で量販する計画とされる。
3.この他、住友大阪セメントが LiFePO4 系正極材のサンプル出荷を2009年 5月に開始した。2010年度中に年
産 1,000t レベルの量産プラントを立ち上げ、マンガン系正極材と同程度の価格で車載用電池向けなどに出
荷する計画とされる。
4.第一工業製薬グループのエレクセル(京都市)が、LiFePO4 系正極のリチウムイオン電池のサンプル出荷を
2009年 4月に開始した。大電流充放電特性に優れ、小容量プロトタイプでは 5C の電流レート試験で 5,000
サイクル後で初期容量の 80% 以上の出力を保持するとしている。
5.電源設計(大阪市)は、LiFePO4 系正極のリチウムイオン電池モジュールの受注を2009年 5月に開始した。
三井造船が開発したリン酸鉄系正極材料を採用し、エレクセルがセルを製造、電源設計はモジュールの設計
と組立てを行う。
金属リチウムの回収/再生が容易な、新しい形式のリチウムイオン電池
リチウムは、日本政府がレアメタルに指定している金属であり、リチウムイオン電池搭載車の普及が進めば、資源的
な制約が生じる可能性もなしとしない。
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産業技術総合研究所は、2009年 8月、リチウムを金属のまま使用し、回収/再生が容易な新しい形式のリチウムイ
オン電池を発表した。実用化にはまだ多くの課題があるものの、将来技術として注目に値する。
正極と負極に金属を用いた、リサイクル容易なリチウムイオン電池
産業技術総合研究所 (産総研) は、大容量で、かつリサイクルが容易なリチウムイオン電池を開発した (09年 8
月発表)。電極には単純な金属を使用し、充電と放電は金属と金属イオンの可逆変化 (金属の溶解と、金属イオン
が金属の表面にめっきとして析出する反応)で生じる。充放電を繰り返しても、活物質は金属のままであり (正極の
銅と、負極の金属リチウム)、活物質の回収と再生が容易。
電解質は、金属リチウムの負極側に有機電解液、金属銅の正極側に水性電解液を用い、両電解液を固体電解
質の壁で仕切った構造。分離壁により両電解液は混合せず、固体電解質はリチウムイオン(Li+)だけを通し、銅イ
オン(Cu2+)は負極側の有機電解液に到達しないため、安定して充放電反応が生じる。
有機電解液と水性電解液も、交じり合わないため、個別に再生できる。これらにより、従来電池と比較してリサイク
ルが容易であり、リサイクルコストも低く抑えることができる。
正極の放電容量密度は 843mAh/g で、充電容量密度も 843mAh/g (正極で反応する銅の重量あたり)。従来
のリチウムイオン電池正極の 120~150mAh/g の 5倍以上の大容量で、100回の充放電試験後の放電容量の低
下も微小としている。また、充放電反応が、金属の溶解と析出するだけの反応で生じ、化合物形成のような複雑な
過程がないため、理論的には大きな電流密度での使用も可能としている。
ただし、現段階では分離壁として用いた固体電解質のリチウムイオンの伝導率が十分ではなく、電気自動車など
のハイパワー用途には、さらに出力密度を向上する必要がある。
資料:産業技術総合研究所広報資料 09.8.24
(注) 1.現在実用化されているリチウムイオン電池の多くは、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム等の遷移金属
酸化物を正極、黒鉛系炭素材料を負極として、非水系電解液を構成材料としている。
2.正極材としてのコバルト酸リチウムやマンガン酸リチウムは、高温焼結や微細構造の制御など、複雑かつ高コ
ストな製造プロセスが必要。電池をリサイクルする場合も、活物質と導電助剤、カーボン、集電極との分離が
難しい。
3.リチウムは、埋蔵量が少ないあるいは産出が難しい希少な非鉄金属として、日本政府がレアメタルに指定して
いる 31種類のひとつ。また、現在使用または開発中のリチウムイオン電池の極材の構成材料のコバルト, マ
ンガン, チタン, ニッケル, バナジウムも、31種類に含まれるレアメタルである ( 31のうちのひとつは、総称とし
てのレアアース希土類で、元素としては47種類になる)。
4.産総研が09年8月に発表した電池の放電時に生じる電極反応は、(1) 負極では Li → Li+ + e- :金属リチウ
ムがリチウムイオンとして有機電解液に溶解し、電子 e- が配線に供給される。溶解したリチウムイオンは固体
電解質を通り抜けて正極側の水性電解液に移動する。(2) 正極では Cu2+ + 2e- → Cu :銅イオンは正極側
の水性電解液から正極表面に達し、そこで配線から電子e-が供給され、金属銅が析出する(めっき反応)。
5.充電時に生じる電極反応は、(1) 負極では Li+ + e- → Li :リチウムイオン(Li+)が正極側の水性電解液か
ら固体電解質壁を通り抜けて負極表面に達し、そこで配線から電子 e- が供給されて、金属リチウム(Li)が
析出する (めっき反応)。(2) 正極では Cu → Cu2+ + 2e- :金属銅が銅イオン(Cu2+)として水性電解液に
溶解し、電子 e- が配線に供給される。
出典:マークラインズ
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http://www.marklines.com/ja/report/rep808_200909
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