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反射解析に基づく布の CG 画像の作成とその視感評価 Modeling and

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反射解析に基づく布の CG 画像の作成とその視感評価 Modeling and
反射解析に基づく布の CG 画像の作成とその視感評価
Modeling and Visual Evaluation of Computer Generated Cloth Images
Based on a Reflection Analysis
坂上
ちえ子
Sakagami Chieko
目次
目次
論文内容の要旨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ⅰ
Abstract・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ⅲ
第 1 章 目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激・・・・・・・・・・・・ 1
本章の目的と概要
1.1 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
1.2 本論文の構成と概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
第 2 章 紙と比較した布の反射特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8
本章の目的と概要
2.1. 紙製および布製色刺激の比較評価測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
2.1.1. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
2.1.2. 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2.1.3. 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
2.1.4. 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
2.2. 紙製色票および染色布の分光反射と色度変化の測定・・・・・・・・・・・・・24
2.2.1. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
2.2.2. 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
2.2.3. 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
2.2.4. 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
第 3 章 光の反射と CG における反射モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・39
本章の目的と概要
3.1. 光の反射・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
3.1.1. 光反射のメカニズム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
3.1.2. 布反射の先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
3.2. CG における反射モデルと布 CG 画像の先行研究・・・・・・・・・・・・・・ 50
3.2.1. 拡散反射モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
3.2.2. 鏡面反射モデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51
3.2.3 布 CG 画像の先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
目次
第 4 章 布微小面の反射特性の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66
本章の目的と概要
4.1. 予備実験:指数関数による布微小面の反射率算出法の検討・・・・・・・・・・67
4.1.1. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
4.1.2. 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68
4.1.3. 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
4.1.4. 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80
4.2. 本実験:マイクロスコープと偏光フィルタによる画像測定に基づく
布微小面の反射特性の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
4.2.1. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
4.2.2. 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・82
4.2.3. 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・88
4.2.4. 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95
第 5 章 布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価・・・・・・・・・・・97
本章の目的と概要
5.1. 布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成・・・・・・・・・・・・・・・・・98
5.1.1. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・98
5.1.2. 3DCG ソフトウエアの光学的特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99
5.1.3. 反射特性を反映した布の 3DCG 画像・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
5.1.4. 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
5.2. 布 3DCG 画像の評価実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
5.2.1. 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
5.2.2. 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
5.2.3. 結果と考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・117
5.2.4. 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129
第 6 章 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・132
6.1. 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・133
6.2. 今後の課題と展開・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・135
引用・参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
論文内容の要旨
論文内容の要旨
本研究の目的は,コンピュータグラフィックス(CG)により布の色彩調査用の刺激画像
を作成し,その視感評価を行うことであった。具体的には,布の反射を解析し,その解析
結果を反映させた色彩嗜好調査用の布の CG 画像を作成して,それらの精度を視感評価に
より検証することとした。
その結果から,
実際に測定した布微小面の反射データに基づき,
三次元コンピュータグラフィックス(3D CG)のソフトウエアを使用して作成された布の
CG 画像は有用であることを明らかにした。とくに,以下の 2 点が重要であることを提案
した。1 点目は,単に布表面の反射率データの反映ではなく,布の微小面における全反射
を拡散成分と鏡面成分に分離して各反射率を明らかにし,3D CG 画像作成に必要な設定パ
ラメータに反映させた点,2 点目は,3D CG で作成した楕円柱状のたて糸とよこ糸を交錯
させて表面形状を構成した CG 画像に布の反射データを反映させた点であった。これによ
り,観察角度 45 度と 60 度では,評価項目「布らしさ」において対照刺激の画像より有意
に高い評価を得た。以下に提案に至る研究内容を各章で要約した。
第 1 章では本研究の目的と研究の背景を述べた。色彩嗜好調査の色刺激には,一般に紙
製かそれに近い均質な素材のカラーサンプル(色票)が使用されるが,立体的で複雑な表
面構造を持つ服地や布の嗜好を調査するための刺激として紙製の色票が適切かという疑問
が生じた。そこで,布からの反射光を解析して,それらを反映させた布の CG 画像を作成
した。さらに,布の質感が表現されているかを確認するために,視感評価測定を試みるこ
ととした。
第 2 章では視感評価と物理的測定を行い,紙と布の違いを確認した。視感比較評価でも
変角分光測色システムを使用した反射率などの物理的測定でも紙製と布製色票の間に有意
な差が認められた。とくに反射率と色度の結果では顕著な違いが認められたが,布からの
反射光を特徴づけると予測される鏡面反射成分やその特性を抽出することはできなかった。
第 3 章では布の反射と布の CG 画像作成に関するこれまでの研究をまとめた。まず,一
般的な不透明物体表面の反射に関する物理的基礎事項を整理した。布の反射に関する研究
は少なかったが,有用な成果をあげた一連の研究群があったためそれらをまとめると同時
に,本研究に必要な課題や研究の方策を検討した。次に,布の CG 画像作成にかかわる先
行研究を整理した。CG を作動させる上で反射メカニズムを解析し記述する必要がある。
記述には 2 色性反射モデルを導入している研究が多かった。2 色性反射モデルとは表面か
らの光反射成分を鏡面反射成分と拡散反射成分に分けて記述するモデルであり,布の CG
描写に関する研究に重用されていた。また,布の CG 画像作成の多くの先行研究に共通し
たのは,布が複雑な表面構造を持つことに起因する特徴的な反射に注目していることであ
った。とくに,微小面の反射特性を解析し,それらをシェーデイングやレンダリングなど
i
論文内容の要旨
に反映させることで布の持つ柔らかさや光沢といった質感を表現する研究が行われていた。
しかし,絹のサテン生地など光沢感を認識しやすい布が研究対象であった。また,双方向
反射率分布関数(BRDF:Bidirectional Reflectance Distribution Function)によって反射を記
述する研究も多く行われていたが,作成した布の CG 画像は呈示されているだけで,実物
と視感比較するなど,質感表現の完成度を客観的に確認した研究は見当たらなかった。
第 4 章では偏光フィルタとマイクロスコープデジタルカメラを用いて,布微小面の反射
特性を解析した。2 色性反射モデルの考え方に基づき,また,織組織の特徴を備える布の
微小面からの反射光を鏡面反射成分と拡散反射成分を分離して抽出し,
反射率を算出した。
通常の測色システムでは測定が難しいため,偏光フィルタとマイクロスコープデジタルカ
メラを測定に用いた。しかし,反射率算出が適切かを確認する必要があるため,4.1 節では
非線形関数である指数関数による反射率算出とその方法を検証した。その結果をもとに使
用頻度の高い布の微小面からの反射光を解析した。まず,反射断面とした布の織糸からの
反射率変化を拡散成分と全成分(拡散成分+鏡面成分)に分けて捉えた。次に,フーリエ
解析を利用して,受光角度の変化に伴う布の織目の規則的変化を確認した。さらに,微小
面における反射光の強度分布を視覚化し,
選定した 14 種類の試料布の反射特性を解析した。
第 5 章では,第 4 章の解析結果を反映させた服の色彩調査用色刺激の作成を試みた。取
り扱いが簡便な市販の 3D CG ソフトウエアを用いた。まず,使用するソフトウエアの光学
的特徴を把握した。それらの特徴を考慮し,さらに,第 4 章で得た布微小面の反射データ
を反映させて布の CG 画像を作成した。これまでの研究では作成した画像を客観的に評価
したものは見当たらなかったため,実際の試料布と CG 画像を同時に視感する比較評価に
よって,作成した布の画像の質感や布らしさを確認した。評価項目と観察角度ごとに評価
平均値を求めて分散分析を行い,良好な結果が観察された。しかし,不充分な点も見出さ
れた。
反射率が低く鏡面反射成分の多い合成繊維の布は,
その表現に工夫が必要であった。
本研究では市販の色票と同形の CG 画像を想定したため,ドレーピングのない平らな画像
としたが,柔らかさを表現するためには,布表面だけでなく全体の形状を工夫する必要が
あった。また今回,染色していない布を研究対象としたが,服地には無色や無地の布は少
ない。今後は,質感研究とともに色や柄の表出方法についても探求していく必要があると
考える。
ii
Abstract
Abstract
Colored papers instead of colored pieces of clothes have been generally used for investigations on
color preference for clothes. However, colored papers do not have a texture such as a feel of fabrics.
Here, the goal of this research was to create images of fabric using computer graphics (CG) based
on the results of fabric reflectance analysis and to conduct visual evaluation experiments with the
images.
A CG image creation by modeling the reflection mechanisms of tiny sections of fabric surfaces to
obtain the feel of fabric requires sophisticated knowledge. In addition, previous researches
concerned with the CG image creation of clothes have focused on particular fabrics. Therefore, we
created fabric CG images by an analysis that substituted relatively simple knowledge for complex
reflection characteristics on a fabric surface.
First, we measured the reflectance of frequently used fabrics and analyzed their properties. We
selected 14 kinds of undyed clothes consisted of different fibers, weave structures, and knit
structures as test specimens. We measured microscopic surfaces of the specimens using a
microscope and polarized filters. The light conditions were at an incident angle of 45° and
acceptance angles of 0°, 15°, 30°, 45°, and 60°. In addition, we separated reflected light into diffuse
and specular reflection components based on the dichromatic reflectance model and quantified these
proportions within total reflectance. Further, we visualized reflection intensity to show the
anisotropy of the separated, reflected light.
The results indicated that for the cotton fabric, we extracted the specular component only in the
specular direction. In contrast, the specular component appeared at all acceptance angles for silk and
linen fabrics, which showed remarkably higher values for synthetic and Rayon fabrics. In addition,
the intensity distribution of the reflected light depended on the direction from which the fabric was
viewed.
We created the images based on the above properties by using commercially available 3D-CG
software so that general researchers can use them in a color preference survey of fabrics. We
juxtaposed an actual fabric specimen and a corresponding CG image of the fabric created by
incorporating the reflectance analysis results and visually compared them. We checked whether the
CG image of the fabric retained its 'fabric-like' feel through these evaluation experiments. The
results indicated that fabrics were rated significantly higher than the corresponding control images.
Of particular note, each fabric successfully rendered its characteristic feel when the specular
reflectance component was less than or equal to 10% of the total reflectance.
iii
第1章
目的
-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
第1章
目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
第 1 章 目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
本章の目的と概要
本章では,本研究の目的と全体の構成を述べる。
本章の構成は以下の通りである。1.1.節では目的を明らかにした。まず,本研究を始める
にいたった現状と背景を整理して問題点を抽出し,
目標とすべき研究成果を見据えながら,
目的を明確にした。1.2.節では本論文の構成と概要を示した。
1.1. 本研究の目的
色の嗜好調査には,色自体の好悪を調べる調査もあるが,服の色の好き嫌いや着用した
い服の色を尋ねる色彩調査もある。前者は研究者や学生が行うことが多く,調査に用いる
色刺激には,紙製色票やカラーカードなどのように調査用に調整されたものを使用するこ
とが一般的である。後者は商品開発や市場調査のためにアパレルメーカーやテキスタイル
メーカーによって行われることが多く,調査に使用される色刺激には,一般的なカラーカ
ードもあれば布製のものもある。
色自体の嗜好調査や検査に用いられる色刺激は,紙製かそれに近い素材によって製造さ
れていることが多い。図 1.1-1.には,一般財団法人日本色彩研究所が販売しているカラー
チャート「COLOR INDEX 500」1)を色彩調査・検査用色刺激の一つとして挙げる。
図からも分かるように系統的に色が選定,配列されている。色票(Color Sample)を 1
枚ずつ示すことができる形式や色票が横長に並ぶ形状など,調査目的により形式はいくら
か異なるが,共通するのは調査に必要な色が系統立てて選定されていることと材質が均質
であるということである。色数は目的にもよるが,10 数色程度ということはなく,最低 200
~300 色,多い場合は 500 色ほどが選ばれ呈示されることにより,被調査者が色同士の差
を認識しながら調査に臨むことができるよう配慮されている。さらに,色以外の要素であ
る材質の違いに惑わされることがないよう質感の統一にも工夫がされている。
図 1.1-1. COLOR INDEX 500 日本色彩研究所製カラーチャート
出典:引用文献
第 1 章-1)
2
第1章
目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
それに対し,服の色の嗜好調査では,一般的な紙製色票を色刺激として使用する場合も
あるが,
対象とする服地そのものや対象とする布材質に似た色見本を呈示することが多い。
さらに,服を着用した人やボディを撮影した写真を印刷した標本を刺激として用いること
もある。図 1.1-2.と 図 1.1-3.には,研彩館インターナショナル株式会社が繊維標準色体系
2)
として販売している「コットン色票シリーズ」と「ポリエステル色票シリーズ」を示す。
図 1.1-2. コットン色票 研彩館製繊維標準色体系
出典:引用文献
第 1 章-2)
いずれも繊維製品づくりのための色見本帳で,紙製色票とは異なり染色された繊維色票
で構成されている標準色体系である。色彩嗜好調査だけでなく,染色見本や仕上がり比較
などにも用いられるため,世界中の主要なアパレル,テキスタイルメーカーなど約 10,000
社に採用されていると同社の HP で紹介されている。これも紙製色票と同様,チャート型
ブックタイプやチップタイプなどがあり,用途に応じて形状を変えられるようになってい
るようだが,紙製とは異なり,素材はコットンとポリエステル,ウールの 3 種類がある。
また,色数はコットンで 2,300 色,ポリエステルで 2,469 色,ウールで 1,115 色が準備され,
色相,明度,彩度を精密に染色し分けているが,無地(柄の無い布)で織物組織も複雑で
はなく,紙製色票と比較しても大きな違いが感じられない。
出典:
引用文献
図 1.1-3. ポリエステル色票 研彩館製繊維標準色体系
第 1 章-2)
他の繊維色見本メーカーでも,綿スワッチ(swatch:見本布きれ)付き 10,000 色の色票
や綿以外の主要な素材,厚さが異なる布地による繊維色票を販売している。しかし,相当
多くの繊維色票が各社から販売されているにもかかわらず,
さらに,
それぞれのアパレル,
テキスタイルメーカーは独自に布製色見本を揃えている。市販されている繊維色票は既述
したように,綿やポリエステルなど主要な繊維を用い,平織布など基本的な織組織のみで
あるため,着用している服とは感覚的に離れた印象を受ける。アパレルメーカーは実際に
3
第1章
目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
服地として用いられた布きれを集めて,カラー情報分析や色管理のための生地色見本を整
備している。しかし,これらは色見本用に染色されていないため,色の系統立てが不充分
で,素材もさまざまな種類があり分類することが難しい標本・見本となっている。
服の色管理のために,
色見本の色や素材の種類を 1 万以上揃えることは不合理ではない。
必要な時にその都度取り出せるよう整理されていれば,
服や布の色情報管理に有用である。
しかし,服の色の嗜好調査や市場調査において,被調査者に 1 万色以上の色刺激を与えて
も正確な情報を得にくいことは予想できる。そしてこのことが,既述したように服の色彩
調査にも一般的な紙製色票が色刺激として使用される理由である。
紙製色票のように素材が均質な刺激試料を用いる理由の一つは,色彩嗜好など人の感覚
を測定する官能検査には避けられないヒューマンエラー(人が要因の誤差)を排除できる
可能性があるためである。もう一つは,実際の布を刺激とする場合,色相や素材の異なる
検査試料を用意しなければならないが,色や素材を系統立てて準備することは困難である
からである。しかしその一方で,紙製色票によって服や布の持つ独特で複雑な素材感を伝
えられるのか,服や布の色の好悪や評価を判断するのに表面が均質の紙製色票で適切なの
かという疑問も出てくる。
本研究では,
服や布地の色彩を適切に評価するために,
布特有の素材感を反映しながら,
取り扱いは簡便でかつ,客観的検査測定に耐えうる色評価用の刺激開発に取り組むことと
した。まず,布独特の質感を感じさせる反射の特徴を測定によって捉えた。次にその測定
結果をもとに,CG(Computer Graphics)による布の画像作成に取り組んだ。現実感を伴っ
た色刺激である布の CG 画像が作成できれば,これまで,被調査者が頭の中で「紙製色票」
を「布地の色」に変換していた調査回答が,その「布地の色」そのものの好き嫌いや評価
を直接回答できるようになり,嗜好調査や評価の精度が増すと考えられる。また,その布
の CG 画像が専門的知識を要せず誰にでも作成できるならば,これまでアパレル,テキス
タイルメーカーの色彩管理において,経験豊かな技術者が膨大な数の色見本を保管管理し
ていたのを,経験に頼ることなく,初心者でも行えるようになる。それによって,コスト
削減につながる色の管理・指示体系を構築できるものと思われる。同時に,研究者や学生
が服の色彩調査を行う際の色刺激としても有用である。よって,実際に測定して得た布の
反射特性を反映させ,かつ取り扱いが簡便な CG 画像の作成に取り組んだ。さらに,実物
布との視感比較を行い,
布らしさや質感を確認した上で,
評価用の刺激作成法を提案した。
1.2. 本論文の構成と概要
本論文は図 1.2-1.に示す通り,全 6 章で構成されている。
第 1 章では 1.1.節に記述した通り,まず本研究を始めるにいたった服の色彩調査に用い
られている色票の現状を整理して問題点を抽出し,目的を明確にした。また,研究によっ
4
第1章
目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
て得ようとする成果目標とそれによる今後の展望も示した。
1.2.節ではそれらを成すために
行った調査や測定などをまとめた各章について,その目的や構成を整理し呈示した。
第1章
目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
研究の背景 疑問点の抽出 成果の到達点
第2章
紙と比較した布の反射特性
紙製と布製色票の感覚評価の相違
紙製と布製色票の物理的反射特性の相違
第3章
光の反射とCGにおける光反射モデル
光反射のメカニズムと布反射の先行研究
CG光反射モデルと布CG画像の先行研究
第4章
布微小面の反射特性の解析
予備実験:指数関数による反射率算出方法
本実験:マイクロスコープと偏光フィルタ
による画像測定に基づく布微小面
の反射特性解析
第5章
布の反射特性に基づく布3DCG画像作成と評価
反射特性を反映した布3DCG画像の作成
作成した布3DCG画像の評価実験
第6章
総括
成果のまとめ
今後の課題と展開
紙と布の見え方や物理的特性
に違いがあるのか
紙と布感覚評価,物理的
特性ともに有意な差
先行研究で基礎事項を整理
布の反射特性解析に必要
反射光の分離,微小面の解析
反射率の算出,変角受光角度
布の3DCG画像作成に必要
ソフトウエアの光学特性確認
実物と画像の比較検証
到達点
課題と展望
図 1.2-1. 章立てと本研究の流れ
図1.2-1. 章立てと本研究の流れ
5
第1章
目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
第 2 章では紙と布の違いを比較した。比較を行うのは,紙と布を対象にした場合の視感
評価と物理的反射の相違についてである。もし,紙製色票と布製色票において,視感評価
や物理的反射に異なる点がないのであれば,本論文の目的は存在せず,研究も必要がない
ことになる。よって,紙と布 2 種類の素材の色票間に違いがあるのか,その要因も含めて
分析を行った。
第 3 章では本研究で行う測定分析や 3DCG 画像の作成に必要な基礎的知識を得るために
先行研究をまとめた。大きく分けて 2 つの分野の先行研究を 3.1.節と 3.2.節に整理した。第
2 章で示した視感評価では,紙製と布製の色票間に有意差が認められた色と認められなか
った色があり,有意差が認められたのが黄と白,黒であった。視感評価では色相より表面
の形状が大きく影響していると予測したため,3.1.節では一般的な物体表面における物理的
光反射のメカニズムをまとめ,さらに,織糸の交錯により表面に特徴ある凸凹を有する布
の反射に絞って,これまでの研究成果をまとめた。これらを紙と異なる布の反射の相違点
を考究する際の参考とし,第 4 章で行う布の反射特性を探る測定の基礎事項とした。3.2.
節では CG 画像作成の基礎となる反射モデルを整理,列記し,さらにこれまでの布の CG
画像作成の研究成果をまとめた。これらをもとに,初心者でも作成可能な布 3DCG 画像作
成の方法を探索した。
第 4 章では第 2 章と第 3 章の結果をもとに,人に布独特の質感を与えるのは何によるも
のなのかを推測するために,布の微小面の反射特性を測定し解析した。第 3 章にまとめた
先行研究では,布の反射を特徴づける要因の一つとして Microface での反射が挙がった。
つまり織布表面のごく小さな反射面での反射メカニズムとそれらが集合することによる布
全体の反射光の変化が金属などの平滑面とは異なる反射の要因であると分析されていた。
しかし,布の微小面の反射率を測定するためには,通常の反射率測定に用いる変角分光測
色システムでは測定視野が大きいことにより使用できない。そのため 4.1.節では予備実験
として,デジタルマイクロスコープカメラを用いて撮影した測定画像の反射率の算出方法
を述べた。その結果を踏まえて,4.2.節では本実験行い,マイクロスコープデジタルカメラ
を用いて布表面を拡大することで,微小面の撮影・測定を可能した。また,偏光フィルタ
を使用することで反射光の成分を分離した。これらは第 3 章でまとめた反射の基礎事項を
もとに実験計画を立てたものであるが,さらに,布の選定にも先行研究に欠けた点を留意
した。これまでの研究では,反射光成分を抽出しやすいような布を対象としていた。その
ため,先行研究の多くが特定の繊維や布を用い,普段着用されている服地ではなかった。
先行研究とは違い,服地として使用頻度の高い繊維や織組織,布を測定対象とした。マイ
クロスコープと偏光フィルタを使用して撮影した画像から布微小面の反射特性を解析し,
布特有の材質感の要因の一つに考えられる反射光の成分割合を定量化した。
第 5 章では定量化し,数値化した各試料布の反射成分の割合をもとに,布の反射特性を
6
第1章
目的-服の色彩嗜好調査に必要とされる色刺激
反映させた布 3DCG(Three-Dimensional Computer Graphics)画像の作成を試みた。さらに
それらの画像と実物試料布との比較評価を行い,布の材質感や特徴が表現されているかを
検証し確認した。5.1.節ではまず,作成にあたり専門的知識をあまり必要としない汎用
3DCG ソフトウエアの光学的反射特性を確認した。近年は安価で優れた性能を持つ 3DCG
ソフトウエアが市販されている。操作に専門的な知識は必要とされず,ディスプレイを見
ながら経験的にパラメータを入力すれば,様々な 3DCG 画像を誰でも短時間で簡単に作る
ことができる。
しかし,
布の反射特性を画像作成の入力パラメータに反映させるためには,
入力したパラメータの数値によってディスプレイ上の画像の反射率がどのように変化する
かといった光学的特徴を把握しておかなければならない。そのため,画像を表出させたデ
ィスプレイを実測し反射率を算出してソフトウエアの反射特性を捉えた。その結果と第 4
章で得た布の反射特性を合わせた上で調査用色刺激となる布 3DCG 画像を作成した。5.2.
節では作成した 3DCG 画像が実際に布の質感を表現しているかを評価実験により確認した。
織組織別や繊維別,観察角度別に結果を比較,分析した。対照画像との比較も行い,実物
布試料と相似している点と異なる点を詳細に考察した。
第 6 章では本研究の成果をまとめ,成果の展開と今後の課題を示した。
7
第2章
紙と比較した布の反射特性
第2章
紙と比較した布の反射特性
第 2 章 紙と比較した布の反射特性
本章の目的と概要
本章では,嗜好調査に用いる色刺激の素材として紙製と布製がどのように異なるかを明
らかにした。まず紙製と布製の刺激に対し被験者の見え方や感覚がどのように異なるかを
比較した。次に変角分光測色システムを用いて紙と布の反射の違いを明確にする測定を行
い,その相違点をまとめた。
本章の構成は以下の通りである。2.1.節では,色の嗜好調査に用いられることの多い紙製
の色刺激と服を想起させると考えられる布製の色刺激について,一対比較法を用いて評価
測定を行い,それらに対する嗜好や感覚評価の相違を確認した。2.2.節では,紙製色票と布
の反射に関する物理量を測定した。2.1.節で述べるが,紙と布製の色刺激の間に感覚や評価
において有意差のある違いがなければ,服の嗜好調査に用いる色刺激は紙製でも問題はな
く,本研究を行うことに意義が見出せない。2.1.節での測定では,色相によって詳細な結果
は異なったが,紙製と布製の色刺激の間に,人の感覚である評価や嗜好に違いが現れた。
そのため,2.2.節では,紙と布の反射物理量の差を確認することとし,紙製色票と染色した
布を変角分光光度計で測色し,分光反射と色度変化という物理量を比較検討した。
各節の結果と考察からさらなる問題点や不足する点を抽出し,それらを次章以降の実験
計画や測定,考察に活用する。
2.1. 紙製および布製色刺激の比較評価測定
2.1.1. 目的
被服の色彩嗜好についてはこれまでに数多くの先行研究がなされてきたが,それら被服
の色彩嗜好を調査・測定する場合の試料には,一般に調査用・測定用に市販されたカラー
チャート,あるいは独自に調整したカラーチャートが用いられる 1,2)。カラーチャートとは
マンセルや PCCS などの表色系の区分に則り,色を体系的に配列している紙製の色票群で
ある。また,同じく被服の色彩嗜好調査には色の異なるワンピースなどを実際に作製し,
人体に着装させた状態を撮影した写真標本を調査・測定試料として用いることも多い
3,4)
。
しかし,被服に関わる色彩嗜好を調査・測定する場合,被服を構成する布の材質や表面構
造の特徴を配慮しなくて良いのかという疑問が残る。李ら 5)はテクスチャー知覚に対する
布の表面色と表面構造との関係を検討し,布を見た場合の心理因子である材質感と布の表
面幾何学構造との間に高い相関を示唆している。その結果を踏まえても,視知覚測定の範
疇にある色彩嗜好調査・測定に,布の材質の特徴を表現していない紙製の色票や写真標本
を用いる妥当性への疑問は排除できない。さらに,対象とする被服の種類によっては,被
服の色の見え方に影響を与える面積効果やデザイン,形に配慮して試料を選定する必要も
9
第2章
紙と比較した布の反射特性
考えられる。しかし,嗜好調査・測定のような人をもって行う調査・測定は機械による測
定とは異なり,ヒューマンエラーを含む多くの誤差が避けられない。そのような誤差を最
小限に留め,安定した調査・測定の結果を得るためには,色以外の要因を除いた均質な試
料が必要とされる。
様々な要因が被服の色の見え方に影響を与えると考えられるが,要因の種類とそれらの
影響度など結果については全く予測がつかない。そのため,まず今回は考えられる要因の
うち素材に焦点を絞り,表面が滑らかな紙とシボのある紙,さらにブロード布の比較測定
を行うこととした。さらに,色相の数も限定する。同一色相で素材が異なる 2 つの色刺激
を呈示する一対比較法を用いて,
色の嗜好や評価に与える呈示試料素材の影響を検討する。
2.1.2. 方法
(1) 測定方法
今回の測定には,一対比較法のうち比較結果を評点で表すシェッフェ(Scheffé)の方法
を用いた。一対比較法とは,人間の感覚によって物の評価や検査を行う官能検査(Sensory
Test)の手法のひとつで,試料(刺激)を 2 個ずつ組み合わせて比較させる検査法である 6)。
特長としては,判定の条件や判断基準が変化しても全ての組み合わせについて相対的判断
をするため,他の官能検査より安定した結果が得られるとされている。また,一対比較法
は比較判断の形式により,順位で表す方法と評点で表す方法に大きく分類できる。今回の
測定で用いたシェッフェの方法は比較結果を評点でデータ処理し,試料(刺激)による効
果(主効果)
,試料の組み合わせ効果,試料の呈示順序の効果を入れた構造式を仮定し,各
効果の推定値を算出できるものである。この方法により有意差の認められた主効果の推定
値を求め,異なる素材からなる呈示刺激(試料)の表面色に対する嗜好と評価の程度につ
いて数量化を試みた。
被験者は短大在籍の女子学生 12 名で,年齢は 19 歳から 20 歳,色覚異常については特別
な問題はなかった。
(2) 呈示刺激
(2)-a. 呈示刺激の色相と素材
呈示刺激の色相には,有彩色である赤,青,黄,緑の 4 色と,白,灰色,黒の無彩色 3
色の合計 7 色を用いた。
(以下,赤:色相 R,青:色相 B,黄:色相 Y,緑:色相 G,白:
色相 W,灰色:色相 Gy,黒:色相 Bk と記述する)今回の測定は,被服の色彩嗜好調査に
有効な試料素材選定のための予備測定として位置付けている。つまり,呈示刺激に異なる
素材を用い,同じ色相でもその素材の違いが明度差や彩度差に影響を及ぼすことで,色の
見え方に差が出るかどうかを検討する測定である。素材の違いによる明度差や彩度差以外
10
第2章
紙と比較した布の反射特性
の背景要因をできるだけ排除し測定の精度を高めたいと考え,心理原色 7)とされる色相 R,
B,Y,G,W,Bk に Gy を加えた 7 色の基本色相に絞って色相を選定した。
呈示刺激の素材には紙製のトーナルカラーとクレープペーパー,布製の綿ブロードの 3
種類を用いた。その詳細と表面形状の特徴は次に示す通りである。トーナルカラーは日本
色研事業(株)製の色紙で,被服の色彩嗜好調査に限らず,色彩に関する検査や調査に用
いられる呈示刺激の材料のうち最も標準的な色票である。クレープペーパーは紙製である
が表面に縮み加工が施されているため,セーターなどの編み物地を想起させる素材である
と考えた。ブロードは綿 100%の平織り布で,シャツやブラウスをはじめ被服素材として
多く用いられ,目にする機会の多い素材である。
L*a*b*表色系による各色刺激の色度,明度,彩度とその色差は,表 2.1-1.の通りである。
測色色差計(Color Meter ZE 2000 日本電色工業(株)
)を使用して測定し,色差はトーナ
ルカラーを基準に算出した。今回の官能検査は素材の違いによる見え方を測定するもので
あるが,
呈示刺激間で極端な明度差や色度差がある場合,
色相自体が異なって見えるため,
素材による影響よりも色相差による影響の方が強くなる。そのため,明度差は±10,色度
差は±30 とし,さらに彩度差にも留意して選定した。
表 2.1-1. 呈示刺激の色相と素材
Color of Material of
sample
sample
A1
R
A2
A3
A1
B
A2
A3
A1
Y
A2
A3
A1
G
A2
A3
A1
W
A2
A3
A1
Gy
A2
A3
A1
Bk
A2
A3
L*
51.90
40.41
44.02
42.54
43.59
33.44
85.39
76.54
82.40
53.59
48.78
58.60
91.27
80.62
85.81
63.54
64.03
64.28
26.72
21.22
13.39
L*a*b*system's chromaticity and value
a*
b*
ΔL* ΔE*(ab)
C*
57.36
24.37
0.00
0.00
62.32
53.85
34.95 -11.49
16.01
67.33
59.50
44.67
-7.88
21.87
74.02
0.81 -40.47
0.00
0.00
40.48
-13.80 -34.75
1.05
15.73
37.39
3.31 -44.72
-9.11
10.36
44.76
-7.17
95.28
0.00
0.00
95.55
-4.90
81.97
-8.85
16.14
82.12
-9.88
66.20
-2.98
29.36
66.93
-55.69
20.54
0.00
0.00
59.36
-47.04
16.86
-4.81
10.56
49.97
-48.67
12.39
5.01
11.86
50.22
-0.37
1.99
0.00
0.00
2.02
1.87
-4.84 -10.66
12.86
5.19
1.66
-3.54
-5.47
8.04
3.91
0.19
2.58
0.00
0.00
2.59
1.43
-1.92
0.48
4.69
2.39
1.40
-4.00
0.73
6.73
4.24
1.25
1.50
0.00
0.00
1.95
-0.44
1.85
-5.50
5.76
1.90
-0.34
-1.50 -13.32
13.75
1.54
Notes: Specification of color by the L*a*b*system, R:red, B:blue, Y:yellow,
G:green, W:white, Gy:grey, Bk:black, A1:tonal color(colored paper), A2:crepe
paper, A3:cotton broad cloth, Δ:CIE 1976 L*a*b* color difference,
C*:chroma=√(a*)2 +(b*)2
(2)-b. 刺激の呈示方法と呈示刺激の組み合わせ
刺激の呈示方法は,図 2.1-1.に示す通りである。各色刺激の大きさはすべて 6cm×6cm と
した。9cm×15cm の台紙に比較評価する 2 つの色刺激を 0.5cm 離して貼付し,色刺激以外
の台紙は N5-Gy のマスクで覆った。これを一対の呈示刺激とした。
11
第2章
15㎝
比較評価する刺激素材
(トーナルカラー,
クレープペーパー,ブロード)の組み合わ
紙と比較した布の反射特性
N5-Gy
6㎝
せは,色相 R,B,Y,G,W,Gy,Bk の 7
色とも次に示す①から⑥の 6 通りとした。
Aj
Ai
6㎝ 9㎝
以下,トーナルカラー:A1,クレープペー
パー:A2,ブロード:A3 と記述する。①:
0.5㎝
(A1,A2)
,②:
(A2,A1)
,③:
(A1,A3)
,
Matting of (Ai) and (Aj) are six combinations : ①(tonal color,
crepe paper) ②(crepe paper, tonal color) ③(tonal color, cotton
broad cloth) ④(cotton broad cloth, tonal color) ⑤(crepe paper,
cotton broad cloth) ⑥(cotton broadcloth, crepe paper)
④:
(A3,A1)
,⑤:
(A2,A3),⑥:
(A3,
A2)
図 2.1-1. 刺激の呈示方法
(3) 評価項目と検査手順
呈示刺激を評価する項目として,
「嫌い-好き」
,
「汚い-きれい」
,
「不快-快い」
,
「悪い
-良い」の 4 つの尺度項目を選定した。いずれも,SD 法では評価因子を表わす形容詞対
による項目である。一対の呈示刺激(Ai,Aj)について,
「Ai は Aj に比べてどの程度よい
か」のように 4 項目について比較評価し,
(-2~+2)の評点による 5 段階評定を行った。
検査手順は以下の通りである。まず,7 色すべてについて前項で示した①から⑥の方法
で刺激素材を組み合わせ,合計 42 組の呈示刺激対を準備した。次に,被験者 12 名を 6 名
ずつのⅠ組とⅡ組の 2 つに分けた。Ⅰ組の 6 名は 7 色とも組み合わせ①,③,⑤について,
Ⅱ組の 6 名は同じく 7 色とも組み合わせ②,④,⑥について,それぞれ合計 21 組の呈示刺
激対を 4 尺度項目について比較評価した。一対比較法のシェッフェの方法(原法)では,
上記のように 1 人の被験者が 1 組の刺激対の二つの順序のうち一方だけを比較することに
なっている。
しかし今回,被験者の評価の個人差も確認できる,浦の変法(シェッフェ法の変形)も
行うこととしたため,被験者が全部の刺激対を比較する検査も行った。つまり,被験者 12
名が 7 色すべてについて,
組み合わせ①から⑥の合計 42 組の刺激対を 4 尺度項目で評価す
る検査も同時に行った。
いずれの方法とも,刺激対を呈示して 10 秒経過後,被験者に 4 つの尺度項目を比較評価
させ,7 回に 1 回の割合で 15 秒の中断休憩を間に設けて測定を行った。その他,光源など
の視感比較に関わる条件は JIS Z 8723 に準じて整えた 8)。
(4) 解析方法
(4)-a. 浦の変法による被験者の個人差の解析
官能検査は人間が行う検査であるため,機械測定とは異なり,被験者の性別,年齢,教
育,訓練などによる個人差が測定結果に影響を与える場合がある。今回,短大在籍の女子
12
第2章
紙と比較した布の反射特性
学生を被験者としたが,この検査に必要な評価や感覚に個人差が少ないことを確認するこ
ととした。呈示刺激に対する評価と刺激の呈示順序が与える個人差は,シェッフェ法の変
形である浦の変法により解析できるため,以下に示す方法で求めた 9)。
まず,各色で用いられた異なる素材の呈示刺激を A1,A2,At(t=3)
,被験者を O1,O2
…ON(N=12)とする。被験者 Ol が順序ある刺激対(Ai,Aj)に与えた評点 xijl は次の構造を
なすと考える。
xijl=(αi-αj)+(αil-αjl)+γij+(δ+δl)+εijl
(2.1.1)
αi:呈示刺激 Ai の平均的効果 ただし,
∑αi =0
i
αil:呈示刺激 Ai に対して被験者 Ol がもつ嗜好(評価)の個人差
ただし,
t
N
i =1
l =1
∑αil =0, ∑αil =0
γij:組み合わせ効果 ただし,
∑γi j =0,γij=-γji
j
δ:平均の順序効果
δl:順序効果の個人差 ただし,
∑δl =0
l
εijl:誤差
上記の各推定値は次式によって与えられる。
平均嗜好(評価)度:
α̂ i=
1
(xi・・-x・i・)
2tN
(2.1.2)
嗜好(評価)度の個人差:
α̂ il=
1
(xi・l-x・il)- α̂ i
2t
(2.1.3)
組み合わせ効果:
γˆ ij=
1
(xij・-xji・)-( α̂ i- α̂ j)
2N
(2.1.4)
平均の順序効果:
δˆ =
1
x・・・
t (t − 1) N
(2.1.5)
13
第2章
紙と比較した布の反射特性
順序効果の個人差:
δˆ l=
1
x・・l- δˆ
t (t − 1)
(2.1.6)
xi・・:全被験者の評価素点合計によるデータ分析表の列和
x・i・:全被験者の評価素点合計によるデータ分析表の行和
xi・l:各被験者の評価素点によるデータ分析表の列和
x・il:各被験者の評価素点によるデータ分析表の行和
xij・:全被験者の(Aj,Ai)に対する評価素点の総和
xji・:全被験者の(Ai,Aj)に対する評価素点の総和
x・・・:全被験者の xi・・の総和
x・・l:各被験者の xi・l の総和
次に,上記各効果の平方和を計算し,それをそれぞれの自由度で除して,不偏分散(V)
を算出する。さらに,それら不偏分散を誤差で除し,各効果の分散比(F0)を求め F 検定
を行う。これにより,4 つの評価項目について,7 色それぞれにおける呈示刺激の素材の相
違による主効果(嗜好,評価)と順序効果に対する個人差の検定が可能となる。
(4)-b. シェッフェ法による各効果の推定値
2.1.2.(1)で記した通り,一対比較法のうち比較結果を評点で表すシェッフェの方法では,
呈示された刺激に対する嗜好や評価において,主効果である試料による効果(今回の測定
では呈示刺激の素材の違いによる効果)
,試料の組み合わせ効果(例えば,非常に好ましい
ものと比べたために,必要以上に好ましくないと評価される傾向)
,試料の呈示順序の効果
(例えば,先に呈示された方が好ましいと評価される傾向)の各効果の推定値を解析する
ことが可能である 10)。
それらの推定値は次式によって求められる。
(Ai,Aj)において,Ai の Aj に対する嗜好(評価)の程度の推定値:
µ̂ ij=Tij/n
(2.1.7)
Tij:
(Ai,Aj)に対する各被験者の評点の総和
n:被験者数=6
Ai の Aj に対する嗜好(評価)の程度(順序効果を除く)の推定値:
πˆ ij=( µ̂ ij- µ̂ ji)/2=- πˆ ji
(2.1.8)
順序効果の推定値:
14
第2章
紙と比較した布の反射特性
δˆ ij=( µ̂ ij+ µ̂ ji)/2= δˆ ji
(2.1.9)
素材が異なる各呈示刺激に対する平均的な嗜好(評価)の程度の推定値:
k
α̂ i= ∑π
ˆ ij/k
(2.1.10)
i =1
k
k:呈示刺激数=3 ただし,
∑α̂i =0
i =1
組み合わせ効果の推定値:
γˆ ij= πˆ ij-( α̂ i-α̂ j)
(2.1.11)
k
∑ γˆij =0
ただし, γˆ ij=- γˆ ji
j =1
(4)-c. 分散分析と検定
2.1.2.(4)-b.で示した通り,シェッフェの方法では 3 つの効果の推定値が算出できるとされ
るが,それぞれについては検定を行い,各効果の有意性を検討する必要がある。検定の手
順 10)は次の通りで,式の各記号は 2.1.2.(4)-b.で示した記号と共有である。
まず,各効果の平方和 S と自由度 φ を求める。
主効果の平方和:
Sα=2nk
k
∑α̂
2
(2.1.12)
i
i =1
主効果の自由度:
φα=k-1
(2.1.13)
組み合わせ効果の平方和:
Sγ=Sπ-Sα
(2.1.14)
k
ただし,Sπ=2n
∑∑π̂i j
2
i =1 j 〉 i
組み合わせ効果の自由度:
φγ=kC2-(k-1)
(2.1.15)
順序効果の平方和:
(2.1.16)
Sδ=Sμ-Sπ
ただし,Sμ=n
∑ µ̂
2
ij
ij
15
第2章
紙と比較した布の反射特性
順序効果の自由度:
φδ= kC2
(2.1.17)
平方和の総和:
So=
∑
x 2ijl
(2.1.18)
ijl
ただし,χijl は Ai の Aj に対する l 番目の評点
誤差の平方和:
Se=So-Sμ
(2.1.19)
誤差の自由度:
φe=2n(n-1) kC2
(2.1.20)
次に,上記各効果の平方和をそれぞれの自由度で除して,不偏分散(V)を算出する。
さらに,各不偏分散を誤差で序し,各効果の分散比(F0)を求め F 検定を行う。分散分析
の結果を検定し,有意差を示した効果について,その推定値を素材ごとに検討する。
2.1.3. 結果と考察
(1) 嗜好・評価における被験者の個人差
一対比較方法のうちシェッフェ法の変形である浦の変法によって,嗜好・評価における
被験者の個人差を解析した。7 色すべてについて,4 評価項目ごとに前項で示した方法によ
って分散分析を行い,主効果(α)と順序効果(δ)の個人差について平方和(S)と分散比
(F0)
,さらに,それらの検定の結果をまとめたものが表 2.1-2.である。詳細はこの表に示
す通り,p<0.01 と p<0.05 の危険率で F 検定を行ったが,7 色いずれも 4 評価項目すべてに
おいて有意差は認められなかった。その中でも,色相 B と色相 Y では評価項目「汚い-き
れい」
,色相 G では評価項目「汚い-きれい」の主効果のみと評価項目「悪い-良い」
,色
相 Bk では評価項目「汚い-きれい」
,
「不快-快」において,それぞれ主効果と順序効果
の個人差での分散比(F0)が 1.00 以上を示したが,有意差を示す値ではなかった。すべて
の測定項目において,特定の個人あるいは各被験者の判定が全体の判断から大きく離れた
り,判断全体の傾向に影響を及ぼしたりするものではなかったと考えられる。官能検査で
は評価や嗜好,
判断がパネラーに委ねられるため,
パネラーの識別能力が大きく問われる。
表 2.1.-2.に示した結果は,今回の検査において検討したい素材間の見え方の相違に,被験
者によって特別に異なった嗜好や評価の基準の入る余地は少なく,色の嗜好や評価に与え
る素材の影響に焦点をあてて官能検査を行うことが可能であることを示している。
16
第2章
紙と比較した布の反射特性
表 2.1-2. 浦の変法による被験者の個人差の検定
表3.1-2. 浦の変法による被験者の個人差の検定
Color of Ratingsample
item
RI1
RI2
R
RI3
RI4
RI1
RI2
B
RI3
RI4
RI1
RI2
Y
RI3
RI4
RI1
RI2
G
RI3
RI4
Source
S
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
α ×O
δ ×O
16.15
14.05
13.89
7.85
10.1
6.79
15.77
8.85
19.96
12.51
28.77
20.46
16.18
10.05
19.41
12.79
16.82
11.18
27.18
18.82
15.51
9.46
13.8
8.62
12.44
8.18
17.38
11.16
13.07
7.62
18.49
12.54
F0
SD
0.41
0.71
0.41
0.46
0.3
0.4
0.42
0.47
0.38
0.48
1.11
1.58
0.4
0.5
0.53
0.7
0.49
0.65
1.02
1.41
0.41
0.49
0.42
0.52
0.5
0.65
0.77
1
0.56
0.66
1.01
1.38
Color of
sample
W
Gy
Bk
RatingSource
item
RI1
α ×O
δ ×O
RI2
α ×O
δ ×O
RI3
α ×O
δ ×O
RI4
α ×O
δ ×O
RI1
α ×O
δ ×O
RI2
α ×O
δ ×O
RI3
α ×O
δ ×O
RI4
α ×O
δ ×O
RI1
α ×O
δ ×O
RI2
α ×O
δ ×O
RI3
α ×O
δ ×O
RI4
α ×O
δ ×O
S
12.21
7.39
11.61
6.66
10.26
5.16
13.15
7.79
13.08
8.29
12.44
5.52
8.41
3.95
13.71
7.85
8.62
3.82
11.79
7.46
17.23
11
11.44
6.18
F0
SD
0.52
0.63
0.52
0.61
0.54
0.54
0.77
0.92
0.45
0.56
0.38
0.34
0.3
0.28
0.61
0.7
0.4
0.35
1.36
1.72
1.38
1.77
0.61
0.66
R:red, B:blue, Y:yellow, G:green, W:white, Gy:grey, Bk:black
RI1:[adjective pairs] non-favorite--favorite
RI2:[adjective pairs] dirty--clean
RI3:[adjective pairs] unpleasant--pleasant
RI4:[adjective pairs] bad--well
α :main effect, δ :order effect
O :panelists
S :sum of squares, Fo :rate of variance
SD:significance difference
**:P<0.01 *:P<0.05
(2) シェッフェ法による分散分析と検定結果
一対比較法のうち評価を点数で表わすシェッフェ法によって測定を行い,得られた集計
データの分散分析を前項に示した方法で行った。7 色すべてについて,嗜好(尺度項目「嫌
い-好き」
)と評価(評価項目「汚い-きれい」
,
「不快-快い」
,
「悪い-良い」
)の 4 項目
それぞれにおける主効果(呈示刺激の素材の違いによる効果:α)と組み合わせ効果(呈
示刺激の組み合わせによる効果:γ)
,さらに順序効果(刺激の呈示順序による効果:δ)の
平方和(S)
,自由度(φ)
,不偏分散(V)
,分散比(F0)を算出した。すべての分散比(F0)
は,危険率 1%と 5%で F 検定を行ない,それらの結果は表 2.1-3.から表 2.1-9.にまとめた。
色相 R については表 2.1-3.に示す。詳細は表に示す通り,色相 R では評価項目「汚い-
きれい」においてのみ,主効果(α)と順序効果(δ)に 1%の危険率で有意差が認められ
た。それに対し,他の 3 つの評価項目では主効果,組み合わせ効果,順序効果のいずれに
おいても有意差は認められなかった。色相 R については,呈示刺激に用いたトーナルカラ
ー(紙)
,クレープペーパー(紙)
,ブロード(布)の素材の違いによって「汚い-きれい」
という評価の程度に差が現れ,しかもこの場合,呈示される順序にも影響を受けることが
17
第2章
紙と比較した布の反射特性
示された。
色相 B の結果については表 2.1-4.に示す。主効果(α)については,評価項目「汚い-き
れい」において,5%の危険率で有意差が認められた他は差が現れなかった。ただし,他の
色相の結果とは異なり,順序効果(δ)については 4 評価項目とも危険率 1%で有意差が認
められた。つまり,呈示された刺激の順序が嗜好や評価の程度に影響を与えたことが理解
できる。今回の官能検査の目的は,試料素材の違いが嗜好や評価に影響を与えるか,それ
はどの程度かを測定することにあり,それら主効果以外の組み合わせ効果や順序効果に大
きな差が現れないよう配慮して測定条件と手順を整えた。色相 B では順序効果だけに有意
差が認められた。これらの結果の明らかな原因は不明であるが,色の見え方の相違が原因
のひとつに挙げられる。表 2.1-1.に示した通り,色刺激の素材間の色差は大きくならない
よう選定し,機械による測定では問題は認められなかった。しかし,色相 B だけは試料を
実際に目視した際,A2 のクレープペーパーは黄色みを帯び,A1 と A3 とは色が異なって見
えた。この点が素材の相違による効果(主効果)以外の効果においても差をもたらしたの
ではないかと考えられる。
表3.1-3.
Sheffé
法-分散分析と検定結果:色相R
表
2.1-3.
Sheffé
法による分散分析:色相 R
表3.1-4.
Sheffé
法-分散分析と検定結果:色相B
表
2.1-4.
Sheffé
法による分散分析:色相 B
(a) [Color: red, Rating-item: non-favorite--favorite]
Source
S
φ
V
F0
α
6.06
2
3.03
1.97
γ
1.36
1
1.36
0.88
δ
9.42
3
3.14
2.04
e
46.17
30
1.54
Total
63
36
(a) [Color: blue, Rating-item: non-favorite--favorite]
Source
S
φ
V
F0
α
6.89
2
3.44
2.54
γ
0.11
1
0.11
0.08
δ
20.33
3
6.78
5 **
e
40.67
30
1.36
Total
68
36
(b) [Color: red, Rating-item: dirty--clean]
Source
S
φ
V
α
16.17
2
8.08
γ
1
1
1
δ
16.5
3
5.5
e
32.33
30
1.08
Total
66
36
(b) [Color: blue, Rating-item: dirty--clean]
Source
S
φ
V
α
8.39
2
4.19
γ
0.69
1
0.69
δ
35.75
3
11.92
e
28.17
30
0.94
Total
73
36
F0
7.5 **
0.93
5.1 **
F0
4.47 *
0.74
12.69 **
(c) [Color: red, Rating-item: unspleasant--pleasant]
Source
S
φ
V
F0
α
8.39
2
4.19
3.58
γ
0.03
1
0.03
0.02
δ
9.42
3
3.14
2.68
e
35.17
30
1.17
Total
53
36
(c) [Color: blue, Rating-item: unspleasant--pleasant]
Source
S
φ
V
F0
α
5.39
2
2.69
2.51
γ
0.69
1
0.69
0.65
δ
28.75
3
9.58
8.94 **
e
32.17
30
1.07
Total
67
36
(d) [Color: red, Rating-item: bad--well]
Source
S
φ
V
α
5.06
2
2.53
γ
0.03
1
0.03
δ
9.75
3
3.25
e
36.17
30
1.21
Total
51
36
(d) [Color: blue, Rating-item: bad--well]
Source
S
φ
V
α
6.17
2
3.08
γ
0
1
0
δ
21.5
3
7.17
e
36.33
30
1.21
Total
64
36
F0
2.1
0.02
2.7
α :main effect, γ:combination effect, δ :order effect, e :error,
S:sum of squares, φ:number of degrees of freedom,
V:variance, Fo:rate of variance, **:P<0.01 *:P<0.05
F0
2.55
0
5.92 **
α :main effect, γ:combination effect, δ :order effect, e :error,
S:sum of squares, φ:number of degrees of freedom,
V:variance, Fo:rate of variance, **:P<0.01 *:P<0.05
18
第2章
紙と比較した布の反射特性
色相 Y の結果は表 2.1-5.に示す通りである。4 評価項目すべてにおいて危険率 1%で主効
果(α)に有意差が認められた。このことから,色相 Y については色刺激の素材の違いが,
「嫌い-好き」といった嗜好や,
「汚い-きれい」などの評価に対し有意に影響を及ぼして
いることが示された。
色相 G の結果については表 2.1-6.にまとめた通りである。4 つの評価項目とも 3 効果い
ずれにおいても有意差が認められなかった。つまり,色刺激の素材が異なっても,色相が
同じであれば呈示された刺激に対する嗜好や評価の程度に差は見られず,A1,A2,A3 は
同等に感じられたと判断できる。
色相 W については表 2.1-7.に示す通りである。主効果(α)のみに有意差が認められ,
その危険率は「嫌い-好き」
,
「悪い-良い」の 2 つの評価項目で 5%,
「汚い-きれい」
,
「不
快-快い」の 2 つの評価項目においては 1%であった。詳細は表に示した通り,色相 Y も
4 評価項目すべてで主効果に有意差が認められたが,色相 Y と色相 W では主効果の分散比
(F0)の値が示す傾向が似通っており,4 項目のうち「汚い-きれい」と「不快-快い」
では高い値を得た。とくに,評価項目「汚い-きれい」では顕著に値が高かった。ただ,
表
2.1-5.
Sheffé
法による分散分析:色相 Y
表3.1-5.
Sheffé
法-分散分析と検定結果:色相Y
表
2.1-6.
Sheffé
法による分散分析:色相 G
表3.1-6.
Sheffé
法-分散分析と検定結果:色相G
(a) [Color: yellow, Rating-item: non-favorite--favorite]
Source
S
φ
V
F0
α
9.72
2
4.86
5.68 **
γ
0.44
1
0.44
0.52
δ
10.17
3
3.39
3.96 *
e
25.67
30
0.86
Total
46
36
(a) [Color: green, Rating-item: non-favorite--favorite]
Source
S
φ
V
F0
α
1.39
2
0.69
0.86
γ
0.44
1
0.44
0.55
δ
1.83
3
0.61
0.75
e
24.33
30
0.81
Total
28
36
(b) [Color: yellow, Rating-item: dirty--clean]
Source
S
φ
V
α
22.89
2
11.44
γ
0.11
1
0.11
δ
3
3
1
e
36
30
1.2
Total
62
36
(b) [Color: green, Rating-item: dirty--clean]
Source
S
φ
V
α
4.17
2
2.08
γ
2.25
1
2.25
δ
0.75
3
0.25
e
25.83
30
0.86
Total
33
36
F0
9.54 **
0.09
0.83
F0
2.42
2.61
0.29
(c) [Color: yellow, Rating-item: unspleasant--pleasant]
Source
S
φ
V
F0
α
22.17
2
11.08
12.87 **
γ
0.25
1
0.25
0.29
δ
6.75
3
2.25
2.61
e
25.83
30
0.86
Total
55
36
(c) [Color: green, Rating-item: unspleasant--pleasant]
Source
S
φ
V
F0
α
2.72
2
1.36
1.99
γ
0.69
1
0.69
1.02
δ
1.08
3
0.36
0.53
e
20.5
30
0.68
Total
25
36
(d) [Color: yellow, Rating-item: bad--well]
Source
S
φ
V
α
10.06
2
5.03
γ
0.03
1
0.03
δ
5.42
3
1.81
e
31.5
30
1.05
Total
47
36
(d) [Color: green, Rating-item: bad--well]
Source
S
φ
V
α
2.17
2
1.08
γ
1
1
1
δ
1.83
3
0.61
e
23
30
0.77
Total
28
36
F0
4.79 **
0.03
1.72
α :main effect, γ:combination effect, δ :order effect, e :error,
S:sum of squares, φ:number of degrees of freedom,
V:variance, Fo:rate of variance, **:P<0.01 *:P<0.05
F0
1.41
1.3
0.8
α :main effect, γ:combination effect, δ :order effect, e :error,
S:sum of squares, φ:number of degrees of freedom,
V:variance, Fo:rate of variance, **:P<0.01 *:P<0.05
19
第2章
紙と比較した布の反射特性
表 2.1-1.に示した色度差と明度差には問題はなかったが,A1 は遮蔽性の高い素材であるが
A2 と A3 は表面構造上遮蔽性がないため,実際に刺激対を視感した場合,明度が高い色相
Y と色相 W は他の 5 色とは異なり,A2 と A3 は台紙の影響を受けると感じられた。色相 Y
と色相 W については適正な素材感を測定するために,A2 と A3 については材料素材を 2
枚重ねて台紙に貼付する必要があったのではないかと考える。
色相 Gy については表 2.1-8.に結果を示す。色相 G と同様の結果となり,4 つの評価項目
いずれも,主効果(α)
,組み合わせ効果(γ)
,順序効果(δ)の 3 効果すべてにおいて有意
差は認められなかった。色相 G と色相 Gy は A1,A2,A3 いずれの素材を用いた色刺激を
呈示されても,素材の相違に伴う見え方や印象に大きな影響を受けることなく,色刺激の
色相に対する評価,判断がなされたと考えられる。
色相 Bk については表 2.1-9.に結果をまとめた。
4 つの評価項目すべてにおいて危険率 1%
で主効果(α)に有意差が認められた。さらに,2 つの評価項目(
「汚い-きれい」
,
「悪い
-良い」
)で順序効果(δ)に危険率 5%で有意な差があった。4 つの評価項目とも主効果に
有意差が認められた点は色相 Y と色相 W の結果と同じであるが,分散比(F0)は色相 Y
と色相 W の値とは全く異なり,色相 Bk ではそれぞれの項目で高い値を得た。つまり,色
表3.1-7.
Sheffé
法-分散分析と検定結果:色相W
表
2.1-7.
Sheffé
法による分散分析:色相 W
表
2.1-8.
Sheffé
法による分散分析:色相 Gy
表3.1-8.
Sheffé
法-分散分析と検定結果:色相Gy
(a) [Color: white, Rating-item: non-favorite--favorite]
Source
S
φ
V
F0
α
5.56
2
2.78
3.7 *
γ
0.69
1
0.69
0.93
δ
4.25
3
1.42
1.89
e
22.5
30
0.75
Total
33
36
(a) [Color: gray, Rating-item: non-favorite--favorite]
Source
S
φ
V
F0
α
0.72
2
0.36
0.42
γ
0.03
1
0.03
0.03
δ
2.42
3
0.81
0.94
e
25.83
30
0.86
Total
29
36
(b) [Color: white, Rating-item: dirty--clean]
Source
S
φ
V
α
21.17
2
10.58
γ
0.25
1
0.25
δ
1.75
3
0.58
e
21.83
30
0.73
Total
45
36
(b) [Color: gray, Rating-item: dirty--clean]
Source
S
φ
V
α
0.72
2
0.36
γ
0.11
1
0.11
δ
4.5
3
1.5
e
28.67
30
0.96
Total
34
36
F0
14.54 **
0.34
0.8
F0
0.38
0.12
1.57
(c) [Color: white, Rating-item: unspleasant--pleasant]
Source
S
φ
V
F0
α
10.89
2
5.44
8.03 **
γ
0.44
1
0.44
0.66
δ
4.33
3
1.44
2.13
e
20.33
30
0.68
Total
36
36
(c) [Color: gray, Rating-item: unspleasant--pleasant]
Source
S
φ
V
F0
α
0.72
2
0.36
0.38
γ
0.69
1
0.69
0.74
δ
1.42
3
0.47
0.5
e
28.17
30
0.94
Total
31
36
(d) [Color: white, Rating-item: bad--well]
Source
S
φ
V
α
4.67
2
2.33
γ
1
1
1
δ
6.33
3
2.11
e
20
30
0.67
Total
32
36
(d) [Color: gray, Rating-item: bad--well]
Source
S
φ
V
α
0.5
2
0.25
γ
1
1
1
δ
3.17
3
1.06
e
21.33
30
0.71
Total
26
36
F0
3.5 *
1.5
3.17
α :main effect, γ:combination effect, δ :order effect, e :error,
S:sum of squares, φ:number of degrees of freedom,
V:variance, Fo:rate of variance, **:P<0.01 *:P<0.05
F0
0.35
1.41
1.48
α :main effect, γ:combination effect, δ :order effect, e :error,
S:sum of squares, φ:number of degrees of freedom,
V:variance, Fo:rate of variance, **:P<0.01 *:P<0.05
20
第2章
紙と比較した布の反射特性
表3.1-9.
Sheffé
法-分散分析と検定結果:色相Bk
2.1-9.
Sheffé
法による分散分析:色相 Bk
相 Bk は色相 W と同じ無彩色であるにも関わらず, 表
色刺激を構成する素材が異なればそれに伴って見え
方や感じ方が変わり,色刺激に対する嗜好や評価が
全く違ってくることを示す結果となった。この結果
が導かれた理由を 1 つに絞ることは困難だが,色知
覚のメカニズムが関わったと考えられる。物体の色
を知覚する過程とは,放射された光が物理的・科学
的に異なる様々な物体に選択的に吸収・反射され,
その反射された光が網膜上に像を結び,その光によ
って色の視覚経験に結びついた一連の複雑な神経事
象が引き起こされることである。そして,スペクト
ル刺激に対して生理的神経メカニズムがどのように
応答するかを直接測定することが可能である。それ
は,反対色(赤/緑,黄/青)応答関数といわれる
もので,それらを検討すれば色と波長の結びつきが
明らかになる。しかし,黒反応だけは,ある網膜位
置への直接的な光刺激によって生ずることはありえ
ず,間接的に反応が生じるため,黒の応答関数を直
接測定することはできないとされている 11)。今回の
(a) [Color: black, Rating-item: non-favorite--favorite]
Source
S
φ
V
F0
α
26.72
2
13.36
23.13 **
γ
0.11
1
0.11
0.19
δ
1.83
3
0.61
1.06
e
17.33
30
0.58
Total
46
36
(b) [Color: black, Rating-item: dirty--clean]
Source
S
φ
V
α
34.67
2
17.33
γ
1
1
1
δ
4.67
3
1.56
e
15.67
30
0.52
Total
56
36
F0
33.19 **
1.91
2.98 *
(c) [Color: black, Rating-item: unspleasant--pleasant]
Source
S
φ
V
F0
α
22.89
2
11.44
14.01 **
γ
1.36
1
1.36
1.67
δ
0.25
3
0.08
0.1
e
24.5
30
0.82
Total
49
36
(d) [Color: black, Rating-item: bad--well]
Source
S
φ
V
α
27.72
2
13.86
γ
1.36
1
1.36
δ
6.75
3
2.25
e
17.17
30
0.57
Total
53
36
F0
24.22 **
2.38
3.93 *
α :main effect, γ:combination effect, δ :order effect, e :error,
S:sum of squares, φ:number of degrees of freedom,
V:variance, Fo:rate of variance, **:P<0.01 *:P<0.05
測定に用いた 7 色の中で,色相 Bk だけは色の知覚過程が他とは異なっており,このこと
が他の 6 色とは異なる顕著な結果を得た背景要因ではないかと考えられる。
(3) 主効果の推定値
2.1.2.(4)-b.で示した通り一対比較法のうちシェッフェ法では,色刺激を構成する各素材に
対する嗜好・評価の推定値を数量化することが可能である。前項で明らかになった分散分
析結果のうち,素材の相違が評価に影響することを示す主効果に,危険率 1%および 5%で
有意差を認めた色相と評価項目について,
その推定値を図 2.1-2.から図 2.1-6.に図式化する。
色相 R では評価項目「汚い-きれい」において危
[Color: Red]
A2 A1
険率 1%で有意差を認めたため,その推定値を図
A3 **
Dirty
Clean
-2
-1
0
1
2
A1:tonal color(colored paper), A2:crepe paper,
A3:cotton broad cloth **:p<0.01 *:p<0.05
図図3.1-2.
2.1-2. Scheffé法による主効果の推定値
Sheffé 法による主効果の推定値
2.1-2.に示す。A2(-0.389),A1(-0.139),A3(0.528)の順
に主効果の推定値が高くなり,
クレープペーパー
(紙)
よりトーナルカラー(紙)
,トーナルカラー(紙)よ
りブロード(布)が「きれい」と評価されたことが
明らかになったが,色相 R では素材による評価に差があったのはこの項目だけであった。
21
第2章
色相 B においても主効果に有意差が認められた
[Color: Blue]
A2 A1 A3 *
Dirty
Clean
-2
紙と比較した布の反射特性
-1
0
1
2
のは,色相 R と同様,評価項目「汚い-きれい」
の 1 項目のみであった。その推定値も色相 R と同
A1:tonal color(colored paper), A2:crepe paper,
A3:cotton broad cloth **:p<0.01 *:p<0.05
じ傾向を示し,A2(-0.250),A1(-0.139),A3(0.389)
図 2.1-3.
法による主効果の推定値
図3.1-3.Sheffé
Scheffé法による主効果の推定値
の順に主効果の推定値が高くなった。図 2.1-3.に
その結果を図示する。色相 Bk を除く 6 色の中で,明度の低い色相 R と色相 B の呈示刺激
を視感比色した場合,素材間の違いを最も際立たせるのが刺激表面の光沢であった。今回
の測定に用いた色相 R と色相 B の呈示刺激では,クレープペーパーの表面形状に伴う非光
沢(白みを帯びた艶なし)感とトーナルカラーの光沢感,さらに,ブロードの光沢の少な
いマット感が被験者によって弁別され,それらに「汚い-きれい」という評価がなされた
と考えられる。
[Color: Yellow]
色相 Y と色相 W の結果はそれぞれ図 2.1-4.
と図 2.1-5.の通りである。色相 Y も色相 W も
Nonfavorite
4 つの評価項目において主効果に対し素材間
Dirty
A2 A3 A1 **
Favorite
A2 A3
Clean
の有意差が認められたが(危険率 1%および
5%)
,それらの推定値も同様の傾向を示し,4
A1 **
A2 A3
A1 **
Unpleasant
つの評価項目とも A2,A3,A1 の順に高い値
を得た。つまり,2 色相ともクレープペーパ
ー,ブロード,トーナルカラーの順に嗜好や
評価が高いことが示された。また,得た数値
Pleasant
A2 A3
A1 **
Bad
Well
-2
-1
0
1
2
A1:tonal color(colored paper), A2:crepe paper,
A3:cotton broad cloth **:p<0.01 *:p<0.05
Scheffé法による主効果の推定値
図図3.1-4.
2.1-4. Sheffé
法による主効果の推定値
の詳細を評価項目間で比較すると,いずれの色相も評価項目「汚い-きれい」では,3 素
材の推定値の差が大きく(色相 Y:A2(-0.500),A3(-0.111),A1(0.611),色相 W:A2(-0.472),
A3(0.00),A1(0.472))
,この項目については素材の相違が評価に与える影響が明確であった。
色相 Y に対する評価
「不快-快い」でも 3 つの推定値の差が大きく(A2(-0.472),A3(-0.139),
A1(0.6111)),素材間の違いが明らかであった。
[Color: White]
しかし,その他は推定値の差が大きいものでは
A2 A3 A1 *
Nonfavorite
Favorite
A2 A3 A1 **
Dirty
Clean
い-好き」:A2(-0.139),A3(-0.056),A1(0.194),
Pleasant
「不快-快い」
:A2(-0.222),A3(0.028),A1(0.194),
A2 A3 A1 **
Unpleasant
「 悪 い - 良 い 」: A2(-0.111) , A3(-0.083) ,
A2 A3 A1 *
Bad
Well
-2
-1
0
なかった。とくに色相 W では差が小さく(
「嫌
1
2
A1:tonal color(colored paper), A2:crepe paper,
A3:cotton broad cloth **:p<0.01 *:p<0.05
図 2.1-5.
Sheffé
法による主効果の推定値
図3.1-5.
Scheffé法による主効果の推定値
A1(0.194)),分散分析結果では分散比に有意差
が認められたが(危険率 1%および 5%)
,推定
値の差による素材の違いは明確なものではなか
った。
22
第2章
紙と比較した布の反射特性
色相 Bk の分散分析結果は表 2.1-9.に示したが,
[Color: Black]
A1 A2
Nonfavorite
4 つの評価項目とも主効果の分散比(F0)が他
A3 **
Favorite
A1 A2
A3 **
Dirty
Clean
A1 A2
A3 **
Unpleasant
Pleasant
A2 A3
Well
-1
0
1
が認められた。色相 Bk における嗜好と評価の
推定値を素材ごとに図にした結果は図 2.1-6.に
示す。4 つの評価項目とも各素材の推定値の差
A1 **
Bad
-2
の色相に比べ著しく高く,危険率 1%で有意差
2
A1:tonal color(colored paper), A2:crepe paper,
A3:cotton broad cloth **:p<0.01 *:p<0.05
図3.1-6.
Scheffé法による主効果の推定値
図 2.1-6.
Sheffé
法による主効果の推定値
が大きく,その相違が明確であった。いずれの
評価項目も A1,A2,A3 の順に値が大きくなり
(「 嫌 い - 好 き 」: A1(-0.444) , A2(-0.250) ,
A3(0.694) ,「 汚 い - き れ い 」: A1(-0.556) ,
A2(-0.222),A3(0.778),
「不快-快い」
:A1(-0.500),A2(-0.111),A3(0.611),
「悪い-良い」
:
A2(-0.500),A3(-0.194),A1(0.694))
,今回の測定では,色相は同じ Bk であるにも関わらず
見え方や感じ方は素材によって異なり,とくに布製のブロードに対する嗜好と評価の程度
が高いことが明らかになった。
2.1.4. 要約
今回,色彩嗜好調査・測定に用いられる試料素材の有効性を検討することを目的に,異
なる 2 つの試料素材を呈示する一対比較法を用いて,色の嗜好や評価に影響を与える刺激
素材を検討するための予備的な測定と解析を行った。その結果より次の点が示唆された。
1) 色相 R(赤)
,B(青)
,G(緑)
,Gy(灰色)は嗜好と評価に素材の相違による影響
は少なく,トーナルカラーを嗜好調査・測定の試料素材としても問題はないことが
今回の測定では示された。
2) 主効果に有意差が認められ,嗜好あるいは評価に素材の種類が影響すると考えられ
る色相は Y(黄)
,W(白)
,Bk(黒)であった。ただし,色相 Y と色相 W は高明
度色で台紙の色の影響を受けたため,さらに測定方法に検討の余地がある。
3) 主効果の推定値は色相 Y と色相 W で同傾向を示し,クレープペーパー(紙)
,ブロ
ード(布)
,トーナルカラー(紙)の順に嗜好と評価の程度が高くなった。
色相 Bk(黒)は主効果の分散比値が顕著に高い上に,素材ごとの推定値も差が大きく,
トーナルカラー,クレープペーパー,ブロードの順に嗜好と評価の程度が高くなる結果と
なった。色相 Bk では色彩嗜好調査・測定の試料素材としてトーナルカラーを用いた場合,
正確で充分な結果の把握は難しいのではないかと考えられる。
23
第2章
紙と比較した布の反射特性
2.2. 紙製色票および染色布の分光反射と色度変化の測定
2.2.1. 目的
布は金属やプラスチックとは異なる独特の質感を持つとされるが,布表面への入射光に
関わる物理現象が複雑であることにその原因がある。複雑さの背景要因として,繊維が透
明物質であるために透過や吸収といった反射以外の現象が起こることや,繊維の断面形状
や布を構成する織り組織によって反射に異方性が生じることなどが挙げられる
(図 2.2-1.)
。
これまでにも織物表面の反射の一部を解明する研究はあったが,これらの現象全体を理解
できるものではなかった。
これまでの表面反射に関する先行研究では,コンピュータグラフィックス(CG)のため
の反射モデル解明についての研究が多く行なわれてきた。おもに 2 色性反射モデルを用い
て布の反射光の解明を試みた研究である。これは,布の反射光を鏡面反射成分(完全鏡面
ではなく光沢反射と言われる粗い面の鏡面反射)と拡散反射成分(ランバート法則の完全
拡散反射)の 2 つの加法成分とする考え方が基になっている 1-3)。CG 表現では簡素なモデ
ルを用いた光反射の厳密な記述が求められており,2 色性反射モデルは様々な物体の表現
に妥当だとされている。その考えを応用して,2 色性反射モデルを用いて布の反射成分の
解明を試みる研究が続いているが,このモデルでは布の正確な記述は困難であるとの結果
も見られる 4)。CG 作成には,数多くのパラメータを含む複雑なモデルは実用的でないが,
布の反射をモデル化するための反射成分が 2 つでは不充分であるため,布を構成する繊維
や構造の特色を正確に反映し,織物表面の反射特性に合ったモデルパラメータを推定する
ための研究が行なわれている。
それは,布からの反射光を正反射光と内部反射光,拡散反射光の 3 種類に分類した研究
と,その結果を基に布の CG レンダリングを試みた一連の研究群である。これは,最初に
稲垣らが布の光沢とその質感を解明するために行なった布の反射光を 3 種類に分類する研
究を出発点に,安田らがその結果を布の CG レンダリングに取り入れたものである 5,6)。正
反射光を方向性のある鋭い光(金属のハイライトに対応)
,内部反射光を布固有の反射光,
拡散反射光は通常の拡散反射光と解釈し,布の反射モデル 7)を導いたが,織目構造や断面
形状などの影響は考慮されておらず,不完
全な部分を補完するための実験研究が続い
normal
ている 8-10)。
incident light
specular reflection
diffuse reflection
scattering ray
woven cloth
absorption
布に限らず物体表面に入射した光は,大
きく分ければ,反射,吸収,透過という物
理現象を経る。そして,その中の反射現象
だけを分類しても,表層からの鏡面反射・
図図3.2-1.
2.2-1. 布の反射
布の反射
拡散反射,内部を通過しての鏡面反射・拡
24
第2章
紙と比較した布の反射特性
散反射,入射点以外からの拡散反射,さらに,表面での相互反射も起こるとされるなど,
布ではそれを構成する繊維や織り構造が原因で特に反射が複雑であるとされている。
今回の実験では,これまでの研究で用いられた光沢の強い布ではなく,普段使用される
ことの多い布を対象に,受光角度を変化させてその分光反射率を測定することで,従来考
えられてきた鏡面反射と拡散反射の 2 成分のみで独特の質感を認知させる布表面の反射を
説明できるかを確認した。さらに,得られた分光反射率から色度を求め,観測角度が異な
れば布の色がどのように違って見えるのかについても明らかにした。
2.2.2. 方法
(1) 試料
測定に用いた試料布は一般に多用されている繊維や織り組織を選択し,変化織やラメな
どを用いた特殊素材は省いた。シルケット加工した綿の平織布(sample A,以下,A と記
す)
,シルケット未加工の綿平織布(B)
,シルケット加工した綿の綾織布(C)
,綿の朱子
織布(D)
,シルケット加工した綿ニ
表 2.2-1.
試料布の諸元
表3.2-1.
試料布の諸元
sample label fiber material
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
cotton(silket)
cotton
cotton(silket)
cotton
cotton(silket)
cotton
silk
wool
linen
rayon
woven
pattern
plain
plain
twill
satain
knitting
knitting
plain
plain
plain
plain
density
(warp×woof/inch)
130×70
130×70
114×54
84×130
39×43
39×43
135×98
69×58
52×56
106×74
thickness
(mm)
0.22
0.22
0.45
0.28
0.58
0.75
0.12
0.32
0.24
0.12
ット布(E)
,シルケット未加工の綿
ニット布(F)
,絹の平織布(G)
,毛
の平織布(H)
,麻の平織布(I)
,レ
ーヨンの平織布(J)の 10 種類であ
る。その詳細は表 2.2-1.に示す。
これらの試料布は原布
(未染色布)
であるため,それぞれ,赤(color r,
以下,r と記す)
,緑(g)
,黄(y)
,青(b)に染色した。よって,試料布は合計 40 となっ
た。染料は 2 種類で,試料布 G と H は動物繊維であるため酸性染料(商品名:ラナセット)
を用い,他の試料布は植物繊維あるいは植物由来繊維であるため反応染料(商品名:リア
ック)で染色した。2 種類の染料では,それぞれ用いる助剤や染色の条件・手順は異なる
が,同じ染料を用いる場合は試料
表3.2-2.
染色条件
表 2.2-2.
染色条件
布や染色する色が異なっても染料
や助剤の割合,条件・手順は同一
とした。それらの染色条件は表
reactive dye
acid dye
sample label
A, B, C, D, E, F, I, J
G, H
dyeing color
red, green,
yellow, blue
red, green,
yellow, blue
dye concentration
5%
3.6%
dyeing auxiliaries
Na2 SO4 (150%)
Na2 CO3 (60%)
NaCl(30%)
HCOOH(2%)
1:30
1:50
dip dyeing
dip dyeing
2.2-2.に示す。
また染色した各試料の表色測定
結果(JIS 規定条件下[45 度照射
/0 度受光方式]
)は表 2.2-3.に示
す通りである。前述の通り,同一
dyebath ratio
dyeing method
25
第2章
紙と比較した布の反射特性
染料の場合は助剤の割合や条件・手順を統一したが,試料布の繊維や織り方の違いで染着
量は異なってくる。そのため,染色した同一色間で 10 種の試料布の L*a*b*表色系測定値を
比較すると大きな色差は無いが全くの同値ではない。これは先に目的で示したように,染
色した各同一試料布について観測角度を違えた場合の測定結果を検討する実験であるため
で,表 2.2-3.の色差は問題とされない。
表 2.2-3.
試料布の測色結果
表3.2-3.
試料布の測色結果
sample
label
A
A
A
A
B
B
B
B
C
C
C
C
D
D
D
D
E
E
E
E
dyeing
color
red
green
yellow
blue
red
green
yellow
blue
red
green
yellow
blue
red
green
yellow
blue
red
green
yellow
blue
*
L
51.98
65.09
83.45
34.75
53.12
65.78
82.89
38.49
53.22
65.83
88.79
34.6
55.02
65.7
92.84
32.83
49.37
61.24
85.6
29.77
*
a
56.66
-49.78
-2.96
9.9
54.2
-47.27
-3.51
7.2
61.91
-56.9
-1.08
11.46
65.68
-64.82
0.66
13.94
61.18
-56.72
2.7
12.4
*
b
21.56
11.16
74.67
-32.96
20.5
13.44
66.49
-31.1
25.44
14.58
83.31
-35.88
31.23
14.5
93.82
-35.54
27.26
9.63
88.77
-34.77
sample
label
F
F
F
F
G
G
G
G
H
H
H
H
I
I
I
I
J
J
J
J
dyeing
color
red
green
yellow
blue
red
green
yellow
blue
red
green
yellow
blue
red
green
yellow
blue
red
green
yellow
blue
*
L
52.31
66.41
85
35.89
56.34
49.24
90.75
43.37
39.29
30.67
76.86
26.55
55.84
67.38
83.99
40.4
39.66
55.34
71.76
22.31
a*
56.86
-50.43
1.6
8.05
55.9
-27.06
-11.26
14.15
52.24
-18.63
-5.66
21.12
53.19
-50.12
-3.58
8.53
54.4
-57.88
6.12
11.6
b*
20.84
18.2
79.35
-31.87
21.01
-9.63
88.37
-49.39
27.26
-7.1
86.33
-44.96
22.17
14.85
69.28
-29.5
31.37
19.31
83.51
-24.14
(2) 計測方法
計測には変角分光測色システム(変角分光測色システム GCM-4 型 ㈱村上色彩研究所
製)を用いた。この機器は光源からの照射角度と計測部が受光する角度を三次元的に変化
させながら,物体からの反射光の分光分布を計測できるものである。今回の測定では,静
岡県工業技術研究所の機器を借用した。
上記計測機器への試料布の固定方法は,入射光軸と試料布法線を含む入射面に試料布の
経(たて)糸が平行となるよう設置した。これは通常人が布を目にする状況,つまり,経
(たて)
方向に置いた布を人が見ている状態と同じであることから,
基準の設置方向とし,
以下,たて方向と記す。試料の固定方法には他に,基準の設置を 45 度面内回転させた方向
と 90 度回転させた方向の 2 種類を設定した。前者はバイアス方向,後者は緯(よこ)方向
に置いた布を人が見ている状況と同じであることから,以下,それぞれをバイアス方向,
よこ方向と記す。
光源の入射角度は,試料面の法線に対して 45 度入射とした。受光角度は,0 度,15 度,
30 度,45 度,60 度に変角させ,D65 光源-2 度視野の条件で試料布の分光反射率測定を
行った。
26
第2章
紙と比較した布の反射特性
(3) 解析方法
前項で既述した変角分光測色システムで計測した試料布の分光反射率は,人が布を見て
知覚する色をそのまま提示するものではない。観測方向によって人がどのように布の色を
知覚しているかを検討するためには,計測した試料布の分光反射率から 2 度視野 XYZ 表
色系(CIE 1931 表色系)の色度座標に変換する必要がある。まず,色度座標 x,y,z を求め
るために,反射による物体色の三刺激値 X,Y,Z を次式によって求める。
X= K
∫
780
Y= K
∫
780
Z= K
380
380
∫
780
380
K =100/ ∫
780
380
S (λ ) x(λ ) R(λ )dλ
(2.2.1)
S (λ ) y (λ ) R(λ )dλ
(2.2.2)
S ( λ ) z ( λ ) R ( λ ) dλ
(2.2.3)
S (λ ) y (λ ) d (λ )
(2.2.4)
S (λ ) :標準光の分光分布
x(λ ) , y (λ ) , z (λ ) :XYZ 表色系における等色関数
R(λ ) :分光立体角反射率
既知であるD65 光源の分光分布と等色関数,変角分光測色システムによって測定したR
(λ)によって三刺激値 X,Y,Z を算出する。さらに,その X,Y,Z から次式によって色度
座標 x,y,z を求める。
x=X/X+Y+Z
(2.2.5)
y=Y/X+Y+Z
(2.2.6)
z=Z/X+Y+Z=1-x-y
(2.2.7)
2.2.3. 結果と考察
(1) 分光反射率
図 2.2-2.(a)から 2.2-2.(d)に,色相 r に染色した試料布 A のたて方向における受光角度ごと
の分光反射率結果を示す。10 種の試料原布では繊維や織り組織の種類が異なるため,分光
27
第2章
紙と比較した布の反射特性
反射率の結果も異なると予測されたが,共通する結果もあった。まず,一つ目の共通点と
して,受光角度が法線方向(受光角度 0 度)から離れるほど,分光反射率も高くなったこ
とが挙げられる。金属やプラスチックのように光沢があり表面が平滑な試料であれば,正
反射方向への反射光量が最大になるため,
分光反射率も試料の色や反射の波長に関わらず,
正反射方向に一致する受光角度(45 度)での反射率が最も高くなると考えられる。比較の
ために測定機器や測定条件を 40 試料布と同様にして測定した赤の紙製色票
(㈱日本色研事
業製)
の分光反射率の測定結果を図 2.2-3.(a)と図 2.2-3.(b)に示す。
測定した紙製色票の L*a*b*
は,JIS 規定条件下[45 度照射/0 度受光方式]で,L*が 49.74,a*が 59.99,b*が 20.17 で,
試料布 A のそれとは大きく異なるものではなかった。紙製であるため,金属やプラスチッ
クほど表面は滑らかでないが,布のような織り構造は持たない。図 2.2-3.(a)と(b)が示すよ
うに,紙製色票では受光角度 0 度,15 度,30 度,60 度,45 度の順に値が高くなり,正反
射方向に一致する受光角度 45 度で反射率が最も高くなった。しかし,今回行った布を試料
とした測定では図 2.2-2(a)から(d)に示したように,0 度,15 度,30 度,45 度,60 度の順に
分光反射率が高くなり,
正反射方向である 45 度での反射率が最も高くなるという結果は得
られなかった。図 2.2-2(a)から(b)はこの結果の典型として示したが,染色の色や設置の方
向に影響されることなく全ての試料布においてこの結果は同じであった。
[cotton/plain/silket/green/warp]
1.2
0°
reflection coefficient
reflection coefficient
[cotton/plain/silket/red/warp]
15°
0.9
30°
0.6
45°
60°
0.3
1.2
0.6
60°
wavelength,nm
wavelength,nm
図3.2-2.(b) 分光反射率:A-g
図 2.2-2.(b)
分光反射率:A-g
[cotton/plain/silket/green/warp]
0°
[cotton/plain/silket/blue/Warp]
reflection coefficient
reflection coefficient
[cotton/plain/silket/yellow/warp]
15°
0.6
45°
0.3
図3.2-2.(a) 分光反射率:A-r
図 2.2-2.(a)
分光反射率:A-r
[cotton/plain/silket/red/warp]
0.9
15°
30°
0
0
1.2
0°
0.9
30°
45°
60°
0.3
0
1.2
0°
15°
0.9
30°
0.6
45°
60°
0.3
0
wavelength,nm
図3.2-2. 分光反射率:A-y
図 [cotton/plain/silket/yellow/warp]
2.2-2.(c) 分光反射率:A-y
wave length
図3.2-2.(d) 分光反射率:A-b
図 2.2-2.(d)
分光反射率:A-b
[cotton/plain/silket/blue/Warp]
また,0 度,15 度,30 度,45 度,60 度の順に分光反射率が高くなっているが,その増
加割合は均等ではなく,分光反射率の高い波長において顕著な差が見られることが二つ目
の共通点であった。図 2.2-2(a)であれば,480nm から 550nm と 600nm から 730nm での結果
の相違を指す。
5 水準の受光角度ともに分光反射率が低い 480nm から 550nm の波長間では,
28
第2章
紙と比較した布の反射特性
試料布の設置方向に関わらず受光角度間の分光反射率の差が大きくなく漸次高い値を示し
たが,600nm から 730nm の分光反射率が高い波長間では 5 水準の受光角度間の反射率が異
なり,受光角度が大きくなるほど分光反射率も高くなった。特に受光角度 45 度と 60 度で
高い値を得た。紙製色票では,図 2.2-3.(a)と(b)に示したようにそのような結果は得られず,
5 水準の受光角度間の増加割合に波長ごとの違いはなく,分光反射率を示すカーブがほぼ
均等な距離を保ち,試料布での結果とは顕著な相違が現れた。試料布別の結果は後述する
が,試料布 H の色相 g と試料 J の色相 b で差が見られなかった他は,染色した色や布方向
に関わらず同様の結果を得た。
[red/lengthwise]
0°
2.5
reflection coefficient
15°
2
30°
1.5
45°
60°
1
0.5
0
wavelength,nm
図3.2-3.(a) 分光反射率:紙製色票
図 2.2-3.(a)[red/lengthwise]
分光反射率:紙製色票
[red/crosswise]
0°
2.5
reflection coefficient
15°
2
30°
1.5
45°
60°
1
0.5
0
wavelength,nm
図3.2-3.(b) 分光反射率:紙製色票
図 2.2-3.(b)
分光反射率:紙製色票
[red/crosswise]
さらに共通した結果として,機器に設置した布の方向によって,分光反射率と受光角度
別の分光反射率の増加割合が異なったことが挙げられる。反射する光の方向を妨げたり,
変えたりする隆起などが無い平らな表面の試料であれば,機器に設置する試料面の方向を
変えても,反射光の量や向きに違いはないと考えられる。しかし,今回測定した試料はた
て糸とよこ糸を織り,または編み上げてできた布であるため,表面が規則性のある凸凹状
構造を持ち,分光した光の反射方向を変化させる場合がある。そのため,測定機器に設置
する試料布の方向を変えると分光反射率も異なるであろうと予想した。この予想した結果
は 40 種の試料布全てに共通して得られ,たて方向とよこ方向,バイアス方向に設置して測
定した結果,言い換えれば,観測の方向によって,分光反射率の値と受光角度による分光
反射率の増加割合もそれに伴い異なった。この結果についても紙製色票の結果とは違いが
あった。図 2.2-3.(a)はたて方向,図 2.2-3.(b)はよこ方向の結果を示したが,図に示さなかっ
たバイアス方向とともに,紙製色票では設置方向別の受光角度ごとの分光反射率に差は見
29
第2章
紙と比較した布の反射特性
られなかった。
以上,受光角度 0 度,15 度,30 度,45 度,60 度の順に分光反射率が高くなった点とそ
の増加割合は均等ではなく,反射率の高い波長において顕著な差が見られた点,さらに,
機器に設置した布の方向によって分光反射率と受光角度による増加割合が異なった点は
10 種の試料原布に共通に捉えられ,金属などの滑らかな表面を持つ試料の測定では得られ
ない結果であることから,これらの結果が布の織り構造に起因したものであろうことが認
められる。
一つ目の共通結果である受光角度 0 度,15 度,30 度,45 度,60 度の順に分光反射率が
高くなった点は,染色の色や観測の方向に影響されることなく全ての試料布においてこの
結果は同じであったが,二つ目の共通結果である受光角度の相違による分光反射率の増加
割合が均等ではなく,分光反射率の高い波長において顕著な差が見られる点は,各試料原
布と染色した色でその差が異なっていた。図 2.2-2.(d)が示す通り,色相 b に染色した試料
布 A の結果では,分光反射率の高い波長間(420nm から 460nm,690nm から 730nm)と低
い波長間(570nm から 650nm)での各受
reflection coefficient
[wool/plain/green/warp]
光角度の結果の差は他の 3 色に比べて大
0°
1.2
15°
0.9
きいものではない。また,図 2.2-4.には
30°
45°
0.6
60°
0.3
色相 g で染色した試料布 H の経方向にお
ける結果を示しているが,図 2.2-2.(d)よ
0
wavelength,nm
図3.2-4. 分光反射率:H-g
図 2.2-4.
分光反射率:H-g
[wool/plain/green/warp]
りさらに,受光角度 5 水準での分光反射
率の差が小さく均等に近かった。同様の
結果は,試料布 J の色相 b でも得られ,
いずれも,全波長において分光反射率が 0.3 以下であった。分光反射率とは分光はされて
いるが光の反射する割合を示しているため,高反射率とは反射する光の量が多いことを示
す。高反射率の波長間で受光角度の相違によって分光反射率の増加割合が大きい結果とな
ったのは,高反射率の波長間ではそうでない波長間より布表面で多くの光が反射される上
に,さらに,その光が布の凸凹した構造によって反射を重ねるため,増加割合も相関して
大きくなったものと考えられる。布以外の試料では通常正反射光方向での光量が最大とな
るが,布では受光角 45 度と 60 度で高反射率となったため,特に,この受光角度での表面
相互反射量が顕著であった。これとは逆に,低反射率の波長間では反射光量自体が少ない
ため,相互反射によって光量が増加することも少ないと推測できる。平らで滑らかな表面
の試料では,表面での相互反射が起こらないため,高反射率,低反射率いずれの波長域で
も受光角度の相違によって分光反射率が変化する,あるいは,その割合が均等ではないと
いった結果は得られない。つまり,この結果も布特有の結果で,その要因が表面構造に起
因することは明らかである。
30
第2章
紙と比較した布の反射特性
機器に設置した布の方向によって受光角度ごとに分光反射率の増加割合が異なった点が
三つ目に共通する結果であったが,各試料原布とさらに染色したそれぞれの色によって特
徴が現われた。シルケット未加工で試料布 A と同じ繊維・同じ織り組織の試料布 B では,
測定値は同値ではないが,図 2.2-2.(a)から(d)とほぼ同じ傾向の結果が得られた。つまり,
高反射率波長域において,受光角度 0 度,15 度,30 度,45 度,60 度の 5 水準の順に分光
反射率が高くなり,経方向,斜方向,緯方向の順にその差が増加した。また,その結果は
染色した 4 種の色に共通した。図 2.2-5.(a)から図 2.2-5.(c)に色相 y で染色した試料布 C の 3
方向における結果を示す。試料布 C と A とは繊維の種類は同じであるが,織り組織が異な
1.2
0.9
[cotton/twill/silket/yellow/weft]
0°
reflection coefficient
reflection coefficient
[cotton/twill/silket/yellow/warp]
15°
30°
0.6
45°
60°
0.3
1.2
0°
15°
0.9
30°
0.6
45°
60°
0.3
0
0
wavelength,nm
wavelength,nm
図3.2-5.(b) 分光反射率:C-y
図
2.2-5.(b) 分光反射率:C-y
[cotton/twill/silket/yellow/weft]
図3.2-5.(a)
分光反射率:C-y
図
2.2-5.(a)
分光反射率:C-y
[cotton/twill/silket/yellow/warp
reflection coefficient
[cotton/twill/silket/yellow/bias]
1.2
0.9
0°
15°
30°
0.6
45°
60°
0.3
0
wavelength,nm
分光反射率:C-y
図図3.2-5.(c)
2.2-5.(c)
分光反射率:C-y
[cotton/twill/silket/yellow/bias]
0.9
[cotton/satin/yellow/weft]
0°
reflection coefficient
1.2
15°
30°
0.6
45°
60°
0.3
0
1.2
0.9
0°
15°
30°
0.6
45°
60°
0.3
0
wavelength,nm
wavelength,nm
図3.2-6.(a) 分光反射率:D-y
図 2.2-6.(a)
分光反射率:D-y
[cotton/satin/yellow/warp]
図3.2-6.(b) 分光反射率:D-y
図 2.2-6.(b)
分光反射率:D-y
[cotton/satin/yellow/weft]
[cotton/satin/yellow/bias]
reflection coefficient
reflection coefficient
[cotton/satin/yellow/warp]
1.2
0.9
0°
15°
30°
0.6
45°
60°
0.3
0
wavelength,nm
分光反射率:D-y
図図3.2-6.(c)
2.2-6.(c)
分光反射率:D-y
[cotton/satin/yellow/bias]
31
第2章
紙と比較した布の反射特性
り,C の方が立体感を強く感じさせる綾織りで光沢がある。受光角度が法線方向から離れ
るほど分光反射率が増加し,たて方向,バイアス方向,よこ方向の順に増加の割合が大き
くなる結果は同じであるが,試料布 A,B よりその割合が顕著であった。図 2.2-6.(a)から
図 2.2-6.(b)は色相 y に染めた試料布 D の設置方向別の結果である。これは,試料布 A,B,
C とは異なり,よこ方向,バイアス方向,たて方向の順に増加の割合が大きくなっている
ことを示している。試料布 D については,色相 r,色相 g,色相 b でも同様の結果が得ら
れた。他の試料布は全て,たて方向,バイアス方向,よこ方向の順に受光角度ごとの分光
反射率の増加割合が大きくなる結果を示したことから,織り組織の違いが影響したものと
考えられる。試料布 D の繊維は試料布 A,B,C,E,F と同じであるが,朱子織りで製織
された布である。この朱子織はよこ糸よりたて糸が多く布表面に表出し,また,たて糸と
よこ糸の交錯点が少ないため,表面の凸凹が小さく滑らかである。化学繊維のように毛羽
の少ない繊維であれば,プラスチックのような光沢が見られる織り組織である。試料布 D
は一つの方向に並ぶたて糸が表面を多く覆っているため,一方向に光の反射が強化される
相互反射になったための結果であろうと類推される。また,設置方向は異なるが,試料布
C の反射率の差が大きくなった結果の原因も同様で,綾織りで表出した織り糸によって光
の反射量が均等とならなかったことによると考えられる。これとは逆に,編み組織の試料
布 F(図 2.2-7.(a),(b),(c))や H のように繊維の毛羽が多く見られる表面や先に示した試
料布 A や B のように経糸と緯糸が交互に表出する表面では反射光の相互反射がアトランダ
ムとなったため,ひとつの観察方向に強く反射が見られる結果は得られなかった。
[cotton/knitting/yellow/weft]
0°
reflection coefficient
1.2
15°
0.9
0.6
30°
45°
60°
0.3
0°
1.2
15°
0.9
30°
45°
0.6
60°
0.3
0
0
wavelength,nm
wavelength,nm
図3.2-7.(b) 分光反射率:F-r
図 [cotton/knitting/yellow/weft]
2.2-7.(b) 分光反射率:F-r
図3.2-7.(a) 分光反射率:F-r
図 2.2-7.(a)
分光反射率:F-r
[cotton/knitting/yellow/warp]
[cotton/knitting/yellow/bias]
reflection coefficient
reflection coefficient
[cotton/knitting/yellow/warp]
1.2
0°
15°
0.9
0.6
30°
45°
60°
0.3
0
wavelength,nm
図3.2-7.(c) 分光反射率:F-r
図 2.2-7.(c)
分光反射率:F-r
[cotton/knitting/yellow/bias]
32
第2章
紙と比較した布の反射特性
(2) XYZ 表色系-Y(明るさ)
解析方法に示した式(2.2.2)により,XYZ 表色系の反射率に相当する“Y”を算出した。
これは人が色を見る際の明度に対応するもので,以下,この XYZ 表色系“Y”を反射率と
記す。表 2.2-4.(a)と表 2.2-4.(b)に試料布と染色した色,設置方向別に 5 水準の受光角度ごと
の“Y”(明るさ)を示す。
表 2.2-4.(a)
受光角度別反射率:色相 r,色相 g
表3.2-4.(a)
受光角度別反射率:色相r,色相g
settng
direction
warp
weft
bias
warp
weft
bias
receiving
angle
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
A-r
13.54
14.75
16.92
20.13
23.96
14.42
15.77
18.05
21.62
26.42
13.95
15.30
17.63
21.12
25.68
A-g
23.42
25.48
28.96
34.16
40.69
25.04
27.41
31.07
36.57
44.46
24.11
26.38
30.07
35.70
43.50
B-r
15.11
16.22
18.17
21.16
25.16
16.06
17.43
19.72
23.38
28.40
15.58
16.84
19.10
22.65
27.42
B-g
25.34
27.17
30.41
35.04
40.91
27.06
29.18
32.81
38.24
45.67
26.42
28.55
32.22
37.77
45.39
C-r
16.49
17.26
18.68
21.25
25.73
12.99
16.53
21.27
26.62
31.20
13.89
16.49
19.76
23.34
27.03
C-g
26.49
27.99
30.70
35.10
42.67
20.03
25.76
33.35
41.50
48.53
21.18
25.66
31.34
37.63
43.49
sample label - dyeing color
D-r
E-r
F-r
G-r
10.67 12.90 15.02 12.10
13.80 13.62 15.91 16.08
18.18 15.15 17.64 19.48
22.95 17.90 20.42 24.25
26.67 22.70 24.52 29.78
12.39 10.96 14.53 15.44
13.81 13.27 16.17 16.21
15.73 16.25 18.64 18.88
18.67 19.96 21.97 23.75
23.85 23.98 25.86 31.59
12.18 11.70 15.05 13.68
13.86 13.38 16.50 15.41
16.05 15.80 18.77 17.97
19.04 19.09 21.84 22.45
23.09 23.30 25.48 29.09
D-g
E-g
F-g
G-g
16.30 20.17 25.77
8.72
20.95 21.55 27.65 11.33
27.49 24.48 30.99 13.98
34.94 29.52 35.86 17.79
41.09 38.00 41.95 23.09
19.56 16.53 24.54 10.08
22.21 20.42 27.74 10.57
25.44 25.56 32.04 12.83
29.69 31.79 37.55 17.11
36.10 38.11 43.45 24.10
19.27 17.68 25.45
9.21
21.78 20.78 28.25 10.14
25.05 25.26 32.54 12.40
29.38 31.11 37.88 16.54
35.57 38.04 43.95 23.70
H-r
8.56
8.67
9.27
10.83
13.96
7.44
8.29
9.48
11.21
13.65
7.91
8.46
9.40
11.06
13.64
H-g
4.95
4.95
5.34
6.51
9.37
3.86
4.51
5.42
6.71
8.77
4.10
4.56
5.33
6.56
8.80
I-r
14.54
15.95
18.71
23.76
31.34
10.01
12.63
17.02
22.89
28.16
11.21
13.56
17.36
22.81
29.52
I-g
23.29
25.79
29.99
37.14
48.51
17.19
21.49
28.21
36.94
45.39
18.99
22.92
28.92
37.12
47.07
J-r
8.75
8.85
9.52
11.05
13.94
9.73
9.41
10.24
12.38
15.77
9.16
8.89
9.25
10.35
12.59
J-g
18.66
18.93
20.31
23.26
28.57
20.47
19.89
21.48
25.27
31.55
18.81
18.56
19.40
21.45
25.34
受光角度別の結果では,試料布,染色した色,設置方向に関わらず全ての結果において,
0 度,15 度,30 度,45 度,60 度の順に反射率が高くなった。また,0 度から 15 度,15 度
から 30 度までの変化と,30 度から 45 度,45 度から 60 度までの変化は異なり,後者の方
が反射率の高くなる割合が大きかった。比較のために測定した赤の紙製色票では,設置方
向の違いに関わらず受光角度 45 度での反射率が顕著な値を示した。
このように平滑な表面
の試料であれば,入射角度 45 度の正反射方向である受光角度 45 度付近で最も反射光量が
多くなり,明度が高く見えるが,今回測定対象とした布では,正反射方向よりさらに大き
い受光角度 60 度で反射率が高くなり,明度が高く見えることが明らかになった。
染色した色別の結果では,10 試料原布全てで色相 y での 5 水準の受光角度ごとの反射率
変化が小さく,逆に,色相 b での変化は大きかった。前項で示した分光反射率の結果から
33
第2章
紙と比較した布の反射特性
表 2.2-4.(b)
受光角度別反射率:色相 y,色相 b
表3.2-4.(b)
受光角度別反射率:色相y,色相b
settng
direction
warp
weft
bias
warp
weft
bias
receiving
angle
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
A-y
49.79
52.48
56.97
63.01
68.94
52.23
55.96
61.27
68.78
77.83
51.89
55.45
60.90
68.51
77.37
A-b
4.40
5.10
6.35
8.37
11.40
4.96
5.62
6.81
8.79
12.20
4.73
5.38
6.58
8.63
11.94
B-y
C-y
51.29 63.94
53.26 65.52
56.83 68.54
61.95 73.72
67.62 81.39
53.91 54.30
56.91 64.29
61.92 77.09
69.39 91.23
77.41 102.58
52.38 57.27
55.19 64.12
60.00 72.16
67.24 80.57
75.17 86.44
B-b
C-b
5.56
5.09
6.38
5.58
7.87
6.50
10.36
8.30
14.16 11.93
6.23
3.54
6.99
4.99
8.42
7.01
10.82
9.57
14.89 12.52
5.94
3.80
6.71
4.92
8.18
6.44
10.63
8.41
14.67 11.26
sample label - dyeing color
D-y
E-y
F-y
G-y
45.75 54.97 57.03 41.74
55.12 57.02 58.68 51.24
68.16 60.87 61.65 62.63
82.61 67.19 66.01 77.92
92.10 75.60 71.07 90.75
52.38 48.93 55.27 53.62
56.24 55.84 59.11 56.39
60.96 64.59 64.21 63.71
66.66 73.98 70.32 74.97
74.81 81.13 75.36 89.06
50.25 50.97 56.91 49.98
54.92 56.47 60.24 52.51
60.46 63.73 65.03 58.51
67.15 72.44 71.05 68.08
74.68 80.36 76.85 80.03
D-b
E-b
F-b
G-b
2.73
3.54
5.35
6.37
3.80
3.88
5.87
8.19
5.41
4.63
6.95 10.37
7.46
6.14
8.95 13.41
9.85
9.24 12.57 18.15
3.29
2.78
5.19
7.85
3.99
3.66
6.03
8.45
4.99
4.88
7.35 10.35
6.50
6.49
9.32 13.55
9.56
8.77 12.50 18.84
3.47
3.01
5.43
6.94
4.06
3.70
6.13
7.81
4.93
4.76
7.38
9.79
6.41
6.32
9.29 13.12
9.20
8.96 12.65 18.77
H-y
43.36
43.70
46.05
51.30
59.56
39.35
42.50
47.23
53.49
59.07
40.69
42.55
45.84
50.86
57.07
H-b
3.86
3.81
4.02
4.94
7.22
2.84
3.38
4.13
5.22
6.89
3.07
3.43
3.97
4.87
6.72
I-y
46.51
49.47
54.83
64.04
77.11
40.16
46.17
54.77
65.22
73.80
42.87
47.71
54.81
64.16
75.08
I-b
6.29
7.09
8.52
11.49
16.42
3.65
5.44
8.09
11.57
15.29
4.65
6.08
8.07
11.31
15.56
J-y
36.48
37.15
39.30
43.30
50.07
40.21
39.08
42.54
50.42
59.70
37.87
36.89
38.17
41.19
46.64
J-b
2.45
2.40
2.71
3.60
5.52
2.62
2.47
2.72
3.64
5.63
2.39
2.30
2.45
3.02
4.27
はその理由を導き出すことは難しい。分光反射率だけを検討すれば,上記とは反対に色相
y で反射率(明度)変化が大きく,色相 b で変化が小さくなることが予測できるからであ
る。予測とは異なる結果となった原因としては,色相 y と色相 b の色自体の明度の違いと
布表面の繊維の毛羽立ちによる相互反射が考えられる。もともと高明度の色相 y では,黄
に染色された布内部から反射された光の分光割合と照明光の白色光成分を多く含む布表面
での相互反射光の分光割合とが近く,その明度が照明の白色光に影響され難かったのに対
し,低明度の色相 b に染色された布内部からの反射光と布表面での相互反射光では分光分
布が異なるため,照明光をそのまま反射する正反射方向 45 度と 60 度では,表面で白色光
が分離したようになり反射率変化が大きくなったものと考えられる。
5 水準の受光角度ごとの反射率変化における設置方向別の結果では,同じ綿繊維の試料
布 A,B,C,D,E,F において,織り組織の違いによる影響が明らかとなった。平織組織
の試料布 A と B では,色相 b 以外でたて方向での変化が最も小さく,よこ方向とバイアス
方向が同程度であったのに対し,綾織組織の試料布 C では,4 色ともよこ方向での変化が
最も大きかった。編み組織の試料布 E と F では,4 色ともたて方向とよこ方向,バイアス
方向での結果が大きく違わず,朱子織組織の試料布 D では,色相 r と色相 b でよこ方向,
34
第2章
紙と比較した布の反射特性
色相 g と色相 y でたて方向での変化が大きかった。
同じ平織組織で繊維が異なる試料布 G,
H,I,J では,染色の色によって設置方向別の結果が異なり,繊維の違いによる影響は見
出せなかった。3 種の設置方向における 5 水準の受光角度別反射率の変化量についても,
織り組織による表面構造の特徴が大きく影響する結果が得られた。
染色した色の特徴が影響する結果もあったが,XYZ 表色系の反射率“Y”
,つまり,人
が色を見る際の明度にも,他の滑らかな表面を持つ試料とは異なり,織り構造などによる
不均一な試料表面に原因を持つ反射特性が反映される結果が得られた。
(3) XYZ 表色系-色度
解析方法に示した式(2.2.5)と式(2.2.6)により,XYZ 表色系の色度 x,y を算出した。
これは人が色を見る際の彩度を含む色相に対応するものである。図 2.2-8.に XYZ 表色系の
色度図を示す。図 2.2-8.には色相と彩度の位置関係を記したが,XYZ 表色系色度図では,
無彩色(白度点)は色度図の中心にあり,色度図周辺の色度 x,y の色ほど高彩度色である
ことを示す図である。色度図内にプロットされた色度 x,y によって,人が見ている色を理
解することが可能である。図 2.2-9.(a)と図 2.2-9.(b)に色相 r に染色した試料布 A のたてとよ
こ方向の結果を示す。
520
0.8
550
green
hue
0.6
y
yellow
0.4
590
chroma
red
490
700~780
0.2
blue
0
0
0.2
0.4
x
0.6
0.8
図 2.2-8.
図3.2-8. 色度図:色相と彩度の図示関係
色度図:色相と彩度の図示関係
代表的な結果としてこれらの図を示したが,4 色に染色した 10 試料原布の 3 設置方向別
における結果全てにおいて,5 水準の受光角度ごとの色度が,0 度,15 度,30 度,45 度,
60 度の順に無彩色方向に変化した。これは,前々項「a.分光反射率」と前項「b.XYZ 表色
系-Y(反射率)
」で記述した結果と同様の結果であった。金属のように平滑な表面の試料
であれば,正反射方向での光量が最も多いため,光量に関する測定値は正反射方向の 45
度を頂点に,0 度,15 度,30 度,45 度と値が漸次変化し,60 度では法線方向 0 度の値に
戻ることが予想される。赤の紙製色票で行った比較測定結果を図 3.2-10.に示すが,受光角
35
第2章
[cotton/plain/silket/red/warp]
紙と比較した布の反射特性
[cotton/plain/silket/red/weft]
0.8
0.6
0.6
y
y
0.8
0.4
0.4
60°←45°←30°←15°←0°
60°←45°←30°←15°←0°
0.2
0.2
0
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
x
図図3.2-9.(a)
2.2-9.(a) 色度変化:A-r
色度変化:A-r
[cotton/plain/silket/red/warp]
0
0.2
0.4
0.6
0.8
x
図3.2-9.(b) 色度変化:A-r
図
2.2-9.(b) 色度変化:A-r
[cotton/plain/silket/red/weft]
度 45 度での色度 x,y は白色点に最も近くなり,60 度では逆に白色点から離れる方向に値
が変化した。また,受光角度 0 度での色度 x,y は,試料布と紙製色票でほぼ同じ値であっ
たのに,色票では 5 水準の受光角度ごとの色度変化が大きく,同じ赤でも布と紙とでは観
察方向の違いで色の見え方が大きく異なることが明らかになった。
今回測定した試料布は,
布の織り組織によって表面での反射光の方向や光量に布特有の変化・増幅が起こり,金属
などとは異なる結果が予測されたが,紙製色票の結果との比較からもその予測が確かめら
れた。
分光反射率と XYZ 表色系の反射率,色度はそれぞれ示す値も意味も異なるが,5 水準の
受光角度において,0 度,15 度,30 度,45 度,60 度の順に値が変化するという結果は 40
試料布に共通して同じであった。また,XYZ 表色系の反射率と色度の結果から,測定に用
いた試料布は,入射光角度に対する受光角度 0 度,15 度,30 度,45 度,60 度の順に明る
く,色褪せて見えることも明らかになった。
5 水準の受光角度ごとの色度変化について,染色した色別の結果では,試料布 I のよこ
方向で少し変化に差が見られたほかは,色相 g,色相 y,色相 b の 3 色ともに,受光角度ご
との変化は小さく,かつ均等に変化していた。とくに,試料布 G(図 2.2-11.)
,H,J の色
相 y での変化が小さかった。また,試料布 I で均等に変化していたほかは,色相 r では受
光角度ごとの色度変化に特徴が現われ,9 試料原布において,60 度での色度変化が大きか
った。染色した色で結果が異なった原因は,染色した色自体の彩度と明度の違いによるも
のと考えられる。表 2.2-3.に示した通り,10 試料原布では,色相 r は彩度の高い色に染ま
ったが,色相 g と色相 b は,色相 r より彩度の低い色に,さらに,色相 y は高彩度・高明
度色に染色された。そのため,45 度照射,0 度観察の条件下で人が見て感じる色として,
色相 r は濃い色に感じられるが,色相 y と色相 g,色相 b は,色相 r ほど濃く感じられる色
36
第2章
紙と比較した布の反射特性
[silk/plain/yellow/warp]
[red/lengthwise]
0.8
0.6
0.6
y
y
0.8
60°←45°←30°←15°←0°
0.4
0.4
45°←30°←15°←0°
→60°
0.2
0.2
0
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
0
0.2
x
図3.2-10. 色度変化:紙製色票
図 2.2-10.[red/lengthwise]
色度変化:紙製色票
0.4
0.6
0.8
x
図3.2-11. 色度変化:G-y
図[silk/plain/yellow/warp]
2.2-11. 色度変化:G-y
に染まっていなかった。そのため,色相 r と他の 3 色相 g,y,b では,繊維や織り組織に
関係なく受光角度による色度変化が異なったのではないかと推測される。
5 水準の受光角度ごとの色度変化についての設置方向別の結果では,前述の通り,色相 r
以外の試料布では変化が大きいものではなかったが,色相 r では試料布 A,B,C のたて方
向で受光角度 60 度での色度変化が大きく,試料布 D では,よこ方向で同様の結果が得ら
れた。試料布 E,F,G,H,J では,変化率は異なるが,3 設置方向全てで受光角度 60 度
での色度変化が大きい点が共通していた。今回の試料布のように高彩度・低明度に染色さ
れた,いわゆる濃い色に染まった布では,色度,つまり人が見て感じる色相や彩度が織り
組織や布の観察方向によって異なって見えることが明らかとなった。
2.2.4. 要約
今回は日常で多く用いられる布を対象に,入射光角度を 45 度に固定して受光角度を 0
度から 60 度まで 15 度ずつ変角させてその分光反射率を測定し,布の表面反射の特性を捉
えることを試みた。また,観察方向の違いによる布の色の見え方の相違を明らかにするこ
とを目的に,分光反射率から色度を算出し検討を行った。
分光反射率の測定結果では,試料布の繊維や織り構造,染色した色,機器への設置方向
に関わらず,受光角度 0 度から 60 度へ漸次値が高くなった。正反射方向 45 度で最も反射
率が高くなれば,布からの反射光は鏡面反射成分と拡散反射成分のみで表現可能であろう
と考えられる。しかし,今回の測定結果からは,布からの反射光に鏡面反射の特性を抽出
することはできなかった。また,分光反射率の高い波長では 5 水準の受光角度間の分光反
射率の増加割合が異なり,受光角度が大きくなるほど分光反射率も値が高くなった。これ
は,布の織り構造や繊維の毛羽に起因する平らではない表面での相互反射が原因であると
37
第2章
紙と比較した布の反射特性
推察される。さらに,設置方向によって分光反射率に違いが現れる織り組織の試料布があ
り,相互反射の原因が織り(編み)構造にあるという推察を補強する結果も得られた。
XYZ 表色系の“Y”と色度の結果でも分光反射率と同様に,正反射方向(45 度)を中心
に値が変化するのではなく,受光角度 0 度から 60 度へ順次変化した。つまり,法線方向を
始点に観察方向を変化させて物を見る場合,今回選定した比較用紙製色票のように滑らか
な表面の物であれば正反射方向で最も明るく色褪せて見えるが,布の色では正反射方向を
超えた角度(60 度)でさらに,色が明るく色褪せて見えることが明らかとなった。ただし,
その変化割合は小さく,滑らかな表面の物では正反射方向で鏡面反射による白色光により
白く見えるが,布の色は白く見えるのではなく,受光角度 60 度で彩度が低く色褪せて見え
る値の色度となった。
今回の測定では,布の表面反射成分がこれまでに分類されてきた 2 ないし 3 の成分で説
明可能かを検討した。その結果,拡散反射成分と布表面での相互反射成分が布からの反射
を特徴付けていることが明らかになった。今後は,布表面の微細構造を考慮した反射光測
定を行い,布特有の拡散反射成分と相互反射成分の特性を捉えたい。
38
第3章
光の反射と CG における反射モデル
第3章
光の反射と CG における反射モデル
第 3 章 光の反射と CG における反射モデル
本章の目的と概要
本章では研究を進めるにあたり,まず光に関する物理的基礎事項を整理することとし,
はじめに一般的な物体と布の反射に関する基礎事項,つづいて布の反射に関する先行研究
をまとめた。次に,コンピュータグラフィックス(CG)によって布の画像を作成するため
に必要な基礎的事柄を整理した。CG 全般ではなく,CG において布の特徴ある反射を表現
するのに必要な反射モデルに焦点を絞り,これまでの成果を整理する。それらの反射モデ
ルを使用した CG 画像研究とさらに新しい反射モデルを用いた布の CG 画像作成に関する
先行研究をまとめた。
本章の構成は以下の通りである。3.1 節では,まず光の反射についての物理的基礎事項を
まとめた。一般的な不透明物体表面における反射現象と反射の成分,入・反射光と偏光の
関係について整理した。次に,布表面の特徴ある組織形状を確かめ,平滑面とは相違する
布反射の特徴を示した。物理の法則に依れば,反射の基礎事項を解釈することは難しくな
い。しかし,材質や表面形状が異なる布や織物を実際に測定することは困難であるため,
布の反射に関する基礎研究は少ない。そのような背景のなか見出すことができた詳細かつ
有用な布反射の先行研究を示した。3.2 節では,CG で布画像を作成するにあたり,布の反
射を表現するために必要な反射モデルの関連事項をまとめた。反射を拡散成分と鏡面成分
の加算と考え,数学的に記述する 2 色性反射モデルが代表的なモデルであるが,拡散反射
モデルと鏡面反射モデルの古典的なモデルから最新のモデルまでのなかで,とくに重要な
反射モデルとその内容を示した。さらに,布 CG 画像の先行研究を紹介した。ゲームや映
画をはじめとして,日常の生活には CG が多用されている。以前は二次平面に近い CG 画
像であったのが,近年ではより現実感を求められるようになった。肌や髪の毛の表現研究
は早くから存在し,布や服でも材質感や動きによる形状の本物らしさが必要とされ,数多
くの研究が発表されてきた。多くの先行研究のうち,視点の異なる研究 4 報を紹介した。
3.1. 光の反射
光は電磁波であるため,真空から異なる媒質に進入する時,媒質の表面(境界)では,
図 3.1-1.に示すような反射と屈折の現象 1)が起こる。これらは同時に起こり,電磁波のエネ
ルギーの一部は反射に,残りのエネルギーは屈折に分割されるが,全エネルギーが反射と
なる場合は,全反射となる。反射も屈折も法則があり,いずれもホイヘンスの原理から導
き出される。
しかし,物体の材質(媒質)やその表面形状は様々で,電磁波エネルギーが反射と屈折
に振り分けられる割合はそれらによって異なってくる。さらに,実験室内ではない日常の
40
第3章
光の反射と CG における反射モデル
生活では光(電磁波)も可視光などの割合が一律であると
は限らない。
また,反射と屈折の現象のうち,人がモノを見たり,色
を感じたりするのに重要なのは反射で,物体表面から反射
した可視光(電磁波)がヒトの目に入り,形や色を認識す
る。しかし,光や媒質などの条件によって,物体から反射
する光も目に入る反射光も異同が現れ,見え方が異なって
図 3.1-1. 反射・屈折
出典:引用文献 第 3 章 1 節-1)
くる。さらに,反射自体も複数種類ある。つまり,色や形
が見えるメカニズムのうち,光の反射に関することを純粋な少数の物理的法則のみで解明
することは困難である。
この節では 2 つの項に分けて,一般的な不透明物体と布を中心に様々な物体表面の反射
に関する事項を整理する。
3.1.1 光反射のメカニズム
(1) 一般的な不透明物体表面の反射
実際に電磁波が物体に照射された場合の挙動は,上記の反射と屈折の 2 つの現象のみで
は説明できない。物体には透明のものも含まれるが,ここでは一般的な不透明物体に限定
する。その表面での現象を大きく分類すると,反射と吸収,透過があり,それぞれは密接
に関連し,分けることのできない現象であるが,人の色や形の見え方についての基礎事項
を確認するために,ここでは反射に絞って内容 2)をまとめる。
反射は二つに分類される。物体内部に入らず,反射の法則(入射角=反射角)を満たし,
表面で反射する現象を「正反射」
,あるいは「鏡面反射」とよぶ。それに対し,一度物体の
内部に進入し,内部で多重に吸収,透過,反射され,エネルギーの一部が物体表面に再び
達し,物体表面でほぼ等方的に反射することを拡散反射とよぶ。
(図 3.1-2)
金属などのように物体表面が滑らかな物体では,2 つの反射のうち,鏡面反射の方が強
い。しかし図 3.1-3 に示すように,表
面に細かな凸凹があるような粗面とさ
れる表面では,その凸凹のごく小さな
面において反射の法則を満たしつつ,
それらが様々な方向に反射するため拡
散反射となる。また拡散反射には,い
ったん物体内部に入射して戻った光と
図 3.1-2. 反射・透過
出典:引用文献 第 3 章 2 節-2)
表面で反射する光の 2 種類があるとさ
れ,この 2 種類の拡散反射と鏡面反射
41
第3章
光の反射と CG における反射モデル
いずれも,物体の材質と表面形状に影響を受け
てその構成が変わると考えられている。
さらに,2 種類の拡散反射には大きな相違点
があるとされる。鏡面反射,拡散反射ともに,
表面での反射光の分光反射率は波長に依らず一
定で,照明光の色をそのまま反射する。それに
対し,物体内部に進入して戻り反射した拡散反
射は,物体特有の分光反射率をもつ。そしてそ
の分光特性により,人は物体表面の色を認識す
ることができるとされる。
図 3.1-3. 粗面での拡散反射
出典:引用文献 第 3 章 2 節-2)
反射と屈折,吸収,透過のいずれも,物体の材質がその現象に大きく影響するが,鏡面
反射と拡散反射の割合もまた,物体の材質や表面の構造によって異なり,見え方もそれに
従い相違する。その一例を図 3.1-4 に示す。この図の左(a)は,表面が粗面の反射を想定
しているのに対し,
(b)は平滑面の反射を想定し図式化している。一般に,
(a)は光沢が
弱いとされる面で,
(b)は強い光沢を表出する滑らかな面とされる。また,この図はいず
れも,一方向から入射した光が反射する角度ごとに,どれぐらいの反射光強度を示すかを
摸式化しており,変角光度分布(配光特性)と呼ばれる。
図(b)に示されるように,入射角度と対称角度の方向へ照明光の色そのままの強い光を
反射することを鏡面反射といい,それを光沢と表現する。また,光沢の強い表面をツヤが
ある面(グロス)ともよぶ。それに対し,図(a)のように鏡面反射の光が弱く,拡散反射
の割合が多い面を光沢が弱くツヤの少ない表面(マット)とよぶ。この面を人が見ると,
どの角度からも同じ明るさと色に見える。
出典:引用文献
図 3.1-4. 光沢が弱い表面(a)と強い表面(b)の配光特性
第 3 章 2 節-2)
拡散反射成分が多くを占める面の中で,すべての方向に等しい強度で反射する面を均等
拡散面とよぶ。その中で,反射率が 1.0 の面を完全拡散反射面とよばれ,機器のキャリブ
レーションなどに用いる標準白色面のことである。図 3.1-5 に,均等拡散面の変角光度分
布を示すが,左図(a)は放射輝度を,図(b)は放射強度を摸式化している。また,それ
ぞれは次式(3.1.1)
(3.1.2)のように定式化できる。式(3.1.1)では反射角θ’方向へ反射
42
第3章
光の反射と CG における反射モデル
出典:引用文献
図 3.1-5. 均等拡散反射面の配光特性
第 3 章 2 節-2)
した放射輝度を Lθ’,法線方向への反射した放射輝度を L0ρとしているが,均等拡散面で
はすべての方向に等しい強度で反射することが記述されている(ρは反射率)
。また,放射
強度を記述したのが式(3.1.2)である。反射角θ’方向への反射強度 Iθ’はランバート則を
満たしている。
Lθ’ = L0ρ
(3.1.1)
Iθ’ = I0ρcosθ’
(3.1.2)
ここで,光の偏光と鏡面反射および拡散反射の関係を整理する。偏光とは電磁波である
光波が進行方向と垂直に振動するその偏りのことである。偏光には,振動が直線的で一つ
の平面内にある直線偏光と振動面が回転しながら進む円偏光と楕円偏光に大きく分けるこ
とができる。一般に,自然光は非偏光で,すべての方向に対してランダムに振動している。
それに対し,反射光はすべて非偏光とはならない。自然光のような非偏光の入射光が偏光
の性質を現すのは斜めに入射して反射(あるいは屈折)する場合で,入射面に平行である
成分を p(parallel)偏光,垂直である成分を s(senkrecht)偏光という。そして,入射角と
屈折角が 90 度のとき反射の P 偏光成分が 0 となり,s 偏光のみとなることが導出されてい
る(フレネル係数の式)
。
ここまでに既述した通り,物体の素材や表面形状で割合は異なるが,反射光は拡散反射
と鏡面反射との和であるとされている。そして,拡散反射はおおよそ非偏光とされるが,
鏡面反射は入射角と屈折率に依存する偏光度(光の偏光の程度を示す)を持つ直線偏光だ
と考えられる。つまり,反射光は部分偏光であるため,偏光フィルタ等を用いれば,拡散
反射成分と鏡面反射成分に分離することが可能であると予測できる。
(2) 布表面の反射
本研究の対象である布を目視すると紙の表面と変わりがない。しかし,紙は木材繊維に
43
第3章
光の反射と CG における反射モデル
糊などを加えて漉き固めているのに対し,布は目で測れないほど小さい繊維を撚って撚糸
(織糸)にして製織するため,拡大して観察すると,布と紙では全く表面の構造が異なる。
また,布の繊維には木材もあるが,原料の違う様々な繊維がある。おもに綿や絹,毛など
の天然繊維,大きくは化学繊維に分類されるがナイロンやポリエステルなどの合成繊維,
木材を再生した再生繊維などがあり,それぞれの繊維は原料だけでなく,断面や長さなど
の形状も大きく相違する。さらに,紙と異なり,たて織糸とよこ織糸がある一定の規則で
交錯する織製(布を織ること)の過程を経て布になるため,その規則ごとに,平織や斜文
織(綾織)
,朱子織などの組織による布がある。図 3.1-6.には平織と斜文織 3)を示す。ここ
では,三原組織といわれる基本的な組織のうち 2 種類を示しているが,斜文織と朱子織に
はたて糸とよこ糸の交錯のさせ方でさらに様々な斜文織と朱子織があり,三原組織以外に
も多くの織組織が存在している。繊維や撚糸,組織の種類や状態により,布の表面は単純
な粗面ではなく,規則性も併せもつ複雑な粗面であると考えられる。
図 3.1-6. 織組織(平織・斜文織)
出典:引用文献 第 3 章 1 節-3)
金属のような平滑面でもなく,紙などのような単純な粗面でもない布表面は,その複雑
な構造的特徴により,反射もまた他にはない特徴が見られるとされる。文献 4)によれば,
金属などと異なり,正反射での受光量は正反射方向からずれた位置で最大値をとることが
試料や仕上げ加工によってしばしばあるという。また,交織織物(原料繊維が異なるたて
糸とよこ糸で織製された布)は観察方向によって,たて糸とよこ糸の見える割合が変化す
るので色が変わって見えるとも記載されている。さらに既述した通り,布は表面が特徴の
ある粗面であるため,粗面を構成する小さな面では鏡面反射でも,微小面の傾きにより布
全体では鏡面反射として捉えられないことが予測できる。同様に,粗面の小さな面では拡
散反射がランバート則通りに反射しても,表面全体では,拡散反射同士の相互反射となる
場合も考えられる。いずれにおいても,布表面の反射メカニズムの複雑さは予想されてい
るが,実際に布の反射特性を把握するための測定データは少ない。
44
第3章
光の反射と CG における反射モデル
3.1.2. 布反射の先行研究
布表面の反射だけを対象とした研究は少なく,織物の光沢を研究する過程で織物の光沢
感とともに反射全体を考察した一連の研究群がある。少し研究時期が古いが,布の反射を
研究する上で欠くことのできない重要なデータと特徴が示されている。研究内容を紹介す
ると同時に,備わる問題点を明らかにし,本研究の課題とする。
まず,稲垣らは偏光を利用して布の光沢を測定し,その特性を把握したうえでモデル化
を試みた。その結果である光沢の物理量に対して視感評価を行い,織物の光沢感を中心と
する布の質感研究をまとめた。次に安田らは,布からの反射光を 4 種類に分類した稲垣ら
の研究をもとに,布独特の材質感を表現することを目的に CG の新しいシェーディング・
モデルを研究した。さらに,呉は安田らとの共同研究を通し,布の規則的な織目構造をフ
ーリエ解析で分析し,その結果を反映させた CG 画像の作成を試みた。
(1) 織物の光沢と反射機構(稲垣ほか,19675),19716))
稲垣らの当初の研究 5)目的は,布の光沢を解明することであった。金属や塗膜,紙など
はその表面光沢が一応解明され,測定方法も規格化されているのに対し,織物は表面状態
が複雑であるため重要な課題が残されているとした。従来,織物の光沢を支配する要素は
表面 1 次反射光(正反射光)と拡散成分の比だとされていたのを,稲垣らは拡散成分の中
にも光沢に大きな影響を与える成分があると仮定した。そして,偏光を利用して反射成分
を種々の成分に分離した。
まず彼らが仮定した種々の成分は次の 5 成分であった。
・表面 1 次反射光 M
・表面 2 次反射光 M’
・拡散光(従来の意味)
繊維の表面形態に関係する拡散光
-内表面での透過屈折光 IR
-内表面での全反射光 IRT
繊維の表面形態に関しない拡散光 D
予備測定により,表面 2 次反射光 M’は微少であることが明らかとなったため,織物面か
らの反射は残りの 4 成分として検討した。
反射光の分離には偏光板を用い,変角光度計の投光部分にポーラライザー,受光部にア
ナライザーを取り付けた装置を用いた。仮説を立てた分離成分については,M,IR+IRT に
は分離できたが,IR,IRT を区別することはできなかったとし,2 成分を区別するには,さ
らに反射光のミクロな分布の検討が必要だとした。
結論としては,絹,木綿,化繊(化学繊維)の 3 つの光沢の特徴について,図 3.1-7.を
45
第3章
光の反射と CG における反射モデル
もとに示した。図の縦軸は繊維の表面形態に
関係する拡散光を,横軸は正反射光をとり,
各試料の反射特性を図示し解釈した。また,
図の縦軸と横軸に次のような感覚的な解釈を
与えた。縦軸は全反射光と透過光とを混合し
たような輝きを持つ宝石の光沢で代表できる。
横軸はガラス,プラスチックなどの表面光沢
を代表させられる。さらに,この両方の光沢
が少ない場合は拡散光のみになると解釈した。
よって,絹はより宝石に近い光沢,化繊はガ
ラス的な光沢,木綿は拡散板的な光沢を示す
図 3.1-7. 平織と朱子織の光沢
ものとし,各布の光沢感を結論付けた。
出典:引用文献 第 3 章 1 節-5)
その後稲垣らは,繊維だけではなく,布のテクスチャー(織目)にも注目し織物の質感,
とくに光沢感の研究 6)を深めた。
まず,織物光沢の質感評価を次の 3 つの問題点に集約した。
・織物面からテクスチャーを取り去った平面の光沢感評価
・テクスチャーの光っている部分と暗い部分とのコントラストに重点を置いた評価
・反射光の出所(表面からか内部からか)に関係した評価
これらの問題点を解明するための詳細な測定と考察を経て,以下のように結論付けた。
1. 物体面にテクスチャーが存在し,反射光が散乱する場合でも,テクスチャーが目の分
解能より大きいときには,
その光沢感は平面状態の光沢感と質的に変化しない。
一方,
テクスチャーの大きさが目の分解能より小さくなった場合には,その光沢感はΣ(テ
クスチャーの反射分布)により決定される。
2. 織物の場合,繊維の平行性が光沢感に大きな影響を及ぼしている。
3. 重ね合せフィルム面の光沢感は織物からテクスチャーを除いた面と同様と考えられ
る。
それらと織物の光沢感はテクスチャーの大きさと目の分解能から関係づけられる。
数少ない布の反射研究の中で,
稲垣らの研究は貴重なデータと考察を示している。
ただ,
その目的が光沢感を解明することにあったため,測定試料の繊維は綿と絹,毛,アセテー
ト,ナイロン,レーヨン,ポリエステルの 7 種類であったが,織組織は朱子織(サテン)
が主であった。そして,これらは裏地用として市販されていた白色布で,肌触りをよくす
るために織糸が細く,
厚みも薄い生地の試料布であった。
その選択理由は反射だけでなく,
透過屈折光 IR を抽出するために必要であったと理解できるが,通常、我々が着用する服地
46
第3章
光の反射と CG における反射モデル
とは異なる布が試料として選定された。
(2) 布の材質感(安田,19907))と織目構造表現(呉ほか,19978))
1990 年代以前は,テクスチャ・マッピングで模様や柄が表現されることが多かったコン
ピュータグラフィックスでの布の再現であるが,安田らは布独特の材質感を研究し,反射
光の測定結果をもとにしたシェーディング・モデルの開発を行った 7)。布の表現で重要な
要素の一つは布の質感表現すなわち布の表面に見られる色・濃淡をいかに表示するかだと
して,これを精密に表現するために布の内部構造を考慮して,光の反射,散乱のモデルを
構築する必要があると考えた。前項の稲垣らの研究成果をもとに CG 表現のためのモデル
開発を進めた。
安田らは,目視で認識できる布表面ではなく,布を微視的に観察しその構造を検討した
(図 3.1-8.)
。さらに,その布の構造に着目して,光源から出た光がどのように透過あるい
は反射するかを考察し,布固有の光反射モデルを導き出そうとした。そして,この光反射
の分類には,稲垣らの成果にある,正反射(Specular)成分と内部反射(Internal)成分,
拡散反射(Diffuse)成分の 3 種類(図 3.1-9.)を用い,それぞれの性質と特徴(表 3.1-1.)
をまとめた。
図 3.1-8. 布の構造
出典:図 3.1-8.,9.とも引用文献 第 3 章 1 節-7) 図 3.1-9. 反射光の 3 成分
また,布の反射には異方性があることを踏まえ,異方性反射モデルでは布表面を様々な
方向を向く微小な面(面素)の集合体と考えた。そのため,グラフィックス画面の 1 画素
に対応する布表面領域で,正反射光の H 方向に向く微小面がどのくらい存在するかという
割合を使って正反射強度を求めた。
さらに,拡散反射光は繊維層内部に浸
表 3.1-1. 3 種の反射光成分の性質
透した光が,十分に散乱した後に最上層
反射位置
方向性
色
から出てくる光であるとし,拡散反射光
正反射光
表面
ある
光源
総量は布表面全体で一律に計算するので
内部反射光
内部
ある
布地
はなく,布を構成するたて糸とよこ糸全
拡散反射光
内部
ない
布地
出典:引用文献 第 3 章 1 節-7)
47
第3章
光の反射と CG における反射モデル
体での反射光の和とした。そして,以上をもとに,試料布表面の 3 つの反射成分の割合を
表 3.1-2.に示し,それによる布の CG 画像も提示した。
表 3.1-2. 3 種類の反射成分の割合
出典:引用文献 第 3 章 1 節-7)
呉は安田らと共同で,布の織目構造に注目した織布の質感表現を研究 8)した。安田らが
求めた布の異方性反射モデルを拡張し,織物組織と布表面の粗さも表現できる布の織り目
モデルを提案することを目的とした。呉も安田らの研究成果を継承しているため,布から
の反射光は,正反射光と内部反射光,拡散反射光の 3 成分に分類し,それまでの研究では
布の織目が考慮されていないことに注目した。
布を遠くから見ると平滑面と変わらないが,
近くで見ると滑らかな平面ではないことは明らかであるとし,実際に布を分析して,布の
微小面分布関数は,さらに細かいレベル(織目レベル)の微小面分布関数の相加結果とし
て得られるものと考えた(図 3.1-10.)。さらに,織目レベルの微小面分布関数は織目形状
の周期的な変化にしたがってほぼ周期的に変化しているとした。その結果,微小面分布関
数の中心軸の周期的な揺れ(図 3.1-11.)は織目の表面形状に対応し物理的性質を表してい
ると考え,布の異方性反射モデルと結合して,織物の織目レンダリングを提案した。
織目の表面形状は単純かつ規則性のある周期を有することから,モデルに使用する関数
は有限フーリエ級数で近似させ,織目関数とした。その織目関数のパラメータは,中心軸
の揺れの幅を布目の深さに相当させたほか,織目の始まる位相を布地間のパターンの連続
性に対応させ,織目パターンの密度も組み込んだ。
図 3.1-10. 布の断面図
出典:図 3.1-10.,11.とも引用文献 第 3 章 1 節-8)
図 3.1-11. 中心軸の揺れ
検証結果として,導き出した織目関数を使用して平織布と斜文織布のレンダリングを試
みた結果を示した。画像を作成するために用いた計数値(パラメータ)も同時に示されて
いるが,実測値から選定したものではなかったため、さらに実測値からパラメータを導出
48
第3章
光の反射と CG における反射モデル
するための計算方法も示した。その結果よって再度レンダリングした結果も示した。
先に既述した安田らの研究は,前項に示した稲垣らの研究をもとに布からの反射光を 3
成分に分類した。また,試料数は少ないが,それぞれの成分割合も示した。しかし,細密
に分析すればそのような分類も可能であるが,布の CG 画像を作成する場合,コンピュー
タの負荷を考慮してより少ないパラメータの数が重要となる。そのため,反射成分を拡散
反射と鏡面反射の加算とし,パラメータ数も可能なだけ整理する 2 色性反射モデルが CG
に多用される。よって,安田らが示した 3 つの反射成分は精査する必要があると考える。
呉らの研究では,これまでにない織目表現に関するモデルと知見を示した。実測値から
導出したパラメータによるレンダリング結果も良好であった。しかし,文献には実測に用
いた試料が一つしか記載されておらず,その諸元も示されていなかった。そのため,試料
の数や繊維,織組織が不明であった。ただし,反射光を分類して測定する方法が具体的に
述べられており,簡便な反射光の分類法として本研究でも参考にすることが可能な方法で
ある。
49
第3章
光の反射と CG における反射モデル
3.2. CG における反射モデルと布 CG 画像の先行研究
前節 3.1.において記述した通り,物体表面を形成する材質や観測条件によって物体から
の光の反射は異なり,見え方や質感もさまざまに相違した。CG をはじめ,画像情報処理
においてはそのような多様な表面反射を数学的に記述することが必須となる。その記述を
反射モデルといい,実用されている反射モデルで最も基本的なものは,2 色性反射モデル
である。このモデルの特徴は,次式(3.2.1)の通り,物体表面からの反射光を鏡面反射成
分と拡散反射成分の 2 つの成分の加法とみなし記述したことである。つまり,放射輝度 Y
は,角度と波長をパラメータとする鏡面成分 YS と拡散成分 YD の加算と記述される。また,
この角度(θ)は,入射角度や反射角度,観測角度など反射の記述に必要なすべての角度と
なる。
Y(θ,λ) = YS(θ,λ) + YD(θ,λ)
(3.2.1)
3.2.1 拡散反射モデル
2 色性反射モデルは,3 次元の空間情報がモデルのパラメータにないため,立体物の画像
を正確に表現するには不完全であるとされる。そのため,鏡面反射や拡散反射を拡がりの
ある反射と捉え記述する 3 次元反射モデルが必要となる。それらのうち,拡散反射成分を
対象とする反射モデルを述べる。
(1) Lambert モデル
金属のような平滑面とは異なり、表面に細かな凸凹のある物体はツヤがなく,反射では
拡散反射成分が多いと考えられる。この拡散反射は観測方向に依存せず,等方的にかつ,
均一の強度で反射し観測され,ランバート反射とも言われる。そのため,拡散反射の BRDF
は角度パラメータに依存せず定数となり,コンピュータビジョンやグラフィックスの分野
では,拡散反射のモデルとして,Lambert モデルが広く用いられている。このモデルは,
拡散反射のみを対象とする最も簡便なモデルとされる。
入射光と反射光の関係は、式(3.2.2)で記述され,分光(物体色を表現)する場合は,
式(3.2.3)となる。
Iout = (N・L)Iin = cos(θi)Iin
(3.2.2)
Y(θ,λ) = αcos(θi)S(λ)E(λ)
(3.2.3)
式(3.2.2)は,入射光と反射光の強度をそれぞれ,Iin, Iout と表し,その関係を面法線
50
第3章
光の反射と CG における反射モデル
のベクトル N と照明方向のベクトル L の内積とした式である。
また,
右項の θi は入射角で,
N と L の成す角である。このように,反射強度が入射角の余弦に比例することはランバー
トの余弦則と呼ばれる。さらに,余弦則に従うため,θi が 0(法線面と光の方向が垂直)
の場合に輝度が最も高くなり,θi が π/2(法線面と光の方向が並行)の場合,輝度が最も低
くなることになる。
式(3.2.3)の α は係数で,入射強度に比例する値をとるとする式である。
(2) Oren-Nayar モデル 1)
Lambert モデルはランバートの余弦則に則っているため,このモデルによる実際の CG
画像はどの方向から見ても均等に見える。それに対し,より物体表面を正確に表現できる
とされるのが,Oren-Nayar モデルである。このモデルは Oren と Nayar が提唱したもので,
次項で後述する Torrance と Sparrow の論文にあるマイクロファセットの考え方を手掛かり
に物体表面を粗面として導き出したモデルで,拡散反射率にこの表面の粗さが影響すると
考えた。Nayar らはこの粗面を異なる傾きを持った微小な面(マイクロファセット)の集
合体と捉えた。さらに,マイクロファセットが集まる物体表面はごく小さな V 字型の窪み
で構成され,その形状により反射光が相互遮蔽される部分ができ,平滑面とは異なる陰影
が現れるとした。
マイクロファセットの V 字の窪みを単一な V 形状とは想定しなかった。したがって,単
方向に同一放射輝度となる反射にはならないと考え,V 字となる片方の傾斜に遮蔽される
ことによる幾何学的な反射光の減衰を推定した。また,遮蔽だけではなく,V 字の双方の
傾斜に相互反射しての減衰も予想した。そして,マイクロファセットの傾斜の分布を示す
確率関数をガウス傾斜領域分布(Gaussian Slop-Area Distribution)を用いて,表面の粗さの
尺度とした。上記をふまえた Oren-Nayar モデルの記述は,式(3.2.4)である。
Lr(θr,θi,φr-φi;σ) = ρ/πE0cosθi(A + Amax[0,cos(φr-φi)]sinαtanβ)
Lr:反射光の放射輝度
Li:入射光の放射輝度
A = 1.0-0.5σ2/(σ2+0.33)
B = 0.45σ2(σ2+0.09)
(3.2.4)
σ2:ガウス分布の分散(σ= 0 の場合,A=1,B=0 となり,ランバート反射)
α= max(θi, θr)
β= min(θi, θr)
Lr = ρ/πcosθiLi
3.2.2. 鏡面反射モデル
鏡面反射は,
入射光が物体表面で反射し,
正反射方向付近で強く観測される成分である。
51
第3章
光の反射と CG における反射モデル
金属のように表面が平らで滑らかな表面でキラッと輝くように感じられ,ハイライトとも
呼ばれる。コンピュータビジョンやグラフィックスにおいては,この鏡面反射を正確にモ
デル化することは困難だとされ,研究者が多くの反射モデルを提案している。以下にその
いくつかを整理し記載する。
(1) Phong モデル 2)
Phong モデルは,先に記した 3 次元反射モデルの代表的なものの一つで,2 色性反射モ
デルに幾何学パラメータが追加されている。物理的な正当化はされておらず,画像を見な
がら経験にパラメータを調整する古典的なモデルではあるが,初期のコンピュータグラフ
ィックス用に開発されたため構造が簡単で,パラメータも少ない。比較的容易に計算可能
で利用しやすいとされる。拡散反射と鏡面反射,環境光の 3 要素を考慮した Phong の反射
モデルは,式(3.2.5)である。
I = kdcosα + IiWcosnγ + Ia ka
I:視点に入射する光の強度
(3.2.5)
kd:拡散反射率
α:入射角
Ia:環境光の強度
ka:環境光定数
式(3.2.5)の 3 項目は環境光の記述で一定としている。また,1 項目は拡散反射成分で,
拡散反射はランバートの余弦則に従うものとし,入射角の余弦と入射光の強さに比例する
とした。2 項目は鏡面反射成分で,鏡面光の強さは入射角の余弦の n 乗と鏡面反射率に比
例するとした。詳細な記述として,拡散反射成分を式(3.2.6)に,鏡面反射成分を式(3.2.7)
に示す。
Id = Iikdcosα = Iikd(L・N)
(3.2.6)
Id:拡散光の強度
Ii:入射光の強度
L:光源方向のベクトル
N:法線ベクトル
式(3.2.6)には,拡散反射の反射光強度は入射光の余弦 cos(α)
,つまり,L と N の内
積で決まることも記述している。これは,観測方向 V には依存しないことを示している。
これらの反射幾何モデルは,N は法線ベクトル,L は光源方向(ベクトル)
,R1 は光源の反
射方向(ベクトル)
,R2は観測方向(ベクトル)である。
52
第3章
光の反射と CG における反射モデル
S = IiWcosnγ
S:鏡面反射光の強度
(3.2.7)
W:鏡面反射率
n:ハイライト特性を示す定数
γ:光源の反射ベクトルと視線ベクトルの成す角度
また,
R1 と R2 はそれぞれ,
光源の反射方向と視点の反射方向を示すが,
鏡面反射成分は,
正反射角度となる Rl 方向で最も強くなり,この角度から離れると反射光の強度は急激に減
衰する。この差の角度を γ とし,鏡面反射光の減少割合を cosnγ で記述しているが,指数 n
が大きいほど,光沢度が高くなりシャープなハイライトが得られることが示している。
(2) Torrance-Sparrow モデル 3)
このモデルは Torrance と Sparrow によって示された反射モデルで,最も早くに提示され
た。物理的な解析に基づき,かつ分光的には 2 色性反射モデルであるため,拡散反射と鏡
面反射の線形結合で物体表面の反射を記述している。前項(1)の Phong モデルより鏡面反射
の表現が正確であるとされている。また、物理的記述が詳細で、不均質誘導体と金属いず
れにも記述が可能とされている。それに対し,Phong モデルは物体材質が制限され,不均
質誘導体には適用でき,金属には不適とされる。その一方,Torrance-Sparrow モデルはパラ
メータが多く,複雑な手続きを要する。
このモデルが導出された物理的解析とその効果を簡単にまとめると次の通りである。
・物体表面はランダムに配置された小さな面から構成されている
・これらの面からの鏡面反射と多重反射,さらに内部散乱による拡散成分の和が,反射
の基礎メカニズムであると仮定する
・拡散成分は表面の凸凹によって生じる反射と影(masking and shadowing)の繰り返し
による効果から成る
・表面の粗さと波長の比(σm/λ)が 1 より大きい場合にこのモデル(記述式)は適用
できる
さらに,Phong モデルとの大きな相違は,
「Off-Specular」現象を記述した点にある。図
3.2-1.に粗面の測定結果を示し,図 3.2-2.に 2 つのモデルにおける反射光解析の違いを示す。
Phong は鏡面反射光強度のピークを正反射角方向としたのに対し,Torrance と Sparrow は正
反射角度より大きい角度で鏡面反射光強度がピークになるとした。つまり,
「Off-Specular」
と呼ぶ特徴的な現象である。そして彼らは,
「入射角の増加に従い出現する反射ピークは正
反射方向とはならない」
,
「その反射ピークのズレは予測可である」とした。
53
第3章
アルミニウムでコーティングされたアルミニウム
→金属 表面粗さ σm=1.3μm
光の反射と CG における反射モデル
酸化マグネシウムのセラミック
→非金属 表面粗さ σm=1.9μm
図 3.2-1. 粗面の測定結果
出典:引用文献 第 3 章 2 節-3)
入射光
φ=0゜
ψ
入射光
θ
拡散成分
ψ
θ
拡散成分
鏡面成分
Phongモデル
鏡面成分
Torrance Sparrowによる反射光分布
図 3.2-2. Phong モデルと比較した Torrance らの反射光解釈
Torrance Sparrow モデル,つまり反射率分布の予測式は式(3.2.8)に示す。
(3.2.8)
また前述の通り,パラメータが複雑であるため,図 3.2-3.にそれぞれの解釈を図示する。
粗さを表す定数
0.01~0.2の範囲
双方向反射率
正反射への反射率
法線ベクトルと入射角と
反射角の1/2となす角
幾何学減衰ファクター 反射角
調節定数
アルミニウム:2/3 フレネル反射率
酸化マグネシウム:2
入射角
図 3.2-3. Torrance Sparrow モデルのパラメータ
出典:引用文献 第 3 章 2 節-3)
54
第3章
光の反射と CG における反射モデル
「Off-Specular」現象を引き起こす要因として,このモデルパラメータの中では,幾何学
減衰ファクターと調節定数,粗さを表す定数を挙げている。このうち幾何学減衰ファクタ
ーは「masking and shadowing」を表し,
「exp(-c2α2)」は微小面(マイクロファセット)の分
布として,ガウス関数が用いられた。そして,この反射モデルにより予測した反射率分布
と実際の測定値を比較し,反射モデルの当てはまりの良さを検証した。
(3) Blinn モデル 4)
Blinn モデルは Torrance-Sparrow モデルを改良し,コンピュータグラフィックス用に再構
築したモデルである。このモデルの記述式のうち,鏡面反射光の強度を式(3.2.9)に示す。
I = ρsD・G・F / N・V
(3.2.9)
Torrance-Sparrow モデルに基づいているため,
「Off-Specular」現象の記述が重要となる。
入射角度によって鏡面反射が変化することをモデル化した。式(3.2.9)の D は法線分布項
で,物体表面を覆う微小面(マイクロファセット)の法線のばらつきを表現するとした。
G は幾何減衰項で,
「masking and shadowing」つまり,表面がマイクロファセットの集まり
であることにより生じる光の遮蔽や陰影を表現すると考えた。F はフレネル項で,一般的
な物体表面の境界領域で生じる屈折などを表現するとした。拡散反射については,Phong
モデルと同様に Lambert 拡散を用いた。
各項の詳細は次の通りである。まず法線分布項 D は,Torrance-Sparrow モデルとは異な
るとした。Torrance-Sparrow モデルで用いられた分布は単純なガウス分布であったが,Blinn
モデルでは,Trowbridge-Reitz によって提案された分布モデル(式(3.2.10)
)が採用された。
次に幾何減衰項 G は式(3.2.11)で定式化された。この式での N は法線ベクトル,L は光
線ベクトル,V は視線ベクトル,H は L と V の中の方向ベクトルである。フレネル項 F は
フレネル反射を表現するもので,式(3.2.12)
(3.2.13)の近似式で示された。式(3.2.13)
の η は相対屈折率である。
D = [ (n3)2 / {cos2α((n3)2-1) + 1} ]2
(3.2.10)
G = min { 1, 2(N・H)(H・V)/(V・H), 2(N・L)(H・V) }
(3.2.11)
F = 1/2・(g-c)2/(g + c)2・{ 1 + (c(g + c)-1)2/(c(g-c) + 1)2 }
(3.2.12)
c = V・H,
g = �η2 + c 2 − 1
(3.2.13)
55
第3章
光の反射と CG における反射モデル
(4) Cook-Torrance モデル 5)
Cook-Torrance モデルも「Off-Specular」に注目し,Torrance-Sparrow モデルの法線分布項
D に Blinn モデルとは異なる分布関数を用い,微小面(マイクロファセット)の傾き分布
が異なる鏡面反射モデルを記述した。その分布関数には絶対強度を直接算出できるベック
マン分布を取り入れた。このベックマンの分布式によって,様々な材料によってできてい
る滑らかな面から粗い面まで広い範囲の物体
「表面」
に総合的な理論を提供できるとした。
粗面の場合のベックマン分布式を式(3.2.14)に示した。
D = 1/m2cos4α・e-[(tanα)/m]2
(3.2.14)
また,
分光反射率を用いて反射光の波長ごとにエネルギー分布を算出した。
これにより,
光源色とは異なる色として観測される金属面での鏡面反射をより正確に表現できるように
なった。
(5) Ward モデル 6)
Ward モデルは,実際に得られた BRDF の計測値を記述するために考え出された。その
ため,観察面を回転させた場合の見え方の変化を示す異方性反射を表現できるとされる。
この異方性分布には,その制御用として αx と αy のパラメータを使用する。この 2 つのパ
ラメータが同値であれば,等方性(観察角度によって見え方が変化しない)ハイライトと
なる。鏡面反射式は式(3.2.15)である。
Ks = 1/��𝑁・𝐿�(𝑁・𝑉) ・N・L/4αxαy・exp[-2・{(H・X/αx)2 + (H・Y/αx)2}/{1+(H・N)}]
(3.2.15)
N:表面の法線(ベクトル)
L:表面上の点から光源方向(ベクトル)
V:表面上の点から視点方向(ベクトル)
X,Y:異方性方向を示す法線面上の 2 つの直行ベクトル
3.2.3. 布 CG 画像の先行研究
布に限らず,物体表面の 3D 構造を CG で再現するには,その物体特有の反射の特性を
反映させなければならない。そのために,前節で述べた反射の物理的なメカニズムを把握
した上で,適する反射モデルを使用して CG 画像を作成するためのパラメータを推定する
56
第3章
光の反射と CG における反射モデル
必要がある。反射特性を CG 画像作成に反映させる方法は,前項で紹介した反射モデル以
外にもあり,代表的な方法として BRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function )が
挙げられる。これも光の反射モデルの一つである。
BRDF は双方向反射率分布関数と訳され,反射現象が起こる物体表面の a 地点に b 方向
から入射した光が,どの方向にどれだけ光を反射するかを示す,反射 a 地点に固有の関数
である。入射方向と反射方向ごとの反射強度を計測することで BRDF を求めることができ
るが,入射地点が 1 点でもその 1 点から反射する方向は 1 方向ではない。入射地点につい
ても,平滑面であれば少ない数での計測で済むが,複雑な構造をもつ表面であれば,入射
点自体やその点に入射する方向,さらに反射方向も多数となる。それら多数の入射方向と
反射方向の組合せから計測データを得て BRDF を獲得し,複雑な表面をもつ物体の正確な
CG 画像作成が可能となる。しかし,そのデータ量は膨大となることも知られている。
おもに,BRDF を用いて布の CG 画像作成を試みた先行研究をまとめる。
(1) 微小な布粗面の CG 画像(Westin,19927))
Westin らは,物体表面の光散乱をシミュレートすることによって,図 3.2-4.に示す
Geometry(100~1000mm の比較的大きな範囲)の BRDFs を近似するための物理現象に基
づくモンテカルロ法を提示した。その手法によって,従来の反射モデルでは困難であった
Microgeometry(Geometry より小さな範囲)の表現が可能になるとした。
呈示された 3 つの成果は,①
BRDF の新しい記述方法,②表現
の係数を推定するモンテカルロ法,
③Microscale(0.01~0.1mm のごく
微小な範囲:図 3.2-4.)での散乱
現象から Milliscale(1mm の微小
な範囲:図 3.2-4.)の BRDF を作
成する手段,であった。この散乱
は表面の任意の粗さの幾何学的形
状から予測ができるとし,BRDF
図 3.2-4. Westin らの物体表面解釈
出典:引用文献 第 3 章 2 節-7)
は簡潔な球面調和係数の行列で記
述は可能だとした。Westin らは,
コンピュータグラフィックスの初期から画像のリアリズムは局所光の散乱を高度に表現す
るモデルを導出することが重要だと考えていた。また,表面の粗さによる反射の異方性モ
デルの必要性も見出していた。上記 3 つの成果を反映させれば,つやなしの金属や織布,
織布の中でも起毛したベルベットなどを正確に表現することができるとした。
57
第3章
光の反射と CG における反射モデル
彼らが BRDF 導出に必要とした角度(散乱角)は図 3.2-5.である。図に示す通り,球面
調和から BRDF の記述を試みた。また,BRDF と入射光(エネルギー)の関係を整理し,
Microscale と Milliscale(Milliscale は Microscale を含むとしている)の局所光の散乱状態と
して,図 3.2-6.の 3 種類を示した。さらに,図 3.2-6.の鏡面反射,正透過,拡散反射の順に
それらを表現する記述式を示した。
図 3.2-5. 散乱の角度
図 3.2-6. 局所光の散乱状態
出典:図 3.2-5.,6.ともに引用文献 第 3 章 2 節-7)
その記述式を検証するにあたり,反射面の等方性と(シンプルな)異方性を確認した上
で,既述したつやなしの金属や織布,ベルベットなどの CG 画像を示した(図 3.2-7.)
。
図 3.2-7. 布の Microscale の形状と実物
出典:引用文献 第 3 章 2 節-7)
(2) Microfacet BRDF による布 CG 画像(Ashikhmin,20008))
Ashikhmin らは,前項の Westin らと同様,微小面の反射(図 3.2-8.)を注視し,そのメ
カニズムをもとに反射の異方性が表現された BRDF を生成して,布の CG 画像作成を試み
た。引用した文献の Abstract には,それまでの先行研究で示された微小面(Microfacet)を
考慮した BRDF とは異なり,入射では 2D の Microfacet 分布を取得し,反射の記述式では
4D の BRDF を生成すると述べられている。
BRDF とは,表面の任意の点での 2 つの方向(反射方向,視点方向)の関数であるとし
た。BRDF では,そのパラメータ選択が重要であるとし,多数の任意点でのデータ収集を
しなければならず,微細構造面(Microfascet)の精度の高いデータを迅速に集める方法と
して,
「Direct measurement」
,
「Empirical methods」
,
「Height correlation methods」
,
「Microfacet
58
第3章
光の反射と CG における反射モデル
methods」を挙げた。このうち「Empirical
methods」では,経験的な反射モデルと
される Gouraud モデルや Phong モデル
を挙げ,初期のコンピュータグラフィ
ックスにおいては,とくに異方性を考
慮するために Phong モデルを改良し使
用してきたことをまず示した。
しかし,
図 3.2-8. 微小面からの散乱光状態
Ashikhmin らは,CG 画像作成の対象物
出典:引用文献 第 3 章 2 節-8)
を平滑でない金属や布としたために,経験的な既知の反射モデルでは布などの特殊な表面
を構成する微小面上に現れる光の散乱を表現できないとした。そのため「Empirical methods」
以外の 2 つの方法でも,微細構造を持つ物体の微小面(Microfascet)の表現に不足してい
る点を示した。
そこで,Ashikhmin らは,
「Microfacet methods」の Microfacet モデルが表面での散乱をよ
り表現できるとし,Microfacet モデルに欠ける多数の任意点での微小面の数の計算を相関
で導出して,比較的単純な数式での記述が可能とした。
図 3.2-8.のような微小面からの単一散乱光の状態を式(3.2.1)に記述した。
ρ(k1, k2) = p(h)<(hn)>F((kh)) /4g(k1)g(k2)
(3.2.1)
k1 : normalized vector to light
k2 : normalized vector to viewer
ρ(k1, k2) : BRDF
p(h) : probability density function of microfacet normals
h : normalized half-vector between k1 and k2
n : surface normal to macroscopic surface
しかし,散乱光は単一ではなく,複数存在すると考え,鏡面 BRDF に拡散成分を加える
ことで,汎用の BRDF モデルでは表現できない多重散乱が存在する表面を記述(式 3.2.2)
できるとした。拡散表現の最も一般的な形式は Lambertian であることも加えた。
ρ(k1, k2) = kdρd/π + ksρs(k1, k2)
(3.2.2)
BRDF 記述式の応用表現として,サテン(朱子織)生地とベルベット(起毛)生地の CG
画像を作成した。Ashikhmin らは,サテン布を図 3.2-9.に示す微細構造を持つものとした。
表面の 70%は一方向に平坦に揃えられ,30%は屈曲していると分析した。また,ベルベッ
59
第3章
光の反射と CG における反射モデル
ト生地は従来の BRDF モデルでは記述が難しい試
料だとした。これらの微細な表面構造からパラメ
ータや係数算出し,サテン生地とベルベット生地
の CG 画像を作成した(図 3.2-10.)
。さらに,ベル
ベット生地の起毛した繊維の束に焦点を置き,布
表面での繊維束の幾何学法線角度を 40 度傾斜と
図 3.2-9. サテン布の微細構造
捉えて再度 CG 画像作成を試み,図 3.2-11.に示す
ような良好な結果を得たとした。
図 3.2-10. サテン(左)とベルベット(右)の CG 画像
ベルベットの Microgeometry
図 3.2-11. 2 種類のベルベット CG 画像
出典:図 3.2-10.,11.ともに引用文献 第 3 章 2 節-8)
60
第3章
光の反射と CG における反射モデル
(3) 少数視点画像に基づく BRDF よる CG 画像(武田ほか,20069))
武田らは,光沢のあるシルクライク織物を対象とし,繊維の断面形状と織り構造の違い
により,光沢感に相違が現れることに着眼した。膨大なデータを必要とする BRDF である
が,入射方向を固定した少数の多視点画像から反射光を解析し,それに基づく効率的かつ
織物の異方性反射の特性を表す BRDF 生成の自動化を提案した。
織物の BRDF の幾何関係を図 3.2-12.
に示し,BRDF の定義は入射方向 L(θ
からの放射照度に対する視方向 V
i,φi)
(θr,φr)の放射輝度の比ρbd とした
(式 3.2.3)
。また,武田らは図 3.2-12.
に示した X 軸を織物のよこ糸(weft)
方向とし,Y 軸をたて(weft)糸方向,
Z 軸を織物の法線方向 N に一致させ,
図 3.2-12. 織物の BRDF 幾何
出典:図 3.2-12.,13.,14.ともに
L と N に囲まれた平面を入射面とした。
引用文献 第 3 章 2 節-9)
ρbd(θr,φr, θi,φi) = Lr(θr,φr) / Li(θi,φi)cos(θi)dωi
(3.2.3)
シルクライク織物は,光沢のある長繊
維のフィラメント糸で織られた布とした。
その中でとくに,朱子織はたて糸が表面
に長く浮き光沢が強いとして,その微小
面分布を図示した(図 3.2-13.)
。また,
朱子織を近似した織物の鏡面反射分布を
図 3.2-13. シルクライク織物の微小面分布
シュミレーションした(図 3.2-14.)後,
検証の実測も行った(図 3.2-15.)
。
実測に用いた試料布に特徴がある。
一般に物体表面の反射光は拡散反射成
分と鏡面反射成分からなる 2 色性反射
モデルで記述されるとし,拡散成分に
は Lambert モデルを適用して,鏡面反
射の分布は多視点画像から獲得すると
した。その多視点画像から鏡面反射成
分を高い精度で取得し分析するために,
実測の対象試料として,これまでの先
図 3.2-14. 朱子織の鏡面反射分布のシミュレーション
61
第3章
光の反射と CG における反射モデル
行文献にはあまり見られない無彩色黒色
のポリエステルサテン(朱子織)を選定
した。織物の織糸方向と X,Y,Z 軸と
の関係を先に示したが,XY 面,XZ 面,
YZ 面での反射分布の変化を示し,試料
図 3.2-15. 朱子織の鏡面反射実測値
布の異方性反射の状態も示した。
黒色ポリエステルサテン布の入射光に対する反射光の割合(反射率)の実測値と提案し
た BRDF の生成値を比較評価し,良好な結果が得られたとした。その結果をもとに,彩色
されたドレス(図 3.2-16.)と任意光源下でのドレス(図 3.2-17.)を着装したシミュレーシ
ョン CG 画像を作成した。
図 3.2-16. 任意彩色されたドレス
着装シミュレーション(一部)
出典:図 3.2-15.,16.,17.ともに
引用文献 第 3 章 2 節-9)
図 3.2-17. 任意光源下でのドレス
着装シミュレーション
(4) CT スキャンを使用した布密度の計測値による CG 画像(Marscher,201310))
Marscher は,毛髪のリアルな CG 画像表現の手法を確立した研究者として知られている。
BRDF を取得するための測定装置の開発から始めて,毛髪のレンダリングを正確に行うた
めに,毛髪のようなボリュームのある媒体の光の挙動解析に適用される RTE(Radiative
Transport Equation)に近似した物理式によって具体的に記述することを試みた。この RTE
はボリュームのある媒体内を光が進行する中で散乱や吸収による光エネルギーの変化を数
式化するものである。毛髪に適した RET 近似式を導出するために,Micro-flake という物体
の裏表両面で鏡面反射するごく小さな面を想定して反射のモデル化に取り入れた。
これは,
この節でも重要な考え方として取り上げてきたが,物体微小面の正確な反射をモデル化す
るために用いられる Microfacet に似た性質であるとした。その研究を拡げ,編まれた羊毛
(ニット)の動きを物理的にシミュレートする試みも始めた。毛糸の編み込み具合をいく
62
第3章
光の反射と CG における反射モデル
つかのパターンに分類し,それぞれに合った物理シミュレーションのアルゴリズムを実行
することで,パターンごとのリアルな動きを表現した。
さらにその研究を発展させ,
ニット以外の布でも現実感のある CG 表現を実現させた 8)。
ニット以外の布もボリューム(厚み)を持つ媒体であることを前提に,先に示した RTE を
改良し,Micro-flake モデルをベースにして布のレンダリングを行った。実物に近い質感を
表現するためには,Micro-flake の密度や向きの分布を推定することが重要だとして,
Marscher らは布の計測に CT(X 線コンピュータ断層撮影)スキャンを用いた。CT スキャ
ンで計測する必要性は,布のボリュームを成立させる布内部の密度や光の変化を正確に捉
えることにある。CT スキャン測定の結果をもとに,必要とする Micro-flake の向きや分布
を算出した。それらの分布結果を CG 画像表面にマッチングさせ,本物のような布のレン
ダリングを行った(図 3.2-18.)
。
図 3.2-18. 布レンダリングのアルゴリズム
出典:引用文献 第 3 章 2 節-10)
Marscher らは,この節でまとめた Westin や Ashikhmin の BRDF による布の反射モデル
や布の CG 表現については意義を認め、尊重しているが,対象とした布が Satin や Velvet
に限定されていたことを指摘し,彼らが測定した布試料は,「Gabardine」
「Silk」
「Velvet」
「Felt」の 4 種類であった。しかし,これらのうち Silk は繊維名で,他の 3 つは織物の名
称であるため,試料の諸元は不明である。CT スキャンでの測定結果からそれぞれの試料
についてレンダリングに必要なパラメータを算出し,試料による違いを明確にした。
布の CG 画像を作成する際,CT スキャンで布を測定し,ボリューム表現に焦点を当てて
写真と比較しながらレンダリングを修正している過程は図 3.2.-19.であり,最終的なレンダ
リング結果は図 3.2.-20.に示す通りである。
BRDF は光の入射と反射が同じ位置で起きると仮定して,局所的な反射をモデル化した。
しかし,前節で既述した通り,実際の物体表面での物理的現象は複雑で,光線が物質に当
たると反射するだけではなく,透過する光や吸収される光,さらに物質内部での散乱を経
て反射する光もあると考えられる。この光が出射する前の内部散乱は BSSRDF11)を用いて
記述される。BSSRDF(Bidirectional Scattering Surface Reflectance Distribution Function)は双
方向散乱面反射率分布関数と訳される反射モデルで,近年肌などの CG 表現に多用されて
いる。しかし,8 次元関数で計算負荷が高く,布の CG 表現に用いられることは少ない。
63
第3章
光の反射と CG における反射モデル
図 3.2-19. レンダリングの比較結果
(1): シルク, (2): ギャバジン, (3): ベルベット, (4): フェルト
(a),(c): 写真, (b),(d): レンダリング結果
図 3.2-20. レンダリング結果
(a): シルクサテン,(b): ギャバジン,
(c): ベルベット,(d):フェルト
出典:図 3.2-19,20 ともに
引用文献 第 3 章 2 節-10)
ここまでにまとめた先行研究の共通点と問題点を挙げる。共通点するのは,布の微小面
に注目している点である。その微小面の反射を分析して,反射の特徴を反映させた布 CG
画像の作成を試みている。また,2 色性反射モデルを基にしており,拡散反射と鏡面反射
の 2 成分で記述,表現がされていた。しかし,問題点として,反映させたとする反射特性
64
第3章
光の反射と CG における反射モデル
のデータが示されていない,対象とした布が光沢を得やすい布に限定されている,などの
問題点も挙げられる。また,作成した画像と実物との比較に官能検査などの客観的な測定
結果が示されず,画像の呈示のみとなっている。
そこで第 4 章では,まず服の布として使用される頻度の高い布を選定し,布微小面から
の反射光を拡散成分と鏡面成分に分離し,受光角度を変化させて測定する。それにより布
の反射特性がより明確になると考える。第 5 章では,汎用の CG ソフトウエアで布の画像
を作成し,CG 画像とそのもとになった実物の試料布とを比較評価し検討する。
65
第4章
布微小面の反射特性の解析
第4章
布微小面の反射特性の解析
第 4 章 布微小面の反射特性の解析
本章の目的と概要
第 2 章では,視感比較と変角分光測色機を使用した測定によって紙と布の反射の違いを
明らかにしたが,紙と布の測定値に明らかな違いが現れたにも関わらず,その要因を特定
することができなかった。第 3 章では,紙と相違する布反射の物理的特徴をまとめるとと
もに,布 CG 画像の作成に関わる先行研究を挙げた。これまでの布 CG 画像に関する研究
に共通していたのは,布の表面構造が複雑であるため,その布表面のごく微細な面におけ
る反射の特性を解明し,CG 作成に必要な反射モデルを導出することであった。しかし,
布の反射特性を解明するために布の微小面の実測を行った先行研究は少なく,また,対象
試料は光の反射を捉えやすい特殊な布が選定されていた。さらに,2 色性反射モデルの考
え方を採用し,従来の反射モデルか BRDF で拡散反射と鏡面反射の記述を試みているにも
関わらず,反射光の分離の方法が示されていなかった。よって本章では,反射光を拡散反
射成分と鏡面反射成分に分離して,布の微小面の反射率を計測することで,布の反射特性
を解析した。
本章の構成は以下の通りである。4.1.節は予備実験と位置付けて,布表面のごく小さな面
の反射率算出の方法を検討した。まず,ディスプレイ画像のピクセル値とディスプレイの
実測反射率の応答を指数関数でフィッティングさせた。次に,検証を通して,ピクセル値
から反射率を算出する指数関数のパラメータを受光角度ごとに決定した。4.2.節では本実験
を行い,マイクロスコープと偏光フィルタを用いて反射成分を分離し撮影した画像を用い
て布微小面の反射特性を解析した。まず,偏光フィルタによって反射光が拡散成分と鏡面
成分とに適切に分離されているかを確認した。次に,4.1.節の予備実験で採用したキャリブ
レーション方法で反射率を算出して,布を構成する織糸範囲と布表面の微小面範囲の反射
強度や反射率の変化を解析した。
4.1. 予備実験-指数関数による布微小面の反射率算出法の検討
4.1.1. 目的
前報 1)において,布の微小面をマイクロスコープで撮影し,デジタル画像の RGB 画素の
平均値を輝度値へキャリブレーションする方法を検討して良好な変換値が得られた。ただ
し,試料とした布はキャリブレーションに必要な要因を絞り込むために,繊維や織組織が
異なる無染色の原布(白布)を用いた。
しかし,布は通常,染色やプリントにより色や柄が表出しており,原布の輝度は人が布
を見ている状態を把握することには有用であるが,輝度だけでは色や柄のある布の表面反
射特性を明らかにすることは難しい。それは,人が「色」を認識する仕組みの中で,物体
67
第4章
布微小面の反射特性の解析
表面からの分光反射率が色認識に大きく寄与するためである。よって,布の反射特性を捉
えるためには,布表面の反射率を解析することも必要となる。ただし,デジタルカメラは
メーカーや機種によりそれぞれ自動的に色補正や露出補正がされ,それが企業独自の方法
である場合が多い。そのため,分光感度を 400 の波長すべてにおいて計測,補正した後,
反射率を算出した場合は誤差が生じる恐れがある。そこで,今回も前回と同様,キャリブ
レーションにおける誤差要因を除外するために,試料は無染色布を選択し,微細な布表面
の反射率を算出する方法を検討することとした。
布の反射率は白布でも染色布でも,変角分光測色計を使用すれば計測は可能である。た
だし,縦と横がそれぞれ 4~5cm 程度の平面の平均値となる。いくつかの種類ですでに計
測され明らかになっている 2)が,フランネルや富士絹の白布で 60~70%,木綿や麻の白布
で 40~70%とその値に幅がある。それは,布を構成する繊維によって光の吸収や反射が異
なる上に,表面が織組織による三次元形状となっているため,そのジオメトリによって平
滑面とは相違する反射が現れるためである。また,物体表面の構造や材質によって,反射
光成分の鏡面反射と拡散反射の割合が異なるため,様々な材質(繊維)で織製される布で
は一義的な測定値を得ることが困難である。さらに,反射角度ごとの配光特性(変角光度
分布)3)も考慮しなければ布の反射特性を解明することはできない。
今回も前回と同様,布表面からの反射光を詳細に把握するために拡大撮影が可能なデジ
タルマイクロスコープを用いて布の微小面を計測(撮影)し,そのデジタル画像の画素値
を 1pixel ずつ反射率にキャリブレーションするための簡便な方法を検討した。
4.1.2. 方法
(1) 測定 1
測定 1 として,デジタル画像のピクセル値から反射率を算出するのに適した指数関数式
のパラメータを算定するための測定を行った。
(1)-a. 試料
濃度 15 段階構成のグレースケールチャート(Edmond Optics Japan 53712-H)を試料とし
た。予備測定において,15 種類のうち,とくに高濃度のグレースケールを段階的,直線的
に記録することは困難であった。そこで,測定値を安定させるために,15 段階の中で 1 番
目と 15 番目,さらに間を 1 段階おきとし,合計 8 段階を測定した。また,このグレースケ
ールチャートの最も明るい段階(反射率 81%)を参照体とし,本報告のすべての測定で必
ず試料に添付した。
68
第4章
布微小面の反射特性の解析
(1)-b. 測定方法
測定は,受光器側にデジタルマイクロスコープ(Dino-Lite Plus)
,光源側に 27 ワットの
蛍光灯(Panasonic FPL27EX-N)を設置して,8 倍に拡大したデジタル撮影画像を取得した。
光源からの入射角度は 45 度に固定し,受光(撮影)角度は,0 度から 60 度まで 15 度間隔
とした。また,反射光を分離するために,光源側に偏光フィルタの P 方向,受光器側に P
または S 方向を取り付けて,反射光が鏡面光と拡散光(以下,S+D 成分と記す)の画像と
拡散光(以下,D 成分と記す)のみの画像の 2 種類を 1 試料に対して得た。試料と光源の
距離は 30cm,試料と受光器の距離は 8cm とし,前報と同様,試料面の照度はムラなく一
定に保たれ,雑光線は吸光シートにより遮断された。
(1)-c. 解析方法
撮影した画像は前報と同様,非圧縮画像データである BMP 形式で保存し,まず,画像
の焦点にあるグレースケール部分とその直近にある参照体それぞれにおいて,10×10pixels
(約 0.07×0.07cm)範囲のピクセル値を画像解析ソフト(Image J 1.33u,1.42q)により取得
した。なお,本報告の撮影画像はデジタルカラー画像であるため,R,G,B の各画素値は
いずれも独立して0 から255 の値を有しているが,
測定試料はいずれも無彩色であるため,
以下,R,G,B 画素値の平均値をピクセル値と記述する。また,デジタルカメラは自動露
出機能を備えているため,予備測定で求めた参照体の基準ピクセル値(S)と試料に添付
された参照体の計測ピクセル値(M)
,さらに式(1)により自動補正後のピクセル値(x2)
を補正前のピクセル値(x1)に較正した。
x1 = x2 × (M/S)
(4.1.1)
次に受光角度(0,15,30,45,60 度)と反射成分(S+D 成分,D 成分)ごとに,取得
し較正されたピクセル値とグレースケールチャートの既知の反射率を対応させ,解析ソフ
ト(Origin 8.1)を使用して,非線形曲線フィッティングを試み,指数関数式のパラメータ
を得た。
(2) 測定 2
測定 2 として,算定した指数関数パラメータがデジタル画像のピクセル値から反射率を
算出するのに適しているかを検証するための測定を行った。
(2)-a. 試料
3 種類の平織布を試料とした。諸元は表 4.1-1.に示す。繊維は天然繊維と合成繊維がある
69
第4章
布微小面の反射特性の解析
が,組織はすべて平織とした。そのため,織組織による表面形状より各繊維の光学特性の
違いが反射に影響を及ぼすと予想される。
表 4.1-1.
試料布の諸元
表4.1-1.
試料布の諸元
sample
label
material/
processing
woven
pattern
density
(end×
pick/cm)
thickness
(mm)
S1
cotton/
mercerization
plain
52×28
0.22
S2
silk
plain
54×40
0.12
S3
polyester
*thin cloth
plain
40×30
0.08
(2)-b. 測定方法
測定には変角分光測色システム(村上色彩研究所 GCM-4 型)を用いて,測定 1 と同様,
光源からの入射角度を 45 度に固定し,
受光角度は 0 度から 60 度まで 15 度ずつ変角させて
分光反射率を計測した。ただし,試料の設置方向は,測定 1 と 2 では異なる。測定 1 の試
料は紙製で,
ほぼ平滑面であるため測定台での設置方向を変える必要はない。
それに対し,
測定 2 の試料は布であるため,経(たて)糸と緯(よこ)糸が交錯して構成される表面形
状は観察方向で光の反射に相違が現れる。そのため,入射光軸と試料布法線を含む入射面
は 0 度,45 度,90 度と変化させた。つまり,試料布をたて方向とよこ方向,バイアス方向
に設置してそれぞれで測定した。また,D65 光源-2 度視野の条件で測定を行った。
(2)-c. 解析方法
まず,変角分光測色システムで試料の反射率を求めた。このシステムでは,390nm から
730nm まで,波長 10nm ごとの反射率データが得られるため,3 試料(S1,S2,S3)
,2 成
分(S+D 成分,D 成分)
,5 受光角度(0 度,15 度,30 度,45 度,60 度)
,3 設置方向(た
て方向,よこ方向,バイアス方向)のそれぞれで,390nm から 730nm までの分光反射率を
計測し,その平均値を反射率とした。また,無彩色であるため,式(4.1.2)により明るさ
を示す“Y”(ラージワイ)も求めた。
780
Y=K∫380 S(λ)y� (λ)R(λ)dλ
(4.1.2)
次に,測定 1 と同じ測定(撮影)方法と条件で試料布の拡大デジタル画像を取得した。
受光角度は 5 段階(0,15,30,45,60 度)
,反射成分は 2 種類(S+D 成分,D 成分)であ
ったが,設置方向は既述の通り,布表面の特徴を勘案して 3 種類とした。画像は BMP 形
式で保存し,画像焦点付近の 8~11pixels×128pixels(約 0.04cm×0.43cm)範囲とその直近に
70
第4章
布微小面の反射特性の解析
ある参照体の 10×10pixels(約 0.03×0.03cm)範囲のピクセル値を画像解析ソフトにより取
得した。なお,縦の 8~11pixels 範囲は布を構成する織糸 1 本分に相当する。測定 1 で示し
た式(4.1.1)により,取得したピクセル値は自動露出補正前のピクセル値に較正した。そ
の較正ピクセル値(x)と測定 1 で算定したパラメータ(y0,A,R0)
,指数関数式(4.1.3)
により,試料布微小面の反射率(y)を 1pixel(約 0.003×0.003cm)ずつ算出した。
y=y0 + A × exp(R0 × x)
(4.1.3)
変角分光測色システムでは,
反射光を S+D 成分と D 成分に分離することはできないが,
測色システムで測定した結果と指数関数式によって算出した結果を比較し,受光角度ごと
の変化やその挙動を検討してパラメータの検証を行った。
4.1.3. 結果と考察
(1) ピクセル値と反射率の応答結果
今回用いたグレースケールチャートの
Reflectance(%)
100
既知の反射率を 15 段階のチャートで示
label
75
50
したものが図 4.1-1.である。濃度から換
25
算して 3%~81%に相当し,その変化は対
数変移している。また,グレースケール
0
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
Label
図4.1-1.
図 4.1-1.グレイスケールチャートの反射率
グレースケールチャートの反射率
チャートを測定し較正した 8 段階のピク
セル値と図 4.1-1.の反射率を受光角度ご
とに対応させた結果は図 4.1-2.の通りである。
一般に受光器の応答特性は非線形であることが知られているが,本報告の結果において
も非線形応答が認められた。ただし,その線形は受光角度で多少の違いが現れた。D 成分
については,それぞれの受光角度で大きな相違は見られず,0,15,30 度はほぼ同じカー
ブとなった。45,60 度は他の角度と少し異なり,60 度で反射率 81%に対応するピクセル
値が低くなった。S+D 成分については,0,15,60 度のカーブはほぼ同じとなったが,45
度のみカーブの形状が大きく異なり,反射率に応答するピクセル値が顕著に高くなった。
また,各受光角度における S+D 成分と D 成分の応答の違いは,0,15 度でほぼ同じとなり,
30,60 度では,反射率の高い 3 段階(label11,13,15)で S+D 成分と D 成分のカーブに
違いが現れた。さらに受光角度 45 度では S+D 成分と D 成分のカーブが平行に見えるほど
形状が異なった。
これらの結果は,S+D 成分と D 成分の反射の特徴を示すものである。正反射方向である
受光角度 45 度では,鏡面反射成分(S 成分)が最も大きくなるため,図 4.1-2.のようにグ
71
第4章
レースケールチャートの濃度に関係なく,
100
AOR; Angle of Reflection: 0deg
S+D 成分と D 成分に差が現れたと考えら
75
50
S+D
D
25
0
0
40
80
120
160
100
15deg
れる。また,45 度から 15 度変化させた
受光角度 30,60 度では 45 度での S 成分
が 15 度分に相当する量が同様に減少し
75
ていることは明らかであるため,濃度の
50
低いグレースケール(label11,13,15)
25
では S 成分が検出されやすくなった。そ
0
0
40
80
120
160
100
Reflectance(%)
布微小面の反射特性の解析
のため,S+D 成分と D 成分の差が出現し
たと考えられる。
30deg
75
50
(2) フィッティング結果
25
0
0
40
80
120
160
図 4.1-2.に示した反射成分と受光角度
ごとの応答結果に対し,非線形曲線フィ
100
45deg
75
ッティングを行った。使用した解析ソフ
50
トには,解析のための関数が数多く実装
25
0
0
40
80
120
160
されている。図 4.1-2.の応答カーブは,
いずれも Exponential(指数)関数のフィ
100
60deg
75
ットカーブを示したため,Exponential 関
50
数をフィッティング関数として選択した。
25
ただし,Exponential 関数にもパラメータ
0
0
40
80
120
160
Pixel value
図図4.1-2.
4.1-2. 反射率とピクセル値の応答関係:
反射率とピクセル値の応答関係:
グレイスケールチャート
グレースケールチャート
数が異なる数種類の関数式がある。パラ
メータが増すほどフィッティングは良好
になると予測できるが,計測誤差もフィ
ッティングする可能性が出てくるため,式(4.1.3)に示した Exponential 関数式とパラ-メ
ータにより解析を行った。
解析の結果,5 受光角度,2 成分すべてにおいて χ 二乗が減少し,フィッティングが良好
に収束した。得られたパラメータは表 4.1-2.の通りである。いずれも,修正 R2 が 0.85 以上
となり,統計的にも有意であることが明らかとなった。なお,受光角度 45 度の D 成分で
の応答結果の外れ値は除外して解析している。
前報では,輝度を算出するためのパラメータを検討したが,5 受光角度(0,15,30,45,
60 度)と 2 反射成分(拡散成分,鏡面+拡散成分)で計測したピクセル値と輝度値の応答
をフィッティングして,それぞれで良好なパラメータを得た。しかし,拡散成分の反射率
は理論的には受光角度の余弦定理に則って変化し,鏡面成分は正反射方向が最大値となり
72
第4章
布微小面の反射特性の解析
正反射角度の値を頂点として対称となる受光角度に従って変化するため,1 つのパラメー
タで5 受光角度と2 反射成分の反射率を算出することが可能であると予測する。
そのため,
前報の輝度算出と同様に,受光角度と反射成分それぞれのパラメータで算出した場合,図
4.1-3.(a)と(b),図 4.1-4.(a)と(b)では,明らかな錯誤が生じた。
表 4.1-2.
Exponential 関数によるフィッティングパラメータ
表4.1-2.
Exponential関数によるフィッティングパラメータ
AOR
D-0deg
D-15deg
D-30deg
D-45deg
D-60deg
S+D-0deg
S+D-15deg
S+D-30deg
S+D-45deg
S+D-60deg
parameters of the Exponential function
adjustd R2
y0
A
R0
72363.51671
-72357.27523
-7.43400E-06
0.93304
80212.09230
-80206.27876
-6.76192E-06
0.93232
104362.81953
-104359.89441
-5.17092E-06
0.91297
93010.56707
-93007.06619
-5.12973E-06
0.85571
127334.84441
-127334.13013
-4.79686E-06
0.84282
83564.72789
-83558.90802
-6.16625E-06
0.92585
96470.64130
-96466.22889
-5.21946E-06
0.91751
95984.85641
-95989.85714
-5.34840E-06
0.88537
-22.27617
10.95689
1.41700E-02
0.99899
113775.16856
-113774.91951
-4.64033E-06
0.86577
[pm1-pm5]
100
75
75
50
50
25
D
S+D
0
1
31
pm1
pm2
pm3
pm4
pm5
pm6
pm7
pm8
pm9
pm10
[pm1-pm10]
100
25
label
D
AOR:0deg
61
91
S+D
AOR:0deg
0
121
1
100
100
75
75
50
50
25
31
61
91
25
15deg
15deg
0
0
1
31
61
91
121
1
31
61
91
121
100
75
50
25
30deg
0
1
31
61
91
Reflectance(%)
100
Reflectance(%)
121
75
50
25
121
1
100
100
75
75
50
50
25
45deg
0
30deg
0
31
61
91
121
45deg
25
0
1
31
61
91
121
1
100
100
75
75
50
50
25
60deg
31
61
91
25
121
60deg
0
0
1
31
61
91
121
Pixel position
図4.1-3.(a)
織糸の反射率:S1,
warp, pm1-pm5
図 4.1-3.(a)
織糸の反射率:S1,warp
1
31
61
91
121
Pixel position
図4.1-3.(b)
織糸の反射率:S1,
warp, pm1-pm10
図 4.1-3.(b)
織糸の反射率:S1,warp
73
第4章
布微小面の反射特性の解析
[pm1-pm10]
[pm1-pm5]
100
100
75
75
50
50
25
25
D
S+D
D
AOR:0deg
1
31
61
91
AOR:0deg
S+D
0
0
1
121
100
100
75
75
50
50
31
61
91
25
25
15deg
15deg
0
0
1
31
61
91
1
121
31
61
91
100
75
50
25
30deg
0
1
31
61
91
Reflectance(%)
100
Reflectance(%)
121
50
25
0
1
100
100
75
75
50
50
45deg
0
30deg
75
121
25
121
31
61
91
121
45deg
25
0
1
31
61
91
121
1
100
100
75
75
50
50
31
61
91
25
25
60deg
0
1
31
61
91
121
Pixel position
図4.1-4.(a)
織糸の反射率:S2,
warp, pm1-pm5
図 4.1-4.(a)
織糸の反射率:S2,warp
121
60deg
0
1
31
61
91
121
Pixel position
図4.1-4.(b)
織糸の反射率:S2,
warp, pm1-pm10
図 4.1-4.(b)
織糸の反射率:S2,warp
図 4.1-3.(a)と(b)は試料 S1(綿・平織)
,図 4.1-4.(a)と(b)は試料 S2(絹・平織)の結果で,
図 4.1-3.(a)と図 4.1-4.(a)は,表 4.1-2.の D-0deg,D-15deg,D-30deg,D-45deg,D-60deg に示
すパラメータによって各受光角度の S+D 成分と D 成分の反射率を算出した。
それに対し,
図 4.1-3.(b)と図 4.1-4.(b)は,受光角度と反射成分それぞれに応じた表 4.1-2.の各パラメータ
を使用して反射率を算出した結果である。そのため,図 4.1-3.(a)では受光角度 45 度におい
て,図 4.1-3.(b)では 5 受光角度とも S+D 成分と D 成分の挙動が反転した。つまり,S+D 成
分は拡散反射成分をベースに鏡面反射成分が加算されたと考えられるため,加算分は受光
角度によって異なるが,
必ず D 成分より S+D 成分の反射率は値が高くなければならない。
しかし,図 4.1-3.(a)と(b)では逆の結果が現れた。また,図 4.1-4.(a)と(b)では,図 4.1-4.(b)
の受光角度 45 度の結果以外に D 成分と S+D 成分の逆転が見られなかった。しかし,光沢
74
第4章
布微小面の反射特性の解析
のある絹では,
S+D 成分と D 成分の反射率の差は正反射方向の受光角度 45 度を中心に 30,
60 度でも現れることが予想されるが,図 4.1-4.(b)ではその差が認められなかった。よって,
表 4.1-2.のパラメータの中で,さらに最適な反射率算出のためのパラメータを取捨選択す
る必要がある。
(3) 検証結果
適切なパラメータを検討するにあたり,まず,3 種類の試料布(S1:綿平織,S2:絹平
織,S3:ポリエステル平織)を変角分光測色システムで測定した。3 設置方向(たて,よ
こ,バイアス方向)
,5 受光角度(0,15,30,45,60 度)ごとの分光反射率平均と“Y”
の結果は表 4.1-3.の通りである。先に示した通り,このシステムは反射光を鏡面成分と拡
散成分に分離することはできないが,一般的には分光反射率を測定する機器では鏡面反射
光を除外し,拡散光のみが検出されて反射率が示される。しかし,予備実験を行った結果,
鏡面反射光が完全には除外されておらず,鏡面成分を含んだ反射率であることを明らかに
している。そのため,分光測色システムとの比較は D 成分のみ,あるいは S+D 成分のみ
とせず,D 成分と S+D 成分ともに行った。また,3 試料布,3 設置方向とも,正反射方向
の 45 度を超えた 60 度において,反射率平均と“Y”のいずれも最大値を示した。
表 4.1-3.
分光反射率と Y
表4.1-3.
分光反射率とY
S1
direction
warp
welf
bias
AOR
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
reflectnce
(%)
62.78
66.65
72.49
80.10
87.54
62.39
68.52
76.74
87.22
97.23
61.89
67.50
75.30
85.61
95.83
S2
Y
63.26
67.15
73.11
80.79
88.00
62.85
69.03
77.35
87.97
97.77
62.35
67.99
75.88
86.32
96.36
reflectnce
(%)
53.22
61.06
69.40
80.55
92.92
63.71
65.27
70.76
81.54
97.66
59.82
62.54
67.79
77.70
92.88
S3
Y
54.16
62.09
70.58
81.93
94.19
64.77
66.35
71.96
82.93
98.95
60.82
63.60
68.93
79.02
94.12
reflectnce
(%)
39.50
44.54
52.52
61.12
76.77
35.66
40.76
53.01
58.98
75.07
32.11
39.56
43.17
49.20
62.78
Y
39.65
44.72
52.90
61.70
77.51
35.73
40.94
53.45
59.58
75.80
32.17
39.70
43.49
49.73
63.42
次に,検証のために各パラメータの組合せを検討した。測定 1 における反射率とピクセ
ル値の応答関係を考慮して,表 4.1-4.に示す P1 から P3 の組合せによって各試料布の反射
成分と受光角度それぞれにパラメータを適用させて反射率を算出した。なお,各パラメー
タにラベル付けした pm1 から pm10 は表 4.1-2.に示したものである。その中で,パラメー
タの組合せ P1 による各成分の算出反射率の結果は表 4.1-5.の通りである。
表 4.1-3.と表 4.1-5.
の値を比較すると試料布によっていくらかの相違はあるが,ここまでの反射率算出の手続
75
第4章
布微小面の反射特性の解析
表4.1-4.
パラメータの組合せ
表 4.1-4.
パラメータの組合せ
factor
D
S+D
AOR
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
P1
pm3
pm3
pm3
pm4
pm3
pm3
pm3
pm3
pm3
pm3
P2
pm1
pm2
pm3
pm4
pm5
pm1
pm2
pm3
pm5
pm5
P3
pm3
pm3
pm3
pm4
pm5
pm3
pm3
pm3
pm5
pm5
表4.1-5.
フィッティングパラメータによる算出反射率
表 4.1-5.
フィッティングパラメータによる算出反射率
(%)
direction
warp
welf
bias
AOR
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
S1
D: P1
S+D: P1
55.99
56.64
57.28
58.04
62.18
62.19
62.43
66.24
71.27
72.00
59.13
59.78
60.44
61.20
62.18
62.19
62.43
72.38
78.08
78.90
55.99
56.64
57.28
58.04
62.18
62.19
62.43
72.38
78.08
78.90
S2
D: P1
S+D: P1
42.88
53.72
45.21
53.74
49.77
59.07
49.86
66.32
59.88
74.69
46.06
56.87
48.30
56.88
49.77
59.07
49.86
72.47
65.18
81.95
42.88
53.72
45.21
53.74
49.77
59.07
49.86
72.47
65.18
81.95
S3
D: P1
S+D: P1
27.58
37.56
34.71
51.06
38.91
57.66
36.36
59.68
46.20
69.16
30.82
40.76
37.76
54.18
38.93
57.66
36.36
64.96
49.70
75.69
27.58
37.56
34.71
51.06
38.91
57.66
36.36
64.96
49.70
75.69
きを再検討しなければならないような大きな誤差は見出せなかった。P2 と P3 での結果も
同様であった。
最後に,分光測色システムの計測結果と各パラメータによって算出した反射率を比較し
た。その結果は表 4.1-6.に示すが,表中の数値は受光角度 0 度の値を 100 として,受光角
度の変角に伴う反射率の変化を割合で示したものである。
試料 S1 については,バイアス方向で,P1 から P3 のいずれの組合せもパラメータで算出
した反射率の値が測色システムで計測した反射率を下回ったが,
たて方向とよこ方向では,
P3 の組合せのパラメータによる S+D 成分の結果が測色システムの計測反射率の変化と同
様の挙動となった。試料 S2 については,たて方向において,P1 から P3 のいずれの組合せ
もパラメータでの算出反射率が測色システムの計測反射率を下回ったが,よこ方向とバイ
アス方向では,D 成分と S+D 成分において組合せ P3 のパラメータによる算出反射率の変
角に伴う変化が,測色システムで計測した反射率の変化に近似していた。試料 S3 では,
P1 の組合せのパラメータによる算出反射率も値が近かったが,3 方向とも S+D 成分の P3
のパラメータによる算出反射率が測色システムの計測反射率の受光角度による変化により
近かった。
76
第4章
布微小面の反射特性の解析
表4.1-6.
算出反射率と測定反射率の受光角度変化の比較
表 4.1-6.
算出反射率と測定反射率の受光角度変化の比較
(%)
S1
AOR;0deg
direction:
15deg
warp
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
welf
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
bias
30deg
45deg
60deg
S2
AOR;0deg
direction:
15deg
warp
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
welf
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
bias
30deg
45deg
60deg
S3
AOR;0deg
direction:
15deg
warp
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
welf
30deg
45deg
60deg
0deg
15deg
bias
30deg
45deg
60deg
A
106.17
115.47
127.58
139.45
109.83
123.00
139.80
155.85
109.05
121.65
138.32
154.84
A
114.73
130.40
151.35
174.59
102.45
111.06
127.98
153.29
104.55
113.33
129.90
155.27
A
112.77
132.98
154.74
194.36
114.31
148.66
165.39
210.53
123.20
134.43
153.23
195.49
D: P1
S+D: P1
102.31
102.47
111.07
109.79
111.51
116.95
127.30
127.11
105.92
104.51
117.30
113.56
115.74
123.23
143.91
141.96
103.72
104.90
109.93
110.54
111.14
117.17
135.53
132.97
D: P1
S+D: P1
105.43
100.02
116.08
109.95
116.27
123.44
139.66
139.03
107.62
99.28
117.68
105.57
120.09
116.18
153.35
134.74
102.25
100.47
106.35
103.53
103.75
114.62
135.10
137.53
D: P1
S+D: P1
125.83
135.94
141.06
153.53
131.82
158.92
167.49
184.15
138.58
135.25
152.26
143.13
130.29
140.56
179.05
170.52
126.03
131.58
131.78
133.26
130.83
147.81
183.65
184.88
D: P2
S+D: P2
102.22
102.38
105.16
104.04
105.59
121.08
132.05
131.98
105.59
104.28
110.72
107.34
109.26
127.32
149.14
147.37
103.52
104.66
103.91
104.53
105.05
120.93
140.49
137.84
D: P2
S+D: P2
104.87
100.01
108.05
103.86
108.23
127.42
141.51
144.09
106.87
99.35
109.30
100.09
111.54
120.37
155.42
140.29
102.09
100.42
100.23
97.71
97.78
117.80
139.38
142.27
D: P2
S+D: P2
122.50
132.93
126.31
141.47
117.98
159.38
161.25
185.70
134.08
132.63
136.57
132.87
116.86
141.85
173.50
173.33
122.10
127.46
116.04
118.64
115.20
140.16
173.48
177.53
D: P3
S+D: P3
102.31
102.47
111.07
109.79
111.51
127.79
139.45
139.29
105.92
104.51
117.30
113.56
115.74
134.70
158.00
155.91
103.72
104.90
109.93
110.54
111.14
127.88
148.63
145.76
D: P3
S+D: P3
105.43
100.02
116.08
109.95
116.27
134.89
152.02
152.53
107.62
99.28
117.68
105.57
120.09
126.97
167.34
147.98
102.25
100.47
106.35
103.53
103.75
124.83
147.89
150.75
D: P3
S+D: P3
125.83
135.94
141.06
153.53
131.82
172.97
180.17
201.53
138.58
135.25
152.26
143.13
130.29
152.81
193.44
186.72
126.03
131.58
131.78
133.26
130.83
157.43
197.02
199.40
Note. A: The measurement results of the spectrophotometer.
(4) パラメータ
グレースケールチャートのピクセル値とその反射率の応答関係,ならびに試料布の検証
結果により得たデジタル画像のピクセル値から反射率を算出するための指数関数式のパラ
77
第4章
布微小面の反射特性の解析
メータを表 4.1-7.に示す。
表 4.1-7.
反射率算出に最適のパラメータ
表4.1-7.
反射率算出に最適のパラメータ
reflection:
AOR
D:0deg
D:15deg
D:30deg
D:45deg
D:60deg
S+D:0deg
S+D:15deg
S+D:30deg
S+D:45deg
S+D:60deg
parameters
y0
104362.81953
104362.81953
104362.81953
93010.56707
127334.84441
104362.81953
104362.81953
104362.81953
127334.84441
127334.84441
of the Exponential function
A
R0
-104359.89441
-5.17092E-06
-104359.89441
-5.17092E-06
-104359.89441
-5.17092E-06
-93007.06619
-5.12973E-06
-127334.13013
-4.79686E-06
-104359.89441
-5.17092E-06
-104359.89441
-5.17092E-06
-104359.89441
-5.17092E-06
-127334.13013
-4.79686E-06
-127334.13013
-4.79686E-06
100
100
75
75
50
50
pm3
pm3
pm3
pm4
pm5
pm3
pm3
pm3
pm5
pm5
25
25
D
D
AOR:0deg
S+D
S+D
AOR:0deg
0
0
1
31
61
91
1
121
100
100
75
75
50
50
31
61
91
121
25
25
15deg
15deg
0
0
1
31
61
91
121
1
31
61
91
1
31
61
91
121
100
75
50
25
30deg
0
1
31
61
91
Reflectance(%)
100
Reflectance(%)
label
75
50
25
30deg
0
121
100
100
75
75
50
50
121
25
25
45deg
45deg
0
0
1
31
61
91
1
121
100
100
75
75
50
50
31
61
91
121
25
25
60deg
0
1
31
61
91
121
Pixel position
図4.1-5.
図
4.1-5.織糸の反射率:S1,
織糸の反射率:S1,warp,
warp,P3
P3
60deg
0
1
31
61
91
121
Pixel position
図4.1-6.
図
4.1-6.織糸の反射率:S2,
織糸の反射率:S2,warp,
warp,P3P3
78
第4章
布微小面の反射特性の解析
反射面が完全均等拡散面であれば,反射率は 1.0 となり,反射角方向への反射光の放射
輝度は一定となる。しかし,布は繊維の種類により反射率も異なる上,織組織による形状
のため表面全体の反射量が一定とはならないことが予想される。さらに,デジタルカメラ
やその画像のピクセル値の特性も勘案して,反射率導出のためのパラメータを求めなけれ
ばならない。単純な比較はできないが,変角分光測色システムの計測結果との検証も試み
て明らかにした表 4.1-7.の結果を用いて,試料布の織糸 1 本分について 1pixel ごとの反射
率を算出した。試料 S1(綿平織)のたて方向を図 4.1-5.に,試料 S2(絹平織)のたて方向
を図 4.1-6.に示す。
試料 S1 については,
先に他のパラメータでの結果を図 4.1-3.(a)と(b)に示した。
図 4.1-3.(a)
では受光角度 45 度,図 4.1-3.(b)では 5 受光角度とも S+D 成分と D 成分の逆転を既述した
が,図 4.1-5.ではそれが正された。また,試料 S2 については,図 4.1-4.(a)も(b)も S+D 成分
と D 成分の逆転と鏡面反射光量の不適を指摘したが,図 4.1-6.ではそれらの点が改まり,
適正だと考えられる鏡面反射光量も抽出された。
他の設置方向についても,パラメータによる明らかな誤りは見出されなかった。図 4.1-7.
に試料 S1(綿平織)
,図 4.1-8.に S2(絹平織)
,図 4.1-9.に S3(ポリエステル平織)のバイ
アス方向,受光角度 0,30,60 度の結果を示す。これらは設置方向がバイアスであるため
鏡面反射光の抽出が正反射方向に限られ,その量も多くはなかったが,いずれも,成分の
逆転などは現れず,適切な反射率換算が行われたと考えられる。
100
100
75
75
50
50
25
D
25
AOR:0deg
S+D
D
0
1
31
61
91
121
1
100
AOR:0deg
31
61
91
121
100
75
50
25
30deg
0
1
31
61
91
Reflectance(%)
Reflectance(%)
S+D
0
75
50
25
121
1
100
100
75
75
50
50
25
60deg
30deg
0
31
61
91
25
121
60deg
0
0
1
31
61
91
Pixel position
図4.1-7.
図
4.1-7.織糸の反射率:S1,
織糸の反射率:S1,Bias,
bias,P3
P3
121
1
31
61
91
121
Pixel position
図 4.1-8.
織糸の反射率:S2,
bias,
図4.1-8.
織糸の反射率:S2,
bias,
P3 P3
79
第4章
100
布微小面の反射特性の解析
4.1.4. 要約
75
今回,平滑な面を持たない布について,
50
その表面形状が明らかになるよう拡大撮影
25
D
S+D
AOR:0deg
0
1
31
61
91
121
Reflectance(%)
100
したデジタル画像の RGB 画素平均値から
反射率へキャリブレーションを行う簡便な
75
方法を検討した。その結果,指数関数式と
50
25
30deg
0
1
31
61
91
121
100
受光角度ごとに適切なパラメータを用いて,
1pxel の微小面の反射率を算出し,微細な布
表面の強度分布において良好な結果を得る
75
ことができた。
50
これらの強度分布は無染色布(白布)に
25
60deg
0
1
31
61
91
121
Pixel position
図4.1-9.
P3P3
図
4.1-9.織糸の反射率:S3,
織糸の反射率:S3,bias,
bias,
おける結果であるが,染色された布の分光
反射率は染色された色によって,変角に伴
い強度分布に変化が見られることを既に示
4)
している 。また,デジタル画像は CRT カラーモニタ(ディスプレイ)を使用して映し出
されているため,
染色された布を検討する場合は,
ディスプレイ独自の彩色特性を測定し,
ガンマ補正などが必要であることも知られている 5)。よって,今回の白布における反射率
算出法を起点として,色の再現方法を検討することが今後の課題である。そして,その成
果によって,現実感を伴った彩色布の画像再現が可能になると考える。
80
第4章
布微小面の反射特性の解析
4.2. 本実験-マイクロスコープと偏光フィルタによる画像測定に基づく布微小面の
反射特性の解析
4.2.1. 目的
布は金属やプラスチックとは異なる独特の質感を持つとされ,
ツヤを感じる布もあれば,
柔らかな印象を受ける布もある。その要因として,繊維の断面形状や肉眼では認識し難い
特徴的な幾何学的形状の繰り返しを生じる織組織によって,反射に布特有の特性が生じる
ことが挙げられる。例えば,表面が平滑な金属などでは正反射方向で反射光量が最大とな
るが,布では正反射方向より大きい角度で最大となる現象が知られている 1)。また,平滑
面では観察方向を縦から横に変化させても,見え方に違いはないが,布では全く異なって
見える場合がある。
これまで布の反射特性に関しては,コンピュータグラフィックス(CG)のための反射モ
デルを解明する研究が多く行われてきた。双方向反射分布関数(Bidirectional Reflectance
Distribution Function; BRDF)により,布の反射に関する異方性を記述し,布特有の質感を
伴った CG 表現を試みた研究
2,3)
や布反射の実測値から布のレンダリングを行った研究
4-6)
などがある。しかし,前者の研究では BRDF の測定手続きが複雑で,対象となる布もドレ
ス生地など特殊な布に限られた。後者の研究についても,測定結果が表示モニターのグレ
イレベルやその相対値で表され,正確な物理的測光量ではなかった。その他に,稲垣らは
布の光沢とその質感を解明するため,布の反射光を 3 種類に分類 7,8)し,さらに,安田らは
その成果を布の CG レンダリングに取り入れた
9,10)
。その結果,布の反射モデルが導かれ
たが,繊維の断面形状や織目構造などの影響が十分に考慮されておらず,不完全な部分を
補完するための実験研究 11,12)が行われた。布の CG 表現以外の研究では李らの研究 13)があ
り,
布を三次元で測定することで,
受光角度の違いが反射光量に及ぼす影響を捉えている。
しかし,その測定範囲はヒトが布を見る観察状況に等しく,繊維や織組織によるミクロな
反射特性は測定されていない。
先行研究の多くは,CG 表現に必要な布の反射特性を捉えることが主な目的になってお
り,その特性を抽出しやすいように,測定にはプラスチックの表面に似た光沢を表出する
ポリエステル 100%のサテンが用いられてきた。また,布表面を形成する織物組織の反射
への影響を明らかにする研究は見当たらない。つまり,繊維の種類や織物組織の相違と布
反射光の特性を関連づける詳細なデータは少なく,そのメカニズムもまだ解明されていな
い。
本研究では,これまでの研究で用いられることの多かった光沢の強い布だけでなく,普
段使用される頻度の高い繊維を使った基本的織・編組織による布も対象とした。また,マ
イクロスコープを用いて,布の微小面からの反射光を測定し,繊維や織物組織による反射
の異方性を確認するとともに,布のたてとよこ,バイアス方向それぞれで受光角度の変角
81
第4章
布微小面の反射特性の解析
に伴う反射光量の相違を計測することを試みた。さらに,稲垣らの研究で行われた反射光
の分類については,二色性反射モデルを仮定し,偏光フィルタを使用して鏡面反射光と拡
散反射光に分離した。これにより,照明光をそのまま反射し光沢を感じさせる鏡面反射光
と,色の見え方に大きく影響する拡散反射光の分布特性を明らかにし,光沢感や風合いと
いった布の種類により独特の質感を認知させる布の(光)反射の特性を導き出すことを本
研究の目的とした。
4.2.2. 方法
(1) 試料布
測定に用いた試料布は,シルケット加工した綿の平織(以下,S1)
,シルケット未加工
の綿の平織(S2)
,シルケット加工した綿の斜文織(S3)
,シルケット未加工の綿の朱子織
(S4)
,シルケット加工した綿の平編(S5)
,シルケット未加工の綿の平編(S6)
,絹の平
織(S7)
,毛の平織(S8)
,麻の平織(S9)
,レーヨンの平織(S10)
,アクリルの平織(S11)
,
ナイロンの平織(S12)
,ポリエステルの薄地平織(S13)
,ポリエステルの厚地平織(S14)
の 14 種類とした。いずれも染色試験用に整えられた未染色の原布(各繊維 100%,色染社)
とした。一般に多用されている繊維や織,編組織を選択し,比較のためにシルケット加工
や布地の厚さも考慮したが,変化織やラメなどを用いた特殊素材は省いた。その諸元は表
4.2-1.に示す。
表 4.2-1.
試料布の諸元
表4.2-1.
試料布の諸元
sample
label
texture
S1
broad
S2
broad
S3
twill
S4
satain
fiber/
processing
cotton/
mercerization
cotton
cotton/
mercerization
cotton
pattern
plain
yarn count(tex)
warp
weft
14.8
Z
52
28
0.22
Z
Z
52
28
0.22
45
22
0.45
34
52
0.28
14.8
14.8
3/1 / twill
19.7tex
×2
five satain
14.8
14.8
cotton/
mercerization
S6
knit
cotton
S7
habutae
silk
plain
knitting
plain
knitting
plain
S8
muslin
wool
plain
thicknes
(mm)
Z
19.7tex
×2
knit
density(/cm)
warp
weft
14.8
plain
S5
twist
warp
weft
S
S
*first twist; Z
Z
Z
14.8
14.8
Z
Z
14.8
14.8
Z
Z
16
17
*wale *course
16
17
*wale *course
0.58
0.75
6.9
4.6
S
S
54
40
0.12
18.5
16.7
Z
Z
28
23
0.32
27.6
27.6
Z
Z
21
22
0.24
-
-
42
30
0.12
S9
broad
linen
plain
S10
taffeta
rayon
plain
S11
muslin
acrylic
plain
19.2
19.2
Z
Z
30
28
0.29
S12
taffeta
nylon
plain
7.8tex f12
7.8tex f24
-
-
46
34
0.12
S13
taffeta
plain
8.3tex f36
8.3tex f36
-
-
40
30
0.08
S14
tropical
plain
11.1tex f24 11.1tex f24
×2
×2
-
-
24
26
0.32
polyester
*thin cloth
polyester
*thick cloth
8.3tex f36 13.3tex f50
82
第4章
布微小面の反射特性の解析
(2) 反射光の測定方法と画像データの処理
はじめに試料布表面の画像データを
取得した。微小面からの反射光の特徴
を捉えるため,デジタルマイクロスコ
ープ(Dino-Lite Plus)を用い,倍率は 8
倍で撮影した。
照明光源は 27 ワットの
蛍光灯(Panasonic FPL27EX-N),照明器
具はリフレクターを装着したセード付
きのデスクライト(YAZAYA)であり,
縦長に置いたセード前面の上部と下部
a black sheet
a sample and
a gray scale
setting direction
of samples
(warp; weft; bias)
60deg
8cm
30cm
a polarization
filter
A
B
AOI: 45deg fixed
a light source: A
angle of incident: AOI
AOR: 15deg
0deg
45deg
30deg
a microscope: B
angle of reflection: AOR
図 図4.2-1.
4.2-1. 測定装置
を黒の吸光シートで覆い,試料周囲が
照射されるようにした。撮影(測定)条件は図 4.2-1.に示すように,光源から布への入射
角度を 45 度に固定し,受光(撮影)角度は 0 度(法線方向)から 60 度まで 15 度間隔とし
た。織物・編物組織による表面の特徴を勘案して,試料布の設置方向はたてとよこ,バイ
アスの 3 方向とし,それぞれ同じ条件で撮影した。なお通常,服は布をたて方向に置いて
裁断されているため,たての設置方向は人が着用した服地を見ている状態と同じである。
また,すべての撮影において,反射率 81%のグレーの色票を参照体として試料布上部に添
付し,焦点の位置を試料布の中心に定めて試料布と参照体を同時に撮影した。光源と試料
布との距離は 30cm,試料布と受光器(マイクロスコープ)との距離は 8cm として,測定
機器を含む装置全体の周囲も吸光シートで覆うことにより,光源以外の雑光線を受光器か
ら遮断した。試料布表面での照度は 700lx であり,試料布とその上部に添付した参照体グ
レースケール全体で,ほぼ均等な照度になるように,光源を調整した。
反射光を鏡面反射光(Specular Reflection,以下,S 成分または S)と拡散反射光(Diffuse
Reflection,以下,D 成分または D)に分離するため,光源には偏光フィルタの p 方向(偏
光が入射面に平行)
,マイクロスコープには偏光フィルタの p 方向,または s 方向(偏光が
入射面に垂直)をそれぞれ取り付けて撮影した。つまり,光源側に p 方向,受光器側にも
p 方向の偏光フィルタを取り付けて撮影した場合,反射光は鏡面反射光と拡散反射光の和
(以下,S+D)として同時に受光器に到達するのに対し,光源側に p 方向,受光器側には
s 方向の偏光フィルタを取り付けた場合,反射光の D 成分のみが受光器に到達することに
なる。14 試料布の 3 観察方向すべての受光角度で,反射光の D 成分のみと反射光の S 成
分と D 成分の和である S+D の 2 種類の画像データを得た。
デジタルマイクロスコープで撮影した全デジタル画像は,画素ごとにピクセル値を詳細
に分析しなければならないため,加工がされていない非圧縮画像データである BMP 形式
で保存した。また,デジタルマイクロスコープに限らずカメラ撮影で取得した画像は,レ
83
第4章
布微小面の反射特性の解析
ンズの性質上,画像中心と周辺部では入射光量に違いが出てくる。そのため,各試料を撮
影,保存したデジタル画像のすべてにおいて,試料布は画像中心部となる撮影(測定)焦
点の周囲,参照体は中心部直近範囲それぞれの R,G,B 画素値を画像解析ソフト(Image
J ver.1.33u, ver.1.42q)によって取得することとした。なお,このデジタルマイクロスコー
プの画像はカラー画像であるが,試料布は無彩色であるため,R,G,B の各画素値はほぼ
同値となる。R,G,B 画素値の平均値を以下,ピクセル値と記述する。
(3) 偏光フィルタによる反射光分離の確認
偏光フィルタにより反射光が D と S+D に分離されているかを確認するための予備測定 1
を行った。光源や照射方法,遮光状態などの測定条件は,前節に述べた本測定と同様とし,
輝度計(Konica Minolta LS-110)を用いて 0 度から 60 度まで 15 度ずつ受光角度を変化させ
て測定した。試料は無光沢の拡散標準反射板(以下,無光沢標準反射板)と色差計などの
基準として用いられる光沢のある標準白板(以下,光沢標準白色板)の 2 種類とした。光
源側の偏光フィルタは p 方向に取り付け,受光器(輝度計)側の偏光フィルタは 0 度から
90 度まで 15 度ずつ回転させた。輝度計は試料から 1 m の位置に設置して測光した。
今回の光源のように直線偏光された光を,偏光フィルタを通して観察した場合,観察側
の偏光フィルタを回転させると輝度が変化する。回転させた角度を偏光角(υ)
,変化した
輝度の最大値(Imax)と最小値(Imin)
,最大輝度が観測されたときの偏光角を位相角(ψ)
と定義すると,式(4.2.1)により変化する輝度の算出が可能となる
14)
。表 4.2-2.には,実
測した輝度(Im)と式(4.2.1)により算出した輝度(Ir)を各受光角度で並置し提示する。
表 4.2-2.
実測輝度と算出輝度の受光角度別比較
表4.2-2.
実測輝度と算出輝度の受光角度別比較
[A]
υ
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
75deg
90deg
[B]
υ
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
75deg
90deg
AOR:0deg AOR:15deg AOR:30deg
I m(I r)
I m(I r)
I m(I r)
9.00(9.00)
9.10(9.10)
9.82(9.82)
8.92(8.95)
9.02(9.04)
9.78(9.73)
8.93(8.81)
8.78(8.89)
9.68(9.49)
8.66(8.63)
8.63(8.69)
9.36(9.16)
8.49(8.44)
8.39(8.48)
9.09(8.82)
8.47(8.30)
8.30(8.33)
8.86(8.58)
8.25(8.25)
8.27(8.27)
8.49(8.49)
AOR:0deg AOR:15deg AOR:30deg
I m(I r)
I m(I r)
I m(I r)
7.58(7.58)
7.50(7.50)
7.97(7.97)
7.48(7.43)
7.46(7.47)
7.90(7.91)
6.77(7.03)
7.44(7.40)
7.84(7.76)
6.35(6.47)
7.36(7.30)
7.68(7.55)
5.82(5.92)
7.21(7.19)
7.55(7.34)
5.37(5.51)
7.15(7.12)
7.26(7.19)
5.36(5.36)
7.09(7.09)
7.13(7.13)
AOR:45deg
I m(I r)
10.57(10.57)
10.43(10.45)
10.28(10.14)
9.65(9.71)
9.63(9.28)
9.05(8.97)
8.85(8.85)
AOR:45deg
I m(I r)
17.69(17.69)
16.22(16.98)
14.11(15.05)
11.24(12.41)
8.69(9.77)
7.37(7.84)
7.13(7.13)
AOR:60deg
I m(I r)
10.88(10.88)
10.81(10.73)
10.45(10.32)
10.05(9.76)
9.34(9.19)
8.94(8.78)
8.63(8.63)
AOR:60deg
I m(I r)
8.75(8.75)
8.69(8.60)
8.38(8.18)
7.77(7.60)
7.27(7.03)
6.98(6.60)
6.45(6.45)
Note. [A]: perfectly diffusing surface; [B]: standard white surface; I m:
measured luminance(cd/m2 ); I r: luminance(cd/m2 ) calculated by Eq.(1).
84
第4章
布微小面の反射特性の解析
Ir=(Imax+Imin)/2+(Imax-Imin)/2cos(2υ-2ψ)
(4.2.1)
試料の無光沢標準反射板,光沢標準白色板とも 5 受光角度で計測輝度と算出輝度がほぼ
一致し,余弦定理で近似できたことから,今回の偏光フィルタのセッティング方法で偏光
特性を捉えることができたと考えられる。つまり,すべての受光角度において最大輝度を
示す位相角が偏光角 0 度となり,偏光角 90 度では最小輝度を示したことから,偏光が入射
面に垂直となる s 方向の偏光フィルタを受光器に取り付けることで,布表面の反射光から
鏡面反射成分を取り除き,拡散反射成分のみを抽出できることを確認した。
なお通常,偏光フィルタで分離した鏡面反射光強度を Is,拡散反射光強度を Id としたと
き,Imax と Imin との関係は式(4.2.2)
,
(4.2.3)のようになるが,Id と Id +Is は,後述の式と
参照体によって,同時に較正されるため,Imax での Id と Imin での Id は同値とみなすことが
できる。よって,本報告では以下,Imin を反射光の D 成分, Imax を反射光の S 成分と D
成分の和 S+D と示す。
Imax=1/2Id+Is
(4.2.2)
Imin=1/2Id
(4.2.3)
(4) 反射率の算出方法
デジタルカラー画像の R,G,B の各画素値はいずれも独立して 0 から 255 の輝度情報
を有しているが,受光器の特性に依存することが多く,さらに,自動露出補正機能を備え
ているので,正確な測光量と言えない。本報告でピクセル値とした R,G,B 各画素値の
平均値についても同様であるため,以下の手順により布表面の反射率を算出した。
まず,本測定と同じデジタルマイクロスコープで,濃度 15 段階構成のグレースケールチ
ャート(Edmond Optics Japan 53712-H)を試料として測定(撮影)する予備測定 2 を行っ
た。ただし,測定値を安定させるため,15 段階のうち 1 番目と 15 番目,さらに間を 1 段
階おきに合計 8 組の測定を行った。
光源と入射角度,
受光角度は本測定と同条件としたが,
偏光フィルタの取り付けは,光源側に p 方向,受光器側に s 方向を取り付け,反射光の D
成分のみとした。なお,すべての試料の上部には本測定と同じ参照体を添付したが,この
参照体と予備測定 2 の試料は同質のグレースケールである。また,本報告においてマイク
ロスコープを使用した測定すべてに共通して,最も明るい段階(反射率 81%)を参照体と
して使用した。さらに,この 15 段階のグレースケールチャートの反射率は,濃度から換算
して 3~81%に相当し,その変化は対数変移であることが既知である。
次に自動補正されるピクセル値の較正を行った。本測定と同形式で保存された予備測定
85
第4章
布微小面の反射特性の解析
2 の撮影画像の焦点周囲の試料とその直近にある参照体のそれぞれ 10×10 pixels(約 0.03
×0.03cm)範囲のピクセル値を画像解析ソフトにより取得した。これらのピクセル値は光
源や背景の状態により必ず自動補正される。そのため,先に予備測定 315)で求めていた参
照体の基準ピクセル値(N)と予備測定 2 で取得した参照体の計測ピクセル値(v1)から,
式(4.2.4)により自動補正を考慮した較正ピクセル値(m2)を算出した。m1 は各段階の
グレースケール試料の較正前の計測ピクセル値で,その較正量は 5 受光角度とも微少であ
った。
m2=m1×(N/v1)
(4.2.4)
さらに,反射率算出のためのパラメータを求めるフィッティングを行った。一般に受光
器の応答特性は非線形であることが知られているが,受光角度ごとにグレースケール試料
の較正後ピクセル値(m2)と既知の反射率を 8 組で対応させた結果でも非線形の応答特性
が認められた。よって,解析ソフト(Origin 8.1)を使用して,各受光角度で指数関数式(4.2.5)
による非線形曲線フィッティングを試みた。
χ2 乗が減少し最適なフィッティング結果を示
したパラメータを表 4.2-3.に示す。
y=y0+A×exp(R0×m2)
(4.2.5)
理論上,均等拡散反射面での拡散光の反射率は入射角度と受光角度から余弦定理によっ
て変化を算出できる 16)。さらに,二色性反射モデルに基づけば,全反射は鏡面反射と拡散
反射の加法的成分となるため,反射光の D と S+D ともに 1 種類のパラメータ(y0,A,R0)
によって全受光角度での反射率の算出が可能である。しかし,表 4.2-3.に示すパラメータ
は受光角度によって異なる値となった。それについては,試料としたグレースケールが完
全な均等拡散面でないことや計測誤差を含んだ可能性が考えられる。そのため,最適なパ
ラメータを求めることと D 成分のパラメータで S+D 成分の反射率算出が行えることの検
証
17)
を行い,再検討した。その結果,本測定での反射率算出のパラメータは表 4.2-4.の通
りとした。
表 4.2-3.フィッティングによる算出パラメータ
フィッティングによる算出パラメータ
表4.2-3.
reflection:
AOR
D:0deg
D:15deg
D:30deg
D:45deg
D:60deg
parameters of the Exponential function
y0 ×10-4
7.24
8.02
10.44
9.30
12.73
A×10-4
-7.24
-8.02
-10.44
-9.30
-12.73
R0 ×10-6
-7.434
-6.762
-5.171
-5.130
-4.797
Note. D: diffuse component.
86
第4章
布微小面の反射特性の解析
表 4.2-4.
フィッティングによる最適算出パラメータ
表4.2-4.
フィッティングによる最適算出パラメータ
reflection:
parameters of the Exponential function
AOR
y0 ×10-4
10.44
10.44
10.44
9.30
12.73
10.44
10.44
10.44
12.73
12.73
D:0deg
D:15deg
D:30deg
D:45deg
D:60deg
S+D:0deg
S+D:15deg
S+D:30deg
S+D:45deg
S+D:60deg
A×10-4
-10.44
-10.44
-10.44
-9.30
-12.73
-10.44
-10.44
-10.44
-12.73
-12.73
R0 ×10-6
-5.171
-5.171
-5.171
-5.130
-4.797
-5.171
-5.171
-5.171
-4.797
-4.797
Note. D: diffuse component;
S+D: specular and diffuse components.
本測定の試料計測ピクセル値(x1)も自動補正されているため,参照体の基準ピクセル
値(N)と本測定の参照体の計測ピクセル値(v2)を以て,式(4.2.6)により自動補正分
をすべて較正した。較正後ピクセル値(x2)から,反射光の D と S+D のいずれも受光角
度ごとに表 4.2-4.のパラメータを用いて指数関数式(4.2.7)により反射率(y)としてそれ
ぞれ算出した。
x2=x1×(N/v2)
(4.2.6)
y=y0+A×exp(R0×x2)
(4.2.7)
(5) 分析の範囲と方法
分析は各試料布の視角 1 度相当の範囲と横方向が視角 3 度相当の範囲の 2 種類について
行った。この横方向が視角 3 度相当の範囲(8~11×128pixels,約 0.03×0.42cm)では,縦
の範囲が織,編糸 1 本分に,横が 10 から 22 本分におおよそ相当した。また,視角 1 度相
当の範囲は試料布の微小な面を捉え,縦と横の実寸は約 0.17×0.17cm(50×50 pixels)で
あった。
それらの範囲のピクセル値を 1pixel ずつ画像解析ソフトによって取得し,
式(4.2.6)
により較正後,図 4.2-4.に示したパラメ
ータと式(4.2.7)によって反射率を算出
した。
reflectance
ratio(%)
織・編糸相当範囲(視角 3 度)では,
横方向 128pixels 間の反射率の変化を分
析した。この変化は,変動曲線や明暗振
a weaving yarn
図4.2-2.反射断面の概念図
輝度断面の概念図
図 4.2-2.
動とも表現されるが,織目からの反射の
状態を断面形状のように解析できること
87
第4章
布微小面の反射特性の解析
から,本報告では以下,反射断面と表現する。図 4.2-2.にその概念図を示す。微小面(視
角 1 度)の分析では,まず表面反射の状態を視覚化し,次にその範囲について受光変角に
伴う反射率平均値の変化を分析した。
4.2.3. 結果と考察
(1) 織・編糸(視角 3 度)の結果と考察
(1)-a. 反射断面
糸密度や厚さが異なる布を試料とし,また,受光角度は 15 度間隔の 5 水準を選択したた
め,織・編糸 1 本相当範囲での試料間と受光角度間の要因による変動が有用であるかを確
認することとした。検定は設置方向と反射成分ごとに,繰り返しのない 2 元配置の分散分
析を行った。設置方向(たて,よこ,バイアス)と反射成分(D 成分,S 成分+D 成分)
のいずれにおいても,変動要因(14 試料,5 受光角度)の分散比が F の統計値(試料では
F(13,52)=2.49,受光角度では F(4,52)=3.70,いずれも p<0.01)より大きな値を示し,統計的
な有意差が認められた。そこで,各試料布の反射断面について,変角に伴う反射光の D と
S+D の変化の特徴を検討した。
試料布 S1 から S6 の織組織は異なるが繊維は綿である。これらは試料の設置方向に関わ
らず,図 4.2-3.(試料 S1,たて方向)に示すように,受光角度 45 度のみで鏡面反射光の S
成分が現れたが,その反射量は多くなかった。ただし,シルケット加工された試料布 S1
と S3 では,他の綿の試料より少し強い S 成分を抽出した。綿布は繊維の種類や仕上げ加
工によって光沢を感じる場合もあるが,一般的には光沢が少なく素朴な印象を与える布だ
とされる。この光沢に影響を及ぼすと考えられる反射光の S 成分は,綿の織糸では少ない
ことが明らかになった。要因の一つとして,短繊維であることが挙げられる。長繊維を平
行に並べた場合とは異なり,綿の織糸は均等でない太さの短い繊維同士を絡めて撚りが掛
けられている。また,今回選定した試料の中では,他の短繊維より繊維の太さが細かった。
そのため,綿の織糸の側面は粗い反射面となり,反射光の S 成分が捉えにくくなったと考
えられる。シルエット加工された綿糸については,繊維断面の変形により,いくらか織糸
の側面が滑らかになったと考えられるが,強い光沢を感じさせるほどの S 成分の増加は認
められなかった。
綿以外の試料布はすべて,たてとよこ方向の全受光角度で鏡面反射光が抽出されたが,
バイアス方向では,綿と同様の変化となった。さらに,その反射光量は試料によって異な
り,試料布 S7(絹)では全受光角度で綿布より強い鏡面反射光が現れた。図 4.2-4.に,た
て方向の反射断面図を示す。試料布 S7 の絹は,服の素材としては質の良い光沢を備えた
繊維であることが認知されている。その光沢は絹繊維の不均一な三角断面が光を吸収・散
乱することによる真珠光沢の増大 18)だとされ,異方向への反射光が要因とされてきた。し
88
第4章
100
100
50
50
(a)
0
100
0
(a)
100
50
50
(b)
(b)
0
100
0
100
Reflectance (%)
Reflectance (%)
布微小面の反射特性の解析
50
(c)
0
100
50
(c)
0
100
50
50
(d)
(d)
0
100
0
100
50
50
(e)
D
S+D
1
21
41
61
81
101
S+D
0
121
1
Pixel position
Fig.3
properties of S1 which is set in a warp
図 Reflectance
4.2-3. 反射断面-S1,たて方向
direction. AOR (a): 0 deg; (b): 15 deg; (c): 30 deg;
(d): 45 deg; (e): 60 deg.
AOR (a): 0dog, (b): 15deg,
D
(e)
0
21
41
61
81
101
121
Pixel position
(c):
4.2-4. 反射断面-S7,たて方向
Fig.4図Reflectance
properties of S7 which is set in a warp
direction. AOR (a): 0 deg; (b): 15 deg; (c): 30 deg;
45deg,
30deg, (d):(d):
45 deg;(e):
(e): 60deg
60 deg.
かし,様々な方向への反射は拡散光に分類され,光沢の要因とはなりにくい。また,絹布
の光沢感は,金属などの光沢とは明らかに異なっている。今回,一般的な変角分光測色計
では困難な反射光の分離を試みたが,絹布では織糸の極小反射面において,受光角度に依
存しない鏡面反射成分を抽出することができた。それにより,絹布特有の光を散りばめた
ような光沢感は,布全体の正反射方向以外でも出現する鏡面反射光によることが明らかと
なった。綿とは異なり,絹は長繊維であるため,紡績糸のように織糸側面の毛羽立ちがな
く,反射面が平らに近いことが要因の一つに挙げられる。また,絹繊維の不均一な三角断
面により,角度の異なるいくつかの平滑な反射面が織糸側面に現れることで,より鏡面反
射光成分が増加したと推察される。
試料布 S10 のレーヨンと S12 のナイロン,S13 の薄地のポリエステルは,絹布よりさら
に顕著な鏡面反射光を抽出し,それは,たてとよこ方向のみであった。ただし,S12 と S13
は反射光の D と S+D ともに反射率自体は低かった。図 4.2-5.に試料布 S10(レーヨン)の
たて方向を示す。S10 のレーヨンは,人造絹糸がレーヨン工業化の起点で,絹に似た美し
い光沢を持つ繊維として開発されたが,実際には光沢が強すぎる 19)ため,俗に安っぽいテ
カリを感じさせる布として知られている。また,合成繊維である S12 のナイロンと S13 の
89
第4章
布微小面の反射特性の解析
ポリエステルは,一般に繊維自体の光学密度
100
が高いため,反射率も高く光沢も強すぎると
される。流通している繊維製品の中には,表
50
(a)
0
100
面の反射を抑えるため,低屈折率の樹脂を布
表面にコーティング処理する場合がある
Reflectance (%)
50
20)
。
今回の測定でもこれらは,受光角度の違いに
(b)
0
100
関係なく,織糸 1 本相当の範囲での鏡面反射
光量が多いことが示され,それが天然繊維の
50
試料布とは異なる風合いや印象を与える要因
(c)
0
100
の一つだと考えられる。
14 の試料布に共通した結果として,設置方
50
向に影響されず受光角度が大きくなるに従い
(d)
0
100
反射率の高低差が小さくなり,pixel 間距離も
狭くなる反射断面形状の変化が現れた。これ
50
D
(e)
0
1
21
41
61
81
S+D
101
121
Pixel position
Fig.5図Reflectance
properties of S10 which is set in a warp
4.2-5. 反射断面-S10,たて方向
direction. AOR (a): 0 deg; (b): 15 deg; (c): 30 deg;
(d):
45 deg;
60 deg.
AOR
(a):(e):
0dog,
(b): 15deg, (c): 30deg,
(d): 45deg, (e): 60deg
は,受光角度の推移により,製織に伴う織糸
の浮き沈みの間隔が見かけ上狭くなるためで
あると考えられる。
(1)-b. フーリエ解析結果
布を構成する織糸は規則的に交錯しており,
800
(a)
400
変化を示したため,フーリエ変換により空間
周波数解析を行った。その結果,周期を確認
0
Spectral intensity
大部分の反射断面は特定の周期と振幅を持つ
800
(b)
400
できた試料布とできなかった試料布があった
が,試料布の多くは前者の結果となり,織目
のピッチを捉えることができた。代表的な結
0
800
(c)
400
果として図 4.2-6.に試料 S1 の綿(S+D,たて
方向,0,30,60 度)のスペクトルを示す。
0
1
11
50
21
31
100
41
51
61
Spatial frequency (c/cm)
Fig. 6 Fourier components of reflections from S1 which is set in
図a4.2-6.
フーリエ解析結果-S1,たて方向
warp direction. AOR (a): 0 deg; (b): 30 deg; (c): 60 deg.
AOR (a): 0dog, (b): 30deg, (c): 60deg
90
Reciprocal of the fundamental
frequency
第4章
布微小面の反射特性の解析
周期を確認できた試料布のフー
0.05
y = 31.489x - 0.11
R2 = 0.994
リエ解析結果では,いずれのスペ
クトルも最初のピークは直流成分
0.025
であったが,二つ目からのピーク
がその試料布の反射断面形状の基
本周期であると見なせる。反射率
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
Trigonometric ratio: Cosine
図図4.2-7.
4.2-7. 基本周波数と受光角度の相関
基本周波数と受光角度の相関
1
1.2
の変化は,織組織の交錯点だけで
なく,製糸の撚りによる凹凸の影
響まで反映されるため,周期が 2
種類以上を示した試料もあった。織組織の反射断面形状の基本周波数は,受光角度が大き
くなるに従い,低空間周波数領域からより高空間周波数領域にピークが移行した。図 4.2-6.
に示した試料 S1 の綿の場合,基本周波数は受光角度 0 度で 28c/cm,30 度で 33c/cm,そし
て,60 度で 51 c/cm であったが,受光角度から見た織目の幅がこれらに反映しているなら
ば,これらの逆数が織目の幅に相当することになる。それぞれの受光角度から見た布表面
までの距離は受光角度の余弦,すなわち,cos(AOR)に比例する。そこで,基本周波数から
予想される織目の幅(28,33,51 c/cm の逆数)と受光角度の余弦を算出し,その関係を図
4.2-7.に示す。図 4.2-7.は,基本周波数と受光角度との間に明確な線形関係を示し,基本周
波数が織目のピッチを表していることは明らかである。
(2) 微小面(視角 1 度)の結果と考察
(2)-a. 反射光の強度分布
人の目に入る反射光は織糸 1 本だけからではなく,
織糸で織製された二次面からである。
この布表面は目視では平滑な面に近いが,拡大すると織糸の交差による高低差があり,粗
面に分類される。
このような特徴を持つ布のごく小さな面の反射光の状態を捉えるために,
50×50pixels(0 度受光角度の場合,約 0.17×0.17cm)の範囲において 1pixel ごとの反射率
を三次元グラフで表し,表面反射光の強度分布を可視化した。
照明方向と観察方向を固定し,法線を軸に対象物体を回転させると明るさが変化して見
えることを異方性反射 21)という。金属のように表面が平滑な物体は,物体の観察方向を変
化させても見え方は変わらず,物体の材質のみが反射光に大きな影響を与える。それに対
し,布では,材質となる繊維の反射率とともに,織・編組織による表面形状の相違が影響
して,照明光に対する試料の置き方が見え方を変える。つまり,試料の設置方向による異
方性反射を予測した。図 4.2-8.に試料布 S1 の受光角度 0 度における反射光 S+D のたてとよ
こ,バイアス方向を示すが,14 試料布すべてで同様の結果が現れ,設置方向によって強度
分布が異なり,定義される異方性反射が認められた。試料布 S1 は平織でたて糸とよこ糸
91
第4章
布微小面の反射特性の解析
は一つおきに交錯しているため,たて方向とよこ方向の強度分布は相似しているが,全く
同じではない。たてとよこの織糸の太さや糸間隔の違いを反映した結果となった。
(a)
125
100
75
50
25
0
(b)
(c)
125
125
100
100
75
50
25
0
75
50
25
0
図 4.2-8. 反射光の強度分布-S1
図4.1-8. 反射光の強度分布S1-Direction (a): warp; (b): weft; (c): bias.
設置方向 (a): たて, (b): よこ,(c): バイアス
(a)
(b)
125
125
100
100
75
50
25
0
75
50
25
0
(c)
125
100
75
50
25
0
図 反射光の強度分布-S1-Direction:
4.2-9. 反射光の強度分布-S1 weft
図4.2-9.
AOR (a):
(a): 0deg,
0 deg; (b):
(b):30deg,
30 deg;(c):
(c): 60deg
60 deg
AOR
92
第4章
布微小面の反射特性の解析
本報告では照明方向と法線方向を固定し,観察方向(受光角度)を変化させて測定した
が,その結果においても,反射に異方性がみられた。反射率による三次元グラフの凹凸(お
うとつ)は反射光の強さを示すが,受光角度によって強度分布が相違した。多くの試料布
で受光角度の変化に従い凹凸差が小さくなり,分布が細かく整ったように見える変化が現
れた。その中で,試料 S1(綿)のよこ方向,反射光 S+D の受光角度 0,30,60 度の分布
変化を図 4.2-9.に示す。前節のフーリエ解析結果でも示した通り,受光角度の変化に伴い
織目の幅が見かけ上狭くなり,反射光が重なった状態で受光器に到達する。そのため強度
分布が細かく揃ったように視覚化されたと考えられる。綿以外の繊維においても多くの平
織の試料布で図 4.2-9.と同様の結果を得た。
しかしそれらとは逆に,受光角度の変化とともに,反射率の凹凸が大きく整ったように
見える試料布があった。図 4.2-10.は試料 S3(綿)のよこ方向,反射光 S+D の受光角度 0
度と 60 度の結果であるが,試料 S3 は 3 観察方向とも同様の結果となった。試料 S3 の織
組織は 3/1 右上がりの斜文織である。3 方向いずれにおいても,たて糸を遮るよこの織糸
(a)
(b)
125
125
100
100
75
50
25
0
75
50
25
0
図4.2-10.
反射光の強度分布-S3-Direction:
weft
図 4.2-10.
反射光の強度分布-S3,よこ方向
AOR (a): 0 deg; (b): 60 deg
AOR (a): 0deg, (b): 60deg
が少ないため,
交錯点が少なく連続して表出する反射面が平織より広くなる。
それにより,
受光角度が変化すると平織と同様,見かけ上の 1 本の織糸面は狭まるが,平織よりは織糸
同士が繋がったように見かけの反射面が広くなるため,凹凸の形が大きく揃った強度分布
になったと考えられる。
また少数であるが,受光角度 60 度において,表面で乱反射のような分布を示す試料布が
あった。図 4.2-11.にその試料 S5(綿の平編)のたて方向,反射光 S+D の受光角度 0 度と
60 度の結果を示す。布の柔らかな質感には表面反射の状態と鏡面・拡散成分の割合が影響
するとされる。試料布の中でシルケット加工された綿の平編の S5 とシルケット加工され
ていない綿の平編の S6 はとくに柔らかい印象を与える。これらは,コース方向のカバー
93
第4章
布微小面の反射特性の解析
ファクタで 0.82 と被覆度が高く,編糸同士の隙間が小さい上に,短繊維の綿であるため,
糸の撚りから外れた繊維が試料表面を覆っているのが目視でも確認できる。平織は交錯点
による表面形状が要因となって,強度分布にも規則性が見出されたが,今回選択したニッ
ト布では,繊維が覆う表面形状により反射光が相互反射し合い,様々な方向への乱反射が
現れた。それは受光角度の変化によりさらに顕著になることも明らかとなり,柔らかい印
象の要因になったことが推察される。
(a)
(b)
125
125
100
100
75
50
25
0
75
50
25
0
図 4.2-11.
反射光の強度分布-S5,たて方向
図4.2-11.
反射光の強度分布-S5-Direction:
warp
AOR
(a):0deg,
0 deg;
60 deg
AOR (a):
(b):(b):
60deg
(2)-b. 受光変角による反射率平均値の変化
50×50pixels の微小面の反射率平均値についても,試料と受光角度を要因とする変動を
検定するため,
設置方向と反射成分ごとに,
繰り返しのない 2 元配置の分散分析を行った。
3 設置方向と 2 反射成分のいずれについても,変動要因とした試料と受光角度のそれぞれ
の分散比が前節に示した F 値より大きな値となり,微小面の反射率の平均値も有意差
(p<0.01)が認められたことから,各試料布でその変化の特徴を検討した。
通常は入射光と対称角度(正反射角)の方向へ強い反射を示すが,布では正反射方向よ
りさらに大きい角度で最大となる現象が知られていることは,本報告の目的で既述した。
しかし,その反射成分は不明であった。布の極小面の反射光を分離して確認した今回の結
果では,繊維によって反射率は異なるが,すべての試料において正反射方向より大きい受
光角度で反射光の S+D の反射率が最大となる現象となった。図 4.2-12.に試料布 S1(綿)
のたて方向,図 4.2-13.に試料布 S10(レーヨン)のたて方向を示す。図 4.2-12.,13.ともに,
反射光の D と S+D の折れ線の差は鏡面反射成分であると考えられる。つまり,受光角度
60 度で最大となった反射の成分は,図 4.2-12.ではそのほとんどが拡散成分であったのに対
し,図 4.2-13.では拡散成分と鏡面成分の合算で最大となったことが示された。
綿布に限らず,拡散光量が受光角度 60 度で最大になる要因としては以下が考えられる。
94
第4章
100
100
S1; warp direction
S10; warp direction
Reflectance(%)
Reflectance(%)
布微小面の反射特性の解析
75
50
25
D
S+D
0
75
50
25
D
S+D
0
0
15
30
45
60
0
AOR(deg)
図 4.2-12. 受光角度ごとの反射率変化-
図4.2-12. 受光角度ごとの反射率変化-視角1度-S1
視角 1 度-S1
15
30
45
60
AOR(deg)
図 4.2-13. 受光角度ごとの反射率変化-
図4.2-12. 受光角度ごとの反射率変化-視角1度-S10
視角 1 度-S10
まず,フーリエ解析の結果で示した通り,受光変角に伴い受光範囲に含まれる織糸の数が
見かけ上増加し,反射光量自体が増したことが挙げられる。また,視覚 1 度の微小面はさ
らに小さい極小反射面の集合体であると推測できる。これら法線の異なる極小の反射面か
らの鏡面光は,受光角度の増加とともに反射方向が変化して拡散成分に含まれることとな
り,第二の拡散反射 22)として捉えられて観察されたことが推察される。
さらに,図 4.2-13.に示したレーヨンや光学密度の高い合成繊維では 45 度と 60 度を中心
に全受光角度で鏡面反射成分が現れた。これに最大量となった拡散成分も加わり,受光角
度 60 度で全反射光量が多くなったことが示された。このことは,一般的な平滑面の物体で
認知される正反射方向での鏡面反射光そのままの光沢は,これらの布では現れにくいこと
を示すものと考える。
4.2.4. 要約
平滑な表面の物体とは異なり,拡大すれば粗面に分類される布では,その繊維や組織の
種類によって質感や印象が相違することを経験する。本報告では,分離した反射光の鏡面
成分と拡散成分を定量化し,質感に影響を及ぼすと考えられる布微小面の反射特性につい
て以下の点を挙げることができた。
織糸 1 本分の範囲では,綿の織糸からの鏡面反射光,つまり S 成分は,受光角度 45 度
(正反射方向)のみで抽出され,他の角度では少なかった。しかし,絹では受光角度に依
らず鏡面反射光量が多く,
レーヨンや合成繊維ではさらに多かった。
それらの要因として,
繊維の光学的性質とともに,織糸側面の形状が影響したことが推察される。
約 0.17cm 四方の微小な反射面では,試料の設置方向の相違によって強度分布が異なり,
布特有の異方性反射の状態を視覚化することができた。多くの試料布で,受光角度の変角
とともに細かく整ったような強度分布の変化が現れた。これは,見かけ上織糸の間隔が狭
くなる表面形状を反映したものと考えられる。
受光角度に伴う布微小面の反射率の変化は,
すべての試料布において受光角度 60 度で最
95
第4章
布微小面の反射特性の解析
大となった。この現象は,布表面に存在すると考えられるごく微小な反射面からの鏡面反
射成分が受光角度の変化とともに拡散反射成分として観察されたことが要因の一つではな
いかと考えられる。また,全反射の成分割合は試料によって異なり,受光角度 60 度におい
て,綿では大部分が拡散反射成分であったのに対し,レーヨンや合成繊維では最大となっ
た拡散反射成分に加え,鏡面反射成分も多く含まれていた。
限られた試料ではあったが,本研究では布の反射特性を示すいくつかのデータが得られ
た。今後の課題として,それらの反射データからそれぞれの布に特有の,あるいはすべて
の布に共通する反射モデルやそのパラメータを推定し,分類することが必要であると考え
る。それによって,これまでにない現実感を持った布の CG 画像の製作も可能になると思
われる。
96
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
第 5 章 布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
本章の目的と概要
第 5 章では,第 4 章で明らかにした布の反射特性を反映した布 3DCG 画像の作成と評価
を行った。第 3 章でまとめた布 CG 画像の先行研究の文献には,画像を作成するための
BRDF や反射モデルの記述式は記載されていたが,その作成結果は CG 画像が示されてい
るだけであった。プログラミング言語の種類やソースコードなどの詳細は紙面数の都合の
ためか割愛されており,BRDF や反射モデルをどのようにプログラムなどに反映している
のか,CG 画像の作成手続きも含め知ることはできなかった。また,作成された CG 画像
は結果画面が表示されているのみで,標本となった布と比べてどの程度近似しているか,
本物らしさを感じるかといった客観的な評価測定は行われていなかった。
本研究の目的の一つに,服の色彩調査を行う者が専門的なプログラミング技術がなくと
も調査に有用な色刺激を簡便に作成できるようになることを挙げた。近年は安価であるに
もかかわらず優れたスペックを持つ 3DCG ソフトウエアが市販されている。まず,それら
を利用して,実測して導き出した布特有の反射特性を反映した布の 3DCG 画像の作成を行
った。次にその画像が布試料の実物と質感が近似しているかを評価実験により確認した。
本章の構成は以下の通りである。5.1.節では利用する市販の 3DCG ソフトウエアの光学
的特性を明らかにした。本研究で選定した 3DCG ソフトウエアは,第 3 章で紹介した中の
鏡面反射モデルのうち Blinn モデルを採用しているということであるが,設定パラメータ
を変化させて作成した画像が実際のディスプレイ上で反射率がどう変化するのかを確認し
たデータはない。そのためまず,このソフトウエアの光学的特徴を実測により把握した。
次にソフトウエアの光学的特徴をふまえながら,10 種類の布試料の 3DCG 画像を作成した。
5.2.節では作成した画像と実際の布試料,さらに対照画像と比較する視感評価を行った。そ
の結果を織組織・繊維別,観察角度別に整理し,作成した布 3DCG 画像の精度を確認した。
5.1. 布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成
5.1.1. 目的
近年,市販の 3DCG ソフトウエアは大変改良され,安価で性能も良くなってきたと評価
されている。モデリングやレンダリング機能はもちろん,照明や材質,アニメーションの
設定まで,様々な機能が装備されている。そのような優れたソフトウエアの中で,本研究
では Shade 3D Ver.14(イーフロンティア)を選定した。このソフトはモデリングやレンダ
リングだけではなく,表面材質やカメラ,ライト,環境光に至るまで細かな機能設定があ
り,簡易な動作でそれぞれを指定することができる。つまり,パソコンに精通していなく
ても基礎的な知識と動作指定で,凸凹などのある複雑な表面形状を作成することも可能で
98
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
ある。よって,平滑面とは異なる特徴を持つ布の CG 画像作成も容易となる。
しかし操作が簡単であるために,実際とは異なる,あるいは物理的にはありえない形状
や反射を作りだすことも可能となり,画像作成の意図によっては,物理現象を逆の現象を
表現することもできる。モデリングやレンダリングの形状,表面反射,環境光に影響され
る見え方などを自由に作り出すことができるのは,ソフトウエアのツールボックスといわ
れる設定機能のパラメータを使用者の経験や感覚で入力することにより作成されるものだ
からである。誰にも真似されることのない独創的な画像を作成するのであれば,実測デー
タに基づく必要はなく,自由な感覚でパラメータを設定すればよい。しかし,本研究では
実測から得た布表面の反射特性を基にした布 CG 画像作成を目指しているため,パラメー
タの設定は重要となり,反射データも反映されなければならない。
そこでまず,今回使用した 3DCG ソフトウエア Shade 3D Ver.14 の材質や照明を指定する
パラメータごとに光学的特徴を確認した。次節で実物試料布との比較評価実験を行うにあ
たり,この光学特性の測定と視感評価実験の条件等は同じ設定にした。ディスプレイ上の
CG 画像の輝度を測定し,指数関数式により反射率を算出した。その算出反射率と第 4 章
の微小面の反射率結果をおおよそ同値に揃えることで布の反射特性を反映させ,かつ簡便
な調査刺激用の 3DCG 画像作成を試みた。
5.1.2. 3DCG ソフトウエアの光学的特徴
(1) 布 3DCG 画像作成の設定パラメータ
3DCG 画像を作成するソフトウエアには,モデリングをはじめ,シェーディング,環境
光,照明,材質,色彩,レンダリングなどに数多くの設定項目が用意されている。入力値
(パラメータ)も無限に選べるようになっている。しかし,そのパラメータの値を変化さ
せることによって,私たちが実際に見ているディスプレイの画像がどのように変化してい
るかはわからない。極端な例を挙げれば,照明パラメータを「1」から「20」に変化させて
入力したにもかかわらず,ディスプレイ上の画像の明るさに変化が現れないことも予想さ
れる。また,パラメータの数値変化とディスプレイの画像の見え方にどのような相関があ
るのかも明らかになっていない。そこで,ソフトウエアの設定パラメータと作成した画像
のディスプレイ上の反射率の関係を明らかにして光学的特徴を捉える。
(1)-a. 布 3DCG 画像の作成方法と設定パラメータ
作成した布の画像は,図 5.1-1.から図 5.1-3 に示す 3 種類とした。3 原組織といわれる「平
織」
「斜文織」
「朱子織」の織組織画像で,第 4 章で測定した試料布にも選定された織組織
である。たてとよこの織糸の交錯により,布表面に規則性のある細かな凸凹が現れるよう
にした。実際には,繊維を撚って織り糸にして布は織製されるが,その撚り回数は 1m 間
99
第5章
図 5.1-1. 平織布画像
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
図 5.1-2. 斜文織画像
図 5.1-3. 朱子織画像
に 300 回(弱撚糸)から 1000 回(強撚糸)であるため,本研究の画像にはその撚り状態を
反映させていない。理由は,実物の布でも撚りの状態は見ることができないことと,CG
画像の容量が大きくなりすぎてしまうためである。この織糸は円柱の断面を楕円形にし,
表面が曲面状になるようモデリングしている。これは後述するが,設定パラメータのうち
「光沢」
(図 5.1-4.)は表面が二次平面
の状態であると機能しない。つまり,
画像表面に光沢が表出した状態になら
ないためである。
通常着用されている服の状態を考慮
し,今回は画像方向をたて方向のみと
した。さらに対照比較画像として,表
面の形状が平らな状態の画像
(図 5.1-5.)
とその表面にデニム生地のテクスチャ
をマッピングした画像(図 5.1-6.)も
作成した。服の色彩調査用色刺激を作
成することが目的であるため,いずれ
もドレーピングのない平らな状態の布
図 5.1-4. 「光沢 1」設定画面
出典:Shade 3D Ver.14 作成画面
図 5.1-5. 平面画像
画像とした。
図 5.1-6. テクスチャマッピング画像
既述した通り,3DCG ソフトウエアには現実的な材質感を感じさせるために多くの設定
項目が実装されている(表 5.1-1.)
。予備実験の結果から,「光源機能」と「表面材質」の
設定パラメータに絞って画像を変化させることとした。とくに,
「光沢 1 の強度」と「サイ
100
第5章
ズ」を鏡面反射成分(S 成分)と想定してパラ
表
5.1-1.設定項目
設定項目
表5.1-1.
光源
明るさ
環境光
方向
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
拡散反射
光沢1
光沢1‐サイズ
光沢2
光沢2‐サイズ
反射
透明
屈折
環境光
材質
粗さ
異方性反射
フレネル
メタリック
発光
ソフトブロー
バックライト
収差
メータ設定を計画した。
(1)-b. 作成した布 3DCG 画像の反射率測定方法
用いた 3DCG のソフトウエアは既述の通り
Shade 3D Ver.14(イーフロンティア)
,ディスプ
レイは LCD-AD195VB-HS2(I.O DATA)であり,
ディスプレイとパソコン(TOSHIBA dynabook
satellite B353/25JB)は DVI ケーブルでつないだ。
まず,前項に示した平織と斜文織,朱子織の 3 種類の 3DCG による布画像を作成した。
対照比較画像として,平面画像とテクスチャマッピング画像も作成した。変化させる設定
パラメータは,表 5.1-1.に示したうち「光源機能」の「明るさ」
,
「環境光」
,
「方向」
,
「表
面材質」の「拡散反射」
,
「光沢 1 の強度」
,
「光沢 1 のサイズ」とした。光源は点光源や並
行光源,スポットライトなどを作成することができるが,太陽光を想定した「無限遠光源」
を選定した。
光源の位置は遠く光が直進することで,
影が並行になるよう設定されている。
表 5.1-1 の「明るさ」はこの「無限遠光源」の明るさである。また,
「環境光」とは全体を
照射する疑似的な光で,画像に陰影を与える役割を持つ。この 2 種類の光源設定は,画像
の角度を 15 度や 30 度に変化させた場合,凹凸のない平面画像ではピンライト状の光が出
現するため,
「無限遠光源」の「光沢」を 0 に設定した。さらに,
「光沢 2 の強度」
,
「光沢
2 のサイズ」
,
「粗さ」
,
「異方性反射」といった設定項目は,画像の反射率に影響を与えな
いことを予備実験により確認しているため,今回は操作しない。照明方向は左方向 45 度に
固定し,受光方向(画像面の方向)は 0 度(法線方向)
,15,30,45,60 度に変化させた
画像を準備した。これも,第 4 章の 4.2 節でまとめた布反射の測定方法に合わせている。
表 5.1-2.
設定パラメータの組合せ
表5.1-2.
設定パラメータと組合せ
次に,ディスプレイ上の布画像の反射率を算出し
朱子織
た。表 5.1-2.に示すパラメータで設定された画像を
画像角度:0,15,30,45,60deg
レンダリングしてディスプレイの中央に表出した。
平織
斜文織
×
光源角度:左方向45度
×
光源明るさ:0.8~1.2
×
環境光(明るさ):0~0.2
×
拡散(割合):0.8~1.2
×
光沢1(強さ):0~10
×
光沢1サイズ:0~1.0
レンダリングの解像度は,幅を 160pixels,高さを
120pixels,ピクセル縦横比は 1.00,解像度 72.00DPI
とした。いずれも予備測定によって視感に最適な数
値を選定している。ディスプレイ上の画像サイズは
縦 4.5cm,横 5.0cm となり,その画像を輝度計
(MINOLTA LS-100)で測定した。また同時に,濃
度 15 段階のグレースケール(反射率 3~81%相当
Edmond Optics Japan)と拡散標準白色板(反射率 98%
101
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
Labsphere)の輝度も測定し,既知の反射率から布の 3DCG 画像の反射率を指数関数式によ
り算出した。いずれの測定も輝度計との距離は 1m で,光源(Panasonic FPL27EX-N)はグ
レースケールの照射のみとして,吸光シートでディスプレイを覆い,雑光線を遮蔽した。
次節の測定に揃えて機器の設置を行った。その状態は図 5.1-7.に示す。
付記 1:撮影のため室内灯を
点灯している
付記 2:撮影角度により刺激の
図 5.1-7. 機器の設置状態
大きさが不揃いとなっている
(2) 作成した布 3DCG 画像の反射率測定結果
(2)-a. 「光沢 1」のサイズパラメータ別反射率比較
平織布を表現した 3DCG 画像について,
「光沢 1」のパラメータ値を大きくする(光沢を
強くする)
ことに従い反射率がどのように変化するのかをサイズパラメータ別に比較した。
正面画像(画像角度 0 度)について,
「光源」0.8~1.2,
「環境光」0.0,
「拡散」0.8~1.2 の
パラメータごとの変化を図 5.1-8.~図 5.1-13.に示す。
120
100
反 80
射
率 60
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
% 40
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-8.図5.1-8
光沢サイズ別反射率-光源
0.8,環境光 0.0,拡散 0.8
光沢サイズ別反射率-光源0.8,環境光0.0,拡散1.0
120
100
反 80
射
率 60
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
% 40
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-9. 光沢サイズ別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,拡散 1.0
図 5.1-8.~13.に共通していたのは,
「光沢 1」のサイズパラメータを「0.2」にした場合の
変化であった。
「光沢 1」のサイズを「0.2」設定すると「光沢 1」の強度パラメータ値を大
きくしてもディスプレイの反射率はほほ変化しなかった。サイズ「0.5」と設定した場合は,
102
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
図5.1-9.光沢サイズ別反射率-光源0.8,環境光0.0,拡散1.2
120
100
反 80
射
率 60
% 40
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-10. 光沢サイズ別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,拡散 1.2
図5.2-13 光沢サイズ別反射率-光源1.2,環境光0.0,拡散0.8
120
100
反 80
射
率 60
% 40
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.2-11. 光沢サイズ別反射率-光源 1.2,環境光 0.0,拡散 0.8
図5.2-14 光沢サイズ別反射率-光源1.0,環境光0.0,拡散1.0
120
100
反
80
射
率 60
%
40
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.2-12. 光沢サイズ別反射率-光源 1.2,環境光 0.0,拡散 1.0
図5.2-15 光沢サイズ別反射率-光源1.2,環境光0.0,拡散1.2
140
120
100
反
射 80
率
60
%
40
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.2-13. 光沢サイズ別反射率-光源 1.2,環境光 0.0,拡散 1.2
「0.2」よりは変化が現れたが,
「光沢 1」の強度パラメータが「5」より大きくなっても反
射率が変化しない画像があった。サイズ「1.0」と設定した場合は,
「光源」や「環境光」
,
103
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
「拡散」のパラメータ値が高い画像を除き,
「光沢 1」の強さを示すパラメータ値に従い,
ほぼ比例して反射率が高くなったが,比例的な変化が現れなかった画像もあり,とくに「拡
散」のパラメータ値を「1.2」とした画像では,反射率の変化が小さくなった。
「光源」と「環境光」
,
「拡散」のパラメータ値の組合せで,反射率自体は異なったが,
「光沢 1」のサイズパラメータ別に「光沢 1」の強さパラメータによる反射率の変化をみる
とほぼ同様の推移となった。
斜文織布を表現した 3DCG 画像も「光沢 1」の強さパラメータによる反射率の変化につ
いて「光沢 1」のサイズパラメータ別に比較した。
「光源」0.8,
「環境光」0.0,
「拡散」0.8
~1.2 のパラメータごとの結果を図 5.1-14.~図 5.1-16.に示す。
図 5.1-25. 光 沢サイズ別反射率 光源0.8,環境光0.0,拡散0.8
120
100
反 80
射
率 60
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
% 40
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-14. 光沢サイズ別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,拡散 0.8
図 5.1-27. 光 沢サイズ別反射率-光源0.8,環境光0.0,拡散1.2
120
100
反 80
射
率 60
% 40
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
サイズ1.0
20
0
0
2
1
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-15. 光沢サイズ別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,拡散 1.0
図 5.1-26. 光 沢サイズ別反射率-光源0.8,環境光0.0,拡散1.0
120
100
反 80
射
率 60
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
% 40
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-16. 光沢サイズ別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,拡散 1.2
平織布画像とは異なり,すべての反射率測定結果を示していない。反射率自体は異なる
104
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
結果となったが,
「光沢 1」のサイズパラメータごとの変化が平織布画像と斜文織布画像と
で大きく異なる点が見られなかったためである。結果を要約して記述すると,
「光沢 1」の
強度パラメータによる反射率の変化は,
「光沢 1」
のサイズパラメータごとに異なった。
「0.2」
ではほぼ変化が見られず,
「0.5」でははじめに変化が現れて,ある値から変化が見られな
くなった。
「1.0」ではパラメータ値の変化に比例した反射率の増加が現れた。また,これ
も平織布画像と共通した結果であるが,
「光源」と「環境光」
,
「拡散」のパラメータ値が高
い条件においては,
「光沢 1」の強度とサイズパラメータ値に関係なく反射率が高い結果と
なった。
朱子織布の画像についても,
「光沢 1」のパラメータ別に反射率を比較した。
「光源」0.8,
「環境光」0.0,
「拡散」0.8~1.2 のパラメータごとの結果を図 5.1-17.~図 5.1-19.に示す。
120
100
反 80
射
率 60
% 40
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-17. 光沢サイズ別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,拡散 0.8
図
光沢
反
率
光源
,環境光
,拡散
120
100
反 80
射
率 60
% 40
サイズ0.2
(
サイズ0.5
)
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-18 光沢サイズ別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,拡散 1.0
120
100
反
射
率
80
サイズ0.2
60
(
%
サイズ0.5
)
40
サイズ1.0
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光 沢 1の強さ
図 5.1-19. 光沢サイズ別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,拡散 1.0
105
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
これも斜文織画像の結果と同様,すべての反射率測定結果を示していない。朱子織画像
の反射率測定結果でも,各設定パラメータの組合せによって反射率自体は異なる結果とな
ったが,
「光沢 1」のサイズパラメータごとの変化は平織布や斜文織布画像の結果と同様の
傾向が現れたためである。
画像を作成する際できるだけ誤差要因を排除するために,織糸に相当させた断面が楕円
の円柱形状は,平織,斜文織,朱子織布画像のたて糸とよこ糸すべてに同じ形状を用いた。
そのたてとよこの織糸を一つおき,
あるいは二つおきに組み合わせて布画像を作成したが,
画像の織糸部分の違いによって画像全体の反射率は異なることが明らかになった。
ただし,
変化の傾向は共通する点が多かった。
(2)-b. 「拡散」のパラメータ別反射率比較
平織布の 3DCG 画像の反射率について,
「光沢 1」の強さパラメータによる反射率の変化
を「拡散」のパラメータ別に比較した。
「光源」0.8,
「環境光」0.0,
「光沢 1」サイズ 0.2~
1.0 のパラメータごとに,図 5.1-20.~図 5.1-22.にその結果を示す。
120
100
反 80
射
率 60
拡散0.8
(
拡散1.2
)
% 40
拡散1.0
20
120
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
100
光沢1の強さ
図 5.1-20. 拡散別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,
反 80
射
率 60
拡散0.8
(
光沢 1 サイズ 0.2
拡散1.0
)
% 40
拡散1.2
20
120
0
100
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
反 80
射
率 60
% 40
拡散0.8
(
図 5.1-21. 拡散別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,
拡散1.0
)
拡散1.2
光沢 1 サイズ 0.5
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-22. 拡散別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,
光沢 1 サイズ 1.0
この布画像に限らず,Shade 3D Ver.14 で作成する画像に共通する「拡散」パラメータの
視覚効果は,値が高くなるほど設定範囲が明るく見えることである。図に示した反射率の
測定結果では,
「拡散」パラメータの値を「0.8」
,
「1.0」
,
「1.2」と設定すると「光沢 1」の
106
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
強さが変化するに従い,
いずれの反射率も比例して増加することが明らかとなった。
また,
パラメータ値「0.8」
,
「1.0」
,
「1.2」ごとの変化は同じ割合で推移し,比較すると平行に見
えるような変化となることが分かった。
「光沢 1」のサイズパラメータ(
「0.2」
,
「0.5」
,
「1.0」
)ごとに比較するとその変化は顕著
に異なった。サイズ「0.2」では,
「拡散」パラメータを「0.8」
,
「1.0」
,
「1.2」としたそれぞ
れのグラフは平行になだらかに変化したのに対し(図 5.1-20.)
,サイズ「1.0」ではグラフ
形状が直線に見えるほど変化が大きかった(図 5.1-22.)
。
斜文織布の 3DCG 画像も,
「光沢 1」の強さパラメータによる反射率の変化を「拡散」の
パラメータ別に比較した。
「光源」0.8,
「環境光」0.0,
「光沢 1」サイズ 0.2~1.0 のパラメ
ータごとの結果を図 5.1-23.~図 5.1-25.に示す。
120
100
反 80
射
率 60
拡散0.8
(
拡散1.0
)
% 40
拡散1.2
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
120
10
光沢1の強さ
100
図 5.1-23. 拡散別反射率-光源 0.8,
拡散0.8
(
環境光 0.0,光沢 1 サイズ 0.2
反 80
射
率 60
拡散1.0
)
% 40
拡散1.2
20
0
0
120
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
100
図 5.1-24. 拡散別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,
反 80
射
率 60
拡散0.8
光沢 1 サイズ 0.5
(
拡散1.0
)
% 40
拡散1.2
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-25. 拡散別反射率-光源 0.8,
環境光 0.0,光沢 1 サイズ 1.0
前項の結果(
「光沢 1」のサイズパラメータ別反射率比較)と同様,
「拡散」パラメータ
別の結果も平織布画像と斜文織画像に大きな違いは見られなかった。画像を作成する際,
交錯点の違いにより布の種類を平織画像と斜文織画像,朱子織画像と区別させた。3 種類
の布画像はたてとよこの織糸の表出割合が異なる画像であり,それぞれの織糸が交錯する
107
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
部分としない部分ごとにパラメータが設定されているため,平織布と斜文織布画像の反射
率は異なった。交錯点が多い平織布画像の方がパラメータ設定の条件に関わらず反射率が
高かった。しかし,変化の傾向は図に示す通り,平織布画像と大きな差は現れなかった。
朱子織布を表現した 3DCG 画像についても,
「光沢 1」の強さパラメータによる反射率の
変化を「拡散」のパラメータ別に比較した。
「光源」0.8,
「環境光」0.0,
「光沢 1」サイズ
0.2~1.0 のパラメータごとの結果を図 5.1-26.~図 5.1-28.に示す。
これも,斜文織画像と同様,反射率変化の傾向について平織布画像との大きな相違点は
なかった。反射率の値に関しては,すべての結果において平織布と斜文織布画像の中間の
値を示した。
120
100
反 80
射
率 60
% 40
拡散0.8
(
拡散1.0
)
拡散1.2
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
120
10
光沢1の強さ
100
反
図 5.1-26. 拡散別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,
80
射
率 60
拡散0.8
(
光沢 1 サイズ 0.2
拡散1.0
)
% 40
拡散1.2
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
120
図 5.1-27. 拡散別反射率-光源 0.8,
100
反 80
射
率 60
% 40
環境光 0.0,光沢 1 サイズ 0.5
拡散0.8
(
拡散1.0
)
拡散1.2
20
0
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
光沢1の強さ
図 5.1-28. 拡散別反射率-光源 0.8,環境光 0.0,
光沢 1 サイズ 1.0
(2)-c. 画面角度別反射率比較
本研究では,第 4 章の結果を反映させた布 3DCG 画像の作成を行うため,正面を向いた
画像を 0 度として,
左方向に 15 度ずつ変化させた画像を作成して,
第 4 章での
「受光角度」
の変化に対応させることとした。その画像角度ごとにディスプレイ上の画像の反射率がど
108
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
う相違するかを比較した。鏡面反射成分と想定した「光沢 1」のサイズパラメータを 0.0
として,
「環境光」と「拡散」のパラメータを変化させた。図 5.1-29.~図 5.1-31.に示す。
ここまでに示した通り,
反射率の測定結果は平織布と斜文織布,
朱子織布画像で異なるが,
変化の傾向は近似していたため,この項では平織布画像の結果のみを示す。
180
160
140
反 120
射 100
率 80
%
60
環境光0.0,拡散0.8
環境光0.0,拡散1.0
(
環境光0.0,拡散1.2
)
環境光0.2,拡散0.8
40
環境光0.2,拡散1.0
20
環境光0.2,拡散1.2
0
0
15
30
45
60
画 像角度(deg)
図 5.1-29. 画像角度別反射率-光源 0.8,光沢 1 サイズ 0.0
180
160
140
反 120
射 100
率 80
%
60
環境光0.0,拡散0.8
40
環境光0.2,拡散1.0
20
環境光0.2,拡散1.2
環境光0.0,拡散1.0
(
環境光0.0,拡散1.2
)
環境光0.2,拡散0.8
0
0
15
30
45
60
画 像角度(deg)
図 5.1-30. 画像角度別反射率-光源 1.0,光沢 1 サイズ 0.0
反
射
率
(
%
)
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
環境光0.0,拡散0.8
環境光0.0,拡散1.0
環境光0.0,拡散1.2
環境光0.2,拡散0.8
環境光0.2,拡散1.0
環境光0.2,拡散1.2
0
15
30
45
60
画 像角度(deg)
図 5.1-31. 画像角度別反射率-光源 1.2,光沢 1 サイズ 0.0
109
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
5.1.3. 反射特性を反映した布の 3DCG 画像
(1) 3DCG 画像作成のための布の反射特性
第 4 章では,マイクロスコープと偏光フィルタを用いて,布微小面の反射特性を捉えた
が,その測定結果のすべてを記すことはできなかった。表 5.1-3.(a)と(b)に選定した 14 種類
の試料布のうち 10 種類についての測定結果を示す。表 5.1-3.(a)は織糸 1 本分に相当する
部分についての結果であり,表 5.1-3.(b)はごく微小な平面部分の測定結果をまとめたもの
である。いずれの結果も変角分光測色計によって測定した反射率と指数関数によって算出
した反射率とでは多少の差が見られた。とくに,受光角度 60 度で差が現れた。これは,測
色計の測定範囲が約 5.0×5.0cm であったのに対し,反射率を算出した測定範囲は,(a)にお
いて約 0.04×0.43cm,(b)では約 0.17×0.17cm と測定した箇所の大きさに差があったことが
要因だと考えられる。
受光角度 60 度では微小面の鏡面成分が集合し加算されたと考えられ
る第二の拡散成分が増加すると予測した。受光角度 60 度での反射率が相違した試料は,微
小面では第二の拡散成分として抽出することができたが,大きな面積を測定する変角分光
測色計では微小面での拡散成分が加算され全反射量となるため,表が示す両者の反射率に
差が現れたと考えられる。
表 5.1-3.(a)
布の反射特性:視角 3 度(約 0.04×0.43cm:織糸 1 本相当)
表5.1-3.(a)
布の反射特性:視角3度(約0.04×0.43cm:織糸1本相当)
受光角度
(deg)
全反射に
変角分光
鏡面成分+
拡散成分
対する
測色計
拡散成分
反射率(%)
鏡面成分
反射率(%)
反射率(%)
の割合(%)
S1 : Cotton/Plain/Silket/Warp
0
62.78
15
66.65
30
72.49
45
80.10
60
87.54
S2 : Cotton/Twill/Silket/Warp
0
85.56
15
89.06
30
94.05
45
100.73
60
110.34
S3 : Cotton/Satin/Warp
0
60.84
15
73.86
30
91.97
45
110.12
60
119.07
S4 : Silk/Plain/Warp
0
53.22
15
61.06
30
69.40
45
80.55
60
92.92
S5 : Wool/Plain/Warp
0
49.03
15
49.48
30
51.62
45
57.01
60
66.35
55.99
57.28
62.18
62.43
78.08
56.64
58.04
62.19
72.38
78.90
1.16
1.31
0.00
13.75
1.04
70.39
70.69
72.24
66.94
88.17
72.24
72.11
73.06
81.94
91.78
2.56
1.97
1.11
18.30
3.94
54.66
61.29
71.05
73.57
97.14
53.76
62.23
69.98
86.90
95.35
-1.68
1.51
-1.52
15.34
-1.88
42.88
45.21
49.77
49.86
65.18
53.72
53.74
59.07
72.47
81.95
20.19
15.87
15.74
31.20
20.46
44.88
44.32
45.07
43.06
58.81
50.65
50.83
53.27
61.71
70.22
11.39
12.82
15.41
30.22
16.24
受光角度
(deg)
全反射に
変角分光
鏡面成分+
拡散成分
対する
測色計
拡散成分
反射率(%)
鏡面成分
反射率(%)
反射率(%)
の割合(%)
S6 : Linen/Plain/Warp
0
56.15
52.49
15
61.87
54.86
30
70.84
57.46
45
83.93
54.94
60
101.80
75.84
S7 : Rayon/Plain/Warp
0
58.81
47.90
15
59.43
47.73
30
63.06
46.41
45
70.06
39.97
60
82.06
55.76
S8 : Nylon/Plain/Warp
0
38.36
29.36
15
45.58
29.99
30
52.09
31.95
45
65.18
33.38
60
79.68
47.51
S9 : Polyester/Plain/Thin/Warp
0
39.50
27.58
15
44.54
34.71
30
52.52
38.91
45
61.12
36.36
60
76.77
49.70
S10 : Polyester/Plain/Thick/Warp
0
56.50
48.06
15
56.89
46.50
30
58.91
47.55
45
63.60
42.70
60
71.02
56.38
59.02
60.92
65.21
79.09
87.28
11.07
9.95
11.90
30.53
13.11
63.21
62.44
65.75
78.82
87.52
24.22
23.56
29.41
49.30
36.29
42.13
42.72
44.90
57.86
71.14
30.32
29.80
28.84
42.31
33.22
37.56
51.06
57.66
64.96
75.69
26.55
32.02
32.52
44.02
34.34
56.02
55.07
54.61
62.07
69.88
14.21
15.56
12.93
31.19
19.32
110
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
表 5.1-3.(b)
布の反射特性:視角 1 度(約 0.17×0.17cm:微小平面)
表5.1-3.(b)
布の反射特性:視角1度(約0.17×0.17cm:微小平面)
受光角度
(deg)
全反射に
鏡面成分+
変角分光
拡散成分
対する
測色計
拡散成分
反射率(%)
鏡面成分
反射率(%)
反射率(%)
の割合(%)
S1 : Cotton/Plain/Silket/Warp
0
62.78
15
66.65
30
72.49
45
80.10
60
87.54
S2 : Cotton/Twill/Silket/Warp
0
85.56
15
89.06
30
94.05
45
100.73
60
110.34
S3 : Cotton/Satin/Warp
0
60.84
15
73.86
30
91.97
45
110.12
60
119.07
S4 : Silk/Plain/Warp
0
53.22
15
61.06
30
69.40
45
80.55
60
92.92
S5 : Wool/Plain/Warp
0
49.03
15
49.48
30
51.62
45
57.01
60
66.35
54.83
56.31
59.63
59.61
77.98
56.32
57.36
59.26
69.03
78.40
2.65
1.83
-0.62
13.65
0.54
71.01
70.75
72.91
67.55
88.58
72.31
72.38
73.32
81.86
93.15
1.80
2.25
0.56
17.48
4.91
54.40
61.92
71.05
74.14
88.30
54.61
62.81
70.49
87.48
96.07
0.38
1.42
-0.79
15.25
8.09
43.05
46.72
52.06
51.20
67.18
52.19
56.59
61.84
73.61
82.24
17.51
17.44
15.82
30.44
18.31
42.24
40.57
41.30
40.40
57.41
46.64
45.44
47.80
57.45
68.47
9.43
10.72
13.60
29.68
16.15
受光角度
(deg)
全反射に
変角分光
鏡面成分+
拡散成分
対する
測色計
拡散成分
反射率(%)
鏡面成分
反射率(%)
反射率(%)
の割合(%)
S6 : Linen/Plain/Warp
0
56.15
48.27
15
61.87
51.40
30
70.84
51.89
45
83.93
50.98
60
101.80
72.95
S7 : Rayon/Plain/Warp
0
58.81
43.41
15
59.43
42.91
30
63.06
42.06
45
70.06
36.40
60
82.06
47.23
S8 : Nylon/Plain/Warp
0
38.36
29.22
15
45.58
30.19
30
52.09
32.60
45
65.18
33.57
60
79.68
47.68
S9 : Polyester/Plain/Thin/Warp
0
39.50
27.93
15
44.54
34.72
30
52.52
39.40
45
61.12
37.23
60
76.77
49.05
S10 : Polyester/Plain/Thick/Warp
0
56.50
47.65
15
56.89
45.31
30
58.91
46.64
45
63.60
41.93
60
71.02
56.19
54.55
57.60
58.97
72.66
84.19
11.51
10.76
12.01
29.84
13.35
57.72
58.97
59.08
68.75
80.30
24.79
27.23
28.81
47.05
41.18
41.11
42.26
44.83
57.93
70.93
28.92
28.56
27.28
42.05
32.78
38.51
51.57
57.95
67.16
75.61
27.47
32.67
32.01
44.57
35.13
55.92
52.91
53.81
60.64
68.44
14.79
14.36
13.32
30.85
17.90
第 4 章での測定では,綿の平織布にシルケット加工(綿繊維の断面をふやかして楕円に
する薬品によって布表面に光沢を加える加工)
がされた布とされていない布を選定したが,
それらの測定値に大きな相違が見られなかったため,シルケット加工なしの布をこの測定
試料から除外した。また,同じくシルケット加工と未加工のニット(編組織)布も選定し
ていた。それらの反射特性の要因に,綿繊維が編糸表面を覆っていることを挙げた。3DCG
ソフトウエアによって編(ニット)組織を作成することは可能であるが,繊維で覆われた
撚糸をニット状に表現することは困難であるため,これらも今回の測定からは除外した。
さらに,合成繊維であるアクリルもその反射特性が他の合成繊維試料の特性と重なってい
たため除外し,合計 10 種類に選定し直した。
布 CG 画像作成に反映させる布の反射特性(定量値)としては,表 5.1-3.(a)と(b)のいず
れでも大きな相違はないと予想できるが,CG 画像作成に必要な容量や時間等を考慮する
と表 5.1-3.(b)の方がより適していると判断した。
(2) 布反射特性および 3DCG 画像の光学特性を反映した布 3DCG 画像
当初の実験計画では,分離した反射成分のうち鏡面反射成分については Shade 3D Ver.14
111
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
の設定項目
「光沢 1」
の強さとサイズパラメータによって表現する予定であった。
表 5.1-3.(b)
に示した全反射に対する鏡面反射成分の割合が 10%以下であれば,
「光沢 1」のサイズパラ
メータを「0.0」か「0.2」にし,10~20%であれば「0.5」
,20%以上では「1.0」にした上で,
「光沢 1」の強さパラメータとの組合せで鏡面反射成分を布画像の表面に表現できると考
えたが,想定通りとはならなかった。予備測定用に作成した画像の一部を図 5.1-32.と図
5.1-33.に示す。
図 5.1-32. 鏡面成分を表現した画像①
図 5.1-33. 鏡面成分を表現した画像②
図 5.1-33.は鏡面反射成分を表現するために,
「光沢 1」の強度パラメータを「1.0」
,サイ
ズパラメータを「0.5」とした。画像作成の作業画面では,絹などの布に特有の小さなきら
きらした光沢を表出できたと考えたが,レンダリングし,ディスプレイに映し出すとそれ
らの光沢が認識しづらくなり,実物試料布とは異なる画像となった。また,同じ光沢設定
であっても画像を 15 度から 60 度へと変化させると織糸の交錯点上にみられた光沢が消失
し,
「光沢 1」を「0」とした画像との差が見られなくなった。さらに,設定値によっては
干渉柄が見える画像もあった。そのため,各試料布の反射率を反映することを優先して比
較評価画像用の設定パラメータを選定した。鏡面反射成分の表現には「光源」や「環境光」
パラメータを考慮して画像を作成した。パラメータの設定結果は表 5.1-4.の通りである。
また,対照比較のための CG 画像として,表面が平面のフラット画像とそれに生成り色
のデニム生地をマッピングした画像を用意したが,比較のためにパラメータの設定条件を
揃え,ディスプレイ上の反射率(ルミナンスファクター)も比較する実物試料布や作成し
た布 CG 画像と同じになるよう整えた。作成した画像を図 5.1-34.と図 5.1-35.に示す。
図 5.1-34. 平面画像
図 5.1-35. テクスチマッピング画像
画像角度 15deg
画像角度 15deg
112
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
表
5.1-4.布画像の設定パラメータ
布画像の設定パラメータ
表5.1-4.
画像角度
(deg)
光源
環境光
S1 : Cotton/Plain/Silket/Warp
0
0.8
0.2
15
0.8
0.2
30
1.0
0.2
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
S2 : Cotton/Twill/Silket/Warp
0
0.8
0.2
15
0.8
0.2
30
0.8
0.2
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
S3 : Cotton/Satin/Warp
0
1.2
0.0
15
1.2
0.0
30
1.2
0.0
45
1.2
0.0
60
1.2
0.0
S4 : Silk/Plain/Warp
0
0.8
0.2
15
0.8
0.2
30
1.0
0.2
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
S5 : Wool/Plain/Warp
0
1.0
0.2
15
0.8
0.2
30
0.8
0.2
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
0deg
拡散
1.0
1.0
0.8
1.0
1.0
1.2
1.2
1.2
1.2
1.2
0.8
0.8
0.8
0.8
0.8
1.0
1.0
0.8
1.0
1.0
0.8
0.8
0.8
0.8
0.8
画像角度
(deg)
環境光
拡散
S6 : Linen/Plain/Warp
0
0.8
0.2
15
0.8
0.2
30
1.0
0.2
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
S7 : Rayon/Plain/Warp
0
0.8
0.2
15
0.8
0.2
30
1.0
0.2
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
S8 : Nylon/Plain/Warp
0
1.0
0.0
15
0.8
0.0
30
0.8
0.2
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
S9 : Polyester/Plain/Thin/Warp
0
1.0
0.0
15
0.8
0.0
30
0.8
0.0
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
S10 : Polyester/Plain/Thick/Warp
0
0.8
0.0
15
0.8
0.2
30
0.8
0.2
45
0.8
0.2
60
0.8
0.2
15deg
45deg
光源
1.0
1.0
0.8
1.0
1.0
1.0
1.0
0.8
1.0
1.0
0.8
0.8
0.8
0.8
1.0
0.8
1.0
0.8
0.8
1.0
1.2
1.0
0.8
0.8
0.8
30deg
60deg
図 5.1-36.(a) S1(綿平織シルケット加工)の布 CG 画像
113
第5章
0deg
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
15deg
45deg
30deg
60deg
図 5.1-36.(b) S1 対照画像-平面画像
表 5.1-4.のパラメータ値から作成した綿・平織・シルケット加工の試料 S1 用の比較評価
画像(0~60deg)は図 5.1-36.(a)と(b)に示す。
5.1.4. 要約
3DCG ソフトウエアで作成した布 CG 画像のディスプレイ上の反射率を算出し,設定パラ
メータの変化による光学的特徴を整理した。その結果を踏まえて前章で捉えた微小面での
反射特性を反映した画像作成を行った。次節ではこれらの布 CG 画像の精度を確認する。
*本章に示した Shade 3D Ver.14 による画像は,ディスプレイ画面をハードコピーして,
BMP 形式で保存し直した画像を貼付している。そのため,本節と次節で呈示した CG 画像
は,実際の測定で用いたディスプレイの比較評価用画像とは色などが異なり,正確に再現
されていないことを付記する。
114
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
5.2. 布 3DCG 画像の評価実験
5.2.1. 目的
第 4 章において布微小面の反射光を分離して,拡散成分と鏡面成分の割合と各反射率を
算出して反射特性を捉えた。先行研究でも布のような平滑でない面では,微小面での反射
メカニズムを捉えることが重要だとされていたが,これまでの研究では,対象とした布が
反射光の抽出がしやすい絹やポリエステルのサテン布であった。本研究では,使用頻度の
高い布を対象として微小面の反射特性を見出した。その結果を反映させ,初心者でも扱い
が困難でない汎用 3DCG ソフトウエアを用いて色彩嗜好調査に使用できる布 CG 画像を作
成した。
先行研究においても作成された布 CG 画像は示されていたが,実物標本と比較してその
材質感や本物らしさを客観的に評定し確認した研究はなかった。本節では,反射特性を反
映させて作成した布 3DCG 画像を比較評価実験によって確認した。
5.2.2. 方法
(1) 刺激画像と機器
実物の試料布と比較評価測定を行った。刺激画像は作成した布 CG 画像と比較対照画像
として平面画像,テクスチャマッピング画像,写真画像を選定した。平面画像は画像作成
ソフトの Shade 3D で作成したが,表面に織組織による凸凹がない平面とした。テクスチャ
マッピング画像も Shade 3D に実装されている生成り色のデニム布のテクスチャを用いた。
写真画像はデジタルカメラ(SONY Cyber-Shot DSC-WX200,カメラ有効画素:約 1820 万
画素)を使用して,試料布を等倍で撮影した写真を用いた。作成に用いた 3DCG ソフトウ
エアや比較評価測定で使用するディスプレイなどの機器は前節に示した通りである。
また,
前節 5.1.2(1)-b.で示した方法により,ディスプレイに映し出された布 CG 画像と各比較対照
画像の反射率(ルミナンスファクター)が実物試料布とほぼ同値になるよう整えた。とく
に写真画像は予備測定を行い,目視するディスプレイ上の写真画像が実物に近くなるよう
解像度を調整した。予備測定から,織組織が認識でき比較対照の写真刺激として適すると
判断した試料布は S1,S4,S7 であった。その画像の一部を図 5.2-1.(a)と(b)に示す。
図 5.2-1.(a) 写真刺激:
図 5.2-1.(b) 写真刺激:
S1(綿平織シルケット加工)-0deg
S1(綿平織シルケット加工)-45deg
115
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
測定室は暗室を使用した。光源は実物試料布用の照明とディスプレイのみであり,余分
な雑光線を防ぐため,画像や試料の周りは吸光シートを用いて覆い,機器の周りも黒の布
で覆った。刺激とした実物試料布も刺激画像も大きさは 5×5cm とし,刺激設置の高さも
評価者の目視線に揃えた。画像機器の設置状況は,図 5.2-2.に示す。また,各刺激を実測
した輝度は表 5.2-1.の通りである。
光源固定
試料布設置台 ディスプレイ
変化角度:015
304560度
表 5.2-1.
評価刺激の測定輝度
表5.2-1.
評価刺激の測定輝度
固定
観察角度
光源-試料布
30cm
輝度( cd/m 2 )
刺激-刺激
(中心間)
25cm
試料布用
光源
評価者-刺激
80cm
入射角度:45度固定
評価者
図 5.2-2. 機器の設置状況
(2) 評価項目と評価方法
評価する項目は,予備測定により精
査し,
「布らしさ」
,
「明るさ」
,
「柔らか
さ」
,
「つや」の 4 項目とした。まず,
実物布試料と布 CG 画像を同時に視感
し,実物試料布を 100%として,4 つの
項目において布 CG 画像がどの程度で
あるかをパーセンテージで評価判断さ
せた。白が黒に変化しているなど全く
異なる画像と判断した場合は 0%,ど
ちらでもないと判断した場合は 50%,
など判断の基準と数値をおおよそ示し
た。S1 から S10 まで 10 種類の布 CG
画像の評価測定が終了した後,布 CG
画像と比較する対照刺激を測定した。
B1:
0deg
B2:
15deg
S1 : Cotton/Plain/Silket/Warp
試料布
56.7
67.3
A1
51.2
67.8
A2
54.0
65.9
A3
50.8
64.7
S2 : Cotton/Twill/Silket/Warp
試料布
77.5
86.6
A1
67.6
89.0
A4
59.4
92.6
S3 : Cotton/Satin/Warp
試料布
58.8
72.5
A1
52.6
76.0
S4 : Silk/Plain/Warp
試料布
50.2
59.1
A1
45.5
61.7
A2
48.3
78.4
A3
44.3
61.7
S5 : Wool/Plain/Warp
試料布
44.9
46.3
A1
44.3
34.5
S6 : Linen/Plain/Warp
試料布
50.2
58.7
A1
44.0
58.9
S7 : Rayon/Plain/Warp
試料布
57.9
60.0
A1
45.1
57.9
A2
48.3
54.3
A3
45.0
56.1
S8 : Nylon/Plain/Warp
試料布
35.1
41.5
A1
33.1
38.4
S9 : Polyester/Plain/Thin/Warp
試料布
34.9
47.1
A1
32.2
48.8
S10 : Polyester/Plain/Thick/Warp
試料布
53.7
54.3
A1
50.2
55.9
B3:
30deg
B4:
45deg
B5:
60deg
76.7
80.3
76.9
86.7
86.1
87.5
92.8
89.6
101.1
93.0
93.0
93.6
93.2
105.6
116.1
105.4
113.2
123.7
121.2
112.2
112.7
91.9
96.2
115.9
107.2
120.1
114.8
68.9
73.2
98.1
77.9
85.3
80.0
103.7
79.7
97.2
82.2
93.9
84.3
50.8
49.2
58.3
56.7
72.1
57.7
67.9
69.5
83.3
76.2
98.6
80.7
64.6
69.1
63.5
76.5
73.9
75.7
79.2
77.5
90.7
80.8
90.2
79.7
48.5
49.1
62.1
54.4
82.0
79.2
61.3
46.0
63.4
54.0
79.5
77.6
57.6
49.4
64.7
54.7
77.6
56.7
A1:布CG画像,A2:平面画像,A3:写真画像,
A4:テクスチャマッピング画像
平面画像(S1,S4,S7)
,マッピング
画像(S2)
,写真画像(S1,S4,S7)の順に行った。評価項目も手続きも布 CG 画像と同
様にして視感評価測定を行った。
116
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
評価者は短期大学に在籍する女子学生とした。テキスタイルサイエンスを受講した者も
いたため,予断を与えないよう実物布試料については繊維名などを示さなかった。
評価者から 80cm 離して評価刺激を置いた。
実物布試料には左方向 45 度から照明を当て,
回転台に固定した。回転台は,0 度(法線方向,実物試料の正面)
,15 度,30 度,45 度,
60 度と回転させた。それぞれの回転角度ごとに,ディスプレイにも同じ角度の刺激画像を
表出させて,実物試料布と刺激画像を同時に比較して評価した。評価者は視点を固定し,
評価時間や休憩時間なども適切に設定した。機器の設置状況は図 5.2-2.に示す。なお,前
節では CG 画像を作成する際,ソフトウエア Shade 3D の移動ツールを用いて,画像左端を
起点に角度を 15 度ずつ回転移動させて評価刺激を作成し,
変化角度を画像角度と記述した。
本節では各角度で視感評価を行うため,角度の変化を観察角度とした。
測定時期は 1 回目が 2014 年 11 月から 12 月で,評価者数は 9 名,2 回目が 2015 年 2 月
から 3 月で,評価者数は 19 名であった。1 回目の測定は予備的実験と位置付け,その結果
から評価の基準や平面画像と写真画像の改良をして,本実験(2 回目の測定)を行うこと
とした。
評価項目は既述の通り 4 項目を選定したが,表 5.2-1.に示した通り,各刺激の実測輝度
は同値ではない。また,試料布の輝度とも 5cd/m2 程度の誤差がある。そのため,評価項目
「明るさ」の比較評価は参考結果として布 CG 画像の有効性を考察した。また,評価項目
「つや」は,比較刺激の表面のつややかさの類似度を評価した結果である。
5.2.3. 結果と考察
(1) 試料別の画像評価結果
視感比較を行った評価結果(評価者 19 名)のうち,S1(綿・平織・シルケット加工)
,
S2(綿・斜文織)
,S3(綿・朱子織)
,S4(絹・平織)
,S5(毛・平織)は表 5.2-2.(a)に示す。
また,S6(麻・平織)
,S7(レーヨン・平織)
,S8(ナイロン・平織)
,S9(ポリエステル・
平織・薄地)
,S10(ポリエステル・平織・厚地)は表 5.2-2.(b)に示す。
この視感比較測定は前述した通り,評価者 9 名による予備測定を経て行った。作成した
布 CG 画像については,予備実験と本実験で,刺激と評価項目,手続きなど全く同じ方法
で行ったが,評価者と測定時期は異なった。そこでまず,画像や評価項目,手続き等の有
用性を確認するため,予備実験と本実験の結果について,エクセル統計 2004(㈱社会情報
サービス)を用いて分散の均等性と平均値の差の検定を行った。その結果,S8(ナイロン・
平織)のみ,観察角度 0,15,30,45 度の 4 評価項目において,予備実験と本実験の平均
値の差に有意差(危険率 5%,1%)が認められたが,他の 9 試料は 5 つの観察角度と 4 つ
の評価項目すべてにおいて,分散の均等性と平均値に有意な相違が認められなかった。よ
って,この視感評価測定では評価者と測定時期が異なっても安定して比較評価結果が得ら
117
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
れることを確認した。また,比較対照画像については,予備実験で見出した画像の不具合
を修正し,本実験を行った。
表 5.2-2.(a)
視感比較の評価結果:S1,S2,S3,S4,S5
表5.2-2.(a)
比較評価結果:S1,
S2, S3, S4, S5 (n=19)
観察角度
評価項目
B1:0deg
平均
評価値
S1 : Cotton/Plain/Silket/Warp
布らしさ
67.4
明るさ
66.7
A1
柔らかさ
61.7
つや
66.2
SD
B2:15deg
平均
評価値
SD
(n=19)
B3:30deg
平均
評価値
SD
B4:45deg
平均
評価値
SD
B5:60deg
平均
評価値
SD
(%)
5角度
評価値
平均
12.8
11.2
10.8
12.3
73.6
71.6
65.9
68.7
9.0
10.8
12.3
10.9
71.8
75.4
68.7
71.1
10.3
11.7
10.7
11.5
73.8
76.6
69.3
70.0
8.0
10.1
8.6
8.5
72.3
75.5
70.9
69.3
9.2
11.2
10.5
10.4
71.8
73.2
67.3
69.1
54.4
63.7
60.7
62.6
14.6
10.1
12.4
9.0
56.5
69.2
63.4
65.8
13.5
10.2
13.3
11.7
56.7
73.3
63.8
65.7
12.2
12.2
12.6
11.4
57.4
74.1
63.9
67.0
11.7
10.6
13.3
9.8
58.6
75.5
65.1
67.6
11.8
12.2
12.8
10.4
56.7
71.1
63.4
65.8
布らしさ
69.1
明るさ
55.5
A3
柔らかさ
65.8
つや
63.2
S2 : Cotton/Twill/Silket/Warp
布らしさ
63.8
明るさ
62.1
A1
柔らかさ
61.5
つや
62.8
12.7
10.5
14.3
15.5
68.5
57.9
64.4
63.5
11.3
11.0
10.6
12.9
72.3
62.6
68.8
69.4
14.2
11.0
10.7
13.5
73.0
63.9
70.6
70.9
13.7
12.2
10.8
13.2
73.4
66.8
72.6
70.6
12.3
14.5
12.5
13.1
71.3
61.4
68.5
67.5
12.4
10.2
9.0
9.5
66.3
67.1
65.9
64.4
10.3
10.2
9.3
8.7
68.8
72.3
68.7
66.1
10.3
8.3
8.8
8.3
68.9
74.7
67.9
69.4
8.3
8.5
8.5
9.7
72.9
77.4
71.8
71.3
10.0
9.5
8.2
8.0
68.2
70.7
67.2
66.8
61.1
68.2
63.9
66.3
14.8
14.9
13.2
14.0
62.8
71.2
65.4
67.3
11.5
11.8
13.3
13.6
64.5
75.7
65.4
69.8
11.5
12.2
11.5
12.1
62.4
77.9
66.7
69.5
9.9
13.1
11.0
11.4
64.6
80.2
67.4
70.4
10.0
10.4
12.4
12.5
63.1
74.6
65.8
68.6
60.9
60.8
63.0
62.2
9.0
9.2
10.9
10.6
64.6
64.2
63.7
64.9
8.8
8.5
8.4
10.0
67.4
68.6
67.1
67.6
8.6
8.5
8.7
9.3
70.8
74.2
69.9
69.2
7.9
10.0
8.0
9.7
76.6
79.7
74.6
73.7
9.2
9.0
7.6
10.0
68.1
69.5
67.6
67.5
68.3
62.1
64.7
63.6
9.5
9.2
8.0
8.4
70.7
66.3
68.0
65.6
6.7
7.5
6.9
7.5
73.7
72.1
71.9
70.4
5.4
8.2
5.7
6.5
75.5
74.6
73.0
72.1
5.3
9.3
7.3
8.9
78.6
79.6
77.8
76.2
7.7
8.7
9.0
8.8
73.4
70.9
71.1
69.6
52.1
54.7
57.3
59.4
10.6
8.7
11.6
11.3
56.1
61.6
59.4
62.0
10.4
11.9
10.6
11.2
57.8
66.5
60.7
64.6
11.2
12.7
10.6
12.4
59.6
70.0
64.1
67.4
9.1
12.8
11.2
10.9
60.7
70.7
64.6
66.8
9.2
14.1
11.3
11.1
57.3
64.7
61.2
64.1
65.3
50.2
63.4
62.1
12.9
9.8
11.5
12.7
65.0
55.8
66.3
63.4
11.3
12.1
10.9
10.6
66.9
59.0
66.9
65.8
11.5
12.4
11.6
10.3
69.6
62.5
69.3
66.9
11.7
13.8
10.0
11.3
73.9
68.9
74.2
73.2
11.8
13.2
10.3
12.5
68.1
59.3
68.0
66.3
68.2
64.5
68.7
65.3
9.8
9.8
8.0
10.1
71.9
65.6
69.7
67.9
8.4
8.5
7.1
9.3
75.6
68.9
72.2
71.7
9.0
8.2
8.4
9.8
75.3
71.6
75.5
71.9
8.2
8.7
8.9
10.3
78.4
78.1
76.6
75.0
9.2
9.0
9.6
10.5
73.9
69.7
72.5
70.4
A2
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
S3 : Cotton/Satin/Warp
布らしさ
明るさ
A1
柔らかさ
つや
S4 : Silk/Plain/Warp
布らしさ
明るさ
A1
柔らかさ
つや
A4
A2
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
布らしさ
明るさ
A3
柔らかさ
つや
S5 : Wool/Plain/Warp
布らしさ
明るさ
A1
柔らかさ
つや
A1:布CG画像,A2:平面画像,A3:写真画像,
A4:テクスチャマッピング画像
118
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
まず,作成した布 CG 画像について各試料で分析した。10 種類の試料布のうち半数(S1,
S4,S5,S6,S7,S10)において,評価項目「布らしさ」の 5 角度の評価値平均が 70%を
超えた。とくに,絹の平織布(S4)
,毛の平織布(S5)
,麻の平織布(S6)は 5 角度の評価
値平均が高かった。以下,対照画像との比較を含め,各試料布の測定結果を分析し示す。
S1 のシルケット加工された綿の平織布は,評価項目「布らしさ」の布 CG 画像の結果に
おいて 5 角度の評価値平均が 71.8%となった。
第 4 章で解析した布の反射特性では,
綿 100%
の布は受光角度 45 度以外の角度(0,15,30,60 度)で抽出鏡面成分が少なかった。今回
は,設定パラメータ「光沢 1」を「強さ」と「サイズ」ともに「0.0」とし,鏡面成分が少
なく拡散成分が多い布を想定した画像を作成して評価刺激としたため,実物試料布と比較
しても布らしさが 70%を超える評価値となり,
「明るさ」も 73.2%と高い評価を得た。それ
に対し,対照画像のうち平面画像は評価項目「布らしさ」で 5 角度の評価値平均が 56.7%
と低かったが,
「明るさ」は 71.1%と高かった。写真画像では逆に,
「布らしさ」の評価が
71.3%と高く,
「明るさ」が 61.4%と低かった。既述の通り,
「明るさ」の評価結果は参考と
して考察を行うが,表 5.2-1.に示した通り,S1 は刺激間の輝度差は 5cd/m2 以内と大きくは
なかった。しかし,
「明るさ」評価は異なるものであり,輝度差がそのまま評価とならない
ことが観察された。
S2 の綿の斜文織は,布 CG 画像で 4 評価項目とも 5 角度の評価値平均は 68%ほどの評価
となった。これも,反射特性解析において受光角度 45 度以外は鏡面反射成分が少ないとさ
れた布であったが,S1 より評価値が低かった。これは,パラメータ設定前の基礎となる斜
文織画像に少し問題があったと考えられる。3DCG のソフトウエアということで,斜文織
の交錯点の重なりを特徴づけるために凸凹を強調して画像を作成した。しかし,作成画面
では違和感がなかったが,レンダリングした画像では逆に強調された織糸によって,布ら
しさから遠ざかるような印象を与えたのではないかと思われる。レンダリングのパラメー
タを調整し織糸を細く見せるよう修正したが,モアレ柄(干渉柄)が現れたため,当初に
作成した凸凹が強調された画像を評価刺激とした。対照画像のテクスチャマッピング画像
は,評価項目「布らしさ」で 5 角度の評価値平均が 63.1%と低かったのに対し,
「明るさ」
は,74.6%と高い評価を得た。刺激の輝度は同値ではないため,
「明るさ」の評価は概して
高くないが,テクスチャマッピング画像は「明るさ」が実物試料布に近いと評価された。
S3 の綿の朱子織も S2 の布 CG 画像の結果に相似した。その理由も S2 と同様に画像表面
を構成する織糸の太さと配置に問題があったのではないかと考える。
S4 の絹の平織布は,作成した布 CG 画像で 3 つの評価項目の 5 角度の平均が 70%以上の
評価値となった。前節の表 5.1-3.(a),(b)に示した通り,絹は綿とは異なり受光角度 0 度に
おいても鏡面反射成分を抽出し,45 度を含むすべての角度で鏡面成分が現れた。この特性
が,一般的に上品な光沢を持つ布とされる理由であると考える。今回の測定に使用した
119
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
3DCG ソフトウエアでは「光沢」パラメータが正面画像のみに有効であったため,
「光沢」
以外の設定パラメータを組み合わせることで,絹の材質感を感じさせる画像の作成を試み
た。この評価結果から「光沢」パラメータを使用しなくとも,他の設定パラメータの工夫
で本物に近い画像を作成できるのではないかと考える。それに対し,対照画像は平面画像
も写真画像も 4 つの評価項目すべてにおいて 5 角度の評価値平均が 70%以上の値は観察さ
れず,絹布の表現に適した画像とはならなかった。
S5 の毛の平織布は,
「布らしさ」と「柔らかさ」の 2 項目で約 73%と評価が高かった。
「明るさ」と「つや」項目の評価結果も約 70%と低くなかった。作成した毛布の CG 画像
は表面が柔らかく,布らしく見えると評価されたことが示唆された。
表 5.2-2.(b)
比較評価結果:S6,S7,S8,S9,S10
(n=19)
表5.2-2.(b)
比較評価結果:S6,
S7, S8, S9, S10 (n=19)
観察角度
評価項目
S6 : Linen/Plain/Warp
布らしさ
明るさ
A1
柔らかさ
つや
S7 : Rayon/Plain/Warp
布らしさ
明るさ
A1
柔らかさ
つや
A2
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
B1:0deg
平均
評価値
SD
B2:15deg
平均
評価値
SD
B3:30deg
平均
評価値
SD
B4:45deg
平均
評価値
SD
B5:60deg
平均
評価値
SD
(%)
5角度
評価値
平均
68.9
64.5
67.1
65.9
7.8
9.3
8.9
8.1
72.3
67.1
69.9
69.1
9.6
9.6
7.9
8.8
76.9
73.9
75.2
73.6
7.2
8.2
9.8
10.7
79.6
76.8
76.8
76.3
8.0
9.0
8.4
8.6
80.5
81.5
78.1
78.1
8.0
8.1
9.2
9.3
75.6
72.8
73.4
72.6
66.7
61.9
64.2
63.8
8.7
8.2
8.6
8.5
69.0
67.4
67.7
65.8
7.1
8.7
7.6
7.4
71.7
71.3
71.6
69.3
7.5
9.4
7.8
8.0
76.3
74.6
73.3
71.4
7.7
9.0
7.6
10.1
78.0
78.4
76.1
74.4
7.5
9.7
9.3
9.7
72.3
70.7
70.6
68.9
55.3
58.1
58.5
62.5
8.7
12.3
10.6
9.7
60.5
64.2
62.6
65.6
11.9
12.1
11.6
11.3
62.4
67.7
64.8
68.4
10.8
10.8
10.7
11.1
62.7
69.2
65.3
69.5
10.2
11.1
12.0
9.6
63.4
72.5
64.6
68.2
8.8
11.0
11.7
9.8
60.9
66.3
63.2
66.8
11.3
13.2
9.5
13.1
63.9
55.1
61.5
57.6
8.6
10.6
8.8
11.0
67.7
60.2
65.4
63.3
8.0
10.2
9.6
8.5
69.4
62.0
66.0
65.5
9.5
12.1
10.4
8.8
70.0
67.0
70.8
68.4
9.0
13.4
8.7
13.2
66.7
58.8
64.5
62.0
8.4
8.3
7.5
9.2
65.2
62.1
64.1
61.3
9.1
8.4
8.1
8.1
67.8
65.3
66.6
63.8
8.4
7.5
5.8
7.4
71.5
70.8
69.4
68.7
7.1
9.3
7.4
8.3
76.3
75.8
72.7
72.6
7.4
9.7
6.8
8.9
68.7
66.9
67.1
65.5
9.3
12.4
7.1
7.8
63.9
69.2
63.5
61.8
9.3
9.9
7.5
7.8
66.2
67.8
65.7
63.9
9.3
10.8
8.5
9.2
69.7
71.3
69.1
67.3
9.8
7.9
8.8
9.4
75.4
80.1
74.0
72.2
9.8
8.9
8.7
10.7
67.3
71.1
66.9
64.8
7.4
10.5
7.5
10.3
68.1
67.3
67.2
64.6
8.0
9.7
9.1
9.7
71.3
68.8
68.9
66.7
8.0
9.6
7.2
8.2
74.5
73.5
73.4
72.2
8.5
10.0
8.0
10.1
76.4
76.4
76.3
73.6
9.2
10.0
8.5
9.9
71.1
69.8
69.9
68.3
布らしさ
62.6
明るさ
49.7
A3
柔らかさ
58.8
つや
55.4
S8 : Nylon/Plain/Warp
布らしさ
62.5
明るさ
60.7
A1
柔らかさ
62.7
つや
61.1
S9 : Polyester/Plain/Thin/Warp
布らしさ
61.3
明るさ
67.1
A1
柔らかさ
62.2
つや
58.8
S10 : Polyester/Plain/Thick/Warp
布らしさ
65.2
明るさ
63.3
A1
柔らかさ
64.0
つや
64.2
A1:布CG画像,A2:平面画像,A3:写真画像
120
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
S6 の麻の平織布は,4 項目とも 5 角度の評価値平均が 72%を超えて,高い評価を得た。
前節の表 5.1-4.に示した通り,S1(綿・平織・シルケット加工)
,S4(絹・平織)
,S6(麻・
平織)は評価用布 3DCG 画像を作成するための設定パラメータを同じ値とした。反射率を
優先して設定値を決めたためである。しかし,S1 は既述の通り,受光角度 45 度以外では
鏡面反射の割合が低く,S4 と S6 は全反射量に対する鏡面成分の割合が高く近い値であっ
た。S1 と S4,S6 の A1(布 CG 画像)5 角度評価値平均に大きな差はないが,
「明るさ」
以外の 3 項目において S1 より S4,S4 より S6 の評価値が高くなった。全反射量に対する
鏡面反射の割合の違いを布 CG 画像作成の際の設定パラメータに反映できたことが評価値
の相違の原因であると考えられる。
さらに織糸の太さの画像表現も評価値の差の要因ではないかと推測される。S6 の実物布
の織糸は S1 や S4 のそれより太い。既述した通り,織糸を分解能以上に細くして布 CG 画
像を作成すると干渉柄が現れる。今回測定に用いた画像 A1 と S6(麻布)の織糸の実際の
太さに違いが少なかったことが高い評価に繋がったと考えられるが,織糸の太さの表現は
今後の布 CG 画像作成上の課題となると思われる。
S7(レーヨン・平織)も S1,S4,S6 と同じパラメータで布画像を作成して評価刺激と
した。しかし,S4 や S6 よりも 4 項目の平均評価値が低かった。S7 は S4 や S6 と同程度の
反射強度(拡散成分+鏡面成分)であったが,全反射に対する鏡面反射成分の割合は 10%
ほど高かったことがこの結果の原因の一つではないかと思われる。つまり,S4(絹・平織)
や S6(麻・平織)より鏡面反射成分の割合が多い S7 では,その鏡面成分の表現に工夫が
必要とされることが示された。対照画像は平面画像も写真画像も 4 つの評価項目すべてで
5 角度の評価値平均が 70%以下であった。布 CG 画像同士の比較では,S7 は S4 や S6 より
評価値平均が低かったが,S7 における対照画像との比較では,4 評価項目とも布 CG 画像
は対照画像より評価値が高かった。
S8(ナイロン・平織)
,S9(ポリエステル・平織・薄地)
,S10(ポリエステル・平織・
厚地)は 4 つの評価項目とも平均評価値が高くなく,とくに S9 では 60%台前半の評価値
平均も見られた。
これらは合成繊維で光の吸収や透過性が大きいため反射率自体は低いが,
全反射量に対する鏡面反射成分の割合が高いという他の試料布(天然繊維:絹,麻,毛,
再生繊維:レーヨン)とは異なる反射特性を持つ。評価結果から,今回の設定パラメータ
では合成繊維の鏡面反射を表現することは難しいことが示唆された。
(2) 観察角度別の画像評価結果
画像の変化角度ごとに結果では,10 種類の布 CG 画像はいずれも,4 つの評価項目とも
観察角度 0 度での評価が低かった。反射率(ルミナンスファクター)がほぼ同じになるよ
うパラメータを設定し,実測した刺激の輝度も S2(綿・斜文織・シルケット加工)以外は,
121
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
実物の試料布との輝度差が大きくなかった。しかし,評価項目「明るさ」の角度 0 度での
評価が低く,実物布と布 CG 画像とでは明るさが異なって感じられることが示唆された。
選定した試料布は未染色の原布としたが,漂白していないため真っ白ではなく,多少黄色
みがかった生成り色であったことが原因の一つに挙げられる。つまり,受光角度 0 度(法
線方向)では,鏡面成分より拡散成分の割合が多いため,試料の色(試料布の生成り色)
が認知され,液晶ディスプレイの白度の高い画像の明るさとは異なって見えたと推測でき
る。第 4 章で行った測定では,拡大撮影画面に全く色みが現れなかった。しかし,今回の
評価実験では,法線方向(0 度)で拡散成分の割合が大きくなるという反射のメカニズム
により布の生成り色が感じられたため,観察角度 0 度では項目「明るさ」に加え「色み」
も評価されて値が低くなったのではないかと考えられる。比較対照画像でも同様の結果と
なった。観察角度 60 度では,0 度とは異なり布 CG 画像も対照画像も「明るさ」の評価値
が 5 角度の中で最も高くなった。とくに,鏡面反射成分の割合が高い反射特性を示した試
料の布 CG 画像では評価値も高かった。0 度とは反対に,試料ではなく光源の色とディス
プレイの画像の色に違いが感じられず,
「明るさ」項目の評価が高くなったと考えられる。
10 種類の布 CG 画像はいずれも,観察角度が大きくなるほど,4 項目の評価値も高くな
り,とくに「明るさ」に対する評価は高くなった。
「布らしさ」の項目も角度変化に従い,
評価値が高くなった。観察角度 0 度では評価が芳しくなかった評価項目においても,60 度
になると高い評価を得た。布の特徴である「Off-Specular 現象」も勘案して画像作成パラメ
ータを設定し,現実の布と同じ状態になるようにしたところ,
「布らしさ」だけでなく,
「明
るさ」や「柔らかさ」
,
「つや」の判断にまで有用な影響を与える結果となった。それに対
し対照画像でも,角度の変化に従い評価 4 項目の値が高くなる傾向が見られたが,布 CG
画像の結果ほど大きな変化ではなかった。
(3) 対照刺激との比較結果
比較評価のために作成した対照刺激(平面画像,テクスチャマッピング画像,写真画像)
の評価結果を見ると,どの対照画像および評価項目に対しても 50%台後半から 70%台前半
の値となっており,布 CG 画像の結果と大きく違わない。しかし,標準偏差に着目すると,
対照画像では布 CG 画像よりも概して大きくなっている。このことは,対照画像よりも布
CG 画像の方が安定した評価を行えるということを示唆していると解釈できる。さらに布
CG 画像の有効性を確認するため,S1(綿・平織・シルケット加工)
,S4(絹・平織)
,S7
(レーヨン・平織)については対応のある 2 元配置の分散分析(Two-Factor ANOVA)を行
った 1)。なお,分散分析を行うにあたって,分散の均等性を確認するために Bartlett 検定 2)
を行った。S4 の評価項目「柔らかさ」の観察角度 30 度,
「つや」の 30 度,
「布らしさ」の
30 度と 45 度において,分散の均等性の仮説が棄却されたが,標本数が等しい場合は分散
122
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
の均一性をあまり重大に考えなくてもよいとの文献 3)もあるため,ノンパラメトリック検
定を使用せず,S1,S4,S7 とも分散分析を行った。なお,多重比較は Holm 法で行った。
S2(綿・斜文織)についてはテクスチャマッピング画像との 2 群比較であったため,分散
の均等性と平均値の差の検定を行った。
表 5.2-3. 分散分析結果:S1(綿・平織・シルケット加工)
表5.3-3. 分散分析結果-対照画像との比較:S1(綿・平織・シルケット加工)
評価項目
主効果
交互作用
A×B
A:画像 B:角度
F (2,36) F (4,72) F (8,144)
布らしさ
22.32 **
明るさ
4.36 **
13.80 ** 15.26 **
n.s.
n.s.
(n=19)
多重比較
主効果A
主効果B
交互作用
A1>A2*, A2<A3*
B1<B4*, B1<B5*
-
A1>A3*, A2>A3*
B1<B2*, B1<B3*,
B1<B4*, B1<B5*,
B2<B3*, B2<B4*,
B2<B5*
-
柔らかさ
n.s.
12.63 **
n.s.
-
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*
-
つや
n.s.
8.52 **
n.s.
-
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*
-
A1:布CG画像,A2:平面画像,A3:写真画像
B1:0deg,B2:15deg,B3:30deg,B4:45deg,B5:60deg
*:p <0.05, **:p <0.01
S1(綿・平織・シルケッ
評価項目「布らしさ」
80
ト加工)の分散分析結果は
75
表 5.2-3.に示す。また,各
評
価 70
平
均 65
値
評価項目と観察角度ごとに
( )
布 CG 画像と対照画像の評
%
60
価値を比較した結果を図
55
5.2-3.(a)と(b)に示す。4 つの
50
0
15
30
45
60
観察角度(deg)
評価項目とも変動要因とし
て観察角度(主効果 B)に
有意差(**:p<0.01)が認め
図5.2-3.(a)
評価平均値の比較:S1(綿・平織・シルケット加工)
図 5.2-3.(a) 各画像の評価平均値の比較:S1(綿・平織・シルケット加工)
られた。また,画像の種類
(主効果 A)については,
評価項目「布らしさ」と参考結果ではあるが「明るさ」で有意差(**:p<0.01)が認められ
た。分散分析の多重比較結果では,
「布らしさ」の評価において,布の反射特性を反映させ
て作成した今回の布 CG 画像と写真画像の間に有意な差は現れなかったが,これら 2 つの
画像に比して平面画像の評価は有意に低い結果となった。この顕著な結果は図 5.2-3.(a)と
(b)にも示されている。前項の「
(1)試料別の画像評価結果」でも記述したが,干渉柄が認
識されない限界の細さの織糸を工夫して CG 表現できれば,写真画像とも有意差が認めら
れ,本物と違わない布の CG 表現が可能であると推察する。
評価項目「明るさ」については,実測輝度に 5cd/m2 程度の差が認められるため,正確な
123
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
比較とはならないが,布 CG 画像と写真画像,平面画像と写真画像の間に有意差が認めら
れた。これらは写真画像より実際の布の明るさに近いことが分散分析で明らかになった。
評価項目「明るさ」
80
75
( )
評
価 70
平
均 65
値
%
60
55
50
0
15
30
45
60
観察角度(deg)
評価項目「柔らかさ」
80
80
75
評
価 70
平
均 65
値
75
評
価 70
平
均 65
値
75
70
60
65
55
60
50
55
0
15
( )
( )
%
評価項目「つや」
80
%
60
55
50
50 30
45
60
0
15
観察角度(deg)
A1:布CG画像
0
30
A2:平面画像
15
30
45
45 観察角度(deg)
60
60
A3:写真画像
図 5.2-3.(b)
各画像の評価平均値の比較:S1(綿・平織・シルケット加工)
図5.2-3.
評価平均値の比較:S1(綿・平織・シルケット加工)
S4(絹・平織)の分散分析結果は表 5.2-4.に示す。4 つの評価項目とも主効果 A(画像)
と B(観察角度)ともに有意差が認められ,
「柔らかさ」と「つや」では加えて交互作用に
も有意差(**:p<0.01,*:p<0.05)が認められた。また,各評価項目と観察角度ごとに布 CG
画像と対照画像の評価値を比較した結果は図 5.2-4.(a)と(b)に示す。
「布らしさ」では,布 CG 画像の 5 つの角度での評価値平均が 73.4%と高い値を示した
ことを既述したが,平面画像や写真画像と比較しても有意に高い値であることが分散分析
結果からも明らかとなった。本実験で選定した絹布試料も S1 の綿平織布と同様,織糸が
細く,布表面の CG 表現に工夫が必要とされる。また,綿布とは異なり鏡面反射成分が全
角度で多く抽出され,絹特有のきらきらとした光沢を感じられる。そのため,実測値によ
る反射特性が再現されるようソフトウエアの設定パラメータを慎重に調整したが,図
5.2-4.(a)に示されたように,すべての観察角度で比較対照画像より布 CG 画像の方が「布ら
しさ」の再現ができたことが観察された。参考ではあるが,評価項目「明るさ」でも同様
の分析結果が得られた。
124
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
表 5.2-4. 分散分析結果:S4(絹・平織)
表5.2-4. 分散分析結果-対照画像との比較:S4(絹・平織)
評価項目
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
主効果
交互作用
A×B
A:画像 B:角度
F (2,36) F (4,72) F (8,144)
34.65 ** 19.11 **
16.61 ** 50.17 **
12.35 ** 21.04 **
4.56 ** 19.27 **
n.s.
n.s.
(n=19)
多重比較
主効果A
主効果B
交互作用
A1>A2*, A1>A3*,
A2<A3*
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*, B3<B5*,
-
A1>A2*, A1>A3*,
A2>A3*
B1<B2*, B1<B3*,
B1<B4*, B1<B5*,
B2<B3*, B2<B4*,
B2<B5*, B3<B4*,
B3<B5*, B4<B5*
-
-
2.51 *
A at B1
A at B2
A1>A2*, A2<A3*
A1>A2*, A2<A3*
B at A1
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*, B3<B5*,
B4<B5*
A at B3
A1>A2*, A2<A3*,
A2<A3*
B at A2
B1<B4*, B1<B5*,
B2<B4*, B2<B5*
A at B4
A at B5
A1>A2*
A1>A2*, A2<A3*
B at A3
B1<B4*, B1<B5*,
B2<B5*, B3<B5*,
B4<B5*
A at B3
A1>A2*, A1>A3*
B at A1
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B3*,
B2<B4*, B2<B5*,
B3<B5*
A at B5
A1>A2*
B at A2
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*
B at A3
B1<B5*, B2<B5*,
B3<B5*, B4<B5*
-
2.16 *
A1:布CG画像,A2:平面画像,A3:写真画像
B1:0deg,B2:15deg,B3:30deg,B4:45deg,B5:60deg
*:p <0.05, **:p <0.01
評価項目「布らしさ」
80
80
75
評
価 70
平
均 65
値
75
70
( )
65
%
60
55
60
55
50
50
15
0
0
15
A1:布CG画像
30
45
30
観察角度(deg)
A2:平面画像
60
45
60
A3:写真画像
図
5.2-4.(a) 各画像の評価平均値の比較:S4(絹・平織)
図5.2-4.(a)
評価平均値の比較:S4(絹・平織)
125
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
評価項目「明るさ」
80
75
( )
評
価 70
平
均 65
値
%
60
55
50
0
15
30
45
60
観察角度(deg)
評価項目「柔らかさ」
80
80
75
評
価 70
平
均 65
値
75
評
価 70
平
均 65
値
75
70
60
65
55
60
50
55
0
15
( )
( )
%
評価項目「つや」
80
%
60
55
50
50 30
45
60
0
15
観察角度(deg)
A1:布CG画像
0
30
A2:平面画像
15
30
45
45 観察角度(deg)
60
60
A3:写真画像
図 5.2-4.(b)
図5.2-4. 各画像の評価平均値の比較:S4(絹・平織)
評価平均値の比較:S4(絹・平織)
S7(レーヨン・平織)の分散分析結果は表 5.2-5.に示す。また,各評価項目と観察角度
ごとに布 CG 画像と対照画像の評価値を比較した結果を図 5.2-5.(a)と(b)に示す。分散分析
結果では,4 評価項目とも変動要因として主効果 A(画像)
,B(観察角度)ともに有意差
が認められた。さらに,3 つの評価項目で交互作用に有意差(**:p<0.01,*:p<0.05)が認め
られたため,多重比較結果を検討した。
「布らしさ」では,5 つの角度で結果が少し異なっ
たが,観察角度の大きい B4(45 度)と B5(60 度)において,比較した画像間に差が認め
られた。いずれも,作成した布 CG 画像が比較対照画像(平面画像と写真画像)より評価
値が有意に高いことが明らかとなった。S7 は S4 の絹よりは少し低いが,
「布らしさ」の 5
角度の評価値平均が 72.3%と高く,とくに,観察角度 45 度では 76.3%であり,60 度では
78%と顕著に高い値となった。比較した図 5.2-5.(a)にもその変動が示されている。S7 のレ
ーヨンは S4 の絹よりさらに全反射光量に対する鏡面反射成分の割合が高く,5 角度とも同
様の割合であるため,観察角度 0 度では「布らしさ」の評価が 66.7%と低く,CG 作成上の
課題が残った。しかし,図 5.2-5.(a)からも明らかなように観察角度が大きくなるに従い,
柔らかさやつやを伴った「布らしさ」を感じられ,CG による布の質感の再現性の高さが
確認できた。
126
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
表 5.2-5. 分散分析結果:S7(レーヨン・平織)
表5.2-5. 分散分析結果-対照画像との比較:S7(レーヨン・平織)
主効果
交互作用
A×B
A:画像 B:角度
F (2,36) F (4,72) F (8,144)
評価項目
布らしさ
明るさ
21.51 ** 15.41 **
23.27 ** 39.72 **
柔らかさ
11.37 ** 19.62 **
つや
6.57 ** 12.94 **
主効果B
主効果A
交互作用
-
2.46 *
A1>A2*, A1>A3*,
A2>A3*
n.s.
(n=19)
多重比較
-
2.84 **
A1>A2*, A2<A3*
A1>A2*
A1>A2*, A2<A3*
B at A1
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*, B3<B4*,
B3<B5*
A at B4
A1>A2*, A1>A3*,
A2<A3*
B at A2
B1<B2*, B1<B3*,
B1<B4*, B1<B5*
A at B5
A1>A2*, A1>A3*,
A2<A3*
B at A3
B1<B4*, B1<B5*,
B2<B4*, B2<B5*
B1<B2*, B1<B3*,
B1<B4*, B1<B5*,
B2<B3*, B2<B4*,
B2<B5*, B3<B5*,
B4<B5*
-
2.89 **
A at B1
A at B2
A at B3
-
A at B1
A at B2
A1>A2*, A1>A3*
A1>A2*, A1>A3*
B at A1
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*, B3<B5*
A at B3
A at B4
A1>A2*, A1>A3*
A1>A2*, A1>A3*
B at A2
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*
A at B5
A1>A2*, A1>A3*,
A2<A3*
B at A3
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*, B3<B45,
B4<B5*
A at B1
A1>A3*, A2>A3*
B at A1
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*, B3<B5*
A at B2
A1>A3*, A2>A3*
B at A2
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*
A at B3
A at B4
A1>A3*
A1>A3*
B at A3
B1<B3*, B1<B4*,
B1<B5*, B2<B4*,
B2<B5*
A1:布CG画像,A2:平面画像,A3:写真画像
B1:0deg,B2:15deg,B3:30deg,B4:45deg,B5:60deg
*:p <0.05, **:p <0.01
前項の「(1) 試料別の画像評価結果」において,布の特徴である「Off-Specular 現象」を
布 CG 画像で表現できたのではないかと記述した。S1,S4,S7 いずれも,対照画像(平面
80
75
70
60
55
80
75
評
価 70
平 65
均
値 60
% 55
50
45
に示した布の反射特性を反映させ
ているため,平面画像も写真画像
も観察角度が大きくなるに従い,
大きな変化ではないが評価値が高
( )
65
画像,写真画像)の作成に第 4 章
評価項目「布らしさ」
50
くなったことも既述した。
しかし,
S4 と S7 の分散分析結果の交互作
0
0
15
15
A1:布CG画像
30
45
30
観察角度(deg)
A2:平面画像
用の多重比較から,対照画像の結
60
45
60
A3:写真画像
評価平均値の比較:S7(レーヨン・平織)
図図5.2-5.(a)
5.2-5.(a) 各画像の評価平均値の比較:S7(レーヨン・平織)
果より布 CG 画像が有意により高
い値を示した評価項目があること
が明らかになった。
観察角度は限定されるが,評価
127
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
評価項目「明るさ」
( )
80
75
評
価 70
平 65
均
値 60
% 55
50
45
0
15
30
45
60
観察角度(deg)
評価項目「柔らかさ」
80
75
評
価 70
平 65
均
値 60
% 55
50
45
80
75
70
( )
( )
65
60
55
0
15
評価項目「つや」
80
75
評
価 70
平 65
均
値 60
% 55
50
45
5030
45
0
観察角度(deg)
60
15
A1:布CG画像
0
30
A2:平面画像
15
30
45
45観察角度(deg)
60
60
A3:写真画像
図 5.2-5.(b)
各画像の評価平均値の比較:S7(レーヨン・平織)
図5.2-5.
評価平均値の比較:S7(レーヨン・平織)
項目「柔らかさ」や「つや」の類似度についても作成した布 CG 画像の方が対照画像より
有意に高い値を示した。
なお,予備実験では,S1,S4,S7 のいずれも 4 つの項目で写真刺激の評価値が低かった。
ルミナンスファクターも目視での見え方も慎重に調整したため,原因を限定することは難
しいが,原因の一つとして背景の黒の吸光シートの影響が考えられる。写真画像の背景は
撮影された背景そのままを刺激としたため,黒より明度が高かった。そこで,他の画像と
同様の黒い背景を作成して写真画像の修正を試みた。それにより本実験では,すべての項
目で予備実験より高い評価を得た。この修正結果を踏まえると 3DCG ソフトウエアを使用
して楕円柱状の織糸を作成し交錯させて,背景の黒をかすかに認識させる画像にしたこと
も布 CG 画像の高評価の要因の一つと考えられる。測定用 CG 画像を様々な条件で試作し
た際,同じ表面形状でも背景の有無や背景の黒色の相違で異なる印象を受けたことがその
根拠である。表面が平らな CG 画像やテクスチャマッピング画像,写真画像はその周囲に
だけ背景の黒が表出するが,3DCG で織製(たて糸とよこ糸を織ること)を再現して布に
近い表面形状にした布の CG 画像では織組織の間隙からも黒の背景が現れる。さらに,た
てとよこ糸それぞれの陰影が CG で表現され,より立体的に布らしく見せたと推察される。
128
第5章
表 5.2-6. 分散と平均値の差の検定結果
表5.2-6. 分散と平均値の差の検定結果:
S2(綿・斜文織)
S2(綿・斜文織)
画像角度
評価項目
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
布らしさ
明るさ
柔らかさ
つや
0deg
15deg
30deg
45deg
60deg
DOF
t-value
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
0.71
1.56
0.79
0.99
1.16
1.26
0.20
0.90
1.32
1.20
1.00
1.08
2.56
1.10
0.39
0.03
2.87
1.16
1.54
0.30
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
S2(綿・斜文織)の比較対照画像(テクス
(n=19)
two-sided
p-value
0.49
0.14
0.44
0.34
0.26
0.22
0.85
0.38
0.20
0.25
0.33
0.30
0.02*
0.29
0.70
0.97
0.01*
0.26
0.14
0.77
チャマッピング画像)
との検定結果は表 5.2-6.
に示す通りである。また,各評価項目と観察
角度ごとに布 CG 画像と対照画像の評価値を
比較した結果を図 5.2-6.に示す。斜文織の表
面形状を適切に撮影できなかったため,対照
画像はテクスチャマッピング画像のみである。
そのため参考結果とする。マッピング画像の
作成中は布の本物らしさを認識できたが,レ
ンダリング画面をディスプレイで観察すると
「糸すじ」と呼ばれる織糸の筋が見えにくく
なった。そのため,対照画像の評価値が低く
なることを予測した。しかし,作成した布 CG
画像も既述の理由(織糸の太さと配置)で評
*:p <0.05, **:p <0.01
価値が低かった。評価平均値の差と分散を検定したところ,予測した通り,3 項目ではす
べての観察角度で有意な差は認められなかった。評価項目「布らしさ」では,観察角度 45
評価項目「布らしさ」
85
80
80
評
価 75
平
均 70
値
%
%
( )
( )
評
価 75
平
均 70
値
65
60
55
65
60
55
0
15
30
45
60
0
60
55
30
60
45
0
15
30
45
観察角度(deg)
観察角度(deg)
60
観察角度(deg)
評価項目「柔らかさ」
85
85
85
80
75
70
65
60
%
55
80
評
価 75
平
均 70
値
( )
( )
( )
65
60
55
0
15
30
評価項目「つや」
80
評
価
平
均
値
評
価 75
平
均 70
値
15
30
45
観察角度(deg)
%
評価項目「明るさ」
85
%
0
45
15
60
観察角度(deg)
A1:布CG画像
65
60
A4:テクスチャマッピング画像
図 5.2-6.評価平均値の比較:S2(綿・斜文織)
各画像の評価平均値の比較:S2(綿・斜文織)
図5.2-6.
129
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
度と 60 度において有意差が認められ,この 2 角度のみ布 CG 画像がテクスチャマッピング
画像より布らしく見えることが明らかとなった。
表 5.2-7.には,S1 と S4,S7 の分散分析結果の有意差について整理してまとめた。
表 5.2-7. 分散分析結果:
表5.2-7. 分散分析結果-有意差
有意差が認められた項目
主効果A
評価項目
比較画像
S1 : Cotton/Plain/Silket/Warp
**
布らしさ
明るさ
**
n.s.
柔らかさ
n.s.
つや
S4 : Silk/Plain/Warp
布らしさ
**
**
明るさ
**
柔らかさ
つや
**
S7 : Rayon/Plain/Warp
布らしさ
**
**
明るさ
**
柔らかさ
つや
**
主効果B
観察角度
5.2.4. 要約
交互作用
**
**
**
**
n.s.
n.s.
n.s.
n.s.
**
**
**
**
n.s.
n.s.
*
*
**
**
**
**
*
**
**
n.s.
*:p <0.05, **:p <0.01
本章では服の色彩嗜好調査用の色刺激と
なる布の CG 画像を作成することを目的と
した。作成するにあたり,使用する 3DCG
ソフトウエアの光学的特徴を把握するため
に,ディスプレイに映し出された画像の反
射率を測定し,設定パラメータごとに比較
した。その特徴と第 4 章で捉えた各種の布
試料の反射特性を反映させた布 CG 画像を
作成した。
当初の実験計画では鏡面反射成分を表現
するために,
「光沢」という設定項目に着目
したが,画像角度(本節では観察角度)が 0 度以外ではレンダリング画面上の光沢表現が
消失した。そのため,他の設定項目の組合せによって鏡面成分を画像に表出させることを
試みた。
作成した布 CG 画像の精度を確認するために,
実物の試料布とディスプレイ上の布 3DCG
画像を同時に視感比較し評価を行った。さらに,表面に織組織の形状のない平面 CG 画像
とテクスチャマッピング画像,写真画像も比較対照刺激として評価を行った。その結果は
下記の通りである。
1.全反射量に対する鏡面反射成分の割合が 10~30%程度の布(今回の実験では S4:絹
平織布,S5:毛平織布,S6:麻平織布,S7:レーヨン平織布)については,評価項目
とした「布らしさ」
,
「明るさ」
,
「柔らかさ」
,
「つや」において,作成した布 CG 画像
に対する評価値が約 70%以上となった。
2.全反射量が低く,それに対する鏡面反射成分の割合が 30%と高い布(今回の実験で
は S8:ナイロン平織布,S9:薄地のポリエステル平織布)については,上記 1.で示
した布より評価値が低く 70%に達しなかった。
3.すべての試料において,観察角度が 0 度から 60 度へと大きくなるほど,作成した布
の CG 画像に対する評価値が 4 項目すべてで高くなった。
130
第5章
布の反射特性に基づく布 3DCG 画像の作成と評価
4.3DCG で織製が再現されていない平面 CG 画像や写真画像は評価値が 70%以上になる
項目が少なく,評価者間のばらつきも大きかった。評価項目「布らしさ」については,
S4 の絹平織布では,対照画像より有意に布 CG 画像の評価値が高くなり,S7 のレー
ヨン平織布でも,観察角度 45 度と 60 度で布 CG 画像の評価値が有意に高くなった。
予測していた結果より良好な結果を得た印象がある。予備測定では,ディスプレイを見
ると本物らしく見える比較画像が,
実際の試料と画像を同時に視感比較すると全く相違す
る場合があった。他にもいくつかの不具合があったため,比較画像は修正を試みて本測定
に臨んだが,布の CG 画像は実測に基づいた反射解析を反映させたため,予想以上に表面
の質感が本物らしく感じられた。つまり,その反射解析によって得た特性は,布表面の全
反射の反射率だけではなく,拡散成分と鏡面成分に分離したそれぞれの反射率でもあり,
織製(たて糸とよこ糸を交錯し布にすること)による反射の特徴も含まれていたためであ
る。とくに観察角度(受光角度)が 45 度以上において,高い評価値を得た。しかし既述
した通り,すべての試料で良好な結果を得ることはできなかった。綿布のように鏡面反射
成分の割合が少ない布や全反射量は低いのに対し鏡面反射成分の割合が高い合成繊維に
よる試料布は,鏡面成分の表現方法に工夫が必要であると考える。また,画像はドレーピ
ングのない平らな布画像としたため,
薄地の試料布の柔らかさは十分に表現できていなか
った。
今後は,鏡面反射成分の表現方法を考えていくとともに色彩表現も検討していく。先行
研究においても,色は任意の着色として測定結果に基づくものではなかった。彩色された
布の反射光とともにパソコンの彩色解析も行い,様々な染色布の布 CG 画像作成を試みる。
131
第6章
総括
第6章
総括
第 6 章 総括
6.1. 結論
本研究で行ったことを整理しまとめる。
第 1 章では本研究の目的を述べた。通常の色彩嗜好調査の色刺激には一般に紙製かそれ
に近い均質な素材の色票が使用される。しかし,立体的で複雑な表面構造を持つ服地や布
の嗜好を調査するために紙製の色票で対応できるのかという疑問を持った。官能検査や感
覚を尋ねる調査においても正確な結果が求められるため,
誤差要因はなるべく除外したい。
よって,被調査者に予断を持たせない紙製色票の均質な質感は適切だと考えられる。しか
し,アパレルメーカーなどの市場や顧客調査においては,その管理・保管に手数が掛かる
にも関わらず実際の服地が使用されており,紙製色票では布の質感を伝えられないと考え
られている。そこで,布の反射光を解析し,それらが反映されることによって布の質感が
正確に表現された色票の作成を行うこととした。その際,誰にでも作成できることを目指
し,市販の 3DCG ソフトウエアを用いた簡便な方法の探索を試みた。さらに,作成画像の
質感や布らしさについては実物試料布との視感比較測定により確認することとした。
第 2 章では紙と布の違いを視感評価と物理的測定によって確認した。
視感比較評価では,
試料とした色刺激のうち黄と白,黒において素材(紙と布)の種類により評価が異なり,
有意な差が認められた。その結果の根拠となる要因を探るため,変角分光測色システムを
使用して反射率などの物理的特徴を把握することとした。加えて,人がどのように色(色
刺激)を見ているのかを捉えるために色度についても分光反射率から算出し結果を考察し
た。変角分光測色システムで計測した結果では,紙製色票と布とで顕著な違いが認められ
たが,布からの反射光を特徴づけると予測される鏡面反射成分やその特性を抽出すること
はできなかった。
第 3 章では布の反射と布の CG 画像作成に関するこれまでの研究をまとめた。まず一般
的な不透明物体表面の反射に関する物理的基礎事項を整理した。布の反射に関する研究は
少なかったが,
有用な成果をあげた一連の研究群があったためそれらをまとめると同時に,
本研究に必要な課題や研究の方策を検討した。次に布の CG 画像作成にかかわる先行研究
を整理しまとめ,まず,布に限定しない一般的な反射モデルを列記した。コンピュータグ
ラフィックスを作動させるうえで反射メカニズムを解析し記述する必要がある。この反射
モデルに 2 色性反射モデルを導入している研究がほとんどであった。2 色性反射モデルと
は表面からの光反射成分を鏡面反射成分と拡散反射成分に分けて記述するモデルであり,
拡散成分より鏡面成分の記述が困難であるため多くの研究成果を目にすることができた。
さらにそれらの研究をもとに,布の CG 描写に関する研究も行われていた。布 CG 画像作
成の多くの先行研究に共通するのは,布が金属などの平滑な面とは異なる複雑な表面構造
133
第6章
総括
を持つことに起因する特徴的な反射に注目していることであった。とくに微小面の反射特
性を解析し,それらをシェーデイングやレンダリングなどに反映させることで布の持つ柔
らかさや光沢といった質感を表現する研究が行われていた。しかし,絹のサテン生地など
の光沢感を認識しやすい布が対象であり,ドレスなど普段は着用しない服に使用される布
が研究されていた。また,BRDF によって反射を記述する研究も多く行われていたが,で
きるだけ多くの観測点でのデータを求めるために CT スキャンを用いた研究もあった。装
置操作に熟練した特別の者にしかできない研究であった。さらに,作成した布の CG 画像
は呈示されているだけで,実物と視感比較するなど質感表現の完成度を客観的に確認した
研究は見当たらなかった。
第 4 章では偏光フィルタとマイクロスコープデジタルカメラを用いて,布微小面の反射
特性を解析した。4 章での測定の目的は微小面からの反射光を 2 色性反射モデルの考え方
に基づき反射光から鏡面反射成分と拡散反射成分を分離して抽出し,反射率を算出する事
であった。通常の測色システムでは測定が難しいため,偏光フィルタとマイクロスコープ
デジタルカメラを測定に用いたが,反射率算出が適切かを確認する必要があるため,4.1
節では非線形関数である指数関数による反射率算出とその方法を検証した。その結果をも
とに服として使用頻度の高い布の微小面からの反射光を解析した。まず反射断面とした布
の織糸からの反射率変化を拡散成分と全成分(拡散成分+鏡面成分)に分けて捉えた。次
にフーリエ解析を利用して,受光角度の変化に伴う布織目の規則性変化を確認した。さら
に,微小面における反射光の強度分布を視覚化し,それらの測定により選定した 14 種類の
試料布の反射特性を解析した。
第 5 章では,第 4 章の解析結果を反映した服の色彩調査用色刺激の作成を試み,その材
質感を検討した。経験に左右されることがないよう,誰にでも取り扱いが可能な市販の
3DCG ソフトウエアを用いて,布の質感が伝わるような色刺激用の CG 画像作成を目指し
た。まず使用するソフトウエアの光学的特徴を把握するために,ディスプレイに映し出さ
れた CG 画像の反射率を算出して,設定パラメータごとに比較しその特徴を確認した。そ
れらの特徴を考慮し,第 4 章で得た布微小面の反射データを反映させて布 CG 画像を作成
した。
これまでの研究では作成した画像を客観的に評価したものは見当たらなかったため,
布と CG 画像を同時に視感する比較評価によって布画像の質感を確認した。その結果から,
実際に測定した布表面の反射データに基づいて作成された布 CG 画像の中に有用な画像を
見出すことができた。とくに,以下の 2 点が布の視感評価のための刺激作成に重要である
と提案する。1 点目は,布の微小面における全反射を拡散成分と鏡面成分に分離して各試
料布の反射率を明らかにし,布の 3DCG 画像作成に反映させたことである。2 点目は,楕
円柱状のたて糸とよこ糸を交錯させて表面形状を構成した布 CG 画像に反射データを反映
させた点である。画像の角度によっては,平面画像や写真画像より「布らしさ」で有意に
134
第6章
総括
高い評価を得た。しかし,不充分な点も見出された。鏡面反射成分の多い布はその表現に
工夫が必要である。
6.2. 今後の課題と展開
前節の最後で,鏡面反射成分の表現方法をより研究しなければならないことを述べた。
他にもいくつかの課題が残る。今回は市販の色票と同形の画像を想定したため,ドレーピ
ングのない平らな画像とした。しかし,このような平らな形状の画像は設定パラメータを
適切にしても,柔らかさを表現することは難しいのではないかと考える。布表面だけでな
く全体形状の工夫も必要であると考える。
また今回,
染色していない布を研究対象とした。
微細な表面の反射成分を抽出するために色の要素を排除したためである。しかし,服地と
して無色や無地の布は少ない。今後,質感研究とともに色や柄の表出方法についても探求
していく必要があると考える。
今後の展開としては,作成や扱い,保管の簡便な服の色彩調査用 CG 画像を完成させ,
調査研究ならびに,アパレル企業の顧客・市場調査などに活用していただくことを目指し
たい。
135
引用・参考文献
引用・参考文献
第1章
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18) 安部幸子,他編集:
『被服学辞典』
,朝倉書店,p.103,2004
19) 田中千代:
『新・田中千代服飾事典.第一版改訂』
,同文書院,p.364,p.1148,1998
20) 松田豊:
“第 5 章繊維の発色効果.
”
『色彩のデザイン』
,朝倉書店,pp.76-77,1995
21) 向川康博:
「反射・乱射の計測とモデル化」
,情報処理学会研究会報告(CVIM)
,34,pp.1-11,
2010
22) 日本色彩学会編:
“第 4 章色の測定方法.
”
『新編色彩科学ハンドブック第 3 版』
,東京
大学出版会,pp.154-156,2011
139
引用・参考文献
第5章2節
1) http://www.kisnet.or.jp/nappa/software/star/puma/abs.htm
2) 水野哲夫:
『統計の基礎と実際-保健・臨床・家政・栄養学のために-』
,光生館,
pp.93-95,
1993
3) 柳井久江・長田理:『Lotus1-2-3 医学生物学 統計マニュアル』,真興交易医書出版部,
p.87,1994
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謝辞
謝辞
本研究の進行および執筆にあたり,終始丁寧にご指導,ご鞭撻いただきました須長正治
先生にこの場をお借りして深く感謝を申し上げます。また,平成 19 年に入学しましてから
単位修得後退学 1 年後の平成 25 年 3 月までご指導いただきました山下由己男先生にもお礼
申し上げます。
2 度に亘る予備審査と最終審査におきまして,的確なご指摘とご指導をいただきました
伊藤裕之教授と鶴野玲治准教授にも心より感謝申し上げます。
多くの方々のご指導とご協力により,本論文を書き上げることができました。この場を
お借りまして皆様に感謝を申し上げます。
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