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家電・エレクトロニクス業界を取り巻く環境動向と今後

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家電・エレクトロニクス業界を取り巻く環境動向と今後
シャープ技報
第73号・1999年4月
家電・エレクトロニクス業界を取り巻く環境動向と今後
Current and Future Environmental Background Surrounding Electronics Industry
真 殿 英 昭 *
Hideaki Madono
要 旨
環境問題は , 地域的な産業公害から , 都市型・生活
型の環境問題や , 地球環境問題に変化している。特に
重要な課題については,国際的な取り決めや国の法律
により規制がなされ,環境問題への取り組みが一層強
化される傾向にある。
日本 , 欧州においてはこの傾向が顕著といえる。著
名な企業では自主的な環境取り組みを展開しているが,法
律対応の
「先取り」
感が強い。本論文では,家電・エレク
トロニクス業界を取り巻く環境問題と,日本及びヨー
ロッパの環境法規制 , 業界 , 当社の対応について論じ
る。
Environmental issues have been shifted from regional
industrial pollution to city-type and living-oriented issues
or global environmental issues. Especially, important
issues are regulated by international agreements and
national laws, so that measures against environmental
issues become more restrict.
This trend is remarkable in Japan and Europe. Major
companies perform voluntary environmental activities,
which seem to be anticipation of law regulations. This
article describes the environmental issues surrounding
electronics industry, law regulations in Japan and Europe,
and the efforts to promote the environmental activities in
the industry and Sharp.
改正や,家電リサイクル法の施行,地球温暖化防止法
の公布等の環境関連法が論議された。
環境パスポートといわれる ISO14001(環境マネジ
メントシステム)
第三者認証取得については製造業中
心に進められてきたが , 自治体 ,流通業者 , さらに電気
量販店も積極的な動きを見せている。特に非製造部門
の取得を視野に入れないと環境先進企業とは認められ
なくなっている。
地球環境問題で特に注目すべきものは消費者の意識
の高まりである。近年消費者は「環境に優しい」とい
う要素を商品選択の基準に入れており企業にも環境配
慮型商品の開発が望まれている。
図1は,ユーザやマスコミ , 学校等各種団体から当
社に対して送られた環境に関するアンケートの分類結
果である。ここでは ISO14001 の認証取得と並んで企
業の情報開示,例えば環境報告書発行等への質問が多
く,環境に関する情報公開も企業の社会的責任の一つ
となりつつあることを示している。
まえがき
当社は 1998 年を「環境元年」と定め,様々な環境
取り組みをスタートさせた。そして昨年はまさに「環
境元年」といってよい程,環境への意識が高まった年
であった。
環境ホルモン,
ダイオキシン等の環境関連記事が毎
日のように新聞等で報道され,国会でも,省エネ法の
図1 当社に対する環境アンケート内容
Fig. 1 Contents of questionnaire on environment.
* 環境安全本部 環境企画部
―4―
家電・エレクトロニクス業界を取り巻く環境動向と今後
このように , 環境に対する取組みは,必ず取り組ま
なければならない重要な事業経営の課題となってきて
おり,企業が環境問題に対し,明確な哲学と認識をも
つ事が必要となってきている。
1 . われわれを取り巻く環境問題
1・1 環境問題のこれまでの推移
(図2)
19 世紀の産業革命以降,大量生産,大量消費,大量
廃棄の経済社会システムにより,我々はかつてない経
済成長と物質的な豊かさを得た。一方,産業の成長と
は裏腹に,様々な環境問題が発生しはじめた。
第二次大戦の終結と世界的な重化学工業主体の産業
復興に伴い,大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・振動・騒
音・悪臭・地盤沈下・鉱害といった公害問題が顕在化し,
それは 60 ∼ 70 年代にかけて深刻化していった。
80 年代に入り,公害問題は終息しはじめたものの,
代わってオゾン層の破壊・地球温暖化・酸性雨・海洋汚
染・砂漠化・有害物質の越境移動等の問題が顕在化し,
環境問題は,一時的,地域的「公害」から,国際的・
永続的「地球環境問題」へと様変わりしてきた。
1)地域限定環境問題(1960年代∼)
従来型産業公害問題
大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・
振動・騒音・悪臭・地盤沈下・鉱害
自然生態系環境問題
都市型・生活環境問題
濃度が増加して,気候変動する現象である。地球温暖
化の結果,気候システム自体が変化し,海面の上昇,生
態系の変化,マラリア等の増加,水や食料不足等の弊
害が懸念されている。
次にオゾン層破壊である。
成層圏に存在するオゾン
層は,太陽光に含まれる有害な紫外線を吸収し,地球
上の生物を保護しているが,
特定フロンなどの人工の
化学物質によって,オゾン層が破壊されている事が明
らかとなった。オゾン層の破壊による紫外線の地上へ
の照射の増加により,皮膚ガンや白内障の増加,免疫
力の低下,農作物の減収穫,生態系への悪影響等が予
想されている。
1・3 環境問題への国際的な取組み
(表1)
上記のような地球環境の危機は 70 年代から,ロー
マクラブの報告書「成長の限界」等で指摘され始め
た。
1972 年には,スウェーデンのストックホルムで国
連人間環境会議が開催され,
地球環境問題が国連の場
で最初に議論された。
その後,特に 80 年代後半から,環境問題は一国の
みで解決できる問題ではなく,
先進国や発展途上国を
包括した国境を越えた地球レベルの問題であるとの認
識から,世界的に環境問題への関心は高まった。
そして,1992 年には「地球サミット」と「気候変動
枠組条約の締結」という,環境問題に対する国際的で
具体的な取組が本格化する契機となる出来事が起っ
た。
廃棄物問題 等
表1 環境問題の国際的取組年表
2)地球環境問題(1980年代∼)
Table 1 Chronological table of international activities on
environmental issues.
産業・生活関連問題
エネルギー系環境問題(地球温暖化,
酸性雨)
非エネルギー系環境問題(オゾン層破壊,
有害廃棄物越境,
海洋汚染)
年
1972
自然生態系環境問題
1972
森林破壊,
砂漠化,
野生生物種減少
発展途上国の公害問題
1992
環境問題は地域的・一時的な「公害」から
国際的・永続的「地球環境問題」へ変容
1992
図2 環境問題の変容
Fig. 2 Change of environmental issues.
1995
1・2 地球温暖化とオゾン層破壊
世界的な環境問題の例として,
地球温暖化とオゾン
層破壊を取り上げて説明する。
地球温暖化とは,
化石燃料の燃焼によって発生する
二酸化炭素,メタンなどの「温室効果ガス」の大気中
―5―
1997
1998
項 目
ローマクラブ レポート
環境と開発に関する国連
会議(UNCED)
ストックホルム
環境と開発に関する国連
会議(UNCED)
リオデジャネイロ
「地球サミット」
気候変動枠組条約の採択
内 容
「成長の限界」
環境問題が初めて,
国連で
論議される。
「持続可能な発展」提示
「環境と開発に関するリオ
宣言」
「アジェンダ21」を採
択
2000年までに温室効果ガ
ス排出を1990年レベルに
戻す事を義務付け
第1回気候変動枠組条約 「ベルリンマンデート」を採
択。1997年までに先進国の
締約国会議(COP1)
義務を決定することを決定
ベルリン
第3回気候変動枠組条約 京都議定書の発行/
温室効果ガスの先進国の
締約国会議(COP3)
削減目標決定
京都
排
第4回気候変動枠組条約 柔軟性措置(共同実施,
出量取引,
クリーン開発メカ
締約国会議(COP4)
ニズム)の具体的な内容に
ブエノスアイレス
ついて審議
シャープ技報
第73号・1999年4月
1・3・1 地球サミット
地球サミットとは,1992 年ブラジルのリオデジャ
ネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議
(UNCED)
」の事を指す。
地球サミットでは,
環境問題に対する全世界の共通
認識として,
「将来のニーズを満たす能力を損なうこ
となく,現代の世代のニーズを満たすこと」という
「持続可能な発展」という概念を明確化した。
そして,21 世紀に向けて地球環境を健全に維持す
るための国家と個人の行動原則を規定した
「環境と開
発に関するリオ宣言」と,その実現の具体的な行動計
画である「アジェンダ 21」や,地球環境の保全に関す
る様々な国際協定,条約が定められた。
アジェンダ 21 は,①社会的経済的要素,②開発の
ための資源の保全と管理,
③主要な社会構成員の役割
の強化,④実施手段の4部で構成されており,参加国
別に行動計画を策定することを定めた。
1・3・2 気候変動枠組条約
一方の「気候変動枠組条約」は,1992 年 155 カ国に
より採択された。これは,先進国が 2000 年までに二
酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を 1990 年レベル
に戻す事を義務付けたものである。
そして,その目標の実行に向け,具体的な国際的取
組を定めるための,気候変動枠組条約締約国会議
(COP)が,1995 年ドイツのベルリンで開催された
COP1 以降,毎年開催されている。
中でも,1997年に京都で開催されたCOP3では,
「京
都議定書」が合意され,先進国には法的拘束を条件と
した温室効果ガスの排出削減が要求された。
具体的な削減目標は2008年から2012年の平均値で
1990 年比 EU 加盟国8%,米国が7%,日本が6%で
ある。
更に,98 年,ブエノスアイレスにて開催された
COP4 では,より費用対効果の高い方法で,削減目標
を達成する手段として京都議定書で論議された柔軟性
措置の具体的内容が論議された。
具体的には,共同実施(複数の先進国が共同して削
減した場合両国間で譲受できる仕組み),クリーン開
発メカニズム
(先進国が発展途上国で削減取組を行っ
た場合その先進国の削減量とみなす仕組み)
,排出権
取引(先進国の政府間や企業間で排出量を譲受できる
仕組み)の3種である。
こうした国際的取り決めに対する,
日本での具体的
取り組み内容については,次章にて述べる。
2 . 強化される日本の環境法規制
日本において環境法規制が生まれたのは 1970 年代
の大気汚染防止法や水質汚濁防止法に代表される公害
防止の法律が最初であった。しかしながら 80 年代後
半に入り,地球の温暖化やオゾン層破壊等,環境問題
が特定地域にとどまらない問題となる中,
環境に係わ
る規制も従来の単なる公害規制にとどまらない多様化
を示してきた。また,廃棄物規制であっても,従来の
環境衛生保持の目的から,
現在は社会的に処理が困難
である廃棄物の削減を目指した取組が進められてい
る。
環境法規制の強化は,
企業にコスト負担を強いるた
め,企業にとっての新たなリスクの一つとなってい
る。本項では,特に我々電機業界に影響の大きい日本
国内の環境法規制について論じる。
2・1 温暖化防止枠組条約と改正省エネ法,
地球温
暖化対策推進法
温室効果ガスは6種類(二酸化炭素,亜酸化窒素,
メタンガス,PFC,HFC,六弗化硫黄)あり,そのう
ち二酸化炭素の温暖化寄与度は 55%を占めると言わ
れている。
二酸化炭素排出量のうち,日本では産業部門が 40
%を占め,残りの大半は民生部門と運輸部門である。
各部門とも省エネが二酸化炭素削減に有効であること
から「省エネ法」が改正された。この改正「省エネ法」
では,家電商品や自動車については「トップランナー
方式」
,工場等の事業者については省エネ目標の制定
と実績の報告が求められるようになった。
(1)商品関連:95 年度の部門毎のエネルギー消費
は,90 年比で民生部門が+ 15.5%,運輸部門が+ 16.3
%と,横ばいの産業部門に比べ伸びが大きい。そのた
め自動車を含む民生用機械器具については,カテゴ
リー毎のエネルギー消費最高性能値を達成すべき省エ
ネ目標値として設定する方式(トップランナー方式)
が取り入れられ,目標基準値が設定された。当社に関
連する商品カテゴリーはテレビ,VTR,エアコン,電
子計算機(パソコン),複写機であり,冷蔵庫も半年
後から対象となる見込みである。
(2)事業所関連:第1種指定工場(原油換算年間
3,000kl 以上)にはエネルギー使用合理化に関する計
画の提出義務が,第2種指定工場(同1,500kl以上)に
は省エネを徹底するための措置が設けられた。
措置が
不十分な場合,合理化計画作成指示,公表,命令,罰
則等が課せられる。
しかし,本来の温暖化防止を進めるためには,二酸
―6―
家電・エレクトロニクス業界を取り巻く環境動向と今後
課せられ,リサイクル工場,指定引取り場所等の処理
施設を設けることが必要となる。また,費用は消費者
負担だが,処理コストをカバーしきれない場合はメー
カに負担が回ってくることになる。
(2)容器包装リサイクル法(正式名:容器包装に係
る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)
容器包装廃棄物は,一般廃棄物の中で,容積比 60
%,重量比20∼30%に達していることを背景に成立,
現在ガラスビン,PETボトルが対象であり,2000年4
月よりプラスチック,紙製容器が対象になる。当社で
は包装用に使用している紙製容器,
プラスチック製容
器が対象になり,当社もリサイクル義務者となる。
2000 年4月以降は排出量に応じて費用負担すること
になる。
以下,国内の状況を概観すると表2のようになり,
設備投資等,
企業のコスト負担はますます増える傾向
にある。
化炭素のみならず,
6ガスすべてで排出を抑制しなけ
ればならない。そのため,1998 年 10 月,地球温暖化
対策推進法が制定され,
すべてのガスを対象にした規
制が行われることになった。発効は1999年4月だが,
その詳細については現在審議されている。
2・2 廃棄物のリサイクル規制
廃棄物の処理・処分については,従来の焼却処理−
焼却灰の最終埋立て処分というシステムを今後継続す
ることが困難になりつつあり,
最近はリサイクルを組
み込み焼却量,処分量を極力減らしていこうという取
組が広がりはじめている。
環境基本計画では廃棄物に
対する基本的な考え方として,第一に発生抑制,第二
に使用済み製品の再使用,
第三に回収されたものを原
材料として利用するリサイクル,最後にエネルギーと
しての利用と,最後に発生した廃棄物については適正
な処理を行うことを目指している。この方針に従い,
事業者によるリサイクルの義務付け等の制度が整備さ
れるに至った。具体的には下記のように家電品,容器
包装廃棄物が対象とされている。
(1)廃家電リサイクル法(正式名: 特定家庭用機器
再商品化法)
施行は2001年4月から。対象はテレビ,冷蔵庫,エ
アコン,洗濯機の4品目。メーカはリサイクル義務を
3 . 海外の環境法規制について
次に,海外をみてみると,地域事情によりその状況
はさまざまである。例えばヨーロッパでは過去の環境
事故・汚染により環境対応が世界で最も進んでいると
いわれている。ここでは EU の環境法規制の概要,及
表2 日本の環境法規制概観
Table 2 Outline of Japanese environmental law regulations.
分 野
法 律 名
制定年月
基本法
環境基本法
1993/11
化学物
質管理
化学物質審査・製造規制法
1993/11
オゾン層保護法
1988/5
省エネ
エネルギー使用合理化法
1979/6
温暖化
防止
地球温暖化防止法
1998/10
大気汚染防止法
1968/6
水質汚濁防止法
1970/12
騒音規制法
振動規制法
1968/6
1976/6
廃棄物処理法
1970/12
リサイクル促進法
1991/6
容器包装リサイクル法
1997/4
廃家電リサイクル法
1998/6
公害
防止
廃棄物
処理
概 要
「環境にやさしい社会」を築いていくため,環境保全についての基
本理念,環境保全に関する責務・基本施策の枠組からなる。
人の健康を損なう恐れのある物質による環境汚染を防止するため,
製造あるいは輸入の前に規制する。
オゾン層を破壊する物質の製造規制,排出抑制措置。
燃料資源の有効利用のため,工場・建築物・機械器具のエネルギー
使用合理化の措置を講じるのが目的。
自治体・事業者等に温室効果ガス排出抑制責務を負わせる。
工場及び事業所からのばい煙を排出抑制し,自動車排気ガスにかか
わる許容限度を定めることにより国民の健康を保護し生活環境を保
全する。
公共水域への水の排出,地下への浸透を規制し,公共用水及び地下
水の水質汚濁防止を図る。
工場等の事業活動及び建設工事,自動車騒音の規制。
工場等の事業活動及び建設工事,道路交通振動の規制。
廃棄物の排出削減,廃棄物の適正処理,廃棄物処理施設の確保を目
的とし,廃棄物種類毎の処理方法を定める。
家電製品は「第一種指定製品」に指定され,製品の設計段階におい
て事前評価を行い,使用後に容易にリサイクルできるよう工夫しな
ければならない。
容器包装廃棄物の適正処理及び資源の有効利用を目的とする。消費
者は分別排出,市町村は分別収集,事業者は再資源化の義務を負う。
2000年からは紙・プラスチック製の容器包装が対象になる。
テレビ・冷蔵庫・洗濯機・エアコンの4品目につき,メーカにリサ
イクルの義務を負わせる。
―7―
シャープ技報
第73号・1999年4月
3・1 欧州環境取り組みの経緯
EU は世界の中でも人口が集中し,工業や農業の発
達した 15ヵ国から構成されることから,イタリアの
セベソで起きたダイオキシン問題(1976 年)
,チェル
ノブイリ原発事故(1986 年)
,ライン河の汚染,酸性
雨による森林の破壊,海洋汚染等多くの環境問題に直
面してきている。
その影響の範囲は一国のみに止まら
ず,国境を越えて生じていることから,その解決にあ
たっては,多くの国による協調的な政策や行動によら
なければならないのが EU の特徴である。
(2)廃棄物管理優先順位の原則
廃棄物対応は原則的に,廃棄物の量を減らす(発生
回避)
,続いて「リサイクル」
,安全を充分に確保した
上での「焼却」,最後に「埋め立て処分」というアプ
ローチ。
(3)Waste Stream Priority (優先処理廃棄物)の原則
廃電池,電気・電子機器,容器・包装材など9種類
の廃棄物については通常のゴミ処理の流れとは別に取
組むことを定めている。
(4)Polluter Pays Principle(汚染者負担)の原則
(5)Cooperation Principle(共働の原則)
廃棄物処理に当っては , 排出者だけでなく , 自治体
や消費者も責任をもってあたるべきとする考え。
3・2 EU廃棄物戦略
2000 年に向けての環境プログラムとして作成され
た EU の第5次環境行動計画では,
「持続可能な開発」
に向け,下記の戦略を打ち出している。
(1)Pre-cautionary(未然防止)の原則
廃棄物問題は,科学的な知見(根拠)が得られなく
ても予防的に取組むことが重要。
3・3 当社の販売・生産活動に影響を与えるEU各
国環境法規制について
EU では,廃棄物の削減,適正処理については,EU
委員会内の第 11 総局[環境総局]が環境立法を定め
対応にあたっている(指令というかたちで立法化さ
れ,各国は国内法化する義務を負う)
。また,EU 加盟
国は EU 指令に対応した法律を定めるほかに,各国の
び主な環境規制が当社の販売・生産活動に与える影響
について論じる。
表3 主な欧州各国環境関連法一覧
Table 3 Major environmental law regulations in European countries.
区分
国名
EU
オランダ
廃
電
気
電
子
機 ドイツ
器
包
装
材
廃
電
池
有
害
物
質
法 律 名
欧州廃電気電子機器回収リサイ
クル指令案(2002年発効見込み)
99/1 ホワイト&ブラウングッ
ズ廃棄処理に関する法令
廃電気電子機器回収リサイクル
政令案(立案中,99/夏頃採択見
込み)
スウェー 電気電子機器リサイクル法
(2001/1施行見込み)
デン
ノルウェー 家電機器(冷蔵庫除く)のリサ
イクル法(99/7施行見込み)
94/12 包装及び包装廃棄物に関
EU
する指令
91/6 包装材廃棄物防止法(98/8
ドイツ
改訂)
イギリス,オランダ,フランス,
その他
スウェーデン等で法律として発効
加盟国
91/3 危険物質を含有する電池
蓄電池に関する指令(改訂指令
EU
が99/春頃発効見込み)
オランダ 95/1 電池処理法
98/4 電池政令
ドイツ
94/8 電池政令(イギリス)
その他
97/6 電池政令(スウェーデン)
加盟国
98/1 電池政令(フランス)
98/6 電池政令
スイス
オゾン破壊物質(HCFC/臭化
EU
メチル)に対する規制(2008年)
94/7 ダイオキシン法令
ドイツ
主な要求事項
・製造業者/輸入者によるすべての廃電気電子機器
の回収リサイクル
・鉛/カドミ/6価クロム/ハロゲン系難燃剤の使
用禁止等
・製造業者/輸入者による廃家電の回収・リサイク
ル
・99/1 以降 冷蔵庫・洗濯機・テレビ・パソコン等
・2000/1 以降 オーディオ・暖房・調理器等
当社への影響
・使用済機器のリサイクル
処理費用の発生(見込み)
・使用禁止物質の代替物質
の検討
・情報機器(パソコン・複
写機等)についてはメー
カ・輸入業者責任であり,
委託先への回収・リサイ
クル費用が発生
IT 機器政令(案)から全ての廃電気電子機器に回収
リサイクルの対象を拡大する見込み
−
製造業者/輸入者によるすべての廃電気電子機器の
回収リサイクル
冷蔵庫を除く家電機器のリサイクル
使用済機器のリサイクル処
理費用の発生(見込み)
包装材の回収・リサイクル
販売/輸送用包装材の回収・リサイクル
包装材の回収・リサイクル
有害電池の表示,製造業者/輸入者によるすべての
電池の回収・リサイクル(改訂指令では水銀含有電
池規制強化,2008年以降のニカド電池販売禁止)
全ての電池の回収・表示
全ての電池の回収・リサイクル
・全充電池の回収,重金属含有電池の表示
・全電池の回収,重金属含有電池の表示
・重金属含有電池の表示
・全ての電池の回収・表示
2008年までにHCFC/臭化メチルの使用禁止
特定臭素系難燃剤使用禁止(1999/7∼)
―8―
−
各国の包装材リサイクル機
関への処理委託,並びに処
理費用の支払い
−
各国の電池回収機関への処
理委託,並びに回収処理費
用の支払い
エアコン/冷蔵庫で一部採
用されているHCFC代替化
特定臭素系難燃剤代替
家電・エレクトロニクス業界を取り巻く環境動向と今後
状況に応じた環境規制を定めている。現在,当社事業
活動に係わりの深い EU 指令,及び各国の法律は表3
の通りである。
エレクトロニクス業界にとって係わりが大きいのは
主として,有害物質の使用禁止や,廃棄物の回収・リ
サイクル(使用済廃電気電子機器も含む)等であり,
内容によっては大きなコスト負担を強いられる。
3・4 電気電子機器の省エネについて
電気電子機器の省エネについては,
日本のような法
律はなく,国毎の環境ラベルの基準値のようなデファ
クトスタンダードが先行している。しかしながら,環
境総局では電気電子機器の省エネについては積極的に
推進したい意向があるため,
電機業界としては自主規
制という形で法制化される前に対応を図っている。欧
州における省エネ自主規制としては欧州民生機器工業
会(EACEM)がテレビ・ビデオの待機電力について
EU と協定を結んでおり,当社も参画している。
(1)2000 年1月1日より,待機時消費電力 10 Wを
越えるテレビ・ビデオを販売しない。
(2)年間販売台数に応じた待機時消費電力の加重
平均値を6W以下とする。
オーディオ機器についても検討中である。
4 . 業界・当社の対応について
4・1 業界の対応
(社)日本電機工業会では,地球環境保護を目的と
して電機産業全体としての環境保護対策を策定し,各
企業は,
それを受けて自らの目標設定と推進を行って
いる。
(表4)
4・2 当社の対応
地球環境問題に対する当社の取組みは,1971 年の
環境技術センターの設置から始まる。その後,1991年
には環境対策推進部が設置され,1992年には,当社の
環境保全活動の基礎をなす環境基本理念
『誠意と創意
をもって「人と地球にやさしい企業」に徹する』が制
定された。そして,1997 年9月,環境問題への対応を
更に強化するため環境安全本部が設置された。
当社の環境対応は,
「3G-1R 戦略」
(表5)を基本に
取組んでいる。3G-1R とは,グリーンプロダクト(環
境に配慮した製品づくり),グリーンファクトリー
(環境に配慮した生産活動)
,グリーンマインド(環境
に配慮した風土作り),リサイクル事業(使用済み製
品の回収とリサイクル)
を行動テーマにした戦略であ
る。
グリーンプロダクト戦略では,昨年,グリーンシー
ル制度を開始した。これは,AV・電化・情報・通信
の全商品を対象に,省エネルギー,省資源化などで特
に環境に配慮していると認められる商品に認定される
制度であるが,昨年は,24 機種が認定された。今後も
この制度を進めることで,
グリーンプロダクト商品の
開発を行う。
グリーンファクトリー戦略では,主に,地球温暖化
問題と廃棄物の削減,化学物質管理に取組んでいる。
廃棄物では,2005 年にゼロエミッションを達成する
ことを目標に,社内リサイクルと再資源化を進めてい
る。
グリーンマインド戦略は,
従業員の環境保全意識を
高めることを目標にしているが,環境教育等とともに
昨年6月から始まったグリーンマインドキャンペーン
を中心に啓蒙活動を進めている。
リサイクルビジネス戦略では,2001 年に施行され
る「廃家電リサイクル法」の対応にむけて,回収物流
システムの確立と,適正リサイクル設備の開発に取組
んでいる。
尚,
当社戦略の詳細については下記ホームページを
参照頂きたい。
http://www.sharp.co.jp/sc/excite/kankyo/kankyou.htm
表5 3G-1R 戦略
Table 5 3G-1R Strategies.
GP(グリーンプロダクト)戦略:
環境に配慮した商品の開発
・低待機電力モデル,
使用時の
低消費電力モデルの開発
・有害物質の使用禁止・抑制
・包装材の削減
GM(グリーンマインド)戦略:
環境に配慮した風土作り
・グリーンマインドキャンペーンの
実施
・環境をテーマにした小集団活
動の実施
表4 電気機械業界の自主行動計画
Table 4 Voluntary plan for environment of electric machine
industry.
オゾン層保護
オゾン層破壊物質の特
定フロン,
トリクロロエタ
ンは,
1995年末に全廃済。
代替フロン
(HCFC)に
ついては代替技術の研
究開発を進めている。
廃棄物削減
2 0 1 0 年に再 資 源
化率を75%以上に,
最終処分委託率を
10%以下に。
地球温暖化防止
2010年までに1990
年比で生産高CO2
原単位を25%以上
改善。
―9―
GF(グリーンファクトリー)戦略:
環境に配慮した生産活動
・事業所からの廃棄物の削減
・温室効果ガスの削減
・ISO14001の認証取得
・有害物質削減と適正管理
RB(リサイクルビジネス)戦略:
使用済み商品のリサイクル
・国内外の使用済み製品の回収,
リサイクルの当社独自システム
の構築
シャープ技報
第73号・1999年4月
むすび
環境問題は企業にとって避けては通れない問題と
なっており,企業は明確なビジョンをもって対応しな
ければならない。
当社は国際社会の中でキラリと光る
オンリーワン企業を実現すべく取り組んでいる。
当社
が環境問題でも他社に先駆けたオンリーワン企業にな
るためには,太陽電池や液晶のような当社の独自技術
を用いた商品戦略を展開するとともに 3G-1R 戦略を
着実に実行して環境面の技術力,総合力をつけること
が重要である。
過去,日本の自動車業界は技術力をつけることによ
りコストをかけずに環境規制に対応し,海外の自動車
メーカとの競争に勝ったことがある。1970 年代 , アメ
リカで自動車の排気ガス中の有害物質を 10 分の1に
減らせ , という厳しい法律が提案された。これはアメ
リカでは先送りになったものの,日本ではほぼ同水準
の規制が導入され,日本の自動車メーカは技術開発に
力を注ぐようになった。
これをきっかけに日本メーカ
は技術力をのばし,採算を損なわずに環境汚染対策に
成功し , 競争力をつけたのである。
環境対応技術力を強化するということは,
言い換え
れば商品の環境側面での付加価値を高めることであ
る。いわゆる環境マーケティングを行い,独自の環境
技術を応用した環境配慮型商品をオンリーワン商品と
して創出することは,当社の独自性発揮,競争力の強
化にもつながる。さらに将来的には環境対応事業を
シャープの柱として育てることも可能であろう。
「環境に優位となったものが将来を制する」という
考えのもとに,今環境対応力をつけることがすなわち
将来の当社を支えることに他ならないのではないだろ
うか。
参考文献
1) 地球環境キーワード事典,
環境庁地球環境部編集,
中央法規出
版発行(1997).
2) “企業のための”
環境百科,
社団法人日本事務機械工業会編集
発行
(1996)
.
3) 平成9年版環境白書(総説),環境庁編,大蔵省印刷局発行
(1997).
4) 手にとるように環境問題がわかる本,
三和総合研究所監修,
かん
き出版発行
(1997)
.
(1
99
9年2月3日受理)
― 10 ―
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