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アルジェリア1990 2000

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アルジェリア1990 2000
国際開発学会第 25 回全国大会(千葉大学・アジア経済研究所:2014 年 11 月 29-30 日)発表要旨集, p.57.
Abstracts Volume of the JASID 25th Annual Conference, p.57, The Japan Society for International Development
開発途上国の環境行政分野のキャパシティ・ディベロップメント
―アルジェリア事例に見る実効的な環境管理のためのインセンティブ構造―
吉田充夫(独立行政法人国際協力機構・東京大学大学院新領域創成科学研究科)
Capacity Development of Environmental Public Administration in Developing Country
- Incentive Structure for Effective Environmental Management in the Case of AlgeriaMitsuo Yoshida (Japan International Cooperation Agency (JICA); Department of International Studies (DOIS),
Graduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo)
アルジェリアでは、1990 年代の内戦で環境インフラや環境管理体制の大規模な破壊が発生し、旧式
工業設備の無秩序な稼働のもと公害・環境汚染問題が多発していた。2000 年以降の国民的和解と復興
プロセスのもとで、アルジェリア国土整備環境省(MATE)の設立、
「国家環境戦略」や「環境と持続可
能な開発のための国家計画」の策定といった国家環境行政面での整備や法制度の確立が、UNDP やド
イツ GTZ といったドナーの支援によって進んだ。それは組織制度を近代的な形に整えたが、現実に
発生している公害・環境汚染問題への調査対策を実行するまでには到らなかった。すなわち、環境管
理体制の実効性の確保、機能化のための包括的な対処能力向上(CD)が必要であった。このような背景
のもと JICA は、2004 年以降、中央のモニタリング機関(ONEDD)及び地方(Wilaya)環境局を
カウンターパートとして、環境管理能力向上を目的とした技術協力(CD 支援)を行った。専門家派
遣によるこの技術協力の過程で首都アルジェの河川において産業排水に由来する高濃度の水銀汚染が
発見された。MATE と共同で、この水銀汚染の発見について公開セミナーで公表しマスメディアが全
国報道をした結果、公害対策への世論の急速な高まりと環境に関する Public Awareness の深まりを
引き起こした(2005 年)。これにより、それまでのともすれば形だけにとどめられていた環境管理行政
が、組織として具体的な対策実施に対する強いモチベーションを有するものになった。その結果、水
銀汚染堆積物浚渫・除去の対策工事がなされ、加えて、水銀汚染のみならず広く環境保全や産業公害
の予防に関する関心を形成し、行政と産業界の対話、環境モニタリング強化、産業排水管理、全国主
要河川の汚染除去計画(Depollution Plan)の策定と実行、環境課徴金制度の導入などといった施策
が急速に展開されるようになった(2006-2010)
。
以上のアルジェリアにおける 2000 年以降の環境管理行政の発展史は、大局的には、(1)環境管理組
織体制の形成期(2000-2004)、(2)世論形成と環境管理の発動期(2005)、(3)環境管理施策の展開期
(2006-2010)の 3 段階に区分することができる。このうち環境管理行政にとっての決定的転換である
主体(オーナーシップ)形成は、Public Awareness の深化に裏付けられた(2)の段階に認められる。
首都の河川での高濃度の水銀汚染の発見という事実は、水俣病事件の紹介などを含めて公開セミナー
で公表されたため、大きな反響を呼び起こしたのだが、このような世論は環境管理行政を後押しし、
また政府内での予算配分や人員配置、制度面での改善を促進する要因となった。ここに認められるイ
ンセンティブ構造は、外部的には世論の社会圧力に配慮する意志決定者(政府・政治家)の施策実行
のインセンティブと汚染企業の環境社会配慮へのインセンティブ、内部的には環境行政の使命や目的
(これは(1)の段階で認知されている)を遂行すべき行政官の意識(モラル)面でのインセンティブで
あり、これらが複合して環境管理行政組織としてのモチベーションとなった。
アルジェリア事例は、個別具体的な環境問題(例えば“水銀汚染”という事実)の公開を通じた世
論の喚起と社会的圧力が環境管理行政の実効化のトリガ-であり、情報公開を技術協力と適切に同期
させることが CD 支援アプローチとして有効である、という示唆を与える。情報公開原則(これは
ODA の原則でもある)にもとづく環境情報の社会的共有は、実効的な環境行政の機能化のための強
力なインセンティブ要因となることを示している。
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