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検討委員会 報告書 - 新産業創造研究機構
AQUA ルネッサンス神戸 検討委員会 報告書 ~『新たな水の役割の創造』について~ 平成21年 3 月 事務局: 財団法人 新産業創造研究機構 はじめに 水は、生命の維持、市民生活や産業活動などに欠くことができない資源である。 都市においては、水道がその水を供給する基本的な社会基盤施設として整備され、水需要の 増大に応えつつ市民生活の維持向上に貢献してきた。水道水は、安全で安定した水質を持ち、 いつでも、即時・確実に、比較的どこでも、一定の水圧を持った状態で得ることができる。ま た、現在の水道は渇水期を考慮して水源が確保されており、オゾン活性炭処理などにより水質 改善も図られている。 ところが、昨今の水道事業においては、節水機器の普及、高齢化社会の到来や人口の減少傾 向などのために需要減少が顕在化しており、この傾向がより一層顕著になることが懸念されて いる。水資源は貴重であり、また給水に要するエネルギー節約が地球温暖化防止につながるた め、価値ある水道水は「有効に無駄なく」使わなければならないが、一方で水需要の減少で既 設管路内の流量が減少して滞留することにより、水質維持の問題や給水コストの増加による市 民の負担増が懸念されている。 最近、社会問題として環境や健康問題、ふれあいが少なくなった都市生活などが指摘されて おり、良好で質の高い環境、健康や若さ(美容)の維持、真に生きがいを見出せる社会の実現 などが求められている。また、地球温暖化などによる異常気象、水質汚染および人口増加によ り、世界的な水不足や食料危機も危惧されており、食料自給率が低く、食料を通じて多くの水 (仮想水、ヴァーチャル・ウォーター)を外国に依存している日本では、食料確保の方策が求 められている。 こうした社会的要請に対し、産学官の連携による『AQUA ルネッサンス神戸検討委員会』 において、水が持つ環境や心身の健康改善などにつながる効用に着目し、下記の3つの分野に おいて「新たな水の役割の創造」について検討を行った。本報告書は、水の有効利用法を紹介 するとともに、それらに関する提言を行っている。 ① 緑化(第 3 章) ② ミストなどによる散水(第 4 章) ③ 飲用、入浴など(第 5 章) ~環境や健康・癒し、都市景観、福祉施策などへの貢献~ ~環境への貢献~ ~健康や癒し・美容などへの貢献~ このような水が持つ価値を活かした「新たな水の役割」を創造することにより、快適なまち づくりや人々の生活の質的向上に役立つことが期待される。特に都心部においては、利便性、 安全性や供給の安定性という利点を持っている水道水が、このような「新たな水の役割」にお いても有効であると言える。 明治 33 年に日本で 7 番目に近代水道として給水が開始された上水道の水が、このような新 たな役割を得て、広く有効に利用されるようになることで、 「デザイン都市」を目指す神戸市に おいて、都市生活が真に豊かなものになることが期待される。 【基本理念】神戸水道ビジョン2017より 快適な市民生活を支え、これからも満足いただける水道 ~まちに豊かさを、暮らしにうるおいを~ 社会情勢 水道事業の課題 人口減少・ 節水型社会 による 水需要減少 神戸市 他施策等 地球温暖化 大量の 施設更新 神戸市環境基本計画 【環境】 【環境】 エネルギー不足 【環境】 コスト負担の増加のおそれ 厚生労働省 水道ビジョン 政策目標:環境保全への貢献 神戸水道ビジョン2017 目指すべき方向性:水の有効利用 デザイン都市・神戸 食料自給率低下(食の安全) 【環境】【都市景観】 【癒し】【まちづくり】 【健康・癒し】【食育】 ストレス社会 ⇒ 健康志向 【健康・癒し】 神戸市基本計画 (改定作業中) 【環境】【健康・癒し】 【防災】【まちづくり】 高齢化社会 ⇒ アンチ エイジング 【健康・癒し】【美容】 環境や健康などにつながるような新たな水の役割の創造 整理項目 節水との関連 雨水・地下水・下水処理水との整理 AQUAルネッサンス神戸 背景 水道水の価値 ※安全、安定、広範囲、一定水圧 目次 頁 第1章 検討の背景 ~現状 1-1 1-1 現状 ~社会の要請 1-1 1-2 神戸市の水道事業における取り組み 1-3 検討の視点 ~CO2 排出量削減を目指して 1-3 1-4 第2章 水の果たす役割・効用 2-1 第3章 緑化の推進と効果 3-1 緑化による効果 3-2 3-1 3-1-1 環境 3-1-1-1 夏季環境改善・ヒートアイランド現象緩和効果 3-3 3-1-1-2 防遮音効果 3-6 3-1-1-3 空気浄化・水浄化 3-7 3-1-1-4 その他(動植物の生息空間の確保、生態系の維持:自然回帰) 3-8 3-1-2 都市景観(観光や住民の誇りにつながる価値の創造) 3-1-3 健康・癒し 3-10 3-1-3-1 生きがいづくり・心の癒し・ストレス緩和効果 3-14 3-1-3-2 安全・確実な食物の確保 3-20 3-1-4 福祉・教育 3-1-4-1 福祉施設などの授産活動 3-27 3-1-4-2 環境教育・食育 3-29 3-1-5 まちづくり・コミュニティづくり 3-31 3-1-6 防災効果 3-34 ~都市の安全向上 (1) 頁 第5章 心身への効果 ~健康・癒し・美容 5-1 飲用を通した健康・美容 5-1 ~もっと水を飲もう 5-1-1 水を飲むことの必要性と意味 5-1-2 飲料水としての水道水 5-1 5-1 ~ 最も身近にあり安全で安価な水道水を見直そう 5-2 5-2 入浴による健康・癒し・美容効果 5-10 5-3 その他の例 5-15 5-3-1 加湿器などによる健康や美容への効果 5-15 5-3-2 その他(目に優しい水、見ることでこころが癒される水) 5-17 5-4 まとめと提言 5-4-1 5-18 水道水を飲むことの推奨と新たな都市ブランドの創造 ~マイボトルブームを活用して水道水を飲む習慣を取り戻そう~ 5-4-2 健康・癒し・美容に効果のある入浴法の推奨 ~美しく健やかに、もっと日常的にお湯を楽しもう~ 5-4-3 5-19 加湿器・ミストによる健康・美容効果の推奨 ~ 空気中の湿度を保って、健康で、美しくアンチエイジグ~ 第6章 5-18 新たな水の役割の創造に向けての提言 5-20 6-1 6-1 目標 6-1 6-2 提言 6-1 6-2-1 水利用による環境への貢献 ~快適な空間を創造しよう~ 6-2-2 水利用による健康・癒し・美容への貢献 6-2 6-2 ~健やかな生活を創造しよう~ 6-2-3 水利用による都市景観・観光への貢献 ~デザイン性のあるまちを創造しよう~ 6-2-4 6-2 水利用による福祉・教育・コミュニティづくりへの貢献 ~豊かな社会を創造しよう~ 6-3 新たな水道水の役割の創造 6-3 6-3 参考資料 付録-1 (3) 頁 3-2 緑化施策 3-2-1 3-36 緑化全般 3-2-1-1 屋上緑化・屋根緑化 3-36 3-2-1-2 壁面緑化・緑のカーテン 3-47 3-2-1-3 その他の都市緑化 3-53 3-2-2 農業関連 3-2-2-1 都市菜園 3-58 3-2-2-2 都市型の制御型栽培施設 3-62 3-3 緑化推進のための問題点・課題について 3-63 3-3-1 推進のために望ましい法制度など 3-63 3-3-2 3-65 その他の問題点・課題 3-4 まとめと提言 3-4-1 緑溢れる快適な都市空間の創造 ~『ガーデンシティ神戸』を目指して~ 3-4-2 壁面緑化の推進 ~ 夏を涼しく 3-4-3 都市菜園づくりの推進 「緑のカーテン」~ 3-66 3-66 3-68 ~作って、食べて、こころもやすらぐ菜園づくり~ 3-70 3-4-4 緑化によるコミュニティづくり~みどりを絆に人の輪を!~ 第4章 水の気化熱による環境改善効果 ~水による涼しいまちづくり 3-72 4-1 4-1 ミスト散布 4-1 4-2 建物外面(屋根・外壁・窓)への散水 4-13 4-3 保水(含水)材料利用による環境改善 4-15 4-4 打ち水 4-19 4-5 まとめと提言 4-20 4-5-1 ミスト散布の推進 ~ミストにより都市を涼しく~ 4-5-2 新たな効用・効果のある打ち水の推進 ~暑い夏には打ち水で地域の集いを~ (2) 4-20 4-21 第1章 1-1 現状 検討の背景 ~現状 ~社会の要請 現代は以下のような状況にあり、人と環境に優しい生活スタイルの確立が求められている。 1)地球温暖化などの地球環境問題への懸念と対処の必要性 人口増加や産業発展が続く中で、地球規模の環境問題が提起され、人類の持続的発展 と危機緩和に向けた対策の必要性が叫ばれるようになって久しい。 2007 年の IPCC の第 4 次報告では、過去 100 年間(1906-2005 年)の世界の気温は 0.74℃ 上がったとされる。(都市に限った場合、ヒートアイランド現象も加わり 20 世紀の百年で 2~3℃の上昇が見られる。(平成 15 年ヒートアイランド対策に係る大綱による))また、温室効果 ガス増加による現在および将来の起こる影響(気象変動および産業などへの二次的影響) と、その緩和のために考えられる技術や削減可能性について触れるとともに、長期的な地 球環境安定のために、年々の温室効果ガス排出量を大幅に削減(産業革命時からの温度上 昇を 2.0~2.4℃に抑えるためには、2050 年の CO2排出量を 2000 年比で 50-85%削減)す る必要性を述べている。こうした気候変動が起こると、水や農産物の生産に多大な影響を もたらし、地域によっては ・利用可能な水の減少や飲料水不足に見まわれる可能性 ・洪水、暴風雨による被害 ・熱波、かんばつや感染症による健康への影響 なども懸念されている。 昨今の災害を見てもわかるように、既にその兆候が現れてきている。 温室効果ガスの中で、人の活動に関わるとともに量的影響が大きいのが二酸化炭素 (CO2)で、省エネルギー、未利用エネルギーの活用や自然エネルギー・新エネルギーへ の転換など「低炭素社会」への適応が強く要請されている。 また、別次元の問題ではあるが、発展途上国の人口増加や経済発展により、地球全体と して化石燃料を含む資源・エネルギー不足が加速し、価格も高騰してきている。化石燃料 には限界があり、この点からも、エネルギーの転換が求められてきている。 そのため、トウモロコシなどを原材料としたバイオマスエネルギーが開発されているが、 これは食料危機に拍車をかけることになるため、両刃の剣となる危険性が指摘されている。 最近では食料となる穀物以外からバイオマスエネルギーを製造することも研究され、一部 は実用化されている。 1-1 2)食料不足・安全な食確保の要請 エネルギーなどと同様、発展途上国の人口増加や経済発展により、地球全体として食料 不足が懸念されている。 食料を作るのに必要な淡水資源が世界各地で枯渇しつつあり汚染も進んでいるとの報 告がもたらされ、世界的に今後の食の量を確保することに不安が生じている。 また、質的にも昨今の汚染された食料の問題もあり、安全な食の確保への欲求が増えて おり、量的な話とも重なって、人の命と生活を支える食への不安が今後より社会的問題と なっていくことが危惧されている。 3)健康志向、美容への関心、真の心の豊かさへの願望 日本のような先進国では、世の中が成熟するとともに、高齢化社会を迎え、健康への関 心・懸念を持つ人が増えている。 いつまでも元気で心と身体の若さを保って生活できるよう、上記の食の問題とともに、 健康によい食品、健康によい生活、アンチエイジング(美容など)への関心が高まって いる。 同時に、心の若さを保つための生きがいづくりも求められ、持続的でかつ真の心の豊 かさを満たせる生活への願望が叫ばれている。 また、利便性などを求めた都心回帰の流れも一部に見られるが、無機的で孤立しがちな 都心部にも心身の癒しの場を求める人が増えてきている。 以上のように、都市においても、物やエネルギーの使用に限界が見えた今、環境にできるだ け負荷をかけずに最大限の「満足」を得られる価値を生み、そして潤いがあり快適な都市 生活が求められている。 1-2 1-2 神戸市の水道事業における取り組み ~CO2 排出量削減を目指して 水道事業においても、地球温暖化問題にみられる環境問題などの社会的な要請に応え て、様々な努力を行ってきている。以下に神戸市水道局における取り組みについて紹介 する。 1)概要 ① 神戸市では、平成 13 年 3 月に「CO2ダイエット作戦」、平成 18 年 2 月には「第 2 次 CO2ダイエット作戦」を策定し、温室効果ガスの削減に取り組んでいる。 ② 水道局では、平成 16 年 7 月策定の「新たな経営目標」 (計画期間平成 16~平成 19 年度) においては、平成 11 年度比で 14.2%削減する目標を掲げており、平成 19 年度の削減 率は 20.0%となっている。 ③ また、平成 20 年度からは、4 年間の実行計画である「中期経営目標」において、平成 22 年度の数値目標を平成 16 年度比で 5.5%削減(平成 11 年度比で 20.4%削減)とし て取り組んでいる。 ④ 水道事業における温室効果ガス排出量のほとんどは、電気の使用によるものであるため、 電気の使用量を削減するための施策を実施している。 2)CO2排出量削減のための主要施策 ① 電力使用量の削減 a. 総合的に電力使用量を少なくするような水運用 ・ポンプ揚水系統から、自然流下系統に切り替えるなどより省電力になるルートで送 水 b. 効率のよいポンプへの更新、ポンプ羽根車取替えなど ・大容量絞り運転ポンプを小容量に取替え ・ポンプ羽根車取替えによる送水量の適正化 c. 漏水量の削減による無効水量の低減 d. 省エネ機器の採用 ② 自然エネルギーの導入 a. 太陽光発電 ・4箇所で実施 ・ 費用対効果など勘案のもと、今後とも設置を検討 b. 水力発電 ・千苅浄水場で実施 千苅貯水池から千苅浄水場へ送る際の残存水圧を利用 ・マイクロ水力発電導入に向けて検討 1-3 [マイクロ水力発電について] 水道事業は水の有する位置エネルギーを利用して各家庭に給水しており、神戸市 では、上記のように千苅貯水池から千苅浄水場へ送る際の残存水圧を利用した「小 水力発電」を実施している。 最近では、より小さな落差でも実用的な発電量がまかなえるシステムとして「マ イクロ水力発電」が注目を浴びている。 神戸市においても、これまで利用されていなかったエネルギーである、送水管か ら配水池に流入する際の残存水圧の有効利用をねらい、「AQUAルネッサンス神 戸」の施策の一つとして「水利用による新しい発電システム導入の検討」を位置づ け、検討が行なわれている。 浄水場 標高(高低差) 発電機 水の流れ 配水池 流量調節弁 図1-1 マイクロ水力発電のイメージ ③ 間接的な削減 直結直圧給水、直結増圧給水を推進することにより削減(直結給水方式については、 5-1-2 3)④項(p.5-6)参照) 1-3 検討の視点 地球温暖化問題に対処するため、神戸市の水道事業においても、前節(1-2)記載の ような努力が過去・現在において続けられている。 今回はそれに加え、水道が供給する水そのものに注目し、それが果たす役割を通じて、 さらなる環境問題への対応も含め、1-1節に記したような現代の社会的要請である「質 的に豊かな都市生活づくり」に向けて、貢献できる可能性を探ろうとするものである。 その視点で、水資源(特に水道水)を有効に使った「新たな水の役割の創造」の可能性 を検討し、普及にむけて提言するものである。 1-4 第 2 章 水の果たす役割・効用 新たな水の役割の創造の可能性を検討するにあたり、水そのものや水道水の果たす機能や効 果・効用について考える。 1)水はこの地表上に普遍的に存在し、下記のような機能を持っている。 ① 人はもちろん動植物の生命を支える水 すなわち、命に欠かせない水 ② その循環(移動・対流)と相変化(固体・液体・気体)により気象活動の基本を支配す る水 すなわち、地球環境の安定に寄与する水 ③ 呼吸、入浴を通じ人の心身の健康を支える水、或いは五感を通じて心身の癒しとなる 水 そのほかにも、トイレ・洗濯・洗浄・冷却水などにより、人の生活環境維持に役立ってい る。 2)このように、水は環境や健康・くらしのベースになるものであるため、水を無駄なく工夫 して利用することで、前章で述べたような地球環境問題の解決のみならず、持続的で質 の高い生活の追求に大いに寄与することが求められている。 厚生労働省の「水道ビジョン」(平成 20 年7月改訂)においても環境エネルギー対策の 強化が掲げられており、横浜市水道局、大阪市水道局などにおいては、この趣旨での種々 の試みが実施されている。 また、水道事業以外の環境部門などにおいても、各自治体で同趣旨の活動が推進されて いる。 神戸市においても、水の有効利用により、都市生活から都市景観、環境まで広い範囲で、 貢献・効果のある施策の検討を進めているところである。 3)利用できる水資源には、水道水のほかに、その原水ともいうべき雨水・河川などの地表水・ 地下水や、二次利用水(下水の高度処理水など)があり、利用目的や利用法、要求される 品質に応じて選択される。 その選択の際には、それぞれの水を得るために要したエネルギー・コストや品質価値も 含めて合理的な判断が必要である。 4)水道水は、その製造・配送にエネルギー・コストを要しているが、それに見合う以下のよ うな価値を持っている。 ① 安全で品質の安定した水 ② 即時・確実に得られる(量的に安定して) ③ 都市の中で比較的どこでも(広い範囲で)得られる ④ 一定水圧を持った水が得られる 2-1 このように、水道水には雨水や下水の高度処理水などと比較して利点がある。雨水など も利用場所によっては、保管や移送などにコストやエネルギーを要する場合もあり、それ らも考慮すれば、水道水の方がむしろ合理的で環境にやさしい場合もある。 環境やコスト面でよりふさわしい他の水が手に入る場合に、水道水を使用することは勧 められないが、 ・使用目的において水道水の価値が生きる場合(安全性などの理由で) はもちろん、 ・使用することで得られる効果の大きさに見合い、 ・場所とタイミングにおいて水道水の利用が適当である場合に、 人と環境にやさしいライフスタイルや生活空間の創造のために、水道水を積極的に 利用(併用)すべきである。 5) 水の効果効用 前章で述べたような視点で、水資源そのものが持つ価値を活かした「新たな水の役割の 創造」を検討するにあたり、以下の 3 つを重点分野とした。 その結果を第 3 章~第 5 章に詳述する。3 分野により期待できる効果・効用には、健康や 癒しなど、重なっているところもあり、その関係を図2-1(p.2-3)に示す。 第3章 緑化の推進と効果 ・環境効果(夏季環境改善、防遮音、空気浄化、水浄化、その他) ・都市景観(観光や住民の誇りにつながる) ・健康・癒し(生きがいづくり・心の癒し・ストレス緩和、趣味の園芸、園芸 療法、安全・確実な食物の確保、都市菜園) ・福祉・教育(福祉施設の授産活動、環境教育・食育) ・まちづくり・コミュニティづくり ・防災 第4章 水の気化熱による環境改善効果 ~水による涼しいまちづくり (植物に よるものを除く) ・ミスト散布 ・建物外面(屋根・外壁・窓)への散水 ・保水(含水)材料利用による環境改善 ・打ち水 第5章 心身への効果 ~健康・癒し・美容 (植物によるものを除く) ・飲用として ・入浴(心身のリフレッシュと健康・美容) ・その他(加湿器などによる健康・美容効果、視覚的な癒し) 2-2 緑化の推進と効果 【第3章 参照】 福祉・教育 防災 まちづくり・ コミュニティづくり 環境 水の気化熱による環境改善 ~水による涼しいまちづく り 都市景観(・観 健康・癒し 美容 心身への効果 ~健康・癒し・美容 【第5章 参照】 :「新たな水の役割の創造」により期待される効果項目 総括委員会検討内容 :第4章・第5章の詳細検討、報告書全体の総括 緑化分科会検討内容 :第3章の詳細検討 注:第3章はすべての緑化に関係するテーマ について記載。 第5章は、第3章記載以外の健康・癒し・ 美容について記載・ 第4章は、第3章・第5章記載以外の水気 化熱による効果について記載。 図2-1 「新たな水の役割の創造」により期待される効果 2-3 第3章 緑化の推進と効果 本章では、新たな水の役割の創造につながる有効利用として、植栽・緑化に関係する部分につ いて述べる。 緑化には様々な効果・効用が期待できるが、表3に、その効果・効用を緑化の施策テーマとの 関係を示す。 表3 緑化の効果と施策 施策 緑化全般 ビ オ公 ト園 ・ プ 貸 家 し 庭園 農 菜芸 園 園 ・ 夏季環境対策・ ヒートアイランド 現象緩和 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 防遮音 ○ ○ 空気浄化・ 水浄化 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 動植物の生息 空間の確保、 生態系の維持 ◎ ○ ◎ ○ ◎ ◎ 都市景観づくり ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 心の癒し・ ストレス緩和 ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ 植 都 物 市 工 型 場 ) 街 路 樹 ( 校 庭 芝 生 化 ) 福祉・ 教育 ( 駐 ・ 車 空 場 地 ・ 緑 路 化 面 ー 庭 家 ・ 家 庭 生庭 緑 垣内 化 ・ ) 緑 壁 の 面 カ 緑 化 テ ・ ン 生きがいづくり 健康・ 癒し ( 効 果 都市 景観 (・観光) 屋 上 緑 化 ー 環境 農業関連 ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 安全な食 ◎ ◎ 授産活動 ◎ ◎ 環境教育 ◎ ◎ ○ ○ ◎ 食育 ◎ まちづくり・ コミュニティづくり 防災 ◎ ○ ○ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎○:効果が期待できる施策(黄色のペイントは本報告で特に強調するところを示す) 3-1 緑化で用いる水について: 植物の生育には水が必要である。雨水や地表水・地下水など自然水が得られるところで は、その利用が自然である。そうした自然水が常時は手に入らない、または利用のため に運搬やポンプアップなどの手間とエネルギーがかかるときは、水道水の利用・併用を 考慮すべきである。 3-1 緑化による効果 緑化は、環境面、都市景観面、健康面(安全な食や美容関連についてを含む)、福祉・教 育、まちづくり・コミュニティづくり、防災などに関係した効果が期待できる(図3-1 -1に効果相互の関係について示す)。 本節では、それらについての概要を述べる。 施策項目については、その事例や期待できる典型的な効果などとともに、次節3-2に 示す。 健康・癒し 環境 夏季環境改善 熱中症予防 ・快適性向上 視覚疲労回復 都市景観 ヒートアイランド 現象緩和 心の癒し・ストレス緩和 防遮音 水浄化 市民満足度向上 空気浄化 (汚染物吸収) 園芸療法 乾燥防止・ 香りによる癒し 安全・確実な 食物の確保 趣味の園芸 動植物の生息 空間の確保 環境教育 観光 生きがいづくり 食育 生態系の維持 授産活動 保水効果 による都市の 安全向上 住民同士の コミュニティ づくり 防火・延焼 遮断効果 まちづくり・ コミュニティづくり 福祉・教育 防災 :期待できる効果項目(黄色のペイント及び赤字については本報告で強調するところを示す) 図3-1-1 まちおこし 緑化による効果の相互関係 3-2 3-1-1 環境 3-1-1-1 夏季環境改善・ヒートアイランド現象緩和効果 1)概要 昔から、「緑陰」とか、「木陰の涼しさ」が言われてきたように、木々の緑は夏の憩いを 提供してきた。 緑化には、 ・植物の葉や茎からの水分の蒸散による温度低下効果 ・葉などが繁茂することによる熱遮へい効果 により、夏季の暑さを緩和する効果がある。 地球温暖化に加え、都市にはヒートアイランド現象により、酷暑が続く年が多くなって きて、空調(エアコン)に頼りがちな生活スタイルが定着してきている。より快適な生活 を、CO2 排出量を減らして(少ないエネルギーで)おくるためにも緑化は有効な手段であ る。 また、ヒートアイランド現象による不快感の除去や熱中症の防止のみならず、CO2 排出 削減により、地球温暖化防止にも有効である。 [ヒートアイランド現象とは] アスファルト舗装や建物のコンクリートなどによる熱 吸収、ビルの輻射熱と、冷房の排気熱、車の排気熱などの 人工排熱によって、都心部に郊外(周辺)と比較して高温 となる地域ができる現象。等温線を描くと都市部が島の形 に似ることからヒートアイランド現象と呼ばれる。 図3-1-2「ヒートアイランド=島」のイメージ図 (1962 年冬のある日のロンドンの温度分布) (出典:宮崎委員提供資料) なお、緑の少ない都心部においては、日中にアスファルト・コンクリートに蓄えられた 熱が夜間に放出されることにより、暑さが昼間のみにとどまらず、夜間の「熱帯夜」の原 因にもなる。 図3-1-3昼夜におけるヒートアイランド現象(出典:宮崎委員提供資料) 3-3 [緑化による効果:] 夏季環境改善の面で、緑化には以下二つ(①②)の効果があ る。 ① 街全体の緑化面積増によるヒートアイランド現象緩和効 果 ② 緑で覆われることによるエアコンの効率アップと侵入熱 削減によるエネルギー節約効果 図3-1-4:六甲山系のような緑地部と市街地では温 図3-1-4 神戸地区の地表面温度分布 (出典:宮崎委員提供資料) 度差が大きい。 図3-1-5:壁面緑化 による温度低下 を示す。 (赤色は温度が 高いところ、温度 が低いところは 順に黄・緑・青。) 室内への侵入熱 も下がることが期待され 図3-1-5 壁面緑化による温度低下 (東京都港区松永ビル) (出典:山田(宏)委員提供資料) る。 ①に関しては、屋外のすべての緑化が関係する。 都市における緑地での実測調査により、緑被率が 10%増えるごとに気温が 0.3℃程度低 くなる傾向があると言われている。 (国土交通省 HP、原典: 「ヒートアイランド現象と都市緑化」1999 山田宏之(グリーンエイジ)およびシミュレーション計算結果例) 特に、屋上緑化や壁面緑化・緑のカーテンや建物周囲の適切な緑化は、②への効果も期 待できることから、今後とも推進するべき施策であると考えられる。 それぞれの施策の詳細については、3-2節を参照されたい。 [トピック:屋根緑化で乳牛の乳量増加効果] (出典:兵庫県 HP に添付された情報) 乳牛は 25℃を超えると暑さで乳量が低下するので、牛舎の暑さ対策は酪農家の大きなテーマとなって いる。兵庫県立播磨農業高校畜産科のグループは、牛舎の温度を下げることに挑戦して、牛舎の屋根を セダムと、蒸散作業の大きいサツマイモという2種類の緑化を試みるなど、 「COW COMFORT(乳牛の 快適さの追及)~ウシ・人・地球に優しい環境づくり」のタイトルのもと実用化研究を続けている。 緑化による涼しさなどが、人のみならず動物にも効果をもたらす例である。 3-4 2)官庁施設における動向 「京都議定書目標達成計画」(平成 20 年 3 月 28 日 全部改定)に掲げられた官庁施設に おける「グリーン庁舎の整備」が、国土交通省主導で推進されてきた。これは、ライフサ イクルを通じた環境負荷の低減に配慮し、省エネ・省資源、長寿命化、エコマテリアルの 使用と並んで、周辺環境への配慮として屋上緑化や透水性舗装などの採用を推進すること を目的としている。 図3-1-6 グリーン庁舎整備 [神戸市の取り組み例] 最近では多くの自治体でも環境配慮の庁舎整備が推進され、屋上や壁面の緑化例も増え てきている。神戸市では以下のような実施事例がある。 a. 神戸市水道局 中部センター(神戸市中央区)の事例 平成 20 年度に庁舎西側壁面の一部において、西日を遮へいする目的でゴーヤによるグ リーンカーテンを実施した。 図 3-1-7 神戸市水道局中部センターにおける緑化 3-5 b. 神戸市立渚中学校(神戸市中央区)の事例 正門横の壁面にツタ類による緑化がされており、学校のシンボルとなっている。 図3-1-8 神戸市立渚中学校における緑化 3-1-1-2 防遮音効果 1)概要 植物および植栽の基盤土は、熱に加えて音を遮る(反射や吸収による)効果があり、防 遮音効果も期待して緑化が進められている例がある。例えば、道路からの騒音を軽減する ために、緩衝緑地帯が設置されている場合があるが、音源からの距離減衰に加えて、植栽 帯の樹木や土壌などによる反射音の軽減効果も期待されている。 なお、音には同じ音圧でも騒音と感じるか否かで、被害意識の程度が変わることがある。 樹木が風にそよぐ音やビオトープでの水のせせらぎなどは、多くの人にやすらぎを与える とも言われており、緑化には視覚的な効果ともあわせ、実測値以上に騒音感を緩和する可 能性があると言われている。 2)事例 空港ビルの屋上などに適用される緑化は、美観効果やヒートアイランド緩和に加えて、 ビル内への音の侵入を抑制することも期待されている。 大阪国際空港、アムステルダム国際(スキポール)空港(オランダ) 、フランクフルト国 際空港(ドイツ)などでは、ターミナルビルの屋上が緑化されている。 図3-1-9 大阪国際空港ターミナルビル屋上緑化 3-6 図3-1-10 アムステルダム国際(スキポール)空港 (オランダ)緑化 3-1-1-3 空気浄化・水浄化 1)空気浄化 植物には、以下のような空気を浄化することが期待されている。そのため、街路樹やまち なかの公園などの緑により、車からの排気ガスなどの浄化が図られている。 ・日中は光合成により、二酸化炭素を吸収し酸素を出す。 ・排気ガスなどの汚染物質を葉から取り込んだり、枝・葉に汚染物質を付着させたりする ことで、大気を浄化する働きを持っている。 2)水浄化 ①概要 水系についても、植物が水の富栄養物質などを取り込むことで浄化する効果が知られて いる。 また、森の緑が豊かな海を生むといわれているように、枯葉などから出た植物発物質を 含んだ水が、河川・海を含めて循環することで、植物が生態系全体のバランスに貢献して いる。 ②事例 [神戸千苅貯水池上流における水質浄化植生実験] 神戸市最大の貯水池である千苅貯水池では、貯水池流入水の水質を改善することを目的 とした植生浄化実験を平成 19 年9月から行っている。 実験は、クレソンやセリ、テラスライム、ユリオプスデージーを用いた水耕栽培により、 河川水に含まれている窒素やリンなどがどの程度除去されるかを検証したもので、これま での結果では、植物の種類によっては、窒素、リンとも2割程度の除去効果があったと報 告されている。 図3-1-11 図3-1-12 千苅貯水池上流における水質浄化植生実験 大阪万博記念公園における事例 (提供:サントリー㈱) 3-7 3-1-1-4 その他(動植物の生息空間の確保、生態系の維持:自然回帰) 1)概要 生物全体の環境保全という大きな環境テーマの一つであるが、長い目で見れば、結果的に 人の癒しにもつながり、地域のコミュニティづくりにもつながる。 都心のオアシスづくりの一環として有効であるが、一方で鳥の糞害、害虫などの問題も発 生している。それらの解決や日常の維持管理を通じて、コミュニティが形成されにくい都心 において、コミュニティづくりにもつながると言える。 2)事例 [大阪ガスNEXT21事例](出典:大阪ガス㈱提供資料) ・「都市における自然環境回復の実験」実施 ・大阪都心に実験集合住宅として建設(平成 5 年竣工) ・設備・住宅モデル全体として計画されたもので、緑化もその一部 ・ヒートアイランド現象緩和などの効果も狙いの一つ ・第1フェーズ(自然のための植栽でなるべく手を入れない)の 5 年間に 22 種の野鳥飛来、 21 種の植物自生を確認(野鳥飛来数:図3-1-14 参照) (なお、第2フェーズでは住民が楽しめる植栽とし、剪定実施) ・住民評価は楽しんでいる居住者もいる反面、虫や落ち葉にマイナス評価をするむきもあり。 各月に記録された鳥類の種類数および累積飛来数 25 10 種類数 累積種類数 9 20 8 7 15 累 積 飛 来 10 数 6 種 類 5 数 4 3 5 2 1 0 0 9 11 1 3 1993年 1994年 図3-1-13 NEXT21 外観 5 7 9 11 1 3 1995年 5 7 9 11 1 3 1996年 5 7 9 図3-1-14 NEXT21 野鳥の飛来数の推移 3-8 図3-1-15 NEXT21 緑地の概念図 3-9 3-1-2 都市景観 (観光や住民の誇りにつながる価値の創造) 1)概要 ① 美観のポイントに緑を入れる、コンクリート壁を緑で覆うなど、緑は都市景観形成の一要素 である。 ② 神戸市は明治中期に六甲山の植林に着手して以来緑化と緑地の保全に努め、昭和 46 年からの 「グリーンコウベ作戦」を経て、現在では市域の 3 分の2近くに相当する約 35,000ha の緑地 を有する緑豊かな都市になっている。また、市街化区域の緑被率は 30%を超え、大都市とし ては高い値を示しているが地域や土地利用によって大きな差がある。特に中心市街地にあたる 中央区・兵庫区は 10%程度となっており、魅力ある都市景観の形成のためにもさらなる緑化 の推進が求められている(表3-1-1および表3-1-2参照)。 なお、神戸市では平成 12 年に緑の基本計画「グリーンコウベ 21 プラン」を策定し、 「緑と ともに永遠に生き続ける都市=緑生都市」をめざしている。 以下に市内各地で協働で取り組まれている緑化活動事例を示す(図3-1-16~23)。 図3-1-16 花みどり市民ネットワーク 図3-1-17 緑花クラブKOBE 図3-1-17 神戸森の学校 図3-1-18 オープンガーデン 3-10 図3-1-21 市民花壇 図3-1-20 スポンサー花壇 図3-1-22 美緑花ボランティア 図3-1-23 花とみどりの回廊 表3-1-1 神戸市の緑被率(平成 17 年) 面積(ha) 緑被面積(ha) 緑被率(%) 市街化区域 20,440 6,721 32.9 市街化調整区域 35,167 31,360 89.2 合計 55,607 38,081 68.5 表3-1-2 市街化区域の緑被率(区別) (単位%) 区 H17 東灘区 16.7 灘区 20.5 中央区 10.0 兵庫区 11.8 北区 55.0 長田区 19.9 須磨区 39.7 垂水区 37.0 西区 35.6 合計 32.9 3-11 ③ コンクリートが前面に出た地域を緑化することは、都市景観の観点からも効果がある。まち なかで周囲と調和せず美観を損ねている立体駐車場などが見受けられるが、これらを緑化する ことにより、景観にとけこませることが可能になると思われる。 また、道の街路樹の整備・維持や、路面の緑化(3-2-3 2)項(p.3-54)参照)も 景観改善の要素となる。 ④ 都市景観の向上により、住む町に誇りがもてる住民が増え、 市民の満足度向上につながる。また、 「きれいな街」として、 都市のブランド化や観光効果を生むことも期待できる。 観光地として有名なシンガポールは、「CITY IN THE GARDEN」と言われるように、島全体に緑が多くまちの中 心部も緑に囲まれている。また、ニュージーランドのクライ ストチャーチなども観光地として有名であるが、やはり自然 と溶け合ったまちづくりが行われている。 図3-1-25 クライストチャーチ (ニュージーランド) 図3-1-24 オーチャードロード (シンガポール) 図3-1-26 クイーンズタウン (ニュージーランド) ハワードが提唱した田園都市生活構想は、都市と農村を一体的に整備することにより両者 を融合するのであり、東京の田園調布都市計画のモデルとなったことでも有名なイギリスの レッチワースは、100 余年の歳月を経ても「ガーデン・シティ」として良好な都市環境を維 持している。 図3-1-27 レッチワース(英国) (提供:宮崎委員) 3-12 ⑤ 都市にとって、景観の向上が市民の満足度向上につながると同様に、個々の家庭や事業所単 位でもガーデニングなどの緑化を実施して美しい家や事業所を創り維持することは、家や事業 所の価値や住民の満足度を上げる効果があると思われる。 また、境界を、むき出しのコンクリート塀でなく生垣としたり植栽の見えるものすることは、 外から見る景観に加え、ヒートアイランド緩和にも効果が期待される。 2) 事例 都市景観を改善するためには、都市全体での緑化推進が望まれるが、ランドマークとなるよ うな拠点的な建造物も都市景観イメージを改善するのに貢献する。 図3-1-28 および 29 の、アクロス福岡(福岡市)やシャルレビル(神戸市中央区)はそ の事例である。 図3-1-28 アクロス福岡 図3-1-29 シャルレビル 都心部ではないが、新しく開発された「まち」で、既存の松林・池を活かし、緑化による 景観に配慮した例を図3-1-30 に示す。 図3-1-30 宝塚市逆瀬川 3-13 景観に配慮した開発例 (提供:積水ハウス㈱) 3-1-3 健康・癒し 3-1-3-1 生きがいづくり・心の癒し・ストレス緩和効果 1)概要 植物には、下記のような人の健康や癒しに効果がある。これらの観点で、緑化は屋外のみな らず、家庭や事務所の室内緑化も有効な手段の一つである。 ・視覚疲労回復効果、癒し効果 ・嗅覚からの心身健康・癒し効果 ・空気浄化(含む汚染物吸収)など環境改善面からの健康への効果 ・空気の乾燥防止効果 ・森林浴に見られるような心身健康増進効果 また、植物を育てる作業をすることにより、 ・ (植物の種類を選ぶことで)年齢や体の状態を問わずほとんどの人にとって、無理のない適切 な身体運動の場を提供することができる。 ・成長の過程と成果を楽しめる。 その結果、特にこれから増加する高齢者を含め、健康や生きがいづくりに効果が期待できる とともに、心や体に課題を抱えた人の治療にも役立てることができる。 3-14 2)視覚疲労・ストレス緩和効果 光の波長の関係で、緑は目に優しい色とされてきた。 これを科学的に確かめることがいくつかの方法で試行されている。 ① 兵庫県立淡路景観園芸学校 ストレス評価例 (出典:山本委員提出資料) ストレスを比較的簡便に図れる方法として、唾液中成分、目の瞬き数や視線の動きなどを計 測することが提案され、その方法で緑によるストレス低減効果が報告されている。 図3-1-32 に示すように、図3-1-31 の二種類のスライドのうち、緑の多いスライド (右側の「緑地景観」)を見せたあと、ストレスは全体的に低下傾向を示している。 5 000 比較した景観写真例 A B' C' 4 000 3 000 緑地景観 2 000 1 000 全体的に低下傾向 0 1 ストレス前 2 スライド後 3 実験後 5 000 B C A' D' 4 000 3 000 都市景観 2 000 1 000 Study Site (都市景観例) 一部増加あり Study S ite (緑地景観例) 0 図3-1-31 視覚疲労実験用比較用スライド ストレス前 1 スライド後 2 実験後 3 図3-1-32 唾液コルチゾールによる 視覚疲労計測結果 ② VDT 作業後の視覚疲労回復効果計測例 東京農業大学(参考文献:3-1-3a および3-1-3b)や愛媛大学(参考文献:3-1-3c)で は、VDT 作業における視覚疲労回復効果(*)についての実験が行われ、図3-1-33 の例 に示すように、緑化の効果が確かめられている。 *「フリッカー値」により評価。フリッカー値とは、点滅する光が、断続した光でなく、連続した光と見える 境界値の周波数を表すもので、大きいほど疲労が小さい方向。 愛媛大学では、植物を室内の身近に配置した場合の脳波測定を行うとともに、アンケート調 査を実施し、植物の存在がストレスの緩和につながるという結果を報告している(出典:3-1 -3c)。これは視覚効果に加え、次項に述べる香りや空気環境などその他の効果も加わったもの と考えられる。 3-15 赤字が植物ありの場合、横軸 は経過時間を示す 図3-1-33 VDT 作業後の視覚疲労緩和・回復効果 (出典:愛媛大学 3-1-3c) [2)項の出典/参考文献]: 3-1-3a 社団法人日本インドア・グリーン協会HP(東京農業大学近藤三雄教授の実験データ掲載) 3-1-3b オフィス環境マネジメントによるメンタルヘルス・モチベーション向上策(東京海上日動リス クコンサルティング㈱玉田裕美 2007 年 8 月) 3-1-3c 愛媛大学農学部生物資源学科生物資源生物学 緑化感性工学研究室(仁科広重教授)HP 3)空気浄化・乾燥防止・香りによる癒しなどの効果 3-1-1-3 に述べたように、植物には、空気を浄化する作用を持つ。 さらに、ある種の植物では、 ・芳香によるリラクゼーション効果(アロマテラピーとして知られるのは、その有効成分を抽出 したものによる) ・疲労回復やストレス緩和など ・消臭・脱臭・抗菌・殺菌などの効果 があるとされる。 植物からの蒸散作用により、3-1-1に記したような温度低下の効果があるが、室内に置い た場合、湿度を上昇させ、特に冬季の乾燥防止に役立ち、呼吸器や皮膚・髪などの健康や美容に とって良い効果を生む。 加湿器と違いバクテリアの発生リスクが少ない安全な水分が補給され る。植物から出た水分の安全性について述べたが、土を使わない水耕では、基盤に繁殖するバク テリアのリスクも小さくなり安全性はさらに増すと言われている。 樹林の中で呼吸することにより、香りその他の影響でリラクゼーション効果が得られる「森林 浴」が知られている。 屋内環境の緑化も、同様に心身に大きなリラクゼーション効果をもたら すと報告されている。 3-16 4)趣味の園芸(花卉・果実・野菜・庭園作り)による癒し効果 ① 植物を育てる園芸は趣味としても広く行われている。 植物自体とふれあうことで、前項までに記したような植物から健康や癒しに役立つ効果を受 けるほかに、園芸作業により以下のような体験をすることでストレスの緩和効果(こころの癒 し)が期待できる。 ・庭園などを美しく飾り心の満足を得る ・植物の成長を楽しむ ・野菜や果実または花卉などを育てた成果を楽しむ ・菜園の場合は、食を楽しむ また、植物の量や種類を選ぶことで、運動不足になりやすい都市住民にとって適当な運動と もなり、健康にも役立てることができる。 園芸は従来から趣味としても行われているが、退職した高齢者の増加が見られる中で、今後 ますます心身の癒し・健康対策としても、生きがいづくりとしても最適な趣味の一つとなろう。 ② 事例 a. 一般の家庭(集合住宅のベランダを含む)での園芸事例は枚挙に暇がないが、一例として緑 化により自然を取り戻すことをねらいとした庭を持つ家の例を示す。 「庭」づくり(図3-1-34)(提供:積水ハウス㈱): 地域に昔から自生している植物を中心にした「庭」づくりを提案。自然生態系を再生・ 保全し、鳥や蝶の訪れにより庭で自然とふれあう活動を提唱している。 図3-1-34 一戸建て「庭」づくり 3-17 b. 都心部の駅前地区やビルの屋上における貸し園芸地(農園)の事例を以下に示す。 b-1 なんばパークス(大阪なんば) 図3-1-35 貸し菜園 なんばパークス b-2. アグリス成城(東京「小田急成城学園前駅」駅前) 図3-1-36 貸し菜園 アグリス成城(出典:アグリス成城 HP) 5)治療に役立つ園芸 ① 園芸には植物自体に安らぎや癒し効果もあり、 「園芸」作業による下記のような効果も加わるの で、園芸療法としても有効であることから、病院、リハビリセンター、老人ホーム、職業訓練セ ンター、養護学校などでの活動プログラムとして導入を試みている施設も多い。 ・精神的な効果(情緒の安定、判断力・集中力・忍耐などの養成、気分の高揚、達成感・楽し み) ・身体的な効果(五感の刺激や作業による運動機能回復・保全) ・社会的な効果(植物を媒体としたコミュニケーション・社交性向上、公共性・道徳性の向上) ・その他の効果(社会復帰、職業訓練、社会貢献) 患者の状態に応じた作業負荷となるよう、植物の種類や植栽の方法を選択することが必要であ る。 3-18 ② 事例 a. 大阪府公園協会主催の「癒しの園芸講座」(出典:財団法人大阪府公園協会およびボランティ ア団体癒しの園芸の会 HP) 同協会は、植物の持つ癒し効果の勉強や園芸福祉活動を通じて、高齢者や障害者などの社 会的弱者を支え合える地域社会づくりを目指した癒しの園芸講座を毎年開催している。その 対象は、そのような福祉活動のリーダーを目指す人と、高齢者・障害者自身である。 図3-1-37 癒しの園芸講座 大阪府営大泉緑地 実習花壇「はないずみの庭」および活動事例 (右3つは活動事例で、そのうち一番下は大阪府老人福祉施設 ームでの実習) グループホ b.兵庫県立淡路景観園芸学校の「園芸療法体験講座」 明石西公園で公園管理者の㈱日比谷アメニスと共催で、平成 18 年度から毎年2~3回「園 芸療法体験講座」を開催したような事例もある。 c.高齢者施設にデーサービスで通う人たちのリハビリテーション 図3-1-38 園芸療法 高齢者施設での リハビリテーション事例 (出典:月刊園芸療法 2002 年5月号の記事 原写真提供:同施設の松田まや支援相談員) 3-19 3-1-3-2 安全・確実な食物の確保 1)背景 戦後の日本農業は、第二次産業・第三次産業を中心とする経済の目覚しい発展に取り残される 形になり、従事人口の減少や生産性の低迷により、国民の食の自給率は、先進国中最も低いレベ ル(例: 供給熱量総合食料自給率:約 40% 平成 19 年度)に落ち込み、多くの部分を輸入に頼 る現状になっている。 図3-1-39 日本及び諸外国の食料自給率の推移(供給熱量ベース) (出典:農林水産省食料・農業・農村白書平成 19 年度版) 発展途上国の人口増や経済発展により、従来の食料供給国からの安定した輸入が継続できな くなるというリスクが言われており、安全保障面からも自給率の向上策の必要性が強調されて いる。 さらに、特に品質管理面で不明点が残りやすい輸入食品の安全性への不安もあり、トレーサ ビリティーが確保される信頼性のある生産物への需要が高まっている。 そのような背景から、以下①~⑤のようなことが見受けられるようになって来ているが、 下記 a~d のような状況もあり、この傾向は今後ますます強まっていくものと予想される。 ① 生産者の顔が見える販売形態 (生産-販売のルート作りによる「ブランド」化) ② 輸送に使用するエネルギー問題解決も踏まえた地産地消運動 ③ 生産管理形態が明確な「農業生産工場=植物工場」的な生産方式 ④ 味のみでなく安全性まで含めた食のブランド化 ⑤ 消費者自ら生産に関与する家庭菜園・貸農園(郊外型・都心の屋上等のスペース利用型) の流行 3-20 a. 今後高齢者が増加するが、中には元気な高齢者も多く存在し、自らの食の確保に加えて、 健康や楽しみのためにも、 「菜園」や「地場農業」に従事しようとする人の増加が見込まれ る。 b. 多くの休耕田があり、その有効活用を考えると、日本全体ではスペースに相当の余地があ る。 c. 神戸市は元々一次産業のシェアが高い。郊外型の貸し農園可能な場所も多く存在する。 d. 環境のための緑化活動として、また安全な食物を確実に確保し食の楽しみを味わい教える 場として、都心部の貸し農園の需要は今後ますます増えるものと予想される。 一方、水の利用という面で考えると、日本の現状は食料の輸入を通じて、莫大なヴァーチャ ル・ウォーター(仮想水・virtual water)を輸入していることになる。 世界的には、前述のような人口増・経済発展に加え、地下水の枯渇や気候変動に起因する影 響から、食と命を支える安全な淡水が不足することが予測されており、自らの水資源を確保し、 有効に利用して、自らの食を確保することの必要性は増してきている。 さらに、最近のエネルギー事情からトウモロコシなどを原料にしたバイオマスエネルギーの 利用が顕著になってくるなど、穀物の入手が困難となってきている。また、穀物は直接の食料 としてだけではなく、家畜の飼料となっているため、食肉などの輸入にも支障をきたす可能性 がある。そのため、農林水産省は「食料自給率向上協議会」を立ち上げて、種々の取り組みを 始めている。 2)農業ビジネスの方向性 上記のような状況の中、異業種から農業ビジネスへの参入の例も多く見られる。将来の農業 には、従来の農業の革新の視点だけでなく、以下のような別の視点からの方向性も期待されて いる。 ・健康産業として (バイオテクノロジー活用による品種改良・機能成分抽出などを含め、健 康志向を追及した高付加価値商品創出) ・観光サービス(団塊の世代をターゲットにした都市農村交流の活性化、ブランド化、観光サ ービスを織り交ぜた農業ビジネス) ・エネルギー(燃料・バイオマス) ・福祉・雇用(障害者・高齢者雇用) ・生産・流通システムのイノベーション (流通産業と一体化、直販等) ・地域経営的視点による地域密着型事業展開 (地産地消、地域の他産業との連携等) 3-21 3)大規模生産システム~「植物工場(環境管理型栽培)」の動き 新たな農業ビジネスの一つとして、農業に工業製品製造と同様の管理の考え方を取り入れた 設備事業として、安全な食の安定供給を目的とした農業を行う動きがある。 大規模な周年栽培環境管理型の世羅農園(広島 県)の事例を以下に示す(図3-1-40 参照)。 (出典:金地委員提供資料) 世羅農園の特徴は以下のようなものである。 ・トマト栽培工場(周年栽培) ・コンピューター制御ハイテク温室 ・養液チューブ潅水システム 図3-1-40 大規模高度施設栽培の例 世羅農園 このような特に大規模な管理型施設栽培は一般には大都市圏外で展開されているが、大都市 周辺や都市内においても中規模以下の環境管理型栽培が最近増えてきている。以下、それらの 概要・メリット等について述べる。 ①「植物工場(環境管理型栽培)」の概要 閉鎖型または半閉鎖型で、環境も完全制御型とそうでないタイプがある。閉鎖型・完全制 御型の生産は、もともとは環境の悪い極地や閉鎖空間(船内・宇宙船内など)と言った特殊 目的用であったが、履歴が明確かつ安全な食の需要に応え、野菜を中心に都市近郊消費地へ の安定供給という利点を活かして、ベンチャーや異業種の参入が相次いでいる。安全・安定 供給ということで、食品加工業界や外食産業からの需要もある。 ②植物工場のメリット、デメリット メリットを以下に示す。 ・ 天候に左右されず、また時間あたり・面積あたりの収量効率が高い。 ・ 農薬を使わずに病原菌や害虫を管理排除することで、安定した収量確保を目指すとともに、 「安全な食」として製品価値を持っている。通常の露地栽培より必要な栄養素の高い野 菜を作ることも可能である。 ・ 清浄であり、廃棄部分が少なく、また使用に際しても洗浄水を多く要しない作物ができる。 ・ 消費地に近い場所での生産が可能で、新鮮な食材を少ない輸送コスト・エネルギーで届け られる。 3-22 デメリットを以下に示す。 ・ 多額の設備投資が必要である。 ・ ランニングコストが高い。すなわち、光源の改良、空調の効率向上、自然光併用等により 極力使用エネルギーを減らし効率を上げる工夫が行われているが、人工光使用やその他 の環境管理にエネルギーを多く消費し、コストを要する。そのため、生産物は、生産手 法の適性とともに、その管理コスト・エネルギーをかけるだけの付加価値を持つものに 限られる。 なお、管理農法であるため、肥料や水の消費に関してはより合理的で無駄が少ない。特に 水耕養液栽培式管理農法では、ほぼ全量の水を有効に循環して用いており、露地栽培よりは るかに少ない水で栽培可能である。 それでも大規模な植物工場においては大量の水を確保し運用する必要があり、雨水貯留、 表面水や地下水を含めた自然水の活用が多く見られる。 都心部における小型の場合は、利便性から水道水を使用している事例もある。 ③ 植物工場の事例 比較的大型の「植物工場」は、食の課題が今後のビジネスチャンスになるとの見通しのも とに、異業種からの参入例も多い(図3-1-41~43 の例参照)。 広大な用地確保が困難であることから、大都市の中に中規模以上の「植物工場」が設置さ れるのは例外的であるが、㈱パソナグループが東京大手町のビル地下室で稲作などを行って いる例もある(図3-1-43 参照)。 図3-1-41 植物工場 三田グリーンハウス (出典:JFE ライフ㈱HP) 図3-1-42 植物工場 TS ファーム 図3-1-43 植物工場 パソナオーツー 都心ビル地下での稲作 (出典:キユーピー㈱HP) (出典:㈱パソナグループ HP) 都市の中に置かれている事例としては、ショッピングモールやレストランに隣接して、あ るいは学校等の食育用として置かれる比較的小型のものがある。 以下にその事例を示す。 3-23 a 消費地とむすびついた植物工場の試みの例 小型の閉鎖型の植物(野菜)栽培設備を、消費地に分散的に設け、消費者からのフィード バックを織り込んだ生産・販売を行うという、農業をコンビニ商法のようなサービス業(第 三次産業)とする試みが行われている(図3-1-44 参照)。 同時に一般の制御型栽培設備の製品と同様、害虫がなく農薬を使わない安全性と、捨てる ところが少ない有用性を強調している。 比較的大型の植物工場を運営している別の企業でも、消費地にレストラン等のチェーン店 をもって、自社の製品のブランド化を戦略にしているところもある。 上が店舗ゾーン、下が生産ゾーン 生産ゾーンも店舗内に設置。 客の要求をフィードバックした 野菜の製造小売を可能とする。 図3-1-44 野菜生産・店舗販売を一体化させた製造小売 SHOP(出典:㈱みらい資料) 3-24 b 小規模の管理栽培システムの例 小型のものでは、遠洋航路の船舶内や極地において使用する特殊のものもあるが、後述す る教育用目的の例を除いて、まだ家庭用菜園などで使用されている例は多くない。 b-1.事務所や学校、家庭などでも使用可能な小型栽培システムの例を図3-1-45 に示す。 図3-1-45 小型管理栽培システムの例 (出典:森久エンジニアリング㈱資料) b-2. 都会内での栽培も想定した小規模な管理型栽培システム(植物工場)で、植物の生育と エネルギー効率の向上を図ることを目的に、自然光の併用、人工光の最適波長の選択 や、栽培基盤を回転させることにより受光効率を上げるなど工夫をしている事例を、 図3-1-46 に示す(出典:㈱きゅぶふぁーむHP)。 図3-1-46 小型植物工場の例 太陽光併用育成パネル 3-25 4)個人・事業者としてのかかわり 食の安全を確保するという観点からは、単なる消費者としてでなく、参加型の家庭菜園や貸し 農園の使用者として、自らの食を生産することは意味のある活動といえる。自ら生産することで、 農業や農業生産者の立場、食生活への理解を深めることもつながる。 図3-1-47 に協同菜園の例を示す。愛知県の NPO 法人「まちのお百姓さんの会」では、 「消 費者の目から食を見直そう」とのコンセプトのもと、一人 10 坪程度(全体で 1,200 坪)の農園 を協同運営している。 また、図3-1-48 に個人菜園の例を示す。退職後の人生の楽しみに、水耕による菜園づく りを行っている例である。 (図3-1-47&48 の出典:株式会社丸菱メディア事業部「友の和」記事) 図3-1-47 協同菜園の例 図3-1-48 個人菜園の例 3-26 3-1-4 福祉・教育 3-1-4-1 福祉施設などの授産活動 1)概要 前述(3-1-3-1)で、園芸など植物を育てることが、人の健康・癒しや生きがいづくりにつなが り、非健常者の治療にも役立つことについて述べた。 同様に、障害者施設で園芸や農業作業を行うことは、施設のメンバーに生産活動の機会を提供 し、知識や能力の向上を図るとともに、健康・癒し・生きがいづくりに役立つ。 古くから自給自足のために食物栽培を行ってきた地域や組織が、それらの製品を製造者名や有 機栽培などの価値を理由に「観光用」として付加価値をつけて販売している例もあり、福祉用に ついても、うまくブランド価値をつけられればそうしたビジネスにつながる可能性もある。 障害者の雇用は国の政策として位置づけられ、一定規模以上の企業などは雇用促進法により障 害者を一定割合(民間企業で 1.8%)以上雇用することが義務付けられている。一方、企業で普 通に働くことは困難でも一定の作業能力がある障害者も多く、これらの障害者は授産施設など福 祉施設で活動を行っており、その作業内容としては、「農業」が最も多いのが現状である(表3 -1-3参照)。 ここでは、主に障害者などの授産活動を目的とした事例を紹介する。 障害者施設において、こうした園芸が有力な事業であるというのみならず、一般の企業におい ても、義務付けられた障害者雇用の受入口として、環境や安全な食を目的として行なわれる緑 化・菜園の業務が候補になることを示唆していると思われる。 表3-1-3 授産施設の作業種 (出典:農業が作る ふくし・ろうどう『農業分野における職域の可能性と展望』報告集 特定非営利活動法人 大阪障害者雇用支援ネットワーク) 縫製 593 箇所 サービス 258 箇所 クリーニング 383 箇所 簡易作業 1429 箇所 印刷 233 箇所 食品 739 箇所 農耕 669 箇所 日用品 398 箇所 情報 66 箇所 玩具 112 箇所 木工 378 箇所 工芸 459 箇所 陶工芸 321 箇所 衣料品 130 箇所 電気 226 箇所 3-27 2)事例 ①「森の工房 AMA(広島市)」における屋上ブルーベリー果樹園の例 知的障害者及び精神障害者の授産施設である「森の工房 AMA」は、建物・施設自体が省エネ をコンセプトにしたユニークなものであるが、授産施設としての収益面も勘案して屋上全面に ブルーベリー畑を整備している点に特徴がある。 障害者と周辺住民やボランティアなどの健常者により、屋上や庭で約 180 本のブルーベリー を開園当初の平成 15 年から栽培しており、最近では施設周辺の休耕地においても栽培してい る。それらを使って工房内で障害者がブルーベリージャムやソースなどを製造して、販売して いる。また、夏には一般に施設を開放して「ブルーベリー祭り」を開催しており、製品や苗木 などの販売も行っている。 植栽のための散水は雨水貯留をベースに行っているが、夏場の少雨の際には水道水も併用し ている。なお雨水貯留利用には、夏場のぼうふらの発生源となり利用者や近隣に迷惑をかけな いように、防虫ネットを張るなど防止対策に注意を払っている。 図3-1-49 森の工房 AMA 屋上のブルーベリー畑 図3-1-50 森の工房 AMA 工房内作業風景 ②神戸市での水耕栽培事例 神戸市西区神出町では、障害者の授産活動としてハウス農園内でトマトを水耕栽培している事 例がある。そこでは、障害者が苗作り、栽培の管理や収穫作業などを行っているが、作業の軽減 を図るとともに、商品価値を高めることを目的に農薬の使用量削減を図るため、水耕栽培が取り 入れられている。 ③聾唖者を雇用する植物工場の例 農業は高齢者や障害者雇用にとって大きい位置を占めているが、機械化された制御型栽培装置 (「植物工場」)での作業の場合、作業がマニュアル化されるとともに、動作の身体への負担を限 定することが可能なので、適していると考えられる。 すでに聾唖者をその作業者に採用する企画が進められているが、今後障害者の就労の場として 採用されるケースが増加するものと期待される。 3-28 3-1-4-2 環境教育・食育 1)概要 子供たちが植物の世話をしてその成長過程を見ることに教育効果があるが、ここでは環境教育 と食育面での効果について述べる。 3-1-1で述べたような環境面の効果を、教育の場あるいはコミュニティ活動を通じて学習 することにより環境意識を高めることができる。 また、野菜や果実など食する植物を育てることで、食についての認識を深める食育効果もある。 2)事例 ① 兵庫県立西宮南高校の例 平成 20 年度は、ヒートアイランド対策や学習環境改善を目標に、校舎のリュウキュウアサガ オを使った壁面緑化に取り組んでいる。 アサガオの生育状況を観察し、夏季に緑化された部分とされない部分の温度差の計測を行い、 壁面緑化の効果(1階はコンスタントに約1~2℃室温低下、9 月に最高で 3.6℃低下した場所 あり)を確認した。これは同時に、同校が力を入れている環境教育の一環としても位置づけて おり、ヒートアイランド現象や地球温暖化などの環境の現状について学ぶとともに、それを改 善する行動を学ぶ場となっている。 図3-1-51 西宮南高校における壁面緑化 ② 神戸市立多聞東中学校の例 平成 15 年度より、各種の環境やエネルギーについて学ぶ環境学習を実践してきたが、平成 19 年度に実施された校舎の耐震化工事の際に、生徒、教員、市民と学識経験者によるワークシ ョップを開催して、 「エコスクール」の実現を図る計画を策定している。具体的には、水耕栽培 を含む屋上緑化、壁面緑化に加えて、階段状の田畑「エコファーム」における農作物づくりや ビオトープなどを活用した学習プログラムとなっている。生徒たちがそれらに従事し、効果測 定を行うことを通じて、環境に対する意識向上や食育などに役立てている。 3-29 図3-1-52 多聞東中学校外観 図3-1-53 環境学習プログ ラム展開図 図3-1-54 エコファーム (段々畑) 図3-1-55 栽培実習状況 ③ 保育園・幼稚園内で野菜製造キットを導入し食育教育をした例 (出典:㈱森久エンジニアリング資料) 都市型植物工場に使う制御型栽培キットを、保育園などに設置した 例がある。 制御型の植物工場キットは栽培期間が短く、室内で無農薬無害虫栽 培が可能であり、野菜が育つ様子を毎日見ることにより楽しみながら 学習でき、食べる楽しみを味わえ、都会の子供の食育に適していると 図3-1-56 保育園での 野菜製造キットによる食育 言える。 (東京新宿せいが保育園) 3-30 3-1-5 まちづくり・コミュニティづくり 都会では、一般的に住民同士のコミュニティが希薄になりがちである。 緑化には ・ともに作ること(菜園づくり、収穫物を使った楽しみの共有) ・集い楽しむ場所が形成される ことで、まちづくりやコミュニティづくりに効果がある。 事例: ① 自治会による空き地利用の共同園芸活動 都市の中では、各種の事情(所有者・相続者が地区外に転出、相続時に行政に現物とし て納付など)で、空き地となって放置された土地が多く見受けられる傾向がある。 これらの土地を有効活用し、地域のコミュニティ活動のために共同園芸などに利用して いる例を紹介する。 これらの場合、 ・賃料なし(所有者にとっても空地の環境保持のため、草刈などを行う必要がなくなるな どのメリットがある。) ・一定期間前の通知で解約可 などの使用条件が定められていることが多い。 [兵庫区熊野町1,2丁目自治会の例] 所有者の遺言で神戸市に寄付された土地(約 490 ㎡)を地域の憩いの広場として、熊 野町1、2 丁目自治会が震災から 8 年後の平成 15 年から「熊野ファーム」として、神戸 市から無償で借り受けている。ここには畑や果樹・花壇があり、ここで収穫した四季折々 の野菜や果物、花や苗は会員に均等に配分し、地域にも提供されている。また、多目的 広場では、朝市や収穫祭、青空喫茶・バーベーキュー・夜店などの催しが行われている。 図3-1-57 熊野ファーム 3-31 このほか、市街地内の区画整理事業や再開発事 業などの事業用地の一部を地域住民が借り受けて、 園芸活動などを行っている事例もある 図3-1-58 事業用地活用事例(神戸市兵庫区) ②大阪「新・里山」(積水ハウス㈱資料による) 大阪のランドマークの一つである「新梅田シティ」の敷地内に、8,000m2 におよぶ緑地帯 を「新・里山」と称し、豊かな植生により、都市環境と自然が融合する場をめざした空間が 創られている。雑木林、棚田、野菜畑、竹林や小川・池などを配置し、地域住民に憩いの場 として公開されている。地域の子供に自然の姿を学習する場として、また地域住民のコミュ ニケーションの場として定着させるべく、収穫祭や自然観察会などのイベントも企画し、日 本の田舎にあったような懐かしい「里山」の再現をねらっている。 まちの景観や全体の環境改善に資する緑化活動全般も CSR(*)活動の一つに位置づけら れるが、本例は規模や持続性において画期的なものである。 (*企業の社会的責任を果たす、または社会的信頼を得るための活動) 図3-1-59 大阪「新梅田シティ」の敷地内に設けられた「新・里山」(提供:積水ハウス㈱) 3-32 ③「銀座ミツバチ」プロジェクト(出典:㈱文祥堂 HP) NPO が銀座の屋上空間を使って植物を栽培、蜂蜜を採取し、ホテルなどで使用してい る。また、活動を通じて、都会の中で新たな形のコミュニティづくりの意味合いをもた せている。 図3-1-60 「銀座ミツバチ」プロジェクト ④兵庫県丹波市(旧山南町)の薬草によるまちおこし(出典:丹波市薬草薬樹公園 HP) 丹波市(旧山南町)は江戸時代以来の薬草栽培の歴史があり、その後も薬草の種類を増 やし、わが国有数の薬草栽培の地域となっている。 「漢方の里」として研究・開発にも取り組むほか、薬草薬樹公園を作り、その中に、薬 草風呂、治療室、薬膳コーナー、農産物処理加工施設などを設けて、地域住民の癒しや コミュニティづくりとともに観光客の集客を図るなど、 「薬草」によるまちおこし活動を 続けている。 図3-1-61 丹波市薬草薬樹公園 3-33 図3-1-62 薬草風呂および薬草の一つトウキ(丹波市薬草薬樹公園) 3-1-6 防災効果 ~都市の安全向上 1)植物の保水効果による都市の安全向上 林や森は昔から、その保水能力により雨水が一度に流れるのを防ぐこと、およびそれにより土 砂の崩壊・流出を防止するなど、水害を防ぎ、減らすのに役立ってきた。 都市では、コンクリート・アスファルト面が多いため、雨水の急激な流出などの水害に弱い構 造になりがちである。最近、頻度が高くなった集中豪雨(時には「ゲリラ豪雨」 )により、各地 で被害が続出している。 屋上や建物周辺に植物を植えることで、そうした豪雨による水の流れを抑制する効果があり、 都市内の緑化による水害緩和が期待されている。 2)防火・延焼遮断効果 生木にはもともと強い耐火性がある。樹種や気象条件によっても異なるが、樹木の葉に多くの 水分が含まれ、高温になると水分を蒸発させて温度の上昇を抑制し、葉の重なりと動きで熱の浸 透を防ぐ働きがあるためである。 また、樹木の配置にもよるが、炎上せず残れば遮熱効果が期待できる。地震などで大規模な火 災が起こったとき、延焼を防ぐ効果を持つ。関東大震災のときには樹林帯のあった上野公園など で、多くの人の命が救われたことはよく知られている。阪神・淡路大震災においても、神戸市長 田区(JR 鷹取駅南方)の大国公園のクスノキとイチョウによって延焼拡大が阻止されたと言わ れている。このほか、庭の樹木群が近隣からの火炎による延焼を阻止した事例は少なくない。 このように、耐火性のある植物を適切に配置することで、都市全体の延焼防止、避難路・避難 所の安全性向上などに効果がある。また、屋上緑化・壁面緑化などを、防災公園や他の都市防災 施設と関連させ計画的に展開させることは、延焼防止や避難経路確保に有効であると言われてい る。 特に壁面緑化は火災から建築物を保護する効果もあるとも言われている。 3-34 図3-1-63 防災公園とまちづくり (財団法人都市緑化技術開発機構 HP より) [3-1-6の参考文献]: 3-1-6a 常緑キリンソウ普及協会 HP(㈱緑化計画研究所) 3-1-6b 国土交通省 総合技術プロジェクト 市基盤整備技術の開発 循環型社会および安全な環境形成のための建築・都 「まちづくりにおける防災評価・対策技術の開発」報告書(平成 15 年 3 月)(国土技術政策総合研究所 HP による) 3-35 3-2 緑化施策 3-2-1 緑化全般 3-2-1-1 屋上緑化・屋根緑化 1)概要 都市のヒートアイランド対策や景観維持を目的として、都市の緑化を推進すべく、法や 条例により各地で緑化の義務付け・推奨が進められている。その中でも、ビルの屋上の緑 化について、平成 13 年の東京都(適用は平成 14 年)を皮切りに、兵庫県を含む各地の自 治体で一定規模以上の新築ビルについて義務付けられたのを契機に、色々なタイプの緑化 が提案されており、実施例も増えてきている。 屋上緑化・屋根緑化には、以下の効果が期待されている。 a 都市全体として ・ ヒートアイランド現象緩和 ・ 都市景観向上 ・ 雨水の流出抑制による豪雨時の水害抑制(防災) ・ 都市の生物多様性向上 b 個々の建物にとっても、 ・ 室内、特に屋上直下のフロアの温上昇抑制 ・ 新たな憩いの空間創成 ・ 建物外装材料(コンクリートなど)の保護 などの効果がある。 屋上緑化・屋根緑化にも、植物の種類、栽培基盤、規模など緑化方法により色々なタイ プがある。 ①植物の種類: ・芝系 ・セダム系(乾燥に強い) ・苔類(乾燥に強い) ・ヘデラ類 ・低木、果実をともなう木 ・花卉・野菜類(葉菜、果菜、根菜) ・その他 なお、一般の屋上緑化では重量の制限や風の問題もあり、大きな樹木は適していない。 3-36 ② 栽培基盤 屋上・屋根に設置することから軽量であることが求められる。 ・土耕・特殊基盤 軽量で保水性、保肥性、維持管理などを 考慮した各種の特殊土・材料、中には廃 棄樹皮や、剪定材・繊維廃棄物などのリ サイクル材料を利用したものも提 図3-2-1 栽培基盤 剪定リサイクルを利用基盤とその上に芝を生や した例 (出典:テクノ宝塚㈲カタログ) 案されている。 ・水耕(養液の種類・潅水法など各種製品の提案あり) 水耕の場合、葉からの蒸散の多い植物の適用で、より一層周囲の空気を冷やしたり、 適当な湿気を供給することができる。その結果、植種や生育条件にもよるが、芝(発 育状況良好)の 2 倍から 4 倍以上の蒸発潜熱となり、葉裏では、気温より低い状況を 作り出すことが期待できる(図3-2-2参照)。 蒸散する水の量も、芝(良好な発育状況)のケースと比較して 2 倍から 4 倍にな るが、実水消費は植物の取り入れ分以外はほとんどなく(流出分が少なく)、使用 効率は高い。 [水耕型緑化基盤の蒸散特性] (出典:山田(宏)委員提供資料) 図3-2-2は、平成 18 年8月 20 日に和歌山大学システム工学部屋上で観測し た、様々な種類の緑化基盤からの蒸発潜熱を比較したものである。24 時間分の蒸発 散量から蒸発潜熱を計算してグラフを作成した。テラスライム(A)からサフィニ ア(B)までの4種類は水耕栽培方式の植栽基盤に植栽してあり、芝は一般的な土 耕型である。また、水耕型緑化基盤はAタイプとBタイプの2種類を使っており、 Bタイプの方が水を吸い上げやすい構造になっている。 最も蒸発散量の大きいテラスライムでは、Aタイプ基盤の場合で芝生面の2倍、 Bタイプでは4倍以上の蒸発散量を示し、冷却効果に優れていることが分かる。こ の時の蒸発散量は水面からの蒸発量よりもはるかに大きく、水面を作るよりも、こ れらの植物で覆った方がヒートアイランド軽減効果は高くなる。 表3-2-1 水耕栽培 水蒸散量 (図3-2-2に対応した結果) 適用 水蒸発量 テラスライム(A) テラスライム(B) 9.4 18.6 サフィニア(A) サフィニア(B) 芝 水面 6.3 8.4 4.5 7.0 (ℓ/m ) 2 3-37 48.8 50 蒸発潜熱(MJ/㎡) 40 30 22.8 22.1 20 17.0 15.4 10.9 10 0 テラスライム(A) テラスライム(B) サフィニア(A) サフィニア(B) 芝 水面 図3-2-2 水耕緑化基盤の蒸発潜熱(芝、水面との比較) [日射をうける屋上面温度の緑化による効果](出典:山田(宏)委員提供資料) 図3-2-3は日中熱せられたときの、屋上面の温度が緑化によりどの程度変わ るかを気温との差で示したもの。右から三つ目がコンクリート面で、気温より 13℃ 高くなったとき、右の二つ(セダム・芝)はプラス 3.5℃、左から二つ目のテラス ライムで気温より低くなっていることを示す。 15.0 12.9 12.9 10.0 表面温度-気温(℃) 縦軸: 表面温度 -気温(℃) 4.5 5.0 3.6 3.5 3.5 0.9 0.6 0.0 Petunia hybrida Ipomoea batatas -0.3 Verbena×hybrida Hesperozygis Myrtoides x H. Dimidiata コンクリート面 ツルマンネングサ コウライシバ -5.0 気温との表面温度差 図3-2-3 気温と表面温度差グラフ 左から、サフィニア、テラスライム、タピアン、ミンティア、コンクリート、 ツルマンネングサ(セダム)、芝 ③ 規模 単に植栽を配置するものから、全体としてビオトープなども含めた大掛かりな配置とす るものまである。 3-38 [具体例] a 土耕等の例 a-1草屋根: 「彫刻家の家」(兵庫県、 前田由利氏設計) (出典:HOUSECO「建築家と出会う場所」 HP/前田由利氏提供) すべての屋根を草屋根とし、庭の 樹木と組み合わせで、夏には「森」 のような気持ちのよい場所になるこ とを期待している。 図3-2-4 草屋根: 「彫刻家の家」 図3-2-5 セダム系屋上緑化: イオン豊中緑丘 SC 図3-2-6 セダム屋根:尼崎市個人医院 a-2. セダム系メキシコマンネングサに よる屋上緑化: イオン豊中緑丘SC (出典:ブルー・ジー・プロ㈱資料) メンテが手軽で、水道蛇口の設置 のみで維持可能な緑化である。 a-3.セダム屋根:個人医院(尼崎市) (出典:勝谷医院HP) セダムは秋から冬にかけては、茶 色になるが、春には緑の絨毯となり 花も咲く。 医院や店舗などの緑化はまちなか でランドマーク的な建物として存在 感を示す。 3-39 a-4.スナゴケによる屋根緑化:平成 20 年7月開催の洞爺湖サミットにて建設されたゼロエ ミッションハウス(留寿都)(サミット終了後茨城県古河市の「ゼロエミッションセンター」内 に移設し、 「茨城県次世代エネルギーパーク」に て公開中)(出典:積水ハウス㈱資料) 乾燥に強く手入れがほとんど不要なス ナゴケを屋根面に設置し、屋根表面温度 上昇を抑える。 建物自身も含め様々なエコ技術が組み 込まれた設計になっており、屋根の南面 には太陽電池が設置され、北面にはコケ 緑化が実施されている。 図3-2-7 スナゴケによる屋根緑化: ゼロエミッションハウス b. 水耕 b-1. サツマイモによる緑化 泉北高速鉄道和泉中央駅ビル屋上(大阪府都市開発㈱による 試験施工、一部は土耕のセダム)(出典:写真とも、大阪府都市開発㈱HP) ヒートアイランド現象緩和と、建物自体 への断熱効果を期待して、平成 17 年度に 蒸散効果の高いサツマイモを用いた水耕 による屋上緑化を試行し、屋上の温度が低 減する効果を確認している。 平成 18 年度からは、緑化面積を 約 1,000m2 に拡大し、サツマイモに加え、 セダムも植え、年間を通じて緑が確保でき るようにした。 図3-2-8 サツマイモによる緑化: 泉北高速鉄道和泉中央駅ビル屋上 b-2. ヘデラによる緑化: 東京ミッドタウン (出典:サントリー㈱資料) 常緑ヘデラを、軽量の新開発人工培土を用 い、自動潅水システム付きで運用している。 景観上自在に植物種を変更することがで きる。 図 3 - 図3-2-9 3-40 ヘデラによる緑化: 東京ミッドタウン 2)神戸市の水道施設における屋上緑化事例 ①市街地の配水池 市街地の配水池では、躯体への影響や周辺へ の照り返しなどを勘案して、従来から屋上部に 張芝を行っている。 図3-2-10 灘中層配水池 (神戸市灘区)の屋上部 ② 神戸市水道局西部センター(神戸市須磨区) グリーン庁舎の主旨に基づき、敷地内緑化お よびエネルギー負荷の抑制を図るため、屋上を マツバギクやシバザクラにより緑化している。 また、周辺環境への配慮として、景観や屋上 面からの反射光抑制なども考慮している。 図3-2-11 神戸市水道局西部センター屋上 ③ 本山浄水場膜ろ過施設棟(神戸市東灘区)(建設中) 平成 20 年度から 21 年度にかけて建設する 屋上部 本山浄水場膜ろ過施設棟は住宅街に位置す るため、周辺への景観配慮が必要とされる建 物である。当該建築物では屋上および壁面を 緑化する計画となっている。 図3-2-12 本山浄水場膜ろ過施設棟イメージ図 3-41 3)定量的効果検討例 屋上緑化の効果は、表3(p.3-1)に示したような広い範囲に及ぶが、代表的なものを以 下に示す。 ① 日射の遮熱効果・水の蒸散による屋上面の温度低減効果 遮熱効果・蒸散効果は、植栽の基盤の種類や厚さ、植物の種類により様々であるが、こ こでは後者(蒸散による冷却効果)の大きい水耕栽培の例を示す。 夏の日中の日射が強いとき、屋上のコンクリート面は気温より高い温度まで上昇する。 下記(a.および b.)に示す実測例ではいずれも気温が 33℃程度に対しコンクリート表面は 55℃程度まで上昇が認められるが、水耕による緑化を実施した場合、最大 27℃低い 28℃ 程度に抑えられたことが確認されたと報告されている(図3-2-13 および 15) 。水耕の 場合は、通常の緑化以上に水の蒸散効果がより多く期待できることにより、気温より低い 温度に保たれていることがわかる。 a. 和歌山大学・サントリー㈱の共同研究結果 (出典:山田(宏)委員・サントリー㈱提供資料) 植物の表面温度も気温程度に抑えられている。水耕でない芝やツルマンネングサ=セダ ムでも、効果はあるが、図3-2-3で示したように、水耕の場合さらに3~5℃低い。 55.0 気温 コンクリート表面 ポリスチレンボード下 テラスライム下 芝生下 50.0 温度(℃) 45.0 40.0 35.0 30.0 25.0 20.0 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 2006年8月27日 図3-2-13 屋上コンクリート面温度比較-緑化による効果 横軸:時刻(中央が正午) 3-42 図3-2-14 芝・テラスライム 実験用植栽 b. サツマイモによる水耕栽培についての計測結果例 (出典:NTTファシリティーズ㈱資料) a と同様、屋上(屋根)面を緑化(サツマイモによる水耕栽培)した場合の、屋上(屋根) 面温度低下効果を計測した例を示す(図3-2-15)。 葉からの蒸散作用によりまわりの空気を冷却するが、この効果は日中の正味放射量の約 80%を吸収することに相当している(図3-2-16 参照)。 屋根表面温度の変化 夜間に温度が急激に 60 下がる→夜間熱放出 55 「熱 50 屋根表面温度の 45 緑化していない区域 差は27℃! 温度(℃) の温度変化は、 40 27℃ 35 30 サツマイモ緑化区域 25 の温度変化は、 外気温より低い 20 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 屋根表面温度(無処理区) 図3-2-15 12:00 14:00 16:00 屋根表面温度(緑化区) 18:00 20:00 22:00 わずか3℃ 外気温度(百葉箱) サツマイモ水耕栽培についての計測結果例-屋根表面温度の比較 3-43 熱収支凡例: 正味放射量(+) 潜熱 顕熱(+) 屋上面 熱収支 伝導熱(+) ヒートアイランド 700 600 の要因 500 80% 400 熱 量 (W/㎡ ) 伝導熱 100% 300 顕熱 60% 200 100 40% 約90%が 顕熱(+) 正味放射 0 20% -100 -200 伝導熱 顕熱 正味放射量 0% -300 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 エネルギー 正味放射エネルギー 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 時刻 緑化していない区域 熱 量 (W/㎡ ) 【緑化していない区域】 700 600 500 400 300 伝導熱 100% 200 100 0 -100 -200 -300 伝導熱 0:00 2:00 4:00 6:00 潜熱 顕熱 ヒートアイランド 80% を緩和 60% 約80%を 40% 正味放射 20% エネルギー 潜熱 蒸散作用に 顕熱 より吸収す 0% 正味放射量 正味放射エネルギー サツマイモ緑化区 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 時刻 【サツマイモ緑化区域】 図3-2-16 サツマイモ水耕栽培についての計測結果例-熱収支の比較 ② エアコン熱交換機吸気温度低下による省エネ効果 図を含めた出典:京大吉田治典教授研究室による「屋上緑化による冷房機効率改善」 水気耕栽培屋上緑化を利用した冷房熱源の効率向上に関する研究(その1) (その 2) (山下道子・吉田治典・王福林、空気調和・衛生工学会近畿支部学術発表会論 文集 2008.3.19)他による) 水耕栽培により冷却された空気を取 り込み、エアコン室外機の熱交換を行 うことによるエアコンの効率向上、省 エネについて研究されている。 サツマイモを使った水耕栽培で、日 射の強い 10 時~16 時の間では、冷却 温度差が約 1.3℃(散水すれば 3.0℃) であることを実測で確認している。 標準年の気象データと標準的な建物 図3-2-17 3-44 エアコン熱交換器吸気温度低下 による省エネ効果 仕様の場合について、シミュレーションによ り冷却温度からエアコンの効率向上を予測 した結果、日本の夏場では地域による差はあ まりなく、6~8.5%程度(効率向上率が機種 によって異なるため)の省エネ率が達成でき ると報告されている。 図3-2-18 エアコン熱交換器吸気温度低下に よる省エネ効果; 省エネルギー率と頻度 図3-2-19 では、蒸散量の実測結 果(左二つ、各平均と最大)を他の植物 の既存資料と比較した結果を示す。 水耕が、単木(一番右)相当の蒸散量で あることを確認している。 縦軸は日積算蒸散数量(kg/m2) 棒グラフは左から、水耕(期間平均)、 水耕(期間最大)、セダム(潅水あり)、 セダム(潅水なし)、芝(散水あり)、 芝(散水なし)、森林、単木 図3-2-19 植物の蒸散率の比較 ③ 階下の部屋における省エネ効果の試算例 屋上緑化による建物内エアコンのエネルギー節約効果については、建物の断熱仕様により 差が出る。快適性や省エネを重視するわが国においては、標準的な建物断熱仕様が年々改善 される傾向にあるが、 ・断熱性能が低い工場や倉庫などでは、上記屋上面の温度降下による影響が内部にも反映さ れるため、緑化による省エネ効果は当然ながら大きい。 ・通常の建物でも、建築年数を経ている断熱性能が低いものには、相当の効果が期待できる 場合がある。 このように、建物の断熱性能に留意が必要であるが、以下に報告や試算例を示す。 3-45 表3-2-2 a. 環境影響評価マニュアル- 地球温暖化編- 平成 15 年 9月 神戸市環境局 屋上緑化による負荷低減 率(芝生あるいはフジ棚): 事務所など:16%、集合住 宅:31% b. 実物大建築物実験結果の解析例(出典:山田(宏)委員提供資料) 4-3 5)①(p.4-16~17)に記載する高保水性 6000 5445 外装建材による省エネルギー効果の実物大建物実験を イシバの場合で省エネ効果が 26.3~36.0%であるこ とが示されている。 電力量(Wh/day) 主眼とした研究であるが、比較対象としたヒメコウラ 5000 4615 4000 (100.0%) 3485 3200 3000 (84.8%) (64.0%) 2000 (58.8%) 1000 0 (実験に使用された建物は鉄筋コンクリート造り 対照区 反射塗料区 芝生区 保冷パネル区 2007年8月13日 図3-2-20 屋上状態の違いによる階下の エアコン電力消費データ比較 3 階建てで、竣工後約 40 年経過した企業の 研修施設として使用されているもの) 左から、無対策の対象区、反射塗料区、芝生区、保水材 料区。 芝生による緑化で 1.96kWh のエアコン電力削 減を確認(図4-3-4の部分再掲図) 。 [潅水に用いる水道水のCO2排出量との比較] この例で節約したエアコンエネルギー相当の CO2 排出量は 0.662kgCO2 である。 一方、芝緑化に要する日潅水量は(20ℓ/m2 x 区画面積 30.25m2=)605ℓである。 神戸市の水道(阪神水道から取水の場合)の浄水・配水に要する電気エネルギーが 約 0.963kWh/m3 であることから、相当する CO2 排出量は 0.197kg CO2 となる。 従って、本例の屋上緑化の場合、水に要するエネルギー分を考慮しても、エネルギー節約、 CO2 排出量削減となっている。(水道の給水に要するエネルギー相当の 3 倍以上の CO2 排 出削減が期待できる。) さらに、水の消費効率の高い水耕栽培で考えると、 ・冷却効果は芝のとき以上に高い ・水消費は約半分で済む(蒸散に結びつかず有効でない水がほとんど無くなるため) ことから、CO2 の削減効果はさらに大きく、水道水給水に要するエネルギー相当をベース にすると、7 倍程度の効果があると期待される。 (ここで用いた電力の CO2 排出原単位は 0.338kgCO2/kWh=平成 18 年度関西電力 3-46 換算係数) 3-2-1-2 壁面緑化・緑のカーテン 1)概要 前項の屋上緑化と同様、主にヒートアイランド現象緩和や、室内環境の改善など夏季の環 境改善を目的としている。また、緑化による都市景観形成や建物(コンクリートなど)を熱 射から守るなどの効果も期待して、壁面や窓の外面を緑で覆う実証試験や事業が各地で実施 されている。 ① 緑化方法・植物の種類 緑化方法により色々なタイプがあるが、屋上緑化の場合と同様の部分は省略して、壁面 緑化・緑化カーテンに特有の部分についてのみ述べる。 緑化面を垂直に形成する必要があり、下記(図3-2-21)のようなタイプがある。 a.上に這い上がるタイプ(直接登坂型・巻きつき登坂型) 直接登坂型 巻きつき登坂型 b.上から下垂するタイプ(下垂型) c.プランター・ユニット(パネル)型 プランター型 ユニット(パネル)型 図3-2-21 壁面緑化のタイプ (出典:ユニット型:甲子園ララポート、金地委員提供資料、 その他:東京都緑化ガイドライン概要版) 栽培基盤が、屋上から下垂する場合や、ベランダにおかれる場合は屋上緑化と似た状況 3-47 (防水、防根の必要性に加え、重量の制限などの要求)にある。 窓際におかれる緑のカーテンとしては、ゴーヤなどの一年草で夏季の日射を遮る(冬季 は妨げなく日射を受ける)タイプが多い。 [トピック:壁面緑化のアイデア提案](出典:明治大学大学院辻永岳史氏のアイデア募集応募資料) 「サイフォンと毛細管現象を利用した節水型壁面緑化システム」 今回の検討事業の一環として、企業・研 究者より水の有効利用についてのアイデア 募集を実施したが、その中で優秀提案とし て表彰した案件の一つである。 パネル型壁面緑化における、灌漑必要水 量が多く、基盤上下面間の水分差により均 一な生育が困難であるという問題を解決す るシステムとして提案された。 植生のむらをなくし、3 割の節水を確認したと報告されている。 図3-2-22 壁面緑化の アイデア:システム概要 図3-2-23 壁面緑化のアイデア: 本システムの利点と優位性 3-48 ② 神戸市の水道施設における壁面緑化 a. 本山浄水場膜ろ過施設棟(建設中) 本山浄水場膜ろ過施設棟の壁面部については、前述(3-2-1-1)の屋上緑化と同様の位置 づけとしており、つる性植物登坂による壁面緑化の実施を計画している。 b. 灘中層配水池壁面 神戸市水道局では、市域における緑化普及の一翼 を担うことを目的とし、平成 20 年度に灘中層配水池 の壁面緑化の実施を計画している。当施設は、水道 施設緑化のモデル施設として、水耕栽培による緑化 と下垂型の緑化を併用し、実験的な位置づけによる 階段下 緑化を採用する。また、道路沿いに位置し人目につ 東側壁面 きやすいため、緑化促進 PR 用の施設として利用し ていく予定である。 図3-2-24 灘中層配水池壁面 図3-2-25 灘中層配水池 階段下 (水耕による巻きつき登坂型) 図3-2-26 同東側壁面 (ヘデラ=下垂型) ③ 定量的効果の検討例 a 大阪府の実証試験例 以下のように報告されている: ・平成 19 年度実施 ・幼稚園・学校・企業(事業所・工場)などで実施 ・ゴーヤ・アサガオ・ヘチマ・ミニトマト・きゅうりなど ・壁面温度平均で約 5℃低い結果(最大では 10℃の差) 図3-2-27 堺市立神石小学校みどりのカーテン(写真 3 枚:生育状況順に 示す。各設置後 6 週間後、2 ヵ月後、3 ヵ月後) 3-49 (提供:協和㈱) 下記の解析例で、緑のカーテンにより、正午前後の 5 時間で、窓から侵入する熱を 6 割抑え、省エネに貢献していることがわかったと報告されている。 (出典:大阪府環境農林水 産部 HP。図3-2-28~30 の掲載事例は昭和電機における実証試験のもの) 図3-2-28 図3-2-29 みどりのカーテン効果 みどりのカーテン効果 調査状況 図3-2-30 3-50 みどりのカーテン効果 サーモグラフィ b 兵庫県立西宮南高校の実施例 アサガオを植えて覆われた部分と覆われない部分の室温比較を行い、最大で 3.6℃の温度 差を観測した。葉に十分に覆われない4階では効果が確認できなかったが、葉に覆われた 1 階部分はコンスタントに 1~2℃低下している。 図3-2-31 西宮南高校 みどりのカーテン温度調査比較グラフ(1 階部分) c. 和歌山大学における緑のカーテンの施工事例と調査(出典:山田(宏)委員提供資料) 和歌山大学では平成 20 年に校内環境整備の一環として、和歌山大学環境管理委員会が緑 のカーテンの試験設置を行った。施工はシステム工学部学生が卒業研究の一環として実施 し、植物の成長に伴う建物内外の熱環境改善効果の測定調査を実施した。 午前中から正午にかけては、ほとんど差が無いが、西日の影響が出始める午後から徐々 に緑のカーテンを設置した部屋のエアコン負荷が減少し、直接西日が窓から入る 16 時台に は、消費電力量は 37%削減された。 4000 3500 103室(対照区) 104室(緑のカーテン有) 3462.3 3333.3 3014.3 2842.7 3000 2913 2948.3 3138.7 2995.7 3210.3 3023.3 2980 2622.7 電力量(Wh) 2500 2344.7 2000 1884 1500 1000 500 0 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 図3-2-32 和歌山大学における緑のカーテン実験 室内エアコン電力比較 (平成 20 年9月 14 日) 3-51 (サーモグラフィ:色は赤が高温、紫青が低音方向) 写真:平成 20 年9月 1日 16 時の建物外側 のサーモグラフィ画像 西日に当たった外壁 は 50℃近い高温にな っているが、植物で覆 われた面は 30~35℃ 程度である。 写真:平成 20 年9月 1日 16 時の建物内側 のサーモグラフィ画 像(緑のカーテン無 し) 写真:平成 20 年9月 1日 16 時の建物内側 のサーモグラフィ画像 (緑のカーテン有り) 緑のカーテンで覆わ れることによって、ガ ラス面の発熱が抑えら れている。直射日光の 遮へい効果と発熱抑制 によって、屋内の温熱 環境は大幅に改善され る。 図3-2-33 和歌山大学における緑のカーテン実験:サーモグラフィ写真 3-52 3-2-1-3 その他の都市緑化 その他の都市緑化として、駐車場、校庭、道路、空き地、建物周辺(生垣を含む)などにお ける緑化が検討され実施されている。以下、それらの例をいくつか示す。 1)駐車場緑化 ①概要 目的:都市部のヒートアイランド現象緩和、景観性向上 a. 神戸空港の例: 神戸空港は、環境対策のみならず、環境創造するた めに「エコアップエアポート」として整備されている。 その施策のひとつとして、グリーンパーキングが旅客 ターミナル駐車場に導入されている。 b. 兵庫県 グリーンパーキング推進: 図3-2-34 神戸空港駐車場 ・平成 17 年度より、 「グラスパーキング」(芝生化駐車場)の普及促進をめざし、これらの 効果と耐久性や管理面などの課題を検証し、今後の技術改善や普及促進に資するため、 大学や民間企業などと協働して実証実験を行っている。 ・気温低減効果、芝の生育状況、景観性に関して評価が高いことを確認。 ・産官学民の誰もが自由に参画できる「ひょうごGPフォーラム」を設置。 ・グラスパーキング(芝生化駐車場)普及ガイドライン第 1 次(案)を全国に先駆けて 策定した。 ②効果 (出典:兵庫県グラスパーキングフォーラム HP) 兵庫県福祉センターにて行われた実証実験(平成 18 年 7 月)結果によると、アスファルト 舗装部との平均表面温度差が、12 時で最大 25℃、21 時で 10℃という結果が得られたと報告 されている。 駐車場ではタイヤ圧に耐えようにするため、気温低減効果には多少マイナスでも補強材を 使用する構造を選ぶ必要がある場合がある。 また、環境効果以外に街並みの景観に役立つ効果もある。 図3-2-35 兵庫県グリーンパーキング推進実証試験 3-53 アスファルトとの平均表面温度差 図3-2-36 兵庫県グリーンパーキング推進実証試験 2)道路緑化 ①概要 街路樹や中央分離帯の緑化が、美観、騒音緩和、空気浄化などの目的で一般的に実施され ている。 東京の首都高速で、夏季の温度上昇緩和、景観改善などの目的で、保水材料を基盤にした 緑化が試行されている。 図3-2-37&38: 保水性緑化基盤材料の 使用例 (出典:日本ナチュロック ㈱資料) 図3-2-37 首都高速道路側壁 による試行(開始直後) 図3-2-38 首都高速道路 代々木パーキングエリアの緑化 変わった例としては、ストラスブール市(フランス)、フライブルグ市(ドイツ) 、鹿児 島市などで路面電車走行路を緑化した例がある。区域の明示を兼ねた美観維持、保水効果、 ヒートアイランド現象緩和が期待できる。 図3-2-39 図3-2-40 鹿児島市 路面電車走行路面 フライブルグ(ドイツ)路面電車走行路面 ②効果 ヒートアイランド現象緩和を含めた夏季の温度低減効果、都市景観を形成する美観維持、 保水効果などが期待できる。 3-54 3)校庭芝生化 目的:温暖化抑制、砂塵防止・水はけ改善、安全性向上、 景観、地域コミュニティ形成、子供の精神面の効果 ① 神戸市 ・平成 13 年、桜の宮小学校の校庭芝生化(約 2400 ㎡) ・平成 18 年、港島小学校の校庭芝生化(約 6000 ㎡) 図3-2-41 神戸市立港島小学校 校庭芝生化 ② 大阪府「校庭にみどりのじゅうたんを!」モデル事業 ・平成 16 年度モデル事業(幼稚園、小学校)、平成 17 年度効果調査 ・小学校や幼稚園の校庭を芝生化し、その効果調査を実施。 ・みどり豊かな街づくりの府民運動の推進や、都市におけるクールスポットの創出によるヒ ートアイランド現象緩和などを狙いとする。 ・芝生化面と土面の表面温度を比較すると 10℃以上の差を確認。 ・熱中症の抑止にも役立つことを確認。 図3-2-42 大阪府北条小学校校庭 表面温度の分布(平成 17 年 8 月 8 日 11:50) (提供:山田(宏)委員) ③ 東京都 ・平成 17 年度モデル事業実施(公立学校校庭の芝生化などをモデル的に実施)、 ・平成 19 年度よりモデル事業実績を踏まえ、ヒートアイランド現象緩和・緑化対策に加え、 子供たちへの教育効果、地域コミュニケーションの形成を促すため、本格的に推進。 ・表面温度はダスト校庭より 8.3℃低く抑えられた計測例あり。 3-55 4)空き地、建物周辺などの緑化 (生垣を含む) 図3-2-43 はショッピングモールの境界壁を緑化した例である。この例では以下のよう に紹介・報告されている (図3-2-44&45 を含む出典:金地委員提供資料)。 ・枯れ芝を植栽基盤にして、植物を横方向に植える試みを実施した。 ・多くの種類の植物に適用可能で、その配置をアレンジ することで、美観に富んだ緑化が可能である。 ・また、この方法により、緑化面(植物)から 15cm 離 れた地点でも 5℃程度の温度低下が報告されている (図3-2-45 参照)。 図3-2-44 枯れ芝緑化植種 アレンジバラェティー 図3-2-43 甲子園ララポート 図3-2-45 枯れ芝緑化温度測定結果 3-56 5)公園・ビオトープなど ・植物による動植物にやさしい空間を取り戻し、人も心の癒しを得る。 ・都市内に設置のビオトープ:公園型、下水処理場などとの併設型のほか、ビルの屋上に設 置しているものなどもある。 憩いの場であると同時に、子供たちの教育用、セラピー(治療)用などにも用いられる。 [都市の屋上ガーデン、ビオトープの例] (図3-2-46&47:㈱アクアフォレスト提供) 図3-2-46 ビオトープ 大阪寝屋川企業ビル屋上 図3-2-47 ビオトープ 東京老人ホーム屋上 3-57 3-2-2 農業関連 3-2-2-1 都市菜園 1)概要 職業としての農業ではなく、個人や企業が、余暇を使って自家消費のために行う栽培(ミ ニ菜園・家庭菜園など)についてふれる。 ① 場所 ・個人の住宅 (庭、周縁部、ベランダ、室内など) ・集合住宅の共用部(屋上、周縁部など) ・(農業以外の事業を営む)事業者の土地(庭・路地など) ・建物(屋上・ベランダなど) が中心であるが、 ・貸し農園(郊外の農園の一部や都心の建物の屋上などの空間)として個人に貸し出して 利用されるもの など規模も形式も色々な形で行われている。 ② 目的・動向 ミニ菜園(園芸)は、 ・自らの食を自ら得ることによる食材の確保という面 もあるが、それに加えむしろ、 ・趣味の園芸(花卉・果実・野菜・庭園作り)を楽しむ、すなわち作る事自体を体の健康と 心の癒しを得るという要素 が大きい。 植物を育てる園芸、特に花卉や野菜などの食料が成果として得られる菜園づくりは、体力 的にも精神面からも、高齢者の趣味や生きがいづくりに適している。 今後ますます高齢者が増える状況にあるが、利便性の観点から都心に住み続けることを希 望する高齢者も多く、都心において園芸に親しむ場の需要は増すことが考えられる。 自宅内の庭やベランダでの園芸・菜園(家庭菜園)にとどまらず、都心に近い貸し農園の 需要も増すと思われる。 2)貸し農園について ① 農業遊休地を利用した「市民農園」 農業の担い手が減少し空いた土地の活用と、都市住民の農業作業への参加需要の増加から、 貸し農園として運用される「市民農園」は平成 19 年度末時点で、全国で 3,273 箇所(区画数 16 万以上)、1,137ha まで広がってきている。 3-58 市民農園の形態としては、都市住民が自宅から通って利用する日帰り型のものと、農村に 滞在しながら農園を利用する滞在型の市民農園(クラインガルテン)があるほか、近年にお いては、農業・農作業の教育的な機能や医療上の効果が認められ学校法人、福祉法人などが 自ら農地を保有し、農業体験や園芸療法を目的とした学童農園、福祉農園も増加している。 図3-2-48 日帰り型市民農園(堺市) (農林水産省 HP) 神戸市内の市民農園は、表3-2-3の通りである。 表3-2-3 神戸市内市民農園数(平成 19 年度末現在) 農園数 区画数 面積(㎡) 北区 24 2,185 105,234 須磨区 5 374 9,463 垂水区 5 275 5,632 西区 25 2,847 147,658 合計 59 5,681 267,987 ② 都心型貸し農園 概要 神戸などの大都市周辺に限定した貸し農園にも、近郊型(近郊の農家や農協、自治体など の土地活用で実施するタイプ)(上記①のものを含む)と、ビルの屋上などを利用した都心型の タイプがある。 今後増加する都心に住む高齢者向けには、交通の便のよい都心型の増加が望まれる。 また、屋上菜園は、都市農園であると同時に、屋上緑化の一種でもあり、その効果も期待 できる。 ③ 都心型貸し農園 事例 3-1-3-14)b.(p.3-18)参照のこと。 3-59 ④ 屋上菜園の採用促進のための提言 ビルの屋上の菜園を既存ビルにも広げるためには、 ・ハード面(屋上設置に適し、また簡単に設置できる菜園キットの開発など) のほかに、 ・ソフト面(菜園の運営・管理) の充実が必要である。 兵庫県立淡路景観園芸学校/兵庫県立大学自然・環境科学研究所 平田教授他の事例報告 (都市緑化施策問題研究会とひょうご環境・緑化研究会ユビキタス・グリーンシテイー研究 部会との共同実験)で、ハード面の検討とあわせて、以下のような運営システムが提案さ れている。都心部のビル屋上などの菜園をもっと増やすために、有意義な提案と思われる。 ・下図に示すように、メンテナンスなどの問題から直接菜園運営に乗り出せないビルオ ーナーに代わって、菜園を運営する中間法人(ここでは NPO 法人)を立ち上げ、運営 と利用者の指導を行う。 ・運営にかかる経費や賃貸料の試算も行い、事業としての可能性の検証を行った。 経営が成り立つ農園の賃料を試算したところ、既存の貸し農園の価格と大きな差はない が、更なるコスト低減の努力が必要なことを確認した。 ・ビルのオーナーとしては、既存ビルの屋上を菜園化するための問題点として、ビル補 強の有無、不特定多数の出入りのためのセキュリティー確保などがあり、検討が必要で ある。 なんでもない屋上が 置くだけだから、いざという時も撤去が簡単 図3-2-49 屋上農園キット 3-60 どこでも置くだけ 図3-2-50 屋上菜園推進のための提案(仕組み) 3)「ミニ園芸」「家庭菜園」において利用する水について 家庭菜園など都市菜園で利用する水については、以下の点に留意する必要がある。 ・給水に要する手間 ・エネルギーを含めた利便性 ・環境適性 ・栽培する作物への安全性確保のための水の品質 自然流水・雨水などがそのまま利用できる場合、それを利用することは最も手軽でかつ環 境にやさしい。 ただ、雨水や下水からの高度処理水などを利用する際には、灌漑・給水のためにポンプア ップや移送にエネルギーを要するため、水道水を利用する方が環境にやさしい場合もある。 つまり、屋上において新たな設備投資を行わなくても、一定の水圧を有した水道水を手軽に 使用できることも一考に価する。また、二次利用水の品質に問題がある場合は、その浄化に 要するエネルギーを含めて比較し判断する必要がある。 3-61 [各種ミニ園芸用キットの例] 図3-2-51 ミニ園芸用キットの例 (出典(左から各) :協和㈱ハイポニカ事業部資料、M 式水耕研究所㈱HP、あかまつ㈱HP) 4)家庭菜園における水消費とコスト・収量に関する考察 栽培方法や前提条件により水消費やコストは異なる。 以下に一例として、水耕のミニキットによる栽培の場合の試算を示す。(図3-2-51 の 一番左の写真に示すミニトマト栽培の例。)(出典:協和㈱提供資料) 栽培場所:ベランダまたは庭先 栽培期間:4~11 月 収穫期間:7~11 月 収穫量:合計 1,000 個 使用水量:約 3ℓ/日 (198 円/15 個パックとして、13,200 円相当) (100 円~150 円程度(栽培期間8ヶ月)) 肥料代:約 1,000 円/年 電気代:560 円(栽培期間 8 ヶ月) ・キットの初期費用分と種費用は上記収穫量相当価値とほとんど変わらないオーダーで あり、ランニング費用負担(1,700 円程度)を考慮しても、2 年以上続けて使うと十分 回収できる計算になる。 (あくまで一つのキットによる仮定計算である。また手間や場所 にかかるコストは見ていない。) 3-2-2-2 都市型の制御型栽培施設 都市における食糧特に安全な食の確保、食育、福祉などにかかわるものとして、上記の非職 業型の都市農園のほかに、3-1節でふれた植物工場(制御型栽培施設)も新しい動向として 注目されている。 事例は 3-1-3-2 3)項(p.3-22~25)記載を参照のこと。 3-62 3-3 緑化推進のための問題点・課題について 3-3-1 推進のために望ましい法制度など 1)現状の推進制度 ① 兵庫県「環境の保全と創造に関する条例」の改正(平成 14 年) 表3-3-1 対象 市街化区域内で建築面積 1,000 ㎡以上の新築、改築又は増築の建築物 緑化基準 利用可能な屋上面積の20%を、屋上や壁面等を活用して緑化しなければならない。空 地面積の 30%以上(住宅以外は 50%以上)を緑化しなければならない。 ② 助成制度一例 表3-3-2【みどりの市民活動ハンド BOOK 2007 年度版「 神 戸 市 ・ ㈶ 神 戸 市 公 園 緑 化 協 会 」より抜粋】 制度名 戸建住宅等の生垣緑化助成 〈神戸市花と緑のまち推進センター〉 施設への緑化助成 〈神戸市建設局〉 県民まちなみ緑化事業 〈兵庫県県土整備部〉 都市緑化促進助成事業 〈兵庫県県土整備部〉 助成内容 助成の対象 【主旨】 戸建住宅等の生垣や緑化・屋上、 まちかど緑化に対し助成 【助成内容】 植栽工事費の 1/2 ①塀を取壊し生垣をつくる場合 1 万円/m(限度額 10 万円) ②生垣の新設、ツタなどをフェンス等に 這わせる場合 5 千円/m(限度額 5 万円) 【主旨】 地域の都市環境向上を目的とし、 生垣等緑化を進める施設に助成 【助成内容】 ①企業が所有する施設 5 万円(上限) ②その他の施設 10 万円(上限) 【主旨】 ・県民緑税を活用した事業 ・都市地域における環境改善など を目的とし、県民が協同して学 校、公園や空地で行う緑化等に 対して助成 【助成内容】 ①苗木等購入費の補助 100 万円(上限) ②緑地整備費の補助 生垣整備、校園庭や駐車場芝生 化、建築物の屋上・壁面緑化 【主旨】 ヒートアイランド現象などの改善に向け 都市部の総合的な緑化を促進す るために建築物の緑化に助成 【助成内容】 植栽及びその他経費の 1/3 200 万円(上限) 【対象要件】 ①市街化区域内でこれから着工するも の ②公共的道路に接している又は面して いる場所で植栽の延長が 3m 以上 ③申請者の敷地内の工事であること ④恒久的な工事のこと ※その他諸条件あり 3-63 【対象要件】 ①道路や公園など公共性の高い空間に 面したところで実施する生垣などの 緑化 ②植栽面積が 20 ㎡以上 ③5 年以上維持できること 【対象地域】 兵庫県内の「市街化区域」、市街化区域 外で「用途地域」の指定のある区域など 【対象者】 ①概ね 10 名以上で、年間を通じて恒常 的に活動している自治会など地域を 基盤とする活動団体 ②概ね 10 名以上で、緑化など一定のテ ーマを目的とした活動に取組む NPO などの団体・グループ ③その他一定の要件を満たす所有又は 管理する法人・個人 【対象者】 用途地域において、建築物を所有、設置、 管理する方 【対象施設】 ①建築物所在地が用途地域内であるこ と ②建築面積が 500 ㎡以上であること ※その他諸条件あり ③ その他関連制度 表3-3-3 屋上緑化型総 合設計制度 アドプトシステム 総合設計制度の以下の要件を満たす建築物について、1.5 倍を限度に容積 率を割増しできる。 ・利用可能な屋上の 20%以上の面積を屋上及び壁面で緑化すること (但し、許可の基本要件に規定する空地の 30%は地上部で緑化すること) ・敷地内の駐車場、通路等を透水性舗装とするなどの配慮を行うこと 他 住民団体や企業が「里親」となり、道路や河川など公共物の一部区間を「養 子」として引取り、清掃や植栽等を自主的に行うこと。快適な生活環境の 創出に取組むことにより、地域への愛着心を深めるとともに、新たなコミ ュニティの形成を促進につながることが期待される。 (兵庫県実施例)ひょうごアドプト ④民間助成制度の例 表3-3-4【みどりの市民活動ハンド BOOK 2007 年度版「 神 戸 市 ・ ㈶ 神 戸 市 公 園 緑 化 協 会 」より抜粋】 制度名 助成内容 助成の対象 地域美化活動助成 〈セブンーイレブンみどりの基金〉 【主旨】 ごみのない花と緑の街並みをつ くる活動を支援 【助成内容】 ①植花活動助成 ・花の種、苗などの購入費用助成 ・活動広告チラシ等の作成費用助成 ・有機肥料を現物支給 ②地域清掃活動助成 ・軍手やごみ袋を現物支給 ・活動広告チラシ等の作成費用を 上限 10 万円まで助成 【対象活動】 ①植花活動助成 公共の場所やそれに準じる場所で、市 民が主体となって企画し継続して行 っている花や緑を植える活動 ②地域清掃活動助成 公共の場所やそれに準じる場所で、市 民が主体となって企画し継続して行 っている清掃活動 2)法制度適用の問題点、推進するために必要なこと 以下のような指摘や要望がある。 ① 県条例などの法制度の義務付け条件や助成制度の条件として、 「緑化面積」を算定する項 目が制度毎、制度を設ける自治体毎にも異なり、また明確で無い。 ② ヒートアイランド現象緩和などを規制や助成の目的とするには、もう少し対象範囲を拡大 してよいのではとの声がある。たとえば、 ・夏季のみ繁茂する植物でも効果が認められるものが認められないか。 ・葉・茎が横に広がる植物の面積を繁茂した状態算定することが認められないか。 ・冷却効果の大きさを評価できないか など ③ 個別の案件単位では助成額が小さい割に手続きの煩雑、認められる範囲が限られるなど、 推進を促すにあたり助成制度の限界もある。 3-64 3-3-2 その他の問題点・課題 ① コスト(初期投資)と維持管理の手間および難しさ コストに見合う、或いはそれ以上の効果のあることの認識を広め、維持管理の適切なガイ ドや支援する組織の紹介を行うことなどが必要である。 その結果、快適な夏を経済的にすごす生活スタイルの普及とともに、ヒートアイランド現 象緩和や地球温暖化防止(CO2排出量削減)につながることが期待される。 ② 自然回帰により生じる生物の増加のマイナス要因(虫の増加、糞害など) 自然回帰で生物が増えることを癒しとしてプラスに感じることもあるが、中には、鳥の糞 害や、鳥の声、虫の増加を否定的に見る声もある。住民のコンセンサスを得るようにする必 要がある。 ③農の指導者不足、育成が必須 週末ファーマーに対し、農業の知識習得の手段を提供する必要がある。 現在、神戸市中央区にある「花と緑の相談所」において、園芸や菜園についての相談や指 導が行われている。しかし、本報告書記載の水耕栽培などについては、今後検討を要する。 3-65 3-4 まとめと提言 緑化施策には、環境や健康など持続性があり真に豊かな都市生活を生み出す上で効果・効用 が期待できるものが多い。それらのうちで、水(特に水道水)の新たな役割の創造の観点から、 特に有効・重要と思われる施策を本節の3-4-1以下に提言の形でまとめる。 いずれの緑化施策の推進にも植物を生育させるための水が欠かせないが、有効な緑化施策を 実行する上で、品質が安定・安全で、利便性のある既存の社会基盤施設である上水道の水を活 用することが期待される。 すなわち; ① 雨水や地表水・地下水など自然水が得られるところでは、地球環境の観点から見れば、そ の利用が自然である。しかし、そうした自然水が常時は手に入らない、または利用のために 運搬やポンプアップなどの手間とエネルギーがかかるときは、水道水の利用・併用を考慮す べきである。 ② 安全性や一定以上の品質が要求される場合には、水道水を使用しなければならない。 ③ 自然水や二次利用水を使うのに時間を要するために施策の実行推進の妨げになる場合、利 便性が良い水道水を利用することにより、迅速な対応を図ることができる。この結果、地球 環境を含めた環境改善や、人の健康・心の癒しなど真に豊かな都市生活の改善につながる緑 化を推進することが期待される。 3-4-1 緑溢れる快適な都市空間の創造 ~『ガーデンシティ神戸』を目指して~ 神戸市域の地勢は、六甲山系がありその背後に丘陵地が広がっている。そのため、大都市で はめずらしく元々一次産業、特に農業が盛んであり、ハワードが提唱したガーデンシティ(田 園都市;庭園都市)構想のような都市と農村を一体化したような都市づくりの素地がある。し たがって、このような構想を導入することは、ヒートアイランド現象の緩和とともに、優れた 都市景観や癒し効果なども期待できるため、神戸市の新たな魅力づくりに有効である。 神戸市の緑被率は大都市の中では高位にあるが、中心市街地では更なる緑化が望まれる。 もっとも、都心部に大規模な緑地を確保することは困難であるが、 ・ 臨海部の緑被率向上 ・ 都心部ビル群・立体駐車場などにおける緑化を促進する ことで、山並(背景)に加えて都心部も含めたトータルに優れた都市景観をもち、都市環境 にもすぐれた「ガーデンシティ神戸」を目指したい。 3-66 また、シンガポールやニュージーランドなどでは、緑溢れる町並みそのものが観光資源とな っているように、都市部の緑化を促進することにより優れた都市景観とランドマークを創造し、 観光都市神戸のブランド価値の向上を図りたい。 提言: 1)個々の建物の緑化推進の推奨 良い環境と美しく誇りのもてる家とまちを目指し、家庭や個々の建物の緑化推進の推奨を さらに進めたい。 ・ 家庭や事業所周辺の緑化をもっと進めよう! ・ コンクリート塀を生垣に変えよう!(市の助成制度の活用も) ・ 外壁やベランダに緑を! 2)癒しのまち神戸の実現を目指して 「まちなか緑化」の促進を、神戸市が推進している医療産業都市事業に加えて、有馬温泉 の湯治、東洋医学などと連携させることにより、癒しのまち神戸を目指すことが望まれる。 神戸市への訪問・滞在が心身のリラクゼーションとなるような「リフレッシュできるまち」 を目指すことは、日本国内のみならず諸外国に対して新たな観光ブランドを提供することに なる。 臨海部緑被率向上 都心部ビル群,立体駐車場緑化促進 まちなか緑化促進による 優れた都市景観とランドマーク創造 トータルに 優れた都市景観 観光都市神戸の ブランド価値向上 緑溢れる快適な都市空間の創造 ~『ガーデンシティ神戸』を 目指して~ 家庭や事業所周辺緑化、 コンクリート塀の生垣化 良い環境、美しく 誇りのもてる家と街 :提言内容 まちなか緑化促進と 医療産業都市の連携 癒しのまち神戸 図3-4-1 :提言実現に関連する項目 提言内容とそれに関連する項目 3-67 3-4-2 壁面緑化の推進 ~夏を涼しく 「緑のカーテン」~ 緑化は、 ・ 植物による太陽光放射熱の遮熱効果 ・ 植物からの水蒸散効果による周囲気温降下 により、屋外の人の居る空間を快適にするとともに、建物内への侵入熱を下げ、エアコンの効 率を上げるなど、CO2 排出を減らしながら、夏の都市生活を快適にするのに有効である。 例えば、 ・日射を受ける屋上面の温度を気温以下に抑え、ヒートアイランド現象緩和に大きな貢献をす る(→p.3-42~44) ・エアコンの熱交換機を覆う事で6~8.5%のエアコンの省エネが期待できる(→p.3-44~45) ・ 断熱性能が旧来型の建物を水耕による屋上緑化することにより、水道水を使用する場合の CO2 排出に比べてその7倍程度の CO2 排出削減が期待できる(→p.3-46) ような報告例がある。 また、都市全体の緑化は都市景観の向上や健康面を含めた都市生活環境整備にも有効で、環 境教育・食育などの効果も期待される。 提言: 1)「緑のカーテン」の推進 建物の断熱仕様に左右される部分が比較的少なく、個々の家庭や事務所の室内に与える効 果が顕著に得られるものとして、太陽光が直射する窓面を中心とする外壁に設ける 「緑のカーテン」が挙げられる。 最近の建物は断熱性能が重視されているが、断熱が十分に施されていない建物では、建物 を緑化で被覆することにより、屋内の温度上昇を抑制することが可能である。また、建物の 断熱が施された最近の建物であっても、窓部の断熱・遮熱が弱点となってしまうため、そこ に緑のカーテンを施すことにより、屋内の温度上昇を抑制する効果は非常に顕著であると言 える(直接西日を受けるとき、エアコン使用電力が最大 4 割近くも削減効果があったとの報 告例あり→p.3-51~52)。 また、神戸には西風が期待できるところが多いが、夕方日光を緑のカーテンで遮ることに より、窓を開けて自然の涼風を取り入れる生活スタイルを取り戻すことが可能になると期待 される。 なお、一年草を採用することにより、冬場の太陽の恩恵を享受することは可能である。 学校などはもちろん、各家庭・事業所で、もっと「緑のカーテン」を設けるようPRす ることが望まれる。 3-68 2)水耕栽培の推奨 水耕栽培は、水を効率的に使用しつつ、水の蒸散効果を大きく有効に活かせる方法である (屋上での試験例ではあるが、芝の 2~4 倍程度の蒸散効果が得られ、葉の裏の気温降下効 果も 3~5℃程度大きい→p.3-37,38&45)。 水耕栽培により、ゴーヤやアサガオなど、大きな葉を持つ植物をカーテン状に育て、蒸散 効果を最大限に発揮させることにより、省エネを図りつつより快適な夏を過ごすことを推 奨したい。 太陽光直射の窓面 などの外壁に設置 エアコン負荷低減 ヒートアイランド 現象緩和 壁面緑化の推進 ~夏を涼しく「緑のカーテン」~ 環境教育・食育 などの効果 都市景観向上 水耕栽培推奨 :提言内容 :提言実現に関連する項目 図3-4-2 図3-4-2a 提言内容とそれに関連する項目 大阪府緑のカーテン-水耕栽培の例 堺市立神石小学校 (出典:大阪府 HP) 3-69 3-4-3 都市菜園づくりの推進 ~作って、食べて、こころもやすらぐ菜園づくり~ 都市菜園は下記のものにつながる。 ① 高齢化社会における生きがいづくり、健康・癒しに役立つ菜園づくり 都市生活において、花や緑を見て楽しむことは生活の潤いとなる。 さらにそれを自ら育て楽しむことは、植物の成長や花や実のなる成果を実感できることで 大きな生きがいにつながる。 特に高齢化社会において、園芸は体を動かす面を含め、心身の健康ややすらぎに大きな効 果をもたらすものと思われる。 ② 安全な食、食育 また、生産者と消費者が遠くなった現代社会において、消費者が自ら菜園を作り、作物を 作ることは、安全な食を得るという面だけでなく、作る楽しみを得ることにもなり、特に子 供たちに食べ物のありがたさなどを教える食育(および情操教育)にもつながる。 ③ 福祉施設の授産活動にもなる 生産品に付加価値をつけて販売することは、小規模作業所などの運営に寄与することが期 待されている。 提言: 1)各家庭の庭の片隅やベランダで、あるいはビル屋上の貸し農園などで、さらに都心部の空地 などにおける菜園づくりを推奨したい。 気軽に菜園作りの楽しみを! 2)人を育てるのが最も重要であるとの観点から、学校などでの食育や環境教育目的での運用 がもっと広がることが期待される。 3)福祉・医療施設での授産活動として、または療養法の一つとしての活用が期待される。 4)更なる推進のため、指導者の養成・活用が望まれる。 5)NPO 法人などで斡旋や便宜を図る機関・業者を育て、都心部でのビルの屋上や空き地の 更なる活用を図る。彼らが、管理運営の観点から自ら乗り出せないでいるビルや土地の所有 者と、都心部で園芸栽培作業を実践したいが場所のない個人・事業者・福祉施設などの間を とりもって、菜園を開き、作業の指導や管理をすることでより都市菜園が広がることが期待 できる。 3-70 学校等での食育や 環境教育目的での運用 福祉・医療施設 での授産活動 都市菜園づくりの推進 ~作って、食べて、 こころもやすらぐ菜園づくり~ 指導者養成 NPO法人などによる 管理運営の充実 ビル屋上や空地など 更なる緑化推進 :提言内容 :提言実現に関連する項目 図3-4-3 提言内容とそれに関連する項目 3-71 3-4-4 緑化によるコミュニティづくり ~みどりを絆に人の輪を!~ 都市は、もともと伝統的な地域のコミュニティとしての連帯感や隣人とのつながりが、地方 に比べて弱い地域である。ともすれば都市住民はその中で孤立し心のつながりが持てないこと が多い。 また、わが国は今後ますます高齢化社会になることが予想されるが、高齢者の多くが医療な どの充実した都市の利便性を求めて、都心回帰する傾向が見られる。しかし、都心に住む高齢 者が孤立することが社会問題になるのではないかと懸念する声がある。 こうした背景のもと、丹波市の薬草をキーにしたまちおこし活動(公園、薬草風呂、薬膳、 治療、処理加工施設などを設け、そこを拠点に地域特産品をアピールする)の例や、神戸市兵 庫区熊野町1・2丁目自治会の空地を借り上げて地域のコミュニティづくりの活動などが参考 になる。 提言: 1)協働して菜園などの緑化作業に取り組み、地域の連帯感向上を図り、人々の輪を広げる 活動を推奨したい。 2)今後増加が予想される都心の空地を利用して、地域で協働して緑化(菜園など)に取り組 み、空地管理問題の解消やまちの緑化推進と同時に、地域コミュニティづくりにつなげる 活動の推進が望まれる。 (兵庫区の例を参考に、他地区でももっと実施を考えてみれば如何か。) 高齢化社会 ・都心回帰 菜園などの 緑化協働作業 まちおこし活動 緑化によるコミュニティづくり ~みどりを絆に人の輪を!~ 都心空地利用 空地管理問題解消 :提言内容 :提言実現に関連する項目 図3-4-4 提言内容とそれに関連する項目 3-72 第4章 水の気化熱による環境改善 ~水による涼しいまちづくり 本章では、水を蒸発させたときに気化熱により周辺を涼しくする効果のうち、第 3 章でふれた 緑化(植物)に関係するもの(植物の蒸散により得られるもの)以外について述べる。 水が蒸発するときに気化熱を奪う。これにより涼を得るのは自然の知恵として昔から利用され てきた。 前章に述べた緑化による夏環境改善も、一つには植物の葉からの水蒸散効果を期待してのもの であった。 本章では、植物経由以外の以下のような環境改善について紹介する。 ・人工的に細かい霧状の水噴霧による冷却効果をねらう「ミスト」 ・噴水のように水を散布して涼を得るもの ・建物などの外面への水散布 ・道路面や建物屋根・外壁などに保水材料を設けることで、水蒸発による空冷効果の継続を図る もの ・江戸時代から行われている打ち水 4-1 ミスト散布 1)概要 水を撒いて夏をすごしやすくする ことは昔から行われているが、地球温 暖化やヒートアイランド現象により毎 年のように酷暑に見舞われる昨今、細 かい霧状の水を噴霧し、その蒸発気化 熱により周囲の温度を下げるシステム が提案されている。愛・地球博(2005 年)での試行以後各地で取り上げられ て実施されており、2℃から6℃程度の 実温度低下と目で見た清涼感を与える といった成果をあげている。 図4-1-1愛・地球博グローバルループのミスト (出典:能美防災㈱HP) ミスト: ミスト散布は、空気中に水を噴霧しその蒸発効果をねらうものであるが、 ・ 如何に少ないエネルギーで水蒸散の効果を上げるか ・ 如何に(人や物に触れることを想定し)人に不快感を与えないようにするか 4-1 を追求してきた結果、水の粒径を細かく(20μm から小さいものでは数μm 程度)したもの を適用するのが普通となっており、濡れない霧と言われている。(メーカーによっては粒径に より区分した名称をつけているところもある。 ) 中には細かい霧をファン併用により広範囲に広げ、少ない台数で広い快適空間を作ること を謳うものもある。 比較的エネルギー効率よく冷やす効果があるので、 ・ 都市のヒートアイランド現象の緩和 ・ 人の熱中症など健康面の悪影響の緩和 などに貢献することが期待されている。 使い方によっては ・ エアコンの負荷低減による省エネ、CO2 排出量削減 にも効果が期待されるが、ミストの生成や噴射にエネルギーを要するので、本来空調の対象 とならない空間で、空調している区画にも影響しないところに噴射した場合は、CO2 排出削 減に寄与するとは言えない。しかし、そのような空間であっても、人にとって快適な空間作 りや熱中症対策に役立つ場合はある。 また、例外的な用法ではあるが、 ・冬場の加湿用 にも効果が期待される。 2) 適用場所 閉鎖空間を対象にすれば、湿度が上がるという弊害が出て、快適空間創造のためには好ま しくないため、主に屋外や半オープンの人が集まる場所を対象として実施されている。 特に、その場所の使用目的や周囲の状況から植栽を設けることができず、緑陰や植物の蒸 散効果が期待できない場所に適していると考えられる。 なお、効率よくミストの効果を上げるために、設置場所の空気の流れをよく把握して、冷 気が必要な場所に提供され、また湿気がたまらないような場所に設置するなどの配慮が必要 である。 設備は固定式と移動式があり、移動式でも買い取りとレンタルがある。 移動レンタル式は、大勢の人が集まる短期間の行事用の設置には適している。 以下に過去に設置された例(期間試行実施を含む)を挙げる。 a. 駅:大阪市交通局ニュートラム南港ポートタウン線中ふ頭駅(図4-1-2)、JR ユニバ ーサルシティー駅(図4-1-3)、JR 広島駅、JR 岡山駅、JR 舞浜駅など 4-2 b. デパート・商店街・ビル:神戸ハーバーランドモザイク(図4-1-4)、天六商店街(図 4-1-5) 、大阪心斎橋大丸百貨店、六本木ヒルズ(図4-1-6)、渋谷ロフト、新宿小 田急百貨店、岡山天満屋、函館五稜郭タワーアトリウム(図4-1-7)など c. 屋外イベント・スポーツ会場(一時的利用) : 愛・地球博会場(2005 年) (図4-1-1)、 神戸市水の科学博物館(図4-1-8)、大阪キング 2008(図4-1-9)、大阪城天守閣、 大阪世界陸上(2007 年)、埼玉スタジアム、習志野きらっと 2007(祭り会場)など d. パーキングエリア:山陽三木 SA(図4-1-10)、名神大津 SA・同吹田 SA、東名足柄 SA など e. 動植物園・ミュージアム:王子動物園(図4-1-11)、長居植物園、天王寺動物園、呉大 和ミュージアム、上野動物園(動物用)など f. その他: 民間・商業ベースで、カフェテリアなどに採用された例など 図4-1-2 ミスト- 大阪市交通局ニュートラム中ふ頭駅 図4-1-3 ミスト- JR ユニバーサルシティー駅 (㈱いけうち提供) 図4-1-4 ミスト-神戸ハーバーランド 4-3 (㈱いけうち提供) 図4-1-5 ミスト-天六商店街 図4-1-6 ミスト-六本木ヒルズ 図4-1-7ミスト -函館五稜郭タワーアトリウム(清水建設㈱提供) (能美防災 HP による/森ビル㈱提供) 図4-1-8 ミスト- 神戸市水道局 水の科学博物館 図4-1-9 ミスト-大阪キング 2008 図4-1-10 ミスト-山陽自動車道 三木 SA 図4-1-11 ミスト-神戸市 4-4 王子動物園 3) 水の使用 特に人の口に入る可能性があるため、使用水は衛生面から水道水を利用すべきである。 10m程度の長さの範囲を冷却する場合、水の使用量は表4-1-1のとおり固定式・移動 式ともに1日当り 300ℓ程度であり、1ヵ月の水道料金に換算すると概ね 1,600~2,000 円(電 気代は 2,000 円~4,000 円程度)となる。 表4-1-1 ミスト散布使用水量 固定式 ノズル 20 個(0.5m 間隔設置) 移動式 1台 【㈱いけうち】 【双葉リース㈱】 範囲 想定条件 期間 1時間当り 使用水量 1日当り 1ヵ月当り 水道料金 (189 円/㎥) 電気料金(参考) (12.08 円/kWh) 10m 1ヶ月(1日8時間運転) 42 ℓ/時間 36 ℓ/時間 336 ℓ/日 288 ℓ/日 10.08 ㎥/月 8.64 ㎥/月 1,910 円/月 1,630 円/月 2,170 円/月 3,670 円/月 4) ミスト散布効果とその事例 元々空調を行っている空間では、ミスト散布を併用することで、エアコン使用エネルギー を低減させることが可能である。 以下に、ミスト実施場所の温度低下の測定事例を示す。また、それによるエアコンエネル ギー節減効果を含めた総合効果について検討された事例も紹介する。 なお、1)にも記載したように、元々空調の対象区画でなく対象区画のエアコンの運転に 影響を与えない利用の仕方では、人の快適性は別としてエネルギー面では必ずしも省エネと はならないことに注意が必要である。 しかし、屋外・半オープンな区画であっても、人が多く冷気噴出し式のクーラーの設置を 考えざるを得ない区画では効果が期待される。また、エアコン室外機の熱交換器を冷やすこ とによっても、省エネ効果を上げることができる(④参照)。 4-5 ① JR西日本広島駅の実施例 JR 西日本広島駅の新幹線口待合場で、ミスト実施の計測例を図4-1-12 に示す (出典:㈱いけうち資料)。場所により 2℃から 6℃の気温低下効果が認められている。 図4-1-12 ミスト散布効果-JR 西日本広島駅実験データ ② 大阪市の例 大阪市水道局は、平成 17 年度以降公共空間や住宅空間におけるミスト散布にかかる調査研 究に取り組み、大阪市内各所(平成 19 年度実施箇所は図4-1-13 参照)でミスト散布を 試行するとともに、平成 18 年度にはその効果についての実証試験が城東配水場にて実施され た。その時の空間冷却効果は、図4-1-14 に示すように、平均で 3℃、最大で9℃の気温 低減効果が確認されている。 図4-1-13 大阪市水道局ミスト散布 調査研究 試験場所 4-6 図4-1-14 大阪市水道局ミスト散布 調査研究 温度低下効果 [省エネ効果についての定量的な考察] 上記城東配水場での実証試験結果をもとに、 ・ミスト散布に要したエネルギーとコスト ・ミスト散布によりエアコン負荷が削減できる分相当のエネルギーとコスト について定量的な考察を行った結果は以下のとおりである。 ミスト散布による冷却効果を同等のエアコンで達成する場合と比べ、水の給水に要するエ ネルギー分も考慮しても、25 倍以上効率が高いと報告されている。 なお、ミスト散布はオープン区画で行われるため、冷気が対象区画に効率よく送られる配 置になっていないと、期待効果が得られないということに注意が必要である。 表4-1-2 ミスト散布による効果 (出典:大阪市水道局および㈱いけうち 参考文献4-1-e および4-1-f) ㈱いけうち 世界陸上プラザ実施 ベースの試算 (600 ㎡想定) 使用 エネルギー量 コスト (参考)大阪市水道 局 城東配水場における 実証実験 ミスト散布 1.06kWh 9.1kWh エアコン 26.4~43.9kWh 572kWh 比較 約 25~40 倍削減 約 60 倍削減 ミスト散布 93.9 円/時間 エアコン 553~922 円/時間 比較 1/10~1/6 ※ミスト散布のエネルギー/コストには、電気及び水道関連のものを含んでいる。 4-7 ③ 水の科学博物館におけるミスト散布効果測定 神戸市水道局では、水を利用して環境に配慮する施策であるミスト散布の気温低減量を測 定し、PR 効果を検証した。測定には固定式ミスト散布機を使用している。 測定位置は下図のとおりとし、以下の内容を確認している。 ・測点 22 及び測点 41 において、ミスト散布により 1~4℃の気温低減を確認した。 ・上記以外の測点では、風向にもよるがミストによる気温低下は確認できなかった。 ・測点 41 において、湿度が 20%から 40%程度まで上昇した。 ・現地は風通しがよいため、特に湿度上昇による不快感は感じなかった。 0.6m 測点41 測点12 測点11 測点42 測点22 1.5m 5.0m 1.6m 0.8m 5.0m 1.5m 1.5m 5.0m 測点33 5.0m 測点32 凡例 測点00 ミスト発生機 効果測定点 2.4m 図4-1-15 測点23 1.5m 0.6m 3.85m 1.5m 緑のトンネル 水の科学博物館でのミスト効果測定 ミスト発生機・緑のトンネル設置図および測定箇所表示図 ④ エアコン室外機へのミスト散布によるエネルギー効率化 エアコンの熱交換器の周囲温度をミスト散布 で下げることは、エアコンの効率向上につなが る。 大阪市水道局が実施した実験によると(出典:大 阪市、参考文献4-1-e) 、ミストを室外機に間欠 的に散布した結果、エアコン消費エネルギーが 33%削減できたとの報告がある。 図4-1-16 エアコン室外機へのミスト散布 によるエネルギー効率化(イメージ図) (出典:大阪市 HP) 5) 湿度の問題 ミストにより湿度が上がると、温度降下の涼しさ感が帳消しになる可能性がある。この点 に関し、辻本・奥宮のレポート(参考文献4-1-c)で、高温でかつ相対湿度が 70%以上のよ 4-8 うなときのみに危惧があるが、日本の都市(レポートでは名古屋市)では、そうした心配が あるのは年間に数時間だけであると報告されている。すなわち、相対湿度を適度に抑えてミ スト散布が実施できれば、湿度上昇による不快感はなく、実施例の実感聴取でも暑さが緩和 されたとの結果を得ている。 すなわち、湿度が溜まらない場所にミスト散布機を設置できれば、効果に対する危惧なく 散布を実施することができる。 6) 風の問題 風が強すぎて、ミストによって得られた冷気が人の居る場所に届かず(留まらず)、効果的に 感じられないような場所には不向きである。 一方で閉鎖性が強すぎる場合は、上記の湿度の問題が生じることもあり、適当な空気の流れ が必要と思われる。 7) ミスト散布の推進事例 ① 神戸市 「出前ミスト」活動 神戸市水道局では多くの来場者に水を利用した気温低減効果を体験してもらうために、 「出前 ミスト」として市内各地で行われたイベントなどにミスト散布機を設置した。 出前ミスト活動 表4-1-3 月日 曜日 内容 場所 1 7月 19 日 (土) 水辺まつり 中央区生田川公園東屋周辺 2 8月 2日 (土) 住吉フェスタ 東灘区住吉公園 3 8月 3日 (日) どろんこバレー 北区フルーツフラワーパーク入口前 4 8月 6~7日 (水)~(木) 中央区南京町広場 5 8月 16 日 (土) 南京町広場 コープ平和の夏 まつり 東灘区コープこうべ生活文化センター 6 8月 24 日 (日) レガッタ大会 兵庫区兵庫運河 図4-1-17 出前ミスト実施状況 4 南京町広場 4-9 図4-1-18 出前ミスト実施状況 6 兵庫運河 ② 大阪市が実施した推奨策 大阪市水道局は、平成 20 年に6月に「大阪市水道局・ドライ型ミスト装置導入サポート制 度」を創設した。本制度は、下表のとおりミスト装置の導入希望者に対し、導入プランの検 討・設計から設置工事、使用開始後の保守サービス、 「ミスト専用メータ」の設置によるミス ト散布に係る水道料金の減免などを行うものである。 表4-1-4 安心のワンストップサービス おトクな水道料金 充実の保守サービス プラン 大阪市水道局 ミストサポート制度概要 水道局の担当者がドライ型ミスト装置の設置からメンテナンスまでサ ポート ドライ型ミスト散布に係る水道料金単価を 58 円/㎥(税抜)に減免 ※総使用水量が 10 ㎥/月以下の場合は対象外 定期点検と故障修理サービスを導入プラン内で対応 ドライ型ミスト装置には買取とレンタルの2プランあり 【買取プラン】 ・ドライ型ミスト装置の設置 ・保守サービス(5ヵ年) ・水道料金の減免 【レンタルプラン】 ・ドライ型ミスト装置のレンタル ・保守サービス(レンタル期間) ・水道料金の減免 ③ 東京都・横浜市の各環境部門の実施した推奨策 東京都及び横浜市では、ヒートアイランド対策の一環として、ミスト散布機の普及を促進 するために、下記のとおり補助事業を実施した。 表4-1-5 東京都・横浜市環境部門 ミスト実施推奨策 東京都環境局 横浜市地球温暖化対策事業本部 年度 平成18年度 平成20年度 【補助総額 1,500 万円】 【補助総額 2,000 万円】 機器費及び設置工事費の1/2 本工事費、調査設計費、 (上限 500 万円) 備品購入費の全額 補助率等 (上限 1,000 万円) ※電気・水道・保守点検等の維持管理費 ※電気・水道・保守点検等の維持管 及び撤去費は補助事業者負担 理費及び撤去費は補助事業者負担 ・都内の公開空地、民間ホールの広場、 ・市内の公開空地、民間ホール前広場 設置可能な商店街などの公共的空間 などでの設置 での設置 ・最低3ヵ年稼動 条件 ・最低3ヵ年稼動 ・使用状況の記録 ・外気温の観測、公表 ・固定式装置(自動制御運転機能付)など ・広報、PR 活動の実施 など ・戸越銀座商店街 ・相模鉄道㈱二俣川駅 実施箇所 ・秋葉原駅西側交通広場内 ・伊勢佐木町 1・2 丁目地区商店街 など 4-10 8) 空冷以外の目的を兼ねた事例 ① 工場用 工場の生産ラインなどで、ミストを利用し冷気を送るタイプのほか、加湿・静電気防止・ 防塵などの目的を同時に狙って実施するものもある。後者は通年使用される。 例 a 工場の加湿用ミストの例(出典:㈱いけうち資料) 図4-1-19 例 b 図4-1-20 に示すタイプのもので、工場用のみ ならず、農業(③項)用などにも用いられている。 ② 防塵・花粉対策を兼ねたミスト 上記工場用に限らず、水噴霧により、 埃やそれにともなう臭い、あるいは花 粉症の原因となる花粉などの飛散を 抑制する効果をねらったものもある。 図4-1-20 ミスト散布機とファン の組み合わせ (出典:㈱洲本整備機製作所製カタログ 他に類例あり。) ミスト散布機には加湿器の一種と して、室内の加湿・保湿により美容や健康に資するタイプのものもある。そうした加湿器機 能のタイプや、湯を使うミストサウナによる健康や美容への効果については、第 5 章に記載 する。 ③ 農業用 農業用ビニルハウス内で、送風機とともに用い、冷却と加湿効果をねらったものもある。 湿気を多く必要とする作物の場合などもあり、夏場の加湿を含め有効である。 4-11 9) 類例: 噴水・人工滝・水噴霧 ミストのように、濡れないように粒子を細かくしたものでなく、通常の水の飛散を目で見、 雰囲気を呼吸し、時には体に浴びて涼を感じて身体の爽快感を味わうものも、広い意味では ミストの一種と考えられる。 ・公園の噴水 ・神戸東遊園地での実施例 神戸市は、中央区の東遊園地に霧を散布するモ ニュメントを設置している。本モニュメントは 噴水の一種で、目に見える霧を散布することに より、周囲に清涼感を与えることを目的として いる。 水噴霧を浴びることで、涼しさとともに、自然の 滝と同様のマイナスイオンが増加することで健康に 図4-1-21 神戸市中央区 東遊園地での霧散布モニュメント 役立つと言われており、それを応用して人工的に水を噴霧して同様の効果を期待している製品 も提案されている。 [4-1節参考文献]: 4-1-a 涼霧システム® (2007 年 12 月 4-1-b なごミスト® ㈱いけうち) ドライミストの蒸散効果による暑さ対策(名古屋大学・清水建設・中部電力・能 美防災・川本製作所・トーキン) 4-1-c なごミストについて(東京理科大学辻本誠、名古屋大学奥宮正哉) 4-1-d マルチドライミストシステム(双葉リース㈱) 4-1-e 大阪市水道局 ・大阪市における水道システムを活用したヒートアイランド対策 (都市問題研究 -水道水ミスト散布に係る取組- 平成 20 年7月号) ・水道システムを活用したミスト散布によるヒートアイランド対策について (水道技術ジャーナル 2008 年 10 月号) 4-1-f ㈱いけうち 涼霧システム 効果計算表(いけうち㈱試算資料) 4-12 4-2 建物外面(屋根・外壁・窓)への散水 1)概要 打ち水やミストによる水の蒸発効果をもっと機械的に行う考え方として、建物外面(屋根・ 外壁・窓)に散水するという考え方がある。 2)実施例 ① 横浜市菊名合同庁舎における光触媒散水システムの適用実証試験 (出典:第 58 回全国水道研究発表会 平成 19.5 横浜市水道局富永氏他「水の機能を生かし た新技術による地球環境対策」) NEDO より委託を受け、横浜市菊名合同庁舎を対象にして、横浜市が 3 つの企業と共同で NEDO の産学連携開発技術の実証試験を実施した。 有害物質分解性能とともに超親水性を持つ光触媒(酸化チタン)を塗布した窓ガラス面上 部より散水する。ガラス面全体が水の薄い膜で覆われて流れ落ちつつ蒸発し、熱を奪って冷 房負荷を低減する。水は雨水・水道水併用で循環利用している。 研究段階での効果として、冷房負荷は電力負荷にして約 20%、室内温度で約2℃、さらに 水膜からの冷輻射によりヒートアイランド現象緩和の効果が確認されていると報告されてい る。 図4-2-1横浜市菊名合同庁舎における 光触媒散水システム適用実証試験 庁舎ガ ラスカーテンウォール(NEDO HP による) ② 神戸市役所庁舎における屋上散水の例 神戸市役所2号館では、夏季の室内温度上昇を抑制することを目的として、屋上散水を行 っている。 4-13 ③ 体育館の例(広島市内) (出典:建築設備と配管工事 1992.9 竹中工務店石川幸雄氏「屋根散水システムの冷房効果」 ) 下記の建物の屋根に散水システムを適用した例である。 建物: RC 造、二階建て、延床面積約 2,380m2 屋根: 約 990m2 の膜構造屋根 散水システム: 4.1kg/h/m2 約 20℃の水を使用 この例では、屋根が断熱構造になっておらず、また比較的低温の湧き水貯水を散水に利用 できたこともあるが、屋根面では大きな温度低下を見たほか、体育館の床面でも 2~3℃の温 度低下が見られ、また上下の温度勾配により体育館内で対流現象が起きる効果があったと報 告されている。 ④ 屋根散水実験例 (出典:日本建築学会近畿支部研究報告集第 44 号環境系 積水ハウス埴淵他「住宅防暑におけ る建物外皮冷却手法の効果-屋根・外壁冷却効果の実験とシミュレーション」) 高断熱住宅(2階建、最上階はフラット天井に断熱、小屋裏有)において屋根部のみをス プリンクラーで散水する実験により、最上階居室の室温が約 1℃低下し、冷房負荷は約 1 割 程度低減することが確認され、外壁にも散水をすると室温や冷房負荷をさらに低減させるこ とは可能との報告がある。 最近の高断熱仕様の建物では、散水により室温まで下げる冷却効果は僅かだが、断熱性能 が必ずしも高くない年数を経た建物などでは散水による効果が期待できると思われる。 図4-2-2 屋根散水実験例 4-14 (提供:積水ハウス㈱) 4-3 保水(含水)材料利用による環境改善 1)概要 水の蒸発による環境改善を進めるためは、水が空気と触れる環境を作り出すことが効果的であ る。しかし、人工的な構造物の多い都市空間では、池や川など自然にふれあえる場所が少ないた め、ビオトープなどの人工的な水面が整備されたりもしている。 最近では、雨などを一旦保水しその後徐々に蒸発させることにより、水の蒸発の効果を長時間 持続させることのできる様々な保水材料が開発されている。 2)適用場所 道路路盤材、駐車場、道路など公共場所の壁、建物の屋上・壁面など 3)タイプ(材料・利用の仕方) 自然材料主体のものから開発材料まで含水性が高い材料が使用されており、水が順次蒸発する ことで、設置場所やその近傍を冷却する効果が期待されている。 含水対象の水として雨水利用を主体としたものが多いが、場所によっては緑化の基盤材を兼ね て水道水など積極的に併用している例もある。 4)適用例 ① 神戸市 JR 灘駅北側広場の事例 図4-3-1 保水路盤例 神戸市 JR 灘駅北側広場 ② 東京虎ノ門の保水材料を使った道路の事例 図4-3-2 保水路盤例 東京虎ノ門 4-15 5)新規開発保水材料の例 保水材料製品例を紹介する。 ① 新開発化学製品の保水材料(出典:東洋紡 STC㈱カタログ) 建築物の屋上や壁など外に面するところに用いて、機能を発揮することが期待されている。 図4-3-3 保水材料 保冷システム 4-16 [効果について実証試験結果](図4-3-4参照)(出典:山田(宏)委員提供資料/ 「高保水性外装資材による省エネルギー効果の実物大建築物実験と解析」 (山田宏之・田中明則・奥田芳 雄・一柳隆治、環境システム研究論文集vol.36, 2008 年 10 月)) 湿潤状態の保水材料を用いた屋上面は、芝緑化以上の効果を発揮しており、温度の上昇が 抑制できている。階下の部屋のエアコン消費電力の節約量についても同様であるが、この効 果については、断熱性の高い建物では小さくなる。 6000 5445 電力量(Wh/day) 5000 4615 4000 (100.0%) 3485 3200 3000 (84.8%) (64.0%) 2000 (58.8%) 1000 0 対照区 反射塗料区 芝生区 保冷パネル区 2007年8月13日 階下の部屋のエアコン消費電力の比較(縦軸は電力) 屋上面の温度比較(サーモグラフィー) 手前から、無処置区(対照区)、芝生区、保水材料区(保冷パネル区)、反射塗料区 図4-3-4 保水材料実証試験結果 4-17 ② 溶岩を材料にした保水材料の例(出典:日本ナチュロック㈱資料) 本製品の特徴は ・景観性(自然材料を用い、また緑化の基盤となる) ・保水性 で、河川堤防や道路壁、家屋の壁などに使用した例がある。 図4-3-6は本材料を外壁に用いた家屋の温度を表したもので、使用した壁が屋根と比 べて低い温度に維持できていることがわかる。 図4-3-5 図4-3-6 溶岩材料の保水材料 溶岩材料の保水材料の効果 (提供:山田(宏)委員) (平成 19 年 9 月 25 日 山梨県富士吉田市) 4-18 4-4 打ち水 1)打ち水運動 江戸時代から行われてきた日本の知恵を見直し、エネルギーを使わず、夏の暑さを緩和す る運動として、「打ち水大作戦」という一斉活動が毎夏各地で行われている。 庭や道路に撒いた水が蒸発し、潜熱を奪うことで温度を下げると同時に、埃をおさえるこ と、大勢で協同で行うことで、コミュニティづくりや環境教育にも効果がある。 その使用水は、雨水、風呂の残り水、エアコンのたまり水などの二次利用水が多く使われ ている。 ある試算によると、東京 23 区内の 40%程度で打ち水を実施すると仮定した場合、気象条 件にもよるが打ち水後に 2~2.5℃の気温低下が見込めるとの報告がある。それを受けて、 「み んなで一斉に打ち水して、真夏の気温を 2℃下げよう!」を合言葉に各地で打ち水作戦が続 けられている。 (参考文献:水工学論文集第 48 巻「打ち水の効果に関する社会実験と数値計算を用いた検証」2004-2) 2)水道水の利用の可能性 「もったいない精神」からすれば、打ち水にはあくまで通常捨てさる水(雨水、二次利用 水)を利用して行うのが大原則であり、 「大作戦」の説明文には「水道水を利用しない事」が 唯一のルールとされている。下水の再生水の利用も推奨されている。 費用やエネルギーの点からも、それら二次利用水などが身近にあれば、手元に貯留された それらの水を、打ち水容器に入れてまくというのが基本である。 しかし、それらをタンク車で輸送したり、ポンプなどを使用して高層住宅の高層階のベラ ンダ・屋上などにまいたりする場合には、水道水を使用するよりもかえって費用やエネルギ ーの点で不利になる場合がある。 ミストの場合と同様、温度・湿度などの条件にもよるが、打ち水によりエアコンの負荷を 下げることができれば、CO2 の削減にも結びつくと考えられるため、利便性の高い水道水を 打ち水に導入することも考えられる。 3)打ち水効果の継続性 打ち水は気温を下げる効果はあるが、特に日中など蒸発の早い時間帯では、すぐに蒸発し て効果が継続しない。 むしろ朝や夕方に水をまいた方が快適感を味わう時間が長いといわ れるのはそのためである。 また、4-3節で述べたような保水性舗装、保水材を使用することにより、打ち水効果を 長く継続することが可能となる。 4-19 4-5 まとめと提言 4-5-1 ミスト散布の推進 ~ミストにより都市を涼しく~ 提言: 商店街、大空間地下街、新幹線駅舎のような半オープン空間など人の集まる場所において、ミ スト散布を実施することにより、空間の温度低下のみならず、涼やかな雰囲気を作って快適性を 提供することができる。また、エアコンの負荷低減、防塵・花粉対策や、加湿による健康・美容 効果(第 5 章参照)なども期待できる。 ミストなどの設置をPRし、推進しよう。 なお、その際の使用水は人の口に入る可能性があるため、衛生面を勘案すれば水道水を使用し なければならない。 空間温度低下 快適性提供 エアコン負荷低減 ミスト散布の推進 ~ミストにより都市を涼しく~ 防塵・花粉対策 加湿による 健康・美容効果 :提言内容 :提言実現に関連する項目 図4-5-1 提言内容とそれに関連する項目 4-20 4-5-2 新たな効果・効用のある打ち水の推進 ~暑い夏には打ち水で地域の集いを~ 夏場の暑さを緩和するために、日本人の知恵である打ち水を一斉に行う運動が、最近各地で 実施されている。環境対策の一環として実施されているため、雨水・排水、二次利用水の有効 利用が推奨されている。 しかし、打ち水による環境改善効果が期待できる場合、雨水などの運搬やポンプ圧送などの 際に消費するエネルギーや、使用の手軽さなども勘案すれば、水道水を使っても有効な場合も あると考えられる。 提言: 下記のような観点で、打ち水をもっと推進するようPRしていくことが期待される。 1)保水材料を使った効果の高い打ち水の推進 路面などに保水材料の使用を広めることは、打ち水効果の時間的な継続や効果の向上に役 立つと考えられる。その結果、4-5-1記載のミストの場合と同様にエアコンの負荷軽減 などが期待できるのであれば、打ち水に水道水を使用することも一考に値する。 2)コミュニティづくりに役立つ打ち水運動 各地で防犯活動が実施されているが、地域住民が夕刻に一斉打ち水を実施することにより、 防犯をより一層推進することができる。このような打ち水運動を取り入れた活動は、地域コ ミュニティづくりにも役立つものであり、環境面とあわせて推進を推奨したい。 雨水・排水、 二次利用水の利用 保水材料使用 運搬等消費エネルギー・ 設置コスト 発生 打ち水効果向上 図4-5-2 提言内容とそれに関連する項目 新たな効用・効果のある 打ち水の推進 ~暑い夏には打ち水で 地域の集いを~ エアコン負荷軽減 :提言内容 一斉打ち水による 防犯推進 地域コミュニティづくり 図4-5-2 提言内容とそれに関連する項目 4-21 :提言実現に関連する項目 第5章 心身への効果 ~健康・癒し・美容 本章では、水の有効利用による心身への効果のうち、第 3 章でふれた緑化(植物)に関係する もの(緑化により得られるもの)以外について述べる。 5-1 飲用を通した健康・美容 ~もっと水を飲もう 5-1-1 水を飲むことの必要性と意味 人体の大半が水からなっている事からもわかるとおり、水は 命と健康の源で、不足すると様々な障害を起こす可能性がある。 夏場の熱中症による事故や、高齢者を中心に脳や心臓の梗塞な どの命に関わる血流障害を引き起こす一因ともなる。 図5-1-1でわかるように、一日に必要な水分 2.5ℓのうち 約半分(1.2ℓ)は飲み水の形で採っている。高齢者になると、 体内の水分割合が減り、喉の渇きを感じづらくなることで、熱 中症や循環器系の障害事故も多くなる傾向にある。事故を防ぐ意 図5-1-1 人体の水分 味でももっと意識して水を飲むことが肝要である。 図5-1-2 図5-1-3 年次別男女別熱中症死亡数の推移(1968-2006) 熱中症死亡数の年齢階層別累積(1968-2006) (両図とも:環境省 HP 熱中症マニュアル 2008 による、原データ:中井誠 一京都女子大教授) そのため、厚生労働省などは、 「健康のために水を飲もう推進運 動(平成 20 年 6 月)」を推進している。そのスローガンは、「目覚 めの一杯、寝る前の一杯。しっかり水分元気な毎日!!」である。 すなわち、体の中の水分が不足すると、熱中症、脳梗塞、心筋梗 塞など、さまざまな健康障害のリスク要因となる。そのため、起床 時、就寝前、スポーツの前後・途中、入浴の前後、飲酒中および前 後、喉が渇く前の水分補給が大切である。したがって、健康のため 図5-1-4 に、こまめに水を飲むことを推奨している。 目覚めの一杯、寝る前の一杯 ~健康のために水を飲もう推 進運動パンフレット 5-1 5-1-2 飲料水としての水道水 ~最も身近にあり安全で安価な水道水を見直そう 1)飲用水の利用状況 内閣府のアンケート調査(「水に関する世論調査」平成 20 年 6 月 130円 調査)(図5-1-6)や神戸市水道局の「お客様満足度調査(平 成 20 年度)」 (図5-1-7)によると、水道水を直接または処理 して利用しているケースが主流であるが、水道水より約 2,000 倍も 高価(図5-1-5参照)にもかかわらず、若い人を中心にミネラ 0.065円 ルウォーターを購入するケースも相当量を占めている。 ミネラルウォーター 500ml これは、 ・美味しい水への欲求 ・海外からの輸入品に代表されるようなブランド品志向 ・健康志向により含有するミネラル分への関心 水道水 500ml 図5-1-5 ミネラルウォーターと 水道水の価格の比較 (後述するように必ずしも正しいとは言えないが、有害成分を含めた含有成分への関心 も含む。) ・ペットボトルによる持ち運びの簡便性 が理由と考えられ、現在では、一つのファッションのように定着してきている。 また、最近では、水の宅配や、スーパーマーケットにおいてミネラルウォーターの量り売 りなどが見られる。 [内閣府のアンケート調査(「水に関する世論調査」平成 20 年 6 月調査)結果] 図5-1-6 内閣府 水に関する世論調査(平成 20 年 6 月)結果 5-2 [神戸市お客様満足度調査(平成 20 年度)結果] ・直接飲料の割合 1. 水道水をそのまま飲む 100% 100% 10.2% 80% 11.4% 10.9% 19.3% 16.8% 16.7% 80% 100% 100% 17.7% 11.4% 80% 18.5% 19.6% 5. ペットボトルなどの ミネラルウォーターを飲む 3. 水道水を沸かし、冷まして飲む 2. 浄水器などで浄水して飲む 10.2% 11.6% 9.3% 11.3% 10.5% 60% 40% 40% 40% 40% 20% 20% 20% 20% 0% 60% 07年 全体 08年 全体 06年 全体 06年 全体 08年 全体 08年度のみの 調査項目 07年 全体 06年 全体 08年 全体 07年 全体 08年 全体 ■ 直接飲料率 (水道水をそのまま飲む) 【サンプル数】 08年 全体 N = 1146s 07年 全体 N = 1189s 06年 全体 N = 1150s ¾「1.水道水をそのまま飲む」という質問に 100% おいて、「1週間に1回以下」~「1日に3回以上」80% 直接飲用率 回 【凡例】 回 1日に3回以上 週間に 回以下 1日に1~2回 2~3日に1回 4~5日に1回 1週間に1回以下 まったくない 07年 全体 61.5% 0% 0% 0% 06年 全体 14.3% 60% 60% 9.6% 15.4% 80% 12.8% 12.1% を足した%を【直接飲料率】と定義する。 ¾3年間の直接飲用率は、 60% 約5割水準をキープ。 40% (2人に1人が、水道水をそのまま飲んでいる) 20% 46.7% 49.9% 49.0% 06年 全体 07年 全体 08年 全体 0% ・年齢別 【Q2_①】水道飲用状況(2.1週間に1回以下~6.1日に3回以上) BASE 【Q2s1_1】1. 【Q2s1_2】2. 【Q2s1_3】3. 【Q2s1_4】4. 水道水をそ 浄水器など 水道水を沸 水道水を沸 のまま飲む で浄水して かし冷まして かしお茶や 飲む 飲む コーヒーなど にして飲む 全体(N=1146) 男性(n=453) 女性(n=624) 10代(n=2) 20代(n=51) 30代(n=130) 40代(n=165) 50代(n=210) 60代(n=300) 70代(n=195) 80代以上(n=66) 行 行 行 行 行 行 行 行 行 行 行 % % % % % % % % % % % 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 49.0% 55.4% 44.6% 50.0% 35.3% 33.1% 41.8% 46.2% 57.0% 63.1% 50.0% 37.1% 39.1% 37.7% 0.0% 27.5% 48.5% 53.3% 38.6% 32.3% 30.3% 25.8% 36.8% 38.9% 35.1% 50.0% 37.3% 28.5% 21.8% 36.2% 41.3% 47.2% 42.4% 78.0% 81.0% 76.9% 100.0% 80.4% 77.7% 79.4% 81.9% 76.0% 79.0% 72.7% 【Q2s1_5】5. ペットボトルな どのミネラル ウォーターを飲 む 61.5% 62.7% 62.5% 100.0% 64.7% 63.8% 69.1% 71.9% 60.0% 52.3% 39.4% 【Q2s1_6】6. スーパー等で 配布している 水(容器など で持って帰 る) 12.2% 14.1% 11.1% 0.0% 5.9% 13.1% 12.7% 16.7% 11.7% 10.3% 9.1% 図5-1-7 神戸市お客様満足度調査(平成 20 年)結果 5-3 【Q2s1_7】7. 【Q2s1_8】8. 湧き水(容 井戸水 器などで持っ て帰る) 4.7% 5.3% 4.3% 0.0% 0.0% 1.5% 3.6% 5.2% 6.7% 5.6% 3.0% 0.7% 1.1% 0.3% 0.0% 0.0% 0.0% 0.6% 0.5% 0.3% 2.6% 0.0% 2)ミネラルウォーターを取り巻く最近の動き 昨今の環境問題、食の安全性への関心や世界的な景気の減速などの影響により、ミネラル ウォーターを取り巻く環境が変化してきている。 ① 環境問題 外国産はもとより国産のミネラルウォーターは、遠方より輸送するためにコストがかかる だけでなくエネルギーを消費している。また、ペットボトルによる利用が主流であり、その リサイクルやリユースの活動を行っているが、環境への負荷は無視できない。環境省では、 平成 20 年 2 月に、リサイクルでなく「リユース」の研究会を立ち上げて、環境負荷低減の 検討を開始している。 これらのことがきっかけとなって、ニューヨークをはじめとする欧米の各都市などでは、 ペットボトルの使用を抑制する運動が起こっている。また、日本でも名古屋市が、脱ペット ボトルの一環として廃ガラスで製作した「カラフェ(水差し)」により、水道水のPRを行っ ている。 図5-1-8 「カラフェ」~名古屋市、 脱ペットボトルに向けて ② 品質・安全性 通常のミネラルウォーターに含まれる有用成分は、食物からの摂取量に比べればわずかで ある。また、最近ではペットボトル内のミネラルウォーターのカビ臭有害物混入などの問題 が発生している。ミネラルウォーターについては、食品衛生法に基づき 18 項目についてのみ 検査されているのにとどまる。 一方、水道水の場合には、人の健康保護または生活上の支障を生じるおそれのある項目と して水道法で定められた 51 項目に加え、水質管理目標設定項目を入れると合計 180 項目に ついてチェックされている。 また、かつての水道水で問題になった、カビ臭やトリハロメタンの残留などについても、オ ゾン活性炭処理による高度処理の拡大などにより大幅に改善されている。神戸市の場合では、 トリハロメタンなど消毒副生成物の含有は安全基準限界より一桁小さい値に維持されている (総トリハロメタン含有は、基準値 0.1mg/ℓ以下に対し、阪神水道系で 0.03mg/ℓ、千苅系で 0.02mg/ℓ)。 5-4 3)安全でおいしい水道水の追求 安全でよりおいしい水を供給するために、以下のような様々な対策が講じられている。 ① 水源の保全・改善 水道水の水源となる河川や湖沼などの自然を涵養する ために、水源保全用地の取得や植林などさまざまな取り 組みが各地で行われている。 図5-1-9は水源林の管理のための下刈作業であ る。 図5-1-9 水源の保全管理(東京都の例) 【神戸市における取り組み】 神戸市水道局では、千苅貯水池上流域住民などと の協働による水質保全のための取り組みを実施して いる。羽束川・波豆川流域水質保全基金により、不 法投棄防止の立て看板や河川清掃活動、地域美化活 動の助成を行っている。また、周辺住民と協同で、 「自然環境を守る」という認識のもと「クリーンハイ キング」なども実施している。 図5-1-10 千苅貯水池上流域住民とのクリ ーンハイキング ② オゾン活性炭高度処理の推進 カビ臭やカルキ臭原因物質の 100%除去、トリハロメタンの削減などのために、オゾン活性 炭処理という高度浄水処理システムが導入されている。 図5-1-11 オゾン活性炭高度浄水処理システム 5-5 ③ 残留塩素の適正な管理 水道水は水道法により、衛生面で安全な水であることを担保するため、末端である給水栓 において残留塩素を 0.1mg/ℓ以上含むことが義務付けられている。しかし、残留塩素は配管 の延長や到達時間などにより変化するため、場合によってはその残留塩素でカルキ臭がする ことがあった。このことが、水道水がまずいと言われる原因のひとつでもあった。 最近では、残留塩素の適正な管 理のために、配水する途中におい て塩素を追加する施設を設置し て、適切な濃度で給水できるよう 工夫が行われている。 図5-1-12 残留塩素適性管理(東京都 HP より) ④ 直結給水方式の導入 高層住宅や事務所・学校などでは、屋上の水槽に一度貯水してから給水する方式が一般的 であるが、この貯水槽の維持管理問題に加えて、貯水槽内で長時間滞留する場合の水質劣化 の影響をできるだけ避けるため、水道管と蛇口を直結して給水する方法の導入が推進されて いる。 図5-1-13 直接給水方式(東京都 HP より) このような取組の結果、最近の水道水のおいしさについては、ミネラルウォーターと比べて も遜色のないレベルになっている。たとえば、神戸市が実施した水道水とミネラルウォーター との飲み比べ(きき水)の結果によれば(図5-1-14) 、水道水の方がおいしいと回答した 割合が 56%であり、ミネラルウォーターと回答した割合 44%よりも多くなっている。 5-6 水道水は直接飲めるが、より一層おいしく飲むためには冷やしたり(20℃以下)、一度煮沸し てから冷やして飲むことが推奨されている。 割合(%) 0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 水道水がおいしい ミネラルウォーターがおいしい おいしい水アンケート 【参加者計:18,637人 (H14~H19年度)】 図5-1-14 おいしい水アンケート(神戸市) 4)おいしく水道水を飲むための施策事例 ① 学校などでの飲用としての水道蛇口利用の復活 全国の水道事業体は、先述のとおり高層ビルと同様に学校の直結給水を推進し、次世代を 担う子供たちに、安全でおいしい水を気軽に蛇口から飲んでもらう運動が各地で実施されて いる。 【神戸市の事例:「いつでもじゃぐち」】 神戸市は防災拠点となる小学校の校庭に、平常時は水道水を直接飲んでもらうための水 飲み場として、また災害時には応急給水栓となる「いつでもじゃぐち」を順次整備してい る。 「いつでもじゃぐち」により、災害に対して水道の安全度が高まっていることの広報と、 水道利用の促進を図っている。また、学校の耐震化に併せて直結給水化を促進している。 図5-1-15 神戸市 いつでもじゃぐち 5-7 【横浜市の事例:「はまピョンシール」】 横浜市では、小中学校の水飲み場の蛇口を直結化して、 「子供たちが水道水を飲む文化を 育む事業」を実施している。直結型の蛇口に「はまピョンシール」を貼って「おいしい水」 を表示している。 図5-1-16 横浜市 はまピョンシール 【東京都の事例】 横浜市と同様に、平成 19 年度から 22 年度までの間に、公立小学校の 3 割にあたる 400 校で水飲み場の蛇口を直結化しており、教職員・児童から水道水の良さが評価されている (図5-1-17)。 児童に対するアンケート結果によれば、家から水筒を持参する割合が 20%から 14%に、 学校での水道水を飲用する割合が 79%から 83%に増加している。 図5-1-17 東京都直結型給水児童に対するアンケート (出典:「安全で美味しい水プロジェクト」(東京都 HP)) ② 浄水装置つきステーション ペットボトルの多用化の反省と、おいしい水を飲むことを目指して、浄水器を通した水を量 り売りしたりする例などが各地のスーパーマーケットで見られるようになってきた。このやり 方の発展形として、大阪大学生活協同組合が試行した事例を紹介する。 a. 実行内容: ・水道水直結型自動販売機を設け、浄水器を通し冷やした水道水を提供 ・保冷機能つきの専用マイボトルだけに対応 ・冷水に溶ける飲料パウダー(茶・ジュースなど)を開発して提供 5-8 ・「マイボトル」洗浄に使った水を植物栽培に再利用 ・おいしい水の追求・検討 ・環境面での評価 b. 提案内容(動機・目的を踏まえて): ・環境にやさしく(低負荷*)、健康に資する(水を飲む)生活 スタイルの変換追求・総合的な視点から環境問題への取り組 み、社会連帯を指向した取り組み (*廃棄物問題の一因となり、輸送にかかるエネルギーなど を必要とするペットボトルの抑制他) ・ 「水」をキーワードにして、駅、企業、学校、テーマパークな どにおける環境低負荷社会システム導入の可能性を示してい る。また、観光地(たとえば神戸)に適用して、ボトルや飲 料パウダーをシンボルとして販売し、環境にやさしい低負荷 型未来都市づくりを観光ブランドイメージと結び付けてア ピールすることも提案している。 図5-1-18 阪大生協 H2O プロジェクト 浄水装置付水ステーション 注記:この提案では、おいしさを追求しており、残留塩素などを除去する目的で浄水 器を設置している。 なお、一般的な話として、浄水器は残留塩素などを除去する目的で家庭用にも 相当に普及しているが、ろ過材を定期的に交換するとともに、浄化器を通した 水を早めに飲まなければ、細菌が繁殖するおそれがあるので注意が必要である。 [5-1節の参考文献]: 5-1-a 内閣府 5-1-b 東京都 「水に関する世論調査」(平成 20 年 6 月調査) 「安全で美味しい水プロジェクト」オフィシャルサイト(HP)(図、写真の転用 を含む) 5-1-c 横浜市水道局 広報よこはま特別号「よこはまの水」No.106 平成 19 年 7 月 10 日 5-1-d 神奈川県衛生研究所 HP 「飲用水の安全性とは?」(2008/11/17) 5-1-e 神戸市水道局 「神戸の水質管理」他の資料 5-1-f 大阪大学生活協同組合事業企画室山本敬二 「H2O Project 環境低負荷型社会行動を目指 して」他同件関連資料 5-9 5-2 入浴による健康・癒し・美容効果 1)入浴の楽しみと効果 水浴は単に体を洗って清潔に保つというためだけでなく、水に触れ、水の噴射圧、水圧、 温度、水に溶解した成分、湿気などによる皮膚、循環系全体、呼吸器などへの刺激・働きか けにより、健康や心身のリラクゼーションに効果があるものとして、古来行われてきている。 特に、日本人の温泉好き・風呂好きに見られるように、お湯を浴び、お湯につかるという 入浴は、日々の疲れをとり、明日の健康のため、時には病気の治療のために効果があるもの とされている。また、血行をよくし、皮膚の保湿・うるおいに効果があり(出浴後に汗をこ まめにふきとり乳液などで脂質の補充は必要) 、美容やアンチエイジングにも有効であるとさ れている。 そのため、現在のストレス社会における健康志向から、入浴の科学的効果や、様々なスタ イルの入浴スタイルが提案されている。また、サウナ、ジェットバスやジャグジー風呂など も普及している。 (注!) 入浴時には温度変化や姿勢変化により、血圧などが急激に変わり事故が起きやすい環 境にあることから、以下のような安全な入浴法を心がけることが肝要である。 ・ 予め浴室暖房などによる浴室内を暖かくする。 ・ 熱い湯を避け、半身浴のように水圧を受けない姿勢で入浴 ・ 急激に立ち上がったりせずゆっくりと動く。 ① 健康入浴法(半身浴) ぬるめのお湯(38℃)に水圧負担の少ない半身浴(みぞおちから下)をすることにより、 以下のような効果があるとの報告がある。 ・ ゆっくりじんわり汗が出るまで(約 20 分)の半身浴で、リラックス効果が大きい。 ただし、体調の悪いときや高齢者には、高温浴、長湯が却って悪影響を及ぼす恐れがあり、時間などに ついてはあくまで身体に問題のない時の目安であることに、注意が必要である。 ・ 夏の冷房で冷えた体にも 20 分程度の半身浴により、冷えた体温の上昇効果が大きく、 冷え性の人にも有効である。 直腸温の変化 半身浴38℃、20分 皮膚温の変化 37.3 37.2 入浴前 寒冷環境 20 ℃ 90 分 37.15 直腸温(℃) 37.1 (0.25) シャワー40℃、5分 室温はいずれも30℃ 入浴中 入浴後安静 28 ℃ 30 分 半身浴:38℃20分 シャワー:40℃5分 直腸温の回復は 3倍のスピード 直腸温は 約0 . 3℃低下 36.90 36.83 (0.2) 36.8 (0.07 ) 36.7 36.6 入浴直後~10分経過まで、シャワー時の皮膚温は 高いが、30分後には逆転 図5-2-1 90 分 20 分 (シャワーの場合は5分) 30 分 入浴後の直腸温の回復スピードは、半身浴の場合が シャワーの3倍 半身浴(癒し浴)とシャワーとの体温比較(出典:大阪ガス資料) 5-10 ② 夏場のクールダウン浴(半身浴) 夏のほてった体温を冷やす場合にも、半身浴は体温全体を元に戻す効果が強く有効である との報告がある。この場合、湯温は体温よりやや低い 33~34℃の湯で、20~30 分程度の半 身浴をするのが良いとされている(大阪ガス㈱のデータ・資料による)。 ③ シャワーの効用 シャワーは、健康入浴法として半身浴に比べて効果が少ないが、水流と温度の刺激が体に 加わるため、マッサージ効果が期待できる。温泉の打たせ湯のように、具合の悪いところに 効くつぼにあてたり、疲れた足にあてたりすることで健康回復に使えると言われている。 ④ 浴槽の大型化 最近では新築やリフォームの際に、浴槽の大型化を希望する声が多い。これは、膝をのば してゆっくり入れるサイズの浴槽でリラックスすることにより、家庭の風呂において日常的 に癒しが味わえるためである。さらに、大きな浴槽で寝浴した方がリラックスした時に現れ るα波(脳波)の出現率が高いとの報告もあるため、寝た姿勢で湯に入れるような浴槽など も提案されている(出典:東京ガス都市研究所 HP 北海道大学阿岸祐幸名誉教授研究として記 載)。 図5-2-2 風呂にほしい設備 出典:大阪ガス㈱HP 記載グラフをベースに加筆作成 (原データは 1090 人を対象に行われた 2002 年 6 月 ㈱ホームプロの調査による) 5-11 2)最近の入浴方法の動向 ① ウェットサウナ (ミストサウナ) (出典:大阪ガス㈱資料) 湯を細かい水粒にして体に噴霧するタイプのウェットサウナが提案されている。これ は、通常のサウナ(ドライサウナ)と比べ、低温雰囲気での発汗のため身体への負担が 小さいとされている。 また、粒子を非常に細かく(1μm 以下)することにより、濡れにくいタイプのマイ クロミスト方式で部屋暖房と一体にした装置が最近開発されている。 これらには、以下のような効果が期待されるとの報告がある。 a. 発汗・温まり・肌水分上昇 基本効果 発汗・肌水分・温まり効果 しっかり発汗。毛穴が開いて汚れや老廃物を 充分に発汗できてカラダを深部からあたためる きれいに洗い流します。 ミストサウナ。湯冷めもしにくくなります。 発汗 ミストサウナなら、湿度が高 ミストで全身を包み込むことで短時間でも充分に発汗 いのであたたまりやすく、低 でき、カラダの中から老廃物を出すミストサウナ。サウナ 温でもしっかりラクに発汗で 効果がムリなく楽しめます。 きます。 温まり効果 *入浴による発汗量を100として比較。 通常入浴 ミストサウナ入浴 ℃ 入浴前後の体重減少 量を発汗量とする。 ミストサウナのモイスチャー効果で お肌の水分量がぐんとアップ。 肌水分量 表面だけでなく、発汗に よって皮膚の内部にも水 分が補給され、みずみず 入浴後20分経過時の人体の皮膚表面温度 しい素肌を育ててくれます。 (サーモビューで測定)。 *室温25℃の部屋で安静 *入浴前の肌(ほほ)の水分量を基準値とした時 の入浴後10分経過時の水 分増加割合を表す。 図5-2-3 ウエットサウナの基本効果 肌水分の向上(1ヶ月の連浴後) b. 美肌効果 ウェットサウナ(ミストサウナ) により、肌水分の向上(図5-2- [a.c.] 80 4)、目じりのしわや目立つ毛穴を減 60 らすのに効果があるとの報告がある。 40 ウェットサウナにより、目じりの 顔面部 20 しわ、目立った毛穴がそれぞれ約 30%、6.9%減少したと報告されてい る(図5-2-5参照) 。 0 前 後 ミスト浴群 前 後 通常入浴群 頬の肌水分が昼間、約20%上昇 図5-2-4 ウエットサウナ 肌水分の向上(1 ヶ月後) 5-12 * 目立つ毛穴の減少割合(%) 目尻のしわの減少割合(%) 35.0 30.8 各群 n=10 30.0 25.0 *6 * 統計的有意性 * 統計的有意性 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 -5.0 浴槽入浴 8.0 * 6.9 7.0 *6 * 統計的有意性 *統計的有意性 5.0 4.0 3.0 2.3 2.0 1.0 0.0 ミストサウナ入浴 ミストサウナ入浴 (フェーササイズ有) -5.5 -10.0 各群 n=5 6.0 浴槽入浴 (フェースエクササイズ有) 目立つ毛穴の数は、ミストサウナ・フェースエクサ サイズ群で6.9%減少(浴槽入浴群では統計的 有意差なし) 目尻のしわは、ミストサウナ入浴群では約30%減少 (浴槽入浴群では統計的有意差なし) 図5-2-5 ウエットサウナの美容効果 (左:ウエットサウナ目じりのしわの減少、右:目立つ毛穴の減少) 両図とも左側の棒がミストサウナによるもの。 なお、右側の棒は通常の入浴のケースであるが統計的に有意性が言える結果ではない。 c. アレルギー性鼻炎症状緩和 ウェットサウナ(ミストサウナ)により、鼻腔容積が増加し鼻づまり感が和 らぐ効果が通常の入浴以上に持続するとの報告がある(図5-2-6)。 鼻づまり緩和効果 ミスト浴 通常入浴 ミスト浴 通常入浴 ← 30 3 1 ** ** * * た 0 悪 -1 く な -2 ** ** 入浴前 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 容 積 増加 割 合(% 2 容積増加割合(%) っ 良 く な 25 20 ** 15 * 10 5 っ 0 → た -3 -5 入浴前 0 入浴後(分) 30 40 50 60 70 80 90 入浴後(分) 鼻づまり感が和らぎ、 その効果は入浴後40分 まで持続 図5-2-6 10 20 鼻腔容積が、入浴後 増加し、入浴後90分 でも増加傾向 ウエットサウナ 鼻づまり緩和効果 ② 足湯(足浴)装置 温泉地などで見かける手軽にできる部分浴法の一種で、鎮 静・リラクゼーション効果や入浴部分の血流改善による冷え症 (下肢の血液循環不全)の改善効果があるとの報告がある。こ れを応用した、足湯用の製品も出ている。 図5-2-7 足湯装置(写真出典:鳥取大学 広報誌「風紋」第 14号(2007.3) ) 5-13 ③ タラソテラピーなどの流行 海外ではドイツのバーデンバーデンなどの温泉リゾート都市において、長期の温泉療法が 流行しているが、日本においても温泉に行って楽しみつつ心身ともにリラックスし疲れをと ることは多くの人の間で定着した習慣である。 これには、転地療養的な部分もあるが、それぞれの湯に含まれる成分により身体的効果(病 気や美容への効能)が知られており、昔から湯治として治療に使われている。 また、最近はタラソテラピー(海洋療法)と言って、海辺に滞在して、その景観を楽しみ ながら、海水、海藻、海泥を用いて行う療法を謳ったリゾートも出てきている。都会の中で も、温泉などのリラックス感や効果を手軽に楽しめる大型の温浴を中心としたリゾート場(ス ーパー銭湯)が流行している。 家庭の入浴においても手軽に同様のリラックス感を楽しみまた効能を期待して、温泉成分 を入れた家庭用の入浴剤が使用されている。 [5-2節の参考文献]: 5-2-a 大阪ガス㈱エネルギー技術研究所 5-2-b 大阪ガス 5-2-c 共同通信社 HP 広報ニュース、ミストサウナの頁他 健康ワンポイント((社)国民健康保険中央会提供)HP 東京ガス㈱早川美恵氏 5-2-d 東京ガス㈱HP 5-2-e 竹森利和氏資料 (2004.10.4~8 放送分 「楽しい健康入浴法」 都市生活研究所コラム 安全な入浴方法開発のための基礎的研究(九州大学 長家智子・樗木 晶子他 9 氏 学部保健学科紀要 2003 第 2 号) 5-14 九州大学医 5-3 その他の例 5-3-1 加湿器などによる健康や美容への効果 1)加湿器による、冬季の健康・美容対策 空気中の適当な水分は、呼吸器や皮膚・目などを健康状態に保つために有効である。 肌・髪の乾燥は美容の大敵でもある。特に冬季においては、暖房で温度のみ上げると室内 湿度が低下し、過剰な乾燥状態を招きやすい。 この乾燥状態はインフルエンザウィルスなどの増殖にも適しており、一般には低温でのみ 生存率が高いウィルスであるが、湿度が 20%では気温を 22℃に上げても生存率が下がらず、 ウィルス対策には湿度も 50%以上に保つ必要があることが報告されている(図5-3-1) 。 また、乾燥するとのど粘膜の防御機能の低下を招き病気にかかりやすくなるという問題も ある。 図5-3-1 温度・湿度の違いによるインフルエンザウィルス生存率 (東京都福祉保健局インフルエンザニュースによる; 原典:加地正郎著「インフルエンザとかぜ症候群」-(Harper,G,J.:Airborne micro-organisms: survival tests with four viruses. J.Hyg.Camb.,59;479~486,1961)) 以上述べたように、冬季に室内湿度を適当(50~60%)に保つ必要がある。昔から行われ ている室内で洗濯物を干したりやかんで蒸気を補ったりすることも、そのために有効なやり 方であった。 現在、様々な加湿装置が売られており、これらによって空気中の水分を補給することで、冬 場の健康・美容に効果があると思われる。 ただし、加湿器にも色々なタイプがあるが、そのタイプ毎に必要なメンテナンスを行うことが 必要である。加湿のための水は水道水を利用すべきであるが、タイプによっては、水道水中の塩 素分が除去されるものもあり、その場合補給水タンク内で細菌・微生物が発生しアレルギー症状 を起こした例があると報告されている。そのような装置では定期的な清掃が必須である。 また、体感温度は湿度にも影響されるので、暖房時に適当に加湿することにより、低い温 度で同じ暖かさを感じることもでき、省エネにもつながる。 5-15 2)応用例 第 4 章で紹介したミストと同様の装置を閉鎖空間内で加湿対策に使用するものもあり、埃 や花粉などの飛散を抑える効果も同時に期待できる。 また、単に加湿するのみでなく、水分中の成分をイオン化することで美容や制菌・花粉対 策などの効果を謳うアイデアやそれを用いた製品も多く販売されている。 それらは室内空気環境用のみならず、たとえば、ドライヤーなどの家電機器を組み合わせ たものや、弱酸性にした水分を直接肌に噴霧して美容効果を謳うものもある。 それらの一例として、水道水中の塩素分を利用するものがあり、水の電解により、除菌・ 脱臭・花粉などのアレルギー原因物質の抑制に効果があると報告されている(図5-3-2 参照)。 水道水に含まれる塩化物イオンを利用し、電解により次亜塩素酸+OH ラジカルを発生し、 それによりウィルス・浮遊菌の抑制(99%以上)、脱臭、花粉などのアレルギー原因物質の抑 制に効果があるとしている。 図5-3-2 ウィルスウォッシャー 左(除菌電解ミスト方式:ミストを室内噴出) 、右(除菌エレメント方式:通過する空気 を除菌・脱臭する)の両方式がある。(出典:三洋電機資料) 5-16 5-3-2 その他 (目に優しい水、見ることでこころが癒される水) 水やその流れを用いたモニュメントやオブジェは多くあり、 ・ 観光のポイントや建物・家屋のデザインを引き立てる小道具として ・ 見ることで心を癒すオブジェとして 用いられている。 また、昔からある魚類などを入れた水槽のほか、水の中に物が流れたり、泡を発生させた りするようなものがある(図5-3-3&4) 。 図5-3-5は同様の製品開発につながる可能性のある気液二層流の研究例である。 図5-3-3泡のオブジェ例 (㈱自然海) 図5-3-4循環水によるオブジェ例 ((有)環研) 図5-3-5オブジェ製品開発につながることが期待される泡流の研究 (出典:混相流学会年会講演会 2007「鉛直管内旋回気液二層流の流動様式と旋回長さに 関する研究」(高垣慎太郎・林公祐・赤対秀明(神戸高専)、竹田博明(住友精密)) 5-17 5-4 まとめと提言 5-4-1 水道水を飲むことの推奨と新たな都市ブランドの創造 ~ マイボトルブームを活用して水道水を飲む習慣を取り戻そう~ 健康のためには、水分をこまめに補給することが良いと言われている。ミネラルウォーター に比べてはるかに安くて安全な水道水をまちなかで手軽に飲めるような「水飲み場」が復活す ることが望まれる。 ペットボトルの氾濫の中で、環境意識の高まりにより、最近「マイボトルブーム」、すなわち 各自が家庭などから飲物を持参する動きが起きている。 また、 「マイボトル」や茶などの飲料 パウダーと組み合わせて、自動販売機で冷たい水道水を供給するシステムの試行も行われてい る。 提言: 安価で安全であり身近にある水道水を利用し、まちなかでの水飲み場の復活と併せて、「マ イボトル」を活用した飲用習慣の定着が望まれる。 特に神戸市では、北野異人館街、旧居留地、有馬温泉などの観光地と連携を図って、お土 産グッズとしてのマイボトルを販売してもらうことにより、日本全国に神戸ブランドやこの取 り組みを情報発信することができ、重視している観光施策の一環として期待される。 健康のために 水分補給 安価・安全な 水道水 水道水を飲むことの推奨と 新たな都市ブランドの創造 ~マイボトルブームを活用して 水道水を飲む習慣を取り戻そう~ 観光地と連携した 観光施策 :提言内容 環境意識の高まり マイボトルブーム 図5-4-1 提言内容とそれに関連する項目 5-18 :提言実現に関連する項目 5-4-2 健康・癒し・美容に効果のある入浴法の推奨 ~美しくしく健やかに、もっと日常的にお湯を楽しもう~ 入浴は健康・美容・癒しに非常に効果があると言われている。さらに健康志向に加えて、最 近はストレス社会に対する癒しやアンチエイジングなどを望む声は少なくないため、日常的に 「お湯」を楽しむこと、入浴の効用を上手に活用することが望まれる。 家庭風呂の設備に対する最近のニーズ調査によると、膝を伸ばして入浴できるような大きな 浴槽を望む人が最も多く、毎日の家庭生活においても、シャワーで単に体を洗うだけでなく、 浴槽にゆっくり浸かって一日の疲れ取り癒されたいという期待が大きいことがわかる。 提言: 1)下記のような効果・効用を科学的な根拠を踏まえて紹介し、健康や癒し・美容に効果のあ る入浴方法をPRし推奨したい。 ・大きな浴槽でゆったり寝浴すると、α波が多く出るとの報告があるなどリラクゼーション 効果が大きいこと ・「癒し浴」としての半身浴の有効性 ・湯気やミストなどの健康や美容への効果 2)神戸市では現在「先端医療産業都市」の構築を推進しているが、その一環として湯治と同様 の効果が期待できる薬草風呂などを各家庭に取り入れることにより、『癒しの都市神戸』を 目指したい。 入浴 健康・癒し・美容に効果 『癒しの都市神戸』を目指して 健康・癒し・美容に効果のある 入浴法の推奨 ~美しく健やかに、 もっと日常的にお湯を楽しもう~ 健康志向 ストレス社会 アンチエイジング :提言内容 :提言実現に関連する項目 図5-4-2 提言内容とそれに関連する項目 5-19 5-4-3 加湿器・ミストによる健康・美容効果の推奨 ~空気中の湿度を保って、健康で、美しくアンチエイジング~ 空気の乾燥は皮膚や髪の毛の状態を損ない、美容の大敵である。 冬季においては暖房により室内の湿度が低くなりがちであるが、皮膚・髪に適当な水分を保 つ(保湿)するために、空気中の湿度を適当に保つ必要がある。 また、乾燥は呼吸器にも悪影響を及ぼし、風邪をひきやすい状態となると同時に、低湿度は、 インフルエンザなどのウィルスの生存にも好条件となりがちである。加湿器や水道水に含まれ る塩素分を活用した機器で、空中に水分を補給したり、水分により空気を浄化したりすること により、ウィルスや空中を浮遊するアレルギー原因物質を抑制する効果があると報告されてい る。 提言: 加湿器やミストなどを、美容に加えて健康上(ウィルスや花粉への対策など)の目的に 上手に活用することを推奨したい。 冬季湿度低下 美容対策 加湿器・ミストによる 健康・美容効果の推奨 ~空気中の湿度を保って、 健康で、美しくアンチエイジング~ 乾燥による 呼吸器への影響 ウイルスや花粉への 対策など :提言内容 :提言実現に関連する項目 図5-4-3 提言内容とそれに関連する項目 5-20 第6章 6-1 新たな水の役割の創造に向けての提言 目標 現在の社会が必要としている下記のような課題の解決に有効であり、水道水の新たな役割 の創造につながるような水の活用方法について整理する。 A 地球環境等環境面での社会的要求への貢献 B 質的に豊かさで快適な都市空間の創造 C 健康で真にこころの豊かさが享受できる市民生活の追求 6-2 提言 これまで、水が持つ価値を活かした「新たな水の役割」について、3つの分野において検討 し、分野ごとに提言としてまとめた。各提言により期待できる効果は、下表のとおり重複する 項目もあるため、ここでは効果に着目して横断的にとりまとめを行った。 表6-2-1 各章提言内容 提言により期待できる効果項目 各章提言内容 環境 緑溢れる快適な都市空間の創造 ~『ガーデンシティ神戸』を目指して~ 第3章 壁面緑化の推進 ~夏を涼しく「緑のカーテン」~ 都市菜園づくりの推進 ~作って、食べて、こころもやすらぐ菜園づくり~ 緑化によるコミュニティづくり 健康・ 癒し 美容 都市景観 観光 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 第4章 ミスト散布の推進 ○ ~ミストにより都市を涼しく~ 新たな効用・効果のある打ち水の推進 水道水を飲むことの推奨と新たな都市ブランドの創造 第5章 ~マイボトルブームを活用して水道水を飲む習慣を取り戻そう~ 健康・癒し・美容に効果のある入浴法の推奨 ~美しく健やかに、もっと日常的にお湯を楽しもう~ 加湿器・ミストによる健康・美容効果の推奨 ~空気中の湿度を保って、健康で、美しくアンチエイジング~ 6-1 づくり ○ ○ ○ ○ ○ ○ ~暑い夏には打ち水で地域の集いを~ 教育 まちづくり コミュニティ ○ ○ ~みどりを絆に人の輪を!~ 福祉・ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 6-2-1 水利用による環境への貢献 ~快適な空間を創造しよう~ 水が持つ価値を活かした環境への貢献方策として、植物からの水蒸散効果および遮熱効果が 期待できる緑化、水の気化熱を利用するミスト散布や打ち水が考えられる。これらによって、 ヒートアイランド現象の緩和や CO2 排出削減などの効果が期待できる。 家庭や事業所では、壁面緑化などによりその効果を実感できるが、その効果を大規模に発現 させるためには都市全体に普及させる必要がある。そのためには、家庭や事務所での取り組み が面的に広がり、都市全体でより快適な空間の創造が実現するように、市民に広くアピールす るなど、水を有効に利用した環境施策を推進することが望まれる。 6-2-2 水利用による健康・癒し・美容への貢献 ~健やかな生活を創造しよう~ 緑化には視覚的なものに加えて、園芸や菜園づくりなどの作業をとおして、健康や癒し効果 が期待できる。なお、菜園づくりにより、安全な食物が収穫できるという点からも健康に寄与 することが評価できる。 また、加湿機能のほかに防塵・花粉対策にも有効なミストや、リラクゼーション効果の高い 入浴などは、健康や癒しに加えて美容効果も期待できる。 現在のようなストレス社会における健康志向や、高齢化社会におけるアンチエイジングに関 するニーズが高まっているため、新たな水の役割として健康や癒し、美容につながるような利 用方法を推奨していくことが望まれる。 6-2-3 水利用による都市景観・観光への貢献 ~デザイン溢れるまちを創造しよう~ 緑溢れるまちづくりは優れた都市景観とランドマークを創造して、観光都市としてのブラン ド価値を向上させることが期待される。 また、まちなかでの「水飲み場」の設置と「マイボトル」の普及を、観光施策のひとつとし て観光地と連携して推進することにより、水道水を飲用する習慣を定着させることが期待され る。 「デザイン都市・神戸」の推進を目指す神戸市において、今後より一層デザイン性に富んだ まちづくりを図る際に、水利用による都市景観や観光施策がその一助となることが望まれる。 6-2 6-2-4 水利用による福祉・教育・コミュニティづくりへの貢献 ~豊かな社会を創造しよう~ 園芸や菜園づくりの作業が園芸療法として注目されているが、福祉施設の授産活動にも有効 であると言われている。また、子供たちに対しては食育も含めた環境教育の点でも効果的であ る。 さらに、住民が協働して打ち水を行ったり、都市部の空地やビル屋上で菜園などの緑化作業 に取り組むことが、地域コミュニティづくりにつながっていくと期待される。 このように水が持つ価値を活かして、福祉や教育、コミュニティづくりに貢献し、豊かな社 会の創造に結びついていくことが望まれる。 6-3 新たな水道水の役割の創造 これまで、水が持つ効用を考慮し「新たな水の役割」に関する検討を行って、環境や心身の 健康改善などにつながる水の活用方法を紹介し、それらに関する提言を行った。 その中で、水道水が持つ利便性や安全性、供給の安定性という利点を最大限に活かした「新 たな水の役割」を創造することが、 「神戸水道ビジョン2017」の基本理念である『快適な 市民生活を支える』ことにつながり、まちの豊かさや暮らしの潤いを実現するためには有効で ある。 最後に、本検討委員会で検討した内容が、今後の神戸市における真に豊かな都市生活の実現に 寄与し、市民の生活についても新たな水道水の価値が理解され、持続的に水道水が活用されるこ とになれば幸いである。 6-3 [参考資料] 本検討は、財団法人新産業創造研究機構が神戸市水道局より委託を受けて実施したものである。 その検討・作成母体となった検討委員会、および検討過程で実施した水の有効利用に関するアイデ ア募集(企業・研究所対象)、この活動の結果を公表するホームページについてふれる。 1)検討委員会 構成(付1) 設置要綱 (付2=添付省略) 運営要領 (付3=添付省略) 委員名簿(付表4) 委員以外の討論参加者(付表5) 委員会開催(付表6) 2) 企業・研究所対象のアイデア募集 募集(付7) 結果(付8) 3) HP による結果の公開(付9) 付1 AQUAルネッサンス神戸検討委員会構成 委員会として、総括委員会と緑化分科会を設ける ①総括委員会の所掌・役割: ・全体的な検討・とりまとめ ・緑化分科会が扱わない分野(健康関連分野など)の検討 ②緑化分科会の所掌・役割: ・農業・園芸を含む緑化関係の効果や有効利用について検討 付表4 AQUAルネッサンス神戸検討委員会 委員名簿 (17名) 氏名 所属 緑化 委員会 分科会 金地 通生 小谷 宗男 酒井 和昭 協和㈱ハイポニカ販売部 竹内 恵子 生活協同組合コープこうべ 理事 ○ 中野 加都子 神戸山手大学現代社会学部 教授 ○ 宮川 克郎 サントリー㈱研究センター 環境緑化部 宮崎 ひろ志 関西大学環境都市工学部 山田 淳 立命館大学びわこ環境研究センター長 ◎ 山田 宏之 和歌山大学システム工学部 ○ 山本 聡 佐藤 孝介 千鹿野 神戸大学農学部 総括 准教授 ○ 積水ハウス㈱総合住宅研究所 常務理事 部長 ○ ○ スペシャリスト 専任講師 ○ 准教授 兵庫県立大学自然・環境科学研究所 兼 兵庫県立淡路景観園芸学校 司 ○ 総合研究所長 神戸市環境局地球環境課 教授 ○ 教授 主幹 ○ 神戸市建設局公園砂防部計画課 昌之 神戸市都市計画総局計画部景観室 水口 和彦 神戸市水道局技術部計画課 井関 正博 竹森 利和 山本 敬二 課長 仲井 ○ ○ 室長 課長 ◎ ○ ○ ○ 三洋電機㈱研究開発本部エコロジー技術研究所 環境システム部 部長 大阪ガス㈱エネルギー技術研究所 特別委員(第3回総 エグゼクティブリサーチャー 括委員会に出席) 大阪大学生活協同組合購買部事業企画室 室長 (五十音順、敬称略) ※.◎記入者について、総括委員会では委員長、緑化分科会では分科会長。 付表5 AQUAルネッサンス神戸検討委員会 委員以外の討論参加者名簿 氏名 芥川 郁雄 所属 備考 第2-5回緑化分科会 積水ハウス㈱技術研究所 技術開発グループ 委員代理 課長 (小谷委員の代理) 第3回総括委員会 中村 綾彦 神戸市環境局地球環境課 委員代理 (佐藤委員の代理) 井上 康 大阪ガス㈱近畿圏部 課長 川本 将則 大阪ガス㈱技術戦略本部企画チーム 遠藤 貴弘 副課長 大阪大学生活協同組合購買部情報センター 係長 第3回総括委員会 特別委員に同行 三洋電機㈱コマーシャルカンパニー 中林 龍 平山 哲也 田中 研児 神戸市水道局技術部計画課 主幹 田中 孝昌 神戸市水道局技術部計画課 計画係長 日下 伸治 神戸市水道局技術部計画課 経営企画室営業開発部 部長 三洋電機㈱マーケティング本部商品戦略部 エネジークロスファンクションチーム 主任 オブザーバー 三ツ石 勉 神戸市水道局技術部計画課 糸賀 興右 (財)新産業創造研究機構 専務理事 谷村 仁司 (財)新産業創造研究機構 研究第 4 部長 平山 清孝 (財)新産業創造研究機構 事務局オブザーバー (一部の会のみ) 事務局 技術移転アドバイザー (敬称略) 付表6 AQUAルネッサンス神戸検討委員会 開催記録 名称 開催日 主要議題 総括委員会 第1回総括委員会 平成 20 年 5 月 21 日 ・AQUA ルネッサンス神戸事業について ・本委員会の検討内容について ・神戸市実施事業について 第2回総括委員会 平成 20 年 8 月 8 日 ・アイデア募集(企業・研究所の部)審査 ・アイデア募集(市民の部)審査 第3回総括委員会 平成 20 年 9 月 30 日 ・健康・癒しに関する効果・貢献について ・報告書記載項目について 第4回総括委員会 平成 20 年 11 月 21 日 ・水の気化熱を通じた環境に対する効果・ 貢献について ・報告書記載全般について 第5回総括委員会 平成 21 年 2 月 18 日 ・報告書提言および全般について 平成 20 年 6 月 20 日 ・今後の検討方針および進め方について 緑化分科会 第 1 回緑化分科会 ・委員報告(1/2) ・神戸市緑化関連事業について 第2回緑化分科会 平成 20 年 9 月 2 日 ・委員報告(2/2) ・報告書記載項目について 第3回緑化分科会 平成 20 年 10 月 31 日 ・農業・菜園・食に関する緑化について 第4回緑化分科会 平成 20 年 12 月 10 日 ・緑化報告の提言事項について 第5回緑化分科会 平成 21 年 1 月 30 日 ・緑化報告書全般について 付7 水の有効利用につながる製品・技術アイデア募集 ~『AQUA ルネッサンス神戸』~ 財団法人 新産業創造研究機構(NIRO) 水(上水)の有効利用につながる製品・技術およびそのアイデアを募集します。 緑化や水散布による環境改善に関連するもの、水を利用した心身の癒し等、貴重な水の有効 な利用につながる製品や事業モデルの提案をお願いします。 [提案分野例] ・壁面・屋上緑化に関するもの ・家庭用・事業所用水耕緑化・菜園キット ・水を使う健康・美容用具 ・上水を使ってエアコン使用を削減したり、効率を上げる設備・技術等のアイデア ・ロハスで安心・安全なライフスタイルにつながるような提案 1.趣旨 水はこの豊かな地球環境を支える基本であり、人をはじめとする生き物の命の源です。 地球環境問題が叫ばれていますが、食料や安全な水の確保が人類社会の成長とサバイバルにとり ますます重要な課題と認識される時代となりました。 幸いにも、わが国は比較的水に恵まれ、特に都市では安全水を安定して供給するインフラが整 っています。 神戸市水道局では、環境問題への対応を進めていますが、この貴重な水をより生かす目的で、 人と環境にやさしい「癒しの都市空間」を創造するような水の有効利用を検討すべく、 『AQUA ルネッサンス神戸』を立ち上げ、各種のイベントや市民からのアイデア募集等を行いま す。 (財)新産業創造研究機構(NIRO)では、神戸市より委託をうけ、このプロジェクトの一環とし て、学識経験者や企業等からなる委員会を設け、それらを通じて、水、特に水道水の新たな有効 利用法とそれを市民に広く普及させる方法を検討いたします。 具体的には、企業あるいは研究機関で開発中、あるいは提案中の製品・技術の中で、緑化や水 散布、水浴等、水を使う事で、地球環境や住環境、心や体の健康や癒し、美容につながるような 利用法の有効性と、その普及方法について検討を行ないます。 幅広い視野・分野から有効な利用法を検討すべく、広く企業や研究機関の方に、この趣旨に沿 うような、製品・技術(ソフト・ハード)あるいはアイデアの提案をお願いすることにしました。 水の有効利用を促進することにより人と環境にやさしい「癒しの都市空間」を創造することが 目的ですので、開発中の製品・技術あるいはアイデアはもちろん、既に製品化・事業化されてい るものの提案も歓迎いたします。 積極的な応募・ご提案をお待ちしています。 (応募要領は裏面参照ください。) 2.応募をお願いする方 企業・研究機関(大学・高専など「学」の方々も歓迎です)の方を対象とします。 3.提案内容 製品・技術(ハード・ソフト、単なるアイデア・計画中・既存製品等の別は問いません) 4.提案方法 (1)募集期間:~平成 20 年7月 10 日まで (資料作成に時間がかかる場合は、別途ご相談 ください。) (2)提案フォーム:添付用紙に適宜カタログ等の資料を添付して提出してください。 (3)提出先:財団法人新産業創造研究機構 (担当 谷村あて、郵送・fax・e-mail いずれでも) 〒650-0047 神戸市中央区港島南町 1 丁目5-2神戸キメックセンタービル6F (fax 等は下記問い合わせ先をご参照ください。 ) (4)審査手順:学識経験者と行政委員からなる検討委員会にて 8 月上旬に行います。 特に優れたと認められたご提案には、優秀賞(賞状および記念品:3 件程を予定)を贈呈いた します。なお、優秀賞受賞に準じたご提案も検討委員会の検討の俎上に採用させていただき ます。 (5)審査の観点:独創性・新規性、アピール度、量的効果の期待等の視点で審査いたします。 5.補足 (1)評価前後に、効果や導入しやすさ等に関し、聴取させていただくことがあります。また、 ご了解いただければ、検討委員会に参加いただく場合もあります。 (2)ご提案いただいた内容は、募集の目的に限って利用させていただきますが、その内容が報 告書等を通じて公開されることがあります。(事前にご連絡いたします。) (3) 審査結果、および報告に向けて検討の対象とさせていただく場合はご連絡いたします。 お問い合わせ先 財団法人新産業創造研究機構 電話:078-306-6801 FAX:078-306-6812(担当:谷村) E-mail: [email protected] (「AQUAルネッサンス神戸アイデア募集」の件と明示願います。 ) 平成 20 年度「AQUA ルネッサンス神戸」製品・技術アイデア募集フォーム(締切:H20.7.10) タイトル 関係分野 (丸をつける、複数可、不 明のときは記載無くても可) ① 環境 ② エネルギー ③ ヒートアイランド緩和 ④ 健康・心身癒し ⑤ 美容・エステ ⑥ 飲用 ⑦ 都市景観 ⑦ 植物 ⑧ 環境教育 ⑨ 食料 ⑩ 食育 ⑪ 余暇 ⑫ その他( ) 概要 (カタログ、論文要旨等適宜添付ください) 以下のうち、 (需要発想段階・ 製品のアイデア段階 ・ 計画段階 ・ 商品化済 製品化等の段階 み ・販売実績あり) 特に販売実績等ある場合その内容 ( )年頃より、( ) 期待効果・水消費予想量 検討 (環境面・健康面・その他) ・ある程度の検討済 (注:詳細不明の場合は、 ・詳細は未検討であるが相当期待できる 予想期待値や単に「要検 ・詳細は未で検討しなければ効果の有無不明 討」等、わかる範囲で記 ・検討の要否自体不明 載ください。 ) 効果 ( 必要水消費予想量( ) 応募企業・研究機関 同提出担当者 (部門名・住所・電話・ e-mail 記載) 備考 (広報や本件情報の取扱 全般や報告書への採用に あたっての制約事項等) 特記事項 情報公開に制約 なし・あり( ) 付8 『AQUA ルネッサンス神戸』 水の有効利用につながる製品・技術アイデア募集の審査結果について 財団法人 新産業創造研究機構(NIRO) 水(上水)の有効利用につながる製品・技術およびそのアイデアを、募集しましたところ、 31 件の応募をいただきました。多数の応募ありがとうございました。 目的に沿う各方面の製品や、新たに開発中のアイデア等いただきましたが、審査委員会に おいて審査厳選いたし、以下の 5 件を優秀提案賞として表彰することになりましたのでお知 らせします。 (優秀提案賞記載は応募受付順) タイトル 応募者 ヒートアイランド対策 東洋紡スペシャルティズト 保冷パネル「アースキー レーディング㈱ パー®」 様 ・ 水の力で空気を洗う 三洋電機㈱ ・ サイフォンと毛細管現 明治大学大学院農学研究 象を利用した節水型壁 科 面緑化システム 辻永岳史様 溶岩で地球環境を救う 日本ナチュロック㈱ ・ ・ 竹本雅英 中林龍様 佐藤俊明様 ・ CO2削減・環境低負 大阪大学生活協同組合 荷型生活スタイルの 山本敬二様 追及~上水を利用し た天然ミネラル水飲 料精製自動販売機に 合わせた専用マイボ トルの利用 評価された点 吸水性・保水性に優れた材料 を開発し、ヒートアイランド 現象緩和に役立つパネルと して製品化した点 電解水の技術を用い、健康に 資する機能として空気清浄 機に搭載して製品化した点 壁面緑化における生育のム ラの解決と資源エネルギー 節約という観点で研究開発 を継続している点 都市景観の改善にも役立つ、 水の効果を利用した環境に やさしい製品 水道インフラを用い、徹底し た環境配慮を追及しつつ美 味しく健康な飲料提供とい うことで、まさに LOHAS な 生活スタイル追求に相応し い提案 付9 ホーム頁での公開 1)URL: http://www.niro.or.jp/n_prog_coordinate/aqua_renaissance01.html 2)内容の構成: ・事業の紹介 URL:http://www.niro.or.jp/n_prog_coordinate/aqua_renaissance01.html ・「AQUA ルネッサンス神戸検討委員会」の運営 URL:http://www.niro.or.jp/n_prog_coordinate/aqua_renaissance02.html ・アイデア募集(企業・研究所の部) URL:http://www.niro.or.jp/n_prog_coordinate/aqua_renaissance03.html ・報告書 URL:http://www.niro.or.jp/n_prog_coordinate/aqua_renaissance04.html