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第33回 ESRI-経済政策フォーラム
サブプライム問題と 世界経済の行方 2008年3月28日 慶応義塾大学商学部教授 日本経済研究センター理事長 深尾光洋 サブプライム問題の構造 低金利政策の持続で住宅への投資が増加 住宅価格の上昇が消費を拡大 好況の持続で貸倒リスクを過小に評価 金融機関も徐々に担保価値を重視した貸し 出しを増加 従来は住宅ローンが借りられなかった低所得 者向けのローンが拡大 2 カリフォルニア、フロリダ、ネバダなどで不 動産価格が大幅に上昇 米国地域別の住宅用不動産価格指数(2000年1月=100) 320 300 ロサンゼルス マイアミ デトロイト 280 ニューヨーク ダラス 米国総合 260 240 220 200 180 160 140 120 100 80 2000 2001 2002 注)S&Pケース・シラー指数。 2003 2004 2005 2006 2007 3 サブプライム貸し出しの実態(1) 典型的な貸出は20万ドル(2000万円)程度 過去数年内に債務返済の遅延があったり、最近の 所得の証明が出せない階層向け 大部分が当初の2~3年間は返済額が軽減され、そ の後は返済が2ー5割増加する設計 返済額の増加幅は市場金利連動方式のため、最近 の利下げで返済負担は軽減されたはず 貸出残高は1.3兆ドル程度 4 サブプライム貸し出しの実態(2) 貸し出しの相当部分が証券化されて転売 一部に職業、所得、返済能力などを偽った借り入れ があった 債務者には2年程度返済を続ければ、地価の上昇 と支払い履歴の改善で低い金利での借り換えが可 能になるという見込みもあった 連銀の引き締めで地価反落すると同時に返済負担 も上昇 返済負担の増加する貸し出しがまだ相当残ってい るため、実際の貸倒発生は今後も増加する見込み 5 住宅貸出証券化の仕組 チェック体制はあったが審査が次第に甘くなった サブプライム 住宅金融 ← ⇒ 銀行など ローン 会社 貸付 売却 ⇒ RMBS ⇒ ⇒ RMBS ⇒ ⇒ RMBS ⇒ ⇒ RMBS 証券化 投資銀行 など ⇒ CDO ⇒ CDO ⇒ CDO 証券化 投資 保証 モノライン CDO of CDO 機関投資家(投資銀行、ヘッジファンド、SIVなど) 6 証券化によりリスクが複雑化 RMBSのAAAとCDOのAAAは別物 サブプライムローン⇒RMBS サブプライムローン AAA(80) 債権 AA(5) A(6) BBB+(2) BBB(1) BBB-(1) BB(1) RMBS⇒CDO RMBS・その他のABS AAA(70) (大半がBB∼BBB+) AA(10) A(10) BBB(5) CDO⇒CDO of CDO CDO AAA(60) (大半がBBBトランシェ) AA(10) A(10) エクイティ(4) エクイティ(4) BBB(10) エクイティ(10) 注:上の図はゴールドマンサックス証券プレゼンテーション資料 多数の貸出債権をまとめ、そこからの元利返済金を受け取る権利に 優先・劣後関係を設定することで、高格付け債券を生み出した。一段 階目のRMBSに比較して二段階目のCDOのリスクは大きかった。 7 資産流動化証券の市況悪化 多数のRMBSをまとめたABX-HE指数が大幅に低下 AAA格債のCDSから作ったABX BBB格債のCDSから作ったABX 8 サブプライム問題の拡大 住宅ローン専門会社などがまず破綻 資産流動化していた金融機関に損失が拡大 シティグループなどが連結からはずした特別目的会社(SIV) を救済へ(母体行負担の住専処理に類似) 流動化証券の格下げで債券価格が下落し損失が発生 欧州系の金融機関も米国金融機関などへの貸出枠契約な どで損失をこうむる モノライン保険会社も仕組債の保証契約で損失発生 モノラインは300兆円近い元利金を2兆円の資本で保証 9 サブプライム問題の深刻さ 97-98年の日本ほど深刻ではない 日本は1995年からGDPデフレーターはマイ ナスで金利も0.5%弱まで低下 1997年の金融危機の時には金利引き下げ 余地がほとんど無し 97-98年のデフレ悪化で実質金利が上昇 量的緩和、円安誘導が必要となった 米国はCPIで2%台のインフレ 10 -4 2007:1 2006:1 2005:1 2004:1 2003:1 2002:1 2001:1 8 2000:1 1999:1 1998:1 1997:1 1996:1 1995:1 1994:1 1993:1 1992:1 1991:1 1990:1 1989:1 1988:1 1987:1 1986:1 1985:1 1984:1 1983:1 1982:1 1981:1 1980:1 日本は金融危機でデフレに GDPデフレーターは94年からマイナスに 10 コア消費者物価 コアコア消費者物価 GDP デ フ レ ー タ ー 6 4 2 0 -2 11 日本の金融危機と金融政策 90年代後半には金利引き下げ余地がなかった % 長短金利と名目成長率 10 名目長期金利 名目GDP成長率 5 0 名目短期金利 -5 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 暦年/四半期 01 02 03 04 05 06 07 12 米国はインフレ率がまだ高い 実質マイナス金利が実現可能 日本のような長期不況は避けられるのではないか 13 160 140 120 100 80 60 40 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 2006 2005 2004 2007 2006 2005 180 2003 200 2004 日本:6大都市住宅地価・名目GDP指数比率 1980年=100 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 1986 1985 1984 1983 1982 1981 1980 地価バブルの日米比較 米国:ケースシラー住宅価格・名目GDP指数比率 1987年=100 200 180 160 140 120 100 80 60 40 14 米国以外のリスク要因 中国のインフレの深刻化 表面上は8%台だが実質2桁インフレ 不動産や株式投資でヘッジできる層は少数 人民元切り上げではなく調整インフレを選んだ 英国、スペイン、イタリアなどでも不動産バブルは深 刻 EUの地価下落リスクは大きい ユーロ圏の不安定化につながる可能性 15 中国のインフレリスク 公表インフレ率は現実のインフレ率をかなり下回って いる可能性 16 食料品のインフレ率は非常に高く、農業資材や 一人当たり報酬の伸び率も高い 70 % 60 50 肉類と その加工品 野菜 穀物 40 30 20 10 衣類 0 -10 -20 1994 95 96 97 98 99 2000 01 暦年/月次 02 03 04 05 06 07 (直近:07年11月) 17 中国の資産価格インフレも深刻 (年次) 上海株式市場 深圳株式市場 60 98 99 2000 01 02 02 04 05 06 07 10,747 14,986 27,426 28,093 25,865 30,360 26,490 23,846 72,838 287,303 名目GDP比(%) 13% 17% 28% 26% 21% 22% 17% 13% 35% 116% 時価総額(億元) 8,975 12,220 21,575 16,325 13,416 13,198 11,639 9,979 18,994 名目GDP比(%) 11% 14% 22% 15% 11% 10% 7% 5% 9% 時価総額(億元) 56,694 23% % 50 不動産投資額 40 30 20 不動産価格 10 0 -10 2000 01 02 03 04 暦年/月次 05 06 07 (直近:07年11月) 18 日本の金融政策運営リスク(1) デフレ傾向が継続している 4 % 3 GDPギャップ・モデル6 GDPデフレーター変化率 2 1 0 -1 -2 -3 -4 -5 91 92 93 94 95 96 97 98 99 2000 暦年/四半期 01 02 03 04 05 06 07 19 金融政策運営のリスク(2) 米国金利低下で円高傾向が強まる 1ドル90円を越える円高もあり得る 円 80 名目円・ドル為替レート 購買力平価(企業物価指数) 130 180 ↑ 米ドル安 米ドル高 ↓ 230 購買力平価(GDPデフレーター) 280 330 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 20 結論 国内物価の低下傾向は続いている GDPギャップもゼロ付近でデフレからの脱却は不確 実 米国のサブプライムは日本の不良債権問題ほど深 刻ではないが、日本の輸出にはマイナス 中国はインフレ加速のリスクが高く、反動不況に陥 る可能性 欧州でも不動産価格は下落へ 海外景気や円相場次第では、再度日本がデフレに 陥るリスクに注意が必要 21