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地方銀行の資産運用の概況(2014 年度)

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地方銀行の資産運用の概況(2014 年度)
金融資本市場
2015 年 8 月 20 日 全 12 頁
地方銀行の資産運用の概況(2014 年度)
貸出金の残高増加・利回り低下が続く中、資金運用難が示唆される
金融調査部 研究員 菅谷幸一
[要約]

国内銀行の保有資産は増加傾向にあるものの、その内訳を見ると、異次元金融緩和以降、
貸出金や有価証券といったリスク性資産の増加よりも現金預け金の増加が目立ってい
る。国内銀行は、日銀の買いオペにより国債売却を進める一方、国債売却や預金等によ
り流入する資金の多くを現金預け金の形で積み上げている状況と言える。

国内銀行の貸出金は、近年、金融緩和やアベノミクスを追い風に、地方銀行が牽引する
形で増加傾向にあるものの、預金がそれを上回るペースで増加している。そのため、預
貸ギャップの拡大および預貸率の低下が継続しており、資金余剰の状態が続いている。

地方銀行の保有資産は 12 年連続で増加している。近年、現金預け金の保有比率が高ま
っているものの、国内銀行全体に比べると、貸出金や有価証券の比率が高い。また、証
券運用では、外国証券、株式のほか、その他有価証券(株式・債券・外国証券以外の有
価証券(投資信託や流動化商品等))の比率が高まっており、運用先の多様化が進んで
いるものと思われる。

地方銀行の貸出金は、他の業態を上回るペースで増加を続けている。これまでは、大・
中堅企業向け、個人向け、地方公共団体等向けが貸出金増加の中心となっていたが、直
近では、中小企業向けが最も増加に寄与した。しかし、構成比率を見ると、中小企業向
けが貸出金ポートフォリオの中心を占めているものの、比率は依然として低下基調にあ
る。中小企業向けの比率低下は、貸出金全体の収益性低下につながっている可能性が考
えられる。

資金利益は、貸出金利息の減少を主因に、4 年連続で減少している。厳しい競争状況や
超低金利環境を背景に、貸出業務の収益性低下に歯止めがかかっていない状況と言える。
一方、有価証券利息配当金の資金運用収益に占める割合が上昇しており、その存在感が
徐々に高まっている。
株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する
ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和
証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。
2 / 12
目次
1.国内銀行の資産運用状況 ..................................................... 3
(1)保有資産全体の動向 ..................................................... 3
(2)預金・貸出金の動向 ..................................................... 5
2.地方銀行の資産運用状況 ..................................................... 7
(1)保有資産全体の動向 ..................................................... 7
(2)貸出金の状況 ........................................................... 8
(3)資産運用の収益性の状況 ................................................ 10
3 / 12
1.国内銀行の資産運用状況
(1)保有資産全体の動向
~異次元金融緩和以降の慎重な証券運用の継続と目立つ現金預け金の積み上がり~
国内銀行の保有資産は増加傾向にあるものの、その内訳を見ると、異次元金融緩和以降、貸出
金や有価証券といったリスク性資産の増加よりも現金預け金の増加が目立っている。国内銀行
は、日銀の買いオペにより国債売却を進める一方、国債売却や預金等により流入する資金の多
くを現金預け金の形で積み上げている状況と言える。
国内銀行の保有資産残高は、ここ 10 年で概ね増加傾向にある(図表 1 参照)
。最近の動きに
注目すると、2013 年度から 2014 年度にかけて、貸出金の増加を上回るペースで現金預け金が増
加しており、資産ポートフォリオにおける現金預け金の比率が高まっている(図表 1、図表 2 参
照)
。
貸出金は、リーマン・ショック後の 2009-2010 年度には減少したものの、2011 年度から 4 年
連続で増加している。しかし、資産計に占める比率で見ると、貸出金の低下基調が続いており、
2000 年代半ばの 55%超から近年 50%を下回って推移している。一方、有価証券については、2008
年度以降、2013 年度を除いて増加しているものの、日銀の買いオペに応じた国債売却等により、
2012・2014 両年度の残高増加は小幅に留まった。有価証券の比率は、金融緩和前(2011 年度)
の 32.1%から直近では 25.6%に低下している。他方、現金預け金の比率は、2012 年度まで 3~
5%前後で推移していたが、2013 年度以降、大きく上昇に転じ、2014 年度には 14%弱に至った。
このように、資産構成については、近年、現金預け金が上昇している分、貸出金および有価
証券の占める比率がそれぞれ低下している状況である。
図表 1
60%
国内銀行の資産構成(比率、残高)
資産計(右軸)
貸出金
現金預け金
その他
有価証券
(兆円)
1,000
図表 2 国内銀行の資産残高の増減
(兆円)
現金預け金
有価証券
貸出金
その他
資産計
80
900
50%
800
700
40%
60
40
600
30%
500
20
400
20%
300
200
10%
0
-20
100
0%
0
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
-40
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
(出所)日本銀行「民間金融機関の資産・負債」より大和総研作成
4 / 12
国内銀行の有価証券ポートフォリオについては、特に異次元金融緩和以降、外国証券・株式
といったリスク性資産の比率が上昇している(図表 3 参照)。
有価証券残高の増減の推移を見ると、日銀による国債の買いオペにより、2012 年度から 3 年
連続で国債が減少している一方、円安や株高による時価上昇を受けて、外国証券および株式が
増加している(図表 4 参照)
。これにより、有価証券の構成比率では、国債がピーク時(2011 年
度)
の 61.6%から直近では 50%を下回る一方、外国証券は 2009 年度の 12.4%から直近 20.8%、
株式は 2011 年度の 6.6%から直近 10.6%と、それぞれ上昇を続けている。
図表 3
70%
国内銀行の有価証券構成(比率、残高)
有価証券計(右軸)
社債
その他有価証券
国債
株式
地方債
外国証券
60%
(兆円)
300
250
図表 4 国内銀行の有価証券残高の増減
(兆円)
40
国債
株式
有価証券計
地方債
外国証券
社債
その他有価証券
30
20
50%
200
40%
150
30%
100
20%
10
0
-10
-20
50
10%
0%
0
-30
-40
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
(年度)
(出所)日本銀行「民間金融機関の資産・負債」より大和総研作成
なお、国内銀行の証券運用について、有価証券残高の変動とともに、フロー(金融取引)の
動きを見ると、異次元金融緩和以降についても、依然として国内銀行が証券投資に対して慎重
な姿勢を保っていることが窺える(図表 5、図表 6 参照)。
直近 3 年のフローを見ると、国内銀行は、主に国債をはじめとする債券や外国証券の売却主
体となっている。また、株式のフローについては、アベノミクスの展開以前も国債や外国証券
に比べて特に目立った動きは見られなかったが、株価が大きく上昇に転じ始めた 2012 年以降に
ついてもその傾向に大きな変化は見られない。
これらのことから、特に 2012 年度および 2014 年度の国内銀行の有価証券残高の増加は、円
安や株高を受けての外国証券・株式の時価上昇による部分が大きかったと言え、金融緩和以降
も証券運用に対して慎重な姿勢を崩していない様子が窺える。
5 / 12
図表 5
国内銀行の有価証券の残高増減
国債
外国証券
(兆円)
50
地方債
その他
社債
有価証券計
図表 6 国内銀行の有価証券のフロー
株式
(兆円)
40
40
30
30
20
20
10
10
0
0
-10
-10
-20
-20
-30
-30
-40
国債
外国証券
地方債
その他
社債
有価証券計
株式
-50
-40
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
(年度)
(注)①「国債」は、国庫短期証券、国債・財融債の合計、②「社債」は、事業債、金融債、政府関係機関債、
居住者発行外債の合計、③「株式」は、株式、出資金の合計。
(出所)日本銀行「資金循環統計」より大和総研作成
(2)預金・貸出金の動向
~貸出金は地銀が牽引する形で増加傾向にある一方、預貸ギャップの拡大が継続中~
国内銀行の貸出金は、近年、金融緩和やアベノミクスを追い風に、地方銀行が牽引する形で増
加傾向にあるものの、預金がそれを上回るペースで増加している。そのため、預貸ギャップの
拡大および預貸率の低下が継続しており、資金余剰の状態が続いている。
国内銀行の貸出金は、リーマン・ショック後の 2 年にわたる減少を経て、2011 年度から増加
傾向にある(図表 7 参照)
。近年は、日銀の異次元金融緩和やアベノミクスを受けた景気回復が
貸出金増加の要因になっている可能性も考えられる。なお、預金が貸出金を上回るペースで増
加しており、預貸ギャップの拡大が継続している。
このような背景から、預貸率は低下傾向を辿っており、全国ベースでは 70%を下回って推移
している(図表 8 参照)
。ただし、預貸率を地域別に見ると、関東が 75%以上と相対的に高い水
準にある一方、中部は 55%を下回る水準で推移するなど、地域により差が生じていることが分
かる。
預貸ギャップの拡大および預貸率の低下が続いていることや、これらの現在の水準に鑑みれ
ば、国内全体として、資金余剰の状態に大きな変化が見られないと言える。この点から見ると、
未だ資金需要が本格的に回復していないことが示唆されよう。
6 / 12
図表 7
預金・貸出金と預貸ギャップ
図表 8 預貸率(地域別)
(兆円)
230
(兆円)
700
90%
85%
210
620
190
540
80%
75%
70%
170
460
150
380
130
300
65%
60%
55%
50%
2004
2006
2008
預金残高(右軸)
2010
(年度)
貸出金残高(右軸)
2012
2004
2014
2006
2008
全国計
北陸
中国
預貸ギャップ
2010
(年度)
北海道・東北
中部
四国
2012
2014
関東
近畿
九州・沖縄
(出所)日本銀行「都道府県別預金・現金・貸出金」より大和総研作成
次に、国内銀行の貸出金を業態別に見ると、地方銀行が他の業態を上回るペースで増加を続
けており、その存在感を高めている(図表 9、図表 10 参照)。
2004 年度には、
都市銀行と地方銀行との間で貸出金残高に約 44 兆円の差があったが、
その後、
都市銀行に伸び悩みの動きが見られた一方で地方銀行が継続的に増加した結果、直近の 2014 年
度には、地方銀行が都市銀行を上回るに至った。このような背景には、3 メガバンクを中心に都
市銀行が海外事業の拡大や総合的な金融サービスの展開等を加速させる一方で、地方銀行は貸
出事業を中心とする国内業務に注力せざるを得ない状況があると考えられる。
地方銀行にとって、経営体力やノウハウの不足などから、国際業務へのシフトは容易なこと
ではないと言える。また、投資信託や保険商品等の金融商品販売や証券子会社等による、リテ
ール金融の強化など、収益源の多様化を図っているものの、収益の大宗を貸出事業に依存する
収益構造となっている。したがって、概して言えば、収益を維持していく上で、また、現在の
超低金利環境に鑑みても、貸出金の増加が必要な状況にあると思われる。
図表 9 (業態別)貸出金残高の推移
(兆円)
図表 10 (業態別)貸出金残高の増減
(兆円)
200
460
180
450
160
440
430
140
(兆円)
20
15
10
420
120
410
100
400
80
5
0
390
60
380
40
370
20
360
0
350
2004
2006
国内銀行(右軸)
2008
2010
(年度)
都市銀行
地銀
2012
地銀Ⅱ
2014
その他国内銀行
-5
-10
-15
2004
2005
都市銀行
2006
地銀
2007
2008 2009 2010 2011 2012
(年度)
地銀Ⅱ
その他国内銀行
(注)国内店勘定。海外店勘定を除く。特別国際金融取引勘定(オフショア勘定)を含む。
(出所)日本銀行「預金・現金・貸出金」より大和総研作成
2013
2014
国内銀行
7 / 12
2.地方銀行の資産運用状況
(1)保有資産全体の動向
~現金預け金の増加が目立つが、リスク性資産の増加と運用先の多様化が着実に進む~
地方銀行の保有資産は 12 年連続で増加している。近年、現金預け金の保有比率が高まっている
ものの、国内銀行全体に比べると、貸出金や有価証券の比率が高い。また、証券運用では、外
国証券、株式のほか、その他有価証券(株式・債券・外国証券以外の有価証券(投資信託や流
動化商品等)
)の比率が高まっており、運用先の多様化が進んでいるものと思われる。
地方銀行の資産残高は、2003 年度から 12 年連続で増加している(図表 11 参照)
。資産の内訳
を見ると、貸出金が 2004 年度から 11 年連続、有価証券が 2009 年度から 6 年連続で増加してい
るほか、2012 年度以降は現金預け金の積み上がりが目立ち始めている(図表 12 参照)
。資産の
構成比率では、貸出金が 6 割強と過半を占めているものの低下傾向にあり、また有価証券は 3
割弱の水準で近年は横ばい推移している一方、現金預け金は 2011 年度の 3.7%から 2014 年度に
は 7.4%へと倍増した。
現金預け金の比率上昇は、資産の運用難を示唆していると考えられる。特に貸出金について
は、残高が増加傾向にある一方で比率低下が続いており、流入する資金の増加ペースを下回る
状況となっている。ただし、国内銀行全体に比べて、貸出金および有価証券の割合が高いこと
から、より積極的なリスクテイクを行っている可能性も考えられよう。
図表 11 地方銀行の資産構成(比率、残高)
70%
資産計(右軸)
貸出金
現金預け金
その他
有価証券
60%
(兆円)
300
250
50%
図表 12 地方銀行の資産残高の増減
(兆円)
現金預け金
有価証券
貸出金
その他
資産計
20
15
200
10
40%
150
30%
100
20%
10%
0%
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
5
50
0
0
-5
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
(出所)日本銀行「民間金融機関の資産・負債」より大和総研作成
次に、証券運用の動向を種類別に確認すると、異次元金融緩和以降、相対的にリスク性資産
(外国証券、株式等)の運用比率が高まっている様子が窺える(図表 13 参照)
。
2013 年度以降、国債残高の減少が見られ、日銀の買いオペに応じた国債の処分を行ったもの
と思われるが、もともと国内銀行全体に比べて保有比率が低いこともあり、その動きは相対的
に小さいと言える(図表 14 参照)
。一方、外国証券、株式、その他有価証券がともに 3 年連続
8 / 12
で増加しており、国債等に比べてよりリスク性資産の割合が着実に高まっている。具体的には、
国債が 2011 年度の 48.8%から 2014 年度には 41.4%へと低下したのをはじめ、債券(国債、地
方債、社債の合計)の比率が 84.0%から 72.3%へと低下した分、他の有価証券の割合が上昇し
た格好となっている。ただし、国内銀行全体に見られたように、これら残高の増加は、円安や
株価上昇を受けた時価上昇による部分も大きいと考えられる。なお、その他有価証券について
は、投資信託や流動化商品などが含まれるものであり、その残高増加は、運用先の多様化が進
んでいることの表れとも言えよう。
図表 13 地方銀行の有価証券構成(比率、残高)
50%
有価証券計(右軸)
社債
その他有価証券
国債
株式
地方債
外国証券
(兆円)
90
80
40%
図表 14 地方銀行の有価証券残高の増減
8
国債
株式
有価証券計
地方債
外国証券
社債
その他有価証券
6
70
60
30%
20%
4
50
2
40
0
30
-2
20
10%
10
0%
0
-4
-6
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
(年度)
(出所)日本銀行「民間金融機関の資産・負債」より大和総研作成
(2)貸出金の状況
~中小企業向けの残高増加ペースが直近で加速するものの、比率は依然低下基調にある~
地方銀行の貸出金は、他の業態を上回るペースで増加を続けている。これまでは、大・中堅企
業向け、個人向け、地方公共団体等向けが貸出金増加の中心となっていたが、直近では、中小
企業向けが最も増加に寄与した。しかし、構成比率を見ると、中小企業向けが貸出金ポートフ
ォリオの中心を占めているものの、比率は依然として低下基調にある。中小企業向けの比率低
下は、貸出金全体の収益性低下につながっている可能性が考えられる。
先述の通り、地方銀行の貸出金残高は、都市銀行や第二地方銀行を上回るペースで増加を続
けており、2014 年度には都市銀行を上回るなど、その存在感を高めている(図表 9 参照)
。
地方銀行の貸出金残高の推移を貸出先別に見ると、直近に至るまで、大・中堅企業向け、個
人向け、その他(地方公共団体等)向けが貸出金増加の中心となっていたことが分かる(図表
16 参照)
。一方、中小企業向けは、2009 年度以降、増加傾向にあり、2013 年度からはその増加
幅が拡大しており、2014 年度には貸出金全体の増加に対して最も寄与した。
しかし、構成比率で見ると、中小企業向けが貸出金ポートフォリオの中心を占めているもの
の低下基調にあり、2004 年度の 48.1%から 2014 年度には 40.3%へと低下している(図表 15 参
9 / 12
照)
。一方、大・中堅企業向けは、2004 年度の 16.3%から 2008 年度に 19.2%となって以降、19%
前後で横ばい推移しているほか、その他向けが上昇傾向にあり、2004 年度の 7.0%から 2014 年
度には 11.5%まで上昇した。
中小企業向け貸出は、他の貸出先に比べて、一般的に信用リスクや審査コスト等がより高い
と想定されるが、相応の金利の上乗せが期待され、通常、利回りはより高くなる。したがって、
中小企業向けの比率低下は、貸出金全体の利回りの低下につながっている可能性が考えられる。
図表 15 貸出先別貸出金(残高と比率)
図表 16 貸出先別貸出金の残高増減
(兆円) (兆円)
50%
180
8
45%
160
7
40%
140
6
120
5
35%
30%
100
25%
80
20%
60
15%
4
3
2
1
10%
40
5%
20
0%
0
2004
2006
貸出計(右軸)
個人向け
2008
(年度)
2010
中小企業向け
その他向け
2012
2014
0
-1
-2
大・中堅企業向け
2004
2005
2006
大・中堅企業向け
その他向け
2007
2008
2009
(年度)
2010
中小企業向け
貸出計(右軸)
2011
2012
2013
2014
個人向け
(注)国内店勘定。海外店勘定を除く。特別国際金融取引勘定(オフショア勘定)を含む。
(出所)日本銀行「預金・現金・貸出金」より大和総研作成
次に、地方銀行の貸出金の変化率と寄与度について、企業向けを業種別に細分して見ると、
特に 2009 年度以降、不動産業向けの寄与度が高いことが分かる(図表 17 参照)
。不動産業向け
は、担保を確保しやすいという点や中長期的なキャッシュフローの見通しが立ちやすいといっ
た点が貸出を容易にさせていると考えられるほか、上場 REIT 市場の拡大(数の増加、それによ
る流動性の向上)が手伝う形になっているものと思われる。なお、寄与度で見た場合には目立
たないものの、特に近年において、農林水産業、建設業、サービス業向けなど、増減率に改善
の兆しが表れている業種も複数見られる(図表 19 参照)。これは、当該各業種の資金需要が徐々
に高まっている可能性を示唆するものと言えよう。
一方、企業向けと地方公共団体向け・個人その他向け(以下、「地公体・個人その他向け」)
に大別して比較すると、過去 10 年のうち、多くの年度において、企業向けが地公体・個人その
他向けを寄与度で下回っている(図表 18 参照)
。しかし、2014 年度には、6 年ぶりに企業向け
が地公体・個人その他向けを上回るに至った。ただし、企業向けの大部分を不動産業向けが占
めていることには留意が必要である。
10 / 12
図表 17 貸出金の変化率と寄与度(詳細)
図表 18 貸出金の変化率と寄与度(大別)
5%
5%
4%
4%
3%
2%
3%
1%
2%
0%
-1%
1%
-2%
-3%
0%
-4%
-1%
-5%
2004
2005
2006
製造業
卸売,小売業
電気,ガス,水道業
合計
2007
2008
農林水産業
金融保険業
サービス業
2009
2010
(年度)
2011
2012
鉱業
不動産業
地方公共団体
2013
2014
2004
建設業
運輸通信業
個人その他
2005
2006
2007
企業向け
2008
2009 2010
(年度)
2011
2012
地公体・個人その他向け
2013
2014
合計
(注)国内店勘定。海外店勘定を除く。特別国際金融取引勘定(オフショア勘定)を含まない。
(出所)各行決算短信、有価証券報告書、ディスクロージャーより大和総研作成
図表 19 (地銀)貸出先別(業種別)貸出金の増減率
年度
貸出先
製造業
農林水産業
鉱業
建設業
卸売,小売業
企業向け
金融保険業
不動産業
運輸通信業
電気,ガス,水道業
サービス業
地方公共団体
非企業向け
個人その他
合計
2010
2011
-1.3%
-1.8%
-0.5%
-4.8%
0.5%
7.9%
5.6%
3.2%
6.9%
3.4%
9.0%
3.0%
3.0%
2.7%
0.0%
-14.4%
-3.1%
0.3%
0.7%
3.1%
6.6%
27.3%
-0.1%
5.6%
3.1%
2.7%
2012
1.2%
2.4%
7.7%
-3.7%
0.4%
8.8%
4.6%
1.7%
6.2%
-0.4%
8.8%
4.0%
3.3%
2013
-1.2%
3.4%
-14.6%
-1.9%
-0.3%
10.9%
3.9%
3.0%
11.4%
1.7%
5.2%
4.6%
3.1%
2014
20102015
-0.2%
5.5%
0.9%
0.9%
1.9%
3.6%
7.6%
3.2%
14.1%
2.9%
5.4%
4.2%
3.9%
期間平均 期間平均 期間平均
(3年)
(5年)
(10年)
-0.1%
0.2%
2.0%
3.7%
1.9%
-1.2%
-2.0%
-4.2%
-2.1%
-1.5%
-2.5%
-2.9%
0.6%
0.5%
0.3%
7.8%
6.4%
2.7%
5.4%
5.0%
7.6%
2.6%
3.5%
4.2%
10.6%
13.2%
10.1%
1.4%
1.5%
-1.6%
6.5%
6.8%
7.4%
4.3%
3.8%
3.3%
3.4%
3.2%
2.8%
(注)期間平均は、各年度の前年同期比増減率を期間に応じて単純平均したもの。
(出所)各行決算短信、有価証券報告書、ディスクロージャーより大和総研作成
(3)資産運用の収益性の状況
~貸出業務の収益性低下が続く中、証券運用による収益の存在感が徐々に高まる~
資金利益は、貸出金利息の減少を主因に、4 年連続で減少している。厳しい競争状況や超低金利
環境を背景に、貸出業務の収益性低下に歯止めがかかっていない状況と言える。一方、有価証
券利息配当金の資金運用収益に占める割合が上昇しており、その存在感が徐々に高まっている。
地方銀行の資金利益(=資金運用収益-資金調達費用)は、2011 年度より 4 年連続で減少し
ている(図表 20、図表 21 参照)
。その主な要因は、貸出金利息(収益項目)の減少である。先
述の通り、貸出金のボリュームは増加傾向にあるものの、利回り低下による減少分を補えてお
らず、2009 年度以降、6 年連続で貸出金利息の減少が続いている。
その他の収益項目では、直近 2 年間、景気・企業業績の回復等を背景とする、有価証券利息
配当金の増加が資金利益に対してプラス寄与している。特に 2014 年度には、貸出金利息の減少
11 / 12
をほぼ相殺する形となり、資金利益の減少は小幅にとどまった。有価証券利息配当金の資金運
用収益に占める割合を見ると、2009 年度の 19.8%から 2014 年度には 25.0%へと約 5%pt 上昇
(対照的に貸出利息金の割合が同程度低下)しており、その存在感が徐々に高まっている。
一方、費用項目では、金利低下等により 2008 年度以降続く預金利息の減少が資金利益に対し
てプラス寄与となっている。ただし、預金利息の減少によるプラス寄与は、最近にかけて大き
く低減しており、また、既に最低水準にある金利水準に鑑みれば、今後の増益要因としては期
待しづらいと言えよう。
図表 20 資金利益とその構成(地銀平均)
図表 21 資金利益の変化率と寄与度
(地銀平均)
(億円)
700
12%
600
500
0.3%
0.3%
2.2%
4%
400
300
0%
200
-4%
100
0
-1.2%
-0.4%
-0.5%
-1.8%
-1.4%
-0.1%
-8%
-100
-200
※数字は資金利益の変化率
0.0%
8%
-2.7%
※費用項目をマイナス表記としている
-12%
2004
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
貸出金利息
有価証券利息配当金
その他資金運用収益
預金利息(譲渡性預金利息含む)
借用金利息
社債利息
資金利益
その他資金調達費用
2005
2006
2007
2008
貸出金利息
その他資金運用収益
借用金利息
その他資金調達費用
2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
有価証券利息配当金
預金利息(譲渡性預金利息含む)
社債利息
資金利益の変化率
(注)各項目の数値は単純平均値
(注)変化率と寄与度は、資金利益とその内訳の単純
平均値を用いて算出
(出所)各行決算短信、有価証券報告書より大和総研作成
図表 22
資金運用収益とその構成(地銀平均)
100%
90%
20.7%
23.6%
24.2%
21.9%
74.1%
73.1%
74.4%
20.2%
19.8%
21.1%
21.5%
21.6%
23.5%
25.0%
77.2%
79.0%
77.7%
77.1%
77.3%
75.3%
73.6%
80%
70%
60%
50%
40%
77.9%
30%
20%
10%
0%
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
(年度)
貸出金利息
有価証券利息配当金
その他資金運用収益
(注)構成比率は、資金運用収益とその内訳の単純平均値を用いて算出
(出所)各行決算短信、有価証券報告書より大和総研作成
次に、地方銀行の貸出業務に関して、預貸金利鞘の推移からその収益性を確認すると、収益
性の低下に歯止めがかかっていない状況が窺える(図表 23 参照)
。
預貸金利鞘を構成要素別に見ると、特に金融危機後の金利低下を背景に、貸出金利回り・預
金利回りともに低下しているが、前者(貸出金利回り)の低下幅がより大きく、利鞘が縮小し
12 / 12
ている状況である。銀行間の競争激化が貸出金利回りの低下・利鞘の縮小に拍車をかけている
ものと思われ、負の循環に陥っている可能性が考えられる。
預貸金利鞘の推移を地方別に見ると、10 年前に比較して、関東の落ち込みが特に大きく、2004
年度の 0.86%から 2014 年度には 0.30%と 0.56%pt 縮小した(図表 24 参照)
。また、都道府県
別では、東京、神奈川、埼玉、大阪などの 8 都府県で 0.5%pt 以上の縮小となった。貸出競争
が特に激しいと思われる大都市圏での利鞘の縮小が顕著に表れていると言えよう。
図表 23 地銀の貸出金利鞘(要素別)
図表 24 地銀の預貸金利鞘(地方別)
0.9%
2.5%
2.0%
北海道・東北
中部
四国
0.8%
関東
近畿
九州・沖縄
北陸
中国
全国
1.5%
0.7%
1.0%
0.5%
0.6%
0.0%
0.5%
-0.5%
0.4%
-1.0%
-1.5%
※預金利回り、預金経費率はマイナス表記としている
-2.0%
2004
2006
2008
2010
2012
2014
預金利回り
0.2%
2004
(年度)
貸出金利回り
0.3%
預金経費率
預貸金利鞘
2006
2008
2010
2012
2014
(年度)
(注)貸出金利鞘=貸出金利回り-預金原価(預金利 (注)預貸金利鞘を本店が所在する地方別に単純平均
したもの
回りと預金経費率)
(出所)各行決算短信、有価証券報告書、ディスクロージャーより大和総研作成
今後も、潜在的に弱い資金需要や緩和的な金融環境に鑑みれば、当面の間、趨勢としての貸
出金利回りの上昇は見込みづらいと言える。さらに、貸出金の量的拡大に向けた金利競争が続
けば、地方銀行同士による消耗戦の様相が強まり、業界全体の体力が削がれていく可能性も考
えられる。この場合、特に経営体力の小さい銀行ほど、劣勢に立たされていくことになろう。
貸出業務の収益性低下が続く中で、証券運用の高度化・体制強化を図る取組みや、リテール
金融の強化、または地方銀行間の連携強化・経営統合などの動きが顕在化している。これらの
取組みは、今後さらに広まっていく可能性も考えられる。
地方銀行の収益力拡大には、このような収益源の多様化や、規模の拡大・効率性の向上に向
けた経営努力が重要になるとも言えるが、何よりも貸出能力の向上が欠かせないと思われる。
特に、目利きによる企業の事業性評価を重視した貸出の拡大や、長期的・安定的な取引関係の
構築やコンサルティング機能の発揮といった付加価値の提供により、金利競争からの脱却を図
る取組みが求められると言えよう。
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