柑橘のリモノイド

マニュアル参考様式 Ver.1
食品中の健康機能性成分の分析法マニュアル
平 成 22年 3月 作 成
四国地域イノベーション創出協議会
地 域 食 品 ･健 康 分 科 会 編
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柑橘のリモノイド
作成者：愛媛県産業技術研究所
食品産業技術センター主任研究員
大野一仁
１ .柑 橘 に つ い て
１．１ 概要
四 国 は 全 国 有 数 の 柑 橘 生 産 地 域 で あ る 。柑 橘 栽 培 に 適 し た 温 暖 な 気 候 風 土 を 背 景 に 、
多種類の柑橘が栽培されている。
愛 媛 県 に お い て は 、温 州 ミ カ ン が 戦 後 特 に 昭 和 30 年 代 ～ 40 年 代 に か け て 需 要 の 拡 大
に 適 応 し て 、栽 培 面 積・生 産 量 が 急 増 し 、昭 和 43 年 に は 、全 国 １ 位 の 生 産 量 を 誇 っ た 。
その後、需要の低迷もあり生産量は減少したが、現在でも和歌山についで全国２位の
生 産 量 を 有 し て い る 。 そ の 他 、 イ ヨ カ ン （ 全 国 1 位 ）、 夏 ミ カ ン （ 全 国 2 位 ）、 ハ ッ サ
ク （ 全 国 ３ 位 ）、 ネ ー ブ ル （ 全 国 4 位 ）、 ポ ン カ ン 、 清 見 、 不 知 火 、 河 内 晩 柑 等 種 々 の
柑橘が生産されている。また、徳島県ではスダチ（全国 1 位）、高知県ではユズ（全
国 1 位）が、それぞれ地域の重要な特産果実となっている。
これらの柑橘は生果として販売されているだけではなく、加工品としても利用され
て い る 。地 元 の 加 工 業 者 が 、特 産 柑 橘 類 を 原 料 と し た 果 汁 、シ ラ ッ プ 漬 、果 皮 加 工 品 、
菓子素材、ジャム類等多品種の加工品を製造している。これまでは、製品の品質（外
観や食味、香りがよいこと、つまり、収穫直後の生果実に近い高品質の製品開発）に
力が注がれてきた。しかし、消費者の健康志向を背景に、柑橘類に含まれている健康
維持成分（β－クリプトキサンチン、ノビレチンやヘスペリジン等）の機能性や作用
機構が解明され、これらの成分を生かした商品が開発されるようになり、柑橘加工品
製造業者も柑橘の機能性成分を生かした商品作りへの関心が高まってきている。
１．２ 食品あるいは含有成分の機能性
柑橘には、フラボノイドやリモノイドをはじめとして特有の成分が含まれている。
リモノイドは、ミカン科とセンダン科の植物に存在するトリテルペン誘導体の総称
で、リモニン、ノミリン、ノミリン酸、イチャンギンが苦味を持っている。このうち
柑橘加工にとって問題となっているのは、リモニンとノミリンで他のリモノイドは成
熟 果 実 に お け る 含 量 が 低 い た め ほ と ん ど 問 題 に は な ら な い 。リ モ ノ イ ド の 苦 味 閾 値 は 7
～ 12ppmと さ れ て い る 。低 い 濃 度 で 苦 味 を 呈 す る こ と か ら 、こ れ ま で リ モ ノ イ ド 含 量 の
低い原料の使用や成分の除去、苦味緩和について様々な研究がなされている。
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このように、リモノイドは加工分野では、好ましくないものであったが、機能性に
関する研究の進展から、発ガン予防効果、解毒酵素の活性化、高コレステロールの抑
制効果、中性脂肪の抑制効果等が認められその利用が注目されている。
最近の研究で、柑橘の成熟後期にラクトンの水酸基にグルコースが結合したリモノ
イド配糖体（リモノイドグルコシド）に変化し苦味を呈さない物質になることが分か
ってきた。この配糖体にリモノイドと同様の機能性が期待できることから、リモノイ
ド、リモノイド配糖体の食品への利用研究が進められている。
さらに、リモノイドには昆虫に対する摂食阻害作用があることもわかり、食品以外
の新たな分野への応用も期待されている。
１．２．１ リモノイドを含む食品
リ モ ノ イ ド は ほ と ん ど す べ て の 柑 橘 に 含 ま れ て お り 、果 皮 で は 、レ モ ン 、イ ヨ カ ン 、
ラ イ ム 、グ レ ー プ フ ル ー ツ で 含 量 高 く 、レ モ ン で 500ppm、イ ヨ カ ン で も 400ppm 以 上 に
なることもある。
果 肉 に つ い て は 、 イ ヨ カ ン で 30～ 50ppm、 レ モ ン で 30～ 70ppm、 ネ ー ブ ル で 10 以 下
～ 40ppm、 ハ ッ サ ク で 40～ 50ppm 含 有 さ れ て お り 、 品 種 に よ る ば ら つ き も 大 き い 。
＜引用・参考文献＞
1.長 谷 川 信 ， 伊 福
372-380(1994).
靖 ： カ ン キ ツ リ モ ノ イ ド の 生 化 学 ， 日 食 工 誌 ， 41，
写真１－１
リモノイドが含まれているイヨカン
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２．リモノイドについての説明
柑 橘 特 有 の 苦 味 成 分 で あ る リ モ ノ イ ド 類 （ Limonoids ） に は 、 主 と し て リ モ ニ ン
（ Limonin） と 、 ノ ミ リ ン （ Nomilin） が 含 ま れ て い る 。
これらリモノイド含量の把握は、柑橘の品質評価や、果汁、ジャム類等の加工におい
ては欠かせない重要な要素になっている。その含量は、品種・系統や生育環境等によ
って差がある。
リモニン
ノミリン
図２－１
リノイドの構造式
３. 定量分析の方法について
柑橘類及びその加工品中の２種類のリモノイド（リモニン、ノミリン）を、同時に
高速液体クロマトグラフィーにより定量する方法を述べる。
３．１ 準備する器具など
1.ホ モ ジ ナ イ ザ ー
2.三 角 フ ラ ス コ
3.分 液 ロ ー ト
4.ナ ス 型 フ ラ ス コ
5.エ バ ポ レ ー タ ー
6.試 料 濾 過 用 メ ン ブ ラ ン フ ィ ル タ ー (親 水 性 テ フ ロ ン 膜 を 使 用 し た も の 、ポ ア サ イ
ズ O.20μ m、 25mm 径 ： Ｄ Ｉ Ｓ Ｍ Ｉ Ｃ 、 25HP020AN、 ｱﾄﾞﾊﾞﾝﾃｯｸ社 製 )
7.高 速 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ シ ス テ ム 紫 外 検 出 器 、 カ ラ ム 恒 温 槽 (40℃ が 保 て る も
の )が 必 須
8.C18 逆 相 カ ラ ム (Deverosil ODS-7(7μ m)、 4.6×250mm、 野 村 科 学 ㈱ 製 )
[試 薬 ]
1.ア セ ト ニ ト リ ル (HPLC 用 )
2.硫 酸 マ グ ネ シ ウ ム （ 試 薬 特 級 ）
3.Ｂ Ｈ Ａ （ 試 薬 特 級 ）
4.ク ロ ロ ホ ル ム （ 試 薬 特 級 ）
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5.ヘ キ サ ン （ 試 薬 特 級 ）
6.ア セ ト ン （ 試 薬 特 級 ）
7.エ タ ノ ー ル （ 試 薬 特 級 ）
8.リ モ ニ ン 、 ノ ミ リ ン 標 品
リ モ ノ イ ド（ リ モ ニ ン 、ノ ミ リ ン ）の 標 品 原 液 は 、各 々 10mg/10ml の 濃 度 に な る よ う
に 精 秤 し て 80%メ タ ノ ー ル で 溶 解 す る 。 こ こ の 原 液 を メ タ ノ ー ル で 希 釈 し て 、
50mg/1000ml、 100 mg/1000ml、 200 mg/1000ml の 標 品 溶 液 を 調 製 し 、 テ フ ロ ン パ ッ キ ン
内 装 ネ ジ 付 き 褐 色 サ ン プ ル ビ ン に 入 れ 、 － 20℃ 以 下 で 冷 凍 保 存 す る 。
３．２ 分析用試料の前処理・調製方法
（１）果汁試料の調製
1.果 汁 50g に 硫 酸 マ グ ネ シ ウ ム 2g、 2%Ｂ Ｈ Ａ ア ル コ ー ル 液 1ml を 加 え て 混 和 後 、 10
分間蒸煮する。
2.冷 却 後 、 ク ロ ロ ホ ル ム 25ml で ３ 回 抽 出 す る 。
3.抽 出 液 を 減 圧 下 に 乾 固 後 、ア セ ト ニ ト リ ル に 転 溶 し て 同 容 の ヘ キ サ ン と 分 配 す る 。
4.ア セ ト ニ ト リ ル 層 を 分 け 取 り 、 ヘ キ サ ン 層 は 少 量 の ア セ ト ニ ト リ ル で 洗 い 、 先 の
アセトニトリルと合わせて減圧乾固する。
5.こ れ に ア セ ト ニ ト リ ル 2ml を 加 え て 溶 解 し 、 検 液 と し て -20℃ 以 下 で 保 存 す る 。
（２）果皮、じょうのう膜試料の調製
1.細 切 り し た も の 30g を と り 、超 純 粋 水 120g と 共 に ホ モ ジ ナ イ ザ ー に か け 2 分 間 処
理する。
2.の 三 角 フ ラ ス コ （ 200ml） に 磨 砕 物 25g を と り 、 2%Ｂ Ｈ Ａ ア ル コ ー ル 液 2ml、 1%ク
エ ン 酸 5ml を 加 え 10 分 間 蒸 煮 し 、 冷 却 後 ア セ ト ン 75ml を 加 え る 。
3.ゆ る や か に 沸 騰 程 度 に 加 熱 し て リ モ ノ イ ド を 抽 出 す る 。
4.冷 却 後 、 ガ ラ ス フ ィ ル タ ー で 吸 引 濾 過 し 、 75%ア セ ト ン で 残 部 を 洗 浄 す る 。
5.ア セ ト ン 液 を 減 圧 で 濃 縮 後 、 ク ロ ロ ホ ル ム と 水 で 分 液 ロ ー ト に 移 し 、 ク ロ ロ ホ ル
ム層に転溶する。
6.ク ロ ロ ホ ル ム 層 を 集 め て 、 以 下 、 果 汁 の 場 合 に し た が っ て 処 理 す る 。
（ ３ ） 果 肉 (さ じ ょ う )試 料 の 調 製
1.果 肉 25g を ホ モ ジ ナ イ ザ ー で 磨 砕 し た の ち 、2%Ｂ Ｈ Ａ ア ル コ ー ル 液 2ml、硫 酸 マ グ
ネ シ ウ ム 3g を 加 え て 10 分 間 蒸 煮 す る 。
2.以 後 は 、 果 皮 、 じ ょ う の う 膜 と 同 様 に 処 理 す る 。
３ ． ３ HPLC に よ る 分 析 方 法
（１）移動相の調製
移 動 相 は 、 蒸 留 水 (超 純 水 )： ア セ ト ニ ト リ ル を 、 50： 50 の 割 合 （ 容 量 ） で 混 合 し
て調製する。
（２）分析条件
検出器、恒温槽、溶媒の流量等の条件は以下の通りとする。
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検 出 波 長 :210 nm
恒 温 槽 :40℃
移 動 相 流 量 :1.0ml／ min
試 料 注 入 量 ： 10μ ｌ
（３）定性及び定量
① 分離された物質の定性は保持時間により行う。
② 定量は標準試料を用いた、内標を用いない絶対検量線法による。通常はクロマ
トグラムの面積から計算するが、微量物質の場合はピーク高を用いる方が精度
良く定量出来る場合もあるので、計算に用いる装置の特性に注意を払って選択
することが必要である。
４．分析例
４．１ 分析例と定量分析結果
分 離 さ れ た 物 質 は 保 持 時 間 か ら (標 準 物 質 と 比 べ )特 定 す る 。 定 量 に は 標 準 試 料 を 用
い、クロマトグラムのピーク面積から濃度を算出する。以下に典型的なクロマトグラ
フを図に示す。
図４．１
イヨカン果皮のクロマトグラフ
リモニン
ノミリン
図４．１－１
イヨカン果皮のクロマトグラフ
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５．食品の分析結果例
上記手法を用いて、柑橘類及びその果汁中のリモノイドの定量分析を行った。その
結果を下記表に示す。
イヨカン果実の部位別含量では、果皮とじょうのう膜での含量が高く、さじょうで
低 い 結 果 で あ っ た 。今 回 は 貯 蔵 果 実 を 分 析 し た た め 、収 穫 直 後 よ り も 低 い 傾 向 に あ り 、
特にノミリンでその傾向が明らかであった。
酸 、 糖 を 含 む 系 に お け る リ モ ノ イ ド の 苦 味 閾 値 は 7～ 12ppm と さ れ て い る 。 分 析 し
た果汁では、清見、ユズで閾値よりも高い含量で苦味を感じた。
リ モ ノ イ ド の 水 溶 液 で の 苦 味 閾 値 （ 官 能 検 査 パ ネ ル 50%が 関 知 す る 濃 度 ） は 、 リ モ
ニ ン で 0.8～ 1.2ppm、 ノ ミ リ ン で 1.3～ 1.6ppm で あ る こ と か ら 、 イ ヨ カ ン の 果 皮 や じ
ょうのう膜では、非常に高いリモノイド含量を有していることから、マーマレレード
やピール糖果等の加工においては、脱苦味のためにブランチングや水晒が行われてい
る。
表５－１
供
試
柑橘類及び果汁の定量結果
品
リモニン
ノミリン
（ ppm）
（ ppm）
貯蔵イヨカン果皮
１９０
貯蔵イヨカンじょうのう膜
１７０
８．０
１１
０．０
貯蔵イヨカンさじょう
１１
温州ミカン果汁
５．７
０．３
温州ミカン果汁
５．３
０．１
温州ミカン果汁
５．０
１．３
清見果汁
２２
２．５
ユズ果汁
１５
４．９
スダチ果汁
１０
９．１
（＊注意）なおこの測定結果は数多くの柑橘及び加工品のうちの一例であり、製品一般の
分析結果ではない。
６．分析上の留意、注意点
標 準 品 及 び 分 析 用 試 料 は 、 褐 色 ビ ン に 入 れ て － 20℃ 以 下 で 冷 凍 貯 蔵 す る こ と が 望 ま
しい。
７．その他
特になし。
８．定量法に関する引用・参考文献
1.前 田 久 夫 ， 尾 崎 嘉 彦 ， 三 宅 正 起 ， 伊 福 靖 ， 長 谷 川 信：農 化 ，64，1231-1234(1990)．
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2.Hideaki Ohta,Chi H.Fong,Mark Berhow and Shin Hasegawa ： Thin-layer and
high-performance liquid chromatographicanalyses of limonoids and limonoid
glucosides in Citrus seeds ，No.39 2001 J.Chromatogr.，639，295-302(1993)．
3.野 村 男 次 、 三 東 崇 昇 ： 山 口 大 学 農 学 部 学 術 報 告 、 16、 635-640(1965).
4.Maire,V.P and Grant, E.R.： J. Food Chem., 18, 250-252(1970)．
5.三 沢 豊 、 松 原 良 、 土 井 信 明 ： 日 食 工 誌 、 18、 326-332(1971)．
6.橋 永 文 男 、 江 島 宏 、 永 浜 秀 人 、 以 東 三 郎 ： 鹿 児 島 大 学 農 学 部 学 術 報 告 、 27、
171-180(1977)．
―以上―
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