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ある自閉症スペクトラム障害児のパーソナルナラティブの変容

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ある自閉症スペクトラム障害児のパーソナルナラティブの変容
教育ネットワークセンター年報, 2012, 12, 59-70(事例研究論文)
ある自閉症スペクトラム障害児のパーソナルナラティブの変容
― グループワークにおける共同構成(co-construction)による変容に着目して ―
李 熙馥・田中 真理
東北 大学 大 学院 教 育学 研究 科
要約
自 分の 経験を 振り返 り、意 味づけ るパ ーソナ ルナ ラティ ブ( Personal Narrative、
以下PN)は、子どもの自己 の形成や他者理解を 促す機能をもつ。自己の形成や他者理
解 の 発達 は自 閉症 スペ クト ラ ム障 害児 ( Autism Spectrum Disorder、 以下 ASD) に
おいても重要な課題であり、ASD児のPNの発達 を促す支援に関する検討が求められて
い る。本 研究で はある ASD児 (以下 R児 )を対 象に 、PNの支 援とし て活動 を共に し た
ス タ ッ フと 視 覚的 手が か りを 用 いた 共 同構 成 を行 い 、 R児の PNの 変容について検討を
行った。結果、R児は自分の経験をまとまりのあるものとし てとら えはじめ 、他者へ注
目 す る 言 及 や、 聞 き 手に 伝 え よう と す る 行為 がみ ら れた。この結果から、R児のPNの
変容における視覚的手がかりを用いた共同構成の支援の有効性は示されたと考えられる 。
キー ワー ド :自 閉 症ス ペク ト ラム 障害
視覚 的手 が かり
パー ソ ナル ナラ テ ィブ
共同 構成
変容
Ⅰ . はじ め に
人 は自 分 が経 験 した あら ゆ る出 来事 に つい て 家族 や友 人 など に 語る こと で 、そ の経
験を 整理 し たり 、 意味 づけ た りす る。 人 は自 分 の経 験を 理 解す る 際に 、物 語 (ナ ラテ
ィ ブ 、 Narrative) で 理 解 す る と い う ( Bruner,1986) 。 こ れ は パ ー ソ ナ ル ナ ラ テ ィ
ブ(Personal Narrative、 以下 PN)と して と ら えら れて い る。
PN は 子 ど も の 発 達 に お い て 重 要 な 機 能 を も つ 。 一 つ は 自 己 の 形 成 で あ る
( Fivush,1994; 岩 田 、 2001) 。 岩 田 ( 2001) は 、 4歳 ご ろ に な る と 時 系 列 的 に 継 起
す る 自 己 1、 自 己 2、 自 己 3・ ・ ・ の 経 験 を 時 間 的 因 果 的 に 関 連 づ け る よ う に な り 、 自
分の 経験 を 連続 し 一貫 した も のと して 意 味づ け てい くこ と で、 < わた し> の アイ デン
ティ ティ を 形作 っ てい くと 述 べて いる 。 もう 一 つは 、他 者 に関 す る理 解が 促 され るこ
とで あ る( 岩 田 、2001;Welch-Ross,1997) 。 自分 が 経験 し た 出来 事 には 他 者の 存 在
が必 ず含 ま れ、 経 験を 理解 す るた めに は 、自 分 と他 者の 言 動や 関 係を とら え る必 要が
ある 。つ ま り、 他 者の 言動 や そこ に含 ま れて い た様 々な 意 図や 気 持ち につ い て考 える
よ う に な り 、 他 者 の 心 的 情 動 的 状 態 を 理 解 す る こ と へ つ な が る 。 実 際 に PNと 他 者 の
心的 情動 的 状態 を 理解 でき る か否 かを 問 う「 心 の理 論」 課 題の 成 績と の正 の 相関 が認
教育ネットワークセンター年報 第12号
めら れて い る(Dunn,Brown,Slomkowski,Tesla,&Youngblade,1991) 。
こ のよ う な自 己 の形 成や 他 者の 理解 に 関す る 発達 を促 す 支援 は 、対 人的 相 互反 応に
質 的 障害 を 有 す る 自 閉 症ス ペ ク ト ラ ム 障害 ( Autism Spectrum Disorder、 以 下ASD)
児に おい て 重要 で ある 。自 己 の形 成と 他 者に 関 する 理解 は 密接 な 関係 があ り 、滝 吉・
田 中 ( 2011 ) は 自 分 と い う も の は 他 者 と の 関 係 か ら 形 成 さ れ る こ と を 述 べ 、 ASD
児・ 者は 他 者と の 一方 的な 関 係性 の中 で 自己 を 理解 して い るこ と を明 らか に して いる
(例 :「 自 分は 元 気な 人。 お 父さ んか ら そう 言 われ るか ら 」「 自 分は 元気 な 人。 自分
か ら 人 に 話 し か け る か ら 」 ) 。 こ れ ら の 特 性 を 有 す る ASD 児 に お い て 上 述 し た 機 能
を も つ PNは ASD児 の 自 分 と 他 者 と の 関 係 の 中 で 他 者 を 理 解 し 、 自 分 を 理 解 す る こ と
を促 すこ と につ な がる と考 え られ る。
ま た、 友 人関 係 など 対人 関 係の トラ ブ ルを 経 験す るこ と が多 く 、い じめ の 対象 にな
り や す い ASD児 ( 飯 田 、 2004) に と っ て 、 日 常 の 出 来 事 に 注 目 す る PNを 通 し て 日 常
生活 での ト ラブ ル を振 り返 り 、意 味づ け てい く (例 :自 分 とい つ も一 緒に 登 下校 して
い た Aが 、 あ る 日 Bと 学 校 に 行 く 様 子 を み て 、 仲 間 は ず れ に さ れ た と 思 い 込 ん だ が 、
Aに は 転 校 し て き た Bに 学 校 へ の 近 道 を 教 え る 意 図 が あ っ た と い う こ と に つ い て 理 解
する など ) こと で 、ト ラブ ル の解 決が 促 され 、 円滑 な対 人 関係 を 支援 する こ とに もつ
なが ると 考 えら れ る。
で は ASD児 の PNに は ど の よ う に 特 性 が み ら れ る だ ろ う か 。 ナ ラ テ ィ ブ に は 出 来 事
をど のよ う に組 織 化す るの か に関 する 構 成の 側 面と 、聞 き 手に ど のよ うに 伝 える のか
に 関 す る 行為 の 側 面 が 存 在 す る ( 能 智、 2006; 李 ・ 田 中 、2011) 。PNの 構 成 の 側面
に お い て ASD児 は 出来 事を因 果関 係の中 から とら えず に行動 を羅 列した り時 間的 な 関
連 を 示さ な い 言 及 を 多く す る こ と (仲 野 ・ 長 崎 、2006;Goldman,2008)、 心 的 情 動
的状 態な ど の評 価 を行 うこ と が少 なく 、 家族 や 友達 との 話 題よ り パソ コン に 関す る話
題 が 多 い ( Losh&Capps,2003) こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 ま た 李 ・ 田 中 ( 未 公 刊 ) に
よる と一 貫 した 視 点か ら自 分 の経 験を と らえ る こと の少 な さや 、 自分 と他 者 との 関係
をと らえ た り、 意 味づ ける 言 及が 少な い こと を 明ら かに し てい る 。こ れら の 結果 から 、
ASD 児 は 自 分 の 経 験 を 一 つ の ま と ま り の あ る も の と し て と ら え て い な い こ と や 、 自
分の 経験 に おけ る 自分 や他 者 の状 態に つ いて あ まり 注目 し てい な いこ とが 考 えら れる 。
こ の よう な 特性に対してASD児のPNの発達を支援する検討が行われている。PNは2
歳 半∼ 3歳 頃から みら れるよ うにな り( Fivush,1991;1994) 、 3歳半 頃にな ると「 ∼ が
あった(∼をやった)」のような2つ以上の出来事について語るようになり、4歳から
は出来事を時系列に報告し、5歳からは因果関係から出来事をとらえることができると
いう。そして6歳以降になるとある出来事を時系列や因果関係からとらえ、自分などの
心 的 情 動的 状態 に 注目 す るこ と でそ の出 来 事を評 価 す るこ とが で きる よ うに な る( 仲
野ら、2006;長崎、2007)。こ れら は構成の側面におけるPNの発達であり、行為の側
−60−
ある自閉症スペクトラム障害児のパーソナルナラティブの変容
面におけるPNの発達としては、4歳頃から、聞き手が何を知っていて何を知らないのか
の聞き手の知識状態を考慮して語ることができるようになるという(長崎、2007)。
こ の よ う な PNの 発 達 を 促 す 要 因 と し て 、 一 緒 に 経 験 を し た 親 な ど の 大 人 と そ の 経
験 に つ い て 振 り 返 り な が ら 構 成 し て い く 共 同 構 成 ( co-Construction) が 有 効 で あ る
こ と が 多 く 報 告 さ れ て い る ( Fivush,1991;1994;Welch-Ross,1997等 ) 。 例 え ば 、 共
同構 成に お いて 親 など の大 人 が心 的情 動 的状 態 によ り注 目 する か かわ りを す ると 、子
ど も の PNに お い て も 心 的 情 動 的 状 態 に 関 す る 言 及 が 多 く な る こ と が 報 告 さ れ て お り
( Fivush,1994) 、 親 や 養 育 者 の か か わ り の 重 要 性 が 示 唆 さ れ て い る 。 こ れ は 、 ASD
児 の PNの 発 達を 促 す 際に も 有 効で あ る と考 え られ る 。 ASD児 にお け る PNの 支 援 を 検
討 した 研究は 少な いが、 共同 構成に 着目 したと みら れる 松本・ 長崎 ( 2008)は、 時 系
列 や 因 果 関 係 か らPNを 構 成 す るこ と に 重 点を おき 、 教 師 と の 会 話を 通 し て PNを構 成
していく支援を行った結果、子ど ものPNに変容 がみられたと報告している。しか し、
ASD児のPNの発達を促すためには、共同構成のみでは不十分であると考えられる。な
ぜ な ら 、 自 分 の 経 験 を PNと し て 構 成 す る た め に は 、 す で に 終 わ っ た 経 験 を 対 象 化 し
て 、 自 分 の 出 来 事 を 第 3者 の 目 か ら 振 り 返 る こ と が 必 要 で あ る 。 し か し 、 ASD児 は 上
述 し た よう に自 分 の経 験 を一 つ のま とま り のある も の とし てと ら えて い ない こ とや 、
自 分 や 他者 の状 態 にあ ま り注 目 しな い特 性 から、 そ の 背景 には 自 分の 経 験を 対 象化 し
て と らえ るこ と の弱 さが 考え ら れる 。こ の点 から 、 ASD児 に おけ る共 同構 成 によ る支
援 に お いて は、 自 分の 経 験を 対 象化 する こ とを促 す 工 夫が 欠か せ ない と 考え ら れる 。
その工夫の一つとして、視覚的手がかりが考えられる。視覚的手がかりはASD児のPN
を 促 す ため の一 つ の手 段 とし て 先行 研究 で 用いら れ て おり 、そ の 有効 性 が報 告 され て
い る ( 蔀 ・ 吉 井 ・ 真 鍋 ・ 長 崎 、 2006) 。 し か し 、 先 行 研 究 で 用 い ら れ た の は 1枚 の 写
真 で あ り、 この 視 覚的 手 がか り はあ る出 来 事を想 起 さ せる 役割 に 留ま っ てい る 。自 分
の 経 験 を対 象化 す るこ と を促 す 役割 をも っ たもの と し て視 覚的 手 がか り を用 い るた め
に は 、 共同 構成 を 行っ て いき な がら それ に あわせ て 視 覚的 手が か りも 共 同作 成 して い
くことが必要であると考えられる。例 えば、時系 列にPNを構成することを促すために 、
あ る 経 験に おけ る いく つ かの 詳 細の エピ ソ ードに 関 す る写 真を 時 系列 に 並べ 替 えな が
ら共に構成していくことがASD児にとってはより有効である と 考え られ る 。
PNの 支 援 に 関 す る こ れ ま で の 先 行 研 究 に お い て も う 一 つ の 問 題 点 は 、 こ れ ま で の
検 討 は PNを ど の よ う に 構 成 す る の か の み に 注 目 し て お り 、 聞 き 手 に ど の よ う に 伝 え
るの かに 関 する 行 為の 側面 に 関し ては 検 討さ れ てい ない こ とが あ げら れる 。 行為 の側
面に は聞 き 手に 内 容を 分か り やす く説 明 する た めに 付加 説 明を 行 った り、 抑 揚を つけ
るな ど言 動 的な 工 夫を 行っ た り、 ジェ ス チャ ー や視 線を 向 ける な どの 非言 語 的な 工夫
を 行 う こ と が あ げ ら れ る ( 李 ら 、 2011) 。 Tager-Flusberg( 1995) は 、 ASD 児 は 聞
き 手 の 知 識 状 態 な ど を 考 慮 せ ず に ナ ラ テ ィ ブ を 行 う こ と を 指 摘 し て お り 、 ASD 児 の
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教育ネットワークセンター年報 第12号
PNの 発 達 を 促 す た め に は 構 成 の 側 面 の み な ら ず 、 行 為 の 側 面 に お け る 支 援 に つ い て
も検 討す る 必要 が ある 。
よ っ て、 本研 究 では 、 ある ASD児 のPNを 促す 支援 を 行い 、ASD児の PNの構 成や 行
為の 側面 に おけ る 変容 過程 と 視覚 的手 が かり を 用い た共 同 構成 に よる 支援 の 有効 性に
つ い て 検 討 す る 。 共 同 構 成 の か か わ り と し て は 、 ASD 児 が 自 分 の 経 験 を 一 つ の ま と
まり のあ る もの と して とら え るこ とを 促 すた め に、 時系 列 ・因 果 的な 関連 づ けを 行う
こ と や 、 一 貫 し た 視 点 か ら PNを 構 成 す る こ と を 促 す か か わ り と と も に 、 自 分 や 他 者
の言 動、 心 的情 動 的状 態に 注 目さ せ、 自 分と 他 者と の関 係 に注 目 させ るか か わり を行
う 。 自 分 の み な ら ず 他 者 に も 注 目 さ せ る か か わ り を 通 し て 、 PNに お け る 他 者 へ の 注
目、 自分 と 他者 と の関 係を い かに とら え るか な どの 変容 を 検討 す る。 そし て 行為 の側
面に おけ る 支援 と して は、 共 同構 成の 後 、聞 き 手に 何を ど う伝 え れば いい の かに つい
て一 緒に 考 える か かわ りを 行 う。 自分 や 他者 と の関 係に 注 目さ せ るか かわ り を行 うた
め 、 本 研 究 で は グ ル ー プ ワ ー ク に お け る 活 動 に 注 目 し 、 そ の 活 動 を PNと し て と ら え
る課 題を 用 いる 。 グル ープ ワ ーク は複 数 の子 ど もや スタ ッ フが お り、 筆者 ら が参 加し
てい たグ ル ープ ワ ーク は他 者 理解 にね ら いを お いて いる こ とか ら 、自 分や 他 者と の関
係に つい て 注目 さ せる ため に ふさ わし い と考 え られ る。 ま た、 グ ルー プワ ー クに おけ
る 共同 構 成 に よる PNの 変 容と と も に 日常 生 活 に お ける PNの 変 容に つ い て も検 討 す る
こと にす る 。
Ⅱ . 方法
1 . 対 象 : R児 ( 男 児 ) 。 広 汎 性 発 達 障 害 ( の 疑 い ) 。 CA6:10。 IQ81・ MA5:1( 田
中ビ ネー に よる 、CA6:6時 )。 語彙 年 齢( VA) 6:8( PVT-Rに よる 、CA6:10時) 。
2. グル ー プワ ー クの 構成 メ ンバ ーと 内 容概 要
R児 を 含 む 8名 の 発 達 障 害 の あ る 子 ど も と 、 教 員 と 学 生 か ら 成 る ス タ ッ フ 10名 。 グ
ルー プで は 主に は じま りの 挨 拶・ ゲー ム 1・ ゲ ーム 2の パ ター ン で行 われ た 。
3. 介入 期 間:X年1月 ∼11月 (全 9セッ シ ョン )
4. 介入 デ ザイ ン (Fig.1)
A
PNのベースライン期(2セッション)
:共同構成なしの母親への報告
母親への日常の様子に関する情報聴取
B
介入期(9セッション)
:視覚的手がかりを用いた共同構成・
母親にわかりやすく伝えるための工夫に
ついて考える。
(介入最初の3セッションまではPNを例を
示すため、スタッフによるモデリングを
実施)
Fig.1
AA
介入効果評価期(1セッション)
:共同構成なしの母親への報告
母親への日常の様子に関する情報聴取
介 入デ ザ イン
5. 介入 手 続き
①グ ルー プ ワー ク の活 動後 、 R児 と共 同 構成 を行 うス タッ フ 1名 は 別室 に移 動 する 。
−62−
ある自閉症スペクトラム障害児のパーソナルナラティブの変容
② 視 覚 的 手 が か り と し て 、 白 い 画用紙 と活 動の写 真や メンバ ーの 顔写 真を用 意し 、直
前 の 活 動を 時系 列 に振 り 返り 、 白い 画用 紙 に写真 な ど を貼 って い きな が ら共 同 構成
を 行う 。グ ルー プで の3 つの 活動 に合 わせ て視 覚的 手が かり も 1枚 の画 用紙 に 1つ の
活動について共同作成していくことにした( 計3枚の 視覚 的 手が か りを 作成 ) 。
教示「今日の○○(グループワークの名前)について一緒に話しましょう。今
日の こと に つい て 写真 を貼 っ たり しな が ら話 し てい こう ね 」
③共 同構 成 の後 、 母親 に何 を どう 伝え れ ばい い のか につ い て一 緒 に考 える 。
かかわりの例「お母さんは私たちが今日どんなゲームをしたのか知ってるかな?」
④別 室に い る母 親 に今 日の 活 動に つい て 報告 を 行う 。
教示「これをもって今からお母さんに今日のことについて話しに行こうね。今日
のこ とに つ いて お 母さ んに 話 して あげ よ うね 」
6. 共同 構 成に お ける スタ ッ フの かか わ り( Table 1)
Table 1 スタッフのかかわりの例
構
成
の
側
面
行
為
の
側
面
PNの項目
①時系列関連づけ
②因果的関連づけ
かかわり
「今日来てから、最初に何した?」「その後は?」
「なぜそうなったの?」
「うまくできなくて残念だったね。その時どんな気持ちだ
③自分の心的情動的関連づけ
った?」
④他者の言動への注目
「○○さんは何してた?」
⑤自分と他者との言動における関連づけ
「あなたが∼した時に、○○さんは何した?」
⑥他者の心的情動的状態への注目
「○○さんはどんな気持ちだったと思う?」
⑦視点の明確化
「誰の話?」
「お母さんは一緒にやってないから、何をやったか知って
るかな」
⑧聞き手の知識状態に関する言及
「まずは今日どんなことをしたのか、お母さんに話す必要
があるよね」
⑨聞き手にわかりやすく伝えるための工夫 「このゲームについて詳しく説明した方がいいよね」
7. 分析 方 法
1) 構成 の 側面
( 1 ) PNの 全 言 及 数 : 主 語 と 述 語 と 成 る 1節 を 1言 及 と し 、 そ の 全 言 及 数 を 数 え た 。
( 2) PNの構 造 要素
①セ ッ ティ ン グ: グル ー プワ ーク の 活動 に おい て、 は じま り の挨 拶に 関 する 言及
や参 加し た メン バ ーに 関す る 言及 の有 無 。
②状 況 :ど ん なゲ ーム を した のか ( 2つ の ゲー ム) に 関す る 言及 の有 無 。
③出 来 事の 詳 細: 2つ の ゲー ムに お いて 、 どん なこ と があ っ たの かゲ ー ム状 況の
詳細 に関 す る言 及 の有 無
④結 果 :活 動 の終 わり に 関す る言 及 の有 無
( 3 ) PNの 評 価 (Table 2) : 事 象 や物 事に 関する言及として は、事象や物 事に関
す る 事 実や 、 事象 と事 象 の因 果 関係 に 関す る言及 に 分 類し た。 自 分・ 他 者・ 自
分 と 他 者 ・ 他 者 と 他 者 に 関 す る 言 及 に 関 し ては、それぞれ下位 項目として 、言
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教育ネットワークセンター年報 第12号
動の事実、心的情動的状態に関する言及、言動と言動との因果関係に関する言及、
言動と心的情動的状態の因果関係に関する言及に分類し、その言及数を数 えた 。
( 4 ) 一 貫 し た 視 点 : 一 貫 し た 視 点 か ら PNを 構 成 す る こ と が で き る か に つ い て 点
数化 した 。
視 点 が 不 明 な 場 合 : 0点 、 視 点 の 一 貫 性 が 不 明 確 な 場 合 : 1点 、 視 点 が 明 確
な場 合: 2点
2) 行為 の 側面
( 1) 言 語的 な 工夫 :ゲ ー ムの 内容 に つい て 付加 説明 を 行っ た り、 抑揚 を つけ たり 、
話題 を共 有 する な どの 工夫 に 関す る言 及 の頻 度 を数 えた 。
( 2) 非 言語 的 な工 夫: 視 覚的 手が か りを 見 せた り、 指 差す な どの 工夫 に 関す る頻
度を 数え た 。
Table 2
①事象や物事
物事や言動の事
実 (1節 )
心的・情動的状
態 の 言 及 (1節 )
事象と事象の因
果 (2節 )
PNの評 価 に関 する 例
②自分
③他者
例)今日の2時間
目 に 体 育 だ っ た 例 )温 泉 に 行 っ て
けど
例)サッカーの勝負
するの が楽 しい
例)夜7時だった
から、 暗く て
言動と言動の因
果 (2節 )
例 )お 昼 休 み に 石 を
投 げてもだめだった
言動と心的・情
動 状 態 の 因 果 (2
節)
例 )算 数 と か 漢 字 と
かのプリントをや
って疲 れた
④自分+他者
例 )い け る よ う に な っ
たら行こうとパパが
言った
例 )お 姉 ち ゃ ん も 歌 が
好き
例 )(お 父 さ ん が )逃 が
すときに虫つかめな
いからあきらめてっ
て言っ た
例 )弟 が 人 形 好 き だ か
ら、ポケモンとかで
いろい ろ遊 んで
⑤他者+他者
例 )5年 生 の 時 に 一 輪 車
をみんなで一斉にやっ
たりし て
例)お父さんもおば
あちゃんもお姉ちゃ
んもいなかった
例 )僕 と Aは 悲 し か っ た
例)AとBは泣いた
例 )兄 は 遅 く 帰 っ て く
るから、あまり話とか
できな いけ ど
例 )う ち が 勝 つ と 、 み
んなが 喜ん でく れた
例)ママとパパはこ
めんなさいといわな
いから、そのまま終
わった
例)お兄ちゃんが悪
いことしたから弟が
泣いた
8 . 日 常 生 活 に お け る R児 の 様 子 の 聴 取 : 介 入 前 と 介 入 後 に 母 親 を 対 象 に 、 日 常 生 活
に お け る R児 の PNの 様 子 に つ い て 聴 取 し た 。 聴 取 項 目 は Table 1に 示 し た PNの 項
目に 関す る 言及 が みら れる か 否か に関 す るも の であ った 。
9. 倫理 的 配慮 : 母親 に本 研 究の 意義 や 方法 に つい て説 明 し、 イ ンフ ォー ム ドコ ンセ
ント を得 た 。
Ⅲ . 結果
1 . PNの 全 言 及 数 :PNの 全 言 及 数
16
14
の 結 果 を Fig. 2に 示 す 。 R児 の PN
段々 多く な る傾 向 であ った 。
2 . PNの 構 造 要 素 : Fig.3の よ う に 、
ベー スラ イ ン時 に は何 をし た のか
に関 する 状 況の 要 素が みら れ たり 、
言及数
の全 言及 数 の変 容 の増 減は あ るが 、
12
10
8
6
R児
4
2
0
ベースライン期
介入期
Fig.2 PNの全言及数の変容
「楽 しか っ た」 の みの 感想 を 言及
−64−
評価期
ある自閉症スペクトラム障害児のパーソナルナラティブの変容
する こと で 、構 造 要素 がみ ら れな かっ た りし た 。
6
べて の活 動 の流 れ につ い
5
構造要素の数
介 入期 には 時 系列 にす
て振 り返 る かか わ りを 行
い、 #3 ま では セ ッテ ィ
4
結果
詳細
3
状況
2
セッティング
1
ング や状 況 、展 開 の一 つ
0
の要 素に 関 する 言 及が み
られ たが 、 #4 か らは 2
ベースライン期
介入期
評価期
Fig. 3 PNの構造要素の変容
∼3 の構 造 要素 に 関す る
言及がみられた。評価期でははじめから終わりまでの活動の一連の流れについて
語 る 様 子 が み ら れ た ( 「 今 日 A君 と B君 と Cち ゃ ん が 来 て 、 は じ ま り の 挨 拶 を し て 、
その後そとからゲームして、僕はみつからなかった。それで次、空飛ぶじゅうた
んやって、それで最後に感想やって、それで話をして、感想やって、それで空飛
ぶじ ゅう た んが 楽 しか った と 言っ て、 こ れで 終 わり ます ( 評価 期 ) 」 )。
3 . PNの 評 価 : Fig.4
14
他他言動
12
自他心情
ライン期には、自
10
自他言動
8
他者心情
分の言動に関する
言及数
のように、ベース
他者言動
6
言及や、自分の心
4
的情動的状態に関
2
自分言心
自分心情
自分言動
0
事実
する言及、自分の
言動と心的情動的
ベースライン期
介入期
評価期
Fig. 4 PNの評価の変容
状態との因果関係
に関 する 言 及な ど 、自 分に 関 する 言及 が 主で あ った 。
そ の た め 、 介 入 期 で は 他 者 へ 注 目 さ せ る か か わ り を 中 心 に 行 っ た ( Table 3) 。
#5までは自分に関する言及がみられたが、#6からは他者に注目する言及がみ
られ た (例 : 「( 略 )Pと、 Pがう れ しそ う だっ たか ら 、に っ こり し てて 、 そ れでY
と Aが や っ て て 、 楽 し か っ た ( 略 ) ( # 6 ) 」 。 事 実 に 関 す る 言 及 に お い て も # 7
からはグループに誰がきたのかに関する他者へ注目した事実の言及がみられた
( 例 : 「最 初 、 あ つ ま り し て、 Iち ゃん ? ( 首 を か し げ る) と 、 RとYと AとTとKと
Pと 、 で 、 8人 い た 。 そ れ で 旗 の こ と や っ て ( 略 ) ( # 7 ) 」 ) 。 評 価 期 で は 、 他
者の言動や心的情動的状態に注目した言及はみられなかったが、事実の言及とし
て参 加し た メン バ ーの 名前 に 関す る言 及 がみ ら れた 。
−65−
教育ネットワークセンター年報 第12号
Table 3 共 同 構 成 に お け る や り と り の 例
共 同 構 成 に お け る や り と り の 例 ( # 6)
かかわり
(# 6、 略 )
S: R は 今 日 、 誰 と ペ ア だ っ た ?
他者への注目
R: ( 顔 写 真 の 中 か ら な か な か 選 べ 出 せ な い )
S: P さ ん だ っ た か な ?
他者への注目
R: う ん !
S:P さ ん は ( R に ) 何 を し て く れ た ?
他者の言動への注目
R: 教 え て あ げ て ( も ら っ て ) 楽 し か っ た
S: P さ ん は ど ん な 気 持 ち だ っ た か な ?
他者の心的情動的状態への注目
R: 少 し ね 、 う れ し い な と 思 う
S:な ん で そ う 思 う ?
因果的関連づけ
R: 教 え て く れ た り し て 、 う れ し く な っ た と 思 う
(略 )
注 )S: ス タ ッ フ の 発 言 、 R: R 児 の 発 言
4 . 一 貫 し た 視 点 : Fig . 5の よ う に 、
ベー スラ イ ン期 に は「 ∼を や った 」
2
視点の点数
「楽 しか っ た」 の 自分 とい う 主語 を
省略 する 言 及が み られ た。
普段 のグ ル ープ ワ ーク にお け る様
子か らは 時 に誰 が 言動 の主 体 なの か
R児
1
0
判断 でき な い場 合 があ った 。 介入 期
介入期
ベースライン期
では 言動 の 主体 を 明確 にす る かか わ
Fig.5
評価期
一貫した視点の結果
りを 行い 、 #7 か らは 言動 の 主体 を
明確 にす る 言及 が みら れた 。
5 . 行 為 の 側 面 の 結 果 : Fig . 6の よ う に 、
6
ベー スラ イ ン期 で は行 為の 側 面に 関 す
5
る言 動は み られ な かっ た。 そ のた め 、
という意識を高めるための声がけ
頻度
4
介入 期で は 共同 構 成後 、母 親 に伝 え る
共有
3
見せる行為
2
(例 :「 お 母さ ん は私 たち が どん な こ
1
とを して い たの か わか らな い から 、 教
0
えて あげ よ うね 」 )を 行っ た 。介 入 期
ベースライン期
では 言語 的 な参 照 的内 容の 工 夫と し て、
介入期
評価期
Fig.6 行為の側面における変容
活動 中に や った ゲ ーム につ い て「 一 緒
にやったことあるよね」と母親に話題を共有する言及が#4においてみられた。R
児は視覚的手がかりをみていた母親の肩をトントンと叩き、自分に注意を引き付
けて 「お 母 さん 覚 えて る? 」 「ま たし て ほし い な」 と言 及 する 行 為が みら れ た。
非言 語 的な 工 夫と して は 共同 構成 を 通し て 作っ た視 覚 的手 が かり を母 親 にみ せる
−66−
ある自閉症スペクトラム障害児のパーソナルナラティブの変容
行為がみられた。みせる行為について#2から#4までは視覚的手がかりを時系
列にそろえる様子はなかったが、#5からは時系列にそって順番を直し、母親側
の向 きに し て視 覚 的手 がか り をみ せる 行 為を 行 って いた 。
6 . 日 常 生 活 に お け る 子 ど も の 様 子 ( 母 親 に よ る 聴 取 ) : 介 入 前 で は 、 R児 は 自 分の
その日の出来事について母親に語ることはなく、何週間後に突然「∼があった」
と言い出すということであった。時系列や自分の心的情動的状態に関する言及、
他者 に関 す る言 及 など はみ ら れな いこ と であ っ た。
介入 後 では 、 学校 の様 子 をそ の日 に 語っ た り、 「○ ○ 君と 遊 んだ 」と い う友 達に
関する言及が出てきたこと、さらに自分の気持ちについても語る様子が報告され
た。
Ⅳ . 考察
R児 は セ ッ シ ョ ン を 重 ね る 毎 に PNの 全 言 及 数 も 多 く な る 傾 向 に あ り 、 PNの 構 造 に
おい ても # 6か ら 、は じま り から 終わ り まで の 一連 の出 来 事を 時 系列 にそ っ てと らえ
る よ う に な っ た 。 こ の 結 果 か ら R児 は 自 分 の 経 験 を 一 つ の ま と ま り の あ る も の と し て
と ら え る よ う に な り は じ め た と 考 え ら れ る 。 PNの 評 価 に お い て も 、 # 6 , 7 か ら 他
者の 心的 情 動的 状 態や 他者 と 他者 の言 動 に注 目 した り、 今 日は 誰 が参 加し て いた のか 、
活動 の詳 細 の内 容 とし て誰 と 何を した の か、 他 者の 状態 は どう だ った のか に 関す る言
及も みら れ 、自 分 のみ なら ず 他者 にも 注 目す る よう にな っ てい た と考 えら れ る。 また
一 貫し た 視 点 から PNを 構 成す る こ と が# 7 か ら み られ て お り、 PNの 構 成 の側 面 に お
いて は# 6 ∼# 7 を中 心に 、 大き く変 容 して い るこ とが わ かる 。
# 6 ∼ # 7 に お い て PNの 構 成 の 側 面 に お け る 変 容 が み ら れ た 要 因 と し て は 、 視 覚
的手 がか り を用 い ての 共同 構 成を 行う こ との 積 み重 ねに よ って 、 活動 の全 体 を把 握し
たり 他者 に 注目 す るこ とに つ なが った こ とが 考 えら れる 。 グル ー プの はじ ま りか ら2
つの ゲー ム の写 真 を時 系列 に 並べ 替え な がら 共 同構 成を 行 うこ と によ って 、 活動 の全
体を とら え るこ と が促 され た と考 えら れ る。 ま た、 活動 の 中で 誰 とペ アに な って いた
のか 、他 の メン バ ーは 誰と 一 緒に やっ て いた の かな ど、 メ ンバ ー の顔 写真 の 視覚 的手
が か り を 用 い た の も R児 に と っ て 有 効 だ っ た と 考 え ら れ る 。 R児 は 普 段 か ら 人 の 顔 と
名前 を一 致 させ 、 それ を覚 え るの に時 間 がか か るこ とも あ り、 # 1∼ #5 ま での 共同
構 成 で は 、 「 Rは 誰 と 一 緒 に や っ た ? 」 と い う 他 者 へ 注 目 さ せ る 声 が け に 対 し て 、 メ
ンバ ーの 顔 写真 の 中か ら選 ん でお り、 そ れに 対 して スタ ッ フは 「 ○○ さん だ ね」 と名
前を 明確 に する か かわ りを 行 うこ とで 、 顔と 名 前の 一致 を 促し た 。# 6か ら は共 同構
成の 場面 に おい て も「 誰と 一 緒に やっ た ?」 と いう 声が け に対 し て、 「○ ○ さん 」と
名 前 が 出 る よ う に な り 、 顔 写 真 を 用 い て 顔 と 名 前 を 一 致 さ せ る か か わ り が 、 R児 の人
の 名 前 に 関 す る 理 解 を 促 し 、 PNに お い て も 他 者 へ の 言 及 が み ら れ る よ う に な っ た と
−67−
教育ネットワークセンター年報 第12号
考え られ る 。
行 為の 側 面に お いて は、 言 語的 な参 照 的内 容 の工 夫と し て、 # 4に おい て 話題 を母
親 に 共 有 し よ う と す る 言 及 が み ら れ た 。 R児 は 「 こ れ や っ た こ と あ る よ ね 」 と 話 す 際、
母親 の注 意 を呼 び かけ る行 為 も一 緒に 行 って お り、 母親 に 自分 の 楽し さや う れし さを
伝え よう と して い たこ とが 考 えら れる 。 この 行 為が みら れ たの は 、# 4に 行 った 活動
が R児 に と っ て と て も 楽 し い 、 お 気 に 入 り の 活 動 で あ り 、 楽 し か っ た 気 持 ち の 高 ま り
が母 親へ 話 題を 共 有す る言 及 につ なが っ たと 考 えら れる 。 #4 の 共同 構成 の 時、 スタ
ッフ の「 今 日は ど うだ った ? 」と いう 声 がけ に 対し 、と て も気 持 ちが 高ぶ っ た口 調で
「 ( ぶ ら ん ぶ ら ん の 活 動 に ) は ま っ た ! 」 と 答 え て お り 、 R児 に と っ て そ の 活 動 がい
かに 楽し い もの だ った のか が 伺わ れた 。 共有 の 言及 が# 4 のみ み られ た理 由 とし ては 、
#4 にお い て行 わ れた 活動 は 以前 母親 と 一緒 に やっ たこ と のあ る ゲー ムで あ った のに
対し 、# 4 前後 に おい て行 わ れた ゲー ム はグ ル ープ で初 め て経 験 する ゲー ム だっ たた
め で あ る こ と が 考 え ら れ る 。 今 後 も R児 が 母 親 と 一 緒 に 行 っ た こ と が あ る 活 動 を 経 験
した 際、 母 親に そ の話 題を 共 有し よう と する 言 及が みら れ るの か につ いて み てい く必
要が ある と 考え ら れる 。
非 言語 的 な参 照 的内 容の 工 夫と して は 、時 系 列の 順番 で 視覚 的 手が かり を 母親 にみ
せる 行為 が #5 か らみ られ る よう にな り 、視 覚 的手 がか り を時 系 列の 順番 に 持ち 直し
て母 親側 向 きに し てみ せる 行 為は 母親 に 何か に つい て伝 え よう と する 意識 の 現れ であ
る可 能性 が 考え ら れる 。し か し、 母親 に 分か り やす く伝 え るた め に視 覚的 手 がか りを
用い て説 明 した り 、ゲ ーム の ルー ルや 様 子に つ いて 説明 す る言 及 が伴 って い なか った
こと から 、 伝え よ うと する 気 持ち はあ っ ても 分 かり やす く 伝え よ うと する こ とは 促進
さ れ た と は 言 い 難 い 。 今 後 は R児 の PNに お い て 聞 き 手 に わ か り や す く 伝 え る た め の
行為 の側 面 をよ り 促す 支援 が 必要 であ る と考 え られ る。
グル ー プ ワ ーク に お いて み ら れ たPNの 変 容 は 、 介入 後 の 母親 に よ る 日常 生 活 のPN
の様 子に お いて も 報告 され た 。介 入後 の 聴取 で は、 介入 前 と比 べ て友 達と 何 をし たの
か に 関 す る 言 及 を 含 め 、 学 校 の 様 子 に 関 す る PNが み ら れ て い る と 報 告 さ れ 、 グ ル ー
プ ワー ク に お ける 共 同 構成 に よ るPNの変 容 と と も に、 日 常 生活 に お け るPNの 変 容 も
みら れた 。 しか し 、今 回は 1 事例 を対 象 にし て おり 、統 制 群と の 比較 を行 っ てい なか
っ た こ と か ら 、 グ ル ー プ ワ ー ク に お け る PNの 変 容 と 日 常 生 活 に お け る 変 容 と の 因 果
関 係 ま で は 論 じ ら れ な い 限 界 が あ る 。 R児 の PNが 大 き く 変 容 し た # 6 ∼ # 7 の 時 期
は 、 R児 が 小 学 校 と い う 集 団 生 活 を は じ め 、 学 校 教 育 を 受 け る よ う に な っ て か ら 、 そ
の 新 し い 環 境 に 慣 れ る 頃 で あ り 、 そ う い う 環 境 の 変 化 が R児 に 影 響 を 与 え た 可 能 性も
排 除 で き な い 。 今 後 は 、 統 制 群 と の 比 較 を 通 し て 介 入 に よ る PNの 変 容 と 日 常 生 活 に
お け る PNの 変 容 と の 関 係 を 明 ら か に し 、 さ ら に よ り 多 く の 事 例 を 対 象 に し 、 共 同 構
成に よる 支 援の 有 効性 を確 立 する ため の 更な る 検討 が求 め られ る だろ う。
−68−
ある自閉症スペクトラム障害児のパーソナルナラティブの変容
付 記 : 本 稿 を ま と め る に あ た り ご 協 力 い た だ い た R児 な ら び に お 母 様 に 心 よ り 御 礼を
申し 上げ ま す。 な お、 本稿 は 教育 ネッ ト ワー ク セン ター コ ンサ ル テー ショ ン 事業 「発
達相 談」 ( 事業 代 表者 :田 中 真理 )に よ る。
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