...

Legionella属 菌 に対す る塩素の殺菌効果

by user

on
Category: Documents
55

views

Report

Comments

Transcript

Legionella属 菌 に対す る塩素の殺菌効果
151
Legionella属
菌 に対 す る塩 素 の 殺 菌 効 果
大阪市立大学医学部細菌学教室
藪 内
英子
王
笠
矢野
郁也
大阪府立公衆衛生研究所
山
吉
孝
雄
岐阜県民生部保険課
荒
川
迫
生
(平成6年10月4日 受付)
(平成6年10月26日 受理)
Key
words:
free
chlorine,
Legionella
要
既 報 の 温 泉 浴 槽17カ 所 の 他 に,39カ
の 各5カ
所 で 浴 槽 水100ml当
明 し た.こ
sp., bactericidal
effect
旨
所 で も浴 槽 水 が レ ジ オ ネ ラ属 に 汚 染 さ れ て お り,し か も そ の う ち
た りの 菌 数 が104CFUと105CFU台
に 達 し て い る こ とが そ の 後 の 調 査 で 判
の こ とか ら,浴 槽 水 の レ ジ オ ネ ラ汚 染 を 除 去 す る対 策 を 立 て るた め の基 礎 実 験 と し て,レ
オ ネ ラ 属22菌 種 の基 準 株,本 邦 患 者 由 来 の4菌 種35株,お
よ び 温 泉 浴 槽 水 由来 の4菌
対 す る塩 素 の殺 菌 効 果 を し らべ た.そ の結 果,各 菌 株 を105CFU/100mlに
ジ
種45株 の 計102株 に
な る よ う遊 離 塩 素 濃 度0.4mg/
lに 相 当 す る次 亜 塩 素 酸 ナ ト リウ ム 液 に 懸 濁 す る と15分 以 内 に 生 菌 が 検 出 さ れ な く な る こ と が 判 明 し
た.
序
は,レ
文
ジ オ ネ ラ 属 菌 が 検 出 さ れ る 浴 槽 の 頻 度 は59
カ 所 中39カ 所(66%)と
上 昇 し,菌
湧 出 す る温 水 また は高 温 水 で あ る.し か し我 々 は
CFU/100mlが
所,103CFU/100m1の
通 常,こ れ らの 温 泉 水 を利 用 し た浴 場 お よ び そ れ
槽 が10カ 所 に 達 し た(未
温 泉 とは本 来 地 中 か ら 自然 に また は掘 削 に よ り
を保 有 し業 務 とし て営 業 して い る ホ テ ル,旅 館,
公 衆 浴 場 な ど を指 して漠 然 と温 泉 と呼 ん で い る.
1つ の 泉 源 また は元 湯 か ら ホ テ ル な ど複 数 の営 業
夫 々5カ
発 表 デ ー タ).
い な か っ た1979年,Fliermansら2)は
湖 の 水 のL.pneumophilaの
そ の 実 状 はわ れ わ れ に は未 だ窺 い 知 れ な い.従
抗 体 法 に は 交 差 反 応 も あ り,実
々の
自然 界 の池 や
菌 数 を蛍 光 抗 体 法 で
測 定 し,104∼106CFU/lと
て 我 々 は これ ま で泉 源 の 異 同 を考 慮 せ ず,夫
浴
レ ジ オ ネ ラ属 菌 の た め の 選 択 培 地 が 考 案 さ れ て
施 設 に配 湯 され て い る こ とは聞 き及 ん で い る が,
っ
数 も105と104
発 表 し た.し
か し蛍 光
際 の 生 菌 数 は これ
よ り 少 な か っ た の で は な い か と推 測 さ れ て い る.
浴 槽 水 を対 象 と して 調 査 を進 め て 来 た.北 海 道 か
102基 の 冷 却 塔 の 水 の レ ジ オ ネ ラ 属 菌 汚 染 を し ら
ら熊 本 県 に亘 る40カ 所 の浴 槽 の う ち17カ 所 の 湯 か
べ た 池 戸3)の 成 績 で は66基(64.7%)が
らレ ジ オ ネ ラ属 菌 が 検 出 さ れ た こ とは既 に報 告 し
の 内2基
た1).こ の調 査 で の 最 高 菌 数 は1カ 所 で103CFU/
懸 と 広 中4)の 成 績 で は レ ジ オ ネ ラ 属 菌 が 陽 性 で
100m1で
あ っ た 冷 却 塔856基
あ った.し
か し そ の後 に 実施 した 調 査 で
は105,6基
は104CFU/100mlで
阪市 阿 倍 野 区旭 町1-4-54
平 成7年2月20日
あ っ た.こ
れ らの こ
とお よ び 他 の 微 生 物 と の 生 存 競 争 も勘 案 す る と,
大 阪市 立 大 学 医学 部細 菌 学 教 室
藪内
あ っ た.
の う ち 菌 数 が105CFU/100m1
で あ っ た の は4基(0.5%)で
別 刷請 求 先:(〒545)大
陽 性 で,そ
英子
現 段 階 で は温 泉 浴 槽 中 の レ ジオ ネ ラ 属 菌 数 の最 高
152
藪内 英子 他
値 も105CFU/100m1の
平 成4年
台 で あ ろ う と推 定 され る.
と5年 に浴 槽 水 の 循 環濾 過 に使 用 し て
い る 濾 剤 を2×50cmの
ガ ラス カ ラム に詰 め て滅
菌 し,L.pneumophilaSGIEY3407株
CFU/mlに
を 約105
な る よ う滅 菌 蒸 留 水300m1に
懸濁 し
た こ とか ら前 の週 の週 末 に温 泉 旅 行 を して い た の
で は な い か と推 定 し被 検 菌 株 に加 えた が,そ
の後
の 主 治 医 か らの 聞 き取 り調 査 で 旅 行 歴 の な い こ と
が 判 明 した.ス コ ッ トラ ン ドの レ ジ ャ ー温 泉 でL.
micdadeiに
よ る大 規 模 な ポ ン テ ィ ア ック 熱 の 集
て流 下 させ た が,流 出 液 中 の菌 数 は減 少 して い な
団 発 生 が あ っ た8)こ とか ら,こ れ と同 菌 種 の 本 邦
か っ た.し か し カ ラ ム 注 入 前 に5mg/lの
患者9)由来 株EY3417株
μ1を 添 加 混 合 した 菌 液300mlは
もに6,000rpm,20分
塩 素 水15
濾 過 前,濾 過 後 と
間 の 冷 却 遠 心 後 に も生 菌 は回
概 要 はTable1に
を 用 い た.4菌
株 の 由来 の
示 す.
本 実 験(実 験C)に
は,L.
pneumophilaお
よび
収 さ れ な か った(以 上 未 発 表 デ ー タ).こ れ らの 実
1981年8月,カ
験 は反 復 して 実 施 し同様 の 結 果 を得 た の で,我
ポ ン テ イ ア ッ ク熱 を集 団 発 生 させ たL.feeleiiを
々
ナ ダ,オ
ンタ リオ の 自動 車 工 場 で
が 試 用 した 濾 剤 に関 す るか ぎ り単 独 で は レ ジ オ ネ
含 む22菌 種 の基 準 株,本
ラ属 菌 の 除 菌 に役 立 た な い こ と,1濃
来 の4菌 種35株 お よび 温 泉 浴 槽 水 由 来 の4菌 種45
度で はあ る
が塩 素 水 が極 め て 有 効 で あ った こ とを確 認 し た.
我 々 が 調 査 した 温 泉 の 中 の1つ
で は,高 置 タ ン
ク水 は レ ジ オ ネ ラ属 菌 陽 性 で あ った が,循
環濾過
装 置 に次 亜 塩 素 酸 ナ トリウ ム 液 を注 入 して 浴 槽 水
中 の 遊 離 残 留 塩 素 濃 度 を0.3∼1.Omg/lに
維持 す
株,計102株
す.L.
邦 レ ジ オ ネ ラ肺 炎 患 者 由
を用 い た.そ
pneumophila
microplate
DNA-DNA
の 内 訳 はTable2に
SG1∼6以
示
外の分離菌株 は
hybridizationlo)の 発 色 法
に よ り菌 種 を同 定 した もの で あ る.予 備 実 験 の4
菌 株 は本 実 験 に も使 用 した.
る こ と に よ り,レ ジオ ネ ラ 属 菌 を除 去 して い た(未
使 用 菌 株 は-80℃
発 表 デ ー タ).そ こで,レ ジ オ ネ ラ属 菌 を殺 菌 す る
ク 懸 濁 液 か らBCYEα
寒 天 平 板 に培 養 し,独 立 集
の に有 効 な 塩 素 濃 度 と接 触 時 間 を知 る 目的 で基 礎
落 を釣 菌 し てBCYEα
寒 天平 板 の 区画 に画線 し
実 験 を行 っ た.
36.C72時 間 培 養 した.発 育 菌 はMacFarland濁
材 料 と方 法
標 準 液 のNo.1に
1)使 用 菌 株
は生 後6日
目 に両 肺 野 に播 種 性 病 変 が 認 め られ 翌 日
死 亡 した 新 生 児5)か ら のL.
group
目 か ら発
(SG)
1, EY
pneumophila
(Eiko Yabuuchi)
sero-
3437株 と,
CFU/mlで
キ ム ミル
度
一 致 す る よ う滅 菌 蒸 留 水2mlに
懸 濁 し 出 発 材 料 と した.こ
予 備 実 験 と して 実 験Aで
熱,9日
に凍 結 保 存 の10%ス
の 場 合 の 菌 量 は約108
あ っ た.
2)塩 素 液
5%次
亜 塩 素 酸 ナ トリ ウム 溶 液 を滅 菌 精 製 水 で
希 釈 し,こ れ に リン酸 緩 衝 液 を加 えpH7.0,遊
離
温 泉 旅 行 後 に 発 病 死 亡 し た 患 者6)か ら のL.
塩 素 濃 度5mg/lの
dumoffii EY3413株
は これ ら2株 に
濃 度 まで 滅 菌 蒸 留 水 で 希 釈 して 用 い た.遊 離 塩 素
と 五.micdadei
濃 度 はo-ト リジ ン法 で 測 定 した.所 定 濃 度 の 塩 素
を,実 験Bで
L. pneumophilaSGlEY3412株
EY3417株
を 加 え た4菌
株 を 用 い た .3412株
が由
来 し た 患 者 は48歳 男 性7)で発 病 日 が 水 曜 日で あ っ
Table
EY:
Eiko
Yabuuchi
SG:
1
Histories
of four
strains
塩 素 液 を調 製 した.さ ら に所 定
液 は夫 々20ml宛 テ フ ロ ン ラ イ ナ ー の ね じ栓 付 き
パ イ レ ッ クス ガ ラ ス製 遠 心 管(容 量50ml)に 分 注
of three
Legionella
species
tested
Serogroup
感 染症 学 雑 誌
第69巻
第2号
L卿 侃6磁sp.に
Table
4,
2
The
102 strains
5, 6: Cross-agglutinated
of 22 Legionella
by three
None:
Did not agglutinate
*: Identified
by microplate
species
used for experiment
antisera.
0.5,1,2,3お
希 釈 液 中 の 塩 素 の 減 衰 状 況 を知 る 目 的 で,上 記
遠 心 管10本 の各 々 に,遊 離 塩 素 濃 度0.4mg/1に
整 した 塩 素 液20m1を
に5本 ず つ 置 き,5時
度 を測 定 した.氷
調
分 注 し,室 温(25。C)と 氷 中
間後 まで1時
間 毎 に塩 素 濃
験Bで
よ び5mg/1,4菌
株 を用いた実
は0.2,0.4,0.6,0.8お
5段 階 と し た.被
よ び1mg/1の
各
検 菌 と塩 素 液 と の 接 触 時 間 は い
ず れ も5分,15分,30分
お よ び60分
と し た.し
し 遊 離 塩 素 濃 度 の 高 い 系 で は60分 後 の み,ま
か
たは
30分 後 と60分 後 の 双 方 の 検 体 の 菌 数 測 定 を 省 略 し
中 に置 い た 塩 素 液 の 温 度 は1.C
た.
前 後 で あ っ た.
(2)本
3)殺 菌 効 果 の 測 定
す べ て の 実 験 で,被 検 菌 株 の一 定 菌 量 を各 濃 度
の 塩 素 液 と混 合 し,経 時 的 に そ の2mlを
500量 の25%Na2S2O3と
寒 天 平 板 に塗 布 し生 菌
数 を測 定 し た.発 育 集 落 数 は35℃6日
定 した.実 験Cで
分 取 し1/
混 合 して塩 素 を不 活 化
し,そ の100μ1をBCYEα
は1時 間 毎 に0.4mg/lの
(1)予 備 実験(実
実 験(実
験C)
こ の 実 験 に 用 い た102菌
塩素液
液 と の 接 触 菌 量103CFU/ml,接
は使 用 菌 数 を106CFU/mlに
成
実 験Aで
はL.
も生 存 し た が,L.
設 定 した
が,実 験Bで
は浴 槽 水 か ら検 出 され た 最 高 菌 数
103CFU/mlと
した.
塩 素 液 の 濃 度 は,2菌
は
素
触 時 間 は15分
と30
績
pneumophila
3437株
後,1mg/1液
は2mg/l
中 で は15分 後 に
dumoffii3413株
はlmg/1液
で は
5分 以 内 に 死 滅 し た(Table3).
実 験B(Table4)で
株 は 共 に1mg/1で
株 を 用 い た 実 験Aで
験B
分 と し た.
の 塩 素 液 中 で は5分
験AとB)
株 に 対 し て は,実
の 結 果 を 踏 ま え て 遊 離 塩 素 濃 度 を0.4mg/l,塩
培 養 後 に算
を調 製,使 用 した.
平成7年2月20日
C
antisera.
with any of the SG 1-6
DNA-DNA
hybrization
し て用 い た.
実 験Aで
153
対 す る塩 素 の殺 菌 効 果
で は15分
は,実
は5分
験Aで
用 い た2菌
以 内 に,0.2∼0.8mg/l
以 内 に 死 滅 し た.他
の2菌
株,L.
154
藪内 英子 他
Table
3
Bactericidal
effects
of chlorine
on
each
one
of
two
Legionella
species
/: Not done
Table
pneumophila3412株
1mg/1の
4
とL.
塩 素 液 と の5分
0.2∼1mg/lの
Bactericidal
miodadei
effects
3417株
of chlorine
以 内 に死 滅 し
た.
実 験Cで0.4mg/lの
株 は す べ て,15分
さ れ な か っ た.
of three
は共 に
の 接 触 で も 生 存 し た が,
各 塩 素 濃 度 で15分
on four strains
考
塩 素 液 と接 触 さ せ た102菌
species
察
環 境 庁 自 然保 護 局 施 設 整 備 課 に よれ ば平 成2年
3月 末 現 在,日
14,995,宿
後 と30分 後 の 両 方 で 生 菌 が 回 収
Legionella
本 全 国 で 利 用 され て い る 源 泉 数
泊 施 設 数15,085,温
泉利 用の公衆浴場
は3,112で あ る とい う10).地中 か ら湧 出 す る温 水,
鉱 水,水 蒸 気 お よ び主 成 分 が 炭 化 水 素 で あ る天 然
ガ ス 以 外 の ガ ス で,温 度25℃ 以 上 また は一 定 物 質
感染 症 学 雑 誌
第69巻
第2号
Legionella
Table 5
Bactericidal
155
sp.に 対 す る 塩 素 の 殺 菌 効 果
effects of 0.4 mg/l chlorine on 102 strains of 22 Legionella species
を含 有 す る温 泉 は温 泉 法 の適 用 を受 け る.温 泉 の
に維 持 さ れ て い る.我 々 が 実 測 し た の は僅 か3例
公 共 利 用(浴 用 お よ び飲 用)に
で あ るが,滞
は都 道 府 県 知 事 の
留 す る こ とな く湧 出 して い る元 湯 中
許 可 が 必 要 で あ り,公 共 の 入 浴 施 設 に は公 衆 浴 場
の レ ジ オ ネ ラ 属 菌 数 は101/100mlで
あ っ た.泉 源
法,旅 館 業 法 が適 用 され る.「公 衆 浴 場 にお け る衛
周 囲 の土 壌 か らレ ジ オ ネ ラ属 菌 が 湯 に 混 入 す れ ば
生 等 管 理 要 領 」 は昭 和62年3月30日
衛 指 第76号 厚
希 釈 さ れ る こ とは 当然 で あ り,特 別 な 事 故 や 災 害
生 省 生 活 衛 生 局 長 通 知 と して 各 都 道 府 県 知 事 ・各
な どで大 量 の 土 砂 が 流 入 す る よ うな場 合 は別 と し
政 令 市 長 ・各 特 別 区長 宛 に出 さ れ,そ の 後 平 成3
て,通 常 は 土 壌 混 入 後 の 元 湯 内 の菌 数 が105CFU/
年8月
と平 成5年11月
100mlに
た.こ
の管 理 要 領 は施 設 設 備,衛
に それ ぞ れ一 部 改正 され
生管理 について
達 す る よ うな こ と は考 え られ な い.勿 論
前 述 のFliermansら2)の
成 績 が 正 し い とす る な
詳 細 に指 示 し て い るが,我 々 が調 査 した99浴 槽 中
ら,そ の よ うな 自然 環 境 水 が 浴 槽 水 に補 給 され る
56カ 所(約57%)の
浴 槽 水 に レ ジオ ネ ラ属 菌 が 生
こ とは問 題 で あ る.現 在 我 々 が 推 測 して い る よ う
息 して い る こ と も事 実 で あ る.日 本 で は 渦 流 や 気
な レ ジオネ ラ菌数 の 少 ない元 湯 が浴 場 に配湯 さ
泡 を発 生 させ る装 置,打
れ,換 水 ・清 掃 が 不 十 分 で 浴 槽 や 配 管 内 にバ イ オ
た せ 湯 な どエ ア ロ ゾル を
生 じ る可 能 性 の あ る設 備 を備 えた 温 泉 浴 場 が,青
壮 年 の 慰 安 旅 行,病
され て い る.レ
後 や 高齢 者 の保 養 に広 く利 用
ジオ ネ ラ 汚 染 水 の エ ア ロ ゾル が レ
フ ィ ル ム が 形 成 さ れ細 菌 捕 食 性 の原 生 動 物,特
レ ジオ ネ ラ属 菌 の増 殖 に 重 要 な役 割 を果 た す
amoebaeや71e'm勿menasp.12)13)が
ジ オ ネ ラ 症 の 最 大 の 原 因 で あ る こ と は周 知 で あ
合,除
る。 慰 安 の た め の温 泉 旅 行 で は飲 酒,夜
数 が増 幅 され る と考 え られ る.
更 か しな
どで 体 調 を崩 し た り,浴 槽 内 で転 倒 し て汚 染 した
に
生 息 す る場
菌 効 果 の な い循 環 濾 過 を繰 り返 す うち に菌
今 回 の 実 験 で は,ね じ栓 で密 封 し て い る容 器 に
湯 を誤 嚥 し肺 炎 を発 病 した 者11)もあ る.こ れ らの
入 れ た 希 釈 液 中 の 塩 素 の減 衰 に悩 ま さ れ,1時
こ とを考 え る と,温 泉 浴 槽 水 は レ ジオ ネ ラ 属 菌 に
毎 に0.4mg/1の
つ い て も細 菌 学 的 に安 全 で あ る こ とが 望 ま しい.
得 る こ とが 出 来 た.遊 泳 用 プ ー ル の水 の 消 毒 に適
温 泉 の 湯 は,そ の 温 度,溶 存 物 質 の 種 類 と濃 度,
pH,自
然 湧 出 か 掘 削 か な ど,多 くの点 で 千 差 万 別
間
塩 素 液 を 調 製 す る こ とで 結 果 を
用 さ れ て い る 遊 離 残 留 塩 素 濃 度0.4mg/1を
指標
とす る と,命 名 上 の 基 準 株 ・本 邦 肺 炎 患 者 由来 株 ・
で あ ろ う.そ の 中 に は レ ジオ ネ ラ属 菌 が 生 息 し得
本 邦 温 泉 浴 槽 水 由来 株 を あわ せ て レ ジオ ネ ラ属22
な い 泉 質 もあ る と思 わ れ る.従 っ て す べ て の温 泉
菌 種102菌 株 はす べ て15分 以 内 に死 滅 した.し か し
浴 槽 水 に一 律 に殺 菌 処 理 を施 す の で はな く,レ ジ
湯 の表 面 が 広 く空 気 に接 触 し,そ の 温 度 も42℃ 前
オ ネ ラ属 菌 に よ る汚 染 度 を確 認 した 上 で 適 切 に対
後 で 遊 離 塩 素 を 消 費 す る物 質 が 混 在 す る浴 槽 で
処 す れ ば よい.レ
ジ オ ネ ラ属 菌 が 土 壌 に生 息 して
は,遊 離 残 留 塩 素 濃度 を一 定 時 間 維 持 す るた めの
い る こ とか ら,機 序 は不 明 で あ るが,元 湯 が汚 染
装 置 が 必 要 と思 わ れ る.し か し必 要 最 小 限 の 塩 素
され る こ とは不 可 抗 力 で あ ろ う.自 然 界 の生 態 系
を注 入 す る こ と に よ っ て浴 槽 水 中 の レ ジ オ ネ ラ属
に お け る あ る生 物 種 の数 は通 常 の 状 況 で は或 水 準
菌 数 を減 少 また は不 検 出 に す れ ば,少 数 の レ ジ オ
平成7年2月20日
156
藪 内 英子 他
ネ ラ属 菌 が 生 息 して い る元 湯 を補 給 し て い て も,
あ る期 間 は良 好 な状 態 が 維 持 出来 るの で は な い だ
5)
ろ うか.こ の 事 は冷 却 塔 水 を対 象 とした 調 査 研 究
り,有 効 な 塩 素 濃 度,そ
の 濃 度 を維 持 して お か ね
感 染 症 誌,
68: 421-423,
中 村 恒 穂,
箕島
香,
孝,
明,
弘:
堀江
6) 村 上 康 弘,
田 昌 敬,
郁 生,
い 期 間 な ど は個 々 の温 泉 浴 場 に つ い て 実 地 に し ら
勝,
7) 松 田 啓 子:
8)
と え浴 槽 水 が レ ジオ ネ ラ属
Fallon,
68: 549-551,
2) Fliermans,
Thacker,
phila
itats.
from
Appl.
矢 野 郁 也:
日本
菌 の 分 布 . 感 染 症 誌,
W. B., Orrison,
L. H.&
of Legionella
pneurno-
Isolation
nonepidemic-related
Env. Microbiol.,
37:
aquatic
hab1239-1242
,
1979.
3) 池戸 正 成: レジオ ネ ラ症 発 生 の予 防 を 目的 とした
冷 却 塔 水 中 のLegionella属
菌 の 生 態 調 査 とそ の
防除 法 の研 究. 岐 阜大 医紀 要, 37: 939-961,
4) 縣
感染症
T. J.:
into
an
Mi-
outbreak
due to Legionella
use
rnicdadei
of a whirlpool.
43: 479-483,
J.
Clin.
1990.
南 出 正 之,
貫 名 正 文,
仲 西 寿 男,
永 井 謙 一, 梅 田 文 一,
Legionella
T.,
micdadeiに
神木
白 根 博 文,
よる致命的肺
Hashimoto,
Legionella
Infect.
11)
Y., Yamamoto,
M. L., Liu,S. L., Kusunoki,
E.:
hybridization
12)
1994.
L.:
日
Evaluation
method
species.
Dis., 9: 213-218,
大 島 良 雄,
矢 野 良 一:
p.132-133,
真 柴 晃 一,
identification
J. Clin.
of
Microbiol.
1990.
温 泉 療 養 の 指 針 . 改 正 第3
日 本 温 泉 協 会,
浜 本 龍 生,
K.
of the microplate
for rapid
Europ.
H.,
S., Asano,
鳥 飼 勝 隆:
東 京,
1993.
温 泉 水 の誤 嚥 に
よ り発 症 し た と考 え られ る レ ジ オ ネ ラ肺 炎 の1症
荒 川 迫 生,
C. B., Cherry,
Rowbotham,
fever
& Yabuuchi,
版,
の 温 泉 水 中 のLegionella属
例.
1986.
investigations
with
Lucida,
報 告 し た レ ジ オ ネ ラ 属22菌 種102株 に対 す る塩 素
献
本邦初の
よ る 劇 症 肺 炎 の1症
R. J.&
厚:
10) Eazki,
発 生 を招 くよ うな こ とは避 け ね ば な らな い.今 回
文
藤 田 育 子:
永
佐野
炎 症 例 の 分 離 菌 の 細 菌 学 的 性 状. 感 染 症 誌, 62: 1
-6
, 1988.
主 旨 に 添 った 対 策 を と らず に レ ジオ ネ ラ症 の 集 団
笠,
田 中 俊 典,
よ る 検 索 に つ い て.
斉藤
厚 生 省 の 「公 衆 浴 場 に お け る衛 生 等 管 理 要領 」 の
王
大 嶋 正 人,
1162-1167,
9) 小 出 道 夫,
用 が か か る こ と も問 題 で あ ろ うが,浴 槽 水 の 高 度
1) 藪 内 英 子,
1101-
小 西 慎 吾,
1990.
64:
Pathol.,
レ ジオ ネ ラ属 菌 の 検 査 や そ の 殺 菌 消 毒 な どに費
松 本 富 美 子,
安 井 多 喜 雄,
誌,
associated
で あ る.
染 対 策 の 一環 と して 役 立 つ こ と を期 待 す る.
中村
北 海 道 で は じ めて レジ オネ ラ症 か らの
照 雄, 石 川 隆 之,
の 殺 菌 効 果 の 実 験 成 績 が,浴 場 水 の レ ジ オ ネ ラ汚
96:
菌 分 離 お よ びIFAに
of Pontiac
あ ろ う.そ の 時 に は別 の 方 法 を考 え る必 要 が あ る.
レ ジ オ ネ ラ汚 染 を知 らず に,あ る い は知 りな が ら,
日 小 児 会 誌,
14: 223-229,
crobiological
菌 に汚 染 さ れ て い て も塩 素 を使 用 出来 な い場 合 も
寿,
豪,
dumoffiiに
温 泉 水 の溶 存 物 質 の種 類 や 濃 度 な ど とレ ジ オ ネ ラ
属 菌 の生 息 との 関 係 が解 明 され れ ば,塩 素 消 毒 を
秋 岡
林
Legionella
生 医 誌,
何 れ に して も多 くの点 に つ い て 実 態 調 査 が 不 可 欠
生 児 例.
辻本
べ て見 な けれ ば な らな い .ま た 先 に述 べ た よ う に,
存 物 質 に よっ て は,た
1994.
武 田 信 裕,
1106, 1992.
素 注 入 を停 止 して お い て も よ
行 う必 要 の な い 温 泉 も 自 ら判 明 す る筈 で あ る.溶
蒲原
急 激 な致 死 的 経過 を とった レ ジォ
ネ ラ 肺 炎 の1新
の 成 績8)お よ び 今 回 の 実 験 結 果 か ら の 推 測 で あ
ば な らな い 時 問,塩
ネ ラ 属 菌 の 分 布.
1989.
例.
感 染 症 誌,
67:
163-166,
1993.
13) Rowbotham, R.J.: Preliminary report on the
pathogenicity of Legionella pneumophila for
freshwater and soil amoebae. J. Clin. Pathol .,
33: 1179-1183, 1980.
14) Fields, B. S.: Legionella and Protozoa: Interaction of a pathogen and its natural host. In
Legionella: Current status and emerging perspectives. (Barbaree, J. M., Breiman, R. F.&
Dufour, A. P., eds.) p. 129-136, Am. Soc. Microbiol., Washington, D.C., 1993.
邦 雄, 広 中隆行: 日本 の冷 却 塔 水 中 の レ ジオ
感染症学雑誌
第69巻 第2号
Legionell
Bactericidal
Eiko
Effect
YABUCHII),
asp.に
of Chlorine
157
対 す る塩 素 の殺 菌効 果
on Strains
Li WANG1',
Takao
of Legionella
Species
YAMAYOSHI2),
Michio ARAKAWA3)
& Ikuya YANO1'
' Department
of Bacteriology , Osaka City University Medical School
2)Osaka Prefectural
Institute of Public Health
3)Insurance Division , Public Welfare Department,
Gifu Prefectural Government
We have previously reported that the hot water of 17 (42.5%) out of 40 thermal baths were
contaminated
with legionellae. Our recent investigation revealed that legionellae inhabited 39
(66.1%) of the 59 thermal bath water, and their viable counts were at the level of 104 CFU/100
ml in 5 baths and 105 CFU/100 ml in another 5. Accordingly, the bactericidal effects of free
chlorine on 102 strains of 22 Legionella species were tested, in order to find a method of
controlling legionellae in thermal bath water. The test strains were the type strains of 22 species,
35 strains of 4 species from patients with Legionella pneumonia in Japan, and 45 strains of 4
species from thermal bath water. Viable cells of all 102 strains suspended at the concentration
of 105 CFU/100 ml in sodium hypochloride solution with 0.4 mg/1 free chlorine became undetectable within 15 min.
平成7年2月20日
Fly UP