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船員教育における PWC レスキューを用いた救命教育

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船員教育における PWC レスキューを用いた救命教育
第134回講演会(2016年5月19日,5月20日) 日本航海学会講演予稿集 4巻1号 2016年4月20日
船員教育における
PWC レスキューを用いた救命教育実践の効果
正会員〇幸田 三広(大島商船高等専門学校) 非会員 藤岩 秀樹(尾道市立大学)
正会員 辻 啓介(広島商船高等専門学校) 正会員 本木 久也(大島商船高等専門学校)
要旨
本研究は、大島商船高等専門学校が推進する“防災教育プロジェクト”の一環として、水上オートバイを
使った最新の救助法である“PWC レスキュー”を導入した結果、全国初の「学生 PWC レスキュー隊」が結
成され、船員教育において欠くことのできない救命活動を、海を舞台として実践することが可能となった。
また、救命活動に対する意識の向上を目的として取り組んでいる心肺蘇生法実習等の教育効果が明らかにな
ったので報告する。これらのことから、PWC レスキューを用いた救命教育が、今後の船員教育に貢献しうる
取り組みであると考える。
キーワード:教育・訓練、人命救助、水上オートバイ、PWC レスキュー
1.はじめに
2.PWC レスキュー
2.1
大島商船高等専門学校(以下、本校)は、山口県
の南東に位置し四方を海に囲まれた周防大島にある。
PWC レスキューとは
PWC( Personal Water Craft )は、水上オート
「東南海・南海地震対策推進地域」に山口県で唯一
バイのことであり、PWC レスキュー(PWC-R)とは、
指定されており、地震や津波の被害が出ると予測さ
水上オートバイ(以下、PWC)にライフスレッド(巨
れている。そこで平成 17 年 5 月、本校を中心として
大なボディーボード)
を装着して行う救助法である。
地域・行政・企業を含めたプロジェクトチームが発
ハワイのライフガードによって確立され、日本でも
足し、練習船「大島丸」を核とした“防災教育プロ
ライフガードのいる海水浴場で近年目にするように
ジェクト”
1)2)3)4)5)
がスタートした。10 年が経過
なった。さらに、その機動性の高さから海上保安庁
した現在では、地元のB&G海洋センターや柳井地
や消防署、自衛隊などにも採用されている。
区消防本部、山口県教育委員会と連携した防災教育
PWC の特性として、プロペラが水中に露出してい
を実践している。
ないため安全性が高く、しかも喫水が浅く、機動力
本校では、船員教育を行っている商船学科と工業
に優れ、波にも強いため、トライアスロン大会やオ
系2学科(電子機械工学科、情報工学科)を合わせ
ープンウォータースイミングといった海を舞台とし
た 3 学科の全学生に対し、救命活動の重要性を認識
た大会に救助艇として採用されている。またハワイ
させるため、心肺蘇生法実習を実践している。特に
をはじめ世界中で開催されるプロサーフィン大会で
商船学科においては、船員教育にとって必修である
は欠かせない存在となっている。
「救命講習」に付加して、救命意識の向上を目指し
2.2
ている。
PWC レスキューの実践
本校における PWC レスキューのスタートは、平成
本論では、“防災教育プロジェクト”の一環とし
て、船員教育に必要不可欠と考えられる「人命救助」
17 年の本校教員による PWC レスキューライセンス取
をキーワードに、水上オートバイを使った最新の救
得から始まった。平成 18 年には、著者の一人が在外
助法である「PWC レスキュー」を用いた救命教育実
研究員として PWC レスキュー発祥の地であるハワイ
践の取り組みを報告する。また、本校にて毎年実施
に滞在し、PWC レスキューおよびハワイアンライフ
している心肺蘇生法実習の教育効果について調査し
ガードの活動を研究してきた。
その後の平成 20 年に
たところ、その効果が確認できたので報告する。
中古艇 1 台を導入して活動を続け、インストラクタ
ー資格を取得した。そして平成 22 年に新艇 2 台の導
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第134回講演会(2016年5月19日,5月20日) 日本航海学会講演予稿集 4巻1号 2016年4月20日
入をきっかけに、9 名の商船学科学生が集まり、3
命講習」を 2 年生で実施しており、現在では 2 年生
名の教員とともにその活動がスタートした。
以上の全学生が「普通救命講習修了証」
(消防署発行)
これまでの PWC レスキューの実践およびそれに関
保持者となった。現役消防士による講習は、現場の
連する主な事業を以下に示す。
経験を踏まえた指導のため説得力があり、非常に教
育効果の高い実習となっている。実習は、1クラス
① 商船学科救命講習にてデモ実演(図1)
に対して指導教員1名、JAMY-Ⅳ(ジャミー・フォー
② 商船学科公開授業にてデモ実演
=蘇生法教育人体モデル)
を 7 体用いて行っている。
③ 本校オープンキャンパスにてデモ実演
3.2
④ 全国高専漕艇大会(大島)にて大会補助
救命講習
商船学科4年生は、船員教育において必修である
⑤ 消防署との合同水難救助訓練にてデモ実演
⑥ B&G 親子 3S 体験キャンプにてデモ実演
船舶衛生及び救命講習を実験実習等で行っている。
⑦ 地元の中学校海洋実習にてデモ実演
船舶衛生では、
「船舶に乗り込む衛生管理者資格」を
⑧ H23 山口国体セーリング競技救助艇
得るための外科的処置法の知識として、AED 使用法
⑨ PWC-R 資格取得講習会を本校にて開催
を含む心肺蘇生法を医師が講義している。また救命
⑩ 山口県消防学校が本校にて PWC-R 訓練実施
講習では、規定にある講習に加えて、学生 PWC レス
キュー隊による要救助者(漂流者・溺者等)救助の
デモ実演を見学することで、救助・救命の意義を再
確認させている。
3.3 救命教育の効果
3.3.1 CPR 実習についてのアンケート
CPR 実習の効果を調査するために平成 26 年度1年
生の実習前後において質問紙法によるアンケート調
査を行い、
「人命救助に対する意識」が実習前後でど
のように変化したかを調べた。
平成 26 年 5 月に保健体育の授業において、1 年生
3 クラス〈商船学科 43 名(男子 37 名、女子 6 名)、
図 1.
「商船学科救命講習」デモ実演の様子
電子機械工学科 47 名(男子 44 名、女子 3 名)
、情報
工学科 48 名(男子 37 名、女子 11 名)〉、合計 138
学生の活動開始から 1 年後の平成 23 年 6 月 1 日
名を対象に、JAMY-Ⅳを用いた心肺蘇生法実習(100
に「学生 PWC レスキュー隊」が全国で初めて結成さ
分×3 週)を実施した。質問項目は、
〈実習前〉①心
れ、3 年後の平成 26 年には、
「PWC レスキュー同好会」
肺蘇生法の認知度、②AED の認知度、③心肺蘇生法
として学校に正式に認められたクラブとなった。
講習会の受講経験、④救助に関わる意識、⑤その他
とし、〈実習後〉①心肺蘇生法の理解度、②AED の理
3. 救命教育
解度、③救助に関わる意識、④心肺蘇生法の難しか
3.1
った項目、⑤気道確保・人工呼吸・心臓マッサージ
心肺蘇生法実習
PWC 導入と同時期に、本校にも AED(Automated
の自己評価、⑥その他
とした。
External Defibrillator,自動体外式除細動器)が設
3.3.2
置された。それに伴い平成 20 年より 1・2 年生の保
「人命救助に対する意識」の変化
健体育授業において、人体モデルを使った心肺蘇生
アンケート調査の質問項目「救助に関わる意識」
法(CPR=Cardio Pulmonary Resuscitation:以下
では、積極的に救助に関わる勇気の度合いを 5 段階
CPR)実習を取り入れた。平成 25 年からは、1~4 年
で回答してもらった。
勇気の度合いが強い 5・4 を「あ
までの全クラスおよび商船学科 5 年生において 2 時
る」、度合いの低い 1・2 を「ない」、中間の 3 を「ど
間×3 回程度の心肺蘇生法実習を毎年実施している。 ちらとも言えない」として分析した。
図 2 には、全対象者の実習前後の「人命救助に対
また、平成 21 年から消防署と連携して「普通救
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実習前に「救助に関わる勇気が“ある”」と回答
する意識」の変化について示す。
「人命救助の現場に遭遇した場合、積極的に救助
した者の割合は、商船学科で 40.5%、他学科で
に関わる勇気が“ある”」と回答した者の割合は、実
25.5%と商船学科で多い割合を示していたものの有
習前で 30.1%、
実習後には 58.8%と 2 倍近くまで増
意ではなかった。
加した。また、「救助に関わる勇気が“ない”」と回
しかしながら、実習後に「救助に関わる勇気が“あ
答した者の割合は、実習前の 30.9%に対し、実習後
る”
」と回答した者の割合は、商船学科で 74.4%、
には 10.1%と 1/3 以下にまで減少しており、実習の
他学科で 51.6%と商船学科で顕著に多い割合を示
効果が確認された。
し学科間の人数の偏りも有意であった(p<0.05)。
CPR 実習の教育効果は、全学科学生において確認さ
れたが、特に商船学科クラスの学生において、その
効果が大きいことが明らかになった。
4.まとめ
PWC レスキュー導入により、役場や消防署、地域
の小・中学校といった外部(地域)との連携が活発
化された。また、全国初の学生による PWC レスキュ
ー隊の活動を通して海を舞台とした救命教育を実践
することが可能となった。そして、本校が取り組む
心肺蘇生法実習の調査結果からも実習効果は明らか
であり、とりわけ商船学科クラスにおいてその効果
が顕著であった。これは、もともと“船員を目指す”
図 2.心肺蘇生法実習前後における
という目標を持って入学した学生が多い商船学科の
「人命救助に対する意識」の変化
特殊性も関連しているであろう。さらに、PWC レス
キューによる要救助者(漂流者・溺者等)の救助法
3.3.3
商船学科クラスにみる実習効果
は、
救命艇による漂流者救助につながるものであり、
図 3 には、実習前後の「人命救助に対する意識」
船員教育を実施する上でこの取り組みは非常に大き
の変化について、商船学科クラスと他学科クラスの
な意義を持ち、また貢献できるものと考える。
結果についてそれぞれ示す。
今後は、PWC レスキューを用いた救命教育の実践
が船員教育においてどこまで活かされるのか更に検
証していく。
参考文献
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収集のための防災訓練-大島商船高専防災教
育プロジェクトチームの取り組み-,大島商船
高等専門学校紀要第 43 号,PP.59-64,2010.12
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