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石破 茂氏 酒井 綱一郎

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石破 茂氏 酒井 綱一郎
特別対談
石破 茂
氏
国務大臣
地方創生 国家戦略特別区域 担当
酒井 綱一郎
日 経 B P 総 合研 究 所長
地 方 創 生 は「 実 行 」の 段 階 へ
危 機 感・生 産 性・企 業 人 材 が ポ イ ント
ほぼすべての自治体が地方版総合戦略の策定を完了し、地方創生はいよいよ本格的な実行段階を迎えた。この段階にな
ると、具体的な
「しごと」を各地域につくっていく民間企業の役割が重要になる。石破茂地方創生担当大臣と酒井綱一郎
日経BP総合研究所長が、これからの地方における企業の役割はどうあるべきか、意見交換を行った。
構成=黒田隆明 写真=北山宏一
酒井 石破大臣が中心となって国が
例えば観光業は、大手旅行会社がお客
に気付いた。そういうことだと思います。
推進してきた地方創生が一つの契機と
様を連れてきてくれる。あるいは農業
酒井 大臣は人口減少について
「静か
なり、
「KPI」
「PDCA」といった企業な
であれば、お米を作ったら農協が全部
なる有事」という認識を示しています。
ら当たり前の経営キーワードが自治体
売ってくれる— 。そういった予定調
そうした危機感は、自治体でも共有さ
にも浸透してきました。これは大きな
和の世界がずっと続いていたわけです。
れていると感じますか。
変化です。
ところが、公共事業が減り、大量生
石破 高齢化率が極めて高いところ、
石破 今まで、地方の発展というのは、
産のものづくりビジネスは海外に出て
人口減少率が著しく高いところほど、
公共事業と誘致された企業の工場が
いった。そうすると、残ったものは何
変化しつつあります。つまり危機感の
担ってきました。その他の地域産業は、
か、ということになる。そこでようやく、
違いでしょう。
持てるポテンシャルを最大限に発揮し
今までポテンシャルを最大限に発揮し
有名な鹿児島県鹿屋市串良町柳谷
なくても、それなりに何とかなっていた。
ていなかった産業がたくさんあること
集落「やねだん」は、補助金は一切もら
24 日経BP総合研究所リポート
わず集落を立て直しました。自治公民
2015年1月25日 に 石 破 大 臣 が「や ね
だん」を訪問した際の動画は「政府イン
館長が中心となって、中学生からおじ
タ ー ネットテレビ」
(http://nettv.govonline.go.jp)で公開中だ(資料:内閣府)
いちゃん、おばあちゃんまでが一緒に
なって品質のよいサツマイモをつくった。
そして、いいイモでいい焼酎をつくった。
これがブランドになりました。
生産性向上の余地が大きい
地方のサービス産業
酒井 まず地域全体が産官学で取り
組んで、ブランド品をつくり付加価値を
上げていく。そして情報を発信するこ
とで、外から人がやってくるというビジ
ネスモデルですね。
石破 ブランド化といっても、やはり地
新次元の生産性—これからの経営・事業開発の鍵(日経BP総合研究所)
◉ 経 営・事 業コンセプト ― 新たな面に着目して見 直 す
▶ おもてなし経営… …………… サービスこそ付加価値、高値で提供へ
▶ Safety 2.0…………………… 人と機械が共存する時代の新たな安全性
▶ スマートな街… ……………… 人の移動や物の流れを改善し、利便性を高める
◉ 取り組む姿 勢 ― 変 化と生 産 性を意 識 する
▶ ビジネス変態… ……………… 変化に合わせ、自らの姿を変える
▶ 新マジョリティ… …………… 勤務時間の制約は当然。その中で働きやすさを
元で考え抜かなければダメです。例え
▶ 未来を凝視し先駆ける… …… 時代の最先端にいること=生産性が最も高い状況
ば島根県邑南町の石橋良治町長は、う
◉ テクノロジー 利 用 ― 高 付 加 価 値と省 力 化 の両 方を 追 求
ちはB級グルメは絶対にやらないと言
っています。B級グルメは、地元のもの
▶ 拡張AI………………………… 人の仕事を代替する一方で、人の能力の拡張も
▶ 電装化/デジタル化… ……… ディスプレーやセンサーが人体と一体化
を使っていると言いながらも、結局価
格競争になってしまう。そこで、
「ここ
でしか味わえない食や体験」を「A級
ハウステンボス(長崎県佐世保市)
グルメ」と呼んで、町に来て味わっても
の「変なホテル」では、フロントや
コンシェルジュなどでロボットが活
らおうという取り組みを進めています。
躍している。サービス産業のテクノ
酒井 「やねだん」と邑南町のエピソー
ロジー活用は急拡大していくだろう
(写真:ハウステンボス)
ドは、付加価値をつけることで生産性
を向上させたところが共通しています。
実は今、日経BP総合研究所では
「新
屋という老舗旅館があります。庭園は
業界としては革新的な手法で事業を
次元の生産性」に着目しています。
「お
約 1万坪、囲碁や将棋のタイトル戦も
再生しました。
もてなし」の付加価値を収益化したり、
行われる由緒ある旅館です。ところが、
では、ITを入れるのは何のためか。
AIやセンサーなどのテクノロジーを省
リーマンショックの後に経営が急激に
宮﨑社長は、コストを下げるためでは
力化だけでなく人の能力拡張に生かし
悪化し、ホンダで燃料電池の研究をし
ないといいます。業務を効率化するこ
たりするなど、従来の活動の延長線上
ていた宮﨑富夫氏が呼び戻され、4代
とによって、従業員が宿泊客とフェイ
にはない新たな広がりを持つ活動によ
目として跡を継ぐことになった。戻って
ス・トゥ・フェイスで接客する時間を増
って生産性を高めることを、
「新次元の
みると、メーカーの目から見てムダが多
やすため、という考え方です。
生産性」と呼んでいます。
かった。すべてアナログだった情報共
これにはとても共感しました。いわ
石破 神奈川県の鶴巻温泉に元湯 陣
有や顧客管理にITを導入して、旅館
ゆる
「失われた20年」の間に、日本の
日経BP総合研究所リポート 25
特別対談
企業は労働者の賃金を下げ、下請け
プロフェッショナル人材事業のスキーム(内閣府の資料を再構成)
を叩くことによって、企業は生き残りま
した。しかし、それによりサービスのク
オリティーは下がってしまったのではな
いか。そんなところにお客さんが来る
わけがないですよね。ですから、コスト
を下げると同時に、いかにして顧客満
足度を上げるか、付加価値を上げるか
ということが生産性の向上だと私は思
っているんです。
企業の人材をマッチングし
地域に新たな質の高い雇用を
酒井 そのときには、大手企業の人材
をどう地域で生かしていくかもポイント
になりそうですね。そうした大手企業
代から50代にかけての人はたくさんい
にとどまらず、それ以上の進化を期待
では当たり前の基本的なコスト削減の
ます。そうした人たちを必要としてい
したいですね。
考え方や従業員満足度向上のための
る地方の企業とマッチングさせて、地
酒井 私は20年以上、日経ビジネス
取り組みが、地方のサービス業ではま
域に新たな質の高い雇用を生み出そう
の記者として企業の現場を取材してき
だまだ取り入れられていなかったりしま
という事業です。
ました。日本企業は、グローバル化、コ
す。こうした技術やノウハウの移転に
さきほどお話しした元湯 陣屋のIT
ンプライアンス、キャッシュフロー経営
は、経験を積んだ人材が必要です。
システムは
「陣屋コネクト」として比較
といった課題に直面して、あたふたし
石破 その点については現在、政府主
的安価で提供されています。ほかにも
ながら、今ようやく競争力がついてきま
導で
「プロフェッショナル人材事業」を
ベストプラクティスはいろいろなところ
した。地方創生は、これから夜明けを
進めています。優秀だけれども、大手
で示されています。ですから、プロフェ
迎えるというところなのだろうと感じて
企業で能力を生かしきれていない40
ッショナル人材には、地方の
「底上げ」
います。
石破 地方創生は今年から実行のフ
ェーズに入ります。もちろん地方創生
の実現には時間は掛かります。ただ、
私は週末ごとに、4つか5つくらい市町
村を回っているのですが、“点”は密に
なりつつあるという実感はあります。ま
だ面にはなっていないけれども、地域、
人、企業いずれにおいても、ポテンシャ
ルを生かした事業を実行に移している
事例が増えつつあるという認識を持っ
ています。
26 日経BP総合研究所リポート
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