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航空機騒音について(その3) - So-net

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航空機騒音について(その3) - So-net
航空機騒音について(その3)
株式会社 アクト音響振動調査事務所
○松下泰衛、阿部千鶴子
はじめに
航空機騒音の無人常時監視において、飛行直下で観測する場合は航空機騒音が卓越すること
から音源識別の上で問題は少ないが、航路から離れた場所で無人常時監視を行う場合、自動車
騒音等その他の騒音と区別して、航空機騒音をきちんと識別することはなかなか困難である。
これはレベル記録紙に記録された変動波形を見ても、航空機騒音のゆらぎから必ずしもきれい
な波形とならない場合が多いからである。航空機騒音のゆらぎについて、気象条件等の騒音伝
搬上のゆらぎも考えられるが、同時に指向性、PWL等の音源側のゆらぎも考えられる。
一般に、航空機騒音の主な騒音発生源として、以下に示すものがあるとされている。1)2)
(1)ジェット気流騒音
エンジン推力の排気ジェットにより発生し、中低域の広帯域成分を含んでいる。航空
機の斜め後方に強い指向性を持つことから観測地点通過後、顕著になる。
(2)ファン騒音
ファンの回転数で決まり高域に大きな成分を持つ騒音である。航空機の前後方向とも
に強い指向性を持っており、着陸時には影響が大きく、ジェット気流騒音より発生騒音
レベルが大きいとされている。なお、ファンの回転数はエンジン推力とほぼ直線的に比
例する関係となっている。
小社は大阪国際空港の着陸進入経路直下付近にあり、航空機騒音をよく耳にしているが、ご
く稀に「ヒューン」とか「クォーン」といったエンジンが鳴くような特異音を聞くことがあり、こ
のような特異音は聴感上大きなゆらぎ音として感じられる場合も少なくない。我々は、航空機
騒音の音源側のゆらぎについて、この特異音に着目してみることとした。
着陸態勢にある航空機は、脚出し・フラップ下げ等の着陸装置をセットし、安全な最終着陸
態勢を整えるまでの間、段階的な推力の調整を頻繁に行っているものと思われ、我々はこのよ
うな特異音がその推力変化時に発生しやすいのではないかと考えた。すなわちジェットエンジ
ンの推力を足したり絞ったりすると、圧縮機やタービンのファンの回転数やジェットの噴出量
が変化する。その結果、ジェットエンジン周辺の気流の大きな変化に伴う圧力変動が生じるた
め、瞬間的に特異音が発生すると考えるものである。そこで今回、このような特異音の周波数
特性に着目した調査を行ってみることとした。以下、その結果について報告する。
1.測定方法及び分析方法
調査地点は AIP(航空路誌)より、大阪空港に着陸 大阪空港
する航空機が徐々に着陸態勢に移行し、各着陸装置
の操作に伴う推力の調整を行うと推察しうる地点
として、大阪空港の滑走路端から約 20km地点、
飛行高度約 3,000ft(地点A)を選定した。また参考
約 3000ft
点として測定点から滑走路寄りに約 1.5km離れ
約 20km
地点B
た地点(地点B)でも同時に観測を行い、観測地点間
地点A
の比較を行った。着陸段階に移行した航空機は秒速
約 90m~100mで航行しているため、地点間距離
約 1.5km
1.5kmは、航空機速度で秒換算すると約 10~15
図 1 測定位置の概要
秒程度、音速では約 4~5 秒程度離れた地点となる。
なお両地点とも着陸進入経路直下である。
- 1 -
測定は、普通騒音計の出力(A 特性)を DAT に録音して持ち帰り、自社開発した 1/3 Oct.Band
の IIR 型デジタルフィルターと FFT 分析機能を持ち合わせた周波数分析システムを用いて 1/3 Oct.Band
分析及び FFT 分析を行った。測定時は晴れで、測定は 13:00~19:00 の 6 時間行ったものである。
2.調査結果
観測されたピーク航空機騒音レ
表 1 ピーク航空機騒音レベル観測結果
ベルの結果は表1 に示す通りで
S/N≧10
ある。地点Aにおいては51機、地
全体
航空機以外の影響なし
項 目
点Bにおいては39機のピーク航空
地点 A
地点 B
地点 A
地点 B
機騒音を観測し、このうちピーク
航空機騒音発生時のS/N比が10dB DATA 数
51
39
29
17
以上あり、航空機以外の音源の影
パワー平均
66.07
67.45
66.86
68.49
響を受けなかったデータは、各々
算術平均
65.20
66.53
66.19
67.29
29データ、17データであった。
最大値
70.5
73.7
70.5
73.7
このうち、航空機騒音を認識し 最小値
60.5
62.0
61.3
62.0
ている間に瞬間的に騒音レベルが
標準偏差
2.7779
2.6693
2.5016
3.2516
大きくなる特異音が観測された機
数は、各地点でそれぞれ15機、6機であり、このうち特異音がピーク航空機騒音となったものは
地点Aで 3機であり、地点Bでは観測できなかった。
航空機騒音のピーク値の全機種によるパワー平均値は、地点Aで 66.1dB、地点Bで 67.5dB
となっており、地点Bの方が約 1dB 大きくなっている。航空機が進入角 3°で降下していると
すると、地点間の距離より地点Bのほうが飛行高度が 80m程度低くなっており、騒音レベルに
換算すると地点Bの方が 0.6dB 大きくなることとなる。
図2 に、航空機騒音の 1/3 Oct.Band 分析及び FFT 分析による周波数分析結果を示す。
1) 一般的な航空機騒音
2) 特異音を発生させた航空機騒音
図2 航空機騒音の変動波形及び周波数特性(地点A)
- 2 -
一般的な航空機騒音のレベル変動は 1/3 Oct.Band 分析結果より、125Hz~2kHz の範囲の周波
数成分が影響していることが分かる。航空機の接近時(ComeNear)には 1.6kHz 付近の高域が卓越
し、離遠時(GoAway)には 250Hz 前後の周波数成分が卓越する。
特異音が観測された航空機騒音の周波数分析結果の例でも、1/3 Oct.Band分析結果より航空
機騒音データは、同様に125Hz~2.5kHzの範囲の周波数成分が影響しているが、特に特異音が発
生した前後の周波数特性で大きな影響を示した周波数成分は、DATA 1では 315Hz~1.25kHzの中
低域の範囲にあり、DATA 2では 250Hz、315Hz、1.6kHzの成分であった。特異音は観測されてい
る継続時間が短いため、FFT分析結果では特異音が極大値となった時刻の箇所に一筋入って見え
るだけであるが、周波数成分でみると中低域の成分が卓越する傾向にある。
航空機の周波数特性は、接近時及び離遠時に各々異なった特定周波数のレベルが大きくなっ
ており、レベル変動に影響を及ぼしている。これは騒音発生源別(ジェット気流騒音、ファン
騒音)の指向性の特性が現れているものと思われる。また、特異音が発生した際に卓越する周
波数成分が中低域にあることから、特異音はジェット気流騒音に由来するものであり、ジェッ
ト気流騒音の方がファン騒音に比べ推力操作による航空機騒音レベルに及ぶ影響が大きいので
はないかと考えられる。
今回の調査から以下に示す事項が推察された。3)
1) 特異音の継続時間は非常に短く、S/N比は5~6dB程度となることもある。
2) 特異音はジェット気流騒音に近い周波数成分であり、影響の強く現れる方向が航空機の
後方にある。
3.単発暴露騒音レベルLAEの近似について
騒音レベル
エネルギーを基礎とした等価騒音レベル
Leqは物理的な意味も明確で、聴覚に対する
影響や人の反応との相関がよいとされてお
り、騒音のうるささの評価はエネルギー加算
評価が適当であるとされてきている。
環境基準及び道路交通騒音の評価指標が
L50から等価騒音レベルLeqに変更され、鉄
道騒音についても、単発暴露騒音レベルLAE
を求め、Leqで評価する方法が採用されてい
る。今後、航空機騒音の評価方法においても
その評価指標が WECPNL から等価騒音レベル
L eq に統一されていくことが必要となって
くると思われる。既に「航空機騒音に係る環
境基準」の対象外とされている小規模飛行場
に対する評価指針「小規模飛行場環境保全暫
定指針」における指針値Ldenでは、評価値
の算出過程で単発暴露騒音レベルL AE を1
機毎に求めることとなっている。
騒音予測を行う場合にL A E の定義式を用
いることは手間がかかるため、近似式を用い
て算定する方法をこれまで発表してきたが、
航空機騒音のレベル変動波形の三角形近似
による計算値と実測値との誤差について、今
回の航空機騒音データから考察を行った。
近似式は図3 に示すとおりである。
10dB
(dB)
Δt
t0
t1
時刻 t
LAE はエネルギー積分した騒音レベルである
ため、航空機騒音のレベル変動を 1 秒間隔で
積分したものは、三角形の面積を求めること
と等価であると考えることができる。
そこで、ピーク航空機騒音レベルとL AE との
関係が次式で近似できることとなる。
⎡ 1 t1 PA 2 ( t ) ⎤
L AE = 10 log10 ⎢ ∫
dt ⎥
2
t0
P0
⎣ T0
⎦
≒ dBMax + 10log 10 (Δt ) − 3
dBMax:ピーク航空機騒音レベル(dB)
Δt :継続時間(秒)
ピーク航空機騒音レベルより 10dB 低
いレベルを超えている時間
図3 単発暴露騒音レベルLAE の近似方法
- 3 -
表2 に実測データより求めたLAE 及び近似式より算出したLAE の集計結果を示す。
これより地点A、地点Bともに実測値と近似値のパワー平均値の差異は±1dB 以内となって
おり、近似式の整合性はよい結果となっているが、地点Aの標準偏差が地点Bの標準偏差と比
べて大きくなっている。この一因として地点Aにおいては特異音を発生したデータが多く含ま
れていることが考えられる。なお、特異音には以下のケースが見られている。
1) 特異音がピーク航空機騒音レベルとなっている。
・レベル変動波形の立ち上がりがかなり急であり、特異音を発生しなかった場合に推定
されるピーク航空機騒音レベルと比較して 5dB 以上大きくなっているもの。
・レベル変動波形の立ち上がりがかなり急であるが、特異音を発生しなかった場合に推
定されるピーク航空機騒音レベルとの差があまり見られないもの。
・レベル変動波形の立ち上がりが小さいもの。
2) 特異音がピーク航空機騒音レベルとなっていない。
・LAE 航空機騒音レベルに寄与している。
・LAE 航空機騒音レベルに殆ど寄与していない。
特異音は、継続時間が短く、レベル変動波形の立ち上がりが急であるため、今回の調査結果
では上記 1)のようなタイミングで発生すると、単発暴露騒音レベルLAE は特異音が発生しなか
った場合に比べて小さくなった。これを近似値でみると実測値よりも大きくなる傾向がみられ、
概ね安全側の値となっている。一方、上記 2)のようなタイミングで発生すると、観測データが
少ないものの近似値の方が小さくなる傾向がみられる場合もあった。
以上のことから、将来予測等を目的とし、航空機の単発暴露騒音レベルを整理する場合には、
簡易な算定手法として近似値を用いるほうが概ね安全側であり、問題は少ないと考えられるが、
特異音が発生する場合には実測値と近似値の誤差のばらつきが大きくなる恐れもあるので注意
をする必要があると考えられる。
また、特異音の”騒音レベルは大きいが継続時間が非常に短い”という特性を考えると、現行
で行われている航空機騒音の無人監視手法でよくみられるような、“設定レベルを設定した一
定時間以上超える発生騒音を暫定的に航空機騒音と判定する”という識別方法では、航空機騒音
の観測値から漏れる恐れもある。今回は着陸時における航空機騒音に着目して調査を行ったの
で、離陸時に同様な特異音が発生する恐れのある地域が存在するのかどうかは言明できないが、
航空機騒音の無人常時監視を行う場合には、周波数特性も監視するようなシステムの導入が特
異音も含めた監視に有効ではないかと考えられる。
4.まとめ
今回、推力を調整することにより瞬間的に騒音レベルが大きくなること、場合によっては今
回調査を行ったこのような特異音がピーク航空機騒音となっていることを確認した。また、航
空機騒音の単発暴露騒音レベルL AE は、三角形近似による近似値を評価に用いる方が概ね安全
側であるが、特異音が発生している場合には誤差が大きくなる場合があることを示した。
航空機騒音に係る環境基準は、長期間にわたっての平均騒音レベルである WECPNL を採用して
いるが、受音者には特にうるさかったときの印象が残りやすい。受音者の航空機騒音に対する
被害感覚はこのような印象を受けたときに生じ易く、ピーク航空機騒音にも反応して苦情が発
生していることもあると思われるため、特異音の影響も大きいものと考えられる。
このような事象の発生頻度等については今後の課題として継続的に着目しておきたい。
<参考文献>
1) 中村良也:航空機騒音の発生源と低減対策 -固定翼航空機-,騒音制御,Vol.19,No.3,1995.
2) 山田一郎:航空機騒音の特性について,騒音制御,Vol.19,No.3,1995.
3) 阿部千鶴子,松下泰衛,山本和寛:航空機騒音の着陸進入時における周波数特性について,
(社)日本騒音制御工学会研究発表会講演論文集,2001.9
- 4 -
表2
航空機騒音の単発暴露騒音レベルLAE
(2) 特異音が発生していない航空機騒音のみ
(1) 実測値全体
観測地点
地点 A
DATA 数
観測地点
地点 B
29
17
地点 A
DATA 数
地点 B
14
14
LAE
パワー平均
78.94
80.06
LAE
パワー平均
79.35
80.48
実測値
算術平均
78.29
79.12
実測値
算術平均
78.72
79.55
最大値
83.29
84.22
最大値
83.29
84.22
最小値
最小値
73.42
74.66
標準偏差
2.3734
2.9008
LAE
パワー平均
79.20
80.01
近似値
算術平均
78.73
79.12
最大値
82.88
最小値
74.73
2.0262
2.8385
標準偏差
74.96
74.66
標準偏差
2.3569
2.9865
LAE
パワー平均
79.37
80.40
近似値
算術平均
78.86
79.53
84.32
最大値
82.88
84.32
74.80
最小値
75.95
74.80
2.1227
2.9198
標準偏差
誤差
平均
0.44
0.00
誤差
平均
0.14
-0.02
(近似値
最大値
2.05
0.45
(近似値
最大値
0.99
0.45
-実測値) 最小値
-0.96
-0.81
-実測値) 最小値
-0.96
-0.81
0.7185
0.3478
0.4909
0.3325
標準偏差
標準偏差
(3) 航空機騒音(地点A)の詳細分類
特異音を発生させた航空機
特異音を
発生しない
航空機
DATA 数
LAE
実測値
(近似値
-実測値)
Case
Case
Case
Case
Case
全体
全体
Case 1
Case 2
Case 3
全体
Case 4
Case 5
14
15
9
3
2
4
6
4
2
79.35
78.52
77.58
76.96
76.36
78.45
79.63
77.78
81.92
算術平均
78.72
77.89
77.29
76.94
75.76
78.32
78.80
77.23
81.92
最大値
83.29
81.97
80.12
77.55
78.10
80.12
81.97
80.56
81.97
最小値
74.96
73.42
73.42
76.57
73.42
77.55
74.98
74.98
81.87
2.3569 2.3991
1.7740
0.5345
3.3093
1.2104
3.0733
2.4444
0.0698
パワー平均
79.37
79.04
78.57
78.62
77.60
78.95
79.66
77.91
81.87
算術平均
78.86
78.62
78.35
78.57
77.02
78.85
79.02
77.60
81.84
最大値
82.88
82.27
80.13
79.35
79.31
80.13
82.27
80.11
82.27
最小値
75.95
74.73
74.73
77.75
74.73
77.51
76.18
76.18
81.42
2.1227 1.9995
1.5798
0.8011
3.2385
1.0798
2.6235
1.8307
0.6014
標準偏差
誤差
特異音 <> ピーク値
パワー平均
標準偏差
LAE
近似値
特異音 = ピーク値
平均
0.14
0.73
1.06
1.64
1.26
0.53
0.22
0.37
-0.08
最大値
0.99
2.05
2.05
2.05
1.31
1.19
1.32
1.32
0.40
-0.96
-0.55
-0.04
1.06
1.21
-0.04
-0.55
-0.45
-0.55
0.4909 0.7944
0.7062
0.5148
0.0707
0.6490
0.6786
0.7274
0.6718
最小値
標準偏差
1:レベル変動波形の立ち上がりが大かつ本来 Peak になると思われる値より 5dB 程度以上はあるもの。
2:レベル変動波形の立ち上がりが大であるが本来 Peak になると思われる値との差があまり見られないもの。
3:レベル変動波形の立ち上がりが小。
4:特異音発生。LAE に多少なりとも影響していると思われるもの。
5:特異音発生。LAE には影響していないと思われるもの。
- 5 -
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