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遂に住宅バブル対策に本気になり始めた BOE

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遂に住宅バブル対策に本気になり始めた BOE
欧州経済
2014 年 8 月 12 日
全5頁
遂に住宅バブル対策に本気になり始めた BOE
差し迫る金利引き上げに怯えるスクイーズドミドル
ユーロウェイブ@欧州経済・金融市場 Vol.29
ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト
菅野泰夫
[要約]

英国中央銀行(BOE)カーニー総裁は、7 月 15 日の議会証言で、過熱する英国の住宅市
場に対して「(各金融機関の)住宅ローン審査が甘く、無理に許容度を超えて貸し出し
することを懸念している」と発言し、リスクを軽視して過大な住宅融資に走る金融機関
を牽制した。

BOE の中に設けられた金融安定政策委員会(FPC)は、過熱する住宅市場への対策とし
て、銀行の新規住宅ローンに上限を付す新たな引き締め策を明らかにした。この施策は、
所得に対する住宅ローンの割合(LTI)が 4.5 倍以上になるハイリスクな物件への融資
を、行内の新規住宅ローン実行の 15%以内に収めるように各金融機関に勧告したもの
である。

今回の住宅ローン融資制限により影響が懸念されているのが、30 代半ば〜40 代前半の
年齢的にも収入的にも中間の人々ともいわれている。(住宅の購入希望者が最も多い世
代でありながら)住宅ローンを組もうにも、所得の 4.5 倍以内に抑えることができない
申し込み者が多いのも、この階層といわれている。たとえ住宅ローンが組めたとしても、
利上げによりローンの支払いに困窮し真っ先に破綻する可能性が高いといえよう。

現金一括で購入できるほどの富裕層でもなく、社会給付手当に頼るほどの低所得者でも
ない彼らのことを、英国ではスクイーズドミドル(圧迫される中間層)と揶揄する現実
がある。まさに、上下の世代に搾り取られる中間層の不満にどのように対応するのか、
BOE の手腕が試される重要な局面ともいえるだろう。
不動産市場への警戒と政策金利の引き上げのタイミング
英国では、政策金利の引き上げタイミングが早まる機運が高まりつつある。英国中央銀行
(BOE)カーニー総裁は、6 月 12 日のロンドン市長公邸で行われた定例のスピーチの中で「最初
の利上げは市場関係者が想定しているより早く行われる可能性がある」と明言し、市場でのポ
株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー
このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する
ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和
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2/5
ンド高を誘発させた。また 7 月に開催された BOE の金融政策委員会(MPC)の一部の委員は、英
国経済の成長率が金融危機以前の伸び率に回復したことを踏まえ「利上げが成長の妨げになる
リスクは後退している」と指摘しており、年内の利上げが現実味を帯びたといっても過言では
ない。さらに、カーニー総裁は、7 月 15 日の議会証言で、過熱する英国の住宅市場に対して「(各
金融機関の)住宅ローン審査が甘く、無理に許容度を超えて貸し出しすることを懸念している」
と発言し、リスクを軽視して過大な住宅融資に走る金融機関を牽制した。BOE が利上げを急ぐ理
由のひとつとして、住宅価格の高騰を抑制したい意図が見え隠れしているといえよう。
金融危機からの出口が見え始めている反面、それを先取りするかのように英国住宅市場は過
熱の様相を呈している。右肩上がりの英国住宅価格は、今年 4 月には英国全体で前年同月比+
10.86%と遂に 2 桁(double-digit)の伸びにまで達した(図表 1 参照)。また、牽引役となっ
たロンドンに至っては、第 2 四半期(4 月-6 月平均)の伸び率は前年同期比+25.8%と極端な
水準にまで達している。年明け以降、住宅ローンの新規承認件数が減少しているにもかかわら
ず、住宅価格自体の力強さに陰りは見えない。
図表1
英国の住宅ローン貸付承認件数と住宅価格変化率(前年同月比)
住宅価格変化率(%)
住宅ローン承認件数増減(%)
14.00%
50.00%
住宅ローン貸付承認件数(全英:BOE)
41.89%
11.8%
全英住宅価格(Nationwide:右軸)
11.08%
40.00%
32.96%
33.47%
30.70% 31.23%
29.56%
30.00%
33.76% 9.50%
29.28%
10.86%
10.00%
9.35%
8.78%
8.00%
8.36%
23.99%
22.09%
6.54%
20.36%
20.00%
6.00%
5.80%
4.98%
3.92%
10.00%
12.00%
14.69%
14.15%
4.00%
3.51%
6.88%
4.74%
0.01%
0.00%
6.39%
2.00%
1.93%
4.61%
‐0.05%
0.80%
0.88% 1.14%
0.00%
‐5.11%
‐2.00%
‐10.00%
13/01 13/02 13/03 13/04 13/05 13/06 13/07 13/08 13/09 13/10 13/11 13/12 14/01 14/02 14/03 14/04 14/05 14/06
(出所)
Bloomberg データにより大和総研作成
(年/月)
3/5
図表2
ロンドンの住宅価格変化率(前年同期比)
住宅価格変化率(%)
30.0%
25.8%
25.0%
ロンドン住宅価格(Nationwide)
20.0%
18.1%
15.0%
15.0%
10.1%
10.0%
5.5%
5.0%
4.6%
2.4%
0.5%
1.1%
5.1%
2.2%
0.7%
0.0%
2011年9月
2011年12月
2012年3月
2012年6月
2012年9月
2012年12月
2013年3月
2013年6月
2013年9月
2013年12月
2014年3月
2014年6月
(年月)
(出所)
Nationwide により大和総研作成
伸びない賃金と高まる金融機関の不良債権リスク
英国の平均世帯収入は、住宅価格の上昇に見合うだけの伸びを見せていないため、親からの
援助がなければ、不動産を購入できない若い世代が増加しているのが現実である。2020 年まで
に新規購入者(First-time buyers)に必要とされる頭金の平均金額がロンドンでは 10 万ポン
ド(約 1,700 万円)、英国全体でも 6 万ポンド(約 1,000 万円)にまで上昇すると予測されて
おり、既に現時点でもこれ以上の金額が必要となるケースも散見されている。しかし、若い世
代(20 代〜30 代前半)の新規住宅購入では、これだけの金額を工面することは容易ではなく、
仮に用意できたとして住宅価格の 10%程度の頭金にすぎないといわれている。もっとも、こう
いった新規購入者にも、政府の住宅購入支援政策(Help to Buy1 2)を使うことによって、頭金
が不足しても物件を購入することが可能となった結果、現実の収入には見合わない住宅ローン
を組むケースが増加している。当然、予期せぬ金利上昇等により支払いに行き詰まることも十
分に考えられ、結果的に金融機関の不良債権のリスクが増しているといっても過言ではない。
特に英国の住宅価格とりわけロンドンでの過熱した上昇率は、賃金上昇率をはるかに上回って
おり、急停止しかねないとの声も多い。英国の経済成長率がリーマン・ショック前の上昇ペー
スに近づいている中で、住宅価格の大幅な調整は、広範囲に借入を緊縮化させ、消費が停滞す
ることにより、英国経済全体に大きな打撃を与えるとの懸念を表明する識者が絶えない。英国
は比較的好調な経済状況であるにもかかわらず、(特に南西部は実質賃金の上昇しない中で)
住宅価格の調整という重大なリスク要因を抱えているといえよう。
1
菅野泰夫、沼地聡子「超低金利政策が引き起こす英国の不動産バブル」、2013 年 10 月 9 日、大和総研レポート
http://www.dir.co.jp/research/report/overseas/europe/20131009_007773.html
2
菅野泰夫、「住宅バブルが続く欧州とその背景」、2014 年 3 月 18 日、大和総研レポート
http://www.dir.co.jp/research/report/overseas/europe/20140318_008339.html
4/5
住宅ローンが収入の 4.5 倍以上の購入者が急増
無論、BOE の中に設けられた金融安定政策委員会(FPC)は、過熱する住宅市場は金融システ
ムの安定に脅威を与えるとし対策に躍起になっている。6 月 26 日には FPC が住宅ローン融資に
対する新たな引き締め策を明らかにした。銀行の新規住宅ローンに上限を付すこの施策は、所
得に対する住宅ローンの割合(LTI)が 4.5 倍以上になるハイリスクな物件への融資を、行内の
新規住宅ローン実行の 15%以内に収めるように各金融機関に勧告したものである。特にロンド
ンでは、年収の 4.5 倍を超える住宅ローン融資の増加率が際立っており、2008 年の金融危機以
前は全体の 10%前後に留まっていたものが、現在では(住宅価格の高騰により)全体の 22%ま
で上昇している(図表 3 参照)。
新しいガイドラインは、10 月に実施予定であり、8 月 5 日には金融行為規制機構(FCA)によ
り追加的な勧告が行われた。特に、事業用住宅に対する貸出は対象外となっていることで、ガ
イダンスの抜け穴を利用する住宅取得者の申し込みに関して、FCA は注意するように警告してい
る。また貸出額が単年で1億ポンド未満の銀行に関しては、金融システムの安定を脅かすこと
はないという判断で、今回のガイドラインからは除外されている。
図表3
LTI(Loan To Income)が 4.5 倍以上の住宅ローンを組んだ住宅購入者の割合
(%)
25.0%
22.0%
(2014年3月)
ロンドン
物件価格が30万ポンド以上
新規購入者(First‐time buyers)
20.0%
英国全体
15.0%
7.8%
(2008年12月)
10.0%
5.0%
0.0%
2005年
9月
2006年
3月
2006年
9月
2007年
3月
2007年
9月
2008年
3月
2008年
9月
2009年
3月
2009年
9月
2010年
3月
2010年
9月
2011年
3月
2011年
9月
2012年
3月
2012年
9月
2013年
3月
2013年
9月
2014年
3月
(年月)
(出所) 英国中央銀行より大和総研作成
住宅バブル対策で最も影響するのは圧迫される中間層(スクイーズドミドル)
ただし、100 万ポンド(約1億 7,000 万円)を超えるような高額物件の購入者の多くはローン
5/5
を組まず、現金一括で住宅を購入するといわれている3。つまり今回の融資制限には何ら影響を
受けないため、住宅価格の上昇を抑える効果は未知数との指摘が絶えない。今回のガイドライ
ンで若い世代の新規購入者は、貯蓄も少なく多額のローンを組む必要があるので真っ先に影響
を被るといわれている。ただし、そもそも高すぎる住宅を購入することを諦めていたため、ガ
イドラインの有無に直接影響する所まで到達していない可能性も指摘されている。それ以上に、
今回の融資制限で影響が懸念されているのが、30 代半ば〜40 代前半の年代的にも収入的にも中
間の人々といわれている。(住宅の購入希望者が最も多い世代でありながら)住宅ローンを組
もうにも、所得の 4.5 倍以内に抑えることができない申し込み者が多いのも、この階層といわ
れている。また、たとえ住宅ローンが組めたとしても、利上げによりローンの支払いに困窮し
真っ先に破綻する見込みが高いといえよう。現金一括で購入できるほどの富裕層でもなく、社
会給付手当に頼るほどの低所得者でもない彼らのことを、英国ではスクイーズドミドル(圧迫
される中間層)と揶揄する現実がある。かつて英国の流行語に選ばれたこの言葉のように、ま
さに、上下の世代に搾り取られる中間層の不満にどのように対応するのか、BOE の手腕が試され
る重要な局面ともいえるだろう。
(了)
3
100 万ポンド以上の高額物件の購入者である中東やロシア等の富裕層は、非居住者であるがゆえに英国で住宅ローンを組
むことができず、現金一括で購入する傾向にある。
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