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にいがた 里に生きる(P21~P70)(PDF形式 2453 キロバイト)

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にいがた 里に生きる(P21~P70)(PDF形式 2453 キロバイト)
第3章 里づくりのために
- 21 -
3ー1
里づくりの4つのヒント
私たちは、長い間、自然に働きかけ、その恵みを農産物という形で受け取ってきま
した。農業生産の場である農村地域は、まさに、いのちを育んできた場所といっても
よいでしょう。
これからも、それぞれの地域(里)で、土地や、自然などの地域資源を活かし、魅
力ある農村を持続していくことや、郷土への誇りや愛着を育てることは、たいへん重
要なことです。
里づくりにおいては、農業生産の視点だけでなく、足もとの自然環境やつながり合
っているいのちを育む視点を持ちながら、4つのヒント(伝統文化・生態系・水循
環・景観)などを参考に合意づくりを進めましょう。
■ポイント■
○ 里づくりを進めるときには、現在から将来のことだけでなく、今も引き継がれている
暮らしや歴史に裏打ちされた伝統文化を振り返ってみましょう。
○ 自然の豊かさは、水や土地だけでなく、そこに棲む生きものの生態系の多様性(にぎ
わい)も大切な要素です。
○ 安全で安心な農作物の生産には、農業用水の量と質の確保が大切です。広い視野での
水源かん養や水循環についても考えてみましょう。
○ 美しい農村の景観を保全することは、地域の人たちの誇りとなり、地域を大切にする
気持ちを育むことにもつながります。
主な地域資源
文 化 的 資 源( 遺 跡 、民 話 、伝 統 行 事 な ど )
自 然 資 源 ( 土 地 、水 、森 林 、生 物 な ど )
景 観 資 源 ( 自 然 景 観 、町 並 み 景 観 な ど )
人的資源 (お年寄りの知恵など)
川の流れ
地域特産資源
(米、酒、伝統食など)
雪割草
農村地域が持つ多面的機能
○国土保全
○水源かん養
○環境保全
○大気浄化
○伝統文化の継承
など
はさがけ
夕暮れの水田
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里づくりのための
3つの視点と4つのヒント
いのちを育む視点
自然環境との
調和の視点
農業生産の視点
4つのヒント
○伝統文化 ○生態系
○水循環 ○景観
●●の里
■■の里
自分たちの足もとを大切
にしながら、誇りや愛着の
持てる里へ
△△の里
○○の里
★★の里
◎◎の里
◇◇の里
□□の里
☆☆の里
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3ー2
伝統文化
3ー2ー1 こころの文化
里づくりでは、心の結びつき(絆)を深め、郷土への誇りや愛着を育むことが大切
です。
私たちの暮らす新潟には、祖先が長い時間をかけて形づくってきた稲作を基調とし
た有形・無形の伝統や文化が継承され、今も農村の暮らしの中に息づいています。そ
こには、手間の貸し借りで田植えや稲刈りなどを協力し助け合いながら暮らしてきた
村人の結びつきや生活する上での知恵、土地に対する愛着の心がたくさん詰まってい
ます。
戦後の生活様式の変化によって、農村地域の結びつきは希薄化していますが、新潟
には人と人との結びつきを大切にし、絆を深めていく要素がたくさんあります。
■ポイント■
○ 戦後の高度成長や営農の機械化などにより、生活様式は便利で快適になりましたが、
中山間地域においては過疎化、都市近郊では混住化が進み、農村地域の結びつきは希薄
化しています。里づくりのためには、改めて人と人との結びつきを考え、絆を深めてい
くことが大切です。
○ 農村の伝統的な行事は、農民の祈りや喜びが長い年月をかけて形になったもので、つ
らい農作業に明け暮れる農民のこころの支えとなり集落の絆を形成してきました。これ
からの農村社会においても、地域の人たちが心を通わせ、お互いが支え合うことが大切
で、これらを伝統的な営みから学ぶことも多いと思います。
全国的に行われている稲作に関係した年中行事
名 称
時 期
目 的
様 子
いのちが新しくなる
鏡餅を飾って神を迎える
さいの神(どんど焼き) 1月
病気にならない
正月の飾りを燃やす
種まき祭
5月
田の神を迎える
稲のいのちを迎える
さなぶり
6月
豊作を祈願
田植えの慰労もこめて
雨乞い
7月
雨が降るように
火を焚いて、祈る
虫送り
8月
害虫が増えないように
松明で虫を引き連れていく
風祭り・八朔
9月1日
台風がこないように
風の盆と呼ばれるところもある
月見
陰暦8月15日
豊作祈願
稲の穂の代わりにススキの穂を飾る
新嘗祭
11月23日
新米の奉納
新米を神に供え共に食べて感謝する
しめ縄ない
12月末
正月の準備
しめ縄を張って、神を迎える準備
1月1日
正月
はっさく
にいなめさい
出典:いのちが集まる、いのちが育む「田んぼの学校」入学編(社)農山漁村文化協会
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○ 農作業などの時に、互いに力を貸し合う「結(ゆい)」や互助的な組織である「講
(こう)」は農村コミュニティを支えてきましたが、近年、農業の機械化などに伴って
減少しています。農村コミュニティは、水田農業特有の個人の力ではできないことを地
域の大きな力で行う必要があったため、意見の対立を集約しながら、合意形成を図る地
域共同体としての秩序が保たれていました。
○ 地域の伝統的な行事・芸能も時代の変遷とともに姿を変え、その意義や謂れが伝わり
にくくなっています。これらを地域固有の生きた文化として、次世代にしっかり引き継
ぐ意義について考えてみましょう。
○ 土地の住人たちにとっては何気ないことと思われることも、他の地域の人にとって価
値のあるものに見えるかもしれません。こうしたことは、他の地域の人たちとの交流に
よって気付かされることが少なくありません。様々な人たちと情報交換を行いながら合
意形成を図るワークショップなどの新たな手法を取り入れてみることも大切です。交流
の輪を広げるなかで、地域の情報を積極的に発信してみましょう。新たな発見が、郷土
への誇りと愛着を呼びさますかもしれません。
にいがたの年中行事あれこれ
1月 さいの神
小千谷市他
2月 田遊び神事
佐渡市
3月 浦佐毘沙門堂裸押合祭
南魚沼市
5月 加茂祭(乳母まつり)
加茂市
7月 稲虫送り
三川村
9月 根知山寺の延年
(おててこ舞)糸魚川市
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コラム
失われようとしている年中行事
山の神の祭り
春先の年中行事の一つに、「山の神の祭り」があります。土地によっては「十二さま
の祭り」とか「十二講」と呼んでおり、2月12日、あるいは月遅れで3月13日に行
われています。
山の神の祭りは、中越から上越地方の山沿いの村々で盛んに行われてきた行事です。
しかしこれも昭和30年代後半から急速に下火になり、今ではわずかに魚沼地方の一部
にだけしか残っていません。
この祭りは、山の仕事や農作に従事する人々を守ってくれる神様の祭りだと言われて
います。
12日の早朝、まだ、暗いうちに起きだし、男衆の数だけ作った杉枝の弓とヨシの
矢、それに生米で作ったカラコという団子に小豆飯、さらに魚やお神酒などを持って、
裏山や鎮守の森に出かけます。
山の神さまは「女の神さま」であり、この神さまは1年に12人の子供を産みなさる
ので「十二さま」という名がついたのだという楽しい話がよく聞かれます。
女の神である山の神さまは、十二講に女の人が係わると嫉妬するので、祭りのすべて
を男衆だけでやるのだということです。生産生業の幸をもたらしてくれるのは女の神だ
という古い信仰から生まれてきた祭祀の姿なのでしょう。
稲虫送り
農薬など無かった時代は、ひとたび稲に病虫害が発生するともうお手上げでした。各
地の古文書を調べると、イナゴの大群に襲われたり、イモチ病にとりつかれたりして、
一村が潰滅的被害を受けたという記録がよく出てきます。
素朴な心を持った昔の人たちは、稲の病虫害は悪霊のなせるわざだと考えました。そ
れだけに、このような場合は社寺から虫除けのお札をもらってきて田の畦に立てたり、
虫封じのご祈祷をしてもらったりする神頼み、仏頼みより他になす術を知りませんでし
た。戦前、そして戦後もしばらくの間、越後・佐渡の農村地帯では、その神頼みの一つ
でもある「稲虫送り」という信仰行事がよく見られました。
ミシ(虫) ミシ 送れ 稲ミシ 送れ
江戸から佐渡まで さっさと送れ
三島郡出雲崎町の稲虫送り唄ですが、行事の方はとうの昔に無くなってしまいまし
た。稲の病虫害が現れ始める7月に入ると、こうした稲虫送りの行事が村々で見られた
ものですが、農薬が普及し始めた昭和30年代になると、とたんに県内から姿を消して
しまいました。
そうした中にあって、現在も昔ながらに行われているのが、東蒲原郡三川村綱木の虫
送りです。山間のこの村では、三世代間交流事業のひとつとして毎年7月15日に稲虫
送りの行事を行っています。この日学校から帰ってくると、子供たちは社壇と太鼓を担
いで稲虫送りに出かけます。
イーナームーシ オークロデー
イーナームーシ オークロデー
出典:「越後・佐渡 暮らしの歳時記」著者 駒形 (さとし) 国書刊行会
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3ー2ー2 くらしの文化
かつての農村では、身の回りにあるものを無駄なく利用する生活を通じて、資源の
循環や環境との調和を実践していました。このような暮らしから地域の生活の知恵や
くらしの文化が生まれました。
近年、農村の暮らしぶりも便利になりつつありますが、地域で長年培われた生活の
知恵や衣食住などの暮らしの文化をもう一度見つめ直し、地域で大切にされてきたも
のを考えてみましょう。
■ポイント■
戦後の経済成長における効率性の追求によって、都市部でも農村地域でも生活はたいへ
ん便利で快適なものになりました。反面、様々な社会問題も発生し、特に地球への環境負
荷の増大は、将来の私たちの生活を不安なものにしています。 21世紀を生きる私たちは、環境に負荷を与えない技術や生活を模索していますが、現
在の便利性を維持しながら環境負荷を低減させていく「新たな調和」のためには、まず足
もとの生活を見つめ直すことから始めてみましょう。
新潟には、海、川、潟、沼、森、山などの自然だけではなく、雪深く厳しい冬に耐える
ための工夫や技術、雪のもたらす水の恵みや広がる水田、そして忍耐強い県民性など、多
様なものがあります。そこで、新たな調和へのヒントが見つかるかもしれません。
ヒント!
1 新潟の「食」
現在の豊かな食料事情からは考えられないほど、かつて米は貴重でした。上米、くず米
を巧みに使い分け、上米の白米飯は晴れ食であり、日常食としては米飯に米以外のものを
入れて増量するかて飯、くず米を利用する粉もち、草もちなどが食されていました。米の
食べ方だけでも50数種類に及び、厳しい風土の中で人々の知恵と努力が重ねられ、長い時
間をかけて、米を軸とする食文化が形成されてきました。
新潟県に伝承されている食文化は、晴れ食・日常食を合わせて420余種類を数え、料理
では煮物と飯物が、加工品では漬物と団子・粽(ちまき)類が多数を占めています。晴れ
食は、祭礼や年中行事、冠婚葬祭などの晴れの日の食べ物で、この日は、ふだんの生活と
は異なり、特別の衣服、特別な飲食物、特別な行為による非日常的な時間を過ごすことに
なっていました。
また、新潟は東西食文化の接点に位置し、大部分は東日本型食文化圏に属しますが、佐
渡は西日本型、頸城地方の西部は西日本型への遷移地帯で、海、川、潟、山の豊富な食材
を活かして、地域色豊かな食が引き継がれています。
33頁からは、新潟県の農業と食べものを中心に、大正の終わりから昭和の初めころの県
内各地の農家のくらしぶりを紹介してありますが、身近なところで様々な恵みを享受して
きたことが分かります。
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2 新潟の「住」
新潟の住居は、農山村ではカヤ葺きの寄棟屋根の家が多く、町屋は妻入屋根で道路に庇
をせり出した雁木の町並み、海岸地方は風が強いために板ぶきに石をおいた屋根が多くあ
りました。屋根葺きに使うカヤは、雨に強い上に湿気に対しても通気性が高く、積雪、多
雨で湿度の高い新潟の気候に適している材料でした。
また、特に雪深い地方では、母屋に突き出し部分をつけ、かぎ形にした中門造りが代表
的です。雪が多く降るので、できるだけ多くの施設を母屋にいれた方が生活しやすく、居
間、寝間、座敷などの生活の場、ニワ(庭)などの作業をする場、さらには納屋、馬屋な
どもすべて一つに取り込んだ形となっていました。そして、中門の屋根の雪を左右に下ろ
せば出入り口は雪で塞がれることがなく、雪国の合理性から生まれた建築様式でした。
近年、急速に増加している高床式克雪住宅も、除雪作業を軽減するとともに床下スペー
スを駐車場や収納空間、農作業資材置き場として利用していることから、建築の考え方は
同様と考えられます。
中 門 造 り(魚沼市)
高 床 式 克 雪 住 宅(十日町市)
また、町屋の雁木も雪国を代表するものです。雁木は、道路に面した家から長い庇が伸
びて、その下が歩道になっている構造をいい、上越市(高田)、長岡市、栃尾市などで見
られます。近代的アーケードのルーツです
が、基本的に違うところは、雁木の下の歩
道は私有地で、家とはつながっていても隣
の家の雁木とは、つながっていないところ
です。雪で道路が塞がれても、雁木の下は
通行ができ、ここにも雪国で共同で生活す
るための知恵があります。
高田の雁木の形式
雁木(上越市)
落とし雁木
造りこみ雁木
「越後のくらしとまつり−上・中越の民俗」東京法令出版 をもとに作成
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3 新潟の「衣」
ひとえもの
かつての衣服は、暑い季節には一重で裏のつかない「単物」、涼しい季節には裏のつい
あわせ
た「袷」、寒い季節には表と裏の間に綿をいれた「綿入れ」を、よそいき、普段着、仕事
着などの場に合わせて着ていました。
その種類には、麻、絹、綿があり、地域で生産される原料糸に、地域の労働力が加わ
り、織物の産地が形成されてきました。新潟の織物は麻織物に始まって絹織物を生み、さ
らに19世紀には綿織物に発展しました。
じょう
細い麻糸を平織りした上等の麻布を「上
ふ
布」と呼びますが、江戸時代中期、魚沼地
方で、より糸を使って布に細かいしわ(ち
ぢみ)を付ける方法が考え出され、越後上
ちぢみ
布にちぢみを付けた「縮」が誕生しまし
た。越後上布・小千谷縮は、夏の高級衣料
として、他の織物では得られない軽さ・風
合い・着心地が好まれ、昭和30年工芸の分
野で重要無形文化財の第1号の指定産地と
して認定されました。この背景には、雪国
雪さらし(塩沢町)
では湿度が高いことから機織りの糸が切れにくく、機織りに適していることや、雪上の漂
白(雪さらし)ができるなどの気候風土がありました。
絹織物では、同じ魚沼地方の十日町が、麻織物から絹織物に転換し、大きな発展を遂げ
ました。五泉においては、天明の頃、袴地「五泉平」が織られたことを始まりとして、現
在は絹織物の高級白生地を生産するとともに、戦後、ニット産業が著しく発展していま
す。
また、新潟の綿織物は亀田縞・加茂縞・
新潟県織物地図
見附結城の順で発生しましたが、麻・絹織
(明治期)
山辺里織
物が山間地域であったのに対し、こちら
は、平野部で発展しました。これらの産地
葛塚縞
亀田縞
は、現在消滅した所もありますが、集団的
小須戸縞
木綿織物産地の最北に位置し、東北地方を
村松縞
主として、庶民の平常着・農作業着の産地
麻
として大きな役割をしてきました。
織物は、冬期間の女性たちの仕事で、雪
絹
深い地方においては冬期間の貴重な現金収
綿
入となっていました。それぞれの産地で
五泉平
吉田白木綿
加茂縞
見附結城
栃尾紬
長岡縞
高田縞
は、産地独自の工夫がなされ、技術が代々
受け継がれてきました。そこには、長い年
越後縮
月をかけた工夫の積み重ねがあったことを
十日町好綾織
忘れてはなりません。
越後縮
越後縮
「越後の伝統織物」土田邦彦 野島出版 をもとに作成
- 29 -
4 循環型社会へ
現在の私たちは、衣食住すべてにおいて、欲しいものを自由に手に入れることができま
す。世界中の様々な食材が輸入され、外食産業や食品加工産業の発展によって手間をかけ
ることなく食べることができます。衣服も毎日清潔なものを様々な場面に応じて着ること
ができ、住宅も短期間で建てることができるようになりました。この便利で快適な生活
は、20世紀の大量生産・大量消費・大量廃棄がもたらした暮らしといえます。地球環境
問題、食糧問題、そして資源の枯渇など様々な問題が顕在化する21世紀を迎え、持続可
能な発展、循環型の社会の実現が求められています。
半世紀ほど前までは、物を大切に扱い、身の回りにあるものをできる限り利用してお
り、新潟にも立派な循環型社会が存在していました。例えば、稲作の際に発生する稲藁
は、現在はコンバインでカットされ、水田に鋤込まれることが多くなりましたが、少し前
までは、生活の様々な場面で活用され、最終的に水田へ還元されていました。しめ縄や門
松などの神事や祭事にも利用され、人々と精神的にも深く関わっていたといえます。そこ
には、人々が自ら作り、工夫する喜びによって、資源を浪費することのない循環型の社会
が成り立っていました。
また、ふだんの日と晴れの日とが大きく異なっていたことも注目すべきことです。晴れ
の日には、晴れ着を着て、ご馳走(晴れ食)である酒、魚、米、餅、菓子、肉、寿司など
を食べました。そこには、生産や労働に明け暮れる日常から転換があり、大きな喜びや楽
しみをもたらしていました。そのような生活の中には、稲作や季節に合わせた生活のリズ
ム(循環)があったといえます。
「ものの豊かさ」よりも「こころの豊かさ」が求
められる現代において、工夫しながら生活すること
の喜び・楽しみを考えることも大切なことです。自
分の身の回りのものを振り返ってみること、自分た
ちの地域の資源を顧みること、そんなところに里づ
くりのヒントがあります。
大したもん蛇まつり(関川村)
生活の中のワラの文化
祭り・遊び
なわ
しめ縄
衣・履き物
生活
みの
なわ
生産
たわら
蓑
縄
俵・ムシロ・カマス
かざ
みのかさ
つちかべ
しりょう
餅飾り
蓑笠
土壁
飼料
ぼんうま
わらじ
めしびつ なべしき
しき
飯櫃・鍋敷
敷わら
ほうき
馬の沓
盆馬
草鞋
わらうま
ぞうり
藁馬
草履
ひな
しょ
せ お い ふくろ
流し雛
負い子
背負い袋
人形
しょい籠
モグラうち
どんど焼き用
かご
ゆきぐつ
雪靴
ケラ
たたみ
くつ
ぞうり
牛の草履
畳
コモ
わら半紙
マブシ
なっとう
たいひ
納豆のつと
堆肥
出典:いのちが集まる、いのちが育む「田んぼの学校」入学編(社)農山漁村文化協会
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稲ワラの様々な使い道
籾 摺
精 米
刈り取り
稲
ワ
ラ
祭 り ・遊 び
しめ縄
生
米ぬか
もみがら
衣・ 履 き 物
猫ちぐら
活
生
鍋敷
草鞋
雪靴
蓑
産
たわら
縄
飼 料
納豆のつと
ムシロ
燃料、堆肥
堆肥、土壌改良材として
農地に還元
ワラ灰
(カリ成分含む)
- 31 -
コラム
「食」を通じて「農」を見つめる
∼生きる力を育む食育・食農学習を∼
生きる力を育むために、「何を、どれだけ、どのようにして食べたらよいか」のおお
よそを知り実践できること(食の素養)を、子供が親元を巣立つ頃までに育んでやること
ができたなら、親として子供に貴重な財産を授けたことになるのではないでしょうか。
激動の世にあっても決して価値の変わらない財産です。
この食の素養は、日常茶飯を大切にするささやかな行為の積み重ねによって培われま
す。1日3食ずつ摂るとすると、1週間では21食、1年間では1,095食、親元で育つ18
歳頃までには、およそ19,700食を摂ることになります。その一食一食を大切にする体験
の累積は大きいと言えます。
家族の心身の健康を願うならば、調理の手間を惜しまず、さらに子供に沢山手伝わせ
ることによって、作って食べる喜びを共有したいものです。台所育児の効用は、食材か
ら食膳までの全行程を短時間で,子供とともに体験できるところにあります。食材を用
意する、洗う、包丁を使う、火・水・油を使う、煮る・炒める・焼く・揚げる・蒸す、
そして片づけることなどを細心の注意を払いながら行うことによって、総合的な食事づ
くりの学習ができ、感性を呼び覚ますことができます。また、共同作業によって家族と
の一体感・共有体験を得ることができ、家族への愛情を育てるこの上もない好機になり
ます。
さらに、食材を生み出す農業の中には子育ての力、教育力がたっぷり眠っています。
子供の育つ環境には、遊びや親の手伝いを通じて農と関わり、水と土の恵みの素晴らし
さにふれ、汗を流し、収穫の喜びを味わう場が必要です。土と遊び、土に学ぶ農業体験
から生まれる「感謝の心」と「慎み」が、子供たちの育ちに不可欠なのではないでしょ
うか。社会情勢や農業・農村をめぐる諸事情等の変動によって、農業体験ができ難くな
った今、大人の思いやりと援助によって、何らかの形でそれが出来る環境を整えてやる
ことが求められています。さらには子供 たちが身土不二・一物全体食の妙味にもふれ
て、かけがえのない地球のために「無駄にしない・ちょっと我慢する・時々ちゃんと考
える」行動をとることを、見守り促していきたいものです。
「食」を通じて「農」を見つめる豊かな感性を育まれた子供たちが、次代を担う生活
者として、さらには農業の担い手として逞しく育って行くことを願ってやみません。
◆伝統食と現代食のほどよいバランス食の楽しい工夫を◆
∼バランス食の合言葉−まごたちは(わ)やさしい・ちゃ∼
米を主食にして、大豆や魚、野菜、海藻等を
バランスよく摂ってきた日本人の食生活の、長
寿食としての素晴らしさが科学的に実証されて
います。これらの伝統的食品に現代的食品を適
量組み合わせ、お茶の効用にも配慮し、さらに
発酵食品を取り合わせるなど、種々の食素材そ
のものが持っている力、薬効(機能性)を生か
す食べ方を、大切にしたいものと思います。
〈新潟県消費者協会副会長 岡田玲子〉
- 32 -
岩船 ー鮭の川・三面川とともにー
朝日山系の流れを集めて日本海に注ぐ三面川。三面川
の鮭は村上藩以来、種川の制度によって保護され、土地
の人々に守り育てられてきた。鮭一匹、すてるところな
くすべて利用され、秋から冬の味覚をつくる。そして、
鮭の川はあゆの川でもあり、稲を育てる川でもある。
塩引き鮭
- 33 -
蒲原 ー田と潟と川の恵みー
信濃川、阿賀野川がつくりだした広大な水田と潟。蒲原は日本屈指の米どころ。
潟からは鮒、鯉、なまず、うなぎ、寒やつめ、鮭などの魚が豊富にとれて、日常の食膳
をにぎわす。春のうるめ(めだか)とりは子供が主役。早速、つくだ煮になって夕食の膳
に並ぶ。さらに、菱の実、れんこん、どんばす(鬼蓮)、じゅんさいなど、水の恵みはつ
きない。どんばす料理は、福島潟特有の味覚である。お祝いの膳には、水田と潟の幸がず
らりと並ぶ。
菜園
春 夏
かわながれ
三度豆
二度いも
なす
きゅうり
すいか
かぼちゃ
- 34 -
のっぺ
雑
5畝
秋 冬
にんじん
大根
ねぎ
ごぼう
白菜
たまな
里芋
- 35 -
煮
古志 ー棚田、山畑、山林の恵みー
山深い古志の食は、棚田からの米、山畑につくられる
大豆や野菜、豊富に取れる山菜をもとに組み立てられ
る。自給の豊かさだ。
さらに、雪に閉ざされる長い冬にそなえて、いぜこみ
(水漬)など独特の蓄えの技術が発揮される。そこに、
乾物の魚や海草などの海の味が加わって、いっそう豊か
になったのが古志の食の全体である。
- 36 -
煮
菜
頸城海岸 ー日本海の幸を求めてー
磯浜からすぐに山が迫る頸城の海岸では、日本海の幸
が四季の食事つくりの主役である。延縄や手ぐり網、一
本釣りなどでとる魚のほか、えご、てんぐさ、もずくな
どの海草、あわび、さざえなどの貝類が海女によってと
られる。荒れる日本海を生業の場とする人々の、海神さ
まに対する信仰の念は深く、その祭りは盛大である。米
は魚と交換して手に入れる貴重品だが、晴れの日にはぞ
んぶんに味わう。
- 37 -
笹ずし
魚沼 ー川と山とが出会う地の食ー
信濃川をさかのぼって魚沼までくると、山が間近に迫ってくる。雪が解けて山野の草木
が萌え出るころになると、川にも活気がもどってくる。信濃川の水運でもたらされる海の
幸と、この地でとれる山の幸が出会って、変化に富んだ食膳をつくる。また、魚沼は古志
とともに、下越・上越に分かれる食の様式における移りかわりの地域で、節句には蒲原の
ちまきと頸城の笹もちの両方がつくられる。
山菜……やまごっぽ、うこぎ、たらの芽、しおで、のびる、
ゆりわさび、こごめ、わらび、ぜんまい、うど、あさづき、
あずきな、うるい、とりあし、きのめ、みずな、ふき、ふき
のとう、かたくり、たにうつぎ、やまのいも、とち、あんに
んご、またたび、やまだけ、きのこ
その他……飼料用草、肥料用草
海から (購入)
塩いわし、塩にし
ん、身欠きにしん、
塩ます、干だら
- 38 -
笹だんご
けんさ焼き
- 39 -
佐渡 ー海と山と平野がある独立国ー
佐渡には平野がある。対馬暖流の影響で気候が温暖。平野の稲作、畑の大麦、小麦、野
菜、そば。あぜの大豆、小豆。近くの山林の山菜やきのこ。そして島ならではの海の魚
貝、海草。
佐渡は古くから独立した一国として認められ、歴史、文化ともに独自のものを有し、越
後とは多くの点で異なる。海路を通じて京都(上方)とつながり、その影響をうけ、食べ
物にも繊細さと華やかさがある。
カヤ(榧)の実
わらび、ぜんまい、ふき、うど、
さんしょう、くず、やまいも、栗、
あけび
薪、柴
- 40 -
懐かしい味が現代風の
お菓子になっています
やせごま
いごねり
(
出
典
)「
︵
絵写
・ 文真
︶
﹁
日ふ
本る
のさ
食と
季
生節
活の
全味
集﹂
⑮新
潟
聞日
き報
書事
業
社
新出
潟版
の部
食 事 他
社
)
- 41 -
」(
じゃがいも、さつまいも、ながい
も、里芋、大根、にんじん、なす、
きゅうり、トマト、ささげ、えん
どう、いんげん、なんばん、ねぎ、
山東菜、白菜
農
山
漁
村
文
化
協
会
3ー3
生態系
3ー3ー1 はじめに
水路やため池、里山や田畑をはじめとする農村地域の自然は、人間と自然の関わり
によって形づくられた二次的な自然で、その変化に富んだ環境は、生物の多様性を確
保するうえで重要です。
生きものは、それぞれが独立的に存在しているのではなく、生物間のつながりや
生息・生育場所の連続性があってはじめて生き続けることが可能なので、広いエリ
アや長期的な観点で考えることが大切です。
まず、私たちの暮らす地域がどのような自然環境にあるのか調べてみましょう。
■ポイント■
○ 豊かな自然環境は地域の誇りとなりますが、意識をしないと喪失や激減するまで気付
かないことがあります。例えば、”県の鳥”であるトキは、その大空を舞う姿はたいへ
ん美しいものでしたが、乱獲などのために国産種は絶滅しました。生態系を含む自然環
境は、自覚的に守っていかないと、簡単に壊れてしまい、元に戻すことが非常に難しい
ものとなります。
○ 「新・生物多様性国家戦略」では、生物多様性保全の上で、3つの危機(参照P45)
があるとしています。生態系の配慮にあたっては、まず、地域の生態系がどのような状
況にあるか把握することが大切です。
あまがえる
たなご
赤とんぼ
かわとんぼ
農村地域では、いろいろな生きものたちと
農村地域では、いろいろな生きものたちと
出会うことができます
出会うことができます
いととんぼ
めだか
あめんぼ
あかがえる
- 42 -
[生き物の名前は通称です]
○ 地域の環境を把握するために、既存の資料収集に加えて生きもの調査等を実施して、
特に配慮が必要な種を選定します。これらの生息・生育環境をもとに配慮計画づくりを
行う場合には可能な限り、また、絶滅の恐れがある生物が発見された場合には、専門家
からのアドバイスを受け適切な保全に努めましょう。
○ 新潟県では、平成13年に「レッドデータブックにいがた」を発行し、個体数が減少
している種、生息・生育環境が悪化している種などをリストアップし、絶滅危惧の度合
いに応じランク付けしています。
○ 農村の自然環境のように、人間が関与することによって保全される自然を二次的自然
といいます。
農村は、水田などの農地のほか、二次林である雑木林、鎮守の森、屋敷林、生け垣や
用水路、ため池、畔や土手・堤といった、人の適切な維持管理により成り立った多様な
環境がネットワークを形成し、多くの生きものの生息・生育の場となっています。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 自
然 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆
原生自然
二次的自然
(人間が全く関与しないことにより保全される自然)
(人間が関与することにより保全される自然)
原生林、自然河川、
自然海岸など
里山、水田・畑、
ため池、水路など
農村の二次的自然のイメージ
出典:「生きものたちのにぎわいのある農村を目指して」農林水産省パンフレット
- 43 -
○ 水田は、農業生産の場だけでなく、淡水魚類にとっては、産卵に適した流速、水深、
水温などの条件がそろっています。また、プランクトンの発生により稚魚の餌場として
の役割を果たします。水田では、多様な生物が水路を介して耕起・代かき・田植え・落
水といった水田特有の水管理形態を巧みに活用して生活しているので、農地を改変する
場合には、その影響について、十分に配慮する必要があります。
施設種類
河川
幹・支線
用水路
小用水路
水 田
小排水路
水路の流れ
産卵
産卵
幼体の
生育
移動形態
成体の活動
成体の活動
【例】
メダカ
魚 類
ギンブナ、ドジョウ、ナマズ、コイ
貝 類
マルタニシ
カワニナ
昆虫類
トンボ類、ミズカマキリ、ミズスマシ、
ゲンゴロウ、ヘイケボタル
甲殻類
ホウネンエビ
爬虫類
・
両生類
シマヘビ、トノサマガエル、ツチガエル
鳥 類
サギ類、シギ類、チドリ類
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幹・支線
排水路
河川
参考
新・生物多様性国家戦略
「新・生物多様性国家戦略」とは
1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでの地球サミット開催にあわせて、「気候
変動枠組条約」とともに「生物多様性条約」が採択されました。この条約では、生物の
多様性を遺伝子、種、生態系の3つのレベルでとらえ、いずれも保全する必要があると
しています。
1980年代には、アマゾンなどの熱帯雨林が猛烈なスピードで伐採され、1年間に、日
本国土の4割くらいにあたる面積の森林が失われたといわれています。森林の破壊は、
同時に膨大な量の生物を絶滅させることでもありました。
種の絶滅に対する危機感から、これを保全するための国際的な対策が求められまし
た。これが、「生物多様性条約」の結ばれた理由で、2002年3月現在、183か国が加盟
しています。日本は、翌1993年に加盟し、条約の規定に基づいて95年に「生物多様性
国家戦略」を策定しています。この計画を根本的につくり変えたのが「新・生物多様性
国家戦略」で、2002年3月27日に策定されました。
生物多様性保全の現状−日本における3つの危機
地球に生物が誕生してから40億年、地球上に存在する生物種は3000万種、あるいは
それ以上ともいわれています。長い歴史の中で絶滅した種も数多くありますが、私たち
が考えなければならない一番の問題点は、人間の行為が一方的に生物に影響を与え、絶
滅まで引き起こしているということです。
わが国の生物多様性の危機は、次の3つに大別されます。
第1の危機 人間の活動や開発が、種の減少・絶滅、生態系の破壊・分断を引き起こしていること
です。捕獲・採取による個体数の減少、森林の開発、埋め立てによる海の汚染、汚濁し
た排水による生態系の破壊などが、これにあたります。日本に生息・生育する脊椎動
物、維管束植物の約2割が絶滅危惧種となっています。
第2の危機 第1の危機とは逆に、自然に対する人間の働きかけが減っていくことによる影響で
す。長い年月、人の手が入ることによりバランスを保ってきた里地里山は、人が干渉し
ないことによって危機を迎えています。絶滅危惧種のほぼ5割は里地里山に生息し、昔
から親しんできたメダカまでもが絶滅の危機にあります。
第3の危機 移入種や化学物質による影響です。近年、ブラックバスな
ど人間によって外国から持ち込まれた種が、地域固有の生物
にとって大きな脅威となっています。絶滅危惧種にはこれら
移入種の影響を受けているものが少なくありません。また化
学物質の中には、PCB、ダイオキシンのように、動植物に対
して毒性を持つほか、環境中に広く存在するため生態系や生
体内のホルモン作用への影響が懸念されます。 出典:「いのちは創れない 新・生物多様性国家戦略」環境省パンフレット
- 45 -
3ー3ー2 生きもの調査から配慮種の選定まで
生きもの調査は、専門家のアドバイスも受けながら、多くの地域住民の参加を募
って実施し、地域の生態系のイメージをみんなで共有しましょう。その際は、地域に
棲む生きものを確認するほかに、少し視野を広げて田んぼと水路、里山などとのつな
がりについても目を向けてみましょう。
調査結果に基づき、地域の生態系の現状について考察を行いますが、地域の生態
系が良好に保たれていない場合には、その原因も明らかにし、配慮種を選定する場合
の参考にしましょう。
■ポイント■
○ 農村を生活の場とする生きものは多種多様で、季節や成長にともなって棲む場所や形
態を変える生きものも多くいます。そのため、生きもの調査は季節を変えて複数回行い
ましょう。また、生きもの調査はやみくもにやっても効率が悪く、また有意義なデータ
を得ることができません。現地調査に先立って既存の文献資料を調べたり、聞き取り調
査を行って地域の生態系の概略をつかむことが大切です。
○ 生きもの調査は、子どもからお年寄りまで出来るだけ多くの人に参加してもらうとと
もに、生きものに詳しい人が地域にいたら是非参加してもらいましょう。
○ 生きもの調査の結果、稀少な生きものが発見された場合には、今後の調査の進め方な
どについて専門家に相談する必要があります。専門家のアドバイスを得ることが難しい
場合でも、「田んぼの生きもの調査:(社)農村環境整備センター」などを参考にして調
査を行いましょう。
HPアドレス http://www.acres.or.jp/acres/chousa/main.htm
総合学習における生きもの調査(吉川町)
生きもの調査の様子(小千谷市)
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○ 生きもの調査により水質の概略も知ることができます。「水生生物による水質の簡易
調査」(P127)も利用してみましょう。
○ 生息・生育環境が大きく悪化し、生きもの調査で生きものがほとんど発見できない地
域では、昔の自然環境をよく知るお年寄りなどからお話を聞くことも、配慮種を選定す
る際のヒントになります。
ヒント
参考になる文献資料
○ 市 町 村 が 作 成 し た 「 農 村 環 境 計 画( 田 園 環 境 整 備 マ ス タ ー プ ラ ン )」
○市町村史(自然編)
執筆者も要確認
○市町村教育委員会などが作成した自然観察ガイドブック
お話を聞くとよい人
○昔からのことをよく知っているお年寄り
○地元農家の人たち
○学校や理科教育センターの先生
○自然観察指導員などの人たち
○市町村史(自然編)の執筆者
生きもの調査の様子(小千谷市)
環境カウンセラーから説明を受けている様子
(小千谷市)
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生態系への配慮のための流れ
生きもの調査
農村環境計画
総合学習
田んぼの学 校
( 田 園 環 境 整 備 マスタープラン)
専門家の助言
考
察
参考文献
( レッドデータブックな ど )
考察の視点
3つの危機
人間活動による生態系の破壊
手引き第1∼3編*
人の働きかけが減少したことによる影響
(農林水産省)
移入種や化学物質による影響
本書
など
※
配慮種の選定
配慮計画の基本的な考え方
ネットワークの視点
空間の視点
ー
ミ
テ
ィ
ゲ
回避の検討
低減の検討
最小化、修正、軽減/除去
シ
ョ
ン
代償の検討
※配慮種:その地域の自然生態系の中で特徴的又は代表的な種及びその種と密接に関係のある種
※手引き第1−3編:環境との調和に配慮した事業実施のための調査計画・設計の手引き
(農林水産省)
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3ー3ー3 配慮計画づくり
生態系への配慮方法には、標準的な方法はありません。調査の結果などを元にし、
地域で配慮計画を立てます。
具体的な計画づくりと併せ、地域の思いや配慮のコンセプト、話合いの経過なども
できるだけ多くの関係者で共有しましょう。
■ポイント■
○ 生態系への配慮計画づくりでは、生物の生息・生育環境を創るだけでなく、施設の費
用対効果や誰がどのように管理するかなども含めて地域で話し合っておくことが大切で
す。
○ 施設づくりを検討する場合は、機能はもちろんのこと、間伐材や現地で産出される石
材などの利用を進めるなど、資材の選定にも環境との調和を考えましょう。
生態系への配慮計画
基本的事項
主な検討事項
配慮対象と配慮エリア
・生き物調査などに基づく配慮対象の選定
・配慮する区域や配慮する路線の選定
生 物 の 生 息 ・ 生 育 の 環 境確 保
・生息できる環境の確保
・食餌、産卵床の確保
・自由な移動(連続性)の確保
自然材料等の活用
・間伐材や石材など自然材料の活用
・浚渫土や建設副産物の利用
安全性・経済性の確保
・構造物の基本的条件
・工事費、維持管理費、用地条件
維持管理の作業性
・維持管理の永続性
・除草、泥上げ、水抜きなどの作業性
その他
・景観や親水性
・工事期間や仮設方法
関係者で
配慮のコンセプトを共有しよう!
- 49 -
コラム
先輩が語る「仲間の集め方」
−地域づくり、生きもの調査を行うために−
地域づくりの調整役となっている人たちに、そのノウハウを披露していただきました。
○学校(こどもたち)と友達になるには?
・市町村の農林担当課経由で教育委員会に地域づくりの概要を説明しましょう。その上で、
校長会、教頭会の場をお借りして先生方に説明します。そして、興味を示していただいた
学校には後日詳しい説明に伺います
・特定の学校に伺う場合でも、いきなり担当の先生にアタックするのではなく、教育委員会
→校長・教頭→担当の先生という流れをたどった方がよいでしょう。
・進めている地域づくりを総合学習に取り入れてもらうためには、前年度の秋頃までにお願
いしたほうがよいでしょう。学校は、通常、前年度に次の年のプログラムを作成しますの
で、急に学校にお願いしても対応できないことが多いのです。
・土地改良区の役員さんなどはPTAの役員を兼ねていることも多いので、それらの人たちか
らのバックアップして頂くことも有効です。
・社会科見学などを通して、日頃から学校との関係を築いていると、スムーズに話が進みま
す。
○強力な助っ人を得るには?
・水土里ネット、市町村、農協などの人たちは、地域に幅広いネットワークを持っていま
す。それらの人たちの力をお借りしましょう。
・学校は総合学習を行うために多くの専門家の情報を持っていますので、学校の先生方との
つながりはとても役立ちます。
・お年寄りは様々な知恵や知識を持っています。どしどし参加していただき、“お知恵を拝
借”しましょう。
・上記の方法を使ってもなかなかうまくいかない場合には、コンサルタントのノウハウも活
用しましょう。
○地域の人たちとの輪を広げていくには
・子供たちと友達になることで、父兄の皆さんからも協力してもらえます。
・回覧板を通じて参加を募ることも効果があります。
・地域の自治会にその趣旨を説明して、皆さんに声をかけていただけ
るようお願いします。特に、都市近郊の農村で地域づくりを行うに
は、自治会の理解は不可欠です。
・最初は大変ですが、地域活動に興味を持っている人は必ずいます。
人の輪、ネットワークの輪を広げ、一歩ずつ踏み出してみましょ
う。
<先輩より>
- 50 -
3ー3ー4 移入種
移入種とは、本来の野生生物がもつ移動能力を超え、国外または国内の他地域から
意図的、非意図的に移動・移入された種のことをいいます。
移入種は、地域固有の生物や生態系にとって大きな脅威となり、絶滅危惧種にはこ
れらの影響を受けているものが少なくありません。このため、生態系の保全を考える
場合には、これらにも注意を払う必要があります。
■ポイント■
○ 「新・生物多様性国家戦略」では、移入種(外来種)による生態系のかく乱への対策
として、侵入予防、初期段階での対応、定着種の駆除・管理の3段階で対応する必要が
あるとしています。
○ 新潟県では、平成7年から新潟県内水面漁業調整規則でオオクチバス、コクチバス、
ブルーギルなどの特定の魚類について「移植」を禁止しています。
また、新潟県内水面漁業管理委員会では、委員会指示として、外来魚については釣っ
た後の「再放流(リリース)」を禁止しています。(平成11年12月)
○ 里づくりにおける移入種の留意点としては、新たな導入の防止、定着したものの駆除
管理があります。
留意点
新たな導入の防止
対
応
地域で採取できる自然材料の活用
意図的導入・非意図的導入を防止するための普及啓発
移入種の駆除作業
定 着 した も の の 駆 除・管 理 駆 除 に 対 す る 意 識 啓 発
流入・流出防止対策
○ 里づくりで、緑化や造園的な植栽などを行う場合、認識の欠如や知識の不足により移
入種を利用することがあります。移入種については、明らかになっていないことも多
く、緑化や植栽などの種の選定に当たっては、専門家の協力を得ることが大切です。
○ 個体群の回復能力を上回る乱獲によって絶滅の危機に瀕している動植物もあります。
特に問題になっているのは、可憐な花をつけるラン科植物や雪割草などが根こそぎ採取
されて群落ごと消滅する事態や昆虫・貝類の集中的な捕獲です。特定種の取扱いについ
ては、適切な情報管理が必要です。
- 51 -
○ 移入種は、自然生態系へ影響があるだけでなく、私たちの生活や健康、農林水産業な
どの産業にも影響を及ぼします。
(1)自然生態系への影響
自然生態系への影響には、在来種の駆逐、交雑による在来種の純系の喪失がありま
す。
在来種の駆逐としては、釣りの対象魚として持ち込まれたオオクチバス、コクチバ
ス、ブルーギルなどが他の魚類を捕食するだけでなく、トンボなどの水生昆虫の幼・成虫
まで捕食するケースがあります。また、佐渡では、野鼠・野兎駆除のため本土から持ち
込まれたテンの生息密度が高くなり、固有種のサドノウサギの生存を脅かしています。
交雑による在来種の喪失では、移入されたアジア大陸原産のタイリクバラタナゴと絶
滅危惧種であるニッポンバラタナゴとの交雑等の例があります。
(2)産業への影響
産業への影響としては、移入種による食害や強害雑草の侵入、病虫害の蔓延、農業被
害などがあります。特に水質浄化を目的にため池などに導入されたホテイアオイやウォ
ーターレタスは、適切な管理を怠ると異常繁殖により、水質の悪化や取水施設に悪影響
をもたらします。
(3)生活・健康への影響
生活・健康への影響では、移入種による伝染病の持ち込み、ブタクサ(帰化植物)類
による花粉症の発生などがあります。接触経験がない生物にとっては、重い病気や死に
至る危険性があり、人も例外ではありません。
〔移植の禁止〕
〔 再 放 流( リ リ ー ス )の 禁 止 〕
イラスト:「NO MORE BASS!!」新潟県、新潟県内水面漁業管理委員会、新潟県内水面漁業協同組合連合会
※ブ ラ ッ ク バ ス や ブ ルーギ ルな ど 特 定 の 魚 類 を 見 か け た 場 合 は 、新 潟 県 農 林 水 産 部 水 産 課・内 水 面
漁 業 管 理 委 員 会 、 も し く は 新 潟 県 内 水 面 漁 業 組 合 連 合 会 に 連 絡 してください。
- 52 -
コラム
ドジョウのつぶやき
■土水路に棲むドジョウ
おいらが棲んでいる場所は、水草等が多く、水の流れが速い所や遅い
所があって、メダカさんやタニシさんなど多く仲間が棲んでいる。ま
た、食餌も多く、産卵場所としても良い場所なので、大家族で暮らして
いる。欲を言えば、粗朶柵や空石積、曲がりや適当な段差、ワンド*や
置き石があると、もっと多くの 仲間と仲良く暮らせる。
ただ、昔は人間の子供たちによくいじめられていたが、最近は滅多に
顔を合わせることもなく寂しい・・・・・
①上・中流部の生きもの
ヤマメ、アユ、ウグイ、カジカ、アブラハヤ、ヤリタナゴ、イバラトミヨ、ホトケ
ドジョウ、シマドジョウ、カマツカ、ゲンジボタル、コヤマトンボ等のヤゴ、ヘビ
トンボ等の川虫、サワガニ、ヌカエビなど
②中・下流部の生きもの
メダカ、タナゴ類、コイ、ギンブナ、ナマズ、オイカワ、ヨシノボリ類、タモロ
コ、モツゴ、ドジョウ、タニシ類、モノアラガイ、ヘイケボタル、トンボ等のヤ
ゴ、スジエビ、ヨコエビ類など
■三面コンクート水路に棲むドジョウ
以前棲んでいた所は、兄弟や親戚が多く、落ち着いて食事や昼寝もできないため、か
みさんと二匹、新たなすみかを求め、ここまで来てしまった。あの時は、どうにか休憩
場所や寝場所を見つけながら、ようやく、このワンドにたどり着くことができた。
今棲んでいる所は、腹一杯、食事することは出来ないが、生きてはいける。しかし、
産卵場所がないため子供が少なく、また、隣に棲むドジョウ家族も少ないため、寂しい
思いをしている。
もう少し、水の流れに変化があれば、他の仲間も棲むようになり、生活も楽しくなる
のに・・・・・
①変化のない直線水路では
・上中流部ではヤマメ、アユ、ウグイなどがまれにみられる。
・中下流部ではウグイ、コイ、ギンブナなどがまれにみられる。
②置き石等の変化があると
・上中流部ではヤマメなどに加えカジカ、ヘビトンボ等の川虫などが生息できる。
・中下流部ではウグイなどに加え川虫、カワニナなどが生息できる。
③曲がり、ワンドなどがあると
・上中流部ではさらにアブラハヤ、シマドジョウ、カワニナなども生息できる。
・中下流部ではさらにメダカ、ドジョウ、オイカワなども生息
できる。
■管水路を訪れたドジョウ
子どもの頃、棲んでいた所を訪れてみた。暗く、大きな口が開い
ていて、誰もいない場所になっていた。光が入らず、付着珪藻も見
えないので、おいらたちも暮らすことが出来ない場所だった。帰り
道、自然と涙が溢れ出てきた。
*ワンド(湾処):川のよどみや水たまり
<NPO法人 加治川ネット21>
- 53 -
3ー4
水循環
3ー4ー1 はじめに
大地に降り注いだ雨は、農地や森林に蓄えられ、やがて湧き水となり川となって農
地や人々を潤し、最後には海へ下り水産資源を育んでいます。私たちが、このような
健全な水循環の恩恵を享受できるのは、先人たちが森林や農地を大切に維持管理して
きたからです。
これからも豊かな水資源を確保し健全な水循環を維持するためには、森から海への
つながりを考えながら、流域単位で連携や支援をしていくことが大切です。
■ポイント■
○ 森林には、雨水を貯留し、河川へ流れ込む水の量を平準化して洪水を緩和するととも
に、川の流量を安定化させる機能を持っています。また、雨水が森林土壌を通過するこ
とによって、水質が浄化されます。
○ 水田も同様に、降雨時に上流から流れ込んできた水を一時的に貯留し、ゆっくりと水
路や河川に放出することにより、治水ダムの機能を果たしています。また、棚田などの
斜面にある水田は、表土の流出を防止するとともに土砂崩れの発生を防止しています。
加えて、水を貯めることのできる水田は、ゆっくりと少しづつ水を地下へ浸透させ
て、地下水をかん養し、地盤沈下の防止にも役立っているといわれています。
○ 例えば、昔ながらにサケやマスが遡上してくる川は、地域の誇りとなり、大切な地域
の資源ともいえます。水循環を保全するためには、上流域だけではなく、下流域の人た
ちも自らの生活や地域のアイデンティティに関わる問題としてとらえ、流域が連携し
て、森林や棚田の保全に取り組むことが大切です。
雨水が棚田にたまる
(自然のダム)
雨水は地下に
ゆっくりと浸透
していく
蒸発
(水のかん養)
きれいにろ過された水が
地下水となる
水源かん養のイメージ
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川
森 から 海 へのつながり
棚田(栃尾市)
美人林(松之山町)
竜ケ窪(津南町)
北又川(魚沼市)
鮎釣り(塩沢町)
川遊び(湯沢町)
三面川(村上市)
水田の貯水量は約 2 億トン(新潟県)
新潟県庁の約1,240杯分
新潟スタジアムの約120杯分
タライ舟(佐渡市)
- 55 -
3ー4ー2 有効利用するために
農業用水の河川からの取水は、昔からの社会的な慣行や法律で許可された水利権に
基づいて行われ、これは河川の水を上流から下流まで公平に利用できるよう定められ
たルールです。
限りある水資源を有効に利用するために、水利用の仕組みについて理解を深め、大
切に使う方法を話し合いましょう。
■ポイント■
○ 新潟県に降る雨のうち水資源として利用可能な量は約30%です。農業用水として供給
可能な量は、その約80%です。農業用水は水田や畑を潤しますが、消費される水量は、
供給量の約20%で残りの水は使用後に川へ戻ったり、地下水として蓄えられ、下流側で
再び利用されます。
○ 本県は雪が多く、南北に長く連なる山地から日本海に注ぐ大小河川の豊富な水を利用
して稲作が発達してきました。しかし、雨が少ない年には幾多の水争いがあり、多くの
時間と話し合いを経て、今日の合理的な秩序が形成されています。
【年間降水量の利用状況】
流出・浸透量
9,218百万
(33%)
年降水量
(平成12年)
26,052百万
農業用水
6,761百万㍑
(81%)
利水量
8,338百万㍑
8,338百万
(32%)
水産用水
143百万㍑
(2%)
消雪用水
221百万
(3%)
水道用水
701百万
(8%)
蒸発散量
8,496百万㍑
(35%)
注)利水量は、供給可能量を用いている。
(発電用水等非消費的水需要分を除く)
工業用水
512百万
(6%)
出 典 :「 新 潟 県 ウ ォ ー タ ー プ ラ ン 2 1 」 新 潟 県 土 木 部
【農業用水の水収支】
用水や降雨による供給量に対して、水田
等 で の 消 費 量 ( ≒ 蒸 発 散 量 ) は 約 20 %
に過ぎません。
出 典 :「 農 業 用 水 」 農 林 水 産 省 ハ ゚ ン フ レ ッ ト
- 56 -
3ー4ー3 農業用水の多面的な役割
農業用水は、かんがいのために利用されるのはもちろんですが、農機具や作物の洗
浄、防火や消流雪、親水空間や景観の形成など生活に密着した「地域の水」としても
活用されています。
このように用水路などには多面的な役割がありますが、快適でうるおいのある里づ
くりを進めるために、農家だけでなく、その恩恵を受ける地域の人々とその維持管理
等のあり方についても考えてみましょう。
■ポイント■
○ 農業用水は、農作物や家畜への供給以外に農村地域の生活用水として利用されていま
す。農産物の土落としや農機具の洗浄、防火・消雪等の用水、親水空間の形成など多面
的な役割を果たしています。身近な水路がもっている役割を見つめ直し、有効な活用を
図ることは、快適でうるおいのある農村づくりを進めるための有効な手段になります。
○ 用水路などの農業用水利施設の多面的な機能を保持していくには、農家以外の人たち
にも施設の維持管理作業に参加してもらうなど、地域が一体となって支える取り組みが
大切です。
畑地かんがい用水
畜産用水
水田かんがい用水
生態系の保全
消流雪用水
景観の形成
親水空間の形成
防火用水
水源かん養
親水空間の形成(五泉市)
防火用水としての利用(五泉市)
- 57 -
コラム
新しい潟「新潟」
【地図にない湖】
戦前の話から始めたい。
上越線に乗って新潟へ来ると、新潟に着く直前に巨大な湖が現れる。
しかし、どう探しても地図には載っていない。
あれほど大きな湖なのに・・・。
多くの人が不思議に思ったという。
湖の大きさは東西11キロ、南北10キロ、約1万ヘクタール。
東京23区の約4区分に匹敵する広さである。
現在のJR新潟駅や周辺の繁華街まで含む亀田郷一帯が、
その“地図にない湖”であった。
写真提供 本田清氏
なぜ地図に湖と記載されていなかったのか?
人には湖に見えたその一帯は、新潟農民のなけなしの“農地”であったからである。
【三年一作】
二期作、二毛作、裏作・・・。
多雨と豊かな土壌に恵まれた日本では、一年に何回かの収穫が可能である。
その日本に、”三年一作”といわれた土地があった。新潟平野である。
泥のような深田では、もとより生産力は低い。加えて、その少ない実りがすべて、
2,3年おきに生じる大洪水によって流されてしまうのである。
だれしも予測し得ぬ天候、あくなき害虫や雑草との闘い。
全身泥まみれの農作業や、肌も凍てつく冬場の客土。
そして、ひとたび堤が切れれば、それら一切は跡形もなく流出。
濁流は家屋を襲い、人畜を殺傷し、何日も水は引かず、新潟平野は一大泥海と化した。
【渇水の修羅場】
洪水が生き地獄なら、渇水もまた修羅場となった。
上流で水を取ってしまえば、下流の村は干上がる。
左岸の村が多く取れば、右岸の村は黙ってはいない。
水をめぐる村の対立は、上流下流、右岸左岸が入り乱れ、調整、談判、実力行使、
時には死者を出す陰惨な争いにまでエスカレートした。
「渋海川の水の一滴は血の一滴」。長岡の農民の間に伝わる口碑である。
さて、以上は、つい近年までとはいえ、過去のことである。戦前戦後を通した近代的な
農業土木の成果により、新潟平野は全国でもトップの美田地帯に生まれ変わった。
しかし、新潟が 新しい潟”であることに変わりはない。私たちは、 潟”であること
の持つ意味と、それゆえに近い将来必ず起こるであろう(他の平野にはない)課題を知っ
ておく必要がある。
出典:
「“新潟”
であるために・十章」北陸農政局、新潟県農地部、新潟県土地改良事業団体連合会
- 58 -
3ー4ー4 水質改善の取組み
水質を保全していくことは、安全・安心な農産物の生産や多様な生態系を保全して
いくために大切です。また、清らかな水の流れは人の心を和ませ、地域への誇りや愛
着の気持ちを育みます。
また、水質の改善が必要な場合には、様々な水質改善の方法が提案されていますの
で、専門家の意見を聞きながら検討することが大切です。
■ポイント■
○ 国土交通省が行っている全国一級河川の水質状況調査によると、県内のいずれの河川
も農業用水の利用はもとより、水道水源としてもふさわしい良好な水質が保たれていま
す。ただし、混住化が進んでいる都市近郊の農村などでは、生活排水が用水路に流入す
ることなどによって、水質の悪化が顕在化し始めているところがありますので、まず、
現状を把握してみましょう。
全国の河川と比較した県内河川の生物化学的酸素要求量
(BOD)
の現状(平成14年度)
20
20
18
河 16
川 14
数
12
10
荒川
・14年度は全国166河川で調査が行われた。
・県内で最も良好な値は、荒川の0.6mg/㍑であった。
・標準値は、農業用水8mg/㍑以下、水道2級2mg/㍑以下
である。(詳細は参考資料参照)
姫川、魚野川
8
阿賀野川
6
4
信濃川
2
BOD平均値(mg/㍑)
関川
0
上
5
7
6
8
0
3
9
2
4
6
5
0
2
9
1
3
4
6
8
7
9
7
8
5
0. 0. 0. 0. 0. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 1. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 2. 0以
3.
○ 県民アンケートによると、身近にある河川の状態を、約8割の人が「ふつう」または
「汚い」と感じ、そのうちの3分の1の人は「水質」の改善が必要と思っています。
「身近にある河川」の現在の
状態について(N=188)
(左記の設問で「ふつう」∼「汚い」と答えた方のみ対象)
改善が必要だと思う点(N=145)
ふつう
47%
きれい
21%
わからない
2%
汚い
30%
ゴミ
26%
水質
35%
除草
15%
わからない
2%
その他
2%
自然環境
13%
河川護岸工
7%
H15県民アンケート調査(総務部広報広聴課)
- 59 -
○ 水路の水質改善手法は数多く提案されていますが、ここでは水路の持つ自浄作用や既
存の水路を活用した水質改善の手法を紹介します。水質改善に取り組む場合には、水質
調査の結果や生きものの調査状況などに基づき、目標とする水質について地域の合意形
成を図ることが必要です。
(1)河床形態変更による水質改善
瀬や淵が繰り返されることによって、生物の生息環境が多様となり河川の自浄作用
が増大します。
再曝気(酸素供給)
生物
瀬
酸化
沈殿
礫
【河川における自浄作用のしくみ】
淵
(石積護岸及び水路底に礫など設置)
はくそうりゅうほう
(2)薄層流法による水質改善
水路幅を広くして水深を浅くすることによって、河床や空気と接触する面積を大き
くし、浄化能力を増大させる方法です。
(砂利を敷きつめた水路に薄層流を流す)
( 小 石 を 敷 き つ め る と と も に 、土 砂 溜 を 設 置 )
(3)植物を利用した水質改善
植物によって窒素・リンの吸収、吸着等を進める方法です。直接的な植物による水
質改善機能のみでなく、植物の多面的な機能を利用し、水辺景観の向上、生態系の維
持・バランスが図れます。
この手法は試み始められたばかりで、実証段階であるため、今後の成果が期待され
ます。
出典: 「農村に適した水質改善手法」農村環境整備センター
- 60 -
3ー4ー5 水辺の美化
農村周辺のきれいな水辺は、私たちにうるおいと安らぎを与えてくれます。 しかし、近年、農村地域の混住化や生活様式の多様化に伴い、水路などへのゴミの
投棄、流入によって、水辺の環境が悪化しています。
ゴミ投棄の防止対策について地域で話し合い、みんなが普段からゴミの投棄や流入
を防ぎ、きれいな水辺を守りましょう。
■ポイント■
○ 不要になった農業用のビニール資材や空容器などの投棄や放置は、用水の取水等の営
農に支障があるだけでなく、農村地域の美観を損ねるので、地域でモラルの向上につい
て話し合いましょう。
○ 排水機場のある地域では、ポンプにゴミがつまらないように機械でゴミをかき揚げて
います。かき揚げられたゴミは、可燃物や不燃物、危険物などに分けて、それぞれの処
理場に運んで処分されています。近年はゴミ処理にかかる費用も多額になり、1年間の
処理費用だけで1千万円を超える排水機場もあります。水利施設がきれいに保たれるこ
とは、良質な水の確保につながるとともにゴミを捨てにくい雰囲気が創出され、ゴミの
減少とともに維持管理の軽減につながります。
○ さらに、美しい農村環境づくりを進めることが、消費者へ安全・安心な農産物と信頼
感を送り届けることになります。
【県管理主要排水機場のゴミ処理量】
排水機場名
年間ゴミ処理量
親松排水機場
37. 5㌧
新井郷川排水機場
306. 4㌧
新川河口排水機場
49. 3㌧
※ゴミの種類に木材は含まれていない
(平成14年度農地建設課調べ)
ゴミの分別作業
春耕前のゴミ拾い(五泉市)
【排水機場に集まるゴミの種類】
(家庭ゴミ、空き缶)
(草、流木、農業用資材)
〔写真以外にも家電製品、タイヤ、自転車などが漂着します〕
- 61 -
コラム
里山にみる水循環
中山間地の棚田にいくと、集落(ムラ)を中心にして、その周りに野良(ノラ)とよ
ぶ田んぼや畑が拓かれ、山(ヤマ)とよぶ裏山(里山)の雑木林やアカマツ林が広がっ
ていて、 場所によってはかつて屋根を葺く材料を得ていたススキ草地(カヤ場)などが
ある。こうしたムラを囲んだ人を含むすべての動植物がつくり出す自然は、水循環系の
中に組み込まれて、それらが相互に作用する一つのシステムとして存続している。
▼かつて、里山の林は、薪炭林、農用林として利用され、農
業技術体系の一部として存在していた。しかし、昭和40年
代の経済の高度成長期に入って、化石燃料や化学肥料が、そ
れらにとって変わるようになると、この林は見放され荒廃の
一途をたどるにいたった。林内は、萌芽再生した小低木がほ
うき状に茂り、林縁にはマント群落とよばれるつる性植物が
発達して、風さえ通り抜けることができないほどの劣悪な状
況が出現した。
カタクリ
▼また、裏山の雑木林では、柴や薪をつくり、炭を焼き、落葉かき、刈り敷きなどによ
って肥料をつくり、工事用の粗朶の材料も得ていた。また、春は山菜採り、秋はキノコ
狩りがおこなわれるなど、里山の林は、人が永年にわたって計画的に深く関わる中で存
続し、生物の多様性を生み出してきた。保全の結果(または計画的な略奪の結果)、根
系が発達し、これが分解してできた糖類を求めて土壌生物が集まってきて、落ち葉を腐
葉土に変え団粒化して絡み合った根に取り込まれてスポンジ状を呈して、ここに水がた
っぷりと蓄えられ、やがてその肥沃で豊かな水が下流域をうるおした。
▼第四紀更新世(氷河時代)に刻まれた台地の谷につくられた谷内型棚田や地すべりに
よってできたなだらかな斜面を利用した地すべり地型棚田では、里山の林がつくり出す
水をため池に集め、小川(または用水路)から江(溝)を通じて田んぼに導いた。春を
迎えると、ため池で冬越しをしていたゲンゴロウ、ミズカマキリ、マツモムシ、コオイ
ムシなどの水生昆虫やドジョウ、フナ、ナマズなどの魚類は田んぼへとこの水系を移動
し、田植えが終わって水が温むころ、大部分はここで産卵をおこない、生長してため池
へと帰っていくという生活史をくり返す。湿田ではスブタ、ヤナギスブタ、マツモ、ミ
ズオオバコ、コナギ、オモダカをはじめとした多くの水生植物がみられる。
しかし、現今はほ場の整備によって乾田化が図られたり、除草剤の使用によって、こう
した動植物は急速に種数を減じている。水循環系がどこか
で断ち切られることは、自然にとって大きな圧迫要因とな
る。幸いにして、最近は減農薬や有機農法がおこなわれる
ようになって、徐々にではあるが自然が復活してきてい
る。
<元上越教育大学教授 長谷川康雄>
ゲンゴロウ
- 62 -
3ー5
景観
3ー5ー1 はじめに
農村の景観は、その地域の地形、気候風土の中で、長い年月をかけて、そこに住む
人たちの生産活動や生活を通じて形成されたものです。そこには、都市景観のように
機能的、均質的なものとは異なり、自然や生活に密着した様々な景観があります。人
に人柄があるように景観は、そこに住む人々の生活様式が現れた「村柄」です。
美しい景観づくりのためには、自然美や建造物の配置だけでなく、地域の「村柄」
を共に楽しみ、育み、次世代に引継ぐという観点から、地域にふさわしい景観はどう
あるべきか考えてみましょう。
■ポイント■
○ 「生活の中で毎日見ている風景を子供たちに残したい」、「訪れる人にとって気持ち
の良い景観にしたい」などの意識は多くの人たちが持っていますが、この気持ちを大事
にしましょう。水田や畑などの農業生産の場も地域の人たちと共有するという意識を持
つことが大切です。
○ 農村地域にも都市的な施設が作られることが多くなっています。農村の景観を考える
場合には、それらを観る人の多くが心地よいと感じ、快適な空間だと感じることが重要
です。このためには、農村の景観を創る構成要素が「周辺景観と調和して」、「その場
にふさわしく」組み合わされていることが大切です。
田植え後の棚田(中里村)
長い年月の営みが、現在の美しい景観を形成してきました
- 63 -
3ー5ー2 農村景観のとらえ方
農村の景観は、かつては自然の植物や農作物が四季折々に織りなす彩りや、地形の
起伏によって形成されていました。近年は、高く、直線的で単調な色彩を持つ都市的
な施設が多くなり、農村の景観が単調で退屈なものに変化しようとしています。
私たちは、これまで景観が共有の財産であることに気付かずにいましたが、お互い
の努力で良いものを地域の財産として形づくっていくことが大切です。都市的な施設
が持ち込まれる場合にあっても、機能的な見た目の美しさとともに周辺の景観と調和
に配慮するなど様々な視点からデザインや色彩等について検討することが大切です。
■ポイント■
○地域の人々のくらしとの関わりを考えよう
人が心地よいと感じ、心和ませ、感銘を受ける景観とは単に美しく、綺麗な景観では
ありません。そこに住む人々の生活の「息づかい」が感じられてこそ、観る人の心に染
みる景観となります。子どもたちが魚や虫を追いかける姿は見る人の心に豊かさと安ら
ぎを与え、郷愁を感じさせます。また、お年寄りや体の不自由な人たちにやさしいバリ
アフリーも住む人との調和という観点から重要な要素です。
農村の景観は人間の行為によって創り出されることから、農林業が継続されるなど
人々が活き活きと生活できる空間づくりが、本当の意味での景観づくりかもしれませ
ん。
平 場 の 田 植 え の 様 子 ( 長 岡 市 ): 整 備 さ れ た 水 田 は 地 域 に 活 力 を 与 え ま す 。
- 64 -
○近景、遠景との調和を考えよう
景観には庭の木々、並木道、集落の
家々など、身近で近い距離にある景色
の「近景」と視界が開けたところで見
ることのできる「遠景」とがありま
す。
近景は私たちの暮らしぶりを伝え、
地域の個性を最も表しますが、日本の
景観にはこの部分がヨーロッパ等に比
べて乏しいといわれています。近景を
検討する場合には、地場産の素材を用
いた家並の色づかい、庭や沿道の草木
等の種類などに配慮するなど、自分た
妻入り屋根が並ぶ集落内の景観(巻町)
ちの景観をどうすればいいのか、お互
い話し合うことが大切です。目立つ看板や街灯などは、位置、大きさ、形式、色彩など
にも十分な配慮が必要です。
遠景は集落を取り巻く広い景観で、地域の共通イメージが形成されます。高い山々か
ら近くの森、田畑や川や道路、集落や工場、働く人々など、様々な要素で形成されま
す。このように対象が多岐にわたりますので、新たな整備にあたっては、広い視野から
周辺景観との調和に配慮することも大切です。
○土地柄にあっているか考えよう
地域には成り立ちに起因した特性があります。新潟県でも平野部、山間部、海岸部な
ど様々な地理・気候条件があり、隣接地域との違いから異なる固有の文化を持っていま
す。
農村の景観は、このように地域の生い立ちや歴史を背景につくられてきましたが、近
年の土木建築技術の発達によって、あちこちで同じような施設がつくられ、地域差がな
くなってきています。また、地盤が低く水害のおそれのある土地も住宅地となったり、
地すべりの抑制に役立っていた棚田も耕作放棄が進んでいます。これからは、土地柄や
土地の生い立ち、伝統文化に配慮した土地利用のあり方を考慮した景観づくりが大切で
す。
○好きなビューポイントを探そう
景観は四季折々、朝夕や昼夜など、眺める時間帯によって様々に変化しますが、ここ
から見る景観が好きという場所を見つけ、何故、美しいのかを考えてみましょう。どん
な時期のどの時間帯が最も美しいかを考えてみることも、景観づくりの楽しみを増しま
す。できれば、ビューポイント(景色を見る場所)に名前を付けて、皆でここからの景
観を楽しんだり、それを守る方法も考えてみましょう。また、ビューポイントにはいつ
見て欲しいかの情報も加えたいものです。
- 65 -
「はさ木のある景観」
「はさ木」は、刈り取った稲を乾かすために使われた木で、タモ木やハンノ木などを等
間隔に植え、この木の間に何段もの竹や丸太を横に渡し、そこに稲をかけて秋の陽と風で
自然乾燥をしていました。
昭和40年代後半から50年代にかけて、乾燥機や自脱型コンバインが普及し、刈り取
った稲はそのまま脱穀してもみの状態で乾燥機で乾燥するようになったことから、「はさ
かけ」による黄金の屏風のような風景はほとんどなくなり、「はさ木」は次第に伐採され
ることになりました。
しかし、所々に残ったはざ木は、今でも季節や時間帯によって様々な表情を見せてく
れ、新潟平野の原風景として農村景観の象徴になっています。
- 66 -
参考
景 観 法
近年、景観に関する国民の関心が高まり、地方自治体に景観の保全を促す景観法が平
成16年6月、成立・公布となりました。
【趣 旨】
都市、農山漁村等における良好な景観の形成を図るため、良好な景観の形成に関する
基本理念及び国等の責務を定めるとともに、景観計画の策定、景観計画区域、景観地区
等における良好な景観の形成のための規制、景観整備機構による支援等所要の措置を講
ずる我が国で初めての景観についての総合的な法律です。
【概 要】(農林水産省分)
(1)景観計画の策定
市町村(広域的な場合は都道府県)は景観計画を策定し、景観計画区域、景観形成に
関する方針、景観計画区域内における行為規制の基準、景観重要公共施設(道路、河
川、海岸、漁港等)の整備、景観農業振興地域整備計画の策定に関する基本的事項を定
めることができる。
(2)景観農業振興地域整備計画等
① 市町村は、景観と調和のとれた良好な営農条件の確保を図るため、景観計画区域内
の農業振興地域に景観農業振興地域整備計画を定めることができる。
② 市町村長は、景観農業振興地域整備計画の区域内の農地において、その所有者等に
対し、景観と調和のとれた農業的土地利用をすべき旨を勧告することができる。
③ ②の勧告を受けた者がこれに従わないときは、市町村長は、その農地の権利を新た
に取得しようとする者を指定し、その者との間で権利移転の協議をすべき旨を勧告す
ることができる。
④ ③により指定された景観整備機構※にあっては、上記勧告の協議が調った農地の利
用権を取得し、管理することができる。
※景観形成のための業務を行う農業公社、NPO法人などを指定
⑤ 市町村は、景観計画に即して景観に配慮した森林施業を推進するため、市町村森林
整備計画を変更することができる。
(3)景観協定
景観計画区域内の土地の所有者等は、市町村長の許可を受けて、農用地の利用・保全
に関する事項等を定める景観協定を締結することができる。
- 67 -
3ー5ー3 その場にふさわしく
新たに施設をつくる場合は、施設の必然性や機能などが「その場にふさわしい、相
当である」と感じてもらうことが大切です。このような感覚は、観る人の過去の経験
や知識などによって培われる感性が基準となるため、様々な人の目で、様々な角度か
ら検討することが重要です。
■ポイント■
○華美、過大でないか考えよう
整備する施設に形、色、模様、配置などについて特殊な工夫を行う場合には、それら
が多くの人々の支持を得られるよう、その必然性について十分な検討を行い、場違いな
ものにならないよう努めましょう。
○利用する人、観る人のことを考えよう
これまでは、利用者のニーズに合わせ、利便性や機能性を重視した施設が多く造られ
てきました。しかし、これらは必ずしも「ゆとり」や「やすらぎ」を体感できる快適な
空間でなかったかもしれません。地域住民の意見にも配慮し、その場にふさわしい施設
となるよう周辺の農村景観との調和を考えることが大切です。
○洗練されたセンスが感じられるかを考えよう
地域のランドマークやモニュメントとして作られる施設や装飾については、地域の周
辺状況に十分配慮することが重要です。これらはその性質から観る人に注目される位置
に設けられるので、大きさ、形、色彩などの要素はもちろん、その必然性については
様々な視点から十分な検討が必要です。地域に作られる商業用PR看板や案内看板など
も同様な検討が必要です。
人工的な施設は、周辺の環境と造形的にも調和したものであり、利便性を備えた洗練
されたセンスをもった美しさが求められます。
地域のランドマーク
周囲に合わせた配色
- 68 -
3ー5ー4 謙虚でさりげなく
全体の景観から突出した表現は、周囲と調和せずに、地域の印象を変えてしまうこ
とがあります。色、形、大きさ等で奇抜な表現をするよりも、謙虚でさりげなく工夫
されたものが人の心を和ませたり、郷愁を誘ったりします。
■ポイント■
○表現がストレートすぎないか考えてみよう
地域の特産品や伝統文化には様々なものがあります。知らない土地で、これまで味わ
ったことのないおいしい食べ物、見たことのない風景や特産品、伝統文化に触れること
は旅の楽しみであり、たいへんうれしいものです。しかし、それらの表現方法があまり
に露骨で、唐突な場合が見受けられます。伝えたい気持ちを少し抑えて、謙虚に伝える
ことに心がけ、ストレートな表現方法を避けるよう努めましょう。
○メリハリつけて、一貫して個性を表現しよう
地域の景観づくりや地域の個性をアピールするため、地域の特産品や伝統文化を活用
する場合でも、あらゆる場所で同じようにそれらを散りばめるだけでは、PR効果はあ
りません。訴えたいものとの関連性を考慮して、物語性を取り入れるなどメリハリをつ
けて、一貫性を持った個性の表現に努めましょう。
○さりげない表現で好感度をあげよう
地域の景観づくりには自然の素材が使われ、自然と調和した違和感のない景観である
ことが好感度をあげます。強調するところとそうでないところをうまく組み合わせ、小
さな工夫、さりげない心づかいが施されていることが観る人の印象度や好感度をあげま
す。
景観に配慮した橋
周囲の景観と調和した管理施設
- 69 -
コラム
中山間地域の機能
中山間地域は、平地に比べて農業や生活を営んでいく上で条件的に不利な地域です
が、一方で豊かな自然や優れた地域資源を有し、環境保全上重要な地域です。
近年、地域資源については『多面的機能』として広く紹介されており、中山間地域に
は年間3兆300億円に相当する機能があるとも言われています。その内容としては、国土
保全(災害を防ぐ)、水源かん養(水源を保つ)、環境保全(生態系を保つ)、大気の
浄化、生活文化を支える恵みなど様々です。
しかし、中山間地域の現状は、高齢化、過疎化が急激に進み、その影響で耕作放棄地
が増大しているため、このままでは農業生産活動を通じて維持されてきた農地や農業用
施設が荒廃するなど、地域資源の劣化が懸念
されています。
新潟県の中山間地域は降水量、降雪量が多
く、土質は脆弱な基岩で亀裂、空隙が多いこ
とから地すべり災害が多いことで知られてい
ます。中山間地域の棚田は、崩れて緩傾斜と
なった地すべり地形を利用して稲作を行い管
理することで地すべりを抑制し発展してきま
した。このため耕作放棄地と地すべり災害に
浦川原村における地すべり(平成2年)
は密接な関係があり、棚田の保全管理が地域
の防災に大きな役割を果たしているといえま
す。
500
5
450
地すべり発生率
耕作放棄地面積
400
350
3
地すべり総件数350件
300
250
200
2
150
耕作放棄地面積(ha)
地すべり発生率(%)
4
100
1
50
0
1950
0
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
年
棚田地域の耕作放棄地面積と地すべり発生率の推移
対象地域:板倉町・清里村・牧村・安塚町・松代町・松之山町
<新潟大学農学部教授
- 70 -
早川 嘉一>
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