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騎士公娼の見る夢 - タテ書き小説ネット

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騎士公娼の見る夢 - タテ書き小説ネット
騎士公娼の見る夢
ときぴお
!18禁要素を含みます。本作品は18歳未満の方が閲覧してはいけません!
タテ書き小説ネット[R18指定] Byナイトランタン
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁ノクターンノベルズ﹂﹁ムーンライトノ
ベルズ﹂﹁ミッドナイトノベルズ﹂で掲載中の小説を﹁タテ書き小
説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は当社に無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範囲を超え
る形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致します。小
説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
騎士公娼の見る夢
︻Nコード︼
N9759BR
︻作者名︼
ときぴお
︻あらすじ︼
103もの国々を侵略し覇道を成したゼオムント国の王は、敗戦
国の王族・貴族・騎士・戦士・魔導士らの中から特に美しい者だけ
を選び、1000人もの公娼を制度として作り、愛する国民へと提
供した。
国民たちは戦勝の喜びと支配者としての欲望を満たすため、公娼達
に思いつく限りの被虐を与え、辱めていった。
そんな日々が3年も経った頃、ゼオムント国は一つの壁にぶつかっ
1
てしまう。
全力で思いつく限りに公娼を玩具にしてきた結果、彼らは肥大しき
った加虐心を持て余してしまったのだ。
今のまま公娼達を犯しても新鮮味は薄れ、彼らは更なる被虐を求め
ていた。
そんな時、ひとつの進言が王を動かす。
﹁王よ、西でございます﹂
人間が支配する国家群の西側には、魔物の領域が広がっている。
2
王宮には優秀な魔導士が相応しい︵前書き︶
初めて投稿させていただきます。
誤字脱字違和感諸々感じたことを指摘していただけると嬉しいです。
エロは好きです。
直接的なエロが好きです。
スクール水着よりマイクロビキニが好きです。
触手よりオークの方が好きです。
よろしくお願いいたします。
3
王宮には優秀な魔導士が相応しい
ゼオムントという覇道を謳い、成し遂げた国があった。
人間が支配する103の国々を侵略し、戦火に飲みつくした。
覇道を行った王は強欲で残忍で、そして何より好色な人物として人
々に恐れられる一方で、歪みきった自国民への愛があった。
打ち倒した国の王族・貴族・騎士・戦士・魔導士などの戦争に関わ
った者達を捕えると、男共は有無を言わさず奴隷とし、従わぬ場合
は首を打った。
そして、女。
老いさらばえていたり、肉体的風貌的魅力に欠く者は男と同様の末
路を強いたが、見目麗しい人間が皆無だったわけではない。
若く、美しく、獣欲をそそり、その身と心を汚すことで戦争に勝っ
たという支配の欲望を充実させることが叶う存在を、ゼオムントの
王は公娼として愛する民へ分け与えたのだ。
103の国からおよそ1000の公娼が生まれた。
ゼオムントの国民は王から与えられた玩具を嬉々として弄んだ。
公娼相手に金を払う馬鹿はいない、彼らは意識的に残虐な存在へ進
化していった。
公衆便所の横に全裸で枷につながれ春夏秋冬を過ごした魔導国家の
王妃がいた。
立ち上がれぬよう5人単位で手足を結ばれ転がされたまま家畜とし
て扱われ、生ゴミや排泄物を主食として繁殖の為だけに生きること
を許された巫女騎士団がいた。
乳房や顔や陰部に卑猥な刺青を彫られ、全裸のまま見世物の剣闘を
強いられ、敗れれば傷だらけの体のまま興奮した観衆の中に放り込
まれた女戦士がいた。
公娼制度が始まり一年が経った頃、王宮に仕える魔道士が王より国
4
家第一等級の勲章を授与された。
曰く、
﹃貴君の開発した新魔法により公娼達は末永く我が国に奉仕
することが可能となり、我並びに我が愛する国民の大いなる喜びと
なることであろう﹄と。
〟特殊な刻印を刻むことにより、外見年齢は衰えさせず天寿を迎え
る時まで現在の姿で有り続ける呪い〟それが魔導士の開発した新魔
法だった。
直ちにすべての公娼へこの魔法の刻印が施された、その時に副次的
にではあるが、およそ1000人居たはずの公娼の数が800を切
っていることが判明した。
国民による公娼の手荒な利用で既に200もの死者が出ていたのだ。
王宮の官吏達は国民の荒すぎる扱いで公娼の数が更に減ることを苦
慮したが、王はそれを笑って許した。
﹃良いぞ、良い。楽しむことに全力を尽くすのは当然のことよ﹄そ
れが王の言葉であった。
魔導の延長線上から発展した情報共有技術を用い、記録した映像を
投射し、保存し、拡散することが可能になってからは、公娼の扱い
が大きく変わった。
商人たちが金を出し合い一つの組合を作って数人の公娼を確保し、
腕の立つ調教師などを用意して趣向を凝らした映像作品を作り、そ
れを売り捌くようになった。
肛虐の貴公子たる調教師某が、神聖国の姫に路道で被虐の限りを尽
くす︱︱等々、今までは首都でのみ楽しんできた娯楽をついには支
配領である公娼達のかつての祖国へまで届けるようになったのであ
る。
支配領の人間の中には泣き叫んで彼女達を憐れんだ者もいるだろう。
けれど、多くの人間は違った。
新しく支配者となったゼオムントの王は民を愛していて、民もまた
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それを受け入れてしまっていたのである。
映像が発売され、諸国にその痴態が余すことなく届けられた公娼の
もとへ、祖国を始め、かつての同盟国、あるいは敵対国の人間がや
ってきては乱暴に抱き捨てて行った。
諸国から公娼を求めて人間が大きく行き来するようになったのであ
る。
経済が潤わないはずがなく、ゼオムントは大きく発展し、発展して
いく分だけ公娼は汚されていった。
そして月日は流れ、公娼制度が始まって3年が経った頃、ゼオムン
ト国は一つの問題を抱えていた。
3年間、公娼を全力で辱めてきた結果、彼らは壁にぶつかってしま
ったのである。
試すだけの趣向は全て試し、得られるだけの映像資料も揃ってしま
った。
彼らは︱︱飽きてしまったのだ。
公娼を自らの手で犯し、笑うことに。
王の顔にも民の顔にも悩みに似た憂いが宿った時、以前勲章を授与
された魔導士が一つの進言をなした。
﹃王よ、西でございます﹄
ゼオムント国王によって統治された人間国家群と陸地で接した西側
の未開拓地域には、広大な魔物の生息域が存在している︱︱。
6
官吏はだいたい無表情の方が良い
大門の前に集合させられた時、彼女達は皆全裸であった。
500人を優に超える裸の女達が集められている。
首から一つ下げた木札に名前と出自と番号が書かれ、その文字の形
が彼女達同士での唯一の恰好の違いであった。
首都を遠く離れ、裸の尻を馬車の木床に打ち付けながら運ばれたの
は、連合国となったゼオムントの西端の町である。
﹁今度は⋮⋮どんなことをされるって言うのよ⋮⋮﹂
長い赤髪を左右に分けて結んだ小柄な少女が、そのまた小ぶりな胸
に手を当てながら震える声を発した。
﹁耐えましょう、セナ。いつか、きっと︱︱﹂
赤髪の少女の前に背を向けて立つ金髪のショートカットの女が振り
返りもせずに言った。
﹁きっと私達は、国を︱︱祖国を取り戻して見せます﹂
輝く金色の毛束の下、流れるような背中のラインと尻の隆起、長い
脚をもった美しい女であった。
﹁うん⋮⋮そうだね、耐えよう⋮⋮シャロン﹂
セナは目線を上げ自分よりも頭一つ大きな先輩騎士を見つめた。
﹁それにしても、一体どういう事なんだ、こんな僻地に連れてこら
れるなんて⋮⋮﹂
セナとシャロンのすぐ隣、長い黒髪を垂らした巨乳の女が漏らすよ
うにつぶやいた。
﹁騎士長、わかりません。今までは首都から連れ出されることはあ
ってもこんなに大人数での移動は無かった﹂
シャロンが黒髪の女︱︱シャロンとセナが所属していたリーベルラ
ント騎士国家の精鋭騎士ステアへ答えを返した。
﹁今まで外へ連れ出されるとしたら、あの屈辱にまみれた﹃撮影﹄
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と言うやつだけだったからな⋮⋮﹂
ステアの顔が憎々しげにゆがむ。
セナにも記憶がある。
調教師に自らの故郷にほぼ裸のまま連れて行かれ、見世物として扱
われ現地の人間と性交させられたのだ。
始めに自己紹介をさせられ、かつて自分がこの国の騎士であったこ
とを説明させた上で這いつくばって懇願し、男に性交をしてもらう
という、一時期大衆の間で流行したコンセプトだ。
その時身に染みたのは、絶望的な運命だった。
セナはまだ若く、20を越えてはいない。
シャロンはセナの二つ年上で、ステアはそのさらに二つ上だ。
王宮魔導士の呪いの刻印を受け、これから先外見は老けることもな
い。
つまり死ぬまで公娼として、ゼオムントに弄ばれなくてはいけない
ということだった。
けれど、その運命に抗って見せる。
ある時、商人組合の合併で同じ宿舎︱︱牢獄で管理されるようにな
った同郷の騎士達と再会し励まし合って誓ったのだ。
必ず現状を打破し、祖国を復興させてみせると。
﹁注目﹂
特に意気込む様子もなく、小さく声を発したのはここまで彼女達を
運んできた王宮の官吏だ。
﹁これからお前達公娼には、6人一組の班になってもらい、この門
を出て魔物の領域に入ってもらう﹂
﹁えっ⋮⋮﹂
セナの口から驚愕の息が飛び出し、周囲もそれと合わせるように一
斉にざわついた。
﹁静かに。目標は魔物領の西端にあるサイクス山に祀られている宝
具の回収だ。この宝具を手にした者には魔物の統帥権が与えられる
と伝承されている。それを貴様らで取ってくるのだ﹂
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ざわめきは収まらない、セナはシャロンとステアと視線を交わし、
同様の疑問を抱いていることを共有した。
公娼として辱められ続けた自分達に向けられる内容としては、明ら
かにおかしな目標だということ。
﹁そして、見事宝具を持ち帰った班には︱︱公娼の身分撤廃を約束
しよう﹂
ざわめきが一層大きくなった。
公娼の身分撤廃。
それはつまり︱︱
﹁人間に⋮⋮騎士に戻れるってことか⋮⋮﹂
呆然とステアが呟いた。
﹁ここに王の認可状もある。確認したければ後で見せてやろう﹂
官吏が一枚の紙を持ち上げ、皆の視線が一斉にそれに集まる。
﹁なお、各班に一人調教師︱︱今回の場合は﹃主人﹄が同行する。
貴様らは主人の命令に従い行動すること。主人には王宮魔導士の作
った隠密魔術石を持たせている為魔物に発見されない。貴様らが例
え魔物に犯されようが食われようが主人は無事だということだ﹂
官吏の背後に数十人の男達が待機しているのが見えた。
﹁あの男達が主人役なのでしょうか⋮⋮﹂
シャロンが忌々しげな眼で男達を見やる。
どの目も好色に輝いていて、道中また辱められることは必定のよう
だ。
﹁同時にこれは公娼としての映像提供も兼ねる。王宮魔導士謹製の
監視魔術が主人には掛けられているので、貴様らの魔物に犯される
姿は全て保存され、国家企画として全国に配布されることになる﹂
そういうことだろうと思いはしたけれども、セナは突きつけられた
好色な悪意に身震いした。
﹁良いか? 魔物達は種族単位で暮らしていると聞く。人間の女を
食らうことを喜ぶ種族もいれば犯すこと楽しむ種族も、飼う種族も
いると聞いている。せいぜい悲惨な目にあって私達国民を楽しませ
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てほしいものよ﹂
一口で魔物と言っても多様な種類が存在していることはセナも知っ
てはいるが、人間の女をどうやって扱うか、というところまで突き
詰めて把握しているわけではない。
一体どれほどの強さで、どのような残虐さを持っているのか、想像
してまた軽く震えた。
﹁それでは班割りは我々の方で既に取り決めてある。番号で管理し
てあるので貴様らの首から下げた木札の番号を呼んだ主人の所へ整
列しろ﹂
そう言って官吏は身をひるがえし、主人役の男達の中へ消えていっ
た。
セナ、シャロン、ステアは同じ牢獄から連れて来られていたため、
番号も同じでどうやら離れ離れにはならないようだった。
﹁呼ばれたな⋮⋮﹂
ステアが胸を張って︱︱双乳を大きく揺らして歩き出した。
﹁行こう、セナ﹂
シャロンが視線を厳しく前に据え、進んで行く。
セナはシャロンの背中を追って付いていく。
すると︱︱
﹁おぉい、ここだー﹂
のんびりとした中年男性の声が響く。
﹁さて、挨拶がてら全員に一回ずつしゃぶって貰おうかなぁ﹂
セナにはその声に聞き覚えがあった。
﹁え⋮⋮なんで⋮⋮?﹂
貧相な体格のボロを纏った男がステアを地べたに跪かせて、自らの
汚れた分身を口にあてがっていた。
﹁お父⋮⋮さん﹂
ステアの長く美しい黒髪を乱暴に掴み、押し付けるように口腔に肉
棒を突き入れながら、男がセナの顔を見上げて、
笑った。
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﹁よぉセナ、よろしくなぁ﹂
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父の外道︵前書き︶
お気に入り登録していただいた方、評価していただいた方、ありが
とうございます。
12
父の外道
﹁どうして⋮⋮﹂
絶句するセナの視線の先では、彼女を常に導き、支えてきてくれた
憧れの先輩騎士であるステアが口腔を激しく犯されている。
自分の父親に。
じゅぼじゅぼと下品な音を立てながら突きこまれる肉棒に、黒髪の
騎士は顔を顰めて耐えていた。
﹁どうしてって言われてもなぁ⋮⋮今回の主人役は魔法で守られて
いるとは言え、危険は危険ってことで金の払いが良いんだよ。そん
で募集された後に公娼名簿を見たら生き別れになっちまった娘の名
前があるじゃねぇか、親心だよ親心。おめぇを指名したのはよ﹂
そう言って彼は娘の裸身をつぶさに見やる。
﹁なんだぁおめぇ全然肉がついてねぇじゃねぇかよ⋮⋮三年間も公
娼やってたんだからたいそうエロい体に育ってんじゃねぇかと楽し
みにしてたのによぉ﹂
白けた表情をした彼は突き上げる腰を止め、ステアの口唇から肉棒
を引き抜く。
﹁おら、おめぇはもう良い、後ろに並んどけ﹂
口の端から涎を零しながら咽ているステアの尻を引っ叩き、自分の
前から追い払う。
﹁次はアンタだ⋮⋮金髪のねぇちゃん。跪いて俺のをしゃぶりな﹂
指名されたシャロンは一瞬睨むように目を細めたが、すぐに屈みこ
んで彼の肉棒を手に取って咥えこんだ。
﹁そうだ⋮⋮そうそう、良いぞ丁寧に舌を這わすんだよぉ﹂
股座に収まった金髪を弄びながら、再び娘を見やる。
﹁さっきの奴とこのねぇちゃんおめぇの同僚なんだろ? 騎士様な
んだよなぁ?﹂
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グイグイとシャロンの頭をかき回すように揺らし、自らの肉棒へと
刺激を伝えていく。
﹁やめて⋮⋮お父さん、リーベルラントの誇りを忘れたの?﹂
﹁そんなもん、三年前にとっくに捨てちまってるよ、俺はなぁ﹂
ステアの父︱︱ユーゴはリーベルラント騎士国で国府所属の文官で
あった。
三年と少し前にゼオムントの軍勢が国府近くまで攻め寄せてきた際、
決死の抵抗を続ける騎士団を見限り、いち早く投降した大臣一派に
所属していた。
﹁投降してからなぁ⋮⋮困ったんたぜぇ生活していくのによぉ。そ
れにおめぇのかーさんは娘が公娼に取られたって言って泣きわめい
て抗議しに行くとまで言いやがるしよぉ、まったく⋮⋮止めるのに
どんだけ苦労したことか、勢い余ってぶん殴ったらあっさりおっ死
んじまったしよぉ﹂
再びユーゴの腰が動きを得て、シャロンの喉奥を蹂躙していく。
セナはその光景を目の当たりにして、今まで懸命に蓋をして隠し続
けてきた怒りの感情が爆発しかけた。
その時︱︱
﹁セナ﹂
澄んだ声が彼女の振り上げかけた拳と共に、怒りを包み込んだ。
﹁騎士長⋮⋮﹂
憎き父の後ろに直立して立っていたステアがこちらを悲しげに見つ
めながらも、首を振っている。
今はまだ耐える時なのだと、彼女は伝えているのだ。
﹁うぇほ⋮⋮えほ⋮⋮えほっ﹂
シャロンの口からユーゴの肉棒が引き抜かれ、彼は挑発的に笑んだ。
﹁さぁ、来いよ﹂
バシンッ︱︱と自らの毛むくじゃらの内腿を張る。
﹁わかってるわよ⋮⋮﹂
セナは父親の足の間にしゃがみ込み、先輩騎士の涎でてかてかと光
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る肉棒を掴みあげた。
﹁まて、セナ﹂
父親は娘に肉棒を握らせたまま、その顔を濁った瞳で見つめた。
﹁俺はなぁ⋮⋮ちゃんとした親父だったろぉ⋮⋮? お前に食卓で
のマナーやナイフとフォークの持ち方も教えてあげたよなぁ⋮⋮。
なぁ、ご飯の前は何ていうんだったか? お父さんが教えてあげた
通りに言ってから、し始めなきゃいけないよなぁ﹂
裸で跪く娘と、ボロを纏い肉棒を突き出した父が正常な親子であっ
た時の姿をなぞる様に、父は娘の頭を優しく撫でた。
﹁⋮⋮いただき、ます﹂
汚辱に震えながらセナがその言葉を口にした瞬間、ユーゴは勢いよ
く肉棒を娘の口に突き刺し、そのまま腰を持ち上げた。
急に立ち上がった父の肉棒に持ち上げられる形で、セナの体は伸び
あがった。
﹁んんっ!﹂
﹁ひひ、いひひひひひひひひ﹂
ユーゴは腰を大きく一度引いて渾身の力で前へと突き出した。
体勢を悪くしていたセナの体はその衝撃を堪えることができず、仰
向けに倒れていく。
ユーゴの体もそれに続いた。
親子は口と陰茎で繋がったまま、立木が横たわる様に地面へ衝突し
た。
セナは後頭部を硬い地面打ち付け強い痛みを覚え、続いて喉の奥の
奥︱︱かつて味わったことのない深さまで父親の肉棒が突き刺さっ
ていくのを感じた。
﹁ぉぐこ⋮⋮﹂
﹁噛むなよ、噛むなよおおぉ、おとぉぉさんのチンポ噛んじゃだめ
だよぉぉセナぁぁ﹂
ユーゴは歯を剥き出しにして笑い、そのまま腕立て伏せの要領で両
手足を踏ん張り、腰を娘の顔面に打ち付け始めた。
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一撃一撃が喉の最深部までを抉り、引き抜かれる際は舌も歯も何も
かもが持ち去られそうになるほど強引に抜けていく。
そしてまた、突き刺さる。
父親の陰部を黒く覆った悪臭を放つ縮れ毛がセナの口に、鼻に入り
込んで強烈な不快感を催す。
﹁やめろ、それ以上やるとセナが死んでしまう!﹂
ステアが走り込んできてユーゴの肩を掴み、制止する。
一瞬動きを止めたユーゴだったが︱︱
﹁うるせぇあ! 親子のスキンシップだ、黙ってみてろ﹂
中腰になっていたステアの胸は重力に引かれて垂れ下がっていて、
ユーゴの顔のすぐ上にあり、彼は首をひねってソレに噛みついた。
﹁あぐぁっ﹂
右乳房の側面から乳輪にかけて歯形がつき、出血する。
ステアは胸を押さえ、なお言い募ろうとした時、
﹁良いかっ? この班の主人は俺だ、俺がお前達の生殺与奪を握っ
ている。俺に逆らうことは許されない。万が一なにか事を起こしや
がった場合は公娼の規定通りにてめぇらの祖国︱︱まぁ俺にとって
もそうなんだがなぁ︱︱祖国を再び火の海に沈めちまうことになる
ぜぇ﹂
そう、それこそが公娼を公娼として縛り付けている契約。
ユーゴを含めゼオムント国民全員が把握している公娼を従える絶対
の律である、
﹁わかったらよぉ⋮⋮左っかわの乳も噛んでやるからよぉ、俺の口
に添えなぁ﹂
ユーゴは口を動かしながらも、腰の動きはまったく止めていない。
打ち付ける度にセナの体がのたうっている。
﹁くっ⋮⋮わかった⋮⋮﹂
ステアは跪き、ユーゴの口へ無事な方の乳房を差し出した。
﹁あぁそれとなぁ、後ろにいる金髪のねぇちゃんよぉ、アンタはう
ちの娘を可愛がってくれや﹂
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﹁えっ⋮⋮?﹂
やや離れたところに立ち、事の成り行きを唇噛みしめながら見守っ
ていたシャロンは短く声を上げた。
﹁だからよぉ、セナのマンコをべちょべちょにかき回してぇ、イカ
せろっていってんだよぉ﹂
﹁そ、そんな⋮⋮﹂
躊躇するシャロンにユーゴは笑いかける。
﹁あぁ? お前も逆らうってのかぁ? さっさとしねぇと、コイツ
の乳首噛み千切るぞっと!﹂
言葉の終わりとともに、ユーゴは勢いよく顎を閉じてステアの乳首
に噛みついた。
﹁いづっ⋮⋮﹂
ステアが苦悶の表情を浮かべた瞬間、シャロンは動いた。
﹁ごめん︱︱セナ﹂
父親に組み敷かれている娘の股の間に体を潜りこませ、右手の指を
その秘所に挿し入れた。
ビクッ︱︱とセナの体が大きく跳ねる。
﹁ハハハハハッハ、良いぞっ、勢いよくかき回してやれよっ、こう
いう、風にっ! なっ!﹂
ユーゴは一段と激しく腰を娘の喉へと打ち付ける。
時々思い出したようにステアの乳首をかじり、歯形を残していく。
シャロンは一心不乱にセナの陰核を擦りあげ、この地獄のような状
況がすぐにでも終わることを願った。
そしてセナは︱︱
﹁おっ⋮⋮おおぉっ! 出すぞ、零すんじゃねぇぞぉ﹂
口の中に放たれた父親の精液を受け止められながら、戦友である先
輩騎士の手で絶頂を迎えさせられていた。
ユーゴがセナの口から肉棒を引き抜いていく。
白い粘性の液が二点を結ぶ一本の線となっていた。
17
﹁おっ、残りの奴らが来たようだな﹂
涙や色んなものでぼやけた視線を傾け、セナが見た先に、自分達と
同じように全裸で首から木札を下げた女が三人立ちすくんでいた。
18
お前は一体どこの誰なんだ 上︵前書き︶
一話に纏めたかったのですが、長くなったので上下構成にします。
評価・お気に入り登録してくださった方、読んでくださった方、あ
りがとうございます。
19
お前は一体どこの誰なんだ 上
セナがシャロンとステアに抱えられて呼吸を整えている間に、ユー
ゴは新しくやってきた三人の口を順々に味わっていった。
セナの喉奥に出し切れなかった分を、水色の髪の目つきのやや尖っ
た女に吸い取らせ、その次に小柄⋮⋮というよりも幼児体型に近い
金髪の少女の口を使って肉棒を復活させ、最後に黒髪を束ねた怯え
顔の少女の口の中で精を解き放った。
ユーゴは崩れた笑顔を浮かべ、セナ達を傍へ呼び寄せる。
地べたにどっかりと座りこんだ自分の前に裸の女達6人を並ばせた。
﹁さて、これで6人揃ったわけだが⋮⋮﹂
そこで言葉を区切り、6人の顔を見渡しながらユーゴは続く言葉を
放った。
﹁自己紹介してもらおうか。お前達が一体どこの誰で、かつて何を
してきた存在で︱︱公娼としてどんな活動をしてきたかをなぁ﹂
全裸に、木札。
その木札には番号と名前、そして簡単な出自が記載されている。
見ればわかることだ。
それをユーゴは彼女達自身の口で、声で説明させようと言うのだ。
﹁それじゃこっちの奴から順番に⋮⋮だな﹂
ユーゴは自分の右手側にいた水色の髪をした女を指差した。
女は一瞬唇を噛み、小さく呼気を吐いてから、
﹁私は︱︱﹂
﹁おっと待ちなぁ⋮⋮﹂
ユーゴは下卑た笑みでそれを遮り、自らの股座を手で示した。
﹁自己紹介は、ココで。だ﹂
ユーゴの肉棒は先ほどまでに二度の射精を経たとは思えないほど屹
20
立し、股間を飾っている。
﹁コイツに跨って、俺と繋がりながら︱︱お前達が何者かを語るん
だよぉ﹂
セナを含めここに並ばされた6人には祖国があり、祖国では一角の
存在であったが故に、公娼として扱われるようになったという栄光
と挫折の過去がある。
それを、彼はセックスしながら語らせようとしている。
水色髪の女は垂らした前髪で顔を隠しながら、一歩を踏み出す。
そしてユーゴの腰の上に乗り、ゆっくりと自らの性器を汚らしい主
人のソレへと近づけていった。
﹁おぉ⋮⋮そうだ。たっぷり味あわせろぉ﹂
肉棒が女陰に埋もれていく。
女はユーゴの肩に両手を置き、苦しげに呼気を吐きだしながら、己
を語っていく。
﹁わたし⋮⋮は、ロクサス領ミネア修道院所属の魔導士⋮⋮ユキリ
ス。先の戦争では、領主様の召集に応じ、ゼオムント国との戦いに
従軍し⋮⋮敗北して捕虜になりました﹂
ユキリスの声が紡がれる間、ユーゴがじっとしている理由は無く、
彼は打ちつけこそしないまでも、腰を上下左右にうねらせ続けてい
た。
﹁んっ⋮⋮。その後は、公娼として⋮⋮ゼオムント国に仕えており
ます﹂
ユーゴの腰の動きがピタリと止まった。
﹁そうかそうか、アンタが魔導士様だってことは分かった。でも俺
がなぁ、もっともっと聞きたいのはなぁ⋮⋮魔導士じゃなくなった
アンタはどうやってマンコを使って生きてきたのかって! そうい
うことなんだよなぁっ!﹂
勢いをつけて腰を跳ねさせユキリスを突き上げていく父親の姿を、
セナは絶望に似た表情で見守っている。
﹁ひっ⋮⋮ん⋮⋮。首都のぉ、大型商業施設で⋮⋮ヤれるマスコッ
21
トとしてぇ⋮⋮首から胸上までのタイとお尻にぃ⋮⋮んっ! 尻尾
が伸びたアナルバイブを挿して、365日、休みなく働いてぇ⋮⋮
いました﹂
ユキリスの上下する背中が細かく震えているのを、セナは見ていた。
﹁ほぉう、ヤれるマスコットと言えば近年は首都だけじゃなく支配
領にも出店してきてる︱︱貴族様が立ち上げた商業グループの看板
だったよなぁ⋮⋮なかなか面白いとこで働いてたんじゃねぇか﹂
対面座位で繋がっていたユキリスから肉棒を引き抜き、ユーゴは彼
女を立たせてその尻を撫でる。
﹁お前は良いなぁ⋮⋮まぁとりあえず一人目だから暫定一位な﹂
尻の流線形をなぞりながら、陰唇に指を這わせていく。
﹁一位⋮⋮とは?﹂
抵抗できず、されるがままにユキリスが問う。
﹁言い忘れたが、これからお前らを順位づけする。一位から六位ま
でだな。順位によって旅の装備が変わってくるぜぇ、もちろん上位
の方が良い物で⋮⋮下の奴はどうなんだろうなぁ⋮⋮ハハハッ﹂
ユーゴの右手がユキリスの陰部へと潜りこんだ。
﹁審査の基準はお前らの語る境遇と︱︱マンコのしまりの良さで決
めてやるぜぇ﹂
そのまま激しく右手を動かし、ユキリスが腰砕けになるまで中を蹂
躙し続けた。
立って居られなくなったユキリスを自分の背後に転がし、ユーゴは
次を呼ぶ。
位置的に金髪の幼女体型の少女が呼ばれることとなった。
﹁さっきも思ったが、随分と小せぇ奴だな⋮⋮よし、お前はこうす
るか﹂
﹁あっ︱︱﹂
少女の腰に両腕をまわしたユーゴは、軽々と彼女を持ち上げ、立っ
たまま己の分身に突き刺した。
22
﹁あぐっ⋮⋮痛っ﹂
少女は盛大に顔を顰める。
﹁さぁ語れ。お前は一体誰なんだ?﹂
ユーゴは抱き上げ、挿入したまま激しく腰を動かした。
﹁わ、妾は⋮⋮栄光あるリネミア神聖国の第一王女⋮⋮ハイネア。
ゼオムントとの停戦交渉の場でだまし討ちにあい、捕えら⋮⋮あん
っ! て⋮⋮牢獄の中で国が滅んだことを聞いた⋮⋮﹂
﹁それでぇ? それでぇ!﹂
ユーゴは喜色満面にハイネアを突き上げている。
﹁⋮⋮終戦後は首都の、んっく、公立中等教育校の1年2組に配属
され、3年間校則で自由性交生徒に指定されて⋮⋮同級生はもちろ
ん、上級生にも下級生にも教員にも保護者にも犯されていた、のだ
⋮⋮﹂
小柄で軽いハイネアの体をユーゴは玩具のように振り回して、自ら
の肉棒をぶつけている。
﹁自由性交生徒ってあれか⋮⋮学生と公娼を兼ねた奴が指定される
モノだよなぁ⋮⋮たしか各校一人でその学校の持ち物になるって言
う⋮⋮良いねぇ⋮⋮俺が学生の頃にもそんなヤツが欲しかったもん
だぜぇ!﹂
けどよ、とユーゴは笑った。
﹁おめぇは全然だめだわ。ただヤられてるだけでひとっつも締めや
しねぇ⋮⋮んなマグロみてぇなヤツのマンコ突っ込んでても気持ち
よくならねぇんだよ!﹂
ユーゴは股間で繋がったままだったハイネアから肉棒を抜き出すと、
そのまま投げ捨てた。
﹁ククッ⋮⋮当然であろう⋮⋮高貴な神聖国の第一王女である妾が
貴様などに奉仕などするわけがあるまい。学校の奴らにもそうであ
ったよ。妾は決して屈さぬ⋮⋮っ! この身をいくら汚されようと
も貴様らゼオムントと、ゼオムントに従うだけの愚か者相手に心は
っ! 王女としての誇りは絶対に明け渡さぬっ!﹂
23
地面に腰を打ち付け、裸のままではあるが威厳のある表情でユーゴ
を睨みつける彼女に、黒髪を束ねた少女が駆け寄る。
﹁ハイネア様、ご無事ですか?﹂
﹁あぁ⋮⋮リセ、大事ない﹂
黒髪の少女に支えられ、ハイネアが立ち上がる。
﹁なんだぁ⋮⋮お前⋮⋮? まだ呼んでねぇぞ﹂
﹁私は、ハイネア様付の侍女リセで⋮⋮す﹂
明らかに少女は怯えていた。
気高くもユーゴを睨みつけるハイネアの隣で必死に恐怖と戦ってい
るリセに向け、彼は猛進した。
﹁自己紹介はぁぁ! 俺とヤりながらしろって言ってんだろうがあ
っ!﹂
ユーゴはリセを突き飛ばすと、横向きに転がった彼女の片足を持ち
上げて、空いた隙間に己の体を潜りこませて、彼女の膣内に突き入
れた。
﹁ひんっ⋮⋮﹂
﹁おらぁ! 改めて自己紹介だ。お前は一体誰なんだっ!﹂
グチュグチュとリセの体を痛めつけながら、ユーゴは詰問する。
﹁やめろっ! リセに手荒なことをするな﹂
その背後からハイネアが声を上げるが、
﹁うるせぇ、王女様は黙ってな⋮⋮お前はアレだ、暫定では二位だ
がたぶん最下位だな⋮⋮。良いからユキリスの隣に並んでろや!﹂
くっ⋮⋮と唇を噛んだハイネアが身を引き、
﹁すまぬ⋮⋮リセ﹂
ハイネアはへたり込んでいるユキリスの傍へ移動した。
﹁良いんです⋮⋮ハイネア様、ありがとうございます。︱︱私はリ
セ。ハイネア様付の侍女で⋮⋮ひぁん! ゼオムント国にハイネア
様が囚われた際に何としても救出しようと牢獄に侵入して⋮⋮その
まま捕まってしまいました﹂
24
﹁たかが侍女の分際で随分と大それたことしたもんだなぁ﹂
ユーゴは先ほどまでの荒れた雰囲気を一気に掃って、リセに笑いか
ける。
﹁これでも⋮⋮元武芸者で、護衛も兼ねていましたから⋮⋮んっ。
公娼にされてからは⋮⋮、ハイネア様が配属された学校のある地区
で、調教師管理の下⋮⋮公民館の備品として扱われていました﹂
﹁ほぉ⋮⋮備品ってのは、どういう風に使われてたんだぁ?﹂
ユーゴはリセのふくよかな乳房をつまみあげながら、問う。
﹁んんっ! ⋮⋮祭りの時や地区の行事の際に、いやらしい恰好を
して芸事をしたり体を提供して⋮⋮余興になったり⋮⋮地区の生産
物の広報活動として他の地区で裸の体に広告文を書いて宣伝しなが
ら歩いて回ったり⋮⋮ぁん!﹂
﹁あぁー⋮⋮あれだ、ご当地公娼って奴か。その地区を盛り上げる
ために体を使って何でもやるって言う、汚れ役だな﹂
歯をむいて笑うユーゴに組み敷かれたまま、リセは屈辱に震え、目
を閉じた。
﹁良いぜぇ⋮⋮お前のその小動物みたいな感じ大分気に入った⋮⋮。
マンコの中もなかなかの具合だしよぉ⋮⋮よっしゃ、暫定一位交代
だ。お前が一位で魔導士ちゃんが二位、んで王女様が三位だな﹂
さてっ︱︱と彼は呟きながら、リセの体から肉棒を引き抜いた。
そのままゆらりと立ち上がってセナを、シャロンを、ステアを見つ
めた。
﹁次はお前達だな、騎士様方よぉ⋮⋮!﹂
25
お前は一体どこの誰なんだ 中︵前書き︶
上下構成でも収まらなかったので 上中下構成で。
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26
お前は一体どこの誰なんだ 中
常に最前線に立ち、他の騎士達に号令を発しながら敵陣へと突撃す
る。
それがセナの知る騎士長ステアの姿であった。
この場でもその姿勢は変わらず、今彼女は地にうつ伏せて尻を高く
持ち上げ、犬の様な体勢でユーゴの肉棒に貫かれていた。
﹁なんだぁ⋮⋮勢い込んで自分から来たわりには大したことないマ
ンコじゃねぇか﹂
背中に流れて広がっているステアの黒髪を引っ張りながら、ユーゴ
は激しく腰を打ち付けている。
﹁んくっ! それは⋮⋮済まなかったな﹂
嫣然と、しかし挑発的にステアは笑う。
﹁あいにく昔から訓練ばかりで色ごとに疎くてな⋮⋮、公娼になっ
てからもゼオムントの痴れ者どもは自分勝手にわたしの体に突っ込
むばかりで、技術など磨きようもなかったのだ﹂
髪を掴まれ、まるで犬の様な屈辱的な姿勢をとらされても、セナの
信奉する騎士長は強さを捨てようとはしなかった。
﹁へぇぇそうかい⋮⋮そいつぁ悪かったな、とゼオムントの男を代
表して謝っておくぜぇ。
それはそうとおめえは、ウチの娘の上司だったよなぁ⋮⋮こいつぁ
親としてきっちり挨拶させてもらわねぇとな!﹂
ユーゴはステアの陰唇から肉棒を引き抜くと、腰を少しだけ浮かせ
た。
﹁っ⋮⋮何を?﹂
騎士の勘か、咄嗟に振り返ったステアへ一つ笑いかけ、
﹁おらぁっ!﹂
ユーゴの肉棒は一切の停滞無く、ステアの肛門を貫いた。
27
﹁んひぃぃ! あっ︱︱あぁ⋮⋮﹂
﹁どうしたぁ? もしや勇猛果敢な騎士長様はこっちの穴は初めて
だったかなぁ? いけませんなぁ騎士長たるもの他の騎士により先
んじて、新規開拓せねばならんのではないのかなぁぁ﹂
父の肉棒が憧れの騎士長の不浄の穴に潜りこみ、捲り上げる姿をセ
ナは両の拳を強く握り、痛みを耐え忍んだ。
﹁それじゃあよぉ、語ってもらおうか。お前は誰で、何をしてきて、
どんな公娼だったんだぁ?﹂
尻穴を犯すことで、ユーゴの体はステアに覆いかぶさる姿勢に変化
している。
彼女の黒髪に鼻を擦りつけながら、彼は屈辱的な問いを行った。
﹁リーベルラント騎士国家⋮⋮千人騎士長、ステア⋮⋮。ゼオムン
ト戦役では遠征し、んぁぁっ! ゼオムント軍の補給路の妨害と後
方攪乱の任につき、あっ⋮⋮ひ、国府が腐れ大臣どもの保身によっ
て陥落される日まで、戦い続けた﹂
セナとシャロンもステアの隊に所属し、戦の終わりを告げられるそ
の一瞬まで戦い抜いたのだ。
敗れる原因となったのは、国家のために勇戦した騎士長を今自分の
目の前で辱める︱︱腐った文官であった。
﹁そいつぁ⋮⋮そいつぁ悪かったなぁ騎士長様よぉ⋮⋮。でもまぁ
俺は後悔してないぜ? なんたって国家を売ったことで、俺は今ア
ンタのケツの穴をめちゃくちゃに出来てるんだからなぁ﹂
ユーゴは休みなく腰を動かし、ステアの菊穴を耕していく。
﹁さぁその後だ。気高い騎士様は国がなくなった後は何をしてたの
かなぁ⋮⋮?﹂
﹁とある商人組合に管理され、映像作品への出演を繰り返してい⋮
⋮ひぐぁ! い、一番注目され需要が高かった作品は、さまざまな
都市を巡り、そこに有った棒状のもの全てを一度体に突き入れてみ
る。という企画のものだったと聞いている⋮⋮﹂
騎士長の顔を歪めて告白する姿をセナは直視することができなかっ
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た。
﹁棒状って言うと、具体的にはどんなんだよぉ?﹂
﹁現地の人間の男根はもちろん、赤子の腕、剣の柄、ご神木の枝、
酒瓶、大根の漬物、橋の飾り石、と、とにかく目につくもの全てを
⋮⋮、調教師の指示したものすべてに跨って挿入するんあぁ⋮⋮そ
ういう作品だった﹂
ステアは完全に俯き、尻を掘られる動きに合わせ、体が前後に動く
ばかりであった。
﹁そうだなぁ⋮⋮実はな? 俺もそれ見てたんだよなぁ⋮⋮ついで
に言うと知ってるんだぜ? お前は尻の穴にチンコぶち込まれるの
は初めてかも知れねぇが、あの作品の中で何度か別のものなら突っ
込まれてたよなぁ? 果物とか野菜とか⋮⋮民芸品とかなぁ?﹂
うつ伏せているステアは何も返事をしなかった。
けれどセナも知っている。
調教師は月に一度活動報告といった形で彼女達にも他の公娼の出演
作品を見せては、その反応をまた映像魔法に記録し、配布販売して
いたのだ。
一度大きく腰を引き、パァン︱︱と大きな音を立てて打ち付けてか
らユーゴはステアの肛門から肉棒を引き抜いた。
﹁おら、もう良いぞ。さて⋮⋮んー⋮⋮ケツの穴はなかなか良かっ
たが。俺確か審査基準はマンコの締りの良さだって言ったっけなぁ
? ってなわけでお前は暫定三位な。下から二番目だ。やっぱり人
間のチンコ以外に色々ぶち込んじまうと締りは悪くなるんだろうか
ねぇ﹂
ステアは無言で立ち上がり、一度ユーゴを睨みつけた後、セナとシ
ャロンの方を見た。
その瞳はまだ、死んではいなかった。
﹁騎士長は諦めていません。私達もここで挫けるわけには参りませ
29
んよ、セナ﹂
ユーゴに聞こえない程度の声量で、シャロンがセナに話しかけてき
た。
セナは無言で頷きを返した。
﹁じゃあ次はアンタだな金髪のねぇちゃん。こっちだこっち﹂
ユーゴは立ったままの姿勢でシャロンを呼び、自らの肉棒を指差し
た。
﹁アンタらの騎士長様のクソがこびりついてるかも知れないからよ
ぉ、一回そのデカい乳で挟みこんで拭ってくれや﹂
シャロンは唇を噛みしめながら片膝をつき、ユーゴの突き立った肉
棒に自らの乳房を差し向けていく。
両手で側面から乳肉を支え、汚れた肉棒を内側へと沈めていった。
﹁おほぉ⋮⋮良いじゃねぇか⋮⋮アンタは口も素晴らしかったが乳
もすげぇ⋮⋮、この分じゃマンコの方も期待が持てるじゃねえか﹂
そう言ってほくそ笑んだユーゴはセナを見やる。
﹁おぉぉいセナぁぁ、これからお父さんこのねえちゃんとヤるから
よぉ⋮⋮、ちょっと手伝ってくれや﹂
シャロンの乳房を犯しながら、ユーゴがセナを手招きする。
﹁⋮⋮手伝うって、何をよ⋮⋮﹂
﹁まぁまぁ、よしっと。これで綺麗になっただろう。汚ぇクソが付
いたまんまじゃやっぱりマンコに突っ込むのには遠慮しちまうから
なぁという、俺の優しさをちょっとは感じてほしいものだぜ﹂
そう言ってユーゴはシャロンの胸から肉棒を引き抜き、その腕をつ
かんで立ち上がらせた。
﹁おら、お前ら向かい合って立てや﹂
促されるまま、セナとシャロンは向かい合う。
﹁んじゃ行くぜ⋮⋮そらぁ!﹂
ユーゴはシャロンの腰を捕まえると、背中から思い切りぶつかった。
シャロンは腰を固定されたまま、上半身だけセナに倒れ掛かる。
﹁うわっ⋮⋮﹂
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セナは慌ててそれを受け止め、裸のまま乳房を押し付け合う形とな
った。
﹁そのまま、そのままだぜぇ⋮⋮!﹂
ユーゴは突き出される形となったシャロンの陰部に己の肉棒をあて
がい、そのまま突き刺した。
﹁んあぅ﹂
シャロンの口から呼気が漏れる。
﹁あぁ⋮⋮良いぜぇ⋮⋮実に良い。自分の娘の顔を目の前にしなが
ら、別の女をヤるってのはよぉ﹂
ユーゴがシャロンを突き上げると、シャロンの体が揺れ、セナとく
っ付きあっている乳房がこねられて、セナの体にまで振動が伝わる。
実の父親が、自分の敬愛する先輩騎士の体を犯す振動が、そのまま
伝わってくるのだ。
そして、父が浮かべる最高の笑顔。
セナは唇を噛みしめ、俯くしかなかった。
﹁ハハッ! さてじゃあ語ってもらおうか、ねぇちゃんよぉ。アン
タについての全てをなぁ﹂
父娘の真ん中に挟まれ、犯されているシャロンは感情を押し殺した
声でそれに答えた。
﹁リーベルラントの騎士、シャロン。ステア千人騎士長の参謀とし
て従軍し、ゼオムント軍と戦い。国家が卑怯者の手によって陥落し
た際、そのまま捕虜になる﹂
シャロンは懸命に抗っている。
喘ぎ声をもらすまいと必死に、満身に力を込めていることを体で接
しているセナは感じた。
﹁ほほう。まぁそいつぁさっき聞いたこととあんまり変わってねぇ
なぁ。じゃあ本題に移って貰おうかなぁ?﹂
ニヤニヤと下卑た笑いをユーゴは浮かべている。
﹁⋮⋮公娼として、商人組合の映像作品に出され、とくに有名にな
ったのは全年齢制覇ツアーと題したものだったと、調教師から聞か
31
された﹂
﹁おっ! そいつは俺も見てたぜぇ⋮⋮あれだよなぁ? 10歳か
ら90歳までの男とヤらないと、撮影しに行った国から帰れないっ
てやつだよなぁ? 原則ヤり終わるまで年齢聞けないで、終わった
後に聞いて10から90歳までパネルを埋めていくってやつ。あれ
大変そうだったもんなぁ⋮⋮﹂
シャロンの体が震えているのをセナは感じた。
その企画の撮影の際、シャロンは3ヶ月ほど連続で撮影に遠征し、
いなくなっていた。
帰ってきた時には、毎度毎度ボロボロだった。
﹁自分からセックスしてください! ってお願いして、ヤり終わっ
た後に年齢聞いてそれがもう済んだ年齢のやつだったら無駄になっ
てまた別の人間にお願いして⋮⋮ってあの調教師の作品は気合が伝
わってくる良い作品だったと思うぜぇ﹂
シャロンの膣を犯し続けながら、ユーゴは笑っている。
﹁それは⋮⋮それは良かったですね﹂
小さく震えながらも、シャロンは決して喘ぎ声をもらさなかった。
﹁んだよつまんねぇなぁ。でもまぁマンコの具合は最高だな! 他
の四人、とくにさっきの奴と王女様とは比べものになんねぇわ。暫
定一位で良いぞ﹂
そう言ってユーゴはシャロンから肉棒を引き抜き、その尻の端でこ
びりついた愛液をぬぐった。
シャロンがステア達の下へ移動する時、そっとセナと視線を交わし
た。
﹁わかってます。シャロン、ステア﹂
セナは誰にも聞こえないよう口を閉じて、
﹁この男を殺すのは、大門を出てからですね﹂
セナの目の前に、肉棒を赤く滾らせた父親が立って居る。
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﹁さぁ愛しの我が娘セナちゃん。おとぉぉぉさんとセックスしよぉ
ぉかぁぁぁ?﹂
33
お前は一体どこの誰なんだ 下︵前書き︶
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34
お前は一体どこの誰なんだ 下
首から下げた木札が揺れる。
そこには番号・名前︱︱出自が表記されている。
セナのそれには、ユーゴの名前が書かれていた。
父と娘。
決して仲の良い親子関係だったわけではない。
たゆまぬ努力を認められ、騎士として国家に叙勲を受けて以降は、
積極的に父と言葉を交わそうとは思わなかった。
彼女は国家運営の末席を与えられ、その中で知った。
彼女の父親は国府に巣食う癌であった。
騎士として国家に奉仕する自分とは異なり、国家の財を食い物にし、
民の不平等の上に生きる小汚い権力者。
それが父親の姿であった。
会えば会う度に換言する娘を父の方から避けていたという面もある。
そんな父と娘が今、この一瞬。
繋がろうとしている︱︱
﹁さぁぁ入れるぞぉセナぁ﹂
地べたに転がされ、両脚を大きく開いてのM字開脚を強いられる。
ユーゴは開いた脚の間に収まり、自らの肉棒に左手を添え、右手で
娘の陰唇を弄んでいた。
﹁さっさと⋮⋮すれば良いじゃない⋮⋮。出発までにどんだけ時間
かけてるのよ﹂
セナは瞳に強く力を持たせ、ユーゴを睨みつける。
﹁まぁそう言うなや。準備はいつだって大切だろぅ? こうやって
全員で入念に自己紹介して、体の関係をはっきりさせてからじゃね
ぇと。この先魔物どもがうようよしてる西域に突っ込むんだ。仲間
内の信頼関係は大事だぜぇ﹂
35
そう言いながら、父の肉棒は、娘の陰部の入り口を撫でた。
﹁どうだぁ? あんだけ毛嫌いしてた父親とセックスしてしまうっ
ていう感覚はよぉ? 俺はなぁ、別にお前のことが嫌いってわけじ
ゃねぇ。昔もそれはそれは可愛かったし、今だってどうだ? この
胸、このマンコ、他の五人と比べて一番って程でもないが、ヤるに
ヤれないわけじゃねぇ﹂
父の手が娘の小ぶりな乳房をつまむ。
﹁顔はまぁお前のかあさんの若い頃によぉく似て、目鼻筋が透き通
った良い面構えだ。俺は好きだよぉ? そういう女、大好きだ。見
かけるとすぐ、ヤりたくなっちまうほどになぁ︱︱例え娘であって
もよぉ﹂
ユーゴの肉棒がゆっくりゆっくり、セナの身体に侵入してくる。
﹁んっ⋮⋮﹂
﹁まだ先っぽだけだぜぇ、セナちゃぁん。おとうさんなぁ? さっ
きまで五人とヤって一回も膣内で出してないんだよぉ。それはさぁ
? 可愛い可愛いセナちゃんの為に、膣内出しする分の精液を残し
てたってことなんだぜぇ⋮⋮素晴らしいだろう? 父の愛ってやつ
さぁ﹂
永遠にも思える数秒が過ぎ、セナとユーゴは根元からつながった。
﹁おぉ⋮⋮これが我が娘のマンコ⋮⋮。やはり他の女達とはこみ上
げてくるものが違うな⋮⋮﹂
ヌプヌプと緩やかに打ち付け、感触を味わうユーゴ。
垂れてきた前髪の下、セナの頬に涙が伝うのを見ると、ユーゴはほ
くそ笑んで娘の顔に己の舌を突き出した。
涙をひと舐めし、薄桃色に輝く唇もしゃぶる様に舌で犯した。
口と口に涎の橋が作られ、それが伸びていく︱︱
﹁馬鹿に⋮⋮これ以上馬鹿にしないでよ﹂
セナは燃え盛る思いを瞳に込め、ユーゴを見据えた。
﹁終わらせてあげる。一瞬のうちにね﹂
セナは渾身の力で腹筋を引き締め、繋がっている父親の肉棒を膣圧
36
でホールドした。
﹁おぉぉ?﹂
両手を背中の後ろにつき、M字に開いた脚の先で地面を強烈に踏み
しめ、腰を激しく動かした。
﹁うぉぉぉぉぉぉぉっ!﹂
セナの激しい責めに、ユーゴは身悶える。
﹁ほら、イクならさっさとイキなさい。そしてさっさと出発して、
さっさと魔物の宝具とやらを手に入れて︱︱それからアンタを殺し
てあげる。絶対に、絶対に殺してあげる!﹂
ユーゴがこみ上げる射精感に抗う為、一度肉棒を引き抜こうとする
のを、セナは騎士として鍛え続けてきた肉体を用いて、渾身の力を
膣に送ることでそれを防いだ。
﹁て、てめぇ⋮⋮。こ、これは自己紹介であって早抜きの場じゃね
ぇんだぞ?﹂
﹁自己紹介? 良いわ、してあげる︱︱あたしはセナ、リーベルラ
ントの騎士。ステア千人騎士長麾下。戦争ではゼオムント国と戦っ
て、無能下劣な父親達文官の愚策によって敗北して捕虜になった﹂
セナは叫びつつも、腰の動きを全く緩めない。
ユーゴの顔に明らかな焦りが生まれていた。
﹁公娼としての活動だったかしら? 故郷にほとんど裸の衣装で連
れて行かれて、自分と昔かかわりのあった人間︱︱近所に住んでい
た人間だったり、幼等教育校時代の同級生を探したり、騎士として
討伐してた山賊だったり。そう言うやつら相手に土下座してセック
スして下さいって頼みこまされ、相手の反応を面白がりつつ最後に
は絶対膣内に射精されて、ありがとうございましたって言ってまた
土下座する。そういう作品が人気だったそうよ﹂
もはやユーゴには余裕の欠片もなく。
だらしなく舌を出しながらされるがままになっている。
﹁そう⋮⋮か、それで⋮⋮大事なことが抜けてるぜ⋮⋮。お前は俺
の⋮⋮なんだ?﹂
37
ユーゴが一瞬笑ったように見えた。
セナはその顔を強烈に睨みつけながら︱︱
﹁娘よっ!﹂
ドピュゥル︱︱
ユーゴの、父親の精が娘の膣内に放たれた。
セナはすぐに父親の肉棒を引き抜いて自分の体内から汚液を掻き出
そうと動くが︱︱
﹁いっっやああああああ凄く良い画が撮れましたよぉぉ。ユーゴさ
ぁん﹂
そこに
割って入った男がいた。
小太りの、頭に布製の頭巾を被った男だった。
﹁えっ⋮⋮?﹂
セナはその男に見覚えが無い。
急に現れた男は、セナの疑念に満ちた瞳の色に気づき、あらっ︱︱
と自らの額を叩いた。
﹁これは申し遅れました。ワタクシは王宮所属の魔術士、ゴダンと
申します。この度は皆様の西域遠征における監視魔術を担当いたし
ておりまして。商業化、販売の方でも責任を負う立場にも僭越なが
ら就かせて頂いております﹂
ゴダンはにこやかに笑う。
﹁つきましてはですね。皆様に映像円盤販売時の小箱の表紙、あと
はポスター作成にご協力頂けないかなと﹂
揉み手をしながら、繋がったままの父娘とその後ろに裸で控えてい
る五人の女達を見まわした。
﹁よぉぉゴダン様、どうもお世話になります。俺達が表紙に? 良
いですねぇ。そのお話、請合いましょう﹂
射精のすぐ後は呆けていたユーゴだったが、ゴダンの挨拶の間に回
復し、笑みながらその申し出を受けた。
38
﹁はぁい、それはそれは、ありがとうございますユーゴさん。ささ、
ではあまり時間も無いことですし、パパッと撮っちゃいましょう﹂
未だ呆然としているセナからユーゴは肉棒を引き抜く。
その際、一筋の白い液が膣内から零れ落ちるのを見て、セナはハッ
としてそれを掻き出そうとする。
﹁あぁぁ、待って待って御嬢さん。それは大事なアクセントになり
ますので、ぜひ撮影が終わるまではそのままで。皆さん、あれ以上
に零れないように彼女を抑えていて貰ってよろしいですか?﹂
ゴダンが慌てて止める声に従って、ゴダンの背後に控えていた王宮
所属の紋章付きの兵士が動き出した。
二人がセナの身体に取り付いて、一人は腰を持ち上げ、もう一人は
赤く腫れた陰唇に無骨な鉄製鎧の籠手のまま指を突き入れた。
﹁おら、大人しくしてろよ?﹂
指を入れている方の男がニヤニヤと笑い。くすぐるようにして膣内
をかき回した。
﹁ではでは、ほら皆さん? 並んで並んで?﹂
ゴダンの指示の下、まだまだ控えていた兵士達が動き出してステア
達を捕まえる。
﹁な、なんですか? まだ何か続くのでしょうか?﹂
﹁離しなさいこの下郎。妾を何と心得る﹂
﹁あぁハイネア様に乱暴なことだけはお止め下さい。私にならば何
をされてもかまいません!﹂
﹁く⋮⋮撮影⋮⋮そう言うことか﹂
﹁私に抵抗の意思はありません⋮⋮今は﹂
ユキリス、ハイネア、リセ、ステア、シャロンは兵士達に連れられ
セナの隣に並ばされる。
﹁んん∼、そうですねぇ⋮⋮では皆さん、ぶち込んで下さい﹂
﹁えっ?﹂
とユキリスが声を上げた瞬間、彼女の膣に背後から兵士の肉棒が突
き刺さった。
39
﹁うぐぅ!﹂﹁あっ⋮⋮﹂﹁くっ⋮⋮﹂﹁⋮⋮﹂
他の四人にも同様に彼女達を捕まえていた兵士の肉棒が突き刺さる。
彼らは公娼達の膝下に手を入れ、そこを起点に体を持ち上げた。
﹁お前は俺だな、どけよ﹂
セナの腰を持ち上げていた兵士が、指を突っ込んで遊んでいた兵士
をどかし、セナの肛門に己の肉棒を突き入れた。
﹁あっ⋮⋮ひぐっ﹂
セナは思わず体の奥底から声を漏らした。
﹁あの汚ねぇオッサンの精液が入ってるところに突っ込みたくない
しな。こっちの穴で我慢してやる﹂
そしてそのまま六人の兵士が六人の公娼を持ち上げ、立ったまま背
後から挿入し、両脚を掲げ持っている為に公娼達の陰部は丸出し、
しかも一人は精液を垂れ流している。という構図が生まれた。
﹁んん∼、実にすばらしい。では、撮影魔術を用います。みなさー
ん? ワタクシが合図したらニッコリ笑って⋮⋮そうですねぇ、両
手でピースサインなんてどうでしょう? 一回で終わらなければ何
度でも行いますからねー、良いですか︱? 行きますよー? はい、
ポーズっ﹂
ゴダンのふざけた掛け声とともに、彼の放った撮影魔術が実行され、
辺りは白い光に包まれた。
﹁おぉ∼これは良く撮れました! さっそく首都に帰って印刷しな
ければっ! ではではユーゴさん、みなさん。旅のご無事を祈って
おりますよ。さ、兵士の皆さんは駆け足駆け足! 帰りますよー﹂
そう言ってゴダンは笑いながら身を翻し、彼についてきた兵士達も、
﹁えぇ∼抜くのは無しですか魔導士さまぁ⋮⋮﹂
ぼやきながら、公娼達の体を投げ捨ててその後に続いた。
嵐のような凌辱が過ぎ去り、公娼達が地面に座り直すと。
﹁あぁ⋮⋮セナ。てめぇふざけたことしてくれやがってよぉ⋮⋮﹂
ユーゴがニヤニヤ笑いで立っている。
﹁でもまぁ⋮⋮マンコの締りは最高に良かったからな⋮⋮しょうが
40
ねぇ、温情だ。お前は四位。これで順位が確定だな﹂
一位・シャロン。
二位・リセ。
三位・ユキリス。
四位・セナ。
五位・ステア。
六位・ハイネア。
ユーゴの独断で決められた順位は、確定した。
﹁そこの籠の中に順位ごとの装備が入ってる。ちゃんと自分のを着
るんだぜぇ?﹂
ユーゴが指し示す先に、籐編みの籠が六つ、無造作に転がっていた。
﹁くっ⋮⋮﹂
公娼達は這うようにして籠に近寄り、それぞれがあてがわれた衣装
を手に取った。
一位・シャロンは騎士の正装ともいえる軽鎧で上半身をつつみ、下
半身はフレアスカートと膝までのレッグアーマーという、安定した
装備となった。
二位・リセはさながら町娘と言えそうな格好で、肩から膝上までを
隠す白のワンピースを身に通した。脚にはひも状のサンダルを履い
ている。
三位・ユキリスは首に輪を付け、そこから一枚青の長布を垂らす。
長布は彼女の足首まで届くほどではあるが、肌を隠す面積は少ない。
だが長布と同じ青色のきわどい下着で胸と股間を隠すことを許され
ていた。
四位・セナはハーフプレート、胴を覆うだけの鎧を素肌に身に着け、
41
へその前で終わってしまった金属鎧の先から一本の細紐を伸ばし、
それを股にくぐらせて背面に通して結ぶという。恥辱的な格好とな
った。
五位・ステアは両の乳首にピアスを通し、そこから伸びた紐が前張
り︱︱膣内へとフックを挿し入れ固定した小さな小さな金属板と結
ばれ、体が揺れ、乳房が揺れるたびに膣内にまで刺激が届く代物だ
った。
六位・ハイネアは一見すると全裸に見える。よくよく見ると首に細
い桃色のチョーカーが巻かれていた。ハイネアの顔は心なし赤い。
その理由としては、首に巻かれたチョーカーに付与された特殊な魔
術が作用しているからだ。心に淫蕩の火を灯し、体を上気させ、性
的な刺激を何倍にも増加させるという、王宮魔術士謹製の拷問具で
あった。
六人全員が装備について何かを発言しようとした時、ユーゴの手が
鳴った。
﹁では、これより出発とする。目標は西域の最奥、魔物の宝具を手
に入れることだ!﹂
42
大門の下で︵前書き︶
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大門の下で
﹁お願いしますっ!﹂
そう大声を上げて、リセが地面に両手をついた。
﹁お願いします。私とハイネア様の装備の交換をお認め下さいっ。
お願いしますっ!﹂
従者として、自らの主が全裸の上に怪しげな性魔術が施された首輪
をはめられているにも拘らず、自分は街に出ても違和感の無い至っ
て普通の恰好をしていることに耐えられなかったのだ。
﹁おいおい、そんな話が認められるわけないだろう? さっき全員
のマンコを試して、その結果ハイネアちゃんはマッパな上にムラム
ラしちゃってどうしようもなくなる首輪をつけて、お前さんは爽や
かにワンピースを着ることになったんだ。ここでハイそうですかっ
て交換を認めちまったら、他の連中に示しがつかねぇよ﹂
ユーゴはもっともらしいことを言いながら、土下座の姿勢でいるリ
セの肩を掴む。
﹁これから先、この旅は一体どのくらい日数が掛かるかわかったも
んじゃないぜぇ⋮⋮夏もありゃ冬もある。そんな中マッパで居続け
るのはキツイだろうなぁ⋮⋮特に大切に育てられた王女様にゃぁ酷
ってもんだなぁ﹂
リセのワンピースの肩口から手を突っ込み、胸を鷲掴みにして持ち
上げ、立たせる。
苦痛に顔を歪めながらも、リセは両脚で地面に立ち、
﹁お願いしますっ! お願いしますっ!﹂
自らの胸を揉みしだく腕をつかんで、哀願する。
﹁そうだなぁ⋮⋮じゃあよ。特別に特別だぜ?﹂
そう言ってユーゴは薄く笑い。
﹁リセちゃんが俺の子供を孕んでくれれば、交換を認めてやるよ。
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無論、孕むための協力は惜しまないぜぇ。これから毎日毎朝毎晩犯
してやるからよぉ。せいぜい妊娠するよう祈りながら喘ぐことだな
ぁ﹂
ユーゴは空いた方の手でワンピースのスカートを摘み︱︱
﹁良い、リセ。何も気にすることは無いぞ﹂
ハイネアの澄んだ声がそれを押しとどめた。
﹁妾のことは気にするな。このような愚物に与えられたものに袖を
通すなど、考えるだけにもおぞましい。裸で結構。性魔術のチョー
カー? そのようなもの神聖なるリネミア王家である妾に与えられ
た加護の前には飾りも同じよ﹂
両手を胸の下に組み、眉を跳ねさせ笑っているハイネア。
しかしつぶさに観察すると分かる。その露わになっている陰部に光
る、透明な滴の輝きが。
﹁ハイネア様⋮⋮﹂
リセが顔を伏せ、涙をこらえる。
﹁⋮⋮チッ面倒くせぇ奴らだ。せいぜい強がってやがれ⋮⋮。おら、
お前ら武器だよ武器、向こうにお前達が昔使ってた武器を持ってこ
させてある。そいつを手にした瞬間︱︱お前達は魔物と戦い、宝具
を得る道しか残らなくなるからなぁ。心して手に取れよぉ﹂
ユーゴが顎でしゃくった先には、数人の兵士がたむろしていて、い
くつかの袋に分けて武器の管理をしていた。
セナ達が近づいていくと、彼らは好色な瞳でその体を舐め回し、武
器を渡す際に不自然に体に触れ、陰部をほぼ丸出しにしているセナ
やステアやハイネアなどは、指で周辺を弄ばれ、軽く突き入れられ
てしまった。
﹁くっ⋮⋮﹂
屈辱に顔を歪めながら、セナは愛剣を受け取る。
身の丈と同じだけの長さ、腰回りと同じだけの幅。
装飾など一切の余分を排した無骨な大剣がセナの戦場での相方だっ
た。
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その大剣を大きく振りあげ、二度三度と目の前の空間を刻む動きを
とる。
激しく空気を裂く音を立てる大剣の動きに、セナの身体に悪戯をし
ていた男達は、怯えた様子で引き下がった。
見渡すと、他の五人も武器を手に入れたようだ。
シャロンは細見の双剣を腰のホルダーに収納しているところだった。
ステアの獲物は騎士槍で、それを肩に背負って男共を威嚇している。
ユキリスは黒鉄で作られた錫杖を手にし、魔導士としての自分を取
り戻したかのようにソレを見つめている。
ハイネアの右手には絹のグローブが装着されている。他の肌は余す
ところなく見えているのに、右腕の先だけグローブに覆われている
姿は、淫卑な雰囲気を醸していた。
リセは何やら鉄製のものを受け取ったかと思うと、ワンピースを捲
り内側に収納してしまった。
﹁おぉーおっかねぇ。でもまぁそれで魔物共をブチ殺して俺を守っ
てくれよぉ? 性処理道具共よぉう﹂
ユーゴはケタケタと笑っている。
セナは大剣を振るい、その首を叩き落とすことを堪えるのに、全神
経を費やした。
﹁今はまだ、機会ではございません﹂
そっとシャロンが話しかける。
﹁魔物が私たちに襲い掛かってきた時、場が混乱した時こそ好機で
す。下手な行動をとれば王宮の監視魔術にバレてしまい。リーベル
ラントの民はもちろん、他に囚われている騎士達の身に何が起こる
かわかりません﹂
シャロンは双剣を挿した腰に手をやり、セナの目を見つめる。
﹁貴女が望むのなら、あの男の首を打つのは貴女に任せます。セナ﹂
セナは頷き、
﹁うん⋮⋮絶対に、アタシがやる﹂
六人の公娼と一人の主人は歩き出した。
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目の前にそびえるのは西域へと繋がる大門。
門の前に詰めていた門番がセナ達を見て顔を輝かせた。
﹁おっ、どれも見たことある顔だなぁ。今度の撮影も楽しみにして
るぜぇ。俺はお前達公娼の記録円盤を集めるのが趣味なんだよ。簡
単に死んじまって次回作が無くなるの何て嫌だからな? 絶対に生
きて帰ってこいよ!﹂
笑顔で告げられる門番の声に、公娼達は反応を示さない。
けれど︱︱
﹁おおぅ、ほらファンの方がお前らの旅を応援して下さるってよぉ
? ここはいっちょ応えてやって良いんじゃねぇかなぁ。おい兄ち
ゃん、アンタこの中の誰のファンなんだい?﹂
門番は六人の顔を順次見やり、指を刺した。
﹁俺はやっぱりユキリスちゃんだな。シャロンちゃんの記録円盤作
品も大好物だが、やっぱりユキリスちゃんの商業施設で裸で働くシ
リーズの密着取材作品ではもう、猿のように抜きまくったなぁ﹂
門番が腕を組んで頷いていると。
﹁じゃあ、十五分だけだが、ファンサービスだ﹂
そう言ってユーゴはユキリスの尻を押し、門番の方へ体を向けさせ
た。
﹁えぇぇ? マジで? 良いのかい?﹂
﹁あぁ好きにしてくれよ。中に出してもらって構わねぇし、どんだ
け痕残したって大丈夫さ﹂
ユキリスははじめ抵抗しようとし、すぐにそれを諦めた。
しぶしぶといった様子で門番の下へ向かった。
門番は嬉々としてその腕をつかみ、第三位の衣装を脱がしていく。
十五分︱︱という時間を意識してか、門番は迷いなく肉棒を取り出
し、ユキリスの膣へと強引に繋げた。
﹁ひっ⋮⋮ん﹂
一切の遠慮のない突き上げに、ユキリスの体が揺れる。
﹁おぉぉお、最高っ! 最っ高だよぉぉユキリスぅぅぅ。この感触。
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この匂い。もうたまんねぇぇぇ﹂
門番はまさに一心不乱といった態で青髪の魔導士の体を貪っていく。
﹁さて、じゃあ俺も⋮⋮﹂
そう言ってユーゴは不意打ち気味にセナの腰を捕まえた。
﹁なっ︱︱何?﹂
﹁ケチケチすんなよ。どうせこれから毎日ヤるに決まってんだろう。
一日に二回ぶち込む日だってそりゃでてくるさぁ﹂
ユーゴは猛りきった肉棒を持ち上げ、セナのハーフプレートの下、
申し訳程度に配置された紐を押しのけ膣内に侵入した。
﹁ぐっ⋮⋮このっ!﹂
セナは振り返り気味にユーゴを睨みつけるが、父親はヘラヘラと笑
っている。
﹁さて、おら他の騎士様よぉ、お前らも協力してくれぇ。何てった
って十五分で終わらせなくちゃいけねぇからよぉ。ほら乳だせ、舌
だせぇや﹂
ユーゴはステアの乳房を揉みしだき、シャロンの唇を啜った。
腰を打ち付けながら乳を乱暴にこねり、唇を犯す。
ユーゴが主人として身分の愉悦に浸っていた時。
﹁あの⋮⋮旦那様﹂
男が声をかけてきた。
ユーゴの恰好はボロだが、男のそれはまた一段とボロボロだった。
ツギハギだらけの汚れた布に、フケの浮いたクシャクシャの髪。そ
して一面に油の浮いたドロドロの顔で笑っていた。
﹁んだよ。浮浪者に用はねぇぞ﹂
浮浪者の男はニンマリと笑いながら、汚れた髪に手を突っ込んで掻
きながら言った。
﹁いやね、そちらの御嬢さん方が余ってらっしゃって⋮⋮もし自分
が協力できるようなら、させて頂くのも国民の義務じゃないかなぁ
と⋮⋮アハハ﹂
そう言って男はハイネアとリセのことを見つめた。
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ユーゴは腰を動かしながらしばし考え、口を開く。
﹁国民の義務ってよぉ⋮⋮どう見ても税金も払ってなさそうなお前
さんが言うかい⋮⋮。でもま、そうだな。良いぞヤれヤれ。けど全
裸の方な? 服着てる方に突っ込むのは無し。
お前みたいな臭ぇのの匂いが服に移ったら困るからなぁ﹂
へへぇと男は頷き、ハイネアとリセの方へ移動する。
﹁それじゃ、御嬢さんたち。お願いしようかな﹂
男はボロ布の内側から、汚れきった肉棒を取り出した。
﹁なっ⋮⋮くさいっ! 妾にそれを近づけるな﹂
ハイネアが一歩身を引き、肉棒から遠ざかる︱︱が、
﹁んなことぁねぇよなぁハイネアちゃん。お前今つけてるそのチョ
ーカーの作用で性的な刺激︱︱もちろん匂いにも体は正直に反応し
ちまうはずだもんなぁ?﹂
事実、ハイネアの顔は一段と赤らみ、遠目にも興奮が見て取れた。
﹁さ、ねぇほら御嬢さん。こっちの服着てる子はダメだって言うか
らさ。君しか居ないんだよぉ。ね、入れるよ? 入れるからね﹂
浮浪者の男が一歩踏み出し、ハイネアの足を捕まえようとした時、
不意にリセが屈みこんだ。
﹁ん⋮⋮くちゅ﹂
垢の浮きあがった猛烈な匂いのする肉棒を咥えこんだのだ。
﹁お、おぉぉぉぉう?﹂
激しく口唇を動かし、男の肉棒を刺激していく。
﹁リセちゃんよぉぉぉ? 俺言わなかったかぁ? 服に匂いが付く
からお前は無しだってさぁぁ?﹂
ユーゴがステアとシャロンの陰核をつまみあげ、セナの膣を蹂躙し
ながら詰問した。
﹁⋮⋮汚れを。ハイネア様のお体にもしものことがあってはなりま
せんので。ハイネア様の体に触れてしまう部分だけでも私が汚れを
掃うのです﹂
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そう言ったリセは、浮浪者の陰毛の束を口に入れ、擦る様にして汚
れを落としていく。
﹁チッ、だがもう後五分しかねぇぞ? 良いのかなぁ? 男衆ぅ﹂
ユーゴのその言葉に、門番はユキリスの体を押し倒し、犬の様に尻
を突き上げさせてラストスパートに入った。
浮浪者の男はリセの顔面を突き飛ばし、ハイネアの小さな体を持ち
上げて自らの肉棒に突き刺した。
不思議なほど、ハイネアの抵抗は弱弱しく見えた。
ユーゴの方でもスパートがかかり、娘の体をがっちりとホールドす
る。
﹁出すぞ、出すぞぉセナちゃああああん。おらああああ孕めやああ
ああ﹂
﹁くっ⋮⋮くそぉぉぉぉおぉ﹂
ドピュドピュと、本日二発目の汚液が父と娘の間で移動した。
門をくぐった時にはもう、夕暮れだった。
見渡す一面に平野が広がっている。
何度も発生する魔物による大門への攻撃によって、このあたりは見
晴らしの良い平野に環境が変化してしまっているのだ。
先ほどまでの凌辱でセナとハイネアの陰部からは白濁が零れ、ユキ
リスの下着には染みが現在進行形で広がっていく。
﹁さぁて、じゃあ一先ず平野を抜け、森を目指す。その森を越えた
ら魔物達の住む領域に完全に突入ってわけだ。今夜は森の入り口ま
で進んで、そこで野営をするぞぉ﹂
ユーゴがそう言って地平に向けて指を刺した先。
﹁グルルッ﹂
獣の咆哮が聞こえた。
見れば、何十頭もの犬型の魔物が、こちらへ猛烈な勢いで迫ってき
ていた。
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自由を得るため︵前書き︶
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自由を得るため
迫りくる魔犬の群。
迎え撃つようにステアが全員の前に立った。
﹁現状⋮⋮わたしは君達全員の能力を把握しているわけではない。
故に戦略の立てようもないわけだが、丁度いい機会でもある。皆の
戦闘能力を見させてもらおう﹂
乳首にピアス、そして前張りという屈辱的な格好を取らされている
彼女だが、一線級の指揮官であるその瞳は戦場を鋭く観察していた。
﹁わたしとセナで群に突っ込む。ユキリス、ハイネア、リセは自由
に動いてもらって構わない、君達にあったスタイルでの戦闘を見せ
てほしい。シャロンは戦場全体のカバー、遊軍として控えていてく
れ。まぁ、この犬コロ程度に、君の双剣の力が必要になるとも思え
ないがね﹂
準備運動替わりに槍を振るうステアの横に、大剣を構えたセナが並
んだ。
﹁お、おい。俺はどうするんだよ!﹂
権力・制度・人質などで縛ることができている公娼相手には滑稽な
ほど強気である男は、純粋な害意を持って迫ってきている魔物相手
に小便を漏らさんばかりに怯えていた。
﹁知るか﹂
ステアは吐き捨てるように言い、上体を落とし、足に力を込める。
﹁それでは、突貫する﹂
猛然と魔犬の群へと跳んだ。
ステアの騎士槍が大きく顎を開けていた一頭の喉を貫いた。
距離にして三十歩分を一気に詰めたその攻撃に、魔犬達は野生の本
能か、一瞬動きを止めて警戒姿勢をとった。
﹁所詮、畜生であるか﹂
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戦場で身構え、硬直すること。
それ即ち隙。
﹁せりゃあああああああああ﹂
ステアは魔犬が突き刺さったままの槍を振るい、囲むようにして並
んでいた数頭を一気に薙ぎ払った。
骨肉の砕ける音が辺りに響いた時、魔犬達はこの槍を持ったほぼ裸
の人間が、単なる獲物ではなく危険な存在であることを認識した。
一斉に飛び掛かり、ステアの喉笛を食い千切ろうとする。
﹁第二撃︱︱続きます!﹂
セナの凛とした声をかき消すように、大剣が唸りを上げて、舞った。
辺り一面にドス黒い血の華が咲く。
ステアに飛び掛かった魔犬達は、すべからくセナの一刀の下に斬り
潰されていた。
﹁グルルルル﹂
魔犬の群の深くで、毛を逆立てた一頭が吠えていた。
その吠えに応えるようにして魔犬達は二人から距離を取り、後ろに
控えているユーゴ達の方を向く。
﹁騎士長。あれが大将首でしょうか?﹂
﹁だろうな、どうだ? 君がやるか?﹂
騎士長ステアは胸を張り、嫣然とした笑みをセナに送る。
﹁お許しいただけるのなら︱︱この心の苛立ちの僅かにでも沈める
生贄とします﹂
セナは大剣に付着した血を払い、新たに構え直す。
﹁ならばわたしが、道を作ろう﹂
ステアとセナは大将首を目指し、二度目の突撃を行った。
﹁ひ、ひぃぃ! 来るな⋮⋮こっちに来るなぁぁ!﹂
シャロンはステアとセナの突撃を見守りながら、魔犬達の咆哮と接
近に腰を抜かし、隣で地面にへたり込む凌辱者の声を聴いた。
﹁な、何をしてるぅ! 早く迎撃しないかぁ!﹂
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彼は腰に提げた小袋から、王宮魔術士謹製の隠密魔術石を取りだし、
両手でガッシリと掴んでいる。
ユーゴの声は真に迫った悲鳴で、それを聞いているだけでシャロン
の心に笑いの花が咲いた。
このような意気地の無いゲスに犯されたことは、何物にも代えがた
い屈辱ではあるが、そのゲスの醜態を見て幾分心が和らいだ。
﹁他の三人はどうでしょうかね⋮⋮﹂
ユーゴには聞こえないよう、口の中で呟いて辺りを見渡す。
錫杖を構えたユキリスの背中が見える。
彼女の装備は前を隠す長布ときわどい下着であるので、必然後ろか
ら見ると肌をほとんど隠せていない卑猥なものに見えた。
彼女は何事か呪文を唱え、錫杖を振るう。
瞬間、彼女に迫っていた魔犬達の足が止まった。
獲物を求めて開いていた顎が、さらに大きく開かれる。
そこから大量の血が零れ始めた。
苦しみ、もがき、のたうち、魔犬達が果てていく。
黒鉄の錫杖を持った女が謳うようにして言った。
﹁騎士の方々、憶えていて。わたしはロクサス領ミネア修道院所属、
劇毒と狂奔の魔導士︱︱ユキリス﹂
そう言った彼女の周囲には犬共の体から跳ね上がる様にして、黒い
粒が集まっていった。
シャロンは見やる。
全裸の王女を背に守り、魔犬の群と対峙する少女の姿を。
﹁ハイネア様、ここは私にお任せください﹂
リセは無手のまま構えを取り、敵と向き合っている。
もしや介入すべきか、と思い一歩を踏み出すシャロンに向けて、ハ
イネアが口を開いた。
﹁そこなる騎士、手助けは無用であるぞ﹂
﹁でも、武器も無しにその数では﹂
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﹁心配せずとも良い。妾の護衛はこのような魔犬の十や二十⋮⋮百
まではこともなく倒すさ﹂
﹁そう⋮⋮﹂
そこまで言うなら、とシャロンは身を退いた。
そして見る。
魔犬が一斉にリセに押しかかる光景を。
そして、
バラバラに千切れ跳ぶ姿を。
全ては一瞬の出来事のように思えた。
リセがワンピースの裾から取り出した五本の柄の無い小刀。
それが縦横自在に舞って犬共の体を引き裂いたように見えたのだ。
小刀︱︱そう呼ぶにはあまりにも未完成なそれを飛ばし、魔犬の体
裂いて地面に落ちた瞬間にリセは蹴り上げまた別の魔犬に飛ばす。
よく目を凝らして見ると、小刀の根元に糸のようなものが見え、そ
れらは全てリセの元に集まり、手繰られていた。
﹁不思議な戦い方をするものだな⋮⋮﹂
シャロンが頷いていると、不意にハイネアが声を上げた。
﹁リセ、お主手にかすり傷があるぞ﹂
リセの右手、そこに一本の赤い線が引かれていた。
﹁あわっ⋮⋮申し訳ございませんハイネア様。千切れ跳んだ犬の牙
が少しかすめてしまい⋮⋮﹂
リセが困り顔で笑う。
それに一歩近づいて、ハイネアはグローブに包まれた右手をかざす。
﹁良い、妾を守って作った傷だ。すぐに治療してやる﹂
ハイネアの右手から光が走る。
光はリセの傷口を覆い、その血を洗い流した。
﹁ふふん。これぞ妾︱︱リネミア王家の神聖なる奇蹟である﹂
﹁へ、へへ⋮⋮良いじゃねぇか⋮⋮良いぞお前達! 一番多く犬共
をぶっ殺した奴には俺からありがたぁい褒美をやるぜぇ! なんと
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膣にたっぷり中出ししてやるからよぉ! 気張りやがれぇ﹂
ユキリスとリセによってこちらに迫ってきていた群が全滅し、残り
もステアとセナによって駆逐されていくと、途端に元気になったユ
ーゴが泡を飛ばしながら叫んだ。
先ほどまでその手に大事そうに掴んでいた隠密魔術石は心の余裕の
現れか、腰の袋に仕舞われている。
シャロンが顔を顰めてそれを見ていると、
ユーゴの顔が急に引き攣った。
﹁お、おいこっち来てるぞ⋮⋮一頭こっち来てる﹂
ユーゴが指差す方向に、一頭戦場からはぐれた魔犬が猛烈な勢いで
迫ってきていた。
シャロンは双剣の柄に手をやり、しかし抜かなかった。
﹁何をしてやがるっ! 殺せ! やれ!﹂
ユーゴの震える声が、シャロンの背中を押した。
そのまま柄から手を放したのだ。
﹁なぁぁぁにをしてぇぇぇぇ﹂
途端、ユーゴに襲い掛かる魔犬。
﹁ひぃぃぃぃ。助けろぉぉ助けろぉぉぉ﹂
地面に尻もちをついた上から伸し掛かられて、肩に噛みつかれてい
るユーゴが叫ぶ。
恐慌状態の彼は必死に腰に提げた袋から魔術石を取りだし、作動さ
せようとするが上手くいかない。
シャロンはそれを、冷淡に見下ろしている。
﹁おぃぃぃ、何をしてるぅぅ。俺は主人だぞ! 俺が死んじまった
らなぁ。この旅はおしまいなんだぞぉぉ﹂
シャロンは動かない。
﹁俺が死んだらなぁ! このグループ全部が全滅扱いを受けて、お
前ら公娼は契約不履行ってことで故郷を焼かれ、仲間を殺されるん
だぞぉぉ﹂
聞いた。
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必要なことを聞いた。
シャロンは片方の剣を高速で引き抜き、魔犬の頭を切り落とした。
﹁申し訳ない。遅れてしまいました﹂
一片の心も籠っていない謝罪。
この後おそらくこのゲスは怒りに任せて私の体を汚すだろう。
でも、それでも必要だったのだ。
この男を殺すとどうなるか︱︱その情報が。
それからすぐに、セナの大剣によって大将首が討たれ、一行はその
まま平野を移動し森の中へ入った。
ユーゴがシャロンへの雑言を吐きながら、平野でまた敵に襲われる
恐怖に耐えられず、森の中で野宿することを選択したのだ。
﹁おらぁ! てめぇこらふざけやがってぇ! 徹底的に、徹底的に
お前を犯してやる。覚悟しやがれぇ﹂
今、野営地の中央に設置されたテントの中でユーゴによるシャロン
への凌辱が続いている。
彼は昼間のことを強烈に根に持ち、この瞬間が訪れて、守る者と守
られる者の関係が崩れるのを待っていたのだ。
テントの中からシャロンの声は漏れてこない。
セナは目的のためには手段を選ばず、鋼の精神で実行する同僚のこ
とを思う。
﹁シャロンなら⋮⋮大丈夫さ。いくらあの男が愚かでも、この先必
要な戦力をどうにかしたりするわけがない﹂
ステアが焚火に向かって枯れ枝を放る。
﹁ハイネア様。どうか、どうか夜の間だけでもこれをお召しになっ
てください﹂
リセは自らの着ていたワンピースを脱ぎ、折りたたんでハイネアへ
と差し出す。
﹁それはならん⋮⋮もし万が一あの男に見つかった時、お前が酷い
目に遭うかもしれん。妾なら大丈夫じゃ。幸い今はまだ冷え込む時
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期でも無いしのう﹂
全裸のまま、ハイネアは焚火に当たっている。
﹁⋮⋮それでも、私はこれを着ません。ハイネア様が服をお召しに
ならないのなら、私もそれにつき従います﹂
その背中をリセが両手で包むようにして、温めていた。
﹁⋮⋮何か、あるんでしょう? 話が﹂
セナとステアのことを観察していたユキリスが不意に声を放った。
ステアは焚火を弄る手を止め、順々に四人に顔を見渡す。
﹁君達に確認しておきたい﹂
セナは騎士長の瞳に頷きを返す。
﹁君達はこの旅で、何か成すべきことがあるか?﹂
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自由を得るため︵後書き︶
ご指摘を受け一部手直しいたしました。
既に読んで下さった方の中に不自然に思われた方もいらしたと思い
ます。
申し訳ございませんでした。
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野営︵前書き︶
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60
野営
ステアの言は重々しい響きを放っている。
﹁成すべき⋮⋮か﹂
ハイネアは小さく呟き、チラリとテントの方を見やる。
テントの中では男女の蠢く影が見て取れ、現在進行形でシャロンが
凌辱に遭っていることが察せられる。
﹁不用意なことは言わない方が良いと思うわ、騎士殿﹂
ユキリスは眉を顰め、ステアを制止する。
﹁主人の周囲には監視魔術が働いている。それに捉えられるのもだ
し、主人本人に聞かれる可能性だってあるわ。わたし達は与えられ
たこの唯一の好機をモノにして、魔物の宝具を手に入れ、公娼の身
分から脱する。それで良いのではなくて?﹂
彼女は恐れていた、何らかの企みに巻き込まれ、千載一遇の機会を
逃すことを。
セナはその姿を見て、怯えというよりは打算性の強さを感じた。
﹁騎士殿方三人の武芸で前線を支え、魔導士であるわたしが後方支
援、ハイネア王女を回復役にして主人と王女の護衛をリセ殿にやっ
ていただけば、わたし達の組は安定した戦力になる。充分に西域の
奥を目指せるモノだと思うわ﹂
一つの問題点は残る︱︱。
﹁凌辱に耐え⋮⋮か?﹂
ステアは憎悪の瞳でテントを睨み、すぐにユキリスへと向け直した。
﹁⋮⋮仕方ないじゃない。それにこれまで三年間様々な状況で味わ
ってきたことですもの。それに比べれば、たった一人の人間相手に
こちらは六人、充分に耐えることができるはずだわ﹂
ユキリスはステアの視線から逃れるように、燃え盛る焚火を見据え
た。
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体を支えるようにして組まれた腕が細かく震えているのを、セナは
見ていた。
﹁⋮⋮ユキリス君。君はこの三年間で味わった屈辱を︱︱恥辱を覚
えているかい?﹂
君︱︱これは騎士長ステアが部下や親しい人間に話しかける際に、
使う二人称である。
騎士長は一転して優しげな声で、魔導士に問いかけた。
すると、
﹁覚えていないわけがないじゃないっ!忘れられるわけがないじゃ
ないっ! アイツらは⋮⋮アイツらゼオムントがわたしに何をした
かっ。一切合財すべて覚えているわよ! わたしは魔導士。記憶を
刻むことにおいては貴女達騎士とは比べものにならないほど正確に
刻まれていく。今この瞬間にだってそらんじてあげるわ! 昔の自
分がどうやって喘いで、下種共が何ていって笑ったかっ!﹂
魔導士は声を荒げ、立ち上がって錫杖を振り回す。
﹁許せるものか、認めるものか。わたしだって⋮⋮わたしだってこ
の本能のままに行動できるのなら、祖国の仲間が人質にとられてさ
えいなければ! テントに居るあの男を殺して、取って返して大門
の奴らも殺してっ! ゼオムントにいる汚れた連中全部毒の沼に沈
めてやりたいわよっ!﹂
声がユーゴにまで届いてしまうのではないかと危惧した瞬間。
﹁あ、あああああああああっんんっ! やめぇっ。んはあああああ
ああああん﹂
テントの中でシャロンが一際大きな声で喘いだ。
﹁ワザとらしいな⋮⋮シャロンは。しかし助かった、良い判断だ。
流石我が隊の参謀だ﹂
ステアは落ち着き払った様子でユキリスを見つめ、
﹁一先ず座ったらどうかね? ユキリス君﹂
ユキリスはばつの悪そうな顔で頷き、腰を落とした。
﹁⋮⋮話の要点を伺いたいものだな、騎士よ。妾達の回答もそれに
62
よるであろう﹂
裸の体をリセに抱かれるようにして座っているハイネアがステアに
問いかけた。
﹁これは失礼、王女よ。わたしとシャロン、そしてセナの三人には
共通の目的がある。それは︱︱﹂
﹁ゼオムント国を崩壊させる﹂
セナは騎士長の言葉が終わる前に割り込み、言った。
﹁国を奪い、家族を狂わせたゼオムントをアタシは許さない﹂
四人の視線がセナに集中する。
﹁とまぁ、そういうわけだ。その方法として、一つの案を、この旅
を聞かされた後に考えもした﹂
今度はステアに視線が集中する。
﹁魔物の宝具が与えるという。統帥権だ﹂
その言葉にユキリスとハイネアは顔を強張らせ、リセはそっと王女
を抱く手に力を込めた。
﹁⋮⋮魔物を支配して、ゼオムントを襲わせるというの?﹂
ユキリスの疑問に、ステアは首肯した。
﹁それでは無関係の人間も、妾達の祖国の民もが犠牲となるぞ﹂
ハイネアの訝しむ声にも、ステアは頷いた。
﹁統帥権⋮⋮とはそのままの意味で指揮権限のことだろう。それは
軍を動かすことであり、またまとめることでもあるはず。そして軍
とは最高指揮官が居て、そのすぐ下に兵が居るわけではない。分隊、
支隊、中隊。いろんな言葉があるが、それら小分けされた軍を率い
る頭が必要となる。わたしの率いた千人騎士団では百人長という名
の小隊長を選んで、各個に細かな指揮を委任していた﹂
シャロンは参謀としてステア直属の小隊長であり、セナは前線に出
て突撃する役目を負った小隊長であった。
﹁魔物の軍にもそれを適応する。シャロンとセナに軍団を分け、多
方に展開させる。ゼオムント首都攻め、リーベルラント解放、そし
て魔物達の統制。少なくともわたし達騎士三人であれば三つの役が
63
こなせ、ゼオムントの崩壊と祖国の奪還が果たせるというわけだ﹂
ステアは瞠目している三人を見やる。
﹁魔導士ユキリス。王女ハイネアとその侍女リセ。君たちは腕が立
つ。魔物の統帥権を得た後、軍を任せることができる存在だとわた
しは見た。どうだ? わたし達リーベルラントの戦に乗ってみない
か?﹂
僅かな沈黙の後、ユキリスが手を挙げた。
﹁⋮⋮話は分かった。けど、それならば西域の奥に行くまではこの
ままでは無くて? このままあの小汚い男の性欲処理に使われ続け
ながら旅するの?﹂
その瞳に野望の輝きが灯り、凌辱者への復讐の光を見つけた喜びを
放っていた。
魔導士の疑問に、騎士長は頷きを返した
﹁そこだが⋮⋮とりあえずしばらくは耐えてほしい。何らかの対策
を講じるつもりだ、魔物に襲われた際のどさくさや、食事に毒を混
ぜるなど色々考えてはいるんだが、監視魔術の肝がわからなければ
行動に出辛い。下手に動いて王宮魔導士に露見し、我らの祖国と人
質に手を出せれても困る﹂
ステアのその言葉に、ハイネアが目をつむる。
﹁やむなし、か﹂
﹁ハイネア様⋮⋮﹂
リセはまた一段とその手に力を籠め、王女を抱きすくめた。
﹁⋮⋮監視魔術について詳しくわかればいいのね?﹂
魔導士は得意げに言った。
﹁⋮⋮何か考えがおありで? 魔導士殿﹂
セナが勢い込んで尋ねると、ユキリスは半分笑みを浮かべながら頷
いた。
﹁ゼオムントの魔術は多くの場合刻印魔術よ。さっきアイツが持っ
てた隠密魔術石だって魔石に刻まれた印が光ることで発現するやつ
64
なの。監視魔術もおそらくそうね⋮⋮アイツの持ち物か、あるいは
アイツ自身かに刻印が施されているはず。それをどうにか出来れば、
王宮からの監視は届かなくなるわね﹂
ユキリスがそう言ったすぐ後に、テントが一部開いた。
中から半裸のシャロンが蹴飛ばされ、飛び出してくる。
その顔と乳房と陰部は、赤い腫れと白い汚れで彩られていた。
﹁ケッ、散々生意気しやがったわりにゃぁ、派手に喘ぎやがったじ
ゃねぇか、このクソ騎士がぁ。オラ、次の奴来いよ。今夜はもう寝
る。チンポ突っ込んだまま寝てやるからぁよぉ。残りの奴らは焚火
の前でオナニー三回して寝ろ。これは命令だぜぇ? 三回してから
寝るんだ? わかったな﹂
服をすべて脱ぎ去ったユーゴが倒れたままのシャロンの陰部を足で
蹴りつけながら、こちらを見渡した。
﹁おっし⋮⋮じゃあお前だな、ユキリス。お前のマンコに入れたま
ま今夜は眠るとするぜぇ﹂
ユーゴは股に下げた肉棒を擦りあげながらこちらに近づいてきて、
ユキリスの腕を摘みあげ、テントへと連行していく。
連れて行かれながら、ユキリスはこちらを見る。
その瞳が笑っていた。
﹁今夜中にも、刻印の位置がわかるかもしれんな﹂
ハイネアが全裸のままテントに収まっていくユーゴの背中を見て、
笑いを噛みしめるようにそう言った。
この夜、セナ達が関知しえないところで二つの出来事が起こった。
殺害。
そして、
結束。
65
殺害・結束︵前書き︶
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66
殺害・結束
Side A 殺害
振り上げられた拳が、猛烈な勢いでソレに叩きつけられる。
何度も、何度も。
﹁まだ、まだです! まだまだまだまだぁ!﹂
紅の長髪を逆立てた半裸の女の拳は、鈍く輝く鋼鉄製の籠手と、そ
れを染め上げるドス黒い血で飾られていた。
女の体を良く見れば、生々しく痛みを訴える凌辱の跡があった。
﹁フフフッ⋮⋮﹂
その様子を含み笑いで見守る長身の女がいる。
短い銀髪に、長身にまったく合っていない上下共にやたらと丈の短
い服を着せられた女だ。
紅の女が拳を振るうのを嬉々として眺めている。
﹁破片が三十一個⋮⋮三十二個⋮⋮三十三、三十四⋮⋮﹂
二人のすぐそばにしゃがみ込んで、バラバラになっていくソレを空
虚な表情で眺めている長い黒髪をポニーテールに結った女がいる。
ソレの歯や、耳、内臓などが自分の傍に飛んでくると、乱雑にかき
寄せて小さな山を作っている。
ソレは人間だった。
彼女達を支配し、侮蔑し、凌辱した人間だった。
﹁お前達っ! 正気か⋮⋮、主人を殺してしまってどうするという
のだ!﹂
一人、彼女達に向かって叫ぶ女がいた。
彼女はリーベルラント騎士国家、ステア千人騎士団所属、百人長フ
レア。
騎士長ステアの実妹で、同じく鋼の志を宿す騎士であった。
67
姉とは異なり短く切りそろえた黒髪を揺らして、フレアは詰問する。
﹁監視魔術が働いているのだぞ? お前達が主人を殺したことはす
ぐに王宮に察知される。そんなことをしてはわたしの国もお前達の
国も、そこに囚われた人質達もどうなってしまうか想像できないわ
けではないだろうっ?﹂
フレアは自身が激しく発汗していることに気付いた。
それは今彼女が口に出して言った事への恐れと、目の前にいる三人
から向けられる強烈なプレッシャーに由来していた。
﹁正気も何も、起こってしまったことだもの。しょうがないじゃな
い﹂
銀色髪の女がフレアを見下すようにして笑う。
﹁規律を順守することしか知らないお馬鹿で救い様のない肉奴隷の
騎士殿には理解できないことかもしれないけれど、ね﹂
フレアはその視線を真っ向から受け止め、睨み返す。
﹁アミュス⋮⋮貴様﹂
この旅が始まる直前に、主人役として自分達にあてがわれた男、ハ
ゲ頭のでっぷり腹をしたベネルから屈辱の自己紹介をさせられた時、
目の前の銀髪はこう名乗っていた。
﹃ロクサス領ミネア修道院の魔導士、アミュス﹄と。
魔導士はハゲのベネルに着せられた幼児服かとも思わせるほどに丈
の短い服から、その下乳と尻肉がはみ出しているのを憎々しげに見
やり、
﹁殺すべきでしょ。どう考えたって﹂
そう吐き捨てた。
﹁クッ⋮⋮! ヘミネ、君もだ。誇りを知るリネミア貴族である君
がどうして自国の民を危険に晒す!﹂
拳を振るい続けている紅髪の女の動きが一瞬止まったが、またすぐ
に動き出した。
グチャ︱︱ドスッ︱︱と拳が突き刺さり、破片が飛び散る。
68
飛び散った破片は、
﹁四十二⋮⋮四十三﹂
ポニーテールの女によって山に積まれていく。
﹁ヘミネはね、私が唆したのよ﹂
アミュスは笑う。
﹁騎士殿の言うとおり、ヘミネはとっても誇り高いわ。だからね、
この三年間も必死に耐えてきたそうよ。けれど、限界は近かったよ
うね。ちょっとした事⋮⋮本当にちょっと、あのハゲデブがヘミネ
の乳首を噛み千切ろうとした事が、彼女に限界を迎えさせてしまっ
たの。私はその最後の一押しを手伝ったというわけ﹂
魔導士のあざ笑うかのような声に、ヘミネは大声で吠え、また拳を
肉塊へと打ち込んだ。
﹁どうしてなんですかぁ⋮⋮? どうして貴女は怒っているのです
かぁ?﹂
不意に、フレアの喉に鋭く冷たい刃が突き付けられた。
今まで死者の肉山遊びをしていた女が、ポニーテールを靡かせ、目
の前に立って湾曲した長刀を構えていた。
﹁マリス⋮⋮っ!﹂
アミュスとヘミネ、そしてフレア自身も含めて名の知れた国から徴
発された公娼であったが、このマリスは違った。
戦争傭兵。
彼女がゼオムントと戦った理由がそれであり、敗れた後従っている
理由でもあるそうだ。
彼女は国を持たず、家族も居ないらしい。
それなのに、公娼。
人質無き公娼なのである。
﹁この人嫌な人でしたよぉ? マリスのお尻の穴に汚いのたくさん
入れられちゃいましたし、前の穴なんてマリスの刀を使ってホジホ
ジされちゃいましたぁ。マリスとっても痛かったのに許してくれな
いし、死んで当然だと思うんですよぉ?﹂
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その瞳は、完全に開ききっている。
彼女が内面に含んだ闇の深さを察し、フレアは視線を逸らした。
﹁そういう貴女はどうなのよ、騎士殿﹂
アミュスの声が響く。
﹁今貴女の後ろで怯えている二人は戦力にならないとして、騎士殿
︱︱貴女そこそこ腕が立つようじゃない? どう私達と一緒に来る
?﹂
フレアの背中側に、へたり込んでいる女が二人。
公娼ではあるが、戦闘系の素養を持たず、ただただ裸でここまで付
いて来ていた者達だ。
﹁一緒に⋮⋮とは?﹂
﹁決まっているわ、ゼオムントを滅ぼすのよ。魔物の統帥権を得て
ね﹂
その言葉に、フレアは脳を貫かれた思いだった。
﹁馬鹿なっ! そんな事をして国は? 民はどうなる? 魔物と人
間の戦争などが起これば、世界は混乱してしまうぞっ!﹂
フレアはマリスの長刀を掴み、自分の喉元から外した。
﹁貴様らの勝手に、どれだけ多くの人間が巻き込まれると思ってい
る!﹂
フレアのその言を受けて、ヘミネが振り返り、マリスがジッと見つ
めてきた。
そしてアミュスが口を開く。
﹁なら貴女は一生そのままでいるのね﹂
三人はもはや肉塊となった元主人を蹴りつけて、去って行く。
フレアはその背中を燃える瞳で見つめていた。
﹁あ、あの⋮⋮騎士様? わたし達これから⋮⋮どうすれば?﹂
背中から聞こえる震えた声に、フレアは意図して快活な声で答えた。
﹁心配ない。わたしの姉もこの森にいるはずだ。まずは姉と合流す
ることを目指そう。そこにいる主人に言って、王宮への正確な報告
70
も可能なはずだ﹂
その声に、自分を叱咤する色を含めた。
Side B 結束
浅黒い肌の少年が、むっちりと肉付きの良い白い尻に向かって腰を
打ち付ける。
﹁あ、あんんっ! ひぃ、ああああん﹂
少年の肉棒が膣内を擦りあげる度に、やや大柄な女から嬌声が漏れ
た。
少年と後背位で繋がったまま、女は秘めた声を出す。
﹁こちら⋮⋮んにっ! 在らせられるのは、スピアカント王国第八
王子ぃぃん⋮⋮シャスラハール様で、ござ⋮⋮んあぁいます﹂
女は涎をまき散らし、陰部から派手に汁を零しながら、語りかける。
女の前には、五人の公娼が真剣な面持ちで座っていた。
﹁王子⋮⋮は、ゼオムントの侵略の際、難を逃れぇ⋮⋮んんんぅ、
庶民に混ざり、雌伏の時を過ごされぇぇ⋮⋮あっ⋮⋮あぁぁん。こ
の機会を⋮⋮ゼオムントへ復讐する機会をほぉぉ、狙っておられま
したぁぁ﹂
少年は目を閉じている。
髪は黒で爽やかに夜風に靡き、全身に薄らと筋肉を纏った少年らし
い精悍な体つきをしていた。
﹁うおおおおおおおおおおおおおおおっ!﹂
少年はとにかく吠えている。
目の前で喘いでいる女の声が、余所にまで漏れないように。
﹁今回の西域侵攻を知りぃ⋮⋮あっ、あっん。王子は好機として、
スピアカントの聖騎士として従軍し敗れた後公娼にされてしまった
わたくしに接触し、ん、んはあああん。国の復興のため、再び剣を
取る道を選ばれました﹂
71
﹁うおおおおおおおおおおおおおおお﹂
聖騎士の前に並んだ女達は真剣な面持ちである。
﹁そ、そこでぇぇぇん、あん。皆様にお願いがございます。どうか
わたくし達と共に、魔物の宝具を収め、ゼオムントの支配を打倒す
る⋮⋮あっおほぉぉ、打倒する計画にぃぃ、協力をぉぉぉ、ご助力
⋮⋮いやぁぁはあああん﹂
王子と聖騎士は、王宮の監視魔術に疑われないように全力でセック
スしていた。
﹁うおおおおおおおおおおおおおおお﹂
﹁あはあああああああいやあああああ﹂
言葉が途切れ途切れになるのも、致し方ない。
﹁もちろん、我らも公娼の身分を脱するのみでなく、国を奪い返す
ことを悲願としておりますので、お話に乗せて頂きたくは思うので
すが⋮⋮果たして可能なのでしょうか?﹂
話を聞いていた中で、もっとも年季を重ねているであろう二十代半
ばの騎士が手を挙げた。
﹁あ、あはああああああん。もちろんですぅ⋮⋮わたくし聖騎士ヴ
ェナの武芸とぉぉぉ、王子のこの三年間の知の研鑽があればあああ
あん、西域制覇は不可能ではなくぅぅ。皆様のご助力があれば、更
に可能性は高まるかとぉぉ。それにぃ﹂
王子の腰の動きと、ヴェナの喉の反りが一段と強まる。
﹁王子はぁぁぁ、他のグループにも回ってぇぇ、賛同者を増やされ
るお考えでございますぅぅ。あ、あああああん。イクゥううううう
ううぅううううううううん﹂
﹁んっ!﹂
王子は射精の瞬間に肉棒を引き抜き、地面に向けて精を零した。
見守っていた公娼達は、それを驚愕の視線で追った。
﹁馬鹿な⋮⋮これまでの調教師や凌辱者は徹底的に膣内に出すか、
そうで無くても尻の穴や口や顔⋮⋮髪や乳房にかけていたというの
に⋮⋮地面になどと⋮⋮!﹂
72
﹁待って、もしかしたら地面に零した精を啜れと言う命令が来るか
もしれないわ。私のところの調教師がそうだったもの⋮⋮!﹂
彼女達が見守る中、シャスラハールは自らの衣服の中から手拭いを
取りだし、自らが放出した精を拭った。
﹁拭ったわ⋮⋮おかしい、普通調教師なんかは舐め啜らせるか、そ
の上で寝ころばせるかして辱めて来るはずなのに⋮⋮!﹂
﹁まだわからないわ⋮⋮! 地面に零した精を拭った布を口に突っ
込まれて一日過ごせと言われるかも知れない。私のところの調教師
がそうだったもの⋮⋮!﹂
シャスラハールは精を拭った布を困ったように見つめ、ひどく小声
で、
﹁ごめんなさい⋮⋮ヴェナ、洗濯物増やしちゃった⋮⋮﹂
﹁良いんですよ、王子。後でわたくしが洗っておきますから、あち
らの汚れ物籠に入れて置いてください﹂
はぁいと言って王子が汚れ物籠の方へと歩いていく。
ヴェナはそれに温かい瞳を送って、振り返る。
﹁どうですか? 皆様﹂
五人の公娼が一斉に頷いた。
73
身なりの良い観察者︵前書き︶
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身なりの良い観察者
﹃爽やかな良い朝だなぁぁお前らぁぁ、よっしゃ、お前らの今日の
調子を見てやろう。全員こちらに尻を向けて四つん這いになれぇ﹄
下品な声を上げ、ボロを纏った男が六人の公娼を並ばせている様子
を見ている者が居る。
﹃昨夜はユキリスに突っ込んだまま寝てよぉぉ、朝勃ちも朝一小便
も何もかも全ぇん部膣の中でやってきてよぉ、今の俺は気分が良い
ぜぇ。ほらほら、朝日に向かってマンコを晒せぇ、こんにちは太陽
さんとご主人様だぁぁ﹄
貴族的な衣装を身に纏った男だ。
豪奢な部屋で仕立ての良い調度品に囲まれ、遠隔透視魔術を投射用
の白い布に映し、ボロ男と六人の公娼の朝の風景を見ている。
﹁あ、こちらにいらっしゃいましたか。オビリス様﹂
王宮に勤める宮廷魔導士ゴダンが男に声をかける。
﹁いやはや、お探し申し上げました。何分この王宮は広いですから
な、魔導長官たる御身のお姿をお探しするのも一苦労でございます﹂
ゴダンは禿あがった頭に浮いた汗の粒を拭いながら、問う。
﹁それで、如何でございますかな? 御身がお考えになって、陛下
にご提案され、昨日実行に相成った今度の﹃西域派遣﹄の娯楽は﹂
ゴダンの言葉に、ようやく男が振り返った。
﹁素晴らしい⋮⋮素晴らしいよゴダン。これは僕の生み出す芸術の
中でも最高の傑作となるだろう﹂
オビリス︱︱ゼオムント国魔導長官である。
公娼達への不老魔術、映像魔術、監視魔術の完成で功を上げ、弱冠
三十にして国の魔導士を束ねる地位に納まった男。
そして、稀代の調教師でもある。
﹁ほら、ほら見てくれゴダン。この男、この下種が僕の愛しの公娼
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達に何をしているか見えるかい? 朝日の下、尻を六つ並ばせて右
から左、左から右へと順々にハメて移動している。朝の調子の確認
と言っていたかな? 何て馬鹿げた方法だ。これじゃ公娼達は全然
達しようもない。ただ一瞬肉棒を突きこまれては抜かれて隣のマン
コへと移って行く。ハハハッ最高に哀れだ。何の価値も無いマンコ
じゃないか﹂
映像ではユーゴが一度肉棒を深く突き刺すと抜き、次の公娼に突き
刺すという滑稽な姿が映っていた。
﹁おやおや⋮⋮本当にまぁひどい扱いですな、ユーゴさんは娘さん
のマンコだって容赦なく貫いて、平気で汚していく男ですからねぇ。
お、ユーゴさんの顔に余裕がなくなってきましたねぇ﹂
ゴダンはほうほうとえびす顔を撫でている。
﹁どうだいゴダン、一つ僕と賭けをやらないか?﹂
﹁賭け⋮⋮ですかな?﹂
オビリスの若々しい顔には、
﹁この男がどのマンコに膣内出しするかを賭けようじゃないか!﹂
無邪気な笑みが広がっていた。
﹁ふぅむむ、賭けでございますか。ちなみに賭けの対象は?﹂
ゴダンがそう問うと、
﹁そうだねぇ、対象が決まっていた方が身も入るというものだね。
よし分った、君が勝てば、来月の君の勤務予定に一日休みを加えよ
う。上司権限だ﹂
オビリスは親指を立てて答えた。
﹁ほうほう、それは有りがたいですなぁ。それで? 御身が勝たれ
た場合は如何に?﹂
﹁そうだなぁ⋮⋮﹂
とオビリスは腕を組んで考え込む。
﹁特に希望も無いな。君が賭けで負けたらこのまま飲み物でも厨房
から貰ってきてくれたまえ﹂
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その言葉にゴダンはニッコリと頷き。
﹁ではでは、ワタクシは騎士セナを推しましょうか。やはりあの父
親の変態性を見るに、実の娘の膣内で精を零すことに悦を得るもの
ではないでしょうかねぇ﹂
﹁ほほう、騎士セナ⋮⋮あぁこの髪を両結びにしたハーフプレート
の娘か﹂
映像の中、髪を父親に両手で掴まれ、膣内を抉られている女騎士の
姿が捉えられていた。
﹁良い線だ⋮⋮確かに映像作品としては父親が娘に射精する姿は中
々美しいものがあるが⋮⋮今回は違うな。これだろうな、従者リセ。
この娘の中に汚い精は放たれるであろうよ﹂
オビリスが見詰める先、顔をどんどん赤く染めていくユーゴは余裕
を失った動きで挿入を繰り返している。
セナに、シャロンに、ユキリスに、ハイネアに、リセに、ステアに。
﹃おぉぉぉ出る! 出すぞぉぉぉぉ、俺様占いの結果ぁぁぁ膣内出
しされる奴の今日の運勢は、だ・い・き・ち! だあああああああ
あ﹄
ユーゴは叫び声をあげ、掴んだ腰を全力で引き寄せる。
捕まえた腰の持ち主は、
﹃ひぃぃぃぃぃあああああん﹄
リセであった。
ユーゴの体が小刻みに震え、リセの双眸からは涙がこぼれていく。
﹁どうだい? 僕の勝ちだよ。ゴダン﹂
オビリスは勝ち誇った笑みを浮かべている。
﹁いやはや⋮⋮折角余暇で家族と過ごす時間が増えると思いました
のに⋮⋮。では、飲み物を取ってくる前に一つ聞かせて頂いてもよ
ろしいでしょうか?﹂
﹁あぁ、構わないよ。むしろ聞いて欲しいね、僕は﹂
オビリスがゴダンと向き合っている後ろ、映像の中ではユーゴが精
を放出し終え肉棒を引き抜いて、付着していた精液と愛液の混合液
77
を手近にあったハイネアの尻でふき取る姿が映し出されていた。
﹁どうして、従者リセに出すとお判りになられたのでしょうか? この凡愚にもお教え頂きたいものですなぁ﹂
ふふふ、とオビリスは笑う。
﹁簡単さ、僕は今の今までこの組の活動を映像で見ていたからね。
それを見て選ぶべくして選んだのが、この従者の娘さ﹂
良いかい? とオビリスは言った。
﹁昨日の出発から今まで、この男は三回膣内で射精している。内訳
は実の娘セナに一回。シャロンに虐待を加えながら一回。ユキリス
と寝ながら一回だ。二度ほど口内射精もしているようだが、飲ます
ことと孕ませることは別だからな、これはカウントしないでおこう。
そうすると人間六つも選択肢がある中で重複して何度も同じのを選
ぶとは思えなくてね﹂
頷きを返しながら、ゴダンは疑問する。
﹁しかしそれでは三択、選択肢の中に騎士ステアと王女ハイネアも
加わるのではないですかな?﹂
映像の中では、ユーゴがステアの口に肉棒を突き入れ、残った精を
吸い出させていた。
﹁それはそうさ。しかしな、ここで一つ提示されたヒントがあった
のだよ、ゴダン。彼女達の衣服にね﹂
そう言われ、ゴダンは映像に視線を送る。
六人ともあられもない姿になっているが︱︱
﹁なるほど⋮⋮順位ですか﹂
呆れた様にゴダンは息を吐く、そしてその様をオビリスは楽しげに
見やった。
﹁そうさ、膣のお気に入りで決めた順位だ。必然二位のリセと五位
六位のステアとハイネアでは確率は違ってくる。それが僕の推理と
言うものさ﹂
なんとまぁ⋮⋮とかぶりを振ったゴダンが一歩後ろに下がる。
﹁恐れ入りました、魔導長官。それではワタクシは厨房に行き何か
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飲み物を頂いて参りましょう﹂
そう言って彼は退室しようとして、扉に手をかけ、
﹁それはそうと⋮⋮オビリス様。ご存知かとは思いますが、調教師
ベネルが公娼により殺害されました。不測の事態が起こりました事、
如何お考えでいらっしゃいますか?﹂
小さな声で問いかけた。
それに対し、オビリスは態度を一切変えることなく、
﹁無論対策は万全さゴダン。僕の作品に、リテイクは無いのだよ﹂
笑って答えた。
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刻まれた皺︵前書き︶
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刻まれた皺
勇敢なる騎士フレアの白い頬に一滴の汗が流れる。
既に死んでしまった主人役に無理矢理着せられた黒のビキニアーマ
ーから露出した肌にも汗がどんどんと浮いてくる。
太陽から放射される熱気が逃げず、辺りにこもり続ける森林に居る
ということも一つだが、何より彼女は今囲まれていた。
明らかな害意を持つ魔物の群に。
﹁良いか? 絶対にわたしの傍を離れるな。わたしの戦斧の届く範
囲に居ろ﹂
彼女は大戦斧を構え、背中に守るべき公娼二人を従えている。
囲んでいるのはカマキリ型の魔物︱︱ベリス。
上半身はカマキリの特徴通りにギョロついた顔と目、鋭利な鎌を両
手に付け、背中には虫羽根が備わっているが、下半身は人間の男の
ものであった。
剥き出しの肉茎をパンパンに充血させ、およそ五十体ばかりのベリ
スが三人の公娼を囲んでいた。
﹁敵は五十でこちらは戦えるのはわたしのみ⋮⋮どうやって切り抜
けるか﹂
フレアは層の薄く、突破できそうな箇所を探るが、ベリスの知性無
き瞳に似合わない頑強な包囲陣形の前に起死回生の糸口が見えてこ
ない。
そして、ベリスが動き出す。
手始めにと言った形で二体のベリスがのそのそと人間の足で歩いて
くる。
﹁くっ、警告などはしない。近づくならば切り伏せるのみ﹂
フレアは大戦斧を片手で振るい、迫ってくるベリス二体に打ち付け
た。
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メシャア︱︱と割合軽い音を立てて斧は一体の体を割り、もう一体
に深く埋まりこんだ。
両断された上半身が宙を舞い、深く打ち付けられた一体が叫び声を
あげた瞬間。
他のベリス達が一斉に羽ばたいた。
﹁きゃあああああああ﹂
フレアの後ろで、同行の公娼サディラが悲鳴を上げた。
上空から、低空から襲い来るカマキリ男。
フレアは懸命に大戦斧を振るったが、鋭く迫ってくる鎌を受け止め
るだけで精一杯で、ビキニアーマーの上を切り裂かれ、体に細い傷
跡をいくつも刻まれてしまった。
そして、
﹁いやあああああ助けてぇぇぇ﹂
サディラと、もう一人の公娼レナイがベリスに捕らえられていた。
サディラは無力な王族、レナイは修道女であり戦闘能力は持たない。
闘うすべを持たぬ二人は、騎士であるフレアが守らねばならなかっ
た。
﹁おのれっ! その二人を離せ!﹂
アーマーが避け露わになった乳房を揺らしながら、フレアが吠える。
ベリス達はそれに反応を示さず、手元に得た戦利品に加工を施して
いく。
﹁え⋮⋮嫌⋮⋮そんな、止めて⋮⋮痛い痛いいたいぃぃぃぃ﹂
ベリス達はサディラとレナイを宙づりにし、伸びた体の両膝に鎌を
合わせ、断ち切ったのだ。
﹁いやああああああああああ﹂
叫び声を上げ続けるサディラと、懸命に声を押し殺すレナイ。
その両膝が、無残にも体から切り離され、地面へと落ちた。
﹁うぉおおおおおおおおおっ!﹂
その光景を理解した瞬間、フレアは猛進していた。
大戦斧が振り下ろされ、翻り、逆方に振り上げられる。
82
サディラ達との間に体を割って入れたベリスを数体切り裂き、突き
進んでいく。
しかし、ベリスには羽根があった。
フレアには持ちようもない、羽根があった。
一斉に空中へと飛び上がったベリス達は最後の仕上げを施していく。
集団の中で体格の優れたベリスが二体公娼に取り付き、その肉茎を
陰唇に埋めた。
﹁おごぉぉぉぉおぉ⋮⋮﹂
﹁ひっ⋮⋮ん﹂
サディラとレナイは両脚を失っている為、ろくな抵抗も出来ずに大
柄のベリスに貫かれている。
別のベリスの手によって、彼女達の両手がカマキリの胴に強制的に
回される。
回された手を竹ひごの様なもので貫き、肉と肉とを結んで固定され
た。
それはまるで、
公娼の体で作られた肉の鎧のようであった。
﹁貴様らぁ⋮⋮貴様らあああああああ﹂
フレアは上空を見上げ、大戦斧を振るう。
﹁降りて来い! 今すぐ殺してやる﹂
フレアのその言葉に、サディラとレナイを装備した二体のベリスは
笑うように羽音を立て、他のベリスにフレアを指し示す。
﹃アレは好きにしてよい﹄
そう言っているようであった。
二体の大型ベリスは飛び立ち離れていく。
そして、残ったベリス達が一斉にフレアの方をギョロついた目で見
やる。
好色に、残忍に光った瞳に捉えられて、フレアは斧を構え直した。
﹁わたしもああして鎧にしようと言うのか⋮⋮? 良いだろう、か
かって来い。この首討てた者には残った体何ぞ好きに使わせてやる
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わ!﹂
そうして、ベリス約四十体と騎士フレアの戦いが始まった。
戦いが終結し、大戦斧が地面に落ちた時、フレアの四肢はぎりぎり
の所で繋がっていた。
体には無数の傷を負い、全身血まみれの姿で倒れ込むフレアの体を、
七体のベリスが見下ろしている。
四十体居たベリスはもう、七体にまで減っていた。
辺り一面にカマキリと人間の男の肉片が飛び散っている。
フレアは視界の端でそれを見つめながら、自分の血まみれの裸を見
下ろすベリスの足が近づいてくるのを理解した。
蹴られた。
半端な力ではない。
魔物の力で頭を、胸を、腹を、尻を蹴られた。
その度に転がるフレアの体がうつ伏せに倒れた時、一体のベリスの
鎌が彼女の肛門へと迫った。
閉ざされた肛門にゆっくりと侵入してくる凶悪な鎌。
そして、肛門の皺をなぞる様にして、鎌が引かれた。
﹁ひぃぐぅぅぅぅ﹂
かつてない痛みにフレアの上半身が跳ねたところを、別のベリスの
足によって踏みつけられる。
喜色の浮かんだ羽音を立て、ベリス達は次々フレアの肛門に鎌をつ
き立て、擦る様に引く。
彼女の尻の穴からは、ドクドクと血があふれ出していた。
無残に引き裂かれた肛門に鎌を立て、人間の足指で穿り返し、その
度に上げられるフレアの絶叫に合わせて羽音を立てていたベリス達
だったが、その拷問が三十分も経った頃、ようやく飽きが来たのか
彼らは次の段階へと進もうとしていた。
フレアは己の両膝に血で汚れた鎌が突き付けられていることを知っ
84
た。
しかし痛みで意識の朦朧とした彼女には、抵抗の手段がない。
虫の鎌が彼女の足を切断しようとした瞬間、
﹁ハッ⋮⋮!﹂
黒い影が、鎌を立てていたベリスを突き飛ばした。
ベリスの胸には一本の短刀がめり込んでいた。
急に現れた影に、他のベリス達が臨戦態勢を整えようとしたわずか
一秒足らずに、
﹁もう⋮⋮いけませんわ王子。危険な先陣はわたくしが勤めますと
言うのに、わんぱくでいらっしゃるから﹂
六つカマキリの首が宙に跳ねた。
全裸の女が長剣を携え立って居る。
いつ振るい、いつ屠ったかわからないほどの速さでベリスを駆逐し
た女に向けて、先ほどの影が口を開いた。
﹁ごめんなさい⋮⋮ヴェナ。でもこの人が危なそうだったから、つ
い﹂
黒い肌の少年であった。
﹁何だあぁ⋮⋮ありゃ﹂
森の中、全員に排泄行為を強要し、誰が一番澄んだ尿を出せるかを
審査していたユーゴの視界に空飛ぶカマキリとそれにくっ付いた裸
の女が見えた。
誰よりも尿が濃い黄色をしていたセナは、飛んでいくソレを見て、
すぐに愛剣の柄を掴みとった。
85
遠く遠く監視してる人へ︵前書き︶
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遠く遠く監視してる人へ
動き出したのはセナだけではなかった。
シャロンが双剣を、ステアが騎士槍を、ユキリスが錫杖を、リセが
ハイネアの手を取り立ち上がった。
﹁おいおい、お前らまさかアレを追う気かぁ? やめとけやめとけ
︱︱﹂
誰一人としてユーゴの言葉に耳を貸さなかった。
今の今まで屈辱的な遊戯を強いられてきた反動も有る。
そしてそれ以上に窮地に立たされた人間を見過ごせない美しい心も
有った。
だが何よりまして彼女達の心を支配したのは、
﹁好機⋮⋮!﹂
シャロンの声とともに駆け出した六人を包むのは、現状打破への希
望。
魔物との争いにより生まれた一瞬の隙をついてのユーゴの殺害だ。
﹁確認しておくぞ、魔導士殿﹂
ステアの声に猛りが籠る。
﹁あの男に施された監視魔術の刻印は、左胸に刻まれているのだな
?﹂
その問いに、青髪の魔導士は頷きを返す。
﹁間違いないわ、一晩中抱かれながら探したんだもの。刻印魔術の
基本として損傷や劣化を抑えるために保護が掛かっているわ。だか
ら肉眼でパッとアイツの体を見ただけじゃどこに刻印があるかはわ
からない。犯されながら魔術を行使してアイツの体を隅々まで調べ
た結果、左胸に強い反応があったの、恐らく⋮⋮いえ、間違いなく
そこよ﹂
ユキリスの断言を受けて、ステアは周囲を見渡す。
87
﹁狙うなら一撃⋮⋮それもヤツの視界とヤツに施された監視魔術の
範囲外からの一撃で刻印ごと左胸を突き破る。王宮で監視している
魔導士どもにわたし達の仕業だと気づかせないためにはそれしかな
い﹂
﹁具体的にはどうなのだ? その範囲とやらは﹂
王女ハイネアが全裸の幼い体を懸命に動かし、騎士達に並走しなが
ら問いかける。
﹁そんなには広くないはずよ、刻印から大人の足で十歩か二十歩か
⋮⋮現在の魔導技術ではそれが限界のはずよ﹂
ユキリスの言葉に、今度はセナが頷き、振り返る。
﹁リセ、貴女の投剣術はその範囲の外から狙えるものなの?﹂
赤髪の騎士の声に、従者は首を振った。
﹁すみません⋮⋮私の投剣は手近なところで戦う事を目的としたも
のなので、距離がでると精度と威力は保証できません﹂
リセの言葉に、シャロンが声を重ねる。
﹁それ以前に、できれば手持ちの武器を使うべきではないと思いま
す。監視魔術がどういったものかわからないけれど、少なくとも私
達の調教に使われた映像魔術では停止や遅滞再生の機能がありまし
た。それぞれの得物を使って仕留めた場合に露見する危険は十分に
あります﹂
快足で飛ばす六人の遥か後方で、
﹁ま、待てぇぇぇお前ら! あまり俺から離れるなよぉぉぉ、何か
あったらどうするんだああああ﹂
息を切らしながら懸命にユーゴが走ってきていた。
ステアはその滑稽な姿を視界の端に収め、薄く笑った。
﹁目的は定まったが手段が不透明か⋮⋮、しかしこれから先我らは
魔物と交戦する。連れ去られていた女性⋮⋮間違いなく公娼だろう
が、彼女達の救出も急務だ。そこで役割を分けるとする。部族単位
で動く魔物が単独行動をとるとは考えにくい、恐らく群との乱戦に
なるだろう。こちらとしても戦場が乱れていた方が暗殺もし易くな
88
るので望むところだ﹂
そこまで言って、ステアは周囲を見渡す。
﹁わたしとユキリス、ハイネア王女とリセで群と交戦する。わたし
が正面に立つのでユキリスと王女は支援を、リセは二人の護衛を頼
む﹂
その言葉に、三人の公娼が頷いた。
﹁シャロン、君は別行動をとって攫われた公娼の救出を目指してく
れ。乱戦はこちらが引き受けるので、最短経路で彼女達を捕えてい
る二体を討ってくれ﹂
﹁承知しましたわ、騎士長﹂
騎士長と参謀が頷き合い、二人してセナを見る。
﹁そしてセナ。君に任せることになる﹂
ステアが真剣な瞳で見つめている。
﹁やり方は貴女に任せます。大切なのは、遠距離から︱︱一撃で。
大丈夫ですか?﹂
シャロンの常に冷静な瞳にも熱が籠っている。
﹁任せて﹂
それを受け、セナは拳を握った。
﹁あたしが、父を殺すわ﹂
﹁森がざわめいていますねぇ⋮⋮﹂
聖騎士ヴェナはここ数年常に露出させられ続けている乳房を揺らす。
﹁そ、そうだ⋮⋮ねんはあぁ﹂
ヴェナの大きな乳房に肉棒を挟まれこねられているシャスラハール
の表情に余裕はない。
﹁王子⋮⋮こちらも⋮⋮﹂
﹁いやん、こっちもです王子ぃ﹂
シャスラハールの左右の手はそれぞれ別の女性の陰部に潜りこんで
いる。
89
﹁ほらほら﹂
﹁ほらほら﹂
﹁あらあら﹂
ヴェナを含めた三人に刺激され、シャスラハールの体の動きも激し
くなる。
﹁ああああああああああんいやああああああああああイクぅぅぅぅ
ぅううううう﹂
﹁こっちも! こっちもイっちゃいますぅぅぅぅ王子ぃぃぃぃぃい﹂
両手に収まった女達が狂ったような嬌声を上げる。
それに隠れるようにして、
﹁ヴェナ、さっきの女性は大丈夫なのかい?﹂
シャスラハールの小さく澄んだ声。
﹁彼女の傷は深く、非常に繊細な部位を痛めつけられておりました。
ここは森の中ですので雑菌による感染症の危険も強いです。できる
だけ早期に治療術士を見つけねば、危ないかと思われますわ﹂
巨乳で肉棒を擦りながら、真剣な声を返す聖騎士。
そのかなり後方に、騎士フレアがうつ伏せで倒れていた。
シャスラハールの組の残り三人の公娼が彼女を介抱しているが、抉
られた肛門の傷は深く大きく無数にあり、出血は一向に収まろうと
はしない。
彼女の丸く美しい尻を水で清め、傷口を洗ってもすぐに赤い血で染
め直されてしまう。
シャスラハールはその光景に唇を噛んだ。
﹁王子ぃぃぃぃ王子さまあああああああああん﹂
﹁あはああああああああああ、もうダメ、ダメえぇぇぇ王子ぃぃぃ﹂
嬌声が上がった時、シャスラハールの瞼が大きく開かれた。
両脚を震えさせながら、フレアが立ち上がったのだ。
﹁わたしは⋮⋮わたしは騎士! リーベルラントの誇りある騎士!
守ると誓った者を見捨てるわけにはいかない⋮⋮!﹂
フレアは鬼の形相で、肛門から溢れる血を気にするそぶりも見せず、
90
愛用の大戦斧を手に取った。
シャスラハールはその光景に騎士の輝きを感じ、体に震えが走った。
同時に、
ヴェナの乳肉の谷間に射精した。
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ヒトの体とケモノの体︵前書き︶
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92
ヒトの体とケモノの体
燦々と照らす日光の下、薫風を斬るように五人の公娼は駆ける。
先頭には騎士槍を携えたステアが立ち、騎士、魔導士、従者と王女
の順で続く。
彼女達の進む先には戦場がある。
囚われの同胞を救い、魔を討ち、そして彼女達の悲願の第一歩と成
しえる計画のための戦場がある。
日の光が強くなっていく。
森が終わるのだ。
光を遮る木々の壁が薄くなっていく。
騎士長ステアは足を緩めない。
仲間達も同様に進む。
進んだ先、視界が開けた。
森が終わった。
そこは、小高い丘だった。
そして︱︱
﹁な⋮⋮くっ多すぎる﹂
カマキリの上半身と人間の下半身を持つ魔物︱︱ベリスが一斉にギ
ョロリとした瞳で見つめてきた。
その数、凡そ五百。
千の瞳に見つめられ、ステアの額に汗が流れた。
﹁騎士長⋮⋮! 如何しますか?﹂
追いついたシャロンが問う。
ステアはすぐに答えを返すことができなかった。
ベリスの群は確実にこちらを視認している。
今更引き返したとして戦闘は避けられず、何より退きながらの戦闘
の不利はかつて指揮官であった彼女のよく知るところだ。
93
何より今ここに居ない一人の事を思う。
千人騎士長ステアの部下、百人長セナ。
信頼して作戦行動を任せたこちらが、逆に彼女の信頼を裏切ってし
まうことを騎士の誇りが許さなかった。
﹁あれを見てっ!﹂
魔導士ユキリスが声を上げ、一点を指差す。
その先、大勢のベリス達に囲まれた中央に、生きた公娼を肉棒で突
き刺し固定し、鎧とした大型のベリスが居た。
﹁畜生の分際で⋮⋮人を纏うか、下種﹂
吐き捨てるハイネアの声に震えが走る。
鎧を纏ったベリスは八体、つまり公娼の数も八。
﹁先ほど飛んで行った二人とは別に⋮⋮すでに一組捕らえられてい
たのですね⋮⋮﹂
リセがハイネアの背を支えながら言う。
八体の内、一際大きな一体が羽根を振るわせる。
残りの七体はかしずく様に膝を折り、頭を垂らす。
それは王に対する臣下の忠節の儀式とよく似ていた。
ステアは目を凝らす。
ベリスの王に装着された公娼の顔に見覚えがあったのだ。
﹁騎士長⋮⋮! あれは⋮⋮あちらの御方は!﹂
﹁カーライル王国のヘスティア王女⋮⋮か﹂
驚愕に包まれたシャロンの声に答えるように、ステアは呆然とその
人物の名を呼んだ。
カーライル王国はリーベルラント騎士国家の同盟国にして、ゼオム
ントとの戦争における抵抗諸国を纏めた同盟元首であった。
そのカーライルを治める王族でありながら、自ら剣を取り魔法を駆
使して闘った王女。
それがヘスティアであった。
ステアの騎士団も同盟に参加し、彼女との知己も得ていた。
戦争終了後、捕えられて公娼にされていたのはステアも知るところ
94
ではあったが、今ここでの再会は予測できるわけがない。
かつては精悍だったその双眸はやつれている。
輝く金髪は無残に絡まり、両脚は膝から切り落とされていた。
遠目にもわかるほど尻の割れ目から出血をしている。
一体どれだけの時間カマキリに装着され、膣を犯され続けていたの
だろうか。
ベリスの王の鎌が何気ない動作で持ち上げられ、
王女の首に押し当てられた。
﹁な、何を! やめろ!﹂
ステアの声は、激しく、大きく響いたはずだった。
それでも、
転がり落ちる王女の運命を変えることはできなかった。
斬り飛ばした首から迸る血液を全身に受け、ベリスの王は尚更強烈
に羽音を立てた。
そして王の周りにいた肉鎧付きのベリスの内、四体が倣うように動
いた。
﹁痛い! 痛いいたあああああいいいたあああ﹂
﹁やめてぇぇぇいやあああああ助けてぇぇぇぇ﹂
一人の公娼は肩をそがれ、一人は尻をそがれ、一人は乳房をそがれ、
一人は脇腹の肉をそがれ、そして最後には全員首を落とされた。
五体が、五人の公娼の首を刎ねた。
﹃五﹄それは、この場に足を踏み入れた公娼の数とも一致していた。
﹁やつら⋮⋮! 妾達を捕まえて新しく交換する気か!﹂
ハイネアが唇を噛む。
﹁うおおおおおおおおおおおお!﹂
ステアは騎士槍を構え直した。
突進する。
手近に居た一体の首を刎ねた。
続けざまに乱舞する槍が次々にベリスの体を裂いていく。
ステアの技量は凄まじいものであった。
95
血飛沫を上げ倒れていく同族達を見て、ベリスの王は鎌を動かし指
示を飛ばす。
首付きの肉鎧を纏った三体が王の側から飛び立った。
宙を舞い、飛行しながらステアの前に立ちはだかる三体。
その腰に巻きつけられ、肉棒で繋がれている公娼達は、間違いなく
生きていた。
﹁助けて⋮⋮助けてぇぇ! 痛いの⋮⋮コイツらの⋮⋮トゲトゲし
てて、すごく痛いの﹂
公娼の陰部から、赤い滴が止めどなく零れていた。
﹁貴様ら! この外道があああ!﹂
ステアは激怒し吠えるが、槍を振るわない。
否、振るえない。
ベリスの体の殆どは公娼の鎧で守られ、露出している部分は手と同
意である鎌と足、そして頭だけだ。
頭を狙えば倒せるだろうが、狙いが明確になっていては敵に防がれ
やすく、こちらの動作も予測されやすい。
攻防ともに進退窮まったステアは唇を噛みしめる。
ベリスが羽音を立てながら、突っ込んでくる。
そこに、
﹁騎士長、大丈夫ですか?﹂
シャロンが体を割って入れ、剣で鎌を弾き飛ばした。
﹁負傷は無いが⋮⋮この状況、どうする⋮⋮。どうすれば彼女達を
傷つけずにカマキリ野郎を殺せる⋮⋮﹂
ステアは続く鎌の斬撃を槍で撃ち落としながら、シャロンに問う。
﹁少なくとも私達の剣や槍では難しいかと⋮⋮そうです、ユキリス
!﹂
シャロンは魔導士へと振り返る。
﹁貴女の魔法で、コイツらを仕留められませんか?﹂
騎士の問いに、劇毒と狂奔の魔導士ユキリスは苦渋の表情を作る。
﹁近すぎるのよ⋮⋮普通の毒で殺そうとした時、カマキリと彼女達
96
の距離があまりに近すぎる。巻き添えにしない自信が無いわ⋮⋮﹂
ユキリスは錫杖を抱きながら、弱弱しく答えた。
﹁カマキリにだけ効く毒なんてものは無いのか? 魔導士﹂
ハイネアの尖った声に、
﹁そんな都合の良いものなんてないわよ。カマキリにだけ効いて、
人間にだけ効かないだなんて︱︱﹂
そこまで言って、ハッとした表情で固まるユキリス。
﹁どうしました? 昆虫向けとか魔物向けとか、そういう毒があり
ましたか?﹂
リセの願うような声に、魔導士は首を振った。
しかし、
﹁違うけど⋮⋮有ったわ、方法が。騎士の方々、お願い少しだけ耐
えてて、ちょっと特殊な魔術なの! 時間がかかるわ!﹂
﹁わはー、やってるねー見える見える。かなりの数だよー、アミュ
姉﹂
人狼族の魔物の頭の上に立ち、左手をひさしのようにして額にあて
ている流線形のドレスを纏った剣士が浮いた声で言った。
﹁その﹃アミュ姉﹄というの、止めてくれないかしら? 何度も言
わせないで﹂
縫製の新しい黒衣に身を包んだ魔導士が、人狼の肩の上で表情を曇
らす。
﹁⋮⋮マリス、数の報告はできるだけ正確に、出来うるなら戦場の
状況もわかる範囲で報告を﹂
両手に軍鉄甲を填め、赤い軍装束を身に纏った拳闘士が背後に人狼
を従えて問う。
﹁あーごめんごめんヘミネちゃん。戦ってるのはカマキリ型の魔物
⋮⋮何て言ったっけ? 昔習った気がするんだけど⋮⋮まぁいいや、
それと人間五人、みんな公娼だね。主人役の姿は見えないよ﹂
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その言葉に、魔導士と拳闘士︱︱アミュスとヘミネは頷いた。
﹁駒が増えるわね﹂
﹁同士が増えますね﹂
二人の言葉のニュアンスは僅かに異なった。
﹁良いわ、この﹃支配と枯渇の魔導士アミュス﹄の兵隊として、こ
の人狼共の様に手足として働いてもらいましょう。どちらにもね﹂
アミュスは自らを肩に乗せて運んでいる人狼の頭を思い切り蹴とば
した。
﹁わはー、さっすがアミュ姉だー。凄いね凄いねー、支配魔術! こぉんな大勢のワンちゃん引き連れちゃって、魔導士って最高だね
ー﹂
三人の後ろには、静かに歩む人狼が、三百体ほど続いていた。
ステアとシャロンの眼前で、今の今まで切り結んでいたベリスが膝
から崩れ落ちた。
羽根をブルブルと震わせながら、苦しげに地面を鎌で掻き毟ってい
る。
虚を突かれた騎士達であったが、気を取り直して隙だらけの三体を
襲い、あっさりと首を刎ねた。
繋がれたままの公娼をリセが引きはがし、ハイネアが回復魔術を込
めて右手をかざす。
﹁⋮⋮一体何が?﹂
シャロンの声に、ユキリスは至極真剣な表情で答えた。
﹁対カマキリ限定や対昆虫限定の毒って言うのは持ってないけど、
対男限定の毒ならいくらでも持っているわ。だから、チンコがドロ
ドロになって腐る毒⋮⋮と言うか性病かな? それをかけてやった
わ、それならまぁ彼女達にはあまり影響ないかと思って﹂
ベリスはカマキリの上半身と、人間の男の下半身を持った魔物。
その言葉を受けてハイネアは顔を顰め、倒れ伏した公娼達の陰部に
98
手を当て、そこを消毒する様に回復魔法を強めた。
99
父と娘︵前書き︶
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父と娘
背の高い木の根元に、大剣を携えた半裸の女。
使命を得た騎士である。
騎士セナは思考する。
﹁︵さて⋮⋮任せられたけど、実際どうすればいいんだろう︶﹂
遠距離から、自らの得物を使わずに左胸を穿つ。
難しい注文だ。
何せ時間も用意も無いのである。
セナ達がかなりの速度で移動したため、置いて行かれたユーゴだっ
たが、もたもたとした足取りで追って来ている。
木陰に潜んだセナから見て遥か後方に、豆粒大よりわずかに大きい
︱︱小指の先ほどの大きさのユーゴが見える。
悠長に構えることはできない。
手元にあるのは愛用の大剣のみ、しかしこれは使えない。
ならば、と辺りを見渡す。
都合よく刃物が転がっているわけも無く、葉と木々に視界は覆われ
る。
﹁︵どうする⋮⋮どうすれば︶﹂
セナの額に汗が浮かぶ。
ユーゴの姿が段々と迫ってきているのが見える。
ふと、転んだ。
愚かな父親が木の根に足を取られ、派手に転ぶ様子を見た。
無様に転がり、地面に生えた鋭い草に全身を打ち付ける。
体中を擦りむいた痛みでのたうち回り、近くの木に体をぶつける。
その衝撃で木から落下してきた枯れ枝がユーゴの頭に直撃した。
ユーゴは体を震えさせ、痛むであろう頭を両手で抱え悶絶している。
セナは上を見上げる。
101
今セナが身を隠している巨木は、人間を二十人縦に並べてもお釣が
来るほどに、天に向かってそびえていた。
﹁︵これだ⋮⋮!︶﹂
閃き、笑みを浮かべた騎士は、
己の股間を申し訳程度に隠していた紐を取り外し、装着していたハ
ーフプレートを脱いで、大剣でバラバラに砕いた。
﹁いつつつつ⋮⋮コブになってやがる⋮⋮あーチクショウ、アイツ
らが走って行きやがるからこういう目に遭うんだ。合流したら徹底
的に犯してやるぜぇ、六人縦に並べてよぉ、木の棒五本用意してぇ、
先頭以外の奴の口に咥えさせてよぉ、咥えたまま目の前のマンコに
ぶっ挿す感じにしたらよぉ、六人が連結するよなぁ、そこで俺が一
番後ろの奴のマンコにぶち込んで激しく突きまくれば、全員纏めて
ガンガン犯れて、晴れて主人の面目躍如ってやつだ﹂
ブツブツと独り言を言いながら痛む頭を擦っているユーゴの視界に、
あるものが飛び込んできた。
﹁な⋮⋮セナぁ?﹂
彼の実の娘が生まれたままの姿で巨木の根元に横たわっていた。
辺りには彼女が着ていたハーフプレートの破片が飛び散り、いくつ
かの血痕も跳ねていた。
セナの額や腹、足からも血が流れている。
よくよく見れば周囲の草も荒れ、ここで何らかの争いがあった形跡
で溢れていた。
そして、娘は静かに目を閉じている。
肉奴隷として過ごした絶望の三年間から解放され、穏やかな死をよ
うやく迎えられたかのような表情だった。
彼女の大剣は、巨木の幹に刃を横にして打ち付けられていた。
﹁いったい⋮⋮何が⋮⋮セナ⋮⋮俺の、娘⋮⋮﹂
ユーゴは震える足で、一歩二歩と踏み出す。
102
その顔には涙が浮かび、こみ上がる叫びを喉奥に封じている形相だ
った。
﹁嘘だろ⋮⋮馬鹿な⋮⋮こんなことって⋮⋮﹂
その足取りは、幽鬼。
無意識に手を水平に伸ばし、娘を求める。
﹁まだ⋮⋮ろくに⋮⋮再会してから⋮⋮ろくに⋮⋮﹂
ふらりふらり︱︱
ぽたりぽたり︱︱
振るえる足と、滴を零す瞳。
そして、彼の喉が一段と大きく動く︱︱
﹁まだまだ全然ヤってねぇぇぇぇのにぃぃぃぃぃ! うわああああ
あ俺がどんなに! どんなに! コイツとセックスしてぇぇ、生ハ
メしてぇぇぇと思ってこの三年間過ごしてきたかああああ。せっか
くぅぅぅせっかく娘とヤってもおかしく無い立場になれたのにぃぃ
ぃまだ一回しか中出ししてねぇぇのにぃぃぃ﹂
ユーゴは泣きながら仰向けに横たわる娘の体に飛びついた。
その両手は迷うことなく、形良く盛り上がった胸を掴みあげた。
﹁ああああああ柔らけぇぇぇ。俺が! 俺がどんなにこの胸を揉み
たかったか⋮⋮。ようやく自由に揉めるってのによぉぉお。好きな
だけヤれるってのによぉぉぉ! こいつの仲間の前で中出ししてぇ
ぇ、絶望する表情とかもっと見たかったのによぉぉ﹂
娘の両脚を開き、腰を割り入れる。
怒張した肉棒を取りだして、一気に膣に押し当てる。
﹁俺が三年間でどんだけコイツの映像作品を買ったかぁ⋮⋮。初回
盤も限定盤も全部全部買って、陰毛や墨つかったマンコ拓なんかの
特典も全部集めてたのによぉぉぉ。酷過ぎるぅぅぅ裏切りだぁぁぁ、
あんまりだぁぁぁ﹂
バシバシとユーゴの腰がセナに打ち付けられる。
セナの全身が激しく揺れる。
頭も髪も揺れる。
103
二つ分けにされた髪の先に、植物のツルが結ばれていることにユー
ゴは気づかない。
ツルは背の高い草に隠れて伸びて張り、木に刺さった大剣の柄に伸
びている。
﹁︵やっぱり食い付いてくるわよね、コイツ︶﹂
セナは泣き喚きながら自分を犯す父親を、目を閉じたまま冷笑し、
思考する。
﹁︵第一関門は突破。コイツが死体のフリしたあたしの体に取り付
いて揺すってくれなきゃ始まらないもの︶﹂
胸を揉み、腰を打ち付けるユーゴ。
揺れるセナの体と、髪に括られたツル。
張ったツルが伸びる先、大剣が細かに動いている。
そしてその切っ先は紐に触れている。
彼女の股間を申し訳程度に隠していた紐だ。
﹁︵ツルじゃ簡単に切れすぎるもんね、油断させた後に結果が起き
ないと失敗しちゃうもの︶﹂
彼女の頭部が揺れる度、大剣が細かに動き、紐に食い込んでいく。
そしてその紐の先、ツルが更に結ばれ長く長く伸び、木の天辺へ。
そこに尖った木杭が結ばれていた。
セナは自らの体を傷つけたり、周囲の草木を荒らす事なども含めて、
これらの工作をユーゴが悶絶している間に素早く成し遂げた。
﹁︵砕いたハーフプレートの欠片も重しにしてくっ付けといたから、
落下中に尖った部位が下を向くのは間違いない。後は位置と、タイ
ミングを間違えなければいける︶﹂
落下予測位置は、彼女の真上。
一歩間違えば自分をも殺してしまう位置に彼女は罠を仕掛けた。
なぜなら︱︱
﹁︵どうせコイツは、あたしの中で出すんだし、その瞬間思い切り
前のめりになるはずよ。だってそうしないと、奥の奥に出せないし
ね︶﹂
104
今セナは正常位で犯されている。
射精時に前のめりになるならば、必然その体は覆いかぶさってくる。
それが、木杭を落とす好機となる。
﹁ああああぁぁぁクソぉぉぉぉ死姦のくせにあったけぇぇぇ⋮⋮こ
れが、これが家族の温もりってやつかなぁぁ⋮⋮死んじまってもや
っぱり俺達家族だからなぁ⋮⋮お父さんの事温めてくれてるんだよ
なぁぁセナぁぁ﹂
ユーゴの動きが一段と早くなる。
その顔が紅潮していく。
﹁出す! 出すぞぉぉぉぉセナぁぁぁお父さんからの! 弔いのぉ
ぉぉ一発だぁぁぁぁ﹂
ピュル︱︱と膣壁で射精の一滴目を感じた瞬間。
セナは首を大きく揺らした。
ユーゴの射精時の大げさな動きと相まって、それは死体が衝撃で跳
ねただけにしか見えぬ動きだった。
ヒュッ︱︱落下音が聞こえる。
セナはまだ目を開かない。
監視魔術が作動している現在、王宮にこの作戦を気づかれるわけに
はいかない。
あくまで、死んだふり。
落下する木杭がもし僅かでもズレたならばセナの体を穿つと知って
いても、目を閉じ結果を待つ。
﹁うぉぉぉぉぉぉ届け! 天国に居る娘に! お父さんのぉぉぉ!
ザァァァメェェェン!﹂
ユーゴの体が、更にセナに覆いかぶさる。
膣内で感じる精液も、溢れんばかりに注がれてくる。
永遠にも思えた瞬間が、今終わる︱︱
ガスッ︱︱肉を抉る音が辺りに響く。
そして、
﹁ぐぼぉえ⋮⋮﹂
105
セナの顔に大量の血が吐き出された。
ゆっくりと、彼女は目を開いた。
﹁へっ⋮⋮ハハッざまあ見ろ⋮⋮﹂
虚ろな瞳を全開にし、口から血の泡を吐いた父親の姿が視界一杯に
広がった。
その左胸には、鋭利な木杭が深々と刺さっていた。
間一髪、木杭の先端はユーゴの肉を貫いていたが、骨に挟まりセナ
にまでは届かなかった。
﹁ありがとう⋮⋮お父さん。最後に命がけであたしの事守ってくれ
て、本当にありがとう⋮⋮ねっ!﹂
そう言って彼女は身を起こし、動かなくなった父親の体を蹴り飛ば
した。
蹴り飛ばされた衝撃で、宙を舞うユーゴの体の下、屹立した肉棒か
ら精液の残滓がセナに向けて飛ぶ。
顔に一滴の精液が掛かった。
﹁汚いっ!﹂
セナは巨木から大剣を引き抜く。
装備は全部工作に使ってしまったため、今の彼女は全裸である。
全裸で大剣を構えた騎士は、すぐ近くに転がる死体を無視し、この
先で戦う仲間達の下へ急ごうとする。
その時、茂みで何かが蠢いた。
咄嗟に大剣を向け、威嚇する。
その切っ先には、
﹁えっ⋮⋮と、やぁ?﹂
黒い肌の少年が呆然とした様子で立っていた。
この場所に、人間の男。
それはつまり調教師︱︱主人だと言うこと。
もちろん彼にも監視魔術は施されている。
106
王宮の監視を掻い潜って主人を殺害するという彼女の計画は、
﹁失敗⋮⋮なの?﹂
冷や汗と同時に、父親から注がれた精液が一滴、膣内から零れてき
た。
107
王と騎士の関係︵前書き︶
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108
王と騎士の関係
﹁皆さま、確保です﹂
黒い肌の少年の後ろから現れた大柄な女の口から放たれた命令に、
即座に三つの影が反応した。
虚を突かれたセナは三つの影︱︱公娼達に抑え込まれる。
﹁な、くっ! 離してっ!﹂
全裸のまま組み伏せられたセナは懸命に身を揺するが、抑え込む公
娼達も一流の武人であるようで、拘束を解くことができない。
﹁大人しくしてください⋮⋮悪いようには致しません﹂
不意に、囁かれる言葉。
セナの背を捕まえ、地面に押し付けている一人が神妙な顔で言った。
﹁良いですか? これから王子が貴女を犯します。できるだけ大き
な声で喘いでください。それが貴女の為なのですから﹂
三人の公娼に背中を、腰を、足をそれぞれ捕まえられ、尻を持ち上
げた形に拘束される。
黒髪黒肌の少年︱︱よくよく見ると線の細い美形の少年が、先ほど
号令を発した大柄な女と二三言葉を交わし、ユーゴの亡骸を見る。
二人は頷き合って、セナに歩み寄ってきた。
意外に力の籠った腕で、騎士の突き出された尻を掴む黒肌の少年。
﹁なっ⋮⋮やめっ!﹂
ズニュ︱︱と音を立て、深く肉棒が突き入れられた。
﹁あっ⋮⋮かはっ﹂
後背位の形から奥の奥まで挿入され、セナの体から衝撃として呼気
が飛び出す。
﹁喘いで下さい、大きく、獣のように﹂
セナの耳を噛むようにして顔を近づけてきた大柄な女が囁く。
﹁安心してください。わたくし共は貴女の味方です。状況を察する
109
に貴女はご自分の主人役を殺められた⋮⋮そう言うことでしょう?﹂
騎士の顔に驚愕が浮かぶ。
﹁わたくしはスピアカント国の聖騎士ヴェナ。そしてこちらにおわ
すのはスピアカント国の王子シャスラハール殿下。わたくし共はゼ
オムント国に対して反旗を翻すもの。今貴女を組み伏せている彼女
達も、周囲を見張っている彼女達もすべて目的を同じくする同志。
わかって頂けたなら、さぁほら︱︱喘いで下さらない?﹂
その時、シャスラハールの腰が大きく動き、肉棒が深く深くセナの
子宮を打った。
﹁あっ、くっはああああああああんんん﹂
声は、自然に漏れてきた。
﹁なるほどなるほど、魔術刻印を抉ることによって監視の目を離れ
る⋮⋮と﹂
ヴェナが顎に手を当て、得心したように頷く。
﹁そ、そうよ⋮⋮この男の、はああんんっ! の左胸に刻印があっ
て、それを⋮⋮一撃で抉るために⋮⋮罠を、んっ! 仕掛けたの﹂
﹁いやあああああああああ、王子! 王子凄い! おうじぃぃ﹂
﹁もっとぉぉ、もっと奥までぇぇぇ乱暴にしていいからぁ、王子ぃ
ぃ﹂
セナの体を押さえている公娼達が、シャスラハールの手を借りて喘
ぎ声を放つ。
全ては王宮の耳を騙すために。
﹁説明も無く急にこのようなことを始め⋮⋮申し訳ありません。王
宮の監視魔術を誤魔化すため、僕達は内密な話をする時はこういう
形を取らざるをえないのです。⋮⋮それで、貴女はこれからどうな
さるおつもりですか?﹂
シャスラハールはセナの体に覆いかぶさったまま、申し訳なさそう
な顔で謝った後、小声で問うた。
110
﹁んんっ⋮⋮この先で戦っている仲間と合流して⋮⋮あっ、あああ
あんん。魔物の宝具を手に入れ、ゼオムントを⋮⋮そこに巣食うゲ
ス共を滅ぼす⋮⋮!﹂
セナの切羽詰まった叫びに、シャスラハールは頷いた。
﹁僕達の目的も貴女と一致します。是非、貴女のお仲間ともお会い
したい。しかし、刻印の除去とは驚きました⋮⋮。もしもその方法
が確かならば、こういった事をせずにとも、王宮の目と耳を欺ける。
そうだ! 僕の体に施された魔術刻印がどこにあるか、教えて頂け
ませんか?﹂
シャスラハールはセナを犯すペースを崩さず、ひたすら演技を続け
ながら問いかける。
﹁あ、アンタ⋮⋮! これが演技だって言うんなら⋮⋮ちょっとは
︱︱﹂
﹁﹃アンタ﹄ではありません。シャスラハール殿下、或いは王子と
お呼びなさい。騎士よ﹂
セナの耳元に座し、シャスラハールの首筋に舌を這わせていたヴェ
ナが、視線を鋭くして言い放った。
﹁あ、あぁ良いんです騎士さん。僕のことは何とでもお好きにお呼
び下さい。ヴェナ、彼女は僕達の仲間になってくれる人だよ? 脅
しつけたりしないでくれよ﹂
シャスラハールは自分の体を嘗め回すヴェナに苦言する。
﹁しかし王子、貴方はこれから先ゼオムントを滅ぼし、スピアカン
トの再興を成される御方。一介の騎士程度に軽んじられては、付き
従うものの士気にも影響いたしますわ。どうかご自身の事を正しく
認識なさいませ﹂
聖騎士は少年の胸に頭を潜りこませ、その乳首を舐めしゃぶる。
﹁くっ⋮⋮ヴェナ、そこはいけない⋮⋮。僕が王子になるのは、西
域を攻略し魔物の軍勢を従えたその時だ。その時が来るまで僕は⋮
⋮ゼオムントに与えられた偽りの身分、調教師としてのただの小僧
でしかない⋮⋮よ﹂
111
シャスラハールの肉棒が、セナの膣肉を抉る。
﹁︵ただ乱暴に犯す⋮⋮って言うわけじゃないみたいね︶﹂
王宮に疑われない程度のストローク、腰の動きでセナを犯しながら
も、その手つきにユーゴや他の凌辱者にあった汚らわしさや粗暴さ
は感じられない。
﹁ダメです。王子、王子は誰よりも偉く、高貴で在らなければなり
ません。一介の騎士は駒。協力助力には褒章を持って応えればよろ
しい。その言葉や無礼な態度にへりくだる必要など、どこにもない
のです﹂
ヴェナはシャスラハールの乳首を激しく舐め扱きながら、空いた手
で彼の腰を押さえる。
それはセナの中からシャスラハールの分身が抜ける事を防ぐ為の手
だった。
﹁あっ⋮⋮ダメ! ヴェナ。それ以上舐めないでくれ!﹂
シャスラハールの腰が慌ただしく動く。
﹁んんっ! 激しっ! あっ、あっあああん! やめ、止めなさい
よ!﹂
セナの息遣いも、荒々しく響く。
﹁存じておりますよ、王子。王子は乳首を舐められると昂られます
わ。このヴェナが誰よりもその事を存じております。さぁ、思うま
ま、思い切り射精なさってください。この、騎士に﹂
忠誠を。
膣に射精させる事で、シャスラハールとセナの間に上下関係を強制
的に作りだし忠誠を強いる。
ヴェナは強気で不遜な騎士に対して、生殖動物的根本からの服従を
迫ってきたのだ。
﹁あ、ああっ! 出る! 出ちゃう⋮⋮ヴェナ離して! このまま
膣内に出ちゃうよぉぉ!﹂
未だ十代のシャスラハールの若い体は射精感の高まりからは、逃れ
られない。
112
一回一回、セナの膣に肉棒が擦れる度に、痺れるような感覚が股間
と脳を襲う。
﹁勘違いなさらないことね、騎士よ。貴女はシャスラハール様の同
志としてこの西域攻略を手助けする。その後のゼオムント攻略にも
従軍する。けれど対等な仲間ではない。ただの同志、或いは部下と
して付き従うのですよ。その事を、よぉく心に刻んで下さいね﹂
ヴェナの手がシャスラハールの腰を強く押す。
﹁あっ! 出るぅぅぅぅ。出ちゃうぅぅぅぅ﹂
シャスラハールは喉をのけ反らせ、体をガクガクと揺らす。
その体が、斜めに傾いだ。
﹁え⋮⋮?﹂
セナはこの三年間身に染みて味わってきた中出しの感覚を感じなか
った。
咄嗟に振り返ると。
飛び散る白い飛沫が顔に掛かった。
シャスラハールの体は後ろに引き倒され、膣内で放たれるはずだっ
た精は、虚空を舞っていたのだ。
﹁貴女⋮⋮! 助けられた恩を仇で返しますの?﹂
ヴェナが厳しい表情で睨みつける。
その先には︱︱
﹁フレア⋮⋮?﹂
セナの元同僚、リーベルラント騎士国家の百人長フレアが、シャス
ラハールの背中を抱き寄せていた、
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介入者︵前書き︶
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介入者
王宮内の豪奢な貴賓室で、事の顛末を見守る男が居た。
ゼオムント国魔導長官オビリス。
魔法により映し出された映像には、シャスラハールとセナの性交、
そしてその後の混乱が見て取れた。
﹁突然見つかる騎士セナの死体⋮⋮それを発見し死姦していた調教
師ユーゴの死亡。調教師シャスラハールの登場で騎士セナの死体は
偽りとわかる⋮⋮すぐに性交、そして本来シャスラハールの組では
無い公娼の介入。ふむ﹂
不可解な点の多さに、オビリスは首をかしげる。
﹁ゴダン、君はこれをどう見る?﹂
傍に控えていた王宮魔導士に問いかける。
﹁十中八九、企んでおりましょうな。騎士セナも調教師シャスラハ
ールも。どの類の企みかは存じませぬが、シャスラハールの方に関
しては警戒に値するかと﹂
ゴダンは柔和な印象の顔を崩さぬまま答えた。
﹁ほう、その意図するところは?﹂
﹁この小僧には楽しみという感情が観察できませぬ。ユーゴや他の
調教師であれば公娼相手に凌辱する際、邪な愉悦を行うものであり
ましょう。しかしこの小僧、いまいち誠実すぎると申しますか、和
姦、或いは目的を異とする性交にしか見えませぬ。現に相手をして
いる公娼達の喘ぎ声もどこかそう⋮⋮嘘くささが拭えませんな﹂
オビリスは頷く。
﹁結構。僕の見解もほぼ同じだ。公娼が立場の逆転を狙う為に何ら
かの行動を起こすことは織り込み済みだが⋮⋮まさか調教師の中に
造反者が出るとはね﹂
魔導長官にして今回の西域派遣の最高責任者である彼の視線が細ま
115
る。
結論を急ぐべきでは無いが、異変を異変として認識するよう彼の脳
は強く求めたのだ。
映像を巻き戻し、今一度精密に観察しようとした時、不意に背後か
ら声がかけられる。
﹁面白そうな話をしているではないか、俺にも聞かせておくれ﹂
貴賓室の扉を開け体を潜りこませてきたのは、赤と白、そして金糸
で装飾された衣装を身に纏った少年。
﹁⋮⋮これは、リトリロイ殿下。ご機嫌麗しゅうございます﹂
﹁うむ﹂
細身の体に鋭い印象の眼差し、輝く金色の髪をした少年の名はリト
リロイ。ゼオムント国第三王子である。
翌年に成人の儀を控えた彼は、王宮内で仕事こそ持たないものの、
いずれ政務にあたる為の見学として様々な場所に首を伸ばしていた。
彼がやって来れば賓客として相手をしなければならず、業務に支障
が出るため、王宮内では陰で厄介者扱いされている。
彼の後ろに付き従う影がある。
胸の谷間と腰に大胆なスリットの入った白い一枚布のドレスを身に
纏い、肩に銀の装甲をはめ、長い金髪を銀色の羽根つき兜に納めた
美しい少女だった。
﹁ほら、セリス入りなよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ハッ﹂
王子の言葉に短く頷いて応え、入室してくる。
オビリスはその者の事を知っていた。
まず間違いなくゴダンも同じだろう。
騎士公娼セリス。
敗戦国から徴収された公娼でありながら、このゼオムント最強の勇
を誇る乙女。
その美貌も群を抜き、護衛に愛玩にと、貴族連中や大手の調教師等
がこぞって彼女の管理権を求めたが、このリトリロイ王子の強権に
116
よって独占され、今日の今日まで民や臣に指を触れさせぬ唯一の公
娼︱︱それが彼女だ。
セリスを従えたリトリロイが室内を見渡す。
﹁ふむ⋮⋮良い部屋だな。魔導の最先端技術に溢れ、警備も厳重だ。
流石は魔導長官殿の私室であるな﹂
王子と視線が合い、臣下の礼を取るゴダンの姿がある。
﹁⋮⋮殿下、この部屋の前に衛兵が詰めていたはずですが、彼らは
?﹂
オビリスは趣味を兼ねたこの西域遠征の監視を邪魔されるのを嫌い、
ゴダンや一部の人間を除く誰の入室も許可していなかった。
誰であろうと、絶対に。
衛兵達にはそう言い含めていたはずだ。
﹁あぁ、アイツらか。不遜にも俺の行動を阻もうとするのでな、セ
リスに無力化させた。安心せよ、命は取っておらん。不敬とは言え
愛する我が国民であることには変わらんからな﹂
クックと笑うリトリロイの姿を眺めながら、オビリスは心の内で驚
嘆する
三十人。
それが、この部屋への他者の侵入を拒むために用意した、オビリス
の私兵︱︱精鋭だ。
それもまったくこちらに気づかせず、音も立てず無力化したという。
白と銀の鎧を纏った公娼の武勇は、この場に、いやこの王宮に居る
誰よりも強大で、絶大なのだ。
﹁して、魔導長官よ。卿はその異変にどう対処するのだ?﹂
王子はさも楽しげに映像魔術を見やる。
﹁対処⋮⋮そうですね。公娼が調教師を殺害するなど前代未聞、あ
ってはならぬ蛮行。これが真実であるならば、殺害した公娼、関与
した公娼の人質や祖国に制裁を加えねばなりますまい。それに調教
師シャスラハールの動向も気になるところです﹂
一度息をつき、声を落ち着かせる。
117
﹁調査員の派遣、ですかね。王宮の魔導士であれば刻印魔術の痕跡
から状況を調べ上げることも可能です。誰か人を遣って︱︱西域の
魔物の事もありますので部隊ですかね、調査部隊を派遣し、報告さ
せます。並びにシャスラハールの組を追跡させ、不穏な動きがあれ
ば処分できるように、っというところですかね⋮⋮はぁ﹂
オビリスの認識では、公娼は一人頭でかなりの戦力になる、
数人や数十人の部隊でもし彼女達と争うような事になれば、逆に全
滅しかねない。
少なくとも兵員は五百、願わくは千欲しいところであった。
しかし、彼は魔導士の長であって兵士達の指揮官ではない。
自由に動かせる兵などそれこそ百を割る程度だ。
どこかで将官と接触し、兵を借りなければいけないか⋮⋮と内心辟
易する。
彼は魔導士。
頭脳の力で名声を成してここまで上り詰めた。
故に、戦場で鉄の塊を振るう野蛮な兵とその指揮官達を心底馬鹿に
している。
﹁そうか! 良しわかった。ならばその役目、俺が果たそうじゃな
いか!﹂
オビリスの視線が、リトリロイの顔に固定される。
﹁殿下⋮⋮何と?﹂
﹁兵も物資も俺が用意しよう。もちろん現場の指揮も俺が執る! 安心しろ、万が一など起こらぬ。俺にはセリスがついているからな
! 魔導士に関しては専門外故、そちらから人員を裂いてくれ、長
官﹂
王子は快活に笑いながら言った。
オビリスはその言葉を受け、思案する。
十秒ほど頭の中で考えた後、一度頷き、これまでに無く丁寧な口調
で語りだした
﹁王子を西域へ送るなどと⋮⋮臣として大変に不敬ではございます
118
が、何分私には兵員の当てがございません。もしお言葉に甘えさせ
て頂けるようでしたら、このオビリス。伏して御身にお願い申し上
げたい思いです﹂
そして言葉の通りに頭を下げた。
﹁あぁ、任せておけ。明日にでも出発できるよう、父王に掛け合っ
て来る﹂
踵を返すリトリロイの背中に、オビリスは声をかける。
﹁こちらからは魔導士ゴダンとその補助役数名を同行させます。こ
の者は魔導士としての才も人柄も大変優れた男。必ずや道中私の名
代として御身の為に献身し、この旅の派兵の成功に尽力することで
しょう﹂
おうおうと右手を適当に振ってリトリロイは応え、セリスを伴って
部屋を出て行った。
足音が遠ざかって行くのを、オビリスとゴダンは頭を下げた姿勢の
まま聞いていた。
やがて完全に二人の気配が無くなった辺りで顔を上げ、目配せする。
﹁やれやれ⋮⋮三日後に娘の学業参観が控えておりますのに⋮⋮殺
生でございますなぁ長官﹂
﹁すまないね。帰ってきたら特別休暇が取れるように取計らってお
くから、今回の件はよろしく頼む﹂
愚痴るゴダンに向けて薄い笑みを浮かべながらオビリスは謝る。
﹁仕方がありませんなぁ⋮⋮刻印魔術の痕跡調査に、シャスラハー
ルの監視。そしてリトリロイ殿下の御守までとは⋮⋮﹂
やれやれと肩を落とすゴダン。
﹁殿下の身の安全については、仰っていたようにあの公娼⋮⋮セリ
スに任せておけば良いさ。ただ彼の我が儘に振り回されることだけ
は覚悟の上、耐えてくれ。あぁそう、供の者だが︱︱﹂
そしてオビリスは虚空に手を叩いた。
部屋の隅、ふらりと立ち上がる人影。
痩せ形の初老の男が、近づいてきた。
119
﹁ゾートを付けよう﹂
ゾートと呼ばれた男が、ゴダンに黙礼する。
﹁ゾートさんですか⋮⋮。これはこれは⋮⋮長官、本気でございま
すなぁ﹂
ゴダンの頬に浮かぶのは、笑み。
オビリスの頬にも同じものが浮かぶ。
﹁そうさ、反逆した公娼にはこれまで以上の責め苦に遭って貰わな
いといけないからねぇ。このゼオムント国認定昨年度最優秀調教師
ゾートの力を持って、彼女達を極限まで辱め、貶めて来てくれたま
え﹂
魔導長官の瞳は、少年のように輝いていた。
﹁セリス⋮⋮いよいよだよ⋮⋮﹂
少年の右手が伸びる。
﹁うん⋮⋮頑張ろう、リト﹂
少女の左手がそれを受け入れる。
支配国の王子と敗戦国の公娼の手が、穏やかに結ばれた。
120
集合︵前書き︶
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集合
﹁騒がしくなってきましたね⋮⋮﹂
森を駆ける一団の先頭、ヴェナが口を開いた。
﹁戦場が近いと言うことだな。姉上達がそこで戦っているのだろう。
急がねば⋮⋮攫われた二人は必ず救出する!﹂
追走する騎士、フレアの顔に必死さがうかがえる。
﹁飛んで行った魔物に括りつけられた人間を見たけど⋮⋮フレアの
仲間だったんだね⋮⋮って言うかアンタ⋮⋮大丈夫なわけ?﹂
フレアのすぐ隣を走りながら、セナは同僚の剥き出しになっている
尻を見やる。
どうやら深手を負っていたらしく、走ることで傷口が開き、血がダ
ラダラを零れていた。
﹁問題ない! この程度の傷など、月のものにも劣る! っぐ﹂
どう見てもやせ我慢にしか見えなかったが、セナにとってこの同僚
は良く知る間柄であり、彼女の強情さについては諦めている部分も
あるので、黙って受け入れた。
﹁セナさん⋮⋮でしたわね。改めて確認いたしますわ。王子に施さ
れた刻印魔術について調べる方法を持つ魔導士が、貴女のお仲間に
いる⋮⋮そういうことで間違いありませんね?﹂
ヴェナが振り返りもせずに問うてきた。
﹁えぇ、アタシと同じ組のユキリスって魔導士が魔法を使って見つ
けられるわ。けど実際に触れたりして入念に探らないと見つからな
いらしいから、王子に近寄って貰わないとダメね﹂
現在セナとヴェナ、そしてフレアの三人が若干先行する形で走り、
シャスラハールと他の五人の公娼は少し遅れて一塊になって付いて
来ている。
ちなみに先行する三人はそれぞれ違った理由ではあるが、全裸であ
122
る。
セナはユーゴを殺害するために鎧を砕き、フレアは魔物の集団に着
ていたアーマーを破壊され、ヴェナは聖騎士の徳行により実力の劣
る他の公娼に装備を分け与えているからだ。
﹁結構。では王子にそのユキリスさんを抱いて頂きましょう。事情
の説明は貴女にお任せしますわ。なるべく戦場のゴタゴタの間に済
ませて頂きたいので、到着し次第貴女は王子を連れてその方の所へ
向かってください﹂
仲間の体を差し出すことの了承を自分が勝手にして良いものかと内
心の葛藤を抱きながらも、シャスラハールに施された監視魔術はこ
れから先厄介に違いないので早急に排除すべきであり、セナは自身
が責任を持ってユキリスに説明することを決意し無理矢理納得した。
わかったわ、とセナは応じ、隣のフレアを見る。
﹁フレア、アンタのその傷を治してくれる治療士も一緒に居るから、
とりあえず戦う前にその子の所に行きな。一番ちびっちゃい子で、
唯一全裸の子﹂
﹁この程度の怪我などたいしたことは無いと言っている⋮⋮! が、
救うべき命がある身だ、万が一傷が元で失敗となっては悔やみきれ
ん、応急処置程度はお願いしよう﹂
フレアが眉根を寄せて頷く。
その尻からは止めどなく血が溢れていた。
﹁森を抜けます! 全員、気を引き締めなさい!﹂
ヴェナの叫びと共に、セナは視界を遮る深い緑の領域を抜け出した。
﹁⋮⋮何? これ⋮⋮﹂
呆然と、呟きが零れるのをセナは感じた。
目の前に広がるのは戦場。
それは予測していた。
彼女の上司にしてフレアの実姉であるステアに率いられた自分の仲
123
間達が先行してカマキリ型の魔物︱︱ベリスと戦っているはずだっ
たからだ。
しかし、目の前の光景はそれを裏切った。
カマキリを食い千切る、人狼。
人狼の集団に襲い掛かられ、無様に肉片に変わっていくベリス達。
よくよく見れば、人狼の集団に人間も混ざっていた。
﹁キャハハハハ、そぉれぇ、刎ねるよぉ! 首が要らない子からこ
っちにおいでよー、マリスと遊ぼうよー!﹂
湾曲した長刀を握ったドレスの少女がベリスの首を斬り落とし、転
がったそれを蹴り飛ばしている。
﹁マリス、集中しなさい。破ッ!﹂
赤い軍装束を着た妙齢の女が、気合と共に拳を振りぬき、ベリスの
上半身を消し飛ばしている。
人狼達はその二人を守る様に、また援護する様に動き、ベリスを追
い詰め根絶やしにしていく。
﹁あれは⋮⋮マリス! それにヘミネ⋮⋮か﹂
セナにとって聞き覚えの無い名を、フレアが呟いた。
﹁あちらを見なさい!﹂
不意にヴェナが声を上げる。
その視線の先に、人狼の群に包囲された人間達が居た。
﹁騎士長! それにみんなも⋮⋮! ヴェナさん、あそこにユキリ
スも居るわ、包囲を突破して助けに行かないと﹂
セナは大剣を構え、目の前を通り過ぎようとしている人狼に向けた。
その時、
﹁お止めなさいな、その子は貴女の敵ではないわ⋮⋮今のところは
ね﹂
ステア達を包囲している人狼達の中から落ち着いた声音が聞こえた。
﹁あら、フレアじゃない。生きてたの? 貴女に付いて行った二人
がこの様だったから、てっきり高潔な騎士殿である貴女は討ち取ら
れたか自害したものかと思っていたわ﹂
124
銀色の髪をした黒衣の女が、人狼の肩の上から声をかけてきた。
彼女の隣に居る人狼の腕の中には、ひどく衰弱した全裸の女が三人、
抱きかかえられていた。
フレアと行動を共にしていたのはサディラとレナイと言う名の二人
という事だったが、もう一人囚われの公娼が居たということだろう
か。
﹁⋮⋮アミュス⋮⋮貴様﹂
フレアは黒衣の女を睨みつける。
﹁とりあえず、この狼ちゃん達を傷つけるのは止めてあげて。この
子達は魔物だけど今は私の忠実なる僕︱︱支配と枯渇の魔導士アミ
ュスの生きた人形よ。そして私は今貴女達と争う気は無いの﹂
フレアとアミュスの会話に、人狼に囲まれていた集団から声が上が
る。
﹁フレア? フレアなのか?﹂
﹁セナ⋮⋮無事のようですね﹂
﹁それより、後ろに知らない人達がいるわ⋮⋮主人役も居るみたい
だし﹂
ステア、シャロン、ユキリスの順に反応していた。
﹁もちろんこの人達と争う気も無いわ。私がしたいのは手駒の実力
確認。この人狼族の性能を見たかったのよ。もうかなりこちらが優
勢なのだけれど、良ければ貴女達も手伝ってくれない? このカマ
キリ退治をね﹂
アミュスはそう言って、指を鳴らす。
その音に反応し人狼族は猛り吠え、更なる突進を行う。
ベリスの集団は押されながらも、魔物の習性からか戦闘に意欲的に
なり、切り結んでいる。
﹁あの二人が無事ということなら⋮⋮是非もない。この場は一先ず
アミュスに手を貸す﹂
﹁そうね、それが良いと思うわ。これからやることの為にも争いで
場が乱れることは必要だもの﹂
125
フレアが決意したことを受け、セナも同意する。
﹁それでは、手筈通りに頼みますわ。貴女達の騎士としての力量、
聖騎士たるわたくしが判じて差し上げます﹂
そう言ってヴェナはシャスラハールの周りを囲んでいた五人の公娼
を伴い、戦場に突入していった。
﹁えっと⋮⋮僕はどうしたら⋮⋮?﹂
﹁アンタはこっち! 離れないで﹂
セナはシャスラハールの手首を握りしめ、一緒に駈け出した。
二人の前にフレアが立ち、大戦斧で道を切り開いていく。
猛進する人狼を躱し、立ちはだかるベリスを斬り潰しながら、戦場
のほぼ中央に居るステア達に合流した。
﹁セナ、これはどういうことだ? その男は何者だ? なぜフレア
が一緒に居る?﹂
矢継ぎ早に繰り出されるステアの質問。
﹁フレア、貴女酷い怪我⋮⋮。どうしたのですか?﹂
フレアの尻から零れる血を見てシャロンが瞠目する。
﹁それよりどうなったのよ? あの男のことは? ちゃんと始末で
きたの?﹂
ユキリスが切羽詰まった調子でセナを詰問する。
﹁それよりまずはこの状況をどうにかせんと、妾達は戦場の真った
だ中なのだぞ?﹂
ハイネアが周囲を見渡し、飛び交う血と肉を避けながら言った。
﹁判断は皆さまにお任せいたしますので、私はここでどう動けばい
いのでしょうか?﹂
リセがハイネアを背中で庇いながらオロオロとしている。
﹁︵あぁもう⋮⋮!︶﹂
五人から一斉に迫られ、セナは余裕を失う。
シャスラハールの事情やユーゴの顛末などを説明したくとも、大声
を出せば監視魔術によって王宮に聞かれるかもしれない。
そう考えると、取れる手段は一つだった。
126
﹁ハイっ! ほら、さっさと挿れなさいよ!﹂
セナはシャスラハールに向けて全裸の尻を突き出した。
﹁えっ⋮⋮はい、失礼します!﹂
シャスラハールの両手がセナの腰を掴み、勢いよく肉棒を突き出す
が︱︱
﹁あっ⋮⋮﹂
戦場と言うことも関係しているだろうが、シャスラハールの分身は
緊張で縮こまったままであり、とても挿入できる状態ではなかった。
﹁何やってんのよアンタ! 調教師でしょ? 常に勃たせときなさ
いよ!﹂
﹁いえ⋮⋮あの、すみません⋮⋮﹂
セナは自分の咄嗟にとった行動と、それが上手くいかず場が微妙な
雰囲気になったことに赤面し、シャスラハールを怒鳴り上げた。
﹁落ち着けセナ! ここはわたしに任せろ!﹂
フレアが言い、シャスラハールの黒絹の肌に触れた。
やや斜めから少年に密着し、唇で乳首を舐めしゃぶり、左手で肉棒
を、右手で陰嚢を揉みしだく。
﹁あ、あああああああっ! ダメ、乳首はダメ⋮⋮!﹂
シャスラハールは乳首が性感帯であると、以前にヴェナが言ってい
た通り、そこを刺激すると簡単に肉棒が持ち上がってきた。
﹁流石ね! フレア良い仕事よ! さぁさっさと挿れて、説明する
前にイッちゃったら意味ないでしょ﹂
喉をのけ反らせて喘ぐシャスラハールの背中をフレアが押し、少年
の分身は騎士の膣内に収まった。
﹁ああああああああああっ! すごいぃぃぃ、オマンコの中もぉぉ
ぉ乳首もぉぉぉあああ﹂
紅潮した頬の少年が吠えるように声を上げる。
﹁それでね、聞いて皆︱︱﹂
セナが五人の仲間達を見ると、
全員が何とも言えない微妙な表情をしていた。
127
シャスラハール組流の監視妨害テクニックについても一通り説明し、
セナはどうにか五人に現状を伝えることができた。
フレアは少し離れたところでうつ伏せの体勢で尻を突き出し、ハイ
ネアの治療術を受けている。
リセはその二人の護衛としてそこに張り付いている。
﹁こちらの王子様の刻印を除去と言いますけど、むしろ調教師と言
うことなら殺してしまってもいいのでは?﹂
自身が地面に横たわり腰の上にユキリスを乗せた姿のシャスラハー
ルを見つめながら、シャロンは言った。
﹁そうは言ってもゼオムント打倒の大望を抱く王族だろう? まぁ
目的が一致していないわけでもないし、あそこで桁違いの戦闘力を
発揮している聖騎士殿が庇護者と言うわけだ、下手に手を出して戦
闘になったとして勝ち目があるかどうか⋮⋮わたしにも自信が無い
な﹂
ステアが戦場の最も激しくぶつかり合っている地点を見やり、そこ
で血飛沫を巻き上げているヴェナの姿を見ながら呟いた。
﹁私見ですけど⋮⋮コイツはまぁ悪い奴じゃないですし、ゼオムン
トへの復讐心以外にも正義や道徳の心も持ち合わせているらしいの
で⋮⋮あぁ、フレアが命の危機だった時に飛び出して救出したそう
です。もしかしたら期待できるんじゃないかなぁと⋮⋮﹂
セナがいまいち自信無さそうに言う。
三人は今睦みあうシャスラハールとユキリスから数歩離れた位置に
立ち、事の成り行きを見守っている。
その時、不意にユキリスが笑い声をあげた。
彼女の細くしなやかな手がシャスラハールの右手を掴みとり、その
肘の辺りに口をつけ、舐めた。
舌が離れ、糸を引く箇所が薄く発光する。
﹁刻印を発見したようだな﹂
128
ステアの言葉に、シャロンとセナが頷いた。
129
これから︵前書き︶
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130
これから
ユキリスがゆっくりと腰を上げ、シャスラハールの体から離れてい
く。
抜け落ちた肉棒を天に向けたまま、黒肌の王子は己の右手を見やっ
た。
肘の辺りに魔術が作用し、薄く光っている。
ユキリスの視線が、その場所の意味を教えた。
﹃刻印魔術﹄
調教師と王宮の魔導士を結び、そこからさらに全国民へと繋がる魔
導の糸だ。
﹁良かった⋮⋮﹂
シャスラハールは呟く。
先ほど死体になって転がっていた調教師︱︱セナ達の主人役の様に
左胸に有ったならばどうしようかと考えていた。
しかし、右腕。
これならば︱︱
おもむろにシャスラハールは立ち上がった。
難しい表情をしてこちらを見守っているセナ達三人の騎士の方を見
る。
シャロンなどは努めて表情を消し、腰に提げた剣の柄を握っている。
﹁お、おい⋮⋮﹂
全裸の騎士セナが近づいてくるのを目で制し、戦場を見やる。
公娼と人狼の勢力は、カマキリ型の魔物︱︱ベリスを圧倒していた。
しかしまだ、決着には程遠い。
ベリスは宙を飛べる。
獣に追い立てられ、いよいよ追い込まれると空へ上がり、そこから
先は隙をついての急襲戦術に切り替えていた。
131
急降下してくるベリスの鎌に人狼の耳が、目が裂かれ血の華を咲か
せる。
怒り狂った人狼が吠え、飛び跳ねてベリスを引きずり落とし、地面
に叩きつけて食い千切る。
戦場は大盛況であった。
﹁皆さん、僕に付いて来ないでください﹂
シャスラハールは駆ける。
人狼の肩を掴み、勢い込めて地を蹴り、彼らの頭上に立つ。
視界が開けた。
そしてこちらを見るベリスの事もよく見える。
﹁な、おい! 危ないから! 降りて﹂
セナが人狼の体をかき分けるようにして付いて来るのを見て、薄く
笑う。
﹁大丈夫です! セナさん。見ていてください⋮⋮!﹂
シャスラハールに二、三体の人狼の頭を跳ねる様にして助走をつけ、
﹁はっ!﹂
左手に黒曜の短刀を握って空中のベリスへと斬りかかった。
シャスラハールの会得した短刀格闘術は、ゼオムントの支配から身
を隠す間、庶民に混じって習得した喧嘩術の延長のようなものだ。
突き刺し、斬りかかり、投げつける。
その単調の繰り返し。
故に、真っ直ぐと手は伸びた。
ベリスの鎌は事も無げにそれを迎え撃つ。
鎌が、空を奔る。
﹁⋮⋮せいっ!﹂
黒肌の王子は、薄く光る右腕を突き出した。
舞い上がる血飛沫。
跳ね飛ぶ右腕。
シャスラハールは左手で攻撃するように見せかけ、魔物の鎌によっ
て右手を断たせたのだ。
132
これにて、セナ達への王宮の監視は断たれた。
右腕を失い、空中でバランスを失い落下する少年めがけ、セナは駆
ける。
背後からシャロン達の息を飲む声が聞こえる。
﹁馬鹿⋮⋮何やってんのよ! 頼まれれば⋮⋮アタシが斬ってあげ
たわよ⋮⋮! その位の覚悟、有ったに決まってんでしょ⋮⋮﹂
少女の口元は歪み、言い訳がましい声が零れた。
﹁御仕舞ってところかしらね﹂
アミュスが指笛を吹き、人狼達に合図する。
全ての人狼が膝を折り、大地に身を落とした。
彼女の見る範囲全てに、血肉が転がっている。
人狼の、ベリスの肉片。
幸いと言っていいのか、人間の女の肉はどこにも見当たらなかった。
すぐ後ろで声が聞こえる。
﹁無能⋮⋮或いは失格、落第と言い換えましょうか。守るべき対象
に傷を負わせてしまうなど、騎士として失格も良いところです﹂
両手を豊満な胸の下に組み、憤怒の表情で若輩の騎士を睨むヴェナ
の姿が見て取れた。
﹁⋮⋮言い訳はしない。もっと適切な方法が有ったかも知れないの
は事実だと思う⋮⋮﹂
セナは打ちひしがれた様子で項垂れている。
﹁ヴェナ⋮⋮セナさんを責めないでくれ⋮⋮これは僕が咄嗟にやっ
たことで⋮⋮彼女は何も悪くないんだ﹂
シャスラハールは腕の切断面を水平にして掲げ、ハイネアの治療を
受けている。
﹁いいえ、王子。わたくしは確かにこの者に対して王子に同行する
よう指示しました。騎士たる者が護衛対象の身を守れないだなんて
⋮⋮﹂
133
ヴェナの叱責が続き、セナの懺悔も続く。
ステア達がその姿に痺れを切らし、セナの擁護に入ろうとした時、
﹁でー? これからどうすんの?﹂
甘い声が聞こえた。
シャスラハールの眼前に、二つのふくらみが突き付けられる。
胸元の開いたドレス姿で前屈みになって彼の顔を覗き込んでいるマ
リスの姿があった。
﹁あっ⋮⋮あの⋮⋮﹂
全裸姿のヴェナやセナとはまた違う、着衣での刺激にシャスラハー
ルの目は大いに泳ぐ。
﹁ん? あ、なーにー? 君マリスのおっぱい見てたのー? 殺し
ちゃうよー? いいー?﹂
ケタケタと笑いながら曲刀を手繰るマリスの手を、軍装束姿のヘミ
ネが止める。
﹁よせ、マリス。⋮⋮しかし私も確認しておきたい。今後どうする
か、貴女方は我々と目的を同じくするはずだ。同志として共に戦っ
ていく道もあるだろう。が、そこには一つ懸案がある﹂
厳めしい表情のヘミネは周囲に居並ぶ公娼の顔を見渡す。しかしそ
の際意図してシャスラハールには視線を送らなかった。
﹁それはどういう意味か⋮⋮申してみい﹂
シャスラハールに止血処置を施し、一段落ついた様子のハイネアが
彼女に問う。
﹁⋮⋮ご質問にお答えする前に、まずは御身のご無事をお祝いする
事をお許しください。王女殿下﹂
ヘミネは腰を折り、礼を尽くした挨拶を行った。
﹁あら、ヘミネ? そちらお知り合い?﹂
アミュスが近づきながら、同志に問う。
﹁リネミア神聖国⋮⋮私の祖国の王女殿下だ。敗戦後に公娼にされ
たとまでは聞いていたが⋮⋮まさかこの地にまで連れて来られてい
るとは、臣としての己の不甲斐なさ、恥ずかしく思う﹂
134
へぇ⋮⋮と頷き、アミュスはハイネアを見やる。
その視線を遮るかのように、リセが護衛対象の前に立った。
﹁⋮⋮何よ?﹂
﹁貴女から⋮⋮危険な雰囲気を感じます。それ以上ハイネア様に近
寄らないでください﹂
剣呑な空気が、辺りに満ちた。
その時、
﹁状況を整理しよう﹂
騎士長ステアの声が上がる。
﹁今この場には三つの組が存在しているはずだ。一つはわたし、シ
ャロン、セナ、ユキリス、ハイネアとリセの六人。初期で組まされ
た班のままの陣容だな﹂
シャロンがその言葉に頷き、後を継ぐ。
﹁そしてシャスラハール王子と聖騎士ヴェナ様の組。そこに同行す
るフレアとベリスに捕らえられていた方が二名⋮⋮いえ、この場で
助けた方も含めると三名ですね。その合計十一名﹂
元々フレアと行動していたのは二名だったが、ベリス達はそれ以前
にヘスティア王女の組を攫っていて、その生き残りが一人救出され
ている。
フレアが全快とは言い難いが、そこそこ復調した尻を撫でながらア
ミュス達を見る。
﹁最後に貴様らの組だ。魔導士アミュスとヘミネ、マリスの組。姉
上の組とは違い無計画に調教師を殺したため、まず間違いなく王宮
に追われる組だ⋮⋮﹂
あら⋮⋮とアミュスは笑った。
﹁そこは別に問題ではないわ。追手が来るなら来るで、この子達に
倒してもらいますもの﹂
ガスッ︱︱と肉を打つ鈍い音が響く。
アミュスが人狼の体を強烈に蹴ったのだ。
﹁わたしの支配魔術が効いている限り、この子達は忠実な僕。軍隊
135
でもない人間の追手など、魔物の集団に勝てるわけが無いわ﹂
ベリスとの戦争により、人狼の数は僅かに減ってはいるが、未だに
群としてかなりの戦力を維持しているはずだ。
﹁話を進めやすくする為、ステア組・シャスラハール組・アミュス
組と呼称しようか。この内わたし達ステア組は完全に自由となる。
目的が魔物の宝具であることは同じだが、ここから先の行動に制限
はない﹂
騎士長は槍に付着した魔物の血を拭い取りながら言った。
﹁しかしシャスラハール組、こちらの方は多少違いがあるな。まず
負傷者を三名抱えている事。これはハイネア王女の治療術でも回復
不能な⋮⋮足の切断だ。まずこの点について確認しておきたい、シ
ャスラハール組はこの三名をどう扱われる?﹂
ステアの問いにヴェナが答える。
﹁無論、共に旅をし、結末まで共有するつもりですわ。聖騎士とし
てわたくしの力の根源は正しき行いに宿るものです。この場で彼女
達を見捨ててはこれまでの生もこれからの戦う力をも失ってしまう。
それに我が王子であるならば夢にもその様な判断を為さいません。
彼女達が王子を主と認める限り、その身の安全を保障しましょう﹂
ヴェナの言葉に、シャスラハールは頷く。
﹁わかった。わたしも騎士としてその判断は必然だと考える。助力
も出来る限り行いたい。フレアに関しては元々わたしの妹であり部
下だからな、フレアがこちらに来ると言うのならば、全員と話し合
う必要はあるが同行する者も受け入れるつもりだ⋮⋮そして、君達
だ﹂
ステアはアミュスの方を振り向く。
﹁現状間違いなく最大の戦力を抱えるのはアミュス組だ。しかし君
達は主人役の殺害を王宮に感知されている。まず間違いなく追手が
来るだろう⋮⋮それに故郷に居る人質に対しても危険が伴う。手を
組むにはいささか危険な相手だ﹂
その言葉に、アミュスは平然と頷いた。
136
﹁そうよ、その通り。でも仕方がないじゃない? 起きてしまった
事ですもの。それに、故郷の人質だなんて言うけど、その連中は一
体わたし達に何をしてくれたの? 漫然とゼオムントの国民になっ
てしまっているんじゃなくて? ねぇ心当たりのある人も居るわよ
ね? 人質っていうけど⋮⋮そいつらが何をしてるかって事をね﹂
セナはその言葉を聞いて、ハッとする。
嫌な思い出が脳裏に響く。
彼女が出演した映像作品で最も人気の出た故郷訪問土下座中出しツ
アーもの。
これに出演する多くの人間。
それは︱︱
﹁アタシの⋮⋮人質﹂
同級生も、同僚も、顔見知りも皆嘘くさい演技で初めは拒否するも、
自分が土下座して乞うと仕方がない⋮⋮と言い訳して押し倒し、膣
内に精を吐き出していった。
挙句、その日の撮影終了後に設けられた現地での慰労会と言う名の
撮影係によるセナへの輪姦行事に嬉々として参加したりもしていた。
﹁人質はねぇ⋮三年たった今はもう、わたし達が考えているほど綺
麗なものじゃないのよ。ゼオムントの一部なのよ﹂
アミュスの言葉に、ヘミネは頷き、マリスはにこやかに笑っている。
﹁これが、現状だ。その上で判断してほしい。先ほど三組に分けた
がこれから先は個人での話だ。今の話を聞いて、自分が何をすべき
か考えてみてくれないか? 夜明けと共に動き出そう。それまでに
皆、決断してくれ﹂
ステアは重々しい声でそう告げ、地面に腰を下ろした。
﹁リト⋮⋮どうだった?﹂
ゼオムントの王宮で最も高い場所、見晴らしの良い塔の上にリトリ
ロイとセリスは立って居る。
137
先ほどリトリロイは父親であるゼオムント王に献策し、西域への派
兵の権利を得ていた。
﹁⋮⋮戦力として、騎士団を一つ二つ。数は六百騎ほどだね﹂
大国の王子の護衛する数として、相応しいかどうか。
﹁⋮⋮そんなの、全然不足、私一人にも敵わない﹂
﹁そうだね、でも父上は中々頑固でね。息子の晴れの門出だって言
うのに、渋り過ぎだよ、まったく﹂
夜風に近い夕凪が、二人の頬を撫でる。
﹁⋮⋮⋮⋮どうだった?﹂
もう一度、セリスはリトリロイに問うた。
﹁⋮⋮五万人。それが僕とセリスがこれから守っていく人の数だよ﹂
リトリロイは一枚の羊皮紙を取りだし、セリスに手渡した。
﹃西域開拓民募集﹄
その紙には、そう記述してあった。
﹁良かった⋮⋮﹂
セリスが笑う。
﹁それくらいだったら⋮⋮私、守ってあげられるから﹂
138
騎士公娼の見る夢︵前書き︶
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騎士公娼の見る夢
朝がくるまでどのくらいの時間があるだろうか。
セナは裸のまま尻を地面につける。
今更考える事などない、自分は尊敬する騎士長を信じ同じ道を行く。
そう誓えるほど、今彼女の心は固まってはいなかった。
魔導士アミュスは言った。
人質に意味など無い、と。
それは自分達公娼にとって、決して口に出してはいけない言葉だっ
たのではないか。
だってそれは︱︱自分達が辱められる絶対の意味を喪失するという
事だ。
自分は戦場を駆ける騎士となり、命の甘えはとうの昔に切り捨てた。
死のうと思えば死ねる。
そう誓ったはずなのだ。
そんな自分がどうして公娼となり、ほぼすべての人間に蔑まれなが
ら生を続けているかと言われれば、そこに祖国と人質が居るからで
はないのか。
けれど、
人質となった人間はセナを犯した。
祖国は滅び、母は死に、父は自分がこの手で殺した。
監視役は居なくなり、ここから先自分の生を縛り貶める人間は居な
くなったのではないか。
アミュス達と共に魔物を率いて戦う事に何の疑問も抱かない。
それは統帥権を得てゼオムントに戦争を仕掛けるという当初の目標
と何ら変わりが無いからだ。
けれど、恐らく今ここに集まっている人間達は二つに分かれるだろ
う。
140
王を支え、足を失った人間を守りながら西域の奥を目指す、騎士の
生き方。
支配魔術で抑え込んだ魔物を使役し戦争行為をしかける、復讐者の
生き方。
前者は高潔であり、王者の進む道、そして終わってしまった自らの
幸福を取り戻す戦い。
後者は刹那的であり、亡者の進む道、やがて果てる既に壊れた公娼
の報復の戦い。
何せ、アミュスの元には王が居ない。
従うべき王を得て、そこに忠節を尽くす事こそが騎士を騎士たらし
める。
シャスラハールという偶像を得てこそ、セナは騎士であり続けるこ
とができる。
今までは擬似的にステアを主と定め、それに従う事で何とか自らを
支えてきた。
けれど、真実喉から手が出るほどに欲しているのは、彼女ではない。
王が、欲しい。
自らの生に意味を持たせてくれる王の存在が欲しい。
これは恐らく自分だけではないだろう。
ステアも、シャロンも、フレアも。
自分と同じ生き方を定めた騎士ならば欲しているはずだ。
彼を、シャスラハールを、その振り下ろされる腕を、吠えたてる号
令を。
憎らしいと思う。
公娼の身分に落ちながらもハイネアと言う主人の傍に居られたリセ
の事を。
羨ましいと思う。
絶大な力を持ちながら公娼に落とされ、それでも尚自らの王のため
に剣を振るえるヴェナの事を。
夢なのかもしれない。
141
自分が失い、やっと取り戻した夢。
自分のこの生に意味を持つという事。
それを理由にこの道を選んでしまっていいのだろうか。
アミュス達と共に進むことで、虚ろな復讐者になってしまうよりは、
王を得て王の為に生き、そして死ねる自分を取り戻すことを望んで
いいのだろうか。
彼は今、何をしている?
シャスラハールが草地に寝ころび夜空を見上げ、星を眺めているの
が見える。
ハイネアの治療により塞がったはずだが、傷が痛むのかも知れない、
時折彼は苦しげに顔を歪めている。
常に傍らに居るはずのヴェナは、同じ組の他の公娼五人となにやら
話し込んでいる。
恐らく明日以降の方針を語っているのだろう。
セナはゆっくり、足音を立てずに移動する。
一歩、二歩とシャスラハールの下へ。
﹁セナさん? どうしました?﹂
彼がこちらを見る。
改めて思うと、自分は初めてこの少年に会った時から常に全裸で、
もう既に二回も体を重ねているという事実が、セナの頬を赤く染め
た。
﹁傷、痛い?﹂
﹁いいえ、ハイネアさんの治療のおかげで、痛み自体は無いんです
けど、どうしても変な感覚なんです。腕が無いって言うのが﹂
彼が右肩を持ち上げると、肘の上で切断されたかつて右腕だったも
のが動く。
﹁そっか⋮⋮そうだよね﹂
セナは彼の右隣りに腰を落とした。
ゆっくりと、隣を見る。
﹁えっと⋮⋮僕に何か?﹂
142
﹁用と言うほどの事はない⋮⋮けどね﹂
何を言おう、どうやって伝えよう。
自分の思いも明確に定まらないまま、ここまで来てしまった。
思えばすべて、そうだったのかもしれない。
騎士になって、敗戦を迎えて、公娼に落とされ、そして復讐を誓っ
た。
本当にそれは、自分自身が存在意義をかけて願った事なんだろうか。
今にして思う。
仮初の自由を得てこそ思う。
そして今日出会ったばかりの少年に対して思う。
﹁ねぇ⋮⋮アタシ、欲しい?﹂
自分は必要な存在だったのだろうかと。
この三年間で自分の生は極限まで汚された。
死んでしまいたかった。
許されるのならば死んでしまいたかった。
殺してしまいたかった。
自分を蔑む全てを殺してしまいたかった。
けど、生き続けた。
意味が無かったから、せめて、意味が欲しかったから。
せめてせめて、死ぬ事にだけでも意味が欲しかったから。
﹁⋮⋮旅の仲間にってことでしたら、もちろん欲しいです。だって
セナさん、強いですから﹂
シャスラハールは頷いた。
それはそうだろう。
これから先戦いが続く彼にとって、セナの磨いてきた武芸は役に立
つはずだから。
﹁⋮⋮仲間って⋮⋮何?﹂
えっ? とシャスラハールがこちらを振り向いた。
﹁仲間って⋮⋮わかんないよ。一緒に旅するのが仲間? 戦うのが
仲間? ご飯食べるのが仲間? 本当に、君はそういうアタシが欲
143
しいの?﹂
自分自身、混乱している。
彼は自分が必要だと言っている。
それで良いのではないかと、同時に、それでは足りないと心が叫ん
でいる。
求めて、もっと強く。
﹁⋮⋮僕の話を、少しだけしても良いですか?﹂
シャスラハールが語りだしたのは、彼の昔話。
国が亡び、民衆に紛れ生き抜いて、国一番の騎士であるヴェナと接
触するために調教師になった物語。
﹁僕は⋮⋮本当に色々な人を苦しめたんだと思います。知っていま
すか? 調教師になるために、どんなことが必要なのか﹂
調教師にも、免許があり、試験があり、大会があるのだと、彼は言
った。
﹁その中で、今のセナさんと同じような表情をした人に、何度も何
度も酷い事をしました。それが自分にとって必要な事なんだと、王
として国を取り戻すために必要な事なんだとしても、僕は許されざ
る傷を彼女達に与えてきました﹂
公娼は、ゼオムントに刃向った国の有力者や戦争に関わった者を落
とす身分だ。
つまり、シャスラハールは自分と同じ境遇で同じ目的を持つ人間を、
踏み台にしてきたのだと言う。
﹁己の存在に迷う人です。公娼と言う身分に苦しめられ、ゼオムン
トを恨む事でしか己を支える事が出来なかった彼女達に、僕はひっ
そりと自分の事を告げました。そうすると彼女達は笑って言うので
す。﹃じゃあ君に任せた﹄って。﹃君が偉くなるために私が協力し
てあげよう﹄って﹂
シャスラハールは遠い夜空を眺める。
﹁他の調教師相手に非協力的な人や、絶対に己の信念を曲げない人
でも、僕の為に⋮⋮そう言って誰もが目を逸らす様な行為を目の前
144
で取り、撮影し、保存され。今の瞬間でも多くの人間が見直すこと
ができる資料として残ってしまっています﹂
シャスラハールの瞳から、涙があふれて来る。
﹁彼女達の多くは死にました。つまらない⋮⋮本当につまらない理
由で死にました! 他の調教師の撮影中に精液で喉を詰まらされた
りだとか、裸のまま拘束され野原に放置された挙句、飢えた本物の
野獣に食い殺された何て話も聞きました﹂
セナはその涙をそっと拭う。
﹁僕は絶対にその思いに、彼女達の無念に応えるつもりです! 彼
女達が絶望の中最後に掴んだ一本の藁として⋮⋮! 彼女達の死に
何としてでも意味を持たせる存在になるために!﹂
その言葉を聞いた瞬間にセナは跪いていた。
片膝を立て、騎士の礼を取る。
﹁シャスラハール殿下。私は、リーベルラントの騎士。身分も姓も
失った身ではありますが、貴方に忠誠を尽くし、その行いを見守り、
支える存在となります。それを、お許しいただけないでしょうか?﹂
シャスラハールは赤く腫れた目で、騎士の姿を見返し、口を開いた。
﹁スピアカントの王として貴女に答えます。騎士よ、常に我が傍に
侍り、この身を支えてくれるのであれば、王として貴女の生に輝き
を与え、貴女に貴い死を与える事を誓うものとします﹂
王の返答を聞いた騎士は、涙を浮かべ、頷く。
﹁それと⋮⋮王と騎士だからと言って話し方を変えてもらったりし
ないで下さい。僕はこれまでの暮らしでちょっと庶民寄りに慣れて
しまっているので、そっちの方が楽だったりします﹂
その言葉に、セナはもう一つ頷いた。
﹁うん⋮⋮わかった。でね、これからアタシは君を守るよ、シャス
ラハール。騎士として、王を守る。君を支える。その為に、一つ契
ろう﹂
﹁契る⋮⋮とは?﹂
シャスラハールの顔に、疑問が浮かぶ。
145
﹁森での最初の一回目も、戦場での二回目も、何だか冗談みたいな
感じだったからさ、これから先信頼を深めていく王と騎士として、
正式に一回。セックスしましょ﹂
そう言ってセナは、シャスラハールの体を押し倒す。
﹁えっ⋮⋮えっ! ちょっとセナさん﹂
圧し掛かってくるセナに困惑するシャスラハール。
﹁何よぉ、嫌なの?﹂
﹁嫌って事はないですけど⋮⋮でも﹂
﹁そういえばアンタ幾つなの?﹂
﹁えっ⋮⋮えっと歳なら、十八ですけど⋮⋮﹂
﹁ふーん、アタシ十九だから、一つ上ね。シャスラハールって名前
長くて言い辛いから、シャスって呼んでいい? ねぇ?﹂
﹁それは⋮⋮別に構いませんけど、本当にするんですか? 皆見て
ませんか?﹂
セナは視線をシャスラハールから外し、辺りを見渡す。
寝ている者と、討論している者はいるが、こちらに注意を払ってい
る様子はない。
﹁大丈夫大丈夫。お姉さんに任せなさいって﹂
スルスルと肉棒を摘みだし、その上に跨った。
﹁それじゃ、これからよろしくね。アタシの王様﹂
﹁はぁ⋮⋮いや、よろしくお願いします﹂
王と騎士が、心と体で繋がった。
グチュグチュと性器が擦れる音がする。
セナとシャスラハールの溶け合う音だ。
セナにとって初めて味わう、心の伴った性交。
体を隅々まで開発されきっていた彼女にとって、心までそこに伴わ
れてしまうと、最早成すすべなく絶頂を迎えてしまう。
シャスラハールの一突きがセナに与える快感はこれまでのものと比
146
べようがない。
一突きで登り詰め、二突きで体が痺れ、三突きで脳が溶ける。
そんな満たされた様子のセナと文字通り繋がっているシャスラハー
ルにも、快感の余波は届く。
絶頂を迎える度に激しく収縮するセナの膣に搾り取られるようにし
て精が放たれ、彼女の中を満たしていく。
呼吸とキスをする以外に口の使い方を忘れてしまっているかの様に、
二人は無言の内で睦みあった。
始めはセナがシャスラハールに騎乗する形だった体位も、射精の回
数を重ねるごとに変わり、後ろから突き上げたり、セナを押し倒し
て唇同士を激しく重ねながら正常位で繋がったり、二人は本能の趣
くままに、セックスを堪能した。
空が白んでくるのを、セナは感じた。
自分は今、シャスラハールの胸に頭を預けている。
最後は結局一周しきって、騎乗位に戻って繋がったのだ。
今もまだシャスラハールの肉棒はセナの膣に入ったままである。
二人とも荒い息を吐きながら、汗を浮かべ、両手を結んでいる。
ザリッ︱︱と土を踏む音が近くで鳴った。
その音に、慌てて二人は顔を上げる。
﹁ようやく気付いたか⋮⋮﹂
ひどくあきれた表情を浮かべた騎士長ステアが、二人を見ていた。
﹁いや⋮⋮あの、騎士長これは⋮⋮﹂
ステアの後ろに、いくつもの人間の視線を感じる。
﹁セナ⋮⋮貴女達一体何時間してるんですか⋮⋮﹂
シャロンが乾いた声で言う。
﹁えっと⋮⋮これはつまり⋮⋮﹂
セナは動揺のあまり上手く喋ることができない。
﹁王子、いつまでそのような事を為さっているのです? 不必要な
場面で無駄に体力を消耗してはいけません﹂
厳しい声で言うヴェナに、
147
﹁は、はい! ごめんなさいヴェナ!﹂
シャスラハールは慌てて立ち上がろうとする。
必然、繋がったままのセナの膣を新たな快感が襲う。
﹁あっヤダッ! シャス! 急に動かないでよ﹂
キュゥ︱︱とセナの膣が収縮し、シャスラハールの肉棒を深く飲み
込む。
﹁あっ、あっ! で、出るゥゥ﹂
シャスラハールは切羽詰まった声と共に震え、精を解き放った。
ドビュルルル︱︱。
何度行われてきたかわからない、セナとシャスラハールの間での体
液の移動。
﹁ああああああああああああっ! ダメッ! 今中に出しちゃ⋮⋮
あああん、イクッぅぅぅぅうううううう﹂
セナは白んできた空を穿つように、嬌声を上げた。
148
騎士公娼の見る夢︵後書き︶
投稿頻度を少し早めていこうと思います。
149
オマ ンコ カヌゥ︵前書き︶
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オマ ンコ カヌゥ
方針が固まるのに、それほど時間は掛からなかった。
セナがシャスラハールへの同行を明言すると、ステアとシャロンは
頷き、ユキリス、ハイネアとリセもそれに続いた。
アミュス達も特段それに動じることも無く、公娼達は今、二手に分
かれようとしている。
別れ際にセナは常々疑問に思っていた事を、復讐の道を行く三人に
問いかけた。
﹁ねぇ⋮⋮その服、どうしたの?﹂
マリスのドレスにヘミネの軍服、アミュスの黒衣。
それら全て初期装備で調教師から与えられるには余りにも﹃普通﹄
の衣服だった。
恐らく何らかの方法でこの地で入手したものだと踏んで、その情報
を聞き出そうとしたのだ。
﹁私達は人間だ、いつまでも裸でいるわけにもいかない。気温や環
境、衛生の問題もある。故に私達はまず衣服を得る事を優先して行
動したんだ﹂
ヘミネの硬い声がまず答える。
﹁でー、最初は他の組なんかを襲ってみたんですけどぉ、そっちも
そっちで元々マリス達が着ていたのと似たり寄ったりのヤラシー感
じのものばっかりだったのでぇ、マリス達は一から作ることにした
のです﹂
マリスが朗らかに言った。
﹁一から作るって⋮⋮材料とかは持っていたの?﹂
それに対してマリスは笑いながら首を振った。
﹁そんなの有るわけないじゃないですか︱。もちろん現地調達です
よー。でも衣服への加工に関してマリスは全然やったことなくてー、
151
アミュ姉もヘミネちゃんも下手っぴでしたので別の人にやってもら
いましたよー﹂
﹁別の⋮⋮人?﹂
セナの疑問に、ヘミネが眉根を寄せて答える。
﹁正確には人ではない、魔物だ。そういう種類の魔物が居たんだ﹂
衣服を加工する魔物。
今のやり取りに反応して、リセが会話に加わってくる。
﹁あの、あの! スミマセン、今の話もっと詳しく教えて頂けない
でしょうか?﹂
彼女は身に着けている白のワンピースの裾を握って必死な様子だ。
調教師の監視が無くなった後、彼女はハイネアに自分の衣服を渡そ
うとしたが、主人に柔らかく拒絶されしばらく押し問答をしていた
のをセナは見ている。
﹁ハイネア様が、それは私のものだから構わなくて良い⋮⋮と仰っ
て⋮⋮。私はとにかく何でもいいので身を隠すものをと、王女であ
るあの御方がいつまでも肌を晒していらっしゃるのは、あまりに酷
で⋮⋮﹂
その瞳に涙が浮かんでいる。
ハァ︱︱と息を吐くのは軍服姿のヘミネ。
﹁まったく⋮⋮リネミアの王族の気位の高さはいつも変わらないも
のだ。君は侍女かな? これを、持って行くといい﹂
ヘミネは軍服の肩から背中を覆っていたケープを脱ぎ、リセに手渡
した。
﹁腰巻にでも使ってくれれば、裸で居るよりも幾分マシになるはず
だ﹂
﹁あ、ありがとうございます! ヘミネ様!﹂
そういえばこの二人とハイネアは同じ国出身だったな⋮⋮と、セナ
は昨日の会話から思い出す。
﹁⋮⋮でも腰巻だけって言うのも妙にエロくないですかねー。とマ
リスは考えたり︱﹂
152
ケラケラと笑っているドレス姿の剣士。
﹁そうね。それにアタシ達の分の衣服も必要だし。その衣服を加工
する魔物について教えて﹂
セナのその言葉に、
﹁名前なんだったっけ⋮⋮あのちっこい⋮⋮ネズミ型の⋮⋮﹂
マリスが空を見上げて記憶を探る。
その時、
﹁マルウス族ね。ここから先、北へしばらく行った所にある川を越
えた先に広がる草原地帯、そこで作物の栽培をしながら生息してい
る穏やかなネズミ型魔物よ。手先が器用で衣服の加工から、保存食
の製造まで何でもアリの種族だったわ。会いたければ行けば良いわ﹂
アミュスが話に入ってきた。
﹁ただし、気をつけなさい。マルウス族は協力的かもしれないけれ
ど、彼らに敵対している魔物が辺りを徘徊しているから、いつも彼
らは怯えて隠れているそうよ。私達が行った時は偶然それらには出
会わなかったけど、マルウスの連中の言葉通りなら、ひどく知恵が
回って残忍な奴らだそうよ﹂
その言葉に、セナは疑問を抱く。
疑問は、口をついて飛び出した。
﹁魔物と喋ったの⋮⋮?﹂
驚愕に目を開いているセナに向けて、アミュスは顔を顰め、
﹁これだから無知で筋肉馬鹿の騎士って嫌ね﹂
鼻で笑った。
﹁魔物には人語を理解する種族も居る、と言うかむしろそちらの方
が多いわ。発声器官を持つか持たないかで会話が成立するかは様々
だけれど、決して魔物は知性無き生き物じゃない。まぁこれは魔導
においては常識なのだけれど、騎士である貴女には不要な知識だっ
たかもね﹂
153
歩きながらユキリスが教えてくれる。
先ほどはアミュスの言葉にステアとフレアが反応し、ゆっくりとシ
ャロンが剣を取り出しかけたので、シャスラハールが慌てて出発の
号令を鳴らし、今はそのマルウス族が住まう地域とやらを目指して
いる。
﹁⋮⋮筋肉馬鹿って何ですか⋮⋮筋肉は必要な分だけつけているん
です。馬鹿は違います。私は作戦立案とかそういうものでしっかり
と騎士長のお役に立っていて⋮⋮﹂
シャロンがぶつぶつと呟きながらセナ達の前を歩いている。
﹁え、えとでも皆さんの衣服が手に入りそうなのは良かったですね
! これから季節が変わって寒くなりそうですし、やっぱり寝る時
に裸のまま地面にってのもお嫌でしょうし﹂
シャスラハールは金髪の騎士の様子に若干怯えながら、話題を振っ
た。
﹁そうだね。防御力の問題もあるし、やっぱり肌を完全に露出した
まま戦うのは少し怖いわよ。⋮⋮けど、シャス君的にはどうなのか
なぁ? お姉さんたちの裸が見れなくなって残念なんじゃないのぉ
?﹂
セナは意地悪気に微笑み、シャスラハールに答える。
﹁い、いえ!、それはえっと⋮⋮服を着て、着飾ったセナさんの事
も見たいかなって⋮⋮そういう気持ちも強いんです﹂
赤面しながら言うシャスラハールの態度に、恥ずかしさを覚えてセ
ナの頬も紅潮する。
﹁⋮⋮こっち見ないで﹂
﹁え⋮⋮?﹂
﹁アタシ達裸なんだからあんまりこっち見るなって言ってんのよ!
エロガキ!﹂
﹁は、はいぃぃ﹂
セナに脅され、前を向くシャスラハール。
﹁り、理不尽だ⋮⋮﹂
154
それでも彼は、こっそりと横目で視線を送ったりして、その都度セ
ナに見つかって睨みつけられていた。
﹁⋮⋮ステアさん、お宅の騎士さんの我が王子に対する態度どうに
か出来ませんの?﹂
﹁⋮⋮後で、言って聞かせておきます﹂
前方で、騎士長ステアが聖騎士ヴェナに小声を言われているのが目
に留まった。
二刻程歩いたところで、
﹁あっ、川だ。川がある﹂
一行の先頭を進んでいたフレアが、声を上げる。
視界の遥か先に、かなり大きめの川が横たわっていた。
走り出したい気持ちもあったが、こちらは足を切断された負傷者を
おぶっている者も居て、あまり速度は出せないでいた。
﹁見たところかなり大きな川だけど、船も無しにどうやって渡るん
だろう?﹂
セナの疑問に、シャロンが頷く。
﹁⋮⋮あの無礼な魔導士はこの川を越えてマルウス族の所まで行っ
たのでしょう? では不可能ではないという事、私の頭脳でこの川
を越えて見せます⋮⋮!﹂
何やら燃えている様子の先輩騎士に、セナが少しだけ恐怖している
と、
﹁⋮⋮たぶんアミュスは魔法で越えて行ったと思うわ。顔を合わせ
たことは無かったけど、あれが私と同門のミネア修道院の﹃支配と
枯渇の魔術士﹄アミュスなら、枯渇の魔法を使って一時的に川を干
上がらせて渡ったんじゃないかしら﹂
ユキリスがそう解説した。
﹁それは! 貴女にもできる事なのですか? ユキリス!﹂
どう言うわけか怒り気味のシャロンに、ユキリスは焦った様子で片
手を小さく振る。
﹁い、いや私は﹃劇毒と狂奔の∼﹄だから⋮⋮そういうのは無理で
155
す⋮⋮はい、スイマセン﹂
すっかり委縮したユキリスの返事を受け、シャロンは思索する様子
で、俯いた。
その時、
﹁ん? あれは船じゃないか?﹂
騎士長ステアの声が上がった。
やけに細長い船が一艘、川べりの切り株に結ばれていた。
﹁⋮⋮船、有ったね⋮⋮﹂
セナが申し訳なさそうに言うと、シャロンが無表情で見つめてきた。
見える船は、なんとも形容しがたい形状をしていた。
横幅がかなり狭く、馬の鞍程度の幅しかない。反対に縦幅はかなり
長く、中央には太い棒が七本等間隔で突き立っていた。
先輩騎士は船の特殊な構造をに目を光らせながら、
﹁しかし、船が有るというのも変ですね。ここは魔物の領域、人間
も住んでいないのに船だけあるだなんて⋮⋮﹂
﹃ソレ ハ マルウス ノ フネ ダカラナ﹄
シャロンの言葉に、水中から轟くような声が聞こえた。
ゆっくりと水面に顔を出してきたのは、魚人。
鱗で覆われヒレと水掻きを持った体に、飛び出した目玉が印象的な
魔物だった。
﹃オマエタチ ハ マルウス ノ キャク カ?﹄
突如現れた魔物に向け、全員が武器を構えているというのに、魚人
は落ち着いている。
﹁⋮⋮お前は一体なんだ?﹂
フレアがその存在を問う。
﹃ワタシ カ? ワタシ ミテノトオリ ミズノナカニスムモノ ココデ マルウス ノ タメ ニ ハシワタシ ヲ シテイル﹄
魚人は少々聞き取りにくい言葉でそう言った。
﹁橋渡しだと? 魔物なのにか?﹂
﹃マルウス ハ キヨウダカラ ヒツヨウナモノ ツクッテクレル
156
コレ ハ ソノ タイカ ダ﹄
フレアの問いかけに、魚人はよどみなく答えた。
﹃マルウス ノ キャクナラバ ココ ヲ ワタソウ ソウデナイ
ナラ カエレ﹄
魚人の言葉に、シャロンが応じる。
﹁私達はこれからマルウス族を訪問し、仕事の依頼をしに行くとこ
ろなのです。よろしければその船使わせていただけないでしょうか
?﹂
﹃キャク カ ワカッタ フネ ヲ ダソウ ダガ キヲツケロ ソレ ハ マルウス ヨウ ノ フネダ チイサナ チイサナ マ
ルウス ノ タメ ノ フネダ﹄
セナは船を見る。
マルウスという種族が膝丈くらいのものだと想像すると、その小さ
な彼らが船の中央に突き出した七本の棒に掴まり、縦に七人並んで
渡河している様子は、中々に愛嬌のあるものに思えた。
﹃オマエタチ ニンゲン ガ ソレニ ノッテモ スグニ シセイ
ヲ クズシテ フネ ハ テンプク シテシマウ﹄
その言葉には頷ける部分が多い。
細長い船に人間が集団で乗り込んで、上手く荷重の比率を操れると
は思えない。
﹃ソコデ ソノ ボウ ニ マタガレ フカク コテイシロ ボウ
ハ フネ ノ チュウオウ ニ タッテイル ソコ ヲ カラダ
ノ ジク ニ シテ アシ デ シセイ ヲ タモテ﹄
﹁固定するって⋮⋮まさか⋮⋮﹂
﹃オマエタチ アナ ツイテル ダロ? ソコ ニ ハメロ ソウ
スレバ フネ シズマナイ﹄
その言葉に、公娼達は一斉に視線を交わす。
よく見れば棒は膣中に挿入するにうってつけの大きさのようにも見
え、そこで体の軸を固定させれば確かに船も安定するだろう。
﹁え⋮⋮っと、とりあえず色々と思うところはありますが、僕は?﹂
157
シャスラハールが冷や汗を垂らしながら言った。
﹁尻の穴にでも突っ込みなさいよ﹂
セナが断じるようにして言った。
﹁良いか? 絶対に変な動きはするなよ? おかしな動きをすれば
この魔導士様が川に猛毒を流すからな﹂
ステアの言葉に、ユキリスが錫杖を構えて頷く。
﹃モンダイナイ ワタシ ハ タダ ノ ハシワタシ ダ ムコウ
ギシ ニ ワタス ダケ ダ﹄
魚人もそれに頷き、船に近づく。
船の上には、
﹁くっ⋮⋮本当にこれで安定するのでしょうか、王子、絶対に動か
ないでくださいね﹂
ヴェナとシャスラハール組の公娼五人が膣内に安全棒を挿入し、ヴ
ェナはシャスラハールを、他三人の公娼が足を失った三人を正対し
て抱きかかえて座っていた。
﹃ソレデハ シュッコウ スル﹄
﹁あっ﹂﹁はんっ﹂﹁きゃっ﹂﹁んっ﹂﹁ふぁ﹂﹁くっ﹂
船が岸を離れた衝撃で少し揺れ、体内に直接振動が届いたヴェナ達
の口から声が漏れた。
﹁こらー! 安全運転しなさいよねー!﹂
セナが叫ぶと。
﹃モチロン ダ ワタシ ニモ コノ シゴトヘノ ホコリ ガ アル﹄
魚人は真面目くさって頷き、ゆるゆると川を渡って行く。
﹁やっぱりかなり大きな川だな﹂
フレアが言うとおり、ヴェナ達を乗せた船は出航してかなりの時間
をかけて、対岸に到着していた。
そしてまたゆっくりとこちらに戻ってきている。
158
﹁とりあえず妙な動きは無かったな。覚悟を決めて、アレに乗るし
かないか﹂
ステアの決断に、全員が頷く。
対岸で、シャスラハールがこちらに手を振っているのが見える。
﹁⋮⋮振りかえさなくて良いのか? セナよ﹂
ハイネアの言葉に、セナは赤面しながら首を振る。
﹁いや、良いわよ別に。どうせすぐ向こうで会うんだし、それにア
イツはヴェナさんたちの川を渡る時の苦労わかって無いのかしら、
着いたら説教してあげなきゃ﹂
セナは憤然と頷いている。
その時、魚人が岸へとたどり着いた。
﹃サァ ノレ﹄
船を陸地に寄せ、促す魚人。
セナ達は渋々といった調子でそれに従い、
セナを先頭に、ハイネア、リセ、ユキリス、シャロン、、フレア、
ステアの順に乗船した。
木で出来た安全棒が膣に食い込んでくる。
太く確かな質感を持ったソレは、セナの膣壁をはち切れんばかりに
圧迫している。
﹁んっ⋮⋮く﹂
ズブズブと挿入されたそれに体の芯を預け、両脚を船外に投げ出す。
足先を水に付けないようにしながら、体勢を整える。
﹃ソレデハ シュッコウ スル﹄
﹁ひっ﹂﹁くっ﹂﹁ああっ﹂﹁んっ﹂﹁⋮⋮﹂﹁おあっ﹂﹁ふっ﹂
ガコン︱︱と岸を離れ、出航した船はゆっくりと川を進んで行く。
水面を進み、波を切り裂く微弱な振動が、直接膣内に届き、セナ達
は身悶えしそうになるが、船の安全を考えると下手な動きは取れず、
必死に歯を食縛って耐えている。
永遠にも思える船旅が、ようやく半分を迎えようとした時、不意に
船が止まった。
159
﹁え⋮⋮ちょっと﹂
セナが声を出す。
居ない。
魚人が居ない。
今まで自分の目の前で船を引っ張っていた鱗だらけの背中が急に喪
失した。
その時、
四方から強烈な波が船を襲った。
﹁きゃあああああああっ!﹂
恐怖ではない。
膣への振動でセナは叫び声をあげた。
ガクガクと揺れる船の衝撃は、直接セナの陰部をかき乱す。
セナだけではない。
同乗する他の六人もそれぞれ嬌声をあげている。
﹃ヒヒヒヒャァァ ヤッタゾ バカメ バカメ マルウス ト オ
ナジ バカドモ メ﹄
魚人が、水面から顔を出した。
一人ではない。
二十はいる。
それらが少し離れた所から船を取り囲んでバシャバシャと水面を叩
き、船を激しく揺らしている。
﹁あ、アンタ! 騙したわね!﹂
﹃ヒヒヒヒッ オレタチ ハ ギョジン ガタ マモノ ヒュドゥ
ス チカラ ニ ジシン ハ ナイガ スイチュウ ノ イドウ ト チエ ハ マモノ イチ ダ﹄
ガッコンガッコン︱︱
ヒュドゥスと名乗った魔物によって生じた高波が、セナ達七人を一
斉に犯す。
﹁ひぎぃぃぃぃぃあっあ! ダメッ! 裂ける! 裂けちゃう!﹂
突き上げる動きは人間の筋力とは異なり、自然の高波だ。
160
力の加減が無い。
圧迫される腹部の痛みにセナが悶えている時、騎士長ステアの声が
届く。
﹁くぅぅぅぅ! ユキリス! 毒だ、毒を水の中に撒け!﹂
その言葉に、魔導士が反応しようとした瞬間、
﹃ヤメトイタ ホウ ガ イイゼ ドク ヲ マイタ シュンカン
フネ ヲ テンプク サセル オマエタチ モ ドク デ シヌ
カ オボレテ シヌカ ダ﹄
ヒュドゥスはケタケタ笑いを浮かべながらそう言った。
﹁くっ⋮⋮!﹂
ユキリスは唇を噛み、錫杖を握る手を収めた。
﹃ヒャヒャハー! ユレロ! ユレロ! マンコ ヲ グチャグチ
ャ ニ カキマワシテ オマエタチ ノ タイリョク ガ ナクナ
ッタ トキ オカシテ クッテ ヤルゼ!﹄
相変わらず、ヒュドゥス達は少し離れて船を取り囲み、バシャバシ
ャと波を作っている。
本来間の抜けた光景であるはずだが、今のセナ達とって、これ以上
の無い恐怖がそこにはあった。
﹁くっ⋮⋮! セナさん達を助けないと!﹂
シャスラハールは歯噛みする。
﹁しかし王子、わたくし共には川の中央にたどり着く方法がござい
ません⋮⋮! ここから矢を放って攻撃したとしても、魚人の数は
二十を超えています。一匹でも生き残れば転覆させられてしまいま
すわ﹂
ヴェナが苦しげにそう言った時、シャスラハールは衣服の裾を引か
れる感触に気づいた。
﹁なっ⋮⋮?﹂
ネズミ型の小さな魔物が、怯えた表情で彼を見上げていた。
161
魚も鼠も︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
162
魚も鼠も
﹁なっ! 王子、離れて下さい﹂
ヴェナは長剣を構え、シャスラハールの袖を掴むネズミ型の魔物に
突き付ける。
﹃⋮⋮!﹄
ネズミ型の魔物︱︱マルウスは激しく首を振って自分に害意が無い
ことを示す。
﹁ヴェナ、待って。この子の話を聞いてみよう﹂
シャスラハールは聖騎士の腕を掴み、マルウスを見下ろす。
﹁どうしたんだい? 僕らはセナさん達を助けないといけないんだ。
悪いんだけどそれ以外の用事だったら後にしてもらえるかな?﹂
シャスラハールは努めて穏やかに言って、マルウスの返事を待つ。
ネズミの尖った口が、そろそろと開いた。
﹃⋮⋮⋮⋮きょうりょく できる まるうす と きみたち いっ
しょに たたかう ひゅどぅす は わるいやつら ぼくに つい
てきて﹄
マルウスはそう言って、川とは反対側を指差した。
﹁どこに⋮⋮行くんだい?﹂
﹃まるうす の さと むこうに ある はしって いく そこに
ひゅどぅす たおす いい そうび ある﹄
指を差した先に、見えるものは何もない。
ただ一面に草原が広がっている限りだ。
﹁王子、如何致しますか?﹂
ヴェナが問いかける。 ﹁確かに今の僕達に打つ手は無い、マルウス族の助力は必要だけど
⋮⋮しかし⋮⋮このままセナさん達を置いて行くわけには⋮⋮﹂
シャスラハールが眉根を寄せて考えていると、
163
﹁王子、ここはわたし達がつきます! もし船の皆さんに異変があ
ればできる限り救援に入ります! 王子は聖騎士殿とマルウスの里
へ向かってください﹂
シャスラハール組でヴェナ以外の五人の内、最も戦闘に優れ、年長
でもあるシュトラと言う騎士が言った。
﹁シュトラ⋮⋮。そうですね、王子。今のわたくし達には戦闘不能
な者も三人居ますし、ここはわたくしと王子だけでこの子に付いて
行きましょう。シュトラ、船の事、負傷者の事、頼みましたよ﹂
ハッ! と応じるシュトラの声を聞いて、シャスラハールも決心を
固める。
﹁わかりました。ではシュトラさん、ここはよろしく頼みます。セ
ナさん⋮⋮すぐ戻って来ますからね⋮⋮ヴェナ、行こう!﹂
シャスラハールはマルウスを抱きかかえ、ヴェナと共に駆け出した。
朝日が照り付ける草原に、二つの人間の影が疾走していく。
満月が水面に浮かびあがり、辺りは夜気に覆われている。
騎士シュトラが見つめる先、船はガタガタと揺れ続けていた。
﹁王子⋮⋮いったいどこまで⋮⋮! 急いで下さい﹂
一体どれほどの時間、船の中の七人は揺らされ、絶え間ない刺激に
襲われているのだろうか、シュトラは事態の急変に備えて監視を怠
らずに見守っている。
故に、彼女達の苦しみが容易に想像できる。
顔を赤らめ喘いでいる者。
痛みに耐え涙している者。
﹁どうか⋮⋮どうか皆さん! 耐えて下さい⋮⋮王子が、戻ってく
るまで!﹂
セナの思考は乱れに乱れていた。
164
もとよりキツキツだった膣内の安全棒が、揺らされることで縦横無
尽に動き、内臓を抉るかのように暴れている。
それも、半日以上犯され続けているのだ。
﹁あへぇ⋮⋮あえ⋮⋮うぇぇ⋮⋮﹂
弱弱しい喘ぎ声が、セナの口から零れる。
膣に襲い掛かる快楽と痛みに耐え、揺れる船が転覆するのを防ぐ為
に手足を突っ張り続けた結果、もう彼女に余剰な体力など残ってい
なかった。
﹃ケギャギャギャ ドウダ ドウダ クルシイカ キモチイイカ オラ オラ﹄
セナ達の体力が目に見えて無くなってくると、ヒュドゥス達は調子
に乗り、船に近づいて来ては強烈に船体を蹴った。
﹁あひゃあああああああん! やめてぇぇ⋮⋮揺らさないでぇ⋮⋮
!﹂
嬌声に似た悲鳴が上がり、体がのけ反る。
﹁だ、大丈夫か⋮⋮! みんな、耐えろ⋮⋮耐えるんだ⋮⋮﹂
騎士長ステアが切れ切れの声で言う。
全員を励ます言葉、しかしその後が続かない。
耐えた結果、どうやって事態が好転するのか、という事が知らされ
ないのだ。
誰にもわからなかった。
シャスラハール達は対岸に渡ってしまっていて、船が無い以上この
大きな川の中央に独力でやってくるのは不可能だろう。
そして自分達は二十体以上のヒュドゥスに囲まれている。
武器もろくに振るえない水中で彼ら魚人と戦闘するなど無謀も良い
ところだ。
チャポチャポ︱︱と音がする。
船の中に液体が溜まってきているのだ。
川の水が浸水して入り込んで来たのではない。
七人から半日以上かけて絞り出された愛液や小便が、船の中で溜ま
165
り、揺れに合わせて跳ねているのだ。
﹃キキキキ クセェ クセェ ナ ションベン ト マンジル デ
フネ シズンジマウゾ ナンテ アホ ナ シニカタ ダ﹄
ケタケタ笑い声をあげて、魚人達は波を立たせる。
﹁ひぐぅ⋮⋮あっ⋮⋮あっ﹂
プシャ︱︱と音を立て、ハイネアの陰部から小便と愛液の混合液が
放出される。
それはすぐ前に居たセナの背中に掛かり、そのまま船の中に留まっ
た。
﹁す⋮⋮すまぬ⋮⋮セナよ⋮⋮妾の⋮⋮小水が﹂
七人の中でも一番小柄で体力も無いハイネアの息も絶え絶えといっ
た様子に、セナは黙って頷くにとどめた。
﹃ケケケケ! ダメダナ タスケテ ヤロウ オレタチ ノ ダイ
ジナ ダイジナ フネダ マンジル ト ションベン ノ ニオイ
シミツイチマッタラ カナワナイ﹄
そう言うと魚人達は船に取り付き、船底に潜った。
﹁何⋮⋮を⋮⋮?﹂
﹃ナニ ミズヌキ ヲ シテヤル ノ サ コノ フネ ニハ オ
モシロイ シカケ ガ アッテナ﹄
ズボッ︱︱とセナは自分の膣に挿さっていた安全棒が抜けるの感じ
た。
﹃オマエタチ ノ マンコ ニ ササッテイタ ボウ ハ フネ ノ ソコ カラ ヌク コトガ デキルノサ﹄
棒が船から引き抜かれる勢いにつられて、溜まっていた愛液と小便
が船底に生じた穴から水中に引きずられて行く。
しかし、現実は甘くは無い。
﹁塞いで下さい! すぐに塞いで!﹂
シャロンの焦った声が耳を打った瞬間、セナは剥き出しの陰唇に冷
気を感じた。
浸水︱︱。
166
セナは勢いよく腰を落とし、陰唇で船底の穴を塞いだ。
セナの後ろに並んでいる六人も、皆同じように先ほどよりも深く腰
を落としている。
﹃マァ ソウナルヨナ セイゼイ シッカリ マンコ デ フサグ
ン ダ ゼ?﹄
その時、更なる感触を覚えた。
船底の穴を塞ぐ陰唇に、何やら硬くて冷たいものが押し付けられて
いるのだ。
﹃オラァ!﹄
﹁ひぐぅぅぅぅ!﹂
魚人達はあろうことか、船底に開いた穴を通して、ペニスを挿入し
てきたのだ。
浸水を防ぐ為に陰唇を動かすことはできない。
船体を掴み、荒々しく挿入してくる魚人のペニスを、必死に耐えな
ければいけなかった。
無論、掴まれた船体は激しく揺れる為、公娼達は今まで以上に手足
を張って、転覆を阻止しなければいけない。
﹃キキキキッ キモチイイイイッ マンコォォ マンコォ ダ ヒ
サビサ ノ マンコォ ダァァ﹄
七体の魚人が船底に張り付いて船ごと公娼達を犯す。
﹁あっ⋮⋮んんっ! くっ⋮⋮手足が、武器が使えればぁ⋮⋮﹂
﹁どうやって⋮⋮この状況をくつがえ⋮⋮ああああん!﹂
その動きに、新たに魚人が七体加わってきた。
﹃シカケ ハ コレダケ ジャ ナインダ ヨナァ﹄
既に張り付いていた七体の隙間に入る様にして、新たな七体は船底
に取り付く。
﹃ココ ニ チイサク チンポ ガ ハイル ダケ ノ アナ ガ
アッタリ スルンダ ナァ﹄
安全棒がささっていた近くに、小さな真円が開いた。
魚人達は栓を抜く様にして、公娼達の尻の穴の真下に、穴を開けた
167
のだ。
﹁浸水して来るぞ⋮⋮! 塞がないと!﹂
フレアの厳しい声に皆が動く。
上体を更に反らせて、尻で穴を塞ごうとしたのだ。
﹃オ ソッチカラ キテクレル カ ゴチソウ サマ﹄
容赦の無い挿入が、公娼達のアナルを貫いた。
﹁おほぉぉぉぉぉぉぉ﹂
﹁んぎぃぃぃぃぃぃぃ﹂
ステアから、ユキリスから、全員から叫びが漏れる。
二穴を犯されながら、懸命に船の姿勢制御を行う。
公娼達への残酷な責め苦は、まだ終わらない。
﹃オレタチ デオクレ タカ ショウガネェ ナァ﹄
船底に張り付いた十四体以外に、まだ十体ほどが船を取り囲んでい
た。
﹃テンプクゲーム ヤロウゼ? オレ アレ ダイスキ﹄
﹃オレモ オレモ﹄
取り囲んでいた魚人達は水中に仰向けになって浮き、激しく手淫し
始めた。
﹁な⋮⋮何を⋮⋮﹂
犯されながら息も絶え絶えのセナに、魚の顔で笑った。
﹃クラエ﹄
白濁の、人間のものよりも遥かにツブツブした精液が、セナの顔面
を襲い、そのまま滴り、船の中にたまっていく。
﹁きゃぁぁぁぁ! くさいっ! 魚臭いっ!﹂
﹃チャント コウタイ シロヨナ ナカ デ ダシタヤツ ハ ツ
ギ ハ フネ メガケテ テンプクゲーム スル テンプクゲーム
シタ ヤツガ ツギ ソウニュウ スル
サイゴ テンプク サセタ ヤツガ サンラン サセル﹄
ワカッタ ワカッタと応じる魚人の集団。
﹁て、転覆させる気なの⋮⋮? それに⋮⋮産卵⋮⋮ってまさか﹂
168
セナは引き攣った声を上げる。
﹃ヒュドゥス ノ ハンショク ハ スイチュウ デ メス ニ セイエキ ヲ ブッカケル ト コダネ ガ カッテニ ボタイ ヲ メザシテ ニンシン サセ ウマセル ノサ﹄
公娼達の顔が、一斉に青くなった。
﹃アンシン シロ サンラン シタラ チャント ミンナ デ ク
ッテ ヤルカラ ナ﹄
魚人達は興奮した様子で、船に張り付いた者は腰を打ち付け、囲ん
でいる者は手を早めた。
﹁おほぉぉぉぉぉぉ﹂
﹁んぎぃぃぃぃぃぃ﹂
船は、一層激しく揺れ始めた。
﹁急がないと⋮⋮夜が明ける⋮⋮!﹂
シャスラハールとヴェナは懸命に草原を走っていた。
﹁このマルウスとやら⋮⋮ここまで食わせ者だとは⋮⋮!﹂
ヴェナが厳しい視線をネズミ型魔物に送る。
マルウスは現在、ヴェナの腕に抱かれている。
そして眠りながら、彼女の乳首に吸い付いていた。
﹁二刻に一回の食事、三刻に一刻の睡眠⋮⋮それをしないと活動で
きないと言いだすとは⋮⋮おかげでかなり時間がかかってしまった
! セナさん達は大丈夫だろうか﹂
二人はマルウスと共に里を目指したのだが、道中寝るわ食うわで時
間を浪費し、それを阻害すると泣き出して動かなくなるため、目的
地の分からない二人に取っては心の中に湧き上がる激情を抑えるの
に苦労した。
今は川へと戻る道。
帰り道ならば覚えがあるので二人はマルウスを寝かせたまま抱えて
走っている。
169
里でヒュドゥス対策の装備を手に入れ、取り付けに技術が必要とい
う事でその場で装着したヴェナ。
シャスラハールはその姿を横目で見る。
﹁ヴェナ⋮⋮それは、本当に大丈夫なのかな?﹂
﹁理論上は⋮⋮わたくしも納得いたしましたが。正直、完全に信頼
が置けるものでは無いかもしれませんね。仕掛けを起動するために
この子が必要だから連れて行けと言うのも何だか妙に思えますし﹂
王子の疑問に聖騎士が答えた。
今現在、ヴェナの陰部には器具が装着されている。
膣に挿入し、肛門にフックを掛ける事で安定させたそれには、
角度の着いた鉄製の羽根が四枚備わっていた。
マルウス達はこの装備を﹃すくりゅー﹄と呼んでいた。
170
調教師の脚本︵前書き︶
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171
調教師の脚本
シャスラハールとヴェナが川辺に辿りついた時、既に空は白み始め
ていた。
﹁シュトラさん! 船の様子は?﹂
黒肌の王子の息せき切った声に、
﹁まだ⋮⋮浮かんではいます⋮⋮けれど、もうかなり前からセナさ
ん達の声が聞こえなくなっていて⋮⋮﹂
肩で切りそろえた青髪を振って、騎士シュトラは沈痛な面持ちで答
えた。
シャスラハールは川の中央に視線を向ける。
そこでは︱︱
﹁セナさん⋮⋮くそっ!﹂
激しく揺れ続ける船と、取り囲んだ魚人から放たれる精液を浴び続
けている騎士達の姿があった。
弱弱しく反応はしているようだけれども、その表情に力を感じられ
ない。
無理もない、最初に罠にはめられてからもうすぐ一日が経つ。
その間休む事無く犯され続けているのだ。
﹁ヴェナ! 頼んだよ﹂
シャスラハールは自分の無力を悔みながら、誰よりも頼りになる聖
騎士に懇願する。
﹁お任せください、王子。マルウスよ、急いでこの装備を作動させ
てください﹂
ヴェナはすぐ傍で欠伸をしていたネズミ型魔物に言った。
﹃ふあぁ わかった まず じゅんび する おしり こっち む
けて だめ とどかない かがんで じめんに ねる くらい か
がんで﹄
172
ヴェナが﹃すくりゅー﹄と呼ばれた装置ごと尻を向けると、マルウ
スは届かないと文句を言い、彼女に地面に手をつくよう求めた。
﹁⋮⋮これで、よろしくて?﹂
﹃おしり うえ むけて いまから ねんりょう いれる﹄
そう言うとマルウスは肩から提げた鞄に手を入れ、何やら黒い液体
の入った容器を取り出した。
﹁ねんりょう⋮⋮とは何ですか? 変なことをしたら承知いたしま
せんよ﹂
﹃けど ねんりょう ないと すくりゅー うごかない なかま たすける ため ひつよう がまん がまん﹄
ネズミ型の魔物は聖騎士の尻を捕まえると、容器を逆さにして肛門
へ突き立て、
ブチュルル︱︱と勢いよく液体を注入した。
﹁んほぉぉぉっ! おぉぉぉ中にぃ入ってくる⋮⋮ドロドロのネバ
ネバしたものが⋮⋮腸にこびり付きながらぁ⋮⋮﹂
ヴェナが尻を振って逃れようとするも、マルウスはその小さな体に
似合わない力でそれを抑える。
﹃がまん して ねんりょう いれないと たたかえない もうす
ぐ おわる﹄
マルウスは容器を強く握りしめ、底を叩いて最後の一滴までヴェナ
の肛門に注入すると、すぐに樹脂でできた栓をはめ、燃料が零れだ
さないようにする。
最後に﹃すくりゅー﹄から伸びた管を栓の上部に出来た突起にくっ
つけ、マルウスはヴェナの体から離れた。
﹃じゅんび できた あとは きどう する だけ﹄
マルウスの言葉に、シャスラハールの厳しい声が応じる。
﹁君、これがもし役に立たない代物で、ヴェナを辱めるためだけの
行為だったなら、僕は容赦せず君を殺す。良いね?﹂
王子は先日隻腕になったばかりで戦闘力は激しく落ちてはいるもの
の、その瞳には猛烈な凄みが宿っていた。
173
﹃⋮⋮だいじょうぶ まるうす の ぎじゅつ は ほんもの こ
れで なかま たすかる﹄
マルウスは一歩下がりながらそう言った。
﹁おぉぉ⋮⋮ぐぅ気持ち⋮⋮悪い⋮⋮けれど、急いで⋮⋮行かない
と⋮⋮もう船が沈んでしまう⋮⋮﹂
ヴェナが長剣を杖に立ち上がり、水に足を浸ける。
川の中央に漂う船は、今にも沈んでしまいそうだ。
﹃まって きどう させる この ひも ひっぱる﹄
マルウスが小さな手を伸ばし、﹃すくりゅー﹄から伸びた一本の紐
を引いた。
﹃すくりゅー﹄は爆音を発し、振動しながら四枚の羽根を激しく回
転させ始めた。
ドゥルルル︱︱。
﹁あっ⋮⋮んぉおおおおおおおっ! 中に⋮⋮膣中にぃぃ抉り込ん
でくるようにぃぃぃ、んくぅぅぅぅぅ﹂
風を切り、前進しようとする﹃すくりゅー﹄は、その推進力でヴェ
ナの膣を強烈に突き上げた。
﹁ヴェナ⋮⋮! 大丈夫か?﹂
シャスラハールは懐の短刀を引き抜き、マルウスに突き付けながら
聖騎士を見やる。
﹁お、王子ぃ⋮⋮大丈夫⋮⋮で、ございます。この程度、ただの木
偶が膣内で動くくらい、わたくしには何とも⋮⋮ございませんわ﹂
ヴェナは汗の浮かんだ顔でシャスラハールに微笑みかけ、川の中へ
さらに進んで行く。
その陰部に装着された﹃すくりゅー﹄は空気を噛んで回っている。
肛門に接続された管からは、黒い液体が流れ込んできていた。
﹃はもの こわい しまって だいじょうぶ これで みず もぐ
れる はやく いどうできる ふねの ひと たすけられる﹄
マルウスはシャスラハールの手元に光る刃に怯えたように身を震わ
せながら、川の中ほどを見た。
174
遠目でもわかる程に、船の中は白濁の液で一杯になっていた。
セナはこみ上げる生臭さに顔を顰めた︱︱
はずだった。
ついには表情の筋肉すら覚束なくなっているのを感じ、絶望の波が
一層心を抉った。
夜通し精を浴びせられ、膣と肛門を犯されている彼女達に残された
気力は僅かも無い。
既に船の姿勢制御をする必要は無くなっている。
粘着性の強い魚人の精液が船の中で溜まり、乾燥して固まり始めて
いるからだ。
肌には不快なぬめり。
膣内には容赦の無い衝撃。
それによって強制的に持ち上げられる公娼として受けた調教の成果。
疲労が限界を迎え、精神を守る力を失った瞬間、彼女の心を襲った
のは悦楽だった。
﹁ち⋮⋮ちんぽぉ⋮⋮あはぁ⋮⋮くるぅ⋮⋮またぁ⋮⋮﹂
助かる道も見つけられず、ただひたすら犯されることに、騎士の誇
りが崩れかけている。
もうここで全てを諦め、与えられる快楽に溺れたまま死んでしまっ
ても良いのではないかと弱った心が泣きだしている。
そんな彼女を最後に支えているのが、王の誓い。
シャスラハールと交わした誓約。
﹁おっほおおお! またぁ⋮⋮またきたぁ⋮⋮水の中からぁ⋮⋮冷
たい水とぉ熱い精液が合わさってぇ⋮⋮ぬるいのがぁ⋮⋮気持ち悪
いぃ⋮⋮いやだよぉ⋮⋮シャス⋮⋮﹂
今までセナを貫いていた魚人が離れ、別の一体が遠慮なく挿入して
くる。
膣から引き抜く際に開いた膣口から川の水が入り、膣中に放出され
175
た精液と混ざり合ってセナの体内で留まり、魚人の肉棒で押し上げ
られて子宮に追いやられる。
子宮で感じられるのは、川の水と異形の魔物の精で出来た生ぬるい
混合液。
不快感は言い様の無いほどであった。
もうセナを含め誰も船の端を掴んではいない。
ただされるがままに犯され、精液を浴びている。
彼女達に訪れる死は、目前だと思われた。
﹃ギッ? ナンダ アレ﹄
魚人の一体から、驚愕の悲鳴が上がる。
次いで、船に液体が跳ねた。
それは今まで注がれ続けてきた白濁のものでは無く、
赤い赤い、血飛沫であった。
ヴェナが魚人を殲滅するのに掛かった時間は、両手の指で数えられ
る程度だった。
彼女の聖騎士としての技の冴えは、例え水中であっても衰えなかっ
た。
無論移動手段を確保できた事が救出成功の要であるのは間違いない
のではあるが、シャスラハールの胸は落ち着かない。
今、ヴェナは船首を掴み、船ごとセナ達七人をこちらの岸まで運ん
できている。
その股間に装着された﹃すくりゅー﹄の羽根は休む事無く回り、ヴ
ェナに推進力と性刺激を与えている。
﹃すくりゅー﹄が通り過ぎた後には泡が浮いている。
それは羽根の回転で生じた気泡なのか、ヴェナの膣から零れだした
愛液なのか、遠目では判断できない。
シャスラハールは視線を下げる。
ネズミ型の魔物が船を見つめている。
176
先日別れた魔導士アミュス達はこの魔物の事を穏やかで協力的な種
族だと言っていた。
彼らは生活の為に作物を育て、アミュス達に服を用意し、自分達に
は川を移動できる装備を与えてくれた。
感謝すべき相手に間違いはないが、腑に落ちない何かが胸を締め付
けるのだ。
シャスラハールはマルウスの傍を離れ、シュトラに声をかける。
﹁シュトラさん⋮⋮ちょっと良いですか?﹂
はい、と応じたシュトラの手を引き、また少しマルウスから距離を
取る。
﹁確信も何もない事なんですけれど⋮⋮﹂
シャスラハールは胸につかえる言葉を、ようやく吐き出した。
﹁マルウスの事、調べてもらっても良いでしょうか?﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
﹁いや⋮⋮どうにもアミュスさん達が言っていた彼らの話と、今回
僕が感じた彼らへの印象が食い違っていて⋮⋮。これから僕らはマ
ルウスの里に行く事になると思います。そこで僕自身も色々と見て
回るつもりですが、シュトラさんには僕や他の人達とは別角度から
彼らに個別に接触してもらって、彼らの本質を調べて頂きたいんで
す﹂
シャスラハールの言葉に、シュトラは数秒考え込んだ。
﹁それは王子とヴェナ様の到着に時間が掛かった件と、先ほどヴェ
ナ様が装着されていた得体の知れないものに関しての、疑問ですか
?﹂
シャスラハールは頷く。
﹁確かに⋮⋮魔物に知性があるのならば、先ほどの魚人達のように
力が無ければ罠を駆使してくる可能性は否定できません。わかりま
した。このシュトラにお任せください。マルウスの本質、見定めて
参ります﹂
二人は頷き合う。
177
その時、
﹁王子⋮⋮ただいま、戻りましたわ⋮⋮んくっ!﹂
ヴェナが岸に辿り着き、船を陸地に乗り上げさせていた。
船の中にいる七人は衰弱しきった様子で動くことができないでいる。
陸地で待機していたシャスラハール組の公娼達が肩を担ぐようにし
て船と⋮⋮中に溜まっていた白濁から引きずり出し、地面に横たえ
ていく。
シャスラハールとシュトラも急いでその輪に加わる。
シュトラはハイネアを、シャスラハールはセナを助け出した。
﹁セナさん⋮⋮﹂
騎士の顔と体は白濁にまみれ、陰部は痛々しいほどに赤く腫れてい
る。
﹁⋮⋮大丈夫⋮⋮このぐらい⋮⋮平気よ、バカ王子⋮⋮。ただちょ
っと⋮⋮休ませなさい。昼ごろには⋮⋮起きてあげるわ﹂
彼女はシャスラハールの胸に顔を寄せながら言った。
その目の端に透明な光る粒が浮いている事を見て、シャスラハール
深く目を閉じた。
セナを地面に寝かせ、シュトラ達に介抱を頼むと、彼は岸辺で倒れ
込んでいる聖騎士の下へ向かった。
﹁ヴェナ⋮⋮ごめん、ありがとう。マルウス! すぐにヴェナの装
備を外してくれ!﹂
シャスラハールの声に、ネズミ型の魔物はつぶらな瞳で振り向いた。
﹃すくりゅー の ことなら むり それは そうちゃく した とくべつな まるうす しか はずせない﹄
ヴェナは陰部に﹃すくりゅー﹄を装着しているため、座ることがで
きない。
現在彼女は尻を持ち上げた形でうつ伏せになっている。
﹁んんっ! あっ⋮⋮抉れる⋮⋮はあああああああん﹂
﹃すくりゅー﹄は今もなお爆音を立てて作動し、彼女の膣内で暴れ
まわっている。
178
﹁どうすれば⋮⋮止まるんだ?﹂
﹃それも むり きどう の ひも は あっても とめる そう
ち ない ねんりょう きれるの まつ しか ない﹄
シャスラハールは俯きながら、短刀を構える。
切っ先はヴェナの陰部で暴れている﹃すくりゅー﹄。
﹃やめたほうが いい つよい しげき あたえる と ばくはつ
する おまんこ の なかで ばくはつする ちなみに ねんり
ょう なくなる のは あしたの あさ﹄
カランッ︱︱と軽い音を立てて短刀が地面に落ちる。
シャスラハールは震える指先で、ヴェナの体を持ち上げた。
﹁王子⋮⋮いかが致しました⋮⋮わたくしならば⋮⋮この程度、何
の問題も⋮⋮はぁん! ございませんわ⋮⋮よ﹂
彼の大切な部下であり、支えでもある聖騎士の体を、少しでも彼女
の負担が和らぐように抱きしめた。
王宮魔導士ゴダンは禿あがった頭を掻いた。
彼は今、人間と魔物の領域を分ける大門の前の広場にいる。
傍には魔導長官オビリスお墨付きの調教師ゾートが老いた顔を厳し
くして佇んでいる。
ゾートの後ろには数人の男女が集まっていて、彼らはゾートが連れ
てきた選りすぐりの調教師だと紹介を受けた。
さらに自分達を囲むようにして騎士団が二つ、総計六百人ほどの武
装した兵士が控えている。
西域に派兵される陣容は今集まっている人間に、リトリロイ王子と
騎士公娼セリスを加えた数だと彼は聞いていた。
しかし今、彼が汗をかくのに十分なほどの熱気が、辺りを覆ってい
る。
五万人だと、リトリロイは言った。
彼が出発前日までゴダンやオビリスには告げず、秘密裏に集めた非
179
戦闘民だ。
開拓団という名目で集められた彼らを連れて、西域に入るらしい。
広場に入りきれず、小道や町の外れにまで溢れた人間の見た目は、
一言で言ってみすぼらしい。
それも当然、リトリロイが集めたのは犯罪者や社会脱落者ばかりで、
その殆どが男だった。
女も居るには居るが、年老いた皺顔を歪めて息を吐いている者ばか
りだ。
話を聞くに、口減らしとして姥捨て山代わりに開拓団に送られたそ
うだ。
この無頼の輩を率いて王子は何をしようと言うのだ。
ゴダンが視線を上げる。
そこには仮設の壇上に立ち、熱弁をふるうリトリロイ王子の姿があ
った。
﹁注目してくれ! 良く集まってくれた。ここから先は危険な魔物
の領地、西域だ。君達にはそこで開拓団として働いてもらい、大き
な城と街を作ってもらう。そこは、今現在ゼオムントで不遇な扱い
を受ける君達が新しくやり直すための国になるだろう。僕はそこで
新たな王となり、ゼオムントとは異なる政治によって国を治める﹂
リトリロイの傍には、騎士公娼セリスがドレス姿で控えている。
﹁犯罪歴や借金のある者は、すべて打ち消そう。新たな人生を僕の
国で始めてもらおう。もちろん労働の対価として給金もはずむ。今
は男所帯で色が足りないかも知れないが、国が完成した暁にはゼオ
ムント国内で志願する女性を僕の国に移住してもらい、君達との間
に愛を育んでもらって子孫を残そう。そうやって国を発展させてい
くんだ﹂
リトリロイの言葉に、開拓団の中から吠え猛る声が応じた。
﹁国を! 国を! 国を!﹂
彼らはゼオムントに見捨てられた存在だった。
故に、新たな国で真っ白になって再出発できるという希望に燃えて
180
いた。
﹁秩序を守る為に、僕の騎士団が君達と同行することを許してほし
い。生まれ変わった君達を信じていないわけでは無いけれど、西域
には外敵として魔物も存在しているし、武力は必要なんだ﹂
王子は自らの横に立った将軍の事を紹介する。
今回ゴダン達と共に行動する二つの騎士団を束ねる男のようだ。
﹁最後に、一つだけ言っておくことがある。僕はゼオムントの政治
は踏襲しない。けれど、一つだけ父王の政策で認めているものもあ
るんだ﹂
それは︱︱と王子は言葉を切った。
﹁公娼制度だ﹂
王子の言葉に、開拓団は一瞬黙り、すぐに爆発する様な声を上げた。
﹁公娼! 公娼! 公娼!﹂
公娼、それはゼオムント国で不遇であった彼らにとって、自分達よ
りも唯一立場の弱い、何をしても許される存在だった。
リトリロイは言葉を続ける。
﹁今現在西域にはかなりの数の公娼が派遣されている。これは王宮
や調教師のお遊びとしての派遣だ。僕はそれを認めない。自分達が
飽きたからと言って、本当に必要としている所に公娼を送らず、無
為に死なせているだけではないだろうか! だから僕はここに宣言
する﹂
彼は一瞬後ろに控えている騎士公娼セリスの方を見てから、言葉を
紡いだ。
﹁新しく生まれる僕らの国の為に! 西域にいるすべての公娼を捕
らえ、本来彼女達が持つ性奴隷としての役割を果たさせるのだ。こ
れから建国という辛い仕事を担ってもらう君達の為に、僕は全力を
持って公娼を捕らえ、分け与える事を約束する!﹂
またも咆哮を上げる開拓団の熱気を尻目に、ゴダンはため息をつく。
厄介なことに巻き込まれたものだと。
﹁魔導士殿⋮⋮如何なされる?﹂
181
ゾートがしわがれた声で問うてくる。
ゴダンはそれに一つ頷いて、
﹁いやいや⋮⋮困りましたねぇ⋮⋮何やらリトリロイ王子は陛下と
内々のお約束をされているようですし、王宮からこの件は謀反では
ないと通達を頂きました。そうなると私共はしがない宮仕えの身、
下手に動かず命令書通りに働きましょう﹂
そうか、とゾートは応じ後ろを見る。
﹁聞いたか皆の衆。ワシらのやるべき事に変わりは無い。公娼を見
つけ出し、調教を施す。調教師としての職務を全うする事のみを考
えよ。お前達はこのゾートが選んだ凄腕の調教師だ。その全力で作
り上げた作品をもって、自らの名を歴史に刻め﹂
王宮から称号を授与されている当代最高の調教師であるゾートに率
いられた調教師集団。
彼らが作り出す作品ならば、きっとオビリスも、ゼオムント王も満
足されるだろう。
﹁何と言っても、今は公娼達が希望を抱き始めた頃合いですからね
ぇ﹂
公娼が三年間で飽きられた理由の一つが、繰り返される調教の結果
絶望と諦観から誇りと矜持を失い、従順になった彼女達の態度にあ
った。
公娼制度開始当初の反抗的な態度と、屈辱に震える表情を民衆は求
めていたのだ。
今の彼女達は、儚げながら希望を抱いている事だろう。
それを打ちこわし、踏みにじる。
その為に仕掛けられた、魔導長官オビリスの西域遠征。
一瞬の夢。
公娼が抱く分不相応の夢。
それを絶対的な力によって破壊し、刺激を取り戻す。
﹁まぁ私達で公娼を捕らえて、徹底的に調教し、撮影した後はリト
リロイ王子のところの開拓団に回せば良いでしょう。私達が求めて
182
いるのは娯楽、開拓団が求めているのは性処理ですからねぇ。一粒
で二度おいしいというやつです﹂
その言葉に、ゾートは疑問する。
﹁しかし魔導士殿、開拓団を守るために騎士団の人員を割かれては、
公娼の確保に支障がでますぞ。元々アレらは強い、それに希望を守
る力まで加わってしまっては、下手すればこちらがやられかねない﹂
ゾートの疑問に、ゴダンは肩を落として笑った。
﹁ですよねぇ⋮⋮そう考えるのが普通です。しかし、恐ろしい事に
西域遠征の計画者である長官には奥の手があったようです。本来は
演出上最終幕で登場させたかったのに⋮⋮と悔しがっておられまし
たが、えぇとどこに仕舞ったかな﹂
ゴダンは懐をごそごそと漁り、一本の短い杖を取り出した。
﹁それは⋮⋮なんですかな?﹂
ゾートが老いた目を細めて杖を見やる。
﹁これは出発の前に魔導長官から呼び出されて預かったものです。
これを使って命じれば、西域に棲む魔物共は意のままに動いてくれ
るそうです。私達は魔物に公娼を襲わせて、捕まえたところを引き
渡させます。そうすれば少ない兵でもほぼ無傷で公娼を確保する事
が出来るでしょう﹂
ゾートは、その言葉を受けて笑った。
﹁ハハハハハッ! それはそれは⋮⋮。魔導長官の調教師としての
能力、恐れ入るばかりだ。ここまでの演出力、感服いたす﹂
そう、今ゴダンの手に握られている杖こそが、
﹁これが﹃魔物の宝具﹄統帥権の証、公娼の夢と希望でございます﹂
183
﹃お姉さん﹄︵前書き︶
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﹃お姉さん﹄
シャスラハールにとって、我慢を要する時間が続く。
魚人︱︱ヒュドゥスによる長時間の凌辱で体力を失ったセナ達の回
復を待ち、ネズミ型︱︱マルウスの卑猥な装置が燃料切れをおこし
ヴェナが苦痛から解放されるのを、ただ座して待つことしか彼には
出来なかったからだ。
夕刻を迎え、体力のあるステア、シャロン、セナ、フレアの騎士四
人とリセは意識を取り戻したが、魔導士ユキリスと王女ハイネアは
依然昏倒したまま、目を覚まさなかった。
目覚めた五人も、完全に回復したわけでは無く、憔悴した様子で座
っている。
ヴェナは声を押し殺し、岸辺の岩陰で横になっている。
彼女の陰部に取り付けられた﹃すくりゅー﹄は今も爆音を立てて作
動しており、聖騎士の秘部を苦しめているはずだ。
﹁王子は皆の傍にいて下さい。わたくしの事は大丈夫でございます﹂
そうヴェナは言って、シャスラハールの視界から逃れる様に、岩陰
に隠れている。
聖騎士としての誇りが、王の負担になる事を拒んだのだ。
今、シャスラハールは岸辺全体が見渡せる小さな丘に座っていた。
そこに、歩み寄ってくる影。
﹁王子⋮⋮辛そうなお顔をしていらっしゃいますね﹂
シャスラハール組の公娼として、ヴェナ不在時に残りの者達を纏め
てくれた、青髪の騎士シュトラが近づいてきた。
﹁そうですね⋮⋮ちょっと自分が許せなくって⋮⋮セナさん達が長
い間酷い目に遭ってい
たり、ヴェナが今も苦しい思いをしていたり⋮⋮もしかしたら未然
に防げたんじゃないかって、僕は今回ほとんど何もできていない。
185
ただ眺めているだけの、それこそ調教師であった頃の自分と大差が
ないのが、嫌なんです﹂
シャスラハールは左拳を握り、吐露する。
﹁僕は祖国を取り戻すために戦うと決めました。皆さんにはそれを
手助けしてもらう、そういう仲間になるんだって誓ったのに、今こ
うして僕はのうのうと無力を晒し、セナさんやヴェナ達を苦しめて
いる。それがどうしても、許せません﹂
少年は拳を振りおろし、地面を叩いた。
鈍い音を立てて拳が鳴った。
少年の頬に透明な滴が一筋、流れる。
﹁⋮⋮王子、これからわたしは差し出がましいことを申し上げます。
どうぞお許しください﹂
シュトラはシャスラハールのすぐ隣に腰を下ろした。
﹁王子はまだ、お若くいらっしゃいます。理想の自分と現在の自分
の差異に悩む事が有ったとしても、何の不思議もございません。今
日の出来事で己が無力だったと申されましたけれども、わたしはそ
うは思いません。王子はセナさん達を助けるために走りました。ヴ
ェナ様の為にお怒りになられました。貴方の気持ちに応えるために、
皆が懸命に頑張った結果、今こうして全員の命を保つことが出来て
います﹂
シュトラの柔らかな手が、シャスラハールの頬を撫でた。
﹁本当に無力だったのはこのわたし。わたしはただ見守るだけでセ
ナさん達を救出することも、ヴェナ様の苦痛を和らげることもでき
ませんでした。騎士として叙勲を受け、貴方様を支えると誓ったこ
の身でありながら、何一つお力になること適いませんでした﹂
柔らかな手は、少年の黒髪に触れ、そのままふくよかな胸へと抱き
寄せた。
﹁不甲斐ないこの身が今唯一救えるのは、貴方様の御心のみです。
王子、貴方は今視界に収めるセナさん達の姿に苦しみ、漏れ聞こえ
るヴェナ様の声に苦しんでいらっしゃいます。ただひと時ではござ
186
いますが、わたしがその苦しみから、お救い致します﹂
シュトラは身を覆っていた薄手のマントを脱ぎ捨てた。
彼女がその下に何も身に着けていない事は、シャスラハールは知っ
ていた。
それは、彼が彼女に授けた衣装だったからだ。
﹁シュトラ⋮⋮さん、僕はもう主人役でも調教師でも無いんです⋮
⋮貴女を慰みものにするようなことは⋮⋮したくない﹂
﹁良いのです⋮⋮王子。慰みものなど、そうは思いません。わたし
はただ年長者として、苦しんでいる少年を励ましてあげようと、分
不相応な事を考えているだけなのですから﹂
シャスラハール組の中では年長者で、二十代の中頃であるシュトラ
にとって、まだ成人していない彼は男と言うよりも弟のように感じ
られた。
﹁わたしは貴方の事を応援したいのです。シャスラハール王子、わ
たしを公娼と言う絶望から解き放ってくれる存在を。泣いている顔
を撫でて、沈んでいる心を解きほぐしてあげたいのです。どうか、
この一瞬だけでも周囲の事を忘れ貴方の心の為、わたしに甘えて下
さい﹂
シャスラハールは涙の浮いた顔を持ち上げる。
﹁シュトラさん⋮⋮聞いてください﹂
﹁はい、何ですか? 王子﹂
震える唇で言葉を紡ぐ。
彼のその姿に優しく微笑みながら、頭を撫でて返事するシュトラ。
﹁僕には⋮⋮姉が⋮⋮姉さんがいました。スピアカントの王族とし
て何不自由なく暮らし、少々我が儘に振舞っていた僕をよく叱って
くれる人でした。ゼオムントとの戦争で国土がどんどんと侵略され、
僕の兄さん達が次々と出征しては死んでいく中、懸命に僕を守り、
励まし、支え⋮⋮最後にはその身を犠牲にして逃がしてくれた人で
した﹂
スピアカント国は強国であった。
187
故に覇道を行くゼオムントと相争う道を王家は決め、戦った。
しかしゼオムントの力は凄まじく、一度としてスピアカントが勝利
を掴む事は出来なかった。
民衆は王家に責任を求めた。
王は苦心の末、一族の男子を将として戦いに向かわせた。
敗れた。
王は悔恨の末、一族の長老を使者として講和に向かわせた。
拒まれた。
王は諦観の末、一族の女子を貢物として降伏に向かわせた。
受諾された。
シャスラハールはまだ幼かったが故に、戦いに行く事なく国の終わ
りを迎え、貢物として移送される姉の最後の知恵で城下に隠された
のである。
﹁姉さんは最後に⋮⋮僕の事を抱きしめてくれました。今シュトラ
さんがしてくれるように、優しく包み込むようにして、笑って、安
心させるように⋮⋮﹂
シュトラはシャスラハールの黒髪を撫でる。
﹁⋮⋮お姉様は、今⋮⋮﹂
シャスラハールの両目が強く開かれる。
﹁姉さんは⋮⋮! 公娼に⋮⋮されました。僕が調教師になった理
由は、ヴェナと出会い戦力を得る事ももちろんでしたが、姉さんと
再会するため⋮⋮という事も大きかったのです。しかし⋮⋮﹂
少年の瞳から、涙の粒が溢れる。
﹁去年⋮⋮首都で調教師の大会が開かれたのをご存知ですか⋮⋮?
全国から選りすぐりの調教師を集め、首都に作られた特別会場で
その日の為に研究された映像魔術の生配信を使って行われた⋮⋮国
を挙げての大規模な大会です﹂
シュトラは大会と言う言葉に記憶を探り、頷いた。
﹁わたしは当時、大きな農園で農夫達の慰安と家畜の性処理を公娼
としてやらされていたのですが⋮⋮農夫達もこぞってその大会を見
188
ていた記憶が有ります。大会で見たという斬新な調教をわたしの体
で試すと言って、農具を使って体中をいたぶられました﹂
シャスラハールはシュトラの肌を撫でる。
そこに刻まれた痛みと汚れを払うようにして。
﹁そうです⋮⋮斬新さもその大会にとっては大きな評価点となって
いたので、調教師達は様々なお手製の器具を使って公娼を嬲りまし
た。そしてその大会⋮⋮審査基準を明確にするという理由で、公娼
は一人でした。全国から集まった調教師の数は三十人だったにも関
わらず⋮⋮です﹂
まさか⋮⋮とシュトラが呟く。
﹁そうです⋮⋮僕の、僕の姉さんが⋮⋮たった一人で⋮⋮! 刃の
付いた器具で血塗れになっても、脳に支障をきたす程の薬剤を打た
れても、王宮の治療魔術士に回復されて、また何度も何度も何日に
も渡って、これまで民衆が見たことも無かった方法で凌辱されてい
ったんです!﹂
騎士は、王子の体をギュッと抱きしめた。
﹁聞き及ぶところによると、映像魔術も会場も莫大な費用を使い用
意したので、それに見合うだけの身分をもった公娼が良い、とゼオ
ムント王が言ったそうで⋮⋮その結果大国スピアカントの第一王女
だった姉さんが指名されたそうです⋮⋮﹂
王子の涙と叫びは止まらない。
﹁優勝したのは⋮⋮ゾートと言う老いた調教師でした。彼は斬新も
斬新、そして凶悪な装置をいくつも持ち出し、姉さんの体を痛めつ
けていきました。そして⋮⋮そして最後に⋮⋮姉さんを絶頂させな
がら殺す事で、これまでの調教師達と格の違いを示し、大会の覇者
に選ばれました﹂
王子の震えが、騎士の体と心を揺らす。
﹁僕は⋮⋮僕は映像魔術でその様子を見せつけられながら、必死に
祈りました。姉さんの無事を、姉さんの魂の救済を、ゾートに訪れ
るべき破滅を⋮⋮! けれど、現実は残酷です。ゾートはその後勲
189
章を授与され調教師としての栄華を進み、姉さんの亡骸はゾートの
部下の手によって修復され、王宮魔術士の不滅魔術によって魂の無
い肉人形としてその大会会場に飾られていて、一般観覧者の誰しも
が﹃利用﹄できるんだそうです﹂
﹁利用⋮⋮ですか⋮⋮﹂
公娼は死ぬ。残虐な民衆に殺される。
それはシュトラの知っている事実だったが、そこから更に先がある
事を、今シャスラハールは口にしている。
﹁僕の⋮⋮同期の調教師が笑い話として語っていましたよ、会場に
行って長蛇の列に並んで姉さんの死体にハメてみたけど全然温かく
ねぇからキモチ悪ぃって⋮⋮、そしてその事を会場受付に苦情とし
て出したら、ゾートの部下が﹃修復﹄に来たそうです。何でも、腹
部を裂いて中に発熱用の器具を埋め込み、一日一回口から火種を流
し込めば常にひと肌温度の人形にしあがった⋮⋮、それにハメてみ
ると中々どうして具合が良い、その日以降これまで以上に来場者が
増えて会場運営は潤いまくりだな。っと﹂
殺せるものならば、同期の男を殺してしまいたかった。
しかし、彼には出来ない。
彼にはやるべき事があったから、その為の機会を迎えるまでは、模
範的な調教師を演じるしかなかった。
僕はっ! とシャスラハールは叫んだ。
﹁姉さんが今にも殺されようとしている場面で助ける事も出来ず!
死んでからも魂を犯されている姉さんを救えもせず⋮⋮! そん
な僕がこうやってシュトラさんに甘える事なんて⋮⋮! 僕は⋮⋮
僕はっ!﹂
泣き叫ぶ彼の体を、騎士は強く抱いた。
﹁王子⋮⋮いえ、シャス。良いのよ。泣いて、たくさん泣きなさい。
辛い事が有った数だけ泣いていいの。貴方には今、守ってくれる人
も、支えてくれる人もちゃんといます。頼って、助け合って認め合
って、時には慰め合っても良いの。貴方は今、とっても頑張ってい
190
るのだから﹂
シュトラの柔らかな声にシャスラハールの顔が上がる。
その震える唇に、
﹁泣きたくなったらいつでも言いなさいね、わたしがお姉さんの代
わりに、なってあげます﹂
優しい唇が重なった。
翌朝、ヴェナを苦しめていた装置が動きを止め、一行は出発の準備
を整える。
ステア達騎士連中も動きは軽快に見え、状態が深刻だったハイネア
だけは大事をとってリセが背負っている。
マルウスの先導で彼らの里を目指す、その第一歩を踏み出そうとし
た時、
﹁シャス、気を付けて行きましょうね。道中もだけど、このネズミ
達に対しても﹂
シュトラがシャスラハールにこっそりと近づき、耳打ちしてきた。
﹁あ、う⋮⋮うん。シュ、シュトラさん⋮⋮昨日は⋮⋮えっと、あ
の⋮⋮﹂
﹁うふ。そんなに畏まらないで、もう良いじゃない。わたしはいつ
でも良いわよ、お相手してあげる。だって昨日の一晩で、シャスの
事がとっても愛おしくなってしまったもの﹂
シャスラハールは一晩中、シュトラに甘え続けた。
涙を流し、頬を摺り寄せ、唇を繋ぎ、セックスをした。
彼女はその間常に優しくシャスラハールの頭を撫で、声で元気づけ
てくれた。
それはまるで、姉のような温かさだった。
﹁⋮⋮ちょっと⋮⋮シャス。どう言うこと? いつのまにシュトラ
さんと打ち解けた雰囲気になってんの?﹂
そんなシャスラハールの傍に、セナがやってくる。
191
その目は細められ、詰問と言った様子だ。
﹁いや⋮⋮えっと⋮⋮あの。違うんですよ、セナさん⋮⋮﹂
﹁そういえばアンタ昨晩見なかったけどどこに行ってたのよ? ア
タシ達が夜通しユキリスとハイネアの介抱してたって言うのに﹂
セナの視線を受け動揺するシャスラハール。
その態度にまた一歩踏み込んでくるセナに向けて、
﹁はい、そこまで。喧嘩はダメよ、シャス。ほらほら﹃お友達﹄と
は仲良くしないとね﹂
シュトラが左手をかざし、セナを止める。
右手はしっかりとシャスラハールを捕まえ、その体に引き寄せた。
﹁そうじゃないと、今夜はお預けしちゃうよ?﹂
マルウスが振り返ってその様子を見ている事に、三人は気が付かな
い。
192
幼さ 強がり︵前書き︶
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193
幼さ 強がり
黄金色の稲穂が地面を覆い隠し、転々と建っている木造の風車がの
どかな景色をより一層牧歌的に味付けしていた。
マルウスの里は、戦争や混乱とはかけ離れた平穏な世界だった。
彼らは山の斜面を利用し穴倉を作り、そこに家族単位で生活をして
いるという。
セナ達はその内の一つを借り、当座の生活空間を得た。
﹁降ろすぞ⋮⋮痛くないか?﹂
フレアは背負っていた足を失った公娼︱︱修道女レナイを穴倉に敷
かれた絨毯の上に座らせる。
﹁大丈夫です⋮⋮ありがとう﹂
一行がこの里にたどり着くまでに要した時間はほぼ一日。
マルウスの食事や睡眠で浪費した分もあるが、何より足を切り落と
された痛々しい姿のレナイ達を背負って移動するという事が、全員
の足を遅めた。
﹁ごめんなさい⋮⋮私がこんな事になっていなければ⋮⋮﹂
レナイの顔が曇る。
カマキリ型の魔物︱︱ベリスから救出されたのは彼女を含め三人だ。
これまではフレアや他の騎士達で三人を背負って旅してきたのだが、
これから先魔物の領域に深く踏み込んで行く際に、彼女達の無事を
考えればどうにか手を打つ必要があった。
﹁気に病むな。怪我の事は致し方ない、マルウス達に頼んで義足や
それに代わるものを用意してもらおうと、姉上やヴェナ様が仰って
いた。悲観はするな﹂
フレアはレナイの肩を叩き、立ち上がる。
﹁セナ、しばらくはここに逗留するのだろう?﹂
フレアの言葉の先、赤い髪を両結びにした騎士が振り返る。
194
﹁そうね。レナイさん達の足の事もあるし、アタシ達の装備の事も
ある。何より色々有りすぎてちょっと休憩も必要だしね。シャスは
なんだか様子がおかしいけど、ヴェナさんや騎士長はここでしばら
く態勢を整えるつもりみたいね﹂
セナやフレア、他数人これまで全裸で移動してきた人間には、マル
ウス達から簡易の衣服︱︱とも呼べない布があてがわれ、それを体
に巻いている。
全裸の頃よりは幾らかは気分的に落ち着きも出ている。
﹁セナ、フレア。これからの方針について話し合いをします。こち
らに集まってください﹂
少し離れた場所でマルウスの用意した地図を囲んでいたシャロンか
ら声を掛けられ、二人は移動する。
地図を囲んでいるのは、
シャロン、ステア、ヴェナの三人だった。
﹁あれ、シャスは? どっか行ったの?﹂
セナの言葉に、
﹁セナ⋮⋮あの御方はまだ若いとは言え王族だ。騎士としての礼節
を持った言葉づかいを心がける様に﹂
ヴェナに横目で睨まれながらステアが困った声で言った。
﹁了解でーす﹂
セナは軽く応じて地図を囲む輪に加わっていく。
﹁それじゃあ⋮⋮頼みますね。シュトラさん﹂
穴倉から少し離れた所で密会する男女。
王子シャスラハールとその騎士シュトラだ。
﹁えぇ任せて。しっかり探ってくるわ⋮⋮このネズミの里を﹂
身長に差の無い両者が隣に立って向かい合うと、顔がすぐ近くに来
る。
﹁うふふっ﹂
195
チュッ︱︱と軽い口づけがシャスラハールの唇を襲う。
﹁あっ⋮⋮﹂
予備動作もなく唇を奪われ、赤面する王子に向けて騎士は微笑み、
辺りを見渡す。
﹁良いところです。この里の景色は素晴らしい。けれど、どうして
も納得がいかないの。穴倉に住み着いたネズミさん達が時折見せる、
あの濁った瞳﹂
一行の中でマルウスに対して強い警戒感を共有しているのは、この
二人だけだった。
聖騎士ヴェナは自身に与えられた辱めすらどこ吹く風で、彼らの力
を利用すれば良いだけとの考えを持ち、セナ達はその技術で救われ
た身であるので、彼らを疑おうとはしていない。
二人だけで調べるしかない。
それを昨日確認した。
シャスラハールは接触してくるマルウスから情報を集める。
逆にシュトラは自分から接触して行きマルウス達の様子を探る。
そして二人の集めた情報を元に、彼らが信頼できる存在か否かを判
断しようというのだ。
﹁ヴェナ様達がどう判断するかにもよるけれど、この里に滞在する
のは長くて五日と言うところでしょう。今後の装備や戦略、物資の
補給等も含めてマルウスの技術は欲しい。けどその彼らに疑うべき
点が残っていたら旅の足枷になりかねない。今ここで、しっかりと
見定めておくべきだわ﹂
シュトラはシャスラハールに手を振り、踵を返す。
しらみつぶしに当たって行こう。
ネズミの潜む穴倉を覗き込み、彼らの生態を知る事が、王子の力と
なり、騎士の務めとなるのだ。
﹁遅いぞー、どこ行ってたの? シャス﹂
196
シャスラハールが自分達の宿代わりの穴倉に戻ると、何やら作業中
のセナが声をかけてきた。
﹁いえ、ちょっと外に⋮⋮何をされてるのですか? セナさん﹂
﹁何って、料理よ料理。これまで食事は保存食のマズいのばっかり
だったでしょ? たまにはちゃんと味付けした物も食べたいよねー
ってフレアと話をしてて、マルウスに相談したら材料を分けてもら
えたの﹂
そう言ってセナは大きな鍋をかき回す。
道具も一通り借りられたようだ。
﹁セナこれはどうやって切るんだ? 何型だ?﹂
セナの隣で芋を手に取り刃物を構えたフレアが首をかしげている。
﹁知らないわよ。そんなの煮ちゃえば一緒でしょー? 適当にバラ
バラにして鍋の中に投げ込めば良いのよ﹂
なるほど、と頷き芋を真っ二つに割るフレア。
セナは赤く煙を放つ鍋をかき回しながら額に浮いた汗をぬぐってい
る。
﹁セナさん⋮⋮それ、その鍋大丈夫なんですか? 凄く赤いんです
けど⋮⋮?﹂
シャスラハールが汗を浮かべ、鍋の様子を見ながら言うと、
﹁さぁ? マルウスが用意した調味料を片っ端から放り込んだだけ
だからね。味がおかしかったら水入れたりすれば大丈夫でしょ﹂
あっけらかんと赤髪の騎士は言う。
﹁それじゃ芋入れるぞ。芋は大事だからな、特に戦争期には必須だ。
どんな状態でも味あわねばな﹂
フレアが得意げに胸を張り、切ったというより砕いたと表現するの
が相応しい芋の残骸を鍋に放り込む。
シャスラハールの額から、また一滴汗が流れ落ちた。
その時、
﹁あ、あの料理でしたら私がやりますので。どうかお二人はあちら
で戦略会議の方に参加されてください﹂
197
リセが慌ただしくやって来た。
彼女が指差す先では、ヴェナとステアが今後必要な装備や物資につ
いて話し合っていた。
﹁私はハイネア様の侍女として一通りの料理経験がございますので、
きっとお役にたてると思います﹂
リセの言葉に、
﹁そう? 美味しく作ってよね﹂
﹁それじゃあ頼む、リセ殿。期待している﹂
セナとフレアが調理の手を止め、リセに場所を譲って立ち上がった。
去りゆく二人の背中を見つめながら、リセが呟く。
﹁ハイネア様の具合がよろしくないので、せめて精の付くものを食
べて頂くためにも、味付けは大事ですから⋮⋮﹂
小声で誰に向けたものでも無い言い訳をするリセに、
﹁仕方ありませんよ⋮⋮だってこれは⋮⋮人の食べれるものかどう
か⋮⋮﹂
グツグツと煮立つ赤いナニカを見下ろしながら、シャスラハールは
苦笑した。
﹁お二人は騎士様ですから、調理場に立った経験はあまり無いはず
です。こういう事は適材適所で私にやらせて頂いた方が、有り難い
かもしれません﹂
リセはホッと頷きながら言い、シャスラハールの方を見、固まった。
﹁あっ⋮⋮でも、ああああの申し訳ございませんシャスラハール殿
下、私なんかが差し出がましい真似をして⋮⋮そ、それにお口に合
うかどうかも分らない拙い料理を振舞う事になるかも知れず⋮⋮あ
わわ﹂
今更ながらに、シャスラハールの事を認識し、慌てるリセ。
彼女はこれまでの道中一度もシャスラハールと言葉を交わすことな
く、常にハイネアを通してお互いの存在を認識していた程度だった。
そこにはリセにとって、ハイネア以外の王族に対する緊張と畏敬の
念があったからだ。
198
﹁い、いえいえ。全然、全然大丈夫ですリセ殿。僕の事はお気にな
さらず、舌の方も長年庶民の間に混じっておりましたので、なまじ
高級なものよりも大雑把な味付けの物の方が親しみやすくて⋮⋮あ
の、好きですから﹂
シャスラハールも相手の動揺につられて慌て、手を振って言葉を返
す。
﹁そ、そうですか、ではあまり大した事はございませんが、料理の
方を︱︱﹂
﹁何を言うか、リセの料理の腕は妾の国で至高のもの。強国スピア
カントの王子の舌であったとしても間違いなく満足させるものであ
ろうぞ﹂
謙遜するリセに向けて、近くで横になっていたハイネアが目を開け
て言った。
﹁王子シャスラハールよ。騎士連中が話し合っている間にちと、妾
と話をせぬか? お主が調教師を辞め、妾も公娼で無くなったとす
ると。一つ王族同士での語り合いと言うものを、久方ぶりにやって
みたくなってな﹂
ハイネアが身を起こす。
その凹凸の少ない体にはマルウスにあてがわれた飾り気の無い布が
巻かれ、肩には別れる間際にヘミネより譲られたケープがかけられ
ている。
その言うなればみすぼらしい姿から放たれるのは、まったく印象を
異にする王者の気品。
﹁リセよ。四半刻ばかり王子と語らって来るゆえ、他の者が探しに
きても言うでないぞ。あと妾はちと疲れておる。消化の良くて、で
きればあまり辛くないものを頼む﹂
﹁は、はい! 行ってらっしゃいませ。ハイネア様。料理の方はお
任せください﹂
立ち上がりシャスラハールの袖を引いて外へ歩き出したハイネアを
見送り、鍋に向き直ると、別の人影が近づいてきた。
199
地面に敷かれた絨毯を擦る様にして這ってきたのは、
﹁あの⋮⋮私、このような体になって皆様にご迷惑ばかりかけてし
まっていますので⋮⋮できる事でご恩返しをさせて頂きたいのです
が、料理のお手伝いをさせて頂けないでしょうか﹂
両足の先を失った修道女、レナイだった。
彼女の顔は暗く、肉体的欠損はもちろん、ここまでの旅路で周囲の
手を借り続けた事を自分自身で責めている様子だった。
リセはその悲痛な姿と思いに、涙がこみ上げてくるのを感じた。
﹁︵いけない⋮⋮今憐みやそれに類する感情を見せてしまっては、
その分だけレナイ様を苦しめてしまいます︶﹂
リセは必死に涙を押しとどめ、努力して笑みを作って、
﹁はい。ではこのお芋の下処理をお願いしても良いでしょうか?﹂
まな板と包丁、それに芋が乗った籠をゆっくりとレナイの前になら
べ、
﹁一緒に美味しいものを作って、皆さんに喜んでいただきましょう﹂
笑いあった。
﹁あの⋮⋮ハイネアさん? 何か御用なんでしょうか⋮⋮?﹂
シャスラハールはハイネアに連れられるままに歩き、今は人もネズ
ミの影も無い木陰に入った。
﹁⋮⋮﹂
ハイネアは無言である。
無言でシャスラハールに背を向け、気品に満ちた後姿を晒している。
﹁えっと⋮⋮何も用事が無ければ僕はヴェナ達と今後の予定を⋮⋮﹂
シャスラハールが今出てきた穴倉の方を見やり、視線をハイネアの
背中から逸らした瞬間。
﹁仕方⋮⋮無いであろう﹂
スッと屈みこんだハイネアがシャスラハールの腰を捕まえた。
﹁え⋮⋮?﹂
200
不意を突かれ、硬直するシャスラハール。
腰を捕まえた小さな手が、ゆっくりと下がって行くのを感じる。
彼の腰から下を覆う簡素な衣服の合わせに手が入れられる。
まだ縮まったままの肉棒が取り出され、外気に触れた。
﹁な⋮⋮﹂
ひんやりとした外気に撫でられたかと思うと、次の瞬間には湿った
暗闇に収められた。
﹁ふぐ⋮⋮大人しく、してくれ﹂
腰を引きかけたシャスラハールの体を抱きしめながら、ハイネアが
その幼くあどけない口に、彼の肉棒を咥えこんだのである。
﹁王女、ハイネア王女。一体何を⋮⋮!﹂
﹁あふぁれるらといっへおろう﹂
肉棒を甘く噛みながら、言葉にならない声で言うハイネア。
﹁王族の語らいでは無かったのですか!﹂
﹁そうら、こへがおうろくのかたらひ。わらわにふさわひいだんひ
をムコとせねば﹂
ふにゃふにゃと口を動かす刺激がシャスラハールの性感帯を刺激し、
呻きに似た声が漏れる。
キュポ︱︱と音を立てて彼の肉棒が引き抜かれる。
そこはもう、立派にそそり立っていた。
﹁リネミア神聖国王女としての妾の望みじゃ。抱け。そして娶れ。
この世をゼオムントの支配から救う男よ。その決意、王族としての
使命、何より素晴らしいものである。この妾の夫になるに、ようや
く足る人物が現れたわ﹂
一瞬でケープと布をはぎ取ったハイネアが襲い掛かり、シャスラハ
ールは地面に倒れる。
﹁ハハハッ良いぞ、今までは下郎に組み敷かれるばかりであったが、
こうして自分が逆の立場になって繋がってみるのも良いものだ﹂
ハイネアは他の公娼と比べても幼く、体格も貧弱で、力で言えばシ
ャスラハールの方が圧倒的に上である。
201
彼女は公娼としてのこの三年間を中等教育施設で自由性交生徒と言
う名の性奴隷として過ごしてきた。
その年齢を察するに、まだ一八であるシャスラハールより二つ三つ
年下なのである。
しかし、彼は振り払えなかった。
﹁良いぞ⋮⋮良いぞっ! 気分が⋮⋮良いぞぉ⋮⋮うぅ﹂
少女の瞳から零れる涙が、少年の顔に垂れて来ていたからである。
その姿は、ようやく見つけた希望にすがる、弱弱しい年頃の娘にし
か見えなかった。
﹁妾を⋮⋮助け、導き。栄光を⋮⋮繁栄を⋮⋮何より、平和を⋮⋮
助けて、助けて⋮⋮。もういや、もう⋮⋮もうあんなみじめな思い
は⋮⋮心を汚されるのは⋮⋮もう⋮⋮いや。一緒に、居て⋮⋮わら
⋮⋮私を、見て。守って﹂
泣きじゃくる少女が少年の胸に倒れ込んでくる。
彼はその体を受け止め、落ち着かせるように背中をゆっくりと撫で
た。
202
後方支援組︵前書き︶
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203
後方支援組
ハイネアの嗚咽を耳に、シャスラハールは考える。
今自分の胸で泣き崩れる少女は回復術の技能こそあれ、セナ達のよ
うな騎士でも無く、またユキリスの様な魔導士でも無い。
戦闘においてはまったくの非力。
従者であるリセに守られる形で生き延びてきた。
力を向けられると屈するしかない弱き者。
ゼオムントの威光に屈し、公娼として辱められる際も、騎士や魔導
士であれば己の力を信じ、いずれの反撃を狙う事も出来たはずだが、
この少女は違う。
ただ一人の粗野な男にも勝てない、か弱い少女。
しかしその身に宿したのは、祖先より続く栄光の血。
彼女は決して自分を守ってくれるものでは無いその血にすがり、今
日までを生き抜いてきたのだ。
虚勢。
彼女が張り続けた虚勢が、王族として自分を支えてきた仮面が剥が
れる。
騎士や魔導士は彼女と同格ではない。
ましてや侍女は彼女の付属物だ。
彼女の血がそれらに向けて涙を流す事を拒ませた。
弱音を吐く事を許さなかった。
しかし、少年は違う。
黒肌の、少しだけ少女より年上の少年は、彼女と比類できるだけの
血を宿している。
少女の中で貯め込まれ、体中を駆けまわっていた感情が、ようやく
出口を見出した。
﹁助けを乞いたかった。やめて、許して、優しくして。そう言って
204
泣いてすがりたかった。けど私は私だったから、生まれた瞬間から
リネミア王家の娘だったから。誰かに易々と膝を屈してはいけなか
ったから⋮⋮! 心を殺そうとして、どんなに辛くても必死に耐え
ようとして、どんどん自分の事がわからなくなっていった﹂
ハイネアの泣き声は叫びへと変わる。
﹁リセは優しくしてくれた。けど彼女じゃダメだった。彼女は生ま
れた時から私の侍女で、彼女の命は私の物だったから。私が彼女を
守って、彼女が私を守る。そういう関係だったから。私が泣いたら
リセは例え無理でも何とかしようと闘うはずだったから⋮⋮どれだ
けゼオムントが強大な相手だとしても、怯えながら泣きながら、リ
セは私の為に闘って死ぬだろうから⋮⋮! だから、だから私はリ
セの前では泣けなかった。私が泣いたら、彼女が死んでしまうから﹂
彼女のしゃくりあげる喉が、大きく揺れる。
﹁やっと⋮⋮やっと見つけたの。私が泣いても良い相手を。意地も
虚勢も張らずに泣きついていい相手を。シャスラハール、貴方がゼ
オムントの支配を崩壊させる為に戦っている王族だと聞いた時、私
は許される瞬間が来たんだと思ったの。この身は既に幾度となく汚
れてしまったけれども、この血を捧げ、次代に繋ぐ為の相応しい相
手をようやく見つけられたと思ったの。そして何より私のすべてを
預けて、守ってくれる男性と、ようやく巡り会えたと⋮⋮思ったの﹂
その告白は、王者の傲慢だった。
血に縛られ、自分以外の王家が滅んだ今でさえ、その血の存続のた
めに他者を利用する浅ましい王の生き方。
しかし同時に、無力な女性としての心の底からの願いでもあった。
﹁ハイネアさん⋮⋮いや、ハイネア王女。貴女の思い、確かに聞か
せて頂きました﹂
シャスラハールは自分の上に跨っているハイネアの腰を掴まえる。
﹁婚姻や⋮⋮子孫の事は一先ず置いて、貴女の事を守る。その事で
したら、僕が約束します。僕に従ってくれる騎士達の力も借りる事
になりますが、貴女を汚れから守り、あらゆる困難から護る事を約
205
束します﹂
上半身を持ち上げ、未だに涙が頬を伝う少女の口にキスをする。
﹁⋮⋮うん、うん⋮⋮ありがと﹂
悲しみで汚れ果てた少女の顔に、笑みが浮かんだ。
それは年相応に無邪気なもので、与えられた少年としては、ときめ
かざるを得ないものであった。
具体的に、
﹁あっ⋮⋮もう﹂
ハイネアの剥き出しの尻に、人肌に更に熱を加えた塊がぶつかった。
﹁いや⋮⋮その、あの、ごめんなさい﹂
シャスラハールは予期せず勃ち上がってしまった陰茎をどうにか収
めようとするも、全裸の少女が自分に跨っているという目の前の光
景からして、それは叶うはずも無い努力だった。
﹁いい⋮⋮元よりそういうつもりだったもの⋮⋮このままわた⋮⋮
妾と睦いで、邪気を払ってくれよう﹂
そう言ってハイネアは尻を一度持ち上げ、
﹁これからよろしく頼むぞ、妾の旦那様よ﹂
ゆっくりと結合した。
リセとレナイの作った料理は皆に好評だった。
姿を見せないシュトラを除いた全員で輪になって食事をし、和気あ
いあいとした空気が流れる。
はずだった。
﹁あ、あのハイネア様⋮⋮よろしければこちらに⋮⋮﹂
﹁ていうかアンタなんなのよ? いつの間に王女様と仲良くなって
るわけ? 一昨日だって急にシュトラさんと親密そうにしてさぁ、
ちょっと目を離すとすぐこれなんだから﹂
困り顔のリセとぶっちょう面のセナが見つめる先で、
﹁ほら、どうした口を開けぬか、せっかく高貴なる妾がこうしても
206
てなしてやっておるのだぞ? 飛び上がって喜ぶべきではないか。
いや、飛び上がられるとマズイな。この姿勢が気に入ったのでな、
妾は﹂
料理を木の匙で掬い、シャスラハールの口へと運ぶハイネアが座っ
ているのは、彼の膝の上。
二人は料理完成とほぼ時を同じくして穴倉に戻り、それからずっと
くっ付いたままであった。
﹁いやぁ⋮⋮⋮⋮ハイネア王女? 自分で食べられますので⋮⋮あ
の﹂
セナの視線が厳しくなっていく事へ怯えながら、シャスラハールは
膝を動かす。
この姿勢は色々な意味で厳しかった。
セナの視線もさることながら、食事の取り難さも、そして先ほどま
で繋がっていたハイネアの尻の柔らかさも何もかもが、彼を困らせ
ていた。
﹁くすっ⋮⋮妾だったら構わぬのに。先ほどまでの様に繋がったま
ま⋮⋮食事をするのも、お主とだったら悪く無いものだと思えるな﹂
膝を動かして彼女を降ろそうとするシャスラハールと、尻を動かし
て彼の股間の上へ移動しようとするハイネア。
セナは憤り、リセは困惑する。
その甘く可笑しな空気を破ったのは、突然響き渡った甲高い人間以
外の声だった。
﹃うまそう な におい してる ぼくら にも すこし わけて﹄
ネズミ型の魔物︱︱マウルスが穴倉に入ってきたのだ。
トコトコと小動物よろしく近づいてくる彼らを、皆比較的歓迎しな
がら招き入れた。
しかし、黒肌の王子だけは違う。
﹁お、おいお主、何だと言うのだ⋮⋮?﹂
彼は膝の上の王女を守る様に抱きしめ、半身になってネズミから隠
した。
207
﹁セナさん、リセさん。二人ともマルウス達の事、注意して観察し
てください﹂
傍にいた二人にも、注意を促す。
﹁はぁ? アンタまたそれぇ? どう見たって平和的な人の良さそ
うな魔物じゃん。マルウスって。警戒しすぎよ。そんなどこ行って
も肩ひじ張ってたら体壊すわよ﹂
﹁え⋮⋮えと、どういう事でしょう? シャスラハール王子。マル
ウスさん達は私達の命の恩人で、こうやって衣食住の支援もして頂
いておりますし⋮⋮﹂
騎士と侍女は、その言葉に簡単には頷かなかった。
﹁⋮⋮事情や感情は抜きに。僕達は今魔物の領域に居るんです⋮⋮。
どんな些細な事でも警戒して損は無いはず。不審な点が無ければそ
れで良し、という事です﹂
王子の表情がやたら真剣であった事から、二人は黙って頷いた。
﹃そういえば はなし あった ごはん おいしくて わすれそう
だった﹄
マルウス達の内、一体が料理の入った椀を置き、油で汚れた口を開
く。
﹃これ を わたそうと おもって きたんだ これ﹄
彼が取り出したのは、獣の皮で作られた大きな袋だった。
マルウス達の様な人間の膝丈の生物ならすっぽりと包まれそうな、
頑丈な袋。
﹁これは何です?﹂
マルウスから袋を受け取ったシャロンが、首をかしげる。
﹁ただの袋に見えるな、中には何も入っていない﹂
袋の底をパスパスと叩きながら、フレアが言う。
﹃この ふくろ は にまい ひとくみ いっこに ものを いれ
ると もういっこ の くち から でてくる どんなに とおく
ても とどく まるうす とくせい まほう の じざいぶくろ﹄
その言葉通り、マルウス達はもう一つ袋を取りだした。
208
﹁⋮⋮本当なら、かなり高度な魔法だわ﹂
椀を置きながら、魔導士ユキリスが唸った。
﹁凄いな⋮⋮試してみても良いか?﹂
興奮顔のフレアが、シャロンの持っている袋に食事を平らげた椀を
放り込む。
ポンッ︱︱と軽い音を立てたかと思うと、椀は少し離れた所でもう
一枚を持っていたマルウスの手に飛び出してきた。
﹁本当に⋮⋮移動しましたね⋮⋮﹂
シャロンは驚きのままに声をだし、フレアとユキリスも呆然と頷い
た。
﹃かたほう を わたす たびに もっていく と いい のこっ
た ほう から ときどき しょくりょう とか ひつようなもの
おくって あげる﹄
マルウスのその言葉に、シャロン達は声を上げて喜んだ。
﹁そこまでして貰えるとは⋮⋮有り難い限りです。しかし、我々に
は支払える代償が無いのですが⋮⋮?﹂
﹃それは だいじょうぶ まるうす の しゅうせい みたいな もの でも ひとつ だけ たのみ ある なんにん か ここに
のこって ほしい にんげん に ひつような もの や たべ
もの まるうす よく わからない﹄
確かにそうですね、とシャロンは頷き、一行の中で最高決定者のよ
うな位置にいるヴェナとステアの事を見やる。
二人はその視線を受け止めながら、思案する。
やがて、ステアが口を開いた。
﹁⋮⋮負傷者している三名を今後の旅でどうするか、という懸案も
有ったな。この場合三人に療養をかねてこのマルウスの里で資材調
達役になってもらうのも良いかもしれない﹂
騎士長の言葉に、シャロンやユキリスが頷き、ヴェナも異論はなさ
そうだった。
﹁レナイさん達はどうですか?﹂
209
シャロンが問うた先は、足を失った公娼で、今日の料理を作った人
物。
修道女レナイだ。
﹁はい。このまま旅にお供して、自分が荷物になってしまう事は本
意ではありませんので。陰ながらという形ですが皆さまの支援をさ
せて頂けるのでしたら、そのお役目受けさせて頂きたいです﹂
レナイの言葉に、他二人の負傷者も頷いた。
満場一致で、マルウスの提案が呑まれ様としている。
そこに、手があがった。
﹁僕は⋮⋮反対です﹂
黒肌の王子がおもむろに口を開き、強い視線で辺りを見渡した。
﹁王子⋮⋮理由を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?﹂
ヴェナがその紅唇を開き、彼女の主に問う。
﹁ここは魔物の領域で、少なくとも人間にとって安全な場所じゃな
い。マルウスが匿ってくれると言っても、いざという時に動く事が
出来ない彼女達だけをここに置いていく事は、僕には出来ない﹂
シャスラハールのその言葉に、全員が考え込む。
﹁それでは彼女達以外にも数人、ここに残るというのはどうでしょ
うか?﹂
ヴェナがようやくと言った形で口を開いた。
マルウスのヒゲがピクリッ︱︱と跳ねた。
﹁いざという時に彼女達三人を抱えて走る者が三人、そして先頭に
立って道を開く者が一人、最後尾で敵を引き付ける者が一人。五人
ですわね。この部隊の半数を失うと考えれば大きいですが、彼女達
の安全を考えるのならば、必要な数でしょう﹂
本来であればシャスラハールの護衛役である彼女にとって、戦闘員
の数はできるだけ確保しておきたいところであったが、王子の言う
負傷者の安全性という意味合いと、騎士として無力な者を見捨てる
事は出来ないという使命感が、この決断へと導いた。
﹁五人⋮⋮か、そうなると誰を選ぶか⋮⋮だな﹂
210
ステアが顎に手を当て、考え込む。
﹁シャスラハール殿下の組で、ヴェナ様を除いた方々では如何でし
ょう? 丁度五人になりますし、それ以外の分け方では元の仲間関
係上よろしくないかと﹂
シャロンの落ち着いた声が告げる元の仲間関係とは、元ユーゴ組で
考えるとステア達六人。フレアを含めたリーベルラント騎士国家組
に分けると四人。ハイネアとリセが一揃いで、シャスラハールとヴ
ェナも一揃いだ。
シュトラ達シャスラハール組の公娼は出自をすべて別にして集まっ
ているので、五人で一揃いとなる。
﹁なるほど、それが自然な分け方かもしれませんね﹂
ヴェナが金髪の騎士の言葉に頷き、シャスラハールの方を見やる。
﹁王子、それでよろしいでしょうか?﹂
聖騎士のその言葉に、
黒肌の王子は首を振った。
﹁しばらく、考える時間を下さい。出発までには答えを出します﹂
全ては、シュトラがマルウスの事を調べ上げてから、
そう彼は心に決めた。
マルウスのヒゲは今も細かく動き続けている。
﹁ごめん下さい⋮⋮⋮⋮誰も居ないのかな⋮⋮今は食事時では無い
のかな?﹂
シュトラは歩き続けていた。
点在する穴倉を訪ねては中にいるマルウスと会話をし、当たり障り
のない話題から彼らの本質を探ろうとした。
いくつかの穴倉で話を聞いた結果では、彼らに不審な点は見つから
ず、肩透かしを食らったような気分だった。
そろそろ自分達の穴倉に戻ろうかと思い、最後の一軒と決めた穴倉
の入り口から声をかけたが、家人が出てくる様子は無い。
211
﹁まぁ良いや、戻ろう。お腹空いたし﹂
シュトラが穴倉の入り口から歩き去る。
その姿が完全に消えた瞬間。
ヒュッ︱︱と穴から飛び出す、ネズミの顔。
﹃いった もう いった あぶない あぶない﹄
﹃ほんと あぶない みつかったら けいかく まるつぶれ﹄
中に戻って行くマルウスの小さな影。
彼はその小さな手に器具を掴む。
イボが山ほど取り付けられた、棒状の器具。
それは否が応にも、男根を想像させるものだった。
彼はそれを、ためらいも無く突き入れる。
スブッ︱︱
木製の台に括りつけられた剥き出しの尻に器具は飲み込まれた。
﹁んっー! んんっ!﹂
猿轡をされた女が、目玉をひん剥き、くぐもった叫び声をあげる。
しかしそれは、彼女にとって希望の光となったシュトラの耳には届
かない。
﹃このまえ つかまえた おんな これで さいご そろそろ あ
きたし あたらしいの ほしい﹄
﹃いまの おんな いい しり してた おれ あいつ ぜったい
に おかす﹄
暗い暗い穴の底でこそ、露わになる。
ネズミの本性。
212
壊れた青︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
213
壊れた青
﹁なるほど、私にこの地での残留案がでているのですか﹂
日光がぼんやりと登ってきた早朝に、シャスラハールとシュトラは
穴倉を抜け出した。
﹁はい、シュトラさんとヴェナ以外の僕の組の皆さん計五人にこの
地に残留してもらい、負傷者の安全の確保と、マルウスからの支援
物資の調達と管理を担ってもらおうという話になっています﹂
昨日の会議の内容を口頭で伝える。
﹁五人と言うヴェナ様のご意見も理解できますし、シャロンさんの
人員分けも出自を考えれば当然の事だとは思いますが、私個人とし
てはシャスに同行したいところですね﹂
軽く肩をすくめてシュトラは言う。
彼女の青髪が揺れる。
﹁しかし、﹃まだ﹄ですね﹂
﹁はい。﹃まだ﹄です。マルウスという種族について、僕はまだ万
全の信頼を感じていません。負傷者の身柄も、僕達への支援も⋮⋮
そしてシュトラさんを置いていく事にも、彼らに不穏な気配がある
うちは、決めたくありません﹂
黒肌の王子は拳を握る。
もし彼の危惧する通り、マルウスが危険な存在であった場合、支援
を受ける自分達の事もさることながら、ここに残されるシュトラや
負傷者達の安全こそが一番の懸案となる。
﹁ふふっ⋮⋮シャスは可愛い事を言ってくれますね。そんなに私の
事が心配ですか? これでもそこそこ名の知れた騎士だったのです
よ、私は。例えマルウスがだまし討ちをしてきたとしても、あの程
度の小物であれば即座に返り討ちにしてみせますわ﹂
シュトラはシャスラハールの体にしな垂れかかる。
214
﹁シュ、シュトラさん⋮⋮?﹂
﹁シャス。折角快適な寝床を得たというのに、昨日は貴方と夜を共
にする事が叶わなくて、私少しだけ寂しかったりしたのですよ? おまけにセナさんに妙に絡まれるは、ハイネア王女から権利関係云
々を問われるは、ちょっと憂鬱だったりしたのです﹂
西域に来て以来初の屋根と寝具のある夜だったので、全員が喜んだ
ものだが、ここぞとばかりにシャスラハールと同衾を狙ったシュト
ラ、セナ、ハイネアの望みを打ち砕いたのは、聖騎士ヴェナであっ
た。
昨夜のシャスラハールは警護と称したヴェナに同じ寝具へと連れ込
まれ、朝まで抱かれて眠ったのだ。
シュトラ達は何とか彼を取り返そうとするが、ヴェナの豊満な胸に
抱かれ、何より彼女の強さと優しさに包まれたシャスラハールが一
瞬の内に眠りに落ちてしまったので、彼女達の言葉も弱弱しく尻す
ぼみになったのだ。
﹁いやぁ⋮⋮あの、そのあれは⋮⋮ヴェナは護衛役で⋮⋮これまで
の野宿でもああやって寝るのが普通だったので⋮⋮﹂
その様子はシュトラも知っている。
まだ彼の腕に魔術刻印が有り、王宮の監視を受けている間、不審が
らせぬように彼はヴェナの膣に肉棒を突き入れたまま夜を明かすの
を常としていた。
﹁でももうその必要も無いのでは⋮⋮? なんなら今晩からは警備
は私がして差し上げます。もちろん、眠る前に四半刻ほど運動をす
ると程よい疲労で心地よく眠れますので、それには付き合っていた
だきますけれどもね﹂
そう言って、シュトラはシャスラハールの首を抱く。
﹁今晩、楽しみにしていてくださいね﹂
チュッ︱︱と軽い口づけがシャスラハールを襲う。
﹁⋮⋮⋮⋮はい﹂
少年王子は顔を赤らめ、下を向いて頷いた。
215
シュトラの拘束が解かれる。
あっ⋮⋮と少年の口から声が漏れるのを、騎士は満足げに聞いた。
自分との密着が解かれることを彼は残念に思って︱︱
﹁あーっ! ちょっと、朝から二人で何やってんのよー! フラフ
ラ出て行くんじゃないわよ!﹂
穴倉から髪を両結びにした騎士が飛び出してきてこちらを睨んでい
るのが見え、彼のぎこちない笑みに肩を落としてから、シュトラは
歩み去る。
﹁︵後三日ですか⋮⋮その間に結論を出さないと︶﹂
昨晩一先ず決定した事が、この地に滞在する期間であった。
四日後の朝に出立。
つまりシュトラは後三日の間に、マルウスの尻尾を掴まねばいけな
かった。
﹁おっおおおお。皆さんお綺麗です!﹂
シャスラハールが上ずった声を出す。
マルウスの里に到着して三日目、翌朝に出立を控えるこの日の夕に
念願の物が手に入った。
﹁そ、そう? ふふん。昔に比べるとちょっと遊び気味の衣装かも
知れないけど、まぁこれまでよりは圧倒的にマシね﹂
セナ達の衣装が完成したのである。
騎士には騎士の軽装鎧とその下に着るシャツとスカート。
魔導士には魔導士のロープと鍔広帽。
そして王族ハイネアには動きやすいドレス、従者リセには膝丈スカ
ートの侍女服。
マルウスが整えた人間の衣装。
彼女達の中には公娼になって三年目にしてようやく服を着る事が出
来た者も居る。
感動はひとしおだった。
216
互いの衣服を整え合い、互いを褒め合う。
衣服を着るという事は、公娼にされた彼女達にとって大きな意味合
いを持つ。
人間性の復活。
セナの瞳に薄らと涙が浮かぶのも、致し方ない事であった。
一しきり全員の輪に加わって喜びの声を上げるシャスラハールの背
を叩く者が居た。
﹁あっ⋮⋮シュトラさん。シュトラさんのそのお姿も、すごく綺麗
です!﹂
黒肌の王子は混じりけのない賞賛の声を上げる。
青髪の騎士はそれに笑って頷き、すぐに表情を引き締める。
﹁ありがと。⋮⋮それはそれとしてね、今夜が最後なのです。ネズ
ミの尻尾を掴まえるのは。私考えたのですけど、もしかしたらマル
ウスって夜行性の生き物なんじゃないかしらって。彼らを観察して
いると、昼間にも動いてはいるけど、たくさんお昼寝してるじゃな
い? だったらその分夜に動き回っていて⋮⋮だから私のこれまで
の調査で何も出てこないんじゃないかしら﹂
シュトラの調査はありていに言って、無駄足だった。
穏やかに暮らすマルウスの農作業や穴倉での団らんを眺めるばかり
で、彼らの黒い部分を捉える事は出来なかったのだ。
そもそも彼らの日中の生活は食うか寝るかを基本としている。
その間に農作業を行っている様子はあるが、彼らの動きは緩慢で瞳
は常に眠そうであった。
﹁なるほど⋮⋮夜行性ですか。それだと確かに僕らには気づけませ
んね﹂
シャスラハールもシュトラも夜はこの穴倉にこもっている。
これからの旅の計画を立てたり、支援体制の確立をしたりと、夜は
夜で忙しかったのだ。
﹁だからね⋮⋮私、今夜は外に出て探ってみようと思うの﹂
騎士服姿のシュトラは決然と言った。
217
﹁もし今夜までに何も無ければ、明日私は君達を送り出すわ。その
後は後方支援として物資を送ったり情報を送ったりして、シャス、
貴方の野望を支援します。そして、この地に残る皆の無事を守る。
これは騎士として、貴方の騎士として私が誓います﹂
その強い瞳に、シャスラハール頷いた。
﹁⋮⋮はい。シュトラさん、僕は貴女を信じます。貴女の調べた結
果に従い、ここで別れる事も受け入れます。僕の目と耳として、貴
女に決断を全てお任せします﹂
ありがと、とまたシュトラは呟くように言った。
﹁それじゃあ明日の朝、皆が出発する前までには戻るから。良い?
今日は夜更かしせずにちゃんと寝るのですよ? セナさんやハイ
ネア王女と一緒寝ちゃだめですからね﹂
騎士は手を上げ、輪の中から抜け出していく。
王子はその背中を、そっと見送った。
夜の静寂が辺りを包む。
騎士服を着たシュトラが陰に潜むようにしてマルウスの里を移動し、
その目にこの里の全てを収めようとしている。
穴倉を覗き、畑に分け入り、マルウスの影を追った。
その中でわかった事が有る。
﹁︵間違いなく⋮⋮マルウスは夜行性ですね︶﹂
彼らの動作が昼間のものとは段違いで素早い事、瞳がギラギラと輝
いている事。
身を隠して移動するシュトラにとっては非常にやり辛い限りであっ
たが、仮説の証明がなされた。
作物の関係上、日光のある昼間に畑の管理を行わなければならず、
力なく働いていた彼らが、夜になると生態が変わったかのように働
き出す。
具体的には、工作をしている。
218
生活必需品の製作であったり、農具の修復であったり、一部では武
器の製造もおこなっていた。
陽の沈んだ頃から動き出した彼らの工作は、深夜を迎えたあたりで
ピッタリと止んだ。
皆手を休め、連れだって一つの穴倉を目指していく。
里の外れに有る、一際大きな穴倉。
入り口には松明が燃やされ、シュトラには解読できない彼らの文字
で書かれた看板が掲げられている。
続々と穴倉の中へ入って行くマルウス達。
﹁︵中で何かやっていると言うの⋮⋮? 見張りは⋮⋮居ないわね︶
﹂
マルウス達の影が粗方その中に入りきった後、シュトラはゆっくり
と忍び寄り、松明に照らされた穴倉の入り口に立つ。
﹁︵奥まで相当広そうですね⋮⋮︶﹂
シャスラハール達に用意された穴倉は、入り口から直通でだだっ広
い居住空間につながり、そこが食堂も寝室も兼ねるような作りであ
ったが、ここは違う。
入り口と同じ幅の通路が真っ直ぐに続き、その左右に等間隔で幾つ
も扉が設置され、中の空間を分けているようだった。
シュトラは喉を鳴らし、一歩を踏み入れる。
穴倉の奥の闇に踏み込んで行く度に、松明の明かりが段々と届かな
くなってくる。
暗闇に恐怖するほど、騎士の心は弱くは無い。
しかし、間違いなくこの暗闇は騎士にとって鬼門となるだろう。
相手はネズミなのだ。
自分の数倍暗闇で視野が効くだろう。
別に調査が発覚する事を恐れているのではない。
いざとなれば開き直って探検だとでも言ってしまえばいい。
本当に警戒すべきなのは、彼らがシャスラハールの言うように危険
な存在であった時だ。
219
騎士服ついでに愛剣も提げては来ているが、この暗闇で上手く立ち
回れるとは思えない。
シュトラは慎重に、音を立てずに一歩ずつ前進して行く。
一つの扉に行き当たった。
これまで自分の呼吸音しか認識していなかったシュトラの耳に、別
の物が届く。
プシャァッ︱︱
水滴が、飛び出す音。
﹁︵水⋮⋮? いや、これは⋮⋮まさか⋮⋮!︶﹂
シュトラには聞き覚えがあった。
騎士としての彼女にではない。
公娼としての彼女にだ。
かすかな明かりを頼りに扉をゆっくりと開ける。
そこに見えたものに、シュトラは自分の感覚が間違いではなかった
のだと確信した。
ブチュッゥ︱︱
何かが飛び出す音が聞こえる。
公娼として、シュトラが何度も調教師や農夫によって強いられてき
た行為。
異臭が、シュトラの鼻を貫く。
たった数滴で効果を現す場合もあれば、より残虐性を増すためにバ
ケツ一杯流し込む場合もある行為。
﹁あ⋮⋮あああ﹂
排泄の強要。
今、シュトラの目の前で行われているのは、それであった。
石畳の上で四つん這いになり、涎を垂らしながら呻く女の尻から、
一体のマルウスが器具を抜き出していた。
透明な円筒状の注入器具には緑に濁った薬液が少量残り、薬液の大
半は女の長い糞便と共に石畳にまき散らされていた。
マルウスと目が合う。
220
しばし、両者の視線が交差する。
﹃ちがう かんちがい よくない まって まって﹄
沈黙を破ってマルウスは首を振り、今しがた女の肛門から飛び出し
てきた糞便を掬う。
﹃これ ゆめ よるだから にんげん ねぼけて ゆめ みた だ
け わすれて かえって﹄
誤魔化すように笑ったネズミは、糞便を持つ手を女の肛門に寄せ。
﹃えい﹄
﹁おごぉぉぉ﹂
一体どれだけ貯め込んでいたのかわからない糞便を、強制的に直腸
に送り返された女は、くぐもった叫びをあげる。
﹃ほら なにも ないでしょ?﹄
シュトラは愛剣を引き抜き、一足の下跳び、マルウスの首を刎ね飛
ばした。
﹁大丈夫ですか? 怪我はありませんか?﹂
シュトラは無残に飛び散ったマルウスの肉塊には目もくれず、倒れ
た女に飛びつく。
恐らく彼女も自分と同じ公娼なのだろうが、どうしてこんなところ
で⋮⋮。という思いが沸き立つ。
﹁あ⋮⋮あう⋮⋮あああ﹂
女を抱き起して、顔を見る。
シュトラは絶句した。
表情がわからない。
目は黒皮のベルトで隠され、鼻と口には特殊な器具が装着され、呼
吸以外の用途で使う事が出来なくなっている。
真ん丸に、広げられているのだ。
﹁くっ⋮⋮やはり⋮⋮シャスが正しかったという事ですか! マル
ウス、あの外道﹂
221
シュトラがこの部屋を見渡すと、石造りの簡素な部屋を彩る、拷問・
調教器具の数々が目に留まった。
膣口をこじ開けるもの、擦り上げるもの、貫くもの、挟むもの、締
めるもの、熱するもの、腫らすもの、塗るもの、注ぐもの。
乳房に関するものも、口腔にかんするもの、肛門に関するものも。
彼女が公娼として受けてきた調教の中で何度も見てきた器具が、そ
こには並べられていた。
﹃こまる こまる まるうす こまる あしたまで ばれたく な
かった﹄
﹃かえして その おもちゃ まるうす の もの きょうも あ
そぶ ために おしり なか あらってた だけ なのに﹄
数瞬、シュトラが器具に意識を奪われていた間に、十数体のマルウ
スが部屋の入り口に集まっていた。
その内の一体が松明を手に持っていたため、シュトラからは相手の
姿がよく見て取れた。
醜悪な笑み、偽善の笑い。
シュトラは激昂する。
﹁どきなさいケダモノが! このような汚れた里、これより一瞬も
居られるものですか! 今すぐ出立します、この者も、シャス達も
負傷者も全て連れて!﹂
再び剣を握り、立ち上がって威嚇する騎士。
﹃おちついて おちついて まるうす けんか よわい よわむし﹄
マルウス達は動揺し、ざわめく。
剣を振り回し、数体を切ればあの小動物達は恐れをなして逃げ散る
だろう。
そうした後、表情の見えない女を連れてここから脱出し、シャスラ
ハール達の所へ戻って急いで出発しよう。
シュトラが方針を固めた時、マルウスの方でも動きが有った。
﹃よていがい だけど しょうがない ひとばんで こいつ おと
222
す がんばろう みんな がんばって こいつ れいぷ ちょうき
ょう にくどれい﹄
一体がピシッとシュトラを指差すのと同時に、二体のマルウスが口
に吹き矢を構えた。
﹃しびれ びりびり まんこ ぬれぬれ﹄
恐らく吹き矢に込められた毒矢の内容を言っているのであろうが、
シュトラは意に介さない。
﹁ふんっ、やれるものならやってみなさい﹂
騎士のその強気な態度に、指揮役の一体が応じる。
﹃うてー﹄
二本の毒矢がシュトラに迫る。
しかし、矢は二本とも彼女の振るう剣に弾かれた。
﹁所詮、小動物の肺活量などその程度でしょう。吹き矢では無く弩
を用意するべきでしたね﹂
シュトラが一歩近づく。
マルウス達は動揺に慄く。
その中で、指揮役の一体だけは違った。
﹃たいまつ けして うてー﹄
シュトラの視界を支える松明の炎を消えて、それと同時に二本の矢
が放たれる。
視覚失った中でも冷静に、シュトラは地面を蹴り大きく横に跳んで
矢を避けた。
﹁遅すぎです。見えなくても予測ができる以上、何の脅威でも無い﹂
壁に矢が跳ね返る音がする。
マルウス達は足の震えが抑えられない。
﹃いけ やれ、 ちかづけちゃ だめ あいつ みえてない まだ
だいじょうぶ﹄
指揮役の焦り声に応じて、怯えながら三体が寄ってくる。
手に持っているのは、彼ら用に改造された小ぶりの槍だ。
無論、光を失っているシュトラにはそれは見えない。
223
しかし、
﹁気配の殺し方も知らず、バタバタと寄って来るだけの相手に騎士
である私が敗れるとでも?﹂
暗闇に、赤が跳ねる。
マルウス達の首が刎ね飛び、その血が部屋を塗らした。
血と肉の塊となった同胞の姿を見て、ネズミ達は一斉にすくみ上っ
た。
﹁どきなさい、無用な手出しをするのなら全員をここで始末します。
邪魔をしないならば︱︱﹂
剣を一つ振り、血を払って歩みだしたシュトラの口が、固まる。
﹁なっ!﹂
彼女の手を捻り上げ、首を抑え込む強靭な力。
振り返って、絶望に似た表情でシュトラは言う。
﹁どうして⋮⋮﹂
相変わらず表情は読めない。
目にはベルト、鼻と口には拘束具。
﹃まるうす の ちょうきょう ぎじゅつ は まもの で いち
ばん もう そいつ にんげん やめてる の﹄
助けたはずの公娼に拘束されたシュトラの首と胸に、二本の毒矢が
刺さった。
﹁馬鹿な⋮⋮こんな⋮⋮シャス⋮⋮⋮⋮シャス⋮⋮﹂
強い意志とは裏腹に、騎士の体は毒に溺れて沈む。
﹃どうする? どうしよ? こいつ どうする?﹄
﹃あわてないで このへや おもちゃ いっぱい ぜんぶ つかっ
て こいつ かいはつ する﹄
﹃みてみて おくすり たくさん もってきた これで こいつ あたま ばか ばかに なる﹄
木製の机に、装備をはぎ取られ四肢を拘束されたシュトラが張り付
224
けられている。
毒矢の影響で口が回らず、涎ばかりがあふれ出る。
﹁あ⋮⋮うぁ⋮⋮ああう⋮⋮﹂
同胞を数人殺した騎士を囲むマルウスの顔に、怒りは無い。
純粋な喜びと楽しみだけが、そこには浮かんでいた。
﹃ぼく きいた こいつ あしたの あさ おうじさま に ぼく
たち の こと ほうこく するって はなし してた こっそり
きいた﹄
一体が手を上げる。
﹃それじゃあ かんぜんに こわしちゃ だめだね あした だけ
でも しゃべれる ぐあい に しないと﹄
﹃そうだね これから さき ずっと しぬまで ここ で ぼく
らの おもちゃ なんだし きょう は がまん して あじみ だけ﹄
マルウス達は脚立に乗り、シュトラの頭に器具を乗せる。
透明な、頭部をすっぽりと覆う箱であった。
﹃ちゅうにゅう ちゅうにゅう﹄
管を通して箱の中に注ぎ込まれる青色の薬液。
﹁もがっ⋮⋮ごがががが﹂
たちまち口元を液体で塞がれたシュトラが声にならない声を上げる。
﹃あんしん して それ あんぜん な えきたい からだ すご
く びんかん に なる えきたい いちおう こきゅう できる
よ?﹄
液体の注入とは別の管を鼻に繋いで空気を送り、シュトラは生かさ
れる。
﹃それじゃあ はじまり はじまり﹄
騒ぎを聞きつけて先ほどよりも何倍もの数のマルウスがこの部屋に
集まってきている。
手にはそれぞれ器具を。
この部屋に有った器具を手に取り、薬を用意している者までいる。
225
﹃みんな あさまで がんばろー﹄
﹃おー﹄﹃おー﹄﹃おー﹄﹃おー﹄﹃おー﹄
翌朝、シャスラハール達は出立の時を迎える。
里の広場に集合し、荷物の点検をしている。
シャスラハールに同行するのはヴェナ、ステア、シャロン、セナ、
ユキリス、ハイネア、リセ、フレアだ。
負傷した三人と、シャスラハール組の五人がこの場で見送りをして
残ることになっているが、その中心を任せるべきシュトラがまだ姿
を現さない。
﹁おっそいわねーシュトラさん。確かアタシが起きた時にはもう居
なかったと思うけど、どこ行ってるのかしら?﹂
セナが装備の点検をしながら、呟いている。
シャスラハールは知っている。
シュトラは最後の一日、マルウス達を探るために夜を徹して調査に
向かったという事を。
彼女の調査結果次第では、このまま負傷者達も連れて旅に出る事に
なると。
陽は燦々と照っている。
そこにゆっくりと歩いてくる人影。
青髪の騎士、シュトラだ。
﹁シュトラさん!﹂
シャスラハールの声に彼女が顔を上げた。
瞳に力が無いのは徹夜の影響だろうか。
﹁王子に⋮⋮申し上げます⋮⋮﹂
シュトラの足元には、二体のマルウスが寄り添っている。
そのヒゲが、ピクリッと跳ねた。
﹁ここはお任せ下さい⋮⋮どうぞ、旅のご無事を⋮⋮お祈りしてお
ります﹂
226
腰を折り、頭を下げるシュトラ。
下げられた側であるシャスラハールは気づけない。
彼女の着ている騎士服のスカートの下は、下着を着けておらず、代
わりに激しく蠢くマルウス特製の駆動器具が挿入されているという
事に。
シャスラハール達が旅立っていく。
遠くなっていく九つの背中を見送りながら、シュトラの両目からは
大粒の涙が零れだす。
その尻を、無造作に掴むネズミの手。
否、掴んだのは尻では無い。
今もシュトラの膣を犯し続ける器具を掴み、より一層深く突き入れ
た。
﹃どれい どれい まるうす の おもちゃ まんこ しぬまで どれい﹄
227
建国の王子︵前書き︶
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228
建国の王子
魔物の領域︱︱西域。
人類不踏の地であったこの場所に、現在数万もの人間が侵入してい
る。
大半は新天地を目指す開拓民だ。
そしてそれを守る騎士兵士。
魔導長官の﹃西域遠征﹄を管理する魔導士達。
﹃西域遠征﹄の主役である悲劇の公娼達。
その公娼を長年に渡り開発してきた調教師達。
そして、この地で最も少ない肩書と呼べるもの。
﹃王子﹄
シャスラハールとリトリロイ。
復讐の王子、シャスラハールは現在仲間のうち数人と別れ、西域の
最奥、魔物の統帥権を与える﹃宝具﹄を手に入れる為新たな旅へと
出発した。
マルウスの里に残された公娼の運命も、旅の目的である﹃宝具﹄の
真実も知らぬまま。
建国の王子、リトリロイは五万もの開拓民を率い、大門を発ち、深
い森の中を数日歩きつめて平野部に到着し、拠点づくりを行ってい
る。
彼の計画する建国において最初の関門である、ゼオムントとの緩衝
地づくりをこれから行おうとしていた。
ここからは少し、リトリロイのお話。
前進するシャスラハールも、里に残された悲運の公娼も関与しない
第二の王子とその建国の話。
彼が直面する、建国の敵との戦いの話。
敵は︱︱公娼。
229
人狼の肩に乗りゼオムントへの復讐を誓う三人の公娼。
味方は︱︱調教師。
国一番の老練な調教師と彼の部下達の陰惨な技法。
戦いとはつまり、勝ち負けではない。
堕ちるか、堕ちないか。
公娼とは、そういうもの。
ただ一人、違うとするならば。
今夜もリトリロイと肌を合わせる騎士公娼セリス。
彼女の存在だけが、他の公娼とは意味合いが違っていた。
この二人の間に、調教や飼育と言った概念は存在しない。
リトリロイはセリスを愛し。
セリスもまたリトリロイを愛したからだ。
故に、朝の目覚めの瞬間に、彼が手を伸ばせば彼女の柔肌に触れる
事は当然の話であった。
しかしこの日、金髪の王子の手先は空を切った。
彼はその瞬間、眠気の残滓が一気に消え去るのを感じた。
﹁侍従!﹂
彼の寝床である豪奢な天幕、その外に控えさせている老いた侍従を
呼びつける。
﹁はっ、ここに﹂
﹁セリスはどうした? なぜここに居ない?﹂
王子は裸の上半身を起こしながら、眇めた目で侍従を見やる。
長年彼に仕えてきた老侍従は、その瞳に怯えはしない。
﹁申し上げます。半刻程前に開拓団野営地に魔物の襲撃との報告が
有り、恐れ多くもお休み中の殿下にお取次ぎを願いましたところ、
既にお目覚めであられたセリス様が応対され、殿下の睡眠を妨げる
必要はないとの事で、セリス様ご本人が剣を取り、魔物の討伐に向
かわれました﹂
230
言い終え、王子の顔をしっかりと見据える侍従。
﹁⋮⋮セリスが、そう言ったのか⋮⋮﹂
はい、と応じる侍従の声に、リトリロイは薄く笑う。
﹁まったく⋮⋮少しは考えてほしいものだ。自分の立場と言うもの
を⋮⋮。将来の王妃たる者が、誰よりも率先して魔物退治などに向
かっては、将兵が泣こうというものだ﹂
顔を押さえて笑うリトリロイ。
﹁すまんな、朝から怒鳴るような真似をしてしまって﹂
いえ、と侍従は首を振る。
﹁もう昼でございます、殿下。流石に下の者に示しがつきませぬの
で、すみやかに御仕度なさって下さいますよう、お願い申し上げま
す﹂
真面目くさった侍従の顔に、リトリロイはまた一つ、笑って頷いた。
半刻程時は遡る。
西域開拓団の野営地にて朝から働く男達の姿が有った。
もうボロは着ていない。
リトリロイが民衆に用意した簡素だが清潔な服を纏い、気分も一新
したところで勤労に努めようとしている。
男達は数人の班に分れ、土木作業の準備をしている。
その中に、一組の親子がいた。
四十になりかけの父親と、十代を迎えたばかりの息子だ。
﹁なぁテビィ。これからお父は力一杯目一杯働く。働いて働いて、
金にも家にも飯にも困らない人間らしい暮らしをするんだ。テビィ、
お前ももう十一になったんだ、お父と一緒に頑張ろうな﹂
父親が両手に提げた金物のバケツを振りながら、息子に笑いかける。
﹁おう、任せてくれよお父! オラも一人前の男になったんだって
事を、お父に証明してやるよ﹂
親子は和気あいあいと作業をする。
231
二人に割り当てられた作業は水汲みだ。
父親が二つのバケツを持ち、息子が柄杓を持ってそれに付いて行く。
照りつける太陽の下働く他の開拓民へ飲み水を届けるためだ。
単純に見える分だけ、容易ではない仕事だ。
現在開拓団は緩衝地として砦を作っている。
作業規模もなかなか広く、一回りするだけでも骨だ。
その中を水で満たされたバケツを持って歩き回る。
もちろん水が無くなれば近くの水源へ汲みに戻り、また歩き始める。
水を届け、ろくな礼もされないまま汲みに戻り、また届ける。
テビィは父親に疲れが見えた時、素早くバケツを一つ奪い負担を減
らそうとする。
しかし、金物のバケツとそこに満たされた水の重さは十一歳でしか
ない子供には酷なもの。
息子の顔が赤く苦しげになった瞬間に、父親は礼を言って息子から
バケツを奪い返す。
二人は傍目には支え合う立派な親子に見えた。
親子が西端の作業場に水を届けた時に、異変が起きる。
﹁ま、魔物だああああああああああ﹂
開拓民の一人が、木槌を取り落しながら、叫んだ。
疲れでしゃがみ込んでいたテビィは顔を上げ、目を見張った。
﹁お、おお狼だ⋮⋮狼が歩いてくるよお父!﹂
テビィは歩いてくる、と表現した。
何せ、その狼達は二足歩行だったからだ。
人間の倍以上の大きさを持つ狼達が二足歩行で前進してくる姿は、
威圧に満ちていた。
﹁逃げるぞテビィ! お父から離れるな!﹂
父親は手に提げていたバケツの水を捨てると、息子の頭にしっかり
と被せた。
﹁あぁクソッ! 俺の頭にははまらねぇか⋮⋮﹂
もう一つのバケツを被ろうとするが、バケツの口に頭部がつっかえ、
232
上手くいかない。
潰走する人間達を、ようやくと言った形で走り出して追いかけてく
る人狼の群。
テビィは見た。
人狼の肩に乗る三人の女の姿を。
魔導士の着るローブを纏った女。
緋色の軍服に身を包み、両手に禍々しい腕甲を付けた女。
長い曲刀を腰に差したドレス姿の女。
人狼を従えるようにして、こちらに迫ってくる。
﹁やった! 騎士が来たぞ! 助かるぞっテビィ﹂
父親は懸命に足を動かしながら、幕営からぞろぞろと飛び出してき
て隊列を組んで並んだ騎士達を見る。
彼らは手に、弩を構えている。
﹁⋮⋮待て、違うだろ。まだ俺達が逃げ切っていない︱︱﹂
騎士達が人狼に向けて弩を構える。
これは間違ってはいない。
しかし、両者の間に逃げ遅れた開拓民がまだ残っている。
それでも、弓は放たれた。
恐怖。
迫りくる魔物への恐怖。
騎士とは言え人間である。
そして彼らの意識の根底にもう一つの意識もあった。
開拓民は、ゼオムントから放逐されたならず者。
取るに足らない命だと。
矢は宙を舞う。
人狼に届いたものは、彼らの頑丈な体毛と皮膚に弾かれ、無意味に
地に落ちた。
そして、人狼に届かなかった矢は、
﹁お父⋮⋮?﹂
開拓民の体に突き刺さって行く。
233
テビィの父親は頭部に矢を受け、一瞬の内に絶命した。
少年はその光景を目撃してすぐ、バケツ越しに矢が直撃した事によ
り気絶し倒れた。
混戦と言う言葉では贔屓になる。
人間側への贔屓だ。
人狼は騎士を蹂躙し、辺りは血肉の池と化していた。
刃にこびり付いた血液を払いながら、ドレス姿の女は笑う。
﹁アミュ姉∼、今日はどこまでやるの? マリスまだまだやれそう
だけど、刃向う奴がもうほとんど居なくなっちゃったよ﹂
彼女は血だまりを舞うようにして跳ね回りながら、人間の首を落と
していく。
﹁威力偵察ってとこかしらね。ほどほど暴れたら退くわ。何だか知
らないけれど、突然こっちにゾロゾロとやって来たんですもの、理
由と戦力がわかればそれまでよ﹂
人狼の肩に座ったまま戦場を俯瞰する様に眺めていた魔導士の女が
応えた。
﹁アミュス、口を割りました。こいつらはゼオムントに棄てられた
西域開拓民とそれに同行する兵士ですね。数は圧倒的に民間人が多
く、軍人はその警護程度にしか付いて来ていないそうです﹂
両腕に鉄甲を填めた軍服姿の女が、掴んでいた血塗れの騎士の首を
離し、振り返りながら言った。
﹁ふぅん⋮⋮開拓ねぇ⋮⋮公娼を囮にして魔物を引き付けている間
に都市でも作ろうというのかしらね、ゼオムントは。まぁいいわ。
ヘミネ、マリスも。今日のところはこの程度にしておきましょう。
三年間で性根の腐ったゼオムントの騎士様なんか、私の支配魔術を
受けた人狼の敵ではないわ﹂
﹃支配と枯渇の魔導士﹄アミュスが言い、二人の同志は頷く。
鉄甲を填めた軍服女がヘミネ。
234
リネミア神聖国の貴族であり、ハイネア王女に衣服の一部を与えた
者。
黒いドレスを纏った女がマリス。
祖国と人質を持たない、理由無き公娼。
三人は公娼としてこの西域に連れて来られたが、現地に到着した晩
に主人役を殺害し、以降自由に活動している。
目的は、ゼオムントへの報復。
アミュスの魔法により人狼族を支配下に置き、戦力の確保も完了し
ている。
後はいつ戦うかという事だけだったが、目の前に向こうから標的が
現れた形となった。
彼女達の報復に、無関係な者など存在しない。
ゼオムントに所属するすべてが彼女達を辱めたのだ。
誰も彼もが笑い、蔑み、犯し、記録した。
唯一の例外を挙げるとするならば、同じ立場にあった公娼のみ。
騎士であろうが民間人であろうが、彼女達にとってその血の一滴が、
心に負った傷を癒す聖水となる。
﹁撤退するわよ﹂
アミュスが指示を出し、人狼達が体ごと今来た道へ向き直る。
その時、
﹁待って!﹂
マリスが大声を上げた。
いつもの茶化したような声では無く、真剣味を帯びた声。
﹁⋮⋮来ますね﹂
ヘミネは鉄甲を噛みあわせ、今一度戦闘の用意をする。
アミュスは自分を乗せた人狼の頭を叩き、方向転換を命じる。
振り返った先に、騎馬。
銀と白で彩られたドレスと甲冑を身に着け、馬上から静かにこちら
を見据える女がいた。
直感する。
235
相当な実力者であると。
馬上の女が、口を開く。
﹁この地にいる女性⋮⋮そして優秀な武芸を有する。察するに、貴
女方は公娼で間違いないでしょう﹂
女の言葉に、黒いローブのアミュスが応える。
﹁違うわ。かつてはそうであったかも知れないけれど、もう違う。
私達はその様な存在ではない。今の私達は⋮⋮そう、ゼオムントに
牙剥く復讐者よ﹂
人狼族が一斉に口を開き、吠える。
牙を示した。
﹁⋮⋮公娼制度に期限は御座いません。今も昔も、貴女方は常に公
娼なのです。民衆の性欲の捌け口となり娯楽となり、その魂の一片
たりとも自由には出来ぬ存在。調教師を失ったのならすぐに新しい
調教師を用意させます。無駄な抵抗はなさらず、この場で衣服を脱
いで這いつくばりなさい。今この開拓団にはたくさんの男性がいら
っしゃいます。きっと皆さん、貴女達の事を待っている事でしょう﹂
銀の騎士は抜剣した。
その手に武器が握られた瞬間、アミュスは愕然とした。
魔導士として幾つもの戦場を越えてきた自分の体が震える。
この騎士には、勝てない。
﹁⋮⋮偉そうな口をきいてくれるじゃない。そういう貴女は誰なの
よ!﹂
アミュスの問いに、
﹁かつてはリーベルラント国騎士団長、そしてこれからはリトリロ
イ殿下の新国家で王妃となります。セリス︱︱公娼でございます﹂
騎士は馬の手綱を叩きながら答えた。
236
映像と記憶︵前書き︶
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237
映像と記憶
照り付ける太陽により死者の肉が焼け、悪臭の立ち込める平野を駆
ける騎馬。
騎士公娼セリスが直剣を水平に構えて突っ込んでくる。
﹁応戦します⋮⋮!﹂
対して人狼の群から飛び出す一つの影。
軍服を纏ったヘミネが地を滑る様に走り、鉄甲に覆われた拳を振る
った。
剣と拳がぶつかる。
二度、三度。
四度、五度。
直剣の薙ぎに弾かれ、ヘミネは大きく後ろに跳び退る。
﹁下馬すら許さぬとは⋮⋮まったく、大した敵ですね﹂
セリスは未だに馬上の人であり、ヘミネを見下ろしていた。
﹁ヘミネちゃん! マリスも手伝うよ﹂
黒いドレス、そして漆黒のポニーテールがヘミネの横を駆け抜け、
銀の騎士へと迫った。
振り下ろされる、血吸いの曲刀。
それに応じる、輝く直剣。
二合、三合。
四合、五合。
金属の軋む音を立て、マリスもまた弾かれた。
﹁うはっ⋮⋮! 凄いね、この人﹂
冷たい視線のまま、騎士セリスは手綱を握っている。
ヘミネもマリスも一流の武芸者である。
彼女達を相手取って、行動が制限される騎馬のまま打ち払う事など、
至難の技に他ならない。
238
﹁マリス、同時に掛かりますよ﹂
﹁ういさ﹂
赤の軍服と黒のドレスが奔る。
四撃、六撃。
八撃、十撃。
二人の連撃は、騎士公娼の鎧にすら届かない。
全てを直剣でいなされ、弾かれる。
﹁なるほど、良い腕をしていらっしゃいます。己の腕前に自信のあ
る公娼ほど、調教のし甲斐がある、とゾートも言っておりましたね﹂
今度はこちらから、そう言ってセリスが直剣を構えた瞬間、
﹁行きなさい、そして逝きなさい。ヘミネ! マリス! 退くわよ、
そんな化物相手にする必要はないわ﹂
アミュスの号令の下、三体の人狼が騎士へと飛び掛かる。
﹁⋮⋮了解﹂
﹁はーい﹂
ヘミネとマリスが踵を返す。
﹁逃がしませんよ﹂
セリスは最も手近にいた一体を切り伏せ、返す勢いでもう一体を裂
いた。
そして最後の一体。
セリスの直剣がその胸を貫く。
同時に、狼の咆哮。
たかが獣の叫び声など、セリスには効果は無い。
しかし、間近で肉食獣の吠え声を聞いた彼女の馬に、その生存本能
を呼び起こさせる事は容易かった。
﹁くっ⋮⋮落ち着きなさい。リーベルラント時代の愛馬ならばこの
程度問題無いというのに⋮⋮。ゼオムントの馬は根性が無い。さて
おき、逃がしましたか⋮⋮﹂
動揺し暴れる馬を押さえつけ、アミュス達が居た方角を向く。
遠く走り去る狼の群。
239
四足歩行に切り替えた人狼の素早さは馬のそれに匹敵する勢いだ。
その背に乗って逃げる三人の公娼。
﹁建国の敵が現れましたか。わたしと、わたしの夫の為に、貴女方
には死にも等しい屈辱を。公娼としての職責を、わたしが果たさせ
てあげましょう﹂
セリスは馬首を変え、夫の待つ天幕へと帰って行った。
﹁⋮⋮今日もまた、逃げられたそうじゃないか﹂
リトリロイは天幕の中、横たわっている。
金色の髪を柔らかな肉の上に乗せている。
﹁えぇ、だってあの人達わたしが出ていくとすぐ逃げるんだもの﹂
セリスは天幕の中、ベッドに行儀よく座っている。
柔らかな膝の上に金色の髪を乗せている。
そのしなやかな指が時折彼の頭を撫で、髪を梳いている。
﹁これでもう、五日連続か⋮⋮。初日程の被害は出てないにしろ、
彼女達の奇襲のおかげで作業はかなり滞っているようだね﹂
アミュス達はセリスに撃退された翌日から、短時間の奇襲を連日繰
り返し、彼らの開拓作業を妨害していた。
﹁わたしが迎え撃てれば良いのだけれど⋮⋮。警戒されているよう
なのよね。わたしの姿が見えたらすぐに逃げて行っちゃうわ﹂
全体の指揮役をやっている黒衣の魔導士は中々に頭のキレる人物ら
しく、敷地の端で作業する開拓労働者とその護衛の兵士を殺し、資
材に火を放つと中央の陣には目もくれず去って行く。
﹁うん⋮⋮こちらから攻勢に出ようにも敵は魔物の群で森に身を潜
めているから容易ではないしね。しかも戦うとセリス以外に勝ち目
は無いと来た。正直、手詰まりだよ﹂
今まではセリスの顔を見上げるような仰向けの姿勢だったリトリロ
イが、体を反転させ、彼女の膝に顔を埋める。
﹁そうね⋮⋮早めに何とかしないといけないわよね。ただでさえ労
240
働で疲れているのに襲われる危険があるから精神も休まらなくて、
開拓民の中にも不満が出ているわ、不満を解消させる公娼も今は居
ないし、爆発寸前よ。早く捕まえなくちゃ﹂
撫でやすくなった髪を更に梳きあげながら、セリスは首をかしげる。
二人して悩んでいた。
悩みがあると、二人の時間も楽しくない。
そんな時、外に控えている侍従の声がした。
﹁殿下、セリス様。王宮魔導士ゴダン様がお目通りを願っておいで
ですが、如何致しましょう﹂
﹁ゴダンが? セリス、良いかい?﹂
しわがれた声に応じながら、リトリロイはセリスに聞いた。
今はもう夜更けの時間であり、淑女であるセリスをこの時間に他の
男と会わせるのは気が引けたのだ。
﹁えぇ、ではわたしは装備の確認でもしてきます。また後でね。リ
ト﹂
軽い口づけを交わし、セリスは天幕内の仕切られた一室、彼女用に
用意された着替え部屋に移動した。
﹁通してくれ﹂
リトリロイのその声が響いてすぐ、天幕の入り口が開き、禿げ頭の
中年男性が中に入って来た。
王宮魔導士ゴダン。
魔導長官オビリスの腹心にして今回の西域遠征でも重要な職務を抱
えた人物だ。
﹁夜分に恐れ入ります、殿下﹂
腰を折り、礼を示すゴダン。
リトリロイはそれに手を振って応じた。
﹁あぁ、良い良い。お主の話は良く聞く様にと魔導長官にも言われ
ておる。何ぞ大切な話があったからこそ、夜中になったのであろう﹂
ははっ、とゴダンは頷く。
﹁公娼と、魔物による人的被害。中々に深刻なご様子、このゴダン
241
が愚考いたしました策にて殿下の一助となりますればと⋮⋮﹂
﹁ほう⋮⋮﹂
その夜、披露された策にリトリロイは苦笑いを浮かべ、別室で漏れ
聞いていたセリスが顔を顰めた。
早朝の出来事だ。
水汲みに向かった開拓民が目撃した。
そして、息絶えた。
鋭い爪が彼の喉を引き裂いたのだ。
魔物の襲撃。
襲い来る人狼の群。
開拓団が雑魚寝する大きな幕屋に、火が放たれる。
﹁ほらほらー寝坊すけさん達ー、焼死んじゃうよー﹂
マリスが楽しげに笑い、火がついた油の詰まった小瓶を投げつける。
幕屋からわらわらと飛び出してきた開拓民は、人狼やヘミネによっ
て叩き潰されていく。
やがて集まってきた騎士達が指揮役であるアミュスを狙って遠巻き
に矢を放つも、人狼の身を挺した守りに阻まれ、無為に終わる。
矢を凌いだ後は一方的な殺戮だ。
これまではそうだった。
血の匂いと悲鳴しか無い空間。
それを作り出すのがアミュスでありヘミネでありマリスであった。
はずだった。
﹃あ⋮⋮はい。申し⋮⋮訳、ありません。全部、最後の一滴まで、
アミュスは、床を⋮⋮舐めて、カピカピになった精液まで全部⋮⋮
飲みます⋮⋮から。お許し⋮⋮ください﹄
突如、聞こえてきたのは憐みを誘う声。
否、聞こえてきただけではない。
映し出されている。
242
空を割る様にして、特大の映像魔術が展開された。
そこに映し出されたのは、アミュスがかつて屈辱の内に撮影された、
非道の作品。
﹁な⋮⋮﹂
アミュスに動揺が走る。
支配魔術で彼女の意識と繋がっている人狼達にもその動揺は伝播し、
動きが止まった。
﹃んはぁ⋮⋮まだ⋮⋮ですか、もうお腹一杯で⋮⋮喉まで、精液⋮
⋮上ってきて⋮⋮うぷっ﹄
アミュスは恥辱の炎が己の心を焼くのを感じた。
これは﹃精液と小便だけを啜って公娼は何日正気を保てるか﹄とい
った趣旨で撮影された、アミュスの心を壊すための実験映像だった。
何日にも渡り肉棒を吸い、そこから零れた物だけを食って生きる。
精液を直接注ぎ込まれる事も、一度別の公娼の膣内に出されてから
それを吸い出させられる事も、故意に床に零して舐めさせる事も、
完全に乾燥させて固形物にして食べさせる事も。
アミュスは耐えた。
実験を執り行った調教師が日毎に連れてきた﹃善意﹄の無償労働者
に﹃懇願﹄して精を啜り、生き続けた。
終盤は栄養分だと割り切ろうと心を砕いた。
その結果、彼女はひと月を息抜き、中々実験の成果が見えない事に
怒った調教師により全身精液まみれのまま市街地に放り出され、し
ばらくの間裏路地で野良ネコを飼うようにして彼女を囲った住民に
犯され、やがてゼオムントの公的機関に保護され、今度は別の調教
師の下へ送られた。
﹃ぐぽ⋮⋮うぇぇぇ⋮⋮おぼぇぇぇぇ﹄
映像の中、アミュスが精液を口から溢れさせ滝のようにして吐き出
している。
全員が、この場にいる全員が。
殺戮者が、被害者が、重傷者が、負傷者が逃走者が抵抗者が。
243
それを目撃した。
今目の前で殺戮の指揮を執っている女の、痴態を。
これ以上無いほどに滑稽な姿を。
﹁ふふふっ。如何ですかな。この王宮魔導士ゴダンの映像魔術は。
この五日の間に貴女達三人の顔を確認し、資料を漁り、貴女方の撮
影作品を引っ張り出して来ましてねぇ。折角なので、開拓団の皆さ
ん全員に、今自分達を襲っている怖い人達がどんな事をしてきたか
を、見て置いて頂こうかと﹂
戦場から少し離れた場所でゴダンは馬に乗っている。
馬に乗ったまま右手を掲げ、そこに光る結晶を握っている。
その結晶から伸びた一直線の光が、映像魔術をかたどっていた。
ゴダンはニヤリと笑うと、馬首を巡らせ、陣の中央へと向かった。
﹁⋮⋮⋮⋮追え、殺せぇぇぇぇ!﹂
常の冷静な面影を喪失し、アミュスは叫ぶ。
その号令の下、人狼達は駆けだした。
ゴダンは逃げ、人狼が追う。
途中で轢き潰されるようにして騎士が死んでいく。
両者の距離は、段々と縮まって行った。
その間も映像の中のアミュスは肉棒を咥え、弱弱しく卑屈に微笑み
ながら、精液を啜る。
現実のアミュスはそれを否定するかのように、激しく吠え、人狼を
駆けさせた。
﹁おぉ怖い怖い。そんなに吠えますとまた口から精液が滝の様に流
れ出て来ますぞ。アミュス嬢。さてさて、お次はこちらですかな﹂
ゴダンは手にした結晶を仕舞い、新たな結晶を袂から取り出した。
﹁リネミア神聖国の大貴族にして軍人としても名高いお方、ヘミネ
嬢。貴女はどのように下品に喘いでいらっしゃったのか、このゴダ
ン。興味が尽きませぬのぅ﹂
244
ゴダンが結晶を天にかざす。
その光に導かれ、映像魔術が起動して行く。
その光景を見て、アミュスは思った。
怒りで忘我の淵まで達していたが、魔導士としての己が最後の一線
を越えさせなかった。
僅かに残った冷静な思考が、彼女を止める。
これ以上追うべきではないと。
自分の建てた作戦は奇襲と即時離脱であったはずだと。
そして仲間の事を思う。
マリスは異常だ。
異常さの中に気楽さがある。
故に御しにくいようで御しやすい。
ヘミネは正常だ。
正常さの中に激情がある。
故に御しやすいようで御しにくい。
この旅の始まりでアミュス達の主人役を殺したのもヘミネだ。
彼女は固い思想の内側に、燃え盛る激情を飼っているのだ。
このままではまずい、とアミュスの中の魔導士としての知能が働く。
ヘミネを止めねば。
今ここでヘミネに映像を見せてはいけない。
これ以上深入りしてはいけない。
もう既に自分達の軍勢はゴダンを追って敵中深くにまで来てしまっ
ている。
来る。
来てしまう。
アイツが。
セリスが︱︱。
245
修羅と渇き︵前書き︶
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246
修羅と渇き
﹃わかりません⋮⋮すいません。もう一度⋮⋮お願いいたします﹄
空を割って映し出される汚辱。
﹃あぁ? 何をお願いされたのか、俺馬鹿だからわからねぇわ﹄
赤い髪の女性が、尻を突き出した四つん這いの姿勢でいる。
顔は、確認できない。
それを囲んでいる五人の下品な笑みを浮かべた中年の男達。
一人が黄ばんだ犬歯を滑らせながら言い、女の尻たぶを蹴った。
﹃⋮⋮ぐっ。お願い⋮⋮します。どうか、一番の方、もう一度⋮⋮
私の、膣に⋮⋮ち、チンポ⋮⋮を、挿れて⋮⋮下さい﹄
女の顔が持ち上がる。
涙に歪み、唇を裂けるほどに噛みしめている。
あれは⋮⋮私だ。
ヘミネはここが戦場だという事も忘れ、空を見上げた。
そこに、かつての自分が居た。
﹃膣、じゃねぇだろぉぉ? オマンコだろぉぉ? ほら、言ってみ
ろよ! もう一度! 誰に、何を、どこに、どうして欲しいんだよ
!﹄
今自分は目的を共にするアミュスとマリス、そして支配下の人狼と
共に西域の開拓にやってきたゼオムントの人間を襲っていたはずだ。
暴力によってもたらされる血と歓声以外に、何も耳にしないはずだ。
﹃⋮⋮う、うぅぅぅぅぅっ! うううううううううううっ!﹄
映像の中の私が暴れだす。
四肢をでたらめに動かし、噛みつかんばかりに顎を開く。
既に当時の私は格闘術に優れ、握力や筋力も並大抵の男では及ばな
い。
囲んでいた男達が焦り、調教師を呼ぶ。
247
眼鏡をかけた気弱そうな男が私の体に取り付き、首回りに仕掛けら
れた装置を作動させる。
途端、私の動きが弱まった。
瞳は激しさを失う。
﹃ケッ、ビビらせやがって⋮⋮おら、言えって言ってんだよクソマ
ンコが﹄
再び蹴りつけられる尻たぶ。
吐き出しそうだ。
泣き出しそうだ。
かつての自分が⋮⋮これから言う言葉を知っている。
当然だ。
今映し出されているのは私の記憶。
そして、公娼としての記録。
つまり、過去。
﹃お願い⋮⋮します。一番の方、私の⋮⋮ヘミネの⋮⋮オマンコに
⋮⋮チンポを⋮⋮挿れてください⋮⋮お願いします﹄
頬を滑る涙が唇の血を拭う。
かつての自分は、襲い来る恥辱に敗れていた。
﹃ハッ! 言えるじゃねぇか。オラ、挿れてやる。挿れてやるとも﹄
そう言って男は肉棒をぱっくりと開いた膣へと挿入した。
これは、遊興だった。
﹃目隠しチンポ当て﹄
担当の眼鏡をかけた調教師は娯楽性の高い作品を作ることで有名だ
った。
思い出したくもない遊興が甦ってくる。
目隠しをされ、裸のまま拘束された自分。
最初に前戯も無しに挿入され、数十回荒々しく穿られた後、肉棒が
抜ける。
そこから四半刻、単純に放置される。
この四半刻がこの遊興の肝なのだそうだ。
248
挿入された肉棒を忘れない様に必死に想像し、記憶に刻み続ける時
間。
その時間を与えることで屈辱感をより強く熟成させる事ができるの
だと調教師は言った。
四半刻経つと、五人の男が登場し私の目隠しを外す。
順に一番から五番と呼ばれる男達だ。
その中の一人が、私に先ほど挿入した男。
私はそれを当てなければならない。
回答権は僅かに一回。
五分の一だ。
しかしヒントが無いわけでは無い。
私は回答に与えられた猶予時間︱︱半刻まで、自由に求める事が出
来る。
男達に、挿入を。
一番から順に男達に挿入を願い、自分の膣で覚えた記憶によって答
えを探す。
わからなければ、わかるまで何度でも挿入を願う。
屈辱に身を震わせながら、何度も何度も乞う。
﹃挿れてください﹄と。
必死に答えを探す。
何故なら、このゲームに敗れると決定するのだ。
五人による連続膣内射精。
それも調教師によって用意された妊娠補助薬を注射された上で、だ。
それだけは避けなければいけない。
このような愚かで下賤な行為で生まれてくる命など有ってはならな
い。
故に、必死で探し、求める。
自分は正解していた。
三番の男が最初に自分に挿入した男だった。
男達は悔しそうに雑言を吐き、私の尻たぶを蹴飛ばす。
249
しかし、それで終わりではない。
敗れると薬有りの連続膣内射精。
では勝つとどうなるか⋮⋮。
私は私を見上げる。
映像の中で、五人の男に輪姦される自分を見つめる。
薬は打たれなかった。
膣内に出されなかった。
ただ、それだけ。
五人は満足するまで私の体を蹂躙し、敗者の権利として﹃外出し﹄
をして笑いながら画面から消えていく。
記憶が、過去が、私に突き付けられた。
消せはしないだろうが、忘れはしないだろうが、見ないふりは出来
た物を、見せつけられた。
﹁あは⋮⋮あははははははははは﹂
私は鉄甲に囲われた両手で顔を撫で、髪を掴む。
﹁あははははははは。ミジメ⋮⋮なんてミジメだ⋮⋮私⋮⋮私は、
貴族で、戦士で⋮⋮そんじょそこら男なんて力でねじ伏せる事が出
来て⋮⋮でも、でも。馬鹿みたいに自分から尻を振ってねだらなき
ゃいけなかったんだ⋮⋮﹂
頭を掻きむしる。
見たくない。
見たくない。
あのような映像など。
このような自分など。
見たくない。
﹁殺す﹂
両肘を脇腹に添える。
十本の指を鉄甲ごと軋らせる。
両目は火花を放つ。
両足は地面を抉る。
250
呼吸は炎となって肺腑を焼く。
心臓は唸りを上げて回転する。
意識は一本の線に収束する。
殺す。
﹁ヘミネ! 落ち着きなさい! 私達は深入りしすぎたわ、急いで
反転して撤退しましょう!﹂
どうにか理性を取り戻したアミュスが叫ぶが、その声は修羅と化し
たヘミネには届かない。
赤い軍服の修羅は、目の前に立ちはだかる障害の全てを抉り取る様
にして突進して行く。
狙いは映像魔術の起点である結晶を握る男。
人狼も、兵士も、騎士も、労働者も。
彼女の視界に入ったすべてが血肉となり血風と成り果てた。
﹁ヘミネ!﹂
﹁ヘミネちゃん!﹂
アミュスの声も、マリスの声も、彼女を救う事は出来ない。
ただひたすら猛然と、殺意だけが彼女を支配できた。
﹁速⋮⋮い、なんだアレは⋮⋮馬や狼なんぞより速いではないか⋮
⋮ひぃぃ!﹂
禿頭に汗をかき、手にした結晶を握りしめて懸命に馬を走らせるゴ
ダン。
既に彼とヘミネの間の距離は、馬五頭分程度にまで狭まっていた。
割り込んでくる兵士の頭を掴み、握りつぶす。
突き入れられる槍を蹴折り、穂先を投げ返す。
死の驀進。
ゴダンが卑劣な思考で持ち出した策が生み出したのは、紛れもない
化物であった。
ヘミネが跳躍する。
251
その拳が空を裂き、ゴダンを貫こうとした時、
﹁魔導士殿、お下がりを﹂
直剣が、割って入った。
﹁セリス殿⋮⋮助かりました﹂
銀と白で着飾った騎士が、両者の間に佇んでいた。
拳と剣がぶつかり合う。
ゴダンは修羅と騎士から距離を取る。
馬を駆けさせようやく一息ついたところで振りかえる。
信じられない光景が、そこには有った。
騎士公娼セリスが落馬している。
ヘミネの拳を受けきれずに上体を崩し、馬から飛び降りたのだ。
セリスは跳ね起きて姿勢を回復する。
両者、大地に立って正対する。
ここに来て、ゴダンは背筋が凍るのを感じた。
彼の策も、開拓団に同行する騎士兵士の数が少ない事も、全てはセ
リスの武芸の冴えに全幅の信頼と期待を抱いていたからに他ならな
い。
もしも、もしもそのセリスがやられるとすれば⋮⋮。
﹁いいや⋮⋮まだ、まだですよ⋮⋮公娼如きに、敗れるわけにはい
きませんとも⋮⋮﹂
ゴダンは映像結晶を握り潰し、空いた手を懐に突き入れた。
ヘミネが押している⋮⋮!
それはアミュスにとって予想外の事に他ならなかった。
怒りと殺意によって修羅と化したヘミネの力が、以前は絶望的な力
の差を感じさせられたセリスと拮抗しているのだ。
そうなれば、もしや。
252
こちらの人狼は敵方の騎士や兵士と比べて個々の戦力とすれば数倍
になる。
加えてマリス、そして自分も居る。
ヘミネがセリスを抑えていてくれるなら、勝機は十分にある。
﹁マリス! 出来る限り暴れて! 今ここで壊滅的な打撃を与える。
そうすれば、私達の復讐の第一幕は、こちらの勝利で終わるのよ!﹂
﹁あいさー、アミュ姉!﹂
マリスが迫りくる騎士の首を曲刀で断ち切り、血飛沫を浴びながら
頷く。
アミュスは人狼達の意識野の中で作戦を伝達し、四散させる。
襲え、襲え。
喰え、喰え。
自分の傍に護衛として侍らせていた数体も、移動させる。
護りが手薄になっても良い。
セリスが動けない今こそが、絶対の好機なのだ。
散れ、散れ。
征け、征け。
人狼に指示を飛ばす。
﹁甘い、甘いですなぁ⋮⋮御嬢さん。セリス様は確かに絶対の武力
ではございますが、策士たるもの、取って置きの秘策を準備してい
るものですぞ﹂
離れた所から、禿頭の王宮魔導士が笑っている。
彼の手に握られた一本の短杖。
そこから魔力が放たれる。
魔導士であるアミュスには見えた。
それが、一体どのような効果を発揮する魔導なのかが。
そして、狂おしく叫んだ。
﹁馬鹿なっ! そんな馬鹿なっ! そんな⋮⋮そんな物がそこに有
って良いはずが⋮⋮っ!﹂
アミュスの支配魔術にはカラクリがある。
253
集団の中で最も尊敬される者を屈服させることで、その者の信者ま
でもを意のままに操る。
そういう魔術だ。
親を抑える事によって子を従える。
例えその子がどれだけの数になろうとも。
人狼の群に近づき、ヘミネとマリスによる陽動で護衛の人狼を排除
した後、一対一の状況を作りだし群の長を﹃枯渇﹄の魔術で下した。
そうする事によって人狼族はアミュスの軍門についたのだ。
今、それが覆される。
ゴダンの取り出した一本の杖で。
魔物の統帥権を与えるという﹃宝具﹄によって。
周囲に展開し、人間を襲っていた人狼達が一斉にアミュスの方を振
り返る。
群の牙が、一斉に剥かれた。
﹁魔物の宝具は⋮⋮! 西域の奥にあるはず⋮⋮どうして⋮⋮﹂
呆然とするアミュスの下に、マリスが駆け込んでくる。
﹁危ない! アミュ姉﹂
曲刀が振るわれ、一体の人狼を裂く。
続いて弧を描く刃は更なる狼の首を刎ねる。
しかし、二体だけではない。
もうすでに、彼女達に群がる人狼は、二十を超えていた。
マリスがいくら懸命に刃を振るっても、獣の圧力の前には微々たる
抵抗に過ぎなかった。
人狼達によって、二人の公娼が追い詰められていく。
﹁殺しはしません。肌を傷つけるのも良くない。さて、狼の皆さん、
そうですねぇ⋮⋮今まで散々足蹴にされて屈辱を味あわれた事でし
ょう。それぞれ一発ずつ、腹を思いっきりぶん殴っておあげなさい﹂
ゴダンは優しい声音でそう言って、﹃宝具﹄を振った。
ドゴッ︱︱肉を打つ重たい音が響く。
ゴボッ! ドスッ! グボッ! バゴッ!
254
繰り返される殴打。
腹を抱え、曲刀を取り落すマリス。
口から血の混じった胃液を吐き出すアミュス。
苦悶の表情を浮かべ、地に伏す公娼を眺め、ゴダンは微笑む。
これで後はセリスが修羅に勝てばいいだけ。
そう思った矢先、事態は急転する。
ヘミネとセリスの戦闘は互角と言ってよかった。
打ち込まれる拳を直剣でいなし、振り下ろされる剣を鉄甲で弾くと
いう応酬。
激情の炎が込められた拳は、ゼオムント一の剣技と拮抗したのだ。
セリスの表情には緊張が浮かんだ。
いつ以来だろうか、自分とここまで打ち合える戦士と出会ったのは。
この者の武芸の才を純粋に評価する。
騎士としての本能であった。
しかし、そう思った矢先に波が生まれた。
ヘミネの拳に込められた力に、波が。
波と言う表現が正しくなければ、動揺が生まれたのだ。
見渡せば人狼がかつての主人であった魔導士と剣士を襲い、取り囲
んでいる。
何やらゴダンが妙な魔導を使って人狼を操ったようだが、その様な
事はセリスには関係ない。
目の前の勝負に死力を尽くすのみだ。
けれど、赤髪の戦士にはそうでは無かったようだ。
狂人のごとく、修羅のごとく迫ってきたその覇気が薄れ、彼女の瞳
に浮かんだ色は、
仲間への心配。
彼女は今、目の前の騎士だけを見ている事が出来なくなった。
故に、結果は生じた。
255
直剣に背を向け、拳は狼の下へと向かったのだ。
ヘミネの拳が狼の体を吹き飛ばす。
蹴りが、肘打ちが、手刀が、仲間達を取り囲んでいた人狼を排除し
て行く。
﹁ヘミネ⋮⋮ちゃん。ありがと⋮⋮ね﹂
ケホケホと咳をしながら、マリスが弱弱しく笑う。
﹁⋮⋮マリス、逃げなさい。ここは私が引き受けます。ここまで無
謀に敵に突っ込んだのは、我が不明。責は己の命で償います﹂
ヘミネは続々と襲い掛かってくる人狼をなぎ倒しながら、ポニーテ
ールの剣士へと言う。
﹁そう⋮⋮ね。それについては⋮⋮私も⋮⋮同罪。最初に我を失っ
たのは、私だもの⋮⋮。マリス、行って⋮⋮シャスラハール王子と
合流するの⋮⋮大丈夫。私もヘミネも死なないわ、貴女を待ってる。
だから、ね⋮⋮きっと⋮⋮助けに来て頂戴ね⋮⋮﹂
アミュスは口の端から血を滴らせながら、立ち上がった。
﹁希望は捨てないわ⋮⋮貴女と言う希望がある限り、私達は屈さな
い。だからマリス、どうか⋮⋮この場は私達に任せて、逃げ切って﹂
アミュスは胸元から短刀を引き抜き、投擲する。
その切っ先は、肉に埋もれた。
セリスが騎乗してきて、ヘミネによって主人と引き離された、狼の
咆哮だけで動揺する臆病者の馬の腹に。
馬は大げさな動作でバタバタと首を動かし、やがて三人の方向を向
く。
アミュスはそれを睨みつける。
馬は怯え、いななく。
﹃支配﹄の魔術が作動した。
途端、猛然とこちらへ走ってくる馬。
﹁アミュ姉⋮⋮ヘミネちゃん⋮⋮﹂
256
マリスは呆然とした表情で二人を見つめる。
﹁早く⋮⋮いつまでも保たない!﹂
人狼の襲撃は間断なく続き、ヘミネはその応戦に追われている。
﹁私も手伝うわ⋮⋮。マリス、じゃあね︱︱﹂
アミュスが薄く笑って手を振った。
マリスは泣き笑いのような表情を浮かべ、すぐに二人に背を向け走
った。
駆け寄ってくる馬の背に飛び乗り、一目散にこれまで進んで来た道
を駆け戻る。
﹁むぅ、追ってください! 逃がしてはなりません!﹂
ゴダンがそう言って、人狼のうち数体を差し向けようとした時、
﹁行かせないわ⋮⋮﹂
アミュスが﹃枯渇﹄の魔術を発動した。
人狼の瞳が乾き、喉が干上がり、血液が固まる。
彼女の体から僅かな距離までしか届かないが、この魔術に囚われた
相手は死にも等しい苦痛を味わう事になる。
倒れた人狼に向けて舌打ちをし、ゴダンは更に別の数体に追跡を命
じようとする。
その肩を老いた手が掴んだ。
﹁魔導士殿⋮⋮良いのじゃ⋮⋮捨て置け。むしろその方が都合が良
い﹂
﹁ゾートさん⋮⋮﹂
ゴダンの肩に手を置き、稀代の調教師ゾートは顎を撫でる。
﹁このような話を知っておるかな? とある国では食用の家畜をあ
えて残酷に痛ぶって絶望させた上で肉にする。そうすると味が引き
締まって旨くなるそうだ。公娼もまた同じ⋮⋮いや、逆かのう。公
娼に抱かせるのは絶望ではない、希望じゃ。希望を抱かせた上で調
教する。そうするとまた素晴らしく泣いて、喘いで、そして必死に
抵抗するのじゃ。その姿こそが、民衆を楽しませる﹂
老人の言葉に、ゴダンはため息をつく。
257
﹁では、あのマリス嬢は見逃せと?﹂
﹁そうじゃ、三人共に捕らえてしまっては希望も何もなく、何の面
白味も無い性奴隷が三つ仕上がるだけ。しかしあの娘が逃げおおせ
る事であの二人は希望を抱き、調教に脂が乗ると言うもの。それに
どうせ、この魔物の領域であの娘一人で何かできるわけでもあるま
い。希望はそう、細ければ細いほど、儚ければ儚いほど、良い味付
けになる﹂
老人がニタリと笑う姿に、魔導士は天を見上げて苦笑した。
二人が話し込んでいるうちに、事態は終息に向かった。
取り囲んでいた人狼は全て地に伏せ倒れている。
アミュスとヘミネはフラフラの状態で何とか立っている。
枯渇の魔術と修羅の拳。
この二つは奇跡的にも人狼達を駆逐したのだ。
しかし、それまでだった。
﹁抵抗は無駄ですよ﹂
直剣を構えもせずに鞘にしまったままのセリスが二人の前に立つ。
魔力も、体力も失った二人にとって、あまりにも厳しい現実が人の
形をして立ちはだかったのだ。
﹁騎士団、捕らえなさい﹂
セリスは二人の緊張の糸が途切れるのを確認して、遠巻きに見守っ
ていた騎士団を手招きした。
襲撃から一刻が経ってようやく、血なまぐさい戦いは終結した。
﹁おらぁ! テビィ! てめぇしっかり働けってんだよ、クソガキ
がぁ﹂
﹁ごめんなさいごめんなさいごめんなさい﹂
バケツを被った少年がむさ苦しい中年男性に蹴られている。
どうやら土木作業の手伝いをしていた少年が細かなミスをして怒ら
れているようだ。
258
﹁親が死んじまって身よりがねぇってんで仕方なく面倒みてやって
たが今日までだな! てめぇの様なクソの役にも立たねぇ無駄飯食
らいはいらねぇんだよ!﹂
﹁ごめんなさいごめんなさいごめんなさい﹂
バケツの少年が頭を抱える様にしてしゃがみ込むが、その金属製の
バケツを撫でるばかりで抱え込めていない。
俺はあまり気分の良い光景でも無かったので口をはさむことにした。
﹁おい止めないか、その子はまだ子供だろう。大人と同じ事が出来
るわけが無い。大目に見てやってくれ﹂
俺の言葉に、中年は眉根を寄せたまま振り返る。
﹁あぁ? うるせ⋮⋮いや、いやいやいや。これはこれはリトリロ
イ殿下。お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。はい
ぃ、少し躾のつもりで叱っていたのですが、つい熱が籠りすぎてし
まったようで⋮⋮。さ、テビィ仕事に戻ろう﹂
男はバケツの少年の手を強引に引っ張り上げ、愛想笑いを浮かべて
俺の前から歩き去った。
﹁ったく⋮⋮開拓民の素行の荒さが一番の問題点だよな⋮⋮聖職者
も一緒に連れて来るべきだったか﹂
俺がぼやいていると、すぐ近くから花の香りが届いた。
知っている香りだ。
愛している香りだ。
﹁リト、それは仕方の無いことよ。彼らの中でまともな教育を受け
られたのはほんの一握り。今後貴方が国を作って、教育制度を整え
て、ゆっくりと常識と穏やかな心を広げていけばいいわ﹂
銀と白のドレスを纏ったセリスがやってきた。
﹁そうだね。今は荒くれ者でも、きっと変われる。彼らは変わる為
にこの建国についてきたんだ。それを信じよう﹂
俺はセリスと並ぶようにして立つ。
今は昼飯時を過ぎ、もうすぐ夕方になろうかと言う時間帯だ。
開拓民は資材を肩に担ぎ、工具を腰に提げ行きかっている。
259
早朝からしばらく続いた戦闘の傷跡を払い、元の通りに修復するた
めに、彼らは汗を流している。
老いも若きも、男達は懸命に働いている。
そんな彼らの視線が時折、一瞬だけ移動する。
陣の中央に。
男達の喉が動き、瞳がぎらつく。
その場所に、白い服の集団が立っている。
調教師ゾートが用意し、この度の遠征で彼に同行する調教師達に統
一させた、白のローブ。
彼らはローブの裾をはためかせながら、手にした書類に何かを書き、
口頭で指示を飛ばす。
﹁次、肛門から魔導グリセリンを三アンプル注入、便を全て取り除
いて。それが終わったら膣口の洗浄と剃毛、あぁ洗浄が終わったら
﹃洗浄済﹄の前貼りを貼っておくのを忘れない様に﹂
今白服達は二人の人間を取り囲んでいる。
木製の板に四本の脚をつけ、車輪を履かせる。
その上に全裸に剥いた女をうつ伏せに拘束し、カエルのような姿勢
をとらせる。
両腕を万歳させるように伸ばし、手首を鉄枷で板に打ち付け、表情
が見える様に右を向かせたまま首も打ち付ける。
下半身は尻が浮き上がる様に、膝を腰の位置にまで曲げ込みそこで
打ち付ける。
カエルの標本。
下ごしらえ、とゾートは言った。
あえて凌辱の時間を後にして、それに至るまでに色々な準備をする
事で、凌辱者側の興奮を煽り、公娼の神経までも犯す。
板に打ち付ける事もそう。
薬剤を注入する事もそう。
全裸のまま衆目に晒す事もそう。
全ては稀代の調教師ゾートの演出なのだ。
260
そして、演出における最も重要な配役。
公娼。
今この場で板に拘束されているのは、先ほどまでセリスと死闘を演
じていたという、二人。
ゼオムント一の技量を誇るセリスと拮抗しながら敗れた戦士。
今まさに武人としの存在を消され、公娼に戻される。
﹁よぉーし、それじゃ焼印つけるぞー、やりたい奴はいるかー?﹂
年長の白服が言い、数人の若い白服が手を挙げる。
﹁じゃあお前とお前、この焼きゴテでジュワっとやっちまえ。あぁ
こっちの赤髪のヘミネが﹃1﹄で銀髪のアミュスが﹃2﹄な。それ
ぞれ右の尻たぶと左の乳房の側面の二か所だ。よし、やれ﹂
公娼として管理しやすいように、色と名前と数字で管理する。
数字はそのまま肌に刻まれる。
火傷として。
一瞬肉の焦げる嫌な音がして、張り付けられた二人が苦悶の叫びを
あげる。
リトリロイとセリスは、それを無関心に眺めた。
﹁よーしじゃあ続きは夜の祝勝会まで取っておくぞー、その間誰に
も触らせるなよー。あぁ、いや、触るのは別に大丈夫だ。とりあえ
ず犯させなかったらそれで良い。良いか! とりあえず汚すな! それだけだ﹂
年長の白服がそう言って、周りが笑う。
そこに、ゴダン配下の魔導士が三人連れだって近づいていく。
﹁あぁ、撮影係の人? 祝勝会前の下ごしらえから撮影したかった
って? いやぁすまんね。もうほとんど終わっちゃったんだけど、
どうぞどうぞ、今からでも好きなだけ撮ってください﹂
一人の魔導士が映像魔術を展開し、残り二人が補助の機材を運ぶ。
記録を取るのだ。
何と言っても、リトリロイの国づくりにおける、最初の記念行事。
祝勝会。
261
開催は今夜。
皆で飯を食い、皆で酒を飲む。
そして、
皆で公娼を犯す。
262
緩急つけて︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
263
緩急つけて
演壇に立つリトリロイが酒杯を掲げる。
セリスが、ゴダンが、ゾートが、老侍従が、兵士が、調教師が、開
拓民が応じる。
急ごしらえで設置された宴席。
木製の低い机と丸太を横に置いただけの簡素な椅子。
とても王家の者が開く宴席には相応しくないものだった。
しかしそれ故に、民は王を近くに感じた。
彼らに共感し、彼らの労を理解してくれる王を。
配られたのは酒と穀物、そして僅かな肉だった。
それらも充分とは言い難い、王者の宴として到底認められない食事
だった。
けれど、民に不満は無い。
食事は腹が膨れればいい。
喉が潤えばいい。
それよりも、それよりも。
彼らの瞳は獣のそれだ。
男ばかりの開拓団、そして数日にわたる戦闘行為での疲弊、彼らの
鬱憤は積もりに積もっていた。
女を︱︱
公娼を︱︱
演壇に立つリトリロイの後ろに、艶めかしい尻が二つ。
拘束されていた。
木製の板に鉄枷を打ち付ける事で四肢と首を固定され、カエルの様
な姿勢を取らされている二人の女。
彼女達の陰部には﹃洗浄済﹄と書かれたの前貼りとも言えない薄い
紙が貼られ、夜風に靡いてチラチラ舞っている。
264
尻たぶに﹃1﹄の焼き印が押されているのがヘミネ、同じ個所に﹃
2﹄の印があるのがアミュス。
かつて公娼であった者達で、これから公娼に戻る者達だ。
ゾート率いる調教師集団により﹃下ごしらえ﹄を受け、凌辱の時が
来るのをただひたすら待っている。
彼女達は開拓団に少なからず被害を与え、命と物資を奪った責任者。
これは正義の行使である。
死者への弔いである。
男達の心は獣の残虐さと人としての倫理を融合させ。
化物となった。
ひたすらに己の欲望を昇華させたいと願いながら、同時に人として
彼女達に罰を与えるのだと使命を帯びる。
薄汚れた化物が完成した。
宴もたけなわとなってくる。
食事の合間にアミュスとヘミネの過去の出演作品をゴダンが魔導で
再生し、男達の理性のタガが外れかけている。
肉は尽き、酒は尽き、皿と杯が空く。
﹁それでは、メインイベントの前に、王宮魔導士ゴダン様より皆様
にご挨拶がございます﹂
司会を務めるセリス付の侍女が言い、男達は膝を揺すり、目を血走
らせながらゴダンを見やった。
﹁おぉ⋮⋮どうかどうか、皆さま堪えて頂きたい。挨拶は手短に、
要点だけを簡単に語らせていただきますので。うぉほん、此度、我
々は多くの仲間を失いました⋮⋮また、傷を負われた方も多い、開
拓そして建国という、途方もない偉業の始まり、その第一歩で命を
落とされた方の無念、このゴダン察するに余りあります。すべては
ここに繋がれている愚かな愚かな公娼の行った野蛮極まりない暴挙
によるものです。勇敢に戦い戦死した兵も、職責を全うするために
犠牲となった開拓団の皆さまも、その命を虫けらのように扱い、魔
物を使役し襲わせるという非道な行い。善良な一市民である私には
265
余りに悲しい、余りに虚しい行いであると、言わざるを得ません﹂
ゴダンの声を聞いてか、物言わぬまま、固定された公娼の視線が彼
を睨みつけた。
彼女達の口には今詰め物がされており、声を発する事が出来ない。
﹁えぇはい⋮⋮もうすぐ終わりますので、この者達の非道、本来な
らばゼオムントの法に基づき極刑に値するところですが、残念なが
らこの者達にその理屈は通用しません。なぜなら公娼。この者達は
公娼であります、既にその生に意味は無く、ただ単にゼオムント王、
そしてリトリロイ殿下の愛により民草に解放された玩具でしかない
からなのです。故に皆さま、どうぞどうぞ、存分に心行くまで、こ
の公娼でお遊びください﹂
ゴダンが慇懃に礼をした瞬間、男達の熱気が爆発した。
椅子を蹴飛ばし、机を押し倒して演壇の裏へと駆けていく。
男達のその勢いに、拘束された二人の公娼に隠しきれぬ怯えが宿る。
演壇の傍で控えていたゾートが大声を上げる。
﹁良いか! 何をしても良い! それは許可する。尻を耕そうが、
喉の奥に出そうが、そこは好きにしろ、ただし、絶対に殺してはな
らん! 殺してしまわない限り何度でもこいつらの肉体は我が調教
師団の力で修復できる。重ねて言う、殺すな、こいつらはこれから
先ずっと、開拓と建国の為にその体で償ってもらわねばならん!﹂
男達にゾートの叫びが届いたかどうか、声を発した本人ですらわか
らなかった。
三日三晩と言う言葉で語る事ではない。
数日間の戦闘で失われた開拓団と兵士の命は、合わせて三百程、そ
して数少ない男性器を持たない開拓団員、姥捨て代わりに派遣され
た老婆達の数が五百程。
合計して八百。
五万人の開拓団から八百人を引いた数。
266
それがヘミネとアミュスが相手にしなければいけなかった数だ。
押し寄せる男の群に、貫かれ、二人の秘部は閉じる事を知らない。
口も、肛門も何もかもを犯され、汚され、辱められた。
時折ひきつけを起こしたり、意識を失ったりする度に調教師が割っ
て入り、二人を蘇生する。
蘇生されたそばから挿入され、また果ての無い凌辱を浴びせられる。
夜も朝も、昼も夕も。
男達の列は途切れず、ヘミネとアミュスは肉人形として扱われた。
三日が経って、全体の一割も終わってはいない。
むしろその半分ですら、更にその半分ですら、終わってはいない。
この状況を、憂う者がいた。
稀代の調教師と呼ばれる男、ゾートだ。
﹁これでは調教にならん⋮⋮いくらなんでも数が不均衡すぎる⋮⋮﹂
ゾートは陰唇と肛門、そして口で肉棒を咥えこんでいる二人の公娼
を見下ろしながら、舌打ちをする。
ただひたすら犯させるなど、彼の調教師としての美学に反する行い
だ。
﹁公娼として体の慣らしをさせるのはせいぜい三日で充分じゃ⋮⋮
それ以上やると精神を手放し、何の反応もせぬ呆けた木偶になって
しまうわい⋮⋮ここは一つ、涙を呑んで我慢を強いるしかないかの
ぅ⋮⋮いや、ふむ﹂
ゾートはその日の内に行動した。
リトリロイとゴダンに掛け合い、一時的にヘミネとアミュスの利用
を停止させたのだ。
元々公娼に関する調教の最高責任者であるゾートの言だ、王子も魔
導士も頷かないわけにはいかなかった。
不満は、その夕方にはもう爆発した。
男達は即席で作られたヘミネとアミュスの檻に群がり、罵声を浴び
せる。
﹃何をしている! 怠けるな!﹄﹃使命を果たせ! この薄汚れた
267
公娼が!﹄﹃罪人の癖に罰を拒めると思っているのか!﹄
等々、彼らは全裸で拘束されたままの二人を糾弾した。
一方で三日ぶりに陰唇を閉じる事を許された二人としても、困惑を
覚えた。
彼女達にとってみれば、調教師の親玉が急に自分達を檻に移動させ
たとしか認識していない。これもまた、次なる凌辱の一歩なのだと。
しかしそれは違った。
彼女達にとっては知り様の無いことだが、開拓団が寝起きする幕屋
周辺に、立札が設置されていたのだ。
曰く、﹃公娼二名が体調の悪化と殿下への哀願の言を繰り返すので、
特例として休息を与えるものとする﹄
責任を全て彼女達に負わせたのだ。
﹁これで、これで良い。意味の無い⋮⋮見当の外れたものであれ、
糾弾の言葉は人の心を焼く。それに開拓団の方も良い具合に公娼へ
の憎しみを持続させる事が出来る。与え過ぎず、奪い過ぎず。公娼
と開拓団の関係は、ワシが取り持ってやらねばならんのぅ⋮⋮﹂
今まさに、滑稽な光景がゾートの視界に広がっている。
先ほどまで思うままに二人を犯していた開拓団は、急に彼女達が自
分達の手を離れた事に怒り、罵声を繰り返す。
公娼達はその姿に何とか虚勢を張ろうとするも、三日に渡る凌辱の
傷は心に深い傷を残している様子で、かつて武人として持っていた
鋼の魂も揺らいでいる。
やがて、男達は農具や槍といった長い棒状のものを持ち出してきた。
﹁おら! 股を開けって言ってんだよ!﹂
檻の中央に身を寄せ合う二人に向けて、隙間から農具や槍を逆手に
持って突き入れる。
乳首を突き、胸をこね、太ももを叩き、股をこじ開ける。
これまで好き勝手に弄ってきた体を、欲望のあまり、滑稽にも木の
棒で肉棒の代用をしようというのだ。
しかし、
268
その姿を見てゾートは笑う。
﹁そうだ、それで良い⋮⋮凌辱とはそうで無ければいけない⋮⋮!
単純な生殖行動のみで繰り返される事などに観衆を楽しませる事
は出来ぬ。滑稽で、卑猥で、残酷で、羞恥を与えなければ凌辱では
ない!﹂
男達の突き付けた棒に対して、アミュスとヘミネは体をかばい合う
ようにして避け続ける。
しかし、全方位から突き入れられる棒に、隙が生まれないはずも無
かった。
アミュスが鋭く突かれた一突きを避けようとして腰を浮かした瞬間、
狙い澄ました一本が、彼女の陰唇を押し開け、膣内へと至った。
﹁おごぉぉぉ!﹂
冷たい木の感触に、アミュスはくぐもった悲鳴を漏らす。
﹁アミュス! 今抜きます﹂
ヘミネが陰唇を床に押し付け、棒に狙われない様にしながらアミュ
スの陰部に挿さっている棒を抜こうとすると、
﹁隙ありぃ⋮⋮このぐれぇの細い棒だったら、こっちの穴が妥当だ
よなぁ﹂
ヘミネは陰部を隠すために強く押しつけた結果、腰の位置が肛門を
突き出すようになっていた。
そこに突き刺さる、細い木材。
﹁んほっぉ﹂
尻に突き入れられた衝撃でヘミネは腰を浮かせる。
﹁おっ、こっちも隙ありだな﹂
別のもう一本が陰唇を割る。
﹁あうっ﹂
﹁ヘミネ! きゃあっぁ﹂
ヘミネの惨状にアミュスが陰部に棒を入れたまま動こうとすると、
押し開く様にしてもう一本、既に手狭になっている穴に棒が挿って
来た。
269
﹁あがあああああああ﹂
﹁んほぉぉおおおおお﹂
二人の肉体はゾート達による﹃下ごしらえ﹄の成果により、普通の
人間よりも何倍も快感を得やすくなっている。
陰部を突かれ、肛門を抉られ、二人は横向きに床に倒れ込んだ。
そうなってしまえば、後はもう男達の棒が残虐に暴れる。
抜き、挿し、抜き、挿し。
抉り、擦り、抉り、擦り。
公娼達の安全を確保するために用意された檻が、彼女達を辱める最
高の遊具となる。
ゾートが待っていたのはこの瞬間だ。
この映像こそが凌辱。
ゾートの求める世界。
﹁棟梁。お待たせいたしましたわ﹂
煌々と瞳を輝かせるゾートに声がかけられる。
振り返ると、のっぺりとした魚顔の中年女が立っていた。
﹁あぁ⋮⋮オルソー⋮⋮確かにワシがお前を呼んだ。だがしかし少
し待っとれい。今良いところなんじゃ﹂
ゾートは興がそがれた思いで、ため息をつきながら、正面を向く。
男達はゲラゲラと笑いながらヘミネとアミュスを棒で嬲っている。
﹁あらあら。とても面白そうですわねぇ。わたくしも一本貸しても
らって参加してきましょう﹂
中年女は檻に近づき、男達から棒を一本受け取り、アミュスの陰部
を執拗に狙い始めた。
﹁まったく⋮⋮あの変態女め⋮⋮いやしかし、だからこそ⋮⋮ワシ
が目を掛けるに足る調教師なのかもしれんな⋮⋮﹂
ゾートは自分の愛弟子の狂った笑顔を見ながら、また一つ溜息を吐
いた。
270
マダム・オルソー︵前書き︶
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271
マダム・オルソー
﹁マダム・オルソー、こちらの器具の設置は図面通りに完了いたし
ました﹂
白いローブを纏った調教師の一人が、手にした書類を揺らしながら
報告する。
﹁えぇ、ありがとうございます。素敵ですわ。これでもっとこの娘
達を輝かせる事ができます。それがわたくしの使命!﹂
魚顔の中年女が、突きでた腹肉を揺らしながら笑顔で頷いた。
オルソー。
ゾートが組織した調教師団の中でも抜きんでた才能を有する調教師。
当然ながら男社会になっている調教師という職の中、例外中の例外
である女性調教師。
公娼を辱める事に芸術性と恍惚を覚える真正の加虐倒錯者だ。
そして、既婚者でもある。
二年前の嵐吹き荒れる夏の頃に、彼女は年下の青年に娶られた。
線の細いひ弱な印象を受ける青年で、彼女と並ぶと母子と間違われ
るほど童顔な男だった。
青年は彼女が作る映像作品の熱狂的な信者で、何を間違ったか製作
者に恋をし、愛情を抱いた。
オルソーとしても四十を過ぎ結婚を諦めていた頃に沸き起こった珍
事に狂喜し、青年の求愛を受け、二人は結ばれた。
上司であるゾートは魚顔をした中年女の花嫁衣装におぞましい気持
ちを抱えながらも、二人の為に祝辞を述べた事を今でも夢に見ると
いう。
ともあれ、マダム・オルソー。
調教師としての手腕に何の疑いも無い。
ゾートの推薦を受け、彼女が預かる事になったのは二人の公娼。
272
騎士公娼セリスと武芸で渡り合った赤髪の修羅ヘミネ。
魔物である人狼を支配し開拓団に多大な損害を与えた銀髪の魔女ア
ミュス。
全裸に剥かれ、鎖で拘束され、焼印で管理される二人の公娼の肉体
はマダム・オルソーに預けられた。
マダムが最初に行った事は彼女達の時間管理についてだ。
ただ無制限に彼女達を開拓団に解放していては調教に差し支えると
いう事で、朝と昼と夜、それぞれ食後に一刻ずつ自由に公娼の利用
を許可するという制度を作った。
枷により拘束した二人の公娼に労働前、昼休憩、労働後の男達が群
がるという構図だ。
食欲を満たした男達が楊枝を咥えたまま談笑しながらアミュスの口
腔を犯し、ヘミネの尻を耕す。
開拓団の団欒ともいえる時間を作ったのだ。
そして、それ以外の陽が昇っている時間帯は全て調教と撮影に費や
す。
マダム自身が率先して器具を操り、同僚の調教師や映像撮影を行う
魔導士達と共に汗を流しながら、アミュスの膣をこじ開け、ヘミネ
の乳を搾った。
その中でも特に映像撮影班の熱意は群を抜いている。
彼らは建国という偉業を余す事無く後世に残す使命を帯びていたた
め、アミュスの鼻の穴に向けて放たれた精液の滴りを間近で撮り、
ヘミネの肛門に放出された小便の溢れかえる様をつぶさに記録した。
そして、マダムが作った時間管理にはもう一つ大切な一コマが存在
した。
一日の終わり、夕食後の公娼利用時間が終わってから始まる、公娼
達による日記づくりの時間だ。
﹁はーい、それではアミュスちゃん、ヘミネちゃん。今日の出来事
273
で特に記憶に残った事を日記に書いちゃおうねー。もちろん! 絵
日記だよー。日付を書いてぇ、文章を書いてぇ、そしてそして、絵
を描くのぉ﹂
まるで愛する子供に話しかけるかのような、マダムの甘ったるい言
葉づかいに、アミュスとヘミネの神経はささくれ立つ。
二人は先ほどまで開拓民にボロボロに犯された後、体を洗う事も拭
う事も許されないまま、全裸で椅子に座り、机に向かっている。
椅子に押し潰される形で膣口が開き、中から精液が零れだしてくる。
髪にこびり付いた精液が渇き、異様な輝きを放っている。
既に公娼利用時間は終わっているにも関わらず、多くの開拓民が二
人のその姿を見てニヤニヤと笑っている。
机に上には、ゼオムント国内で流通している子供向けの日記帳が置
かれている。
一番上に日付欄があり、すぐ下に紙面の半分程を四角に区切った絵
を描く欄、そしてその下に文章を綴る欄がある。ごく普通の日記帳
だ。
そして手にしているのは、クレヨン。
くっ付けられた二人の机の中間に置かれたケースに入れられた全二
十四色のクレヨン。
特別に黒色だけは、二つ用意されていた。
二人は黒のクレヨンを屈辱に震える手で握り、日付を書く。
そして、絵を飛ばして文章へ。
﹁んんー? どうしたのかなぁ? 今日は色々あったよねぇ? あ
ぁそうか、書く事がいっぱいあって決められ無いんだねぇ。わかる、
わかるよー。わたくしも昔そういう経験がありましたものー﹂
押し黙ったままクレヨンを動かせないアミュスとヘミネに向けて、
マダムが微笑む。
﹁おい、銀髪! お前はアレだ、俺に膣内出しキメられながら、涙
流してアヘってる所を映像班にしっかり記録してもらった事を書け
よ!﹂
274
﹁じゃあ赤髪は俺に尻の中で精液とションベンのミックスジュース
作ってもらった事だな。最後に俺が手で掬ってお前に飲ませた所ま
でしっかりと書けよぉ﹂
野次馬から声が上がり、それに続けて哄笑が巻き起こった。
アミュスとヘミネの背中が、悔しさで震える。
﹁んー、あんまり夜更かしするのも良くないしぃ、そうですねぇ。
二人が決められ無いんだったら今の人達の言った事を日記に書いち
ゃってー﹂
マダムがフムフムと頷きながら、二人を促した。
やがて、指先に隠しきれぬ怒りを込めながら、二人のクレヨンが動
き出した。
一文字一文字、血を吐くような思いで、綴られていく。
﹁ほうほう、アミュスちゃんはその人に抜かずの三連射精を受けた
んだねぇ。途中まで我慢していたけれど最後には声と涙が出ちゃっ
て目玉が裏返る程感じちゃったんだぁ? まったくぅ、エッチだな
ぁ⋮⋮それでそれで? ヘミネちゃん。お尻の中でまず射精されて
ぇ、次に⋮⋮へーオシッコ! オシッコされちゃったの? そして
その混ざったジュースを飲んだの? どんな味だった? どんな味
だったかも書いておいてね。たぶん今この開拓団にいる人達の中で
そんなの飲んだ事有るのはヘミネちゃんだけだからさ、皆に教えて
あげようよ!﹂
アミュスの口が歯軋りを鳴らし、ヘミネの両目から熱の籠った涙が
あふれる。
それでも何とか文章を書き終えた二人に向けて、マダムが微笑む。
﹁じゃあ次は絵だね。さ、他の色のクレヨンもどんどん使って! 素敵な日記帳にしましょうね﹂
マダムの手が二人から黒のクレヨンを奪い取り、他の色が入ったケ
ースを差し出す。
アミュスとヘミネは俯いたまま、そのケースに触れる事が出来ない。
憤りと、屈辱と、怨嗟と、殺意と、絶望。
275
二人の心をありとあらゆる黒いモノが支配していく。
﹁んー? どうしちゃったのかなぁ? 絵に書くのがそんなに難し
いかしら? あぁ、そうね、だって二人とも自分がされてる姿を見
てないものね! ごめんなさぁい、そういう所気が付かなくって!
じゃあこうしましょう。今からお互いの体で、日記に描く事を再
現するの!﹂
そう言って手を叩いて喜んだマダムは、野次馬の中から二人の男を
指名する。
頭を掻き、困惑しながら寄ってくる二人に向けて、マダムは笑う。
﹁それじゃそっちの角刈り頭の君、今からヘミネちゃんに抜かずの
三連射精をしてあげて。そしてそれが終わったらそっちの丸坊主の
君が、アミュスちゃんのお尻に中でミックスジュースを作って飲ま
せるの。もちろんアミュスちゃんとヘミネちゃんはその様子を参考
にして自分にあった事を絵に描くのよ! どう? これなら描ける
でしょ﹂
さっと顔を青ざめさせる二人の公娼とは反対に、角刈りと丸坊主は
下品に笑い、自分に舞い降りた幸運に感謝した。
彼らは食後に公娼を利用しようとして並んでいたが、運悪くいよい
よ自分達の番がくる直前で時間終了を迎え、燻っていたのだ。
角刈りの男が、お先! と丸坊主に笑いかけ、ヘミネの座っていた
椅子を蹴り飛ばし、立ち上がった尻を両手でがっしりと掴み、荒々
しく挿入した。
﹁はぅぅあ! きゅ、急に⋮⋮やめっ⋮⋮やめろぉ!﹂
机に手をつかされ、尻を突き出す姿勢を強要されて、ヘミネはガン
ガンと犯されていく。
角刈りは終始ハイペースで腰を叩きつけ、肉棒で穴を抉る。
﹁おっ⋮⋮おぉぉおイクぜぇぇぇ﹂
﹁いや、いやああああああああ﹂
すぐに、一発目が発射された。
射精後少しの間震えていた男の体だったが、すぐにまた動き始める。
276
二発目の準備だ。
﹁ほらほら、アミュスちゃん? ちゃんと描かないと、ヘミネちゃ
んのがんばりが無駄になっちゃうでしょ? あ、ほらもうすぐ二発
目でちゃうよ! 急いで急いで、時間が無いよ。三発目出すまでに
終わらなかったら、また別の人を呼んでヘミネちゃんに三回射精し
てもらわなきゃいけなくなっちゃうねぇ?﹂
アミュスは呆然と隣の様子を眺めていたが、マダムのその言葉で跳
ねる様にしてクレヨンを掴み、描き始める。
肌色、黒、白、赤。
﹁あぁほらダメよ、アミュスちゃん。これは貴女の日記なんだから、
描くのは貴女が犯された事を描くの。今ここでヘミネちゃんにやっ
てもらっているのはただの再現。貴女がなかなか絵が描けなかった
からしょうがなくやってもらっている﹃意味の無い行為﹄なんだか
らね? だから、赤は要らない。赤はヘミネちゃんの髪の色でしょ
? アミュスちゃんの髪は綺麗な銀色じゃない。はい、こっち﹂
そう言ってマダムはアミュスに銀色のクレヨンを渡す。
アミュスが震える指でそれを受け取った瞬間、
﹁おら! 二発目だっ! 子宮の奥の奥まで注ぎ込んでやるぜ!﹂
﹁くぅ⋮⋮ううううううぅぅぅ﹂
ヘミネが涙を流す。
マダム曰く、﹃意味の無い行為﹄によって。
アミュスは必死に手を動かし、今のヘミネの惨状を絵に描いた。
絵の中で犯されている女の頭の上には、銀の色を塗った。
アミュスが書き上げた瞬間、
﹁ふぅ、三発目だぁ⋮⋮満足だ、これで明日もきつい労働に耐えら
れるってもんだぜぇ﹂
﹁う⋮⋮うあぁ⋮⋮ああああ﹂
角刈りが三発目を放ち、ヘミネの体を解放した。
277
﹁さ、じゃあ次はヘミネちゃんの日記の番だね。丸坊主くん、よろ
しく!﹂
マダムに指名され、丸坊主はアミュスへと一歩近づいた。
﹁おら、尻だせよ。わかってっか? 精液とションベンを中で混ぜ
なきゃいけねぇんだからよぉ、万が一にも零れない様に地面に這い
つくばって尻を上に向けろ﹂
丸坊主のにやけ顔から発せられる言葉に、アミュスは一度強烈に睨
みつけてから席を立ち、椅子をどけて地面に両手をつく。
尻を、天へと向けた。
﹁そうそう⋮⋮そんじゃ、いくぜ!﹂
﹁ぐっ! ううううぅ﹂
勢いをつけて肛門へと肉棒を突き立てる丸坊主、アミュスの口から
苦鳴が漏れる。
﹁さ、それじゃあヘミネちゃん。座って座って、絵を描いちゃいま
しょう。素敵な何度でも読み返したくなる日記を作ってね﹂
ヘミネは角刈りによって蹴飛ばされた椅子をヨロヨロと拾い、机に
向かう。
椅子に座った瞬間、膣内に溜まっていた精液があふれ出す。
椅子を伝い、太ももを伝い、膝を伝い、くるぶしを伝って地面に零
れる。
角刈りの貯め込んだ精液は半端な量では無く、その射精三回分の精
液で椅子の下に小さな池が出来上がった。
﹁あらら、ヘミネちゃんまるでお漏らししちゃったみたいねぇ。大
変、後で掃除しなくちゃ。ヘミネちゃん手伝ってね? やっぱり汚
した人が責任を持って綺麗にしないと、人間そういう所って大切よ
ね?﹂
マダムが笑いながらそう言う横で、切羽詰まった声。
﹁お、おおおおぅ、くぅぅぅ良いケツ穴だぁぁぁ、出すぜぇぇぇ﹂
﹁ぬほっああううめくれ⋮⋮めくれるぅ⋮⋮﹂
丸坊主が上ずった声を上げ、アミュスが肛門への激しいピストンに
278
脂汗を流す。
丸坊主の体が痙攣する。
今まさに、アミュスの体内に精液が注がれていく。
﹁ほぉら、ヘミネちゃん? 急いで描かないともう時間が無いわよ
? 次オシッコして出来上がったジュースをアミュスちゃんが飲ん
だら終わっちゃう。もしそれまでに描き終わらなかったら⋮⋮やっ
ぱり別の人にもう一回ジュースを作ってもらうしかないわよねぇ﹂
マダムの言葉に、ヘミネは泣きながらクレヨンを取った。
肌色、黒、白、赤。
四つん這いになった女の体を描き、その背後に立って尻を犯す男の
体を描く。
﹁あぁダメよ! ヘミネちゃん。確かにその姿勢は大切だけれど、
わたくし思うの、今回の記録で大切なのは﹃精液とオシッコのジュ
ースを飲んだ﹄っていう部分じゃないかしら? だからジュースを
作ってる過程は置いて、飲んでる姿を絵に描いて? ほら、仕方が
ないから枠をはみ出しちゃっても良いから隣にジュースを飲む姿を
描きましょう﹂
ヘミネは愕然とした思いでマダムを見やるが、マダムは魚顔に笑顔
を張り付けて見返してきた。
その隣で、
﹁く⋮⋮うぅぅぅぅ。早く! 早く小便出しなさいよ! 終わらな
いでしょ!﹂
アミュスが声を上げた。
彼女の肛門を犯していた男は、ニヤニヤ笑いを浮かべ、腰を休める
様子は無い。
﹁いやさぁ⋮⋮実は俺さっき便所でションベンしてきちまってさぁ、
あんまり溜まってないんだよなぁ⋮⋮今頑張って尿意を刺激してる
所なんだよ、もうちょっと我慢してくれや﹂
そう言ってテンポよく腰を動かし、アミュスの肛門を抉り続ける坊
主頭。
279
﹁な⋮⋮なら、べ⋮⋮別の⋮⋮いえ⋮⋮良いわ⋮⋮﹂
ヘミネはアミュスがとっさに言わんとした事を理解した。
しかし、言いかけた言葉は、最も発してはいけない言葉だったかも
しれない。
﹁別ぅ? アミュスちゃん別の人にオシッコしてもらいたいの? 射精してくれたその人以外の人にお腹の中にオシッコしてもらって、
精液とオシッコ別々の人のを混ぜたジュースにして欲しいの? 凄
ぉい! 面白そう。そういう事ならそこの君、今オシッコでる?﹂
案の定マダムがその単語に反応して、アミュスの言いかけた言葉を
補完する。
指名され、満面の笑みで頷いたのはモジャモジャ頭の太った男。
彼がのしのしと歩み寄ってきて、アミュスの頭を撫でた。
﹁やめっ⋮⋮違う! 私はそんな事⋮⋮!﹂
アミュスが懸命に首を振る後ろで、丸坊主が肉棒を引き抜いた。
﹁チッ仕方ねぇ⋮⋮譲ってやるよ、ただ俺はお前のションベンとか
触りたくねぇから、飲ませるのはお前がやれよ﹂
丸坊主はモジャモジャ頭に言い捨てて離れていく。
﹁でへっ⋮⋮でゅふ⋮⋮ではでは⋮⋮小生のオシッコしゃーっと⋮
⋮こちらの便器ちゃんにお見舞いしてあげちゃうでし∼﹂
モジャモジャ頭は顔に浮かんだ脂を掌に取り、その脂を肉棒に擦り
付ける。
潤滑材代わりに使ったのだ。
それは、とてつもなく悍ましい行為に思えた。
﹁やめっ! さっきの⋮⋮! さっきの丸坊主で良い! さっきの
奴の尿意が来るまで耐えるから! だから! あぁああああああ﹂
アミュスの言葉は、肛門を押し広げる脂まみれの肉棒の感触への絶
望により、途切れた。
﹁でへっ、でへっそれでは、たっぷり溜まった小生のオシッコ、召
し上がれ∼﹂
ジョボボ、と排泄の音が聞こえる。
280
本来あってはならない場所で。
﹁あ、ああああ⋮⋮うあああああああああ﹂
気丈に振舞っていたアミュスの瞳から、涙がこぼれる。
長い長い放尿を終え、モジャモジャ頭の体が軽く揺れる。
﹁ふぅ∼、すっきりでし﹂
モジャモジャ頭は肉棒を引き抜くと、アミュスの尻たぶで拭い、残
尿を払う。
﹁う⋮⋮あう⋮⋮ああう﹂
﹁アミュス⋮⋮! アミュスしっかりして下さい⋮⋮﹂
ヘミネは握りしめていた赤のクレヨンが折れるほどに拳を握りなが
ら、声を絞り出す。
﹁マリスが⋮⋮他の公娼達が、きっと助けに来てくれます⋮⋮心を、
完全に折られてはなりません⋮⋮﹂
ヘミネのその声に、アミュスが涙でぬれた顔を上げ、小さく頷いた。
﹁あらあら、素敵ね。貴女達がいると他の公娼ちゃん達も来てくれ
るのね? 楽しみだわ﹂
励ましの言葉を聞いて、マダムが笑う。
﹁じゃ君、そろそろジュース飲ませてあげて﹂
﹁了解でし∼﹂
モジャモジャ頭はアミュスの肛門のすぐ傍に両手を皿のようにして
構え、
﹁出して∼ジュースだして∼んちゅ∼﹂
分厚い唇をタコの様に突出し、アミュスの肛門に吸い付いた。
﹁ひっ! な、やめっ!﹂
﹁ちゅ∼ちゅ∼ちゅちゅ∼﹂
吸引と言うよりは、お遊びでの吸出し。
それでも、体は反応する。
元より直腸に逆流する形で入って来た精液と小便を溜めておく機能
など無い。
アミュスの肛門から、溢れ出してくる。
281
黄色と白と、茶色の混合液。
﹁うわぁい出た∼出た出た∼﹂
皿にした手に収まりきらず零れていく恥辱のジュース。
モジャモジャ頭はそれを素早くアミュスの顔の前に運んで行き、
﹁はい、飲んで∼﹂
差し出す。
アミュスは一度ヘミネを見、ヘミネもアミュスを見返す。
強い視線が、交わった。
アミュスは精液と小便、そして自身の糞で作られたジュースに吸い
付き、音を立てて一気に飲み干す。
ヘミネはクレヨンを走らせ、壮絶な覚悟を盟友と共有しながら屈辱
の日記を完成させる。
﹁うぅん。素晴らしい! 素晴らしいわ二人とも! とっても素敵
な日記が出来そうね! もちろん日記だからこれから毎日つけてい
くわよ! 二人が壊れちゃうか死んじゃうまでずっとずぅっとね。
日記は集会所の本棚で管理しておくから閲覧自由よ、皆も是非見に
来てね!﹂
マダムのその言葉に、野次馬達は歓声を上げた。
ヘミネは自身の股間に手をやり、しつこく残っていた精液を掻き出
す。
アミュスはモジャモジャ頭がこっそりと近づけて来る肉棒に唾を吐
きかけ立ち上がった。
日記作業が終わると、アミュスとヘミネには休息が与えられる。
これはマダム⋮⋮そしてゾートの方針による公娼の熟成時間だ。
夜の短い間だけでも解放し、朝が来てからの調教を想像させて心に
恐れと絶望を刻ませる時間が必要との事だった。
また、公娼に希望が残されている場合もこの時間で考え込む事にな
る為、希望を持続させる効果がある。
282
マダムは野次馬を解散させ、数名の調教師と共にアミュスとヘミネ
の両手足を鎖で結び、移動を制限する。
﹁それじゃあ、後は坊やに任せるわね、この娘達をしっかりと水洗
いして、檻に戻しておくの。できるわね?﹂
マダムは後ろを振り返って笑う。
マダム自身夜に睡眠をとる必要があるし、同僚の調教師も同じだ。
故に、夜中に公娼の世話をする人間が必要となった。
そこで白羽の矢が立った人物がいる。
聞けば父親を亡くし、幼いながらも健気に働こうとしたが開拓作業
では足手まといになり放り出され、今は何とか夕方に便所掃除をし
て少なすぎる駄賃をもらって生きているという哀れな少年だった。
マダムは慈愛の心で少年に職を与えたのだ。
便所掃除を終え、そのまま公娼達の体の洗浄や夜中の世話をし、朝
になった床に付く。
まだ十一でしかない子供には酷な仕事かもしれないが、本人にやる
気も有ったので、マダムは彼を受け入れた。
﹁ではテビィ。よろしくお願いしますわね﹂
マダムの言葉に、バケツを被り左手に便所ブラシを握った少年が頷
いた。
283
人の下に人を作る人︵前書き︶
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284
人の下に人を作る人
欠けた月が浮かぶ夜に、大人が二人、子供が一人佇んでいる。
大人は諸肌を晒し、右手と左足、左手と右足を短い鎖で結ばれ、立
ち上がれない様に行動を制限されている。
子供は金属製のバケツを頭にかぶり、左手に便所掃除で使用するブ
ラシを握っている。
つい先ほどまではこの三人以外にも数人がこの場に居たが、彼らは
規則正しい生活を送る為、自らの寝床へ帰って行った。
残された三人。
アミュスとヘミネ、そしてテビィ。
この者達には因縁がある。
少年の父親の死という因縁が。
アミュスとヘミネが直接手を下したわけでは無い。
テビィの父親が死んだのは間違いなく護衛の騎士団が放った弩によ
る結果だった。
それでも、少年は思う。
優しい父親が死んだ事。
父親が被せてくれたバケツにより一命を取り留めたが、弩の衝撃で
頭蓋骨ごと陥没し、バケツが抜けなくなった事。
立ち直ろうと仕事を始めると役立たずと罵られ蹴られた事。
ついには誰もやりたがらなかったからと言う理由で彼に宛がわれた
﹃便所掃除﹄という役割。
少年の運命を変えたのは目の前の二人だ。
責任がある。
この二人には、テビィに対する責任がある。
少年の未成熟な心は思うがまま、凶暴に肥大した。
﹁⋮⋮歩け﹂
285
少年は昏い目をして、地面に座り込んでいる二人に命じた。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮歩けません、鎖が邪魔で立ち上がれない﹂
銀髪の魔女はそれに応じず、赤髪の修羅は鎖を振って応じた。
﹁立てないなら四つ足になって犬みたいに歩けよ!﹂
少年の声は夜の闇を裂く。
バケツを被り、手に便所ブラシを握ったテビィの滑稽な姿に、アミ
ュスは笑った。
﹁ねぇ君、勃起してる⋮⋮もうそういう気分になれちゃう歳なんだ
ね﹂
情感の籠った声で囁き、アミュスは少年の股間を見やる。
薄汚れたズボンがパンパンに膨らんでいた。
﹁⋮⋮うるさい、良いから歩けよ⋮⋮オラの仕事だ⋮⋮オラはお前
達の体を洗って、明日の朝まで檻の前で見張りをする。それで、駄
賃をもらうんだ﹂
少年の言葉に、肩をすくめてアミュスが両手足を地面につける。
ヘミネもそれに倣い、二人の公娼が尻を突き出す形で少年の前に並
んだ。
﹁そう⋮⋮じゃ、どこへ行けば良いの? いい加減精液の匂いが染
みつきそうだし、乾いて不愉快だから早く洗い落としたいわ﹂
﹁向こうにタライを用意してある⋮⋮﹂
少年はゴクリと喉を鳴らす。
目の前に並んでいるのは、彼が初めて見る、女性器だ。
周囲に精液の残滓が残り、肌は幾分か赤く腫れている。
少し上に目をやると窄まった肛門が見て取れる。
彼女達が一歩動くごとに肛門の皺が収縮し、形を変える。
意識しての行為ではない、彼の右手が伸びる。
並んでいた尻の右側、ヘミネの陰唇に触れた。
﹁ひゃっ! な、何をするか少年!﹂
赤髪の女が驚きの声を漏らすのを、彼は聞き流す。
286
ぷっくりとした大陰唇を摘み、揉み、こじ開け、露わになった入り
口を撫でる。
彼の指によってクニュクニュと変形するその部位に、たまらない興
奮を覚える。
ズボンの前は、はち切れんばかりに膨らんでいる。
﹁⋮⋮ねぇキミ。お姉さん達とシたいの? 大人達がやってるよう
な事、シてみたいの?﹂
不意に、アミュスが声をかけた。
甘く蕩ける様な、少年の脳や魂までをも﹃支配﹄してしまうかのよ
うな声で。
銀髪の下、切れ長の瞳で流し目を送ってくる。
蠱惑的な唇が蠢き、重力で垂れ下がった大きな乳房が揺れ、こちら
に突き出されている尻が振られる。
誘惑。
少年はその言葉の意味を未だ知らないが。
誘惑されている。
このまま彼女の誘いに乗れば、少年の心は彼のものでは無くなる。
都合の良い、駒となる。
﹃支配と枯渇の魔導士﹄アミュスの手駒となる。
拘束された二人にとって、もしかしたら起死回生につながるかも知
れない、貴重な一手となる。
少年の喉が鳴る。
ゴクリッ︱︱ゴクリッ︱︱。
彼の右手はヘミネの陰唇をまさぐり、穴を見出す。
小さな人差し指が、膣口に添えられる。
彼の知らない空間へ。
大人の領域へ。
﹁良いのよ⋮⋮どうせ今日もさんざん色んな奴らに犯されちゃった
んだし、最後に君一人くらい、シてあげても全然構わないの。ただ、
終わった後キチンと洗ってくれて、そして寝る前にお姉さん達の﹃
287
お願い﹄を一つ聞いてくれるって約束してくれるのなら、ね﹂
アミュスは蠱惑的に微笑み、腰をくねらせる。
少年の瞳に、炎が宿った。
ヘミネの陰部を漁っていた右手を戻し、自らのズボンのベルトを引
き抜き、下着ごと脱いだ。
皮の被った色素の沈着が見られない、幼い肉棒が露わになる。
﹁お、オラのお父は⋮⋮お前達のせいで死んだ⋮⋮死んじまったん
だ﹂
少年の瞳から、涙があふれる。
﹁お前達は好き勝手に暴れて、殺して、捕まって。そんでもって大
人達だけでギャーギャー遊んで、オラは⋮⋮オラはお父を殺されて、
お仕事も放りだされて⋮⋮便所掃除して食ってる﹂
左手に握った便所ブラシがブルブルと震える。
﹁要らないんだ⋮⋮オラなんて、役に立たないタダのガキなんて⋮
⋮。便所掃除の駄賃なんてたかが知れてる⋮⋮毎日芋しか食ってね
ぇ⋮⋮水しか飲んでねぇ⋮⋮どうして、どうしてオラばっかりこん
なに不幸なんだよぉ⋮⋮オラはここで一番不幸なのかよぅ⋮⋮教え
てくれよぉ﹂
少年は肉棒を夜風に晒したまま、さめざめと泣いている。
ヘミネはアミュスを横目で見つめ、その判断に委ねた。
少年を手駒とする為に、この応答は非常に大きな意味を持つ。
アミュスは数瞬考え、答えを見つける。
相手は子供、親を失ったばかりで世間の厳しさに打ちひしがれてい
る状況。
それならば、優しく包み込んでやるフリでもしてあげれば、簡単に
堕ちるだろう。
そう判断した。
﹁可哀そうに⋮⋮辛かったのね。でももう大丈夫、お姉さん達が話
を聞いてあげるし、慰めてあげる。気持ち良い事もたくさんしてあ
げる。だからね︱︱﹂
288
意図して自分達の罪については触れなかった。
年端のいかない少年相手に論理を尽くす必要性を感じなかった事も
一つだが、それだけは拭い様の無い事実だという事も否定できない
からだ。
だがしかし、少年の思考をアミュスは完全に読み違えた。
テビィが欲しかったのは自分に﹃優しくしてくれる存在﹄では無か
ったのだ。
彼が欲したのは、
﹁﹃オラより不幸な人間﹄は居ないのかよぉぉぉぉぉぉぉ﹂
絶叫し、左手に握っていた便所ブラシを突き刺す。
的は、アミュスの膣口。
野外に簡易で設置され、下水の設備など有るはずも無い便所を擦り、
磨き、汚水を吸って汚物を付着させた、清掃道具。
﹁おごぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉ!﹂
ゴワゴワになったブラシの先端が膣に突き刺さり、アミュスはくぐ
もった悲鳴を上げる。
テビィは取っ手を握り、狂ったようにブラシで穿り回す。
﹁な、何をしている!﹂
ヘミネが振り返って、叫んだ瞬間。
﹁うるさいうるさいうるさい! オラより不幸な人間を作るんだ!
お前達を今よりもっと汚くして、人間の中で最低の存在にしてや
るんだ!﹂
テビィが腰を動かし、狙いを定めていたヘミネに膣に肉棒を捻じり
込んだ。
﹁ひうっ!﹂
﹁ああああああああ。凄いぃぃ、ぬるっとしてぇぇ⋮⋮あああああ
あ出るぅぅぅぅぅ﹂
テビィは挿入から一秒に満たない間に果てた。
若すぎる肉棒は刺激に対してあまりに敏感だった。
貯め込まれた精液が放出され、ヘミネの子宮を目指していく。
289
﹁く、ぅぅぅうぅぅ、抜きなさい! 今すぐ抜きなさい!﹂
ヘミネは不意打ちによる失意をすぐに回復させ、少年に強い口調で
言った。
﹁だまれだまれ! お前達みたいな汚い奴らなんかが! オラに向
かって口答えするなぁ!﹂
テビィは左手を休む事無く動かし、便所ブラシでアミュスを犯す。
同時に地面に脱ぎ捨てたズボンのポケットから便所掃除で使用した
雑巾を取り出した。
ヘミネの膣から肉棒を引き抜き、ポッカリと開いたその空間に筒状
に丸めた雑巾を差し込む。
﹁おほぉぉぉぉぉぉぉぉ﹂
二人の公娼は両手足を拘束されている為、抵抗が出来ない。
﹁やめっ! 抜けっ! 抜きなさい!﹂
銀髪の魔導士アミュスの膣に挿さっているのは、便所ブラシ。
小便器の内側を擦り、黄色くこびり付いた小便カスを吸収すると共
に、
大便器からはみ出した誰のものかもわからないクソを拭い、染みつ
けている。
﹁汚い! 汚いぃぃぃ﹂
赤髪の修羅ヘミネの膣に挿さっているのは、雑巾。
便器の周りに跳ねて水溜りになっていた尿を吸いこみ、
吐き捨てられた痰や唾も巻き込んで変色した、汚物の塊のようなも
の。
テビィは左手で便所ブラシを回転させ、右手で雑巾を奥まで押し込
んでいく。
﹁あはははははは! すごい! すごいや! オラよりよっぽど汚
い! 臭い! 気持ち悪い!﹂
アミュスとヘミネは全力で嫌悪感を示すが、その陰部からは絶えず
愛液が滴る。
ゾートやオルソーにより薬物処置を受けている為、通常の人間より
290
も何倍も性的に反応してしまうのだ。
狂笑するテビィによって、二人は犯されていく。
やがて、
アミュスの膣から零れてくる愛液に、乾いた糞のカスが混ざり、
ヘミネの膣から零れてくる愛液に、黄ばんだ汚れが混ざる。
ブラシの角度を変え、タワシ部分に付着した汚れを膣壁で落とす。
雑巾を全て膣内に押し込み、手を差し込んで中で揉みくちゃする。
そう、これは。
掃除だ。
ただの掃除ではない。
﹃便所掃除に使用した掃除道具﹄の掃除。
第一段階で公娼の膣を使って零れた愛液により水洗いする。
第二段階に︱︱
﹁ほら、舐めて。細かい汚れが取れてないから、口で綺麗にして﹂
テビィはアミュスの膣から引き抜いた便所ブラシを、ヘミネの口に
押し込む。
﹁それでこっちは、べちゃべちゃになってるから水分取らないと、
ここを使おう﹂
今度はヘミネの膣から取り出した雑巾をアミュスの髪に絡め、水分
を移していく。
二人の正面に立ち、片手でヘミネの口に便所ブラシを当て、もう一
方の手でアミュスの髪を使い雑巾を乾かす。
公娼達は自分達の扱いに、存在に絶望する。
肉欲によって犯されるのでは無い。
汚物処理の道具を体︱︱性器を使って清めさせられる。
力によって屈服させられるのでは無い。
少年の狭すぎる価値観によって強いられる屈辱。
掃除道具の掃除という役目。
魔導と知略に優れ、万軍を相手にした魔導士であった自分。
誇りある貴族であり、勇敢な戦士であった自分。
291
そんな自分達が今、年端のいかないバケツを被った滑稽な少年の手
によって、尊厳の全てを汚されている。
決定的な瞬間は、この時訪れた。
二人の体が、今まで必死に両手足を踏ん張り四つ足で立っていた体
が落ちる。
尻もちをつき、両足をM字に開き、両手をその前に付く。
舌を出し、目を蕩けさせる。
犬の様に。
少年が二人の前に立ったまま、肉棒を持ち上げる。
少しして、黄色く濁った小便が迸る。
二人はそれを顔で受け、口に入れ、喉に落とす。
放尿が終わり、肉棒が下を向くと、アミュスがおもむろに頭を動か
す。
少年の肉棒を咥えこんだ。
じゅるじゅると残尿を吸いこんで行く。
口をだらしなく開いたままアミュスが頭を引くと、今度はヘミネが
肉棒に口を寄せる。
舌で包皮を剥き、亀頭やカリの裏までを舐めしゃぶりカスをついば
む。
テビィはヘミネの頭が遠ざかって行く瞬間、二人の頭を容赦の無い
力で叩いた。
そして手で示す。
後ろを向けと。
公娼達はノロノロと動き、テビィに尻を差し向ける。
テビィは再び勃起を取り戻した肉棒で、二人の穴を犯していく。
膣も肛門も。
アミュスもヘミネも。
抵抗は無い。
反応が有る。
嬌声が上がり、愛液が溢れ、潮が飛ぶ。
292
肉棒の一突きで腰をくねらせ、乳房を跳ねさせ、阿呆な声で叫ぶ。
二人は堕ちた。
捕らえられてから五日目に、彼女達は早々に自発的な抵抗を諦めて
しまった。
アミュス、
そしてヘミネは、
公娼に戻り、生きる事になった。
それからの事について、特別に記す事は無い。
アミュスとヘミネは開拓団付きの公娼となり、毎日決まった時間に
穴を提供し、娯楽作品の撮影にも抵抗なく応じた。
調教は薬物実験、魔物との交配等多岐にわたって展開され、調教師
の技術の向上につながった。
夜はマダム・オルソーにより義務付けられた日記作成を行い、自由
閲覧となった彼女達の日記帳は開拓民の話題のタネとなった。
夜中は便所掃除人のテビィ少年の手により有意義に使われている。
少年の愛用する掃除道具の掃除を彼女達が行っているとの事だが、
その話を聞いても他の開拓民達は首を傾げ、﹃それに何の意味が?﹄
と尋ねると、少年ははにかんで笑い、﹃秘密﹄と答えるそうだ。
公娼の利用により開拓団の士気は安定、作業も滞りなく進行し、ゼ
オムントとの緩衝地となる砦の完成は当初の予定通りとなりそうだ。
完成を間近に控えた夜にリトリロイはセリスと祝杯を挙げ、笑い合
い、喜び合い、愛し合った。
二人が甘い言葉を囁き合いながら体を重ねる天幕から少し離れた場
所で、
今日もまた二人の公娼は、
﹃掃除道具の掃除﹄を行っている。
293
人の下に人を作る人︵後書き︶
リトリロイ編一旦終了です。
また誰か捕まえたら視点はここに戻って来ます。
294
湯を通して︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
295
湯を通して
﹁し、失礼いたします⋮⋮シャスラハール殿下⋮⋮﹂
そう言って、白く滑らかな肌が少年の眼前を過ぎていく。
膝の裏が、尻が、弓反りになった背中が、短い黒髪の隙間から覗く
うなじが。
﹁は、はい⋮⋮あの、どうぞ⋮⋮﹂
黒肌の少年、シャスラハールは喉を鳴らす。
シャスラハールは数年間、公娼を辱める事を職務とする調教師とし
て活動してきた経験を持つ。
女性の裸については、見慣れていると言っても過言ではない。
調教師としての活動時には、ゼオムント国への復讐という強い意志
が有ったため、常に感情を殺し冷静にそれを観察してきた。
しかし、今彼の周りに居て、彼を支えてくれている八人の女性につ
いては一概にそうとは言えない。
彼女達はシャスラハールの仲間である。
志を同じくする者達である。
誓いの儀式を持った関係の者もいる。
彼女達の前では、調教師時代の感情を殺した姿は消え、シャスラハ
ールは多感な普通の少年に戻ってしまっている。
故に、ふとして目に入る裸に困惑する。
顔が赤らんで行くのを抑えられない。
今彼は湯に浸かっている。
山の斜面から湧き出た天然の温泉だ。
石で縁取りされた窪みに溜まり、人が三人程同時に浸かれる程度の
広さが有った。
西域の最奥を目指して進んでいる道中、偶然発見した。
セナをはじめとする公娼達はマルウスの里で装備の新調を行い、そ
296
の際、全裸での活動で汚れの染みついた体を洗う事は出来たが、癒
す事までは及ばなかった。
彼女達がこの温泉に喜んだ事は言うまでもないだろう。
我先にと、温泉に向かい、体を浸して疲れと汚れを取り除きたいと
願ったところで、一行の実質的リーダーであるヴェナが口を開いた。
﹃騎士ともあろう者が、仕える主君に汚れた湯を使わせる気ですか
?﹄と。
その一言で意気揚々と服を脱ぎ捨てていたセナとフレアが固まり、
同僚二人の衣服を回収していたシャロンが頷き、直属の上司である
ステアがため息を零した。
魔導士であるユキリスもその意を汲み、自らは王族であるシャスラ
ハールやハイネアの後で良いと順番を譲った。
ハイネアは幼い体でここまでの行軍に懸命に付いて来た事で疲労の
限界を迎え、温泉は目覚めてから入る事にすると言って眠りについ
た。
そして、ハイネアの侍女であるリセにヴェナから声がかかる。
﹃リセ殿に王子の湯浴みの世話をお願いします。何分残りの者は騎
士や魔導士で、そう言った所不慣れでございます。ハイネア王女の
侍女である貴女ならば、湯浴みの世話の経験もおありでしょう。そ
の間のハイネア王女の身辺の警護につきましては、わたくし共で行
っておきますので、お願いできますか?﹄
リセはその﹃お願い﹄を受けた。
その理由として、自分が一行の中で異質な存在である、という引け
目が有った。
セナにしろヴェナにしろユキリスにしろハイネアにしろ、彼女達は
シャスラハールを盛り立てる事によりゼオムントを打倒し、祖国の
奪回を目指している。
しかし、リセは違う。
リセはただハイネアの為に、彼女を守る為に辱めを受け、死地に赴
いている。
297
一人だけ、忠誠と目的の向きが異なっているのだ。
しかし誰も、その事には触れようとはしない。
リセにシャスラハールへの忠誠を誓わせようとはしないのだ。
故に、皆より幾分シャスラハールを遠く感じていた。
ヴェナの﹃お願い﹄はリセにとって良い機会に思えた。
自分はハイネア王女の臣下である。
その意識と責務はそのままに、どのようにして今回の旅の主役、シ
ャスラハールと接して行くべきか、それを掴む好機だとリセは判断
した。
だから今、彼女はシャスラハールに肌を晒し、同じ湯に浸かってい
る。
一番湯は彼に譲り、彼が存分に湯に沈みきった後、声をかけてもら
い、一思いに新調した丈の短い従者服を脱ぎ捨てて、湯へ向かった。
湯に浸かる段になって恥ずかしさがこみ上げ、背を向けたまま静々
と湯へ体を沈めた事は、失礼にあたらなかっただろうか、と今更な
がらに身悶えする。
﹁いい⋮⋮お湯⋮⋮ですね﹂
無言はまずいと判断し、リセは背後のシャスラハールに声をかける。
﹁え、ええ。と、とってもいいお湯で⋮⋮僕が一番で本当に良かっ
たのかなって⋮⋮はは﹂
シャスラハールもリセに負けず劣らず緊張した様子で、慌ただしく
言葉を紡いだ。
二人はそのまま、実に百秒ほど、固まって時を過ごした。
リセは深呼吸をし、空気を力強く肺に入れた。
自分の役目を思い出す。
湯浴みの世話。
彼の体を清め、ほぐす為に自分は今ここに居る。
それなのに無言で混浴しているだけでは、まったくもって役に立っ
ていない。
これでは自らのみならず、主人であるハイネア様の不名誉にも成り
298
かねない。
ガバッ︱︱
リセは勢いをつけて、湯船の中で体を回転させる。
上気し、赤らんだ顔のシャスラハールと視線を合わせる。
リセの顔も負けず劣らずの赤みがさしていた事は、言うまでもない。
﹁御身体を、洗わせて頂きます﹂
リセの真剣な声に、シャスラハールが押されるようにコクコクと頷
く。
﹁そちらに腰掛けて頂けますか?﹂
温泉の縁、連なった石にシャスラハールが腰掛ける。
湯の中にいるリセの視線の高さに、彼の股間が来る。
硬く大きくなっている彼の陰茎が、そこには有った。
﹁あ、いや⋮⋮こ、これは!﹂
シャスラハールが慌てて両手で股間を覆う。
リセは顔を真っ赤にして、下を向く。
﹁⋮⋮だ、大丈夫です。も、問題ありません﹂
かつて日課としていたハイネアの湯浴みの世話では、もちろん見る
事の無かった光景だ。
今度は勝手が違う。
それでもやるべき事は一緒なのだ、とリセは心を決め、湯の中に膝
立ちになる。
形の良い乳房が露わになり、山の空気が撫でる。
シャスラハールの視線も一度そこに留まり、急旋回して余所を向い
た。
リセは傍に置いていた手拭いを掴み、一度湯に浸けてから搾る。
そして彼の左手を取り、手拭いを添える。
ゆっくりと揉み込むようにして、彼の黒絹の肌を洗う。
手指に力を込め、彼の体をほぐしていく。
左手が終われば、通常なら右手に移動するが、シャスラハールのそ
こは王宮の監視魔術を断ち切るために犠牲としている為、肘と肩の
299
中間で途切れている。
リセは塞がった傷口を柔らかく撫でる様にして、右手であった部分
を洗う。
この傷はハイネアや他の仲間達、もちろん自分も含める事になるが、
皆の為に出来た傷なのだと思うと、不思議と柔らかな気持ちになっ
た。
リセは顔を上げ、シャスラハールの目を見る。
肌を撫でられる気持ち良さで少々緩んでいた彼の瞳が、慌てた様に
左右に動く様を見て、ゆっくりと微笑んだ。
﹁⋮⋮気持ち良いですか? 殿下﹂
リセは手拭いを肩に置き、滑るようにして上半身を磨いていく。
﹁⋮⋮はい﹂
恥ずかしそうに、シャスラハールが笑った。
年相応だと、彼の笑顔を見て感じた。
直接聞いたわけでは無いが、シャスラハールの年齢については以前、
セナとのやり取りで聞き及んでいる。
十八歳。
それはリセが生きてきた年数と同じ。
少年と少女は、同年齢だった。
身分は違い、境遇もまったく違う人間ではあるけれども、生きてき
た時間は他の誰よりも近い。
ほんの僅かな共通点なのかも知れないが、リセには今、とても不思
議な縁に思えた。
あどけなさと精悍さを併せ持った彼の笑顔。
リセも笑い、彼の脇腹や鳩尾を手拭いで擦る。
そしてふと、目につく。
先ほどよりも俄然、力強く空に向けてそそり立っている彼の陰茎。
中腰になって彼の体に寄り添っている自分の腹部に時々当たっては
押し返してくる、少年の男の部分。
﹁えっと⋮⋮殿下、ご希望でしたら⋮⋮その⋮⋮﹂
300
リセは頬を染め、シャスラハールを見やる。
彼はその言葉の意味を汲み、顔を真っ赤にして、そっと頷いた。
手拭いを縁に置き、リセは両手を自由にする。
まずは左手を動かし、陰茎の根元、陰嚢ごと柔らかく包み込む。
そして陰茎に右手を添え、一本一本指をゆっくりと絡めていく。
左手を揺らし、指で揉みしだく。
右手を動かし、上下に擦る。
丹念に、丁寧に。
赤子を抱く母親の様な優しさを込めて。
リセにも公娼としての経験と記憶が有り、その中で手淫についても
数限りないほどに強要されてきた。
その時は必死に手を動かし、早く地獄が過ぎ去るのを願い続けてい
た。
しかしこれは、かつての様な肉欲に強制された動きではない。
奉仕。
従者が主人に行う、献身の姿。
リセがシャスラハールと結ぶ、親愛の形。
柔らかな指が陰嚢を揉み、しなやかな掌が陰茎を擦る。
リセはいつしかシャスラハールを見上げていた。
シャスラハールもまた、リセを見下ろす。
二人の口元が綻んだ。
笑う。
楽しそうに。
幸せそうに。
リセはこの時初めて、少年を理解した。
無言のまま、理解した。
これまでずっとハイネアの影に隠れ、彼女の意志にのみ従ってきた。
ハイネアがシャスラハールを信頼したから、自分も信頼する。
そんな形でここまでついて来た。
けれど、ここから先は違う。
301
リセはようやく少年を見つけた。
自分の主の悲願を託し、また自分の事を仲間として受け入れてくれ
る、もう一人の主として。
シャスラハールの腰が浅く浮いた。
表情にも心なしか余裕がなくなってくる。
﹁で、出そう⋮⋮です﹂
﹁はい⋮⋮。殿下﹂
リセは両手の動きを止めないまま、顔を下げる。
温泉はこの後、他の皆が使うはずだ。
いくらシャスラハールの精だといっても、湯に混ぜるのは憚られる。
口に咥えた。
直立する肉棒の先端を咥え、飛び出してくる精液を全て口腔で受け
止めるつもりだ。
﹁リ、リセさん⋮⋮?﹂
﹁いいへすから⋮⋮ろうぞ、れんか﹂
言葉にならない声をだし、舌で鈴口をチョイと突く。
﹁あ、うあっ! 出る!﹂
ピュルルッ︱︱
迸る精液を、リセは舌で受け、歯で感じ、喉に落とし込む。
右手と左手は休めない。
際限なく飛び出してくる彼の精を、根こそぎ啜るかのように、彼女
は深く肉棒を咥える。
射精の勢いが弱くなると、陰嚢を揉み、陰茎を擦り、鈴口を突き、
肉傘の裏を歯で削った。
﹁ああっ!﹂
ピュルッ︱︱
再び溢れ出る、彼の精。
リセはそれを、一滴も零す事無く飲みきった。
しばらく、両者の荒い呼吸が辺りを支配する。
頬は上気し、肩は呼吸に合わせて上下する。
302
チラリ、と探るようにお互いの視線が噛み合い、すぐに逸らして忍
び笑いする。
リセは笑い、シャスラハールも笑った。
友達の様に、笑った。
同じ時間を別々に生きてきた人間である二人が今、理解しあった。
けれど、リセは思う。
それでも彼は王族で、自分はしがない庶民である事に代わりは無い。
彼は彼の宿命を果たし、自分は自分の役割を果たす。
だから、例え心の奥で通じ合えたとしても、言葉の上、表面の関係
は何も変えるべきではない。
よって、
﹁殿下、次はお背中をお流しします。後ろを向いて頂けますか?﹂
言葉遣いも態度も変えない。
けれどその奥に少しだけ、優しさと愛を込める事にする。
リセは笑い、シャスラハールも笑った。
背中を洗い、足を洗い、髪を洗い。
シャスラハールは全身をリセによって磨かれた。
今は二人、言葉も無く並んで湯船に浸かっている。
最初に感じた気恥しさは消え失せ、緩やかな空気が二人を包んでい
る。
﹁そろそろ出ないと⋮⋮湯あたりしそうですね﹂
シャスラハールが少し残念そうに、呟いた。
﹁そうですね⋮⋮皆さんも早くお湯に入りたいでしょうし⋮⋮﹂
リセもまた、歯切れの悪い声で応じた。
ハイネアがシャスラハールにやけに懐いているのを、リセは不思議
に思った事が有る。
しかし今、実感する。
この少年の隣に居ると、心が落ち着くのだ。
303
その時間が刻一刻と、終わりに向かっている。
分不相応であるが、彼の時間をまた、自分が手に入れたい。
この幸せな気分を、またいつか︱︱
カサッ︱︱
人ならざるモノの気配と共に、草木が揺れる音。
リセは即座に思考を切り替え、湯船から飛び上がった。
縁にかけていた手拭いを掴み、空中で腰に巻き、着地と同時に脱ぎ
捨てていた従者服から二本の短刀を取り出す。
乳房に湯の残滓がこびり付き、乳首の頂きに上り、水滴となって落
下する。
恥じらいを僅かに感じながらも、リセは意識を集中する。
目の前に現れた、猩々型の魔物。
大型のサルの様な姿をしているが、とにかく頭が大きい。
三頭身の猩々。
瞳は爛々と輝き、口の端は急角度に持ち上がっている。
リセは一刀を振りぬき、猩々へと投擲する。
短刀は眉間に深く刺さり、致命的な傷を与えた。
人間の常識では、そうだった。
猩々は笑っている。
笑ったまま、リセとシャスラハールを見つめている。
304
大自然の力︵前書き︶
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305
大自然の力
清浄な空気が滞留する低山の中腹。
そこに湧き出た天然の温泉を舞台に、二人の人間と一匹の獣が邂逅
する。
人間は裸の男女で、獣は猿に良く似た三頭身の猩々。
﹃キォォォォォォォイヤァァァ﹄
猩々が両手を上げ、祈る仕草を取る。
両足で飛び跳ね、体と頭を激しく揺らす。
リセは油断なく短刀を構え、警戒する。
シャスラハールも温泉から出て、自身の愛刀を抜き出す。
﹃シャオオオオオ、ハラオォォォォォ﹄
猩々は狂ったように踊り、転げまわる。
バタバタとのたうち、キィキィと鳴き喚く。
しかしそれだけ、牙を剥いて人間に襲いかかっては来なかった。
﹁殿下、如何致しましょう⋮⋮?﹂
リセが膠着する事態に困惑し、シャスラハールに問いかける。
﹁襲い掛かって来ないのなら、このまま警戒しつつ後退してヴェナ
達と合流しましょうか⋮⋮﹂
シャスラハールも拍子抜けした感が抜けきらないまま、一歩後退す
る。
その時、
﹃ヒュアアアアアアアマナァ﹄
猩々の掲げた両手の間から、目も眩む閃光が迸った。
光は一直線にシャスラハールへと向かう。
﹁殿下!﹂
リセが体を割って入れようとするも、所詮は人間の動き、光の速さ
には敵わなかった。
306
﹁あぐっ﹂
光に撃たれたシャスラハール。
痛みは無い。
熱も無い。
ただひたすらに輝く閃光。
やがて、彼が視界を取り戻した時、猩々の姿はどこにも見当たらな
かった。
﹁リセさん、アイツは⋮⋮?﹂
﹁わかりません⋮⋮私も、光の影響で目が見えなくて⋮⋮申し訳ご
ざいません、取り逃がしてしまいました﹂
リセは項垂れ、短刀を仕舞う。
裸の乳と、申し訳程度に手拭いで覆われた白い尻が、シャスラハー
ルの目に飛び込む。
ドクンッ︱︱
一瞬の出来事だった。
シャスラハールの陰茎が、勃起した。
急角度。
真上、天を突く勢い。
リセの肌を認識した瞬間に、かつてない強度をもって肉棒がそそり
立った。
﹁あ、いや⋮⋮あの⋮⋮﹂
誤魔化すように手で陰茎を隠そうとするも、彼のソレは手では覆い
隠せなかった。
明らかに通常の勃起時よりも肥大している。
太く、逞しく、長く、雄々しく。
尋常ではない大きさに、成長していた。
﹁で、殿下⋮⋮一体、何が⋮⋮﹂
最初は勃起した陰茎に目を逸らしていたリセも、異変に気づいて声
を上げる。
シャスラハールは呆然としたまま、呟く。
307
﹁わからない⋮⋮、ただ、もの凄く⋮⋮今、精力に溢れてるのを感
じる⋮⋮射精したくて、射精したくて⋮⋮どうしようもない気分⋮
⋮に﹂
シャスラハールの肉棒は、子供の腕程までに成長していた。
﹁王子! 奇声が聞こえましたが、何かございましたか?﹂
宿営地作りをしていたヴェナ達が、異変を聞きつけ駆けつけてきた。
﹁それは﹃マシラス﹄⋮⋮、﹃山﹄の魔物マシラスで、間違いない
と思うわ﹂
シャスラハールとリセの話を聞いて、魔物について深い知識を持つ
ユキリスが魔導士としての考えを述べた。
﹁﹃山﹄の? ﹃猿﹄のじゃなくて?﹂
セナが首を傾げながら問う。
﹁そう、﹃山﹄の魔物。大体の魔物は基礎となる獣が力と知能を付
けた結果生じる、規格外の生物って言うのが通常なんだけど。この
マシラスは違うの、コイツは⋮⋮﹃山﹄が知能を持った時に生まれ
る魔物。一つの山に一体だけしか存在できないから、他の魔物のよ
うに群れる事も無い、けれど、厄介さで言うならば他と比べようも
ないわ﹂
ユキリスは眉間に皺を寄せ、苦しげに言葉を紡ぐ。
﹁まず間違いなく、武力ではコイツには勝てないのよ。それこそ山
を砕くぐらいの力が無いとね﹂
その言葉に、大戦斧の使い手フレアが首を振った。
﹁何を無茶な⋮⋮﹂
﹁そう、無茶。実力でマシラスを破る事は出来ない。だから魔導士
の間ではマシラスと山で遭遇した時は視線も合わせず、即逃げ出す
事になっているわ﹂
ユキリスはフレアに頷き、言葉をつなげる。
﹁マシラスは実体が有るようで無いの。山の作った幻想とも言える
308
し、肉体を持った猩々とも言える。倒すには山ごと形無きものにし
なきゃいけない。そして、コイツらの目的なんだけれど﹂
﹁目的⋮⋮ですか﹂
折り目正しく正座しているシャロンが口を開く。
その視線が時折、少し離れた所に座っているシャスラハールを見る。
﹁山の静寂を乱すものを追い出し、山を汚すもの罰する。その為に
存在している、山の代弁者と言った所かしらね。今回は恐らく、温
泉を勝手に利用して﹃汚した﹄事について怒ったんだと思うわ﹂
ユキリスはシュンとした表情で俯いているリセの方に一度視線を送
る。
リセが悪いわけでは無い。
どのみち遅かれ早かれ誰かがあそこを利用したのは間違いない事で、
リセについてはヴェナから受けた指示に従ったまでである。
﹁⋮⋮魔導士殿、そろそろお教え頂きたいのですが。今現在王子に
起こっているあの現象は⋮⋮一体何なのでしょうか?﹂
ヴェナが端正な顔の端をピクピクさせながら、ユキリスに問う。
魔導士は、答えた。
﹁山は⋮⋮精気を与える霊地の象徴でもあるの。ほら、平な地面が
有って、そこから山が隆起してるじゃない? それと⋮⋮同じ⋮⋮﹂
ユキリスは、シャスラハールの姿を見やる。
ズボンを履かず、丸太に腰掛けた少年を。
否、ズボンが履けないのだ。
余りにも肥大した、陰茎によって。
今は手拭いで下腹部を覆い隠しているが、見事な隆起が存在を誇示
している。
﹁マシラスにはさしたる攻撃手段が無いのも事実。獣としての特性
は余り無いからね⋮⋮。出来ても山の斜面を崩落させたり、毒草を
生やしたり、道に迷わせたり程度の小狡い技よ。その中の一つ、わ
たし達には効果が無いけれど、シャスラハール殿下、いえ、男にだ
け効果がでる呪いがあるの。﹃山の精気を人の体に直接注ぎ込む﹄。
309
そうする事によって肉体の限界を迎えさせ、破裂させてしまうのよ﹂
セナが青ざめた顔で、問う
﹁精気の破裂って⋮⋮?﹂
﹁精気は⋮⋮そうね、人間に言いかえると、生命力とか⋮⋮精力⋮
⋮になるんじゃないかしらね。だから今、王子はこの山そのものか
ら精力を注がれて、いずれ陰嚢から脳から、破裂させられてしまう
のよ⋮⋮﹂
ユキリスのその言葉に、動揺が広がる。
﹁何か手立ては無いのか? 例えばこの山を離れるとか?﹂
ステアの疑問に、ユキリスは首を振る。
﹁それは無理よ、いえ、無駄と言うべきね。王宮の刻印魔術と同じ、
もう王子の肉体にはこの山の呪いが刻まれてしまっているもの。解
決方法が有るとすると、二つね﹂
ユキリスは指を二本立てる。
皆、喉を鳴らし、その声を待つ。
﹁一つはマシラスを探しだし、許してもらって呪いを解除させる。
知能と発声器官のある魔物だから、意思が通じるのは間違いないの
だけれど、コイツを納得させる方法はわたしにはちょっと思いつか
ないわ﹂
そう言って、魔導士は指を一つ閉じた。
﹁それで、もう一つは何?﹂
額に浮かんだ汗を拭いながら、セナはすがる思いでユキリスに尋ね
る。
﹁山の精気が尽きるまで、王子の肉体から精を放出させ続ける。こ
こに居る全員がかつて不本意ながらやっていた公娼の技で、王子を
射精させ続けるの、山からの供給よりも放出が早ければ、それだけ
王子は楽になるわ﹂
全員の視線がシャスラハールへと集まる。
彼は上気した顔でぼんやりと丸太に座り、時折無意識に股間へと延
びる左手を懸命に抑えている所だった。
310
射精への渇望。
先ほど皆に事情を話ている時から、堪え切れぬ欲望と戦っていた。
﹁⋮⋮山の精気が尽きるとは、具体的にどれくらいの量や時間を要
するのですか?﹂
シャロンが挙手し、魔導士に問う。
﹁わからない⋮⋮。案外早く済むかも知れないし、もしかしたらこ
の山の木々や草、野生動物が死に絶えるまで続くのかも知れない﹂
ユキリスは息を吐く。
周囲に重たい空気が流れだす。
その時、シャスラハールの守護者である聖騎士ヴェナが立ち上がっ
た。
﹁ここで益体の無い会議をしていても、その間にも王子の体には山
の精気とやらが入り込んでくるのでしょう? ならば、動くべきで
す。わたくしが考えるに、先ほど魔導士殿が述べられた後者の策で
は確実にお救い出来るとは言い難く、前者の策であれば、こちらの
努力如何で結果が伴うものと思われます﹂
ヴェナは強い意志の籠った瞳で、辺りを見渡す。
﹁班を二つに分けます。一つ目の班はマシラスとやらを探し、王子
に掛けられた呪いの除去を。もう一班はその間、全力で王子の体か
ら精気を抜き出してください﹂
折衷案という事になるだろうか。
マシラスを見つけ出して呪いを解く。
途中でシャスラハールに限界が来ない様に、残していく人間で彼を
射精させる。
ヴェナの方針に、皆が頷いた。
﹁マシラス追跡班の方ですが、わたくしと魔導士殿、そして弁の立
つ騎士シャロンと鼻の利く騎士フレアで参りましょう﹂
ヴェナの言葉に、ユキリス、シャロン、フレアが頷いた。
﹁この場の事は騎士長ステアにお任せしますわ。どうか、王子の事
をよろしくお願いいたします﹂
311
聖騎士の言葉に、ステアが頷きを返す。
それからすぐに、一秒も無駄には出来ないとヴェナ達四人は装備を
整え、駆け出して行った。
苦しげに息を吐くシャスラハールを中心に、四人の公娼が固まった。
ステア、セナ、ハイネア、そしてリセ。
先ほどまで眠っていたハイネアも事態の深刻さを知り、今は疲れを
忘れた表情をしている。
シャスラハールの股間は激しく天を向き、覆い隠す手拭いを突き上
げていた。
﹁良いか? これからこの四人でシャスラハール殿下を連続して射
精させなければいけない。ヴェナ様達がマシラスを見つけ出して呪
いを解くまでの間、休まずに精気を放出させるんだ。人間一人の小
さな体でこの広い山の精気をいつまでも受け容れきれるわけが無い。
一瞬たりとも油断は出来ない。こちらもこちらで大変な役割になる。
皆、全力を尽くそう﹂
ステアが意気込み、セナとハイネアが頷く。
そして、リセが手を挙げた。
﹁あの⋮⋮宜しければ、一番手は私に務めさせてください。王子の
すぐそばに居ながらお守りできなかったのは私の失態です。どうか、
償う機会を﹂
黒髪の侍女は涙をたたえ、懇願した。
見守る三人が、それぞれの動作でその願いを了承した。
﹁良いわ、いつでも交代するから、無理しないでね﹂
﹁何も一人で遣りきるものでもなかろう。いつでも妾を呼ぶがよい﹂
﹁この辺りに野生の獣や魔物が出ないとも限らない、手の空いた者
は周囲の警戒だ。リセ、交代の時は呼んでくれ﹂
セナ、ハイネア、ステアの順に言って、この場を離れていく。
彼女達は最早制度としての公娼ではないのだ。
性交する姿を、わざわざ人に見せる必要は無い。
それゆえの、配慮。
312
リセはシャスラハールの膝元に体を置き、お辞儀をする。
﹁それでは⋮⋮殿下、お相手を⋮⋮務めさせていただきます﹂
それまではどこか放心した様子だったシャスラハールの視線が、リ
セに定まる。
覚悟を抱いた表情に、少し開いた胸元に、露出した太ももに。
これまで懸命に堪えてきた彼の理性の堤防が、決壊した。
王子は獣の様に、少女へと飛び掛かる。
﹁何度でも、何発でも、私が抜いて差し上げます⋮⋮! 王子!﹂
少女は悲壮な覚悟で、それを迎え撃った。
313
紳士淑女︵前書き︶
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314
紳士淑女
リセは背中が硬い地面に衝突するのを感じた。
痛みがある。
しかし肉体の痛みよりも、心の痛みの方がずっと強い。
シャスラハールと絆とも言える心の繋がりを結んだ直後、彼を襲撃
から守る事が出来なかった。
申し訳無さも、不甲斐無さも。
今ここで、理性を失い暴走し、自分に馬乗りになっている少年を鎮
める事で償いとしよう。
少女は強い瞳で少年を見つめる。
邪魔になる衣服を破ろうとする腕を掴まえ、噛み裂こうとする口に
こちらから唇で迎え撃つ。
﹁殿下、服を破いてはなりません。すぐに脱ぎますので、今しばら
く辛抱して下さいませ﹂
リセはシャスラハールの左手を自分の右手で抑え込み、唇同士を合
わせたまま、諭すように言った。
言葉の通り、空いた左手で従者服を脱ぎ捨てていく。
シャスラハールはリセの唇を吸い、舌で口腔を蹂躙しながら、瞳孔
の開いた目でリセの脱衣を見つめる。
興奮が、増大していく。
シャスラハールの左手が強い力でリセの拘束を解こうともがく。
それに対抗するように、リセも渾身の力でねじ伏せる。
男女の差はあれど、この二人には元からの戦闘力の違いがある。
シャスラハールがこの数年血のにじむ思いで鍛えた肉体をもってし
ても、護衛として生まれ、存在し続けたリセの力には及ばなかった。
王子は血走った眼でリセを見つめ、舌を突き入れ、腕に力を込める。
侍女は柔らかな笑みを浮かべ、舌を受け入れ、腕を掴まえる。
315
その間にも、リセの左手はボタンを外し、紐を解き、一枚一枚剥く
様にして丁寧にその身をあらわにしていく。
白い肌が、程よく張った双乳が、淡く陰毛の生えた股間が、露出す
る。
リセが己の手により一糸まとわぬ姿になった時、彼女は左手に込め
ていた力を抜いた。
黒肌の隻腕が閃く様にして動き、リセの右乳房を握る。
同時に涎の糸を引きながら唇同士の交合を外し、左乳房を舐めしゃ
ぶる。
万力の様な力で揉み、獣の食事の様に吸う。
﹁殿下⋮⋮殿下っ! お好きなだけ、私の体をお使いください。そ
うしてまた、普段の殿下に、戻って⋮⋮﹂
リセは涙を流しながら、シャスラハールの頭を両手でかき抱く。
そこにあるのは、悲痛な思いだった。
温泉の中でリセはシャスラハールとの間に絆を感じた。
同年齢であり、お互いに悲惨な境遇を背負っているという事も、そ
こにはあった。
彼を支え、ハイネアとは別のもう一人の主人として尽くす事を、リ
セはその時に胸に誓った。
しかしその日の内、一刻も経っていない内に、彼女の肉体は彼に捧
げられた。
心の伴わない、獣の性行。
いずれシャスラハールとそのような行為に及ぶであろうことはリセ
も理解していたし、また心の一部で望んでいたかもしれない。
けれど、このように︱︱無理矢理にその瞬間を迎えたくはなかった。
未だ恋をしたわけではない。
ただ彼に、惹かれた。
運命ではなく自分の意志で、新たな主を作った。
三年間公娼として植えつけられてきた地獄の記憶を忘れられるよう
な、甘やかな気持ちだった。
316
彼女はこの場に身を横たえる。
彼女が守れなかった主人への償いとして。
もう抱く事は無いだろうと諦めていた、甘い気持ちを嘘にしない為
に。
その時、リセの腕の中で黒髪が揺れる。
シャスラハールが、顔を持ち上げた。
人間では抱え切れないほどの精気を注がれ、理性を放棄し性欲に支
配された獣と化して、左手は乳房に、彼の両膝はリセの股を割り開
いて股間の怒張を陰部に擦り付けながらも、彼はリセの目を見つめ
た。
視線が交錯する。
リセは呆然と彼を見返した。
胸を掴む左手も、陰部に押し付けられた肉棒も、最後の一歩を踏み
出さない。
シャスラハールは獣の欲望に支配された心に、最後の一欠けら、優
しさを残していた。
リセの心からの同意がなければ、自分は一線を越えないと。
彼はもう調教師ではない。
心の繋がらない性行為を行う必要がない。
故に、どれだけ苦しかろうと、どれだけ心が呑まれようと、リセが
義務や責務として彼を迎えるのであれば、必死に抗う。
それが、少年が本来持って生まれた、正しい心だった。
シャスラハールとリセは瞳で通じ合った。
今彼の体は小刻みに震えている。
心と体が激しく争っているのだ。
この健気な少女への、思いに。
今彼女の心は大きく震えている。
甘い気持ちが、止めどなく溢れてきたのだ。
この優しい少年の、思いから。
リセは顎を引いて頷いた。
317
﹁良いよ⋮⋮来て﹂
リセはこの時、生まれて初めて両親以外に向けて、甘えた声を出し
た。
それから一刻が経つ。
リセの体は湯気が立つほどに上気していた。
隅々までを精液で浸し、膣から直腸から、絶え間なく白濁が溢れだ
してくる。
髪も、胸も、両の掌も、粘性に富んだ液体が全てを包んでいる。
﹁はひっ⋮⋮ひぃあ⋮⋮はひっ⋮⋮はひっ、うぉえ﹂
荒い呼吸を吐き出す喉にも、大量の精液がこびり付き、空気の流れ
を阻害している。
一方でシャスラハール。
股間の剛直は一向に弱まる事を知らず、むしろリセの肉体に触れる
度に強度と大きさを増し、精液も底なしに充填される。
唇を噛みしめ、苦しげに眉根を寄せながら、シャスラハールの瞳は
リセを捉える。
目の前でドロドロに犯されている少女に、頭を地面に打ち付けて謝
りたい。
彼の心は絶叫する。
しかし体が言う事を聞かない。
リセの白い肌が艶めかしく動く様、その膣から自分の子種が溢れ返
ってきている様が、堪らなく彼の獣性を刺激し、陰茎を暴れさせる。
今もまた、左手でリセの尻を鷲掴みにして、剛直へと近づけていく。
まだ出し足りない。
精液は、いくらでも補充される。
﹃満足する﹄などという事は無いかもしれない。
それでも自分はこの少女を果てなく汚し、苦しめるのかと、自責の
炎が湧き上がる。
318
尻を鷲掴みにされ、リセが反応しこちらを向く。
顔にこびり付いた精液を滴らせながら、彼女の頬がゆっくりと動き、
微笑んだ。
﹃私は大丈夫﹄そう言っているように感じられた。
シャスラハールは嗚咽した。
涙を流し、泣き叫んだ。
それでも体は止まらない。
肉棒はリセの膣を求め、激しく膨れ上がる。
左手は尻を掴み、華奢な体を強引に引き寄せる。
その時、まさにリセとシャスラハールが結合しようとした瞬間、
﹁なぁに泣いてんのよ、アンタ。馬っ鹿みたい。童貞の卒業風景っ
てわけじゃないんだから、もうちょっと雰囲気のある表情しなさい
よね﹂
不意に現れたセナが両者の間に割り込んできた。
シャスラハールの手をリセの尻から引きはがし、あきれた様な表情
をしている。
﹁おぉよしよし、リセよ、よく頑張ったな。こんなになるまで一人
で山の精気とやらと闘っておったのだろう? 流石、妾の誇りよ。
しばし休むが良い。後の事は妾とセナで片づけてくれよう﹂
精液まみれのリセの頭を、ハイネアが抱きしめた。
マルウスにあつらえさせた自分用のドレスが汚れるのも気にせず、
大切な従者を抱きしめた。
﹁そんなわけだから、さっき向こうでハイネア王女と話し合ってき
た結果。次はアタシ達二人でアンタの相手をしてあげる。光栄に思
いなさいよね﹂
セナが勝気に笑って、シャスラハールの胸を突く。
﹁まぁ妾はあまり体力に自信がないからのう、一人でお主の相手を
してもすぐにバテてしまいそうなのでな、恥ずかしくは有るが、こ
こはセナと協力してお主の精気とやらをカラカラにしてやろう﹂
ハイネアはリセを優しく地面に横たえてから、朗らかに言った。
319
シャスラハールは涙を流したまま、頭を大きく下げて一礼をした。
そして、そのまま目の前にいたセナに向けて、抱きつくようにして
飛び掛かっていった。
320
ランコウする愛︵前書き︶
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321
ランコウする愛
﹁アンタねぇ⋮⋮いつまで⋮⋮くっ、出してるのよ⋮⋮﹂
セナは自分の子宮口が押し広げられ、直接子宮に精液が満ちていく
のを感じながら、体を震わせた。
すでに八回。
シャスラハールがセナに向けて精を放った回数だ。
その半数を膣内で受け止めている。
マシラスの力によって山の精気を止めど無く注がれ続けているシャ
スラハールからは、一発ごとに驚異的な量の精液が放出される。
襞の一枚一枚に至るまで、彼の子種に浸食され、それでも受け入れ
きれない分は、大地に零れていった。
﹁ごめんなさい⋮⋮ごめんなさい﹂
シャスラハールの肉棒の猛りは、一向に収まる気配を見せない。
今なおセナの子宮口をこじ開け続けている彼の肉棒は、射精直後と
は思えないほどに硬く、逞しかった。
今二人は騎乗位で繋がっている。
シャスラハールが大地に寝そべり、セナがその上に跨る。
先ほどまでセナと共同戦線を張っていたハイネアは、三度の膣内と
二度の肛内、計五回の射精を受け力尽き、今はシャスラハールの隣
に倒れ伏している。
理性のほとんどを奪われ、欲望を強制されるシャスラハールは、限
界を迎え倒れているハイネアの膣口を空いた手で弄り続けている。
哀れな幼い王女は刺激が届く度に小さく跳ね、甘い声を強制されて
いる。
﹁いい加減に⋮⋮そろそろ弾切れしてもらわないと⋮⋮アタシも限
界かもしれないわ⋮⋮﹂
そう言いながら、セナは献身的に腰を動かす。
322
上下に、左右に。
跳ね、回す。
派手に水音を立てながら、結合する。
全ては騎士として、自分が仕える王の為に。
剣や槍だけではない。
自分の持てる技全てで王を助けるのだ。
今回はそれが、
彼女の膣であったという、ただそれだけなのだ。
剣を握る気合いを、槍を振るう気迫を、己の膣に込める。
凶悪に肥大した王の肉棒を締め付け、こね、吸い取る。
その事に精神を集中し、命を懸ける。
セナは両足を踏ん張り、両手を使って体の上下運動を助ける。
グチュ︱︱ニチュ︱︱
肉が擦れ、液体がぶつかり、空気が割れる。
﹁んっ⋮⋮くはぅ⋮⋮ね、ねぇ⋮⋮どう? 出る? そろそろ⋮⋮
次、でるんじゃないの?﹂
﹁あ、あああくあ⋮⋮セナさん⋮⋮セナさん⋮⋮、出ます⋮⋮出ま
す!﹂
ビュクルッ︱︱
﹁ああぁっ! 膣中にぃ! それも子宮の奥の方まで、直接ぅぅぅ
ぅ﹂
もはや彼女の膣内に、余分な空間などは無い。
シャスラハールの肉棒。
シャスラハールの精液。
そこに存在し、圧迫しているのはその二つだけだった。
子宮を直接撃ち抜くかのような怒涛の射精に、セナの体は大きく跳
ね上がる。
常人であれば恐らく、白目を剥き昏倒してしまうほどに、容赦のな
い衝撃。
セナは歯を食いしばって耐える。
323
ハイネアが倒れ、リセも動けない現状で、自分が気絶するわけには
いかない。
騎士として。
王を守る守護者として。
ここでこの肉棒を放すわけには︱︱
﹁セナ、無理をするな。君が新米だった頃に教えただろう。長期戦
の時は上手く休息を利用した側が勝つ。無理をして自滅するような
者は、騎士の風上にも置けぬ猪よ﹂
長い黒髪をたなびかせ、彼女の尊敬する上官が現れた。
﹁騎士⋮⋮長⋮⋮﹂
リーベルラント騎士国家の千人騎士長ステアが頷いた。
﹁休んでいろ、わたしが代わろう﹂
﹁騎士長⋮⋮アタシ、まだやれます⋮⋮手伝い、ます⋮⋮﹂
セナは消耗した体を懸命に動かし、ハイネアの陰部を弄り続けるシ
ャスラハールの左腕を捕まえる。
﹁弄るなら、こっちにしときなさい⋮⋮この、バカ﹂
左手を自分の胸の谷間で挟み込み、そのまま添い寝するように彼の
隣に倒れこんだ。
﹁わかった。重ねて言うが無理はするな、ヴェナ様やシャロン達が
解決に向かったとは言え、この状況が一体いつまで続くか見当もつ
かない。順番で休みながら王子の精を抜き出していくのだ﹂
騎士長ステアは部下に向けて頷き、腰を落とす。
衣服を着たまま、下着を履いたままの姿で、彼女はシャスラハール
の腹の上に乗った。
﹁さて、王子。シャスラハール王子。今更自己紹介の必要もないだ
ろう。とうに見知った関係であるわたしと貴方ではあるが、このよ
うにして契りを結ぼうとした事は無かったな。それは貴方が誠実な
男性であり、賢明な王者であったからだ﹂
324
シャスラハールは血走った目でステアを見上げる。
腹の上から押さえつけられ、両足はもがく事しか出来ず、彼の唯一
自由になる手はセナの谷間に拘束され、目の前にいる美女に触れる
ことすらできない。
﹁今はそうして魔物の術とやらに狂っておられるようだが、先ほど
までの事情をわたしなりに聞き耳を立てていたが、リセ殿やこのセ
ナに対しての言動を鑑みるに、多少の理性は残っているご様子。な
らばこの場でわたしと誓って頂こうか﹂
ステアは自らのスカートを指でつまみ、持ち上げる。
紐とレースで作られた真紅の布が、彼女の秘部を隠している。
シャスラハールの腰が跳ね、天に向かってそびえ立つ肉棒が、ステ
アの尻に擦れる。
﹁ふふふ。簡単なことだ、王子。王子はわたしが欲しいか? 王と
して、自分の為に働き全てを捧げる騎士としてのわたしの忠誠が欲
しいか? 欲しければ頷いてくれ。誓いの言葉などは必要無い。わ
たしが欲しければ、頷くのだ﹂
ステアは嫣然と笑っている。
スカートを引き上げ、下着を誇示しながら、笑っている。
シャスラハールの喉が動く。
大きく息を飲み込み、そのまま頷いた。
﹁そうか、王子はわたしが欲しいか。騎士としてのわたしが。素直
に頷いてくれた王に、臣下として報いねばならんなぁ﹂
スカートをつまむ手とは反対側、空いた手を股間にやり、
紐を引いた。
スッと一瞬の動きで、騎士長ステアの秘部が露わになる。
﹁わたしもな、ずっと欲していたのだ。騎士として仕える王を。今
の今まで成り行きで行動を共にしてきたが、この辺りで貴方とわた
しの関係を確たるものにしておきたい。セナが契り、マルウスの里
に残ったシュトラが契り、ハイネアとリセまでもが契った。わたし
はな、誇りある騎士なのだ。王に身を捧げると同時に、王に愛され
325
求められねばならない。この状況で口にするのも馬鹿らしいが、王
よ、どうか、わたしに狂ってくれ﹂
そう言ってステアは腰を上げる。
シャスラハールの肉棒の真上に、彼女の膣口をもってくる。
﹁王よ、わたしを愛してくれ。誰よりも強く、誰よりも激しく。他
の女など見ずに、一心不乱にわたしを独占してくれ。貴方の愛が深
ければ深いほど、わたしの忠義もより確固たるものになる。さぁ、
王よ覚悟は宜しいか? 貴方が、わたしのモノになる時だ﹂
スブブッ︱︱
真下に落とされたステアの肉体は、そのままシャスラハールと繋が
る。
肉棒が勢いよく挿入され、膣肉を割り開いて最奥までを突く。
﹁あああああああっ! うぐっ! 出るっ!﹂
この日何度目になるか見当もつかない精の放出が、四人目の膣に放
たれる。
子宮口をこじ開け、その内部になみなみと注がれる、王の子種。
騎士はそれを受け止め、微笑んだ。
﹁んっ⋮⋮はんっ、さぁ、いくらでもお出しなさい。全てを受け止
め、貴方を包もう。騎士は王の守護者だ。いつでも、ここに貴方の
愛を注ぐが良い﹂
ステアは腰を前後に動かし、射精直後の肉棒を刺激する。
山の精気補給は素早く、シャスラハールの肉棒はまた完全な状態に
戻った。
﹁ふふふ。さぁさぁ、わたしをお使いなさい、王よ。さて、その左
手、そこな小娘の乳程度で満足しておられるのですか? わたしの
胸の方が、遥かに豊満で、柔らかく触り心地も良いのに﹂
﹁あっ⋮⋮ああぁ、うん﹂
シャスラハールは恍惚とした表情を浮かべ、ずっと揉みしだいてい
たセナの胸を放し、ステアのソレへと伸ばす。
クニュ︱︱ギュッ︱︱
326
触れれば形を変え、沈み込むような弾力を与える騎士長の胸に、少
年の手は溺れていった。
﹁唇が、空いている。わたしのも、貴方のもだ。王は、騎士に口づ
けを下さらないのか?﹂
ステアが責めるような声音でそう言うと、シャスラハールは慌てて
上体を起こし、噛み付くようにして口を合わせた。
唾液を交換し、舌を舐め合う。
手は胸を揉みしだき、腰は休むことなく動き続ける。
王は、騎士の虜となった。
﹁な、なんだこの状況は⋮⋮﹂
意識を取り戻したハイネアが、目の前の出来事に驚愕の声を上げる。
シャスラハールの表情からは完全に理性が消えうせ、ステアを夢中
で突き上げている。
ステアはステアで嫣然と笑みながら、彼の頭を撫で、耳を舐める。
﹁うん⋮⋮。まぁ、そろそろこうなるかもっていう気はしてたんだ
けどさ⋮⋮﹂
セナは仏頂面で地面に両足を投げ出し、絡み合う二人を眺めながら、
ハイネアと言葉を交わす。
﹁騎士長って昔から⋮⋮ちょっと変なところがあってね、普段は冷
静だし頼りになるんだけど、一度忠誠の対象が絡むと人が豹変しち
ゃうのよね。アタシ達の祖国の王様は尊敬できる人だったし、アタ
シも敬愛してたんだけど、騎士長はなんて言うか⋮⋮妄愛? 王と
騎士の関係を結構飛躍させて考えてる感じでさ﹂
ハァ、とセナはため息を吐く。
﹁何度も寝所に忍び込もうとしたり、千人長から格下げされてもい
いから宮殿の見張りになりたいって異動願を出したり、王様の顔を
見る度に騒ぎ出してアタシもシャロンもフレアも大変だったんだ﹂
﹁それはまた⋮⋮難儀な騎士殿だのぅ﹂
ハイネアはセナの隣に腰を落とし、彼女の話に耳を傾ける。
無論、地べたに裸で座り込んだ両者の膣口から白濁した精液、それ
327
も同一人物から放たれたものが流れ出してきては、草や地面に垂れ
ていった。
﹁リーベルラントが滅んで、王様の死を知ってから、騎士長はすっ
かり変わっちゃってさ⋮⋮普段の冷静な面はそのままだけど、自分
を必要としてくれる王様が欲しくて欲しくて、堪らなかったんだと
思うんだ。アタシもさ、騎士として王が欲しいっていう気持ち凄く
理解できるし、そもそもアタシに騎士とは何かを叩き込んでくれた
のは騎士長だしね。だから今騎士長の喜んでいる姿に、感動してい
る部分もあるんだけど⋮⋮﹂
﹁ふむ、﹃だけど﹄か﹂
セナは立ち上がってノビをする。
﹁でもやっぱり悔しいじゃん? シャスラハールはアタシの王様で
もあるんだし! あのまま騎士長の虜にされちゃたまんないわよ!
一番最初に契ったのはアタシなのに!﹂
そう言って、絡み合った二人に向けて突撃していく紅髪の騎士。
﹁そうだのう。妾も未来の夫の関心を他の女にばかり奪われていて
は面白くないの。休憩は充分じゃ、行くか。なぁリセ﹂
﹁はい、ハイネア様﹂
ハイネアの後ろ、今まで倒れていたリセが立ち上がり、微笑む。
﹁ハイネア様﹂
﹁なんじゃ?﹂
﹁私、シャスラハール殿下の事を好きになってしまいました﹂
﹁そうか﹂
主従の間で言葉が交わされる。
﹁まぁ別に、リセならば構わぬ。二人であの男を娶ろうではないか﹂
﹁はい、参りましょう﹂
二人揃って歩き出し、絡み合う三人の輪に入っていった。
ゴゴゴゴゴゴッ︱︱
328
﹁な、何?﹂
セナは今まで啄んでいたシャスラハールの陰嚢から顔を離し、周囲
を見渡す。
﹁地面が、揺れているな﹂
ステアはシャスラハールを背中から抱きしめた体勢のまま、セナに
倣って周囲の警戒をする。
﹁な、なにかあったのか⋮⋮? 妾には何も感じられなかったぞ﹂
ハイネアが口の端から涎を零しながら言うと、
﹁ハイネア様はシャスラハール殿下に突き上げられている途中だっ
たので気づかなかったのかも知れませんが、今大地が激しく揺れて
おりました﹂
リセがシャスラハールの乳首から口を離し、答えた。
﹁⋮⋮何か異変があったのでしょうか⋮⋮? ヴェナ達の方で﹂
四人がかりで随分と抜かれた結果、山の精気供給よりも早く精を放
つ事ができ、シャスラハールの瞳に理性が戻っている。
左手と腰は、まったく止まってはいないけれども。
﹁木々の様子を見るに、山全体が揺れたみたいね。ヴェナ様はとも
かく、シャロン、フレア、ユキリス⋮⋮大丈夫よね?﹂
セナは一度呟き、またシャスラハールの陰嚢を啄む作業に戻った。
329
ヒトと言う名の動物︵前書き︶
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330
ヒトと言う名の動物
時は少し巻き戻る。
ステア達にシャスラハールの事を任せ、抜本的解決に向け、マシラ
スの捜索に向かったヴェナ、シャロン、ユキリス、フレアはひとま
ず問題の発生地である温泉を目指した。
木々をかき分け、地面を駆けて進む。
ステア達の挺身で時間が稼げるとしても、永遠ではない。
自分達が結果を残す事で、事態は終息するのだ。
ヴェナを先頭にして駆ける事数分で、四人は温泉の湧き出ている場
所に到達する。
﹁な⋮⋮まさか、こんなに簡単に⋮⋮﹂
シャロンが驚愕に目を見開いて、呟く。
﹁⋮⋮好都合です。探し回る時間を省略でき、このまま速やかに交
渉に入れるのですから﹂
ヴェナは頷きながら、前を向く。
そこには、温泉に浸かって顔を惚けさせている一匹の猩々がいた。
四人は茂みに身を潜め、猩々を眺める。
﹁魔道士殿、あれがマシラスで間違いありませんね?﹂
﹁えぇ。間違いないわ、凄く大きな魔力を感じる。マルウスだとか
ヒュドゥスだとか、そういった群体の小物とは全然違う、桁外れの
魔物って事ね⋮⋮﹂
ヴェナが確認し、ユキリスが頷く。
﹁それじゃ、さくっと謝って王子殿に掛けられた呪いを解いてもら
おう。善は急げってやつだね﹂
フレアが揚々と言い、一歩を踏み出そうとする。
﹁待って下さいフレア。相手は魔物、それも大物です。下手に機嫌
を損ねるとシャスラハール様を含め私共の身も危ない。ここは慎重
331
に対策を練り、交渉にかかるべきです﹂
シャロンが同僚の腕をつかみ、制止する。
﹁同意するわ。こういった交渉事で急いてもろくな結果にはならな
い。相手の出方をある程度予想し、こちらの方針を決めてから行く
べきね﹂
魔道士であるユキリスがシャロンと同調し、フレアを引き止める。
黒髪の騎士は素直に頷き、一歩下がった。
聖騎士ヴェナその様子を見て、相好を崩す。
﹁流石ですわね。ステア千人騎士団の参謀殿とミネア修道院の秀才
魔女殿。フレアさんの果断速攻の考えもわたくし嫌いではございま
せんが、今回はお二人の言を採用いたしましょう﹂
ヴェナが総括をし、四人は固まって顔を寄せる。
﹁それでは、まず相手の出方ですが︱︱﹂
﹃フヒュヒュヒュ 聞コエテオルゾ 人間ノ娘 ワシノ 目ト 耳
ハ コノ山ノ スベテ ジャカラナ﹄
シャロンが会議の口火を切った瞬間、湯船に浸かったマシラスが笑
い、そこからしわがれた声が紡がれた。
﹃覗キナド ツマランコトハヤメ ドウジャ 一緒ニ 風呂ニ ハ
イロウデハナイカ﹄
猩々の口でケタケタと笑いながら、﹃山﹄が語りかけてくる。
シャロンはヴェナを見、その顎が頷くのを確認してから、茂みから
身を出した。
フレアとユキリスも続き、最後にヴェナも現れる。
﹁折角のお誘いですが、私共にはまず先に済ませるべき役目があり
ますゆえ、辞退させていただきます﹂
シャロンは率先して交渉役を務め、他三人は静観する様子だ。
﹃ソウカソウカ ソレハ残念ジャ コノ体ハ 虱ガ ツイテ カナ
ワンカラノゥ 洗ッテ モライタカッタンジャガナ﹄
マシラスは湯船から身を乗り出し、四人を見やる。
﹃シテ 役目トハ ナンジャ? ワシニ ナニカ頼ミデモ アルノ
332
カノゥ﹄
訳知り顔で笑いながら、マシラスは問う。
それもそのはず、先ほどの言葉が本当ならば、マシラスにはこれま
でのこちらの会話すべてが筒抜けになっていたはずだ。
もちろん、シャスラハールの傍で対策を考えた時のことも含め、何
もかもだ。
﹁我らの主に掛けられたこの山の呪いを、解いていただきたい﹂
シャロンはあえて愚直に、要求を告げた。
ここまでの情報量の差が圧倒的である以上、これから先相手の対応
を見て突破口を開くしかない。
﹃アノ 不躾ナ 小僧ニ カケタ 呪イカ? アヤツハ 無礼ニモ
ワシガ 温メテオイタ 風呂ニ 先ニハイリヨッタ カラナ ソ
レモ オナゴ 同伴デ トテモ 許セルハナシデハナイ 天罰ジャ﹄
マシラスは不敵な笑みを崩さないまま、言った。
﹁それについては、こちらの無知による不幸な事故でございます。
もちろん主に代わって我ら一同、謝罪させていただきます﹂
そう言ってシャロンは頭を下げる。
ヴェナがそれに続き、他の二人も倣った。
﹃フム 謝罪ハ 確カニウケトッタ ソレデハ 補償ノ ハナシヲ
シヨウカノゥ﹄
﹁補償⋮⋮ですか?﹂
﹃サヨウ 神聖ナ山ノ湯ヲケガシタノダ 罪ハ償ッテモラワネバ ナラン﹄
マシラスは舐めるようにして、四人の肢体を眺める。
﹃主ニカワッテト 申シテオッタナ ナラバ オマエタチノ 体デ
償ッテモラウトシヨウ サァ 脱ゲ 裸ニナレ コノ山ニ住マウ
獣達ト オナジヨウニ 産マレオチタママノスガタニ ナレ﹄
シャロンは白く綺麗な指を使い、自ら騎士服の袷を外していく。
333
フレアとヴェナも同種の服装なので、同じ要領で服を脱いでいく。
ユキリスだけは魔道士用のローブな為、脱ぎ方が異なっているが、
同じく裸になっていく。
マシラスが好色な目でこちらを眺めている。
逆らう事は、現実的に得策ではない。
ユキリスの話によればマシラスを消滅させる事は事実上不可能な為、
速やかにシャスラハールの呪いを解くためには、指示に従うしかな
いのだ。
シャツを脱ぎ捨て、スカートを取り払う。
その時、辺りがざわついているのを感じた。
﹁⋮⋮野生動物が、集まってきましたね⋮⋮﹂
ヴェナが胸当てを外しながら言う。
彼女の言葉の通り、鹿や猪、マシラスとは似つかない別種の猿、キ
ツツキやフクロウ等の野鳥に、蛇や蛙までもがこの場に集まってき
ていた。
﹃コノ山ノ獣ハ ワシト 感覚ヲ共有シテオルカラノゥ 手足ノゴ
トク操ルコトガデキルデナ コノ場ニ 呼寄セタノヨ﹄
﹁⋮⋮何のために、ですか?﹂
﹃サァテノ ホレ サッサト 脱ガンカ 年寄ヲ アマリマタセル
デナイ﹄
マシラスの声に急かされ、シャロンは下着の紐に手を掛ける。
紐を静かに引っ張り、地面に薄い桃色の布きれを落とす。
陰部が露わになり、山を巡る風が、柔らかく撫で上げてきた。
他の三人も同様に、一糸纏わぬ姿となり、秘部を含め全てを晒して
いる。
﹁脱ぎました⋮⋮それで、私共に何をなさろうというのですか? このまま全員で貴方様と混浴し、下半身のお世話をすれば宜しいの
でしょうか?﹂
シャロンは瞳を眇め、マシラスを見やる。
猩々は、クヒヒと笑った。
334
﹃イヤイヤ コノ体ハジッタイガアルヨウデ ナイ ユエニ ソノ
ヨウナ楽シミカタハ デキンノデナ ツイテマイレ 場所ヲカエル﹄
マシラスは飄々と歩きだし、山を登っていく。
﹃服ヤ 武器ハ ココニオイテイケ ソノママ裸デ ワシニ ツイ
テ クルノジャ﹄
シャロンはヴェナ達と視線を交わし、頷きあってその背中を追った。
四人の後ろを、野生動物達がついてくる。
鹿や猪は四足で、猿は木々を飛び移り、鳥達は旋回しながら、蛇は
地面を這い、蛙は跳ねる。
人間と動物が、裸で行進している。
衣服を纏わず、己の足で移動する四人と、獣達との間に、何か一つ
でも差があるのだろうか。
マシラスは一定の速度で山を進んで行くが、整備の行き届いた平地
ではない以上、小川を飛び越え、岩場をよじ登りながらの移動とな
る。
シャロンが小川を越えるために大股で渡ろうとした時、丁度通過す
る位置に、川魚が異様なほど密集して、上を見上げているのを見つ
けた。
上を通り過ぎていく彼女の陰部を眺めているように、感じた。
岩場を手足の力でよじ登っていく時には、岩壁と密着した尻の下に、
蛇の頭が陣取り、また強い視線を感じた。
見られている。
マシラスはこちらを振り返らずに真っ直ぐ山を登っているが、野生
動物の目を使って、こちらの痴態を眺めているのだ。
そして、
﹁ひっ! な、なに?﹂
ユキリスが悲鳴を上げ、尻に手をやる。
裸の白い尻に、黒々と光るクワガタムシとカブトムシが飛びついて
来たのだ。
﹁取ってやる、ジッとしてて﹂
335
フレアがそう言い、ユキリスの尻に手を伸ばした時、マシラスが振
り返った。
﹃ナラン ナランゾ ソノ虫モ山ノ一部 ワシソノモノジャ ムゲ
ニ アツカッテハ ナラン オマエタチハ 今コノ山デモットモ程
度ノ低イ命ジャ ホカノ生命ヲ 奪ウヨウナコトハ 断ジテ ナラ
ン﹄
ニタリと、笑っている。
﹃モシ 許可ナク 生命ヲ奪ッタリ 活動ヲ邪魔シタ 場合ハ オ
マエタチノ 主ノ命ヲ ワシガ奪ッテヤロウゾ﹄
マシラスがそう言った瞬間、クワガタムシとカブトムシは、ユキリ
スの尻の割れ目に潜り込んでいく。
﹁ひゃあっ! どうして! 入ってくる⋮⋮!﹂
﹃言ッタデ アロウ? 手足ノゴトク ジャト ナァニ 前戯ヨ前
戯﹄
カブトが肛門に、クワガタが膣口に、張り付く。
﹃フヒュヒュヒュ ドォレ 具合ヲ確メテヤロウ﹄
カブトの角が肛門に侵入し、クワガタの角が膣口を押し広げる。
ユキリスは昆虫から与えられる未知の感触に慄き、とっさに手で払
おうと動かしかけるが、マシラスの先ほどの脅し文句により、行動
を縛られる。
肛門を掘り進むカブト、膣口を弄り陰核を探るクワガタ。
冷や汗を流しながら、ユキリスは前を向いた。
﹁これが⋮⋮貴方の要求なのかしら?﹂
﹃ナンノ タダノ前戯ジャヨ 本番ハ マダ先ジャ ソノママ ツ
イテマイレ ホカノ者モ 抵抗セズ 山ヲウケイレルヨウニ ナ﹄
マシラスはそう言って、歩き出す。
四人がそれに続こうとした時、
﹁なっ、おい何する! やめろ!﹂
フレアが声を上げた。
その体に取り付いているのは、二匹の猿だ。
336
一匹が正面から胸の上にしがみ付き、乳首に吸い付いている。
そしてもう一匹、フレアと歩調を合わせて並走しながら、陰部と尻
穴に手を伸ばし、弄んでいる。
﹁やめろ! 吸うな、引っ掻くな。離れろ⋮⋮離れてくれ﹂
マシラスの脅しがある以上、フレアは猿を振り払うことができない。
乳を吸われ、陰部を弄られたまま進むしかない。
﹁くっ⋮⋮皆さん、耐えてください﹂
眉根を寄せ厳しい表情で、ヴェナが言う。
その彼女の足にも蛇が五匹絡みつき、頭部を彼女の陰部に突き入れ
蠢いている。
膣に三匹、肛門に二匹。
穴の奥を貪欲に目指し、のたうっている。
﹁まだ⋮⋮ですか?﹂
﹃マダマダヨノゥ﹄
マシラスの背中に問いかけるシャロンの周囲を野鳥が飛び回り、乳
首や陰部にクチバシで強烈な一撃を見舞い、啄んで飛び退っていく。
フクロウ等の大型の鳥が迫ってくると本能的に振り払いたくなるが、
それを懸命に抑え込んで白い肌に痛々しい痣を刻んでいく。
半刻ほど、歩き続ける。
ユキリスは虫に。
フレアは猿に。
ヴェナは蛇に。
シャロンは鳥に。
それぞれ犯されながら、密生する木々を振り払い、時には素肌に触
れる枝木に足を取られながら進んだ。
ユキリスの肛門から侵入していったカブトは一向に出てこず、ただ
腹の中を這いまわる不快感が彼女を苦しめ、クワガタは陰核を二本
角でキリキリと締め上げ続けている。
フレアの上半身に纏わりついている猿は足だけで彼女の体に抱き着
き、空いた両手を使って彼女の口をこじ開け、獣臭い口を寄せて舌
337
で口内を舐めまわしている。
下半身を弄っている猿は、肛門に指を三本、膣には丸めた掌すべて
を突き入れ、グチョグチョとかき回している。
ヴェナの胎内に侵入した蛇達は、肉の壁に牙を突き立て、舌を這わ
せる。
野生種、それも毒持ちの蛇であり、聖騎士の膣は痺れを強く感じて
いた。
シャロンは全身に無数の痣を作り、顔を顰めている。
乳首は突かれ、齧られ、赤く腫れ上がって肥大し、股間は内出血で
青黒くなっていた。
やがて、マシラスは止まる。
そこは山の頂上へ後少しという、見晴しの良い場所だった。
﹃ソレデハ ココカラ先ハ 一人 ワシニ ツイテキテモラオウカ
ノコリノ者ハココデマッテオレ ソウジャナ ソコノ オマエ 金髪ノ娘 ツイテコイ﹄
マシラスが指差したのは、シャロンの頭。
﹃ワシハ オマエノ マンコガ キニイッタ 特別ニ ワシ自ラ 犯シテヤルワイ﹄
鳥達を呼寄せ、ピーピーと囀る声を聴きながら、マシラスは笑った。
﹁⋮⋮わかりました﹂
シャロンは唇を噛みしめて頷き、猩々に歩み寄る。
ユキリス、フレア、ヴェナがそれぞれ苦しめられながらも、視線で
応援してくる。
﹃チト 時間ガカカルノデナ ノコリノ者ガ暇ニナランヨウ 後ハ
獣達ニ マカセルデナ 遊ビヤスイヨウニ 必要ナ魔力ヲ授ケテ
オコウ﹄
マシラスのその言葉と共に、山から神秘の光が放たれ、幾つかの動
物に注がれた。
光が注がれた動物を中心に、辺りが騒がしくなる。
ユキリスの足元に、黒い波が生まれた。
338
﹁え⋮⋮? 何、蟻⋮⋮? イヤ⋮⋮来ないで⋮⋮﹂
フレアに向けて大型の獣が駆け出してくる。
﹁鹿に、猪だとぉ? 無理だ、やめろ! 離せ、猿共! 離せぇぇ
ぇ﹂
ヴェナは驚愕の視線を送る。
﹁蛙が⋮⋮馬鹿な⋮⋮一瞬でそんなに大きく⋮⋮牛くらい⋮⋮ある
じゃないか⋮⋮﹂
シャロンは更に強く唇を噛み、口の端から血を流しながら、猩々の
背中を追って山の頂上を目指す。
背後から聞こえる悲痛な叫び声に、耳を塞ぐ事はできなかった。
339
御山︵前書き︶
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340
御山
この地に根を下ろし、雄大な自然の一部となっていくつもの年月を
経た。
場所柄、人では無く魔と触れ合ってきた。
その結果。
己自身、魔となった。
﹃山﹄の魔物。
マシラスと呼ばれる。
同種のモノが存在しているらしいが、己と言う山は己しかない。
故に、己は山で、魔物だ。
自然の一部でありながら、意志を宿す存在。
己に宿った自我に戸惑いを覚えた事もある。
しかし、己の体を依代に生きる動物達との語らいや、ある風変わり
な悪魔と出会った事により、己はこの変化を受け入れた。
悪魔は言った。
﹃愉しめ﹄と。
浮かび上がった自我の一つに、雌を嗜虐する喜びがあった。
それを満たそう。
悪魔の語る人間の雌という存在に、なぜか強く心惹かれた事を記憶
している。
それを犯し、貪ってみたいと感じた。
あるいは、あやつ自身、人間の雌の姿をした悪魔であった事が、己
の劣情の起源なのかもしれない。
僥倖にして、己の手中に人間の雌が四人。
いかにして楽しむかと、趣向を凝らして考えた。
猩々にやつした体では観察することはできても楽しむ事はできない。
この姿は﹃山﹄の幻影でしかないのだ。
341
故に、親愛なる山の仲間達の手を借りようと思う。
彼らの力と体を借り、そこに宿した己の感覚を通して悦を得よう。
だが、それだけでも駄目だ。
それでは己自身が性交を果たしていない。
不完全な愉しみは、おおよそ精神に負荷をかける。
よって己自身、ここに選んだ金髪の娘相手に、挿入し、射精しなけ
ればいけない。
改めて言おう。
己はマシラス。
﹃山﹄である。
﹁だめぇ⋮⋮閉じて⋮⋮お願い、それ以上⋮⋮膣内に、入ってこな
いで⋮⋮﹂
ユキリスは冷たい汗を流しながら念じるようにして言う。
今彼女の膣口はクワガタの角により大きく開かれ、その穴を通して
軍隊蟻が次々に体内に侵入してきていた。
蟻たちは六本の足で忙しなく膣壁を踏み荒らし、襞に齧りつき、子
宮へと突き進んでいく。
本来限られた命を大切に育てる場所を、途方もない数の虫により、
犯されている。
肛門を押し開いて進むカブトの勢いも止まらず、ポッカリと開いた
空洞に、蟻達がぞろぞろと続いていく。
﹁無理だ! 入るわけがない! 離せ、どけぇ!﹂
フレアは地面に四つん這いになって、もがいている。
両手を一匹の猿に拘束され、背中に馬乗りになった鹿が肛門にペニ
スを突き立て、尻を合わせる様に立つ猪のペニスがもう一匹の猿に
誘導され膣に嵌められる。
﹁むぐ! やめっ、うぐぐぐぐぐ﹂
両手を拘束していた猿のペニスが口に侵入し、口と尻穴と膣、三つ
342
の穴をそれぞれ別の動物達によって犯される。
﹁やめなさい⋮⋮近寄るな⋮⋮うぐぉ、おおおおおおお﹂
聖騎士ヴェナは蛙に組み伏せられている。
マシラスの力により牛ほどに肥大した、蛙。
でっぷりとした腹を彼女に乗せ、正常位の姿勢でペニスを挿入する。
尻の穴と口には蛇が蠢き、奥へと這いずる。
穴に入りそびれた蛇は、ぷっくりと膨らんだ彼女の乳首に牙を立て、
痺れと快楽を注ぎ込む。
マシラスの操る生物達により、仲間達が無残に犯されていくのを、
シャロンは見やる。
抵抗できず、涙を流して恥辱に耐える三人の姿、
シャロンは視線を振り切り、マシラスを睨む。
﹁早く、済ませてください。彼女達の事も、シャスラハール王子の
事も。私の体が望みならばすぐこの場で汚してください!﹂
騎士の言葉に、猩々はにやけた笑みを返す。
﹃ナァニ マテマテ モウスグジャ モウチット歩ケバ ワシ自ラ
オマエヲ 犯シテヤレル﹄
そう言ってマシラスは更に山を登っていく。
シャロンは背後で聞こえる絶望の叫びに祈る様な表情を浮かべ、猩
々の背中を追った。
四半刻、シャロンは歩き続けた。
頂上に近づき、空気が薄くなっていくのを感じ、糸くず一本纏わぬ
全裸の体を冷気が襲った。
白い乳房に鳥肌が浮き、膣に直接冷風を感じる。
山そのものであるマシラスの悪戯により、落石や小規模な地滑りが
頻繁に発生し、その度にシャロンが懸命に回避して乳が揺れ、尻が
跳ね、膣口が歪むのを楽しげに猩々の目が見詰めている。
この茶番も、後わずかだ。
343
もうすぐに頂上。
おそらくそこでマシラスのお相手をしてやれば、事態は解決する。
麓で苦しんでいるシャスラハールも、中腹で凌辱の限りを尽くされ
ているヴェナ達も。
﹃サテ ツイタゾ 娘 ココジャ﹄
猩々が振り返り、シャロンを見る。
﹁ここって⋮⋮何も無いですが﹂
頂上。
見事な三角錐であったこの山の、中心点ともいえる尖った先に、到
着していた。
﹃フヒュヒュヒュ ソウカノゥ マダワカランカ サァ娘ヨ ココ
ニ跨レ 跨ッテ腰ヲフルノジャ﹄
猩々が指し示す先。
山の頂上。
この山で、一番高い場所。
その、尖った地面を指差していた。
﹁え⋮⋮まさか⋮⋮﹂
﹃ナニヲシテオル? オマエガ ワシヲ拒ムナラ フモトノ小僧ニ
精気ヲ倍ニ送リ 中腹デ楽シンデオル獣達ニ 更ナル力ヲ送ルゾ
?﹄
マシラスは楽しげに笑う。
笑いながら、シャロンの尻を幻影の手で叩く。
前へ進めと。
そこに腰を落とせと。
シャロンは相手が本気である事を悟り、瞑目して心を決める。
﹁わかりました。やらせて頂きます﹂
山の先端に腰を落とし、膣口に少しだけ食い込ませる。
冷たく硬い感触が、シャロンの体で一番柔らかい場所に届く。
﹃モット 腰ヲ落トセ 全然入ッテ ナイゾ﹄
山の幻影が不満げに言う。
344
シャロンは意識して、腰を山に押し付けていく。
先端と言っても、棒状であるわけがない。
三角に広がっていく地面に対して、膣への挿入など、容易にできる
わけが無い。
それでも懸命に、仲間の為を思い、腰を落とす。
膣が限界まで広がり、山の先端を先ほどより少しだけ奥へと導いた。
﹃ヨシヨシ ソコジャナ ソレデハ 開始 ジャ﹄
﹁え⋮⋮?﹂
猩々が両手を頭上に持ち上げ、大きく叩いた。
ズゴゴゴゴ︱︱
地面が揺れる。
山が、震える。
﹁きゃあああああああああああああああああ﹂
シャロンは膣を地面に押し付けたまま、悲鳴を上げる。
﹃オット 立チ上ガッテハ ナランゾ ソノママ ソノママ 受ケ
入レルノジャ 山ヲ ワシヲ﹄
強烈な地震。
そしてそれに合わせ、変化が生まれた。
山の先端が、細く尖りはじめたのだ。
広がる裾を削り、槍の様な形状へと変化していく。
それも、シャロンの膣の中でだ。
﹁おごぉぉぉぉぉぉぉぉ。太いぃぃぃ硬いぃぃぃぃ、揺れ、揺れが
直接体に、頭にぃぃぃぃ﹂
大地の剛直で膣を挿し穿ち、地震により衝撃を加える。
これがマシラスによる性行為だった。
シャロンは横に、縦に、マシラスの思うがままに動く大地によって
犯され、突き上げられていく。
振動に犯され、脳が揺れて言葉を紡ぐ事が出来なくなり、ただ涙を
激しく流し続ける。
マシラスは緩急をつけて大地を動かす。
345
傍から見れば全裸の女が山の頂上に股間を押し付け地震に合わせて
ヨガっている姿。
知力と剣術の冴えを評価された騎士が取っていい姿であろうはずも
ない。
やがて、性行為には終わりが訪れる。
それは山とのソレであっても、同じ事だった。
山の先端が、大きく膨らむ。
﹃オォォウ 出スゾォォ 娘! 受ケ取レェェェェ﹄
猩々が恍惚の表情を浮かべながら、叫び声をあげる。
そして、大地が一度激しく振動してから、シャロンの膣に埋まった
先端の膨らみが割れる。
中から出てきたのは、大小様々な、ミミズの大群だった。
子種の代わりにそれらを放出し、マシラスの本体である山は振動を
治めた。
後に残ったのは、ぐったりと地面に倒れ伏すシャロンと、それを満
足げに眺める猩々。
シャロンの膣からはウニョウニョとミミズが這いだし、太ももを伝
って大地へと戻っていく。
涙を流し放心する騎士に向け、山の幻影は笑って告げる。
﹃満足ジャ 小僧ニカケタ呪イハ 解除シテヤル 中腹ノ獣達ハ マァオマエタチデ 勝手ニ追イ払ウガイイ タダシ 殺シテハナラ
ンゾ 早ク伝エニ行ッテヤラント イツマデモ アノ三人ノ娘ハ 犯サレ続ケルデアロウガナ﹄
猩々がそう言って笑いながら姿を消した後も、しばらくシャロンは
立ち上がれなかった。
体が、奥底から震え続けていた。
どうにか立ち上がり、震えの残る体を懸命に動かし下山するシャロ
ン。
346
ヴェナ達を開放し、シャルラハール達と合流し、この忌まわしい山
から今すぐ立ち去りたかった。
しかし、彼女は呆然と立ち止まる。
彼女が今いる場所は頂上付近の開けた崖の上。
そこから見える。
﹁あれは、土煙⋮⋮騎影⋮⋮っ! 武装した兵士が、こちらに向か
って来ているというのですか?﹂
さほど遠くない場所を完全武装し馬に乗った人間の集団︱︱軍隊が
進軍してきていた。
ゼオムント国の騎士団の正装をした、小隊規模の部隊。
先頭に立つのは、細面の中年の男だった。
﹁早く、知らせないと! 今私達は武装を解除している。急いで武
器のある場所まで戻らないと!﹂
シャスラハールの方は護衛としてステアやセナ、リセがついている
ので、あまり心配は無い。
けれどもヴェナ達の方、未だ獣達に凌辱され続けているとすればこ
の敵襲に気づけるわけもなく、全裸のまま接敵されれば如何に勇壮
な聖騎士や魔道士であろうとも、捕縛されかねない。
シャロンは必死に山を駆け下りた。
断崖を飛び越え、岩場をにしがみ付いて降りて行く。
乳房が揺れ、股間が露わになる。
野生動物が頻繁に現れてシャロンのその姿を眺めている。
その知性を感じられない瞳の向こうに、先ほどまで彼女を凌辱して
いたこの﹃山﹄そのものがいるとしても、今はそれを気にしていら
れるだけの余裕が彼女にはなかった。
ただひたすらに、駆け下りていく。
347
凌辱者達の朝︵前書き︶
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348
凌辱者達の朝
シャロンが大自然と結合する二日前の事。
早朝、リトリロイ王子の開拓団の野営地にて、事は始まる。
薄闇が晴れ、青い空がのぞき始めたころ、野営地の一角にある幕舎
に人間が五人入っていく。
二人は着衣することを許されず、裸のまま腕を縛られ首につけられ
た輪に通した紐を引かれて連れられている。
アミュスとヘミネ。
かつてこの開拓団を恐怖と暴力で追い込み、そして堕とされた二人
の公娼。
その二人の首輪を引いているのは白いローブを纏った調教師の男が
二人。
そしてそれを先導するのが、エプロン姿をした魚顔の婦人、マダム・
オルソーだ。
﹁さぁさ、ゴダン様に﹃今朝は大事な会議をするから景気付の為に
公娼を用意しておいてください﹄と言われましたからねぇ。早いと
こ準備しちゃいましょうか。皆さん朝早くに起しちゃってごめんな
さいねぇ﹂
オルソーは幕舎の中に入ると、中央に置いてあった机を手のひらで
叩く。
男達は欠伸を噛み殺しながら、オルソーに愛想笑いを浮かべ、首を
振る。
そしてアミュスとヘミネの首輪を引いて、机へと押しやる。
男達は尻を乱暴に掴み、押し上げるようにして机の上に二人を乗せ
る。
二人の全身が机に乗ると、やおら押し倒して仰向けに寝かせる。
アミュスとヘミネは今、調教師に向けて股間を晒し、机の上に寝て
349
いる状態だ。
﹁おはよー、アミュスちゃん、ヘミネちゃん。二人とも昨日はよく
眠れた? またテビィ君に夜更かしさせられちゃったりしてないか
な? あの子は仕事熱心なのも良いけど、やっぱり少しは睡眠の時
間も用意しておかないとねぇ﹂
オルソーは二人の陰唇を見つめながら、言葉を紡いだ。
﹁で、どうなの? 眠れたの? 眠れて無いの? 答えて? ね?﹂
そう言うと、彼女は身に着けたエプロンのポケットから凹凸のある
鉄製の棒を取り出し、二人の陰部に問答無用で突き入れた。
﹁うぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ、ね、ねて、ない⋮⋮夜中ずっとあの子
に遊ばれてました﹂
﹁あ、ああああああああぅ、さっき、彼の掃除道具で、体を洗われ
たとこですぅぅぅ﹂
アミュスとヘミネはその衝撃に震え、素直な声を発する。
その姿を見て、調教師の男達はようやく眠気が飛んだように、ニヤ
リと笑う。
﹁出た出た⋮⋮オルソー様の﹃マダム棒﹄これすっげぇんだよなぁ﹂
﹁あぁ⋮⋮主婦の知恵ってやつで開発された凶悪な器具。大抵の公
娼ならこいつの一刺しですぐ素直になりやがる。まぁこいつら最初
は耐えてたけど、一回堕ちてからはもうこのザマだな﹂
二人が会話のやり取りをしている間にも、マダムはブチュブチュと
アミュスとヘミネの膣をマダム棒で穿り回す。
﹁まぁ⋮⋮それはいけないわねぇ。テビィ君には後でメッてしてお
くから、今夜はしっかり寝ましょうね﹂
﹁は、はひぃぃぃぃ﹂
﹁ねます! ねますっ!﹂
オルソーは公娼二人の必死な声を聴いて、満足気に頷き、マダム棒
を抜き出した。
﹁あらやだ、汚れちゃったわ﹂
そう言って、それぞれの胸の谷間にマダム棒を突き入れ、擦りなが
350
ら粘液を落としていく。
﹁さて、それじゃあ会議の準備を始めましょうかね。とりあえず貴
方達、この二人の掃除をお願いね﹂
オルソーの言葉に調教師の二人が返事をし、しゃがみ込んでアミュ
スとヘミネの陰唇に視線を合わせる。
そのままローブから綺麗な布と棒状のスポンジを取出し、彼女達の
股間を磨き上げていく。
﹁テビィ君は仕事熱心で大変よろしいのだけど、まだまだ手つきが
洗練されていないと言うか、便所掃除と同じ感覚で公娼の掃除もや
っているのよねぇ。まぁこの二つに大差が無いという意見も理解で
きるけども、やっぱり仕事である以上、丁寧に隅々までやってもら
いたいものだわぁ﹂
マダムが腰に手を当てて嘆息する中、二人の調教師は慣れた仕事で
アミュスとヘミネの膣にスポンジを入れ、膣内まで擦りあげ、溢れ
てきた汁を布巾で吸収する。
膣の清掃が終わると次は肛門へ。
肛門は先に皺に布巾を押し当て、揉みこむようにして入口を綺麗に
してから、先ほど膣に入れたスポンジを挿入し、二、三回出し入れ
して汚れの確認をする。
﹁マダム、こちら直腸にクソが溜まってますね、出しますか?﹂
アミュスの方を掃除していた男がマダムに確認を取る。
﹁んー、いえもう時間も無いから、会議の間はこのままで。会議終
了後に一般開放される前には出しといて。一般開放は時間をきっち
り区切ってるから脱糞して時間を無駄にしてたら利用者の皆さん怒
るわよ﹂
へーいと男は頷き、作業に戻る。
もう一人、ヘミネの方を清掃している男は、
﹁ちょっと陰毛が濃くなってきたな。そろそろカットしてやるか﹂
そう言ってローブに手を突っ込み、ハサミとカミソリを取り出した。
﹁動くんじゃねぇぞぉ⋮⋮﹂
351
まずは全体的な毛の量を減らすためにハサミを使ってカットしてい
く。
そして仕上げの為に、自分の唾をヘミネの陰毛に吐き掛け、その粘
りを利用してカミソリで毛を切り揃えていく。
最後に股間全体を布巾で磨き上げて、アミュスとヘミネの清掃は終
わった。
﹁よし。じゃあ下がっていいわ。二人ともご苦労様。朝食を摂った
ら一般開放の準備をお願いね﹂
オルソーの言葉に、調教師の男達はやれやれといった態で頷き、幕
舎を後にした。
そして残されたのは女三人。
﹁さて、男共が居なくなったし、ここからは女の秘義、お化粧のお
時間かしらね﹂
オルソーはエプロンから化粧水や紅、刷毛や香水を取り出した。
﹁わたしってもう何年もこういう仕事してるからわかるんだけどね
ぇ。やっぱり不老魔術を使ってるって言っても、そこの穴に何度も
何度も他人のオチンチンを突っ込まれてると、どうしても色素が沈
着しちゃうのよねぇ﹂
香り付きの薬液をかき回しながら、オルソーは笑う。
﹁マンコの白さは人気の高さ! 黒くなってくるといくら素材や撮
影内容が良くても公娼としての人気が落ちてきちゃうのよねぇ。貴
女達とは末永くお付き合いしていきたいじゃない? だからほら、
わたしが肌のケアと美マンになるお化粧、してあげるわね﹂
﹁おや、マダム。おはようございます﹂
そう言って幕舎の中に入ってきたゴダンが見たものは、ヘミネの膣
口に紅を塗るマダム・オルソーの姿だった。
﹁あーら、ゴダンさま。おはようございます。今日も良い天気です
わねぇ﹂
352
えぇまったくっと応じながら、ゴダンはオルソーを迂回し、空いて
いたアミュスの尻を強烈に引っ叩いた。
﹁ひぐっ!﹂
﹁おはようございます、アミュス嬢﹂
ゴダンは禿げ上がった頭の下、笑顔を浮かべて言った。
﹁⋮⋮﹂
アミュスは返事をせず、視線をそらす。
バシンッ︱︱
もう一発、強烈に尻が張られる。
﹁⋮⋮おはよう、ございま⋮⋮す﹂
震える声で紡がれるその言葉に、ゴダンは笑顔で頷いた。
﹁えぇ、おはようございます。今日も一日、お勤め頑張ってくださ
い﹂
ゴダンはそう言って、机の反対側へ移動し、席に着く。
オルソーは相変わらず、ヘミネの膣口に化粧を施していた。
その時ふと、オルソーが声を上げる。
﹁あぁそうそう。このような事をゴダン様に申し上げるべきか迷い
ましたが、陳情が出てございますの﹂
﹁ほう。陳情ですか、小さな不満は大きな災厄にも繋がりかねませ
ん。よければ教えていただけませんか?﹂
ゴダンは身を乗り出して、聞く姿勢に入る。
﹁ウチで雇っている便所掃除の少年から何ですけれどぉ、開拓団の
皆さん小便器にオシッコする際に腰を引いてやっているから尿が飛
び散っていて不衛生なんだそうです。できれば一歩前に踏み出して
からしっかい便器を狙ってオシッコして欲しい、と、貼り紙でも作
ろうかと考えているようですね﹂
オルソー昨晩にテビィから言われた事を思い出し、ゴダンに報告し
た。
﹁ふむ⋮⋮まぁ男性の小便事情は人それぞれですからな⋮⋮口を挟
みたくないのも事実ですが、不衛生で疫病が広がらないとも限りま
353
せん。注意喚起の文章を作成しましょう﹂
ゴダンはやや呆れた様にして笑い、頷いた。
﹁あぁそれとですね。これは主婦としてのわたしの要望なんですけ
れども、皆さんもうちょっとゴミの分別に気を使うべきです。指定
された場所に指定された物を捨てるっていう事をしっかり守らない
と、いつかはこの陣地がゴミだらけになってしまいますわよ?﹂
オルソーがカン高い声で言うと、ゴダンは内心で呆れながらも深い
笑みで頷いた。
﹁⋮⋮そうですか。それは大変ですね。ではそちらも警告文を出し
ましょう﹂
しかし、とゴダンは考える。
警告文と言ってもこのような些末な内容の文章を、どこに載せるべ
きか。
陣地はそこそこに広い。
一か所に掲示した程度ではほとんど浸透しないだろう。
だが逆に何か所も設置した場合、このような小言で喚き立てる様な
上層部など、下からの支持を白けさせる結果にも繋がりそうだ。
そこで、ゴダンはハッとする。
目の前にあるではないか、小言をジョークの様にでき、それでいて
注目度の高い存在が。
﹁マダム、そちらの二人はもう仕上がっておりますかな?﹂
﹁え? はいまぁ、こちらの﹃洗浄済﹄の前張りを貼れば完成です
が﹂
﹁では貼ってしまってください。それと、私が行うこれからの作業
を、調教師としてお認め頂きたい﹂
そう言って、ゴダンは立ち上がり、アミュスとヘミネのもとへ移動
する。
オルソーは前張りを二枚、それぞれの陰部に張り付けて、ゴダンに
場所を譲る。
彼は手始めに、仰向けになっている二人の公娼を、机に乳を押し付
354
ける様なうつぶせの状態へと転がす。
﹁えー、オホン。それではちょっとくすぐったいかも知れませんが、
我慢してくださいね。字が歪んでしまいますので﹂
ゴダンは筆を取った。
黒い墨に充分に浸し、持ち上げる。
そしてそのまま、アミュスの背中の上に筆を躍らせた。
﹃小便をする時は一歩前に踏み出そう﹄
続けて、ヘミネの背中に、
﹃ゴミは規則通りに処分しよう﹄
長年宮仕えをしているゴダンならではの、達筆な文字が、公娼の背
中を彩った。
オルソーはそれを見て、目を輝かせる。
﹁まぁ素敵だわ! これでこの子達のマンコを利用する人々に、こ
の警告が届くのですね?﹂
﹁その通りです。彼女達の存在は開拓団において非常に大きな関心
事ですから、利用の都度この文章が見えれば、自ずと効果が期待で
きるでしょう﹂
そう言ってゴダンは満足気に頷く。
アミュスとヘミネの背中の文字が、細かく震えている。
彼女達は確かにテビィによって心折られた。
でもまだ、死んでしまったわけではないのだ。
恥辱は、肌を通して心にまで届く。
﹁そうだわ! 文字情報だけでは浸透も不十分かもしれないわ! こうしたらどうかしら? ゴダン様。この子達に、挿入される時と
射精されてる時に、背中の文字を言わせるの。そうすれば耳を通し
てもこの言葉が届くから、効果は二倍じゃないかしら?﹂
オルソーは手を叩いて発言する。
ゴダンとしても、その考えを聞いて納得し、頷きを返した。
こうして、アミュスとヘミネの役割に、﹃掲示板﹄と﹃音声アナウ
ンス﹄が増えたのだった。
355
マダム・オルソーが主婦特有の長話をし、ゴダンが辟易した気持ち
でそれに応えるという時間がしばらく続いた後、幕舎に新たな人間
が入ってきた。
﹁失礼する﹂
﹁どうも、ゴダン様、ご婦人、おはようございます﹂
一人は筋骨隆々の毛深い熊の様な大男。
もう一人は爽やかな笑みを浮かべた細身の中年男だった。
共に甲冑を纏い、騎士団所属を表すエンブレムを胸に下げていた。
﹁おぉこれはグヴォン将軍、ターキナート将軍。よくぞ来てくださ
いました。ささ、マダム、ここから先は軍属の会議になりますゆえ、
席を外していただいても宜しいでしょうか?﹂
ゴダンは本心から救われた思いで、オルソーを促し、退席させる。
オルソーは笑いながらそれに頷き、両将軍に挨拶をしてから幕舎を
出ていく。
グヴォンはそれを無視し、ターキナートは笑顔で返した。
﹁王宮魔道士殿よ、我らに授けたい任務とは何だ?﹂
グヴォンが口を開き、ゴダンに問う。
しかしゴダンは笑ったまま、手で指し示す。
机に載せられた、二人の公娼を。
﹁まぁまぁ、急ぐ話でもございませんので、どうぞ、そちらは今朝
洗浄済みの本日未使用品です。将軍方を慰労するために用意してお
きましたゆえ、私の顔を立てると思って、使って下され﹂
ゴダンのその言葉で、二人の将軍は目の前の公娼の肌を掴んだ。
﹁ふむ﹂
﹁では、遠慮なく﹂
グヴォンはヘミネを、ターキナートはアミュスを。
剛毛の生えた腕でヘミネの腰を捕まえ、﹃洗浄済﹄の前張りごと、
グヴォンはその膣に己の肉棒を押し込んだ。
356
﹁あひぃぃぃぃぃ変な、変な感触が一緒にぃぃぃぃ﹂
ターキナートはアミュスの陰部に貼られた前張りを丁寧に剥がすと、
丁寧に丸め、捨てる場所を探したようだが、辺りには見つからず、
そのまま隠すようにアミュスの肛門の中に押し込んでから、何食わ
ぬ顔で膣へと己の分身を挿入した。
﹁今、何を? お尻に何をぉぉぉぉ?﹂
バコバコと、将軍が公娼を犯す。
その時、ゴダンが口を開く。
﹁アミュス嬢、ヘミネ嬢。先ほど決めましたよねぇ? 君達はチン
コを挿入されたら、何て言うんでしたっけ?﹂
ゴダンの冷たい目が二人を見据える。
そして、二人は顔を落としたまま、言った。
﹁ご、﹃ゴミは規則通りに処分しよう﹄﹂
﹁﹃小便をする時は一歩前に踏み出そう﹄⋮⋮﹂
公娼達が上げた叫びを、将軍達は不思議な表情で聞いた。
その言葉は、彼女達の背中にも書いてある。
﹁なるほど、公娼を使っての周知作戦ですか。ははは。ゴダン様は
面白い事を考えなさる﹂
ターキナートはそう言って笑う。
グヴォンは反応を示さぬまま、徹底的にヘミネの膣を突き続ける。
﹁ではでは、本日両将軍をお呼びした用件でございますが︱︱﹂
﹁まぁ待って下さいよゴダン様。自分はセックスをする時は真心を
込めて、を理想としておりますので、行為中に野暮な話は遠慮致し
ます﹂
ゴダンの言葉を遮り、ターキナートが笑って言った。
﹁そうですか。時間も充分ありますし、どうぞ満足するまでお使い
ください﹂
ゴダンもそれに頷きを返した。
﹁さて、ではほら⋮⋮アミュス⋮⋮さんでしたっけ? より良いセ
ックスの為、笑ってください。笑いながらするセックスの何と気持
357
ちの良い事か。笑顔は日常のあらゆる行いを潤してくれますよ。さ
ぁ、笑って笑って﹂
全て、彼女の膣を無遠慮に犯しながらの発言である。
アミュスは返事をせず、ただ黙って犯され続ける。
﹁ねぇ、笑ってくださいよ。ほら、ほらぁ﹂
ターキナートはアミュスの頭を両手で後ろからつかみ、無理矢理背
を反らせて上を向かせる。
﹁笑えって、言ってるんですよ。自分は﹂
ギリギリと腕に力を籠め、腰の動きも止めないまま、彼は脅す。
アミュスは一度抵抗するように口を引き結んだ後、瞳の輝きを消し
て弱弱しく、笑った。
﹁そう、素敵な笑顔ですね。ではご褒美に膣内にたっぷり出して差
し上げましょう﹂
そう言って、ターキナートは腰の動きを速く激しくしていく。
一方で、グヴォンとヘミネの性行。
野獣の様な風貌の男が、紅髪の麗人を組み敷いている構図だ。
﹁戯言はいらん。魔道士殿、俺に一体何を命じるか、簡単に言って
くれ﹂
ヘミネの髪を掴み、それを引く事で彼女の体を肉棒に叩きつけなが
ら、グヴォンは言った。
﹁⋮⋮では、簡潔に申しまして。両将軍には私が指定する場所へ行
って公娼を捕えてきて頂きたいのです。騎兵三十騎をお付けしまし
ょう。彼らを率いて公娼の身柄を拘束し、この陣地まで連れ帰って
きてほしいのです﹂
その言葉を聞いて、アミュスを犯していたターキナートが顔を向け
る。
﹁三十騎ですか? これら公娼の中にはセリス様の様に並はずれた
手練れも居ると聞きます。それだけではこちらがやられかねないの
では?﹂
将軍として、軍の強さと公娼の潜在的な力を考えられる彼と、
358
﹁ふん、この様な人畜以下の便所女風情に兵など必要ない! 俺一
人で何人だろうと捕まえてきてやるわ!﹂
あくまで己のプライドを誇示するグヴォン。
彼は忌々しげにヘミネの尻を引っ叩く。
ゴダンはもしグヴォンとヘミネが戦ったらどうなるか、と脳内で想
像して、一瞬で止めた。
結果は火を見るより明らかだろう。
ただ体格が良いだけのグヴォンなど、あの時セリスと拮抗したヘミ
ネの右拳一つで肉塊になってしまうだろうと、戦場での彼女の恐ろ
しさを思い出し、薄く笑った。
﹁まぁまぁ。グヴォン将軍の仰ることも理解できますが、ターキナ
ート将軍の仰るように、公娼には規格外の存在も居るという事です。
そこで、これを持って行って頂きたい﹂
そう言ってゴダンは二つの錫杖を指し出す。
﹁これは?﹂
ターキナートが腰の動きを止めぬまま、首をかしげる。
﹁魔導の力をもって、魔物に一度だけ命令を強いる事ができる道具
であります。万一公娼との戦闘で不利を感じた時は、これをお使い
下され﹂
無論、これはゴダンの持つ﹃魔物の宝具﹄に由来する力を別の杖に
少々付着させただけの模造品に過ぎないが、一回限りの使用ならば
問題無いはずだ。
﹁ふん、そんな物必要ないが、公娼を捕まえた後に魔物とヤらせて
その光景を見ながら酒を呑むのも良いかもしれんな。一応受け取っ
ておいてやろう﹂
﹁有り難い。非力非才の身、この様な保険を授けていただけると、
安心して任務に就けます﹂
正反対の反応ながら、二人はそれを受け取った。
﹁それではグヴォン将軍にはマルウス族という魔物が住む集落に向
かって頂きたい。そこに数人の公娼がいる事を、私の魔導で発見し
359
ました﹂
正確にはゴダンの魔導ではなく、宝具を使い鳥型の魔物を駆使して
発見したのだが、そこまでは説明する気はなかった。
彼は同時に魔物によってシャスラハール達の動向も監視し、その現
在位置と進路も掴んでいた。
﹁ターキナート将軍はここから北北西に二日ほど馬で駆けた先に目
印となる山があるのですが、恐らくそのあたりで数人の公娼を従え
た反逆者とぶつかるはずなので、そちらの殲滅をお願いしたい﹂
二人の将軍が頷きを返す。
そして、いよいよ限界も訪れる。
﹁ふん、出すぞ、便器よ﹂
﹁出ますよー。最後まで笑顔で受け取ってくださいね﹂
将軍達は腰を激しく後ろに引き、強烈な一撃をヘミネとアミュスの
膣に見舞い、中で精液を放出した。
精が膣の中を襲い、子宮へ向かってくるのを感じながら、二人は口
を開く。
﹁﹃ゴミは規則通りに処分しよう﹄﹂
﹁﹃小便をする時は一歩前に踏み出そう﹄﹂
360
凌辱者達の朝︵後書き︶
モチベーションUPの為、明日別の話を投稿しようかと思います。
読んでいただけると嬉しいです。
361
騎士と騎兵︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
362
騎士と騎兵
マシラスの怒りを解き、シャロンが大急ぎで山の中腹に戻った時、
目にしたのは陰惨な凌辱だった。
体表と体内、そのどちらをも知性無き虫に犯されているユキリス。
大型の獣に代わる代わる形の異なるペニスを挿入され、必死に抵抗
するフレア。
凶悪なまでに肥大した蛙によって、膣内に小指ほどの大きさのオタ
マジャクシを注がれているヴェナ。
﹁マシラスの呪いは解けました! みなさん! もう大丈夫です﹂
シャロンは声を大にして叫ぶ。
犯され続けていた三人の公娼の瞳に、光が灯る。
ユキリスは己の膣に手を入れ、クワガタや蟻をはじき出す。
フレアは鹿や猪を振り払い、猿を蹴飛ばして立ち上がった。
ヴェナは鋭い蹴りで蛙を吹き飛ばすと、乳首と肛門を責め立ててい
た蛇をむしり取る。
凌辱による痕跡は生々しく残るが、三人は三人とも、生きていた。
心も、死んでいなかった。
﹁よくやってくれました騎士シャロン。先ほど山が大きく揺れてい
ましたが、大丈夫でしたか?﹂
聖騎士ヴェナが膣内のオタマジャクシを掻き出しながら問う。
﹁それは⋮⋮はい、問題ありません。それより!﹂
シャロンは説明する。
自分が先ほど見たものを。
完全武装の兵士たちが、ここへ向かっていることを。
﹁何だって? マズいぞ? 今あたし達武器が無いって。早く拾い
に行かなきゃ﹂
口内にこびり付いたどの獣の物かもわからない精液を唾と一緒に吐
363
き出しながら、フレアが言う。
﹁私達が服を脱いだ場所って、温泉の傍だったから、ここからだと
結構距離があるわ。モタモタしてる時間はなさそうね﹂
肛門に力を籠め、中を這いずるカブトをひねり出しながら、ユキリ
スが苦しげに言った。
﹁はい。早急に装備を回収し、シャスラハール王子と合流すべきだ
と思います。幸いにして数は三十騎程度でしたので、武器さえあれ
ば、私達ならば対処は可能かと﹂
シャロンは己の武勇を確認する。
特筆する所のないただの武装兵士ならば、己一人でも三十騎程度な
らば相手にできるだろう。
これはステア千人騎士団で同格だったフレアも同じ。
魔導士であるユキリスは条件が異なる為、判断はつかない。
しかし何よりも、聖騎士ヴェナ。
彼女の武勇は群を抜く。
己の上官であるステアよりも更に、その力は傑出している。
彼女の手に武器があれば、人間の兵士が群れているだけの集団など、
一捻りで血肉と化すだろう。
それゆえに、シャロンは焦っている。
﹃武器が無い﹄のだ。
この状況で敵に出会えば、最高戦力であるヴェナでさえ、ごろつき
程度の敵兵に捕えられるかもしれないのだ。
足を向ける。
下へ。
マシラスの温泉へ。
四人がいざ駆け出そうとした瞬間。
﹁おやぁ? これはこれは、捕まえる前から全裸で居てくださると
は、公娼として意識の高い方たちだ。据え膳とも言うべきかな。さ
ぁ皆さん。地面に尻を付け、脚を開いて自分の陰部をこちらに見せ
てください。笑顔で、ね﹂
364
細面の中年男が、ニヤついた声で言った。
指揮官と思われるその男の背後に、完全武装の兵士達。
山道を馬で強引に登って来たらしく、シャロンが遠目に目撃した時
と同じように馬に乗れているのは半数ほどだった。
残り半数は馬から降り、歩兵となっている。
﹁⋮⋮走って!﹂
ヴェナの叱咤と共に、シャロンは後ろを見ずに、一目散で駆けだし
た。
﹁追ってください! 捕まえた者には一番最初に使用する権利を与
えます!﹂
男の掛け声で、兵士達は歓喜の叫びを上げ、走り出した。
﹁ひぇ∼良い尻だなぁ⋮⋮俺ぁ決めた。あの金髪の子にする﹂
﹁俺はあっちだな。黒髪の短い奴。見ろよ腰がキュッとしまって、
ありゃぁ間違いなくマンコの具合が良いぜぇ﹂
﹁じゃあ俺は他三人に比べて筋肉のあんまりついてない感じの水色
髪の女が良いな。見ろよ、秀才そうな面ぁしてやがる。ああいうの
をグチャグチャに犯すのが趣味なんだ﹂
﹁まあまて。お前らの言うこともわかるが。やっぱりあのデカい乳
じゃないか? 走るたびにバルンバルン揺れてやがる。もう正直馬
の背中にチンコが擦れて出ちまいそうだよ﹂
シャロン達があえて悪路を選びながら、懸命に逃げていると、背後
から敵兵の下卑た声が届く。
彼らは幅の狭く、岩などの障害物もある騎兵にとって致命的に速度
の出ない道でも、馬から降りない。
それは、見やすいからだ。
逃走しながら、胸を揺らし、髪をたなびかせ、尻を跳ねさせる四人
の姿を堪能するためだ。
﹁もう諦めて下さいよー。貴女達の身柄はこのターキナートが心し
365
てお預かりします。命の保証ならば間違いなく。あ、でも身体の方
はこちらの自由にさせていただきますので。陣に帰るまでにたくさ
んセックスしましょうねー。兵士達にも可能ならば優しくするよう、
伝達しておきますので﹂
先頭を走る指揮官、ターキナートはそう言った。
狩猟する側の余裕。
全裸の女を、きっちりと服を着て武器まで提げた男が追う。
彼らは騎兵である。
しかしシャロンの様な騎士ではない。
騎士にあるべき高潔な魂を有していない。
金髪の下、シャロンは歯噛みする。
この様な存在に追われて、通常であれば一瞬で蹴散らせる力を持ち
ながら、ただ逃げるしかない。
恥を振りまきつつ逃げるしかないのだ。
﹁⋮⋮三人とも、聞いてください﹂
聖騎士ヴェナが口を開く。
﹁このままではいずれ追いつかれます。ここでわたくしが囮となっ
て足止めしますので、皆さんは武器を拾いに行ってください。その
後シャロンさんは王子の下へ事態の報告に、フレアさんとユキリス
さんは取って返してこちらに戻ってきてください。貴女達が戻るま
で、わたくしは死なぬよう、力尽きぬよう、闘って見せます﹂
そう言って、彼女は立ち止った。
﹁ヴェナ様!﹂
フレアが振り返って叫ぶ。
﹁行きなさい! ここで四人そろって捕縛などあってはならぬ事で
す。わたくしならばこの状態でもある程度闘えます! 急いで!﹂
ヴェナは追っ手に総身を晒し、立ちはだかる。
﹁行きましょう! フレア! 私達が武器を手にしてここに戻って
来るの! そしてヴェナ様を助けるのよ!﹂
ユキリスがフレアの手を取り、引きずるように駆ける。
366
﹁御無事で⋮⋮﹂
シャロンは噛みしめるように言って、後ろを振り向かず、大地を駆
けた。
﹁へぇ∼オッパイお化けが残ったか。残念だ⋮⋮黒髪の腰の良い姉
ちゃんはお預けかよぉ﹂
﹁まぁでもこいつでも充分遊べるって﹂
﹁そうだな。おら、仲間が逃げてる間の時間稼ぎするんだろ? さ
っさとしゃぶってくれや。一発抜いた奴から追いかけるからよ﹂
騎兵が三騎、ヴェナに近寄ってくる。
好色に顔を歪め、白刃を抜いて、ヴェナの素肌にヒタヒタとこすり
付ける。
勝者の、捕食者の笑みがそこにはあった。
ヴェナはそれに、微笑みを返す。
﹁あ? もう笑ってんのか? こりゃターキナート将軍が調教する
までも無いな﹂
﹁膣内出しの度に笑ってありがとうございますって言うようになる、
将軍のあの調教はすげぇよな﹂
﹁ひひ、でもまぁ捕まえた者が最初に使っていいって仰ってたし、
そんじゃ遠慮なく﹂
男達が馬から降りようとする。
その時、ヴェナが強烈な力で馬の首を掴んだ。
﹁わたくし、スピアカント王国本営守護を賜っておりました、リネ
ミア神聖国神事宰相様より聖騎士の号を頂く者、ヴェナでございま
す。戦場での通り名としては﹃血旋風﹄と言うものを、ゼオムント
の方々から頂いておりました。はっ!﹂
馬の巨躯が飛んだ。
ヴェナが馬の首を起点に、回転させるように投げたのだ。
その背に乗って居た者と隣に並んでいた二人の騎兵は、絶叫を上げ
367
る暇すらない。
馬を巻き込んで倒れ込みながら、彼らが最後に感じたものは、自ら
の体が上げる破壊音だった。
地面から見て、馬・人・馬・人・人・馬の順に叩き潰される。
彼らが戦場で軽食として慣れ親しんだサンドウィッチの様に、無残
な肉の塊と化す。
ヴェナは地面に落ちた直剣を手に取ると、不敵に笑った。
﹁さぁどうぞ、皆さん。こちらへ。正直に言ってわたくしと皆さん
の間には越えられぬ壁がいくつもあるかと思います。ですので、わ
たくしは裸の上、雑兵の粗悪な剣を使うという事で、どうかご勘弁
頂きたい。まぁそれでも、差は決して埋らないのですけれども﹂
ターキナートは全身に冷や汗が湧き出るのを感じた。
将軍として、幾多の戦場を駆け、猛者と出会ってきた。
その中でも、この女は傑出している。
あの騎士公娼セリスと同格かもしれない。
普通に戦って勝てるわけが無い。
﹁て、てめぇよくも仲間を!﹂
﹁許さねぇ! アイツラの弔いだ! 死体の前で死ぬほど膣内出し
してやるぜ!﹂
騎兵が二人、突っ込んでいく。
馬を使っての突進だ。
ただ立っているだけの人間が、正面から受け切れるはずがない。
﹁ふふふ﹂
ヴェナは跳躍する。
馬よりも、兵よりも高く。
そして、切り落とす。
全身の重みを借りた、強烈な斬首。
ギロチンの様に振り下ろされた剣は、二つの生首と二つの首無し死
体を生んだ。
ヴェナは微笑み、ターキナートは青ざめた。
368
﹁弓だ! 弓を使え! 相手は素肌だ! 矢が当たれば簡単に仕留
められる﹂
指揮官として、無能な男ではない。
とっさの判断で飛ばされた指示に、兵達は素早く矢をつがえ、発射
した。
﹁チッ﹂
ヴェナは舌打ちしつつ、飛び退る。
﹁射て! すぐに第二射! 射てぇぇぇ﹂
矢が雨の様にヴェナを襲う。
少なくとも二十本は、彼女の立っていた付近には届いていた。
しかし、
﹁な⋮⋮そんな⋮⋮馬鹿な﹂
﹁ふふふ﹂
ヴェナの全身は、血で濡れていた。
肌の白さと、血の赤さで、彼女の裸身は彩られていた。
しかし、その肌に傷は無い。
彼女は盾にした。
首の無い、かつて兵士であった肉塊を。
未だに血の噴出が止まないソレには矢がいくつも刺さり、ハリネズ
ミのようになっていた。
そして、投げる。
弓を構えた兵に向けて、肉塊を投げつける。
﹁うわぁ、うわあああああああ﹂
兵士は迫りくる血と肉に絶叫し、ぶつかった衝撃で落馬する。
ヴェナは近くに転がっている物を手当たり次第投擲する。
生首を、人体を、鞍を、馬を、鎧を、剣を。
気づけば、ターキナートの周りに、馬に乗った部下は一人もいなく
なった。
地にのた打ち回っている者が数名、それ以外は皆、ヴェナの手によ
り冥土に送られてしまったのだ。
369
﹁しょ、将軍! これはいったい?﹂
その時、馬術に劣り馬を降りて行軍してきていた残り半数の部下が、
追いついてきた。
しかし、ターキナートにはその部下の存在がとても頼りない。
この様な雑兵が十人と少し増えた程度で、ヴェナに勝てるとは思え
なかった。
その時、息を切らし呆然とする兵士達の向こう側に、あるものを見
た。
猩々。
知性を宿した瞳で、この状況を見守っている。
その雰囲気は、ここまでで見かけた野生の獣とは違う。
魂のある、別の存在。
ターキナートは希望を見つけた。
懐を探る。
出発前に、魔導士ゴダンから授かった奇跡の杖を。
﹁そこなる魔物よ! 我らに力を貸せ! その女を屈服させよ!﹂
ターキナートが掲げた杖に、眩い光が灯り、猩々の下へと向かった。
猩々︱︱マシラスの瞳に、支配が刻まれた。
370
闇の声が聞こえる︵前書き︶
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371
闇の声が聞こえる
いくら聖騎士が頑強で、俊敏であったところで、勝てないものは確
かに存在する。
ヴェナにとって個人での敗戦などと言う記憶は、遠いものであった。
彼女は武術の師との稽古であれ、最終的には勝利してきた。
ゼオムントとの戦争では、王宮の守りに徹し、前線に出向くことな
く敗れて公娼にされたため、地に伏した記憶は無い。
全てを刃で裂き、足で砕いて来た。
しかし、それがかなわぬ相手が存在した。
自然そのもの。
全てを踏み抜く足は泥の沼に沈み、切り裂く剣は鳥獣に奪われた。
体勢を崩し、両手を地面に突くと、それもまた泥に飲み込まれる。
肘と膝までを地中に飲み込んだ瞬間、大地は急激に冷え、固まった。
ヴェナは今、地中に四肢を拘束され、四つん這いに近い姿勢で地表
に拘束されている。
全ては、マシラス。
山の魔物を支配したターキナートの魔杖によるものだった。
﹁ひっ⋮⋮ひひひひひ。やった! やったぞ! おい、魔物! よ
くやった。捕えたぞ⋮⋮この悪魔の様な女を捕えた⋮⋮ひひひ﹂
ターキナートは頬を引きつらせて笑っている。
﹁だが、だがまだ安心できんな⋮⋮なんせあの馬鹿力だ⋮⋮地面を
割って手足を取り出すかもしれん⋮⋮おい、お前。ちょっと近づい
て探ってこい﹂
部下の一人、気弱そうな小男に命じ、ヴェナに近寄らせる。
小男はガクガクと震えながらヴェナに接近していく。
ヴェナは懸命に手足に力を込めるが、大地は固く、それを逃さない。
﹁しょ、将軍! 大丈夫のようです! こいつ、動けませんぜ?﹂
372
小男は顔面に卑屈な笑いを浮かべながら、報告する。
しかしそれでも、ターキナートは先ほどの恐怖を思い出し、疑りを
深くする。
﹁本当にか⋮⋮本当に大丈夫か? 念には念を⋮⋮だ。おい、剣を
刺せ、腕の肉を貫通させて地面と繋げ﹂
ターキナートは細い目を更に鋭くし、警戒を強める。
小男はブルブル震えながら、腰の剣を抜く。
﹁ひ、ひひ。わ、悪く思うなよ⋮⋮姉ちゃん﹂
﹁うぐっ⋮⋮﹂
突き刺す動きは、実にぎこちないものだった。
しかしそれでも、身動きできず、肌を守るものが無い聖騎士の肉を
穿つことはできた。
ヴェナの腕を貫き、大地にまで届く。
白い鋼を伝って、鮮血が降りて行く。
マシラスの補助があったからか、剣先は大地に飲み込まる。
﹁⋮⋮手足全部だ。おい、後三本あいつに放ってやれ﹂
ターキナートの指示を受け、後ろに控えていた兵達は抜剣し、それ
を小男の傍へと放る。
小男は一本を拾い、振り上げる。
﹁わ、悪いな姉ちゃん⋮上官命令でよぉ⋮⋮ホント、うへへ﹂
小男は気色の悪い笑みを浮かべながら、上から下へ、突き刺す。
﹁ぐぅぅぅぅ﹂
唇を噛み、悲鳴を堪えヴェナの両腕は、無残にも無骨な剣に貫かれ、
大地と繋がれる。
﹁じゃあ次はこっちか⋮⋮おぉ、良い眺めだぁ⋮⋮腕がちょっと下
がった分だけ、腰が浮いてマンコが良く見えるなぁ⋮⋮﹂
三本目の剣を拾いながら、小男はヴェナの尻側に回り込んで、相好
を崩した。
﹁なぁおい、ソイツのマンコはどうなってる? 今の衝撃で小便と
か漏らして無いか?﹂
373
兵達の中から声が上がる。
小男はよくよく覗き込むようにヴェナの膣口に顔を寄せ、観察する。
﹁若干マンコが開閉してるように見えるなぁ⋮⋮クパァクパァって
⋮⋮たぶん痛みに耐えてるんじゃないか? 近寄ったらわかるけど
も、結構全身に汗かいてて呼吸も荒いぜ、この姉ちゃん。お前らも
こっち来て見て見ろよ﹂
その言葉に、兵達は顔を見合す。
出来るならば恥辱の様を至近距離で眺めたいが、指揮官であるター
キナートが警戒して距離を取っている以上、自分達がおいそれと近
づくわけにはいかない。
しかし、この場で唯一馬に乗る彼らの指揮官は、それを許した。
﹁構わない。傍に言って自由にしろ。奴が拘束を解こうとした時に
即座に対応できるよう武器は携帯するように﹂
ターキナートの言葉に部下達は小躍りして囚われの聖騎士へと近づ
いていく。
﹁おぉ、良いマンコだなぁ⋮⋮楽しみだぜ﹂
﹁あぁ⋮⋮コイツに殺された仲間達の分も、思いっきり犯して辱め
てやんねーとな﹂
﹁どうせ持ち帰ったら調教師の連中が散々弄り回した後、泥臭ぇ開
拓民に使わせるんだろ。それなら俺達は今のうちにヤりまくっとか
ないとな﹂
兵達は口ぐちに言って、ヴェナの膣口の前に並んで座った。
﹁ひ、ひひ。じゃあ三本目⋮⋮行くぜぇ⋮⋮﹂
小男が剣を振りかぶり、刺す。
三本目の鋼は、ヴェナの左腿を貫いた。
﹁くっ⋮⋮あぁ﹂
ヴェナの口から声が漏れ、兵達は笑い声を上げる。
﹁おぉ、すげぇな。刺された瞬間にマンコがキュっと閉じたぞ﹂
﹁でも声が出た後はゆっくり開いたな⋮⋮﹂
﹁そんで今は開いて閉まってを繰り返してるな。はぁー。マンコっ
374
てこういう動きするんだな﹂
じっくりを視線を送り、肩をたたき合って笑う兵達。
﹁そ、そんじゃ。四本目⋮⋮﹂
小男が剣を掴もうとした時、
﹁待てよ。ちょっと試してみようぜ﹂
そう言って、兵の一人が剣を水平に構えた。
切っ先は、ヴェナの膣口。
開閉中の隙間に入り込むようにして、白刃が当たる。
ほんの僅かな剣先だけが膣に埋まり、横の刃で膣口の開閉を止める。
聖騎士の体が、堪えようのない恐怖と怒りで、一瞬揺れた。
﹁これで次右足に刺した時にマンコが閉じたら、外側が切れるんじ
ゃないか?﹂
その兵士の言葉に、周囲は再び湧いて、笑った。
﹁面白れぇな。しっかり見ておこうぜ﹂
﹁そんじゃ、やってくれ﹂
小男は頷き、剣を振りあげる。
刺す。
四回目の動作だ。
慣れた動きで突き刺し、ヴェナは虫の標本の様に、大地に打ち付け
られた。
そして、膣口に剣を当てていた男が顔を上げる。
﹁見ろよ⋮⋮。ほら、血ぃ付いてる﹂
切っ先に、僅かに付着した、鮮血。
﹁おぉ。やっぱりコイツのマンコ良い反応してるな﹂
﹁体に剣が刺さる度にマンコ締め上げるとか。変態かよ﹂
﹁でもこの分だと期待できそうだな。俺のチンコも血が出るほど締
め上げてほしいぜ﹂
兵達は下品に笑い合う。
そして、窺うようにして自分達の指揮官に視線を送る。
﹁将軍! この女を完全に拘束しました。次は、何をすればいいで
375
しょうか?﹂
期待に震える声で、彼らは問うた。
その期待に、指揮官は柔らかな笑みで応える。
﹁皆にはこの二日、強行軍を強いた。その間の皆の顔には笑顔が無
く、辛い移動だったと自分は思う。だから⋮⋮今こそ大いに笑って
ほしい。その為に、命令を下そう﹂
そう言って、ターキナートは蛇の様に鋭い目で、残忍な笑みを浮か
べた。
﹁ヤれ﹂
小男が、腰を打ち付ける。
ヴェナの秘肉に埋められた粗末な肉棒が、膣壁を擦りあげる。
その場所はすでに九回、汚精を注がれ、蹂躙されている。
とりあえず全員一回だと最初に決め、十五人の兵達はヴェナを取り
囲んでいる。
﹁どうせどんなに汚しても痛めつけても調教師に同行してる魔導士
様が傷は治してくれるんだろ?﹂
そう言って、彼らは残虐になった。
﹁ほらほら、おっぱいの揺れどうにかしねぇと、乳首裂けちゃうよ
ぉ?﹂
一人は剣を持ち、水平に伸ばす。
丁度ヴェナの豊満な乳房の先、乳首のあるすぐ傍に。
ヴェナは今四つん這いに近い体勢で後ろから犯されている為、腰の
動きと連動して、彼女の胸は振り子のように揺れる。
ゆえに、揺れた乳首がぶつかるのだ。
白刃に。
もうすでに半ばまで刃が通り、血が大地へと滴る。
﹁くぅ⋮⋮痛っ⋮⋮痛いっ﹂
乳首が徐々に切られていく中、彼女は苦鳴を漏らす。
376
しかしすぐに、その声は途絶える。
﹁おっと、お口がお留守のようだな。俺のをおしゃぶりさせてやろ
う﹂
兵の一人がいきりたった肉棒を強引に口内に突き入れ、激しく腰を
動かす。
前後から突かれ、その分激しく乳房は揺れ、乳首は千切れていく。
﹁くぅぅぅぅ。出るっ!﹂
小男が軽く痙攣し、ヴェナの膣に射精した。
彼は腰を引き、しゃがみ込んで自分の精液が無双の聖騎士の膣口か
ら溢れ出す様子を、満足気に眺めた。
﹁そういえば、姉ちゃん。俺達は姉ちゃんの名前を聞いて無いんだ
が、教えてくれるか?﹂
小男が溢れ出す精液を指で掬い、膣内へと押し込みながら、問う。
﹁⋮⋮﹂
ヴェナは、その問いに答えない。
﹁なー教えてくれよぉ。もうここまでしちゃった仲じゃないか。顔
とマンコを知っちゃったし、名前ぐらい別に良いだろぉ?﹂
ペチペチと尻たぶを叩きながら、小男は言う。
﹁⋮⋮﹂
ヴェナは、口を開かない。
﹁なぁ∼教えてくれよぉ﹂
小男はヴェナの肛門に顔を寄せ、皺に舌を這わせながら、更に問う。
そこに、
﹁あ、俺知ってるぜぇ。コイツ聖騎士ヴェナだろ? こいつの映像
円盤俺持ってるもん。確か町中の人間相手にして精液を風呂桶一杯
集めて焚いて入浴する企画モノだったな﹂
ヴェナの口を犯している兵士が笑いながら言うと、
﹁うっは。それ臭そう。そんなのやったの? お前?﹂
乳首に刃を当てている男が顔を歪めて反応した。
肛門を舐めて舌で穿り回していた小男が、チュポンと、口を引き、
377
笑みを浮かべる。
﹁ヴェナちゃんかぁ⋮⋮そうかぁ。俺はなぁ⋮⋮コノシロって言う
んだぁ。ほら、言ってみて? コノシロ君って﹂
小男︱︱コノシロは笑みを浮かべたまま、右手の平でヴェナの膣口
を撫で、左手の指で肛門を揉みながら、求める。
﹁今はさぁ⋮⋮こういう関係だけど、きっといつか俺と君は好き合
えると思うんだぁ⋮⋮。君がリトリロイ殿下の陣地で一般開放され
たら毎日通うし、いずれ⋮⋮そうだな、十年後くらいに君が飽きら
れて捨てられそうになったら俺が買うから。そして一緒に暮らそう
? 毎日種付してあげる。子供が出来て、男の子なら君が童貞を奪
って、女の子なら俺が処女を奪うの。きっと素敵な家庭になるよ﹂
コノシロはヴェナの肛門に、膣口にキスをしながら、言葉を紡いで
いく。
﹁でたよコノシロの野郎⋮⋮。こいつ普通に公娼相手に恋愛するか
らな⋮⋮一回やりすぎて付きまといまくったげく、他の男とヤって
るのを見た瞬間怒り狂って公娼を殺しちまいやがったからなぁ⋮⋮﹂
兵士達は苦笑いを浮かべる。
﹁ねぇ聞こえないの⋮⋮? ヴェナちゃん? ヴェナちゃぁん?﹂
ヴェナの膣口に頬を摺り寄せながら、コノシロは涙声を出す。
その時、口を犯していた男が肉棒を引き抜いた。
﹁きっと耳が詰まってんだろ。待ってな、俺が掃除してやるから﹂
男は素早くヴェナの側頭部に回り、己の肉棒を掴んで照準を合わせ
る。
そして迸る、白い汚液。
それらは一直線にヴェナの耳を目指し、飛んだ。
耳にかかる髪や、周りの肉に阻まれながらも、一部は確実に穴に入
っていく。
かつて味わった事の無い不快感がヴェナを襲い、身悶えするように
体をくねらせ、四肢を拘束する剣に肉を抉られ、再び血が零れ出す。
﹁あっ⋮⋮あーあ。俺しーらない﹂
378
乳首に剣を当てていた男が声を上げる。
その視線の先、今の身悶えで激しく動いた結果、乳房が剣に強く当
たり、乳首がポトリと、地面に落ちたのだった。
﹁あづっ!﹂
ヴェナは噛み締める様に声を殺し、呻いた。
﹁ねぇヴェナちゃん。お返事、お返事聞かせてよ。そうか、迷って
るんだね? じゃあ俺の良さを知って貰うためにもう一発膣内に射
精してあげるからね﹂
そう言って、コノシロは立ち上がって肉棒をヴェナの膣肉へと押し
付ける。
﹁さ、いくよ。二人の愛の為に︱︱﹂
コノシロの喉が割れる。
刃が突き立ったのだ。
そしてその刃を握るのは、黒肌の腕。
腕の繋がる先に、両目を引き絞り怒りを露わにした少年がいた。
﹁な、なんだ!﹂
今までヴェナを凌辱していた男達が立ち上がり、剣を構えようとす
る。
その時、
﹁シャス! 逸り過ぎ! 下がって⋮⋮はもういいからしゃがんで
!﹂
大剣の薙ぎが、三つの命を終わらせた。
首を、上半身を、左腕と胸を斬られた男達から、死の血飛沫が舞う。
﹁⋮⋮ヴェナを! 僕のヴェナをぉぉぉ!﹂
シャスラハールは止まらない、自分を援護したセナに振り返る事も
無く、呆然とする兵士の喉に刃を突き立て、蹴り倒して馬乗りにな
り、何度も何度も突き刺す。
﹁制圧! 制圧しろ! 浮足立つな!﹂
ターキナートから指示が飛び、兵達は構えた剣を一斉にシャスラハ
ールへと振り下ろす。
379
﹁我が王に剣を向けるなどと、万死に値する﹂
今度は、槍の旋風。
騎士長ステアが飛び込み、騎士槍において、五つの命を終わらせた。
﹁て、撤退!﹂
ターキナートは強張った顔で言い、馬首を巡らせる。
その彼の言葉に反応できる者など、居ない。
セナが、ステアが、シャスラハールが一人ずつ地獄へと送り、彼の
部下は残り二人となった。
二人ともが平伏し、命乞いを始めている。
シャスラハールは凍った目でそれを眺め、
﹁お願い﹂
絶対零度の声で傍に立つ二人の騎士に囁き、自分はターキナートの
方を向き、駆け出した。
その背後、平伏する背中から血飛沫が二つ跳ね上がった。
ターキナートは馬の尻を蹴る。
相手は徒歩。
勝てなくても逃げるだけならば、可能。
その希望のままに、彼は後ろを振り返る。
シャスラハールとの距離は、馬にして五頭分はある。
問題ない、陣に帰ってやり直せる。
彼がそう思い、正面を向いた瞬間。
影が舞い降りた。
﹁主の望みを叶える事こそ、従者の務め。参ります﹂
従者服を着た少女が、体ごと回転しながら振ってきた。
右手の刃がターキナートの額を、左手の刃が馬の額を割る。
兜に守られた彼は落馬で済んだが、馬の方は的確な斬撃で死に絶え
た。
受け身も取れず、地面に投げ出された彼の腹の上に、黒肌の少年が
飛び乗った。
短刀を振り上げ、構えている。
380
﹁ま、待て。待ってくれ。じ、自分は彼女に直接何もしていない。
部下が勝手にやったことだ。そ、それにだ。君はシャスラハール王
子だね? 反逆者として軍が君を追っている。どうだろうか? 自
分をここで見逃してくれれば陣に戻った後、君は死んでいたと上に
報告する事を約束しよう。これは君たちにとって悪い話じゃ︱︱﹂
﹁リセ、そっちの短剣を貸してくれ。僕のはさっきのでボロボロに
なってしまった。これじゃあ、コイツをキッチリ殺せない﹂
命乞いを聞き流し、シャスラハールは普段と異なる強い声で、従者
に手を向ける。
そして、短刀が両者の間で移動する。
﹁や、やめっ!﹂
ドスッ︱︱
無言で振り下ろされた短刀は、ターキナートの喉を貫き、鮮血を噴
出させた。
その血を浴びながら、シャスラハールは声を上げる。
﹁ハイネア様! ヴェナの治療をお願いします!﹂
近くの草むらから幼い肢体にドレスを着た少女が出てきて、串刺し
になっているヴェナの体に身を寄せる。
眩い光が聖騎士を包んでいる間。
シャスラハールは延々物言わぬ死体に刃を突き立て続けた。
ヴェナと別れたシャロン達は、全裸のまま山を駆け下り温泉地まで
到達した。
彼女達はそこで装備を拾い、武器を持ってヴェナに命じられた役割
を果たすつもりだった。
しかし、そこにあるべきはずの彼女達の装備が無い。
武器だけではなく、衣服も。
下着すらなくなっている。
﹁ど、どういうことだ? わたし達は確かにここで服を脱いだはず
381
だぞ?﹂
フレアが声を上げる。
﹁⋮⋮誰かここに来たっていうの? シャロンがさっき見たってい
う騎兵隊かしら?﹂
ユキリスが眉根を寄せ、シャロンを見る。
﹁いえ⋮⋮馬蹄が無い。ここに騎兵は来ていないと思います⋮⋮け
ど、だったら﹂
シャロンは地面を調べながら言い、辺りを見渡す。
その時、山の静寂が揺れた。
ゾロゾロと茂みから紫色の小さな人間のようなモノが出てきた。
幾重にも幾重にも、彼女達を取り囲むようにして、ソレらは弓やこ
ん棒といった武器を手にして立っている。
輪の奥の方に居る数匹が、シャロン達の装備を手に持っていた。
﹁これは、子鬼族⋮⋮!﹂
ユキリスが声を震わせる。
﹁子鬼? 何だそれは?﹂
フレアが問う。
﹁人間に近い成り形をしているけれど、実寸では半分以下。筋力も
かなり劣るし、頭も悪い。魔物の中でも下等な奴らよ﹂
でもね、魔導士は続ける。
﹁子鬼族で恐ろしいのは、その生殖機能と繁殖能力。分泌液にはす
べて強力な媚薬成分があり、どんな種族にも受胎させる事ができる
っていう、悪趣味な魔物よ﹂
受胎。
その言葉を聞いた瞬間、シャロンの背筋に悪寒が走った。
﹁子鬼族はすべて雄しか生まれないから、別の種族の雌を使って繁
殖するの。受精から出産までわずか半日という恐ろしい速度で産ま
せるって聞くわ、捕まったら最後だと思った方が良いかもね⋮⋮!﹂
ユキリスの声が、怯えを纏う。
一匹や二匹、十匹程度なら、素手のシャロンやフレアでどうにかな
382
ったかも知れないが、現在彼女達を囲んでいる子鬼の数はゆうに千
を超える。
その上相手が武装しているとなると、勝算は一層低くなる。
﹁どうすれば⋮⋮この状況を切り抜けられる⋮⋮﹂
シャロンは歯噛みした。
しかし、そうしている最中にも、一歩ずつ子鬼達は迫ってきている。
その時。
﹃お困りのようね﹄
声が聞こえた。
女の、どこか愉しげな声が。
﹃もし良かったら、助けてあげるけど? どうする?﹄
声は、足元から消えていた。
三人が立つ位置の丁度中間に、いつの間にか昏い闇の輪が広がって
いて、そこから声が聞こえているのだ。
﹁な、なんだ? これ﹂
フレアが驚きの声を上げる。
﹃もし助けて欲しいのなら、この輪に飛び込んで来て。まぁこのま
ま子鬼達の母胎になりたいって言うのなら、それでも構わないけど
ね﹄
闇が、そう言った。
﹁貴女は⋮⋮何者ですか?﹂
シャロンは問う。
﹃そういうのは、中で話してあげるわ﹄
闇が答える。
﹁シャロン、この闇から⋮⋮かなり強力な魔力を感じる。念の為だ
けど、一応言っておくわ﹂
ユキリスの声に頷いてから、シャロンは仲間達を見る。
﹁⋮⋮行きましょう。今は、この闇に賭けるしかない﹂
その言葉に、フレアとユキリスは頷きを返した。
三人が、全裸の体を揺らして、闇へと飛び込んでいく。
383
三人の姿が消え、子鬼族の間に動揺が走った時、
﹃フフフフ。来たわね⋮⋮これから面白くなりそう⋮⋮。そうだわ、
ちょっと数匹借りていくわね。返すかは、わからないけどね﹄
闇が広がり、十匹ほど子鬼を飲み込んだ。
そして一瞬の後、跡形もなく闇は消え去り、山の静寂中、呆然とす
る子鬼達だけが残った。
384
甦る︵前書き︶
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385
甦る
白い裸体が三つ、闇の世界に落ちていく。
果てのある闇。
四角に切り取られた有限の世界。
しかしそれだけしかない場所。
三人にとっては広くても、人間が万いれば入りきらないだろうとい
う、そんな空間。
シャロンは、フレアは、ユキリスは地面に降り立つ。
地面もまた、昏い闇。
硬い闇。
全てが暗色で作られた世界に、三人はいる。
﹁ここは⋮⋮﹂
シャロンは辺りを見渡す。
﹁この場所そのものが魔法⋮⋮そう思っていいわ﹂
警戒し、額に汗を浮かべるユキリスが言った。
﹁なっ⋮⋮魔法の中にいるだと? 大丈夫なのか?﹂
魔導士に向け、声を放つフレア。
しかし応えは、別角度からやってくる。
﹁大丈夫よ。ここはただの閉鎖世界。ワタシの魔法︱︱﹃陰宮﹄に
誰かを傷つける力は無いわ﹂
三人から見て、上。
四角に区切られた闇の世界に浮かぶ女がいた。
肩から生えた両の翼をはためかせ、空間に君臨する。
病的に白い肌に、胸と股間を隠すだけの扇情的な衣装を纏った女。
髪は緩く癖のついた黒で、瞳は金、その下に呪術的な隈取りを施し
ている。
女は笑った。
386
﹁ようこそ、人間族の性欲の捌け口達。ワタシの名はラグラジル。
昏き翼のラグラジル。かつてこの魔物の領域で覇を唱えた者。本来
ならば貴女達の様な薄汚れた子種壺を相手に口をきいてあげる身分
でも無いのだけど、此度は特別。心行くまで語り合いましょう﹂
尊大に、見下ろすように。
ラグラジルは言った。
その言葉に、フレアが反目する。
シャロンはそれを抑えながら、口を開く。
﹁ラグラジル。ひとまず窮地を救ってもらった事には感謝します。
騎士として万礼を尽くしたいところですが、今我々にはやらねばな
らぬ事があり、事は一刻を争うのです。この場所から出していただ
けませんか?﹂
その言葉に、ラグラジルは薄く笑んだ。
﹁やるべき事⋮⋮とは、彼女を救う事かしらね﹂
左手を水平に上げる。
するとそこに、鏡が生まれた。
豪奢な縁取りを施した、人間が二人縦に並んでも収まりそうなほど
巨大な、鏡。
鏡面は三人の方を向いているのに、そこに映るのは三人の裸体では
なかった。
﹁ヴェナ様!﹂
﹁そんな⋮⋮﹂
フレアとユキリスが声を上げる。
鏡面に映し出されたのは、四肢を剣で刺し穿たれ、地面に拘束され
たまま、下卑た笑いを浮かべる男達に凌辱される聖騎士ヴェナの姿
だった。
﹁もう間に合わないわ。彼女はここで全身をボロボロにされながら
犯されて、人間族の集落に連れ帰られて、一生を性欲処理の道具と
して過ごすの。運命とは、そういうもの﹂
ラグラジルは鏡を面白そうに眺めながら、言い放った。
387
﹁そんな事は⋮⋮貴女の決める事ではない! 急いでここから出し
てください! 私達はヴェナ様を救いに行きます!﹂
シャロンは烈火の如く怒り、ラグラジルに指を突き立てる。
しかし、見下ろす昏き翼は揺るがない。
﹁別にそれでも良いけれど。今の貴女達の恰好を見て見なさいよ?
この局面に今の貴女達が介入したとして、男達を喜ばせる穴が増
えるだけなんじゃないの?﹂
武器が無い、魔導における道具も無い。
衣服すら無い。
全身が露出し、まだ局部を隠しているラグラジルの方が文明的な姿
だった。
﹁⋮⋮私達には無理でも、セナ達に合流できれば、向こうは全員武
装しています! ヴェナ様を救うことは十分可能です!﹂
別行動をとっている仲間達と合流し、急いで駆け付ければ間に合う
はず。
言葉にしたくは無いが、兵士の一団がヴェナの肉体を夢中で犯して
いる今なら、追いつく事は不可能ではない。
﹁そうね、貴女達には他にも仲間がいたわよね。見ていたわ。最初
から、最後まで﹂
ラグラジルは喉を掻いた。
﹁この山に入ってからじゃないわ。貴女達が人間族の作ったあの大
きな門からこちらの領域にやって来てからずっと、ワタシは見てい
たのよ﹂
瞬間、ラグラジルの背後に無数の鏡が生まれた。
鏡が映すのは、これまでの軌跡。
シャロンやユキリスが、ステア達と共に四つん這いの姿勢で尻を並
べ、ユーゴ相手に犯されている姿。
フレアがアミュスやヘミネ、マリスと共に主人役の男の肉棒を四人
で舐め上げている姿。
シャスラハールとヴェナがシュトラ達に己の目的を告白している姿。
388
公娼を肉の鎧として使用したベリスとの戦い。
川の中央で恥辱の船に乗せられ死にかけたヒュドゥスとの戦い。
﹁ずっと見てきた。貴女達の姿を。貴女達は知らないかもしれない
けれど、ワタシだけじゃない、人間族の魔導士も魔物を使役して貴
女達の事を監視していた。けど今、貴女達は三組に分かれた。魔導
士の監視は要注意対象である黒肌の王子に定まっている。人間族の
兵士はこの哀れな騎士に夢中。今の貴女達はワタシ以外の誰にも見
られてはいない。だから好機﹂
ラグラジルは陰惨な鏡像を背にして、両手を広げる。
﹁ワタシの話を聞きなさい。そして、力を貸すのです。見返りにワ
タシは貴女達にこの世界の真実をいくつか話してあげる。どうかし
ら?﹂
提案。
人間と似た姿をしているが、いくつもの魔法を同時に展開するだけ
の魔力を持ち、圧倒的な威圧感を放つラグラジルの求めは強要に近
かった。
武器を失い、地形そのものが相手の魔法。
恐らく自分達の命運は、この昏い存在に握られているのだろう。
抵抗や拒絶をすれば何をされるか、酷い辱めを受けるかもしれない
し、呆気無く殺されるかもしれない。
しかし、それでもシャロン達には成すべき事があった。
﹁⋮⋮ヴェナ様を、救う。まずはそれを果たさない事には、私達に
語り合う時間などは無いのです﹂
騎士の強い視線が、空間の主を貫く。
ラグラジルはため息を吐いた。
﹁ふぅ⋮⋮仕方がないわね。強制的に言う事を聞かせるのも無理で
はないけれど、あまりに優美さに欠けてしまう。少しだけ、手伝っ
てあげるわ﹂
ラグラジルは右手を振るう。
また一枚、鏡が生まれた。
389
そこには、シャスラハールやセナ達の姿。
一度脱ぎ散らかした衣服を再び纏っている光景が映し出された。
﹁姉上達の方には敵兵は向かっていなかったようだな⋮⋮﹂
フレアが騎士服を身に着けていく姉の姿を見つめながら、一つ息を
吐いた。
﹁マシラスの呪いもちゃんと解けたようね﹂
シャスラハールの落ち着いた表情を見て、魔導士であるユキリスは
事態の解決を確認した。
鏡の中、衣服を合わせていくシャスラハールの耳元に、突如小さな
昏い闇の渦が生まれる。
先ほどシャロン達をここに連れてきた闇の輪をそのまま小さくした
ものだ。
そして、シャロンの口元にも同じ闇が生まれる。
咄嗟に一歩下がる彼女に向け、ラグラジルはせせら笑った。
﹁警戒しないで。ソレは無害よ。単にコチラとアチラの音を結ぶだ
けの通り道。さぁ、報告するんでしょ? さっさと済ませて﹂
口元で蠢く闇。
シャロンはユキリスへと視線を向ける。
魔導士は無言で頷き、ラグラジルの言葉が真実だと教える。
﹃殿下。シャスラハール殿下﹄
シャロンは澄んだ声を放つ。
鏡の中で、黒肌の王子が驚き、視線を左右に向ける。
﹃シャロンさん? ど、どこから?﹄
その疑問も無理はない。
しかし悠長に説明していられるほど、事態は穏やかでは無いし、ラ
グラジルの気まぐれがそう長く続くとも思えない。
故にシャロンは本題のみを告げる。
﹃シャスラハール殿下。お急ぎください。ヴェナ様が敵兵に囚われ
てしまいました。私とフレア、ユキリスは無事ですが装備を失い、
救援に向かう事が出来ません。場所は山の中腹辺りの開けた所です。
390
そのまま真っ直ぐ山を登ればたどり着けるはずです。お急ぎくださ
い、殿下。どうか私達に代わって、ヴェナ様をお救い下さい﹄
その声が届いた瞬間、シャスラハールは弾かれた様に動き出した。
胸元の短刀を引き抜き、瞳を引き絞って唇を噛み、足を動かす。
﹃ちょ、ちょっとシャス! どこ行くのよ?﹄
セナが慌ててその背中を追い、駆け出す。
ハイネアとリセがそれに続き、ステアが最後尾に立って進もうとし
た時、シャロンは再び声を送る。
﹃騎士長! 私です﹄
丁度先ほどシャスラハールが立っていた位置を通り過ぎようとした
ところで闇の渦を発見し、それを見つめながらステアは口を開く、
﹃シャロン⋮⋮?﹄
﹃はい。事態は一刻を争うので、殿下には手短にしかお話出来ませ
んでしたが、今現状で私達はそちらに合流する事がかないません。
武器も無く、自分が立っている場所すら不明な状況です。ゼオムン
トの兵がこちらに向かってきた以上、一刻も早くその場所を離脱す
るべきですが、それに間に合うかもわかりません﹄
﹃敵兵が、来ているだと?﹄
騎士長ステアが声を漏らす。
﹃はい、山の中腹でヴェナ様が交戦し敗れたようです。今は魔物の
気まぐれでそちらと話す事が出来ていますが、今後どうなるかは全
くわかりません。ですので、貴女の参謀として進言いたします。ヴ
ェナ様を救出後、速やかに移動してください。私達を待つ必要はあ
りません。こちらはこちらで、必ず追いつきます﹄
シャロンの冷静な声に、ステアは頭を掻く。
﹃まったく⋮⋮何が何だかさっぱりわからない⋮⋮。君の言葉だけ
が聞こえる事も、その内容もだ。だが、わたしの右腕、参謀として
仕えた君の進言を今更疑う事は無い。必ず、必ず追いついて来てく
れ。シャロン。どんな屈辱に、痛みに遭ったとしても、生きてわた
しの隣に戻って来てくれ。君とわたし、そして仲間達が居れば必ず
391
取り戻せるんだ。国も、騎士としての誇りも。命令するよ、シャロ
ン。死なないでくれ﹄
鏡に映る騎士長は、柔らかな表情でそう言った。
シャロンは応える。
﹃了解、しました﹄
そう言った瞬間、口元の闇が消え、鏡が割れる。
﹁もう良いかな?﹂
ラグラジルが酷くつまらなそうな表情で、浮かんでいる。
突如その眉間に、怒りの皺が刻まれていた。
﹁さっき⋮⋮貴女なんて言った? ワタシの事⋮⋮﹃魔物﹄って言
ったかしら⋮⋮?﹂
ラグラジルの翼が戦慄く。
﹁このラグラジルを、有象無象の糞虫どもと一緒くたに、﹃魔物﹄
と表現したかしら﹂
その瞳が、苛烈に煌めく。
﹁⋮⋮えぇ、そう言いましたよ。ラグラジル。何か気に障りました
か?﹂
シャロンは気迫に呑まれぬよう、あえて強気な態度を取った。
﹁障るも何も⋮⋮有ってはならない事だわ。かつてこの大地を支配
し、全てを管理したこの全能たるラグラジルを、よりにもよってそ
こらの低俗な虫けらと同様に﹃魔物﹄と呼ぶだなんて﹂
ラグラジルの翼から、瘴気が零れ出す。
﹁一度⋮⋮話をする前に思い知って貰おうかしら。このラグラジル
の恐ろしさを。貴女達という汚れた存在の醜さを﹂
闇の中、一層の昏い波動が、三人の裸身を包んでいく。
﹁⋮⋮待って⋮⋮何よこの魔力⋮⋮こんなので攻撃されたら⋮⋮命
どころか肉片すら残らないわ⋮⋮﹂
魔導士であるユキリスが、怯えと絶望の声を漏らす。
﹁心配ないわ⋮⋮。今のワタシには、直接相手を攻撃する魔法なん
てものが、使えないもの。それらは全部、﹃天使﹄であるラクシェ
392
とアン・ミサに奪われたから。ワタシに残されたのは、闇と幻影を
操作する﹃悪魔﹄として生まれ持った能力だけ﹂
ラグラジルは両腕を広げる。
闇がどんどんと昏く、濃くなる。
﹁ラクシェ? アン・ミサ? 天使だの悪魔だの、一体何を言って
いる?﹂
フレアが身に伸し掛かってくる闇を振り払いながら、問う。
﹁ワタシにとって虫けらである魔物。それよりも遥かに弱い人間に
飼われ、その汚れた情欲を発散させるだけの為に生きている貴様ら
公娼如きに、己の全てを語る必要など、有ろうはずも無いけれど、
勘違いされたままではワタシの沽券に関わる。故に、名乗りましょ
う﹂
ラグラジルの闇が、三人の全身を飲み込んだ。
﹁西域の魔天使ラグラジル。アン・ミサにより翼を汚され、ラクシ
ェにより力を奪われたかつての管理者。魔を総べる者。今はこのよ
うな力しか残されてはいなくとも、貴様らに対しては打ってつけの
魔法を、味わってみるがいい﹂
シャロンは虚空にいた。
相変わらずの総身を晒した全裸で、昏い空間に閉じ込められている。
フレアやユキリスの姿は無い。
不意に、空間に別の存在が浮かび上がった。
﹁え⋮⋮なんで⋮⋮お前は⋮⋮死んだはず!﹂
シャロンの口は、呆然と動いた。
今彼女の目の前に立つのは、友の父親。
汚れた凌辱者
﹁ユーゴ⋮⋮!﹂
かつてシャロンの体を汚し、貪った男が、いやらしい笑みを浮かべ
て立っている。
393
その背後に、数字が生まれた。
シャロンから見て左から、
7
8
4
3
7843という数字。
シャロンには理解できない。
そこに、どこからかラグラジルの声が届く。
﹃その数字に見覚えはない? まぁ無いでしょうね。貴女の脳は憶
えていない事でしょうし。でも、貴女の膣が憶えていてワタシに教
えてくれたの。貴女の子宮へと続く入り口を通った肉棒の総数をね﹄
愕然と震える。
ユーゴの背後に、次々男達が闇から生まれた。
顔を知っている。
かつて、自分を犯した男達だ。
﹃性交の数とは違うわよ。あくまで貴女の膣に挿入した事がある男
達を幻影として召喚したの。大丈夫、時間は止めておいたわ。貴女
には無限に感じられるかもしれないけれど、現実世界ではほんの数
分の出来事。戻ってきて精神が壊れてなかったら、またお話しまし
ょ。それじゃ心行くまで、思い出すと良いわ。自分がかつて、誰に
犯されてきたのかっていう事をね﹄
ラグラジルの言葉は途切れ、シャロンは怯えの声を漏らした。
どの顔にも、憶えがある。
どんな辱めを受けてきたのかも、記憶している。
そして、これから自分がどのような目に合うかも、予測できてしま
った。
﹁いやああああああああああああああああああ﹂
幻影の凌辱者達が、一斉にシャロンへと襲いかかった。
394
ラグラジルは三人を黒い繭で覆い、魔法によってそれぞれに絶望の
記憶を思い出させている。
この魔法は与えられた数字の数だけ肉棒を思い出す事で解除される
が、自分にとっては数分の出来事でも、中に閉じ込められた彼女達
にとっては永遠にも等しい苦痛となるだろう。
その間、若干暇が生じる。
暇つぶしに、ラグラジルは興の乗る映像を探し、魔力で探知をかけ
る。
一つ、彼女の無限のネットワークに引っかかった。
その映像を魔法の鏡で映しだす。
そこは、川べり。
大きな川のすぐ傍。
﹁ここは⋮⋮下等なマルウス族の集落の辺りだったかしら﹂
映像の視点は、川から少し離れたところで止まった。
一人の女が木陰に隠れている。
黒いドレスに同色の髪をポニーテールにして流した、曲剣の少女。
﹁あら。この子。生きていたのね﹂
ラグラジルは記憶を辿っていく。
これまでずっと公娼達の動きを追ってきた中で、何度か見た少女の
名前を。
今は人間族の集落で肉奴隷をしている二人の公娼の仲間で、美しき
友情の名の下に逃がされた少女。
マリス。
鏡はその背中を映していた。
395
釣り餌︵前書き︶
間が空いてしまって申し訳ないです。
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
396
釣り餌
﹁ふぅん⋮⋮しばらく姿が見えないと思っていたら、こんなところ
で油を売っていたのね﹂
ラグラジルは魔法で取り出した肘掛付きの椅子に座り、これまた虚
空から取り出した血色の酒をグラスに注ぎながら、映像へと視線を
送る。
黒髪のマリスが、川べりで何をしているか。
﹁少し、観察してあげる﹂
マリスは息を殺し、木陰に潜む。
瞳は大きく開かれ、一点を注視する。
マルウス。
今自分が身に纏うドレスを作った西域の職人魔族。
人間に対し友好的で、アミュスとヘミネと共に訪れた際も歓迎され
た記憶がある。
彼らが今、二十匹ほど川べりに立っている。
ただ立っているだけではない。
三、四人で一組になり、釣竿を握っている。
小さな体で懸命に竿を操り、川の中に投げ入れた餌を動かす。
餌。
釣竿から伸び、釣り糸の先、釣り針に取り付けられているのは。
公娼だった。
マリスは知っている。
シャスラハール王子とその仲間。
僅か数時間で道を違えた連中ではあるが、その中に居た青髪の騎士
他五名が、生きた餌として川に投げ入れられているのだ。
397
時折息継ぎの為に水中から顔を覗かせる彼女達の鼻に鉤状のフック
が取り付けられ、釣り糸と結ばれている。
﹃ぼくたち さんひきめ たいりょう たいりょう﹄
﹃なにおー まけないぞぅ﹄
﹃えさ が わるい こっち の えさ よわい くそおんな﹄
マルウス達は五組に分かれ、釣り対決をしているようだ。
公娼を餌に、釣る相手とは。
﹃ほらほらー ばかな ひゅどぅす が また つれた﹄
魚人型の魔物が、水中で青髪の騎士に切り殺され、抱きかかえられ
て川辺へと打ち上げられた。
﹃おい ほきゅう の じかんだ﹄
マルウスのうち一体が言って、彼女の鼻に取り付けられたフックを、
竿を利用して引く。
﹁あぐっ⋮⋮はい﹂
女は苦痛に顔を歪めながら、水面から姿を現す。
マリスは記憶を探り、その人物の名前を思い出す。
シュトラ。
シャスラハール王子の傍に仕えていた青髪の騎士。
青髪から滴る水滴。
鼻に取り付けられた残酷な鉤。
そして、陰部に嵌められている奇怪な器具。
鉄製の四枚羽根が絶え間なく回転し、虚空を掻き回している。
﹃すくりゅー べんり みずのなか でも ひゅどぅす より は
やく うごける でもほきゅう めんどう﹄
マルウスの一体がそう言ってシュトラの尻を叩く。
シュトラは抵抗を見せず、素直に腰をかがめ、地面に両手をついて
尻を突き出す。
マルウスの顔の正面に、シュトラの肛門。
﹃すくりゅー﹄から伸びた管に繋がれゴム製の栓で蓋をされたその
部位を、ネズミ達は乱暴に扱う。
398
一体が管を掴み、力任せに引き抜く。
一体が栓を掴み、シュトラの白い肌にこすり付け、汚れを落とす。
そして一体。
ドロドロの黒い液体を詰め込んだ注入器を構え、その先端を肛門の
内側に押し入れていく。
﹃ねんりょー ほきゅー﹄
器具から押し出された液体が、シュトラの体に飲み込まれていく。
本来有ってはならない、人体の出口からの異物混入。
青髪の下、シュトラの顔が歪む。
苦しさか、屈辱か。
やがて、チュポン︱︱という音と共に、注入器が抜かれ、すぐさま
素早い動作で肛門に再び栓がされる。
﹃それじゃ︱ もういっかい いってこい ひゅどぅす は ぼく
ら を いじめる わるいやつ ねだやしに するんだー﹄
マルウスはシュトラの股間に生えた﹃すくりゅー﹄の位置を微調整
して、しっかりと嵌っていることを確認し、再び尻を叩く。
﹁⋮⋮はい﹂
シュトラは苦しげな表情のまま、水面に近づき、そのまま身を投げ
る様にして飛び込んだ。
マリスは息を殺し、木陰に潜む。
その右手は、曲刀の柄を握った。
﹁へぇ⋮⋮あのクソネズミちゃん達こういうことしてたのね⋮⋮。
多少知恵が回る代わりに、西域で最も弱い部類の体しか持っていな
いから、ヒュドゥスなんてゴミクズ魚類に虐げられてたけど。公娼
を使って恨みを晴らそうというのね。ついでに自分達好みの遊びも
覚えたようだし。良いじゃない。少し興味がわいて来たわ⋮⋮おっ
と﹂
ラグラジルは言葉を区切り、愉しげに笑いながら後ろを振り返る。
399
音がしたのだ。
彼女が施した闇の繭から人が一人、ドサッ︱︱と落下する音が。
﹁おかえりなさい。どうだった? 気持ちよかったかしら?﹂
視線の先に、金髪の騎士。
シャロンが床に尻を付け、両膝を曲げる様にして座っている。
瞳は虚空を見つめ、涙を流し。
乳房は震え、陰唇は大きく開いている。
呼吸は荒く、ラグラジルへの応答は無い。
幻影による凌辱ゆえに、精液などの付着物こそ残っていないが、そ
の様は間違いなく、嵐の様な輪姦を受けた哀れな公娼そのものであ
った。
﹁それにしても意外だったわ。三人の中で貴女が一番数が多かった
のに、最初に出てくるなんて⋮⋮残り二人は何をやっているのかし
らね﹂
ラグラジルは放心したままのシャロンに近づき、壊れ物を包むかの
ように抱きかかえる。
慈愛を浮かべた表情でシャロンを見つめると。
そのままゆっくりと歩きだし、元居た椅子へと戻る。
まずは自分が腰を下ろし、椅子にしっかりと座りこむ。
その上でシャロンを横抱きにして支える。
﹁よしよし⋮⋮よく頑張ったわね。ほら、これから面白い見世物が
あるわよ。一緒に見ましょうね﹂
シャロンの髪を撫で、彼女にも見易いようにマリスの映る鏡の位置
を調整する。
﹁貴女のお仲間が、今どんな悲劇に見舞われているか。一緒に見て
いきましょう﹂
そう言うと、ラグラジルは虚空に手を伸ばし、何かを掴み取った。
闇を凝縮して作られた、醜悪なる疑似男根。
マルウスの使う器具にも似ているが、確かな物質であるそれとは異
なり、ラグラジルの握るこれは蠢いている。
400
﹁退屈しないように、貴女の事を可愛がってあげるわ⋮⋮﹂
ラグラジルは闇のペニスをシャロンの膣口に押し当て、ゆっくりと
優しく挿入した。
シャロンは一瞬背をのけ反らせ、反応を示す。
﹁あっ⋮⋮﹂
意識が、その瞳に宿る。
﹁ほらほら、お仲間が戦うわよ?﹂
ラグラジルはあくまで優しく丁寧に、シャロンの膣を犯し始めた。
マリスは曲刀を握り、躍り出す。
瞬殺するのも容易い、マルウスなど所詮下等な魔物だと、以前にア
ミュスから聞いていた。
曲刀は舞い、ネズミの体を引き千切る。
その予定だった。
しかし、切っ先は肉を裂く事無く、ギリギリのところで止まった。
﹁なんで⋮⋮?﹂
マリスは呆然と呟く。
今自分の曲刀を前にして両手を開いて立ちふさがっている相手に向
けて。
水滴を纏った裸。
鼻には屈辱の鉤。
股間には非道の羽根。
瞳には涙を浮かべたシュトラが、マリスの剣の前に立ちはだかって
いた。
武器も無く、防具も無く。
死んで当然のような有様で、彼女はマリスと正対していた。
﹁わかんない⋮⋮わかんない!﹂
マリスは曲刀を引き、後ろへ飛び退る。
その時、小さく言葉が響いた。
401
シュトラの口が、発した。
﹁⋮⋮お願い、殺して﹂
402
雌車︵前書き︶
またまた期間が空いてしまい申し訳ないです。
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
403
雌車
弱く儚い。
シャロンの意識は辛うじて己を保てる程度にしか残っていなかった。
凌辱の記憶を生生しい行為付きで再現される。
ラグラジルの施した闇の魔術により、これまで自分の膣を犯した人
間を幻として出現させ、今一度犯されるという気が狂いそうなほど
に残酷な行い。
永遠にも思える時間を乗り越え、耐え忍び、シャロンは意識を取り
戻す。
自由の利かない体をラグラジルに抱きかかえられ、膣には蠢く何か
を突き立てられている。
不快な衝撃が子宮を突き上げる度に、己の意識が覚醒していく。
真っ先に思い出すのは、敬愛する上官の言葉。
﹃死なないでおくれ﹄
どんな屈辱も、痛みも、取り戻せるとステアは言った。
ならば、今ここで心を砕け散らせて良いわけが無い。
瞳に輝きを、腕に力を。
ラグラジルの甘い凌辱を振り払おうとした瞬間。
鏡が視界に入る。
映像。
鏡像。
映っているのは自分ではない。
黒髪をポニーテールにした少女の苦渋に満ちた表情と、その視線の
先にある、青髪の騎士が浮かべた絶望の涙。
﹁シュトラ⋮⋮さん?﹂
かつて、短い間ながら行動を共にした仲間の騎士。
彼女が浮かべた深い絶望に、シャロンの心は再び震える。
404
﹁殺してって⋮⋮わかんない、わかんない!﹂
マリスは川辺を離脱し、背の高い木に登り、その葉群れに隠れる様
にしてマルウス達の様子を見ながら歯噛みした。
自分は純粋に助けようとした。
非道を行われている同胞を救おうとした。
マルウス族は知恵と手先の器用さで生き延びてきた小狡い生き物。
ならば自分の曲刀でいとも容易く八つ裂きにできたはず。
それなのに、裸に剥かれ、恥辱を強要されながらシュトラは彼らを
庇った。
命を犠牲に。
いや、命を捨てに。
﹁殺せば良かったのかな⋮⋮斬れば良かったのかな⋮⋮﹂
マリスにはわからない。
シュトラを殺し、マルウスを殺しつくす事など、あの場所ではほん
の一瞬で実現できた事だろう。
﹁アミュ姉ぇ⋮⋮ヘミネちゃん⋮⋮命令してよぉ⋮⋮マリスはどう
したら良いか、教えてよぅ⋮⋮﹂
自分を逃がすため、敵中に留まった仲間の事を思い出す。
今頃二人はどうしているだろうか、辱められているか、殺されてい
るか。
辱められた後に殺されているか。
出来れば、あの後すぐに二人が死んでいる事をマリスは望む。
マリスは傭兵であり、義も真も無く人を殺す事を家業とした人間だ
った。
故に、命の価値など非常に脆い。
あの優しかった二人が苦しめられ辱められるくらいなら、いっそ死
んでいてくれた方が幸せだろうと。
それが幼い日から人に命令されて命を奪い続けてきたマリスの優し
405
さだった。
強靭な意志を持てず、ただ目標を殺すための﹃刀﹄として育てられ
てきた自分には、﹃持ち手﹄が必要だった。
それが、アミュスとヘミネ。
ゼオムントととの戦争で傭兵として駆り出され、雇い主の降伏と共
に虜囚となり、流れのままに公娼の身分を与えられ、つい先日まで
肉体を捧げる事だけで生き続けて、﹃刀﹄としての自分を失いかけ
ていたところに、こちらを掴んでくれた二人の手。
反逆の機会を。
復讐の一刀を。
しかしマリス達は敗れ、二人は囚われた。
今のマリスはただ野晒しに戦場に放り棄てられた一本の﹃刀﹄に過
ぎない。
﹁どうすれば⋮⋮良いの?﹂
マリスはただ呆然と、見つめる。
﹃持ち手﹄を失った﹃刀﹄はただの鉄くずに過ぎない。
シュトラを見つけた時、マリスは考えたのだ。
﹁あの人なら、マリスを使ってくれると思ったのに⋮⋮﹂
しかし、違った。
﹃殺して﹄
そう言って泣かれた。
﹁わかんないよ⋮⋮﹂
マリスの視線の先、マルウス達が乗車した。
馬車でも牛車でもない。
雌車に。
﹁マルウス、マルウス! 貴様ら! 貴様らぁぁぁぁ!﹂
シャロンはラグラジルの膝の上で、全身を反らして叫んだ。
膣内には相変わらず蠢く衝撃を感じるが、それすら気にならないほ
406
どの怒りが彼女を突き動かした。
﹁あらぁん、起きたの? おはようシャロン。目覚めからいきなり
お元気ね、でもあんまり暴れないで、痛いじゃない﹂
ラグラジルはシャロンの頭を押さえながら、魔力を迸らせる。
﹁お仕置きよ﹂
闇のペニスを肥大化させる。
表面に泡立つイボを乗せ、銛のように先端を鋭く返しを広く変形さ
せる。
﹁あぐぅぁ﹂
急な衝撃に息を詰まらせ、シャロンは体を折る。
﹁そうそう。大人しくしていてね。そうすれば貴女は気持ち良くて、
ワタシは良い手慰みになるわ﹂
無遠慮に出入りする闇のペニス。
膣口は大きく開き、淫猥な音が辺りに響き渡る。
それでも、シャロンの瞳が向かう先は、ラグラジルでも己の股間で
もない。
鏡。
そこに映る、雌車。
箱型の荷台に二つの車輪をつけ、牽かせる車。
木で出来た荷台に三体マルウスが乗り、一人が馭者台に乗り込んで
細い棒を手にする。
荷台から伸びた縄が行きつく先に。
﹁シュトラ⋮⋮﹂
両の太腿、両の乳房、首。
黒く太い縄が青髪の騎士の白い肌に巻きつき、車を牽引させる。
四つん這いの姿勢で車に繋がれたシュトラ。
その視界を覆うように黒い目隠しが巻かれている。
﹁あらあら、どうしてマルウスは目隠しなんか着けさせているのか
しら。普通馬だって牛だって車を牽く時は視界が明いてるものよね﹂
ラグラジルが楽しげに笑う。
407
その言葉にシャロンは苛立ちを覚えながらも、同意する。
どうして目隠しなのか。
その答えは、あまりに残酷だった。
﹃それじゃー かえろー おうちに かえろー﹄
馭者役マルウスのカン高い声が聞こえ、荷台にいる三体が﹃おー﹄
と返した時、シュトラの体が震えた。
四つん這い故に突き出す形になっていた尻、その中央にある肛門に、
馭者マルウスの持つ細い棒が刺さった。
棒の先端から拳一つ分程度が肛門の内側に収まり、ゆっくりとシュ
トラは動き出した。
四つん這いのまま、右手で目の前の地面の安全を確かめ、左手を進
め、足を続ける。
暗闇のまま、雌車として動き出す。
﹃つぎ つぎ みぎ まがったほうが ちかい よ﹄
﹃はいはーい みぎみぎ みぎぃ﹄
少し進んで、分かれ道の様な場所に到達した際に、荷台から一体が
声をかけ、馭者が頷く。
馭者の手首が回った。
シュトラの肛門に突き立った棒が、腸壁をなぞる様にして右回りに
動かされる。
するとシュトラは進路を変え、右に向いて動き始める。
それはまさしく、馬や牛と同じ、言葉の通じない家畜と同様の扱い。
視界を奪い、声をかける事すら厭い、粗雑な棒で肛門を擦る事によ
って雌車を操る。
マルウス族と言う存在の残忍さを表す一幕だった。
﹁シュトラ⋮⋮それじゃあ⋮⋮他の者達も⋮⋮﹂
シャロンの声は絶望に揺れる。
シュトラの雌車を先頭に、残り四台シャスラハール組でありマルウ
スの里に残った公娼達が雌車として続いていく。
後三人、足を負傷した者達も里には残して来ていたので、恐らくは
408
彼女達も似たような目に遭っている事だろう。
騙された。
マルウス族に騙された。
シャスラハール王子が正しかった。
﹁私達が判断を間違ったばかりに⋮⋮シュトラ⋮⋮みんな⋮⋮﹂
シャロンは顔をラグラジルの剥き出しの太腿に押し付け、視界を塞
ぐ。
見ていられなかった。
自分達が無能だったばかりに、今同胞達は肛門で操作され車を牽い
ている。
もしかしなくとも里ではもっと酷い目に遭っているだろう。
それ故の、﹃殺して﹄
﹁まぁまぁ、落ち着きなよシャロン。よしよし﹂
よしよしと言いながら、膣に闇のペニスを出し入れするラグラジル。
凶悪な形状をとったソレは抉り込むようにシャロンの膣口を嬲って
いく。
﹁それでぇ⋮⋮ふぅむ、マリスは動かないか⋮⋮ボーっと見てるだ
けじゃ面白くないわねぇ⋮⋮。そういえば、後二人は随分遅いわね
ぇ。何をやっているのかしら﹂
シャロンと同じくラグラジルに捕えられた二人。
ミネア修道院の劇毒と狂奔の魔導士ユキリス。
リーベルラント騎士国家の百人長フレア。
二人はまだ闇の繭から出てこない。
ラグラジルは乱暴にシャロンを放り出すと、ゆったりとした足取り
で繭へと近づいていく。
繭に手を当て、目を閉じる。
シャロンには中の様子を覗いているように見えた。
﹁ふふっ⋮⋮なるほどね。そうよね、そうするわよね。普通は⋮⋮
あはっ、面白い事考え付いちゃったかも﹂
ラグラジルは薄く笑い、闇に手を掲げる。
409
虚空から二つ金属が落ちてきた。
シャロンには見覚えがあった。
それは、
﹁武器を⋮⋮あの二人の武器をどうするつもり﹂
ユキリスの錫杖とフレアの大戦斧。
ラグラジルはシャロンへと振り返り、妖艶に輝く口の前で指を一本
立て、
﹁クスッ﹂
笑った。
410
復讐の華︵前書き︶
期間が空いてしまい申し訳ないです。
評価・お気に入り登録有難う御座います。
411
復讐の華
薄い闇が広がる空間をただ眺める。
行動も思考も放棄し、呼吸すら最小限に抑える。
脳の働きを極限まで殺す。
魔導士として研鑽を積んだユキリスには、容易い行いだった。
騎士や戦士が四肢を上手に扱えるように、魔導士は脳髄を操る。
魔法を放つ時は通常の何十倍もの速度で脳を働かせ、奇跡を発生さ
せる。
その逆。
正気でいればまず間違いなく狂ってしまうような﹃今﹄
かつて自分を犯した男達による行為の巻き戻し再生。
一つ一つの顔に記憶の残滓がこびり付き、心の隅の隅まで犯し尽く
そうとしてくる。
故に、ユキリスは閉じた。
己の感覚を閉じ、ただそこにある肉の人形と化して横たわる。
男達が代わる代わる自分の体に侵入して来ている事も、理解はして
いるが感じてはいない。
男達が口々に何かを囁いていたり、罵倒していたり、笑いかけてく
るが、その全てを受け止めず、ただひたすら人形であることに努め
る。
そうする事でこの悪夢を乗り越える。
そう決意した。
始め6574と表示されていた数値は三桁まで減少した。
体感時間としてはもう当に数日は経過している。
それでも、後少し、後少しだけ人形で居れば、また自分は﹃劇毒と
狂奔の魔道士﹄として未来ある戦いに臨める。
故に閉じた。
412
己の心に壁を作り、その内側に閉じこもる。
所詮は幻覚で作られた存在である凌辱者達に、魔導士の壁は破れな
い。
破れるとするならば︱︱
︵楽しんでくれてる?︶
閉じた脳に直接語りかけてくる声。
ラグラジル。
西域の魔天使と名乗った高位の魔物。
︵シャロンちゃんだけ一足先に終わっちゃって暇してるわよ? 貴
女もさっさと全員に犯されて出てきたらどうかしら?︶
甘い甘い悪魔の声。
この幻覚を生み出し、固有の領域を発生させている存在。
いったいどれだけの魔力で、どれだけの脳髄で、この悪夢を管理し
ているのか。
魔導士として確信する。
勝てない。
ラグラジルに自分は勝つ事が出来ない。
これほどの力がもしも自分に備わっていれば、ゼオムント打倒など
悲願でも何でもなく、現実的な目標に成りえたかもしれない。
力が、
力が欲しくなった。
今、醜悪な男達に圧し掛かられ、膣に一本、肛門に一本。
胸の谷間に一本、左右の脇に一本ずつ。
口に一本、眼前に一本、髪束を巻きつけて擦りあげているものが五
本。
肉棒。
肉棒肉棒肉棒肉棒肉棒肉棒肉棒肉棒肉棒肉棒肉棒。
こんなものに、こんなものに。
︵良いんじゃない。やっちゃって︶
嗤うのは、魔天使。
413
やっちゃう︱︱とは、何なのか。
停止している脳に、微弱な刺激が走る。
︵殺っちゃう︱︱のよ︶
ラグラジルの声が甘く響く。
︵どうせ幻覚よ。貴女の好きにすれば良いわ︶
ユキリスは、己の感覚を取り戻す。
肉棒の生々しい熱を。
雄汁の粘りつく臭気を。
身の内を焼き回る怒りを。
︵返してあげるわ︶
右の手のひらに、硬い感触が生まれた。
自分はこれを知っている。
錫杖。
西域に入る際に取り戻した、魔導士としての自分に欠かせぬ力。
握る。
力を込める。
脳髄を動かす。
そして、放つ。
﹁壺毒﹂
魔法。
ユキリスの二つ名である﹃劇毒と狂奔﹄のうち、劇毒に位置する魔
法。
指定した物体を猛毒の詰まった壺に変え、それに触れた者へ死の伝
染を行う魔法。
指定したのは、自分の肉体。
膣に挿入していた男が、肛門を犯していた男が、全身を舐め回して
いた男が、血の泡を吐いて悶絶し、崩れ落ちていく。
折り重なって倒れて行く男達の体の下から、白い裸身を傾げながら、
ユキリスは立ち上がる。
まだ居る。
414
沢山居る。
自分を犯した者が、自分を犯す者が。
﹁狂嵐﹂
﹃劇毒と狂奔﹄のうち、狂奔に位置する魔法。
錫杖を中心に生温い風を発生させ、狂気を伝染させる。
風に触れ、吸った者達は、理性を失う。
男達は隣に居た者を殴り倒し、蹴り付け、大笑する。
瞳は血走り裏返り、口の端からは黄色の涎を零しながら、野卑な暴
力を振るう。
男達の手に武器は無い。
故に、殴りつけられた者は命を失わずに地面に転がり、血を吐き散
らしながらのた打ち回る。
笑っている、誰も彼も笑っている。
ユキリスは杖を掲げる。
﹁壺毒﹂
筋肉質な男に殴りつけられ、細いメガネごと眼球を潰された男に魔
法をかける。
この男の顔が特に憶えている。
ヤれるマスコットとして商業施設で働かされていた時に、ユキリス
の事を管理していた調教師だ。
膣を使っての接客からハメながらの店内案内、施設の広報活動のた
めに映像魔術を使っての涙あり笑いあり奮闘凌辱ドキュメンタリー
の作成まで、ユキリスに恥辱の限りを強いた男。
﹁狂嵐﹂
風を強める。
狂いの嵐を男の周辺に集める。
必然、荒れ狂う暴力は男に集まっていく。
殴り、蹴り、潰し、殺す。
凌辱者が凌辱者を殺す。
﹁ヤれ、ヤれ、ヤれ、ヤれぇ!﹂
415
それはかつてユキリスが浴びせられた罵声。
しかし今、口を開き、声を出し、歯を剥くのは狂奔の魔導士。
その首筋にいつの間にか闇色をした華の刻印が浮かんでいる。
︵クスッ⋮⋮︶
艶やかな悪魔の笑みが聞こえる。
毒の壺と化した男に触れた凌辱者達は次々と体を腐らせ息絶えてい
く。
狂いの風が吹き、毒の壺が割れる。
哄笑する魔導士を残し、動く者が居なくなるまで、そう時間は掛か
らなかった。
フレアは己の全身が血に塗れている事に安堵した。
裸身全てを覆うかのようにこびり付いた血の赤。
手にした大戦斧からも滴っている。
初め、この空間に閉じ込められ7021という数を突き付けられた
際には素手で抵抗した。
だが数十人を殴り倒した後、力尽き取り押さえられ凌辱の渦に飲み
込まれた。
股をこじ開けられ、髪を掴み上げられ、肉棒を突き付けられた。
それでも、抵抗は続けた。
シャスラハールに救われ、公娼から騎士に戻った自分が、ただ易々
と犯されていてはいけない。
握らされた肉棒を潰し、口に押し込められた肉棒を噛みちぎった。
それでも終わらない。
七千と言う数。
抵抗の意志は潰えず、代わりに力が尽きた。
飲み込まれる。
凌辱に、屈辱に。
そんな時、悪魔の声が脳に届いた。
416
︵惨めで哀れな騎士様に、わたしからとっておきの贈り物をあげる
わ︶
ラグラジル。
この空間を形作り、絶望の記憶を揺り戻した悪魔。
︵怖い顔しないで、きっと良い気晴らしができるわ︶
言葉と共に、目に見えぬ力がフレアに届いた。
右手に生まれる鋼。
大戦斧。
幾多の戦場をフレアと共に駆け抜けた愛用の武具。
公娼として凌辱の日々を過ごしてきた間には、取り上げられていた
己の力。
それが今、手に。
︵振るいなさい。思う存分ね︶
フレアは力を振り絞って群がる男共を跳ね飛ばし、立ち上がった。
大戦斧の感触を確かめる様にして、一振り、二振り。
凌辱者達は狼狽えている。
突如現れた鋼にか、はたまた浮かび上がったフレアの笑みにか。
﹁あは、あはははははははは﹂
笑った。
フレアは大きく体を揺らして笑った。
笑いながら、一歩前に進み、右手を振るった。
近くにいた凌辱者の右肩を抉り、首を跳ね飛ばす。
血潮が舞う。
もう一歩。
大戦斧を縦に振り下ろす。
凌辱者の体が頭頂から股間まで真っ二つに割れ、肉塊と化す。
凌辱者達の怯えは、フレアの喜びだった。
逃げ散る男達を追い立て、殺していく。
数百人を肉塊に変え、次なる獲物を定めた時、フレアは呼吸を止め
た。
417
目の前でこちらに両手をかざし、命乞いをしている男。
強烈な記憶の炎がフレアを焼く。
公娼として過ごした三年間、自分を調教し大勢の前で恥辱を強いた
調教師。
目の前の男はうだつの上がらない、三流と言っても過言ではない調
教師だった。
資金も腕も無く、フレアという逸品を扱うには不相応な男だと、巷
で噂されていた。
大きな仕事を取ってこられる訳も無く、日銭を稼ぐために素っ裸の
フレアに首輪をつけ街中を徘徊し、工事現場などに売り込みに行き、
そこで自分の食糧を得る代わりにフレアの体を差し出させた男。
時には大きな街の中心にある駅舎の前でフレアに自慰行為や排泄を
強いて、物珍しさで立ち止った通行人からカンパを得る事で金を稼
いでいた。
他人にはヘコヘコと頭を下げ慈悲を得ようとするが、フレアに対し
ては居丈高に接し、暇つぶしの様に日常的に膣を犯してきた男。
フレアの公娼としての記憶の中に、この男は常に留まっていた。
大戦斧の刃を返し、反対側にある石突きを構える。
そして、打ち据える。
直ぐには死なないように、楽には殺さないように、永く苦しむよう
に。
石突きで頭を砕き、腕を砕き、胸骨を砕き、股間を砕き、足を砕く。
男の体は血を撒き散らしながら跳ねる。
何度も何度も何度も打ち据え、ようやく男が動かなくなった時、フ
レアは会心の笑みを浮かべる。
返り血で汚れた裸の乳房の下側に闇の華が刻まれた事には気が付か
ない。
次なる獲物を求め、また一歩を踏み出した。
凌辱に費やされた期間から見れば、瞬く間と言って良い時間で、凌
辱者達の仮初の命はその空間から全て消え去った。
418
﹁フレア! ユキリス!﹂
シャロンは転ばされたまま、吠える。
ラグラジルがわざわざ用意した新たな鏡に映し出されたのは、仲間
達による凄惨な復讐劇だった。
﹁どうしたのぉ? シャロンちゃん。これが貴女達のやりたかった
﹃復讐﹄。そうでしょ? わたしはそれを幻想の中で体験させてあ
げたの﹂
昏い翼をはためかせ、ラグラジルはこちらに視線を送ってくる。
シャロンはその視線から逃れる様にして、顔を反らす。
ラグラジルの言う事は間違いではない。
自分達を犯し、辱めた人間に対する復讐心は確かに胸の内に存在し
ている。
しかし、しかしだ。
﹁こんな⋮⋮こんな風にソレをやってはダメ⋮⋮フレア、ユキリス
⋮⋮﹂
笑いながら、苦しめながら、己が享楽の為に人を殺していく様は、
傍から見れば恐ろしい行為に他ならなかった。
﹁綺麗事を言わないで頂戴。どうせ貴女だって同じ状況に陥れば間
違いなく剣を振るっていたでしょう? そして笑うのよ。復讐の愉
悦に。彼女達は間違っていないわ。それともなに、殺し方に問題が
あるって、そう言いたいの?﹂
ラグラジルは存外真剣な表情でシャロンを見据える。
﹁調教師やそれに追随した男達が彼女達や貴女に何をしたか知らな
いわけじゃないでしょう? 殺されるのは当然。そしてそこから更
に惨く扱われるのも必然。例えわたしが最後の一歩を後押ししたか
らって、それが貴女達の心の内を裏切ったって事では無いでしょう
?﹂
手のひらを掲げ、そこに闇の華を咲かせながらラグラジルは言った。
419
﹁やはり⋮⋮お前が二人を⋮⋮!﹂
シャロンは首を持ち上げ、ラグラジルを睨みつける。
魔天使はその視線を不快そうに受け止めながら、首を傾げる。
﹁じゃあなに? 貴女は自分を犯した連中を許すと言うのかしら?﹂
その問いに、
﹁違う﹂
シャロンは首を振った。
﹁許しはしない。認めもしない。もう一度姿を見せて私を汚そうと
するのなら躊躇せず殺すし、そこに一片の迷いも悔やみも無いでし
ょう。けれど、今私達はシャスラハール殿下と共に新たな世を手に
入れる為に戦っています。失われた物を取り戻す戦いは有っても、
過去に縛られ己の快楽の為に目的を失う事は有ってはならない!﹂
声には力と熱が籠り、震える足で立ち上がる。
﹁希望がまだある限り、私達は私達のやり方で戦い、全てを取り戻
します。ラグラジル、貴女が見せた﹃復讐﹄の幻は必要無い!﹂
指を突き付け、シャロンはラグラジルに宣言する。
しかしそこで、悪魔は笑った。
﹁﹃希望﹄! 希望ね。あぁそう、貴女達が希望を抱く事について
は何も言わないわ。けどね、知ってるのかしら? 貴女達の希望が
どんなもので、今どうなっているのかについてね﹂
ラグラジルが指を振るい、また一つ巨大な鏡がシャロンの眼前に生
まれた。
﹁教えてあげるわ、シャロンちゃん。貴女達が狙っている﹃魔物の
統帥権を持つ宝具﹄その名はね。﹃アン・ミサの杖﹄って言うの。
現在西域の管理者を務めているアン・ミサが所持していた魔物を律
する魔法道具、人外の全てはその律に従い平伏する。この地におけ
る至上の宝よ﹂
そこでラグラジルは一旦言葉を切り、シャロンを見据え、
また穏やかに微笑んだ。
﹁数年前に人間族⋮⋮ゼオムント国に奪われたのだけれどね﹂
420
九割九分九厘︵前書き︶
評価・お気に入り登録有難う御座います。
421
九割九分九厘
﹁嘘⋮⋮そんな⋮⋮﹂
声を震わせ、シャロンは裸の胸を両腕で抱いた。
寒気が全身を覆い、希望と言う温かな心の火を消してしまいそうだ
ったから。
﹁アミュス⋮⋮ヘミネ⋮⋮﹂
ラグラジルが用意した新たな鏡に映し出されたのは、公娼達の反逆
とその末路だった。
シャロン達と別れた後のアミュスとヘミネ、そしてマリスの姿を追
跡した映像で、彼女達が人狼族を従え開拓団と呼ばれていたゼオム
ントから独立を狙う集団に襲いかかっていた物。
﹁⋮⋮⋮⋮騎士団長、貴女が⋮⋮どうして﹂
シャロンを襲った衝撃は二つ。
その内の一つが、彼女の祖国であるリーベルラント騎士国家、その
武の筆頭であり伝説の騎士であった存在、セリスが剣を振るいアミ
ュス達と敵対してきた事だ。
ユーゴ達文官の手によって国家がゼオムントに投降した際、前線に
出ていたステア隊所属のシャロンには宮殿で最終防衛線を構築して
いたセリスがどうなったかは知りようが無く、公娼として扱われた
三年間でもその名を耳にする事が無かったため、彼女は戦乱の中を
逃げ延びたか死んだものと考えていた。
それが、まさか凌辱者達の側に立ち、剣を取っているだなんて。
﹃ふざけるな! 団長⋮⋮アンタ何やってんだよ! 祖国を滅ぼし
た側について、公娼制度を認める様な事を言って! アタシ達は⋮
⋮アンタがそうやってドレスを着て着飾っている間にも裸で! 犬
の様な、奴隷の様な⋮⋮普通に生きてちゃいけない存在みたいにし
て扱われてたって言うのに!﹄
422
フレアの声が響く。
その姿はまだ闇の繭に包まれたままだが、声は鋭く尖り、何かを殴
りつける鈍い音が耳を打った。
﹁フレア落ち着いて⋮⋮! セリス様には何かお考えがあるのかも
知れない﹂
シャロンは自身の動揺を隠しながら、激昂する同僚を諫める。
﹃許さない⋮⋮許さない。ヘミネは正しい奴だったんだ⋮⋮。門を
出る前から戦えないレナイ達の事を心配していたし、主人役を殺し
てしまい別れる際もアタシに目で謝って二人の無事を頼んできたん
だ!﹄
繭の中、激しさを増していくフレアの声。
﹁フレア!﹂
﹁無、駄﹂
シャロンが悲鳴の様な声を放つと、それに応えたのはフレアでは無
く、微笑を浮かべたラグラジルだった。
﹁特別仕様よ。中から外へ声は聞こえるようにしたけど、その逆は
無し。だって興醒めしちゃうじゃない? シャロンちゃんにそんな
真剣で悩ましげな声で話しかけられちゃったら、誰しも冷静になっ
ちゃうもの。だから、好きなだけ喚いていいけど、フレアちゃんに
は届かないわ﹂
魔天使は愉悦を隠さず、シャロンを見据える。
﹁ラグラジル⋮⋮お前⋮⋮!﹂
シャロンはふらつく足に力を籠め、懸命に立ち上がり、瞳に力を灯
す。
﹁うふふふふ﹂
ラグラジルは笑み、シャロンは怒る。
﹃アミュスも⋮⋮! 嫌みな奴だった⋮⋮でも、それでもアイツに
だってゼオムントに対抗する正当な理由があったんだ! 同じだっ
た、公娼として扱われた事にアタシとアイツで差なんて無い! 間
違ってないんだ! アタシは! アタシ達は自分自身の命を! 尊
423
厳を救う為に、やらなくちゃいけないんだ! 殺さなくちゃ! い
けないんだ!﹄
フレアは今回の遠征に出る際、最初の組み分けでアミュス達と同じ
主人の下に集められていた。
僅かな間だったかも知れないが、その分だけシャロン達よりも彼女
達の事を理解しているのだろう。
それ故の、苦しみ、怒り。
﹁ラグラジル! フレアを開放しなさい!﹂
シャロンは拳を握りしめ、目の前に立つ魔天使へと突き出した。
虚空を穿つ騎士の拳。
しかしそれは、文字通り虚しく通り過ぎて行った。
幻の様に、ラグラジルの体は闇へと溶け、シャロンは体勢を大きく
崩す。
﹁うふふふ。だめよシャロンちゃん。少し大人しくしててね﹂
瞬間、息の詰まる衝撃がシャロンの脇腹を襲った。
すぐ傍で実体を取り戻したラグラジルが尖ったブーツの先で、強烈
な一撃をシャロンへと見舞ったからだ。
﹁うぐっ⋮⋮ぐっ⋮⋮くっ﹂
仰向けに倒れ込みながらも気丈に睨みつけてくるシャロンに、魔天
使は右手をかざした。
﹁お口以外は、動かさないでね﹂
魔力が迸り、三本の闇色の縄が完成する。
縄はシャロンの両腕を背中に乗せて緊縛し、両の足首に巻きついた。
﹁そっちの﹃お口﹄も自由にして良いわよ﹂
倒れ込んだシャロンの腰を中心にして二本の杭が等距離で床から出
現した。
足首に巻きついた縄が、まるで意思を持つかのようにして床を這い、
杭へと結ばれていく。
必然、シャロンの両足もそれに引き摺られ、股が大きく割れていく。
﹁なっ、やめろっ! ラグラジル!﹂
424
﹁うふふふ﹂
縄は杭へと吸い込まれるようにして巻きつき、足首を直接杭へと固
定した。
シャロンは現在、両の足首と陰部が一直線に並ぶようにして固定さ
れている。
無論、騎士としていくら肉体を鍛えた者でも、これほどの開脚を強
いられては筋肉や骨に多大な負担をかけてしまう。
シャロンの金髪の下、汗の玉が浮かんでくる。
﹁ど、どういうつもり⋮⋮﹂
汗を掻き、目元を厳しくしながらも、シャロンは尚気高く在ろうと
して魔天使を睨みつける。
﹁念の為確保しておいたけど、使い道が無かったらどうしようかと
思っていたわ。さ、出て来なさいお前達。お前達の大好きな雌穴が
そこにあるわよ﹂
指を一つ鳴らし、ラグラジルは笑う。
闇の天井が開き、昏い檻が落下してくる。
その中には、十体の子鬼族が怯えて固まっていた。
﹃アミュス⋮⋮ヘミネ⋮⋮それにそっちの鏡に映ってるのはシュト
ラか⋮⋮みんな⋮⋮みんな悔しいよな⋮⋮許せないよな⋮⋮どうし
てアタシ達ばっかりこんな⋮⋮こんなに酷い目に遭わなくちゃいけ
ないんだ。どうして団長は、ああやって幸せそうにゼオムントの奴
らと一緒に居るんだ⋮⋮﹄
フレアの震える声がシャロンの耳に届く。
その言葉を理解し、心情を理解する事が出来ても、今の彼女にはど
うする事も出来なかった。
声が届かないからではない。
それは︱︱
﹁やめっ⋮⋮来るなっ!﹂
425
シャロンは檻から解放された子鬼達がこちらへソロソロと近づいて
くるのを見ながら、恐怖する。
ここへ閉じ込められる前、ユキリスが言っていた。
﹃子鬼族は別の種族の雌を使って繁殖する﹄
それはつまり、シャロンの胎内を使用して子供を作る事が可能だと
いう事。
闇の緊縛を受け、大開脚の上に身動きのできないシャロンでは、抗
いようがない。
﹁ひとつ教えておいてあげる。子鬼族の繁殖成功率はね、だいたい
どんな生物が相手であったとしても、一回の射精で二分の一。半分
の確率で妊娠しちゃうそうよ﹂
ラグラジルは虚空に浮かんだ状態で、さも愉しげにシャロンを見下
ろしている。
﹁十体。ワタシがここに連れてきた子鬼は十。受精の確率は二分の
一。一匹に一回ずつの射精と考えてシャロンちゃんが鬼の子を孕ん
じゃう確率はどのくらいあるでしょーか?﹂
シャロンはその言葉に反応し、数式を一瞬で整えてしまった。
そして後悔し、恐怖が倍増した。
﹁うふふふ。九割九分。がんばってね﹂
子鬼族は怯えた様子ながらも、本能に従い生殖の対象としてシャロ
ンを標的に定め、近づいてきている。
シャロンは一度歯噛みして、全身に力を込めた。
上半身を起こし、杭に足首を固定したまま床と垂直に体を立たせる。
必然、中心にあるシャロンの陰唇は床と接し、子鬼族からは隠され
る。
﹁あらまぁ⋮⋮がんばるわね﹂
ラグラジルは少しばかり呆れた調子で言い、肩を竦める。
﹁ま、無駄な抵抗でしょうけど﹂
その言葉を証明するかの如く、シャロンの体に子鬼族がまとわりつ
いた。
426
﹁ひっ、くっ。フレア! ユキリス! 早く、早くそこから出てき
て!﹂
例え声が届かないとしても、今のシャロンに残された希望は、閉じ
込められている二人の仲間だけなのだ。
子鬼族の一体が乳房に吸い付きながら下から揉み上げていく。
別の一体がペニスを乳首に押し付け擦りだす。
首筋を舐めてくるものや口の周りを舐め回してくるもの。
陰唇を床に押し付け隠す為尻肉が少し持ち上がり、露出している肛
門に指を突き入れてくるもの。
床との隙間に指を入れ、陰核をつまんで刺激してくるもの。
十体の子鬼がシャロンの体に群がって好き放題遊び回る。
﹁あっ⋮⋮くぅぅぅうん! やめっ⋮⋮﹂
弄られながらも、必死で自我を保ち、仲間の救出を待つシャロン。
その時、鏡の中の映像で禿げ上がった王宮魔道士が一本の杖を掲げ
魔力を開放した。
この顛末が、シャロンを襲う第二の衝撃。
﹃魔物達が⋮⋮アミュスとマリスに襲いかかった⋮⋮そう⋮⋮そう
いう事なのね⋮⋮﹄
ユキリスの哀しい声が響く。
﹃ラグラジルの言うとおり、﹃魔物の統帥権﹄⋮⋮いえ、﹃アン・
ミサの杖﹄はゼオムントの手に有った⋮⋮初めから、私達は騙され
ていたのね⋮⋮希望を抱いて、足掻いて、そうやってアイツらを楽
しませて⋮⋮そしてまた公娼に戻されるのね﹄
絶望と達観。
ユキリスが抱いた感情は、紛れも無く敗者のソレだった。
﹁だめっ⋮⋮! ユキリス⋮⋮もしそうだとしても⋮⋮私達には戦
う力が残されている⋮⋮! シャスラハール王子という旗印も得た
⋮⋮諦めては⋮⋮ダメッ!﹂
シャロンは全身を子鬼に嬲られながらも、懸命に届かぬ叫びを放つ。
子鬼達は何とかシャロンを押し倒し、膣口を開放させようとするが、
427
騎士は懸命に両脚に力を籠め、体勢を維持して抗う。
﹁そうかしら? 魔物を律する﹃アン・ミサの杖﹄がある限り、貴
女達に現時点では勝ち目はないわ。どう足掻いても、結果はこうな
るだけ﹂
ラグラジルが映像を早送りし、場面を移し替える。
そこに映し出されたのは、アミュスとヘミネの凄惨な末路だった。
数万に上る開拓民から止めどない凌辱を受ける姿。
檻に閉じ込められ、長い竿状の物で性器を突きまわされる姿。
魚顔の女に屈辱の凌辱絵日記をつけさせられる姿。
バケツを被った子供に便所掃除に使った雑巾やブラシを突き入れら
れる姿。
軍の朝会議で景気付の備品として膣出しセックスをさせられる姿。
﹃ははっ⋮⋮ははは⋮⋮アミュス⋮⋮ヘミネ⋮⋮。きっと私達もこ
うなるのね⋮⋮足掻いて足掻いて奴らを楽しませた末に、こうやっ
て公娼に戻される。全て、全て奴らの描いた筋書通りに﹄
乾ききった魔導士の声。
﹁ユキリスっ!﹂
シャロンは尚も叫ぶが、闇の繭がその悲痛な思いを阻む。
その時、優しさを含んだ笑みを浮かべ、ラグラジルがシャロンの隣
に降り立った。
﹃でもね、聞いて頂戴。三人とも﹄
不思議な音の響きは辺りに共鳴する。
﹃ラグラジルかっ!﹄
﹃⋮⋮何?﹄
どうやら特殊な音声を発している様子で、繭の中のフレアとユキリ
スにも届いているようだ。
﹃このラグラジルが持つ真の力を持ってすれば、﹃アン・ミサの杖﹄
に対抗する事も可能。何せワタシはかつての西域の管理者。今でこ
そアン・ミサの妹天使ラクシェに力を奪われてはいるけれど、それ
さえ取り戻す事が出来れば、再びこの地を支配し、人間族の侵略な
428
ど押し返して見せよう﹄
ラグラジルは言葉を区切り、シャロンを見据える。
全身に与えられる快感に屈さぬ様耐えながら、シャロンはそれを見
返す。
﹃ワタシに従いなさい。そうすれば貴女達に力を授けましょう。運
命を跳ね除け、己を取り戻す闇の加護を﹄
その言葉に、シャロンの心はざわめいた。
運命を跳ね除ける力。
アミュスやヘミネの様に、公娼として生き続ける運命から逃れられ
なかった者達の姿を見せられた後に、その誘いは何と甘美な事か。
しかし、それでも︱︱
﹃ラグラジル⋮⋮お前の力があれば、アタシはセリス団長に勝てる
か?﹄
﹃貴女の力があれば、今度こそ私は救われるのかしら?﹄
繭の中から声が聞こえる。
フレアとユキリスの、希望を抱いた声が。
﹁だめぇっ! フレア! ユキリス!﹂
シャロンは体の奥底から絶叫を上げた。
それでも、届かない。
﹃えぇもちろん﹄
ラグラジルが頷いた瞬間。
闇の繭が割れた。
中から現れたのは、フレアとユキリス︱︱だった者達。
フレアの裸身に解けた繭の糸が巻きつき、衣装を構成する。
闇色のノースリーブのシャツにグローブ、そして同色のホットパン
ツ。
手にした大戦斧にも闇が宿り、変形していく。
斧の刃がうねり、曲がり、一つの形を成した。
﹃大鎌﹄
全てが漆黒で彩られた鎌を握る闇の騎士が完成した。
429
ユキリスの白い肌にも、糸は這う。
踊り子衣装の様に、深いスリットのあるドレス姿。
剥き出しの両腕には幾つもの昏いブレスレットを通し、額にはサー
クレットが輝く。
手にした錫杖は歪に蠢き、黒い蛇を模した物へと変貌した。
闇色のオーラを纏った狂いと毒の魔導士が完成した。
二人はラグラジルの姿を見つけると目礼し、次にシャロンを見て正
反対な動きを見せた。
フレアは目を反らし、ユキリスはジッと見据える。
﹁さぁそれではシャロンちゃん。貴女の返事を聞きましょうか? どうする? この二人と一緒にワタシの下へ来てくれるかしら?﹂
魔天使の勧誘に、金髪の騎士は顔を上げ、今なお体を舐め回す子鬼
族に怯む事無く、力強く断言した。
﹁騎士たる者、二君に仕えず⋮⋮!﹂
数瞬、両者の瞳が交差する。
そして、ラグラジルがため息を吐いて微笑んだ。
﹁そっ。じゃあしょうがないわね、フレアちゃん。シャロンちゃん
を蹴り倒して、子鬼達にちゃんとオマンコが見えるようにね﹂
今シャロンは両足を踏ん張り、体を床と垂直に立てる事で膣口を隠
している。
もし、もし倒されるような事があったならば︱︱
﹁ッ⋮⋮﹂
フレアは相変わらず視線を反らし、ラグラジルに応答しない。
﹁もう、しょうがないわね。じゃあユキリスちゃん、やっちゃって﹂
ラグラジルの言葉を受け、魔導士は真摯に頷いた。
﹁かしこまりました﹂
一歩二歩とシャロンへと近づいてくるユキリス。
シャロンは喉を震わせ、ユキリスの顔を見つめる。
そして︱︱
﹁⋮⋮ごめんなさいね﹂
430
ユキリスの足裏がシャロンの鼻先に置かれ、そのまま勢いよく押し
込まれた。
体勢は揺らぎ、シャロンの体はゆっくりと床に向かって仰向けに倒
れ込んでいく。
騎士は絶望の叫びを上げる事無く、仲間に非道を強いた魔天使を睨
みつける。
倒れ行くシャロンの体、今まで隠されていた膣口が見えた瞬間、子
鬼族の一体が素早く股の間に潜り込み、己の肉棒を︱︱
突き刺した。
431
過ぎゆく天使︵前書き︶
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432
過ぎゆく天使
子鬼族の身長は人間の幼児程度。
それが十体、シャロンの体に纏わりつき、うち一体が股の間に身を
潜らせて肉棒を挿し入れた。
フレアはそれを見、歯噛みする。
﹁シャロン! 今すぐこちらに付け! そうすればまだ間に合う。
化物の子を孕む事になるぞ!﹂
怖れ、青褪めるのは自分の顔。
かつての同胞が、馬の轡を並べて戦った戦友が、女として最悪の事
象を強制されている姿に戦慄する。
﹁⋮⋮フレア、貴女こそどうしてそちらについてしまったの。騎士
長である貴女の姉上にどう顔向けするというの? 私はね、例え化
物の子を孕む事になったとしても、自分自身が騎士の誇りを捨てて
化物になるような事なんて、御免こうむるわ﹂
自由にならない体を懸命に動かし、最後まで抵抗を貫くシャロンの
瞳は、フレアを断罪する。
﹁それは⋮⋮わかるだろっ! アタシ達の希望は潰えたんだ⋮⋮!
魔物の統帥権は既にゼオムントの手に有って、アタシ達は玩具と
して遊ばれていたに過ぎないんだっ! アミュスやヘミネみたいに
反乱を起こして捕まって、前以上に酷い目に遭って⋮⋮そういう運
命を強いられるんだ⋮⋮! でも、ラグラジルに従えばもしかした
ら︱︱﹂
声が震え、瞳が揺らめく。
﹁もしかしたら⋮⋮? そう、三年間しばらく会わなかった内に貴
女は随分と弱くなってしまったのね﹂
聞いた話では、シャロンはセナやステアと共に同じ調教師組合に管
理されていて互いを励まし合って生きていたのだという。
433
うだつの上がらない三流調教師の日銭稼ぎと性欲処理に務めていた
自分とは異なっている。
今まさに醜悪な子鬼に膣を貫かれ、受精確率二分の一という恐ろし
い子種を注がれそうだというのに、シャロンの瞳は力を失わない。
﹁やめっ⋮⋮やめろ⋮⋮﹂
フレアは手を泳がし、ラグラジルに救いを求める。
しかし、
﹁ただ妊娠させても子鬼が一匹増えるだけじゃあ面白くもないし、
何より時間の無駄ね。どうかしら、ワタシの魔法とユキリスちゃん
の魔法を組み合わせて、もっと﹃スゴイ﹄怪物が生まれてくるよう
にしない?﹂
ラグラジルは満面の笑みで隣に立っている魔導士に声をかけた。
ユキリスは無言で頷き、手にした錫杖を引っ提げ、シャロンのすぐ
隣へ移動した。
﹁ユキ⋮⋮リス﹂
自分と同じ、シャロンやシャスラハールを裏切った魔導士が何をす
るか、フレアには理解できなかった。
ユキリスは瞑目し、錫杖を振り上げ、そして勢いをつけてシャロン
の腹へと突き下ろした。
﹁がふっ!﹂
喉を跳ねさせ、シャロンが呻く。
﹁﹃劇毒﹄の血を宿し、﹃狂奔﹄の性を得て﹂
錫杖を通し、ユキリスはシャロンの子宮へ魔力を伝達させながら言
葉を紡ぎ、ラグラジルもそれに続く。
﹁﹃暗黒﹄の体を持つ、魔物と人間の落し児﹂
魔天使のかざした手の平より放たれた昏い波動もまた、シャロンの
体へと溶けていく。
﹁﹁DEMON﹂﹂
二人が声を揃え、シャロンの胎内を作り変える。
﹁今⋮⋮何を⋮⋮?﹂
434
フレアは虚ろに問う。
すると、さも愉しげに笑いながら、ラグラジルは言った。
﹁シャロンちゃんはこれで、とっても便利なお手軽強力悪魔製造母
胎になったって事。例え人間相手だろうが子鬼相手だろうが犬が相
手だろうが、とりあえずどんなのとヤッても妊娠しちゃえば生まれ
る子供はぜーんぶ﹂
フフッと魔天使は凄絶に微笑む。
﹁悪魔﹂
﹁天使⋮⋮?﹂
シュトラは鉛色の空を切り裂いて飛ぶ何かを見て、そう呟いた。
ソレは白い羽根を背中に流し、金色に輝いて見えた。
一瞬、驚くような速さで通り過ぎて行った天使の影を追い、シュト
ラの頭は動く。
そこに一匹のマルウスが立っていた。
﹃ほら ぼけぼけ するな むこうで みんな まってる﹄
マルウスの手には先ほどまでシュトラの視界を覆っていた目隠しと、
雌車の操縦に使われた棒が握られている。
このマルウスはマルウスの里に戻るまで雌車を操ってきた馭者役の
ネズミだった。
今日は朝からヒュドゥス漁に釣り餌として駆り出され、雌車として
送迎までやらされ、心身は既に限界に近い。
それでも、勤めが終わらない事をシュトラは理解している。
シャスラハール達を見送ってから既にひと月ほど経っただろうか。
その間、シュトラ達この里に残った八人は絶える事の無い凌辱に晒
されていたのだ。
﹃あんまり なまけてると きょうの おはな なしだ ぞ﹄
そう言われてシュトラは青髪を下げて項垂れる。
逆らえない。
435
武器が有ろうが無かろうが、実力で言えばシュトラはこの里にいる
どのマルウスよりも強い。
ましてや戦える者が自分の他に後四人囚われている。
隙をついての脱走を何度も考えた。
しかし、それを実行する事は終ぞ叶わなかった。
﹃おはな﹄
それはマルウスが住まうこの里にだけ咲く、多年草。
桃色の花弁をつける、美しい花だ。
そしてその花を砕き、蜜を集め、摩り下ろした液体こそが、シュト
ラをこの環境に捕らえる元凶となっている。
強烈な中毒性。
そして壮絶な催淫性。
特に経口摂取では無く下半身の粘膜からその成分を送り込まれると、
気が狂うほどの快楽と虚脱感を与えられる。
シュトラはシャスラハール達が旅立つ前夜にマルウス族の集団に捕
らえられ、特別に濃い液体を膣と肛門から注入された。
そして夜通し、器具やネズミの粗末な性器での輪姦を受けた。
騎士は立派に耐え、戦い、そして陥落した。
一度の注入では堕ちなかったシュトラに対し、マルウス達は何度も
何度も液体を注ぎ込み、過程を楽しむかのようにして開発して行っ
た。
そして早朝、シャスラハール達が旅立つ一刻前に、シュトラは陥落
し、ネズミ達の肉奴隷へと堕ちてしまった。
そこから先は、思い出したくもない。
シュトラは中毒に負け、仲間達の食事に﹃おはな﹄の液体を混ぜ、
全員を感染させた。
シュトラを含め動ける五人はマルウスの興が乗るまま玩具になり、
残り三人は⋮⋮。
﹃きれいに なめろ つぎ べつの やつの こうもんに さすん
だ から﹄
436
マルウスは操縦棒をシュトラの顔先に突き出す。
先ほどまでシュトラの肛門に突き刺さっていた、雌車の馭者が持つ
道具。
その日の気分で誰に車を牽かせるか決める為、この操縦棒は雌車の
付属物では無く馭者の仕事道具となるのだ。
体で、肛門で覚えている。
棒を肛門に突き入れられると前進。
抜き出されると停止。
深く突き入れられると加速。
入り口付近まで戻されると減速。
時計回りに肛内をなぞられると右折。
反時計回りだと左折。
幾度となく、シュトラはマルウス達の車として、旅行をはじめ、収
穫の手伝いから貿易、ヒュドゥス達が住まう川へ不要物の廃棄など
に利用された。
目隠しをして、乳房と首に縄を巻き付けて車を牽いた。
マルウス達は七日に一度休日を定めているようで、その日には五人
の雌車に五匹の馭者が乗り、金品や食料を賭けたレースが開催され
る。
シュトラは過去四回のレースで三度の優勝経験を持つ、いわば鉄板
の雌車としてマルウス達に認知されている。
シュトラは舐める。
自分の肛門を貫いていた何の装飾も無い木の棒を、舐める。
苦みを放つ何かを口に含んだとしても、眉根を寄せてそれを飲み込
む。
そうしている間に、馭者役のマルウスの手によりシュトラの首と乳
房から紐が解かれ、代わりに首輪が取り付けられた。
別のマルウスがやって来て首輪にリードを通す。
マルウス族は小柄なネズミの魔物。
シュトラ達と性交する為にいちいち台に登って身長を合わせたり、
437
寝台を用意したりする事は無い。
四つん這い。
それがシュトラ達に強いられた、基本姿勢だった。
故に、リードを通して首輪を引かれると、シュトラは四足の恰好で
それに付いて行く。
無論、全裸なのは言うまでもない。
他の四人も、雌車は全て車から離され雌犬へと変わる。
今日はこれから、広場で酒盛りをやるらしい。
その余興として残酷な仕打ちを受けるであろう事は、想像に難くな
い。
でも、本当の意味で残酷な目に遭っているのは、シュトラ達﹃動け
る五人﹄ではない。
﹃動けない三人﹄
フレアと共にアミュス達から別れた修道女レナイと王族サディラ、
そしてカマキリ型の魔物ベリスの手から救い出された別の組の公娼、
名はサイリと言い、そこそこの騎士であったそうだが、レナイ達同
様ベリスに足を切り落とされている為、戦う事は出来ないでいた。
シュトラはリードに引かれたまま里の中心部にやって来た事を知り、
顔を上げる。
そこには、磔にされた三人が並んでいた。
﹃おさけ おさけ みっつ どのあじにするか いまから まよっ
ちゃう﹄
一つ目、豊かな乳房を金属製の搾乳機で覆われた、騎士サイリ。
二つ目、膣に極大の管を突き刺されている、王族サディラ。
三つ目、両足を大きく踏ん張り、開いた股の下に大きな樽が置かれ
ている、修道女レナイ。
そして磔られた三人の傍に、台に乗って立つマルウスが三匹。
彼らは、﹃花やり係﹄と呼ばれる。
その仕事は、三つの口に﹃おはな﹄をねじ込み続けるという、単純
作業の繰り返しだった。
438
激しい中毒性と催淫性を持つ﹃おはな﹄だったが、人間の体を通し
て一度毒気を抜くと、とても華やかな香りと甘い味を出すのだそう
だ。
三人はマルウスに捕らえられてから﹃おはな﹄だけを食べて、生き
続けていた。
マルウス達は三人の体をつぶさに観測・研究しそれぞれに合った方
法で毒抜きして加工し酒等へと変えている。
サイリは母乳から﹃おはな﹄の成分を抜き出し、甘くトロみのある
味の﹃花乳酒﹄を造り出す。
サディラは愛液から﹃おはな﹄の成分を抜き出し、香りの強い芯の
ある味の﹃花蜜酒﹄を造り出す。
レナイは排泄物から﹃おはな﹄の成分を抜き出し、成熟した老齢の
マルウスに好まれる﹃花泄酒﹄を造り出す。
今この瞬間も、三人の口にはマルウスが抓んだ﹃おはな﹄が捻じ込
まれて、消化させられていく。
そして、三人は三人とも笑いながらそれを飲み込むのだ。
﹃おはな﹄の成分は液体として凝縮されなければ弱い。
けれども、四六時中、ひと月の間それだけしか食べて来なかったと
したら、微量ながらも蓄積され続けた毒は三人の人格を殺し、ただ
の生きた濾過装置としての存在に貶めてしまっている。
レナイ達は、狂ってしまっていた。
﹃おはな﹄の毒か、この境遇かに、完全に自我を放り捨ててしまっ
ていた。
シュトラは思う。
自分達は釣り餌だ雌車だと色々やらされてはいるが、自我だけは何
とか保っている。
それは力や能力からして、希望を捨て去ってはいないからだろう。
しかしレナイ達には肉体的欠損が有り、この境遇に対してあまりに
無力だった。
故に、彼女達の心は死んでしまった。
439
そして、彼女達を殺したのも、他の仲間を巻き込んでしまったのも、
全ては自分の責任だと。
今日、懐かしい顔に出会った。
マリス。
アミュス達と共にシャスラハール組と分かれた公娼だ。
何故一人だったのかは知らない。
けれど、彼女が持っている曲刀に途方も無く心奪われた。
それで、罰してくれ。
私をどうか、殺してくれ。
私の罪を、許さないでくれ。
﹃ほら おまつり はじまるぞ﹄
そう言ってマルウス達はシュトラの首輪を外し、手に手に杯と調教
器具を握って、シュトラへ群がってきた。
﹁⋮⋮もし天使がいるのなら、助けて欲しい。一番最初にレナイを
サディラをサイリを⋮⋮他の四人を⋮⋮そして最後に、私を助けて
⋮⋮。天使が、いるんだったら⋮⋮﹂
大鎌が振るわれ、ドス黒い鮮血が飛び散り、シュトラが映っていた
鏡へとこびり付いた。
フレアは目元に垂れる黒髪の下、涙を流して自責する。
﹃腑抜けが﹄
結局自分は姉達と共に希望を抱く事も出来ず、ユキリスの様に魔に
従う事さえできなかった。
子鬼を十体。
裂いたのだ。
シャロンの唇を舐めていた者を。
戦友の乳房を嬲っていた者を。
仲間の子宮を犯していた者を。
全て両断し肉片へと変えてしまった。
440
﹁フレアちゃん⋮⋮どういう事?﹂
ラグラジルが眉根を寄せて詰問してくる。
﹁⋮⋮っ﹂
フレアには答える事が出来ない。
﹁ラグラジル様、お下がりください﹂
錫杖をこちらに向け、ユキリスが正対してくる。
﹁フレア⋮⋮﹂
シャロンが身を捩りながら、か細い声をかけて来る。
﹁⋮⋮っ!﹂
やはり言葉が出てこない。
シャロンの様に地頭が良いわけでも無く、ユキリスの様に学問に注
力してきたわけでは無い。
自分は、ただ愚かな一介の戦人に他ならない。
命令には従う。
しかし感情も殺せはしない。
それ故に、怒りに任せて希望を失ってしまったし、憐みに負けて新
しい主人を裏切った。
﹁ハハッ⋮⋮﹂
自嘲の笑みが零れる。
どうしようもない、脆弱な自分。
﹁つまらない子﹂
ラグラジルが手の平を翳し、魔力の塊を放つ。
フレアは咄嗟に大鎌を構え、ソレを弾き飛ばす。
﹁チッ⋮⋮やはり今のワタシには攻撃魔法は無理ね。ユキリスちゃ
ん、やっちゃって﹂
舌打ちし、魔天使は翼を広げて後ろへ飛び立った。
それは、まさしくフレアと距離を取る為の行為であり、それを行う
理由としては︱︱
﹁フレア! ラグラジルには今の貴女と正面から戦って勝つ力が無
いようです! どうにかユキリスを無力化してあの者を討てば、そ
441
の力を得たまま騎士長達の下へ戻れるかもしれません!﹂
シャロンが転がった体勢のまま声を放つ。
その瞳は、つねに戦場を見渡し、戦術を整えてきた頼れる軍師のソ
レだった。
﹁⋮⋮うるさい子ね、閉じ込めてあげるわ!﹂
ラグラジルは魔力を操り、シャロンの柔肌を縛る闇の縄をきつく締
め、覆いかぶせる様に新たに生み出した昏い繭を放った。
﹁シャロン!﹂
フレアはシャロンを庇う様にして飛び込み、大鎌を振るう。
すると、裂けた。
闇の繭も縄も。
紐を解く様にあっさりと、断ち切れたのだ。
﹁⋮⋮いけるっ!﹂
得物を握り直し、フレアは顔を上げた。
そこに浮かぶのは決意の表情。
自分の脆さは先ほど痛いほど知った。
この先、希望を抱き続けるシャロン達と同じ道を歩めるかと考える
と、自信は持てない。
きっとまたどこかで迷ってしまうだろう。
そんな自分は彼女達と同行するべきではない。
せめてシャロンだけでもラグラジルの手から解放し、シャスラハー
ル王子達の下へと戻してやらねばならない。
その思いだけで、大鎌を構えた。
向かい合う、錫杖を構えたユキリス。
﹁⋮⋮やはり、アミュスが言っていたように騎士は頭の足りない生
き物なのかもしれないわね﹂
ゆっくりと、侮蔑する様に言葉を紡ぐ魔導士。
﹁頑固だし、勝手だし、未来が見えていないし。あのねぇフレア、
今ここで貴女と私が一対一で戦えばどうなるか、それははっきり言
ってわからないわ。でもね、貴女には足手まといになるシャロンが
442
いて、私にはこの空間の主であるラグラジル様がついている﹂
錫杖を突出し、その周辺に魔力の靄を発生させる。
﹁言っておくけど、私の魔法の範囲は広いわよ。今新たに授かった
力があればこの空間全てに届かせる事が出来る。ねぇ、それでも貴
女はシャロンを守りながら私に勝てるというのかしら?﹂
ユキリスは劇毒と狂奔の魔導士。
単純な力勝負で戦える相手ではない。
ましてや、満足に動く事の出来ないシャロンを庇いながらとなると
︱︱
﹁フレアちゃん、今ならまだ許してあげるわ﹂
ラグラジルが虚空に浮かびながら、冷めた目で言う。
指を一つ鳴らし、床面を隆起させ、グロテスクに波打つ闇のペニス
を発生させた。
﹁それに跨って腰を振りなさい。そうね、最低三日。膣の奥から反
省出来たら許してあげる。シャロンちゃんはその間に新しく子鬼を
掴まえて来るからそれと小作りしてもらうわ﹂
フレアはその言葉を聞いて、視線を下げる。
ビクビクと脈打つ闇の男根は反り返り、凶器としか思えない。
それでも、これまで数々に悲惨な凌辱を受け続けた自分からすると、
可能な事のように思えた。
しかし︱︱
﹁ふっ!﹂
息を吐き、大鎌を振るう。
闇の男根は刎ね跳び、消え去った。
﹁⋮⋮そう。ユキリスちゃん、動けなくしてあげて。フレアちゃん
にもシャロンちゃんと同じように、悪魔の苗床になってもらうとす
るわ﹂
魔天使はこの上なく苛立った様子で、そう吐き捨てた。
443
妹天使︵前書き︶
明けましておめでとう御座います。
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444
妹天使
防戦一方。
ユキリスとフレアの一騎打ちはそう評すべきものであった。
広範囲に攻撃を放ち、フレアもろともシャロンを攻撃するユキリス
の魔法を、単純な体術だけで防御する。
大鎌を振るい、気迫で捌く。
フレアに攻撃を仕掛ける機会は与えられない。
﹁⋮⋮いい加減、諦めたら﹂
ユキリスは錫杖を構えたまま、口を開く。
﹁もしかしたらまだ、ラグラジル様はお許し下さるかもしれないわ
よ。シャロンも一緒に謝って投降すれば、三人一緒に戦えるわ﹂
声を向けられた先、フレアは口元に浮かんだ汗を拭いながら、首を
振る。
﹁これ以上、惑ってしまうと自分が自分でなくなってしまう。初志
貫徹とはいかないでも、定めたばかりの決意って言うものを捨てる
気にはならない﹂
そう言ってフレアは腰だめに構える。
﹁それに、魔力の使い方と言うのも何となく解って来たしな⋮⋮!﹂
騎士として己の肉体と武具だけで生き抜いてきたフレアには、ラグ
ラジルから与えられた闇の魔力を上手く使いこなす方法が解らなか
った。
しかし、今まさに魔導士として器用にソレを使いこなすユキリスを
戦いの最中に観察し、学び取る。
相手の筋や技を見極め、自らに転用する。
それもまた、一流の武芸者に求められる技術であったからだ。
﹁ハッ!﹂
全身に気合を送り、魔力の気配を探る。
445
体の中心に、外に出る事が出来ずに淀み続けるソレを発見し、力を
込める。
背筋に、上腕に、下腿に。
やがて、黒い魔力はフレアの気合に押し出される形で、表出される。
背筋に込められた力は翼となり。
上腕と下腿は鈍色の鋼が纏い、シャツとホットパンツへと接続され
る。
魔力を己が武装に変え、再び息を吐く。
﹁ふっ⋮⋮どうだ、これなら!﹂
鎌を上段に振り上げ、翼をはためかせる。
フレアはまるで矢の様にユキリスに迫り、斬りかかる。
魔導士は魔術を展開し、それを懸命に防いだ。
一方的だった戦況は大きく変じた。。
﹁くっ⋮⋮速い﹂
急発進、急降下、急旋回。
フレアの戦術にこれらの要素が増えるだけで、場には一種の均衡が
生まれた。
これまでと異なり、ユキリスにも防御の必要が出てきたからだ。
狩猟から戦闘へ。
一進一退。
両者隙を見せればフレアはラグラジルへ斬りかかろうとし、ユキリ
スはシャロンへ魔法を放とうとする。
それを牽制しあいながらの戦いは、膠着してきた。
﹁ねぇ⋮⋮いつまでも遊んでいないで、さっさとしてくれないかし
ら﹂
ユキリスの後方で退屈を絵に描いた表情を浮かべたラグラジルが声
を放つ。
﹁もう良いわ、ワタシも手伝ってあげる。ユキリスちゃん、早々に
あの二人を苗床に変えてやるわよ﹂
ラグラジルが両手をかざし、ユキリスへと何らかの魔力を送り込も
446
うとした時、
世界が振動した。
このごく小さなラグラジルの箱庭全体が、激しく震えたのだ。
﹁⋮⋮っ!﹂
シャロンはフレアと視線を交わし、最大級の警戒をとる。
未だに足取りは覚束なく、戦友の負担となっている状況だが、この
ままむざむざと死ぬ気はまったく無かった。
しかし、
﹁⋮⋮何よコレ⋮⋮ワタシはまだ何もしていないのだけど⋮⋮﹂
ラグラジルが天井を見上げ、呻くように口を開いたのだ。
﹁空間が⋮⋮﹃殴りつけ﹄られてる⋮⋮? このワタシの空間を見
つけて、更にはそれに干渉してくるだなんて⋮⋮まさか⋮⋮﹂
口元は震え、目には険が浮かんだ。
ドォン! ドォン!
世界が激しく振動し、暗闇に白いひび割れが生まれた。
闇一色だった世界に、神秘の光が灯ったのだ。
真円状にこじ開けられた空間の入り口。
そこに浮かんでいたのは、輝く光の翼を六枚生やし、空色の髪をし
た小さな童女だった。
人間に当てはめれば十代の初め頃、まだ初等教育を受けている年代
であろう少女がそこにいた。
しかし誰の目にも明白であることが一つ。
この者は人間ではない。
魔か、或いは魔を凌ぐ者だと。
まず人とは根本的な気配が異なった。
力を持つ者のオーラと言うべきか、途轍もない波動を纏っている。
六枚の翼と金色の気配、それは正しく天使に抱く印象と合致してい
た。
447
そして手にした武器が一つ。
この空間を殴りつけ、砕いたもの。
少女の全身よりも三倍以上も長い、巨大な戦槌。
少女が口を開く。
﹁ラグラジル⋮⋮こんな所に居た。また悪さしてる。お姉さまの顔
に泥を塗るような事をしたら今度こそ許さないって、ウチ言ったよ
ね? どうしてなのよ! もう﹂
少女は手にした戦槌をラグラジルに突き付け、頬を膨らませて怒鳴
る。
その姿だけは、年相応に映った。
突き付けられた側、ラグラジルは額に汗を浮かべ、目線を切る。
﹁ラクシェ、アンタがどうして⋮⋮くそっ﹂
シャロンはその名に聞き覚えが有った。
少し前、ラグラジルを意図せず挑発した際に、彼女が己を誇る様に
して名乗った時、付随していた名前だ。
﹃西域の魔天使ラグラジル。アン・ミサにより翼を汚され、ラクシ
ェにより力を奪われたかつての管理者﹄
そう、ラグラジルは言っていたはずだ。
魔天使は悪しざまに舌打ちし、フレアとシャロンを一つ見て、獲物
を獲り損ねた猟師の様な表情を浮かべる。
﹁鹿狩りに来たら熊と遭遇したってところかしらね⋮⋮。ユキリス
ちゃん! 場所を変えるわ、付いてきなさい﹂
そう言ってラグラジルはユキリスへと魔力を放ち、自分へと引き寄
せる。
﹁あっ﹂
ユキリスはラグラジルに抱き止められる形で重なり、その二人を覆
うようにして闇の繭が生まれた。
﹁あーっ! 逃がさないもん!﹂
ラクシェは六枚の翼を煌めかせて急降下し、その勢いのまま戦槌を
振り下ろす。
448
ラグラジルの繭は、バラバラに崩れ落ちたかのように見えた。
事実、無数の破片が宙に舞い、地に落ちている。
しかしそれでも、ようやく薄皮一枚だけ、二人を覆っていた。
﹁危なかったわ⋮⋮念には念を、繭を三十枚重ねにしていたおかげ
で、一枚⋮⋮いえ、半枚だけ残ったみたいね。ホント、アンタの馬
鹿力には参るわよ、ラクシェ﹂
その言葉を聞いて、ラクシェは頬を真っ赤に染め、手足をバタつか
せる。
﹁あーもう! どうして大人しく捕まらないの! ウチの事いつも
馬鹿にしてっ!﹂
その泣き顔にも似た表情に嘲笑を向け、ラグラジルとユキリスを包
んだ繭が小さくなっていく。
﹁困ったわ⋮⋮手駒はもう少し欲しいのだけれど⋮⋮どこに行こう
かしら﹂
悩ましげな魔天使の言葉を残し、繭は消え去った。
﹁ぐきききききっ! もうもう! ムカツクぅぅぅ!﹂
ラクシェの涙声が、辺りに轟いた。
そうして僅かな沈黙が流れた後、六翼の天使が振り返った。
全裸で立ち尽くすシャロンに含み笑いを送った後、﹃ラグラジル同
様に﹄黒い翼を生やしたフレアを見つけ、顔を綻ばせた。
﹁あ、手掛かりはっけーん! 異端審問のお時間ですよー!﹂
ラクシェはそう言って、戦槌を振りかぶってフレアへと突っ込んで
きた。
﹁なっ! 違うっ! わたしはアイツの仲間では無い!﹂
大鎌を構え、戦槌を弾こうとしながら、フレアは言った。
しかし、その言葉は、笑顔の少女天使には届かなかった。
﹁異端者の言葉なんて、信じるわけないもーん﹂
戦槌が振り下ろされる。
いなすように振るわれた大鎌は、フレアの両腕に掴まれた状態でた
だの一撃すら防げないまま砕け散った。
449
そして、勢いを殺す事すら出来ていなかった。
﹁あぐっ!﹂
左の肩口から衝撃に襲われたフレアは吹き飛ぶ。既に強い衝撃を与
えられていたラグラジル空間の残骸へとぶつかり、今度こそ世界は
崩壊した。
マシラスの山裾。
その渓流のすぐ傍に、シャロンとフレア、そしてラクシェは戻って
来た。
﹁フレア!﹂
シャロンは駆け出し、戦友の体を抱き起す。
口から血を吐き、左腕を力無く垂らし、呼吸する度に激しく胸が動
いている。
それほどの、衝撃だ。
﹁感謝してよねー。殺さない様に頑張ったんだから。まぁ異端者だ
し最終的には殺しちゃうけど、ラグラジルの行方とか目的とかそう
いうの聞き出すまでは生きててもらわなきゃ困るもん﹂
戦槌を軽々と持ち上げながら、ラクシェは笑っている。
﹁これからー、一緒に﹃天兵の隠れ里﹄に行ってぇ、そこで異端審
問官の人達に洗いざらい知ってる事全部喋ってもらうの。あそこの
おっちゃん達張り切るだろうなー、久しぶりに女の異端者だもん。
またウチ褒められてお菓子貰えるかも! わくわく﹂
幼い天使は、ゆっくりと二人へ近づいてくる。
白く、光輝で、あどけないその笑みが、シャロンにとって酷く恐ろ
しいものに映った。
フレアの右腕が、いつの間にかシャロンの腰へとかかり、力が込め
られていた。
血反吐を吐きながら、リーベルラントの斧騎士が小さく言う。
﹁シャロン⋮⋮君は⋮⋮わたしが絶対に逃がす⋮⋮っ!﹂
450
黒い翼が限界まで広がり、シャロンを抱いたフレアは大空へと急上
昇して行く。
ここがマシラスの山であるならば、シャスラハール王子達との距離
はそこまで離れていないはず。
彼らの下へ、姉の下へ。
必ず、
絶対に、
シャロンを無事合流させてみせる。
﹁あはっ。追いかけっこ? ウチ結構自信あるよー! やるやる﹂
六翼の天使が今、飛び立った。
451
向日葵︵前書き︶
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452
向日葵
曙光の降り注ぐ草原を風が駆け抜ける。
風に乗り、翼をはためかせて飛んでいくフレアとその腕に抱かれた
シャロン。
そしてそれを遊ぶようにして追い回すのは、六翼の天使ラクシェ。
逃げるフレアをラクシェが追う。
そうでは無い。
逃げようとするフレアでラクシェが遊んでいるだけなのだ。
追走劇でもなんでもない。
これは姿を変えた兎追いに他ならない。
現にラクシェは笑いながら速度を上げ、一息で追いついてフレアへ
と戦槌を振るう。
フレアは懸命に身を躱して死の衝撃を回避する。
﹁あはははー、うまいうまーい! 凄いねー見た感じ本物の悪魔っ
てわけでも無さそうだし、大方ラグラジルに強化された人間なんだ
ろうけど、翼の使い方は本物の天使みたい!﹂
ラクシェは笑いながら減速し、またフレアの後ろを取る。
﹁そっちの抱えられてるおねーさん、お尻丸出しだしー、何かいろ
いろ見えちゃってるしー、裸でお空飛ぶのってどんな気分なのかな
ー﹂
シャロンは今、フレアの脇に抱えられる様にして運ばれている。
装備は全てラグラジルに奪われている以上、全裸のままだ。
後ろから付いて来るラクシェから見れば、尻が丸出し以上に、フレ
アが急旋回した時などに足が大きく開いて中身が見える事もあった
だろう。
それを幼い天使は笑っているのだ。
﹁⋮⋮フレア、シャスラハール王子達はまだ﹃アン・ミサの杖﹄に
453
ついての真実を知らない。そうなると進路は西域の奥、本来私達が
向かう予定だった場所へと進んでいるはずです﹂
シャロンは背後からのからかいの声を無視し、語りかける。
﹁上空から可能な限り捜索して、騎士長達の助力を仰いで、この天
使を退けましょう﹂
その声に、強さは無い。
シャロンは恐れていた。
ラグラジルを恐怖させ、力を得たフレアを一蹴したラクシェの力を。
もし上手い事ステアやセナ、リセやヴェナの力を借りられたとして
も、ラクシェに勝てるとは思えなかった。
無駄な抵抗に終わり、一行の旅に終止符を打ってしまうのではない
かと、心の底から危惧していた。
ここで大人しくラクシェに投降し、彼女の言う所の異端審問を受け、
口をつぐんだまま凌辱の末に殺された方が、戦友たちの未来の為な
のではないかと、考えてしまった。
折角ラグラジルの魔の手から逃れられたのにも拘わらず、悲劇の運
命は止めようがないのか。
﹁⋮⋮わかった。揺れるぞっ!﹂
ラクシェの遊び半分の攻撃を必死に回避しながら、フレアは何かを
決意した表情で頷いた。
錐揉みに回転しながら飛び続ける二人は、必死に体を抱き寄せあっ
ている。
フレアは戦友の体の温もりを強く感じながら、一瞬微笑んだ。
﹁フレア⋮⋮?﹂
シャロンに気づかれ、慌てて表情を引き締める。
前を向いた先、遠目に草原から隆起し、ゴツゴツとした岩で形作ら
れた切り立った崖が見えた。
そしてその崖の下、空洞が見える。
空洞の入り口で半ば身を隠すようにして立っているツインテールの
少女の姿が目に飛び込んできた。
454
見違えるはずはない。
あれは、彼女達の戦友。
故郷を同じくし、志をも同じくする者。
セナ。
セナがいるという事は、近くにステアやシャスラハールも居るのだ
ろう。
時間的に朝日が見える今、姿を隠しやすい洞窟に居るという事は、
洞窟内で野営をし、そろそろ全員が起きだす頃なのだろう。
セナは騎士として不寝番を務め、入り口の近くで待機しているのだ
ろう。
近くに頼りになる仲間の姿が確認できた。
ならば、是非もない。
﹁⋮⋮シャロン。君は痛みに強い方か?﹂
急な問いかけに、シャロンは怪訝な表情を浮かべる。
﹁どうしたの⋮⋮フレア?﹂
﹁いや、たぶん痛いだろうし、怪我をするかもしれないが、まぁ向
こうにはハイネア王女もいらっしゃるだろうし、死なない限り大丈
夫だろうさ﹂
フレアはそう言って、僅かばかり高度を下げる。
そして背後をチラと振り返り、ラクシェが付いて来ているのを確認
してから︱︱
﹁フン! このお子様天使が! 偉そうな口を叩く割にはわたし一
人掴まえる事も出来んではないか! やはり貴様の様なガキには荷
が重いのだろう! 現にラグラジルにもあっさりと逃げられていた
からな! ﹃天兵の隠れ里﹄とやらに行って援軍でも呼んで来た方
が良いのではないか?﹂
啖呵を切った。
シャロンとラクシェは似たような呆然顔を浮かべ、次いで天使の表
情は変わった。
﹁何言ってんの⋮⋮? アンタがまだ生きてて、空飛べてるのは⋮
455
⋮ウチが手ぇ抜いてあげてるからじゃん⋮⋮﹂
こめかみを震えさせ、ラクシェは表情を硬くする。
﹁ほぉそうかそうか。強がりはガキの特権だからな、許してやろう﹂
フレアはなおも挑発を続ける。
その小馬鹿にした表情に、ラクシェは激昂する。
﹁オマエ⋮⋮ぶっ殺す! 異端審問も完全完璧なフルコースを用意
してぇ! 里中に、いや世界中に恥を晒させてから! ウチの手で
ぐちゃぐちゃに挽き潰してやる!﹂
戦槌を振りかざし、かつてない速度で迫ってくる。
その様を見て、フレアは薄く笑った。
﹁シャロン⋮⋮君なら、ラグラジルの所で得た情報を使って姉上達
を導けるはずだ。この苦境からどうにかして、出来るだけ多くの人
を救ってほしい﹂
フレアの浮かべた表情に、シャロンは確かな感情を悟った。
﹁待って⋮⋮フレア、フレア?﹂
縋り付く様にして抱き着いてきたシャロンの体、その腰に回してい
た腕の力を解いていく。
﹁それじゃ⋮⋮武運を、軍師殿﹂
フレアは腕を外し、体を揺すってシャロンの拘束を解き、虚空へと
彼女の体を投げ出した。
下は柔らかそうな草が生えそろった草原で、見たところ土も硬くは
なさそうだ。
近くにはセナがいて、大きな音が立てば駆けつけて来るだろうし、
セナの近くには治療の出来るハイネアもいる。
仲間と合流してラクシェと戦う︱︱それは一見希望を感じさせる事
かも知れないが、その結末は、先ほど彼女の攻撃を受けたフレアに
とっては火を見るより明らかだった。
故に、シャロンだけでも助ける。
ラクシェの注意を自分にひきつけ、シャロンを放り捨てる事で彼女
を巻き添えにしない。
456
フレアの覚悟はそういうものだった。
﹁フレアああああああああ﹂
落下しながら叫ぶシャロンへと笑いかけ、フレアは自由になった右
腕に魔力を集中させる。
もうすぐそこまで、ラクシェの戦槌が迫っていたからだ。
風ごと殴りつける轟音が、辺りに響いた。
﹁⋮⋮ごほっ! ぐほっ!﹂
尋常ではない痛みが全身を襲っている。
右腕を犠牲にし、衝撃を殺すようにして戦槌を受けたが、やはりそ
れは並大抵の一撃では無かった。
体の内部から幾つもの悲鳴を聞き、骨の破損だけで十を超えるだろ
う。
だがそれでもフレアは倒れず、なおも空を飛び続けた。
最早血の滴る皮袋と化した両腕をダラリと提げたまま、懸命に逃げ
る。
その姿が更に気に障ったのか、ラクシェは落下していったシャロン
を気にする素振りすら見せず、フレアを追って来ている。
﹁少しでも⋮⋮シャロンの所から離れておかないと⋮⋮わたしに出
来るのは⋮⋮それだけだから⋮⋮!﹂
草原を越え、今は一面に向日葵が咲き誇る花の丘の上空を飛んでい
る。
少しでも、少しでも遠くへと進むフレアの背中を見据え、ラクシェ
は高い声で叫んだ。
﹁もう! もうもうもうもう! ウザい! ウザ過ぎっ! 落ちろ
! 落ちろぉぉぉぉぉぉ﹂
ラクシェは戦槌を振りかぶり、勢いをつけて投擲した。
超高速で迫り来るソレを、フレアは間一髪回避し、一つ息を吐く。
その瞬間が命取りだった。
457
﹁ぉが⋮⋮ぐ﹂
背を打ったのは、死にも等しい衝撃。
背中を覆っている翼がクッションにならなければ、間違いなく死ん
でいただろう。
バラバラに砕け散る翼の残骸と共に、フレアは向日葵畑に落下し、
かろうじて動く首を回し、ラクシェを見上げる。
その手には戦槌。
そして自分が倒れ伏している向日葵畑にも、まったく同じ物が二つ、
突き刺さっていた。
﹁一個だけって誰が言ったかなー? ウチら天使をアンタら下等な
人間と同じレベルで考えてもらったら困るの。さて、んじゃ異端審
問からの処刑コースで、覚悟しときなさいよねぇ⋮⋮﹂
そう言ってラクシェは緩やかに地表に降り立ち、フレアの頭を踏み
つける。
﹁これからさー、死んじゃうくらいの辱めに遭って、そっから死な
せてくださいって言いたくなるような拷問をされて、そして最期は
虫けらみたいにウチに殺されるの。どう、怖い? ウチはとっても、
楽しいけどね! これから毎日! ウチがアンタで遊んであげる!
楽しみで楽しみでしょうがないわ!﹂
ラクシェは足を振り上げ、フレアの頭を蹴る。
額から一条の血を流しながら、フレアは口を緩めた。
﹁そう⋮⋮か。それは結構な⋮⋮事だ⋮⋮﹂
挑発は、成功した。
ラクシェの見た目相応に幼い頭脳の中にはもう、シャロンの事など
残ってはいないだろう。
今あるのは全て、フレアをどうやって苦しめるか、それだけになっ
てくれているのなら、目的を達成したというものだ。
その時、上空から新たな影が五つ、舞い降りてきた。
皮の甲冑を纏い、背中に二枚の白い翼を生やした男達が五人、地表
に降り立ったのだ。
458
﹁ラクシェ様、アン・ミサ様より至急里へと戻る様にとのご伝言で
す。この者の移送は我らに任せ、どうぞお急ぎを﹂
男達の中、一番老け顔の天兵が一歩前に出てラクシェへと告げる。
﹁えー⋮⋮もう、これから楽しいところなのに⋮⋮でもまぁお姉さ
まがお呼び出し、急いで帰ろうかな﹂
そう言ってラクシェは今までの怒り顔をやめ、華やいだ幼い笑顔を
フレアへと向ける。
﹁じゃあね、先に里に帰って一杯一杯準備しとくから、アンタの事
てってー的に痛めつけられるように、人もたくさん集めとくし、器
具もたくさん用意しとく。楽しみにしててよね﹂
そう言ってラクシェはフレアの傍から離れ、天兵と二三言葉を交わ
して飛び立って行った。
それを直立不動で見送ってから、天兵達がようやく緊張から解かれ
たように脱力する。
﹁ふぅ⋮⋮やっぱり二大天使様の前だと緊張するな。任務でも無け
ればこんなに近寄る事なんて出来ないしな﹂
﹁あぁ、力天使ラクシェ様と智天使アン・ミサ様。お二人は我が里
のアイドルであるにとどまらず、この西域の支配者でもあらせられ
る。おいそれと近づくような事は出来んさ﹂
苦笑交じりの会話を終え、彼らはフレアの事を振り返る。
﹁さて⋮⋮と﹂
粘りの入った声が一つ。
﹁隊長ぉ⋮⋮良いッスか?﹂
軽薄な声が一つ。
そして重々しい声で、先ほどラクシェに話しかけた老け顔の男が頷
いた。
﹁うむ。天の思し召しだ﹂
そう言って彼は、自らの腰に差した水筒を取り、中身を喉へと流し
込んだ。
﹁隊長⋮⋮それは?﹂
459
そう言って部下の一人が声をかける。
﹁霊水⋮⋮お前達もどうだ、精が付くぞ﹂
彼は部下に水筒を手渡しながら、にやけた表情を浮かべ、フレアへ
と近づいて行った。
﹁おう、お前そっち持て﹂
﹁はいッス。ほーら脚開いてなー﹂
﹁俺こうやって女の服脱がすの大好きだわ﹂
﹁俺らは紛いなりにも天の使いだからな、強姦魔の様な悪逆非道に
衣服を引き裂いたりはせんさ﹂
一人がフレアの背後に回り、抱きすくめる様にして胸のシャツを脱
がしていく。
一人がホットパンツの留め金を外し、足を持ち上げて抜き取ってい
く。
そうすると、闇色の布に包まれたフレアの乳房と陰部が姿を現した。
﹁へっへ⋮⋮んじゃさっそく﹂
背後に回った男が胸を揉みしだく様にしてブラトップを外し、大き
な胸を露出させる。
途端、おぉ⋮⋮と言う簡単が五人から沸き起こる。
フレアは薄目を開けてそれを見るが、目立った抵抗も反応もしない。
﹁ピンク色の良い乳首じゃねぇか⋮⋮ははっ。これから異端審問官
のジジィ共がこれを毎日好き勝手に弄るとなると、羨ましくて涙が
でるねぇ﹂
不作法な手が伸びてきて、フレアの乳首を摘みあげる。
そのままコリコリと指を使って刺激し、上下左右に引っ張り乳房の
弾力を確かめる。
﹁んっ⋮⋮﹂
フレアは眉根を寄せ、不快感を示すが、その様すら男達の興奮を煽
るだけだった。
460
﹁はっ、感じてんのかよ⋮⋮低俗な人間の雌がよぉ⋮⋮さて、んじ
ゃこっちだな。ご丁寧に脱がしやすいように紐じゃねぇか。どんだ
けヤりたがりなんだよ﹂
ラグラジルの魔力によって作られた衣服。
それはフレアの趣味ではなかったが、ホットパンツの下、彼女の秘
部を守る最後の一枚は左右を紐で結んで留める、扇情的なものだっ
た。
スルリと紐が引かれ、フレアの陰部が晒される。
男達は食い入る様にそこに視線を注ぎ、その顔に興奮の色を強くし
ていく。
﹁⋮⋮さて、それじゃあ俺からだな﹂
成り行きを見守っていた老け顔の男が腰を上げ、フレアの股の間に
体を潜らせる。
己の肉棒を取りだし、フレアの秘部へと宛がった。
﹁人の子よ。その罪を我らの聖槍にて貫き、聖液にて清めん⋮⋮な
んてな﹂
ゆっくりと、侵入し、繋がった。
あれから、夕暮れに染まるまでの間、代わる代わる一人三回ずつフ
レアの秘部へと彼らの言うところの聖槍を突き入れ、聖液を注ぎ込
んだ。
肉棒は人のソレと変わらずどす黒い色をし、放出された体液の匂い
も一緒だった。
フレアは終始無言のままその責め苦を耐え抜き、今はようやく﹃天
兵の隠れ里﹄へと移送される段階に来た。
誰かに抱えられて飛ぶのかと思いきや、そうでは無い。
両の足首に鎖を巻かれ、それを二人の天兵が分けて持つ。
鎖を持つ天兵は互いに距離を取って飛び立った。
フレアは引き摺られるようにして地面にぶつかりながら、宙に浮く。
461
頭を下に。
股間を大きく空へと開いた状態で、運ばれている。
男達が愉しげに会議した結果、この様な移送方法になったのだ。
元より力の入らない腕はダラリと地面に向けて伸び、髪もそれに続
く。
大きく開いた陰唇に上空の少し肌寒い風を感じながら、フレアは決
心した。
少しでも長く、時間を稼ぐ。
ラクシェについても、天兵についても。
そうする事でシャロンに考える時間を作ることができる。
それならば、どれほどの恥辱にも、痛みにも耐えてみせると。
その時、遅れて飛び立ってきた最も年の若い天兵が追い付いてきた。
﹁おい、遅せぇぞ! 何してた!﹂
年長の男が咎めると、彼はヘラヘラ笑いながら頷いた。
﹁あ、サーセンッス。でもこれ、ほら﹂
そう言って彼は手折った向日葵を見せる。
﹁はぁ? 向日葵がどうしたよ﹂
その声にまた一つ頷いてから、
﹁いやぁこうしたら栄えるんじゃないかって⋮⋮よいしょっと﹂
そう言って、向日葵の茎をフレアの陰部に突き入れた。
ズニュ︱︱何かが侵入してきた感覚に反応してフレアが反転した視
界の中で己の股間を見つめる。
そこには夕日に向かって咲く、向日葵が一輪生えていた。
﹁はっは! 良いじゃねぇか! こいつは芸術的だ!﹂
﹁でしょー。ほらこん中俺たちの聖液で一杯だし、花瓶っぽくて良
いかなーって﹂
そう言って若い男は得意げに笑い、フレアの尻たぶを軽く叩いた。
事実、フレアは膣内に注がれた彼らの雄汁を掻き出す暇も無く運ば
れているので、股間を上に向けている以上精液の大半は中に残った
ままだった。
462
﹁やはり天の使いたるもの芸術性も愛さなくてはならないからな。
うむ。これは良い!﹂
そう言って年長の男は向日葵の茎を摘み、フレアの膣内でかき回し
た。
膣内で留まっていた精液がその動きで一滴膣口から溢れ、恥丘を渡
って腹を通り、胸の谷間を通過して、フレアの唇へと垂れてきた。
フレアはその汚液が放つ異臭に眉を顰めながら、改めて決意した。
耐える、と。
463
御手紙︵前書き︶
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464
御手紙
﹃そう⋮⋮君は他の調教師連中とは何か違うって感じていたけれど、
そういう理由が有ったのですね⋮⋮﹄
優しい声が響く。
裸の麗人が、少年を抱きしめながら頭を撫で、微笑んでいる。
﹃君の国を、愛する人の尊厳を取り戻すために、これから先辛い道
を歩む決意をして、こうやって私に出会った﹄
ふくよかな胸に顔を埋めている少年は泣いている。
﹃シャスラハール。どうか君の未来に幸運を。ほんの少しだけ⋮⋮
今できる事だけでも君の力になるわ﹄
そう言って麗人は今より少しだけ若いシャスラハールの体を引きは
がした。
﹃ルル⋮⋮?﹄
シャスラハールは温もりを失った事への寂しさから、更に濡れた瞳
で麗人を見つめる。
﹃⋮⋮ハレンの事を惜しいと思ってくれる君の正しい心を私は信じ
ます。シャスラハール、この力を君に託すけれど、誰にも言っては
いけないよ。ゼオムントの人間にはもちろん。他の公娼にも言って
は駄目﹄
麗人はシャスラハールの股の間に顔を埋め、その陰茎の手に取る。
﹃ゼオムントには多様な魔導士が居ます。これから私が君に施す魔
法は誰にも知られてはいけない。だから、この国の魔導士達に露見
しない様に、限定条件を付けて隠しておくことにします﹄
鈴口に口づけをし、舌先で湿らせながら麗人は言う。
﹃調教師に身をやつし⋮⋮仲間を募って行くのでしたね。でももし、
君の理想や計画に従わない、或いは既にゼオムントに強力な洗脳を
されているような公娼に君が出会った時、私の施した魔法がきっと
465
役に立つでしょう﹄
右手が陰茎を擦り、左手が陰嚢を揉む。
﹃君の⋮⋮最後の一滴。陰嚢に流れる精が全て出尽くす時。その射
精を受け止めた女性の心を縛る事が出来るよう、私の︽誓約魔法︾
をかけておきます。人は満腹時に美食を求めず。絶望時に悲壮譚を
求めません。それと同様に、君が性行為に快楽を失い苦しみだけ覚
えたその瞬間、この魔法は表出します。そうすれば、他の魔導士に
気づかれる事も無く、無暗やたらに行使する事も出来ません﹄
ついに麗人の口がシャスラハールの陰茎を咥えこみ、緩やかに上下
する。
射精に導くストロークでは無く、ゆっくりと何かを沁み込ませてい
くような動き。
ぷはっ︱︱と息を吐き、麗人の口は離れ、その視線は再びシャスラ
ハールへと向かった。
﹃刻印魔術ではありますが、先ほどの限定条件を満たさない限り印
も魔力も漏れないように施しておきました。シャスラハール。良い
ですか? この魔法は人の運命を縛ります。くれぐれも安易に行使
しない様に。君にとっての奥の手として、ここぞという場面を選ん
で決断してください。君にならそれが出来ると、私は信じています﹄
そう言って麗人はシャスラハールの頭を撫で、強く抱きしめた。
黒肌の少年は嗚咽を漏らし、その胸で咽び泣く。
ゆっくりと震える声が放たれる。
﹃ルル⋮⋮僕は⋮⋮、ルルの事もハレンの事も忘れない。僕が傷つ
けた女性として、僕を信じてくれた女性として⋮⋮ハレンの死も、
ルルの言葉も忘れない。だから待っていて⋮⋮。ルル⋮⋮死なない
で。絶対に⋮⋮僕がゼオムントを⋮⋮公娼制度を終わらせるから、
その日まで、絶対に死なないで⋮⋮ハレンの分まで、生きて待って
いて﹄
少年は泣き、麗人は頷く。
西域遠征が始動する、一年前の話だった。
466
夢を見ていた。
シャスラハールはぼやけた思考の中で、そう判断する。
夢の中、自分の脳が作り出した幻想に過ぎないけれど、懐かしい声
が聞けた事が嬉しかった。
ルル。
ミネア修道院院長、︽幸運と誓約の魔導士︾ルル。
西域に来る以前シャスラハールが調教師として担当した事のある公
娼。
金色の髪を頭の後ろで縛り、シャスラハールの前ではいつも柔らか
な笑みを浮かべていた美しい人。
同時期にシャスラハールに任されていたハレンと言う名の弓騎士と
共に、彼を支えてくれていた人。
ハレン︱︱。
ルルより少しだけ前にシャスラハールの管轄になり、初めて心を開
いてくれた女性。
強気で、勝ち気で、他の調教師の手に余るじゃじゃ馬として、当時
頭角を現していたシャスラハールに腕試しとして与えられた女性。
いくつもの現場で調教を拒み、生傷を与えられながらも激しく反抗
して矜持を守り続けていたハレンを、シャスラハールは陥落して見
せた。
周囲はその腕前に感嘆し、栄達の第一歩として称賛した。
その実は、黒肌の王子が堕ちた弓騎士と結んだ主従契約にあった。
シャスラハールはハレンに己の出自と願いを告げ、ハレンはそれを
信じた。
以後ハレンは従順に公娼としての役目をこなし、シャスラハールも
調教師として多様な仕事を用意した。
そして、夜になり調教管理の一環として二人で一つの寝台に収まる
時、毎度少年は涙を流して弓騎士に謝った。
467
弓騎士はそれを許し、胸に抱いて眠った。
ルルが加わって、三人で眠る様になってからもそれは続いた。
初めの頃理由を聞かされていないルルは仲睦まじくしている二人の
関係を異常に思いながらも興味深そうに窺っていた。
シャスラハールとハレンがそろそろルルにも真実を話し、仲間に引
き入れようとした時、事件は起こった。
ハレンが死んだ。
殺された。
以前からハレンに付きまとっていた男が、仕事を新規開拓し色々な
現場で股を開いていた彼女に見当違いの嫉妬をし、とある娼館で開
催された有名公娼を集めた生挿入会の現場で一般参加者に組み敷か
れているハレンの胸を太いナイフで刺し殺したのだ。
シャスラハールは慟哭し、己が罪を罵った。
ハレンを目立たせたのは自分、ハレンに生挿入会の仕事を斡旋した
のも自分、つまりハレンを殺したのは自分。
寝台の上で延々と泣き続けるシャスラハールを抱きしめ、ルルはそ
の理由を問い、彼の過去と願いを知った。
そうしてルルは魔法を施し、シャスラハールは彼女と誓った。
それからひと月もしないうちにシャスラハールはルルを失った。
ルルもまたハレン同様に従順な公娼として積極的に活動していたた
め、人気が集まり、大手の商人組合から目を付けられてスカウトさ
れたのだ。
別れの朝、シャスラハールはルルに抱きしめられながら誓った。
誓約の魔女に誓った。
必ず助ける。
絶対に。
何故夢を見たか。
それはこの状況が昔と似ていただからだろうと、シャスラハールは
468
思う。
暗い洞窟の中、毛布を地面に敷くだけという簡素な寝具に収まり眠
っていた。
朝起きてみると、自分の左腕はリセの形の良い胸に挟まれている。
失っている右腕の根元、肩にハイネアのあどけない寝顔が有った。
二人の女性に抱かれながら眠っていた。
ルルとハレンがそうしてくれた様に。
リセとハイネアが温もりをくれていた。
シャスラハールはハイネアの頭頂部にキスをして、体を起こそうと
するが、未だ眠っている二人の体から腕を抜く事が出来ず、少し弱
気な表情になる。
その時、鋭い声がかかる。
﹁殿下、お目覚めですか?﹂
視線をやると、少し離れた所にヴェナが座っていて、聖騎士の目は
こちらを向いていた。
マシラスの山で痛ましい凌辱を受けた彼女だったが、ハイネアの治
療を受け、平然としている。
しかし聖騎士叙勲の証でもある聖剣や彼女の装備はすべて失われて
いる為、今は山道で死んだ兵士からはぎ取った簡素な皮鎧で上半身
を覆い、下半身は布を巻いているだけだ。
﹁おはよう、ヴェナ﹂
﹁おはようございます﹂
二人は朝の挨拶をし、そこでシャスラハールが疑問を抱く。
﹁セナさんとステアさんは?﹂
洞窟の入り口で不寝番をすると言っていたセナと、ヴェナと共に今
後の軍議をしていたステアの姿が見当たらない。
﹁先ほど、近くで何かが衝突するような音がしたとセナさんが言わ
れ、ステア騎士長と共に周辺の哨戒に向かわれました。ですので、
不測の事態が起こるやもしれません。殿下もお早く出立の準備をさ
れた方がよろしいかと﹂
469
ヴェナは鋭い目を洞窟の入り口に向けながら、焦りの無い口調でそ
う言った。
﹁え、ああうん。わかった﹂
シャスラハールはまずリセの胸から左腕を引き抜き、ハイネアの頭
を抱える様にしてそっと地面に降ろして、上半身を起こした。
極力刺激を与えない様に行動したはずが、目覚めかけだったのだろ
う、二人の目が開いた。
﹁はっ⋮⋮! お、お早う御座いますシャスラハール殿下! も、
申し訳ございません侍女の身分で主人に起こされるなどと﹂
﹁ふゃ⋮⋮おはよーうーシャス∼⋮⋮﹂
慌てた声のリセと甘えた声のハイネア。
シャスラハールは二人に笑いかけ、事情を説明しようとする。その
時︱︱
﹁ハイネア様っ! 起きて下さい! 治療を!﹂
鬼気迫る様子でステアが洞窟に飛び込んできた。
﹁しっかり! しっかりして! シャロンっ﹂
その後ろに、裸の女性を背負ったセナが続く。
セナが背負っているのは、気を失っている様子の短い金髪をした女
性。
見覚えがあるどころでは無い。
自分達がマシラスの山を離れ、西域の奥を目指しながらも必死に探
していた人だ。
﹁シャロンさんっ!﹂
シャスラハールは立ち上がって叫んだ。
マシラスの山道でヴェナの危機を教えてくれた大事な仲間。
彼女が傷だらけで背負われていた。
﹁命に別状は無い⋮⋮うん。それは断言できる﹂
ハイネアが治癒術でシャロンの傷を塞ぎ、回復効果を送る。
470
全裸で体中の至る所に擦り傷を作り、シャスラハールは確認してい
ないが陰部には凌辱の痕が有ったそうだ。
騎士長ステアが表情を曇らせる。
﹁セナ、確認するが⋮⋮音がしたのだな?﹂
その言葉に頷きを返しながら、セナは口を開く。
﹁はい。まるで戦場で使われる大型の投石器が近くに着弾したかの
ような、鈍くて重い音でした﹂
その音を聞いて、セナはステアと連れ立って確認しに行き、シャロ
ンを発見したのだ。
﹁シャロンは空から降ってきた⋮⋮と言う事か⋮⋮?﹂
ステアは信頼する腹心の額を撫でながら疑問する。
先ほどまでシャスラハールが寝ていた寝床にシャロンを横たえ、ハ
イネアが治療魔術を施し、リセが体の汚れを拭い取っている。
ステアとセナはそれを心配そうに見つめ、ヴェナは一人洞窟の入り
口に立って見張りをしている。
そのヴェナが口を開いた。
﹁どうしてシャロンさんがそこに倒れていたかも大切ですが、一緒
に居たはずのユキリスさんとフレアさんの事も心配ですね﹂
マシラスの山で最後にシャロン達の姿を見ているのはヴェナだ。
その時シャロンはユキリス、フレアと行動していたはずなのに、二
人の姿は見えない。
﹁シャスラハール殿下⋮⋮殿下は山道でシャロンの声を聞かれ、ヴ
ェナ様をお救いに向かったとの事でしたが、その時にフレアとユキ
リスの声は聞かれましたか?﹂
ステアが確認する口調でシャスラハールに問う。
﹁いや⋮⋮あの時はほんの二三言しか会話していないですが⋮⋮全
てシャロンさんの声だったと思います﹂
少し離れた所に座っているシャスラハールは答えた。
ステアはそれに頷き、小さく声を漏らす。
﹁殿下の後に、わたしにもシャロンの声が聞こえたのですが、その
471
時にも二人の声は聞こえなかった⋮⋮もしかすると早い段階から三
人はバラバラになっていたのか⋮⋮?﹂
ステアにとって、フレアは同僚である以前に妹でもある。
その身を心配する事に何の不思議もない。
それにユキリス。
この魔物だらけの西域で不可思議が連続する中、彼女の持つ魔導の
知識が一行にどれだけ利をもたらした事か。
二人を失うわけにはいかない。
ステアが視線を厳しくさせている時、リセが口を開いた。
﹁あっ、マルウスの自在袋が膨らんでます﹂
指を差す先は、一行を後方支援してくれているマルウス族から与え
られた空間を歪める自在袋。
二つで一つのその袋は、一方に物を入れるともう一方に収納される
という非常に便利な代物だった。
これまでに何度か食料や消耗品を送ってもらい、シュトラ達と手紙
のやり取りもしている。
マルウスの里でシュトラ達は仲良く協力し合って生活していると、
明るい文面が送られてきていた。
シュトラや他の四人はマルウスの荷運びを手伝い、足を怪我してい
るレナイ達三人は生産活動を手伝っているのだと書いてあった。
こちらは心配無いので、どうかそちらの旅に神の加護が有りますよ
うに。と毎度手紙は締め括られていた。
時折、妙に手紙が湿って文字が震えている事も有ったが、その明る
い文面を読むだけでシャスラハール達は旅への活力を取り戻してい
た。
セナが手を伸ばし、自在袋を掴む。
その中には蜜を塗り込まれた大玉のリンゴが幾つかと、瓶詰めされ
た液体が入っていた。
﹁食料だね。こっちの瓶は⋮⋮お酒かな? あ、後手紙も入ってる。
シュトラさんからだ﹂
472
セナは袋から瓶を取りだし、そこに張り付けられていた手紙を発見
する。
﹁甘いリンゴに酒か⋮⋮シャロンが目を覚ましたら食べさせてやろ
う。治療術で怪我が治っても、体力まではそうもいかないからな﹂
ステアがシャロンの額に掛かる髪を払いながら穏やかな口調で言っ
た。
﹁そうですね。今日のところはシャロンさんが目を覚まされるまで
ここで待機。事情を詳しく聞いてから方針を選びましょう。ヴェナ、
それで良い?﹂
シャスラハールがヴェナに向けて言う。
﹁えぇ。それで問題無いかと﹂
ヴェナが頷き、一行の本日の動きが確定した。
全ては、シャロンが目覚めてから。
シャクシャク︱︱と耳触りの良い音が洞窟内に響く。
セナが蜜リンゴを咀嚼する音だ。
シャロンを囲んで、全員が車座になって座っている。
治療が一段落し、後は目覚めを待つばかり、となったところで一行
は食事にとりかかった。
とは言え、マルウスから送られた蜜リンゴをリセが切り分け、それ
を全員で分けているだけだが。
﹁甘っ! でも自然な甘さ⋮⋮良いわねコレ⋮⋮美味しい﹂
セナは感動したように呟き、二つ目を手に取る。
シャスラハールもステアもヴェナもハイネアも各々手掴みで蜜リン
ゴを口に運んでいる。
給仕役のリセだけは手をつけず、後で余りを頂くと言って遠慮して
いる。
﹁どれ、シュトラの手紙とやらを読んでみるかの﹂
ハイネアが瓶の傍に置いてあった手紙を手に取り、目を通していく。
473
﹁ほうほう、このリンゴはヒュドゥス達の住む川を渡った先に住ん
でいるゴリラ型の魔物と貿易して手に入れた物らしい﹂
﹁ヒュドゥスか⋮⋮あの時は酷い目に遭った。ヴェナ様と殿下には
感謝のしようもない﹂
ステアが嘆息気味に笑い、シャスラハールとヴェナに頭を下げる。
﹁いえいえ。皆さんが無事で何よりでした。ヴェナもご苦労様﹂
﹁殿下のそのお言葉だけで私は十分でございます﹂
主従がそのやり取りをし、手紙の内容は続く。
﹁ゴリラ型の住む森まで荷車を引いてシュトラ達はマルウス族と一
緒に向かったようだのう。そこでマルウス族がゴリラ達と交渉して、
シュトラ達が少しゴリラの森で労働をする事でリンゴを得られたよ
うだな﹂
その声にセナが反応する。
﹁労働って⋮⋮まぁあのネズミっ子連中にゴリラの仕事の手伝いは
出来ないわよね﹂
リセが頷き、
﹁こーんなに小さかったですもんね。可愛かったです﹂
手でマルウスの身長を再現しながら笑った。
手紙は続く。
﹁リンゴを持ち帰った後はレナイ達生産組が蜜を塗る作業をして、
マルウスの里特製激甘蜜リンゴの完成っとな。あぁあとその酒は作
り始めからレナイ達がやっているらしい。味も香りも逸品でマルウ
スの里で大人気のみならず、他の友好的な魔物の集落から買い付け
にやってくるらしいのぅ。その際大口で酒が売れた時はシュトラ達
が荷車を使って運んでやっているそうな﹂
へーとセナは感心して言う。
﹁魔物と人間の共存ってあるんだね﹂
﹁素晴らしきことです﹂
ヴェナもそれに倣って頷いた。
そして手紙は末尾へ。
474
﹁﹃こちらは心配無いので、どうかそちらの旅に神の加護が有りま
すように﹄。ふふ⋮⋮いつも通りだな。こうも毎度毎度神に加護を
祈られては、得体の知れない自信というか、前途を明るく感じてし
まう気がするのう﹂
ハイネアはそう言って笑った。
﹁あ、リンゴ無くなりましたね? もう一つ切ります﹂
リセが皿の上の状況を見、新たな蜜リンゴを取りだし器用に皮を剥
いていく。
手際良く切り分け、皿に置いて出す。
そうすると、銘々手を伸ばしてリンゴを掴み取り、口へと運んでい
く。
その時、ぼんやりとシャロンの目が開いた。
セナは丁度口にリンゴを放り込んだところで、目を大きく見開いて
同僚に飛びつかんばかりに声をかける。
﹁シャロン! 目が覚めた? 体は大丈夫? 痛い所無い? あ、
コレ! マルウスから送られてきた蜜リンゴ! 甘くて凄く美味し
いよ! 食べてっ!﹂
金髪の騎士は濁った瞳で戦友の顔を眺め、その口の中にリンゴの欠
片が収まっている事と、右手に新たに掴んだリンゴの一片がある事
を見て、急激に目を見開いた。
思い起こすのは、ラグラジルに見せられたマルウスの里での出来事。
蜜リンゴ⋮⋮。
その﹃蜜﹄って。
﹁シャロン、酒もあるぞ。マルウスの里で作られて他の魔物にも人
気な逸品だそうな。あまり酒類の摂取は得策じゃないが、今日は特
別だ。後で開けよう﹂
ほんのりと慈愛の表情を浮かべたステアの言葉に、再び意識が刺激
される。
酒⋮⋮マルウスの里で作られた酒。
レナイ達が枷に縛られ、中毒の花を食べさせられて文字通り体から
475
絞り出した、残虐な酒。
セナの右手が迫ってくる。
蜜にテラテラと光るリンゴが、シャロンへと迫ってくる。
﹃殺して⋮⋮﹄
シュトラは、そう言っていた。
シャロンはバネ仕掛けの様に体を起こし、セナからリンゴの一片を
奪い取ると握りつぶした。
﹁え⋮⋮?﹂
意味が解らないといった表情でセナが呻くのを無視し、彼女の口に
指を突っ込む。
﹁食べちゃ⋮⋮ダメっ! それを食べてはダメっ! 全員、そのリ
ンゴを捨てて下さい! その酒を、叩き割って下さい! そうじゃ
ないと⋮⋮そうじゃないと!﹂
涙を流しながら、シャロンはセナの口内に残っていたリンゴを掻き
出す。
﹁シャロンさん⋮⋮?﹂
シャスラハールが驚きの表情で見つめている。
騎士は滂沱の如く涙を流しながら、嗚咽交じりに言った。
﹁シュトラ達が⋮⋮あまりに救われませんっ!﹂
落ち着きを取り戻したシャロンが語り始める。
マシラスの山での出来事。
ラグラジルという存在。
﹃アン・ミサの杖﹄の所在。
アミュスとヘミネの末路。
マルウスの里の現状。
ユキリスとフレアの変質。
ラクシェという絶対的強者の出現。
ユキリスが道を違えた事。
476
フレアが犠牲になった事。
その全てを語りきった時、一行の顔に浮かび上がったのは深刻な苦
渋。
辺りにはリンゴの破片が飛び散り、酒瓶は割られ、中身は地面に吸
い取られた。
そうして重々しい空気が洞窟内を包んだ時。
語り終えたシャロンに問う声が一つ。
シャスラハールだ。
﹁シャロンさんは⋮⋮どう判断されますか? 現状、僕らが次に打
つ手は⋮⋮何かありますか?﹂
ポツポツと染み入るような声で問うシャスラハール。
シャロンはそれに数瞬沈黙した後、答えた。
﹁当初の目的である魔物の宝具︱︱︽アン・ミサの杖︾は既に敵中
に有り、それを使われてアミュスとヘミネは敗れました。私達の旅
は目的を失い、ラグラジルやラクシェと言った人外の強者まで介入
してきた以上。最早⋮⋮最早っ﹂
涙ながらの声。
その時全員が唇を噛み、絶望を感じた。
しかし一つだけ、声は続く。
﹁確認します。ラグラジル⋮⋮そしてラクシェは女性なのですね?﹂
シャスラハールの声は小さく、しかし力強くも有った。
﹁はい。そして恐らくラクシェが﹃お姉さま﹄と言っていたのでア
ン・ミサも女性であるかと﹂
シャロンは答え、首を傾げる。
黒肌の王子の思考が読めなかったのだ。
そして決定的な一言が生まれる。
﹁それならば、﹃可能﹄です。まだ希望はある﹂
シャスラハールは顔を上げた。
全員を見つめ、口を開く。
﹁人外の強さを誇るというラグラジル、ラクシェ、アン・ミサの心
477
を縛ります。皆さん、力を貸してください!﹂
その言葉の意味をこの瞬間理解できたものは居なかった。
けれどその強さ、甘やかさに心を打たれ、全員が頷いた。
シャスラハールは心中でルルに語りかける。
︵ルル⋮⋮今ここで僕は君のくれた奥の手を使うよ。絶対に諦めな
い。最後の一瞬まで戦い抜く。君の言いつけを破る事になるけれど、
どうかそれは許して欲しい︶
シャスラハールは︽幸運と誓約の魔導士︾にまつわる話を語り始め
た。
478
王子の役得︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
479
王子の役得
陽光を遮る洞窟の中、シャスラハールはかつてセナやシュトラに語
った調教師時代の過去を話す。
シャスラハールの奥の手は、ある種女性にとっては禁忌にも触れる
様な技になる為、仲間である彼女達に向け誠意をもって全てを詳ら
かにするつもりだった。
始まりから、終わりまで。
シャスラハールがゼオムントに抱く思いを全て明らかにする。
スピアカントがゼオムントに降伏した後、聖騎士ヴェナと再会する
ために調教師になった事。
幾多の公娼と出会い、その悲劇を目前にしながら彼女達の助力で目
的へと一歩ずつ前進した事。
姉を国家的な凌辱祭において無残に殺された事。
そしてその亡骸は今なお不滅魔術により保存され、死後も果ての無
い凌辱に曝され続けている事。
そして、その中の一つの出会い。
︽幸運と誓約の魔導士︾ルル。
彼女によって施された誓約魔法。
それがこの苦境を覆す切り札になるのではないか。
シャスラハールの声に耳を傾け、セナ達は真剣な表情で彼を見つめ
る。
シャスラハールは泣いていた。
姉の死に触れた時も、彼を信じてくれた公娼の死に触れた時も。
頬を濡らして語った。
セナは彼の一つしかない手を取り、そっと握りしめる。
指を一本一本絡め、甲を擦る。
優しさと想いを擦り込んで送り、彼の心が落ち着く様に務めた。
480
﹁⋮⋮お話、有難うございました﹂
ステアが重い口調で言い、語り終えたシャスラハールを労う。
﹁あの大きな祭りで犠牲になられたのは⋮⋮殿下の姉君様だったの
ですか⋮⋮お痛ましい話です﹂
一年と少し前に大々的に開催し全国に放映されたその祭りをリセも
見ていたのだろう。
押し殺した声で呟いた。
﹁殿下の姉君︱︱アリスレイン様はお美しく気高い姫君でした。そ
れ故にゼオムントの鬼畜共に目を付けられ、あの様な⋮⋮くっ!﹂
聖騎士ヴェナは己の無力を嘆き罵る。
主家の姫が凄惨な目に遭っている時に、彼女自身映像を笑いながら
楽しむ男達に凌辱されていたのだ。
﹁妾は当時首都の公立中等学校に居たが⋮⋮その祭りの初日と最終
日は全校生徒を集め、集会場で大きなスクリーンに映して見せられ
たな⋮⋮﹂
自由性交生徒として中等学校で公娼活動をやらされていたハイネア
は、十代半ばにも達していない同級生達がアリスレインの苦しみ狂
う様を見て手を叩いて喜んでいた恐ろしい光景を思い出す。
﹁あたし自身も、あの祭りの後浮かれまくってるゼオムントの奴ら
に色々やらされたわ⋮⋮。次回の祭りまでに自分も独創性のある調
教法を編み出すんだってね⋮⋮﹂
セナの言葉は苦く、当時の記憶を残らず削ぎ落としたい願望が心身
を這いずり回っている。
﹁⋮⋮殿下、心中お察し致します。姉君の魂の平穏を取り戻す為、
我らも微力を尽くさせて頂きます。そして︱︱﹂
シャロンの瞳は苛烈に輝いている。
国と家族を想うシャスラハールの覚悟を聞き、一度手放しかけた決
意が引き締まった。
そして示された反撃の手段。
﹁誓約魔法⋮⋮それを用いれば女性を内側から屈服させる事が出来
481
る。間違いありませんね?﹂
その声に、シャスラハールは頷いた。
﹁ルルはそう言っていました。彼女はユキリスさんやアミュスさん
と同じミネア修道院の所属で、院長を務めていた魔導士だったらし
い。彼女の魔法なら、きっと大丈夫です﹂
言い切る。
希望を逃がさない為に。
﹁ならばそれでラグラジル、ラクシェ、アン・ミサの心を縛り、こ
ちらの配下にする事でゼオムントに対抗する戦力を揃えようとお考
えなのですね﹂
疑問では無く断定。
シャロンがシャスラハールの話を聞いて、真っ先に思い浮かんだ方
法も同じだったからだ。
果たして、彼はもう一度頷いた。
﹁ラグラジルは予測不能な魔術を操り、ラクシェはそのラグラジル
を怯えさせるほど強大な力を持ち、アン・ミサは西域における現在
の管理者。シャロンさんの先ほどのお話通りなら、この三人の力が
揃えばゼオムントにも十分対抗できると思うんです﹂
シャスラハールは心の奥で、自分を嫌う。
女性の心を縛る魔法。
ルルはゼオムントに洗脳された公娼を救う為と言ってその力を預け
た。
シャスラハールは力を授かってから今日まで一度も行使せず、言葉
と信念だけで仲間を集め、前進してきた。
それは、この魔法がもたらす効果にどうしようもない躊躇いを覚え
ていたからだ。
優しさと正しさ︱︱アリスレインに教え込まれたそれらに縛られ、
シャスラハールはルルの魔法を使えなかった。
しかし、今度ばかりはそうも言っていられない。
何しろラグラジルの手にはユキリスが、ラクシェの手にはフレアが
482
いるのだから。
仲間の心を蝕んだラグラジルも、恐らく今非道な事をしているだろ
うラクシェも、許す事は出来ない。
この二人にならば、自分は覚悟を決めて誓約魔法を行使できる。
﹁そ奴らの手に落ちたユキリスとフレアの事も有る、なるべく早く
行動し二人を助け出さねばならんしのう﹂
ハイネアが口をへの字に曲げて言う。
﹁しかし、相手は翼を持った天使で所在も知れぬ⋮⋮どうやって見
つけ出すかだ⋮⋮﹂
弱り切った顔でステアが呻き、頭を掻く。
﹁ラクシェ⋮⋮の方は、アレでしょ? ﹃天兵の隠れ里﹄ってとこ
に居るんでしょ? まぁそこがどこか解んないから意味ないんだけ
ど⋮⋮﹂
セナがもどかしげに言い、リセが続く。
﹁知っている人に聞けばいいのでしょうけれど⋮⋮マルウス族の本
性も明らかになった以上、もう私達に西域で頼りになる存在は居ま
せんよね⋮⋮﹂
弱弱しい声に、割り込んでくる芯の強い声。
﹁聞き出せば良いのですわ﹂
ヴェナが瞑目し、そう言った。
皆がえっ︱︱と言う表情で彼女を見た時、シャロンが再び口を開い
た。
﹁そうです。聞き出せば良いのです﹂
誰に、と言う声が飛び出すと、シャロンはゆっくりと答えた。
﹁ラグラジル﹂
生傷の浮かんだ肌を晒したまま、シャロンは続ける。
﹁元よりラクシェに何の対策も無いまま挑んでも勝機はありません。
彼女の力は正直⋮⋮桁外れです。心苦しいですがフレアには少し待
ってもらい、順番としてラグラジルを先に捕らえ、ラクシェの弱点
を知った上で彼女に挑む。そうするべきです。ラグラジルには面妖
483
な魔術を使う能力はありますが、直接の戦闘力はさほど高く無いよ
うです。恐らく万全な状態のヴェナ様ならば一騎打ちで打倒できる
かと﹂
その言葉にステアは疑問する。
﹁しかしそのラグラジル自体、どこにいるか定かじゃないのでは?﹂
騎士長の言葉に、軍師は頷く。
﹁はい。定かではありませんが、予測は出来ます。まず間違いなく
ラグラジルが現れるであろう場所について、私に心当たりが有りま
す﹂
言葉に込められた自信に、皆の表情が引き締まる。
﹁その場所は?﹂
ヴェナが問い、シャロンが答える。
﹁マルウスの里。ラグラジルは去り際に新たな手駒を探していまし
た。そしてその直前に彼女が見ていた光景はマルウスの里でシュト
ラ達が凌辱されている姿。ラグラジルがユキリスやフレアにしたよ
うに心の隙間をついて自らの配下にしようとするなら、現在のシュ
トラ達はうってつけの存在です﹂
方針は決まった。
ラグラジルを探しマルウスの里へと引き返す。
無論、凌辱されているシュトラ達を救出するのも大事な目標だ。
そうと決まればのんびりしている暇は無い。
マルウスの里に行ったは良いが、既にラグラジルが訪れた後でシュ
トラ達はその手駒になっていた︱︱なんて事になっては目も当てら
れない。
﹁そういえば、シャロンは服や武器はどうする?﹂
セナが身の回りの品をかき集めながら問うと、シャロンは自らの体
を見下ろし、自嘲気味に笑った。
﹁仕方ないです。装備は全部ラグラジルが持って行っちゃったよう
484
ですから⋮⋮当分はこのままで﹂
肌を全て晒した状態で、やはり少しだけ意識しているのかシャスラ
ハールの視界からは隠れ気味にシャロンはそう言った。
セナはそれを見て、意を決す。
﹁シャス、こっち見ないでよ﹂
自分の身に着けていた騎士服のスカートの留め具を外しながら言っ
た。
﹁え、えぇぇはい!﹂
黒肌の王子は慌てて頷き、視線を遠くに向ける。
スカートを脱ぎ、へそまでの上着と下はパンツと膝上のソックスだ
けの状態になり、同僚に手渡す。
﹁セナ⋮⋮﹂
﹁裸ってさ⋮⋮やっぱ辛いじゃん。なんか嫌なこと沢山思い出すし
さ⋮⋮シャロンは仲間で、友達だし。友達の為ならパンツぐらい別
に全然平気って言うか⋮⋮とにかく当たり前だよ!﹂
その言葉に、金髪の騎士は今日初めて笑顔を見せ、
﹁ありがとう﹂
スカートを穿いた。
今にして思えばマルウスの嫌がらせかとも思えるが、スカートの丈
は短く、風通しの面で言えばさほど効力は無いが、女として一番大
事な部分が視覚的に隠れる事で、心が安らいだのは事実だった。
﹁あの⋮⋮シャロンさん良ければこれも﹂
﹁妾のコレも使ってよいぞ﹂
リセとハイネアが寄って来て、それぞれ手にした物を渡す。
リセからは白地にフリルの入ったエプロン。これはマルウスの里で
得た従者服にセットでつけられていた物。
ハイネアからは赤いケープ。かつてヘミネからハイネアに渡された
リネミア貴族の軍属衣装。
﹁そういう事なら⋮⋮ほら、シャロン。これを付けておけ﹂
騎士長ステアも寄ってきて手袋を渡す。
485
槍使いである彼女が戦闘時に柄との摩擦を弱めるために使っている
物だ。
﹁私もシャロンさん同様に装備を無くしているので、大した物はご
ざいませんが、マシラスの山で拾ってきたこの駄剣を一本、お渡し
しておきましょう﹂
ヴェナはターキナートの騎兵隊に襲われ、シャスラハールに助けら
れた後、敵兵士の死体から汚れていない布と皮鎧を一つずつ選別し、
落ちていた粗雑な剣を腰巻用に一本と予備でもう一本拾って来てい
た。
﹁皆さん⋮⋮ありがとうございます﹂
シャロンは深く腰を折り、礼を言った。
シャロンがエプロンを素肌に纏い、ケープで肩を覆い、手袋を着け、
剣をスカートのホルダーに差して準備を完了させる。
側面から見れば乳房の大半が見えていたり、ケープと手袋の間の白
い腕は完全に露出していたり、スカートより先は全くの裸足である
等、隙間だらけの格好ではあるが、不思議とシャロンの心は温かい
ものを感じていた。
﹁山から連れてきた馬は五頭しかいないから⋮⋮シャロン、体調が
万全じゃないならあたしと相乗りする?﹂
ターキナートの騎兵隊から奪ってきた戦利品に、馬も有った。
シャロンから速やかに山を離れるべきだと忠告されたステアが、全
滅した騎兵隊の後ろで草を食んでいた馬を見つけ、ハイネアをリセ
と相乗りさせて五騎となってここまで乗って来たのだ。
洞窟から少し離れた木に結び、旅の相棒としていた。
セナの言葉に対してシャロンは首を振る。
﹁ううん、私も騎士だから。騎乗する誇りがある。いくらセナにだ
ってそれは頼めません。それよりシャスラハール殿下を⋮⋮﹂
シャスラハールは監視魔術の刻印から逃れる為に片腕を落としてい
る。
その為手綱を握る事に不自由を抱いているのではないかと考え、シ
486
ャロンは言った。
﹁え、僕ですか⋮⋮?﹂
当の本人は未だ視線を逸らし続けている為、反応が遅い。
代わりに聖騎士が頷いた。
﹁そうですわね。では殿下は私と相乗り致しましょう﹂
そうやって一行は大慌てで出立の仕度を整え、これまで来た道を引
き返す。
目指すはマルウスの里。
﹁セナ、シャロン。君達が先頭につけ、相乗りの二頭を中央に、殿
はわたしが務める﹂
ステアの指示でセナとシャロンの操る馬が速度を上げて前へ進み、
ステアの馬が足を緩め後方についた。
シャスラハールはヴェナの体と手綱の間に身を置き、前方を見据え
る。
これから先、どんな厳しい戦いが待っているか。
それを乗り越える強さを、自分の中に再確認していく。
草原が終わり、なだらかな平坦な道が始まった。
﹁セナ、シャロン! 速度を上げろ! 何としてもラグラジルがシ
ュトラ達をさらう前にマルウスの里へたどり着くぞ!﹂
騎士長ステアの言葉に、先頭を行く両騎士が姿勢を変える。
馬の速度を上げる為に、風の抵抗を弱める為に。
馬の首に抱き着く様に前のめりになって、尻を高く突き出す姿勢を
取った。
シャスラハールの眼前に広がったのは、二つの肉感露わな女尻。
一つは風にたなびくスカートがチラチラと視線を誘惑しながら、剥
き身で陰唇までをくっきりと晒したシャロンの美尻。
もう一つは白い布こそあれ、マルウス族の悪意により限りなく薄く
作られたソレは今まで鞍に密着させていた分汗でしっとりと濡れ透
け、丸見えとはまた違ったいやらしさを感じさせるセナの艶尻。
﹁あっ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
487
シャスラハールは喘ぐ様に声を漏らし、まずヴェナを確認する。
聖騎士はしっかりと前を見据え、小娘の尻など知った事かと言う表
情で手綱を握っている。
並んでいる主従の馬はどうかと見れば、ハイネアは目を瞑って馬に
しがみ付き、リセはそれを労わる様にオロオロとしている。
後方に居るステアにはまずソレが見えていないだろう。
馬は跳ねる様にして駆ける。
そうすると騎手の体は跳ね、無論尻も跳ねる。
セナとシャロンの尻が目の前でくっきりと秘部を晒したままプルプ
ルと上下する様子を、シャスラハールは目を逸らしては戻し、戻し
ては逸らしを繰り返して、誰にも何も言えず、ただ顔を真っ赤に染
めながら、馬上の旅を続けた。
488
調教師の都合︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
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調教師の都合
シャスラハールが揺れる尻に心を悩ませている頃。
リトリロイは開拓団本営に設えてある仮の玉座から立ち上がった。
﹁リト、どこへ?﹂
近くの机で書類整理をしていたセリスが声をかける。
﹁巡察。一緒に来る?﹂
﹁そうね、ずっと書類と睨めっこしていたから眼が凝ったわ。気晴
らしに付き合う﹂
そうやって、二人は連れ立って本営を出た。
﹁侍従。俺に対する用件は後でまとめて聞くから、来訪者の名前だ
け訊いておいてくれ﹂
﹁はっ畏まりました﹂
本営の入り口で待機していた老侍従にそう声をかけて、歩き出す。
日は高く昇り、燦々と陽光を放っている。
季節はもう秋を越えて冬になろうかという頃合い。
肌寒い風が吹き、近いうち防寒着が必要になりそうな予感がするよ
うな気候。
﹁⋮⋮城塞。もうすぐ完成ね﹂
セリスが高くそびえ立つ石の壁を見やりながら言った。
﹁あぁ⋮⋮西域への橋頭保。或いは俺達開拓団の最初の家。これが
出来てからが始まりだ。こいつを作り上げて父の国への壁にして、
俺達の街や畑を作る﹂
リトリロイが行っている建国。
それはゼオムントからの独立を意味する。
﹁フフッ。嬉しそうね、リト﹂
セリスは笑い、リトリロイの手を握る。
﹁あぁ⋮⋮これで、君を守れる﹂
490
感慨深げに頷きながら、リトリロイは握り返した。
そもそも、何故リトリロイは覇道国家の王子でありながら独立と言
う茨の道を選んだのか。
それは、父王の存在に有った。
広く深く民を愛するゼオムントの現王は、公娼制度や街道の整備、
弱者救済を職務とした国家機関の設立等、万民に愛される政策に邁
進していた。
取り分け公娼制度は人気を博し、民は王を讃え、王もそれに大層気
を良くした。
しかし、三年。
公娼制度が浸透し、月日が経過していくうちに、民衆から不満の声
が漏れ始めたのだ。
﹃足りない﹄﹃面白くない﹄﹃刺激が無い﹄
絶望に浸りきった公娼と惰性で行う性遊戯では、もう民は満足しな
くなっていた。
兆候はいくらでも有った。
王は大いに焦り、民の機嫌を取る為に様々な施策を行った。
魔導長官オビリスに映像魔術の強化を命じ、魔法により再生と記録
が可能な円盤を開発、大衆化させた。
バンデニロウム
巨額の予算を投入し、公娼を辱め、それを全領土に生中継する事が
出来る専用施設と新魔法を開発し、ゼオムントと並ぶ強国であった
スピアカントの王女を餌食に、凄腕の調教師達に腕を競わせ、国民
を熱狂させた。
しかしそれでも、一時的に夢中になって王を誉めそやす民衆は、半
年も経てば冷静になり、また次の娯楽を求めた。
急かされるようにして王は、シャスラハールの姉であるアリスレイ
ンを屠ったバンデニロウムで次なる宴を用意しようとした。
前回よりも残酷に、より刺激的な調教の舞台を。
テーマを掲げ、前回優勝者であるゾートらを王宮に招集して趣向を
話し合った。
491
そしてその際に求められたのが、公娼の強さだった。
ゾートが挙手し、提案したところによると、
アリスレインは美しく悲劇的でよく鳴き痛みに耐える顔もそそるも
のが有り家柄も含めて考えるととても良いこけら落としになった。
現に死体は魔法で保存し、肉襞も温かいままに会場に設置している
と毎日の様に客が訪れ犯していく。
しかし、
アリスレインは弱かった。
拳で殴れば倒れ、剣で切れば気絶し、万力で膣を抉じ開ければ死な
んばかりだったと。
それではこの選りすぐりの調教師達の鍛え抜かれた手腕に耐えられ
ない。
前回は全力を出し切れなかった者が多いと聞く。
まぁその中で上手く加減をして優勝者の座を頂いたのが自分である
が、とゾートは笑い顰蹙を買っていた。
そこで、次回の開催に当たっては最も強く逞しく、尚美しい者が好
ましい。
ゾートはそう提案し、王を唸らせた。
王は前回優勝者であるゾートの言を聞き入れ、即座に公娼の選別を
行った。
指示を出して三日後、大臣の一人がリストアップされた名簿を持っ
て報告に来た。
四つ、名前が書いてあった。
ゼオムントとの戦役で諸国を纏め挙げ自ら前線に立ち指揮を執った、
カーライル王国のヘスティア王女。
アリスレインと同じスピアカント王国の出身でミネア修道院より聖
騎士の号を贈られ聖剣を得た、聖騎士ヴェナ。
ミネア修道院を庇護しゼオムントとの戦役で最後まで抵抗を続けた
ロクサス郡領国の大領主、魔剣大公マリューゾワ。
そして、憚る様に声を震わせ大臣は辺りを確認し、もう一人の名を
492
告げた。
リーベルラント騎士国家、百戦無敗の騎士団長、セリス。
王は名簿を手に取り、いくつか大臣とやり取りをした。
そうして、一刻の後。
候補は決まった。
次回の大祭を彩る主役は、セリス。
不可侵の公娼として長らく民衆に秘匿され、しかしその無敗の伝説
のみが広く語り継がれていたリーベルラントの軍神。
セリスを嬲り、犯し、辱め、殺す事で王は民の機嫌を取ろうと決め
た。
その知らせは、王宮に暮らしていたリトリロイにはすぐに届いた。
彼は激怒し、父王へと烈火のごとく詰め寄った。
すぐに取り消すようにと。
別の候補選ぶようにと。
しかし王は息子の言葉を認めなかった。
民があっての王家である。
そう言って王は息子の懇願を無視し、孤児院で育つ恵まれない子供
達に毎月贈るプレゼント選びを始めた。
リトリロイは絶望し、絶叫した。
父の下に居てはセリスを守れない。
自分が王にならなくては。
しかしもう時間が無い。
アリスレインを殺した昨年の大祭から半年が経ち、セリスを殺す大
祭まではもう残すところ半年しか無い。
その間にどうやって王位につく。
無為にひと月が流れ、更に無為に時が流れる。
リトリロイが苦悶しているところに、吉報が入った。
魔導長官オビリスによる西域遠征の企画。
公娼を集め西域を辱めながら冒険させるという、発表当時から識者
の間から絶賛を受けた新規事業だった。
493
壮大な計画である以上、国民を熱狂させるのには十分な代物だ。
リトリロイはこれ幸いとオビリスを支持し、予算の投入を終え既に
調教師の選抜から当日セリスに着せる衣装の選定までも行っていた
大祭運営委員会の活動を停止させた。
そうして、前回の大祭から一年と少しが経過して、西域遠征は開始
された。
父王も民衆も公娼達の絶望の旅に夢中になった。
しかしそれでも、リトリロイは知っていた。
いずれ矛先は戻ってくる。
民衆の熱しやすく冷めやすいところも、王の民衆から愛される為な
らば犠牲をいとわないところも。
市中に腹心を送り、民の声を集めた結果、西域遠征に賛成の意見は
凡そ八割にも上ったが、残り二割、民の声の二割が望んだのはバン
デニロウムでの解りやすいスプラッタだった。
彼は決意し、行動した。
ゼオムントの王子を辞め、セリスの夫となる未来を選んだ。
生活困窮者を主とした開拓団を組織し、父王に西域遠征の余興と言
う形で自分の出征を認めさせた。
父王と王宮はこの国作りについてもただの演出と思っている事だろ
う。
砦を作り、街を作り、国を作る。
そうして形を作り上げ、開拓団を新たな民へ、魔物を兵士に変えて
真に独立する。
︽アン・ミサの杖︾、現在オビリスの代理人であるゴダンが管理す
るその宝具も完成間近に奪わなければならない。
問題は無い、武力ならばゴダンは到底セリスに敵わず、開拓団で彼
に味方する者も居ないだろう。
借金を打消し、自由を与え、公娼までも用意してくれる新たな王。
リトリロイの開拓団での人気は絶大である。
ただ一つ、所属が不明確な集団が有るとすれば︱︱
494
﹁⋮⋮毎日毎日、さすがに見慣れたとは言え⋮⋮かつて自分と切り
結んだ相手がこのような扱いを受ける場面を見せつけられると、気
分が悪くなるわ。貴方の妻となる未来を選んだ以上、こんな感傷は
捨て去らなきゃいけないのだけれどね﹂
セリスが寂しげな声で呟く。
視線の先に、調教師の幕舎があり。
それを取り囲むようにして百人規模の男達がたむろしていた。
﹁さぁメシにしよう! 今日もまだまだ忙しいぞ、ガッツリ食って
体力つけとかなくちゃな﹂
調教師ラタークは満面の笑みで言った。
細身の長身で、シルエットだけなら雅な印象を抱かれ易い壮年だが、
いかんせん目は落ち窪み、肌の色が悪い。
不健康を体現したような男だった。
ラタークの号令に従い、二十人居る彼のスタッフは幕舎の中、絨毯
の上で車座になった状態で銘々食事にとりかかった。
ラタークはゾートの組織した調教師団の中で、オルソーに次ぐ三番
目の実績を持つ名のある人物。
彼は直属の部下である五人の調教師と、開拓団の中から重労働がで
きない病気持ちや年寄りを集めて調教師見習いとして十五人を雇い
入れ、総勢二十名のチームを結成した。
ラタークには役割があり、役割を果たすためには人手が必要だった。
﹁さぁほら、アミュスもヘミネもしっかり食って、そんなんじゃ今
日を乗り越えられないぞ﹂
銀色の髪を垂らして俯いている魔導士と、震える手でパンを掴んだ
紅髪の貴族。
この二人の調教管理を担当している。
現在、ゾートの組織した精鋭調教師団は手を持て余していた。
彼らの実力にそぐわない公娼の数。
495
たった二人の公娼に対して三十人近く本職の調教師がついている。
役割分担が生まれたのは必然だった。
ゼオムントに定期的に送る映像作品の撮影やアミュスとヘミネの心
と体の開発はマダム・オルソー。
開拓民への一般開放を仕切り、二人の体調面と性病や伝染病の防止
等を管理するのがラターク。
そして後進への技術指導として調教師を集めて二人の肉体で磨き抜
かれた調教技術を披露するのがゾート。
オルソーに十人、ラタークに五人、ゾートに十五人の本職調教師が
つき、サポートと勉強に勤しんでいる。
序列そのまま、ゾートを筆頭にオルソーが続き、ラタークが三番目。
ラタークには野望が有った。
いずれはオルソーを抜き、ゾートを追いやってゼオムント一の調教
師になるという夢が。
実績はもう十分以上に積んだ。
後は直接の仕事の成果で比べられる。
オルソーよりも評価を受け、この調教師団の中での順位を覆さなく
てはいけない。
その為にも仕事をしくじるわけにはいかない。
ラタークは歯噛みする。
最近開拓団の中で飛び交う噂の中で、アミュスとヘミネが心を殺し
てしまったという話がある。
一般公開の時にどんだけ激しく犯してやってもウンともスンとも反
応しないのだと。
あれじゃあ面白くないなと。
ラタークには確信が有った。
これはオルソーの妨害に違いない。
元よりある時期を境にアミュスとヘミネの反抗が弱まったのは事実
だが、それ以上に最近はこの二人に生きる気力と言うものが感じら
れない。
496
こんな投げやりな肉便器を使っていては開拓団に不満が生じるのも
致し方ないだろう。
マダム・オルソーの日記付け、そして子飼いのバケツを被った少年
を使ってのイレギュラーな凌辱。
オルソーは二人の心を殺し、ラタークに不利を強いているのだと。
映像作品内ではそれこそ従順になったこの二人に脚本通りの演技を
とらせれば良いし、心が死んでいようがいまいが大差は無い。
しかし直接性行為をする為に鼻息荒く並んでまでこの二人を犯しに
来ている男達にとってみれば、精気の無い二人の姿はマイナスでし
かないのだ。
一般公開での不満は全て責任者であるラタークに向けられ、先日は
いよいよゾートから直接小言までも言われてしまった。
ラタークはアミュスとヘミネに近づいた。
﹁ほら、どうした。メシだぞメシ。今日のには精液なんてかけてな
いし混ぜてもいない。正真正銘皆が、﹃まともな﹄人間が食ってる
のと同じ奴だ﹂
何の悪意も無く、ラタークはそう言って二人に笑いかけた。
今アミュスとヘミネは車座になっているスタッフに取り囲まれるよ
うにして配膳された器を持って座っている。
全裸なのは常日頃から変わらないが、粘り気のある液体が主に下半
身にこびり付き異臭を放っている。
これは朝食後の一般開放を終え、ラターク達のチームはしっかりと
二人の体を洗浄してオルソーの撮影チームに渡したのだが、オルソ
ーは洗浄を怠り精液がこびり付いたままの状態でこの二人を戻して
きたのだ。
腸が煮えくり返る思いでラタークはオルソーに付き返そうとしたが、
昼飯時も差し迫り、食事の時間が終わればまた慌ただしく一般公開
昼の部が始まってしまうので、ドロドロとこみ上げる怒りを飲み込
み、自分達の分の食事を用意した。
スープの器とパンの皿。
497
簡単な食事だが、手早く摂れる為にラタークが指示したものだ。
アミュスが匙を使いゆっくりとスープを救い、口に含む。
ヘミネが小さくパンを千切り、モグモグと咀嚼する。
ラタークは頷いた。
これで良い。
普通の人間の扱いをしてやればいいのだ。
オルソーの様に人間的生活の全てを否定し犯していくのではなく、
自分はある程度こいつらに譲歩し、人間として最低限度のその一つ
下な扱いを心がけてやればいいのだ。
以前は現地採用した調教師見習い達が二人の食事に射精してそれを
食べさせたり、自分達は机に着きアミュスとヘミネには床に食事を
ぶちまけて啜らせたりしていたが、それも注意して辞めさせた。
娯楽として、調教師としてその行為には何の問題も無いとラターク
は思うが、今は状況が別だ。
アミュスとヘミネに人間らしさを少しだけでも取り戻させなくては
いけない。
だが調教師と公娼の関係からして甘やかすわけにもいけない。
その折衷案がコレ、調教師と公娼が車座になって食事をする光景と
いうわけだ。
スタッフにも言い含めてあるので、時折彼らは親しげにアミュスと
ヘミネに声をかける。
﹃スープの味はどうだ?﹄
﹃俺の分のパン半分やろうか?﹄
全裸のままの公娼二人に対し、凌辱者の証である調教師のローブを
纏った男達が親しげに接するのだ。
調教師達の話題も一つの面白味。
言うなれば彼らは仕事の休憩時間。
当然口を突いて出て来るのは、仕事の話題ばかりだ。
﹃いやーアミュスのマンコ周りがさぁ、最近ちょっと黒ずみが強く
なってきてなぁ。まぁこんだけ数こなしてたら仕方ないんだけどよ
498
ぉ﹄と言った公娼の体をネタにした話であったり。
﹃この前発見したんだがよ、指を⋮⋮こう、こうな? 曲げるんじ
ゃなくて捻じりながら突っ込むと、膣の中に残ってる精子を掻き出
しやすいんだよ﹄と言った技術的な話であったり。
﹃ラターク様は良いよなぁ⋮⋮直接汚い思いせずに見守ってるだけ
だからよぉ。俺なんてこの前ヘミネが一般公開中にケツ穴ユルユル
になってクソ漏らしちまった時にその処理やらされたんだぜぇ﹄と
言った上司への不満なども飛び出していた。
ラタークは思う。
人間らしさとは語らいだと。
古くは一家団欒から、友人との親交、同僚との協調、人間は誰かと
言葉の上で結ばれ合う事により、人間らしさを持つのだと。
今は多少不自然でもいい、こうやって人間の集団の中に二人を混ぜ
ておけば、彼女達の心も甦り︱︱また良い声で泣き叫んでくれるだ
ろう。
﹁さぁ、皆食ったな? では一般公開昼の部に向けて、頑張って行
こう!﹂
ラタークは手を叩いて合図し、休憩時間の終わりを告げる。
そうすると始まるのが、調教師︱︱そして公娼としての仕事の時間
だ。
﹁立て﹂
本職の調教師に言われて、ノロノロとアミュスとヘミネが立ち上が
る。
﹁股開け﹂
その言葉に、二人は大きく足を広げて立つ。
﹁肛門、性器回り洗浄︱︱はじめ﹂
号令に従い、アミュスに二人、ヘミネに二人、合計四人の調教師見
習いが二人の股間と尻に近づき、手にした布巾とスポンジを使って
こびり付いた精液を落としていく。
﹁本日の標語暗唱︱︱はじめ﹂
499
二人の前にそれぞれ一人ずつ調教師が立ち、先日公娼の役目に追加
された﹃音声アナウンス﹄﹃掲示板﹄の本日の内容を言い、それに
倣って二人も苦しげな声で唱和する。
﹁標語記入︱︱はじめ﹂
背中に回った調教師が、筆を手に取り艶めかしい肌に本日の標語を
墨で書いていく。
﹁排泄物除去、薬剤注入︱︱はじめ﹂
洗浄が終わったのを確認し、指示役が言い、調教師見習いが二人の
肛門に即効性の薬液を注入し、同様の薬品を沁み込ませた当て布で
尿道口を撫でだ。
﹁排泄物除去、器具設置︱︱はじめ﹂
調教師見習いの男がアミュスとヘミネの尿道口から肛門までを隙間
なく覆う魚の口のような形をしたバケツをはめ込む。
﹁排泄︱︱はじめ﹂
指示が飛ぶ。しかしアミュスとヘミネはその指示には従わない。
眉をぎゅっと結び、汗をかきながらも必死に耐えようとする。
﹁排泄︱︱はじめ!﹂
指示役が怒りを込めた声で言い、周囲に緊張が走る。
ラタークはそれを見て、薄く笑った。
そうだ、それで良い。
そうやって人間の尊厳を守ろうとする姿勢を見せる事が大切なのだ。
﹁えぇい! 排泄補助︱︱はじめ!﹂
指示が飛び、調教師見習いが二人の腹を強く押しこんだ。
ギュッギュと容赦の無い力で下腹を刺激され、二人は苦悶の表情を
浮かべた後、陥落した。
﹃ヒドイ﹄音がして、アミュスとヘミネの体から不要な排泄物が押
し出される。
﹁排泄物撤去︱︱はじめ﹂
魚口のバケツを持って見習いが幕舎を出て、また二人の股間と尻の
谷間に一人ずつ張り付いて小便と糞便のカスを拭い取って行く。
500
﹁香り付け︱︱はじめ﹂
汚れを全て取り除いた後、香水の入った霧吹きを手に、調教師見習
いが二人の股間に近づいて吹きかけた。
﹁仕上げ確認︱︱はじめ﹂
本職調教師が出てきて、二人の陰唇の形を整え、陰毛を整列させ、
尻の谷間からヘソまでを指でなぞって不純物が残っていないかを確
認した。
﹁装飾︱︱はじめ﹂
調教師が近づきヘミネには金の、アミュスには銀のチェーンを恥骨
の上︱︱腰に巻き、耳にイヤリングを、首にチョーカーを取り付け、
唇に紅を塗った。
﹁班長! 作業終了いたしました! 確認をお願いいたします﹂
指示役の言葉に頷きながらラタークはようやくのっそりと移動する。
前の時間の凌辱の痕跡を取り除かれ、体の中に溜まった不要物も取
り出され、裸のままいやらしく装飾品で飾られたアミュスとヘミネ
の前に立つ。
そして、会心の笑み。
﹁うん! 二人ともとても綺麗だ! さぁこの時間もお仕事頑張ろ
う!﹂
そう言って二人の肩を叩き、幕舎の外に連れ出した。
乳房を、股間を丸出しにした二人が出てきたのを見て、外で一般公
開を待ち構えていた男達の列から割れんばかりの歓声が、巻き起こ
った。
男達の野卑な歓声に迎えられ、調教師幕舎の前に設置されている一
般公開用の演台に乗せられているアミュスとヘミネに視線を送りな
がら、セリスは歩く。
同情はする。
戦士として女として。
501
あの二人に心からの憐みを感じる。
しかし自分は選んだのだ。
リトリロイの妻になると。
彼は今こちらを見ている。
公娼に憐みの視線を向けるセリスの事を、恐らくは複雑な感情を抱
いて見ているはずだ。
王や王の家族、その臣民までもが積極的に公娼を弄んできた中でも、
リトリロイは公娼を決して利用しなかった。
セリスと運命的な出会いをした日から、彼には彼女の事しか見えて
いない。
彼女が公娼に対して辛い心情を抱いている事を察した以上、彼自身
その手で他の公娼に関わろうとはしなかった。
二人は一段と大きな幕舎の前に立った。
﹁調教師本部⋮⋮ゾート殿に用事なの? リト﹂
セリスの問いに、リトリロイは頷いた。
﹁大した用件じゃないとは言われていたからずっと後回しにしてい
たけれど、俺の意見を聞きたいんだってさ。今度撮る予定の開拓団
ドキュメンタリー円盤について﹂
リトリロイはそう答えて、幕舎に入って行った。
﹁⋮⋮ゾートよ、来﹂
来たぞ、と言おうとしたところ、烈火の勢いでまくし立てる婦人の
声にかき消された。
﹁ですからぁ! 棟梁は何もわかってないわ! 今度の作品のテー
マは二人の公娼対五万人の凌辱者という不釣り合いな構図が良いの
です! その為にもインタビューは恥辱的な格好をさせて、そうで
すわ! インタビュー中にもどんどんと連続膣内出しさせるのよ!
それでドロォっと精液を零しながら自己紹介をさせる事で、視聴
者の目を逃さないの!﹂
魚顔の婦人は紅潮した顔で言い、目の前の椅子に座っているしかめ
っ面の男と向き合っている。
502
男は疲れたように溜息を吐き。
﹁あのなぁ⋮⋮オルソー。今回のはドキュメンタリーなんだぞ。娯
楽ばっかりってわけにゃぁいかんのじゃ。絶え間ない凌辱にあう公
娼ってのがメインじゃあねぇ。開拓団の暮らしとそれにどう公娼が
関わっているかがメインなんだよ。その為にもだ、アイツラが開拓
団の事をどう思ってるか、それをしっかり演出してやらにゃあいか
ん。インタビューは服を着せたまま、綺麗ごとをたくさん言わせて
その後で前向きに自分から開拓団の皆さんの為にワタシのマンコを
役立ててもらえて凄く嬉しいって、そういう風に冒頭は始めるべき
なんじゃ﹂
調教師団のトップとナンバー2が苛烈に論議を交わしていた。
リトリロイはその光景に一瞬気後れし、足を止める。
ゾートはこちらに目をやり、素早いながらも余裕のある動作で椅子
を立ち挨拶をして来ようとするが、
﹁いーえ! 棟梁の言ってる事は間違っていますわ! あのボンク
ラのラタークみたいな事を言わないでくださいな! アイツったら
二人にV字の水着を着せて開拓団と交流させるハートフルコメディ
ーにしたいだなんて⋮⋮馬っ鹿げてますわ! 膣内出し上等の、常
にオマンコががぱぁって開いている作品じゃないとワタクシは認め
ませんわ!﹂
オルソーが唾を飛ばしながら力説し、ゾートが立ち上がったのによ
うやく気付いてこちらを見、途端愛想笑いを浮かべた。
﹁あぁら∼リトリロイ王子じゃございませんか。申し訳ございませ
んねぇ。ちょっと議論で熱くなっちゃいまして﹂
﹁殿下、ご足労頂き有難うございます﹂
そんな師弟の言葉を受け、リトリロイは曖昧に頷き、今度こそ幕舎
の中に全身を入れた。
続く様にして入って来たセリスとゾートの視線が合う。
バンデニロウムでもし大祭が開催されていたら、この二人は凌辱者
と公娼としてその場で最も期待されていたであろう組み合わせ。
503
しかしその未来は無かった。
予定は確かに存在したが、未来はリトリロイが打ち消した。
そのはずだ。
﹁それで、ゾート。俺の意見が欲しいってのはそのインタビューに
ついてなのか?﹂
リトリロイはあからさまに肩をすくませ、問う。
﹁いいえ、そのような些細な次第は我ら技術者の手によって完成さ
せます故、御身に問いたかった事はただ一つでございます﹂
ゾートは古く刻まれた皺を歪ませ、口を開く。
﹁公娼が足りませぬ。演出上も開拓団への配給としても、致命的に
足りてはおりませぬ。可及的速やかにご用意頂かれねば、臣として
些か憚られますが、自分の後援者たるこの御方より授かった命令状
を行使させて頂きます﹂
そう言って、ゾートは脇の机に置いていた一枚の書類を手に取った。
リトリロイはそれを手渡され、確認する。
﹁魔導長官︱︱オビリスの令状か。ふむ⋮⋮⋮⋮なっ﹂
リトリロイは読み進めていく内に顔を青褪め、口を痙攣させる。
書類を持つ手が震え、瞳に怒りの炎が浮かび上がる。
﹁ゾート! 貴様ぁ!﹂
吠えるリトリロイに対して、ゾートは酷く冷静に言った。
﹁此度の西域遠征の責任者である魔導長官より発令され、国王陛下
より承認の判が押されてあります。次の開拓団ドキュメンタリー映
像には少なくとも五人の公娼を用意していただく。それが出来ない
場合には、この開拓団内にて平穏に過ごされております、そこな公
娼殿にも出演して頂く事になりますなぁ﹂
ゾートの視線は真っ直ぐに、セリスへと向かって伸びていた。
504
到達者︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
505
到達者
夕暮れ時に甲冑を身に纏った男達が慌ただしく走り回っている。
﹁急げ! 一刻も早く公娼を捕まえ陣に帰還するぞ!﹂
リトリロイは儀礼時にしか使用してこなかった武装を身に着け、馬
を牽いて辺りに声を轟かせる。
そのすぐ傍には戦装束のセリスが瞑目して控えている。
目元に険を作ったリトリロイとは異なり、セリスの表情はひどく落
ち着いている。
その理由に察しが付くことが、リトリロイを更に焦らせる。
︵セリスは他の公娼に対して引け目を感じている⋮⋮。今回の事で
無理強いされれば、自分に対して罪の意識を覚えながらも、抵抗は
しないかも知れない︶
リトリロイは恐怖する。
運命にセリスが囚われる事を。
セリスに破滅的欲求があるのを認識したのは、いつの事か。
例の大祭に主役として選ばれた時も、彼女は特に異を唱える事無く
受け入れようとしていた。
ゼオムントの王宮においてセリス以上に腕が立つ者はいない。
ならば群衆に囲まれて恥辱の大祭の贄に使われ無残に殺される道を
示された瞬間に、逃げ出せばよかったし、近くにいたリトリロイを
人質に抵抗すればよかった。
それでも彼女は何も言わず、黙って頷いていただけだった。
父王に拒絶され、リトリロイが共に逃げ出そうと迫った時も、彼女
は寂しげな表情で曖昧に頷いただけだった。
セリスはもしかしたら罰を望んでいるのかもしれない。
リトリロイとの恋に堕ち、国を裏切り同胞を貶めて生き続ける自分
の存在を許せないのかもしれない。
506
思えば、自分と夜を共にする際に彼女が激しく痴れ狂うのは、たっ
た一人分︱︱リトリロイの性欲分だけでも受け止め、他の公娼に漏
らさない様にしているのかもしれない。
権力者の性欲によって公娼が死に至るという話は、多聞に及ぶ。
彼女の心を推し量る事は出来ない。
それでも自分は、セリスを愛している。
あの日、最初に出会った日の記憶を今も鮮明に覚えている。
失うわけにはいかない。
どれだけセリスが罪の意識に苦しめられようと、彼女の手すらも汚
させようと、絶対に手放さない。
ゾートに魔導長官からの令状を突き付けられ、リトリロイはすぐさ
ま行動を起こした。
少なくとも後三人の公娼を手に入れる。
その為の狩りを行う。
﹁リトリロイ殿下! 騎士隊総勢二百騎集合いたしました!﹂
開拓団を護衛する騎士団の半数を割く。
最強戦力であるセリスをも投入する。
そして、最高責任者であるリトリロイ自身が戦場に立つ。
﹁全軍っ、進めぇぇぇぇぇ!﹂
リトリロイは吠え、馬を駆る。
セリスが、将校が、兵士が続いていく。
目的地は、マルウスの里と呼ばれる魔物の集落。
現地に先行しているグヴォン将軍の部隊と合流し、その場所で魔物
に捕らえられている公娼の身柄を確保する。
どんな困難が待っていたとしても、セリスを手放さない為に、自分
は成し遂げてみせる。
シャスラハール、そしてリトリロイがマルウスの里に向けて出立し
た頃、遠く離れた地で一つの出会いがあった。
507
﹁無事ご帰還、何よりで御座いますラクシェ様!﹂
翼を生やした衛士の敬礼に対して鷹揚に頷きながら、力天使ラクシ
ェは六枚の翼を畳む。
﹁お姉さまは中でお待ちなの?﹂
﹁はっ、アン・ミサ様は玉座にて人間族の客人とご歓談中で御座い
ますが、ラクシェ様におかれましては遠慮無く中に入って来るよう
にとのお達しです﹂
客人? とラクシェは首を傾げる。
﹁お客さんなんて居るんだ? こんな所に? だってここ⋮⋮﹃西
域の最奥﹄だよ?﹂
幼い声は素直な疑問を呈す。
人間族が支配する東域と大地を二分する西域、その奥の奥、秘めら
れた管理者の座所が有るこの﹃天兵の隠れ里﹄に人間の客が来るな
んて事が︱︱。
﹁あ、またアイツら? あのいけ好かない⋮⋮なんだっけ、まどー
ちょーかん? あのオヤジ! 後お付のハゲ! ウチらを騙してお
姉さまの大事な杖を持って行っちゃったアイツらなの? 中に居る
の? 殺していいの?﹂
一年ほど前にこの地にやって来て、西域の至宝たる﹃アン・ミサの
杖﹄を奪い去った人間族の魔導士達の顔を思い浮かべ、ラクシェは
戦槌を強く握る。
﹁い、いえ⋮⋮流石に連中でしたら我々もここを通しませんし、ア
ン・ミサ様もお許しになりませんよ。中に居らっしゃるのは女性達
です﹂
ラクシェはその言葉を聞き終える前に、慌ただしく駆けていく。
大理石の床を蹴り、並み居る衛士達の間を抜き去って、玉座の間へ
と辿り着く。
﹁お姉さまっ!﹂
巨大な扉を開き、コケるようにして広間に入って来たラクシェに、
視線が四つ刺さる。
508
まず少し高い位置からこちらを見降ろしている、身に覚えのある冷
徹な瞳。
﹁ラクシェ⋮⋮遅かったわね﹂
金色の髪を緩く流し、白幻の衣を身に纏った四枚翼の智天使、ラク
シェの義理の姉にして西域の管理者アン・ミサ。
気だるげな表情で玉座に収まり、妹の帰還を特に喜ぶべきものでも
ない様に迎えている。
﹁それで? 御姉様は捕まえられたの?﹂
冷めた瞳のまま、興の薄い声が問う。
﹁い、いえ⋮⋮あの、ラグラジル⋮⋮姉さまには逃げられちゃいま
した⋮⋮﹂
ラクシェは肩を落とし、顔を俯けながらボソボソ言い訳がましく続
ける。
﹁でもでも! 手掛かりはちゃんと手に入れたの! ラグラジルの
眷属と思われる黒い翼の女! あとで天兵達が連れて来るからそれ
の尋問をすれば︱︱あいてっ﹂
ラクシェの眉間に硬い物がぶつかり、少女天使は思わず声を上げる。
床を見れば金の装飾が施された扇が一つ、転がっていた。
扇を投げた当人であるアン・ミサはため息を吐く。
﹁ラグラジル、ではなくラグラジル御姉様とお呼びする様にと、何
度も言っているでしょう。わたくし達は今でこそ仲違いをしている
けれど、本来は手を取り合ってこの西域の発展に務める立場にある
のです﹂
アン・ミサの冷めた表情を受け、ラクシェはまなじりを落として瞳
に涙をためる。
﹁うぅ∼⋮⋮ごめんなさい、お姉さま﹂
﹁わかれば良いの。︱︱おかえりなさい、ラクシェ﹂
少しだけ柔らかくなった労いの言葉を受け、ラクシェは表情に活気
を取り戻し、頷いた。
そんな姉妹天使のコミュニケーションを興味深げに眺めている者の
509
視線が一つ。
こま
﹁なぁアン・ミサよ。そこの細いのは何だ? 貴様の妹なのか?﹂
黒髪を背に一房胸の前に二房垂らした、装飾華美な軍服姿の女が口
角を上げて問うた。
﹁はぁっ? アンタ今何て︱︱﹂
敬愛する姉を呼び捨てにされ、自らの身長も馬鹿にされたラクシェ
は息巻いて反駁するが、
﹁ラクシェ落ち着きなさい。えぇ貴女の言うとおり、この子はわた
くしの妹よ、マリューゾワ﹂
姉の冷たい声に封じられ、勢いを殺す。
マリューゾワと呼ばれた軍服の女はラクシェを見、薄く笑った。
﹁強いな、貴様は﹂
よくよく見ればマリューゾワの右手には突剣が握られており、それ
はこの姉の安全を第一に考えるべき玉座の間に置いては甚だ危険な
異物に見えた。
﹁お姉さま! アイツ! アイツ剣持ってる! 殺して良い?﹂
ラクシェが喚き、
﹁ほう、面白い。どれほどの実力か試しておくのも悪くは無いな﹂
マリューゾワが挑発的に笑む。
それに対して、アン・ミサが疲れた表情を浮かべる。
﹁ラクシェ、良いからジッとしてて⋮⋮マリューゾワもこの子をあ
まり刺激しないで。貴女には今やっている途中の事があるでしょう
?﹂
そう言葉を向けられ、マリューゾワは一度肩をすくませてから振り
返る。
ラクシェが広間にやって来てからじっと涙を流して見つめていた男
へ向けて。
﹁たす⋮⋮たす、けて⋮⋮たのむ、たのむぅぅぅ﹂
男は泣いている。
泣き叫んでいる。
510
﹁無理だ、無理だ無理だよっ、サバルカンっ!﹂
マリューゾワが心底楽しげに、愉悦の溢れる声で言った。
サバルカンと呼ばれた男は、絶望の表情を浮かべ、ラクシェを更に
見る。
命を救ってくれと、懇願しているようだった。
﹁⋮⋮いや、でも。ホント無理じゃんもう⋮⋮あの人もうグサグサ
じゃん﹂
ラクシェはポカンとした表情で言い、サバルカンを見る。
サバルカンは玉座から大分離れた壁に磔られていた。
全身から血を迸らせ、体中を数十本の突剣で刺し穿たれた状態で、
蛾の標本の様にしてドス黒く壁を飾っていた。
﹁クックッ⋮⋮さぁ、サバルカン。十本追加だ⋮⋮味わえ﹂
マリューゾワは右手を突剣ごと高く持ち上げる。
そうすると、彼女の足元に無造作に置かれていた突剣の山から鋭い
刃が十本、操られるようにして宙に浮かび上がってきた。
ラクシェやアン・ミサの様に魔術に深く精通して来た者達には一目
瞭然の事だが、マリューゾワの右手とその突剣には、膨大な魔力が
込められている。
﹁安心しろ、まだ死なない⋮⋮まだ殺さない。まだまだ苦しめ、血
を吐け、痛みに狂えっ!﹂
マリューゾワが右手を振りおろし、宙に浮いた十本の突剣が奔る。
それらは全て、サバルカンの体に突き立った。
﹁あぐぅぇえええええええええひぃぃぃぃぃい﹂
叫び、涙を流し、血をまき散らしながらサバルカンはもがいている。
それは不思議な光景だった。
一本でも致命傷に成り得る突剣の一撃を、既に五十本以上身に浴び
ながら、サバルカンは苦痛に喘ぎ惨めに生きていた。
﹁これは⋮⋮魔法?﹂
ラクシェは幼い顔を横に曲げ、疑問する。
マリューゾワが突剣を操って見せたのとはまた異なる、サバルカン
511
を生存させている不思議な力がある事にラクシェは感づいた。
その答えを発したのは、第四の人物。
広間の隅に置かれたソファーに腰を下ろし読書をしていた女。
亜麻色の髪をフードで隠し、体のラインが良くわかる修道服を纏っ
た女が、ラクシェに視線を送ってきた。
﹁はい、魔法です。私の﹂
柔らかな、それでいて芯の強さを感じる瞳をした修道女。
ラクシェがそちらに気をとられていると、マリューゾワがまたも愉
しげに言った。
﹁サバルカンっ! もう十本だ! ルル、﹃幸運﹄の魔法を切らす
でないぞ⋮⋮簡単に死んでしまってはつまらないからな﹂
マリューゾワの魔力で突剣が舞い上がり、
﹁わかったわ。サバルカン貴方に﹃幸運﹄の加護を。例えどんな痛
みや衝撃があろうとも、この︽幸運と誓約の魔導士︾ルルの魔法が
有る限り、貴方の身に致命傷は及ばない。最上の幸運が貴方に味方
しているのだからね﹂
魔導書を経由してルルと呼ばれた修道女が磔られた男へ魔力を送る。
﹁やめっ、やめぇぇぇぇぇぇ﹂
男の泣き叫ぶ声が、広間に響き渡った。
結局サバルカンは137本の突剣に貫かれ、もはや﹃幸運﹄では誤
魔化せなくなるほどの挽肉と化して絶命した。
その亡骸を衛士達が運び出していくのを横目に、四人の女が語り合
う。
﹁改めて自己紹介をしておこう。私はロクサス郡領国トワイラ領の
領主、マリューゾワ。ゼオムントとの戦役で最後まで華々しく戦っ
た﹃魔剣大公﹄とは私の事だ﹂
マリューゾワが胸に手を当て、誇らしげに己を語る。
﹁私はルル。ミネア修道院の院長。︽幸運と誓約の魔導士︾修道院
512
陥落まで各所に魔導士を派遣し、ゼオムントとの戦いに関わってい
たわ﹂
フードを被ったルルが穏やかな声で言った。
ラクシェは二人の挨拶を聞いて、アン・ミサの方を見やる。
﹁お姉さま?﹂
幼い彼女には、今の状況があまり理解できていなかった。
﹁マリューゾワとルル、そして今席を外していますがあと二人のお
仲間と、先ほどの挽肉人間の五人が、この度人間族の催した︱︱こ
ちらにとっては迷惑極まりない﹃西域遠征﹄の覇者。西域の最奥へ
の到達者です﹂
アン・ミサは気だるい表情で紅茶を頂きながら、ラクシェに説明し
た。
するとラクシェは手を叩いて頷いた。
﹁あ、なーんだ。じゃあアンタ達あれだ、公娼ってやつなんだねー﹂
朗らかな笑みで、二人を見る。
しかし﹃公娼﹄と言う単語を耳にした瞬間、マリューゾワは突剣を
構え、空中に無数の刃を浮かせる。
﹁訂正しろ、小娘﹂
烈火の怒りを灯し、マリューゾワはラクシェに迫るが、力天使は戦
槌を構え、魔剣大公を迎え撃つ姿勢を取る。
﹁来なよ、人間族のお便所さん。ウチのお姉さまの玉座に汚い汚い
トイレが入って来ないでよね﹂
魔剣が閃き、戦槌が振るわれる。
数百の突剣の群を一撃で弾き飛ばし、ラクシェは前に出ようとする。
その時、
﹁ラクシェ、下がりなさい﹂
﹁マリューゾワ、駄目ですよ﹂
アン・ミサとルルの声が割って入った。
ラクシェは不満気に口を尖らせ、渋々戦槌を収める。
マリューゾワは突剣を握ったまま微動だにせずそれを睨みつけてい
513
る。
﹁客人よ、こちらの無礼は詫びます。どうか剣を収めて頂きたい﹂
智天使の頼みにようやく剣を降ろし、舌打ちを一つしてから下がっ
た。
はぁ、と一つアン・ミサはため息を吐き、
﹁あのねラクシェ。貴女はもう少し周りと協調する意識を持つべき
だわ。少なくともこの二人はわたくしの客人なのですから、手当た
り次第に噛みついて姉の顔に泥を塗るような真似は止めて頂戴﹂
﹁うっ⋮⋮はぁい、ごめんなさい﹂
それに、と続く。
﹁此度の﹃西域遠征﹄初めはわたくしの杖が景品として提示されて
いたようですが、それがもうこの地からは当に失われ、人間族の手
に渡っているという話はもう、しましたね﹂
ルルが穏やかな声で頷いた。
﹁えぇ、アン・ミサ様からそのように伺って、私達はこれ以上調教
師に従う必要は無いと判断し、サバルカンを処刑しました﹂
マリューゾワやルルを率いたサバルカンが調教師として彼女達にど
の様な恥辱を与えてきたか。
137本の突剣による串刺しと、死への苦痛を連鎖させる幸運によ
る痛みで相殺されるというものでは無く、まだ心の内に蔓延る恨み
憎しみは消え去ってはいない。
﹁元々六人仲間が居たが、二人は死んだ⋮⋮主にサバルカンのせい
でな。あと二人は負傷し、今はアン・ミサの厚意で治療を受けさせ
てもらっている﹂
マリューゾワは視線を厳しくしたまま、吐き捨てる様にして言った。
﹁治療中の二人はじきに戻るでしょう。この里で治せない怪我や病
気は無い。それよりもマリューゾワ、そしてルル。貴女達はこれか
らどうするつもり?﹂
智天使の問いに、二人は一瞬の間を空ける。
﹁これから⋮⋮か﹂
514
﹁さて、どうしましょうね﹂
マリューゾワもルルも、困った表情で固まっている。
公娼としてこの﹃西域遠征﹄に参加し、自由を得るか反逆の力を得
るか、という目標を抱いて恥辱に耐えてきた昨日までとは異なり、
今の自分達には何の目的も目標も無い。
騙された、無駄だったという思いが爆発し調教師を殺したが、そう
したところで次に得る物など何も無い。
﹁提案なのですが、宜しければ二人ともこの地に住まわれませんか
? 衣食住のお世話は致しますし、マリューゾワにはある程度の領
地とルルには魔法の研究施設を用意します﹂
アン・ミサの問いかけに、二人は驚愕の視線を送る。
﹁無論、タダというわけにはいきません。近い内にわたくし共は人
間族と戦う未来がある様に思われます。その際にお二人の力を御貸
し頂きたいのです﹂
その言葉に、ラクシェが反応する。
﹁えーっ! 人間族と戦うとしても、ウチだけで充分だよぅ! こ
んな奴らの力なんてなくっても、ウチとこの戦槌さえあれば︱︱﹂
﹁ラクシェ、少し静かにしてて﹂
妹のムキになった声を制止して、アン・ミサは二人の人間に問いか
ける。
﹁﹃西域遠征﹄貴女達はこの企画の被害者であり、わたくし共は巻
き込まれたとは言えこの地のホストです。賞品から何まで全てを失
ってしまうのは心苦しい。自由を︱︱とは言えないまでも、貴女達
が望むようにして生きていけるこれからを、賞品に換えて提案させ
てもらうわ﹂
アン・ミサの声が響いた時、広間の扉が開かれる。
そこに現れたのは、二人の人間。
一人は薄緑の髪を肩口で切り、緩いシャツと正反対にピチッとした
丈の短いズボンを穿き、ゴツゴツしたブーツで足を包んだ女。
もう一人は、赤と白の布を着物のようにして纏い、袖と胸元そして
515
腰から足首にかけてスリットを入れて動作性を確保した姫衣装の女。
﹁⋮⋮ならアタシには兵器研究施設を頂戴﹂
薄緑髪の女が言って、
﹁自分は小さな道場を所望いたします﹂
姫装束の女が結い上げた黒髪を揺らして続けた。
﹁ロニア、シロエ︱︱もう大丈夫なのですか?﹂
ルルが心からの安堵を浮かべて二人に問う。
﹁あぁ、もう問題ない。⋮⋮ルルの﹃幸運﹄のおかげで致命的な怪
我は無かったし﹂
ロニアと呼ばれた緑髪の女がはにかんで答える。
﹁ご心配お掛けしました﹂
シロエが黒髪を垂らしてお辞儀する。
その様子をジッと眺め、ラクシェは鼻を動かす。
微かに香るのは、ロニアから火薬の匂いと、シロエから血の残り香。
この二人も公娼という事なら、ある程度の実力者なのだろう。
﹁まぁウチには敵わないんだけどねぇ﹂
﹁何か言ったか? 小娘﹂
ボソっと呟いたラクシェの声に、マリューゾワが詰問調で問うが、
返事は返ってこなかった。
諦めたように首を振り、魔剣大公は智天使の方を見やる。
﹁アン・ミサよ。先ほどの話、本気なのか?﹂
﹁えぇもちろん。ロニアとシロエの要求に関しても認めます。代わ
りと言うわけでは無いけれど、マリューゾワ達には役目を負って貰
おうと思います﹂
そう言って、アン・ミサは四人の元公娼へと視線を送る。
﹁﹃攻勢﹄の武はわたくしの妹ラクシェが担当します。皆さんには
﹃守勢﹄の武、万が一この地が戦乱に見舞われた際に、わたくし共
に助力して頂けるよう、お願いします﹂
アン・ミサは思う。
この地に戦乱の気運が訪れている事を。
516
今まで不干渉だった人間族の東域と魔物の西域。
一年前にこの地の至宝を奪われた事は自分の落ち度であり、その結
果がこうして人間族の余興にこの地を差し出してしまう始末。
更には人間族の軍隊がやって来て開拓事業を行っているとの報告も
ある。
近い将来西域の管理者として自分達と彼らとの戦いが起こる事は避
けられないだろう。
その日の為にも、この地に根付いた戦力は必要だ。
マリューゾワの才気は人間族の中でも抜きんでていて、残り三人も
それぞれ優秀な存在だ。
彼女達を手元に囲っておくに越したことはない。
そしてそれにも増して、懸案事項が一つ。
ラグラジルの助力が欲しい。
アン・ミサの義理の姉にして、先代の西域管理者。
魔導長官オビリスがこの地にやって来た時に、狡猾な奸計により道
を違えてしまった魔天使。
誤解と軋轢が生まれ、ラグラジルは自分の事を恨んでいるだろうし、
アン・ミサ贔屓のラクシェとの間にも強烈な溝が生まれている。
この地の管理を主上から授かった時、自分達三人の力を結集して平
穏を作る様にと命じられていた。
魔天使、智天使、力天使。
一人欠けてしまっても、機能しない。
ラグラジルの力の大元は自分が預かっている以上、こちらに帰参し
てもらい誤解さえ解ければまた自分達は手を取り合って人間族と戦
う事が出来る。
今はその未来の到達を心待ちにしている。
アン・ミサが心の整理をしている間に、マリューゾワ達は決断を終
えたらしい。
それからは興の向くままに語り合い、彼女達の新たな生活について
の話をする。
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研究施設の概要であったり、領地の範囲であったりと、皆の要望を
まとめて予定図を作っていく。
アン・ミサとマリューゾワ達が語っている様子をつまらなそうに眺
めていたラクシェの耳に、広間の扉を叩く音が届いた。
﹁なーにー?﹂
﹁ラクシェ様、東の空より連絡が届いております。天兵小隊が間も
なく帰還するとの事です﹂
衛士の声に、ラクシェは立ち上がった。
それまでの仏頂面を止め、輝かんばかりの笑顔を浮かべている。
﹁どうしたの? ラクシェ﹂
アン・ミサが視線を上げて問う。
それに対し、
﹁ううん。お姉さま、ウチ頑張るから! ラグラジルお姉さまの居
場所を突き止めるために、一生懸命異端者を絞り上げて来るね!﹂
ワクワクという擬音を残し、ラクシェは広間から大急ぎで駆けだし
た。
ラクシェは城の入り口に立ち、東の空を見上げる。
そこには翼を生やした影が五つと、二本の縄で宙づりにされ、股間
に大輪の向日葵を生やした女の姿が見て取れた。
﹁はーやーくーっ! 早くウチに遊ばせて︱っ!﹂
ラクシェはキラキラとした笑顔を浮かべ、それに手を振る。
その姿を衛士達は微笑ましい様子で眺め、東の空よりやって来るお
楽しみに胸を踊らせた。
﹁馬はここに繋いでおきましょう﹂
シャロンが言い、マルウスの里から程近い林の影に五頭の馬を繋ぎ
とめた。
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休む事無く駆け続けた事で、人馬諸共に疲労困憊していた。
﹁もうすぐ夜が明ける⋮⋮少し休憩して、日の出と共に行動に移ろ
うか﹂
ステアが言い、確認をとる様にヴェナを見る。
聖騎士が頷いたのを合図に、銘々地面に腰を下ろし、疲れを癒して
いく。
﹁アタシさー、ちょっと気になってる事あるんだけど﹂
不意にセナが口を開く。
﹁何がですか?﹂
ウトウトしているハイネアを膝枕しながらリセが首を傾げる。
﹁いやね、シャスが言ってた誓約魔法に関する部分で、あの時は逆
転の目が有るっ! て事で興奮してて流しちゃった部分に、なーに
か引っ掛かりがあったような気がするのよねぇ﹂
セナの言葉に、木に背中を付けて座っていたシャスラハールがビク
ッと肩を震わせる。
彼自身その﹃問題﹄については認識していたが、今の今まで現実的
な方策を示せないでいた。
ルルから授かった誓約魔法の発動条件。
それは︱︱
﹁精の最後の一滴。これが放出される時にのみ女性の心を縛る誓約
が発動する。シャスラハール殿下、間違いないでしょうか?﹂
シャロンがシャスラハールの目を見つめながら問う。
﹁⋮⋮はい。ルルは僕にそう教えてくれました⋮⋮﹂
気まずそうに視線を逸らして、黒肌の王子は答えた。
ヴェナとステアは先の説明でその問題点を認識していたので特に反
応は無く、セナとリセの二人はハッとした表情で顔を見合わせた。
﹁殿下、非常に不躾ではございますが、殿下は通常時⋮⋮何の魔法
も薬の補助も無い時に、一日で何度射精をする事が可能ですか?﹂
シャロンはぶれない瞳でシャスラハールを捉える。
若干言い辛そうにしながら、シャスラハールは、
519
﹁十三回⋮⋮出した時が有ります⋮⋮たぶんそれが、限界かと⋮⋮﹂
頬を赤く染め、モジモジしながら言った。
その答えを聞いて、シャロンが歩き出す。
木に背中を付け座り込んでいるシャスラハールのすぐ傍にまで近づ
き、腰をかがめて表情を覗き込む。
﹁殿下、殿下は私の事をどう思われますか?﹂
﹁えっ⋮⋮え?﹂
シャロンは今リセから借りたエプロンで胸元を覆っているが、屈み
こんだ仕草故に、大きく谷間が覗き、桜色のつぼみすら見えそうな
状況だ。
﹁殿下はここにいる私以外の皆さんと睦ばれたと聞いています。こ
れから我らの命運を決する戦に出ると言うのに、私一人だけ殿下の
御力になれず、また一人だけ責任を放棄するのも好ましくありませ
ん。ゆえに殿下、私の事がお嫌いでなければどうか身を任せて下さ
い﹂
そう言ってシャロンは顔を寄せ、シャスラハールの唇を奪った。
﹁⋮⋮はい﹂
シャスラハールが目線を下に向け、囁く様にして頷いた。
﹁十三回という事ですから、一発はラグラジルに残しておくとして
残り一二回。一人二発ですね。一番槍は、私が務めます﹂
シャロンは言い切り、シャスラハールの投げ出された足の間に腰を
下ろしていく。
右手で王子の黒肌を撫で、左手で衣服を剥いていく。
そうして露わになった肉棒に向け、ゆっくりと舌を伸ばしていった。
520
金貨︵前書き︶
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521
金貨
意識がピリッ︱︱と弾ける。
﹁あぅ⋮⋮﹂
うめき声を一つ上げて、シャスラハールの体は痙攣した。
シャロンがシャスラハールの肉棒を口に含み、ものの数分としない
内に精液を搾り取られた。
シャロンが公娼として不本意ながらも口淫の技を身につけていたか
ら︱︱だけではない。
今シャスラハールの体は柔らかな肉に埋もれている。
﹁事は一刻を争います。皆さま、どうぞ殿下にご助力を﹂
ヴェナの言葉を合図に、皆がシャロンに続いたからだ。
シャスラハールは後頭部を第一の家臣であるヴェナの股座に乗せ、
横たわっている。
そしてヴェナの女陰と挟み込むかのようにして、
﹁くふっ、シャスよ好きに舐めてよいぞ﹂
服を脱ぎ去ったハイネアがシャスラハールの顔の上に自身の陰唇を
乗せる。
しっとりとした肉の花びらをゆっくりと前後に動かされると、否応
なく舌が伸び、可憐な蕾を突いて味わってしまう。
﹁では⋮⋮私はこちらから⋮⋮殿下、失礼いたします﹂
シャスラハールの右隣りに寝そべり、伸びた右腕を抱く様にしてリ
セが言う。
舌で王子の弱点である乳首を舐めしゃぶり、二の腕に張りのある乳
房を押し付けて、王子の指先は彼女の肉壺へと導かれる。
﹁ならばわたしはこっちだな﹂
反対側にはステアが収まり、リセがする様に乳首を舐め、胸を押し
付け、指を導く。
522
それとは別に彼女の空いた手が王子の黒肌を羽毛の様に優しく撫で、
鋭敏な快感を与えていく。
﹁ちょっと! アタシここ? もうココしか空いて無いし⋮⋮﹂
がーっと怒鳴りながら、セナは肉竿を咥えているシャロンに寄り添
うようにして顔を寄せ、シャスラハールの陰嚢をハムハムと啄んで
いく。
セナとシャロン。
同僚騎士、命を預け合った間柄の二人の連携は見事なもので、シャ
スラハールは下半身に与えられる至上の快楽に堪え切れなかった。
飛んでいく意識の中で、シャスラハールは思う。
調教師として活動してきた中でも、これだけの美姫に囲まれ、集中
的に奉仕された者は居なかっただろう。
大抵民衆から望まれていた映像作品というものは恥辱を与えて満足
する形であるが故に、公娼の数は男根の数より少ないか良くて同数、
周囲ではやし立てるエキストラ役の男達も含めてしまえば絶対的に
凌辱者側が多数だった。
またこういった温もりや信頼︱︱愛情が感じられる場面は皆無だっ
た。
公娼が公娼にされる所以は、彼女達がゼオムントに抗い戦った結果
である。どれだけ恥辱に塗れようとも、彼女達が真実心を差し出す
場面は映像には残されてはいないのだ。
温もりに、解きほぐされる。
幸福感。
迸った精液は全て、シャロンの口内で爆ぜた。
金髪の騎士は顔色を変える事無くそれを受け止め、ゆっくりと嚥下
していく。
啜り、舐め、吸う。
射精の直後で一瞬萎えかかった王子の肉棒も、その優しい刺激に逞
しさを維持する。
﹁では、殿下。参ります﹂
523
シャロンは口の端に白い残滓を残したままほんのりと微笑み、腰を
上げる。
背面騎乗位。
ハイネアが尻を跳ねさせ一瞬だけ開けた視界に映った、シャロンの
美しく滑らかな背中に金色の髪束が流れる光景に、シャスラハール
呆けた表情を見せる。
思わず背中を撫でようと手を動かすが︱︱
﹁あっん、殿下﹂
﹁んっ、自由に動かしてもらって構いません﹂
両手の指はそれぞれ別の女陰に収まっており、蠢く肉襞に囚われて、
美しい背中へは届かなかった。
﹁殿下、私が動きますね﹂
直立したシャスラハールの肉棒に陰唇を合わせ、ゆっくりと飲み込
んでいくシャロン。
﹁⋮⋮ぷぁい﹂
ハイネアの花弁に押し潰されているシャスラハールには、上手く返
事が出来ない。
シャロンの体が上下する度に、快楽の波が押し上げられていく。
股座にシャスラハールの頭を乗せているヴェナが首筋や耳の裏を撫
でてくるのも、ハイネアの秘部が視界一杯にいやらしく広がってい
くのも、リセとステアによる三点責めも、そしてセナが上下するシ
ャロンの動きに合わせて肉棒の付け根を舌で刺激し、しなやかな指
で陰嚢を揉みしだいてくるのも。
耐える必要は無い。
状況を考えれば速やかに射精し一二回というノルマをクリアしなけ
ればならないはずだが、シャスラハールは出来るだけ長くこの天国
の時とも言える状況を味わいたくなった。
心は僅かに抵抗した。
しかしそれでも、心の本流にある義務感と、何より肉体が快楽の渦
に悲鳴を上げて、二度目の精をシャロンの膣へと解き放った。
524
﹁うおー⋮⋮出てる⋮⋮すっごい出てる﹂
セナが手にした陰嚢と口を当てた肉棒の付け根が脈動するのを感じ、
感嘆するように声を出した。
ドロドロとドバドバと︱︱。
シャスラハールは制限魔法を解放する為に、自らの陰嚢に収まって
いる精を放出していく。
﹁んっ⋮⋮はいっ。殿下、如何でしたか?﹂
シャロンがしゅるりと立ち上がり、シャスラハールへと振り返る。
ハイネアが空気を読み取り、王子の顔の上から体をどけ、今新たな
主従が視線を交錯させる。
﹁⋮⋮凄く、気持ち良かったです﹂
混じりけのない本音を、脱力しながら言った。
﹁ふふっ。お褒めの言葉、有り難く。でもそれは皆さんの助力も有
ったからですので、誇りには致しません﹂
はにかみ笑顔で金髪の騎士が答えた。
その時、ガサッ︱︱と葉の鳴る音がする。
ヴェナとリセ、そしてハイネアとセナが四方を確認し、ステアは地
面に耳を付ける。
その時、シャロンは視線を高く上げた。
林立する木々を見上げ、少しだけ口角を上げた。
﹁やっぱり︱︱﹂
何かを言いかけたところで、ステアの声が轟く。
﹁馬蹄だ! ⋮⋮十⋮⋮二十⋮⋮三十騎! マシラスの山で襲って
きた奴らと同程度の騎馬が近くに居るぞ!﹂
地面に耳を付け、その振動で周囲を警戒する。
何かが居る︱︱くらいのものだったらある程度訓練された兵士なら
ば可能だろうが、数の特定までも行える辺りが、リーベルラント騎
士国家の精鋭騎士。
﹁迎え撃ちましょうか﹂
﹁あぁもう時間無いって言うのに!﹂
525
ヴェナが立ち上がりかけ、セナが愚痴を言い始めたところで、
﹁いいえ、皆さんはこのまま殿下にご協力を、騎兵隊の相手は私一
人で充分です﹂
シャロンが内腿に精液を零した状態で彼方を見据えて言った。
﹁シャロン! お前っ﹂
ステアが顔を上げ、吠える様にして問う。
﹁愛用の装備も無く、ただの駄剣一つで騎兵三十騎の足止めが出来
ると思っているのか?﹂
体調と装備が整った状態ならば、シャロンの技量であれば実現可能
なラインの話だが、今の彼女はラグラジルに凌辱され、地面に叩き
つけられ、ろくに休みも取らず遠乗りし、尚且つ得意の双剣を失っ
ている状態なのだ。
﹁無謀は許さんぞ﹂
上官である騎士長ステアには部下を無茶な危険に晒すという気持ち
は毛頭無い。
﹁無謀ではありません。私にはしっかりと、策があります﹂
シャロンは真剣な表情をステアへ向けた後、シャスラハールに視線
を送る。
﹁殿下、宜しければ金貨を一枚頂けないでしょうか?﹂
﹁へっ?﹂
シャスラハールは呆けた表情で固まり、皆視線を交わす。
﹁金貨って⋮⋮どうするのだ? そんな一枚程度で買収されるよう
な喰いつめ者は兵隊などやっておらんと思うぞ?﹂
ハイネアが首を傾げる。
﹁そうですね。ですが金貨が一枚あれば、私は三十騎程度の騎兵な
らば足止めできると断言します﹂
シャロンは言い切った。
その表情を見て、まだ困惑したままシャスラハールは荷物の中から
不要とは思いながらも一応持って来ておいた財布を取り出して金貨
をつまむ。
526
﹁あの⋮⋮はい﹂
そのままシャロンへと歩み寄って、手の平に金貨を置く。
﹁有難う御座います﹂
シャロンは礼を言いつつそっとシャスラハールとの距離を詰め、不
意打ち気味にキスをした。
﹁えぇっ? シャ、シャロンさんっ﹂
﹁ふふっ。金貨の御代です﹂
シャスラハールから距離をとって、全員を見渡す。
﹁殿下の奥の手を解放するには後射精が十回。皆さまもどうかお急
ぎください。敵兵が動き出した以上、状況は変化しています。一刻
の猶予も無いという事です﹂
そう言ってシャロンは地面に畳んで置いていたセナから貰ったスカ
ートを腰にあてがい、
﹁ご武運を。殿下、必ずやラグラジルめを攻略してください。そう
すれば我らの悲願は希望の活路を見い出せます﹂
駄剣を一つ鞘ごと握って駆け出して行った。
﹁リトリロイ殿下の本隊が来るだとぉ⋮⋮くそっ! くそぉっ!﹂
馬に乗せた巨体を揺らして、グヴォンは呻く。
ゴダンより依頼された公娼狩りの任務の途上、これまで開拓団の警
護という退屈極まりない任務に従事していた反動から、部下と共に
弱そうな魔物を見つけてウサを晴らす、一種の狩猟を楽しんでいた
ところに、リトリロイが騎士団を率いて自分の応援に向かっている
との報告が届いた。
﹁急げっ! てめぇら! このまま何の手柄も無いまま殿下に合流
されちまったら俺の評価はガタ落ちだ! 場所は分かってんだ、さ
っくり行ってさっくり魔物ブッ殺して公娼共をとっ捕まえて、本隊
が来る前に俺達でヤれるだけヤっちまうぞ!﹂
グヴォンは焦りながら、動揺しながらも、兵の士気を上げる事だけ
527
は忘れない。
そうだ、そうしてしまえば良い︱︱
マルウスとかいう魔物を殺して公娼を捕らえる。
後は本隊が合流するまで好き勝手雌穴を穿りまくれば良いんだ。
グヴォンは汗をかきながらも、口元をニヤつかせる。
部下を叱咤し、馬を蹴り付けながら走っていくと。
目的のマルウス族の集落まで僅かという林の近くで、人間を一人見
つけた。
女だ。
美しい女。
金髪とちぐはぐな露出度の高い服を纏った女。
間違いない。
こいつは︱︱
﹁公娼じゃねぇか! おい、見つけたぞ! まずは一人だ。捕まえ
ろ﹂
この西域に居る人間。それも美しい女ならば間違いなく公娼。
それは間違ってはいない。
しかしグヴォンは愚かだった。
彼はかつて朝の作戦会議で御勤め品扱いだったヘミネを犯していた
時にも、自信過剰で公娼を人畜以下と言い切ったが、それは彼女達
が不当に扱われた結果に過ぎない。
ヘミネであれ、その他の公娼であれ、図体だけの頭の冴えないグヴ
ォンのような男程度が敵うはずはないのだ。
それが特に︱︱リーベルラント騎士国家、精鋭騎士団の参謀を相手
にするのならば、足りない部分は一つや二つでは無い。
本来ならば︱︱という注釈はつくが。
馬から降りた兵士が五人、シャロンへと向かって行く。
その時、シャロンの口元が綻んだ。
﹁今回の戦いはラグラジルという強敵を相手にするもの。何もかも
が万端では無い私がいては足手まといになる。だから、これで良い
528
のです﹂
そう言ってシャロンは手に提げていた駄剣を放り捨てる。
それは、抵抗を諦めているかの様に兵士達には見て取れた。
﹁おいおい、何だこの女。ヤらしてくれるってのか?﹂
﹁俺達の前に出てきたのは体を差し出す為かよぉ。やっぱ公娼って
のは馬鹿でどうしようもない肉便器なんだな﹂
兵士達は下卑た笑いを浮かべて、ゆっくりとシャロンへ近づいてく
る。
﹁先へ進まねぇといけねぇが⋮⋮まぁ良い、一人でも公娼を捕まえ
ておけば殿下への言い訳も立つ。この状況で我慢しろって言うのも
野暮だな。良いか一発こいつでヤった奴から目的地へ向かうぞ﹂
そう言ってグヴォン自身、下品で好色な笑顔を見せて馬から飛び降
りた。
足止め。
もしそれだけが目的だったならば、これで彼女の役目は果たされる。
しかし、
﹁ふふっ﹂
シャロンは笑い、金貨を取り出した。
それを見て男達も笑う。
﹁なんだぁ? ヤらしてくれる上に金までくれるってか! 良いね
ぇ! お前最高だわっ 全員分の金貨はあるのか? グヴォン将軍
と伝令の奴の分も含めると三十二枚必要になるぜぇ?﹂
ゲラゲラと笑いながら、男達の一人がシャロンの持つ金貨へと手を
伸ばす。
それをシャロンは身を引いてかわし、金貨を親指に乗せる。
﹁な、なんだぁ⋮⋮?﹂
男達が怪訝な声を漏らした瞬間、シャロンは笑みを深くして、
金貨を強く空へと打ち上げた。
﹁傭兵っ! 貴女の剣を買おう。これより私が、持ち手となる!﹂
529
打ち上げられた金貨は、シャロンの上空で別の者の手に渡った。
金貨を掴んだ手は即座に胸元に押し込まれ、安全な場所にソレを移
す。
そうして次の瞬間には白刃が舞い、シャロンへと迫っていた男達の
首が五つ、大地へと転がった。
血栓が飛び散る中、シャロンの前に着地した人影が、振り返って血
に染まった微笑みを向ける。
﹁了解。これよりマリスは貴女の剣となるよっ。差し当たっては、
ここに居る奴らを皆殺しにしちゃえば良いかなっ?﹂
無邪気そのもので問う傭兵公娼マリスに向けて、シャロンは頷いた。
マルウスの里の近くにいる公娼は囚われているシュトラ達やラグラ
ジルと共にいるユキリスだけでは無い。
ラグラジルの空間の中でその姿と生存を確認して以降、シャロンの
頭の中にはマリスと合流する事も必要な目的になっていた。
主を失い流浪する傭兵。
力を削がれ万全に戦えないシャロンと、意志を失い戦う事が出来な
いマリス。
シャスラハールから二発目の精液を注がれたすぐ後、物音に気付い
て上を見ると巨木の枝の中、視界の片隅にマリスが潜んでこちらを
見ていた。
出方を窺う様に、野生動物さながらにこちらを警戒している彼女に
声を掛けようとした時、ステアが騎兵の出現を叫んだ為、シャロン
の方から呼び掛ける機会を逸してしまった。
その後は時々視線を送ってくるシャロンに惹かれてマリスがここま
で付いて来て、刀と持ち手の契約が成った。
マリスの曲刀が唸る。
奔る。
530
抉る。
指揮官含めて三十二名の騎馬隊は、グヴォンを残して全滅した。
辺り一面に首が落ち、胸を裂かれ、四肢が飛んでいた。
﹁あっ⋮⋮あぁ⋮⋮ひ、卑怯だぞ貴様ら!﹂
当人からしてみれば、油断したところに奇襲を受け、慌てふためく
部下達がバッサバサと切り殺されて混乱中、と言ったところか。
﹁うるさいなーオッサン。ご主人が指揮官は最後にって言うから残
してあげただけなんだからね? ぜったいぜったい! マリスはオ
ッサンを殺すからね? はい、覚悟して? 三秒あげる。いーち、
にー﹂
﹁マリス、少し待ってください。彼には聞くべき事が有ります﹂
マリスに曲刀を突き付けられて震えているグヴォンに向けて、シャ
ロンが近づいて行く。
﹁貴方の部隊がここで何をしていたのか、どこへ向かっていたのか、
そちらの陣地に公娼はどれだけ捕らえられているのか、全て話して﹂
ラグラジル空間で開拓団の存在を知ったシャロンにとってみれば、
アミュスやヘミネの現在の様子は気になるところだった。
シャロンに睨まれ、マリスに刃先で突かれ、グヴォンは情けなく涙
を流しながら口を開いた。
マルウスの里へ向かっている途中だった事。
開拓団の大将自ら部隊を率いてこちらへ向かっている事。
狙いはシュトラ達である事。
そして開拓団内には三人の公娼がいて、その内二人だけで五万人の
性処理に充てられているという事。
﹁アミュ姉⋮⋮ヘミネちゃん⋮⋮﹂
マリスはかつての仲間達に対する最悪の予想が当たってしまった事
に衝撃を受け、突き付けた刃先をカタカタと震えさせる。
﹁騎士団長⋮⋮貴女は何を⋮⋮﹂
シャロンも生死不明だったかつての上官セリスが生きていて、こち
ら側と敵対しているという事情を改めて確認し、眉をひそめる。
531
二人にそれぞれ隙が出来た瞬間、グヴォンは巨体に似つかわしくな
い俊敏さで飛び退り、転がりながら胸元に手を突き入れた。
﹁何でも良いっ! 来やがれ魔物っ! 俺を守れぇぇぇぇ﹂
ゴダンから預かっていた﹃アン・ミサの杖﹄の模造品。
それを取りだし、大声で叫んだ。
﹁何をっ!﹂
﹁あーっ、逃げるなっ! 初仕事なんだから失敗出来ないのにぃ!﹂
シャロンが鋭い視線を向け、マリスが追い縋ろうとした時、その足
下、地面が隆起した。
﹁へっ⋮⋮へへっ。つ、強そうじゃないか。おう魔物ぉ⋮⋮そいつ
らぶっ倒せ。ただし殺すんじゃねェぞ。俺様に屈辱を味あわせてく
れた事、素っ裸にひん剥いてぇ、子宮の奥の奥から反省させてやる
んだからなぁ⋮⋮﹂
グヴォンが地面にへたり込んだまま、震える声で声をかける。
その対象は、巨漢のグヴォンよりも更に倍以上の体を持ち、鋭く尖
った鼻と爪を輝かせる、モグラ型の魔物だった。
﹁追加料金⋮⋮必要ですか?﹂
﹁⋮⋮それよりはちょっと手伝ってほしいかも⋮⋮です﹂
シャロンは駄剣を拾い直し、更にもう一本死体からはぎ取って慣れ
た双剣の構えを取りながら、マリスと共に巨大なモグラに向かい合
った。
532
主従の愛︵前書き︶
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533
主従の愛
﹁騎士長。アタシはシャロンの言葉を信じますよ﹂
セナは隣に立つステアへと声をかける。
﹁策が有るって言ってましたし、アタシ達の軍師はそういう嘘はつ
きませんよ﹂
遠くを見つめるステアは年下の部下の言葉に、フッと脱力して頷い
た。
﹁そうだな⋮⋮わたしだってシャロンの事を信じているさ⋮⋮。た
だ武運を祈っていたんだよ﹂
切り替えるように言って、ステアはシャスラハールへと振り返る。
﹁さぁ殿下。シャロンが作ってくれた時間です。速やかに参りまし
ょう﹂
その視線を受けて、黒肌の王子ははっきりと頷いた。
あと十回。
限定解除の為に射精する。
一発分の精液を残した状態でラグラジルを押し倒し、その子宮に誓
約魔法を注ぎ込む。
その時、シャスラハールの隣で聖騎士ヴェナが身震いした。
﹁魔力⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮うむ﹂
呼応するようにハイネアも頷き、焦りの表情を浮かべる。
今この場に正式な魔導士は存在しないが、それに準じるものとして
魔導の祝福を受けた﹃聖騎士﹄ヴェナと類似系統の﹃治癒術士﹄ハ
イネアがいる。
魔導士程に魔法知識や魔力探知が出来るわけでは無いが、一般の者
に比べてそちら方面の感覚が優れているのは間違いない。
その二人が同時に、巨大な魔力を感知した。
534
﹁これは⋮⋮些か見知った魔力の波長ですね﹂
﹁ユキリスのものだな⋮⋮あ奴め⋮⋮﹂
短い間だが共に旅をして支え合ってきたかつての仲間の魔力。
別れる前に感じたソレよりも遥かに存在感を増している。
﹁ユキリスの魔力⋮⋮? ラグラジルって奴に強化されてるんだっ
け﹂
セナは苦しげに顔を歪めて言った。
﹁シャロンの報告によると、今の彼女はラグラジルの支配下にある
らしいな。ラグラジルを押さえた上で取り戻す、それが理想なのだ
ろうけれど﹂
ステアも顎に手を当て、悩ましげに呻く。
﹁ユキリスさんの魔法を直接相手にするのは、私達にとってかなり
危険な行為かと⋮⋮﹂
リセが顔を落として言う。
︽劇毒と狂奔の魔導士︾ユキリス。
数多の毒を撒き、精神を狂わせる魔法を擁する魔導士。
直接斬りかかっていては、目に見えぬ毒と狂いにたちまちやられて
しまうだろう。
﹁ラグラジルと思われる気配はありませんか?﹂
ステアが問い、
﹁いえ、今のところ魔力は一つですね⋮⋮出来得るならば彼女との
戦闘は避けたかったが⋮⋮﹂
聖騎士ヴェナが答え、更に言葉を紡いだ。
﹁殿下、魔導士ユキリスの相手はわたくしが務めます。聖騎士の加
護を持つわたくしならばある程度の魔法に耐性がつきます。殿下は
ステアさん達と共にラグラジルの攻略をお願いします﹂
王子の守役としては、最難関であるラグラジル捕獲の方につきたか
ったが、ステアやセナ、リセではユキリスの魔力を追う事も出来ず、
まず戦闘が成り立たない。
適材適所を突き詰めると、ヴェナがユキリスに当たるしかない。
535
﹁わかった⋮⋮ヴェナ、無事に戻って来て﹂
シャスラハールは真剣な表情で頷き、重臣への信頼を示す。
主人である少年を愛おしげに見つめ、聖騎士は体を寄り添え抱きし
めた。
﹁ヴェナ?﹂
﹁先ほどのシャロンさんと同じです。わたくしも殿下の精液を二回、
この身に浴びてから向かいますわ﹂
聖騎士の手は主人の肉棒を優しく包み、そっと己へと導いた。
シャスラハールとヴェナが最初に出会ったのは、スピアカント王国
が未だ健在だった凡そ九年前。
シャスラハールは十代に入る前で、まだまだ甘えが抜けず、姉のア
リスレインに怒られる毎日を過ごしていた頃だ。
国一番の騎士が魔導の最高峰であるミネア修道院で祝福を受け、聖
騎士に叙される。
その報告に国内は一気に湧き上がった。
この時代、聖騎士と呼ばれる人間はミネア修道院に属する古老の騎
士、それも名誉称号として与えられる一種の飾り的な名前だった。
しかしそれを、弱冠十八歳にして剣技を収め、騎士としての最高峰
に上り詰めた女性がいる。
それも高名な騎士国家であるリーベルラントの人間では無く、この
スピアカント王国が輩出する、というある種の優越感が国を湧かせ
た。
王家も軍も民衆も、誰も彼もその話題で持ちきりとなり、ロクサス
領内にあるミネア修道院から帰還する新たな聖騎士の登場を待ち望
んだ。
凱旋の日、スピアカント王国の首都シャムネイルの外壁城門は開か
れ、王城へと続く大通りには華美な飾りが施されて、群衆は道の端
に寄って、王家の者は王城の上から今か今かと聖騎士の到着を待っ
536
た。
そして、その国を挙げての歓迎の渦に、一頭の騎馬が到着する。
純白の鎧に、美しい金の髪。
腰に提げた剣は聖騎士の証である聖剣。
城門をくぐり、ゆっくりと王城を目指していく騎馬を、群衆は言葉
を失い道の端から眺めていた。
清廉にして至上の武。
白聖の騎士が馬を操る姿に見とれていた。
シャスラハールはその姿を、美しさをいつの日も忘れた事は無い。
アリスレインに抱えられて王城の縁から見つめていた少年に、常日
頃家臣団を閉口させる騒がしさは無く、ただポカンと口を開けて呆
然としていた。
やがて聖騎士は王城に辿り着き、下馬する。
騎士団の一糸乱れぬ敬礼の中を抜け、王の待つ広間へ。
重臣団の畏敬にも似た礼に応え、王の前に立った。
シャスラハールは王家の人間としてその場所に居あわせる事が出来
たが、その際も聖騎士の事を見つめ続け、手を引いてここまで連れ
て来てくれたアリスレインに苦笑されていた。
王が口を開く。
﹁我が王国の誉れたる騎士よ、そなたの名を聞かせよ﹂
重く威厳のある声に、聖騎士は凛とした声で答えた。
﹁騎士ヴェナルローゼ、ただいま帰還いたしました﹂
ヴェナの勇名はスピアカント国だけに止まらず、周辺諸国へと響き
渡った。
その結果諍いの絶えなかった周辺国との小競り合いは止み、スピア
カントはしばらくぶりの平穏を手に入れる。
王家は彼女を王城に留め置く事で他国への威とし、睨みとした。
その結果、王城に住まうシャスラハールと王城を守るヴェナは出会
537
う事になる。
ある日、木漏れ日の中アリスレインに庭へ連れ出されて勉強をさせ
られていた少年の前に、国一番の騎士が立ったのだ。
﹁アリスレイン様、シャスラハール様、お早う御座います﹂
金髪を揺らしてお辞儀をするヴェナの年相応に甘い笑顔に、シャス
ラハールは心臓を跳ねさせる。
﹁ヴェナルローゼ! あぁ良かったわ。貴女とお話がしたいとわた
くしはずっと思っていたのです。シャスも貴女の事が大変気になっ
ていたようですよ。ね、ほらシャス。きちんと御挨拶なさい﹂
シャスラハールは目の前に立ってこちらに笑いかけてくれる女性の
顔を、まともに見る事が出来なかった。
アリスレインとヴェナの年齢は同じ。
二人には打ち解けるものが有ったのかすぐに仲良くなった。
しかしシャスラハールはいつまでも︱︱
﹁シャス、ちゃんと挨拶なさいっていつも言っているでしょう﹂
ヴェナを前にすると緊張で固まり、心臓が鳴り響いて上手に言葉を
発する事が出来なかった。
大好きな姉と姉の親友。
二人が陰に日向に少年の事を見守り、あっと言う間に数年が過ぎた。
ゼオムントが他国を侵略し、併呑して回っている。
その矛先は少年の住まうスピアカントにまで伸びて来ていた。
スピアカントは初戦で惨敗し、王家の男児と大規模戦力を投入した
次戦では壊滅的な敗北を被った。
いずれの戦いにもヴェナは参加しなかった。
彼女自身は強硬に出征許可を求めたが、首都及び王城の守りの任か
ら移されることは無かった。
王家の者が求めたのか、大臣が決めたのか、民衆が懇願したのか、
ヴェナは最後の最後までシャムネイルの門を出る事無く戦争を終え
た。
王家は降伏し、アリスレインをはじめとする王族の女性を差し出す
538
ことを条件に許された。
ヴェナがようやく門をくぐれたのは、アリスレインを護衛しゼオム
ントへ護送し献上するという屈辱的な役目を果たす時だった。
アリスレインと共にシャスラハールを城下へ逃がしたのは、自分を
見る度に顔を赤くして逃げていく可愛い弟の様な少年に、彼の姉で
あり自分の親友であるアリスレインをゼオムントへ差し出す姿を見
せたくなかったからだ。
そうしてアリスレインがゼオムント王に献上され、護衛としてつい
ていたヴェナも同時に拘束される。
公娼制度の発表は、その日から一週間と経たない内に行われた。
アリスレインとヴェナは離れ離れにされ、恥辱の日々を過ごす。
聖騎士として保ってきた純潔も、名も知らぬ中年の薄汚い調教師に
奪われ、破瓜を経験したその日に五十名の男に膣内へ挿入され、い
ずれも膣内に精液を注がれた。
ヴェナは反抗的で手が掛かり、その分調教師に好まれる公娼だった。
二年の間に数千本の肉棒を咥えさせられ、出演した映像作品の数は
三百を超える。
いくら汚されても瞳に消えぬ炎を宿すヴェナを気に入り、調教師達
は作品内で何度も凌辱を繰り返した後、夜になると自分達で好き放
題その体を弄んだ。
その内、ヴェナの弱点をアリスレインと見抜いた調教師がいて、そ
の男は戯れにヴェナの尻穴を拡張している時に、アリスレインの映
像作品を見せつけてきた。
浮浪者に、精神錯乱者に、老人に、犬に、豚に、猿に、守るべき親
友が犯されている姿を見せつけられながら、ヴェナは絶叫し怨嗟の
轟きを上げながら肛門を限界まで拓かれ、その狂乱する姿をポッカ
リ開いた尻穴ごとしっかりと記録に撮られた。
そして悪夢の大祭が開催され、アリスレインは惨く殺される。
ヴェナは何度も生中継の映像に叫び、その度に笑う調教師と彼に銅
貨二,三枚の小銭を渡して彼女の膣に中出しする権利を買った男達
539
に凌辱され続けた。
ヴェナの心は半ば壊れかけていたが、面白がっていた調教師達は更
に追い打ちをかける。
アリスレインが殺され、死後もヤれる肉人形として飾られているバ
ンデニロウムへと全裸で縛ったヴェナを連れて行き、親友の亡骸を
犯す為に並んでいる男達の列に並ばせたのだ。
数十人規模の列が伸び、男達が一人また一人とアリスレインの亡骸
に挿入し精を放って行く様子をじっくりと見せた後、ようやくヴェ
ナ達の番が訪れる。
ヴェナは何度も何度もアリスレインの亡骸に謝り、面白がった調教
師達によって顔を親友の膣口に押し付けられた状態で、ヴェナ自身
の膣を犯された。
ヴェナの体が男達の激しい動きに揺らされる度に、アリスレインの
膣も揺れる。
ヴェナは謝った。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい︱︱
聖騎士に叙されたにも関わらず、何一つ守れずに、死後の親友の名
誉すら守れずに︱︱。
その日男達は一日限定の寄付としてヴェナをアリスレインの隣に繋
ぎ、バンデニロウムへと訪れた客達に解放した。
泣きながら親友の亡骸の隣で見知らぬ、それも親友の死を娯楽とし
て楽しんでいるような人間達に犯された事で、ヴェナの精神は崩壊
した。
廃人の様に輝きを失ったヴェナは、以後の撮影や公娼活動でまった
く反応を示さなくなり、その内に調教師達から飽きられ街中のゴミ
捨て場に捨てられた。
数人の浮浪者に肉人形兼暖房機代わりとして拾われ、薄汚れた肉棒
から放たれる精液と小便、そして腐ったパンを食って生きながらえ
ていた時、再会した。
簡素すぎる浮浪者の共同生活空間の前で、自分をいつも暖房代わり
540
に抱いて眠っている虱髭の太った浮浪者に札束を投げつけ、一人の
若者が入って来た。
別れた時十代の半ばだった少年はまだ小さかったが、数年ぶりに出
会った彼は大きく成長し、目に大粒の涙を湛えてこちらに手を差し
出していた。
﹁ヴェナ⋮⋮﹂
初めてだった。
いつも照れて逃げ出していた少年がそうやって自分の事を呼んでく
れたのは。
垢と精液で汚れたヴェナの顔を撫で、その体を抱き起して、
シャスラハールはヴェナの胸に顔を埋めて言った。
﹁ヴェナ、僕を守って。僕と一緒に、ゼオムントと戦って⋮⋮!﹂
あれから、表立っては調教師と公娼と言う関係になり、二人は何度
も肌を重ねた。
今こうしてマルウスの里近くの林で立ったまま苦も無く性行為をし
ているのも、お互いに慣れた関係であるからだ。
一度死んだはずのヴェナの心を甦らせ、聖騎士としての役目を再び
与えてくれた少年に、無上の忠誠を。
ヴェナは既に一発注ぎ込まれた膣に力を込める。
﹁あぅ! ヴェナ⋮⋮!﹂
この少年の為に全てを捧げる。
体も命も剣も魂も。
少年の肉棒が脈動し、精液が子宮へと注がれてくる。
これで、後八発。
シャスラハールの宿した奥の手の発動をこの手でアシストできるの
はここまでだが、自分は聖騎士としてやるべき事を果たす。
それがこの人に、この人の姉と国に報いる唯一の方法なのだから。
﹁殿下。それではわたくしは行って参ります。どうかご無事で、わ
541
たくしの良く知る殿下ならば、必ずや成し遂げられると信じており
ますわ﹂
最後にそっと少年の体を抱きしめて、聖騎士は林から離れていった。
﹁狂いの風か⋮⋮痺れの毒か⋮⋮どっちが良いかしらね﹂
ユキリスはマルウスの里を見下ろせる岩壁の上に立ち、錫杖を握っ
ている。
少し前に別行動をとったラグラジルの指示により、小賢しいマルウ
ス族を思考不能の状態に陥れ、公娼達のコントロールを失わせるの
が今の役目。
何の問題も無い。
ラグラジルに強化された魔法を用いれば、多少薄くはなるが里全体
に魔法を拡散させることは可能だ。
﹁痺れ毒にしましょう⋮⋮騒がしいのは好きじゃないわ﹂
そう言って錫杖を構えた瞬間、
﹁そこまでです﹂
凛とした女性の声が届いてきた。
ユキリスはゆっくりと振り返る。
見知った顔が少し離れた場所に立っている事に、軽く目を見開いて
から、口を開く。
﹁ヴェナさん⋮⋮。どうしてここに?﹂
錫杖を胸の前に置いて、語り掛ける。
﹁色々と有りましたの、わたくし共の方でもね﹂
ヴェナは駄剣を一本腰に提げ、簡素な男物のプレート鎧を身に付け
た状態で立っている。
﹁ユキリスさん。単刀直入に申し上げますわ。手を退いて下さらな
い? 察するに貴女がここでやろうとしている事は、シュトラさん
達の身柄をラグラジルに献上する為の行動なのでしょう。それはす
ぐに無駄になりますし、わたくし共の予定と噛みあわせがよろしく
542
ありませんの﹂
言葉遣いは落ち着いたものだが、そこに込められた傲慢さをユキリ
スは感じた。
﹁ヴェナさん、貴女が何をどこまで知っているかはわかりませんけ
れど。私はもうマシラスの山で貴女達と別れた時の私ではありませ
んよ? 魔力は数倍に増え、技の種類も増えました。単純な戦闘力
だけで言うならば主人であるラグラジル様よりも上なのです﹂
ユキリスは錫杖をヴェナに突き付け、静かに言った。
﹁そうだ⋮⋮。ヴェナさんもラグラジル様に強化して頂いたらどう
でしょう? 力は増え、その分絶望が減ります。希望を失った私達
にはもう、あの御方が授けて下さる力に縋るしか未来は無いのです﹂
その言葉に、ヴェナは首を振った。
右手を胸に当て、瞳を強くする。
﹁西域の魔天使か何だか知りませんが、そのような雑多な﹃何者か﹄
の加護など必要ありませんわ。わたくしには﹃聖騎士﹄の加護があ
り、未来のスピアカント国王の信があります。⋮⋮元より会話でど
うにかなるなどとは思っていません。さぁ、そこな邪の魔導士よ⋮
⋮聖騎士の名に於いて成敗してくれましょう﹂
ヴェナは駄剣を握り、ユキリスへと向ける。
魔導士はその仕草を見て、一瞬で行動に移った。
﹁︽鋭毒︾!﹂
錫杖を振りぬき、不可視の毒の弾丸を放出する。
鋭く肌を犯し、体内組織を腐らせる毒魔法。
ラグラジルの力により魔力を強化された今の自分が放ったソレなら
ば、一撃で相手を殺す事が可能だろう。
毒の弾丸は一直線にヴェナを目指し、襲い掛かる。
﹁なっ⋮⋮! そんなっ﹂
聖騎士はそれを、駄剣の一振りで打ち払った。
ユキリスは驚愕に顔を歪ませ、次々に︽鋭毒︾を放つ。
五発、十発、ニ十発。
543
いくら放っても、必殺の弾丸はヴェナの体に届かない。
﹁どうして⋮⋮私、強くなったのに⋮⋮絶望しなくて済むくらいに、
強く⋮⋮強く﹂
喘ぐ様にして言うユキリスに向けて、聖騎士は一歩前に進みながら
言った。
﹁確かに、魔力の総量や威力は増しているのでしょう。貴女が自信
をつけるのも理解できますわ。けれどね、ユキリスさん。︽聖騎士
︾とはそんなレベルじゃないのです﹂
手にした駄剣を軽蔑の目で眺めてから、ヴェナは笑う。
その表情を見て、ユキリスは恐怖に青褪め、錫杖に魔力を込める。
﹁うああああああああああああああっ!﹂
︽劇毒︾が︽狂奔︾が、そしてラグラジルより新たに授かった︽闇
︾の魔力が展開される。
それらが向かって来るのを眺めながら、ヴェナはさらに続ける。
﹁聖剣を失い、このような駄剣では聖騎士の本領を発揮する事もで
きませんが、それでもなお︱︱﹂
ヴェナは襲い来る三色の魔法に向け剣を閃かせ、その全てを一刀両
断し、霧散させた。
﹁わたくしは貴女よりも遥かに上なのです﹂
スピアカント王国の聖騎士ヴェナルローゼは、この大陸に轟く勇名
に於いて三指に入る存在である。
その刃が向かう先は常に、自らを亡者の淵から救い出し、聖騎士と
して信頼を寄せてくれるシャスラハール王子の敵へと向いている。
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今は、まだ︵前書き︶
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545
今は、まだ
シャロンが騎兵隊の足止めに、ヴェナがユキリスの牽制に向かった。
そうすると残りの五人でラグラジルを相手取らなければいけない。
﹁騎士長、どうします⋮⋮?﹂
セナは渋面を作って上官へと問いかける。
﹁シャロンの話だと、ラグラジルは面妖な術を扱う厄介な相手では
あるが、直接的な戦闘力は何者かに封印されているらしいな?﹂
ステアは腰に手を遣り、考え込む姿勢を取る。
﹁面妖な術と言えば、別の空間に連れ込まれたり閉じ込められたり
って言うのが厄介ですね。こちらに向かってくる攻撃だったら回避
すれば良いけど、ラグラジル自身がどこかへ隠れちゃったら手の出
し様が無いですもん﹂
戦友の話から判明したラグラジルの技は、
異空間への移動。
質量のある幻影の召喚。
糸状の闇を操っての拘束。
魔鏡による過去や遠隔地の投影。
魔力付与。
の五つだ。
﹁だがはっきり言って、それ以外の四つの能力に関しては直接戦闘
に置いてさして脅威にはならない⋮⋮か﹂
幻影や闇の糸がもしかすると厄介かもしれないが、来ると分かって
いれば対処できる代物だろう。
﹁やっぱり異空間に逃げ込まれる前に捕獲するのが一番ですよね﹂
﹁そうだな⋮⋮気絶させるのが一番だが、それは高望みかも知れな
い。わたしと君、そしてリセ君で追い込んで、最後は殿下に任せる
しかないだろう﹂
546
﹁でもその前にどうやってラグラジルを見つけるかっていう問題が
ありますね﹂
﹁そこはハイネア王女に魔力を探ってもらうしかない⋮⋮大丈夫だ、
ヴェナ様がユキリスを押さえてしまえばラグラジルは必ず行動を起
こす。その時王女に見つけてもらい、我らで奇襲を仕掛ける。そう
考えるともうあまり時間は残っていないな⋮⋮﹂
二人の騎士による作戦会議。
その後方では、年若の男女三人が絡みつく様にして肌を合わせてい
た。
﹁んんっ⋮⋮ふっ⋮⋮奥まで入ったようだな⋮⋮シャスよ、妾の旦
那様よ。激しく動いて良いぞ、時間はあまりかけられないようだか
らのぅ⋮⋮﹂
ハイネアはシャスラハールと性器同士で結合した状態で、苦笑しな
がら言った。
﹁本来ならもうちょっと趣のある⋮⋮そうよな、せめて天蓋付のベ
ッドくらい欲しいところなのだが、事が事よ⋮⋮好きに抱いてくれ
て構わぬ。いずれお返しをしておくれよ?﹂
幼い顔に精一杯の強がりを浮かべて、ハイネアは笑いかける。
公娼として、数限りない凌辱に遭い、数多の肉棒に犯されてきた自
分の運命を変えてくれるかもしれない男性。
彼の為、自分の為。
そして、自分に献身的に付き従い常に共にある少女の為。
ハイネアは腹下に力を入れ、膣口を懸命に締める。
自分と今繋がっている黒肌の王子の顔は見えない。
そこには短い黒髪をした少女が唇で重ねているから。
地面に横たわったシャスラハールに対して、ハイネアが騎乗位で乗
っかり、リセが全身で寄り添うようにして口づけをしている。
全ては、未来のために︱︱
547
ハイネアはリネミア神聖国の王家に生まれ、少々厳格に育てられた。
家族がいて、家臣がいて、お目付け役がいて、教育係がいて、給仕
係がいて。
挨拶の礼儀作法から、勉学、食事、対話術についてまでも厳しく教
え込まれ、閉塞感に包まれた暮らしを送ってきた。
周囲の全てが自分の行動を見咎め、冷たく注意してくる環境の中で、
たった一人だけ温もりに溢れた三つ年上の侍女がいた。
城勤めの兵士の家に生まれ、リセと名付けられた少女はハイネアが
誕生した時に三才だった。
国中が新たな王族の誕生を祝う間に両親の手を離れ、ハイネアの友
人件付き人として育てられるべく王宮へ預けられた。
表向きは王家への忠誠の証に娘を捧げるとして。
その実、単なる口減らしであった事は誰の目にも明らかであった。
ハイネアが物心ついた時から、常にリセは共にあった。
政争に明け暮れ娘を顧みてくれぬ母親の代わりにあやしてくれた。
教育係に厳しく叱責され、部屋の片隅で泣いていた時には慰めてく
れた。
夜に尿意で目が覚めた時、ベルを鳴らせばすぐにやって来て不満一
つ言わずに笑顔でトイレまで手を握って付いて来てくれた。
甘い焼き菓子を作ってくれた。
寂しい時は一緒に寝てくれた。
ハイネアはリセが大好きだった。
周囲のプレッシャーに押しつぶされそうになっても、この心優しい
侍女が共に居てくれる心強さを支えに生きてきた。
ゼオムントによる侵略で、リネミア神聖国は滅んだ。
ハイネアは捕らえられ、それを救おうとしてリセも捕まった。
そうして二人は公娼へと堕される。
自由性交生徒。
548
公娼の中でも若く教育期にある者にだけ指定される役割。
一つの学校に入学し、そこの生徒や教師、保護者に向けて公娼活動
を行う役目を持った公娼。
ゼオムントは国王の民衆に対する偏愛から教育制度も充実しており、
最新の技術を用いた校舎作りや清潔な学生服の生産、教育資料の製
作などが行われ、国の隅々までに学校事業を展開していた。
ハイネアは首都にあるあまり進学率の高くない学校に﹃贈﹄られた。
入学式の日、校長や生徒会長、新入生代表や父兄代表が壇上に登っ
て様々な挨拶をこなした後、最後にハイネアは登壇させられた。
自由性交生徒として。
これから三年間この学校で過ごしていく抱負を語らされた。
自分の高貴な出自を、自由性交生徒の役割を、自らの性体験を語り、
最後には
﹃皆さんと早く仲良くなりたいので、在校生の先輩方も新入生の皆
さんも、どうか私をたくさん使って下さい﹄
そう書かれた原稿を読まされ、裸に剥かれ参列者すべてに向けて立
礼をさせられた。
それからの毎日は地獄だった。
一年生の間はとにかくされるがままの玩具になった。
授業中も休み時間も関係なく犯され、一学期の間に学校内から童貞
の生徒は居なくなった。
男子生徒たちは獣の様にハイネアの未熟な躰を犯し、心を塗り潰し
ていった。
この学校には一般の女子生徒も通っていた為、彼女らにも利用され
た。
裸のまま学外に連れ出され、他校の生徒や彼女達の知り合い相手に
セックスさせられ、そこから生まれる僅かな金銭は全て少女達の飲
み食いに消費された。
549
自由性交生徒は下校できない。
家を持たないから。
兎さん小屋の隣に立てられた﹃マンコちゃん小屋﹄に裸で住まわさ
れ、毎朝﹃マンコちゃん係り﹄の生徒が迎えに来て、自由性交生徒
委員会が月ごとに制定する制服とはとても呼べない端切れを着せら
れて教室に連れて行かれる。
そして最終下校時刻まで散々全身を弄ばれて、また係りの生徒に小
屋まで連れて行かれて閉じ込められ、鍵を掛けられる。
食事は教室でとる給食と、夜に用務員が見回りに来た時にセックス
の代償として置いていく冷めたパンとスープだけだった。
週末、学校に誰も居なくなる時は教師によって連れ帰られる。
休みの間も一日中歳の差が倍以上ある大人達の黒く歪んだ欲望の捌
け口にされ、性器を休める事が出来ず、また翌週から始まる恥辱を
迎えるのだった。
二年生になると状況が変わる。
ハイネア自身が自由性交生徒委員に選ばれたのだ。
この学校をよりよくして行く為にはどうすれば良いか、ハイネアの
膣をどう使えば皆が幸せになれるかの会議に参加させられた。
新一年生の全男子を対象とした童貞喪失活動や、保護者会を開いて
学校内で活動する自分の公娼としての働きを映像魔術で記録したも
のを流し、そのまま実践活動として犯される。
そして三年生。
ハイネアは教師陣から生徒会長に推薦され、ハイネアを﹃汚物﹄と
吐き捨てる潔癖な女子候補との激しい選挙戦の末に当選した。
選挙戦はもちろん膣や口、肛門など体の全ての穴を駆使して戦わさ
れた。
ハイネアの支持層はほぼ全ての男子。彼らの票を得る為に体を捧げ、
対立する女子からの妨害活動と言う名の陰惨な責めを受けた。
﹃マンコちゃん小屋﹄の鍵を外され、夜間や早朝に一般人がハイネ
アの眠っている小屋に入れるようにされたり、給食に妊娠補助薬を
550
盛られたりした。
就任したハイネアは全校生徒の見本になるべき生徒会長という立場
と、同時に全校生徒の蔑みの対象である自由性交生徒という立場、
相反する二つの席を押し付けられて、これまで以上に働かされた。
その一例として、授業巡回という制度があった。
授業中に居眠りする生徒が後を絶たず、教師陣は頭を抱えていた。
そんな時、提案されたのが授業巡回。
授業中に刺激的な事が起きれば、眠気も吹き飛ぶだろうという名目
で始まった。
朝一番と昼食後の二回、最も居眠りが多発するそのタイミング。
ハイネアの生徒会長兼自由性交生徒としての活動が始まる。
授業中の一年一組の扉が開き、首元にリボン、左乳首に校章、足元
に白の靴下を身に着けただけのハイネアが入って来る。
そうして四つん這いになり、扉に近い席から順々にゆっくりと教室
中を回って行くのだ。
﹃かいちょー! 消しカス溜まってたんだ。捨てさせてもらうねー﹄
ある生徒は暇に飽かして作っていた消しカスの塊を、白くなめらか
なハイネアの尻肉を押し開いて肛門の中へと放り込む。
﹃うりゃ⋮⋮うりゃ⋮⋮おぉぉ、根元まで入った、会長やるじゃん﹄
横を通過していくハイネアの膣に鉛筆を挿入し、子宮口まで届くか
のように深くグニュグニュとかき回す。
ハイネアはそれらを必死に耐え、決められたペースを守りながら教
室中を四つん這いで移動し、一周し終えると次の教室へと移動する。
一年一組から三年三組まで︱︱
授業中に、自分のすぐ傍を四つん這いで肌を晒した美しい先輩が通
っていく。
効果は絶大だった。
ピークタイムの居眠りは減少し、試みは成功に終わったかと思われ
たが、当然居眠りをしていないだけで集中もしていないので試験の
結果は芳しい物では無く、教師陣は苦笑いした。
551
三年間、その全てを自由性交生徒として学校に辱められた。
しかしそれでも、彼女の心は死に絶えなかった。
一つの理由が有る。
夜に膣内に残留している乾いた精液をほじり出しながら﹃マンコち
ゃん小屋﹄から外を見ると、建物が目に入る。
学校のすぐ隣には、この地域を管理する公民館が存在していた。
その公民館をご当地公娼としての本拠地としていたリセは、そこで
飼われている。
ご当地公娼は特別なもので、住民全てが調教師の様な扱いになる為、
公共性の高い所に置かれるのだ。
リセは公民館の中で窓に押し付けられながら赤ら顔の地域住民に犯
されている。
そのリセが﹃マンコちゃん小屋﹄を見ている。
主従の視線が交錯し、どちらかともなく優しい笑みを浮かべあった。
どのような理由が有ったのか、主従はすぐ傍で絶望と恥辱に管理さ
れ、けれどもお互いの存在が目に入る事で、決して諦めなかった。
リセはハイネアを護る為に。
ハイネアは自分が諦めたらそこでリセも生きる事を諦めてしまうだ
ろうという確信から、最愛の侍女の為に。
主従は死にも等しい絶望の中、ただひたすらにお互いの存在の為に
戦い抜いた。
ハイネアの膣内に一度リセの膣内にも一度、そして先ほど主従の合
計四つの柔らかな手で一度。
シャスラハールの精は解き放たれた。
息を荒げているシャスラハールの股間に、ハイネアとリセの顔が寄
る。
﹁口でしてやろう⋮⋮シャス﹂
﹁失礼します、殿下﹂
552
主従の柔らかな舌と唇が、射精直後の敏感な亀頭を刺激する。
﹁あっ⋮⋮く。二人とも⋮⋮お願い﹂
シャスラハールは迷わない。
ルルが施してくれた︽誓約魔術︾の発動の為に、後五回の射精が必
要になる。
ラグラジルを堕とし、ユキリスを取り戻す。
その後ラグラジルの力を利用してラクシェとアン・ミサに挑む。
そしてラクシェ達がいる﹃天兵の隠れ里﹄という地に囚われている
だろうフレアを救いだす。
ゼオムントの調教師達に仕組まれただけだった今回の﹃西域遠征﹄
で、見せかけだけの希望で反乱を誘発され、自分達は追い込まれて
しまった。
けれど天使達の力を得て、形勢を逆転できるのなら、反乱は夢で終
わらない。
成し遂げられる。
自分と、公娼にされた全ての人間の願いを叶えられる。
今自分の肉棒を左右から吸ってくれている二人の少女。
温もりと柔らかさ、そして確かな信頼を感じる。
この二人もかつて陰惨な調教に遭い、心に深い傷を負っているはず
なのに、こうして自分の為にその身を捧げてくれている。
自分にはやらねばならない事が有る。
奉仕を続ける二人を縛る過去を払い、未来を創る義務がある。
﹁そろそろ⋮⋮出ますっ﹂
シャスラハールは二人の頭に柔らかく手を乗せ、撫でる。
﹁うむ⋮⋮良いぞ、たんと出せ。妾が受け止めてやろう﹂
﹁はい、いつでも大丈夫ですので﹂
ハイネアが、リセが笑顔で頷いたのを見て、シャスラハールは目を
瞑り、
発射した。
ハイネアとリセの顔の中間で爆ぜた精液は、両者の顔に掛かり白く
553
染めあげる。
﹁それでは、ひとつラグラジルとやらの気配でも探ってくるかのぅ﹂
﹁ハイネア様、お供いたします﹂
放出されずに尿道に残った精を二人がかりで吸い出した後、立ち上
がった主従は真剣な顔で言って、動き出した。
ハイネアとリセの背中を見送り、シャスラハールは地面に倒れ伏し
たまま思考する。
ラグラジルの気配を見つけ、追い込んだとして、最後は自分が決め
なくてはならない。
奇怪な魔法を駆使するラグラジル相手に、どうやって立ち回り︱︱
その膣に誓約の精液を流し込む事が出来るか。
やはり事は一瞬を争うだろう。
挿入し、その直後に射精するのが望ましい。
シャロン達三人を相手に攪乱したという西域の魔天使の力は予測で
きない。
一瞬の隙をつき、一撃で決める。
その為には、
﹁ギリギリまで昂らなければっ!﹂
つい口に出して叫んだシャスラハールの方へ、二つの視線が向いて
いる。
﹁アンタ何言ってんの⋮⋮?﹂
セナが冷めた視線でこちらを見、
﹁⋮⋮あまり時間が有りません、殿下。次はわたしで﹂
淡々とした表情のステアが歩み寄ってきて、シャスラハールの上に
跨ってきた。
王子は慌てて萎えかけていた肉棒に気合を送り、屹立させる。
ステアは躊躇なくその上に腰を沈め、性器同士で結合させる。
﹁はぁんっ⋮⋮! 殿下、どうかそのままお聞きください﹂
554
ステアは激しく腰を動かし、膣口を締め上げながら言う。
﹁ハイネア王女が⋮⋮んんっ! ラグラジルの気配を掴みましたら、
わたしが先制をしかけ、リセ君に追撃をかけてもらいます。あぁっ
⋮⋮、そして殿下はセナと共に隠れていていただき、ふっんんっ!
あひっ、ラグラジルの隙をついて下さい。我らが全力でラグラジ
ルを押さえ込みますので⋮⋮あふぁん! 殿下は、何としてもかの
者に誓約の楔を打ち込んで、ああああああっん!﹂
連続して刺激を与えられ続けて来たシャスラハールの肉棒は、まる
で初物の様な早さでステアの膣内に精を解き放った。
﹁はぁ⋮⋮はっ、りょ、了解です⋮⋮﹂
その分、体力は削られ、力の無い表情で地面に横たわったまま、黒
肌の王子は頷いた。
ステアはチュポン︱︱と肉棒を膣内から引き抜いて、優しく握りし
める。
﹁本当ならばもっと長く、愛情深くお世話して差し上げたいのです
が、此度は時間が御座いません、殿下。我が手淫にて疾く達されま
せ﹂
騎士長ステアの得物は槍である。
柄を握り、滑らせ、操って刃先で敵を貫く。
その技は、こういう場面にも活きて来るのだ。
﹁あああああっ! あぅ! で、出ますっ!﹂
﹁騎士長⋮⋮流石です﹂
シャスラハールが雄たけびを上げながら腰を跳ねさせ、セナが感嘆
のため息を漏らす。
噴出する精液を口で受け止めながら、ステアは勝ち誇った笑みを浮
かべる。
手で優しく肉棒を撫で擦って、立ち上がる。
﹁さて、セナ後は頼むぞ。殿下を護衛しつつ、ラグラジルとの邂逅
までにあと二回、射精の導きを。わたしは行く。ハイネア王女達の
近くですぐに動けるようにしておかないと。ラグラジルを発見した
555
時にはリセ君に呼びに来てもらうので、それまでに頼んだぞ﹂
そう言ってステアは槍を握り、歩き去って行った。
残されたのは、シャスラハールとセナ。
西域で出会い、王と騎士の誓いを最初に果たした二人。
セナは皮肉気に眉を垂らして一つ年下の少年に問う。
﹁どう? まだまだ奥の手の限定解除︱︱性欲の消失は来ない?﹂
これまで五人の仲間達による合計十回の連続射精。
十三回と言うシャスラハールの自己申告を信じた上でやってきた回
数だったが、正直充分だろうという思いも有ったし、成り行きとは
言え自分が最後になった事も実を言えば悔しかった。
それ故の皮肉。
﹁あー⋮⋮そうですね⋮⋮正直ちん︱︱ここ赤くなってきて少し痛
みが有ります﹂
そう言って苦笑いしながらシャスラハールは立ち上がる。
﹁んじゃもうやめとく? 肝心のラグラジル相手に出なかったら意
味ないしさ﹂
視線を逸らして、少し早口で言う。
心に何か引っかかりがあった。
目の前で彼が仲間達と次々に繋がり、快感を得ていく姿を見ていく
内にこみ上げてくる棘々しい感情。
自分が何に拗ねているかが理解できず、セナは斜に構えた態度をと
った。
そんな彼女に、少年は真剣な表情を浮かべて一歩近づく。
﹁でも、それでも︱︱﹂
シャスラハールの一つだけしかない手が、セナの肩を掴む。
﹁これだけ色んな方に奉仕されて、それでも尚こういう事を言うの
は⋮⋮ちょっと自分でも恥ずかしいんですけど﹂
少年が、か細い声で呟く。
556
﹁僕は⋮⋮セナさんが許してくれるのなら、貴女と一つになりたい
⋮⋮﹂
特徴的な赤い髪と頬が同色に染め上っていくのを感じながら、騎士
は喘ぐ様に言った。
﹁アンタ⋮⋮な、何言って︱︱﹂
肩に置かれた手の平から発せられる熱を強く感じながら、首を振る。
﹁い、いい今はやるべき事があって、その為に皆が必死になってア
ンタを射精させて︱︱﹂
﹁わかってますっ!﹂
思いの外、大きな声が辺りに響いた。
﹁わかってますよ。皆が僕の為にその身を捧げてくれた事も、その
期待に応えなくちゃいけないって事も。けど僕は⋮⋮僕は⋮⋮﹂
少年の顔が下を向き、声はさらに弱弱しくなる。
﹁セナさんと出会ったあの日、あの場所で貴女と誓った事を覚えて
います。それからずっと、一緒に旅をしてきて⋮⋮ずっと貴女の事
を見ていました﹂
セナが父親を殺し、シャスラハールと出会った日。
二人は王と騎士の誓いを交わし、体で契った。
﹁僕は⋮⋮僕はっ!﹂
少年の昂った声が続く言葉を発しそうになった時、セナは顔を寄せ、
その唇を奪った。
﹁んんっ!﹂
長く深くその口に吸い付きながら、セナは思う。
もしかしたらこの少年の心と自分が抱いている感情は同じなのかも
しれない。
そう思えると心が温かくなるし、棘が全て抜けていく。
けれど、今はその時ではない︱︱。
もし自分の言葉が、態度がこの少年にその言葉を紡がせようとして
しまったのなら反省しなくてはいけない。
今はやるべき事が有るのだ。
557
仲間達が命を削って戦っているこの状況を抜け出した時、改めて言
葉を交わそう。
セナは心の内側で、そう誓った。
﹁⋮⋮ぷはっ! はいはい、その話はあとあと。さっ! するんな
ら早くするわよっ! いざという時に間に合わなかったーなんてな
ったら目も当てられないわ﹂
ゆっくりと少年の体を仰向けに押し倒しながら、赤髪の騎士は微笑
んだ。
﹁おねーさんが優しく抜き抜きしてあげるわ﹂
朗らかに言って、少年の分身を優しく自らの内側に導いた。
558
今は、まだ︵後書き︶
お気に入り登録して頂いている方・更新を追って頂いている方
いつも読んで下さって有難う御座います。
予定では後30話程で終了します。
三月中の完結を目指したいので少し更新ペースを早めていきたいと
思います。
読み飛ばし等にご注意ください。︵一日に複数更新はありません、
24時間は必ず空きます︶
559
誓液︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
560
誓液
冷たい地面の上であっても、セナは温もりを感じた。
一度の射精を経て、今シャスラハールとセナは正常位で繋がってい
る。
唇同士が忙しなくぶつかり、手指はきつく絡み合っている。
﹁はぁっ⋮⋮はんぁっ! セナさん⋮⋮セナさんっ!﹂
自分の名前を呼びながら、何かの想いをぶつける様にして腰を振っ
てくる少年の姿が、途轍もなく温かい。
﹁うん⋮⋮うん。シャス。シャス⋮⋮﹂
何が﹃うん﹄なのか、わかってはいても具体的には言えない。
今はまだ、言ってはいけない。
﹁くっ! はぁぁ、出ます。セナさんの膣内に⋮⋮出ますっ!﹂
上ずった声でシャスラハールが吠え、数秒の後にセナの膣内に熱い
液体が注ぎ込まれた。
﹁あぁ⋮⋮んん。出たね⋮⋮十二回目。これで︱︱﹂
見れば、シャスラハールの下腹部に、刻印が浮き上がって来ていた。
﹁魔術の刻印⋮⋮これで限定は解除されたのね﹂
﹁はい。たぶんこれで大丈夫だと思います。ルル⋮⋮。君の授けて
くれた力、使わせてもらうよ﹂
シャスラハールは勢い込んでそう言ったかと思うと、ヘナヘナと体
勢を崩し、セナへと覆いかぶさった。
﹁ちょ、ちょっと!﹂
﹁すいません⋮⋮流石に少し疲れが⋮⋮ほんの少し休めば大丈夫で
すから⋮⋮﹂
キスをするわけでも、肌を撫でるわけでも無く、王子は荒く呼吸し
ながら騎士の体の上で休む。
﹁仕方ないわねー。ちょっとだけだからね﹂
561
そう言ってセナはシャスラハールの背中に両手を回し、優しく抱き
しめた。
トクントクン︱︱と、互いの心臓の音をやり取りし、ゆったりとし
た時間が流れる。
お互いの体温を感じ、匂いを嗅ぎ、時を共有する。
その時、タタタッ︱︱という足音がこちらに向かって来ているのを
セナは感じた。
﹁シャス⋮⋮おしまい。立って﹂
その言葉に、少年は頷いた。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮はい﹂
ゆっくりと二人の体が離れていくその時、
﹁ラグラジルを発見しましたっ!﹂
リセの慌てた声が響いてきた。
﹁ユキリスちゃんの相手をしているのは、マシラスの山で捕まって
た騎士よね⋮⋮﹂
黒髪を靡かせながら、ラグラジルは木々の生い茂った山裾で鏡像を
眺めていた。
ユキリスに指示を出し、マルウスの里を壊滅させた後に公娼を確保
する。
その手筈で動いていたのだが、思わぬところで邪魔が入った。
﹁チッ⋮⋮アイツ、相当強いわね﹂
ユキリスと対峙しているヴェナと呼ばれた女。
その力を推し量って舌打ちを零した。
現在ラグラジルの力はラクシェによって封じられている。
自分に出来る事は婉曲的な補助魔法ばかりなので、ユキリスの様な
下僕を作って戦わせるのが一番なのだが、どう贔屓目に見ても両者
の戦いではこちらの分が悪かった。
﹁さてと⋮⋮どうしましょうかね⋮⋮あの騎士を下僕に出来れば一
562
番なのだけれど︱︱﹂
その時、顎に手を当てて思考する彼女に向けて、何かが急速に迫っ
てきた。
﹁はぁっ?﹂
慌てて飛び退り、回避する。
今まで自分が立っていたところの近くの木に、短刃が突き刺さって
いた。
﹁むぅ、避けられたか⋮⋮慣れない武器はいかんな、確実性が無い﹂
女性の声。
そちらを向いて、ラグラジルは眉を曇らせる。
﹁見た顔ね⋮⋮あぁ、マシラスの山でさっきの奴が捕まってた時に
飛び込んできた槍使いか﹂
仕立ての良い騎士服を身に纏い、片手に槍を握っている姿に見覚え
が有った。
﹁ほぅ⋮⋮こちらを知っているのか。ならば話が早いかもしれない
な。ラグラジル、貴様を倒させてもらおう﹂
槍騎士が構えを取り、切っ先がこちらを向く。
その実力の程が垣間見える気迫に、ラグラジルは苛立った。
﹁貴女もそこそこやり手の様ね⋮⋮。まったく、運が無いわ﹂
﹁行くぞっ!﹂
槍騎士が勢いよく地面を蹴り、突っ込んでくる。
﹁くぅ!﹂
必死に身を捩って回避し、ラグラジルは手の平を翳す。
﹁邪魔なのよ! 人間族の肉便器の癖にっ! 自分の本来の役割を
思い出してさっさと汚い陰茎でもしゃぶりに行けばいいわ!﹂
魔力を放ち、操作する。
槍騎士の記憶を探り、その映像を投影する。
魔鏡が幾重にも展開し、槍騎士を包囲する。
そこに映し出されたのは、彼女の破瓜の瞬間であり、敗北の瞬間、
恥辱の瞬間、これまで公娼として過ごしてきたありとあらゆる場面
563
を再生させる。
﹁ステア⋮⋮ね。結構良いところの騎士様だったみたいだけど、映
像を見る限りでは惨めで汚い肉奴隷じゃない。そんな奴にワタシが
やられるわけないわ﹂
記憶を探った時に判明した名前を吐き捨てながら、ラグラジルは魔
鏡を更に展開させる。
﹁万華鏡って知ってるかしらね? 鏡像を多重に映し、人の脳と視
覚を混乱させるの。せいぜい思い出を巡ってオナニーでもしてれば
いいのよ﹂
鏡で隙間無くステアを覆いつくし、ラグラジルは安堵の溜息を吐く。
﹁計画は失敗ね。ユキリスちゃんを回収して︱︱﹂
自分の異空間へと繋がる門を広げようとした瞬間、
﹁はああああああぁっ!﹂
烈迫の気合と共に、槍が鏡を貫き、こちらへと迫って来ていた。
﹁効かんっ! 効かんよラグラジルっ! 所詮は幻影幻覚。前もっ
て心の準備をしておけば何の脅威にもならんっ!﹂
﹁チッ!﹂
門の作成を放棄し、身を投げ出して槍を回避する。
﹁何なのよっ! もうっ﹂
ラグラジルは二枚の翼を広げ、上空へ羽ばたいて逃げようとした。
その時、
シュッ︱︱という鋭い音と共に、二つの白刃が両翼を穿った。
﹁あぐっ!﹂
衝撃に姿勢を崩しながら見た先に、人間族の従者用衣装を纏った少
女が短刀を両手に握り、立っていた。
﹁ラグラジル。ハイネア様の為、シャスラハール様の為、そして私
自身の為に、貴女には倒されて頂きますっ!﹂
両手に刃を握り、迫ってくる少女。
そしてその後ろから槍を構えたステアも続いてくる。
﹁ふ、ふざけないでっ!﹂
564
ラグラジルは闇の糸を多重展開し、少女を絡め取ろうとする。
しかし身軽に一本一本踊る様に回避して、少女はすぐ傍にまで迫っ
てきた。
煌めく白刃をすんでのところで糸に弾かせ、回避する。
﹁体勢を立て直すしかっ!﹂
闇の門を足元に展開し、そこへ﹃落ちよう﹄とするが、
﹁ハッ!﹂
気合を込めた槍の一薙ぎが足元を襲い、跳んで避ける以外の方法が
無かった。
それから先は防戦一方。
少女の白刃が予測不能に襲い掛かり、何とか凌いだとしても槍の一
撃が油断なく自分の動きを制限してくる。
追い込まれている。
焦りが心を覆い、いつの間にか全身に汗をかいていた。
﹁せいっ!﹂
﹁ハッ!﹂
白刃と剛槍。
その両方を何とか回避し、距離をとる事が出来た。
今だ、今しかない︱︱
﹁さようならっ! 次に会った時は絶対に身も心も犯しつくして、
泣いて許しを請う様に調教してあげるわっ!﹂
闇の門を開き、最後の余裕を持ってそう告げた時、
﹁アンタがね﹂
ザンッ︱︱
横合いからの強烈な一閃を受け、闇の門ごと、肩から胸にかけてを
深く切り裂かれた。
木に背中を預け両足を投げ出した姿勢で、痛みと失血のショックで
呆然としている様子のラグラジルに向けて、シャスラハールは一歩
565
を踏み出す。
その隣ではセナが大剣に付着した血を払い、冷静に見つめている。
呆けた視線のラグラジルと目が合い、シャスラハールは意志の籠っ
た目で見つめ返した。
﹁ラグラジル⋮⋮これから僕は君を縛る。君の心を支配する。君が
奪っていったものを全て返してもらう。そして僕達がこれから先の
未来へ進むため、君には犠牲になってもらう﹂
シャスラハールは屈みこみ、ラグラジルのスカートを取り払い、そ
の下に穿いていた黒の下着をズラした。
ぴっちりと閉じた陰唇が晒される。
﹁あ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
声にならない声でラグラジルが呻いた。
シャスラハールは辛そうな顔を浮かべ、口を開いた。
﹁一度だけしか言わない。これから先何が有っても二度と口にしな
い。覚えていたければ覚えていて︱︱ごめんなさい﹂
そう言って、シャスラハールはラグラジルの白い肌に手をかけ、そ
の秘部へと己の肉棒を突き入れた。
﹁あっ⋮⋮あぁ⋮⋮ああああ⋮⋮あ?﹂
ラグラジルの紡ぐ不明瞭な声。
圧し掛かって膣内を犯していくシャスラハール。
セナと遅れてやって来たハイネア、そしてステアとリセはジッとそ
の様子を見つめていた。
何かを成す為に誰かの生を縛る。
その行為の恐ろしさを、目に焼き付けている。
例えラグラジルが自分達に向けて容赦の無い悪意を向けてきた存在
であったとしても、人としての正しい心を捨てられなかった公娼達
にとってみれば、この作業は酷く気落ちするものだった。
﹁くっ⋮⋮うっ!﹂
やがて、シャスラハールが膣内で射精する。
その時、彼の下腹部に浮かび上がっていた刻印が淡く輝き、魔術の
566
行使を証明する。
今、ラグラジルとシャスラハールの間に制約がなされた。
西域の魔天使はこの瞬間から、スピアカントの王子シャスラハール
の下僕として生き続ける事を、強制されたのだった。
﹁⋮⋮ハイネアさん。ラグラジルの手当てを頼みます﹂
シャスラハールが身を引き、ラグラジルから離れていく。
コポォ︱︱と淫猥な音を立て、ポッカリと開いた魔天使の膣口から
精液が零れだしてきた。
﹁ハァ⋮⋮ハァ⋮⋮どうですー? マリスはちゃんとお役に立てま
したよねー?﹂
肩で息をし、長い黒髪を汗で湿らせて肌に張り付けているのは傭兵
公娼マリス。
拭いきれない疲労を漂わせながら、口元だけで笑っている。
﹁えぇ⋮⋮私一人では無理な相手でしたし。ふぅ⋮⋮貴女の助力の
御蔭です﹂
そのすぐ隣で、シャロンが同様に息を荒げている。
二人はグヴォンが召喚したモグラ型の巨大な魔物と闘い、打ち破っ
た。
﹁あちゃー⋮⋮装備がボロボロです。マリスはこのドレスがお気に
入りだったのに⋮⋮﹂
東国風のドレスを身に纏っていたマリスは、モグラ型の鉤爪を何度
もかわしていく内に、少なからず衣装を削り取られ、胸と足が丸出
しになっている。
﹁せっかく皆から頂いたのに⋮⋮くっ﹂
シャロンもまた、リセから貰ったエプロンは引きちぎられ、ハイネ
アのケープも穴が開き、セナから譲られたスカートは縦に裂かれて
地面に落ちていた。
血が滲み、泥がこびり付いた肌を晒しながらも、二人はモグラ型を
567
打ち破った。
﹁それにしても⋮⋮逃げられてしまいましたか⋮⋮﹂
シャロンは歯噛みする。
モグラ型との戦闘中、こちら側が優勢になった瞬間にグヴォンは逃
げ出していった。
後続の本隊があるという事を言っていたので、恐らくそれと合流す
るのだろう。
﹁マリス達も早くお仲間と合流しましょうよー。これから敵さんの
本隊が来る事も伝えないといけないしー、マリスには良くわからな
いですが、皆さん何かをやっているのでしょー? お手伝いします
よー﹂
マリスが周囲に転がっているグヴォンの部下の死体から金品を奪い
ながら、言ってくる。
﹁えぇ⋮⋮もちろんです。殿下達と合流して、私達がここに戻って
来た目的を果たさなくては﹂
モグラ型との戦闘で刃こぼれが生じた駄剣を打ち捨て、死体から新
たに二本の剣を抜き取ってから、シャロンはマリスに合図して移動
を始める。
その遥か後方に、馬蹄と土煙が迫っている事を半ば予測しながら︱
︱。
﹁効かない⋮⋮これも⋮⋮これもっ! 効かないっ! 効かないの
? 何で!﹂
ユキリスは必死に魔力を紡ぎ、ヴェナへと撃ち続ける。
﹃劇毒﹄﹃狂奔﹄﹃闇﹄の魔法を組み合わせ、一発でも当たってし
まえば勝利が確定する隙間の無い弾幕を張りながら、不安に押し潰
される様に震えている。
﹁無駄です⋮⋮とは申しません。貴女は筋が良い。きっとこれから
先修練を積んで行けば、わたくしを倒す事も可能でしょう。ですが、
568
今日この場においてそれは不可能。諦めなさい﹂
駄剣を振るい、目に見えぬ魔力を打ち払いながらヴェナが前進して
くる。
元々、ユキリスの魔法もまたラグラジル同様に直接的なものでは無
い。
﹃劇毒﹄と﹃狂奔﹄は強力な魔法であるが、効果が限定されている
以上、その影響が届かない限りには何の意味も持たない。
聖騎士の祝福を受け魔術抵抗を持つヴェナの相手をするには、致命
的に不向きだった。
﹁ここで⋮⋮ここで希望をっ! ラグラジルを失うわけにはいかな
いっ!﹂
ユキリスは覚悟を決めた。
このままではヴェナに勝てない。
正常なまま、この戦いが続けば負ける。
それならば、異常を起こすしかない。
狂いを生じさせなければいけない。
錫杖に魔力を込める。
顔を俯け、詠唱を行う。
﹁キヒッ⋮⋮﹂
﹁ユキリスさん?﹂
不気味な笑いを漏らしたユキリスへと、ヴェナが訝しむ声を放つ。
その時、魔導士ユキリスの顔が上がった。
元々白かった顔色は真っ青になり、唇は紫に、目は一部の隙も無く
充血している。
浮かび上がった隈が化粧の様に目元を覆い、ただならぬ気配を醸し
出している。
﹁おねーちゃん⋮⋮だれー?﹂
幼い声が聞こえた。
ユキリスの声色をしてはいるが、これまで彼女が持っていた理知的
な響きを全て排除したかのような、無垢な声。
569
﹁ここはどこー?﹂
そう言って、ユキリスは錫杖に寄り掛かる。
﹁なんだかつかれちゃったなー﹂
﹁ひだりてがうごかないよー﹂
﹁おうちにかえっておにいちゃんとあそぶのー﹂
﹁そしたらさかながくさくってねー﹂
﹁わたしのぱんつとったのだれー?﹂
﹁やだーとらないでー﹂
﹁おまんこつかっていいからぱんつかえしてー﹂
﹁きのうはおじいちゃんとえっちしたー﹂
﹁きょうはわんちゃんとー﹂
﹁たくさんたくさん﹂
﹁えっちしないとごはんたべられないのー﹂
﹁でもえっちしたあとはごはんたべたくないのー﹂
﹁おえーって﹂
﹁おえええええええええええって﹂
﹁おぅえええええええええええええええええええええええええええ
えええええええええええええええええっ!﹂
意味不明な言葉を放ちながら、えずき始めるユキリス。
瞼から血を流し、全身を掻き毟りながら、魔導士は胃の中身を吐き
散らす。
それを見て、聖騎士は愕然とする。
﹁まさか貴女⋮⋮自分に﹃狂奔﹄を⋮⋮﹂
とても正気とは見えないユキリスの様子に、ヴェナは駆け寄ろうと
する。
﹁キヒヒヒヒヒッ! おええぇぇぇぇぇええええええええええええ
っ!﹂
ユキリスは胃の中身を吐きつくし、血をの混じった胃液を吐きなが
ら笑った。
﹁そーれ⋮⋮そぉぉぉぉぉれっ!﹂
570
錫杖を中心に、これまでに無い濃度の魔力が放出される。
種類は﹃狂奔﹄。
球状に魔力は広がって行き、その様子を見てヴェナは歯噛みする。
﹁勝ち目がないと見て、魔法によって己自身を暴走させましたか⋮
⋮っ! くっ、下がるしかないようですね⋮⋮﹂
あまりに圧倒的だった。
これまでユキリスが放ってきたどの魔法よりも強力で、聖騎士の加
護をもってしても耐えられそうにない威力。
﹁申し訳ありません、殿下⋮⋮。ユキリスさんを⋮⋮取り戻せませ
んでした﹂
魔法の範囲がどんどんと広がっていくのを見て、ヴェナは逃走する。
ヴェナが去った後も、範囲は拡大し、マルウスの里全体を覆う様に
展開していく。
その中心で、魔導士はいつまでもケタケタと笑い続けていた。
571
騎士団長︵前書き︶
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572
騎士団長
風が木々の間を抜けていくのを感じながら、シャスラハール達はハ
イネアの治療術を見守っていた。
ラグラジルに刻まれた深い傷はみるみる塞がり、健康的な肌を取り
戻す。
呆然としていた彼女の瞳に、意志が戻ってくる。
その目は、シャスラハールを見据えていた。
﹁⋮⋮﹂
無言で、ジッと見つめて来る。
﹁ラグラジル⋮⋮﹂
呻くように言ったシャスラハールへ向けて、ラグラジルの手の平が
翳される。
﹁貴様っ!﹂
ステアが吠え、体を割り込ませようとするも、その手の平からは何
も発生しなかった。
﹁はは⋮⋮ははは。ダメね⋮⋮お前を傷つける事が出来ない⋮⋮。
殺してしまえば、ワタシは自由になれると思ったのに⋮⋮﹂
魔力を集中させたはずの手の平に何の変化も起こらない事を嘆き、
ラグラジルは背にしていた木へとまた深く体を預けた。
﹁状況は理解しているようね?﹂
セナが警戒を解かず大剣を握ったまま問うと、魔天使は浅く頷いた。
﹁あぁ⋮⋮なんせこの体の事だからね⋮⋮誓約魔法か⋮⋮それも直
接内側に送り込まれてしまったのならば、いくらワタシでも取り除
く事は出来ない⋮⋮ワタシはもう、これから先そこのボウヤの奴隷
になるしかないのよ⋮⋮﹂
自嘲の笑みを浮かべて、魔天使は力なく佇んでいる。
﹁⋮⋮ラグラジル、命令する。今すぐにユキリスさんを僕らに返せ﹂
573
主人の真剣な声に、奴隷は首を振った。
﹁返すとか返さないとか⋮⋮そう言うのじゃ無いのよね。あの子が
力を欲したからワタシが与えて、その見返りに働いてもらう。ワタ
シがあの子を操っているわけじゃない。だから、取り戻したいのな
ら勝手にすれば良いわ。ワタシが負けた事を教えてあげれば、きっ
とそれで充分よ﹂
投げやりな言葉を放ち、視線を落とす。
﹁奴隷⋮⋮奴隷ね⋮⋮ホント、どうしましょう。とうとうあの御方
に会わせる顔が無くなっちゃったじゃない⋮⋮妹達も、ワタシがこ
こまで堕ちたと知ったら憐れんでくれるかしら⋮⋮無理ね。あの子
は冷たく﹃そう⋮⋮﹄って言って、ラクシェは喜ぶでしょう﹂
漏れる言葉に絶望が籠る。
シャスラハールは唇を震わせ、言葉を紡ごうとする。
その時︱︱。
﹁ダメだぞ、シャスよ﹂
ハイネアが厳しい表情で言った。
﹁同情するなとは言わん。けれどこの者の行いを鑑みて、シャロン
やユキリス、そして現在戻ってこないフレアに対して行った罪を忘
れるな。もし万が一フレアが死んでしまったならば、お主はこの者
を利用し尽くして、何も残らない程に搾り取って殺す。そのぐらい
の覚悟は持たなくてはいけない﹂
ラグラジルを見つめながら、小さな王女は強い声を放つ。
﹁そうでは無くては、逝った者も残された者も、救われはせん﹂
改めてラグラジルの命が自分の所有物になったという事実を確認し、
シャスラハールは目を瞑った。
その肩に柔らかな手が乗る。
振り返ると、リセが儚げな笑みをこぼして支えてくれていた。
もしかしたら自分は、少しだけヨロめいてしまったのかもしれない。
﹁大丈夫ですよ⋮⋮殿下。皆でどこまでも貴方とご一緒します﹂
その言葉に、シャスラハールは頷いた。
574
その時、木々が揺れる。
﹁何者だっ!﹂
ステアが音の方へ槍を向け、警戒態勢をとる。
﹁騎士長、私です。ただいま戻りました﹂
木々の間からシャロンが姿を現した。
﹁シャロン⋮⋮無事だったか⋮⋮っ! その恰好は?﹂
別れた時のチグハグな服装とは異なり、今の彼女は穴の開いたケー
プと手袋のみで、肝心の部位はほとんど丸見えだった。
ステアは咄嗟にシャロンの陰部を確認し、そこに凌辱の痕跡が無い
事に安堵する。
﹁少々手こずりまして⋮⋮でも、彼女が助けてくれたので窮地を乗
り越えられました﹂
そう言ってシャロンが振り返った先に、彼女同様ボロボロな恰好を
した黒髪の剣士が立っていた。
﹁いやはは。皆さまどうもお久しぶりです。マリスの事覚えてらっ
しゃいますか⋮⋮?﹂
照れたように笑いながら、言ってくる。
﹁⋮⋮忘れるわけないじゃない。無事で、良かったわ﹂
セナはしっかりとその顔を見つめながら、頷いた。
ベリスとの戦いの後、シャスラハール組とアミュス組は道を違えた。
その結果アミュスとヘミネが今どのような状況になっているか、先
日シャロンに聞いたばかりだったので、彼女達に同行していたマリ
スがこうして無事でいる事は、小さくない喜びだった。
﹁策って、マリスの事だったのね?﹂
﹁えぇ、どうです? 驚きましたか?﹂
﹁参謀が自軍を驚かせてどうする⋮⋮﹂
セナが言い、シャロンがおどけ、ステアが溜息を吐く。
﹁それで⋮⋮えーっと。こちらはどなたでしょう? マリスの記憶
にはちーっとも残ってないのですが﹂
マリスの無邪気な視線を追って、シャロンはその対象を見やる。
575
﹁ラグラジル⋮⋮﹂
﹁そっ⋮⋮貴女だったのね⋮⋮シャロンちゃん。あの時確実に堕と
しとけば、こんな目には遭わなかったかも知れないわね⋮⋮﹂
その言葉に、シャロンは厳しい視線を返す。
﹁ラグラジル。貴女は前に私に言いましたね? 復讐は正しい行い
だと。その言葉が真実ならば、今の私には貴女を斬る権利が有りま
す﹂
駄剣を突き付け、魔天使へと詰め寄る。
﹁いっそ⋮⋮殺してもらった方が楽かもしれないわね⋮⋮好きにす
れば﹂
魔天使は切っ先を見つめ、酷薄な笑みを浮かべた。
それを見てシャロンは苛立ったように眉を寄せ、駄剣を投げ捨てる。
﹁返して﹂
﹁え?﹂
﹁私の剣を返してください。マシラスの山で貴女が回収したのでし
ょう? ヴェナ様の聖剣も一緒のはずです﹂
そう言われ、ラグラジルはシャスラハールへと視線を移す。
奴隷である彼女の一挙手一投足は全て、主人である彼の許可が必要
なのだから。
シャスラハールが頷いたのを見て、ラグラジルは右手を虚空に曝す。
そこに闇の門が生まれ、シャロンの双剣とヴェナの聖剣の合計三本
が落ちてきた。
シャロンは愛用の武器を拾い、状態を確認する。
﹁それでワタシを斬るのかしら⋮⋮?﹂
問われ、
﹁⋮⋮いいえ。ラグラジル。貴女には償いをして頂きます。ユキリ
スとフレアを私達の下へ返してください。それが出来たなら、私は
貴女を許してあげます﹂
シャロンは言い切り、背を向けた。
﹁⋮⋮別に許されたいわけじゃないけれど⋮⋮もうワタシには拒否
576
権何てないのだから、やるだけやってみるわ⋮⋮﹂
諦観の態で魔天使は言った。
そこへ、
﹁皆さんっ! 急いでここから離れて下さいっ! ユキリスさんの
魔法が暴走しています﹂
血相を変えたヴェナが走り込んできた。
﹁どういう事?﹂
セナが訝しむ声を放ち、
﹁魔力が⋮⋮迫っておるっ!﹂
ハイネアが不穏な波動を感じ、声を荒げた。
切迫した事態を悟り、全員が慌ただしく動こうとした時に、シャロ
ンが口を開いた。
﹁ラグラジル﹂
﹁ワタシの主人は⋮⋮貴女じゃないんだけれどね⋮⋮﹂
嘆息し、一度主人の方を見て彼が何かに気付いたことを確認し、
指を鳴らした。
全員の足元に闇の門が開き、ラグラジルの持つ異空間へと落ちてい
った。
﹁何⋮⋮何が起きてるの⋮⋮?﹂
シュトラは雌車として牽引する荷車に連結された状態で、周囲を見
渡す。
出発前の洗車中だった為、目隠しはされておらず、肌に浮いた水滴
が冷たい事以外は自分の体に変化は無い。
けれど、自分以外。
血と、肉と、毛玉が辺り一面に広がっていた。
﹁食べてる⋮⋮﹂
マルウスが︱︱マルウスを。
長く鋭い歯で齧り、肉を削いで骨を砕いている。
577
自分を取り囲んでいた全てのマルウスが、そうやって共食いを始め
ていた。
﹁⋮⋮みんなっ!﹂
振り返り、他の雌車を見る、
そこでは全員が恐慌の表情を浮かべ、共食いを見ていた。
その時、シュトラの体に変化が起こる。
﹁頭が⋮⋮痛い⋮⋮﹂
思えば今日はまだ﹃お花﹄を補給していない。
シュトラ達をギリギリの飢餓状態にしてから禁断症状目前で大量に
﹃お花﹄の成分を膣に注ぎ込み、嬲る様に犯す事が最近のマルウス
族の流行だったからだ。
﹃お花﹄には強い催淫性と中毒性が有り、効果が切れ始めると頭痛
や幻覚が見え、指が無意識に股間を弄ってしまう。
けれどこの痛みは、いつも感じるそれよりも遥かに激しい。
脳を掻き毟る様な不快な衝撃が襲い、グッタリと身を横たえる。
﹁なに⋮⋮コレ⋮⋮殿下⋮⋮殿下ぁ⋮⋮﹂
シュトラは弱弱しく声を放ちながら、口から止めどなく流れる涎に、
苦しんでいた。
﹁ユキリスちゃんへの魔力付与を解除したわ⋮⋮これでたぶん、こ
の魔法の威力は弱まる﹂
異空間の中で、魔天使は呟く様に言った。
周囲に魔鏡を展開し、ユキリスとシュトラを映し出す。
﹁全体的には弱まってるけれど、それでもユキリスちゃんの近くは
だいぶ強烈な濃度を維持しているわね⋮⋮。マルウスみたいな低俗
な雑魚は余波で残らず狂っちゃったみたいだけど、公娼の方は無事
みたいね⋮⋮具合は悪そうだけど﹂
ラグラジルはそこまで言って、後は興味を失ったかのように黙り込
んだ。
578
﹁どうします⋮⋮?﹂
セナが問い、ステアが思考する。
﹁正攻法で行けばユキリスの魔力切れを待つべきだが⋮⋮シャロン、
敵の本隊がこちらに向かっているのだな?﹂
上官の言葉に、シャロンは頷いた。
﹁リトリロイという、ゼオムントの王族が一軍を率いてこちらに向
かっているようです﹂
グヴォンから仕入れた情報を伝え、事態の緊迫が深まる。
﹁仕方ありません。力が弱まったというのなら、もう一度わたくし
がユキリスさんへ接敵しましょう。この聖剣も帰って来た事ですし、
何とか耐えられるかもしれません﹂
ヴェナが腰に提げた聖剣を示して言った。
﹁ヴェナ⋮⋮しかし君がもしあの魔法にやられてしまったら、正直
僕達では君を止める事が出来ないよ⋮⋮﹂
聖騎士の実力を誰よりも良く知るシャスラハールからすれば、もし
この﹃狂奔﹄でヴェナまでもがユキリスと同じ様な状態になってし
まえば、残るもの達では太刀打ちできない事がわかってしまう。
﹁のうリセ⋮⋮お前の投剣ではどうかのう?﹂
﹁難しいと思います、ハイネア様。私の投剣術は近接戦闘の補助に
しかならない程度です。近寄れない事には⋮⋮﹂
ハイネアとリセが話し合い、そこにマリスが割り込んだ。
﹁あーじゃあじゃあっ。ラグラジルさんに闇の門を出してもらうん
ですよー。例えばユキリスさんのだいぶ上空とかに。そこからピュ
ーって落下しながら首を斬り落として、あの魔法を止めるんです﹂
へらっとした言葉に、セナが首を振る。
﹁殺さないわよ。どうにかしてユキリスも助けたいからこうやって
悩んでるんでしょうがっ!﹂
その言葉に、ラグラジルが続ける。
﹁それにワタシの異空間はある程度設置場所が限定されるから、こ
こから出られるのはさっき居た場所の近くだけ。改めて場所を変え
579
ようと思ったら外に出て陣地構築の魔術を使わないといけないわ。
空間転移も有るにはあるけれど⋮⋮あれは奥の手だから、この前ラ
クシェ相手に使ったばかりで回復しきってないのよね﹂
ありていに言って、手をこまねいていた。
その時、ユキリスを映している鏡に異変が生じる。
﹁光⋮⋮? いや、剣っ?﹂
ガキィン︱︱と激しい音がして、ユキリスの手から錫杖が飛んでい
く。
﹁あれ⋮⋮あれー?﹂
ぐるぐると渦巻く視界に、舌足らずな声。
﹃狂奔﹄に支配されたユキリスは、ままならぬ五感で危機を察した。
﹁なにー?﹂
タンッ︱︱と軽やかな着地音が自分のすぐ傍で鳴った。
﹁だれー?﹂
その人物は錫杖の傍に突き立っている︱︱先ほど投擲されてきた長
剣を抜き取り、ユキリスへと振り返った。
﹁⋮⋮公娼ね。だったら⋮⋮覚悟して﹂
長剣を握り、ユキリスへと一歩ずつ迫ってくる。
その瞳が苦悶を訴えながら、口が悲鳴の形を作りながら。
﹁我が陣に、連れ帰らせてもらうわ﹂
長剣の柄でユキリスの腹を思い切り殴りつけ、
﹁かはっ!﹂
気絶させた魔導士の体を肩に背負って、長剣を鞘へと仕舞い込む。
﹁リト。こっちは完了したわ⋮⋮。後はお願いね⋮⋮﹂
騎士公娼セリスはそう言って、歩き出した。
﹁占領せよっ!﹂
580
この地を覆っていた魔法が消え去ったのを確認して、リトリロイは
怒涛の勢いで進軍した。
﹁⋮⋮胸糞わるいな⋮⋮﹂
マルウスの里と呼ばれた魔物の集落は、完全に滅びていた。
ネズミ型の魔物達はお互いを食い千切り、犯し、揃いも揃って死に
絶えていた。
そしてその中に、頭を抱えて苦しんでいる人間の女を発見する。
﹁公娼⋮⋮だな﹂
下馬せぬまま、リトリトイは馬上から青髪の女が倒れているのを眺
めて言った。
﹁殿下、こちらにも!﹂
﹁こっちにもいますっ!﹂
﹁向こうには三人、木に磔られてました﹂
次々に報告が上がり、合計八人の公娼を確保した。
ゾートに脅された数としては、五人。
陣地に残っている二人の公娼と数を合わせて十人にもなれば、セリ
スの身も安泰だろう。
﹁よしっ! 公娼を集めよっ!﹂
そう言ってリトリロイが号令をかけた時、タンッ︱︱と軽い足音を
立ててセリスが上方から飛び降りてきた。
﹁⋮⋮これを﹂
近くにいた兵士に背負っていた公娼を渡し、リトリロイへと振り返
る。
﹁ご苦労だったね⋮⋮﹂
﹁ううん。仕方ない事よ﹂
二人は曖昧に頷き合って、帰投の準備をしようとする。
その時︱︱
﹁騎士団長っ!﹂
吠える声が響いた。
リトリロイもセリスも、他の兵士達もそちらを見る。
581
リトリロイを中心とした部隊から少し離れた所に、赤い髪を両結び
にした少女が立っていた。
その後ろには黒絹の肌をした少年がいて、更に周囲を取り囲むよう
にして七つの人影がこちらを向いていた。
﹁あっ⋮⋮⋮⋮﹂
セリスが呆然と声を漏らす。
﹁セナ⋮⋮﹂
かつてリーベルラントの軍神と呼ばれた彼女が率いた軍で共に戦っ
た仲間だった。
﹁騎士団長っ! どうしてっ? 何をやっているのですか貴女はっ
!﹂
シャロンが悲壮な声で問う。
﹁シャロン⋮⋮﹂
心が打ちのめされていく。
かつての仲間達が、今の自分を。
﹃何一つ汚れてない自分﹄を見ている。
﹁騎士団長⋮⋮。我らをお忘れですか? 貴女が率いた騎士団の⋮
⋮四つの部隊。その内の一つを預かったワタシと、その参謀、そし
て先鋒。まさかお忘れではあるまいっ!﹂
ステアの鬼気迫る悲鳴。
﹁ステア⋮⋮﹂
彼女達が公娼にされた事は知っていた。
王宮でリトリロイの恋人としてある程度の自由が保証された時に、
公娼の名簿を確認し、自分の軍から数人の公娼が選ばれていた事は
承知していた。
﹁エルナンド騎士長は降伏を良しとせずに、戦死しましたよっ!﹂
セナは叫ぶ。
かつてステアと同格であった三人の騎士長の内、最も勇敢であった
男の名前を。
﹁シャークホール騎士長は降伏した後に、ゼオムントに処刑されま
582
した⋮⋮﹂
常に冷静で、騎士団の総参謀を務めていた男の名前をシャロンは叫
んだ。
﹁リンダースは⋮⋮アイツは公娼にされたワタシ達を⋮⋮騎士団長
! 貴女の事も含めて探し、助けようとして逆賊と呼ばれ討たれた
のですっ!﹂
正義感の塊。
そう呼ばれていた熱い心をもった騎士長を思い出し、ステアは睨み
つけた。
﹁貴女は、一体何をやっているのですかっ!﹂
セナに叫ばれて、唇が震える。
公娼として汚された彼女達。
騎士として戦って死んでいった仲間達。
その全てに、自分は顔向けする事が出来ない。
今もこうやって、彼女達の仲間で有ったかも知れない公娼を捕らえ、
ゼオムントに献上したばかりなのだから。
﹁⋮⋮あぁ⋮⋮う﹂
言葉が、出てこない。
セリスは全身を震わせ、悪寒に耐えようとする。
その時、
﹁黙れ。下賤の者達よ﹂
馬上にて、リトリロイが声を発した。
﹁我が妻への愚弄、断じて許さん。今日この場にやって来た用向き
は充分果たしたと言えるが、わざわざ姿を見せてきたというのなら
ば是非もない。まとめて連れ帰って開拓団の伽をさせてやろうっ!﹂
その号令で、王子を守る様に展開していた兵士達は一斉に構えを取
り、セナ達へと向き合った。
583
騎士団長︵後書き︶
読んで下さって有難う御座います。
登場人物がそこそこ出尽くしたので、物語の整理がてらキャラクタ
ー紹介など付録でやってみようかと思うのですが⋮⋮需要はあるの
でしょうか?
むしろ邪魔なんじゃないかとも思ったりします。
設定負けとかありますしね?
けどどうでしょう?後押しする声を頂けたらノリノリでキャラクタ
ー紹介付録を作ります。︵要二日︶
584
︻付録︼キャラクター紹介編︻端書き︼︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
通常の更新ではありませんので、こちらは読み飛ばしてもらっても
大丈夫です。
585
︻付録︼キャラクター紹介編︻端書き︼
騎士公娼の見る夢 キャラクター紹介編
拙作を読んで頂き、有難う御座います。
キャラ増加&そろそろ出尽くすので付録としてキャラクター紹介を
載せさせて頂きます。
本編に輪をかけて文章が滅茶苦茶ですが端書き扱いなのでご勘弁く
ださい。
各キャラクターの戦闘面と公娼面︵男の場合は公娼制度への貢献度︶
をランク付けしました。
設定厨なのでこういうのが大好きです。
※戦闘ランク⋮⋮戦闘力ですね、魔導士の皆さんの査定が低いのは
防御力の低さですかね。
S=絶望感しかない
A=無双しちゃう人
B=猛者と言えるレベル
C=非凡な才能が有る
D=一般兵士よりは強い
E=一般兵士と同じまたはそれ以下
※公娼ランク⋮⋮注目度と映像作品の売り上げでのランクです。こ
のランクが美貌の優劣を決めるわけでは無いです。出自とか態度と
か諸々の要素を含んだランキングです。
S=ゼオムントの皆さんに愛されています
A=生中継で調教されるレベル
B=新作が出ると話題になる
C=映像作品が継続して発売される。二流調教師ではこのレベルま
586
でしか扱えません
D=ローカル公娼として狭い範囲で地道に働く
E=個人の専用肉便器
国と地域ごとに分類されています。
所属が不明確だったシュトラとマリスについてはロクサス郡領国と
カーライル王国に分配しました。
※この項目三度目の更新︵83話時点︶では、
スピアカントにマリアザート。
ロクサスにアルヴァレンシア。
西域にクスタンビア、ジュブダイル、ユラミルティを追加しました。
最後に不要な情報も付け足しておいたので、よければそちらもご覧
ください。
※この項目四度目の更新では、
リーベルラントにハレン。
スピアカントにティティエ。
カーライルにヒルメイア。
西域にハリアレ、ニュマ、ラプシーを追加しました。
幾つかのキャラクターについて、修正を行いました。
※この項目五度目の更新ではキャラクター容姿について追記します。
容姿のキーワードだけ、と思って書いていたのですが、あまりに味
気なかったために概要を付けます。
戦闘ランクと公娼ランクに書かれた内容と若干被りますが、ご容赦
ください。
六十話以降未読の方はネタバレ注意かも知れません。
587
リーベルラント騎士国家
セナ ステア千人騎士団 百人長
戦闘ランクB
騎士長ステアの部隊で先鋒を務める百人長。
武器は両刃の大剣で、苦も無く持ち上げ振るう事が出来ます。
頭が悪いわけでは無いですが、判断はシャロンに任せ、ステアの指
示に頼るところがあり、あまり戦場で自分の頭を使う必要を感じて
いない様子。
公娼ランクB
とある調教師組合に管理され、主に映像作品に出演する事で公娼活
動を行っていました。
強気な性格を利用され、精神凌辱系の作品が多い。
代表作﹃デビュー前のアタシを知っている人達全員に土下座でお願
いして膣内出ししてもらった﹄
キャラクター概要
リーベルラントの赤髪ツインテール騎士。
メインヒロイン? 祖国奪還のついでにシャスラハールとフラグを
立て続けながら凌辱されています。
シャスラハールの乳判断では﹃美巨乳﹄。
シャロン ステア千人騎士団 百人長
戦闘ランクC+
騎士長ステアの部隊で参謀を務める百人長。
細く鋭い双剣を武器にし、主に本陣の守備に当たる。
戦場を俯瞰的に捉える事に長け、長期的な視野で戦略を建てられる。
公娼ランクA
セナと同じく組合に管理され、その組合の中でトップの売り上げを
588
出す看板公娼。
知的でクールな態度から、情けない痴態を演じさせられる屈辱に歪
んだ顔が人気の要因か。
代表作﹃10歳から90歳までの精液を子宮に注いで貰えないと帰
れまセン﹄
キャラクター概要。
金髪ショートヘアーの参謀騎士。
暴走しがちな同僚達を押さえながら、局面を変える策を生み出して
行く。
シャスラハールの乳判断では﹃美乳﹄。
ステア リーベルラント騎士国家精鋭騎士団所属 ステア千
人騎士団 騎士長
戦闘ランクA
リーベルラントの四精鋭騎士団の内一つを預かる才媛。
長槍を自在に扱い、戦闘指揮にも非凡な才を発揮する名将。
王様に一方的な恋をしたりと、思い込みが激しいところがある。
公娼ランクB
セナ、シャロンと同様に記録円盤で活躍した公娼。
男勝りな口調で強がるところを徹底的に二穴拡張などで責められる
ことが多い。
代表作﹃この世にわたしのマンコに入らない物なんてないんだから
っ!﹄
キャラクター概要
真っ直ぐな黒の長髪を靡かせる騎士長。
たぶん最も悲惨な目に遭っているのでは無いでしょうか。
シャスラハールの乳判断では﹃丼乳﹄
589
フレア ステア千人騎士団 百人長
戦闘ランクB
騎士長ステアの実妹で、殿軍を務める百人長。
戦斧を使ってのワイルドな戦闘を行う。
セナと同等程度の信頼を上層部に寄せている為、こちらも戦場では
能天気。
公娼ランクD
セナ達とは異なり、三流の調教師に預けられたため、大した仕事が
無く、その日を生きる為の生活費稼ぎに体を売らされていた。
代表作﹃膣内出し一回でパン一切れ、アナルも有りならバター付き﹄
キャラクター概要
姉同様黒髪だがこちらはショートヘアーな斧騎士。
登場は同僚達から一歩遅れていたが、役割的にはそこそこ重要な場
面も有り。
シャスラハールの乳判断では﹃吊り上げ乳﹄
セリス リーベルラント騎士国家 精鋭騎士団団長
戦闘ランクS
リーベルラント百戦無敗の軍神。
長剣を愛用するが、武芸百般何でもこなす万能騎士。
集団戦でも個人戦でも負けたことが無い。
公娼ランクE↓S
リトリロイの恋人と言う役割から、一般的な公娼として体を国民に
提供する事は無かったが、どうやらその時間もそろそろ終わりを告
げようとしている様子。
役割﹃新生国家の王妃様﹄
キャラクター概要
長い金髪に銀色の羽根付兜を載せた作中第二の強者。
敵中の公娼。
590
シャスラハールは彼女の胸を見ていません。どちらかと言えば巨乳
属性です。
ユーゴ リーベルラント騎士国家 文官
戦闘ランクE
リーベルラント敗戦の元凶。
売国奴として国を売ったにも関わらず、正規のお役所仕事からは門
前払いされて調教師になったようです。
公娼ランクC+
そこそこ有能だったようですが、人事権を持つまでには至らず、ス
ポンサーである商人が連れてきた公娼を使って活動していた。ヘミ
ネの調教を一時担当していた。
得意ジャンル﹃父娘姦、近親相姦、母娘丼﹄
ハレン リーベルラント騎士国家 リンダース隊百人長
戦闘ランクC+
シャスラハールに調教師としての筆おろしをした女性。
ステアでは無く別の騎士長の部隊に所属していた為、セナ達とは知
り合いでは有るが深い意味での友人関係では無かった弓騎士。
公娼ランクB
公娼制度が始まり、比較的初期に命を落とした公娼。
シャスラハールの希望を助けるために、反発する心を必死に押さえ
つけながら幾多のチンポを受け入れた。
代表作︵報道︶﹃衝撃映像! 生挿入会に暴漢が乱入、挿入中の公
娼を殺害する一部始終﹄
キャラクター概要
茶色の髪を背中に流した弓騎士。
死者。
591
乳判断は有りませんが、シャスラハールの乳枕初体験はハレンから
です。
スピアカント王国
シャスラハール スピアカント王国 第七王子
戦闘ランクD
ゼオムントへの復讐を誓った少年。
元々ビビリな性格で戦闘には向いていなかったが、ヴェナと合流後
はみっちりと個人指導を受けある程度の腕前にまで成長している。
公娼ランクA
ヴェナやルル等高ランクの公娼の調教に関わり、円滑にその活動を
サポートした実績が有り、調教師組合から高い評価を受けていた。
得意ジャンル﹃スローセックス、乳首責め﹄
ヴェナルローゼ スピアカント王国 聖騎士
戦闘ランクA+
最年少の聖騎士、スピアカントの誇り。
聖人から受けた祝福により生身でもある程度の魔術抵抗を持ち、下
賜された聖剣を振るう事によって万軍と相対する事が出来る。
公娼ランクA
その強く凛々しい姿を見て、調教師達はこぞって彼女を利用した作
品を作り上げる。
しかしアリスレインの処刑後に半ば廃人になって反応が薄くなり、
人気が低迷した。
592
代表作﹃精子風呂∼しぼって抜いて温めて∼﹄
キャラクター概要
煌めく金色の髪を靡かせる旅の守護者。
シャスラハールとの性交回数は他の公娼達と段違いです。
シャスラハールの乳判断では﹃爆乳﹄
アリスレイン スピアカント王国 第一王女
戦闘ランクE
スピアカントの高貴な姫君。
国民に愛され、他国の羨望を集めた人物。スピアカント王城が無血
開城したのは、戦乱で彼女を失う事を恐れたゼオムント側の判断だ
ったのかもしれない。
公娼ランクS
存命中は様々な国家規模の公娼調教イベントに参加させられ、まさ
に全国的にアナルの皺の数まで把握されていたレベル。
代表作﹃バンデニロウムの大祭﹄
キャラクター概要
白銀の髪と豊満な体で全てを魅了した美しき姉姫。
シャスラハールとは異母姉弟です。死者。
乳判断は有りませんが、幼い日のシャスラハールは姉の豊かな胸に
飛びつくのが大好きでした。
マリアザート スピアカント王国 大騎士
戦闘ランクB+
一児の母で未亡人騎士。
前線に出ることの出来なかったヴェナの代わりに夫と共に戦ったス
ピアカントの人妻騎士。
残念ながら旦那さんは戦争でお亡くなりになりました。
593
公娼ランクB
公娼になる前に出産を経験していた者は珍しかったので、一部マニ
アックな方々に重宝されていました。
作品内で禁断の母子共演を果たしておいでです。
代表作﹃ママのお友達作り。∼うちの息子の友達になってくれる子
の肉便器になります∼﹄
キャラクター概要
白のショートヘアーに日焼けした肌のママ公娼。
出番が欲しい感じ。
乳判断は有りません。作中で唯一母乳が出る彼女の乳房はヴェナの
サイズに匹敵します。
ティティエ スピアカント王国 暗軍筆頭武官
戦闘ランクB+
王国要人の守護を影から担う暗軍の頭領。
正確無比の手捌きと相手の弱点を瞬時に把握する能力は、公娼にな
ってからも有効活用されていました。
公娼ランクA
所謂女スパイだった過去を利用され、警察に管理される公娼となり、
犯罪組織等にワザと捕まらせて凌辱を受けている様をノンフィクシ
ョン凌辱円盤として売られ警察の資金源にされていました。
代表作﹃実録警察大追跡、麻薬組織に潜入した公娼捜査官が暴く巨
悪の性癖﹄
キャラクター概要
シャスラハールやマリアザート同様、スピアカント特有の黒肌をし
た灰色髪の暗殺者。
マリューゾワ組の途中脱落者。
乳判断は有りません。暗殺業務に支障が無い様、胸は少し控えめで
す。
594
ミネア修道院
ルル ミネア修道院院長 幸運と誓約の魔導士
戦闘ランクD
シャスラハールに奥の手を預けた人物。
直接的な攻撃力には乏しいが、戦闘時に致命傷を避けたり、旅の指
針を判断する時に彼女の﹃幸運﹄が極めて有効に機能し、マリュー
ゾワ達は西域の最奥へたどり着いた。
公娼ランクA+
魔術師の筆頭とも言えるポジションに有ったため、彼女はその存在
だけでも十分なブランド価値を持ち、知性的な風貌も有って凌辱者
達から人気を博した。
代表作﹃高学歴女の頭がバカになるまで膣内出ししてみた﹄
キャラクター概要
目深にフードを被った神秘の魔導士。
亜麻色の髪の下微笑むルルに、シャスラハールは何度も励まされて
きました。
シャスラハールの乳判断では﹃白桃乳﹄
ユキリス ミネア修道院所属 劇毒と狂奔の魔導士
戦闘ランクC+
目に見えぬ恐怖の魔法を操る魔導士。
範囲攻撃としての力は優秀ですが、如何せん物理的にはまったく貧
595
弱この上ない為、肉の壁の騎士達と組んで戦う事で真価を発揮する。
公娼ランクB
首都を中心とした大型商業施設のヤれるマスコット。
映像中継やセールの日等は大々的に活動していた為に主婦等からも
知名度は高い。
代表作﹃通常販売価格30円のモヤシが何と27円になった上に私
のマンコが無料です﹄
キャラクター概要
長い水色髪の下、憂う異能の魔導士。
色々有ってちょっとナーバス気味です。
シャスラハールの乳判断では﹃陥没乳首﹄。普通サイズです。
アミュス ミネア修道院所属 支配と枯渇の魔導士
戦闘ランクC
高飛車な銀髪の魔導士
直接戦闘では枯渇魔法頼みになりバリエーションに欠けるが、支配
の魔法を使う事で対象の部下達までを操る事が出来る。
公娼ランクC
人気が無かったわけでは無いが厭世的な態度をとっていた為、度々
調教師側から捨てられる。その都度ホームレス達に拾われ、三年間
の内半分程度は野外で肉便器をやっていた。
代表作﹃ホームレス公娼∼炊き出し精液でお腹一杯∼﹄
キャラクター概要。
銀髪の皮肉屋魔導士。
西域遠征開始後から数えた実際の体験人数では恐らくアミュスがト
ップでは無かろうか。
シャスラハールの乳判断では﹃スライム乳﹄。柔らかそうな並サイ
ズと言う事だと思います。
596
リネミア神聖国
ハイネア リネミア神聖国 王女
戦闘ランクE
治療術マスターのロリ姫様
戦闘力は皆無であり、走る事も馬に乗る事も苦手だが、そこは信頼
を寄せる侍女がカバーしてくれます。彼女の治療術無くしてはシャ
スラハールの旅は続かない。
公娼ランクB
自由性交生徒として同年代の少年達の玩具にされた青春時代を送る。
生徒会長に無理矢理就任させられた上に卒業後の進路を﹃Sランク
公娼﹄にされた。
代表作﹃先輩・同級生・後輩、皆の青春の精液タンク∼スクールス
レイブプロジェクト∼﹄
キャラクター概要
高貴な金髪ロリ。
髪型は余裕がある限りリセが毎日変えています。
シャスラハールの乳判断では﹃薄乳﹄
リセ リネミア神聖国 王室付侍女
戦闘ランクB
投剣メイド。
ハイネアの護衛役を兼ねる為に身に着けた暗殺術一歩手前の技で、
俊敏に動き回り相手をかく乱し、投剣の補助も使って首を掻き切る。
公娼ランクD
ご当地公娼として地域の公民館の倉庫で飼われていました。町おこ
597
しイベントや地域住民の冠婚葬祭に駆り出され、その体を汚される。
代表作﹃観光名所スタンプラリーの最後の一つは私の子宮です、チ
ンポで捺印して下さい﹄
キャラクター概要
全てを投げ打つ従順な黒髪侍女。
彼女の料理はアレをも屈服させました。
シャスラハールの乳判断では﹃並乳﹄
ヘミネ リネミア神聖国 伯爵貴族
戦闘ランクB↓A+
鉄腕甲を用いた格闘術を扱う貴族様。
普段は冷静で大人しいが一度激昂すると手におえない。Sランクの
騎士公娼セリスに一時匹敵するほどの打ち合いを見せた。
公娼ランクA
上品な物腰と責め過ぎると激昂して暴れ出す姿が一部好事家の心に
クリーンヒットし、彼女を徹底的に苛め抜いた末に涙を流して暴れ
るのを押さえ込んで犯す構図が流行した。
代表作﹃目隠しチンポ当て、泣こうが喚こうが失敗したら即妊娠S
EX!﹄
キャラクター概要
紅の髪を靡かせる拳闘者。
アミュス同様、経験人数が飛躍的に上昇した。
シャスラハールの乳判断では﹃乳輪小さ目﹄。巨乳なのに。
シロエ リネミア神聖国 巫女騎士団頭領
戦闘ランクB
巫女騎士団とは薙刀や長弓を持って戦う女性部隊。
その長であったシロエは当代随一の腕前を持ち、リネミア神聖国の
598
為にゼオムントと戦って騎士団丸ごと捕らえられてしまいました。
公娼ランクA
巫女さんとしての教育もばっちりだった為にその淑やかな態度も相
まって調教師には大人気でした。巫女騎士団の多くは孕ませ企画で
消費されたのですが、彼女はまだセーフ。
代表作︵友情出演︶﹃巫女騎士団と臨月SEX。さぁ産め! 神の
子を!﹄
キャラクター概要
黒髪を結い上げた巫女騎士。
出産ネタに縁が有る。
シャスラハールの乳判断では﹃巨乳﹄
ロクサス郡領国
マリューゾワ ロクサス郡領国トワイラ領 領主
戦闘ランクA+
ゼオムントを苦しめた魔剣大公。最大で数千本の剣を操る事が出来
る。
突剣を握りそれを指揮棒の様に操る事で、持ち手のいない剣を操作
する事が出来る。戦場が有る程度死体で埋まってくると、それだけ
マリューゾワの武器が増える事になりますね。
公娼ランクA+
彼女もまた大人気公娼の一人で、折れぬ矜持と尊大な態度、調教師
にとっては美味しい物件で常に引っ張りだこでした。
代表作﹃魔剣大公VS魔チン大公⋮⋮俺は数千本の肉棒を操作でき
るぞ、イけっ!﹄
キャラクター概要
599
艶めく黒髪を揺らめかせ、魔剣大公は相手を威圧します。
冷静なようでいてキレやすい。
シャスラハールの乳判断では﹃艶乳﹄。大きくて形が良いのだと思
います。
シュトラ ロクサス郡領国テハイネ領 大騎士
戦闘ランクB
お姉さん肌の青髪の騎士。
戦闘描写はあまりないですが、故郷では名のある騎士。直剣と小盾
を使った堅実な戦いで戦果を挙げてきました。
公娼ランクD
首都近郊の農業地帯で豪農に飼われ、その家畜や小作人相手の性処
理を担当させられた。彼女のマンコを利用した豚と利用しない豚で
は味の深みが違ったとかいうオカルト。
代表作︵?︶﹃選び抜かれた餌と公娼を使いじっくり愛を込めて育
てた豚のヒレ肉﹄
キャラクター概要。
小盾を使う青髪の淑やかな騎士。
家畜ネタによく出てきます。
シャスラハールの乳判断では﹃お椀乳﹄
ロニア ロクサス郡領国アーリン領 技術将校
戦闘ランクC
兵器造りの達人。
ゼオムントとの戦役では各国に技術を提供し、戦線を彼女なりに支
えた。
個人としての戦闘技術もそれなりに有り、トリックプレーでの攻撃
を得意とする。
600
公娼ランクB
彼女のモノづくりの才能を知った一部の調教師により、ディルドー
の老舗に預けられ日夜新作の研究にマンコを使われた。
代表作︵物︶﹃限定生産一万本。全て担当の公娼がマンコとアナル
で性能確認をしております﹄
キャラクター概要。
薄緑色の髪をしたサポート要員。
肛門ネタが多いです。
シャスラハールの乳判断では﹃微乳﹄
アルヴァレンシア ロクサス郡領国リッテン領 領主
戦闘ランクB
魔剣大公マリューゾワの従妹、魔蝶公主。
従姉のマリューゾワと同様に単一魔法に優れた女の子。
こちらはファンシーに蝶々を使って雷撃を放ちますが、マリューゾ
ワ程大量には扱えません。
公娼ランクA
ロリ魔法使いという事でインスピレーションを爆発させた調教師の
手によって、社会の悪と戦う魔法少女物として毎週日曜の朝に放送
枠を作られ、物語前半は幼気な幼女に大人気、後半は公娼が大好き
な大きなお友達に絶賛されました。
代表作﹃劇場版ズボチュパ! 便所に咲く一輪の花ッ﹄
キャラクター概要
マリューゾワの五分の四サイズ。
憧れの従姉に近づけるよう、髪色から態度まで真似をしています。
胸のサイズも五分の四。
601
カーライル王国
ヘスティア カーライル王国 王女
戦闘ランクB 反ゼオムント同盟盟主。
物語序盤で呆気無く死亡しました。
正直勿体無いなと感じてしまうほどに、意外と重要な人だったよう
な気がします。
公娼ランクA+
ゼオムントからしてみれば、カーライルは敵の親分にあたる国です。
その為、憂さ晴らし気味に所謂超VIPかつカーライルの旗頭であ
ったヘスティアは、ガツガツやられまくっていました。
代表作﹃お前が無駄な抵抗をしたせいで小麦の値段が上がったんだ
から体で弁償しろ!﹄
キャラクター概要
金髪を閃かせ、戦場を駆け抜けた王女。
死者。
大きくて気品のある乳房です。
マリス カーライル王国 傭兵
戦闘ランクB
流浪の傭兵公娼。ゼオムントとの戦役ではカーライル王国に雇われ
て戦ってました。
曲刀を使ってバサバサ敵を斬ります。その都度笑っているのが不気
味なので敵の戦意が落ちます。
公娼ランクC
少女性も有り能天気なキャラクターなのですが、致命的に公娼制度
602
とはマッチせず、あまり映像作品は売れなかったようです。
代表作﹃こんばんはデリバリー公娼です。膣内出し? もちろんど
うぞ!﹄
キャラクター概要
黒髪ポニーテールの女傭兵。
喋り方が独特なので、会話に混ぜ込みやすいです。
シャスラハールの乳判断では﹃右乳首脇にホクロ﹄。普通サイズで
す。
ヒルメイア カーライル王国 大将軍
戦闘ランクA+
ヘスティア王女の守護役にして軍の筆頭。
返しの付いた剛剣を手に、幾多の戦場でヘスティア王女の身を守り
続けた若き大将軍。
戦場にたなびく赤い髪と揺れるオッパイは将兵を魅了したそうな。
公娼ランクD
盟主国カーライルは反ゼオムントの気風が強かった為、ガス抜きと
してヒルメイアは祖国での公娼活動を強制されていました。
ゼオムントの内政官達に強制され、民衆の命を守る為、各地で起こ
る抗議活動をその体で説得して回りました。
代表作︵市民投稿︶﹃ゼオムントの雌穴に成り下がった奴の話なん
て誰が聴くか! 抗議のチンポで粛清してやる!﹄
キャラクター概要。
緩くカーブした赤髪を持つ大将軍。
マリューゾワ組の途中脱落者。
巨乳ですが、それよりも肉厚な尻が特徴的です。
603
西域
アン・ミサ 西域の管理者 智天使
戦闘ランクB
西域を預けられし者。
彼女の役割は統治である為にそこまで戦闘に特化はしていません。
治療術や奇蹟の召喚等、他の事に力を使っています。
公娼ランク︱
公娼に割と同情的です。
マリューゾワ達の傷を癒し、その未来についても一緒に考えてくれ
たりする辺り、天使三姉妹の中で一番天使!
キャラクター概要
肩口まで金髪を緩く流した天使。
余裕を取り戻してからはただの優しいお姉ちゃんです。
シャスラハールの乳判断では﹃深すぎる谷間﹄。ぽよぽよの巨乳で
す。
ラグラジル 元西域の管理者 魔天使
戦闘ランクC↓A
翼を汚されし者。策略家。
三姉妹ではあるがそれぞれ出自を異にする為、彼女は魔物に良く似
た性質と技の特性を持ち、妨害系や精神攻撃を得意とする。
公娼ランク︱
もちろんラグラジルは公娼ではありません。
公娼を蔑み嘲笑う彼女ですが、そんな彼女が似た様な目に遭った時、
どんな顔と声で泣くのか、この世の﹃欲望﹄はそれを見る為に策動
604
します。
キャラクター概要
黒髪ロングのサディスティック天使。
独善なるままに行動する。
シャスラハールの乳判断では﹃蒼白乳﹄。乳輪の色素も薄いようで
す。
ラクシェ 西域至高の武 力天使
戦闘ランクS+
妹天使。
彼女に一対一で勝てる者は作中には存在しません。
戦槌を使った単純な殴りがメインですが、それだけでもほとんど死
にます。
公娼ランク︱
ラクシェは公娼に価値を見出しません。
姉以外の存在は眼中に無く、全て等しく雑草でしかありません。
時々雑草達で遊んだとしても、それは気まぐれに等しい行為です。
キャラクター概要
水色の髪をした少女天使。
破壊至上主義。餌付けは可。
シャスラハールの乳判断では﹃絶壁﹄
ハルビヤニ 主上 西域の概念体
戦闘ランクE↓S
天使三姉妹の創造主。
降臨祭の時期以外は世界に関与する事が出来ません。依代を使って
降臨中の時は中々迷惑な存在であるようです。
公娼ランク︱
605
ハルビヤニは肉体を捨て世界の欲望と同化しました。
故にゼオムント国民が公娼を愛する事、そしてその理由の一つに、
彼が世界の一部として影響している可能性はあります。
クスタンビア 親鬼の酋長 ハルビヤニの右腕
戦闘ランクS
二本の巨岩刀を軽々と扱う親鬼の女丈夫。
昔はクスタンビアがラクシェの代わりに各部族への脅し役でした。
公娼ランク︱
公娼ではありませんが、似た様な経歴をお持ちです。
ハルビヤニ存命中は玩具にされていた為、至る所でクスタンビアは
セックスしていました。相手はハルビヤニとは限りません。大切な
主の命令なら、例えどんなに汚い相手にも胸を張って股を開くのが
クスタンビアの愛です。
キャラクター概要
西域第二の武を持つ青髪の女丈夫。
腹筋は割れていますが全体的にゴツゴツと言うわけではありません。
胸はハルビヤニ様が好き放題揉んだのでかなり育ってます。
ジュブダイル 豚魔大王 ハルビヤニの左腕
戦闘ランクA
大盾を構えた大王様。
全ての攻撃を盾で防ぎ、反撃は素手のぶん殴りというワイルドな豚
さんです。
公娼ランク︱
豚魔は大量に居ます。
大昔にハルビヤニと喧嘩した際にちょっとした呪いを掛けられ、豚
さん達は種族的にヤバい感じのようです。詳しくは本編でしばらく
606
後に語ります。
ユラミルティ 智天使の懐刀 裁天使
戦闘ランクC
手にする武器は処刑道具です。
使用に関しては対象に罰を与える場合で無い限り効果が発揮できま
せん。
公娼ランク︱
割とドライな方です。
眼鏡掛けてますので、いずれぶっ掛けられるんじゃないかなと思い
ます。
キャラクター概要
黒髪ショートの眼鏡天使。
処女。
シャスラハールの乳判断では﹃美白乳﹄。並サイズです。
ハリアレ 大洞窟 ﹃媚風﹄の競技奴隷
戦闘ランクE
三種競技の﹃速﹄、メア・リー・レースの女王。
脚力とその特性である﹃媚風﹄での眩惑能力は有りますが、基本的
に戦闘面では役に立ちません。
公娼ランクA
競技奴隷は公娼の様に性行為の強制をされる物ではありませんが、
ハリアレは自身の栄達の為に豚魔達相手に股を開く事を厭いません。
スポンサー様やコーチ陣、取材陣達とも裏でズブズブでズボズボの
関係です。
キャラクター概要
白の髪を靡かせた美女奴隷。
607
足と頭の回転は速いが運が悪い。
胸のサイズはそこそこ巨乳。
ニュマ 大洞窟 ﹃障壁﹄の競技奴隷
戦闘ランクB
三種競技の﹃力﹄、パイルドライブマッチの無敗王者。
体術の面でヘミネには多少劣りますが、関節技や投げ技など、公娼
達からすれば多少特異に感じられる技能をもっています。
公娼ランクD
ニュマの﹃障壁﹄はどうやってか鍛えた処女膜に付けられた称号で
す。
リセに押し開かれた事で処女を失ったニュマは、これ幸いと後援者
達から輪姦されたようです。
キャラクター概要
縛った黒髪の拳闘奴隷。
鉄壁の処女。
そこまで大きくは無いが、感度が良い手の平サイズ。
ラプシー 大洞窟 ﹃洪水﹄の競技奴隷。
戦闘ランクE
三種競技の﹃美﹄、フィギュアオナニーの新星。
ハリアレ同様戦闘面では役に立ちません。
しかし、彼女の﹃洪水﹄は上手く利用すればちょっとした洗脳が可
能な気がします。
公娼ランクE
ハリアレの様に割り切る事も、ニュマの様に寡黙で有る事も無く、
ラプシーは己が望むままに生きています。
競技奴隷で有る内は、豚魔達にやすやすとは肌を許さないと心に決
608
めていましたが⋮⋮。
キャラクター概要
金髪のミドルヘアーをしたオナニークイーン。
経験人数は少ないですが、将来を見据えて慣れておく必要があると
は思っているようです。
乳房はまだまだ成長中の巨乳候補生。
ゼオムント王国
オビリス ゼオムント王国魔導長官 一流調教師
戦闘ランクA
魔導士としてもかなりの腕を持ちます。
ゼオムントの覇道を支えた功労者でもあり、その力の秘密は西域に
由来するものだと噂されています。
公娼ランクS+
公娼全ての敵であるオビリスは、不老魔術で体の成長を縛り、映像
魔術で心を縛ります。
これから第三の魔法を用意して物語に再登場してくると思います。
得意ジャンル﹃魔法を使っての全世界生中継調教﹄
リトリロイ ゼオムント王国 第三王子
戦闘ランクD
リトリロイも戦えます、少なくともシャスラハールと同程度には。
しかしセリスが傍らに居れば、彼自身が剣を握る必要はありません。
609
あくまでセリスが傍らに居れば、ですけれども。
公娼ランクC
特に制度を利用するわけでも無くセリスを毎晩愛でていただけの彼
ですが、開拓団を率いる存在になった事で、人心掌握のために公娼
制度を踏襲する事を決めました。
得意ジャンル﹃政治利用﹄
ゴダン ゼオムント王国王宮魔導士
戦闘ランクC
オビリスの腹心。
禿げ上がった頭をした有能な魔導士である彼は、大規模魔術を得意
とします。
映像を投影し、公娼を引き寄せる。 囮ですね。
公娼ランクB
調教師ではありません。
ですが妻に隠れて頻繁に利用していたようです。王宮魔導士にもな
るとAランクの公娼相手でも予約不要でヤれたりするので役得です
ね。
ゾート ゼオムント王国調教師組合 主席調教師
戦闘ランクE
バンデニロウムの覇者。
エグい調教術はお持ちですが、助手任せな部分もあるので肉体的に
は貧相なお爺ちゃんでしかありません。
公娼ランクS+
シャスラハールの怨敵。バンデニロウムでその実力を如何なく発揮
し、国民から喝采を浴びる。著書の印税だけで豪邸が建つレベルで
ある。
610
得意ジャンル﹃器具プレイ﹄
オルソー ゼオムント王国調教師組合 次席調教師
戦闘ランクE
魚顔の調教大好き婦人。既婚。
戦えませんし、夜の勝負では毎晩変な趣味の旦那さんに責められて
啼いてます。
描写はしません。
公娼ランクS
精神凌辱も肉体凌辱も大好きです。彼女は公娼を愛するあまりに酷
い事をしてしまいますが、それは作品の為、そして作品の中で輝く
公娼達の為なのです。
得意ジャンル﹃イカせ地獄、露出調教﹄
ラターク ゼオムント王国調教師組合 一等調教師
戦闘ランクD
あと一歩で伸び悩む調教師。
少し大柄ですので本気を出せば兵士は倒せますが、そんな事よりも
今はどうにかしてオルソーとゾートを追い抜く事に必死です。
公娼ランクA+
喜劇的要素を好む傾向にあります。ラターク作品ではまず公娼の下
ごしらえを徹底的に行い、衣装の選定、シナリオの吟味等、公娼達
に普段とは異なる負担を掛けます。
得意ジャンル﹃喜劇物、逆レイプ﹄
テビィ 開拓団 便所掃除係り
戦闘ランクE
611
バケツを被った少年。
力も無く、意志も弱いテビィですが、自分の運命を悲嘆するよりは
公娼を苛めてた方が愉しいやっとなって公娼相手には強気です。
公娼ランクB↓S
アミュスとヘミネの心を砕いたのは間違いなくこの少年のやったプ
レイです。
その後も継続的に彼女達の心と体を犯し、将来の才能を開花させそ
うな予感が有ります。
得意ジャンル﹃便所掃除プレイ﹄
ターキナート ゼオムント王国 上級騎士
戦闘ランクC
そこそこ強かったのですが、あっさりと死にました。
こちらに関しては生かしていてもあまり意味が無いと判断しました。
下の無能とは違ってお仕事をまじめにやっていた為に死んだのかと
思うと哀れですね。
公娼ランクD
フェミニストであった彼は公娼の笑顔が大好き。いつも膣内出しし
ながら公娼に笑う様に強制していました。将来の目標としてマイ公
娼を買って常に笑顔で働かせる事を夢見てましたが、﹃公﹄共物だ
から﹃公﹄娼なので、ルールを越える為にはまだまだ出世しければ
なりまんね、死んでますけど。
グヴォン ゼオムント王国 上級騎士
戦闘ランクD
無能の方です。
体は大きいけれど戦闘面は役に立ちません。任務中に寄り道とかし
ます。
612
強がるけど負けます。チンコちっさい設定にしようかと思います。
公娼ランクB
調教師ではありませんが、首都で流行っている公娼オタクの方です。
公娼の名前を暗記して常に新作をチェック、道端でヤっているのを
見れば並び、給料の7割は映像作品に使っています。推し公娼はセ
ナです。
追記・不要な情報。
ゾート、オルソー、ラタークが扱った事のある公娼と、グヴォンが
イベントに参加してチンポを突っ込んだことのある公娼を分類しま
す。
ゾートの調教履歴
セナ 開拓団陣地にて改造・調教・撮影。
ステア 映像作品撮影。
ヴェナルローゼ 門下生に指導する為の教材として使用。
アリスレイン バンデニロウムで使用。
ルル 映像作品撮影。
アミュス 開拓団陣地にて調教。
ハイネア 中等教育校向け正しい公娼利用講座で使用。
ヘミネ 開拓団陣地にて調教。
マリューゾワ 映像作品撮影。
ロニア ゾート推薦のディルドー発売式典で使用。
ヘスティア 映像作品撮影。
613
他多数。
オルソーの調教履歴
シャロン 映像作品撮影。
ヴェナルローゼ 嬲り甲斐が有りそうだったので私的に使用、無料
配布。
アリスレイン バンデニロウムに参加。
マリアザート 不妊に悩むオルソーの八つ当たりで母子共演作品撮
影。
アミュス 開拓団陣地にて調教。
ヘミネ 開拓団陣地にて調教・撮影。
シロエ 映像作品撮影。
マリューゾワ 嬲り甲斐が有りそうだったので私的に使用、無料配
布。
シュトラ 開拓団陣地にて調教・撮影。
ロニア オルソー推薦のディルドー発売式典で使用。
ヘスティア 映像作品撮影。
他多数。
ラタークの調教履歴
シャロン 自分の放送枠のエンディングで淫語ソングを歌わせる。
ステア 映像作品撮影。
アリスレイン バンデニロウムに参加。
ルル 自分の放送枠で膣内出し占いコーナーを担当させる。
614
ユキリス 開拓団陣地にて調教・撮影。
アミュス 開拓団陣地にて調教・撮影。
リセ 町内会のスペシャルアドバイザーとして企画に参加。
ヘミネ 開拓団陣地にて調教。
ロニア ラターク推薦のディルドー発売式典で使用。
アルヴァレンシア 自分の放送枠で日曜朝の魔法少女物を担当させ
る。
マリス 映像作品撮影。
他多数。
公娼オタクであるグヴォン氏が参加した事のあるイベント一覧
セナ 映像円盤予約購入者限定のセックス会に毎回参加、調教師に
顔を覚えられる。
フレア 街中でパンを恵んでやって路上セックス。
アリスレイン バンデニロウムを訪れて死姦。
マリアザート 母乳試飲会に参加。
ユキリス 特売日に並んでセックス。
アミュス 炊き出しに参加して熱々のミルクを注いであげる。
ハイネア 甥の入学式に参列しセックス。
リセ スタンプラリーに参加して膣内にハンコを押す。
ヘミネ 目隠しチンポ当てゲームに参加、無念の敗北。
シロエ 貯金を叩いて巫女騎士団への種付権利を購入、シロエの前
で部下を孕ませる。
マリューゾワ 魔チン大公に操られて挿入する。
シュトラ 牧場体験ツアーに参加、牛小屋セックス。
ロニア 工場見学会に参加、記念品のディルドーをアナルに突っ込
みながらの二本差し。
615
アルヴァレンシア エキストラの怪人役で出演し、全国放送でセッ
クス。
ヘスティア 公開懺悔イベントに参加、罵りながら膣内出しセック
ス。
616
理由︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
617
理由
怒号と共に、血生臭い戦いは始まった。
兵士達は王族の前で武を奮う事により己の存在価値を示すために。
公娼達は自らの未来を切り開くために。
﹁ラグラジルはここで陣地構築の魔術をっ! いつでも撤退できる
ようにしてください。その後は殿下とハイネア様の護衛を頼みます。
右翼を騎士長とリセ。左翼を私とマリス。中央をヴェナ様と︱︱セ
ナっ? 突出してはダメっ!﹂
シャロンが双剣を抜き放ちながら指示を飛ばし、猛然と単身で敵に
突っ込んでいく同僚に慌てた声を送る。
﹁間に合わんっ! 来るぞっ!﹂
ステアの戦意に満ちた声が上がり、敵兵の波とぶつかった。
リトリロイの率いた兵数は二百。
シャスラハールが率いた人魔合同軍は僅か八。
しかし、戦力的な意味合いでの濃さが違う。
常勝を誇ったリーベルラント騎士国家の精鋭騎士が三人。
音に聞こえたスピアカントの聖騎士。
百戦錬磨の投剣メイドと血に笑う傭兵。
そしてかつて西域を管理したという魔天使。
いくら兵士達が勲章目当てに血を滾らせたとしても、彼女達の身に
刻まれたゼオムントへの怒りには及ばない。
国を奪われ、家族を殺され、操を汚されたのだ。
ステアの槍が兵士の喉を食い破り、リセの短刀が目玉を抉る。
シャロンの双剣が切り裂き、マリスの曲刀が首を刎ね飛ばす。
圧巻とも言えるのはヴェナの進撃。
取り戻した聖剣を握るその武勇は、立ち向かう兵士達にとってみれ
ば恐れを具現化した存在に他ならない。
618
一方的に切り伏せられ、無理矢理投じた些細な反撃は弾かれる。
中央の戦況は瓦解し、先を行くセナを後押しする結果となった。
一方で、大回りや死んだふりでどうにかシャロン達をやり過ごした
兵士はシャスラハールの大将首を狙う。
それさえ討ち取ってしまえば、あの鬼神の様な公娼達と戦う必要は
無いのだ。
﹁怖かったらワタシの空間に入っていても良いのよ?﹂
シャスラハールの眼前でふよふよと空に浮いているラグラジルが言
う。
﹁僕には⋮⋮見届ける義務が有りますから﹂
黒肌の王子はそう答え、後にハイネアを庇いながら小刀を構えた。
それを見て、ラグラジルはつまらなそうに目を逸らした。
﹁非効率的で無駄な行いね﹂
そうして右腕を振るう。
﹁貴方は個人の戦闘であの人間族たちとどれだけ戦えるのかしら?
運よく二人か三人倒せたとしても、所詮はその程度。次の瞬間に
貴方は殺されて後ろのオチビちゃんは嬉し懐かしの公娼便器に逆戻
り。ふふっ。そんな怖い顔しないでよ。わかってるわよ⋮⋮﹃ご主
人様﹄﹂
闇の糸が展開され、兵士達へと絡みついていく。
﹁無様ねぇ⋮⋮力を失っているワタシにすら勝てないのなら、この
西域で生きる方法何て無いのに。無粋にこの地を踏み荒らした事、
いずれ後悔する事になると思うわ﹂
糸は兵士の首に巻き付き、強烈に締めつけていく。
﹁この奥にはね⋮⋮ワタシなんかよりももっと怖い連中が居るんだ
から⋮⋮﹂
ブチッ︱︱と肉が断ち切れる音が辺りに響く。
魔天使はあえて残酷に殺す事で、続く兵士達に向けて恐怖を演出す
る。
﹁さぁいらっしゃい⋮⋮。ワタシは今とっても機嫌が悪いの⋮⋮最
619
悪と言っていいわね⋮⋮貴方達の首をもいで遊んだって大した慰め
にはならないけれど、突っ込んで行ったお馬鹿さん達が戻るまでの
暇つぶしにはなるでしょうね﹂
一切近寄ることなく、手を振っただけで命を奪って見せた魔天使に、
兵士達は恐れ戦いた。
そしてその時、
敵中深くへ斬り込んで行ったセナの視界に、馬上から戦場を見つめ
るゼオムントの王子の姿が飛び込んできた。
﹁ハアアアァァァッ!﹂
大剣の一薙ぎは生半可な防御ごと兵士の体を引き裂く。
セナは全身に返り血を浴びながら戦場を突破し、目標を発見した。
﹁ゼオムントの王族っ! お前達が背負った罪の重さを教えてやる
っ!﹂
近衛兵のガードを斬り潰しながら進み、セナは吠える。
﹁ほざけ賎なる公娼よ! 貴様らは負けたのだ、ゼオムントに! 覇道に逆らい死すべき運命にあるところを、新たなる世の為にその
身を捧げさせてやった我らに抗うなどと、愚劣極まりないっ!﹂
リトリロイは馬上から威圧し、腰に帯びた剣へと手を伸ばす。
﹁誰が、いつ生かせと頼んだっ!﹂
セナは絶叫する。
﹁国が滅んだ時に、なぜアタシ達を殺さなかった! なぜ汚辱にま
みれて生き続けなければならなかったっ!﹂
本心として、公娼であった三年の間、常に死への願望があった事は
否定できない。
叶う事ならばそれが公娼に落される前の、国が滅んだ瞬間であった
ならばと願ったものだが、ゼオムントは公娼を縛る為に幾つもの要
因を押さえていた。
一つには人質。
620
かつての自分達が守るべき対象であった自国民や王族、彼らの多く
はゼオムントに靡き、その支配を受け入れているとはいえ、志を失
った者ばかりでは無い。
ゼオムントの支配体制は属領制だ。
かつての支配層を自分達の支配下として管理する事で、ある程度の
自治を認めている。
その地に生き、その地の伝統や教えを守る正当な守護者である彼ら
こそが、セナ達公娼にとっての無視し難い人質だった。
更に仲間。
セナにとってシャロンやステア、フレアがそうであるように、共に
公娼に落された仲間達がそれぞれ互いを縛る存在へと変えられる。
自分が死んでしまえばその分凌辱者達の手が彼女達を汚すだろう。
逆に言えば自分がこの辱めを耐える事で、彼女達の負担を僅かばか
りでも減らす事が出来る。
そう思い込ませるために、ゼオムントはわざわざ教えてあげたのだ。
どこで、誰が、どのようにして、公娼をやっているのだと。
セナは公娼であった三年間にフレアと直接会った事は無い。
けれど知っていた。
彼女がパン屋の前で股をひらき、通行人相手に膣内出しを懇願して
その日の食料を得ていた事に。
セナの膣を犯しながら調教師が時折そのレポートを読み上げるのを
聞かされたのだ。
そして最後に最も大きなものがある。
復讐心。
殺してやるという思い。
取り戻してやるという誓い。
肉体を汚される度に彼女達はその殺意を育て、現状を見据える度に
失った物を再び手にする事を誓った。
ゼオムントはそうやって公娼の心を縛り、彼女達を生き延びさせて
きたのだ。
621
﹁知らん。死にたければ死ねばよい。騎士の矜持とやらに則って自
ら首を落とせばよかったではないかっ! それが出来もしないのな
らば、騎士などやめて股を開いて精液を啜って生きていけばいいで
はないかっ!﹂
リトリロイは依然馬上からこちらを見据えている。
﹁貴様あああああああああああっ!﹂
セナは寄ってくる兵士達を切り伏せ、リトリロイの全身を視界にと
らえる。
そしてその少し横で、呆然とこちらを見ているセリスを見つけた。
セリスはここが戦場である事を忘れているかの様に、長剣を握らず
ただただ押し黙って体を震わせていた。
﹁貴女には幻滅しましたよ、騎士団長っ! その男に取り入ってこ
れまで何も汚されずに生きてきたんですか? ワタシ達の苦しみも
っ! 死んでいった同胞の無念もっ! 貴女は何も感じなかったの
ですか?﹂
セナは最後の障害となった近衛兵を切り捨て、リトリロイへと猛進
する。
﹁違うっ⋮⋮セナ⋮⋮私は⋮⋮私はこの人と⋮⋮﹂
セリスは顔を上げ、悲壮な表情でセナへと声をかける。
﹁知らないわけじゃないっ! セナ達の苦しみも、リンダース達の
無念もっ! でも私にはやるべき事が︱︱誓ったのっ! この人と
⋮⋮私が、この人のものになったら︱︱﹂
そう言って、リトリロイへと顔を向ける。
﹁いまさら何をっ!﹂
セナは止まらない。
敵であるかつての上官の言葉など、最後まで聞いてやる必要も無い。
振りかざした大剣が、リトリロイへと迫る。
金髪の王子はそれを睨み据え、微動だにしなかった。
そこへ、一本の長剣が割って入る。
セリスが滂沱の涙を流しながら、長剣を両手で握り、セナへと向か
622
い合った。
﹁ごめん⋮⋮ごめんなさい⋮⋮セナ⋮⋮⋮⋮貴女を、捕らえる。未
来の為にっ! リーベルラントの為にっ!﹂
かつて同じ国に捧げられた剣と剣が、打ち合った。
﹁貴女がリーベルラントを口にしないでっ!﹂
大剣を振るい、セナが吠える。
﹁⋮⋮いつだって⋮⋮心の中にあったわよ⋮⋮私の故郷だものっ!
守れなかった⋮⋮大切な物だもの⋮⋮!﹂
セリスは長剣でそれをいなす。
﹁確かに私は公娼であって公娼で無い、そんな中途半端な存在だわ
! セナ達に恨まれても仕方がない、とてもとても卑怯な人間よっ
!﹂
長剣が閃き、大剣が受ける。
﹁それだけじゃないだろっ! 騎士団長、貴女はさっきユキリスを
ゼオムントに捧げたっ! そしてそれ以前にはアミュスとヘミネを
公娼に落したんだっ! その罪、逃れられるものかっ!﹂
大剣の重い一撃を、セリスは回避する。
﹁⋮⋮ッ! それは⋮⋮セナ。貴女にとって彼女達は大切な仲間だ
ったの?﹂
セナには隙が生じていたが、セリスはそれを突かず、長剣を構えた
まま言葉を投げかける。
﹁仲間よっ! 共にゼオムント打倒を目指して、シャスを支えてこ
の西域を突破するって誓った大事な仲間っ! 道を少し違えたから
って見捨てられるような存在じゃないっ!﹂
血走った目でかつての上官を睨みつけながら、セナは言った。
﹁⋮⋮セナ、それはリーベルラントよりも大切なものなのかしら?﹂
その言葉に、セナは動揺した。
﹁えっ⋮⋮﹂
623
﹁さっきの魔導士の命、開拓団を襲った二人の命。それらは私たち
が守らなければいけなかったリーベルラントよりも大切なものなの
かしら?﹂
セリスは長剣を構え、涙を流している。
﹁私はね⋮⋮選んだのよ。どれだけの物を捨てたとしても、リーベ
ルラントを救うんだって。騎士国家の、騎士団長よ⋮⋮私は。王に、
民に求められ、戦火を退け安寧へと導く責任が有ったの⋮⋮。私の
父がそうやって国を守ったように、私も国の為に命を捧げるんだっ
て⋮⋮﹂
大剣を構えたまま、セナは硬直する。
﹁騎士団長⋮⋮﹂
﹁それが⋮⋮っ! 愚かな文官たちの裏切りで、私の居ないところ
で国が滅んで⋮⋮っ! 何とかしようと模索したわ⋮⋮。でも王家
を人質に取られたら降るしかないじゃない⋮⋮っ! そこで、公娼
として初めて参加させられた競りでリトリロイ殿下に見初められ、
彼と約束したのよ⋮⋮っ!﹂
心ごとぶつかってくるような慟哭。
国を守るという意志を娘へと継いだセリスの父と、国を売った文官
であり、娘を犯す事を欲したセナの父。
その対比が、セナの心に影を生じさせる。
﹁いつの日か彼が国を興すから、その日までずっと傍にいて、彼を
愛し、彼に愛されたならば、ゼオムントを滅ぼすだけの兵を貸して
くれると、その兵を率いてリーベルラントを取り戻しても良いと⋮
⋮!﹂
セリスの望む未来とセナが望んだ未来に、大きな違いは無かった。
﹁だから、その日の為に、私は夜伽も覚えたっ! 彼に愛される為
に全ての時間を使った⋮⋮! 私自身も、国を滅ぼした憎い敵を好
きにろうと必死だった。他の公娼が目に入らなかったわけじゃない
っ! 王宮でだってそういう催しは定期的に開かれていて、リトも
主賓扱いだったから私も出席させられて、目の前で色んな悲劇を見
624
て来たわ⋮⋮﹂
それでもね⋮⋮。
とセリスは続ける。
﹁私はリーベルラントの為に耐えようとした⋮⋮! 彼女達の苦し
みを笑い、ゼオムントに溶けこめる様にっ! リトに見放されない
様にっ! 卑怯で腐った自分を殺したいと思う日はいくらでも有っ
たわ⋮⋮﹂
﹁そんな⋮⋮違う⋮⋮騎士団長、それじゃ⋮⋮﹂
セナは大いに動揺し、大剣の切っ先が揺れる。
﹁そうよ。さっきの魔導士も開拓団の襲撃者も、全部全部、私が倒
した。リーベルラントの為に! 彼女達の命も、運命も私は切り捨
てる。私は私の使命の為に誇りを捨て、偽りの愛に生きて、偽りの
正義を振るう! 否定したければ否定してもらって構わない。私を
殺してもらって構わないっ! でもそれは、私の使命を断ち切るだ
けの強さを貴女が持っていたならばの話﹂
そう言って、セリスは涙を振り払い、瞳に殺意を灯す。
﹁来なさい、セナ。リーベルラント騎士国家、騎士団長セリスが相
手をして差し上げます﹂
長剣は揺らがず、大剣は揺れる。
勝敗が決するのは明らかな事だった。
セナは大剣を取り落とし、その腹の上にはセリスが跨り、首に長剣
が突き付けられていた。
﹁⋮⋮私がリーベルラントを必ず取り戻します。その為に、貴女に
は犠牲になってもらうわ⋮⋮﹂
最後に一滴涙がこぼれ、セナの頬へと落ちてきた。
﹁セナさんっ!﹂
この場でセリスに匹敵しうる唯一の存在であるヴェナが叫び、全員
の注意がそちらに向く。
625
セナがセリスに組み敷かれていた。
﹁くっ⋮⋮ヴェナ様はセリス団長の相手をっ! 残りは数が減って
います、私達で何とかしましょう!﹂
シャロンが作戦を立て、全員に伝える。
この戦場に出るにあたってもともとボロボロだったシャロンの装備
はほとんど剥げ、素っ裸に近い。
マリスもリセもステアも、同様にダメージを負いながらも敵を倒し、
リトリロイ側の残存兵力は百といったところ。
そしてその時、彼女にとっては見知った声が高らかに轟いた。
﹁やいやいやいやいっ! 抵抗は止めろ! 公娼共っ! こいつら
をぶっ殺されたくなかったらな?﹂
大男︱︱グヴォンが松明を持って、口角を上げて笑っていた。
そのすぐ傍には、折り重なるようにして放置された女の体。
シュトラやユキリスの姿が見て取れる。
彼女達の体には油が撒かれ、不自然な輝きを放っている。
﹁火をつけるぞ? そうすると一発で大炎上だぁ⋮⋮仲間の命が大
切だったらよぉ⋮⋮その場で股おっぴろげて降参のポーズをとりな
ぁ⋮⋮俺様がチンポぶち込んで武装解除してやるからよぉ⋮⋮﹂
シャロンとマリスに敗れ、リトリロイの本隊と合流して以降、彼に
は蔑みの視線が与えられていた。
その失点を取り返そうとして、固めて置かれていたシュトラ達に油
を撒き、人質としてシャロン達に降伏を迫る。
シャスラハールが、ヴェナが、ステアが、ハイネアが、リセが、そ
してシャロンがあまりの不快感に顔を顰める。
﹁うっはー、卑怯だなーあのオッサン。やっぱあの時殺しておくべ
きでしたねー。マリス反省ですー﹂
マリスが頭を掻き、
﹁ふふっ。人間族にも面白いのがいるのね⋮⋮とっても不潔で逞し
いわ﹂
ラグラジルが冷笑した。
626
そして敵中でも、
﹁⋮⋮チッ!﹂
セリスが憎悪の視線をグヴォンに向け、リトリロイも冷めた目で彼
を追った。
﹁⋮⋮そういう事らしい。貴様ら降伏しろ。命は保証してやる﹂
半ば投げやりにリトリロイが言った。
﹁これはもう⋮⋮潮時か﹂
ステアが歯噛みし、呻く。
それを受け、シャスラハールが叫んだ。
﹁ラグラジル、異空間は開けるか?﹂
その問いに、
﹁陣地構築は終わっているけれど⋮⋮向こうで捕らえられている人
達にまでは届かないわね。言ったでしょ、この異空間は限定される
って。そこまで大きな範囲じゃない。ついでに言うとそこの聖騎士
様は範囲外だから少し戻ってきてもらわないと無理ね﹂
ヴェナが範囲外である。
それはつまり、その先でセリスに捕らえられているセナにも届かな
いという事だ。
﹁セナさんっ!﹂
シャスラハールは絶叫に近い声を上げる。
その意を汲み、セナの救出へ一歩を踏み出そうとしたヴェナに、
﹁抵抗は止めろって言ってんだろっ! 火ぃつけるぞ!﹂
グヴォンが喚いた。
沈黙が、訪れる。
この場を支配しているのはシャスラハールでもリトリロイでも無く、
ましてやヴェナやセリスでも無い。
グヴォンなのだ。
﹁はっはっ! お前もお前もっ! どれも見た顔だなぁ⋮⋮首都に
ある俺のコレクションに揃っている奴らばかりだ⋮⋮これはヤり甲
斐があるなぁ⋮⋮﹂
627
その視線がヴェナを見、ステアを見る。
その時、声が上がった。
﹁シャス! 良いから逃げてっ! アタシの事は、アタシでなんと
かする!﹂
セリスに組み敷かれたままのセナが叫んだのだ。
﹁シュトラ達の事も、アタシに任せてっ! 絶対に連れて帰る。必
ず合流する。だから、先に行ってっ!﹂
張り上げた声は、力強い。
﹁セナ、さん⋮⋮﹂
﹁シャロンっ! 何してるのよ。貴女ならわかるでしょ! 今どう
する事が最適なのかっていう事が﹂
強い声に押され、シャロンは唇を噛んで頷いた。
﹁殿下、撤退を⋮⋮﹂
﹁シャロンさん⋮⋮そんな、セナさんが⋮⋮﹂
狼狽えるシャスラハールの服の裾をハイネアが握った。
﹁シャス⋮⋮。お主のやるべき事を見失ってはいかん⋮⋮ラグラジ
ルを手に入れた先、妾達が何を成すべきか⋮⋮。ここでゼオムント
に投降して、何になろう⋮⋮﹂
幼いながらに悲壮な声。
シャスラハールは顔を俯け、魔天使へと言った。
﹁ラグラジル。魔法を⋮⋮撤退だ﹂
その震える声を、魔天使はひどく心地よさそうに聞いて、笑った。
﹁あはははははっ。はいはい、撤退で御座いますねご主人様⋮⋮ふ
ふふ。この度は残念至極で⋮⋮うふふ、あはははははは﹂
腹を抱えて笑いながら、ラグラジルは指を鳴らす。
仲間達の足元に闇の門が開き、急いで下がってきたヴェナも間に合
った。
異空間へと落ちながら、シャスラハールは叫んだ。
﹁︽天兵の隠れ里︾で待ってますっ! 絶対に⋮⋮戻ってきてくだ
さいね!﹂
628
その言葉を受け、セナは倒れ込んだまま右手を突き上げた。
セリスはその動作を止めようともしなかった。
﹁さーて、んじゃお待ちかねの公娼ターイムだなぁ﹂
グヴォンはシャスラハール達が撤退した後、すぐに色めき立って周
囲をはやし立てる。
自分の功績を誇り、その結果により公娼を利用できるとなれば、他
の生き残りの兵士達からの評価が高騰するはず。
既に兵士達は死んでいった味方に対する興味よりも、捕虜になった
公娼達へと視線が動いている。
これが、ゼオムントの現実。
嗜虐性を突き詰めた国民性。
グヴォンは意気揚々とセリスの元にまでやって来て、転がっている
セナを見て顔を綻ばせる。
﹁俺はこいつに膣内出し⋮⋮とおぉぉぉ﹂
セリスが剣を振るい、グヴォンに突き付け睨みつける。
﹁ひ、ひぃぃ。セ、セリス様何を⋮⋮﹂
その言葉には答えず、ただ冷酷にグヴォンを睨み、セリスはリトリ
ロイへと振り返る。
視線を受けて、リトリロイは頷いた。
﹁撤収だ。公娼の利用は陣に帰ってからにしろ。この任務は一刻を
争うものだと事前に伝達したはずだが?﹂
王子の冷めた声により、鎧を外しかけていた兵士達は慌てて装備を
整える。
﹁公娼の移送にはそこにある荷車を使え、どうせここらの魔物は全
滅している。鹵獲したところで文句を言うやつなどいまい﹂
マルウス族の荷車を指して示し、公娼を運ばせる。
﹁セリス様⋮⋮こちらをお預かりします﹂
セリスは近寄ってきた歳に差のある二人の兵士に声を掛けられ、自
629
分が組み敷いていたセナと視線を合わせる。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
両者無言のまま、ついに言葉を交わさず視線が外れ、
﹁どうぞ⋮⋮﹂
セナは兵士達に運ばれて行った。
運ばれた先、マルウス族の荷車は小柄な彼ら用に小さく作られてい
た物であり、人間が十人座る余裕は無かった。
﹁ふぅむ⋮⋮どうするべきか﹂
老年の兵士が顎に手を遣り、思索する。
﹁とりあえず余分な物は全部外しちゃいましょうか﹂
相方である若い兵士が言って、セナの衣服に手をかけた。
﹁くっ⋮⋮﹂
上半身を覆っていたジャケットを外され、インナーもはぎ取られる。
﹁おぉそうだな。それじゃあこちらも⋮⋮﹂
皺の刻まれた手が伸び、セナの下腹を覆っていたパンツを掴み、ゆ
っくりと降ろしていく。
幾人かの兵士は撤退準備をしながら、彼女の秘部が露わになって行
くのをジッと見つめていた。
﹁おぉよしよし⋮⋮こりゃあ帰ってからが楽しみだな﹂
老いた声で兵士が笑い、チョンチョンとセナの膣口を撫でさすって
から離れた。
﹁お前達、そっちのも服をはぎ取ってやれ﹂
その声で、別の兵士が気絶しているユキリスに纏わりつき、全裸に
剥いた。
﹁それで? 結局どうやって載せるんです? 十人じゃ座れないで
しょう?﹂
若い兵士の言葉に、老いた兵士はカッカと笑って答えた。
﹁なぁに座る必要などないのさ。さぁほら、載せよ。荷車に対して
水平に寝かせてな。丁度魚の行商がやっている様に平らに積めば良
630
いのさ。最初に四人、次に三人、最後に三人。呼吸は出来る様に工
夫せいよ﹂
指示に従い、兵士達は公娼を荷車に載せていく。
最初にシュトラと共にこの里に残った元シャスラハール組の四人が
進行方向へ頭を向けた仰向けの状態で載せられる。
彼女達は放心状態そのもので、正体を失っている。
そしてその上に、セナとシュトラ、そして気を失っているユキリス
が頭を反対に向けた状態で載せられる。
油で汚された彼女達の上に乗ると、ぬるぬると滑り、非常に不安定
だった。
﹁クッ⋮⋮何よこの扱い⋮⋮﹂
﹁ごめんなさい⋮⋮ごめんなさいセナさん⋮⋮私は⋮⋮誰も守れな
かった⋮⋮﹂
セナが不満を口走ると、すぐ傍でシュトラが涙声を発していた。
﹁シュトラさん? 大丈夫なの?﹂
てっきり自分以外は意識を失っているものだと思い込んでいたセナ
は驚きの声を上げる。
﹁⋮⋮えぇ、私は大丈夫です。他の皆さんは﹃お花﹄の効果が切れ
た事とさっきの変な︱︱マルウスを狂わせた魔法の影響で気を失っ
ているみたいですね⋮⋮﹂
二人がひっそりと声を交わしていると。
﹁よーしこれで最後だ﹂
そう言って兵士達の手で残りの三人、足を失っている動けない公娼
達が載せられた。
セナとシュトラ、そしてユキリスは生温く油の滑つく女の体に上下
で挟まれた事になる。
﹁おおう、落ちない様に縛っておくのを忘れるなよ﹂
老いた兵士の声に従い、若い兵士が公娼と荷車を纏めて紐で縛って
いく。
荷車の中は狭く、手足を動かせる余裕は殆どない。
631
ましてやセナ達は上下で女体に挟まれている状況で、ようやく上の
人間の股の間から呼吸ができるのが現状だ。
そして、リトリロイの部隊は戦死者を一か所に集め、火にくべて簡
易な埋葬を済ませると、速やかに陣地へと向かった。
ガタゴトと荷車は揺れる。
その度に、セナは上下の肉に埋もれ、油で滑りが良くなったことで
全身を撫でられるような不快感を味わうのだった。
﹁セナさん⋮⋮聞いても良いですか?﹂
隣で同じ状況にあるシュトラが声をかけてきた。
﹁シュトラさん、私もたくさん聞きたい事が有るわ﹂
セナはそう答え、一先ず相手に譲った。
﹁どうして⋮⋮マルウスの里へ戻ってきたのですか?﹂
﹁それは⋮⋮成り行きで遠くの出来事を見る事が出来たんだけど、
そうしたらマルウスの里でシュトラさん達が⋮⋮その、酷い目にあ
ってて⋮⋮それで﹂
言葉を濁すのは、シャロンから伝えられたシュトラ達の悲劇。
それがあまりにも酷な内容だったので、面と向かって口にする事は
憚られた。
雌車、釣り餌、そして醸造。
あの卑小なマルウス族によって強いられてきたものは、恥辱と呼ぶ
事ですら生ぬるい、そんな代物だった。
﹁⋮⋮そうですか。王子は⋮⋮シャスは最初からマルウス族を疑っ
ていました⋮⋮その為に、私を内偵にだし、里の現状を探らせたの
にも関わらず⋮⋮私が不甲斐無いばかりに⋮⋮皆を巻き込んで⋮⋮
こうしてセナさんまで⋮⋮﹂
シュトラの声は消え入りそうに小さい。
この人はずっと己を責め続けたのだ、とセナは痛感させられる。
﹁⋮⋮それだけじゃなくてね。アタシ達は旅の真実を知って、それ
を覆す秘策も見つけて、それがマルウスの里に向かっている事も分
ったから、戻ったの。大丈夫、シャス達はそれを手に入れた。これ
632
からそれを使ってシャス達は戦える。アタシ達もさっさとここを抜
け出してその手伝いに向かわなきゃね﹂
明るく力強い声で言って、シュトラを励ます。
その声に、シュトラは儚げな笑みを浮かべた。
﹁ねぇセナさん⋮⋮良かったら手を握ってくれない?﹂
﹁えっ?﹂
突然の提案に驚きの声を上げる。
﹁実はね⋮⋮さっきから頭が朦朧として、凄く気分が悪いの⋮⋮た
ぶんそろそろ、マルウスの﹃お花﹄が切れたことによる禁断症状が
襲ってくると思うのだけれど⋮⋮私は、そんな物には負けられない。
ここに居る全員を救って、必ずシャスの元へ戻る。その為には、今
狂ってしまうわけにはいけないの。だからね、セナさん。今だけ助
けて⋮⋮私を正気に、繋ぎ止めて﹂
良く見ればシュトラの額には汗が浮き、呼吸も不安定だ。
セナはシュトラの手を取り、力強く握りしめる。
﹁うん⋮⋮! 耐えよう。そして一緒に戻ろう! シャスの元へ﹂
そう言った瞬間、セナの陰唇を生温かい衝撃が襲った。
﹁ひんっ!﹂
驚き、高い声を上げてしまう。
この感触は、記憶にある。
舌。
人間の舌が女性器を舐めしゃぶり、快楽を与えて来る時の感触。
﹁な、なに⋮⋮﹂
自由にならない首で、何とか視線を動かし、自分の股間へと向ける。
そこで下敷きになっているかつての仲間が、愛おしそうにセナの陰
唇に舌を這わせていた。
﹁やめっ! やめてっ!﹂
混乱する頭で言い、必死に身を捩るが、元より自由になる空間など
無い、セナの陰部はそのまま生温かい舌に犯され続けた。
﹁あんっ⋮⋮ふぁ﹂
633
隣で、シュトラも甘い声を放つ。
彼女もまた、下からのクンニに責められていた。
﹁シュ、シュトラさん⋮⋮これ、どういう⋮⋮﹂
﹁恐らく⋮⋮﹃お花﹄が切れたことによる禁断症状⋮⋮んっ! 強
烈な催淫性があるから⋮⋮それで⋮⋮﹂
二人は息を切らせながら言葉を交わす。
そして、次の瞬間刺激が倍に膨らむ。
﹁あああぁぁんむっ!﹂
﹁ふひゃああああ﹂
上に乗っている体が反転し、セナの陰唇へと舌を伸ばしたのだ。
上下から二本の舌が、陰裂を犯してくる。
それだけでは無い。
﹁いや⋮⋮やめてっ⋮⋮ああああああっ!﹂
上下の公娼はおもむろに手を動かし、セナの陰唇を割り開き、アナ
ルへと突き入れ始めたのだ。
容赦の無いストロークで、
ズチュズチュ︱︱と、犯してくる。
隣を見ればシュトラも同様に、仲間達から犯されている。
﹁んひぃぃぃぃだめっ! 抓まないでっ! やめっあああああああ
あ﹂
陰核を抓まれ、膣とアナルの奥の奥にまで指を突き入れられて、セ
ナはよがる。
その内、上下の公娼が全身を動かし始めた。
自らも快楽を得ようとして、セナの体に陰唇を擦り付けて来る。
油で覆われた彼女達の体は良く滑り、セナへと快感を伝えて来る。
﹁ダメッ⋮⋮ダメェ⋮⋮﹂
顔の上を陰唇が滑り、後頭部に陰核が引っ掛かる。
その動きを数回繰り返した後、上下の公娼の体は震え、絶頂を迎え
た。
プシャ︱︱と女陰から愛液が噴き出す。
634
それらは全てセナの顔に掛かり、体を汚していく。
﹁あ⋮⋮あふ⋮⋮すごっ⋮⋮あああああああん﹂
隣でシュトラが甘い嬌声を発し始めた事に、セナは気づく。
﹁ダメっ! シュトラさん。自分を見失わないでっ!﹂
握り合った手に力を込め、シュトラを快楽地獄から救い出す。
逆隣を見れば、今の今まで意識を失っていたユキリスも目をさまし、
同じ様に上下の公娼に犯されて甘い声を放っていた。
﹁ユキリスっ! 耐えて⋮⋮正気を保ってっ!﹂
反対側の手でユキリスの手を掴み、意志を伝える。
﹁⋮⋮ッ!﹂
魔導士は無言だったが、その手を握る強さで返答した。
それからセナ達は、開拓団の陣地に到着するまでの間、延々と責め
続けられた。
油に濡れた全身を擦り付けられ、陰核を甘噛みされ、膣内を泡立つ
ほどにかき回され、肛門を舌でふやけるほどに舐められた。
荷車の中では数秒ごとに誰の物ともわからない愛液が噴き出し、嬌
声が迸る。
セナとシュトラとユキリスは、お互いに手を取り合ってその責め苦
に耐え抜き、一日以上をかけた強行軍の末、ようやく陣地に辿り着
いた時に、体中をドロドロに染め上げた状態で意識を手放した。
彼女達を荷台から降ろすように指示された老いた兵士と若い兵士の
二人組は、荷台の中の思わぬ惨状に爆笑し、傍を通りかかった兵士
達に声を掛けては覗かせて、話のタネを作って笑いを分け合った。
635
身体検査︵前書き︶
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636
身体検査
ニヤニヤと下品に笑う男達の手で、セナ達は荷車から降ろされる。
気絶から立ち返ったとは言え、全身を襲う疲労感は拭えない。
体中にこびり付いた愛液の奇妙な感触も、気分を低下させる。
﹁おら、こっちだ﹂
無骨な腕に両側から抱えられ、ゆっくりと歩いて行く。
剥き出しの乳房、陰部の全てに周囲の男達の視線が突き刺さり、セ
ナはぼうっとする頭で思い出した。
﹃公娼﹄
自分が脱却できたと思っていた地獄の身分に、今立ち返ろうとして
いる現実を。
﹁ひひひひ⋮⋮あはははは⋮⋮はは﹂
セナの後方では、奇妙に引き攣った笑いが止めどなく零れている。
﹁こりゃ⋮⋮ダメかもなぁ⋮⋮﹂
兵士の一人が言う。
彼の視線は、荷車の縁に股間を擦り付け、必死に性的快楽を得よう
としている公娼へと向かっていた。
シュトラと共に里に残った仲間達、マルウス族の﹃お花﹄の強力な
中毒効果により彼女達は完璧に正気を失っていた。
﹁みんな⋮⋮﹂
唯一、正気を保つことが出来たのはシュトラ。
セナが荷車の中でずっと手を握りしめて励ましていた事と、仲間達
を貶めてしまったという罪悪感が彼女を狂わせなかった。
﹁お願いします⋮⋮。彼女達に私の魔法を使わせてください⋮⋮お
願いします⋮⋮﹂
話によれば自らに﹃狂奔﹄をかけていたらしく、荷車の中では意識
が朦朧としていたユキリスだったが、今に至り己を取り戻し、狂い
637
の状態にある仲間達の様子を見て自らの魔法の影響ではないかと青
褪めさせる。
﹁ダメだ。捕虜の魔導士に武器を与える馬鹿がどこにいる﹂
無下に断られ、悲痛な視線をかつての仲間達へと送る。
﹁ユキリス、違うわ。ラグラジルが言っていた⋮⋮貴女の魔法はマ
ルウスを狂わせ殺したけれど、人間を狂わせてはいないと⋮⋮。だ
から、レナイ達のそれは⋮⋮貴女のせいじゃない﹂
セナは弁護する。
証拠はたった一つ魔天使の言葉だけだったけれども、もし本当にユ
キリスの魔法でレナイ達がああなってしまったのであれば、それは
救い様の無い悲劇になってしまう。
﹁⋮⋮それでも⋮⋮私の魔法の影響で皆さんが逃げる事も出来ずに
ゼオムントに捕まったのだとすれば⋮⋮、私の⋮⋮罪です﹂
魔導士の声は沈み、苦しみに歪んでいる。
一時ラグラジルの甘言に惑わされて道を違えた彼女は、魔天使とい
う歪んだ希望を再び失った事により正常な心を取り戻している。
それゆえの苦しみ。
﹁無駄話はそこまでにしろ。ほら到着だ。中へ入れ﹂
兵士がセナの尻を強く叩き、天幕へと押し入れる。
﹁ぐっ⋮⋮﹂
大きな天幕だった。
人間が百人以上楽に暮らせるほどの広さをして、中には揃いのロー
ブを羽織った連中が待ち構えていた。
幾つもの棚や機材が置かれ、そこに収められている物に見覚えが有
った。
それらは全て、公娼を調教管理する際に使用される、調教師の仕事
道具だった。
﹁やぁようこそ⋮⋮歓迎するよ公娼諸君﹂
調教師の中から長身の男が歩み出てきた。
﹁これから先君達の体は毎日開拓団に捧げられる。自分の名前はラ
638
ターク、君達の肉体面についての管理責任者だ。どうぞよろしく頼
む﹂
ラタークは恭しく腰を折り、礼をする。
セナとシュトラ、そしてユキリスは無言のままそれを見据える。
﹁さて、今日のところはまず身体検査だな。君達の肉体資料に関し
ては昨年度分までしか残っていない。今の時代、調教師も情報が命
でね。自らが管理する商品だ、体の隅々まで調べさせてもらうよ。
始めろ﹂
ラタークは手を振り、調教師達に指示を下す。
一人の調教師がセナに歩み寄り、腕を引っ張って手近な椅子へと連
れて行く。
椅子の傍には二人の男が立っていて、待ち構えていた。
﹁⋮⋮何するって言うのよ⋮⋮!﹂
セナは椅子に座らされ、両側から男達の手で股をこじ開けられなが
らも強気で睨みつける。
﹁測定だ。お前の商品価値を数値化して開拓団に公開する。ジッと
していろ﹂
セナを椅子まで連れてきた男が、おもむろに手近な机から定規を取
り出した。
手を伸ばし、定規をセナの陰部へとあてがう。
﹁なっ! やめろっ!﹂
体を揺すって抵抗するが、両側から押さえ込まれ股を閉じる事すら
できない。
﹁膣口、縦二寸半﹂
定規を持った男は始めに膣口に対して縦に合わせ、長さを計る。
それを傍で控えていた男が紙へと書き写していく。
﹁横一寸﹂
陰唇を押し広げながら、通常状態の閉じた膣口を計っていく。
﹁くぅぅぅぅ!﹂
セナは瞳に力を込め、男達を睨みつける。
639
しかし調教師は動じない。
彼らにとって公娼がそのような反応を示す事は、その公娼の活きの
良さを証明する事にしかならないからだ。
﹁次、奥行﹂
男は定規を持ち替え、槍の様にしてセナの膣口へと押し付ける。
﹁え⋮⋮待て! やめろっ!﹂
ズブリ︱︱。
﹁んひっ!﹂
温もりの無い無機質な物体が、セナの膣へと侵入してきた。
﹁四寸、もう少しいけるか⋮⋮五寸入るな。通常時でここまで入る
のは良いマンコだ﹂
男はズボリと入っている定規の目盛を覗き込むためにセナの股間に
顔を寄せながら言った。
﹁ぬ、抜けっ! 今すぐ抜けっ!﹂
セナは体を怒りで震わせながら怒鳴った。
その言葉に対して、調教師達はニヤリと口元をほころばせる。
﹁良いな。お前⋮⋮とても良い素材だ﹂
﹁あぁ、捕まえに行った連中の報告を聞けば、十人中七人は精神異
常だそうじゃないか、そんな奴らでは調教のし甲斐が無い﹂
﹁じっくりと仕込んでやろう⋮⋮この体に﹂
そのような事を言いつつ、定規が引き抜かれる。
﹁陰核の方はどうだ?﹂
﹁しっかりと隠れてる。剥き身の物よりも感度があがるし、これは
これで良いな﹂
つぶさにセナの陰部を眺めながら男達が頷き合う。
﹁お前らっ! 離せ⋮⋮殺すっ!﹂
いくら暴れたところで意味など無い。
調教師を喜ばせるだけだ。
だがしかし、そうだとわかっていてもセナは反抗する。
そうしなければ失われてしまうからだ。
640
騎士としての自分が。
﹁姿勢を変えろ。後ろを計る﹂
定規を握る男の声で、セナを拘束している二人が力を込め、足を更
に持ち上げて肛門を定規の男の目線の高さへと持ってくる。
﹁くぅ⋮⋮やめろっ!﹂
肛門をじっくりと観察され、セナは叫ぶ。
﹁誰がやめるものか⋮⋮。直径は⋮⋮一寸半といったところか⋮⋮﹂
男が定規を尻穴にあてがい、計測する。
﹁皺を数えるぞ。おい、お前も手伝え。俺が左回りで数えるからお
前は右な﹂
後ろで数値を書き記していた男に声をかけ、二人でセナの肛門に視
線を合わせ、指を差しながらカウントしていく。
﹁一、二、三、四、五⋮⋮⋮⋮二十四、二十五、二十六⋮⋮⋮⋮﹂
﹁三十二、三十三、三十四。三十四だな﹂
定規の男が言い、ペンを握ったままだった男は首を傾げる。
﹁俺は三十五だったが⋮⋮﹂
﹁そうか⋮⋮? なら数え直そう﹂
﹁そうだな、ちょっと見にくいか。広げよう﹂
そう言って男達は定規とペンを握っていないそれぞれの空いた手で
セナの肛門を押し広げ、また数をカウントしていく。
﹁⋮⋮っうううっ!﹂
セナは唇を食い千切らんほどに噛み縛り、屈辱に耐える。
﹁ほら、三十四じゃないか﹂
﹁本当だ⋮⋮三十四だったな。スマンスマン﹂
定規の男が胸を叩き、ペンの男は笑いながら謝った。
﹁よし、姿勢変えろ。次は胸だな﹂
その声に従い、セナは無理やり胸を突き出した体勢へと変えられる。
﹁痛っ! 変なところ触るなっ!﹂
﹁おいおい⋮⋮俺達はこれからお前の全身どこでも触りまくるぜ、
変なところも汚いところも。今の内から慣れておけ﹂
641
定規の男はセナのくっきりと盛り上がる乳房に手を当て、撫で擦る。
﹁ふむ⋮⋮質感は悪く無い。硬すぎず、けど確かな反発が有る。こ
れは人気の出る乳だな﹂
そう言って彼は定規をセナの乳輪に当て、計測する。
﹁乳輪左右共に二寸半。色素は薄く、沈着は無い﹂
その言葉を、後ろでペンを握る男が記載していく。
﹁乳首は⋮⋮通常時は半寸といったところか⋮⋮。ちょっと足りな
いな。おい、お前ら起たせてやれ﹂
そう言われて、セナの左右を押さえていた男達が片手を伸ばし、乳
首をコリコリといじり始めた。
﹁やめっ⋮⋮やめぇぇろぉぉぉ!﹂
ガタガタと椅子を揺らして抵抗するが、男達の拘束は解けなかった。
そして弄り回されていく内に、誤魔化しきれない性的快感が沸き起
こり、セナの乳首は一目にわかる程に膨れ上がった。
﹁膨張時は一寸半⋮⋮っと。結構でかくなるな、良いぞ。わかりや
すく乳首を起たせる事が出来るのもまた才能だ﹂
セナは屈辱的な言葉を吐かれ、眉間に皺を寄せて睨みつける。
﹁おぉ怖い⋮⋮さて、後はこまごましたところを計っていくか﹂
そう言って調教師達はセナの手指の長さや舌の長さ、髪の具合など
を計測する為に全身を弄り回し、ようやく終了した頃には一刻が経
っていた。
﹁よし、じゃあ君はこっちだ﹂
責任者であるらしいラタークという男に声を掛けられ、ようやく恥
辱の身体検査から解放されたセナは別の場所へ連れて行かれる。
天幕の隅の方に設置された、人目隠しの仕切りの内側だ。
そこに二人の人間と、二人の公娼が控えていた。
﹁シュトラさん、ユキリス⋮⋮﹂
セナと同様に身体検査を受けていた二人が、先にここへ通されてい
642
た。
沈痛な表情で、床を見つめている。
二人はそれぞれに、責任を感じているのだ。
﹁ふむふむ。シュトラちゃんはオッパイが良い感じね。乳輪も乳首
を満点で、計測した子が言うには特に質感が素晴らしいと。オッパ
イだけならSランク公娼になれるそうよ。良かったわね﹂
ニッコリと笑ってシュトラに声をかけているのは魚顔の中年女。
彼女は資料をめくって、
﹁ユキリスちゃんはそうね。マンコが良いわ。奥行きが六寸もある
のね! それでいて横幅は狭くて、キツくて長いマンコだんて理想
じゃない! これはたっぷり精液を注ぎ込み甲斐があるわねぇ﹂
次はユキリスへと笑顔を向けた。
そして更にもう一枚資料をめくり、今度はセナへと目を向ける。
﹁貴女がセナちゃんね。私はオルソー。ここのナンバー2よ。そっ
ちのラタークよりも偉いの。覚えておいてね﹂
ニッコリと笑う魚顔と、セナの横で顔を顰める長身の男。
ラタークの表情を気にするそぶりも見せずに、オルソーは資料を読
み、そして朗らかに言った。
﹁素敵ね! セナちゃん。計測結果はどれも高得点だし、そして何
より反抗的な態度が良いわ。貴女人気が出るわよー。私が保証して
あげる﹂
オルソーは備考欄に記されたセナの性格についての記述に喜び、手
を叩いて笑った。
﹁⋮⋮ふんっ!﹂
セナは不愉快極まる思いで、醜い中年女を鼻で笑う。
それを見たオルソーの瞳が、ギラリと光った。
﹁⋮⋮あら。あらあら⋮⋮ふふ。良いわね﹂
不気味に笑い、オルソーは資料をすぐ近くの机へと置いた。
そしてすぐ隣へと視線を移す。
﹁棟梁。以上ですわね。残りの連中は正直言って半分壊れてますの
643
でとてもとても映像作品に仕える様な代物じゃありませんわ。開拓
団への性処理用に全部回しましょ。文化を理解する脳を持たない連
中にはちょうど良い肉便器になりますわ﹂
オルソーに声を掛けられたのは、老いた男だった。
男はオルソーの声に煩そうに顔を顰め、ラタークへと視線を送る。
﹁おい、アイツラはまだか⋮⋮﹂
﹁ハッ。もうすぐ⋮⋮来ましたね﹂
ラタークは仕切りをトントンと叩く音に反応して、振り返る。
その場に、三人の人間が増えた。
一人はバケツを頭に被った小汚い少年。
そして、
﹁アミュス⋮⋮ヘミネ﹂
セナにとっては見覚えのある顔だった。
ベリスとの戦いの後、道を違えた者達。
シャロンから開拓団に捕まっていると聞かされていたので、そこま
で驚きは無かった。
﹁貴女⋮⋮っ。そう⋮⋮﹂
アミュスは驚きの声を上げ、そして何かを悟って口を閉ざした。
ヘミネは無言で俯いている。
﹁つ、連れてきましただ⋮⋮旦那様方⋮⋮﹂
そう言って怯えている少年の手先が、アミュスとヘミネの膣に収ま
っている事にセナは気づいた。
大人達へと卑屈な笑みを浮かべながら、その一方でこのような状況
でも二人の性器を弄り回している。
バケツを被っているという異質さも含め、セナは少年の事が酷く禍
々しいものに感じられた。
﹁ご苦労様、テビィ君。本来のお仕事に戻りなさいな。あぁお駄賃
として入り口のおじさんから御菓子をもらうと良いわよ。言伝はし
てあるから﹂
オルソーが猫なで声で言って、それを受けたテビィは二人の膣から
644
手を引き抜き、その手で頭を掻いた。
ねっとりと光る指で、バケツを撫でているのだ。
﹁並べ﹂
テビィが出ていったのを機に、老いた男がしわがれた声を放つ。
アミュスとヘミネがセナの隣に並び立ち、セナは並ばされた五人の
中央に位置した。
﹁ワシは⋮⋮この調教師団を束ねる者。ゾートじゃ﹂
その名を聞いた瞬間、セナの脳裏にシャスラハールの語った彼の過
去が浮かび上がってきた。
彼の姉を殺し、大陸一の名を得た調教師。
﹁ゾート⋮⋮っ!﹂
飛び掛からんばかりに一歩を踏み出したセナに全員が注目する。
﹁あぁん? ワシの名がどうかしたか? 流石に有名だろうとは思
うが、公娼にまでファンがおったとはなぁ⋮⋮愉快愉快﹂
ゾートは笑っている。
オルソーも。
ラタークは仏頂面だ。
セナは躊躇しなかった。
右腕を振りかぶり、渾身の一撃を叩きこむ。
﹁我が王の、怨敵っ!﹂
強烈な拳が、老いた男の顔に炸裂した。
ゾートは吹き飛び、オルソーは悲鳴を上げ、ラタークは愕然とした
表情を浮かべる。
シュトラが、ユキリスが、アミュスが、ヘミネが、驚きの視線を送
ってくる。
セナは振りぬいた拳を更に握りしめ、続けて襲いかかろうとする。
その時、オルソーが金切り声をあげた。
﹁衛兵っ! 衛兵っ! ここ、こいつを捕まえてっ!﹂
天幕の内部に控えていたゼオムント兵士が槍を構えてやって来て、
セナヘと突き付ける。
645
﹁抵抗はやめろよ⋮⋮ここで無駄に刺し殺しては面白くない⋮⋮。
調教師らしく、貴様を地獄でも顔を上げられなくなる程に辱めてか
ら殺してやろう﹂
ラタークが衛兵の間から厳しい声で言い、オルソーは震えながらセ
ナを指差す。
﹁ひぃぃ! 野蛮人っ! 怖い、怖いわぁぁぁああ助けてぇぇぇア
ナタあああああ﹂
錯乱しながら、ここにいない彼女の旦那へと助けを求めている。
セナは周囲を見渡し、舌打ちを一つ吐く。
﹁⋮⋮どうせ死ぬなら、この老いぼれぐらい道連れに出来ないかな﹂
その言葉に、笑い声が上がった。
口から血と歯をまき散らしながら立ち上がったゾートが、笑ってい
る。
心の底から楽しくて仕方がないと言った様子で爆笑している。
﹁フハッハハハアハハハハハ。殴ったか⋮⋮調教師を、公娼が⋮⋮
このゾートをっ! ゼオムント一の調教師と呼ばれ、全ての公娼に
怖れられるワシを殴りよったか⋮⋮。良いぞ⋮⋮小娘。お前はワシ
が担当してやる﹂
ゾートは兵士に支えられながら、セナを指差した。
﹁と、棟梁? こいつを生かすのですか?﹂
オルソーが怯えた声で言い、
﹁棟梁⋮⋮それでは他の公娼に対する支配が揺らぎます。見せしめ
の為にも我らの全力を持って死を作品として演出すべきです﹂
ラタークが顔を顰めて言った。
それらに対して、ゾートは首を振った。
﹁のう⋮⋮オルソー、ラターク。開拓団ドキュメンタリー作りに関
して、ワシらの意見はぶつかっておるな⋮⋮そこでじゃ、コンペテ
ィションをせぬかのう? ワシとオルソーとラタークで、自分が望
む方向で作品の短い試写映像を作り、この開拓団に所属する人間達
全てに投票させて決を採る﹂
646
ゾートはそう言って、震える手を伸ばす。
伸ばす先はセナの乳房。
セナは手で振り払おうとしたが、すぐ傍にまで伸びてきている槍に
無言の警告をされ、唇を噛んで受け入れた。
﹁ワシは⋮⋮こやつを使う。ワシ自身が演出し、こやつの体で作品
を作り上げ、大衆を納得させてやろう。ハンデじゃ。ワシはこやつ
一人で良いが、お前達はそこから二人ずつ選ぶが良い﹂
ゾートのしわがれた手がセナの乳房をむにむにと揉みしだく。
それを見て、オルソーが声を落ちつけて言った。
﹁ならば私は⋮⋮私の望むハード凌辱ストーリーの為に、体力のあ
るヘミネちゃんとシュトラちゃんを使わせてもらおうかしらね﹂
出遅れた形のラタークは顔を顰めながら、
﹁⋮⋮良いでしょう。自分の望むハートフルコメディー路線にはア
ミュスとユキリスを。普段知的ぶっている女に低俗で馬鹿な事やら
せるのも一興になりましょうな﹂
オルソーはシュトラとヘミネを引き寄せ、ラタークはユキリスとア
ミュスの肩を掴んだ。
﹁決まりじゃな⋮⋮。開催は一週間後、開拓団広場で行う。各自持
ち時間は四半刻とする。これから先一週間はこやつらの一般開放は
無し。その間に各陣営芸を仕込み、調教を済ませよ﹂
長の一声に、調教師達は色めき立った。
天幕内は喧騒に包まれる。
﹁おいおい聞いたか? ゾート様とオルソー様とラターク様のコン
ペだってよ?﹂
﹁すげぇ⋮⋮ゼオムントでトップ3の調教師達が腕を競い合うだな
んて⋮⋮しかもそれをこんな間近で見られるだなんてっ!﹂
﹁何でもお手伝いしますから、傍で見学させてください!﹂
それらの声にはラタークが応じ、オルソーは別件を思案する。
﹁でも、一般公開無しだと開拓団の作業効率が下がりますわね⋮⋮
あぁ! 今回捕らえてきた残り七人のポンコツを解放すればよいの
647
ですね。私達はこれから忙しくなりそうですし、適当な柵を作って
鎖でつないで置いておきましょう。調教は無しで、エサ遣りと掃除
はテビィ君にお任せして。ね、棟梁それでよろしくて?﹂
オルソーの声に、ゾートは頷く。
﹁うむ⋮⋮ここの連中総出でコンペに取り組む以上、人手は無いか
らな。とりあえず死んでしまわぬ様に開拓団の中から働けない奴を
監視係として配置しておけ、管理に関してはさっきのガキにやらせ
てみよう⋮⋮あれは、もしかしたら天性の才能がある者かもしれん
しのぅ﹂
とんとん拍子に話が進んで行く。
セナはそれを聞きながら、自らの右手にこびり付いた調教師の血を
眺める。
何故だかそれで、勇気が湧き上がってきた。
今までのただ嬲られるだけの公娼では無く、自分は自分の意思で、
王の為にその拳を振るえたという事実に、嬉しさを感じた。
﹁シャス⋮⋮待っていて、絶対に戻るから。こんなところ抜け出し
てみせる、アタシの剣はアンタを護る為に有るんだからっ!﹂
セナは自分の胸を揉みしだいている老人の顔を睨みつける。
ゾートはその視線に応え、
﹁のう小娘⋮⋮さっきは馳走になったな⋮⋮礼はワシの持てる技術
全てで返してやるでなぁ⋮⋮あぁそうそう、これから先また暴力を
振るうような事が有れば、その度に捕らえてきた他の七人を殺す。
それが嫌なら、大人しくワシの作品に奉仕する事じゃな﹂
公娼と調教師はいつまでも睨み合っていた。。
648
開拓団の風景︵前書き︶
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649
開拓団の風景
青空が視界いっぱいに広がっている。
セナは拍子抜けした思いで、手足をブラブラと動かす。
あれから、シュトラとヘミネはオルソーに、ユキリスとアミュスは
ラタークに連れられて行った。
そして周囲を取り囲む男達と自分を睨むゾートだけが残った時、老
人は笑って言ったのだ。
﹃長旅で疲れているだろう⋮⋮今日のところは休むといい。明日か
ら忙しくなるからな﹄
望んだわけでは無いが、ここに至って凌辱されるであろう想像は固
まっていた以上、あの瞬間にも自分はゾートを中心とした調教師連
中に滅茶苦茶に犯されるのではないかと思っていたのに、昨日はそ
のまま獄に入れられ食事も食べられるものを出された。
無論よく眠れたし、誰かがセナの裸を覗きにくるような事も無かっ
た。
何故その様な事になったのか、理由は知れない。
セナは朝を迎え、調教師の一人に獄から出されて、今は昨日身体測
定をした天幕の近くで体をほぐしている。
それはセナをここまで連れてきた男の指示であり、逆らえば他の公
娼に危害を及ぼすと言われた以上は、従うしかなかった。
胸を揺らし、足を交差させて筋をほぐす。
これから行われるであろうことは間違いなく体に負担をかける。
精神の方は良い。
どれだけ強がっても嫌なものは嫌ではあるが、シャスラハールとい
う主を得た以上、セナにとって生きる目的は明確であり、心を殺し
て公娼に堕ちるなどもっての外だった。
﹁お、やってるな﹂
650
調教師が傍にやって来る。
セナをここまで連れてきた男だ。
﹁⋮⋮ふんっ﹂
鼻を鳴らし、無視する。
﹁相変わらずだな⋮⋮まぁ良い、ウチの棟梁からの指示だ。これを
着ろ﹂
そうやって、彼は何かをセナへと放った。
セナは受け取り、それを両手で広げる。
﹁⋮⋮趣味が悪いわね。流石ゼオムントだわ。吐き気がする﹂
両肩から股までVの字で紐が伸びただけの、ひどく扇情的な黄緑色
の水着だった。
﹁良いから黙って着ろ。これからお前はそれで動くんだ﹂
セナは調教師を一つ睨んでから、紐を跨ぐ。
今の今まで全裸であった以上、何かを身に纏うのは安心できる要素
であるはずだが、これは違う。
﹁くぅ⋮⋮!﹂
まず致命的に体とサイズが合っていない。
陰唇を割り開くかの様に食い込み、強く張った紐は胸と乳首を激し
く擦り、肩の肉を締め付ける。
﹁似合うな。流石は公娼だ﹂
男がそう言って、セナの傍に寄り、紐の位置を修正する。
﹁さ、触るな⋮⋮あぐっ!﹂
股間の紐を強く上に引っ張られ、喰い込んできた衝撃に苦鳴を漏ら
す。
﹁こんなものじゃないぞ⋮⋮﹂
そう言って男はセナの首に革製の首輪を巻いた。
締め付けるわけでも無く、ただ首の周りを通しただけのそれに、セ
ナは困惑する。
﹁⋮⋮やっぱり趣味が悪いわ﹂
﹁知るか。棟梁の指示だ﹂
651
男は首輪にリードを通し、それを片手で握った。
﹁棟梁のモットーの一つに、公娼は心身共に健康であるべき。とい
うものがある。そこでだ、今日お前はこの開拓団陣地内でランニン
グを行う。無論、これは一般の人間に対するアピールである事も忘
れるな。さぁ、付いて来い﹂
そう言って男はリードを強く引き、走り出した。
セナは首を引っ張られ、つんのめるようにして足を動かした。
﹁⋮⋮どういう事よ⋮⋮本当にただ走ってるだけじゃない﹂
疑念が沸き起こる。
セナは扇情的な水着を着せられているとはいえ、それ以上は何もさ
れず首輪を引かれて走っているだけだ。
道行く人間からの視姦はあれど、直接的な接触は今の一度も無い。
首輪を引かれてはいるが、体力的に調教師の男よりもセナの方が勝
っているので、両者の距離は空かず首に負担がかかる事も無い。
﹁ふんっ。さっき言っただろうが。棟梁は信念で調教をなされる。
一度調教師の管理を離れた公娼の生活は堕落する。それを引き締め
る為のランニングだ。お前を犯す事なんて正直いつでもできる。明
日の朝には俺がお前の子宮に精液を注ぎ込んでいるかもしれないな﹂
そう言って男はいやらしい視線をセナの胸へと注ぐ。
﹁それに、今棟梁達は準備中でな。筋書きや機材を大急ぎで整えて
おられる。その間に下ごしらえをしておく。それだけだ﹂
男は視線を下げ、セナの股に食い込む水着の紐を嬉しそうに眺めて
言った。
﹁ゲスが⋮⋮声などかけなければよかった﹂
セナは悪態をつき、走る事に意識を向けようとした。
開拓団陣地。
それは仮設の砦を中央に置いたそこそこ広大な物であり、四半刻走
った程度では一周も出来ない。
652
砦より西の西域側にこの地の代表者であるリトリロイの幕営があり、
その他将兵の詰め所が並び立ち、東のゼオムント側に開拓民の粗末
な住処が置かれている。
セナ達は調教師の天幕が有る南西から走り始め、時計回りに今南東
へと至ったところだ。
生活臭に溢れた光景が見て取れる。
一様にこちらを好色な視線で追ってくる男達は、食に困っている様
子ではないが、それでも身なりに品を欠き、ボロになる寸前の布を
纏っている。
﹁ほら、見ろよ。あの歯の抜けたじいさん。いずれお前はあのじい
さんにも膣内出しされるんだろうなぁ⋮⋮お、あそこのチンポをず
っと掻き続けてる太った奴にケツ穴掘られたりするんだぜぇ。そし
てジッとこっち見てズボンパンパンにさせてるあのガキのチンポも
しゃぶる様になるんだ﹂
男は楽しげにセナの未来予想図を描いていく。
開拓団と共に生きる公娼。
それがゾートの描く開拓団ドキュメンタリーのテーマなのだそうだ。
﹁気持ち悪いわ﹂
セナが吐き捨てると。
男の足が止まった。
﹁さて、これも大事な役目だ。なぁに奴らにヤらせたりはせんさ。
お前の体は俺達調教師ですら味わっていないのだ。ここでやるのは、
ただのご挨拶だ。これから先末永く開拓団の皆さんにご奉仕させて
いただく公娼として、この連中に覚えてもらえ﹂
リードを握る男が止まっている以上、セナは離れる事が出来ない。
文句を言おうとした瞬間︱︱
﹁おぉい! 集まれっ! 開拓団に新しい公娼がやって来たぞ!﹂
男が大声を張り上げ、それを受けてワラワラと開拓民達が押し寄せ
てきた。
セナを取り囲む、数百人規模の男達。
653
この開拓団には一般の女性が殆どいない。
いたとしても老女ばかりで、性欲の処理は全て公娼が行う事になる
のだ。
﹁ひっ⋮⋮﹂
十重二十重と自分を取り囲むおぞましい視線に、セナの体は一歩下
がる。
しかし下がったところで、尻の方にも人の柵が出来ているのでそち
らに近づくだけだ。
﹁さぁ、ご挨拶だ﹂
そう言って男はリードから手を離し、セナから離れている。
身を隠す場所を失い、セナは卑猥なV字水着で申し訳程度に隠され
た肉体を男達の視線で犯される。
﹁うひぃ、ツインテかぁ⋮⋮良いなぁ。アレを握ってガンガンにバ
ックで突っ込みたいぜぇ⋮⋮﹂
﹁乳もかなりあるなぁ。見ろよ、紐からちょっとはみ出てる乳首。
色も良さそうだ﹂
﹁何よりあのマンコの食い込みだろ? キュウキュウに紐を挟んで
やがる。あぁ、たまらん⋮⋮﹂
幾人かの男達はセナの体をオカズに己を慰め始めた。
﹁ちょ、調教師様っ! 触るだけっ! 絶対に挿入しませんからっ
! どうか、どうか﹂
哀れな声が上がる。
それを受けて、調教師の男は首を振った。
﹁痛ましい事ですが⋮⋮この者の調教はまだ完了しておりません。
近い内に皆様にご提供できますので、どうかその時まで今しばらく
ご辛抱を。代わりにですが、東側陣地の中央に面白いものが設置さ
れますので、そちらをご利用ください﹂
男は慇懃に頭を下げて言った。
﹁さぁ。皆さんにご挨拶を﹂
再度そう命じられて、セナは唇を噛みながら声を漏らす。
654
﹁アタシは⋮⋮⋮⋮セナ﹂
ようやく出てきた名前に、開拓民は喜ぶが、調教師は不満顔だ。
﹁それだけか? そんな挨拶が有るか? しっかり自分のかつての
身分や今の状況を踏まえて挨拶しないか!﹂
それは、愉悦を隠しきれていない威圧。
セナは意を決す。ここで逆らっても無意味だと、下手すれば周りを
取り囲む男達を嗾けられかねない。
ならば、心根を強く持って︱︱
﹁リーベルラント騎士国家⋮⋮百人長セナ。ゼオムント国の⋮⋮公
娼。皆さん、よろしくお願いします﹂
言い切る。
大切なのはこの場で抵抗を続ける事では無い。
生きてシャスラハールと合流する事なのだ。
﹁へええええ騎士様かあああああ。道理で良い体してる!﹂
﹁セナっていやぁ⋮⋮聞いたことあるな。町中に土下座して膣内出
ししてもらってた奴だろ?﹂
﹁マジかよ⋮⋮じゃあじゃあ、俺らにも土下座しろ。な。土下座で
﹃今度膣内出しお願いします﹄って言えよ﹂
その声に、賛同が沸き起こる。
﹁どーげーざっ!﹂
﹁どーげーざっ!﹂
﹁どーげーざっ!﹂
そして唱和される土下座の声。
セナ目元に怒りを溜めて調教師へと視線を送るが、彼は笑って見守
る姿勢を崩さない。
ゆっくりと、セナの上半身が沈んでいく。
地面に両手を付き、足を曲げ、頭を下す。
そして、
﹁皆様、今度⋮⋮膣内出し⋮⋮を、お願い⋮⋮します﹂
怒りと恥辱に震える声が、そう紡がれた。
655
周囲からは歓声が沸き起こる。
騎士であるセナが、夜逃げ同然にゼオムントを離脱した開拓民に土
下座で膣内出しを懇願する。
惨めで、屈辱的なものだった。
調教師の男は口元に笑みを浮かべ、セナへと近づく。
﹁こちらの口でも、皆さんにご挨拶しておこうか﹂
男はセナの尻側に回り、そこを申し訳程度に隠していた紐をズラし
た。
﹁なっ! やめろっ!﹂
露わになるセナの陰唇、そして肛門。
﹁おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!﹂
開拓民達の自慰する速度が上がる。
﹁そこの少年⋮⋮そう、君だ。こっちにおいで﹂
先ほどズボンをパンパンに膨らませながらセナを見つめていた少年
を呼び寄せ、男は言った。
﹁君の指で、このお姉ちゃんのマンコを触ってごらん﹂
その言葉に、少年は指を恐る恐るセナの陰唇へと突き入れる。
﹁んひっ﹂
グニグニと小さく骨張った指が挿入された事で、セナは惨めな声を
上げる。
﹁さぁ、どうだい? お姉ちゃんのマンコはどうなってた?﹂
調教師の男が満面で問いかけた先、
少年は眉を寄せて答えた。
﹁なんか⋮⋮濡れてた。ネチョネチョ﹂
周囲にまたけたたましい笑い声が轟いた。
その後調教師は開拓民を解散させ、またランニングへと戻る。
快調に走る男と、重い足取りで付いて行くセナ。
何度かリードを引っ張られ、速度を無理矢理上げさせられた。
656
﹁おいおい。いつまでしょ気かえってるんだ⋮⋮。ただマンコに子
供の指突っ込まれただけだろう? 今度からは大人の洗ってないチ
ンポぶち込まれるんだから、そんなんじゃもたないぞ﹂
セナは切れ味の鋭い視線を投げかける。
﹁結構な御身分ね⋮⋮今アタシは両手が自由で、何よりアンタに対
して殺したいほどムカついてるわ。あんまり調子にのった発言して
ると、くびり殺してやるわよ﹂
虚弱貧弱を絵に描いたような調教師の首など、セナにとって素手で
引き千切る事は容易い。
何より昨日、彼らの親玉であるゾートの顔面を血塗れにした前科も
あり、脅しのつもりで言った。
そこに、
﹁そうかいそうかい、恐ろしいな⋮⋮。まぁどうしてもと言うのな
らばやれば良い。お前が俺を殺してここを脱走したとして、アイツ
ラがどういう未来を辿るか予想ができないのならな﹂
男はニヤリと口元を歪ませ、先を指差した。
そこには簡素な木の柵が設置され、その内側には︱︱
﹁⋮⋮レナイ⋮⋮みんなっ!﹂
マルウスの里で捕らえられ、彼らの薬物により精神にダメージを負
っている七人の公娼が繋がれていた。
小規模な厨舎程度の作りに、凡そ等間隔で公娼が並べられ、レナイ
達足先を失っている三人は正常位の姿勢で転がされ、残り四人は立
ったまま尻を突き出す姿勢を取らされている。
﹁ほう、後背位と正常位を両方楽しめる作りか、やるなぁガキ﹂
男は笑って言い、中で公娼の膣口を覗き込んでいた少年に声をかけ
る。
﹁どうだい、困った事はあるか?﹂
バケツを頭に被った少年は、慌てて立ち上がって首を振る。
﹁い、いえ旦那。だ、大丈夫ですだ⋮⋮﹂
赤面し、プルプルと顔全体を揺らしながらも、少年の手は止まって
657
いない。
その手が握っているのは、便所掃除に良く使われるブラシだった。
それを公娼の膣へと押し込んで掻き回しているのだ。
﹁お前っ! それを抜けっ!﹂
セナは大声を張り上げる。
﹁ひ、ひぃぃぃぃぃ﹂
哀れな悲鳴を上げ、それでも少年はブラシを抜かずに荒々しく膣内
で回転させている。
﹁んほああああああああっ! あふっ⋮⋮いひぃぃぃぃぃぃっ!﹂
ブラシを突き入れられた公娼はよがり声を放つ。
彼女達は今、薬物による中毒症状で性的刺激を求め続けている状況
なのだ。
﹁おいおい。その言い方は無いだろう。彼女達は君達の代わりに開
拓団に穴を提供してくれるのだから。その準備をしっかりやってく
れているテビィに対しても感謝の念を持たないといけないだろう﹂
男が諭すようにセナの肩を掴む。
﹁離せっ! 抜けっ!﹂
男に、テビィに吠える。
﹁だ、ダメですだ⋮⋮しっかり洗って、今日の昼からは開拓団の皆
さんにたくさん使ってもらわなきゃいけない⋮⋮よ、汚れが残って
たらオラが怒られますだ⋮⋮﹂
そう言ってテビィは膣からブラシを抜き、別の公娼の膣へとぶち込
んだ。
﹁んほおおおおおおおおおっザラザラが、あひぃぃぃぃ﹂
ズボズボとブラシを前後させながら、テビィは言う。
﹁そ、そんなに怒らなくても、今度オラがちゃんと⋮⋮あ、アンタ
のマンコもこうやって洗ってあげますだ⋮⋮﹂
その目がしっかりと紐の食い込んだセナの陰部へと向かっている事
に、怖気を感じた。
昨日最初に出会った時から感じる、この少年への生理的嫌悪。
658
﹁さ、それじゃあ俺達は行くぞ。テビィ、しっかりな﹂
男がセナのリードを強く引き、走り出す。
セナはテビィを睨みつけ、そのまま連れられるようにして足を動か
した。
﹁は、はい旦那⋮⋮。ウシシ。あんなに怖い女もいずれオラのもん
になる。アミュスやヘミネみたいに徹底的に汚してあげないとだ⋮
⋮。夜は怒ってくる大人も居ないもんで、オラの天下だ⋮⋮あぁ早
く一般開放になればいいなぁ⋮⋮﹂
テビィがオルソーから与えられている役目は、一般開放の対象とな
る公娼の一日分の汚れを夜間に掃除して、そのまま朝まで見張って
おくことだ。
その間、少年は王となる。
開拓団が飢え渇き求めている公娼と言う存在を、たった一人で好き
に扱える。
膣も、肛門も、口も、髪も自由に犯し抜き、日の出の頃に調教師が
引き取りに来る前に体を洗ってやれば何をしても良い。
アミュスとヘミネに対して繰り返し行ってきた夜毎の責めを思い出
し、少年の陰茎はそそり立った。
﹁いけねぇ⋮⋮勃っちまっただ⋮⋮。抜いとくべか﹂
そう言って少年は今まで弄っていた公娼の膣にブラシを突き刺した
まま、その隣に正常位の姿勢で転がっているレナイの膣に、己の肉
棒を遠慮なく挿入した。
セナ達は東側陣地を抜け、西側へと戻ってきた。
西側陣地の北側には各種演習場が設置されている。
セナは調教師と会話する事無く、腹の中で沸き起こるゼオムントに
対する怒りと戦っていた。
そんな折、新たな人だかりを見つけた。
その中からキーキーとカン高い声が聞こえる。
659
﹁おやぁ⋮⋮あれは、オルソー様の声かな﹂
そう言って男は進路を変え、セナを連れて人だかりの端へと歩み寄
った。
﹁おぉ、見ろよ⋮⋮お前のお仲間だ﹂
セナは調教師に背中を押され、人だかりの中心部を見る。
そこには︱︱
﹁ほら、次! 次の人来てぇ。シュトラちゃんのマンコが空いてる
わっ! 埋めてあげて。ヘミネちゃんのアナルの方もそろそろ出そ
う? なら次の人準備しておいてね﹂
マダム・オルソーが魚顔を綻ばせて立っていた。
その隣に、木材で作られた背の高い木枠にシュトラとヘミネが吊り
下げられていた。
二人は荒縄で体中を縛り上げられ、首の後ろと両膝から伸びた縄で
頭上の木枠に繋がれ、宙に浮いている。
そして彼女達を前後で挟むようにして、筋骨隆々の男達が膣と肛門
を犯していた。
バチュバチュ︱︱と激しい水音を立たせながら、二人の体は激しく
揺れ、その分荒縄によって締め付けられているのか肌に赤い蚯蚓腫
れの様なものが出来ている。
快楽を挟まない、単なる責め苦。
シュトラとヘミネの顔に浮かんでいるのは涙と鼻水ばかりであった。
﹁今日はマンコとアナルのセットを二百組! 明日は三百っ! 良
い作品を作る為にはまず二人の意識改革からしなくちゃだわ。自分
達は単なる穴ぼこで、開拓団の皆様に犯して頂ける事で存在が許さ
れているのだって事を、しっかり認識してもらわないといけないわ
ね。これはその為の訓練よっ! 頑張って﹂
オルソーは朗らかに笑っている。
﹁ここに集まってくれた有志の皆さんが一緒に特訓してくれるんだ
から、グダグダ文句を言わずに頑張るのよっ! 辛い事や悲しい事
は訓練が終わった後に私が聞いてあげるわ。ヘミネちゃんはいつも
660
やってるけど日記を一緒に付けるのよ。そうやって一日を振り返る
事で、﹃私頑張ったんだなぁ﹄って思えるから、それが明日への活
力になるの!﹂
そう言っている間に、ヘミネの肛門を犯していた男がうめき声をあ
げ、肛内に精液を注ぎ込む。
男が離れ、ポッカリと開いたヘミネの肛門からは、どろっとした白
濁液が零れ落ちてきた。
﹁次っ! あまり間を空けないで。今はただ自分達のマンコとアナ
ルにはチンポが入っている事が普通だと思わせる事が大事なの。そ
うやって公娼としての品質を上げていくのよっ!﹂
オルソーの言葉に慌てた様子で男が動き、ヘミネの肛門へ容赦なく
挿入した。
﹁んぎひぃっ!﹂
前の穴をガンガン責められ、後ろの穴も太い肉棒に貫かれる。
呼吸も上手く出来ず、ただただ涙を流して耐えるしかない。
﹁⋮⋮ひどい⋮⋮酷過ぎる⋮⋮﹂
セナはオルソーを睨みつける。
その視線を感じたのか、オルソーの顔がセナへと向き、両者の視線
が合わさった。
﹁ひ、ひぃぃぃぃ。貴女⋮⋮昨日の乱暴者⋮⋮こ、怖いわっ! え、
衛兵。わ、私を守って! アイツを近寄らせないで﹂
オルソーは大仰に騒いで腰を引き、涙を浮かべて傍にいた兵士の影
へと隠れた。
﹁そ、そいつをどこかへやって! 怖くて怖くて調教が出来ないじ
ゃないっ!﹂
ヒステリックに騒ぐ魚顔の中年女。
セナの隣に立っていた調教師の男が嘆息し、リードを引いた。
﹁だ、そうだ。行くぞ﹂
セナは最後までオルソーを睨みつけながら、首を引く力に従った。
セナが去った後、オルソーは全身を震わせながら兵士の背中から身
661
を出す。
﹁あぁ怖かった⋮⋮私駄目なのよね⋮⋮野蛮な人って⋮⋮アイツ自
分の拳に付いた血を見て笑ってたでしょう⋮⋮それが夢に出て来ち
ゃいそうで⋮⋮あぁ駄目⋮⋮気分を変えましょう﹂
そう言ってオルソーは手を叩く。
﹁お昼ご飯にしましょう。あちらの幕舎に用意が御座いますので皆
さんどうぞ。あぁシュトラちゃんとヘミネちゃんは別よ。ここでチ
ンポをぶち込んだまま食べてもらうからね。だから数人はこっちに
残って下さる? サンドウィッチがあるの。私もここで食べますわ﹂
ゾロゾロと男達が幕舎へと向かい、残った者達はサンドウィッチを
頬張りながらシュトラとヘミネを犯し続ける。
オルソーものんびりとした表情でそれを眺めつつ、サンドウィッチ
を一口。
﹁あら、これ味付けが薄いんじゃなくて? 私的にはもうちょっと
ソースが付いていた方が美味しいと思うのだけれど⋮⋮﹂
しょんぼりした声でオルソーが言い、給仕係が慌てて頭を下げる。
﹁いや、良いのよ。次から気を付けて頂戴ね。あ、それシュトラち
ゃん達の分? 良いわ。私が食べさせてあげる﹂
給仕係が持ってきた二人分の皿を手に取り、オルソーはシュトラ達
へと近づいた。
﹁⋮⋮クスッ。ねぇ貴方、ちょっとどいて下さる?﹂
そう言ってシュトラの膣を犯していた男に声をかける。
男が首を捻りながら肉棒を引き抜き、体を空けると︱︱
﹁えいっ﹂
オルソーは機敏な動きでサンドウィッチの皿をシュトラの股下に宛
がった。
垂れ落ちてくる精液が、サンドウィッチを染め上げる。
﹁さ、味付け完了。これでとっても濃い味になったわよー。はい、
シュトラちゃんあーん。ヘミネちゃんも次食べさせてあげますから
ね。あぁ貴方、休まずにほら、挿入してあげて。食事中もチンポを
662
感じている事が大切なんですからね﹂
シュトラの口に、精液塗れのサンドウィッチが押し込まれていった。
太陽が真上に登り、辺りでは食事を採る光景が目に付いて来たが、
セナは食欲を感じなかった。
腸が煮えくり返る。
そのような光景の連続だったからだ。
そしてそれは、まだ終わりでは無かった。
﹁あぁ、見ろ。今度はラターク様だ﹂
調教師の男が指を差す。
その先には、演壇が設えてあった。
演壇の上に三人の人間が立っていて、それを囲む様にして演壇の周
りを簡素な椅子に腰かけた男達が眺めている。
壇上にいるのは、ユキリスとアミュス。
どちらも猫背の姿勢で固まっていた。
頭には獣を模した飾りの耳が生え、両手の中指に指輪をはめられ、
そこから伸びたチェーンが乳首へと繋がれている。
そして陰部。
陰部は何も身に着けていない代わりに、ペイントが施されていた。
赤と黄色、そして桃色で装飾されたそこには、卑猥な文字が並ぶ。
﹃犯してください何でもしますから﹄﹃一発無料。二発目も無料。
三発目からも無料﹄﹃わたし⋮⋮世界一の公娼になれるかな﹄﹃中
途半端は駄目! 膣内に出して♪﹄
等々、膣口周辺と太ももにかけてそんな文字が並び、
両の尻たぶには大きく、
﹃公 娼﹄
と左右に分けて書かれていた。
﹃公娼﹄の二文字の下には細かい字で彼女達の来歴と昨日測定した
体のデータも載せられている。
663
壇上に立つもう一人は男だった。
やけにクネクネした仕草を見せる、爆発頭の男。
﹁あーんもー! 二人とも動きが硬すぎるわっ! 折角開拓団の皆
さんが待ちわびたニュー公娼のデビューイベントなんですもの! センセーショナルで! アメージングなダンスパフォーマンスで虜
にしちゃわないと!﹂
爆発男の存在にセナが絶句していると、隣で調教師がクックと笑い
ながら声をかけて来る。
﹁あの人はな、ラターク様お抱えのカリスマ振付師だ。ラターク様
は作品の終わりに公娼を踊らせるスタイルをとっている。その方が
記憶に残りやすいからな。公娼のダンスと一緒に自分や撮影に関わ
った人間の名前をテロップで載せる事で、自己アピールにもなるし
な﹂
男の解説に、セナは記憶の底を刺激された。
﹁⋮⋮そう言えば昔、シャロンが撮影の時に踊らされたって⋮⋮﹂
その時のシャロンは心底疲弊し、ステアと共に懸命に慰めた記憶が
ある。
﹁はい! もう一度行くわよ! ワン・ツー・クパァ! もうぅ!
ユキリスちゃんそれじゃ硬いって言ってるでしょう? もっと股
を全力で開いて! お客さんにオマンコの奥の奥まで見せるの! それに二人とも笑顔を忘れてるわよ! ニッコリ笑顔でクパァ! これ基本、ダンスの基本なんだから!﹂
振付師は自分で実演して見せながら、二人に指導する。
二人はぎこちない動きで足を開いたり飛び跳ねたり、両手を大きく
広げチェーンにつられて動く乳房を弾ませたりする。
表情は、懸命に笑って見せようとしているが、拭い様の無い苦しみ
が、それを妨害している。
﹁もうもう! ちゃんとしてくれないと! 本番はバックダンサー
を交えながらファックダンシングよ? ダンス中にもどんどんオチ
ンコが入ってきてお汁をまき散らしながら踊るの! そして最後は
664
観客の皆さんに向けてダーイブッ! 揉みくちゃにレイプされなが
ら笑顔でフェードアウト⋮⋮うーん完璧っ! そうよね、ラターク
ちゃん!﹂
振付師に声を掛けられ、ラタークは苦笑を浮かべる。
﹁おいおい、ここでネタバレはよしてくれよ。まだ脚本は出来上が
っていないんだ。今回は短い試写って事だからダンスに絞るが⋮⋮
細かいところはギリギリまで詰めたい﹂
ラタークは真剣な声で言い、それに向けて振付師は胸を押さえる仕
草を見せる。
﹁やだ⋮⋮キュンって来ちゃった⋮⋮見ててねラタークちゃん! アタシがこの子達を開拓団一のセックスアイドルにして見せるから
!﹂
そう言って振付師はまた声を張り上げ、二人の魔導士に恥辱の振り
付けを施していく。
アナルを見せつける様に、だとか。
股間の文字を撮影係にアピールするのよ、だとか。
はい! ここでお互いの膣内に入ってる精液を交換するの! だと
か。
セナはそっと視線を外し、調教師の肩を叩いた。
﹁あん? なんだ?﹂
﹁⋮⋮お願い⋮⋮次、行かせて﹂
臓腑を焼くゼオムントへの憎しみが増していく。
今のユキリス達の姿をこれ以上見ていると、自分は恐らくこの男を
殺し、振付師を殺し、ラタークを殺すだろう。
そしてその結果、万が一自分が助かって逃げ延びたとしても、シュ
トラやレナイ達の命は無いだろう。
その未来を避ける為に、この場を離れたかった。
セナの尋常ではない怒りの波動に押され、調教師が額に汗を浮かべ
て頷いた。
﹁お、おう⋮⋮﹂
665
そうしてランニングは再開する。
その背後で、
﹁そうそう! 良いわねアミュスちゃんその動きよっ! 忘れない
で、ワンちゃんスタイルでオマンコ開いて自分の指で穿るのっ! 本番で今のが出来たら素敵ね! ユキリスちゃんも後でアミュスち
ゃんにコツを聞いて共有する事っ! 一日のレッスンが終わった後
に復習するのが大事なんだからね!﹂
振付師の野太い声が響いていた。
セナが調教師の天幕へと帰り着いたのは、昼を大きく回った頃だっ
た。
言葉少なに、首輪を外される。
﹁脱げ﹂
調教師は当然の様に言い、セナは睨みつけながら肩から水着を外し
ていく。
締め付けられた苦しみは有ったものの、こうやって全裸に戻る事を
考えると、やはりこの水着でも有ると無いとでは全然違った。
体温の残る水着を調教師へと渡す。
﹁ここで少し待っていろ。棟梁に報告してくる﹂
そう言われ、セナは全裸のまま野外に放置される。
幾人か天幕を行き来し、その都度セナの裸を見ては指を差し笑って
通り過ぎていく。
その恥辱に耐えていると、
視界に見知った姿が飛び込んできた。
その人物は流麗なドレスと鎧を纏い、腰に剣を提げている。
﹁騎士団長⋮⋮っ!﹂
セナは口の中で呟く。
自分をここまで連れてきた人物。
シュトラやユキリス達を地獄へ叩き落とした人物。
666
セリス。
セリスはセナと視線を合わせると、何事も無いかのように無視し、
通り過ぎて行く。
向かった先は調教師の天幕。
彼女が何をしにその中へ入って行ったのか、セナに理由を知る事は
出来ない。
667
ウィークポイント︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
668
ウィークポイント
ゼオムントの支配する人間領と西域を分断する大門。
舞台は三度この地へ返る。
一度目は公娼達の出立。
数百人程度の規模で行われた。
二度目は開拓団の決起。
五万人の開拓民とそれを支える騎士団の行列だった。
そして三度目。
そこには人馬がひしめいていた。
大門の前に立つ門番は息を飲む。
一度目の時にどさくさに紛れてユキリスを犯す事が出来て、彼はこ
の仕事に就いて良かったと心の底から感じていた。
しかし今は、極度の緊張を強いられている。
自分がもし、一つでもミスを犯したら﹃二十万﹄の人間の足が止ま
る。
それも、開拓団の様な浮浪者一歩手前の人間では無い。
正規の軍人であり、完全武装の兵士達。
皆職業意識を持ち、これから役目の為に西域へと向かおうとする者
達。
彼らの先頭には、豪奢なローブを纏った人間が騎乗している。
その人物が口を開いた。
﹁なぁ君⋮⋮そろそろ開門してくれたまえ。何せこの人数だ、門を
抜けるのにだって時間が掛かってしまう。後続の輜重隊の事も考え
ると全員が西域の土を踏むのは明日になるかもしれないなぁ﹂
三十がらみの男。
ゼオムント国民でこの男を知らない者はいない。
ゼオムントの覇道を支え、支配者として公娼制度を作り上げた男。
669
﹁ハッ⋮⋮! 魔導長か⋮⋮いえ、失礼しました元帥殿っ!﹂
門番は慌てて作業に取り掛かる。
その姿を薄目で眺めながら、オビリスは背後に立つ人馬の大軍を感
じる。
﹁ククク⋮⋮二十万だ⋮⋮。なんだこの数字は、王は誠に愚か⋮⋮。
この僕にこれだけの兵を預けるなどと⋮⋮そしてその用向きが⋮⋮
アハハハハハハ﹂
開いていく門を見つめながら、魔導長官改め対西域魔導元帥オビリ
スは大笑する。
﹁公娼の回収と来たものだ⋮⋮﹂
魔導長官時代のオビリスの献策により実行された﹃西域遠征﹄。
発表から開幕当時までは国民は熱狂的にコレを支持したが、いよい
よ公娼が画面越しに死んでいくのを見ていると惜しむ声が上がり始
めたのだ。
反ゼオムント同盟の盟主であったヘスティアが死に、その他名のあ
る公娼も数人西域で無残に躯となった。
国内世論はこの企画に対して懐疑的になっていった。
﹁まぁ元より⋮⋮愚民共に僕の理想がわかるわけが無いがな﹂
オビリスの真の狙いは公娼の反乱を誘発し、その希望をへし折る事
による悲劇の演出だった。
この﹃西域遠征﹄を物語として捉えるならば、オビリスの行った演
出︱︱既に手に入れた﹃アン・ミサの杖﹄を餌に、公娼達に再び戦
う気概を取り戻させる事。
そしてそれを再度制圧し、新鮮な絶望を得る事。
これで良かったはずだった。
けれど、大衆はそれを否定した。
ヘスティアを一度で良いから犯したかった。
シャロンの新作が出ない。
いつものあの店に行ってもユキリスが居ない。
マリューゾワの苦しむ顔を直に見たい。
670
僕達の性奴隷だったハイネア会長を返してください。
等など、不満が噴出したのだ。
画面には映る。
その恥辱も楽しめる。
けれど、その穴と乳は触れない。
そして、死んで戻ってこないかも知れない。
オビリスの演出を理解する者と公娼の命を惜しむ者とで世論は二分
され、民を愛する王は大いに困惑した。
そんな時にもたらされた一つの報告。
公娼による西域最奥への到達。
サバルカンの率いる組がアン・ミサの玉座まで到達したのだ。
魔剣大公マリューゾワと旅路に幸運をもたらす魔女ルル、そしてそ
れを支えた有能な仲間達によって西域は踏破され、オビリスの施し
た虚構の褒美は見抜かれた。
調教師サバルカンは処刑され、その死に際は彼の魔導刻印によって
映像としてこちらに届けられた。
国民も、王も知る事となった。
それはつまり、﹃西域遠征﹄の決着。
終わったのだ。
終わったのならば、後片付けをしなければならない。
玩具は、玩具箱にしまわなければいけない。
公娼は、ゼオムントに戻らなければいけない。
王はオビリスに新たな肩書を用意し、この度の総責任者として片付
けを命じた。
対西域魔導元帥。
軍属の肩書を用意され、闘争する国を失い身を持て余していたゼオ
ムントの精鋭騎士団を授けられて、彼がやるべき事とは。
西域に散った公娼達を一人残らずかき集めて帰参する事。
その為の二十万という途方も無い兵力。
ゼオムント王からの信頼を示す数だ。
671
しかし、オビリスの心には冷めた感想しか浮かんでこない。
﹁所詮この程度か⋮⋮公娼の命を惜しんで⋮⋮回収とはね⋮⋮。も
うこの国に、僕の芸術を理解してくれる王も民も居ないのかも知れ
ないな⋮⋮﹂
彼は﹃西域遠征﹄の立案者であり実行者だ。
この作品を心の底から愛していた。
しかし国民の半数はそれを否定し、王もまたそちらに靡いた。
楽しませようと、楽しんでもらえるようにと全力を尽くしてきた結
果を否定され、彼の気持ちは急激に萎えた。
﹁この国は⋮⋮駄目だな﹂
ボソリと呟く。
﹁僕は、僕の作る作品が評価される地で働きたい⋮⋮。もしそれが
この地上のどこにも無いと言うのならば、僕自身の手で⋮⋮作り上
げるのも悪くは無いな⋮⋮﹂
暗い覚悟を心に浮かべ、オビリスは片手を上げる。
﹁全軍、前進。目標はリトリロイ殿下の開拓地。そこにある砦を接
収する﹂
セナは一刻程天幕の外で待たされた。
全身の肌を晒し、行き交う好色な視線に犯され、また冬の訪れを告
げる寒風も身を苛んだ。
乳首は否応なしに尖り、その周りの柔肉にも鳥肌が浮く。
風は股の間にも容赦なく襲い掛かり、昨日調教師に整えられたばか
りの淡い赤色の陰毛を揺らした。
体の芯まで冷えてきたところで、中から調教師が現れ、寒さに震え
るセナの様子を笑ってから中へと導いた。
天幕の入り口を潜る時に人とすれ違った。
厳しい視線でセナを見つめながら、ひたすら無言で隣を通り過ぎて
行ったのはセリス。
672
髪を靡かせ、風を切って歩き去って行く。
﹁⋮⋮ふんっ﹂
その姿を見送って、セナは鼻を鳴らす。
そこに老いた声がかかる。
﹁⋮⋮待たせたのぅ⋮⋮外は寒かったじゃろう? 何分さっきの﹃
公娼﹄殿との話が長引いてしまってなぁ⋮⋮。こちらには撮影の期
限も有ると言うのに、殿下のお気に入りというだけで⋮⋮まったく
勝手なものじゃ⋮⋮﹂
ゼオムントの調教師界に君臨する男、ゾートの目がこちらに向いて
いた。
天幕内に設置された安楽椅子に座り、頬杖をついていた。
﹁さてさて、それでは始めようか⋮⋮お前の調教を﹂
ゾートは立ち上がり、ゆっくりセナの前へと歩み寄ってきた。
﹁⋮⋮何よ﹂
そして右手を差し出す。
セナはそれを見つめ、眉を曇らせる。
﹁なぁに⋮⋮握手じゃ握手。これからワシとお前は仕事のパートナ
ーになるわけだ。一つ挨拶がてらに握手も一興じゃろうて﹂
その言葉に、
﹁馬鹿にしてんの?﹂
セナは怒りを浮かべ、声を尖らせる。
それに対して、
﹁クククッ⋮⋮そう熱くなるでない⋮⋮。単なる挨拶じゃよ。しか
し気を付けよ、お前の態度次第で、他の公娼の身に不利益がかかる
という事を⋮⋮忘れるでないぞ?﹂
ゾートはしわがれた声で笑い、セナへと突き出した手を振る。
セナは唇を噛みながら、その手を握り返した。
﹁よろしく頼むぞ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
ギュッと握り合った手をゾートは離さない。
673
﹁おいおい⋮⋮こちらが﹃よろしく﹄と言っておるのだ。挨拶はき
ちんと返すべきじゃないのかね? 騎士とはそんなにも教養が無い
生き物だったのかね?﹂
その言葉に、セナは震える声を発した。
﹁⋮⋮よろしく、お願いします⋮⋮﹂
言ったすぐ傍から、ゾートを睨みつける。
その視線と合わせ、老調教師は更に言い募る。
﹁ワシはお前より年長じゃ。仕事のパートナーとして敬意を払うの
なら、頭の一つでも下げたらどうかね? 社会の基本じゃぞ、これ
は﹂
両者の手は、まだ離れない。
セナは全身に怒りを立ち昇らせながら、頭を下げた。
﹁よろしく⋮⋮お願いいたします﹂
ゾートはセナの後頭部に空いた方の手をやり、ゆっくりと撫でなが
ら頷いた。
﹁おうおう。良く出来たな。共に良い作品を作ろうではないか。オ
ルソーにもラタークにも負けない、開拓団全員がお前を犯したくな
るような、素晴らしい映像にしようじゃあないか﹂
握った手を揺らして、ゾートはまるで孫娘に向ける様な蕩けた笑顔
を浮かべた。
﹁さて、では皆の衆も握手じゃ。このゾートの芸術には君達の助力
が必要不可欠。そんな頼もしい諸君も彼女と握手をし、関係を深め
てくれたまえ﹂
そう言ってゾートはセナの手を振り払い、安楽椅子へと戻っていく。
そして、天幕の内側で機材の整備や撮影の準備を始めていた男達が
ぞろぞろとセナの前に行列を作ってきた。
正規の調教師が十五名に、開拓団から召集された調教師見習いが二
十五名。
合計四十人が、セナの調教に携わる。
口々に、
674
﹁よろしくなっ! 良い作品を作ろう﹂
﹁俺は撮影係だ! お前のマンコもケツ穴もばっちり綺麗に映して
やるからなっ、期待してくれよ﹂
﹁ぼ、僕は小道具係です⋮⋮。今回は擬似精液とか無しの全部絞り
たて生汁になりますので、あんまり出番は無いのですけど⋮⋮終盤
エキストラで膣内出し役をもらえたので、その時は僕の生精液を注
いであげますね﹂
﹁衣装と化粧は俺だぜ? ゾート様の元で撮影に関われるなんて⋮
⋮すっげぇラッキーだ! 任せろっ。お前のマンコ周りには染みも
黒ずみも残さねぇ!﹂
﹁一番最初の膣内出し役です。脚本では出会って二秒後には挿入で
十秒後には射精って書いてあるので⋮⋮上手く出来るか緊張します
けど頑張ります!﹂
﹁アシスタントでゴミ拾いとかお掃除なんですけど⋮⋮貴女の体が
空いてる時は親睦を深める為に利用しても良いってゾート様が仰っ
てたので⋮⋮その時は宜しくお願いしますね?﹂
﹁終盤のぶっかけ要員になっちゃんたんですけど、上手く勃起でき
るかわからないので、出番の前に抜き無しでフェラしてもらって良
いですか?﹂
セナの手を握っては挨拶していく。
挨拶をしてくる一人一人に自分は犯されるのだと思うと、寒気がし
てくる。
しかしそれでも、人質が取られている以上、逆らう事は出来ない。
﹁⋮⋮よろしく、お願いします⋮⋮﹂
唇を噛んで、言葉を絞り出して頭を下げる。
ゾートはその様子を笑顔で見つめていた。
全員と挨拶が終了して、いよいよ撮影の準備に取り掛かる。
ゾートが号令を発し、調教師と見習い達は動き出す。
675
撮影や機材の設置と公娼の管理は調教師が担当し、重要な場面以外
のチンポ役は見習い達に任せられる。
調教師達は撮影用の魔法と機材を用意したり、舞台の準備をしたり、
見習い達に向けて脚本の読み聞かせをしている。
一部手の余った見習い達は簡単な物の移送や周囲の掃き掃除等に勤
しんでいる。
セナはその時、一人の調教師によって台の上に足を広げた状態で仰
向けに転ばされていた。
﹁⋮⋮くっ!﹂
調教師は屈み込む様にしてセナの膣口に顔を寄せ、作業の準備に取
り掛かっていた。
﹁クククッ⋮⋮これから何をするかわかるかね?﹂
台の傍に安楽椅子を置いて、その上からゾートが声をかけて来る。
﹁⋮⋮化粧でしょ。⋮⋮アソコの﹂
セナにとって何度も経験がある事だ。
陰部を他人の手で着飾られるという感覚。
公娼として映像作品に出る度に、紅や刷毛を手にした男達がこうや
ってセナの股を割り開いて膣口を弄り回していたのだ。
途轍もなく不愉快で、惨めな思いがする化粧。
調教師の中にはこの役目に特化した者も居り、その腕前次第で作品
の質と評価に影響を与えるほどだった。
公娼オタクと呼ばれる汚らわしい存在の中には、化粧役が誰である
かを調べて購入するかを決める者もいるらしい。
セナの陰唇は金属製の鉗子で割り開かれて空洞を作られ、中が良く
見える様になっていた。
膣肉の内側までを徹底的に化粧する場合に取られる手法で、この調
教師のこだわりを強く感じるものだった。
﹁クククッ⋮⋮違うのぅ⋮⋮。化粧の前に、下ごしらえじゃ。この
者は化粧役では無い。ワシ子飼いの、魔導士じゃよ﹂
﹁魔導士⋮⋮?﹂
676
疑問を抱いたその瞬間。
パチッ︱︱とセナの膣内で何かが爆ぜた。
﹁あひぃぃっ!﹂
一点に集約された快感が襲い、脳へと直接刺激を送り込んできたの
だ。
体は鋭敏に反応し、陰部から少量ではあるが愛液が噴き出して、セ
ナのソコを覗き込んでいた男の顔へと掛かった。
﹁な、何⋮⋮﹂
顔を上げて見ると、魔導士と呼ばれた男の手に、金属製の焼きごて
が握られていた。
男は鉄線を片手に、もう片方に焼きごてを握り、セナの膣内を覗き
込んでいた。
﹁棟梁。﹃弱点﹄はいくつ作りますか?﹂
男がゾートへと声をかける。
﹁膣内に五つ。子宮口付近に二つと入り口側に三つじゃよ。そして
アナルの外側に一つと内側に上下一つずつ。あと両方の乳首にも一
つずつ作っておこうかのう。そしてトドメに舌に三つと頬の内側に
二つじゃ﹂
ゾートはそう答え、男が頷いて作業に戻る。
また一つパチッ︱︱。
﹁んひぃぃぃ!﹂
セナは全身をのけ反らせる。
この感覚には覚えがある。
絶頂を得た時に感じる、意識を白く飛ばす様な快感。
涎と涙を垂らしながら、セナの視線は泳ぎ、ゾートへと向かった。
﹁クククッ⋮⋮どうじゃ。この男は今、お前の膣内に魔術刻印を施
しておる。そこに微弱にでも何か刺激が与えられれば、お前は絶頂
を強制される。指で撫でられても、子供のちゃちな肉棒でも、容易
にイケるようになったのじゃ。クククッ感謝するが良い﹂
そう言ってゾートはセナの頭を撫でる。
677
﹁いや⋮⋮やめろっ。そんなの⋮⋮要らないっ!﹂
誰が相手であってもイキまくり、先ほどの言葉の通りならば︱︱
﹁膣もアナルも乳首も、そして口ですらイケる女になったのじゃ。
嬉しいじゃろう? 無論、肉棒が出し入れされる度﹃弱点﹄を擦り
続けるのならば、お前はその度に絶頂し、絶え間なく愛液を噴き出
すのじゃろうなぁ。そうやって反応を良くしてやると、演出する側
としてはやり易くなるのじゃよ﹂
そうさなぁ︱︱とゾートは続ける。
﹁例えばじゃ。お前は挿入される、するとその時点で入り口の﹃弱
点﹄でイキ、奥まで入って来ると子宮側の﹃弱点﹄でイク。そこで
肉棒が出し入れされ、その度に膣内にある合計五つの﹃弱点﹄でイ
キ狂う。そして膣内に精液が出され、その精液が奥の﹃弱点﹄に当
たるとそれでもイク。更に肉棒が引き抜かれる時に入り口側で擦れ
てまたイキ、膣内からドロドロと出てくる精液に反応してイク。ど
うじゃ? 一度の膣内出しで数え切れん程イケるようになるぞ?﹂
セナは首を振る。
﹁いや⋮⋮いや⋮⋮﹂
ゾートは笑みを深くして言う。
﹁それにじゃ。肛門の内側にも二つ作ると言ったじゃろう? する
とどうじゃ? お前はクソをする度にイキまくり、後処理で尻を拭
く度に外側の﹃弱点﹄でイクのじゃよ。もし万が一お前が子供を作
ったのならば、子供に乳を吸わせる度に乳首でイキ狂うのじゃろう
なぁ﹂
セナの頭を撫でる手は優しい。
﹁口にも作ると言ったじゃろう? お前は物を食う度にイクように
なるんじゃぞ? 舌で味わう度に、頬に溜め込む度に。下の口をビ
ショビショにしなければいかん。無論、食べ物だけじゃないのう。
水であれ酒であれ、口の中に唾液を含んだ瞬間とて、お前はいつで
もイってしまうようになるのじゃ﹂
ゾートの言葉の合間合間に、パチッ︱︱と音が鳴り、セナは体を跳
678
ねさせる。
今魔術師の焼きごては肛門へと移動している。
セナの膣内にはもう、﹃弱点﹄が五つ完成していた。
﹁やめて⋮⋮お願い⋮⋮っ!﹂
セナは全身に汗を浮かべ、ゾートへと懇願する。
﹁クククッ。なぁに心配するでない。この開拓団にいる以上、お前
にパンツを穿く機会など無い。好きな時にイッて股間を濡らして構
わんぞ﹂
老人は柔和な笑みを浮かべ、それを無視した。
パチッ︱︱
﹁いやあああああああああっ!﹂
アナル周辺に﹃弱点﹄を設置し終えて、魔導士が腰を上げる。
焼きごてを握り、胸の上にまで手を伸ばしてきた。
﹁許さない⋮⋮殺し⋮⋮殺してやるっ! お前も、お前もぉっ!﹂
セナは吠え、その気迫に押されて男の体が一歩下がる。
ゾートはそれを見て、嘆息する。
﹁何をしておるか⋮⋮今更公娼如きにビビリおってどうする。こう
やって、黙らせるのじゃよ﹂
ゾートは安楽椅子から立ち上がって、セナの股の間へと移動すると、
無造作に膣内へと手をねじ込んできた。
﹁んぎっひぃぃああああああああ!﹂
手全体を突きこみ、五つの弱点へ向けて器用に老いた五本の指を伸
ばして引っ掻く。
﹁あひっ! ダメッあぎぎぎぎぎぎぎ! んひいいいいいいいい﹂
無表情でセナの膣内を蹂躙しながら、ゾートは魔導士を叱責する。
﹁何をやっておる。さっさとやらんか。今なら丁度口も開いておる。
そっちもやってしまえ﹂
﹁は、はいっ棟梁﹂
ゾートが右手でセナの膣内を掻き回し、左手で肛内を抜き差しして
いる間に、魔導士はせっせとセナの体に﹃弱点﹄の魔術刻印を刻み
679
込み、処置は完了した。
﹁クククッ⋮⋮ここまでみっともない体にしてやれば⋮⋮こやつを
殿下の側室にするなどと言う妄言は吐けまい⋮⋮騎士団長だか何だ
か知らんが⋮⋮これ以上あの忌々しい﹃公娼﹄殿に力を与えるもの
か⋮⋮!﹂
ゾートはセナを見下ろし、暗い笑みを零す。
﹁ひ、えひぃ⋮⋮あ、アタシ⋮⋮体が⋮⋮ああああああ⋮⋮﹂
セナが涙と涎に塗れた顔をクシャクシャにしている時に、大声が上
がった。
﹁棟梁! 準備完了です﹂
作業中だった別の調教師から声がかかり、ゾートは頷いた。
﹁うむ。ではこれより撮影を開始する。皆の者、素晴らしい作品を
仕上げようじゃないか⋮⋮﹂
それから五日間。
セナの体は徹底的にゾート達によって蹂躙された。
撮影初日は大まかな流れを掴む為、という事で棒立ちに近い形で演
技を行い、挿入する役になった男達と体の相性を確かめる為に犯さ
れた。
﹃弱点﹄を施されたセナはどんな些細な性的接触でもイキまくり、
その都度調教師や見習い達から笑い声が上がる終始穏やかな日にな
った。
二日目は昨日の内容を踏まえた微修正。
ゾートの思い描いた内容との差異を削って行く為にセナは幾度とな
く男達と絡ませられ、全身の水分を失うかと思えるほどに股間から
愛液を迸らせた。
三日目は仮撮影。
実際に映像魔術を使用してセナの痴態を収めてみる。
イキ顔を晒す度に撮影役がセナの顔をアップにするので、それを見
680
て笑う人間も多かった。
この日は王宮魔導士と呼ばれていた、かつてセナが大門で会った事
のあるハゲ中年がやって来て、何やらゾートと密談をしていた。
四日目は仕切り直し。
前日の映像を確認したゾートが怒り狂い、全員を集めて反省会を開
き皆に問題点を考えさせ、無記名での発表を行った。
半数以上がセナのイキ顔とイキ声のワンパターンさを指摘し、そこ
を中心とした修正が行われた。
五日目は本撮影。
全員が仕事の完成を待ち侘び、真剣な表情で映像を撮り、化粧を施
し、セナを犯した。
結果満足する内容の物が撮れ、いよいよ明日のコンペに出す作品が
完成した。
夕方からは打ち上げが開催され、全員が代わる代わるセナに精液を
注ぎ込んで明日の必勝を願った。
そうして、
﹁おら、今夜はここで寝ろ﹂
調教師に連れられてやって来たのは、木製の檻。
床を高く作られ、外から見れば座り込んだ陰部と丁度視線の高さが
合う様に調整されている。
﹁あ⋮⋮ぐ⋮⋮﹂
セナは打ち上げで注ぎ込まれた精液をイキ続けながら何とか体外に
排出し、心身共にズタボロになっていた。
放り投げられる様にして檻の中に収まり、一時の休息を得る。
翌朝が来れば、セナは自分を凌辱した作品を笑顔で紹介し、開拓団
に自分の体を担保として一票をお願いしなければいけない。
それがどれだけ精神を蝕む行いか、想像するだけでも心が死んでし
まいそうになる。
加えて体の方でも、無限にイキ続ける﹃弱点﹄により撮影中も休憩
や食事中も休む事無く体力を消耗し、至る所に愛液をこぼし続けた。
681
二日目からは見習いの一人がセナの歩いた後に付いて回って愛液を
拭くだけという仕事を任せられるほどに、零し続けた。
しかしそれでも、
﹁シャス⋮⋮待っててね⋮⋮絶対⋮⋮戻るからね﹂
セナの心は砕けなかった。
主の元へ帰る事だけを願い、恥辱に耐え抜いたのだ。
そのセナに向けて、声がかかる。
﹁セナ⋮⋮﹂
ぼんやりと頭を動かし、声のした方向を見ると、見知った女性が檻
の中で蹲って座っていた。
﹁⋮⋮ユキリス⋮⋮それに、貴女達⋮⋮﹂
檻の中、身を寄せ合うようにして四人の人影が存在していた。
ラタークによってダンス系ハートフルコメディー路線の撮影を受け
ていたユキリスとアミュス。
オルソーの手でハード系凌辱輪姦路線の撮影を受けていたシュトラ
とヘミネ。
明日のコンペに出演する公娼五人が、まとめて檻に放り込まれてい
たのだった。
﹁⋮⋮生きていたのね⋮⋮﹂
アミュスが乾いた声で言った。
﹁調教師の親玉を殴った時には⋮⋮もうダメかと思いましたよ⋮⋮﹂
シュトラが弱い笑顔を向けた。
﹁ぐほっ! えほっ!﹂
ヘミネは咳き込んで、口から何かを零した。
それは白く汚れた、雄の体液。
どれだけの量を注ぎ込まれれば、こうやって胃の中から逆流して吐
き出す事になるのだろうか。
ユキリスも、アミュスも、シュトラも、ヘミネも弱っている。
心が砕けて無くなりそうな程に、弱り切っている。
セナは言葉を紡ぐ。
682
﹁皆⋮⋮諦めないで⋮⋮絶対に⋮⋮生き延びて。何としてもここを
脱出して⋮⋮。シャスラハールの元へ⋮⋮彼の元には、希望が⋮⋮
あるから﹂
そう言ってセナはヘミネの傍に寄り、彼女の背中を優しく撫でる。
﹁けほっ! うぇほっ!﹂
咳と共に吐き出される精液を指で拭い取りながら、アミュスへと視
線を向ける。
﹁信じて⋮⋮﹂
その瞳を受け、アミュスは戸惑った様にして視線を逸らしかけ、ま
た元に戻す。
ゆっくりと、顎が引かれる。
ユキリスとシュトラも、頷き合っている。
檻の中に、セナの運んできたシャスラハールという希望が共有され
た瞬間、
ギィッ︱︱
と入り口が開いた。
そこには、
﹁やっとオラの出番が来ただよぉ⋮⋮。最近は何しても反応が悪い
奴らの相手ばっかりだったから面白くなかっただ⋮⋮。さてさて、
どいつから﹃掃除﹄してやろうかなぁ⋮⋮﹂
バケツを被り、手に便所ブラシと雑巾を握りしめた子供が立ってい
た。
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誰が誰の手を取るか︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
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誰が誰の手を取るか
﹁オビリスが⋮⋮っ!﹂
顔を青褪め、リトリロイは全身に震えを感じる。
調教師団主催のコンペを翌日に控えた夜、彼の手元に届けられた書
状に記された内容は簡潔だった。
﹃西域遠征﹄の終了。
それに伴う開拓団の解散と砦及び戦力の接収。
リトリロイとセリスに関しては王宮に戻る様にとの文面だった。
発行者は新たに元帥号を得たオビリスであり、彼は既に大門を発っ
たと言う。
何故ならば︱︱
﹁どうしてだ? この書状は本来俺に宛てられている物では無いの
か? なぜ⋮⋮なぜ二日も遅れてこの手に届く⋮⋮﹂
リトリロイの握りしめた書状には既に開封された跡が有り、発行さ
れた日付から見ても早馬で届いたと考えるには遅すぎた。
﹁⋮⋮王宮魔導士ゴダン様が⋮⋮お受け取りになり、近習の者に触
れ渡った後に、こちらに届けられたご様子⋮⋮既にオビリス様の軍
勢は大門を発って五日が過ぎ⋮⋮。先行の部隊は明朝には本陣営に
到着する予測であります﹂
書状をリトリロイに手渡した本人である老侍従は苦しげに声を放つ。
﹁ふざけるな⋮⋮! この開拓団の王は俺だぞ⋮⋮! 俺よりも先
になぜあの男が書状を受け取る⋮⋮! この前もだ! この前の公
娼不足の通達にしろ俺より先にゾートの元へと届いていた⋮⋮これ
では⋮⋮﹂
﹃西域遠征﹄の味付けとしてこの地に民を率いてやって来た。
そしてドサクサで国を建て、魔物の統帥権を得て独立する。
当初の予定が脆くも崩れ去っていく。
685
予想よりも大幅に早く、刻限が来てしまったのだ。
リトリロイは頭を抱える。
そこに柔らかな手が乗った。
﹁リト⋮⋮落ち着いて﹂
彼の妻であるセリスが傍に立ち、夫を励ましていた。
﹁セリス⋮⋮しかしっ! ﹃西域遠征﹄が終わって⋮⋮開拓団が建
国を前に解散させられてしまっては⋮⋮。俺は今度こそお前を守っ
てやれないかもしれぬ⋮⋮約束を⋮⋮果たしてやれないかもしれぬ
⋮⋮!﹂
リトリロイは唇を強く噛み、うめき声を放つ。
﹁⋮⋮今考えるべきは、そんな事じゃない。これからどう動くか⋮
⋮それを考えましょう﹂
セリスはリトリロイの顔を上げさせ、真摯な瞳で彼を見つめた。
リーベルラントの軍神の励ましを受けた者は、不思議な勇気を授か
る。
いつの間にか零れ始めていた涙を拭い、建国の王子は居住まいを正
す。
﹁そう⋮⋮だな。狼狽えているだけ時間の無駄かもしれんな⋮⋮。
差し当たって、どう動くのが良いと思う?﹂
その言葉に、セリスは首肯する。
﹁私の考えを言うならば、まずはゴダンから﹃アン・ミサの杖﹄を
奪い取るべき。これが有ればもしここを離れざるを得なくなったと
しても、西域で自由に動く事が出来るわ﹂
リトリロイは頷きを返す。
﹁あぁ、それは大前提だな。それじゃあセリス⋮⋮頼めるか?﹂
夫の頼みに、妻は応じた。
﹁もちろん。ゴダンは執務室を砦の中に用意していたわよね? 今
から行って、頂いてくるわ﹂
腰に提げた長剣に視線を送って、セリスは言った。
﹁あぁ⋮⋮あいつはオビリスの腰巾着だ。今回の開拓団にも協力し
686
た風を装ってはいたが⋮⋮ここに来て正体を現したか﹂
爪を噛みながら王子は言い、視線を落す。
ゴダンは元々オビリスの側近であり、この地にやって来たのも上司
の指示を受けたからに他ならない。
オビリスが開拓団の解散を目論むのなら、ゴダンがそれに協力しな
いわけが無いのだ。
﹁それじゃあ俺は開拓民の代表者に話を付けて来る。これから先オ
ビリスとどう接触するかにもよるが、彼らに俺が主である事を念押
ししておかなければいけないだろう﹂
無頼者の集まりである開拓民の中にも、学の有る者が居ないわけで
は無く、リトリロイはそう言った人間を選んで小さな組の長に任命
し、上層部に意見を言える存在として扱っていた。
建国の礎たる民。
彼らの存在を無視する事は出来ない。
﹁わかったわ。そっちは任せるわね﹂
セリスが頷き、指針は固まった。
﹁では私めは殿下にご同行を⋮⋮﹂
老侍従が口をはさんだ時、
リトリロイは首を振った。
﹁いや⋮⋮爺やは別だ。信頼できる者を集めて置いてくれ。もしか
すると今夜の内にここを出るかもしれない。旅の準備も頼んだぞ﹂
﹁ご命令⋮⋮しかと承りました﹂
長年彼に仕えてきた侍従が礼をするのを見て、彼らは動き出した。
三方向へ向けて。
﹁うーん。いつも同じ二人ばっかりで正直飽きて来ちゃってたんだ
べ⋮⋮こうして知らないお姉さんが三人も居ると、オラもう勃起が
とまらねぇだ⋮⋮﹂
バケツを被った少年が一歩ずつ近づいてくる。
687
﹁ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!﹂
セナの胸にヘミネが抱き着いてくる。
一流の武人である彼女を怯えさせる何かをこの少年は持っていると
いう事か。
﹁あ⋮⋮⋮⋮あぁぁ⋮⋮﹂
先ほど希望を取り戻したはずのアミュスが力無い声で呻き、顔を下
へ向ける。
セナに正確には理解できない事だが、アミュスとヘミネはもう長い
間この開拓団に捕らえられ、果ての無い責め苦を味合わされてきだ。
ゾートやオルソー、そしてラタークなどと言った名のある調教師が
揃い踏みし、性欲を持て余した労働者達がひしめいている。
彼らから与えられる尋常ならざる凌辱に、精神的に弱っている事は
間違いない。
そしてそのトドメとも言える存在。
このどう見ても道化にしか見えない少年によって、彼女達の心は押
し潰されたのだ。
﹁んふふー。新顔のお姉さん達は変わらないだか⋮⋮そう言えばア
ンタさんはゾートの旦那様をぶん殴ったと聞いたぞ⋮⋮おっかねぇ
だわ⋮⋮念の為にオルソー様から預かったこれをしといてもらおう
か﹂
そう言って少年は背負い袋から手錠を五つ取り出し、アミュスへと
放った。
﹁おい、全員の手を背中の後ろに回してくんろ。全員終わったらお
前のはオラがやってやるだ﹂
アミュスはノロノロとした手つきでそれを取り、震える唇を開いた。
﹁ごめん⋮⋮なさい﹂
恐怖に支配された者の表情で、アミュスはユキリスへと歩み寄る。
﹁待って⋮⋮ねぇ⋮⋮アミュス?﹂
同門であり、同じ調教師に今日まで辱められてきたユキリスの顔に
絶望が浮かぶ。
688
それに向けてもう一度謝罪の言葉を口にして、アミュスは手錠をか
けた。
そしてそのまま、シュトラへと向かう。
シュトラはジッとアミュスの目を見つめ、彼女がどうしようもない
絶望の淵に追い込まれている事を察した。
﹁あの少年が⋮⋮貴女に何を⋮⋮﹂
シュトラとアミュスの間に、直接会話を交わした記憶は無い。
それでも同じ公娼として察した物が有った。
あの少年は、途轍もない何かであると。
﹁ごめんなさい⋮⋮﹂
アミュスはシュトラにも手錠をかける。
次に向かってくるのは、セナとヘミネの元。
﹁ちょ、ちょっと待ってよアミュス! どうしてそんな事をするの
? あのガキは一体何なの? 教えなさいよっ!﹂
疲労困憊の体に鞭を打って、セナはアミュスへと食って掛かる。
ヘミネはセナの体を抱え込んだまま、震えている。
﹁ごめんなさい⋮⋮ごめん、なさい⋮⋮テビィ様には⋮⋮逆らえな
い⋮⋮逆らったら⋮⋮あぁぁ⋮⋮﹂
怖れの海に沈みきった声でアミュスが呻き、その声に反応してヘミ
ネが顔を上げる。
﹁ごめん⋮⋮なさい。セナさん⋮⋮﹂
﹁なっ! ヘミネっ! やめっ⋮⋮。アミュスも⋮⋮やめてっ!﹂
そうして、近接格闘の達人であるヘミネの腕によってセナは拘束さ
れ、両手に手錠をかけられた。
﹁アミュ⋮⋮アミュス⋮⋮はい⋮⋮﹂
その後ヘミネは自ら手を背中に回し、アミュスによって手錠をかけ
られる。
テビィと呼ばれた少年はニンマリ顔でそれを見つめ、四人の仲間に
手錠をかけたアミュスへと歩み寄る。
﹁それじゃあ後ろ向け﹂
689
﹁はい⋮⋮﹂
従順に、銀髪の魔導士は少年の指示を受ける。
背後に回された手に、手錠がかけられた。
﹁キヒヒヒヒヒッ! さぁて。朝まではオラの天下だぁ⋮⋮。全員
の口とマンコとケツ穴でたっぷり楽しむだぁ⋮⋮﹂
アミュスとヘミネの心を汚し抜いてバラバラに砕いた悪魔が、便所
ブラシと雑巾を手に、今まさにセナ達へと迫って来ていた。
﹁おうおう⋮⋮良く見れば皆汚ったないなぁ⋮⋮まぁそのお掃除の
為にオラが呼ばれてるんだけどなぁ⋮⋮﹂
先ほどまで打ち上げで延々膣内出し地獄を味わっていたセナは言わ
ずもがな、恥辱のダンスを強いられていたユキリスとアミュスの下
腹部には剥げかけのペイントが残っており、シュトラとヘミネは精
液塗れになるまで犯され続けた事により全身から雄の匂いを発して
いた。
﹁こりゃあ⋮⋮掃除のし甲斐があるだなぁ⋮⋮!﹂
開拓団陣地の中央に聳え立つ城塞。
正式名称はまだ無く、単に﹃砦﹄と呼ばれる建物の入り口にセリス
は立っていた。
﹁門番が⋮⋮居ない﹂
二人体制で見張る様にと通達していたはずなのに、一人の姿すら見
えない。
﹁思っていた以上に⋮⋮騎士団と調教師団は敵だったという事ね⋮
⋮﹂
開拓団その物はリトリロイが結成したとは言え、それの護衛役であ
る騎士団と﹃西域遠征﹄の補助に付いて来た調教師団は所詮ゼオム
ントからの借り物。
現場の指揮官であるリトリロイよりも本国及びオビリスに靡くのは
必然だった。
690
セリスは一つ息を吐いてから、砦へと侵入していく。
外装を残して九割方完成している砦の中には燭台も設置されていた
が、無人に近い現状では火は灯されていない。
構造としては四階建ての単純な作りである。
セリスは通路を行き、二階へと続く階段を登った。
無音の中を、騎士の迷いない足音だけが切り裂いていく。
二階へたどり着き、長く幅の広い廊下に立った時に初めて、自分以
外の気配を感じた。
セリスは鋭い視線を投げかける。
その先に、禿頭の魔導士が立っていた。
﹁これはこれは⋮⋮セリス様。夜分にこのような場所へ如何なる用
向きで?﹂
ゴダンは芝居がかった仕草で礼をとり、頭を下げる。
﹁⋮⋮王宮魔導士殿。貴方に頼みがあるのです。そこを動かないで
頂きたい﹂
セリスは返礼せずに、大股で一歩近づいて行く。
それを見て、ゴダンは卑屈な笑いを浮かべた。
﹁何やら私めが粗相を致しましたかな? リーベルラントの軍神殿
の怒りを買ってしまっては、この無能の身では命が持ちますまい﹂
そう言って、懐に手を伸ばした。
﹁⋮⋮⋮⋮セリス様。慣れぬ土地での暮らしにお疲れでしょう。リ
トリロイ殿下共々、王宮に戻られては如何でしょう。後の些事は私
共にお任せください﹂
﹁それは無理な話ですね。私は夫と共にこの地に国を建てる為にや
って来ました。民を残して去るわけには参りません﹂
セリスの返答に、ゴダンはいよいよ頭を揺らして笑う。
場にそぐわぬ笑い声と、緊迫した空気の中、魔導士の瞳は怪しく輝
いた。
﹁夫⋮⋮そうですなぁ⋮⋮ご結婚されるのならば、早い内が宜しい
かと。貴女様は来年からお忙しくなられますので﹂
691
一年前にシャスラハールの姉アリスレインを主役に据えて開催され
たバンデニロウムの大祭。
ゼオムントが誇る技術を結集させて行われた、調教師達の技能天覧
試合。
今年は﹃西域遠征﹄により中止になったが、本国では大祭を望む声
も多く上がっているらしく、来年開かれるのは間違いないだろう。
前回覇者であるゾート、主催者である国王、そして公娼制度の責任
者であるオビリスの署名により、次回の主役はすでに内定していた。
﹁バンデニロウムでの艶姿、このゴダン今か今かと⋮⋮楽しみにし
ておりますので﹂
ゴダンの発言は、セリスが本国に戻ってリトリロイと結婚したとし
ても、運命からは逃れられぬと語っていた。
元より身内に厳しい反面で民に無上の愛を注ぐ王と、公娼でありな
がら特権を得ているセリスを汚したい調教師達の思惑が一致した形
だ。
アリスレインは死後も、亡骸を加工されヤれる肉人形としてバンデ
ニロウムに繋がれている。
セリスもまた、公娼として同じ定めを辿る。
生前は泣き叫ぶ玩具にされ、死後は物言わぬ肉便器にされる。
この瞬間に、リトリロイとセリスの建国は、ゼオムントから完全に
切り捨てられた。
﹁フッ!﹂
短く息を吐き、速度を上げてゴダンに迫るセリス。
﹁疾く参れっ!﹂
ゴダンは引き抜いた﹃アン・ミサの杖﹄を輝かせる。
その光に応じる様にして、辺りに異質な気配が生まれた。
廊下に続いた扉を開いて人影が現れる。
セリスは視線をゴダンから外さぬまま長剣を振り抜き、切り捨てた。
﹁この感触は⋮⋮﹂
違和感。
692
幾度となく人の体を切り裂いた経験のある彼女からして感じる、微
妙な差異。
﹃裂く﹄ではなく﹃崩す﹄と言うべき感触。
﹁フフフッ。貴女と殿下が真っ昼間からダラダラと幕舎で盛ってい
る間に、この砦の作業監督をしていたのは私でしてねぇ⋮⋮。杖を
使って呼び寄せた魔物を、丁寧に丁寧に労働者に見つからぬ様に内
部に仕込んでおいたのですよぉ⋮⋮運悪く見つけてしまった開拓民
さんには、こうしてアンデット族の仲間入りをしてもらったんです
けどねぇ⋮⋮!﹂
ゴダンが呼び寄せたのは、死肉を纏ったかつて人間だった魔物。
アンデット。
姿形は人間そのものであり、多少血色が悪い程度にしか外見上の違
いは無い。
死人形達は壁を成すかのようにして、ゴダンとセリスの間に割り込
んできた。
﹁私と殿下の砦に⋮⋮良くもまぁ趣味の悪い事を⋮⋮! 私達が幕
舎で開拓団の為の規則や名簿を作っている間に⋮⋮お前は私達の大
事な民を魔物に変えていたのかっ!﹂
セリスの瞳に激情が浮かぶ。
﹁それはまぁ⋮⋮ねぇ。騒ぎになると困りますし。以前にアミュス
嬢達がこちらに魔物を率いてやって来られてから彼らは人ならざる
者に敏感になってしまわれて⋮⋮。騒がれると作業の効率も落ちて
しまいます。大丈夫です。このアンデットさん達はちゃんと夜逃げ
という事で処理しておきましたから﹂
飄々としたゴダンの声。
セリスは魔導士に向けて長剣を突き付けた。
﹁遠慮は無用の様だな。私の貯め込んできたゼオムントへの怒り。
その一片を貴様の体に刻み込んでやろうっ!﹂
駆ける。
立ち塞がるアンデット達を切り砕きながら、一瞬も止まらずに突き
693
進む。
﹁ひっ⋮⋮くわばらくわばら⋮⋮ここで足止めしておきなさい。ど
うせもう死んでいるのですから、軍神相手でも怖くは無いでしょう﹂
ゴダンは杖を操って死人達にそう命じ、三階へと続く階段を登って
行った。
﹁⋮⋮クッ!﹂
唇を噛みしめてから、セリスは更なる一撃を死人の壁へと叩き込ん
だ。
﹁リ、リトリロイ殿下⋮⋮この様な場所にわざわざ御出で頂けると
は⋮⋮﹂
開拓地東側の開拓民集落、そこの中央に設置されている寄合所に身
を入れながら、リトリロイはしわがれた声を聞いた。
﹁よぅ、長老。他の組長達も楽にしてくれ。今宵は話があって来た﹂
事態は切迫している。
しかし、民に向けて余裕の無い顔を向けてはいけない。
為政者として、有るべき姿を保つ。
車座に座り寄合を持っていた男達の輪に加わり、出された粗茶を口
にする。
﹁⋮⋮近い内⋮⋮と言ってももしかしたら明朝の事かもしれんが、
ゼオムントの正規兵がやってくる﹂
﹁えっ?﹂
リトリロイの切り出した話題に、代表者たちは息を飲んだ。
﹁せ、正規兵⋮⋮一体何をしに⋮⋮今更我らを支援する為ではない
のでしょう?﹂
彼らはゼオムントに見捨てられた者達。
リトリロイの手によって束ねられ、新たな生活を目指してこの未知
の大地へとやって来ていた。
彼らは本質的にゼオムントを信頼していない。
694
自業自得で身を滅ぼした者もいるが、多くはゼオムントの侵略や税
制度の犠牲になって居場所を失った者達だ。
それ故に、正規兵と言う公的な存在に対して恐怖とない交ぜになっ
た嫌悪を抱いている。
﹁心配するな⋮⋮。お前達は俺の民だ。悪い様にはさせない。向こ
うの代表者とまずは俺が話し合って、お前達の生活を保障させる。
だから⋮⋮不安に思うかもしれないが、冷静であってくれ﹂
湯呑を置き、真剣な瞳で一人一人を見つめる。
﹁これから各自、持ち回りの組の大人達にその話をしてやってくれ。
心構えをしておけば、いざ兵隊達がやって来ても怯えなくて済むだ
ろう﹂
五万人の開拓民に対し、オビリスが率いて来る兵力は二十万。
彼らの目標が公娼の回収である以上、この開拓民達を直接どうこう
するわけでは無いだろうが、兵より民が少ないのだ。
ただでさえ力関係が均衡していない両者が、数の上でも劣るとなれ
ば、民側に動揺が生まれる事は間違いないだろう。
﹁⋮⋮はい、殿下。おい、お前らさっさと行け、行かねえかっ! 大人達に伝達して、ガキ共は寝かしつけさせろっ!﹂
長老が声を張り上げ、組長達は次々に寄合所を出ていく。
リトリロイは一度置いた湯呑を再び手に取り、濁った水の様な中身
を啜った。
その時、
﹁あれは⋮⋮なんだよ⋮⋮﹂
﹁アイツ⋮⋮アイツ見覚えがあるぞ!﹂
﹁間違いない。俺の組で三日前に居なくなった奴だ⋮⋮。明るくて
⋮⋮これからの暮らしを楽しみにしてたのに、急に居なくなって⋮
⋮兵隊さんに言ったけど﹃夜逃げだ﹄って相手にしてくれなくて⋮
⋮﹂
寄合所の外で、今し方出て行った組長達の声が聞こえる。
﹁なんだ⋮⋮?﹂
695
リトリロイは湯呑を手にしたまま、そっと顔をのぞかせる。
そこには︱︱
﹃ハッ!﹄
セリスがボロを纏った男に向けて剣を振り下ろす光景が広がってい
た。
﹁あぁぁっ! どうして⋮⋮何でお妃さまがアイツを殺すんだよっ
! 俺達を⋮⋮開拓団を守ってくれるんじゃなかったのかよっ!﹂
夜の闇を切り裂いて、ゴダンの誇る大規模投影魔術が開拓団全体へ
向けて発信されていた。
﹁⋮⋮チィッ!﹂
これがゴダンの魔法であるという事、そしてセリスがゴダンから杖
を奪いに行っている事。
この二つの事情を知っているリトリロイには大まかにだがわかる事
が有った。
これは罠だ。
ゴダンが用意した、セリスを、そしてリトリロイを嵌める罠。
﹁殿下⋮⋮これはいったい⋮⋮﹂
リトリロイの背後から映像を見た長老が、能面の様な顔で問いかけ
てきた。
﹁フククク⋮⋮私の投影魔法⋮⋮これは実に便利でしてねぇ⋮⋮。
過去の事象を再生させる事も出来れば、今起きている事を拡大して
映し出す事も出来ます。そしてそして⋮⋮﹃編集﹄する事も出来る
のですよ﹂
ゴダンは執務室前の廊下にまで追い込まれていた。
セリスは腐臭のする肉と血がこびり付いた剣を振り払い、一歩ずつ
近づいて行く。
﹁例えばぁ? 貴女の声だけをカァァット! する事ができたりぃ
? 繰り返し同じ場面を映す事ができたりぃ? 過去の映像を一部
696
繋ぎ合わせて細工する事ができたりするんですよねぇ﹂
迫り来るセリスに向けて、余裕の笑みを浮かべたゴダン。
﹁何を言っているのかわかりません。貴様が邪悪な存在だという事
だけわかればそれで充分です。その手に握る杖さえ手に入れば、貴
様に生きている価値など無いという事だけはわかっています﹂
セリスの歩みは止まらない。
アンデットは悉く滅した。
もはやセリスとゴダンを阻むものなど存在しない。
かに思えた。
﹁愚かなっ! 陣中に貴女の様な不穏な虎を飼っていると言うのに
まさかアンデットだけが守役だとでも? 油断を召されましたな軍
神殿っ! いけっ! そいつを叩き潰せっ!﹂
ゴダンは﹃アン・ミサの杖﹄を振るう。
その瞬間に、セリスは一歩跳んだ。
下がったのだ。
襲い来る衝撃から逃れる為に。
少し前までセリスが立っていた場所には、鋼の斧がめり込んでいた。
それを握るのは、筋骨隆々とした腕。
鋼鉄の肉鎧で全身を覆った、牛鬼族がそこに立っていた。
﹁貴女を相手に一匹じゃ不安ですからねぇ⋮⋮お仲間も呼んでおき
ますよ﹂
杖が光り、その光に吸い寄せられるかのようにして新たに四体の牛
鬼が出現した。
セリスの前方に三体、後方に二体。
﹁大丈夫です⋮⋮手足を失おうとも、ここの調教師団は上手にくっ
付けてくれますとも。そしてその後は念願の公娼の仲間入りですよ。
セリス様﹂
ゴダンが指揮棒の様に杖を振るい、牛鬼を嗾ける。
﹁フゥッ⋮⋮﹂
全身から緊張を抜く様にして息を吐き、セリスは長剣を構えた。
697
﹁足りませんね。全然﹂
一刀の下、牛鬼を屠った。
それは目で捉えきれない程の斬撃であり、死んだ者も、見ていた者
も、結果が生じてからようやく変化に気づけた。
﹁この程度⋮⋮後四回剣を振れば貴方に届きますよ。今の内に遺言
でも壁に刻んで置いたらどうですか?﹂
牛鬼達は狼狽え、見守っていたゴダンも呆然とする。
しかし魔導士はかぶりを振り、意識を整える。
﹁いやはや⋮⋮どうにも甘かったようですなぁ⋮⋮それでは、第三
の手に移りましょう。あぁ牛さん達、せめて四回分だけでも時間稼
ぎをしておいてください﹂
そう言って、ゴダンは杖では無く自分の手の平に光を集める。
﹁もう既に大型魔法を使っているのでしんどいのですが⋮⋮仕方が
ありませんねぇ⋮⋮。そぉら!﹂
ゴダンの手の平から生み出されたのは、映像魔術。
遠くを映し、こちらに見せつける魔法。
映っているのは︱︱
﹁セナっ!﹂
セリスは思わず叫んだ。
一度は自分の手で下したが、リトリロイに懇願し、側室としてその
身分を保証して自分の傍に置き、リーベルラント再興の手伝いを願
おうと思っていたかつての同僚。
闇雲に動き回っている様にしか見えない彼女に現実的な道を示し、
その後ステアやシャロンを仲間にしようと考えていた。
その彼女が︱︱
﹁いけないっ!﹂
﹁グヒヒヒヒッ! おらぁっ! おらっ!﹂
少年の粗末な肉棒が膣口を抉る。
698
その衝撃だけで、セナは全身を痙攣させた。
﹁あひぃえ! ひぐぅぅぅぅぅぅぅ﹂
﹃弱点﹄の刻印魔術。
セナは膣内にどれだけ小さな衝撃でも触れただけで絶頂に達してし
まう刻印を五つ施されている。
それはテビィの下劣で皮が被ったままのチンポでも容赦なくイッて
しまうほどに。
涙と鼻水と涎を垂らし、ズチュズチュとチンポが行き来する度に愛
液を迸らせているセナ。
その隣では、
﹁ゴリゴリ⋮⋮回さないで⋮⋮抉れる⋮⋮抉れるぅ!﹂
ユキリスの膣に便所ブラシがブチ込まれていた。
テビィは右手でそれを力一杯捻じり回している。
空いた左手は、シュトラへと延びている。
﹁汚いっ! そんなっ⋮⋮病気に⋮⋮病気になっちゃう!﹂
左手が握りしめているのは丸めた雑巾。
ここに来る前、本来の役目であるトイレ掃除をしてきた際に床を磨
き、便器を磨いて来たそれを、洗わずに丸めてシュトラの膣へと突
っ込んでいるのだ。
尻を並べてバックから犯されている三人。
テビィは腰と手を休めない。
そのテビィの足はアミュスとヘミネの頭を踏んでいた。
二人の体は既に散々少年によって犯しつくされている。
故に、少年はこの二人に対してそこまで興味を抱かなかった。
その結果が、土台。
土下座の姿勢で深く垂れた頭を踏みつけにされ、少年の足場となっ
ている。
﹁あああああー! 楽しいぃぃぃぃ。朝まで代わりばんこに犯して
やるからねぇぇぇ。気が向いたら土台のお前らのマンコも使ってや
るから有り難く思うだよおおおお﹂
699
テビィは笑いながらふと前を見る。
そこに人影が有った。
﹁えぇ? オラ今お楽しみ中だよ! 開拓団の人は明日のコンペ終
了後夕方から一般開放だからその時まで待っててくんろ﹂
人影が近づいてくる。
一人では無い。
少なく見積もって、二十人。
そろりそろりと近づいてくる。
﹁いやっ! だからね? 今はダメで⋮⋮うああああああああ﹂
少年は驚きの声を上げる。
心の動揺がチンポにまで届き、セナの膣内にピュルル︱︱と精液が
放出された。
﹁んひぅ!﹂
精液が刻印に当たった衝撃でイキながら、セナは前を向く。
そこに立っていたのは、意思の籠らない瞳でこちらを見つめて来る、
腐臭を放つ人の群だった。
﹁ウガアアアアアアアアアアッ!﹂
悪臭をまき散らしながら男達の手が檻へと触れ、がむしゃらに揺ら
してくる。
﹁うわっ! うわあああああ﹂
テビィは腰を引き、アミュスとヘミネの頭から転げ落ちる。
﹁あひぃぃぃぃ﹂
セナは肉棒が引き抜かれた衝撃でまたイキ、
﹁取って! これぇぇぇぇ﹂
﹁いやだ⋮⋮取れろぉ、取れてぇぇぇ﹂
ユキリスとシュトラは膣に刺さったままの便所ブラシと雑巾を振り
落とそうとするが、奥まで入り切っている為に落ちて来ない。
無論、手錠で腕を拘束されてる以上自力で外す事も出来ないのだ。
そうこうしている内に、ガキッ︱︱と檻の一部が外れた。
外した男の手は見事に折れ、暗い色をした肉が捻じれている。
700
﹁え⋮⋮こいつら⋮⋮死んでる⋮⋮もしかして、アンデット?﹂
魔導士であるアミュスには一目でわかった。
迫り来る男達は人間では無く、魔物であるという事が。
アンデット達は空いた隙間から次々と檻の中に入って来て、一番近
くに居たヘミネの体を捕まえる。
﹁い、いやっ! 冷たいっ! 離して⋮⋮いやあああああああ﹂
ズニュリ︱︱
と人ならざる者の肉棒がヘミネの膣を穿ち、犯し始める。
次々に尻の穴を、口をと埋めていく。
﹁ひ、ひいいいいいいい﹂
アミュスが拘束され、ヘミネ同様に三つの穴に体温を失った肉棒を
捻じ込まれる。
そして、アンデット達は尻を並べている三人にも迫ってきた。
﹁あああああぅ! だめ、触らないでええええええ﹂
圧し掛かる様にしてユキリスの尻穴にチンポをぶち込み、人間に備
わる力の制御、それを失った手で便所ブラシをかき回す。
﹁あ、ああああああっ! 寄るなっ! こないでえええええんぶえ
っ﹂
シュトラは引き抜かれた雑巾を口に捻じ込まれて、空いた穴に腐っ
たチンポを押し込められた。
﹁来るなぁぁぁぁ、こっちに来るなあああああああ!﹂
抵抗を試みたセナだが、両手を封じられている以上は体当たり程度
の事しかできず、すぐに捕まってしまう。
﹁ぁひんっ!﹂
捕まえられる際に強い力で乳房を握られ、そこに施された魔術刻印
によりイキ、股間から盛大に愛液を噴き出した。
﹁や、やめへぇぇ⋮⋮﹂
容赦なく押し倒され、膣と肛門、そして馬乗りになって口を犯され
る。
各所の施された刻印魔術が効果を発揮し、セナは一瞬の内に何度も
701
意識が爆ぜるのを感じた。
﹁ひぃぃぃぃお化けさんだぁぁっぁ。ナンマンダブナンマンダブゥ。
そ、そいつら好きにしていいのでオラは助けてくんろぉぉぉぉ﹂
必死に両手を擦り合わせていたテビィにアンデットが一人歩み寄り、
コツン︱︱とバケツ頭を叩いた。
﹁ぐひっ⋮⋮﹂
テビィはその一撃で気絶した。
興味を失った様子でアンデットは引き返し、凌辱の輪に加わってい
く。
﹁良いですかああああああ? 私にそれ以上近づくと、アンデット
達に命令しちゃいますよぉぉぉ。首を絞めろと。さぁ! その剣を
捨てなさいっ!﹂
セリスは牛鬼に囲まれた状態で油断なく殺気を放っている。
魔物と言えど生命の危機はわかるらしく、牛鬼達は近づいてこない。
﹁⋮⋮リーベルラントの為に⋮⋮私は全てを捨てると決めた⋮⋮っ
!﹂
それでも、脳裏に浮かんでくるセナの姿。
新兵として入団してきた彼女を迎えた叙任式の事。
初陣で生き残り、しかし代わりに彼女の補佐を務めた先輩騎士が死
に、泣いていた彼女を励ました事。
ステアやシャロン達と共に風呂場で語り合った事。
ゼオムントの宣戦布告に対して、騎士団本営にて必勝を祈願した日
の事。
セリスにとって、セナは無視できる人間では無い。
これまで他の公娼が苦しんでいく姿に心を殺して耐えてきたけれど
も、今回ばかりは重みが違う。
けれども、セリスは道を違えない。
信念を揺るがせない。
702
﹁やってみなさい⋮⋮その瞬間、お前の首が飛ぶわっ!﹂
長剣で牛鬼を切り伏せながら、セリスは前進した。
両目に浮かぶ涙も、唇の端から零れる血も拭わない。
更にもう一体の牛鬼を切り伏せ、背後から迫ってきた二体も両断す
る。
セリスは、止まらない。
﹁く、くぅぅぅぅぅぅ! 後悔すると良いっ! 貴女の夢物語のせ
いで! かつての仲間が死んでいく姿をご覧なさああああああい!﹂
ゴダンが杖に魔力を込めようとしたその瞬間、
﹁くはっ! セリスっ!﹂
息を切らしながらリトリロイが廊下に飛び込んできた。
﹁リトッ?﹂
セリスが思わず背後を振り返り、隙が生じた事を魔導士は見逃さな
かった。
﹁今ですっ!﹂
ゴダンは杖を光らせ、すぐ隣にあった窓に全身でぶつかった。
砕け散るガラス。
そして落ちていくゴダン。
﹁なっ!﹂
セリスは驚愕に目を見開いた。
そこに、新たな影が飛び出してきた。
怪鳥型の魔物。
その脚に抓まれたゴダンが窓の外で不敵に笑っている。
﹁さようなら! 反逆の王子とそのお妃よ。ゼオムントに楯突いた
事を、その体で後悔する日が近く訪れるでしょう。特にセリス様、
貴女が公娼としてこちらの手に戻られた暁には、このゴダンが誠心
誠意お相手を務めさせていただきます故、どうぞお楽しみに﹂
怪鳥が飛び去っていく。
セリスとリトリロイは歯噛みしてそれを眺める。
﹁ッ! ゴメン⋮⋮リト。杖は奪えなかった⋮⋮﹂
703
血の滴る唇から、セリスは苦しげに声を出す。
﹁⋮⋮わかった。それよりもだ⋮⋮ゴダンの奴の罠に嵌った⋮⋮!
開拓民は⋮⋮俺達の敵になった⋮⋮﹂
リトリロイが口にした言葉を、セリスは驚きの表情で迎えた。
﹁ゴダンの投影魔術だ⋮⋮。開拓地全体に、お前が行方不明になっ
ていた開拓民を﹃楽しそうに笑いながら﹄斬る映像を流された﹂
その言葉に、セリスは首を強く振る。
﹁わ、私! そんな風に斬ってない! 謝りながら⋮⋮せめて一瞬
でと思って斬った⋮⋮﹂
﹁わかっている! ここに来て確信したよ。お前に斬られた奴らは
元から死体だ。アンデットって奴だろ⋮⋮死んでからすぐにしちゃ、
かなり肉がグズグズだった⋮⋮﹂
リトリロイは寄合所から急いで砦に向かい、その道中に転がってい
た死体を見て、映像が仕組まれたものだという考えを固めた。
﹁アイツ⋮⋮そう言えば投影魔術は色々編集できるって言ってた⋮
⋮楽しげに笑ってっていうのは⋮⋮﹂
セリスは言葉を詰まらせる。
それに向けて、リトリロイは沈痛な表情で頷いた。
﹁あぁ⋮⋮あの笑顔は⋮⋮お前がいつも俺に向けてくれる⋮⋮優し
い笑顔だったよ⋮⋮﹂
リトリロイとセリスの日常風景を記録に撮り、その笑顔を切り取っ
てアンデットを殺すセリスへと貼り付け、セリスの謝罪の声を消去
して開拓団に向けて発信したのだ。
二人は負けた。
ゴダンと言うペテン師に敗れたのだ。
﹁⋮⋮次、次を考えよう⋮⋮。爺やが人と物を集めてくれてるはず
だ。そこに合流して一先ず逃げよう。このまま開拓団に残っていた
らオビリスに何をされるかわからん﹂
リトリロイが言い、
﹁そ、そうだ! セナ達を⋮⋮! さっきゴダンが出した魔法の光
704
は怪鳥を呼ぶものだったはず⋮⋮それならまだセナ達は生きてる可
能性が⋮⋮!﹂
セリスは走り出した。
﹁お、おい!﹂
﹁私は調教師本営近くの公娼檻に向かう! そっちの準備が出来た
らそこで合流しましょう!﹂
血走った瞳で、セリスは砦の廊下を駆け抜けていった。
﹁んっぎひいぃぃぃぃぃぃ﹂
セナは何回目か、何百回目かわからない絶頂に全身を震えさせる。
アンデット達の氷の様な精液を膣内に注ぎ込まれ、ジュポジュポと
かき回される度に快感が脳を突き刺すのだ。
隣ではユキリスもシュトラも、アミュスもヘミネも滅茶苦茶に犯さ
れている。
温もりの無い腐った死体に抱かれている。
両腕を手錠で縛られているので抵抗が出来ない。
理性を失い力の制御を無くしたアンデットの腰の動きには容赦がな
い。
抉り、貫いてくるチンポの一撃ごとに悲鳴を上げる。
何が起こっているのか理解できない。
急に現れた便所掃除の少年に犯され、これまた急に現れたアンデッ
トに犯される。
それに今の自分はどんなチンポにだって屈してしまう恐ろしく﹃弱
点﹄だらけの体だ。
意識が、遠のいていく。
﹁ご、め⋮⋮ん、⋮⋮シャ⋮⋮⋮⋮ス﹂
最後に一言、主へと謝りの言葉を紡ごうとした。
その時、
﹁ハァァァァァ!﹂
705
鋭い風が舞った。
剣風。
セナ達に組みついていたアンデットの集団を一撃で蹴散らす技。
もう殆ど働かない頭で、視線を上げる。
そこに、セナの見知った人間が立っていた。
﹁⋮⋮きし⋮⋮だんちょ⋮⋮﹂
両目から涙を流し、長剣を握る手を震わせている女性。
セナがかつて憧れ、尊敬を抱いた人物。
﹁セリ⋮⋮ス⋮⋮様﹂
少しだけ、意図せぬ内に頬が緩んだのかもしれない。
笑みに近い表情を浮かべたのかもしれない。
そのセナの顔を見て、
セリスは長剣を取り落した。
﹁ごめ⋮⋮ん、なさいっ! 私は⋮⋮貴女を救う資格なんて無いの
に⋮⋮それでも⋮⋮私は⋮⋮!﹂
両手で頭を抱え、セリスは慟哭した。
彼女の中でせめぎ合う何かに押し潰される様にして、膝を屈した。
その時、彼女の後方からぞろぞろと人がやって来た。
数は二十人ほど、全員が徒歩だ。
﹁セリス⋮⋮! どうした? 何が有った?﹂
一度だけ見た事のあるゼオムントの王子がセリスに歩み寄り、その
肩を抱いた。
﹁⋮⋮何でもない⋮⋮私は⋮⋮大丈夫﹂
セリスは顔を上げ、ゆっくりと首を振った。
﹁そうか⋮⋮なら良い。すぐに発つぞ! 馬舎の方にゴダンの手が
伸びていたらしい、爺や達の言葉では馬を渡してもらえなかったと
⋮⋮! 徒歩になる。出来るだけ移動しておこうっ!﹂
青年は立ち上がり、連れてきた二十人強の人間へと振り返る。
﹁出発だっ! 急げっ!﹂
全員が動き出す時、セリスは顔を上げた。
706
﹁リト⋮⋮お願い⋮⋮ここにいる人達⋮⋮一緒に連れて行って⋮⋮﹂
泣きはらした目で、訴えた。
リトと呼ばれた青年はセナへと目を向ける。
そして、黙って頷いた。
すぐに振り返り、
﹁檻の中にいる生きた人間は連れて行く! 何人かこっちへ来てく
れ﹂
その言葉に従って、数人が檻へと近づき、意識を手放しぐったりと
したセナ達を背負っていく。
﹁⋮⋮おっと、コイツも生きてるな﹂
最後に入って来た男が檻の隅で気絶していたテビィに気が付き、脇
に抱えて出てくる。
﹁それじゃあ⋮⋮出発だ。しばらくは当ての無い旅になるが⋮⋮皆、
頼むぞ⋮⋮!﹂
リトリロイは未だに涙を流し続けるセリスの肩を抱きながら、歩き
始めた。
彼に付いて来る人間は大門を発つ時には五万人以上いたが、この夜、
歩みを共にしたのは二十数名の家臣と五人の公娼、そして道化の少
年だけだった。
707
誰が誰の手を取るか︵後書き︶
次回から視点はシャスラハールへと戻ります。
708
ハルビヤニ様︵前書き︶
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709
ハルビヤニ様
無明の闇が広がる空間。
この空間の主である魔天使ラグラジルは見下ろしている。
七つの人影を。
﹁いやははは、お手数かけますねー。マリスはこのくらいへっちゃ
らなんですけども、あぁでも服がいよいよ無くなっちゃったのは困
りますねぇ﹂
﹁よい。そら、そっちの腕も見せよ。⋮⋮結構深い傷ではないか⋮
⋮リセ、何か布は無いか?﹂
両脚を投げ出して座り込んでいるマリスに寄り添って、ハイネアが
治療術を施している。
マリスは先の戦闘の前にモグラ型とも戦ってきた結果、股間を覆う
パンツ以外の衣服を全てボロ布へと切り刻まれてしまっている。
﹁あ⋮⋮でしたらこれを﹂
ハイネアの傍で治療の補助をしていたリセが、自らの従者服の一部
を切り取り、当て布を用意する。
リセの従者服もまた、戦場で飛び跳ねる彼女を捕まえようとした兵
士にスカート部分を引き千切られてしまい、上半身は比較的無傷だ
が、下は白く扇情的な布きれ一枚になっている。
﹁細かな傷は治してやれるが⋮⋮深手になってくると自然の治癒力
にも頼らざるを得んな⋮⋮﹂
そう呟くハイネアはこれまで身に纏っていた丈の短いドレスを着て
いない。
マリスの前にリセとシャロンの治療を行い、その時に引き裂いて当
て布として使用してしまっている。
上半身に透けたキャミソールを纏い、下はこれまた一枚の薄布のみ。
数百人規模の完全装備の騎士団と戦って衣服だけを犠牲に生きぬい
710
ている事に関しては、ラグラジルも素直に認めている。
視線を別方向へ向ける。
そこには完全に全裸になってしまっているシャロンと、あちこちに
汚れは目立つが衣服はそれなりに保たれているステア、そして無傷
その物のヴェナが顔を突き合わせていた。
﹁⋮⋮これから先の事ですが、進路に変更はありませんね?﹂
ヴェナが確認する様に二人の騎士へと問う。
シャロンは苦しげに、ステアは真剣な表情で頷いた。
﹁はい⋮⋮予定通り我々はここから真っ直ぐ西へ向かい、﹃天兵の
隠れ里﹄を攻略するべきです﹂
西域の至宝は存在しなかった。
否、存在はしていたがあるべき場所に無かったという事実を知り、
彼女達が選んだ逆転の手。
﹃天兵の隠れ里﹄を攻略しこの地の管理者であるアン・ミサを支配
下に収めるというもの。
﹁当初の目的通り、最初の一手⋮⋮ラグラジルはこちらのものとな
った。我々が寡兵である以上、取り得る手段は限られている。今は
人質を盾にされた上にセリス団長もいる開拓団の相手をするのでは
なく、ラグラジルの情報と力を利用して西域を攻略する事を考えよ
う﹂
ステアは羽織っていたジャケットを脱ぎ、シャロンに着せてやりな
がら言った。
人質︱︱という言葉にヴェナが反応を示す。
﹁隠れ里には貴女の妹⋮⋮フレアさんが囚われている可能性が高い
です。彼女もまた人質として利用される可能性が⋮⋮﹂
西域の力天使でありラグラジルの義理の妹でもあるラクシェによっ
て捕縛されたフレアがその後どうなっているか、それを彼女達は知
らない。
もし隠れ里に攻め込んだとしてもフレアを人質にとられてしまって
は先ほどの戦いと同じ様に徹底的に戦えず、逃げる事になるかもし
711
れない。
頭を突き合わせて今後を話し合う三人から少し離れた所に、
一人の少年が座り込んでいた。
ラグラジルに誓約の楔を打ち込んだ者。
彼女にとって今一番邪魔な存在。
シャスラハール。
﹁セナさん⋮⋮きっと、助けにいきます⋮⋮だから、死なないで⋮
⋮﹂
あの戦場で唯一この場所へと撤退できなかった女騎士の名前を呟き
ながら、虚空を見上げている。
その姿はあまりに弱弱しく、この様な存在に縛られてしまっている
自分の境遇を一段と情けなく感じた。
感じはしても、どうしようもない。
体の内側に注がれた﹃誓約﹄の魔法を除去する事はラグラジルには
出来ない。
これを解除できるとすれば、彼女のもう一人の妹、アン・ミサの治
療魔術を用いるしかないだろう。
アン・ミサの魔法は戦闘には全く向いてはいないが、その分治療と
統治に強く効果を発揮する。
ハイネアはマリスに寄り添って治療しているが、アン・ミサならば
手を翳すだけで負傷者をたちどころに癒すだろう。
恐らく自分を縛るこの忌々しい﹃誓約﹄魔法も妹の手を借りれば除
去できるはずだ。
だがしかし、一筋縄ではいかない事が有る。
この魔法が、内側に注がれたという事。
外側からいくら治療の魔力を送ったところで、意味をなさない。
つまり、
﹁あの坊やがワタシにやったような事を⋮⋮アンともやらなきゃい
けないって事かしらね﹂
妹の愛称を呟きながら、ラグラジルは思案する。
712
アン・ミサと接触し、そしてその行い︱︱本来姉妹間で行うべきで
は無い行為をする時間を作り出さなければいけない。
しかも自分はシャスラハールから離れる事が出来ない上に、彼の指
示に対しては絶対服従だ。
そして彼の目標はアン・ミサに自分と同じく﹃誓約﹄魔法を刻む事
にある。
よしんば彼がアン・ミサの下に辿り着いたとして、彼の周囲に自分
だけしかいない可能性は低いだろう。
必ず騎士達が傍に侍っているだろうし、自分にはそれに意見する権
利が無い。
﹁⋮⋮クスッ。面白いじゃない⋮⋮嫌いじゃないわよ。そういう遊
び﹂
ラグラジルは更に思考の海を泳ぐ。
この際アン・ミサに相対した時にどうするか。
それは後回しにしてまず考えなければいけない事が有る。
どうやって隠れ里を攻略するかという事だ。
あちらには西域最強の武、ラクシェがついている。
元々強力であった末の妹は、ある事を切っ掛けに失われたラグラジ
ルの魔力まで吸収し、最早誰にも手が付けられない状態だ。
ラクシェを倒し、アン・ミサへと至るには︱︱。
ラグラジルは辺りを見渡す。
七人居る人間。
二人を除いてそこそこ以上に腕が立つ者達だ。
けれど、その力を結集したとして。
﹁勝率は一割にも満たないわね⋮⋮﹂
むしろ零に近い。
いくら人間族の中で突出しているのだと言っても、ラクシェは次元
が違う。
あの子は全ての生物の中で抜きん出ている。
圧倒的に不利だ。
713
この連中がラクシェに勝てるわけが無い。
ラクシェに勝てなければアン・ミサへと辿り着く事も出来ない。
﹁クスクスッ⋮⋮さぁて、どうやって勝たせて、どのように勝ちま
しょうか﹂
勝たせる対象はシャスラハール達。
そして勝つ対象は、自分だ。
シャスラハール達にラクシェという壁を乗り越えさせて、アン・ミ
サは自分が奪い取る。
そうして呪縛を取り払い、ラクシェに奪われた魔力も取り戻して、
今度こそ叩きのめす。
西域の魔天使とは、この地で最も狡猾で不屈な存在を示す言葉とな
る。
含み笑いを浮かべ、思考を更に深めようとした時、
軽薄な声が響いた。
﹃相変わらず面白いな、お前は﹄
少年と青年の狭間の声。
これを彼女は良く知っていた。
かつてラグラジルに西域の管理を押し付け、自分は気軽な概念体と
なって世界中を漂う事を決めた、本来の西域の王。
﹁ハルビヤニ様⋮⋮っ!﹂
ラグラジルを、アン・ミサを、ラクシェを生み出した存在。
肉体は失われ、毎年彼の降臨を願って開かれる降臨祭の時に依代を
使って甦る。
﹃状況は知ってるぜ? 何たって俺はこの世界のどこにでも存在し、
どの時間にも存在するからな。体を捨てちまった以上、関わる事は
出来ないんだけどな。クククッ﹄
ハルビヤニの声は笑っている。
﹁⋮⋮何がおかしいのよ⋮⋮。というか降臨祭でも無いのに出てこ
ないでよ。依代無しで世界の内側に干渉してまっては貴方の存在が
世界から薄まるのでしょう?﹂
714
ラグラジルは舌打ちせんばかりの表情で問うた。
﹃まぁそれはそれだ⋮⋮ラグラジル。俺はな? 昨今のお前達の姉
妹喧嘩を憂いているんだぞ? お前達は俺の娘の様なもので⋮⋮小
さい時はそれはそれは可愛くてなぁ⋮⋮三人とも大きくなったら俺
と結婚すると言って譲らなかったもんだ﹄
しみじみと語り出すハルビヤニ。
﹃一番ちっこいラクシェが口喧嘩で負けて、いっつも泣きながらお
前に殴りかかっていたよなぁ⋮⋮それでお前は余裕ぶってるけどア
イツの馬鹿力で叩かれたせいで半泣き、アンが自分も泣きながら仲
裁するっていう、麗しき俺の原風景だ﹄
姿は無い。
ハルビヤニの存在は、当に消え去っているからだ。
声だけが届く。
﹃お前達は喧嘩をしている時でさえ美しく、そして俺を飽きさせな
い娘達だった。でもな?最近はどうだ? お前は里から出ていくし、
アンは役目に追われて余裕を失っている。チビはお姉ちゃんが構っ
てくれないからって不貞腐れてる。お前達がバラバラになってると
俺が愉しくない﹄
その言葉に、ラグラジルは口角を上げて笑った。
﹁一体何を言い出すかと思えば⋮⋮。仕方の無い事でしょう? 言
って置きますけれど、これは単なる姉妹喧嘩じゃありません。それ
に⋮⋮とっくの昔に居なくなった貴方に対して義理立てするつもり
も毛頭ありません。ワタシにとって貴方は、降臨祭の季節に花を捧
げるだけの相手に過ぎないんだから﹂
ハルビヤニが肉体を失ったのは二十年も昔の話だ。
彼はその存在が枯渇する寸前に、肉体を捨て世界の一部となる事を
決めた。
その目的は︱︱
﹁単なる悦楽の為に馬鹿馬鹿しくも世界にしがみ付いている貴方な
んかにね⋮⋮﹂
715
呆れと怒りの混じったラグラジルの声。
ハルビヤニが肉体を捨てた理由。
それはこの世の全ての快楽を得る為。
この世界に渦巻く﹃欲望﹄に出会う為に、彼は肉体を捨てたのだ。
﹃そんなに怒るなよー。一応責任感じて降臨祭の時には顔出してる
んだからさー﹄
﹁責任感じてるんなら、後片付けくらいやったらどうなの? 毎回
毎回アンがせっせと一人で掃除やらお触れ書きやらやってるけれど﹂
ラグラジルが管理者をしている時から、アン・ミサは父の後始末を
一人でやっていた。
ラクシェは最初手伝おうとするが、すぐに飽きてどこかへ飛んで行
ってしまうし、自分は妹ほど父に対して義理も愛情も感じていない
ので、降臨祭が終わった後は即刻役目を放棄して休暇を取っていた。
﹃アンは損な性格をしているからなぁ⋮⋮。さてさて、あまり時間
も無い。本題に移るぞラグ﹄
かつての自分の愛称を呼ばれ、ピクッと反応するラグラジル。
﹃隠れ里を落せ。俺が手伝ってやる﹄
告げられた言葉は、凡そ予想を裏切るものだった。
﹁⋮⋮何を言っているの? 正気?﹂
ラグラジルは瞳を眇めて声を放った。
﹃クククッ⋮⋮降臨祭まで後ふた月だ⋮⋮。今年こそ俺は家族全員
揃って迎えたいと思うんだよ。だからなぁ⋮⋮ラグ、あの人間に協
力して、チビとアンを倒せ。降臨祭までにだ﹄
姿なき声は愉悦を孕んでいる。
﹁どうせ見てたんでしょうけど、アイツに倒されるって事は⋮⋮そ
の、そういう事されるっていう事なのよ?﹂
忌々しい記憶、ここにいる連中の奇襲に遭い、深手を負った時にシ
ャスラハールと自分は、愛の無い性交を行っている。
﹃あぁ見てたさ。あの時のお前は良い表情だったぞぉ。娘のセック
スシーンを見るっていうのは中々⋮⋮乙なものだったな﹄
716
心底楽しそうに声は笑う。
﹁⋮⋮ワタシの事は別にどうでも良いわ。それはアンやラクシェに
対しても言える事なの? 今だって健気に貴方の降臨祭の準備をし
てるあの子と、無邪気で可愛い末っ子に向けても﹂
クククッ︱︱と声は笑った。
﹃だからだよ、ラグ。クソ生意気だったお前が犯されるところも、
俺を敬慕していたアンが犯されるのも、無垢のまま育て上げたチビ
が犯されるのも。この世のありとあらゆる快楽に触れてきた俺から
して、未だに得ていない娯楽なのだよ﹄
自分達姉妹を作り上げたこの存在は、西域に覇を轟かせた魔物。
魔物を超越した魔物でありながら、その精神の根幹は、畜生に類す
る物だった。
﹃ラグ。俺の愛しい娘よ。父の願いを聞いておくれ。大丈夫だ、例
えお前達の体が汚されたとしても、降臨祭の時にちゃんと綺麗にし
てやる。昔みたいに慰めてやるよ。俺はお前達のお父さんだからな﹄
届いた言葉に、ラグラジルは失笑した。
他人が妹達をレイプするのを手伝えと、父親から要請されているの
だ。
娯楽を、悦楽を、快楽を求めて世界と同化した存在の業の深さを感
じ、笑った。
けどこれは、間違いなく逆転の手札だ。
ラグラジルがシャスラハール達を使ってアン・ミサとラクシェに勝
つ為に、予期せぬところからジョーカーを引き当てた。
元よりラグラジルに失うものは無い。
妹達の貞操に関しても、言うほど気にしてはいない。
二人の翼は白い。
それはつまり、彼女達が処女だという事実。
黒く染まってしまった自分とは違い、誰の欲望にも染められてはい
ない。
破瓜。
717
それによりラグラジルは堕ち、力を失った。
かつて西域の管理者として、ハルビヤニの後継であった彼女はただ
の魔物へと落ちぶれた。
ラグラジルを破瓜へと導いたのはアン・ミサであり、失われた彼女
の後二枚の羽根を奪い取ったのはラクシェだ。
四枚羽根の天使三姉妹。
そう呼ばれて西域に住まう全ての生き物を魅了してきた三人お揃い
の背中はもう無い。
ラグラジルは汚れきった二つの黒い翼。
ラクシェは長姉から奪い取った二枚を加えた六枚の白い翼。
そしてアン・ミサは隠れ里の執務室から一歩も動かず、玉座に背を
付け続けている為に羽根を仕舞いこんでいる。
﹁クスクス⋮⋮良いわ、﹃お父様﹄。貴方の娘達の中で、一番上の
娘が最も優秀だっていう事を、証明してあげる﹂
シャスラハールの呪縛を解除する為。
そして姉妹喧嘩を自分の勝利で終わらせる為に、
ラグラジルは承諾した。
この世界の﹃欲望﹄と同化した父への協力を。
﹃おぉ。流石にお前は聡いな。よしよし⋮⋮で、だ。ここまで言っ
ておいて何なんだが⋮⋮俺に出来る事は限られてるぞ?﹄
存在を失っている以上、降臨祭を除いて事象への干渉が出来ないハ
ルビヤニには、直接手を下してラグラジルを援護する事が出来ない。
﹁はぁ⋮⋮役に立たない親を持ったものね⋮⋮結局貴方のやれるこ
とと言えば世界規模での覗きでしょう? 無意味すぎるわ﹂
大げさに嘆息して見せる。
﹁そこらの魔物にも人間にも家畜や花にも何も出来ない。そんな無
能なお父様だけれども、こうやって話しかける事は出来るのよね?﹂
自身が存在しない世界への干渉という意味では、声を放つ事自体大
変なものではあるが、それを現にハルビヤニは自分に向けてやって
見せている。
718
﹁なら簡単よ。ワタシよりも素直に貴方の声を聞いてくれるあの子
に話しかけて、ちょっとだけワタシに有利になる様に工作してくれ
ればいいわ﹂
﹃アン⋮⋮か。まぁアイツはお前よりも何倍も﹃良い子﹄だからな
ぁ﹄
父娘は会話を交わす。
﹁ラクシェの方は⋮⋮これはワタシが何とかするわ。いい加減頭に
来るのよねぇ。追い回されるわぶん殴られるわ、妹の分際で姉に対
して礼儀がなってないのよ。親の責任ね﹂
﹃おいおい、あいつが生まれたばっかりの頃、俺はすげー忙しかっ
たんだぞ? その時に代わりに面倒みてたのはお前だろうが⋮⋮﹄
スゥ︱︱と気配が遠のいていくのをラグラジルは感じた。
﹁それじゃ、抜かりなくね﹂
そっけなく声を放つ。
それに対して。
﹃クククッ⋮⋮ラグ。楽しみだよ。お前と、アンと、チビ。そして
そこの人間達が揃った降臨祭が開かれるのが⋮⋮心の底から楽しみ
だ﹄
この世の欲望と同化した父は、そう言って居なくなった。
﹁ラグラジル、聞いているのですか?﹂
下方で、こちらを見上げているシャロンと目が合った。
どうやら作戦会議に煮詰まり、ラグラジルの持つ情報を今一度分析
しようと声をかけてきた様子。
それに向けて、魔天使はニヤリと笑顔を向ける。
﹁えぇシャロンちゃん。教えてあげるわ。西域の全てを。そして勝
たせてあげる。アン・ミサにね﹂
魔天使は笑い、己の手札を一枚一枚丁寧に切っていく。
719
天兵の隠れ里。
その最奥に位置する執務室に、アン・ミサの姿は有った。
つい先ほど急報が入り、その対策に追われているところだった。
人間族の大軍が西域との境に結集中。
姉の様な魔鏡の技を持たないが故に、西域各地に放っている物見の
魔物からの連絡で情報を集める。
細かい部分での見落としや誤報は多いが、こうも大規模な出来事で
それも無いだろう。
それはつまり、
﹁戦⋮⋮ですね﹂
物見の報告では数十万と届いている。
﹁できればもっと正確に知りたいけれど⋮⋮﹂
歯噛みをする。
今の自分の支配は不完全だ。
姉のラグラジルが持つ変幻自在の魔法。
妹のラクシェが持つ剛力無双の武勇。
それらが無い代わりに自分が父から授かった力は、治療と統治だっ
た。
治療に関しては何の問題も無い。
自分が微笑みかければ病人は立ち上がり、手を翳せば半死人は生き
返る。
けれど問題はもう一つの方、統治にあった。
アン・ミサの統治魔法はある程度の範囲に自身の命令を浸透させる
事の出来る常時開放型の物と、対象を強制的に支配する非常時用の
物に分かれていた。
常時展開される統治により、この隠れ里内は常に平穏が保たれてい
る。
その一方で、血気盛んな魔物の氏族が反乱を起こした際などには、
非常時用の支配で治めるのだが。
720
今はそれが出来ない。
奪われてしまっている。
力を分化させた杖を人間に持ち去られてしまったのだ。
﹁全て⋮⋮私が愚かで無能だったが故に⋮⋮ですけれど﹂
杖を失った事。
そして、
姉を失った事。
﹁ラグラジル⋮⋮御姉様﹂
頼りたかった。
縋りたかった。
普段から飄々としてアン・ミサを困らせる事が多かった姉だが、い
ざ妹の身に困難が降りかかると、愚痴を言いながらも助けてくれる。
捻くれた愛情を持った姉だった。
けれど、そんな姉はもう居ない。
出て行ってしまった。
自分の愚かさが、姉の居場所を奪ってしまった。
あの日。
あんな人間を信頼してしまったが故に。
人間族の魔導士。
オビリスと呼ばれていた男。
あの男が、自分から姉と杖を奪っていった。
﹁悔やんでも⋮⋮仕方の無い事です⋮⋮﹂
どうにかして取り戻したいと願った。
杖よりも先に、姉を取り戻そうと思った。
言葉も誠意も尽くせるだけ尽くして、姉に許してもらおう。
また戻ってきてもらおう。
そして許してもらえたら、杖の事を相談して、助けてもらおう。
三姉妹がまた揃えば、きっと何だって出来る。
アン・ミサはそう信じた。
力を失っているとはいえ、ラグラジルは強力な存在に他ならない。
721
だから、捜索には自らの右腕であるラクシェを向かわせた。
けれどそれがいけなかったのだと気づいた。
妹と姉の折り合いは昔から悪い。
単純な力だけならばラクシェの圧勝だが、ラグラジルにはそれを補
えるだけの狡猾さが有った。
追いかけっこが続き、その分だけ妹と姉の確執は深まっていった。
﹁何もかも⋮⋮上手くいきませんね⋮⋮﹂
ふた月後には主上︱︱アン・ミサの親代わりであり先々代の西域の
管理者であるハルビヤニの降臨祭も控えている。
ラグラジル捜索、人間族の侵攻、降臨祭の準備。
アン・ミサはそれらに対応する為に、身を削って働き続けていた。
睡眠時間は半減し、食事もあまり喉を通らない。
統治魔法も弱まり、昨日は隠れ里内で喧嘩が発生しただとか。
顔色は一段と白くなり、手足は若干細くなった。
﹁疲れて⋮⋮ううん。そう言ってられないですね⋮⋮﹂
自嘲気味に笑った時、扉が鳴った。
﹁アン・ミサ、入るぞ﹂
扉を押し開いて入って来たのは、マリューゾワだった。
公娼としてこの地に辱めを受ける為に送られ、過酷な旅路の果てに
隠れ里へと到達した人間。
﹁⋮⋮いらっしゃい﹂
笑顔を向けようとして、失敗した。
顔の筋肉が上手く動かなかったのだ。
﹁⋮⋮具合が悪そうだな。休んだ方が良いのではないか?﹂
マリューゾワはそんなアン・ミサの表情を見て言った。
それに向けて、首を振る。
﹁代わりが、居ませんもの⋮⋮﹂
父は消え、姉は去った。
﹁ラクシェは? アイツは君の妹なのだろう? 手伝いくらい出来
るのではないか?﹂
722
﹁あの子は⋮⋮こう言う仕事が出来る子じゃありません⋮⋮。あの
子に任せてしまったら、それこそ三日で隠れ里は滅茶苦茶になって
しまいますよ﹂
今度こそ弱弱しくだが笑う事が出来た。
﹁そう言うものか⋮⋮。さっき聞いたのだが、ゼオムントの軍隊が
西域に向かっているそうだな?﹂
マリューゾワは執務机に身を乗り出してくる。
﹁はい。大門に結集中との事です⋮⋮目的は定かではありませんが、
万一に備えて戦いの準備を⋮⋮﹂
﹁無論だ﹂
アン・ミサの言葉にマリューゾワは頷いた。
﹁私はその為にここに居る。戦ならば私が担当する。君は普段の仕
事を続けてもらって構わない﹂
力強い言葉だった。
覇道を行くゼオムントの大軍と最後まで戦い抜いた魔剣大公という
存在が紡ぐ、自信の籠った言葉。
﹁確認したい、この地の天兵の数は千に届く程度だな?﹂
それは数日前にマリューゾワに渡した資料に載せていた数。
﹁はい。私達天使の総数とも言える数です。戦力には数えられませ
んが、羽根落ちの方々が一万人ほどいらっしゃいますけど⋮⋮彼ら
はあくまで非戦闘員です﹂
農業や商業に関わる存在として、かつて天使であった存在﹃羽根落
ち﹄と言う者達がいる。
一般的な天使は世代を経て行く内に、他種族と交わる事で羽根を失
う。
純血の一族のみが、天使として存在できるのだ。
なので天使から見れば羽根落ちは劣等種であり、蔑みの対象。
﹃羽根無し﹄
そう呼んでいる者が多い。
両者の間に諍いは生まれるが、それらは全てアン・ミサの統治魔法
723
によって鎮められ、表面化する事は無い。
﹁羽根落ちの方々には後方支援程度は頼めないか?﹂
﹁⋮⋮食料や軍備に関してなら⋮⋮大丈夫かと﹂
羽根落ちが不満を抱きつつも生産従事者に収まり、天使達の生活を
支えているのは、このような緊急事態に際して天使が体を張って防
衛の任に就くからである。
故に、羽根落ちは戦争には関わらない。
出来る事の限界はそれこそ糧食を作り、武器の手入れをする事ぐら
いだろう。
﹁すると千か⋮⋮。他種族の魔物はどうなのだ? この里には色々
な種族が居るように見えるが?﹂
西域の首都とも言えるこの里には、他種族の魔物達が交易にやって
来る。そして彼らの内の一部はこの里を住処として生活もしている。
﹁増援として呼ぶ事は出来ますが、この里の外へは出せません。こ
の里の内側でしたらわたくしの統治魔法で守る事が出来ますが、杖
を奪われている以上、敵方に利用される可能性が有ります﹂
物見の報告では、結集中の軍隊にあの男を見たそうだ。
オビリス。
アン・ミサから姉と杖を奪った男。
﹁ならば⋮⋮籠城戦しか無いな﹂
マリューゾワが机に背中を預けながら言った。
﹁寡兵でもって大軍と対する際に、取るべき手段は限られている。
幸いこの里には四城門があるしな﹂
四城門。
隠れ里を包む様にして守る四層の壁。
西域が乱れに乱れて居た時にハルビヤニが作り上げた防御施設だ。
﹁こちらにはルルの﹃幸運﹄も有れば、ロニアの兵器も有る。指揮
は私が執るし、実行戦闘はシロエが当たる。それに奥の手としてラ
クシェも居る﹂
だからな、とマリューゾワは言い、
724
ポンッとその手がアン・ミサの肩に置かれた。
﹁安心しろ。任せておけ﹂
そう言って、マリューゾワは執務室から去って行った。
アン・ミサは肩に残された温もりを感じ、少しだけ惚けた様な表情
を浮かべる。
手を肩に遣り、彼女が触れていた場所を撫でる。
そこに、
﹃おい⋮⋮。まさか俺が居ない間にお前⋮⋮同性愛に目覚めたのか
⋮⋮?﹄
ビクッ︱︱と肩を震わせて反応するアン・ミサ。
﹁お、お父様? お父様ですか?﹂
この世の欲望と同化すると言って消えて行った父親の声がしたのだ。
﹃言っておくが、同性愛であれ処女を失えば羽根は黒くなるぞ?﹄
﹁そ、そんな物ではありません! お戯れはお止め下さい!﹂
慌てて手を戻し、胸の前で組む。
﹁お父様、降臨祭までまだ日が御座いますが⋮⋮その様にお声を発
せられて大丈夫なのですか?﹂
この世に存在を失った父は、降臨祭の時に起こる星の巡りによる奇
蹟を利用しなければ世界と関与するのは難しいはず。
﹃あぁ。そうも言ってられない事情が出来てな⋮⋮良いか、良く聞
けアン﹄
そこで父は言葉を切った。
アン・ミサは耳を澄ませる。
世界が震え、声が紡がれた。
﹃ラグが、人間に捕まった。性奴隷にされちまったみたいだ﹄
執務室前に詰めていた天兵は大きな叫び声を聞いた。
声は自分を呼んでいる。
﹁誰かっ! 誰か来てくださいっ!﹂
725
執務室に飛び込むと、彼らの統治者であるアン・ミサが血相を変え
て立ち上がっていた。
﹁ラクシェを! ラクシェを急いで呼んで来て下さいっ! 今すぐ
にっ!﹂
目を血走らせて叫んでいる。
常の優しさと余裕は失われ、激情が彼女を支配していた。
﹁は、はいぃぃぃ!﹂
駆け足で今来た道を戻る彼の背中に、呆然とした声が届く、
﹁わたくしが⋮⋮馬鹿で⋮⋮愚かだったから⋮⋮ごめんなさい、ご
めんなさい御姉様⋮⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
最後には嗚咽が漏れ、机を激しく叩く音が聞こえて来た。
﹁どーぅ? フレアちゃーん? そろそろ言う気になったー?﹂
異端審問官の仕事場である、拷問室にラクシェの幼い声が響く。
﹁ふーっ⋮⋮ふーっ⋮⋮﹂
苦しげな呼吸音がそれに答える。
﹁まだなのー? まぁ良いけど。ウチは愉しいし﹂
そう言って、ラクシェは前動作無しで足を動かした。
蹴りつける。
蹴りつける先は、鋼で出来た四角錐だ。
﹁んごふっ! ふーっ!﹂
くぐもった叫び声が上がる。
フレア。
リーベルラント精鋭騎士団の百人長だった者。
フレアは今、四角錐を跨いでいる。
その尖った頂点に体の中心︱︱膣口を据える様にして跨っている。
足首には鎖の伸びた重しを付けられ、重力により体は否応なく沈ん
でいく。
必然、めり込んでいく四角錐。
726
﹁んぐぐぐぐぐぐっ﹂
口には穴の開いた球体の枷を取り付けられ、意味のある言葉を紡げ
ない。
目には視界を奪う厚手の目隠しを巻かれ、五感の一つを封印されて
いる。
﹁ねぇーえー、フレアちゃーん。ラグラジルはどこにいるのかなぁ
? 気配を追ってもすぐに逃げちゃうんだけど、もしかしたらアジ
トとか住処とか有ったりするのかなー?﹂
ガンガンと四角錐を蹴りながら、ラクシェは問う。
﹁おぉごふほおおお﹂
フレアはその衝撃に苦悶し、彼女の膣口からは愛液と血が混ざりあ
った薄い赤の液体が零れ続けている。
ラクシェとフレアの周りには、数人の異端審問官が控えている。
彼らの仕事は隠れ里に仇なす罪人を捕らえて処罰する事。
アン・ミサの統治魔法が有効に機能していれば実に暇な役柄だ。
暇を持て余した結果、異端審問官は総出でフレアに取り掛かった。
手始めに全員気が済むまでフレアの膣に精液を注ぎ込み、ある程度
満足を得ると本来の仕事に取り掛かった。
薄暗い地下にある拷問室に繋ぎ、さまざまな拷問具を用いてその肉
体を責め続ける。
鞭や水牢、蝋や焼き串を使って彼女を嬲った。
時折ラクシェがこうして見学に来て、楽しそうに混ざっていく。
姉であるアン・ミサは知らない。
隠れ里の事だけでは無く西域全体に目を向けなければいけないアン・
ミサには、この薄暗い場所で行われている陰惨な地獄にまでは気づ
かない。
﹁おぉぉぉぉぉぉぉぉふごぉぉぉぉ﹂
くぐもった叫びを上げ、フレアの体が痙攣する。
異端審問官の一人が四角錐の絡繰りを起動させたのだ。
四角錐は合図一つで魔力を燃料に振動する。
727
地脈から魔力を補充できるので、半永久的に全自動で動き続ける。
﹁あはははー。がんばれーフレアちゃーん﹂
ビシャビシャと股間から液体を撒き散らせながら、フレアは悶えて
いる。
その肌には異端審問官により刻まれた鮮やかなミミズ腫れや膣内出
しの回数を焼き串で線を引きカウントした形跡が残されている。
陰惨極まる拷問の光景を、ラクシェはキラキラした瞳で見つめてい
る。
異端審問官の一人は思い出す。
西域の天使三姉妹の話を。
ハルビヤニにより作り出された三姉妹は、それぞれ出自を異にする。
魔天使ラグラジルは狡猾な猟犬型の魔物から。
智天使アン・ミサは敬虔な人間族の修道女から。
そして力天使ラクシェは︱︱。
この西域に蔓延していた暴力と言う概念から誕生した。
それぞれにハルビヤニが魔法を施し、干渉した結果誕生したのが純
血ならざる天使。それが彼女達。
父親は同じでも母親は違う。
狡知に長け貪欲に生きるラグラジル。
献身の心で皆の生活を守るアン・ミサ。
﹃暴力﹄を母に持ち、それを愛するラクシェ。
目の前で繰り広げられる拷問に対して彼女が感じるのは、懐かしい
母胎の温もりなのだろう。
振動する四角錐を見つめる事に飽きたのか、手近にあった鞭を掴み、
フレアの双乳に向けて叩きつけているラクシェの顔は無邪気に輝い
ている。
その時、ガタン︱︱と扉が開いた。
﹁ラクシェ様っ! アン・ミサ様がお呼びですっ! 大至急との事
っ!﹂
天兵の一人が息を切らして駆け込んできた。
728
その瞬間、鞭を振り下ろしていたラクシェの手が止まった。
﹁お姉さまが?﹂
﹁はいっ! 大変動揺なされた様子で⋮⋮急いでラクシェ様を呼ん
できてくれと﹂
聞き終わるや否や、ラクシェは鞭を放り捨て駆け出した。
﹁お姉さまは執務室よね? 玉座の間の!﹂
﹁はいっ!﹂
懸命に追いすがる天兵との間の会話が聞こえる。
放り捨てられた鞭を拾いながら、異端審問官の一人は口を開く。
﹁何か大変そうだな⋮⋮。まぁでも何か問題が有ればアン・ミサ様
達が何とかしてくれるだろう。俺達は遊び半分で仕事してれば良い
んだよ﹂
異端審問官は天使である。
彼の生活は下々である﹃羽根落ち﹄が支え、いざ火急の出来事が起
きたら、それは管理者である三姉妹が解決する。
彼ら自身は与えられた役目を気張らずやり続ければよいのだ。
この地に住まう天使とはそう言う存在だ。
﹁さーってメシにすっか﹂
﹁おう、そうだな﹂
﹁メシの後アレどうっすか?﹂
そう言って、年若の審問官がカードを切る仕草をする。
﹁お、良いねぇ⋮⋮﹂
﹁今日も徹夜か⋮⋮かーっ辛いねぇ﹂
そう言って笑いながら彼らは拷問室から出て行く。
最後に扉を閉める段階になって、ようやく一人がフレアへと振り向
いた。
﹁あー⋮⋮フレアちゃん。そっちまで戻って絡繰り止めるの面倒だ
から次来た時に止めるわ。今夜は徹夜でカードだろうから、たぶん
明日起きてからだな。昼ごろには起きる様に頑張るわぁ。そんじゃ
ーなー﹂
729
そう言って、ガタンッ︱︱と扉を閉めた。
﹁んごふっ! ふごおおおおおおおっ!﹂
フレアの膣を抉り続ける四角錐は、鋭く振動し、止まらない。
下には水溜りの様に愛液と血が広がっている。
これを明日の昼まで、そう告げられた時フレアがどう思ったのか。
﹁むぐおおおおおおおおおおっ! おおおおおおおおおおっ!﹂
口を塞がれていては、分かりようも無かった。
730
ハルビヤニ様︵後書き︶
キャラクター紹介編にハルビヤニを追加します。
731
嫌いな姉︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
732
嫌いな姉
﹁つまり敵はラクシェだけだと言うのですね?﹂
肌寒い風が吹く中を、シャロンはジャケットの裾を摺り下げながら
言った。
全員の疲労を抜く為に一日だけ休息をとり、魔天使の空間から出て、
徒歩で西域の最奥を目指して進んで行く。
その途上。
﹁そうなるわね。仕組みとしては天兵って存在も居るけど、アイツ
ラに職業意識何てカケラも無いわ。ラクシェさえ倒してしまえば、
その事にビビッて簡単に仕事を放棄するでしょう﹂
隣を歩くのは黒翼を仕舞いこんでいるラグラジル。
﹁しかし話を聞くに、隠れ里の内側ではアン・ミサの魔法も作用す
るのだろう? そうなってくるとやる気の有無に関わらず戦いを仕
掛けて来るのではないか?﹂
一歩下がったところからステアが声をかける。
﹁そう。そこなのよ。ラクシェの相手をしながら天兵千人とも戦う。
これが無謀なの。片方だけならもしかしたら︱︱っていう希望も持
てるけれど、両者を同時に相手するのは土台無理ね﹂
ラグラジルは振り返ってステアへと笑いかける。
﹁それでは無意味ではないか。これから我らは隠れ里に攻め入るの
だぞ? ラクシェが守将と考えれば、両者は共に在るはずだ﹂
顰め面を浮かべ、騎士長ステアは言う。
﹁そこなんだけどねぇ⋮⋮ワタシに任せてもらえれば、ラクシェを
誘い出す事が出来るわ。あの子を誘い出して、ここに居る全員で袋
叩きにする。そしてヤるんでしょ? 誓約魔法。ワタシみたいにさ
?﹂
鋭い視線を放った先は、一行の主であるシャスラハール・
733
黒肌の王子はその視線を受け止め、頷いた。
﹁⋮⋮はい。それが、僕と僕の仲間達の未来の為ですから。容赦は
しません﹂
セナをゼオムントに奪われ、少年の覚悟は一層強い物に変わった。
これまで彼らは多くの魔物と戦ってその命を奪ってきた。
西域に棲むのは魔物。
それはつまり、このラグラジルもそうだという事。
ラクシェであっても、アン・ミサであっても。
﹃人の形﹄をしているからと言う理由だけで、手心は加えられない。
魔物が生きる為に襲い掛かって来るのと同様に、シャスラハール達
も未来の為に彼女達を倒す。
それだけだ。
﹁良いわよぉ、別に。ワタシはシャロンちゃんに酷い事をしたし、
ユキリスちゃんやフレアちゃんにも悪い事をしちゃったし。ラクシ
ェもそうねぇ、フレアちゃんを連れ去ったって言うのなら、あの趣
味の悪い異端審問官共の玩具にしているんでしょうしねぇ﹂
おこな
シャスラハールは驚いた。
ラグラジルが彼の行った事を認めたのだ。
﹁遠慮なくヤっちゃえば良いわ。その手伝いもしてあげる。何て言
ったって、ワタシは貴方の奴隷なんだからね﹂
その笑みの裏側にどんな思惑が潜んでいるか、魔天使の心の奥は誰
にも知れない。
﹁それはそうと、そのラクシェですが、実力の程はどうなのですか
?﹂
シャスラハールの隣を歩き、ニヤニヤ顔を向けて来るラグラジルを
睨みつけながら、ヴェナが言った。
﹁強いわよ。正直ここに居る全員が全力を出したところで敵わない
かも知れない。あの子の力はちょっと次元が違うのよ﹂
その言葉に、一行の殿を務めていたマリスが顔を上げた。
﹁ありゃ。それじゃーどうしましょうかねぇ? 奇襲です? 罠?
734
毒とか使っちゃいます?﹂
手段を選ばない傭兵ゆえの危険な発想を口にしながらマリスは笑っ
ている。
﹁んー。良い線いってるわねぇ。マリスちゃんだっけ? 貴女良い
わ。お友達になりましょう﹂
﹁はいー。よろしくでーす﹂
魔天使と傭兵が能天気な会話を交わしている間にも、騎士達の表情
は優れない。
﹁⋮⋮ヴェナ様が居て、その脇を私と騎士長、リセとマリスで固め
てもダメなのですか?﹂
シャロンは深刻な声で呟く。
ラグラジルはそれに向けて、ゆったりとした笑みを浮かべた。
﹁欲を言うならば、そっちの聖騎士さんが三人欲しいところね。も
ちろん貴女達の補助が有った上で﹂
力天使ラクシェの実力は、とてもこの程度の数で埋められるような
ものでは無かった。
﹁ふむむ⋮⋮﹂
考え込むシャロンを見て、ラグラジルは手を打った。
﹁ところでシャロンちゃん?﹂
﹁はい?﹂
小首を傾げるシャロンの股間をラグラジルは指差した。
﹁お股、寒く無いの?﹂
﹁なっ!﹂
シャロンはジャケットの下には何も身に着けていない。
どれだけ裾を引っ張っても股の先にまでは届かないので、必然的に
陰部が露出してしまっている。
﹁そのような事は今どうでも良いでしょう! ラグラジル。ふざけ
ないでくださいっ!﹂
顔を赤らめ、激昂するシャロンに向けて、魔天使は笑いかけた。
﹁シャロンちゃんさえ良ければ、ワタシの魔力を分けてあげるわよ。
735
そしてそれを加工すれば服にもなるわ。ほら、ユキリスちゃんとフ
レアちゃんがそうだったでしょう?﹂
以前にラグラジルの空間に囚われた時、二人が魔天使の加護を授か
り衣服を身に着けていた事を思い出す。
﹁⋮⋮いいえ。貴女の力は欲しくない⋮⋮。このお腹の事も有りま
すし﹂
そう言って、金髪の騎士は自分の腹部を撫でる。
そこはラグラジルとユキリスの魔法により改造され、どんな生物の
子種でも孕み、悪魔を産み落とす機能を持たされてしまっている。
﹁ふぅん⋮⋮良いけど。あぁそれとね。そのお腹だけど、ワタシだ
けの魔法じゃないから解除は出来ない。でもワタシの妹のアンにな
ら、解除できると思うわ﹂
﹁えっ!﹂
顔を上げ、瞳を大きく開いたシャロン。
﹁元に⋮⋮戻るんですねっ!﹂
救われたかの様な顔で、そう言った。
﹁また一つ。アン・ミサを手に入れる理由が生まれたな﹂
ステアが言い、顔を引き締めた。
そして、ラグラジルは西方の空を見る。
そこに一点の煌めきを見つけ、微笑んだ。
﹁⋮⋮来たわね。愚妹﹂
西域の空に、六枚羽根の天使が立ちはだかった。
幼い容姿に薄ら笑いを浮かべた少女。
力天使ラクシェは、人間達を見下ろす。
﹁ふーん。こんな連中に負けたんだ? ラグラジルってば情けなー
い。昔からそうだったよねー。口だけでぜーんぜん強くないの。妹
として恥ずかしくなるわ﹂
その集団の中で微笑を浮かべている姉の姿を見て、舌を突き出した。
736
それに対して、ラグラジルは余裕の表情を崩さない。
﹁⋮⋮クスッ。ホント⋮⋮馬鹿ねぇ。素直に出て来ちゃって⋮⋮﹂
周りにいる人間達にも聞こえない程に小さな、悪態。
悪態を吐きながら、こっそりと魔術を展開させる。
﹃陣地構成﹄ラグラジルの十八番だ。
﹁妹⋮⋮? それじゃアレがラクシェか⋮⋮!﹂
ステアが槍を構えながら警戒態勢をとる。
シャスラハールの前にはヴェナが、ハイネアの前にはリセが立ちそ
れぞれ武器を構える。
﹁どうして⋮⋮いや、前回もそうでした⋮⋮。ラクシェはラグラジ
ルを追っていましたね⋮⋮。けれど、早すぎます⋮⋮まだ対策がっ
!﹂
警戒態勢をとりながら、額に汗してシャロンが言う。
その隣で、
﹁でもでも、考え様によっては外に出て来てくれたのですし。これ
はチャンスなのでは? とマリスは思ったりしますねぇ﹂
曲刀を鞘から抜き放ちながらマリスが言った。
﹁そうそう。流石わかってるわねー、マリスちゃん。柔軟な発想っ
て大事よね﹂
ラグラジルが満面の笑みで頷いた。
﹁いやー。どもどもです﹂
照れ笑いを浮かべてマリスが応える。
一拍空いて緊張の空気が流れる。
全ての人間の意識が、ラクシェへと向かう。
﹁用件は言わないでもわかるかなー? とりあえずそこの役立たず
な魔物を返して欲しいの。ウチ的には全然要らないしぃ、性奴隷で
も肉便器でも何にでもしてもらって良いんだけど。お姉さまが連れ
て来いって言うからしょうがないの⋮⋮ホント、残念﹂
ラクシェはがっくりと肩を落としながら言う。
﹁あぁ抵抗は無駄よ? どうせウチに勝てるわけないんだし。邪魔
737
しないでソイツを⋮⋮そうだっ! 最後に一発ソイツを犯すところ
見せてよっ! ギッタギッタのグチョグチョの滅茶苦茶にレイプし
ちゃって! それを見せてくれたらアンタ達の命は見逃してあげる﹂
急に瞳を輝かせて笑った。
全員が、呆然とした表情を浮かべる。
﹁うっひゃー。ラグさんの妹ちゃん過激ですねー。マリスびっくり
ですよー﹂
﹁でしょー。どこで育て方を間違ったのか⋮⋮お姉ちゃん悲しいわ
ぁ﹂
マリスとラグラジルが脱力した言葉を交わす。
﹁あーでも、連れて帰ったらフレアちゃんみたいに遊べるか⋮⋮う
んっ! やっぱり見逃すのは無し、全員連れて帰ってウチの玩具に
するわ!﹂
幼い声が狂気を紡ぐ。
﹁フレアを⋮⋮どうしたって?﹂
槍を一振りしながら、騎士長ステアが険を込めた声を放つ。
﹁んー? アンタちょっとフレアちゃんに似てる⋮⋮あ、もしかし
たら家族とか?﹂
ラクシェはハッとした表情でステアを見つめる。
﹁わたしの妹に⋮⋮何をしたぁ!﹂
全身から怒気を迸らせ、吠える。
﹁へーぇ、じゃあアンタはフレアちゃんのお姉ちゃんなんだ⋮⋮。
ウチにも居るよ。二人⋮⋮一人はとっても優しくて大好きだけれど、
もう一人はムカツクし大っ嫌い。殺しちゃいたい。ねぇ、残念だっ
たわね。アンタ黒髪じゃん⋮⋮ウチが嫌いな方の姉と一緒だわ﹂
吐き捨てる様にして力天使が言った。
その時、聖騎士ヴェナが一歩前に出た。
﹁ラグラジル。殿下とハイネア王女を異空間へ。残りの者でラクシ
ェを倒します。皆、先ほどの情報は忘れ、死力を尽くしなさい!﹂
聖剣を携え、睨みを利かせる。
738
﹁殿下、異空間にて﹃誓約﹄の準備を整えていて下さい﹂
それは、勝利宣言。
自分達の剣でラクシェを倒し、シャスラハールに捧げるという誓い。
シャスラハールはその言葉に、重く頷いた。
﹁わかった⋮⋮皆、どうか無事で。ラグラジルッ!﹂
その言葉に反応し、魔天使は闇の門を開く。
自分とシャスラハール、そしてハイネアの足元に。
﹁はいはい。それじゃーマリスちゃん頑張って! 他の人は生きて
たらまた会いましょう﹂
﹁はーい!﹂
魔天使の言葉にマリスだけが返事をする。
ラグラジルが異空間へと消えていく時に見た光景は、顔全体に緊張
を浮かべた騎士達と、酷くつまらなそうにしている妹の顔だった。
闇に覆われた空間に、三人の人影が降り立った。
内二人は戦闘力を持たず、これから外で繰り広げられる戦いには足
手纏いになる。
避難という名目と、もう一つは準備。
騎士達が力天使を討ち果たした後、﹃誓約﹄を注ぎ込む為の準備の
為にここへとやって来た。
﹁シャス⋮⋮! それじゃあ、妾達でっ!﹂
ハイネアがシャスラハールへと近づき、その衣服を脱がせに掛かる。
﹁はい。ハイネア様、力を貸してください﹂
十数回に及ぶ射精を繰り返し、陰嚢に流れる精液を絞り出す。
そして最後の一発が充填された時、それがシャスラハールの奥の手
﹃誓約﹄魔法の限定解除の瞬間だ。
二人が折り重なっていく様子を傍目に、ラグラジルは薄く笑った。
﹁あー⋮⋮正直な話、そんなに時間はかけられないでしょう? ラ
クシェに勝つにしろ負けるにしろ。流石に十何回も抜いてる間には
739
終わるわよ。そんなわけで⋮⋮っと﹂
魔天使は指を鳴らした。
するとシャスラハールを取り囲むようにしていくつもの魔鏡が出現
する。
﹁えっ?﹂
鏡に見知った人影が映った。
﹁セナ⋮⋮さん﹂
魔鏡の一つに、セナの姿が浮かび上がった。
﹁こっちにはシャロン⋮⋮ステアも、ヴェナまでも居るぞ!﹂
ハイネアが驚愕の声を上げた。
﹁ルル⋮⋮ハレン⋮⋮どうして⋮⋮﹂
調教師時代に接した公娼達の姿を見て、シャスラハールは魂を抜か
れた様な声を出した。
その様子を、魔天使は含み笑いで見つめる。
そして新たに二枚の鏡を生み出す。
そこには、ラグラジルとハイネアの姿が有った。
﹁シャロンちゃんから聞いてなかったの? ワタシは質量を持った
幻影を生み出せる。さっき貴方の記憶を見て、貴方とセックスした
事のある全ての女の幻影を呼び寄せたわ。さ、その子達を使って、
さっさと抜いちゃってね﹂
もう一度、指を鳴らす。
鏡の中から全裸のセナが出てくる。
シャロンが、ステアが、ヴェナが、リセが、シュトラが、ハイネア
が、ルルが、ハレンが、ラグラジルが、他数人の裸の女達が鏡から
出てくる。
女達は笑みを浮かべ、シャスラハールの体を埋めていく。
﹁ラ、ラグラジルっ! やめっ﹂
﹁あら⋮⋮。これは効率の話であると共に、現実の女の負担を減ら
す意味もあるのよ? 貴方がこれから何回も射精する為に、ハイネ
アちゃんのオマンコを使うの? それともワタシのを? ねぇ、そ
740
れってとっても、優しくないんじゃないかしら?﹂
魔天使の声を聞き、シャスラハールは口ごもった。
﹁妾は別に構わんっ!﹂
ハイネアが大きな声で言うが、それに向けて酷薄な声が応える。
﹁そ? でもハイネアちゃん。貴女一人で抜くのにどれだけの時間
が掛かるのかしらねぇ? モタモタしている間に貴女の大事な侍女
が死んじゃうかもしれないのに﹂
ぐっと言葉を詰まらせるハイネア。
そうこうしている間にも、シャスラハールは全身を舐め尽くされて
いく。
自分がこれまで関係を持ってきた女達が、体中を余すところなく埋
めていく。
肉棒はセナの膣肉へ埋まり、唇はシャロンのソレで塞がれる。
全身の性感全てを刺激され、あっと言う間に射精の波がやって来る。
﹁うっ! くあああああああっ!﹂
幻のセナの膣内に、白い液体を放つ。
セナはニッコリと優しく笑い、シャスラハールの上から退いていく。
代わりに、ルルがその陰唇を大きく指で開きながら圧し掛かってく
る。
皆、無言。
無言のまま笑み、そしてシャスラハールに奉仕する。
その光景を、少し離れた場所でハイネアが複雑な表情で見守ってい
た。
﹁⋮⋮確かに、これは早そうではあるな⋮⋮﹂
納得は行かないが反論し様も無い、と言った所か。
﹁クスクスッ⋮⋮でしょう? 抜いちゃえば良いだけなんだから、
愛が欲しければちゃんとベッドの上でやりなさいって感じね﹂
ラグラジルは適当に応じ、腕を組んで待ちの姿勢に入る。
そのすぐ傍へハイネアが歩み寄る。
﹁外の様子はどうなっておる?﹂
741
大切な侍女の事も含め、仲間達の様子を知りたい。
その思いが瞳に込められていた。
しかし、
﹁止めておいた方が良いわよ。ほら、彼今セックス中でしょう? そんな時に自分の知ってる顔が血塗れでボコボコにされてたら、萎
えちゃうじゃない﹂
魔天使は薄い笑みでその言葉を放った。
連続射精を経て、シャスラハールの体に魔術刻印が浮かんでくるの
を確認し、ラグラジルは腕組みを解いて指を鳴らした。
幻影が消える。
シャスラハールの全身に絡みついていた裸体の女達が消えていく。
﹁クスッ﹂
ラグラジルは最後に、微細な悪意を放つ。
消える瞬間に、彼女達の表情を素に戻したのだ。
今の今まで優しい笑顔でシャスラハールに奉仕していた女達の顔か
ら表情を奪った。
能面の様な、虫を見る目をさせる。
﹁えっ⋮⋮﹂
シャスラハールは消えていく温もりと、その表情に心臓を抓まれた
思いで、言葉を漏らす。
﹁はーい、ご主人様。お楽しみはお仕舞。さ、仕事の時間よ。本物
のラクシェに精液を注ぎに行きましょうか﹂
魔天使は両腕を広げ、口を微かに動かす。
空間を消し、現実へと回帰する。
その為の魔術詠唱。
やがて、黒一面だった世界が崩壊し、色を取り戻す。
草地の色。
空の色。
742
そして、血の色。
﹁みんなっ!﹂
シャスラハールは悲鳴の様な叫びを上げ、ハイネアは口元に手を当
てる。
シャロンが、ステアが、リセが、マリスが血塗れで倒れている。
それぞれ得物を取り落とし、浅い呼吸と吐血を繰り返している。
聖剣をダラリと握ったヴェナだけが立ち上がり、ラクシェと正対し
ていた。
その体が、傾いでいく。
スピアカントの誇り、最年少の聖騎士の体が地面へと倒れていく。
﹁ヴェナッ!﹂
ただひたすら無言のままに彼女は地面へと倒れ伏し、聖剣が虚しく
鳴り響いた。
﹁ぺっ、ぺっ⋮⋮あーもう。やっぱり殺さない様にして倒すのって
疲れるし難しいし、余計な反撃くらっちゃったし⋮⋮でも、これで
後のお楽しみゲットッ! やったやったぁ﹂
衣装に土を付け、肌にいくつかの裂傷を負ったラクシェが仁王立ち
し、戦槌を片手にこちらを見ていた。
﹁さーて、ラグラジル。大人しく捕まってとは言わないわ。ちょっ
とは抵抗してね。そうじゃないと⋮⋮痛ぶれないし⋮⋮っ!﹂
戦槌をこちらに突き付け、爛々とした瞳で語る力天使。
それに向け、魔天使は笑った。
﹁良いわよ⋮⋮。そろそろアンタにも姉の偉大さって言うのを思い
出させてやる時期だと思っていたの⋮⋮相手してあげるわ﹂
ラグラジルが余裕の表情で一歩前に出ようとした時、シャスラハー
ルが動いた。
腰の短刀を抜き放ち、ラクシェへと迫る。
﹁ラグラジルっ! 皆を収容してくれっ! 僕が、僕が僅かでも時
間を稼ぐっ!﹂
隻腕で刃を振るい、至極面倒くさそうな表情を浮かべたラクシェに
743
弾かれる。
﹁撤退︱︱﹂
﹁やめて﹂
撤退命令を出そうとしたシャスラハールに向けて、ラグラジルが酷
く冷めた声を放った。
﹁その命令はやめて。無意味だわ。ラクシェはワタシの空間を殴っ
て抉じ開ける事が出来るし、何よりそれで勝ち目があるわけじゃな
いの﹂
﹃誓約﹄魔法で縛られているラグラジルは、主人の命令を拒否する
事が出来ない。
故に、命令が完全に告げられる前に妨害するのが唯一の対抗策だ。
魔天使に向けて、シャスラハールは叫ぶ。
﹁それじゃあ! どうやっ︱︱がふっ﹂
少年の鳩尾に、途轍もない衝撃が叩き込まれた。
貫手。
ラクシェが放った素手の一撃が、彼の意識を奪い去った。
﹁うるさいわ、耳元でキャンキャンと⋮⋮﹂
腕の先にへばり付いたシャスラハールを放り捨てながら、ラクシェ
は微笑んだ。
﹁これから楽しい愉しい姉妹喧嘩が始まるんだから、外野は黙って
てよねっ!﹂
戦槌を握り直し、獰猛な笑みを見せる。
ラグラジルは妹から目を離し、唇を噛んで事態を見守っていたハイ
ネアへと顔を向ける。
﹁ねぇ、ハイネアちゃん。耳を貸してくれる﹂
﹁はぁ?﹂
突然声をかけられて動揺する少女の顔へと口を寄せ、ニ三言告げる。
少女の顔に浮かぶのは、困惑。
ラグラジルは少女の頭に手を乗せ、ゆっくりと撫でてから離す。
そしていよいよ始まる。
744
西域に名を轟かす姉妹による、破滅的な家族喧嘩が。
ゴウッ︱︱という風切音を立ててラクシェが突っ込んでくる。
半身になり、戦槌を振りかぶった構え。
一方のラグラジルは無手だ。
表情を軽く引き締め、後ろへ跳ぶ。
﹁あっ! 逃げるなっ!﹂
六枚翼をはためかせ、ラクシェが加速する。
ラグラジルはそれに向けて右手を翳し、魔力を込める。
﹁まずは⋮⋮足を奪いましょうか﹂
その言葉と共に、魔力で編まれた闇の糸が出現する。
糸は四方から伸び、ラクシェへと迫る。
﹁プッ⋮⋮ショボ⋮⋮流石ラグラジルだわ、こーんなチンケな魔法
しか使えなくて⋮⋮何が魔天使なの? 馬鹿にしてるの?﹂
力天使は戦槌を振るう事も、手で払う事もしなかった。
彼女の体を覆う様に、背中の翼が回される。
白き光翼が、魔力を放つ。
闇の糸は光に触れた瞬間に、ボロボロに崩れて消え去った。
﹁じゃあ次はこれね﹂
第二の魔法をラグラジルが放つ。
彼女の周りに幾つもの魔鏡が出現し、そこに人影を浮かべる。
それはセナでありシャロンでありステアであり。
彼女が生み出した鏡像が実体を持つ幻影となり、ラクシェへと襲い
掛かる。
﹁何それ? 無意味っ!﹂
振り下ろされた戦槌により、幻影達は一瞬で蹴散らされた。
魔鏡は砕かれ、破片が舞う。
その中央を突っ切る様にしてラクシェが飛び込み、ラグラジルへと
迫った。
745
﹁雑魚すぎぃ!﹂
再び振り下ろされた戦槌。
真上から死の衝撃を叩き込まれ、ラグラジルの体は砕け散る。
キラキラと硝子の破片を撒き散らしながら。
﹁⋮⋮そういう事だろうと思った﹂
地面にめり込んだ戦槌を引き抜きながら、ラクシェが口を尖らせる。
彼女が新たに顔を向けた先に、ラグラジルがふよふよと宙を漂って
いた。
そこに浮かぶ、焦りの表情。
﹁ったく⋮⋮容赦ないわねぇ⋮⋮アンタ。アンから連れて来いって
言われてるんじゃないの? 今の一撃喰らってたら流石に死ぬわよ
ワタシ﹂
砕け散った鏡を見ながら、浅く呼吸する。
その様子を見て、ラクシェは鼻を鳴らして笑った。
﹁ふんっ。良いの良いの。死んだら死んだで今度こそお姉さまも諦
めがつくでしょう? 最近はアンタの動向が気になるのが心労の一
つだったみたいだから、原因は根絶した方が確実だし。まぁ﹃万が
一﹄生きてたら、連れて帰ってあげる﹂
そう言って、戦槌を肩にかけた。
﹁せいぜい死なない様に頑張ってみればぁ?﹂
妹の挑発的な笑みに、姉は口元を歪めて応じた。
﹁加減してちゃ話にならないわね⋮⋮。この際、限界まで出力を上
げて見ましょうか﹂
右手に魔力を込める。
ラクシェを中心とした大地に、広範囲の円陣が出現した。
﹁ふーん。何やっても無駄なのにねぇ。どうせまた幻影でしょう?
そんなの本物の百分の一でも力が有れば良い方じゃない。コレの
素振りにしかならないわ﹂
戦槌を振り回しながら、ラグラジルを見つめて来る。
それに向けて、魔天使は微笑んだ。
746
﹁そうねぇ。どんなに上手に再現しても所詮は幻影。アンタの言う
様に百分の一が関の山だわ。でもね、それなら本当に百体作ってし
まえばっ! どうなのかしらねぇ!﹂
右腕を輝かせて魔力を解き放つ。
するとラクシェを取り囲む様にして、円陣から人影が生み出される。
﹁⋮⋮ふーん⋮⋮っ﹂
それは、ラクシェだった。
百体のラクシェ。
西域最強の武の幻影を、作り出した。
ラグラジルの右手の輝きが消えかけ、彼女は額に汗して魔力を込め
直す。
﹁⋮⋮?﹂
その動きを怪訝に思ったが、迫り来る自分の幻影が振るう戦槌に向
けて応戦した。
﹁軽︱い﹂
その一撃の手応えの無さに苦言を吐いて、戦槌を振り抜く。
そうすると幻影の体は砕かれ、鏡の破片となった。
﹁くっ⋮⋮!﹂
ラグラジルの右手が再度輝く。その先は、大地に広がる円陣へと向
いていた。
その表情は鬼気迫るものだった。
﹁あぁ⋮⋮なぁんだ。もっとたくさん作りたかったんだね?﹂
本物が一。
偽物が百。
本当に個々の実力差が百分の一だったならば、互角になってしまう。
その均衡を崩すために、更なる幻影を召喚しようとしている様に見
えた。
﹁あはっ! でも残念ね。それがアンタの限界みたいね。ラグラジ
ル﹂
ラグラジルの魔力は翼ごとラクシェに奪われている。
747
彼女の魔力には限界が有った。
百体のラクシェを召喚した事により、傍目にもわかる程に疲弊し、
右手の輝きは弱い。
﹁ならならっ! さっさとこの不快な偽物を倒し切ってあげる。そ
うすればアンタは何も出来ないただの雑魚でしかなくなるよねっ!﹂
そう言って、ラクシェは戦槌を振り回した。
襲い来る自分の幻影達に向けて。
幻影の一撃は簡単に防がれ、返す一撃で確実に葬られていく。
けれど数を活かした全方位からの攻撃に、ラクシェの方にも徐々に
ダメージが蓄積されていく。
凡そ五十体程度を葬ったところで、ラクシェは焦れた。
額から血を流し、腕に打撲を負い、翼にも痛みが有る。
先程の騎士連中を生かしたまま倒す為に少々無茶な戦いをした負債
も有り、無視できぬ損耗となっていた。
﹁あぁもうっ! ヤダヤダッ! 本気出すっ!﹂
叫び、轟いた。
ラクシェの小さな体の至る所から血管が浮き出てくる。
血管は青く輝き、顔にまで伸びる。
そして目に届き、それまで輝く白と黒をしていた眼球を、青と黄色
に染め上げた。
覚醒。
力天使としてのラクシェが持つ、唯一の技。
外に魔力を放つ方法を知らない彼女には、こうやって体の内側で魔
力を爆発させる事しかできない。
つよ
しかしそれは、これまでの彼女の全てのスペックを塗り替える事と
なる。
早さ、剛さ、硬さ。
それらを極限にまで高め、攻防一体の鎧と化す。
﹁そええええええええええええいっ!﹂
渾身の一撃を叩きこむ。
748
その一撃で、肉薄していた偽者達二十体が消し飛んだ。
﹁⋮⋮まさか、ここまでとはね﹂
ラグラジルは戦場を俯瞰しながら溜息を吐いた。
妹の戦闘力。
彼女が思っていた以上に、厄介な代物だった。
眼下では、文字通り幻影達が蹴散らされている。
逃げようにも﹃誓約﹄で彼女を縛るシャスラハールが戦場の片隅で
倒れている為、この場所から離れる事が出来ない。
そして、決着の時が来た。
六枚の翼で急上昇してきたラクシェが、満面の笑顔で戦槌を振りか
ぶる。
ラグラジルは皮肉気な笑みを浮かべ、せめてもの抵抗として自分の
周りに闇の繭を展開した。
戦槌が、繭を叩く。
﹁なーんだ⋮⋮生きてるじゃん﹂
大地に降り立ち、ラクシェが第一声を放つ。
その視線の先、大きな岩を背にしてラグラジルが倒れていた。
左腕は粉々に砕かれ、口や目元を含め全身から出血している。
闇の繭を両面展開し、衝撃を減殺し、落下時にも地面に可能な限り
クッションを敷いた事で、何とか生き延びた。
だが、生き延びただけ。
彼女はもう、自力で立ち上がる事も出来ない。
ラクシェの前に、ラグラジルは倒れ伏している。
﹁面倒だけど里まで連れて帰るかなぁ⋮⋮んーっぺっ。あぁもうア
ンタのせいで口の中切れたじゃない⋮⋮それに体中どっこも痛いし
⋮⋮あーあ。ホントムカツク﹂
当に覚醒が切れたラクシェは戦槌を杖代わりにしてラグラジルへと
近づいて行く。
749
﹁⋮⋮何でアンタ笑ってんの?﹂
そして、その表情に気づいた。
ラグラジルが浮かべている、嘲笑に。
魔天使は無言のまま、勝者の笑みを咲かせていた。
﹁ムカツク⋮⋮死ななかったから自分の勝ちだとでも言いたいの?
はぁ? ホント有りえない⋮⋮殺したい⋮⋮でもお姉さまが⋮⋮
あああああああっ!﹂
ラクシェは地団駄を踏み、翼を動かす。
体の前に持って行き、その羽先を尖らせる。
﹁ちょっと気晴らししなきゃ。殺しちゃいそう﹂
六枚の翼が閃いた。
刃物の様に舞い、ラグラジルの衣服を切り裂いた。
魔天使の全身が露わになる。
血と泥に汚れた乳房も、真っ白なままの陰唇も。
﹁アンタさっきのあの雑魚人間達にレイプされたんでしょう? こ
う、いう、風、にねっ!﹂
おもり
戦槌の柄尻の部分。
球体の錘が付いたその先を、ラグラジルの陰唇へと突き刺した。
﹁おぐぁ!﹂
苦しげに喉をのけ反らせるラグラジル。
それを見て、ラクシェは満面の笑みを浮かべた。
﹁あはっ。あはははははは。ねぇお姉ちゃん遊んでよぉぉぉぉっ!
小さい頃みたいにさぁぁぁ。さーどんどん行くよーっ﹂
ズチュ︱︱と戦槌を抜き取り、
ブチュゥゥゥ︱︱と更なる力で突き刺した。
﹁ひぐぅぅぅぅぅぅぅ!﹂
無残な悲鳴。
狡知で知られた魔天使ラグラジルが情けなくも涙と共に零すその叫
びに、﹃暴力﹄から生まれた天使、ラクシェは笑みを深くする。
﹁こう? こうかな? こうやって犯されたの? ねぇ、ラグお姉
750
ちゃんっ! こう? こうこうこうこうこう?﹂
ズボッ︱︱ギュボッ︱︱グボッ︱︱グニュ︱︱。
凝り返される、金属のストローク。
﹁あがっ、ぎ、いぎぎぎぎぎぎぎぎぎ﹂
ラグラジルは涙と涎、そして股間から血と愛液を噴き出しながら痙
攣していく。
﹁あはははははははっ! 楽しいっ! 楽しいよラグお姉ちゃんっ。
次、次はこっちの穴に入れてあげるねっ!﹂
そう言ってラクシェは戦槌を乱暴に引き抜き、柄で姉の股を強烈に
叩きつける。
﹁あぐぁああああ﹂
悶絶し、股間を押さえて苦しむ姉の尻が浮いたところで、露わにな
った尻穴に容赦なく球体の付いた柄先を突きこんだ。
﹁おごおおおおおおおおおっ!﹂
直腸をメリメリと侵略し、限界ギリギリまで金属を侵入させる。
﹁ひはははははははっ。良い様っ! ねぇ。今のラグお姉ちゃんが
今までで一番好きっ! もっともっと惨めに泣き叫んでっ! ウチ
と遊んでっ!﹂
姉の脇腹を蹴り付け、姿勢を変えさせる。
蛙の標本の様に、両手足を折り曲げた仰向けの体勢になったところ
で、ラクシェは足を上げる。
今日のラクシェの装いは、白を基調とした天使らしいゆるやかな物。
そこにちょっとだけ異質な尖ったヒールを履いて来ていた。
ヒールはこれまでの戦闘で散々に汚れ、地面を噛んでいたせいです
っかり泥に汚れている。
それを、姉であり、西域のかつての管理者、全魔物が崇拝し憧れた
存在の秘部へと突き入れた。
グニュリ︱︱。
肉を割り開き、尖ったヒールが人体の空洞へと収まる。
肛門には血の付いた戦槌を、そして膣には泥に汚れたヒールを突き
751
入れられ、ラグラジルは悶える。
﹁おごっふおおおおおおお﹂
﹁お姉ちゃん! ラグお姉ちゃんっ! もっと! もっと鳴いてっ
! マンコとアナルを穿られながらヨガってるお姉ちゃんならウチ
愛せそうっ! これから毎日こうやって惨めに喘いでくれる? 大
丈夫。相手ならウチが用意してあげるから! ウチ異端審問官や色
んな魔物と友達だからっ!﹂
ラクシェは全体重を乗せ、姉の膣を抉り回す。
その振動に合わせて、肛門を穿つ金属も滅茶苦茶に動き回る。
ラクシェが満足するまでのしばらくの間、姉と妹は久々に大いに触
れ合った。
ヌラァッ︱︱とラグラジルの膣口からヒールが抜かれる。
愛液と血がこびり付いている。
代わりに、それまで付着していた泥は全てラグラジルの膣内に擦り
落とされていた。
﹁あー満足満足。さ、帰ろうかラグお姉ちゃん。帰ってからもたく
さん遊ぼうねー﹂
ラクシェはご機嫌な笑顔でラグラジルから離れ、一息ついている。
ラグラジルは涙と涎に汚れ、肛門に戦槌を差し込まれた状態のまま
転がっている。
転がったまま、涙を垂らしたまま、笑った。
勝者の笑みを、浮かべた。
﹁馬鹿な⋮⋮妹⋮⋮﹂
そして、指を鳴らす。
彼女の体の真下に闇の門が開き、吸い込まれていく。
無論、肛門を抉ったままの戦槌も共に。
それを見て、ラクシェは眉を跳ねあげた。
﹁あーっ! もう、無駄な抵抗だよっ! ウチならその異空間ごと
752
殴りつけられるのにっ!﹂
その時、背後に気配が生まれた。
戦いに熟練しているラクシェはその気配に反応し、振り返る。
そこには、ラグラジルの着ていた物に似た昏い衣装を纏った、先ほ
ど倒した騎士達が立っていた。
全員が武器を構えている。
そして、
﹁怪我⋮⋮治ってる⋮⋮﹂
自分の手で血塗れにしたはずの騎士達の肌は輝きを取り戻し、その
瞳に力強ささえある。
その時、ラクシェの耳元に小さな闇の輪が浮かんだ。
闇の輪から声が届く。
姉の声だ。
﹃クスッ⋮⋮ラクシェ。本当に馬鹿ね、貴女⋮⋮。それとも、お姉
ちゃんの事が大好き過ぎて他が目に入らなかったのかしら?﹄
異空間から、声だけ届く。
﹁ど、どういう事?﹂
ラクシェは戦槌を構えようとして、それが自分の手元に無い事を再
認識する。
﹃貴女がワタシの体を玩具にしている間に、皆に回復してもらった
のよ。さ、仕切り直しの第二戦。さっきの結果からハンデとして貴
女にはダメージ残留と武器無しで戦ってもらいます﹄
姉の、酷薄な笑い声が聞こえる。
﹁馬鹿なっ! アイツラは徹底的に痛めつけたはずだよ⋮⋮。それ
なのにこんな短期間で回復だなんて⋮⋮アン・ミサお姉さまでもな
い限り無理⋮⋮﹂
素手で構えをとりながら、額から汗を流す。
﹃簡単よ⋮⋮ワタシの魔力付与で、まずは﹃回復役﹄を強化して、
ついでに死に掛けの全員にも付与をしてあげたの。ただまぁ深手で
ある事にはかわりなかったし、数も多かったから時間が掛かっちゃ
753
ったけど⋮⋮ハイネアちゃんは良くやってくれたわ﹄
その言葉で、ラクシェは一人の人物を睨みつける。
少し離れた場所で、シャスラハールに治療術を施している﹃黒いレ
ザーのドレス﹄を着た少女を。
﹁そんな暇なかったはず! アンタの魔力が発動した場面は全部見
たのにっ!﹂
ラクシェは動揺を隠せない。
魔力の糸も、幻影も、ラクシェの幻影を召喚した時も、自分は姉の
魔力を察知していた。
余分な動作なんて︱︱
﹁えっ⋮⋮﹂
一つだけ、思い浮かんだ。
﹃あら、気づいた? 馬鹿の癖にやるわね? そうよ。あの百体の
貴女を造り出した後、ワタシは増員の為の魔法を使ってたんじゃな
いの。付与の魔法を死に掛け全員に送っていたのよ﹄
魔力を振り絞り、百対一の均衡を破ろうとしていた様に見えた事は、
全て虚偽。
彼女はあの瞬間、全く別のところへ魔力を送っていたのだ。
円陣が、辺り一帯に広がっていた事で気が付かなかった。
円陣に魔力を送り込み、自身の魔法を強化している様にしか見えな
かった。
その実は、円陣の上に転がっていた、騎士達に力を分け与えていた
のだった。
﹃さ、そろそろ覚悟しなさいね。ラクシェ。オイタが過ぎたの。こ
れからは、反省の時間よ﹄
ラグラジルの声と共に、魔力付与を受けた騎士達が襲いかかってき
た。
﹁戸惑いましたが、背に腹は代えられませんからっ!﹂
シャロンの双剣が舞う。
﹁ここでコイツに倒されるわけにはいかないっ! フレアの為にも
754
っ!﹂
騎士槍を突き放ちながらステアが吠える。
﹁スピアカントの聖騎士として、敗北は許されません﹂
ヴェナが聖剣を閃かせる。
﹁ハイネア様が覚悟なさった事です。私が逆らう事ではございませ
んっ!﹂
短剣を投げながらリセが主人の名を口にする。
﹁いやー。さっきまでパンツだけだったんですけどー。魔力付与さ
れると服が出来るって本当なんですねー。マリス感激ですー﹂
曲刀を踊らせ、マリスが笑みのまま突っ込んでくる。
ラクシェは、一歩下がった。
これまでの経験ではそのような事は無かった。
ラクシェは常に前進し、並み居る敵を倒し続けて来たのだ。
﹁あ、あああ⋮⋮あああああああああああっ!﹂
吠える。
全身に力を込め、﹃覚醒﹄を行う。
体中を青く輝かせ、素手のまま突撃した。
全回復し、魔力付与によって強化された騎士達。
愛用の戦槌を奪われ、更には体中にダメージを抱えている力天使。
激しい戦いが繰り広げられる。
拳が、剣が、槍が飛び交い。
血が、呻きが、叫びが散らばった。
そうして、決着の時を迎えた。
力天使ラクシェは、右腕を深く切り裂かれた状態で、地面に仰向け
で転がっている。
﹁あ⋮⋮ああ⋮⋮う﹂
全身から血を零しながら、生きていた。
否、生かされていた。
﹁ごふっ⋮⋮。はぁ⋮⋮何とか、勝てましたね⋮⋮﹂
強烈な一撃を胸に浴び、シャロンは血を吐きながら言った。
755
﹁シャロン、こっちに来い。治療だ﹂
ハイネアが駆け寄って来て言う。
﹁⋮⋮此度の功労者は、ハイネア王女と⋮⋮何と言ってもラグラジ
ルか⋮⋮﹂
地面に槍を突き立て、それを支えに何とか立っているステアが口を
開いた。
﹁それでは、殿下﹂
ヴェナが促す。
﹁⋮⋮うん﹂
促された先、シャスラハールが一歩前へと進み出る。
その隣に、闇の門が開いた。
全身ボロボロのまま、ラグラジルが出現する。
ラグラジルはシャスラハールの隣に立ち、ラクシェを見下ろして、
舌打ちを一つ吐いた。
﹁アンタ⋮⋮何て顔してんのよ﹂
ラクシェは泣いていた。
幼子がやる様に、手を甘く丸めて目を擦りながら泣いていた。
﹁いやぁぁぁ嫌だぁぁぁぁ﹂
泣き叫び、ぐずっている。
そんな妹の姿に、ラグラジルは目元に険を浮かべる。
﹁そうね。アンタはいつもそうやって泣いてた。思い通りにならな
かったらとりあえず相手を殴って、それでも上手くいかなかったら
泣いて叫んで、ワタシやアンが折れるのを待ってた﹂
ラグラジルは指を鳴らす。
虚空から、闇の糸が吐き出される。
﹁いい加減、大人になりなさい。ラクシェ。これからこのお兄ちゃ
んが、アンタを大人にしてくれるそうだから﹂
闇の糸はラクシェの全身に絡みつきながら、衣服を裂いていく。
そして、重力に抗う様にラクシェの体を持ち上げて、股を開いた状
態でシャスラハールの体の前で固定する。
756
﹁いやああああああああああっ! やめてっ! 許してよっ! お
願いっ! 羽根が黒くなるのは嫌っ! お姉さまと一緒じゃなくな
るのは嫌なのっ!﹂
泣き喚き、全身を揺する。
しかし力を使い果たしたラクシェに、ラグラジルの拘束は解けない。
シャスラハールは踏み出す。
己の肉棒をとりだし、ラクシェの幼い陰唇へと押し付ける。
﹁いやだいやだいやだいやだあああああああああ﹂
幼く綺麗な顔をグチャグチャに乱し、ラクシェが叫ぶ。
それに向けて、シャスラハールは首を振った。
﹁⋮⋮もう、迷わないって決めたんだ⋮⋮っ!﹂
ズブッ︱︱
シャスラハールの肉棒が、ラクシェの膣に侵入した。
﹁痛っ! あ⋮⋮入って⋮⋮ああ⋮⋮ああああああ﹂
ゆっくりと前後するシャスラハールの腰。
その動きに合わせるかのように、ラクシェの翼が、ゆっくりと黒く
染まっていく。
血が、膣口から滴ってくる。
純潔の証明。
そして、破瓜の証。
未開発で幼い膣は狭く、万力の様にシャスラハールの肉棒を締め付
けていく。
射精の時は、すぐにやって来た。
﹁⋮⋮出すよ﹂
そっと口にし、相手の反応を待たずに解き放った。
﹁いやぁ⋮⋮いやあああああ﹂
天使の子宮に、人間の精液が押し込まれる。
その時、シャスラハールの﹃誓約﹄刻印が輝き、効力を発揮した。
ラクシェとシャスラハールの間に、誓約が結ばれた。
ニュポッ︱︱と肉棒が引き抜かれる。
757
闇の糸も解かれ、ラクシェは地面へと叩きつけられる。
そのラクシェへ向けて、ラグラジルが異空間から戦槌を取り出し、
放る。
﹁さ、これからアンタはこのお兄ちゃんの奴隷になるの。命令通り
に働いて、言われるがままにアソコもアナルも差し出すの。差し当
たっては隠れ里の攻略が急務みたいだから、アンと戦ってね? あ
の子も奴隷にしなきゃいけないのよ﹂
そう言われ、ラクシェは啜り泣きを止めた。
﹁お姉さまを⋮⋮?﹂
﹁そう。折角アンタっていうこれ以上無い戦力が手に入ったんだか
ら、有効活用しなくちゃね? だからその戦槌を返してあげる﹂
ラグラジルは酷薄に笑い、詰め寄る。
その時、ラクシェの左手が戦槌を握った。
﹁お姉さまと戦う⋮⋮いや⋮⋮そんなの⋮⋮いやぁ﹂
それに向けて、魔天使は微笑んだ。
﹁ダメよ。その魔法が有る限り、ご主人様の命令は絶対なんだから﹂
現実を突きつける。
その言葉がトリガーだった。
ラクシェは残された力で左腕を持ち上げ、そこに握られていた戦槌
を振り下ろした。
対象は、自分の二本の脚。
﹁ひっ!﹂
ハイネアの小さな悲鳴が聞こえ、それが消え去った後、その光景は
広がっていた。
ラクシェの足は両方とも、膝から下が潰れていた。
ハイネアの治療術では、例えラグラジルの付与が有ったとしても、
無から有は作り出せない。
完全に潰れてしまった足は、元通りにする事は出来ないのだ。
激痛を確信させる光景の中、当のラクシェは笑っている。
﹁こ、これで⋮⋮お姉さまと戦わないで済むんだ⋮⋮やった⋮⋮良
758
かったぁ⋮⋮﹂
そう言って、気を失った。
﹁馬鹿な子⋮⋮本当に、馬鹿な子⋮⋮!﹂
その光景を見て、ラグラジルは複雑な感情を爆発させる。
妹には一方的に嫌われていた。
自分だって最近は憎らしくも思っていた。
先程は酷い目にもあった。
それでも、家族として共に生きてきた者がこうやって自分の体を自
分で壊す光景を見せつけられると、何とも言えないもどかしい思い
が生まれる。
故にこれは、彼女の狡知がなせる技では無く、単純に感情が勝った
結果、口が勝手に開いた。
﹁⋮⋮言い忘れてたけど、アン・ミサなら、ご主人様のその無くし
た腕も⋮⋮復活させる事が出来るのよ。あの子の回復魔法に⋮⋮不
可能は無いからね⋮⋮﹂
その言葉を聞いて、シャスラハールは静かに頷いた。
﹁わかった⋮⋮やろう。絶対に、アン・ミサを攻略する⋮⋮この腕
と、この子の足の為にも﹂
また一つ、アン・ミサを攻略する理由が増えた。
759
争いの無い一日︵前書き︶
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760
争いの無い一日
ぐずり泣くラクシェをそれぞれ複雑な表情で見守っていると、
西方の空から羽根の音が聞こえて来た。
﹁あぁ⋮⋮天兵が来たみたいね﹂
先程ラクシェに負わされたダメージが癒えきらないラグラジルは、
地面に座り込んだ状態で言った。
﹁なぜ⋮⋮今更⋮⋮?﹂
ハイネアに治療してもらった腹部を撫でさすりながら、シャロンが
立ち上がる。
﹁遠目でも⋮⋮二百は有りそうだな﹂
ステアが槍を握る手に力を込めながら呻く。
既に全員が満身創痍。
ハイネアの治療で持ち直したとはいえ、既に一度死に掛けているの
だ。
これから二百人の天兵と戦う。
そう考えると、厳しい予感が浮かぶ。
﹁大方ラクシェと一緒に出て来たんでしょうけど、この子の速度に
ついていけなくてのんびり自分達のペースで追いかけて来たってと
ころかしらね。変わらないわねぇ。里の天使達の無気力さは﹂
ラグラジルはすすり泣くラクシェに視線を向けながら、そう呟いた。
﹁ラグラジル。殿下とハイネア王女⋮⋮そしてラクシェを貴女の空
間に。ここで天兵を迎え撃ちます﹂
フラフラの状態ながら、ヴェナが聖剣を構える。
それに続く様にリセとマリスが動き出した時、再び魔天使の口が開
いた。
﹁大丈夫よ。アイツらならワタシが追い払ってあげる。これでも元
上司だしね﹂
761
気怠そうに立ち上がり、ハイネアと視線を合わせる。
﹁ハイネアちゃん。疲れてるだろうとこ悪いんだけれど、この子に
も治療をお願いしていい? 放っておいても死なないだろうけど、
いつまでもグズグズ泣いてるのもウザいわ﹂
ゆっくりと歩きながら、そう言った。
﹁⋮⋮わかった﹂
全員に二回ずつの治療を施し、魔力を擦り減らしているハイネアが
頷いた時、魔天使は薄く笑った。
﹁ありがと。それじゃあ、代金代わりに働きましょうかね﹂
バサッ︱︱と背中の二枚の黒い翼を広げる。
こちらに向かって来ていた天兵達は、その翼を見て一斉に動きを止
めた。
﹁ラ、ラグラジル様⋮⋮!﹂
﹁人間に囚われていると言うのは本当だったのか⋮⋮﹂
﹁見ろ、ラクシェ様が⋮⋮!﹂
ザワザワと騒いでいる天兵達に向けて、ラグラジルは凄みのある笑
みを浮かべた。
﹁ねぇ⋮⋮戦うの? ワタシとラクシェを倒したこの人間達と、戦
うの? 貴方達が? ねぇ、それって⋮⋮勝てるのかしら?﹂
天兵達は知っている。
ラクシェの武勇を。
ラグラジルの魔法を。
﹁⋮⋮ひ、退くべきじゃないか?﹂
﹁そ、そうだな。どうせ俺達には勝てない。やるだけ無駄死にだ﹂
﹁アン・ミサ様に正確に報告しなくちゃならないしな。ここで怪我
でもして記憶が混乱したらまずい﹂
天兵達は我先にと今来た方角へと向き直る。
その背中に、ラグラジルが声をかける。
﹁アンに伝えておいてくれるかしら? 次は貴女の番よって。近い
内に隠れ里までワタシがこの人達を連れて行くから、その時は貴女
762
がお出迎えして頂戴ねって﹂
その声は間違いなく彼らに届いただろう。
けれど、彼らは何か返事をするだけの余裕を失っており、まるで競
争するかの様に羽根を動かし飛び去っていった。
人間達は、その様子を呆れと安堵が混在した表情で見守っている。
﹁こっちがボロボロなのは見ればわかるでしょうに。それで数では
圧倒的に有利だって言うのに、誰一人としてラクシェを助けようと
はしない⋮⋮ホント、どうしようもない連中ね﹂
魔天使は、冷酷な笑みを零していた。
天兵を追い払い、ラクシェに治療を施した後、シャスラハール達は
旅へと戻った。
目的地は﹃天兵の隠れ里﹄
ラグラジルの話では先ほどの戦場から徒歩で十日程掛かる距離。
野宿を繰り返しながら数日歩きづめる。
そんなとある日の事。
﹁くしゅっ!﹂
荒地を歩いていると、シャロンがくしゃみをした。
季節はもう既に秋を越えて冬を迎えている。
風を防ぐ建物や木々が無い以上、肌を刺す寒さは尋常では無い。
しかも、一糸纏わぬ全裸であるならば、言うまでもない話だった。
﹁あーあ。だから言ったのに。やっぱり付与は続けてた方が良いん
じゃないの?﹂
ラグラジルが皮肉気に笑って問うと、シャロンが横目で睨みつける。
﹁愚問です。貴女の魔力を身に纏うなど、そちらの方が怖気がして
寒いというものです﹂
ラクシェに勝つ為、そう割り切ってラグラジルの付与を受け入れた
ものの、シャロンにはやはりどうやってもこの魔天使が信用できな
かった。
763
実質的にこの中で最もラグラジルの被害に遭っているのはシャロン。
これまで自分を犯した全ての人間との性行為を﹃やり直し﹄させら
れ、二人の仲間が闇の眷属に堕ちる姿を見せつけられ、
そして、
子宮を改造され、悪魔を宿す母胎に変えられている。
今でこそシャスラハールに誓約で縛られているとはいえ、完全に気
を許す事は出来なかった。
﹁確かに力は増した。けれど本来の自分の力で無い以上は、信頼す
る事は出来ないな。力を信頼できなければ戦いで生き抜く事は出来
ない。だから今は必要ない﹂
ステアもまた付与を断り、ラクシェによってボロボロにされた衣服
を身に纏っている。
と言っても、最早濃紺のパンツが一枚股間を覆っているだけになる
が。
﹁わたくしは聖者の祝福を受けています。あまりその他の魔力と混
在させすぎるとそちらが弱まってしまう。そうなっては聖騎士の称
号を失いかねません﹂
ヴェナは腰巻の布一枚になった体で、颯爽と歩いている。
﹁⋮⋮私は、ハイネア様をお守りする為だったら、ラグラジルさん
の魔力も⋮⋮受け入れます﹂
そう言うリセも、完全に全裸だ。
﹁⋮⋮正直妾はもう⋮⋮キツイがな⋮⋮﹂
ハイネアはラグラジルの魔力により強化された事で、全員の傷を癒
す事が出来た。
けれど本質的に異なる種類の魔力、﹃治療﹄と﹃闇﹄の相性は悪く、
それ以降少し体調を崩し気味だ。
主人が付与を解除し裸になっている以上、侍女もまたそれに従う。
それだけの事だ。
﹁やー、皆さん何か色々有るのですねー。マリスはこれぬくぬく温
かいので嬉しいですよー。ありがとですー、ラグさーん﹂
764
能天気に笑うマリスの体は黒のレザーで作られたボンテージ姿。
太ももを這うガーターベルトが白い肌に艶めかしく映えている。
﹁いーのよー。マリスちゃーん。ワタシ達友達だもんねー﹂
ラグラジルは背中の荷物を背負い直しながら、そう答えた。
背中には、
﹁⋮⋮クスン⋮⋮﹂
未だに泣きべそを浮かべたラクシェがへばり付いていた。
あの後どうにか状況を理解したラクシェは、塞ぎ込み、他者の手を
撥ね退けてラグラジルの服の裾をギュッと握りしめたのだった。
それ以降滅多に口を開こうとせず、ただ姉の体にしがみ付いている。
﹁あーあ⋮⋮何でコイツ背負わなきゃいけないのよ⋮⋮。あんだけ
滅茶苦茶にヤられたって言うのに⋮⋮﹂
憎まれ口を叩きながら、また背負い直す。
﹁ラグラジル⋮⋮僕が代わろうか? 一応、主だし僕の言う事にな
ら従うだろうから﹂
傍を歩いていたシャスラハールが問うてくる。
その時、猛烈な勢いでラクシェの頭が左右に振られた。
﹁ですって。あーあ、アンタ足無くても翼有るんだから飛べばいい
じゃない。いい加減重いのよ﹂
そうボヤいたラグラジルの背中で、小さな声が発せられる。
﹁⋮⋮こんなの、ウチの羽根じゃないもん⋮⋮こんな、汚い色⋮⋮
違うもん﹂
黒く変わった翼を仕舞い込み、ただひたすらに姉の背中にしがみ付
く。
ギュッと握ってくる力に、ラグラジルが嘆息した時、前方から声が
上がった。
﹁⋮⋮あれ、何でしょうか?﹂
シャロンの警戒心が込められた声。
﹁人家っぽいですねー。灯りも見えますよー。村とか集落とか⋮⋮
そんな感じに見えますねー﹂
765
軽い声で応じたのはマリス。
進行方向に見えたのは、小ぢんまりとした木の家。
それが複数個点在して建っていた。
﹁⋮⋮ラグラジル?﹂
ヴェナが振り返って問うてくる。
﹁あーはいはい⋮⋮人使い荒いわねぇホント⋮⋮﹂
魔鏡を出現させ、集落を映しだす。
そこに映ったのは、垂れたウサギ耳を頭に乗せた、パッと見では人
間に見える者達だった。
﹁あぁ、ロプイヤー族か。良かったわね。行きましょう﹂
そう言って、ラグラジルはラクシェを背負い直して前へと進む。
向かう先は、集落の方向。
﹁ちょ、ちょっと待つのだ、ロプイヤー族とはなんなのだ?﹂
ハイネアが慌てた声で問うてくる。
それに向けて、
﹁人当たりが良い親切な魔物よ。頼めば宿だって貸してくれるわ。
このところ野宿続きで疲れてるし、温かい食事も摂って無いでしょ
? こういう機会は滅多に無いんだからお邪魔するべきよ﹂
ラグラジルは飄々と答えた。
﹁人当たりの良い⋮⋮親切。マルウス族と似ていますね⋮⋮﹂
かつて騙され、仲間を奪われた記憶がぶり返し、シャロンは厳しい
表情を作る。
﹁あぁあのクソネズミ共とは全然違うわよ。だってロプイヤーは﹃
アン・ミサ系﹄だから﹂
聞き慣れない言葉に、リセが疑問する。
﹁あの⋮⋮アン・ミサ系とは?﹂
それに対して、ラグラジルは歩調を緩めないまま答えを返す。
﹁魔物の性格はね、大きく三つのパターンに分けられるのよ。その
一つがアン・ミサ系。平和と義理を大事にし、穏やかに生きている
種族﹂
766
それを聞いて、マリスがおやぁと笑顔を零す。
﹁三つのパターンでぇ、一つがアン・ミサさんだとすると⋮⋮もし
かしたらってマリスは思いますっ!﹂
それに苦笑を浮かべつつ、魔天使は言葉を続けた。
﹁そうね。この子に似たタイプ、ラクシェ系が有るわ。凶暴で馬鹿
でただひたすら多種族に喧嘩を吹っかけているタイプがそれね﹂
背中を揺すりながらそう言うと、
﹁⋮⋮最後の一つは、ラグラジル系。狡賢くて卑怯で騙し討ちなん
かが得意なタイプ⋮⋮。マルウスはコレ﹂
ボソっとラクシェが言い放った。
キッと振り返り、ラグラジルは口を開く。
﹁ハァ? 知性が有ると言いなさいよ。何よ狡賢くて卑怯って!﹂
﹁本当の事だもん⋮⋮マルウスとか全然弱っちい癖に繁栄してたの
はそういう事でしょ。それに馬鹿って言ったのそっちが先だもん﹂
﹁アンタの暴力至上主義タイプがのさばって全体の半分占めている
んだから生き残る為に知恵を絞った結果でしょう?﹂
﹁その次に多いのは卑怯なラグラジル系だもん! 数だってほとん
ど変わらないよっ! アン・ミサ系は全体の一割無いんだからっ!﹂
姦しく姉妹が言い合うのを、全員が呆れた表情で見つめる。
﹁えっと⋮⋮じゃあ、とりあえずそのロプイヤー族って言うのは暴
力至上主義でも無く狡賢しこくて卑怯なわけでも無い⋮⋮んだね?﹂
シャスラハールが言うと、姉妹天使はギンッと怖い表情で振り返る。
﹁﹁そうですがっ?﹂﹂
そして振り返った後、何かにハッとした表情でラクシェは姉の背中
に顔を埋める。
その姿を見て、ステアは古い記憶を刺激された。
子供の頃、彼女も人並みに姉妹喧嘩をした。
妹であるフレアは何かと自分に張り合い、泣いて怒って俯いた。
けれど、ふと自分や父親がからかうと、油断したように笑顔を見せ、
そしてすぐに俯いて怒る作業に戻った。
767
子供の怒りは長続きしない。
見た目同様に幼いラクシェの内側がどうなっているのかはステアに
は分らない。
彼女にとってみれば処女を奪われたショックなどが渦巻いているだ
ろうし、その直接の相手であるシャスラハールに対する感情は言う
までも無く悪いだろう。
けれどここ数日、ラグラジルの背中に乗って旅をしている彼女を見
て気が付いた事が有る。
少しずつ、姉に気づかれない様に顔を上げ、その匂いを嗅いでいた
のだ。
全身で温もりに触れ、香りに触れ、何かを思い出しているようだっ
た。
ラクシェの犯した罪は許されない。
フレアを拉致し、異端審問官と言う拷問吏に引き渡したという話だ。
今ステアにはそれを許す気は無い。
もし許すとしたら、それはフレア自身がラクシェを許した時だ。
恐らくラクシェには罪の意識など無いのだろう。
思うままに動き、暴れ、結果として捕まった。
﹁子供は良いな⋮⋮まったく⋮⋮﹂
罪を背負う力も、憎む力も無い。
どちらも簡単に別の物に置き換えてしまう。
今のラクシェには、大嫌いだった姉が傍に居るという事が一番の問
題なのだ。
ラグラジルは彼女の事を馬鹿と言った。
真実そうなのかもしれない。
ラクシェの脳内はフレアの事よりも、シャスラハールの事より更に、
ラグラジルの事で一杯一杯なのかもしれない。
感情の容量が少ないのだ。
そんな事をつらつらと考えていると、
至った。
768
ロップイヤーの集落に。
﹁ほらねぇ? 顔パスでしょう? これでも元管理者なんだからね
ぇ﹂
ラグラジルはそう言って、ラクシェを乱暴にソファーへ放り投げ、
そして自分もその隣に腰を下ろした。
﹁⋮⋮本当に⋮⋮良い人達でしたね⋮⋮﹂
シャロンが呆然と手にした布を広げて言った。
﹁服が無いと言ったら布をくれたな⋮⋮かなり大きい、これで人数
分作れそうか﹂
その布を触りながら、ステアが言う。
﹁家も丸ごと一軒貸してくれたのう⋮⋮﹂
木の柱を触りながらハイネアが呟くと、
﹁食材も⋮⋮こんなに⋮⋮﹂
借りた鍋一杯に食材を乗せたリセが戸口から入って来る。
そこに続けて、マリスが入って来て、
﹁ラグさーん。後シャスくんとヴェナ様。なんか長老様がお話した
いそうだから顔貸せってー﹂
その言葉に、
﹁わかりました。それと、マリスさん。様を付けるのなら殿下の方
にも付けなさい﹂
こめかみに青筋を浮かべたヴェナと、
﹁いやはは⋮⋮僕は何でも結構ですので、それじゃあ行って来ます。
ラグラジルも⋮⋮たぶん、里の人が一番会いたいのは君だろうから﹂
元西域の管理者という名目でこの家を借りた以上、その当人が居な
くては話にならない。
現役の管理補佐であるラクシェは姉の背中にずっと顔を埋めていた
為、里の者にはバレていなかった。
﹁はいはい。一日重り背負って歩いてたから足が痛いって言うのに
769
⋮⋮。ご主人様のご命令なら仕方ないですね﹂
不承不承に魔天使は立ち上がり、三人は家から出て行った。
﹁あっ⋮⋮﹂
その背を追う様にラクシェの手が伸びたが、結局振り返る事も無く
姉の姿は消えて行った。
﹁⋮⋮さて、それじゃあわたしは少し家の周囲でも見て来るかな﹂
ステアはそう言って貰った布を大きく切っただけの物を体に巻き、
戸口に立つ。
緊急事態が無いとも言えない。
地理を把握しておく必要が有った。
﹁では私は荷物の整理をロプイヤーの方と話合って来ます。何かこ
ちらの持ち物と保存の利く食料などが交換できれば良いのですが﹂
シャロンも布を巻き付けながらそれに続き、二人は出て行った。
﹁それでは私は調理の方を、ハイネア様はそちらのベッドで少しお
休み下さい。料理が出来上がったらお呼びします﹂
小さな体で懸命に付いて来る主の負担を知っているリセは、ハイネ
アが自分から何かをやると言い始める前にそう提案する。
﹁う、む⋮⋮わかった。では少し横にならせてもらう﹂
疲労が深かったのか、ハイネアはその言葉に大人しく従いベッドの
住人となった。
﹁ではではっ! マリスはリセさんのお手伝いをしますっ! 大丈
夫ですよー。気楽な傭兵稼業でしたので、食うや食わずは茶飯事で
したっ。もう何だって食べられますし料理もできます。見たところ
お肉が無い様なので、近くの茂みから蛇でも捕まえて来ますねっ!﹂
鍋の中を見てそう言ったマリスの腕を、リセが焦り顔で捕まえ、首
を振った。
﹁こ、今夜は⋮⋮この中の物で作りましょう。マリスさんはそちら
の野菜を切って下さい﹂
そうして、ボンテージ姿と全裸の二人が並び立って調理が始まった。
770
ラクシェの視界には、剥き出しの尻と黒い皮が食い込んだ尻が大き
く見えている。
二人は料理をしているのだと言う。
自分もこの後、この二人が作った料理を食べる事になるのだと思う
と、途端に腹が鳴った。
きゅぅ︱︱と弱弱しい音が鳴り、二人が振り返った。
ボンテージに包まれた女が笑う。
﹁ありゃ、ラクシェたんお腹が空きましたか︱?﹂
数日前に自分が戦槌でボロボロにした曲刀の剣士だ。
﹁⋮⋮もうすぐ出来ます。出来上がったら、ちゃんと貴女の分も有
りますから﹂
もう一人、投剣使いの女の表情は硬い。
けれど、自分が彼女の剣を何度も弾き返した時に浮かべた絶望顔よ
りは、全然緩やかだ。
そんな時、
﹁ハイネア様っ! よろしければお力をお貸し頂きたい﹂
戸口に、ステアと呼ばれていた女が立って叫んでいる。
﹁⋮⋮ふにゅ⋮⋮?﹂
ベッドで眠っていた、自分と大差無い身長の少女が起き上がり、首
を傾げている。
﹁ロプイヤーの子供が木登り中に木から落ちて大怪我をしたような
のです。この集落には医者と呼べる者は居ないらしく⋮⋮﹂
かなり重い怪我である事が、その表情から察せられる。
﹁うむ。わかった、行こう﹂
先程まで寝ぼけ眼だった少女は立ち上がり、パタパタとステアへと
駆け寄った。
﹁こちらですっ!﹂
﹁うむっ!﹂
二人が出て行き、パタン︱︱と戸が閉じた。
771
﹁そんな事が⋮⋮それで、その子供は大丈夫だったのですか?﹂
シャスラハールが、木匙でリセとマリス手製のシチューを口に運び
ながら言った。
﹁うむ。骨折と打撲だったが、その程度であれば妾の魔法で一発よ﹂
胸を張ってハイネアが頷く。
﹁周りの大人に大変感謝されましたね﹂
治療を傍で見守っていたステアが思い出すようにして言った。
﹁流石です。ハイネア様﹂
給仕をしながら、キラキラとした目で主を見つめるリセ。
﹁その事なんですが﹂
急に、皿を置いてシャロンが声を発した。
﹁私との交渉役がどうやらその子供の親御さんだったらしく、有難
う有難うと⋮⋮礼をさせてくれと言われ、あの⋮⋮ラグラジル?﹂
そこで視線を横へ向ける。
﹁何?﹂
ラグラジルは自分の背中に隠れて食事をしているラクシェを気にす
る様子も無く、問い返した。
﹁バーニー族って⋮⋮何系ですか?﹂
その言葉に、
﹁バーニー族ならアン・ミサ系よ。というかロプイヤーの中の青年
期男子の事をバーニーって言うのよ。まぁ雄ばっかりだから多少気
は荒いけどね﹂
魔天使は元西域の管理者として、淀みの無い答えを返した。
﹁シャロンさん。そのバーニー族がどうしたのですか?﹂
シチューを早くも食べ終えおかわり中だったヴェナが問う。
﹁はい。交渉役の方から提案が有り、旅の護衛としてバーニーの勇
者を三十人付けると言われたのですが⋮⋮﹂
その言葉に、全員が身構える。
772
マルウス族から味わった苦汁が、皆の心を蝕んでいるのだ。
けれど一人だけ、あっけらかんと頷いた。
﹁あら、良いじゃない。バーニーはそこそこ強いわよ。ロプイヤー
達がこの西域で生きていけているのはバーニーの力のおかげだしね。
アン・ミサ系だから信頼出来るわよ﹂
信頼できない魔物の代表であるラグラジルが、シチューをモグモグ
しながら言い、
﹁あ、リセちゃんこれおかわり。⋮⋮何? アンタもおかわりなら
自分で言いなさいよね、まったく⋮⋮﹂
自分の分とラクシェの分の皿をリセへと差し出した。
﹁信頼⋮⋮ですか。ここまで厚遇して頂いて、疑う事も無いとは思
いますが、それとは別に、私達はこれから先西域の管理者であるア
ン・ミサと戦うのですから、その事で彼らの立場が悪くなっては⋮
⋮﹂
そう言ったシャロンに、小さな声が応えた。
﹁それは⋮⋮無い⋮⋮﹂
ラグラジルの後ろから発せられたその声は、それ以上は何も言わな
い。
﹁あーもう⋮⋮。何か言うのならちゃんと言いなさいよ⋮⋮。けど、
そうね。問題ないわ。ワタシ達魔物にとって争いなんてものはそれ
こそ日常茶飯事だし。それに今回は相手がアンだからねぇ。あの子
に限って報復とかそういう事はしないわ。大人しくウサギちゃん達
の恩返しを受けてあげれば?﹂
よそわれたシチューをラクシェに渡しながら、ラグラジルは言った。
﹁⋮⋮信じてみよう。ロプイヤーを、そしてラグラジルを⋮⋮﹂
ステアが言い、決定した。
その夜。
シャスラハールは真剣な表情で物思いにふけっていた。
773
ラグラジルが何だかんだと言って妹の世話をしっかりやっている姿。
ロプイヤー族の温かい歓待。
そして子供を救ってもらった事に対する一族総出での恩返し。
魔物に対する認識が揺らぐ。
魔物の中にもパターンがあり、ロプイヤーは特別穏やかな種族なの
だと言う。
人間だってそうじゃないか、善い人間も悪い人間も居る。
そう思ってしまってからは、深い沼だった。
魔物を悪い生き物として切り捨て、ラグラジルとラクシェを誓約で
縛った。
この二人には罪が有った。
少なくともその罪は自分にとって見逃せる物では無かった。
仲間を救う為、悲願を叶える為。
必要な事だ。
けれど、けれどもし、自分がアン・ミサと出会った時。
上手く犯せるだろうか。
アン・ミサを。
彼女の話を幾度となく聞いた。
ラグラジルからも、ロップイヤーの長老からも。
人となりを褒め、その在り方を美しいとすら表現される天使。
アン・ミサに、シャスラハールに対する罪は無い。
自分は果たして、その存在を汚せるのだろうか。
シャスラハールの心は惑う。
答えはきっとでない。
出るとすればそれは、アン・ミサを目の前にしたその瞬間になるだ
ろう。
ベッドの中、ヴェナに抱擁されて眠るシャスラハールが思考の深い
沼に嵌っている時に、
すぐ傍のソファーで妹にしがみ付かれながら丸まっていたラグラジ
ルの口元が、薄い笑みの表情を作っていた事には、誰も気が付かな
774
い。
退出して行く天兵に向けて、アン・ミサは言葉を発さなかった。
普段ならば、﹃ご苦労様でした﹄と労うところを、今日は口を引き
結んで視線を逸らしている。
﹁ラクシェ⋮⋮﹂
妹が捕らえられた。
姉を捕らえた人間に、倒されたのだという。
妹と共に里から出て行ったあの天兵達は、まったくの無傷で帰って
きた。
帰って来るなり、慌ただしくアン・ミサに報告し、
﹃如何致しましょう?﹄
と問うてきた。
﹁わたくしに⋮⋮何ができるの⋮⋮﹂
自分は、戦えない。
戦いに関してならば、天兵一人の方が腕が立つかもしれない。
支配魔術を使えない自分は、その程度のものなのだ。
その彼ら自身が詳細に報告してきた結果、傷だらけでボロボロにな
っている相手と一戦も交える事無く帰って来て、そして尚の事自分
に責任と言う名のバトンを渡して来たのだ。
﹁お父様⋮⋮お父様⋮⋮どうして、どうして応えて下さらないので
すか⋮⋮﹂
あの日、ラグラジルが人の手に落ちたと告げて以降、ハルビヤニの
声は聞こえない。
自分の呼びかけにも答えてくれない。
アン・ミサは、玉座に一人ぼっちだった。
父も、姉も、妹も居なくなったこの場所で、全ての責任と戦ってい
た。
大門の方へ追加で送った物見の報告によれば、西域に侵攻してきた
775
人間族の兵士は二十万を超え、大門付近をねぐらにしていた幾つか
の種族は滅ぼされたり従属したりしているとのこと。
﹁⋮⋮どうにか、しないと⋮⋮﹂
悲鳴を上げて倒れる事が出来れば、どれほど楽になるか。
その甘美な欲求を、アン・ミサは捻じ伏せる。
﹁管理者⋮⋮ですから﹂
父が作り、姉が継いで、自分が預かった。
自分達家族が紡いできたこの誇りを、捨てられなかった。
その時、コンコン︱︱と軽い音が響く。
﹁アン・ミサ様。お食事は⋮⋮﹂
ノックの後に入室して来た、侍女役の天使が声をかけて来る。
それに対して、首を振る。
﹁結構です⋮⋮食欲が、無いのです⋮⋮﹂
青褪めた顔で言うアン・ミサに、侍女は困った表情を浮かべ、しか
しすぐに引き下がった。
﹁畏まりました。それでは失礼いたします﹂
侍女が退室し再び静寂を取り戻した執務室に、重く沈痛な溜息が零
れる。
﹁誰も⋮⋮わたくしを助けてはくれない⋮⋮そう、誰も⋮⋮﹂
両手で顔を覆い、絶望感をやり過ごす。
そうしなければ、押し潰されてしまいそうだった。
その時、再び扉がノックされた。
﹁⋮⋮⋮⋮はい﹂
力無い声で応じ入室を促すと、開いた扉から四人の人間が見えた。
﹁⋮⋮皆さん⋮⋮﹂
マリューゾワ、ルル、ロニア、シロエ。
この西域の最奥に到達した者達。
自分の客人。
﹁夜分に恐れ入ります。アン・ミサ様﹂
畏まった口調を一切変えないのがシロエ。
776
﹁⋮⋮さっき侍女の人に会ったけど、ご飯食べないの?﹂
ぶっきらぼうな印象だが、優しさが見え隠れするロニア。
﹁報告は届いております。妹様の事、心中お察しします⋮⋮﹂
沈痛な面持ちを浮かべ、胸の前で手を合わせるルル。
そして、最後に。
﹁⋮⋮アン・ミサ。行くぞ﹂
舌打ちしかねない表情を浮かべ、マリューゾワが言った。
﹁行くって⋮⋮どこへ?﹂
皆目見当がつかず、問い返すと、
魔剣大公は親指を自分の後ろへ突き出して言った。
﹁決まっている。風呂だ﹂
あれよあれよと言う間に、アン・ミサは四人に連れ出され、宮殿内
の大浴場へと到着した。
﹁えぇっと⋮⋮﹂
困惑するアン・ミサに、マリューゾワが応じる。
﹁私はな! 何か考え事が有る時や、沈んだ気持ちになった時は、
風呂に入る事にしているのだ!﹂
堂々と言い放ち、脱衣所で服を脱いでいく。
﹁冷えた心を温める。それも必要でしょうね﹂
ルルが穏やかに続き、ロニアとシロエも入っていく。
仕方なくアン・ミサも続き、衣服を脱いでいく。
﹁アン・ミサさんは誰かと一緒に風呂ってのに抵抗ある人?﹂
ロニアが問うてくるのに向けて、首を振る。
﹁あ、いえ。昔はよく妹と入っていたので⋮⋮ただ唐突でしたので
⋮⋮﹂
シュルリ︱︱と袷を解きながら答えると、
﹁こちらの里では湯の文化が発展なさっている様で、とても素晴ら
しい物だと思います﹂
777
純白の下着を脱ぎながら、シロエが言う。
﹁はい⋮⋮先々代のハルビヤニ様が好まれましたので⋮⋮よく、﹃
浸かって良し視て良し﹄と仰ってました﹂
その答えに、ロニアが反応する。
﹁ハルビヤニ様ってのは⋮⋮男?﹂
﹁あ、はい。男性です﹂
﹁なんだか⋮⋮少しだけ感動が薄れてしまいましたね⋮⋮﹂
シロエが会話を結び、風呂の準備を整える。
ガラッ︱︱とマリューゾワが引き戸を開けると、湯船から発せられ
る湯気に視界を奪われた。
﹁とにかく風呂だよ風呂。人生何が有っても風呂に入れば気持ちが
洗われるっ﹂
魔剣大公は、颯爽とタオル姿で歩き出した。
﹁くはー⋮⋮﹂
﹁ふぅ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁うむ⋮⋮うむ﹂
﹁良いお湯ですねぇ⋮⋮﹂
各々体を洗った後、五人が並んで湯に浸かり、アン・ミサは丁度中
央に座った。
全身を、少し熱めの湯が温めてくれる。
すると途端に、泣きたくなった。
﹁⋮⋮んっ!﹂
零れそうになる涙を懸命に抑えると、変な声が上がり、注目を集め
てしまった。
﹁アン・ミサ様⋮⋮?﹂
隣にいたルルが問うて来るのを、首を振って答えると、頭に手を乗
せられた。
778
ルルとは反対側に座っているマリューゾワの手だった。
﹁泣きたいのだろう⋮⋮泣けば良いさ。別にここにいる誰も、笑い
はしないよ﹂
優しい声だった。
マリューゾワの隣で、シロエがそっと微笑んでいる。
﹁大丈夫です。私達が貴女の力になります﹂
逆方向から、ロニアの声が届く。
﹁受けた恩は返す。当然の事だもの﹂
ロニアの隣で、ルルも頷いている。
﹁ラクシェ様を必ず助け出しましょう。彼女と我らに﹃幸運﹄の加
護を﹂
そして、温もりの手の主が言う。
﹁任せておけ。この魔剣大公マリューゾワに﹂
その言葉を受け、ついにアン・ミサの心の堰は崩壊した。
﹁助けて下さい⋮⋮! お願い⋮⋮妹と、姉なんです⋮⋮大切な、
家族なんです⋮⋮!﹂
声を上げて泣き、マリューゾワの胸に顔を埋める。
しばらくの間、大浴場内には智天使の泣く声だけが響いていた。
くすんくすん︱︱と鼻を鳴らしながら、アン・ミサはマリューゾワ
の胸から顔を離す。
﹁す、すみません⋮⋮﹂
そしてその時、目に入った。
﹃雌豚﹄﹃肉便所﹄﹃一晩で連続膣内出し三十回記念﹄﹃四十回記
念﹄﹃五十回からは数えるの止めました﹄﹃魔剣大公略してマンコ﹄
マリューゾワの肌に刻まれた、禍々しい刺青に。
﹁ん? あぁ⋮⋮これな、体中にあるぞ⋮⋮クソ共が何かと有れば
刻んで行きおった﹂
それはマリューゾワが公娼として過ごして来た証明。
779
魔剣大公としてゼオムントとの戦争で目立っていたマリューゾワに
は、当然の如く公娼としてのオファーが引っ切り無しに舞い込んだ。
知名度を得る度に、刺青が増えていった。
刺青を刻んで行くのはマナーの悪い客だと調教師達は憤っていたが、
後日﹃刺青を完全に見えなく出来る魔法﹄が開発されたのを機に、
積極的に利用し始めた。
その一つが、﹃貴方の言葉を魔剣大公に刻んでみませんか?﹄とい
うファン参加型のイベントだった。
来場したファン達により、直筆の刺青を施される。
彫る場所は相手の指定した箇所になる為に、必然的に陰部周辺がぎ
っしりと字で埋まっている。
映像作品や衆目に触れる公娼活動の際はこの刺青を魔法によって隠
され、寝床である檻に放り込まれれば、そこは全面鏡張り。
上を見ても横を見ても下を見ても、映るのは自分に刻まれた淫語や
卑語ばかり。
消せない傷を背負わされ、屈辱に心が焼かれた。
それに向けて、アン・ミサが手を翳す。
﹁ジッとしていて下さいね⋮⋮﹂
魔力が放出され、マリューゾワの肌を撫でて行く。
﹁⋮⋮消えた⋮⋮消えたぞっ!﹂
叫びながらマリューゾワは立ち上がる。
﹁消えてる⋮⋮凄い﹂
ロニアが呆然と呟く。
マリューゾワは全身を見渡しながら、目の届かない場所を思い浮か
べる。
﹁背中は? 尻の谷間はどうだ? 頼むシロエ、見てくれ﹂
シロエに向けて尻を向ける。
﹁はい。マリューゾワ、全部消えていますよ。とても綺麗なお肌で
す﹂
そっと尻に手をあてがい、押し開いて内側を覗き込んでシロエが言
780
った。
﹁お、おおおおおおおおっ! 有難うっ! 有難うアン・ミサっ!﹂
ガバッとアン・ミサへと抱き着くマリューゾワ。
﹁きゃああ!﹂
湯の中に沈みながら、抱きしめられる。
力強い喜びが、そこには込められていた。
﹁はぁ⋮⋮はぁ、溺れるかと思いました⋮⋮﹂
もがいた末に何とか脱出出来たアン・ミサへ向けて、シロエが声を
かける。
﹁アン・ミサ様⋮⋮実は私にも⋮⋮﹂
そう言ってシロエは体の向きを変え、アン・ミサへ背中を向ける。
そこには、
﹁種付開始日⋮⋮妊娠確認日⋮⋮そして、出産予定日⋮⋮﹂
三行、書かれていた。
一行目の種付開始日の項目には、しっかりとした日付、来年の春の
日が示されていた。
二行目と三行目は空欄。
﹁これは⋮⋮私と、私の部下達⋮⋮巫女騎士団を管理した調教師に
刻まれた物です。彼らは私達を繁殖奴隷として扱いました。映像作
品で売れている内はそちらの方で稼ぎ、人気が落ちて来ると受胎さ
せ、妊婦物として細かな需要に応えようとしていました。背中のコ
レは⋮⋮その管理表ですね。種付開始日から妊娠確認日までの間、
妊娠促進薬を毎日投与され、妊娠確認が出来たら、その日からは妊
婦公娼として出品されます﹂
巫女騎士団を丸ごと買い上げ、管理した調教師団体。
彼らは巫女騎士団というブランドを自分達だけで独占し、更に孕ま
せ繁殖作品というイロモノ企画をメインに据え、他の調教師団体と
差別化を図った。
その結果固定ファンが安定して付き、ゾートやラターク等を擁する
大手の組合に引けを取らない勢力を誇ったが、狭いジャンルであっ
781
たが故に、出す作品のどれもが似た内容になってしまい、徐々に凋
落して行った。
巫女騎士団の多くは無理な出産を強いられ、産後の管理も杜撰だっ
た結果、早世した。
シロエの他に生き残っている者は最早数人しかいない。
それも皆、妊娠中だ。
背中の予定表の三行目まで全部埋まっている。
彼女達は西域遠征の参加を見送られ、今日も繁殖小屋で膨らんだ腹
を晒して男達に犯されているのだろう。
シロエは団体が人気復興を賭けた逆転の一手として、この西域遠征
帰還後に孕ませる予定が立てられていた。
﹁酷い⋮⋮神に仕える巫女の体に⋮⋮何てことに⋮⋮﹂
アン・ミサの手がシロエの背中を撫で、悪夢の予定表を消していく。
自分の背中から忌まわしき物が消えていくのを感じながら、シロエ
は言った。
﹁アン・ミサ様。しばらくしたら、私はこの里を出ようと思います。
仲間を救いに⋮⋮東へ、向かわなければなりませんから﹂
それは決意だった。
巫女騎士団の頭領として、部下の命を助ける。
そして、彼女の仕えたリネミア神聖国の王女が公娼にされていると
いう話も聞いた。
この手で守れなかった国の忘れ形見。
﹁その後、仲間達を連れてここへ戻って来てもよろしいですか⋮⋮
?﹂
全員の手を握って、新しい暮らしをここで始めたい。
﹁はい。もちろんです。わたくしに出来る事でしたら、何でも仰っ
て下さいね﹂
アン・ミサはシロエの背中を撫でながら、しんみりと言葉を放った。
その時、
﹁ロニア。お前もだろ? この際アン・ミサにお願いしたらどうだ
782
?﹂
上機嫌で湯船に浸かっていたマリューゾワが言った。
それに対して、
﹁は? いや⋮⋮いいよ⋮⋮。二人のとは全然違うし⋮⋮﹂
薄緑の髪を水面に浮かべながら、ロニアが顔を赤くして首を振った。
﹁ロニアにも刺青が有るのですか? それならば⋮⋮﹂
アン・ミサが振り返り、そちらを見ると、
﹁刺青じゃ⋮⋮無い﹂
気まずそうに、口ごもる。
﹁⋮⋮ふむ。まぁ言い難いよな⋮⋮。アン・ミサ、私から頼む。ロ
ニアを治療してやってくれ。たぶん私やシロエよりも、そっちの方
が問題だ﹂
﹁えぇ。治療ならばいくらでも﹂
マリューゾワが言い、アン・ミサが応じる。
二人が真剣な表情で自分を見ている事に気づき、ロニアは意を決し
て立ち上がった。
﹁笑わないでよ⋮⋮?﹂
アン・ミサの前に、尻を向ける。
﹁えっ⋮⋮﹂
智天使の漏らした呻き声。
薄く張った尻肉の内側に、肛門が見える。
しかしその肛門は、どう見ても開き切っていた。
何の力も加えられていないというのに、ポッカリと、真円状に開い
ていた。
﹁⋮⋮アタシ、ディルドーの製造工場で働かされてたの。その時に
毎日毎日、一本一本出来上がる度にアソコとお尻で品質チェックを
させられた⋮⋮。大量受注とか、限定生産とか、新作発表とか⋮⋮
そんなイベントが有る度に、寝る間も惜しんで前後の穴に極太ディ
ルドーを挿されてたの⋮⋮﹂
そして、
783
﹁気が付いたら、お尻の穴がこうなってた。必死にお願いして医者
に連れて行ってもらったら、括約筋が切れて機能しなくなってるん
だって⋮⋮。それでもその後もずっとディルドーの品質チェックは
やらされたから、こんな形に固まっちゃった⋮⋮﹂
肛門がストッパーの役割を果たさないとどうなるか、共に旅をして
きた三人は知っている。
旅の途中、ロニアは時々表情を暗くし、自らの尻を両手で隠して調
教師サバルカンに声をかけていた。
﹃水場に行っても良いですか⋮⋮?﹄
調教師サバルカンはそれを嘲弄し、﹃またお前はクソを漏らしたの
か、お前のせいで旅のペースが落ちた、謝れ﹄そう言って、ロニア
に尻を拭く事を許さないまま、全員の前で肛門を晒させ、謝らせた。
﹃ごめんなさい。アタシがウンコを漏らしたから、皆に迷惑をかけ
てしまいました。ご覧んの通り、お尻の穴がガバガバなので、許し
てください﹄
調教師の指示書きを読み上げ、両目に涙を浮かべるロニア。
マリューゾワ達が彼女を慰めようとすると、サバルカンがそれを阻
んだ。
﹃これで良いんだよ。こういう場面をしっかり撮って本国に送って
おく事が大切なんだよ。邪魔するな﹄
調教師の体に施された監視刻印。
それを通して、ロニアの恥辱はゼオムント全国に届けられ続けた。
﹁⋮⋮笑いません。笑うわけないじゃないですか。マリューゾワも
ルルもシロエも、そんな事絶対しません。辛かったですね⋮⋮ロニ
ア﹂
アン・ミサが向けられた尻の中央に手を遣り、魔力を込める。
それを見守る三人が黙って頷いた。
全員が見守る中、ロニアの肛門が、キュッと引き締まって閉じた。
﹁閉じた⋮⋮閉じたぞロニアっ!﹂
まるで我が事の様に喜び、マリューゾワがロニアを抱きしめた。
784
﹁うっ⋮⋮うぇぇええええ﹂
マリューゾワの豊満な胸に抱かれ、ロニアは泣いている。
泣きながらしっかりとマリューゾワを抱き返し、震えている。
シロエが湯の中を掻く様にして移動し、ぴったりとロニアに身を寄
せ、挟む様にして抱きしめた。
その光景を見ながら、アン・ミサは胸の奥に温かい物を感じた。
﹁わたくしの力が⋮⋮役に立っている⋮⋮﹂
先程までどうしようもない無力感に襲われていたというのに、自分
にとってたった三回の手を翳す行為だけで、三人の人間を苦しみか
ら救う事が出来た。
﹁アン・ミサ様。どうですか? お風呂はとっても気持ちが良い物
ですね﹂
ゆったりと笑みながら、ルルが隣で言った。
﹁⋮⋮はい。とっても﹂
微笑み返しながら、不躾にならない程度にルルの体を見る。
その視線を察してか、魔導士は首を振った。
﹁私には、彼女達の様な苦しみはございません﹂
亜麻色の髪を短く肩口で切った美貌。
ミネア修道院。
人間族における魔導の最高峰を治めていた女性。
外見の年齢は二十代の半ば、マリューゾワとシロエと同じくらいだ。
ロニアだけ三人より幼く見える。
﹁私の魔法﹃幸運﹄は、私に対しては自動的に行使されます。故に、
調教師が何をしようとも、私の体に致命的な不具合を刻む事は出来
なかったのです﹂
知的美人であったルルを汚そうとする男達は大勢いた。
けれど、彼女に行使されている﹃幸運﹄がそれを阻む。
公娼になった当初、男達が膣内出ししようとすれば中折れし、浣腸
をしようとすれば薬液が詰まった。
そうして、男達をもどかしくさせていると、自分以外の公娼が連れ
785
られてくる。
自分の代わりに、その公娼が恨み千倍といった顔をした男達に犯さ
れるのを見て、ルルの心は乱れた。
﹃幸運﹄を呪った。
自分だけを守り、他の人間を犠牲にする魔法を恨んだ。
そして、決意した。
ルルは﹃誓約﹄を刻んだ。
世界と誓った。
この世に生きる全ての公娼に﹃幸運﹄を授け、代償として自らのソ
レを失おう。
﹁でも⋮⋮上手くいかなかったのです﹂
これから先自分がどれだけ汚されても、苦しみ続けた公娼達に僅か
ばかりでも﹃幸運﹄が授けられたならば、そう願った。
その願いを。
利用された。
﹁﹃誓約﹄を刻もうとした時、世界の声が聞こえたんです。﹃それ
では面白くないな﹄と﹂
アン・ミサはハッとする。
世界の欲望と同化すると言って、消えた父親。
﹁結局、﹃誓約﹄は半端に終わりました。私の中の﹃幸運﹄は消え
ず、効果を弱めるだけに留まり、以降は調教師達により⋮⋮自分で
言うのも、苦しいですね。﹃普通に﹄犯されました。ただ一部の﹃
幸運﹄は世界に持って行かれたようで、それがどうなっているかは
わかりません﹂
ルルは話を終え、またゆったりと笑む。
﹁ありがとう。アン・ミサ様。私の話を聞いてくれて。こんな話⋮
⋮他の誰にも言える事ではありませんから⋮⋮﹂
アン・ミサは思った。
ルルの今の話は自分と似ているところが有るのではないか。
仲間達が苦しんでいるのに、自分は何もできず、ただ眺めているだ
786
け。
ルルはその中で自らを犠牲にしようとして、失敗した。
﹁ルル⋮⋮貴女の気持ち、わかります﹂
アン・ミサは今一度、自分の立場を鑑みる。
西域の管理者。
智天使。
この里には戦力が有り、
尚且つ心強い四人の仲間が居る。
﹁⋮⋮戦います。戦って、家族を取り戻しますっ!﹂
強く言い切ったアン・ミサに向け、じゃれ合っていた三人を含めた
全員の視線が向く。
﹁あぁ。任せておけ。この魔剣大公の剣で勝利へ導いてやろう﹂
﹁私の﹃幸運﹄を皆様に﹂
﹁兵器の生産はある程度完了してる。出せるよ﹂
﹁神に捧げた巫女の刃、天使である貴女の為に振るう事には都合が
良いですね﹂
その言葉に、アン・ミサは頷いた。
﹁御力、お借りします﹂
787
ぶつかる理由︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
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ぶつかる理由
鬱蒼と茂る木々の間を抜けていく集団。
隻腕の王子と、その仲間達。
﹁もうすぐ﹃天兵の隠れ里﹄を守る四城門が見えて来るわ﹂
相も変わらずラクシェを背負っているラグラジルが言う。
﹁四城門とは⋮⋮城壁が四層重ねになっている防御施設という認識
で間違いないのですよね?﹂
貰い物の布で作った簡素な服を着たシャロンはその背に問う。
﹁そうよ。各門の間に一定の距離を空けてあるから兵員を詰める事
が出来る。先々代が西域を統一する時に作ったものよ。初めは里を
覆うだけの城壁だったけれど、戦乱が激しくなったせいでどんどん
増築して、門は四層になったの。だから、一番内側が一ノ門で外側
が四ノ門ね﹂
魔天使はスラスラと言葉を紡ぐ。
﹁それでぇ? シャロンちゃん。策は有るのかしら? 寡兵でもっ
て千の兵が守る四つの城門を抜け、玉座へ至る。素敵な作戦が﹂
そう問われて、双剣の騎士は頷いた。
﹁えぇ。ずっとその事で悩んでいたのですが、先日バーニー族の方
々から有り難い申し出を頂いて⋮⋮﹂
シャロンが向いた先は、一行の最後尾。
そこには、ウサ耳を突き立てた屈強な男達が続いていた。
温厚な垂れ耳のロプイヤー族の男性は、青年から壮年の間に急激に
逞しくなり、バーニーと呼ばれるようになる。
垂れ耳はピンと突き立ち、柔らかな肌は張りに張った筋肉へと置き
換わる。
そのバーニー族が三十人、一族の子供を救ってくれたお礼としてシ
ャスラハール達に同行しているのだ。
789
﹁四ノ門の開門に関しては自分達に任せてくれ。との事でした﹂
﹁まぁそうよね。門の内側からは里の領域になっちゃうから、アン
の支配魔法の範囲に入ると、ウサちゃん達敵になっちゃうものねぇ﹂
ラグラジルの語ったアン・ミサの支配魔法。
人間の手に半分は奪われているようだが、残った半分、里の統治に
使われている魔法もまた厄介だった。
﹁里の内側に入った魔物はアン・ミサの定める法規に縛られる⋮⋮
ですか﹂
そうなってくると、せっかく手に入れた頼もしそうな援軍であるバ
ーニー族が自分達を支援できるのは、四ノ門攻めまでになる。
﹁四ノ門を突破した後は、敵兵と直に接する事になります。そうな
って来れば乱戦を利用して、どうにかして殿下とラグラジルだけで
もアン・ミサの下へたどり着いて頂きます﹂
シャロンは作戦を語る。
﹁と言っても、最早力押し以外には無いのですけれどね。法に縛ら
れているとは言え、基本的には怠惰な天兵を相手に、我らの武力で
押し切る。それが出来れば簡単なのですが、三ノ門以降が固く閉ざ
されている場合は正直⋮⋮ラグラジル、貴女の力を頼ることになる
かもしれません﹂
軍師として活躍していたと言うシャロンの口元には、苦みが浮かん
でいた。
戦略を立てるには余りに自分達の手元に物が無さ過ぎた。
幸運にもバーニー族の助力は得られたが、基本的に西域は人間にと
っての敵地、まず兵を揃えられない事には戦略など立てようもない。
そして戦術。
僅か九人、しかもその内三人は戦力に換算できないとして、どうや
って戦うか。
各人の戦闘力の高さは無論知ってはいるが、個対軍での戦いなど、
軍師として戦ってきたどの戦場にも有りはしなかった。
そんな時、一つの手が上がった。
790
﹁はいはーい﹂
マリスが朗らかな声を上げている。
﹁何ですか? マリスさん﹂
シャロンはこの掴み所のない傭兵に話を振ってみる。
すると、彼女は笑みを浮かべて声を放った。
﹁簡単ですよー。ラグさんとラクシェたんの命を人質にしましょう。
門を開けないと殺すぞーって。アン・ミサさんという方が話通りの
人だったら、きっと門を開けてくれますよー﹂
そう言って、マリスは腰の曲刀を引き抜き、くるくると手元で回す。
﹁⋮⋮マリスちゃん。ワタシ達友達じゃなかったっけ?﹂
魔天使は若干引き攣った声で問いかける。
﹁はいー。お友達ですよー。でもこれお仕事なので、マリスはプラ
イベートを仕事に持ち込まない主義なのです﹂
ほんのり笑顔で言い切った。
その様子を見て、シャロンは首を振る。
﹁確かに効果的かもしれませんが、それは下策です。我らの最終目
的がアン・ミサを確保した上でこの里の支配権を得る事である以上、
なるべく正攻法で力を示して勝たねばなりません﹂
そうでなくては、卑怯者に住処を奪われたという認識を持たれ、反
乱の芽を生むことになる。
﹁人質って扱いも癪だし⋮⋮もし三ノ門が開けられなかったら、力
を貸すわ。でも可能な限りここの戦闘は貴女達でやるべきよ。この
先の事を考えるのならばね﹂
この戦場で必要以上にラグラジルやラクシェが目立つべきでは無い。
四城門を落とし、天使を屈服させるのは人間であるべきだ。
魔天使と力天使を打倒し、智天使までもその支配下に収める。
そうなれば、この里全体の意識が屈服する事になるだろう。
逆に、ラグラジルの魔法やラクシェの剛力に頼って四城門を突破し
たとなれば、勇名が轟くのは両者であり、シャスラハールの名は霞
む。
791
﹁それに、ワタシにはお荷物も有るしね﹂
背中にしがみ付く妹を揺らしながら、ラグラジルは皮肉気に笑った。
﹁わかっています⋮⋮私としても極力貴女の力は借りたくはない。
けれど、この一戦はまさに我らの趨勢を決める戦い。何としても勝
たなくてはならないのです﹂
シャロンは歯噛みする。
単純な野戦であれば個人の武勇で補える部分は多いが、
籠城戦。
敵が安全地帯からこちらの疲弊を待つ事の出来る場面では、致命的
に不利なのだ。
﹁森を、抜けるぞ﹂
ステアの厳しい声が響き、一行は戦場へと到達した。
灰色の壁がそそり立つ。
人の体を縦に十五人程度楽に並べられる高さを持った城壁。
その上に、おびただしい数の人影が立っていた。
一様に翼を纏い、投槍などを握っている。
天兵。
そして彼らに囲まれる様にして、五つの人影がそこには有った。
五人の中央に居たのは、四枚の翼を折り曲げ、厳しい表情でシャス
ラハール達を見下ろしている天使。
﹁お姉さま⋮⋮﹂
ラグラジルの背中から弱弱しいラクシェの声が聞こえる。
﹁あれが、アン・ミサか⋮⋮﹂
ステアは槍を握る手に力を込める。
敵の総大将自らが、最前線にやって来ていたのだ。
そして彼女を囲む様にして立つ者達には、翼が無かった。
﹁天使じゃ⋮⋮無い⋮⋮?﹂
呆然とシャロンの声が漏れる。
792
そこに立っていたのは、紛れもない人間の女達だったのだから。
﹁貴様っ!﹂
城壁の縁に足を乗せ、黒髪の女が突剣を振り回しながら吠えた。
﹁この地に何用でやって来た? 用が無ければ立ち去れ、と言いた
いところだが、我らの代表の家族を奪った大罪人でもあるらしいな
? 覚悟を決めよ、この魔剣大公マリューゾワの手によって、無残
な屍に変えてやろうっ!﹂
突剣は、シャスラハールの方向を向いていた。
﹁そうで無くとも調教師であるならば、私の前に立った瞬間、死ぬ
べきなのだがなっ!﹂
振り上げられた突剣に従う様に、三本の同種の剣が宙へと浮かび上
がった。
﹁大方その他の連中は公娼であろう? 待っていろ、今すぐそいつ
を殺して解放してやる。安心しろ、この場所は、我らの新たな暮ら
しの場となるっ!﹂
そして、突剣が振り下ろされる。
三本の剣は一直線にシャスラハール目掛けて突進し、彼の肉を穿と
うとする。
﹁殿下っ!﹂
咄嗟にヴェナが体ごと割り込み、聖剣を振るって切り払った。
聖剣の切り払いにより、魔剣は力を失い大地に転がった。
﹁⋮⋮ほう⋮⋮。しかしわからんな。どうしてソイツを庇う。お前
の顔には見覚えがあるぞ。スピアカントの聖騎士殿﹂
﹁わたくしの記憶にも、貴女の顔があります。それにこの技。まさ
かこの地で魔剣大公に出会おうとは﹂
二人が互いの事を知っている理由。
それは、両者が公娼として圧倒的な人気を誇り、常に比較されて来
ていたからに他ならない。
そして、そのマリューゾワの隣。
フードを被っていた女がおもむろに素顔を晒し、シャスラハールを
793
凝視した。
呆然と、口が開く。
﹁シャス⋮⋮﹂
短い亜麻色の髪が揺れ、美貌が晒される。
その顔を見て、シャスラハールもまた驚きの声を上げた。
﹁ルル⋮⋮!﹂
かつて公娼とその専属調教師として関わり、少年の悲願を聞き入れ
奥の手を授けた魔女。
ゼオムントの手により引き合され、引き剥がされた二人が、こうし
て再会した。
﹁⋮⋮アン・ミサさんの家族を奪ったのは調教師で⋮⋮あっちの公
娼はそれの味方をしているという事?﹂
城壁の上で薄緑の髪をした女が首を傾げている。
その隣で、
﹁王女⋮⋮ハイネア王女⋮⋮?﹂
姫衣装の女が手にした薙刀を胸に抱き、両手で口元を覆った。
﹁ハイネア様、あちらの方は⋮⋮﹂
リセが確認する様に問いかけると、
﹁うむ。我が国の巫女騎士団の頭領殿だな。昔何度か姿を見た事が
有る﹂
ハイネアは城壁の上をジッと見上げたまま応じた。
﹁どういう事です? なぜアン・ミサと人間⋮⋮それも公娼であっ
た人達が協力しているのです?﹂
油断なく双剣を抜き放ちながら、シャロンが呟く。
﹁公娼の味方だとでも言うのですか? だとしたらフレアは⋮⋮フ
レアはどうなっているのです?﹂
両者の間に混乱が渦巻く。
かどわか
そこに楔を打ち込むかのように、アン・ミサが声を放った。
﹁そこなる人間よ。汝は我が姉と妹の身を拐し、その上この里を襲
おうとする。まずはその理由を問いましょう﹂
794
支配者としての威厳が込められた言葉。
シャスラハールはルルから視線を外し、瞳に力を込めて言い放った。
﹁一つには失った祖国の為。そして僕に力を貸してくれる彼女達を
解放する為に。僕はこの西域を支配する。そしてアン・ミサ、貴女
を倒せばそれが叶う。そう聞いたから、僕はここにやって来た﹂
それに対して、アン・ミサは不快気に眉を上げた。
﹁お前達人間の争いに、我らが巻き込まれる謂れはありませんっ!
お前は姉と妹の体を汚し、更にこの地に火を放とうとしている。
人間同士の争いならば東側でおやりなさいっ! この地を⋮⋮わた
くしの家族を巻き込んでおいて勝手な都合を吐かないでっ!﹂
その表情には、堪え様の無い怒りが浮かんでいた。
シャスラハールは応じる。
﹁⋮⋮僕の仲間を襲い、奪い、辱めた。貴女達天使のやった事が、
謂れも無い事と仰るのですかっ! この戦いの理由ならまだありま
す。僕はフレアさんを助けに来ました。これがもう一つの理由! 彼女はここに居るステアさんの大事な妹ですっ! そして彼女を襲
って辱めたのはっ! この二人の天使ではありませんかっ!﹂
そう言って、黒肌の王子はラグラジルとラクシェの方へ手を向ける。
﹁えっ⋮⋮﹂
アン・ミサは、驚愕に顔を歪ませている。
そこに、飄々としたラグラジルの声が割って入る。
﹁事実だよ。アン。ワタシはねぇ、この人の仲間を三人攫って、一
人は悪魔製造母胎に改造して。もう一人は中途半端に眷属化して。
あと一人は仲間にしたんだけど、途中でゼオムントに攫われちゃっ
たの﹂
紡がれた言葉に、アン・ミサは衝撃を受ける。
﹁そして。その中途半端に眷属化した子はさぁ。ワタシを追いかけ
て来たラクシェに捕まっちゃって、異端審問官に引き渡されたみた
いなのよねぇ。まぁこの子の事だから、引き渡すついでにどうせロ
クでもない遊びに使ったんでしょうけど﹂
795
智天使は姉の背中に背負われているラクシェに視線を送る。
﹁うっ⋮⋮﹂
妹は顔を逸らした。
それを見て確信する。
ラクシェはもっと幼い時からこうやって、自らの悪事が露見した時
には気まずそうに視線を逸らしていたからだ。
﹁まさか⋮⋮そんな⋮⋮﹂
疑いようも無かったはずの自分の正義が揺らいでいる。
ギリッ︱︱と唇み締める。
そして辺りへ向けて声を放った。
﹁わたくしは少し確かめて来ます。ラグラジル御姉様の言葉の真偽
を⋮⋮怪しげな魔法で操られているだけかもしれませんので。その
間、四城門の死守をお願い致します﹂
そう言って、四枚の翼をはためかせ、飛び立つ。
﹁待てっ! アン・ミサ。どこへ行く?﹂
マリューゾワが問うと、
﹁⋮⋮異端審問官の詰め所へ。彼らを問いただします﹂
ゴウッ︱︱と翼を鳴らして飛んで行った。
﹁くそっ! やはりアン・ミサは前線に出すべきでは無かったか⋮
⋮! ただでさえ精神的に参っている状況で、慣れない戦場に出て
心の余裕を失っている⋮⋮﹂
マリューゾワは突剣を腰のホルダーに戻しながら、周囲へ視線を向
けた。
﹁皆っ! ちょっと良いか?﹂
アン・ミサは息を切らして走る。
翼が使えないからだ。
異端審問官の仕事場、通称﹃拷問室﹄は宮殿近くの施設の地下に設
置されている。
796
階段を急いで駆け下り、薄暗い廊下を突っ切っていく。
そして、至った。
鉄の扉。
何の装飾も無く、ただ無骨な取っ手が付いているだけの物。
﹁ここに⋮⋮﹂
ゆっくりと手を伸ばし、取ってを握る。
その瞬間。
﹁んぼおおおおおおおおおおおっ! おおおおおおおおおおおお﹂
激しい悲鳴が轟いた。
女の。
くぐもった叫び。
それを聞いて、アン・ミサは肩に見えない重りが乗ったのを感じた。
それでも、ゆっくりと扉を開けていく。
その途中。
﹁ははははははっ! フレアちゃん良いよぉ。ほぉら、こっちも抓
んであげるからねぇぇ﹂
野卑た男の声が聞こえた。
﹁おぉぉ。すげぇな乳首をソレで抓まれる度にマンコがギュウギュ
ウ締まる。おい、もう一回やってくれよ﹂
別の男の楽しそうな声。
扉が開き切った。
アン・ミサの視界に飛び込んできたのは、陰惨な凌辱風景だった。
両腕を頭の上で縛られ、天井から吊るされている女。
女の口には猿轡が撒かれ、視界も目隠しで奪われている。
そしてその正面に一人の男が立ち、真っ赤に焼けた鉄のペンチで彼
女の乳首を挟んでいた。
肉の焦げる、嫌な臭いが充満している。
彼女の背中側には別の男がズボンを脱いで密着している。
それは正しく、立ったまま彼女の膣を犯している姿だった。
その近くには四人の男達がカードで遊んでいた。
797
﹁よーし俺あがりぃ! んじゃ次のマンコに膣内出し権は⋮⋮俺の
⋮⋮あああああっ!﹂
カードを投じて立ち上がった男が、アン・ミサの姿を捉え、大仰に
尻もちをつく。
﹁⋮⋮何を⋮⋮やっているのですかっ!﹂
呆然自失から立ち直り、アン・ミサは吠えた。
﹁ひ、ひぃぃぃ﹂
﹁アン・ミサ様、こ、これはですね⋮⋮!﹂
﹁ラクシェ様からの指示で⋮⋮この者はラグラジル様の手下という
事でしたので⋮⋮あの、尋問を⋮⋮﹂
吊るされた女の体から慌てて身を引きながら、異端審問官たちが口
ぐちに言う。
アン・ミサはそれを無視して、彼女へと近づき、
ヒュッ︱︱
と翼を閃かせる。
刃物状に鋭くなった羽根が縄を切り、女はアン・ミサにもたれ掛っ
てきた。
﹁⋮⋮⋮⋮貴女が、フレアさん⋮⋮ですか?﹂
その体を抱きしめながら問うと、一瞬の間が空き、コクリと頷かれ
た。
﹁⋮⋮そう、ですか⋮⋮。もう大丈夫です。傷も⋮⋮全部治して差
し上げます。⋮⋮ごめんなさい、本当に⋮⋮ごめんなさい﹂
アン・ミサはフレアの体にしがみ付きながら涙を零し、そっと床に
しゃがみ込んだ。
そこには数日分のフレアの愛液が水溜りの様に広がっていたが、智
天使はそれを気にする素振りすら見せず、両脚をつけて屈んだ。
﹁目隠し⋮⋮外しますね﹂
そう言ってフレアの顔に触れた瞬間、
バタンッ︱︱
鉄製の扉が大きな音を立てて閉まった。
798
そちらを見ると、異端審問官の男が閂を嵌め、扉の前に立っていた。
総勢六人の男が、覚悟を決めた表情で自分を凝視している。
﹁扉を開けなさい﹂
そう声をかけると、男達の一人は首を振った。
﹁そいつぁ⋮⋮無理ですねぇ。アン・ミサ様﹂
下品な笑みを浮かべたその言葉に、肝を冷やす。
﹁命令です﹂
統治魔術が有る限り、この里内でアン・ミサに逆らえる天使は居な
い。
そのはずが、
﹁お断りします﹂
男達は平然と首を振った。
そして、手にそれぞれ鉈や短剣などを握りだす。
﹁良い事教えてあげましょうか? この拷問室にはね、特殊な細工
がしてあるのですよ。この場所を貴女に見つかりたくなかったラク
シェ様が術者に頼んで結界を張ったんですよ。そう、貴女の統治魔
術を無効化する結界をね。そうする事で、この場所で何をやっても
貴女の法に触れる事は無いってんで、俺達は自由にやって来れたわ
けですわ﹂
アン・ミサは、フレアを抱いたまま素早く下がり、部屋の隅へと移
動する。
﹁⋮⋮そこを退きなさい﹂
瞳に力を籠め、男達を睨みつける。
けれど、彼らは下卑た笑みを浮かべ、一歩ずつ歩み寄ってきた。
﹁駄目ですよぉ⋮⋮それじゃあ。だってここで貴女を逃がしたら俺
達処罰されちゃいますもん。だからね? ここで貴女をバシーッと
調教して、俺らの従順なペットに変えてから、外に出してあげます。
その後は表立っては管理者やっててくれて構いませんけど、夜はこ
こに来て俺らの肉便器になってくれればそれで良いですわ﹂
そう言って男達はまた一歩、踏み出してきた。
799
四城門の戦い 白兵戦︵前書き︶
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四城門の戦い 白兵戦
﹁投槍部隊は前面に展開。あちらが動いたら即座に応戦、各自の判
断で攻撃を加えて下さい﹂
四ノ門の上で腕を振るい、厳しい表情で号令を発したのはシロエ。
その隣では、
﹁錬度はイマイチだけど⋮⋮実戦投入しちゃうか⋮⋮工場から兵器
を持って来て。それとアタシの部隊は準備を始めて、いつでも動け
るようにね﹂
ロニアが指示を飛ばしている。
二人に従う天兵達は思い思いの表情を浮かべながら、言葉の通りに
展開していき、四ノ門に並び立つ。
﹁絶対死守⋮⋮この場所は譲りません⋮⋮!﹂
薙刀を握り、眼下を睨みつけながらシロエは言った。
﹁マリューゾワが戻るまで、アタシ達で守り切るよ﹂
腰のホルダーから短銃を引き抜き、ロニアも目を鋭く光らせた。
その先には、九人の男女。
調教師と公娼、そして天使。
この里に攻め入ってきた者達。
彼らとアン・ミサとの間で会話が交わされ、戦の意味を問い合った。
その中で、彼らは天使に奪われた仲間を取り戻しに来たのだと言っ
ていた。
その発言が真実ならば、自分達がここで立ち塞がる理由は無い。
けれど、もう一つ。
アン・ミサを倒す。
そうも言っていた。
﹁⋮⋮こちらから打って出るのは、事情が全てわかってからです﹂
﹁うん。それを確かめる為にマリューゾワとルルはアン・ミサさん
801
を追ったんだからね﹂
向こうの言葉にアン・ミサは動揺し、自分達に門の防衛を頼んで宮
殿の方に戻っていった。
ラグラジル、そしてラクシェ。
アン・ミサの家族にして、敵中に在る者。
彼女達の言葉の真実を探りに行った。
総大将が交戦前に敵に背を向ける。
そのうかつな行為を止める為に、元々四人だった自分達は二手に分
かれた。
アン・ミサを呼び戻し、戦場に真を問う為にマリューゾワとルルは
里の内側へ。
彼女達が戻るまで何としても四城門を守る為に、シロエとロニアが
残った。
﹁⋮⋮くっ﹂
シロエが歯噛みする。
﹁動きましたか⋮⋮!﹂
眼下の侵略者達が、一斉に動き出したからだ。
﹁マリューゾワ! マリューゾワ待って下さい﹂
街路を走り抜けていたマリューゾワの耳に、聞き慣れた声が飛び込
んでくる。
足を止め、上を見る。
そこには、屈強な天使によって横抱きにされているルルがいた。
﹁場所が分かったのか?﹂
アン・ミサが向かった場所は異端審問官の詰め所である事が予想さ
れる。
けれどもその存在は里の暗部であり、正確に彼らの居場所を知る者
は限られていた。
アン・ミサ、ラクシェ等の宮殿に住まう有力者だけだろう。
802
よってマリューゾワは街中を駆けながら目視で確認し、ルルが本来
は宮殿に詰めている衛士に聞き込みに向かっていた。
﹁それが衛士の中でも一部の方しか知らないようで、今知っている
方を探しているところですが、戦闘配備で所属が変わってしまって
いるらしく見当たりません。私はこのまま捜索を続けますが、その
間ただ手をこまねいているわけにもいきません。これを﹂
そう言ってルルが差し出して来たのは、一枚の笹の葉だった。
﹁葉っぱ⋮⋮?﹂
首を傾げるマリューゾワの目の前で、笹の葉が舞い上がった。
風に遊ばれる様に、空を漂う。
﹁葉に﹃幸運﹄を込めました。マリューゾワ、この葉の導きに従っ
てください。嫌な予感が致します⋮⋮。事態は一刻を争うやもしれ
ません﹂
飛び立った葉は意思を持つかのようにして空中を進んで行く。
優れた魔導士には天啓に似た先読みの素養が備わると言う。
ルルの言葉を、無視する事は出来ない。
﹁⋮⋮わかった。衛士の捜索は任せる。この﹃幸運﹄借り受けるぞ
!﹂
魔剣大公は風に舞う葉を追い、幸運の魔女は天使に抱かれながら空
へと羽ばたいた。
地を駆けたのは二人の少女。
一行の中で特に俊敏性に優れたリセとマリスが地を蹴った。
﹁応戦せよっ!﹂
門の上からシロエの号令が響く前に、幾つもの投槍が彼女達に向け
て放られた。
﹁⋮⋮ハッ!﹂
﹁ホイホイッ!﹂
リセは必要最低限の動作でそれを回避し、マリスは踊る様にして躱
803
した。
二人は一瞬の内に城壁へと到達する。
﹁登らせないでっ!﹂
ロニアの叫びと共に、数人の天兵が門の上から飛んだ。
彼らは翼を広げ、その内側にしまっていた長い筒を取り出した。
肩に担ぐ様にして構え、城壁に足をかけた二人へと狙いを付けて発
射する。
轟ッ︱︱。
という音と共に、鉛弾が飛び出した。
﹁ッ!﹂
﹁ひょ!﹂
咄嗟に飛び跳ね、弾丸を回避するリセとマリス。
﹁銃⋮⋮!。なんでそんな物が⋮⋮!﹂
シャロンが驚きの声を上げる。
この時代、刀剣弓矢が戦場の主流であり、銃と呼ばれる兵器はゼオ
ムントとの戦役の終盤にロクサス郡領国が開発し導入した新技術だ
った。
遠間を貫く長銃と剣よりも素早く攻撃できる短銃。
これで武装した銃士隊は幾つもの戦場で戦果を挙げ、ゼオムントを
苦しめていたのだと聞く。
魔法に頼らず人間が開発した最先端の技術を、どうしてこの西域の
最奥で見る事になるのか。
﹁⋮⋮彼女ですか⋮⋮﹂
短銃を握り、声を張り上げる緑髪の女。
魔剣大公マリューゾワの仲間である事から公娼と予想される彼女が、
この兵器を持ち込んだか作り出したのだろう。
﹁⋮⋮埒が明かないな。援護する﹂
騎士長ステアが言い放ち、自らの槍を地面に突き刺して動き出す。
﹁そうですわね。折角頂いた贈り物ですもの、有効的に使わせても
らいましょう﹂
804
聖剣を腰に帯び直してヴェナも続いた。
彼女達は先ほど投げつけられ地面に突き立っている投槍を引き抜く
と、
﹁ふんっ!﹂
﹁せいっ!﹂
渾身の力で投擲した。
空気を切り裂いて飛ぶ投槍は、正確無比に長銃を持った天兵の翼を
貫いた。
﹁⋮⋮やれやれ、ヴェナ様には敵いません﹂
﹁ふふ。何事にもコツが有るのですよ﹂
ステアの投げた槍は一人の天兵の片翼の中央を穿ち、地面へと叩き
落とした。
そしてヴェナの投槍は、
天兵の翼を抉ったまま勢いを失わず、門の上で槍を構えていた者達
へと天兵の体ごと叩きつけられたのだった。
﹁負傷者は次の門へ移送して治療をっ! 残りの者はこの場に踏み
止まります!﹂
ヴェナの剛勇の一端を目にし天兵達に動揺が走った瞬間、シロエが
叫んだ。
﹁そうそう⋮⋮殺す事なんてないのよ。アイツら天兵はアン・ミサ
の法が有るから仕方なく戦っているだけで、本来やる気何て欠片も
無いの。怪我でもすればすぐに戦意を失うわ。それに、里を陥とし
た後の事も考えると、生かしておけば何かと役に立つしね﹂
シャスラハールの隣で戦場を薄い笑みで眺めるラグラジルが、楽し
げに言った。
﹁⋮⋮うん。ラグラジル、ハイネア様とラクシェの事は頼むよ﹂
黒肌の王子の言葉に、魔天使は頷く。
﹁はいはい。ご主人様のご命令通りに致しますよ﹂
ふざけた態度で魔法を展開し、ラクシェとハイネアの周りに闇の糸
で編んだ障壁を出現させる。
805
﹁でも良いの? 貴方の事だって守ってあげられるけど?﹂
﹁僕は大丈夫。この戦場で敵が狙って来るのは僕だ。そして君とラ
クシェの方には恐らく攻撃は来ないだろう。ならハイネア様は君の
傍に居るべきで、僕は君達から少し離れているべきだ﹂
そう言って、シャスラハールは流れ弾から身を躱す。
﹁そうですね。戦闘に参加できない二人はラグラジルの傍の安全圏
に。そして戦場に留まられた殿下の事は、私がお守りいたします﹂
折れて軌道が変わった投槍の穂先が飛来するのを叩き落としながら、
シャロンが言った。
﹁殿下。そろそろ彼らの力を借りようかと﹂
﹁はい。シャロンさんにお任せします﹂
王子の首が縦に振られ、それを見た参謀は声を発した。
﹁敵戦力の偵察は終了。これより四ノ門を開きますっ! バーニー
族の方々、お力をお借りします!﹂
シャロンの声に、城壁の近くで走り回っていたリセとマリスが体の
向きを変え、全速力で引き返してくる。
無論、向けられた背中に向けて門の上から攻撃が続くが、それには
ステアとヴェナが投槍や投石で牽制する。
四人がシャスラハールの元へと引き返してきた瞬間、
彼らの背後からのっそりと動き出す者達がいた。
屈強な肉体に、ビンビンに突き立ったウサ耳。
ロプイヤーの守護者、バーニー。
総勢三十名のバーニー族が猛り立った筋肉に包まれた腕を組んで並
び立った。
﹁うげ⋮⋮マッチョ系⋮⋮アタシああいうの苦手⋮⋮﹂
門の上で緑髪のロニアが顔を顰める。
その周囲では天使達がざわついている。
人間達を守る様にして立ちはだかった西域の同胞に向けて刃を投じ
る事に躊躇いを感じたからだ。
天兵がオロオロと視線を交わしている時、バーニー族が動き出した。
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﹁オオオオオオオオウッ!﹂
﹁オオオオオオオオオゥ!﹂
叫びを上げ、両脚を大きく開いて立ち、屈強な腕で自分の腿から膝
をバチバチと叩き始めたのだ。
﹁オオオオオオッ!﹂
﹁オオオオオオオオオオオオオッ!﹂
﹁オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!﹂
辺りに響き渡る肉の殴打音。
門の上の者達も、バーニー族の後ろにいる者達も、そろって呆けた
顔を晒し、見守っている。
バチンッ︱︱
バチンッ︱︱
渾身の力で叩かれた腿は赤く腫れあがり、バーニー達の周囲には発
汗による薄い霧までも立ち昇り始めた。
その時、一人のバーニー族の腰が深く沈んだ。
﹁オオオッ!﹂
ピョン︱︱ではない。
ビョォォォォン︱︱と音を立てて、バーニー族は跳んだ。
ウサ耳を突き立て、堅く閉じた四ノ門へと向かって跳んだ。
頭からと言うよりは耳からぶつかる様にして門へと突っ込み、破砕
音を立てる。
﹁⋮⋮え?﹂
シャスラハールの喉から自然と漏れたその言葉は、皆の心情だった。
門扉に突き刺さっていた。
バーニー族が、頭から。
まるで的に射た矢がそうする様に、伸ばされた脚が震えている。
そして門扉には、大きな凹みと亀裂が生まれていた。
﹁⋮⋮ハッ! 次弾を撃たせてはなりませんっ! 総員攻撃を︱︱﹂
我に返ったシロエが叫ぶが、間に合わない。
次々にバーニー族は己の脚をバネにして跳び、門扉へと突撃する。
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破砕音が響き渡り、大きく門全体が振動する。
やがて亀裂同士が結ばれ合い、崩壊が生まれた。
ガラガラと門扉が砕け落ち、向こうの空間が見て取れた。
﹁⋮⋮と、突入っ!﹂
呆然と見つめていたシャロンがそう声を上げ、シャスラハール達は
慌てて駆けだした。
敵兵のまばらな攻撃を掻い潜り、四ノ門を通過して行く。
その時、綺麗に十五人ずつ左右に分かれて整列し、右手を額に当て
て敬礼するバーニー族の勇者達から逞しい視線を受け取った。
﹁が、頑張ります⋮⋮!﹂
シャスラハールは何とか、そう口にする事が出来た。
﹁ロニアは兵器と共に三ノ門へ移動してくださいっ!﹂
シロエは薙刀を握りしめ、階段を下りながら言った。
﹁う、うん。シロエは?﹂
﹁私は敵の足止めをします。準備が整わない内に三ノ門に張り付か
れては圧倒的に不利です﹂
四ノ門の防衛には失敗した。
が、この里の防御の要は四城門。
あと三つ、門は残っている。
﹁わかった。気を付けてね﹂
ロニアがそう言って、銃兵達と共に移動して行くのを背にシロエは
三ノ門と四ノ門の中間、兵員を詰める場所へと降り立った。
彼女の後ろには、直属の白兵戦部隊が続いている。
数は百を割り、五十を少し超える程度。
相対するのは、九人の人影。
その中の一人、いや二人に見知った顔が有る。
﹁ハイネア王女⋮⋮そしてお付の侍女殿か⋮⋮﹂
シロエはリネミア神聖国の巫女騎士団の長として、王家を護る為に
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戦場へ出て、ゼオムントに敗北した。
﹁しかし⋮⋮今はもう違う。私は⋮⋮っ!﹂
公娼として地獄の時間を過ごし、多くの仲間を失った。
そして西域に来てマリューゾワ達と出会い、新たな絆を得た。
最奥へ到達し、アン・ミサと言う柔らかな天使とも出会った。
﹁大丈夫⋮⋮戦えますっ!﹂
シロエは薙刀を真横に振り上げながら、全速力で前進した。
﹁続いて下さいっ! ロニアの準備が整うまで、何としても敵の足
を止めますっ!﹂
後方から遅れて天兵達が続く。
彼らの表情には、怖れと怯えが多分に含まれていた。
力天使ラクシェを従えた人間達との戦い。
偵察に向かった者達が帰投し、自分達の臆病ぶりを誤魔化す為に誇
大に吹聴した結果、シャスラハール達の戦力評価は天使達の間で凄
まじく高い物になっていた。
現に、
﹁道を切り開くっ! マリスとリセはわたしに続けっ! ヴェナ様
は討ち漏らしを、シャロンは殿下の護衛を頼む﹂
槍を構えて突っ込んできた騎士長ステアに威圧され、天兵達の足が
止まった。
それでも、シロエは止まらない。
﹁はああああああああっ!﹂
袈裟切りに薙刀を振るい、ステアの槍と合する。
﹁ちぃっ!﹂
歯噛みしながらそれを受け流し、黒髪の騎士の進撃は止まった。
﹁ステア様、失礼します。︱︱巫女騎士団の頭領殿、貴女を無力化
させて頂きますっ!﹂
その背を蹴って跳び、空中を錐揉みに舞ってリセが襲いかかる。
﹁その肩書は、とうの昔に汚され打ち捨てられましたっ!﹂
薙刀の切り払いで、投じられた短剣は宙へと弾き返された。
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同郷であり、互いに顔を知っているリセとシロエの間で火花が生じ
る。
﹁私が戦うのは、祖国の為では有りません。これからの未来の為に
戦っています。故に、ここで下がるわけにはいかないのですっ!﹂
シロエの言葉に、リセが唇を噛んだ瞬間、
﹁リセっちー。ちょっとどいてくださーい﹂
抜けた声が響き、リセの耳の後ろから揃えられた両足が突っ込んで
きた。
﹁なっ!﹂
咄嗟に構えた薙刀でそれを受ける。
先程バーニー族がやった無茶な突進の逆位置、両足を使っての蹴り
を仕掛けて来たのは、マリス。
﹁おー。見よう見まねでしたけど、ラグさんの付与が有ると身体能
力も上がって便利ですねー。マリス感激ですー﹂
黒く扇情的なボンテージを纏い、肩に曲刀をからった女が笑ってい
る。
向かい合うシロエの体は、先ほどまで立っていた場所から五歩は後
退していた。
蹴りの衝撃を殺しきれず、地面に線を引く様にして後ろへ押し飛ば
されたのだ。
﹁リセっちはお先にどうぞー。何やら事情もお有りのようですが、
こういった戦場でそういうのに意識取られると死んじゃいますよー。
ってなわけで特に何のしがらみも無いマリスがお相手しますねー﹂
曲刀を構え、笑う少女。
﹁⋮⋮マリスさん。命を奪うのは、無しですよ﹂
﹁りょーかいでーす﹂
リセはそう言葉を残し、ステアと共に天兵の壁へと突撃して行った。
﹁くっ!﹂
動揺し、恐慌しながら蹂躙される天兵達に向けて一歩を踏み出した
時、
810
﹁駄目ですよー。マリスがお相手するって言ったじゃないですか︱﹂
曲刀が振るわれ、シロエの眼前を薙いだ。
一歩下がって薙刀を構え直し、呼吸を整えるシロエ。
﹁良いでしょう⋮⋮貴女を倒し、門を守ります﹂
シロエには多くの願いが有った。
死んで行った部下達の鎮魂を願い、
孕まされて玩具にされている生き残りの者達の救済を願い、
守れなかった王家の忘れ形見の安寧を願い、
この地で出会った仲間達の幸福を願う。
﹁この戦、負けられません﹂
全てを守る事は難しい、でも何かを選択し守る事は出来る。
願いの重圧に抗う様に振り上げられた薙刀を、
傭兵の剣が受け止める。
﹁へー。そうなんですかー﹂
長柄であり、熟練の技も含め威力の乗った薙刀の一撃を、簡単に切
り払った。
﹁正式契約が出来たので、マリスも全力ですよー﹂
この戦いが始まる前、マリスはシャロンとの間にもう一度契約を交
わした。
シャスラハールに力を貸し、彼の悲願を助けると。
主人を失い、戦場に打ち捨てられた刀は持ち主を得た。
ゼオムントとの戦役で、彼女を雇ったカーライル王国義勇軍の団長
は、優しい男だった。
戦場で部下が命を落とせば手ずから墓を作り、涙を流して魂の安寧
を願った。
部下達には家族のように接し、他人と繋がりを持たないマリスを受
け入れて輪の中に押し込んでくれた。
その彼は、終戦のひと月前に戦死した。
彼を守り切れず、事切れる瞬間に傍でへたり込んでいたマリスに向
けて、彼は笑みを浮かべながら告げた。
811
﹃死なないでくれよ、マリス。俺との契約書、ちゃんと持ってるん
だろう?﹄
最後まで生きて、笑いながら勝利の宴に参加する事。
彼とマリスが交わした契約の末尾に記されたその文面が、マリスを
生かした。
公娼としてゼオムントに囚われて、諾々とその活動に従っていたの
は、彼女がたった一回反抗的な態度を示した際に、カッとなった調
教師が叫んだ﹃殺すぞっ!﹄という言葉を聞いたからだった。
なら仕方がない。
団長との契約が有るから、マリスは死ねなかった。
人を殺す刀として育てられた少女は何より契約を優先する。
毎度必ず、契約書を交わす。
それが彼女にとっての、存在証明だったからだ。
﹁ようやく、ようやく受け取ったんですよっ! ロプイヤーの集落
で貰った紙に、シャロンさんとシャスくんのサインを書いてもらっ
て、マリスの宝物が、また一つ増えたんですっ!﹂
ラグラジルの魔力付与を受けた曲刀の一撃は、ヴェナの剛剣にも匹
敵する。
﹁くぅぅぅ!﹂
シロエは懸命にそれをいなし、弾きながら戦闘を続ける。
両者の力量差で言えば僅かにシロエが勝っているだろうが、マリス
にはラグラジルの加護がある。
身体能力と技のキレが増し、シロエはそれを受け止めるのに精一杯
だった。
同様に戦況も一方的な様相を呈していた。
シロエと分断された天兵達はステアとリセ、そしてヴェナによって
薙ぎ倒され、最早潰走と言っても良い状態だ。
救いと言っても良いのは、ロニアの姿が三ノ門の上にある事。
彼女はそこで何か指示を飛ばし、天兵達を動かしている。
シロエとしてはここを何とか切り抜けて、ロニアの元へと移動する
812
事が最善だった。
﹁魔天使の付与ですか⋮⋮ならばっ!﹂
右手で印を作る。
巫女として修業し身につけた技。
神聖なる者の助力を受け、邪なる存在を破る秘術。
﹁﹃破邪﹄﹂
唱えられた章句により、マリスに付与されたラグラジルの魔力が霧
散する。
﹁いぃっ。マ、マジですかー﹂
動揺するマリス。
その理由は自分の優位が崩れたからでは無い。
肌が全て、乳首も陰唇も含めて晒されてしまったからだ。
シャロン達はロプイヤーの里で受け取った布を加工し簡単な衣服を
作っていたが、唯一ラグラジルの加護を受けたままだったマリスは
それを断り、魔天使仕様のボンテージを着ていただけだった。
故に、全裸。
肌を刺す寒風が吹く中、乳房を揺らし、股間を晒した状態でマリス
は刀を握っている。
﹁と、とにかくっ! これで貴女の力は失われました。本来の実力
で私に勝てると思うのなら挑みなさい。でなければ、そこを退いて﹂
シロエは突然の出来事に泡を食った表情のまま、そう警告した。
しかし、マリスは下がらない。
﹁まさかここで素っ裸に剥かれるとは思いませんでしたー。でもで
も、契約が有る以上、ここで貴女の足を止めるのはマリスの役目で
すから!﹂
再び、曲刀と薙刀がぶつかり合う。
少し前まで圧倒していたマリスの刀は、シロエの薙刀に簡単に押し
返され、逆に追い込まれていく。
﹁どうしても下がらないと言うのならば、手足の一本でも、覚悟し
てくださいねっ!﹂
813
大上段に薙刀を振りかぶり、渾身の一撃を放つ。
﹁やばっ﹂
受け止めようとした曲刀が弾き飛ばされ、そのままマリスは体勢を
崩して転がった。
飛んでいく曲刀が向かう先。
後方で待機し戦場を眺めていた魔天使の隣で、こちらをジッと見て
いた少女。
シロエの祖国であるリネミア神聖国の王女、ハイネアへと一直線で
向かっていた。
彼女を守る様に展開されていた魔力の障壁は、先ほどシロエが放っ
た﹃破邪﹄の秘術により消滅している。
魔天使は戦場を眺め続け、飛来する曲刀に気づかない様子だ。
﹁王女様っ!﹂
夢中だった。
シロエは手にしていた薙刀を無我夢中で投擲し、曲刀へとぶつける。
ガキンッ︱︱と音が鳴り、二つの刃物はハイネアの頭上を逸れて落
下した。
﹁シロエ殿⋮⋮﹂
幼い口元が動く。
それを見て、シロエは自分が何をしたのかを改めて気づかされた。
﹁いや⋮⋮これは⋮⋮﹂
その時、
﹁むっふー。隙ありー﹂
視界の外から、マリスの声が飛び込んできた。
地面を這って接近してきていたマリスは、両手でシロエの足首を捕
まえる。
﹁なっ。やめっ!﹂
そして逆立ちの姿勢で両足を腰に巻き付け、転倒させた。
﹁くっ。離して﹂
もがくシロエの体に、全裸になったマリスが絡みつく。
814
﹁無駄ですよー。マリスは徒手空拳になった時の訓練もしていたの
で、こーんな寝技も得意だったりするんですー﹂
シロエの顔面に自らの性器を押し付け、左足を後頭部の下に潜り込
ませて圧迫する。
自由な右足と両手でシロエの手足を封じ込め、窒息させていく。
﹁あ、痛い痛いっ! 痛いですって! 噛んじゃ駄目、噛まないで
下さいよー﹂
どうにか拘束を解こうともがくシロエは押し付けられたマリスの陰
唇に歯を立てる。
だが同性である以上、その場所の大切さを知っているからこそ、噛
み裂くまでの力が籠められなかった。
やがて、手足の抵抗が無くなる。
﹁うぅぅぅぅ。痛かったですー。ハイニャーちゃん。ここ治療して
くださーい﹂
歯形のついた陰唇を涙目で指差しながらマリスが立ち上がると、
その下からは意識を失ったシロエの顔が出現した。
全裸のままひーひー言っているマリスの股間にハイネアが治療魔術
を施している隣、魔力の糸で雁字搦めに拘束されたシロエが転がさ
れている。
術者であるラグラジルの背中には相変わらずラクシェが乗り、その
他の人間は聳え立つ門を見上げていた。
三ノ門。
シロエの抵抗により生まれた時間でロニアが立て籠もり、自身の配
下に命じて兵器を運び込ませた。
﹁連弩砲に大筒、火炎樽に雪崩長銃。考え得る限り最悪の布陣です
ね⋮⋮。ここを無傷で突破する事なんて⋮⋮﹂
シャロンが冷や汗を垂らす。
白兵戦を仕掛けてきた天兵を残らず打ち倒し、いざ三ノ門へと思っ
815
たところで、この重装備展開だった。
﹁お前達っ! もしシロエに手を出したら一斉砲火を喰らわせてや
るぞっ! それが嫌だったら大人しくそこで待っていろ。こちらの
総大将が戻るまでね!﹂
門の上で眉を怒らせたロニアが、そう吠え猛っていた。
キンッ︱︱
石畳の床を短刀が滑って行く。
﹁くっ! 流石は上位天使様ってか⋮⋮﹂
異端審問官の男が口元を歪めて舌打ちする。
その視線の先、智天使アン・ミサは四枚の光翼を閃かせていた。
先を尖らせる事により刃物と同様な扱いが出来、ラクシェ等は通常
の戦闘でもよく使用している。
﹁下がりなさい。下郎⋮⋮!﹂
アン・ミサは油断無く周囲を見渡しながら、息を吐く。
七人の異端審問官がそれを取り囲み、隙を窺っていた。
アン・ミサの後ろには、手を縛られ目隠しと猿轡をされたままのフ
レアが転がっている。
﹁このままじゃ埒が明かねぇ⋮⋮。こんな刃物じゃあの翼には敵わ
ないし、かと言ってあっちも突っ込んでくるには俺達の数が多すぎ
るってところだろう。何て言ったって翼は四枚しかねーからなぁ﹂
代表格の男が短刀を拾いながら言い、傍の男に目配せする。
﹁退きなさいっ! 今ならまだ追放処分で許してあげます。わたく
しには表に出て彼らと話をする必要があるのですっ!﹂
ラグラジルとラクシェの手によって弄ばれたこのフレアと言う人間
の娘。
彼女を返し、その上で交渉の席を設ける。
場合によっては彼らをマリューゾワ達同様に里の客人として扱う必
要性も出て来たと感じる。
816
それを、こうやって無為に時間を失って行く事が耐えられない。
﹁ナイフが⋮⋮なんだって言うんですか、例え二本や三本刺さった
ところで、死ぬわけじゃありません⋮⋮っ!﹂
自分の中の恐れを叱咤する様にそう言って、アン・ミサはフレアを
抱きかかえ、翼を展開する。
﹁四人の相手は出来ます。その間に抜けて攻撃してくる者は⋮⋮耐
えるしかないです﹂
覚悟を決め、飛び立とうとした瞬間、
﹁良し、その位置だ。やれっ!﹂
代表格の男が叫び、その言葉に従って若い異端審問官がスイッチを
押す。
すると、
ブシャアア︱︱っとアン・ミサの足元から激しい勢いで水が噴出し
た。
﹁な、何っ?﹂
石畳の隙間から猛烈な勢いで襲い掛かる水流は痛みを感じる程だ。
﹁ふへへ⋮⋮そいつぁなぁ、大股おっぴろげたフレアちゃんをその
上に立たせてよぉ。マンコの奥の奥にまで水責めしてやる為の仕掛
けさぁ。あん時は三日くらい放置したんだっけか、解放してやった
時は半分狂ってやがったけど、それを見て皆で爆笑したもんだぜ﹂
異端審問官の声に、
﹁くぅ⋮⋮どこまで下種なのですか!﹂
アン・ミサは怒りの声を上げ、刃と化した翼を羽ばたかせようとす
る。
しかし、水に濡れた翼は輝きと鋭さを失い、ゆっくりと開いて行く
だけだった。
﹁えっ⋮⋮﹂
呆然と声を漏らす。
それを見て、異端審問官達は嘲りの表情を浮かべて襲いかかってき
た。
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﹁やめっ! やめなさい。離してっ!﹂
翼を押さえ込まれ、拷問用のロープで四枚纏めて縛り上げられる。
両手足は拘束され、自由の利かなくなった体に男達の手が伸びる。
﹁そんじゃ、偉大なる智天使様のオッパイでも拝ませてもらいまし
ょうかねぇ。おい、ちゃんと映像残しとけよ。記念にもなるし、脅
しの道具にもなる。安心しろって。ちゃんとお前にもヤらせてやる
からよ﹂
興奮顔で衣服を剥いでいた若い男に代表者が言い、渋々と言った態
で映像魔術用の結晶が用意される。
﹁離しなさいっ! こんな事して、どうなるかわからないのですか
!﹂
瞳に涙を湛えながらアン・ミサが叫ぶ。
﹁へへ。そりゃあアンタの法の下なら死刑でしょうよ。でもねぇ。
ここは違うんですよ。ここは別。俺達が法なの。そしてアンタは便
所。チンポ突っ込まれて精液飲まされる為に存在する便所天使なの。
ね? わかる? これからしっかり映像撮ってやるからさぁ。せい
ぜい良い声で泣きなね? 大丈夫だって。明日の朝には喜んでチン
ポしゃぶる﹃痴﹄天使様になってるからさ﹂
そう言って、男達の手がアン・ミサの衣服の胸元を握り、一気に引
き裂いた。
露わになる天使の双乳。
﹁おっほー。こりゃ良い物お持ちじゃないか﹂
ピンと立った乳首と、その周囲には雪色の肌。
﹁見、見ないで。やめて、退きなさいっ!﹂
必死の抵抗も、七人がかりで抑え込まれては無駄に終わる。
﹁下の方はっと⋮⋮あぁいや、こうやって床に押し付けてたんじゃ
良く見えねぇな。おい、吊ろうぜ﹂
その提案に、全員が笑顔で頷いた。
両手を背中の上で縛られ、両膝の下にロープを通される。
ついでに首にも巻かれ、合計四点で天井の滑車へと結ばれた。
818
男達がゆっくりと滑車から伸びたロープを引くと、アン・ミサの体
が持ち上がって行く。
﹁降ろしてっ! やめて⋮⋮﹂
重力に引かれた乳房が綺麗な釣鐘型で垂れ下がり、綺麗な金色の髪
もまた床へ向かって伸びる。
﹁よーし、ここらで良いだろう﹂
代表格の言葉で、滑車が止まる。
アン・ミサは男達の腰の位置の高さでゆっくりと揺れていた。
﹁映像しっかり撮れよ。智天使様の秘所の初公開だ﹂
﹁後で編集して顔隠して里にばら撒こうぜ﹂
﹁それ良いなぁ。ハメてるところも映してやろうぜ﹂
代表者の手が、アン・ミサの秘部を覆っている布へと伸びる。
﹁ラグラジル様は非処女。話によればラクシェ様も最近貫通したと
か。元々は仲良し三姉妹なんでしょう? ね? 俺達が協力してあ
げるから、三人仲良く薄汚れた肉便所天使三姉妹になっちまいまし
ょうや﹂
男の指が動き、スルスルと白い布がはぎ取られて行った。
智天使アン・ミサの陰部が、今初めて家族以外の者達の目に触れた。
映像魔術の結晶は問題無く作動している。
819
四城門の戦い 攻城戦︵前書き︶
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820
四城門の戦い 攻城戦
炸薬の爆ぜる音が響き渡る。
籠城を決め込み、決して近づこうとして来ないロニアの戦術にシャ
スラハール達の足は完全に止まった。
﹁これは正直⋮⋮正攻法では難しいかと⋮⋮﹂
四ノ門の時と同様に、リセとマリスに強行偵察を行ってもらったが、
尋常では無い火薬兵器での弾幕に追い返されて戻って来た。
﹁ああも城壁の上から狙い撃ちにされては⋮⋮近づく事すら敵いま
せんか⋮⋮﹂
投槍や弓矢ならばまだ回避や防御が出来るが、鉛弾や爆弾ともなっ
てくると、人間技での対処には限界がある。
﹁時間を稼がれてはこちらが不利です。現状ではあの者一人ですが、
魔剣大公マリューゾワやアン・ミサ等が戻って来れば戦況は一気に
傾くかもしれません。敵の数が減っている今こそが好機なのですが
⋮⋮﹂
シャロンはシャスラハールの隣で悩ましげな声を漏らす。
﹁四ノ門を越え、里の内側に入った以上はバーニー族の支援も期待
できない。ここから先は全て自力で突破しなければならない⋮⋮か﹂
三ノ門の門扉を睨みつけながら、騎士長ステアは吐息した。
﹁⋮⋮ラグラジル、わたくしに魔力付与を。突破口を開きます﹂
聖騎士ヴェナが口を開き、覚悟を固める。
﹁ヴェナ⋮⋮。ダメだ、いくら君であっても⋮⋮この弾幕を生きて
越えられるとは思えない⋮⋮﹂
彼女の力をよく知るシャスラハールだからこそ理解できる。
この圧倒的な壁。
越えようの無い要害。
﹁全員付与を受けて、分散して襲い掛かる⋮⋮でも、それでも犠牲
821
は間違いなく⋮⋮﹂
呻くようなシャロンの声。
ラグラジルはその様子を、穏やかな笑みで見守っていた。
﹁⋮⋮ねぇラクシェ。アンタ知ってたんでしょ? 三ノ門に立て籠
もってる子やこっちの気絶してる子がアンに味方してる事﹂
背中に向けて声をかける。
モゾモゾと顔を動かし、両腕を姉の首に回していたラクシェが口を
開く。
﹁うん⋮⋮﹂
肯定する幼い声。
﹁あら? 素直じゃない。ここに来るまでに話さなかった理由は?﹂
﹁聞かれなかったし⋮⋮。それにアイツら別に強くも何とも無いも
ん﹂
姉妹の会話が密着状態で続く。
﹁それはアンタ基準にしての話でしょうが⋮⋮。でもまぁ、油断は
有ったわね⋮⋮というかワタシにとっても誤算だわ。アンタさえ倒
せば里はもう陥ちたものだと思っていたけど、こうも粘られては、
計画も上手くいかないわ⋮⋮﹂
舌打ちしかねない表情で言う姉に、妹は驚きの表情を浮かべる。
﹁計画⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮何でもないわよ。黙って寝てて。お姉ちゃんの邪魔したら放
り捨てるわよ﹂
囁かれた言葉に、ラクシェはむーっと顔を顰めてまた姉の首筋に顔
を押し付け黙った。
戦況は、膠着している。
三ノ門の上。
ロニアはシャスラハール達を見下ろし、視線を尖らせる。
﹁警戒を怠らないで。また一歩でも門に近づいて来たら一斉放射で
822
対応。何としてもマリューゾワが戻るまで門を死守するわ﹂
ロニアが製造した兵器を持たせた天兵達に告げる。
﹁大丈夫よ。アタシの兵器がある以上、籠城戦は絶対的にこちらが
有利。いくら個人の質で勝っていようが、手数で圧倒出来れば遅れ
は取らない﹂
ゼオムントととの戦いにロニアはロクサス郡領国アーリン領の技術
将校として参戦した。
連綿と父祖から受け継いできた絡繰り技術を転用しての技術開発。
魔導に頼らぬ純粋な人の努力によって開発された力。
スピアカントが破れ、リーベルラントが屈し、カーライルが崩壊し
た後も、ロクサスは最後の最後までゼオムントに対抗した。
その原動力は、魔剣大公マリューゾワのカリスマであり、ロニアが
開発した新技術であった。
銃は騎兵を貫き、炸薬は魔導士を焼き払った。
ロクサスはマリューゾワを中心に纏まり、ロニアの技術を以って強
くなった。
だがしかし、時勢が余りにも遅すぎた。
大陸のほぼ中央に位置したゼオムントと、東端の辺境国家群が統合
して出来たロクサスは余りに遠すぎた。
同盟諸国が次々に破れて併呑され、いよいよ孤立無援の状態となっ
てからが、ロクサスの戦場だった。
無論、カーライルにも、リーベルラントにもリネミアにも遠征部隊
を送ってはいたが、地の利が無く、兵器に必要な補給も不十分な状
態では、ロニア謹製の連弩砲も大筒も性能を十分に発揮できなかっ
た。
支配地域から続々と投入されるゼオムントの分厚い戦力に、マリュ
ーゾワの魔剣は折れ、ロニアの兵器の弾薬は切れた。
アーリン領陥落の日を思い出す。
ロクサス連合軍は平地の合戦に敗れ、旗頭であったマリューゾワは
囚われた。
823
各領の敗残部隊はそれぞれの領地に帰り、ゼオムントへの恭順を受
け入れる準備を整えていた。
ロニアはそこで今日の様に城門の上に立ち、一人で長銃を構えてい
た。
城内に我が物顔で入って来るゼオムント兵一人一人の顔に照準を合
わせ、心の中で何千発もの銃弾を放っていく。
その長銃には弾丸は込められてはいない。
弾薬は先の合戦ですべて使い果たしてしまったからだ。
代わりに恨みを、戦場に散ったロクサスの兵と家族の恨みを込めて
ロニアは長銃の引き金を繰り返し引いた。
やがてゼオムントの騎士団に囚われるその瞬間まで、入城して来た
全ての兵士の顔に向けて、怨嗟の弾丸を打ち続けた。
﹁弾丸が有るのよ⋮⋮今のアタシには。本当の、恨みを晴らせる、
怒りの弾丸がっ!﹂
眼下の者達が真実どういう理由でここに攻め入って来たのかはわか
らない。
囚われたシロエも生存している様子だし、特に辱めを受けている風
でも無い。
もしかしたら彼らは敵と言い切れる存在ではないのかもしれない。
﹁とにかく、マリューゾワとルル。そしてアン・ミサさんが戻るま
でここを死守する。戻ってきたらシロエを取り返す。それだけっ!﹂
薄暗い地下室に、下卑た笑い声が響いている。
部屋の中心には、宙吊りにされ衣服を剥かれたこの里の支配者アン・
ミサの姿が有る。
それを取り囲む様にして、七人の男達が立ち、昂揚した表情で絶対
権力者の肌を撫で回していた。
﹁うひぃ。柔らけぇ⋮⋮どこ触ってもプルプルじゃねぇか﹂
﹁雪みてぇに白くてよぉ。キメも細かくて最高だな﹂
824
﹁マンコもピンクで輝いてるぜぇ⋮⋮匂いも良い。あぁ早くブチ込
みてぇ﹂
無遠慮に肌を蹂躙して行く男達の手に、アン・ミサは蒼白な顔で悲
鳴を漏らす。
﹁止めなさい⋮⋮これ以上は⋮⋮。止めてっ! 撮らないでっ!﹂
映像撮影結晶を握った男が、アン・ミサの顔の正面に立ち、その表
情を収めていく。
﹁さて、もう一回マンコとケツ穴撮っておくか。これからボロボロ
にするんだし、綺麗な状態の映像をしっかり残しておかないとな﹂
後ろに回り込み、肛門の前に結晶を突き付ける。
﹁ひっ!﹂
左右の男達が撮影の補助の為に尻肉を押し開き、肛門を晒す。
﹁んー。綺麗だけど、しっかりセピア色してんだなぁ。やっぱりア
ン・ミサ様もウンコするのか⋮⋮俺ちょっとショックだわ﹂
撮影係が芝居臭い嘆きを放つと、
﹁いや、分からねぇぜ? 何しろ誰も見た事が無いからな? アン・
ミサ様の脱糞シーンなんてよぉ。もしかしたらクソしねぇのかもし
れねぇし、逆に下品にブリブリたんまり出すのかもしれねぇ。そこ
でだ、後で実証してみようぜ?﹂
そう言って、異端審問官の一人は戸棚に飾られている浣腸器を指差
した。
﹁おぉ。そいつぁ良いな。この前フレアちゃんにもしてやったよな
ぁ。床でプールになってたフレアちゃんのマン汁と俺達の小便を下
剤とミックスさせて作った特製浣腸をなぁ﹂
男達は下品に笑いながら、智天使の体を弄って行く。
そして、いよいよその時が訪れた。
﹁さて、それじゃあそろそろ頂きますかね。智天使様の処女をね﹂
代表格の男が、ズボンの内側からそそり立つ肉棒を取り出し、アン・
ミサの股の間に移動した。
825
﹃どうしたぁ? チビ。元気無いじゃないか、お前らしくも無い。
お前はいつもギャンギャン喚きながらラグを追いかけるかアンに甘
えるかしていたじゃないか? それとも、今日のところは俺にしと
くか?﹄
そんな言葉が、ラクシェの耳を打った。
﹁え⋮⋮?﹂
﹁何よこのタイミングで、お父様﹂
密着しているラグラジルにもその声は届き、不機嫌を露わにする。
﹁おとうさん⋮⋮?﹂
姉の声に反応し、ラクシェもまた思い出す。
少年と青年の間の声。
ハルビヤニの声。
﹁え、え?﹂
﹃かーっ。相変わらず不測の事態に弱いなぁチビ。頭の回転を良く
しろよ。そんなんだからお前はいつまでたってもラグに負けるんだ
よ﹄
その言葉に、ラクシェは頭に血が上るのを感じた。
﹁負けてないもん!﹂
﹃嘘つけぇ。俺は見てたぞぉ。ラグを追い込んだくせに余計に調子
に乗った結果逆転されて︱︱レイプされてるところをな﹄
一度上った血流は下がらない。
﹁うるさいうるさいっ! 言うなっ! それを言うなっ!﹂
少し薄れて来ていたとはいえ、ラクシェにとってシャスラハールの
肉棒に処女を破られ、誓約を強いられた記憶は激しい怒りとなって
燃えている。
﹁あのねぇ⋮⋮二人ともサラッと言ってるけど、その前にワタシ酷
い目に遭ってるんだからね? お父様は見ていたのなら止めなさい
よ。後ラクシェは死ぬほど反省して金輪際ワタシに逆らわないよう
にね﹂
826
ラクシェの戦槌とヒールに肛門と性器を貫かれたラグラジルにとっ
てみれば、そちらも苦い思い出なのだ。
﹃ククク。だがしかし、実に良いモノだったぞ、我が自慢の娘達の
痴態という奴はな。ラグがボロボロに犯されているのも、チビが泣
いて慈悲を乞うているのもな﹄
世界の欲望と同化したハルビヤニはあらゆる種類の娯楽に飢えてい
る。
近親者の性行為。
それもまた、彼が望んだ欲望なのだ。
﹁ゲスな父親を持ってしまったのはワタシの生の最たる不幸ね﹂
﹁ウチも。こんなのおとうさんじゃない! ウチにはアンお姉様だ
けいれば良いもん!﹂
その言葉に、空気が笑った気がした。
世界に溶けこんだハルビヤニが笑ったのだ。
﹃あぁそうだった。ここでこうしてお前達に構っている場合じゃな
かったのだ。アンの方に戻らなければ﹄
父親が放ったその言葉に、末の娘が反応する。
﹁お姉様が⋮⋮何?﹂
キョトンとしながら、ラグラジルの首に一層強く抱きついた。
﹃何って⋮⋮﹄
ハルビヤニは一度言葉を区切り、心底楽しそうにして、
﹃お前達と一緒さ﹄
﹁え⋮⋮?﹂
ラクシェは上手く反応出来ない。
代わりにラグラジルが問い返す。
﹁一緒って⋮⋮まさかアンが?﹂
レイプされるという事だろう。
だがしかし、それを目的としたシャスラハールはすぐ近くで三ノ門
を睨みつけて固まっている。
ならば誰が。
827
﹃言葉にするより見た方が早いだろう。ラグ、今から俺の言う座標
を魔鏡で映しだせ。そこで面白いモノが見れるぞ﹄
愉しげなハルビヤニの言葉に従って、ラグラジルは魔力を放出する。
シャスラハール達にばれない様に、小型の魔鏡を自分の肩に出現さ
せラクシェと共にそれを見る。
そこには、
﹁お姉⋮⋮様﹂
﹁アン⋮⋮。コイツらは、異端審問官かしら?﹂
呆然と呟くラクシェと確認するかのようなラグラジル。
その問いかけた先はハルビヤニでは無く、ラクシェ。
異端審問官達と普段から付き合いのあった妹に向けて問うたのだ。
﹁え⋮⋮うん。たぶん⋮⋮じゃなくて! お姉様がっ! どうしよ
う。ねぇ。これって⋮⋮嫌だっ! ダメっ! お姉様を汚さないで
っ! 汚い手で触らないでえええええっ!﹂
ラクシェの上げた悲鳴に、周囲の人間達が一斉に振り向いた。
﹁ラクシェ。静かにしなさいよ﹂
﹁お姉様がっ! 犯されちゃう。ラグお姉ちゃん! どうしよう。
助けないとっ!﹂
姉の言葉を無視し、ラクシェは半狂乱になって叫ぶ。
﹁ラグラジル、ラクシェどうしました?﹂
シャロンが振り返って問うて来るのに向けて、ラクシェは手を伸ば
す。
﹁貴女でも良いっ! お願いっ! お姉様を助けて、助けないとっ
!﹂
バタバタと両手を動かし、膝から下を失った足でもがく。
﹁ラクシェ⋮⋮?﹂
驚愕を浮かべてこちらを見ているシャスラハールを見つめ、哀願す
る。
﹁お願い⋮⋮ウチが、ウチがいけなかったの⋮⋮自分が楽しかった
から異端審問官に便宜を図って、それで⋮⋮それでっ!﹂
828
映像の中、アン・ミサはどこかの地下室に裸で宙づりにされ、男達
の手で撫で回されていた。
﹁⋮⋮無理ね。ここから宮殿までどれだけ急いで飛んだって間に合
わないわ⋮⋮。見なさいよ。もう⋮⋮挿入るわよ﹂
ラグラジルは至極冷静に映像を見つめ、父の気配が去った事に気づ
いた。
﹁間近で見たいって事かしら⋮⋮本当に、本当にゲスねお父様﹂
嫌悪感を隠そうともせず言い放ったラグラジルの言葉に、ラクシェ
は頭を抱えた。
﹁ダメ⋮⋮ダメぇ⋮⋮ああ、あああああああああああああっ!﹂
ラグラジルの肩を思い切り叩いて跳ぶ。
今までひた隠しにしてきた六枚の翼を展開し、長姉を睨みつける。
﹁戦槌! 返してっ!﹂
ラクシェの大戦槌は荷物として厄介な為、ラグラジルの閉じた異空
間に放置されていた。
﹁⋮⋮ふーん。なるほど、これがお父様の策か⋮⋮確かに人間達じ
ゃこの門は破れないもんねぇ﹂
ラグラジルは口元に淡い笑みを浮かべながら陣地構築の魔術を展開
する。
﹁少し待ちなさい﹂
空間に図を描く様にして作り出されるラグラジルの異空間︽陰宮︾。
その発動を、
﹁待てないっ!﹂
ラクシェは煮えたぎる炎を瞳に浮かべ、飛翔した。
両足を失い、立って歩く事は出来なくても、六枚の翼を駆使して空
を駆ける事は出来る。
﹁ああああああああああああっ!﹂
猛然と門の上を突き抜けようとするラクシェに向かい、ロニアが吠
えた。
﹁来るぞっ! 一斉放射っ!﹂
829
連弩砲と大筒が火を噴き、長銃を持った天兵が横一線に並び立ち右
から左に一瞬遅れで引き金を引く︽雪崩長銃︾がラクシェを狙う。
﹁邪魔、しないでっ!﹂
力天使として持って生まれた戦いの才能。
それを駆使して弩砲を躱し、砲弾を避ける。
幾つかの弾丸が身を掠ったが、ラクシェは変わらぬ速度で空を貫く。
﹁馬鹿な子。無理よ﹂
魔天使の艶やかな声の後、空気にぶつかる様にしてラクシェの前進
は止まった。
﹁何でっ! 進めないっ!﹂
悲鳴の様な声に、ラグラジルは応じる。
﹁ワタシとアンタには誓約の楔が有るの。だからね。こっちのご主
人様の傍を、勝手に離れる事は出来ないのよ﹂
見えない壁に阻まれる様にしてもがくラクシェに、ラグラジルは誓
約の重さを告げる。
﹁だったら⋮⋮!﹂
煮えたぎる眼光が門を睨みつける。
﹁はいはい。受け取りなさい。アンタのお気に入りの玩具よ﹂
魔天使は完成した︽陰宮︾から戦槌を取り出し、力天使へと放る。
少女天使はそれを受け取り、両手で構えて、全身から怒気を迸らせ
る。
幼い肌を這う様にして青い脈が浮かび上がってくる。
﹁あらぁん。いきなり︽覚醒︾するんだ。ほーんと、余裕の無い子
ね﹂
失っている両足先以外の全身に魔力を走らせ、肉体を限界まで強化
する。
力天使ラクシェの持つ唯一の魔法。
︽覚醒︾
﹁うああああああああああああああああっ!﹂
音速の投擲。
830
戦槌を渾身の力で投げ飛ばす。
標的は、狙いを定めていた連弩砲。
﹁退避っ!﹂
ロニアの咄嗟の叫びに反応できた僅かな天兵は助かった。
けれども連弩砲を操作していた大多数の者達は、連弩を形作ってい
た木材の破片の山に、自らの肉片を散りばめる結果となった。
﹁くぅぅ! 大筒っ! 撃てっ、撃ち落と⋮⋮え﹂
上空を指差し吠えたロニアの顔が一瞬で白くなる。
向かう先、ラクシェの右腕には先ほど投じられたばかりの戦槌が握
られていたからだ。
﹁いつの間に⋮⋮﹂
戦場を注意深く観察していたシャロンの目をもってしても、ラクシ
ェがどうやって武器を取り戻したのかがわからなかった。
その疑問に、ラグラジルが答える。
﹁あの子の戦槌はね。アンの杖と同様に特殊な武器なのよ。ラクシ
ェが暴力を振るう時、真っ先に己を使えと自己主張する武器。だか
ら、あの子の手を離れていても何としてもその手に戻ろうとする。
事象を歪め、投擲の結果だけを残して持ち手に帰る武器。どうして
もアレとラクシェを引きはがそうと思うのなら、物理的じゃなくて
もっと隔絶した別の世界に切り離すしかないの。そう、ワタシの異
空間みたいにね﹂
シャスラハール達がラクシェを倒せた一因として、彼女の手から戦
槌が奪われていた事がある。
それが無ければ、いくら疲弊していたとはいえ西域至高の武、力天
使ラクシェが人間達に敗れる事など有りえなかったのだ。
﹁避けて、大筒を動かして!﹂
ロニアの叫びは、虚しく空に消える。
大筒を操作していた天兵はラクシェの手元に戦槌が戻った瞬間、蜘
蛛の子を散らすようにして逃げ走り、その一瞬の後降って来た戦槌
に大筒は粉々に砕かれた。
831
﹁お姉様が! お姉様が危ないって言うのにっ! 邪魔しないでよ
! 人間どもっ! 門を開けてあげるっ! だから、だからさっさ
と宮殿に行くよおおおおお﹂
急降下し、門の正面に降りて来たラクシェは、戦槌を構え直す。
そして一呼吸吐いた後に、
六枚の黒い翼を一斉にはためかせ。
﹁うあああああああああああああっ!﹂
︽覚醒︾を上乗せさせた西域で最も威力のある一撃を、三ノ門へと
叩き込んだ。
妹の奮戦を、姉は知らない。
今感じるのは、自分の体に侵入してきた、おぞましい感触だけだっ
た。
﹁うぅぅぅ。うぅ⋮⋮ああああああう﹂
涙が溢れ出る。
﹁ハハハッ。どうだ。俺は今、あのアン・ミサ様と繋がってるんだ
ぜ。セックスしてるんだぜ? 西域のアイドル様とよぉ。生ハメセ
ックスだ﹂
異端審問官の代表格が、腰を振りながら笑い声を上げる。
﹁抜きな⋮⋮さい。抜いて⋮⋮離れてっ﹂
両手足を拘束され、抵抗できないアン・ミサには声を上げる事しか
できない。
﹁おいおい、そんな事言わないで下さいよぉ。ねぇ? もしこのセ
ックスで子供が出来たら俺がパパで貴女様がママになるんですよぉ
? 夫婦は仲良くって、これ当然じゃないですかぁ﹂
その言葉に、アン・ミサは顔を強張らせる。
﹁こ、子供⋮⋮﹂
﹁そりゃあそうですよ。あぁもちろん膣内出ししますからね。当然
ですよ。しっかり種付させて頂きますよっと﹂
832
男の腰の動きは止まらない。
先程まで処女だった智天使の膣の中を、無遠慮に貫いていく。
ズニュズニュと、グリュグリュと。
﹁や、いやああああ。止めてください! た、種付? 嫌だ。アナ
タの子供なんて欲しくないっ! 絶対に、要らないっ!﹂
膣内を犯し、子宮をノックし続けるチンポをどうにか抜こうと、懸
命に腰を揺らす。
しかしその動作は、かえって男を喜ばせる結果となる。
﹁お、おおおう。良いですよ。その動き、チンポにグニグニと肉襞
が当たって⋮⋮あぁ、そろそろ出そうだ﹂
﹁で、出そう? 出そうって⋮⋮﹂
怯えるアン・ミサに、男はニンマリ笑顔を浮かべ、そっと顔を寄せ
て囁く。
﹁赤ちゃんの素ですよ。俺の精液、しっかり子宮で受け止めて下さ
いね!﹂
男の腰と、智天使の柔尻が打ち合う音の間隔が狭くなる。
ペースが、上がっている。
興奮が、増している。
射精の瞬間が、近づいている。
﹁いやあああああああ、いや、やめてええええええええ﹂
願いは届かない。
ドピュウルルルルル︱︱
熱く迸った汚辱の奔流が膣内を侵略し、アン・ミサの心と翼を黒く
汚した。
﹁ふうううううう。すっげぇ出たぜ。やっぱり処女レイプは格別だ
なぁ﹂
﹁い、良いから早く代われ、もうチンコが破裂しそうだ﹂
﹁そ、そん次は俺っすからね﹂
代表格の男が腰を引いたと同時に別の男がアン・ミサの股間に体を
潜りこませてくる。
833
そして、一切遠慮も躊躇もする事無く、チンポをその雌穴に挿入し
た。
﹁ひぐぅぅぅ﹂
﹁おおおおおお、すげえええええ。これが智天使様の生マンコかよ
おおお﹂
感動の叫びを上げながら、一心不乱に腰を振って行く。
残りの男達は結合部の周囲に群がり、西域の管理者の無様な姿を笑
いながら映像に残していく。
天使は長命だ。
この先、死ぬまでの間、百年か二百年か。
自分達の肉便器として、オナホールとして、この天使を、アン・ミ
サを縛り上げる為に、恥辱の瞬間を余す事無く記録に残していく。
やがて、泣き喚いていた口に別の男のチンポが突きこまれ、震えて
いた肛門に映像結晶が突きこまれる。
男達は笑いながら、智天使の体を隅から隅まで凌辱し始めた。
その作業の輪から、一人の男がふらっと離れた。
七人の中で最も根暗で、自己主張の弱い男。
彼は呟く。
﹁いいよいいよ⋮⋮どうせ後でいくらでもヤれるし。ただ見てるだ
けなんてつまらないしね﹂
男達の数は七。
マンコに一人。
アナル弄りに一人。
口に一人。
乳房に二人。
撮影に一人。
アン・ミサの体は、それで一杯になってしまった。
あぶれた男は愚痴をこぼしながら輪の外へ出て、そこで転がってい
たフレアを見つけた。
宙吊りの状態からは助けられたが、ついさっきまで膣内出しギャン
834
ブルゲームをやっていた名残で、その膣口には濃厚な精液が零れだ
し、こびり付いていた。
﹁こっちで良いや。射精するギリギリまでで止めといて、ザーメン
はアン・ミサ様のマンコにぶちまけてやろう。おら、マンコ出せよ。
準備運動に使ってや⋮⋮あぐ﹂
男の喉が、強烈な力で握りつぶされていく。
﹁あが⋮⋮び、びんな⋮⋮ご、ごいつ⋮⋮﹂
振り返って仲間に助けを求めようとした、その時。
ぶちゅ︱︱。
そう音を立てて、男の喉笛は握りつぶされた。
﹁⋮⋮羽で切るのに、時間が掛かった⋮⋮﹂
ゆらりと立ち上がるフレアの手に握られていたのは、白い羽。
アン・ミサが処女を失う前に水を浴びた時、衝撃でフレアの所にま
で飛んできていた羽。
フレアはそれを抱き、胸の谷間で擦り上げて乾かし、刃物としての
鋭さを取り戻した上で、両腕を縛っていた縄を切った。
目隠しを外し、既に外していた猿轡と共に放り投げる。
﹁こいつら⋮⋮生かしておく理由なんて、無いよね﹂
目の前で繰り広げられる凌辱行為。
少し前までフレアが味わっていた地獄。
今それを受けているのは、泣いている黒い翼の天使。
その声に聞き覚えがある。
自分を助けてくれた声。
異端審問官の責めから助けて出してくれて、その結果捕まって犯さ
れてしまっているのだろう。
許せなかった。
﹁ブチ殺すっ!﹂
全裸のまま、股間に精液をこびり付かせたまま、フレアは猛然と男
達に襲い掛かった。
アン・ミサの体に夢中で、同僚の死とフレアの存在に気付かなかっ
835
た男達は、その瞬間ようやく自分達の死期に気づいた。
﹁え、おまっ︱︱﹂
渾身の右拳が、アン・ミサの膣を犯していた男の眼球をつぶす。
﹁ひ、ひいいいい。ど、どうやって!﹂
空いた左手はアナルを弄っていた男の開いた口に突っ込み、頬を思
い切り引っ張りながら眼球の潰れた男へと叩きつける。
衝撃を逃がさない様に、右手で最初の男の後頭部を掴む。
両者の頭と頭が衝突し、肉のぶつかる音が響いても、そこで終わり
では無い。
万力の様に、頭と頭を潰していく。
﹁あががががががっがががが﹂
﹁ぎあああああああああああ﹂
ベチョ︱︱と原型を失うまで、力を籠めた。
﹁な、何をやってやがる!﹂
ナイフを握り、一人が突っ込んでくる。
﹁貴様らに! 生きる権利なんて無いんだよ!﹂
ナイフを持つ手を蹴り飛ばす。
﹁うごぉぉお﹂
有りえない方向に曲がった腕を捕まえ、その汚く太った体を引き寄
せ、
﹁死ね、死んで詫びろっ! 償え! 消えろおおおおお﹂
右拳を、左拳を、嵐の様な連打を喰らわせる。
顔面を腫らす。
ではない。
潰す。
陥没させ、変形させ、粉々にする。
フレアの両手がどれだけ痛もうとも、自分の心と体を汚された怒り
と、助けに来てくれた天使を汚した事への贖いをさせる為、決して
力を弱めない。
﹁う、うわあああああああ﹂
836
四人殺した。
残るは三人。
三人は武器を構える事も忘れ、無我夢中でこの部屋から逃げ出して
いく。
﹁待てっ!﹂
全身に返り血を浴びながらフレアは叫ぶ。
だが、追わなかった。
追うよりもまず、しなければなら無い事が有った。
﹁今⋮⋮助けるから。ありがとう⋮⋮ここに来てくれて。本当に、
ありがとう⋮⋮そして、わたしなんかの為に⋮⋮ごめんなさい﹂
床に落ちたナイフを拾い、アン・ミサを拘束していたロープを断ち
切る。
抱きかかえる様に床に降ろし、そっと抱きしめた。
﹁もう、大丈夫だから。わたしが殺して、追い払ったから。安心し
て、泣かないで。泣かないで⋮⋮﹂
静かに泣き続けるアン・ミサの体を、フレアは抱きしめた。
キィ︱︱と地下室の扉が開く音がした。
﹁誰っ!﹂
顔を上げ、ナイフを突きつけながら叫ぶフレア。
それに向けて答える声は、
﹁⋮⋮間に合わなかったと言うのか⋮⋮おのれえええええっ!﹂
激昂している様子の、若い女だった。
彼女はフレアの腕の中で震える天使を見据え、瞳に怒りの炎を宿し
ていた。
﹁お前が⋮⋮フレアか?﹂
女が怒りに震える声で、問いかけてくる。
﹁⋮⋮そうだが。貴女は誰で、ここに何をしに来た。返答次第で命
は無いぞ!﹂
その問いかけに、女は天を仰ぎながら答えた。
﹁私の名はマリューゾワ、この里の客将だ。そやつを⋮⋮助けに来
837
た。遅かった様だがな⋮⋮﹂
三ノ門が音を立てて崩れていく。
力天使の一撃は、門扉のみならず城壁全体を崩壊させた。
ロニアは門の上から投げ出され、落下しながら叫んだ。
﹁総員、二ノ門まで撤収! すぐに防備を固め︱︱﹂
落下の途中で、何者かに首筋を掴まれたのだ。
﹁離せっ!﹂
腰から短銃を引き抜き、対象の額に突き付けようとした瞬間。
﹁お止め下さい﹂
穏やかな声が聞こえた。
その声の主は、二本の短刀を握りしめ、ロニアの首へとあてがって
いた。
﹁そちらの、負けで御座います。捕虜として貴女を遇しますので、
どうか暴れないで頂けませんか?﹂
簡素な服を着た黒髪の少女だった。
ロニアを押さえ込む様にして地面に押し付け、馬乗りになっている。
﹁くぅ⋮⋮!﹂
少女の後ろには、黒肌の少年と、彼の仲間達が続いていた。
﹁リセさん、良くやってくれました。一先ずその人は拘束しておい
てください。この戦いが終わった後、改めて話す事になると思うか
ら﹂
少年の言葉に少女が頷き、ロニアを縛り上げていく。
その時、
﹁グズグズしないでっ! 次の門を壊すからっ! はや⋮⋮く⋮⋮
あ﹂
先ほど門を破壊した少女天使が全員を追い抜いて門へと迫った瞬間、
フラフラと崩れ落ちた。
﹁あーあ。最初から無理するからでしょう? 体調が万全じゃ無い
838
くせに︽覚醒︾なんか使っちゃってさ。感情が先走って加減する事
も無く三ノ門を完全破壊なんてして、穴を開ければ良いだけでしょ
うに。ホント、馬鹿な子﹂
ゆったりと歩きながら、魔天使は妹を抱き上げ、背負い直す。
﹁でも、でもぉ! お姉様がっ! お姉様がぁ﹂
もがく様に手を上げ、空を引っ掻く。
それに向け、魔天使は表情を変えずに言った。
﹁それにね。もう手遅れよ。アンの翼も、アンタとワタシとお揃い
の、真っ黒に変わっちゃったわよ﹂
その言葉に、背中に乗った力天使は大声で泣き崩れた。
﹁ラグラジル。そしてラクシェ、貴女達はさっきから何を話してい
るのですか? 急に動き出したと思えば、壁を壊し、突っ込んで、
泣いて⋮⋮説明してください﹂
騎士の一人がそう問うた時、
魔天使は微笑み、二ノ門を指差した。
﹁ま、家庭の事情って奴なんだけどね。詳しく聞きたかったら、た
ぶんあっちの人が知ってるんじゃない? 聞いてみれば﹂
その先、二ノ門の上には、
﹁ルル⋮⋮!﹂
ロニアは叫んだ。
自分とシロエは敗れた。
でもまだ、あと二人残っている。
ミネア修道院の長と、ロクサスの魔剣大公。
共にゼオムント戦役で活躍した者達だ。
その内の一人、ルルが二ノ門の上で静かに立っていた。
﹁話を、聞いて下さい﹂
彼女のその言葉から二ノ門の戦いは始まった。
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四城門の戦い 代表戦︵前書き︶
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四城門の戦い 代表戦
時間は少し巻き戻る。
アン・ミサの行方を探し、マリューゾワと手分けして里中を飛び回
っていたルルは、ようやく宮殿勤めの衛士を発見した。
兵站の役割に就いていた衛士に異端審問官の居所を聞き、ルルを運
んでくれている大柄な天兵と共にその場所へと飛んだ。
衛士の言葉によると、異端審問官らはラクシェの庇護の下で欲望の
赴くままに、好き放題やっていたという事だった。
かつて天使だった存在で現在は戦う力を失い生産従事者としてこの
里に暮らす﹃羽根落ち﹄と呼ばれる者達や他種族の魔物を攫って来
ては、娯楽としての拷問を加えている様な連中らしい。
﹁彼の言葉が真実なら、アン・ミサの身が危ないかもしれません⋮
⋮。急いで下さい﹂
天兵に抱きかかえられながら宮殿目掛けて飛んでいると、目的地の
すぐ傍で﹃幸運﹄の葉を追って走るマリューゾワの姿を発見した。
ルルの魔法により﹃幸運﹄の導きを授けられた葉は、しっかりとマ
リューゾワを導いて来てくれたようだ。
﹁マリューゾワ。そこの建物の地下です。異端審問官達はその地下
室を仕事場にしていたそうです﹂
上空から声をかけたルルに、マリューゾワは手を振って答えた。
﹁わかった、地下室へは私が行く。ルルはそのまま四城門に戻って
くれ。シロエとロニアに任せておけば問題無いとは思うが、向こう
にはスピアカントの聖騎士が居た。それにアン・ミサの姉と妹を倒
したと言うのならばその他も腕利きだろうし、二人の援護に向を頼
む﹂
西域の旅に置いて、チンポとマンコの事しか頭に無い調教師サバル
カンの様々な妨害に苦しめられながらもこの地に辿り着けたのは、
841
マリューゾワの指揮が有った結果だった。
故に、ルルは頷く。
﹁わかりました。マリューゾワ、なるべく早く戻って来てください。
あちらの代表者は⋮⋮とても強いですよ﹂
ルルだけが知っている事実。
シャスラハール。
その理想と目的は、決して自分達と相容れないものでは無い。
少なくとも、彼と別れたあの日までは。
マリューゾワと別れ、四城門へと向かう。
その途上。
風にかき消される程に小さな声で、ルルは自分へと語り掛けた。
﹁確かめなければ、シャス。今の貴方を﹂
前方で大きな破砕音が立ち、濛々とした砂煙を上げながら三ノ門が
崩壊して行くのが見える。
﹁⋮⋮シロエ、ロニア⋮⋮無事でいてね。アーコンロアさん、お願
いします。私を二ノ門で降ろしてください﹂
抱えて飛んでくれている天兵に声を掛け、彼の力強い頷きを得た。
この男は職務に対する熱意が薄い他の天兵達とは異なり、大変熱心
に仕事に向かっている有能な天使だった。
外敵に備える為に肉体を鍛え上げ、技を磨き、知識を深めて来たの
だと言う。
天使の中でラクシェの次に力が強く、
ラグラジルの次に技が豊富で、
アン・ミサの次に博識な存在。
この戦闘においてはルルの護衛兼切り札を任され、ずっと従ってく
れている。
名を尋ねると無骨な声で応じ、
アーコンロア。
と名乗った。
﹁⋮⋮わかった。従おう﹂
842
重く頷き、アーコンロアは空中で一度停止してそのまま緩やかに方
向を変え、二ノ門へと降り立った。
屈強な腕から降ろされ、門の上から見下ろす平地には、崩壊した三
ノ門の瓦礫とそれに埋もれる天兵達。
そしてその中心に立ってこちらを見上げている九つの人影が見て取
れた。
﹁シャス⋮⋮﹂
ルルは見つめる。
かつて自分に希望を抱かせてくれた少年の姿を。
彼とこうして再会出来たというのに、自分達は敵対する陣営に所属
してしまっていた。
﹁全てを、明らかにしましょう﹂
なし崩しで始まった戦争に再び意味を問う為に、ルルはここへやっ
て来た。
眼下の者達を見据え、よく通る声を放った。
﹁話を、聞いて下さい﹂
﹁ルル⋮⋮﹂
シャスラハールは二ノ門に立つ女性に顔を向け、小さく声を出した。
﹁ルル、とは⋮⋮殿下に﹃誓約﹄魔法を授けてくれた魔導士の名前
でしたよね? まさかあの人が⋮⋮﹂
その隣で警護の為に張り付いているシャロンが問うと、
王子はゆっくりと頷いた。
﹁はい。僕に奥の手をくれたのが⋮⋮あそこにいる女性です﹂
複雑な表情で見上げるシャスラハールと、ルルの視線が交錯する。
ルルの口が開いた。
﹁停戦を。そしてこちらの負傷者を救出する時間を下さい﹂
シャスラハール達の周囲には未だに三ノ門崩壊に巻き込まれた天兵
達がうめき声を上げていた。
843
﹁⋮⋮救援に来る者には手出しはしない。けれど、僕達は前進を止
めない。少しでも早く、この里を手に入れなくちゃいけないんだ﹂
奪われた仲間がいる。
ゼオムントという大国に、文字通り裸のまま捕まった彼女達がどれ
だけの間無事でいられるか。
体の方は絶望的だというのは、調教師であったシャスラハールには
分かっている。
ゼオムントに捕らえられた以上、その身が無事で済むわけが無いの
だ。
血反吐を吐きたくなる感情を押し殺して、その事実は認める。
だとしても、心はどうか。
セナ、ユキリス、シュトラ、そしてその他にも数名が囚われた。
彼女達は皆公娼として地獄の三年間を乗り越え、この西域へやって
来た者達だ。
解放のチャンスを信じて一時は希望を抱き、再度へし折られた。
塗り直された絶望に沈んでいるかもしれない。
もしかしたらもう既に、心を砕かれてゼオムントの肉便所に堕とさ
れているかもしれない。
でも、まだわからない。
セナは肉棒に貫かれながらも必死に抵抗しているかもしれない。
ユキリスは羞恥に苦しめられながらも心を抱き留めているかもしれ
ない。
シュトラは映像で記録を撮られながら自我を守り通しているかもし
れない。
そう思い。
そう願い。
彼女達の心が死んでしまう前に、手を差し伸べる為に。
﹁僕は止まりません。ルル、例え貴女が相手であったとしても﹂
シャスラハールの瞳を受け止め、ルルは溜息を吐いた。
﹁急ぐ理由が有るのですね。ですが、ですが今一度考えて、シャス。
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貴方の理由を全て私に話してください。一緒に考えましょう。これ
以上苦しむ者が生まれない解決策を。私達の間には致命的に言葉が
足りていません。分かり合えぬから、戦ってしまうのです﹂
彼女のその言葉に、シャスラハールの足は止まった。
﹁まずは貴方の焦る理由を教えて、シャス﹂
柔らかな年上の女性の声。
それに導かれる様にして、シャスラハールは言葉を紡いだ。
﹁仲間が、大切な仲間が捕まっています。ゼオムントと、この里に
も一人。彼女達は今も苦しんでいる。助けないと、一刻も早く助け
ないと⋮⋮﹂
ルルは頷き、
﹁そうなのね。この里に居るかもしれない貴方の仲間は今私の友達
が確認しに行っています。大丈夫、信頼できる人だからちゃんと見
つけてくれます。それで、ゼオムントに捕まっている人を助ける為
に、どうしてここに来たの?﹂
アン・ミサとマリューゾワが向かっている先に、シャスラハールの
言う一人の仲間が居るのだろう。
あの二人ならばその人物を見つけ出せるだろうし、見つけた後も適
切に救出できるだろうという事をルルは確信する。
﹁この西域遠征の趣旨はルルも知っていると思う。その景品だった
﹃アン・ミサの杖﹄を手に入れられればゼオムントの支配を覆せる
と、そう考えて僕は旅を続けて来たのだけれど、ラグラジルから真
実を知って、僕達は計画を変えた⋮⋮﹂
そこでシャスラハールの言葉は途切れた。
迷いがその頭をよぎる。
﹁そうですね。私達も最初はその景品を狙っていました。しかし辛
く困難な旅を乗り越えここに辿り着き、真実を知りました。その後
アン・ミサと出会って彼女の友になり、この地で第二の人生をとい
う事になったのです﹂
まず明かされたのは、ルルとアン・ミサの関係。
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﹁え⋮⋮私達って⋮⋮?﹂
﹁そこに居るシロエとロニア、そしてマリューゾワを含めた私達四
人の事ですよ﹂
友人。
そうすると、ここでルルが立ち塞がる理由は、
﹁友人を守る為に戦いに赴いてみれば、刃を交わす相手が貴方だな
んて⋮⋮驚きましたよ﹂
魔物を敵と定め、支配する為にやって来たシャスラハール。
魔物を友として、守る為に戦うルル。
両者の立場は決定的にぶつかってしまっている。
﹁シャス。貴方、私の﹃誓約﹄魔法を使いましたね?﹂
その声に、咎めの響きは無い。
けれども、何より重い罪を糾弾されたかのようにシャスラハールは
顔を落した。
﹁アン・ミサの姉と妹。ラグラジルとラクシェを人間が従えたと聞
き、もしかしたらと思いました。⋮⋮責めは致しませんよ。貴方が
大きな願いを抱き、その為に幾つもの犠牲を払って来た事を私は知
っています。﹃誓約﹄魔法を使う時に、貴方はきっと苦しんだので
しょう。それは分かります﹂
ルルの言葉にシャスラハールは顔を上げる。
﹁けれどもシャス。もう必要は無いのです。アン・ミサに﹃誓約﹄
は不要です。彼女には言葉と心が通じます。話し合い、手を取り合
って生きて行く事が出来ます。彼女の力が必要となれば、きっと助
けてくれるでしょう。無論、私はいつでも貴方に力を貸します。貴
方を抱いて眠ったあの日々は私の生きる希望でした。だからね、シ
ャス。武器を収めて﹂
優しい響きが、辺りを支配した。
シャスラハールは呆然とその声を聞き、彼の仲間はその様子を見守
っている。
﹁ルルの言葉なら、信用できる。他にも色々な話を聞いたし、アン・
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ミサと言う天使が信頼のおける者である事は疑わない。でもね⋮⋮
ルル、僕が出会った天使は僕の仲間を攫い、傷つけたんだ。許せる
許せないの問題じゃなくて、天使の全てを信頼するわけにはいかな
い。天使もまた魔物である事には変わらない。だから僕は、ここで
君の提案を簡単に飲み込むわけにはいかないんだ。僕には責任があ
るから。従ってくれる皆に対する責任が﹂
シャスラハールの脳裏に浮かぶのは、マルウスの存在。
彼らに騙され、シュトラ達を失った。
疑念は有った。
しかし、最終的に彼らを信じて大切な仲間を託して行ったのはシャ
スラハール自身だ。
その結果シュトラ達がたどった悲劇を、シャスラハールは悔やんで
も悔やみきれない。
﹁魔物を信頼する事が出来ない、だから支配する。シャスはそう言
うのですね?﹂
穏やかな声が紡がれる。
それに対して、
﹁⋮⋮⋮⋮うん。軽蔑されるかも知れないけど、僕はそう決めたん
だ﹂
王として、自分を信じて付いて来てくれる者達を裏切らない為に。
﹁シャス、人と魔物では何が違うのですか?﹂
ルルの問いかけ。
﹁良い人間がいて、悪い人間がいる。悪い魔物がいて、良い魔物が
いる。違いますか?﹂
淡々とした問い。
その問いは、四城門に至るまでに何度もシャスラハールの頭の中で
繰り返されたものだった。
ラグラジルとラクシェの屈折した中でも深い部分で繋がりのある姉
妹関係。
ロプイヤー族の厚意とバーニー族の義理深さ。
847
﹁ゼオムントと貴方の国スピアカント、この二つはどうですか? 同じでは無いでしょう?﹂
大きな枠としての国ですらそうだ。
ゼオムントは公娼の人倫を蹂躙し、それを使った娯楽を用意する事
で支配に対する憎しみを別の物へと変換させている。
それは傲慢な悪徳であり、許されない行い。
﹁でも⋮⋮それでも僕は、この旅の中、会う魔物全てに攻撃され、
罠にかけられて来たんだ⋮⋮。そして被害に遭うのは僕だけじゃな
い。僕の決定を信じて付いて来てくれる皆も酷い目に遭って⋮⋮今
も苦しい思いをしている人だっている⋮⋮そういった悲しみを少し
でも減らす為に⋮⋮僕は⋮⋮﹂
胸が苦しくなり、喉を閊えさせながら言葉を紡ぐ。
﹁そうやって今度は貴方が罪の無い魔物︱︱アン・ミサを酷い目に
遭わせるのですか?﹂
その言葉がもたらした衝撃に、シャスラハールは立ち眩んだ。
ルルはよく知っている。
﹃誓約﹄魔法の意味を誰よりも。
そこに、
﹁黙って聞いていれば⋮⋮殿下に向けて好き放題言ってくれますの
ね。討たねば討たれる。戦場の道理で御座います。少なくともラク
シェとラグラジルは我らを襲い、そのラクシェを派遣したのがアン・
ミサだと言うのならば、我らにその者を討つ道理は有ります。これ
以上の問答は不要。押し通らせて頂きます﹂
烈火の怒りを浮かべ、聖騎士ヴェナが腰から剣を引き抜いた。
それに呼応する様にルルの背後でアーコンロアが長槍を握りしめる。
﹁お待ちなさい﹂
ルルはそれでも変わらない。
﹁私はシャスと話をしているのです﹂
睨みつけるかの様に、ヴェナを見据える。
聖騎士の瞳もまた剣呑に煌めく。
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シャスラハールの保護者として時は違えど彼を守ってきた二人の公
娼の間に火花が咲いた。
﹁⋮⋮シャス。貴方がこの西域で出会った魔物達が酷い者達で有っ
たという事は事実だと思います。私自身、ここに至るまでの間にい
くつかの魔物と出会いましたが、往々にして邪悪と呼べる存在でし
た﹂
調教師サバルカンは魔物に襲われると悲鳴を上げてルル達に戦うよ
うに命じ、形勢が完全に有利に傾くと、余裕を取り戻して今度は魔
物とセックスするよう強制してきたりもした。
その中で始め六人居た公娼の内一人は魔物に連れ去られて行方不明、
もう一人は熊型の魔物の肉棒に貫かれながら腹上死した。
﹁先ほど私を信じるからアン・ミサの事も信じる。そう言ってくれ
た事、嬉しかったです。シャス。お願い、もう一度アン・ミサと会
って話をして。貴方の望みをしっかりと彼女に伝えて。そうしたら
きっと、あの人だったら受け入れてくれる。ちゃんと受け止めてく
れる。誓約の魔導士である私が誓う。この命に懸けて誓う﹂
そう言って、ルルは両手を広げる。
﹁ルル⋮⋮﹂
シャスラハールは呆然とその姿を眺め続ける。
﹁ちゃんと話をして。お互いに理解しあえば、私達は争う理由を失
うわ﹂
ルルの全身を包むかのように青白い魔法陣が展開される。
発動したのは﹃誓約﹄魔法。
アン・ミサの人柄を保証し、シャスラハールを従わせる魔法。
代償はルルの命。
アン・ミサがもしシャスラハールの言葉を受け入れない場合はルル
の鼓動が止まり、魔法が消滅する。
代わりに、結果が出るまでシャスラハールはアン・ミサに手が出せ
なくなる。
﹁どうかしら、シャス。私にアン・ミサが戻るまでの時間を預けて
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くれない? 悪い様にはしない。と言うよりはそんな結果は起こり
得ない。命を賭けるわ。文字通りに﹂
誓約者としてのルルの名が魔法陣に記される。
シャスラハールは唇を噛みしめ、一同を見渡す。
全員が頷きもせず、彼の顔を見返した。
そこに込められているのは、彼への信頼。
シャスラハールが意を決し、ルルに同意しようとした瞬間、
﹁ちょっと待って。大人しく話を聞いていたけれど、一つ疑問が有
るの﹂
魔天使ラグラジルが声を上げた。
﹁ねぇ。本当にアンはここに戻って来るのかしら?﹂
魔天使は指を一つ鳴らし、虚空に魔鏡を出現させた。
そこに浮かび上がって来たのは、
﹁アン・ミサ⋮⋮そんな⋮⋮﹂
全裸に剥かれ、明らかな凌辱の痕を肌に浮かべた智天使の姿を見て、
ルルは絶句した。
顔は涙に汚れ、口の周りに黄ばんだ何かがこびり付いており、白い
乳房には人の手形が赤く残り、股間からは白い液体が零れ落ちてい
る。
その体を、マリューゾワとフレアが両脇から支えて歩いていた。
﹁一体⋮⋮何が⋮⋮﹂
動揺するのはシャスラハールも同じ。
ついさっき言葉を交わした相手が、自分達が二つの門を越えている
間にこの様な惨い姿に変わっている。
誰しもが想像しえなかった。
﹁消せっ! 消せえええええええええっ!﹂
ラクシェが吠え、渾身の力で戦槌を投擲し、魔鏡を割る。
力天使の涙が、動揺が、今の映像を真実だったと証明して見せた。
﹁ねぇ。今この門の内側ではちょっと酷い事が起きているみたいよ。
アンの翼を見たかしら? ワタシやラクシェと同じ、真っ黒だった
850
でしょ? それはつまり、里の内側にアンの処女を奪った奴がいて、
アンは今し方破瓜の瞬間を迎えたばかり。ねぇ、ご主人様⋮⋮そん
なアンが呆然自失の体を押し切ってここまで来てくれるかしら? むしろこっちから迎えに行ってあげて、優しく抱きしめてあげた方
が良いと思うのだけど﹂
ラグラジルの言葉は続く。
﹁アンはね、繊細で打たれ弱い子なの。話をするにしても今の状態
じゃ言葉が通じるかもわからないわね。だからね、ここはワタシに
任せて頂戴。あの子が頼れるのは、泣いて縋れるのはこの西域でワ
タシしかいないの。あの子を優しく励ましてあげられるのは、姉で
あるワタシだけなの﹂
だからね、と魔天使は続けた。
﹁先に、ワタシが行ってくるわ。そしてあの子を慰めて、ここまで
連れてきてあげる。どうかしら? これ以上戦闘を望まないという
のならば、ご主人様たちはここで待機していても良いと思うけれど
?﹂
静寂が場を支配した。
今の映像を思い起こし、ボロボロになったアン・ミサに思いを馳せ
る。
﹁確かに⋮⋮あの状態ではのう⋮⋮﹂
ハイネアが呟きを零し、
全員がそれに同意する空気に包まれた。
﹁ウチも! ウチも行く! お姉様泣いてた⋮⋮そんなのダメっ!﹂
ラクシェが喚き、同行を申し出ると、
﹁それこそダメね。あのねぇ。アンタはあの子の妹でしょう? あ
の子はアンタの前じゃ姉として威厳を持とうと虚勢を張ろうとしち
ゃうのわからないかしら? 泣こうにも泣けなくなるわよ。だから
ここはワタシに任せておきなさい﹂
ラグラジルの言葉に、ぐむっと呻いてから声を詰まらせるラクシェ。
魔天使の瞳はシャスラハールを捉えた。
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﹁ねぇ。どうかしらご主人様。ワタシを行かせてくれる? 誓約が
ある以上勝手には貴方から離れられないの。でも今の状態のあの子
にいきなり男、それも自分をレイプしようと考えてた人間と会えっ
て言うのは酷じゃないかしら? だから、ここはワタシ一人じゃな
いとダメなの﹂
その言葉にシャスラハールはしばし考えてから、頷いた。
﹁⋮⋮わかった、ラグラジル。だがこれは命令でも有ります。必ず
僕の前にアン・ミサを連れて来てください。それが守れるのならば、
離れる事を許可します﹂
誓約によって縛られている二人の間で交わされる命令は、強制と同
じ意味を持つ。
そしてシャスラハールはルルを見上げた。
﹁ルル。ラグラジルを通してくれるのならば、僕は停戦に応じる。
ルルの誓約にも同意する。それでどう?﹂
誓約の魔導士はその言葉にゆっくりと頷いた。
﹁そうね⋮⋮アン・ミサは姉の存在をどこか憧れめいて語っていた
事も有りました。今の彼女には、ラグラジルさんの存在が必要なの
かもしれません。行ってあげてください。シャスはこの場で待機し
てもらいます﹂
ルルの言葉を受けて、シャスラハールが同意し、誓約魔術が行使さ
れる。
そして彼女の合図で二ノ門が開き、ラグラジルがそこへ通される。
﹁ラグラジル、頼みましたよ﹂
隙の無い目でラグラジルを睨むシャロン。
﹁お姉様を⋮⋮お姉様を助けてあげて﹂
マリスの背中に乗り換えてから涙声で言うラクシェ。
﹁急いで⋮⋮とはこの際言えないかも知れないけれど、出来るだけ
早く頼みます﹂
シャスラハールがそう言って、ラグラジルを送り出した。
門を抜け、翼を広げたラグラジルの口元に薄い笑みが浮かんだ事に、
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人間達は誰も気が付かない。
ラグラジルが去り、二ノ門の周辺にどこか弛緩した空気が流れ始め
た。
﹁倒れている方の救助を﹂
ルルは振り返り、アーコンロアとその他の天兵に言う。
天兵達はもそもそと動き出したが、その代表とも言えるアーコンロ
アは微動だにしない。
﹁アーコンロアさん?﹂
ルルが首を傾げ、問うと、
﹁申し訳無いが、我はやはり納得できない﹂
重い声が響いた。
﹁見よ。奴らの攻撃で多くの天兵が負傷し、門の崩壊に巻き込まれ
て死んでいる者もいるだろう。それなのに、このまま奴らを見逃せ
と? 許せと言うのか? それでは死んで行った者達が余りに救わ
れん。職務に殉じた勇敢な兵士達が哀れだ﹂
長槍を握りしめ、火を吐く様な声を上げる。
﹁いやー、全然勇敢って感じでも無かったけどなーってマリスは思
いますけどねー﹂
ラクシェを背負ってユラユラと揺れていたマリスが茶化すと、アー
コンロアは厳しい視線でそれを睨みつけた。
﹁とにかく! このままでは我ら天兵の名折れだ! この屈辱をど
うしてくれようか!﹂
アーコンロアはルルに迫り、彼女は困惑の表情を浮かべた。
そこに、
ヴェナが一歩前に進み出てきた。
﹁そうですわね。ここまでの戦いで少々わたくしにも鬱憤が溜まっ
ておりますの。四ノ門はバーニー族。三ノ門は暴走したラクシェの
手で破壊。これではわたくしが殿下の御為に何も出来ていないよう
853
つかまつ
ではありませんか。このまま戦いが終わってしまっては騎士の名折
れです。貴方が望むのなら、わたくしが一戦仕りましょう﹂
胸を張り、アーコンロアを睨みつける。
﹁ちょ、ちょっとヴェナ⋮⋮﹂
シャスラハールが慌てて止めに掛かるが、先ほどルルに無下に扱わ
れて気分を損ねているのかヴェナの表情は険しい。
﹁殿下。殿下はもしもの場合を考えてここで﹃誓約﹄の準備を整え
て置いてください﹂
その言葉に、ビクンッ︱︱と反応する。
﹁それもそうですね⋮⋮手札は切れる状態にしておかないといけま
せんね⋮⋮﹂
シャロンが顎に手を当てて言い、
﹁それならば我が王。久方ぶりに貴方をわたしの体で夢中にさせて
差し上げましょう﹂
﹁むっ! 妾は今のところほとんど何もしておらんからな、そうい
う事なら手を貸そう﹂
﹁ハイネア様がそう仰るのならば⋮⋮私も﹂
ステアがシャスラハールの手を引き、ハイネアとリセがそれに続い
ていく。
﹁シャロン、君とマリスはヴェナ様の戦いを見守っていてくれ。こ
ちらはわたしが君達の分まで殿下から搾り取っておく﹂
瓦礫を衝立代わりにして隙間に収まり、シャスラハールの戸惑う声
を響かせながら、﹃誓約﹄の準備が始まった。
﹁先ほどまでのルルさんの言葉通りに行けば、必要の無い事ですが
⋮⋮もしもは想定しておかねばなりませんからね﹂
シャロンはそう言って、戦場を見据える。
今まさに、ルルの制止を振り切ってアーコンロアが門の下へと降り
立った瞬間だった。
﹁確認しておこう。人間族の戦士よ。この戦い。勝者には何が与え
られる?﹂
854
天使の問いに、
﹁わたくし達には二ノ門開門を。そちらはそうですわね。好きな物
を仰ってくださいな﹂
聖騎士は固い態度で応じた。
﹁ならば、貴様のその剣を貰い受けよう﹂
聖騎士叙勲の証であるヴェナの聖剣。
それを寄越せと言われ、ヴェナは薄く笑った。
﹁可能ならば、どうぞ?﹂
そうして戦いが始まろうとする時、
門の上から魔法が降り注いだ。
﹃幸運﹄の魔法。
その暖かな光が、アーコンロアを包み込んだ。
﹁アーコンロアさん。私は貴方の陣営ですので、貴方の補助を致し
ます。そのお方は人間の中でも指折りの武芸者です。念の為、最大
級の﹃幸運﹄を込めて置きましたのでどのような事態になったとし
ても、命を落とす事は無いでしょう﹂
ルルの﹃幸運﹄魔法の加護を受けた者は、攻防どちらに置いても世
界に祝福される。
いくら傷を負っても致命傷にはならず、逆に僅かにでも相手に傷を
与えるとそれは極めて重い有効打となる。
﹁⋮⋮要らぬ世話だが⋮⋮。断るのも無粋か、受け取っておく﹂
アーコンロアは眉を逆立てて頷き、
﹁良いでしょう。そのぐらいのハンデが無ければ決着が早すぎて面
白くないと言うものです﹂
ヴェナもまた頷いた。
そして両者武器を構え直し、
一瞬の後、ぶつかった。
二ノ門を巡る戦いは言葉で始まり、刃で終わる。
855
灯りの乏しい地下の階段を、ゆっくりと登って行く三つの人影。
﹁とりあえず宮殿に戻るぞ﹂
マリューゾワは厳しい表情で言い、アン・ミサの体を左側から支え
ている。
﹁わかった⋮⋮しっかりして﹂
反対側を支えているのはフレア。
フレア自身もアン・ミサ同様に手ひどい凌辱を受けていたのだが、
そこは元の体力の差か公娼として過ごして来た年季の問題か、立ち
上がる事が出来ている。
﹁アン・ミサ⋮⋮﹂
二人の中央にいる智天使に表情は無い。
里の為を思い激務に耐え、姉と妹を失い、差し迫るゼオムントの軍
隊に対処し、そしてやって来たシャスラハール達と対峙して、
緊張の連続の果て、最後の最後には自分の領民に裏切られて大切に
守ってきた処女を散らされた。
心を閉ざし、ただ赤子の様に泣いた後はもう何も話さなかった。
今もただ二人に支えられて足を動かしているだけだ。
地下から地上へ出る入り口付近で三つの人影がうめき声を上げてい
た。
﹁⋮⋮これは⋮⋮?﹂
フレアはその様子に首を傾げる。
﹁私が地下に入ろうとした瞬間、駆けあがって来たこいつらと鉢合
わせしてな。止まれと言ったのに止まらぬから、仕方なくそれぞれ
四本ずつ手足に剣を刺して拘束しておいた﹂
魔剣大公マリューゾワの持つ操剣魔術。
指揮された魔剣に四肢を穿たれて拘束された男達の苦鳴だった。
﹁こいつらが異端審問官で間違いないか?﹂
ほぼ確信を得ているとは言え、顔も所属も知らない相手だった。
念の為にフレアに確認を取ると、
﹁どうだろう⋮⋮わたしは知らない。ずっと異端審問官に犯されて
856
きたけど、あいつらは常にわたしに目隠しをしていたから、顔を見
た事は無いんだ⋮⋮。でも、声は似ていると思う﹂
顔の見えない相手に、ひと月ほどの間ずっと犯され続けていたとい
う恐怖。
﹁こんな⋮⋮顔をしていたんだな⋮⋮!﹂
男達の醜悪とも言える顔をフレアが睨みつけると、彼らは自由にな
らない手足でもがき狼狽えた。
﹁⋮⋮気持ちは察する。だが今はアン・ミサを連れて行く事が先だ。
こいつらの処分は後で必ずやろう。私も手伝う。我が友に働いてく
れた非道の借りを返してやらねばならないからな﹂
マリューゾワもまた彼らを睨みつけ、
﹁それまでは私の魔剣がコイツらを拘束する﹂
魔剣に指示を送り、より深く肉に食い込ませる。
﹁がああああああっ!﹂
﹁痛いっ! いたいいたいいた﹂
﹁お願いします! ゆるいして⋮⋮命だけは⋮⋮!﹂
涙を流しながら懇願の声を上げる男達に、
二人は鋭い視線を放ち、
﹁そこで痛みと恐怖に震えて待っていろ。お前達に明日の朝日を拝
める権利は無いと思えよ﹂
地下へと続く扉を閉め、宮殿へと歩を進めた。
裸の状態で戻って来た宮殿の主に、宮殿勤めの羽根落ち達が慌てふ
ためいていたのを制し、何とか執務室へと運び入れる。
備え付けの寝台にアン・ミサを寝かせ、マリューゾワとフレアは顔
を見合わせる。
﹁改めて名乗ろう。私はロクサスのトワイラ領領主マリューゾワ。
今はこの地で客将をやっている﹂
魔剣大公のその言葉に、
857
﹁リーベルラントの騎士、フレア。力天使ラクシェに捕まりこの里
に連れて来られた。ひと月前くらいにね﹂
騎士はそう自己紹介をした。
﹁⋮⋮シャスラハール、そしてステアと言う名前に聞き覚えは?﹂
﹁わたしの主君と姉の名前だ。忘れる事なんてない﹂
門の上での語らいで聞いた名前を問うと、淀みなく答えが返ってき
た。
﹁そうか⋮⋮﹂
真実に行き当たった。
ラグラジルとラクシェが語った言葉は本当であり、シャスラハール
がこの里に攻め寄せてきた理由の一部は肯定された。
﹁どうしてその名を知っている?﹂
今度はフレアからの問い。
﹁⋮⋮今その両名と仲間達がこの里に攻め寄せてきている。君を返
せと言って、アン・ミサはそれを確かめる為にあの場所へ向かった
んだ⋮⋮﹂
その言葉に、両者は寝台の上の天使を眺めた。
そしてマリューゾワは一連の出来事を丁寧にフレアに語って聞かせ
た。
説明が一段落し、
﹁君がこの里、ひいては天使に対して良くない感情を持つ事を否定
しない。現に異端審問官は卑劣な屑であり、ラクシェの行いにも多
大な問題が有った。だがこれで、少なくとも我らには彼らと正面切
って戦う理由は無くなった。勝手な意見だがこれからの事は戦場で
は無く卓上で話を付けるべきだと私は思う﹂
マリューゾワが考えを述べ、
﹁唐突な話ね⋮⋮姉上達がここに向かって来ているのだったら、わ
たしはそちらと合流したい。天使にはたしかに反吐が出る思いだけ
ど、今はそんな事よりも仲間と合流したいわ﹂
フレアが応えた。
858
﹁私もそれが道理だと思う。君の身柄を拘束する気などは無い。今
すぐあちらに戻るべきだと思うが⋮⋮。この状況だ、少し待ってい
て貰えないだろうか?﹂
寝台で泣き眠るアン・ミサを見て、マリューゾワは眉尻を下げる。
﹁今の状態でアン・ミサを一人にするのは忍びないし、危険かもし
れない。誰かが傍についているべきだと思うのだが。戦争を終わら
せる為に私は四城門に向かわねばならない。だから私の代わりに君
がここに残ってくれないだろうか?﹂
頭を下げ、頼み込むマリューゾワ。
それを受け、
﹁⋮⋮少し、考えさせて﹂
フレアは黙し、思考した。
どちらか一人がアン・ミサに付いていなくてはならないとして、そ
れがマリューゾワであった場合。
フレアが戦場に行き、シャスラハール達を止める事は出来るかもし
れない。
けれど天兵達の方はどうだろうか。
突如現れた人間の言葉に、彼らが耳を貸す保証は無い。
戦闘は継続され、門は開かれないだろう。
だが逆にフレアが残りマリューゾワが戻った場合なら、話は別だ。
天兵達は矛を収め、マリューゾワがフレアの存在を認めて門を開け
ば、シャスラハール達は問題なく里に入って来れる。
それならば︱︱
﹁⋮⋮わかったわ。わたしが残る。でも約束して、絶対に無事殿下
達をここへ連れて来ると﹂
フレアは瞳に力を籠め、マリューゾワへと言い放った。
それを、魔剣大公は受け止める。
﹁ああ、約束する。この私の責任に置いて君の仲間達をここまで無
事に案内してくる。だからアン・ミサの事は頼む。私が戻るまで誰
にも会わせないでくれ。戦争を終結させ、里に平和を取り戻してか
859
ら落ち着いて話す時間を作る。それが何より大切だろうからな﹂
二人が頷き合い、今後の動きが固まった。
戦争を終わらせる。
その同意が生まれ、これ以上犠牲を出さない方針を定めた時、
﹁あ、アン・ミサ様にご報告! 狼煙が、鬼の狼煙が上がっていま
す! クスタンビアです! 親鬼クスタンビアが攻めて来ますっ!﹂
侍女が慌てた様子で執務室へと飛び込んできた。
寝台で寝込む智天使とその傍に立つ二人の人間。
うち一人は裸と言う状況に呆然としつつも、震えながら寝台へと一
歩を踏み出した。
﹁アン・ミサ様⋮⋮智天使様。起きてください。鬼の侵略です。里
の危機です。管理者である貴女様のお力で、どうかこの里をお守り
ください﹂
アン・ミサを揺すり起こそうとする侍女の手をマリューゾワが掴ん
だ。
﹁止めろ。今は寝かせてあげるんだ﹂
侍女はその手を乱暴に振り払った。
﹁部外者は口を挟まないでください! クスタンビアが攻めて来る
のです! かつてハルビヤニ様の右腕と呼ばれていた鬼が、この里
に⋮⋮! ひぃぃぃ。殺される。助けて、助けて下さいアン・ミサ
様! 寝ていないで、どうか私達をお守りください!﹂
縋り付こうとするその背中を今度はフレアが捕まえた。
﹁一体どうなっている。クスタンビアとは何者だ?﹂
拘束されてなお、滅茶苦茶に暴れる侍女を押さえつける。
﹁貴女達人間に言っても分りませんよ! 鬼族の酋長クスタンビア
が部下を引き連れてこの里に向かっているの! さっき物見の魔物
から連絡が有って、それでアン・ミサ様にお伝えしなくちゃって⋮
⋮どうして、今はラクシェ様がいないし、アン・ミサ様の﹃統治﹄
も消えてしまっている⋮⋮このままじゃ⋮⋮﹂
侍女の言葉に、マリューゾワはハッとする。
860
その胸倉をつかみ、強い言葉で問いただした。
﹁アン・ミサの﹃統治﹄が消えているってそれはどういう事?﹂
アン・ミサの魔法は大きく分けて三つ存在する。
治療、統治、支配。
その内支配魔術は分化させた杖ごと奪い取られ、今は行使できない。
それを失ってなお彼女がこの地を管理できていたのは、統治の魔法
が有ったからだ。
常時開放型の統治魔法により魔物を律し、里を混乱から護り続けて
来た。
その統治が消えている。
﹁し、知らないわよ! 気が付いたらいつも感じる法規の定めが消
えていたのよ! 街の中では窃盗と喧嘩が発生したって報告も来て
るし! アン・ミサ様の統治が効いている間はこんな事にはならな
いもの!﹂
この里の内側にいる魔物達を法規で管理するその魔術が働かない。
そして外敵を払う武勇を持ったラクシェは不在。
それはつまり、
﹁この里は、今完全に無防備だという事か⋮⋮﹂
四城門から数里離れた丘の上、
扇情的なビキニスタイルの美女が立っていた。
濃い青で作られたビキニは胸を押し上げ尻に食い込む。
髪は薄い青で、腰まで届く長髪だ。
肩に羽織を掛け、前は留めない。
風に羽織が靡くのを気にする様子も無い。
﹁クスタンビア様、いつでも行けます⋮⋮﹂
ドスの利いた声が響き、そちらを見やると、
赤みがかった筋肉質な肌にゴツゴツとしたコブの様な隆起をいくつ
も生やした雄の鬼達が並んでいた。
861
その数は五百。
今回クスタンビアが率いて来た鬼の総数だ。
鬼族。
別称で親鬼とも言われる種族。
他の生物を孕ませる事にしか能が無かった子鬼達が成長すると、親
鬼に変化する。
しかし子鬼から親鬼に変化できるのはほんのごく一握りで、多くは
子鬼のまま死んで行く。
子鬼から親鬼へと変化する条件。
それは自分の子種で他の生物を十数回孕ませる事が出来た者のみが、
枷を外され屈強な肉体を得る事が出来る。
親鬼になってからも、彼らの性欲は減衰しない。
むしろより強化される。
溢れ出る性欲を押さえる為に彼らは日に何度も射精をする必要が有
り、自慰をする者は鬼族の恥さらしだという風潮も相まって、彼ら
はより凶暴に雌を求め続ける。
そんな彼らを率いるのは、唯一の雌鬼クスタンビア。
大柄ではあるが他の醜悪な鬼達とは比べようも無い美貌を誇り、肌
には人間の滑らかさが有る。
﹁突撃開始! 里を落せっ! ハルビヤニ様の座所はワタシが手に
とき
入れる! あの娘達と羽根無しの女共はお前達の好きにしろ!﹂
クスタンビアの叫びに呼応して、鬼達は鬨の声を上げる。
丘を一斉に駆け下りていく彼らは素足だ。
だがその一蹴り一蹴りで、尋常では無い距離を稼いでいく。
親鬼の走る速度は、馬の二倍。
猛烈な勢いで、四城門へと向けて駆けて行く。
﹁ハルビヤニ様ハルビヤニ様ハルビヤニ様ハルビヤニ様ハルビヤニ
様あああああああ﹂
その先頭を走りながら、クスタンビアは涎を撒き散らしながら叫ぶ。
その耳元に、甘い声が響いた。
862
﹃あぁ俺はここに居るぞクスタンビア。降臨祭の時、お前があの里
に居てくれたら俺は何度だってお前を抱いてやれるのに⋮⋮そう毎
年思っていたよ﹄
世界の欲望と同化したハルビヤニの声。
その声は悩ましげに、さも辛そうにクスタンビアの耳を弄ぶ。
﹁ハルビヤニ様と膣内出しセックス! ハルビヤニ様と種付セック
ス! ハルビヤニ様と腹ボテセックスううううううう!﹂
鬼の酋長は快足を飛ばし、後続を引きはがす程の速度で駆けて行く。
﹃クスタンビア、俺の肉奴隷よ。今がチャンスなのだよ。お前がい
くら望んでも叶わなかった降臨祭への参加を、今年こそ叶えてやろ
う。チビは戦えない、アンも倒れている。今こそお前があの里を陥
とせ、そうすれば、俺はお前が望むだけ精液を子宮に注いでやるぞ﹄
その隣で響く甘い声は、どこか愉しそうに笑っていた。
﹁ふぅ⋮⋮自分から出て来るだけの事は有りますね。良い腕をして
います﹂
その言葉と共に、ヴェナは納剣した。
眼前に、荒い息を吐くアーコンロアがうつ伏せになって倒れている。
ヴェナとアーコンロアの代表戦は半刻に渡って繰り広げられた。
聖剣の一撃は何度も彼の身を切り裂こうとしたが、その度に﹃幸運﹄
が彼の身を守り、深い傷を与えられなかった。
嵐の様な斬撃と隙をついて繰り出される槍の一撃。
それらの応酬が繰り返された結果。
アーコンロアは力尽き、ヴェナの剣を首元に当てられて降参した。
﹁ヴェナ相手にここまで粘れるだなんて⋮⋮。ルルの﹃幸運﹄が有
ったとしても凄い事だと思います﹂
どこかフラフラした様子のシャスラハールが言い、ツヤツヤしてい
るステアが頷いた。
﹁同じ槍使いとして参考になる部分が多々あった。見事な腕前だと
863
言わざるを得んな﹂
それらの賛辞に対して、
槍を地面に突き立てて立ち上がったアーコンロアは厳しい視線を向
ける。
﹁⋮⋮戯言は不要。我は敗北した。約定は守る。二ノ門はお前達の
手で開かれた⋮⋮﹂
彼は視線をルルへと向け、魔導士はゆったりと頷いた。
﹁はい。それでは二ノ門を開門します。皆さんには内側で待機して
頂き、一ノ門にてアン・ミサやマリューゾワと話し合って頂きまし
ょう﹂
重い門扉が開かれ、シャスラハール達はその中へと入って行く。
アーコンロアはそれを見送った後、翼を展開して飛翔し、二ノ門の
上へと向かった。
﹁⋮⋮この敗北は我に責が有る。貴殿の魔法は実に優秀だった。あ
れのおかげで命が繋がっている事を、感謝する﹂
その言葉をルルに向かって言い、ムッツリと口を閉じた。
﹁クスッ。私は少し運を上げただけですから。貴方の腕前が見事だ
ったって事は、あちらの皆さんも認めていらっしゃいますよ﹂
柔らかく微笑む誓約の魔女。
﹁⋮⋮とにかく、この﹃幸運﹄はお返しする。次は実力であの者を
倒せるように、鍛錬するつもりだ﹂
無骨な天使はそう言って、礼の姿勢を取った。
﹁はい。では解除しますね。また何か入用な時は仰ってくださいね﹂
そう言ってルルは﹃幸運﹄魔法を解除し、アーコンロアに背を向け
て門の下へと降りていった。
アーコンロアはそれを見送り、息を吐いて床へと座り込んだ。
門を駆け下りたルルはそのまま速度を落とさずに、
﹁シャスーっ!﹂
ギュッと黒肌の王子に抱き着いた。
﹁あ、あああうルル⋮⋮﹂
864
再会、敵対、そして和解。
今の状況に戸惑うシャスラハールは飛び込んできたルルを持て余し
た。
その一方で、ルルは全身を使ってシャスラハールに絡みつく。
顔を正面に置き、ゆっくりと目を閉じて唇を寄せて行く。
﹁およしなさい﹂
唇同士の中間に、しなやかな手の平が割り込んできた。
そちらを見ると、ヴェナが怒り顔で立っている。
﹁貴女はまだ里の方の人間でしょう? 殿下に不用意に近づかない
で頂きたい﹂
それに向け、ルルは不満気に顔を曇らせる。
﹁お堅い騎士様ですわね。大丈夫ですよ、私とシャスは絆で繋がっ
ているのですから。多少の事情などは無視して構わないのです﹂
二人の視線がぶつかり合い、次なる言葉で攻撃しようとした瞬間。
﹁ルル⋮⋮!﹂
両腕を後ろに縛られたロニアが叫び、その隣で先ほどようやく目を
覚ましたシロエもルルを見つめていた。
﹁事情を、改めて私達にも話して頂けますか?﹂
シロエの声に、ルルは真剣な顔で頷き、シャスラハールから離れる。
﹁ねぇシャス。この二人の拘束を解いてくれないかしら?﹂
その言葉に少し逡巡するシャスラハールに、
﹁もう一度誓約したって構わないけれど、この二人は信頼のおける
私の友達なのですよ﹂
ルルは満面の笑みでそう言った。
それを受け、
﹁⋮⋮わかりました。お二人の縄を解いてあげてください﹂
シャスラハールは頷いた。
リセが二人の背中の縄を切り、シャロンが武器を渡す。
そうして彼女達はルルを引っ張って少し離れた位置に移動し、何や
ら会話を始める。
865
その視線が油断なくシャスラハールを見ているが、ルルが柔らかく
言葉を紡ぐたびに、シロエとロニアの表情からも険が失われて行っ
た。
穏やかな空気が辺りを包んだ瞬間︱︱
﹁う、うわああああああああああっ!﹂
天兵の一人が二ノ門の上から叫び声が上がった
﹁何事だ⋮⋮﹂
門を見上げ、ステアが問うが、
﹁て、敵襲!﹂
﹁鬼だ⋮⋮親鬼が攻めて来たぞ!﹂
﹁あ、あれって⋮⋮!﹂
門の上から様々な種類の悲鳴が聞こえて来るが、内側に入ってしま
っているシャスラハール達には二ノ門の向こう側は見えない。
悲鳴と、恐怖だけが届いてくる。
﹁く、クスタンビアだあああああああ﹂
その言葉に、マリスの背中に乗っていたラクシェがビクリと反応す
る。
﹁え⋮⋮クスタンビア⋮⋮﹂
全員の視線がラクシェへと向いたその瞬間。
ザリッ︱︱。
と刃を鳴らす音が響いた。
そして、シャスラハールの足元にボール状の物が落下してきた。
それは、
﹁そんな⋮⋮っ!﹂
先程までヴェナと死闘を繰り広げていた、アーコンロアの生首だっ
た。
全員の視線が自然と門の上へと向かう。
そこに、ビキニを纏い両手に極太の剣を握った鬼の女が立っていた。
その足が、首を失ったアーコンロアの体を蹴り飛ばす。
女の口が開く。
866
﹁お前達、都合よく女がこんなに居るぞ。どれでも好きなものから
犯せ﹂
その言葉に続く様に、二ノ門の上に筋骨隆々の鬼達が飛び乗って来
た。
人間業では乗り越えられなかった門の上に、ただの跳躍で到達して
いた。
﹁ワタシは宮殿を目指すぞ。里の内側に入ってしまった方が女も見
つけやすいと思うが、とりあえずそこの連中で一発抜いた奴からワ
タシに続け﹂
﹁進んでっ! クスタンビアにはアンタ達じゃ勝てないっ! この
ままじゃ全滅するっ!﹂
マリスの背で、ラクシェが叫んだ。
異様な鬼の出現に、全員が我を失っていた。
﹁⋮⋮一ノ門へと入りましょう! そこで防衛線を張ります!﹂
ルルが言い、ロニアとシロエが駆け出しシャスラハール達も続いて
いく。
しかし、
一ノ門の上で待機していた天兵達はクスタンビアの姿を見ると顔を
真っ青に染めて、
﹁も、門を閉じろぉぉぉぉ。クスタンビアだ⋮⋮!﹂
恐怖は伝染し、例え無為に終わるとしても、彼らは心の防壁とする
かのように、一ノ門を閉ざし始めた。
﹁待ってっ! 私達を入れて下さいっ! 共に戦いましょう!﹂
シロエが叫び、門へと手を伸ばす。
先ほど閉門を指示した天兵が、シロエの姿を見て恐怖に歪んだ笑み
を浮かべた。
﹁ちょ、丁度いいぞ⋮⋮。性欲猿の鬼共はあの女達を犯すだろうか
ら、その間に俺達が逃げる時間を作れる。閉めろっ! さっさと閉
867
めろぉぉぉぉ﹂
一ノ門が閉まったのは、その言葉が発せられてすぐの事だった。
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四城門の戦い 防衛戦︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
869
四城門の戦い 防衛戦
無情にも閉ざされた門扉に、誰もが手を伸ばす。
﹁嘘でしょう⋮⋮﹂
ロニアの震える声。
﹁全員、武器を構えて! 戦えない者を中心に密集陣形で固まって
迎え撃ちます!﹂
聖騎士ヴェナが抜剣し、号令を放つ。
シャロン達がそれに倣い、シロエとロニアも続いた。
﹁無理だよ⋮⋮アンタ達程度がクスタンビアに勝てるわけないもん
⋮⋮﹂
戦闘態勢に入ったマリスの背からシャスラハールの背へと乗り移り、
ラクシェが小さな声で呟いた。
﹁西域で二番目に強い魔物よ。あの鬼は⋮⋮﹂
至高の武と呼ばれたラクシェに続く存在。
それが親鬼の酋長クスタンビア。
彼女の号令が響いた。
﹁狩れ﹂
その瞬間、咆哮を上げて突進してくる親鬼達。
﹁中心に敵を入れるなっ!﹂
向かってくる親鬼に槍を突き入れながらステアが叫んだ。
その槍を、親鬼は両手に一本ずつ握った石造りの巨剣で弾き返す。
﹁なっ⋮⋮!﹂
すぐに切り替えし第二撃を放つステアと、更にそれも防ぐ親鬼。
﹁馬鹿な⋮⋮﹂
リーベルラントの有力な騎士の攻撃を、西域の魔物が捌き切ったの
だ。
﹁⋮⋮クスタンビアだけじゃないよ。親鬼は総じて異次元の力があ
870
るもん。他の魔物とは格が全然違うの⋮⋮﹂
ラクシェの呟きが、シャスラハールの耳を打つ。
﹁防いで下さい、何としてもっ!﹂
叫ぶシャロンもまた鬼と切り合っている。
前面にヴェナ、ステア、シロエ、そしてシャロンが立ち塞がって鬼
の進撃を食い止め、
その間からマリス、リセ、ロニアが攻撃を加える。
﹁皆に﹃幸運﹄を!﹂
シャスラハールの隣に立ったルルが魔術を詠唱し、全員に最大級の
﹃幸運﹄を付与する。
﹁怪我をしたら後退し、ハイネア様から治療を受けて下さい﹂
巨剣を何とか回避しながら言うシャロンの声に、シャスラハールの
隣にいるハイネアが頷いた。
間断無く続く親鬼の波状攻撃。
それを騎士達はいなし、防ぎ、弾き返した。
戦闘が開始されて数分が立った時、シャスラハールは改めて冷や汗
を浮かべた。
﹁⋮⋮鬼が⋮⋮減っていない⋮⋮﹂
ヴェナの聖剣も、シャロンの双剣も、ステアの騎士槍も、
誰の攻撃も、鬼の息の根を止める事が出来ていなかった。
こちらが防御に専念しているという事も有るが、何より恐ろしいの
は鬼の強靭な躰。
刃で深く切り裂けず、弾丸で打ち抜けない。
ダメージはある様だが、傷を負った鬼はすぐに仲間と交代して後ろ
に下がってしまう。
一方こちらは確実に消耗していた。
鬼の一撃を防ぎきれず負傷したシャロンは下がり、その穴をマリス
が埋めている。
そして前線に今も立ち続けるヴェナとステア、そしてシロエの顔に
は、大粒の汗が浮かんでいた。
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リセとロニアは絶え間なく攻撃を仕掛けているが、中距離系であり
威力が乗らない二人の攻撃では屈強な鬼を倒し切れない。
﹁このままでは⋮⋮﹂
右腿に深手を負ったシャロンがハイネアから治療を施されながら、
呟いた。
その時、
﹁うぎぃっ﹂
﹁ぐごっ﹂
鬼達からうめき声が上がった。
彼らの頭部に鋭い突剣が幾つも突き刺さり、ハリネズミの様になっ
ていた。
急に飛来してきた突剣。
その意味を、この中の何人かは理解した。
薙刀を大きく振りかぶり、ハリネズミになった鬼へと強烈な斬撃を
見舞ったシロエが叫ぶ。
﹁マリューゾワっ!﹂
鬼の首が刎ね跳ぶ軌道の先、一ノ門の上に、
魔剣大公が現れた。
﹁遅くなったな⋮⋮皆無事か? クソ、ここの守備兵達はどこへ行
った⋮⋮! これも統治魔術が消えた結果か⋮⋮﹂
息を切らしたマリューゾワの姿に、彼女がここに至るまで懸命に走
ってきた事が窺える。
﹁援軍⋮⋮にしては一人だけね。それにアレも良い女じゃない。お
前達、ヤって良いわよ﹂
乱戦を見守っていたクスタンビアがそう指示を出す。
すると彼女の傍に控えていた十体程の鬼達が身を屈め、一斉に跳ん
だ。
二ノ門を突破した時に垣間見た鬼の跳躍力。
鬼達はそれを如何なく発揮して、マリューゾワへと襲いかかろうと
した。
872
﹁魔剣大公をなめないで貰おうか﹂
マリューゾワの右手が天へ向かって伸びた。
そこに握られた突剣から魔力が放たれる。
途端、彼女の後ろから数百本の大小様々な剣が浮かび上がってきた。
﹁この里に有った剣を全て集めてきた。喰らうが良い﹂
振り下ろされた突剣に従い、剣の群が跳躍中の鬼達を襲った。
空中である以上、身を躱す事が出来ない彼らは無残に全身を貫かれ、
苦鳴を上げながら落下していった。
鬼達が絶命したのを悟ると、剣は独りでにその肉体から抜け落ち、
またマリューゾワの近くを漂い始めた。
﹁聞け、今から縄梯子を降ろす。戦えない者から順次一ノ門へと上
がって来いっ。移動中は私が援護する﹂
マリューゾワは魔剣の群を操りながら吠えた。
一ノ門を開く事は出来ない。
人員が足らないという事も有るが、何よりそれでは鬼達を容易に里
に入れてしまうからだ。
空中である程度動きが制限されている状態であれば魔剣の集中砲火
で撃ち落とす事も出来るが、地上を進まれては回避も防御も容易く
なってしまう。
危険ではあるが、門下で戦う者達を助けるには自力で上がって来て
もらうしかない。
﹁わかりました。殿下とハイネア王女を優先して下さい。残りの者
はここで防ぎます﹂
ヴェナが吠え猛り、聖剣を横薙ぎに振るった。
死角から襲ってくる魔剣へ注意を分散しなくてはならなくなった鬼
達は、それまでの戦闘より幾分戦いやすくなった。
聖剣は胸を切り裂き、一体を絶命させる。
﹁早くっ!﹂
873
その言葉に、シャスラハールは唇を噛む。
自分の無力に、不甲斐無さに苛立ちながらも、彼女達の献身を無駄
にしない為にも行動に移った。
﹁ハイネア様、先に登って下さい﹂
せめてこの幼い王女だけでも先にと思ったが、
﹁まだシャロンの治療が終わっていない。もう少しかかる、妾の事
は構わぬ、先に行くのだシャス﹂
ハイネアは首を振り、魔力を込めてシャロンの傷口を塞ぐ。
﹁⋮⋮くっ。皆済まない、無事でいてくれ﹂
迷いを振り切り、片腕で縄梯子を掴んだ。
その背中に掴まっているラクシェがポツリ、と言った。
﹁どうせ無駄だけどね⋮⋮﹂
諦めに似た声音。
﹁ラクシェ⋮⋮?﹂
縄梯子を登りながら、シャスラハールは問う。
﹁クスタンビアに勝てるわけないよ⋮⋮﹃アンタ達﹄が﹂
昏く沈んだ幼い声。
それに答える事が出来ずに梯子を登り切り、シャスラハールは息を
吐く間もなく下に向けて声を飛ばす。
﹁ハイネア様っ!﹂
﹁う、うむ﹂
シャロンの治療を終え、ハイネアが縄梯子に手を掛けた瞬間、
﹁⋮⋮あーあ、逃げられちゃうじゃない。愚図共が、狩りって言う
のは⋮⋮こうやるのよ!﹂
鬼の群の後方で待機していたクスタンビアが地を蹴った。
両手に持つ巨大な岩刀を苦にする様子も無く、風の様に迫ってきた。
正面に居たヴェナが迎え撃つ。
﹁総大将ですか! 貴様を討てば戦いが終わる!﹂
聖剣を振り降ろしながらの叫び。
親鬼クスタンビアは、それを片方の岩刀で軽々受け止めた。
874
﹁⋮⋮弱ぁい﹂
必殺の一撃にもなり得る聖騎士の剣だったが、今のヴェナは二ノ門
でのアーコンロアとの熱戦から殆ど間をおかず、回復すらしていな
い。
攻防共に普段より消耗していた。
空いたもう片方で聖騎士の腹を切りつける。
﹁なっ!﹂
咄嗟に後ろに跳ねて回避したヴェナだったが、腹部には浅からぬ裂
傷を負い、血が止めどなく流れ出していた。
﹁頭上が疎かだぞ!﹂
マリューゾワの操る魔剣が上空から数本飛来し、青色の頭部へと狙
いを定めて落下して行く。
それに向け、クスタンビアは顎を持ち上げ顔を晒した。
口が開き、
舌が震え、
歯が鳴った。
﹁︱︱︱︱ッ!﹂
獰猛な獣の咆哮。
魔剣は、音に砕かれた。
﹁⋮⋮馬鹿な⋮⋮﹂
クスタンビアの頭蓋を穿たんとして向かっていた魔剣の群は、その
咆哮によりバラバラに砕かれた。
﹁隙有りっ!﹂
騎士長ステアの槍が、無防備に晒されたクスタンビアの細い喉を狙
う。
生物の急所である喉、そこを打ち抜かれてはどれほどの存在であれ、
生きてはいられない。
クスタンビアの視線は魔剣へと向かっていた為、言葉通り完璧に隙
が生じていた。
だが、
875
﹁肌でわかる⋮⋮﹂
槍が喉の肉に触れた瞬間、クスタンビアは後ろに上体を傾げ、必殺
の刃を空振りさせた。
﹁なっ⋮⋮あぐああああああ﹂
進む勢いを殺しきれぬステアに向けて、岩刀が襲いかかった。
右腕と右腿を切り裂かれ、夥しい量の血を撒き散らせる。
﹁殺しはしないさ⋮⋮。お前達はワタシの部下達が欲してやまない
⋮⋮肉穴だからな﹂
ついでとばかりにステアの騎士槍を真っ二つに折り、地面に倒れた
彼女の腹を蹴り付け後方の鬼達へと転がした。
﹁やめっ、離せぇ﹂
ステアの体に群がり、衣服を剥いでいく鬼達。
﹁騎士長っ!﹂
回復したシャロンが双剣を手に取り立ち上がった。
しかし、ヴェナが下がりステアが倒れた前線は、既にどうしようも
なく崩壊していた。
﹁おっと⋮⋮女は逃がさない﹂
クスタンビアは片手の岩刀を縄梯子へと投擲する。
﹁ひっ⋮⋮﹂
岩刀はハイネアの小さな頭のすぐ上に刺さり、縄梯子を両断した。
落下するハイネアの体をリセが受け止める。
その様子を見ながら、クスタンビアは言った。
﹁さ、お前達存分にヤれ。なるべく早くしろよ﹂
酋長の言葉に、鬼達は雄叫びで応じた。
﹁⋮⋮皆⋮⋮っ!﹂
シャスラハールは覗き込む。
地獄の窯を。
クスタンビアにより破られた防衛線は、いとも容易く崩壊した。
876
仲間達は懸命に武器を振るうが、士気の上昇した鬼達に次々倒され
て行く。
マリスが、ロニアが、シロエが、リセが、リセに守られていたハイ
ネアが、鬼に捕まり裸に剥かれて行く。
今現在立っているのはヴェナとシャロン、そしてルル。
仲間達が誰一人として命を落としていないのは、ルルの﹃幸運﹄の
お蔭だと言えるだろう。
﹁くそっ! あの女ぁ!﹂
マリューゾワは必死の形相で仲間を救おうと魔剣を操るが、それを
全てクスタンビアが剣と音で叩き落としていく。
﹁⋮⋮っ!﹂
ラクシェを降ろし、短刀へと手を掛けたシャスラハールに向けて、
マリューゾワが厳しい視線を向ける。
﹁それで何になる。君の様な無力な存在があの戦場に飛び込んで何
になる!﹂
言葉の間中ずっと突剣を振り回しながら、魔剣大公は言った。
﹁でも⋮⋮このままじゃ⋮⋮﹂
唇を噛みながら、黒肌の王子は自分の無力を呪った。
目の前で自分を信頼して付いて来てくれた仲間達が無残にやられて
行く。
始めに倒されたステアは全裸に剥かれた後、鬼達の手で縛り上げら
れていく。
単純な拘束では無い。
肌を縦横に縄が這いまわり、乳房や性器を強調する様に縛って行く。
両手は自由に扱えぬ様に後ろに回され、両足は折り畳んだ状態で腿
と脛を結ばれ立ち上がる事が出来ない。
亀の甲羅模様の様に、裸身に茶色の縄が纏わりついていた。
新たに捕まったリセ達にも同様に縄が回されて行く。
恐らくはそれが、親鬼達の凌辱劇前準備なのだろう。
﹁せめてあの女を倒せたら⋮⋮っ﹂
877
投じた魔剣を次々に砕かれ、マリューゾワは気炎を吐く。
その言葉に、シャスラハールは後ろを振り返った。
西域で二番目に強い魔物、親鬼クスタンビア。
それを凌げるのは唯一、﹃西域至高の武﹄だけだろう。
力天使ラクシェは膝下を失い、戦う意欲すら失っている。
だが、この戦場を塗り替え、仲間を救う事が出来るのはもう、この
少女しかいないのである。
﹁ラクシェ⋮⋮さっき﹃アンタ達﹄にはクスタンビアを倒せない、
って言っていたけれど⋮⋮﹂
シャスラハールのその問いに、ラクシェは気怠そうに口を開いた。
﹁そうよ。ウチなら倒せる。あのクスタンビアをね。アイツは前に
も何度か里を襲ってきたけど、それを全部追い払っていたのはウチ
だもん﹂
その言葉に、シャスラハールは意気込んで迫った。
﹁だったら︱︱﹂
﹁でも今は無理。さっきのでもうほとんど残って無かった力を使い
切ったし、そもそも両足が無いんじゃ上手く戦えない。このまま戦
ってもすぐ負けるだけだもん﹂
激情に駆られ三ノ門を破砕したラクシェには、戦う力が残されてい
ないという。
希望は、早々に潰えたかに思えた。
﹁けど、このままここに居たんじゃウチもあの鬼共にヤられちゃう
よね。それは絶対イヤだから、協力してあげる﹂
力天使はそう言って、シャスラハールの瞳を見つめた。
﹁ウチをお姉様の所へ連れて行って。お姉様の治療で足を治しても
らえれば、ウチはまた戦える。そうしたらお姉様とウチ自身を守る
為に、クスタンビア達を倒してあげる﹂
この戦場を覆す事が出来る唯一の希望。
西域最高の武を使う為には、この場所に背を向けて前に進まなくて
はならない。
878
﹁ぐ、くそっ、離しなさいっ! 触れるなっ!﹂
ヴェナの聖剣が叩き落とされ、無手になった彼女が鬼共に取り押さ
えられる。
腹部に重傷を負いながらも懸命に戦ってきた彼女だったが、仲間が
次々に倒れた結果更に分厚くなった敵の攻撃に対処しきれず倒され
た。
﹁ヴェナ⋮⋮﹂
シャスラハールは呆然と声を漏らす。
聖騎士が倒れた事で、その背に守られていたルルも捕まり、最後ま
で抵抗を続けるシャロンの運命もすぐに決するだろう。
﹁みんな⋮⋮﹂
歯が食い込み、唇から血が零れる。
﹁僕は⋮⋮行くよ。絶対に戻ってくる。ラクシェを連れて、助けに
⋮⋮!﹂
王子が漏らした悲痛な叫びに、魔剣大公が応えた。
﹁行きなさい。希望は君に預けるわ。君が戻るまでの間、私が時間
を稼ぐ﹂
マリューゾワは突剣を操り、剣の雨を鬼達へと降らせた。
ピンポイントで狙いを付けるのではなく、一定の間隔で広がった剣
の雨。
﹁チッ﹂
いくらクスタンビアが俊敏で有ったとしても、全てをさばき切る事
は出来なかった。
数本は鬼達の頭頂部に刺さり、そうで無くても凌辱の準備をしてい
る鬼達の手を止める事は出来た。
﹁⋮⋮頼みました。マリューゾワさん!﹂
シャスラハールはラクシェを背負い、一ノ門を降りようとする。
﹁あぁ待って。君のその腰の短剣は置いて行ってくれ。それが私の
戦力になる﹂
そう言われ、シャスラハールは短剣を素早く放り捨てた。
879
持ち手を失った短剣は、魔剣大公に隷属する。
彼女の命令に従い、宙に浮かんだシャスラハールの短剣は奔り、
縛り上げられたステアへと肉棒を挿入しようとしていた鬼の首に深
々と突き刺さった。
﹁アンの統治が消えている⋮⋮か﹂
魔天使ラグラジルは自由を満喫し、昔を懐かしむ意味もあって悠々
とした足取りで里の中央道を歩いている。
普段なら天使や羽根落ちを始め色々な種族の魔物で賑わうこの通り
には、今は人影が無い。
鬼の襲来が叫ばれ、天使達は羽根を使ってどこぞへと逃げ去り、羽
根落ちや他種族は家屋に鍵をかけて閉じこもった。
アン・ミサの統治が効いていれば、このような事態にはならない。
天使は戦う為に武器を取り、領民はアン・ミサの指示に従い組織的
に避難しただろう。
﹁それにしてもクスタンビアとはね⋮⋮。お父様もやってくれるわ
⋮⋮﹂
美麗なる親鬼クスタンビアは先々代の管理者ハルビヤニの右腕であ
る、と多くの魔物は信じているが、古くからハルビヤニの傍で生活
していたラグラジルは知っていた。
﹁昔の玩具を引っ張り出してきて、やってる事が娘の情事の観察だ
とはね﹂
ハルビヤニとクスタンビアの関係は、主人と肉奴隷。
少なくともラグラジルはそう見ていた。
管理者として領民を纏めるハルビヤニと、戦士部隊を統率するクス
タンビアは公式な場では常に威厳ある態度を貫いていたが、一たび
舞台裏に引っこめばそれはもう酷いモノであった。
クスタンビアは雌犬の様にハルビヤニの肉棒を欲して服を脱ぎ散ら
かし股を開いた。
880
ハルビヤニは暇つぶしでクスタンビアに精液を注いでやる事も有っ
たが、大体は無様に涙を流して懇願し陰唇を自分でこじ開ける鬼の
酋長を笑って放置していた。
尿意を催したと言い、彼女の口を開かせそこにジョボジョボと黄色
い小便を流し込んで残尿を頬で拭って去るような時も有り、その後
クスタンビアが嬉しそうな顔を浮かべていた事は、ラグラジルの記
憶の底にこびり付いている。
﹁小便を飲まされて喜ぶような便所女が武力の筆頭だったんだから
ね﹂
ラクシェの生まれる前の話であり、クスタンビアに利用価値が有っ
た頃の話だ。
西域の支配は主に三つの役割に分散される。
政治統率者。
武力実行者。
治安平定者。
ハルビヤニがこの西域を支配し始めた頃は、
自らを政治統率者として、クスタンビアを武力実行者に置き、あと
一人に治安平定者を任せていた。
だが時が経つにつれハルビヤニは政治に関わるのが面倒になり、そ
の代行となる存在を作り出した。
娘として。
それが第一子ラグラジルである。
そして些細な諍いから治安平定者であった者と袂を分かった事によ
り誕生したのが第二子アン・ミサ。
その後しばらく西域は安定していたのだが、度重なるクスタンビア
の惨めな誘惑にハルビヤニが飽き、彼女の代わりとして第三子ラク
シェをもうけた。
クスタンビアは放逐が決まった朝、泣き叫んで慈悲を乞うた。
﹃権限など要らない。ご主人様の肉奴隷として生きるからこの里に
置いてくれ﹄と。
881
ハルビヤニはその言葉を聞き、笑いながら言った。
﹃この里に住まう全ての男子とセックスし、全員の精液を子宮で受
け止める事が出来たのなら、それを許可しよう。ただし暴力で脅迫
する事は無し。期限は一年だ﹄
クスタンビアは実行した。
衣服を脱ぎ捨て全裸で街を徘徊し、天使や羽根落ちの男子を見かけ
ると精液を子宮に注いでくれと懇願した。
これまで自分達を武の筆頭として守ってきた凛々しい女性に涙なが
らに乞われ、剥き出しの乳房や陰唇はいつでも彼らを受け入れよう
としている。
男達は獣欲に身を任せてクスタンビアを襲った。
そそり立った肉棒でかつての守護者を犯した。
だが誰も、誰一人としてその子宮に精液を注がなかった。
ハルビヤニの命令に従いラグラジルが施行し、アン・ミサが法で定
めた文面に従った結果だった。
﹃恥知らずにも膣内出しを懇願する女には、慈悲を掛ける必要無し。
肛門か咽喉、または肌に注ぐべし。もし万が一膣内出ししてしまっ
た者には三日間の労役を課す﹄
この法令により、領民はクスタンビアを犯しはするが膣内出しはせ
ず、常に別の穴に注ぎ込むか髪や肌に向けて発射した。
その度にクスタンビアは悲鳴を上げて膣内に膣内にと頼み込むが、
彼らは﹃次はな﹄と言って去って行く。
性行為である以上、何人かは暴発気味に膣内出ししてしまう事も有
ったが、領民たちは概ね法令を守り、クスタンビアは里を徘徊する
オナホールとして一年を過ごしていった。
一年が経ち、結果が発表された。
その時ようやく一年ぶりにクスタンビアはハルビヤニと顔を合わせ、
泣き濡れて喜んでいた。
だが、もたらされた結果は散々だった。
一年間の間にクスタンビアが性交した領民の数は七千強。
882
そして彼女の膣内に射精した者の数は五百。
クスタンビアの追放は決定された。
﹃もう一年下さい! 絶対に、全員分の精液を集めて見せます﹄
そう言って哀願するかつての右腕に、ハルビヤニは言い放った。
﹃臭ぇ。こんな精液塗れの便器誰が使うかよ﹄
兵士に両脇を掴まれ里の外に放り出されたクスタンビアに、一枚の
紙が突き付けられた。
ラグラジルとアン・ミサの署名が入った法令書。
﹃おのれ⋮⋮おのれえええええええっ! お前達のせいだ、娘が生
まてからあの人はワタシに構ってくれなくなった⋮⋮殺してやる、
殺してやるっ!﹄
法令書を破り捨てながら叫び、いずこかへと消えて行った。
それからと言うもの、クスタンビアは幾度と無く里を襲った。
ハルビヤニ存命時は激しい勢いで襲い掛かって来たが、ラクシェを
戦場に投入して完璧して追い返していた。
クスタンビアはラクシェに敗れると、思いの外素直に投降し囚われ
た。
その思惑としては、
﹁里で肉奴隷をやっていればもしかしたらお父様の目に留まるかも
知れないって言う⋮⋮相変わらず脳筋の頭の中はお花畑ね﹂
思惑の第一段階として、法令により半年間の労役と言う名の性奴隷
化は成ったが、四城門の片隅、三ノ門と四ノ門の間の草むらに両手
首と首を板に拘束されて放置されるというものだった。
無論、為政者であるハルビヤニ達はその様な場所には近づかず、守
備にあたる天兵達が暇つぶしに利用するか、町に住んでいて女を買
う余裕の無い者が性欲の発散に使うだけの肉穴と化していた。
半年が経てば解放され、そしてまた半年後には襲撃してくる。
それをラクシェが倒し、法令に則って再び肉奴隷に落される。
変わった事と言えばクスタンビアの設置場所くらいだった。
何度かそのやり取りを繰り返したが、クスタンビアは諦めなかった。
883
全てはご主人様にもう一度抱いてもらう為。
しかしそのハルビヤニは世界と同化して消え去った。
西域中にその通告がなされ、管理者権限は全てラグラジルへと移行
される。
それ以降、クスタンビアが里を襲って来る事は無かった。
ラグラジルとしても、父親がかつてヤリ捨てた女などに興味がわか
ず、もし攻めて来たらラクシェに倒させれば良いと考え放置してい
た。
﹁まさかこのタイミングで来るとはねぇ⋮⋮﹂
アン・ミサの統治が消え、クスタンビアはともかく他の親鬼も自由
に動けると言うのならば、そう長い事四城門は保たないだろう。
﹁さっさとアンに﹃誓約﹄を解除してもらって姿を眩ますのが吉か
しらね。馬鹿な鬼と遊んでいても仕方ないし﹂
アン・ミサの治療魔術で体に打ち込まれた誓約の楔を取り払い、シ
ャスラハールの支配から脱出する。
その目的の為にラグラジルは幾つかの真実と幾つかの虚偽を交えて
彼の傍を離れ、ここまでやって来た。
街路を抜け、無人になった宮殿へと入って行く。
衛士も侍女も、誰一人としてここには居なかった。
ラグラジルにとっては一年ぶりに入る事になる宮殿を、誰にとがめ
られる事も無く気ままに闊歩して行く。
﹁アンが居るとすれば、あそこよね﹂
妹がいつも机にかぶりつく様にして働いていた執務室へと足を向け
る。
そして幾つかの角を折れ、その扉を視界に収めた瞬間、以前見た顔
と再会した。
﹁⋮⋮フレアちゃん﹂
﹁ラグラジルか⋮⋮﹂
乳房は剥き出しで、下半身に短めの布巻き付け、手には傍に有った
鑑賞用の甲冑から奪ったであろう長剣を握った騎士フレアが扉の前
884
に立ちふさがっていた。
﹁⋮⋮邪魔、しないでくれない?﹂
﹁誰もここを通すなと言われている⋮⋮貴様であれば、尚の事だ﹂
執務室へと続く廊下に、戦いの気運が巻き起こった。
シャスラハールはラクシェを背負い、走る。
懸命に足を動かし、息を切らして走る。
こうしている間にも仲間達が次々と︱︱そう考えると気は急いて、
体が動き出す。
天兵の隠れ里の内側は無人だった。
鬼の襲来で避難でもしたのだろう。
走り易く、視野も広かった。
だからその分、宮殿までの距離がはっきりと分かった。
﹁と、遠い⋮⋮! くそ﹂
肺が爆発してしまいそうなほどに駆けるが、それでもまだ距離はず
っと有った。
足がふらつき、視界がぶれる。
シャスラハールの意思を嘲笑うかのようにして足が止まりかけた瞬
間、背中のラクシェが口を開いた。
﹁遅い⋮⋮。人間ってやっぱりノロマよね﹂
ふわっとラクシェがシャスラハールの背から飛び降りる。
六枚の翼を広げ、宙へと立つ。
﹁ラクシェ⋮⋮?﹂
﹁これから先、喋らない方が良いわよ。舌噛むよ。まぁそれで死ん
でくれちゃっても、ウチは良いんだけどね﹂
小さな両手をシャスラハールの脇に挿し入れながら、力天使は言っ
た。
﹁ウチは早くお姉様と会いたい。でもアンタと離れる事は許可が無
いとできない。なら、こうするしかないじゃん!﹂
885
六枚の翼が力強く羽ばたき、シャスラハールは空へと浮いた。
轟︱︱ッ
﹁あくっ!﹂
吹き込んでくる風に慌てて口を閉じた。
初速から、人間の限界を超えていた。
そして数秒もしない内にその速度は殺人的な物にまで発展した。
ラクシェは猛烈な速度で空を駆け、宮殿へと羽ばたいた。
門下は既に制圧された。
シャロンが捕まり、その身に縄を巻かれて拘束されている。
他の者達同様に肌を這う様にして縛られた縄によって恥部を強調さ
れる。
縄で縛ると言う行為は鬼達にとってみれば持ち運びし易く、また簡
単に挿入も出来る様に開脚状態で固定できるというメリットも有っ
た。
鬼達は胸の上で絡まった縄を引っ張り、彼女達の体を持ち上げて自
らの肉棒に添える。
後はただ腰を動かすだけだ。
﹁ひぐっ⋮⋮お、大きい⋮⋮﹂
首を曲げ、自らの陰唇をノックする鬼の怒張を見て、シャロンが怯
んだ声を漏らす。
成人男性の腕ほどの太さに、ゴツゴツとした肉瘤が浮かんでいる。
長さも凶悪で、とても全てが膣内に入り切るとは思えなかった。
興奮からか既に先走りを迸らせている鬼チンポは、今にも柔肉を引
き裂いてシャロンの子宮を貫こうとしている。
皆もそうだった。
ステアも、ヴェナも、ハイネアも、リセも、マリスも、今まで戦っ
てきた三人も、同じ様に縛り上げられ、鬼達にとって片手で持ち上
げて使用できる肉穴に改造されている。
886
﹁やっぱり雌はこうでなくちゃな⋮⋮﹂
﹁雌はこうして使うのが一番だ﹂
﹁オナホール、オナホール﹂
鬼の男根が、騎士達の膣に侵入しようとした時、
死角から飛来する魔剣。
喉を穿ち、目を抉る。
鬼達は苦悶を浮かべ、新品の生オナホールを取り落した。
﹁させるか⋮⋮!﹂
魔剣大公マリューゾワは今でも戦っている。
一ノ門の上に立ち、魔力を操って剣を飼う。
﹁半分⋮⋮は行っていないか⋮⋮。それでも数は減って来ている⋮
⋮。ここで粘っていれば、いずれあの王子がラクシェを連れて戻っ
てくる⋮⋮!﹂
鬼達の数は、マリューゾワが増援に駆け付けた事により確実に減ら
す事が出来ていた。
魔剣での串刺しで命を落とした者も居れば、魔剣に意識を奪われた
隙にヴェナ達に切り伏せられた者も多く居た。
当初この里に攻め寄せて来た五百体の鬼達は、公娼達の必死の抵抗
により、三百を切る程にまで減らされていた。
﹁せめて天兵の援護が有れば⋮⋮﹂
彼ら自身に力が無くとも、ロニアの兵器で武装する事が出来たり、
門の下での激戦から多くの仲間を救い出す事が出来たと思う。
孤立無援。
孤軍奮闘。
マリューゾワの戦いは孤独だった。
突剣を振るい、魔剣の雨を降らせる。
再びオナホールを手に取ろうとしていた鬼達への牽制だ。
恵まれた身体能力を持つ鬼達は回避して剣を躱す。
﹁⋮⋮チッ﹂
﹁チッ⋮⋮﹂
887
舌打ちは、門の上と下両方から漏れた。
マリューゾワは狙いを外した事に、クスタンビアは事態が膠着して
いる事に。
﹁あーもう、時間の無駄。役立たず共、こうやって戦うのよ﹂
クスタンビアは周囲の鬼達に怒鳴り散らし、右手に握った岩刀を腰
に提げた。
そして、地面に転がったシャロンを拾い上げ、
自身の頭上に掲げ持って跳んだ。
一ノ門へと。
﹁貴様っ!﹂
宙に浮く魔剣で打ち抜くには、どうしてもシャロンの体も一緒に貫
いてしまう。
故に、一度クスタンビアを通過させその後ろから剣に追尾させた。
だがその僅かな時間のロスが、勝敗を分けた。
魔剣の速度は、クスタンビアの跳躍力に敵わなかった。
﹁はい、お仕舞。肉穴一個追加ね﹂
﹁くぅぅぅっ!﹂
眼前に飛び込んできたクスタンビアへと手にした突剣を振るうが、
シャロンを放り捨て瞬時に抜き放たれた岩刀によって迎え撃たれ、
突剣は粉々に砕かれた。
そして、返す刀が襲って来る。
﹁ごふっ⋮⋮﹂
脇腹から胸の谷間を通って肩に抜ける、岩刀の一撃。
マリューゾワは鮮血を吹上げ、両膝をついた。
クスタンビアはそれを見て、ニッコリと微笑んだ。
﹁これで、一ノ門は落ちたわね。後はもう里にいるあの娘達を全部
捕らえれば⋮⋮﹂
先ほどの戦場にラクシェが居た事にクスタンビアは気づいていない。
ラクシェは翼を仕舞っていたし、本来の力天使であれば正面から親
鬼を駆逐しにかかって来るからだ。
888
故に、ラクシェはアン・ミサと共に宮殿に居るのだろうと、簡単に
思い込んでいた。
ゲシッ︱︱。
マリューゾワの体を、容赦ない鬼の脚力で蹴り払った。
門下に落された魔剣大公を、鬼達が抱き止める。
そして慣れた手つきで縄を巻き、魔剣大公をオナホールへと作り変
える。
﹁それじゃあ、行くわよ。この里を⋮⋮ハルビヤニ様の座所をワタ
シの物にする為に﹂
クスタンビアの号令に従い、鬼達は進軍を開始した。
﹁おぐぅぅぅぅぅぅぅ﹂
﹁ひぎぃ、太い、太い太い、痛い痛い痛いぃ﹂
﹁んぃえええ、あっ⋮⋮うぎいいいいい﹂
鬼達は前進する。
腰に先ほど手に入れたばかりの喋るオナホール達を繋げて。
ズチュズチュと肉穴を抉る音を響かせて。
口や肛門などは使わず、ただひたすらに膣内に弩級チンポを突き立
て、抉って行く。
﹁お、おおおう⋮⋮ふぅ。出した出した﹂
鬼の一体が満足げに身を震わせて、﹃マリューゾワ﹄と言う名のオ
ナホールからチンポを抜き出した。
そして、別の一体へと放り投げる。
酋長の指示によりこれらは共有して使う様にと命じられたからだ。
親鬼は子鬼の様に異常なまでの繁殖力が有るわけでは無い。
進化の過程で繁殖力を失い、屈強さを得た。
だが、その強すぎる性欲だけは残り、行動理由のほぼすべてを射精
の為とした。
射精する為に戦い、射精する為に食事した。
889
どんな時にでも精液を放出できるように、雌をコンパクトに持ち運
ぶ事を開発した。
移動中に犯し、食事中に犯し、就寝時に犯し、起床時に犯し、排泄
時にも犯す。
酋長クスタンビアもそれを推奨し、雌との愛のある性行為を禁止し
た。
雌は肉穴であり、それ以上でも以下でもない。
彼らは戦いの理由として雌穴を求め、戦いの結果として雌穴を与え
られた。
そして今回の戦い、彼らは実のところ背水の陣を敷いていた。
クスタンビアの命令により、彼らが今まで集めてきたオナホール全
てを廃棄処分にしたのだった。
泣く泣く二束三文で他種族に売り渡したり、他者の手に渡るぐらい
なら︱︱と燃やしたり埋めたりして戦いに臨んだ。
クスタンビアの言葉によれば、この里には多くの羽根落ちの雌がい
て、新品のオナホールがたくさん手に入る、そう言っていた。
そして頑張った。
たくさん走った。
壁を乗り越えた。
そうするとやたら顔と体の良い半裸の雌達と出会い、本能のままに
戦った。
多くの仲間が死んだが、そんな事はどうでも良い。
この具合の良すぎるオナホール達を利用する競争相手が減った事を
嬉しく思う。
オナホール﹃マリューゾワ﹄を放り投げた鬼の手に、別のオナホー
ルが飛んで来た。
オナホール﹃ルル﹄を手に取り、萎え知らずの鬼チンポをその肉穴
に挿入する。
﹁んぎひぃいいい﹂
効果音がしっかり鳴る辺りが、このオナホールが新品である証拠だ。
890
使い古したオナホールは音が鳴らなくなり、故障してしまう。
オナホールは感触と音で楽しむ物なのだ。
グッチョグッチョと﹃ルル﹄を犯しながら前進する。
近くにいる鬼達も﹃ステア﹄であったり﹃マリス﹄であったり、色
々なカラーとボリュームのバリエーション豊かなオナホールを使用
しながら歩いている。
目指すは宮殿、そこに居る天使三姉妹をオナホールに変えたら、今
回の戦いは終わり。
羽根落ちの連中もたくさんオナホールにして、持って帰ろう。
天使と羽根落ちと、さっき手に入れた人間とかいうオナホール。
しばらくは不自由せず射精ライフを満喫できるはずだ。
891
対馬鹿な妹用結界︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
892
対馬鹿な妹用結界
静謐な空気が張りつめた廊下。
向かい合うのは天使と人間。
魔天使と騎士。
ラグラジルにとってみれば、非常に都合の悪い事態だった。
アン・ミサと素早く事を済ませ、この里から脱出する。
その為には誰よりも先にアン・ミサと会い、話をしなければならな
かった。
そこに湧いて出たフレアの存在は言葉に尽くせない程に邪魔だった。
﹁ねぇフレアちゃん。ワタシの事誰かから聞いてない? 今のワタ
シはシャスラハール王子の奴隷なの。だから貴女の敵じゃないわ。
今回はご主人様の命令に従ってアンを迎えに来ただけだから、ここ
を通してくれないかしら?﹂
何一つ嘘は言っていない。
穏便に、素早くここを突破する為に耳当たりの良い真実だけを語っ
た。
だが、
﹁⋮⋮マリューゾワから聞いている。貴様が姉上達に敗れ殿下の魔
法で支配されているという事はな。だが何故、今このタイミングで
貴様一人が現れる。殿下は? 姉上は? 他の者達はどうしている
? 鬼の襲撃が有ったと聞く、そちらはどうなっている?﹂
かつて魔天使の誘惑により道を誤ったフレアにとってみれば、ラグ
ラジルの言は俄には信じようも無いものだった。
﹁⋮⋮退いて、時間が無いのよ﹂
﹁⋮⋮ここを通りたければ殿下か姉上、それかマリューゾワを連れ
て来い。そうすれば通してやる﹂
魔天使ラグラジルは右手に魔力を集め、
893
騎士フレアは長剣に力を籠めた。
﹁言っておくけど、ワタシが言った事は全部真実だからね。後で悔
やんでも知らないわよ。そろそろあの人達皆、鬼に喰われて死んじ
ゃうかも知れないけどね﹂
その言葉、その表情に、フレアは顔を顰める。
里は今緊急事態である。
そしてかつての遺恨は有れど、ラグラジルがフレアと同じ陣営に属
している事は先ほど別の人物に聞いている。
自分がここで立ち塞がる行為は、もしかしたらシャスラハール達の
利を害する行為なのではないか。
そう考えて動きを止めた。
﹁⋮⋮確認する。お前は今殿下の代理でここへやって来て、智天使
アン・ミサを殿下の元へ連れて行く事が目的なのだな?﹂
﹁えぇ、そうよ﹂
騎士は一言ずつ、慎重に選んで口を開く。
﹁何故一人で?﹂
﹁アンの精神状態を考慮した結果よ。処女を喪失したばかりの妹の
元へ姉が慰めに来るのがそんなに変かしら?﹂
﹁鬼の襲撃はお前とは無関係なのか?﹂
﹁それこそ知らないわ。ワタシが派遣された時には鬼の気配何て一
つも無かったし、一ノ門を通された後に天兵達が大慌てで逃げて行
くのを捕まえて事情を聴いたのよ﹂
淀みなく答えた魔天使に向けて、フレアは苦しい表情を浮かべる。
ここまでの問答で、フレアにはラグラジルを否定する事は出来ない。
深く淀んだ遺恨だけが、明快な答えを遮っている状態だ。
﹁ねぇ。良いかしら? そろそろ本格的に時間が無いわよ。急いで
アンを起こしてご主人様の所へ連れて行かなくちゃ﹂
魔天使は右手の魔力を消し去り悠然と歩いてくる。
騎士は長剣を降ろし、
﹁あ、ああわかった。だがわたしも同行する。それが条件︱︱﹂
894
﹃なりませぬ﹄
頷こうとした瞬間、第三者の声が割って入って来た。
少年と青年の狭間の声。
﹃その者は邪な思惑を抱えておりますぞ。この里を襲った未曾有の
危機に乗じて己の卑小な野望を果たさんとする。まさに悪魔の様な
存在でありましょう﹄
響き渡る声。
姿は見えない。
フレアは首を巡らせ、その人物を探した。
﹁お、お前は誰だ?﹂
﹃この里の守り神でございます。この地の危機を見過ごせず、こう
して言葉を届けた次第でございます。どうか、人間族の勇敢なる騎
士殿よ、そこの魔物を通さないで頂きたい。この先で眠る智天使ア
ン・ミサとは真逆の邪悪なりし者を、かの天使に近づけてはなりま
せぬ﹄
やや芝居がかった調子で紡がれる言葉。
今度はラグラジルが低い声を放った。
﹁⋮⋮何をふざけているの⋮⋮お父様﹂
聞き間違え様の無い声。
魔天使ラグラジルを創り、育てた存在。
かつての管理者ハルビヤニの声。
﹁お、お父様?﹂
ラグラジルの言葉に、フレアが反応する。
﹃⋮⋮娘よ。どうしてそなたはそうまで道を違えてしまったのだ⋮
⋮。父として誠無念に思う。騎士殿よ。そこなる悪魔は我が娘、我
よりこの里を受け継ぎし先代の管理者で有った者でございます。で
すが、その行いの暴虐たる故に、里の為、我が命じ、智天使アン・
ミサと力天使ラクシェの手で排斥させた者でございます﹄
声は更に紡がれる。
﹃この地に乱を起こし、人間族の魔導士と睦んで力を授けた元凶た
895
る悪魔よ。ここから先は一歩も通さぬ。我と、そして我を助力して
下さる騎士殿の剣に置いて、貴様の様な邪悪な存在をアン・ミサに
近づけてなるものか﹄
その言葉に、フレアは焦りを加速させ周囲を見渡す。
人影はどこにも無い。
﹁ふざけないで⋮⋮! ワタシがあの魔導士と睦んだですって⋮⋮。
あれは、アンタが仕組んだ事じゃないの? 騙したアンとラクシェ
を使って!﹂
ラグラジルは顔を紅潮させ、激怒する。
感情の高ぶりを抑えきれぬまま、魔天使は吠え猛る。
﹁ハルビヤニ! お前に関わる者は全て不幸になる! ワタシも、
アンもラクシェも、クスタンビアだって! 今更関わるな、ようや
く死んで清々したと思えば怨霊の様に声だけでも邪魔をしてくる!
目障りよ、消え失せろっ!﹂
一度は収めた魔力を再度展開し、廊下中四方八方に放った。
﹁やめろっ! ラグラジル﹂
フレアは魔力弾を懸命に躱しながら叫ぶ。
﹃見なされ、これが魔天使ラグラジルの真実でございます。暴虐を
振るい、民心を誑かす悪魔。あの者の言葉を信じてはいけません。
あの者は弱ったアン・ミサの心に付け込んで悪さを働くためにここ
にやって来たに違いありません。一人なのが何よりの証拠。大方、
鬼達の襲撃もこの者が整えた事なのでしょう。おぉこの悪魔め、守
り神として我は立ち向かうぞ。例え貴様を討つ肉体が無くとも、我
が意思が騎士殿の肉体に宿り貴様を討ち果たすだろう﹄
その声は廊下中に轟く、迫真の悲嘆だった。
魔天使ラグラジルは目を血走らせて辺りを睨みつける。
状況は最悪だった。
一刻も早くフレアを突破してアン・ミサと会わなければいけないと
ころに、突如現れた正義を気取る父親の声。
欲望の権化ハルビヤニが放つ、混乱劇の合いの手。
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ただでさえ疑念を抱いていたであろうフレアの心を、幾つもの猜疑
という名の石を投げ込み波立たせる。
その時、
叫び声が響いた。
﹁落ち着け! ラグラジル。話をしよう! お前の言葉でもう一度
真実を語ってくれ!﹂
騎士フレアは対話の姿勢を保った。
錯乱気味に放たれたラグラジルの攻撃で少し傷を負ったが、それで
も剣を突き付けず、言葉を先に放った。
かつてフレアはラグラジルの言葉に惑い、シャロンを裏切りかけた。
その時に気づいた事が一つ有る。
﹁わたしも考える! しっかりと考えてお前を信用できたならばこ
こを通す。どこの誰ともわからん声になど利用されるものか!﹂
思考の大切さ。
リーベルラントで騎士をやっていた当時から、戦場の事はステアと
シャロンに任せ、セナと自分は深く考える事無く武器を振るって来
た。
それが間違いだった。
例え誰かより劣った脳みそでも、間違う事が有ったとしても、自分
の意思や考えを持ち、それを語る言葉を作らなければ、また仲間を
裏切ってしまうかもしれない。
ラグラジルの甘美な誘惑は魅力的だった。
だがしかし、それではいけなかった。
前に進む意思を捨てなかったシャロンに比べ、フレアは自分の意思
を持っていなかった。
ステアやシャロンが進む道にただついてきた結果、ラグラジルの作
る幻想に迷ってしまったのだ。
﹁⋮⋮わかったわ。もう一度、最初から説明してあげる﹂
一瞬驚愕の表情を作っていたラグラジルだったが、すぐに気を取り
直して言葉を紡ぎ始めた。
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フレアが知らない情報を一から整理するような語り口。
不思議と守り神を自称する声は沈黙し、魔天使の言葉を妨害しなか
った。
ラグラジルもそれを訝しんでいた様子だったが、そのまま語り終え
る。
﹁どうかしら? フレアちゃん﹂
魔天使の強い瞳に、
﹁了承した。わたしも同行するが、アン・ミサとの面会を認めよう﹂
騎士は頷いた。
その時、フレアが背にした執務室の扉の向こうで、派手な破砕音が
響いた。
﹁イタタタタタタ⋮⋮﹂
シャスラハールはガラス戸を突き破った衝撃で痛めた全身を撫で擦
る。
ラクシェに抱えられ、ここまで一っ飛びでやって来た結果、猛スピ
ードで窓にぶつかりながらの入室になった。
﹁お姉様っ!﹂
一方のラクシェは傷一つ負わず、ただ室内では翼で飛ぶ事が出来な
い為に両手で這って進んで行く。
進む先、設えられたベッドに金髪の麗人が身を起こしてこちらを見
ていた。
さっきまで眠っていたのだろう、瞳は落ちかけ、顔に赤みが無い。
﹁ラクシェ⋮⋮。それに、貴方は⋮⋮﹂
シャスラハールとアン・ミサは四ノ門で一度言葉を交わしている。
その時は喧嘩別れの様になっていたが、この二人の対話こそが、人
間と天使の争いに終止符を打つべきものだった。
﹁お姉様⋮⋮お姉様ぁ﹂
ベッドまで這いよって両手を伸ばしたラクシェを、アン・ミサが抱
898
き上げる。
﹁お帰り⋮⋮お帰りラクシェ﹂
ポンポンとその背を叩き、一度力強く抱きしめてから身を離した。
そして妹の足を見つめ、そこにあるべきものが失われている事につ
いて、悔やんだ表情を浮かべた。
﹁無理をして⋮⋮﹂
どういう理由から両足を失っているのかまでは、アン・ミサの知る
ところでは無い。
ただいつも前線に出て戦い続け、怪我を作って帰ってくる妹の事は
よく理解している。
だが、
﹁ラクシェ。貴女に聞きたい事がたくさんあります﹂
智天使アン・ミサは西域の管理者としての顔を浮かべ、部下である
力天使ラクシェに問い始めた。
﹁フレアさん⋮⋮知っていますね?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮はい。ごめんなさい⋮⋮﹂
姉の言葉に、妹は項垂れて頷いた。
﹁謝るのはわたくしに対してではありません。フレアさんご自身と、
お仲間達にきちんと謝りなさい。わたくしも一緒にいきます。許し
て頂けるまで、共に謝りましょう﹂
そこから先は、シャスラハールの旅に同行している時の事を。
ラクシェとラグラジルは誓約魔法の時に一度犯されただけで、それ
以外では特に辱めを受けていない事。
食事もきちんと出され、拷問などは無かったという事。
ロプイヤーの集落では礼を尽くし、天兵との争いでは死者を生まな
い様に戦っていた事。
﹁そうですか⋮⋮支配されたと聞いて、どんな目に遭っているかと
思っていましたが⋮⋮。なるほど﹂
そこでアン・ミサはシャスラハールへと視線を移した。
﹁シャスラハールさん﹂
899
天使の瞳は凛然と輝く。
﹁はい﹂
黒肌の王子もまた、強い瞳でそれを受け止めた。
﹁わたくしの姉と妹に乱暴を働いた事、わたくしはそれを許そうと
は思いません。けれど、そちらに対して姉と妹が犯した罪が有る以
上、このままではどちらかが朽ちるまでの争いになってしまうかも
知れません。わたくしはそれを望まない。貴方は如何ですか?﹂
天使の言葉に、
﹁僕としては⋮⋮今更言っても遅いだけですが、本来望んだ事では
無かったのです。貴女の姉妹を傷つけて従えるような事は。でも僕
らの仲間が奪われ、酷い目に遭っている。そう思うと、自分達を正
義と信じて戦う事が出来ました。仲間を救い、その先を目指す、と﹂
シャスラハールとアン・ミサは以前の面識で敵対した。
里へ攻め入って来た理由を問われ、シャスラハールはゼオムント打
倒の為の西域の支配を語った。
当然アン・ミサはそれを糾弾するが、シャスラハールには続く理由、
正義としての裏付けであるフレアの問題を抱えていた。
どちらも退けなかった。
アン・ミサは管理者として、シャスラハールは復讐者として。
その結果両者はぶつかり、無為に血が流れた。
一瞬の静寂が場を支配した時。
﹁アン・ミサ殿! って、殿下?﹂
扉を開けて慌てた様子のフレアが飛び込んできた。
上半身は剥き出しで、下半身に薄い布を巻いているだけの彼女の後
ろからは、先ほどシャスラハール達と別れて先行していたはずのラ
グラジルも続いている。
﹁⋮⋮チッ﹂
その口元に浮かんだ歪みが何を意味するか、この場に居る他の者達
では判断が付かなかった。
﹁フレアさん⋮⋮フレアさん!﹂
900
シャスラハールは立ち上がり、騎士へと抱き着いた。
﹁ちょ、殿下わたし今裸で⋮⋮あぁもう⋮⋮ご心配お掛けしました
⋮⋮﹂
両腕で主君の体を抱き、温もりを伝える。
その隣では、
﹁ラグラジル御姉様⋮⋮﹂
アン・ミサの喉が震えている。
ラクシェとシャスラハールの急な出現から、管理者の仮面を被って
応対して来たが、彼女の心は黒く淀み、悲しみに打ちひしがれたま
まだったからだ。
責任に押しつぶされ、自分を見失いかけた。
領民に犯され、処女を失った。
悲しみが、全身を震えさせる。
﹁⋮⋮ただいま﹂
ぶっきらぼうに放たれた姉の言葉に、妹は涙を流して頷いた。
﹁はい⋮⋮はい⋮⋮。おかえ⋮⋮おかえりなさい⋮⋮お姉様﹂
ラグラジルの纏った服の裾をギュッと握りしめ、アン・ミサは涙す
る。
ばつの悪い表情を浮かべ、ラグラジルはベッドに腰を下ろす。
すると、アン・ミサは上半身の全てを使ってしがみ付いて来た。
姉の背に顔を埋め、泣いている。
そのアン・ミサの腹部にはラクシェが抱き着き、スンスンと洟を鳴
らしていた。
﹁アンタ達ね⋮⋮他人の前で恥ずかしくないの?﹂
憎まれ口を叩きながらも、ラグラジルはベッドから動こうとはしな
かった。
しばらくの間漏れ聞こえる涙の連鎖に、場は沈黙した。
﹁殿下、そろそろ﹂
そう言ってフレアがシャスラハールから腕を離し、天使達へと振り
返る。
901
視線の先に、幼い天使。
﹁ぐすっ﹂
鼻を鳴らしながら顔を上げたラクシェに向けて、渾身の力で拳を振
り切った。
ドゴォ︱︱。
と派手に肉を打つ音を響かせて、ラクシェは吹き飛び、執務室に置
かれたキャビネットへと叩きつけられた。
﹁あーあ﹂
﹁⋮⋮﹂
彼女の姉二人はその様子を見て、それぞれ複雑そうな表情を浮かべ
る。
衝撃で破砕したガラスを払いながら、力天使ラクシェは立ち上がり、
﹁んがあああああああああっ!﹂
翼を広げてフレアへ襲いかかろうとする。
そこに、
﹁ラクシェ!﹂
アン・ミサが鋭い声を放った。
ピタリ︱︱と動きを止めたラクシェに向けて、フレアは口を開く。
﹁今ので、許してやるとは言わん。だがしばらく忘れて置いてやる。
貴様の方でも色々有ったようだしな。姉に感謝しておくことだ﹂
握りしめた拳を向けての言葉。
ラクシェにより囚われたフレアは異端審問官の手によって苛烈な恥
辱拷問をひと月の間与えられ続けて来た。
アン・ミサの挺身によって救い出され、マリューゾワから事情を聴
いた。
シャスラハールの性儀式によってラクシェが支配されたという事を。
対等では無い。
フレアは複数の下種に連日連夜肉穴を開発され、恥辱の映像を収め
られた。
ラクシェは返り討ちに遭い、一度儀式としての性行為を行っただけ
902
だ。
だが、それでもフレアはラクシェに対して拳以外の物を振るわない。
望まぬ破瓜の悲しみは、フレアも知っている。
それ故に、怒りを抑えた。
﹁⋮⋮ふんっ!﹂
ラクシェもまた先ほど姉に言われた事が効いているのか、何も言わ
ずベッドへ戻り、姉の胸に顔を埋めた。
﹁それよりも、アン・ミサ。鬼達がここに迫って来ている。僕の仲
間やルル達が捕まってしまったんです⋮⋮何とか助けないと﹂
シャスラハールは管理者へと告げる。
﹁鬼⋮⋮ですか?﹂
無論、今の今まで眠っていたアン・ミサには事情が分からない。
﹁クスタンビアよ⋮⋮たぶんもうそこまで来てるわ﹂
ラグラジルがそう補足し、迫る脅威の名を告げた。
﹁クスタンビアが! でもどうして⋮⋮﹂
﹁アン、あんた今統治魔法使えてないんじゃないの?﹂
常時解放され、里に安寧をもたらす智天使の統治魔法。
﹁え⋮⋮あれ⋮⋮本当だ⋮⋮﹂
自分の中の魔力を探り、常とは異なる感覚を覚えたアン・ミサは視
線を移ろわせる。
﹁早くした方が良いわよ。ラクシェがこうなっている以上、ワタシ
達じゃクスタンビアには勝てないんだからね﹂
ラグラジルの言葉に、ガバッと頬に赤い拳の痕を作ったままのラク
シェが顔を上げた。
﹁お姉様! ウチが行く、ウチがクスタンビアを倒す! だから足
治して﹂
そう乞われ、アン・ミサは動揺したままの表情で頷き、妹の失われ
た足へと手を翳す。
魔力を集中させ、解き放つ。
智天使アン・ミサの治療魔術は、瀕死の者を蘇生させ、如何なる呪
903
いをも霧散させる。
切断された部位の再生など、お手の物だった。
はずが︱︱。
﹁なんで⋮⋮そんな⋮⋮﹂
手から放たれる魔力の光は弱弱しく、ラクシェの足に大きな変化は
見られない。
少しずつ再生している様にも見えるが、それは余りに微々たるもの
だった。
﹁あんた⋮⋮、治療魔術まで使えなくなったの?﹂
魔天使ラグラジルの驚きの声に、
アン・ミサは首を振る。
﹁い、いえ。使えています。使えていますけど⋮⋮通常時の二割と
言ったところでしょうか⋮⋮このままでは、ラクシェの足を治すの
だけで半日は必要かと﹂
眉を寄せ、懸命に魔力を集中させるが、特に変化は起きない。
﹁ラグラジル、鬼達の様子は?﹂
突き付けられた現実に戸惑いながら、次を模索するシャスラハール。
﹁はいはいっと⋮⋮あーあ。もうダメかもね﹂
どこかなげやりに魔天使はぼやき、魔鏡を創造し全員に見える様に
配置した。
そこには、
青髪の女鬼を先頭に進行してくる屈強な魔物の集団が映っていた。
﹁クスタンビアだ。ってここ宮殿前広場だよ? お姉様まずいよ、
もう来ちゃうよ⋮⋮﹂
ラクシェは周囲の景色から相手の位置を確認し、危機が差し迫って
いる事に慌てた。
﹁⋮⋮姉上っ!﹂
﹁マリューゾワ⋮⋮。ルルも、ロニアもシロエも⋮⋮あぁ⋮⋮﹂
﹁みんな⋮⋮くっ﹂
フレアとアン・ミサ、そしてシャスラハールが震える声を放つ。
904
その視線の先に、全裸に剥かれて縄で縛り上げられ、鬼の股間にま
るでオナホールの様に装着された仲間達の姿が映っていた。
鬼達はオナホール公娼を装着したまま行進する。
肌に絡みつく縄を屈強な腕で掴み、乱暴に前後に揺する事でオナホ
ール全体を動かし、性器に刺激を送っているようだった。
﹁手遅れって事かしらね。シャロンちゃん達も、アンの友達も、全
部まとめて親鬼のオナホールになっちゃったって事ね﹂
ラグラジルの言葉に、
﹁まだだ!﹂
フレアが勢い込んで執務室から出て行こうとする。
その手を、アン・ミサが掴んだ。
﹁ダメですフレアさん。鬼達の力は極めて強く、特にクスタンビア
は例外中の例外です。ここで貴女一人が出て行っても⋮⋮﹂
智天使の沈痛な声に騎士は歩みを止めて扉を強烈に蹴りつけた。
﹁くそっ!﹂
悔しがるフレアの姿を白けた表情で見ていたラクシェはアン・ミサ
の体を揺する。
﹁お姉様だけでも逃げて、ウチが足止めする。足が無くてもちょっ
とは戦えるもん﹂
妹の声に、アン・ミサは首を振った。
﹁ラクシェ⋮⋮それは無理です。わたくしは当代の管理者。この地
を離れるわけには参りません。例えどんな理由が有ったとしても⋮
⋮﹂
その言葉に、
﹁そーよねぇ。それにクスタンビアがおめおめとワタシらを逃がし
てくれるわけも無いでしょうし。アイツってば変にワタシらを逆恨
みしてるじゃない? 躍起になって追ってくるでしょうし、捕まっ
たらシャロンちゃん達みたいにあの不細工な鬼共のオナホよオナホ。
あぁ怖気が走るわ﹂
そう言って、ラグラジルは妹の体を払って立ち上がる。
905
﹁ま、こうなったらとりあえず時間を稼ぎましょう。まずはラクシ
ェの回復を優先、そして次はアンの回復もね。シャロンちゃん達が
不甲斐無いせいでクスタンビアだけじゃなくて親鬼も結構数残って
るみたいだし、そうなるとラクシェ一人じゃキツイでしょ。アンの
統治が有れば連中を無力化出来るわ﹂
憎まれ口を叩きながら歩き出したラグラジルは執務室の奥に設置さ
れている豪奢な机に手を置いた。
﹁それで良いかしら、殿下?﹂
そう問われ、
﹁⋮⋮出来るのか? ラグラジル﹂
色々と言いたい事は有ったが、ここで魔天使の常に展開される嫌味
口調を責めても仕方がない。
シャスラハールは必要最低限の事を魔天使に聞き返した。
﹁そりゃあね。これでも元管理者ですもの。有事の際にどうするか、
それが大切な事でしょう﹂
そう言ってラグラジルは右手に魔力を込めながら、机の引き出しを
開けた。
﹁え⋮⋮その段は封印が掛かっていて何をやっても開かったのに⋮
⋮﹂
常日頃その机に座って激務に押しつぶされていたアン・ミサが呟く。
﹁まぁね。ここに封印掛けたのはワタシだし。あんたと正式に引き
継ぎしたわけでも無いしね﹂
ラグラジルは顔を向ける事も無くそう言って、引き出しの中にある
何かを操作する。
﹁何が有るの?﹂
首を横に曲げながらのラクシェの問い。
﹁あんたの為に徹夜して作ったものよ⋮⋮、ラクシェ。結局これま
で一回も使わなかったけどね﹂
そう言って、ラグラジルはボタンらしき物を押し込んだ。
その瞬間、
906
ゴゴゴッ︱︱
と床が揺れ、全員に緊張が走る。
﹁ラグラジル?﹂
フレアがシャスラハールの体を抱き寄せながら叫ぶと。
﹁心配しないでフレアちゃん。これはね︱︱﹂
振動が収まると同時に、今まで晴れやかだった窓の外が闇色に包ま
れた。
﹁えっ⋮⋮!﹂
シャスラハールがフレアと共に窓辺に移動し上空を眺めると、
﹁壁だ⋮⋮上まで覆っている⋮⋮﹂
闇色の壁は宮殿全体をすっぽりと包む様に展開され、外と内とを分
断した。
﹁うふふ。どうかしら? ワタシが管理者時代に開発した防護結界。
その名も﹃対馬鹿な妹用要塞﹄魔法よ。魔脈の力を利用しているか
らこれだけの大出力でも三日は保つわ。その間にアンとラクシェを
回復させましょう﹂
自信満々に言うラグラジルに、ラクシェはジト目を向けた。
﹁何でそんな名前⋮⋮﹂
﹁あんたがキレて襲いかかって来た時の為よ。その時はアンを外に
放り出してワタシは結界の内側に閉じこもり、三日も空けて置けば
馬鹿なアンタは怒りを忘れるでしょうし、アンに宥められて里は平
穏無事っていう素敵魔法よ﹂
姉妹間で複雑な視線のやり取りが始まったのを尻目に、シャスラハ
ールは真剣な表情を崩さない。
﹁確かに時間は稼げたけれど、外にいるヴェナ達の事が心配だ⋮⋮﹂
﹁それについては祈るしかないわね。この結界魔法は事象を全て完
全遮断しちゃうから、ワタシの映像魔術も届かないわ。三日後まで
皆が壊れずにオナホしてる事を願うしかないわね﹂
魔天使の声は軽い。
﹁⋮⋮シャスラハールさん。今は信じましょう、マリューゾワ達を。
907
わたくし達はわたくし達の成すべき事を⋮⋮﹂
アン・ミサが憂いを帯びた表情で言い、王子は両目を瞑りながら頷
いた。
﹁⋮⋮はい﹂
そしてアン・ミサは次の言葉を作った。
﹁お姉様、わたくしの記憶に間違いが無ければ、この宮殿内の図書
室に魔力消滅に関する研究書が有ったと思います。そちらを調べて
は頂けませんか?﹂
向けられた先、ラグラジルは眉を上げる。
﹁別に良いけど? アンタは?﹂
﹁わたくしはここでラクシェの治療をします。本来の二割程度とは
いえじっくり時間を掛ければ元通りに戻す事は可能でしょうから﹂
そう言って傍にいたラクシェの足に再び魔力を送り始めた。
﹁わかりました。では僕とフレアさんもラグラジルと共に研究書を
探しに行きます﹂
そう言って王子達が動き出すのを見て、ラグラジルは表情を曇らせ
た。
﹁そーいう事だったらワタシも妹が心配だからこの部屋に残って⋮
⋮﹂
魔天使は未だ諦めてはいない。
いざこざが続きアン・ミサがまだシャスラハールに支配されていな
いのなら、彼女と二人きりになるチャンスを作る事が出来れば、ま
だ解放の芽は有る。
﹁お姉様、この中で魔力に関する知識があるのはわたくしとお姉様
だけです。どちらかが付いていなければ、例えシャスラハールさん
達が目的の物を見つけたとしても︱︱﹂
﹁チッ⋮⋮わかってるわよ⋮⋮良いから、さっさとその馬鹿動かせ
る様にしときなさい﹂
捨て台詞を吐いて、ラグラジルはシャスラハールの背中を追ってい
った。
908
突如目の前に出現した紫色の壁に歩み寄るクスタンビア。
戦士の勘から手を触れるような真似をせず、仔細を観測する。
数秒思考し、振り返る
そこには新品のオナホールに夢中な部下達が並んでいる。
同族での殺し合いを禁じて以降、親鬼は例えどれだけ不満や怒りが
有ったとしても仲間を傷つけない。
が、
﹁おい! 俺まだ一発もヤってねぇんだぞ! 次こっち回せよっ!﹂
オナホール﹃ヴェナ﹄に手を伸ばしながら一体の親鬼が叫んだ。
﹁すまんなぁ。あっちに俺のダチがいてな、このオナホは順番待ち
だぜ﹂
﹃ヴェナ﹄を刺し貫いていた親鬼はニヤニヤと笑って体の向きを変
えた。
﹃ヴェナ﹄は自由にならない体で懸命にもがくが、鬼の結んだ縄は
解けない。
﹁おぉ。このオナホ自動で動くぞ。新機能か?﹂
鬼を喜ばせる結果になっていた。
﹁なんだとっ! 代われ、さっさと俺にもその新機能を試させろっ
!﹂
言い争いを始めていた。
いよいよ腰の岩刀に手が伸びようとしているのを見て、クスタンビ
アはため息を吐いて号令をかけた。
﹁ったく、静かにしろ。同族殺しは磔殺、傷害は去勢措置だぞ。忘
れるなよ﹂
その一言で、鬼達は居住まいを正す。
オナホールを利用中の者もそのまま直立で礼を取った為、オナホ公
娼達は鬼チンポに膣内から支えられる形で宙に浮かんでいる。
﹁結界だ⋮⋮。ご丁寧に障壁では無く結界⋮⋮。表面には魔力をガ
909
ス状に変換して毒性を持たせている。濃度が非常に濃くて向こうが
見えない程のな、これでは強引に破って入るなんて真似も出来ない
⋮⋮。だがこれだけの出力の魔法をいつまでも続けられるわけじゃ
ない。いずれ魔力が枯渇して宮殿への道は開く、それまでは宮殿を
包囲して警戒を怠るな﹂
紫の壁に覆われた宮殿を指差しながら、鬼の酋長は更に続ける。
﹁持久戦になる。当初電撃戦を予測していただけに、我らの兵糧備
蓄は心許ない。それに、お前達もまだ足りないだろう。さっきの戦
いではたった十個しかオナホが手に入らなかったからなぁ﹂
ここまでの進軍で、凡そオナホール達は一人五回ずつ使用されてい
たが、それでも五十体の鬼にしか行き渡っていない計算だ。
それに幸運な数体の鬼は連続でオナホールをキャッチしていた為に
続けざまに利用する事も出来ていた。
全体的に不満がこみ上げているのを、クスタンビアは察していた。
鬼達は酋長の言葉の意味を図り、顔を歪めて笑った。
﹁略奪の時間だ。飯と女、そして働ける男達は全て我らの物だ。連
れて来い。一人残らずな﹂
その号令に、鬼達は嬉々として里の方々に散って行った。
﹁んぐひぃぃぃぃ、き、貴様らああああ﹂
オナホール﹃ステア﹄が騒いでいるが、鬼は気にしない。
﹁おい、そろそろ代わってくれよ﹂
﹁さっき出したばっかりだろうがよ⋮⋮﹂
ステアをジュボジュボと利用している鬼と、その隣で口を曲げなが
ら付いて来ている鬼。
二体の鬼と一つのオナホの姿が有った。
彼らは今略奪に向かっている。
天兵の隠れ里の生産階級である羽根落ちの家々を襲っている。
第一目標はオナホールに成り得る雌の確保。
910
老いていたり外見が微妙な場合はそのまま放置する。
第二目標は食料の捜索。
備蓄は無いくせに大喰らいな鬼達の腹を満たす為の食料探し。
第三目標は奴隷としての男手の拉致。
一番どうでも良い部分なので少しでも逆らえば殺す。
﹁お、あそこの家何か有りそうだな﹂
そう言ってオナホを利用していない方の鬼が一軒の家を指差す。
﹁隠れてたってわかるぜぇ⋮⋮雌の匂いだ﹂
そう言って二体は家へと押しかける。
扉を叩き、
﹁オラッ! 出て来い。雌と食料を差し出せば生かしておいてやる。
働ける奴だけな﹂
轟く声に、家の中から小さな悲鳴が聞こえて来た。
﹁居るのは分かってんだ! さっさとしろ、火点けるぞ!﹂
それでも、扉は開かなかった。
鬼達は扉に付けられたノブを見る。
ポッコリと扉から生えた回転式のドアノブが、この羽根落ち一家の
最後の防壁だった。
﹁ったく、無駄な事を⋮⋮﹂
チンポが空いている方が手を伸ばしてドアノブを回そうとすると、
﹃ステア﹄を利用中の鬼が遮った。
﹁まぁ待てよ。こういうのはどうだ⋮⋮﹂
そう言って、鬼は﹃ステア﹄から弩級チンポを抜き出した。
﹁くはっ⋮⋮ぐ、お前ら⋮⋮﹂
オナホールが何か言っているが、鬼達は気にしない。
﹃ステア﹄の体を反転させ、鬼チンポの形にポッカリ穴が出来てい
る挿入部分をドアノブへと近づけた。
﹁おらっ!﹂
弩級チンポが、更に何かを喚こうとしていた﹃ステア﹄の燃料補給
部分へと挿しこまれる。
911
﹁んぼっほお、んごおおおおお﹂
生体オナホに備わっている燃料補給穴である口と喉を鬼チンポが串
刺しにした結果、それに押し込まれる形でオナホールのホール部分
は硬い金属を飲み込んだ。
無論、ドアノブである。
﹁おらっ! おらっ!﹂
鬼の容赦の無い腰の動きに押され、
ガチャガチャとドアノブに凌辱される﹃ステア﹄
﹁ハハハッ! すげぇな﹂
隣で見守っている鬼が笑いながら言う。
﹁このドアノブ、まだ施錠確認してなかったよなぁ。ガチャガチャ
ってさぁ、横に回転させてさぁ。ちょっと力込めれば、出来るんだ
けどなぁ⋮⋮開かないなら、もうこのまま燃やすしかねぇよなぁ⋮
⋮﹂
わざとらしい鬼の嘆き。
﹃ステア﹄は鬼を睨みつけるが、喉を犯され膣内には冷たい金属の
不快な感触があり、どうにもなら無い事を悟ってしまう。
せめて室内に若い女性が居ない事を願って膣口に力を籠める。
じゅる︱︱
先ほど隣の鬼から注がれた精液が潤滑油となり、ドアノブを捕まえ
る事に失敗した。
﹁だー。やっぱりオナホには無理か。オナホはチンポを入れる以外
には使い道が無いもんなぁ﹂
ゲラゲラと笑いながら、鬼は﹃ステア﹄をバシバシと叩いた。
﹁ふんっ! ふんっ!﹂
だがしかし、喉を犯す鬼の動きは止まらない。
このままでは窒息するまで鬼チンポとドアノブに犯され続けてしま
う。
ステアは気力を振り絞り、膣に力を送った。
今度は間違いなくドアノブを掴む事が出来た。
912
そして体を捻ってノブを回すが、
ガチッ︱︱
案の定ドアは施錠されており、開かなかった。
﹁おいおーい。中に居るのはわかってんだって、さっさと出て来い
よなぁ﹂
隣の鬼が言い、喉を穿つ鬼は腰を深く引いてから、勢いをつけて﹃
ステア﹄へと叩きつけた。
﹁んぼっほ!﹂
強烈な一撃はオナホールを通してドアノブにぶち当たり、そのまま
扉へと衝撃を伝える。
ドンッ︱︱
﹁ふんっ!﹂
二撃目︱︱ドンッ︱︱
三撃目︱︱ドンッ︱︱
それは、ノックだった。
オナホールを利用してのノック、
ドンドン︱︱と﹃ステア﹄の膣と尻の圧力で扉は叩かれる。
﹁はーやーく! 出て来いって。若い女と飯さえ差し出せば命は奪
わねぇつもりだったが、これ以上逆らうんだったらぶっ殺すぞ!﹂
鬼のその言葉に、数秒経った後、
カチリッ︱︱
と施錠が外されるのを、﹃ステア﹄は膣内で感じた。
﹁ま、ばっで!﹂
喉を塞がれている以上、上手く声が出ない。
無情にも、ドアは外開きだった。
﹁んぼおおおおおおおおおっ!﹂
喉を鬼チンポに押し潰され、開かれたドアに従いドアノブが深く膣
内へと押し込まれてくる。
喉を固定されている以上、押し開けられたドアの圧力には腰を曲げ
て耐えるしかない。
913
悶絶しながら尻穴を晒すオナホールという、目の前に飛び込んでき
た異常な光景に瞠目する羽根落ちの老人を睨みつけながら、鬼は家
の中に視線を巡らせる。
そこに老女が震えている姿だけしか見つからず、舌打ちして、
﹁なんだ外れかよ! くそがっ!﹂
その言葉に震えながら、
﹁しょ、食料を用意しておりました⋮⋮我が家にはこれだけしか⋮
⋮﹂
穀類の入った麻袋を捧げ持つ老人の手は震えている。
鬼はそれを乱暴に奪い取ると、
﹁ケッ、どこまでしけてやがるんだ﹂
猛烈な勢いでドアを閉め、
﹁んほっ﹂
﹃ステア﹄の挿入部分を抉っていたドアノブが勢いよく抜けていっ
た。
﹁くふぅぅぅぅぅ﹂
﹁おおおぅ。出した出した﹂
そう言って二体の鬼がオナホールから肉棒を取り出した。
オナホールの名称は﹃ハイネア﹄と﹃ロニア﹄だ。
二体は後ろに並んでいた鬼にそれぞれのオナホールを渡す。
﹁あーくそ、振って行けよな!﹂
﹁すまんすまん、忘れてたぜ﹂
﹃ハイネア﹄を渡された鬼が苦情を言いながら、猛烈な力でそれを
上下に振った。
﹁うぐぇぇ﹂
うめき声を上げる﹃ハイネア﹄を気にする様子も無い。
そして振られた﹃ハイネア﹄の挿入部位から、粘度の高い白濁が重
力に従い零れ落ちてきた。
914
﹁ったく、順番でオナホを使う時は掻き出せとは言わないからせめ
て振って出せよなぁ。これだから不潔な奴は嫌いなんだよ﹂
そう言って、粗方精液を振って出した﹃ハイネア﹄に己の鬼チンポ
を挿入した。
無論、遠慮など無い。
オナホールに遠慮する必要などどこにも無いのだ。
﹁あぎっひいいい﹂
﹁おー流石にSサイズオナホだ。全部入らねぇや﹂
鬼の弩級チンポは半分程度しかオナホールに入り切っていない。
﹁でもま、こういうのの方が俺は楽しめるんだよなっと﹂
そう言って三倍以上ある体格差を活かして片手で猛烈にシェイクす
る様に﹃ハイネア﹄を動かし、腹腔を抉る様に肉槍を押し付ける鬼
の隣で、﹃ロニア﹄を手にした一体は砂を噛んだような表情を浮か
べていた。
﹁⋮⋮くせぇ⋮⋮﹂
﹃ロニア﹄の挿入部位にこびり付いた黄ばんだ汚液が放つ異臭に鼻
を顰めているのだ。
﹁いやぁ悪ぃ悪ぃ。ここのところ全然チンコ洗ってなくてよ。丁度
いい機会だからチンカスを全部擦り付けてさせてもらったわ﹂
先ほどまで﹃ロニア﹄を使用していた一体が飄々とした声で言った。
﹁はぁ? 次の奴の事も考えろよなお前⋮⋮。クソッ、洗ってる時
間がもったいねぇ。俺はこっちの補助穴で抜くか﹂
生体オナホには挿入部位とは別にもう一つ肉穴が備わっている。
燃料の排出用の穴では有るが、挿入部位が汚れている時などに臨時
で使用する事が可能な補助穴。
皺の寄ったセピア色の窄まりに、鬼チンポが怒涛の勢いで侵入した。
﹁ひぎぃぃぃぃぃ! いやだ、またアナルがガバガバになっちゃう
! やめてやめてやめて!﹂
鬼の容赦ない動きに﹃ロニア﹄は悲鳴を上げるが、
﹁あぁー⋮⋮でもわかる。こんだけピッチリサイズだとチンカスを
915
根こそぎ持って行かれるな﹂
﹁だろぉ?﹂
鬼達は談笑する。
その間も、補助穴︱︱肛門を抉る動きは止まらない。
﹁ガバガバ⋮⋮いやだぁ⋮⋮せっかく⋮⋮せっかく閉じたのに⋮⋮
またガバガバになっちゃう⋮⋮﹂
泣き喚く﹃ハイネア﹄と﹃ロニア﹄だったが、オナホールの言葉を
聞く者など存在せず、やがて射精の時が訪れる。
ビュルル︱︱と放出された雄汁を子宮と直腸で受け止めたオナホ達
の体は上下に激しく振られ、出されたばかりの精液を地面へと零し
た。
﹁へへっ、じゃあ次俺﹂
略奪行為の最中に休憩として利用される二つのミニサイズオナホは
休む間もなく次の弩級チンポを迎え入れる事になる。
夜を迎えた。
とは言っても宮殿内は相変わらず闇色の壁に覆われている為に外の
景色などは見えないが、魔術時計が示す時間だけがそれを証明する。
シャスラハールはフレアと共にラグラジルの魔術書探しを手伝おう
としたが、西域の文字が読めない二人に出来る事は限られ、書庫を
引っ掻き回して魔天使が放り投げる﹃外れ﹄だった本を積んで整理
する事くらいしかやる事は無かった。
﹁これも違うわね。これもこれも⋮⋮この量から探し出すのって無
謀じゃないかしら⋮⋮﹂
魔天使はスライド式の梯子に登り、関連の有りそうな本を片っ端か
ら捲っていくが、一向に当たりを引かない。
図書室は余りに大きく、その蔵書量は尋常では無かったからだ。
結界が張られた昼過ぎから夜までの間ずっと捜索し続けているが、
アン・ミサの言う書物は発見できなかった。
916
一度フレアがアン・ミサに確認を取りに行くと、
﹃蔵書には全て軽く目を通してはいるのですが、どこに仕舞われて
いるのかは司書に任せていたので把握していないのです﹄と言われ
て帰ってきた。
虱潰しに探すしかない。
徹夜してでも。
そう考えた矢先、図書室の扉が開いた。
﹁⋮⋮ラクシェ。足はもう良いのか?﹂
フレアが問うと、
ぶすっとした表情で力天使は頷いた。
その両足は再生し、床に力強く伸びていた。
﹁お姉様から伝言。話が有るからシャスラハールは執務室に来てく
れって﹂
そう言って図書室に入って来ると、ラグラジルの足元まで移動する。
﹁何よ?﹂
﹁ウチはラグお姉ちゃんのお手伝いをしてきなさいって言われた﹂
その言葉を聞いて、ラグラジルは嘆息し手にしていた書物を放り投
げる。
ラクシェが手を伸ばしてそれをキャッチするのを見て、魔天使は言
った。
﹁休憩するわ。目が疲れた。どうせ後三日は結界が保つし、ラクシ
ェが戦えれば一先ずの目途は立つ。焦って倒れるのも馬鹿らしいし
ね。夕飯にしましょう﹂
言葉と共に身を翻し、梯子から降りる。
﹁ウチもお腹空いた。あれ作ってあれ⋮⋮卵と赤いゴハンの奴﹂
付いて来るラクシェに舌打ちを一つ放ち、シャスラハール達を見る
ラグラジル。
﹁ご主人様達もどう? アンの話は一緒に夕食を食べながら聞きま
しょう﹂
そう問われ、シャスラハールは首を振る。
917
﹁いえ、僕はまずアン・ミサと話をしてきます。食事は⋮⋮後でフ
レアさんと一緒に摂りますんで﹂
応え、図書室を出て行く。
その背中にフレアも付いて行った。
﹁⋮⋮まずいわね。ワタシが見ていないところであまりアンと接触
させたく無いんだけど⋮⋮﹂
ここに至ってもラグラジルは諦めていない。
﹃誓約﹄を破り彼らの支配から抜け出す事を。
﹁ねーごはんー。甘いのも食べたいー﹂
ラクシェが裾を引いて来るのを無視しながら、ラグラジルは思考す
る。
﹁⋮⋮そうね。手早く作って料理を運ぶ態で邪魔をしてあげる﹂
ラグラジルは妹を引き連れて無人の厨房へと向かって行った。
シャスラハールがアン・ミサの執務室に到着すると、この部屋の主
はベッドの上で細かく息を吐いていた。
﹁アン・ミサ⋮⋮さん?﹂
﹁あぁ⋮⋮いらしたのですね、シャスラハールさん。申し訳ござい
ません、少し魔力を使い過ぎてしまったようです﹂
シャスラハールの問いかけに弱弱しく微笑んでアン・ミサが応えた。
ちなみにフレアは執務室の外で待機している。
代表者同士の会談である故に、発言者の数を均衡させる為の計らい
だった。
﹁シャスラハールさん、お話が有ります。先ほどまでラクシェを治
療しながらずっと考えていた事を、纏めました﹂
アン・ミサは訥々と語り出す。
﹁まず貴方はこの先、何を望まれるのですか?﹂
﹁僕は⋮⋮僕を支えてくれる皆の救済と。そしてスピアカントを取
り戻し、ゼオムントに辱められ続けている姉の躯を取り戻す⋮⋮そ
918
の為に、戦って来ました﹂
王子は真剣な表情で答え、智天使の目を見つめる。
﹁そうですか⋮⋮やはり貴方もマリューゾワ達と同様に、かの国の
被害者である事には代わりないのですね⋮⋮﹂
智天使は沈痛な面持ちて言い、
﹁ゼオムント国⋮⋮かの国が覇道を成した理由⋮⋮そこにはこの西
域が深く関わっています。それをご存知でしたか?﹂
紡がれた言葉に、シャスラハールは数秒押し黙った。
﹁もしかしたら⋮⋮と。貴女の杖を奴らが最初から持っている事な
ど、気になる点は幾つか有りました⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そうですね。わたくしの力も彼らに利用されています。です
が、それだけでは有りません。もっと最初から、彼らに協力し、人
間族の版図を滅茶苦茶にする事を企んだ者がこの里に居ました﹂
その言葉は、王子の胸を打ち抜いた。
﹁その者の助力が有ったからこそ、かの国は軍事的強国に成り得、
非凡な才能を持つ魔導士の手によって精強な組織を作り上げたので
す﹂
スピアカントを、リーベルラントを、カーライルを滅ぼす遠因たる
存在が、西域に居た。
その事実にシャスラハールは愕然とした。
﹁そしてそれは⋮⋮わたくしの父親です。わたくしと、ラグラジル
御姉様、そしてラクシェの父。名をハルビヤニ、先々代の西域の管
理者です﹂
告げられた名前に心当たりはない。
だが、湧き上がる感情はその名を憎むことを許した。
﹁ハルビヤニ⋮⋮﹂
呟きに、アン・ミサは応じた。
﹁はい。父は二十年前に全魔力を使用し、世界と同化するという前
例のない方法で肉体を失いましたが、彼の魂は依然としてこの世界
を漂い、今も干渉を続けています﹂
919
そこで一旦声を閉ざし、シャスラハールを見上げるアン・ミサ。
﹁わたくしもつい最近、父の声を聞きました。貴方がラグお姉様を
性奴隷にしているという⋮⋮そういう内容の言葉を⋮⋮そこでラク
シェを派遣し、取り戻そうと思ったのです﹂
その結果、アン・ミサはラクシェまでをも失う事になる。
﹁今思えば⋮⋮出来過ぎだったのではないでしょうか。ラグラジル
御姉様は確かに貴方方に囚われてしまいましたけれど、そのまま里
に向かって来るのでしたらマリューゾワ達と共にラクシェを残して
おけば問題無くわたくし達が勝っていた事でしょう﹂
ラクシェの実力を目の当たりにし、あの時ラグラジルが使った奸計
とラクシェが一人だった事が無ければ勝利は無かったとシャスラハ
ールも思う。
﹁ラクシェとわたくしを分断し、貴方方に戦い易くする。そして⋮
⋮恐らくです、恐らくですが⋮⋮わたくしがこうなったのも⋮⋮父
の差し金だと思うのです⋮⋮﹂
裏切り者によるアン・ミサの凌辱。
その結果、智天使は魔力の大半を失ってしまった。
﹁確証は有りません。けれどこのタイミングで父の腹心であったク
スタンビアが攻め込んで来た事が、何よりの証拠に思えるのです﹂
アン・ミサの声は震える。
﹁父が何を考えているのか、わたくしには真実はわかりません。け
れど、あの人はまた、人間族の版図を滅茶苦茶にして遊んだように、
この西域をも遊び場に変えてしまうのではないか、わたくしにはそ
う思えるのです﹂
両手で顔を覆い、絞り出す声音は弱弱しい。
﹁わたくしは当代の管理者としてこの地を守る義務が有ります。そ
して、ハルビヤニの娘として父のしでかした事に対する責任も有り
ます。シャスラハールさん、貴方の祖国が滅んだ理由はわたくし共
に有ります。許してくださいとは申せません。ですが代わりに、責
任を取らせてくれませんか?﹂
920
その言葉を、シャスラハールは受け止める。
﹁⋮⋮僕には、貴女の仰る事が全て理解できるわけではありません。
でも、貴女の気持ちは受け取りました。僕達はもう、争うべきでは
無い﹂
そう答える事がやっとだった。
命を差し出せ、ゼオムントに復讐できるだけの力を差し出せ。
そう答える事も出来たかもしれない。
けれど、それが正しい事とはどうしても思えなかった。
﹁ラグラジル御姉様とラクシェが貴方のお仲間に働いた非道。許さ
れるものでは有りません⋮⋮﹂
﹁⋮⋮僕の方こそ、貴女の家族に消せない傷を刻んでしまっていま
す﹂
両者は互いに顔を落す。
﹁ゼオムントに囚われてしまった方もいると聞きました。その方達
の救出、手伝わせて頂きます﹂
﹁⋮⋮ご厚意、痛み入ります﹂
一瞬の間が空き、智天使は言葉を作った。
﹁今日⋮⋮久しぶりに姉妹が三人揃ったんです。ラグラジル御姉様
は相変わらず皮肉屋で⋮⋮変わっていなくて安心しました。ラクシ
ェも楽しそうにしています。わたくしは、残された三人の家族です
から、ずっと一緒に居たい。そう思います﹂
そして、柔らかい微笑みを浮かべてシャスラハールを見上げた。
﹁あの二人が貴方の物になっているという事でしたら⋮⋮わたくし
も、一緒に居させてくださいませんか? 三人一緒に居られるのな
ら、わたくしはそれだけで充分ですので⋮⋮﹂
その言葉は、服従の証。
支配を受け入れる言葉。
アン・ミサは体を包んでいた夜着に手を掛ける。
﹁経験は⋮⋮無いのと同じですが、知識は有ります⋮⋮。でも、優
しくして頂けると、嬉しい⋮⋮です﹂
921
シュル︱︱
と紐を抜き去り、天使の双乳が露わになった。
﹁ほらほら並んで並んで、寒いのは皆一緒なんだから﹂
鬼の声がこだまするのは里の溜池傍にある草地だ。
一人の鬼が、大きな鉄の缶を二つ、じっくり観察している。
﹁よっし、こっちは出来たぞ。ほら熱々だ、味わえ﹂
缶の底には薪が置かれ、轟々と炎が灯されていた。
炎は缶を満たす水を温め、熱湯一歩手前まで沸き起こす。
そしてその缶から今引上げられたのは、オナホール﹃ルル﹄だった。
﹁うあっち! あちちっ! おらぁ!﹂
﹃ルル﹄を放り渡された鬼はその縄目に沁み込んだ湯に悲鳴を上げ
ながら掴み取り、怒張を一気に熱々オナホへと挿し入れた。
﹁うほおおおおおっ! やっぱり寒い日はこれだよなぁ! 熱々オ
ナホでぬくぬくだぜぇぇぇ﹂
人体の限界ギリギリまで温められた湯に首まで浸され続けた﹃ルル﹄
は朦朧とする意識で言葉を紡ごうとするが、意味のある声は出てこ
ない。
﹁ほふ! ほふっ! くあああああ全身が熱い! ついでにチンポ
も火傷しそうだ! でもこれだよこれ! 冬の醍醐味﹂
寒風に抵抗する様に﹃ルル﹄を抱きしめながら、容赦なく鬼チンポ
で貫き続ける鬼。
その隣でも、
﹁よーし出来たっ! おい、こっちも良いぞっ!﹂
そう言って炭火係りの鬼が湯から引き揚げたのはオナホール﹃リセ﹄
﹁あ⋮⋮ぅあ⋮⋮﹂
﹃リセ﹄はだらしなく口を開き、何かを言っているが、それを無視
して新たな鬼が熱々オナホを抉った。
﹁きったあああああああ。冷えた体に染み入るぜぇぇ﹂
922
熱々オナホを犯す鬼達の後ろには、順番待ちが出来ていた。
﹁一発出したら交代だからな。ただでさえ温め直す時間が必要なん
だ。ちゃっちゃと射精しちまえ﹂
その言葉に従った結果ではないだろうが、﹃ルル﹄を使用していた
鬼が呻き声を上げて絶頂し、その雄液を﹃ルル﹄の子宮に解き放っ
た。
鬼は満足げに息を吐くと係りに﹃ルル﹄を渡す。
﹁おいしょっと﹂
係りは間を空けることなく﹃ルル﹄を湯に戻した。
﹁ひぃぃぃぃ。あつっ⋮⋮あっ﹂
缶の中で叫び声を上げる﹃ルル﹄
﹁おいおい死なせるなよ﹂
﹁大丈夫だって。これでも俺は熱々オナホ屋の三代目だぜ? この
絶妙な加熱技術は誰にも真似できないんだよ﹂
オナホに合わせて火力を調整し、客に熱々の状態で提供する。
プロ根性を持った鬼だった。
﹁お、そっちも終わったか?﹂
そう言って挿入部位から白濁を零す﹃リセ﹄を受け取り、缶にドボ
ンと浸した。
﹁おーし﹃ルル﹄はこれから二分。﹃リセ﹄は三分だ。技術料払っ
てない奴は今の内に払っておけよー﹂
大盛況の熱々オナホ屋のすぐ近くで、また別の鬼集りが有った。
そこは、池のすぐ傍。
一体の鬼が淀んだ溜池に二本のロープを垂らして眺めているのを数
体の鬼が見守っていた。
﹁おしっ! 良いだろうお待ちっ!﹂
ロープを握っていた鬼が一本を思い切り引き上げる。
そこには、オナホール﹃マリス﹄が括りつけられていた。
引上げられた﹃マリス﹄を観衆の一体が捕まえ、問答無用で鬼チン
ポを挿入した。
923
﹁冷てえええええええっ! チンポが凍りつきそうだよ! でもこ
のヒンヤリ感が癖になるよなっ!﹂
そう言われ、ロープを握る鬼は鼻の下を掻いた。
﹁へへっ、そうだろそうだろ。何て言ったって冷やしオナホは俺の
家業だからな。熱々野郎どもに負けてられねぇよ﹂
冬の寒空の下凍る寸前の池にオナホールを付け込み体温を限界まで
下げさせてから提供する。
それがこの男の仕事だった。
﹁おっし、こっちもだ!﹂
もう一本を引上げ、﹃シロエ﹄を別の鬼へと渡す。
﹁ふぅぅぅぅぅ。この入り口のガチガチに閉じた感じをこじ開ける
のがたまんねぇ。おっぱいもザラザラになってて良い感触だぜぇ!﹂
極寒の水中で体温を限界まで奪われた﹃マリス﹄と﹃シロエ﹄はひ
たすら歯を鳴らし、鬼チンポから与えられる熱を貪るしかない。
膣口は収縮し、乳房には鳥肌が無数にたっている。
本来は夏場がピークの冷やしオナホだが、冬には冬で味わいがある
と職人鬼は思う。
夏場はオナホを冷やす為に大量の氷を必要とするが、冬はこうして
水に付け込むだけで完成するのも有り難い。
﹁くっほっ! 搾り取られるぜぇぇぇぇ!﹂
﹃マリス﹄の冷え冷え肉穴を利用していた鬼が絶叫し、射精する。
﹁あったか⋮⋮ぁい﹂
オナホールから上がった心からの声を鬼達は無視して、
﹁は、早くしてくれよ。俺もう我慢できないって﹂
観衆から急かされ、職人はすぐさま﹃マリス﹄を池に放り投げた。
そしてそのあとすぐに、﹃シロエ﹄の方にも熱い精液が注ぎ込まれ、
意図せずその温もりに感じ入るオナホを無情にも池に叩き落した。
﹁少し待ってな。子宮の奥まで冷えっ冷えにして出してやるからよ﹂
職人鬼はそう言って、ロープを握りしめた。
熱々オナホ屋と冷やしオナホ屋の競争は、深夜まで続いた。
924
シャスラハールは手を伸ばし、アン・ミサの手を握った。
そして体を引き寄せ、
﹁⋮⋮僕はもう、あの魔法を使いません。﹃誓約﹄は必要ない。僕
は信じます。西域で出会った天使を⋮⋮﹂
抱きしめた。
925
対馬鹿な妹用結界︵後書き︶
切り所が中々見つからず長くなってしまいました。
次回から気を付けます。
926
食料事情︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
総オナホ化により人名に﹃﹄がついていたりして見難いかもしれま
せん。
あまり区分というわけでも無いのですが、人間としての思考とオナ
ホとしての扱いを分けてみたくてやっております。
不要或いは邪魔だと思われたら教えてください。
927
食料事情
けたたましく車輪の転がる音が廊下を支配する。
執務室の扉に背を預け、何とは無しにフレアが音の出る方に視線を
送ると、二人の天使が台車を押して歩いて来ていた。
﹁あら、フレアちゃん中に入れてもらえなかったの?﹂
皮肉気に笑い、ラグラジルは近づいてくる。
﹁そうではない。代表者同士の会合だ、人数を合わせるのが基本だ
ろう﹂
フレアは気にする素振りすら見せず首を振った。
﹁ねーお腹空いたってー。冷めちゃうよー。タマゴかちかちになる
よー﹂
台車を押しながらラクシェは唇を尖らせる。
厨房に残っていた食材でラグラジルがでっち上げた料理はオムライ
ス︱︱もどき。
炒めた米を調味料で味付けし、タマゴで包んだだけの即席の物だっ
た。
﹁うるさいわね⋮⋮アンと一緒に食べたいんでしょ? だったら声
かけてきなさいよ﹂
ラクシェを嗾け、自分は扉の前で台車ごと止まる。
﹁あ、おいちょっと待て﹂
﹁やだよー。お腹空いたもん!﹂
フレアの制止を掻い潜り、ラクシェは執務室の扉を叩いた。
﹁お姉様︱ごはんだよー。入るねー﹂
そして遠慮なく扉を押し開け、中を覗き込んで固まった。
ベッドの上で向かい合い、慌てた表情で後ずさりしているシャスラ
ハールとアン・ミサ。
そしてアン・ミサの上半身ははだけ、白い乳房が露わになっている。
928
それを見てラクシェは︱︱
﹁うがああああああああああっ!﹂
獣と化した。
夜の帳は深まり、方々に散っていた鬼達は宮殿前広場に集合した。
食料を集めて来た者、羽根落ちの女達をオナホに加工していた者、
周囲の警戒に当たっていた者、そしてただひたすら公娼オナホを弄
んでいた者。
闇の結界が張られた宮殿を正面に置く広場が鬼達の本営となってい
た。
クスタンビアはそこで油断なく宮殿を見張り、雑事は部下に任せ切
っていた。
﹁クスタンビア様。羽根落ちの女の中で使えそうな者を集めて参り
ました。数は七百と少し、と言ったところでしょうか﹂
副官の鬼が報告してくる。
﹁そうか、良い数だな﹂
女鬼であるクスタンビアには無用な生体オナホではあるが、数を揃
えて置けば後々役に立つ。
クスタンビアは経験でそれを知っていた。
﹁はい、そちらは上出来だったのですが⋮⋮問題は食料の方でして﹂
副官は少し言葉を止め、酋長の反応を窺う様に続けた。
﹁手に入ったのは僅かな穀物ばかりで⋮⋮尋問したところ戦争準備
という事で配給体制が取られていたようでして、ほとんどの食料は
宮殿内の備蓄倉庫に集められているとの事﹂
親鬼達の奇襲が成功した一端には、里が何者かと交戦中だった事が
挙げられる。
そこに好機を見出した結果が、思わぬ足枷となったようだ。
﹁⋮⋮へぇ。ワタシ達が持ってきた食料と合わせてどれくらい保つ
?﹂
929
電撃戦を想定していた以上、親鬼達は必要以上に大きな荷物は持ち
込んではいない。
﹁明日の夕飯には⋮⋮川で釣りをしなければならないかと﹂
元々大喰らいの鬼達だ。
穀物ではいくら食べても満たされないだろう。
﹁⋮⋮うちの里から持って来させるという手もあるけど⋮⋮。正直
手間が掛かる上に利益は無いわね﹂
鬼の里はこの地よりだいぶ離れた場所にある。
クスタンビアには数回にわたる反逆の罪業があり、天兵の里周辺の
栄えた場所には居を構えられなかったのだ。
﹁明日の朝になったらこの辺りの豪族、氏族に使者を出しなさい。
親鬼クスタンビアに冬を越せるだけの食料を差し出すように︱︱と。
無論、タダでとは言わないわ。一度挨拶がてらここへ来てもらおう
かしらね。ワタシ達の﹃民芸品﹄と、食料の交易をしましょう﹂
そう言ってクスタンビアが見つめる先。
そこにはかつて人間であったオナホール達が地べたに寝かせられ、
数体の鬼と大勢の羽根落ちの男達に囲まれていた。
﹁てめぇらはこれから俺達の奴隷になる。安心しろ。大人しく働い
ている間は殺しはしねぇ。怪我や年食って働けなくなったらこの里
に返してやる。死にたくなければ逆らわない事だな﹂
居丈高に放たれる鬼の言葉を、羽根落ちの男達は項垂れて聞いてい
た。
元々人間に酷似している天使からその特徴とも呼べる翼を外した存
在である羽根落ちの外見は、人間そのものだ。
彼らは見るからに怯え、鬼の脅しが無くても大人しくしている。
﹁お前らの雌で使えそうなのは全部俺達のオナホになった。こいつ
らみたいにな﹂
そう言って鬼が下卑た表情を向ける先、かつて人間であった生体オ
930
ナホが十個並べられていた。
その内の一つ、﹃シャロン﹄がキッと睨みつける。
﹁その者達は無関係だ! 解放しなさい!﹂
騎士の矜持から弱者を守ろうとする叫び。
だがしかし、鬼はそれを無視する。
﹁あー⋮⋮まぁお前達にも頑張り次第ではオナホを使わせてやらん
ことも無いかもしれんが期待はするなというかほんと極稀にあるか
もしれんが諦めてた方が楽だぞ﹂
かなりあやふやな言い方で鬼が羽根落ちを励ます。
﹁お、オナホって⋮⋮この人達は⋮⋮ぼ、僕の妻は⋮⋮﹂
一体の羽根落ちが、震える声で鬼に問う。
鬼はその言葉を聞いて、眉を顰めた。
﹁おい。人じゃねぇ。これは﹃物﹄だ。オナホールだ。こいつらは
俺達が拾ったオナホで、お前の妻とやらはこれから先俺達のオナホ
として生きるんだよ﹂
その物言いに、羽根落ち達はざわつき始める。
﹁そ、そんな⋮⋮ちゃんとした⋮⋮人じゃないか⋮⋮﹂
﹁生きているのに⋮⋮何てことだ⋮⋮﹂
﹁俺の娘を返してくれ⋮⋮頼むっ﹂
ざわめきに、鬼の手が鳴った。
﹁うるせぇ!﹂
叩き合わされた両手が放つ轟音に、羽根落ち達は委縮して黙り込む。
﹁おめぇら⋮⋮自分の立場わかってんのか? 俺達が黒と言えば黒、
オナホと言えばオナホなんだよ﹂
威圧する言葉に、羽根落ち達は顔色を悪くして黙り込んだ。
﹁チッ⋮⋮。良いか? コレはオナホなんだよ。勝手に喋ったり自
動で動いたりもするが、正真正銘オナホだ。それ以外の価値は無い。
ただチンポぶち込んでザーメン注がれる為の穴ボコでしかねぇんだ
よ﹂
そう言って、鬼はすぐ傍に転がされていた﹃マリューゾワ﹄の腹を
931
踏みつけた。
﹁あぐっ! 貴様ぁ⋮⋮! 私を誰だと︱︱﹂
﹁オナホだ!﹂
鬼は﹃マリューゾワ﹄の声を遮る様にして、羽根落ち達を睨みつけ
ながら言った。
﹁まだ不満が有るって顔だな? 良いぜ。じゃあわからせてやるよ。
コレがただ喋るだけのオナホだっていう事実をよ。おい、五、六人
で一組になって十班作れ﹂
鬼の命令に、羽根落ち達は怯えた様子でしたがった。
﹁そうだ。そのまま一つのオナホを一組ずつ囲め。早くしろっ!﹂
怒号を受け、羽根落ち達は慌てて移動する。
寝ころばされたオナホ達から一歩分の距離を空けて取り囲み、複雑
な表情で見下ろしている。
﹁くっ⋮⋮あまりこちらを見ないで下さい﹂
突き刺さる視線に﹃ヴェナ﹄が言い、それを囲んでいた羽根落ちは
慌てて視線を逸らす。
だが、
﹁見ろっ! 良く見ろっ! その情けないオナホ共を!﹂
鬼の命令がそれを許さなかった。
羽根落ち達の視線が、それぞれ取り囲んだオナホ公娼へと向かう。
﹁ぅ⋮⋮﹂
﹃シャロン﹄はその視線が自分の顔と、縄で強調された乳房、そし
て先ほどまで絶え間なく弩級チンポを受け入れ続けた膣口に向かっ
ている事を感じた。
﹁どうだ? そんな恰好している奴が人間か? 生き物か? 俺に
はどう見たってオナホにしか見えねぇけどなぁ﹂
ガラガラと響く鬼の声に従い、羽根落ち達はオナホを見つめ続ける。
彼らの下腹部に、明確な変化が訪れる。
﹁⋮⋮雄の生理とは言え⋮⋮この場では耐えて欲しいものだったが
な⋮⋮!﹂
932
﹃マリューゾワ﹄が顔を顰めて見る先、羽根落ち達の粗雑なズボン
はパンパンに張りつめていた。
それを見て、鬼は歪んだ笑みを浮かべる。
﹁どうだ? 挿れたいだろう? そのオナホにチンポをぶち込みた
いだろう? 仕方がないさ。それはその為だけに存在している、チ
ンポを入れる為の穴なんだからなぁ﹂
だが、と続ける。
﹁お前達は駄目だ。まだ何も俺達に貢献しちゃいねぇ。今の時点で
はこのオナホを使わせてやることはできねぇ。まぁ俺達は今日一日
中このオナホを使いまくってたがよ。俺は少なくともこれとこれ、
そして向こうのあれと、あぁあっちのやつもだ﹂
鬼が指差したのは、
﹃マリューゾワ﹄﹃シャロン﹄、そして少し離れた所に転がされて
いる﹃ステア﹄﹃ルル﹄だった。
﹁他のも全部一日かけて俺の仲間がガンガン使ってたからよぉ。ベ
トベトに汚れちまっててよぉ。どうだ? 話に聞くところ、お前達
天使系の奴らの体液には清浄化作用が有るらしいじゃねぇか? い
っちょこいつらを洗ってやってくれよ。俺のはそうでも無いんだが、
他の奴らのチンカスとザーメンの匂いがこびり付いてて吐きそうな
んだよ﹂
鬼が自分の喉を締める様に馬鹿げた表情を浮かべて言う。
それを受けて、羽根落ちは戸惑う。
﹁え⋮⋮それは⋮⋮﹂
﹁ションベンだよ。お前らのションベンで洗ってやれ。そこのオナ
ホ共を﹂
睨みを効かしながらの鬼の声に、羽根落ち達は顔を落す。
そして、
﹁⋮⋮仕方ないよな﹂
そう言って、銘々自分の肉棒を取り出し始めた。
﹁死にたくないしな⋮⋮﹂
933
パンパンに張った肉棒の先、鈴口は転がされたオナホ公娼達へ向く。
﹁おい⋮⋮本気か⋮⋮っ!﹂
﹃マリューゾワ﹄が眉間に皺を寄せながら睨むと、羽根落ち達は視
線を逸らした。
が、肉棒は逸らさない。
﹃シャロン﹄にも、﹃ヴェナ﹄にも肉棒は狙いを定めている。
そして、鬼が楽しげに言った。
﹁やれ﹂
その言葉を皮切りに、薄黄色の放物線がオナホ公娼達へと迸った。
﹁うぁぷっ! やめ、やめてください。くっ、匂いが⋮⋮﹂
﹃シャロン﹄の顔へ向けて、五本の放物線が襲いかかる。
天使系の魔物の体液には清浄作用が有る。
鬼は先ほどそう言っていたが、彼らは既に天使では無くその脱落者、
羽根落ちだ。
その神聖なる清浄力もまた、翼と同じく失っていた。
匂いも成分も、ほぼ人が放つ小便と等しい。
ただ唯一違うとすれば、少しだけ色素が薄いという事だった。
汚液を顔面に注がれ、﹃シャロン﹄は口内への侵入を阻止する為に
懸命に唇を閉じた。
必然、呼吸は鼻孔頼みになる。
﹁なんで俺達がこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ⋮⋮﹂
﹁くそっ! お前らが悪いんじゃないのか? お前ら人間が西域に
踏み込んでくるから! 俺達の平和な暮らしを返せ!﹂
羽根落ち達は無様な﹃シャロン﹄の姿を見て、劣情を怒りへと変換
する。
肉棒の向きを変え、可憐に開いた鼻孔へと狙いを定めた。
﹁んぐっ! げふっ! がっ﹂
鼻孔をダイレクトに襲う小便に呼吸を詰まらせ、空気を確保する為
に開かれた口にも遠慮なく汚液が注がれた。
呼吸の手段を全て奪われた﹃シャロン﹄は生きる為に決断をしなけ
934
ればいけなかった。
﹁がふっ⋮⋮あぐ⋮⋮ごく⋮⋮ング⋮⋮ング﹂
﹁ははははっ! こいつ、ションベン飲んでるぞっ! 俺達のショ
ンベン喉を鳴らして飲んでやがるっ!﹂
ゴクゴクと汚液を嚥下しながら、﹃シャロン﹄の瞳から別の液体が
零れだした。
オナホール﹃シャロン﹄ではなく、リーベルラントの騎士シャロン
としての葛藤が、それを生み出した。
羽根落ちの存在はラグラジルから聞いていた。
天兵の里に住まう生産階級の者達。
里に攻め入る段になって、彼らと遭遇した場合どうするかと言う話
になり、その存在は傷つけず、天兵すらも可能な限り無力化して進
むのだと自分達は方針を定めた。
言うなれば、羽根落ちは民草だ。
騎士であるシャロンにとって、守るべき存在であった。
戦争に翻弄される彼らの生活を守る事も、騎士の務めだった。
そんな彼らに、今﹃シャロン﹄は小便を飲まされている。
少し前まで悩み、怯えていた彼らは今嬉々として﹃シャロン﹄の鼻
孔と口に狙いを付けて汚液を放っている。
自分の無力と運命の残酷さを憎みながら、苦しょっぱい排泄液を飲
み込んで行く。
﹃シャロン﹄の隣で転がされている﹃ヴェナ﹄の顔は綺麗なままだ。
だが、
﹁っ! そこは!﹂
﹃ヴェナ﹄のホール部分に向けて、羽根落ち達の六本の肉棒は狙い
を付けて小便を放っていた。
女体として、神聖な子宮を守る事は本能に近い。
そこを今、生命を育むわけでも無い単なる搾りかすの汚液で一杯に
満たされようとしている。
﹁これだけ離れてても分るもんなぁ⋮⋮。ほら、あそこ⋮⋮あれ鬼
935
のチンカスだろ。ションベンで取ってやるよ﹂
鬼の弩級チンポで抉られ続けた﹃ヴェナ﹄の肉穴は、開きグセが付
いた状態で少し見通しが良くなっている。
よくよく見れば、鬼の乱暴な抽送でこそげ落ちたチンカスが、入り
口付近に散乱してこびり付いていた。
チンカスを洗い流すように、汚液が注がれる。
﹁あぁくぁ⋮⋮殿下⋮⋮お許しください﹂
今までも散々ゼオムントの下種により肉便器とも言える扱いを受け
て来たが、今回のこれは全くの別物。
肉便器ですらない、単なる便器。
挿入すら無く、小便を受け止めるだけの器にされた聖騎士。
シャスラハールと文字通り何度も繋がって来た膣口を守る為に、﹃
ヴェナ﹄は懸命に体を揺すって尿の放物線から逃れようとするが、
オナホールとしての拘束がそれを許さない。
膣内はすぐに、汚液で一杯になった。
﹁おぉ、溢れて来る溢れて来る。⋮⋮うはぁ、あの白いの精液だろ
⋮⋮どんだけ溜まってたんだよ﹂
小便に満たされ、決壊した﹃ヴェナ﹄の膣口には白い濁りが浮かび
上がり、尿と共に零れ落ちていた。
一日中注がれ続けた精液が、子宮の近くで淀み固まっていて、それ
が今小便で流されて行く。
かつて聖騎士として人々の希望を背負っていた才女の子宮は、二種
類の雄の排泄液で満杯になっていた。
﹁⋮⋮今の状況で鬼に逆らっては、貴方達の命は無いでしょう⋮⋮。
民草の希望である聖騎士として、この恥辱⋮⋮甘んじて受け入れま
しょう⋮⋮﹂
己の神聖な場所の惨状を知った上で、瞳を閉じて感情を殺し、そう
口にした﹃ヴェナ﹄の言葉に、男達の尿の勢いが弱まって行った。
その隣、
﹁貴様ら、私の顔は知っているだろう?﹂
936
﹃マリューゾワ﹄はオナホールとして転がされた状態でありながら、
強い瞳で男達を睨みつけている。
﹁お前らの守護者であるアン・ミサの友人としてこの里の為に戦っ
た私に何を向けている。この腹の傷を見ろ。これはお前らの為に作
った傷だ。アン・ミサを守り、この里を守る為に負った傷だ﹂
一ノ門の戦いでクスタンビアにより負わされた腹部の裂傷は、鬼達
の手で乱暴に処置されていた。
縫い目も痛々しく、事実奮戦したマリューゾワの役割を証明する物
だった。
だがここに転がされているのは、魔剣大公マリューゾワであってオ
ナホール﹃マリューゾワ﹄でもある。
羽根落ちの一人が喚いた。
﹁見、見るなっ! 俺達が弱い存在だってのは分かってんだよ!﹂
その男の股間から小便が迸り、睨みを効かせた﹃マリューゾワ﹄の
眼球へ襲いかかった。
﹁ぁっ!﹂
人体の弱点とも言える部位に汚液をぶつけられ、思わず目を閉じ苦
悶を漏らしたオナホ大公。
﹁だったらちゃんと守れよ! 人間同士で争って隙なんか作ってる
からこういう目に遭ったんだろうが! お前らのせいだぞ! 俺達
は戦えないんだから、死んでも守れよ! なんだよ腹に傷作ったく
らいで偉そうによ! 死ぬ覚悟も無いからオナホになって惨めに生
きてるんだろ! 俺達だってオナホになんか守ってもらいたくねぇ
よ!﹂
男達は次々に尿を発射し、﹃マリューゾワ﹄の全身を濡らしていく。
腹部の傷口をなぞってくる者、乳首に狙いを定める者、再び睨みつ
けられる事を恐れて目を狙い続ける者。
熱く汚れた液体を叩きつけられている﹃マリューゾワ﹄の目が、カ
ッと開いた。
﹁痴れ事を! 自分自身と家族を守る事すら放棄して家の中で震え
937
ていたお前達が何を言うか! 敗戦の責ならば私が取ろう! この
身をいくら汚されようとも戦い、時間を稼ごう! お前達はなんだ
? 親鬼の襲撃がわかっていながらなぜ逃げなかった! 武器を取
って戦えとは言わん、だがあれだけ時間が有ってなぜお前達は動か
なかった!﹂
眼球に汚液を浴びながらも、瞼を閉じずに睨みつける﹃マリューゾ
ワ﹄
親鬼クスタンビアの襲撃は、里の内部には比較的早く知れ渡ってい
た。
二ノ門の陥落と共に天兵達が一斉に逃げ出す際、彼らが襲来を喧伝
して飛び去って行ったからだ。
そしてその間、一ノ門を舞台に公娼達が必死の抵抗で時間を生んで
いた。
だが、羽根落ちは逃げなかった。
ただ家に鍵をかけ、震えながら過ごしていた。
﹁そ、それは⋮⋮アン・ミサ様が何も仰られないから⋮⋮あの時素
早く命令をしてくれれば俺達だって逃げ出せたのに⋮⋮﹂
﹁そうやってまた全ての責任をアン・ミサに背負わせるのか! ア
イツがどんな思いで里に尽くし、裏切られてきたのかを、お前達は
︱︱﹂
眼球を狙い撃ちしていた男の尿の勢いが弱まり、反比例して﹃マリ
ューゾワ﹄の語気が強まる。
そこに、
﹁う、うるさい! うるさいうるさい!﹂
今まで乳首を狙い続けていた男が方向を変え、眼球に汚液をぶちま
けて来た。
他の男達も続く。
﹁俺達は弱いんだ! 仕方ないだろう! そんな目で見るなっ! こっちを見るなよ! このクソオナホが! オナホは黙って鬼チン
ポぶち込まれて喘いでりゃいいだろうが!﹂
938
﹁そうだ! 見てたぞ! 昼間っからずっとお前ら鬼チンポにズボ
ズボされて惨めに泣き喚いてたじゃないか! そんな奴が立派な口
を叩くな!﹂
﹁俺達はこれから親鬼の奴隷になって働かされる! 良いか? オ
ナホの利用が認められたら絶対にお前を犯してやる! お前のその
腹の傷をおっぴろげながら子宮に精液ぶち撒けてやるからな!﹂
再び勢いを取り戻した男の小便を含め、合計六本の汚水の放物線に
眼球を狙い撃ちされながらも、
﹁良いだろう⋮⋮やってみるがいい! せいぜい私を犯す事を理由
にきりきり働くのだな! そうしている間には鬼達もお前達の命を
奪わないだろう! どうだ、私はお前達の命をまた守ってやったぞ
! 感謝しろ!﹂
魔剣大公の瞳は、苛烈に守るべき者達を励まし続けていた。
十体のオナホ公娼が汚液まみれになったところで、ニヤニヤと見渡
していた鬼が口を開いた。
﹁おーしやめやめ⋮⋮って臭っ! え? 清浄化されてないの⋮⋮
? 羽根落ちは無理⋮⋮あ、そうなの⋮⋮えーと、じゃあ拭け。全
部綺麗にしろ。この後はまた俺達が夜通しオナホパーティーするん
だからな﹂
そう言って鬼が指差した先、親鬼達の大部分は先ほど加工し終えた
ばかりの羽根落ちオナホを狂ったように犯しまわっていた。
﹁うーっ⋮⋮もぐもぐ﹂
アン・ミサの隣でオムライスもどきを掻き込みながら、ラクシェが
睨みつけてくる。
向かう先はシャスラハール。
黒肌の王子もまた、膝の上に皿を置き、魔天使の手料理に匙を刺し
ていた。
﹁ラクシェ⋮⋮ですからあれはそういう事ではないのです。少しお
939
話していただけですから、何もありませんでしたよ﹂
妹を宥めるアン・ミサには弱弱しい笑顔が浮かんでいる。
﹁⋮⋮でもご主人様は本当に良いのぉ? 三姉妹をコンプリートし
なくて? 天使と4Pとかできちゃうけどぉ?﹂
妹達から少し離れ、執務室の机に座って自作の料理を口にしていた
ラグラジルが探るような言葉を放つ。
シャスラハールはそれに対し、言い難そうに口をモゴモゴさせなが
ら、首を振った
そこに、
﹁ラグラジル。これなんだが⋮⋮﹂
フレアが割って入って来た。
手にした皿の上、オムライスもどきは一口分しか減っていない。
﹁なぁに? フレアちゃん﹂
魔天使のそっけない言葉に、
﹁マズいぞ⋮⋮うん、かなり﹂
真っ直ぐな瞳で、正面突破を図った。
﹁ぐふっ⋮⋮﹂
飲み込めずに持て余していた口内のオムライスもどきを噴き出しそ
うになりながら、シャスラハールはフレアを驚愕の瞳で見つめる。
﹁⋮⋮へぇ。マズい⋮⋮ねぇ。そりゃあリセちゃんの作った料理に
比べれば、差が有るかもしれないけれど⋮⋮﹂
額に青筋を立てながら、魔天使が震える声を放つ。
﹁うん! 確かにあの人間の料理は凄かった! あれと比べるとこ
れは本当に酷いよね。でもお腹が空いてるからウチは食べられるよ
?﹂
何の意図も無さそうにラクシェが言い、姉から睨みつけられている。
﹁⋮⋮食べられる⋮⋮食べられるってアンタ⋮⋮﹂
﹁そ、そうですよラクシェ、失礼です。お姉様に謝りなさい﹂
アン・ミサが慌ててフォローするが、ラクシェは聞かずにかなりの
速度でオムライスもどきを流し込んで行く。
940
﹁アン、どうなの? マズいかしら? ワタシの料理﹂
切れ味鋭い視線を向けられ、智天使は困った笑みを浮かべて一匙口
に含む。
﹁⋮⋮いいえ。昔からのお姉様のお味です﹂
曖昧な否定の言を吐いた。
そして、怒涛のような言葉が続く。
﹁それにですね。元々人間族の東側と比べると西域は調理文化が発
展していないので、一度あちらの味を知ってしまうと味覚が変わっ
てこちらの素材を活かした素朴な味付けでは我慢できなくなるとい
う者も多いらしく、人間であるお二人はもちろん、ラクシェの場合
はそのリセさんと言う御方の料理の味が記憶に強く残っているから
でして、わたくしもルルとロニアの作ったお菓子という物を口にし
た時の感動は忘れられませんが、やはり普段の食事ですとこのぐら
い馴染のある味の方が︱︱﹂
穏やかな表情のまま、アン・ミサは早口で捲し立てる。
そこに、
﹁もう良いわ⋮⋮。食べたい人だけ食べなさいよ⋮⋮﹂
ラグラジルの拗ねた声。
それを受け、シャスラハールとアン・ミサは慌てて匙を動かし掻き
込んで行く。
額に汗を浮かべながら咀嚼している黒肌の王子の隣で、フレアはラ
グラジルに悪戯っぽい笑みを向けた。
﹁何よ⋮⋮フレアちゃん﹂
﹁別にー⋮⋮あぁ、ザラザラする。味無いし﹂
一匙口に含んでからそう言い放ち、また一匙をオムライスもどきへ
と突き刺した。
﹁ここで憂さ晴らししてくるとはね⋮⋮成長したじゃない、フレア
ちゃん﹂
フレアはかつてラグラジルに惑わされ、トラウマとも言える体験を
味わった。
941
幻想であり、幻影であるとはいえ、かつて自分を犯した男達と再会
させられた。
﹁⋮⋮もう仲間なんだし。今はこのぐらいで勘弁してあげるわ﹂
フレアはそう言って、油の味しかしないオムライスもどきを口に含
んだ。
疲弊していた上にラクシェの治療で残された魔力の殆どを消費して
しまったアン・ミサの為に、この夜は休むことになった。
ラグラジルが強硬に主張し、アン・ミサを盲愛するラクシェもまた
その言に乗った。
﹁申し訳ございません。明日早く起きてわたくしも魔導書探しを手
伝いますので、どうかお二人も今日のところはお休みください﹂
アン・ミサに頭を下げられ、シャスラハールとフレアは頷いた。
人間である二人には西域の文字が読めず、魔導の事に置いても門外
漢である故に手出しができない。
アン・ミサかラグラジルのどちらかが居なければ魔導書探しは行え
ないのだ。
﹁ヴェナ⋮⋮シャロンさん⋮⋮みんな⋮⋮無事でいて下さい⋮⋮﹂
万が一にも結界が破られた時の為、同じ部屋で全員休む事をフレア
が提案し、アン・ミサが承諾したので、今現在執務室にもう一つベ
ッドを持ち込みシャスラハールはその上に寝ころんでいる。
﹁信じましょう⋮⋮殿下。姉上達ならば、どんなに辛くとも耐え抜
きます。わたし達は今日ラクシェの力を取り戻しました。これから
あと二日以内にアン・ミサの力も取り戻せれば、親鬼とやらを駆逐
できます。無論、その時はラクシェだけに任せる事などせず、わた
し自身戦場に立って皆を救いに行く所存です﹂
シャスラハールと向かい合う様にして添い寝するフレアは握り拳を
作って言った。
ベッドをいくつも持ち込む手間の問題も有った上に、シャスラハー
942
ルの安全を考慮する形でフレアがこの状態を望み、王子が受け入れ
た結果だった。
﹁フレアさん⋮⋮はい。頼みます、それにアン・ミサの治療が戻っ
て腕を治してもらえれば、僕もまた全力で戦えるようになるので、
フレアさんの背中を守りながら僕も行きます﹂
その言葉に、フレアは顔を綻ばせた。
﹁ふふ⋮⋮殿下は王様なんですから後ろでジッとしててもらった方
が良いんですけどね。でも、わかります。わたしもですもん﹂
シャスラハールの唯一の手、それが震えている。
そこにフレアの手が柔らかく添えられた。
﹁今すぐにでも、こうしている一瞬にでも、外に打って出て助け出
したい。皆を連れ帰りたい。胸が引き千切れそうな程に焦燥感が狂
おしく渦巻いている。殿下も、わたしも﹂
アン・ミサから貸し出された寝間着に包まれたフレアの胸に、シャ
スラハールの手を誘う。
﹁お守りします。殿下。貴方を連れて姉上達を救いに行きます。親
鬼の酋長を討つのはラクシェであっても良い、でも⋮⋮皆を救うの
はわたし達です﹂
騎士のその言葉に、王子は頷いた。
﹁フレアさん⋮⋮頼みます。僕と一緒にヴェナ達を、そしてセナさ
ん達を助けに行きましょう﹂
クスタンビアに囚われているヴェナ達だけでは無く、ゼオムントに
はセナやユキリス等が捕らえられている。
﹁はい。もうわたし達は誰も、何も失わない。そういう戦いをこれ
から先貴方と続けるんだって、そう信じてわたしはこの里での地獄
を生き抜きましたから﹂
騎士は微笑み、王子は瞳を潤ませた。
狭い寝台の上で、二人の距離が徐々に迫って行った。
943
﹁あー⋮⋮向こうは始まったみたいね﹂
ベッドの上、ラグラジルは小さく毒を吐いた。
少し離れた所でベッドがギシギシと傾いでいる音が聞こえ、生々し
い想像が魔天使の脳内を駆け抜けていった。
﹁せっかくの好機を⋮⋮この子達は⋮⋮﹂
ラグラジルの隣には、ラクシェが眠っている。
そして更にその向こうにはアン・ミサが穏やかに寝息を立てていた。
アン・ミサを休息させる為早めの就寝を提案した。
表立ってはそうで有ったが、
﹃色々有って、不安よね⋮⋮今夜は一緒に居てあげる﹄
そう優しい声で眠りにつく前のアン・ミサに囁きかけ、妹が目元を
腫らして頷いた事により態よく同衾する事が出来たまでは良かった。
が、である。
﹃ウチも一緒に寝る! 三人で寝る!﹄
ラクシェが騒ぎだし、アン・ミサが小さく笑って受け入れた事が問
題だった。
シャスラハール達が寝静まった後、隙をついてアン・ミサに﹃誓約﹄
魔法を解除させる予定に暗雲が立ち込めた。
治療の力は大きく減衰しているとは言え、失っているわけでは無い。
何とか騙し宥めて、朝まで妹に膣内へ向けて治療魔術を放ってもら
えれば解除できる目算だったが、馬鹿な方の妹が有ろう事か二人の
真ん中に潜り込んできた結果。
﹁邪魔すぎる⋮⋮﹂
今ラクシェはガッシリと四肢でラグラジルに絡みついていた。
病人であるアン・ミサに配慮した結果なのかもしれないが、甘える
相手を普段嫌っているラグラジルの方に変えているようだ。
力天使と呼ばれる存在。
ラクシェは素手でも親鬼程度ならば簡単に殺す事が出来る。
そんな妹に全力で羽交い絞めにされていては、非力なラグラジルで
は動く事が出来ない。
944
﹁ん∼⋮⋮﹂
寝ぼけたラクシェがラグラジルの胸の谷間に顔を押し付けながら涎
を垂らしているのを冷めた目で見つめ、嘆息する。
﹁明日こそは⋮⋮﹂
今夜がダメで有ったとしても、この結界が張られている間が正念場
なのだ。
どうにかシャスラハールの隙をついて、アン・ミサを押し倒す時間
を作らなくてはならない。
幸いにもシャスラハールはアン・ミサを支配する気が今のところ無
い様子。
隙さえ見つければ、何とでもなる。
﹁あっ⋮⋮んっ! 殿下⋮⋮殿下ぁ﹂
フレアの甘い悲鳴を聞きながら、ラグラジルは怒りの表情で眠りに
落ちていった。
朝を迎え、王宮前広場の鬼達は怠そうに目を覚まし始めた。
彼ら全員の股間に、オナホが装着されていた。
人間オナホと羽根落ちオナホを足せば、それぞれのチンポに対して
二本以上のオナホが揃った計算になる。
彼らは寝る際にオナホを仰向けに転がし、その大きく開いた股間を
枕に頭を乗せ、自らの腰の上に別のオナホを装着して夢の旅路へ向
かったのだ。
﹁ふぁぁあ⋮⋮よく寝た⋮⋮﹂
オナホール﹃ステア﹄の股間から頭を上げ、チンポを挿し入れた状
態の﹃ハイネア﹄の肉穴の内側で朝勃ちが始まっているのを感じな
がら鬼はムニャムニャと呟いた。
﹁んぎっ! はぅぅ⋮⋮きゅ、急に妾の中で大きく⋮⋮﹂
萎えた状態でもある程度の大きさと硬さを維持する鬼チンポを一晩
中入れっ放しにされ、とても眠れるような状態では無かった﹃ハイ
945
ネア﹄は、隈の浮いた目元を苦しげに歪ませる。
﹁さっさと退け! そしてハイネア王女を解放しろ、相手ならわた
しが代わってやる﹂
陰唇をおっぴろげたまま鬼を睨みつけながら﹃ステア﹄が言うと、
鬼は面倒くさそうに立ち上がろうとして、止めた。
﹁抜いとくか⋮⋮ついでだし﹂
顔を洗う、朝食を摂る、歯を磨く、体操をする。
朝やるべき事は人それぞれに色々有るだろう。
鬼はまず何より先に、オナホで一発抜く事を選んだ。
﹁よいせっと﹂
体の向きを変え、﹃ハイネア﹄から朝勃ち鬼チンポを抜き出す。
﹁ぬほっ﹂
間抜けな声を上げながら、一晩かけてチンポの型取りをした様にガ
ッポリ開いた幼い肉穴を晒しながら、﹃ハイネア﹄は﹃ステア﹄の
上に倒れ込んだ。
﹁王女、ご無事ですか? 王女﹂
﹁⋮⋮う、む⋮⋮まだ、妾は大丈夫じゃ⋮⋮騎士殿﹂
仰向けに転がった﹃ステア﹄の上に正面から倒れ込んだ﹃ハイネア﹄
全裸で縛り上げられた二つのオナホールの挿入部位が、上下に重な
って晒されている。
﹁おいしょっと﹂
﹁んひがっ!﹂
鬼は一切の前動作無しに﹃ステア﹄へと肉棒を挿入し、五回程前後
に出し入れするとすぐに抜き出して、
﹁あひゅっ﹂
すぐ上にあった﹃ハイネア﹄へと無断で挿入した。
﹁ふー。極狭穴とモチモチ穴を交互に犯すと気持ち良いぜぇ﹂
二つのオナホールをリズムよく犯していく。
﹁この、妾達の体で遊びおって⋮⋮!﹂
﹁貴様ぁ⋮⋮覚えていろ⋮⋮かならず我が槍でその喉を切り裂いて
946
やる﹂
朝一番だからだろうか、オナホ達も元気いっぱい抵抗してくるのが、
鬼の耳に気持ち良く響く。
﹁あぁ⋮⋮出る出る。どっちに出そうかなぁ﹂
鬼は抽送の速度を上げ、射精感の高まりを口に出した。
﹁あひっ! 射精するのならわたしにするが⋮⋮良い、受け止めて、
膣内で一匹残らず貴様の精子を殺してやる!﹂
ハイネアを護る為に、ステアは意志力による殺精を吠える。
﹁構わん⋮⋮騎士殿。このような馬鹿面のぉん! げ、下種の精で
リネミアの神聖姫である妾が孕むわけなど無い⋮⋮からな﹂
敬虔な国で育ち、信仰により加護を受けるハイネアもまた強がりを
放つ。
鬼は二つのオナホが紡いだ言葉の大半を聞き流しながら、
﹁あっそ﹂
射精を開始した。
﹃ステア﹄へ。
﹁おぐぅぅぅぅぅ、ベトベトって⋮⋮濃いぃぃ﹂
朝一番。
夜通し﹃ハイネア﹄マンコで温めていたチンポからは恐ろしく濃く
て熱い精液が迸り、﹃ステア﹄の子宮へと降り注いでいく。
﹁こっちもか﹂
折角どちらも良いと言っていたのだから。
理由はただそれだけ。
﹃ステア﹄から射精中の肉棒を引き抜き、﹃ハイネア﹄へとブチ込
む。
﹁おごぉぉぉぉ! こじ開け⋮⋮、ズボって⋮⋮﹂
入れた瞬間にまた大きな波がやって来て噴火した精液が幼い子宮を
白い溶岩流で埋め尽くしていく。
﹁ふぅ⋮⋮﹂
ようやく射精が収まり、﹃ハイネア﹄からチンポを引き抜いた鬼。
947
その視線の先に、﹃ステア﹄の巨乳と﹃ハイネア﹄の微乳が擦れ合
っているのを見て、
またムクリと鬼チンポに力が宿るのを感じた。
﹁もう一発⋮⋮ヤっとくか﹂
オナホに不自由しない鬼達の起床は、ひどくまったりとしたものに
なっていた。
完全に日が昇り切った頃、鬼達はようやく全員が立ち上がった。
とは言え略奪の成果が芳しくなく、食事の制限が設けらてしまった
鬼達は食欲を誤魔化す為に全力でオナホール達を犯し始めた。
至る所からオナホ達の悲鳴が聞こえてくる中、
クスタンビアは面会の申し込みを受けていた。
副官が、酋長に話しかける。
﹁クスタンビア様。南の大洞窟から使者がお見えですが⋮⋮﹂
﹁洞窟の⋮⋮? へぇ、アイツはさすがに耳が早いな﹂
クスタンビアは応じ、天幕代わりに設置した日除けの下に移動する。
そこに、二本の太い脚で立つ丸々太った豚が待ち構えていた。
﹁クスタンビア様。我らが大王の名代としてまかり越しましてござ
オーク
います。此度の神速なる用兵、大王様も見事なりと︱︱﹂
﹁世辞も挨拶も要らない。何の用だ? 豚魔よ﹂
クスタンビアは豚魔の言葉を遮り視線を向ける。
豚魔。
繁殖力、そして忠誠心と社会性に富んだ西域最大種族。
西域の南にある大洞窟をねぐらに大王と呼ばれる一体を中心として
王政を敷き、管理者の言葉にも拒否権を持つ大種族だ。
﹁⋮⋮大王様よりの言葉をそのまま申し上げさせて頂きます﹃クス
タンビアよ。懐かしき我が盟友よ。貴様のやっている事は故人の墓
荒らしも同然、奴の残した娘達にこれ以上手を出すでない。鬼の里
へ疾く帰還せよ﹄との事でございます﹂
948
豚魔の言葉を聞き、親鬼は笑みを浮かべた。
﹁変わらないね⋮⋮アイツは、何だかんだと損な役回りばかりを押
し付けられて﹂
クククと笑いながら、言葉を放つ。
それに向け、豚魔も言葉を紡ぐ。
﹁大王様はかつての盟友であらせられる御身の事も、今は亡きハル
ビヤニ様のご息女方の事もどちらも案じておられます。ここは刃を
引き、どうかこれ以上の血が流れぬ様にと︱︱﹂
﹁いやだ﹂
にべにも無く、クスタンビアは冷笑を浮かべた。
﹁豚が鬼の戦にでしゃばるな。お前程度の下級の魔物がハルビヤニ
様の名を口にする事も甚だ不快。これはワタシの戦いだ、誰にも邪
魔はさせない﹂
親鬼の燃える瞳に睨みつけられながらも、使者は言葉を放った。
﹁畏れながら、クスタンビア様がそうお答えになられる事を、我ら
が大王は予測しておられました。つきましては︱︱﹂
豚魔は視線を上げ、クスタンビアを見据える。
﹁我ら豚魔の軍勢五万にて、この里を守護せしむ為、貴女様との戦
を務めさせて頂きます﹂
クスタンビアは変わらぬ表情で豚魔を睨みながら、思考を巡らせる。
西域の最大種族豚魔。
その総勢は十万にも及ぶと聞く。
主だった者達は大王に従い南の大洞窟に居を構えるが、その周辺に
部族長ごとに率いられた中規模の集落を組織して支配を盤石にして
いる。
単体の戦力では親鬼に遠く及ばないが、十体二十体に袋叩きにされ
て親鬼が無事である保証は無い。
この里に居る親鬼の総数は三百、五万の豚魔に攻め寄せられては一
たまりもないだろう。
﹁ここで退いて下さるのでしたら、我らが大王は貴女様がこの里で
949
手に入れられた戦利品については目を瞑り、親鬼の里に持ち帰る事
を承知する考えをお持ちです﹂
金銀財宝は手に入らず、食料は乾燥した穀類のみ、手にしたのは軟
弱な羽根落ちの奴隷と惨めなオナホールのみだ。
腹を空かせて厭戦気分な部下達は満足するかもしれないが、クスタ
ンビアにとっては致命的に不足していた。
﹁⋮⋮断る。来るなら来い。いくら豚魔が大軍であろうと、指揮官
をワタシが討ち取れば良いだけの話﹂
自信はある。
この西域でクスタンビアに一騎打ちで勝てるのは力天使ラクシェの
み。
風に乗って訪れた主人︱︱ハルビヤニの声が語るには、そのラクシ
ェは人間に敗れ性奴隷に落されているらしく、ついぞ先ほどの戦闘
にはその蛮勇を振るう姿は見られなかった。
﹁此度の戦、お相手が貴女様である以上、我らの軍勢を率いるのは
大王様御自ら御出陣なされます。かつてハルビヤニ様の右腕として
刃を振るわれた貴女様を防ぐのは、管理者の左腕、大盾と呼ばれた
我らが大王様でなければ敵いませぬゆえ﹂
その言葉を聞いて、クスタンビアは顔を顰める。
厄介な事になった。
いざ戦えば勝つのは自分だろう。
ハルビヤニは右利きであった。
左手では右手には勝てない。
だがしかし、右手と左手には部下と言う名の肉が不釣り合いに備わ
っていた。
圧倒的に脂肪に塗れた左腕を、筋だけしか残っていない右腕で握り
つぶす事が出来るかどうか。
少なくともクスタンビアの部下達は全滅するだろう。
それではこの里を支配する事が出来なくなってしまう。
だが、
950
﹁いやよ。ワタシは退かない。この里を手に入れて、ハルビヤニ様
にもう一度愛してもらうのだから。その為だったらいくらでも部下
達は死ねばいいし、かつての盟友だろうが遠慮なく切り殺すわ﹂
親鬼の酋長。
そう呼ばれているのは、それが単に力が一番強い鬼に付く称号の様
な物だからだ。
クスタンビアの本質は︱︱。
﹁ワタシはあの人の肉便器でありたいの。その為だったらなんだっ
てするわ﹂
今この一瞬ですら、彼が住んでいた宮殿の近くに立っているという
事だけで股間から淫らな液が分泌されてくる。
彼の吸った空気、見た景色、踏んだ床、舐めた食器、捨てたゴミ、
放った小便。
そのどれもが愛おしく、何もかもを味わいたい。
﹁左様でございますか⋮⋮。大王様は常々語っておられました。ク
スタンビア様とハルビヤニ様の逢瀬の数々を⋮⋮﹂
しみじみと諦観を浮かべた使者の言葉。
﹁三人で覇を唱えたはずが、気が付けばいつもお二人が隅で盛り合
っておられ、大王様は押し付けられた仕事を処理するのに命を削る
思いだったと。右手の様に肉棒をしごくだけの仕事が有ったら左手
もどれだけ楽になるか⋮⋮と愚痴を零したところをハルビヤニ様に
聞かれ、﹃キモッ﹄と言われて放逐されたその日の事を⋮⋮﹂
その言葉に、クスタンビアは目を細めて言った。
﹁そりゃあキモいわよ⋮⋮あんなデブで豚くさいオッサンがそんな
事言い出したら追放したくもなるわ﹂
今から四十年ほど前の宮殿内執務室の日常は、ダルそうに外を眺め
るハルビヤニの股間に夢中でしゃぶりつくクスタンビア、そしてそ
れを疲れた表情で眺めながら事務仕事を処理する豚魔の大王という
光景が広がっていた。
﹁交渉は決裂という事で⋮⋮。私はこれにて下がらせて頂きます。
951
次にお会いする時は戦場となりますが、どうかご壮健で﹂
豚魔の使者が慇懃に頭を下げるのを見て、クスタンビアは言った。
﹁あぁそうだ。実は今ワタシ達食糧が無くて困ってるのよ﹂
その言葉に、使者は眉尻を下げて困惑した。
﹁これから戦う相手に食糧援助も有りますまい⋮⋮。どうぞご自分
で解決なさることを︱︱﹂
使者は最後まで言葉を作れなかった。
一瞬の斬撃。
クスタンビアが抜き放った一刀により首を切り落とされ、その体が
転がった。
その亡骸を見下ろし、クスタンビアは手を叩いて副官を呼び出した。
﹁ハッ! 如何致しましょう?﹂
その問いに。
﹁ミディアムレアで﹂
皆が鳥の餌の様な穀物で昼を過ごしたというのに、酋長だけ昼飯が
肉だったという噂が鬼達の間で広がり、ブーブーと不平を言いなが
らオナホ達に怒りをぶつけていた。
一晩寝て、アン・ミサの体調は快方に向かった。
魔力自体は取り戻せてはいないが、起き上がって歩く事が出来てい
る。
全員で図書室へ向かい、書架を漁っていく。
﹁装丁とかの記憶は無いのか? それだったらワタシ達でも探せそ
うだが﹂
フレアの問いに、
﹁いえ⋮⋮何分蔵書の確認をしたのは父の生きていた頃⋮⋮二十年
は前の話ですので、装丁までは⋮⋮﹂
アン・ミサはしょんぼりと答えた。
﹁でも間違いなくあるのよね?﹂
952
猛烈な勢いで本を捲っているラグラジルが顔を上げずに問うと、
﹁はい。献本された物の表題には全て目を通しています。詳細は省
いてカテゴリーに分け、それを司書に預けて管理してもらっていた
のですが⋮⋮親鬼の襲撃で避難しているようですね﹂
顔なじみの天使の無事を祈りつつ、アン・ミサもまた別の本を手に
とっていく。
ラクシェは近くの椅子で眠りこけ、シャスラハールは静かに作業を
見守っている。
一刻、二刻と時を経て、智天使の叫びが上がった。
﹁有りました! これです⋮⋮が⋮⋮﹂
喜びはしゃぐ声は、すぐに沈んだ物に変化した。
﹁どうしたんですか? アン・ミサ﹂
シャスラハールがその近くに駆け寄ると、
﹁⋮⋮申し訳ありません。魔力減衰についてでは有るのですが⋮⋮
羽根落ちに関する研究家が書いた、如何に世代を経ても魔力を保っ
ていられるかの翼の健康資料でした⋮⋮﹂
顔を青褪めさせて、アン・ミサは本を持って震えている。
﹁あー⋮⋮えーっと⋮⋮﹂
何と答えたら良い物か、シャスラハールが言葉を詰まらせていると、
﹁それじゃあダメね。アンタまだ翼あるじゃん。今回みたいなイレ
ギュラーな魔力消失には無意味ね﹂
ラグラジルがそう言って、一冊の本と共に傍に寄って来た。
﹁お姉様、それは⋮⋮?﹂
智天使にそう問われ、
魔天使は笑った。
﹁見つけたわ。危機を脱する鍵をね﹂
シャスラハールには読めない文字で、本の表紙は綴られていた。
﹃失った物を取り戻す、リセット魔術とその儀式﹄
953
儀式魔術︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
954
儀式魔術
手に入れた魔導書は本来探していた物とは違っていたが、ラグラジ
ルが言うには、ざっと中を見たところこの魔法でも問題なくアン・
ミサの魔力を取り戻せるとの事だった。
﹁リセット⋮⋮ですか?﹂
広げられた魔導書の上をのたうつ異国の文字を流し見しながら、シ
ャスラハールは問う。
﹁そう、リセット。仕切り直し。回復させる方法がわからないんだ
ったら、初めの状態に無理矢理戻してしまうのが簡単じゃないかし
ら?﹂
魔天使は文字を読み進めつつ、それに応じた。
﹁そうですね⋮⋮。時間もあまり有りませんし、わたくしは構いま
せん。この儀式を試してみましょう﹂
最も危険に晒されるであろうアン・ミサがそう意気を語り、誰も反
論する事は無かった。
儀式魔術。
武器や道具を使って放たれる即興の魔法では無く、場に魔力をかき
集め、特殊な手法に則って変則的な魔術を行使する方法。
儀式の為には広い場所が必要との事だったので、全員で玉座の間へ
移動する。
﹁少し待っていて﹂
ラグラジルがそう言って、自らの指に魔力を灯し、床に魔法陣を描
いていく。
複雑な紋様をした幾何学図形を描き、シャスラハールとフレアには
理解できない文字を付け足していく。
﹁さ、それじゃ始めましょうか。アン、この陣の上に来て﹂
姉の言葉に素直に従って、アン・ミサが魔法陣に足を踏み入れた。
955
そして続けざまにラグラジルもその陣の内側に入っていく。
﹁え? お姉様も?﹂
﹁アンタの今の魔力じゃこの陣を操作できないでしょう? ワタシ
が代わりにやってあげる。それとラクシェ、来なさい﹂
魔導書から顔を上げないまま、魔天使は末の妹を呼んだ。
﹁ほぇい?﹂
玉座に座りうつらうつらしていたラクシェは生返事をする。
﹁結構膨大な量の魔力が必要なのよ。ワタシの分だけじゃ足りない
わ、アンタのも使う﹂
﹁でもウチそういうの出来ないよ?﹂
力天使ラクシェには魔法が使えない。
ラグラジルとアン・ミサの妹である以上、体内には姉達に匹敵する
魔力が流れているが、それを表出する方法を一つしか知らない。
﹃覚醒﹄
筋力と五感を魔力によって最大限に増幅させる能力。
﹁知ってるわよ。アンタはワタシの隣で﹃覚醒﹄してて、ワタシが
それを吸収しながら魔法陣に魔力を送るわ﹂
素っ気ないラグラジルの声に従って、ラクシェもまた魔法陣に足を
入れる。
西域の三姉妹が、極小の魔法陣に固まって立っていた。
その様子を、シャスラハールとフレアは固唾をのんで見守っている。
この儀式の成否が、里とシャロン達の運命を決する。
﹁始めるわ。では第一段階︱︱﹂
新たなページを捲り、ラグラジルは固まった。
一秒、二秒と時が経って、ようやく言葉が続く。
﹁まず⋮⋮服を脱ぎます﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
アン・ミサとラクシェが呆然と固まっている。
シャスラハールもまた、同じ思いだった。
956
﹁服を⋮⋮脱ぐ⋮⋮?﹂
フレアが眉間に皺を寄せながら問うと、ラグラジルは嘆息しながら
頷いた。
﹁書いてあるのよ⋮⋮魔力と最大限に同調する為に異物を排除する。
その為に全裸になる事ってね﹂
そう言って、自らの服に手を掛けた。
﹁お、お姉様?﹂
アン・ミサが慌てた声を放つ。
﹁良いからアンタも脱ぎなさいよ。儀式が始まらないでしょう﹂
冷たく切り捨てられた智天使は、恐る恐ると言った態でシャスラハ
ールに視線を送る。
﹁あ、はい。じゃあ僕は儀式が終わるまで外で︱︱﹂
動揺を浮かべながら黒肌の王子が頷いた時、
﹁それは駄目。この儀式には祭司︱︱観察者が最低二人は必要との
事だから、ご主人様とフレアちゃんは一瞬たりとも目を離さず儀式
を見続けていなきゃ駄目。もし二人ともの視線が同時に外れちゃっ
たら、その時点で儀式は強制的に終了させられるわ﹂
魔天使ラグラジルはつまらなそうにそう言って、上着とインナーを
脱ぎ捨て上半身を全て露わにした。
シャスラハールは思わず目を逸らしかけるが、魔天使の言葉を信じ
て、必死の思いで前を向き続けた。
﹁⋮⋮うぅ⋮⋮明るい場所で殿方に肌を晒すなどと⋮⋮﹂
﹁はうぅぅお姉さまぁ⋮⋮﹂
アン・ミサとラクシェも涙目で衣服を脱いで行き、一分も経った頃
には狭い魔法陣の中、全裸の天使三姉妹が身を寄せ合って立ってい
た。
モジモジと体を揺らすアン・ミサ、シャスラハールを睨みつけて来
るラクシェ、そして魔導書に没頭するラグラジル。
小柄なラクシェが両手を広げた分程度の円陣に全裸の天使達が犇め
きあっている。
957
﹁じゃあ次、陣にありったけの魔力を注ぎ込む事。魔力量が一定以
上を越えるとピーク時の能力にまで遡る事が出来る様ね﹂
そう言って、ラグラジルは右手を翳し、魔法陣に魔力を注いでいく。
﹁光った⋮⋮﹂
フレアが感嘆の呟きを零す。
天使達の足元に描かれた魔法陣が微かに光始め、変化の兆しを示し
た。
﹁ラクシェ﹂
﹁はーい﹂
全裸の状態でラクシェは﹃覚醒﹄を行った。
全身の血管を魔力が這い回り、幼い天使の肉体を強化する。
露わになっている平坦な胸にも、縦筋としか見えない陰唇にも、極
太に膨れ上がった血管がまるで触手の様に伸びていく。
﹁⋮⋮アンタ、一体どれだけ魔力溜め込んでるのよ﹂
末の妹の手を掴み、魔力を吸収していくラグラジルは汗を垂らしな
がら言った。
﹁えー。だってウチお姉さまたちみたいに魔力を使えないからどん
どん溜まってっちゃって。﹃覚醒﹄しても基本的には外に出ないも
ん﹂
ラクシェから供給される無尽蔵の魔力がラグラジルの手を伝って魔
法陣へと注ぎ込む。
﹁ラクシェ⋮⋮お姉様。どうか、わたくしに力を⋮⋮﹂
裸である事を忘れたかのように、アン・ミサは白い乳房の前で手を
合わせ、祈りの姿勢を取った。
﹁お姉様⋮⋮うんっ!﹂
ラクシェは姉の求めに感極まり、更に全身から魔力を絞り出してラ
グラジルへと供給する。
﹁ちょっ! いきなり⋮⋮やめなさ︱︱﹂
その時、魔法陣が放つ光の量が爆発的に増大した。
﹁眩しい⋮⋮っ﹂
958
﹁目をつぶっちゃダメだ、フレアさん﹂
人間達は光の爆発に負けない様に目を凝らした。
そして、
﹁なっ⋮⋮えっ?﹂
﹁ひやぁああああ﹂
﹁なぁわわわ﹂
天使達から甘い叫びが上がった。
彼女達の足元、魔法陣から極太の赤黒い触手が数本出現し、三人纏
めて絡め取ったからだ。
﹁うぁぷ⋮⋮苦しい⋮⋮﹂
ぎゅうぎゅうと締め上げる触手によって一括りにされ、身長の足り
ないラクシェは姉二人の胸肉に顔を押し潰される形になっている。
﹁ラグラジルっ! アン・ミサ⋮⋮﹂
シャスラハールが一歩近づこうとすると。
﹁⋮⋮駄目よ。祭司の役割は観察する事。儀式に直接手を出しては
駄目。近づいて来ないで⋮⋮第三段階は⋮⋮従えって書いてあった
わ⋮⋮﹂
触手に締め上げられながら、魔天使が苦痛の籠った叫びを上げた。
﹁大丈夫です⋮⋮シャスラハールさん。必ず魔力を取り戻して見せ
ますから﹂
智天使も額に汗を浮かべながら微笑んだ。
魔力で生み出された触手は天使三姉妹の肌を嘗め回していく。
﹁うぅぅ、ネチョネチョする⋮⋮﹂
ラクシェの言葉の通り、触手の表面には粘液が絶えず分泌され続け、
三人の肌をヌラヌラと這い回る。
﹁ひっあ﹂
智天使の悲鳴は、触手の変異によるものだった。
極太の一本綱の様だった触手が幾筋にも枝分かれし、天使達の手足
に絡みついていく。
﹁ちょ、動けない⋮⋮﹂
959
両の手首と足首、そして首に纏わりついた触手によって、三姉妹は
宙吊りにされた。
﹁殿下⋮⋮これは⋮⋮﹂
フレアが腰の剣に手を遣り、緊張を漲らせる。
﹁はい⋮⋮もしもの事が有れば、お願いします﹂
人間である二人には西域魔導の事はわからない。
でも、今の状態の主導権が術者であるラグラジルでは無く触手の方
にある事だけは、間違い様の無い事実だった。
﹁いやっ⋮⋮そんなっ、広げないでくださいっ!﹂
アン・ミサの恥じらう声が響く。
彼女の足は触手により強制的に広げられ、その可憐な陰唇をぷっく
りと露出させられていた。
﹁くっ⋮⋮﹂
悲鳴に気圧され目を逸らしかけたシャスラハールに、
﹁逸らさないでっ! 良いから儀式に集中して頂戴! 予想外に魔
力を送っちゃったから少し予定とは違ってるけど⋮⋮このままやり
切るしかないわ﹂
自身もまた触手によって望まぬ開脚を強いられながら、ラグラジル
が叫んだ。
しっかりと、正面を睨みつける。
そこには、
﹁うぅ⋮⋮見るなぁ⋮⋮﹂
﹁ぁう⋮⋮﹂
﹁そう、そのまま⋮⋮何が有っても全部見て、それが祭司の務め﹂
限界ギリギリまで足を広げ、陰部を晒す西域の象徴である三姉妹の
姿が有った。
﹁⋮⋮はい﹂
頷いたシャスラハールに見せつけるかのように、分岐した触手の一
部がそれぞれの陰唇に這い伸びて、粘液で光る先端を押し付けてい
く。
960
器用に動き回り、大陰唇を捲って入り口をこじ開け、膣壁を露出さ
せる。
﹁⋮⋮んくっ﹂
シャスラハールの喉が鳴る。
ラグラジルとラクシェについては一度性交の経験があるが、その時
には別の意思の下行為に及んでいた為、彼女達の体を性的な目で見
た事は無かった。
ラグラジルの病的に白い肌に浮かぶ赤い秘肉も、ラクシェの幼い蕾
の様な陰唇も、陽の光の下じっくりと見た事は無かった。
触手に入り口を弄ばれ、挿入に対する恐怖を煽られている様子の二
人は、気丈に振舞っているが、瞳に浮かぶのは恐れの色。
ラクシェの処女はシャスラハールが奪った。
そしてそれ以降は彼女と体を交わしてはいない。
つまり彼女にとって二度目の性交とも言える物が、すぐ傍に触手と
いう形で迫って来ているのだ。
ラグラジルにとっても意味は同じ。
シャスラハールが誓約を刻んだ時、彼女は既に処女では無かった。
だが、魔天使ラグラジルの口から語られる断片的な情報から判断す
るに、彼女が処女を失ったのはその長い生の中でたった一年前の話。
体験数的には姉妹に差は無いだろう。
そして何より、アン・ミサ。
﹁ひっ⋮⋮あぁ﹂
昨日、望まぬ形での破瓜を迎えたばかりの彼女は、羞恥に身を震わ
せる。
ラグラジルのどこか荒涼とした白さとは違った、豊かな白。
智天使アン・ミサの肌は滑らかな雪の平野の様であった。
そしてその中心に咲いた桃色の花弁が、触手によって誇示される。
分岐した赤黒の触手は智天使の乳丘を絡め取り、絞る動作で強調す
る。
﹁あっ⋮⋮う、うぅ⋮⋮﹂
961
左右の乳房を揉みしだかれ、その都度形を柔らかに変えて行く彼女
の乳肉をシャスラハールは祭司として見続ける。
否、祭司で無かったとしても、目の前でこの光景を展開されてしま
っては、瞼を降ろすような事は出来なかったであろう。
奪われたように、シャスラハールの視線が智天使の胸にくぎ付けに
なっている間に、触手は動いた。
﹁ひっ! 降ろせ! 降ろせよ!﹂
暴れるラクシェの体を宙づりにしたまま、シャスラハールの顔のす
ぐ近くにまで運んで来たのだ。
﹁えっ⋮⋮﹂
﹁くぅぅぅぅ! 見るな⋮⋮見るのは仕方ないけど何も感じないで
!﹂
ラクシェの小さな顔をシャスラハールへと突き付け、視線と視線を
合わせさせる。
それはまるで、儀式を管理する祭司に向けた挨拶の様な行いだった。
この儀式の主役は祭司では無い。
そして、天使達でも無かった。
ラクシェとラグラジルの魔力によって魔法陣から召喚されたこの触
手生物こそが、儀式の主役。
主役から祭司へ向けて、儀式で使う道具の紹介がなされる。
触手は力天使ラクシェの体を簡単に裏返し、その秘部を祭司へと見
せつける。
眼前、鼻息がかかる距離に置かれたラクシェの陰唇。
﹁く、くすぐったいだろ! モゴッ︱︱﹂
ラクシェが騒ぎ、体を揺すって抗議すると、触手は分岐した一本を
力天使の口に押し込み黙らせた。
そして、祭司の眼前でその陰唇に向けて伸びた二本を操り、膣内を
強制的に露わにする。
﹁んっー! んんっ!﹂
口に分岐したとは言え充分太い触手を突っ込まれているラクシェは
962
思う様に言葉を紡げない。
シャスラハールの視界一杯に、左右に限界まで引っ張られたラクシ
ェの膣口が広がっている。
これから儀式でココを使うのだ、と示すように。
そして少しラクシェの体をズラし、今度は肛門を正面に持ってくる。
﹁ふむっ! むぐぐぐぐ!﹂
懸命に抵抗するラクシェだが、彼女の全開魔力を受け取った触手に
対して突破は出来ない。
力天使の肛門は、シャスラハールの口元に運ばれた。
﹁なっ⋮⋮何を⋮⋮﹂
突き付けられた肛門に戸惑いを浮かべたシャスラハールの口が開い
た瞬間、更に分岐した触手が彼の口内へと侵入し、舌を絡め取った。
﹁あぐっ!﹂
﹁殿下っ!﹂
舌を触手に引かれたシャスラハールに向けて、隣にいたフレアが近
づこうとする。
そこに、
﹁フレアちゃん! 絶対に手を出さないで。何が有っても祭司は見
守るだけ。儀式の過程と結果を観測するだけ﹂
触手に絡め取られたままのラグラジルが言葉を放った。
﹁くっ⋮⋮﹂
フレアは足を止める。
その視線の先、シャスラハールの舌はラクシェの肛門へと導かれて
いた。
﹁ふぎゅっ? んぐぐぐぐぐ﹂
肛門へ未知の感触を与えられ、ラクシェは全身を反らして反応する。
シャスラハールの舌は本人の望まないまま幼い天使の肛門を舐め上
げ、犯していく。
キスをして、啄む様に。
唾液を塗り、沁み込ませる様に。
963
どれぐらい経ったのか当人達にはわからない。
だが一瞬では無かった時間その行為を強制され、ようやく解放され
た。
﹁ごほっ! げぇ⋮⋮ああああああもう! 何するのよ! 変態!﹂
触手を口から抜かれ、目元に涙を浮かべながらラクシェは元いた位
置にまで戻される。
﹁⋮⋮ごめん﹂
視線を逸らせないまま、シャスラハールは舌に残った味と感触に戸
惑いを抱く。
触手は彼に事態を整理するだけの時間を与えなかった。
﹁次は⋮⋮ワタシみたいね﹂
暴虐な主役に運ばれてきたのは魔天使ラグラジル。
四肢を拘束された状態で、祭司の前に連れて来られた二つ目の儀式
の道具は、気丈な笑みを浮かべていた。
﹁良いかしら? ご主人さま。絶対に抵抗しないで。この触手がや
ろうとした事には素直に従って頂戴。ワタシは受け入れる。この儀
式を成功させるためにね﹂
目と目を合わせる姿勢で固定された魔天使の言葉に、王子は頷いた。
﹁⋮⋮わかった﹂
その次の瞬間、彼の視界は白一色で埋まった。
﹁はんっ⋮⋮ん﹂
魔天使の双乳が、柔らかく少年の顔を打ち据えたのだ。
触手はシャスラハールの顔にラグラジルの乳房を擦り付けて行く。
硬く尖った二つの乳首が頬を撫で、瞼を捲りながら顔全体を刺激し
てくる。
触手の動かす速度はどんどん上昇し、顔と乳房は摩擦と興奮で熱を
生み出していく。
くにゅくにゅと柔らかく形を変えて行く乳房を、シャスラハールは
祭司として至近距離で目を見開き続ける。
女体の甘い匂いを顔全体に浴びせられ、昏倒しそうな程に興奮が昂
964
ったところで、触手の動きが止まった。
シャスラハールの口元に、ピンッと立ったラグラジルの乳首が固定
される。
﹁⋮⋮ラグラ⋮⋮ジル⋮⋮﹂
王子は、求めてしまった。
匂いと感触、そのすべてがシャスラハールの心を揺さぶり、平常心
を奪い去った。
﹁⋮⋮良いわ⋮⋮舐めて。優しく⋮⋮﹂
肌と肌との接触で、相手にも興奮が伝わっていないわけはない。
ラグラジルとて、乳首を他人の肌に擦り付け続けて感じないわけは
無かった。
ゆっくりとシャスラハールの口が動き、魔天使の乳首にしゃぶりつ
いた。
﹁あんっ! んっ⋮⋮強い﹂
チュルチュルと舐め、唇で吸い上げる。
例え何も出ないとわかっていても、そうせざるを得なかった。
﹁くっふ⋮⋮あぁ!﹂
乳首を舐めしゃぶられるラグラジルの股間には、触手が伸びて来る。
入り口周辺を撫でまわり、犯すのではなく辱める様に動いていく。
そして、
﹁あっ⋮⋮﹂
ラグラジルの体が、乳首がシャスラハールから離れて行く。
乳首の先端と、舌先の間に涎の橋が架かり、すぐに落ちていった。
王子の顔にも魔天使の顔にも、興奮の残影がある。
その間に割って入って来たのは、第三の道具。
智天使アン・ミサの裸だった。
﹁いや⋮⋮そんな⋮⋮近くで⋮⋮﹂
四肢を固定されたアン・ミサは恥じらいで全身を染め上げ、細かく
震えている。
触手はアン・ミサの体を床に近い位置へと運び、シャスラハールの
965
股間に正対させる。
﹁や、やめっ!﹂
シャスラハールの制止を触手は聞き入れない。
細かく分岐した枝を使い、器用にズボンを脱がしていく。
露わになる王子の男根。
ラクシェの肛門に接吻し、ラグラジルの乳首を味わった事で、興奮
は最高潮を迎えていた。
その証拠が、天へとそそり立つ彼の肉棒。
アン・ミサは眼前に引っ張り出されたそれから必死に目を逸らす。
だが、この儀式の主役は道具の反抗を許さなかった。
喉を、髪を、顎を掴み、肉棒へと顔を向かせる。
﹁いや⋮⋮いやです⋮⋮こんなの⋮⋮うぐっ﹂
涙を零しながら抵抗するアン・ミサの口をこじ開け、シャスラハー
ルの男根へと押し付けて行く。
﹁くっ⋮⋮駄目だ! やっぱりこんな︱︱﹂
近づいてくる智天使の口から逃れようと下がりかけたシャスラハー
ルの体に、無数の触手が絡みつき、その動きを奪った。
﹁殿下っ!﹂
今度こそ、フレアは動こうとした。
いくら儀式とは言え、主君を危険に晒すわけにはいけない。
だが︱︱
﹁うあっ! こっちにも⋮⋮!﹂
踏み込んだフレアの体にも触手は無数に絡みついてきた。
全身に力を籠め、振りほどこうとする騎士に向けて、
﹁無駄よ⋮⋮ラクシェの溜めてた魔力を全開で注いでしまったのだ
もの。誰にもこれの拘束は解けないわ﹂
魔天使の自嘲気味の声。
そして︱︱
﹁んぐっ! んんんん﹂
智天使の美しい唇が、王子の肉棒を包み込んだ。
966
﹁アン・ミサ⋮⋮っ!﹂
動きを封じられたシャスラハールには、声を出す事しかできない。
代わりに、触手が両者の体を玩具の様に操った。
﹁んごぁ! あぐぅぅぅぅ﹂
西域の管理者であった才女は、美貌を歪めながら肉棒を喉へと押し
込まれる。
王子がいくら叫ぼうとも、触手は彼の腰を押し続けた。
そして、否が応にも射精の時はやって来る。
﹁アン・ミサ⋮⋮ごめん、ごめんなさい!﹂
三天使から与えられ続けて来た快感に堪え切れず、迸ったシャスラ
ハールの精液はアン・ミサの喉奥に向けて発射される。
﹁んんっ! むんんんん!﹂
深く喉を貫かれたままの彼女にとってみれば、口内をすっ飛ばして
胃に向けて直接精液を放たれた事になる。
尋常では無い感覚に白目を剥きながら、アン・ミサの体は触手によ
って引っ張り上げられた。
﹁ごはっ⋮⋮﹂
肉棒が引き抜かれた際、白濁液が彼女の喉から逆流し、床を汚した。
﹁お姉さまっ! よくも⋮⋮お前ぇぇぇ!﹂
それを見てラクシェはシャスラハールを睨みつける。
﹁ごめん⋮⋮ラクシェも⋮⋮ラグラジルも﹂
シャスラハールは額に皺を刻みながら、天使達へと謝罪する。
﹁いいえ。ご主人様は悪く無いわ。この儀式はワタシ達には必要な
物ですもの。確実に成功させる為にはこの触手に逆らう事は出来な
いわ﹂
触手に吊り下げられた状態で魔天使が言い、妹を窘めた。
﹁⋮⋮はぃ⋮⋮わかっています⋮⋮わかっていますから⋮⋮シャス
ラハールさん。お気に為さらないで下さい⋮⋮﹂
気絶状態から回復したアン・ミサの弱弱しい声。
その言葉を聞いて、触手は儀式を次の段階へと進めた。
967
﹁あっ﹂
﹁あんっ﹂
﹁んっ!﹂
最初の様に天使達を一括りに密着させ拘束し、宙に浮かべる。
そして、分岐した枝を戻し、再び一塊の巨大な赤と黒の凶器の姿を
取り戻して、三つ並べた彼女達の膣口へとあてがった。
﹁そんなの⋮⋮入るわけないじゃない⋮⋮﹂
魔天使ラグラジルは冷や汗を流す。
﹁いやっ⋮⋮その形はいやです⋮⋮﹂
肉竿の形状をとっていく触手へと智天使アン・ミサは怯えを示す。
﹁やめろっ! お姉様には手を出さないで!﹂
力天使ラクシェは今なお触手を引き千切ろうと力を籠める。
触手は狙いを定めて動いた。
最初は、桜色のアン・ミサの膣。
﹁ぁんひっ!﹂
子供の頭ほどの触手チンポが智天使の秘所を貫き、ゴリゴリと抉っ
ていく。
﹁お姉さまっ!﹂
﹁あ⋮⋮んぎぃ⋮⋮いたぃ⋮⋮﹂
体内から裏返しにされるような痛みに、智天使は悲鳴を上げる。
ジュボジュボと容赦の無い抽送。
その過程で、アン・ミサの粘膜に触手の粘液が溶けこんでいく。
﹁あっ⋮⋮んっ⋮⋮ふぁぁ⋮⋮い、いたくなくなって⋮⋮﹂
媚薬。
触手の表面から分泌されていた粘液には、雌を狂わせる要素が盛り
込まれていた。
これまでも肌を這い回る触手によって塗り込まれて来ていたが、子
宮と肉襞に直接それを沁み込まされてしまっては、如何に西域の管
理者と呼ばれた天使で有ったとしても、雌としての本能を呼び起こ
されてしまう。
968
﹁あひっ⋮⋮良い、良いですぅ⋮⋮、気持ち⋮⋮良い﹂
子供の頭ほどの触手竿を受け入れながら、アン・ミサが嬌声を上げ
始めた。
﹁お姉さまっ!﹂
ラクシェの悲痛な叫び。
その叫びに反応してか、触手はアン・ミサの膣口から己を引き抜き、
幼く小さいラクシェの陰唇へとあてがった。
﹁あぁ⋮⋮ラクシェ⋮⋮触手チンポをわたくしに返してください⋮
⋮﹂
快楽の嵐を止められ、アン・ミサが不満を口にする。
﹁そんな⋮⋮お姉さま⋮⋮んぎっ!﹂
ラクシェの膣を、触手が抉じ開けた。
﹁うがっ⋮⋮ぐっ⋮⋮おおきひぃ⋮⋮﹂
そのまま容赦の無い責め苦。
間断無く続く触手の蹂躙により、ラクシェの瞳には涙が浮かび、歯
が鳴っている。
狭いラクシェの膣内は極太の触手が入り込む空間など殆ど無い。
挿れてしまえばほぼ全てを貫いた様なもの。
ズチュズチュと亀頭の先だけでラクシェを味わって行くと。
﹁ぇひっ⋮⋮なんだか⋮⋮ポカポカ⋮⋮する。マンコのところ⋮⋮
ジンジンって⋮⋮温かい⋮⋮﹂
力天使ラクシェもまた、触手が放つ媚粘液の虜となった。
元々は彼女が溜め込んできた数十年分の魔力を放出した結果の触手
だ。
全てにおいて強力で無いわけが無い。
﹁いいっ! ウチこれ好き! お姉さまたちにはあげないもんっ!
あぁ⋮⋮抜かないで⋮⋮﹂
がっぽりとラクシェの肉穴を晒しながら触手が引き抜かれる。
そして狙う先は︱︱
﹁まぁ、そうよね⋮⋮﹂
969
魔天使ラグラジル。
拘束された彼女の膣に、彼女の妹達を貫いてきた触手が狙いを定め
てくる。
﹁ねぇご主人さま﹂
ラグラジルは声をかける。
シャスラハールへと向けて。
﹁⋮⋮何?﹂
今もその体を拘束されているシャスラハール。
﹁これから⋮⋮ワタシもこの子達みたいに痴れ狂うと思うわ。どう
足掻いても、ラクシェの魔力で強化された触手相手に勝てる気がし
ないもの。だけどね。今この子達がアンアンヒイヒイ言ってるのを
見て、その姿は駄目だと思った。肉親として、他人に晒して良い姿
じゃないわ。だから︱︱﹂
その言葉が終わる前に、ラグラジルの膣は触手チンポに貫かれた。
﹁あぁお姉さまずるいです⋮⋮わたくしもオマンコに触手チンポが
欲しい⋮⋮﹂
﹁返してよーウチの触手チンポーっ!﹂
冷や汗を流し、一括りに拘束された妹達の不満を聞き流しながら、
﹁くはっ⋮⋮。ねぇ。ワタシが一番淫乱になってあげる。この子達
よりも更に、激しく乱れてあげる。ご主人様はよく見ていて、この
場所で起きた事を。触手に犯されて誰よりも喜んで泣き喚いて懇願
していたのは、アン・ミサでもラクシェでもなく、このワタシだっ
ていう事をね⋮⋮んぎひぃぃぃぃぃぃ﹂
魔天使の膣を、容赦ない抽送が支配する。
媚粘液を肉襞の一つ一つに沁み込ませていく動き。
子宮を抉り、ラグラジルの腹を押し潰していく。
﹁あひっ! 良い! 良いの! このチンポ凄く良い!﹂
ラグラジルは挿入からものの数秒で嬌声を上げ始め、淫らに腰を振
り始めた。
陰部からは止めどなく愛液を零し、その美貌は無残に狂っていた。
970
﹁ラグラジル⋮⋮﹂
フレアがその表情に見たのは、姉としての務め。
儀式の祭司であるシャスラハールには、全てを見つめる義務がある。
アン・ミサやラクシェが痴れ狂う姿を眺め続ける義務が。
犯される恐怖と屈辱は、フレアもよく知っている。
そこから更に先、もっと怖い物が存在する事も。
それは屈服。
相手に服従し、喜びながら肉棒をしゃぶり、挿入を懇願する哀れな
自分を想像すると一歩も前に進めなくなってしまう。
ラグラジルは守ろうとしたのだ。
妹達の尊厳を。
強化された媚粘液という本来有りえない物に惑わされ、人格そのも
のを喪失したかのように触手を求める妹達の姿をシャスラハールか
ら隠す為に、自分が誰よりも痴れ狂おうとしている。
﹁あんひっ! 良いわっ! もっと、もっと頂戴! 魔天使オマン
コをズボズボって⋮⋮お願いっ! お願い! ワタシだけをもっと
犯してっ!﹂
フレアの記憶にも、姉ステアが妹である自分を庇う為に矢面に立っ
た場面はいくらでも有った。
姉妹で遊んでいた際に誤って隣家の窓を割ってしまい、両親に詰問
された時、姉は自分の過失を多く言い、フレアを庇って拳骨を喰ら
っていた。
これは、それと同じ事だ。
﹁もっと、こっちにも頂戴! こっちの穴にも! おごっ! うご
おおおおお。捲れる⋮⋮前後で挟まれて捲れちゃうぅぅ﹂
分岐した触手がアン・ミサを狙おうとした瞬間、ラグラジルが尻を
振って肛門でおねだりをし、そこに触手を飲み込んだ。
﹁ぁん⋮⋮お姉さま酷いです。わたくしもズボズボしてほしいのに
⋮⋮﹂
隣で正気を失っている智天使の悲しげな声。
971
そして更に、分岐した触手はラクシェの膣へと向けて伸びて行く。
﹁口で、口でしゃぶるわ! 体中の穴を使って頂戴! 全部で貴方
のお汁が飲みたいの!﹂
膣と肛門を容赦ない動きで犯されながら、ラグラジルが叫んだ。
触手はその求めに応じ、進路を変えて魔天使の口腔へと己を突き入
れた。
﹁んごぉ! んぐぼぼぼぼ﹂
﹁あーもう! もうちょっとで犯してもらえたのにぃ﹂
頬を上気させ、瞳を回しながらのラクシェの声。
拘束されているだけの妹達に対して、ラグラジルは三つの穴で極太
の触手を迎えていた。
﹁お姉さま酷いですよ⋮⋮えいえい﹂
﹁いっつもそうやってウチにいじわるするんだから!﹂
三人は今一塊に拘束されている。
手を伸ばせば届くのだ。
﹁あんぎぃぃぃぃ﹂
アン・ミサはぷっくり膨らんだ姉の陰核に手を遣り、指で弾いてく
る。
ラクシェは空いている姉の双乳を揉みしだき、乳首を握りつぶして
くる。
三本の触手と二人の妹によってラグラジルは責められ続ける。
股間からは媚粘液によって狂った量の愛液が零れ落ち、白目を剥い
た状態で喘いでいる。
そのラグラジルの努力を嘲笑うかのように、触手は更に分岐する。
﹁んぐっ! もぐぅぅぅぅぅ﹂
膣にも肛門にも口にも触手を入れている以上、ラグラジルには空い
ている穴は無い。
新たに生まれた六つの触手は。
﹁わーこれでお姉様と一緒ですね。わたくしとっても幸せですぅぅ
ぅぅぅ﹂
972
﹁来て来て! 早く早くぅぅぅぅぅぅ﹂
アン・ミサとラクシェを、姉と同様の姿へと堕としていった。
そこから先、しばらくは延々と九本の触手による天使三姉妹への貪
る様な凌辱が続く。
穴を入れ替えつつ、それぞれの触手が姉妹の間を移動する。
ラグラジルの肛門を犯していた触手がアン・ミサの膣に突き入れら
れ、アン・ミサの肛門を犯していた触手は次にラクシェの口へと収
まった。
激しい凌辱が続き、儀式開始から二刻が経とうとした時、
触手の根元が、大きく膨らんだ。
射精の前兆。
儀式の主役である触手が終わりをつげ、道具達に注ぐ﹃リセット﹄
の魔力。
それが、九本の管を伝って三姉妹の九つの穴に一斉に注がれた。
﹁んぼおおおおお﹂
﹁あむううううう﹂
﹁ひぐううううう﹂
紫色の魔力液を迸らせ、触手は満足したように消えていった。
後に残されたのは、ポッカリと膣口と肛門が空いた状態で床の上に
投げ出された、穴と言う穴から紫色の汚液を垂れ流している西域の
象徴︱︱天使三姉妹の無残な姿だった。
﹁もう⋮⋮良いですよね⋮⋮﹂
シャスラハールは唇を噛み、進む。
彼の体を拘束していた触手も、当然消えている。
興奮でガチガチに固まった肉棒は収まらない。
それをズボンに収納する事すら忘れて、シャスラハールはラグラジ
ルの体に触れる。
手を回し、抱き起す。
その柔らかな感触と、未だに媚粘液に狂わされている蕩けた表情が、
彼の劣情を激しく掻き毟る。
973
今なら、ラグラジルでも、アン・ミサでも、ラクシェでも好きに出
来る。
むしろ喜んで肉棒を受け入れてくれるだろう。
だが︱︱
﹁フレアさん! 三人を運びましょう! 休ませないと!﹂
王子が選んだ選択肢は、非道な物では無かった。
﹃チッ⋮⋮﹄
フレアの耳に、虚空から何者かの舌打ちが聞こえたような気がした。
外ではすっかり夕陽が落ちていた。
宮殿を囲んでから二日目が終わり、もうすぐ三日目の朝を迎える。
鬼達は夕方クスタンビアに指示された仕事をやり終えると特にやる
事も無く、食事に制限が掛かっている為そちらの楽しみも奪われた
結果、夜はずっとオナホを犯し続けて来た。
﹃シャロン﹄は最早絶望的なまでに型取りされてしまった自分の膣
口を見て心を痛めながら、鬼の右手に腰を握られ、その肉棒へと無
遠慮に押し付けられていく。
﹁やめっ⋮⋮やめなさ⋮⋮い。後悔⋮⋮しますよ⋮⋮貴方の、命で
⋮⋮﹂
ブチュブチュと音が鳴るのは、﹃シャロン﹄の膣内に大量の鬼の精
液が残留しているからだ。
﹁はぁ∼⋮⋮腹減ったなぁ⋮⋮。今日の昼まで飯抜きかよ⋮⋮﹂
鬼の愚痴に、
﹁まぁ仕方ねぇよ。昼には腹いっぱい食えるさ⋮⋮でもなぁ⋮⋮や
っぱり惜しいよなぁ﹂
隣で﹃ステア﹄を使用していた鬼が応じた。
﹁今は⋮⋮好きにするが良い⋮⋮絶対に、わたし達はここで終わら
ん⋮⋮﹂
ズチュズチュと鳴る音の合間に人間の声が聞こえるが、鬼達は気に
974
した風も無い。
鬼達は視線を向ける。
宮殿前広場にはいくつもの机が並べられていた。
机の上には日除けの幕が張られ、西域文字で数字が書かれた札が幾
つも並べられていた。
そして一番目立つところに、看板が立てかけられている。
﹃シャロン﹄や﹃ステア﹄達オナホには読めないが、鬼達が書いた
西域文字での看板。
そこには、
﹃オナホ即売会﹄
と書かれていた。
﹁飯の為だ。こいつら売っ払って肉とか食いてぇなぁ⋮⋮酒もある
と良いけど﹂
﹁結構な部族に声かけたんだろう? だったら一つくらい酒を持っ
てくる部族も居るさ﹂
鬼達の会話に、オナホ達が戸惑いの声を放つ。
﹁私たちを⋮⋮?﹂
﹁売る⋮⋮だと?﹂
その時、遠く四城門のところで見張りを務めていた鬼が、彼ら特有
の野蛮な大声を上げた。
その声は、宮殿前広場にまでしっかりと届いて来た。
﹁おおおおい! 来たぞ! 各部族の商人連中だ! 少なく見ても
五十組はいる! 今日は大商いだああああ!﹂
轟いたその声に、天幕から親鬼クスタンビアが顔を出す。
﹁うるさっ⋮⋮。あぁもう、目が醒めちゃったわ⋮⋮。全員、準備
に入りなさい。﹃オナホ即売会﹄をこれから一刻後に開始します。
オナホをしっかりと洗って机に並べ、本部が昨日決めて置いた値札
をオナホに張り付けなさい。向こう一か月はここに居座れるように、
目標は五百個ね。オナホ五百個を売り捌くわよ!﹂
今現在、鬼達の手には公娼オナホと羽根無しオナホを合わせて七百
975
個のオナホがある。
﹁うげぇ⋮⋮二百個しか残らないのかよ⋮⋮﹂
﹁当たり前だけど良いのから売れて行くしなぁ⋮⋮こいつともお別
れだな﹂
そう言って、﹃ステア﹄を犯す鬼は腰の動きを速めた。
﹁待って下さい⋮⋮売るって⋮⋮馬鹿なっ!﹂
﹁お前達、そんな事をして許されると思っているのかんぐぃ!﹂
膣内出しの衝撃に﹃ステア﹄が顔を歪める。
鬼はそれを気にする様子も無く抱えて立ち上がり、﹃シャロン﹄を
持ったもう一体と共に歩き出した。
﹁さーてクスタンビア様に怒られるのも怖いし、さっさと洗って準
備をするか﹂
﹁あぁ、昼飯の為にな﹂
結界が解けるまで後一日が残っているこの日、鬼達の﹃オナホ即売
会﹄は開催される。
976
儀式魔術︵後書き︶
完結予定を以前90話程度にしていましたが、100話ペースに変
更します。
977
オナホ即売会︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
978
オナホ即売会
触手による凄惨な儀式魔術を終えて、シャスラハールとフレアは天
使達をベッドへ運び、その世話をした。
儀式で魔力と体力を共に極限まで吸い上げられた彼女達は疲弊し、
その夜が明ける頃まで昏々と眠り続けていた。
最初に目覚めたのはラクシェ。
始めはボーっとしていたが、シャスラハールの顔を見ると頬を赤ら
め、烈火の如く怒りだした。
シャスラハールとフレアは何とか彼女を宥めようとしたが、暴れ回
る彼女は言う事を聞かない。
﹃誓約﹄の主であるシャスラハールの言葉を受け入れない。
やがてその怒声につられてアン・ミサも目を覚まし、ラクシェを落
ち着かせる事に手を貸した。
﹁ラクシェ。あれは儀式だったのです⋮⋮。この通り、わたくしの
魔力はもう元通りですよ﹂
アン・ミサは笑顔で言い、背中に翼を展開してその周囲に癒しのオ
ーラを放った。
シャスラハールとフレアの夜を徹した看護の疲労も、ラクシェの消
耗すらも、その波動に掻き消される。
智天使アン・ミサが放つ癒しの魔術。
﹁お姉さま⋮⋮翼が、白い⋮⋮﹂
惚けた様なラクシェの声。
その言葉通り、異端審問官により汚されたアン・ミサの翼は、濡れ
た白に染め直されていた。
﹁⋮⋮リセット、出来たんですね。ラクシェの送ってくれた魔力が
強かったから、儀式の効果がこの翼にまで及んだのでしょう。あり
がとう、ラクシェ﹂
979
そう言って、妹を抱きしめその背を撫でる。
﹁ラクシェ、貴女の翼を見せて下さい﹂
姉の言葉に頷きを返し、ラクシェが背中に魔力を巡らせる。
寝る時など、普段の生活に置いて邪魔になる際は格納されている天
使の翼が出現する。
﹁わっ⋮⋮白い。ウチのも⋮⋮白いよ!﹂
ラクシェの背中に現れた翼は白く輝いていた。
その翼を見て、フレアは首を捻った。
﹁四枚⋮⋮?﹂
力天使ラクシェが人間達に立ちはだかった際、その背中には六枚の
光翼が輝いていた。
しかし今、ラクシェの背中を飾るのは四つの羽ばたき。
﹁お姉様は、まだお疲れの様ですね﹂
アン・ミサは隣で眠るラグラジルに目を遣り、そっと慈しむような
目を浮かべた。
そしてシャスラハールへと向き直り。
﹁お手を⋮⋮﹂
そっと智天使の掌から魔力が放たれる。
魔力は塊となり、シャスラハールの失われた右腕の根元へと向かう。
そして、
切り離された細胞が甦り、骨が生え、血管が伸び、肉が固まり、皮
膚で包まれた。
﹁腕が⋮⋮ありがとうございます、アン・ミサ﹂
取り戻した腕を呆然と眺め、シャスラハールは礼を口にする。
﹁いいえ。貴方はマリューゾワ達と同じ、わたくしの客人です。こ
れから先、貴方とわたくし達が手を取り合って生きて行く為に、そ
の腕は必要でしょうから﹂
ほんのりと笑み、アン・ミサは言った。
シャスラハールは右手の動きを確かめながら、外の景色を見る。
闇色の結界で覆われた空。
980
﹁⋮⋮何よりもまず、この危機を乗り越えないと﹂
その言葉に、
﹁大丈夫です。わたくしの魔法とラクシェの力が有れば、常勝を謳
われたクスタンビアとて、この地で勝利は掴めません。貴方のお仲
間も、マリューゾワ達も、そしてこの里に住まう全ての者達も、助
け出しましょう﹂
西域の管理者として言葉が紡がれた。
﹁はい⋮⋮! 僕とフレアさんも戦場に立ちます。混乱によって生
まれる犠牲が一人でも少なくなるように﹂
シャスラハールは頷いた。
そして完全なる闇で覆われた向こう側に思いを馳せる。
﹁皆⋮⋮無事でいて⋮⋮﹂
そう呟くシャスラハールの右手をアン・ミサが握り、左手はフレア
が包んだ。
それを見てラクシェは不満そうな顔を浮かべながら姉に抱き着く。
その隣、
未だベッドに臥すラグラジルの顔に薄い笑みが浮かんでいる事には、
誰も気づけなかった。
晴れ晴れとした冬の陽気が、オナホール達の挿入口をくっきりと照
らし出す。
﹁おぉっ! こいつは良いなぁ⋮⋮。胸もでかいし、マンコも良い
位置についてる﹂
オナホール﹃ヴェナ﹄の体を無遠慮に触りながら、猫顔をした魔物
の商人が言う。
﹁おっ! お客さん良い目をしてなさる。そいつぁ人間族の中でも
一際イキの良いオナホでねぇ。まぁ他のに比べれば4,5年分熟れ
てるが、その分チンポにねっとり絡みつくマン肉の具合の良さと言
ったらねぇ⋮⋮﹂
981
額に鉢巻を巻いた鬼がニコニコ笑顔で商人へ語り掛ける。
二人の立ち位置は、﹃ヴェナ﹄を挟んで向かい合う関係だ。
﹃オナホ即売会﹄
幾つかのシマに分けて机を並べ、そこにジャンルで分けたオナホ達
を並べて客に自由に見て貰いながら商売をする。
オナホ達の体には鬼が作った値札が貼られ、商人たちはその値段に
も目を光らせている。
﹁んー⋮⋮でも、中型成獣三頭分の肉と酒が樽一つか⋮⋮ちょっと
割高じゃないかね?﹂
値札に記されているのは通貨単位では無く、商人たちが持ち寄った
目録にも記載されている西域で大体どの種族も欲しがるであろう肉
や酒、穀類や魚類、布や武器等が書かれていた。
﹁だと思うでしょ? でもね、変わっちゃうんだなーこれが、一回
コレにチンポ入れちゃったらわかるんだよなー。このオナホにはそ
の価値が有るんだって事がさ﹂
鬼は景気の良い笑顔でそう言って、﹃ヴェナ﹄指し示す。
﹁どうだい、試しに一回挿入してみちゃ? 商品を汚すのは無しだ
から射精は勘弁な。使った後は隣に置いてある布巾でざっと拭って
くれれば構わないから﹂
そう言われ、商人は下品な仕草で肩を落とし、仕方がないと言った
表情で己の肉棒を取り出した。
﹁お前達⋮⋮黙って聞いていればいったいわたくしを何だと⋮⋮!﹂
﹃ヴェナ﹄は剛剣を思わせる視線で商人を睨みつけるが、
﹁ほらな? イキが良いだろう? まだまだチンポぶっこむ度にギ
ャンギャン音が鳴るから。長く使えると思うぜ﹂
それすらも商品アピールに使用されてしまった。
﹁それじゃ、お言葉に甘えて⋮⋮﹂
猫商人のチンポが遠慮なく﹃ヴェナ﹄へと挿入される。
﹁くっ! 聖騎士であるわたくしを⋮⋮⋮⋮﹂
言葉は弱く、消えて行く。
982
既にオナホ生活は三日目を迎えている。
日がな一日鬼達のチンポをぶち込まれ、マンコが空いている時間の
方が少ない様な生活だった。
﹃ヴェナ﹄は愕然とする。
鬼チンポに慣れてしまった膣口は、殆ど抵抗をしないまま猫商人の
粗末な代物を飲み込んでしまったからだ。
﹁おっ、入り口は少し緩いが、中は凄いじゃないか⋮⋮ウネウネと
チンポに肉が絡みついてきやがる⋮⋮﹂
猫商人は驚きの声を上げながら、ピストンの動きを速めて行く。
﹁止めなさい⋮⋮やめて⋮⋮わたくしはオナホなんかじゃない⋮⋮
聖騎士⋮⋮﹂
﹁確かに⋮⋮このオナホは良いな⋮⋮高い買い物だが⋮⋮うぅむ⋮
⋮﹂
腰を動かしながら悩んだ声を放つ商人に、
﹁おぉっと。お客さん、夢中になっちゃうのは分かるんだが、商品
を汚されちゃ困るので、そこでストップだ。アンタそろそろ出そう
って顔してるぜ?﹂
売り子役の鬼が制止を掛けた。
その言葉に、猫商人は苦渋の表情を浮かべた。
﹁こ、こんなに具合の良いマンコを使っておいて膣内出し無しはキ
ツイな⋮⋮えぇい⋮⋮買おう。鹿肉三頭分と葡萄酒だ。後で積荷か
ら渡す﹂
自制心を振り切り止まらぬ腰の動きに心折れ、商人は手にした目録
を差し出し、そこに記載されている交易可能な物品を告げた。
﹁はい﹃ヴェナ﹄お買い上げぇ! さぁさ、他の皆さんも早くしな
いと次々売れちゃうよー。オナホには数の限りがあるからねぇ欲し
かったらさくっと手を付けちゃった方が良いよー。あんまり競合す
るとオークションになっちゃうから、そうしたら額がどんどん吊り
上っちゃうよー﹂
売り子の煽りに、傍で成り行きを見守っていた他の商人たちが目の
983
色を変えてオナホに手を伸ばしていく。
我先にとその挿入部にチンポを宛がい、感触を確かめて首を捻りな
がら最上の逸品を選ぶために吟味を繰り返す。
その時、
﹁な、なぁそのオナホ使わせてくれよ。まだアンタしか使ってない
んだから、もし具合が良ければ俺も入札したいんだ⋮⋮早い者勝ち
ってのは卑怯だろ⋮⋮?﹂
猫顔の商人へと、一人が詰め寄った。
だが、
﹁何を言うか! これはもう私が買った物だ! 今更他人に貸すわ
けが無いだろう。店員、さっさとこいつを私の馬車へ運んでくれ。
積荷と交換しよう﹂
猫商人は﹃ヴェナ﹄にチンポを挿し入れたままその商人を睨みつけ、
売り子に向けて喚いた。
﹁はいはい。お客さんも残念だったねー。まぁでも他のオナホも逸
品揃いだから、しっかり選べばそこの﹃ヴェナ﹄より良いのが見つ
かるって﹂
売り子の鬼が仲裁し、商人同士の争いはボヤ程度ですぐに消えた。
﹁おーい、お前ら、このオナホをこちらの商人さんの馬車へ運んで
くれ﹂
鬼が呼ぶ先。
そこには手持ち無沙汰に立っていた羽根落ちの男達が居た。
彼らは視線を落しながら﹃ヴェナ﹄の体を抱え持ち、猫商人の先導
で彼の馬車へと向かう。
﹁おっと、これを忘れるところだったぜ﹂
売り子の鬼が手を伸ばし、﹃ヴェナ﹄の挿入部位に張り紙を貼った。
そこには、
﹃ご成約﹄
の文字が書かれていた。
984
﹁パパー僕にもオナホ買って︱。パパだけずるいー。僕もオナホ欲
しいっ!﹂
猪顔の商人のローブを掴み、その子供と思われる子猪の魔物がおね
だりをした。
﹁うーん⋮⋮ちょっと待っておくれ⋮⋮今パパは真剣に悩んでいる
んだ⋮⋮﹂
猪商人のドリル状になったペニスは今、﹃ステア﹄に挿入されてい
る。
﹁これも良い⋮⋮凄く良いが⋮⋮こっちのも、そっちのも捨て難い
⋮⋮﹂
﹃ステア﹄の隣には﹃マリューゾワ﹄そしてその向こうに﹃シロエ﹄
が並んでいた。
﹁貴様らぁ⋮⋮何を始めるかと思えば⋮⋮我らを売り物にするなど
⋮⋮!﹂
﹁この体さえ自由になれば、お前達なんぞ一瞬で魔剣の山で殺しつ
くしてやるのに⋮⋮﹂
﹁私は⋮⋮ここで終わるわけにはいかない⋮⋮。こんなところで、
動けないまま遠くに売り飛ばされてしまっては、もう戻れないかも
知れない⋮⋮﹂
オナホ達は口ぐちに何かを言っているが、商人も売り子も気に留め
ない。
﹁﹃ステア﹄⋮⋮か、なぁ店員よ。こちらの﹃ステア﹄や﹃シロエ﹄
などの交易品が食料なのに対して、向こうのオナホ達はどうして武
器や布類なのかね?﹂
猪商人は少し離れたシマに転がされたオナホ達を指差し、店員に尋
ねた。
﹁へぇ。ご覧の通りですが、俺達が今一番必要としているのは食料
でしてね。注目が集まり易そうなオナホには食料品との交易を付け
させてもらってます。逆に体が貧相だったりしてあんまり期待が持
985
てない奴らには武器類なんかの値札を付けて、食料品を大方売り切
って道具類が余ってる商人様達についでに買って貰えれば有り難い
なと﹂
鬼の説明に納得した様子の商人は、一つ頷く。
﹁うむ。うちも確かに食料をメインに持って来たが、布製品も少し
荷馬車の隅に置いてあるな⋮⋮。おぉチャモロ、向こうのシマのオ
ナホで布と交換可能と書いてある物だったら買ってやろう。選んで
くると良い﹂
チャモロ︱︱と呼ばれた子猪は笑顔で頷いた。
﹁わかった! 布だね! 行って来るよ!﹂
チャモロが嬉々として離れて行き、それ見て苦笑しながら猪商人は
ぼやいた。
﹁はぁ、これでやっとゆっくり自分の買い物が出来る﹂
その呟きに売り子の鬼も同調して笑い、
﹁いやぁちょっと見させて頂いたんですが、お客さん⋮⋮かなりの
富豪さんじゃあないんですかい? 向こうに留まってる五頭立ての
馬車が⋮⋮お客さんのですよねぇ?﹂
ぼそっとした声で問うた。
それを聞き、
﹁⋮⋮まぁ正直、ここに有る三つを纏めて大人買いするくらいどう
って事ないんだがね﹂
商人は得意げに笑ってから、
﹁妻が怒るんだよ⋮⋮あんまり趣味に金を使い過ぎるとね⋮⋮﹂
また一つぼやいた。
﹁あぁ∼そうなんですかい! まぁでも一つくらいなら良いでしょ
! じっくり選んで下さいよぉ﹂
売り子が額に手を当てながら言い、商人はまた苦笑を浮かべながら
﹃ステア﹄からチンポを抜き出した。
﹁勝手な事を⋮⋮わたしを買ってみろ⋮⋮絶対にその首引き千切っ
てやるからな!﹂
986
﹃ステア﹄が呪いの文言を吐いているのを気にせずに、商人は﹃マ
リューゾワ﹄へと挿入した。
﹁んひっ! ⋮⋮急に挿れないで頂戴⋮⋮覚えておくわよ⋮⋮今度
は私がお前を串刺しにしてやる﹂
喘ぎ声と共に脅し文句を吐くオナホだったが、商人の思考はその言
葉では無く膣の感触に向かっている。
﹁うむ⋮⋮やはりこれが一番か⋮⋮? ﹃シロエ﹄は少し縦に長く
感じたし、﹃ステア﹄は横に少し広かったな⋮⋮﹃マリューゾワ﹄
のマンコが一番しっくり来るような⋮⋮﹂
商人がそう決心しかけた瞬間。
﹁パパーッ! これ、これ買ってこれ!﹂
少し離れたシマでオナホを漁っていたチャモロが声を上げた。
﹁あぁ待って︱︱﹂
﹁パパーッ! これこれ! 絶対これ! 他の人が買っちゃう前に
買ってよぅ!﹂
騒ぐのを止めないチャモロに苦笑を浮かべながら、商人は﹃マリュ
ーゾワ﹄からチンポを引き抜き子供の元へと向かった。
チャモロが皮の被ったドリルチンポをぶち込んでいたのは︱︱
﹁どれどれ⋮⋮﹃ハイネア﹄か⋮⋮おぉ、お前この中で一番良いの
を選んだな⋮⋮絹を5反か⋮⋮﹂
﹁妾が絹5反と等価だと⋮⋮ふざけおって⋮⋮﹂
リネミア神聖国王女兼オナホールである﹃ハイネア﹄だった。
﹁これこれ、僕のチンポと凄くぴったりなの! 今も子宮にきっち
り当たってて気持ち良いんだよ!﹂
﹁うぐっ! ゆ、揺らすな小僧⋮⋮んんっ!﹂
与えられる快感に眉を顰める﹃ハイネア﹄
﹁しかし絹か⋮⋮なぁこれは止めないか? 絹は貴重で、お母さん
が趣味の裁縫に使いたいから絶対持って帰って来いって言っていた
だろ? だからこれはやめて、向こうの安い奴にしなさい﹂
そう言って猪商人は﹃ハイネア﹄の隣に並べられていた羽根落ちの
987
少女︱︱麻布4反︱︱を指差した。
﹁いーやーだー! 絶対これ! このオナホ欲しい!﹂
チャモロはそう言って嫌々と叫びながら﹃ハイネア﹄を犯しまくる。
﹁あ、おい⋮⋮あんまり動かしてると︱︱﹂
﹁ほーしーいーっ! ﹃ハイネア﹄マンコがほーしー⋮⋮でりゅう
うううううううっ!﹂
﹁んぎっひっ! 出てる⋮⋮妾の膣にぃ⋮⋮猪チンポから汚いの出
てるぅぅぅ﹂
子供であり、性経験の少ないチャモロはぴったりサイズの﹃ハイネ
ア﹄オナホの気持ち良さに耐えきれなかった。
それを見ていたこのシマ﹃Sサイズオナホコーナー﹄担当の売り子
が口を開いた。
﹁お客さん⋮⋮困りますねぇ⋮⋮商品を汚してもらっちゃ﹂
その冷めた声に、商人はため息を一つ吐きだして、
﹁⋮⋮買います。このオナホ﹂
そう言うと、店員は嬉々として﹃ハイネア﹄に﹃ご成約﹄の札を貼
り、
﹁包みますか?﹂
﹁いえ、この子が持って歩くので⋮⋮﹂
そう答え、﹃ハイネア﹄をぬいぐるみの様に抱きかかえてご満悦な
息子と共に元居た売り場へ戻ると。
﹁毎度、有難うございました!﹂
猫顔の商人へ向けて飛ぶ、売り子の威勢の良い声。
彼はそのまま流れる動作で、﹃マリューゾワ﹄へと﹃ご成約﹄の紙
を張り付けた。
﹁それじゃあ後で取りに来るから﹂
﹁はい、お待ちしてます!﹂
猫顔の商人はホクホク顔で歩き去り、逆に猪顔の商人は慌てた様子
で駆け寄った。
﹁い、今売れたのか?﹂
988
﹁はい、﹃マリューゾワ﹄が﹂
﹁魔剣さえ⋮⋮あれば⋮⋮こんな奴ら!﹂
悔しげに呻いている﹃マリューゾワ﹄呆然と見つめ、猪商人は盛大
に溜息を吐く。
﹁⋮⋮じゃあ、そっちの﹃ステア﹄を下さい﹂
予備案として、﹃シロエ﹄と﹃ステア﹄を比べた結果、種族特有の
短小ドリルペニスでは奥まで届かなかった﹃シロエ﹄を止めて少し
幅広の﹃ステア﹄を選んだ。
が、
﹁すいません⋮⋮そっちもさっき別のお客さんに売れちゃいまして
ね⋮⋮﹂
見れば、﹃ステア﹄の股間にも﹃ご成約﹄の文字がデカデカと貼ら
れていた。
﹁今だけだ⋮⋮今だけ調子に乗っているが良い⋮⋮﹂
騎士オナホの瞳に怒りの炎が浮かんでいる。
猪顔の商人は、今度は溜息を吐かなかった。
プチッ︱︱と何かが切れる音が頭の中で響いた。
﹁パパーッ?﹂
買って貰った﹃ハイネア﹄をブチュブチュ突き捲りながら、チャモ
ロが問う。
﹁チャモロ⋮⋮帰ったらお母さんに一緒に謝ろうな⋮⋮﹂
そう言って、商人は目録を売り子に叩きつける。
﹁とりあえず﹃シロエ﹄を買う! そして今日一日この即売会で気
に入ったオナホは全部買うぞ!﹂
覚悟を決めた瞳がそこには有った。
﹁買わないで下さい⋮⋮私を⋮⋮遠くに連れて行かないで⋮⋮皆と
また離れ離れにしないで⋮⋮﹂
巫女オナホは震える声で、自らの望んだ未来が遠ざかっていく現実
に怯えていた。
売り子は目録を手にし、商人の持って来ている交易品の数々に目を
989
綻ばせながら、
﹁毎度、有難うございます!﹂
﹃シロエ﹄の股間に﹃ご成約﹄が貼られた。
ラグラジルが目覚めたのは昼の事だった。
シャスラハールとフレアが食事の用意をし、それを食べたラクシェ
が急に機嫌を回復させたりする等の時間が過ぎてから、魔天使は身
を起こした。
﹁お姉様、御身体の具合はどうですか?﹂
アン・ミサが心配そうに尋ねると。
﹁問題無いわ⋮⋮しっかり休んで回復できたもの。貴方こそどうな
の? これから必要なのはそっちの力でしょ?﹂
ラグラジルは寄ってくるアン・ミサを手で制して、問う。
﹁わたくしの方は治癒も統治も問題無く使えます。これで親鬼は殆
ど無力化出来るかと﹂
﹁ウチもいけるー。クスタンビアとか余裕だよー﹂
アン・ミサの背後でラクシェが頷いた。
﹁クスタンビアほどの実力者なら、アンの統治も跳ね除けるでしょ
うしね。クスタンビアをラクシェが倒し、他の親鬼をアンが無力化
する﹂
ラグラジルがそう言うと、
シャスラハールが割って入った。
﹁僕とフレアさんは囚われた皆を⋮⋮この里の住人を含めて助けに
行くつもりです。ラグラジル、力を貸してくれる?﹂
そう聞かれ、
﹁もちろんよ﹃ご主人様﹄﹂
ラグラジルは笑って頷いた。
﹁準備が整っているなら、今すぐにでも助けに行くべきだと思う。
ラグラジル、この結界を解いてくれ﹂
990
シャスラハールにそう言われ、ラグラジルはゆっくりと立ち上がっ
て執務机に向かう。
三日間、それはこの﹃対馬鹿な妹用結界﹄が機能する時間だ。
限界時間と言っても差し支えない。
明日がリミットだ。
これは、ラグラジルにとって確認の意味がある行為だった。
﹃誓約﹄で縛られたラグラジルは、主人であるシャスラハールを騙
す事も裏切る事も出来ない。
彼の命令には絶対服従。
だが、
﹁ごめんなさい。無理ね、この結界は解けないわ。一度実行すると
三日間は魔力が続く限り結界を貼り続けるの、自動で消えるまでは
内側から手出しは出来ないわ﹂
嘘を吐いた。
この結界は、スイッチ一つで簡単に消滅する。
嘘を吐けた。
魔天使ラグラジルは、﹃誓約﹄が消えている事を確認する。
その為だけに、オナホールにされてしまっている人間達の地獄を一
日延ばす事を決めた。
その一日が、今現在外で行われている﹃オナホ即売会﹄によってど
のような結果を生むのか、そこまではラグラジルも知らない。
だが、どうでも良かった。
外の人間達がどうなろうが。
魔天使は常に自分を愛し、独善のまま他者を利用する。
﹁⋮⋮そうなのか⋮⋮くそっ⋮⋮﹂
﹁殿下、あのまま結界で時間が作れなければわたし達は全滅でした
⋮⋮あと一日、皆を信じましょう﹂
苦しむシャスラハールとそれを支えるフレア。
魔天使の推測は正しかった。
リセットは正しく機能した。
991
ラグラジルとラクシェに施された﹃誓約﹄は消え失せ、直接の術者
では無く間接的に﹃誓約﹄魔術の媒介になっているだけのシャスラ
ハールではそれに気づけない。
尤も、馬鹿な妹も魔力を探る事すらできず、その事実に気が付いて
いない様子だが。
そして副次的では有るが、期待以上の効果を得る事が出来た。
﹁ふふふっ⋮⋮全盛期、ね⋮⋮﹂
ラクシェが注ぎ込んだ膨大な量の魔力は、儀式魔術によって出現し
た触手に絶対的な力を与えると共に、その結果をも劇的に強化した。
魔天使ラグラジルは以前の西域管理者時代と同等の力を取り戻した。
誰にもまだ見せてはいないが、翼は四枚に戻り、白く変化している
だろう。
ラクシェに奪われていた分の力も戻り、身に流れる魔力の量に力強
さを感じる。
流石にラクシェやクスタンビアには敵わないだろうが、人間の聖騎
士や魔剣大公とならば互角以上に戦えるだろう。
﹁クスタンビアと親鬼が、三日も有ってシャロンちゃん達を無事な
ままにしておくわけが無いじゃない⋮⋮せいぜいその事実を目の当
たりにして絶望している表情をワタシに見せなさい。その後、ワタ
シの手で殺してあげる。散々に嬲って、ね﹂
そっと誰にも聞こえない様に呟く。
この場所にはアン・ミサがいる。
アン・ミサは何を思ったのかシャスラハールと同盟する気でいる様
なので、今ここで彼に手を出せば、アンの命令には有無を言わず従
うラクシェによって自分は取り押さえられるだろう。
そして優しい妹に甘すぎる説教を喰らい、もしかしたらもう一度シ
ャスラハールに﹃誓約﹄を注がれるかもしれない。
そんな馬鹿な事はしない。
やるなら、戦場でのゴタゴタに紛れてだ。
先ほど言った様にラクシェとアン・ミサには役割がある。
992
そして自分はシャスラハールとフレアに同行する事になった。
これはチャンスでしかない。
だから待つ。
必勝の時を。
﹁お姉様⋮⋮﹂
アン・ミサが近づいてきた。
﹁必ず、皆さんをお救いしましょう。わたくし達の未来の為にもっ
!﹂
妹がまた、理想を語り出した。
それに向けて、ラグラジルは微笑みを返した。
﹁えぇ、もちろんよ﹂
即売会は昼休憩を挟み、熱狂的に続いている。
商人たちの第二陣が到着したのだ。
今や総勢百組を超えた商人の群がオナホールを求めて即売会でぶつ
かり合っていた。
その中で、
﹁はい﹃マリス﹄お買い上げぇ! 毎度あり!﹂
﹁げっー⋮⋮ブタさんですか⋮⋮気持ち悪い﹂
猪顔の商人が交易目録を叩きつけ、傭兵オナホ﹃マリス﹄を購入し
ていた。
﹁あーくそ! 負けたぁぁ﹂
﹁良いなぁ⋮⋮あのオナホ朝から狙ってたのに⋮⋮﹂
大盛況となった即売会は、購入希望が殺到しほぼオークション形式
での販売に切り替わっていた。
シマはブースへと変わり、そこで出展されたオナホに向けて商人た
ちが交易品と量を叫ぶ。
その中でも、猪商人の気合は尋常では無かった。
子供の我が儘に付き合った結果、自分の狙っていたオナホが買えな
993
かった無念を晴らすかのように、彼はオナホを買い漁っていた。
﹁ふふん。このオナホは義弟に贈るプレゼントだ。親戚付き合いは
大事だからな﹂
股間に﹃ご成約﹄が貼られた仏頂面の﹃マリス﹄を眺めながら猪商
人は胸を張った。
その遥か後方で、砂塵が舞い上がった。
荷馬車が大地を蹴って門の外を目指して走っていた。
﹁おいおい、もう帰る奴がいるのか?﹂
﹁あぁ、何でも午前中の早い時間に良い買い物が出来たから帰り道
が混む前に帰って楽しみたいんだと、あの猫顔野郎⋮⋮舐めた事言
いやがって﹂
後ろで商人連中がぶつくさ言っているのを、猪商人は耳にして、ピ
クリッ︱︱と額に筋を立てた。
猫顔の商人。
猪商人が狙っていた﹃マリューゾワ﹄を横取りした男。
他にも﹃ヴェナ﹄や数点の羽根落ちオナホを購入して、颯爽と即売
会から帰宅して行く。
聖騎士オナホと魔剣大公オナホは自由を奪われた状態で、どこへ向
かうとも告げられず、猫顔商人に買われてこの里から失われて行っ
た。
﹁ま、負けてられん!﹂
猪商人はチャモロを荷馬車の部下に預けて自由の身になり、溢れる
熱意をもってオナホを買い漁っていく。
既に購入したものには﹃ハイネア﹄﹃シロエ﹄そして今﹃マリス﹄、
後羽根落ちを数個買っている。
﹁次は、次のオナホを出したまえ!﹂
猪商人は、売り子の鬼へとせっついた。
﹁はい、では﹃リセ﹄はそちらのトカゲのお客さんが牛三頭と米四
994
俵で落札。そして﹃ロニア﹄はそっちの苔の人が酒樽五つと卵を百
個だねぇ。毎度あり!﹂
即売会は佳境を迎え、陣地のほぼ中央に設置された特別ステージで
の一斉オークションが行われていた。
出品されたオナホ達は悉く売れ、目録が飛び交っている。
オークションは順調に進んで行く。
﹁待って下さい、ハイネア様は? せめてハイネア様と同じ所に⋮
⋮!﹂
﹁うぅ⋮⋮嫌ぁ⋮⋮もうオナホは嫌ぁ⋮⋮﹂
買われたオナホ達が泣き叫んでいるが、その声はオークションの熱
気に掻き消されて行く。
オナホを手渡された落札者達は歓声と怒号に答える様にオナホを高
く掲げ、そしてそのまま羽根落ちの男達、会場運営スタッフに渡し
て荷馬車へと運ばせる。
﹃オナホ即売会﹄は夕刻を迎えてなお、熱気に包まれていた。
﹁さぁお待ちかねだよぉ! 午前中の出店直後から人気が集まりす
ぎてオークションになっちゃったこのオナホが登場だぁ!﹂
売り子、と言うよりはオークショニアと言った方が良い鬼がそう叫
び、壇上に運ばれて来たオナホを紹介する。
﹁さぁまずはこちら、魔導士オナホの﹃ルル﹄! 魔力持ちの方々
にはぜひ試してもらいたい。何とこのオナホ、挿入しながら魔力の
補充が出来ちゃうのです!﹂
おぉと会場から驚嘆の声が上がる。
﹁人間の中には生意気にも我ら魔物の根源である魔力を操る術者が
居る、その事をご存知の方も多いと思いますが、このオナホは何と、
その人間の術者の中で最も高い魔力を有している雌穴なのです! 挿入してチンポに快感と体に魔力を取り込んで、数時間放置してお
けば魔力もまた回復してますのでヤればヤるだけ魔力が取り込める
! 魔力充電機能付き! なんとお得なオナホなのでしょうかぁ!﹂
魔物と魔力の関係は、切っても切り離せない。
995
元々彼らは動物や人であったが、この西域に流れる特濃の魔力によ
って肉体が変わり、魔物と呼ばれるようになった。
人間や元の動物達とは隔絶した力を得て、それを操る能力を身につ
けた魔物も存在している。
ラグラジルやアン・ミサの様に、人間の術者以上の魔術を使える者
が居る一方で、知能や学術的には発展せず纏まりの無い進歩を遂げ
た結果、ラクシェの様に魔力は持つが使い道を持たない魔物も多く
居るのだ。
魔導士オナホ﹃ルル﹄は魔力を操る術を持った魔物にとっては無視
できない逸品だった。
﹁豚八頭! 米俵も二つつける!﹂
蛇頭の商人が叫び、
﹁こっちは鹿を六頭に酒樽を四つだ!﹂
イヌワシの顔をした翼のある商人が手を挙げた。
蛇型の魔物は毒の精製に、イヌワシの方は長距離索敵と急加速に魔
力を消費する種族だ。
魔力電池内臓の﹃ルル﹄オナホは是非とも手に入れたいところだろ
う。
﹁んー⋮⋮その二つじゃ甲乙付けがたいが⋮⋮今は米よりも酒な気
分なんだよなぁ⋮⋮﹂
オークショニアが頭を悩ませていると。
﹁牛五頭。酒樽三つ、綿布を十反﹂
猪顔の商人が鬼気迫る表情で申告した。
﹁猪の! てめぇらは魔力なんてほとんどねぇだろうが! 入って
来るな!﹂
イヌワシ商人が怒号を放つが、
﹁うるさい! 今はオナホの即売会だろうが! 電池機能よりもま
ずそのオナホが気に入ったら誰でも手を挙げていいはずだ!﹂
猪商人もまた叫び返す。
その声に、魔力電池機能にばかり考えを取られていた魔物達は﹃ル
996
ル﹄を見る。
鬼が荒縄で独特に仕上げたオナホスタイルで拘束される知的な美人
が恐怖で顔を歪め、
﹁私は⋮⋮オナホでも⋮⋮電池でも無い⋮⋮﹂
震える声で言葉を紡いだことで、爆発した。
﹁牛十頭!﹂
﹁酒樽ならいくらでも出してやる! 俺にそのオナホを買わせろ!﹂
﹁魔力なんていらねぇ! 具合の良い穴が有ればそれで良い!﹂
商人たちが発狂したかのように叫び、オークショニアは焦った顔で
処理を始める。
﹁あーはいはい、皆さん落ち着いて、ね、聞こえないから⋮⋮。え
ーと⋮⋮﹂
その時、蛇頭の商人が天高く叫んだ。
﹁豚三十、米俵を十、酒樽を四﹂
勝敗は決した。
魔力充電式オナホに見せる熱意の差が、そこで決着を分けた。
猪商人も、イヌワシ商人も、他の誰もが適わない数字を提示して、
蛇商人が﹃ルル﹄を落札した。
魔導士オナホ﹃ルル﹄の挿入部位に﹃ご成約﹄が貼られ、彼女は豚
三十頭に米と酒をつけ、交易される事になった。
場が一瞬白けた事に気づき、オークショニアが慌てて進行を始める。
﹃ルル﹄が片付けられて、その位置に新たなオナホールが運び込ま
れてくる。
オナホールを見た瞬間、商人たちは喧騒を忘れジッとその挿入部位
と顔を見つめだした。
﹁さ、さぁ次はこれです! 引き締まった体の騎士オナホ! ﹃シ
ャロン﹄で御座います! 穴の具合は超一級! 私たち親鬼はこの
二日間様々なオナホを試した結果、アンケートを取りまして、何と
この﹃シャロン﹄は全体の二割の得票を得て一位となりました。チ
ンポセレクション金賞で御座います﹂
997
オナホ状態で拘束されたまま壇上に運ばれてきたシャロンに、オー
クショニアが金賞の札を貼る。
﹁良いですかぁ? 私共親鬼は長年オナホ製造に携わり、この西域
で他のどの種族よりもオナホに親しんできました。その私達が自信
を持ってお勧めするのがこの﹃シャロン﹄です! マンコはいやら
しくチンポに絡みつき、胸は触るとプルッと揺れ、何より響く音が
心地いい。腰を押し付ける度にアンアンと鳴くその音色、これを味
わいながら射精する事のなんと気持ちの良い事か!﹂
望まぬ金賞を与えられた﹃シャロン﹄はオークショニアを睨みつけ
る。
﹁何が金賞ですか⋮⋮この様なふざけた行いで騎士を辱めて、許さ
れるとお思いですか!﹂
高潔な騎士としての言葉が吐かれるが、
﹁とまぁ、オルゴールとしても利用可能です!﹂
オークショニアは聞き流して進行を続ける。
﹁牛を五頭! 酒樽四つ、綿布を十反に⋮⋮えぇい絹を五反だ!﹂
実のところ、この叫びを上げた猪商人の手持ちの交易品は底を尽き
かけていた。
この日は大型の荷馬車に鬼達が喜ぶであろう肉類と米を詰め込み、
その空いたスペースに布製品を押し込んだ上で並走する小型の荷馬
車に牛を連れさせてやって来た。
だが﹃シロエ﹄と﹃マリス﹄と言った値の張る買い物をした上に、
大事な大事な絹を﹃ハイネア﹄購入に使い、他にもニ十個ほど羽根
落ちオナホを買った事でもう今叫んだ物しか荷馬車には残っていな
かった。
故に、
﹁牛を二十﹂
勝負所でろくに戦う事が出来ずに、あっさりと﹃シャロン﹄落札の
権利を失った。
﹁殿下⋮⋮騎士長っ! 私は諦めません。きっと、きっと希望は掴
998
みとれると⋮⋮!﹂
アンデットの生産を行える種族、ゾンビの商人に落札され﹃ご成約﹄
を貼られて手渡される瞬間にも、﹃シャロン﹄は強く言葉を放った。
オークションはチンポセレクション金賞オナホである﹃シャロン﹄
の落札を以って終了し、壇上には親鬼の酋長クスタンビアが登った。
﹁あー⋮⋮皆さんご静粛に。この度ワタシ達の開催した﹃オナホ即
売会﹄に参加して頂き誠に有難うございました。手元の資料により
ますと、六百三十二個のオナホが販売されたと、そう報告を受けて
おります﹂
その言葉に、親鬼達は一斉に顔を青褪めさせた。
﹁しゅ、酋長! 目標は五百個って⋮⋮二百は俺達用に余るんじゃ
⋮⋮﹂
﹁う、売りすぎたぁ! 調子に乗って売りすぎたあああああ﹂
﹁なんてこった⋮⋮なんてこったぁ⋮⋮﹂
惨めに泣く鬼達へ向けて、クスタンビアは睨みを放つ。
﹁お客様の前よ、静かにしなさい﹂
酋長の一睨みに、鬼達はサッと居住まいを正し、持ち場へと戻る。
﹁これだけの数の食料が有れば、この冬だけでは無く、来年の冬ま
でも余裕で越せるだろうと、安堵の思いです。これから先、ワタシ
共はあの宮殿を攻略し、智天使アン・ミサを引き摺り下ろしてオナ
ホに変えます。ラグラジルやラクシェの姿を見たとの未確認情報も
有りましたので、そちらも手に入り次第、オナホへと作り変えます﹂
一瞬の間を空け、クスタンビアは言葉を紡いだ。
﹁初めはまぁ⋮⋮ワタシ共親鬼で三姉妹オナホを使わせて頂きます
が、今後とも皆さまとは良いお付き合いをさせて頂きたい為、三姉
妹オナホに関しては随時レンタルの申し込みを受け付ける事と致し
ます。皆さまが西域の象徴であったあの三人娘の肉穴を使いたくな
った時はどうぞワタシ共親鬼に御一報下さい。迅速にお届けに上が
ります﹂
その言葉を受けて、商人たちは喝采を上げた。
999
ラグラジル、アン・ミサ、ラクシェの三姉妹は不可侵の象徴であり、
かつての覇者ハルビヤニの忘れ形見。
彼女達の存在を犯す事が出来る喜びこそが、魔を抱く生物としての
歪んだ願いだった。
﹁今宵、我ら親鬼は想定以上の食料を得る事となりました。つきま
しては、部下達の慰労の意味も含め、このクスタンビアの名に於い
てささやかながら酒宴を開かせて頂きます。もうそろそろ日も暮れ、
帰りの道中にご不安が有る方々はこのままこの陣地に逗留なさり、
我らの酒宴に加わって頂ければと、そう思う次第でございます﹂
再度の喝采が鳴り響く。
その歓声の中、勝負に負けた猪商人は顔を歪めて立ち去っていった。
ろくに整備されていない道を荷馬車が駆けて行く。
荷物はここにやって来た時に積んでいた物よりも大分軽くなり、速
度が出ている。
﹁パパーッ! 何で怒ってるのー?﹂
子猪のチャモロが﹃ハイネア﹄マンコにチンポをぶち込みながら問
う。
﹁んぎぃぃぃ、いい加減⋮⋮にしな⋮⋮さい﹂
大層気に入ったのか、チャモロは父と別れている間もずっと﹃ハイ
ネア﹄を犯し続けていた。
﹁⋮⋮怒ってなど居ない⋮⋮ただなぁ⋮⋮母さんに何て説明すれば
いいか⋮⋮﹂
﹃マリス﹄を犯しながら、﹃シロエ﹄の乳を揉みしだき、猪商人は
吐息した。
﹁一人じゃ⋮⋮んっ! 無いのは⋮⋮ちょっと安心ですけど⋮⋮ん
ぎぃ! あっ、あっ⋮⋮やっぱりムカつきますねぇ⋮⋮﹂
﹁何としても里に戻らなければひゃっ コリコリと⋮⋮くぅ⋮⋮侍
女殿が居られぬ今、ハイネア王女は私が守らねば⋮⋮﹂
1000
商人はクスタンビアの酒宴には参加せずそのまま帰路に付き、部下
に荷馬車の運転を任せ、自分達親子は買ったばかりの﹃オナホ﹄を
楽しんでいる。
﹁あぁ明日の朝には家に着いてしまうしなぁ⋮⋮このオナホをどう
すれば⋮⋮親戚の分だと言っても少し多すぎるぞ⋮⋮母さん家に無
駄な物が増えると怒るしなぁ⋮⋮いくつか捨てられそうだ⋮⋮売り
物と言って納得してくれるかどうか⋮⋮﹂
今日買ったオナホの数は、二十四。
商人の棲む家は、猪型亜人魔物の村落にあり、そこは天兵の里から
しばらく北東に向かった先に存在している。
馬車で半日の旅路となる。
前日にクスタンビアから告知されたオナホ即売会の情報を村の寄合
で聞き、興味本位で私的に参加しに行ったが、よもやここまでの出
費になるとは考えていなかった。
﹁大丈夫だよ! 僕も一緒にお願いしてあげる。オナホの世話は僕
もやるから!﹂
﹃ハイネア﹄の無いも同然の胸を舐めしゃぶりながら、チャモロは
笑顔で言った。
﹁それが不安なのだよ⋮⋮母さんはお前に年に一個しか玩具を買っ
てあげないだろう? それを父さんがこんなに玩具を買って、お前
と半分こだとか言ったら⋮⋮教育に水を差すなとどれだけ怒られる
事か⋮⋮﹂
﹃マリス﹄からチンポを取り出し、﹃シロエ﹄に挿入しながら商人
は悩んだ。
﹁うむ。やはり売ろう。転売だ。村の連中に高値で売ってやる。そ
うだ、そう説明すれば良かったのだ。いけないいけない、趣味での
買い付けだったから仕事と切り離して考えていたが、こいつらはれ
っきとした品物だ。金に換えれば母さんも何も言うまい!﹂
そう言って、商人は元気を取り戻し、オナホ公娼達を犯していく。
﹁えーでも﹃ハイネア﹄は売らないでよー?﹂
1001
チャモロがお気に入りのぬいぐるみをそうする様に、﹃ハイネア﹄
を抱きながら言うと。
﹁⋮⋮飽きたら言いなさい。お父さんがお金に代えてやろう。その
金で新品のオナホをまた買えばいいだろう﹂
その説得に、チャモロは数秒考えてから、
﹁うんっ! そうだね! わかったよ、飽きたらちゃんと言うよ。
飽きるまでいーっぱいチューしてズボズボしてビュービューするか
らねー! ねー﹃ハイネア﹄っ!﹂
人に掛ける言葉では無く、ぬいぐるみに向けた言葉遣いでチャモロ
は言った。
﹁リセ⋮⋮リセ⋮⋮妾は⋮⋮妾達はまた会える⋮⋮そうだよね⋮⋮﹂
ぬいぐるみオナホである﹃ハイネア﹄の瞳から、涙が零れ落ちた。
クスタンビアの酒宴にはオークション終了時点まで残っていた商人
たちの殆どが参加した。
飲んで、歌って、オナホを楽しんだ。
﹁どうだああああ? 俺のオナホは金賞だぞおおお? 良いだろう
!﹂
ゾンビはその腐った肉から悪臭を振りまきながら、金賞オナホこと
﹃シャロン﹄を犯している。
﹁貸せ、いや貸してくださいお願いします!﹂
﹁一発で良いんです。金賞オナホを試してみたい!﹂
鬼達にとってはオナホとして片手で扱えるものでも、人間と背丈が
変わらないゾンビにとってはそう容易いものでは無く、駅弁姿勢で
﹃シャロン﹄の金賞マンコを抉っていた。
﹁く、くぅぅぅぅ、臭いっ⋮⋮体全体が臭い⋮⋮こんな奴の相手を
これから先ずっと続けなくてはいけないのですか⋮⋮﹂
ゾンビの腐臭に苦しむ﹃シャロン﹄は涙を浮かべている。
﹁ふんっ! そっちのオナホのマンコは金賞らしいが、さっき親鬼
1002
に聞いたら俺が買ったコイツはチンポセレクションのアナル部門で
金賞らしいぞ!﹂
緑色の肌をした苔塗れの魔物が叫び、その股間に添えられた﹃ロニ
ア﹄を誇らしげに振った。
﹁いやぁ⋮⋮お尻の内側にコケをくっ付けないで⋮⋮汚いぃ⋮⋮汚
いよぉ⋮⋮﹂
補助穴。
本来オナホとしてはあまり使われない部分を苔塗れのチンポで貫か
れ、そのおぞましい感触に﹃ロニア﹄は怯えている。
﹁アナル部門は有効回答数が半分以下らしいじゃねぇか! 鬼達は
だいたいマンコしか使わねぇんだよ! そんな糞しか出ない糞部門
で誇ってるんじゃねぇよ! 汚いんだよ近づくな苔野郎が!﹂
ゾンビが﹃シャロン﹄の金賞マンコを抉りながら叫び、
﹁あぁ? てめぇの方こそ臭いんだよこの腐臭ゾンビが! お前の
腐ったチンポ突っ込まれた時点で金賞の価値は吹っ飛んでゲロマン
コなんだよ!﹂
苔人間が﹃ロニア﹄の金賞アナルを穿りながら応戦した。
その応酬をのんびりと見守りながら、トカゲ型の魔物はゆっくりと
したペースで﹃リセ﹄を犯していた。
﹁ハイネア様は⋮⋮ハイネア様はどこですか⋮⋮私が、私がお守り
しないと⋮⋮﹂
﹁おー泣いた泣いた。何か悲しい事でも有ったのか? 大丈夫だっ
て、お前はこれからずーっと俺のチンポからチンカス拭い取る為だ
けのオナホになるんだ。泣いても喚いても未来は変わらないんだか
らさ、一生チンカス掃除機になるんだって思えば、これから先は何
も悩まなくて良いだろう?﹂
トカゲは優しげな声で﹃リセ﹄に語り掛けながら、肉棒にこびり付
いた茶色のカスを膣壁で擦り取っていった。
更にその近くでは、充電が行われていた。
﹁おぉおぉぉぉ⋮⋮ふぅ。魔力満タンだ⋮⋮というか一回チンポ挿
1003
すだけでこれだけ魔力補給できれば尽きる事ないんじゃないか⋮⋮﹂
充電機能内蔵オナホ﹃ルル﹄へとチンポを挿入した蛇頭の魔物が感
嘆の言葉を吐いた。
﹁俺の魔力の何倍だ⋮⋮? 人間の癖に、オナホの癖に⋮⋮生意気
な⋮⋮﹂
蛇商人が睨みつけた先、﹃ルル﹄は白目を剥いて口の端から涎を垂
らしていた。
﹁へっどうだよ俺様の毒⋮⋮殺しはしねぇが全身どっこも動かない
だろ? ピクピク痙攣してるマンコを犯すのが俺は好きなんだよ﹂
﹃ルル﹄の首筋には、二つの小さな丸い傷跡が出来ていた。
﹁ぁ⋮⋮えっ⋮⋮あ⋮⋮﹂
﹁おーし新しい毒の追加だ。この毒を注がれると全身から汗が止ま
らなくなって小便がダラダラでるぜぇぇ。お前は俺が買ったんだ。
オナホはどう使用しても俺の勝手だからなぁ。お前から貰った分の
魔力をちょっとだけ返してやるんだ。有り難く受け取れ﹂
そう言って、蛇は﹃ルル﹄の首筋に牙を埋め込んでいく。
誰も眠りに落ちないまま宴は続いてく。
やがて、夜明けが見えて来た頃。
﹁さて、そんじゃ俺は行くかな⋮⋮﹂
そう言って鶏頭の商人が立ち上がった。
その股間には﹃ステア﹄が繋がっている。
﹁くぁ⋮⋮き、さま⋮⋮﹂
﹁ん? 寝てて良いぞ。俺の里は遠いからな、今から出発しても陽
が有る内に辿り着けるかわからん。昼の休憩の時にまたお前のマン
コを使う事になるからそれまでは荷物と一緒に荷馬車で寝ていろ﹂
﹃ステア﹄を繋げて持ったまま、鶏商人は荷馬車へと向かって行く。
﹁良い場所だぞぉ。辺境過ぎて他の魔物との交流がほぼ無いから静
かでなぁ。争いもほとんどない。そう言えば管理者が作った地図に
も載って無いらしいな。今回はたまたま行商中に即売会の話を聞い
て立ち寄れて良かった。ま、準備不足でオナホはお前一つしか買え
1004
なかったがな。でも里で待つ仲間達に良い土産が出来たよ。これか
ら宜しくな!﹂
その言葉を聞いて、﹃ステア﹄は愕然とした表情を浮かべている。
﹁地図に⋮⋮無い⋮⋮?﹂
﹁あぁ、俺達の部族以外は誰も知らないと思うぞ。行商人の俺が年
に一度旅に出て土産を買って帰る。それ以外は全部自給自足だ﹂
衝撃が、上塗りされる。
﹁そんな場所へ連れて行かれたら⋮⋮わたしは⋮⋮もう人に戻れな
い⋮⋮﹂
オナホとして、地図に載らぬ誰も知らない里へと連れて行かれ、一
生をこの鶏商人たちの肉便器にされて過ごす事になる。
ここで時間を稼げばシャスラハール達がどうにかしてくれる。
そういう淡い希望を抱いていたが、恐らくは結界の内側に居るだろ
う彼らは何の動きも見せなかった。
そして、時間は無情にも距離を生む。
探そうにも、探せないはずだ。
その部族しか知らない、管理者すら管理できていない里へ連れて行
かれる。
誰も、﹃ステア﹄をステアへと連れ戻しに来てはくれない。
﹁いやだ⋮⋮いやだ、ここへ置いて行ってくれ⋮⋮﹂
﹁それは無理だ。お前にはもう高い代価を払ったんだ。お前を持ち
帰って俺は友人たちに感謝されたい﹂
鶏商人はホクホク顔で頷き、荷馬車へと向かう。
﹁わたしは⋮⋮戦う為に生きている騎士だ⋮⋮断じてオナホではな
い⋮⋮﹂
﹁いーやぁ? 俺は買う時にお前がオナホだと説明を受けて、それ
に納得して代価を払っている。お前はオナホだ。俺の部族で共有す
る肉便所だ﹂
絶望が、騎士の胸を貫いた。
震える声が、オナホ騎士から零れ落ちる。
1005
﹁ゆ、許してくれ⋮⋮﹂
﹁オナホ相手に許してくれって言われてもな⋮⋮﹂
苦笑した商人によって﹃ステア﹄は荷台へと放り込まれ、荷馬車は
動き出した。
荷台から放たれる絶叫を音楽にして、颯爽と天兵の里から旅立って
行った。
朝を迎え、結界が微妙に揺れて歪み始めた。
﹁タイムリミットね。ラクシェ﹂
宮殿の屋根の上、天使三姉妹は並び立つ。
魔天使ラグラジルから声を掛けられ、力天使ラクシェは頷いた。
﹁うん﹂
﹁可能な限りすぐにクスタンビアを見つけ出して。この状況でワタ
シ達の優勢を覆せるとしたらあの鬼だけよ。アンタが真正面からア
イツとぶつかる事が出来れば、こっちは勝ったも同然ね﹂
﹁わかってるよー﹂
緊張感の無いラクシェの返答。
その隣、智天使アン・ミサへとラグラジルは視線を向ける。
﹁ご主人さまとフレアちゃんは?﹂
﹁下に。ラクシェの突撃で親鬼の陣形が崩れたら突入を開始するそ
うです。お姉様はお二人の援護に向かわれるのですよね?﹂
その問いに、
﹁えぇ、そうね﹂
薄く笑みながらラグラジルは応じた。
﹁お姉様?﹂
﹁アン、あんたはまず全力で統治魔法を解放しなさい。常時開放型
と言っても強化する事ぐらいは出来るでしょう? 親鬼の中でクス
タンビア以外にも耐える事が出来る奴が居たら、厄介な事になるわ
よ﹂
1006
支配魔術が使えない以上、アン・ミサは親鬼の一体にでも剣を向け
られるとまずい。
﹁わかりました。絶対に、勝ちましょう。勝って未来をわたくし達
の手に⋮⋮!﹂
意気込む妹に、ラグラジルは曖昧に頷いた。
結界が激しくブレ始める。
﹁ラクシェ﹂
﹁はーい﹂
力天使ラクシェは四枚の翼を全力広げた。
﹁いっきまーす!﹂
戦槌を振りかぶり、脆くなった結界をブチ破りながら、宮殿から飛
び立って行った。
天兵の里を巡る争いに、終焉の時が近づいてきている。
1007
オナホ即売会︵後書き︶
作者的まとめ∼公娼オナホ購入者リスト∼
猫商人=ヴェナ、マリューゾワ⋮⋮即売会を午前中で切り上げ帰郷
済み
猪商人=ハイネア、マリス、シロエ⋮⋮酒宴には参加せずに帰郷へ
屍商人=シャロン⋮⋮酒宴参加中
蛇商人=ルル⋮⋮酒宴参加中
トカゲ商人=リセ⋮⋮酒宴参加中
苔商人=ロニア⋮⋮酒宴参加中
鶏商人=ステア⋮⋮酒宴に参加した後、早朝に帰郷へ
1008
対生意気な長女用躾魔術︵前書き︶
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1009
対生意気な長女用躾魔術
ラクシェの突貫は、深酒が抜けず意識を朦朧とさせていた親鬼と魔
物の商人たちを恐怖と絶望へと誘った。
﹁り、力天使だ⋮⋮!﹂
﹁こ、殺される⋮⋮﹂
西域至高の武。
力天使ラクシェ。
その戦槌が掲げられ、幼い容貌に凄惨な笑みが浮かぶ。
﹁クスタンビア! この行き遅れババア! ウチが相手になってあ
げるよ! この里を滅茶苦茶にしてくれたお礼をさせてよ!﹂
ラクシェの威光に、商人たちは怯え、親鬼達は厳しい表情で武器を
取った。
その時、
﹁管理者アン・ミサの名に於いて通告致します。この里において天
使以外の魔物による戦闘行為を一切禁止致します。律を破る者は罪
人として我が法規によって処罰を受ける事、以上です﹂
天兵の里全体に響いたのは、アン・ミサの澄んだ声。
その声には魔力が宿っていた。
智天使アン・ミサの統治魔法。
法と律そして罰による強制服従。
武器を手に取った親鬼達は、自らの腕に何の力も籠らない事を悟っ
た。
﹁こ、これじゃ戦えない⋮⋮﹂
﹁天使だけは戦えるって⋮⋮それじゃあ嬲り殺しじゃねぇか!﹂
鬼達は我先にと潰走する。
その様子を見て、商人たちも焦った様子でオナホを抱えて荷馬車へ
と走っていった。
1010
﹁クスタンビアは? クスタンビアはどこ!﹂
ラクシェが怒鳴るが、応えは無い。
﹁逃げたの? まさかね﹂
アン・ミサの統治魔法が展開されれば親鬼達を無力化できる。
そこまでは想定通りだった。
だがしかし、万が一天使達に敗れる要素が有るとすれば、
﹁クスタンビア⋮⋮あの便所女!﹂
親鬼クスタンビア。
ラクシェでなくては倒せないあの鬼が、アン・ミサの首を刈り取っ
たならば。
統治を破り部下の親鬼達も復活して来る事でラクシェにも敗北が有
り得る。
﹁どこ⋮⋮! どこ⋮⋮?﹂
ラクシェは潰走する鬼と商人たちを睨みつけながら、青髪の女鬼を
探していた。
﹁親鬼以外にも魔物がこんなに⋮⋮﹂
シャスラハールはラクシェが突貫した広場から少し離れた街路を駆
けながら驚愕する。
天使と羽根落ち、そして一部の他種族で構成されていたこの天兵の
里に、見知らぬ魔物の姿が多く見られたからだ。
﹁荷馬車⋮⋮か、ふーん。面白い事をやってたみたいね﹂
上空からラグラジルが舞い降りてきて、薄い笑みを浮かべる。
﹁ラグラジル? どういう事だ?﹂
シャスラハールと並走するフレアが問うと、
﹁親鬼が稀に市を開くという話は聞いていたけれど⋮⋮そっか、シ
ャロンちゃん達売られちゃったのかな﹂
売られた。
その言葉に、シャスラハールの目は驚愕に開く。
1011
﹁それはどういう事なんだ? 皆は⋮⋮無事なのか?﹂
﹁さぁねぇ⋮⋮それは彼らに聞いたら?﹂
そう言ってラグラジルが指し示した先、
そこには数百の翼が有った。
﹁無能で、怠惰で⋮⋮責任何て言う言葉を知らず、ただアンに甘え
て権益の甘い汁だけを啜って民草の命を無視したあの連中なら、き
っと全部見ていたはずよ﹂
天兵。
一ノ門を閉じ、ヴェナ達を締め出して羽根落ちを守る事すらせずに
姿をくらましていたこの里の守護兵達。
﹁ら、ラグラジル様! 我ら天兵連隊、これより親鬼掃討戦に加わ
らせて頂きます﹂
先頭を飛んで来た一人が言うと、
﹁そう? まぁワタシに様付けする必要ないんだけど。働きたいな
ら働きなさい。今の今までどこで何していたのかなんて、ワタシは
野暮な質問はしないからね﹂
魔天使は嘲笑を浮かべて言った。
﹁わ、我らは上空にて里を監視し、逆撃の時を待っておりました﹂
言い訳がましく、問われたわけでも無い事を話す天兵。
﹁ふーん⋮⋮だったらやっぱり見てたんでしょう? 親鬼がこの三
日間何をしていたのか。
この人が聞きたいみたいだから教えてあげてよ﹂
そう言ってラグラジルはシャスラハールに笑顔を向けた。
﹁⋮⋮お願いします﹂
シャスラハールが睨みつけるように天兵に問うと。
﹁お、鬼達は捕らえた人間の女と接収した羽根無しの雌を⋮⋮その、
彼らの民芸品であるオナホールに加工して、弄んでおりました﹂
その言葉を聞いて、フレアは唇を噛んだ。
﹁姉上⋮⋮シャロン⋮⋮﹂
﹁で?﹂
1012
そのフレアの様子を眺めながら、ラグラジルは楽しげに続きを催促
する。
﹁昨日は、即売会なるものを開催し、近隣の部族の商人たちを集め
てオナホールの販売を行っていたようです。商人たちは即売会の後
は親鬼が設けた酒宴に参加していたようですが、一部の商人は酒宴
に参加しないか、したとしても途中で切り上げて帰郷したようです﹂
シャスラハールの足が止まった。
﹁⋮⋮即売会⋮⋮皆は⋮⋮?﹂
﹁せ、正確には存じませんが、人間の女も羽根無しもある程度の数
は商人たちが既に里の外へ持ち帰っております﹂
天兵の代表者はシャスラハールの瞳に慄き、首を振った。
﹁あらあら。例え親鬼には敵わなくても、里の外に出た商人たちに
なら勝てるでしょう? 同族が酷い目に遭っているのが分かってい
て何で助けなかったのかしら? 貴方達の翼は何の為にあるの? 自分達が逃げて助かる為に有るのかしらね?﹂
ラグラジルが心底楽しげな声を放つ。
﹁大方、鬼達がこのままアンの居る宮殿を落す可能性を考えていた
んでしょう? その時にスムーズに鬼の軍門に降れるように、敵対
行為は少しでもしたくなかった。そういう事なんでしょう?﹂
図星を突かれ、天兵達はオドオドと動揺し始めた。
アン・ミサの統治とラクシェの武勇に頼り切り、その庇護の下で増
長していた彼らは、責任の全てを代表者に預けて逃げ、勝機が見え
た瞬間に舞い戻って来た。
その間に、どんな悲惨な光景が目に入っても、自分達の未来が少し
でも良くなる方向を選び、手出しをしようと言う意見の一つすら出
なかったのだ。
﹁⋮⋮とにかく、今はもうアン・ミサ側なんですよね?﹂
シャスラハールの押し殺した声。
﹁は、はい! もちろんです。我ら天兵、この里を守る為に︱︱﹂
﹁だったら! 今すぐ四城門に向かって下さい。逃げる親鬼は無視
1013
して構いません。連れ去られる女性達と商人の足を止めて下さい!﹂
そう叫び、シャスラハールは駆けだした。
﹁殿下、あまり先行しないで下さい!﹂
フレアも続く。
﹁ら、ラグラジル様⋮⋮あの人間は⋮⋮?﹂
﹁さぁ? アンの友達見たいよ? とりあえず言う事聞いてあげた
ら? これ以上失態は重ねたくないでしょう﹂
魔天使の微笑みに怯え、天兵達は我先にと四城門へと飛び立って行
った。
ラグラジルはそれを見送り、ふっと短く息を漏らす。
﹁貴女も行きなさい? ユラミルティ﹂
一人だけ、ラグラジルの傍に残った天使へと告げる。
ジッと魔天使を見つめる、装飾が施された眼鏡越しの冷たい視線が
残っていた。
﹁⋮⋮ラグラジル様、お戻りになられたのですね﹂
華奢な体に黒い髪を一房背中へと流した少女天使がラグラジルへと
目礼する。
﹁アンの懐刀が居ないと思ったら、天兵達に引っ付いて職務放棄し
ていたとはね。少しだけ貴方の評価を少し改める必要がありそうね﹂
天使ユラミルティ。
智天使アン・ミサに仕える天兵。
役割は︱︱執行官。
アン・ミサが成した法規を下々に遵守させる為に存在する天使。
裁天使ユラミルティ。
ラグラジルの邪悪な笑みを受け、ユラミルティは頭を下げる。
﹁お叱りの御言葉、甘んじて御受け致します﹂
唇を引き締め、ユラミルティはラグラジルを見つめた。
﹁私は、天兵連隊やアン・ミサ様とは別行動を取っておりましたの
で、帰参が遅れ宮殿に馳せ参じた時には既に結界が張られており、
外で経過を見守っていた折に天兵連隊に声を掛けられ、以後同行し
1014
ておりました﹂
実直な言葉に、ラグラジルは肩を竦めた。
﹁貴女が何をしていたか知らないけど、結局は同じでしょう? あ
の連中と。同族を見殺しにしたんだから﹂
そう言われも、ユラミルティは表情を崩さない。
﹁はい。彼らはもちろん、私自身の罪に付きましても後日清算させ
て頂きます﹂
裁天使ユラミルティの手には古ぼけた手帳が握られている。
執行手帳。
これから裁きを下すべき相手の名を書き記した一冊だ。
﹁これ以上用が無いなら四城門へ急ぎなさいよ。そうじゃないと、
あの弱っちい天兵連隊じゃ商人連中すら逃がしちゃうかもよ? 商
品にされちゃってる女の子達は可哀そうに性玩具として西域中に出
荷されちゃうのね﹂
魔天使ラグラジルは笑っている。
ユラミルティはその笑みを見て、薄らと頷いた。
﹁いえ、私はこのままアン・ミサ様の元へ向かいます。報告が有り
ますので﹂
そう言って、二枚の翼を広げてユラミルティは飛び立った。
﹁⋮⋮﹂
ラグラジルはその背中を睨みつける。
ユラミルティはラグラジルやアン・ミサよりは若く、ラクシェより
少しだけ年長な、現役の天兵としては若い部類に入る天使だ。
その若さでアンの代行者として刑罰を取り仕切る存在にまで出世し
たのは、ひとえに彼女の持つ勤勉さに有った。
兄であるアーコンロアと共に、天兵の中で異端極まる存在として、
鼻摘み者扱いを受けていた。
アンの命令に忠実であり、どんな役目をもこなしてきた。
管理者アン・ミサにとって唯一、信頼のおける部下とも言える存在
だった。
1015
最も、誰に対しても正論を吐き頑なで面白味のない性格をしていた
事でラクシェに嫌われ、プライベートではアン・ミサと接触は余り
持てなかったようだが。
﹁そのユラミルティが、今までどこで何をやっていたの⋮⋮?﹂
この天兵の里を巡る騒乱は、人間にも天使にも、そして他の魔物に
も大きな影響を与えている。
この地の代表者であるアン・ミサ自身、酷い目に遭っているという
のに、その一番の部下が今の今まで何をやっていたのか。
﹁⋮⋮まぁ良いわ。どうせワタシはもうすぐこの里を離れるんだし、
あの子の顔を見る事ももう無いでしょうしね﹂
ラグラジルは視線を戻し、遠くなったシャスラハールの背中を見つ
める。
﹁⋮⋮さぁ。そろそろね、ご主人様。色々有ったけど、退屈だけは
しなかったわ。貴方との旅。でもやっぱり、ワタシは自由で有りた
いの。だからお願い、死んで頂戴⋮⋮!﹂
四枚の輝く翼を展開し、魔天使ラグラジルは空を駆ける。
目標は、商人達を追って四城門を目指すシャスラハールの背中。
腕に魔力を灯し、鋭利な闇を展開する。
邪魔をする者は居ない。
フレアが立ちはだかれば、それすら消し去ろう。
今のラグラジルにはそれが出来る。
在りし日の力をリセットによって取り戻し、魔力は研ぎ澄まされて
いる。
羽ばたきは、瞬く間に標的との距離を縮めて行く。
視界の先、こちらに背を向けて走るシャスラハールとの距離は三十
歩分。
向こうはこちらに気が付いていない。
﹁惜しむらくは、シャロンちゃん達の惨状が少し分り難かった事ね。
散々レイプされてる場面だったり、首とか落ちてるともっと盛り上
がったんだけど﹂
1016
不満を零しながら、魔天使は腕を振り上げた。
邪悪な魔力の塊は、シャスラハールの頭部を狙っていた。
﹁それじゃ、サヨナラ﹃ご主人様﹄。あの世でワタシの父によろし
く︱︱ぇ?﹂
今にも必殺の魔力を放とうとしたラグラジルの右腕が、切断された。
鮮血が吹き上がり、右腕だった物が飛んでいく。
鋭利な刃物では無い。
ゴツゴツと尖り潰れた刃で断ち切られた事で、腕からは強烈な痛み
が発生している。
﹁これで、良いのですよね。﹃御主人様﹄﹂
御主人様。
それはシャスラハールの事では無い。
今、ラグラジルの腕を切り飛ばした人物が口にしたのは、全く別の
存在︱︱ハルビヤニを指す言葉だ。
衝撃に絶句するラグラジルの胸を、強烈な蹴りが襲った。
﹁がふっ!﹂
地面に背中から叩きつけられ、悶えるラグラジル。
その顔のすぐ近くに足が降りて来た。
滑らかな白い素足。
靴は無く、足を隠す衣類も何も無い。
ただ股間にだけ、薄いビキニが張り付いていた。
この下品な存在をラグラジルは覚えている。
父の目を惹こうと肌を全力で露出させ、ともすれば全裸になる事す
ら厭わなかった鬼。
﹁クスタンビア⋮⋮ッ!﹂
股間から視線を上げ、豊満な胸を通り越して女鬼の楽しげな顔を見
つけた。
﹁ラグラジル、まずはお前から。大丈夫よ、腕が無くたってオナホ
には別に何の問題も無いのだから﹂
親鬼クスタンビアが血に濡れた巨岩刀を握り、立っていた。
1017
シャスラハールとフレアが四城門に辿り着いた時、辺りは阿鼻叫喚
の喧騒に包まれていた。
﹁どけどけぇ!﹂
親鬼が猛烈な勢いで天兵を押し退け門から脱出して行く。
﹁ひぃぃぃ﹂
天兵も特に止める事無く、怯えた様子でそれを見送るが、
﹁そ、そこの荷馬車は止まれ、中を検める﹂
親鬼達が突破したドサクサで門を抜けようとする商人達には食って
掛かっていた。
それでも、
﹁ここで捕まったら儲けが全部持ってかれちまうぞ!﹂
強行突破する荷馬車の圧力に、
﹁う、うわあああああ﹂
天兵達は左右に跳んで回避していた。
一度突破された事で、続々と後続車両も門を抜けて行く。
その様子を見て、シャスラハールは歯噛みする。
﹁何を⋮⋮くそっ!﹂
地面を駆け、続こうとした荷馬車へと飛び乗る。
﹁動かないで下さい! 荷馬車を止めて!﹂
アン・ミサから預かった直剣を握り、目を血走らせた少年の気迫に、
﹁な、何だテメェは!﹂
蛇顔の魔物が喚いている。
その喉に刃先を突き付け、
﹁動くなと言っています。積荷を全て降ろし、天兵に同行してくだ
さい﹂
今にも喉を掻き切りそうな瞳で、そう告げた。
﹁⋮⋮わ、わかった⋮⋮﹂
蛇はそう言って、荷馬車を止める。
1018
一台がそうして停まった事で、後続も渋滞する様に動けなくなり、
天兵達によって包囲されて行く。
商人達が不平の籠った目をしながらそれぞれの荷馬車を降り、口々
に言い放つ。
﹁何だってんだよ。俺達は鬼の即売会に参加しただけだ。ここに有
るのは全部俺達が交易で手に入れたモンだぞ!﹂
﹁そうだ! それを奪おうっていうのなら略奪じゃねぇか! 山賊
と同じだ!﹂
﹁ここは法で守られた里だろ? その守備兵が山賊行為をしていい
のかよ!﹂
その言葉を聞いて、天兵達は顔を見合わせる。
﹁お、おいどうなんだ⋮⋮?﹂
﹁確かに、特別な令状が無い限り公権力による市民の財産の回収は
認められていないな⋮⋮﹂
﹁それにどうせ積荷は羽根無しと人間だろう? 別に良いんじゃね
ぇか? 巡り巡って俺達の所に来るかもしれないしよぉ。中古オナ
ホとしてな。アン・ミサ様にさえバレなければ問題は無いぜ﹂
職務に対してあまり熱心では無い彼らは、商人達の言葉に頷き始め
た。
元より人間に対しては敵対していた事も有り、羽根落ちに関しては
天使から見て家畜と同等の劣等種でしかなかった。
自分達の失点を取り戻す為に四城門にまでやって来たが、ここには
彼らの仕事を裁量するアン・ミサは居ない。
里は混乱の極みであり、彼女達上位天使はそれぞれの役目に負われ
ている。
評価を下す上司の目が届かないところで必死に働く様な勤労精神は、
彼らには無かった。
口々に﹃面倒だ﹄、﹃バレなければ問題無い﹄、﹃もう既に脱出し
た後だったと報告すれば良い﹄等々言いながら緊張を解いていく天
兵達。
1019
それを聞き、シャスラハールは叫んだ。
﹁馬鹿な事を! 人身売買ですよ! 積荷って何ですか⋮⋮人じゃ
ないですか! 助けないと!﹂
激昂し、天兵達を睨みつける。
再び互いを確認し合う天兵達だったが、
シャスラハールに武器を向けられている蛇商人が冷たい笑みを浮か
べて彼らに問いかけた。
﹁天使の皆さん。どうでしょう? ここで私共を見逃して頂ければ、
お一人にお一つずつ入荷したばかりのオナホールを差し上げますよ
?﹂
その言葉を聞き、天兵達に動揺が走った。
﹁そ、そうで御座います。我らが仕入れたばかりのピチピチオナホ
を差し上げましょう﹂
﹁私共の方では金銭もお付けいたします。ささ、そちらの人間が見
ております。証拠が残ってしまえばアン・ミサ様の法で何をされる
かわかりません。口を封じて下さいませんか?﹂
言いながら、彼らは荷馬車からオナホを取り出して、天兵達に見せ
つける。
﹁どうです? 今ならまだお互い損はしないはずです。我らはアン・
ミサ様のお言葉が有る限りこの里で戦う事が出来ません。ですが、
天使の皆さんならばそれは例外でありましょう? ここでサックリ
と邪魔なそいつらを処分してしまえば⋮⋮ね? 罪は全て親鬼に被
せてしまえば良いではありませんか﹂
蛇商人がシャスラハールの拘束を躱し、荷台から取り出したのは、
﹁ルル⋮⋮ルルッ!﹂
﹁ぁ⋮⋮ぇ⋮⋮しゃ⋮⋮る﹂
柔肌を荒縄で雁字搦めに縛り上げられ、オナホへと改造された魔導
士の姿だった。
一晩かけて蛇毒を注がれ続けて来た為、彼女の口は正常に機能しな
い。
1020
そればかりか、全身に大粒の汗を浮かべ、股間は絶えず濡れ続けて
いる。
神経を犯され、体機能を乱されているのだ。
﹁ほぉら、ジュクジュクのグジュグジュですよ? 皆さんどうです
? これ、﹃使い﹄たくないですか?﹂
﹃ルル﹄の陰唇をぱっくりと開き、天兵達にオナホ部分が良く見え
る様に晒しながら、蛇商人は言った。
その言葉が決め手だった。
﹁⋮⋮商人方の財産保護を第一とする。彼らを襲う二人の人間を、
天兵連隊の名に於いて抹殺せよ!﹂
天兵の責任者とみられる男が叫び、下品な笑みを浮かべた天使達が
シャスラハールとフレアに槍を向ける。
﹁この外道が!﹂
向けられた槍を睨みつけ、長剣で威圧するフレア。
﹁⋮⋮﹂
細められたシャスラハールの瞳は、総身を巡る怒りの波紋に支配さ
しゃ
れていた。
﹁殺ぁ! 俺はオナホが欲しかったんだよ!﹂
一人の天兵が王子に向けて槍を構えて突っ込んでくる。
﹁この人達は、オナホなんかじゃない!﹂
槍を弾きながら、シャスラハールは叫んだ。
﹁うるさい! どうみてもオナホじゃねぇか。鬼チンポぶち込まれ
て肉と酒で交換されたただの雌穴だろう? 俺達はずっと空から見
てたんだよ。指をくわえて、我慢汁零しながら!﹂
続く天兵がシャスラハールへと襲い掛かる。
﹁そうだ。お前の仲間達も威勢の良い割には簡単に捕まって鬼チン
ポでズボズボ犯されて喘ぎまくってたぜ。何人かはもう既に遠くに
売られちまってるよ。二度とお前のとこには戻らない。遠くの魔物
の里で死ぬまで臭ぇチンポをしゃぶり続ける一生を送るんだぜ!﹂
その言葉に、歯噛みしてシャスラハールは槍を打ち払う。
1021
﹁違う! 僕が助ける! 絶対に皆を取り戻す!﹂
激しく戦うシャスラハールのすぐ傍では、
悶え苦しむ天兵の血濡れの体が着々と積み上がって来ていた。
﹁⋮⋮わたしはね。元々お前らが大嫌いなんだよ。ぶっ殺して良い
条件が揃った以上、遠慮はしない。全員、死ね﹂
ラクシェにより攫われ、天使によって拷問を受け続けたフレアの瞳
には溶岩の様な怒りが籠っていた。
﹁まともなのもいるかと思いきや、オナホールが欲しいからわたし
達を殺すだって? そんな奴ら生きてる価値ないよね?﹂
愛用の大戦斧は失っている。
代わりに持って来たのは宮殿に有った観賞用の長剣。
だがその不利は、フレアの怒りがカバーした。
﹁ひ、ひぃぃぃ﹂
﹁か、勝てませんよコイツ⋮⋮﹂
﹁落ち着け、遠間から槍で一斉にだな︱︱﹂
責任者が号令を発する。
フレアの猛攻を天兵は数人がかりで抑え、逆に数人の天兵の攻撃を
シャスラハールは懸命に返し続ける。
攻撃に押され、今まで荷台にいたシャスラハールは地面へと降りて
いた。
﹁うしゃあ! 今の内だぜ!﹂
天兵とシャスラハール達が争いに入り、生まれた隙を商人達は見逃
さなかった。
蛇商人は﹃ルル﹄を荷台に放り込むと、
﹁へへっ、天使の方々、御代はコイツでお願いしますぜ﹂
羽根落ちオナホを放り捨て、猛然と荷馬車を走らせた。
﹁あっ。さっきの人間オナホじゃないのか⋮⋮!﹂
天使の抗議の声も、
﹁続けっ! 今の内だ、とにかく城門の外に出るんだーっ!﹂
蛇商人に遅れまじと突っ込んでくる商人の荷馬車隊に弾き飛ばされ
1022
る。
﹁そらっ、この安物オナホで我慢しな!﹂
一度包囲を抜け、余裕の笑みを見せた商人連中は律儀にも天兵との
約束を守り、羽根落ちオナホを荷台から放り捨てて行く。
苔塗れの商人も、トカゲ顔の商人も、屍人商人も笑顔で羽根落ちオ
ナホを放り投げる。
動き出した荷馬車の動きを、天兵達は止められなかった。
﹁止めろっ! 何をやっているんだ!﹂
商人に騙された事に憮然としながらも、シャスラハールへと向かう
刃は止まらない。
﹁⋮⋮今更遅ぇんだよ⋮⋮お前らを生かしておくと後でアン・ミサ
様に何を言われるか⋮⋮。こうなったらあの羽根無しオナホで我慢
するっきゃねぇよ⋮⋮﹂
そう言って、彼らの槍がまたシャスラハールへと襲い掛かる。
﹁この⋮⋮どこまで腐って︱︱﹂
多勢に無勢。
いくらフレアが押していたとは言え、厚みのある天兵の戦力を相手
に二人では敵うはずも無く、そうして手をこまねいている間にも、
荷馬車は次々に里を脱出して行った。
シャスラハールは呪いの言葉を吐く。
その時、
﹁本当に⋮⋮ここまで落ちぶれていましたか⋮⋮﹂
空から響く、冷たい声。
﹁全てはわたくしの責任なのでしょう。わたくしと、姉と妹が全て
を執り行ってきた結果、この者達は堕落し、とても清らかさと勤勉
さを貴ぶ天使と呼べる存在では無くなってしまったのでしょう。⋮
⋮ならば、管理者として。正す必要が有りますね﹂
四枚の輝く翼を広げた智天使が、空に浮かんでいた。
その隣には、黒髪の少女天使が控えている。
管理者アン・ミサと裁天使ユラミルティ。
1023
﹁あ、アン・ミサ様⋮⋮こ、これはですね⋮⋮﹂
責任者の男が口を開く。
そこに冷たい視線を向け、アン・ミサは宣告した。
﹁この者達に、裁きを。法は特例を以って貴女が行使なさい。ユラ
ミルティ。わたくしが許可いたします﹂
隣の少女天使へと命じ、魔力を展開する。
統治魔術の強化。
アン・ミサの支配下にある者達は、彼女の律に逆らう事が出来なく
なる。
無論、逃げる事もだ。
﹁畏まりました。裁天使ユラミルティの名に於いて、ここにいる全
ての天使に罪状を告げる﹂
眼鏡を掛けた黒髪の天使は、そこで間を取った。
﹁死罪。方法は縊殺とする﹂
その言葉と共に、天兵達の首に光の縄が結ばれた。
﹁い、いやだ!﹂
﹁お慈悲を、智天使様⋮⋮アン・ミサ様!﹂
縋る天兵の声に、アン・ミサは首を振る。
﹁貴方達の罪はこの件一つではありません。民を見捨て、自分達だ
けが安全な場所へ逃げた事。攫われる民を見送った事、そして救い
の手を己の欲望で妨害した事。そのどれもが、我が法に触れ、罰を
受けるべき所業。ただ︱︱﹂
その後は、ユラミルティが引き継ぐ。
﹁なお、この刑の執行は二刻後とする。それまでの間に功績を挙げ
た者には特例として減刑処置を取る用意がある﹂
光の縄で首を絞められた天使達に、希望の光が与えられる。
﹁最低一人、我らが民と同盟者の身柄を取り戻して来た者にのみ、
アン・ミサ様の恩赦が与えられるものとする﹂
その言葉を聞き、天兵達は矢の如く飛び立って行った。
死に物狂いで翼を動かし、里の外へ向かった商人達を追って行く。
1024
シャスラハールとフレアはその背中をジッと見つめ、首を振った。
﹁⋮⋮フレアさん。行こう。皆を助けるんだ⋮⋮﹂
﹁殿下、お供します﹂
二人は上空のアン・ミサを見上げる。
﹁アン・ミサ。危ないところを助けてくれて、ありがとう﹂
﹁いいえ⋮⋮こちらこそ。臣下がとんでもない行いを⋮⋮責めはわ
たくしが負います﹂
苦い表情で頭を下げるアン・ミサに、シャスラハールは視線を逸ら
した。
﹁僕達は行きます⋮⋮。絶対に皆を助けます⋮⋮!﹂
そうやって前へ進むシャスラハールの背に、アン・ミサは声を掛け
る。
﹁お待ちください。この里の外へ出ると、お二人の身にも危険が迫
るかもしれません。親鬼がまだ残っている可能性も有ります﹂
その言葉に、シャスラハールは首を振った。
﹁それでも、行きますよ。断片でしか聞いていないですけど、僕達
が宮殿の中に居た三日間、外に居た皆は凄く酷い目に遭っていたと
⋮⋮。だったら、少しでも早く助け出してあげないと!﹂
王子の決意は変わらない。
それに付き従う騎士の心も決まっている。
﹁⋮⋮ならば、ユラミルティ。シャスラハール王子に同行してくだ
さい﹂
振り向きざまに、アン・ミサは側近へと声を掛けた。
﹁⋮⋮宜しいのですか? まだ里の中には︱︱﹂
ユラミルティが小さく反問すると、
﹁大丈夫です。貴女が整えてくれた準備は完璧でした。後はわたく
し一人でやって見せます。シャスラハール王子に同行し、天兵達の
監視と安全の確保をお願いします﹂
アン・ミサは笑顔で言い切り、再び足下のシャスラハールへと顔を
向ける。
1025
﹁シャスラハールさん。こちらはわたくしの側近、ユラミルティで
ございます。先ほどご覧になられたように、彼女ならば天使達をわ
たくしの代わりに律する事が出来、また腕も立ちますので親鬼が現
れた場合にも役に立てるかと思います。彼女を連れて行って下さい
ませんか?﹂
そう言われ、シャスラハールは黒髪の天使を見つめる。
目礼する天使の姿に、頷きを返した。
﹁僕はアン・ミサを信じます。力を貸してください、ユラミルティ
さん﹂
﹁畏まりました。それではアン・ミサ様、行って参ります﹂
一瞬たりとも余裕はない。
三者ともそれを理解しているが故に、誰も無駄な事は言わずに里を
出て行った。
その背を見つめながら、アン・ミサは眉を落した。
﹁⋮⋮わたくしがいつまでも決意をしなかったから⋮⋮身内を腐ら
せ、裏切らせたのですね。今度こそ、迷いません⋮⋮。善良の盾だ
けでは、何も守れなかったのですから⋮⋮﹂
そうして彼女は宮殿の方を振り向く。
そこに、光が輝いた。
﹁⋮⋮お姉様﹂
アン・ミサの見つめる先、巨大な鏡が出現する。
そこには腕を切断されたラグラジルの姿と、嬲る様に追いかける親
鬼クスタンビアの影が映っていた。
鏡の中、ラグラジルが叫んだ。
﹃ラクシェ! 早く来なさい!﹄
ラグラジルは理解していた。
自分一人ではクスタンビアに勝つ事は出来ない。
このままでは自由の身になるどころでは無く、殺されてしまう。
1026
故に、一瞬の迷いも無くラクシェを呼び寄せた。
生み出した鏡は里のどこに居ても目に入る様に、飛び切り巨大に作
った。
そうしている間にも、クスタンビアの攻撃は止まない。
何のつもりか鋭さは欠いているが、着実にラグラジルの体を狙って
巨岩刀を振り下ろしてくる。
懸命に回避し、取り戻した魔力を全力で展開して防ぐ。
それでも、一切の余裕は無い。
ただ願った。
少しでも早く、
﹁お姉ちゃん!﹂
妹が到着する事を。
ラクシェは四枚の翼を煌めかせ、戦場に辿り着いた。
視線の先に、血に濡れたラグラジル。
そしてこちらを見上げているクスタンビア。
﹁⋮⋮懐かしいわ。ラクシェ、貴女が居たからワタシはこの里を追
われたの。この恨み、両手足をバラバラに引き千切ってオナホに変
えてあげないと癒えそうに無いわ﹂
クスタンビアが狂った笑みを浮かべる。
﹁調子に乗るのもここまでだよ。あんた一人でウチに敵うわけない
じゃん。昔みたいに里の公共肉便器に堕としてあげるから、無駄な
抵抗は止めてよね﹂
ラクシェもまた、獰猛な笑みを浮かべて戦槌を突き付けた。
それを見て、クスタンビアは頷いた。
﹁そうね。ワタシ一人じゃ、力天使には敵わない﹂
口をついた言葉は、笑みに彩られている。
﹁ですよね? 御主人様﹂
﹃あぁ。そうだな﹄
虚空に投げ放たれたクスタンビアの問いかけに、答える存在がいた。
それは︱︱
1027
﹁ハルビヤニッ!﹂
ラグラジルは驚愕と怒りを込めて叫んだ。
自らの父親の名を。
﹁ほぇ⋮⋮おとうさん⋮⋮?﹂
ラクシェもまた、聞き覚えのある声の唐突な出現に眉をしかめた。
﹃良い事教えてやるよ、一人じゃ敵わないんだったら、味方を作れ
ば良いんだよ。あぁそんな味方だなんて良い物じゃなくても良いぜ。
奴隷とかな﹄
ハルビヤニの声は楽しそうに笑う。
﹃ラグぅ。俺はなぁ、お前達を育てるのに結構苦労したんだぜ? チビはワガママで粗暴、アンは引っこみ思案で口を開けば正論しか
言わない面倒なガキ。そしてお前が一番大変だった。素直に従って
いるかと思えば俺の構想と真逆の事をやっていたり、ほんと生意気
を絵に描いたようなどうしようもないガキだったよ﹄
饒舌に語るハルビヤニの姿無き声を、ラグラジルは聞き流す。
﹁それがどうしたの? 今更昔の子育て話をして何がしたいのかし
ら? 感謝してそこにいるアンタの肉便器を見逃せとでも?﹂
片腕を切り落とされた状態でどこまでやれるかわからないが、ラグ
ラジルがラクシェを援護すれば、クスタンビアの勝機は万に一つも
無くなる。
﹃だからなぁ。お前がチビ用に結界魔術を用意していたようにだ、
昔俺も、生意気で言う事を聞かないお前用の魔法を準備しておいた
って事さ﹄
紡がれた言葉を理解した瞬間、ラグラジルは︱︱
﹁ラクシェ、クスタンビアを仕留めて、今すぐに!﹂
妹に向けて叫んでいた。
﹁え、あ、うんっ!﹂
一瞬の間を置いて、ラクシェは羽ばたく。
クスタンビアへと迫る戦槌の脅威は、彼女が事態を飲み込むのに要
したその間の分だけ遅かった。
1028
﹃やれ、クスタンビア﹄
﹁畏まりました御主人様︱︱﹃対生意気な長女用躾魔術﹄展開﹂
親鬼クスタンビアは虚空へ向けて頷き、地面に巨岩刀を突き立てる。
それを通じてこの里を巡る魔脈に仕込まれていたハルビヤニの魔術
を呼び起こす。
かつてラグラジルがラクシェ用に仕込んだ﹃馬鹿な妹用結界魔術﹄
と同種のそれが、音も無く発動した。
ラグラジルの首に、地面から無数の魔力が迸り、刻印を作り上げる。
﹃奴隷の印だよ、可愛いラグ。お前が生意気を言った時に、お前の
理性だけを残して俺の言いなりに出来る様に、魔術を作っておいた
のさ。どうだ? 楽しみだろう? 俺の予定では心で必死に抵抗す
るお前のマンコを使った社会奉仕活動とかを考えていたんだが、今
はクスタンビアに従え、そして、チビを倒す援護をしろ﹄
里全体の魔力を込めた上に、効果対象をラグラジル個人に限定して
いる事が、この魔法の効力を絶大に強化していた。
﹁⋮⋮ッ! ラクシェ⋮⋮、後ろっ!﹂
﹁ぃえっ? あぐっ!﹂
クスタンビアへと突進していたラクシェの無防備な背中を、ラグラ
ジルの魔弾が襲った。
衝撃を受け、ラクシェは吹き飛ばされる。
ゴロゴロと転がり、激痛に悶えながら顔を上げた時、
目に入ったのは︱︱
﹁奴隷ちゃんに服なんて物はいらないでしょう?﹂
オーク
クスタンビアの巨岩刀に柔肌をなぞられ、衣服をビリビリに裂かれ
ている姉の姿だった。
﹁⋮⋮ラクシェ、アンを連れて里から脱出しなさい。豚魔の大王の
所へ行って、協力を仰ぐ︱︱ひぐっ!﹂
無抵抗なまま全裸に剥かたラグラジルが唯一自由な口でそう妹に命
じると、
クスタンビアは都合よく足を開いて立っていたラグラジルの股の間
1029
に、巨岩刀の刃先を上にして押し付けた。
少しでも力を込めれば、ラグラジルの性器は滅茶苦茶に削り取られ
てしまう。
﹁駄目よ。ラクシェ、ここでお前が逃げたら、ワタシはラグラジル
にとても酷い事をするわよ? オッパイに入るだけの針を差し込ん
で、この剣でズタボロにしたマンコでそこの羽根無し共相手に売春
させる。向こうが嫌だって言ったってワタシが脅せば誰でも言う事
を聞くわ? ワタシが昔やったように、この里に住む全ての雄の精
液を子宮に注がれるまでね。ねぇラクシェ、お前は実の姉を血みど
ろの肉便所にしたいのかしら?﹂
クスタンビアはそう言いながら、ラグラジルの乳首を摘み上げると、
﹁あぐっああああああ﹂
万力の様な力を籠めて捻じり潰していた。
﹁⋮⋮ラグお姉ちゃんを離せ﹂
ラクシェは戦槌を構え直す。
﹁あらら美しい姉妹愛? お前達昔から仲が悪くて有名だったじゃ
ない?﹂
そう茶化す親鬼に向けて、
ラクシェは頷いた。
﹁前は嫌いだったよ⋮⋮でも、最近は違うもん!﹂
脳裏に浮かぶのは、シャスラハールに囚われてから無力になった自
分をずっと背負い、世話をしてくれた姉の背中。
﹁今度はウチが助ける!﹂
ラクシェは突撃した。
それに向け、クスタンビアは余裕の笑みを浮かべた。
﹁それで良いのよ。流石馬鹿は相手にし易いわね。ラグラジル、ワ
タシの援護をしなさい﹂
天兵の里を巡る争い。
その最終戦が始まった。
1030
対大好きな姉用束縛魔術︵前書き︶
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1031
対大好きな姉用束縛魔術
全盛期のラグラジル。
その実力は天使達のみならず他種族の魔物から見ても群を抜く。
﹁自由が⋮⋮利かない!﹂
魔力で精製された鎖は頑強に対象を束縛し、作り出す魔鏡は過去、
現在、未来の全てを映す。
自身の魔力を分化させた幻影を操り、現実とは隔絶された空間を瞬
時に生み出す。
﹁避けなさい⋮⋮ッ! ラクシェ﹂
魔天使ラグラジル。
彼女は今。
奴隷に堕ちている。
雷の様に速く、大岩の様に重いクスタンビアの一撃に、ラクシェの
体は宙に舞った。
﹁あぐっ⋮⋮﹂
一対一ならばラクシェはクスタンビアに遅れは取らなかっただろう。
だが今、クスタンビアはラグラジルを従えている。
奴隷にサポートをさせながら、ラクシェと切り結ぶ。
ラグラジルの変幻自在な技で動きを制限されたラクシェに向けて、
巨岩刀が襲い掛かるのだ。
どうにか隙を見つけ、ラクシェが反撃の一打を放とうとすると、
﹁ラグラジル、お前の体で防ぎなさい﹂
クスタンビアはラグラジルを呼び寄せて、防御姿勢を取らせぬまま
生きた盾として使用する。
手出しが出来なかった。
1032
ラクシェはジワジワと体力を削り取られ、ついに致命的な一撃を胸
に受けた。
﹁⋮⋮ひゅ⋮⋮はひゅ⋮⋮。卑怯者⋮⋮お前なんか⋮⋮お前なんか
⋮⋮﹂
鮮血を胸から零しながら、ラクシェはクスタンビアを睨みつける。
﹁これで終わりね。ラクシェを倒し、ラグラジルを奴隷にしてしま
えば、後は非力なアン・ミサだけ。天兵の里、そして管理者の系譜
はもう御終い。用済みのお前達はワタシの里でオナホールになって
これからの一生を過ごすの。お前の鍛えた武芸も、ラグラジルの魔
術の研鑽も、アン・ミサの知恵の大成も何もかも無意味。これから
先はオナホとしてチンポを締め付けて精液を注いで貰う事だけがお
前達の生きる意味になるのよ﹂
クスタンビアは笑い、倒れ伏す力天使へと一歩を踏み出した。
﹁ふん⋮⋮ばーか。あんたみたいな便所女と一緒にしないでよ。ウ
チもお姉様達も絶対にあんたの思い通りにはならないよ! ねぇ、
ラグお姉ちゃん﹂
声を向けた先、ラグラジルは棒立ちで事態を見守っている。
﹁⋮⋮そうね。何とかしたいところだけど⋮⋮。この刻印がどうに
かならない限りは⋮⋮﹂
ラグラジルの首に刻まれた魔術印。
それが彼女をクスタンビアの奴隷へと変えてしまっている。
﹁強がるわね。だったら現実を見せてあげましょうか﹂
クスタンビアはラクシェの体を踏みつけにし、巨岩刀を振り上げた。
﹁⋮⋮あぐぅぅぅぅぅ﹂
振り下ろされた巨岩刀は、ラクシェの右腕を切断した。
﹁終わりじゃないわよ?﹂
続けざまにもう三回、振り下ろされる。
﹁いぎぃぃぃぃぃぃぃ⋮⋮あっ⋮⋮あぁ﹂
飛び散った血を頬で受け止めながら、クスタンビアは笑った。
﹁ワタシは今ロープを持っていないから、手っ取り早くオナホを作
1033
るにはこうするしかなかったのよ。ごめんなさいね﹂
ラクシェの四肢は、一つたりとも残っていなかった。
右腕を、左腕を。
右足を、左足を。
根元から切断され、ラクシェは身動き一つ出来ない。
﹁あっ⋮⋮かはっ⋮⋮あっ﹂
﹁あら、死なないでよ? 力天使ラクシェ様? 西域至高の武がそ
の程度でくたばってちゃ人間達に馬鹿にされてしまうわ﹂
クスタンビアは巨岩刀を腰に仕舞うと、ラグラジルへと振り返った。
﹁どうかしら? お前の妹が肉達磨になった感想は何かある?﹂
笑顔で問うて来る親鬼に、
﹁反吐が出る思いね﹂
唾を吐き捨てながら、魔天使は答えた。
﹁⋮⋮そう。じゃ、次の命令よ奴隷ちゃん。広場に残っている羽根
無しの雄共を連れてきなさい﹂
命令。
シャスラハールの﹃誓約﹄とは異なり、クスタンビアの言葉はラグ
ラジルの体を強制的に動かした。
﹁くっ⋮⋮﹂
全裸のまま、ラグラジルは空を飛ぶ。
﹁ちゃんと丁寧に御挨拶するのよ? 向こうの方が先輩奴隷なんだ
から、しっかりお願いしてつい来てもらうの。出来るわよね?﹂
向かう先は、宮殿前広場。
奴隷として集められていた羽根落ちの男達が、親鬼の潰走に置いて
けぼりにされた状態で固まっている場所。
﹁ら、ラグラジル様?﹂
﹁裸だ⋮⋮魔天使様の裸⋮⋮﹂
広場に辿り着いたラグラジルを、羽根落ち達が一斉に注目する。
1034
乳房に、性器に数十の視線が集まり、魔天使は屈辱に頬を染めた。
﹁み、皆さま。ワタシは今日から皆さまと同じくクスタンビア様の
奴隷となりました、ラグラジルと申します。御主人様がお呼びです
ので⋮⋮どうぞこちらへ⋮⋮﹂
かつて支配していた下々の者達に全裸の状態で頭を下げ、魔天使は
同行を促した。
羽根落ち達は顔を見合わせる。
彼らは親鬼によって集められ、妻子をオナホへと変えられて自身は
奴隷の身分へと落されていたが、ラクシェの突撃により親鬼が逃げ
散った事によって、宙ぶらりんな状態のまま放置されていた。
多くは広場を離れて家へと戻ったが、一部の者は急な事態に取り残
されて手持無沙汰で話し合いを続けていた。
﹁クスタンビア⋮⋮様が﹂
﹁逆らったら殺される⋮⋮し、死にたくない﹂
羽根落ち達は震える足で前へ進み始めた。
ラグラジルは怯える彼らの表情に背を向け、徒歩でクスタンビアの
元へと引き返していく。
その時。
﹃あら? ダメねラグラジル。先輩奴隷の皆さんの前で、偉そうに
立ってるのは頂けないわ。お前は今犬と同じよ? ワタシに羊を連
れて来いと命じられた犬なのよ、お前は。地面に手をついて、お尻
を振りながらそいつらを連れて来なさい﹄
奴隷の刻印を通してクスタンビアの声が聞こえた。
﹁なっ⋮⋮﹂
﹃その刻印はね、お前の見ている物聞いている物全てを主人に教え
てくれるの。だってそうでしょ? 奴隷に自由なんてあるわけない
んだから﹄
クスクスと笑い声が響く。
﹃さぁ、地面に手をついて。お尻を高く上げて下品に振りながら歩
いて来なさい。そうじゃないと、ラクシェの体にどんどん新しい傷
1035
が増えて行くわよ?﹄
その言葉の終わりに、
﹃あっ! ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ﹄
ラクシェの絹を引き裂くような悲鳴が聞こえた。
身動きが取れなくなったラクシェに対して、クスタンビアが拷問の
類を加えているのだろう。
そう察して、ラグラジルは唇を噛みしめながら、地面へと手をつい
た。
﹁皆さま⋮⋮ワタシの後にしっかり付いて来てくださいね⋮⋮﹂
片腕はクスタンビアに切り落とされている。
故にラグラジルは不格好な三本足の獣となって、街路を歩いて行く。
﹁おっ⋮⋮おぉ⋮⋮ラグラジル様⋮⋮﹂
﹁あんなにケツをプリプリ動かして⋮⋮先代の管理者様だぜ?﹂
﹁ケツ穴もマンコも丸見えじゃねぇか⋮⋮どこの犬だよ⋮⋮﹂
両足と左腕だけで獣の四足歩行を真似しようとすると、体のバラン
スが悪く、体勢を維持するのが難しい。
それによって、ラグラジルは一歩を踏み出す度に足に力を籠め、尻
を高く上げざるを得ない。
それは、後ろに付いて来る羽根落ち達に向けて性器と肛門を晒す行
為に他ならなかった。
ゆっくりと、恥辱の行進を続けるラグラジル。
羽根落ち達は食い入る様に彼女の肛門と性器を目で嬲った。
﹁⋮⋮俺達、本当に負けちまったんだな⋮⋮﹂
ポツリと羽根落ちの一人が口を開いた。
﹁あぁ。占領されても、アン・ミサ様達がご無事ならどうにかなる
と思っていたけど、ラグラジル様がこのザマじゃな﹂
﹁⋮⋮俺達みたいな一般庶民に肛門晒して大通りを犬みたいに歩く
ようになっちまったんだな。あの聡明で頼もしかった魔天使様がよ
⋮⋮﹂
男達の歩く速度が上がった。
1036
ヨロヨロと三つ足で進むラグラジルに追いつき、至近距離からその
痴態を眺め始める。
﹁⋮⋮チッ!﹂
顔を落とし、恥辱に震えながらも、ラグラジルは主人の命令に縛ら
れる。
﹁近くで見ると本当に凄いな。これが俺達の象徴のケツ穴かよ﹂
﹁何が有ったか知らないけどさ。これからこの人はずっとこうやっ
て恥を晒して生きて行くんだろうぜ﹂
﹁あぁ。俺達の妻を守れなかったんだ。その分自分達も同じ目に遭
って下さるんだろう。全く、頭が上がらないや﹂
羽根落ち達は口ぐちに言って、ラグラジルの尻を撫で始めた。
﹁⋮⋮ッ﹂
ラグラジルは耐えた。
今ここで爆発したとして、何の意味も無い。
自分はどうせ、クスタンビアには逆らえないのだから。
﹁⋮⋮おりゃ﹂
無造作に、一人の男の指が肛門に侵入してきた。
﹁んひっ!﹂
﹁お、ズルいなお前⋮⋮俺もっと﹂
ズブリュ︱︱
別の男の指が新たに押し入ってくる。
﹁お前らやめろって⋮⋮三日間親鬼のあのレイプシーンをずっと見
てて溜まってるのは俺も一緒だけどよ、クスタンビア様の許可なく
変な事したら最悪首が飛ぶぞ﹂
慌てた様子で一人が割って入る。
﹁⋮⋮触るだけなら。良いじゃないか?﹂
﹁だよなぁ、汚さなければ証拠も無いしな﹂
﹁⋮⋮それもそうか﹂
男達は頷き合って、ラグラジルの尻へと手を伸ばす。
﹁あひっ⋮⋮くっ⋮⋮﹂
1037
窮屈そうに身を寄せ合ってラグラジルの尻と股間に手を這わす男達。
尻肉を撫で、尻穴を抉り、大陰唇を引っ張り、指で膣口を擦り上げ
る。
犬と化したラグラジルと、それを撫でながら付いて行く男達。
男達の不躾な手によって魔天使の柔肉は形を変え、淫らに蠢く。
やがて恥辱の行進は目的地へと辿り着く。
﹁随分ゆっくりだったわね。ラグラジル。お前が遅いせいでワタシ
の手慰みに付き合ってくれたラクシェは大変だったのよ?﹂
犬状態で男達を連れて来たラグラジルの目に飛び込んできたのは、
﹁ラクシェ⋮⋮﹂
全身に血の線を刻まれたラクシェの姿だった。
クスタンビアは巨岩刀を使い、ラクシェの幼肌に文字を刻みつけて
いたのだ。
﹃非貫通式オナホ︵Sサイズ︶﹄﹃余分な手足が無い筒状だから持
ち易く使い易い﹄﹃昔は西域最強でした。今はオナホですけど﹄
と長々とした文章が肌に浮く傷跡で描かれていた。
﹁ラ⋮⋮グ、おねえちゃ⋮⋮ん﹂
四肢を切断された怪我すら癒えていないというのに、新たに負った
裂傷による更なる出血でラクシェの顔色は真っ青だ。
﹁そこのお前。こっちに来い﹂
クスタンビアは羽根落ちの一人を指名する。
﹁お、俺ですか⋮⋮?﹂
自分を指差しながら、男はオドオドとした表情で寄ってくる。
﹁今からこのオナホを使いなさい。精液を出し終わったら別の奴に
渡して﹂
クスタンビアはそう言って、転がるラクシェの体を蹴った。
﹁え⋮⋮でも⋮⋮﹂
﹁死にたい?﹂
ラグラジルとは異なり、ついさっきまでこの里の為に戦っていたラ
クシェを見て、男が逡巡すると、クスタンビアは半笑いで睨みつけ
1038
た。
﹁い、いえ! 有り難く力天使オナホを使わせて頂きます!﹂
男は素早く動いた。
傷だらけのラクシェの体を抱え上げて、自らの肉棒を取り出し、幼
い膣口に挿入する。
﹁んっ⋮⋮へべ⋮⋮﹂
失血状態で朦朧とするラクシェは言葉を紡げない。
﹁お、おおおおっ! これがラクシェ様のマンコ⋮⋮すげぇ⋮⋮グ
ニグニだぁ!﹂
男は先ほどまでの遠慮を放り捨てて、獣の様に腰を振った。
﹁チビっこくて⋮⋮キツキツで⋮⋮チンポにすっぽり絡んできやが
るううう﹂
クスタンビアの脅しなど忘れたかのように、男は﹃ラクシェ﹄を使
う。
﹁い、良いな⋮⋮﹂
﹁くそぅ⋮⋮俺だって溜まってるのに⋮⋮﹂
それを見守っていた男達から、羨望の声が漏れてくると、
﹁そうねぇ。お前達は散々ワタシの部下がオナホを使っている場面
を傍で見ていたんだったわね。可哀そうに。三日分の精液がたっぷ
り溜まっているのだろう? そっちの犬で良ければ使っても構わな
いわ。ねぇ、ラグラジル?﹂
クスタンビアは冷笑を浮かべながら言った。
言葉が向けられた先、ラグラジルは俯きながら体を震えさせる。
彼女の首筋に浮かぶ刻印が薄く光り、主人への絶対服従を強いた。
﹁⋮⋮こんな⋮⋮奴隷マンコで良ければ⋮⋮皆さまご自由に⋮⋮お
使い下さい﹂
紡がれた言葉は、かつてこの里を支配した魔天使から発せられた。
屈辱と、絶望に震える声で。
﹁だ、そうよ?﹂
クスタンビアが言い、男達は容赦なくラグラジルへ飛び掛かった。
1039
﹁ま、待って。せめて一人ずつ︱︱﹂
抗議の声は途絶える。
彼女の口に、三日間かそれ以上、洗っていなかった肉棒が押し込ま
れたからだ。
﹁奴隷なんでしょ? ラグラジル様? だったら良いですよね? こっちの穴も使っちゃって良いですよね!﹂
口腔を犯しながら、男が上気した声を放つ。
膣口には既に競争に勝った羽根落ちが張り付き肉棒で穿っている。
乳房と肛門にも手が這い伸び、かつての支配者の体を蹂躙していっ
た。
﹁楽しみなさい。そっちのオナホでも犬奴隷でもどっちでも好きな
だけ犯して良いわよ。その分明日からは新たな支配者であるワタシ
の為に身を粉にして働いてもらうけどね﹂
クスタンビアはそう言って、自らが嗾けた凌辱に背を向ける。
﹁さてと。それじゃあ最後の一人を捕まえに行こうかしらね﹂
腰に巨岩刀を差し、歩き出す親鬼。
彼女が去った後も、下克上式凌辱は続く。
﹁おらぁ! 今度は俺だぜラクシェ様! いやオナホール﹃ラクシ
ェ﹄ちゃんよぉ! 手足が無いから安心してお前を犯せるぜぇ! 俺みたいな弱っちくて魔物としては何にも出来ない羽根落ちに膣内
出しファックされる気分はどうだい? 案外無敵のお前と雑魚の俺
で子供作ったら親鬼くらいの強さの子供が生まれて来るんじゃない
か?﹂
新たな男が楽しそうに喚きながら、ドロドロの精液を零す﹃ラクシ
ェ﹄の膣に己の肉棒を押し込んでいく。
﹁⋮⋮ア⋮⋮お姉さま⋮⋮逃げて⋮⋮﹂
死線を彷徨いながら、ラクシェが口にしたのはアン・ミサへの想い。
クスタンビアが向かった先、非力なアン・ミサでは対処できない。
自分達と同じにされてしまう。
それだけはどうしても嫌だった。
1040
﹁聞いてんのか? あぁ? まぁ良い、たっぷり膣内に出してやる。
お前くらいのチビオナホだったら孕んだくらいが肉乗って使い易い
だろうしな!﹂
﹁んぐふっ!﹂
男の腰の動きは収まらない。
その少し隣。
犬が這いつくばっていた。
﹁ふぅ⋮⋮。おい、まだ飲み込むなよ。俺が良いって言うまで口の
中でクチュクチュやってろ﹂
ラグラジルの口内に精液を放った男が、下卑た笑みで彼女を見下ろ
しながら言った。
その間も、魔天使の膣には別の男のチンポが出し入れされている。
﹁アンタも堕ちたなぁ! ケツ穴とおっぱい滅茶苦茶にされながら
マンコはガン突き。そして口の中はベトベトの精液で一杯とは、去
年までの魔天使様の姿とはとても思えないぜ﹂
ラグラジルは一瞬男を睨みつけ、そして逸らした。
だがそれが、男の勘気をついてしまった。
﹁はぁ? 何だその目は。おい俺はお前の先輩奴隷だぞ。生意気な
目向けてんじゃねぇよ!﹂
男は足を振り上げ、ラグラジルの頭部へと落した。
﹁んぐっ!﹂
もたらされた衝撃により、ラグラジルは精液を少量嚥下してしまう。
そのまま踏みつけにされ、地面に顔を押し付けられる。
﹁飲むなよ。ここにいる全員がお前のマンコに精液注ぎ終わるまで
ずっと口の中で味わい続けろ。それがお前の敗北の味だよ。惨めな、
情けない、奴隷に落ちた味だ﹂
グリグリと頭を踏みにじりながら、男が笑い、かつての支配者へと、
黄ばんだ唾を吐き捨てた。
1041
クスタンビアは凌辱の輪を離れてそう時間も経たない内に、目標と
出会った。
智天使アン・ミサは、空に浮かびクスタンビアを睨みつけていた。
﹁⋮⋮久しぶりだねぇ。アン・ミサ。元気にしてた?﹂
両者は知己である。
愛人の娘。
父親の情婦。
それが両者の間柄を指す言葉だった。
﹁クスタンビア⋮⋮もはや言葉は有りません。貴女を討ちます。わ
たくしなりのやり方で﹂
その言葉と共に、アン・ミサは全身から魔力を解放させた。
白い波動が、辺りに広がっていく。
﹁ふん⋮⋮。お嬢様が何をしたところで運命は変わらないよ。向こ
うでお前の姉と妹がどうなっているか知ってるかしら?﹂
クスタンビアは巨岩刀を手に取り、アン・ミサを睨みつける。
﹁⋮⋮存じておりますよ。クスタンビア、わたくしは貴女を許しま
せん。貴女が運んで来た災厄により、わたくしが父から授かった里
は壊滅いたしました。民の心も、兵の心も汚れ、何もかもを失った
思いです﹂
アン・ミサはラグラジルが奴隷にされ、ラクシェが敗北した姿を遠
く見ていた。
その後の凌辱についても、心で悲鳴を上げながらずっと見つめてい
た。
﹁へぇ。随分薄情だね。お前は姉妹の中でも一番情が深く、面倒な
子だと思っていたけど、ワタシに勝てないからって怯えて隠れて見
てたんだ?﹂
親鬼は余裕の笑みを浮かべる。
実力差ははっきりとしている。
智天使アン・ミサでは、クスタンビアには及ばない。
だが、
1042
﹁⋮⋮準備を。貴女を倒し、家族を救う為に﹂
アン・ミサは胸元から取り出した何かの破片を空中に撒いた。
鉄くずの様な、鈍色に輝く物体。
﹁⋮⋮何かしら? それ﹂
クスタンビアは目を眇めて落下する破片を見つめる。
﹁わたくしの父、ハルビヤニがこの西域を支配出来たのは、貴女と
大王様が左右に控えていた事が一つの理由です。ですがもう一つ、
種族として決して強くはない天使を率いて勝利した理由。それは貴
女もご存知だと思います﹂
アン・ミサは舞い落ちる破片に治療の魔力を注ぐ。
細かな粒だった破片が、みるみる質量を増していく。
煌めく金属は腕となり脚となる。
胴を作り、首を伸ばす。
そして、人間の凡そ倍の体躯を持った鋼鉄の躰を形成した。
﹁魔導機兵⋮⋮ッ!﹂
ズシンッ︱︱と音を立てて、金属の動く鎧達は大地へ降り立った。
﹁かつての戦乱で戦い、朽ちていた魔導機兵の欠片です。ユラミル
ティに命じ、西域全土を探させました。数はおよそ千。お父様が扱
われていた総数にはとても及びませんが。相手が貴女一人であるな
らば、充分に対抗できる数だと思います﹂
クスタンビアの表情に、緊張が生まれた。
魔導機兵。
かつてハルビヤニが率いた軍の主力と言える存在。
その実力は一般の親鬼に匹敵し、尚且つ命を持たぬが故に恐れを知
らず、命令に従い戦う兵士達。
生前のハルビヤニは数万の魔導機兵を操り、西域全土を飲み込んで
いた。
﹁管理者アン・ミサの名に於いて命じます。魔導機兵よ、そこなる
重罪人を捕らえなさい﹂
本来はハルビヤニ以外の命令を受け付けない魔導機兵を、アン・ミ
1043
サは操って見せる。
﹁⋮⋮統治魔術かっ!﹂
破片を治療魔術で再生し、統治魔術で操作する。
西域に侵攻して来たオビリス達ゼオムントに対抗する為に、アン・
ミサが集めていた戦力がそれだった。
﹁ユラミルティが危険を冒して集めて来てくれた切り札です。貴女
を相手に使う事になるとは思ってもいませんでしたが、こうなって
しまっては、仕方が有りません!﹂
アン・ミサの言葉と共に、魔導機兵はクスタンビアへと躍りかかっ
た。
﹁チッ⋮⋮でもねぇ。たった千でしょ?﹂
クスタンビアは下がらない。
﹁あまり舐めないでよ。この程度の数、倒せないわけじゃないのよ
?﹂
巨岩刀を振り上げ、
﹁はああああああああっ!﹂
迫り来る魔導機兵へと叩きつけた。
バラバラに砕け散る意思無き甲冑。
﹁⋮⋮全方位から、一斉に攻撃してください﹂
かつての主人の娘が放つ命令に、魔導機兵は無言で従う。
同胞をいくら無残なやり方で壊されようとも、心を持たぬ甲冑には
意味をなさない。
クスタンビアは押し寄せる魔導機兵を砕きながら、苛立ちを浮かべ
る。
﹁面倒ね⋮⋮。奴隷ちゃん、こっちに来て手伝いなさい!﹂
決して勝てないわけでは無い。
既に百近くの魔導機兵を屑鉄へと戻してやった。
だが、全方位からの攻撃を捌き続けるのは、如何に親鬼クスタンビ
アと言えど骨が折れる作業だった。
援軍を呼ぶ。
1044
先ほど新たに得た奴隷。
西域の魔天使ラグラジルを。
﹁⋮⋮お姉様⋮⋮﹂
アン・ミサが悲しみを湛えた声を放つ。
その先に、
﹁んぅえ⋮⋮。アン⋮⋮どうして、さっさと逃げないのよ⋮⋮﹂
全身に白濁をこびり付かせ、口と股間から精液を吐き出しながら、
ラグラジルが戦場へ到達した。
﹁ラグラジル! アン・ミサを倒しなさい。お前の手で妹を奴隷に
変えるのよ。あぁ、その子の治癒魔法には気を付けなさいよ。奴隷
刻印は絶対に守りなさい﹂
魔導機兵を切り潰しながら、クスタンビアが叫んだ。
﹁それが終わったら三人仲良く向こうに戻って羽根落ち共に犯して
もらいなさい。これから先はずっとお前達は一緒よ。肉便器として、
オナホールとしてセットで扱ってあげるわ!﹂
言葉の合間にも、次々に魔導機兵は壊されて行く。
親鬼クスタンビアとは、そういう生き物だった。
﹁⋮⋮くっ! アン⋮⋮!﹂
ラグラジルは顔を顰めながら、一本しかない手を振るい、魔法を出
現させる。
闇色の鎖。
魔力が失われていた頃には糸でしかなかったそれは、力を取り戻し
た事により強固な鎖へと変貌していた。
魔鉄鎖がアン・ミサへと向かう。
﹁防いで下さい﹂
命令に従い、魔導機兵が割って入り、身を犠牲にして攻撃を受け止
めた。
﹁アン、逃げなさいよ⋮⋮このままじゃアンタまで︱︱﹂
﹁嫌です。お姉様。わたくしはもう、お姉様ともラクシェとも離れ
離れになるつもりはありません﹂
1045
魔導機兵の体を魔鉄鎖が引き千切る。
﹁そんな事言って! アンタもこうなったらどうするのよ!﹂
汚液で汚れきった自らの体を指差しながら、ラグラジルは魔鉄鎖を
操る。
﹁⋮⋮防いで﹂
新たな魔導機兵が犠牲となり、攻撃を食い止める。
﹁シャスラハールさんとお話をして、思ったのです。悲しみを乗り
越え、どんなやり方でも前へ進む事。決断を迫られた挙句、逃げて
しまったわたくしには出来なかった事を、あの人達はやり続けて来
たのでしょう。わたくしも、それを見倣いたいと思いました﹂
更に魔鉄鎖と魔導機兵がぶつかる。
﹁お姉様。どうぞわたくしを恨んで下さい。何度でも、何度でも謝
ります。ですが、本来こうあるべきだったのです。お父様からこの
里を預かったのは、お姉様です。臆病で、貴女の後ろでずっと怯え
ていたわたくしでは及ばなかったのです。ですからお姉様、わたく
しと共に未来永劫この里で生き、この里の為に尽くして下さい。お
姉様の一生を、わたくしに下さい﹂
その言葉と共に、天兵の里全体が輝き始めた。
﹁⋮⋮何をやってるラグラジル! さっさとアン・ミサを捕らえろ
!﹂
クスタンビアの怒号にラグラジルは魔鉄鎖を放つが、全て魔導機兵
に防がれる。
﹁魔脈を通しての魔法。お姉様もお父様も用意していたようですね
⋮⋮。わたくしも、お姉様が出て行ってしまった後、作っておりま
した。絶対に使うべきではないと、心で自分を罵倒しながらそれで
も堪え切れずに作って来ました﹂
そう言うアン・ミサの瞳からは涙が零れる。
﹁ごめんなさい⋮⋮お姉様。﹃対大好きな姉用束縛魔術﹄展開﹂
魔力が放たれた。
天兵の里全体から、ラグラジルへ向けて飛来する魔力。
1046
それらは魔天使の全身を包み、首筋の奴隷刻印を覆い隠し、新たな
紋様を刻んだ。
管理者の証。
ハルビヤニからラグラジルが受け継ぎ、アン・ミサが預かった物。
それを今、一年ぶりに姉に返した。
﹁⋮⋮お姉様はもうこの里からは出られません。そして、わたくし
も一生をここで過ごします﹂
アン・ミサが涙声で告げた言葉、それはこの束縛魔術の持つ恐ろし
い効力。
それを理解した時、ラグラジルは呆然とした表情を浮かべた。
魔鉄鎖はもう無くなっている。
奴隷刻印に操られてはいない。
魔天使は薄く笑った。
﹁自由になったかと思えば、今度は奴隷にされて、そしてまた管理
者を押し付けられるとはね⋮⋮。有りえないわ。アン、一生許さな
いから。ここでワタシの為に働いて、ワタシの為に生きなさい。ワ
タシから自由を取り上げたんだもの、アンタも捨てなさい﹂
そう言われ、
﹁はい。お姉様﹂
アン・ミサは頷いた。
そして放たれる治療魔術。
ラグラジルの切り落とされた腕は再生し、全身の白濁液すら消え去
った。
﹁ラクシェだけど︱︱﹂
﹁大丈夫です。隙を見て魔導機兵を二体送っておりました。そろそ
ろ⋮⋮ラクシェ⋮⋮﹂
羽根落ちに犯され続けたラクシェは、魔導機兵の腕にすっぽりと抱
かれて連れられて来た。
全身を白濁と血で染め、顔色は死人のそれと酷似していた。
﹁おね⋮⋮さ⋮⋮﹂
1047
﹁⋮⋮ごめんね、ラクシェ⋮⋮束縛魔法の最終準備が終わらなくて
⋮⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
アン・ミサは魔導機兵からラクシェを渡され、涙ぐみながらその体
を抱いた。
﹁う⋮⋮ん﹂
ラクシェは姉の胸で、浅く息を吐いている。
﹁たたか⋮⋮う。ウチ⋮⋮なおして⋮⋮﹂
ボロボロの体で、ラクシェは囁いた。
﹁本当に久しぶりだけど。折角だから三人で戦っておきましょうか。
アイツと﹂
ラグラジルが顎で示したのは、魔導機兵を壊しつくしたクスタンビ
アの姿。
﹁⋮⋮やってくれたわね⋮⋮。でもボロボロのラクシェと魔力が尽
きかけたアン・ミサ、そしてさっきワタシに負けたばかりのお前で
どうやってワタシに勝つのかしら? ラグラジル﹂
巨岩刀を握り、獰猛に笑むクスタンビア。
﹁あんまり強がらない方が良いわよ? クスタンビア。アンタだっ
て今の千人斬りでダメージが無いわけじゃないでしょう? それに
こっちは三姉妹のコンビネーションって物にも期待が持てるんだか
らね?﹂
挑発を仕返すラグラジルの傍では、アン・ミサの治療を受け手足を
再生させ、戦槌を握るラクシェの姿が有った。
﹁昔みたいにやるわよ。ラクシェが前、ワタシが真ん中、アンが後。
余裕は無いからさっさと終わらせるわよ!﹂
ラグラジルの号令に、
﹁はい﹂
﹁はーい!﹂
妹達が頷いた。
返事と共に飛び出したラクシェに、
﹁反則よね⋮⋮アン・ミサのそれ⋮⋮!﹂
1048
クスタンビアは歯を噛みしめながら武器を構えた。
少し前まで死人同然だったラクシェがこうやって突撃してくる事自
体が、有ってはなら無い事だ。
﹁んがあああああああああっ!﹂
﹃覚醒﹄状態になったラクシェが振るう一撃は、容易くクスタンビ
アの巨岩刀の刀身を砕いた。
﹁⋮⋮やっぱり分が悪すぎる。覚えてなさい。またすぐにでも今日
の様な屈辱を味あわせてあげる!﹂
戦場に背を向け、猛然と走り去るクスタンビア。
その姿を見て、ラグラジルは動いた。
﹁ラクシェ、動かないでね﹂
魔天使ラグラジルの異空間魔法。
最初にラクシェを異空間へと飲み込み、
次の瞬間にはクスタンビアの眼前へと出現させた。
﹁なっ︱︱﹂
﹁ありがとう! ラグお姉ちゃん!﹂
﹃覚醒﹄ラクシェの戦槌が全力で叩きこまれる。
﹁くっ! このおおおおおおおっ!﹂
クスタンビアは神がかった反射神経で巨岩刀の柄を盾にし、体を守
りつつ後ろに跳んだ。
戦槌は刀の柄を砕きながらクスタンビアの腹に襲い掛かる。
﹁駄目ですラクシェ、力を抜いて!﹂
アン・ミサが叫び、ラグラジルが魔力を展開するが、
﹁ぐふっ!﹂
クスタンビアはラクシェの攻撃で吹き飛ぶ寸前に鬼の跳躍力を発揮
し、勢いそのままで大きく跳んだ。
そうしてラクシェ及びラグラジルとアン・ミサから距離を稼ぎ、
﹁ぐぼぉえ⋮⋮は、次会ったらどっちか死ぬまで戦いましょう。そ
れじゃあね﹂
血を撒き散らしながら、逃走して行った。
1049
﹁追うね!﹂
﹁止めなさい。アンタのその元気は仮の物よ。今はクスタンビアが
逃げてくれた事に感謝した方が良いかもね﹂
勇むラクシェをラグラジルが呼び止める。
﹁わたくしも⋮⋮もう限界です⋮⋮﹂
魔導機兵を操り、束縛魔術を起動し、死に掛けのラクシェを治療し
たアン・ミサはフラフラと身を傾げている。
﹁まだよ、アン。アンタにはまだ仕事が残ってるわ﹂
ラグラジルはそう言って、瞳に苛烈さを取り戻す。
﹁管理者はワタシに戻ったのよね? じゃあ命令するわ。今すぐ法
を施行しなさい。ワタシとラクシェに非道を働いた連中は全員死刑。
広場で待機しておく様に。後でワタシ直々に嬲り殺しにしてやるわ﹂
ラグラジルは天兵に恩赦の可能性を与えたアン・ミサとは違う。
﹁⋮⋮わかりました﹂
アン・ミサは表情を変えず、真摯な瞳で頷き、管理者の命令に従っ
た。
﹁はぁ⋮⋮は⋮⋮あぐっ﹂
クスタンビアは己の腹を押さえて倒れ伏す。
ラクシェの一撃は、思いの外大きなダメージとなり、彼女を苦しめ
ていた。
そのまま親鬼の里の方向へ向かえば追手が来るかもしれない。
そう考え、クスタンビアは進路を里の有る東では無く南へと向け、
遠回りして帰還していた。
その途上で、痛みに耐えきれなくなり草原の上に倒れ込んだ。
﹁ハルビヤニ様⋮⋮申し訳ございません⋮⋮。ご命令に⋮⋮沿えず
⋮⋮﹂
虚空へと声を放つが、応えは無い。
﹁ですが⋮⋮見ていて下さい。必ずや降臨祭の前にはあの里を落と
1050
し︱︱﹂
﹁大王様! こちらです! 親鬼クスタンビアが⋮⋮﹂
クスタンビアの声を覆い隠すように、カン高い声が放たれた。
慌てて身を起こすクスタンビアの前には、異様とも言える風体の魔
物が立っていた。
全身を金蘭な鎧で覆い、左手には巨大な盾を構えている。
どのくらい巨大かと言えば、彼のその、人間の三倍はある図体と同
じ程度の高さと幅を持った盾だった。
顔は豚そのもの。
同じ種類の顔をした小ぶりな豚の魔物が左右に控えて棍を構えてい
オーク
る。
豚魔。
そしてその大王。
﹁ジュブダイル⋮⋮か﹂
クスタンビアは膝立ちの姿勢で豚魔の大王を睨みつける。
﹁久しいな我が盟友よ。貴様のその様な姿、まさかこの目にしよう
とは思わなんだが﹂
ジュブダイルと呼ばれた豚魔大王は重く響く声で言った。
﹁⋮⋮うるさい。何の用だ。見れば分かるとおり天兵の里攻めは失
敗した。お前達がでしゃばる理由はもう無いぞ﹂
血反吐を吐きながら、クスタンビアは言葉を紡いだ。
﹁だろうな。あ奴が居らぬとも、三姉妹が居ればあそこは容易には
落ちぬ。貴様の電撃戦は見事であったが、詰めが甘かったようだな﹂
ジュブダイルは真剣な表情のまま頷いた。
﹁これからどうするつもりだ? クスタンビア﹂
問われ、親鬼は苛烈な瞳で語る。
﹁決まっているわ。拠点に戻って仕度を整えてまた襲撃する。降臨
祭までもう時間が無いのよ。後ふた月を切っているわ﹂
その言葉を聞き、ジュブダイルは呻いた。
﹁そう⋮⋮か。ならば仕方が無い。なぁ、我が友よ﹂
1051
友。
それが示したのはクスタンビアでは無かった。
﹃あぁ⋮⋮そうだな。こいつを放っておけば、また俺の残した大切
な娘達に危害が及んでしまう。友よ、頼めるか?﹄
少年と青年の狭間の声。
﹁ハルビヤニ⋮⋮様?﹂
クスタンビアは呆然と声を漏らす。
﹁任せておけ。クスタンビア、お前は少しやり過ぎた。我が大洞窟
にて反省すると良い﹂
ジュブダイルは大盾を使い、クスタンビアを殴りつけた。
﹁ぁぐ⋮⋮まっ⋮⋮ハルビヤニ様⋮⋮な⋮⋮﹂
薄れ行く意識の中、クスタンビアは声を聞いた。
﹃我が友ジュブダイルよ。俺は見ていた。俺の守った里がコイツに
燃やされ、大切な娘達と民草が犯された。許してはいけない罪だ。
お前を頼ったのも全て、体を失い、何も出来ぬまま指をくわえてそ
の非道を見ている事が耐えられなくなったからだ。頼む、我が友よ。
クスタンビアに罰を与えてくれ。俺の娘達にやった罪をこいつに思
い知らせてやってくれ。昔馴染み故に、命までは取りたくは無いが、
その程度は親として復讐を願う﹄
ハルビヤニの声に。
﹁三日前にお主が急に現れたのには大層驚いたが、そういう事情を
聞いて手出しをせぬのは情にもとる。お主とは色々有ったが、我も
また友と思い続けておった。⋮⋮了解した。心が痛むが、命を奪わ
ぬ程度にクスタンビアを矯正してやらねばならんな。部下達の性処
理の相手も兼ねて、当分の間身柄は我が軍で管理しておこう﹂
ジュブダイルが重々しく頷くのを聞いた瞬間に、クスタンビアの意
識は真っ黒に染まった。
宮殿前広場では血の華が咲いていた。
1052
実際に犯した者は言うまでも無く、手で触れただけの者達も死罪。
眺めていただけの者は三年間の労役。
それがラグラジルの意向によってアン・ミサが下した判決だった。
泣いて許しを乞う男達を、ラグラジルは無表情で引き千切っていく。
広場には、凌辱には参加せず一旦家に戻っていた者達も全て集めら
れていた。
﹁⋮⋮良いかしら? ワタシはこの里の管理者に戻った。ワタシは
アン程甘くは無いし、ラクシェ程騙され易くも無い。罪には罰を。
微罪には厳罰を。ワタシの治める里はこの西域のどこよりも発展さ
せる。お前達にはその利潤を吸わせてあげる。だから、大人しくワ
タシの言う事を聞きなさいね﹂
独裁者。
ラグラジルのパフォーマンス。
少なくともこれで、広場で繰り広げられる処刑を目の当たりにした
羽根落ち達は逆らわないだろう。
﹁⋮⋮裁定はわたくしも行います。これまでより多少法規が厳しく
なると思いますが、今まで通りに穏やかに暮らして頂ければ何の問
題もございません﹂
そのフォローをするわけでは無いが、アン・ミサは民衆へと頭を下
げた。
﹁今度敵が来たらちゃんとウチが倒してあげる! 今回みたいに途
中からだと調子狂っちゃうし﹂
既に死体となって倒れている羽根落ちの体を戦槌でミンチにしなが
らラクシェが陽気な声を上げた。
そこに、
﹁アン・ミサ様。ただいま帰参致しました﹂
ユラミルティが翼を畳みながら礼を取った。
﹁御苦労さま、ユラミルティ。首尾はどうでした?﹂
シャスラハール達と共に門の外へ逃げた商人達を追っていたユラミ
ルティは頷き、
1053
﹁逃げる荷馬車の八割を鹵獲する事に成功いたしました。残り二割
については、逃走中の親鬼の妨害等で追いつかず、そのまま振り切
られました。救助できた羽根落ちの女性は四百強。人間は三名です。
裁定通り、一人も救助できなかった天兵に関しては縊殺刑を実行致
しました﹂
淡々と告げる黒髪の天使。
それに向けて、アン・ミサは沈痛に頷いた。
﹁そうですか⋮⋮。シャスラハールさん達は?﹂
﹁もうすぐこちらに⋮⋮いらっしゃいましたね﹂
ユラミルティが振り向きながら言う、
向かう視線の先、こちらへ歩いてくる人影があった
人影が口を開く。
﹁アン・ミサ⋮⋮。治療を頼んでも良いですか?﹂
シャスラハールは涙を湛えた瞳で腕に抱いた女性を智天使へと掲げ
る。
﹁はい。もちろんです。ルル⋮⋮今治して差し上げますからね⋮⋮﹂
意識を失っている幸運と誓約の魔導士ルルの体は、シャスラハール
の両腕で背中と膝の裏支えられていた。
﹁こっちも⋮⋮お願い﹂
シャスラハールの後ろにはフレアが続いていた。
﹁私は⋮⋮最後で良いから、リセさんを先に⋮⋮﹂
フレアに肩を借りているシャロンが言い、反対側の肩に背負われて
いるリセへと視線を送った。
﹁⋮⋮逃げられ⋮⋮ました。僕の⋮⋮仲間達は⋮⋮。バラバラに⋮
⋮﹂
ルルの体に涙を落としながら、シャスラハールは悔やんだ。
﹁残念ねぇ。シャスラハール。お気の毒﹂
それに向けて、ラグラジルが邪悪な笑いを送った。
﹁今頃どうなっているのかしら。他の子はどうでも良いけどマリス
ちゃんとはちょっと仲良くなってたから気になるっちゃ気になるわ
1054
ね﹂
魔天使は嘲り、嬉しそうにしている。
﹁お姉様⋮⋮。大丈夫ですよ。ね、ユラミルティ﹂
一瞬咎める視線をラグラジルに送ってから、智天使は部下を見やる。
﹁はい。私は上空で事態を全て見ておりました。どの商人が誰を買
ったかを全て控えております。こちらから兵を派遣し、攫われた民
衆と人間を助け出す事が出来るかと存じます﹂
ユラミルティは執行手帳を手に取り、冷静に言葉を紡いだ。
﹁皆を探す事が出来るのか?﹂
フレアが驚きの声を上げ、一歩前へ出る。
シャスラハールも涙を振り払い、ユラミルティを見つめた。
﹁無論。彼らは商人ですので、商材として別の場所へ売られていた
りした場合には追跡が困難にはなりますが、早期に動けば可能性は
高いかと﹂
裁天使が頷くのを見て、人間達の瞳に希望が灯った。
それをつまらなそうに見ていたラグラジルは、
﹁管理者権限でそれ没収するわ﹂
そう言って、ラグラジルはユラミルティの手から執行手帳を奪い取
る。
﹁お姉様!﹂
﹁うわー⋮⋮お姉ちゃんうわー⋮⋮﹂
ラクシェが引いた表情を浮かべて姉を見上げている。
﹁何とでも言いなさい。ワタシは別にこの人間達の味方では無いの
だから。もう興味も尽きたから殺す気は無くなったけど、助けてあ
げる義理は無いからね﹂
ラグラジルは言い放ち、シャスラハールを見る。
﹁ラグラジル、それを︱︱﹂
﹁嫌よ。まだ気が付かないの? ワタシとラクシェに誓約はもう機
能していないの。そしてこの里の管理者はアンからワタシに戻った。
はい何か質問有るかしら? 無いならば出て行って。温情でアンの
1055
治療だけは受けさせてあげる﹂
拒絶され、シャスラハールは沈黙する。
フレアが腰の剣に手を遣り、場に一触即発の気配が流れた瞬間。
﹁あっ⋮⋮わたくし少し具合が⋮⋮﹂
アン・ミサがヨロヨロと倒れ込んだ。
﹁お姉様っ! やっぱり無茶だったんだよぅ。連続で魔法使い過ぎ
だもん今日﹂
素早くラクシェが支えた為、アン・ミサは地面に倒れ伏す様な事は
無かった。
﹁申し訳ございません。シャスラハールさん、皆さんの治療は明日
の朝に⋮⋮﹂
そこで、アン・ミサはラグラジルには見えない様に片目を瞑って見
せる。
何らかのサインである事をシャスラハールは察し、
少しの間逡巡して、
﹁⋮⋮わかりました﹂
ルルを抱え直した。
﹁お姉様。先ほど仰いましたよね? わたくしの治療だけは受けさ
せてあげると。ならばわたくしが回復するまで、彼らをこの里に留
めて差し上げる事は可能ですよね?﹂
妹の言葉に、ラグラジルは仏頂面を浮かべて、
﹁好きにしなさい﹂
そう言い放ち、手帳を手にしたまま歩き去って行った。
深夜。
誰もが寝静まった時、シャスラハールとフレアに与えられた宮殿内
の客間がノックされた、
﹁⋮⋮わたくしです。入ってもよろしいでしょうか?﹂
アン・ミサの声がして、
1056
﹁どうぞ﹂
シャスラハールがその訪問を受けた。
ギィ︱︱と小さな音を立てて扉が開き、智天使アン・ミサとその後
ろに裁天使ユラミルティが続いて入って来た。
﹁皆さまの具合はどうでしょう?﹂
シャスラハールとフレアはラグラジルと揉めた後、与えられた客間
にシャロン達を運び入れ出来る限りの看病をしていた。
﹁大きな傷は無いのですが⋮⋮疲労の蓄積から衰弱しているようで
⋮⋮今は三人とも眠っています﹂
心配そうに顔を歪めながら言う少年に、
﹁そうですか⋮⋮。では失礼して﹂
ポワッ︱︱と白い光が生まれ、眠っている三人を包んだ。
肌に刻まれた無数の傷はたちどころに癒え、呼吸も幾分楽な物に変
化した。
術者である智天使は慈愛の表情を浮かべ、シャスラハールを見やる。
﹁これでもう大丈夫ですよ﹂
その言葉に、シャスラハールは深く頭を下げた。
﹁ありがとうございます⋮⋮。それでは僕達は、朝になったら︱︱﹂
﹁出発は夜明け前になります。仕度の方をお願い致します﹂
割って入って来たのは裁天使ユラミルティの声。
﹁え⋮⋮はい⋮⋮﹂
動揺しながら答えるシャスラハールに、アン・ミサが柔らかな声で
告げる。
﹁お仲間の皆さんを探しに行かれるのでしょう? わたくしも友で
あるマリューゾワ達の身が心配でなりません。彼女達を救う為にも、
こちらのユラミルティを付けます。彼女であれば手帳の内容を理解
していますし、西域の地理にも精通しています。きっとシャスラハ
ールさんのお役にたてると思いますよ﹂
ただ、とアン・ミサは眉を歪めた。
﹁天使の飛行速度についていく為には特殊な魔物馬が必要なのです
1057
が、それがこの度の騒乱で逃げ散ってしまいまして、三頭しか残っ
ていませんでした。ですから、二名はこの里に残り、わたくしと共
にラグラジルお姉様の説得にあたって貰おうかと思うのですが⋮⋮﹂
アン・ミサの提案に、シャスラハールとフレアは目を見合わせた。
﹁ま、待って下さいアン・ミサ。僕達に協力を?﹂
﹁良いの? この里のトップじゃ無くなったんでしょ?﹂
その質問に、アン・ミサは肩を竦めた。
﹁確かに管理者はラグラジルお姉様にお返ししました。わたくしは
お姉様にこの先一生お仕えするつもりです。でも、だからと言って
わたくしは考える事を止めません。すべき事をするのです。今回お
姉様が手帳を没収したのは公的に意味が有るわけでは無く私的な嫌
がらせです。なのでわたくしはこの里の権力者の一人として客人と
民の為に手を尽くします。それだけです﹂
すっぱりと言い放った智天使へと、人間達は目を向ける。
﹁感謝します⋮⋮アン・ミサ﹂
シャスラハールが智天使の手を取り、礼を言ったところで、
﹁⋮⋮殿下。私を連れて行ってください。私はハイネア様を救わな
くてはなりません。それが私の存在意義ですから⋮⋮﹂
静かな声が、ベッドから放たれた。
﹁リセ⋮⋮目が醒めたのか?﹂
フレアが駆け寄ると、
リセが頷きながら身を起こした。
﹁治療、ありがとうございました。途中で目が醒めたので、断片で
すけれどお話は聞こえていました。三人と仰るなら、是非とも私を
同行させてください﹂
頭を深く下げる。
その様子を見て、シャスラハールは頷いた。
﹁わかりました。では皆を救出しに行くのは僕とフレアさんとリセ
さんで行きましょう。ルルとシャロンさんにはここに残って貰い、
アン・ミサと共にラグラジルの説得を。この二人ならば弁も立つし
1058
任せられると思います﹂
その言葉に、全員が頷いた。
﹁それではわたくしはこれで。あまり部屋を空けておくとラクシェ
に気づかれてしまうかも知れませんので﹂
ラクシェは時折アン・ミサのベッドに温もりを求めて侵入してくる。
そんな事情を彼女は抱えていた。
﹁それではご武運を。次に会う時は、貴方の仲間も、わたくしの仲
間も、全員が揃い語り合える日になる事を祈っております﹂
アン・ミサの言葉に、シャスラハールは、
﹁はい。必ず全員ここへ連れ帰ります。色々とお世話になりました﹂
深く礼をした。
フレアとリセも続き、
アン・ミサが扉から出て行った後もしばらくそうしていた。
それを見ていたユラミルティが口を開いた。
﹁それでは皆さん。早朝、と言ってももう後二刻も無いですが出発
の準備をお願いいたします﹂
1059
対大好きな姉用束縛魔術︵後書き︶
一か月以上続いた天兵の里編は今回で終了です。
次回は現状の整理から話が始まると思います。
とりあえず簡単に今誰がどこにいるかをメモしておきます。
リトリロイ、セリス、セナ他⋮⋮西域のどこか、西へ向けて移動中。
シャスラハール、フレア、リセ、ユラ⋮⋮天兵の里から出発準備。
ラグラジル、アン・ミサ、ラクシェ、シャロン、ルル⋮⋮天兵の里。
マリューゾワ、ヴェナ⋮⋮猫商人の里。
ハイネア、マリス、シロエ⋮⋮猪商人の村。
ロニア⋮⋮苔商人の沼。
ステア⋮⋮???
1060
それぞれの現状︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1061
それぞれの現状
季節は本格的に冬へと突入している。
﹁寒っ⋮⋮。くぅぅぅ﹂
鼻頭を赤らめながら、セナは呻きを上げる。
肌を撫でる寒風は容赦がない。
そしてそれ以上に、セナには肌を隠す物が何も無いという事が体の
芯までを凍えさせる。
﹁大丈夫ですか⋮⋮?﹂
前を歩くシュトラが気遣う声を掛けると、
﹁大丈夫⋮⋮ただ寒いだけだから﹂
シュトラもまた、一糸まとわぬ裸体だった。
﹁無駄口を叩かずさっさと歩け﹂
剥き出しのセナの尻を、無骨な鎧に包まれた手が叩いた。
﹁痛っ! やめなさいよ!﹂
バシッ︱︱と響く音。
セナの白い尻肉に赤い紅葉模様が刻まれた。
﹁生意気な口を利くなよ小娘が⋮⋮﹂
尻に手を当てたままの兵士が憎々しげに言い、そっと指を肛門へと
這わせた。
そこには、セナが望まぬ内に刻まれた﹃弱点﹄が置かれていた。
﹁んきゃっ! ふぐうううううううっ!﹂
何かが接触しただけで絶頂への快楽を強制してくる﹃弱点﹄魔術。
膣内に五か所、肛門の中と外に一か所ずつ、乳首に一つずつ、更に
口の中に五つ﹃弱点﹄を作られているセナは、兵士の籠手越しの指
が微かに触れただけで、股間から愛液を迸らせた。
寒風吹きすさぶ中、股間をぐっしょりと濡らしてしまっては凍傷に
もなりかねない。
1062
その恐怖も感じながら、セナはぶれる視界で兵士を睨んだ。
兵士もまた、セナを睨みつける。
﹁くそっ⋮⋮こいつらは公娼だろうが⋮⋮何で犯しちゃいけねぇん
だよ⋮⋮﹂
セナとシュトラの前方には、ユキリスとアミュス、そしてヘミネが
歩いている。
皆セナと同じく全裸だ。
その両腕は背中に回され縛り上げられている。
ついでに重しの如く荷物を背中側の縄に取り付けられている為、重
さで上半身が反り、胸が強調されている形だ。
﹁そこ。不用意に彼女達と接触しないように﹂
前方から厳しい声が飛んでくる。
兵士はそれを受け、憎々しげに眉を顰めてから、
﹁⋮⋮了解です。セリス様﹂
セナの体から離れて行った。
開拓団から出奔したリトリロイの一行は西を目指していた。
持てるだけの荷物を持ち、徒歩での旅だ。
セリスの懇願で本来不要な公娼達を連れ出した事で、その処遇につ
いて一悶着起きた。
兵士達が過酷な旅の息抜きにいつも通りに公娼で一発すっきり抜い
ておこうと手を伸ばすと、
﹁止めなさい。私達はもうゼオムントではありません。故にその者
達もまたかの国の制度で作られた公娼では無くなったのです﹂
セリスがその手を制したのだ。
当然、兵士達からは反論が起きた。
﹁ですがセリス様。こいつらはもう三年以上も公娼をやって来た精
液便所達ですよ? 何の理由が有って貴女が連れ出したのかは存じ
ませんが、俺達はいつも通りこいつらを使いたい。それに今ここで
1063
こいつらを解放してしまったら俺達が殺されちまうじゃないですか﹂
﹁こいつらを捕まえる時に出た犠牲の数はセリス様だってご存知で
しょう? 今はたった二十四人しかいないんですよ。こいつらに自
由を与えて反乱でも起こされたら俺達はあっと言う間に全滅してし
まう。連れて歩くのなら今まで通り公娼として扱うべきです﹂
兵士達に詰め寄られても、セリスは冷めた表情でそれを受け流す。
﹁彼女達の事はしかるべき時が来たら私が判断します。それまでの
間に反乱を起こそうものなら私が制圧致します。それで何か問題が
有りますか?﹂
軍神の威圧に、兵士達が委縮した時、
﹁畏れながらセリス様。兵達の不安をご理解いただきたい。貴女が
どうであれ、この公娼達は我々を恨んでいる事でしょう。その様な
者達に自由を与えたまま共に旅をする様な事は、とてもこの過酷な
環境の中、更なる精神的不安を呼ぶものになります。⋮⋮私事では
ございますが、息子が先の公娼回収戦にて戦死致しております。も
しかすれば、この中に我が息子を斬った者がいるかもしれない。そ
う思うと、私はとてもこの者達の戒めを解く事に同意できかねます﹂
リトリロイに昔から使えている老侍従が腰を折って頭を下げた。
セリスは言葉を探し、苦々しく顔を歪める。
息子の死を語るにしても、その息子が果てた戦いは悍ましい人権蹂
躙の為の略奪戦の事だ。
無論、セリス自身も手を汚している。
だからこそ理解している。
あの戦が汚れた物である事を。
セナ達は被害者に過ぎない。
公娼は自分達の尊厳を守る為にゼオムントと戦った。
仲間を助ける為に武器を取った。
真実悪であったのはゼオムント側。
セリスであり、侍従の死んだ息子の方こそが加害者だったはずだ。
言葉に出来ぬ不快感を抱くセリスの肩に、リトリロイの手が乗った。
1064
﹁セリスの気持ちは理解している。だが、ここにいる兵士達はゼオ
ムントの正規兵という身分を捨てて俺に付いて来てくれた者達だ。
彼らの意思を無下にはできない。どうか折衷案を見つけてくれない
だろうか?﹂
リトリロイは口を引き締め、そう語った。
セリスはリトリロイにだけ、胸の内の全てをさらけ出している。
﹁⋮⋮公娼としての利用は無し。そこは譲れない﹂
セリスの言葉に、
﹁では、我々は拘束を強化して頂きますよう。お願い致します﹂
老侍従が返答した。
折衷案の結果。
セナ達は腕を拘束された状態での荷物持ち兼見張りとして旅に連れ
られる事になった。
セリスは衣服の提供を求めたが、もしもの時に始末しやすいように
と公娼達には何も装備を与えない事を侍従達が訴え、リトリロイが
そちらを採択した。
そうして五人の公娼は全裸荷物持ちとして歩き続ける。
寒風が身に染みても誰も手を差し伸べてはくれない。
﹁あっ⋮⋮痛っ⋮⋮﹂
﹃弱点﹄によりイキやすくなっているセナの股間は常に愛液で濡れ
た状態になっており、痛みに近い寒さから逃れる事は出来なかった。
﹁休憩にしよう。食事の用意をしてくれ﹂
リトリロイがそう宣言し、一行の動きは止まった。
﹁飯かー。まだ何か有ったか?﹂
兵士の一人がアミュスの体に覆い被さるようにして、彼女が背負っ
ている荷物をガサゴソと漁っていく。
﹁くっ⋮⋮﹂
魔導士アミュスは我慢の表情を作り、男の手で揺らされている。
﹁食料はそっちじゃないだろ。飯の類はこっちだよ﹂
そう言って別の兵士がヘミネの荷物を覗き込む。
1065
﹁⋮⋮早くして下さい﹂
小さく拒絶の声を吐くヘミネ。
重くかさ張る食料品は戦士系のセナ、シュトラ、ヘミネが背負い、
その他の雑貨や衣類を魔導士のユキリスとアミュスが背負わされて
いた。
公娼含め三十人分の食糧は、三人で分けて持ったとしてもかなりの
重量になる。
毎日歩き通しでその負担に苦しめられているのも、精神的にきつい
物であった。
﹁いよいよ減って来たなぁ。どこかで果物とか採れれば良いんだが、
冬だしなぁ⋮⋮﹂
シュトラの荷物を漁りながら兵士が言い、
﹁リトリロイ様の話じゃ西の方には人間と縁のある魔物が住んでい
るんだろ? そこまで行ってしまえば何かしら支援は受けられるん
じゃないか?﹂
﹁っつても魔物と何を話せって言うんだよ⋮⋮ただでメシ食わせて
くれんのか?﹂
そういうやり取りを兵士達は交わし、チラリとセナ達を見やる。
﹁いざとなればコイツらを売って⋮⋮って、セリス様がいるからな
ぁ⋮⋮ったく﹂
不満を零しながら男達は食事の準備を整えて行く。
焚火をおこし、湯を沸かして乾燥した肉を煮る。
ガチガチに固まったパンを取り出して、少し柔らかくなった塩肉を
挟んだ物がこの日の昼食となった。
﹁おら、坊主。こいつらに喰わせてやれよ。まったく⋮⋮ただでさ
え少なくなってるって言うのに、ヤレない公娼なんぞになんで飯を
恵んでやらなきゃならんのか⋮⋮﹂
給仕役の兵士がぼやきながら五人分の昼食を渡した相手は、
﹁へ、へぃ旦那様﹂
オドオドとした少年。
1066
テビィだった。
慌ただしく開拓団から脱出してくる際に、微妙な勘違いにより連れ
出されてきたテビィは以後成り行きでリトリロイの一行に付いて来
ている。
一度ならず何度も戻るように言われたが、少年は昏い笑みを浮かべ
ながら首を振った。
﹁オラがこん中で一番公娼の面倒を見るのに長けているんだ⋮⋮ヒ
ヒヒッ﹂
肉穴の心地よさと、成人した女を玩具にする愉悦を知った十一歳の
子供は、命の危険よりも快楽を優先したのだ。
今も率先して手が使えない公娼達の世話を引き受けている。
﹁ほぉら。お前ら、飯だぞ飯ぃ。口を開けろぉ﹂
全裸の状態で座り込んでいる公娼達に近づき、笑みを向けるテビィ。
﹁⋮⋮チッ。クソガキ﹂
セナは舌打ちを放つが、ただでさえ大荷物を背負わされての困難な
歩行の旅。体力は維持しておきたい。
食事は与えられる限り拒む事無く胃に押し込む。
ユキリス達もテビィにまるで雛鳥が親から餌を与えられるようにし
て、大きく開けた口へと食事を詰め込まれる。
だが、
﹁ほぉぉぉぉら!﹂
﹁んぎふぅぅぅぅぅぅ﹂
乾いたパンを口内に突っ込まれて、セナは意識が弾けるのを感じた。
口の中にある五つの﹃弱点﹄
舌に三つ、頬に二つ。
パンを咀嚼する度に、股間からダラダラと愛液が零れ続ける。
﹁早く飲み込まねぇと、ずっとイキまくりだぞぉ﹂
ドサクサに紛れてセナの乳首をコリコリと握りながら、テビィが下
品な笑みを浮かべて言う。
毎度の事だった。
1067
セナの﹃弱点﹄については既にこの場の全員が知っている。
腕を縛る縄が乳首に擦れた時や、排泄の際にもセナは嬌声を上げて
ヨガっている。
そして中でも毎日の恒例行事が、食事だった。
欠かす事無く行われるセナの食事中無限絶頂。
ほぼ丸のみする様に食材を胃に落そうとしているが、今日の様に咀
嚼しないと飲み込めない様な食事だと、意識を飛ばしながら懸命に
顎を動かし続けるしかない。
その間も股間からは洪水の様に滑った愛液が零れ続けている。
﹁ひ、ヒヒ⋮⋮楽しい。ほら、もっと喰うか? オラの分を半分あ
げる﹂
セナが何とか口の中の物を飲み込んだ時、テビィは自分の食事を半
分に割り、痙攣している騎士の口内へと押し込んだ。
﹁もぎゅうううううううう﹂
まるで機械仕掛けの様に、口の中にパンを放り込まれた瞬間にセナ
の陰唇からプシュと愛液が噴出した。
﹁ちゃんと全部食べるだよぉ。お残しは︱︱ひ、ひぃぃセリス様﹂
楽しそうにセナの顎を押さえていたテビィのすぐ傍にセリスが歩み
寄っていた。
﹁⋮⋮退きなさい。お前は向こうで後片付けを手伝いなさい﹂
剣呑に煌めく眼光に押され、テビィは悲鳴を上げながらコロコロと
走り去っていった。
その背中を睨みつけ、セリスはしゃがみ、両手を皿にしてセナの口
元にあてがった。
﹁セナ、苦しいなら吐き出しなさい﹂
声を向けられたセナは絶え間ない絶頂に目を白黒させながら、首を
振った。
﹁⋮⋮そう﹂
セリスはセナが涙を零しながら嚥下するのを確認して、自らの服の
袖で元部下のグッショリと濡れた股間を拭った。
1068
その姿を見ていたアミュスがポツリと声を漏らす。
﹁⋮⋮今更何? アンタが私達にした事を忘れたの? 良い人ぶっ
ても絶対に許さないから﹂
その隣で、ヘミネもまた鋭い眼光をセリスへと向けている。
この二人はセリスの手で捕らえられ、開拓団に凡そ二ヶ月以上もの
間肉便所として扱われていた。
﹁⋮⋮言い訳は何も無いわ。私を殺したければ殺せばいい。その機
会はいずれ貴女達に訪れる。その日が来るまで、もう少しだけ我慢
して﹂
セリスは目を瞑りながらそう言って、ユキリスへと手を伸ばす。
﹁あっ⋮⋮﹂
﹁縄、ズレてるわね⋮⋮痛かったでしょう⋮⋮﹂
そう言ってユキリスの肩に食い込んでいた縄の位置を直し始めた。
セリスが公娼達の世話を焼いている。
その光景を遠間で見て、兵士達は鼻を鳴らす。
﹁はんっ。結局は昔のお仲間が大事ってか。化けの皮が剥がれまく
りだな、あのお妃さま﹂
﹁この先俺達どうなるんだ? リトリロイ殿下に恩義が有ったから
付いて来たが、本当に殿下が仰る様な事は有り得るのか?﹂
リトリロイの方針。
それは西域の果て存在する天使の里へたどり着く事。
その場所には、かつてオビリスに力を授けた天使が住まうという。
﹁そこで力を手に入れる⋮⋮か。でもまぁ先はまだわからねぇよ。
その里とやらで上手い事力を手に入れてからどうするのか。本国と
戦争する気なのか、はたまた魔導長官みたいに権力を握ろうとする
のか。俺達の身の振りようもその時までに考えとかなきゃな﹂
﹁何だかんだ言ったってリトリロイ様は王族だ。ちょっとした家出
っていう事で済むかも知れないしな。その場合は護衛を務めていま
したって感じで褒章を貰おうじゃないか﹂
安穏に語り合う二人の兵士の視界に、ノロノロと走る荷馬車が入っ
1069
て来た。
﹁えっ⋮⋮?﹂
﹁荷馬車⋮⋮だよな? ここは西域だろ?﹂
首を傾げる二人の後ろから、老侍従が声を掛ける
﹁不勉強者め⋮⋮。西域にも商業文化は存在しておる。通貨よりは
物々交換が選ばれるという話だから、まぁそこまで発達しているわ
けでもないじゃろうが、魔物との間にも交流が持てるという話じゃ。
現に魔導長官はそうやって魔物達との交流を通じて天使の里に至っ
たという話もあるぞ﹂
長年貯えて来た知恵を滔々と語る老人に愛想笑いを浮かべ、兵士達
は再び正面を向く。
﹁なぁ。もしかしたら⋮⋮食料が手に入るんじゃないか?﹂
﹁おぉ、そうだな? 装備の中で優先度が低い奴を持って行って何
かと交換してもらおう!﹂
彼らは紛いなりにも騎士であり盗賊では無い。
故に、荷馬車から強奪するという発想は抱かなかった。
﹁ふむ、それが良いだろうな。殿下にはワシから申し上げておく。
お前達は安全な水と食料を優先して買い付けて参れ﹂
了解。と兵士達は答え、いそいそと荷馬車へ寄って行った。
﹁おぉぉい! そこの荷馬車、止まってくれぇ﹂
﹁水か食料は無いか? こっちの持ち物と交換できないだろうか?﹂
兵士達の出現に、荷馬車はパタリと止まり、
﹁およ? これは珍しい。人間ではございませんか﹂
鶏頭の男が顔を出した。
﹁うおっ!﹂
﹁ビックリしたぁ⋮⋮そうだよな、魔物だよな⋮⋮﹂
兵士達は一応腰の剣をいつでも引き抜けるように構えながら、一歩
ずつ魔物の商人へと近づいて行った。
﹁俺達に敵意は無い。少し商談がしたいんだ﹂
﹁さっきも言ったが食料品を分けてくれれば、こちらの物品から希
1070
望の物を持って行ってくれて構わない﹂
そう言われ、鶏商人は少し首を捻った後、
﹁ふむむ。これは奇縁でございますな。宜しい。ですがまずはそち
らの提供できる品をお見せ頂きたい。私はこれから故郷にこの度の
買い付け品を持ち帰る役目が御座います。不用品を持ち帰っては里
の者に怒られてしまいますので﹂
ほっこり鳥目で頷いた。
﹁わかった。少し待っていてくれ﹂
兵士達は元居た場所へ戻り、交換可能品を集めて来る。
ランプや頑丈なベルト、そして携行用のナイフ等を見繕っていると、
﹁これを持って行くといい﹂
老侍従から話を聞いたリトリロイが指輪を外して兵士達へと手渡し
た。
﹁そ、そんな。殿下これは⋮⋮﹂
煌びやかな装飾が施された一級品。
﹁構わない。食料が手に入らなければどの道死んでしまう。指輪一
つで助かるなら安いものだよ﹂
そう笑顔で言われ、兵士達は指輪を握りしめて商人の元へと戻った。
商人は並べられた交易品を一つ一つ手に取って眺め。
大きく頷いた。
﹁素晴らしい。特にこのナイフ⋮⋮流石人間の作る金属はこちらの
物と大違いですな⋮⋮。あ、あとついでにこちらの光る指輪も貰っ
ておきましょう。妻へのお土産です﹂
商人はホクホク笑顔で言って、自らの荷馬車を指差した。
﹁私の積荷からしてこれ以上欲張ると、故郷の者達に怒られてしま
いそうですので、残念ですがこちらのランプとベルトは諦めましょ
う。どうぞ荷馬車の中に真水と乾した果実が有りますので、お選び
ください﹂
ナイフを惚れ惚れと眺めている商人を背にし、兵士達は荷台へと登
った。
1071
﹁んぐぅ! んぐぐぐぐぐ﹂
その時、くぐもった叫びが彼らの耳に飛び込んできた。
見ると、乱雑に積まれた荷物の山の上に、尻が乗っていた。
裸の女の尻。
声の発生源はそこに有った。
﹁お、おい⋮⋮この女は⋮⋮?﹂
﹁あぁそれは昨日購入したばかりのオナホールでございます。故郷
の友人達への土産ですね。まだだいぶ活きが良いのですが、その分
うるさくてですね⋮⋮今は口を塞いで頭に袋を被せております。死
なない程度に穴は空けて置きましたけどね﹂
商人はナイフに夢中のまま説明した。
﹁そ、そうか⋮⋮西域ってのはそんなのも売ってるんだな⋮⋮﹂
男達は時折尻に視線を送りながら、積荷を選別して行く。
﹁精液⋮⋮入ってるな⋮⋮﹂
尻が見えているという事は、少し視点を変えれば膣口も容易に見え
るという事。
そこを覗き込むと、尻女の股間からはドロドロとした精液が零れ落
ちていた。
﹁良い体してるな⋮⋮くそっ⋮⋮俺達は毎日あの公娼達を見てるだ
けで犯せないっていうのによぉ⋮⋮﹂
兵士達が顔の見えないオナホールを気にしている様子を察して、鶏
頭の商人は薄らと笑んだ。
﹁よろしければそちら、お売りする事は出来ませんが束の間お貸し
する事は可能ですよ?﹂
その声に、兵士達は喉を鳴らす。
﹁い、良いのか?﹂
﹁はい。こちらのランプとベルトを頂けるのなら﹂
商人はナイフを置き、洒落た装飾が施されたランプと頑丈な繊維で
編まれたベルトを握っている。
兵士達は一瞬間を空け、
1072
﹁⋮⋮わかった。商談成立だ﹂
﹁良い取引が出来ました﹂
ニッコリ笑顔の商人が見つめる先で、兵士達はオナホールへと手を
掛け乱暴に犯し始めた。
﹁ふぐうううううう! んぐうううううう﹂
猿轡の上に袋を被せられているオナホールからはくぐもった声しか
聞こえない。
ブチュブチュと膣壁を兵士のチンポが抉る音が響く。
﹁⋮⋮なるほど、これはこれでお金になるのですねぇ。頑張って下
さい、﹃ステア﹄﹂
鶏商人は買ったばかりのオナホが他人に使われている様子を眺めな
がら、荷台の隅から傷み掛けを加工した果物を選別し、
﹁皆様お忙しいようですので、私の方で選ばせて頂きますね﹂
商人の言葉に、
﹁お、おう﹂
﹁おらっ! 溜まりに溜まったザーメンだ! 子宮で全部受け取れ
ぇぇぇ﹂
巨乳を揉みしだいていた男が返事をし、膣を犯していた男は聞いて
すらいなかった。
二人が満足気に二回ずつ﹃ステア﹄に射精した後、商人はにこやか
に笑って彼らを送り出した。
ちなみに二回目の代金は彼らの私物である短剣や防寒具で支払われ
た。
﹁さて、それでは里へ向かいましょうか﹂
兵士達が仲間の元に戻り、その代表者であるリトリロイの視線も荷
馬車へと向かっている。
商人は荷馬車の手綱を握り、特殊な言葉で魔法を作った。
フワッと宙へ浮いた荷馬車。
それを見ていたリトリロイ達が驚きの表情を浮かべる。
﹁あぁ、私の里は雲の上に有るのですよ。飛べない鶏人族ですが、
1073
魔法の荷馬車を作る事で天使達よりも高く空へと進む事が出来ます。
と言っても膨大な魔力を蓄える必要が有るので、この一台きりの荷
馬車を使えるのは年に二回、行きと帰りの分だけなのですけれどね﹂
飛んでいく荷馬車を見送るリトリロイ達に向けて、
﹁それでは皆さん。もう会う事は無いと思いますがどうぞお元気で。
このオナホをご利用頂き有難うございました﹂
商人は荷台から﹃ステア﹄を取り出し、その股間を全開にして揺す
った。
﹁ふぅぐううううううう!﹂
袋で顔を隠された﹃ステア﹄、その拘束された足がまるで別れを惜
しんでいるかの様にブラブラと振られる。
﹁あ、ちょ。仕舞って、仕舞って﹂
﹁だー馬鹿っ! 秘密にしてくれよ!﹂
商談役の兵士達が頭を抱える。
﹁お前ら⋮⋮自分達だけ何をやっていた!﹂
﹁どうして俺達も誘わなかった?﹂
同僚が彼らに詰め寄り、
﹁⋮⋮交易にしてはこちらの損が大きいとは感じておったが⋮⋮ま
さか貴様ら、あれを利用する為に⋮⋮﹂
老侍従が怒りの表情を見せ、
﹁ま、でも何とか食べられそうな物は集まったし良いんじゃないか
?﹂
リトリロイは呆れた表情を浮かべた。
そしてその背後にいる、公娼達。
﹁今⋮⋮人でしたよね⋮⋮﹂
ユキリスが震える声を上げる。
﹁はい⋮⋮。縄で縛られた人が、空へ連れて行かれて⋮⋮﹂
シュトラもまた苦しげな声を放つ。
﹁顔、見えなかったけど⋮⋮あの人⋮⋮。どうなるの⋮⋮﹂
セナは呆然と呟く。
1074
﹁⋮⋮魔物に囚われ、商品として扱われる⋮⋮ですか﹂
セリスは唇を噛み締める。
腰の剣に手を置いてはいるが、既に商人を乗せた荷馬車は遥か上空
に浮かんでいて出そうと思っても手が出せなかった。
その様子をヘミネは憎々しげに見つめ、
﹁貴女がそんな顔しないでよ。もっと邪悪に笑いなさい。そっちの
方がまだムカツかないわ﹂
アミュスは吐き捨てた。
そして更にその後方で、
﹁良いマンコだったなぁ⋮⋮。あのマンコにオラのチンポズボズボ
したかったなぁ⋮⋮﹂
テビィがしょんぼりしていた。
薄暗い闇の中、四つの人影が有った。
﹁こちらです﹂
先頭を進むのは裁天使ユラミルティ。
彼女に案内されシャスラハールとフレア、そしてリセが続く。
四ノ門の前まで歩き、そこに繋がれた三頭の馬を目にする。
﹁大きいな⋮⋮﹂
フレアが率直な感想を漏らし、
﹁脚力、体力、突破力。三拍子揃った西域の﹃吸血馬﹄です。草の
代わりに生物の血を食料にして走ります。今回はバケツ一杯分、昨
日ラグラジル様が処刑なされた羽根落ちの血を与えておりますので、
一日は問題無く走り続けられるでしょう﹂
その説明を聞き、
﹁血、ですか⋮⋮﹂
リセが少し眉を曇らせた。
﹁大丈夫です。補給に関して問題は有りません。私の記憶に有る魔
物商人の村へ行きそこで血をぶち撒けてあげればこの子達は勝手に
1075
それを舐めて回復します﹂
冷静な表情のままユラミルティは言い放ち、三人に騎乗を勧める。
﹁ユラミルティさんは、翼で行かれるのですよね?﹂
シャスラハールが確認すると、
﹁そうですね。満タン状態のこの子達の脚力と私の速度は同程度で
すので、皆さんは気にせず私の後ろに付いて来てください﹂
そう言って黒髪の眼鏡天使ユラミルティは二枚の翼を広げ、空へと
飛び立つ。
﹁急ぎましょう。私も早く役目を終えてアン・ミサ様の元へ戻りた
いのです﹂
ギューンと飛んでいくユラミルティの背中を、
﹁わっ! 待って下さい!﹂
シャスラハール達は慌てて追いかけた。
吸血馬の脚力は恐ろしい物だった。
ユラミルティが僅かに速度を落としたとはいえ、瞬く間に彼女に追
いつき、空を飛ぶ天使の影と並走しだした。
﹁ユラミルティさん! 僕達はまずどこへ向かうのですか?﹂
ユラミルティの持つ記憶だけが頼りになる為、シャスラハールとし
ては彼女の方針を聞いておく必要がある。
﹁それなのですが︱︱﹂
裁天使が何かを口走ろうとした時。
﹁おっ先ーっ! 遅いよねーユラミルティって。ノロマノロマ﹂
轟音と共に四枚の翼が彼女を追い抜いて行った。
それを見て、
﹁ラクシェ様⋮⋮天兵連隊が置いてけぼりになっていますよ⋮⋮﹂
呆れた声をユラミルティは放った。
﹁はぁ? 何よあいつら遅い! 遅すぎる! スパルタ矯正プログ
ラム中なんだから根性見せてよね!﹂
急停止してプンスカ怒っているのは、
﹁ラクシェ⋮⋮?﹂
1076
フレアが首を傾げると、
﹁ふんっ。お姉ちゃんから命令されただけだから。ウチは人間の事
は探さないよ。羽根落ちだけを探して回収する。この手帳を使って
ね﹂
力天使ラクシェが一枚の手帳を持ってふんぞり返っていた。
執行手帳。
昨夜ラグラジルがユラミルティから没収した、商品として売られて
しまった女達が誰に買われたのかを記した手帳。
﹁シャスラハール殿。羽根落ちの回収はラクシェ様と減刑処置を受
けて執行猶予中の天兵連隊が担当します。ですので私達は気兼ねな
く目標を︱︱貴方のお仲間とアン・ミサ様のご友人をお探しする事
が出来ます﹂
ユラミルティが補足した時、
﹁ら、ラクシェ様お待ちください⋮⋮﹂
ぜぇぜぇと息を吐きながら四百人ほどの天兵連隊が追い付いてきた。
﹁おっそーい! 良い? 今回の任務で全員助けられたらお前達は
無罪放免。逆に一人でもロストしたら五年間無給かつ無休。ラグお
姉ちゃんは容赦なんて無いからね? 過労死したくなければ気張り
なさい!﹂
力天使ラクシェは彼らに怒鳴り散らしてから、猛然と飛んで行く。
﹁ラクシェ様ぁああああああああああ﹂
天兵連隊は死ぬ寸前の表情で翼を動かし、それを追って行った。
人間達が呆然とそれを見ていると、
﹁自業自得です﹂
裁定を司る天使であるユラミルティはきっぱりと言い放った。
﹁それで、あの、ユ⋮⋮ユラミルティさん! 私達はここからどこ
へ向かうのですか⋮⋮まず最初に誰を助けに行くのですか?﹂
リセが震える声で問うと、
﹁皆様にもそれぞれ思うところはお有りでしょうけれども、私が把
握している限り最も辿りやすい順路で効率的に回って行こうかと思
1077
います﹂
天使は感情の籠らぬ声で応じた。
﹁⋮⋮仕方が無いさ、リセ。姉上も、ハイネア王女もきっと無事だ。
全員助けて笑って里へ戻ろう﹂
フレアにとってはステアが、リセにとってはハイネアが最も心を占
める存在では有るが、
﹁はい。助けます。皆さんを⋮⋮! そうでなくては、ハイネア様
に怒られてしまいますから﹂
騎士と侍女が頷き合っている。
それを眺めていたユラミルティは口を開き、
﹁最初はこの先真っ直ぐにある湿地帯。そこに住む苔塊人の集落に
向かいましょう。その場所にアン・ミサ様のご友人、ロニア殿が囚
われているはずです﹂
﹁なぁゴダン。手筈はどうなっている?﹂
開拓団の本営、つい先日まではリトリロイが使っていた天幕に居を
構えたオビリスは腹心へと問うた。
﹁抜かりなく。しかし驚きましたな。魔導長か︱︱いえいえ元帥閣
下ご自身の来着も予想外でしたが、更にはあの様な準備までされて
おいでだとは﹂
禿頭の魔導士ゴダンはふくよかな笑いを浮かべながら応じた。
﹁まぁ、暇だったんだよ。国内で結構批判されちゃってさぁ⋮⋮公
娼死に過ぎぃ! ってね⋮⋮死ぬから良いんじゃないかって思うん
だけど⋮⋮民衆には僕の理想は受け入れて貰えなかったみたいだ。
そんなこんなで西域遠征に関わるのが億劫になっていてねぇ。その
間に作っていたのさ﹂
オビリスは椅子に腰かけ、足を組む。
そして残忍に笑んだ。
﹁僕なりに芸術が受け入れられない理由を考えていたんだけどさ。
1078
一つ気が付いたんだよ﹂
そう言って魔導元帥オビリスは指を一本立てた。
﹁ほほう。伺いましょう﹂
ゴダンは気さくに応じる。
﹁公娼達の演技力の問題だね。死ぬ死ぬってなった時に、あっさり
死んじゃうんだもの。もうちょっと苦しんだり泣き叫んだり、そう
いう分かり易い画が無かったのが問題だったんだよ。あいつらの惨
めな姿を見ればそりゃゾクッと来て勃起間違い無しだと思うんだよ
ねぇ﹂
そこまで言い、笑いを浮かべるオビリス。
ゴダンはそれに頷き。
﹁ははぁ⋮⋮なるほど、そうしてこの﹃第三魔法﹄を作られたので
すか﹂
魔導士の限界。
二種類の魔法を修める事。
長らくそう言われ続けて来た壁を、オビリスは破ろうとしている。
﹁まぁね。僕には元々才能が有ったし、何よりあの破天荒な天使様
が援助もしてくれたしね。三つ目の魔法⋮⋮これは面白くなるよ。
全ての公娼達はまた、僕の掌で踊るんだ⋮⋮﹂
立ち上がったオビリスが一枚の紙を取り出し、ゴダンへ突き付ける。
﹁この﹃乞命﹄魔法でね﹂
魔導元帥の命令書。
それを渡されたゴダンは、緩やかな笑みを浮かべ、
﹁畏まりました。儀式の準備はもうすぐ完了致します﹂
﹁んぎぃひいいいいいいい﹂
﹁あぉおおううううううう﹂
掃除の行き届いた豪華な一室。
ステンドグラスが取り込む陽気を浴びながら、二つの裸体が叫び声
1079
を上げた。
﹁違う。鳴き声はそうじゃないだろう?﹂
裸体を取り囲む様にして十数人の猫顔の男が椅子についている。
その中で最もふんぞり返って椅子に尻を乗っけている猫男が髭を撫
でながら言うと、
﹁に、にゃぁ⋮⋮﹂
﹁んにゃう⋮⋮﹂
裸体が甘えた声を放った。
﹁よぉしよし。次の者、良いぞ﹂
偉そうな猫男の指示で、椅子に座った猫達の中から二人立ち上がり、
裸体に寄って行った。
﹁へっ、こいつのマンコすげぇぞ﹂
﹁あぁ、こっちもトロトロだったぜ⋮⋮﹂
男達が近づいて行った裸体には、既に別の男が下半身を剥き出しに
して取りついていて、裸体から肉棒を引き抜くところだった。
﹁ぅにゃ⋮⋮﹂
﹁にゃふ⋮⋮﹂
チンポが引き抜かれ、膣内に放たれた精液が零れて行くのを感じな
がら、二つの裸体は甘い猫撫で声を上げた。
聖騎士ヴェナと魔剣大公マリューゾワ。
で、あった者達だ。
彼女達のアナルには特殊な魔力が込められたディルドーが深く突き
刺さっており、今この時も激しく動いていた。
﹁それでは領主様。有り難くこの雌猫を使わせて頂きます﹂
﹁これからも私は領主様に無二の忠誠を誓わせていただく所存です﹂
新たに近づいた男達が偉そうな猫男に礼をして、己のチンポを取り
出し、ヴェナとマリューゾワを貫いた。
﹁んにゅうううううううっ!﹂
﹁はにゃあああああああっ!﹂
スピアカントの希望と、ロクサスの大領主は、常の威厳を捨て去っ
1080
たトロ顔で喘ぎながらチンポを飲み込んでいった。
﹁うむうむ﹂
領主と呼ばれた偉そうな猫男は笑いながらグラスに入った酒を煽る。
﹁領主様﹂
彼に声を掛けたのは、天兵の里でヴェナとマリューゾワを購入して
来た商人だ。
﹁おぉ、来たか⋮⋮。例の物の補充は間に合ったか?﹂
領主はグラスを置きながら問う。
﹁は。催淫マタタビの加工は終了致しました。またいつでも投与で
きます﹂
そう言って、商人は自分が買い付けて来たヴェナとマリューゾワを
見やる。
﹁ふにゅううううううううん!﹂
﹁にゃう! にゃうううううう﹂
アナルをディルドーで、マンコを猫チンポで穿られながら舌を突き
出したアヘ顔を見せている二人の英傑。
﹁そちは良い仕事をしてくれるのぅ。オナホとしてもまぁ良かった
が、いつまでも同じ姿勢を取らせておくのは楽しくない。が、手足
を自由にしてしまってはこちらの身が危ないとなった時に、まさか
催淫マタタビの濃縮とはなぁ﹂
感心した態で領主は頷いている。
﹁いえ、我らは図体ばかりで脳の無いアホ鬼とは違います故、こう
やって雅な遊びが出来るのです。折角の良い素材を荒縄で縛っただ
けのオナホで終わらせてはもったいないですから﹂
商人は謙遜しながら、心の中でほくそ笑む。
﹁うむうむ。あの愚鈍なデカブツ共とは中身が違うのだよ、我らは。
君の御用商人への道、しっかりと考えさせてもらうからのう﹂
﹁はっ! 有り難き幸せ﹂
領主と商人がその様なやり取りをしている間も、ヴェナとマリュー
ゾワは二穴を犯され続け、
1081
﹁で、出るぞ!﹂
﹁おら、子宮口がっぽり開けろ!﹂
男達が上ずった声で叫び、射精した。
﹁にゅはああああああああああん!﹂
﹁みゅああああああああああああ!﹂
膣内に沁み渡る量の精液を浴び、元英傑で現猫マンコの二人は涎を
撒き散らしながら絶頂した。
それを楽しげに見つめ、領主が口を開いた。
﹁さて、それで食事にしようかのう。今日は雌猫達も一緒に連れて
行こう﹂
この部屋。
猫の里の政治を執り行う執務室である。
領主の私邸は別に有り、執務室からは大通りを挟んで結構な距離が
有った。
﹁はっ! 畏まりました﹂
先ほどヴェナに射精した男が敬礼をしながら、
﹁あひゅん﹂
アナルからディルドーを引き抜き、マンコへと差し換えた。
﹁抜け落ちないようにっと⋮⋮﹂
マリューゾワを汚した男も同じ作業をし、最後にゴムバンドをディ
ルドーに括り付け、雌猫の足を通した。
ヴェナとマリューゾワの股間を覆う物。
一見すると黒い紐下着にも見えるが、実際には単に膣奥まで突き刺
されたディルドーとそれが抜け落ちない様に恥骨に引っ掛けておく
為のゴムでしかない。
﹁あにゅううううううう﹂
今現在も、ディルドーの振動は止まっておらず、二人の膣口からは
精液と愛液の混合汁が溢れ続けていた。
﹁それでは行こうかのぅ﹂
領主が立ち上がり、その取り巻き達も付いて行く。
1082
最後に二人の男がヴェナとマリューゾワにリード付の首輪を取り付
け、一行の最後尾に続いた。
猫領主達は二足歩行。
聖騎士と魔剣大公は四つん這いの姿勢でついていく。
執務室を出て、階段を降りる時も常にリードを引かれながら四足で
前に進む。
やがて一行は扉を開け、屋外へ出る。
領主の私邸までの道のりを進んで行く。
﹁領主様だ! こんにちは!﹂
﹁領主様!﹂
﹁りょうしゅさま∼﹂
大人も子供も朗らかに領主へと挨拶し、
﹁うむ、うむ﹂
領主はそれに鷹揚に頷いていく。
そして領民の視線は、次の瞬間には別方向を見つめている。
﹁あれが⋮⋮﹂
﹁良いなぁ⋮⋮俺の順番まだかなぁ﹂
﹁昨年の年貢の量で順番決めてるんだろう? 今あいつらなら俺は
もうそろそろだな﹂
一行の最後尾、リードで引かれている雌猫達へ好色な視線が留まる。
﹁見ろよ⋮⋮あれバイブだろ? すげぇ⋮⋮ドロッドロにマン汁出
てるじゃん﹂
﹁あのトロ顔もなぁ。元の顔が良いだけにあんだけ馬鹿面晒してる
とチンポにビンビンきやがるぜ⋮⋮﹂
男達の囁き声を耳にした領主は朗らかな笑みを浮かべ、
﹁皆の者。頑張って働けばいつでも何度でもこの雌猫達を抱かせて
やるぞ。こいつらの管理はワシの部下達がやっておる故、使用した
い者は役所に申請を出すのじゃ。役所のカレンダーに予約をしてお
いてやるからのう﹂
その声に、領民達が喜色の浮かんだ叫び声を上げて盛り上がってい
1083
る。
領主は嬉しそうに笑い、商人はゴマをする様に領主を称賛している。
その時、ヴェナとマリューゾワが互いに鋭い視線を交わしていた事
には、愚かな猫達は誰も気が付かなかった。
長閑な農園地帯にバタバタと足音が響いている。
猪顔の魔物。
ボアル族の少年チャモロの物だった。
﹁じゃーなーチャモロー。今度はお前のオナホ見せろよなー﹂
走って行くチャモロの背中に声を掛けるのは、彼の従兄であるボア
ル族の少年。
﹁うんっ! そっちのオナホも凄く良かった!﹂
チャモロはこの日、学校が終わった後従兄宅に遊びに行き、従兄の
父親の私物である﹃マリス﹄を使わせてもらっていた。
﹁﹃ハイネア﹄とは全然違ってオッパイが気持ち良かったなぁ⋮⋮﹂
従兄と盛り上がりながら﹃マリス﹄を犯していると、仕事の途中で
戻って来た叔父に見つかり、﹃勝手に使うなって言っただろうが!﹄
と従兄が怒られて、﹃マリス﹄は没収されてしまった。
﹁まだ一発しか﹃マリス﹄の膣内に出して無かったのに⋮⋮﹂
チャモロが商人である父親から買って貰った﹃ハイネア﹄はSサイ
ズオナホと言う事で胸の辺りが寂しく、オナホとしての機能は問題
無い物の一抹の残念さが有った。
そんな時に従兄が父親のオナホである﹃マリス﹄のオッパイについ
て学校で自慢して来たものだから、頼み込んで使わせてもらったの
だ。
﹃マリス﹄の胸は柔らかく、チャモロはずっと揉んでいたのだが、
﹃マリスはガキの玩具じゃ無いんですよ。腐れ子豚﹄
オナホの癖に生意気な口をきいて来たので、頭に来てチンポをぶち
込んでしまった。
1084
叔父にすっかり開発されていた﹃マリス﹄はチャモロの子供チンポ
でもしっかりと喘いでいた。
﹁あのオナホが騒ぐからバレちゃったんだよねぇ⋮⋮﹂
抜き足りない。
その思いがチャモロの足を急がせる。
向かうのは自宅。
チャモロに与えられた部屋。
門を抜け、扉を押し開くと、
﹁あら? チャモロどうしたの? 叔母さんのお家で遊んでくるん
じゃなかったの?﹂
居間にいた母親が声を掛けて来た。
従兄はチャモロ母の妹の息子で、チャモロより半年ばかり年上だ。
﹁向こうのパパが帰って来たから、遊べなくなったんだ﹂
チャモロは靴を脱ぎ捨てながら言い、
﹁仕方が無いから今日は一人で遊ぶよ﹂
母親の前を通り過ぎて行く。
﹁はいはい。ご飯になったら呼ぶからねー﹂
呑気に編み物なんかをしながら母親は応じた。
チャモロは床を鳴らしながら歩き、
自室の取っ手を握った。
ブィィィィィィィン︱︱。
と駆動音が聞こえる。
プシュッ︱︱。
と噴出音がそれに続く。
﹁ひがぁぁ⋮⋮止めてぇ⋮⋮おかしくなる⋮⋮妾の頭が変になるぅ
ぅぅ⋮⋮﹂
とオナホのメロディが聞こえて来た。
チャモロは顔全体にワクワクを浮かべ、
﹁﹃ハイネア﹄ただいまー!﹂
自室へと飛び込んだ。
1085
そこには彼御自慢のオナホである﹃ハイネア﹄が転がっていた。
﹁抜いてぇ⋮⋮これ、早くぅぅぅ﹂
﹃ハイネア﹄は涙と鼻水を垂らしながら床の上で転がっている。
買った時からそのままのオナホスタイルで、股間には魔導バイブを
差し込んであった。
﹁あー⋮⋮カーペット汚してる⋮⋮ママに怒られるの僕なのに⋮⋮﹂
チャモロは﹃ハイネア﹄の股の下に置いたトレイから液体が零れて
いるのを見つけ、嘆息した。
﹁ぞ、そんな⋮⋮無理よ⋮⋮だって⋮⋮一日こんなの突っ込まれた
まま放置されたのに⋮⋮﹂
魔導バイブは唸りを上げながら﹃ハイネア﹄マンコを犯し続けてい
る。
一日。
チャモロは学校に行く前に﹃ハイネア﹄の肉穴にバイブを挿入し、
スイッチを入れてから登校する。
今日は特に帰り寄り道して来た結果帰宅が遅くなっていた。
﹁だからその為にトレイ置いてたのに⋮⋮何で外すかなぁ⋮⋮﹂
チャモロはむーっと唸りながら言う。
﹁外したんじゃ⋮⋮ない﹂
溢れていた。
通常の配膳用でしかないトレイにはあまり高さが無く、﹃ハイネア﹄
が一日がかりで垂らし続けた愛液と小便を受け止めきる事は出来な
かった。
﹁あっんぎひぃ! イクっ! イッちゃう!﹂
﹃ハイネア﹄は喉を反らして叫び、全身を痙攣させながら絶頂に達
した。
ショワッ︱︱と弾けた愛液がまたトレイに落ち、その分だけまた縁
から溢れていった。
﹁あーあ⋮⋮パパの魔導バイブが高性能過ぎたかなぁ⋮⋮﹂
今﹃ハイネア﹄を苦しめているバイブは父親からの貰い物であり、
1086
少し値の張るブランド品であるらしく、緩急や絶頂誘導を全自動で
こなしてくれる。
その為﹃ハイネア﹄はいつまでも刺激に慣れる事が出来ずに、何度
でもオートでイかされ続けていた。
﹁まぁいいや⋮⋮ママに謝るのは後にして、今は折角ほぐしておい
たマンコで遊ぼうっと﹂
子どもチンポを取り出し、﹃ハイネア﹄からバイブを抜いてその上
に跨った。
チャモロが登校中にバイブをセットして行く理由。
それは、
﹁うはぁ! やっぱりトロトロだぁ⋮⋮やっぱりオナホはこうでな
くっちゃ!﹂
﹁んひぃぃぃぃぃぃ﹂
帰宅してすぐに挿入し易いように入り口にポッカリ開き癖を付けて
置き、尚且つ膣内を愛液でトロトロの状況にしておく為だった。
ズボズボとチャモロのチンポが﹃ハイネア﹄の膣を出入りする。
﹁もういやぁ⋮⋮こんなの妾じゃない⋮⋮リネミアの⋮⋮王家の⋮
⋮﹂
涙を流す﹃ハイネア﹄。
﹁うぅぅぅ気持ち良いぃぃ。やっぱりこのサイズのマンコが僕には
ぴったりだなー﹂
チャモロはそちらを気にせずガンガン腰を動かし続ける。
﹃ハイネア﹄の尻が動く度にジャブジャブとトレイの中の混合液は
跳ね、カーペットへと滴れて行く。
やがて、
﹁はぅん﹂
﹁うぁああああ⋮⋮ケダモノの⋮⋮子種が⋮⋮﹂
嘆くオナホの内側に、チャモロの精子が降り注いだ。
﹁ふぅ⋮⋮すっきりぃ⋮⋮。でもまだまだ晩御飯まで時間あるしね﹂
それからもしばらくの間、チャモロは﹃ハイネア﹄のSサイズマン
1087
コを犯し続ける。
学校で出た宿題をやりながら、
集めているお気に入りの漫画を読みながら、
少年が抱いた初めての恋心の相手、同じクラスのチャボちゃんへの
妄想を日記に書きながら、
﹁やべぇでぇ⋮⋮もう許して⋮⋮妾が妾の心が死んでしまう⋮⋮﹂
﹃ハイネア﹄を犯し続けた。
一刻程その様な時間を過ごしていると、
﹁チャモロ、ご飯よー﹂
﹁はーいママ﹂
チャモロはようやく﹃ハイネア﹄からチンポを引き抜き、立ち上が
った。
そして、食堂へ向かおうとして一歩を踏み出した時、
ピチャ︱︱と足下から音が鳴った。
﹁あー⋮⋮そうだった。カーペットびしょびしょだ⋮⋮どうしよ⋮
⋮ママに怒られちゃう﹂
チャモロはオロオロと部屋中に視線を向けて、最後に痙攣している
﹃ハイネア﹄を見て、
﹁そうだ。カーペットを綺麗にしといて。元々はお前が零したのが
いけないんだからな。全部綺麗になるまでチューチュー吸い取って
ね。僕が晩御飯から戻って来るまでに出来てなかったら、明日から
はケツ穴にも魔導バイブを突っ込んで登校するから﹂
そう言い放ち、チャモロは﹃ハイネア﹄の体を持ち上げて裏返し、
顔を汚液の沁み込んだカーペットに押し付ける。
その足で部屋から出て行く時、背後でズズッ︱︱と音がした。
﹁そうそう。そうやってちゃんと啜ってね﹂
扉を閉めながらチャモロは言い、
﹁ママー今日の御飯何?﹂
すぐに顔の向きを変えた。
1088
﹁あーハンバーグ美味しかった﹂
でっぷりとした腹を撫でながら、チャモロが居間から出て行く。
食事中何だか両親がギスギスしている様子だったが、チャモロはハ
ンバーグに夢中だったので深く気にしなかった。
﹁ママもパパを早く許してあげればいいのに。折角自分用に買った
﹃シロエ﹄も人に譲っちゃってるし、﹃マリス﹄とか他のオナホも
ぜーんぶ処分したって言うのに、いつまでもガミガミしないで欲し
いなぁ﹂
即売会の次の日、帰宅したチャモロ達を迎えた母親は激怒した。
趣味の買い付けのレベルを超えた出費。
そしてその買ってきた品がオナホという事で離婚寸前の大喧嘩にな
った。
父親は平身低頭して許しを乞い、オナホの全処分という事で話が決
着した。
母親が自分の手で引き裂くと言って包丁を取り出してオナホ達に向
けた時、父親が割って入り、オナホの市場価値を説明した。
そしてその日の内に父親は村中を巡り、オナホの訪問販売を行った。
オナホは飛ぶように売れ、村中に行き渡った。
そしてこの家に残ったのは、チャモロが泣いて自分が買って貰った
物だと主張した﹃ハイネア﹄のみ。
その﹃ハイネア﹄が待つ自室へと戻ると、
﹁全然終わって無いじゃん﹂
﹁じゅううううう⋮⋮はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮ちゅうううううう﹂
顔を赤くして苦しそうに呼吸をしながら、カーペットに沁み込んだ
汚液を吸い出している﹃ハイネア﹄の姿が有った。
だが起毛の根元にまで沁み渡っている愛液と小便と精液の混合汁は、
人間の吸引力程度でどうにかなる物では無かった。
﹁じゃあ言った通り明日からは肛門にもバイブだから。さーお風呂
入ろう。お前のマンコを石鹸の泡だらけにしてチンポ突っ込むの大
1089
好きなんだよー﹂
嬉々として﹃ハイネア﹄を抱え上げ、チャモロは部屋から出て行っ
た。
﹁⋮⋮リセ⋮⋮助けて⋮⋮﹂
カーペットの繊維がこびり付いた口で﹃ハイネア﹄が呟いた。
1090
それぞれの現状︵後書き︶
視点が五つに分かれ、読み難いかもしれません。
これから十話ほど﹃集結編﹄として動かしていきますので、徐々に
ですが視点の数は減って行きます。
たぶん次までは五つのままだと思います、ご容赦ください。
1091
ケダモノ共︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1092
ケダモノ共
バケツ頭の少年、テビィの股間ははち切れんばかりに勃起していた。
リトリロイの一行、その最後尾に付き歩いている。
﹁アミュス、大丈夫ですか?﹂
ヘミネが心配そうに隣を行く魔導士に声を掛ける。
﹁平気よ⋮⋮縄が痛いだけ⋮⋮﹂
魔導士アミュスはそう言って、真冬にも関わらず汗の浮いた頭を振
った。
﹁オラは毎晩あの二人の肉穴を好きにして良かったはずなのになぁ
⋮⋮﹂
アミュスとヘミネは開拓団に捕らえられてから二ヶ月の間、陽の有
る内は延々公娼活動として男達に雌穴を提供し、その汚れを掃除す
る役目として夜の間はテビィに預けられていた。
その間、テビィは好きなだけ魔導士と貴族の肉体を弄んでいた。
﹁マンコも、アナルも、口も、オッパイも、鼻の穴も耳の穴も全部、
オラの玩具だったのになぁ⋮⋮﹂
粗雑なズボンの内側に仕舞われているテビィの包茎チンポが入る穴
全てに向けて精液を放ち、同時に愛用のトイレ掃除用グッズで汚辱
していった。
﹁毎日毎日、朝日が昇るまでベトベトのズボズボに出来てたのに⋮
⋮﹂
肉穴の心地よさを忘れられず、リトリロイ達に同行したは良いが、
セリスが目を光らせている限り、自分や他の男達が公娼を利用する
事は出来ない。
﹁あんひぃぃぃぃぃ﹂
毎度のことながら唐突にセナがヨガり声を上げた。
﹁セナ? 虫ね⋮⋮とってあげる﹂
1093
セナの隣を歩いていたユキリスが言い、女騎士の乳房へと顔を伸ば
していく。
﹃弱点﹄乳首に小蠅が止まったのだ。
小蠅が止まっただけでイキ始める騎士とは何と滑稽な事か。
公娼達は両手を縛られている為、魔導士は騎士の乳首に顔を寄せた。
﹁ひぅん!﹂
﹁ご、ごめんなさいセナ⋮⋮﹂
ユキリスは舌で小蠅を追い払おうとしたが、誤ってセナの﹃弱点﹄
に触れてしまい、更なる絶頂を与えていた。
﹁おい⋮⋮セリス様がこっち振り向きそうになったら言えよ﹂
﹁わかってる⋮⋮。次の休憩からは俺だからな﹂
ひそひそと兵士達が言葉を交わす。
二人は人一人分の間隔を空けて立ち、その中央にはシュトラが歩い
ていた。
﹁んっ⋮⋮くぅ⋮⋮んんっ!﹂
シュトラの頬は赤く、呼吸も荒い。
それもそのはず、兵士の内一人の籠手に包まれた指が彼女の秘肉を
割り開き、膣内を弄っているのだ。
﹁前はバレるからな。後ろからケツ揉みかマンコ弄りだったら最悪
誤魔化せる﹂
定期的に公娼達の様子を気にかけ振り返るセリスにバレない様に、
兵士達はチキンゲームを繰り広げていた。
﹁セリス様はどうか知らないが、こいつらの方はあまりセリス様を
好きじゃないみたいだしな。チクりはしないだろうよ﹂
そう言って、兵士はゴリゴリとシュトラの膣を冷たい籠手で抉って
いく。
公娼達がセリスに向ける感情は複雑なものであり、アミュスとヘミ
ネは露骨に毛嫌いしている上に、セナやユキリス、シュトラもまた
どこか信じる事をためらっている様子だった。
﹁んっ⋮⋮ああああっ!﹂
1094
淫核を弄繰り回す指に耐えきれず、シュトラが絶頂の叫びを放つと、
﹁何?﹂
セリスが猛然と振り返る。
﹁いえ、異常なしであります!﹂
﹁コイツが道に落ちていた小石を踏みつけたようであります﹂
瞬時に手を引っ込めた兵士達は直立した姿勢で敬礼を取り、シュト
ラを指差した。
﹁⋮⋮んはぁ⋮⋮⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
荒く呼吸するシュトラの様子を見て、セリスは眉を立てる。
﹁下手な誤魔化しは︱︱﹂
﹁セリス様。ご自身の御目で見ておられぬ事で、兵達を叱責なさる
のは宜しくないかと。彼らはこの強行軍をリトリロイ様の為に耐え
抜く勇敢で忠実な騎士でございます。その事を誰よりもご存知であ
るセリス様なれば、彼らを労わる事は有れど、いたずらに怒りを向
ける様な真似はお止めになった方が宜しいでしょう﹂
老侍従が言い、周りにいた兵士達も視線でその言葉を推した。
セリス自身把握している。
行軍中にセナ達が兵士達から辱めの類を受けているだろうという事
を。
そしてこの一行の中で、それを否定しているのは自分だけで有ると
いう事も。
﹁⋮⋮良いじゃねーか触るくらい﹂
ボソっと兵士達の中から声が漏れる。
﹁本来なら休憩ごとに滅茶苦茶にチンポぶち込んでやるところを、
ちょっと触るだけで我慢してやってるんだからさ⋮⋮﹂
追従する声も聞こえる。
過酷な旅、先行きには不安しかない。
それでもリトリロイに付き従う臣下達。
﹁⋮⋮セリス。先頭を行ってくれるか? 強力な魔物が現れた場合
の事を考えるとやはりそれが一番だろう。後ろは兵達に任せよう。
1095
お前は、前だけを見ていてくれ。⋮⋮ゴホッ﹂
仲裁する様に放たれたリトリロイの弱弱しい言葉。
臣下達とセリスの間で板挟みになっているリトリロイにとって、こ
の問題は頭痛の種だった。
本来彼はセリス以外の公娼など眼中に無く、兵達が望むのならば好
きにすれば良いと考えていたが、セリスが強硬に反対する以上、そ
の言葉にも耳を傾けなければならなかった。
だが苛烈な旅で肉体と精神を摩耗させていく部下達の様子に、せめ
てもの娯楽として公娼の利用許可を与えるべきなのではないか、と
いう思考が強くなってきていた。
その上彼はこの寒風の中体調を崩していて、今は侍従とセリスに脇
を固められて歩いているところで、あまり揉め事を長引かせて無駄
な体力を使いたく無かった。
﹁⋮⋮わかりました。先頭に行きます﹂
その言葉と共に、腰の長剣に手を遣り無言の威圧を送る。
軍神の威圧。
その猛威は兵士達から興奮を根こそぎ奪い取り、背筋を戦慄させる。
手出しをしたら殺す。
そう言っている様にも見えた。
バツの悪い表情で公娼達から距離を取って行った兵士達の後ろで、
﹁はぁぁ⋮⋮もう我慢の限界だべ⋮⋮!﹂
セリスの事など無視して公娼の尻を見つめていたテビィは一つ呟き、
バケツの側面部へと手を触れる。
アミュスとヘミネ、そしてマリスの襲撃の際に父が被せてくれたバ
ケツ。
友軍の放った弓の衝撃で頭蓋骨ごと凹み、取り外す事が出来なくな
っている。
これも運命だと諦めていたが、あまりにも頭が痒くなった為側面部
に穴を空け、三日に一度水を流し込みブラシでこする様にして洗う
事にした。
1096
そしてその穴には、普段は別の物を詰め込んでいる。
﹁⋮⋮これじゃない、これでもない⋮⋮﹂
仕事道具。
流石に愛用の便所ブラシと雑巾は入れてはいないが、その他の細々
した物を詰め込んでいた。
﹁あった!﹂
その中の一つを手に取る。
﹁これさえあれば⋮⋮﹂
テビィが頭上のバケツから取り出したもの。
﹁オルソー様がわざわざ下さった物⋮⋮まだ半分以上あるべ⋮⋮ク
フフフ﹂
小瓶。
テビィがアミュスとヘミネを毎度毎度朝まで犯し続ける事に嘆息し
たオルソーが用意した物。
テビィの呆れた性欲の強さは諦め、ただ公娼を眠らせる事だけを考
えて作られた薬。
﹁今夜が楽しみだべ⋮⋮﹂
一滴でも口に含めば、例え処女が破瓜をしようとも、次の朝までは
目覚めない程に強力な睡眠薬。
ニチャっと笑んだテビィは小瓶を握りしめ、一行の最後尾を歩き続
けた。
﹁智天使アン・ミサ様の代行として、お前達の里を検め︵あらため︶
ます﹂
裁天使ユラミルティは書状を突き付ける。
﹁おぁ⋮⋮アン・ミサ様の⋮⋮﹂
突き付けられた先は、苔の塊が人型になった魔物。
苔塊人。
その長老であるらしい。
1097
﹁不気味⋮⋮﹂
天使の背後に控える人間達の中、フレアが眉を下げる。
長老の背後には数人の同族が立っていて、緑色の瞼をこじ開けて書
状を睨んでいた。
﹁し、しかしあれは我らが正当な取引で購入した商品ですぞ!﹂
﹁そうです! 高値を積んで買った品を返金も無しに返せとは、如
何な管理者であろうともこの横暴は許されませんぞ﹂
苔塊人達は口ぐちに意見を言うが、
﹁お前達の取引相手とやらは親鬼です。管理者に仇名す犯罪者との
取引など無効です。補償について文句が有るのなら親鬼に言いなさ
い。良いから大人しくロニア殿を差し出しなさい。そうでない場合
は、この書状の最後に書いてある通りです﹂
ユラミルティが眼鏡を光らせ苔人間達を睨みつける。
﹁う⋮⋮ラクシェ様が来るのか⋮⋮﹂
﹁勝てるわけ無いぞ⋮⋮被害が出ない内に差し出すしかないのか⋮
⋮﹂
文末に書かれた﹃尚、この令状に従わぬ場合は力天使ラクシェによ
る強制執行の対象とします﹄の文言に震え、苔塊人達は項垂れた表
情で受け入れた。
﹁購入したオナ⋮⋮いえいえ! 違います。保護した人間の雌は奥
で清めの儀式を受けているところです﹂
オナホと言おうとしたところでシャスラハールとリセに睨みつけら
れ、長老は慌てて訂正し、自分の背後を指差した。
﹁行きましょう﹂
シャスラハールが言い、フレアとリセが頷いた。
﹁脅しをかけたようで気分が良くないですが、この先の光景を見れ
ば、帰り際にさっきの長老達を殺してやりたくなる様な物が見れる
のでしょうね⋮⋮﹂
書状を丸めて仕舞いながら、ユラミルティが誰とはなしにポツリと
呟いた。
1098
﹁がぼっ⋮⋮! 嫌っ⋮⋮溺れ⋮⋮﹂
ロニアは必死にもがいた。
全身が重く沈んでいく。
粘度の高い沼へ。
泥は着実にロニアを飲み込んでいく。
苔塊人の集落の端にある泥の泉。
その場所にロニアは投げ込まれていた。
﹁キヒヒヒ。嫌だろ? 死ぬのは。じゃあ仕方が無い。支えてやる
よ﹂
その言葉と共に、種族的に泥に沈まない苔塊人は泥中を自在に動き、
ロニアの傍へやって来る。
﹁こなっ⋮⋮い⋮⋮でぇ﹂
オナホールとしての拘束は外されている。
元よりロニアは筋力で勝負するタイプでは無いので、武器さえ奪っ
ておけば手足が自由であろうと問題は無い。
今も簡単に苔塊人に拘束され、
﹁んぎひっ!﹂
泥中で体を持ち上げられる様にして肉棒を挿入された。
﹁あがっ⋮⋮﹂
苔に塗れたチンポが膣壁を擦り、僅かな隙間から潜り込んできた泥
が襞に吸着していく。
﹁キヒヒヒ。やっぱ泥の中でヤると滑りが良くて気持ち良いぜぇ﹂
無遠慮に腰を動かし、苔塊人は笑う。
﹁嫌だ⋮⋮汚い⋮⋮。冷たい⋮⋮あぁぁ⋮⋮﹂
ロニアは涙を流し、苔塗れの体に手を突いて離れようとする。
﹁おぉ良いぜ? 俺から離れるとお前は泥の中に沈む事になるが。
それでも良いんならな﹂
余裕の表情で苔人間は言い放ち、両手を自由にする。
1099
二人は今チンポとマンコでだけ支え合っている事になる。
﹁あっ! 駄目⋮⋮沈む﹂
今度はロニアから熱い抱擁。
﹁キヒヒヒ。そうかそうか。もっと激しく抱いて欲しいってか。そ
れなら仕方ない﹂
そう言って、苔だらけの体を激しく揺すってロニアの膣を味わって
いく。
まみ
﹁この泉は俺達にとって神聖な場所でな。よく清めの儀式なんかに
使われてる。全身隈なく泥に塗れるんだ⋮⋮こうやってな﹂
おか
苔塊人の手がロニアの体を這い、尻の割れ目を掴んだ。
﹁んひっ! 何、止めて⋮⋮変なことしないで、陸に戻して!﹂
焦るロニアの声に、嗜虐的な笑みを浮かべた苔塊人は、
﹁全身隈なく。泥まみれっと﹂
歌う様に言い、ロニアの尻を大きく割り開き、肛門をこじ開けて中
に泥を掻き込んだ。
﹁きゃあああああああ! 止めて! それ止めて!﹂
腸内に入り込んできた粘性の異物に悲鳴を上げるロニア。
﹁駄目駄目。入る場所には全部入れちゃわないと。こっちも⋮⋮な
!﹂
その言葉と共に、苔チンポが一度大きく引き抜かれ、また勢いを乗
せて膣口へと襲い掛かる。
亀頭に押され、また新たな泥がロニアの膣へと入り込んできた。
﹁ひぎぃぃぃぃ! 嫌! もうやめて⋮⋮オマンコ病気になっちゃ
う!﹂
絶叫するロニアを無視して、苔チンポは何度も出入りを繰り返す。
その度に泥が次々とロニアの膣へと入り込み、チンポの圧力で子宮
へと押し付けられる。
﹁気持ち悪いぃ⋮⋮﹂
涙を流すロニアへ笑みを向け、苔塊人の動きは一層激しくなった。
苔チンポは大量の泥を子宮へ擦り付け、直腸は既にパンク寸前まで
1100
泥を詰め込まれている。
﹁だ、出すぞ! お前の子宮の中で泥と精液のミックスジュースを
作ってやる! スライムみたいな子供で産むんだな!﹂
﹁いやああああああああああっ!﹂
ビュシャ︱︱と放たれた精液は子宮の前で渋滞していた泥達の背中
を押し、共に子宮口をこじ開けて内部へと侵入して行く。
﹁あ⋮⋮あぁ⋮⋮そんな⋮⋮汚い⋮⋮汚いよぅ⋮⋮﹂
呆然とするロニアへ、
﹁キヒヒヒ。そんじゃ続けて二発目︱︱﹂
更なる抽送を始めようとした苔塊人。
その頭部に、深々と刃が突き刺さった。
﹁外道⋮⋮!﹂
リセが憤怒の表情で短刀を投げたのだ。
リセの隣にはシャスラハールとフレアが続いている。
長老達と話した後真っ直ぐこちらに向かって来ていると、悲鳴が聞
こえた。
駆け付けた先、四城門の戦場でロニアと戦ったリセにとって見れば、
許しがたい光景が広がっていた。
思わず投擲した必殺の短刀は正確に苔塊人の命を奪ったが、それは
同時にロニアの支えまでも奪った事になる。
﹁ひあっ⋮⋮がぼっ⋮⋮﹂
苔塊人の死体と性器で繋がった状態のまま、ロニアは泥中に沈んで
行く。
﹁いけない!﹂
その様子を見て、シャスラハールは慌てて泉に飛び込んだ。
﹁ロニアさっ⋮⋮うわ!﹂
着水し、少しの間は体の自由が効いたが、すぐに泥の圧力に動きを
封じられてしまう。
それでも懸命に手を伸ばし、
﹁掴んで⋮⋮一緒に帰りましょう!﹂
1101
泥中に沈むロニアは、その声を聞き咄嗟に手を伸ばす。
﹁帰る⋮⋮アタシは⋮⋮ようやく、自由になったんだ︱︱﹂
公娼としてディルドー工場で朝も夜も無く、作り立てのディルドー
を膣と肛門で飲み込み続ける毎日から解放され、人間としての尊厳
を取り戻したはず。
ようやく手にした念願の自由を、手放したくない。
ロニアの手は伸び、シャスラハールのそれを掴んだ。
﹁殿下⋮⋮! あぁくそ、何か長柄の物は︱︱﹂
さほど大きくない泉だが、ロニアとシャスラハールの所までは多少
の距離が有る。
フレアが突っ込んだとしても、確実に助け出せる保証は無かった。
﹁それでもやるしかないか!﹂
意を決して飛び出そうとするフレアの肩をリセが止めた。
﹁フレアさん。あれを﹂
そう言って、指を差した先。
泉の真上にユラミルティが浮いていた。
﹁考え無しにも程が有りますね。シャスラハール殿。私がいなけれ
ば死んでいたかも知れません。この痛みはその勉強代と思って下さ
い﹂
裁天使の手が光り、魔力が放たれる。
生み出されたのは、以前に天兵連隊を拘束し処刑した光の縄。
縄はシャスラハールの腕へと巻き付き、
﹁うああああああああああ!﹂
しっかりとロニアを抱き締めたシャスラハールごと、釣りの要領で
引き揚げた。
べしゃ︱︱と地面に叩きつけられたシャスラハールは苦悶の表情を
浮かべる。
﹁殿下!﹂
﹁シャスラハール殿下⋮⋮﹂
フレアとリセが駆け寄り、助け起こそうとする。
1102
﹁だ、大丈夫です⋮⋮。ありがとうございます。ユラミルティさん﹂
全身にこびり付いた泥を払いながら、シャスラハールは救助天使を
見上げた。
﹁いえ。では私はこの死体を吸血馬に与えて来ますので、そちらの
ロニア殿が落ち着かれたらすぐにでも出発致しましょう。次の目的
地はボアル族の村となります﹂
ユラミルティは再び出現させた光の縄で先ほどの苔塊人を吊り上げ、
集落の入り口へと飛んで行った。
﹁うっ⋮⋮あぐっ⋮⋮﹂
シャスラハールの胸に顔を預け、ロニアが泣いている。
﹁大丈夫ですよ⋮⋮。僕らはもう敵じゃありません。アン・ミサと
は同盟関係になりました。これからは一緒に︱︱﹂
慰めの言葉を作る王子だったが、その途中で弾かれた様にロニアが
顔を上げ、
﹁は、離れて! すぐに!﹂
冷や汗を浮かべながら、涙目で叫んだ。
﹁えっ⋮⋮て、敵じゃ無いですよ⋮⋮?﹂
﹁そうじゃなくて! んんっ! あっうぐううう﹂
ロニアは顔を真っ赤にしたまま、苦悶の叫びを上げる。
その時、彼女の腹部からギュルギュルと激しい音が鳴った。
直腸に押し込まれた泥が、逆流しようと体内で暴れ回っているのだ。
﹁殿下!﹂
﹁ロニアさんはこちらへ﹂
フレアがシャスラハールの体を抱き起し、リセがロニアの手を引い
て木陰へと連れ込んで行く。
﹁は、はいぃぃ!﹂
シャスラハールはフレアの剛腕に引かれるまま移動する。
その時背後から、ビチャビチャと排泄音が響いて来た事については、
聞かなかった事にしようと強く思った。
1103
﹃ひぐぅぅぅぅぅ! 三十人分のブレンド精液注がれてイクぅぅぅ
ぅぅぅ﹄
暗幕の内側で映像魔術が展開されている。
観客は三人。
老いた男と、魚顔の女と、長身の男。
﹁流石ですわぁ棟梁。このイキ顔とっても素敵。あの暴力娘をここ
までトロトロにしちゃうなんて﹂
魚顔の女、オルソー夫人が隣に座る老人を褒め称える。
画面の中でまんぐり返し状態になっている女はセナだ。
柄杓から精液を膣内に注がれて、激しくヨガり狂っていた。
﹁凌辱シーンを遠巻きに見つめていた連中から採取した精液を挿入
無しで直接膣に注ぎ込む⋮⋮。﹃弱点﹄魔術で仕上がった公娼を使
う演出としてはこれ以上無い演出ですね﹂
顎に手を遣り頷いている長身の男はラタークだ。
﹁ふっ。この程度、準備期間が殆ど無かった故に即興よ即興。あと
ひと月あればこの娘を使って至上の作品を作れたという物じゃよ﹂
老人、ゾートが静かに首を振った。
今、調教師団の幹部三人は自分達が撮った映像の試聴を行っていた。
リトリロイが出奔した事については、三人とも別にどうとも考えて
はいない。
ただその混乱の最中、セナ達がどうやらリトリロイに連れて行かれ
たという事が大きな問題となっていた。
大々的に告知をし、一般開放を制限してまで昂らせていた結果、セ
ナ達をむざむざ失ってしまった事に対して、兵や労働者達からは厳
しい声が飛んでいた。
公娼の管理責任は調教師にある。
失点を取り返そうと、残った公娼達での演出を行ったが、半分壊れ
かけの彼女達では調教師としての腕を発揮する事は出来ず、ただの
肉穴程度にしか使えなかった。
1104
調教師達に対する風当たりは強くなった。
オビリスが大軍を率いて進駐した事により、更に利用希望者は増え
ている。
にも拘わらず調教師団が用意できるのはタガの外れた肉便器のみ。
加虐を楽しめる公娼は不在だった。
少しでも批判を逸らせるかと、先日撮った映像を一般に開放しよう
と言う案が出て、その最終確認の為にトップ3が揃い互いの作品を
評価しあった。
﹁⋮⋮でもこれは、ダメですわね﹂
オルソーが言い、
﹁でしょうね。これはダメだ﹂
ラタークも嘆いた。
﹁うむ⋮⋮オルソーの物も、ラタークの物も⋮⋮そしてワシの物も
⋮⋮全部ダメじゃ。一般開放など出来ん⋮⋮﹂
額に皺を寄せ、ゾートはしわがれた声を放った。
﹁良すぎる。作品としての完成度が高すぎる。なまじコンペ用に期
なじ
待を煽る様な内容なのがマズイ。こんな物を放映してしまっては、
セナ達を抱けぬ事についてまたどれだけ詰られる事か﹂
三人は途方に暮れていた。
﹁活きの良い公娼が入荷しない事には、わたし達はうかうか外を出
歩けませんわ﹂
﹁殺気立っていますよね⋮⋮。無駄飯ぐらいだなんだと暴言を吐か
れる毎日ですよ﹂
オルソーとラタークは常の険悪な関係を忘れる程に追い込まれてお
り、憔悴していた。
﹁その事じゃが。近い内にオビリス様が西域全土に公娼回収作戦を
仕掛けるらしい。今はその為の索敵を支配した魔物に命じて行わせ
ていて、またもう一つ新たな要素を公娼に付与する為の魔術を用意
中らしいぞ﹂
ゾートの言葉に、二人の調教師は目を見張った。
1105
﹁本当ですか? 棟梁。それならばもうしばらくの我慢ですわね﹂
オルソーは安堵の溜息を吐き、
﹁しかし気になりますね。新たな要素とは⋮⋮。公娼の仕様を変更
するのならこちらにも具体的な説明が欲しいものです﹂
ラタークは気難しげに唸った。
﹁何でも、これまで以上に調教がし易くなるそうな。ワシらの様な
専門職でなくても一般人、それこそそこらの鼻糞を穿っている様な
小僧でも公娼達に股を開かせる事が出来る様になるそうな﹂
ゾートは平坦な声で言った。
﹁それは⋮⋮とても複雑な気分ですね﹂
自分達から専門性を奪われる。
そう聞き、ラタークは渋面を作った。
﹁なぁに、技術の進歩とはそうある物じゃよ。誰でも手軽に公娼を
調教できる。そう言って腕の無い連中が参加して来る事で、ワシら
の様な本物の腕前を持つプロの調教師の技が更に評価を受ける。そ
う考えればこれはチャンスじゃよ﹂
ゾートはクックと笑いながら言い、
﹁アマチュアでは越えられぬ壁という物を見せつけてやれば良い。
オルソー、そしてラターク。お前達ならばそれが出来る。ワシは今
の映像を見て、それを確信したぞ﹂
ゼオムントの調教師筆頭から掛けられた言葉に、オルソーは満足げ
に頷き、ラタークは無言で目を閉じた。
﹃おぼぇぇぇぇぇ。逆流精液でイクのが止まらないぃぃぃぃ﹄
映像の中ではセナが胃から精液を逆流させ、口の中にある﹃弱点﹄
で派手にイッていた。
猫の里に連れて行かれた当初、ヴェナとマリューゾワは気丈に振舞
っていた。
オナホとして拘束を受け、猫領主やその部下から何度となく凌辱を
1106
受けても、毅然とした態度を貫いていた。
猫商人はその様子を見て顔を青褪めさせていた。
自分の買ってきたオナホを大層喜んで受け取ってくれた領主だった
が、こうまで反抗的な態度を貫かれては、いつ不興を買ってしまう
か分からない。
その為、彼は大急ぎで薬屋の知人に連絡を取り、猫の里で流通して
いる催淫マタタビを濃縮させた薬を作り上げた。
ヴェナとマリューゾワ、そして数体の羽根落ちオナホの性器にそれ
を塗り込んで行く。
一塗りで呆気なく人格を喪失してしまった羽根落ち達は役所の前に
公衆便所として並べて置く事になったが、二人の人間は違った。
顔を赤らめ、呼吸が激しくなったが、抵抗は止まなかった。
その為商人はまた一塗り、今度は肛門に催淫マタタビを沁み込ませ
た。
聖騎士と魔剣大公は涎を垂らし、股間から止めどなく愛液を零しな
がらも耐えていた。
仕方が無いのでもう一塗り。
今度は乳首へと塗り込んだ。
肌を撫でるだけで痙攣するような有様になっても、二人の抵抗は無
くならない。
意地になってもう一塗り。
薬を全て使い切り、唇をなぞる様にして塗った。
領主やその部下が露出させているチンポへと食い入る視線を放つよ
うになりながらも、ヴェナとマリューゾワは耐えようとしていた。
商人もまたここで失敗してなるものか、と知人に頼みまた新たな薬
を手に入れた。
その手に新たに握られた薬の缶を見て、マリューゾワは刮目し、隣
を仰いだ。
ヴェナとマリューゾワの視線が交わされる。
そうして商人が薬を手に二人に近づいた時。
1107
﹁⋮⋮にゃあ﹂
﹁うにゃあ⋮⋮﹂
理性と情欲の断崖で、二匹の雌猫が鳴き声を上げた。
﹁にゃほ! にゃほほ﹂
猫領主の口から喜悦が漏れる。
﹁そうだ。舌をもっと使え。そっちはタマを咥えるのだ﹂
鉄板の上に乗ったステーキをナイフとフォークで引き裂きながら、
領主は言った。
四人掛けのテーブルの下、彼の股間には二匹の雌猫が顔を埋め、猫
チンポに食らい付いていた。
﹁にゃあ⋮⋮﹂
﹁にゃん⋮⋮﹂
ヴェナ。
そしてマリューゾワ。
人間の中で群を抜いた実力者である二人は今、一本のチンポを奪い
合う様にしてしゃぶりついていた。
﹁盛っておりますなぁ。雌猫達は﹂
食卓に同席していた領主の部下が失笑する。
﹁本当に。最初は睨み、暴れ、罵倒して来た奴らが、今ではチンポ
を見せるだけでマン汁垂らしてしゃぶり付いて来るようになったの
ですから﹂
足でマリューゾワのディルドーを奥に押し込みながら、別の部下が
言った。
﹁うむ。それもこれも催淫マタタビの効果よのう。なぁ?﹂
肉竿を頬張っているヴェナの頭を叩きながら、領主は末席に座って
いる商人へと声を掛けた。
﹁いえっ。仕入品に不具合が有ったのはこちらの不手際でしたので、
そのアフターケアをさせて頂いたまでです﹂
1108
商人は愛想笑いを浮かべて首を振った。
﹁食後の投与の準備は済んでおるか?﹂
領主の問いかけに商人は頷く。
﹁はい。こちらに﹂
懐から缶を取り出し、テーブルに乗せる商人。
﹁おお。これは重畳。塗り立ては一層激しく乱れるからのう。楽し
みだ﹂
領主は笑う。
﹁塗り立てのこいつらはこっちが引いてしまうくらいですからねぇ﹂
部下の一人はまた失笑を浮かべ、
﹁そこらの獣の様に屋敷中どこでも糞尿を垂れ流すわ、顔を見せた
使用人に飛びついてチンポをねだり出すわ。これから先の躾が思い
やられますな﹂
もう一人はヴェナのディルドーを蹴り付けながら頷いた。
﹁それなのですが、将来的にこの雌猫達を放し飼いにされるおつも
りとの事ですので、折角ですので私共の方で開発致しました雌猫躾
グッズを紹介させて頂いても宜しいでしょうか﹂
商人はにこやかに笑み、指を立てた。
﹁一つ目。鈴付きの首輪。この鈴から発せられる音色には催淫作用
を魔力で付加させておきます。すると雌猫達は屋敷の中や表を歩き
回るだけで、ずっと興奮が止まらず、チンポを求め続けるでしょう﹂
そしてもう一本指を立てる。
﹁二つ目。据え置き型のディルドー。これを屋敷の数か所に設置し
て置くのです。頭が馬鹿になっている以上、何を言っても記憶は出
来ないでしょうから、体⋮⋮いやマンコで覚え込ませましょう。こ
の場所に座っていればズボズボしてもらえるとマンコに記憶させて
おけば、居なくなった時に探しやすい﹂
最後に三本目。
﹁三つ目。雌猫用の砂トイレ。特殊な砂ですので糞尿を分解し、砂
に作り変えます。ただ、匂いはすぐには消せないので、屋敷の中で
1109
は無く門の外に設置するのが宜しいかと。場所は叩いて覚えさせる
しか無いですがね﹂
商人の饒舌な語りを聞き、領主はふむ、と顎に手を当てる。
﹁もう出来ているのかね?﹂
﹁はい。いつでもご用意出来ます﹂
商人は恭しく頷いた。
﹁それじゃあ今夜にでもここへ届けてくれ。明日の朝にはトイレを
きちんと使える様に躾けて見せよう﹂
領主は嫌らしく笑み。
﹁領主様。私もお手伝いしますよ﹂
﹁自分も、微力を尽くさせて頂きます﹂
部下達も追従して笑った。
﹁うむ、うむ﹂
領主が頷き、食事は談笑と共に続いた。
猫達が焼けた肉を頬張る間。
聖騎士と魔剣大公は肉棒と精液を味わう。
領主が射精した後には、部下達のモノをしゃぶり、最後には憎き商
人のチンポまでをも奉仕した。
﹁んくっ⋮⋮んにゃあ⋮⋮﹂
﹁にゃふ⋮⋮﹂
唇の端から精液を零し、甘い鳴き声を上げる二人の目が互いを見た。
聖騎士は魔剣大公のトロ顔を。
魔剣大公は聖騎士のアヘ顔を。
その瞬間。
待ちに待ったタイミングが訪れる。
﹁さて、それでは薬の時間︱︱﹂
言いかけた商人が、固まる。
﹁どうしたかね?﹂
領主が問うが、商人は答えない。
顔を真っ青にし、額からは汗を止めどなく流し始めた。
1110
﹁君?﹂
領主が首を傾げた瞬間、テーブルが跳ね上がった。
﹁おわっ!﹂
のけ反り倒れる領主と部下達が見たのは、立ち上がりながら商人の
チンポを握りつぶすヴェナの姿だった。
﹁ぎゃああああああああああああ! いでえええええええええ﹂
商人はようやく悲鳴を上げる。
﹁報いです!﹂
ヴェナの剛腕は暴れる商人を取り押さえ、喉を握った。
そのまま万力の様に締め上げて、
ブチュッ︱︱
抉り潰した。
血に染まった手を払いながらヴェナが領主達を睨みつける。
﹁ひ、ひぃぃぃぃ﹂
﹁衛兵! 衛兵すぐに来い!﹂
領主の部下達は慌てて食堂から逃げようとするが。
﹁魔剣﹂
その眼球にフォークが突き刺さる。
﹁うぎゃああああああああ!﹂
叫んだ口の中にナイフが侵入し、食道を引き裂き、胃をズタズタに
し、肺を突き破って心臓を破壊した。
﹁どうかしら⋮⋮痛かったかしら? だったら私は嬉しいけどね﹂
倒れ行く部下達へと冷笑を浮かべながら、マリューゾワは魔剣の操
作に使用したナイフを投げ捨てた。
そして、
﹁いやだ⋮⋮く、来るな⋮⋮金ならいくらでも︱︱﹂
後ずさる領主へと二人は一歩ずつ近づいてく。
恥骨にきつく纏わりついたゴムバンドを引き千切り、ディルドーを
取り出すと、
﹁好きなのでしょう? これ。四六時中わたくし達に着けさせてい
1111
ましたものね﹂
ヴェナが憎々しげに言い放ち。
﹁まぁ、お前達の粗末な代物よりは気持ちが良かったとだけ言って
おこうか﹂
マリューゾワが冷然と告げた。
﹁来るな⋮⋮来るなああああああ﹂
両手で顔を庇う領主へと、ヴェナは襲い掛かった。
一撃。
手にしたディルドーを振り下ろした。
領主の心臓へと。
﹁そんなに好きなら。自分で使えばいいでしょう﹂
全自動で動く魔導ディルドーは、ヴェナの怪力によって領主の胸を
貫き、背中にまで達している。
鮮血が飛び散り、杭を思わせる致命傷が与えられた。
はずだった。
﹁⋮⋮あ⋮⋮あれ? 生きて⋮⋮る?﹂
領主は半ば喪失しかけた意識で呆然と声を漏らす。
﹁ほう。ディルドーの振動で心臓が動いているからだろうか。奇蹟
ってある物だな。じゃあ折角だし。お前の好きな二本差しに挑戦し
てみるか﹂
今度はマリューゾワがディルドーを振りかぶり、領主へと突き刺し
た。
同じ個所へ。
傷口を押し広げる様に。
﹁んぎひぃ⋮⋮入らな⋮⋮い︱︱﹂
今度こそ領主は絶命した。
二人はそれを確認すると、荒く息を吐いた。
﹁間一髪⋮⋮でしたわね⋮⋮﹂
ヴェナは床に座り込みながら言う。
﹁えぇ⋮⋮後一回薬を投与されていたら、もう元には戻れなかった
1112
かも知れないな﹂
マリューゾワもまた腰を落ち着けて応じる。
催淫マタタビ。
その効力は英傑である二人の精神力を以ってしても抗しがたい物だ
った。
﹁貴女の提案に乗って正解でしたわ。マリューゾワ﹂
﹁フフフ⋮⋮。機を見るのが戦の常道⋮⋮それだけよ﹂
抵抗を続けて理性を完全に壊される前に、自分達から膝を折り、逆
転の時を待つ。
その為に二人は矜持を捨て雌猫となった。
雌猫となってからも定期的に与えられる催淫マタタビに、理性を保
てる時間はどんどん短くなり、体が勝手に快楽を求めて暴れまわっ
ていた事も有ったが、最後の最後で間に合った。
﹁くっ⋮⋮駄目ですわ⋮⋮また呑まれる⋮⋮﹂
ヴェナは悔しげに呻き。
﹁私も⋮⋮もう、無理⋮⋮﹂
マリューゾワもまた、顔を紅潮させて呟いた。
二人の指が己の股間へと這い進む。
その時、
﹁りょ、領主様! 賊です! 武装した人間の女達が︱︱へ?﹂
扉を叩く様にして一人の猫衛士が入って来て、凄惨な光景を目にし
て固まった。
﹁チ、チンポ⋮⋮﹂
ヴェナは理性を失った瞳で立ち上がり。
﹁チンポ来たぁ⋮⋮﹂
マリューゾワもまた正気を手放した声を上げた。
﹁頂戴。チンポをここに⋮⋮﹂
聖騎士ヴェナは両足を大きく開いて陰部を露出させ、衛士へと懇願
する。
﹁こっち、こっちにおチンポ入れてぇ⋮⋮﹂
1113
魔剣大公マリューゾワは四つん這いの姿勢になり、尻を振って挿入
をねだった。
その光景に衛士が固まったまま喉を鳴らす。
﹁退きなさい﹂
突然響いたその言葉。
衛士は振り返ろうとして、そのまま絶命した。
全身を真っ黒な炭に変えて。
衛士の死体を蹴り払い、一人の少女が食堂へと入って来る。
ドレス姿に、背中には蝶の羽の様なものを付けている。
﹁⋮⋮マリューゾワ⋮⋮﹂
﹁あぁ、チンポがぁぁ⋮⋮折角のチンポがぁぁぁ﹂
衛士の死を嘆いているマリューゾワへと、憐みの表情を浮かべる少
女。
﹁アルヴァレンシア。そっちに居ましたか?﹂
少女の背後から声が掛かる。
﹁⋮⋮あぁ。皆に伝えてくれ。この場所にはしばらく誰も近づかぬ
ようにと。その後はマリアザート、君に見張りを頼む﹂
アルヴァレンシアと呼ばれた少女が頷き、視線を逸らして部屋から
出て行った。
入れ替わりで室内を覗き込んだのは妙齢の女性。
黒磁の肌をした長身の女騎士。
﹁ヴェナ様⋮⋮あぁ﹂
﹁マンコをズボズボって⋮⋮誰かぁ誰かぁ⋮⋮﹂
女騎士は口に手を当て、呻きを漏らす。
聖騎士ヴェナの乱れた姿に、目を閉じた。
﹁⋮⋮間に合ったのでしょうか?﹂
﹁多分⋮⋮な。我の知る魔剣大公マリューゾワとスピアカントの聖
騎士ならば、すぐにでも己を取り戻すさ⋮⋮その時まで、なるべく
人目に付かぬようにしてやらねばな﹂
アルヴァレンシアはそう言って、廊下を歩き去って行った。
1114
オナホにされてから何日が経ったか。
ハイネアはぼんやりとそんな事を考えていた。
永遠にも思える時間だったが、改めて考えるとそう何度も日を繰り
返した記憶は無い。
﹁その間ずっと犯され続けていたからかのう⋮⋮﹂
膣口が閉じている時間など殆ど無かった。
常に誰かしらのチンポが膣肉を割り開いて子宮をノックし続けてい
た。
﹁久々⋮⋮だな⋮⋮﹂
ハイネアは穏やかな溜息を吐く。
今、彼女の膣口は閉じている。
今朝も元気に登校して行ったチャモロにバイブの二本差しをくらい、
午前中一杯ずっとイキ続けていたが、昼になって母親が息子の部屋
の片づけにやって来て、ハイネアの愛液でビショビショになったカ
ーペットの惨状にヒステリーを起こした。
バイブを抜き出し、そのままカーペットごとハイネアを水洗いした。
ハイネアは今、縁側で天日干しされている状況だ。
無造作に転がされてはいるが、全身に日光を浴びているのは、薄暗
い部屋でずっと悶え続ける事より何倍も楽だった。
﹁どうせあのガキが帰ってくるまでの間の平穏なのだろうが⋮⋮今
の妾にはこういう時間が必要じゃな﹂
マンコを晒し、オナホスタイルで拘束された状態で転がっているハ
イネアに、家の前を通り過ぎて行くボアル族達が視線を放ってくる
事は有るが、この家の番犬が吠え立てて追い散らす為、庭に侵入し
て来る者は居なかった。
﹁リセは無事かのう⋮⋮シャスはどうなったのだ⋮⋮一緒にここに
連れて来られたマリスと筆頭巫女殿はどこにいるのだ⋮⋮﹂
ハイネアがその様な事を考えていると。
1115
﹁グルルル﹂
唸り声が聞こえた。
﹁えっ⋮⋮﹂
視線を巡らせると、仰向けに転がっているハイネアの股間に犬の顔
が有った。
意思の無い獣の瞳がその場所を睨んでいる。
﹁ち、近づくで無い。お、大人しく家の番をしておくが良いぞ﹂
抵抗できないと知っていながらも、必死で体を揺すって逃れようと
するハイネア。
その時、
﹁ガウッ﹂
番犬が後ろ足で立ち上がった。
大型の犬種で身長はハイネアと同程度、体重は明らかに向こうが上
だ。
その番犬が、ハイネアへと圧し掛かってくる。
﹁やめっ! やめよ!﹂
涙を浮かべながら首を振るハイネアだったが、
﹁あぐっ! 嫌だ。どうして⋮⋮こんな獣にまで犯されないと⋮⋮﹂
番犬のペニスがハイネアの膣へと潜りこんできた。
縁側の縁に乗っていた事が不幸だった。
通常の犬の性交スタイルならば入れる事は難しかっただろうが、ハ
イネアのマンコは良い具合に縁に突出し、犬は前足を縁側に乗せる
事で正常位に近い形で挿入する事が可能だった。
﹁んぎゅうううう! 犬チンポは嫌! 抜いて、抜いてぇぇぇぇ﹂
その叫びは届かない。
犬畜生には理解されない。
人間の膣では射精が出来ないのか、犬は腰を振り続けるが中々達し
ない。
延々、延々。
ハイネアは犬チンポで犯され続ける。
1116
昼過ぎにハメられて、チャモロが帰宅し笑いながら近づいてくるそ
の時まで、ずっと犬と無駄な性交を続けていた。
﹁いやー。でも驚いたなぁ。まさかジョンとハイネアがあんなに仲
良くなってただなんて﹂
チャモロは楽しげに笑いながら犬のリード紐を引いている。
ジョンと呼ばれた犬はのしのしと主人の隣を歩き、その背中には、
﹁あうぅぅぅ⋮⋮洗ってぇ⋮⋮もう一回⋮⋮妾のマンコを洗ってぇ
⋮⋮﹂
ハイネアが載せられていた。
﹁散歩も皆ですれば楽しいよね。後でもう一回ジョンとハイネアの
セックスを見せてよ。今度は僕も手伝ってあげる﹂
オナホの言葉を無視してチャモロは言い、上機嫌な散歩は続く。
﹁今日はねー、いつもと違うコースを行くよー。友達の話だとこっ
ちの道で面白い物が見れるんだって﹂
ウキウキと言う言葉が良く似合う表情でチャモロは歩き、ジョンは
それに従う。
ハイネアには逆らう事すらできない。
﹁ほら、あれあれ!﹂
しばらく道なりに進んだ後、チャモロが指を差した。
その方向には、
案山子が立っていた。
実りの乏しい畑にポツンと設置されている、肉の案山子。
﹁筆頭巫女殿⋮⋮﹂
ジョンの背中で、ハイネアが呻いた。
リネミア神聖国の巫女騎士団頭領、シロエが両腕を広げた状態で、
竹竿で組まれた柱に括りつけられ、畑に設置されていたのだ。
無論裸である。
オナホとしても利用できるように、尻を若干突き出した形で両足は
1117
広げられている。
今も農夫らしきボアル族の老人にネットリとした腰使いで犯されて
いた。
﹁あっ⋮⋮ん。ハイネア⋮⋮王女﹂
シロエの方でもハイネアに気が付いた様子で、小さく声を放った。
﹁おーうどうしたチャモロ。犬の散歩かぁ? オナホ連れてよう﹂
﹁そうだよー﹂
老人とチャモロは知り合いだったらしく和気藹々としている。
﹁お前のオナホはちっこいなぁ。俺のチンポじゃ入らないだろうな
ぁ⋮⋮﹂
﹁誰が貸すもんか。これは僕専用だもんね!﹂
老人が言い、チャモロが舌を出して否定すると、
﹁⋮⋮クゥン﹂
ジョンが寂しげに鳴いた。
﹁あぁ嘘だよ嘘。僕とジョンの専用オナホだもんね! ハイネアは﹂
﹁おお? そっちの犬ともヤんのかいそのオナホは﹂
はぇーと頷きながら老人は言う。
﹁そうだよ! ジョンとハイネアはとっても仲良しなんだよ! 見
せてあげるね!﹂
そう言って、チャモロはハイネアを抱え上げてうつ伏せの姿勢で地
面に置いた。
ジョンが血走った目で幼い王女の膣を見つめる。
﹁ひ、やめよ! 嫌だ! その犬とは二度としたくない⋮⋮﹂
ハイネアは怯えた声を上げ、
﹁止めなさい! 私が代わります。ハイネア王女にそれ以上犬を近
づけないで!﹂
シロエが制止の声を放った。
﹁お前は俺のチンポに集中しろって。この案山子オナホが﹂
﹁んぎゅ!﹂
しかしシロエは老人に激しく腰を押し付けられ、息を詰まらせる。
1118
そうしている間に、
﹁いやああああああああ! 畜生チンポなんて欲しくないぃぃぃぃ
ぃ﹂
ジョンのペニスはハイネアの膣内に楽々侵入して行った。
﹁おぉ、本当だ。最近のオナホはペットの相手までしてくれるんだ
なぁ﹂
﹁そうだね! 案山子にもなるしオナホって凄いね!﹂
チャモロと老人は笑い合った。
老人は変わらぬネットリとした腰使いでシロエを味わい、ジョンは
カクカクと腰を揺らし続ける。
チャモロはその間シロエの胸を揉んだり、ハイネアにチンポをしゃ
ぶらせたりと忙しく動き回った。
﹁⋮⋮王女⋮⋮申し訳ございません⋮⋮臣下として⋮⋮不甲斐無い
ばかりで⋮⋮﹂
涙を流し、シロエが悔んでいると、
﹁⋮⋮良い。お主も辛かろうが、決して諦めるで無いぞ⋮⋮救いは
⋮⋮きっとすぐに現れる⋮⋮﹂
犬チンポに犯されながら、ハイネアが小さな声で励ました。
1119
ケダモノ共︵後書き︶
全ての登場人物が出揃いました。
余程の事が無い限り名前有りキャラは増えません。
クスタンビア、ジュブダイル、ユラミルティ、アルヴァレンシア、
マリアザートについては後程キャラクター紹介編に追加します。
1120
騎士長ステア その一︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1121
騎士長ステア その一
わたしは買われた。
これから地図にも載っていない、殆ど誰も知らない場所へ連れて行
かれる。
そこに連れて行かれ、
一生を、
オナホールとして過ごす事になる。
そう、宣告された。
わたしが誰であるか。
人によってわたしを指す呼び名は変わる。
部下達はわたしの事を﹃騎士長﹄と敬意を込めて呼ぶ。
妹はわたしの事を﹃姉上﹄と愛嬌のある声で呼ぶ。
かつての上官は﹃ステア﹄と親しみのある響きで呼ぶ。
﹁さて飯にするか。オナホが何を食うのか鬼達に聞いて来なかった
けれど、まぁ何でも食うよな﹂
そして、わたしを買った男は﹃オナホ﹄と呼んだ。
﹁ふぐぅ! んぐぐぐぐ!﹂
今、わたしの口には猿轡が噛まされている。
ここまでの間に大分騒いだ結果、痺れを切らした男に口を塞がれた
のだ。
﹁あーもううるさいな⋮⋮。飯抜きにするぞ﹂
鶏頭の商人。
わたしはこの男に買われ、その故郷に連れ帰られている。
﹁生体オナホの欠点は飯を食わせなきゃいけないところだよなぁ﹂
親鬼による襲撃で、わたしは仲間達と共に捕らえられた。
1122
そして巨体を持つ彼らに散々嬲られた挙句、オナホールとして商品
化され、西域の商人達に売り捌かれてしまった。
仲間達がどうなっているのか、わたしは知らない。
一人でも多く無事である事を願う。
シャスラハール殿下が事を成し、皆を救い出してくれる事を信じる。
﹁今日は乾した杏で良いか。まぁもうすぐ里に着くしな﹂
商人はわたしの近くに置いてあった麻袋から乾した果実を取り出し、
齧る。
﹁⋮⋮そう睨むなよ。食欲が失せる﹂
商人はげっそりした顔で言った。
この男に買われたのは昨日の事だ。
夜通しの宴を経て、早朝帰路に就いた男はわたしを荷台に放り込ん
だ状態で荷馬車を走らせ続け、今は昼を少々過ぎた辺りだろうか。
途中、わたしの叫び声に腹が立ったのか一度荷馬車を止め、荷台に
乗り込んできてわたしの頬を思い切り殴り、猿轡を噛ませていった。
杏を手にした商人が、わたしの猿轡をズラす。
﹁わたしを降ろせ。今ならばお前の命は助けてやる﹂
わたしは四肢を拘束された状態で言い放った。
﹁⋮⋮はぁ。いい加減にしろよ⋮⋮オナホが調子に乗りやがって。
今朝方は惨めに泣き喚いていたかと思えば、今度は脅しにかかるか
よ⋮⋮。もう良い、お前の飯は無しだ。お前には自分の立場ってい
う物を理解してもらう必要があるみたいだしな﹂
商人はそう言って杏を大口で飲み込むと、ズボンを脱ぎ始めた。
昨夜の宴の間、ずっとわたしを貫いていた怒張が解放される。
﹁下種が⋮⋮﹂
﹁ふん⋮⋮﹂
商人はわたしに圧し掛かり、問答無用に肉棒を膣内へと押し込んで
きた。
﹁んぐふっ⋮⋮。好きに出来るのも今の内だと思えよ⋮⋮﹂
不愉快な異物感に眉を顰め、商人を睨みつけると、
1123
﹁⋮⋮あーもう! そんな目で見るなよ鬱陶しい!﹂
商人は苛立った様子で、肉棒を差し込んだまま上半身を起こし、荷
台に有った布袋を掴んだ。
﹁オナホは黙ってチンポぶち込まれてれば良いんだよ! 無駄な自
己主張はするな!﹂
﹁むぐっ!﹂
商人は再び猿轡をわたしに掛け、更にその上から頭に布袋を被せた。
﹁ふぐぅぅぅぅぅ!﹂
視界と声を奪われ、わたしは動かない全身で反抗した。
﹁お! 暴れるとマンコの中が締まって気持ち良いぜぇ⋮⋮。顔さ
え隠しておけばお前に睨まれる心配もないし、エロい体だけが残っ
てこれは良いな⋮⋮!﹂
容赦の無い抽送が続く。
わたしは膣口で商人の欲望を感じ続けて行く。
﹁むぐぅ! うぐぐぐぐぐぐぐ﹂
暴れ続ける。
そうしなければいけない。
心がそう叫んでいた。
もしこのまま従順になってしまったならば、わたしはきっと元には
戻れない。
例え僅かな可能性で有るとしても、仲間達の元へと戻る事を諦めて
はいけない。
一度は手放しかけた矜持を掻き集めて、必死に騎士としての自分を
作り上げる。
﹁ふぅぅぅぅぅ! 出すぞ! このオナホールが!﹂
そうでなければ、
わたしはこの男が言う様に、
単なるオナホールとしてこの先生き続ける事が確定してしまう気が
した。
1124
股間に不快な滑りを感じる。
今し方、何者かに抱かれたのだ。
布袋で顔を覆われたわたしには、わたしを犯した男の顔を見る事す
らできなかった。
二人の男が二発ずつ、合計四発。
顔も知らぬ男の精を子宮で受け止める事になった。
﹁ヒヒヒ。儲け儲け。まさかこんな良い代物が洗っても無い中古オ
ナホを貸しただけで手に入るとはな。お前が役に立って良かったぜ﹂
先ほどわたしを犯した男達相手には慇懃な言葉遣いをしていた商人
だが、今は砕けた調子で荷台に座っている。
膝の上にわたしを乗せ、後ろの穴に肉棒を突き入れている。
﹁むぐっ⋮⋮ふぐぐぐぐ﹂
猿轡と布袋は相変わらず外されてはいない。
﹁前の穴はあいつらの汚ぇ精液がこびり付いてるからな。今はこっ
ちの穴で我慢してやる。どうせ里についたら滅茶苦茶にどっちも犯
されるんだし、今の内のほぐしておいた方がお前の為だしな﹂
肛門を抉られながら、わたしは不思議な感覚を得ていた。
浮いている。
厳密には違うだろうが、荷馬車は動いているにも関わらず、地面を
噛む振動がやって来ない。
静かに空へと登っている様な、奇妙な感覚。
﹁良いか? もう少しで里に到着する。今日の夜は宴だろうなぁ。
年に一度の交易品を皆に配る事になる。普段質素な暮らしをしてい
る俺の部族にとっては何よりの娯楽だ。その場所でお前を発表すれ
ば、きっと俺の友人達は目の色を変えてお前に飛びつくぞ﹂
後背位の姿勢でわたしの肛門を犯し、両手できつく乳房を揉みしだ
く商人は下劣な声を上げる。
﹁おほぅ⋮⋮ケツ穴も良いじゃないかお前⋮⋮。すんなり入る割に
はしっかり締まる。使い込まれた良いケツ穴だよ。里の連中相手に
1125
もちゃんと締めてやれよ﹂
一定の緩いペースで突き上げ、つられて動く乳房が跳ねるのを掌で
楽しみながら、商人は笑う。
射精をする為の行為では無かった。
単なる暇つぶしに、商人はわたしで遊んでいる。
わたしの肛門の肉を味わい、乳房の弾力を楽しんでいるのだ。
屈辱だった。
これから先、生きている限りずっとこの屈辱が続くのかもしれない。
心のどこかで弱い自分が生まれてきた。
わたしはそれを殺す。
﹁ふぐああああああああああ!﹂
﹁お、おい暴れるな⋮⋮出ちまうだろうが﹂
わたしは全身を揺らす。
オナホールとしての拘束を受けた状態であり、四肢はまったく動か
なくても、尻と首と腰を捻って商人から離れようとする。
﹁だから動くなって⋮⋮あっ⋮⋮くぁ﹂
商人の余裕の無い声。
射精感が高まっているのだろう。
出すなら出せばいい。
このまま延々肉体を弄らせておくよりは、さっさと全てを吸出し終
わらせてやる。
﹁言う事を聞けって! このクソオナホ⋮⋮あっ、出る!﹂
腸内の異物感に、新たな感触が加わった。
熱を持った粘液が放たれ、わたしの体はまた汚された。
﹁この⋮⋮舐めた真似しやがって⋮⋮﹂
商人はわたしの肛門から肉棒を抜いて、突き飛ばすようにして距離
を取った。
わたしは尻の谷間に精液が流れ落ちるの感じながら、浅く呼吸する。
﹁鬼達の調教が甘かったみたいだな⋮⋮俺が少し、修正してやるよ﹂
そう言って、商人は足音を立てた。
1126
視覚を奪われているわたしには、その程度の事しかわからない。
聴覚も嗅覚も、匂いの染みついた布袋のおかげで鈍っている。
だから、何をしようとしていたのかが分かったのは、肉体に痛みを
感じた瞬間だった。
﹁んぐぅ!﹂
尻に猛烈な痛みを感じた。
鞭の様な物で叩かれ、ジンジンと痛みの火を感じる。
﹁生意気出来ないように⋮⋮お仕置きしてやるよ⋮⋮。ヒヒヒ、お
前のマンコを貸す事で買ったこのベルトでな﹂
しなる鞭は何度もわたしに叩きつけられた。
﹁むぐぅ! ぐぐぐぅ!﹂
避ける事は出来ない。
喉に、乳房に、股間に、尻に、張り裂けんばかりの痛みを感じる。
商人は狙いをつけているようで、特に乳首と陰核へと重点的に攻撃
を加えて来る。
﹁むぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!﹂
痛みには強いはずのわたしでも、その場所に痛打を浴びると、意識
を飛ばす程の衝撃を受ける。
﹁ハハハハハハ! どうだ。自分の立場を忘れるなよオナホ。里で
今みたいな生意気な態度を取ってみろ、俺がまたこうしてやるよ。
それが嫌なら大人しくチンポ汁を飲み続けるんだな﹂
商人はわたしの陰唇に踵を乗せながら言った。
ブーツで覆われた踵がめり込んでくる。
顔も知らぬ男の精液で汚され、鞭で痛ぶられたわたしの大事な部分。
そこに土足を乗せられている。
今ここでこの男の言葉に頷いてしまえば、わたしのその場所はそう
されて然るべき部分であると認める事になる。
だからわたしは抵抗した。
﹁むぐん!﹂
尻を動かし、固定された足で男の体を払う。
1127
﹁うぉぉ!﹂
転倒し、無様な声を上げる鶏男。
﹁⋮⋮これはもう徹底的にわからせるしか無いみたいだな﹂
ゆらりと立ち上がる気配がした。
わたしはそれを、覚悟をもって迎え撃つ。
例えオナホにされてしまったとしても、わたしがわたしで有る為に。
いつ仲間達が迎えに来ても良いように、わたしは騎士長ステアとし
て、ずっと待ち続ける。
﹁おらぁ!﹂
﹁んぐぅぅぅぅぅぅぅ!﹂
振り下ろされたベルトが、わたしの陰核に直撃した。
全身に激しい痛みを感じる。
あれからわたしは延々ベルトで打たれ続け、布袋越しに顔を踏まれ、
傷口に小便をかけられた。
暴力の嵐の最中、荷馬車が停止した。
﹁⋮⋮チッ。今はここまでだ﹂
商人はベルトを放り捨て、わたしから離れていった。
どうやら目的地に到着したらしい。
わたしの拘束はどれも解けてはいない。
今の状態では脱出はまず不可能だろう。
故に、わたしは最善の判断を実行した。
眠ろう。
思えば親鬼に捕らえられてから殆ど睡眠らしい物を取っていなかっ
た。
脱出するにしろ、耐え抜くにしろ、体力は必要になる。
休める時に休んでおくべきだ。
わたしは意識を手放していく。
せめて夢見だけでも、穏やかで有らんことを。
1128
﹁おい⋮⋮おいおいおい本当かよ!﹂
﹁うっわー、お前凄いじゃないか! 良く手に入ったな!﹂
﹁噂では聞いてたが⋮⋮実際に目にしてみると感動するな﹂
耳を打つ不快な声で目が醒めた。
どれぐらい眠っていたのかは、この状況では知る由もない。
﹁高かったんだぜ? 遠慮せずに触れって﹂
聞き慣れた、そうは思いたくない鶏商人の声が間近で放たれる。
その言葉に導かれる様にして、何本もの手がわたしの肌を撫で始め
た。
﹁ふぐぅ!﹂
﹁お、動いた﹂
﹁なんで顔隠してるんだ? ブスなのか?﹂
わたしの肌を無遠慮に触りながら男達の声がする。
﹁いいやぁ、上玉だ。だけど道中うるさくてな。美人にガン睨みさ
れ続けるのも結構なもんだったからな﹂
商人はそう言って、わたしの顔を覆っている布袋に手を掛けた。
﹁そんじゃあ、これから先長い付き合いになる俺達のオナホールと
感動のご対面だ。いくぜ?﹂
布袋が取られる。
半日ぶりに見た外側の景色はもう、とっぷりと夜に染まっていた。
その夜の下、十数人の鶏頭がわたしの体に纏わりついていた。
﹁んぎゅぅ!﹂
予想はしていたが、これだけの数の異形の顔がすぐ傍に有ると、生
理的嫌悪を感じてしまう。
身を引くわたしの至る所に、鶏男達の手が伸びてきて捕まえた。
﹁おいおい⋮⋮これは凄いだろう⋮⋮﹂
﹁毎日、こんな美人とヤれるのか⋮⋮?﹂
﹁顔を見てから改めて体を見たら、正直奇蹟みたいな女じゃねぇか
1129
⋮⋮オッパイもマンコの肉付きも最高だし⋮⋮こりゃあ嫁さんいら
ねぇわ⋮⋮﹂
鶏男達はベタベタとわたしの体を撫で続ける。
﹁そこだよなぁ⋮⋮。どうやって嫁さん連中を納得させられるかだ
よな﹂
商人が顎に手を当てて考え始める。
﹁でもこんな女を自由にして良いって言われたら、ウチの鶏がらみ
たいな嫁さんはもう抱けないぜ⋮⋮﹂
わたしの右乳房を握り潰すように揉みながら、一人が上ずった声で
言った。
周りで数人が喉を鳴らしながら頷いた。
﹁⋮⋮まだ女連中には言ってないんだろう?﹂
﹁あぁ。まずはお前らに相談してからって思ってな﹂
誰一人わたしの体から視線を逸らさず、話し合いが始まった。
﹁隠すか?﹂
﹁この二百人ちょっとしか住めない狭い土地でか? 簡単にバレる
ぞ﹂
二百。
それがこの鶏型の魔物の数だと分かった事は、脱出の際に有効にな
るだろう。
﹁じゃあ正直に言うしかないよなぁ⋮⋮。婦人会に話をつけられれ
ばいいけど、地上に比べて娯楽が殆ど無い土地柄なんだ。平身低頭
すれば許してもらえないかな?﹂
﹁それはそうなんだが、あんまり俺達がこいつに夢中になり過ぎて
嫁さん連中を蔑ろにしたら即刻捨てられそうだぞ⋮⋮﹂
地上。
その単語が非常に気になる。
荷馬車で感じた奇妙な浮揚感がその焦りを後押ししてきた。
それに、雲が見えるのだ。
男達の背中側に。
1130
頭上では無く、やや視線を下げた尻の方に。
夜空を照らす月は、何ものにも遮られず煌々と輝いている。
﹁使用回数を制限するとか?﹂
﹁お前ら絶対にそれを守れるって誓えるか?﹂
男達の会議は続く。
その間も、わたしを撫でる手は止まらない。
﹁⋮⋮じゃあどうするんだよ?﹂
﹁提案なんだが﹂
今まで無言でわたしの陰唇を抓んでいた男が声を放った。
﹁堂々と一か所に設置したらどうだろう? 男達しか立ち寄らない
様な場所にだ。そこでオナホールみたいな射精の為の娯楽品扱いを
するから問題になるんだ。もっと生理的に仕方が無い物として扱っ
てやろうぜ﹂
花びらを抉り、太い指をわたしに突き入れながら男は言った。
﹁生理的に仕方が無いって、具体的にどういう事だよ?﹂
別の男がわたしの尻を撫で回しながら問う。
﹁便所さ。男子便所。そこで便器に括りつけて、俺達の小便を受け
止めてもらう。運悪く射精してしまう事が有るかも知れんが、それ
は事故でしかない﹂
二本目の指を挿入しながら、男は言い放った。
﹁詭弁過ぎる⋮⋮﹂
﹁でも有りなんじゃないか? 目の届く所でオナホを利用している
よりも、女達が寄りつかない便所でスッキリ一発抜いてから家に戻
る。そうすれば家庭円満でいける!﹂
﹁肉便器か⋮⋮それも良いな﹂
男達の話し合いは決着したかに思えた。
その時、商人が口を開いて、
﹁なぁ。折角だしこいつの意見も聞いてやろうぜ﹂
手を伸ばし、わたしの猿轡をはぎ取った。
一斉に注目が集まる。
1131
幾つもの鳥目がわたしを見つめる。
﹁⋮⋮わたしを解放しろ。命が惜しければな﹂
恐怖で顔が引き攣りそうになるのを必死で堪え、わたしは言った。
﹁縄を解け。わたしは戻る。仲間達の元へと﹂
恐怖の根源が何か。
わたしは理解していた。
けれど、それを認めてしまえば、わたしの心は砕け散ってしまうか
も知れない。
﹁良いのか? わたしをこの様な扱いで拘束していれば、いずれ仲
間達が助けに来てお前達を罰するだろう。その時は、わたしの手で
お前達を殺してやるぞ﹂
初めてその不安を感じたのは、この里へと至る道中で顔を見ないま
ま膣内出しをして来た男達に向けて商人が放った言葉。
﹃里は雲の上にある﹄
その前後から始まった謎の浮遊感。
そして、今わたしを囲んでいる男達の背中側に見える低い雲。
最後に、
﹁戻るとか、助けに来るとか、お前は何を言ってるんだ? この里
は、俺達の部族以外は誰も知らない、﹃雲の上に有って常に動き続
けている里﹄だぞ﹂
その言葉がわたしの胸に突き刺さった。
地図に無い。
どころでは無い、存在そのものが知られていない。
その上常に動き続けている。
誰が、どうやって、この場所にいるわたしを見つける事が出来るの
か。
シャロンが、セナが、フレアが、この場所を見つけてくれるのか?
わたしの心は音を立てて砕け散ろうとしていた。
﹁まぁ良いや。とりあえず早速こいつ使ってみようぜ﹂
男達の手がわたしを引き倒し、挿入しやすい姿勢を取らせる。
1132
﹁俺一番!﹂
﹁ずるいぞ!﹂
﹁じゃあ俺二番﹂
和気藹々と男達は言い合って、わたしの股間に肉棒を押し付けてく
る。
﹁良いじゃないか、これから一生俺達の肉便器をやってくれよ。こ
こなら飯の心配は無いし生きてく分には、他の所に売られたり、鬼
のオナホになるよりはずっと楽だと思うぞ﹂
そう言われ、わたしは心を奮い立たせた。
弱気になっていた。
仲間達もそれぞれ戦っている筈だ。
わたし一人がここで絶望して抵抗を止めてはいけない。
わたしは、
﹁往生際が悪いのだよ⋮⋮わたしも、セナ達もな⋮⋮。何せゼオム
ントに三年も好き勝手やられても耐え続けたのだからな⋮⋮諦める
ものか、決して⋮⋮﹂
リーベルラントの騎士長ステアなのだから。
一夜が明けた。
夜通しでわたしは犯され続け、膣内と肛門、そして喉に精液を何度
も注ぎ込まれた。
無慈悲な行為だった。
わたしの人格を無視し、単なる道具として精液を絞る作業を行って
いた男達。
彼らは明け方になるとドロドロになったわたしを持って移動し、里
の中央に有る公衆便所にやって来た。
彼らが言うには、土地の狭いこの里では個別の便所などは無く、住
民は里の中央に設置された公衆便所を共有して使っているそうだ。
わたしは男子便所へと連れ込まれ、そこに有った黄ばんだ小便器へ
1133
と繋がれる。
﹁それじゃ、俺達は婦人会と話し合いをしてくるからな。終わった
らまた来るぜ﹂
男達はそう言って、男子便所を後にした。
カビと尿の匂いが籠った空間に、全裸のまま縛り上げられ、挿入し
やすいように小便器に尻を乗せて膣口を差し出した状態のわたしが
残される。
固定された体は全く動かない。
これから先、どれだけの長い時間、この場所で、この光景を見続け
る事になるのか。
気が狂いそうだった。
それでも、
﹁眠ろう。力を蓄え、一人ででもここを脱出するんだ⋮⋮。わたし
には王と部下を助ける責務がある﹂
目を閉じ、体を休ませた。
1134
騎士長ステア その一︵後書き︶
構成上、今回はステアオンリーの回となってしまったので、新キャ
ラが本格的に動き出す次回に合わせてキャラクター紹介編を追記す
る事にします。
恐らく今週末辺りかと思います。
1135
恨み︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1136
恨み
夜に差し掛かり、リトリロイの体調は最悪な状態にまで達していた。
﹁今日はもう無理でしょう。ここで野営をし、御身体を御休め下さ
い﹂
老侍従がリトリロイの体を支えながら言い、王子は無言のまま頷い
た。
﹁皆の者。野営の仕度じゃ。温かい食事を用意せよ﹂
侍従の声に従い、兵士達はテキパキと散って作業を始める。
﹁⋮⋮リトを預かります﹂
一行の先頭を進んでいたセリスが引き返し、夫の顔を見ながら老侍
従へ向けて言うと、
﹁⋮⋮セリス。ダメだ⋮⋮。ただの風邪だとは思うが、最高戦力で
あるお前に感染させてしまっては、もしもの時に対処出来なくなる
かも知れない。しばらくは離れていよう﹂
リトリロイは泥を吐くかのような重たい声で言った。
﹁リト⋮⋮﹂
完全武装の兵士達が二十名以上同行してはいるが、もしセリスが戦
えない状況に陥った場合には、この魔物の領域である西域に置いて
は決して安心できる数では無い。
﹁わかったわ。早く良くなってね⋮⋮﹂
セリスはリトリロイの頬を一度撫でてから離れて行く。
向かう先、公娼達五人が所在無さ気に立ち尽くしていた。
﹁旦那。旦那ぁ⋮⋮少し宜しいでしょうか?﹂
調理をしていた兵士の傍に、バケツ頭の少年が近づいた。
﹁あぁ? 何だよ。飯はまだだぞ、もう少しかかる。それに一番最
1137
初はリトリロイ殿下だ﹂
兵士は少年の方を向かずに、木匙で鍋をかき混ぜて行く。
﹁今日は、スープなんですね?﹂
﹁見りゃわかるだろ。それがどうしたよ﹂
鍋の中では黄色のスープがゆらゆら揺れている。
﹁旦那⋮⋮良い話が有るんですだ⋮⋮﹂
バケツ頭の少年。
テビィは自分の頭がとても上等とは言えない事を承知していた。
故に、頼る事にした。
単に自分一人で行動に起こす勇気が足りなかったという側面も有る
が、何にせよ敵よりは味方がいた方が都合がいい。
そうして、食事と野営の準備を整えている兵士達一人一人に向けて、
今夜の予定を耳打ちしていった。
﹁さ、さぁほら。飲め。啜れ。犬みたいにベチャベチャ啜るんだよ﹂
テビィは残忍な笑みを浮かべて言った。
対象は、目の前に跪く五人の裸の女。
﹁クソガキが⋮⋮﹂
その中の一人、セナが目を弓の様に吊り上げながら言い、姿勢を変
える。
彼女達の前には粗末な皿が置かれ、その中に少量のスープが注がれ
ていた。
﹁⋮⋮んっ﹂
セナの隣でユキリスが悔しげに目を瞑ってから、上半身を曲げ、顔
をスープ皿に近づけて行く。
シュトラが、アミュスが、ヘミネがその動きに倣い、犬の様な姿勢
で食事を始めようとした時。
﹁ひひひ。そうだ⋮⋮そうやって︱︱﹂
﹁止めなさい。⋮⋮お前には後で話をする必要が有りそうですね。
1138
近頃の行い、非常に目に余ります﹂
セリスが割り込んできた。
双眸には怒りの火が灯っていた。
﹁ひっ⋮⋮お、オラは向こうで食べて来ます⋮⋮だ﹂
いそいそとテビィが離れて行き、遠くで固まって食事をしている兵
士達の輪に潜り込んだ。
それを睨みつけながら、セリスはセナの隣に座った。
手にした木匙を使い、スープを掬ってセナの口元へと運ぶ。
﹁⋮⋮騎士団長⋮⋮﹂
﹁⋮⋮他の皆さんも、後で同じように﹂
これ以上尊厳を汚す必要は無い。
セリスの目はそう語っていた。
その言葉と目を見て、アミュスが激昂する。
﹁いい加減にしてよ⋮⋮不愉快なのよ貴女! 私達をこんな立場に
して、一人だけのうのうと服を着て偉そうに施しをするですって?
そんな物はいらないわ! 向こうで豪華な食事でもしてくればい
いじゃない! 私達がここで犬の様に惨めに啜ってるのを笑いなが
ら!﹂
アミュスの怒りに、セリスは頷いた。
﹁わかっています⋮⋮私が勝手なのは⋮⋮私が一番わかっています
⋮⋮﹂
悲痛な表情だった。
﹁結局貴女は何なの? 何がしたかったの? 自分が助かりたいが
為にゼオムントに媚を売って、その挙句ゼオムントを裏切って何に
なったの? ねぇ? 貴女が過ごした三年間は無駄になったのよ?
見てわからない? 私達を陣地から連れて来たのだって、罪滅ぼ
しか何か知らないけど、それすら中途半端で何の解決もしていない
じゃない!﹂
魔導士アミュスの舌鋒は鋭くセリスを穿った。
﹁アミュス⋮⋮。落ち着いて下さい。注目を集めてしまいます﹂
1139
ユキリスが諌め、アミュスは辺りを見渡し、表情を歪めて黙った。
﹁その通り⋮⋮私には結局、何も出来なかった⋮⋮﹂
セリスは呟く。
セナの口元に宛がった木匙が細かく震えている。
﹁私には数え切れない責任がある。私が誑かしてしまったリトの為
に、彼と共に、彼の悪あがきに最後まで付き合って、そこで死ぬ⋮
⋮死んで、死ぬ寸前までゼオムントに一矢を報いる事で、私はほん
の僅かな数の責任を果たせると思う﹂
その言葉に、
﹁私達もそれに付き合えと、そう言われるのですか?﹂
今度はヘミネが反目した。
セリスはそれに向け首を振った。
﹁⋮⋮天使の里。一先ずそこに辿り着いたら、私は一度君達を連れ
てリト達から離れる。そしてステア達の元へ君達を送り届けてから、
またリトと合流するつもりだ﹂
その言葉に、全員が押し黙った。
﹁今はまだ、私がリトの傍を離れるわけにもいかないし、君達をこ
のまま武器も無く西域に放り出す様な真似も出来ない﹂
単純にセナ達の身が危険な事も有るが、自由を得て復讐を果たす為
に彼女達が戻ってきた場合、セリスはリトリロイを守る為に再び彼
女達と戦う必要が生まれてしまう。
﹁⋮⋮今だけ。もう少しだけ、耐えて欲しい。私に出来る事なら何
でもする。だから⋮⋮﹂
セリスが言葉を詰まらせた。
その時、
﹁んぎゅううううううう﹂
差し出された木匙を口に含み、﹃弱点﹄に直撃したセナが悶えなが
らスープを飲み込んだ。
﹁⋮⋮はぁ⋮⋮はぁ。アミュス⋮⋮聞いて﹂
セナはセリスを見ずに、魔導士へと声を掛けた。
1140
﹁ウチのところの騎士団長は、堅物でね⋮⋮。戦闘面は滅茶苦茶頼
りになるけど政治とかゴチャゴチャしたものには滅法弱かったの。
いつも文官達に軍の予算を削られて皆から怒られていたわ。その補
填って言って自分の給料を殆ど全部予算に回しちゃうくらい頭の可
哀そうな人だったの﹂
滔々と語られた言葉に、誰もが呆然とした。
﹁⋮⋮だから、何?﹂
アミュスは厳しい表情で問い返す。
﹁要するに馬鹿なのよ。ただね、あの人はいつも一生懸命だった。
国の為に命を捧げていたの。だからね、あの人がやった事は絶対に
﹃自分が助かる為﹄なんかじゃないんだ⋮⋮リーベルラントの為に、
無い知恵絞って頑張ったはず。あたしには⋮⋮それだけはわかる﹂
セナは一度もセリスを振り向かず、ただそう言い放った。
それに対して、
﹁⋮⋮そ。やっぱり騎士なんてものは話にならない馬鹿ばかりね。
信念や理想で暴走しただけの話じゃないの。私には理解できない事
ね。良いわ、もう少しだけ耐えてあげる。そして貴女はさっき自分
で言った様に死ぬまでゼオムントと戦い続けなさい。最後の瞬間、
私が殺してあげるわ﹂
魔導士アミュスは冷たい笑みを浮かべて言った。
﹁⋮⋮スープが冷めてしまう前に、食べてしまいましょう﹂
セリスはそう言って、全員の食事を手伝った。
ユキリスとシュトラは遠慮がちに口を開き、アミュスとヘミネは敵
愾心に満ちた目でセリスを見ながらスープを啜った。
全員の食事が済むと、セリスはすっかり冷えてしまった自分の皿か
らスープを口にする。
その様子を離れた場所から、テビィと他の兵士達がニヤニヤと見守
っている。
﹁⋮⋮おい。これで大丈夫なのか?﹂
﹁へ、へぃ⋮⋮ひと舐めすれば朝までぐっすりの睡眠薬を小瓶半分
1141
公娼達のスープに入れて置きました⋮⋮セリス様もその匙でスープ
を飲んだんだったら⋮⋮直に⋮⋮ひひっ﹂
テビィ達の視線の先、セナの体が傾ぎ始めていた。
﹁宣告! 我らの執行を阻む者には死を以って罰する﹂
裁天使ユラミルティは鈴の音の声を発し、魔力を解放した。
﹁我ら天使の財である民を奪いし者達よ、速やかに返還せよ。さも
なくば、管理者ラグラジルの名の元に力天使ラクシェの誅略を覚悟
せよ。この法令は智天使アン・ミサよりの発令であり、我ユラミル
ティが執り行うものである。異議の有る者は我が前にて物申せ﹂
宣告魔術。
罪を犯した者達に対しどれほど遠距離で有ったとしても、裁き手で
あるユラミルティの言葉を届ける魔法。
彼女はそれを、ボアルの里の上空から里全体へと向けて放った。
﹁シャスラハール殿。この里には人間の他にかなりの数の羽根落ち
も捕まっています。彼女達の救出は私が行いますので、皆さんは手
分けして三人の人間を救出なさって下さい。確認できているのはシ
ロエ殿、そしてポニーテールの女性、後は貴方のお仲間で一番体躯
が小さい少女です﹂
アン・ミサと友誼を結んだマリューゾワ、ルル、ロニア、シロエの
四人以外の人間の名を、ユラミルティは把握していない。
その代わりに、彼女達の特徴を押さえていた。
﹁ハイネア様⋮⋮ッ!﹂
リセが顔を引き攣らせ、
﹁ポニーテールって⋮⋮?﹂
フレアが首を捻り、
﹁マリスさんですよ。フレアさんと別れた後に合流したんです﹂
シャスラハールが言い、
﹁シロエ⋮⋮助けるからっ!﹂
1142
ロニアが唇を噛んだ。
吸血馬は三頭しかいない。
その為、今は体格の小さいロニアがシャスラハールと同乗している。
﹁三方に別れましょう! 一刻も早く皆を救い出す為に!﹂
シャスラハールが言い、
﹁了解!﹂
﹁わかりました﹂
フレアとリセが頷いた。
シャスラハールとロニアを乗せた吸血馬は農場を駆けて行く。
フレア達と別れた後、見かけたボアル族の老人を問い詰めたところ、
この先に一人が見世物として設置されている事が分かった。
﹁抵抗は⋮⋮無いみたいですね?﹂
シャスラハールは油断なく視線を辺りに配り、警戒を保つ。
﹁⋮⋮もし何か出て来たら、アタシが撃つから﹂
王子の腰前に座り、ロニアが武器を取り出した。
愛用の短銃は天兵の里で失っている。
その代わりに苔塊人の里で急造の弓矢を作り上げて、腰に提げて来
ていた。
しばらく農場を駆けていると、鳥の羽音が聞こえた。
三羽の烏が立てる、耳障りな羽音。
クェクェと鳴きながら、烏は何かにたかっていた。
それ見て、シャスラハールは視線を厳しくし、ロニアは吠えた。
﹁シロエから離れろぉぉぉっぉおぉぉぉ﹂
ロニアが放つ怒りの第一射。
案山子にされていたシロエの乳首を突いていた烏の胴体を射抜く。
﹁ロ⋮⋮ニア⋮⋮?﹂
拘束された状態で、シロエが呆然と声を漏らす。
彼女の突き出された尻に乗っていた一羽へと、第二射が突き刺さる。
1143
﹁シロエさん⋮⋮。助けに来ました!﹂
シャスラハールは懸命に吸血馬を操り、案山子にされた巫女へと近
づいて行く。
逃げ出し上空へと飛び立った三羽目をロニアの第三射が撃ち抜いた
のは、その時だった。
﹁シロエ、シロエ!﹂
ロニアは転げるようにして馬上から降り、シロエの傍へ寄る。
﹁ロニア⋮⋮無事だったんですね⋮⋮良かった⋮⋮﹂
細い息を吐きながら、シロエが言う。
﹁シャスラハール、剣を貸して!﹂
ロニアが振り返り、手を伸ばす。
﹁はい!﹂
馬上から降り、駆け寄りながらシャスラハールは腰の剣をロニアへ
と手渡す。
ロニアはそれを使い、シロエを拘束している縄を斬り始めた。
﹁シャスラハール殿⋮⋮この里にはハイネア様がいらっしゃいます
⋮⋮。彼女をお助けしなければ⋮⋮﹂
シロエは瞳に鋭さを取り戻しながら、王子へと声を向けた。
﹁えぇ⋮⋮。今、仲間が手分けして探しています。僕達もすぐに︱
︱﹂
﹁そ、それはオラ達の農具だ!﹂
シャスラハールが頷いた時、背後で突然声が上がった。
﹁そうだ! 皆で金を出して買ったオナホ機能付き案山子だぞ! 勝手に壊すんじゃねぇ!﹂
鍬や鋤を構えたボアル族が十数人、こちらを睨みつけていた。
﹁勝手な事を⋮⋮!﹂
シャスラハールが憤り、そちらを睨み返した時、
﹁ありがとう。ロニア⋮⋮。少し剣を貸して﹂
案山子としての拘束が解けたシロエが、震える両足で地面に立ちな
がら言った。
1144
﹁これ、シャスラハールのだよ﹂
﹁そうでしたね。ではシャスラハール殿。この剣、少しお借りしま
すね﹂
ダラリと下げた腕に長剣を握り、シロエが覚束ない足取りで二人の
前に立った。
﹁体をほぐすのには、丁度良い運動になりそうです﹂
巫女騎士団筆頭の瞳に、苛烈な炎が燃え上がっていた。
﹁マリスが居たのか⋮⋮﹂
フレアは吸血馬を降り、徒歩で街路を入念に見渡しながら呟いた。
﹁何にせよ。生きていたのは良い事だ﹂
マリスとフレアの間には、浅からぬ因縁が有った。
西域遠征の始まり。
その組分けでフレアはマリス、アミュス、ヘミネと同組になった。
遠征の最初の夜、小物臭い調教師の男に辱められている途中、アミ
ュスに扇動されたヘミネが激昂し、男を惨殺した。
人質や故郷の事を思い、一歩を踏み出せなかったフレアに対して、
アミュス達は更なる復讐の為に分離して行った。
マリスはアミュスと共に行き、フレア達は道を違えたはずだった。
その後一度はベリスとの戦いで会ったが、やはり道は揃わなかった。
開拓団陣地への襲撃。
後になりラグラジルの魔鏡で見せられた真実。
アミュスとヘミネは敗れ、囚われた。
マリスは無事に脱出したようだが、その後については分からなかっ
た。
﹁まぁあいつは元々掴み所の無い奴だったし、どこに現れても不思
議はない︱︱﹂
バシッ︱︱。
肉を打つ音が耳に飛び込んできた。
1145
﹁⋮⋮﹂
フレアは口を噤み、音の方へと近づいて行く。
一軒屋。
庭付きの大き目の家から笑い声と共に、肉を打つ嫌な音が響いてい
た。
フレアはそっと忍び寄り、音の出所を覗き込む。
そこには、
﹁ハハハハッ! ほらもう一発いくよ!﹂
刀剣程の長さの棍棒を持ったボアル族の子供が笑い声を立てていた。
﹁今日こそは泣かそうぜ!﹂
子供の傍には、同年代と思しき獣人が四人囃したてていた。
バシッ︱︱。
子供の振るった棍棒が肉を打った。
﹁んぎっ!﹂
空へと向けて突き出された尻の肉を叩いたのだ。
尻の持ち主は手足を拘束された状態で地面に顔を押し付けられ、頭
は取り巻きの一人に踏まれている。
﹁あははははは! 見てみて。さっき注いであげた精液が零れて来
てる!﹂
﹁きったねー。おいちゃんとマンコ締めとけよ。僕達の精液が無駄
になっちゃうだろ!﹂
突き出した尻の下、膣口から血が混ざった精液が零れ落ちて来てい
た。
尻たぶは赤く腫れあがり、一部は切れて血が滲んでいる事から、性
器にもダメージが及んでいる事が想像できる。
﹁⋮⋮はんっ⋮⋮だから何度も言ってるでしょうに⋮⋮マリスはガ
キの玩具じゃないんですよ⋮⋮って﹂
踏みにじられた頭から、か細い声が放たれる。
土足を乗せられている箇所からはみ出した黒髪のポニーテールに、
フレアは見覚えが有った。
1146
﹁何コイツむかつくー。ねぇ貸して貸して。次僕が殴る﹂
﹁えー次は俺だって﹂
﹁まーまー。皆であと十回ずつ殴ったらもう一回精液入れてあげよ
うよ。血塗れのケツを叩きながら犯すのきっと気持ち良いよ﹂
子供達は元気に言い、棍棒を渡している。
フレアはそっと物陰から身を出した。
腰に提げていた長剣を引き抜き、無言のまま子供達へと歩み寄る。
ボアルの子供の内一人が気配に振り向いた時、その視界一杯に白刃
が煌めいていた。
﹁ふもも⋮⋮むぐ﹂
口を布で塞がれたハイネアの瞳は弱弱しい。
学校が休みという事で一日チャモロとジョンを相手にセックスさせ
られていた彼女は、突然チャモロの母親に猿轡を噛まされた上で物
置へと放り込まれ、汚液で股間をグショグショにした状態で暗闇に
放置されている。
﹁良いわねチャモロ。何を聞かれても﹃知らない、わからない﹄っ
て言うのよ。ママと約束して﹂
物置の扉の向こうで、母子の会話が聞こえる。
﹁わかったー⋮⋮けど、なんでハイネアは仕舞わなきゃいけないの
? 僕もうちょっとで次出そうだったのに﹂
しょんぼりしたチャモロの声。
﹁良いから、ね。今はアレの事は忘れてジョンと遊んでなさい。誰
が来てもアレの事は言っちゃダメ﹂
そう言って、母親の足音は遠くへと離れて行った。
﹁ちぇー⋮⋮。つまんないの﹂
チャモロの萎れた声が聞こえる。
﹁わふ! わふ!﹂
﹁駄目だよー、ジョン。今は駄目。後でたっぷりハイネアマンコ使
1147
わせてあげるから。今は我慢しなきゃ駄目だってさー﹂
犬のジョンが物置の扉に体当たりを繰り返すのを、チャモロが諌め
ている。
﹁ッ⋮⋮﹂
今ハイネアの膣内には二種類の精液がたっぷりと溜まっている。
犬の物とボアルの物。
その汚らわしい液体を掻き出したい衝動は、四肢の拘束が阻んでい
る。
何が起こっているのかはわからない。
だが未来は分かっている。
ハイネアはこの後、扉を開いたチャモロによって犯されて、その後
ジョンと交尾させられるのだ。
それがどれくらい先の未来なのかは分からない。
でもこれまでの変わらない日常が、それを証明していた。
暗闇の中、ハイネアの心が徐々に死んでいる途中、
﹁⋮⋮少年。君に聞きたい事が有ります﹂
見知った声が聞こえた。
涼やかで、柔らかな声。
大好きな声。
﹁この近くで人間を見ませんでしたか? もしくは人間について話
をしている者を知りませんか?﹂
リセ。
ハイネアの傍にいつも在り、常に支えてくれた侍女。
彼女の声が聞こえた。
﹁んむうっ!﹂
ハイネアは声なき声を上げ、自分の存在を外へ知らせようとするが、
リセとの距離はかなり有るらしく、猿轡を噛まされた状態では声が
届かなかったようだ。
﹁知らない。わかんない﹂
チャモロのあどけない声が否定の言葉を作る。
1148
﹁⋮⋮そうですか﹂
いけない。
リセの注意をこちらに向けなくてはならない。
ハイネアは自由にならない体を揺らして扉へとぶつかろうとした。
ドンッ︱︱。
しかし、
﹁さっきからその犬は何故⋮⋮そこの物置に体当たりをしているの
ですか?﹂
ハイネアよりも先に、ジョンが猛然と扉への体当たりを繰り返して
いた。
﹁えっと。この中にうちの犬の大好きな玩具がしまってあるんだ。
僕が悪戯して隠してるの﹂
チャモロの声がする。
﹁そうですか⋮⋮。玩具を取り上げるのは可哀そうですよ。返して
あげなさい﹂
リセの声に、ハイネアは絶望しかける。
﹁うん。でもこれも躾だから。後でたっぷり遊ばせてあげるんだ﹂
チャモロの屈託のない声。
﹁⋮⋮それでは、お邪魔しました﹂
溜息を一つ吐き、リセが別れの言葉を作る。
届かなかった。
ハイネアの存在は、リセを気づかせる事が出来なかった。
﹁んむむむぅ! むぅ!﹂
いくら叫んでも届かない。
リセが行ってしまう。
待ちに待った奇蹟が、遠ざかってしまう。
その時、
﹁騙されないで。侍女殿。その子供がハイネア王女を買った奴です﹂
怒りに満ちた声が聞こえた。
この声にも聞き覚えがある。
1149
リネミア神聖国の巫女騎士団。
その頭領に任命された者。
シロエの声。
﹁私は知っている。その子供がその犬と一緒にハイネア王女に無体
を働いていた事を。すぐ傍に居たにも関わらず、お助けする事が出
来ずに見ている事しか出来なかった⋮⋮﹂
苦渋の声。
﹁え⋮⋮あっ⋮⋮案山子の⋮⋮ち、血塗れ⋮⋮﹂
物置の前でチャモロの怯えた声がする。
﹁既に何人もボアルは斬って来ました。その内の一人にお前の家を
聞き、ここまで来たのですよ﹂
シロエの放つ殺気が、物置の壁を抜けてハイネアまで届く。
﹁⋮⋮退きなさい﹂
すぐ近くからリセの声が聞こえた。
﹁先ほど⋮⋮犬の玩具と言いましたね⋮⋮﹂
扉に手を掛ける気配。
﹁もしそれが、私の知っている⋮⋮とても大切な人だった時は⋮⋮
私はお前を許しません﹂
﹁あっ⋮⋮あのっ⋮⋮﹂
チャモロの震えた声を遮るかのように、
ガラッ︱︱と力任せで扉が開かれた。
陽光の中、ハイネアは大好きな人を見つける。
﹁ふぃふぇ⋮⋮﹂
言葉は出なかったが、思いは伝わった様子だ。
﹁ハイネア様ッ⋮⋮!﹂
扉を開いた姿勢のまま、リセは泣きそうな表情で固まっている。
その足下をジョンが通り抜け、ハイネアへと飛び掛かって来た。
﹁ふぐっ!﹂
これまで何度となくこの犬に犯されてきたハイネアには、心胆に深
く傷を負っている。
1150
その毛むくじゃらな体が圧し掛かってくる恐怖。
人間のモノとは勝手の違う肉棒。
抗う力を持たないハイネアにとっては、どうしようもない暴力だっ
た。
それを、
﹁⋮⋮﹂
リセが無言で踏みつぶした。
頭を踏み抜き、頭蓋骨を砕く。
痙攣し、血反吐を撒き散らす犬の体を何度も踏みつけて行くリセ。
ハイネアへと血が飛ばない様に工夫しながら、徹底的に異種族の凌
辱者を殺し尽くしていく。
﹁じょ⋮⋮ジョン⋮⋮﹂
チャモロが青い顔で震えている向こうに、シロエとシャスラハール、
そしてロニアの姿が有った。
助かった。
ハイネアの心に、湧き上がる喜びが有った。
救われた。
その思いだけが全てだった。
﹁チャモロ!﹂
突然、怯える子猪を呼ぶ声が響いて来た。
シロエ達の背後からチャモロの両親、ハイネア達を買ってここまで
連れて来た商人とその妻が走って来ていた。
恐らく先ほどチャモロに言い含めた後、妻は夫を呼びにどこかへ向
かっていたのだろう。
﹁パパッ! ママッ!﹂
震えていたチャモロが両親の姿を見て、涙を零して走り出そうとし
た。
しかし、その体は前へは進まない。
足がジタバタと空中を掻いている。
首元を、リセが捕まえているのだ。
1151
﹁シロエ様⋮⋮。ハイネア様の事をしばしお願い致します﹂
リセは捕まえたチャモロを一度真上に放り上げながら、同郷の巫女
へと声を掛けた。
﹁私は少し、やるべき事が御座いますので﹂
そして放たれる強烈なハイキック。
宙に浮いていたチャモロの体を家の中へと蹴り込んだのだ。
硝子が飛び散り、家財を薙ぎ倒す音が聞こえる。
﹁ひぃぃ! チャモロッ!﹂
母親が悲鳴を上げて家の中へと飛び込んで行く。
﹁お、お前ら用が済んだのなら帰れ! 帰ってくれ!﹂
父親がヒステリックに叫ぶ。
シャスラハール達はそれに向け、剣呑な瞳で切り返す。
﹁⋮⋮まだ済んでいませんよ﹂
リセはそう言って、背中に括りつけていた短刀を取り出した。
﹁お邪魔しますね⋮⋮﹂
チャモロとその母親がいる室内へと、短刀を握ったリセが入って行
く。
﹁ま、待て⋮⋮妻と子に何をする気だ⋮⋮﹂
商人は焦った声でわめく。
それに向け、リセは残忍に微笑んだ。
﹁教えて差し上げますから、貴方もどうぞ室内にお入りください﹂
リセが家の中へと消えて行く。
その背を見送った商人はシャスラハール達へと視線を送り、
﹁た、頼む。金ならいくらでも払う。あの女を止めてくれ⋮⋮﹂
哀れな声を出した。
その声を聞き流し、シロエはハイネアへと歩み寄る。
﹁王女⋮⋮遅くなり申し訳ございません。私の不徳と致すところで
す﹂
ハイネアを縛る縄を斬りながら、シロエは沈痛な表情で詫びる。
﹁⋮⋮気にするな⋮⋮それよりも頭領殿、これから先⋮⋮妾と共に
1152
リネミアの再興を⋮⋮手伝ってくれるか?﹂
﹁畏まりました。私も、リネミアの仲間達の身を常に案じておりま
したから﹂
王女を抱き締めながら、臣下は頷いた。
﹁そ、そんな事は良いから! 早く俺の妻と子供を助けろよ!﹂
喚く商人の声に向けて、シャスラハールは瞳を尖らせる。
﹁何か勘違いしているみたいですが、僕らにその義務は有りません
よ﹂
王子は吐き捨てる。
﹁助けたいなら自分でそうすれば良い。僕らはそうしに来た。お前
達が奪って行ったものを取り戻しに来た!﹂
怒りの波動に商人は尻込みし、
﹁う、うわああああああああっ!﹂
妻子を見捨てて逃げ出した。
ボアル族特有の短い脚を懸命に動かし、シャスラハール達から距離
を稼いでいく。
遠くなる背中を見つめるシャスラハールとロニア。
その視線の先、商人よりも奥に、二つの人影が見えた。
﹁⋮⋮追う必要は無さそう﹂
ロニアが構えた弓矢を降ろしながら言う。
﹁そうですね﹂
シャスラハールが頷きを返した時、
商人の首が舞い上がったのが遠く見えた。
こちらに歩み寄る人影。
フレアとマリス。
そのマリスが放った血塗れの一刀が、商人の首を刎ね飛ばしたのだ。
それとほぼ同時に、家の中から絹を引き裂く悲鳴が聞こえて来る。
ボアルの里における救出戦は、こうして終了した。
1153
轟々と吹き荒ぶ風の中、巨躯を丸めて馬の背に乗る男がいた。
男の顔は蒼白で、今にも泣きだしそうに震えている。
﹁よぉ大将。降格おめでとさん﹂
﹁これからはまた同僚だな! よろしく頼むぜ﹂
男の傍を通り抜けながら、甲冑を纏った二人の将官が笑っている。
﹁⋮⋮クソがっ⋮⋮。死んじまえ﹂
震える男は悪態を吐く。
彼の背後から声が掛かった。
﹁グヴォン隊長。隊の編成完了致しました﹂
なよなよとした体躯の兵士だった。
﹁⋮⋮あぁ。わかった⋮⋮﹂
グヴォン。
少し前にゴダンからの要請を受けて公娼回収の任務に就き、見事自
らの部隊を全滅させた男だ。
シャロンとマリスによって部下を失い、這う這うの体でリトリロイ
の率いて来た後続に合流した時から、彼を見る他の兵士の目は冷め
切っていた。
その後、リトリロイ及びセリスの軍が公娼達とぶつかり、多数の犠
牲を出しながらも任務を完了できたのは、旗色が悪くなった瞬間に
野盗もかくやな人質作戦を独断で取ったグヴォンの功績である。
部隊の全滅、任務への貢献。
この二つを加味し、グヴォンへと下された処置は降格だった。
大騎士の称号をはく奪され、一般の部隊長へと格下げされた。
﹁裸の女に火をつけるぞ! って脅した奴が大騎士とか⋮⋮ありえ
ねぇよな!﹂
﹁はははははっ! その前には女二人にボコボコにされて半泣きで
逃げて来たらしいぞ﹂
先ほどグヴォンに声を掛けて来た男達が少し離れた場所で笑ってい
る。
その嘲弄を、グヴォンは寒風と同じ様に背を丸めて受け流す。
1154
﹁三下共が⋮⋮。また俺が上に行った時には、覚悟して置けよ⋮⋮﹂
同期の中で出世頭であったグヴォンから見れば、格下の部隊長が精
々な者達の顔などは覚えてはいなかった。
恨み言をブツブツと口の中で呪詛の様に呟いていると、
﹁全員。こちらを注目して下さい﹂
男の声が響いた。
開拓団陣地の端に設けられた軍部広場の演壇に、禿頭の魔導士が登
る。
﹁えー⋮⋮皆さん。お集まりいただいて誠に感謝致します。私は今
日より魔導元帥オビリス閣下の副官を務めさせて頂くゴダンでござ
います。どうぞお見知りおきを﹂
ハゲ頭を見せつける様に礼をし、魔導士ゴダンは柔和に笑った。
﹁この度、人員の大規模な増加に伴いまして、可及的速やかに公娼
の確保が必要となりました。よってこれより皆さんにはその任に当
たって頂きます﹂
そう言って、ゴダンは演壇の上から周囲を見渡す。
グヴォンを含め、一万人がその視線を受け止めた。
﹁各部隊長に五十名の兵員を付け、二百組。総勢一万の人員で、西
域に散った公娼を残さず集めて来てください﹂
その言葉を多くの部隊長達はにやけた表情で受け止める。
公娼を捕らえるという事を、兎狩りと同じ様に受け止めているのだ。
ただ一人、グヴォンを除いて。
﹁⋮⋮馬鹿共が⋮⋮。たった五十騎で公娼を捕まえろだと⋮⋮。俺
とターキナートの事を知らんのか⋮⋮﹂
グヴォンは部隊を壊滅させられ、大騎士ターキナートは命を落とし
ている。
公娼の質にもよるが、とても簡単で安全な任務とは言えるはずがな
い。
﹁えー⋮⋮それでですね。一つ、公娼達が言う事を聞かない場合な
のですが、これからお配りする紙に書かれた言葉をですね、彼女達
1155
に向けて大声で叫んでいただきたい。そうすれば、狩りはもっと簡
単に、スマートに行くでしょう﹂
そうゴダンが言い、彼の部下達が一枚の紙を各部隊長に配って行く。
グヴォンもまたそれを受け取り、
﹁なんだ⋮⋮これは?﹂
首を傾げた。
﹁落ち着いたか?﹂
尊大な響きの幼い声が狭い室内にこだまする。
猫領主の屋敷の一室で、二人の人間が向かい合っている。
﹁⋮⋮えぇ。恥ずかしいところを見せてしまったな﹂
それを受け止めるのは自嘲気味の声。
﹁⋮⋮気にするな。我とてそちらの境遇を察する事は出来る。命が
有って次に繋げるのなら、過去の恥は忘れるべきだ﹂
幼い声の持ち主は、ムッツリとした顔で言い放った。
﹁フフ⋮⋮そうだな。一先ず礼を言うよ、アルヴァレンシア。お前
の無事を私も嬉しく思う﹂
魔剣大公マリューゾワが視線を向ける先、幼い声の持ち主は頷いた。
﹁あぁ。我も貴女に会えて嬉しい。血を分けた親族であり、ロクサ
スの盟主でもある我が従姉よ﹂
アルヴァレンシアは相変わらずムッツリとした表情でマリューゾワ
へと頷いた。
魔蝶公主。
それがアルヴァレンシアに付けられた渾名。
魔剣大公マリューゾワの血族にして、比肩しうる将来性を持った少
女。
雷撃蝶と呼ばれる技を駆使し、戦場を不規則に飛び回る死の爆雷を
操る魔導士。
ゼオムントとの戦役では従姉であるマリューゾワと共に戦い、敗北
1156
した。
未熟な体格による魔術の容量切れが原因で膝を付き、それを庇った
従姉共々ゼオムントに捕らえられたのだ。
﹁色々と、聞きたい事が有るのだが﹂
マリューゾワの問いかけに、
﹁あぁ。我もだ。我も貴女に尋ねたい事がたくさんある﹂
アルヴァレンシアもまた応じた。
﹁⋮⋮良くあれだけの数を集められたな?﹂
マリューゾワの驚きに満ちた声。
その対象は、
﹁四十四人だ⋮⋮。この西域に散っていた我と同じ志を持つ者達を
集めたのだ。幸い、我と同じ組に所属していた者で、そう言った探
知に優れた魔導士がおってな、調教師を撃破しながら仲間を集めて
おったのだ﹂
アルヴァレンシアが率いている公娼の数。
猫の里を急襲し、マリューゾワ達を救い出した戦力。
アルヴァレンシアはその組織の事を、﹃解放軍﹄と呼んだ。
﹁⋮⋮人質の問題はどうした?﹂
﹁正直⋮⋮半々だったな⋮⋮。我と同じく故郷の人質の無意味さ︱
︱手遅れさと言った方が良いだろうか⋮⋮。既にゼオムントに心ま
で染まってしまいその一部となっている事を受け入れている者と、
尚も信じようとする者。我の誘いを断る者には強制はしなかった。
今居る四十四人は、全て現実を受け入れた者達だ﹂
沈痛な面持ちで語るアルヴァレンシア。
その瞳に、涙が宿った。
﹁我とて⋮⋮信じたかった⋮⋮。祖国はいつまでもゼオムントに非
ず、反骨の気概を持って我らの帰還を待っていると⋮⋮! でも、
それでも⋮⋮我が調教師達によって故郷に連れて行かれ、そこで恥
辱の行為を取らされている時、我が守っていたはずの人民は遠巻き
に我を笑い、あまつさえ参加して来るではないか! 我は⋮⋮我の
1157
膣を犯す存在を守る為に公娼に身を落して屈辱に耐えていたのでは
ない⋮⋮っ!﹂
年相応の泣き顔。
それを見守り、マリューゾワは息を吐いた。
﹁民衆とは難しい物だよ。アルヴァレンシア。私達は彼らの期待に
応える事が出来ず、ゼオムントに敗れた。その後、ゼオムントは公
娼を使い彼らの不満を誤魔化した。後に残ったのは、寄る辺を失っ
た私達と、民衆が抱いた失望だけだよ﹂
マリューゾワとて実感している。
﹃魔剣大公VS魔チン大公リターンズ 圧政に苦しむ民衆と共に勃
て! 魔チン大公﹄と言うふざけた内容の公娼活動を、自身の領地
でもまた行わされていた。
マリューゾワが苦心して敷いて来た善政を全て否定され、その繁栄
を享受していた民衆から悪しざまに罵られながら犯された。
﹁お前の考えは正しい。民衆は既に私達を見限っているのだろう。
だが、公娼側はそれを否定できない。否定してしまうと、存在する
理由を失ってしまうからな﹂
それが、アルヴァレンシアの誘いを断った公娼達に共通する怯え。
﹁⋮⋮だから我は、第三の選択を取る事にしたのだ。故郷の為では
無く、復讐の為でも無く、ただ自分達を解放する為の組織を作り上
げた。場所はどこだって良い、この西域の中でも構わない。我らが
人としての一生を送れる場所を作ろうと思った。その為ならば、ゼ
オムントとも、この西域の支配者とも刃を交える。自分達の為に﹂
そう言って、アルヴァレンシアは瞳を眇める。
﹁四十四人。この仲間達の半数程度は魔物に連れ去られているとこ
ろから救出した。玩具の様に⋮⋮尊厳の何もかもを無視してただ膣
を使う為だけに攻撃してくる奴ら等、ゼオムントと何一つ変わらな
い! 我は我を解放する為に、全ての敵と戦う!﹂
マリューゾワは従妹を見つめ、口を開いた。
﹁その考えを否定しようとは思わない。だが︱︱﹂
1158
﹁マリューゾワ! 貴女も我と来るべきだ! 我と共に新たな人生
を作るんだ⋮⋮汚辱の何もかもを忘れて、前だけを見る一生を!﹂
アルヴァレンシアは迫る。
縋る様に、従姉へと近づいて行く。
﹁⋮⋮聞きなさい、アルヴァ﹂
マリューゾワは穏やかに、従妹の愛称を呼んだ。
﹁西域の全てが悪では無い。この地には、信頼に値する者が居る。
私はその者と友誼を結び、同盟した。今はちょっとした混乱に巻き
込まれて別行動になっているけど、その者の下でなら私達は自分を
失わずに、過去の清算も果たせて、前を向く事が出来る。自棄にな
ってしまってはダメ。私を信頼してくれるのなら、アルヴァ。一度
で良いから、私の友人に会ってくれないか?﹂
﹁彼女達に食事を用意してあげて下さい﹂
聖騎士ヴェナは自由を取り戻した体で胸を張り、解放軍の一人へと
言った。
﹁ハッ! 畏まりました! ヴェナ様﹂
リーベルラントの騎士だと言っていた少女は敬礼して動き出す。
そして猫の里の役所前で檻に繋がれていた羽根落ちの少女達へと、
温かい食事を用意し始めた。
﹁聖騎士の名声は遠くリーベルラントにまで轟いておりますね。ヴ
ェナ様﹂
余裕たっぷりの笑みで、一人の黒肌の女性がヴェナの傍へとやって
来る。
﹁止めてください、先輩﹂
ヴェナは苦笑し、首を振った。
﹁いいえ、止めません。後輩をからかうのが大好きなのよ。私は﹂
黒肌の騎士はそう言って、ヴェナの隣に立った。
﹁⋮⋮無事で良かったわ。本当に﹂
1159
﹁マリアザート先輩も、ご無事で何よりです﹂
プレートアーマーを纏った黒磁肌の女騎士。
名をマリアザートと言う。
スピアカントの大騎士にして、若かりし日にヴェナを指導した先達。
﹁この里の状況は?﹂
ヴェナが問う。
﹁無抵抗の者達に危害は加えてないわ。探知の結果、ここに公娼の
反応が二つ出て乗り込んでみれば建物の前に繋がれた女性が並べら
れているじゃない。そこから先は作戦行動ね。抵抗する者達は容赦
なく切って進んだわ﹂
そう言って、マリアザートは長柄の槍を揺らした。
﹁まさか聖騎士ヴェナルローゼと魔剣大公マリューゾワだとはね。
でもこれで、私達の戦力はだいぶ向上するわ﹂
﹁自分自身の解放⋮⋮その為の軍ですか﹂
ヴェナが眉を曇らせる。
﹁そうね。過去を切り捨て、前を向く為の軍﹂
スピアカントの大騎士は、呟いた。
﹁先輩。シャスラハール殿下はご存命です。王家の復興の為にも︱
︱﹂
﹁止めて、ヴェナ様。私はもう、ゼオムントを忘れたいの。どこか
に安住の地を作って、そこで穏やかに一生を送りたい﹂
血を吐く様な声だった。
﹁⋮⋮息子さんは⋮⋮。ティールくんはどうなるのです?﹂
マリアザートは既婚者であり、子宝にも恵まれている。
﹁先輩の帰りを待っているはずです! 父親を先の戦いで亡くし、
その上先輩とまで離れ離れに︱︱﹂
﹁ティールは死んだのよ⋮⋮私と、夫が愛したティールは死んだの
⋮⋮今ゼオムントで私を待っているのは、息子の顔をしたゼオムン
トの化身よ⋮⋮﹂
マリアザートは子持ちの公娼である。
1160
故に、調教師達はそのファクターを如何なく利用した。
母子相姦物。
息子の同級生物。
授乳系。
マリアザートは幾度と無く息子と共演させられた。
最初は嫌がっていたティールも、次第に大人達の甘言に騙され、母
親を犯す事に強い快楽を感じる様になっていった。
ついには休日に同級生達を家に呼んで母親を紹介し、小銭を受け取
る事でその体を使わせるようになった。
公娼としての活動が無い日は、息子とその友人共有の肉便器として
マリアザートは存在する事になった。
マリアザートは何度も息子と別れて暮らす事を考えたが、その度に
死に行く夫から託された思いに縛られ、涙を流しながら子宮で息子
の精子を受け止めていた。
調教師達もそれを面白がり、更なる演出に燃えてティールを正式に
組合に加入させ、マリアザート専属の調教師に育てている。
逃げ場が無かった。
安らぎの存在であるはずの家族にすら犯される事に、マリアザート
の精神は摩耗して行き、西域遠征で束の間の自由を手に入れた時、
アルヴァレンシアと出会った。
そして彼女の語る﹃前だけを見つめる生﹄に縋り、同行する事にな
った。
﹁スピアカントに⋮⋮シャスラハール殿下に忠誠を尽くしたい思い
は確かに有るわ⋮⋮でも、今の私はきっと駄目よ⋮⋮。もし正面か
らゼオムントと戦う事になって、ティールを人質にされたら、私は
きっと戦えない。どんなに酷い事をされたって⋮⋮息子をこの手で
斬るような事だけは出来ない⋮⋮﹂
震える声で、でもしっかり言い切ったマリアザート。
ヴェナはその顔を見て、歯を食いしばった。
﹁先輩⋮⋮わたくしは誰でしょう?﹂
1161
﹁ヴェナ様⋮⋮?﹂
虚を疲れた表情のマリアザート。
﹁聖騎士としての叙勲を受け、スピアカントの誇りとまで呼ばれた
わたくしの土台を作って下さったのは、マリアザート先輩。貴女で
す。そんな大恩ある貴女に、わたくしはかつての戦役で力をお見せ
する事無く敗れました。今度こそ、ご覧に入れましょう﹂
聖騎士ヴェナは瞳を輝かせる。
﹁わたくしが万軍を破り、ティールくんを救い出します。そして、
彼の歪んでしまった根性をかつての貴女がわたくしにして下さった
様に、徹底的にしごき直します﹂
ヴェナはそこで言葉を区切り、
﹁スピアカント王国聖騎士、ヴェナルローゼが命じます。大騎士マ
リアザートはこれよりわたくしの指揮下に入り、死する時まで騎士
の誇りを持って剣を振るう事を誓いなさい﹂
宣告した。
1162
恨み︵後書き︶
キャラクター紹介編を更新しておきます。
新規キャラ5名と文末に不要な情報を載せておきます。
1163
内患︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1164
内患
最初にセナが倒れてから、それに続く様に公娼達は次々と意識を失
い、地面に伏した。
﹁どうしたの? セナ、皆⋮⋮おき⋮⋮﹂
セリスもまた木匙に残留した睡眠薬により意識を朦朧とさせ、へた
り込んだ。
遠間でそれを眺めていた兵士達は、興奮顔で席を立った。
﹁⋮⋮いや、まだだな﹂
年長の兵士が同僚達を止める。
﹁万が一誰かにばれるとまずい。もうしばらく薬が完全に効くまで
待っておくべきだ。おい小僧、あの薬の効き始めはどれくらいだ?﹂
薬の持ち主であるテビィへと質問が飛び、
﹁へぃ。前に使った時はすぐに眠りに落ちましたが⋮⋮眠りが浅い
段階だとオラのチンポを突っ込んだ時に少し反応していたかもしれ
ないですだ﹂
バケツ頭の子供は答えた。
﹁ふむ⋮⋮やはり、万全を期す為にもう少し待つべきだ。その間に
取り決めをしておこう﹂
年長者の声に、兵士達は耳を傾ける。
﹁証拠が残らない様に、膣内出しは無しだ。射精する時はこっちの
バケツに出せ。効果は一晩続くというから、朝になるまで皆好きな
ように好きなだけ出してもらって構わん。正直リトリロイ殿下の目
が無い今夜だけが好機だ。思い残す事の無い様に、徹底的に欲望を
吐き出せ﹂
その言葉に、全員が頷いた。
そして、彼らの肉欲に滾った瞳は倒れ伏す公娼達の体へと注がれる。
﹁俺は⋮⋮あのセナって奴を犯す⋮⋮。バックの姿勢にして、滅茶
1165
苦茶に突いてやる﹂
﹁⋮⋮なら俺はアミュスを犯るぜ⋮⋮開拓団陣地じゃほぼ毎日通っ
てたんだ⋮⋮。ここまで我慢を続けるので正直狂いそうだったぜ⋮
⋮﹂
﹁あぁヘミネのあの乳をぐちゃぐちゃに揉みてぇぇ﹂
﹁ユキリスとシュトラってのは、一回もヤった事無かったし、二つ
の穴比べをしたいぜ⋮⋮﹂
半刻の間彼らは息を潜め、公娼達が深い眠りにつくのを待った。
待ちながら、脳内でこれからの凌辱を絵に描いていく。
欲望を研ぎ澄まし、これまでの長い旅路で溜まりに溜まった鬱憤を
表出させていく。
喉が鳴り、目が血走る。
両手は空を揉み、足は今にも走り出しそうに震えている。
そして、
﹁そろそろ良いだろう﹂
年長者の号令と共に、獣の様に駆け出した。
﹁あぁくそ! 邪魔だぁ!﹂
野獣と化した男達は公娼の体に括りつけられている荷物を乱暴に放
り捨てる。
意識を失った彼女達を押し倒し、裏返し、股をこじ開け、胸を鷲掴
みにする。
﹁やぁらけぇ⋮⋮﹂
ユキリスの胸を両手で掴みながら、兵士の一人が嘆息気味の声をだ
した。
﹁マンコだ⋮⋮毎日見せつけられてよぉ⋮⋮、そのくせ挿れちゃい
けねぇとか⋮⋮生殺しが過ぎるぜ﹂
シュトラの股間を大きく割り開きながら、別の男が涙ぐむ。
﹁今晩だけは、良いんだよな。ヤっちまってよぉ⋮⋮﹂
1166
﹁あぁ⋮⋮金玉空っぽになるまで、出しつくそうぜ⋮⋮﹂
アミュスの膣口に肉棒を押し付けながら兵士が言い、別の男がヘミ
ネに覆い被さりながら応じた。
﹁うむ⋮⋮皆ここまでよく耐えた。今宵はパーッと楽しもう!﹂
セナの体を抱きながら、年長の男が言い放ち、宴は始まった。
意識を失い、肉の人形と化している五人の公娼を使った狂宴。
﹁あったけぇぇぇぇ﹂
﹁チンコが肉に埋もれる感覚が⋮⋮あああああっ!﹂
乱暴に腰を打ち付けながら、兵士達は騒ぐ。
或る者は涙を流し、或る者は夢中で乳に吸い付きながら、無言の肉
穴と化した女達を犯していく。
騎士や魔導士と言った彼女達が持つ本来の姿を忘れ去り、ただの射
精する為の穴として使用する。
﹁うっ⋮⋮くっ⋮⋮出そうだ⋮⋮﹂
﹁膣内出しはまずいぞ、明日の朝に気づかれる﹂
﹁わかってるよ!﹂
ユキリスを犯していた男が焦った顔で肉棒を引き抜くと、傍に置い
てあったバケツに向けて射精した。
﹁他の者も出そうになったらそのバケツに溜めておけ。明日の朝の
スープにでも混ぜてやろう﹂
年長の男が放った言葉に、全員が笑みを浮かべて頷いた。
そのまま、肉の宴は続く。
セナ達の体は兵士達の間で勝手にやり取りされ、絶え間なく肉棒が
擦り付けられている。
その喧騒の外れ、テビィはジッと一点を見つめている。
セリス。
リトリロイの妻にして、この旅路の守護者。
これまで何度となく現れた魔物を一刀の下に払って来た軍神が、常
には無い穏やかな表情で眠っている。
兵士達にとってすれば、セリスは忠誠を尽くすべき対象であり、今
1167
回眠らせた事も言い訳がましく言ってみれば、セリスが自ら公娼達
に世話を焼いた結果でしかない。
触れずに、黙っていてくれればそれで良い。
兵士達はそう結託していた。
だが一人だけ。
その禁を破ろうとしている者が居る。
テビィの手が、セリスが纏うドレスの裾を掴んだ。
﹁お、おい。止めろって﹂
セナを犯しながら、兵士の一人がそれに気づき、制止する。
﹁⋮⋮﹂
テビィはそれに答えぬまま、ドレスの内側に手を突っ込んだ。
我慢がならなかったのだ。
公娼達を犯す。
その為に睡眠薬を提供し、ようやく久々の肉穴を味わえると思いき
や、兵士達が雪崩の様に公娼を独占し、テビィは弾かれて触れる事
すら出来なかった。
だから仕方が無い。
仕方が無いから、兵士達が使わない肉穴をテビィは使う。
ドレスを手繰り上げ、白い下着が装着された股間を露わにする。
﹁なぁ⋮⋮やめろって小僧⋮⋮﹂
兵士達はそれぞれ公娼を犯しながら、怖れの視線をテビィへと向け
る。
軍神を、守護者を、主君の妻を、今この旅で最も下賤な子供が犯そ
うとしている。
もっと強く止めるべきだ。
誰の心にもその言葉が浮かぶ。
だがしかし、彼らの中にも闇は有る。
自分達に禁欲を強いたのはセリス。
セリスと言えば、公娼ならざる公娼。
リトリロイの庇護により守られた、唯一穢れなき公娼。
1168
そのセリスが、今まさに汚されようとしている。
見てみたい。
彼らの心に宿ったのは、暗い興味。
﹁やめろよ⋮⋮﹂
﹁そ、そうだぜ﹂
﹁どうなっても知らないぞ⋮⋮﹂
兵士達は口ぐちにそんな言葉を責任感だけで吐き、瞳は強く、昏倒
するセリスを見つめていた。
テビィの手がセリスの下着を掴み、横へとズラした。
露わになったのは、リーベルラント軍神の恥部。
ゼオムント王族の妻の陰唇。
股を割り開き、テビィの体がその間に侵入して行く。
既にズボンは降ろされ、少年の肉棒はそそり立っていた。
秘唇に肉棒が当たり、無力な少年が腰を僅かにでも動かせば、無敗
の軍神は人生で二人目の性体験を得る事になる。
﹁ひへっ⋮⋮﹂
テビィは笑い、セリスへと顔を寄せる。
﹁オラの臭いチンポが今からセリス様の膣内にお邪魔しますだ⋮⋮。
他の雌穴を使わせてくれなかった貴女様が悪いんですだよぉ⋮⋮そ
れじゃ、いただきまぁす﹂
挿入は呆気無く、実行に移された。
テビィの皮が被ったままのペニスが、セリスの陰唇を押し開けて、
リトリロイしか知らない肉の味を少年へと教えて行く。
﹁あああああああぅ! セリス様! これがセリス様のマンコの味
!﹂
テビィは狂ったように吠え、セリスの唇へと吸い付いて行く。
腰の動きは暴れ狂い、肉棒は騎士の秘所を荒らし回る。
﹁オッパイも⋮⋮オッパイも見せて下さいよセリスさまぁ!﹂
少年の手が伸び、セリスのドレスアーマーを剥ぎ取る。
露わになった乳房に、周りの兵士達が息を飲み、テビィは無我夢中
1169
で吸い付いた。
﹁あきゃへへへへへ。オッパイだぁ! セリス様のオッパイ!﹂
バシバシと乳肉を叩きながら、少年の腰は動き続ける。
下半身をグチョグチョに犯され、乳房を殴られ、唇に涎を垂らされ
ながらも、セリスは穏やかに眠っている。
オルソーが用意しテビィに授けた睡眠薬は、アミュスとヘミネの睡
眠時間を確保する為に、夜毎獣と成り果てるテビィの責めにも目覚
めないように作られた、特別効果が深い代物だった。
セリスも、セナも、ユキリスも、シュトラも、アミュスも、ヘミネ
も眠っている。
寝息を立てながら、存在を汚されている。
﹁でるぅぅぅ出ますよぉぉぉセリスさまぁぁぁぁ﹂
テビィの腰の動きが一段と早くなってくると、途端に兵士達が慌て
だした。
﹁お、おい! 流石にそれはまずい! 膣内には出すな!﹂
﹁セリス様とリトリロイ様にバレたら俺達全員打ち首だぞ!﹂
兵士達は肉穴として弄んでいたセナ達を放り捨て、テビィへと飛び
付きその体を引きはがす。
﹁い、嫌ですだ! オラはセリス様の膣内に出したい! セリス様
に種付したい!﹂
テビィは屈強な男達に引っ張られながらも必死に抵抗し、膣内に射
精しようともがく。
﹁だー! 大人しくしろおおおおおっ!﹂
数人がかりで結合を離され、テビィは勢いをつけた状態で後ろに投
げ出される。
﹁ああああ! マンコのヌルヌルがああああああ﹂
号泣しながら未だにいきり立つ肉棒から精液を放出させるテビィ。
迸った精液が、セリスの陰唇へと一滴かかった。
﹁ヤバいぞ! 拭け! 拭け!﹂
兵士の一人が大慌てで布巾を用意し、セリスの陰部へと擦り付ける。
1170
精液を拭い、布巾を離すと、
ヌチャ︱︱っとした糸が、布巾と陰唇の間で橋となって架かった。
﹁ぬ、濡れてる⋮⋮﹂
﹁感じたのか⋮⋮? あのセリス様が? この小僧のチンポで⋮⋮
?﹂
兵士達は凝視する。
自分達の主人の秘所を。
今日まで一人にしか触れられなかった公娼の性器を。
そこに、
﹁⋮⋮ヤってしまえ﹂
声が掛かった。
しわがれた声。
﹁じ、侍従殿!﹂
振り返った兵士が大慌てで反応する。
﹁こ、これはですね⋮⋮あの、その⋮⋮﹂
今の今までリトリロイの看病の為にテントに詰めていた老侍従が姿
を現し、兵士達が必死で言い訳をしようと言うところに、
﹁その女を犯すと良い。全員、好きなだけ。ゼオムントに巣食い、
殿下を誑かしたる悪女を、汝らの忠義を持って罰せよ。公娼なんぞ
が過ぎたる夢を抱いた事を近い内悔いる事になるだろう﹂
老侍従は足を上げ、踵をセリスの陰唇に押し当てる。
﹁ワシが一体どれほどリトリロイ殿下に尽くして来たか⋮⋮それを
この女が道を誤らせ、今ではまるで反逆者の如き逃避行じゃ⋮⋮。
殿下には栄達して頂く必要がある、ワシとワシの栄光の為にも、ゼ
オムントと言う国でじゃ⋮⋮。下賤な騎士程度の野望なんぞに付き
合って身を滅ぼして良い御方では無いわ﹂
靴底にこびり付いた泥を押し付ける様にして、セリスの陰部を踏み
にじる。
﹁侍従殿⋮⋮﹂
﹁皆、良く聞かれよ。殿下はこの女に誑かされ、一時の熱で陣地を
1171
出奔したが、本来は逃げる必要など無く、新元帥オビリス閣下と共
に西域の支配を行うべき立場にある御方じゃ。ワシは臣として殿下
に何度も換言したが、殿下は終ぞこの女に踊らされたままじゃった。
そこで、ワシはゼオムントの臣民として殿下を正しい道へとお戻し
する為に独断での行動を起こす﹂
そう言って、老侍従は兵士達の中から一人へと視線を送る。
﹁お主﹂
﹁へ? 俺ですか?﹂
体を強張らせる兵士に向けて、
﹁これよりお主はこの隊を離れ、開拓団陣地へと戻りオビリス殿に
殿下帰参の旨を伝えよ。我らが天使の里へと向かっていると申せば、
オビリス殿ならば先んじる事も我らに追いつく事も容易いだろう。
あぁ、造反者セリスに対抗しうる戦力を迎えに付けて頂けるように、
お願い申し上げてくれ﹂
セリスの陰唇を踏みにじりながら、老人は笑っている。
﹁し、しかしそれではリトリロイ殿下を裏切る事に⋮⋮﹂
兵士が怯えた表情でそう言うと、
﹁何じゃ? 殿下の妃⋮⋮と言うておるこの女をこの様な状況にし
ておいて、殿下を裏切るのが怖いと申すのか?﹂
老人は切って捨てた。
﹁なぁに。心配はいらん。殿下とて先の見えぬ御方では無い。本国
に離反するなどど言う事が成功する筈も無い事は承知されているは
ず。多少強引にでもこの女と引き剥がせば、元の理性的なお考えに
戻られるだろう﹂
そこまで言って、老人はセリスの股間から足を上げた。
﹁褒美が無いわけでは無いぞ。お主にはこれより、この女のマンコ
しとね
を使う権利をやろう。この世で三人目になれる権利だ。リーベルラ
ントの軍神を、ゼオムントの忠義の槍が貫くのだ。殿下の褥を管理
する侍従職にあるワシが許可する。犯せ。犯した後、この隊を離れ
て任務に就くと約束できるのならな﹂
1172
老人が身を引き、指名された兵士へとセリスの体を引き渡す。
﹁無論、その他の者にもワシの行為に目を瞑って貰う為に、この女
のマンコを無料で提供しよう。そこで転がっている公娼共諸共、好
きなように犯すが良い﹂
セナ達を見据え、老人はくぐもった笑いを零す。
﹁テビィよ。お主の薬、まだ残っておろうな?﹂
声を向けられた先、鼻水を啜っているテビィは頷いた。
﹁は、はい⋮⋮侍従様のご指示通り、必要最低限の量しかスープに
は混ぜてませんだ。少なくとも後五回か六回は使えるはずですだ⋮
⋮﹂
テビィが食事時に声を掛けたのは、リトリロイを除くすべての男性。
そこには当然、この侍従も含まれていた。
その際、侍従から睡眠薬の量についての指示を受け、言葉通りに実
行した。
﹁どうかね? ワシの提案に乗ってくれるのならば、この女だけで
は無くそちらで転がる公娼共の穴も明日の夜にでもまた好きに出来
るぞ? 殿下の事ならばワシに任せよ。夜間はワシが張り付き殿下
の高貴な視界に公娼共の下賤な姿など見えぬ様にしてくれようぞ﹂
その言葉と共に、老侍従は更にもう一歩下がった。
﹁さて、邪魔したのう。宴を続けるが良い﹂
兵士達は一瞬躊躇し、視線を交わし合った後、獣の様に動き出した。
先ほど指名を受けた兵士はセリスの股の間に移動し、
﹁せ、セリス様! 申し訳ございません!﹂
躊躇無く肉棒を突き入れた。
﹁おい! 次は俺だからな!﹂
﹁その次はこっちに回せ!﹂
﹁朝が来るまでに全員セリス様を犯すぞ! そうすればもう誰も裏
切れねぇ!﹂
他の兵士達は思い思いに公娼達の肉穴を使って興奮を昂らせていく。
いざセリスを犯す番が来た時にギンギンの状態でその肉穴を楽しめ
1173
る様にと、セナ達の体を使ってチンポの調子を整えていた。
眩い光の中、突然意識が回復した。
セリスは今まで味わった事の無い目覚めに戸惑いながら、瞼を開け
る。
﹁起きたか? 寝坊だぞ、セリス。どうせ昨夜もまた公娼達の見張
りをしていたんだろう?﹂
すぐ傍から声が聞こえる。
﹁リト⋮⋮?﹂
﹁おはよう、セリス﹂
元々はテントが有った場所に置かれた茣蓙の上、セリスが身を起こ
した。
﹁テントはもう撤収した。お前が起きたら出発という事になってい
たからな。皆それまでは小休止していたところだ﹂
リトリロイはそう言って、起き上がったセリスの肩を抱いた。
﹁私⋮⋮昨日の夜⋮⋮あれ?﹂
記憶の欠落に、セリスは首を傾げる。
﹁なんだ? どうかしたのか?﹂
その様子にリトリロイが心配そうに声を掛ける。
﹁いや⋮⋮あの⋮⋮ねぇリト。昨日の夜私何をしてた?﹂
﹁俺はずっと風邪で寝ていたからわからないが、爺や達が言うには
公娼達と食事をとってそのまま固まって過ごしていたと言っていた
が⋮⋮?﹂
﹁セナ達と⋮⋮?﹂
食事をしたところまではセリスにも記憶が有る。
しかしそこから先がどうしても思い出せなかった。
そこに、
﹁お早う御座います! セリス様!﹂
﹁今日は良い天気ですね! 行軍も捗りそうですねセリス様!﹂
1174
﹁セリス様が居て下さる御蔭で我らも強気で魔物と相対できます!﹂
通りがかった兵士達がにこやかにセリスへと挨拶をして来た。
﹁え、えぇ⋮⋮そうね﹂
曖昧な返事を返すセリスに笑顔を向けて、兵士達は歩き去る。
そしてセリスから顔を逸らしたところで、
﹁今度はどうすっかなぁ。昨日は散々バックでやったから今度は顔
見ながらヤりてぇなぁ﹂
﹁俺はアナルだな。侍従殿が言うにはリトリロイ殿下とそっちの方
も済ませちゃってるらしいし、軍神アナルを頂きたいぜ﹂
﹁何にせよ、今夜が楽しみだぜぇ!﹂
兵士達は邪悪な顔で囁き合った。
ボアルの里での粛清の後始末は中々時間を要した。
捕まっていたのが人間達だけでは無く羽根落ちの女達が二十名ほど
居た事が、ユラミルティの動きを阻害する。
﹁シャスラハール殿、申し訳ございませんがラクシェ様及び天兵連
隊と連絡がつくまで少々お待ち頂いても宜しいでしょうか? 丁度
そちらも体力の回復が必要なご様子ですし﹂
眼鏡の位置を直しながら裁天使が言い、
シャスラハールは唇を引き結んで頷いた。
﹁わかりました。貴女の協力がなくては僕達は先へ進む事が出来ま
せんし、今は皆の傷を癒す時間にします﹂
そう言って天使との会話を終え、仲間達の元へと戻る。
この里で救出できたハイネア、マリス、シロエの中でも、ハイネア
の容態はかなり悪かった。
無理な姿勢で拘束され続けた結果、まともに歩く事が出来なくなっ
ている。
マリスやシロエの様に体を鍛えていたわけでも無いハイネアにとっ
ては、消耗した体力も含め、まともに旅へと出られる様子では無か
1175
った。
﹁ハイネア様⋮⋮お食事です﹂
﹁あぁ⋮⋮うむ⋮⋮﹂
今もシロエに膝枕された状態で、リセが握るスプーンでようやく小
さな食事を摂っているところだった。
﹁殿下、どうなさいますか?﹂
護衛の役目を負っているフレアが傍で聞いてくる。
﹁正直⋮⋮ハイネア様には休んで頂きたいけれど⋮⋮この場所で待
って居て頂くわけにもいかないし⋮⋮一度アン・ミサの所へ戻る必
要があるかも知れません﹂
衰弱しきった様子のハイネアを見て、シャスラハールは沈痛な表情
で言った。
﹁⋮⋮そうですね。そうする事が、きっと正しいと思います﹂
フレアもまた、唇を噛み裂かんばかりの顔で応じた。
天兵の里でアン・ミサのサポートに当たっているシャロンとルルを
除けば、あの騒乱で行方が分からなくなった仲間達で見つかってい
ないのはステア、ヴェナ、マリューゾワの三人だ。
時間が経てば経つほど捜索が困難になり、彼女達を襲う悲劇は色濃
くなっていくだろう。
だがそれでも、仲間を見捨てるという選択肢は有り得ない。
﹁あの王女様には護衛をつけて里に戻って貰って、後のメンバーで
捜索を続ければ良いんじゃない?﹂
傍で矢の生産を行っていたロニアが言うが、
﹁クスタンビアは敗走しましたが、生存しているとの事ですし、親
鬼が辺りをうろついている事を考えれば今の戦力を裂くのは危険で
す。それに馬の問題も有ります⋮⋮吸血馬は三頭しかない。ユラミ
ルティさんに付いて行く為にも捜索組に馬は必要ですが、帰還組も
迅速な移動が望ましいので馬が必要となります。正直、手詰まりで
すね⋮⋮﹂
シャスラハールは首を振って吐息した。
1176
人間達の間に重たい沈黙が流れる。
その間、ユラミルティが魔法を使って何かをしている。
﹁何をしてるんですかー?﹂
手持無沙汰なマリスが能天気に問うと、
﹁執行猶予中の天兵連隊に向けて宣告魔術を飛ばしているのですが、
如何せん今回の用件で明確に罪が有るわけでも無いので上手くいき
ません。もうしばらくお待ち下さい﹂
ユラミルティは引き締まった表情で言い放ち、虚空に魔力を放ち、
天兵連隊との接続を続けている。
そこに、
ヒラヒラと一枚の葉っぱが漂って来た。
葉はまるで意思を持つかのように宙で踊り、シャスラハールへとぶ
つかった。
﹁その葉は⋮⋮まさか﹂
シロエはハイネアの頭を膝に乗せたまま呆然と呟き、
﹁幸運の⋮⋮葉っぱ?﹂
ロニアがマジマジと地面に落ちた葉を手に取った。
そこに、馬蹄が轟いて来た。
﹁二騎来るぞ、構えろ!﹂
フレアが叫び、腰の剣を抜き放つ。
リセは食器を脇に置き、短刀を引き抜く。
ハイネアは緩慢な動きでシロエから退こうとし、柔らかく押さえつ
けられた。
﹁大丈夫ですよ。ハイネア様。あの葉は我が盟友の物。しからば葉
の導きでここへやって来るのは︱︱﹂
﹁ルルッ! ルルーッ!﹂
シロエが言い、ロニアが続いた。
シャスラハールの目にも、騎影が映る。
白銀の鎧を着た騎士と、フードを目深に被った魔導士の姿。
﹁シャロンさん⋮⋮ルル⋮⋮﹂
1177
天兵の里で別れたはずの二人が、吸血馬に乗ってやって来た。
﹁殿下。御無事で何よりで御座います﹂
シャロンは下馬と共にシャスラハールへと駆け寄り、臣下の礼を取
った。
﹁シャス。有り難う⋮⋮シロエとロニアを助けてくれて。後はマリ
ューゾワね。私も手伝うわ﹂
それを追う様にしてルルもやって来て、笑顔を向けた。
﹁ど、どうして二人とも⋮⋮? アン・ミサの補助という話は⋮⋮
?﹂
シャスラハールは動揺そのままに、目を白黒させながら二人に問う
と、
﹁それが⋮⋮﹂
シャロンが呆れた様な表情を浮かべ、
﹁ラグラジルさんが引きこもっちゃって⋮⋮。殆ど全ての実権をア
ン・ミサに委任したのよ⋮⋮だからこれまで通り表向きの統治はア
ン・ミサが担当する事になって、彼女の許可証を貰ってここまで来
たの。逃げてた馬も大体は馬舎に連れ戻す事が出来たわ。⋮⋮私と
シャロンさんとアン・ミサで追い回してね⋮⋮﹂
ルルが苦笑を浮かべた。
聞けばラグラジルは里の復興政策や、侵攻してくる人間への対策の
書類が山になって積まれた時点で逃げ出し、自室へ籠ってしまった
との事。
﹁一応何か有れば自分がやるとは言ってたけど⋮⋮基本的にはアン・
ミサが雑務をこなす事になったようね⋮⋮﹂
責任は取るが仕事は妹に任せる。
それが管理者ラグラジルの方針だった。
﹁⋮⋮それでは今、アン・ミサ様は?﹂
天兵連隊との通信を何とか終え、ユラミルティが問うと、
1178
﹁入浴と食事と睡眠以外は全て、書類の山と向き合っています⋮⋮﹂
シャロンの言葉に、ユラミルティは眉を顰めた。
﹁早く里に戻る必要が出来ました⋮⋮シャスラハール殿、方針を決
定して頂きたい。この里へ向けて一刻後にはラクシェ様達がやって
来ます。そうなれば私は出発する事が可能です﹂
そう話を振られ、シャスラハールはルルへと問うた。
﹁ルル、さっき許可証って言ったけど、それは何?﹂
他の仲間達とは少し違う、シャスラハールとルルの親愛。
﹁管理者の庇護に在る者だっていう証明らしいわ。これを持ってい
ると他の魔物に襲われた時に便利なんだって﹂
ルルが応え、
﹁管理者の通行許可証ですね。この証を持っている者を襲った場合、
襲撃者に向けてラクシェ様を派遣し三倍にしてやり返すという内容
です。命を奪われたら両親や子供まで誅殺対象とするという事です
ね﹂
ユラミルティが補足した。
﹁馬が二頭増えて⋮⋮、道中の安全を保障する物がある⋮⋮それな
ら﹂
シャスラハールは顎に手を当て、
﹁ハイネア様。そしてリセさんとシロエさんは天兵の里へ戻って貰
って良いですか?﹂
リネミア神聖国の出身者達へと声を掛ける。
﹁⋮⋮済まない。妾が不甲斐無いばかりに⋮⋮﹂
﹁殿下⋮⋮ありがとうございます﹂
ハイネアは弱弱しく呟き、リセは深く頭を下げた。
﹁私は⋮⋮﹂
シロエが口を開き、ハイネアをそっと見る。
﹁シロエよ⋮⋮。リネミアを代表し、シャスラハールの力になって
おくれ⋮⋮﹂
王女の言葉に、筆頭巫女は頷いた。
1179
﹁私はシャスラハール殿に同行させて頂きます﹂
そして、
﹁代わりにと言ってはなんですが、ロニアがハイネア様に同行して
欲しい﹂
巫女はそう言葉を作った。
﹁えぇ? アタシ? 何で?﹂
ロニアが素っ頓狂な声を放つと、
﹁君は今ロクな装備を持っていないのでしょう? 早めに準備をす
る為にも、先に里に戻った方が良いのではないですか?﹂
元々は兵器使いであるロニアにとって、今の手製弓では心許ない面
がある。
﹁う⋮⋮それはまぁ⋮⋮そうだけど﹂
ロニアは渋々頷いた。
﹁リセとロニア殿だと接敵されると弱いところが有るな⋮⋮﹂
その流れを見て、フレアが言う。
中遠距離型の戦いをする二人だと、万が一はぐれた親鬼と遭遇した
時には傷を与えられないかも知れない。
﹁ではマリス。貴女が付いて行ってはくれませんか? もちろん依
頼という形です。請求はリーベルラントとリネミアの連名で﹂
依頼、契約と言う言葉に忠実なマリスへ向けて、現状の雇用主であ
るシャロンが言った。
﹁はいはーい! 了解! マリスがハイニャーちゃん達をしっかり
送るよー﹂
許可証の御蔭である程度は安心できるが、親鬼の様に明らかに管理
者と敵対している存在には逆に挑発にしかならない。
護衛が必要な事は間違いなかった。
四人、それも小柄なハイネアとロニアが含まれているのならば吸血
馬での相乗りも簡単だろう。
﹁ではこちらは僕とフレアさん、シャロンさん、ルル、シロエさん
とユラミルティさんで捜索を続けましょう﹂
1180
シャスラハールがそう結論を言い、方針は固まった。
おんじょう
色鮮やかな煙がテントの内側で燻っている。
荘厳な音声で唱えられる呪いの様な囁き。
開拓団陣地内に建てられた大型の天幕の内側で、今まさに公娼を進
化させるオビリスの第三魔法の儀式が始まっていた。
魔術の行使者であるオビリスの他にゴダンや彼に匹敵する高位の魔
導士が参加し、円陣を組んで魔法を唱えている。
円陣の中央には、ゼオムントによって公娼とされた者達の資料が乱
雑に積まれている。
セナ、シャロン、ステア、ユキリス、ハイネア、リセ、フレア、ア
ミュス、ヘミネ、マリス、ヴェナ、シュトラ、セリス、マリューゾ
ワ、ルル、ロニア、シロエ、アルヴァレンシア、マリアザート。
その他名だたる公娼達の負の歴史を記した紙に向けて、魔導士達は
呪いを高めて行く。
中でもオビリスから放たれる魔力は他の追随を許さない。
第一魔法、不老。
第二魔法、映像。
公娼を縛るオビリスの魔法に、第三の命令が加えられようとしてい
る。
﹁命を⋮⋮大切に⋮⋮儚さは美徳では無いのだよ⋮⋮!﹂
汗の浮いた額の下、オビリスは笑みを浮かべ、魔力の波動を資料へ
と放った。
ゴダン達もそれに続く様にして魔力を注ぎ込む。
﹁ぐぅぅ⋮⋮やはり直接行使で無いと必要な魔力も膨大ですな⋮⋮﹂
ゴダンが口の端から呻きを上げて言う。
公娼の体に直接魔術刻印を刻むのではなく、既に作っている魔術刻
印に向けて遠距離から上書きするという、常識では考え難い荒業を
オビリス達は行っていた。
1181
﹁すまんな。もう少し耐えてくれ。これが完成すれば、公娼は更な
る芸術品へと変わる!﹂
オビリスはゴダンを励まし、更に力を籠めた。
数十秒ゼオムントの精鋭魔導士達が全力を注いだ結果、資料の上に
集められた魔力は溶ける様にして世界から消え去った。
﹁⋮⋮フフフフ。完成だよゴダン、私の第三魔法⋮⋮﹃乞命﹄は今、
公娼達へと上書きされた。さぁ、戻って来い私の、ゼオムントの玩
具達よ、有るべき場所へ、玩具は玩具箱へ戻る時間だ⋮⋮﹂
魔導元帥オビリスの瞳は、歓喜の色を湛えていた。
ゾクッ︱︱
と背筋に何かが這い回る感覚にマリューゾワは総毛だった。
﹁⋮⋮今のは?﹂
その隣を歩くヴェナもまた、その何かに反応して周囲を探っている。
﹁わからない⋮⋮が、単純な殺気というわけでも無さそうだが⋮⋮﹂
周囲を警戒しつつ、マリューゾワは言った。
﹁ともかく、今は急ごう。なるべく早くアン・ミサとシャスラハー
ル殿に会って、アルヴァレンシア達の事を伝えなければ﹂
魔剣大公マリューゾワと聖騎士ヴェナは西方へ向けて歩いている。
二人連れで。
﹁えぇ⋮⋮そうですね。彼女達を迎える事が出来れば、大きな戦力
となります﹂
ヴェナが真剣な表情で頷き、後ろを振り返る。
猫の里。
その地にアルヴァレンシアが率いる解放軍は残っている。
マリューゾワはアルヴァレンシアを。
ヴェナはマリアザートを説得したが、
残りの公娼達を含めた会議の結果、解放軍はシャスラハールとアン・
ミサの元へすぐには向かわない事が決定された。
1182
﹁魔物と人の共同戦線を認める為には、両者の代表と会わせて欲し
い。まぁ、妥当な考えかも知れんが⋮⋮﹂
マリューゾワは苦々しく思う。
代表者としてアルヴァレンシアが解放軍を率いてはいるが、魔蝶公
主は未だ若輩の身であり、その他の公娼達も名の有る騎士や魔導士
である以上、彼女達の意見を無視するわけにはいかなかった。
多くの者が魔物に襲われ辱められた経験が有ると言う事で、特にア
ン・ミサとの共同戦線に疑問を抱かれてしまった。
﹁仕方が有りませんよ。今は速やかに殿下とアン・ミサ殿をお連れ
して、マリアザート達の疑念を晴らしましょう﹂
ヴェナの言葉にマリューゾワは頷き、二人は一路天兵の里を目指し
た。
﹁護衛ぐらいつけるべきだったであろうか⋮⋮﹂
アルヴァレンシアは猫の里の執務室の窓から外を眺めながら呟く。
﹁あのお二人ですから、そちらの方はあまり心配なさらずとも良い
でしょう﹂
少し離れた場所で椅子に座っているマリアザートが応じる。
﹁それはそうだが⋮⋮。折角会えたというのに、またすぐに別れる
事になるとは⋮⋮﹂
魔蝶公主の年相応の感傷に、マリアザートは優しい笑みを向ける。
﹁またすぐに会えますよ。魔剣大公マリューゾワと聖騎士ヴェナル
ローゼが認めた人物です。これまで私達が出会って来た魔物達とは
違う、心が通じる存在なのでしょう﹂
そう言って、マリアザートは席を立つ。
﹁どちらへ?﹂
﹁保護した女性達、羽根落ち⋮⋮でしたか? 彼女達のお世話つい
でに、少しそのアン・ミサ殿という方のお話を聞いて来ようかと﹂
﹁ならば我も行くぞ。マリューゾワが認めた人物とはどのような御
1183
方か、この耳でしっかりと聞いてみたい﹂
そう言って二人連れで執務室から出て行く。
扉を開き、通路に出たところで息せき切って走ってくる人影を目撃
した。
﹁アルヴァレンシア! ゼオムントだ。ゼオムントの小部隊がこち
らに向かって来ているぞ!﹂
元はカーライル王国の軍人であった公娼がそう報告し、アルヴァレ
ンシアとマリアザートは視線を合わせる。
﹁小部隊と言うと、数は?﹂
マリアザートが厳しい視線を向ける。
するとカーライルの公娼は緩やかに笑んで、
﹁物見の報告によると五十程度だそうだ。じきにこの里に到着する
との話さ﹂
解放軍の数は四十四。
いずれも一騎当千を謳われた猛者揃いである。
﹁⋮⋮偵察部隊という事だろうか⋮⋮。いずれにしろ、生かして返
す道理は無い。皆を集めてくれ。一兵でも討ち漏らせば我らの所在
を敵に知らせる事になる。里の外で迎撃しよう﹂
アルヴァレンシアはそう言って、向かう先を変更した。
﹁ゼオムントの様子を知る良い機会かも知れませんね。偵察部隊程
度、私一人でも壊滅できますが、捕虜から情報を得る為にも、全員
で殲滅致しましょう﹂
マリアザートもまた、魔蝶公主の背中を追った。
1184
騎士長ステア その二︵前書き︶
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1185
騎士長ステア その二
前髪から垂れ落ちる黄色い汚液が放つ嫌な臭い。
わたしの全身はこの匂いに染まっていると言っても過言では無い。
場所柄。
男性用の公衆便所。
その小便器に括りつけられ、日夜小便と精液を全身に浴び続けてい
るわたしは、かつて騎士国家に仕えた誉れ有る騎士。
ステアという自分の名前を思い出し、心に刻む。
例え何で汚れようとも、わたしがわたしで在る為に。
ギィ︱︱と開く便所の扉をきつく睨みつける。
﹁はぁ∼スッキリ⋮⋮これでまたキツイ仕事に励めるってもんだよ
⋮⋮じゃーな。また明日も抜きに来るわ﹂
鶏頭の魔物がそう言ってわたしから離れ、便所から出て行った。
男が残して行ったのは、不快な疲労感とわたしの膣内にこびり付い
た精液。
好き勝手に腰を振り、聞いてもいない仕事の愚痴を喋りながら、わ
たしを便器として使用した。
昨日も、一昨日も、さっきの男はわたしの膣内に射精し、顔面に放
尿した。
﹁良くもまぁ⋮⋮飽きないな⋮⋮﹂
わたし以外誰もいなくなった男子便所で、独り言を吐く。
いまし
わたしが、わたしに語り掛ける。
﹁この縛めも、少し緩くなってきたな⋮⋮。あと少し耐えれば、チ
ャンスが有るかもしれん﹂
わたしを小便器と融合させ、肉便器へと変えている荒縄の縛めも、
1186
男達の乱暴な扱いと小便が沁み込んだ事によって僅かだが緩くなっ
て来ている。
その分縄の繊維に嫌な臭いが残留し、わたしの鼻を常に不快な状態
にはしているが。
﹁シャロン達はどうなったのだろうか⋮⋮フレアは⋮⋮セナは⋮⋮﹂
部下達の名前を挙げていく。
騎士長ステアとして、部下の身を案じる。
自分自身が置かれた状況など、問題無いと言い聞かせる。
﹁待っていろ。こんな場所なんてすぐに脱出して、助けに行くから
な⋮⋮﹂
自らを鼓舞し、人間としての尊厳を確認する。
﹁シャスラハール殿下。貴方の御傍に、必ず戻ります﹂
忠義を定めた主へと向け、騎士としての言葉を紡ぐ。
﹁ゼオムントよ⋮⋮覚悟して置け、リーベルラントの槍は必ず貴様
らを︱︱﹂
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁掃除が終わったらもう一回来るぜ。今のお前すげぇ臭いぞ⋮⋮。
おぇぇ﹂
欲望に濁った瞳で自分勝手にわたしを犯し、事後になると途端にわ
たしに染みついた匂いについて苦言を吐きながら、男が便所を出て
行った。
﹁臭い⋮⋮か。それはそうだろう⋮⋮こんな場所で⋮⋮。毎日貴様
らの薄汚い体液を浴びているのだからな﹂
わたしは唯一自由になる首を回し、見慣れた周囲の光景を目に収め
る。
便所。
カビとシミだらけの掃除がまるで行き届いてない存在自体がゴミ箱
の様な場所。
1187
小便器が三つに、大便器が二つ。
その内の一つがわたしという、鶏頭共が言うには肉便器。
厳密には小便器が二つに大便器が二つ、そして肉便器が一つ。
二百人しか居ないと言っていた里で共用として使われる便所。
男女比が半々と考えても百人。
一日に一度も便所を使わない者は居ない。
多い者では日に五度以上、排泄とその他の行為の為にこの便所へと
入って来る。
わたしは毎日、百人程の男達に目で犯され、気が向いた者には膣を
犯され、そうで無くても面白がってわたしが括りつけられた状態の
小便器を使う男達から尿を浴び、心を犯された。
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁汚かったねー﹂
﹁ねー。変な匂い移って無いかな? お母さんからトイレに行って
も肉便器だけは使うなって言われてるんだよねー﹂
﹁あーそれ僕もだよー。何か病気になるらしいよ?﹂
﹁うえー⋮⋮でも、肉穴は気持ちいいし⋮⋮﹂
﹁そこだよねー⋮⋮﹂
二人組の子供が、わたしを犯して行った。
便所から出ていく時の会話で、わたしがこの里の主婦連中からどう
思われているのかが分かった。
﹁それは⋮⋮そうだろう⋮⋮こんな場所で、この里のほぼ全ての男
に犯されているんだぞ、わたしは⋮⋮﹂
膣内に残った精液は、子供達がわたしの中に挿れた状態で小便をし
た事によって粗方あふれ出している。
﹁⋮⋮くっ﹂
ギィ︱︱と扉が開いた。
1188
﹁ふぅぅぅぅ。掃除当番は綺麗な状態の肉便器を最初に使えるから
役得だよなー﹂
わたしから肉棒を引き抜きながら、男は笑っている。
﹁ぁ⋮⋮う、痴れ者⋮⋮がぁ!﹂
睨みつけるわたしに向けて、ウィンクを一つ放ってから、
﹁あぁそうそう。俺達相手だったらそういう態度も逆に性欲をそそ
るからアリだけど、明日からは婦人会がここの掃除を担当するらし
いから、奥さん方連中には従順にしといた方が良いぞ。なんかかな
ーりオカンムリらしくてな。トイレ掃除は婦人会が取り仕切るって
話になったんだと﹂
今し方便所掃除にやって来た男は、掃除を始める前に盛大にわたし
に小便をひっかけ、その後綺麗にしたわたしの体に今度は肉棒を挿
入し、乱暴に犯し抜いた後、躊躇い無く精液を残して行った。
見れば掃除など殆ど出来ていない。
小便器も大便器も、汚れたままだ。
唯一、肉便器とされたわたしの体の表面だけが綺麗になっている。
無論、膣内は男が残して行った新たな汚液によって汚れている。
﹁ま、これ以上いらん反感買って捨てられないでくれよ。肉便器は
俺の毎日の楽しみなんだから﹂
掃除人はわたしの頭をポンポンと叩き、掃除道具を掻き集めて出て
行った。
わたしはその背中をジッと睨みつける。
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁これ差し入れだから。毎日俺のチンポを挿し入れさせてもらって
るお礼。なんてな﹂
男の手がわたしの口をこじ開け、甘味を放り込んできた。
﹁饅頭だよ。饅頭。良いから食え。肉便器っても体力使うんだろう
1189
? 毎日小鳥の餌みたいな飯と精液だけじゃあ生きていけないぞ?﹂
諭すようにわたしを見下ろす男の股間には、精液の残滓がこびり付
いた肉棒が有り、それを盛んにわたしの内腿に擦り付けていた。
両手はわたしの乳房を強い力で握り、乳首へと不愉快な刺激を与え
て来る。
﹁んじゃ、明日も来るよ。饅頭は同じ味で良いかい? もうちょっ
と甘い奴も有るが?﹂
笑顔で聞いてくる男を睨みつける。
そうすると男は肩を竦め、
﹁⋮⋮とびきり甘い奴を持って来るからな﹂
そう言って便所から出て行った。
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁あーっ! 危なかったぜぇぇぇ。間にあって良かった﹂
大便器の扉を開け、ズボンを摺り上げながら男が言った。
今し方便所に駆け込んで来た男は、わたしを無視して大便器へと突
撃し、そのまま悍ましい音を立てて排泄したばかりだ。
﹁あー⋮⋮ついでだし、抜いとくか﹂
目に付いたから、とでも言わんばかりな様子で男は言った。
﹁やめっ⋮⋮近づくな⋮⋮。手を洗え!﹂
男が傍に寄ってくるのを、わたしは睨みながら牽制した。
﹁はぁ? どうせこれからまた汚れるんだし、手は最後に洗うに決
まってんだろ。大丈夫だって、俺のケツと同じくらいお前も汚いん
だからな﹂
そう言って、小便と精液で汚れたわたしの乳房を鷲掴みにした。
﹁あー柔らけぇぇぇこのベトベトさえなけりゃあなぁ⋮⋮﹂
グニグニと乳房を揉みしだきながら、取り出した肉棒をわたしの秘
所に宛がった。
﹁そんじゃ。大便の後は肉便ですよっと﹂
1190
そのまま無遠慮に、肉棒がわたしの内側に侵入して来た。
﹁ひぐっ貴様ぁぁぁ⋮⋮抜けぇぇぇ﹂
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁おう、お疲れ︱﹂
﹁あぁ、お疲れさん﹂
﹁離れろ! 離れろぉぉ⋮⋮﹂
大便男がわたしを犯している隣で、新たに入って来た男が小便器を
利用する。
﹁今日どうだった?﹂
﹁まぁた上司に怒られてさー﹂
男達がわたしを無視するかの様にして、言葉を交わす。
しかしその実、大便男はわたしの膣内に肉槍を突き立て、小便男は
空いた手でわたしの乳房をムニュムニュと揉んできている。
﹃わたし﹄は無視され、肉便器は求められる。
﹁んぉぉぉぉ⋮⋮出た出た﹂
﹁あぎぃぃぃぃぃ。うあぁぁ⋮⋮﹂
大便男の体が震え、精液が放出されたのを、わたしは自分の内側で
感じた。
﹁んじゃ代われ﹂
﹁はいよ。俺とその他多数のミックスジュースが詰まった肉便器を
どうぞご利用くださいまっせ﹂
冗談めかした口調で大便男が言い、小便男は口を尖らせ、
﹁⋮⋮おっケツ穴の方はあんまり汚れてない。俺こっちにしよーっ
と﹂
肛門を押し開き、小便男の肉棒が侵入してくる。
﹁んぎっひ⋮⋮﹂
﹁んじゃ俺帰るわー﹂
﹁おう、またなー﹂
1191
男達は軽く挨拶を交わす。
﹁俺もさっさと出して早く帰ろう﹂
その後すぐに小便男はわたしの肛内に射精し、ドロドロの精液がヒ
クつく肛門から溢れ出る様子を満足げに眺めた後に便所から出て行
った。
膣と肛門から、生温かい精液を零しながら、わたしは便所の扉を見
つめる。
﹁お願いだ⋮⋮開かないで︱︱﹂
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁あぁぁぁマンコあったけぇぇぇぇ﹂
﹁やめろ⋮⋮止めてくれ⋮⋮休ませてくれ⋮⋮﹂
乱暴な抽送の後に精液を吐き出し、男は立ち去った。
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁うわ! 汚ねぇ!﹂
ある男は、便所に入って来た瞬間にわたしの様子を見て騒ぎだし、
備え付けのバケツに水を汲んでわたしに頭からぶっ掛けた後、
﹁これで何とか使えるな。まだ汚いけど⋮⋮﹂
﹁違う⋮⋮わたしは⋮⋮わたしは⋮⋮﹂
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
1192
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
ギィ︱︱と扉が開いた。
バタン︱︱と扉が閉じた。。
いつの間にか、朝日が昇っていた。
今のわたしに昼夜は関係無い。
肉便器を使いに来た男達に無理矢理挿入され、それを耐えるだけだ。
昨日は果たして何本の肉棒を膣内に入れられたのか、
わからない。
憶えていたくない。
わたしはわたしで在るという事以外、全ての記憶を消したい。
仲間達と共に戦う勇敢な騎士でありたい。
こんな場所で、こんな風に過ごす惨めな肉便器である自分何て認め
ない。
昨日も、あれだけ︱︱。
﹁あああああああっ⋮⋮あぁ⋮⋮﹂
涙が、騎士として過ごして来た中では決して流さなかった涙が頬を
伝う。
落ち行く涙が向かう先、わたしの股間は凌辱の痕跡を色濃く残して
いた。
赤く腫れた陰唇に、ひりひりと痛む肛門。
抓まれた乳首と陰核は熱を持ち、肌には不快なぬめりが残る。
そして何より、匂いだ。
﹁違う! 違う! わたしは、こんな匂いでは無い!﹂
1193
全身から発せられる汚臭。
精液と小便で飾られた自分。
通常自分の匂いを知覚する際には何割か削られた状態で感じられる
ものだが、食い込んだ荒縄にそれらが沁み込み、容赦の無い汚臭を
放っている。
心が折れそうになる。
ゼオムントに公娼として扱われていた時ならば、終わりが有った。
撮影の終わり、イベントの終わり。
それを迎えれば、どれだけ汚されたとしても、自分が自分を取り戻
せる時間は確かに存在した。
だがしかし、今は違う。
これからもしかすれば、永遠に、一生を、
わたしはここで肉便器として過ごすのかも知れない。
この匂いを身に纏って、この不快な感触と共に、ずっと存在しなけ
ればいけないのかも知れない。
ゼオムントに掛けられた不老魔術。
それは死ぬその日まで決して老いず、わたしが公娼にされた理由で
もあるわたしの容姿を保ち続ける。
そうすると、鶏男達は決してわたしを手放さないだろう。
今の子供の世代が老人になる時まで、わたしを使い続けるだろう。
寒気がした。
全裸で、雲の上だからと言う理由では無い。
わたしは生きているという事に、寒気を感じた。
生き続けるという事に、恐怖を覚えた。
﹁死に⋮⋮た︱︱﹂
ドクン︱︱。
心臓が暴れた。
死にたいと願った瞬間に、それは起きた。
猛烈なまでの感情の爆発。
﹁死にたくない! 死にたくない! 肉便器でも良い! チンポ奴
1194
隷で充分だから! 死にたくない! 死にたくないの!﹂
叫んでいた。
誰に聞かせるわけでも無く、わたしは叫んだ。
哀れに、悲痛に、死に恐怖した。
なんで、どうして。
心の内側で疑問する。
騎士として生きてきて、生死のやり取り何てものは日常だったはず。
これまでの戦いで死を覚悟した事なんていくらでも有った。
でもどうして、わたしはこの瞬間に死を恐れるのか。
まるで、﹃わたしの精神を何者かに上書きされた﹄かのように、死
を恐れたのか。
﹁嫌⋮⋮嫌ぁぁぁ! チンポ! チンポを頂戴⋮⋮気持ち良く出来
るから! そう出来る間は、わたしは生きていて良いんでしょう?
だったらお願い、チンポを⋮⋮チンポをわたしのマンコに突っ込
んでえぇ!﹂
小便器をガチャガチャと揺らしながら、肉棒を求めて叫ぶわたし。
信じられなかった。
遠くから自分の狂った姿を見ている様な気分だった。
それほどに、現実から乖離してわたしは肉棒を求めていた。
ただ、死にたくないが故に。
その時、
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁チンポ? チンポを頂戴! わたしのマンコに。気持ち良くして
あげる。証明する。わたしはちゃんと使える肉穴だって。チンポを
上手に温かく出来るって︱︱﹂
わたしは唾を飛ばし、開いた扉へと懇願した。
﹁朝から何を叫んでいるかと思えば⋮⋮。ここまで下品な存在だっ
たなんて⋮⋮﹂
しかし、そこに立っていたのは鶏頭をした、女だった。
複数人。
1195
﹁旦那達はこんな悍ましい物を毎日使っているの? 気が狂いそう
だわ⋮⋮﹂
﹁子供の教育に悪影響を及ぼす事は間違いないわ! すぐにでも捨
てましょう!﹂
﹁そうよ、こんな汚くて臭いの⋮⋮。絶対に病気の元よ! こんな
のに触れた後に主人の手で触られてたんだって思うと、あああああ
怖気が凄いわ!﹂
婦人会。
わたしを犯していた男達が言っていた言葉を思い出す。
ならば、
﹁ね、ねぇ⋮⋮貴女達の旦那さんを連れてきて、わたしのマンコに
チンポをズボズボしてくれるように一緒にお願いして。ねぇ、お願
い。わたし⋮⋮死にたくないの!﹂
わたしの名前はステア。
リーベルラントの誇り高い騎士。
そのわたしはもう居ないのだろう。
今こうやって肉棒を求めて惨めに叫んでいるわたしの姿を見れば、
フレアも、シャロンも、セナも見捨てるだろう。
こんな馬鹿げた肉便器は、彼女達が尊敬した上官、騎士長ステアで
はない。
そうあってはならない。
だからわたしは、これから先、この鶏達の里で、
汚れた小便器に左右を囲まれ、最も汚れた肉便器として生きて行こ
うと思う。
わたしが騎士長ステアを名乗り続ける事で、リーベルラントの、部
下達の名誉を汚すような事があってはいけない。
わたしは肉便器だ。
チンポを飲み込み、吐き出された精液の量に一喜一憂する存在。
わたしの乳房は男達に握りつぶされる為に存在し、わたしの口は男
達の小便を飲む為に存在するのだ。
1196
﹁⋮⋮捨てましょう。こんな汚い物は﹂
婦人会の中でも一段偉そうな女が言い放ち、
﹁嫌! ちゃんとマンコぎゅうぎゅう締めるから。アナルも好きな
だけグチャグチャにして良いから。わたしをこの里に置いて! 肉
便器として毎日使ってぇ!﹂
わたしは涙を流して懇願した。
1197
騎士長ステア その二︵後書き︶
詳しい説明は次回ですが、オビリスの第三魔法はこんな感じになり
ます。
1198
邪悪の連鎖︵前書き︶
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1199
邪悪の連鎖
鮮血が宙に躍り、薄く積もった雪の野を赤く染めた。
数秒遅れて、重く質量の詰まった物が崩れ落ちる音が響く。
筋骨隆々の赤黒い体。
親鬼。
﹁流石はセリス様! お一人でこの魔物を六体も! それも一瞬で
!﹂
背後から沸き起こる歓声を、セリスは無言で受け止めた。
雪中行の途上、何度目かもわからない魔物との接敵、セリスは兵士
達にリトリロイとセナ達の守護を任せ、一人で切り結ぶ。
ただの一つも傷を負わず、一息の下に魔物達の命を散らす。
昨日は今倒した鬼達よりも数倍大きな体躯を持った砂礫の魔人を砕
いた。
一昨日は二本脚で歩く、盾と棍棒で武装した豚型の魔物の集団を駆
逐した。
﹁セリス様!﹂
﹁セリス様!﹂
兵士達は歓声を上げている。
セリスはそれを振り返り、芯の籠った強気な笑顔を見せる。
鼓舞。
例えどれだけ辛い旅路であっても、自分がついていれば何者にも敗
れる事は無い。
そう、兵士達に行動で示していた。
これがもし、兵士達を含めた乱戦を行ったならば、犠牲は必ず生ま
れるだろう。
今の鬼達の実力、倒したセリスだからこそわかるが、消耗した兵達
では相手にならない。
1200
だからこそ、一人で戦う。
兵士達を励まし、支えるべき夫を守り、償うべき同類を救う為。
疲労を忘れ、全力で、可能な限り圧倒的に魔物を駆逐する。
リーベルラント無敗の軍神。
セリスは長剣にこびり付いた鬼の血を振り払い、鞘に納めた。
そして、
﹁これで大丈夫です。さぁ、進みましょう﹂
力強く、皆を励ました。
にゅぷにゅぷと水音が広がる。
車座になって座っている男達。
そして彼らの腕の中には、﹃六﹄人の公娼。
﹁あー⋮⋮いい加減膣内で出したくなってくるよなぁ﹂
対面座位でセリスを貫いている大柄な男がぼやいた。
﹁流石にまずいだろうよ。まぁ連日オナホ状態でヤってて一回も膣
内出し出来ないってのは、ちょっと片手落ちな感じはするよなぁ﹂
隣でセナの膣肉を穿っている男が頷いた。
リーベルラントの騎士団長と百人長。
今その二人は瞳を閉じ、深い眠りに落ちている。
テビィの睡眠薬を使用してから三日目。
彼らは毎夜こうしてセリスを含めた公娼達の肉壺を味わっていた。
﹁くそっ⋮⋮一体いつまで生殺しなんだよ﹂
上官であり、忠誠を誓うべき相手でもあるセリスの秘所を無遠慮に
抉り回しながら、男は悪態を吐く。
胸肉をきつく握り、尻肉を叩きながら、唇をジュルジュルと吸い上
げる。
﹁仕方ないだろう。殿下の事は侍従殿が何とかして下さってはいる
が、俺達が今こうして公娼マンコを自由に使っているのはギリギリ
の行為なんだ。オビリス元帥からの迎えが来て、こいつらが正真正
1201
銘の公娼に戻るまでは、精液はバケツ行きだよ﹂
間抜けに口を開けて眠るセナの体を上下に動かしながら、兵士は言
った。
﹁でもよぉ⋮⋮あっ、やべ⋮⋮うごぉ!﹂
セリスを犯していた男が急に焦り声を放つ。
﹁どうした?﹂
﹁あっ⋮⋮⋮⋮い、いや⋮⋮なんでもねぇよ⋮⋮なんでも﹂
目を泳がせながら、大柄な男は言う。
﹁まさかお前⋮⋮﹂
その様子に、セナに肉棒を突っ込んだままの男が瞳を尖らせた。
周囲の視線も、自然と大柄な男へと向かう。
﹁で、出ちまった⋮⋮﹂
視線の圧力に耐えかね、大柄な男は顔を下げた状態で、セリスから
肉棒を引き抜いた。
結合部からは、白い粘液が溢れ出してきている。
﹁お、おまえ! ダメだろ! それは! 皆我慢してるんだぞ!﹂
﹁セリス様に膣内出しだとぉ! 羨ましすぎる!﹂
﹁バレたら殺されるんだぞ? ど、どうにかしないと!﹂
兵士達の輪が、恐慌状態に陥る。
﹁拭け! 拭き取れ! 膣内に入った分も全部掻き出せ﹂
﹁マンコに少しでも精液の残滓を残すなよ!﹂
自分達が今まで好き放題していたセナやユキリスを放り投げて、セ
リスの体へと男達が飛びつく。
そして各々の節くれだった指を使い、セリスの膣内に潜り込ませた。
狭い膣内に、七人程の成人男性の指が押し込まれる。
眠ったままのセリスでは有ったが、その表情が一瞬歪み、痛みを訴
えていた。
﹁掻き出せ、掻き出せ﹂
﹁掻き出せ、掻き出せ﹂
思い思いに動く七本の指。
1202
乱暴すぎる愛撫に、セリスの膣口からは己の肉体を守る為に新たな
愛液が零れ始めた。
自らの生死が掛かっている。
そう思う男達は冷静になってなどいられず、無我夢中でセリスの膣
肉を穿り回す。
この旅路の守護者はセリスだ。
セリスが居なくては、今日遭遇した親鬼にも、昨日の魔人にも、一
昨日の豚魔にも自分達は敗れ、殺されていただろう。
命の守護者の体を好き勝手に弄んでいるという背徳感を味わいなが
らも、その存在を頼りにしているのだ。
男達が狂乱の中、軍神のマンコを滅茶苦茶にしているところに、
﹁あ、あの⋮⋮膣内に残った精液だったら。オラが何とかします⋮
⋮﹂
オドオドとした声で、テビィが割り込んできた。
兵士達の輪の外で、輪姦される公娼達の姿を見ているしかなかった
滑稽な少年。
﹁こ、小僧﹂
﹁オラはずっと、公娼の掃除をやって来ました。んだもんで、マン
コをピカピカにする方法もよく知ってますだ。だから、旦那様方。
どうぞ好きなだけ、こいつらのマンコに膣内出ししてやって下さい。
ただ⋮⋮その後オラに﹃掃除﹄の時間を頂けるんだったらですけど
⋮⋮﹂
テビィは初日にセリスに膣内出ししかけたという理由で、公娼の利
用を制限されていた。
目の前で繰り広げられる肉壺の宴に、情欲の炎が燃え盛っていた。
﹁⋮⋮信じて、良いのだな?﹂
兵士達は疑念を抱きながらも、調教師見習いである少年の事を見つ
める。
ただの利用者である彼らよりも、公娼の管理者であるテビィの方が、
この窮地を乗り越えられるだろう。
1203
そう、頷き合った。
﹁では⋮⋮俺達は﹂
﹁へぇ。思う存分、膣内出ししてやって下さい。オラが、﹃許可﹄
します﹂
セリスに、セナに、ユキリスに、シュトラに、アミュスに、ヘミネ
に膣内出しする事を、無力で汚い、バケツを被った滑稽な子供が許
可した。
兵士達はその許可に従い、獣の如く公娼の体に飛びついて行った。
﹁ふんふふーん﹂
下手くそな鼻歌が聞こえる。
﹁んふふふんふふーん﹂
鼻歌の主は、小さな子供。
﹁さー綺麗にしてやるだよー﹂
朝日が昇るまで後二刻ほど残っている時刻に、地面に並べられた六
つの女体。
膣口からは白濁が零れだし、肌にはぬめりがこびり付いている。
テビィは手始めに、アミュスの体へと跨った。
﹁久しぶりだべなぁ。オラの肉便所一号﹂
開拓団陣地で毎晩の様に抱いていた女の体に、馬乗りの状態で雑巾
をかけて行く。
まずはその知性的な顔面に濡れた雑巾を押し付け、ごしごしと拭う。
そしてそのまま首に、胸に、股間に、雑巾を這わせて行く。
﹁ピッカピカにしてやるだよー﹂
体を裏返し、尻を上に向けさせてその谷間を押し開き、肛門の周囲
までも丹念に拭い取っていく。
そのまま背中を駆け登り、髪に付着した汚液を拭い取ってから、再
び体を正面に戻した。
汚れの落ちた胸の谷間に顔を埋め、全身でギュッと抱き着く。
1204
﹁ほぁぁ⋮⋮オラの玩具だ⋮⋮絶対に⋮⋮オラのもんにしてやるか
らなぁ⋮⋮﹂
乳首を摘み上げ、胸を揉みしだきながら、テビィは言い、そっと体
を起こした。
﹁マンコも綺麗にしてやるからなぁ⋮⋮﹂
無言のままのアミュスの股を開き、少し腰を持ち上げてから用意し
ていたバケツと柄杓を手元に寄せる。
そしてバケツから水を柄杓で掬い、アミュスのマンコへと宛がう。
﹁ちょっぴり冷たいけんども。驚いて目を覚ますんじゃないべー﹂
柄杓を傾け、アミュスの陰唇に水を注いでいく。
ピクりとも反応を示さない魔導士の内側を清めていく。
何度か柄杓を往復させ、アミュスの膣内が水で一杯になると、
﹁うひゅひゅ﹂
チュプ︱︱。
と凍える様に冷たい水で満たされたアミュスの膣内に、テビィは肉
棒を押し込んだ。
﹁あぁ⋮⋮んふぅぅ﹂
悶えるテビィ。
そのまま冷水で引き締まった膣肉を存分に味わい、射精する事無く
肉棒を引き抜いた。
﹁まだ穴凹は五つも残ってるだ⋮⋮きひひ﹂
アミュスの体を地面に放り捨て、次へと移動する。
ヘミネに、シュトラに、ユキリスに、セナ。
ねっとりと時間を掛けて、テビィはその体を清めつつ、汚して行っ
た。
乳首を舐めしゃぶり、陰唇をこじ開けて奥の奥まで覗き込み、肛門
に直接唾液を注ぎ込んだ。
娯楽。
少年は物言わぬ女体で遊ぶ。
溜めていた鬱憤と情欲の趣くままに、騎士達の体を弄んだ。
1205
そして最後に残ったセリス。
﹁さて⋮⋮んだば、セリス様にはたっぷりとオラの子種汁を注いで
あげますだ。どうぞ遠慮なく孕んでくだせぇ﹂
うつ伏せの状態で転がしたセリスの尻だけを持ち上げ、犬の様な姿
勢にして後ろから肉棒で責め立てる。
テビィの腰が動く度に、セリスの体が跳ね、柔らかな乳房が地面と
擦れている。
﹁セリス様ぁ! 気持ち良いですだぁ! 他のヤリマン公娼どもと
は全然違いますよぉ! セリス様のマンコは最高ですだぁ⋮⋮あぁ。
このまま開拓団に連れて帰ってオラがお世話してあげたいなぁ。毎
晩毎晩。飽きるくらいに精液飲ませてあげたいなぁぁ﹂
テビィは鼻汁を飛ばしながら、セリスの膣肉を抉り、肛門を指で押
し開く。
﹁んべぇぇぇ﹂
涎と、鼻水。
それらを直下へと垂らし、セリスの肛内へと注いでいく。
﹁セリス様はマンコも素晴らしいですけども、こっちの穴も凄いで
すだよぉ。キヒヒヒ﹂
テビィは一度肉棒を引き抜き、涎と鼻水で滑らかにした不浄の穴に
挿入し直した。
ズニュ︱︱と飲み込まれた肉棒。
﹁いひはあああああ。セリス様! セリス様!﹂
軍神の名を叫びながら、その肛門を犯す便所掃除の少年。
そこに、
﹁楽しんでおるようじゃのう﹂
押し殺した笑いを浮かべながら、一人の老人が近づいてきた。
﹁こ、これは侍従様! お早う御座いますだ﹂
テビィは慌てて挨拶をするが、その腰は止まらず、セリスの肛門を
味わい続けている。
﹁おおよいよい。邪魔をするぞ、小僧﹂
1206
リトリロイ付きの老侍従は手を振って挨拶を返すと、更に傍に近づ
き、
﹁それとごきげんよう。公娼殿﹂
ガシッ︱︱と足でセリスの頭を踏みつけにした。
うつ伏せの状態で顔面を地面に押し付けられているセリスの頭を、
更に地面へと強く押し当てていく。
﹁じ、侍従様も宜しければ、あの⋮⋮この穴をお使いになられます
だか?﹂
﹁いらぬ。このような存在が汚らわしい女など、触れたくも無い。
リトリロイ殿下ではなく、本来ならばお前達の様な輩にこそ相応し
い穢れた穴女なのじゃよ﹂
テビィがおっかなびっくり問うと、侍従は眉根を寄せて首を振った。
﹁先ほど、オビリス元帥から新たな連絡が届いた。今日の昼には迎
えが到着するそうな。ワシらはその時までこ奴を欺き、友軍に討た
せねばならぬ。殿下の方は問題無い。元帥の派遣して下さったあの
魔物がしっかりと働いてくれておる﹂
三日前、脱落者という形で兵の一人を開拓団へと差し向けたその夜
に、オビリスの下から一体の鳥型魔物が派遣されてきた。
人語を理解し、相手に依って姿を変える事の出来る魔物。
﹁殿下は昨晩も、あの魔物を話し相手にされた後、何も知らず穏や
かにお休みになられたよ﹂
侍従の策を理解したオビリスによる、細やかな演出だった。
九官鳥型の魔物がリトリロイの気を引いている事で、兵士達は露見
する心配をせずに昏睡したセリス達を犯す事が出来ていたのだ。
﹁今日のお昼ですだね。それが終われば、オラ達は陣地に戻れるん
ですか?﹂
﹁そうじゃ。そこに戻り、これまで通りの暮らしを行う。公娼達も
全て連れ帰る﹂
ゴリゴリとセリスの頭を踏みながら、侍従を笑む。
﹁オラも⋮⋮オラも前みたいに便所掃除と夜間の公娼監視に戻れま
1207
すだか?﹂
﹁そうじゃなぁ⋮⋮。この流れを作ってくれたお前の功績も無視で
きぬしのう。ワシの方からゾート殿に推薦しておいてやろう﹂
過酷な旅では無く、開拓団陣地で昼は便所掃除、夜は公娼の監視と
いう名目での独占。
テビィの顔は輝いた。
肛門から勢いよく肉棒を引き抜き、前の穴にそのまま押し込む。
﹁セリス様! 陣地に戻ったら毎日種付して差し上げますだよ! 楽しみにしていてくだせぇな!﹂
その言葉と共に、テビィはセリスの子宮目掛けて、五人の公娼の膣
で興奮をギリギリまで高めて来た精液を解き放った。
ボアルの集落にやって来たラクシェと天兵連隊に羽根落ちの女達を
預け、シャスラハール達はユラミルティの案内で次の目的地へと向
かう。
﹁ヴェナ⋮⋮﹂
シャスラハールはルルと同乗した吸血馬の上で呟く。
﹁大丈夫よ、シャス。聖騎士ヴェナ様と、あのマリューゾワが一緒
なのですもの。滅多な事は起こり得ませんよ﹂
シャスラハールと手綱に挟まれる形で座っているルルは穏やかに言
った。
﹁うん。二人が生きている事は疑っていないけど、少しでも早く、
助けてあげたい。ステアさんも⋮⋮皆、無事で帰ろう﹂
シャスラハールの馬に並走する吸血馬にはシャロンとフレアが相乗
りしていて、反対側には単騎のシロエが付いて来ている。
全員が頷き、目的を一致させる。
﹁シャスラハール殿。目的地まで後半日ほど掛かりますが、休憩は
如何致しますか?﹂
頭上からユラミルティの問いかけが来る。
1208
それに向け、
﹁休憩は必要ありません。今は一刻も早くヴェナ達を救いに︱︱﹂
﹁待って、シャス。あっち!﹂
不意にルルが叫び、手の平を開く。
そこに乗せられた葉っぱ、ルルの﹃幸運﹄魔法の依代である幸運の
葉が飛び立った。
葉っぱは猛然と飛び、シャスラハール達の進行方向から逸れた場所
へと向かって行く。
そちらに、限りなく小さな二つの人影が見えた。
﹁ユラミルティさん!﹂
﹁お待ちください﹂
少し先行していたユラミルティが翼を止め、ジッとまだまだ遠い人
影を睨む。
シャロンとフレア、そしてシロエは武器を構え警戒態勢を取る。
﹁⋮⋮驚きました。マリューゾワ殿です。そしてもう一方は魔物で
は無く人間の様子。危ないところでした、このまま進んでいると行
き違うところでしたね﹂
ユラミルティの呟きを受け、全員が顔を見合わせる。
そして、更に猛然と馬を駆った。
向こうもこちらに気づいたのか、二つの人影は距離を取って立ち、
それぞれに武器を構えた。
長剣を握りしめて直立する人影と、真上に数本の剣を浮き上がらせ
た人影。
顔は見えない。
姿もまだ定かでは無い。
だがしかし覚えている。
﹁この威圧感は⋮⋮﹂
﹁あぁ、ヴェナ様で間違いないな﹂
隣の馬でシャロンとフレアが冷や汗を流し、
﹁魔剣⋮⋮ふふ。分かり易いですね、シロエ﹂
1209
﹁えぇ、マリューゾワはやる事が目立ちますから﹂
ルルとシロエが笑っている。
そして、
﹁ヴェナあああああああああああああああッ!﹂
シャスラハールは叫んだ。
その声を聞き、ピクリと直立した影が反応する。
﹁でん、か⋮⋮? 殿下⋮⋮!﹂
人影は長剣を投げ捨て、駆け出した。
﹁何⋮⋮? ん⋮⋮これは⋮⋮、そうか、幸運の導きが有ったのか。
流石はルルだな﹂
もう一人の手元に幸運の葉が届き、そちらも脱力して空中の剣を地
面へと降ろした。
そうして再会する面々。
﹁殿下⋮⋮ご無事で何よりで御座います﹂
ヴェナは声を震わせシャスラハールをきつく抱きしめる。
﹁うん。ヴェナも⋮⋮良く戻って来てくれた﹂
シャスラハールもそれに応じ、聖騎士の豊かな胸に顔を預けた。
﹁シロエ! ルル。他の者は? ロニアはどうした? アン・ミサ
はどうなった?﹂
マリューゾワは特に感情を爆発させるわけでもなく、二人の盟友に
声を掛けた。
﹁ロニアでしたら無事です。今はハイネア王女達と共に天兵の里へ
戻っています﹂
﹁天兵の里も、アン・ミサが頑張った御蔭であの親鬼達を追い返す
事が出来たのよ。私達は連れ去られた皆を取り戻す為に、こちらの
ユラミルティさんの案内で駆け回っていたの﹂
シロエとルルが応え、傍に降りて来た裁天使へと手を向ける。
﹁そうか。君はアン・ミサのところで何度か見かけた天使だったな﹂
﹁はい。この場は主に代わりまして、マリューゾワ殿のご無事をお
祝い申し上げます﹂
1210
かっちりとしたやり取りをしている天使の背後で、フレアが口を開
く。
﹁後は姉上だけだな﹂
天兵の里から連れ攫われた仲間達。
ロニアを、ハイネアを、マリスを、シロエを、ヴェナを、マリュー
ゾワを助け出した。
残るは、あと一人。
﹁必ずお助けします。騎士長﹂
その隣で、シャロンも意気込む。
そんな二人の騎士の様子に、ユラミルティが無表情のまま振り返り、
﹁その事なのですが︱︱﹂
﹁待ってくれ。ここにシャスラハール殿下とアン・ミサの代行者が
いると言う事、これこそが正しく幸運だ。少し私とヴェナ殿の話を
聞いてくれ﹂
勢いよく放たれたマリューゾワの声に、ユラミルティの事務的な小
さな声は潰される。
﹁そうですね。殿下、わたくし達が捕らえられていた場所にマリア
ザート先輩が現れたのです﹂
ヴェナもまた、それに頷き、シャスラハールへと説明を始めた。
﹁大騎士マリアザートが? ど、どういう事?﹂
仰天するシャスラハールを見、マリューゾワは更に口を動かす。
﹁彼女だけでは無い、私の従妹であるアルヴァレンシアが率いる解
放軍、四十四人のかつて公娼であった者達が現れたのだ﹂
その言葉に、シャスラハール達は一斉に息を飲んだ。
﹁四十四⋮⋮?﹂
﹁解放軍?﹂
シャロンが数字に、シロエが名称に驚きを示す。
﹁あぁ、公娼⋮⋮そして自身の境遇からの解放を謳った集団だ。リ
ーベルラントの者も、リネミアの者も、ミネア修道院の者も居た。
その者達が、私達との合流の条件に挙げたのが、シャスラハール殿
1211
と管理者アン・ミサとの面会だ﹂
マリューゾワが語る、解放軍の存在。
復讐の為では無く、ただ自分達を押し潰す過酷な運命に抗う為に身
を寄せ合っている集団。
指導者であるアルヴァレンシアの下、マリアザート他有力な戦士達
が集い、西域を転々として新たな生活の場を得る為に戦っていたら
しい。
﹁戦力増強と言う側面も有りますが、何より彼女達には西域の、管
理者アン・ミサの庇護が無い。このまま消耗するだけの戦いを繰り
返していては、いずれは全力を出したゼオムントか、親鬼の様に強
力な魔物の種族に敗れてしまうかも知れません。その前に、わたく
し達と手を取り合う事が出来ればと思います﹂
ヴェナが締め、シャスラハール達は顔を見合わせる。
失われた仲間探しは未だ終わってはいない。
ステアと、そしてゼオムントに連れ攫われたセナやユキリスの事も
有る。
一秒が惜しい事態では有るが、解放軍という存在の中にも、かつて
公娼達が人間であった頃に縁を結んでいた者達が居る。
﹁⋮⋮殿下﹂
不意に、フレアが口を開いた。
﹁フレアさん⋮⋮?﹂
﹁姉上だったら、こんな時に自分一人を優先させて、他の皆を危険
に晒す様な事は望まない。わたしは騎士長ステアの妹として進言し
ます。解放軍と合流しましょう﹂
目元を髪で覆い隠し、フレアは言った。
﹁⋮⋮わかりました。必ず解放軍を説得し、その後ステアさんを救
出しましょう﹂
シャスラハールが断言し、騎士達は一斉に頷いた。
そこに、
﹁一つ問題が御座います。先ほど管理者の庇護と申されましたが、
1212
現在この地の管理者権限はアン・ミサ様からラグラジル様へと移行
しております。この場合会談に必要なのはアン・ミサ様の許諾では
無くラグラジル様の許諾となります。私はアン・ミサ様から一部の
代行権を頂いてはおりますが、ラグラジル様からは何も頂いてはお
りません﹂
小さく手を挙げたユラミルティの事務的な声。
﹁なんだと?﹂
﹁ラグラジルが⋮⋮ですか?﹂
天兵の里騒乱の結末を知らないマリューゾワ達には初耳の事だった。
﹁ラグラジルは僕達の事を疎んでいた⋮⋮ここに来て更にそれだけ
の人数が増える事に同意するかどうか⋮⋮﹂
魔天使ラグラジルとシャスラハール達の間には深い因縁がある。
享楽的で利己主義なあの魔天使に対し、どう説得すれば良いのか、
皆無言のまま首を捻る。
﹁私にラグラジル様の代理権限が無い以上、会談に同席したとして
も実りのある発言は致しかねます﹂
ユラミルティがそう言って、追い打ちをかけた。
重い沈黙が場を支配した時、
漆黒の闇の輪が開いた。
手の平を重ねて作った程度の異空間。
そこから声が放たれる。
﹃許可するわ﹄
聞き覚えのある、薄く嘲笑を纏った声。
﹁ラグラジル⋮⋮﹂
﹃久しぶりね、シャスラハールとその肉便器達﹄
魔天使ラグラジルの異空間魔術。
﹁近くにいるのですか? ラグラジル!﹂
シャロンが周囲を警戒する。
魔天使のこの魔法は現実世界に異空間の箱庭を作り出す代物であり、
その行使の為には術者であるラグラジルが近くに居なければならな
1213
かったはずだ。
﹃残念。ワタシは今宮殿の自室でお茶の時間。管理者に戻る段階で
色々有ってこの前までのワタシとは魔力が桁違いなのよ。だから遠
距離でも自由に魔法が使えるってわけ。ところでね、雑務は何でも
アンがやってくれるから楽なんだけど、その分時間を持て余しちゃ
っててね﹄
愉しげに魔天使は笑った。
﹃ユラミルティ。面白そうだから許可するわ。解放軍⋮⋮だったか
しらね? その連中を迎えに行ってあげなさい。今回の件に関して
だけ、貴女をワタシの代行にしてあげる。これから先、この任務が
終わるまではワタシの言う事に絶対服従よ。分かったわね?﹄
その声に、
﹁⋮⋮畏まりました。ラグラジル様﹂
ユラミルティは姿の見えぬ主に礼を取った。
﹃あぁそれと、アンに報告は不要よ。あのこはちょっと忙しいみた
いだから。ハイネアちゃん達が戻って来てから治療﹃とか﹄でね﹄
思わぬところからハイネア達が無事に帰還できたという情報が届き、
シャスラハール達、特にシロエが安堵の表情を見せる。
﹁それじゃあラグラジル。僕達は行って来るよ。解放軍を迎えに﹂
シャスラハールが言うと、
異空間が笑った。
﹁えぇ。頑張ってね。⋮⋮無事に戻って来られると、良いわね﹂
最後の言葉はとても小さな声に、膨大な量の悪意を込めて放たれた。
﹁お姉様! シャスラハールさん達とはまだ連絡が取れませんか?
大至急お伝えしなければいけない事なんです!﹂
魔法を消し、自室で優雅に茶を啜っていると、血相を変えたアン・
ミサが飛び込んできた。
ラグラジルはカップを置き、瞳を閉じて首を振った。
1214
﹁ワタシの魔法で姿は見えるわ。でもね、まだ完全に魔力が戻って
ないみたいだから、遠隔で声を届ける事は無理みたい。じれったい
わね。危険が迫っていると言うのに、何にも出来ないだなんて⋮⋮﹂
言葉の上では、そう紡いだ。
内心の邪悪な笑みは零さない。
﹁ハイネアさんやリセさん、ロニアとマリスさんの体にも、新たな
呪いが加えられていました。今の状態ではマリューゾワ達は戦えな
い。もし敵と出会ってしまったら、何もできないまま捕まってしま
うしかないのに⋮⋮あぁ﹂
アン・ミサはやつれた表情で言い、両手で顔を覆った。
負傷していたハイネアの治療を行った際に、アン・ミサは彼女の体
に邪悪な呪いを発見し、その効果を知って取り乱した。
﹁⋮⋮連絡を取る方法は、ワタシの魔法以外には無いのよね?﹂
ラグラジルの沈痛を装った言葉。
﹁⋮⋮はい。天兵は全てラクシェと共に出払っていますし、わたく
しとお姉様は束縛魔術によってこの里から外に出る事は出来ません。
今から吸血馬を出したところで、向こうも同じ馬を使っている以上、
追いつくには時間がかかり過ぎます。もう、お姉様の魔法だけしか、
残っていません﹂
沈痛な響きしか込められていないアン・ミサの声。
﹁そう⋮⋮じゃあ信じるしかないわね。あの人間達の幸運を﹂
妹から顔を逸らし、魔天使は歪んだ笑みで言った。
顔を覆ったままのアン・ミサはそれに気づかずに、
﹁はい⋮⋮。あぁ、ユラミルティ。どうか皆さんを導いてあげて⋮
⋮﹂
マリューゾワとヴェナを送り出した直後に、偵察からゼオムントの
小隊を発見したとの報告を受け、解放軍は全員で戦いへと向かった。
﹁ゼオムントの雑兵⋮⋮か。我一人でも事足るが、皆の溜まった鬱
1215
憤を晴らす良い機会でもある。一人か二人捕虜にし、残りは殺せ。
報いと、我らの新たな生の為を祝福する為の贄としてやろう﹂
アルヴァレンシアは対峙する敵軍の貧相な陣容を見て、後ろに控え
た仲間達に号令した。
解放軍の戦力は一騎当千とも言える公娼が四十四人。
対するゼオムントの軍は五十名ほど。
見るからに貧相であり、戦慣れしていなさそうな男達を見て、幾人
かの公娼は鼻を鳴らして笑った。
﹁それでもこちらに挑んで来ようとする気概だけは買いましょう。
一撃の下、息の根を止めて差し上げる﹂
アルヴァレンシアの隣で、マリアザートが愛用の槍を構えて言った。
それぞれ構えを取る公娼達と、引き攣った表情でこちらを見て震え
ているゼオムント兵。
勝敗は、明らかだった。
誰がどう見ても、解放軍がゼオムントを蹂躙する。
その未来しか見えてこなかった。
はずだった。
﹁そこの肉便器共! 良いか! 俺の言葉をよぉく聞け!﹂
ゼオムント軍の先頭に立った大柄な男が吠えた。
﹁魔導元帥オビリスの西域攻略軍、小部隊長のグヴォン様だ!﹂
そこで更に公娼達から失笑が零れる。
﹁部隊長とはな⋮⋮﹂
﹁将官でも無いとは⋮⋮。やはりただの偵察部隊なのでしょう﹂
アルヴァレンシアとマリアザートもまた、ため息を零す。
﹁これから俺達は、お前達に﹃戦を仕掛ける!﹄お前達を﹃殺し﹄
﹃息の根を止め﹄﹃あの世へ向かわせてやる﹄。万が一俺達が負け
るような事が有ったとしても、後続の本隊がやって来てお前達の事
を﹃根絶やし﹄にするまで﹃殲滅﹄するからな! よくよく心に刻
め! お前達を﹃殺す﹄者の言葉だ! ﹃死ぬ﹄前に慈悲を乞うの
ならば、その﹃命﹄だけは助けてやらんことも無いぞ。残りは全部
1216
﹃皆殺し﹄だがな!﹂
言葉としても意味としても、重複の多い言葉を吐いたグヴォンの大
音声。
始めは薄い笑みでその言葉を聞き流していた公娼達だったが、
﹁ど、どうしたのです? 立ちなさい!﹂
マリアザートは蒼白な表情で言った。
彼女の後ろに控えていた戦士達が、次々によろめき、地面に膝を突
き始めたのだ。
﹁い、いや⋮⋮死にたくない。死にたくないよぅ﹂
﹁生きていたい! どんなになっても⋮⋮精液便所でもアナル奴隷
でもなんでも良いから⋮⋮﹂
﹁お願いします! 助けて下さい! 助けて下さい!﹂
涙を流し、命乞いを喚いている。
﹁⋮⋮どういう⋮⋮事だ⋮⋮?﹂
アルヴァレンシアは全身を冷気で舐め尽くされている様な感覚に支
配された。
グヴォンが放った死を連想させる言葉の洪水が、心の奥底を直接打
ちのめして行く様な、恐ろしい感覚。
﹁そうか! ﹃死に﹄たくないか! ならばまず公娼である事を証
明しろ! 股を開け!﹂
グヴォンの大声に、座り込んでいた公娼達は惨めな悲鳴を上げなが
ら反応した。
﹁は、はぃぃぃ﹂
﹁し、下着が取れない! 死にたくないからこんなのいらないいい
いいい﹂
自らの手で大きく股を割り開き、邪魔な下着を剥ぎ取って天地に晒
す。
﹁お、お前達⋮⋮﹂
アルヴァレンシアは寒気と戦いながら、呆然と声を漏らす。
﹁良いか? お前達がこれからも生きて行く為には、公娼として毎
1217
日チンポを咥え、迎え入れて射精を懇願するしかない。男達の亀頭
がお前達の方を向かなくなった時が、お前達の﹃死ぬ時﹄だ。﹃死
に﹄たくなければチンポを欲しがれ!﹂
笑みを含んだグヴォンの叫びに、
﹁チンポ! チンポを下さい!﹂
﹁わたしのマンコに、アナルに、お口にチンポを頂戴!﹂
﹁好きなだけズボズボして下さい! 毎日チンポを下さい!﹂
哀れな声で、泣き叫び、己の股を限界まで抉じ開けてねだる公娼達。
﹁⋮⋮一体、何が⋮⋮この、悪寒は⋮⋮﹂
マリアザートは槍を取り落しながら、胸に手を当てる。
心臓が暴れていた。
狂ったように動き回り、止まる事を恐れていた。
死にたくない。
死にたくない。
生きていたい。
生きていたい。
心の全てが、その衝動で埋め尽くされて行く。
﹁⋮⋮ほう。二人ほど立っているか。中々の精神力だな﹂
グヴォンが舌で唇を舐める。
﹁わ、我らに何をした⋮⋮﹂
魔蝶公主アルヴァレンシアはそれをキッと睨みつける。
﹁俺は何もしてねぇよ。ただ貰った文章を読み上げただけだ﹂
グヴォンは手にした一枚の紙をヒラヒラさせる。
﹁だったら⋮⋮これは何なのですか?﹂
大騎士マリアザートは蒼白な顔で言った。
﹁そりゃあ⋮⋮公娼の新機能って奴さ﹂
歪んだ笑みで、グヴォンは紙を仕舞う。
﹁オビリス元帥の第三魔法。乞命魔法の効果さ! お前達は死、或
いは死を連想させるものに直面した時、誇りや自我何てものを放り
捨てて無様に命乞いをするしかなくなる。どんだけ心が高潔だろう
1218
が、技量に差が有ろうが、死を意識したその瞬間にお前達は名誉よ
りも命を選んで、誇りを捨ててマンコを差し出すしかなくなるのさ
!﹂
その宣言に、二人の公娼は絶句した。
﹁さぁて、立ってられるのもここまでだな⋮⋮﹂
グヴォンが片手を上げる。
﹁ま、待て!﹂
アルヴァレンシアの引き攣った叫び。
﹁止めなさい!﹂
マリアザートの必死の声。
そのどちらをも無視し、グヴォンは手を力強く振り下ろした。
﹁総員、抜剣!﹂
グヴォンに率いられた五十名の兵士達は、この時ようやく腰から武
器を取った。
貧相な兵士が貧弱な武器を手にしたのを見た瞬間に、
﹁あ、ああああああっいやだ! 助けてくれ! 我のマンコだった
らどれだけ好きにして貰って構わぬ! し、知っておるか? わ、
我が名はアルヴァレンシア。公娼として、け、結構人気も有ったの
だ。おしゃぶりも、セックスも、アナルだって、あ、ああとダンス
も出来るぞ。な。助けてくれ! 頼む!﹂
﹁んひぃぃぃぃぃぃ。お願いします! 命だけは。命だけはお助け
下さい。スピアカントの大騎士マリアザートが貴方のチンポ奴隷に
なります。あ、貴方だけじゃありません。貴方の紹介して下さる方
皆のチンポを喜んで受け入れますから。ね、お友達作りや子供の玩
具なんかにもなりますから。私のマンコで良ければ! なんにでも
使って下さって構いませんから!﹂
魔蝶公主アルヴァレンシアと大騎士マリアザートは滑稽な悲鳴を上
げて、地面に這いつくばって命乞いをし、すぐさま服を脱ぎ去った。
1219
公娼の価値︵前書き︶
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1220
公娼の価値
清潔な白い部屋。
突き出された白く丸い尻に、そっと手を当てる。
﹁ハイネアさん。それでは、行きますね﹂
智天使アン・ミサの真剣な声。
﹁⋮⋮よろしく頼む﹂
尻を突き出した姿勢で床に突っ伏したハイネアは、冷や汗を垂らし
て頷いた。
ポゥ︱︱とアン・ミサの掌が輝き、魔法を発動させる。
治癒。
切断された四肢を一瞬で治し、どれほど強力な呪いをも解いてしま
う智天使の力。
しかし、
﹁⋮⋮駄目です。刻印が消えない限りは、新しい呪いは消失しませ
ん﹂
ハイネアの肛門と膣口のちょうど中間に手を添え、彼女の内側に刻
まれた刻印へと魔力を注ぎ込む。
そこに向けて放たれた癒しの波動は何ら効力を発揮する事無く、霧
散した。
ゼオムントの魔法技術の粋を持って作られた公娼刻印。
オビリスだけでは無く、ゴダンやその他大勢の実力者達の力を結集
した刻印の前には、如何なアン・ミサで有ったとしても敵わなかっ
た。
﹁そ、それではシロエさん達は⋮⋮﹂
傍らで儀式をジッと見つめていたリセが口に手を当てて震えている。
﹁はい⋮⋮。精神に枷を掛けられ、命を賭した戦闘をする事は不可
能でしょう⋮⋮﹂
1221
ハイネアの刻印を探りながら、アン・ミサは唇を噛む。
﹁⋮⋮やっぱり、馬で知らせに行くしか無いんじゃないですかねー。
マリスが行ってきますよ﹂
﹁そうだな、アタシも行く。このままだとマズイ。全滅してしまう﹂
マリスとロニアが立ち上がり、仲間達に危機を知らせに行こうとす
るが、
﹁しかし、今の貴女達ではいくらわたくしの通行許可証が有ったと
しても、親鬼やゼオムントに見つかってしまっては無抵抗のまま囚
われる事になりかねません。二重三重の遭難になってしまいます﹂
アン・ミサの言葉に顔を俯け、足を止めた。
重い空気が流れ込んだ。
公娼の体にもたらされた新たな変化。
アン・ミサはそれに気づき驚愕した。
精神の序列を操作する魔法。
命を守るという生物の根幹を最大限に刺激し、誇りや名誉、魂を無
視させる邪法。
﹁せめてラクシェと連絡が取れたら⋮⋮﹂
シャスラハールに同行する公娼達に早く知らせなければならない。
この呪いの事を知らずに敵対勢力と出会えば、彼女達は何も出来な
いまま敗れてしまう。
友人を、同盟者を救う為に今何が出来るか。
アン・ミサは必死で頭を悩ませ、ハイネア達に協力を仰いで呪いの
分析を行っていた。
しかしハイネアと同様に、リセやマリス、ロニアの刻印にも同じく
治癒の効果は発揮されず、刻印は彼女達の体の内側で今も怪しく輝
き続けている。
無力さが己を苛む。
ハイネア達も同様に、外へ出ている仲間達の身を案じ、険しい表情
を浮かべた時、
﹃⋮⋮よぉ﹄
1222
声が生まれた。
少年と青年の狭間の声。
人間達は始め驚き、そしてすぐに臨戦態勢を整えた。
リセはハイネアを抱き、マリスとロニアは出入り口へと武器を構え
る。
彼女達は知らない。
この声の持ち主の事を。
﹁⋮⋮お父様﹂
しかし、﹃娘﹄であるアン・ミサは知っていた。
クスタンビアに与し、自分達に消せない傷を戯れで負わせた男の事
を。
﹁何の用件でしょうか⋮⋮。今は貴方のお相手をする余裕は無いの
ですが﹂
周囲に気を張り、棘のある声を放つと、
﹃そう邪険にするな、娘よ。困っているのだろう? 無力な父では
有るが、出来る限り娘の役に立ってやろうと思い、せっかく出張っ
て来てやったのだからな﹄
淡く笑いの籠った声。
﹁貴方に何が出来るのですか、わたくしやお姉様はもう、貴方の意
のままには動きません。それに唯一の手駒とも言えるクスタンビア
は行方知れず。貴方に出来る事と言えば︱︱﹂
そこで、アン・ミサはハッとして固まる。
﹃そうさ、アン。俺の娘よ。今の俺に出来る事は、誰かの耳元に言
葉を届けるくらいだけだが。今まさにお前が欲しているのは、そう
いう力じゃなかったのかな?﹄
この世の欲望が、そう語り掛けて来た。
﹁もうだいぶ進んで来たな。天使の里まであまり無いだろう。皆、
よく耐えてくれた﹂
1223
リトリロイは行軍中に周囲の兵士達へと労りの声を掛けた。
﹁滅相もございません、殿下。俺達はただ付いて来ただけですから﹂
﹁そうですよ。全てはセリス様の武勇が有ってこそ、この危険な旅
路を乗り越えられたのですから﹂
﹁セリス様が居て下さって、俺達は本当に感謝しています。毎日毎
日励まされっぱなしです﹂
兵士達はにこやかに応じ、首を振った。
﹁そうか。そうだな、セリスには何か褒美を渡さないとな﹂
リトリロイが言い、一行の先鋒を務める愛妻へと視線を送った。
﹁⋮⋮本当に、よく働いて下さった﹂
﹁ん? 爺やどうした?﹂
傍らに立つ老人がポツリと呟いた言葉に、リトリロイは反応する。
﹁殿下を守り、兵を励ました事。セリス様でなくては出来なかった
事でしょう。しかし事の発端は全て、ご自身の邪な夢に因るもの。
いい加減に、叶わぬ夢に殿下を巻き込むのはお止めいただきたい物
ですなぁ﹂
呪詛の様な囁き。
﹁⋮⋮爺や﹂
リトリロイは足を止め、自分に長年仕えて来た老人を見やる。
﹁殿下、戻りましょう。ゼオムントへ。貴方の国へ﹂
光を宿さない瞳で、老侍従が声を向ける。
﹁あの様な女に誑かされ、覇者の栄光を捨てる等と実に愚かな話で
す。ゼオムントに戻り、父王陛下に許しを乞い、また元の暮らしに
戻りましょう。セリスめの事ならばご安心ください。どうしてもと
仰るのならば、ゾート殿に頼み、肉穴奴隷として完璧に調教し、性
玩具としてお手元に置いておきましょう﹂
訥々として語られる声に、リトリロイは呆気にとられた表情を向け
る。
﹁い、いったい何を言いだすんだお前は﹂
﹁大丈夫でございます。既に私の方から国元への連絡は付けてござ
1224
います。じきに、オビリス元帥からの迎えが参る頃でしょう﹂
その言葉に、リトリロイはようやく察した。
﹁お前は⋮⋮裏切ったのか!﹂
﹁⋮⋮いいえ。身を挺しての諫言でございますれば。私は常に殿下
の為にと務めている所存でございます﹂
慇懃に礼をする老侍従の背後で、これまでにこやかに会話をしてい
た兵士達が真剣な表情を浮かべているのを見て、
﹁お前達もか⋮⋮ッ! セリス!﹂
リトリロイが叫んだ一秒後には、彼の肩を手で押して、そっと背中
に庇う様にして人影が立っていた。
騎士公娼セリス。
リトリロイの妻にして、リーベルラントの軍神。
﹁⋮⋮主君の為と言い、その実保身の為に主を裏切る。貴方達もリ
ーベルラントを売ったあの屑文官共と同じなのかしらね﹂
瞳に炎を湛え、セリスは侍従と兵士達を見据える。
﹁黙れ⋮⋮。貴様さえ居なければ、ワシは殿下の下で栄達の極みに
達し、息子もこの様な野蛮な土地で死ぬ事は無かった。全ては貴様
が! リトリロイ殿下を誑かしたからではないか!﹂
侍従は吠えながら、一歩ずつ後ろに下がっていく。
兵士達はその体を守る様にして壁を作り、剣をこちらへ向けている。
セリスの背後にはリトリロイが居ると知りながら。
﹁⋮⋮お前達にはわからないだろうけれど。私とリトは戦ったのよ。
リーベルラントの軍神セリスと、ゼオムントの王子リトリロイは戦
場では無く心で戦ったの。そして私が勝った。リトは敗北を受け入
れ、私の力になると約束した﹂
セリスとリトリロイの間に起きたのは、恋愛という言葉では語れな
い戦争。
セリスは復讐者としてリトリロイを制圧する為に、リトリロイは征
服者としてセリスを愛する為に、全力で戦った。
結果、セリスはリトリロイを手に入れ、リトリロイはセリスの傍に
1225
居る事を誓った。
﹁大層な事を言っているが、その身分の合わない⋮⋮王子と公娼の
恋愛などという物は確かに存在する事なのじゃろうか?﹂
薄ら笑いを浮かべ、侍従は言った。
﹁お前達、手を挙げろ﹂
そう声を掛けられ、兵士達もまたニヤニヤ顔で手を挙げる。
一行の端に居たテビィも挙げている。
﹁何だ⋮⋮?﹂
セリスとリトリロイは眉を顰め、兵士達を睨みつける。
﹁殿下にも手を挙げて頂きたいところじゃが、それは些か不遜な話
じゃからなぁ﹂
侍従は顎に手を当て、笑みを深くする。
﹁爺や、一体何のことだ﹂
リトリロイは近しい者の裏切りに動揺しながら問う。
すると、
﹁今手を挙げたのは皆、セリス様とまぐわった経験の有る者達でご
ざいますよ、殿下﹂
老いた声がさも愉しげに、そのような言葉を紡いだ。
﹁な、に⋮⋮?﹂
﹁ふっ⋮⋮﹂
呆気にとられたリトリロイと、冷笑を浮かべるセリス。
﹁何を言いだすかと思えば、でまかせを持って私とリトの間を裂こ
うなどと︱︱﹂
﹁右の乳首の横に黒子が有りました﹂
セリスの言葉を遮る様にして、兵士の一人が声を放った。
﹁ケツ穴は頑張れば指が三本入るくらいまで広がりました﹂
﹁マンコは狭いっすね。結構すぐに子宮口までチンポが届きました
よ﹂
続けざまに放たれる、野卑た声。
﹁⋮⋮なっ⋮⋮﹂
1226
セリスの口から、驚愕の声が漏れる。
﹁ふはは。どうですかな? 殿下。殿下もご存知では無いのですか
? セリス殿の右乳首横の黒子を、尻穴の拡張具合を、膣の奥行き
を﹂
侍従は狂ったように笑い、顔をリトリロイへと向ける。
﹁いや⋮⋮しかし、そんな暇は無かったはずだぞ⋮⋮セリスは常に
俺と⋮⋮﹂
愛妻の肉体的特徴を熟知するが故に、動揺を隠せないリトリロイは、
それでも妻を信じる言葉を作った。
﹁あぁ⋮⋮。そうでございますね。セリス殿が悍ましい不義に浸っ
ておられる間、私の方で殿下の御心を苦しまれぬ様にと、細やかな
がら身代わりを用意致しておりました﹂
そう言って、侍従は右腕を曲げた状態で空へとかざす。
そこへ上空から一羽、見慣れぬ鳥が降りて来た。
侍従の腕を止まり木に、身繕いを始める魔鳥。
そのくちばしが開き、
﹃リト。リト、頑張りましょうね。今は辛いだろうけど、一歩ずつ
前へ進みましょう﹄
セリスの声色を発した。
﹁⋮⋮爺や⋮⋮﹂
﹁この鳥は、対象に合わせて姿を変える事が出来るそうです。殿下、
この三日間、貴方様が夜毎語り明かしていた者は、貴方の妻では無
く、私が用意した幻でございます。本物のセリス殿は、この兵士達
と仲良く盛り合っていたのでございますよ﹂
その言葉に、
﹁リトッ!﹂
セリスの吠える声がかぶさった。
﹁私は知らない。そんな事実は無い。昨日も、一昨日も、その前も
︱︱﹂
言いさした言葉が止まる。
1227
奇妙に感じていた記憶の欠落。
夕食を摂った後からの記憶が途切れ、気づけば朝を迎えている違和
感。
度重なる魔物の襲撃を相手にし、蓄積された疲労が原因かとも考え
ていたが、
﹁まさか⋮⋮お前、私の体に何かを盛ったのか!﹂
セリスは抜剣し、侍従を睨みつける。
﹁如何な軍神殿でも、肉体の内側までは強化できますまい。ふふ⋮
⋮穏やかな顔で間抜けに眠る貴様の膣を、ここにいる全員が味わっ
たのじゃよ。この三日の間にな﹂
侍従を囲んでいる兵士達が浮かべる下品な笑み。
彼らの好色な視線はセリスの肉体に突き刺さる。
﹁ッ⋮⋮﹂
湧き上がる嫌悪と怒りで、セリスの視界が白く染まる。
その瞬間、
﹁爺や⋮⋮。いや、お前は⋮⋮そんな事をしでかして、俺が素直に
いう事を聞くと思っているのか?﹂
セリスを抜き、リトリロイが前に出た。
その表情は、苛烈な怒りに彩られていた。
﹁命が要らないというのなら素直にそう言え。セリスの手を煩わせ
るまでも無い、俺がお前を、お前達全員を殺してやる﹂
腰に提げた宝剣を抜き、リトリロイが吠え立てる。
愛する者を汚された怒り。
そして、長年信じて来た者に裏切られた悲しみ。
それらの感情が今、リトリロイの内側で暴れまわっていた。
﹁⋮⋮無論。殿下がお怒りになるのも予想しておりました。しかし、
我らの話を真剣に聞いて頂ければ、きっとご納得頂けるものと信じ、
私は魔導長官の助力を乞いました。一先ずは、開拓団陣地に戻りま
しょう。そこでゆっくりと話をさせて頂きます。御身の成すべき事、
ゼオムント王族としての役割を、今一度この爺やめが殿下にご指導
1228
させて頂きます﹂
その言葉と共に、侍従は身を引く。
兵士達もその動きに合わせ、一歩二歩とリトリロイ達から距離を取
った。
﹁待て!﹂
﹁オビリス元帥に迎えを要請しておりました故に、どうぞ殿下⋮⋮
大人しく付いてきて下され。臣としてあまり、手荒な真似は致しと
うございません﹂
追いすがるリトリロイに向けて、侍従が声を放つ。
そこに、
﹁グギャアアアアアアアアアオン!﹂
ケダモノの咆哮が響き渡った。
﹁リトッ!﹂
セリスが慌ててリトリロイの肩を掴み、自分の後ろへと押し戻す。
﹁殿下。オビリス元帥の元へ参りましょう。今ならば、貴方の復権
は可能でございます。その様な毒婦はここでケダモノの餌にでもな
っていれば良いのですよ﹂
唇をひん曲げ、侍従が言う。
その言葉を証明するかのように、先ほどまでリトリロイが立ってい
た位置に、魔物が降り立った。
有翼の巨大な人型の魔物。
﹁ガーゴイル⋮⋮そう呼ばれる種族だそうでございます。一体で凡
そ完全武装の騎士二十名ほどの戦力だとか﹂
そのガーゴイルが、少なくとも三十体。
大地に降り立つ者、空から見下ろす者。
その全てが、セリスを狙っていた。
﹁リト⋮⋮下がっていて﹂
セリスはリトリロイから離れ、ガーゴイルへと近づいて行く。
静かな歩みで、握る長剣には無駄な力が込められてはいない。
﹁如何な軍神とは言え、この数の魔物に空と地上から挟み撃たれて
1229
は︱︱﹂
侍従が得意げに言葉を作っている最中。
一体のガーゴイルが両断された。
右肩から左腰までを斜めに切りつけられ、滑る様にして二つの肉塊
へと別れていった。
﹁⋮⋮私を汚し、リトを騙した罪。ここで償って貰うわ﹂
セリスは侍従達へと接近しながら、襲い掛かるガーゴイルを切り裂
いていく。
一刀ごとに確実に一つの命をもぎ取っていくその力。
侍従達はその時にようやく気付いた。
自分達の浅はかさと、その運命に。
昨晩まで自分達が好きなように犯していた肉穴の持ち主が今、血飛
沫を上げながら迫って来ていた。
﹁ひっ! やれ! 殺せ! うあああああああああ﹂
悲鳴を上げながら、侍従と兵士達は潰走する。
セリスもその背を追おうとするが、割って入って来るガーゴイルの
群を切り伏せながらなので、差を埋める事が出来ない。
ほんの数分。
セリスがガーゴイルを殺し尽くすのに要した時間で、侍従達は遠く
まで逃げ去ってしまった。
﹁⋮⋮﹂
遠くなる背中を睨みつけるセリスに、背後からリトリロイが近づい
てきた。
﹁⋮⋮セリス﹂
﹁⋮⋮リト。ごめんなさい﹂
セリスは振り返らずに、小さく謝った。
﹁謝らないでくれ﹂
﹁貴方以外の人に触れさせてしまった。眠らされていたとは言え、
全ては私が油断したから⋮⋮﹂
セリスはそのまま一歩ずつ歩き始めた。
1230
リトリロイもそれに続く。
﹁こっちを向いてくれ! セリス!﹂
﹁でも、これでちょっとだけ⋮⋮セナ達に顔向けできるのかも知れ
ないわ⋮⋮ううん、違うわね。あの子達の方が何倍も酷い目に遭っ
て来たのだから、私がこう考えるのは、彼女達に対する冒涜ね﹂
か細く、震えている小さな声。
フラフラと前に進みながら、セリスは続ける。
﹁たった二十人くらいに、三日間、好きに犯されただけだもの。そ
んなの、セナ達が過ごして来た地獄の日々に比べたら、些細な事で
しょうね﹂
﹁セリスッ!﹂
リトリロイがセリスの肩を掴む。
﹁貴方には本当に悪いと思ってるわ⋮⋮罵倒してもらっても全然構
わない﹂
﹁そんな事するものか! 俺はお前を愛している! むしろ俺の方
こそ︱︱﹂
強引に振り向かせたセリスの瞳には、涙が溜まっていた。
自分の体が知らない間に男達の玩具にされていた。
女ならばその事を知って、涙を流さないはずはない。
リトリロイは一度言葉を飲み込んでから、
﹁俺の方こそ、あいつらを信頼して、何も気づけなかった、だから
︱︱﹂
﹁お願いリト。あまり優しい事を言わないで頂戴﹂
セリスはリトリロイを押し退け、前へと進む。
﹁私はずっと戦って来た。自分の良心とね。自分の心を殺して、セ
ナ達を見捨て続けて来たの。祖国の為、復讐の為って割り切って。
だから、これくらいは余裕。自分の心を殺すのには慣れたわ。ただ
本当に、貴方には申し訳ないって思う。それだけよ﹂
涙を指で掬い、空中に放り捨てながらセリスは言った。
﹁私は貴方を利用して、セナ達を身代わりにして、自分の復讐心を
1231
満たそうとしているだけの女なの。だから、慰めは要らないわ﹂
言い放たれた言葉を受け止め、リトリロイは両目を瞑って頷いた。
﹁⋮⋮そうだな。わかった﹂
セリスはその言葉を背中で受け止めながら、この騒動を少し離れた
場所で眺めていた公娼達へと近づいて行った。
﹁いい気味ね。どうかしら、自分の体を玩具にされた気分は﹂
五人の公娼の中から、アミュスが皮肉気な声を放つ。
﹁⋮⋮酷い気分よ﹂
セリスは真っ直ぐにそちらを見ながら、返事をした。
﹁私達はそれをこの三年間ずっと、繰り返し! 毎日味わって来た
の! たぶん経験人数なんてのを数えたら千は軽く超えて、万に近
くなるわ。それに比べたらたった二十人ちょっとじゃない。笑いな
さいよ。自分は幸せだって。私達みたいな汚れきった奴らよりはよ
っぽど体が綺麗なままだって!﹂
噛みつかんばかりに迫るアミュスに、セリスは口を閉ざした。
﹁騎士団長⋮⋮﹂
セナはその表情を見つめ、複雑な視線を向ける。
シュトラとユキリスは押し黙り、ヘミネはまだ何かを言い募ろうと
しているアミュスを押さえている。
その時、
﹁馬蹄⋮⋮っ!﹂
セリスはハッと顔を上げ、侍従達が逃げ去って行った方向を見つめ
る。
﹁十⋮⋮五十⋮⋮百⋮⋮そんな⋮⋮ッ﹂
リーベルラントの騎士には馬蹄で数を計る技術が備わっている。
セリスは地面に耳を当てて音を探り、舌打ちをした。
﹁リト、まずいわ。追手よ。騎馬だけでも数千﹂
振り返り、夫へと向けて叫んだ。
﹁⋮⋮オビリスか⋮⋮﹂
先ほど侍従はオビリスの迎えがこちらに向かっていると口にしてい
1232
た。
セリスが殲滅したガーゴイルはあくまで尖兵であり、本隊がやって
来たという事だろう。
﹁逃げられる⋮⋮か?﹂
リトリロイの言葉に、セリスが首を振った。
﹁徒歩の私達ではすぐに追いつかれてしまう。ここはだいぶ開けた
土地だし、隠れるのも難しいわ﹂
先日振った雪が僅かに残った平原。
見渡す限りでは、岩場や森と言った潜伏に適した場所は見当たらな
い。
﹁どうする? ここでオビリスに捕まったら、俺は国に戻されるし、
お前はどうなるかわからないぞ⋮⋮それに﹂
そう言って、リトリロイはセナ達の方を見る。
﹁⋮⋮えぇ⋮⋮セナ達はまた開拓団陣地に戻されてしまうわね﹂
﹁今あそこには二十万の兵と五万の開拓民が居るはずだよな⋮⋮一
度捕まってしまうと、今度こそもう俺達もこいつらも脱出は出来な
いぞ﹂
リトリロイの言葉を聞いて、公娼達の顔色が真っ青になった。
﹁二十⋮⋮五万⋮⋮﹂
﹁え⋮⋮私達、これから⋮⋮そんな数を相手に⋮⋮﹂
ユキリスの呆然とした声に、シュトラの震える声が続く。
﹁は、ははははは⋮⋮聞いた? ヘミネ⋮⋮二十五万って⋮⋮。一
日頑張って五十人を相手にしたって⋮⋮十三年かかるわよ⋮⋮﹂
﹁うっ⋮⋮ああああああああっ!﹂
アミュスは絶望の中で笑い、ヘミネは自由にならない体で暴れ出し
た。
そこに、
﹁騎士団長﹂
セナが強い声を放った。
﹁戦わせてください﹂
1233
真っ直ぐに見上げる瞳は、セリスを見つめている。
﹁⋮⋮セナ﹂
セリスは部下の瞳を見つめ返す。
﹁そうね。わかったわ。セナ、貴女に命じます﹂
セリスはセナを立たせ、その背中の拘束を斬り裂き、
﹁リトとそっちの四人を連れて天使の里へ向かいなさい。私がここ
で囮になり、足止めをします﹂
セリスは左手の薬指に嵌った銀色のリングを強く握りしめながら、
かつての部下に命令を下した。
﹁ハハハハハッ! おら走れ! チンタラしてると槍で刺すぞ﹂
グヴォンは馬上で陽気な声を発した。
手にした槍の穂先は、柔肌を撫でていた。
﹁は、はいぃぃぃぃぃ! 走ります! 走りますから!﹂
応えたのは、全裸のアルヴァレンシア。
今彼女は、一糸纏わぬ幼い体で全力疾走していた。
彼女だけでは無い。
マリアザートも、その他解放軍に所属していた公娼達も、裸のまま
寒風つんざく草原を必死に走っていた。
﹁おらおらおせぇぞ! 追いついちまうぜぇ﹂
﹁ケヘヘヘヘヘヘ! さーてどいつを狙おうかなぁっと﹂
﹁次の休憩地点までで最下位だった奴には馬とセックスしてもらい
まーす﹂
全裸で走る公娼達の後ろから、馬に乗ったゼオムント兵達が笑いな
がら付いて来ていた。
否、追い立てていた。
或る者は馬を肉薄させ、或る者は矢を公娼のすぐ傍へと向けて放ち、
或る者は楽しげに精神を嬲った。
数刻前、アルヴァレンシア達解放軍を捕らえたグヴォンは部下と共
1234
に戦利品を思う存分凌辱し、味わっていた。
ナイフの一本でもチラつかせれば容易に腰を砕かせ、無様に命乞い
をする様になっていた女達に向け、貧相な兵士達は本来の力量差な
どは忘れて本能の趣くままに犯していた。
五十人の兵士に四十四人の公娼。
数がほぼ均衡している事で、数人が二本挿しする事にはなったが、
余る事無く肉穴の体を楽しんでいた。
小柄なアルヴァレンシアの小さな口にチンポを突っ込み、喉奥でし
ごきあげ、胃に向けて直接射精したり。
マリアザートの乳房を四人がかりで搾りまくり、コップ一杯分の母
乳を出させた後に膣口から零れ落ちる四人分の精液とブレンドさせ
て肛門から注ぎ込んだり。
オビリスの第三魔法により精神を乱され、死にたくないと泣き叫ぶ
公娼達の体を玩具にしてこれまでの労を忘れて愉悦に浸っていた。
しかし、途中で別の小隊が現れて捕獲した公娼を分ける様にと迫っ
て来た事にグヴォンが腹を立て、その要求を振り切って急ぎ帰還す
る事を決めた。
﹁四十四人も捕まえれば手柄としては膨大な物だ。他の奴らに邪魔
される前に連れ帰らなければな﹂
大騎士からの降格で後ろ指を差されていたグヴォンにとってみれば、
アルヴァレンシア達解放軍を纏めて捕獲出来た事は望外な成果だっ
た。
これを持ってすれば復権する事も夢では無い。
ならば自分達で好き放題出来る時間を失うのは惜しいが、なるべく
早く陣に戻り、ゾート達調教師に公娼達を渡してしまおうと考えた
のだ。
しかし、そこで一つ問題が生まれた。
本来公娼を捕獲した後に乗せる為持って来た荷車では、数が全然足
りなかった。
故に、今の状況が生まれた。
1235
全裸マラソン。
裸に剥いた公娼達を走らせ、その後ろを馬で追い立てる。
武器で脅し、言葉で囃し立て、一切速度を落とさせずに全力で走ら
せる。
どれだけバテようとも躓こうとも、槍を突き付けられ、弓で狙われ
れば、公娼達は乞命の呪いに従い泣きながら立ち上がる。
乳房が揺れる様を、尻が跳ねる姿を、顔を真っ赤にして荒い呼吸で
悶えている姿を笑いながら追いかけて続けた。
二刻に一度、馬を休ませる為の休憩を取った。
その都度死んだように横たわっている公娼達にまたナイフで脅しつ
け、肉穴奉仕をさせる。
両足の震えが止まらない状態のアルヴァレンシアに、無理矢理勃起
させた馬を圧し掛からせ、流石にその幼い膣口には入り切らなかっ
たため素股の状態で射精させるよう命じた。
走る度にブルブルと揺れ回っていたマリアザートの爆乳に目を付け
た兵士が、両の乳首と陰核を紐で結び、その状態でこれから先走る
様にと命じた。
彼女達は最初絶望の表情で首を振ったが、兵士達がナイフを見せる
と、すぐに泣き喚きながら指示に従った。
解放軍を倒した場所から陣地までの距離は馬で三日間。
グヴォン達は途中に休憩と称する公娼時間を設けながらも、可能な
限り大急ぎで帰還した。
陣地に着き、諸手を上げた調教師達に歓迎されているグヴォン達の
後ろ。
アルヴァレンシアは地面に横たえられ、全く動かずに浅い呼吸だけ
を繰り返していた。
彼女は終盤に力尽き、いよいよ動けなくなってからは馬の腹に縛り
付けられ、そのペニスを肛門で飲み込んだ状態で連れて来られてい
た。
巨大なペニスを長時間飲み込んだ状態で揺れる馬体に肛内は掻き回
1236
され、今はポッカリとした空洞が締り無く広がった状態で彼女の内
側を晒していた。
マリアザートはその黒磁の肌を血で染めていた。
走る動作で乳房が揺れる度に乳首と陰核を結んだ紐が締り、千切れ
んばかりの刺激を与えて来る。
その上途中からは前後の穴に魔導バイブを挿入され、落下防止の為
そこにも紐を追加された事で、今の彼女の乳首は半分取れかかった
状態だった。
﹁よーしお前ら! 今から調教師様達が傷を治して下さる。そした
ら今夜はゆっくり休めよ! 明日からはこの陣地で公娼としてしっ
かり働くんだからな。何たって今や二十五万人の大所帯だ。マンコ
が乾く暇は無いぞ!﹂
グヴォンがそう言って、馬を引いて去って行った。
アルヴァレンシアは調教師に抱えられて運ばれて行く。
マリアザートは自力で立ち上がり、治療を受け、乳首が元通りにな
ってくれる事に少しの安堵を覚えながら、明日からの地獄を想像し、
絶望に顔を歪めた。
薄く積もった雪の野に、真っ赤な血が零れ落ちた。
シャスラハールは自分の腕から、腹から、足から止めどなく流れて
いく血を無視して、力の限り叫んだ。
﹁や、めろぉぉ!﹂
懸命に手を伸ばし、一歩でも前に進もうとする。
﹁うるせぇぞガキ!﹂
小柄な兵士に槍の柄で殴り飛ばされ、唇の端から血を零しながら地
面へと倒れる。
痛みに悶えながらも、力の入らない両足を励まし、必死に立とうと
する。
なぜならば、今この場において唯一抵抗できるのが彼だけだったか
1237
ら。
シャロンも、フレアも、ルルも、シロエも、ヴェナも、マリューゾ
ワも。
本来ならば一騎当千とも言える彼女達は皆、突然現れたゼオムント
兵と対峙して相手が抜剣した瞬間から、自ら地面に転がり、命乞い
をし始めたからだ。
それは有り得ない光景だった。
六人の公娼達が、泣き叫びながらの命乞いをする。
本来の自分達の価値を貶め、肉便器として、公娼としての利用価値
を声高に主張する。
マンコの締りをアピールし、アナルの拡張具合を宣伝し、乳房を露
わにして揺らし、公娼として出演した作品のタイトルを列挙した。
理知的な騎士シャロンが、
勇敢な騎士フレアが、
最高位の魔導士ルルが、
巫女騎士を束ねるシロエが、
祖国の誇り聖騎士ヴェナが、
傲岸なる大公マリューゾワが、
惨めに己の股間を押し広げ、命を守る為に薄汚れた兵士達の肉棒に
よる許しを願ったのだ。
何らかの魔術である事は明確だった。
魔術の効果範囲から抜け出そうと仲間達に逃走を提案するが、肉奴
隷アピールを懸命に行っている彼女達はシャスラハールの方を見向
きもしない。
故にシャスラハールに出来る事は戦えぬ彼女達を背中に庇い、一人
で突撃する事だけだった。
相手は五十人近い小部隊だ。
公娼の誰か一人であったならば、容易に蹴散らせたであろうその数
も、武芸を磨いてまだ日の浅いシャスラハールでは不可能だった。
十人に届かない数に傷を負わせたところで倒され、命こそ奪われな
1238
かったものの全身を斬りつけられて雪中に放置されている。
その彼の眼前で、今仲間達は犯されていた。
公娼一人につき六、七人の兵士が纏わりつき、その体を味わってい
る。
﹁おら! マンコの方にばっかり集中するな! こっちもしっかり
しごけ!﹂
﹁んはっ! はっ⋮⋮はい、すいませ⋮⋮ん﹂
シャロンが寝そべった兵士の上に跨り、膣でチンポを飲み込み両手
で傍に立っている兵士の怒張を握っている。
﹁へへっ。良く締まるケツ穴だ。後でテメェの糞がこびり付いた俺
のチンポをお前の子宮に擦り付けてやるから、楽しみにしてな﹂
﹁あ、あぁ。わたしの子宮にクソ塗れチンポをくれ⋮⋮下さい﹂
フレアは前後の穴を二人の兵士のチンポで同時に責められ、バチュ
バチュと肉同士が狭い場所でぶつかり合っていた。
﹁一分以内に射精させろ! 出来なかったらぶん殴るからな!﹂
﹁はい⋮⋮わかりました⋮⋮ぢゅぱ﹂
ルルは一人の兵士の肉棒に食い付き、唇と舌を使って猛烈にしごき
上げる。
その頭には数人の兵士の手が載せられ、チンポへ向けて容赦なく押
し付けられていた。
﹁巫女騎士っていやぁあれだよなぁ。孕ませの⋮⋮お前も孕むか?
孕んでる間には殺しはしないって約束してやるぞ?﹂
﹁孕みます! 孕みたいです! 孕ませてください! 私に⋮⋮皆
さんの赤ちゃんを産ませてください!﹂
シロエは自分を組み敷く兵士達に向けて、種付を懇願していた。
﹁聖騎士様ぁ。どうですかぁ? 顔面一杯に雑兵ザーメン浴びた感
想は﹂
﹁⋮⋮くっ⋮⋮うぁ⋮⋮殿下⋮⋮申し訳ありません﹂
群がる兵士達の精液を顔中に塗りたくられているヴェナは、乞命の
呪いに犯されていても、その類稀なる精神力でシャスラハールの事
1239
を忘れてはいなかった。
﹁魔剣大公ごっこやろうぜ! うっかり刺さっちまったらごめんな﹂
﹁やめっ⋮⋮やめてくれ! 何でもする。何でもするから⋮⋮マン
コでもアナルでも好きに、いつでも使ってくれて構わないから!﹂
取り囲んだ兵士達がそれぞれ二本のナイフを握り、マリューゾワの
肌を一斉に撫でて行き、刃の平で乳房を持ち上げ、刃先で膣口を押
し広げる。
命の危険に過敏に反応する呪いを受けているマリューゾワにとって
それは、拷問に他ならなかった。
シャスラハールが死の淵で浅く呼吸を続けている間。
彼の仲間達は呪いの影響とは言え、自分達よりも遥かに格下の相手
の性玩具として虚仮脅しの暴力に屈し、股を開いていた。
﹁ひゃははははは。降格したグヴォンの奴の部隊が生意気にも独占
なんかしてやがってよぉ。仕方が無いから当ても無く彷徨ってみれ
ばこんな大当たりを引ける何てなぁ﹂
押し倒したヴェナの肛門をガツガツ抉りながら兵士の一人が言い、
﹁んっく⋮⋮あぁ。全くだ。でもまぁこっちが当たりだな。ヴェナ
ルローゼにマリューゾワ、ルルとシャロンって言えば公娼マニアじ
ゃ無くても知れてる名前だしな﹂
シャロンの膣内に吐精しながら別の兵士が頷いた。
﹁あーっくっそ。気持ち良いぃぃ⋮⋮。最近溜まりまくってたしよ
ぉ。ここで俺達が独占している内に気が済むまで抜いて行こうぜ﹂
ルルの頭を鷲掴みにして喉奥にまでチンポを押し込みながら別の男
が会話を広げる。
﹁あったり前だ。俺は少なくとも全員に三発ずつは出すぜ﹂
シロエの子宮口をこじ開けて精液を注ぎ込みながら、同意の声を上
げる男がいる。
﹁公娼ってのは元々はかなり強い奴らばっかりだろう? そんな女
達を滅茶苦茶に出来る機会なんて、陣地に戻っちまったら他の奴も
いるせいでかなり限られてくるだろうしなぁ﹂
1240
フレアを犯していた男は一度肛門に挿し入れたチンポを膣内へと移
して汚れを膣壁でこそぎ落としている。
﹁ま、ナイフをチラチラさせておけば膣内出しから飲尿脱糞まで何
でも御座れのド変態公娼になっちまうんだしよ。皆一発ずつ抜き終
わったら全員並べて浣腸プレイしようぜ。誰が一番我慢できるか競
わせるんだ﹂
ナイフの腹でマリューゾワの尻をスパンキングしながら、兵士の一
人が提案し、一同が笑いながら頷いた。
五十人居た兵士達が全員、一度は公娼の内誰かの膣肉を味わい、射
精を経たところで宴は一度温度を下げる。
﹃獣﹄の凌辱が終わり、﹃人﹄による凌辱が始まるのだ。
零れ落ちた精液と地面に有った雪、そして男達の小便を混ぜた液体
を公娼達の肛門へ限界まで注ぎ込み、我慢を強要する。
﹁良いか。一番最初に漏らした奴は両手足を切り落とす。二番目は
足だけ、三番目は手だけ。四番目以降は合格だ。ご褒美に種付して
やるよ﹂
汚れた混合液を腹がパンパンになるまで注がれ、大地にキスをする
ように跪かされる。
﹁あぐぅぅぅ﹂
﹁あ、あああうううあああ﹂
猛烈な便意に冷や汗を流しながらも、手足を失う恐怖に怯え、公娼
達は必死に歯を食いしばって肛門を閉ざす。
﹁安心しろってぇ。どうせ陣地に帰ったら調教師さん達がくっ付け
てくれるからよ。一時的に肉達磨になるだけだって。ま、途中で面
倒くさくなったら手足を捨てていくかもしれねぇけどな﹂
下品に笑いながら、兵士達は便意に耐える公娼達の腹を蹴り、尻た
ぶを叩いた。
シャスラハールは自由にならない体を懸命に動かそうとする。
仲間達を襲う悲劇を、何とかして止める為に。
しかし、自分にはもう何もできない事は悟っていた。
1241
体から途方も無い量の血が失われ、最早立ち上がる事すら出来ない。
この状況を覆せるのは、
首だけで、空を見上げる。
そこには一人、天使が浮かんでいた。
﹁どう⋮⋮して⋮⋮﹂
裁天使ユラミルティは、この場所でシャスラハール達がゼオムント
兵と接敵した瞬間に空へと舞いあがり、ジッと無言で足元の悲惨な
凌辱を眺め続けていた。
その唇は噛み裂かれんばかりにきつく閉じられてはいるが、一切の
手出しをしようとはしてこない。
その時、ブリュババババ︱︱と人の尊厳を汚す音が辺りに響き渡っ
た。
﹁ハハハッ! お前かマリューゾワ。一番はお前だなよぉしじゃあ、
皆押さえろ。手足を切り落とす︱︱﹂
混合液を飛び散らせ、嗚咽を漏らすマリューゾワの元へ、大ぶりの
剣を握った男達が近寄っていく。
﹁やめろっ!﹂
ヴェナが便意を堪えながらその進路を塞ごうとすると、
﹁うるせぇ! てめぇ殺されたいのか!﹂
その一喝と手元の剣を突き付ける動作だけで、雑兵は聖騎士を押し
退ける事に成功した。
﹁あ⋮⋮やめっ⋮⋮許し⋮⋮﹂
﹁お願いします⋮⋮お願いします﹂
マリューゾワが哀願し、シャロンやフレア、ルルも慈悲を乞うが、
﹁知るかよ。約束は約束だ。陣地に戻るまで肉オナホになって︱︱﹂
ブチュバ︱︱。
剣を振り上げた兵士の腕が粉々に砕け散った。
﹁え⋮⋮﹂
呆然とする兵士の後ろで、彼を囃していた同僚の体が忽然と消え、
辺りには無数の肉片が残っていた。
1242
そして肉片に埋もれる様にして、一本の戦槌が地面に埋まっている。
﹁あはははははははっ! 何アンタ達。こんなのに犯されてるの?
すごいすごーい。ミジメミジメー﹂
手を叩き、大声を上げ、満面の笑みを浮かべ、
力天使ラクシェが凌辱の宴へと舞い降りた。
﹁な、なんだお前は!﹂
兵士達は粗末な剣をラクシェへと向けるが、
﹁ねぇ? 本当にこんな雑魚に負けたの? ウチを負かしたアンタ
達が? 生意気な口を利いてたマリューゾワが? ねぇ? こんな
雑魚に?﹂
ラクシェは近づいてきた兵士の体をそっと掌で押した。
すると、兵士の上半身は消し飛び、グチャグチャの断面を浮かべた
腰から下だけがニ三歩後ろに下がってから崩れ落ちる。
﹁ひぃ!﹂
﹁ば、化物⋮⋮﹂
同僚のグロテスクな死体に兵士達が怯えると、
﹁むぅ。ウチは化物じゃないし。天使だもん!﹂
四つの翼を傲然とはためかせ、ラクシェは頬を膨らませる。
羽根が広がった衝撃で、マリューゾワの近くに寄っていた男達は吹
き飛ばされる。
﹁う、うわああああああ逃げろ! 逃げろぉぉおおおお﹂
転がりながら駆け出していく男達を、
﹁追い掛けるのは簡単だけど。面倒だよね。お前達、壁﹂
ラクシェがそう号令すると、
﹁ハッ! ラクシェ様﹂
指示を受けた天兵連隊が空から急降下でやって来て、四方に展開し
武器を構え、生きた壁と化した。
﹁ねぇ逃げないでよ⋮⋮ウチと遊んでよぉ。マリューゾワとか、あ
っちの聖騎士とか倒したんでしょう? お前達はぁ⋮⋮だったらさ
ぁ。ウチともいい勝負が出来るんじゃないかなぁ!﹂
1243
ふざけきった声でそう言って、ラクシェはゆっくりと逃げ場を失っ
た兵士達へと近づいて行った。
﹁大丈夫。ウチさえ倒せば包囲は解いてあげる。お前達全員同時で
良いから、ウチと戦ってよ。勝ったらちゃあんとお家に返してあげ
るし。お土産にそっちの肉便所達持ち帰って良いからさぁ﹂
歌う様に、蔑む様に笑うラクシェ。
﹁あ、あああああっ! 死ねぇぇぇぇ﹂
兵士の一人が意を決し、ラクシェへと斬りかかってくる。
﹁あはっ﹂
ラクシェはそれを避ける事も無く、右手の小指の爪で受け止めてか
ら、
﹁えい﹂
反対の手の小指で兵士の顔を刺し、穿った。
脳漿と血を撒き散らせながら倒れる兵士をニヤニヤと見下ろし、
﹁シャロンちゃん! 見た? ウチ今小指だけでコイツを倒したよ
! さっきシャロンちゃんに膣内出ししてた奴を!﹂
嘲り。
シャロンが如何に弱い存在に犯され、種付されたかという事を口で
説明する。
ラクシェの虐殺は続く。
﹁フレアちゃん。さっきフレアちゃんのケツ穴を掘ってた奴ウチが
つま先で突いただけで死んじゃったよ﹂
﹁ルルだっけ? アンタの喉にチンポ突っ込んでた奴。ウチの羽根
が掠っただけで喉斬り裂けちゃったよ﹂
﹁巫女の人。種付セックスしたアンタの旦那さんウチが殺しちゃっ
たよ。ちょっと頭撫でて上げただけなのにね﹂
﹁聖騎士のおねーさん。ザーメンパックしてくれた人達はウチが全
部殺しちゃった。ごめんね。まだまだして欲しかったんだよね?﹂
﹁ねぇねぇうんこ垂れのマリューゾワぁ。さっきマリューゾワに浣
腸してた人お尻から血を噴き出して死んじゃったよ? ちょっとお
1244
腹蹴っただけなのに﹂
ラクシェは狂ったように笑いながら殺戮を続けた。
ほんの数分。
もう既に兵士達は誰一人として生きてはいない。
﹁あー雑魚雑魚! 雑ぁぁぁぁぁ魚っ! 雑魚に泣きながら犯され
てたお前達は何? なんなの? やっぱり便所女なの? もう諦め
たら? ゼオムントに抵抗するのなんて諦めたらいいよ! こんな
雑魚以下の肉便器じゃ敵うわけないもん! あれだったらウチと天
兵連隊でゼオムントまで届けてあげるよ。そこで今迄みたいに精液
啜って生きれば良いじゃん。そうすれば皆幸せだよ!﹂
ラクシェの口撃に、シャロン達は俯いた表情で何も答えない。
﹁あーそうだ、シャスラハールぅ。生きてるぅ?﹂
ラクシェは不意に、雪中に倒れ伏すシャスラハールへと声を掛ける。
﹁はっ⋮⋮殿下!﹂
ヴェナは即座に身を起こし、股間から精液を零しながらシャスラハ
ールへと駆け寄った。
﹁止めときなよぉ聖騎士のおねーさーん。シャスラハールを助けも
しないでさっきまで糞雑魚な敵兵にマンコもケツ穴もバチュバチュ
やられてた人が触れて言いのぉ? 裏切りと同じじゃーん﹂
その一言に、ヴェナの動きは止まる。
﹁ラク⋮⋮シェ⋮⋮これは⋮⋮一体⋮⋮﹂
シャスラハールは掠れきった声で、力天使へと問う。
﹁さー? ウチもよくわかんない。ただお姉様の伝言を受けたお父
様からお前達を助けに行けって言われたから飛んできたら、ちょっ
と楽しい感じだったからしばらく遠くで眺めてたの﹂
そう言って笑うラクシェに向け、フレアが口を開く。
﹁い、いつから⋮⋮﹂
﹁んー? フレアちゃん達が自分で服を脱ぎ始めて、ウンコ我慢選
手権が決着するまでずーっと見てたよ。天兵の皆と笑いながらね﹂
無邪気に答えるラクシェ。
1245
その言葉が意味するのは、助けようと思えばこの悲惨な状況が生ま
れる前から、シャスラハール達を救う事が出来たという事。
﹁まーでも。愉しい見世物も見れたし、これでウチはスッキリかな。
お姉様との同盟を認めてあげるわ。ついでにシャスラハールがウチ
にしたあの行為もね﹂
そう言って、ラクシェはパチンッ︱︱と指を鳴らす。
﹁シャスラハールは死に掛けだし、今の状態じゃこれ以上何も出来
ないでしょう。一旦里に戻るわよ。お姉様がお話したいんだってさ﹂
ラクシェの意を汲み、天兵達の輪の中から数人がやって来て公娼達
とシャスラハールを背負う。
﹁んじゃあ全速力で帰ろっか。途中でシャスラハールが死んじゃっ
たらウチがお姉様に怒られるしね。皆、出発して﹂
天兵連隊が順次出発して行くのを見送りながら、ラクシェはゆった
りとした笑みで立っている。
その背中に、
﹁ラクシェ様⋮⋮﹂
﹁なぁに? ユラミルティ﹂
ユラミルティが厳しい表情で声を掛けた。
﹁何故、もっと早く助けてはくださらなかったのですか?﹂
アン・ミサの懐刀と呼ばれた厳格な天使は怒りに震えていた。
﹁えー。それを言うならユラミルティだってそうじゃん。ずぅーっ
と空から見てただけだったよね?﹂
そう問われ、ユラミルティは顔を下げてから、
﹁接敵直後、ラグラジル様より⋮⋮この場への一切の介入を許可し
ないとの命令を受け⋮⋮。代行権を授けられた以上、逆らう事は出
来ませんでした﹂
法を守護する者であるユラミルティにとって、管理者ラグラジルの
命令は絶対である。
それを知った上で、魔天使は彼女を代行に指名したのだ。
﹁流石はラグお姉ちゃん。こうなる事が分かってたんだねぇ。後で
1246
良い物見せてもらったお礼をしなきゃ﹂
ラクシェは無邪気に笑い、
﹁さ、もう良い? じゃあ早く帰ろう。里に﹂
その言葉を残し、二人の天使が飛び立って行った。
1247
騎士長ステア その三︵前書き︶
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1248
騎士長ステア その三
陽光のほぼ全てが遮られた薄暗い納屋の中、わたしは湿った息を吐
く。
死にたくない。
生きていたい。
まるで呪いの様にわたしを苦しめるその衝動に支配されてから三日
が経った。
惨めに男根を求め、それに奉仕する事で自分という存在に価値を見
出してもらおうと絶叫したあの日の夜、婦人会と呼ばれる連中は男
達と会合を持った。
議題はわたしの処遇。
不衛生で、不潔で、おぞましく、汚らわしく、下品で、下等で、滑
稽で、生産性のまるでない無駄な存在であるわたしを廃棄処分にし
たい婦人会と、
折角高い交易品を支払って手に入れた村専用肉便器を手放したくな
い男達の間で、激しい討議が交わされた。
わたしも出席⋮⋮とは言わないのだろうが、肉便器として縛られた
状態のまま、村の寄合所に連れて行かれ、激しく口論する両者の真
ん中に置かれた机の上で、大股を開いた状態で事態を見守っていた。
理性を失い、半狂乱で会合の間も惨めに男根を求めて騒ぐわたしの
膣口には、粗く削られた太い木の杭がそのまま挿入され、使用が禁
止されていた。
女達は即刻廃棄処分を主張し、この会合が終わり次第空に浮かんだ
この村の端、つまりは雲の切れ目から虚空へ向けての投棄を求めた。
わたしはそれを聞き、生存本能の赴くままに黒髪を振り乱して、
﹃木の杭を抜いてくれ! そしてわたしのマンコに今すぐチンポを
挿れて! ね、気持ち良くしてあげられるから﹄
1249
そう、男達に懇願していた。
男達はわたしの叫びを聞いて、わたしを買う為に掛かった高額な品
を列挙し、それらを無駄にしてしまうのは惜しいといった論法で、
婦人会の説得に掛かった。
しかし、それがいけなかったと思う。
なじ
婦人会は男達の挙げた品が高価で有れば有るほどに激昂し、無駄遣
いを詰った。
村中から集まった女達がほぼ全員、一斉に起こしたヒステリーに、
男達の主張は尻すぼみになっていった。
会合が始まって半刻足らずで、わたしの廃棄処分は確定した。
わたしの命を支えてくれる最後の命綱であった男達に出来た事は、
女達に慈悲を乞う事だけだった。
わたしの命に対する慈悲では無い。
自分達の玩具を取り上げようとする女達に、あと少しだけ遊ばせて
くれ、と頭を下げて頼み込んだのだ。
そうして、会合は決着した。
﹃あと、千回だけ使わせてくれ﹄
男達の最後の願いを婦人会がどうにか飲み込んで決定した。
会合の後、わたしは虚空に投げ捨てられる事なく、男達の手によっ
て運ばれた。
これまでずっと生活して来た男子便所では無く、村の片隅に置かれ
た日の当たらない納屋がわたしの住処となった。
そこでわたしは、
騎士長ステアは、
男達の欲望を千回相手にする間、生きている事を許された。
納屋の中央に置かれた埃だらけの机の端に乗せられ、大股開きの肉
便器スタイルのまま、上半身をきつく机と結びとめられ、下半身は
不安定に空中へと投げ出された状態で動けなくされる。
1250
男達が挿入しやすい様に突き出した膣口の真下にはバケツが置かれ、
零れ落ちた精液を受け止める用意がされている。
そして、一切の身動きを封じられたわたしの顔のすぐ横に、小さな
チップが山にして積まれた。
千枚のチップ。
これまでの男子便所生活の様にふらっとやって来ては犯し、射精し
て帰るのではなく、男達は一人ずつこの納屋に入室し、わたしを気
が済むまで犯した後に、チップを一枚持って外へ出て、交代で受け
付けをしている婦人会にチップを渡す事になったようだ。
つまり、このチップはわたしとセックスをする対価で有ると共に、
わたしの命の残数を示す物なのだ。
千枚。
それがここまで心許ない数だとは思わなかった。
千日と聞けば長く感じる。
千人の兵と聞けば立派な部隊と判断する。
しかし、小山にして積まれた千枚のチップは、成人男性の手で有れ
ば両腕で抱えられる分量でしかない。
わたしの命は、たった千枚のチップを代償にして支払われる、肉壺
としての価値しか残っていない。
納屋に移動してからの二日で、目に見えて減ってしまっている。
男達がわたしの膣を犯し、子宮口をこじ開けて膣内出しした後に、
微妙な表情でチップを手に取っていく姿を見る度に、わたしは狂い
そうになってしまう。
﹃チップを置いて行ってくれ、タダで構わない! 何度でも種付し
てくれ! わたしの体でもっと遊んでくれ﹄
わたしがそう叫んでも、男達は困った笑みを浮かべ、
﹃すぐ外で婦人会が見張ってるからよ。これ渡さないと取りに戻ら
されるんだわ﹄
そう言って納屋から出て行ってしまう。
この二日で、六十五枚のチップを消費してしまっている。
1251
あと、九百三十五枚。
わたしの膣が肉棒をのみ込む回数であり、
わたしが生きていられる残数だ。
ギィ︱︱と扉が開いた。
﹁たっく、このシステムになってから順番待ちが鬱陶しくてたまん
ねぇぜ﹂
納屋に入って来た鶏頭の男がぼやき、わたしの様子を見る。
﹁おう。来たぜ﹂
﹁あ、ああ。よく来てくれた。精一杯奉仕させて貰うから、存分に
わたしで楽しんで行ってくれ﹂
わたしは卑屈な笑みで男へと声を掛けた。
気が付いたのだ。
納屋に設置されてから最初の数回は千枚のチップが減って行く事の
恐怖に怯え、納屋に入って来た男達に向けて絶叫し、動けない体で
脅しをつけてチップを守ろうとしたが、この抵抗できない状態では
無駄にしかならない。
むしろその事で男達が委縮し、手早く行為を済ませてチップを持ち
去ってしまう場合が有った。
そして外では順番待ちをしているらしく、その次の男が余り間を空
けず入って来て、わたしから大切なチップを奪って行ってしまう。
だから、
わたしは媚びる事にした。
媚びて媚びて、相手の欲望を全開にさせ、何度も、何度でもわたし
を犯させる。
肉棒から精液が一滴も出なくなるまで、たっぷりと時間を使ってわ
たしを汚してもらう。
そうすれば、一人に掛ける時間を長くさせる事で、わたしが生きて
いられる時間も長くなる。
1252
膣を締める力に緩急をつけ、膣内出しが終われば次は肛門への凌辱
をねだり、乳房をこまめに揺すって男達の手を導き、唇を艶めかし
く動かして精液を味わいたいと願った。
今では髪の毛一本一本に精液の匂いが染みついている自慢の黒髪を
靡かせて、騎士だった頃からは考えられ無い様な下品な表情を浮か
べ、淫猥な言葉を吐いた。
一回の射精ですごすごと肉棒を納めようとする者を、わたしの口か
ら誘い、連続での射精を願った。
そして事後、
マナーとして肌についた汚れを拭う布巾と膣内の精液を掻き出す為
のスプーンがわたしの体のすぐ隣に置かれているのだが、それを使
って事後処理をする男達の手つきに、わざとらしく悶えてみせる。
股間を拭く布巾の動きに痙攣して見せれば、男達は面白がってわた
しの陰核をザラザラな布で擦り上げる。
スプーンで掻き出された精液を飲みたいと懇願すれば、男達の半数
程度はわたしを馬鹿にしながら口へと運んでくれる。
全て、抵抗だった。
一分一秒でも長く生きる為の抵抗。
希望を抱いているわけでは無い。
ただ、死にたくない。
心の源泉から沸き起こるその欲求に従い、わたしは人間の最下層へ
と自らを叩き落とす。
﹁さってと⋮⋮それじゃあ早速ブチ込ませてもらおうかな﹂
男が異臭を放つ肉棒をズボンから取り出した瞬間。
﹁そういえば、さっきわたしの膣内出ししていった人が掻き出して
無かったかも知れないな⋮⋮。時間もたっぷり有るんだし、どうだ
? そこのスプーンで一度わたしのマンコを綺麗にしてからチンポ
を入れてくれないか? わたしもその方が嬉しい。マンコの粘膜で
しっかりと貴方のチンポを感じられるからな﹂
無論、嘘だ。
1253
少し前にわたしを散々犯していった男にも、事後の掻き出しを淫ら
に懇願し、じっくりと時間を掛けてスプーンで膣内を穿り回させた。
少しでも、時間を稼ぐ。
その為になら、無機物で膣内をどれ程弄り回されようとも、喜んで
耐える事が出来た。
﹁はぁ? んな面倒くせぇ事しねぇよ! うるせぇんだよおめぇは
ただチンポぶち込まれた状態で喘いでればそれで良いんだよ!﹂
そうだった。
この男には男子便所に設置されていた頃から何度となく肉穴を提供
して来たが、粗野な振る舞いに終始し、常に自分勝手にわたしを犯
してきた奴だった。
﹁そ、そうだな。済まなかった。さぁどうぞ、マンコだ。わたしの
マンコを使ってくれ。貴方の好きなように、何発でも膣内に出して
くれ。わたしを、孕ませてくれ﹂
卑屈な笑いを強め、わたしは男に謝る。
﹁言われなくてもそうするに決まってるだろうが! そんな事も分
らねぇからテメェは肉便器なんだよ!﹂
﹁んぐひっ!﹂
男の肉棒は乱暴にわたしの膣内へと侵入し、掻き回していく。
空いた手は乳房を握り潰さんばかりに揉み、乳首を爪で引っ掻いて
行く。
﹁おら! どうだ? 俺のチンポは?﹂
﹁あ、あぁ! 凄い、凄く気持ちいいぞ。大好きだ。貴方のチンポ﹂
わたしの顔に唾を吐きかけながら問うて来る男に、笑みを浮かべて
返事をする。
﹁そうか、大好きか。じゃああれだ。これから俺のチンポがお前の
子宮を突っつく度にそう言え。﹃大好き﹄って言い続けろ﹂
そう命じられ、わたしは一瞬固まる。
騎士の矜持、部下達、妹、旅の仲間、かつての王、そしてシャスラ
ハール。
1254
いくつもの顔が脳裏に浮かんで、わたしの心を刺し貫いた。
だが、
﹁わ、わかった! 大好き! 大好き! チンポ! 大好き!﹂
わたしは声を上げた。
男の腰が前へと進み、わたしの膣内の奥の奥、子宮口へと接触する
度に、男を喜ばせる言葉を吐いた。
﹁大好き! 大好き! 大好き! 大好き! 大好き!﹂
大好きと一回言えば、一秒生きながらえる。
そう考えてしまったらもう、止まらなかった。
わたしは自分の命を守る為に、男のチンポへと愛を告白していった。
﹁下品な女だよなぁ⋮⋮テメェ。こんな奴と繋がってると考えると
寒気がしてくるぜ。あぁもう良い、ザーメンくれてやるから喜んで
受け止めろよ便所女﹂
﹁はいぃぃぃ。大好き! 大好き! ザーメンも! 大好き! チ
ンポ! 大好き!﹂
男の腰が速度を上げ、わたしの膣内を深く刺し穿つ。
そして放たれる精液を、子宮に直接浴びながら、
﹁あ、ありがとう⋮⋮。貴方の精子がわたしの膣内に沁み渡って来
るのを感じるぞ⋮⋮﹂
目の端から涙を流して無理矢理笑って見せた。
﹁そうかい。そいつぁ良かったなぁ肥溜め女。あと何回か知らない
が、気が向いたらまたテメェが大好きな俺のチンポを咥えさせてや
るよ﹂
そう言って、男は事後処理すらせずにわたしから離れ、チップの山
に手を伸ばした。
その動きに、わたしは動揺してしまう。
﹁ま、待て! ち、違う待ってくれ。ど、どうだ。マンコでも良い
しケツ穴でも良いし、もう一発⋮⋮いやそう言わずに何発でもわた
しを使ってくれ。貴方のチンポをもっとわたしに味あわせてくれ﹂
惨めな懇願。
1255
騎士長としてリーベルラントに身命を捧げていた頃には予想も出来
ない自分の姿に、絶望の刃が心を抉る。
﹁ぁあ? いらねぇよんな汚ねぇ穴。ムラムラ来て一発抜きに来た
が、後になってテメェの体見てると吐き気がしてくるんだよな。ど
うせ俺が来る前もずっと四六時中別の奴らのチンポ飲み込んでギャ
ンギャン喘いでたんだろう? うへぇ汚ねぇ。唾液と精液塗れじゃ
ねぇか﹂
毎度毎度布巾で拭われてるとは言え、汚れの残滓は肌に残る。
男はそれを指差し顔を顰めた。
﹁あ⋮⋮そ、それは済まなかったな⋮⋮。そうだ。だったらこれは
どうだ? 貴方の小便でわたしの体を清めてくれ。臭くて汚いわた
しの体に万遍なく小便をぶっ掛けて貰って、それを布巾で沁みこま
せる様に拭えば︱︱﹂
﹁出た出た。これも時間稼ぎって奴か﹂
卑屈に己の尊厳を踏みにじるわたしに向けて、男が声を放った。
﹁え⋮⋮﹂
﹁もう皆気づいてるに決まってんだろ。男子便所の時のお前と今の
お前じゃ全然ヤッてる時の態度が違うからなぁ。大方死にたくねぇ
からって必死扱いて演技してんだろうけど、お前の目見てると分か
るんだよねぇ。本心じゃねぇのが﹂
男の声に、わたしは息が出来なくなる。
﹁ま、あんまり滑稽な姿だったんで皆で笑ってたんだわ。お互いに
何て言ってチンポを褒められたかとかをネタにしてな﹂
﹁え⋮⋮あ⋮⋮﹂
声と、視界が震える。
﹁でもまぁ利害の一致だよな。俺達の中でもじっくり楽しみたい奴
はお前の演技に乗ってやるし、それで女達の決めたルールの中で時
間稼ぎも出来る。けど、俺みたいにさっさと抜きたいだけの奴にと
ってみれば無駄に待ち時間が長くなるだけで気に喰わねぇ﹂
そう言って、男は獰猛に笑った。
1256
﹁だからよぉ。俺からお前にペナルティをやるよ。今までの遅延行
為の分のな﹂
チップの山に延ばされていた男の手が、一塊分を鷲掴みにした。
﹁あっ! やめっ!﹂
男の手が掴んだのは、ざっと見たところで三十枚程。
わたしが一日掛けてセックスをする枚数と同程度だ。
﹁一枚は受付に払って残りは外に捨てて来るぜぇ﹂
ニタニタと笑う男の顔が、残忍に光る。
﹁やめて! 返してくれ! わたしのチップ!﹂
わたしの命の残数。
﹁は。嫌だね。これに懲りたら次からはもっとキビキビやりな。あ
んまり待たせるんじゃねぇよ。もし次も俺に待ち時間を食わせやが
ったら、今度は両手で持って帰るからな﹂
男がチップをポケットにしまい、納屋から出て行こうとする。
﹁待て! 何でもする! 何でもするからチップを置いて行ってく
れ!﹂
必死だった。
必死に、本当に言葉通りに何をやってもチップを取り返そうと思っ
た。
だが、
﹁⋮⋮あのよぉ? お前今何でもするって言ったけどなぁ? お前
に今できる事ってのは、チンポを気持ち良くする事﹃だけ﹄なんだ
ぜ?﹂
冷たい笑みがわたしを貫く。
﹁さっきそれ済んじゃったわけなんだが。それ以外にお前は何も出
来ないだろう? なぁ肉便器。そんじゃーな﹂
男はその言葉を残して、納屋から出て行った。
﹁あ、あああああああああああっ!﹂
絶叫した。
これだけ惨めに、己の尊厳を土足で踏みつぶして耐えようとして、
1257
その結果が待ち時間が長かったという理由だけで、約一日分の命を
失った。
何より怖くなったのは、男が持って行った数が正確には分からない
という事。
ざっと見て三十枚だと思ったが、もしかしたら二十枚かも知れない
し、四十枚なのかも知れない。
本来なら今の男を相手にすればチップの残数は九百三十四枚だった
はずだった。
だがしかし、男が無造作に鷲掴みにした数によっては、最早既に九
百枚を切っている可能性すらあるのだ。
﹁あ、あと何枚ある、何枚だ⋮⋮頼む。九百以上で⋮⋮﹂
わたしは体の自由が効かない。
だから首だけを横へ向け、チップの数を数えようとする。
山になっているチップを横から見て計数するという行為は、中々に
困難な物だった。
﹁二百十二⋮⋮二百十三⋮⋮二百十四⋮⋮﹂
一心不乱にチップを数えていると、扉が開く気配がした。
﹁やーあ肉便器ちゃん久しぶりぃ。今日もたっぷりセックスしよう
ねぇ。大丈夫だよ。僕は他の奴らみたいにせっかちじゃないから。
始める前のお手入れも終わった後の掃除もしっかりやらせてもらう
からさぁ﹂
能天気な声を上げ、一人の男が入って来たようだ。
﹁二百三十二⋮⋮二百三十三⋮⋮二百三十四⋮⋮﹂
わたしは男の声に答える事無く、チップを数え続ける。
﹁ありゃ聞いてないみたいだね。まぁ良いや。穴の掃除から始める
よー﹂
そう言って、男は遠慮する事無くわたしの膣口にスプーンを突き刺
した。
﹁二百五十五⋮⋮二百五十六⋮⋮二百五十七⋮⋮﹂
﹁うはー。前の人膣内出ししっぱなしじゃないか。ダメだよねぇそ
1258
ういうの﹂
スプーンで先ほどの男の精液を掻き出しながら、ぼやいている。
﹁うっし。大体綺麗になったかな。そんじゃー挿れるよー﹂
﹁んっ! 四百二十八⋮⋮四百二十九⋮⋮四百三十⋮⋮﹂
事前の手入れが終わり、挿入された肉棒が膣内を抉り回しても、わ
たしは計数を止めなかった。
﹁何か肉便器ちゃんに無視されるのも男子便所時代みたいで良いね
ぇ。このまま僕が好きに動くから作業に集中してていよー﹂
穏やかな声で男が言い、わたしの膣内をバチュバチュと掻き乱す。
﹁六百八十一⋮⋮六百八十二⋮⋮六百八十三⋮⋮ふぎっ!﹂
﹁あっ、出る! 膣内で出すよ! しっかり受け止めてね!﹂
余裕を無くした男の声が上がり、間を置かず精液の奔流がわたしの
膣内で溢れかえる。
﹁ふぅースッキリしたぁ。あ、そうだ。やべっ⋮⋮今日は親父とご
飯の約束してるんだった!﹂
﹁七百三⋮⋮七百四⋮⋮七百五⋮⋮﹂
チップの山が残り少なくなってくる。
今し方膣内出しし終えた男は再びスプーンを手に取り、わたしの膣
内を穿り返している。
﹁よし! 危なかったよー。思い出せて良かった。ありがとうね肉
便器ちゃん! また来るよ!﹂
男がスプーンで精液の排出を終えたのとわたしが最後の一枚を数え
終えたのは同時だった。
﹁八百⋮⋮九十⋮⋮二⋮⋮﹂
遅延行為のペナルティとして奪われた数が判明した。
元々の九百三十五枚から一枚は正規の使用分で引き、九百三十四。
そこから八百九十二枚に数を合わせると、男が握りしめて行ったの
は︱︱
﹁四十⋮⋮二枚も⋮⋮﹂
四十二回セックスをし、その間だけ生きながらえる事の出来るチッ
1259
プが、無駄になってしまった。
予想よりも、かなり多かった。
一日分では済まない。
上手くやれば更に半日ほど引き延ばせる量を、奪われてしまった。
﹁うあ⋮⋮あぁ⋮⋮ああああ⋮⋮﹂
絶望し、涙が止めどなく流れるのを感じた。
そこに、
﹁いけないいけない⋮⋮忘れるところだった。これ持って行かない
と受付の人に怒られちゃうんだよねー﹂
能天気な声で言いながら、男の手がチップを一枚摘み上げた。
わたしの命を繋ぐチップの残数は、残り八百九十一枚になった。
1260
抵抗︵前書き︶
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1261
抵抗
リトリロイの喉に剛力が掛かる。
﹁あっ⋮⋮ぐっ⋮⋮はっ⋮⋮﹂
ゼオムントの元王子の首を締め上げるのは、彼の祖国が作り上げた
公娼の腕。
﹁ヘミネ。良いわ、やっちゃって﹂
腕の持ち主はリネミアの拳闘貴族ヘミネ。
そしてその背後から怨念の籠った目でリトリロイを睨みつけるのは
魔導士アミュス。
彼女達の背後には更に三人の公娼。
無感動な目でリトリロイの苦しむ様を見るユキリスと、目を逸らす
シュトラ。
そして剣に手を掛けた状態で事態を見守っているセナ。
セリスによって拘束を解かれ、公娼達を縛るものは何も無い。
﹁あの女も馬鹿ね。私達を解放すればこうなる事くらい⋮⋮﹂
セリスはセナ達を解放してすぐに、馬蹄が響いて来た方向へ向けて
走っていった。
その場に残されたのは公娼達とリトリロイ。
﹁チッ⋮⋮﹂
アミュスの表情は歪んでいる。
彼女とて理解していた。
セリスがここにリトリロイを残して行った思惑を。
﹁⋮⋮アミュス。後にしましょう﹂
そう言って、リトリロイの喉を締め上げていたヘミネは腕を振り、
王子の体を大地へ投げ捨てた。
﹁後で、あの女が戻って来た時に決着をつけてから、この男を殺し
ましょう。そうでなくては、我らは道化で終わります﹂
1262
ヘミネは冷酷な目でリトリロイを睨みつけ、そして友人である魔導
士へと振り返る。
﹁そうね。下手に殺そうとして、そっちの頭の固い騎士様に襲われ
ちゃたまらないしね﹂
魔導士アミュスが視線を向けた先。
そこには、抜剣し呼吸を整えているセナの姿が有った。
﹁⋮⋮満足した? だったら先に進みましょう﹂
﹁満足? するわけないじゃない。コイツは八つ裂きだって足りな
いわ。いずれ間違いなく殺す。それだけよ﹂
アミュスはそう言って視線を切ると、前へと歩き出した。
その横にヘミネが続き、ユキリスとシュトラもセナを気にしながら
歩き出した。
セナは倒れたままのリトリロイへと一歩近づき、
﹁起きてよ。さっさと行くわよ﹂
ぶっきらぼうに告げ、歩き出す。
﹁⋮⋮殺さないのか?﹂
喉を撫でながら立ち上がったリトリロイの声。
そこには僅かな嘲りが込められていた。
﹁⋮⋮騎士団長の命令だからね。アタシはアンタを守って、天使の
里まで連れて行く。そしてその後で、ヘミネ達が団長と戦うってな
った場合は、ヘミネ達について、アンタと団長を殺す。アタシの剣
で殺す。アンタが直接何をしたってわけじゃないのかも知れないけ
ど、アタシはアンタを許さない﹂
セナの言葉には一欠けらの温もりも無い。
ゼオムントの王族。
それだけで彼女達公娼にとってみれば殺すに理由が余り有る存在だ。
だが、この場でリトリロイを殺すわけにはいかない。
何故なら。
﹁騎士団長の挺身⋮⋮その理由がある内は、アンタを殺さない﹂
セリスは今、たった一人で大軍と向かい合っているはずだ。
1263
自分達を、そしてリトリロイを逃がす為に。
セリスはセナにリトリロイを守る様に命じ、死地へと向かって行っ
た。
﹁これが最後。あの人から受ける最後の命令。生き残ったとしても、
死んだとしても、アタシがリーベルラントの騎士団長セリス様の部
下として最後に果たす使命。次にまたあの人と再会した時は、アン
タを引き渡した後で敵になるわ﹂
セナ自身、整理のついていない問題だった。
セリス。
この旅でわかった事として、彼女の本質は三年前と全く変わってい
なかった。
しかしそうで有ったとしても、セナが、公娼にされた者が許しては
いけない相手だとは思う。
彼女が公娼にされたにも関わらず無事であった事が問題では無い。
彼女の行動により、ヘミネやアミュス等多くの者が尊厳を踏みにじ
られ、汚辱を強いられたのだ。
その行為は、ゼオムントに居た調教師や権力者達と大きくは変わら
ない。
セリスには罪が有る。
セナはそう考える。
彼女の事をよく理解している自分がもし許したとしても、多くの者
は依然として彼女を憎むだろう。
それは仕方の無い事に思えた。
しかし、それでもまだ胸にわだかまりは残っている。
セナはシャロンやステアと共に、リーベルラント再興の夢を誓った。
否、その夢に縋って生き続けた。
実際は夢物語でしか無く、自分達は日夜ゼオムントの慰み者である
事しか出来ていなかった。
反面、セリスはリトリロイという駒を手に入れ、ゼオムントの懐深
くに潜り込み、祖国再興の夢を果たそうとしていた。
1264
同胞の悲しみを、屍を越えて復讐者として戦っていた。
その事が純粋に羨ましかった。
結果としてセリスの復讐は失敗に終わるのかも知れないが、それで
も彼女は戦っていたのだろう。
ただ股を開く角度を抑え、喘ぎ声を押し殺す事を抵抗としているだ
けの自分達とは次元が違った。
今でこそシャスラハールという新たな主を得て、戦う理由を明確に
出来ているが、公娼として過ごして来た三年間は、ゼオムントの調
教師達が描いたシナリオ通りの、﹃屈服しない肉便器﹄という存在
でしかなかったのだ。
セリスに嫉妬しているのかも知れない。
その思いは誤魔化し様が無かった。
﹁もう一度会って、話がしたい⋮⋮例え刃を交わし合いながらでも﹂
その為に、今はリトリロイを守る。
セリスは必ず、この男を迎えに自分の前に戻ってくる。
その時に、全てを明らかにする。
殺意も、憧憬も、疑念も、尊敬も、過去も。
﹁騎士団長⋮⋮ご無事で﹂
セリスが走り去った方角を見て、一瞬目を瞑り、セナはリトリロイ
と共に歩き出した。
﹁姉上の所在がわからないとは⋮⋮どういう事だ!﹂
悲鳴に似た詰問が浴場内に響き渡る。
﹁フレア、落ち着いて下さい﹂
悲鳴の主はフレアであり、それを抱きかかえるようにして抑えてい
るのはシャロン。
﹁ですから、そのステア殿の事ですが、私は現在の居場所を存じま
せん。最初に申し上げた通り、私は私の知り得る限りで貴女方に協
力させて頂く、それだけです﹂
1265
感情を殺した声で応答するのは、裁天使ユラミルティ。
半日前のゼオムント兵との接敵。
そしてその後の凌辱からラクシェ及び天兵連隊によって救出され、
天兵の里へ連れ帰られた公娼達はその身を清める為に宮殿内の浴室
に居た。
重傷を負ったシャスラハールはアン・ミサの元へ届けられ、その治
療の間、彼女達は心身にこびり付いた汚れを洗い落とそうとしてい
た。
ゼオムントの雑兵になすすべも無く身を屈し、股を開いた記憶。
命を惜しみ、シャスラハールを見殺しに仕掛けた事による矜持の崩
壊。
ルルとマリューゾワとシロエは無言のまま浴場内の流し場で体を洗
い続けている。
あの敗北はゼオムントが新たに施した公娼への呪いが原因であると
いう事は、ラクシェの口から面白おかしく告げられている。
しかしそれでも、納得できるものでは無い。
シャスラハールを実の弟の様に信頼し、蒙を開いた魔女であるルル。
魔剣大公として名を馳せ、幾多の戦場でゼオムントの兵を屠り、公
娼にされてからも決して心までは屈さなかったマリューゾワ。
ハイネアからリネミアを代表してシャスラハールを守る様に命じら
れたはずの巫女騎士シロエ。
彼女達は皆、それぞれの意義と役目を忘れ、無抵抗のまま地面に尻
を付け、股を開き、肉棒を迎え入れた。
心に刻まれた傷は深く、誰もが目を閉じ、ただ湯を体へと打ち付け
る。
聖騎士ヴェナは今、この場所には居ない。
彼女は里へ戻ってくるとそのまま簡単に凌辱による肌の汚れを拭い、
シャスラハールに付き添いアン・ミサの元へと同行している。
守ると誓った相手を見殺しにしかけた。
その罪悪感が顔には深く刻み込まれ、嗚咽する事無く静かに泣く様
1266
な表情で、物言わぬ主の体を支えていた。
そして、リーベルラントの二人の騎士。
シャロンとフレアにはただ沈み込むだけと言うわけにはいかない理
由が存在した。
天兵の里で起きた親鬼の騒乱によりバラバラになった仲間達の内、
唯一合流できていない存在。
騎士長ステアの捜索が、まだ完了していない。
彼女に最も近しい二人は、その分だけ他の公娼達よりも焦りが深い。
浴室でざっと体にこびり付いた泥と精液を洗い落とすと、この場所
まで彼女達案内して来たユラミルティにステアについての確認を取
ったのだ。
そしてもたらされたのは、悲報としか表現し様が無い現実。
﹁ステア殿を連れ去ったのは鶏人族です。彼らの集落は私及び現行
の管理者地図には記載されていない秘境と判断されます。そもそも
彼の部族を目撃する事こそ珍しいのです。一年に一度、鶏人族の商
人が買い付けに回る姿だけが目撃され、どこへ帰るのかも定かでは
ありません。彼らは知恵も力も無い部族ですので、身を隠す為にそ
のような方法を取っているのでしょう﹂
冷静な声でユラミルティは語り、その分フレアは興奮していった。
﹁だったら⋮⋮だったら姉上はどうなる! わたし達が助けに行か
なかったら︱︱﹂
最悪の想像が、フレアとシャロンの脳裏を駆け巡る。
親鬼によってオナホールへと改造され、商品として出荷されたのだ。
どの様に扱われるか等、今更考える必要も無いだろう。
膣穴を提供するだけの玩具として生かされ、食事も入浴も排泄すら
他者の手によって座興の様に扱われ、尊厳を徹底的に汚されながら
生きて行く。
加えて死を恐れるゼオムントの新たな呪いがステアの身にも降りか
かっているのならば、彼女が今どのような精神状態で救いの来ない
凌辱の日々を過ごしている事か。
1267
﹁諦めた方が、宜しいかと﹂
ユラミルティはフレアから一歩距離を取りながら答えた。
﹁後日我らはクスタンビアの騒乱による犠牲者の追悼式を行います。
その際にステア殿の事も弔われては如何でしょうか?﹂
その言葉に、フレアは顔を青褪めさせ、シャロンは目を見開いた。
﹁騎士長を⋮⋮﹂
呆然と紡がれるシャロンの声に、ユラミルティは頷いた。
﹁はい。貴女方の心の安寧の為でもあります。生きている、と希望
を抱いたまま助ける事の出来ない現実を過ごす日々は、お辛いでし
ょうから﹂
天使の言葉に、フレアは身を震わせた。
﹁だから⋮⋮姉上を死んだ事にしろと⋮⋮? まだどこかで、わた
し達が助けに来る事を信じている姉上をか⋮⋮?﹂
﹁それは貴女の想像ですよ、フレア殿。ステア殿は本当にお亡くな
りになっているかも知れません。既にあの騒乱から十日以上が経っ
ているのですから、この西域は決して治安の良い土地では有りませ
んし、今のステア殿には危機に抵抗する事すら難しいでしょう。そ
れこそオナホールとして買われた以上、いずれは捨てられるのです
から﹂
真正面から、ユラミルティはフレアを見つめる。
﹁これは貴女の為なのですよ。残念ながら私達ではステア殿を救い
出す事は出来ません。もし出来るとすれば、一年後にまた鶏人族の
商人が姿を見せた時に捕まえてステア殿の事を聞き出すしかありま
せん。しかし私には人がこの魔物の領域で一年間、救いも自由も何
もない状態でオナホールとして生き続ける事は、どうにも不可能に
思えてしまいます﹂
フレアもシャロンも、そしてステアも公娼として三年を過ごしてい
る。
一年間性奴隷として生きる事がどれほどの苦痛であるかは身に沁み
て理解している。
1268
その上相手が人間で、仲間がいて、まだ夢を見る余裕が僅かに存在
した公娼時代とは違い、ステアはたった一人で魔物の部族を相手に
股を開き続け、呪いによって死を恐怖した状態で、一年間も無事で
いられるのか。
﹁⋮⋮だが、だが⋮⋮﹂
﹁悪い事は申しません。その様な状態のステア殿の事を思い続けて
いては、きっと貴女は壊れてしまいます。⋮⋮追悼式は盛大に執り
行います。そこで気持ちの整理をつけられる事を私はお勧めいたし
ます﹂
ユラミルティは一礼し、浴場に背を向けて二人の前から歩き去って
行った。
﹁フレア⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
シャロンは裸のまま、フレアを抱き締めた。
小刻みに震えるその体は、弱弱しい。
﹁⋮⋮現実問題。今の我々では戦えない。元より救うという選択肢
を失っているのだよ﹂
湯船に身を浸らせ、自嘲するかの様な響きでマリューゾワが言った。
﹁鍛えた腕も、研ぎ澄ませた魔法も、何もかもが無駄になった。こ
の状況でお前の姉を救い出そうなどと言うのは、無謀も良いところ﹂
離れた場所で聞いていたのだろう、フレア達に背を向けた状態で身
を浸すマリューゾワは先ほどの会話から全てを理解していた。
﹁アンタも⋮⋮諦めろって言うのか⋮⋮?﹂
フレアは幽鬼のような顔で魔剣大公を振り返り、呪いに似た言葉を
吐いた。
﹁それが楽でしょうね。だがもし⋮⋮もしも私の仮説が正しかった
とするのならば、可能性は有る﹂
応える声には、底知れぬ熱が有った。
﹁マリューゾワ様⋮⋮?﹂
一介の騎士に過ぎないシャロン達にとってみれば、地方国家の領主
1269
とは言えマリューゾワは敬意を以って相手にするしかない。
﹁あぁ⋮⋮我らは戦えない⋮⋮武器を取ったところで、魔法を唱え
たところで、本能が死の可能性を僅かでも感じてしまえばそこで無
様に屈するしかない。だがな、考える事を諦めるな、騎士達よ﹂
マリューゾワは振り返り、二人を強い瞳で見つめた。
﹁まずこの呪いだ。私達を有態に言って﹃生き汚く﹄させるこの呪
い。これが有る内はそのステアとやらも、必死で生きようとするの
だろう? 例えオナホールに身を落されても、どの様な手を使って
もな﹂
死にたくないと願い、どんな事でもすると縋る。
﹁つまり相手にとってみれば従順な者になるという事だ。下手に逆
らわないだけ、生存率は上がるだろうよ﹂
﹁⋮⋮姉上⋮⋮﹂
肉棒を剥き出しにした男達に対し、下手に出て命乞いをする姉の姿
を想像し、フレアは顔を顰めた。
﹁⋮⋮気持ちはわかる。だが受け入れろ。それが利する時も有る。
そしてだ。ここからが重要なのだが⋮⋮なぁシロエ、どうしてラク
シェは私達を救う事を出来たと思う?﹂
突然声を向けられ、シロエは一瞬間を置いてから、
﹁偶然⋮⋮では有りませんよね。ラクシェはアン・ミサ様の依頼に
応える形で私達の救助を行いました。そしてそれを仲介した者が居
る⋮⋮﹂
湯船の中で顎に手を当て、思考に耽るシロエ。
﹁私達の居場所を知る者が居た⋮⋮と言う事ですか?﹂
﹁そうだ。そして必要なのは三つのピースでは足りない。私達の救
助を願った者。その願いを伝えた者。実際に助けた者。だがその前
に、その状況を望んだ者が居たはずだと私は思うんだよ﹂
マリューゾワの瞳は剣呑に輝く。
﹁アン・ミサは私達を助けたいと願った。そしてそれを何者かがラ
クシェに伝え、ラクシェは不満を持ちながらもそれに従った。つま
1270
りこの時点では、アン・ミサとラクシェを繋いだ人間はアン・ミサ
寄りの考えを持ち、私達を救い出す側の存在だったわけだが。ラク
シェと同様に私達をあの状況に遭遇させ、破滅を楽しもうとしてい
た奴がいるのだろうよ。盤面を俯瞰する様に眺め、操った存在だ﹂
そこで魔剣大公は言葉を切り、シャロンを見つめた。
﹁わかるか?﹂
騎士長ステアの下で軍師として働いて来たシャロンには、明確な答
えが見つかった。
﹁⋮⋮ラグラジルは、ユラミルティに許可を出しました。私達に解
放軍を救いに行けと。この時点から罠だった。或いは全てラグラジ
ルの遊興⋮⋮﹂
シャロンの答えに、マリューゾワは頷いた。
﹁そうだ。ラグラジルは知っていたのさ、こうなる事を。それはつ
まり、ラグラジルは私達よりも先にゼオムント兵を見つけていて、
かつ呪いの存在も承知していた。どちらが先かはわからない。だが
思うに、ラグラジルがユラミルティと通信していた時の言葉を覚え
ているか? ﹃魔力が桁外れになり、遠距離でも自由に魔法が使え
る﹄ならばだ﹂
ハッとした表情で、シャロンは口を開いた。
﹁ラグラジルには遠隔視の能力が有ります⋮⋮。それにラグラジル
の能力が強化されているのならば、他にも空間転移が有る⋮⋮﹂
﹁あぁ。私は全てを知っているわけでは無い、だがもしこの状況で
騎士ステアを助けようと思うのならば、あの魔天使の力に賭けるし
かないだろう。少なくとも奴ならば居場所を探せる。ルルの幸運を
付与すれば、確率も跳ねあがる﹂
名を出されたルルは茫洋とした表情を一転させ、眉を引き締め頷い
た。
﹁尤も、どうやってラグラジルに要求を通すかが問題だがな。今回
の事を見る以上、魔天使は我らを排除したがっている。これは間違
いない。だが︱︱﹂
1271
そこでマリューゾワは視線の向きを変え、フレアを見つめる。
﹁あぁ。問題無い。わたしが頼む。何をしても、何を失ったとして
も、ラグラジルに頼み込む。姉上の命を助ける為に﹂
覚悟を決めた表情のフレアがそこには居た。
﹁⋮⋮乗りかかった船だ。私も付き合おう。共に土下座でも何でも
アイツの玩具になってご機嫌を取ってやろうじゃないか﹂
魔剣大公マリューゾワはそう言って刺々しく笑った。
﹁私もやります。フレア、共に騎士長を救いましょう﹂
シャロンもフレアと並び立ち、決意を示す。
﹁わた︱︱﹂
﹁ルルとシロエはアン・ミサに今の内容を伝えてくれ。この場合こ
ちらが切れる最も強力なカードはアン・ミサだ。申し訳ないが、援
護を期待させてもらう﹂
自分達もと名乗り出ようとする二人を遮って、マリューゾワが言い
渡し、
﹁剣と魔法を失ったからと言って、全てを諦めるわけにはいかない
だろう。我らは不屈の復讐者なのだからな﹂
己の尊厳すらも武器に変え、魔剣大公は静かに笑った。
魔天使ラグラジルは空になったカップを置きながら、嫣然と笑みを
浮かべた。
﹁ふぅん⋮⋮そう。ステアちゃんをねぇ⋮⋮﹂
﹁頼む。命じられた事ならば何でもする。姉上を助けてくれ﹂
頭を垂れ、懇願するフレアの後ろには、マリューゾワとシャロンが
同様の姿勢を取っている。
執務室に現れた三人は挨拶もそこそこに本題を切りだして来たのだ。
﹁ま、貴女達の考えた通り、今のワタシになら不可能じゃないわ。
でもね、それをしてあげる義理が無いのよ。全然﹂
愉快そうに笑いながら、魔天使は言葉を続ける。
1272
﹁今のワタシは西域の管理者。この地で一番偉い存在。そして貴女
達は戦う術を失った公娼。その上ワタシ達にはよくない歴史が有る
わね。特にシャロンちゃんとフレアちゃんとの間には、ね﹂
魔天使ラグラジルが最初に接触した三人の内二人。
﹁フレアちゃんはワタシを裏切るし、シャロンちゃんは最後まで逆
らうし⋮⋮まぁもう今更貴女達は必要無いし、どうでも良いのだけ
れどね﹂
力を失っていた当時、自分を補佐する存在を欲したラグラジルだっ
たが、完全に取り戻した今となっては、戦えない彼女達など必要な
かった。
﹁けどそうね。何でもするって言うんだったら兵の慰問でもやって
くれる? あいつら今執行猶予中で無理な仕事を連続させてるから
かなり苛立ってるのよね。役に立たないなりにその体は使えるんで
しょう? ちょっと相手をしてきてよ﹂
嘲笑を浮かべながら、ラグラジルは言った。
﹁⋮⋮姉上を助けてくれるのなら、是非も無い﹂
フレアの絞り出すような声。
﹁良いわよ。やってあげるわ。貴女達が兵士達の肉便器になってる
間に、ワタシが調べて置いてあげる﹂
無論、ラグラジルの言葉は軽い。
そこにどれだけの本気が込められているかは、誰にもわからない。
﹁約束して欲しい、姉上を助けると﹂
フレアは顔を上げ、ラグラジルに懇願する。
調べて置く、では足りないのだ。
﹁あぁはいはいステアちゃんを助けてあげるわ。だったら貴女達は
ステアちゃんが助かるまでの間ずっと肉便器ね。ユラミルティから
聞いてるかも知れないけど、もしかしたら一年かかるかも知れない
から、それまでずっとお便所よろしく﹂
嘲笑する魔天使に向けて、フレアは頷いた。
﹁それで姉上が助かるのだったら、わたしは構わない﹂
1273
真剣な瞳は、小揺るぎもしなかった。
﹁私もやりますよ。ラグラジル﹂
静かに言葉を繋いだのはシャロン。
﹁一年程度の間、ここの寡兵を相手にするくらい、これまでの三年
間と比べれば造作でも無いだろうよ﹂
胸を張って応じたのはマリューゾワ。
三人の様子を見て、ラグラジルは口元を歪めた。
﹁⋮⋮そぅ。だったら早速そうしてもらおうかしらね。服を脱ぎな
さい﹂
命じる魔天使の瞳は細められている。
﹁わかった⋮⋮﹂
フレア達は入浴後に与えられた平服を脱ぎ捨て、一糸纏わぬ裸体を
晒す。
フレアが引き締まった腰を晒し、シャロンが整えられた陰唇を晒し、
マリューゾワが吊り上がった乳房を晒した。
﹁そのまま詰所まで歩いて向かいなさい。ワタシの方からは何の連
絡もしないで置くから、ちゃんと自分達の口で説明するのよ。犯し
てくれって。肉便器にして欲しいって﹂
少しずつ取り戻していく、魔天使の愉悦。
﹁そうね。それが良いわ。この約束はワタシ達だけの秘密。誰にも
言ってはダメよ。貴女達は望んで兵士達に股を開くの。シャスラハ
ールに聞かれても、アンに聞かれても、ただ﹃オマンコが寂しいか
ら﹄って答えなさい。自分達から淫売に身を落すの。出来るわね?﹂
命じられて強制的に股を開かされるのとは異なり、表立ってはただ
の好色な雌犬の様に、兵士達を誘惑しなければいけない。
そう指示されたとしても、
﹁⋮⋮わかった﹂
フレアは受け入れた。
シャロンも頷き、そっと隣に立つマリューゾワを覗き見た。
自分とフレアにはステアを助け出すと言う強い信念が有る。
1274
だが成り行きで同調しているマリューゾワがそこまでの屈辱を飲む
必要は、果たして有るのか。
その疑問は、余裕の笑みを浮かべた魔剣大公の頷きにより、更に深
くなった。
﹁じゃあ行きなさい。後で確認しに行ってあげるから。夜までに一
人最低十回は膣内出しして貰っておく事ね﹂
ラグラジルはそう言い放ち、指を鳴らした。
それを合図に、フレアとシャロンは歩き始める。
長ければ一年間続く、肉便器生活への入口へと向けて。
﹁どうしたの? 行かないの? やっぱり止めるのかしら?﹂
一人、マリューゾワだけがラグラジルの正面に立ったまま、薄く笑
っていた。
﹁いや、そろそろだろうなと思ってな﹂
その言葉と共に、執務室の扉が開いた。
﹁皆さん。服を着て下さい。お話の続きを致しましょう﹂
智天使アン・ミサが、厳しい表情で室内に入って来た。
﹁お姉様、お話が有ります﹂
その言葉と共に、アン・ミサはラグラジルを詰問した。
ユラミルティ、ラクシェ、そしてマリューゾワの推論をルルとシロ
エから聞いて、事の元凶ラグラジルを問い詰めていく。
議論を躱すようにしていたラグラジルだったが、ブレる事の無いア
ン・ミサの瞳と追及に段々と追い詰められていき、最終的には口調
の全てが投槍になっていった。
﹁あーはいはい⋮⋮ワタシが悪ぅございました⋮⋮﹂
﹁それが謝罪ですかお姉様。お姉様が皆さんに対してやった事は、
決して許されざる︱︱﹂
一度折れたラグラジルを徹底的に叩きのめしていくアン・ミサ。
公娼達はその様子を唖然とした態で見つめるしかなかった。
1275
﹁わかったわよ! もう⋮⋮協力する。協力するから今回の事はナ
シにして﹂
額に手を当て嘆息するラグラジルと、
﹁皆さん。姉のしでかした事は謝って済むような事ではございませ
ん。つきましては責任をわたくしと姉、そして妹のラクシェで取ら
せて頂きます。ステアさんの救出、手伝わせて頂きます﹂
深々と頭を下げながら、アン・ミサは三人に対して謝罪した。
﹁姉上が助かるのならば、わたしに言う事は無い﹂
﹁私もフレアと同じです。顔を上げて下さい、アン・ミサ様﹂
﹁私とルル、シロエとスピアカントの両名の分はまた後日清算させ
てやろう。感謝しろラグラジル﹂
一転して態度を変えたマリューゾワを筆頭に、三人はアン・ミサを
宥めた。
﹁チッ⋮⋮﹂
椅子に座った状態で舌打ちするラグラジルに向けて、
﹁お姉様⋮⋮?﹂
アン・ミサが鋭く瞳を光らせる。
﹁わかってるわよ⋮⋮あーもう。さっさと終わらせるわ。魔鏡探査、
対象﹃西域・人間・女・騎士﹄﹂
ラグラジルはぼやきながら指を鳴らし、魔法の鏡を生み出した。
﹁現在位置がわからないんじゃ調べようも無いからね。とりあえず
大雑把なキーワードで一括検索するわ。この中から探しなさい﹂
鏡は一つでは無く、百枚近く生まれ、ラグラジルを取り囲んだ。
﹁これは⋮⋮私達ですか﹂
シャロンが鏡の一つを指差し、そこに映る自分達を示した。
﹁そうよ。今﹃西域﹄に居る﹃人間﹄の、﹃女﹄の、﹃騎士﹄を全
て表示するようにしたわ﹂
魔鏡の捉えた映像群に圧倒される人間達と、真剣な表情で見つめる
アン・ミサ、興味も無さ気に机に肘をつくラグラジル。
﹁半数近くは黒く塗りつぶされているな⋮⋮﹂
1276
﹁あぁ、ゼオムントの本陣は何かの結界が有って映像が通らなくさ
れてるのよねぇ。たぶん、オビリスがこっちに来たせいでしょうけ
ど﹂
顎に手を当てて唸ったマリューゾワに、ラグラジルが適当に応じる。
﹁オビリス⋮⋮ですか﹂
アン・ミサが眉を逆立てて口の端を歪めていると、
﹁あっ⋮⋮こ、これ! 騎士団長じゃないか?﹂
﹁え? ホント⋮⋮何で、戦ってるの⋮⋮?﹂
二人の騎士が驚愕の声を上げ、一枚の魔鏡に被り付く。
﹁相手は⋮⋮ゼオムント⋮⋮?﹂
映像の中心に立つセリスを、ゼオムントの大軍が包囲していた。
そしてゼオムント軍の中から一人の人間が駒を進めてきて、セリス
へと声を掛けている。
﹁誰だコイツ?﹂
三十前後の男が映り、フレアが首を捻ってシャロンを見やる。
﹁知りません。将軍職かしら⋮⋮それにしては若いですね⋮⋮﹂
ゼオムントの王室に籍を置いている筈のセリスがどうしてゼオムン
ト軍と対峙しているのか、その疑問を抱き二人が後ろを振り返ると、
マリューゾワは厳しい表情で、アン・ミサは憤怒の面持ちで、
そしてラグラジルは凄絶に笑みながら、
その男の名を口にした。
﹁オビリス﹂
﹁ご機嫌麗しゅう御座います。セリス様﹂
馬上で慇懃に礼を取りながらオビリスが近づいてくるのを、セリス
は無言で眺めていた。
リトリロイをセナに任せ、自分は足止めの為にゼオムント軍を迎え
撃った。
大軍である事は馬蹄から予想がついていたが、それにしても笑わざ
1277
るを得ない程の、重厚な布陣。
セリス一人に対して、ざっと見ただけで二万以上の人魔混合軍が包
囲していた。
﹁セリス様。リトリロイ殿下は何処に? 陛下はこの度の出奔に大
層御心を痛められておいでです。一日も早く、王都に帰還して頂き
たいのですが﹂
オビリスは片手を広げ、セリスへと近づいて行く。
﹁⋮⋮お前が死ねば、軍も退くわよね﹂
セリスは神業にも等しい速度で剣を抜き、オビリスへと迫った。
それを見て、馬上の魔導元帥はつまらなそうに息を吐いた。
﹁ふん。やはり戦う事しか知らぬか。王族である間にもっと教養を
付けさせておくべきだったな。構えよ!﹂
オビリスは馬の歩みを止め、周囲の兵に命じて弓と槍を構えさせる。
第三魔法の呪いに縛られる公娼ならば、それだけで充分の筈だ。
命を守る事に固執し、名誉も矜持も投げ捨てて命乞いをする︱︱筈
だった。
﹁ハッ⋮⋮!﹂
セリスは気迫を込め、一気に距離を詰めて来た。
﹁なっ⋮⋮そんなっ⋮⋮! くそっ! 来いっ﹂
油断しきっていたオビリスはセリスの接近を許し、大きく慌てなが
ら身を躱そうとする。
﹁逃がさない!﹂
大上段に振り上げられた長剣がオビリスの首を刈り取ろうとした瞬
間、
ブシュ︱︱と肉が断ち切れる音が割って入り、血肉が落下した。
黒々とした体の異形の血肉。
﹁⋮⋮ッ﹂
セリスは着地しながら、更に踏み込んだ。
先ほどセリスを襲撃したガーゴイルの残党が主の命令に従い、生き
た盾となってオビリスを庇ったのだ。
1278
庇われたオビリスは落馬しながら後方に下がり、それを守る様にし
てガーゴイル達が次々に降下してきている。
﹁ハッァアアアアアッ!﹂
長剣の一薙ぎでガーゴイルを両断しながらセリスはオビリスを目指
す。
﹁お前、どうして戦える! 公娼の牙は既に奪ったはずだ⋮⋮!﹂
オビリスはガーゴイルを次々に呼び寄せながら、懸命に後ろに下が
っていく。
周囲を取り囲んでいる兵士達は、その様子を唖然としながら見守っ
ていた。
そこに、
﹁何をしているのです! 当初と予定が変わったからと言ってもや
る事は一つでしょう! 元帥をお守りしてあの女を捕らえなさい!﹂
随行していた王宮魔導士ゴダンの声が響いた。
その言葉に鞭打たれ、兵士達はセリスへと挑んでくる。
ガーゴイルを、兵士を、その他の魔物を切り伏せながら、セリスは
歩みを止める事無くオビリスを目指す。
﹁馬鹿な⋮⋮公娼のお前が何故⋮⋮刻印は消えていないはずだぞ!﹂
公娼を管理する責任者でもあるオビリスに取ってみれば、刻印を施
した記録が有り、除去した記録が無い以上、立場は他の者達とは違
えど、セリスが公娼である事は間違いなかった。
﹁⋮⋮﹂
セリスは無駄口を叩かない。
この戦場には鼓舞するべき味方が居ない以上、語る言葉を持たない
からだ。
ただ無言で兵の体を裂き、魔物の肉を抉った。
公娼は刃を見せれば命乞いをする。
そう心から油断していたゼオムント兵達は、まさかの事態に動転し、
バターが裂かれるよりも簡単に命を落としていった。
唯一抵抗できているのが魔物の部隊。
1279
主命に従い命を捨てて特攻してくる彼らの抵抗によって、セリスの
足は鈍り、オビリスとの距離が段々と生まれてくる。
しかし、それでもオビリスに生きた心地は無かった。
現存する最強の公娼セリスの刃が自分を狙っている。
その事実が彼を怯ませたのだ。
怯えは、知恵を働かせる最大の引き金だ。
オビリスは額から汗を生み出しながら、セリスを観察する。
血肉を浴び続けるセリスの左手に、一つの銀色を見つけた時、
﹁王族の守護魔術か⋮⋮! お前、呪いを弾いているな!﹂
公娼刻印と同じか、それ以上に王宮の魔導士達が心血を注いで作り
上げた物が有る。
自分達の主人である王家を守る為に、彼らの日頃所持している愛用
品に如何なる魔術をも弾き返す守護刻印を施したのだ。
セリスの左手に輝くのはリトリロイから贈られた王族の証。
婚約指輪。
その裏側には日付と二人の名と、特殊な刻印が彫られていたのだ。
﹁圧殺! 圧殺せよ!﹂
ゴダンの焦り声。
﹁くそっ! 援軍を! この近くの魔物共を全て呼び寄せるぞ!﹂
オビリスの恐怖した声。
そこには確実に一歩ずつ自分達に近づいてくる、リーベルラント無
敗の軍神の圧倒的な姿が有った。
﹁騎士団長⋮⋮﹂
﹁どういう事だ? 騎士団長は裏切ったんじゃ⋮⋮?﹂
シャロンとフレアが呻いていると、
﹁リトリロイ⋮⋮確かゼオムントの王族の名前だったな⋮⋮。オビ
リスはそいつを探しているのか⋮⋮﹂
マリューゾワがぼそりと呟いた。
1280
﹁皆さんはご存知無いかも知れませんが、ゼオムント本陣は少し前
に騒動が有って、その時にゼオムント王子とその妃、あと一部の兵
と公娼が離脱したと聞きました﹂
アン・ミサが補足すると、ラグラジルは一つの鏡を指差した。
﹁それだね。離脱した公娼の中に騎士だった奴が居たみた⋮⋮いっ
て、これ、見た顔ね﹂
ラグラジルの指と視線が固まり、
﹁ユキリスちゃん?﹂
その言葉に、シャロンとフレアは一斉に顔を動かした。
﹁ユキリス!﹂
﹁中心に映されているのはシュトラか! それに⋮⋮アミュス! ヘミネ!﹂
二人の騎士は驚愕の声を上げる。
そして、彼女達の輪から少し離れた所を歩く一人の男と、
それを見張る様にして後ろを歩き続けている懐かしい顔を見つけた。
﹁セナッ!﹂
映し出された場所は天兵の里からそう遠くないとの事で、すぐさま
アン・ミサの命令によってユラミルティが派遣された。
﹁⋮⋮アン。ついでだけど、ラクシェをオビリスの所に派遣して。
殺せそうなら殺すようにって。戦ってる人間についてはどうでも良
いわ。ただ無理はさせないで、あの男は簡単には死なないわ。下手
をうってラクシェが敵の手に落ちるのは最悪よ﹂
ラグラジルがそう呟き、アン・ミサも了承した。
﹁騎士団長⋮⋮セナ達⋮⋮無事で﹂
シャロンは胸に手を当てて祈る。
その隣で、マリューゾワが顔を顰めて言った。
﹁⋮⋮見つけた。これだな﹂
一枚の魔鏡を指差す魔剣大公。
1281
その導きに従って、鏡面を覗き込んだフレアとシャロンが目にした
物は、
﹁姉上⋮⋮ッ﹂
﹁騎士長⋮⋮﹂
薄暗い納屋で鶏頭の男達に媚びた笑みを浮かべながら、尻を振って
いるステアの痴態だった。
覚悟はしていた。
それでも、この映像は心を激しく痛めつけて来る。
﹁あぁら、ステアちゃん楽しそう﹂
﹁お姉様!﹂
茶化すようにして笑ったラグラジルに向けて、アン・ミサが歯を剥
く。
﹁姉上⋮⋮くぅ⋮⋮必ず、必ずお助けします﹂
両目から涙をあふれさせるフレアの背中に、マリューゾワの手が乗
った。
﹁そうだな。今もまだ生きている事がわかった。それにこの状況な
らば、容易に命を落す事も無いだろう。気をしっかり持て﹂
諭す様な声音に、二人の騎士が頷いた時、
﹁あー⋮⋮でもこれ、ちょっと難しいんじゃない?﹂
指を鳴らしたラグラジルの愉悦を押し殺した声。
魔鏡は主の意図を汲み、映像を多角化させて周囲を映しだしていた。
﹁どう見ても空の上ね。雲より上となると、天使の羽根でも無理だ
わ。お手上げね﹂
朗らかに紡がれた言葉に、騎士達の表情が曇る。
その時、
﹁いいえ。この程度なら可能です。生身の天兵では無理ですが、魔
導機兵ならば、魔力を十分に与えればこの高さまで移動は可能でし
ょう﹂
そう言って、アン・ミサはラグラジルを見やる。
ラグラジルの能力の内の一つ、魔力付与。
1282
そしてハルビヤニの遺産であり、現在アン・ミサの手駒になってい
る物言わぬ鋼鉄の鎧、魔導機兵。
﹁⋮⋮でも、里の外に出るんでしょう? アンタの統治じゃ魔導機
兵を操れないじゃない﹂
抵抗を示すラグラジルに、アン・ミサは首を振った。
﹁魔導機兵は元より甲冑としての役割が有ります。中に人が入り、
それを操る事によってこの場所を目指す事が出来ると思います﹂
そう言って、智天使は二人の騎士を見た。
﹁やるよ﹂
﹁やらせてください﹂
騎士達の頷きを得て、アン・ミサは再度ラグラジルを見やる。
魔天使はつまらなそうに口を曲げながら、
﹁でも呪いがあるじゃん⋮⋮運よく雲の上に到達したって︱︱﹂
﹁ゼオムント王族の守護刻印⋮⋮あの王子を保護すればそれが手に
入るな﹂
マリューゾワは友人の肩を叩きながら言った。
﹁はい。リトリロイ王子を保護し、守護刻印を頂きます。可能なら
ばそれを複製し、皆さん全員に行き渡る様に加工します﹂
アン・ミサは肩に乗せられた友の手を握りながら、瞳を燃やして頷
いた。
この場に居る誰も知らない。
ステアのすぐ近くに置かれている木製のチップの数が、既に三百枚
を切っているという事を。
1283
飛翔︵前書き︶
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1284
飛翔
突如現れた見知らぬ女天使とその部下に案内され、セナ達は巨大な
門へと辿り着いた。
唐突な出現に警戒心を抱かないわけでは無かったが、元より目指し
ていた天使の里の十人であり、それに加えてシャスラハールやシャ
ロンの名前を聞かされては、無視するわけにもいかなかった。
﹁⋮⋮あまり時間が有りません。失礼いたします﹂
ユラミルティと名乗った女天使の言葉と共に、天使達は裸のセナ達
に外套を渡した後、背中を向けて掴まる様に促した。
リトリロイを含めた全員を背に掴まらせ、天使達はその翼を利用し
た高速移動で西域の地を飛んだ。
そして徒歩での移動ならば一日は要したであろう距離を一刻足らず
で進み、天使の里︱︱天兵の里へと到達した。
門前で大地へ降ろされ、そこで懐かしい顔と再会する。
﹁セナッ!﹂
﹁セナさん﹂
小柄な、未だに幼さを残す少女と、その少女に付き従う優しい表情
の女性。
﹁ハイネア王女! リセ!﹂
駆け寄ってくる二人を迎えながら、セナは表情をほころばせた。
その隣では、
﹁ユキリス。お久しぶりですね﹂
﹁ルル院長⋮⋮どうして貴女が⋮⋮﹂
フードを被った女性が淑やかに微笑み、劇毒の魔女へと話しかけて
いた。
更に、
﹁ん⋮⋮んー⋮⋮やっぱり。テハイネ領の騎士シュトラだよね?﹂
1285
﹁あぁ私の記憶にも有るぞ。ロクサスでの決戦で見せた貴公の働き、
よく覚えている﹂
威厳のある黒髪の女性と、その隣にいる小柄な緑髪の少女がシュト
ラに話しかけ、
﹁魔剣大公マリューゾワ⋮⋮それに貴女はアーリン領の兵器将校で
したか⋮⋮﹂
同郷の英雄に出会い、シュトラは目を白黒させている。
そして、
﹁アミュ姉! ヘミネちゃん!﹂
傭兵マリスは飛び掛かった。
﹁良かった⋮⋮良かった⋮⋮また、会えたね﹂
普段のおどけた態度をかなぐり捨て、顔面をグシャグシャにして涙
を流し、かつての戦友達の胸に縋りついた。
﹁マリス⋮⋮﹂
﹁⋮⋮無事だったのですね、マリス⋮⋮良かった﹂
アミュスは呆然としたまま、ヘミネは友人の体を抱いて応じた。
寒々とした西域の地に、久しく見られなかった公娼達の笑顔が咲い
た。
それを、リトリロイは無言で見つめている。
その首筋に、
﹁ゼオムントのリトリロイ王子ですね。こちらに付いて来てくださ
い﹂
薙刀の白刃が突き付けられる。
絶世の美貌を持つ金色の智天使アン・ミサと、彼女を庇う様にして
巫女騎士シロエがすぐ隣に立っていた。
﹁⋮⋮貴様は?﹂
﹁この地の管理者に連なる者でございます。貴方の身柄を保護する
代わりに、こちらの要求に従って頂きます。それが出来るのならば、
わたくしアン・ミサの名に於いて、貴方の身の安全を保証いたしま
す﹂
1286
智天使の応答に、リトリロイは白刃の迫った首を掻く。
﹁⋮⋮わかった。正直ここの連中よりもそちらの方が安全そうだ。
セリスが迎えに来るまで世話になろう﹂
向けられる幾多の敵意に肩を竦ませながら、リトリロイは言い放っ
た。
﹁シロエ﹂
﹁はい﹂
アン・ミサの言葉に頷き、シロエは薙刀を引き戻して歩き始めた。
その後ろにアン・ミサが続き、数人の天兵に囲まれながらリトリロ
イもその背を追った。
﹁あ、待ってアタシも︱︱﹂
﹁確か、セナだったか﹂
セリスにリトリロイを任された以上、その身を保護する義務がある
セナも続こうとしたところで、黒髪の女性に呼び止められた。
﹁ん? アンタは?﹂
強烈な威厳と自信を感じさせるその女に向けて、セナは首を傾げる。
﹁セナ、こちらはロクサスの盟主マリューゾワ殿よ。ほら、魔剣大
公という名は聞いたことが有るでしょう?﹂
シュトラが少し緊張気味にその名を告げ、セナもまた慌てて頷いた。
﹁良い。今は私の名が大事では無い。セナ、あの王子の事ならばア
ン・ミサに任せておけば問題は無い。それよりもまず、お前は行く
べきところが有る。シャロンとフレアが待っているぞ﹂
そう言ってマリューゾワは視線をユラミルティへと向ける。
裁天使は頷き、
﹁セナ殿、私に付いて来てください。管理者ラグラジルがお呼びで
す﹂
そのまま歩き出した。
﹁え? ラグラジル? 管理者? は?﹂
﹁良いから付いて行け。そこにシャロンとフレアも居る。話は向こ
うで聞いてくれ。こちらの者達には私から話をしよう﹂
1287
動揺するセナに手を振りながらマリューゾワは言い、残された公娼
達へと語り掛ける。
﹁皆よく無事だった。しばしの間、思う存分体を休めてくれ。そし
てその後は︱︱﹂
この地が既に安住の場所では無い事は、公娼達は皆それぞれ認識し
ている事だろう。
ゼオムントが本格的に西域に出征し、魔物を従え西進してきている。
決戦は避けられない。
しかし、公娼の身分に落された者達に取ってみれば、自分達の未来
を賭けた戦いを、その手で果たす時が来たとも言える。
従妹のアルヴァレンシアやマリアザートら解放軍、その他散り散り
になっていた公娼達は今頃ゼオムントに回収され、絶望に浸ってい
るかもしれない。
彼女達を救う為にも、この地にたどり着いた者達はゼオムントに勝
たなければいけない。
彼我の戦力差は大きなものだが、こちらには戦って勝つ以外の道が
残されていない。
﹁ゼオムントとの、戦争だ﹂
魔剣大公の言葉に古い仲間達も、新たに出会った者達も、力強く頷
いた。
﹁こちらです﹂
道は舗装され、住人は簡素ながらしっかりと服を着て、建物は石造
りで塗装までされている。
セナは西域でここまで文化的に発展している場所に初めて足を踏み
入れた。
軽い驚きと、緊張。
セナがセリスに敗れ、シャスラハール達と引き離されてから、彼ら
がどのような戦いを経てここに辿り着いたのかは知らない。
1288
しかし十人に満たない仲間達でこの里まで到達し、天使達の力を得
るまでこぎ着けたのは、驚き感心する事だった。
﹁まぁシャスは頼り無いけど、ヴェナ様や騎士長も居たしね。流石
って事で﹂
口角が上がり、一人ウキウキと笑うセナをユラミルティは冷たく観
察しながら前へと進んで行く。
広い通りを抜け、一段と巨大な建物へと入り、そのまま進んでとあ
る一室の前で天使は歩みを止めた。
﹁この中でラグラジル様がお待ちです。どうぞ﹂
そう言って、ユラミルティは一歩身を引きセナに入り口を明け渡す。
﹁あ、うん。ありがとう﹂
慇懃に礼をする天使へ返礼してから扉へと手を掛け、押し込んで開
いた。
さほど広くは無い室内に、数人の影が有った。
﹁セナッ!﹂
﹁セナ⋮⋮良かった﹂
扉の近くに立っていたフレアとシャロンが、喜色を浮かべてセナの
首に抱き着いてくる。
﹁シャロン! フレアも⋮⋮無事だったのね﹂
二人の体を抱き返しながら、セナも笑顔を浮かべた。
しかし一瞬にして、セナの顔が引き攣った。
﹁あぐっ⋮⋮離れ⋮⋮離れて⋮⋮﹂
ボッと火の出る様に顔を赤らめ、呼吸を荒げて二人から距離を取る。
胸を抱き締め、股を狭めて何とか姿勢を保つ。
﹁セナ⋮⋮怪我か? だったらすぐにアン・ミサのところへ﹂
フレアが心配そうにのぞき込んでくるが、
﹁ううん。怪我じゃない⋮⋮ちょっとね﹂
何とか平静を取り戻し、苦笑いを浮かべるセナ。
無論、これはゾートにより受けた﹃弱点﹄の魔術が発動し、二人の
抱擁によって外套と擦れた乳首の刻印がセナを絶頂へと無理矢理導
1289
いた結果だ。
﹁⋮⋮何か体に細工をされたのでしたら、一度アン・ミサ様に診て
貰うと良いですよ。私も前にラグラジルに改造された⋮⋮その、子
宮への呪いを解いて貰いましたし﹂
そう言って、ジロッと室内の奥を睨むシャロン。
﹁へぇ⋮⋮すっかり忘れてたけど、あれ解けちゃったんだ。勿体無
い﹂
薄い笑みを浮かべた魔天使が椅子に座っていた。
﹁えぇ。親鬼が去った後に治療して頂いた際、ついでに解除して頂
きましたよ﹂
両者の間で火花が散ったかと思うと、ラグラジルはすぐに視線を逸
らしてセナに狙いを定めた。
﹁久しぶりね。と言っても貴女とはあんまり話した事は無いけれど﹂
﹁そうね。そんな記憶は無いわ﹂
セナとラグラジルの間にはシャロンやフレア達の様な歴史は無い。
ただ一度だけ、セナの大剣がラグラジルの体を引き裂いたという、
感触だけが両者を繋いでいた。
﹁あの時のお礼は、また今度させてもらうわね﹂
﹁アンタがアタシの仲間にした事を考えれば、払いが足りなさ過ぎ
てもうニ、三回切って上げても良いんだけどね﹂
こちらでも睨み合いが生じ、そこに別の声が割って入った。
﹁あまり騒がないで下さい。殿下が起きてしまいます﹂
静謐で、内側に悲しみを背負った声。
セナは室内の最奥に置かれた寝台を見、その隣に直立した後姿を目
に留めた。
﹁ヴェナ様⋮⋮﹂
聖騎士ヴェナが立っていた。
そして、ヴェナが殿下と呼ぶ人間は、恐らくこの世で一人だけ。
寝台の主へと声を向ける。
﹁シャス⋮⋮?﹂
1290
目を閉じ、浅い呼吸を繰り返して眠っている少年の姿が目に入った。
﹁え、なに⋮⋮?﹂
何故シャスラハールは寝込み、ヴェナは悲しんでいるのか。
セナはシャロンとフレアを仰ぐ。
二人の同僚は、唇を噛んで俯いた。
そこに、
﹁見捨てたのよ。シャスラハールが必死で血塗れになって戦ってる
のをすぐ傍で見ながら、自分達はオマンコ開いてチンポチンポって
叫んでいたの。この連中はね﹂
悪意の籠ったラグラジルの声。
﹁え⋮⋮?﹂
﹁そして瀕死のシャスラハールの前で、敵の雑兵にマンコもアナル
もズボズボ犯されて、浣腸されてウンコシャワーまでして、涙と涎
で顔面はグチャグチャ。オッパイは握りつぶされてお尻は剣の平で
叩かれて、本当あの映像は素晴らしかったわ。撮って置いたから後
で皆で見ましょうか﹂
ニヤニヤと笑う魔天使と、俯いて震える三人の騎士。
﹁そ、そんな馬鹿な話が有るもんか⋮⋮﹂
セナは同僚達の様子を訝しがりながら、ラグラジルへと反抗する。
﹁本当よ。ねぇシャロンちゃん?﹂
ラグラジルは視線を金髪の騎士へと動かし、妖艶に微笑む。
それに促される様にして、
﹁⋮⋮そうです⋮⋮ね﹂
切れ切れに、シャロンは答えた。
悔恨。
身を裂くような苦しみに、騎士達は耐えていた。
﹁というか、貴女はどうなの?﹂
﹁は?﹂
ラグラジルはニヤ付いた表情でセナを見るが、怪訝な表情で見返さ
れ、嘆息する。
1291
﹁⋮⋮その様子じゃ、ここまではずっと安全に過ごしていたみたい
ね。つまらない﹂
椅子の背もたれに体を預け、
﹁一回味わいなさい。そうで無いと話が進まないわ﹂
指を鳴らした。
ラグラジルの持つ能力の一つ、幻影召喚。
親鬼を模した影が生まれ、巨大な岩刀を振りかぶる。
その威圧感を真正面から受け止めセナは、
﹁あぅ⋮⋮いや⋮⋮やめっ⋮⋮ゆるしてええええええ﹂
両腿を擦り合わせながら崩れ落ち、惨めに命乞いをした。
ガクガクと震えるセナの頭上ギリギリに、質量を持った幻影の刃が
浮かんでいる。
﹁ラグラジル! やめろ! 止めてくれ﹂
フレアが幻影から顔を逸らしながら求める。
﹁ふふふ。ねぇわかった? こういう事よ。今の貴女は、戦場では
微塵も役に立たないただの肉便器なの。あまり偉そうな口を利かな
いでね﹂
ラグラジルは薄く笑みながらもう一度指を鳴らし、幻影を引っ込め
る。
﹁⋮⋮セナ。どうやら私達の体に刻印を経由して新たな呪いが付与
されたようなんです。現在公娼である者は、死を意識した状態では
生存本能に抗う事が出来ません。つまり、戦えないのです⋮⋮﹂
セナの体を抱く様にして支えながら、シャロンは言った。
﹁⋮⋮じゃあ、シャスは⋮⋮﹂
﹁あぁ。戦えないわたし達を庇って一人で敵部隊に刃向い⋮⋮重傷
を負わされた。命に別状は無いが、血を流しすぎていた為、もうし
ばらくは意識が戻らないそうだ﹂
唇を噛みしめながら、セナの疑問にフレアが応じた。
少し離れた場所で、ヴェナの背中が震えている。
この場の誰よりもシャスラハールに対して負い目を感じているのは、
1292
聖騎士であり庇護者であった彼女なのだ。
﹁戦えない⋮⋮だったら騎士団長は!﹂
セナ達を逃がす為に足止めへと向かったセリスは今どうなっている
のか。
彼女もまた公娼であり、呪いが作用するのなら、
﹁大丈夫ですよ。セリス団長はゼオムント王家の守護刻印を持って
いたので、呪いの対象外のようです﹂
﹁さっきラグラジルの魔法で確認した限りじゃ、逆に敵の司令官を
追いこんでいたようだった。すぐにでもここに来るさ。そうしたら
決着を付けなくちゃな﹂
シャロンとフレアがそれぞれ言い、セナを励ました。
彼女達にもセリスに対して思う事はそれぞれ有る。
言葉か刃か、どちらで斬り合う事になるかはわからないが、その到
来を待っている事には代わりは無い。
﹁途中から映像が映らなくなったのよねぇ。オビリスの奴、何かし
たわね⋮⋮﹂
魔天使は顔の隣に魔鏡を召喚するが、そこには何も映っていなかっ
た。
憎々しげに鏡を見つめ、拳で叩き割る。
そこに込められているのはセナ達に向けられるものとは度合いが違
う、純色の怒り。
その時、扉が開いて小柄な影が室内へと飛び込んできた。
﹁ラグお姉ちゃん!﹂
翼を折り畳みながら、手にした戦槌をブンブンと揺らす幼い天使。
﹁⋮⋮誰?﹂
﹁ラクシェです。ラグラジルの妹の﹂
面識の無いセナが首を傾げたところでシャロンが説明する。
その二人を無視し、ラグラジルはラクシェへと問いかける。
﹁お帰り。どうだった?﹂
ラクシェはラグラジルの命により、オビリスを狙ってセリスの居る
1293
戦場へと向かっていたはずだ。
つまり彼女が戻って来たという事は︱︱
﹁無理だった。あの男には近寄れなかったよ。最終的には五万くら
いの人魔混合軍になってて、下手に近づいて戦闘になったらウチま
で捕まっちゃうところだったもん﹂
西域至高の武、ラクシェが躊躇する程にゼオムント軍は数を揃え、
固まって居たのだと言う。
人間の兵だけで五万ならばまだ希望は有ったが、魔物︱︱クスタン
ビアやジュブダイル程の手練れが居なくとも、それぞれに特殊技能
や優れた戦闘力を持つ種族の混成集団を相手にしては、如何なラク
シェと言えどたった一人で挑むには勝機は薄かった。
﹁そうね⋮⋮もしオビリスを倒せたとしてもラクシェが捕まっちゃ
ったら意味が無いものね⋮⋮ワタシとアンはここから出られないか
ら助けに行けないし﹂
オビリスを殺す事を悲願としながらも、管理者としてその後の事も
考えなければならない。
後任の指揮官が兵を率いてやって来た時に、天兵の里にラクシェと
いう武力が存在しなければ敗北は必至なのだ。
﹁待て⋮⋮待ってくれ﹂
フレアの声は震えている。
﹁捕まったって⋮⋮それは⋮⋮﹂
シャロンもまた、小さく呻く。
﹁もしかしてセリス⋮⋮団長が?﹂
愕然とした態でセナが問うと、
﹁名前は知らないけど、一人で戦ってた女騎士が捕まったよ。と言
っても捕まるまでにかなりの数の人と魔物を切り殺して、ついでに
オビリスの左腕も切り飛ばしてたけどね﹂
ラクシェが素直に答えた。
それを聞いて、ラグラジルは息を吐く。
﹁へぇ⋮⋮オビリスまで刃が届いたんだ﹂
1294
﹁何か途中までは逃げるタイミングを計る感じの戦いだったんだけ
ど、オビリスが何かを言ってから、その女騎士が更に猛然と突っ込
んで行って、人間も魔物もバサバサ殺して殺して、オビリスに斬り
かかって腕を飛ばした瞬間、オビリスの体から真っ黒な煙が出てね。
それを浴びてからしばらくして、女騎士がバタって倒れたの﹂
姉の傍に歩み寄りながら、力天使は報告した。
﹁騎士団長が⋮⋮﹂
﹁セリス様⋮⋮﹂
﹁そんな⋮⋮﹂
リーベルラントの騎士達は、口ぐちに苦い声を上げる。
常勝にして無敗。
軍神として崇められた上官の敗北の報に、皆愕然としている。
﹁た、助けに⋮⋮﹂
セナは思わず呟き、そしてすぐに後悔した。
まず第一に戦えない自分達ではセリスを救う事は出来ず、そして何
より、公娼の敵であったセリスを助けるという事は仲間達に対する
裏切りなのではないかという思いも有った。
しかしセナが今生きてこの場所で仲間と再会出来ているのは、セリ
スが開拓団から連れ出し、そしてゼオムントの追手を足止めしてく
れたからに他ならない。
頭の中で感情と理性が渦巻き、脳を焼きつかせる。
こんな時、自分にいつも的確な指示を放ってくれた頼れる存在を思
い出す。
﹁⋮⋮騎士長は?﹂
セナの弱い声に、シャロンとフレアは一層沈んだ表情を浮かべ、首
を振った。
思えばここに至る道で、多くの旅の仲間と再会した。
未だ眠っているシャスラハール、それを見守るヴェナ、体を気遣っ
てくれたシャロンとフレア、門で迎えてくれたハイネアとリセとマ
リス。
1295
マルウスの里で別れた時に居た仲間達の中で、一人だけ姿を見てい
ない。
大切な、セナにとって姉とも呼べる存在。
﹁⋮⋮セナさん﹂
そこに、ヴェナの声が掛かった。
﹁貴女が今成すべき事は何なのか。それを見誤ってはいけません﹂
静かな声で、語り掛けて来る。
﹁貴女には一つの体しか無く、貴女の剣は一本でしか無い。守り、
救える者はその都度一人だけだと心しなさい﹂
そう言って、戦えぬ身ながらシャスラハールの傍に侍り、ヴェナは
振り返った。
﹁リーベルラントの騎士達よ。騎士長ステアの救出は任せましたよ。
⋮⋮殿下の事は、わたくしにお任せ下さい﹂
瞳に涙を溜めて、聖騎士は告げた。
シャロンとフレアからステアの事を詳しく聞き、セナは表情を歪め
た。
助けに行く。
それは間違いない。
しかしその方法に、問題が有った。
﹁ここよ﹂
管理者ラグラジル自らが案内し、セナ達を宮殿傍の厩に連れて来た。
そこには既に二人の人間と一人の天使が待っていた。
﹁あ、さっき門のところで会った⋮⋮﹂
フードを被った女性と、緑髪の小柄な少女。
そして金髪の天使がそこに佇んでいた。
﹁初めまして、私はミネア修道院院長、幸運と誓約を司る魔導士ル
ルと申します﹂
フードの女が礼をし、名を明かす。
1296
﹁アタシはロニア、ロクサスのアーリン領で技術将校をしてた。よ
ろしく﹂
緑髪の少女がぶっきらぼうに言い、心なしかルルの影に隠れた。
﹁わたくしは︱︱﹂
﹁あぁもうそういうの良いから、アン。手っ取り早く説明を済ませ
て﹂
金髪の天使が名乗ろうとしたところで、ラグラジルが割って入る。
﹁⋮⋮セナさんでしたね。お話はシャロンさん達から聞いています。
ゼオムントに囚われていたとか⋮⋮さぞやお辛かったと思います。
お体の方に異常はございませんか?﹂
姉の言葉に尻込みしながらも、金髪の天使はセナに視線を合わせて
労りの言葉を放った。
﹁貴女がアン・ミサなの⋮⋮? ラグラジルと全然違う⋮⋮﹂
素直に驚きの声を上げるセナの隣で、ラグラジルが薄目で睨みつけ
る。
﹁アン・ミサ様。セナは向こうで何か体に細工をされてしまってい
る様なので、良ければ出発の前に治療をお願いしたいのですが⋮⋮﹂
進み出て来たシャロンの言葉に、智天使アン・ミサは悲しげな表情
を浮かべて、
﹁そうだったのですか⋮⋮、痛ましい⋮⋮。わたくしの力で出来る
事でしたら何なりと﹂
そう言ってアン・ミサが促し、
﹁セナ、どこが悪いんだ?﹂
振り向いたフレアに問われて、セナは固まった。
﹁あっ⋮⋮えっと⋮⋮﹂
ゾートに付与された﹃弱点﹄刻印は全身の︱︱あまり言葉にし難い
部分に散らばっている。
口内、乳首、肛門とその付近、そして膣内。
そこに恥辱のイキ狂わせ魔法を掛けられていると自己申告するのは、
中々に羞恥を煽る行為だった。
1297
﹁⋮⋮セナさん、こちらへ。ルルとロニアはフレアさん達に作戦の
説明をしてもらっても大丈夫ですか?﹂
セナの表情から事態を察し、アン・ミサは騎士の手を引いて厩の陰
へと移動する。
﹁はい﹂
﹁了解っと﹂
そして魔導士と技術将校は、残された騎士達へと語り出した。
﹁今回のステアさん救出作戦、人員はシャロンさん、フレアさん、
セナさんの三人で行って頂きます﹂
﹁⋮⋮アタシらは映像を見てないけど、あんまり人に見られたくな
い内容なのは分かってるから、救われる側の気持ちになればこの三
人が適任だと思うんだ﹂
ルルが始め、ロニアが続けた言葉に、二人に騎士は頷いた。
﹁まぁそれとは別にしても、急場で作れたのがこの三つだけって言
うのも有るんだけどね﹂
そう言って、ロニアは銀の腕輪を三つ取り出した。
﹁それは⋮⋮なるほど﹂
シャロンが腕輪に刻まれた模様を見て、頷いた。
﹁そう。リトリロイから没収した守護刻印をアン・ミサが模造した
腕輪。しっかりと加工された金属にしか刻めないみたいだから、今
はこの三つだけ。三人がステアさんを助けに行っている間に、アタ
シが金属の加工をしてアン・ミサに全員分作って貰えるようにして
置く﹂
リトリロイの持っていたオリジナルに付いては模造作業の為に里に
残すという事だ。
﹁それさえあれば、わたし達は戦えるのだな?﹂
フレアが意気込んで問うと、
﹁はい。ただし一つ、この腕輪が少しでも損傷した場合には刻印の
効力は消えます。先ほどロニアが言った通り、この刻印は依代とな
る金属に完璧さを求めます。そこだけは注意して下さい﹂
1298
ルルが真剣な表情で応じた。
﹁⋮⋮わかりました﹂
﹁あぁ、気を付ける﹂
騎士達は腕輪を受け取りながら、厳しい表情で頷いた。
そこに、
﹁ああああああああっ! イクッ! イクゥゥゥゥゥゥゥ﹂
と激しい悲鳴が響き、ブシャ︱︱と水が跳ねる音がした。
﹁⋮⋮続けます﹂
コホン、と咳払いをしたルルが騎士達を見やる。
﹁ラグラジル様の映像で見えたという場所に関してなのですが、特
定は可能なのでしょうか?﹂
厩に寄り掛かっていたラグラジルへと向けて、ルルが問う。
﹁無理では無い、ってところかしらね。雲の上にある集落だから、
常に動いてるって事でしょうし、ここで座標を特定するのは不可能。
だけどワタシが映像を見ながら地上の風景で大体の位置を判別して
伝達する事は可能ね﹂
アン・ミサの説教が堪えたのか、ラグラジルは素直に協力の姿勢を
取っている。
﹁私の幸運の葉と合わせれば、皆さんをその集落まで導く事は出来
るでしょう﹂
ルルが右の掌を開き、そこに乗せられた葉っぱを揺らした。
﹁大まかな進路はこの葉に任せ、細かな位置はラグラジル様の案内
に従ってください﹂
幸運の魔導士の言葉に、騎士達は頷いた。
そこにまた、
﹁んひぃぃぃぃ! ちょ、ダメ! ダメダメ! ああああああああ
あっ!﹂
艶めいた叫びが轟き、ベチョ︱︱と何かが滴る音が鳴った。
﹁⋮⋮それでだけどね﹂
気まずそうに厩の陰をチラリと見てから、ロニアが声を放つ。
1299
﹁三人にはこれを装備してもらわなきゃいけないんだ﹂
そう言って振り向きざまに指を差したのは、厩に並べられた三体の
魔導機兵。
かつてクスタンビアの襲撃に於いてアン・ミサが用意した切り札。
今やラクシェを除けば唯一とも言える天兵の里の戦力。
﹁でも⋮⋮これって⋮⋮﹂
﹁あぁ⋮⋮デカすぎるぞ⋮⋮﹂
シャロンとフレアは魔導機兵を見上げながら、呆然と声を放った。
その巨体は親鬼に匹敵し、シャロン達が着れば四肢はもちろん頭ま
で余ってしまう様な代物だ。
﹁そこは心配ないわ。悪趣味なお父様が作ったこいつらにはちょっ
とした細工が有るから、一度着れば体格に合わせて変形してくれる﹂
ラグラジルが含み笑いで言い、両手を広げる。
﹁ゼオムントの呪い、未知の集落、そして飛翔の手段。これらを解
決する事が出来ました。後は皆さんの力を信じるだけです﹂
ルルの力強い言葉に、騎士達は、
﹁ありがとうございます﹂
﹁絶対に、姉上を助けてみせる﹂
頭を垂れた。
その瞬間に、
﹁あっ、あひぃぃぃぃん。ダメ! 抓んじゃダメだって! ひぅぅ
ぅぅぅぅぅ﹂
厩の陰から大音声が轟き、今度はジョボジョボと失禁を思わせる音
が鳴り響いた。
二人の騎士と魔導士、技術将校は顔を見合わせ、魔天使は一人で笑
っている。
そしてしばらくした後、顔を赤らめたセナと頭髪に妙なテカりを纏
ったアン・ミサが全員の前に戻って来た。
﹁うぅぅ⋮⋮ごめんね、たくさん掛けちゃって⋮⋮﹂
﹁いえ⋮⋮大丈夫ですから、お気に為さらずに⋮⋮﹂
1300
互いに気まずそうにしている二人を仲間達は素知らぬ顔で迎え入れ
た。
﹁セナ、大丈夫ですか?﹂
﹁⋮⋮うん﹂
シャロンの問いかけに、自分の乳首を軽く捻ってみてから、セナは
頷いた。
もう﹃弱点﹄は残っていない。
体中に刻まれたそれは、アン・ミサの手と舌で癒されている。
﹁アン、顔が赤いわよ﹂
﹁お、お姉様。そういう事は言わないで下さい﹂
天使達がガヤガヤと言い合いをしている横で、ルルがセナへと顔を
向ける。
﹁セナさん。改めてもう一度説明致しますか?﹂
﹁いや、大丈夫。聞こえていたわ。要はコイツを着て、空に囚われ
ている騎士長を助けに行けば良いんでしょう!﹂
文字通りの弱点を消し去ったセナの瞳に迷いは無く、ロニアから受
け取った腕輪を付け、魔導機兵を見つめた。
﹁皆さん、どうかご無事で﹂
アン・ミサの祈りを受け、騎士達は魔導機兵に手を伸ばす。
﹁ここを開けば良いのか⋮⋮?﹂
フレアがその鋼鉄の腹部装甲を剥がそうとしていると、
﹁あー⋮⋮違うわ。さっき言ったわよね。それはウチの悪趣味な父
親が作った奴だって﹂
ラグラジルが無表情で声を放ち、アン・ミサの方を向く。
﹁皆さん⋮⋮一度裸になって下さい。魔導機兵は装備者が女性の場
合、服を着ている事を認めません﹂
俯きながら、アン・ミサは声を紡いだ。
﹁え⋮⋮?﹂
セナが硬直していると、
﹁変態なのよ。ウチの父親。そうやってセクハラするのが大好きな
1301
の﹂
魔天使は虚空を睨みながら言い、
﹁申し訳ございません。ですがもう、それしか手段が無いのです﹂
智天使は弱弱しい声で頭を下げた。
騎士達は顔を見合わせてから、揃って嘆息し、服に手を掛けた。
スルスルと衣服を脱ぎ去り、右手に腕輪を装着しただけの格好にな
った騎士達に、アン・ミサは何度も謝り、ラグラジルは素知らぬ表
情を続けた。
﹁⋮⋮とにかく、これで着れるのよね?﹂
﹁はい。魔導機兵の胸部装甲に背中を預けて下さい﹂
セナの問いにアン・ミサが応え、騎士達はその通りに動いた。
すると、
﹁なっ⋮⋮!﹂
﹁うわっ!﹂
魔導機兵の装甲が自動で開き、騎士達を飲み込んで行った。
﹁だ、大丈夫なのですか?﹂
目を丸くしたルルに、
﹁大丈夫よ。取って食ったりしないわ﹂
ラグラジルが平然と応じた。
騎士達を飲み込んだ魔導機兵はガシャガシャと音を立てながら変形
して行く。
﹁⋮⋮凄いね。形が変わって行く⋮⋮﹂
﹁今回は飛行形態になる様にあらかじめ設定しておきましたが、ど
ういう物なのかはわたくしも⋮⋮﹂
アン・ミサの声が途中で凍る。
二本の足を持ち、人型をしていたはずの魔導機兵。
セナ達を飲み込み、飛行形態へと変形したそれらは、背部に翼の様
な部位を作りだし、あたかも大空を行く鳥の様であった。
だが、この世には質量に関する法則が有る。
背中に大きな翼を生やす為に、犠牲になった部分が存在する。
1302
下半身。
腰から下に掛けて、人間の素肌が露出している。
頭部まですっぽりと覆われた重装甲の上半身と、下半身の尻と股間
が丸出しなアンバランスさが、酷く滑稽な様相を呈していた。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
ルルとロニアが冷や汗を掻き、三人の騎士を見つめる。
その内一騎、シャロンが内包された物から声が響いた。
﹁⋮⋮これしか⋮⋮方法は無いのですよね⋮⋮﹂
股間に吹き付ける寒風と、重装甲の暑苦しさ、そして恥辱に震えな
がらシャロンが言った。
﹁⋮⋮はい。申し訳ございません﹂
地に頭が付きかねないほど低頭しているアン・ミサに言われ、騎士
達はこの事態を受け入れた。
﹁まぁ今までだって散々変な格好して来たんだし、これぐらい丁度
いいんじゃない?﹂
冷笑するラグラジルに向け、六つの非難の視線が飛んだ。
﹁⋮⋮あー⋮⋮武器だけどね。とりあえず要望が有った戦斧と双剣、
後は大剣を用意して上げたわ、使い慣れた物とは違うでしょうけど、
感謝しなさい﹂
ラグラジルは視線を躱しながらそう言って、手を振った。
厩に無造作に並べられてあった武器をそれぞれ手に取る重装甲かつ
丸出しの騎士三人。
﹁それじゃ、戻って来る頃には皆戦えるようにしておくから、気兼
ねなく行って来て﹂
ロニアがフレアの胸甲を叩き、
﹁あぁ。そっちは頼む﹂
斧騎士は力強く頷いだ。
﹁それではシャロンさん。この葉をお持ちください﹂
魔導士ルルがシャロンの手甲に幸運の葉を載せながら言って、
1303
﹁ありがとうございます。魔導士様﹂
双剣の騎士は丁寧に礼をした。
﹁皆さん、どうかご無事で﹂
アン・ミサの声を受け、
﹁わかってる! そ、それとさっきはありがとうね、ア、アン・ミ
サさん﹂
多少つっかえながらセナが応え、騎士達は空へと浮かんだ。
魔導機兵の翼は空を駆け、剥き出しの下半身を晒したまま飛んでい
く。
﹁待ってて下さい、騎士長! 必ずお助けいたします!﹂
セナの声が上空に響いた。
1304
リーベルラントの騎士達︵前書き︶
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1305
リーベルラントの騎士達
肉を叩く湿った音だけが、その空間には響いていた。
﹁う⋮⋮あ⋮⋮﹂
この場所に収容され、数日間休む間もなく肉穴を犯され続けている
わたしの瞳は、昏く濁ってしまっていた。
少しでも長く生存する為にと、尊厳を自ら汚してまで男達に媚び、
その結果として遅延行為の罰則で命のチップを数十枚奪い去られて
からは、自ら積極的に媚びる事はしなくなった。
今もわたしの緩みきった膣穴に肉棒を押し込んでいる男とは、行為
中一度も口を利いていない。
ただ無言で膣を開き、肉棒を子宮で迎え入れている。
わたしは学んでいた。
この男の趣味を。
この男だけでは無く、この里に住み、自分を利用する男達の趣味を
全て脳へと刻んでいた。
激しく乱れる事に興奮する男が居て、わたしを泣かせる事に快楽を
覚える男が居て、恋人の様にベタベタと口づけを交わしながらセッ
クスする事を第一とした男が居て、今回の様に射精重視で会話も前
戯も行わない主義の男が居る事を。
少しでも長く生きる為に。
脆弱な動物がそうする様に、強者の機嫌を推し量って生きていた。
今回も、ただ男に膣穴を使わせながら、胸を派手に振り、尻をビタ
ビタと机の端に叩きつけて行為の激しさと自分が性的に感じている
様に相手に示しながらも、無駄な口は一切叩かない。
男が望むようなセックスをさせれば、自ずと利用回数は一回だけで
は無く、二回、三回へと伸びる。
男達ももう気が付いている筈だ。
1306
わたしの命の残数と言えるチップは、残り二百枚を切ろうとしてい
るという事に。
近頃は男達の一回一回の納屋滞在時間が飛躍的に伸びていた。
もしかしたらこれで最後かもしれない。
口ぐちに似た様な言葉を吐きながら、男達は浅ましく、ゆっくりと
わたしを嬲りながら愉悦の時間を消費して行く。
ブチュルルル︱︱
特別に濃い精液がわたしの膣内に吐き出され、子宮口をこじ開けて
その内側へと凌辱者の遺伝子を運んでくる。
男はチンポで蓋をしたまま、わたしの膣内に精液を擦り付けながら、
ポツリと呟いた。
﹁⋮⋮もしかしたら﹂
わたしの事をチンポを入れる為の肉穴という風にしか見ていなかっ
た男の目に、僅かに情の様な過ぎった気がした。
﹁もしかしたら、腹にガキが出来れば、その間だったら婦人会もお
前を殺さないかも知れないな⋮⋮ここじゃ子供は宝だ。年に三人生
まれりゃ良い方だが、今年はまだ一人だけだしなぁ﹂
じゅぶじゅぶと吐き出した精液をわたしの子宮に押し込みながら、
鶏男は呟いている。
﹁人間の繁殖力がどんなもんかは知らねぇし、俺達との間にガキが
生まれるのかもわからねぇが。もし孕む事が出来たら、俺達はもう
一度婦人会と会合する議題が出来るな⋮⋮﹂
異形。
人間の体の上に取って付けたかのように鶏の頭を載せた異形の魔物。
それがわたしを犯す者達で、わたしを殺す者達で、
わたしを孕ませ、生かしてくれるかも知れない者達。
﹁ほ、本当⋮⋮か?﹂
わたしは震える口で問うた。
﹁わからんよ⋮⋮ただまぁ、最近は雛っ子が減って来ているから、
試してみる価値はあるだろうな﹂
1307
膣内で再び大きさと硬さを取り戻していく男のチンポ。
﹁お前達の子供を身ごもれば、わたしは生きていても良いのか⋮⋮
?﹂
知らぬ間に心を雁字搦めに縛り上げられ、死を何よりも恐怖するわ
たしに取って、日々失われ続ける命のチップを絶望しながら見送る
毎日に、光明が差した。
﹁かもな。約束は出来ねぇよ。お前が孕むかもわからねぇし、万が
一孕んだ場合は交渉するが、それが更に婦人会の機嫌を損ねて、お
前を惨く殺すかも知れないしな﹂
わたしは連日の果て無き抽送により弛緩しきった膣口に力を送り、
男のチンポを掴まえ、腰を揺らしてしごき上げる。
﹁孕む! 孕ませてくれ! わたしに、お前達の子供を孕ませてく
れ!﹂
どこまでも、そして何よりも生き汚く、わたしは男のチンポから放
出される精液に期待した。
﹁あと二百程度しか無いんだ。あと二百回で、わたしを孕ませてく
れ!﹂
必死だった。
血走った目で、浮ついた声で、盛りのついた動きで男に種付をせが
み、騎士の誇りを打ち捨てて懇願する。
命の残数を示すチップが尽きない内に、どうにかしてこの異種族の
男達を相手に受胎しなければいけない。
﹁う、おぉぉぉ。あ、あぁたんまりと出してやるよ。お前の汚い子
宮に、どっぷりとなぁ⋮⋮﹂
わたしの動きに余裕を無くした男が、倒れ込む様にして乳房に顔を
押し付けながら言った。
それ以降、わたしの納屋での態度は一変した。
代わる代わるわたしに種付してくる男達に感謝の言葉を述べ、受精
に効果的と言って持って来られた怪しげな薬剤を喜んで注射され、
何の信憑性も無い土着の風習に従い呪文や歌を歌いながら男達とま
1308
ぐわって知りもしない神に懐妊を願った。
男達は必死な様子のわたしに冷笑を浮かべ、心の底から馬鹿にしな
がら子宮に精液を吐き捨てていく。
わたしは騎士長ステア。
リーベルラントの軍人で、
騎士団長セリスの部下。
フレアの姉。
セナとシャロンの上官。
だった者。
今はそのどの身分も捨て去って、
ただただ滑稽に歌い笑う、注射痕で胸を青黒くした孕ませ用の肉便
器でしかない。
深い夜の闇を、三つの鉄の翼が切り裂いて行く。
﹁⋮⋮そろそろ見つけないと、こちらがマズいですね⋮⋮﹂
楔型に分散し、右翼に位置したシャロンが呟くと、
﹁わたしはまだ行ける⋮⋮セナ、そっちは?﹂
中央先陣を進むフレアが軒昂に言い放ち、
﹁アタシも大丈夫﹂
左翼に付いたセナもまた頷いた。
天兵の里を出発してまる二日、三人は空を駆って進み続けていた。
剥き出しの下半身を襲う猛烈な寒さと疲労、そして空腹。
時折抜ける雲の間から水分は吸収できる事が、唯一の救いだった。
幸運の魔導士ルルから与えられた﹃葉﹄の導きに従って進んではい
るが、上空に吹き荒れる強風により、﹃葉﹄は幾度と無く予定進路
を修正させられ、目的地は中々見えてこない。
﹁ラグラジル。そっちはどうです?﹂
﹃⋮⋮ステアちゃんは無事、生きてる。歌ってるけどね﹄
怠そうな声がシャロンの耳元で響く。
1309
﹁歌ってる⋮⋮?﹂
﹃そ。男にチンポぶち込まれながら腰がぶつかる拍子に合わせて楽
しそうに歌ってるわよ。早くしないとこれ、手遅れかもね﹄
魔天使ラグラジルは天兵の里から魔法を駆使しての誘導の役と共に、
ステアの現状を伝える役割を担っていた。
﹁⋮⋮まだ、ですか?﹂
﹃感覚的にはだいぶ近いわよ。でもね、雲を見分けるって言うのは
容易じゃないのよ。⋮⋮そんなに急かさないでよ。ワタシだってい
い加減に眠いんだから、早く終わらせたいに決まってるでしょう﹄
不眠不休で空を飛ぶシャロン達に付き合わされ、ラグラジルもこの
二日寝ずに目的地の特定に励んでいた。
﹃あ、違うわよ。アン、止めて⋮⋮無理矢理元気になる魔法はもう
要らないから!﹄
あの魔天使がここまで協力的なのは、ずっと傍で智天使アン・ミサ
が見張りを務めているからに他ならなかった。
﹁光った⋮⋮﹂
その時不意にセナが口を開いた。
﹁あっち!﹂
そして指を差す。
フレアとシャロンはその導きに従い、夜闇に浮かぶ一つの浮雲を捉
え、
﹁⋮⋮灯りだ。人家が有るぞ!﹂
戦斧を握りしめながら、フレアが叫んだ。
﹁ラグラジル﹂
﹃待って︱︱見えたわ、こちらからシャロンちゃん達の事が見えて
いる。間違いないわね、そこにステアちゃんは居るわ﹄
魔天使の疲労感の籠った声が届き、騎士達は頷き合ってから速度を
上げた。
1310
踏みしめる、と言うよりはただ足を乗せただけ。
雲の大地に素足で乗った三人の騎士は周囲を警戒する。
夜間であっても、外敵に備える必要性が無いのであろうこの集落に
は、見張りらしき存在は居なかった。
歓迎も、詰問も抵抗も無く、三人は歩みを進めていく。
﹃ステアちゃんはここのほぼ中央にあるボロの納屋に居るわ。さっ
さと回収して。そうしたらワタシは寝る︱︱う、嘘よ。ちゃんと戻
って来るまでサポートしてあげるわ。ね、アン⋮⋮ワタシ頑張るか
ら、眠気を魔法で奪うのを止めて!﹄
引き攣った声を上げるラグラジルからの通信を無視して、集落を進
んで行く。
その途上で、一つの広い建物に行き当たった。
一階建ての、窓が多く、覗く灯りから数十の人影が見えた。
中で車座になって、何やら話し合いをしているらしい。
苛烈な議論の真っ最中らしく、声は自然と漏れ出て来ていて、聞き
耳を立てる必要も無く三人へと届いた。
﹁いい加減にアレを捨てて下さいよ! 千回使ったら捨てるって約
束したじゃありませんか!﹂
ヒステリックな女の声に、別の女達の似た声色が賛同を示す。
﹁い、いやぁ。まだあと百回くらい残ってるしね⋮⋮﹂
弱弱しく抵抗する男の声に、まばらな援護が有った。
﹁だいたいね! 千回って言ったら千回でしょう? 貴方達あの納
屋の中にまでは私達の目が届かないからって一人が一回中に入った
ら何発も射精しているんでしょう? あんな病気の塊みたいな便所
女を相手に!﹂
便所女︱︱その単語が聞こえ、フレアは首を動かした。
納屋が見える。
この集会場かそれほど離れてない場所に、薄汚れた納屋が見えた。
﹁そこはそのぉ⋮⋮個人差と言うか⋮⋮あまり他人のセックスを枠
にはめるのは如何なものかと⋮⋮﹂
1311
﹁とにかく! もう我慢できません! 速やかに廃棄して下さい!
子供達が興味を持ってしまって大変なんですからね!﹂
﹁ど、どうせなら子供達にも一回ずつくらい使わせてやったらどう
だろうか⋮⋮そのぉ、勉強にもなるだろうし、使う前にしっかり洗
えば問題ない︱︱﹂
﹁んまぁ! あんな便所女にウチの子達を触れさせられるわけ無い
じゃないですか! もし子供が病気になってしまったらどう責任取
るのです? ただでさえ少子化で頭が痛い状況ですのに!﹂
﹁あ、あぁそれなんだが、もしかしたらアレが孕むかも知れんぞ⋮
⋮これだけ毎日たっぷり種付を繰り返しているのだし、どうだろう
か⋮⋮少子化対策の為にアレには﹃使える﹄限りこの村で出産を繰
り返させるというのは⋮⋮﹂
﹁ふざけないで下さいまし! あんな塵屑の肉壺雌便器、明日にで
も地面に向けて投げ捨てるべきです!﹂
バシン︱︱と机が鳴る音が響き、騎士達は悪夢の様な話し合いから
意識を取り戻した。
今、彼女達の目の前で繰り広げられていたのは、彼女達にとって大
切な女性に対して、この集落の連中がどの様に扱い、どの様に考え
ているかの証明。
血が沸き立ち、肌が総毛だった。
﹁聞くに堪えない⋮⋮本当に醜悪で、残忍で⋮⋮﹂
シャロンは苦しげに喉を撫で、
﹁騎士長を⋮⋮アタシの憧れを⋮⋮﹂
セナは大剣を肩に背負い直し、
﹁姉上⋮⋮姉上ぇぇぇぇぇ!﹂
フレアは咆哮を上げ、納屋へと向けて足を踏み出した。
突如轟いた騎士の咆哮に集会所に居た者達が腰を上げる。
﹁な、何だお前達は!﹂
三人の騎士達へと向けて声を放つ鶏頭達。
その声を無視し、三人は納屋へと近づいて行く。
1312
丁度、一人の鶏男が納屋の扉を開けて出てくるところだった。
入れ違いに別の男が中へと入って行くのが見える。
﹁はいよ、チップはこれであと九十二枚だ﹂
出てきた男が納屋の前に設置された日差し避けのテントの下、机に
座っていた鶏女へと木片を差し出す。
﹁ようやくね⋮⋮。あーあ、この持ち回りの受付が無くなるのが何
より嬉しいわ。便所女の為に貴重な時間が浪費されちゃってて、あ
ぁもうウンザリ﹂
﹁そう言うなって。もしかしたらよぉ、俺達があと九十回であの女
を孕ませたら、逆転延長あるかも知れないんだぜ?﹂
﹁無いわよ無いわよ。アンタ達があの便器に注射してる薬って豚の
小便とかでしょう? それに、もし万が一妊娠したとしてもそんな
の絶対に婦人会が許さないんだか⋮⋮ら﹂
﹁ん? どうし⋮⋮な、なんだお前ら﹂
両者の会話が止まる。
その理由は目の前に現れた重装甲かつ半裸の騎士達。
手に手に武器を握り、無言で迫ってくる。
﹁お、おい!﹂
勇気を振り絞って問いかけて来た男へ、
﹁死んで﹂
セナの大剣が振り下ろされ、血肉を撒き散らせながら男は二片の物
体へと成り果てた。
﹁ひ! きゃ、あ⋮⋮あ⋮⋮﹂
叫ぼうとする女の喉に、
﹁静かにして下さい﹂
シャロンの双剣の内一本が押し付けられる。
二人の間を縫って、フレアは納屋の扉に手を掛け、そっと押し開い
た。
咽返るほどの淫臭と、カビの匂い。
その中心に設置された机の上に、
1313
﹁あ、あぁ! もう一本、もう一本注射してくれ! そろそろ孕ま
ないとまずいんだ! 処分されてしまう! 捨てられてしまう! これから先もずっと貴方達専用の孕ませ肉便器でいる為には、ここ
らで確実に孕んで置かないと!﹂
媚びた笑みを浮かべた、最愛の姉の姿を目に留めた。
﹁おうおう。薬ならたっぷり用意して来たぜぇ。でももうおっぱい
にゃ打てそうな場所がねぇな。次はここに打つか﹂
青黒く腫れたステアの乳房を乱暴に払いながら、鶏男は手を下に動
かし、ステアの陰核を無造作に摘み上げた。
﹁それじゃ⋮⋮景気付けに注射を⋮⋮? お?﹂
男には理解できなかった。
手を伸ばし、摘み上げたはずの陰核に力が籠らず、あまつさえ先ほ
ど吸い出して来たばかりの豚の小便が詰まった注射器を取り落して
いるのにも関わらず、何一つ感覚を得る事が出来なかった。
意識が飛び、次いで首が飛ぶ。
切り落とした男の頭が床にぶちまけられた豚の小便の上を転がるの
を無視して、フレアはそっと前へと踏み出した。
﹁姉上⋮⋮﹂
ステアの体は、雄の汚液で汚しつくされ、至る所が腫れ、異臭を放
っている。
そして何より、彼女の心が︱︱。
﹁フレア⋮⋮。フレア⋮⋮あ、あああああああああああっ!﹂
ステアは愕然と目を見開き、そして自由にならない体で暴れ出した。
﹁うあ、ああああっ! いや、⋮⋮あああああっ! 違う⋮⋮わた
しは、わたしはあああああああああああ、違うんだ⋮⋮わたしは、
お前の⋮⋮リーベル⋮⋮ラントの⋮⋮ああ⋮⋮﹂
敬愛し、誰よりもその在り方に憧れ続けて来た姉が崩壊し、怯える
姿に、フレアは血の付いた戦斧を放り捨て涙を流しながら縋り付い
た。
﹁大丈夫です! 大丈夫です姉上! 助けに来ました! わたしと、
1314
シャロンと、セナで参りました! 戻りましょう! 前の様に! 以前のわたし達に! リーベルラントの騎士に! 騎士長ステアに
!﹂
ギュッと抱きしめながら、フレアは姉に縋りついた。
たった一人で、希望の無い場所で、永遠にも思える時間を汚物扱い
の慰み者として過ごして来た絶望を、肌で感じていた。
震える姉の体を抱き締め、一しきり涙を流した後、フレアはゆっく
りと立ち上がり、
﹁⋮⋮シャロン﹂
同僚の名を呼んだ。
﹁⋮⋮はい﹂
﹁姉上の事を、任せて良いか?﹂
静かな問いに、同僚の騎士は頷きを返した。
﹁帰りの事も有りますし、何より優先すべきは騎士長の御身体の事
です。それを忘れないで下さい﹂
すれ違いざまに言われ、肩を竦めて頷いた。
﹁わかってる⋮⋮わかっているさ﹂
納屋の外に出ると、農具や武器を構えた鶏頭の男達が壁を作り、こ
ちらを睨みつけていた。
﹁⋮⋮正直、有り難いよね﹂
外へ出てきたフレアに向けて、セナが皮肉気に口角を小さく上げた。
﹁あぁ、武器を手に取って向かって来てくれる﹂
フレアは納屋のすぐ傍で気絶し倒れている鶏女を見て、薄く笑った。
﹁自分達の同族を救う為に、なけなしの勇気を振り絞ったっていう
感じ⋮⋮かな。違う部分も有るかもね﹂
シャロンにより気絶させられた女が、セナの武器が届く位置に居る。
別段セナは殺気を漲らせているわけでも無いが、傍に転がる男の死
体が物言わぬ証拠となっている。
﹁この際、悪役でも何でも良いよね﹂
セナは少し軽い調子で言い、大剣を横にして構えた。
1315
怒りの籠った、鋭い視線を鶏人達に向ける。
大切な存在を奪われ、汚された悲しみを﹃戦い﹄で晴らす事が出来
る。
﹁あぁ、こいつらを殺す理由が更に出来るのだから!﹂
戦斧を上段に構えたフレアが意気込むのを見て、鶏頭達は一斉に襲
い掛かって来た。
男達の好色な視線がセナやフレアの剥き出しになった下半身に注が
れて今後の濁った希望を抱いていたのは、戦いが始まって数秒の間
の事だった。
それ以降はどれだけ必死に生き残るか、同族を蹴落としてまで生き
ようとした彼らに、騎士達の刃が容赦なく降り注いだ。
その夜、雲の上の集落で武器を手にした男達は誰一人として生き残
る事が出来ず、肉片と化した。
女子供、そして戦えない老人は生かされたが、ただでさえ少子化に
喘いでいた集落が人口の四割にも及ぶ働き手を失ってどの様な末路
を辿るか、火を見るよりも明らかであった。
この翌年以後、鶏人族が下界に降りて来たとの目撃情報は無く、管
理者地図に彼らの情報が載せられる事は永遠に無かった。
顔面を蒼白にした男が、並み居る兵士を押し退けて天幕へと転がり
込んだ。
﹁オ、オビリス元帥! すぐに医者を呼んで参ります!﹂
﹁不要だ! ゴダン! しばらくはここに誰も近づけさせないでく
れ! その間の全軍の指揮は君に任せる!﹂
リトリロイを保護する為にオビリスは大軍を率いて追いかけ、その
途上でセリスによる妨害を受けた。
﹁五万だぞ⋮⋮五万の軍を⋮⋮相手にぃ⋮⋮﹂
1316
たった一本の剣で五万の人魔混成軍と切り結んだセリスは、オビリ
スにまでもその刃を届かせた。
腕を切り落とされ、落馬した。
だがしかし、勝ったのはオビリスだ。
﹁感謝せねばな⋮⋮俺の生まれに⋮⋮﹂
血の代わりに、漆黒の瘴気を飛散させた傷口。
続けざまにあと一撃を入れられていたら、助からなかっただろう。
だが、この体に流れるその奇怪な絡繰りに、味方をも驚愕させたこ
とが、唯一とも言える勝機を手繰り寄せたのだ。
﹁ゴダン! セリスはゾートに預けよ! そして魔導士部隊は全勢
力をもってゾートをサポート。セリスを徹底的に陥とせ! ﹃リボ
ン﹄化計画の最後の一兵として、あの女の魂の一欠けらまでをも利
用し! 最期は次のバンデニロウムで派手に散らせてやる!﹂
守護刻印が刻まれた指輪を奪い、全裸の状態で四肢を切り落として
開拓団陣地まで運ばせて来たセリスの処遇をゴダンに伝える。
﹁あの者をリボンに⋮⋮ですか?﹂
﹁あぁ。難しかろうが何だろうが、ゾートならばやってくれるだろ
う。その為の助力は惜しまないと伝えてくれ。王宮魔導士団、魔導
元帥旗下の精兵二十五万騎、技官に企業に宗教派閥、魔物に至るま
で何をどれだけ使っても構わない! セリスを完全に調教しろ! 色は⋮⋮そうだな、白で行こう﹃白リボン﹄だ﹂
天幕越しに交わされる会話。
﹁白ですか⋮⋮マダムの赤リボンに、ラターク殿の青リボン。そこ
にゾート殿の白リボンが加われば⋮⋮。ふふふ。楽しみでございま
すな﹂
そう言って、ゴダンの足音がゆっくりと天幕から離れて行く。
オビリスは寝台に腰掛け、傷口を覆った包帯を撫でながら、
﹁公娼の運命も、肉体も、忠誠も、その武勇も、すべからく俺の物
なのだよ。俺を信じる者にだけ貸し与え、俺を楽しませる者にだけ
遊ばせてやる。誰一人として、俺の手からは逃れられんよ﹂
1317
﹃無理⋮⋮げん⋮⋮ねむ⋮⋮﹄
﹁ラグラジル、よく耐えてくれました。アン・ミサ様も、ありがと
うございます﹂
ステアを背負ったフレアと、それを後ろから支えているセナを先導
する形で、シャロンは高く昇った陽の下で飛行を続ける。
まだまだ遠くでは有るが、天兵の里が視界に映っている。
雲の上での一戦を経て、休む間も無く帰路に就いた。
ステアを救出する事が出来て、これでようやく自分達は一息つく事
になるだろう。
セナと共にゼオムントに囚われたはずのレナイ達の事や、合流でき
なかったアルヴァレンシア達解放軍、そしてゼオムントの王子だけ
を残して敵中に落ちたセリス。
問題は山積しているが、あまり性急に動きすぎてどうにかなると言
うものでも無い。
一つ一つ慎重に、成すべき事を成す。
以前とは状況が変わってきている。
こちらにはアン・ミサを中心とした天使の助力が有り、以前に比べ
て仲間が増えている。
袂を分かったユキリスが戻り、
決断を誤ったが故に失ってしまったシュトラが帰還し、
考えを異にしていたアミュスとヘミネが合流し、
マリューゾワ達との新たな出会いが有った。
自分達はこれまでよりも、何倍も強くなっている筈だ。
騎士として、再びゼオムントと刃を向け合う日が刻々と近づいてき
ている。
その時に勝利し、仲間を、祖国をゼオムントの手から救い出す為に
も、
﹁皆、見えましたよ。早く帰りましょう。体を綺麗にして、皆で一
1318
緒に眠りましょう﹂
今は傷を癒そう。
然るべき戦いへ向けて、牙を研ぎ澄まそう。
1319
リーベルラントの騎士達︵後書き︶
今回で﹃集結編﹄終了です。
拙作にお付き合い頂き有難うございます。
残すところは﹃降臨祭編﹄と﹃決戦編﹄です。
以前100話完結予定だとか書いた気がしますが、もう少し伸びま
す。
110話前後で終われるように頑張ります。
次回から降臨祭編に繋ぐ断章的な部分にちょっとだけ入ります。
物語があっちこっち行っていたのを落ち着かせ、ストーリー的に進
行を緩くします。
もしかしたらちょっと余興的な事をするかも知れません。
更新ペースは変化無し、かちょっと最近間が空き気味だったので早
め早めに週二回を目標に更新して行こうと思います。
1320
休日︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
更新を早くすると言いながら時間が掛かって申し訳ございません。
その分普段の倍くらい有るので、読むのに疲れるかもしれません。
これから公娼達はお〇ん〇んお休み月間となります。
つきましてはその間の進行について皆さまにご協力頂きたい事がご
ざいます。
詳しくは後書きで!
1321
休日
両頬で柔らかな感触を味わいながら、シャスラハールは眠りの淵か
ら目覚めた。
﹁んっ⋮⋮﹂
力の抜け切った体に、活力が回り始める。
しかし、鼻先に広がる甘い匂いと、全てを包み込んでくれる様な柔
らかな肉の感触から顔を抜く事が出来ず、動けないでいた。
﹁殿下、お目覚めですか﹂
シャスラハールの頭を掻き抱きながら眠る女性から、淑やかな声が
放たれる。
﹁あぁ、うん。おはよう、ヴェナ﹂
守護者であり、切り札であり、姉の友人であり、憧れの人でもある
女性から声を掛けられ、シャスラハールは彼女の乳房の内側でもぞ
もぞと答えた。
﹁まだ外は暗く、外気は冷え込んでございます。もうしばらく、朝
日が昇るまではこちらにいらしてください﹂
優しい声音で囁かれ、ゆったりと頭を乳房へと押し込まれる。
乳枕。
シャスラハールは天兵の里で意識を取り戻して以降、毎日の目覚め
をこの寝室で、この乳房の間で行っていた。
これまでの旅路とは異なり、ある程度の安全が保障されているこの
地でまで、ヴェナと同衾を続ける理由は無かったのだが、
﹁殿下をお守りする事、それがわたくしの全てですから﹂
その言葉と共に、ヴェナは先日シャスラハールを見殺しにしかけた
事を謝った。
否、謝ったという言葉で足りる様な物では無かった。
誰が見ていようが、そこがどこであろうが、聖騎士ヴェナは膝を折
1322
り、地面に額づいてシャスラハールへと懺悔の言葉を投げかけた。
明確にその行いを罪だと認識した彼女にとってみれば、シャスラハ
ールが笑顔で﹃気にしないで﹄と言う言葉を作った事は身に余る罰
だった。
罪を償う場所と機会を失ったヴェナは以後シャスラハールの傍を決
して離れない。
就寝時も、食事の際も、排泄も、入浴にも、ずっと付き従っている。
初めは当惑したシャスラハールだったが、忠臣の瞳に浮かぶ慙愧の
念を受け入れ、セナやハイネアに呆れられながらも彼女の心が落ち
着く様に取計らっている。
具体的には、
乳枕。
しっかりとした重みを持ちながら、さりとて柔らかさを微塵も失っ
ていないヴェナの双乳に顔を埋め、朝の微睡を過ごす。
﹁殿下⋮⋮わたくしの太ももに、殿下のものが⋮⋮﹂
健全な男子であれば、朝一番に全身を活力が回転する中で、その部
位に力が漲らない様な事は無い。
シャスラハールもまた例外では無く、乳枕の影響も無視できないま
まに、怒張を顕現させてしまう。
﹁ヴェナ⋮⋮﹂
祖国スピアカントの誇りであり、初恋だったとも言える八つ年上の
女性。
そんな女性と、朝目覚めてすぐに、一つになる事が出来る。
それはとても幸せな事で、何より奇跡とも思えた。
今が戦乱の最中、たった一瞬の平穏だとは承知している。
けれども、
﹁殿下⋮⋮わたくしにお任せください﹂
彼女の手がそっと肌を撫で、シャスラハールの肉棒を滑らかな掌で
掴まえた瞬間に、意識に靄がかかり、一時の幸福に身を任せてしま
いたくなる。
1323
何千何万と言う敵兵を切って来た掌が、シャスラハールの分身を撫
でさすり、勃起を更に強固なものへと変えて行く。
下着から取り出して露出させ、これまで横向きに抱き合う形だった
主従の体勢を入れ替える。
シャスラハールが下になり、乳房も、何もかもを露わにしている生
まれたままの姿なヴェナがその上に跨る。
重力に引かれて見事な錐となる双乳をシャスラハールの眼前に垂ら
し、下方へ伸ばした手を使って肉棒を刺激し続ける。
﹁殿下⋮⋮申し訳、ございません﹂
肉棒を愛しげに撫で、乳房の先で視線を誘惑しながら、聖騎士は憂
いの表情を浮かべる。
﹁⋮⋮騎士として、最も大切な時に貴方の御役に立てず、スピアカ
ントの希望である貴方様を傷つけてしまいました。鬼籍に入られた
アリスレイン様にお見せする顔を失い、わたくしは⋮⋮わたくしは
⋮⋮﹂
肉棒の先端、亀頭を花弁に押し当てながら、聖騎士は潤んだ瞳でシ
ャスラハールを見つめる。
これまで何度も繰り返された、ヴェナの懺悔とそれに付随する奉仕。
ヴェナはシャスラハールに罰を欲するが、シャスラハールは言葉を
濁し、ただ無言で彼女の奉仕を受け止めた。
アン・ミサから事態の説明は全て受けている。
ゼオムントの新魔法により、ヴェナを始めとした公娼刻印を身に刻
まれた者達があの場で戦う事が出来なかったのは、これはどうしよ
うもない事だった。
悪意が有ったとは言え、ラクシェが駆けつけなければ彼女達は全員
ゼオムントに捕縛され、シャスラハールは命を落としていただろう。
今は命が有る事を喜びさえすれ、ヴェナを責める様な気は毛頭無い。
だがそれでも、心身を捧げ、スピアカントに忠誠を誓った聖騎士に
とってみれば、己が主をズタズタに斬り裂かれている前で、敵兵の
肉棒によがり狂っていた過去を許せるはずも無かった。
1324
両者の意地がぶつかり合う。
ヴェナは罰を求め、シャスラハールはヴェナの救済を求めた。
﹁挿れますね⋮⋮殿下﹂
﹁うん⋮⋮﹂
ニュプ︱︱
ゆっくりと飲み込まれていく肉棒を、柔らかな刺激が包み込む。
﹁⋮⋮殿下、お好きに動いて下さいませ。わたくしならば、どの様
な責めもお受けいたします。どうか、わたくしの肉体を滅茶苦茶に
して下さいませ﹂
震える手でシャスラハールの頭を抱きながら、ヴェナは囁き、膣口
に力を籠めた。
﹁ヴェナ⋮⋮ヴェナ、良いんだ⋮⋮僕は、ヴェナとこうして繋がっ
ているだけで、それだけで幸せだから⋮⋮﹂
シャスラハールはヴェナの背中に腕を回し、しっかり抱き着いた。
そしてそのまま動こうとはせずに、ヴェナの膣内に分身を深く埋め
た状態で、シャスラハールは微睡の中に留まった。
朝日が完全に登り切るまでの長い時間、主従は肉体深く繋がりあっ
たままで過ごし、表を人が行き交うようになった頃、まるで義務の
様に聖騎士の膣が王子の精を吸い出して、事を終えた。
両者の間に言葉は生まれず、ただ互いの救いのみを願い続けた。
﹁今日は、どうするんだっけ?﹂
身支度を整えながら、シャスラハールが問う。
﹁来たるゼオムントとの戦いに向け、各所との話し合いが御座いま
す。西域の代表者としてラグラジル、人間の代表者としてマリュー
ゾワ殿との間で情報を交換して頂きます﹂
スカートを腰に巻きながら、ヴェナが応じた。
﹁アン・ミサ殿の仲介が有るとは言え、ラグラジルとの間の溝は埋
まり切ってはいませんし、マリューゾワ殿がロニア殿と共に行って
1325
いる兵器の生産状況も確認しておかねばなりません﹂
シャツとスカート、その上に軽い胸部装甲を取り付け、腕に守護刻
印の刻まれた腕輪を通してヴェナは仕度を完了させ、
﹁殿下、動かないで下さいませ﹂
シャスラハールの首にタイを巻く。
﹁⋮⋮こんな恰好、ホントに必要かな?﹂
ぼやきながら、されるがままのシャスラハールに、ヴェナはシャキ
っとした口調で告げる。
﹁殿下はスピアカントの代表なのです。これまでとは異なり服装に
拘る事が出来る以上、しっかりとした恰好をして貰わねば困ります﹂
祭儀用の礼装に袖を通したシャスラハールは、窮屈そうに体を捻る。
﹁大変ご立派ですよ。天国のアリスレイン様もきっとご覧になって
下さっています﹂
肩に付いた埃を払い落しながら、ヴェナはシャスラハールの身支度
を完了させる。
﹁それでは、参りましょうか﹂
﹁うん。初めはラグラジルだよね﹂
連れ立って部屋を出ると、数人の羽根落ちの女性が慌ただしく宮殿
内を走り回っていた。
彼女達はシャスラハールとヴェナを見掛けると、腰を折って挨拶し
てくれる。
クスタンビアの襲撃後、攫われた羽根落ちの女性の内生存者は全て
ラクシェと天兵連隊の活躍により救出されたが、残念ながら親鬼の
手によって殺された者や売られた先で絶望し自害した者が居て、襲
撃前の者達が皆無事に里に戻る、と言った事は不可能となった。
そして更に問題となったのは、女達と男達の不和が生じた事である。
自分達を守らず、親鬼に差し出した男達に対して生還した女達が向
ける視線は厳しい物であった。
時が傷を癒し、ある程度の数の女達は事態のどうしようもなさを理
解し、近親者に限り許したが、どうしても男達を許すことの出来な
1326
い羽根落ちの女に関しては、アン・ミサが身を請けて宮殿に雇い入
れ、女中として暮らす事となった。
そうして、現在この宮殿はかつてない程の人口を抱えている。
これまでの支配者であったアン・ミサとラクシェを除けば、新たな
客となったシャスラハール達、管理者へと復帰したラグラジル、男
達を忌み嫌う女中達、そして任務放棄と減刑失敗によって宮殿より
放逐され街中で休み無く働かされている天兵に代わり守護を担当す
る魔導機兵。
西域政治の中心地であるとは言え、さほど広くも大きくも無い宮殿
にとってすれば、ぎゅうぎゅう詰めと言っても過言では無い状態だ
った。
廊下を歩けば誰かと必ず遭遇するような状況で、シャスラハール達
は何度も挨拶を繰り返しながら目的地へと到達した。
管理者の﹃私室﹄。
本来座すべき﹃執務室﹄では無くこの場所で日長怠惰に過ごす魔天
使へと、面会にやって来たのだ。
ヴェナが先に立ち、扉を裏手でノックする。
﹁ラグラジル。シャスラハール殿下がお越しです、扉を開けて下さ
い﹂
名実ともに管理者へと復帰した魔天使ラグラジルでは有ったが、シ
ャスラハール達との間には複雑な過去が有り、最近新たに功が一つ
罪が一つ増えた事によって更に対応が難しくなってきている。
故に、ヴェナやシャスラハールはこれまで通りの対応を貫き、ラグ
ラジルもまた変わらぬ様子で過ごしていた。
﹁ラグラジル? 居ないのですか? ラグラジル?﹂
何度かノックを繰り返すヴェナだったが、室内からの応えは返って
来ない。
﹁どこか出かけちゃってるのかな?﹂
顎に手を当てるシャスラハールと、
﹁いえ、昨日時間を問うた際に午前中ならば在室していると答えた
1327
のは向こうです。居ないはずは︱︱﹂
﹁はーい。開いてますよー﹂
ヴェナが更に扉を叩こうとした時、室内から朗らかな声が聞こえて
来た。
ラグラジルの持つ人を小馬鹿にした湿った声では無く、気楽を音に
詰め込んだような声。
﹁⋮⋮マリスさん?﹂
聞き覚えのある声に驚きながら、シャスラハールはヴェナに目配せ
をする。
聖騎士は主に頷いてから扉を押し開けた。
途端、室内から濃い酒精の香りが襲い掛かって来た。
﹁うわっ!﹂
﹁これは⋮⋮﹂
扉を開けた状態で呆然と固まっている二人に向けて、室内から弱弱
しい声が届く。
﹁うるさい⋮⋮わね。昨日飲み過ぎて頭痛いんだから静かにしてよ
⋮⋮﹂
衣服が脱ぎ散らされたベッドの上、魔天使ラグラジルが顔を顰めて
転がっていた。
身に着けている物はたった一枚、紐とレースで出来たショーツのみ。
双乳を晒した状態でラグラジルは口の端から涎を零しながら呻いて
いた。
﹁んははー。あ、ラグちゃんこれお水ですよー﹂
そして室内にはもう一人、黒のボンテージの上から装飾付マントを
羽織ったマリスが居て、水差しとコップを魔天使へと差し出してい
た。
﹁ありが⋮⋮と﹂
ラグラジルはマリスからコップを受け取り、一息で水を流し込んだ
後、続けざまに水差しまでをも奪い取って喉を鳴らして嚥下してい
く。
1328
﹁⋮⋮えっと﹂
目を泳がせながら頭を掻くシャスラハールに、
﹁あー生き返る⋮⋮あぁ、憶えているわよ。対ゼオムントに向けて
話し合いをするんでしょ⋮⋮つっても、ろくな情報は無いけれどね﹂
水差しとコップをベッドに放り投げ、自身も続けて身を倒しながら、
ラグラジルは言った。
﹁ラグラジル、服を着て下さい﹂
ヴェナとすれば、シャスラハールに正装を強いた以上、相手方にも
出来る限り礼装に近い恰好をして欲しかったのだが、魔天使ラグラ
ジルは見ての通りの半裸である。
﹁はぁ? 無理。今服着たら吐く。吐いて汚したら流石に管理者と
しての恰好がつかないわ﹂
首を振るラグラジルと、
﹁んはは。ってもラグちゃんここんとこずっとその恰好だよねー。
マリスは毎日ラグちゃんのオッパイ見てるよー﹂
窓の桟に腰を落ち着けたマリスが茶化し、魔天使は肩をゆすって口
を噤んだ。
室内に転がる多量の酒瓶に目を遣りながら、シャスラハールは魔天
使へと問う。
﹁ラグラジル。戦力についてなんだが︱︱﹂
﹁魔導機兵が千弱。天兵が五百ちょい。そしてラクシェとアンとワ
タシ。オビリスの手にアンの杖が有る以上他の魔物は役に立たない
からこっちが用意できるのはそれが限界。はい、何か質問は?﹂
ベッドの上で顔を覆い、乳房を上向きに晒しながらラグラジルが言
い放つ。
﹁そこにシャスラハールくんやマリス達が加わるのが総力ですよね
ー﹂
窓辺に吹く風にポニーテールを遊ばせながら、マリスがニコニコし
ながら付け加えた。
﹁ラグラジル⋮⋮殿下に対してその様な⋮⋮﹂
1329
こめかみに青筋を立てながらヴェナが言うと、
﹁あぁ良いんだよヴェナ。それで、向こう⋮⋮ゼオムントは﹂
シャスラハールの問いに、ラグラジルはゆっくりと間を空けて答え
た。
﹁⋮⋮純粋な兵力だけで二十万。それに加えて西域のほぼ全ての魔
物が向こうに付くわ、そうすると少なく見ても五十万程度の軍勢に
はなるでしょうね。この前リーベルラントの凄い人が何千人か殺し
たみたいだけど、焼け石に水過ぎて笑っちゃうわね﹂
普段浮かべる冷笑を纏い、魔天使は言葉を続ける。
﹁将軍級で目立った実力者は無し。強いて言えばオビリスだけど、
オビリスとその部下の魔導士連中は向こうの中心だから、前線には
出てこないかも知れないわ。この前怪我したみたいだしね﹂
その言葉に、マリスが反応する。
﹁でもー。そう考えるとそのオビリスって人をどうにかして殺しち
ゃえば勝てるんじゃないですかー?﹂
それが、希望。
現状で唯一有り得る勝機。
敵指揮官を討つ。
﹁それで終わるかも知れないし、終わらないかも知れない。何より
指揮官を前線に引きずり出すまでわたくし達は粘り強く戦わなけれ
ばなりません﹂
ヴェナが重い口調で言うと、
﹁ま、それに関してはワタシに策有りだけどね﹂
身を起こしたラグラジルが不敵に笑う。
﹁さ、策⋮⋮?﹂
真正面から見据えられ、その乳房を見てしまわない様に顔を逸らす
シャスラハールに、
﹁王子よ、王子様。この前こっちに来たあの王子様に価値が有る内
に、何とか有効活用しないと。そうじゃなきゃタダの無駄飯食らい
じゃない﹂
1330
魔天使のその言葉に、
﹁だがしかし、あの王子がこちらにやって来た理由やセナさん達の
証言を聞く限り、人質としての価値は高く無いのでは?﹂
聖騎士が首を傾げる。
﹁そこはそこよ。元より可能性が低かろうが無駄だろうが策っての
はありったけやってみる事に意味が有るんじゃないかしら? とに
かくあの王子を煮たり焼いたりしてオビリスを誘き寄せて、こちら
の精鋭でその首を取る。その後は混乱に乗じて瓦解する敵を追い払
えば良いわ。っていうかこれが出来なければワタシ達は滅びる。た
だそれだけよ﹂
魔天使は投げやりにそう言って、足元に転がる酒瓶を手に取って煽
った。
その様子から見るに、
﹁ラグラジル⋮⋮。君は⋮⋮﹂
﹁ハンッ⋮⋮無理でしょうね。そうそう上手くいくわけは無いわ。
でも、それでもただ怯えて震えているだけって言うのは、ワタシは
嫌なのよ﹂
その智能で諦観を抱きながらも、本能で抗っている。
半裸で酒を煽り、ベッドの上で燻りながらも、決して逃げ出そうと
はしていない。
﹁アンがねぇ。ワタシをここに縛り付けたから。ここから逃げ出す
為には、あの子を殺すしか無いのよね。ワタシってば﹂
そう言って、ラグラジルはベッドに深く腰掛けた。
聞くところによれば、魔天使ラグラジルは智天使アン・ミサによる
大規模魔術を受け、この地に拘束されているのだという。
アン・ミサは楔として自身の肉体を捧げ、共にこの地に縛られ生き
続ける事になっている。
もしその魔法を解除しようと思えば、どちらかの命を捧げる必要が
ある。
そして今、姉妹はお互いに対して殺意を抱いてはいない。
1331
憎しみは消えている。
﹁ラクシェ、ヴェナルローゼ、マリス、ワタシ、マリューゾワ、ス
テア、ヘミネ、シロエ⋮⋮﹂
ポツリ、とラグラジルが呟いた。
﹁はい⋮⋮?﹂
首を傾げるヴェナに、魔天使は怪しく微笑んだ。
﹁実力順ってところかしらね。本来の力を取り戻したワタシの魔鏡
を通せばその人物の力を数値的に判断できるようになるの。そして
この里に居る人間達を含めて判断した時、誰が一番オビリスを殺せ
る可能性が有るか。誰に賭けるべきか。それを見ているのよ﹂
紡がれた言葉にシャスラハールは驚き、マリスを見やった。
﹁ん? はえ?﹂
ボンテージ姿で首を傾げているマリス。
﹁あ、ボンテージ⋮⋮﹂
﹁そう。今のマリスちゃんはワタシの眷属。全力を取り戻したワタ
シが魔力付与の力をたった一人に注ぎ込んだ結果、マリスちゃんは
この里で第三番目の戦力保持者になったの。たぶんそこの聖騎士さ
んと戦っても、三回に一回はマリスちゃんが勝つでしょうね﹂
魔天使ラグラジルの魔力付与。
衣服を模した魔力による付与を受けた者は闇の力を纏い、全ての能
力が上昇する。
﹁乱戦になった時、ワタシの力でマリスちゃんをオビリスの近くへ
移動させて、そこで一気に首を取る。そんな戦術も有りなんじゃな
いかしらねって﹂
薄く笑った魔天使は更に言葉を続ける。
﹁本当ならね、あの場所でそこの聖騎士さんやマリューゾワを敵に
捕らえさせておいて、ベチョベチョの肉便器になっている途中で覚
醒させてあげて、油断しているオビリスを内側から殺すのが理想だ
ったんだけどね﹂
アルヴァレンシア達解放軍と合流しに行く途中でゼオムント兵とシ
1332
ャスラハール達を接敵させた理由を、事も無げにラグラジルは語っ
た。
﹁ラグラジル⋮⋮その為に殿下の命までも⋮⋮﹂
ヴェナの瞳が苛烈に輝いた瞬間。
﹁まーまーまー。大丈夫ですって。マリスがちゃーんとオビリスさ
んの首をチョキンしますから。みんなで仲良く戦争しましょうよー﹂
マリスの毒の無い声を聞き、両者の緊張が一瞬ほぐれ、
﹁やはり貴女は信用できませんね。行きましょう殿下、マリューゾ
ワ殿のところへ﹂
踵を返したヴェナに腕を引かれ、シャスラハールは扉の外へと連れ
出される。
室内で最後に目に留まったのは、酒瓶を放り捨ててベッドに仰向け
になる魔天使ラグラジルの姿だった。
﹁そうか⋮⋮ラグラジルはそんな事を言っていたのか﹂
腕を組み、上方を見つめながら魔剣大公マリューゾワはそう呟いた。
あれからシャスラハールとヴェナは一度宮殿を出て、天兵の里にあ
る兵器工場へとやって来た。
そこで合流したマリューゾワに、魔天使ラグラジルから聞いた戦力
の情報を伝え、その延長として先ほどの話をした。
﹁まぁ、戦略としてはそれほど間違ってはいない⋮⋮ただ、知らず
玉砕用の駒として扱われていたという事実をどう受け止めるかと言
う、そこが問題ね﹂
さほど気にしてはいない様子で、マリューゾワは首を振った。
﹁さて、シャスラハール王子。改めてこちらの状況を説明しておこ
うか﹂
視線を合わせて来た魔剣大公の苛烈な美貌に息を飲みながら、シャ
スラハールは頷いた。
﹁は、はい! お願いします﹂
1333
﹁まずは兵器の生産だが。固定砲含め長銃等量産が利く物を片っ端
から作っている。これさえ有れば天兵や羽根落ちの者達でも戦力に
数える事が出来るからね﹂
緊張の面持ちのシャスラハールに向けて、マリューゾワは胸を張っ
た姿勢で続ける。
﹁次にそれぞれの武器だが、先の親鬼襲撃時にこの里に居た者達の
武器は全て回収した。ヴェナ殿の聖剣についても後程ロニアの修繕
が済み次第返還させて頂く。セナやユキリス等のゼオムント脱走組
の武器については本人の確認を取りつつ新造中。遅くとも三日以内
には各自の手に渡る事になるだろう﹂
その言葉に、ヴェナはそっと胸に手を当てた。
﹁聖剣が⋮⋮戻って来るのですね﹂
聖騎士叙勲の証であり、魔力を斬り裂く力を持った得難き武装。
それさえあれば、シャスラハールを守るという自信は何倍にも増大
した。
﹁あぁ。やはり皆ベストの状態で戦いに臨むに越したことはないし
ね。そして最後に一つ︱︱﹂
﹁マリューゾワー!﹂
指を立てて説明するマリューゾワの背中に、少女の声が掛かった。
﹁ロニアさん、とシュトラさんも﹂
そちらの方を向いていたシャスラハールには、その声の持ち主と続
く人影が良く見えていた。
ロクサス郡領国アーリン領の技術将校ロニアと、同国テハイネ領の
大騎士シュトラ。
トワイラ領の領主であるマリューゾワを含めて、ロクサスの英雄た
ちが揃い踏みしている状況だ。
﹁シャス。それにヴェナ様も、こんにちは﹂
額に汗を浮かべた状態で礼をするシュトラと、
﹁あ、こんにちは⋮⋮﹂
少し半身になりマリューゾワの陰に隠れながら挨拶してくるロニア。
1334
自分の背中に隠れる緑髪の少女に苦笑を漏らしながら、魔剣大公は
問いを放った。
﹁ロニア、魔導機兵の調子はどう?﹂
﹁うん。さっきシュトラさんにお願いして戦闘情報を上書きしてた
んだけど、凄いね。真綿みたいに吸収しちゃうよ﹂
研究者としての興奮が冷めないまま、ロニアはマリューゾワに勢い
込んで話し出した。
﹁アン・ミサの言った通りだった。魔導機兵は一度こなした戦闘情
報を記憶し成長して次の戦闘に活かせるって! このままシュトラ
さんやマリューゾワの技を覚えさせていけば、千体全ては無理でも
数を絞れば精鋭部隊を作れる!﹂
その言葉を聞き、シャスラハールとヴェナは顔を見合わせる。
﹁魔導機兵は⋮⋮成長する?﹂
﹁技を覚える⋮⋮ですか?﹂
二人に問われ、ロニアはあわあわと手を振りながら、
﹁あ、うん。はい⋮⋮そうみたい、です⋮⋮﹂
未だにシャスラハールに、と言うよりは聖騎士として名を轟かせた
ヴェナに対して緊張している様子でたどたどしく頷いた。
﹁先ほど私が知っている剣の型を一通り、精鋭化予定の五十体に教
え込んできたところです﹂
汗を拭いながらシュトラが言う。
見ればその足と腕の筋肉は微妙に揺れ、激しい運動を繰り返して来
た事を物語っていた。
﹁シュトラ、ご苦労だった良くやってくれた。⋮⋮どうかな? 魔
導機兵の精鋭化。時間も限られているので全部には無理だが、数を
絞れば出来なくは無い。量が増やせないなら質を上げる。練兵も必
要な事だろう﹂
マリューゾワの問いかけに、シャスラハールは頷いた。
﹁凄い⋮⋮。これが戦乱を最後まで戦って来たロクサスの力⋮⋮﹂
少数でも戦えるように兵器を生産し、武装を整え、兵の練度を上げ
1335
ていく。
ゼオムントに抗い続けた者達の在り方を目の前で見て、シャスラハ
ールは胸を貫かれた思いだった。
そして、
﹁どうだろう、聖騎士殿。一つ魔導機兵の訓練に貴女の力を貸して
はもらえないだろうか?﹂
マリューゾワは不意にヴェナへと問いかけた。
ヴェナはその言葉を受け止め、チラリとシャスラハールを見やる。
﹁わたくしに拒否の言葉はございません。こちらの戦力が増すとい
う事でしたら、願っても無い事です。ですが︱︱﹂
﹁ヴェナ、僕の事は大丈夫。この里の中だったらそうそう危険は無
いよ。出来る限り仲間の内の誰かと一緒にするようにするからさ﹂
シャスラハールに言われ、ヴェナは一つ息を吐いてから頷き、
﹁魔剣大公、こちらからもお願い致します。魔導機兵の訓練、手伝
わせて頂きますわ﹂
その瞳に力が宿っていた。
罰を欲するだけの者が持つ弱さが薄まり、希望を抱く者の強さが輝
いていた。
﹁あぁよろしく頼む。ロニア、シュトラ。ヴェナ殿を練兵所へ案内
してくれ﹂
マリューゾワに言われ、緑髪の兵器将校と青髪の大騎士は頷き、ヴ
ェナを伴って移動して行った。
﹁⋮⋮私が思うに﹂
マリューゾワはその背中を見やりながら、そっと呟いた。
﹁聖騎士殿はこの数日、やり場の無い虚しさに苦しんでいたのだろ
う。そういう時は、滅茶苦茶にでも体を動かした方が良い。それが
後々の為になる作業ならば尚更心が晴れるというもの。⋮⋮差し出
がましかったかしら?﹂
最後に少しだけ茶目っ気を入れながら、魔剣大公は黒肌の王子へと
声を向ける。
1336
シャスラハールは意気揚々と前へ進んで行くヴェナの背中を見つめ
ながら、
﹁いいえ。有難うございました、マリューゾワ殿﹂
静かに礼を告げた。
シャスラハールは一人、街路を歩いている。
ヴェナやマリューゾワ達と別れ、暇が出来てしまい、次の予定を立
てようとしたところで一つ気がかりな事が有ったのだ。
﹁⋮⋮ここか﹂
大通りから少し抜けた場所。
小高い丘の上に建てられた簡素な建物に目を遣る。
白く塗装され、十字架が飾られた祈りの家。
シャスラハールはその扉へと近づき、小さくノックをした。
﹁ルル。入っても良い?﹂
その問いかけに、
﹁教会の扉は来る者を拒みませんよ。どうぞシャス、中へ入って下
さい﹂
柔らかな声が応じた。
扉を押し開け、中へ入ると、
﹁うわぁ⋮⋮﹂
清掃の行き届いた荘厳な神の家。
そこで三人の修道女が祈りを捧げていた。
﹁⋮⋮シャス。もう少し待ってて、今はお祈りの時間だから﹂
フードを目深に被った修道女、幸運と誓約の魔導士ルルが言い、シ
ャスラハールは頷いた。
据え置かれた木製のベンチに腰を下ろし、視線を方々へと向ける。
出来てそう期間が経っていない教会には汚れも無く、純白その物で
あり、その床に膝をついて祈りを捧げている三人の修道女の衣服に
も穢れは無い。
1337
ミネア修道院の魔導士達は修道女として神に仕え、その代償として
魔術を得るのだという。
故に、今現在ここで神に祈りを捧げるという行為はルルに幸運と誓
約の力を与え、ユキリスに劇毒と狂奔の加護を与え、アミュスに支
配と枯渇の恩恵を与える行為なのだ。
ルルを中心にして、左にユキリス、右にアミュスが侍り、祈りを捧
げている。
その敬虔な背中に視線を送っていると、祈りを終えたのだろう、ル
ルが立ち上がりシャスラハールへと振り向いて来た。
﹁いらっしゃい、シャス。来てくれて嬉しいわ﹂
ほんわかと微笑み、ルルはシャスラハールへと歩み寄ってくる。
﹁うん。僕も一度、ルルとしっかり話をしておきたかったんだ﹂
かつて公娼と調教師という間柄であった両者の視線が交錯する。
少し前に再会していたとは言え、続く騒乱の中、なかなか落ち着い
て話をする機会を得られず、二人は今日まですれ違うような毎日を
過ごしていた。
﹁ルル⋮⋮良かった⋮⋮無事で、会えて⋮⋮﹂
まだ精神的に幼かった日の彼を導き、ここまで戦い抜ける土台を作
った女性。
ヴェナとはまた違う意味で、彼の庇護者であった希望の魔女。
﹁シャス⋮⋮。貴方とまた会う事が出来た事、神に感謝を。そして
この再会はきっと、ハレンが導いてくれたのでしょうね﹂
シャスラハールの隣に腰を下ろしながら、ルルはゆっくりと言葉を
紡いだ。
﹁そうだね⋮⋮ハレンに、皆に感謝する⋮⋮誰一人として、忘れな
い﹂
ルルと出会う少し前に、シャスラハールが最初に作った仲間とも呼
べる公娼ハレン。
非業の死を遂げた彼女の記憶が、両者を強く結んでいた。
﹁これから、また戦いになる。ゼオムントとの、厳しい戦いに﹂
1338
ポツリポツリと語るシャスラハールの背中に、ルルの手が優しく乗
った。
﹁そうですね。恐らく私達の運命は次の一戦に掛かっている事でし
ょう﹂
悩みを解きほぐす様な手の温もりに、シャスラハールは顔を上げた。
﹁怖いんだ⋮⋮ルル。僕はゼオムントを倒す為に色々なものを犠牲
にして来た。ハレンの命や⋮⋮ルルやヴェナの尊厳を汚して、セナ
さん達を苦しめて、ラグラジルやラクシェに手を下して、アン・ミ
サだって巻き込んでしまった﹂
そしてシャスラハールは吐いた。
弱音を。
全身を這いまわり続けた弱音と言う名の猛毒を吐き続け、ルルに浴
びせ掛けた。
﹁今度こそ、駄目かも知れない。僕のせいで、皆が死んでしまうか
も⋮⋮公娼に戻されるかもしれない。アン・ミサ達も酷い目に遭う
かも知れない。そうなってしまったら僕はどう責任を取れば良い?
僕の抱いた理想のせいで、皆が不幸になった時、僕は︱︱﹂
﹁シャス。今日だけ、今だけですよ。そうやって泣いて良いのは﹂
ルルはシャスラハールを抱擁しつつ、優しくその頭を撫でた。
﹁貴方がそう思ってしまう事。それは仕方の無い事です。貴方はこ
の事態の中心に居る、それはつまり、起こった出来事の責任から逃
れる事が出来ないという事です。だからシャス。力強く在って下さ
い。貴方が迷わず、希望を抱き続けてくれる事で、貴方を支える皆
が戦えるのですよ﹂
静かに震えるシャスラハールの体を、ルルの体温が包む。
﹁ハレンに、ヴェナ様に、セナさんに、アン・ミサ様に、ラグラジ
ル様に、そして私に報いてくれるのならば、貴方は戦いなさい。前
を向き、胸を張り、ゼオムントに抗うのです。それが貴方の責任で
あり、唯一それを果たす方法なのです﹂
ルルはそっと魔力を込める。
1339
﹁﹃誓約﹄をしましょう。シャス、もう泣かないと私に誓って下さ
い。そうすれば私は貴方の為に死力を尽くし、一生貴方を導く魔女
である事を誓います﹂
そしてゆっくりとシャスラハールの顔を持ち上げる。
涙で歪んだ王子の唇に、
﹁そ、それって⋮⋮﹂
﹁泣いたら嫌いになるわよって事よ。シャス﹂
魔導士の唇が合わせられ、﹃誓約﹄魔法が内側に刻まれた。
魔力が全身を駆け巡り、シャスラハールとルルの間で新たな﹃誓約﹄
が完成した。
気恥しげにルルを見ながら、
﹁ルルに嫌われない為にも、もう泣けないね⋮⋮﹂
﹁そうですよ。あぁそうそう、特例として私の胸の中では泣いて良
い様にして置いたので、本当に辛い時はヴェナ様のところでは無く
私のところに来てくださいね?﹂
ウフッと笑いながら放たれた言葉に、シャスラハールは呆然とする。
﹁だってだって! 私はずーっとシャスを待っていたのに、ヴェナ
様がシャスを独占するから今日まで全然シャスが来てくれなくって
! でもこうしておけばシャスはちょくちょく私のおっぱいに顔を
埋めて泣きに来てくれるでしょう?﹂
まるで子供の様な事を言い出すルルに、
﹁え、じゃあ僕は⋮⋮﹂
﹁泣きたくなったらルル院長のところで泣くのよ。院長が居ないと
ころで泣いたら最悪アンタ死ぬから﹂
問いかけたシャスラハールの背後から声が掛かった。
﹁あら、アミュス。お祈りは終わったのですか?﹂
﹁えぇ。ユキリスの方はまだ続けているみたいですけど。まぁあの
子はそうしておいた方が気持ちが和らぐのでしょうけどね﹂
銀髪の魔導士が箒を手に立っていた。
支配と枯渇の魔導士アミュス。
1340
先日までゼオムントの開拓団に捕らえられ、たった二人で五万人の
性奴隷を務めていた才女。
﹁ユキリスは⋮⋮。そうですよね﹂
そっと眉尻を下げながら、ルルは呟いた。
﹁⋮⋮開拓団のところに残して来た女性達。ユキリスの魔法で錯乱
状態だったから私達と同じ檻に入れられてなくて、その結果今も向
こうに残ってしまっているんです。その責任を、感じているんでし
ょう﹂
アミュスが言葉を引き継ぎ、唇を曲げる。
﹁ねぇアンタ﹂
﹁は、はい﹂
そして睨む様にシャスラハールを見やると、
﹁私はアンタに何の期待もしていないけれど、アンタが凹んでるせ
いで他の戦力として期待できる連中まで士気が下がると困るのよ。
だからね、しゃっきりしなさい。でないと﹂
シャスラハールの頭に手を置き、アミュスは獰猛に笑う。
﹁私の﹃支配﹄でアンタを隷属させるわ。そうすれば聖騎士ヴェナ
が手駒に加わるんですもの。お得よね﹂
親を隷属させれば子の忠誠すらも奪える。
そんな強力な﹃支配﹄魔法を持つアミュスの放った冗談に、シャス
ラハールは冷や汗を掻いた。
﹁あらあら﹂
愉しげにその様子を見守っているルル。
﹁そ、そろそろお暇するよ。ルルまた今度ね﹂
シャスラハールは立ち上がり、教会から出て行こうとする。
その時も変わらず、床に跪いて一心不乱に祈り続けるユキリスの背
中を見て、戦いへの覚悟を一層深くした。
﹁食堂は⋮⋮こっちかな?﹂
1341
宮殿に戻り、昼食を得る為に通路を歩くシャスラハール。
住み慣れた、とはまだ言い難い場所である以上、勘を頼りに進む場
合もまだまだ多い。
そんな時役に立つのが先住者だ。
この場合、翼を持つ天使がそれに該当する。
﹁あ、すいません。食事をしたいのです⋮⋮が﹂
廊下の隅で見かけた羽根を持つ少女に声を掛け、一秒後には後悔し
た。
﹁何それ? ウチに聞いてるの?﹂
よく顔を見ずに問いかけた相手、その少女が持つ二つ名は﹃西域至
高の武﹄。
﹁あ、あぁうん。ラクシェ⋮⋮食堂ってどっちだっけ?﹂
水色髪の力天使ラクシェがそこに立っていた。
﹁食堂なら向こうだけど⋮⋮ん? んん?﹂
そう言って、顎に手を当てて悩む仕草を見せる少女天使。
彼我の力量差は蟻と象程で、シャスラハールにとってみれば気分屋
であり、凶暴性も兼ね備えたラクシェと不意の接触は控えたいとこ
ろだったが、
﹁そうだ! 暇? 暇よね? 暇でしょ? じゃあついて来て! ウチと一緒にお昼ご飯食べよう!﹂
まさかのランチの誘いに、目の前が真っ暗になってしまった。
﹁い、いやあの⋮⋮僕は食堂で⋮⋮﹂
﹁良いから! こっち来て!﹂
ラクシェの馬鹿力に腕を引かれ、ズイズイと廊下を進んで行くシャ
スラハール。
すれ違う女中達が気の毒気な表情を見せるのは、彼女達もまた乱暴
者ラクシェの被害者だからなのだろう。
﹁こっちこっち! 隠れて!﹂
やがて中庭までやって来て、植木の一つに身を隠すシャスラハール
とラクシェ。
1342
﹁痛い⋮⋮腕が、もげるかと⋮⋮﹂
零れ落ちそうになる涙を必死で耐えるシャスラハール。
もしこんなところで落涙し、ルルの誓約によって命でも落してしま
ったならば、後の世までの笑い者になってしまう。
﹁シッ! 静かに﹂
ラクシェの小さな手で口を塞がれ、シャスラハールは動揺しながら
視線を彷徨わせる。
そして、中庭に設置された日除け付の瀟洒なテラスにいる四人の人
間を見つけた。
﹁ハイネア王女と昼食を共に出来るとは、当家の誇りとなりましょ
う﹂
﹁わ、私などが王女様と相席して食事を共にするなど不届き千万で
あり、や、やはり私は警備に戻ります﹂
落ち着いた華美な声と、焦ってつっかえている声。
それに続けるように、
﹁良い良い。伯爵も筆頭巫女殿も気兼ねなくせよ。リセ、そろそろ
初めておくれ﹂
﹁はい。ハイネア様﹂
幼く尊大な声が続き、柔らかで優しい声が応じた。
ヘミネとシロエ、そしてハイネアが席に着き、リセがその周りで給
仕をしている光景だった。
リネミア神聖国で要職にあった者達が王女を囲んでの食事会、とい
ったところだろうか。
﹁あそこのな! 食事で出る物が旨いの! もう滅茶苦茶美味しく
て美味しくて! いっつもいっつも片付けられたお皿をペロペロ舐
めてたんだけど、もう我慢できない! 協力して!﹂
ラクシェがシャスラハールの首を締めながら迫る。
恐らくはリセの手作りであろう料理の数々がテーブルに並べられ、
ハイネア達は静かに給仕を受けている。
﹁前にお前達と旅させられていた時に食べたシチューなんかも絶品
1343
だったけど! 食材や調味料が揃った時のあのメイドの腕前は尋常
じゃないぞ! この前なんかあのチビが食べ残した時のを洗い場で
食ったが気絶しそうだったよ!﹂
興奮するラクシェの口ぶりからするに、まともにあのテーブルに乗
った料理を食べた事は無いらしい。
﹁そ、そのくらい頼めば良いじゃないか?﹂
喉を押さえながらシャスラハールが言うと、
﹁馬鹿! この前お前達の前で散々暴言を吐いて見殺し寸前だった
ウチがのこのこ乞食じみた真似が出来るか! 毒を盛られるにきま
ってる!﹂
皿を舐めたり残飯を食べるのは乞食では無いのかと言いたくなるの
を我慢し、シャスラハールは溜息を吐いた。
﹁じゃあ何? 僕に何をして欲しいの?﹂
﹁お前ならばあの食卓に入っても問題が無いだろう? だったらな
! ウチの作戦を聞け!﹂
自信満々に胸を張り、滔々と語り始めるラクシェ。
﹁まずはお前があの席に潜り込む。そしてあのチビに飯をねだって
メイドに作らせるの。そして料理の一つ一つにケチをつけまくって
食事の場の空気を悪くする。そうすると必然的に残飯が増える! ウチはたくさんあの料理が食べられる! 完璧! あぁ、お前の分
の料理は一口ずつしか食べちゃダメだぞ。そこ気を付けるんだぞ﹂
あまりの発言に頭痛を覚え、シャスラハールは溜息をもう一つ。
﹁⋮⋮ラクシェ﹂
﹁何?﹂
﹁あの料理の為なら、何が出来る?﹂
シャスラハールの問いかけに、
﹁何だって出来る! ウチに出来る事だったらなんだってな!﹂
ラクシェは自信満々に頷いた。
その答えを聞いて、シャスラハールはラクシェの腕を掴み立ち上が
った。
1344
﹁な! やめっ! ばれる!﹂
抵抗するラクシェを無視して、テラスへと近寄って行くと、
﹁おぉ、シャスではないか。どうした? 妾に何か用か?﹂
気付いたハイネアが満面の笑みで迎え、
﹁ごきげんよう﹂
ヘミネがしっとりと頭を下げ、
﹁⋮⋮ラクシェが一緒⋮⋮?﹂
シロエが眉を顰め、
﹁⋮⋮﹂
リセが直角に腰を折り丁寧に頭を下げた。
﹁やぁ、みんな。こんにちは﹂
シャスラハールはそれぞれの挨拶に応じ、
﹁まぁ立ち話も変だのう。どうだ? 昼飯がまだなら妾達と共にせ
ぬか?﹂
ハイネアの問いかけに、シャスラハールが頷くと、
﹁あ、ではお席はこちらに。ハイネア様、私はお料理の追加をお持
ちしますね﹂
そう言ってリセは椅子を引いてから立ち上がり、配膳台車を押して
厨房へと向かって行った。
﹁それじゃ⋮⋮。ラクシェ、お昼ご飯が食べたいんだよね?﹂
掴みっ放しのラクシェに向けて、シャスラハールが問うと、
﹁むぐっ⋮⋮う、うぅ⋮⋮﹂
力天使は呻いた。
﹁ほう⋮⋮﹂
事情を一部知るハイネアは鋭利な目でラクシェを見つめ。
﹁⋮⋮﹂
完全に被害者であるシロエが強烈な瞳で睨みつけ、
﹁⋮⋮何か有ったのですか?﹂
ラクシェとの間に因縁が無いヘミネは首を傾げている。
そこに、シャスラハールがそっとラクシェの背中を押した。
1345
﹁食べたいんならちゃんと、しっかりお願いしなきゃね﹂
背中を押され、力天使ラクシェは顔を真っ赤にしながら、
﹁こ、この前はゴメンなさい! もうしません! ちゃんと助けま
す! 皆皆ウチが助けてあげます! ゼオムントぶっ殺します! だから! だから! ご飯を食べさせてください! お願いします
!﹂
地面に頭をつけて懇願した。
呆気にとられた態のヘミネ。
そしてリネミア一行の責任者であるハイネアがそっとシロエへと視
線を向けると、
﹁⋮⋮ラクシェのした事を簡単には許せませんが、ラクシェはゼオ
ムントとの戦いでは得難い戦力です。私はこれ以上、溝を作る気は
有りません﹂
巫女騎士団筆頭は、静かに頷いた。
その言葉を受け、ハイネアが威厳たっぷりに頷いて、
﹁良かろう。リネミアの宴にそなたを招いてやろう。ラクシェよ、
心して妾の宴に参席するが良い﹂
そう言い放った。
﹁え? え? 良いの? ウチご飯食べて良いの? 温かいのを?
皿にこびり付いたソースとか冷め切った肉片とかじゃなくて?﹂
力天使の喜色満面の言葉に、ヘミネが引き攣った笑みを向け、
﹁と、とりあえず。リセが戻るまではもうしばらくかかるでしょう
から、こちらをどうぞ﹂
自分に給仕され、未だ手つかずだったスープをラクシェの前へと押
しやる。
﹁ありがとう! ありがとう! 守るよ! 絶対に守るから! こ
の力天使ラクシェの加護は西域での絶対安全手形だからね! 安心
して良いよ!﹂
席に飛び乗ってズバズバとスープを吸い上げながら、ラクシェは喜
んでいる。
1346
シロエやハイネアからも料理を分けてもらいながら、リセが調理を
終えて戻って来るの待っている間、小腹を満たしたラクシェがシロ
エへと声を掛けた。
﹁んーとね。さっきの事だけど、本当に嫌な事だったら忘れちゃえ
ば良いと思うんだ﹂
その気軽な声に、シロエが鬼の形相を浮かべる。
﹁それが出来たら、どれだけ救われる事か⋮⋮﹂
凌辱の記憶は消えない。
いつまで経ってもどれだけ経っても、公娼達を苦しめ続ける。
﹁消せるよ? お姉様が持ってるもん。そういう道具。今度借りて
きてあげるよ﹂
何気ない一言に、場が凍った。
﹁お姉様って、アン・ミサさん?﹂
ラクシェに姉は二人居るが、直近の姉であるアン・ミサの事を﹃お
姉様﹄、上の姉であるラグラジルを指す場合は﹃お姉ちゃん﹄で使
い分けているようだ。
﹁うん。何だっけな⋮⋮嫌な記憶を封じ込める石みたいな奴? あ
んまり覚えてないから、詳しい事はお姉様に聞いてね﹂
それを聞き、リネミア一行のみならずシャスラハールまでも顔色を
変えた。
罪に苦しむヴェナを救い出す方法が、見つかったかも知れない。
食後の予定を決定しかけたシャスラハールの元に、
﹁お待たせ致しました。殿下⋮⋮あれ?﹂
配膳台車を押して帰って来たリセが首を傾げている。
シャスラハールの隣で期待に目を輝かせて小鼻を膨らませているラ
クシェが座っている事に戸惑っている様子だ。
﹁あぁ、リセさん。ラクシェにも︱︱﹂
﹁一人分しか⋮⋮あの、も、申し訳ございません!﹂
台車に積まれている料理は、一人分だ。
大仰に頭を下げるリセ。
1347
﹁仕方無いだろう侍女殿。侍女殿が厨房に立った時はまだラクシェ
は客では無かったのだから﹂
シロエがフォローし、ラクシェを除く人間達もそれに頷いた。
﹁え? え? じゃあウチ⋮⋮ご飯、無し?﹂
絶望に顔を青くするラクシェ。
その隣で溜息を吐いたシャスラハールは、
﹁リセさん、料理は全部ラクシェに。僕は食堂にでも︱︱﹂
﹁大丈夫だ。シャスよ、リセ。お前の賄い料理がまだあるだろう?
シャスはそっちを分けてもらうと良い。形を気にして調理する妾
向けの料理と比べて、リセの作る賄いは味のみに集中した結果、恐
ろしく旨いぞ。心して食すが良い﹂
席を立とうとしたところでハイネアに留められ、配膳台の下に隠さ
れたごった煮の様な料理を示される。
確かに見栄えは良く無く、王族のハイネアや貴族のヘミネが食べる
のには不向きかも知れない。
だが、そこから放たれる芳香は確実にシャスラハールの鼻孔を侵食
し、食への希望で犯していく。
何故か恥ずかしがるリセから無理矢理分けてもらい、一匙その料理
を食した後、
シャスラハールはリセへ永遠の忠誠を誓った。
胃の中を幸福で満たしながら、シャスラハールは歩いている。
リセと賄いを分け合って食べ、その味に感動し危うく涙を流して死
んでしまうところだった。
おかわりを繰り返すラクシェとそれに付き合ってお茶会へと移行し
たハイネア達と別れ、シャスラハールが向かった先は、宮殿内の執
務室。
本来はラグラジルが居て働くべき場所であるが、現在のここの主は
あの半裸の魔天使では無い。
1348
その妹であり、実質的な西域の政治統括者。
智天使アン・ミサ。
﹁アン・ミサさん、シャスラハールです。入っても宜しいでしょう
か?﹂
執務室の扉へと至り、ノックをすると、
﹁あ、はーい。どうぞお入り下さい﹂
内側から慌ただしい声が聞こえて来た。
ドアノブを回し、入り口を解放すると、
﹁こんにちは、シャスラハールさん。今ちょっと立て込んでいるの
で少々お待ち頂いても宜しいでしょうか?﹂
豪奢な執務机を書類の山で埋め立て、その中心で疲弊した笑みを浮
かべている智天使が声を掛けて来た。
﹁ご、ごめんなさい。お忙しかったのですよね?﹂
﹁いえいえ、もう少しでお茶の時間にしようかと考えていたところ
ですので。ね、ユラ﹂
慌てるシャスラハールにやつれた首を振って見せ、背後へと声を向
けるアン・ミサ。
﹁⋮⋮初耳ですが。了解です、準備を致しましょう﹂
別の簡素な机に座って作業をしていたアン・ミサの助手、裁天使ユ
ラミルティが静かに応じる。
その応酬の間も、アン・ミサの書類を捲る手は止まらず、目は文字
を追い続けていた。
﹁この量を⋮⋮お一人で?﹂
山になってアン・ミサに襲い掛かっている書類を恐怖の目で見つめ
ながらシャスラハールが問うと、
﹁正確にはユラと二人で⋮⋮。あぁでも皆さん方の用件に関しては
シャロンさんやルルが受け持って下さっているので、大分助かって
います﹂
苦笑を浮かべながら言い、感謝の言葉を付け加える西域の元管理者。
﹁ラグラジルや⋮⋮ラクシェは?﹂
1349
﹁あははは⋮⋮﹂
シャスラハールのおっかなびっくりの声に、アン・ミサは笑ってご
まかした。
目の下に隈を作り、やせ細りながらも書類仕事に精を出す智天使の
様子に、シャスラハールは何と声を掛けようかと迷い、その様子を
見てアン・ミサは薄く微笑んだ。
﹁大丈夫ですよ⋮⋮。わたくしはこう言う仕事が得意ですから。い
ざとなったらお姉様が大局を見て判断して下さり、ラクシェが危険
に立ち向かう。何も出来ないわたくしはこうやって何事も無い日常
を作る為に地味に働くしかないのです﹂
紡がれた言葉には、万感の思いが込められていた。
ラグラジルやラクシェに対する信頼と、今有る貴重な平和を守りた
いという強い願い。
智天使アン・ミサの優しい笑みに、シャスラハールはときめきを覚
えてしまった。
﹁アン・ミサ様、シャスラハール殿。お茶が入りました﹂
お盆に三つのカップを載せ、ユラミルティが戻って来る。
﹁ありがとう、ユラ﹂
﹁ありがとうございます﹂
礼を言って受け取り、少し渋めのお茶を啜る。
一息ついたところで、アン・ミサが首を傾げてシャスラハールへと
問うた。
﹁ところでシャスラハールさんはわたくしに何か御用事が有ったの
ですか?﹂
茶を冷まして啜っていたシャスラハールは、先ほど中庭で聞いた話
を思い出し、智天使へと問い返した。
﹁アン・ミサさん。貴女が嫌な記憶を封じ込める道具を持っている
と聞いたのですが、それは本当なのですか?﹂
カップを握る手に力が籠るのを感じながら、シャスラハールは強い
瞳でアン・ミサを見つめた。
1350
アン・ミサは視線を受け止めつつも、どこか困った様子でお茶を啜
り、
﹁どこで⋮⋮そのお話を?﹂
﹁先ほど、ラクシェから聞きました﹂
小さな声で確認をして来た。
﹁そうですか⋮⋮あの子が⋮⋮﹂
カップに視線を落しながら、アン・ミサは居心地が悪そうにしてい
る。
主のその様子を見て、ユラミルティは眼鏡の角を持ち上げながらシ
ャスラハールへと声を向ける。
﹁シャスラハール殿。その件につきましては私からご説明させて頂
きます﹂
真正面を向いた黒髪の天使から、言葉が紡がれる。
﹁記憶の封印に使用できる﹃忘却の輝石﹄と呼ばれる魔法道具は確
かにアン・ミサ様の管理の下、この宮殿内部にございます﹂
その言葉を聞き、シャスラハールは息を飲んだ。
﹁で、でしたら! それを︱︱﹂
﹁シャスラハール殿や、他の皆さまがこの道具を求められるお気持
ち、私の主は充分に理解しています﹂
牽制するかのように、ユラミルティは言葉を繋ぐ。
﹁ですがこの道具は、本来は日頃の鬱憤程度の毒を吸出し、霧散さ
せるという用途において完成した物なのです。ですので、皆さんの
境遇を耳にする限り、その想像を絶する過酷な記憶を消し切る為に
は些か力が及ばないのでは、と危惧しているのです﹂
記憶を封印する魔法道具は確かに存在するが、その効力では公娼達
の悪夢には及ばない、そう語られる。
﹁⋮⋮正確には、不可能では無いのです。悪夢の内の一つを封印し、
それで皆さんの心が軽くなるのでしたら、いくらでも使って貰って
構わないのですが、如何せん⋮⋮強度が足りません。恐らくそう何
度も使用しない内に、皆さんの悪夢に押し潰されて石は砕け散るで
1351
しょう﹂
アン・ミサが言葉を紡ぎ、シャスラハールを見やる。
﹁その石の一回の使用で消せるのはたった一つの悪夢。そして恐ら
く皆さんの悪夢でしたら二度三度の使用ですぐに壊れてしまう。け
れど石を求めるのは⋮⋮この里で傷を癒している方々全員になるで
しょう。わたくしには、その悪夢の重さを比べ、選択する事が出来
ません。ですので、この石の事は秘匿し胸の内に仕舞って誰にも話
をしませんでした﹂
悪夢の重さは、人それぞれに違っている。
それをさながら神の様に推し量り、選び取る事をアン・ミサは恐れ
たのだ。
﹁シャスラハールさん。今のわたくしの話を聞いても尚、石を求め
られますか?﹂
縋る様なアン・ミサの声に、シャスラハールは動揺を浮かべる。
﹁補足します。忘却の輝石を使用するには、この石を枕元に置き一
晩を過ごす必要が御座います。夢の中で最も忘れたい記憶が鮮明に
再生され、明くる朝に目覚めた時、石がその記憶を吸い取って輝い
ている状態となります。使用者が本当にその夢を忘れ去りたい場合
は石の輝きが消えるのを待ち、その記憶を忘れたくない場合は石が
輝いている内にそれを握りしめ、強く願う事で再び記憶として残し
ておく事が可能となります﹂
繋げて放たれたユラミルティの言葉。
﹁そ、それじゃあ⋮⋮その石を使うという事は⋮⋮﹂
シャスラハールはカップが震えている事を自覚しながら問う。
﹁はい、一度は鮮明に思い出してしまうのです。感触も、匂いも何
もかもを思い出し、記憶として再生され、そしてご自身で選ぶ事と
なります。その悪夢の処遇を﹂
智天使アン・ミサは真剣な瞳でシャスラハールへと問うて来る。
﹁シャスラハールさん。今のわたくしの話を聞いても尚、石を求め
られますか?﹂
1352
繰り返される問いが、脳内を反響する。
記憶を消す事が出来る魔法道具。
それを使用できるのは数回、多くても三回程度だという。
そして一度の使用で消せるのは一つの悪夢、その場面だけ。
その上悪夢は鮮明に再生され、使用者を苦しめる事となる。
誰に石を与えるか、誰の悪夢がより酷い物なのか。
そして、誰を苦しめる事になるのか。
その決断が出来ない限りは、忘却の輝石を手にしてはいけない。
﹁⋮⋮考える時間を、下さい﹂
項垂れながらシャスラハールが言うと、
﹁はい。わたくしも、ずっとその事を考え続けてきました。シャス
ラハールさん。この部屋の鍵は常に開けておきます。貴方の決断が
出来た時、いつでもわたくしを訪ねて来て下さい。石を用意し、お
待ち致します﹂
アン・ミサが丁寧に腰を折り、礼の姿勢を取った。
執務室を辞し、シャスラハールは当ても無く宮殿内を歩き回ってい
た。
脳内では常に、先ほどのアン・ミサとの会話が繰り返されている。
﹁⋮⋮石を使える回数は限られている、誰の悪夢を消すか⋮⋮それ
は誰が決める⋮⋮﹂
呟きを零しながら、廊下を抜け水車が回り続ける水場へと到達する。
差し込む夕日を浴びながら、思考の海に潜り続けていると、
﹁何してんの?﹂
少しだけキツい声が飛んで来た。
﹁⋮⋮セナさん﹂
顔を上げて声のした方向を見ると、赤い髪を両結びにした騎士がこ
ちらをジトっとした目で見つめていた。
﹁何か悩み? っていうかヴェナ様は? 今日は一緒じゃないわけ
1353
?﹂
シャスラハールの眼前を通り過ぎながら、セナが流し目で問いかけ
て来た。
﹁ヴェナは今魔導機兵の訓練に行っています。僕はその⋮⋮ちょっ
と考え事を﹂
セナの姿を目で追いながら、シャスラハールは静かに答えた。
﹁ふーん。魔導機兵の訓練って何かわかんないけど、アンタがヴェ
ナ様と別々に行動してるのなんて珍しいじゃん﹂
手にした花瓶から花を抜き取り、空になったそれに水車から水を汲
みながら、セナは言った。
﹁⋮⋮そうですね﹂
﹁ま、アタシは聞いただけだけど、ヴェナ様とアンタはゼオムント
の呪いで酷い目に遭ったんでしょう? 仕方ないわよ。誰だって悩
む時くらいあるわ。しっかり支えてあげなさいよね﹂
伝聞では有ったが、騎士が傷だらけの主君を守れず見殺しにしかか
ったという話を聞き、セナはヴェナの苦痛をよく理解していた。
﹁アタシも今は騎士長に付いてあげなきゃならないし。アンタとゆ
っくり話すのはまた今度ね﹂
そう言って、水で満たした花瓶に黄色い花を挿し、それを抱えて今
来た道を戻って行く。
﹁ステアさんは⋮⋮今も?﹂
シャスラハールはその花が捧げられる人物の事を思い、沈んだ声を
放った。
﹁⋮⋮だいぶ元気になったわよ。もう少し、もう少しで前の騎士長
に戻ってくれるわ。アタシ達に出来るのは、それを待つ事だけ﹂
鶏人の里から救出されたステアは、半ば廃人の様な状態だった。
途切れ途切れに聞こえてくる話から判断するに、彼女は一度騎士と
しての自分を捨て去り、汚して殺して諦めて、誇りの全てを失って
肉便器として生きる事を決意してしまったらしく、誇りある騎士と
しての自分を取り戻すのに長い時間を必要としていた。
1354
セナとシャロンとフレアが常に傍に付き、彼女に語り掛け続け、シ
ャスラハールや他の者達は少しだけ距離を空けて置いて欲しいと頼
まれていた。
今のステアは他者を恐れてしまっている。
そしてそんな彼女を自分達以外に見せたくないと、騎士達は一室に
籠り、この数日を過ごしていた。
シャスラハールとの連絡役をセナが、アン・ミサとの連絡役をシャ
ロンが務め、時折顔を出す程度だった。
フレアはずっとステアの傍について励まし続けている。
﹁ねぇ﹂
離れて行くセナから声が掛かる。
﹁アンタ一人だったら、会ってみない? 騎士長に。もしかしたら、
王であるアンタを見ればあの人の騎士としての心が戻るかも知れな
い﹂
立ち止まりながら、赤髪の騎士がゆっくりと振り返って問うてきた。
﹁セナです。入ります﹂
宮殿内の一室の扉をセナが押し開ける。
シャスラハールは足音を殺しながらその後ろに続き入室した。
﹁騎士長、気分はどうですか?﹂
室内を二つに隔てる様にして置かれた衝立の奥に向けて、セナが声
を向ける。
﹁⋮⋮悪く、無いわ⋮⋮ごめんなさいね⋮⋮セナ﹂
衝立の向こうに据え置かれたベッドの端から、ほっそりとした足が
見える。
﹁いえ。シャロンとフレアはどうしました?﹂
花瓶を戸棚の上に置きながら、セナが問う。
﹁寝てるわ⋮⋮二人とも疲れているようね⋮⋮それもこれも、わた
しに付き合って徹夜なんてするから⋮⋮﹂
1355
弱弱しい声がそう応じ、
﹁暗闇が⋮⋮怖いの⋮⋮繋がれていた男子便所も、納屋も、全然陽
が当たらなかったから⋮⋮夜の闇に包まれると、どうしてもあの時
の事を思い出して、呼吸が出来なくなってしまう⋮⋮﹂
絞り出す声は悲痛そのものだった。
﹁騎士長⋮⋮﹂
﹁セナ⋮⋮。ごめんなさい。辛いのはわたしだけじゃない。セナだ
って、ゼオムントに捕らえられて酷い目に遭ったのよね。フレアも、
シャロンも⋮⋮それなのにわたしは、君達の事を励まして、慰めて
あげる事も出来ずに、ずっと一人で泣いてばかり⋮⋮﹂
その声は、シャスラハールの知るステアの物とは大きく異なってい
た。
彼女の持つ力強さが根本から失われ、ただのか弱い女性の震える悲
鳴に他ならなかった。
﹁アタシも⋮⋮気持ちの整理をつけるのに時間が掛かりました。シ
ャロンもフレアもたぶん同じです。だから騎士長も今はしっかり休
んで下さい﹂
内心の苦しみを見せずに、セナはそう言ってからシャスラハールへ
と視線を移す。
﹁そしてまた一緒に戦いましょう。騎士として、王の為に﹂
紡がれた言葉に、衝立の向こうでステアの体が揺れた。
﹁騎士として⋮⋮わたしは⋮⋮もう⋮⋮﹂
か細く、そして消え入るような声でステアが呟くのを聞いて、シャ
スラハールの我慢は限界を迎える。
﹁ステアさん!﹂
衝立を横切り、ベッドへと歩み寄る。
衣服を隙間無く纏い、首から下の肌を完全に隠した状態のステアが
ベッドの上に座り込んでいた。
﹁シャスラハール殿下⋮⋮﹂
驚くステアの膝の上には、椅子に座ったまま上半身を投げ出し縋り
1356
付く様にして眠っているシャロン。
そしてシャロンの反対側に、ステアのベッドに潜り込んで眠ってい
るフレアの姿が有った。
﹁すいません、騎士長。アタシがシャスを連れて来ました﹂
しっかりとした歩みで、セナがベッドの脇に立つ。
﹁セナ⋮⋮﹂
ステアはシャスラハールの視線から逃れる様に俯き、空いた手をシ
ャロンとフレアの頭に乗せた。
﹁⋮⋮殿下。お見苦しいところを⋮⋮お見せ致しております﹂
ゆっくりと紡がれる、彼女の言葉。
﹁貴方の騎士として、次の戦いに向けてこの子達を率い、備えねば
ならぬところを⋮⋮今日まで安穏と臥す毎日。弁解のしようもござ
いません﹂
﹁ステアさん、そんな事は︱︱﹂
﹁シャス﹂
ステアの謝罪に対し励ましの言葉を作ろうとするシャスラハールに、
赤髪の騎士は首を横に振って見せた。
今は彼女の話を聞く様に、と。
﹁この子達や、他の皆様の尽力により救われた命。一度は諦め、そ
れでも取り戻せた生。殿下、シャスラハール殿下﹂
ステアがそっとシャスラハールを見上げて来る。
﹁今一度、わたしの忠誠を受け入れてくださいますか? 騎士とし
ての誇りを失ったわたしに戦う場所を与えてくださいますか?﹂
心を砕かれ、今まさに繋ぎ直そうとしているステアに取ってすれば、
シャスラハールへの忠誠という物が何よりの接着剤となる。
﹁わたしに、貴方の御傍で戦う事をお許しいただけますか?﹂
立て続けに放たれるステアの言葉に、シャスラハールは万感の思い
を込めて頷いた。
﹁⋮⋮はい。ステアさん、僕の騎士としてゼオムントと戦ってくだ
さい。その命を、僕にください﹂
1357
黒肌の王子の言葉にステアは優しく微笑み、シャロンとフレアの頭
を撫でた。
﹁畏まりました。殿下﹂
そして恭しく礼を取り、
﹁明朝、お部屋までお迎えに上がります。次に貴方とお会いする時
には、今日の様な無様なわたしでは無く、この子達の騎士長ステア
として貴方にお目にかかります。ですので、申し訳ございませんが、
今日のところはここでお引き取り頂いても宜しいでしょうか?﹂
そんな言葉を作った。
﹁シャス。送るわ﹂
少しだけ柔らかくなった口調でセナが言い、シャスラハールの腕を
引いて衝立を越える。
﹁え? え?﹂
動揺するシャスラハールに向けて、
﹁馬鹿ね。今夜で全てを決着させて、明日から普段通りに戻る。そ
の為にはアンタは邪魔なの。良いからアタシ達に任せときなさい。
明日朝一番で、リーベルラント騎士団が迎えに来てあげるからさ﹂
朗らかなセナの言葉。
シャスラハールの顔を見せた事で、ステアの決意が定まり、無理矢
理にでも前へ進もうと立ち上がってくれた。
後はその立ち上がる動作を、自分達が支えてあげるだけだ。
その表情に込められた意味は、そんなところだった。
﹁わかりました。セナさん、宜しくお願いします﹂
﹁はいはい⋮⋮ね、シャス。騎士長が元気になって、ヴェナ様も落
ち着かれたら、今度はアタシの話を聞いてね。約束よ﹂
扉を開けて廊下に出ながら、セナはそっと囁き、シャスラハールは
それに向けて優しく頷いた。
﹁そうですか⋮⋮そんな事が﹂
1358
﹁うん。皆色々と大変みたいだ﹂
夜になり、シャスラハールは与えられた寝室で寝間着に着替える。
その隣では聖騎士ヴェナがスカートを外し、シャツを取り払って下
着を脱いでいた。
二人とも、寝る準備を整えているところだった。
﹁ヴェナの方は? 魔導機兵はどうだった?﹂
シャスラハールが質問すると、
﹁確かに成長は見られますが、一体一体に技を教え込むのは中々時
間を要するものですね。明日以降も時間を見つけて訓練を続けて行
きたいと思います﹂
全裸になったヴェナが真面目な顔で頷いた。
﹁そっか。大変だったね、御苦労さま﹂
﹁ありがとうございます。殿下、それでは眠りましょう。明日も朝
から予定がございます﹂
そう言ってヴェナが促し、主従は一つのベッドに収まった。
ほぼ同じ身長の両者が向かい合う様にして寝そべり、密着する。
﹁殿下、失礼いたします﹂
ベッドの上でヴェナがもぞもぞと動き、シャスラハールの頭を自分
の胸の谷間に格納する。
乳枕。
﹁⋮⋮ねぇ、ヴェナ﹂
シャスラハールは柔らかな肉の世界に包まれながら言葉を紡ぐ。
﹁はい、何でしょう?﹂
両足でシャスラハールの腰を絡め取りながら、ヴェナが頷く。
﹁ヴェナは⋮⋮この前の記憶、忘れられるのなら、忘れたい?﹂
その言葉が響いた瞬間、聖騎士の体が一瞬震えた。
﹁⋮⋮先ほどの話に有った、アン・ミサ殿の石の話ですか?﹂
﹁うん⋮⋮﹂
深く密着した状態で、主従は会話を続ける。
﹁殿下、お気遣い頂きありがとうございます﹂
1359
ヴェナは更にぎゅっとシャスラハールを抱き締めながら、
﹁しかしわたくしには、その石は必要有りません。この記憶はいつ
か死に果てる時まで永遠に、わたくしの内側に置き続けたいと思い
ます﹂
﹁でも、それじゃ⋮⋮﹂
シャスラハールはヴェナの双乳に顔を押し込みながら、戸惑いの声
を放つ。
﹁貴方を傷つけてしまった記憶。守護者として許されざる罪業。そ
れを背負って貴方を守る。今度こそ、誰にも貴方を傷つけさせない
と、わたくしが自分自身に誓う為に﹂
紡がれた言葉は、芯の籠った物だった。
﹁ヴェナ⋮⋮﹂
﹁わたくしも女です。汚辱に関しての記憶には嫌悪感しか抱きませ
ん。ですが、あの時わたくしが感じたのは敵兵に犯された嫌悪では
無く、貴方を守れなかったという無念なのです。ですから、わたく
しはあの時の事を忘れません。貴方を守る誓いを強固にする為に、
心に刻みつけていたいと思います﹂
そっとシャスラハールの頭を撫でながら、ヴェナは言葉を続ける。
﹁その石、使うとするならばわたくし以外の他の方々にお譲り下さ
い。ステアさんの様に悪夢に苦しめられている方は多い⋮⋮いえ、
恐らく全員がその対象となるでしょう﹂
全身で主君を抱擁しながら、
﹁皆強く立派な方々です。一度は乗り越えて、しかしそれでも時折
鎌首をもたげた悪夢に苦しめられている。殿下、お選びになって下
さい。誰も貴方を責めは致しません。主君が下賜する褒美に不満を
放つような未熟な騎士は、この陣営には誰一人としてございません﹂
ヴェナの励ましを受け、シャスラハールは小さく頷いた。
柔らかな乳房が顎を受け止めてくれ、頬を撫でてくれる。
﹁明日、アン・ミサさんに会いに行くよ。そして石を受け取る。あ
りがとう、ヴェナ﹂
1360
そうしてしがみ付く様に聖騎士の体を抱き、その夜を過ごして行っ
た。
﹁シャスー? シャスー!﹂
ゴンゴンと扉をノックする音が響く。
﹁殿下︱? 殿下︱!﹂
続けざまに違うペースで扉を叩く音。
﹁セナ、フレアも止めてください。失礼ですよ﹂
慌てた声がして、ノックをする二人の騎士を遮った。
﹁応えが無い⋮⋮しかし中から物音はする⋮⋮敵襲か?﹂
﹁き、騎士長! ダメです! 槍はしまって下さい!﹂
力を溜めこむ声に、先ほどの慌てた声の持ち主が更に動揺する。
﹁突入!﹂
﹁ハァァァァ!﹂
﹁ラァァァァ!﹂
﹁駄目ですって! 中からほら、あの︱︱﹂
寝室の扉がバラバラに粉砕され、そこから姿を現したのは武器を構
えたセナとステアとフレア、そしてその後ろで頭を抱えているシャ
ロン。
四人が踏み込んで室内で見た物は︱︱
﹁殿下、殿下。そうです、もっと奥まで⋮⋮あぁ! お願いします
! わたくしを、わたくしを罰して下さい!﹂
﹁こうだね? ヴェナ? ここが良いんだね? 子宮百叩きの刑で
お咎めはお仕舞って約束! 今果たすね!﹂
パンパンと高い音を立てながら、窓枠に手を突いた聖騎士ヴェナを
立ちバックスタイルで犯しているシャスラハールの姿だった。
両者とも興奮により、周りの音が耳に入って来ていない様子だ。
﹁は、はいぃぃ! 殿下の、聖なる棒で⋮⋮わたくしを罰して下さ
い! お願いします! お願いします!﹂
1361
﹁そうすればヴェナが元気になってくれるって言うんだったら! 僕は躊躇わない! 子宮百叩き! やり切って見せる!﹂
シャスラハールは深く腰を引き、また鋭く押し込んで肉棒を子宮へ
と叩き込み、ヴェナへの罰を執行していた。
﹁なにこれ⋮⋮﹂
セナが白けた声で言い、
﹁朝からこんなに激しいプレイをしているとは⋮⋮﹂
フレアが冷や汗を掻き、
﹁だから、皆冷静になって一度は扉に耳を当ててください! この
声が聞こえていたはずです!﹂
シャロンが慨嘆し、
﹁で、出直すぞ⋮⋮﹂
ステアが槍を握ったまま振り返った。
騎士達がいそいそと退室した後も壊れた扉に気が付く事なく、聖騎
士と王子は激しく体をぶつけ合って、子宮百叩きによる贖罪を完了
させた。
1362
休日︵後書き︶
拙作にお付き合い頂き有難うございます。
上の方でも書きましたが、天兵の里に居る公娼の皆さんはこれから
ひと月の間基本的にはお〇ん〇んお休みとなります。
具体的には更新三回分はお休みです。
つきましては、この更新三回分︵一更新で二つのシーンを想定︶に
ついてのアンケートをお願いしたいと思います。
全六シーンの内、外す事が出来ないシーンとして
・セナ×シャスラハール
・セリス×ゾート・ゴダン
・戦略会議及びリトリロイについて
の三つはシナリオ上捻じ込みますが、残り三つに関して、アン・ミ
サ様からシャスラハールへと譲渡される﹃忘却の輝石﹄を使って、
私が書きそびれていたり描写が淡白だったりしたこれまでの凌辱シ
ーンのリフレイン︵加筆︶をしようかと思います。
1、西域遠征以前の公娼活動︻a,シャロン b,ユキリス︼
2、ユーゴ組二日目の様子︻a,セナ b,リセ︼
3、調教師サバルカン組の旅︻ルル︼
4、マルウスの里に残された者達︻シュトラ︼
5、開拓団陣地での暮らし︻a,アミュス b,ヘミネ︼
6、天兵の里での異端審問︻フレア︼
1363
7、即売会から救出までの間︻a,マリューゾワ b,ハイネア c,マリス d,シロエ e,ロニア︼
8、空の上の凌辱︻ステア︼
9、今まさに起きている事︻a,アルヴァレンシア b,マリアザ
ート︼
リフレインできるシーンは上記の九つからお選び下さい。︵9番は
特別項目ですのでリフレインではありません︶
その上で1,2,5,7,9番のシーンでは﹃忘却の輝石﹄使用者
を指定して頂ければ、スムーズに書く事が出来ると思います。︵9
番はaならばラターク、bならばオルソー式調教となります︶
例として、﹁1−a﹂または﹁シャロン﹂と指定して頂ければ、シ
ャロンが公娼時代にやっていた行為のリフレインが発生します。
要素の追加も受け付けたいところではあるのですが、技量不足故に
プレイ内容はこれまでの凌辱の加筆再生として、私にお任せして頂
けると嬉しいです。
この後始まる﹃降臨祭編﹄では公娼達は休まる暇がないと思うので、
ここらで一服させて緩急をつける為のお〇ん〇んお休み月間ですが、
作者的には日常シーンなど書けるわけがない!という事でリフレイ
ンで凌辱を続けたいと思います。
お一人様最大3つまでご希望を承りたいと思います。︵三つ以下で
も構いません。三つ以上だと上から三つを選びます︶
今回の更新から三日︵6/7︵土︶︶までの集計で最も多かったリ
フレイン希望を一つ、次の更新で載せます。
次の更新からまた更に三日の間でこれまでの分と含め﹃累計﹄して
多かった希望をその次の更新で。
1364
同様に更に三日で﹃累計﹄して多かった希望を三度目の更新で載せ
たらたぶん石が壊れると思います。
※
・票が同数の場合は私の書き易い方で決定いたします。
・似たシーンが重複するのもアレなので、一度選ばれたシーンは使
用者がまだ残っていても次の集計からは削除します。
例として、2−a 2票
2−b 1票
3 2票 の場合
シーン2を3票として数え、シーン3は2票ですのでこの時点でシ
ーン2を確定。
セナがリセより票が多いためセナが﹃忘却の輝石﹄を使用しますが、
次回の集計ではセナとリセが選択肢から除外される形となります。
ここまで書いておいてアンケートがすっからかんだぜ!ってなるの
を心の底から恐怖しております。
どうか!! 感想無しでも大丈夫ですので! 英数字だけやキャラ
名だけで構いませんので!
感想欄で私にシーン選択のアドバイスを頂けると嬉しいです。 ※6/8 一回目のアンケート投票結果が出ました。
それに伴い、二つの条件追加と選択肢の詳細を追記する事にします。
活動報告にも載せてあるので、そちらでご確認いただいた方は大丈
夫です。
追加条件
1、アンケートで票が一つでも入ったにも関わらず﹃忘却の輝石﹄
が使用されなかった︵三位以下︶の物に関して
1365
救済措置として次の降臨祭編でハルビヤニ様が行う﹃恥辱PR活
動﹄にて該当シーンを使用します。
こちらは西域関係者やアンケート不参加のヴェナ等出演予定者が
多い為、﹃忘却の輝石﹄ほどしっかりとしたスペースは取れません
が、折角皆様から頂けた票を無駄にしない様にするつもりです。
2、アンケートでの個人得票が最も多かった公娼について
何かもう適当な魔法なりなんなりを見繕って特別シーンをどこか
で挿入します。
現在はアルヴァレンシア、次点でマリューゾワですね。
シーン別簡易内容
1、西域遠征以前の公娼活動︻a,シャロン b,ユキリス︼
a,朝の生放送へ出演し終えたシャロンに告げられたのは、この
まま遠くの街へ移動しての撮影だった。そこで行われるのは、無垢
な子供からボケた老人までを巻き込んだ滑稽な企画。撮影が終わる
まで家には帰れまセン。︻シャロン︼
b,総合商業施設﹃ELON﹄は十周年の創業祭。CMバンバン
! チラシもバサバサ! 宣伝効果でお客さんは満員御礼。押し寄
せる人波に揉まれ揉まれ犯されるヤれるマスコットユキリスさんの
一日︻ユキリス︼
2、ユーゴ組二日目の様子︻a,セナ b,リセ︼
a,大切な友人のマンコからずるっと抜き出された父親の肉棒を
口元に突き付けられ、しゃぶらされるセナの頭には幼い日に感じた
父の掌の温もり。娘の頭を撫でながら、ユーゴは遠い日の事を語り
出す。︻セナ︼
b,今明かされるユーゴの性癖。﹃全員、コップにションベンし
1366
ろ。利き尿するぞ﹄※微スカ注意︻リセ︼
3、調教師サバルカン組の旅︻ルル︼
ルルやマリューゾワ達を率いたサバルカン。彼が道中繰り返した
のは卑劣な凌辱。晒し、貶め、犯し、そして仲間の命を奪った。︻
ルル︼
4、マルウスの里に残された者達︻シュトラ︼
雌車として日々を生きるシュトラ達。里で人気の雌車を利用した
賭博。シュトラは頭に滑稽な羽根飾りをつけ、馭者役のマルウスに
操縦棒をアナルへと挿入されながら、レースのスタートラインへと
四足で移動した。︻シュトラ︼
5、開拓団陣地での暮らし︻a,アミュス b,ヘミネ︼
a,﹁いつもアミュスのマンコを使ってくれる皆! 今日は感謝
祭だよ! いっぱいアミュスとおしゃべりして、たっぷり膣内出し
して下さいね。あ、お菓子とお酒も有るから、アミュスのマンコに
飽きた人もそっち目当てで良いから参加してネ﹂︻アミュス︼
b,開拓団での暮らしと、公娼として生きる彼女の鮮烈で奔放な
生き方を綴ったフォトエッセイが本国で発売。その発売記念記者会
見には多くの記者がやって来て、ヘミネはこれまで書き溜めて来た
絵日記の朗読をさせられる。︻ヘミネ︼
6、天兵の里での異端審問︻フレア︼
異端審問官が最初に口にしたのは、﹁何もしゃべる必要は無い﹂
との言葉だった。そのまま彼らの玩具にされ、果ては小銭稼ぎに他
人に勝手に穴を提供される毎日。フレアは救いの無い拷問の日々を
どう生き抜いたのか。︻フレア︼
7、即売会から救出までの間︻a,マリューゾワ b,ハイネア 1367
c,マリス d,シロエ e,ロニア︼
a,猫商人に買われ、その里へと連れて来られた魔剣大公。どん
なチンポにも、器具にも負けない。強い意志で男を睨みつけ罵った。
そんな彼女へ向けて猫達が取り出したのは、決して抗う事の出来な
い性の麻薬。︻マリューゾワ︼
b,これは少年チャモロと愛犬ジョン、そして肉便器ハイネアが
紡ぐ感動のハートフルストーリー。初めて村の外に一人で出る御遣
いも、ジョンとハイネアが一緒だと怖くないね!︻ハイネア︼
c,﹁俺ん家のオナホで遊ぼうぜ!﹂同級生の間で人気者の少年
は、友達を連れて帰宅する。そこには父親がつい最近手に入れたオ
ナホがしまって有る。棒で叩いたり、近所の池に沈めてみたり、マ
ッチの火であぶって皆で遊ぶんだ。︻マリス︼
d,案山子は音を発さずに、その存在で野鳥を威嚇する。しかし
この畑に設置された肉案山子は特定の場所をパンパンと突いてやる
と喘ぎ声を漏らし、ブルブルと跳ねる乳房を使って野鳥を追い払っ
てくれるのさ!︻シロエ︼
e,このアナルは世界一。そう保証書を付けられてロニアは売ら
れた。自分を抱く苔の塊共は口を揃えて問いただす。お前のケツマ
ンコが世界一な理由を言え、言えるまで犯すのを止めない。ロニア
は苦痛から解放される為、自分の肛門を自分の言葉で称賛した︻ロ
ニア︼
8、空の上の凌辱︻ステア︼
ステアはウッカリしていた。その男が媚びた声を大変嫌う事は以
前チンポを突っ込まれた時に学んでいたはずなのに、膣内出しの時
に条件反射で媚びてしまったのだ。激怒した男はステアを抱えて雲
の隙間へと走る。﹁止めて! 捨てないで!﹂︻ステア︼
1368
ちちくらべの湯 / 魔法少女ズボチュパ︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
アルヴァレンシアは16、マリアザートは31です。
何がとは申しません。
1369
ちちくらべの湯 / 魔法少女ズボチュパ
ちちくらべの湯
聖騎士ヴェナは手にした手紙を熟読した。
﹁ありがとうございます。御手間を掛けましたね﹂
読み終えると、手紙を届けてくれた羽根落ちの女中に笑顔で頷いた。
笑顔で歩き去る女中を見送ってから、背後を振り返り、
﹁殿下﹂
そこに座り込んでいる少年へと声を掛けた。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮何? ヴェナ⋮⋮﹂
少年︱︱シャスラハールは息も絶え絶えに聞き返す。
今日は朝から昼までずっと、ヴェナと二人で剣の稽古を続けていた。
大切な主を相手にしても一切妥協しない聖騎士のしごきに、王子の
体は悲鳴を上げていた。
女中がやって来て、ようやく休憩とも言えない間を与えられた。
﹁マリューゾワ殿とアン・ミサ殿、そしてステアさんの連名で戦略
会議の召集が掛かりました。時刻は今日の夜。場所の指定もござい
ます﹂
手紙を胸元に仕舞い込みながらヴェナは言い、そっとシャスラハー
ルを助け起こした。
﹁夜? 会議をするのに夜だなんて珍しいね。ありがと﹂
シャスラハールは立ち上がりながら首を捻る。
﹁皆、陽が有る内は何かと忙しいのでしょう﹂
そう言ってヴェナはシャスラハールの手に木剣を握らせる。
﹁それでは打ち込みを再開しましょう。会議が夜で助かりました。
わたくしが殿下の特訓に付けるのは今日を逃せばしばらく有りませ
1370
んので、夜までみっちり鍛えて差し上げますからね﹂
慄くシャスラハールを無視し、ヴェナは自分も木剣を握り、正対す
る。
﹁その剣をわたくしに掠らせる事が出来ましたら、今度こそ本当の
休憩と致しましょう﹂
震える足を叱咤し、シャスラハールは命の補給とも言える休憩を勝
ち取る為に、ヴェナへ挑みかかった。
﹁ハァァァァ!﹂
﹁大振りはお止め下さいと何度申し上げれば宜しいのですか? 隙
が多すぎます﹂
毎朝ベッドの上で乳枕をして過ごし、流れのままにセックスする事
を日課にしている主従。
シャスラハールの肉棒で甘い嬌声を上げ続ける女性と同じとは考え
られ無い厳しさで、ヴェナは攻撃をいなし、弱めに木剣で主の体を
打つ。
﹁次の戦場、わたくしは最前線へと出ます。スピアカント落城の時
の様に、城の内側で戦を見守り続ける様な事は致しません。ですの
で殿下、どうぞ少しでもお強くなって下さい。わたくしが敵将の首
を持ち帰る時に、貴方様が無事で無ければ、わたくしは帰る場所を
失ってしまいます﹂
ヴェナの気迫に促され、シャスラハールは痛みを堪えて立ち上がり、
再び挑みかかった。
昼から夜までの間、シャスラハールはとうとう休憩する事無く剣を
振り続け、体に幾つもの痣を作った。
﹁殿下⋮⋮申し訳ございません。この咎は夜伽にて償わせて頂きま
す﹂
﹁あ、うん⋮⋮でも今日はゆっくり眠りたい⋮⋮かな。明日の朝お
願いして良い⋮⋮?﹂
1371
主従は連れ立って歩き、宮殿内の大浴場を目指していく。
﹁ねぇヴェナ、会議の時間は大丈夫なの? もう夜だし⋮⋮風呂に
入っている時間は有るの?﹂
﹁えぇ、問題ございませんわ。会議の時間も、場所も﹂
首を捻るシャスラハールを連れ、ヴェナは大浴場の暖簾をくぐり脱
衣所へと入る。
シャスラハールもそれに続き、二人は鏡張りの脱衣所で一つの脱衣
籠を共有する。
衣服を脱ぎ去ると、全裸になったヴェナはシャスラハールの脱いだ
ものを丁寧に折り畳んでいく。
﹁良いよヴェナ。それくらい自分でやるよ⋮⋮﹂
﹁駄目ですわ。これも聖騎士の務めです﹂
頑なに拒むヴェナに押され、全裸のシャスラハールはしゃがんで衣
服を折るヴェナのむっちりとした尻を見続ける事になる。
疲労が溜まった時に、性欲が増す人間と減る人間が居る。
シャスラハールは前者だ。
自分の脱ぎ捨てた下着を畳む女性の尻とは、何と目を惹き欲情を煽
るものなのだろうか。
聖騎士として鍛え上げられたヴェナの尻肉はまったく垂れる事を知
らず、無意識の内にプリプリと触って欲しい、叩いて欲しいとアピ
ールしているようにも見える。
尻を触っても怒られない。
それは間違いない。
むしろこの場所で押し倒して挿入したところで、ヴェナは抵抗しな
いだろう。
先ほど自分から夜のセックスのお誘いをして来たばかりだ。
ムクムクと起き上がってくる肉棒に目を遣り、理性が悲鳴を上げか
けた時、
﹁さ、では参りましょうか。そろそろ会議が始まります﹂
ヴェナが立ち上がり、シャスラハールへと正面を向いた。
1372
その爆乳が眼前で揺れるのを目で追いながら、
﹁か、会議⋮⋮?﹂
﹁はい。もう始まる時間ですし、わたくし達は開催場所に到達して
います﹂
ヴェナに手を引かれ、シャスラハールが至った場所。
そこは、
﹁ギリギリの到着か。まぁ良い。それではそろそろ来たるゼオムン
トとの戦争に向けての会議を始めよう﹂
大浴場の壁に、魔剣大公マリューゾワの声が響き渡った。
﹁ヴェ、ヴェナ? こ、これはいったいどういう事? 何で⋮⋮う
わ、あわ⋮⋮﹂
手早く体を洗い、広大な湯船に身を浸したシャスラハールとヴェナ。
既に湯船に浸かっていた会議の参加者達はそれを思い思いの姿勢で
待っていた。
セナ、シャロン、ステア、フレアのリーベルラント組。
ハイネア、ヘミネ、シロエ、リセのリネミア組とそこに加わるラク
シェ。
ルル、ユキリス、アミュスの修道女組。
マリューゾワ、ロニア、シュトラのロクサス組。
そして魔天使ラグラジルとその眷属マリス。
最後に智天使アン・ミサとその助手ユラミルティ。
全員が当然裸で、或る者は平然と、或る者は少し恥ずかしそうにし
ながら湯に浸かっていた。
﹁さて? 皆あまり纏まった時間が取れないという事なので、入浴
のついでに会議をしてしまおうというお話でしたが﹂
動揺するシャスラハールに対し、事も無げに応じながらヴェナは特
訓で凝り固まった筋肉を湯で解していく。
﹁き、聞いてないよ?﹂
1373
﹁言っていませんでしたか⋮⋮? まぁ良いでは無いですか、小娘
共の裸など、普段からわたくしを愛でられている殿下には不要な物。
ただ服を着ていない仲間だと思って会議に加わって下さい﹂
縋り付くシャスラハールを撫でながら、ヴェナはほんのりと言い放
った。
広大な浴槽の反対側では、
﹁どうしたロニア? そんなにモジモジと﹂
マリューゾワが隣に座る緑髪の技術将校を見ながら言い、
﹁いや、だって⋮⋮やっぱり男の人と一緒にお風呂とか⋮⋮緊張す
るって﹂
ロニアは全身をなるべく湯船に沈め、顔を赤らめて小さな声で応じ
た。
そんな彼女に向けて、魔剣大公は笑いかける。
﹁ははは。だが相手は一人でしかも見るからに獣性の薄い少年じゃ
ないか。そんなに気になるのだったら水着を着用して来て構わない
ぞ、召集状にもそう書いておいただろう?﹂
鷹揚に言いながら、マリューゾワはロニアとは反対隣にいるシュト
ラへと顔を向ける。
﹁ねぇシュトラ。あの少年ならば裸を見られたところで、無害なは
ずよね﹂
﹁いやぁ⋮⋮どうですかねぇ⋮⋮シャスもやる時はやる子なので⋮
⋮﹂
以前シャスラハールとの間に性交渉をもった経験のあるシュトラに
してみれば、王子の下半身の﹃デキの良さ﹄は文字通り身を持って
知っている事だった。
﹁それに一人だけ水着って言うのも恥ずかしいしさ⋮⋮どうして皆
平気なのよ⋮⋮﹂
ブクブクと水面に泡を立てながらロニアが言うと、
﹁そうでも無いみたいですよ。何人かはやっぱり気にしているみた
いですね﹂
1374
シュトラがフォローする様に言った。
その視線の先、二人の天使が湯船に浸かった状態で身を縮めていた。
﹁アン・ミサ様⋮⋮。やはり水着を⋮⋮﹂
﹁うぅ⋮⋮手持ちの水着のサイズが合わなかったのです⋮⋮胸が少
し大きくなっていたみたいで⋮⋮ユラ、わたくしに構わず貴女だけ
でも水着を着て来て下さい。恥ずかしいのでしょう?﹂
智天使と裁天使は身を寄せ合って浴槽の隅で固まって居る。
﹁いいえ⋮⋮アン・ミサ様が行かれる道を私も進みます⋮⋮。その
覚悟は出来ていますから﹂
﹁ユラ⋮⋮﹂
赤い顔で見つめ合う二人の天使から少し離れた場所では、
﹁はぁ∼良いお湯ですねぇ⋮⋮ここのお風呂は何度使っても癒され
ます﹂
ほんのり上機嫌で湯に浸かる幸運の魔導士ルル。
﹁⋮⋮アンタもいい加減元気出しなさいよ。いつまでも凹んでいた
って何にもならないわ。必ず助ける。それで良いじゃない。それが
出来なければ私達は死ぬわけだしね﹂
その隣で縁に手を載せながら、枯渇の魔導士アミュスは隣の同門を
慰めた。
﹁⋮⋮わかってはいるのです⋮⋮。ですが、ラグラジルに利用され
た事、仲間を裏切った事、巻き込んだ事。全てにおいて、私は私自
身を許せなくて⋮⋮﹂
劇毒の魔導士ユキリスは、長い水色の髪を湯に浸しながら水面を静
かに見つめていた。
﹁ユキリス。貴女の悩みと懺悔は私とアミュス、そして私達の神の
元へ届いています。信じなさい、貴女の仲間を、信仰を。今は何よ
り傷ついた貴女の心と体を癒し、ゼオムントへの審判の時を待つ事
ですよ﹂
湯の温かさに目を細めながら、ミネア修道院の長はユキリスに言葉
を与えた。
1375
﹁⋮⋮はい、院長﹂
ユキリスはルルに頷き、体の強張りを徐々に崩して行った。
ユキリスが顔を上げていく姿を、遠間に見ていた者達がいる。
﹁ユキリスさん、大丈夫でしょうか。ハイネア様﹂
﹁さてな、ここに来てから未だあの者とは話してはおらぬが、今は
妾達の出番では無かろう。いずれ心を開き、あの者の顔に笑みが戻
った時、リセが腕を振るったお茶会に招いてやろうではないか﹂
湯船に浸かるリセが広げた足の間にスッポリと収まった姿勢で、ハ
イネアが謳う様に呟いた。
﹁アミュスが付いています。彼女は誤解されやすい性格をしていま
すが、根は優しい人間です。きっとユキリスさんの支えとなってく
れている事でしょう﹂
﹁ルルも居ますしね。ミネア修道院の者ならば、ルルが責任を持っ
て導くでしょう﹂
ハイネアとリセを守る様に左右に座したヘミネとシロエが仲間達へ
の信頼を示す。
そこに、
﹁メイド様! メイド様! 明日の朝ごはんは何?﹂
ハイネアの正面に座り、キラキラした瞳でリセを見つめる力天使ラ
クシェの姿が有った。
﹁えっと⋮⋮甘いお芋のスープと、蜂蜜を練り込んだパンの用意を
していますが⋮⋮﹂
少し気後れ気味にリセが応えると、
﹁お昼ごはんは? 晩ごはんは? 何時? おかわりは何回までし
ていいの?﹂
ラクシェは更に齧り付くようにして迫って来た。
それをハイネアは少し呆れ気味な目で見ながら、
﹁すっかり懐かれたな、リセ﹂
そう言って忠臣へと笑いかけた。
力天使ラクシェの暴走を遠くから見て、呆れた溜息を吐く者が居る。
1376
﹁はぁ⋮⋮あの馬鹿、簡単に陥ち過ぎじゃない?﹂
﹁いや∼、でもリセっちの料理は最高ですからねー。ラグちゃんも
今度リネミアのお食事会に行ってみたらどうです?﹂
魔天使ラグラジルと、その力を分け与えられた眷属マリスが湯には
浸からず、総身の肌を晒しながら浴槽の縁に座っていた。
﹁⋮⋮嫌よ。ワタシはね、全然あいつらの味方なんかじゃない。ど
れだけ経っても、いつまで経っても結局は敵なわけ。今は共通の敵
が居るから利用しあっているだけ。隙を見せたらまたワタシはあい
つらを罠にかけるわ﹂
不敵に笑みながら、魔天使は言葉を放った。
﹁そうですかー。マリスは今ラグちゃんと仲良しですけど、お金の
関係で契約主はシャロンさんなのですよー。もしラグちゃんがまた
敵になったら、マリスが殺してあげますねー﹂
契約を何より重視する傭兵マリスは、眷属としての力を与えてくれ
た相手にそんな事を告げた。
﹁それで良いのよ。それが一番分かり易い。情だ何だと言って敵か
味方かわからない奴らより、マリスちゃんみたいに何が大事で戦う
かって言うのが明確な奴じゃなければ、ワタシは付き合いたくも無
いわね﹂
ラグラジルは流し目でマリスを見てから、小さく笑った。
そこから少し離れた場所で、四人の人間が死に掛けていた。
﹁もう、駄目⋮⋮動け、ない⋮⋮﹂
浴槽の縁に身を預け、セナが切れ切れの声で言う。
﹁少し体が鈍っていたかな⋮⋮正直キツい⋮⋮﹂
その隣で騎士長ステアが呻き、お湯で顔を洗う。
﹁フレア⋮⋮フレア顔を上げてください。そのままでは溺れて死ん
でしまいます﹂
﹁ブクブク⋮⋮﹂
シャロンは自分の隣で沈み行く同僚の体を支えながら、激しく軋む
筋肉に顔を顰めた。
1377
助け起こされたフレアは白目を剥いた状態でシャロンの体に体重を
預け、無言でいる。
﹁ヴェナ様に鍛えられた魔導機兵の実戦経験を高めるって⋮⋮。全
員ヴェナ様の劣化コピーみたいなものでしょう? その上マリュー
ゾワさんのあの技が加わってたり、シュトラさんの盾防御が有った
り⋮⋮。何度死に掛けたかわかんないわよ﹂
今日リーベルラントの騎士四人は、シャスラハールの特訓を行うヴ
ェナに代わって魔導機兵の実践テストを務めていた。
自分達も良い訓練になるだろうから、と気軽にその依頼を受けた結
果、四人は這う這うの体でようやく生き延びていた。
魔導機兵はここ数日聖騎士ヴェナの訓練により基礎能力を大幅に鍛
えられた上に、実験段階では有るがマリューゾワから魔剣の特性を
与えられ、手持ちの武器だけでは無く一体につき四本の剣を遠隔操
作出来るようになっており、更にシュトラの盾技術を丸々学習して
接近戦の防御力まで向上していた。
セナ達はそんな精鋭魔導機兵五十体を相手に四人で延々戦い続けた
のだ。
終わる頃には全身ズタボロ、アン・ミサの治療が無ければ今こうし
て立てている事が出来たかどうか。
﹁早く部屋に戻って寝たい⋮⋮会議、まだ⋮⋮?﹂
セナの呟きが聞こえたわけでは無いだろうが、そこで聖騎士ヴェナ
が手を挙げ、
﹁さて、それでは召集状に有った問題点を一つ一つ解決して参りま
しょう﹂
凛とした声で言い放った。
﹁そうだね。それじゃあアン・ミサ、一つ目の懸案について君の言
葉で説明が欲しい﹂
自然な流れで議長役に収まっているマリューゾワが視線を投げかけ
1378
ると、智天使アン・ミサはびくっと震えてから、助手に励まされな
がら赤い顔で言葉を紡いだ。
﹁は、はい。皆さんにまず一つ、大切なお話がございます。ひと月
後、西域は降臨祭の月を迎え、その間は一切の種族間抗争を禁じら
れています。逆らった場合は⋮⋮その、西域の総意を持って誅する
事が定められています﹂
アン・ミサの言葉に、一同は真剣に耳を傾ける。
説明を始め、事の大切さをよく理解しているからか、アン・ミサの
顔からも恥じらいが消え、真摯な瞳が輝く。
﹁降臨祭は三週間の準備期間と一週間の本祭という構成です。会場
はこの天兵の里ですが、かの者の力と支配は西域全土に及ぶ為、人
間界以外は全て、この祭に参加するものと考えてください﹂
その言葉に、シャロンが疲れた体に鞭打って手を挙げた。
﹁かの者⋮⋮とは何なのでしょう? 名前を見るにその者が降臨す
る事の祭と予測されますが﹂
アン・ミサはそれに頷きを返し、
﹁わたくしの、そしてお姉様とラクシェの父。ハルビヤニの降臨を
祝う為の祭です﹂
羞恥とはまた違う緊張で、その言葉を作った。
その時、人間達は二種類の動きを取った。
ラグラジルを見た者と、ラクシェを見た者。
前者は表情を歪める魔天使の姿を目撃し、後者はリセに縋りついて
メニューのリクエストをする力天使に呆れた。
﹁ハルビヤニ⋮⋮とは? 降臨と言うのならば、どこか遠くに居る
という認識で良いのでしょうか?﹂
シャロンの問いに、アン・ミサは再度頷き。
﹁父は、ハルビヤニは故人です。故人では有りますが、この世界に
関わる事が出来るという特性を持った、死してなお影響を与え続け
る西域の初代管理者です﹂
その言葉を、今度は魔天使がフォローした。
1379
﹁アイツはね。肉体的には死んでる。でもその魂を世界と同化させ
て生き続けてるの、西域の魔力が循環し更新される来月の間だけ、
その魔力を使って復活するっていう寸法ね﹂
紡がれたラグラジルの言葉に、人間達は首を捻る。
﹁フレアちゃんは聞いたわよね? ハルビヤニの声。ワタシとこの
里で再会した時に、ワタシを疑えと命じて来た姿なき声。あれがハ
ルビヤニよ﹂
全員の注目が集まって、半死人状態だったフレアの瞳に力が宿り、
﹁⋮⋮聞いた。確かに。誰かの魔法かと思っていたけど⋮⋮あれが
そうなのか﹂
﹁そ。そしてここしばらくの間、あいつは何度かワタシ達に干渉し
て来ている。ね、アン。ラクシェも﹂
長姉の言葉に、妹達はそれぞれ頷いた。
﹁それで、そのハルビヤニが復活するとどうなるのですか?﹂
聖騎士ヴェナがアン・ミサへと問う。
﹁ハルビヤニは文字通り西域の支配者です。彼は思うがままを成し、
傍若に遊び、荒らしていく存在。降臨祭の間、依代へと乗り移った
彼を楽しませるのが西域の民の役割となります﹂
間断なく別の声が問いかける。
ステアだ。
﹁西域の民⋮⋮魔物達はどうなるのだろうか? 先ほど抗争を禁止
すると言っていたが、ゼオムントに使役される魔物も同様なのか?﹂
そこに、智天使は頷いた。
﹁はい。ハルビヤニの魔力は娘のわたくしよりも上位に位置します
ので、わたくしの魔力でもって支配されている魔物達も、ハルビヤ
ニの降臨の間は祭の規則に従うはずです﹂
与えられた答えに、人間達は深く考え込む。
﹁では、つまり。その降臨祭が開始されている間こちらは行動不能
で、向こうは大幅な戦力低下が起きると?﹂
ルルが静かに問い、
1380
﹁それも有りますが。ハルビヤニは恐らく人間族の妨害も許さない
でしょう。祭の間は、この地から一切の戦火が消えると考えて下さ
い﹂
アン・ミサが応えた。
﹁ならば我らはその間に軍備を整えて置けばいいという事か﹂
マリューゾワの呟きに、智天使は首を振った。
﹁いいえ、マリューゾワ。心苦しいですが、皆さまにも祭には参加
して頂きたいと思います。ハルビヤニの機嫌を損ねる者は、この西
域に居場所を失う事になります。かの者は気まぐれで種族を滅ぼし、
戯れで栄えさせます。どうか、彼の目に留まらぬ様に注意しながら、
祭の時間を過ごして頂ければと。父の相手はわたくし達が務めます
ので﹂
西域における絶対支配者。
死してなお君臨する王。
ハルビヤニ。
﹁⋮⋮それが懸案の一ですか。確かに重たい問題ですね。いつ開戦
の火花が散るかもわからない時期に、その様な祭事が割って入るか
も⋮⋮と﹂
ヴェナが深刻な表情で言い、
﹁まぁ、この件に関しては私達に出来る事は少ない。アン・ミサに
任せる事になるな。事情は了解した、忠告感謝する﹂
マリューゾワが続け、アン・ミサは静かに頷いた。
﹁それでは懸案の二だ。ロニア﹂
魔剣大公は隣の技術将校を指名する。
﹁うん。兵器の生産、武器の製造、魔導機兵の強化。皆の協力も有
ってどれも順調だけど⋮⋮。でもやっぱり、足りない。ゼオムント
に攻め入る事は出来ない﹂
告げられた言葉に、人間達は厳しい表情を浮かべる。
﹁この戦力で挑みかかれば、後続の無いアタシ達には勝ち目が薄す
ぎる。軍備も、補給物資も、何より戦力がまるで足りていない﹂
1381
ロニアの言葉は現状の再確認だ。
﹁⋮⋮それは、つまり⋮⋮﹂
顔を上げたユキリスが悲痛な声で問う。
そこに答えたのはマリューゾワ。
﹁私達の基本方針は﹃迎撃﹄。こちらからゼオムントに挑みかかる
様な真似は出来ないと言う事さ﹂
紡がれた言葉に、ユキリスは顔面蒼白で震える。
﹁向こうには⋮⋮仲間が、私が、私のせいで捕まってしまった仲間
が⋮⋮助けないと⋮⋮皆を⋮⋮﹂
細かく震える魔導士の体を、隣に居たアミュスが支える。
﹁⋮⋮そうだな。だが、ここで無理をして無謀な突撃を敢行して、
我らが全滅したらどうする? 我らの未来が潰えるだけでは無く、
彼女達の希望もまた消え去るのだよ。我らは機を待つ。それしかな
いと私は考える﹂
そんなユキリスへと、マリューゾワは落ち着いた声音で応じる。
だが隣に居たシュトラには見て取れた。
魔剣大公の口元が激しく噛みしめられている事を。
こちらと合流する事無く消失した解放軍。
恐らくはゼオムントに討伐され、捕獲されたのだろう。
ならばそれを率いていた魔蝶公主アルヴァレンシアはどうなったか。
魔剣大公マリューゾワの従妹である少女は恐らく今、
﹁ゼオムントの陣には、恐らくわたくし達の多くの仲間が捕らえら
れている筈です。わたくしの良く知る先輩も、確実に⋮⋮﹂
アルヴァレンシアを補佐していたのはスピアカントの大騎士マリア
ザート。
ヴェナの先輩に当たり、祖国の決戦の際は戦場に出られぬヴェナの
代わりに戦った騎士。
﹁本陣の守りは堅い筈です。私とアミュス、そしてマリスは一度ゼ
オムントの本陣へと攻め入りました。当時はただの天幕が密集して
いるだけの陣地だったので、侵攻も容易では有りましたが。私は見
1382
ました⋮⋮捕らえられている最中に、猛烈な速度で砦が組み上がっ
て行くのを﹂
ヘミネが挙手をし、ゼオムント陣地について言及する。
﹁アタシも見たなぁ⋮⋮あの砦、ちょっとやそっとじゃ落ちない感
じだったよ﹂
セナもまた唇を曲げながら言う。
そこで重い沈黙が流れ、少しの間が空いてから、
﹁マリューゾワ、迎撃とは言うけれど、それではただのジリ貧では
無いのでしょうか?﹂
シロエが真剣な瞳で議長を見つめた。
﹁そうだな。尤もな意見だ。だがしかし、それに関しては一つの活
路が有る﹂
マリューゾワは言葉を切る。
﹁リトリロイ王子⋮⋮か﹂
シロエの隣で湯に浸かっていたハイネアが言い、魔剣大公はそれに
対して頷いた。
﹁そうだ。あの王子にはこちらにいる以上、役に立ってもらわなけ
ればいけない﹂
そこに、陽気なマリスの声が掛かる。
﹁人質って感じですかー?﹂
﹁いや。それでは効果が薄い。リトリロイは自らの足で出奔して来
た王子だ。人質としての価値は半減されている。だからここは、彼
に反乱を起こしてもらう事にする﹂
マリューゾワは言い切り、一つの案を提示する。
﹁前線に出てきているオビリス元帥の軍にでは無く、本国ゼオムン
トへ直接リトリロイの謀反を知らせる。ありったけの挑発と、市井
には扇動の文書をばら撒く。反乱の国号は﹃新生ゼオムント﹄⋮⋮
おいおい、そんなに睨むな﹂
肩を竦めるマリューゾワには、リセを始めとした数人の瞳が突き刺
さっていた。
1383
﹁これは必要な名前なのだよ。ゼオムントの王子が、ゼオムントを
二分しようとしている。民にそう知らせるのだ。そうすれば、現国
王一派は全力で潰しに掛かるだろう。その時まず派遣されてくるの
は、この地に既に入って来ているオビリスの軍。そうだろう?﹂
﹁ふぅん。そして攻め寄せて来たオビリスを殺した後は、リトリロ
イを見捨てれば良いのね?﹂
マリューゾワの言葉に被せる様にして、魔導士アミュスが薄く笑み
ながら言った。
﹁⋮⋮鋭いな。ま、その通りだ。何もリトリロイの革命に力を貸し
てやる義理など無い。奴はゼオムントの王子だ。生かしておく理由
が有る間だけ利用し、その後命は奪わないまでもどこかへ放り捨て
る。オビリスを倒せば、捕らえられた仲間達を助ける事が出来る。
これが私達の活路だ﹂
人間達は考え込みながらも、提示された作戦に若干の光を感じた。
﹁後はどうやってオビリスを倒すか⋮⋮ですか﹂
シャロンの呟きに、
﹁オビリス討伐はわたくし達の悲願でもあります。協力は惜しみま
せん﹂
﹁ラクシェ、アイツが来たらアンタが出なさい。そして捕らえてワ
タシの前へ連れてきて。八つ裂きにするから﹂
﹁オビリスを殺したらフルコース! フルコース作ってくれる?﹂
天使達が銘々協力の意思を述べた。
﹁ラクシェ、魔導機兵、そして私達。これだけの戦力で何としても
オビリスに勝たなければならない。それでは懸案の三、如何にして
オビリスの首を取るかの会議を始めよう﹂
マリューゾワの仕切りで、会議は次の段階へと突入した。
喧々諤々の会議を、シャスラハールは目を血眼へと変えて見つめて
いた。
1384
弁護しよう。
少年は会議を真剣に聞いていた。
言葉は発さなかったが、誰にも劣らないくらい真剣に耳を傾け、知
恵を働かせていた。
だがしかし、会議が佳境を迎え、皆がヒートアップして立ち上がり
ながら意見を言い始めると、見えるのだ。
水の滴る乳房が、跳ねる乳房が、誘惑する乳房が。
ただでさえ脱衣所でヴェナの裸に欲情したばかりだというのに、こ
の状況は少年にとって地獄に他ならなかった。
﹁殿下? 御気分がお悪いのですか?﹂
隣でヴェナ︻爆乳︼が問いかけてくる。
それに対して首を振りながら、
﹁だからぁ、そこはそれじゃないって!﹂
立ち上がって身振り手振りで意見するセナ︻美巨乳︼を見つめる。
﹁いーや、こっちの守りをこれで固めるのが最優先だ!﹂
応じて反論するロニア︻微乳︼が目に留まる。
﹁あー落ち着け、お前達﹂
仲裁する為に立ち上がったマリューゾワ︻艶乳︼。
﹁ロニアさんもセナさんも一度冷静に﹂
続けて困り顔をしたシュトラ︻お椀乳︼。
﹁だがしかし、この編成では⋮⋮﹂
配られた防衛線配置図を見ながらステア︻丼乳︼が言い、
﹁ここが少し手薄ですね﹂
シャロン︻美乳︼がそれを一緒に覗き込む。
﹁ラグラジル、ここは使えないのか?﹂
フレア︻吊り上げ乳︼が問えば、
﹁どれ? あぁそこは無理よ。この前埋めちゃったから﹂
ラグラジル︻蒼白乳︼が応え、
﹁やはは。まぁ掘り返す事も出来ますけどねー﹂
その隣でマリス︻右乳首横にホクロ︼が笑った。
1385
﹁湯上りにアレ食べたい! アレ!﹂
ラクシェ︻絶壁︼が騒げば、
﹁あー、妾も食べたいかもしれん﹂
ハイネア︻薄乳︼が言い、
﹁はい。氷室からミルクアイスを取って来ますね。ヘミネ様とシロ
エ様は如何ですか?﹂
リセ︻並乳︼が応じた。
﹁頂きます。有り難うリセ﹂
温和に笑うヘミネ︻乳輪小さ目︼が言い。
﹁私は結構だ。お気遣い感謝する。侍女殿﹂
シロエ︻巨乳︼が首を振った。
﹁流石にちょっとのぼせて来ちゃったかもしれません﹂
ルル︻白桃乳︼が赤い顔で言えば、
﹁そうですねぇ。でも会議はまだ終わってませんよ﹂
アミュス︻スライム乳︼が応じ、
﹁⋮⋮二人とも、真剣に聞いていますか?﹂
ユキリス︻陥没乳首︼が猜疑の瞳で見る。
﹁皆さんの為にも、わたくしは出来る限りの事を﹂
アン・ミサ︻深過ぎる谷間︼が言い、
﹁貴女の助力に務めます﹂
ユラミルティ︻美白乳︼が頷いた。
シャスラハールはぐわんぐわんと回転する脳を懸命に励ましながら、
会議を見つめる。
︻美乳︼が意見し︻スライム乳︼が即座に否定、︻美巨乳︼が吠え
て︻並乳︼がそれを抑え、︻深すぎる谷間︼が穏やかな声で仲裁し、
︻右乳首横にホクロ︼が引っ掻き回す。
︻爆乳︼の一言で一瞬静寂が訪れるが︻蒼白乳︼が身勝手な意見を
言い、︻丼乳︼が噛みついて︻陥没乳首︼が悲しげな声を漏らし、
頭を掻きながら︻艶乳︼が割って入った。
︻絶壁︼と︻薄乳︼が言い合いを始めれば︻乳輪小さ目︼と︻巨乳︼
1386
と︻美白乳︼が宥めに入り、︻微乳︼は︻白桃乳︼に愚痴を聞かせ、
︻お椀乳︼と︻吊り上げ乳︼は肩を竦ませ合った。
﹁胸⋮⋮胸⋮⋮おっぱ⋮⋮い﹂
シャスラハールの記憶はそこで途絶えた。
翌朝、乳枕で目覚めたシャスラハールはヴェナへと問う。
﹁僕は、いったい⋮⋮﹂
記憶の欠落に戸惑うシャスラハールに対して、
﹁殿下は長湯で湯あたりをされてしまったようでして、慌てて寝室
までお連れしましたわ﹂
慈母の様にシャスラハールを包み込みながら、ヴェナは答えた。
﹁か、会議は⋮⋮?﹂
少し焦った声で、少年は問う。
﹁会議は持越しです。結論が出るまでの間、毎晩決まった時間にみ
んなで入浴する事になりましたから、殿下も時間には送れずにいら
して下さいね﹂
その言葉に、
﹁あら? 殿下、何だかいつもより雄々しく勇ましいような⋮⋮﹂
シャスラハールの肉棒は一瞬にして勃ち起きて、密着するヴェナの
太ももへと押し当たる。
﹁ヴェナ⋮⋮お願いが有るんだけど⋮⋮﹂
﹁はい、殿下。何か?﹂
シャスラハールは意を決し、乳枕から顔を出してヴェナを見つめる。
﹁夕方にも一回、僕とセックスしてくれない?﹂
会議に集中する為にも、最後まで会議を眺め続ける為にも、
直前に欲望を全て吐き出してしまってから臨むべきだ。
シャスラハール王子は聖騎士の体に圧し掛かりながら、毅然とした
表情を浮かべていた。
1387
魔法少女ズボチュパ
村人を見かけない村。
そこに少女はやって来た。
﹁博士が言っていたのは、この場所ね﹂
ピンク色のセーラー服、スカートは限界まで短くし角度次第では屈
まずにパンツが見えてしまう様な恰好の小柄でツインテールに髪を
結んでいる少女の名はピリカ。
魔法少女だ。
﹁村人が一斉にひここも⋮⋮あ、ご、ごめんなさい!﹂
﹁カァァァァット!﹂
言葉の途中で噛んだ少女に向けて、怒号が飛ぶ。
﹁ふざけてやってると本当に撃つぞ? わかってんのか?﹂
厳しい表情をした調教師ラタークが、魔法少女ピリカ役の公娼アル
ヴァレンシアへと怒鳴る。
ラタークの後ろには、長銃を構えたゼオムント兵が立っていて、照
準を常にアルヴァレンシアの頭へと固定していた。
﹁すいません! すいません!﹂
セーラー服姿の魔蝶公主は大地に頭を付けて謝罪する。
乞命刻印。
その効力により、アルヴァレンシアは命の危機に関して絶対の恐怖
を覚える。
その為、銃で狙いを付けておけば絶えず命の危機を感じる事になり、
演技に一切の手抜きが出来なくなり、文字通り死ぬ気で撮影に挑む
ことになるのだ。
1388
﹁チッ。ナレーター続けろ﹂
ラタークはナレーター役の調教師に命じ、撮影は再度始まる。
ピンク色のセーラー服、スカートは限界まで短くし角度次第では屈
まずにパンツが見えてしまう様な恰好の小柄でツインテールに髪を
結んでいる少女の名はピリカ。
魔法少女だ。
﹁村人が一斉に引きこもるだなんて⋮⋮これは間違いなくナカダシ
ェスキーの仕業ね﹂
ピリカは魔法少女ズボチュパとして、悪の組織ナカダシェスキーと
戦う運命にあった。
今日もピリカの支援者であり変態科学者の血満湖博士から情報を受
け、通っている私立阿佐笛裸中学を早退してここへやって来たのだ。
﹁まずは、手掛かりを探さないとね⋮⋮﹂
ピリカは右手の先をパンツの上から自分の陰唇に押し当て、数秒目
を閉じる。
﹁うん。あたしならやれる!﹂
これはピリカの母が残してくれた大切な儀式。
女の子が命を賭けて頑張る時、自然とマンコに力が籠る。
その力を前借する儀式だ。
決意を新たにしたピリカに向けて、
﹁おぉ、お前さんはもしや⋮⋮﹂
一軒の家の陰から一人の老人が歩み出てきてピリカへと声を掛ける。
﹁おじいさん? ここの村の人?﹂
﹁あ、あぁ⋮⋮この村で村長をやっておる者じゃ﹂
そう言って老人はピリカへと歩み寄り、
﹁おぉ、この村にもようやく救いの手が、正義の味方がやって来て
くれたのじゃな﹂
無遠慮にピリカの体を撫で回しながら涙を流した。
1389
﹁任せておじいさん! あたしが悪い奴らを全員倒してみせるわ!﹂
ピリカはしわがれた手で胸を揉まれながらも、強い声で言い放った。
そこに、
﹁ハーッハッハ! 出たなズボチュパ! 今日こそ貴様を組織の肉
便器に変えてあげるわ!﹂
屋根の上から居丈高な女の声が轟いた。
﹁マリリン! 貴女生きていたの?﹂
ズボチュパとナカダシェスキーの激しい戦いで死んだはずの褐色巨
乳の女幹部マリリンがそこに姿を現したのだ。
﹃マリリンについて詳しく知りたい人は映像円盤を買おう! 魔法
少女ズボチュパ! ファーストシーズン全十三巻セット、好評発売
中!﹄
﹁あぁ待っていたぞズボチュパ⋮⋮貴様に復讐できる日の事をな!﹂
そう言ってマリリンは白のV字水着しか穿いていない体の上に羽織
ったマントを翻し、
﹁やれ! お前達!﹂
ナカダシェスキー戦闘員、サオ・シーが6人突如として現れ、ピリ
カを取り囲んだ。
﹁クッ! 変身しないと! おじいさん! 退いて﹂
未だにピリカの体を弄んでいた村長を引きはがす間が、致命的とな
った。
﹁いけ! アナルビーズを抜かせるな!﹂
マリリンの叫びに、サオ・シー達は一斉に呼応した。
﹃説明しよう! ピリカは暴走しがちなズボチュパの力を抑える為
に血満湖博士の作った封印アナルビーズを肛門に挿入して暮らして
いる。裏を返せば緊急時にはこのアナルビーズを引き抜く事でズボ
チュパへと変身し、ナカダシェスキー達と戦う事が出来るのだ!﹄
サオ・シー達はその屈強なボディでピリカを押し倒し、両腕を拘束
しながら衣服はそのままにパンツを引き摺り下ろす。
﹁くぅ! 卑怯よ! 変身させなさいよ!﹂
1390
﹁フハハハハ馬鹿め。さぁお前達! そのまま⋮⋮そのまま⋮⋮﹂
﹁カァァァァァァト!﹂
﹁ふざけるんじゃねぇぞ! テメェ何年公娼やってんだよ! この
くらいの台詞は覚えとけよ!﹂
ラタークの叱責が、今度はマリリン役のマリアザートへと轟く。
﹁申し訳ありません! もう絶対ミスはしません!﹂
二人に増えている狙撃手の銃に怯えながら、マリアザートは這いつ
くばって許しを乞うた。
その間もピリカ役のアルヴァレンシアはパンツを降ろされた状態で
無視され、サオ・シー役の男優達に陰唇をしげしげと眺められてい
た。
﹁チッ、次トチったら台詞を全部暗唱できるようになるまで膣内出
し合宿するからな﹂
ラタークはそう言って監督用の椅子に座り、
﹁はい、アクション!﹂
﹁フハハハ馬鹿め。さぁお前達! そのままズボチュパのアナルビ
ーズを奥まで押し込んでおやり! 絶対に引き抜けない位置にまで
ね!﹂
マリリンの命令に従い、サオ・シーの一人が激しく勃起した肉棒を
ピリカの肛門へと押し当てる。
﹁やめっ! やめなさうんぎぎいいいいいいいいいい﹂
一切の潤滑剤無く、アナルビーズごと肉棒をピリカの小さな窄まり
へと押し込んでいくサオ・シー。
﹁変身させなければこちらのものよ! 安心しなさい! その肛門
はガバガバになっても後でピッチリ縫合してあげるから。アナルビ
ーズを入れたまま人工肛門で肉便器になるのよズボチュパ!﹂
1391
マリリンの煽りを受けたサオ・シーは激しくピリカの肛門を抉って
行く。
﹁んぎぃ! ひぎぃ!﹂
肉を引き裂かれる感触と、奥へ奥へと侵入してくるアナルビーズの
異物感に苦しめられながら、ピリカは涙を流す。
肛門を犯すサオ・シーの周りでは、残りの者達がその逞しい腕を使
ってピリカの体を抑え込み、腰を打ち付ける衝撃で体が動かないよ
うにし、アナルビーズが直腸の奥へと深く進のを手助けした。
そのままサオ・シー達六人は代わる代わるその怒張でピリカの肛門
を犯し、ケツ穴おっ広げて奥を覗いてもまったくアナルビーズが見
えなくなるまで連続射精を敢行した。
﹁ひぐぅ⋮⋮うぐぅ⋮⋮﹂
小一時間にも及ぶアナル凌辱に息も絶え絶えなピリカを見て、マリ
リンは満足げに地上に降り立ち、
﹁フハハハ。ズボチュパ敗れたり! このまま我らの秘密基地へ持
ち帰り男子便所に死ぬまで括りつけてやろう!﹂
マリリンの勝利宣言にサオ・シー達は拍手で応える。
そこに、
﹁ふざけ⋮⋮ないで、あたしは⋮⋮ズボチュパ⋮⋮お母さんの敵、
ナカダシェスキーを滅ぼす者⋮⋮﹂
震える声を、ピリカは放った。
﹁フフン。良い事を教えてやろう。お前の母親、マンカは生きてい
る﹂
﹁な、何ですって?﹂
マリリンの言葉に動揺するピリカ。
﹁生きて我らの秘密基地で今日も元気にチンポを突っ込まれている
わよ。アイツは確か男風呂用のチンポ洗いスポンジだったかしら﹂
﹁お母さんが⋮⋮生きてる?﹂
ピリカは呆然として呟き、母の事を思い出す。
穏やかに暮らしていたはずの母子家庭を襲った悲劇。
1392
見た事も無い黒尽くめの大人達に囲まれた時、母マンカは娘ピリカ
の頭を撫で、一枚の紙を渡した。
そこへ行きなさい、出来るわね。
そう言って母は肛門からアナルビーズを引き抜き、見た事も無い姿
に変身して戦いに臨んで行った。
ピリカは紙に記された地図をなぞり、血満湖博士の研究所へと到達
し、そこでズボチュパの事を、ナカダシェスキーの事を知る。
﹁⋮⋮諦めない⋮⋮﹂
ピリカは唇をかみしめ、ガバガバになった肛門に力を籠める。
﹁何? 抵抗は無駄よ?﹂
マリリンが余裕の笑みを浮かべた瞬間、
ブビュチュバババブブバババババ︱︱。
静寂を斬り裂く音。
ピリカの肛門から迸るその音の正体は、
﹁まさかお前⋮⋮自ら脱糞してアナルビーズを押し戻しただと?﹂
﹁⋮⋮油断したわねマリリン。ズボチュパは、こんなところで負け
はしないの!﹂
ピリカは茶色の物体と共に姿を現した封印アナルビーズの先端を掴
み、ニュポン︱︱と引き抜いた。
﹁あひんっ﹂
途端、光り輝くピリカの全身。
﹁くぅ、馬鹿なああああああ﹂
マリリンとサオ・シーはその光に後ずさる。
光が消え去り、戦士が生まれた。
﹁せーしきゃっちゃーズボチュパ! 華麗に登場!﹂
ピリカはズボチュパへと変身した。
着ていたピンク色のセーラー服は跡形も無く消し飛び、純白の一本
の紐が体を覆う。
否、覆いはしない、ただ体の上に乗っている。
一本の紐は首のチョーカーから体の前面を通って垂れ下がり、股間
1393
にキツく食い込みながら折り返して背中を通過しチョーカーへと戻
って来る。
これがズボチュパのユニフォーム。
乳房も、乳首すら隠さず、陰唇は紐の圧力でぷにっと盛り上がり、
肛門は紐の角度次第では完全に露出している。
恥じらいはある。
だがしかし、これでなくてはナカダシェスキーとは戦えないのだ!
﹁覚悟しなさいマリリン。今度こそ地獄へ送ってあげる!﹂
頭部のヘッドギアからバイザーを降ろしながら、ピリカはナカダシ
ェスキーへと叫んだ。
﹁ぬぅぅぅぅ。まだこっちが数では有利よ! 行きなさい!﹂
マリリンの命令で飛び掛かってくるサオ・シー達。
それに向け、ピリカは余裕の笑みを浮かべた。
﹁そんなの、あたしの魔法でイチコロよ! 来て! ヴァリアヴル・
ローション!﹂
天に手を翳し、魔法を唱える。
すると虚空から滑った液体が出現し、滝の様にピリカの体を濡らし
た。
﹁はああああああっ!﹂
全身をローション塗れにしたピリカはI字水着の体で強烈なハイキ
ックをサオ・シー達へと向けて放った。
途端、紙切れの様に吹き飛ぶ六人のサオ・シー。
﹁くぅ⋮⋮﹂
後ずさるマリリンを見つめながら、ピリカは呼吸を整えた。
﹃説明しよう! ズボチュパの魔法ヴァリアヴル・ローションは天
が与えた奇跡の潤滑油。これを身にまとったズボチュパは超人的な
肉体能力を得て敵を一掃するのだ! しかぁし、この無敵の魔法に
も欠点が有り、三分を越えて使用するとローションに含まれた媚薬
成分にピリカが耐えられなくなり、チンポ狂いの淫乱に変わってし
まうのだ!﹄
1394
気絶したサオ・シー達を振り返り、孤立無援を確認したマリリンは、
小さく笑みを零した。
﹁ふん。その技なら前に見たわ。対策もせずにのこのこ出て来るわ
けがないじゃない!﹂
そう言うと、マリリンは突然ブリッジの体勢を取り、股間を大きく
開いた。
﹁食らいなさいズボチュパ! お前の為に、今日は朝から大量に水
分を摂ってトイレを我慢して、ついでにさっき出て来る前に利尿剤
も飲んでおいたのよ!﹂
V字水着の股間部分をズラし、マリリンの内側から途轍もない勢い
で尿が迸った。
﹁わぷ! あ、アンタ⋮⋮﹂
マリリンが一日溜め込んだ大量の尿は、ピリカの纏ったヴァリアヴ
ル・ローションを洗い流してしまった。
やがて、長すぎる放尿を終えたマリリンは勝ち誇った笑みで立ち上
がり、全身から彼女の尿を滴らせたピリカは苦しい表情で相対した。
しばし睨み合った両者は、意を決してぶつかり合った。
﹁はあああああああっ!﹂
﹁えやああああああっ!﹂
お互いの股間の紐を引っ張り合い、マンコにキツく食い込ませ合う。
﹁んぐぅぅぅぅ! 痛い痛い!﹂
﹁こ、擦れて⋮⋮くぅぅぅぅ﹂
乳首に噛みつき、アナルに指を押し込みながらの激しい戦いがしば
らくの間続き、
両者は互いに決定打を与える事無く距離を取った。
ピリカは顔に付着した、マリリンの乳首から飛び跳ねた母乳を拭い
ながら息を吐く。
﹁もう迷ってられない。一度の戦闘で二回使った事は無いけど、保
ってね、あたしの体!﹂
そう言って、天に手を翳した。
1395
﹁ヴァリアヴル・ローション!﹂
降り注ぐ神の潤滑油を浴び、ズボチュパは完成する。
﹁何ですって? く、出ない⋮⋮もうオシッコ⋮⋮出ない!﹂
その威容を目の前にして、先ほど空にしたばかりのマリリンの膀胱
からは何も出てこなかった。
﹁くぅぅ! こっちでどう?﹂
頭脳派で知られるマリリンは即座に切り替え、自分の胸を強く揉ん
だ。
途端、ビームの様に噴出する母乳だったが、
﹁甘いわ!﹂
二本のビームは完全起動のズボチュパに回避されてしまった。
﹁い、いやあああああああああああ! んぎひぃ﹂
そうしてマリリンの悲鳴と共に、ピリカの放った拳が彼女の膣口へ
と侵入し、戦闘は決着した。
﹁はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮流石に連続二回はきついわね⋮⋮あ、村長さん。
ローション洗い流す為の水もらえる?﹂
倒れ伏すマリリンを見下ろしながら、荒い息を吐くピリカは戦闘を
片隅から見守っていた村長へと顔を向ける。
﹁んひひ﹂
村長は笑った。
ニヤけた、下品な笑みだ。
﹁いや、だから⋮⋮水⋮⋮あ、もう⋮⋮﹂
ピリカは体勢を崩し、地面に膝を突いて、顔を上げる。
﹁チンポぉぉ! チンポ頂戴! チンポ欲しいぃぃぃぃぃぃ。ピリ
カの中学生マンコにお爺ちゃんのしわしわおチンポ頂戴ぃぃぃぃぃ
ぃ﹂
﹃ピリカは中学生と言う設定ですが。演じる公娼は成人ですので問
題ありません﹄
ピリカの叫びが聞こえたのか、今まで引きこもっていた村人達が続
々家の扉を開けて外へ出てきた。
1396
﹁チンポ! チンポがこんなにたくさん! ピリカ幸せ! チンポ
だぁいすき!﹂
その後、ピリカとマリリンは村人達に拘束され、公衆便所に設置さ
れて村共有の肉便器として扱われた。
三か月後にピリカの帰りが遅い事にようやく気付いた血満湖博士に
よって助け出されるまでの毎日、ピリカは大好きなチンポに囲まれ
て幸せに暮らしていた。
博士に助け出されて正気を取り戻したピリカはマリリンから聞いた
母マンカの消息を追う為に、再びアナルビーズを肛門に挿入し、戦
いを続けて行く。
一方、村に肉便器として残されたマリリンは十二年後疫病で村が全
滅するまでの間、ずっと同じ便器の上に尻を載せ、毎日村人達のチ
ンポを突っ込まれる事となった。
﹃次回! 魔法少女ズボチュパ!﹄
﹃三か月ぶりに登校したピリカを迎えたのは心優しい友人達の労り
の言葉だった。英気を養い、母の手掛かりを探す決意を新たにした
ピリカの前に、友人の一人が立ちはだかる。そ、そんな⋮⋮トモコ、
貴女もズボチュパだったの?﹄
﹁また見てねー﹂
﹁カァァァト!﹂
薄暗い公衆便所の中でボロを纏った村人役の男にチンポを挿入され
ながら、アルヴァレンシアとマリアザートは﹃また見てねー﹄と笑
顔で撮影用魔法に手を振った。
﹁はぁい撮影終了! お疲れお疲れ! お前ら飲みに行くぞ!﹂
ラタークは手を叩きながら立ち上がり、彼のスタッフ達の労をねぎ
らう。
その様子を見ながら、アルヴァレンシアとマリアザートは瞳の色を
消し、ようやく緊張を解いた。
1397
銃が、降ろされたのだ。
これで一先ずは命の危険は去った。
膣内を無遠慮に抉り回す初対面の男達。
列を作り、順番を守ってチンポを滾らせている。
﹁あぁエキストラの人達は出演料代わりにそっちの二人を好きにし
ていいから。明日の朝回収に来る時まで自由に何回でもヤっちゃっ
て。そうだ。明日朝一で便器使用画を取ろうぜ。それをエンドカー
ドにして放送終了後流すんだ。ってなわけでたっぷり汚しておいて
くれると助かる!﹂
そんな事を言いながら、ラターク達は去って行った。
残された二人は、
﹁ヒック⋮⋮うぅ⋮⋮マリューゾワ⋮⋮おねぇちゃん⋮⋮﹂
人前での脱糞を強要されたアルヴァレンシアは頼りになる従姉の事
を思って泣き、
﹁あなた⋮⋮ティール⋮⋮私は、お母さんここまで汚れちゃって⋮
⋮﹂
放尿や射乳を武器に戦わされたマリアザートもまた、既に亡き夫と
彼に託された息子の事を思って悲嘆に暮れた。
﹁おら、サボってねぇでちゃんとマンコ締めろや!﹂
﹁お、出た出た。母乳うめぇ!﹂
二人を犯す男達はただひたすら乱暴に、聡明なる魔蝶公主と勇敢な
る大騎士の肉体に汚れた精を吐き出し続けた。
1398
ちちくらべの湯 / 魔法少女ズボチュパ︵後書き︶
拙作にお付き合い頂き有難うございます。
アンケート第一号、9−aアルヴァレンシアはこの様な形になりま
した。
これ以降二号、三号に付きましても同程度の分量を考えています。
まだまだ投票は大歓迎中で御座います!
どうぞ皆様、ちょっとでも気になるようでしたら英数字やキャラ名
だけで構いません、感想無しで全然okです。
感想欄にてシーン選択のアドバイスを頂けたら嬉しいです。
第二回のシーン決定は6/10︵火︶を予定しています。︵11日
に活動報告で結果をお伝えします︶
火曜付のアンケート結果をこれまで頂いた票と累計して計算し、最
も多かったシーンを次回の更新に載せます。
現状では7−aマリューゾワが一歩抜けている感じでしょうか。
それでは改めて、アンケート要綱の確定版を記述します。
追加条件1、アンケートで一つでも票が入ったにも関わらず﹃忘却
の輝石﹄が使用されなかった︵三位以下︶の物に関して
救済措置として次の降臨祭編でハルビヤニ様が行う﹃恥辱PR活
1399
動﹄にて該当シーンを使用します。
こちらは西域関係者やアンケート不参加のヴェナ等出演予定者が
多い為、﹃忘却の輝石﹄ほどしっかりとしたスペースは取れません
が、折角皆様から頂けた票を無駄にしない様にするつもりです。
追加条件2、アンケートでの個人得票が最終的に最も多かった公娼
について
何かもう適当な魔法なりなんなりを見繕って特別シーンをどこか
で挿入します。
現在はアルヴァレンシア、次点でマリューゾワですね。
各候補シーンの簡易説明。
1、西域遠征以前の公娼活動︻a,シャロン b,ユキリス︼
a,朝の生放送へ出演し終えたシャロンに告げられたのは、この
まま遠くの街へ移動しての撮影だった。そこで行われるのは、無垢
な子供からボケた老人までを巻き込んだ滑稽な企画。撮影が終わる
まで家には帰れまセン。︻シャロン︼
b,総合商業施設﹃ELON﹄は十周年の創業祭。CMバンバン
! チラシもバサバサ! 宣伝効果でお客さんは満員御礼。押し寄
せる人波に揉まれ揉まれ犯されるヤれるマスコットユキリスさんの
一日︻ユキリス︼
2、ユーゴ組二日目の様子︻a,セナ b,リセ︼
a,大切な友人のマンコからずるっと抜き出された父親の肉棒を
口元に突き付けられ、しゃぶらされるセナの頭には幼い日に感じた
1400
父の掌の温もり。娘の頭を撫でながら、ユーゴは遠い日の事を語り
出す。︻セナ︼
b,今明かされるユーゴの性癖。﹃全員、コップにションベンし
ろ。利き尿するぞ﹄※微スカ注意︻リセ︼
3、調教師サバルカン組の旅︻ルル︼
ルルやマリューゾワ達を率いたサバルカン。彼が道中繰り返した
のは卑劣な凌辱。晒し、貶め、犯し、そして仲間の命を奪った。︻
ルル︼
4、マルウスの里に残された者達︻シュトラ︼
雌車として日々を生きるシュトラ達。里で人気の雌車を利用した
賭博。シュトラは頭に滑稽な羽根飾りをつけ、馭者役のマルウスに
操縦棒をアナルへと挿入されながら、レースのスタートラインへと
四足で移動した。︻シュトラ︼
5、開拓団陣地での暮らし︻a,アミュス b,ヘミネ︼
a,﹁いつもアミュスのマンコを使ってくれる皆! 今日は感謝
祭だよ! いっぱいアミュスとおしゃべりして、たっぷり膣内出し
して下さいね。あ、お菓子とお酒も有るから、アミュスのマンコに
飽きた人もそっち目当てで良いから参加してネ﹂︻アミュス︼
b,開拓団での暮らしと、公娼として生きる彼女の鮮烈で奔放な
生き方を綴ったフォトエッセイが本国で発売。その発売記念記者会
見には多くの記者がやって来て、ヘミネはこれまで書き溜めて来た
絵日記の朗読をさせられる。︻ヘミネ︼
1401
6、天兵の里での異端審問︻フレア︼
異端審問官が最初に口にしたのは、﹁何もしゃべる必要は無い﹂
との言葉だった。そのまま彼らの玩具にされ、果ては小銭稼ぎに他
人に勝手に穴を提供される毎日。フレアは救いの無い拷問の日々を
どう生き抜いたのか。︻フレア︼
7、即売会から救出までの間︻a,マリューゾワ b,ハイネア c,マリス d,シロエ e,ロニア︼
a,猫商人に買われ、その里へと連れて来られた魔剣大公。どん
なチンポにも、器具にも負けない。強い意志で男を睨みつけ罵った。
そんな彼女へ向けて猫達が取り出したのは、決して抗う事の出来な
い性の麻薬。︻マリューゾワ︼
b,これは少年チャモロと愛犬ジョン、そして肉便器ハイネアが
紡ぐ感動のハートフルストーリー。初めて村の外に一人で出る御遣
いも、ジョンとハイネアが一緒だと怖くないね!︻ハイネア︼
c,﹁俺ん家のオナホで遊ぼうぜ!﹂同級生の間で人気者の少年
は、友達を連れて帰宅する。そこには父親がつい最近手に入れたオ
ナホがしまって有る。棒で叩いたり、近所の池に沈めてみたり、マ
ッチの火であぶって皆で遊ぶんだ。︻マリス︼
d,案山子は音を発さずに、その存在で野鳥を威嚇する。しかし
この畑に設置された肉案山子は特定の場所をパンパンと突いてやる
と喘ぎ声を漏らし、ブルブルと跳ねる乳房を使って野鳥を追い払っ
てくれるのさ!︻シロエ︼
1402
e,このアナルは世界一。そう保証書を付けられてロニアは売ら
れた。自分を抱く苔の塊共は口を揃えて問いただす。お前のケツマ
ンコが世界一な理由を言え、言えるまで犯すのを止めない。ロニア
は苦痛から解放される為、自分の肛門を自分の言葉で称賛した︻ロ
ニア︼
8、空の上の凌辱︻ステア︼
ステアはウッカリしていた。その男が媚びた声を大変嫌う事は以
前チンポを突っ込まれた時に学んでいたはずなのに、膣内出しの時
に条件反射で媚びてしまったのだ。激怒した男はステアを抱えて雲
の隙間へと走る。﹁止めて! 捨てないで!﹂︻ステア︼
9、アルヴァレンシアとマリアザートについてですが、追加条件1
には参加不可能。そして追加条件2により、個人得票を継続して換
算して行く為、今後もこの二人に対する投票を受け付けます。
アルヴァレンシアが9−a、マリアザートが9−bで今回のズボ
チュパの続きを各人のルートに沿って書く事になります。
追加条件2によって、個人最多得票を決める為、投票に置ける除外
対象は無くなります。
優勝者はシーンとしてこのお〇ん〇んお休み月間で再び出るわけで
は無く、いずれ機会を用意して登場してもらう形になります。
そして一回目のアンケートに御協力して頂いた皆さま、有難うござ
います。
1403
今回各シーンに追記をした事で、やっぱり別のシーンに投票がした
い! そう思われた方は、感想欄にて﹃投票リセット﹄と記述して
頂いた上で、新たにお選びください。
ただ、アルヴァレンシアへの票だけは確定させて頂きますので、9
−aを選択された方は投票数が残り二つになった状態での投票とさ
せていただきます。
色々とごちゃごちゃして申し訳ございません。
それではお読みくださった皆様、アンケートに御協力頂いた皆様、
有難うございます。
1404
三年の遅れ / 英雄の覚悟︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1405
三年の遅れ / 英雄の覚悟
三年の遅れ
そこは狭く暗く、そして甘い匂いに包まれた空間だった。
﹁さて、改めての説明が必要ですかな? セリス様?﹂
おどけた表情で、禿頭の魔導士ゴダンは問うた。
﹁⋮⋮﹂
リーベルラントの軍神にしてゼオムント王子リトリロイの妻、セリ
スはその双眸に光を灯しながら、無言を貫いた。
﹁⋮⋮いけませんなぁ。事は貴女一人の問題ではございません。こ
の陣に居る全ての者に関わる事なのです。仕方が有りません、もう
一度説明させて頂きます﹂
ドレスアーマー姿で椅子に座るセリスへと向けて、ゴダンは滔々と
語り出す。
﹁この天幕にて、貴女はこれから公娼としての本来の職責を果たし
て頂きます。ここを訪れる者達の言う事を良く聞いて、かつて貴女
の仲間達がそうした様に、肉棒に奉仕する穴奴隷として振舞うので
す。さもなくば⋮⋮﹂
人が五人も入ればギュウギュウ詰めになるだろう小型の天幕。
﹁この匂いが、貴女を苦しめ、徐々に殺す事になるでしょう﹂
その言葉を聞き、セリスの体が僅かに震えた。
乞命魔術。
守護刻印が刻まれた指輪を奪われてしまったセリスには、その呪い
が正常に作用している。
しかし、それでも軍神は怯えを見せず、毅然とゴダンを睨みつけて
いる。
1406
﹁遅行性の毒で御座います。一時間吸い続ければ、全身から様々な
体液を撒き散らしながら貴女は落命するでしょう。ただし、一度で
も正常な空気を吸えば、毒は体内から一瞬にして消え去り、貴女の
命は守られる﹂
ゴダンは滑った視線でセリスを見下ろしながら、言葉を続けた。
﹁この魔法を一瞬でも止めるには対象者である貴女以外の者の許可
を必要とします。貴女は死を免れる為に、これからここを訪れる男
達に従順であらねばならないのです﹂
これが、このセリスを調教する為に用意された特別天幕に施された
第一の魔法。
緩慢なる死が迫り続ける甘毒魔法。
﹁ふん⋮⋮﹂
セリスはなおもゴダンを睨み続ける。
ゴダンは禿頭を掻きながら、にこやかに言葉を吐いた。
﹁人の数だけ性癖は有ります。どの体位が好きか、どの衣装が好き
か、器具が好きか、薬が好きか、苦しむのが好きか楽しむのが好き
か、浣腸が好きか精飲が好きか。この陣地に居る二十五万人の男達
には二十五万通りの性癖が有るのです。セリス様﹂
ゴダンはそっとセリスの肩に手を載せる。
﹁貴女は一人で、その二十五万の性癖を満足させてやらねばなりま
せん﹂
そう言って、ゴダンが指を鳴らすと、イボの浮いた巨大なバイブが
虚空から現れ、更に続けて挿入用の穴が開いた卑猥な下着が出現し
た。
﹁ゾート殿ら調教師団の資材庫とこの天幕は、私の部下が魔法で繋
いでおります﹂
第二の魔法。
調教に使用する性玩具や各種衣装、そして薬品や拷問器具を想像す
れば瞬時に資材庫から取り寄せる事が出来る転移魔法。
﹁これを使えば、各人が好きな様に貴女を公娼として愛でる事が出
1407
来ます。貴女としても単調なセックスばかりでは飽きてしまうでし
ょう? これは双方にとって益の有る魔法なのですよ﹂
セリスは肩に載せられたゴダンの手を不快気に眺める。
﹁セリス様、貴女はこの三年の間、貴女の仲間達が精液に塗れ、恥
辱に狂っている間、王宮の奥でのんびりと暮らしておられた。腹の
中に反乱の志を溜めこんでおられたのかも知れませんが、事実とし
て貴女は、他の公娼達から三年も遅れているのです﹂
ゴダンはセリスの肩から手を離し、指を三本立てながら、
﹁ペナルティ。ペナルティですよセリス様。サボりはいけません。
皆が頑張ったのですから、貴女も頑張らないと! 三年分の遅れを、
取り戻さないと!﹂
狂気を孕んだ瞳で、ゴダンは笑う。
﹁私や部下の宮廷魔導士と、ゾート殿以下調教師団が総力を挙げて
貴女の遅れを挽回させて差し上げます。ですからセリス様、どうぞ
頑張って下さい。貴女の仲間達にしっかりと顔向けできるように、
立派な肉便器になって下さい﹂
そこまで言い放ってから、ゴダンはセリスの傍を離れた。
﹁それではセリス様、私には本来の仕事もございますので、また昼
頃に一度顔をお出しします。それまでの間に少しでも、公娼として
の立場を学んでおいてくださいね﹂
最後にセリスの髪を一度撫でてから、ゴダンは天幕の外へ出る。
朝日が昇ってそう間もない時間。
快晴の天気にゴダンが目を細めていると、
﹁ゴダン様。セリスの使用を求める列が途切れません。既に数千、
いや万に近いかも知れません﹂
若い宮廷魔導士がニヤ付きながら傍へ寄って来た。
そちらへ視線を向けながら、ゴダンは肩を落とした。
﹁足りませんねぇ⋮⋮﹂
﹁は?﹂
溜息を吐くゴダンへ、魔導士は首を傾げる。
1408
﹁足りませんよ。二十五万も居るのですから、全員がこぞって来て
貰わないと。君、これから触書を出しなさい。現在陣に在籍する者
は一度必ずセリスを使用する事。さもなくば労役を課す。とね﹂
ゴダンの言葉に、魔導士は少し呆れた顔を浮かべる。
﹁失礼ですが、二十五万なんて数を一人のマンコで対応しようとし
たら、何年かかるか分かったものじゃないですよ?﹂
その言葉に、今度はゴダンが呆れた。
﹁君ぃ。君はもしかして昨日の会議で寝ていませんでしたか? 良
いですか? この天幕に施された魔法は三つ。甘毒魔法、転移魔法、
そして⋮⋮鈍遅魔法ですよ﹂
ゴダンは自身の仕事場に戻り、書類の整理や魔法道具の点検、そし
て一杯のコーヒーを楽しむ時間を過ごした。
人数が大いに増えた事で、事務仕事はかさみ、療養中のオビリスに
代わって決済をする役目に就いたゴダンはまだしも、書類作りや各
所の応対をしている彼の部下達は大忙しだった。
﹁さて、一区切り付きましたね。ではそろそろセリスの様子でも見
に行きますか﹂
そう言ってゴダンは席を立ち、部下達に見送られて悠々調教師団本
部の傍に設置されたセリス調教天幕へと歩いて行った。
﹁おほほ、凄い行列だ﹂
天幕の周囲には男達が列を作って並び、調教師達によって列整理を
受けていた。
その列は、常に動き続けていた。
凌辱者の列は、一秒として立ち止まっていない。
皆期待に胸を膨らませながら、天幕を目指して着実な一歩を繰り返
していた。
ゴダンは調教師団の挨拶を受けながら、その列を足早に追い抜き、
天幕の入口へと到着する。
1409
﹁スミマセンが、順番を一度私と代わって下さいますか?﹂
今まさに人が中から出て来て、代わりに入ろうとする男へと声を掛
けた。
﹁え? あ、ああああはい! 大丈夫です! 待ってます﹂
男はゴダンの顔を知っていたのだろう。
この陣地の幹部であるゴダンへと低頭した。
﹁あぁいえいえ気に為さらず。それにすぐ済みますから。触書にも
有った通り一人一秒ですからねぇ﹂
そう言われて、男はほっと息を吐き、
﹁では︱︱﹂
ゴダンが天幕へと身を入れようとした瞬間に、男が鼻の穴に指を突
っ込むのが見えた。
そこで目にしたのは、年齢にそぐわぬ青と白のセーラー服を纏い、
スカートをまくり上げられた状態で地面に突っ伏すセリスの姿だっ
た。
ゴポォ︱︱。
とまくり上げられたスカートの内側で露出した軍神の肛門から精液
と尿の混合液が零れだし、赤く腫れ上がった性器からも白濁が滑り
落ちていた。
﹁セリス様、三時間ぶりですかな﹂
ゴダンは楽しげに笑いながらドロドロのセリスへと歩み寄り、その
頭へと手を置いた。
﹁あっ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
虚ろな目がゴダンを捉える。
﹁ゴダ⋮⋮ン⋮⋮﹂
口内にも精液を放たれていたのだろう、唇の端から雄汁を零しなが
らセリスはゴダンの名を呼んだ。
﹁おぉ、憶えておいででしたか。流石はセリス様﹂
1410
ゴダンは喜色を浮かべ、セリスの頭を撫でる。
﹁お辛かったでしょう? 何せ︱︱四年近くも休む事無く凌辱され
ていたのですから﹂
この天幕に施された第三の魔法。
鈍遅魔法。
その効力は、効果範囲内に流れる時間を一万倍へと引き延ばす事。
一秒の一万倍、一万秒とは凡そ三時間である。
一度この天幕へ侵入した凌辱者は三時間の間、セリスの体を自由に
出来る。
一時間に一回は少なくともセリスは解毒の為に男達へと命乞いをせ
ねばならず、その上男達は願えばどんな凌辱道具だって召喚する事
が出来た。
そしてたっぷりと時間を掛けて彼女を犯し抜き、表へ出ても外の時
間は一秒しか経過していない。
次の男がやって来て、また三時間。
三時間。
三時間。
三時間。
セリスが一日と感じる時間は、外ではたった八秒でしかない。
八人の男に徹底的に犯され抜いた後で、また別の一日が始まる。
けれど、外はどうか。
八秒とは一分間に七回半訪れる数値だ。
大雑把に計算しても、一分間で、一週間。
一時間で、六十週間。
ゴダンが天幕を離れていた時間は三時間。
百八十週間。
百八十週間とは三年半。
セリスはその間、ずっと休まる事無く肉穴を使われ、見た事も無い
器具や薬で犯され、恥辱の衣装を着せられた上に、命を人質にあり
とあらゆる屈辱を強要され続けたのだ。
1411
﹁ゴダ⋮⋮ン⋮⋮あ⋮⋮﹂
セリスは呻きながら手を伸ばす。
﹁良い御姿ですよセリス様。とりあえずこれで三年分の遅れを取り
戻したわけですが。表ではまだまだ行列が出来ています。なぜなら
セリス様は、たった三時間しか公娼活動をしていないのですから﹂
頭をよしよしと撫でながら、ゴダンは言葉を続ける。
﹁ですがセリス様は頑張りました。たった三時間で何と、一万と八
百人のチンポに奉仕する事なんて、他の公娼には出来ません。流石
はリーベルラントの軍神殿、お見事で御座います﹂
そう言って、ゴダンは残忍に笑んだ。
﹁この調子で、二十五万人。ほら、三時間を後二十四回繰り返せば
良いだけじゃないですか。七十二時間、三日間です。まぁ体力自慢
の騎士様なら三日間程度の不眠不休は大丈夫ですよね﹂
﹁あ、あああああああっ!﹂
途端、ガタガタとセリスが震え始めた。
﹁まぁ貴女にとっては⋮⋮あと九十年近くある風に感じられるので
しょうけれどねぇ﹂
計算で省いた端数なども含めると、凡そ四千五百週間程。
八十六年。
この場所で、毎回知らない人間を相手に、毎回違うやり方で、犯さ
れ続ける。
﹁いやあああああああああああああああああっ!﹂
セリスは発狂した様に叫んだ。
﹁あははははははははっ! どうだ! 思い知ったか! これがゼ
オムントだ! お前が愚かにも逆らおうとした! 覇道国家ゼオム
ントの力だ!﹂
そう言って、タガを外したゴダンはセリスの体を下敷きにした。
﹁私にも三時間ある。今の話だけでは一時間も経ってはいない! さぁセリス様! たっぷりとセックスをしましょう! あの日、あ
の場所で貴女が私を殺せなかった事を永遠に後悔しなさい! あそ
1412
こで私からアン・ミサの杖を奪えていれば! 貴女は九十年間も肉
奴隷をしなくて済んだかも知れない! 今でもリトリロイと一緒に
手を繋いで笑っていられたかも知れない!﹂
セーラー服を滅茶苦茶に引き裂きながら、ゴダンは歪んだ笑みでセ
リスを見下ろした。
﹁三日間、いや⋮⋮お前にとっては約九十年経ったら迎えに来るよ。
そうしたら今度は表の世界でもしっかり公娼として働いて貰おう。
今頃ゾート殿がプランを練っているさ、お前の調教のな! これは
ただの下ごしらえに過ぎない。お前が九十年も肉便器でいる事の意
味は、お前が三年間公娼をサボっていたツケでしかないんだよ!﹂
ゴダンは毟り取ったセーラーを乱暴に投げ捨て、歯形がついたセリ
スの胸を鷲掴みにする。
﹁チッ、汚い⋮⋮やはり一万人に犯された女など︱︱﹂
﹁九十⋮⋮年﹂
他人の涎が付いた不快感にゴダンが眉を曇らせていると、セリスが
小さく口を開いた。
﹁あぁそうだ、九十年だ。お前がこの場所で過ごす時間はな﹂
ゴダンはセリスの乳房に八つ当たりの平手を喰らわせながら応じた。
﹁ちなみに、死ぬ事は出来んぞ。お前の時間の感覚は一万倍に引き
延ばされてはいるが、実際に経過する時間は三日でしかない。飢え
て死ぬような事も、老衰で逝くような事も無い。九十年間しっかり
肉便器をやって、禊を果たすんだな﹂
ゴダンはセリスの腰を乱暴に掴み、自分の腰の高さへと合わせる。
ギンギンにいきり立った肉棒が、ドロドロに汚れきったセリスの花
弁へと照準を付けた。
﹁私は⋮⋮恐らく、正気ではいられないだろう⋮⋮﹂
三年半という時間をこの場所で過ごし続けて、理解してしまってい
た。
この凌辱にそれほど長い間耐え続ける事は出来ないと。
﹁そうか? まぁ狂ってしまったところで問題は無い。そう言う気
1413
の狂った女の需要も有るしな。何より﹃リボン﹄にしてしまえばど
うせ全員似た様な物だ﹂
ゴダンは意味深な言葉を吐きながら、他人の精子で満杯になったセ
リスの膣へと己の肉棒を押し込んでいく。
﹁チッ、緩すぎる⋮⋮このガバマンが﹂
悪態を吐くゴダンに向けて、
﹁だからな⋮⋮ゴダン、憶えておけ⋮⋮﹂
セリスは静かに語った。
﹁何だ?﹂
少し突きこむだけで尋常ではない量の精液が隙間から零れだすセリ
スの膣内を抉りながら、ゴダンは首を捻る。
﹁お前達は滅ぶだろう⋮⋮セナが、あの子があの目をしていて⋮⋮
私に言ったのだ、戦うと。だからな、覚悟しておけゴダン。貴様達
は死ぬだろう。残さず地獄へ送られるだろう。リーベルラントの刃
が必ず、貴様の首を刎ねるだろう﹂
最後に見た部下の瞳に、希望を託すセリスの言葉。
それを聞いたゴダンは、
﹁⋮⋮何を言うかと思えば。良いかね? セリス、君はもう何一つ
役割の無い存在なのだよ。ゼオムントの王族でも、リーベルラント
の軍神でも、反逆者でも無く。ただこれから先死ぬまでの気の遠く
なる様な間延々とチンポを突っ込まれるだけの肉穴だ。そんな者が
放った言葉に聞く価値はあるか? そんな者が信じた希望が叶うは
ずがあるか? お前はまだ全然わかっていないようだな。体感時間
で三年半も肉便器をやって居ながら、まだ自分には価値があると、
そう勘違いしているようだ﹂
そう言うと、ゴダンは虚空に手を遣り、
﹁拡張器﹂
調教師団の資材庫から、鉄製の肉穴拡張器を召喚した。
﹁ひっ⋮⋮﹂
六本の爪が均等に弧を描いて並び、中央にて揃えられている状態の
1414
その器具を、ゴダンは翳してみせる。
﹁セリス⋮⋮お前は果たして戦士としては一流だったのかもしれん。
だがしかし、反逆者としては二流。そして公娼としては三流だ。三
流のマンコとはな、上手に喘ぐ事も出来なければ、無様にイキ狂う
事も出来ない、そんなゴミクズの様なマンコなのだよ﹂
ゴダンは己の肉棒を引き抜くと、ポッカリと開いたセリスの膣穴に
拡張器を突き立てた。
﹁んぎひぃぃぃぃ﹂
セリスの膣内で拡張器の爪が六本、それぞれ別の方向へと反り始め
る。
﹁どうしても、どうしてもお前にコレを施すのは私の手でやりたく
てな。ここ数日、ゾート殿の部下に技術を教わっていたのだよ﹂
内側を向いて中央へと揃っていた爪が、まるで花びらの様にセリス
の膣肉を押し開きながら反り返ると、膣内の空洞がポッカリと晒さ
れる。
﹁あぁそうそう。その前にセリス、命乞いをしろ。折角だからな、
惨めに泣き叫んで私に命乞いをしてくれ。その拡張器で汚いマンコ
の中を晒しながら、私に慈悲を乞うてくれ﹂
ゴダンがこの天幕に入って来て、体感時間で一時間が経とうとして
いた。
甘毒魔術もまた、鈍遅魔術の効果範囲にある為、ここでようやくセ
リスへと苦しみを届けて来る。
﹁くっ⋮⋮貴様⋮⋮ゴダン⋮⋮﹂
セリスはゴダンに向けて膣内を晒したまま、蛙が裏返ったかの様な
姿勢で睨みつける。
﹁死ぬぞ。セリス。ここで無様に、子宮の入り口を晒しながら死ぬ﹂
ゴダンは囁いた。
オビリスの下、乞命魔術の効果を最もよく知る一人であるゴダンに
とってみれば、セリスの抵抗など、馬鹿馬鹿しくてしょうがないも
のだった。
1415
﹁う⋮⋮あ⋮⋮あぁぁぁ﹂
片腕を持ち上げ、顔を隠すセリス。
﹁さぁ言うのだセリス。死にたくないだろう? だったら出来るだ
け無様に、私を満足させる様な言葉を吐け﹂
そう言って、ゴダンは拡張器の取っ手を掴みセリスの膣肉を更に押
し広げる様にズボズボと動かした。
﹁あくっ! ⋮⋮う、うあああ⋮⋮ゆ、許して、下さい⋮⋮私を⋮
⋮反逆者である私の命を⋮⋮奪わないで⋮⋮﹂
震える声が、そう紡いだ。
﹁そうかそうか⋮⋮だがしかし、反逆者に生きている価値などは無
い。けれどな、ゼオムントは慈悲に溢れた国だ。お前が真に良きマ
ンコになると言うのならば、私は国の温情の名の元に、貴様の命を
助けてやろう﹂
ゴダンは手の動きを止めぬまま、更に迫る。
﹁なります⋮⋮あぁぁ⋮⋮なります。良きマンコに⋮⋮ゼオムント
の皆さまを満足させられる優れたマンコに⋮⋮生まれ変わります﹂
涙で濡れた声が響く。
﹁セリス、良きマンコとは何か。君にはわかるかね?﹂
その様子を眺めながら、ゴダンは歪んだ笑みで問うた。
そして答えを聞かぬまま、
﹁良く締り、何を突っ込まれても受け入れ、そしてどんなチンポが
相手であっても何度でもイキ続ける事が出来るマンコこそが、ゼオ
ムントが生きる事を許す良きマンコだ。君はそれに、なりたいのだ
ね?﹂
確認を取った。
命の刻限を着々と向けようとしていたセリスには、逆らう事が出来
ない。
﹁はい⋮⋮私は良きマンコになりたい⋮⋮﹂
恥辱とそれに伴う誇りの崩壊を感じながら、セリスは頷いた。
﹁よかろう。ならば私の手で、君を良きマンコへと作り変えてあげ
1416
よう﹂
そう言って、ゴダンは懐へと手を入れた。
そして取り出される二本の細長い棒。
その棒は、ゾートの部下がセナへと使用した魔法道具。
﹃弱点﹄を刻む為の物。
﹁セリス、新鮮な空気を吸う事を許す﹂
ゴダンはそう言って、甘毒魔術を一瞬解除した。
それにより、当座の命の危機を脱したセリスの体から、緊張が薄く
剥がれる。
そこを、ゴダンは見逃さない。
﹁ははははは!﹂
﹁んぎひぃぃぃぃぃぃ﹂
膣口へと突き立てた拡張器を激しく動かし、乱暴に引き抜く。
そしてポッカリと生まれた空洞に、二本の棒を突き入れた。
﹁さぁセリス! 刻もうか! 良きマンコになる為に! ﹃弱点﹄
を﹂
習得したばかりとは言え、ゴダンは王宮魔導士である。
その技量は、確かな物だ。
﹁一つでは無いぞ。この時間一杯、私はお前の体に﹃弱点﹄を刻み
続ける﹂
セリスが必死に閉じようとしても、馬鹿になって緩んでしまった膣
口は主の求めに従わず、ゴダンの突き入れた棒に簡単に押し開けら
れる。
﹁あっ⋮⋮あぁ⋮⋮﹂
﹃弱点﹄。
セリスは逃亡中にセナがその刻印により何度も苦しんでいるのを目
撃した。
日常生活をおくる事すら困難なイキ地獄。
それが今、これから九十年近くマンコを使われ続ける自分に対して、
刻まれようとしていた。
1417
﹁いやっ! いやああああああああああ﹂
﹁﹃殺すぞ﹄﹂
暴れるセリスに向けて、ゴダンは笑顔で乞命のトリガーを言い放っ
た。
﹁うあ⋮⋮いや⋮⋮あぁぁ⋮⋮﹂
そうして、セリスの膣内にはゴダンの手により、﹃弱点﹄が二十箇
所作られた。
入り口にも、奥にも、陰核の傍にも、子宮口の傍にも、天井側にも、
床側にも、ほぼ隙間が無い様に、セリスの膣内は﹃弱点﹄だらけと
なった。
﹁良きマンコとは、マンコ以外も優れている物です﹂
それだけでは終わらない。
ゴダンはセリスの体を裏返し、肛門を中心とした臀部にも合計十箇
所、﹃弱点﹄を刻み入れた。
その後、舌や頬、唇や顎、額や瞼、乳首を中心に円状に左右七箇所、
掌、腕、腋の下、ヘソの穴、恥骨、太ももには一周する様に左右そ
れぞれ六箇所、膝、足の甲、足の裏。
セリスの全身に、男達が触れるであろう全ての箇所に、ゴダンは﹃
弱点﹄を刻み込んだ。
﹁あっ⋮⋮んいきひぃぃぃぃん﹂
どこかが地面に当たっただけで、セリスは無様な声を上げて潮を噴
く。
ゴダンは自分の作業の出来に満足し、そこでようやく本来の穏やか
な雰囲気を取り戻した。
﹁セリス様。それで良いのです。これもまた、私からの心遣いなの
ですよ? 貴女はこれから九十年もの間ここで延々とセックスを続
ける事になるのです。飽きたり、慣れたり、感じる事を忘れてしま
っては、それは男女ともに悲しい事です。ですのでセリス様、私か
らの手向けです。どうぞその刻印に導かれるまま、イキ続けて下さ
い。そうすれば貴女を抱きに貴重な一秒を使いに来た男達も報われ
1418
るというものです﹂
膣内に残留した精液、零れ出る涎などが﹃弱点﹄に触れ、無様にイ
キ顔を晒すセリスへと、ゴダンは笑いかける。
﹁それではセリス様、またお会いしましょう。私にとっては三日後、
貴女にとっては九十年後。どうか、お元気で﹂
そしてそのまま禿頭の魔導士は、天幕から退出して行った。
﹁あわっ!﹂
ゴダンが天幕から顔を出すと、先ほど順番を譲った男が鼻に指を入
れて穿り回しているところだった。
﹁お待たせしましたね。どうぞ﹂
ゴダンがにこやかに言うと、
﹁いえ、全然待ってないです。一秒くらいでしたし﹂
わたわたと手を振りながら、男は慌てて礼をし、天幕へと飛び込ん
で行った。
﹁さて、私にはまだまだ仕事が残っていますからね﹂
ゴダンがのんびりと一歩を踏み込んだ時、
﹁ふぃぃぃぃスッキリしたぁぁぁ。あのセリス様を三時間もじっく
り好きに出来るんだからよぉ。それに俺の短小チンポでもアンアン
イキまくってくれて⋮⋮もう一回くらい⋮⋮ヤりてぇなぁ⋮⋮﹂
天幕の入り口が開き、一秒の凌辱を終え、先ほどの男が出て来て感
想を一人呟いていた。
ゴダンは耳聡くそれを聞き、少しだけ頬の筋肉を動かした。
そのままニヤつきながら、ゆっくりと歩を進めるゴダンに、
﹁あ、ゴダン様。もーう収拾がつきませんよ、こんな人数。列の消
化が早いって言っても、既に三万人待ちですよ?﹂
朝方声を掛けて来た若い宮廷魔導士が困り顔でボヤいた。
﹁あー⋮⋮それなのですが、君﹂
ゴダンは魔導士を見ながら、穏やかな笑みを見せる。
1419
﹁私自身ちょっと民の声を聴いたのですが、この催しに喜んでいる
ようですので、﹃希望者は何度でも利用可﹄と触書に明記しておい
てくれませんか?﹂
セリスが天幕から解放されたのは、﹃外﹄の時間で一週間後の事だ
った。
英雄の覚悟
マリューゾワは寝台の傍に立ちながら、手にした石を眺めていた。
宛がわれた部屋で就寝の用意を整えた彼女の服装は、襟袖無しのシ
ャツに黒のショーツだけ、というラフな物だった。
﹁忘却の輝石か⋮⋮ふむ﹂
今日の浴場での会議の終わり、脱衣所で一足早く上がっていたシャ
スラハール王子から相談を持ちかけられた。
その場にはルルが居て、どちらかと言えばマリューゾワが添え物の
ような扱いだった。
シャスラハール王子はアン・ミサから授かった魔法道具の性能につ
いての相談を、魔法の専門家であるルルに対して行っていたのだ。
ルルが手渡された石を眺め、その魔力を探り、問題が無い事を確認
する。
そしてその効能に対しても保証した。
﹁嫌な記憶を消す⋮⋮か﹂
どの記憶が呼び覚まされるかは、完全に運と言う事だった。
1420
使用回数に制限が有り、何度も使えるものでは無い貴重な物。
それが何故この場所に有るのか。
﹁アイツらめ⋮⋮﹂
マリューゾワは苦笑する。
ルルがシャスラハール王子へと石を返そうとした時に、
ロニアとシロエが話に割り込んで来た。
そうしてシャスラハール王子に対し、誰に石を渡すのかと問えば、
彼はまだそれが決まっていない、そう答えていた。
そこで、
﹃ではマリューゾワに渡してはくれない?﹄
ルルがそんな事を言い、
﹃そうだね、平気な顔してるけど、マリューゾワってプライド高い
し、結構色んな事気にしてそう﹄
ロニアが続け、
﹃それにマリューゾワならば魔力に精通していますし、効果を体験
してからの説明や解説も可能でしょう﹄
シロエが結んだ。
そうして、抵抗するマリューゾワに無理矢理石を握らせ、その場は
解散となった。
後に残されたのはマリューゾワとこの石。
﹁使わないわけにはいかないか⋮⋮明日解説をしなければならない
しな﹂
そう言って、マリューゾワは﹃忘却の輝石﹄を枕元に置き、眠りへ
と落ちて行った。
﹁おほほほう! これは見事! 見事じゃ!﹂
髭をパタパタと揺らしながら、猫顔の魔物は喜色の浮いた声を上げ
た。
﹁全て、領主様に献上いたします﹂
1421
その隣で恭しく頭を下げている同じく猫顔の男に、彼女達は買われ
た。
﹁下郎⋮⋮死にたくなければ、私を今すぐに解放しろ﹂
それらを鋭利な瞳で睨みつける女が居る。
両腕を後ろに、そして両足を折り曲げた状態で腰の高さで縛り上げ
られている。
そして何より、身に着けている物は彼女を縛るその縄だけ。
総身の肌が晒されている。
胸は強調する様に縄に圧迫され、大股開きになっている陰唇は誰の
目にもくっきりとしていて隠されていない。
その様な惨めな姿で有りながら、その女の声は苛烈を極めた。
﹁私を誰だと思っている? ロクサスの盟主、テハイネの王、﹃魔
剣大公﹄。このマリューゾワをあまり怒らせるな、死を以って贖わ
せるぞ﹂
親鬼にオナホとして売られ、猫商人に連れられて天兵の里から遠く
離れたこの地へと連れて来られた。
﹁わたくし達には成すべき事があるのです! 一秒でも早くあの里
へ戻る為に、お前達の命は見逃して差し上げます。だから縄を解き
なさい!﹂
マリューゾワの隣では、同じく猫商人に買われた聖騎士ヴェナが同
様の拘束を受けて転がされており、更には数人の羽根落ちの女性も
すぐ近くに並べられていた。
﹁うむ⋮⋮うむ。威勢が良いのも良いのぅ。そちの目利き、見事じ
ゃ﹂
領主と呼ばれた男はそう言って、商人へと声を掛ける。
﹁商人としての最低限の教養を見せたまででございます﹂
更に深く、商人は礼を取った。
そこで、領主は手を叩く。
﹁これ、皆の者。このオナホ達をワシの寝室へ運べ。今夜はオナホ
を並べてその上で眠るとしよう﹂
1422
扉を開けて中へ入って来た領主の部下達の手によって、マリューゾ
ワ達は抵抗できないまま運び出され、
﹁ヌホホホ。全てのオナホを一番最初に使えるのは、領主の特権だ
のう﹂
領主の私室の床にオナホ同士を密着させて並べ、領主はその上で目
に付いた膣口にチンポを挿入し、手近に有った乳房を揉みしだきな
がら、一晩悦に浸っていた。
﹁くっ⋮⋮何としても、ここを脱出して⋮⋮アン・ミサの元へ戻ら
ねば!﹂
全員の肉穴を味わい、何度か射精を繰り返し力尽きて眠りに落ちた
領主の頭が、マリューゾワの陰唇に乗っている。
四肢を拘束された状態では、自分に打つ手は無い。
何とかしてこの拘束から逃れなくては、そう思うが、
﹁機を見るしかない⋮⋮くそっ﹂
夢の国の住人となった領主が寝顔を股間に押し付けて来るのを不快
に感じながら、マリューゾワの猫の里第一夜は過ぎて行った。
次の日は、延々続く輪姦だった。
﹁ほぉれ! そっちの者! チンポが空いて居るのならそのマンコ
に突っ込むのじゃ﹂
領主の性癖は特殊だった。
実際にセックスを行う事も好むが、何より自分の手に入れた女が自
分の知る者に犯されている姿を見る事に、異常なまでの興奮を示し
ていた。
マリューゾワとヴェナは領主の部下や私兵を相手に休む間も無く肉
穴を提供させられ、玩具の様に扱われ続けた。
それでも、両者の瞳から光は消えない。
同様の扱いを受けていた羽根落ち達がグッタリして無言で肉オナホ
を務めているのに対して、
1423
﹁んひっ⋮⋮貴様の顔、憶えて置こう。殺す時に間違えてしまって
は大変だからな!﹂
マリューゾワ達は凌辱者達を睨みつけ、己の矜持を示し続けていた。
その次の日は、器具を使っての調教だった。
自力で立つ事の出来ない肉オナホであるマリューゾワとヴェナを、
床から生えた二本の魔導バイブを支えにして立たせ、最大駆動でそ
の前後の穴を全自動で穿り回させ、領主達は羽根落ちオナホを抱え
てマリューゾワ達がギブアップするのを愉しげに待っていた。
しかし、どれだけ肉穴を強制的に広げられても、肛門が裂けるほど
に圧迫されても、魔剣大公は屈しない。
隣で耐え続ける聖騎士と共に、猫達を睨みつける。
﹁いま、だけだぞ⋮⋮今だけだ⋮⋮そうして笑っていられるのはな
⋮⋮んぐぅぅ! 帰還の手土産に、貴様らの首を全て天兵の里へ持
ち帰ってやる!﹂
マリューゾワは喘ぎ声を押し殺しながら、口から垂れる涎と共に、
力強い言葉を放った。
その次の日、連日の凌辱でも中々屈さない二人に業を煮やした領主
と、彼の機嫌を慮った商人の手により、催淫マタタビが用意された。
その名称と効果を、商人はたっぷり時間を掛けてオナホ達へと教え
込んでいく。
﹁一度皮膚に触れれば、もう正気は保てない⋮⋮か﹂
﹁それが触れた瞬間、以降は一生肉便器として生きる事が決定され
る⋮⋮ですか﹂
マリューゾワとヴェナは、商人を睨みつける。
﹁生憎と⋮⋮その手の煽りにはゼオムントで慣れていてな。悪いが
子供が作ったような脅しに屈する程私達は愚かでは無いのだよ﹂
1424
﹁その通りですね﹂
力強く、商人へと言い放った。
その言葉を聞き、商人は領主へと振り返る。
領主が頷き、商人は薬品の瓶を開けた。
里の者に押さえつけられるオナホ達の陰唇に、丁寧に薬を塗り込ん
でいく商人。
マリューゾワとヴェナは不快気にその手つきを味わいながら、
﹁ふん⋮⋮そんなくす⋮⋮り⋮⋮﹂
体内を、熱が暴れ回った。
陰唇から始まり、性器を通ってより内側へと、体の根幹へと悪魔の
囁きが侵入してくる。
﹃気持ち良くなりたい、チンポが欲しい。何か恥ずかしい事がした
い、もっとたくさんの人に見て欲しい﹄
脳をドロドロに溶かしてしまうかの様な欲求が、爆発的にマリュー
ゾワへと襲い掛かって来た。
隣を見れば、ヴェナもまた同種の衝撃に襲われ、額から汗を垂らし
ていた。
二人の後ろでは、羽根落ちの娘達が狂った嬌声を上げ、自分達を抑
え込む猫達に迫っていた。
﹁ねぇ! 触って! オマンコをたくさん引っ掻いて!﹂
﹁何でも良いの! チンポでも指でも、その剣でも良いわ! あ、
でもやっぱりザーメンも欲しいからチンポにして! 私のマンコに
チンポを頂戴!﹂
催淫マタタビの効果は、本物だった。
たった一塗りで、羽根落ち達は人格を失ってしまった。
そして自分達も、未曽有の欲求に脳を支配されかけている。
﹁どうだ? これからは大人しくチンポが大好きな雌猫になれるっ
ていうのなら、その縄を解いてやろう﹂
商人が下品な笑みで問うて来る。
﹁馬鹿⋮⋮な⋮⋮私を誰だと⋮⋮﹂
1425
冷や汗を掻きながら、マリューゾワは震える言葉を紡ぎ出す。
﹁そうか、それは残念だな﹂
そう言って商人は、手を深くマリューゾワの体の下へと潜り込ませ
る。
﹁ならもう一塗り、やっておこう﹂
﹁やめっ︱︱﹂
肛門に沁み広がらせる様に、催淫マタタビは押し付けられた。
﹁あがっ⋮⋮あっ⋮⋮ああ⋮⋮﹂
プシュ︱︱。
特別な衝撃を与えられても居ないはずなのに、マリューゾワの股間
から愛液が迸った。
隣で肛門を弄られているヴェナも、舌を突き出して恐怖にあえいで
いる。
自分を失う恐怖にだ。
﹁まだかね? その薬は本当に効くのだろうね?﹂
作業を見守る領主から、疑問の声が上がる。
それを受けて商人は卑屈な笑みを浮かべ、
﹁は、はい! 少々お待ちください!﹂
今度は掬い取った薬液を、マリューゾワの乳首を抓んで塗り込んで
くる。
﹁はひっ⋮⋮いやっ⋮⋮なっ⋮⋮くっ⋮⋮よせぇぇぇ﹂
消えかけの自我で、商人を睨みつける。
﹁い、いい加減に陥ちろよ! しつこいんだよ! どうせもう肉便
器以外の未来何て無いんだから諦めろよ!﹂
少し怯えを孕んだ声で商人は喚き、ヴェナの乳房にも催淫マタタビ
を塗りつける。
﹁うぐぅ! あ、ああああ⋮⋮殿下、殿下ぁ⋮⋮﹂
聖騎士は歯を食いしばり、押し寄せる快感に耐え抜こうとしていた。
﹁こ、これで最後だ⋮⋮良いな? しっかり陥ちろよ﹂
そう言って、商人は薬瓶を深く傾け、薬液を全て手に載せる。
1426
﹁無駄な抵抗なんてしてんじゃねぇよ。ただのチンポ入れられるだ
けの穴の癖に。生意気なんだよ、お前ら﹂
マリューゾワとヴェナの唇に、催淫マタタビの味が広がった。
甘く蕩ける様な、味わい。
その味と匂いを感じていると、激しい欲求に襲われた。
﹃チンポが欲しい! 欲しい! 欲しい! 誰のでも良いから! チンポが欲しい!﹄
マリューゾワは血走った目で、自分を抑え込んでいる男を見た。
男の股間が勃起している。
それと一つになりたい。
それに滅茶苦茶にされた。
ズボズボのグチョグチョにされればきっと、自分はこれまでの生で
感じたどんな幸福よりも満たされるだろう。
脳内に閃光が煌めき、人格が弾け飛びそうになる。
しかし、
﹁痴れ⋮⋮者⋮⋮がぁ﹂
魔剣大公マリューゾワは英雄である。
ロクサスの民を導き、ゼオムントへと抗った英傑だ。
﹁殿⋮⋮下﹂
その隣で、聖騎士ヴェナもまだ耐えていた。
それを見て、
﹁ば、馬鹿な⋮⋮薬はもう⋮⋮﹂
﹁君、失敗したのかね?﹂
動揺する商人の背中に、領主の声が掛かる。
商人は大慌てで首を振り、
﹁す、少しだけ計算と違っていまして、だ、大丈夫です! 今から
薬屋の友人に頼みもう一つ同じ物を持ってきます。ですので! 今
しばらく猶予を下さい!﹂
その言葉を残し、商人は猛然と走って領主の館を飛び出して行った。
残されたマリューゾワは、止めどなく愛液を零し、汗を掻き、視線
1427
を男達の股間に這わせながら、
﹁聖⋮⋮騎士⋮⋮殿﹂
隣を見た。
同じ様に苦しみに耐えていたヴェナが、蒼白な顔でマリューゾワを
見返す。
それに対して、マリューゾワは顎を動かし、無言で頷いた。
諦めでは無い。
覚悟だ。
自分と言う人格を守る為に、一度それを捨てる。
受け入れる。
未来の為に。
大望を抱く英傑だからこそ、覚悟を決めて受け入れる。
聖騎士ヴェナは、応じた。
瞳を閉じて、頷いたのだ。
そこに、
﹁りょ、領主様! お待たせ致しました! 薬を、新たな薬を用意
して参りました!﹂
商人は息も切れ切れにそう言うと、薬の蓋を外しながら二人へと歩
み寄ってくる。
それを、マリューゾワは睨みつけるのではなく、
﹁⋮⋮にゃあ﹂
トロけた表情で、甘い声を放った。
﹁うにゃあ⋮⋮﹂
ヴェナもまた、マリューゾワに続いて声を上げる。
それを聞き、領主は手を叩いて立ちあがった。
﹁見事! 見事じゃ! あの強情なオナホを雌猫へと変えよった!
その薬は本物だったのじゃな!﹂
呆然としている商人はその言葉を聞き、
﹁は、はい! もちろんで御座います領主様!﹂
薬の缶を胸元に仕舞い込みながら、笑顔で頷いた。
1428
この日、
理性と情欲の断崖で、二匹の雌猫が鳴き声を上げた。
﹁よーししっかりお食べ!﹂
﹁にゃんにゃん!﹂
マリューゾワは目の前に置かれたペット用の餌皿に顔を寄せた。
残飯をかき混ぜた物に、白い液体が掛かっている。
生臭いソレは、今のマリューゾワにとってはご褒美に他ならなかっ
た。
﹁にゃー!﹂
笑顔で叫んでから、餌へと貪りつく魔剣大公。
残飯に掛けられた精液は、今朝方マリューゾワの膣内から掻き出さ
れた物だ。
それを啜り、残飯と一緒の咀嚼しながら飲み込んでいく。
﹁よーしよしよし! 旨いか?﹂
﹁んにゃぁ! にゃあ﹂
頭を撫でて来る領主の屋敷の使用人に満面の笑みで頷きながら、食
事を続けるマリューゾワ。
その体はオナホの時の様に縄で彩られておらず、銀色の首輪が輝い
ているだけだった。
全裸。
あれから数日が経ったが、マリューゾワは一度も衣類を身に着けて
はいない。
雌猫に、そのような物は必要ないのだ。
お尻をフリフリと動かしながら餌を貪るマリューゾワに、
使用人はゴクリ、と喉を鳴らして。
﹁チッ、まだ仕事が残ってるって言うのに⋮⋮お前が誘惑するから
いけないんだぜ?﹂
徐に肉棒を取り出すと、マリューゾワの背後に回り込んでその先端
1429
を花弁へと合わせた。
﹁にゃん? にゃんにゃん! にゃ∼ん﹂
喜色を浮かべて振り返るマリューゾワの尻を一つ叩きながら、
﹁良いからお前は餌食ってろ! 手っ取り早く済ませる!﹂
雌猫の腰を掴んで固定し、勢いよくその膣へと肉棒を叩き込んだ。
﹁はにゃん! にゃあああん﹂
餌皿に顔を突っ込みながら、マリューゾワは甘い声を漏らす。
﹁かーぬるぬるだ! お前もしかしたら餌の前にどっかで誰かとヤ
って来ただろう? 誰だ? 領主様か? 私兵の人達か? それと
もまた勝手に街に出て浮浪者とセックスして来たんじゃないだろう
な?﹂
マリューゾワのマンコをバチュバチュと犯しながら、使用人はぼや
く。
﹁にゃん? んにゃんにゃん﹂
﹁何言ってるかわかんねぇよ。まぁ良いや、どうせ毎度の事だし。
とりあえずさっさと出そう﹂
そう言って、使用人はマリューゾワの長く美しい黒髪を掴み、それ
を使って膣をチンポへと押し付ける。
﹁にゃうぅぅん。んにゃにゃ﹂
﹁おし! 出るぜぇぇぇ。下の口でもしっかり餌を食いな!﹂
口の周りを精子塗れにしたマリューゾワがのけ反ると、使用人はさ
らに激しく腰を打ち付け、そのまま魔剣大公の膣内に猫精子を解き
放った。
﹁あにゃふぅぅぅぅぅん﹂
マリューゾワは痙攣しながら白濁を受け止め、満足げに息を吐いた。
そこに、英雄としての彼女の面影はない。
雌猫へと陥ちたマリューゾワが、本来の自我を保てるのは一日の内
に一時間程度でしかない。
それ以外の時間は、ただひたすらセックスと精子の味を求めて歩き
回る雌猫として飼われていた。
1430
﹁うーい⋮⋮って何だよ。今ヤってたのかよ﹂
そこに、別の使用人が雑巾とバケツを抱えてやって来た。
﹁おう。出したばっかりだが、お前もコイツにチンポをくれてやる
か?﹂
﹁にゃん? にゃぅん!﹂
チンポという言葉に反応したマリューゾワへ蔑みの視線を送りなが
ら、
﹁いや、良い。もう一匹の方に今さっきお仕置きして来たばっかり
でな﹂
新たにやって来た使用人は吐息した。
﹁ほう、アイツは何をやらかした?﹂
﹁いつも通りだよ。マンコにドアノブをぶち込んで遊んでやがった
! アイツのせいで俺はここのところ毎日全部の部屋のドアノブか
らマン汁を拭いさるのが仕事になってやがる﹂
ボヤく男は、続け、
﹁だからよぉ、ドアノブよりもチンポの方がずっと気持ち良いぞっ
て事で、とりあえずチンポ突っ込んで膣内出しして、その後は私兵
の人達の詰所の前に放置してきた。今頃はたっぷりチンポの良さを
叩き込まれてる頃だろうよ﹂
そう言って、せせら笑った。
その時、マリューゾワは空にした餌皿から顔を上げ、四足で優雅に
歩き始めた。
﹁お、おい! どこへ行く﹂
先ほどマリューゾワを犯したばかりの男がチンポを仕舞いながら言
うが、雌猫は何も答えない。
のしのしと歩き去る方角を見て、ボヤいていた男が呆れた声を上げ
る。
﹁ありゃあ私兵詰所の方角だな⋮⋮﹂
﹁チンポが欲しくて自分もそっちにってか⋮⋮まったく、猫っての
は勝手な奴だねぇ﹂
1431
注がれたばかりの精液を膣口から垂らしながら、雌猫マリューゾワ
は、新たなチンポを求めて気まぐれに旅立った。
翌朝目が醒めて、マリューゾワは右手で顔を覆った。
ベッドに乗ったまま、上半身だけ起き上がらせて、その姿勢で固ま
って居る。
﹁⋮⋮見たく⋮⋮無かったな﹂
この副作用についても、昨晩の内に説明はされていた。
記憶を消し去る前に、一度鮮明に全てを思い出す。
肌の感触も、与えられた罵詈雑言がもたらした心の痛みも、何もか
もが現実だった。
黒のショーツからはおびただしい量の愛液が零れ、シーツを濡らし
ていた。
マリューゾワは膝を抱え、そこに顔を押し付ける。
﹁私もまだまだだな⋮⋮こんな事くらいで動けなくなっていては⋮
⋮この先戦えないぞ⋮⋮﹂
震える自分の体を、自分の声で励まそうとする。
しかし、その声すらも震えていた場合には、効果など期待できるは
ずもない。
﹁うくっ⋮⋮﹂
不意に流れ落ちた涙を、マリューゾワは堪える事が出来なかった。
体を強く抱きしめ、必死に悪寒に耐え続ける。
その時、視界の片隅に輝きが見て取れた。
﹃忘却の輝石﹄が、悪夢の消去を実行している。
光はかなりの速度で点滅を繰り返し、消去の時が近い事を知らせて
いる。
マリューゾワはそれを見て、今し方味わった悪夢を思い出し、更に
強く体を抱いた。
﹁忘れたい⋮⋮忘れたい⋮⋮!﹂
1432
だが︱︱
﹃お姉ちゃん、また会おうね﹄
脳裏に別の記憶が咲いた。
自分の従妹であり、姉妹領を治める事になった少女の笑顔。
本当は脆く弱い筈なのに、誰よりも努力し、強くなろうとした少女
の笑顔。
﹁アルヴァ⋮⋮﹂
猫の里で別れる際に、他に誰も居ない事を確認してから言われた言
葉。
普段は領主としての威厳を出そうと、堅い言葉を意識して使ってい
る少女の、素の言葉。
アルヴァレンシアは今、ゼオムントに囚われているという公算が高
い。
ならばそこでどのような扱いを受けているか、想像が出来ないわけ
がない。
自分の悪夢よりも、もっとひどい目に遭っているかも知れない。
マリューゾワは手を伸ばし、﹃忘却の輝石﹄を掴んだ。
﹁忘れない⋮⋮私はお前を、お前達を助けるまでは、何一つ忘れな
い。改めて覚悟が定まった。それだけは感謝している。この石の力
は⋮⋮本物だ﹂
﹃忘却の輝石﹄が放つ光を受け取り、悪夢を自分の内側に戻しなが
ら、マリューゾワはベッドから立ち上がった。
1433
三年の遅れ / 英雄の覚悟︵後書き︶
私の計算力は現在のセリスのマ〇コくらいガバガバなので、彼女が
どのくらい酷い目に遭うかと言う数字は限りなくアバウトです。ご
容赦ください。
第二回マリューゾワはこの様な感じになりました。
にゃんにゃんしてる魔剣大公を書くのは楽しかったです。
第三回につきまして、まだまだアンケートをお受けしています。
このままシャロンとルルのどちらか⋮⋮または後続二人の追撃⋮⋮
はたまた奇跡のメインヒロイン大逆転など、私の妄想は限りなく広
がっています。
投票結果に関しましては、6/14︵土︶までに頂けた票をこれま
での物と累計し、最終確定とさせて頂き、6/15︵日︶に活動報
告で結果をお知らせします。
気になった方は投票して頂けると嬉しいです。詳細などは二つ前の
更新の後書きに詳しく書いてあると思います。
ちなみに、現在の最多個人得票は9−aアルヴァレンシアです。
それでは、投票して下さった皆様お読み下さった皆様、有難うござ
います。
1434
裸の騎士 / サバルカン︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1435
裸の騎士 / サバルカン
裸の騎士
この日は晴天で、真冬の気配が訪れている西域の地でも防寒着を必
要としない程度には暖かな一日だった。
かと言って、肌を好んで肌を晒そうという者はそういないだろう。
屋内ならまだしも、野外でとなると尚更だ。
﹁ちゅ⋮⋮くちゅ⋮⋮じゅぱ⋮⋮﹂
﹁あぁっ! くっ⋮⋮セナさん⋮⋮﹂
故に、この二人がおかしいのだ。
衣服を全て脱ぎ捨て、風が通る空の下、絡み合う一対の男女。
スピアカントの王子シャスラハールと、リーベルラントの騎士セナ。
壁を背にして座るシャスラハールの股座に顔を埋めたセナは、両手
と口で王子の肉棒を優しく刺激し続けていた。
﹁いつでもイッて良いよ。シャス⋮⋮﹂
幸福な吐息を零しながら、騎士は甘えた声を放つ。
﹁うんっ⋮⋮﹂
余裕を失った少年は喉をのけ反らせてこみ上げる射精感と向かい合
う。
騎士の舌技は彼女が望まない理由で鍛えられ、妙技と言っていいほ
どの物だった。
鈴口に舌を合わせたかと思えば、優しく内頬に押し付ける様に誘導
し、擦りつけて行く。
﹁出るよ!﹂
妙技に追い詰められ、少年は腰を跳ねさせて騎士の口内に吐精した。
﹁んっ⋮⋮んむむ﹂
1436
吐き出される精液を全て受け止め、口腔にそれを溜めた状態で騎士
は少しだけ腰を上げた。
そして柔らかな手つきで少年の体を押し、屋根へと寝ころばせて行
く。
この二人が今居る場所。
少年が寝ころび、その上に騎士が跨る場所。
そこは、天兵の里の中央にある宮殿の屋根の上。
日差しが燦々と照る下で、シャスラハールとセナは長時間性交を続
けていた。
事の始まりはセナからの誘いだった。
魔導機兵の訓練や各種装備の生産等人間達にはやる事が多く、また
天使達の方でも降臨祭へ向けての準備が佳境を迎えて来た為、定例
の大浴場会議を除けば皆が己のやる事のみに忙殺されている毎日の
中、セナはようやく半日の休みを得た。
ここ数日ずっと働き詰めで疲労が溜まっていた事も有り、ステアの
提案でリーベルラント組は一度交代で半休を取り羽根を伸ばす事に
なったのだ。
最初はシャロンが、次にフレアが休み、そしてステアに促される形
でセナも休日を得た。
だがそこで、セナは少しだけ呆然としてしまった。
休日を得たと言っても、自分は何をしたら良いのか。
この異境の地で、馴染みの有る場所も無く、親しい友人達は働いて
いて空いていない。
シャロンに何をしていたかを聞けば、アン・ミサから貰った本を読
んでいたと答えを貰い。
フレアに何をしていたかを聞けば、大浴場で溶ける程湯を浴び、後
はずっと眠っていたと答えを貰った。
セナの行動的な気質にはそのどちらも合ってはいない。
1437
それゆえ彼女は悩みに悩んだ末、
遥か昔の記憶を頼りに台所に立ってみる事にした。
リーベルラントで暮らしていた頃は、家族と別れて軍籍に身を置い
ていた事も有り、よく自炊をしていたのだ。
戦が激しくなってきた頃からはその機会が減り、公娼になってから
は一度も調理器具には触れていなかった。
少し感慨じみた事を思いながら、セナは宮殿内の厨房を借りて手慰
みに料理を作った。
ブランクも有り会心の出来とは言えない物だったが、食べる分には
問題無い。
そういう軽食が完成した。
後はこれを持って、どこか陽の下で食事をしよう。
昔を懐かしみながら穏やかな休日を味わって、そして明日からも一
生懸命働こう。
宮仕えの羽根落ちから皮の水筒を貰い、料理とそれを持って陽のあ
たる場所を探した。
宮殿の外では降臨祭の準備で天使や羽根落ちが慌ただしく働いてい
て、そんな中で休暇を味わう事は難しい。
ならばと宮殿内の中庭に向かってみれば、そこでは何やら彫刻作業
を行う智天使と魔天使の姿が有り、彼女達の真剣な表情に弁当片手
では割って入る事が出来ず、踵を返す事になった。
そうして当ても無くブラブラしていると、
﹁セナさん?﹂
廊下の曲がり角でシャスラハールと出会った。
そこでセナはふと思い出した。
少し前に、この少年と約束していた事を。
あまりの忙しさに忘れてしまっていたが、今ならば丁度良い。
﹁ねぇシャス、デートしよっか﹂
1438
そうして、二人がやって来たのがこの場所。
﹁前にラクシェがハイネア様とリセさんを案内した場所みたいで、
この天兵の里で最も景色が良い場所らしいですよ﹂
宮殿の最上階である四階にある執務室の傍の通路を折れ、バルコニ
ーに設置された梯子を伝って進むと、人が十人程度はゆうにくつろ
げる程度の屋上空間が有った。
﹁へぇ。確かに良い場所ね﹂
気持ちの良い風が吹いており、眼下には町の景色と自然が広がって
いた。
﹁のんびりするなら、こういう場所が良いですよね﹂
ニコニコしながら言うシャスラハールに、セナはしっとり頷いた。
﹁そうね﹂
そして二人少し距離を取って屋根に腰を落ち着けた。
﹁お弁当、食べる?﹂
﹁え、良いんですか?﹂
セナの問いに、シャスラハールが驚きの声を上げる。
﹁リセの料理みたいに美味しくないだろうけど、食べられない事は
無いと思うし⋮⋮﹂
僅かに頬を赤らめながら、セナは料理の入った包みを持ち上げる。
﹁セナさんの料理⋮⋮食べたいです﹂
真剣な表情で言ってくるシャスラハールから顔を逸らしながら、セ
ナは包みを開けて行く。
その途中、
﹁そう言えばさ、アンタは暇なわけ?﹂
ふとした事に気づき、セナはシャスラハールを見やる。
﹁え? あぁ僕はですね⋮⋮やれる事も限られていたのでルル達と
一緒に教会で慈善活動をしていたんですけど﹂
アン・ミサの庇護下に有るとは言え、その領民達と上手く付き合っ
て行くのもシャスラハール達の務めだった。
直接の戦闘力を持たないルルとユキリス、アミュスの修道女組にハ
1439
イネアとリセが加わり、炊き出しや生活の支援を行っていたのだ。
シャスラハールもそれに参加し、戦争準備に明け暮れるステアやマ
リューゾワ達を影から支えていた。
﹁今日は休みです。まぁ僕が休みだったとしても、誰も気づかない
かも知れませんけどね﹂
ルル達修道女は人々の悩みを聞き、それに対して真摯な答えを返し
て苦痛を和らげていく。
ハイネアとリセは女中達と共に炊き出し部隊を創設し、ラクシェと
言う絶対の監視者の下で列を形成して貧しい者達に食事の世話を行
っていた。
シャスラハールに出来る事と言えば、女中達が作った料理を皿に盛
って配る程度の事だけだった。
それを思いだし、自嘲気味に笑った。
﹁良いんじゃない? アンタは大きな事考えすぎなのよ。まずは地
に足付けて出来る事から始めなさいよ﹂
セナはそんなシャスラハールに声を掛けながら、包みを解く作業を
再開させる。
﹁え?﹂
﹁大切な事じゃない。料理はお皿に盛られてから初めて人に食べて
もらえるの。リセがいくら美味しく作ったって、アンタがテキトー
に皿に盛ったらそれで台無し。だからアンタは料理を作ったリセの
為に、美味しいご飯が食べたい皆の為に、一心不乱に盛りつけなさ
いよ。飯盛り王子、良いじゃない﹂
セナは笑みを浮かべながら言葉を続ける。
﹁アタシはアンタには、そういう王様になって貰いたいな。国民の
為にご飯がよそえる様な王様に、その時はアタシが料理してあげる
からさ﹂
そう言って、セナは米粒の塊をシャスラハールへと差し出した。
﹁ん。具は色々入れてあるから、どれがどれだかわかんないのよ﹂
セナの手元を見れば、似た形の米の塊が十個近く収められた箱が有
1440
った。
﹁セナさん、おにぎりだったら飯盛り王子の出番が無くなっちゃい
ますよ⋮⋮頂きます﹂
シャスラハールはすっきりとした笑みを見せながら、セナからおに
ぎりを一つ受け取った。
そうして二人、もしゃもしゃとおにぎりを咀嚼しながら雲が流れて
行くのをじっと見つめる。
特別な会話は無く、おにぎりの味の報告と、水筒の受け渡しの合図
だけが二人の間には有った。
そうして食事を終え、ぼんやりとした時間が流れだした頃、
﹁今度は、アタシの番ね⋮⋮﹂
セナが少しだけ硬い声で言った。
﹁⋮⋮はい﹂
シャスラハールは穏やかな声で応じた。
そして、僅かな沈黙。
﹁セリス様⋮⋮わかる?﹂
﹁はい、セナさん達の祖国の⋮⋮英雄ですよね﹂
シャスラハールが一度マルウスの里でセリスを目撃した時、彼女は
敵だった。
敵として立ちはだかり、セナやユキリス、シュトラ達を連れ去った
存在。
それが、リーベルラントの軍神セリス。
﹁あの人はね⋮⋮ずっと一人で戦っていたの、ゼオムントと。その
方法がアタシ達に対する裏切りになったとしても、敵対する事を覚
悟して戦い続けていたの﹂
ゼオムントの王子リトリロイに取り入り、内部からゼオムントを分
断し崩壊させる。
それがセリスの歩んだ道であり、その道を進む為にはかつての仲間
達を見捨てる以外に方法は無かった。
﹁復讐の鬼として、心を殺して戦っていた。けど⋮⋮最後の最後で、
1441
あの人はアタシの知っている騎士団長に戻ってしまったの﹂
リトリロイを逃がす為、その理由ももちろん有ったのだろうが、セ
リスはセナと最後に見つめ合った時、懐かしい気配を放っていた。
﹁アタシ達を守る為に、騎士団長はゼオムントに戦いを挑んだ。そ
して⋮⋮﹂
セリスが捕らえられた事は、ラクシェの報告から判明している。
リトリロイの庇護が有った事で守られていた彼女の体は、恐らく今
頃︱︱
﹁アタシは助けたい。騎士団長を助けたい。あの人の事を許せない
人は多いかも知れないけど、それでもアタシはあの人を助けたい⋮
⋮﹂
ステアの問題が一段落してからは、セナはずっとその事に悩み続け
ていた。
﹁ねぇシャス⋮⋮﹂
セナは弱い瞳で隣を見つめる。
﹁アタシのやる事を見守っていて。例え他の誰かに何を言われたと
しても、どんな困難が有ったとしても、シャスが見ていてくれれば、
王が背中を支えてくれていれば、アタシは迷わない。ゼオムントを
倒しセリス様を助け出す。それが出来る﹂
か細い声で紡がれる言葉に、シャスラハールは頷いた。
その両手で騎士の肩を掴み、王の声を放つ。
﹁⋮⋮はい。僕が全てを見届けます。責任の全てをこの身で背負い
ます。ですからセナさん、僕の元へセリスさんを連れて来て下さい。
僕の騎士を守ってくれた彼女に、感謝の言葉を贈らねばなりません
から﹂
その言葉を受け、セナはこくりと頷いた。
そこから先は、止めようの無い流れだった。
まずは唇が合わさり、徐々に全身が絡み合って行った。
両者共に衣服を脱ぎ捨てて相手の体を肌全体で味わって行く。
真昼間の、太陽の下で裸の男女が睦みあって行く。
1442
射精の度に体位を変え、全てを満たし合う様なセックスに没頭する
二人は、時間の経過に気づかない。
息が切れて来て少し休憩する段になっても、密着したままほんの数
分呼吸を和らげるだけだった。
気が付けば、陽が暮れていた。
セナは壁に手を突いた立バックの姿勢でシャスラハールの肉棒を迎
え入れながら、ぼんやりと霞がかった頭で思い出す。
﹁あれ⋮⋮夜⋮⋮?﹂
何かが有った気がする。
﹁夜⋮⋮だよ﹂
腰を動かす事を止めずにシャスラハールは答え、
﹁次、出すよ⋮⋮﹂
﹁うん⋮⋮来て﹂
そのままセナの腰をホールドし、深く性器同士を結びあわせた。
夜を迎えても尚、二人は繋がり続けた。
屋根を背中にして横になったセナが片足を空へと向けて上げ、その
股間にシャスラハールが潜り込み、挿入する姿勢︱︱松葉崩しの体
位で繋がったまま、互いを求めて口づけを交わしていく。
﹁あは⋮⋮結局一日ずっとセックスしてるね⋮⋮アタシ達﹂
蕩けた表情で言うセナに、
﹁うん⋮⋮前もこういう事が有ったよね⋮⋮あの時は、シャロンさ
ん達に声を掛けられて︱︱﹂
肉棒で膣の感触を確かめながら答えたシャスラハールの声が、止ま
る。
﹁そうね。シャロンやヴェナ様に怒られ︱︱﹂
そこで、セナもまた一瞬の間を空け、
﹁あーっ!﹂
﹁会議!﹂
仲間達の事を口に出した瞬間に、今夜の予定を思い出したのだ。
﹁ま、マズイって!﹂
1443
﹁だ、だよね! ですよね!﹂
性交中には砕けた話し方になっていたシャスラハールも正気に戻り、
再びセナを年上として扱い始める。
﹁うわ、うわわわ﹂
セナは大慌てでシャスラハールの肉棒を引き抜き、泡立つ精液を膣
口から零しながら立ち上がる。
﹁とにかく、急いで大浴場に向かわないと⋮⋮え?﹂
そこで、呆然とした声を放つセナ。
﹁どうしました? 早く服を着て皆の所へ⋮⋮え?﹂
続けてセナの見つめる方向を見て、シャスラハールも驚きの声を放
つ。
そこには空になった弁当の包みと水筒だけが置かれていて、その周
辺に脱ぎ散らかしていたはずの衣服が消えていた。
﹁セ、セナさん⋮⋮。あれ﹂
シャスラハールが震える声で指差す先、見下ろす事が出来る宮殿の
中庭に設置されたアン・ミサとラグラジル合作の巨大な彫像の頭に
セナのパンツが乗っていた。
その周辺にはセナとシャスラハールの服がパラパラと落ちている。
﹁風に飛ばされたって⋮⋮いう事?﹂
﹁たぶん、そうですよね⋮⋮﹂
王と騎士は、異境の地で全裸のまま、屋上に取り残されてしまった。
﹁本当に行くんですか? セナさん﹂
シャスラハールの緊張した声。
﹁⋮⋮シッ。誰かに気づかれたらどうするのよ﹂
セナは厳しい声でそれを止めてから、周囲を警戒する。
二人は今、屋上から梯子で降りて、バルコニーに侵入しこれから宮
殿の内部へと入ろうとしているところだった。
無論、肌を隠す物など何一つない全裸の状態である。
1444
﹁アンタはここに残って居なさい。万が一女中に見つかったら王の
名誉に傷がつく。アタシがアンタの分まで服を回収して来るから﹂
セナはシャスラハールを押しとどめながら言い、
﹁いえ、僕も行き︱︱﹂
﹁駄目。これはアタシとアンタだけの問題じゃない。アンタが無様
を晒したらヴェナ様にも騎士長にも迷惑が掛かる。大丈夫。気配を
消す訓練なら昔やってたから、誰にも見つからないわよ﹂
双乳を揺らしながら決然と言うセナに、シャスラハールはやや躊躇
いながら頷いた。
﹁セナさん⋮⋮ご無事で﹂
祈る様に言うシャスラハールに微笑みかけ、
﹁すぐに戻って来るわ。会議に遅刻するわけにはいかないもの﹂
セナが得た半休の意味は、陽が有る内は休息し夜の会議には出席す
る。
そういう物だった。
ここで会議をすっぽかす様な事をすれば、時間を見つけて休憩を与
えてくれたステア達に向ける顔が無くなってしまう。
そしてセナはシャスラハールの元から離れ、宮殿内に侵入していく。
音と気配を探り、誰も居ない事を確認しながら焦る心を懸命に抑え
て歩みを続ける。
乳房を晒したまま廊下を一つ抜け、
陰唇から残留精液を垂らしながら二つ目の廊下を抜ける。
誰かに見られるかもしれないという恐怖と戦いながらの移動。
その時、
﹁報告は以上であります、アン・ミサ様﹂
﹁宜しい。では天兵連隊は明日より四城門横に作った陣地へと移動
を。荷物の運び出しは今日中に行って下さい﹂
執務室から声が漏れ聞こえて来た。
﹁て、天兵連隊⋮⋮?﹂
魔導機兵に役割を奪われ、市街地の警備などに回されていたはずの
1445
部隊がここに来ている。
それも、彼らは全て男で構成されている。
今のセナが、最も遭遇したくない連中だ。
手を出されるとか、そう言った恐怖は無いが、
﹁まずいわ⋮⋮﹂
シャスラハールが女中に見られてはいけない様に、セナもまた天兵
には見られたくはない。
﹁くっ!﹂
セナは勢い込んで走り出した。
一先ず現状この階の廊下に人の気配は無い。
執務室に数人の天兵とアン・ミサが居るようだが、今なら問題無く
︱︱
﹁⋮⋮﹂
下の階へと続く階段へと到達した瞬間、バッチリ遭遇した。
眼鏡を掛けた天使、裁きを司るユラミルティと。
﹁あっ⋮⋮えっと⋮⋮これは⋮⋮﹂
晒した肌から汗が噴き出るのを感じるセナと、
﹁⋮⋮﹂
階段を登り、無言のまますれ違って行くユラミルティ。
恐らく彼女は執務室のアン・ミサに用が有るのだろう。
﹁⋮⋮貴女がこの里の領民だったら、露出行為は罪ですので私が罰
するところでした﹂
ボソっと呟かれた言葉に、
﹁違うってばあああああああああああああ﹂
セナは喚きながら階段を駆け下りて行った。
三階に到達し、赤い顔で物陰に隠れるセナには迷いが生まれていた。
﹁そろそろ会議の時間ね。行きましょうか﹂
﹁そうですね。今日は戦術についての発表が有るとか﹂
1446
﹁会議は少し退屈ですけどー、マリス的にはたっぷりお風呂に浸か
れて皆一緒だから楽しくて好きですよー﹂
アミュスとヘミネ、そしてマリスが廊下を歩いている。
仲間である彼女達に助けを求めるべきか。
同じく公娼として苦杯をなめ続けて来た彼女達ならば、恥辱に対し
て敏感に共感してくれるかも知れない。
けれど、
﹁アミュス⋮⋮﹂
あの銀髪の魔導士は皮肉屋なところが有り、何より騎士に対して厳
しい毒を平気で吐く女だ。
セナの女としての部分は彼女達に助けを求めるべきだと叫び、騎士
としての部分が誇りに掛けてそれを拒んでいた。
通り過ぎて行く三人の中、ヘミネが眉を寄せ、マリスもまた表情を
変えた。
﹁ネズミ⋮⋮?﹂
﹁もう少し大きい気がしますねー﹂
セナと同様に戦士として一流の者達が、潜んでいる人の気配に気づ
かないはずがない。
﹁何?﹂
アミュスがそれを問うと、
﹁いえ。何でもありませんよ﹂
ヘミネが穏やかに言って、
﹁えーでもでもー⋮⋮ふがっ﹂
騒ぐマリスの口を塞いだ。
﹁ネズミさんにも事情がお有りなのでしょう。この匂いのネズミさ
んならば、問題は有りませんよ﹂
ヘミネはそう言って、肩に巻いていたケープを外して床へと落す。
﹁さ、参りましょうアミュス、マリス。会議に遅れてしまいます﹂
﹁いや、それはそうだけどアンタそのケープ⋮⋮﹂
﹁ふがふが﹂
1447
ヘミネはマリスの口を塞いだままアミュスの手を引き、歩き去って
行った。
それを見送り、セナはようやく物陰から姿を現す。
﹁ヘミネ⋮⋮今度お礼しなくちゃ﹂
ケープを腰に巻きつけながら、双乳を揺らして感激していた。
二階へと降りたセナには目的が有った。
﹁この階なら、アタシ達の部屋が有るし。上半身を隠せる服を手に
入れて⋮⋮﹂
その目算が、バラバラに崩れ去るのにそう時間は掛からなかった。
﹁おーい、この荷物どうする?﹂
﹁持って行ける物は全部持って行こうぜ﹂
﹁左遷された身だ。少しくらい良い思いしたって良いじゃないか﹂
天兵達が不満顔で働いていた。
二階と三階は元々上位の天兵達の私室が有った階で、彼らが追放さ
れた事でセナ達にその部屋が与えられていた。
﹁チッ⋮⋮﹂
セナは物陰に隠れながら思案する。
このままここで天兵達が去るのを待つか、諦めてケープ一枚の状態
で下へと降りるか。
その時、
﹁へっへっへ。お宝ゲットー﹂
一室から老け顔の天兵が飛び出して来て、手にした布を翳していた。
それは、
﹁おぉぉ。良いなソレ、すげぇエロいパンツじゃねぇか⋮⋮﹂
紐下着。
﹁俺は普通のが好きだ﹂
﹁あぁ、それならまだ中にたくさん有ったぜ﹂
そう言って老け顔の天兵が指差した先、彼が飛び出してきた部屋は、
1448
﹁騎士長とフレアの部屋じゃない⋮⋮!﹂
セナは小さな声で憤慨し、彼らを睨みつける。
大浴場へと移動する際に、恐らくフレアがカギをかけ忘れたのだろ
う。
男達はこぞって室内へ侵入し、手に手に下着を抱えて戻って来る。
布面積が狭く紐が多用されている物を好むステアと、尻にピッタリ
フィットする物を好むフレアの下着事情を、セナは良く知っていた。
それを今、男達が両手で抱え、顔を埋めている。
﹁⋮⋮許さない!﹂
セナは覚悟した。
何かを成す為には、何かを失うしかない。
腰に巻いたケープを解き、それを頭にぐるぐると巻く。
片目だけが露出する様に工夫して覆面を作り上げ、それ以外の肌を
全て晒した状態で︱︱
﹁貴様らあああああああああっ!﹂
俊敏な獣の様に飛び出したセナは、瞬く間に一番近くにいた天兵を
殴り倒した。
﹁う、うわああああオッパイが襲い掛かって来た﹂
﹁マンコが! マンコが来るぅぅぅぅ﹂
続けざまの連撃で天兵達を薙ぎ倒し、その手から下着を奪い返すと、
﹁ふ、フレアごめんね⋮⋮後で洗って返すから﹂
フレアの愛用していた緑と白のボーダー柄のパンツを着用し、下半
身に落ち着きを得た。
そして室内に二人分のパンツを戻し、気絶する天兵達の頭を踏みな
がら振り返る。
ステア達の姉妹の部屋とセナとシャロンの合部屋は階段を挟んで反
対側に位置していた。
その場所へと覆面パンツ姿のまま移動し、取っ手に手を掛ける。
ガチャガチャ︱︱
流石にシャロンはフレアとは違い、施錠をしっかりして出て行った
1449
様だ。
﹁くぅ⋮⋮鍵は服と一緒に飛ばされてるし、仕方ないわね、フレア
の服を借りて︱︱﹂
﹁お前達? どうした! 何が有った!﹂
その時、廊下に新たな天兵達の声が響き渡った。
﹁しょ、傷害事件だ! 賊かも知れない。急いでユラミルティ様と
ラクシェ様に連絡を!﹂
騒ぎが広がり、階段の向こう側には天兵達の輪が出来ていた。
不幸中の幸いとしては、全員の注目が気絶している天兵達に向かっ
ているという事。
﹁あぁもう⋮⋮!﹂
セナは意を決し、階段を降りる事にした。
一階に降りると、最早迷う事無く駆け続けた。
﹁え? 今何か⋮⋮﹂
俊敏な動きで廊下を駆け抜け、抜き去った女中の目を白黒させる。
﹁一時の恥はもう良いわ⋮⋮! とにかく服を手に入れてしまえば
!﹂
中庭へと到達し、そこに散らばる衣服を見つけるセナ。
ようやく、ようやく辿り着いた。
その思いで一歩を踏み出すと、
﹁あー⋮⋮そこのお前! 無駄な抵抗は止めろ! 大人しくお縄に
就かないと、ウチの戦槌でボロボロにするよ!﹂
上空から幼い怒声が降り懸かって来た。
﹁ラクシェ⋮⋮﹂
ケープで顔を隠し、パンツを穿いただけのセナの姿を見て、ラクシ
ェは首を傾げる。
﹁賊⋮⋮にしては変な恰好。まぁ良いや、ここの治安はウチが守る
! そしてメイド様にご褒美をもらうんだ!﹂
1450
突っ込んでくるラクシェを、何とか回避するセナ。
﹁む、素早い。ただの賊じゃないね?﹂
﹁やめっ! あぁもう!﹂
ラクシェの振るうを戦槌を懸命に避けるセナだったが、武器も無く
対峙できる相手では無い。
徐々に追い詰められ、ケープの下で大汗を掻いていると、
﹁ラクシェ、そこまでです。後はわたくしに任せて﹂
上空から翼を広げた金髪の天使が降り立った。
﹁お姉様? 危ないよ?﹂
智天使アン・ミサの出現に驚くラクシェへと向けて、
﹁大丈夫ですよラクシェ。さ、貴女はお風呂の用意をして来なさい。
今日はわたくしが髪を洗ってあげる﹂
アン・ミサはゆったりとした声を放った。
﹁むー⋮⋮﹂
﹁いざとなれば魔導機兵も居ますし、ね。ラクシェ﹂
不満顔のラクシェを宥め、アン・ミサは笑う。
その笑顔に安心したのか、
﹁はーい﹂
ラクシェは戦槌を収め、飛び立って行った。
それを見送ってから、アン・ミサはセナの方を向く。
﹁事情は⋮⋮大まかには理解できていると思います。ユラが貴女と
出会ったと申しておりましたし、気絶していた天兵のポケットから
下着が見つかりました。安心して下さい。セナさん﹂
アン・ミサの四枚の翼が、セナの体を隠すように展開され、
﹁さ、どうぞ服を﹂
智天使の優しさに感動しながらセナは落ちていた服を身に纏った。
そしてそのままアン・ミサの翼で屋上まで移動し、赤面するシャス
ラハールに服を届けてから大慌てで三人は大浴場へと移動し、会議
1451
に加わる。
ギリギリの到着でシャロンに説教を食らいながらも、セナは安堵の
息を吐いた。
﹁ははは。まぁシャロン、そう怒るなよ。セナにだってうっかりは
有るさ﹂
隣で快活に笑いながら湯に身を浸すフレアに向けて、
﹁うっかり⋮⋮ね。フレア、たぶん後でたっぷり怒られる事になる
と思うから、部屋から追い出されたらアタシのとこに来て良いよ。
パンツのお礼に泊めてあげる﹂
セナはそう言った。
その後、会議を終えて二階へと戻ったリーベルラントの一行はユラ
ミルティから天兵達の泥棒行為を聞き、その原因の一つにフレアの
無施錠が有った事が報告され、
セナの予言通り、その夜は姉にたっぷりと叱られたフレアがセナの
部屋にやって来て、二人で慰め合う様にして眠った。
サバルカン
六つの裸に剥いた尻を横に並ばせ、男は魔法道具を取り出した。
筒状のそれは本来二個一対の物であり、片方で撮影した内容をもう
片方に送る事が出来るという、撮影魔法の改良型だった。
﹁それじゃあ視聴者の皆さんに自己紹介してくださーい﹂
そう言って男は筒を一番右端の尻へと接近させる。
むっちりとした尻は白く、丸みを強く感じ、安産型と呼べる物だっ
た。
﹁⋮⋮リネミア神聖国、巫女騎士団頭領⋮⋮シロエ⋮⋮です﹂
紡がれた震える声に、男は大仰に驚いて見せる。
1452
﹁リネミア巫女騎士団と言えば? 皆さんご存知のボテ腹騎士団じ
ゃないですか。うん、良いケツしてる。これならきっとたくさん赤
ちゃん産めるよ。俺達ゼオムントのベビーをね﹂
ペシペシとシロエの尻肉を叩いてから、男は隣の尻へと撮影筒を向
けた。
﹁おぉぉ? これは凄いな⋮⋮皆見てくれよこのアナル。ガバガバ
だよ? もう挿れなくてもわかるくらいにポッカリ空いてる。ほら
ー? ね、俺の指が二本、何の抵抗も無く入っちゃった﹂
男は伸ばした二本の指をスポスポとその尻穴で前後させる。
﹁さぁ? そんなガバガバアナルな君の名前はぁ?﹂
撮影筒でアナルを接写しながら男が問うと、
﹁ろ、ロクサスの⋮⋮アーリン領将校⋮⋮ロニア﹂
幼さを残した涙交じりの声が応じた。
それを満足げに聞き、男は次の尻を目指す。
﹁お、良いねぇわかってるねぇ。白白と来たら次は黒。だよねぇ。
うーん良い褐色尻だぁ。皆もそう思うでしょ?﹂
撮影筒が向かう先、そこに有ったのは日焼けした肌のやや小ぶりな
尻だった。
﹁こういう尻にさぁ。真っ白なザーメンをドピュっとやると気持ち
良いよねぇ。コントラストって奴? 後で実践するから。そんじゃ、
君の名前は?﹂
問われた先、鼻を鳴らす声が応じる。
﹁スピアカント王国、暗軍筆頭ティティエ﹂
男の高すぎるテンションを馬鹿にするような声で、そう紡がれた。
﹁⋮⋮ふーん。わかった。後でたっぷり可愛がってやるからな﹂
男は乱暴にバチッとティティエの尻を叩き、次へ向かう。
山脈の様に盛り上がった丸い尻が、撮影筒の正面に当たった。
﹁肉が詰まって美味しそうなプルプル尻だなぁ。おう、見てくれ皆。
こうやってバチバチ叩くと面白いように動くぞ﹂
男は一度撮影筒を地面に置き、両手を使ってまるで楽器の様に丸い
1453
尻を叩く。
尻の持ち主は毛先が緩くカーブした赤髪の妙齢の女性で、
﹁何睨んでんだよ⋮⋮ったく﹂
男を強烈な瞳で睨みつけていた。
﹁ほら、名乗れ﹂
無遠慮に尻肉を押し開いて引き締まった肛門を強制的に晒しながら、
男が命じる。
それを女は尚も無言で睨み続けた。
﹁テメェ⋮⋮﹂
男は乱暴に尻穴に爪を立てながら、
﹁⋮⋮はーい、このクソ女は敗戦国カーライルの将軍殿であらせら
れるヒルメイアさんでーす。後でしっかり調教しまーす﹂
額に青筋を立てながら言った。
そして隣に移動し、
﹁おっと、これは名乗る前にわかっちゃうよなー。だって自分の名
前がケツに書いてある奴なんてそうそう居ないし﹂
そこに有ったのは、あらゆる種類の卑語と雑言が刺青として刻まれ
た痛々しい尻だった。
﹁くっ⋮⋮﹂
苦鳴を漏らすその黒髪の女性の名は︱︱
﹁ここに書いてある通り、﹃マリューゾワ魔剣大公。略してマゾマ
ンコ﹄さんでーす﹂
男はマリューゾワの尻肉の内側に掘られた文字を読み上げながら笑
っている。
そして撮影筒は最後の一人にやって来た。
﹁はーい、じゃあこの白くてプニプニしたモチモチのお尻の持ち主
は誰かなー?﹂
男が最後の女の尻肉に頬ずりしながら聞いてくる。
女は一瞬黙った後、
﹁⋮⋮ミネア修道院、﹃幸運と誓約の魔女﹄ルルです﹂
1454
そう名乗った。
男の名はサバルカン。
西域遠征にて先ほど尻を晒して自己紹介をした六人の公娼を率いる
調教師だ。
サバルカンは本国に居る部下と支援者に協力を取り付け、特別な魔
法道具を駆使して現在の状況をリアルタイムの映像として本国に送
っていた。
支援者と部下の尽力によりその映像は拡散され、今では多くの視聴
者がサバルカンの用意した番組を見ているらしい。
そして、部下の手によって纏められた視聴者からの要望が定期的に
届く。
サバルカンはそれを元に、ルル達を徹底的に辱めていった。
先ほどの自己紹介も視聴者からのリクエストであり、初期の放送を
見逃した事を理由とした物で、ルル達にとっては出発前にも行われ
た恥辱のやり直しに他ならなかった。
﹁ほらほら、しっかり歩けよ﹂
サバルカンの陰険な声がする。
彼の手には極太の魔導バイブが握られており、その先端から中ほど
までは、
﹁んぐぅぅぅぅぅ﹂
カーライルの大将軍ヒルメイアの膣に収まっていた。
﹁ごめんね⋮⋮マリューゾワ⋮⋮﹂
その隣では、ロニアの弱弱しい声が響く。
﹁気にする⋮⋮な⋮⋮平気⋮⋮だんああああ﹂
ロニアの手にも同種のバイブが握られており、そちらはマリューゾ
ワの股間へと接続されていた。
﹁今日のリクエストは一日チンポを突っ込んだまま旅をして下さい
! ですが、それは流石に無理なので今日はこの二匹の豚女のマン
1455
コに極太バイブを差した状態で進みまーす﹂
サバルカンは衣服へ引っ掛けた撮影筒に向かってそう陽気に叫びな
がら、前へと進む。
その右手は常にヒルメイアの膣をバイブでかき回し、空いた手でロ
ニアの股間を弄り続けていた。
そして彼の正面ではシロエが四本足で跪きながら、彼の歩調に合わ
せて後退を続けていた。
その口には、取り出されたサバルカンの肉棒が収まっている。
﹁良いか? 次の休憩までに一度でも萎えさせてみろ。そうすれば
お前は罰ゲームだ﹂
陽気に言いながら、五人は殆ど密着する形で進んでいた。
その少し後方を、二人の人間が歩く。
﹁魔導士さんには少し重いでしょ? 持とうか?﹂
褐色の肌に灰色の短い髪を載せた美女。
ティティエがルルへと問うた。
﹁いいえ、大丈夫ですよ。ティティエ。ありがとう﹂
サバルカンは他の組の様に個人個人へと衣装を配らなかった。
彼は視聴者の要望になるべく応えるために、日毎に公娼達の衣装を
取り換えていたのだ。
今日は、全員が青色の二︱ハイブーツを穿いている。
番組用に分かり易くするために各公娼の右乳首に名札をピアスで刺
している以外は、太ももから上の肌は全て露出している状態だった。
日替わりで衣装を用意する為に、必然荷物が嵩み、持ち回りで荷物
持ちの役割を命じられていて、この日はルルとティティエがそれに
該当した。
﹁そう。ルルは強いね﹂
ティティエは褐色の乳房を揺らしながら、目の前にいるサバルカン
を強く睨んだ。
重たい荷物を背負いながら、仲間達が凌辱を受ける様を目の前で見
せつけられる。
1456
﹁殺してやりたい⋮⋮もう何がどうなっても良いから⋮⋮この男を
八つ裂きにしたい﹂
苛烈な瞳で、サバルカンを斬り裂くティティエ。
サバルカンと共に西域遠征に出発してからの毎日は、屈辱の連続だ
った。
視聴者からのリクエストに沿って繰り広げられる凌辱は、公娼達の
尊厳などたった一欠けらも気にする事無く実行され、その都度誰か
が死にも等しい恥辱を味わっていた。
﹁私には⋮⋮希望が有るから、今はまだ死ねないし、無茶は出来な
い﹂
ルルはそっとティティエへと話しかける。
サバルカンは旅の始まりで宣言していた。
﹃お前達が誰か一人でも俺に逆らえば、お前達個人の人質はもちろ
ん、連帯責任でここに居る連中の人質も、故郷も全てを滅ぼす。ゼ
オムントはこの西域遠征にそれだけ真剣だという事を肝に銘じてお
け﹄
ルルにはミネア修道院が有り、そこには戦闘に従事できない魔導士
や、親に捨てられた孤児が大勢暮らしていた。
刃向う事は出来なかった。
マリューゾワも、ロニアも、シロエも、ヒルメイアも。
だがしかし、
﹁そっか。何にも無い私とは全然違うわよね﹂
ティティエにはそれらの拘束が弱かった。
暗殺という汚れ仕事に従事していた彼女には、自身に関する弱みが
薄い。
今もまだサバルカンを殺していない理由としては、連帯責任でルル
達に迷惑が掛かるから、というものだけだった。
﹁ティティエは何故、今も公娼で有り続けるの?﹂
褐色の暗殺者にルルは問う。
人質に効力が無い彼女ならば、逃げ出す道も戦う道も選べた筈だ。
1457
﹁決まっている。殺す為よ、ゼオムントの王をね。私の飼い主を殺
した憎い対象を﹂
スピアカント王家に仕えていた彼女の痛切な言葉。
﹁アリスレイン様が去年死んだわ。それで最後よ。私の飼い主と呼
べる人は。私はあの御方の仇を取る為に、いずれあの場所へ、バン
デニロウムへ行くの。そしてその場所で、アリスレイン様を辱めて
殺した全員と、ゼオムント王を殺す﹂
でも、とティティエは続けた。
﹁今はコイツを殺してやりたい気持ちで一杯。ゼオムントという国
を体現するかの様な薄汚い男を、一秒だって生かしておきたくない﹂
鋭い瞳で睨みつける先、
サバルカンはシロエの喉を肉棒で抉りながら、ロニアからバイブを
奪い取り、マリューゾワとヒルメイアを同時に突き上げていた。
﹁⋮⋮ティティエ。シャスラハールを知っている?﹂
その言葉に、褐色の暗殺者は少し驚いた表情で振り返る。
﹁シャスラハール殿下⋮⋮? 末席では有るけれど、お優しい王子
だったと記憶しているけど?﹂
そこには言外に、故人として認識していたという意味が含まれてい
た。
﹁実はね⋮⋮﹂
そこでルルは、長い間誰にも話さずに秘密にしていた事を口にした。
シャスラハールとの誓約。
ゼオムントを倒すべく力を付けている希望の王子の存在。
それを聞き、ティティエの表情は変わった。
﹁⋮⋮シャスラハール殿下が生きていて⋮⋮ゼオムント打倒の志を
抱かれている⋮⋮﹂
その頬に、一本の涙が流れて行く。
﹁ティティエ⋮⋮﹂
﹁ありがとう、ルル。私にも生きる理由が出来た。必ずシャスラハ
ール殿下にお会いして、彼の下で力を尽くし、ゼオムントを生きて
1458
打倒する。それが私の希望﹂
その日の夜。
視聴者からの指名を受けたティティエはサバルカンによる拷問にも
等しい苛烈な調教を受けても、全てを従順にこなし、無謀な行動は
起こさなかった。
別の日。
﹁⋮⋮ひぐっ⋮⋮﹂
丈の短いフレアスカートのみ着用をリクエストされたこの日、休憩
中のサバルカンはルルを相手に後背位で襲い掛かり、醜悪な肉棒で
魔導士の膣を掻き回していた。
﹁うっ⋮⋮うぅ⋮⋮﹂
ばちゅばちゅと肉が爆ぜる音を立てるサバルカンとルルの性交を、
マリューゾワ達は直接視界に収めない様に努めていた。
これは、サバルカンの目を盗んで公娼達で話し合った結果の決め事
であり、互いのセックスからは出来るだけ目を逸らす取り決めだっ
た。
﹁うぅ⋮⋮﹂
﹁さっきからうるせぇな! なんなんだよ! お前もチンポが欲し
いのか?﹂
声を漏らさない様に必死で唇を噛むルルの隣で、ロニアが涙を流し
ていた。
サバルカンはその様子に苛立ち、怒声を放ったのだ。
その野蛮な声を受けて、ロニアは震える顔を上げた。
﹁水場に⋮⋮行って来て良いですか?﹂
それを聞き、仲間達は事態を察した。
ロニアは三年間の公娼活動で、ほぼ毎日数百本のディルドーを膣と
肛門に突きこまれる生活を送って来た。
その結果、彼女の括約筋は本来の役目を果たせず、どれだけ彼女が
1459
その事態を回避しようと努めても、それを嘲笑うかのように粗相を
してしまう。
これまでの旅でも何度か、ロニアは涙を流していた。
﹁またかこのクソ漏らしが。どれ、見せて見ろよ。視聴者の皆さん
にもよぉく見える様にただでさえガバガバなお前の肛門をおっぴろ
げてこっちに向けろ﹂
サバルカンは口調ほど怒ってはおらず、楽しそうにそう命じた。
その腰は絶えずルルに叩きつけられ、両手は乳房をギュウギュウに
握り潰していた。
﹁んんっ!﹂
ビクッと跳ねるルルの体を押さえつけながら、
﹁さぁ早くしろよ! その役に立たねぇケツ穴から糞が零れてる様
子を皆さんに見て貰うんだよ!﹂
サバルカンは命令した。
ロニアは絶望に歪んだ表情で立ち上がる。
しかし、それでも激しい抵抗心から撮影筒に粗相をした肛門を向け
る事が出来ずに体を震えさせていると、
﹁良いから見せろ! 出来ないんなら二度と勝手に糞を漏らせ無い
ように、お前のガバガバなケツ穴に合った極太サイズのバイブを突
っ込んで生活させてやるよ﹂
サバルカンの怒号が飛んだ。
ロニアはゆっくり、ゆっくりと体の向きを変えて行く。
そこに、
﹁触れるぞ﹂
柔らかな声が放たれた。
声の主はヒルメイア。
ヒルメイアの手がロニアの尻へと向けられ、
そっと撫でるように汚物を掌に載せて取り払った。
﹁ひゃ⋮⋮え?﹂
もう片方の手で何度かロニアの肛門付近を擦り上げたヒルメイアは、
1460
茶色の粘性のある物体を地面に擦り付けて落としてから、自分のス
カートを脱ぎ去り、ロニアからもスカートを取り払って、交換した。
そうしてロニアがサバルカンへと尻を向けた時には、すっかり汚れ
が落ちた彼女の肛門の上に、純白のミニスカートが揺れているだけ
の画になっていた。
﹁てめぇ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ふん。小物が粋がりおって、里が知れるな﹂
ヒルメイアはロニアのスカートを腰に巻きながら、サバルカンを睨
みつけていた。
﹁こっちに来い。コイツと交代だ。こうなりゃ今日は徹底的に思い
知らせてやる。てめぇがただの肉便器なんだっていう現実をな!﹂
サバルカンは乱暴にルルから肉棒を引き抜くと、ヒルメイアに向け
て獰猛に叫んだ。
そしてまた別の日。
この日のリクエストは四つん這いの犬プレイだった。
全裸の公娼達には鎖付きの首輪が巻かれ、それをサバルカンが引っ
張って森の道を進むという物だった。
途中で追加のリクエストが届き、六人で一本の木に向けて一斉に放
尿するシーンを撮られ、視聴者には大好評だった。
犬として扱われながら、ルル達がサバルカンに引き摺られて行く途
中。
﹁待って﹂
ティティエが鋭い声を放った。
﹁何だ雌犬? 糞ならそこらへんに垂れ流しとけよ﹂
不快気に眉を顰めながらサバルカンが振り返ると、
﹁⋮⋮魔物だな﹂
マリューゾワが気を引き締めていた。
犬として四つん這いの体勢を強いられていても、誇り高き魔剣大公
1461
の瞳は強さを保っていた。
﹁数が多いぞ⋮⋮﹂
ヒルメイアはサバルカンの許可なく立ち上がり、周囲に鋭い視線を
飛ばす。
﹁貴様! 勝手に何を!﹂
﹁死にたいか?﹂
激昂するサバルカンにヒルメイアが冷笑を向ける。
﹁ぐ⋮⋮む﹂
﹁皆、立って。戦おう﹂
口ごもるサバルカンを無視してヒルメイアが言い、公娼達はそれぞ
れ二本の足で大地を踏んだ。
そして荷物と一緒に各自の体に括りつけられていた武器を手に取る。
マリューゾワは一本の魔剣とそれに従う六本の駄剣。
シロエは二つに分解する事が可能な薙刀。
ロニアは二挺の短銃。
ヒルメイアは返しの付いた剛剣。
ティティエは波状に刀身が歪んだ短剣。
そしてルルは白塗りの杖を握った。
﹁ティティエ﹂
マリューゾワが問うと、
﹁数は百以上⋮⋮犬型⋮⋮と言うよりはハイエナっぽいわね。手足
に筋肉がついてる。二足歩行も可能な腕も使えるタイプの魔物ね。
こちらに向かって来ている。敵意は間違いない﹂
視界の悪い森の中では、長距離視を得意とするティティエの能力が
活かされる。
﹁百⋮⋮﹂
シロエが気合を込める。
﹁どうする? マリューゾワ﹂
ヒルメイアが魔剣大公を振り向けば、
犬用の首輪を付けた英雄は仄かに笑った。
1462
﹁ヒルメイアとシロエが前衛。私とロニアがルルを守りつつそれの
援護。ティティエは遊軍として自由に動いてくれ、判断は各自に任
せる!﹂
作戦指示に、公娼達は一斉に頷いた。
﹁了解! マリューゾワ﹂
ロニアは短銃に弾を込め、辺りを警戒する。
﹁皆に、幸運の加護を!﹂
ルルは魔法を展開し、全員に最大級の幸運を付与する。
﹁お、おい! 俺を守れよ!﹂
サバルカンの叫びを無視し、
﹁来るぞ!﹂
ヒルメイアが叫んだ。
そして、百匹のハイエナと六匹の雌犬が戦闘へと突入した。
﹁はああああああああああっ!﹂
敵中深く突っ込み、剛剣を振るうヒルメイアの周囲には無数の死骸
が山になっている。
筋骨隆々のハイエナ達はその圧倒的な強さに恐れをなし、迂回して
来ると、
﹁シッ!﹂
シロエの薙刀に首を刎ねられる。
そして、
﹁穿て﹂
マリューゾワの魔剣は正確無比に魔物の喉肉を貫き、
﹁弾丸足りるかな⋮⋮﹂
ロニアもまた二挺の短銃で弾幕を張り、ハイエナ達を押し戻した。
﹁奇跡よ⋮⋮皆を守って⋮⋮﹂
祈り続けるルルの幸運により、ハイエナ達の攻撃は公娼へと届かな
い。
当たりかけた一撃は外れ、逆にロニアの弾丸は一度狙いから逸れた
としても別の場所に居た無警戒のハイエナへと直撃した。
1463
﹁⋮⋮﹂
ティティエは森の木々に身を隠しながら、隙の生まれた相手に一瞬
で飛びつき、喉を斬り裂いてからまた森に潜む。
圧倒的だった。
数の上では断然劣る相手に対し、六人の公娼達は一つの傷を作る事
無く、殲滅させていく。
あと少しで全滅させられる。
そんな瞬間。
﹁待て、お前ら﹂
どうにか生き延びていたサバルカンが薄い笑みを浮かべて叫んだ。
﹁六匹だけ生かせ。そして生き残ったそいつらとセックスしろ。視
聴者がそうお望みだ﹂
返り血で濡れた公娼達に瞳が、サバルカンを激しく睨む。
﹁命令だ。さっさとそれ以外は殺し尽くせぇ!﹂
唇を噛みながら、ヒルメイアは武器を振るい、マリューゾワは魔剣
を操った。
そうして、半死半生の六体を残してハイエナ達は倒された。
六体は一か所に集められ、
﹁それじゃあお前達。これから死に行くこの哀れな魔物達に最後の
ご奉仕をして差し上げろ﹂
サバルカンは撮影筒を手にし、にんまりと笑っている。
公娼達は倒れたままの魔物の股間に手を伸ばし、その陰茎を刺激し
ていく。
血を流した興奮も有っただろうが、即座にと言っていいほどあっさ
りとハイエナ達の肉棒はそそり立つ。
﹁⋮⋮っ!﹂
人間のモノより僅かに巨大だという点を除けば、まさにそのもので
ある魔物の男根に、公娼達は花弁を合わせ、飲み込んでいく。
紙切れの様に彼らを引き裂いたヒルメイアが、無数の首を刎ねたシ
ロエが、抵抗を許さず殺したマリューゾワが、臓器を破壊する弾丸
1464
を放ったロニアが、苦しむ様に喉を裂いたティティエが、そして彼
女達をサポートしたルルが。
これから死に逝く者達と無益なセックスを開始した。
﹁んんっ! ぐっ!﹂
﹁あっ! ひぃぃ﹂
体位は六人ともが騎乗位である。
ハイエナ達が動けない以上、公娼側が動くしかない。
﹁良いか? 膣内出しされるまでしっかりご奉仕するんだぜぇ? 死出の手向けだ。視聴者様の温かい気持ちはきっと魔物にも届くさ﹂
サバルカンは陽気に笑っている。
そうこうしている間に、
﹁んぎぃぃはっ﹂
﹁くっ⋮⋮出てるな⋮⋮﹂
﹁あっ⋮⋮あぁああ⋮⋮﹂
マリューゾワとヒルメイア、そしてロニアが相手をしていたハイエ
ナが絶頂に達し、そしてその衝撃で絶命した。
自分達の膣を貫いている魔物が死に絶えた事を感じながら、その肉
棒を引き抜き、三人は亡骸から離れた。
その間もルルとシロエ、そしてティティエはずっと犯され続けてい
た。
今も行為中の三人は出来るだけ早く済ませる為に、無我夢中で腰を
跳ねさせていた。
その時、
﹁⋮⋮ティティエが相手をしている奴、腰が動いてないか?﹂
マリューゾワがハッとして呟くと、
﹁ほ、ほんとだ! ティティエ!﹂
ロニアが慌てて叫んだ。
﹁ちぃ! まだ意識が有ったのか!﹂
ヒルメイアが駆けだす。
しかし、
1465
﹁んっ! イケ! さっさと⋮⋮イッてしま⋮⋮がふっ⋮⋮﹂
遅かった。
性交中に意識を取り戻したのか、ハイエナは死に逝く体を動かし、
傍に放り投げられていたティティエの短剣を握って、それを彼女の
左胸に深々と突き刺していた。
﹁えっ⋮⋮げはっ﹂
獣と性器で繋がった状態で、大量に吐血したティティエ。
﹁キシヤアアアアアアアアアアアアッ!﹂
ハイエナは最後の力を振り絞り、彼女の膣に埋め込まれた肉棒を激
しく動かす。
右の手は短剣を握り、腰の動きと同調させてティティエの乳房を貫
いたまま回転させる。
﹁ティティエ!﹂
マリューゾワは叫び、魔剣を操る。
途端、飛んで行った魔剣が全てのハイエナの頭部を貫いた。
﹁う、嘘だ⋮⋮﹂
﹁そんな⋮⋮﹂
セックスから解放され、事態を確認したシロエとルルが悲鳴を上げ
る。
﹁くそっ!﹂
ヒルメイアはティティエの体を抱き、ハイエナから引き剥がす。
その体からは力が失われ、その証左でもある様に、大量の血が流れ
出していた。
﹁そんな⋮⋮ティティエ⋮⋮﹂
駆け寄ったロニアがその褐色の肌を抱く。
呆気無く、死んでいた。
シャスラハールという希望を知ったスピアカントの戦士は、この場
所で命を失った。
圧倒的に勝利した相手に、外野から無駄な命令を受けた結果。
無意味な死を遂げた。
1466
﹁⋮⋮許さん⋮⋮﹂
ヒルメイアはロニアにティティエの体を預け、
﹁サバルカンッ!﹂
全速力で駆け戻った。
﹁は? うわああああああ﹂
カーライルの将軍の拳が、サバルカンの左頬を襲った。
数本の歯を撒き散らしながら、サバルカンは吹き飛ぶ。
﹁殺す!﹂
愛用の剣など必要ない。
ヒルメイアは拳を振り上げて、追撃を掛けようとするが、
﹁い、良いのか? 俺に手を挙げると、お前の人質は死ぬぞ? カ
ーライルのヘスティア王女は、今のティティエ以上に無残に死んじ
まうぞ? 国民もだ! 今の地位を全て奪われて奴隷に落ちる! お前のせいでだ! お前が戦争で負けた上に敗者の責任を果たさな
いからだ!﹂
サバルカンが喚いた言葉に拳が止まる。
﹁お前もだマリューゾワ! それ以上その剣を俺に近づけるな! お前の領地を全て焼き払う。お前の従妹のアルヴァレンシアも地獄
を見るぞ。シロエ、ルル、ロニア。お前らもだ。下手な考えを起こ
すなよ。連帯責任だ。これ以上俺に刃向ったら、お前らの人質は全
部ティティエと同じ様な結果を迎える事になる!﹂
魔剣を操り、サバルカンを目指して飛ばしていたマリューゾワは、
唇を噛みしめながら剣を取り落した。
血の様な涙を流すヒルメイアとマリューゾワを薄汚い笑みで見つめ
ながら、
﹁へっ! それで良いんだよ肉便器共が! おら! 俺を殴った罪
を償わせてやるからそこに尻を並べろ!﹂
サバルカンの命令に、公娼達は友への懺悔の涙を流し従った。
1467
別の日。
この日のリクエストは全員の乳首同士をチェーンで結んだ状態で旅
をする。
という物だった。
ピアスから伸びるチェーンにより一列に並んだ五人の後ろを、サバ
ルカンは歩いている。
﹁結構奥地まで来たよなぁ。もうすぐだ⋮⋮もうすぐ俺は英雄にな
れる。帰ったらゾート様やオルソー様に劣らぬビッグネームに仲間
入りだ﹂
ベチベチとティティエの遺品である短剣の腹でシロエの尻を叩きな
がら、独り言をつぶやいていた。
﹁うぐっ⋮⋮﹂
そのシロエが、額から冷や汗を垂らしながら呻いた。
﹁大丈夫か? シロエ⋮⋮済まない、私のせいで⋮⋮﹂
隣で乳首同士を結ばれているヒルメイアが暗い声を漏らす。
﹁いえ⋮⋮ヒルメイア殿の責任ではございません⋮⋮﹂
そう答えるシロエの裸身からは、至る所から血が零れ続けていた。
サバルカンは言った。
失った歯の落とし前をつけてもらうと。
ヒルメイアは歯を食いしばって受けようとしたが、サバルカンの残
忍さは単純な物では無かった。
﹁⋮⋮うん。ヒルメイアがあそこで殴って無かったら、アタシが撃
ってたかも知れないし﹂
そう言ったロニアの右目は閉じられている。
そこに有った眼球は、ティティエの短剣により横に引き裂かれたか
らだ。
サバルカンはヒルメイアの暴力に対する代償として、他の仲間達を
いたぶる事で、彼女に罪の意識を植え付けようとしていた。
ロニアは右目を失い。
シロエは全身を何度も薄く斬りつけられ続けている。
1468
﹁すまない⋮⋮私は⋮⋮私は⋮⋮﹂
悔し涙を流すヒルメイア。
彼女を複雑な表情で見つめるルルとマリューゾワ。
そこに、
﹁よーしじゃあ。そろそろ対象を変えよう。次はルルだな﹂
サバルカンの声が掛かった。
なます切りにしたシロエの体から離れ、ビクッと震える魔導士の体
取りついた。
﹁⋮⋮サバルカン。私にしろ。元は私がやった事だ﹂
睨みつけるように、何度も繰り返された言葉を吐くヒルメイア。
それに対して、
﹁はぁ? んな事はわかってんだよ。ただお前を痛めつけてハイ終
わり。じゃ気が済まないからこうやってんの⋮⋮だから⋮⋮んん?﹂
サバルカンはそこまで言って、手元に送られてきたリクエストに目
を通す。
﹁はーはーはー⋮⋮なるほど。こういうのも有りか﹂
一層楽しげに笑い、
﹁良いだろう。お前にしてやるよ、ヒルメイア﹂
そう言って、サバルカンはヒルメイアの乳首の拘束をシロエとロニ
アから取り外す。
﹁これから俺はヒルメイアに罰を与えに行く。お前達は待っていろ﹂
命じ、一本の木を中心にしてマリューゾワ達に内側を向かせて並べ、
チェーンでその乳首同士を結んだ。
﹁ヒルメイア!﹂
ルルが叫ぶと、
﹁大丈夫だ⋮⋮﹂
ヒルメイアは気丈に頷いた。
それが、仲間達が見たヒルメイアの最後の姿だった。
1469
﹁遅いな⋮⋮﹂
マリューゾワが呟き、
﹁えぇ⋮⋮雨が降って来たと言うのに⋮⋮﹂
ルルは空を見上げる。
曇天の空からは大粒の雨が降り注ぎ、木へと縛り付けられた四人の
体を濡らしている。
﹁ヒルメイア⋮⋮大丈夫かな﹂
﹁信じましょう﹂
ロニアが不安を口にし、シロエがそれを励ました。
凡そ一時間後にルル達の元へ戻って来たサバルカンの顔には、これ
以上無いほどの笑みが浮かんでいた。
一人である。
ヒルメイアは居ない。
﹁⋮⋮ヒルメイアは⋮⋮どうした?﹂
乳首の拘束を外すサバルカンに、マリューゾワは棘のある声で問う。
﹁ん? んー⋮⋮まぁ待て。こういうのは焦らすのも面白い﹂
そう言って、サバルカンは四人の拘束を外し、地面に座らせる。
﹁気になるか?﹂
そう問えば、
﹁当たり前です﹂
ルルが厳しい声で応じた。
ロニアとシロエも頷いている。
それを見て、サバルカンは満足げに頷いていてから、
﹁そら﹂
一つの魔法道具を四人の前に放り投げた。
それは手の平大の円盤で、二個一対で音同士を結ぶもの。
向こうから聞こえるのは、ザーザーと降りしきる雨音と、
﹃皆⋮⋮済まない⋮⋮﹄
ヒルメイアの声。
﹁ヒルメイア!﹂
1470
ロニアが叫ぶと、
﹃ロニア⋮⋮君の目⋮⋮本当に済まない⋮⋮。治ってくれることを
⋮⋮祈っている﹄
ヒルメイアのどこか震える声が応えた。
﹁ヒルメイア殿? 今どこなのですか?﹂
シロエが慌てて問うと、
﹃シロエか⋮⋮サバルカンに負わされた傷は大丈夫か? 可能なら
ば水で洗うのだぞ⋮⋮こういう旅では病気も敵だ⋮⋮﹄
ヒルメイアからの労わる声が帰ってきた。
﹁今何をしている! ヒルメイア﹂
マリューゾワもまた、真剣な表情で魔法道具へと声を向ける。
﹃魔剣大公よ⋮⋮最後に貴女という英雄に会えた事が、私の誇りだ。
ありがとう﹄
応える声は、何かを悟っていた。
﹁いけません、ヒルメイア。戻って来て下さい!﹂
ルルが叫ぶと、
﹃ルル。誓約を使ってくれ。私とサバルカンの約束を結んでくれ。
私がここに残れば、もう他の仲間を傷つけないと約束したんだ⋮⋮﹄
ヒルメイアは答えた。
それを聞き、サバルカンを一斉に見る四人。
﹁そうさ。俺とアイツは約束した。ここに書面も有る。誓約の魔導
士がこれを認めれば、それでも効力が有るのだろう?﹂
書面を受け取り、その文面を眺めるルル。
そこに書いて有ったことは、
﹃私は残るよ。そうすれば、君達の命も、人質の身も保証してくれ
ると約束した。だからもう、これで良い。あのまま旅を続けていれ
ば、私はきっとサバルカンを殺してしまうだろう。そうなれば、君
達も人質も、無事では済まないからな﹄
ヒルメイアが言っている様に、彼女の命を捧げる事で、他全員の安
全を保証する内容だった。
1471
﹁ヒルメイア! 馬鹿な事を言わないで! 戻って来い!﹂
マリューゾワが叫ぶ。
﹃無理なのよ⋮⋮マリューゾワ。それは無理﹄
それに対して、ヒルメイアは悲痛な声で迎えた。
﹁無理だろうさ。別れ際に、アイツの手足の腱を切って来たからな
ぁ﹂
サバルカンが、さも愉しげに言った。
ルルは書面に書かれた内容で確認する。
命を捧げる前に、サバルカンに対して絶対服従を誓う事。
それが出来ない場合契約は実行されない、そう明記されてあった。
﹁だからたっぷり時間を掛けてアイツのマンコとアナルに恨みザー
メン注いでやって。その後腱を切ったのさ。女の体に精子の匂いを
付けとけば、鼻の利く魔物だったらすぐに見つけてくれるだろうし
な!﹂
そう告げられた言葉に、四人は愕然とする。
﹁助けに!﹂
シロエが立ち上がろうとすると、
﹃駄目だ!﹄
ヒルメイアが制止の声を放った。
﹃キィ? キッ! キキキ!﹄
彼女の声の向こうに、獣の息が聞こえて来た。
﹃フンッ⋮⋮フンッ? キキ?﹄
一つでは無く、数体の獣の声。
﹁そう言えば、あの辺りで猿っぽい小型の魔物の影を見たなぁ﹂
サバルカンがそう言って笑う。
﹁ヒルメイア! どこなの?﹂
ロニアが悲痛な声を放つ。
﹃来ないでくれ⋮⋮私の事は忘れて、旅を続けてくれ。サバルカン
はもう君達を殺す様な事は出来ない! ゼオムントに別の理由で睨
まれない限り、君達は安全だ! 手に入れてくれ。希望を。その力
1472
を﹄
魔物の統帥権を得るという杖。
それが有れば何が出来るか。
全員が承知していた。
﹁ルル、誓約はするな! ヒルメイアを助けに行く!﹂
マリューゾワがルルの手を掴む。
誓約を行使すれば、それはヒルメイアを見捨てるという事に他なら
ない。
﹁⋮⋮ほう﹂
サバルカンが顔を顰め、
﹁だとよぉ? ヒルメイア﹂
そして歪んだ笑いを円盤へと向ける。
﹃ルル。誓約を果たしてくれ。そうすれば⋮⋮ひぅ! く、臭い﹄
どこか遠くで、ヒルメイアが悲鳴を上げていた。
恐らくは猿型の魔物に︱︱
﹁⋮⋮ッ﹂
ルルは誓約書を破り捨てようとする。
そこに、
﹃ルル! 誓約を! ダメなんだ⋮⋮もう、これしかないんだ!﹄
ヒルメイアの悲鳴が聞こえた。
﹃視聴者が⋮⋮決めたんだと⋮⋮! 調教師に逆らった私にふさわ
しい罰を。私は動けなくされた状態で西域に放置される。それはも
う決定された事なんだそうだ⋮⋮う、うぎぃぃぃぃ﹄
﹃キィィィィ! キキィ!﹄
猿の興奮した声が聞こえる。
﹃あっ⋮⋮うっ⋮⋮逆らったら⋮⋮どうなるか⋮⋮わかっているだ
ろう? その誓約は。私が最後に君達に残せる全てだ。サバルカン
を殺して僅かに生き延びたとしても、人質達の命は救えない。なら
ば、最後にこんな形でも、希望を残せたら⋮⋮はむぅぅぅぅ﹄
その言葉を証明する様にサバルカンが頷いた。
1473
﹁これはな? 俺の慈悲なんだ。無駄に散っていくヒルメイアへの
手向けだよ。アイツの命にちょっとだけでも価値を付けてやろうと
言う粋な計らいさ﹂
笑いながら紡がれた言葉に、
﹁お前、お前えええええええええ!﹂
マリューゾワは激昂した。
魔剣を引き抜き、一斉に射出する。
しかし、
﹁良いのか? マリューゾワ。調教師殺しは重罪だ。俺にはお前達
の人質を殺せないとしても、ゼオムントがそれを許すかな?﹂
サバルカンは余裕の笑みを浮かべている。
﹁ふざけ⋮⋮るな。友の命の為なら⋮⋮私は⋮⋮!﹂
雨に打たれた前髪の隙間から血走った眼を放つマリューゾワ。
﹁ロクサスの⋮⋮お前の領地の名前は何だったか⋮⋮トワイラ領か
? その全てが焦土になるぞ? それは、ヒルメイアの犠牲を無視
する結果じゃないのか? アルヴァレンシアはどうする? この西
域遠征で生き延びたとしても、お前が罪を犯せば従妹も同罪だ!﹂
完全にマリューゾワの動きが止まった事を確認し、サバルカンは立
ち上がって魔剣大公の腹部を蹴りつけた。
﹁あぐっ!﹂
﹁無駄なんだよ⋮⋮大人しく誓約しとけよ⋮⋮そうすれば後はまぁ、
血が出ない程度に毎日可愛がってやって、殺しはしないさ。ヒルメ
イアのおかげでな﹂
そう言って、それぞれに武器を構えたロニアとシロエを睨みつける。
﹁武器を向ける相手が違うぞぉ? それは俺を守って西域の最奥へ
向かう為にくれてやった物だ。良いじゃないか? 俺は出世の為に、
お前達は人質の為に、しっかりと働こうじゃないか!﹂
サバルカンが長広舌を垂れている間にも、
円盤からは猿達の甲高い声と、それに埋もれる様にしてヒルメイア
のくぐもった叫びが聞こえて来た。
1474
﹃ルル⋮⋮頼む⋮⋮﹄
その声に、
﹁ヒルメイア⋮⋮ヒルメイア⋮⋮﹂
ルルは涙を流す。
サバルカンはどうやってもヒルメイアの居場所を教えないだろう。
ルル達には実力行使でこの男の口を割る事は出来ないのだから。
それにこの誓約を結ぶ前にヒルメイアが死んでしまえば、何もかも
が無駄になってしまう。
﹁貴女に、誓います⋮⋮必ず、私達は未来を手に入れると。誓いま
す⋮⋮﹂
﹃あぁ⋮⋮頼む。マリューゾワ、ロニア、シロエ⋮⋮ルル。君達に
託すよ。未来を﹄
猿の発情した声の合間から聞こえてくる友の言葉。
手元の誓約書に滴を垂らしながら、
﹁誓約の魔導士の名の元に、我が友ヒルメイアと⋮⋮罪人サバルカ
ンの誓約を承認する﹂
誓いを立てた。
そう告げた瞬間、
バキッ︱︱
と音が鳴り、サバルカンは声のやり取りに使っていた円盤を踏み割
った。
﹁あぁ∼面白かった。最高の見世物だ。視聴者の皆さんも凄く喜ん
でくれている。良いぞお前達。褒美俺のチンポをやろう﹂
そう言って、サバルカンは己の肉棒を取り出した。
﹁誰が⋮⋮お前の相手などするものか﹂
シロエが吐き捨てる様にして言うと、
﹁おいおい⋮⋮お前達は公娼なんだ。足の生えた便器の癖にチンポ
を拒むんじゃねーよ。そうじゃないと、優しい俺には出来ない事だ
が、この番組を見て下さってる視聴者の皆さんが容赦をしないぜ?
番組を面白くするのは作り手はもちろんだが、見る側の努力って
1475
のも確かに有るものだぜ?﹂
そう言って、サバルカンはリクエストに書かれた紙を手にする。
﹁ルル、お前の修道院の近くに住んでる五十代の男性からだ。番組
が詰まらなくなったら腹立ちまぎれに修道院に火を放ちかねないそ
うだぞ?﹂
そして、
﹁マリューゾワ、ロクサスを統括している駐屯軍の副司令官の息子
さんからだ。チンポを拒否する公娼には罰を食らわせる。お父さん
に言いつけてやるってね﹂
ロニアとシロエについても同様に脅しをかけるサバルカン。
それは︱︱
﹁お前⋮⋮お前は⋮⋮!﹂
涙を流し睨みつけるマリューゾワに、
﹁さ、そう言うわけだ。わかったらさっさとマンコを開けよ。便器
共﹂
サバルカンは上機嫌でそう命じた。
最悪の目覚めを体感した。
シャスラハールから渡された﹃忘却の輝石﹄で見た光景は、降りし
きる雨の中、マリューゾワ達と並んでサバルカンに犯されていた記
憶。
そこから芋づる式に仲間達の記憶を呼び起こされ、ルルは目覚めた
瞬間からジッと動けず胸を抑えていた。
鮮明だった。
サバルカンの肉棒の感触も、ヒルメイアを諦めた瞬間も、ティティ
エを失った時の怒りも。
何もかもが鮮明で、残酷で、ルルはシャスラハールを恨む気持ちを
初めて抱いた。
彼は純粋な好意でこの石を渡したのだとしても、この目覚めはあま
1476
りにも絶望に満ちていた。
無論、ティティエとヒルメイアの事を忘れた日など無い。
だがしかし、あまりにも彼女達との別れが強烈過ぎて、四人の仲間
達は誰も口には出さなかったのだ。
ヒルメイアに関しては、天兵の里到達時に何よりも先にアン・ミサ
に調査を頼んだ。
だがしかし、高速で飛行する事の出来る天使達がヒルメイアと別れ
た場所の近くを探索した結果、持ち帰って来たのは彼女の乳首にピ
アスで通されていた名札だけ。
それ以外には、何も残っていなかったという。
それを聞き、尚且つアン・ミサの杖は最初から無かった事を知った
時のマリューゾワの怒りは凄まじかった。
ロニアとシロエが治療を受けている間に、ルルの幸運を補助に使い、
サバルカンを処刑したのだ。
人質の問題は付き纏っていたが、そうせざるを得なかった事はルル
も認める。
サバルカンは生きていてはいけない。
その意思をアン・ミサに伝えると、智天使は里の内側と外側を魔術
的に分断し、映像その他全てが漏れないようにしてくれた。
そのお膳立てを使って、サバルカンを磔にして殺した。
それでも、ヒルメイアとティティエが戻って来るわけでは無い。
二人は死んだ。
ティティエは目の前で呆気無く、ヒルメイアは自分達に希望を託し
て。
その記憶を、失うわけにはいかなかった。
どれだけ辛くても、忘れる事は出来ない。
ルルは震える指で、消えかかる﹃忘却の輝石﹄を握りしめ、残酷な
記憶を内側に吸収した。
﹁⋮⋮今日は⋮⋮皆と話そう⋮⋮ティティエの事を⋮⋮ヒルメイア
の事を⋮⋮﹂
1477
嗚咽を漏らしながら、幸運と誓約の魔導士はそう胸に誓った。
その時、握った石にひびが生まれた事にルルは気が付かなかった。
1478
裸の騎士 / サバルカン︵後書き︶
流石に二人分の死亡エピソードをサクッと流す事は出来ず、ちょっ
と3ルルは文章量が多めになってしまいました。
アンケートに御協力頂き有難うございました。
今回までがお〇ん〇んお休み月間です。
一部全然休んでない人が居ますがそれは気にしないで下さい。
最多個人得票のアルヴァレンシアと、アンケート四位で敗者復活の
シャロン。
及びそれ以外で投票有の公娼の処遇は活動報告でお知らせしたとお
りです。
それでは、拙作にお付き合い頂き有難うございます。
1479
降臨︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1480
降臨
この世の空間では無い、どこか別の場所。
魔法で映しだした巨大な映像を前に頬を歪めた笑いを浮かべている
男が居る。
長身痩躯、背中に伸ばした長髪は腰に届くほどだ。
﹁そろそろか⋮⋮ようやく俺の出番か⋮⋮﹂
男はのんびりとそう言い放ち、尻を上げて立とうとする。
しかし、一筋縄ではいかない。
そこには女体が絡まっていた。
彼の肉棒を深々と膣で飲み込んだ美女。
どことなく、彼が見ていた画面に映っているシャスラハールに似た
女性。
彼女の体を放り捨てる。
﹁このところ魂だけの連中としかヤっていなかったからな⋮⋮久々
の肉の体⋮⋮たっぷり味わいたいものだ﹂
放り捨てられた絶世の美女の体に、無数の女達が飛び掛かる。
膣口に口を付け、彼がそこに注ぎ続けた精液を必死で吸い出そうと
している。
赤くウェーブの掛かった髪の豊満な女が居て、銀髪に日焼けした肌
を持つ女が居て、その他にも数百人の女が、美女の股間を目指し蟻
の様に行列を作っていた。
皆、目が死んでいる。
瞳には光がまったく灯ってはいない。
死者。
虚ろな死者。
﹁さぁ祭だ。娘達よ。そしてその友人よ。俺を楽しませろ。このハ
ルビヤニを、もてなせ!﹂
1481
彼の降臨を祝う宴へと向かう為、女体を蹴飛ばし、踏みつけながら
西域の王は元居た世界へと歩みを向けた。
気温は決して高くない。けれど、天兵の里は今隠しようの無い陽気
に包まれていた。
﹁うわっ⋮⋮すご⋮⋮ね、シャロンあれ見てよ﹂
自室の窓から宮殿前広場の様子を見て、セナは驚嘆の声を上げる。
﹁ん? はい﹂
ベッドに横になり本を読んでいたシャロンは立ち上がり、セナの隣
へと移動する。
﹁壮観ですね⋮⋮﹂
窓の外を見て、感じ入ったかのようにシャロンは呟いた。
﹁アタシらのとこのお祭も凄かったと思っていたけど⋮⋮ここまで
じゃ無かったよね⋮⋮﹂
キョロキョロと視線を動かしながら、セナは言う。
﹁それだけ、この地にとってハルビヤニという人物が影響力を持つ
という事なのでしょうか﹂
顎に手を当て唸るシャロン。
二人が見たのは、黒山の群集。
この日から始まる降臨祭に参加する為に西域全土から集まって来た
多種多様の魔物達。
里の宿は全て埋まり、その上で四城門の外にテントが設置され、宿
が取れなかった者達はそこで寝起きするらしい。
これからひと月。
降臨祭が始まる。
﹁おはよう! 外は見たか? 凄かったよな!﹂
朝食を摂りに食堂へ向かうと、先に来ていたフレアがテーブルに着
1482
いた状態で手招きしながら声を掛けて来る。
﹁シャロン、セナ。おはよう﹂
その隣で静かに物を飲み込み、ステアが挨拶して来た。
﹁おはようございます騎士長、フレア﹂
﹁おはようございます﹂
セナとシャロンは挨拶を返してから、食堂で働く女中に朝食の乗っ
た盆を貰いに行く。
礼を言って受け取り、そのままフレア達の居る四人掛けの席に収ま
るリーベルラントの一行。
﹁あれだけの魔物が揃って、この里は大丈夫なのかな?﹂
セナがコーンスープを口にしながら言うと、
﹁アン・ミサ殿の統治が有る限り、どんな魔物でもこの里では悪事
は働けないらしい﹂
サラダをフォークで刺しながらステアが応じた。
﹁それにこれまでの旅で私達と敵対した種族に関しては、四城門か
らの入境を禁止してくれているそうです﹂
シャロンがスクランブルエッグを救い上げながら告げる。
ベリス、マルウス、ヒュドゥス、マシラス、子鬼、親鬼、ボアル、
苔塊人、化猫、鶏人、ハイエナ、魔小猿らに関しては、アン・ミサ
の裁定により祭への参加が禁止されていた。
尤も、マルウス等は既に全滅していて、マシラスに関しても移動は
出来ないので端から参加が不可能な種族も存在したのだが。
﹁ってもなー⋮⋮祭は好きだけど。魔物の御祭と言われたらちょっ
と戸惑うよね。一応アン・ミサさんから参加してくれって言われて
るし﹂
オレンジジュースを口にしながらフレアが肩を竦める。
﹁仕方が無いわよ。軍備みたいな派手な事をしていたらその⋮⋮ハ
ルビヤニ様? に目を付けられるんでしょ。こうなったら戦争前に
英気を養う方向に切り替えないとね﹂
セナがそれに応じ、
1483
﹁軍備についてだが、ロニア殿が装備を完成させてくれたらしい。
久しぶりに、アーマーを着る事が出来るな﹂
ステアが言うと、三人の部下達は瞳を輝かせた。
彼女達は本来騎士として鎧を纏って戦場へ出るのが常だったが、公
娼にされて以降は恥辱の衣装や良くて半裸、悪くて全裸の状態で戦
わされていたのだ。
﹁兵器の量産の合間に⋮⋮本当に頭が下がりますね﹂
シャロンが胸に手を当てて言うと、
﹁ロクサスはホントそういうの上手いよな﹂
フレアが笑いながら頷いた。
﹁後で降臨祭の注意点の説明ついでに一度集まり、そこで各人に装
備を配るそうだ。食事の後はそこへ向かおう﹂
ステアが言い、騎士達は頷いてそれぞれの盆に乗った料理を片付け
始めた。
空っぽの玉座が置かれている広間に騎士達が辿り着いた時、そこに
は数人の先客がいた。
﹁リーベルラント騎士団か。装備は向こうの部屋に纏めてある。必
要だったら女中の者達が手を貸してくれるので頼むと良い﹂
腕を組み、誇らしげに胸を張っているのは、
﹁マリューゾワ殿。感謝します﹂
魔剣大公マリューゾワ。
漆黒の長袖ジャケットの下にタイトな膝までのスカート、そして豪
奢な羽根つきの黒いマントを羽織った姿は、まさにロクサスの大英
雄と呼べる物だった。
﹁サイズが合わなかったら言って。まぁたぶんお風呂で計った数値
で大丈夫だとは思うんだけど﹂
マリューゾワの隣では、緑髪の兵器将校ロニアがそう告げて来た。
﹁あぁ、あの時のあれはそう言う事だったのか⋮⋮﹂
1484
フレアが眉を下げて応じる。
大浴場での会議の折、不意にロニアが近づいて来て胸を触り腰を揉
んで来た理由が分かり、騎士達は苦笑を漏らした。
そんなロニアも、薄紅色のキャミソールにクリーム色のホットパン
ツを合わせ、腰にはヒラりと舞う半面のパレオを巻いていた。
﹁リーベルラントの鎧に関しては事前にシャロンさんから聞いてい
た事と、私の知識を合わせてなるべく正確に再現させて頂きました﹂
そう言ってほほ笑んでいるのは、ロクサスの騎士シュトラ。
﹁騎士の鎧にも国柄は出ていますから、私達には馴染のある物でも
ロクサスの方では珍しい事も有りますよね﹂
小さな齟齬が大きな変化を生む事が有る。
それを承知していたシャロンとシュトラは鎧を製造する前に話し合
い、理解を深めていた。
シュトラが今纏っている騎士鎧はロクサス風の作りで、脇や腿に隙
間が多く作られており、柔軟な戦闘を想定した装甲だった。
銀のアーマーの下に着た青色の騎士服も柔らかな生地を用い、体の
動きを阻害しない様に工夫が持たれていた。
﹁それじゃ、アタシ達も着替えに行こっか﹂
セナは楽しげにシャロンとフレアの腕を取り、歩き出す。
ステアがやれやれと言った表情でそれに続き、四人が扉の前へと到
達した時。
ガチャ︱︱と内側からそれが開き、
﹁あら?﹂
中から三人の女性が出てきた。
首から下の肌に張り付くように薄手の生地がその体を覆い、太もも
の付け根の所で深いスリットを両側に作り、まるで暖簾か前垂れの
様にひらひらと股の下で舞っている。
魔術衣装。
世界に飛び交う秘なる者と交信する為に設計された装束を着ている
のは、
1485
﹁ルルさん﹂
﹁あら、お早うございますセナさん﹂
ルルの魔術衣装は黄色を基調として作られていて、ロングスカート
に刻まれたスリットから覗く素足の白さが眩しい。
﹁あら、騎士さん達。遅かったわね、おはよ﹂
その隣で目を眇めているのは銀髪の魔導士アミュス。
彼女の魔術衣装には袖が無く、艶めかしい腕を肩の部分から露出さ
せていた。
黒を基調とした配色が銀髪に良く映えていて、その歪んだ笑みをよ
り強調させていた。
﹁お・は・よ! アミュス﹂
フレアが噛みつかんばかりに応じていると、
﹁おはようございます﹂
﹁おはようございます、ユキリス﹂
遅れて出てきたユキリスとシャロンが挨拶を交わしていた。
ユキリスの魔術衣装は深い青。
スカートはロングでは無く太ももの半ば程度で途切れていて、そこ
から下は白のニーソックスへとガーターベルトで繋がっていた。
魔導士達と簡単な挨拶を終え、隣室へと移動していく四人の騎士。
中には別の先客達が居て、わいわいと着替えをしていた。
﹁こ、こうかの? こっちの輪はここで良いのか? リセ?﹂
白い姫ドレスに体を通しているハイネアは困惑の表情を浮かべ、
﹁う、ロクサスのドレスの作りがこれほど複雑だとは⋮⋮申し訳ご
ざいませんハイネア様﹂
その着替えを手伝っている新品のメイド服姿のリセは悔しげな顔を
していた。
﹁こっちでは有りませんか? 王女﹂
そう言って深紅の軍服を身に纏ったリネミア貴族のヘミネが手を貸
し、
﹁それでここは⋮⋮こっちだと思われます﹂
1486
巫女服姿のシロエが逆の袖を抓んでハイネアの補助をしている。
ハイネアの体に三人の全く統一性の無い服装をした女性が取りつき、
ドレスを着せていた。
﹁お? ステア達か! おはよう!﹂
半ばリセ達の人形と化していたハイネアが手を挙げて挨拶をしてく
る。
﹁おはようございます。ハイネア王女﹂
﹁おはよーリセー﹂
﹁ヘミネ、おはよ!﹂
﹁シロエさん、おはようございます﹂
ステア、セナ、フレア、シャロンの順番で声を掛け、それぞれ相手
からの返答を得る。
﹁貴女方の装備ならそちらに用意してありますよ﹂
ヘミネがそう言って指を差す先に、銀のアーマーと赤色の騎士服が
見え、
﹁アタシが一番!﹂
﹁いいやわたしだ!﹂
セナとフレアは競うように駆け出し、
﹁はぁ⋮⋮﹂
﹁朝からあの二人は元気ですね⋮⋮﹂
ステアとシャロンも続いた。
赤いワンピース型の騎士服を身に纏り、その上から体の各部を守る
アーマーを装着し、リーベルラントの騎士達は揚揚と着替えの別室
から出て広間へと戻る。
そこには、
﹁皆さん、大変良くお似合いです﹂
﹁今度は脱がされない様に頑張る事ね﹂
﹁メイド様が朝食をくれなかった⋮⋮﹂
1487
先に出ていたハイネア達を含めた仲間達と、三人の天使が居た。
アン・ミサは柔らかな笑みでこちらを見ていて、
ラグラジルは悪態を吐き捨て、
ラクシェはお腹を押さえて絶望していた。
﹁いひひひ。ラクシェたんラクシェたん。あーん﹂
その隣で、黒のボンテージ姿のマリスがラクシェの口元にパンを差
し出していた。
﹁はむっ⋮⋮はっ! こ、これはメイド様のパンの味!﹂
﹁そーですよー。マリスは昨日の内にリセっちに頼んで作っておい
てもらったのです。朝寝坊万歳なマリスは食堂が開いてる時間に間
に合いませんからねー。保険って奴です﹂
ラクシェの口にパンを押し込みながら、マリスは笑っている。
彼女が着ているボンテージはロニアが製造した物では無い、ラグラ
ジルが魔力によって編んだ物だ。
眷属。
魔天使の下僕になる事で、マリスは絶大なる力を得ているのだ。
﹁むむむ! ウチもそうする! よく教えてくれた! 流石はお姉
ちゃんの部下﹂
﹁狙いはリセっちが皿洗いをしている時が良いですよー。ついでに
翌日の仕込みとか始めるタイミングで頼めば、簡単にオッケー貰え
ましたよー﹂
モシャモシャとパンにがっつくラクシェとその頭をツンツンしてい
るマリス。
それを呆れた表情で見やりながら、魔天使ラグラジルは首を回し、
﹁全員?﹂
﹁いえ、まだシャスラハールさんとヴェナさんが⋮⋮﹂
誰とは無しに問えば、即座に妹から返事がやって来た。
﹁そういえばユラは?﹂
﹁依代の最終確認に向かってくれています﹂
魔天使と智天使は言葉を交わし合う。
1488
﹁はぁ⋮⋮今年は逃げられないのよねぇ⋮⋮﹂
﹁覚悟して下さい。⋮⋮でも大丈夫ですよ、大体の事はわたくしが
やりますので﹂
凹んでいる姉をニコニコと妹が慰めている姿がそこには有った。
その時、
﹁遅くなりました﹂
広間に響く凛とした声。
聖騎士ヴェナの登場だ。
白の騎士服を纏い、その上に聖言が刻まれたアーマーを身に着け、
腰には魔を払う聖剣を帯びている。
瞳は凛々しく輝いていた。
その後ろに、
﹁わぁ⋮⋮﹂
﹁ほぅ⋮⋮﹂
﹁へぇ⋮⋮﹂
黒肌の王子が続く。
儀式用の礼服では無く、王族が戦場に立つ時に使用する戦装束。
シャスラハールは聖騎士を従える王として、形はまず完璧に整えら
れていた。
元々見目惹く容姿であると共に、王族としての威光を纏ってしまえ
ば、女性陣の目が集まるのも無理は無かった。
﹁やっと来たわね。それじゃあ降臨祭期間中の注意事項を説明する
わ﹂
﹁あ、はい﹂
ラグラジルが流し目で睨むのを、シャスラハールは普段と変わらぬ
様子で受け止めた。
﹁皆さんご存知だとは思いますが、今日からハルビヤニの降臨祭が
始まります。期間は一か月、最初の三週は祭を盛り上げる為の準備
期間。そしてその後にメインイベントである本祭を一週間行う事に
なります﹂
1489
発端を開いたのはラグラジルだが、説明するのはアン・ミサの役目
であるらしい。
﹁ハルビヤニの降臨は依代を使用してのものになります。依代は彼
と縁の強い物体が天運で選ばれます。彼自身で依代を選ぶ事は出来
ません。生前愛用していた武器だったり、普段座っていた椅子だっ
たりですね。昔一度羽根落ちの肉体を依代にした事が有り、その際
は自由奔放に動き回られ、大変苦労しました﹂
そこで、娘達は対策を立てた。
﹁わたくしやお姉様の魔力はハルビヤニから受け継いだ物になりま
すので、実のところこれが最も彼と縁の強い力となります。今回は
それを利用して、中庭に彫像を作っておきました。わたくしとお姉
様の魔力で形作られた彫像ならば、ほぼ間違い無く依代に選ばれる
と思います﹂
編み出した解決策は、ハルビヤニの姿を模し、素材として娘達の力
を使用した彫像を毎年作る事で、依代として選ばせると言うものだ
った。
﹁つきましては皆さまには期間中、中庭への出入りを御控え頂きた
いと思います。ハルビヤニは興味を持った対象に牙を剥く邪悪です。
彼の目に入らない事が一番安全だと思います﹂
智天使の言葉を、仲間達は興味深く聞いていた。
﹁そんなに危険な存在なわけ?﹂
セナが首を傾げて問うと、
﹁興味があるなら会ってみれば? ワタシは止めないけど。アンの
好意を無駄にすることになるわよ﹂
ラグラジルが皮肉気に言った。
﹁お姉様⋮⋮。セナさん、控えめに言ってもわたくし達の父ハルビ
ヤニはまともな存在では有りません。どうか、この忠告を聞きいれ
て下さいますよう、お願い致します﹂
ラグラジルを諌めつつ、アン・ミサはセナへと向けて真剣な言葉を
投げかけた。
1490
﹁ん。わかった気を付けるわ。ありがとう﹂
それを受け止め、セナは頷いた。
その時、
﹁失礼致します﹂
広間の扉が開き、眼鏡を掛けた天使が入室して来た。
﹁ユラ、どうかしたの?﹂
アン・ミサが問うた先、裁天使ユラミルティは一つ頷いてから、
﹁ハルビヤニ様の彫像に、この様な物が引っ掛かっていました﹂
そう言って彼女が取り出したのは、ピンクの布きれ。
﹁んなっ⋮⋮﹂
絶句するセナ。
﹁それはっ⋮⋮﹂
目を見開くシャスラハール。
数日前、屋上で激しく結ばれ合った二人の顔に激しい動揺が浮かぶ。
風に飛ばされた衣服は確かに回収し、セナもシャスラハールも完璧
に服装を整えて浴場会議へ向かったはずだった。
だが、その時のセナは余裕を失っていた事と、既に手に入れていた
フレアのパンツを着用していた事で、一つだけ別の場所へ飛ばされ
ていた自分自身の下着の存在を忘れていたのだ。
﹁セナ⋮⋮?﹂
隣でシャロンが不思議そうに覗き込んでくる。
明らかに様子がおかしい戦友に、首を捻っている。
﹁あっ⋮⋮えぇと⋮⋮﹂
その様子から唯一、事態を察する事が出来たのは智天使アン・ミサ。
﹁ユラ、それはわたくしが預かり︱︱﹂
﹁はーい。パンツの落し物でーす。心当たりの有る人は前に出てき
てくださーい﹂
それを遮り、前へと進み出てユラミルティの手からセナのパンツを
奪い取ったラグラジル。
﹁誰のー? 名前書いて無いわよー? 持ち主が現れるまで宮殿の
1491
入り口に飾っとこうかしら。もしかしたら女中達のかも知れないし﹂
心の底から楽しそうに、魔天使はセナのパンツをヒラヒラと動かし、
広げ、裏返す。
﹁⋮⋮なんか見た事有るな﹂
フレアが首を傾げ、
﹁⋮⋮セナ﹂
ステアが答えを見つける。
﹁おぉぉぉ⋮⋮あぁぁぁ⋮⋮﹂
顔を真っ赤に染め、屈辱に震える騎士セナ。
何故ハルビヤニの彫像のところにパンツが落ちているのか。
その人物は中庭でパンツを脱ぐような事をしていたのか。
それは何なのか。
皆の疑問が渦巻き始める。
﹁良いのー? 中庭にうっかりパンツを脱ぎ捨てて行った人?﹂
魔天使の残酷な笑みが場を支配する。
その時、
﹁僕に⋮⋮﹂
黒肌の王子が手を挙げ、真剣な顔を浮かべる。
皆は一斉にそちらを向き、息をのむ。
﹁下さい﹂
﹁下さいじゃないわよ! アンタ馬鹿じゃないの!﹂
咄嗟に激しく動揺しながらツッコんだセナの様子に、周囲は理解し
た。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
アミュスが蔑む視線を向け、リセが困った笑みを浮かべている。
﹁お、おぉぉぉぉ⋮⋮﹂
誤魔化しきれない事を悟ったセナは、一歩ずつゆっくりと歩き始め
る。
﹁なーんだ。セナちゃんのか。中庭でパンツ脱いで何していたかは
1492
聞かないでいてあげるわ﹂
﹁セナさん⋮⋮一先ず僕が矢面に立ってから後でお返ししようと思
っていたのに⋮⋮﹂
ラグラジルはニヤけ、シャスラハールは呻いている。
セナはラグラジルへと歩み寄り、奪う様にしてパンツを受け取って、
またシャロンの隣へ戻って来る。
﹁⋮⋮﹂
﹁何か言ってよ⋮⋮﹂
無言を貫くシャロンに、セナは泣きそうな表情で言った。
その時、
﹁あ、おねーちゃん。時間﹂
マリスと何やら遊んでいたラクシェがふと口を開いた。
﹁ん? あぁそうね。ハルビヤニの降臨が始まるわ。この日の正午
にキッチリとね﹂
着替えやら持ち主探しやらで時間を消費して、いつの間にか昼を迎
えていた。
﹁来るわよ⋮⋮﹂
﹁お姉様とラクシェはここに。わたくし一人でお父様をお出迎え致
します﹂
そう言って、アン・ミサが広間から出て行こうとする。
そこに、
﹃いいやぁ。大丈夫だ。出迎えはいらん﹄
声が響いた。
少年と青年の間の声。
﹁はっ?﹂
﹁えっ⋮⋮﹂
ザワつく人間達と、表情を厳しくする天使達。
﹁お父様⋮⋮﹂
﹁チッ⋮⋮さっさと依代へ入ったら? 今のままで話すのは疲れる
んでしょう?﹂
1493
﹁げー⋮⋮クソ親父ぃ﹂
三人の娘達が口ぐちに虚空へ声を向ける。
﹃そうだなぁ⋮⋮折角お前達がパパの為に用意してくれた依代だ。
使ってやりたいのはやまやまだが⋮⋮。今年はお客さんも多い。俺
自身体を得て歓迎してやらんとな﹄
そう言って、姿無き声は四方へ響く。
さながら居合わせた人間達を値踏みするかのように。
﹁⋮⋮彼女達は祭とは無関係です。わたくしが個人的に御招きして
いる友人ですので⋮⋮﹂
﹃なぁに。娘の友人に少し格好いいところを見せてやるのも、父親
の務めだろう?﹄
アン・ミサの抵抗を、ハルビヤニは跳ね除けた。
﹁というか、何でクソ親父はこっち来てんの? 天運でそのまま直
接依代に行くはずじゃ?﹂
ラクシェが首を傾げる。
﹃賢くなったなぁチビ。そうさ、俺は降臨する先を選べずに直接そ
こへ放り込まれる。剣だの椅子だの微塵も面白くない場所へだって
強制的さ。だからな、どうせ天運に左右されるのなら、それを操作
できるだけの﹃幸運﹄を持っておけば良いんだよ﹄
そう言って、ハルビヤニの声は笑った。
﹁その声⋮⋮もしかして⋮⋮﹂
﹃あぁ、幸運の魔導士よ。お前とは昔会った事が有るよな。お前が
世界中の公娼に対して﹃幸運﹄を分け与えようとした時、俺が掠め
取った﹄
瞳を強く引き絞ったルルに、姿無き声が応じた。
﹃それを使ったのさ。この祭を最大限に楽しむ特等席に座る為にな﹄
そう言葉が紡がれた時。
場の気配が変わった。
圧倒的な魔力が、広間で暴れ始める。
ラグラジルでも、アン・ミサでも、ラクシェでも、ルルでも、アミ
1494
ュスでも、ユキリスでも無いその魔力。
ハルビヤニ。
﹃降臨の時ぞ。クハハハハハハハ﹄
雷の様に光が弾け、広間に居た全員の目を眩ませる。
そうして閃光が消え去った後、人間と天使は視線を交わす。
﹁どこに⋮⋮?﹂
﹁玉座⋮⋮?﹂
ルルが辺りを見渡し、アン・ミサがこの場所で最も父と関連深かっ
た場所を見やる。
﹁違うわね⋮⋮あそこからは魔力を感じない﹂
魔天使ラグラジルが吐き捨てる様に言った時、
件の玉座に歩み寄る人影が有った。
﹁⋮⋮え?﹂
ラクシェが呆然と呟く。
﹁待って! ねぇ待って!﹂
セナがその人物を止めようと声を掛けるが、無視される。
﹁⋮⋮殿下⋮⋮?﹂
ヴェナの声がその背に届く。
そこでようやく、彼は振り返った。
﹁あぁ⋮⋮久しぶりだ⋮⋮肉体の感触。良い⋮⋮良いぞ⋮⋮クハハ
ハハハ﹂
少し前まで、ゼオムントに抗う王子だったその体。
シャスラハール。
しかし、
﹁よっと﹂
黒肌の王子が普段見せた事の無い邪悪な笑みを浮かべ、玉座に腰を
下ろした。
そうして、自分を見上げる全ての女達を睥睨し、
﹁つまらん恰好をしているな。脱げ﹂
ハルビヤニの声は命じた。
1495
降臨︵後書き︶
ルルとハルビヤニの接点は、結構前になりますが﹃争いの無い一日﹄
回にてお風呂トークで出てきた内容です。
1496
娼婦契約︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1497
娼婦契約
場を支配するのは、圧倒的な気配。
人ならざる者。
魔を総べる者の威圧感。
それでも、
﹁殿下⋮⋮?﹂
唯一、動く者が有った。
﹁違うな。俺は王子様では無い。王様だ﹂
聖騎士ヴェナは腰の聖剣に手を遣りながら、玉座に座る少年の姿を
見つめる。
﹁殿下に⋮⋮何をしました?﹂
﹁少しの間体を借りるだけだ。安心しろ、降臨祭が終われば返して
やる﹂
軽く応じるハルビヤニの声に、ヴェナは聖剣を抜き放つ事で答えた。
﹁今すぐに、殿下から離れなさい﹂
一歩ずつ着実に玉座へと歩み寄りながら、シャスラハールの姿をし
たハルビヤニを睨みつける。
﹁クハハハハ。別に良いぞ。いや、あんまり良くは無いが⋮⋮。こ
の体が死んだところで俺は別の依代へと移動するだけだ。ま、本来
の持ち主であるこのガキは死ぬけどな﹂
ハルビヤニはニヤニヤと、聖騎士の動きを眺めていた。
﹁⋮⋮アン・ミサ殿﹂
ヴェナは首の向きを変えずに、後方へと問う。
﹁⋮⋮事実です。依代を傷つけたところでハルビヤニに影響はあり
ません﹂
智天使アン・ミサは、そう答えた。
﹁違います。わたくしは元々殿下の体を傷つけるつもりなどありま
1498
せん。どうすればこの男を殿下の体から追い出せるか、それを知り
たいのです﹂
間髪入れずヴェナは言葉を作る。
﹁⋮⋮降臨祭の終わる日まで、待つしかありません﹂
アン・ミサの答えは、重々しい物だった。
﹁依代からの離脱は、ハルビヤニの意思によって出来る事ではあり
ませんし、依代の破壊以外の条件で、ハルビヤニが移動する事はあ
りません﹂
告げられた言葉に、ヴェナは唇を噛む。
そのやり取りを聞いていたハルビヤニは、少し眉を曇らせ、
﹁アン⋮⋮俺の娘よ。お前は何故俺の名を呼び捨てにする? 小さ
な頃の様にパパ、パパと呼んでくれないのか? 悲しいが、躾も必
要か﹂
そう言って、指を鳴らす。
すると、
﹁チッ!﹂
﹁お姉様!﹂
アン・ミサの背後に巨漢の魔導機兵が出現し、拳を振り上げていた。
ラグラジルとラクシェは姉妹を守る為、咄嗟に反応する。
魔天使の放った魔力の鎖が魔導機兵の動きを阻み、力天使の貫手が
その胴を穿った。
﹁クハハハ。少し前まであれだけ派手に姉妹喧嘩をしていた割には、
随分と良い連携じゃないか。パパは安心したぞぉ﹂
愉しげに、ハルビヤニは言った。
崩れ落ちる魔導機兵の様子に、人間達はそれぞれに警戒の姿勢を保
ちながら、ハルビヤニを見つめている。
﹁まぁ安心しろ。俺としてもこの肉体は必要だ。殺しも壊しもしな
いさ。ところで、お前達さっき俺が命じた︱︱﹂
﹁ラグラジル様! 人間族の陣地より大軍が動き出したとの報告で
す!﹂
1499
そこに、天兵の一人が大慌てで入室して来た。
そして広間に流れる異質な空気を感じ、怯えた様子を見せる。
﹁⋮⋮数は、っていうか場所はどの辺り?﹂
ラグラジルはハルビヤニから視線を切り、管理者としての表情を浮
かべる。
﹁は、はっ! ゼオムント軍の陣地より西方に数里のところです。
網を張っていた物見からの緊急連絡です!﹂
天兵が怯えながら応じる。
その言葉に、人間達はザワザワと沸く。
﹁戦うのか?﹂
﹁この状況で?﹂
﹁でも、来るならば⋮⋮応戦するしか!﹂
そこに、
﹁少し黙ってて﹂
ラグラジルの冷めた声が響いた。
魔天使の口は魔術を唱え、
その場に特大の魔鏡が生まれた。
魔天使ラグラジルの能力の一つ、遠隔視。
そこに映し出されていたのは、西域の地を進む人間の軍隊。
﹁⋮⋮三⋮⋮いや、四万と言ったところか?﹂
﹁二十万以上の陣容から考えるに、先遣隊と言う事でしょうか﹂
マリューゾワが見立て、シャロンが判断する。
降臨祭の期間に突入し魔物達が支配を撥ね退けている状況で、人間
だけの部隊を送り込んで来た。
﹁向こうの魔物が戦えないのを見て、こちらも戦えない、そう判断
したのか?﹂
ステアが訝しむ。
人間達はシャスラハールがハルビヤニに乗っ取られたという状況の
中、更なる問題を突き付けられている。
そこに、
1500
﹁無粋だな⋮⋮オビリス。いや、この判断はアイツじゃないな⋮⋮。
そういえばアイツはまだ腕の治療中とかで静養しているんだったか
⋮⋮﹂
ハルビヤニは小さくつぶやいた。
そして、
﹁クハハハハ。だがこれは重畳。お前達見ておけ。俺の力を、この
ハルビヤニの偉大さを﹂
西域の王は高らかに言い、魔鏡へと向かって手を翳した。
﹁蹂躙せよ。我が土塊達よ﹂
その時、魔鏡に新たな影が映った。
影は幾つも幾つも出現し、行進を続けていた人間達を遮る様に展開
していく。
魔導機兵。
ハルビヤニの能力であるそれら物言わぬ強靭な鎧達が、先ほどアン・
ミサに襲い掛かった時の様に、不意に鏡像に出現したのだ。
ゼオムント兵はその出現に驚き、歩みを止めた。
そこに、無言のまま魔導機兵達は襲い掛かる。
﹁二万。魔導機兵を二万、派遣した﹂
悦に浸る声で、シャスラハールの姿を借りたハルビヤニは告げた。
人間達は食い入る様に鏡を見つめ、そこで繰り広げられる一方的な
虐殺に目を奪われた。
魔導機兵。
その強さは知っていた。
だが数を揃え、連携して戦う姿を見たのは初めてだ。
その結果は、四万のゼオムント兵を瞬く間に駆逐する悪魔の様な働
きだった。
﹁⋮⋮凄い⋮⋮﹂
誰かが溜息を吐くように言った。
疲れを知らず、怖れを知らず、痛みを知らず、ただ命令に従い標的
を殺す鎧。
1501
魔導機兵という戦力の強大さを、まざまざと見せつけられた。
ゼオムント兵は潰走しようとして、その退路すら塞がれ、圧殺され
ていく。
数で倍の戦力で有ろうとも、抗う事の出来ない滅びの運命。
命乞いをするゼオムント兵を慈悲も無く突き殺す魔導機兵。
首を潰し、胴を割り、手足を断つ。
画面に見入って十数分で、その戦場に立つ人間は居なくなった。
方や魔導機兵の方に、損耗は見受けられない。
それが、結果だった。
﹁どうだ? 俺の魔導機兵は﹂
下品な笑みを浮かべながらハルビヤニが言い、それを合図とするか
のようにラグラジルは魔鏡を消した。
﹁⋮⋮一先ず、先遣隊が全滅したとなれば、ゼオムント側も動きを
抑えるはずです﹂
シャロンはハルビヤニの隙を窺っているセナの肩に手を置き、そう
言葉を作った。
﹁シャス⋮⋮﹂
セナは玉座に居る自分の主だった者を見つめながら、唇を噛んでい
た。
﹁さて、まぁ服を脱ぐ脱がないは後でで良いか。話をしようか。こ
の祭に対して俺がお前達に望む事をな﹂
ハルビヤニはそう言って、両手を広げた。
﹁この降臨祭は、俺が一年に一度、最も楽しみにしている行事だ﹂
ことほ
そう言って、ハルビヤニは玉座を降り、人間達に近づいてくる。
﹁西域の各地から俺の為に多くの同胞達が寿ぎに来てくれる。俺は
それをホストとしてもてなしてやらねばならない。だが、近年の俺
は娘達の手抜きの為に、彫像に閉じ込められ、見たくも無い演劇な
んぞでお茶を濁され、到底楽しいと言えるような祭を味わえなかっ
1502
た﹂
大げさに天を仰ぎながら、ハルビヤニは続ける。
﹁客をもてなす事も、自分が楽しむ事も出来ず、それはそれは悶々
としたひと月を過ごしていたものだ﹂
﹁アンタを自由にしたら、何をやらかすかわかったものじゃないわ﹂
ラグラジルが悪態を吐き、アン・ミサとラクシェもそれに従う。
﹁クハハハ。そう言うな娘よ。今年は動き回れる体が有る。そこで
俺は、宴を積極的に盛り上げていくつもりだ。ラグ、アン、ラクシ
ェ、それにユラミルティ。お前達にはもちろん、有無を言わさず協
力してもらう﹂
ハルビヤニの視線を、ユラミルティは無言で流し、天使三姉妹は揃
って不快そうな表情を取った。
﹁その上でだ。見てくれこの数を。里にやって来てくれた同胞達は
こんなにも多い。俺と娘達だけでは到底手が足りない。だから人間
族の戦士達よ。お前達の手も貸せ、俺に協力し、祭を盛り上げてく
れ﹂
窓辺に寄りながら、ハルビヤニは里を一望し満足げに頷いた。
﹁⋮⋮わたくし達に何を望むのです?﹂
聖騎士ヴェナが、未だに聖剣を鞘に収めぬまま問うた。
それに対し、
﹁お前達は⋮⋮ゼオムントで一流の芸を仕込まれているじゃないか。
それを使って、俺の祭に華を添えてくれよ。お前達という、華をな﹂
振り返るハルビヤニの瞳は、シャスラハールの顔で笑っている。
﹁我らに、公娼をやれを言うのか⋮⋮!﹂
マリューゾワは目に険を宿し、西域の王を睨みつける。
﹁ふざけた事を⋮⋮﹂
拳を打ち合わせながら、ヘミネが一歩前へ出てハイネアを背中に隠
す。
﹁シャスラハールの口で、何を言わせるのですか﹂
ルルが珍しく怒りの表情を浮かべ、詰め寄る。
1503
﹁クハハハ。まぁそう焦るな。条件を提示しよう。タダ働きは可哀
そうだからな。一つ、祭への協力を受け入れた場合⋮⋮このシャス
ラハールの体を返す。無事に、傷一つ付けずに、熨斗を付けて返し
てやる﹂
その言葉に、ヴェナとセナの表情が固まる。
今の言葉を反対に捉えれば、
﹁協力しなければシャスの体をどうするつもり!﹂
激昂するセナに、
﹁クハハハハ。さぁてな。使い終わった道具は始末しなければいけ
ないだろう? そう言う事だ﹂
ハルビヤニは邪悪な笑みで応じた。
そしてハルビヤニは二本目の指を立てる。
﹁二つ、お前達が協力し、祭がつつがなく終了すれば、俺はお前達
に対して駄賃代わりに魔導機兵を二万。さっきの戦力をそっくりそ
のまま渡してやる。無論、アンの統治が無くても動かせる様に強化
した奴をな﹂
その言葉に、人間達の表情は厳しい物になった。
公娼に戻るなど有ってはなら無い事だが、ゼオムントとの戦争にお
いて圧倒的不利な軍備を覆せるだけの戦力を提示されたのだ。
﹁逆に、お前達が協力を拒んだ場合は、現在この里で修復されてい
る千体もろとも、ゼオムントに魔導機兵を全て貸し出す。お前達は
祭りの後、役に立たないここの天兵達と一緒に玉砕でもするのだな﹂
その追加条件に、全員が顔を青褪めさせる。
ただでさえ数的不利が深刻な状況で、こちらの切り札とも言える魔
導機兵を相手に渡されてしまっては、戦いにすらならない。
人間達一人一人の顔を見渡しながら、ハルビヤニは笑う。
﹁どうだ? 俺も王の端くれ、しっかりと働いた者には褒美を用意
するという常識は知っている。お前達が公娼として祭を盛り上げて
くれたのならば、西域の王としての責務は果たすつもりだ。そこの
魔導士、誓約を結んでくれて構わないぞ﹂
1504
ルルを指差し、ハルビヤニは笑顔で言った。
人間達に突き付けられた二つの条件。
ヴェナやセナ、その他シャスラハールと絆を結んだ者達には一つ目
の条件から無視する事は出来ない。
その上、シャスラハールと縁が薄いマリューゾワやアミュスらにと
っても、二つ目の条件を考えれば、拒否する選択肢など有り得はし
ない。
それでも、彼女達の心には深く傷が出来ている。
何度も抉られ、広げられ、踏みにじられた心の傷。
公娼に戻るという事の意味。
﹁殿下の為、わたくしが一人で︱︱﹂
﹁あぁそうそう。例外は認めないぞ。ここに居る全員がその対象だ﹂
言葉を放つヴェナを牽制するかのように、ハルビヤニは言った。
それを受け、ハイネアを庇っていたリネミアの三人は表情を歪めた。
﹁まぁ。すぐに答えが出ない事は理解しよう。一時間やる、下の階
の会議室を使え。話し合って決めろ。待ってやるよ、王には寛容さ
も必要だからな﹂
そう告げるハルビヤニに向けて、全員が怒りの視線を向ける。
そして、
﹁⋮⋮行こう﹂
ステアが重々しく言い、歩き始めた。
向かう先は、広間の扉。
そこから出て、階段を降り、会議室へと向かう。
セナが、シャロンが、フレアが、全員がゆっくりとそれに続く。
結論が出ている話し合いに向けて、自分達を捧げる事を認める会議
に向けて、
唇を噛み、目に涙を湛えながら、足を動かした。
人間達が重い足取りで去って行った後の広間に残された者達。
1505
魔天使ラグラジル、智天使アン・ミサ、力天使ラクシェ、裁天使ユ
ラミルティ。
そして、ハルビヤニ。
﹁お父様⋮⋮! どうか、考え直してください!﹂
アン・ミサが父の正面に立ち、頭を下げた。
﹁皆さんを、酷い目に遭わせるのだけは⋮⋮どうか、どうか⋮⋮﹂
ポタポタと滴を床に零しながら、哀願した。
﹁ふむ⋮⋮﹂
ハルビヤニは娘の様子を見て、顎に手を添えて唸る。
﹁⋮⋮今からでもこの体を始末すれば、彫像の方に行くんじゃ無い
かな?﹂
ラクシェはいつの間にか取り出した戦槌を構え、ハルビヤニを睨ん
でいる。
﹁良い考えね。それも有りだとワタシは思うわ﹂
ラグラジルもまた、手に魔力を溜めながら頷いた。
﹁お姉様! ラクシェ!﹂
﹁黙ってなさい、アン。コイツを調子に乗せたらどうなるか、知ら
ないわけじゃないでしょ? 唯々諾々とさっきの条件を受け入れて
も、その後でどんな目に遭うか。下手すればさっきの連中全員がコ
イツの玩具になった後に死ぬわよ﹂
ラグラジルはその事を別に気にしているわけでは無い。
ハルビヤニが自由を得ている事を、最も危惧していた。
妹を説得する為だけに、心にも無い言葉を吐いたのだ。
﹁で、でも!﹂
﹁アン・ミサ様! お下がりを!﹂
戦闘の気運が高まったのを感じ、ユラミルティはアン・ミサの手を
引いて後ろへと下がった。
﹁挑むか⋮⋮俺に﹂
ハルビヤニは余裕を崩さない。
﹁ラクシェが居て、それをサポートできるワタシが居れば、何とか
1506
なる気がするわ。お父様!﹂
ラグラジルは腕を振り、魔鉄鎖を空間にばら撒く。
対象の動きを制限し、時には縛り上げる為の用意だ。
﹁行きなさいラクシェ!﹂
﹁うん!﹂
鉄鎖を潜り、ラクシェはハルビヤニへと突進する。
それを眺めながら、
﹁良いな。久々に親子で遊ぶって言うのも﹂
ハルビヤニは指を鳴らし、魔導機兵を五体生み出した。
五体の魔導機兵は装備した大盾を構え、ラクシェの特攻を防ぎに掛
かる。
﹁はんっ! 所詮は木偶よね!﹂
ラクシェの戦槌が振るわれ、魔導機兵は構えた大盾ごと見事に粉砕
された。
﹁おーおーやるねぇ﹂
ハルビヤニは楽しげに言い、更にもう一度指を鳴らした。
すると、砕け散ったはずの魔導機兵達の破片が寄り集まり、一個の
巨体を成した。
﹁強度も五倍だ。遊んでやれ﹂
大盾とメイスを握った巨大な魔導機兵が、広間の天井に頭を擦る様
にしてラクシェへと迫る。
﹁甘いわね﹂
その四肢を、ラグラジルの魔鉄鎖が縛り付け動きに制限を掛ける。
﹁ありがとお姉ちゃん!﹂
ラクシェが変貌した。
全身に血管を浮かべ、魔力を迸らせる。
力天使ラクシェが持つ唯一の技能﹃覚醒﹄。
覚醒ラクシェは大きく戦槌を振りかぶり、
﹁はぁぁぁぁぁ!﹂
巨大な魔導機兵の頭に打ち下ろした。
1507
粉々に、再起不能なレベルで砕け散る鎧の体。
降り注ぐ破片を見やりながら、ハルビヤニは尚も笑みを浮かべてい
た。
﹁何余裕こいてるのよ﹂
そのすぐ隣に、白くしなやかな右腕が出現する。
魔天使ラグラジルの能力の一つ、異空間接続。
ラグラジルは最初の立ち位置から一歩も動く事なく、異空間を通し
て繋げた右腕に込めた必殺の魔法を、ハルビヤニの顔面に押し付け
ようとしていた。
眼前に広がる死の気配に、ハルビヤニは凄惨な笑みを浮かべ、
﹁ラグ⋮⋮良い子にしろ﹂
そう、言葉を吐いた。
魔力を込めた、言の葉だった。
その瞬間、ハルビヤニに迫っていた死は霧散し、ラグラジルの腕も
異空間から消え去った。
﹁お姉ちゃん? 良いよ! ウチがやる!﹂
未だ空中を跳ねていたラクシェは瞳に力を籠め、ハルビヤニへと戦
槌を構えた。
狙いを定め、呼吸を整えるラクシェ。
その小さな体に、不意打ちで魔鉄鎖がきつく絡みついた。
﹁んなっ⋮⋮﹂
雁字搦めに縛り上げられ、ラクシェは身悶えする。
﹁こ、こんなの! ﹃覚醒﹄していれば破れないわけじゃないもん
!﹂
身中で暴れる魔力を遮二無二操り、鎖を断ちに掛かるラクシェへと、
﹁押さえ込め﹂
ハルビヤニは新たに生み出した魔導機兵に命じ、実行させた。
戦闘は、集結した。
ラグラジルは唇を噛んだ状態で立ち尽くし、ラクシェは床の上で縛
り上げられ、更に十体の魔導機兵に圧し掛かられて動きを封じられ
1508
ている。
﹁お、お姉様⋮⋮﹂
アン・ミサが震える声でラグラジルへと問う。
戦闘中、急に戦いを止めてあまつさえラクシェの妨害まで行った姉
の様子に、激しい違和感を覚えたからだ。
﹁クスタンビアね⋮⋮﹂
呪詛の様な、ラグラジルの声。
それを受け、ハルビヤニは楽しげに笑った。
﹁あぁそうさ。アイツがお前に躾魔法を使っておいてくれたからな。
まぁ、それも全て俺の差し金だがな﹂
躾魔法。
親鬼による天兵の里襲撃時に、クスタンビアがラグラジルを屈服さ
せた魔法。
それらは、西域に流れる魔力を利用してハルビヤニが残した秘術。
﹁そんな! それはわたくしの魔法で上書きしたはず⋮⋮﹂
その後、アン・ミサにより﹃束縛﹄魔法を掛けられた事によって、
ラグラジルはクスタンビアの支配から解放された筈だった。
﹁単純な事さ、アン。天使であるお前と親鬼のクスタンビアでは魔
力に差が有った。だからお前はラグを奪い返す事が出来た。だがな、
それは智天使であるお前と、支配者である俺との間にある力量差に
も同じことが言える。この魔法の本来の使用者は俺であり、あの場
ではクスタンビアが代理で動いていたと言うわけさ﹂
ハルビヤニはそう言って、笑った。
魔法は、術者の魔力によってその強度が変化する。
顕現したハルビヤニの魔力に、智天使アン・ミサでは敵わなかった
のだ。
﹁お姉様が⋮⋮﹂
﹁そう。今のラグは俺の奴隷だ。便所に行くのも飯を食うのも服を
着るのも俺の許可がいる。無論、死ねと命じれば死ぬぞ﹂
脅し。
1509
実の娘に対する凶悪な脅し。
﹁さぁ、娘達よ。パパのお祭に協力してくれるか? その体を、魂
の全てを捧げ、パパの為に祭の贄になってくれるか?﹂
﹁ふざけるな⋮⋮﹂
ラグラジルには、拒否権が無い。
﹁お父様⋮⋮そんな⋮⋮﹂
アン・ミサには、姉を見捨てる事は出来ない。
﹁⋮⋮お姉ちゃん⋮⋮﹂
﹃覚醒﹄状態で魔鉄鎖を引き千切り、魔導機兵を弾き飛ばしながら
立ち上がったラクシェもまた、消沈した声を放った。
﹁お前達は最近パパを蔑ろにして、自分達ばかり楽しそうだった。
パパは寂しくて寂しくて。仕方が無いからアイツとばかり遊んでい
たんだ。ラクシェ、お前のお兄ちゃんとな﹂
ハルビヤニのその言葉に、ラクシェは怪訝な顔を浮かべる。
﹁は? 何言ってるの⋮⋮?﹂
西域の天使三姉妹。
末の妹であるラクシェは父を呆れた目で見つめ、姉達を振り返った。
﹁え⋮⋮?﹂
そこには、殺意の籠った目をしたラグラジルと、表情を歪めたアン・
ミサの姿が有った。
﹁お前達がここでもパパを蔑ろにすると言うのなら仕方が無い。俺
は言う事を聞かない娘達を見捨てて、気前が良くていつも俺を楽し
ませてくれる長男の方につこう﹂
シャスラハールの姿で、ハルビヤニは上機嫌に笑う。
﹁この祭で、お前達が俺に協力しなければ⋮⋮俺はオビリスにつく。
奴に力と知恵を与え、この西域を征服させる。王の息子だ。その資
格は充分に有る。もしそうなった場合は、お前達の様な出来の悪い
娘は公娼なんぞ生温いくらいの扱いで、飼ってやろう﹂
そこに示されたのは、ハルビヤニの血族。
オビリスの正体。
1510
﹁な、何で? う、ウチそんな話知らないよ?﹂
動揺するラクシェに、ラグラジルは歯噛みする。
﹁⋮⋮以前、アイツがここに来たのはね。そういう理由と建前だっ
たのよ⋮⋮﹂
魔天使ラグラジルが一度管理者から降ろされた事件。
その実行者はオビリスであり、
﹁あの男はわたくし達の弟だと言い、検査を行い⋮⋮証明されまし
た。そうして、懐に入り込んだ後⋮⋮わたくしの杖を奪い、お姉様
を襲ったの⋮⋮ラクシェ、ごめんなさい。貴女にこんな話は聞かせ
たくなかったの⋮⋮﹂
西域の統治を乱した男。
﹁あぁそうさ。俺がそうする様に導いた。警戒心の強いラグでは無
くアンに取り入らせて、その力を使ってラグを襲わせた。愉しかっ
たろ? ラグ。アンの杖で操られた魔物達に輪姦されたのは﹂
魔天使の頭の中で、堕天した時の記憶が暴れ出す。
夜中、就寝中の自分を近衛役の魔物が襲い、薬を打たれて意識を飛
ばされ、その後長い間数十体の魔物達に犯され続けた記憶。
﹁お前が何日間もボロボロの精液便所になってる間に、役立たずの
羽根落ち共を数百人殺して、その罪をお前に被せた。アンも最初は
疑っていたんだけどなぁ⋮⋮他の羽根落ち連中が口を揃えてラグの
凶行を報告するものだから、いよいよ決断したのさ﹂
智天使の顔には、その時姉を信じ切る事が出来なかった悔恨が浮か
ぶ。
家族の死について語る羽根落ち達の声と心の叫びは痛切な物で、ア
ン・ミサは法の番人として心を鬼に変えなければならなかった。
﹁ま、その前の降臨祭で俺が仕込みをしていた結果だがな。あの羽
根落ち達にはキーワードを与え、それを聞かせるとねつ造された記
憶を上書きさせるよう、仕組んであった。アンはそれに騙されたっ
てわけだ﹂
力天使ラクシェは、告げられた真実を前にオロオロしている。
1511
オビリス来訪時は外回りの任務に出ていた為詳細を知らず、その後
は口を閉ざしたアン・ミサにより真実を告げられなかった。
﹁ラグを虐殺者として認定したアンの法によりラクシェを派遣され、
既にズタボロ状態だったラグから力を奪った。這う這うの体で生き
延びたラグと、管理者の重責に押し潰されるアン、そして自分達を
裏切ったラグを憎む事にしたラクシェ⋮⋮ま、そんな筋書をしっか
りやってのける辺りが、優秀な長男だというわけさ﹂
ハルビヤニの言葉を、三人の天使はそれぞれに怒りの表情で受け止
めた。
﹁クソ親父! アンタが! アンタがウチらの関係を滅茶苦茶にし
たんじゃない!﹂
ラクシェが激昂し、戦槌を振り上げる。
﹁俺がお前達に望んでいたのは、俺の玩具をしっかりと管理する事
だ。お前達は俺の期待に背いた。俺が居なくなった後の西域のつま
らなさは反吐が出るレベルだ。逆に、人間界の方ではオビリスがゼ
オムントに取り入って、常に俺に刺激を届けたくれた﹂
ハルビヤニはラクシェを見つめながら口を開く。
﹁見ていて楽しいのは間違いなくオビリスの方だ。だがな、俺も親
だ。お前達のパパなんだ。だからそうそう簡単にはお前達を見捨て
られない。なぁ、ラグ⋮⋮アン⋮⋮ラクシェ。俺にもう一度だけお
前達を愛でさせてくれ。可愛い可愛い娘達の姿を見せてくれ﹂
そう言って、ハルビヤニは満面の笑みを向けた。
﹁そうじゃないと、もう壊す以外の楽しみようが無くなってしまう﹂
紡がれた言葉に、三姉妹は唇を噛んだ。
始めに口を開いたのはアン・ミサ。
﹁ユラ、貴女は外へ出ていて下さい。外周任務を与えます。降臨祭
の間は決してこの里に近寄らないように⋮⋮﹂
自分の副官へ、そう告げた。
﹁⋮⋮アン・ミサ様、私も⋮⋮今度は貴女様の御傍を離れません﹂
クスタンビア襲撃時に天兵の里を離れていた事で、ユラミルティは
1512
アン・ミサを守る事が出来なかった。
その後悔を、二度とするつもりは無かった。
﹁⋮⋮馬鹿ね。無駄に体を汚すだけよ﹂
ラグラジルは素っ気なく、ユラミルティへと言い放った。
﹁覚悟の上です⋮⋮﹂
その言葉を受け取り、魔天使は首を曲げた。
﹁ラクシェ、武器を仕舞って﹂
姉の言葉に、力天使は無言で従った。
その表情に万感の怒りを込めながら。
﹁良いわ、お父様⋮⋮貴方のお祭に参加してあげる﹂
魔天使ラグラジルは四人を代表し、吐き捨てた。
ガタッ︱︱と扉を開け、ハルビヤニは娘達と共に会議室へと入って
行った。
﹁どうだ? 結論は出たかな?﹂
ニヤニヤとシャスラハールの顔で笑みを浮かべ、会議室を見渡す西
域の王。
その視線を、人間達は殺意に似た表情で迎え撃った。
広い会議室、テーブルを中心に置き等間隔に並んだ椅子に座した人
間達は、凡そ話し合いと呼べる物を行えてはいなかった。
結論は当に出ている。
自分達に拒否する術はない。
だが︱︱。
﹁一つ、良いか?﹂
魔剣大公マリューゾワは両手を顎の下で組み、鋭い視線でハルビヤ
ニを睨みつける。
﹁あぁ、構わん﹂
王はそれに対し、悠然と頷いた。
﹁貴様の祭に参加すれば、シャスラハール王子が無事こちらに戻り、
1513
その上で魔導機兵が手に入る。それで間違いは無いな?﹂
確認の問いに、
﹁その通りだ。後で誓約の魔導士と誓いを立てよう﹂
即座に頷きが帰ってきた。
その上で、
﹁魔導機兵を五万にしろ。そして、今の貴様に不可能が無いと言う
のなら、ゼオムントが持つアン・ミサの杖を使用不能にしろ。その
条件を追加させてもらう﹂
魔剣大公は鋭く言い放った。
身を汚す覚悟をしなければならない。
それはゼオムントに勝つ為、未来に進む為に必要な事だと判断せざ
るを得ない。
ならば、少しでもその条件を良くし、未来像をより強固な物へと変
えようとした。
﹁⋮⋮ほう﹂
ハルビヤニはその要求に、顎を撫でて応じた。
二万の魔導機兵は四万のゼオムント軍を駆逐した。
その兵力を倍以上の五万に増やし、尚且つゼオムントが西域の魔物
を扱えなくする事で、人間相手の戦争を有利に変えようとしている
のだ。
﹁唐突だな⋮⋮まさかお前達の立場で、それほど強気な発言が出て
来るとは⋮⋮﹂
苦笑を浮かべ、肩を竦めるハルビヤニ。
人間達はマリューゾワを緊張の視線で見つめる。
マリューゾワとしても冒険だった。
立場が圧倒的に不利な状況で、要求を通す。
その為に必要な事は︱︱
﹁だが、良いな。面白い﹂
相手を楽しませる事だ。
成功した。
1514
ハルビヤニから、更なる条件を勝ち取って︱︱
﹁が、だ。それはあくまで追加条件。いや、第二条件だな。祭に参
加した上で、祭を盛り上げてくれた場合の成功報酬だ﹂
西域の王は甘くは無かった。
﹁何を持って成功とするのだ?﹂
マリューゾワの隣に座したステアが睨みつけるように問うと、
﹁まぁそれは追々だな。誰かから聞いているとは思うが、降臨祭は
ひと月有ると言っても、最も盛り上がる本祭は最後の一週間。その
前の三週間は準備だ。第二条件に対してこちらが要求する内容は、
本祭の一週間前に発表する。今から二週間後だな﹂
ハルビヤニは即座に応じた。
﹁大丈夫だ。条件はあくまでイーブン。俺が勝つ事もお前達が勝つ
事も、平等で不公平が無い事を約束しよう。それもまた誓約に残し
てやる﹂
そう言ってから、西域の王は並み居る人間達を見渡した。
﹁さて、そろそろだな。お前達、俺の祭に参加する覚悟が出来たろ
? 実は書類を用意していてな。全員分、それにサインが欲しい﹂
ハルビヤニが指を鳴らせば、人間達の座る椅子の背後に魔導機兵が
出現して、手にした用紙をそれぞれの前へと置いた。
﹁ラグ、アン、ラクシェ。それにユラミルティ。お前達もだ。書類
にサインをしろ﹂
そう言って、ハルビヤニは娘達に着席を促す。
﹁⋮⋮チッ﹂
ラグラジルを先頭に、天使達が着席し、配られた用紙へと目を向け
る。
そこに書かれていた内容は、
娼婦契約書
一、娼婦は降臨祭期間中において契約主及び契約主代理に対して絶
1515
対服従する事。
二、娼婦は祭を盛り上げる為、どんな場所においても躊躇う事無く
職務を果たす事。
三、娼婦は祭の雰囲気を阻害しない為、いかなる時も笑顔を心掛け
る事。
四、娼婦は契約主及び契約主代理、並びに祭の全ての参加者に尊敬
の念を持ち、感謝する気持ちを忘れない事。
五、娼婦は契約主及び契約主代理、並びに祭の全ての参加者から与
えられた食料、飲料に関しては残さず食べきる事。
六、娼婦は応対する客を選ばず、過去の因縁を忘れて誠心誠意誰が
相手であっても職務を遂行する事。
七、娼婦は公的私的を問わず、撮影行為には素直に協力的に応じる
事。
八、娼婦は降臨祭期間中、常に職務時間で有る事を忘れず、排泄行
為などで場を離れたい場合は契約主及び契約主代理の許可を得て、
その監視の下で排泄行為に及ぶ事。
九、以上の条件に対し、明確な違反が有った場合は娼婦契約の一切
を破棄し、契約主は誓約に従い、権利を実行する事が出来る。
上記の合意の成立を証する為、空白欄に名前を記入せよ。
契約書の内容を、セナ達は屈辱に震える目で追った。
﹁公娼⋮⋮﹂
ポツリと誰かが呟いた。
その言葉の意味を、誰しもが理解した。
この契約書は自分達を公娼へと戻す絶望の紙。
だが、しかし、
﹁シャス⋮⋮大丈夫だから⋮⋮﹂
セナは震える手で、名前を契約書へと書いていく。
1516
﹁⋮⋮﹂
シャロンも唇を噛みしめながらそれに続き、
﹁主を守る為に身を捧げる覚悟は、出来ている⋮⋮﹂
ステアも筆を取り、
﹁未来も掛かってるんだしね﹂
フレアもまた、姉に続いた。
人間達は思い思いに絶望を抱きながら、娼婦契約書にサインした。
天使達も、それに続く。
﹁フンッ⋮⋮﹂
ラグラジルは乱雑に自分の名を記し、
﹁⋮⋮﹂
アン・ミサは目に涙を湛えて腕を動かし、
﹁ムカツク⋮⋮﹂
ラクシェはギロリと父親を睨みつけながら小さな手で筆を握り、
﹁アン・ミサ様⋮⋮﹂
ユラミルティは隣の智天使を見やりながら、空白欄を埋めた。
それを見守り、ハルビヤニは笑った。
﹁さぁ、誓おうか! 誓約の魔導士よ!﹂
その声を受け、指名を受けたルルは静かに立ち上がった。
﹁ハルビヤニ⋮⋮祭が終わればシャスを無事に私達へ返す事を誓い
ますか?﹂
﹁誓おう﹂
誓約の魔導士の声に、王は愉悦を湛えて頷いた。
﹁ハルビヤニ⋮⋮二万の魔導機兵をこの地へ残す事を誓いますか?﹂
﹁祭が終わればな﹂
肩を竦めて、王は頷いた。
﹁先ほどマリューゾワが提案した兵の増員と支配の杖消去の件。成
功報酬という条件付きでは有りますが、了承を得たと考えても宜し
いですか?﹂
﹁あぁ。あくまで成功報酬だがな﹂
1517
﹁その条件は、対等で有る事を誓いますか?﹂
﹁無論、そうでなくては俺が面白くない﹂
そこまで言葉のやり取りが続き、
今度はハルビヤニが先に口を開いた。
﹁で、だ。お前達は誓うんだろ? その契約書の内容に。今日から
ひと月、懐かしの肉便器ライフに戻る事に﹂
それを受け、全ての人間が立ち上がった。
﹁やってやるわ⋮⋮。お前を満足させてやれば良いんでしょ? そ
うすれば、アタシ達はシャスを取り戻して、ゼオムントに勝てるだ
けの戦力を手に入れる事が出来る!﹂
セナが拳を握り、全員の気持ちを代弁した。
﹁やってやるわ!﹂
その怒号をハルビヤニは涼しげに受け止めている。
﹁⋮⋮誓約は、完了しました﹂
ルルの宣言により、会議と契約は終了を迎えた。
1518
降臨祭第一週 其の一 水着審査︵前書き︶
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1519
降臨祭第一週 其の一 水着審査
﹁それで? アタシ達にこれから何をさせるの?﹂
セナは挑戦的な瞳で、シャスラハールの姿を借りたハルビヤニへと
詰問する。
それに対し、
﹁ん? あぁ⋮⋮そうだな﹂
西域の王は視線を這わせた。
公娼達の、そして娘達の体に、好色な視線を蛇の様に絡ませた。
﹁ッ⋮⋮﹂
アン・ミサは顔を蒼白にして父の視線から逃れようとする。
﹁⋮⋮どいつもこいつも⋮⋮﹂
魔導士アミュスは瞳に険を湛え、男の性欲に支配されてしまう己の
運命を恨んだ。
脱げ、晒せ、踊れ、開け。
続く言葉が何であれ、大差は無い。
しかし、
﹁お前達に紹介しておきたい奴が居る。付いて来い﹂
ハルビヤニは含み笑いを浮かべてから、我先に廊下へと身を向けた。
娼婦契約を結んだ者達は、その様子に訝しむ。
﹁何を考えているの⋮⋮?﹂
ラグラジルの問いに、
﹁契約書にも有っただろ。契約主は俺だが、契約主代理ってのも居
るんだよ。そいつを今から呼ぶ。出迎えに行くぞ﹂
歩き始めたハルビヤニに対し、戸惑う公娼達。
﹁契約の第一項。絶対服従﹂
それに向け、ハルビヤニが呟く様に言った。
﹁くそっ!﹂
1520
フレアが勢いよく席を立ち、全員がそれに倣うかのように立って契
約主の背中を追った。
着いた場所は中庭。
ハルビヤニの彫像が鎮座する空間に、全員が集められた。
﹁さて、少し待ってろ。ちょいとばかし大規模な魔術を使う事にな
る﹂
そう言って、ハルビヤニは右手を翳した。
﹁何せ、ゼオムント本国からここまでの転送陣を通さなくちゃなら
ないからな﹂
轟く魔力に、公娼達は怒りを向けた。
﹁ゼオムントだと!﹂
﹁貴様!﹂
ステアとマリューゾワが吠えるが、
﹁クハハハハ。安心しろ。お前達と馴染の深い奴らだ。感動の再会
と行こうじゃないか!﹂
ハルビヤニは左手も動かし、召喚した陣に更なる魔力を注いでいく。
その様子を、天使達は冷や汗を流しながら見守った。
﹁⋮⋮やはりハルビヤニ様の御力は⋮⋮﹂
﹁魔導機兵以外は戦闘向きじゃないけど、それでも厄介よね⋮⋮﹂
ユラミルティの声に、ラグラジルが応じた。
雷鳴が響き、辺りに煙が立ち込める。
﹁な、何?﹂
ハイネアが驚きの声を上げるが、彼女の頭部はリセにより覆い守ら
れていた為、外の光景を見る事は出来なかった。
そこに出現したのは、
﹁ご無沙汰しております。ハルビヤニ様﹂
壮年の男だった。
魔の気配は無い。
1521
生粋の人間。
﹁おぉ、ロッドマン。よく来たな﹂
まばらな頭髪に、低い身長に見合わずでっぷりと垂れた腹。
醜悪な中年親爺が陣の中央に立っていた。
﹁誰? あのオッサン﹂
ラクシェがその存在そのものを不快気に見ている横で、
かつて公娼であった者達は、目をくぎ付けにされていた。
﹁ロッドマン⋮⋮﹂
﹁⋮⋮会場荒らしの⋮⋮﹂
﹁公娼オタクの首領⋮⋮﹂
口ぐちに、その名を吐き捨てる。
﹁おぉぉぉ。懐かしの顔ぶれでございますなぁ。セナ、シャロン、
ステア、フレア、ヴェナ、ルル、ユキリス、アミュス、ハイネア、
リセ、ヘミネ、シロエ。マリューゾワにロニア、シュトラにマリス
まで。どれもこれも、私が愛した公娼では有りませんか﹂
男の名は、ロッドマン。
ゼオムントが用意した公娼を全て暗記し、全員と一度は性交した男。
公娼オタク界のレジェンド。
豊富な財力と年齢にそぐわぬ行動力で、各地で開催される公娼のイ
ベントに参加し、撮影に並び、金で一夜を買い受けた男。
﹁ロッドマン。手筈は上手くいったか?﹂
ハルビヤニは公娼達の嫌悪に満ちた表情を楽しそうに見やりながら、
ロッドマンへと問う。
﹁はい。私の伝手を全て使い。一線級の猛者共を揃えて参りました﹂
その言葉と共に、ロッドマンは自分の後方を手で示す。
そこは未だに煙が濃く、見晴らしが悪かったのだが︱︱
﹁なっ⋮⋮﹂
息をのむ声が、公娼達の間から漏れた。
そこに居たのは、
隊列を組んだ︱︱下半身を丸出しにした男達だった。
1522
真冬と言うのに真っ白な袖なしシャツを上に一枚羽織っただけの男
達が、ニヤついた笑みで公娼達を見つめていた。
﹁総勢二百名。ゼオムント領の全てから集めて参りました。皆超ド
級の公娼オタクでございます﹂
ロッドマンの紹介に、公娼達は身を震わせた。
﹁あ、あいつ⋮⋮見た事有る⋮⋮﹂
ロニアが恐れの視線を投げかけたのは、公娼が使用したディルドー
を回収する事に人生を捧げたディルドーマニア。
﹁あの人⋮⋮毎週お店に来て⋮⋮﹂
ユキリスが震えて見ているのは、自費で公娼写真集を出版している
男で、何度か表紙用の写真を撮られた経験が魔導士には有った。
﹁せ、先生⋮⋮﹂
ハイネアが怯える理由。
そこに居たのは自分が自由性交生徒として在籍した学校で教鞭を取
っていた、独身の中年教師だったからだ。
男達の方でも、公娼達を見つめて何やら囁き合っている。
﹁シャロンたん! シャロンたん!﹂
﹁グフフ。拙者ロッドマン殿に命じられ、今日までたんまりとザー
メンを溜めてきたでござる。今宵の獲物は⋮⋮貴様でござるぞマリ
ューゾワ!﹂
﹁あぁ∼ヘミネを泣かしたい。泣いてる彼女に膣内出ししたいぃぃ
ぃ﹂
﹁そういえば同志グヴォンの姿が見えませぬが?﹂
﹁あの男は直前になり趣味よりも生活を取った腑抜けでござる。玉
無し野郎でござるよ﹂
﹁マーリース! マーリィィィス!﹂
ギンギンにチンポを立てた男達がニヤニヤ笑いで囁き合っている光
景を、ハルビヤニはいつしかゲンナリとした目で見つめていた。
﹁なぁロッドマン⋮⋮﹂
﹁申し上げた通り彼らは超ド級でございます﹂
1523
あまりの悍ましさに引いているハルビヤニを、ロッドマンが微笑ん
で支えた。
﹁あー⋮⋮まぁ良いか。よし、それじゃあロッドマン以外はそこに
立ってろ﹂
自分の隣にロッドマンが立った事を確認し、ハルビヤニは魔法陣に
更なる魔力を込めた。
﹁なんでござる?﹂
﹁くぬぬぬ。如何なる困難が立ちはだかろうとも、再び公娼マンコ
を味わう為ならば拙者達は︱︱﹂
何やら勇ましい様子の彼らを、
﹁ほいっと﹂
ハルビヤニは魔法で異空間へと格納した。
断末魔すら残せず消え去った彼らを、公娼達は呆然と見つめていた。
﹁あー⋮⋮グロかった⋮⋮﹂
地面に座り込みながら言うハルビヤニに、
﹁お疲れ様です﹂
ロッドマンは労いの言葉を贈った。
その様子をジッと見ていたラグラジルが、
﹁ねぇ、今のは何? そのハゲ誰?﹂
魔天使の言葉に、
﹁このオッサンは俺の向こうでの友達。パパの親友をハゲとか言う
なよ⋮⋮。ラグ、そんな悪い子は⋮⋮﹃ギルティ﹄だな﹂
アン・ミサやルルら魔導士には感じられた。
ハルビヤニの放った﹃ギルティ﹄という言葉に、何らかの魔力が込
められていた事を。
途端、ラグラジルの背後に先ほど封印されたばかりの公娼オタクが
一人、出現した。
﹁なぁっ!﹂
﹁およ? はぁ⋮⋮今日はマリューゾワだと決めていたのに⋮⋮無
念でござるが、致し方無し! 据え膳喰わぬは公娼オタクの道に背
1524
く!﹂
右手で魔天使の胸を揉み、左手でスカートごとショーツを摘み、一
気にズリ降ろした。
﹁お姉ちゃん! この!﹂
殴りかかろうとするラクシェに。
﹁ラクシェ。これがルールだ。第一項絶対服従に背いた場合、或い
は反抗的な態度が見受けられた場合、それか単に気に入らなかった
場合でも、俺かロッドマンが対象を指定して﹃ギルティ﹄と言えば、
異空間からランダムで公娼オタクが出現し、チンポを生ハメしてく
れる。お前達が公娼オタクに刃向い攻撃すれば、第二項三項六項に
違反したとして、契約は解除される﹂
ハルビヤニは楽しげに言う。
ラクシェの目の前では今、剥き出しになったラグラジルの下腹部に
顔を寄せる醜悪な公娼オタクの姿が有った。
﹁やめっ!﹂
﹁やめないでござる! ふむふむ⋮⋮尻穴の皺の数はひのふのみの
⋮⋮⋮⋮三十六本でござるか。ステアの公式記録と同数でござるな。
膣口の形状は、昔見たルルの物に若干似ている様な⋮⋮うぅぅむ、
パチリっと﹂
そう言って、公娼オタクは何やら手元で魔法道具を操作した。
﹁お前! 何をした! 離せ!﹂
激昂するラグラジルに、
﹁何って。拙者のオマンコ図鑑に加える為に画像を撮ったでござる
よ。後でルルのマンコと比較して見るでござる。あと、絶対に離さ
ないでござる!﹂
魔力を持たない一般人でも撮影魔法が使える魔法道具。
ゼオムント国内で流通はしているものの、恐ろしく高価な為一般人
には手が出せないが、明日を生きるよりも公娼を追いかける事を生
き甲斐に変えている彼らには、標準装備となっていた。
﹁クハハハハハ。その公娼オタクは一発射精したら自動でまた異空
1525
間に格納される。ラグ、さっさと終わらせたかったら一発すんなり
抜いてやる事だな﹂
愉しげに笑うハルビヤニ。
﹁ではまず香りから⋮⋮すぅぅぅぅぅぅむ。⋮⋮ふむ、調教師の手
が加わっていない為人口の香料は無し。女体が持つ自然ないやらし
さだけで作られた純粋なマンコの香り⋮⋮加えて少々きつく鼻孔を
くすぐるのは⋮⋮さてはお主、二時間ほど前に小便をしたでござる
な﹂
ラグラジルの股間に顔を埋めて、フゴフゴと騒いでいる公娼オタク。
﹁クッ! 抜くのを早くして! さっさと終わらせなさい!﹂
ラグラジルは顔を朱に染め、叫ぶ。
﹁嫌でござる。一発抜いたらまたすぐにあのチンポ丸出し野郎共が
ギュウギュウ詰めになってる異空間に戻されるでござる。限界ギリ
ギリまで楽しみつくしてから戻らねば、大損でござる!﹂
男はそう言って、抵抗し、
﹁それにお主と拙者は今日が初めての仕合でござる! 心ゆくまで
揉んで嗅いで広げて突っ込むでござる!﹂
魔天使の股の間でキメ顔を披露した。
﹁ひっ⋮⋮﹂
その迫力に、魔天使ラグラジルは気圧される。
﹁お姉様⋮⋮﹂
アン・ミサが堪らずと言った様子で二人に近づき、
﹁わたくしが⋮⋮﹂
﹁アン、それは無しだ。それはラグの﹃ギルティ﹄。お前が手を貸
してその男を抜いたところで、ラグの罪は消えないぞ。それでも良
いって言うのなら、姉の隣でマンコを広げるんだな﹂
その動きをハルビヤニは牽制した。
﹁次は⋮⋮味を診てみるでござる⋮⋮早速ひと舐め!﹂
﹁んひっ!﹂
花弁を割り開く不快な感触に、魔天使が体をのけ反らせる。
1526
﹁ふぅぅむ⋮⋮塩気が強いのは先ほどの小便が残っているからでご
ざろうか⋮⋮そしてこのコク⋮⋮ははぁん、ヘスティアのマンコの
味と酷似している。お主、好物は卵料理でござろう﹂
既にこの世の住人では無い公娼の名を挙げ、男はコクコクと頷きな
がら舌で味をなぞっていた。
娘が味わっている恥辱を心から楽しそうにハルビヤニは見て、今度
は全員に視線を向けた。
﹁さて、もう祭の準備は始まっているんだ。お前達にはキリキリ働
いて貰う。全員俺に付いて来い。最初の広間に戻るぞ。⋮⋮あぁラ
グはそこで一発膣内出しされてから後で合流しろ。遅くなり過ぎた
ら﹃ギルティ﹄だからな?﹂
西域の王はそう嘲り、歩み始めた。
ロッドマンがそれに続き、公娼達も一人二人とラグラジルに複雑な
表情を向けてから続く。
﹁お姉様⋮⋮﹂
﹁おねえちゃん⋮⋮﹂
アン・ミサとラクシェは最後まで残り、姉を見つめる。
﹁良いから、行きなさ⋮⋮んぃ!﹂
﹁指でなぞる膣壁の感触は⋮⋮おぉ、意外にもハイネアの物に似て
いるでござるな﹂
ラグラジルは公娼オタクに膣穴を穿り回されながら、屈辱に震える
声で二人を怒鳴りつけた。
広間に戻って来たハルビヤニ達を迎えたのは、この宮殿に務める女
中達だった。
﹁ハルビヤニ様。ご命令通り準備致しました﹂
﹁おう、ご苦労。休んでて良いぞ﹂
そう言って、羽根落ちの女性達に柔和な笑みを見せるハルビヤニ。
女中達は慇懃に腰を折り、作業をしていたテーブルから離れて歩き
1527
出す。
﹁良いのですか? あの女達も中々の粒ぞろいですが﹂
ロッドマンが退室して行く女中達の尻を眺めながら問うと、
﹁ん? あぁあれは俺の民草だからな。時と場合によって命は奪う
が、無駄に遊んで良い物じゃない。そういう遊びには自分の娘と雇
った娼婦を使うのさ﹂
ハルビヤニは事も無げに答え、玉座に着いた。
その隣に、ロッドマンが立つ。
﹁さてお前ら。今日の予定を伝えておこう﹂
ハルビヤニは女達を見下ろしながら、
﹁これからお前達は街に出て、今回の祭の趣旨を宣伝してもらう事
になる﹂
そう告げた。
それに対し、
﹁祭の⋮⋮趣旨?﹂
シャロンが眇めた目で問うた。
﹁そうさ。毎年﹃楽しい演劇﹄だの﹃心地良い音楽﹄だのとアンが
決めた小綺麗な趣旨ばかりだったからなぁ﹂
そうやって、ハルビヤニはアン・ミサを少し睨む。
﹁⋮⋮それが、正しいお祭です﹂
目をそむけながら、智天使は抗った。
﹁ハルビヤニ様?﹂
﹁あぁ良い、ロッドマン。今のに﹃ギルティ﹄は無しだ﹂
アン・ミサの態度を疑問視したロッドマンがハルビヤニに問い、西
域の王は首を振って応えた。
﹃ギルティ﹄の言葉を聞いただけで、アン・ミサの肩が僅かに震え
た事に、セナは気づいた。
﹁今回の祭の趣旨は⋮⋮﹃気持ち良い性交﹄で行く。お前達にはそ
の宣伝をして貰う事になるな﹂
その言葉を聞き、公娼達の顔には苛烈な怒りが浮かぶが、誰も声を
1528
発さない。
発する事が出来ない。
﹁⋮⋮下種ね⋮⋮﹂
その時、扉を開きラグラジルが広間へとやって来た。
﹁おぉ、ラグ。どうだ? 満足したか?﹂
放たれた父の言葉に、魔天使は無反応を貫いた。
更なるギルティを恐れ、ラグラジルがあの公娼オタクに対してどの
様な態度で射精を求めたのかは、彼女が一生涯を掛けて胸に秘めな
ければならない秘密となった。
﹁クハハハハ。良いぞ、その折れていない感じ。祭が終わるまでず
っとその態度を貫けたら良いな? ラグ﹂
ハルビヤニの言葉を頑なに無視するラグラジル。
﹁⋮⋮話を進めろ﹂
ラグラジルを一瞥してから、マリューゾワは玉座の王へと問うた。
﹁あ? あぁそうだな。宣伝をして貰うんだが⋮⋮その際には趣旨
に則った格好をして貰わないと困る。そんなわけで、先ほど女中達
に用意をさせておいた﹂
そう言って、ハルビヤニは手を左右に広げる。
先ほど女中達が作業をしていたテーブル。
そこに乗っているのは、百着を超える水着だった。
﹁俺が長年集めて来たエロ水着だ。それぞれ好きな物を選び、着替
えた者からこちらに来い。俺とロッドマンの審査をクリアした者か
ら準備完了だ﹂
ハルビヤニの宣言を、セナ達は嫌悪の表情で見つめている。
﹁ハルビヤニ様のご慧眼ならば間違いなく、その娼婦に最適な水着
を審査できると確信しております。が、これに関して我が公娼オタ
ク連盟にも名うての者達が居りまして⋮⋮三名ほど追加の審査員と
して召喚しても宜しいでしょうか?﹂
ロッドマンが低頭しながら王へと問う。
﹁ん? おぉそうか。チンポ丸出し野郎が傍にいるのは嫌だが⋮⋮
1529
審査を正確にするためには必要な事かもな﹂
そう言って、ハルビヤニは指を鳴らし、異空間に閉じ込めた公娼オ
タク達の内、水着審査のプロを三人召喚した。
﹁やったでござる!﹂
﹁ハミ毛! ハミ毛!﹂
﹁乳輪! 乳輪!﹂
プロ達はハルビヤニから少し離れた場所に並んで立ち、ニヤニヤと
笑みを浮かべている。
﹁さぁさっさと選べ。一時間経っても合格出来なかった奴には﹃ギ
ルティ﹄を三セットつけるぞ﹂
その言葉に、セナ達は重い足を動かし始めた。
﹁何でどれも穴が開いてるのよ⋮⋮﹂
手にしたピンク色のビキニのボトムに縦割れの穴が開いている事に
対して、セナが歯ぎしりする。
﹁こうなったら出来るだけ布面積の有るやつを選びましょう⋮⋮﹂
シャロンが手にした一枚はワンピース型の物だったが、繊維が恐ろ
しく薄く、水に濡れなくても肌が全て晒されてしまう様な物だった。
﹁⋮⋮これかな。これはこれで恥ずかしいのだが⋮⋮﹂
ステアが手にした一枚は、水色の広い生地に黄色の水玉が浮いてい
る可愛らしい物だった。
それには穴は空いて無く、透ける様な心配も無かった。
﹁姉上、わたしの影で着替えてくれて良いよ﹂
フレアが身を引き、ステアの体を隠すようにして立つ。
﹁⋮⋮スマン﹂
﹁良いよ。姉上はまだ本調子ってわけでもないし﹂
フレアの配慮に詫びながら、ステアは折角手に入れた鎧と騎士服を
脱ぎ、水玉柄の水着を装着した。
そして、
1530
﹁着替えたぞ?﹂
﹁ならばこちらへ﹂
玉座へと問えば、ロッドマンの声が応じた。
そのままステアは四肢を剥き出しにした状態で、ハルビヤニとロッ
ドマン、そして三人の水着審査のプロの前へと移動した。
﹁⋮⋮ふん﹂
﹁ほうほう﹂
﹁ステアでござるか! ランキングはあまり高くは無いがやはり体
の肉感は素晴らしいでござるな!﹂
﹁ヤッて初めてわかる公娼の良さで有りますな。素人共はパッケー
ジに惹かれてアリスレインやアルヴァレンシア等の御姫様属性に飛
びつき過ぎでござる﹂
﹁真の玄人たる我々が公娼を判断する時は、マンコにチンポを入れ
てから採点しますからなぁ﹂
ハルビヤニはつまらなそうに、
ロッドマンは頷きながら、
そして水着審査のプロ達は水着を無視してステアの膣肉について話
し始めた。
﹁⋮⋮クッ﹂
ステアは表情を歪めながらも毅然として立っている。
そこに、
﹁0点﹂
﹁私は1点を差し上げます﹂
﹁0点でござる﹂
﹁右に同じ﹂
﹁さらに同じ﹂
ハルビヤニから順々に、何やら口走った。
﹁は? ⋮⋮な、なんだ?﹂
ステアは呆然と、それを聞いている。
﹁1点か。なら﹃ギルティ﹄は二倍つけだな﹂
1531
﹁ですね。それじゃあ行きますよ﹂
ハルビヤニとロッドマンは声を合わせ、
﹁﹁ステア、﹃ギルティ﹄!﹂﹂
召喚に従い、二人のチンポ丸出し公娼オタクが出現し、ステアの体
に躍りかかった。
﹁な、何よそれ!﹂
セナが叫ぶ。
彼女の視線の先、ステアは二人の公娼オタクに前後を挟まれ、一本
の肉棒を口で、もう一本を膣口に捻じ込まれていた。
﹁あぁ言ってなかったなぁ⋮⋮スマンスマン。この採点は厳格に、
審査員一人につき二点の持ち点が有り、十点満点で審査する。お前
達の合格点は八点以上。それ以下は不合格。不合格の場合は﹃ギル
ティ﹄の対象になる。ちなみに、三点以下の場合は﹃ギルティ﹄が
二倍になるので注意するんだぞ﹂
ハルビヤニの声は、愉悦で歪んでいた。
﹁くほぉぉぉ。拙者のチンポに喉肉が絡みつくでござる!﹂
﹁こっちの膣肉のヒダヒダも素晴らしい! ステアよ! 以前ヤっ
た時よりも更に修練を積んだようでござるな!﹂
﹁んぶぅぅぅぅぅぅぅ﹂
声にならない叫びを上げるステアを見て、そのあまりの扱いに公娼
達は怒りの表情を浮かべる。
﹁さぁあ、早く選ばないと。時間内に審査をクリアできない場合は
﹃ギルティ﹄はもちろんの事、水着に関してもこちらで選ぶことに
なりますぞ﹂
ロッドマンに窘められ、公娼達は悔しさをかみ殺しながらテーブル
へと身を乗り出した。
元より彼女達に反抗する自由は無く、ステアを助ける方法などは無
いのだ。
1532
合格が望め、更には出来るだけ屈辱的では無い水着を、真剣に選び
始めた。
﹁ハイネア様⋮⋮これは⋮⋮いえ、ダメですね⋮⋮これだと⋮⋮﹂
リセは自分の事をそっちのけでハイネアの水着を血眼で探している。
﹁合格って⋮⋮。審査基準がわからないじゃない⋮⋮﹂
アミュスが呻き、
﹁五人居て、一人の嗜好と合わないだけで二点を失ってしまったら、
もうそれ以上は減点されるわけにはいかないのですね⋮⋮﹂
ユキリスが沈んだ声を作った。
﹁⋮⋮この紐なら⋮⋮チッ、馬鹿げている﹂
持ち上げた黒単色の紐水着を見て、マリューゾワは表情を歪め、
﹁しかし現実的に⋮⋮ここにある水着の中からとなると、どれも差
こそあれ卑猥な物しか⋮⋮﹂
シュトラは乳首が露出する様に穴が開いたビキニトップを手に、嘆
いている。
公娼達の表情は重く沈み、更には天使達の手も止まっていた。
﹁アン、ラクシェ、ユラ。まだ選ばない方が良いわよ﹂
魔天使ラグラジルは、小声で妹達へと声を掛ける。
﹁え?﹂
泣きそうな顔でV字水着を手に取っていたアン・ミサは首を傾げる。
﹁もう何人か犠牲になって、審査員の趣味が掴めてから選ぶべき。
適当に恥ずかしい奴を選んだってそれが合格になるとは思えないわ﹂
秘かな声に、ラクシェが頷いた。
﹁作戦だね? お姉ちゃん!﹂
困惑するアン・ミサを挟んで二人の天使は頷き合う。
﹁⋮⋮それならば、私が行って参ります﹂
そのやり取りを見ていたユラミルティは、率先して手近に有った水
着を手に取った。
ショッキングピンクに輝く、光沢の有る際どい角度のビキニ。
﹁ゆ、ユラ!﹂
1533
あまりに派手なその水着を見て慌てるアン・ミサに、
﹁思うに、この審査における合格への表要素は水着のいやらしさで
すが、裏の要素として着用する人物の個性と態度が有ると考えられ
ます﹂
ユラミルティは訥々と語り始める。
﹁ふぅん﹂
ラグラジルが眉を寄せて聞く姿勢に入ると、
﹁私の様な地味な女がこの派手な水着を着て、恥ずかしそうにあの
五人の前に立てば、それだけで男達の心証は上がるはずです。先ほ
どのステアさんにはそのような態度が見られず、また水着の方もい
やらしさが不足していた為に、1点という結果に終わったのでしょ
う﹂
着ていた白い平服を脱ぎ落しながら、ユラミルティは若干赤い顔で
水着を手に取った。
﹁こ、これを⋮⋮着て、あそこへ⋮⋮い、行けば⋮⋮﹂
水着の切れ上がった角度に怯えながら、ゆっくりとユラミルティは
足の間に通していく。
﹁わひゃー⋮⋮﹂
隣でその様子を見ていたラクシェが驚きの声を上げる。
﹁うっ⋮⋮うぅ⋮⋮﹂
眼鏡を掛けた知的天使の肌を覆うのは、乳輪が僅かに見えた半カッ
プのトップと、マン肉を強調する様に食い込んだキツキツのボトム。
﹁⋮⋮確かに、エロいわ⋮⋮﹂
ラグラジルが呻く様に言う。
﹁こ、これで私は試してみます。その結果を見て、判断して下さい﹂
そう言って、震える足でユラミルティは五人の審査員の前へと移動
した。
猫背になり胸と股間を隠しながら近づいてくる眼鏡の天使へと、審
査員達は好色な視線を向ける。
﹁ほう⋮⋮ユラミルティが来たか。ガキの頃から知ってる奴がそん
1534
な格好しているのを見ると、中々どうして興奮してくるじゃないか﹂
ハルビヤニは満足げに言い、
﹁⋮⋮眼鏡、そして天使⋮⋮ふぅむ。その境地、後でじっくりと味
わいたいものです﹂
ギラついた視線でロッドマンは値踏みしていた。
そして、ユラミルティの審査が始まる。
五人は彼女の周りをウロウロと見て回り、入念に肌の状態や食い込
みを確認した。
そして、
﹁2点﹂
ハルビヤニは大きく頷き最大の点数を提示した。
﹁私は、1点でございますね﹂
続くロッドマンの言葉に、ユラミルティは愕然とした表情を浮かべ
た。
﹁拙者は2点を差し上げる所存!﹂
三人目が朗らかに言い、
﹁右に同じく!﹂
四人目もそれに続いた。
ここまでで7点。
合格点まであと一つ。
注目していた公娼や天使達、そしてユラミルティ自身、合格を確信
した。
その時、
﹁0点でござるー。拙者眼鏡属性は持ち合わせてはおらぬのです﹂
五人目が放った言葉に、全員が固まった。
ユラミルティも、セナも、ラグラジルも表情を凍りつかせ、五人目
の男を見ている。
﹁⋮⋮結果は7点だな﹂
﹁左様ですな。こちらのお嬢さんは不合格でございますね﹂
ハルビヤニとロッドマンは頷き合い、今度は4点以上だった為、
1535
﹁お嬢さん、﹃ギルティ﹄です﹂
ロッドマンが一度、﹃ギルティ﹄を宣告した。
その瞬間、虚空から現れる新たな魔の手。
﹁ひっ!﹂
怯えるユラミルティに、ギトギトに光る公娼オタクの手が伸びた。
﹁やったでござるー。ドスケベ眼鏡天使と生セックスでござるー﹂
ユラミルティを引き倒し、ショッキングピンクの水着を横にズラし
て︱︱
﹁およ? およよ?﹂
男は手を止めた。
﹁あ⋮⋮ああぁぁううう﹂
震えるユラミルティを気にする事無く、その花弁を弄り、
﹁ビラビラに色素の沈着が無く⋮⋮形もキュッと閉まっている⋮⋮
こ、これは⋮⋮﹂
ガバッと肉の華を押し開いて中を覗き込み、
﹁しょ、処女だあああああああああ。処女が出たぞおおおおおおお﹂
絶叫した。
驚愕の表情で固まる男に続き、
﹁しょ、処女だと!﹂
ハルビヤニは慄然と、
﹁処女膜は確認できたのですか?﹂
ロッドマンは愕然と、
﹁処女って⋮⋮あの、処女?﹂
﹁う、うわー⋮⋮拙者初めて処女を見たでござる﹂
﹁処女の娼婦とか⋮⋮萌えるではござらぬか!﹂
審査員達は大慌てでユラミルティに近づいた。
﹁処女と聞いて!﹂
﹁ステアのド中古マンコなんて使ってる場合じゃねぇ!﹂
今の今までステアの口内と膣内をズボズボ犯していた男達もチンポ
を引き抜き駆け付けた。
1536
﹁み、見て下さい。この純潔の証を⋮⋮﹂
処女を発見した男がガポッと指で肉穴を広げ、全員の視線を裁天使
の膣穴に集中させる。
﹁確かに⋮⋮処女だな﹂
ハルビヤニは大きく頷き、
その周りでは公娼マニア達が自分達の魔法道具を構えて引っ切り無
しに撮影していた。
﹁う⋮⋮あぁ⋮⋮うあぁぁ﹂
裁天使のすすり泣く声。
﹁で、では拙者は有り難くこのドスケベ眼鏡天使処女マンコを⋮⋮﹂
﹁駄目だ﹂
押し広げていた指を外し、肉棒をその花弁に合わせる男に対し、ハ
ルビヤニは強い声を放った。
﹁その処女は⋮⋮本祭まで取って置く!﹂
そう言って、虚空に手を翳し、
﹁はぁぁぁぁ!﹂
召喚魔術で何かを取り出した。
その手に握られていたのは、
﹁ユラミルティに関してだけ、マンコの使用を禁ずる。代わりにア
ナルを思う存分使うと良い﹂
貞操体。
ハルビヤニは手ずからユラミルティにそれを穿かせる。
﹁んひぃぃ﹂
黒革で出来た貞操体は彼女の陰部を覆い隠すが、排泄用に肛門付近
は大きく露出しており、性器の挿入もそこからならば十分可能だっ
た。
﹁処女が⋮⋮伝説の処女が⋮⋮﹂
男泣きに泣く公娼オタク達。
彼らはその性質上、処女と出会う事など無い。
彼らが追い求める存在は、常に誰かのチンポを受け入れ続ける運命
1537
にある女達。
処女性とは大きく方向性を変えた肉便器と呼べる存在。
それを追い求めた先で、処女に出会った。
﹁おぉぉぉ。処女様! 処女様! 破瓜の血は見られずとも! ア
ナル処女は拙者のチンポで頂かせてもらいます!﹂
感涙に至りながら、男は怒張させたチンポを閉じきったユラミルテ
ィのアナルへと捻じ込む。
ギチギチと締め上げる括約筋を味わいながら、
﹁こ、これが処女の力。公娼達のちょっと突けばガバガバに開くア
ナルとは大違いでござる!﹂
更に肉棒を押し込んでいく。
﹁ひぐっ! 痛っ⋮⋮あっ⋮⋮﹂
涙を浮かべているのは男だけでは無い。
ユラミルティの瞳にも、滴は輝いていた。
﹁い、良いなぁ⋮⋮﹂
﹁拙者も処女アナルを使いたいでござる⋮⋮﹂
﹁くっ! き、貴様ら⋮⋮あふぁ!﹂
いつの間にか傍へと連れて来ていたステアの乳房を揉みしだきなが
ら、男達はボヤいていた。
﹁まぁ、お前達にも運が良ければ﹃ギルティ﹄でチャンスが来るさ。
今はそいつのガバガバ中古マンコで我慢しておけ﹂
ハルビヤニに慰められた彼らは、気を取り直してステアへの種付行
為を再開した。
今もネットリとアナルを穿られているユラミルティが犠牲となり、
攻略の糸口が見つかった。
水着と本人のギャップ。
それが求められる要素。
彼女は運悪く眼鏡嫌いという特殊な嗜好に合格を阻まれたが、それ
1538
さえなければ突破していた事は間違いない。
﹁あと三十分です﹂
ロッドマンの陰湿な声が届く。
それに急かされる様にして、公娼達は水着を手に取った。
三番目はセナ。
﹁5点﹂
V字に食い込む一本の紐水着だが、その乳房に当たる部分がリング
状になっていて、まるで乳輪に沿うかの様に乳首だけを露出させて
いた変態水着。
意を決して着たその水着はハルビヤニには好評だったが、水着審査
員達からのウケが悪く、﹃ギルティ﹄を宣告される結果となった。
四番目はシャロン。
﹁8点﹂
最初に手に取っていたスケスケのワンピースを纏い、恥じらいに全
身を染め上げながら審査を受けた彼女の姿に、審査員達は甚く感動
し高得点を与えた。
ロッドマンが評するに、淡く輝く陰毛が水着越しに見えたところが、
最高にスケベだったらしい。
五番目はマリューゾワ。
﹁6点﹂
必勝を誓い、恥を受け入れた結果、魔剣大公マリューゾワが選んだ
のは紫色の褌だった。
両胸を手で覆い、引き締められた尻を晒した魔剣大公の姿に水着審
査オタク達は熱狂したが、ハルビヤニとロッドマンはそのあざとさ
を指摘し、点を与えなかった。
﹃ギルティ﹄により、せっかく苦労して巻いた褌を剥ぎ取られなが
ら、マリューゾワは呪詛の言葉を吐いていた。
六番目はアミュス。
﹁2点﹂
彼女が身に着けていたのは標準的な白のビキニトップに、下はボト
1539
ムを穿かずにパレオのみ。
ひらひらと揺れるパレオからのマンチラが視線を集めてはいたが、
その冒険しきれていない姿を審査員達に看破され、更に陰部に絆創
膏が貼られている事を目ざとく見つけられて減点の対象となり、﹃
ギルティ﹄の倍つけを宣告された。
以降、ヘミネ、フレア、ユキリス、ルル、シロエ、マリス、ロニア、
シュトラが挑戦するが、誰一人として合格には至らず、﹃ギルティ﹄
によりオタクチンポをぶち込まれる結果となった。
﹁はーい後十分でーす﹂
その宣告に、場には一層の緊張が流れた。
審査を受けた者はシャロン以外全員が今も種付セックスを行われて
いる真っ最中だ。
至る所から屈辱に震える声が聞こえる中、残っているのは六人。
人間側ではハイネア、リセ、そしてヴェナ。
天使側はアン・ミサ、ラクシェ、ラグラジルの天使三姉妹。
リセは相変わらず真剣な目でハイネア用の水着を探し、ハイネアは
それに応じるかのようにリセ用の水着を見繕っていた。
ヴェナは水着に手を伸ばさず、ジッとシャスラハールの体︱︱ハル
ビヤニを見つめている。
その時、
﹁わ、わたくしが行きます﹂
智天使アン・ミサから、震える声が放たれた。
彼女が今身に着けているのは、黒のビキニ。
かに見えた。
﹁お、お姉様⋮⋮﹂
ラクシェが慄く。
間近で見ている彼女には、今アン・ミサが付けている物の正体がわ
かってしまっていた。
1540
﹁し、仕方⋮⋮ありません⋮⋮﹂
アン・ミサが身に着けている︱︱付けている物は、塗料。
水着が積んであった中に一つだけ場違いにも混ざっていた黒の塗料
を、刷毛で塗っていた。
﹁アンタ⋮⋮大胆ね⋮⋮﹂
ラグラジルもまた、妹の度胸に驚愕していた。
﹁皆さんも⋮⋮辛い思いをされているのです⋮⋮この程度⋮⋮﹂
鏡を見ずに自分で塗った事で、背中と尻の方へのペインティングが
甘い事は自覚していたが、乳輪と陰唇がとりあえず誤魔化せていれ
ば、遠目では問題無い。
智天使アン・ミサはそう判断し、父の元へと向かった。
数瞬、視線を交錯させるアン・ミサとハルビヤニ。
娘と父親。
フッと静かにハルビヤニは笑い。
﹁2点﹂
娘を安心させる様に言葉を吐いた。
﹁2点です﹂
﹁2点でござる﹂
﹁右に同じ﹂
﹁更に同じ﹂
シャロン以来の合格者であり、初の満点獲得者。
智天使アン・ミサはボディペインティングで水着審査に合格した。
それを見ていた残りの者達は、続けと言わんばかりに動き始めた。
しかし、
﹁4点﹂
まず撃沈したのはラグラジル。
敢えて選んだ乳首と陰唇部分がぱっくり開かれているそのまま性交
可能な水着を、ハルビヤニに酷評され、それに影響された審査員達
からも少しずつ減点を受け、何とか二倍つけの﹃ギルティ﹄は回避
できたものの、本日二度目のオタクセックスを味わう事になった。
1541
姉達に続き、ラクシェも動き出す。
﹁5点﹂
意を決して選んだ水着は紺のワンピースタイプであり、露出的には
胴体をすっぽり隠してしまっていた。
だが、その水着には秘密が有り、股間を覆うクロッチ部分に小型の
ディルドーが取り付けられていた。
それを慣れぬ手つきで己の幼い膣穴にはめ込み、ヒョコヒョコと審
査を受けに行ったラクシェだったが、見た目的には何も変化が無く、
口下手なラクシェでは上手くアピールする事も出来ずに轟沈した。
その次に審査を受けたのはリセ。
﹁9点﹂
合格したリセの水着は、一枚の丈の短いTシャツだった。
﹃肉便器在中﹄と黒字で描かれた真っ白なTシャツ以外は何も身に
着けず、短い丈によりシャツの裾は彼女のプリッとした尻の上に乗
り、陰唇は隠れ様も無い有様だったが、それが審査員達の心を鷲掴
みにし、高得点に至った。
そしてそんなリセの水着を選んだハイネアは、
﹁8点﹂
ハイネアは水着を着ていなかった。
アン・ミサの様にボディペイントですらない。
ハートマークのシールを三枚、乳首と陰唇に貼っただけと言う非常
に惨めな恰好で審査を受け、一人食いつきが悪かった水着オタクを
除いて全員から2点を貰い、合格した。
合格後、リセとハイネアは抱き合い、お互いに対して謝り合ってい
た。
最後に残ったヴェナは、さっさと聖騎士の鎧を脱ぎ捨てると、その
足で審査員達の前へ移動した。
そして、シャスラハールの体を借りたハルビヤニを睨みつけた。
﹁⋮⋮何だ? 馬鹿には見えない水着とかそう言う話か?﹂
首を傾げるハルビヤニに、
1542
﹁わたくしはこれで結構です。殿下を取り戻すまでの一か月はどう
せ似た様な扱いを受けるのですから、僅かな端切れなど必要有りま
せん﹂
爆乳を晒し、腕を組んで見せた。
その姿を見て、
﹁2点﹂
﹁2点です﹂
﹁2、2点を﹂
﹁み、右に同じ﹂
﹁さ、更に同じ﹂
審査員達は何故か感動し、ヴェナはアン・ミサと並ぶ最高得点で水
着審査を突破した。
全裸で。
最終的に合格に至ったのはシャロン、アン・ミサ、リセ、ハイネア、
ヴェナの五人。
二十名いた娼婦達の四分の三は現在、タイムアップによる﹃ギルテ
ィ﹄でオタク達とディープなセックスを繰り広げていた。
オタク達はよっぽど異空間に格納されるのが嫌なのか、中々射精し
ようとはせずに、ねちっこい責めを繰り返している。
ハルビヤニはそれを待つつもりだった。
審査員として呼んだ三人は格納し、ロッドマンと二人、広間で繰り
広げられるセックスを眺めている。
眺め、眺め続け。
﹁⋮⋮なぁロッドマン。どうして俺は、誰も抱いていないのだろう
か?﹂
何の為にシャスラハールの体を奪い、肉体を得て娼婦を囲ったのか、
ハルビヤニは呆然と言葉を紡いだ。
﹁オタク達のセックスを見る為じゃないはずだ⋮⋮俺は、実体のあ
1543
るチンポで生のマンコをズボズボしたくて⋮⋮この体を⋮⋮﹂
そして、西域の王は振り返る。
彼の後ろに居るのは合格者達。
スケスケ水着のシャロン。
ボディペイントのアン・ミサ。
﹃肉便器﹄Tシャツのリセ。
シールだけのハイネア。
全裸のヴェナ。
﹁なぁ⋮⋮ロッドマン﹂
﹁はい﹂
ハルビヤニは血走った目で、声を放った。
﹁今日の宣伝活動は中止だ。明日改めて朝からやろう。もうすぐ夜
だしな﹂
降臨が昼で、その後何だかんだと時間を費やして来た為、もうとっ
ぷりと陽が暮れ始めていた。
﹁はぁ⋮⋮私は別にそれで構いませんが﹂
ロッドマンは王の姿を見て、首を傾げる。
パチン、とハルビヤニは指を鳴らした。
すると、
﹁お? およぉぉぉぉ? きゅ、急に射精感が!﹂
﹁うひぃぃぃ。拙者のチンポに謎の力が!﹂
﹁だ、駄目でござる! まだイキたくないでござる!﹂
広間中から悲鳴の様な声が上がり、
﹁さっさとイケ﹂
ハルビヤニの命令に従い、男達は一斉に射精した。
﹁んはぁぁああああん!﹂
﹁ひぃ! 膣内に出すなぁぁぁぁ﹂
﹁こ、この! ワタシを誰だと⋮⋮!﹂
公娼や天使達は口ぐちに嬌声を上げ、
﹁ああああああっ! 消えるぅぅぅ﹂
1544
﹁嫌でござるぅぅぅぅ﹂
﹁隣の奴のチンポが太ももに当たる生活に戻りたくないでござるぅ
ぅぅぅ﹂
公娼オタク達は一斉に姿を消した。
﹁ロッドマン。お前は明日からの予定を立てておいてくれ﹂
そう言って、ハルビヤニは玉座から立ち上がった。
﹁⋮⋮貴方様は?﹂
その背中に、ロッドマンは答えの分かり切った質問をした。
﹁クハハハハ。俺か? 俺はまず、思う存分コイツらを犯す! 犯
して犯して犯し抜いて! それから民へと分け与える! ゲーム性
を優先させすぎて、スタート位置を間違えてしまった! まずは俺
が満足する事が大前提!﹂
ハルビヤニは揚揚と宣言し、広間に転がる公娼達へと視線を送った。
﹁全員立て! これから一緒に風呂へ行き、俺のチンポに奉仕しろ
! その次は食事だ! お前らは順番に俺のチンポに跨りながら料
理を口へと運べ! そしてその後はベッドに移動して、朝が来るま
で大乱交だ! 誰一人寝かせはしない! 降臨祭の準備は明日から
本気出す!﹂
実の娘を含めた二十人へとそう命じ、ハルビヤニは大股で広間を闊
歩した。
1545
降臨祭第一週 其の一 水着審査︵後書き︶
水着審査︵水着とは言ってない︶
1546
降臨祭第一週 其の二 下半身Day︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
1547
降臨祭第一週 其の二 下半身Day
リズミカルに巨大な乳房が男の眼前で跳ねる。
﹁ハルビヤニ様! ハルビヤニ様ぁぁ!﹂
甘く轟く声で名を呼び、その名を持つ男の腰の上に乗っかった女は
結合した性器をきつく締め上げていく。
﹁どうですか? ワタシのオマンコ! 気持ち良いですか?﹂
女はすがるような声で言い、男の胸板に両手をつく。
﹁いや⋮⋮五点くらい? 百点満点中で。もう何千回もヤったしぶ
っちゃけ飽きたわ﹂
男はされるがままの姿勢でそう言い、つまらなそうに首を回す。
﹁おーいブーちゃん終わったか︱?﹂
視線の先、巨大な影が有った。
﹁そんなにすぐ終わるものか! あと次にブーちゃんと呼べば貴様
と言えどブチ殺すぞ!﹂
影は怒声を放ち、振り返りもせずに作業を続けている。
死体を検める作業を。
﹁まったく、クスタンビア! 貴様はもっと丁寧に殺せないのか!﹂
影の放った新たな怒声は、男へ向けた物では無かった。
その上で腰を振り続ける、青色髪の親鬼へと向けられた物。
﹁あっ! 五点で⋮⋮五点も頂けるなんて⋮⋮ありがとうございま
す! ありがとうございますハルビヤニ様! 五点のマンコですか
ら、どれだけ滅茶苦茶のボロボロにして下さっても構いません!﹂
クスタンビアと呼ばれた女は怒声に一切の関心を見せず、夢中で乳
を揺らし膣肉を締め上げていた。
﹁クハハハハ。ジュブダイル、俺のチンポが挿さっている時のクス
タンビアには何を言っても無駄だって﹂
ハルビヤニはそう言って、自由な手でクスタンビアの尻肉を思い切
1548
り叩く。
その衝撃が届く度に、親鬼は甘く鋭い声で鳴き、膣口をキュウキュ
ウと閉じてきた。
﹁だとしてもだ⋮⋮言わずにいられるか! 折角この地の王を倒し
たと言うのに、そやつが誰も彼も滅茶苦茶に斬り潰したせいで見分
けがつかん! 王の証明とやらを持ちかえらねばならぬと言うに!﹂
そう言って、巨漢の豚魔ジュブダイルは積み上げられている死体の
山へと向き直った。
﹁ワシか貴様の魔導機兵で有ればこうはならんと言うのに﹂
﹁ま、そうは言ってもクスタンビアが攻め、お前が守り、そして俺
が後でふんぞり返る。それが俺達の陣形だろ﹂
楽しげに言いながら、ハルビヤニはクスタンビアの乳首を全力で捻
じり上げた。
﹁んひぃぃぃぃ! 気持ち良いです! ハルビヤニ様ぁぁ﹂
涎を垂らし、愛液を止めどなく放出させながら、クスタンビアはハ
ルビヤニの上でよがっていた。
その光景は、西域の原風景。
ハルビヤニの手によって支配される前の、群雄が割拠していた頃の
姿。
﹁んっ⋮⋮夢か﹂
朝日を浴びながら、目を覚ましたハルビヤニは息を吐く。
﹁懐かしいな⋮⋮﹂
自然と頬が緩み︱︱
﹁目が⋮⋮醒めたのなら⋮⋮抜いて良いわよね⋮⋮!﹂
のほほんとした笑みを浮かべる西域の王の下腹部には、セナの体が
乗っかっていた。
水着審査の時に着ていたV字水着の股間をズラし、そこにハルビヤ
ニの肉棒を埋め込んでいる。
1549
﹁あぁ、お疲れ﹂
ハルビヤニがセナに命じていたのは、寝ている間中ずっとチンポを
マンコで温めておく事。
﹁お蔭で起きてそのまま別のマンコ犯せるぞ﹂
魔力で少しだけ細工をしておいたため、就寝中も肉棒は萎えておら
ず、元気な状態でセナの膣から飛び出て来た。
﹁お前⋮⋮!﹂
セナが充血した瞳で睨んでくるが、人間が一人夜通しチンポ温め機
になっていて眠れなかった程度の事を、王が気にするわけは無い。
﹁さて、昨日はだいぶ頑張ったが⋮⋮﹂
水着審査の後、全員を引き連れ大浴場へと移動したハルビヤニは、
そこで女達に全身奉仕をさせた。
文字通りの全身。
シャスラハールから奪い取った体の隅々までを、彼女達の全身を使
って洗わせた。
顔を擦るのにはシャロンの膣口を、両腕はアン・ミサとユラミルテ
ィ、両足にはアミュスとヘミネ、彼女達のマンコをスポンジ代わり
にして体を洗った。
そしてチンポをヴェナの膣に突っ込み、膣内に押し込んで置いた石
鹸でかき回して洗い、取り出した後はマリューゾワの口で余分な泡
を綺麗にする。
その後、指一本一本をそれぞれ別の娼婦の膣に突きこみ壺洗い。
湯を上がれば、そのまま食堂へと移動した。
食事のリクエストをして、リセの他、セナとルルとを厨房へと立た
せる。
衣装は水着では無く、この時の為に召喚したエプロンを着せて、調
理中の彼女達の膣内を行ったり来たりで妨害し続け遊んだ。
いよいよ完成した料理を二十人掛けの長テーブルに並べ、ハルビヤ
ニ一人席に着く。
ハイネア、ロニア、ラクシェの三人を指名して、それぞれにフォー
1550
ク、スプーン、ナイフを持たせる。
ハルビヤニはステーキを切って口に運びたい場合、
ラクシェの膣口に深々と突き刺したバイブを指で弾いて振動させ、
ナイフで肉を切らせる。
その次にハイネアのバイブを震えさせ、フォークを使って口へと運
ばせた。
スプーンの場合はロニアのバイブを操りスープを啜った。
その間、テーブルの下で順番待ちをさせている娼婦達に次々流れ作
業の様に股間へと奉仕させる。
アクロバットな体勢でテーブルの下から尻を突き出させ、顔を見な
いまま、誰が誰かを把握できないまま膣内を食事中チンポで犯しま
くる。
満腹になり、料理を片付けさせるとそのまま寝室へと移動し、手の
届く範囲に二十人の娼婦達を並べ、その膣肉を代わる代わる味わい、
唇を吸い、巨乳な連中には多重乳圧迫を要求し、貧乳達は潮噴きの
飛距離を競わせた。
王は楽しんだ。
これ以上無いほどに、自らの悦楽を満たした。
故に、
﹁さて、今度は民の番だな⋮⋮﹂
手近に寝転がっていた実の娘、アン・ミサの膣肉を押し開きながら、
ハルビヤニは笑う。
﹁あっ⋮⋮ぅ⋮⋮お父様⋮⋮﹂
泣きそうな表情で見上げて来る娘に対し、
﹁魂は俺だが、肉体は別の男の物だから、孕んでもセーフだぞ、ア
ン。だからしっかり着床しろ﹂
鷹揚に笑ってハルビヤニは腰を振り始めた。
娘達とも、何度交わったかわからない。
アン・ミサは涙を零しながら必死に耐えている。
それを見て、優しく頭を撫でてやる背徳感は堪らない。
1551
ラクシェの場合は、必死にこちらを殴り飛ばそうとする気持ちを押
さえ込む姿を笑い飛ばし、馬鹿にしながら膣内出ししてやるのが爽
快だった。
そして一番手のかかる娘、ラグラジル。
この長女の場合は心を殺して冷めた態度を取ってくる為、ハルビヤ
ニは少し複雑な趣向を取った。
繰り返し頬が赤くなるまでビンタを食らわせ、犬同士の性交の様に
雑に射精した後は、一人だけ寝室から放りだし、扉の前に公娼オタ
ク達を出現させた。
朝が来るまで、じっくりとオタクチンポに可愛がられているのだろ
う。
アン・ミサの膣肉を抉りながら、きつく睨みつけて来るヴェナの乳
を揉み、目を閉じ必死に耐えているシロエの陰部に指を三本突っ込
んで遊んでいると、
﹁お前達、退きなさい。廊下の真ん中でセックスしてると通行の邪
魔ですよ。もう少し向こうでヤりなさい﹂
扉の向こうから、ロッドマンの声が聞こえて来た。
﹁了解でござる﹂
﹁反省でござる﹂
﹁行くでござるよ、便器天使﹂
公娼オタク達が答え、ズルズルと何かを引きずりながら遠ざかって
いく気配がした。
そして、
﹁おはようございます。ハルビヤニ様。お目覚めでしょうか?﹂
コンコン、とノックの後にロッドマンが問いかけて来た。
﹁あぁ、お目覚めだよ。ロッドマン﹂
ハルビヤニはそう答えながら、ベッドの外で丸まっている数人の公
娼に視線を送り、その中でアミュスと視線がぶつかった。
﹁アミュス。ロッドマンを迎えてやれ、相応の礼儀をもってな﹂
その命令に、銀髪の魔導士は表情を歪めながら立ち上がった。
1552
ノロノロとした動きで扉を開けると、
﹁⋮⋮﹂
無言のまま、室内に顔を覗かせているロッドマンへと尻を向けた。
両手をカーペットに突き、尻肉を高く上げて挿入部位を男の腰の高
さに合わせる。
昨晩ハルビヤニが仕込んだ通りの、﹃王の客人を迎える姿勢﹄だ。
﹁おやおや。これはご丁寧に﹂
ニッコリと笑ったロッドマンはアミュスの尻をピシャリと叩くと、
自らの肉棒を取り出し花弁に添えた。
﹁それではハルビヤニ様、っと! これからの予定をお伝えします﹂
﹁うぐぅ!﹂
言葉の合間、チンポを鋭くアミュスの膣へと叩きつけながら、ロッ
ドマンは口を開いた。
﹁あぁ聞こう﹂
﹁あぅ⋮⋮、おと⋮⋮様﹂
ハルビヤニはアン・ミサの膣肉を激しく責め立てながら応じる。
﹁降臨祭の初週は計画通り、﹃告知活動﹄を主軸に取り組みます。
第一に全方位へと向けた告知。これにはここなる娼婦達に足を使っ
て里を回って貰い、今回の祭の趣旨を広く知って貰う為のものです。
範囲が広い為、南側の住宅区と北側の商業区で二日に分けて行いま
す﹂
そう言って、ロッドマンは細めた目でハルビヤニの寝室に転がる女
達を眺めた。
﹁第二に、告知を知った者達に趣旨を実践して見せる場を用意しま
す。これにはこちらが場を用意し、娼婦達にはその中で実際に働い
て貰う事になります。ただし、本番への期待を煽る為にも、本祭と
同じ内容はご法度、あくまでも似た内容を提供する形となります﹂
その言葉に、ハルビヤニは頷いた。
﹁無論だな。本祭までの間は出来るだけ民とコイツらのセックスは
避けるべきだ。そうでなくては、本番の盛り上がりに欠けると言う
1553
ものだ﹂
アン・ミサの膣からチンポを抜き出し、グチョグチョに解しておい
たシロエの中へ移し替えながら、ハルビヤニは言った。
﹁はい。理解しております﹂
ロッドマンは慇懃に礼をし、そのままの動作で自分の股間に密着し
ているアミュスの尻をひと舐めした。
﹁くっ⋮⋮﹂
怒りに震えるアミュスを無視し、
﹁それでは第三に、一度目の告知が届かなかった場所、または興味
を示さなかった者達に対し、こちらからピンポイントで積極的に参
加を働きかけます。やはり祭の一体感を得る為にも、里全体で盛り
上がりたいものですから﹂
その言葉に、ハルビヤニが首肯する。
﹁病院や学校なんかの閉鎖組織、そしてアンやラグに忠誠を誓う連
中の事だな。うむうむ。ロッドマン、良い判断だ。とりあえず初週
に関しては、その予定で動こう﹂
﹁ふぁ! で、出てる⋮⋮!﹂
シロエの膣内に精を吐き出しながら、王は宣言した。
淫臭が充満する膣内で、公娼達はそれぞれの瞳に意思を宿したまま、
凌辱者達の計画表を厳しい面持ちで聞いていた。
﹁お、おい⋮⋮アレ⋮⋮﹂
﹁うぉぉぉぉ。何だアレ⋮⋮痴女か?﹂
﹁いや、アン・ミサ様がいる! ラグラジル様も! ラクシェ様も
だ!﹂
降臨祭に合わせて里へとやって来た魔物達。
元から居た住人達と合わせると、最早道を歩けば誰かとぶつからな
い方が困難だと言いたくなる程度に、街路は魔物達で埋まっていた。
そこを歩く集団が有る。
1554
﹁こちらはハルビヤニ様の一行です。皆さん、道を開けて下さい﹂
﹁はいはいー、固まらないで下さいでござるー﹂
﹁見る分には構わないでござるが、おさわりはダメでござるー﹂
先頭を行くロッドマンと、その脇で道幅を作る二人の公娼オタク。
彼らの後ろに続くのは、
﹁クッ⋮⋮﹂
﹁見てる、皆⋮⋮﹂
﹁こ、こんな恰好⋮⋮裸より嫌⋮⋮﹂
フレアが呻き、シャロンが青褪め、セナが歯ぎしりした。
三人に続く様にして歩いている女達も、皆似た様な表情を浮かべて
いる。
﹁おーい、さっさとすすめ︱﹂
その行列の一番後ろからついて来ているハルビヤニは、ニヤニヤと
笑っている。
セナ達が今着ているのは、一枚のTシャツ。
それのみ。
昨日リセが着て水着審査に合格していた、Tシャツを尻と股間の上
で途切れさせるスタイルだ。
各人の胸と背中には、黒字でデカデカと民草へのアピールの言葉が
書かれている。
﹃セックス祭り﹄﹃膣内出し大歓迎﹄﹃来て観て触って﹄﹃乳首が
弱点﹄﹃祭の備品﹄﹃中古肉便器﹄﹃求む、熱きチンポ﹄﹃奥まで
よく見て﹄﹃何発出しても無料です﹄などなど、滑稽な文字で飾ら
れ、公娼達は民衆の間を通り抜けて行く。
突き刺さる視線と、好色な気配。
それらに押し潰されながら、Tシャツ一枚の女達は必死に裾を降ろ
して陰部を隠しながら、前へと進んだ。
﹁はーい、ここで集合﹂
王宮から真っ直ぐ南へと進み、家屋が立ち並ぶ住宅区へとやって来
て、そこの中心部に設置された噴水の前で、女達は集められた。
1555
﹁それでは、今から呼ぶ者は私のところへ集まって下さい。ラグラ
ジル、ステア、ユキリス、マリューゾワ、マリス﹂
名を呼ばれた五人は、訝しげな表情でロッドマンへと近づいて行く。
﹁拙者のところには︱︱﹂
﹁こちらには︱︱﹂
二人の公娼オタク達が声を上げ、それぞれ五人ずつ名前を呼んだ。
そうして呼ばれずに噴水の前で立ち止まっている五人。セナ、シャ
ロン、アン・ミサ、ロニア、リセの元には、
﹁お前らは俺の班だ。しっかり付いて来い﹂
ハルビヤニが近づいて来た。
﹁何をやらせるの⋮⋮?﹂
瞳を眇めて問うセナに、
﹁何って? 聞いてただろ? 告知活動さ﹂
西域の王はニヤニヤと笑みを見せながら、軽く言った。
﹁それでは、本日はこちら南地区で四つの班に分かれて告知活動を
行います。娼婦の皆さんは引率の班長︱︱我々ですね。の言う事を
良く聞き、街の皆さんにしっかり祭の趣旨を説明して下さい。あ、
それと君達。一度でも射精をしたらまた異空間送りになるので、引
率中は娼婦達との性行為を禁止します﹂
付け足された言葉に公娼オタク達をしょんぼりした顔を浮かべてい
る。
﹁告知活動⋮⋮﹂
シャロンが表情を曇らせていると、
﹁そう言う事だ⋮⋮﹂
その露出した尻に、ハルビヤニの手が触れる。
﹁うっ⋮⋮﹂
﹁なぁに。安心しろって。朝も言ったがお前達に今はまだ民草とセ
ックスさせる気は無い。安心して、マンコ晒したまま笑顔で告知し
ろ﹂
そう言って、反対側の手でロニアの尻を掴まえながら、ハルビヤニ
1556
は歩き始めた。
ロッドマンや公娼オタク達に率いられた組もそれぞれ動き出してい
る。
セナやリセ、そしてアン・ミサも覚悟を決め、ハルビヤニの背中を
追った。
﹁今年の降臨祭はセックス祭でーす。是非ご参加くださーい﹂
ニコニコ笑顔で、セナは行き交う人に声を掛ける。
﹁ハルビヤニ様の降臨を祝い、﹃気持ち良い性交﹄をテーマに盛大
に執り行います。皆さんお誘いあわせの上、私達のおマンコをズボ
ズボしに来てくださーい﹂
その隣で﹃チンカス大好き﹄Tシャツを着たシャロンが笑みを浮か
べて声を張っている。
﹁このチラシにアタシ達祭用娼婦の詳細な情報が書いて有りますの
で、ご一読下さい﹂
ロニアは小走りに動き回りながら、道行く人にチラシを配っている。
﹁はい。本祭の間は無料で、何度でも私達に種付できます。孕ませ
ももちろん自由です﹂
リセは告知活動に興味を抱き、足を止めて近づいて来た男に丁寧に
説明している。
﹁⋮⋮わたくしと⋮⋮ラグラジルお姉様、ラクシェも参加します。
普段は見られないわたくし達の姿をお見せ致しますし、もちろん⋮
⋮好きなだけ膣内出しして下さって構いません﹂
智天使アン・ミサのTシャツ姿︱︱と言うよりも露出した陰部と白
い尻に、男達はセナ達を無視して群がっていた。
その中心で、アン・ミサは泣きそうな表情で告知活動を行っている。
そこに、
﹁アン、表情が硬いぞ? どうした? 裏で﹃ギルティ﹄するか?﹂
ハルビヤニの声が飛ぶ。
1557
常に笑顔でいる事は、契約書に明記されていた内容。
セナ達もそれを強制されているに過ぎない。
父の言葉を耳にし、アン・ミサは必死で笑顔を浮かべ、
﹁是非⋮⋮膣内に出して、日ごろの鬱憤をこのわたくしの体で晴ら
して下さいね﹂
そう言って、尻を丸出しにしたまま頭を下げた。
観衆からは歓声が上がり、我先にとアン・ミサに男達が群がる。
﹁アン・ミサ様! 本当ですか? 本当に貴女様とセックスを⋮⋮
種付をさせて頂けるのですか?﹂
羽根落ちの若者が興奮気味に問う。
﹁いやぁ⋮⋮智天使様のマンコをこの目で見れただけでは無く、し
ばらくすればそれを実際に俺のチンポでズボズボできると思うと⋮
⋮堪りませんなぁ﹂
いやらしい笑みを浮かべた中年の男が、ねっとりと纏わりつく視線
を智天使の陰部へと向けた。
﹁少しだけ、味見をさせてもらいますよ﹂
ヒョイと伸びて来た手がアン・ミサの尻を撫でる。
﹁あっ!﹂
思わず身を引き、声を上げる智天使。
そして父であるハルビヤニを見れば、無言で笑みを崩さず立ってい
る。
監督者であるハルビヤニから制止の声が掛からなかった事は、つま
りこの程度の接触ならば不問であるという事。
男達は次々に手を伸ばし、アン・ミサの尻を揉み、陰唇を撫で、T
シャツ越しに乳房を鷲掴みにした。
﹁うっ⋮⋮やめっ⋮⋮﹂
﹁アン! 契約を忘れたのか?﹂
身を捩って抵抗しようとするアン・ミサにハルビヤニの鋭い声が届
く。
﹃ギルティ﹄を受けるだけならまだしも、娼婦としての契約を破っ
1558
てしまえば、同時にハルビヤニと結んだ誓約すら破棄されてしまう。
それだけは、何としても守らねばならなかった。
その為、
﹁み、皆さん。一緒にお祭を楽しみましょうね﹂
アン・ミサは心を殺して、顔の筋肉を動かした。
体中を這い回る痴漢共の手は、止まる様子を見せない。
アン・ミサが集団に汚されている頃。
﹁どれ、実際に使う前に穴の状況を確かめさせてもらおうか。この
チラシの内容と齟齬が有ったら困るからな﹂
﹁チラシの情報ほど信用がならない物も有りませんからねぇ﹂
そんな言葉を吐きつつ、アン・ミサの周りから弾かれた男達はセナ
やシャロンの股間に張り付いた。
﹁ど、どうぞ﹂
﹁気が済むまで⋮⋮確かめて下さい﹂
Tシャツを捲られ、ヘソを露出した状態で、セナとシャロンは複数
の男達に股間を凝視される。
﹁ほら、見えないだろ。自分で穴の周りを広げなさい﹂
その声に、二人の騎士は従わざるを得ない。
自らの手で陰唇を開いて、男達の視線に晒す。
﹁ふむ⋮⋮色合いの情報は間違いでは無さそうだが⋮⋮﹂
﹁奥行に関しては何とも言えませんなぁ⋮⋮チンポを突っ込んでみ
ない事には⋮⋮﹂
﹁しかしぃ⋮⋮先ほどのハルビヤニ様のお話だと本祭まではそれは
厳禁だって⋮⋮﹂
無遠慮な視線を二人の騎士の秘部に注ぎながら、男達は呻いている。
﹁こ、の⋮⋮こいつら⋮⋮﹂
﹁セナ、落ち着いて⋮⋮﹂
怒りで顔を赤らめさせているセナに、シャロンが諌めの言葉を放つ。
そこに、
﹁だったら⋮⋮これなら良いんじゃないか?﹂
1559
そう言って、一人の男が背負っていた葛篭を降ろし、その中身を取
り出した。
長芋、人参、アスパラガス、胡瓜、茄子、ブロッコリー。
﹁さっき畑で獲って来た奴だけど、少しずつなら構わないぜ﹂
そう言って、男達はハルビヤニの方を向く。
するとそこには、
笑顔で頷く西域の王の姿が有った。
﹁それじゃ、遠慮無く﹂
﹁おいしょぉぉぉぉぉ﹂
男達は手にした野菜を騎士達の陰部へと突き立てた。
﹁んほぉぉぉ!﹂
﹁あひぃぃぃ!﹂
セナの陰唇を人参が押し開き、ぐいぐいと膣奥へと突き進んでくる。
シャロンの膣内を太い茄子が詰まる様に圧迫した。
﹁おぉ、本当だ。人参一本程度は楽に入るな﹂
﹁こっちのマンコも、簡単に茄子を飲み込んだぞ﹂
そう言うと、男達は人参と茄子を抜き取り、今度は長芋と胡瓜を手
にした。
﹁止め⋮⋮﹂
﹁いやっ⋮⋮﹂
汗を浮かべる二人の顔に、男達は嘲りの表情を向けてから、それぞ
れの野菜を突きこんだ。
﹁ひぎぃぃぃ。ふ、深い!﹂
人参とは比べようも無い長さで、セナの膣内を貫通し子宮へとゴリ
ゴリ押し付けられる長芋の感触。
﹁痛っ! イボが!﹂
胡瓜は形が整っておらず、歪なカーブを描いていてその上鋭いイボ
が浮いている為、シャロンの膣内は引っ掻かれながら拡張される事
になった。
そうしてしばらくセナは長芋を子宮口で摩り下ろす様に押し付けら
1560
れ、
シャロンはイボだらけのキュウリで膣内を掻き回された。
二人の痴態を男達はゲラゲラ笑いながら見、そして野菜を引き抜き、
﹁最後はこれだな。もう時間も無さそうだし、こいつは持って帰っ
てくれや。お土産だ﹂
そう言って、セナの膣口と肛門にアスパラガスを一本ずつ差し、シ
ャロンの膣肉には極太のブロッコリーを植えた。
﹁ちゃんとそれ付けて帰れよー。捨てたら承知しないからな!﹂
男達は下品に笑いながら、野菜を生やした二人の騎士の頭を撫で、
歩き去って行った。
セナとシャロンが野菜で犯されている間、リセとロニアは一軒一軒
家の扉を叩き、中に居た住人にチラシを配っていた。
ハルビヤニの指示によるもので、決して彼女達自身が望んだ行動で
は無い。
﹁お願いします。是非参加して下さい﹂
﹁おマンコ濡らして待ってます﹂
頭を下げながら、チラシを手渡して行く。
屈辱に手が震え、声が揺れても彼女達に拒む事は出来ない。
﹁んー⋮⋮どうしようかなぁ⋮⋮﹂
一軒のボロ屋で、一人の老人が手渡されたチラシを見ながらボヤい
た。
﹁お願いします﹂
﹁必ず気持ち良くしますから﹂
リセとロニアは必死で頭を下げる。
そうしなければならなかった。
手を抜いている事をハルビヤニに知られれば、良くて﹃ギルティ﹄
悪くて契約破棄に繋がってしまう。
﹁そうは言ってもなぁ⋮⋮ワシ近頃勃ちが悪いし⋮⋮﹂
老人はポロリと肉棒を取り出し、頭を下げる二人の前へと突きだし
た。
1561
﹁実際に使い物になるか確かめん事には、祭に行くだけ無駄になる
しなぁ﹂
リセとロニアの痴態を見ても、隆起する事無く皺だらけの皮に覆わ
れたその老根。
﹁誰か確認してくれんかなぁ⋮⋮?﹂
老人は下品な笑みを浮かべ、二人を見下ろした。
屈辱に震えながら、ロニアの手が動く。
緑色の髪を揺らしながら、老人のチンポへ顔を寄せ。
﹁ちゅぷ﹂
その小さな口で頬張った。
﹁お、おほ。これは良い。だがまだまだ⋮⋮﹂
喜悦の声を漏らしながら老人はロニアの頭に手を置くが、彼のチン
ポはロニアの口の中で膨らむ事無く、快感を受け流していた。
﹁んー⋮⋮足りん。足りんなぁ﹂
そして、欲望に滾る目はリセを捉えた。
﹁⋮⋮どうぞ﹂
リネミア王女に仕える侍女は、堅く表情を引き結んだまま老人の傍
へ寄り、彼の手を己の陰唇に宛がった。
﹁おぉ、懐かしきマンコの感触⋮⋮。うほほ﹂
老人はチンポへと奉仕を続けるロニアの頭を撫でながら、リセの膣
内を指でかき回し、彼女の唇に吸い付いて老いた唾をその喉に流し
込んだ。
ロニアもリセも、ただひたすら耐え忍ぶ。
このひと月を乗り越えれば、ゼオムントに勝利する未来に近づける。
その思いだけで、二人は勃起機能を失った老人を相手に、無益な奉
仕を続けていた。
途中で二人はチンポしゃぶりとベロチューのポジションを交代しな
がら頑張ったが、
﹁結局無理だったが、まぁ祭には参加してやろう。楽しみにしてお
くよ﹂
1562
ハルビヤニから召集が掛かるまで、ピクリとも反応しない老人に奉
仕を続けていたリセとロニアは、
唇に纏わりついた老いた唾や尿を拭いながら、目に涙を湛え王の元
へと戻って行った。
﹁どうだった? ロッドマン﹂
ハルビヤニは寝室のベッドに腰掛けた状態で、向かいに座る友人へ
と問いかけた。
﹁まぁ一先ずは南側地区に関しては告知完了でしょう。元よりこの
里の住人である羽根落ち達が住まう地域であり、祭に対する関心や
理解が高い者達ばかりでしたからね﹂
ロッドマンはベッドでもソファーでも無く、娼婦に座っていた。
﹁クッ⋮⋮﹂
土下座の姿勢で背中を丸めている全裸のステアを人間椅子として扱
い、戯れでその尻穴を撫でて遊んでいる。
﹁そうだな。こちらも告知に関しては満足いく結果だった。残り二
班も概ね問題は無かったようだしな﹂
班長を任された公娼オタク達は必死の自制心で射精を堪えて、告知
活動によって娼婦達を辱める事に全力を注いでいたらしい。
﹁明日は北側地域を回りましょう。旅人や商人達にも広く告知しな
ければ﹂
天兵の里の北側は商業地域になっていて、現在はその場所に多くの
来場者が宿を取っている状況だ。
﹁そうだな⋮⋮班分けを変えて明日もまた頑張ろうじゃないか。な
ぁ?﹂
ハルビヤニが笑顔で問いかける先、セナとシャロンが未だに野菜を
生やしたままで床に転がされていた。
﹁いい加減に、抜かせてよ﹂
﹁不愉快なんです⋮⋮感触が﹂
1563
アスパラガス二本挿しのセナはまだしも、ブロッコリーを一株股間
に挿しているシャロンは股を閉じる事が出来ずにいた。
﹁駄目だ。明日の朝までよぉく味を沁み込ませておけ。それがお前
達の朝食だ。マヨネーズの代わりにオタク達のザーメン付けさせて
やるかな。あぁセナの方の一本は自前の味噌つけになるのか﹂
ハルビヤニは心底楽しそうに笑い、
﹁ほら、そっちはちゃんと特訓を続けろ。二人がかりであんだけ時
間を掛けたくせに一人を射精させられないとは⋮⋮お前らゼオムン
トで何を学んで来たんだよ﹂
今度は少し離れた場所で行われている特訓を見つめた。
リセとロニアに課された、フェラ特訓。
﹁お、おおぉ良いですぞリセ。その筋をもっとしっかり舐めるでご
ざる﹂
﹁ロニア! だから言っているでござろう? イラマとフェラは別
でござる。拙者は動きませぬ。お主の舌と喉だけで抜いてみせい!﹂
目に涙を浮かべた二人は、告知活動から戻って来てからずっと、公
娼オタク達を相手にフェラの補習を受けていた。
既に一人十五人発射精を喉に浴び、その精液を嚥下している。
﹁うぉえ⋮⋮えぉ⋮⋮﹂
﹁もう⋮⋮お腹、タプタプ⋮⋮﹂
苦しみの涙を零すリセと、胃からせり上がる嘔吐感に怯えるロニア。
﹁ノルマは一人五十回な﹂
ハルビヤニはそう命じ、手元に抱いた金髪の愛娘の頬を撫でた。
﹁あっ⋮⋮﹂
智天使アン・ミサは震えていた。
彼女は守り導いて来た民に醜態を晒し、その上で全身の肌を揉みく
ちゃにされたのだ。
﹁大丈夫だ、アン。今日の事は来月にはきっと忘れているさ。何て
言ったって、三週間後にはああいう奴らと本番生セックスする事に
なるんだからなぁ﹂
1564
父のその言葉に、娘は静かに涙を流して俯いた。
その時、
﹁⋮⋮厠に﹂
か細い声が場に響いた。
﹁厠に行かせてくれ﹂
ハルビヤニとロッドマンが視線を巡らせれば、ハイネアが顔を赤ら
めて震えている姿が有った。
我慢の限界。
表情から既に、それが読み取れた。
﹁ふむ⋮⋮ハルビヤニ様、それでは私が監視しましょう﹂
ニヤニヤと笑いながら、ロッドマンはステアと言う名の全裸椅子か
ら立ち上がり、
﹁他に、小便をしたい者は?﹂
その問いかけに、
﹁⋮⋮くそっ﹂
﹁⋮⋮う﹂
﹁我慢しても体に悪いだけですしー⋮⋮﹂
マリューゾワとユキリス、そしてマリスが手を挙げた。
﹁それではついて来なさい﹂
そう言って、ロッドマンは歩き始める。
ハイネアはチラとリセを振り返り、祈る様に目を閉じてからそれに
従った。
寝室を出て、しばらく歩き続ける一人の中年男と四人の艶やかな娼
婦達。
﹁さ、ここで﹂
ロッドマンが指定した場所は、中庭に掘られた穴だった。
﹁⋮⋮っああ!﹂
マリューゾワは髪を逆立てんばかりにイラつきながら、そこに向け
て屈み込む。
他三人も、それに従った。
1565
﹁便器であるお前達に普通の便所を使わせるわけにはいきませんか
らねぇ。降臨祭期間中はずっと、この穴に垂れ流しなさい。あぁそ
れと、何か役立つかも知れないので、この穴の周囲にはハルビヤニ
様の撮影魔法が常時起動していますので、排泄シーンは全て記録さ
れますよ﹂
その言葉に、
﹁そんな⋮⋮どうして⋮⋮﹂
ユキリスは顔を青褪めさせた。
﹁そういうシーンを好む者も居るという事です。本祭でそのシーン
だけを集めた映像結晶を販売する事も決まっています﹂
ロッドマンの答えに、
﹁下種ですしー下品ですねー﹂
マリスが吐き捨てた。
﹁ま、撮影されるのが嫌なら告知活動か何かで誰かにマンコを弄ら
れている時に、ついでに漏らすと良いですよ。少なくとも記録には
残りませんからね﹂
含み笑いを浮かべたその言葉に、四人が四人とも睨みを向けるが、
﹁さぁさ、さっさと致しなさい﹂
ロッドマンは気にする素振りすら見せずに、放尿を促した。
周囲に人がいるという状況と、四人で一つの穴に向けて尿を放つと
いう異常な事態に娼婦達は戸惑うが、
既に限界を迎え始めていた者達であるが故に、その姿勢を取った瞬
間から結果はもう見えていた。
チョロチョロ︱︱
ジョロジョロ︱︱
シュパパパパ︱︱
ピュシャピュ︱︱
四人はそれぞれの音を立て、放物線を描きながら穴へと尿を垂れ流
した。
﹁あっ⋮⋮﹂
1566
﹁し、失礼します﹂
その瞬間を、中庭を横切って歩いていた女中の集団に見られ、彼女
達が慌ただしく走り去っていくのを見送りながら、四人の公娼は屈
辱に震えていた。
一日溜め込んでいた尿を長い時間かけて解放し、安堵と共に激しい
寒気を感じながら、四人は立ち上がる。
﹁戻るぞ﹂
マリューゾワが殺意の籠った目でロッドマンを見ながら言うと、
彼は額に手を当て、
﹁今夜は月が綺麗だ⋮⋮﹂
中庭から上空を見上げ、呟いた。
﹁早くして、風邪を引く﹂
真冬であり、彼女達は全裸だ。
排尿により体温も低下している。
その時、
﹁こんな月夜は、外でセックスするに限りますね﹂
ロッドマンは己の肉棒を取り出し、四人へと向けた。
﹁なっ⋮⋮﹂
唖然とするユキリス。
﹁それにほら、お前達からトイレに連れて行ってあげたお礼もして
貰わないといけませんし﹂
ロッドマンはニヤついた笑みを浮かべ、まずはマリスへと歩み寄っ
た。
﹁随分高いお礼ですねー⋮⋮﹂
その手を振り払う事が出来ずに、マリスは毒を吐いた。
それに対し、
﹁勘違いしていませんか? お前達の様な使い古しの精液と痰の匂
いしかしない肉便器に私の時間を数分とは言え貸してあげたのです
から、高いなどと⋮⋮。お前達はまだ自分のマンコの価値を正確に
知らないようですね。良いでしょう。これを機会に私がみっちりと
1567
教えて差し上げます﹂
公娼オタク界の首領として、彼女達の価値を最もよく知る男、それ
がロッドマン。
﹁朝が来るまで、たっぷりとね﹂
翌朝、起床したハルビヤニが寝室の扉の前で見た物は、
﹁雪マンコ気持ちいぃぃぃぃぃ﹂
﹁シャリシャリだけどネトネトするでござる!﹂
﹁痛い! 冷たくて⋮⋮、あぐぅ!﹂
﹁な、膣内でザーメンシロップのかき氷みたいになって⋮⋮﹂
外に積もっていた雪を膣と肛門に詰められ、そこをオタクチンポで
かき回されているユキリスとマリスの姿。
そして、
﹁はい、次の問題でござる。以下の物の内、君達のおマンコより価
値が低い物を選びなさい。一、カエル。二、瓶ジャムの蓋。三、牛
糞﹂
問題を出す公娼オタクと、その前に正座させられているマリューゾ
ワとハイネアが居た。
﹁⋮⋮三﹂
﹁妾は二だと思う⋮⋮﹂
全て、とそう答えるべき二人の貴人は、身を切る思いで答えを選ん
だ。
﹁ブブーッ! 正解は四、該当なしでしたー! 残念でござる!﹂
大げさなポーズで公娼オタクはバッテンを告げ、
﹁当たり前でしょう。瓶ジャムの蓋が無くなればすごく困るじゃな
いですか。それに牛糞は貴重な肥料ですよ。やれやれ、馬鹿なお前
達には﹃ギルティ﹄です﹂
それを見ていたロッドマンは顔を顰めて言い、異空間からお仕置き
用の公娼オタクを召喚した。
1568
マリューゾワとハイネアが組み敷かれているの眺め、そこで寝室か
ら出てきたハルビヤニに気づいた。
﹁おや、これはハルビヤニ様。おはようございます﹂
礼をするロッドマンに向けて、
﹁流石だな、お前﹂
ハルビヤニは賛嘆の息を吐いた。
1569
降臨祭第一週 其の三 上半身Day︵前書き︶
評価・ブックマーク登録ありがとうございます。
前回の更新と間隔が狭いので、ご注意ください。
1570
降臨祭第一週 其の三 上半身Day
前の日、セナ達はTシャツ一枚に下半身をさらけ出した格好で告知
活動を行った。
単純に全裸に剥く事を、ハルビヤニ達がよしとしなかった事が理由
となる。
そしてこの日。
降臨祭準備期間初週の三日目。
北側商業区の中心に集められた娼婦契約者達は、陰部を申し訳程度
に隠すショーツ、それだけしか身につける事を許されなかった。
黒単色のレース素材で、凝視すれば向こう側が透けかねない様な扇
情的な物。
その上尻側には白いボンボンが付けられており、まるで兎の尻尾の
様に滑稽さを際立たせていた。
互いに顔を見合わせながら、モジモジと両手を交錯させ、胸を隠そ
うとする女達。
﹁それじゃあ今日の班割を発表しましょうか。セナ、ハイネア、ユ
ラミルティ、ルル、シロエは私について来なさい﹂
﹁拙者の班はー﹂
﹁こっちにはー﹂
ロッドマンと二人の公娼オタクが公娼達の名を呼び、班分けを知ら
せていく。
彼ら三人に呼ばれなかった五人が、必然ハルビヤニに引率され、告
知活動に赴く事になる。
﹁さて、俺の班はお前達だな﹂
ニヤニヤと西域の王が見渡した先に居たのは、
リーベルラントの百人長フレア。
リネミアの拳闘貴族ヘミネ。
1571
支配と枯渇の魔導士アミュス。
ロクサスの大騎士シュトラ。
そして、西域の魔天使ラグラジル。
際どいショーツのみの姿で乳房を晒した五人の美女を率い、ハルビ
ヤニは商業区での告知活動を開始した。
﹁これはこれはハルビヤニ様⋮⋮当商会へお越しいただけるとは、
光栄の至りでございます﹂
その言葉と共に、山羊頭の魔物が慇懃に頭を下げる。
フレア達はハルビヤニに連れられて、とある建物を訪れていた。
﹁いや、良い。会長殿の功績はよぉく知っているからな。こうして
自由になる体を得て降臨した時くらい、顔を見せるのに不思議はな
いさ﹂
ハルビヤニは鷹揚に頷いて見せた。
﹁有り難いお言葉でございます﹂
会長と呼ばれた男は更に頭を下げた。
そして、値踏みするような視線をハルビヤニの背中側に立っている
五人の裸女へと向けた。
﹁⋮⋮それで、ハルビヤニ様。もしかすると、我々に何か要請が有
って参られたのでは無いでしょうか? この、ゴゥト商会に﹂
﹁クハハハ。会長殿は流石に察しが良い。西域経済の要であるゴゥ
ト商会を纏めているだけは有るな﹂
ハルビヤニと会長は笑い合う。
その光景を、魔天使ラグラジルは唇を噛んで見守っていた。
﹁実はな、会長。今度の降臨祭でグッズの販売をしたいのだが、そ
の製造と運営をゴゥト商会に頼みたいのだ﹂
紡がれたハルビヤニの言葉に、ゴゥトの会長は深く頷いた。
﹁ほう、グッズ⋮⋮﹂
﹁今回の祭の趣旨はこいつらがこうして証明しているとおり、﹃気
1572
持ち良い性交﹄だ。それにちなんだ商品を売り捌き、お互いが幸せ
になれる様な金儲けをしようじゃないか﹂
西域の王からの要請に、会長は一拍空け、
﹁素晴らしいお話でございます。ですが、ハルビヤニ様。私どもは
既に降臨祭に向けて幾つかの商策を打ち出し、実行している段階で
ございます。とてもとても手が足りず︱︱﹂
一度引いて見せた。
﹁なぁに、簡単な物で良い。印刷や縫製事業からのし上がったゴゥ
ト商会の得意分野を活かしてくれるだけで良いんだ。それに、グッ
ズが売れる事は俺が保証してやる﹂
そう言って、ハルビヤニは踏み込んだ。
﹁手始めに、ラグを使え。現在の西域の管理者だ。コイツを使って
グッズを作るんだよ﹂
その言葉に、会長の目が細まった。
﹁ラグラジル様を⋮⋮ですか?﹂
﹁あぁ。使いたかったら陰毛の一本からセックス自由券、唾液に脱
ぎたての染みつきパンツや撮り下ろし映像結晶まで何だって売って
くれて構わん。ラグだけじゃないぞ? アンやラクシェやユラミル
ティについてもそれを認める。無論、こっちの娼婦連中も好きに商
品化してくれて構わん。ま、そっちは大して売れないだろうがな﹂
西域の地での人気と知名度、フレア達では天使三姉妹やユラミルテ
ィの足元にも及ばない。
﹁アン・ミサ様達も⋮⋮で、ございますか﹂
会長の瞳が輝く。
魔天使は不快気に、その後ろで四人の人間達は娘の貞操を売り物に
しようとするハルビヤニを蔑んだ目で見ている。
﹁畏まりました。ハルビヤニ様。ゴゥト商会の総力を持ちまして、
今年の降臨祭を盛り上げさせて頂きます﹂
商機を嗅ぎ取り、会長は恭しく礼をした。
1573
﹁さ、それではラグラジル様。こちらへ﹂
ゴゥト商会の商館に、ラグラジルだけが残されていた。
ハルビヤニは四人の女達を率いて、街中へと戻って行った。
﹁お前、ワタシを誰だか知っているわよね?﹂
腕を組んだ魔天使は鋭い目で会長を睨みつける。
﹁無論、存じておりますとも。西域の現管理者にして魔天使の名を
持つ御方、ラグラジル様ではございませんか。貴女様の持つブラン
ド価値はそれこそ万金に等しい。うひ、うひひひひ﹂
笑う会長の背後に、二十人程の山羊頭の男達が並んだ。
﹁さぁ、ラグラジル様。グッズ製作はこのひと月でのんびりやると
して、まずは宣伝用ポスターとカタログだけ作ってしまいましょう
か﹂
会長の命令に従い、男達がラグラジルへと殺到した。
﹁チャリティー募金に御協力くださーいでござる﹂
﹁降臨祭期間中に集まった募金は全額、恵まれない種族の子供達の
為に使います。是非ともご協力くださーいでござる﹂
人々が行き交う大通りに、二人の公娼オタクの声が響く。
通りがかる多種多様な魔物達は人間の姿を珍しそうに眺め、彼らの
胴体に﹃降臨祭運営委員会﹄のタスキが掛かっている事で納得して
いた。
無論、ハルビヤニに召喚され、そのタスキを渡されたのが彼らだ。
﹁募金はこちらの募金箱へお願いしまーすでござる﹂
﹁硬貨は前の穴、紙幣は後ろの穴に丸めて突っ込んでくださーいで
ござる﹂
公娼オタク達が叫んでいるその中間に、二つの募金箱が設置されて
いた。
少し前まで、フレアとシュトラという名前を持っていた二人の公娼。
1574
穿いていたショーツは右のくるぶしに巻き付けられていて、その陰
部は陽の下に晒されている。
代わりに目隠しと猿轡を付けられた状態で、まんぐり返しの体勢で
縛られ公娼オタク達の足元、生きた募金箱に成り果てていた。
﹁おぉ。そうですか、流石はハルビヤニ様。民草への愛に溢れてお
られる﹂
一人の魔物紳士が感じ入った声で言い、フレアの陰唇に銅貨を突き
入れる。
﹁むぐぅぅぅ!﹂
ヒンヤリとした金属の塊を膣内に投じられ、フレアは驚きの声を上
げる。
﹁まぁまぁ。それは素晴らしい催しですわね﹂
通りがかりの貴婦人がそう言って、シュトラの肛門に丸めた紙幣を
捻じ込んだ。
﹁んむっ! むぅ﹂
紙の質感に、募金箱シュトラは震えて反応した。
募金箱状態のフレアとシュトラの乳首には赤い小羽が取り付けられ
ていて、硬貨が投入され、紙幣が捻じ込まれる度に悶える体に合わ
せて、ユラユラと羽ばたいている。
﹃恵まれない子供に愛の手を﹄﹃貴方の善意で助かる命がある﹄な
どなど、その裸体には到底相応しくない文字が、肌の上で踊ってい
た。
﹁⋮⋮何とまぁ。ハルビヤニ様の仰ったとおりでござるなぁ﹂
目の前で続々と募金箱へ硬貨と紙幣が投じられている様子を眺めな
がら、公娼オタク達は囁き合う。
﹁この辺りの旅行客は金を持っているから、適当な理由をつけて募
金活動をすれば簡単に集まると⋮⋮ここまでとは﹂
既にフレアとシュトラの前後の穴には溢れんばかりに募金が寄せら
れ、彼女達の膣穴の中はジャラジャラと鳴り、直腸に届く程に折り
曲げられた紙幣が押し込まれていた。
1575
金の為に犯されるのではなく、金に犯されている二人の公娼の姿を、
オタク達は手にした撮影用魔法道具でパシャパシャと記録していく。
﹁何というか⋮⋮公娼ランクが高く無い二人だけに、こういう役割
が似合うでござるなぁ﹂
一人が笑いながら言う。
フレアは公娼時代、技術の無い調教師の下で日銭を稼ぐために体を
売らされていたに過ぎず、同僚のシャロンの様な知名度は無い。
シュトラも片田舎の農場で小作人や家畜を相手に性処理を務めてい
たローカル公娼だったので、世間的な注目度は低かった。
﹁まぁでも、そう言った連中が居た事で、アリスレインやマリュー
ゾワの様なメジャーどころが華になったのでござろうなぁ﹂
公娼の中でも優劣が有り、それは美醜の問題では無く運命や成り行
きに左右された物だったが、フレアやシュトラの様な公娼ランクの
低い者達はこうして、自己の尊厳を否定され、物扱いされた上で存
在を許されていた。
﹁お似合いでござるよ。フレア、シュトラ。精々しっかり募金箱と
しての役割を果たすでござる﹂
﹁拙者達はお前達みたいな日陰のマイナーな公娼の事を知っている
事がステータスでござるからな。マニアック路線をしっかり歩んで
欲しいでござる﹂
絶えず降り注ぐ慈愛の金銭に、二人の公娼はその日一日犯され続け
ていた。
フレア達が肉募金箱へと成り果てている頃、ハルビヤニはアミュス
とヘミネを連れて別の場所へとやって来ていた。
路地を進み、少しずつ奥まった場所へと移動していた。
﹁⋮⋮どこまで行くつもり?﹂
既にラグラジル、フレアやシュトラとは切り離されている事から、
多少なりとも不安を抱いたアミュスはハルビヤニへと鋭く問うた。
1576
﹁んー? あぁもう少し先だ。ところで、だ﹂
ハルビヤニは笑みを見せながら二人を振り返る。
﹁お前達は少し前までゼオムントの陣地で、たった二人で精液便所
をやっていたんだったよな? 数万人を相手に﹂
無神経、無遠慮、そして無礼な問い。
セリスに敗れた後、セナが合流して来るまでの数か月間、アミュス
とヘミネは二人きりで五万人の開拓団に性奉仕させられていた。
その事実を掘り返されている。
﹁⋮⋮だと、したら⋮⋮何だというのですか?﹂
ショーツ一枚の姿で、ヘミネは瞳に怒りを湛える。
﹁いやー俺もちょくちょく見てたんだけど、あのゾートとオルソー、
それにラタークの三人から纏めて調教されてる奴なんてお前らくら
いだしなぁ。中々刺激的な映像だったぜ﹂
からかう様な声色で、西域の王は二人を見た。
﹁絡むわね。何よ?﹂
アミュスが険の籠った目でハルビヤニを見た時、
﹁ほら、着いた。上映会場だ﹂
西域の王は両手を広げた。
三人が歩き続けて辿り着いた場所。
そこは、街角の広場であり、
その場所では今まさに、大画面でアミュスとヘミネの痴態が映像と
して流されていた。
﹃ガンバレ、ガンバレみ・ん・な!﹄
﹃ファ∼イト! ファ∼イトー!﹄
全裸に黄色いボンボンだけを持ったアミュスとヘミネが、開拓団陣
地で働く労働者達を慰問している場面だった。
疲れて倒れ込んでいる者のチンポに元気注入復活のフェラを仕掛け、
イライラを募らせ喧嘩を始めた男達の輪に飛び込んで仲直りの輪姦
用オナホに変身して、労働者達と一緒に汗水愛液を垂らして働いて
いる様子を捉えたドキュメンタリーだった。
1577
広場に集まった男達は食い入る様に画面を見つめている。
股間を膨らませ、興奮に顔を上気させているのがはっきりとわかる。
そこに、
﹁さて、急な予告に良く集まってくれたな、諸君﹂
ハルビヤニが大声を上げてその中へと歩み入った。
﹁は、ハルビヤニ様﹂
﹁凄く良い物が見れると聞いて⋮⋮﹂
昨晩の内にハルビヤニが公娼オタク達を使って声を掛けておいた数
十人の男達が、広場に集まっていた。
﹁さて、皆に紹介しよう。この映像の主演である、アミュス嬢とヘ
ミネ嬢だ﹂
そう言って、ハルビヤニは自分の背後を示し、ショーツ一枚の二人
を全員に紹介した。
﹁お、おぉぉぉぉぉぉ!﹂
﹁本物だ! 映像の中でズボズボ犯されてたあの二人が居る!﹂
﹁すげぇ! 綺麗! 可愛い! ヤりたい!﹂
熱狂した男達が、じりじりとアミュスとヘミネへと近づいて行く。
﹁ちょ、ちょっと⋮⋮!﹂
﹁貴方達⋮⋮!﹂
警戒する二人を見て、ハルビヤニは、
﹁まぁ待て、落ち着け皆の者。降臨祭の本祭が始まればこいつらの
マンコは一週間いつでも使い放題だ。それまではほら、今流した映
像が収録されている魔法結晶を配るから、それを見て我慢しておけ﹂
そう言って、ハルビヤニはアミュスとヘミネを手招きした。
﹁今見せた場面は映像結晶の一部でしかない。何せコイツらは数か
月もあの映像に有った場所で暮らしていたんだからな。俺が厳選し
た名場面を集めた映像結晶を配るぞ。並べ﹂
そう言われ、男達は行列を作り始めた。
そしてハルビヤニはアミュスとヘミネをその行列に対して正面を向
かせる。
1578
﹁お前達の手で配るんだ。サインもしてやれ﹂
筆とインクを渡され、上映会で使用した机に二人を並んで座らせる。
そうして始まったのは、サイン会。
笑顔と丁寧な応対を強制された、ファンとの交流。
﹁映像見て一発でファンになりました! 本祭では必ず犯しに行き
ますね!﹂
﹁ありがとう⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ありがとうございます﹂
ファンになった青年とアミュス、ヘミネは握手をして、直筆のサイ
ンをした映像結晶を彼に手渡した。
﹁俺、ファンクラブを作りますよ! アミュスさんとヘミネさんが
頑張ってるところ、色んな人に見て貰いたいですもん!﹂
﹁⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
﹁ど、どうも⋮⋮﹂
野太い声で言う巨漢の男に、二人は先ほど同様握手と贈呈を行った。
﹁オススメの抜きどころって有りますか?﹂
﹁⋮⋮全部です﹂
﹁たぶん、そういうシーンしか無いと思います⋮⋮﹂
ニヤニヤ笑いの細身の男から質問をされた時は、二人は苦心してそ
う答えていた。
行列に対して二人は時間を掛けて丁寧に対応させられ、ようやく最
後の一人を迎えた瞬間、
﹁さーてでは本日のメインイベント! アミュスとヘミネの脱ぎた
てショーツを持ち帰るのは誰だぁぁぁ。ジャンケン大会を開催しま
ーす!﹂
ノリノリのハルビヤニによって、二人はこの日許されていた唯一の
衣服を失う事になった。
﹁さーて、帰るか﹂
1579
上機嫌のハルビヤニの目の前には、ショーツをファンにプレゼント
した事により素っ裸になったアミュスとヘミネ。
膣口と肛門から溢れかえる募金を何とかショーツで受け止め、運ん
でいるフレアとシュトラ。
そして、生気を失っているラグラジルの姿が有った。
﹁あぁ。ラグ、頑張ったみたいだな。うーん⋮⋮良い出来だ。それ
にしても仕事が早いな、流石はゴゥト商会だ﹂
ハルビヤニはすぐ傍の壁に貼られたポスターを見て笑みを零した。
視線を巡らせれば、また別の壁には違う内容のポスターが貼られて
いる。
魔天使ラグラジルグッズを告知するポスターは五種類撮影され、そ
れを千枚ずつ印刷し、里中にゴゥトの社員達が張り付けていた。
一種類目は、魔天使ラグラジルが笑顔で差し出された肉棒に頬ずり
している写真が印刷されている。
二種類目は、ラグラジルが片手を腰に遣り、ジョッキになみなみ注
がれた白濁液をグイグイと飲んでいる場面が撮影されていた。
三種類目は、ラグラジルの顔は映っておらず、ただ菊門を中心にド
アップになっている女尻の画像だったが、ご丁寧に尻たぶに﹃尻穴
天使ラグラジル﹄とペイントされていた。
四種類目は、人々が行き交う街中で大股を広げて下品なポージング
をしているラグラジルの滑稽な姿に光魔法で効果をつけ、派手に映
しだしていた。
五種類目は、普段の衣装を身に纏い、管理者として下々を視線で見
下しているラグラジルの姿が撮影され、﹃この顔を見たら、膣内出
しチャンス﹄と大きな文字が添えられていた。
ラグラジルに関しては、誓約や契約以前に、ハルビヤニの躾魔法で
絶対服従が掛かっている為、事前に一部権限を譲渡されていたゴゥ
ト商会に逆らう事が出来ず、恥辱の撮影を受ける事になった。
﹁何々? うはぁラグ、お前大変だな。頑張れよ﹂
各ポスターの隣にはカタログが数枚張り付けられていて、そこには
1580
降臨祭で販売予定のラグラジルグッズが記されていた。
﹁降臨祭終了後十年間有効の本番セックス券が銅貨五枚で、膣内出
しセックス券が八枚⋮⋮くはー商売うめーなアイツら。お、何だよ
ラグ孕ませセックス券って有るぞ。金貨一枚って、これは膣内出し
セックス券と何が違うんだ?﹂
降臨祭の趣旨を理解したゴゥト商会は期間中のセックスでは無く、
期間終了後十年間を対象としたセックス券の販売を行っていた。
そこに記されていた内容にハルビヤニが首を傾げると、
﹁⋮⋮ゴゥトの連中がサポートして、確実にワタシを妊娠させるら
しいわ⋮⋮﹂
ラグラジルがいつになく覇気の無い声で答えた。
﹁クハハハハ。まぁ頑張ってくれ。俺も孫の顔が見たいしな。おっ
と、それ以外にも色々売るんだな﹂
押し花に魔天使の陰毛を絡めた栞。
銅貨一枚、またはそれ相当の交易品。
降臨祭期間中お客様が魔天使を犯している時に撮れたアヘ顔を印刷
したマグカップ。
銅貨三枚、またはそれ相当の交易品。
降臨祭用テーマソング、ラグラジルバージョン。
銅貨二枚、またはそれ相当の交易品。
映像結晶﹃本生ハードセックス!﹄出演、魔天使ラグラジル。
銅貨四枚、またはそれ相当の交易品。
限定生産、天使三姉妹の映像結晶詰め合わせ。カバーイラスト、ラ
グラジルバージョン。
銀貨二枚、またはそれ相当の交易品。
管理者ラグラジル様の免罪状。
銀貨一枚。
カタログに記されていた内容を読み進め、ハルビヤニは大きく頷い
た。
﹁なるほどなぁ⋮⋮最後の免罪状は、ラグの復讐を恐れる客向けの
1581
罠だな。俺の魔法に支配されたお前には、逆らう事は出来ないと言
うのに、不安を煽って買わせるわけか﹂
深く感心しながら、
﹁あぁそうそう。ラグ。お前には後で個別に誓約してもらうから、
降臨祭期間中に起きた出来事に対する復讐行為を一切しない、期間
中に約束した内容︱︱セックス券とかだな、については遵守する。
ってな。お前が逆らっても、あの誓約の魔導士が逆らっても、どっ
ちにしろ契約違反になる。拒否は出来ないぜ?﹂
ハルビヤニはゴゥト商会と取り決めしていた事をラグラジルに言っ
て聞かせた。
﹁⋮⋮もう何でもアリね、アンタ⋮⋮﹂
絶対零度の視線が、ハルビヤニを見据えている。
﹁親だとか、先代だとか、もう何も考えないようにするわ。アンタ
はワタシの敵よ。ハルビヤニ、いつか、いつか絶対に⋮⋮殺してや
る!﹂
最後の言葉にだけあふれ出す溶岩のような感情を込め、魔天使は言
い放った。
﹁あっそ。まぁとりあえず今の言葉遣いは﹃ギルティ﹄だ。ラグ﹂
実の娘の反抗に、ハルビヤニは澄ました笑顔で応え、下半身丸出し
のオタクを召喚して襲わせたのだった。
夜、寝室でくつろぐハルビヤニは女達を脇に侍らせながら、金勘定
を眺めていた。
﹁銀貨が二人合わせて五枚。銅貨が⋮⋮二百三十枚﹂
表面が自分達の体液で滑っている硬貨を積み上げているフレア。
﹁紙幣は⋮⋮三百二十四枚です。赤い紙幣が二枚に、緑の紙幣が三
百二十二枚。西域の通貨価値の方はわからなかったので、あくまで
枚数だけ﹂
少し変色している紙幣を丁寧に十枚ずつ並べて揃えているシュトラ
1582
からは、涙声が聞こえた。
﹁あぁ、良い良い。その金は後で俺の懐に入るだけだしな。勘定は
適当で構わん﹂
抱き寄せたヴェナとマリューゾワの乳房を揉みしだきながら、ハル
ビヤニは笑った。
﹁は? ⋮⋮これは善意の募金じゃないのか?﹂
フレアが苛立たしげに問えば、
﹁そ、それじゃ私達は何のために⋮⋮﹂
シュトラは青褪めた顔で震えている。
﹁善意ぃ? おいおい。マンコにコインぶち込まれてお前はそいつ
の善意を感じていたのか? とんだ変態だな! クハハハハ。お前
達が稼いだ金は俺が楽しく使ってやるから安心しろ。気が向いたら
祭で何か奢ってやるからな﹂
ハルビヤニはそう言って募金箱達を嘲笑い、視線を移した。
﹁おーいそっちの作業はどうだ?﹂
その先、二人の女が書き物をしていた。
﹁⋮⋮そんなにすぐには終わらないわよ﹂
その内の一人、アミュスが吐き捨てる。
﹁そーかそーか。今晩の奉仕はパスしてやるから。明日の朝までに
作っとけよ﹂
ハルビヤニは頷きながら言い、アミュスとヘミネの作業を見やる。
ヘミネは無言で箱詰めをしている。
今日配布した映像結晶のコピーを千個、新たに配布する事が決定し
たのだ。
数十人から始まった普及活動も、彼らがそれぞれ十人に広めれば数
百、それから更に十倍に広がれば数千だ。
﹁巷で秘かなブームになる予感がするからな。公娼活動ってのを知
らない西域の民にそこいらへんを説明する良い資料にもなるしな﹂
ハルビヤニの楽しげな言葉を無視し、アミュスは手書きのメッセー
ジを映像結晶に添え、ヘミネはそれを纏めて箱詰めしている。
1583
自分達の恥辱の歴史を、配ろうとしている。
アミュスの筆が止まりがちになり、ヘミネの包装がボロボロになる
のも、不思議では無かった。
﹁⋮⋮ねぇ、お姉ちゃんは?﹂
その時、目を眇めたラクシェが父親へと問うた。
﹁ん? ラグか?﹂
ハルビヤニの返事に、部屋の隅でアン・ミサと寄り添っていたラク
シェが挑むような目のまま、頷いた。
﹁あいつなら今夜は戻らないぞ。今頃はゴゥト商会で歌の収録でも
してんじゃないか。安心しろ。お前とアンも今度そっちに参加する
事になるからな﹂
降臨祭テーマソングの収録。
公娼オタクを一人マネージャー代わりに付けて、ラグラジルはゴゥ
ト商会の商館に戻されている。
﹁⋮⋮おま︱︱﹂
﹁ラクシェ﹂
全身に青白い血管を浮かべ﹃覚醒﹄し始めたラクシェの体を、アン・
ミサがギュッと抱きしめた。
﹁お姉様は今耐えているのです。それを無にしてはいけません﹂
妹を豊かな胸で包み込み、静かな涙を流すアン・ミサ。
﹁お姉様⋮⋮﹂
ラクシェは﹃覚醒﹄を止め、その胸に縋りつく。
その様子を父親は、
﹁美しい姉妹愛だなぁ⋮⋮﹂
感動の面持ちで見つめていた。
そして、
﹁ラクシェ、さっきのは反抗的だったので﹃ギルティ﹄な﹂
そのままの表情で裁定を下した。
1584
降臨祭第一週 其の三 上半身Day︵後書き︶
目安として、
銅貨=500円、銀貨=5,000円、金貨=50,000円
緑の紙幣=1,000円、赤い紙幣=10,000円
小銭が不便すぎるとか銀と金の差とか色々おかしなところが有る感
じですが、
即売会で誰かが言ってましたが西域はそういうのまだ未成熟なので!
基本物々交換ですので、これでセーフでお願いします。
1585
降臨祭第一週 其の四 娼館喫茶 前編︵前書き︶
評価・お気に入り登録ありがとうございます。
1586
降臨祭第一週 其の四 娼館喫茶 前編
降臨祭準備期間の四日目朝。
公娼と天使達は宮殿内の広間に集められていた。
衣服は与えられず、ハルビヤニの夜伽を務めたそのままで、肌に赤
い腫れや白い滑りを纏う者が殆どだ。
﹁お姉様⋮⋮﹂
﹁お姉ちゃん!﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
魔天使ラグラジルは虚ろな視線で、一角に立ち尽くしている。
彼女の妹達が傍に寄り、声を掛けているがろくに反応を示さない。
そこに、
﹁おぉ。ラグ、朝帰りか?﹂
ハルビヤニの声が掛かった。
父の声を聞き、ラグラジルは瞳に力を取り戻した。
﹁⋮⋮ッ!﹂
無言で、ひたすら無言でハルビヤニを睨みつける。
彼女は父親の命令で、祭のグッズ製作を請け負ったゴゥト商会に一
晩預けられ、そこで恥辱の商品開発をしてきたばかりだ。
﹁お? 声が出ないのか? テーマソングの収録で喉をやっちまっ
たのかな。クハハハ﹂
どれだけの屈辱を浴び、その成果を形として、商品として残された
のかを、魔天使ラグラジルは脳裏に刻まれた怒りに震える。
﹁さて、あんまり不良娘にばかり構ってる場合じゃないしな。それ
じゃ予定の二段階目に入ろうか、ロッドマン﹂
傍らの友へと言いながら、ハルビヤニは笑みを零す。
﹁はい。告知活動は一度終了し、実践行動に移りましょう。その準
備は整えてあります﹂
1587
老いた肥満体を持つロッドマンは恭しく応じた。
セナ達はそれを見て、顔を顰める。
﹁実践って⋮⋮﹂
シャロンが苦しげに言えば、
﹁胸糞悪い⋮⋮﹂
フレアが吐き捨て、
﹁殿下と、そして兵員の為だ。今は耐えるしかない﹂
ステアが部下達を諌めた。
そこに、
﹁それでは移動する前に、皆一度入浴して来なさい。汚れたままで
お客さん方を迎えるわけには行きませんからね﹂
ロッドマンが声を向けた。
﹁入浴⋮⋮!﹂
セナの表情が一瞬輝いた。
体に染みついた嫌な汚れを取り払う、絶好の機会だ。
しかし、
﹁一人につき五人の公娼オタクを付けます。彼らの手を借り、体を
しっかりと清めるのですよ﹂
その言葉と共に、ハルビヤニが魔力を解放し、セナ達の背後に異空
間から百人の公娼オタクが出現した。
﹁やったでござるー﹂
﹁磨くでござるー﹂
﹁剃毛は有りでござるか?﹂
身の毛がよだつ下半身丸出しの公娼偏愛者達の出現に、緊張が生ま
れた。
﹁ほら、時間は無いぞ。﹃ギルティ﹄じゃないからセックスは無し
だが、あんまり時間かけてると担当の五人分﹃ギルティ﹄をつける
ぞ﹂
ハルビヤニの言葉により、娼婦契約者達は渋々、浴場へと移動を始
めた。
1588
﹁くはっ⋮⋮あっ! うぐっ﹂
﹁ほーらほら逃げないでござるよー。しっかりヒダヒダまで綺麗に
するでござるー﹂
大浴場とは言え、二十人の女達と、その五倍である百人のオタク達
が一斉に入ってしまえば狭い物だった。
その一角、ステアは今全身を五人の男達に弄ばれている。
肛門には筒状のスポンジを突き刺され、スポスポと中を綺麗に磨か
れていて、
﹁思うに、ステアはパイパンよりも少し残しておいた方が映えるタ
イプでござるー﹂
陰部の方には別の手により、少し伸びて来た陰毛のセットが行われ
ている。
﹁ぷりぷりにしてあげるでござるー﹂
背後からは両の乳房に香油をまぶされ、激しく揉みしだかれ、
﹁んちゅぅぅぅぅぅぅでござる﹂
口にはうがい薬を口移しで流し込まれた。
その上、
﹁痒いところは無いでござるかー?﹂
女の命とも言える髪を、公娼オタクの手でわしわしと乱暴に洗われ
ていた。
ステアの周りでも、皆似た様な状況だった。
本来自分一人で出来る事を、まるで玩具の様に扱われながら、体を
清められていく。
その中から、
﹁終わりました⋮⋮﹂
憔悴しきった表情のシロエが立ち上がり、五人のオタク達を率いて
浴場の扉の前に立った。
﹁ふぅむ﹂
1589
そこにはロッドマンが静かに立っていて、洗体の仕上がり具合を確
認している。
﹁どれどれ﹂
﹁うっ⋮⋮﹂
シロエの体を嘗め回す様に視線でなぞり、陰唇に顔を近づけ、肛門
を押し広げ、髪の匂いを嗅ぎ、
﹁はい、合格です﹂
笑顔で声を張った。
一瞬安堵の表情を浮かべたシロエの体を、五人の公娼オタクが捕ま
える。
﹁さーて、ではフキフキするでござるー﹂
﹁お外は寒いでござるからねー、水気は全部取り払うでござるよー﹂
﹁コーヒー牛乳の代わりに拙者のミルクは如何でござるか?﹂
乾いたタオル越しに全身を弄られながら、シロエは硬直した表情で
脱衣所へと入って行った。
﹁さぁさ、急ぎなさい。遅れた者には本当にオタクミルクを飲んで
もらいますよ﹂
ロッドマンの言葉に、公娼達は諦観の表情を浮かべ、肌を這い回る
手が動きやすいように、屈辱の姿勢を取り続けた。
脱衣所で与えられたこの日の衣装は一昨日と昨日を合わせた内容で、
上は淫語Tシャツ、下はスケスケのパンツ一枚という、これまでと
比べれば一歩現実的に近づいたものだった。
それでも露出した太ももや、隆起する乳首恥じらいを覚えながら、
公娼達は街路を歩く。
道ですれ違う西域の民達は、これまでの告知行動の成果もあり、好
色な視線で彼女達を見つめて来た。
﹁おーし、赤パンチームはここだ﹂
王宮の北側商業区の道、先頭を進んでいたハルビヤニが一軒の建物
1590
の前で立ち止まった。
赤パン。
それは今ハルビヤニの後ろに並んで歩いて来た十人の女達が穿いて
いる下着の色に由来していた。
﹁⋮⋮何よここ﹂
構成員は今口を開いたセナと、
リーベルラントの四騎士長の一人、ステア。
リネミア神聖国の治癒姫、ハイネア。
リネミアの巫女騎士、シロエ。
スピアカントの英雄、ヴェナ。
ミネア修道院院長、ルル。
同修道院の魔女、アミュス。
魔天使の眷属たる傭兵、マリス。
西域の智天使、アン・ミサ。
裁きを司る天使、ユラミルティ。
の十人。
湯上りに脱衣所で配られたパンツの色が赤かった者達だ。
もう半分、残りの十人は青色のパンツを穿かされ、ロッドマンの先
導でハルビヤニとは反対方向、南側住宅区の方へ向かって行った。
﹁二階建ての⋮⋮飲食店か?﹂
窓ガラスを覗き込む様にして、ステアが推察する。
中に見えたのは、等間隔で並べられたテーブルに、カウンターとそ
の内側のキッチンスペース。
﹁ここで何を⋮⋮﹂
魔導士ルルは瞳を伏せ、Tシャツの裾を強く握った。
そこに、
﹁今日はお前達に、﹃営業﹄をしてもらう。この娼館で客から金を
取り、祭の趣旨に則った方法で売上を立ててもらう﹂
ハルビヤニの楽しげな声が聞こえた。
﹁祭の趣旨⋮⋮それに娼館って⋮⋮!﹂
1591
アミュスが厳しい声を放つと、
﹁あぁ、でもまだ本祭では無い。なので本番のセックス行為は無し
だ。それ以外の方法で客を集め、もてなせ。だが忘れるなよ。ここ
を訪れる連中が何を望んでやって来るのかと言う事をな﹂
ハルビヤニは手を振って応えた。
﹁本番行為は無し⋮⋮でしたら、まだ⋮⋮﹂
一人だけ赤パンツでは無く貞操体を穿き、それをハルビヤニの魔力
で赤く変えられているユラミルティが、吐息する。
﹁クハハハ。ユラ、甘い考えは止めろよ。俺はお前達に普通の喫茶
店をやらせたいわけじゃない。あくまでも本祭のデモンストレーシ
ョンだ。お前達は契約に従い、娼婦として娼館を運営してみせろ。
今日は俺から特にああしろこうしろと命令はしない。ただルールを
架すのみだ﹂
そこで、ハルビヤニの指が二本立つ。
﹁一つ、明日の朝までに赤紙幣五十枚分の売上を立てる事。無論硬
貨類の合計でも構わない。それが出来なかった場合。俺は祭り期間
中、ゼオムント軍の進駐を許す事にする﹂
その言葉に、
﹁お父様!﹂
﹁貴様っ!﹂
アン・ミサとヴェナが叫んだ。
﹁クハハハ。何だ? 俺がお前達と結んだ契約と誓約の中に、祭の
間ゼオムントを抑え続けるなどと約束した覚えはないぞ? 単に俺
が気まぐれでアイツらを妨害してやっているに過ぎん。勘違いしな
いでくれ﹂
ハルビヤニは降臨時にゼオムント軍の先遣隊四万を魔導機兵で殲滅
している。
その後ゼオムント軍に動きは見られ無いが、ハルビヤニの側からオ
ビリスに対して進駐許可を出せばどうなるか、それは自明の理とも
言えた。
1592
﹁まぁ俺としてもアイツらの存在など邪魔でしかない。だが、一日
でそれっぽちも稼げない程度にお前達がやる気を持っていないのな
らば、そんな祭りなど端っから願い下げだ﹂
祭を彩る娼婦達の熱意を確かめる為の、第一条件。
そして、
﹁二つ、ロッドマンが率いている青パンツの方も、南側で同規模の
店を与えられ、娼館を運営する事になっている。そちらと売上勝負
をして、敗北した方は罰ゲームだ。翌日勝利した方の店で備品にな
って貰う﹂
娼館の備品。
それは娼婦ですらなく、人間性を全て無視した扱いを受けるという
事。
﹁売上勝負なぞ⋮⋮妾は⋮⋮向こうにはリセやヘミネが居るという
のに⋮⋮﹂
ハイネアだけでは無い。
セナにしろアン・ミサにしろ、向こう側青パンツチームには大切な
仲間や家族が居る。
その彼女達を貶める為の勝負をする等と言う事は、認め難いものだ
った。
﹁クハハハハ。別に良いぞ。何もせずに今日をぼんやり過ごしても、
しかしそうすればお前達に未来は無い。降臨祭は潰れ、お前達はゼ
オムントの玩具に逆戻りするだけだ﹂
そう言って、ハルビヤニは胸に手を遣り、ポケットから鍵を一つ取
り出した。
﹁ほれ﹂
シロエへと向けて投げられたそれは、
﹁店の鍵だ。俺は近くから見ているから、自由にしろ。開店時間は
これから二時間後だ。それまでにどうやって金を稼ぐか、必死に考
えてみれば良い。何か有ればアンが俺を呼べ、親子だから大体わか
る﹂
1593
そう言うと、ハルビヤニは颯爽と歩き去って行った。
セナ達は﹃娼館﹄の中へと入る。
扉を開き、十人が入っても中々広々と使える食堂の様な空間がそこ
には有った。
﹁⋮⋮ここは、ゴゥト商会資本の飲食店だったと記憶しています﹂
アン・ミサが静寂を破る様に口を開いた。
﹁ゴゥト商会って何です?﹂
マリスが首を傾げると、
﹁西域経済を牛耳る者達ですね。彼らはこの里のみならず他種族の
集落にも店を構え、独自の流通路を築き上げて富を集めている集団
です﹂
ユラミルティが自分を落ち着かせる様に、堅い声で説明した。
無言のヴェナが手近なテーブルへと移動し、傍に置かれていた椅子
に腰を下ろした。
そして、仲間達を鋭い視線で見つめた。
﹁皆さん。手を抜くわけには行きません。殿下を取り戻し、ゼオム
ントに勝つ為にも、ここでゼオムント軍を呼びこまれてはわたくし
達には抵抗も出来ない﹂
その言葉に、全員が厳しい表情で頷いた。
例え自ら尊厳を汚す事になったとしても、今は窮地を脱する事が優
先される。
﹁⋮⋮ですね、最低でも五十枚⋮⋮赤紙幣? ってのは⋮⋮何なの
?﹂
セナが疑問すると、
﹁赤色の紙幣です。西域で二番目に価値のある貨幣になります。金
貨よりも価値は劣るのですが、製造の容易さから流通量はそちらの
方が多いのです﹂
智天使がゆっくりと解説した。
1594
﹁赤紙幣五十枚とは、別の貨幣で例えると金貨なら十枚。銀貨なら
百枚。銅貨なら千枚。緑紙幣ですと五百枚ですね﹂
それに続き裁天使が補足した。
﹁昨日、フレア達が金を集めて来ていたな﹂
ステアは昨夜聞いたフレアとシュトラの肉募金という悲惨な内容を
思い出し、眉を顰めながら言った。
﹁そういえば、かなりの額が集まっていましたね﹂
シロエがそれに応じる。
しかし、
﹁あれは恐らく富裕層が多く訪れる、ここから少し離れた地区で募
った物だと思います。この辺りはどちらかと言えば低所得者が多く
立ち寄る地区なので⋮⋮﹂
為政者としてこの里の地理に明るいアン・ミサが、暗い表情で言っ
た。
﹁募金は無理、ね。出来たとしてもやらないけど﹂
アミュスは腕を組み、首を捻る。
﹁この際、青組との競争は度外視した方が良いわね。変にそっちを
意識するよりも、五十枚しっかり集めましょう。その後の結果はも
う、どうしようもないわよ﹂
割り切った声だった。
﹁そだねー。マリスもアミュ姉に賛成だよー﹂
﹁それしか有りませんね﹂
マリスとヴェナがそれに同調した。
﹁ユキリス⋮⋮マリューゾワ、ロニアも⋮⋮﹂
ルルはか細く、青組になった者達の名を呼んだ。
しかし、魔導士として脳を鍛えて来た彼女にはよく理解できていた。
別の悩みを抱き、目標金額に届かない様な事が有ってはならない。
アミュスの言う事が、正しいのだという事を。
皆、覚悟の決まった顔で魔導士の言葉を受け入れた。
﹁⋮⋮でも、だったら何をするのよ。娼婦として金を稼ぐって⋮⋮﹂
1595
セナは呻く。
プライドにより己の心がズタズタになっているのも有るが、それ以
前に彼女は体を使っての金の稼ぎ方を知らない。
公娼は基本、無報酬なのだから。
﹁本番行為は無しという決まりも忘れてはいけませんね﹂
シロエが補足する内容は、セナ達にとっては盾でも有り枷でも有っ
た。
﹁⋮⋮しゃぶる、か﹂
吐き捨てる様に、ステアは言った。
﹁手でするって言うのも忘れちゃダメですよねー﹂
マリスが微妙に握った手を上下させながら言う。
﹁胸が武器になる者は、それを使いましょうか﹂
ヴェナは傲然と言い放った。
公娼として、場数が有る。
彼女達には忌まわしき記憶では有るが、経験と技が有る。
未来の為に、その武器と向き合う時が来ていた。
しかし、
﹁む、胸で⋮⋮﹂
泣く寸前の顔をしている者が居る。
﹁アン・ミサ様⋮⋮﹂
それを弱弱しい表情で支える者が居る。
二人の天使は圧倒的にそれらの経験で劣り、ユラミルティに関して
は未だ処女なのだ。
女性として、辱められ続けて来たセナ達には深く共感する部分が有
る。
汚される時の恐怖と、屈辱を受け入れる時の絶望。
天使達は怯えながらも、それに立ち向かおうとしていた。
﹁⋮⋮二人は、さ。そこで料理作っててよ﹂
アン・ミサとユラミルティに、セナは声を掛けた。
﹁ここ食堂でしょ? だったらたぶん備蓄の食材とか有るだろうし、
1596
ハルビヤニに言えば持って来てくれるかもだし。それを使って料理
を作ってよ。アタシ達がそれを給仕して、ついでに⋮⋮お金を稼ぐ
からさ﹂
強気な笑顔を浮かべながら、赤髪の騎士は天使を庇った。
﹁そうだな。慣れない二人では時間も掛かるだろうし、役割分担を
しよう﹂
ステアは上官として、セナの心意気を汲み、フォローした。
﹁娼婦喫茶ですかー。まぁ本番行為無しっていうのなら、その程度
は受け入れますかねー﹂
﹁ここでの生活のお礼も有るし、今回はそう言う事にしてあげるわ﹂
﹁妾もそれで良いと思うぞ。アン・ミサ殿達には助けられてばかり
だったしな﹂
﹁アン・ミサ様、任せて下さい﹂
﹁アン・ミサ、ユラさんも。二人の料理で満腹にさせちゃって、そ
れで追い返しちゃいましょう﹂
﹁後方支援を頼みます﹂
マリスが、アミュスが、ハイネアが、シロエが、ルルが、ヴェナが
そう言って、天使達へと微笑みかけた。
﹁で、でも⋮⋮﹂
アン・ミサはついに涙を零しながら、首を振った。
﹁⋮⋮状況次第で助太刀致します。遠慮なく声を掛けて下さい﹂
主の肩に手を乗せながら、裁天使は深々と頭を下げた。
話し合いで一時間を消費したセナ達は、そこから大忙しとなった。
ハルビヤニを呼び寄せ、食材と衣装について注文を出した。
食材については快諾したハルビヤニだったが、セナ達が伝えた衣装
︱︱ミニスカートの給仕服に対しては鼻で笑っていた。
ユラミルティとルルとアミュスが顔を寄せて値段設定などを捻って
いる間に、
1597
セナとアン・ミサそしてシロエが備蓄材料で作り置きの出来る焼き
菓子を用意する。
その間手の空いたステアとハイネアが店内の清掃と飾りつけを行い、
ヴェナはマリスに契約金を払う約束をし、二人で街中へと出て客引
きに向かった。
慌ただしく十人が働いている中、後十分で開店時間を迎えるという
時に、衣装と追加の食材を公娼オタク達に奴隷の様に運ばせハルビ
ヤニが戻って来た。
﹁注文通りだ。ちなみに青パンツの方でも料理を取り入れるみたい
だから、公平にそっちにも食材は用意してやったぞ。有り難く思え﹂
偉そうにふんぞり返りながら西域の王は語り、
﹁で、この給仕服⋮⋮これで本当に良いんだな?﹂
運ばせて来た紺の給仕服を見て眉を顰めていた。
﹁良いわよ、それで﹂
セナはひったくる様にしてそれを受け取った。
﹁穴も空いて無ければ生地も厚い⋮⋮やれやれ﹂
ハルビヤニは天を仰ぎながら言うと、
﹁あぁ、それはそっちだ。見やすいところに置いてくれ﹂
続けざまに公娼オタクの一人に命令した。
﹁ぜひー⋮⋮ぜひー⋮⋮りょ、了解でござる﹂
真冬だというのに汗だくの公娼オタクが手にしているのは、横広の
黒板の様な物。
﹁⋮⋮それは何?﹂
セナが目を細めて問うと、
﹁これはな。向こうとこっちの売上をリアルタイムで勘定してくれ
る素敵な魔法道具だ。作るのに少々時間がかかったが、中々の出来
だぞ﹂
自信満々にハルビヤニは頷いた。
﹁赤紙幣一枚分の貨幣が貯まると、この黒板に紙幣の絵が一枚増え
る。金貨だと五枚一気に描かれる事になるな。この中央の線から右
1598
がお前達赤パンツで、左が青パンツの売上だ﹂
よくよく見れば黒板の中央には白いラインが入っていて、均等な面
積で二分していた。
﹁⋮⋮それで競争心を掻き立てようって言うわけ? はっ﹂
鼻で笑うセナを無視して、ハルビヤニはルル達値付け部隊へと近づ
いた。
﹁どれどれ⋮⋮おいおい。いくらなんでもボり過ぎじゃないか?﹂
そこで、呆れた声を放つ。
﹁はぁ? 今日は口出ししないんでしょ? 黙っててくれない?﹂
その声が勘に触ったアミュスが、切れ味鋭い視線を放つ。
﹁へいへいっと⋮⋮だがなぁ⋮⋮ま、良いけどよ﹂
ルルとアミュスとユラミルティで決めた﹃娼館喫茶﹄の価格表。
〇天使の手作りクッキー 銅貨一枚。
〇天使のタルト 緑紙幣一枚。
〇天使のオムライス 緑紙幣二枚。
〇ドリンク各種 緑紙幣一枚。
〇給仕さん同席サービス︵五分︶ 銀貨一枚。
〇ハグ︵五秒︶ 緑紙幣三枚。
〇膝枕︵一分︶ 銀貨一枚。
〇手コキサービス 赤紙幣二枚。
〇パイズリサービス 赤紙幣三枚。
〇フェラチオサービス 赤紙幣三枚。
〇パイズリフェラセット 金貨一枚。
既に量産体制に入り、各テーブルに置き始めているそのメニュー表
に、ハルビヤニは肩を竦め、公娼オタク達は気持ち悪い失笑を零し
ていた。
そんな彼らを睨みつけている公娼達の間に、
﹁そろそろ開店ですね? 数人呼び込みで連れて来ました。表で少
1599
し待たせているので、とりあえず着替えて店を開けましょうか﹂
ヴェナとマリスが戸を開けて戻って来た。
﹁見てなさい。速攻で五十枚貯めて、一時間後には閉店してやるか
ら!﹂
セナがハルビヤニへと啖呵を切ると、
﹁⋮⋮ま、頑張れ﹂
西域の王は苦笑を浮かべながら店の隅の席に腰を下ろし、
﹁おっと、忘れるところだった﹂
パチンッ︱︱と指を鳴らし、
﹁ござあああああああるううううううう﹂
﹁あんぎゃあああああああああああああ﹂
公娼オタク達を異空間に格納した。
急いで給仕服に着替えたセナ達は、ぞろぞろと中へ入って来た客を
迎え入れる。
﹁どうぞ、これがメニューよ﹂
接客経験など無いセナは雑な口調でメニュー表を指差した。
男達はそのセナの強気な態度をこれからどう汚す事が出来るのか、
興奮で膨れ上がった顔でメニュー表を手に取り、固まった。
そして、
﹁ク、クッキーを一つ﹂
﹁ぼ、僕も⋮⋮﹂
セナが案内した男達は青褪めた顔で囁く様に言った。
﹁えっ⋮⋮それだけ?﹂
思わず問い返すセナに、
﹁あ、後水で﹂
﹁僕も⋮⋮﹂
男達はドリンクすら頼まずに頭を抱えていた。
そして聞こえてくるのは、
1600
﹁やべぇ⋮⋮詐欺だ⋮⋮﹂
﹁最近流行ってるって言うよね⋮⋮いったん店に引き込んでから滅
茶苦茶な金額吹っかける店⋮⋮﹂
心底怯えた様な言葉だった。
﹁ちょ、え⋮⋮﹂
セナは振り返り、店内にいる仲間に助けを求めようとすると、
﹁クッキー﹂
﹁クッキー﹂
﹁クッキー﹂
まるで呪文の様に客達はクッキーを連呼し、顔を俯けていた。
クッキーが八袋とドリンクが一杯。
それが一時間の売上だった。
赤紙幣一枚にも遠く及ばず、銀貨一枚分の価値の売上だった。
﹁何だよこの詐欺店! 瓦版に書いてやる!﹂
クッキーを咀嚼しながら叫び、去っていく客の姿を見送りながら、
セナ達は呆然と顔を見合わせた。
店内に、客は居ない。
遠巻きに店を見ている人だかりはあるが、中へ入って来ようとはし
ないのだ。
﹁あーあ。やっぱりなー﹂
一人、ハルビヤニだけが隅の席でオムライスを食べていた。
﹁⋮⋮何だと言うのだ?﹂
ステアが睨みつけると、
﹁高いって事だろ。この辺りの連中は一日生きる為に銅貨一枚を使
うような奴らだ。朝昼晩を食ってそれだけって意味さ。それがなぁ
⋮⋮折角エロい事できるとワクワクして来てみれば、クッキーだけ
で生活費は吹っ飛び、フェラなんぞで二ヶ月分の金を持って行かれ
るなんて、詐欺だな詐欺。クハハハハ。あ、旨ぇ﹂
1601
オムライスをガツガツと貪りながら、西域の王は訳知り顔で言い放
った。
﹁⋮⋮わたくし達に、体を安売りしろと?﹂
ヴェナがこめかみに青筋を立てて問えば、
﹁んぐんぐ。ん﹂
咀嚼しながら、ハルビヤニは一点を指差した。
そこに有ったのは、売上黒板。
﹁えっ⋮⋮﹂
ハイネアは絶句する。
右側、赤パンツの方の売上は空欄のままだが、
左側、青パンツの方には︱︱
﹁四⋮⋮枚⋮⋮﹂
シロエが放つ、驚愕の声。
﹁ほらな。ラグ達の方はよぉくわかってんだよ。自分達の値段と売
り方って奴がな。さっきロッドマンから報告が有ったが、大盛況で
収拾がつかなくなってるらしいぞ﹂
ハルビヤニは米を掻き込みながら、笑っている。
﹁どうするんだ? 明日の朝︱︱期限までは後二十時間程有るな。
あっちはこのままいけば問題無く五十枚集まるだろうが⋮⋮あーあ、
お前達のせいで、ゼオムント軍が来ちまうなぁ﹂
ニヤニヤと、西域の王は皿を空にする。
青パンツ組には、ラグラジル、マリューゾワ、シャロンと言った計
算高い者達が揃っている。
赤パンツにもアミュスとユラミルティと言った頭脳系の面子は居る
が、何より大きいのはラグラジルの様な外道寄りの思考が出来る人
間の欠如だ。
マリューゾワであればラグラジルの判断を推考し、屈辱的な内容で
あってもそれが道理であれば飲み込むだろうし、彼女の同意が有れ
ば他の公娼達は従うだろう。
﹁向こうは恐らく⋮⋮屈辱と利益のギリギリの境界を定めて、上手
1602
く商売をしているのでしょうね﹂
ルルが呆然と呟く。
﹁⋮⋮判断が甘かったのね⋮⋮私達は!﹂
カウンターを叩くアミュス。
﹁銅貨一枚の暮らし⋮⋮。それだったら、この金額設定では到底⋮
⋮﹂
アン・ミサはメニュー表を見ながら呟き、
﹁根本的に見直す必要が有りそうですね﹂
ユラミルティは自分が来た給仕服に目を遣りながら、小さく声を放
った。
そこに、
﹁さて、どうする?﹂
ハルビヤニの邪悪な笑みが輝いた。
対して、
﹁値下げするしか⋮⋮無いじゃない!﹂
セナは給仕服を脱ぎ捨てながら、腹を据えた視線を支配者へと放っ
た。
1603
降臨祭第一週 其の四 娼館喫茶 前編︵後書き︶
貨幣価値がボロボロですね。
素直に金貨十枚をノルマにすれば良いかとも思いましたが、紙幣の
方が個人的にエロいと思うので、ノルマは赤紙幣五十枚と言う事で。
細かい貨幣価値の方は前回の後書きに書いて有ります。
気になった場合はそちらをチェックしてみて下さい。
1604
降臨祭第一週 其の五 娼館喫茶 後編︵前書き︶
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1605
降臨祭第一週 其の五 娼館喫茶 後編
赤パンツ一枚になったセナに、ハルビヤニは小馬鹿にした笑みを向
ける。
﹁値下げ、か。良いんじゃないか? それでもな﹂
喉元に含みを持たせた言葉に、セナは苛立つ。
﹁何よ? それが正解なんでしょ? お金を持ってない連中から売
上を立てる為には!﹂
食いつく赤髪の騎士に対し、
﹁ちなみにだ。いくらまで値下げするんだ?﹂
西域の王は笑みを崩さず応じた。
﹁うっ⋮⋮﹂
現在の価格。
性奉仕に関する物ならば、
手コキが赤紙幣二枚で、フェラとパイズリが三枚となっている。
﹁は、半額⋮⋮とか!﹂
セナが紡いだ言葉を聞き、ハルビヤニはとうとう腹を抱えた。
﹁クハハハハ。さっきの話を聞いてなかったのか? 一日銅貨一枚
暮らしの奴らにどうやって赤紙幣を使わせる? アイツらにとって
二十日分の生活費の価値がお前の手コキなんぞにあるのか?﹂
ジタバタとテーブルの下で足を踊らせながら、シャスラハールの姿
を借りた男は笑っている。
﹁なっ!﹂
﹁セナ。落ち着きなさい﹂
更に紅潮するセナの体を、ステアが後から押さえつけた。
﹁アン・ミサ殿、この地における売買春の相場はどれくらいか、ご
存知ですか?﹂
部下を抑えたまま、騎士長ステアはカウンターに立つ智天使へと声
1606
を向けた。
﹁え? あっ⋮⋮いえ、その⋮⋮﹂
それを受けたアン・ミサは、戸惑いの表情を浮かべ、
﹁ご、ごめんなさい⋮⋮存じません﹂
首を振った。
為政者と言えども女性であり、少し前までは処女だったアン・ミサ
にとってすれば、その情報は好んで知り得る物では無かった。
﹁そいつぁ箱入りだからな。ニ十歳の誕生日プレゼントに俺がクス
タンビアとの生セックスを目の前で見せてやるまで、赤ちゃんは神
様にお祈りして授かるもんだと思ってたんだぜ﹂
楽しげに割り込んでくるハルビヤニに、アン・ミサが目を瞑って首
を振った。
﹁⋮⋮ならばハルビヤニ、貴様に訊こう。相場は?﹂
ステアは一転して辛辣な瞳で西域の王を睨んだ。
それを受け、
﹁やれやれ仕方が無い、口は出さないつもりだったが、アドバイス
程度はしてやるか。本番有りの売春で銀貨一枚が基本だな。その上
でオプションを付けると緑紙幣がニ、三枚必要になってくるもんだ﹂
ハルビヤニは素直に答えた。
セナ達の手コキやパイズリサービスが、如何に相場からかけ離れて
いたか、ハルビヤニはメニューを眺めた瞬間察していたのだ。
﹁⋮⋮安い⋮⋮﹂
ハイネアが呻く様に言うと、
﹁そうか? たった一晩体を明け渡すだけで、ここらの娼婦は十日
以上暮らせる計算だぜ。買い手には厳しいが、売り手にはちょっと
優しいくらいだと思うけどなぁ﹂
ハルビヤニは大仰な手振りで頷いた。
彼の言葉に、魔導士アミュスが反応する。
﹁待って⋮⋮今、一晩って言ったかしら?﹂
鋭い目つきで西域の王を睨みつけながら、問うた。
1607
﹁おぉ。そこに喰いつける奴が居たか。そうさ、西域の売春っての
は、一晩単位で行われる。時間制限や回数制限じゃない。夜に買い、
朝が来たらお別れだ﹂
まるで待ち構えていたかのように、スラスラと答えが返ってきた。
その答えを聞き、
﹁⋮⋮なるほど﹂
聖騎士ヴェナは難しい表情を浮かべた。
﹁⋮⋮一晩の適正価格が銀貨一枚とすると、ほんの数分でそれに代
わる為には﹂
裁天使ユラミルティは眼鏡を押さえ、
﹁内容を濃くするか⋮⋮もしくは金額を大きく削るしか無いみたい
ですね﹂
魔導士ルルが苦しげに言った。
ステアとアミュス、そしてシロエは難しい顔で俯き、少し遅れてそ
の事に気づいたセナは愕然とする。
ハイネアとアン・ミサが辛そうに自分の体を抱いている横で、
﹁はいはい!﹂
﹁お?﹂
マリスが手を挙げ、ハルビヤニがそれに反応した。
﹁あのー、この話し合いを聴いてわかって貰えたと思うんですけど
ー。マリス達はお祭の為に一生懸命お金を稼ごうとする意欲は有る
のですよ。だからですねー。良かったらもうちょっとアドバイスが
欲しいかなーって﹂
屈託のない表情で言う傭兵公娼に、ハルビヤニは毒気を抜かれた表
情を浮かべた。
﹁⋮⋮いやー、すげぇな。流石はウチの長女と仲良くなっただけは
有るぜ﹂
苦笑気味に言うハルビヤニに、
﹁そこです! マリスの友達であるラグちゃんの方はどうやって売
上を立てているのか、そこをちょーっとだけ教えてくれませんか?﹂
1608
マリスはズビシッ︱︱と指を向けた。
その指摘に、周りで耳を傾けていた全員が身を乗り出した。
﹁た、確かにそうね!﹂
﹁ラグラジル達の方法を真似れば、こちらにも打つ手が生まれます
ね﹂
セナが驚き、シロエが頷いた。
ハルビヤニは一瞬考える仕草を見せたが、
﹁ま、良いか。あいつに出来た最初の友達の頼みだからな。ここは
父親らしいところも見せてやろうか﹂
ここ数日顔を合わせれば膣内出しセックスをしている様な親子には
到底当てはまらない言葉を吐き、ハルビヤニは虚空に右手を翳した。
﹁よぉく見て学べ。これが体を売って稼ぐって事さ﹂
生まれたのは魔鏡。
魔天使ラグラジルの専売特許を、事も無げにハルビヤニは披露して
見せた。
﹁8番テーブルさん、フェラセット入ります!﹂
シャロンが声を放つ。
首にハート型のチョーカー、そして腰から太ももの付け根までのミ
ニエプロンのみを身に着け、シャロンは慌ただしく店内を動き回っ
ていた。
﹁⋮⋮はいよ﹂
水でうがいをしていたフレアが立ち上がり、シャロンとお揃いの衣
装のまま8番テーブルへと近づき、そこに座った客の足元に跪き、
股間に顔を埋めた。
﹁料理はもう少しかかります!﹂
カウンターの内側、キッチンスペースではリセが慌ただしく動き回
り、調理を続けている。
彼女の衣装はミニエプロンでは無く、青いパンツ一枚なのだが、こ
1609
れは料理に陰毛が混じらない為との断り書きが客達に向けて設置さ
れていた。
﹁なあ! メニュー来てないんだけど!﹂
別のテーブルから粗野な男の声が響く。
﹁は、はいただいま﹂
そこに小走りに近づく全裸の少女。
ロニアは大慌てでそのテーブルに駆け寄ると、
﹁はい、こちらがメニューになります﹂
客の前で、両手を広げて立った。
その肌には至る所に文字が書かれ、生きたメニュー表として動き回
る事が彼女の役割だった。
﹁どれどれ﹂
﹁くぅぅぅぅっ⋮⋮どうぞごゆっくりお決め下さい⋮⋮﹂
ロニアと同じく、マリューゾワもまたメニュー表となり店内を駆け
回り、その胸の谷間に書かれたオススメを押し広げられ、肛門付近
に記されている隠しメニューを暴かれた。
﹁じゃ、俺パイズリとパンケーキのセットで﹂
ロニアの恥骨の上に書かれたメニューをなぞりながら男が言い、
﹁パイパンセット頂きました!﹂
それを受けてロニアが屈辱に瞳を濡らしながら叫んだ。
﹁わかりました⋮⋮ご注文有難うございます﹂
胸の谷間をナフキンで拭いながら、ヘミネがそのテーブルへと移動
し、露出した乳房で客のチンポを包み込んだ。
﹁おぉ、旨い上手い﹂
客は運ばれて来たパンケーキに舌鼓を打ちながら、ヘミネのパイズ
リを褒め称えた。
店の外では、
﹁ただいま三十分待ちでございます。列を作ってお並び下さい﹂
死んだ瞳のユキリスが首に鎖を巻かれ、それを地面へと接続された
状態でプラカードを持って立っていた。
1610
列を作る客達は通り過ぎざまに彼女の尻を揉み、乳房を鷲掴みにし
てウォーミングアップをしている。
ユキリスの案内に従い入店した客がまず目に留めるのは、
﹁ホントだ、ホントにラクシェ様だ⋮⋮﹂
﹁んあっ⋮⋮が⋮⋮うぇ﹂
﹃いらっしゃいませ、おしぼり代わりにオチンポの汚れを拭って下
さい﹄
そうプラカードを首から提げ、大きく口を開けたラクシェの姿だっ
た。
客達は入店後、まずは五秒ほどラクシェの口でチンポを清潔にした
後、それぞれの席に案内される。
案内役のウェイトレスはシャロンとシュトラで、
﹁いやー⋮⋮良いね、この店! ほら、チップあげちゃう!﹂
恰幅の良い上機嫌の男はそう言って、銅貨をシュトラの陰唇へと押
し込んだ。
﹁んひぐっ! あ、ありがとうございます⋮⋮﹂
必死の営業スマイルを浮かべたシュトラが会計へとその男を誘導し、
会計所へと至った。
﹁おぉ⋮⋮﹂
男の視線は好色に輝く。
﹁それでは、本日の御会計︱︱﹂
お辞儀の後に浮かび上がってくる顔は、
﹁銅貨二枚でございます﹂
魔天使ラグラジル。
シャロンとシュトラ同様にミニエプロン姿のラグラジルは会計番を
務めていた。
﹁お、おぉぉラグラジル様、こ、これを﹂
そう言うと男は震える手で銅貨二枚と等価である緑紙幣を差し出し、
魔天使はそれを受け取った。
﹁ありがとうございます。それではこちらはご来店頂いたお客様全
1611
員にお配りしている物でございます﹂
無表情を貫くラグラジルから客へと向けて手渡された物は、
﹃本祭優先セックス券﹄
ラグラジル。
ラクシェ。
シャロン。
フレア。
ユキリス。
リセ。
ヘミネ。
マリューゾワ。
ロニア。
シュトラ。
の名前が書かれた一枚の紙で、
﹁ここに名前の有る者が相手でしたら、本祭の間順番を飛ばしてセ
ックスのご案内が出来る物でございます﹂
青パンツチームの運営する娼館喫茶。
メニューは軽食にフェラまたはパイズリをセットにする事が出来、
支払いは一律で緑紙幣一枚、または銅貨を二枚。
入店時には力天使ラクシェのおしぼりフェラが無料で付き、入店後
も様々なセクハラ行為が働ける。
その上、会計時に魔天使ラグラジルから﹃優先セックス券﹄が配ら
れるという破格の内容だった。
ただし、店内に大きく記されているルールが一つ。
﹃お客様の店内滞在可能時間は十五分間迄﹄
赤紙幣の十分の一の価値しかない緑紙幣を吸い取る様に奪い去って
いくシステムで、青パンツチームは一時間で脅威の売上を立てた。
﹁⋮⋮また、並んでも良いでしょうか?﹂
恰幅の良い男は手を伸ばし、自分達の王である管理者ラグラジルの
乳房を揉みしだきながら、問う。
1612
﹁はい。またのご来店を、心よりお待ち致しております﹂
ラグラジルは感情を殺した笑顔で頷き、丁寧に腰を折った。
映し出された映像を見て、セナ達は固まっている。
﹁⋮⋮ロッドマンめ⋮⋮アイツ手を貸しやがったな﹂
ハルビヤニは苦笑を浮かべている。
﹁え?﹂
﹁いくら性悪ラグと言えど、あの手の商売のノウハウは無いはずだ。
って事はコレ、ロッドマンの本に似た様なやり方が載ってたはずだ﹂
ハルビヤニが虚空から召喚した書物、
﹃公娼オタク界の巨匠ロッドマン氏がアドバイザーを務める公娼喫
茶﹃ペロン﹄。その成功の裏側﹄
著者は別の人間だが、ロッドマンが表紙で笑顔を浮かべている様子
を見て、公娼達は唖然とした。
﹁ま、アイツとしたら祭が無くなればそれで御終いだからな。手を
加えたくなったんだろ﹂
書物をユラミルティへと投げ渡しながら、ハルビヤニは笑う。
﹁その本を貸してやるよ。不公平なのは、俺は嫌いだからな﹂
そう言って、西域の王は静かに瞳を閉じ、昼寝の姿勢に入った。
その様子を見ながら、セナ達は顔を見合わせる。
﹁ユラ⋮⋮﹂
アン・ミサは悲痛な表情で、本を手にする自分の部下へと歩み寄っ
た。
﹁わたくし達も⋮⋮皆さんと一緒に⋮⋮﹂
姉と妹が恥辱に震えている様を目撃し、智天使アン・ミサは覚悟を
定めた。
﹁畏まりました。アン・ミサ様﹂
その覚悟を裁天使ユラミルティは受け入れる。
﹁その本を⋮⋮読んで見ましょうか﹂
1613
シロエがそう言ってユラミルティの手から渡された本を開く。
銘々にその本を覗きこみながら、顔を顰めていく。
﹁⋮⋮酷い﹂
ポツリと呟くルルの言葉が物語る、その内容。
公娼を利用した接客。
先ほど魔鏡で見た物はまだ序の口と言ったところか。
設備や準備、そして何より本祭に向けて本番行為が禁止されている
事が、青パンツチームを一定のラインに押し留めていた。
﹁⋮⋮やりましょう。今は耐えねば﹂
ヴェナは紙面を睨みつけながら、重く声を放った。
﹁シャロン達も忍んでいる。わたしが躊躇う理由は無い﹂
ステアも覚悟を決め、自身の給仕服を取り外した。
﹁とりあえず、一旦向こうのチームを真似てみましょう。一時間か
二時間か、それでやってみてその時の売上で判断を決めるのよ。⋮
⋮もしかしたら、ちょっと悪い予感もするから﹂
ステア同様に給仕服を脱ぎ落しながら、アミュスが口を開いた。
﹁アミュス? 悪い予感とは?﹂
彼女の上司であるルルが問えば、
﹁⋮⋮いえ、気のせいかも知れませんし﹂
アミュスは苦い表情で首を振った。
話し合いを終えてから二時間。
セナ達は娼館での接客を続け、もう一度話し合いの為店を閉じた。
一度離れた客を連れ戻す為、街中でほぼ全裸の状態で呼び込み、何
人かを連れ込む事が出来た。
価格設定、歩くメニュー表、おしぼりフェラ、サービス内容、来店
感謝のセックス券配布。
模倣できる部分は全て真似、売上を立てようと必死に全員が恥辱を
受け入れた。
1614
﹁うぅ⋮⋮おぇ﹂
﹁アン・ミサ様⋮⋮﹂
ラクシェが向こうでこなしていたおしぼりフェラに関しては、アン・
ミサが自分から率先してその役に就き、二時間来店する客のチンポ
を舐め続けていた。
その背を擦るユラミルティは会計場所でセックス券を配りながら、
主の悲痛な姿を見続けていた。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮むぅ⋮⋮﹂
唇と胸の谷間を拭っているヴェナとステアは厳しい表情で売上黒板
を見ている。
﹁⋮⋮そんな、妾達はあれだけ必死に⋮⋮﹂
﹁ハイネア王女⋮⋮﹂
メニュー表となって客から弄ばれ続けたハイネアの体を、同じく全
身文字だらけのシロエが支える。
﹁アミュス﹂
﹁はい。悪い予感が当たってしまいました⋮⋮﹂
給仕役をこなしていたルルとアミュスは沈んだ声を放っている。
﹁んー⋮⋮何がいけなかったんでしょうねー?﹂
首を傾げるマリスは入り口での案内係。
﹁ふざけ⋮⋮ふざけんじゃないわよ!﹂
セナはキレながら、黒板を指差した。
﹁二時間で赤紙幣二枚って⋮⋮何なの!﹂
キッチンで慌ただしく調理をしながら、フェラやパイズリの手が足
りなくなれば応援にも走っていたセナは、突き付けられた事実に激
昂している。
﹁向こうは、既に十三枚ですか﹂
セナ達が話し合いで浪費した時間を含め、開始から四時間が経過し
ている。
赤パンツの売上は二枚。
1615
対して青パンツ側は十三枚も積み重なっていた。
﹁アミュス。君の考えを教えてくれるか?﹂
セナをチラリと見た後、ステアは銀髪の魔女に視線を送った。
﹁えぇ⋮⋮。予感で済めば良かったんだけど、やはり甘く無かった
わね﹂
アミュスは一度全員の視線を集めるかのように、手を広げた。
そして、そのまま三本指を立てる。
﹁不安要素が有ったの。それも三つ﹂
紡がれる言葉は、この惨状を説明するものだ。
﹁一つ、私達は最初に客を逃がし過ぎた。あの一時間で相当の悪評
が広まっている筈よ。昨日一昨日の告知活動で私達への注目度が高
い以上、そういう噂が出てしまえば、広まるのに時間は掛からない
わ﹂
相場を知らない故に設定された法外な値段設定。
その上エロ要素でも青パンツチームと比べれば天と地ほどの差が有
った最初の一時間。
それが致命的な第一点。
﹁二つ、私達がやった事はあくまでヘミネ達の真似事。向こうの情
報を知っている連中からしてみれば、ただの後追いね。この里はそ
こそこ広いけど、一時間も歩けば北と南を行き来できるわ。こっち
に住んでいる貧乏人達も、向こうでやってる激安サービスを知れば
勇んで向かうでしょうね。悪評の有るコピーのこっちじゃなくてね﹂
一点目に続く要素としての二点目。
いくら模倣したとしても悪評が立った赤パンツでは無く、出だし好
調の青パンツを信頼する者達が多く現れるのは必然だった。
﹁三つ、向こうには指導者がいる。強制はして無いのかも知れない
けど、売上を上げなくてはいけない私達からすれば、あのロッドマ
ンの知恵は必要になるわ。ただ映像を見て真似ている私達よりも、
本物のサポートが有る向こうの方が⋮⋮嫌な話だけど、質が上がる
のは間違いないわ﹂
1616
実際に営業してみての感想でも有った。
アミュス達がいくら必死に店を回そうとしても、どうしても動きに
ムラが生まれ、キッチンのセナや会計のユラミルティが出てきて客
のチンポをしゃぶる必要が生まれ、その間にオーダーや清算が滞る
事が頻発していたのだ。
﹁⋮⋮アタシはリセほどキッチンの中で器用に動けないしね。味も
格段に落ちるわ﹂
セナがぼやく内容も、売上の差に影響している部分。
﹁つまり、信頼の差、真新しさの欠如、質の劣化。と言う事ですね
?﹂
ヴェナが剛剣を思わせる視線でアミュスを見る。
﹁そうね。連中がもう少し性欲に忠実ならって思っていたけど、簡
単に済む話じゃ無かったみたい﹂
魔導士は顎に手を当て、思考に潜る。
﹁でも⋮⋮何とかしなければ⋮⋮﹂
シロエが弱い声を放つ。
﹁このままじゃ妾達のせいで⋮⋮﹂
そのシロエに抱かれた状態で、ハイネアが涙ぐんだ声を出す。
そこに、
﹁なるほどー。パクリだったからダメだったのですねー。それなら
もう斬新な事をする以外に手は無いんじゃないですかー?﹂
傭兵マリスが朗らかに声を放った。
﹁マリス?﹂
アミュスは友を見やる。
﹁この際ですよー。なりふりは構ってられないんですよねー? だ
ったらもう、マリス達は独自路線しか無いと思います。この里の連
中が見た事の無い、そんな姿を見せてやるしかないと思いますー﹂
そう言って、マリスはアン・ミサへと歩み寄った。
﹁え? は︱︱﹂
﹁失礼しまーす﹂
1617
チュッ︱︱。
マリスは智天使アン・ミサの唇を奪った。
﹁なっ!﹂
﹁はぁ?﹂
ユラミルティとセナが反応する。
﹁⋮⋮マリス、説明しなさい。何が言いたいの?﹂
突然の行動に目を瞬かせながら、アミュスはマリスの行動を問いた
だした。
﹁アミュ姉、マリスは傭兵です。お金を稼ぐ事を第一に生きて来ま
した。売れる物は何でも売って、お金になるなら何でもしました。
今、マリス達にはこの体しか有りません。売れる物は他には有りま
せん﹂
マリスの独白に似た言葉に、ステアが反応する。
﹁それは、知っている﹂
騎士の言葉に頷きながら、マリスは笑った。
﹁経験を。経験を売りましょう。公娼としてマリス達が過ごして来
た中で知った経験を再現して、それを見世物にし、お金を稼ぐので
す。この建物は二階建て。一階でこれまで通りの営業を続けながら、
二階で入場料を取って見世物をするのです﹂
公娼としての経験を売る。
肉体そのものでは無く、自分が何者であったかを売り物にする。
﹁初めが肝心です。だから、アン・ミサさん。注目度が高い貴女に
看板になって欲しいのです。マリスがリードしますから、一緒にス
テージに立ってくれませんか?﹂
真剣な瞳で、傭兵公娼は智天使へと語り掛ける。
﹁そ、それは⋮⋮どういう⋮⋮﹂
動揺するアン・ミサに、
﹁大丈夫です。マリスがちゃんと気持ち良くしてあげますから﹂
1618
娼館喫茶改め、娼館劇場喫茶。
一階部分では一部サービスを縮小し、おしぼりフェラと表の案内が
消える。
料理と抜きのサービスだけになった店内だったが、そこには大量の
客が犇めいていた。
理由としては、二階へと続く階段脇に設置された垂れ幕に有る。
﹃本邦初公開! 智天使アン・ミサ公開セックス﹄
西域の民は誰も見た事の無い、彼らの為政者アン・ミサの本番行為
を見る為に、受付のユラミルティに銅貨を一枚押し付けながら、次
々に階段を登って行った。
﹁満員ですよー﹂
二階からマリスの声が届くと、ユラミルティは階段の入り口に通行
止めのボードを置く。
﹁次回入場はニ十分後となります。それまではどうぞ、喫茶フロア
でお待ちください﹂
一礼と共に告げられた言葉に、上階を目指していた男達は足を止め、
残念そうな表情を浮かべながら椅子に座る。
﹁こちら、メニュー表となっております﹂
白い乳房をプルプルと揺らしながら、シロエは自らの体に書き込ま
れた文字を見せる。
﹁あぁじゃあ⋮⋮タルトとフェラのセットで﹂
痩せた男がシロエの下乳に有るメニューを告げると、
﹁畏まりました﹂
シロエと入れ替わりでステアが男に侍り、その股間に顔を寄せて行
く。
﹁注文!﹂
﹁こっちも!﹂
店内は盛況で、セナやハイネア達は休む間も無く手を動かし、胸を
動かし、舌を動かした。
青パンツチームから学んだ事を活かした上で、演劇による集客とい
1619
う独自路線を加えた赤パンツチームの娼館劇場喫茶は賑わった。
演劇前に喫茶フロアで銅貨を二枚使わせ、観劇の為にもう一枚、そ
して劇による興奮により堪らなくなった男達は更にもう一度注文を
繰り返した。
欲望を順番に掻き立てて行く事で、一人の客から三枚または五枚の
銅貨を回収する事に成功した。
しかし、
﹁段々上の階の入りが少なくなってきましたね⋮⋮﹂
口内にひり付いた雄の粘液を吐き出しながら、ステアがヴェナへと
言葉を向ける。
﹁もう既に連続七度目の上演です⋮⋮。波は過ぎ去ったのでしょう。
そろそろ、別の演目に切り替えなければ﹂
ヴェナは胸の谷間に溜まった汚液を拭い去りながら応じる。
マリスの提案で始まった演劇。
かつて自分達が受けたゼオムント流の凌辱を再現する行為。
第一幕は男装したマリスによるアン・ミサとのペニパンセックス。
擬似男根はハルビヤニを叩き起こし、召喚させた。
マリスは自分が味わった調教師達の手練手管を思い出し、西域のア
イドルであるアン・ミサを徹底的にヨガらせ続けている。
客達は自分達の支配者であり崇敬の対象である智天使の痴れ狂う様
を、熱狂して見つめていた。
﹁第二幕は⋮⋮わたくしが行きます。セナさん、ついて来て下さい﹂
カウンター内に居たセナへと声を向け、
﹁え? アタシ? わ、わかりました﹂
少しして二階から降りて来たマリスとアン・ミサ、彼女達と交代す
る様にしてヴェナとセナは劇場へ向かった。
第二幕はオナニーショー。
並んで股を開いた聖騎士と騎士が股間に挿した極太ディルドを操り、
客の歓声に応えながら自らの手で絶頂を繰り返すというもの。
最終的には群がる客達の手で胸を揉まれ、二穴に挿入されたディル
1620
ドを掻き回されてクライマックスを迎えるという内容だった。
アン・ミサほどの注目度は無かったが、目新しさで三度の満員を果
たし、四度目に客足が減ったところで次へとバトンを渡した。
第三幕はステアとユラミルティによるぶっかけ祭。
背中合わせに座った騎士と天使に向けて、客達はその性癖に従い思
い思いの場所へと精液を放出した。
ステアの耳に向けて放つ者や、ユラミルティの眼鏡に滴らせる者。
最後には床にこぼれた飛沫を舐めとらせて、演目は完結した。
アン・ミサ程では無かったが、ユラミルティにも固定のファンが存
在していた為、この演目は五回の満員を記録し、七回目まで引っ張
った後に次へ繋げた。
インスタント
第四幕はルルとアミュスの魔導士組による、撮影会。
ハルビヤニに用意させた瞬間転写型の撮影魔法道具を使い、彼女達
が客の指示に従い卑猥な屈辱ポーズを取り、それを一人三枚まで撮
影させる。
出来上がった写真にはルルとアミュスの直筆サインが施され、男達
は記念品を手にして喜びの声を上げた。
前日の告知活動の結果、アミュスとヘミネのファンクラブを作った
という男が会員を引き連れ参加した事も有り、第四幕も盛況を迎え
五回の満員を経て次へ。
第五幕はハイネアとシロエが担当する、浣腸イベント。
牛乳や酒、米のとぎ汁や自分達の尿など、とりあえず液体であれば
何でも可とし、それを浣腸器に入れて二人の肛門へと注ぎ込む。
客達のペースでそれは行われ、ハイネアとシロエは我慢の限界を迎
える度にタップし、盛大に混合液を放出し、腸内が空になるとまた
別の液体を注がれた。
この演目は深夜から朝方にかけて行われていた為、不眠による昂揚
も合わさり、熱狂の内に何度も繰り返された。
第一幕を越える八度の満員を記録した頃には、ハイネアとシロエの
肛門は完全に開き切ってポッカリと空洞を晒していた。
1621
無論、劇場に出演していない者達は階下で接客を続けている。
感想を語り合う客達のチンポをしゃぶり、興奮から急かしてくる者
達の精を胸で受け止めた。
長い時間が経った。
朝を迎え、公娼達の戦いは終わる。
﹁⋮⋮やった⋮⋮﹂
セナはカウンターにがっくりと倒れ込みながら、売上黒板を見つめ
る。
﹁何とか、間に合ったな⋮⋮﹂
労わる様にセナの肩に手を置きながら、ステアが言った。
﹁お尻をこちらに向けて下さい﹂
アン・ミサはハイネアとシロエのグニョグニョになった肛門を治療
している。
﹁ど、どうだったのだ、売上は⋮⋮﹂
今の今まで二階で浣腸祭を繰り広げていたハイネアは結果を知らな
い。
それに対し、
﹁五十一枚。目標達成です﹂
ユラミルティがしっかりとした声で答えた。
﹁やりましたね、ハイネア王女⋮⋮﹂
シロエはその豊満な胸でハイネアの体を抱き締める。
﹁まさかアンタに救われるとはねぇ﹂
アミュスが素直な感嘆を口にすれば、
﹁へへー。ラグちゃんの眷属化でちょっとだけ頭の方も冴えてる気
がしますよー﹂
マリスは朗らかに笑った。
しかし、
﹁⋮⋮ラグラジル。ですか﹂
1622
ヴェナが重く言葉を吐く。
﹁受け入れましょう⋮⋮。今は窮地を脱した事だけでも⋮⋮﹂
それに続く様に、ルルが沈んだ吐息を作る。
その視線の先、
売上黒板の左側に刻まれた数字は、
﹃五十三枚﹄
セナ達赤パンツチームは売上勝負の結果、シャロン達青パンツチー
ムに敗北した。
﹁さて、それじゃあ移動するか。今日はこのままこっちの店は閉め
て、向こうで働いて貰うぞ。備品としてな﹂
休む間も無く移動した赤パンツチームは、南側住宅区にある青パン
ツチームが営業する店舗で備品になった。
ハイネアとマリスはおしぼりフェラ用品。
ステアとシロエ、ルルは歩くメニュー表。
ヴェナはトイレに設置され、そこで小便器の役割を果たす。
アミュスは会計所の隣に四肢を縛られたまんぐり返し状態で置かれ、
募金箱。
アン・ミサとユラミルティは玄関の両脇に立ち、おさわり自由のマ
スコット人形となる。
そしてセナは、
﹁おぉい。このインテリアおかしくないか? 動きが止まってるぞ
?﹂
客の一人が赤ら顔で騒ぎ、給仕役のシャロンを呼び止める。
﹁⋮⋮申し訳ございません。すぐに﹂
シャロンは唇を噛みしめながら頷くと、
﹁セナ⋮⋮﹂
悲痛な瞳でセナを見つめた。
﹁⋮⋮んぐぅ﹂
1623
セナは答えない。
答えられない。
口にはボールを噛まされ、言葉を発する事が出来ない。
全裸のまま一つのテーブルに載せられたセナの役割は、
インテリアとしての全自動オナニー人形。
今日一日、無言のままただひたすら自分の膣口を弄り回す事が、彼
女の役目だった。
シャロンの、そして勝者となってしまった仲間達の辛く苦しそうな
視線を受けて、セナは動き出す。
﹁おぉ。そうだそうだ。注文が届くまでの暇つぶしに見てやるんだ
から、しっかりイキまくれよ﹂
例えるならば、セナの役割はうらぶれた食堂に設置されている占い
機の様な物だ。
誰かに関心を向けられる事は稀で、そこに何の意味が有って設置さ
れているのか、店の人間ですらその価値に注意を払ってはいない。
だがそれでも、役割として、そういう﹃備品﹄として働かなくては
いけないセナは、ハルビヤニとの契約に従い一心不乱に膣口を爪と
指でかき回し、陰核を擦り上げる。
何の意味も無い自慰に耽りながら、今日という日が出来るだけ早く
終わってくれる事を、セナは祈り続けた。
1624
降臨祭第一週 其の六 子宮探し︵前書き︶
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1625
降臨祭第一週 其の六 子宮探し
﹁ただいまでござるー﹂
真冬にも関わらず汗みずくの態で、一人の公娼オタクがハルビヤニ
に声を掛け、手にした紙袋を差し出した。
﹁おう、ご苦労﹂
ハルビヤニは手渡された紙袋の中身を確認し、薄らと微笑む。
﹁中々どうして、集めようと思えば集まるものですなぁ﹂
ハルビヤニの対面で紅茶を啜っていたロッドマンがしみじみと呟く。
﹁あぁ。一昨日と昨日の分、合計して赤紙幣が百七十二枚だ。二日
で庶民の年収を稼いでしまったな﹂
赤パンツと青パンツに分かれて競わせた一昨日の合計売上が百十四
枚。
そして昨日、敗者である赤パンツを備品に南側住宅区で営業した結
果集まったのが六十八枚。
椅子をギシギシと揺らしながらハルビヤニは笑い、
﹁あ、戻って良いぞ。お疲れ﹂
傍らに立った公娼オタクへと声を掛けた。
朝一で銀行屋に銅貨や緑紙幣の両替へと走らされた彼は、
﹁いやー。ぜんっぜん。ぜんっぜんでござる。両替程度なら何度で
も⋮⋮ただちょっとお駄賃が欲しいなーでござる﹂
汗を拭き取りながら、公娼オタクは視線を方々へ向けていた。
彼らが今居るのは、天兵の里北商業区にある娼館喫茶一階のテーブ
ル席。
﹁⋮⋮邪魔、退いて﹂
モップを片手にキツイ言葉を吐きかけるセナが居て、
﹁今日の上演スケジュールは⋮⋮﹂
暗い表情で予定を立てているシャロンが居る。
1626
降臨祭準備期間第一週の最終日が始まろうとしていた。
公娼と天使達は今、娼館喫茶の開店準備に勤しんでいる。
﹁告知、実践と上々の仕上がり。民草の関心度も非常に高くなって
おります。故に、この祭の一体感を損なわぬよう、これからの﹃訪
問﹄が大きな意味を持って来るのです﹂
ロッドマンは紅茶のカップを置きながら、西域の王へと声を向ける。
﹁ふむ﹂
ハルビヤニは顎に手を当て、聞く姿勢を取った。
﹁祭に参加する意識が低い者達に対して、こちらから積極的な参加
を要請して回りましょう。学校、病院、教会、その他もろもろのお
堅い施設に対し、誘惑を仕掛けるのです。今日から次週に掛けては、
それらを中心に私と貴方様で手分けして︱︱﹂
言いさしたロッドマンに、ハルビヤニは掌を向ける。
﹁いや、待て。それについてなんだが、来週は俺とお前で完全に別
行動を取る﹂
紡がれた言葉に、ロッドマンは虚を突かれた表情を浮かべた。
﹁何と⋮⋮どうなさるのですか?﹂
﹁ちょっとな⋮⋮腐れ縁って奴の整理に行ってくる。その間アイツ
らは俺とお前で分担して預かる事にするぞ﹂
そう言って、ハルビヤニは開店準備をしているルルの剥き出しの尻
を指差した。
﹁分担、ですか?﹂
﹁あぁ。俺は公娼達を引き連れて少し遠出をしてくるから、お前は
ラグ達天使四人と一緒にここに残れ﹂
唐突な言葉に、ロッドマンは首を傾げる。
﹁遠出⋮⋮まさか、ゼオムントへ? 公娼達を辱めさせに行くので
すか?﹂
ハルビヤニの嗜好を知るロッドマンは、彼が行いそうな遊びを幾つ
か脳内で想定し、思い当った事を口に出した。
だが、
1627
﹁いや。違うな、そっちじゃない﹂
西域の王は首を振った。
﹁さっき言っただろ、腐れ縁だって。南の大洞窟、そこに住む俺の
昔馴染みに会いに行ってくる。ま、理由を付けるとすれば、祭の来
賓を迎えに行くって感じだな﹂
ドッカリと椅子に腰を落した状態で、ハルビヤニは思い出を懐かし
むような顔を浮かべた。
﹁了解しました﹂
ロッドマンはその表情から、自分の与り知らぬハルビヤニの過去を
感じ取り、余計な言葉を挟まなかった。
﹁んでだ。その間にお前はゴゥト商会と組んでラグ達のグッズ製作
をやっておいてくれ。一週間で戻る。それだけあれば充分だろう?﹂
王の問いに、
﹁無論でございます﹂
老いた紳士は恭しく頷いた。
﹁さて、そうと決まれば時間は無いが⋮⋮ま、今日は回れるところ
だけ回っておくか。俺はとりあえず数人を連れて学校へ行ってくる。
ガキ共と触れ合うのは嫌いじゃないんでな﹂
ハルビヤニは楽しげに笑い、
﹁それでお前は⋮⋮そうだな。ラグ達の扱いに慣れておく為にも、
あの四人を連れてどこかへ行って来い。判断は任せる。なるべく面
白い映像を撮って来いよ﹂
ロッドマンへと命じた。
﹁御意に。天使様四人でございますか⋮⋮ならば。ウフフ⋮⋮一つ
妙案がございましてな﹂
ロッドマンは下卑た笑みを浮かべ、礼をした。
そしてハルビヤニは横を向き、
﹁何だ、まだ居たのか?﹂
﹁拙者達は自分の意思では戻れないでござるよー。いや、戻れると
しても戻りたくないでござるが⋮⋮﹂
1628
傍らで齧り付く様に準備中の裸女達に視線を注いでいた公娼オタク
に声を掛けた。
﹁まぁ良い。ついでだ、今日一日お前にこの店の店長を任せる。し
っかり監督しておけ﹂
その言葉に、
﹁マ、マジでござるか? うほほーい。セクハラし放題でござる!
とりあえず始業前の淫語声だしから始めるでござるー!﹂
大喜びで公娼オタクは小躍りした。
﹁あ、でも売上六十枚行かなかったらお前ゼオムントに強制送還な﹂
付け加えられた言葉に、一瞬真顔を浮かべた公娼オタクは、
﹁が、頑張るでござる⋮⋮﹂
項垂れながら頷いた。
ハルビヤニの先導に従い、街中を歩く四人の女性。
彼女達はしっかりとした衣服を身に着け、完全無欠の美女と美少女
として注目を浴びていた。
﹁どこへ連れて行こうと言うのだ?﹂
黒のジャケットとスカート、そして二︱ハイブーツ姿のマリューゾ
ワが瞳に険を湛えて問う。
﹁皆は⋮⋮どうして一緒では無いのですか?﹂
青を基調としたヒラヒラの魔導衣装を身に着けたユキリスが小さく
つぶやいた。
﹁うぅ⋮⋮リセ⋮⋮﹂
純白のドレスを地面に引き摺りながら、ハイネアが心細そうにここ
には居ない侍女の名を呼んだ。
﹁⋮⋮﹂
口を引き結んだヴェナが最後尾に続き、その威圧感溢れる聖騎士の
鎧で民衆の視線を跳ね返していた。
﹁今日はお前達に、ちょっとした講義をやって貰おうと思ってな。
1629
残りの連中は娼館に残って働いてるさ﹂
ブラブラと歩きながらハルビヤニは答え、
﹁ほら、あそこが目的地だ﹂
少し距離が有る場所を指差した。
立ち並ぶ家々よりも背が高く、幅も有る白い建物。
その中央には突起の様に大きな時計盤が設置され、更にその上には
金色の鐘が吊り下げられていた。
﹁俺の遺言に従い、アンが整備した学校だ。天使のみならず、各種
族から生徒を募り、後の西域を担う人材を育て上げているんだぜ﹂
誇らしげに胸を張り、ハルビヤニは歩みを進める。
﹁そこで、何を教えろと?﹂
挑むようなマリューゾワの問いに、
﹁人間とは何か、かな?﹂
首を捻ってハルビヤニが応じた時、
視界に入って来た学校の門に、一人の中年女性が立っている事に気
が付いた。
﹁は、ハルビヤニ様でございますか?﹂
女性は大慌てで一行に近づいて来ながら、腰を折る。
﹁おう、出迎えご苦労。そういうあんたはミンチー先生で間違いな
いか?﹂
西域の王として、鷹揚に頷くハルビヤニ。
﹁は、はい。ご連絡頂き、こうしてお迎えに参上いたしました﹂
ミンチー先生の後ろにはハルビヤニが先行させ使者にしていた公娼
オタクが満足そうな笑みで立っていた。
﹁あぁ、済まないな。変なものを寄越して﹂
﹁ござあああああああああああっ!﹂
バチン、と指を鳴らし公娼オタクを格納するハルビヤニ。
﹁いえ、つい先日ハルビヤニ様のご活躍を授業で紹介したばかりで
したので、子ども達もとても喜んでいました。こちらとしても、貴
方様のお言葉を頂ける大変良い機会だと﹂
1630
ミンチー先生は緊張しながらも、多少落ち着きを取り戻して声を掛
けた。
﹁おう、そうか。だがなぁ、今日の主役は俺じゃ無いんだよ、先生﹂
そう言って、ニヤニヤと振り向いてくるハルビヤニをヴェナ達は嫌
悪の表情で見返した。
学校の全校生徒は四十人程だった。
ただでさえ減少傾向にある天使達の子息は十五人で、残りは各種族
から集められた姿も形も異なる魔物の子ども。
いずれも十代になったばかりといった年頃だ。
彼らはひとつの教室に集められ、伝説の王ハルビヤニの登場に興奮
し、
﹁見ろ! ガキ共!﹂
彼が出現させた魔導機兵に熱狂した。
ミンチーが懸命に落ち着かせた頃には、子ども達は西域の王の存在
を完全に受け入れていた。
﹁さぁ、今日は普段の時間割は無視して、特別授業を行う。その為
に四人の先生を連れて来た。さぁ、先生達に御登場願おう!﹂
そう言って、ハルビヤニが教室の戸へ向けて手を伸ばす。
数瞬後、戸は引かれ、ヴェナを先頭に四人の公娼達が入室して来た。
ヴェナの荘厳な美貌。
ハイネアの子ども達と同世代とも言える未完成の美しさ。
ユキリスの神秘を纏う艶やかさ。
マリューゾワの苛烈な雰囲気の内側から香るエロス。
子ども達は特別講師の四人に、目を奪われた。
四人はその反応とハルビヤニの思惑を計る様に、意識を集中させて
いる。
﹁午前中の四つの授業はこの先生達にやってもらう。それが終われ
ば飯だな。給食を摂った後の二つの授業については⋮⋮また、後で
1631
説明しよう﹂
ハルビヤニは含み笑いを浮かべてそう言うと、
﹁ミンチー先生。この四人は西域の文字を知らない、板書の方はア
ンタにお願いしていいか?﹂
隣で事態を見守っていた中年女性へと声を掛けた。
﹁は、はい! 畏まりました!﹂
そうして、公娼による特別講座が始まった。
一限はユキリスが担当した、魔法学。
狂いと毒という、子ども達にとっては聞き慣れぬ内容の分野だった
が、彼女が実践する神秘の奇蹟は、彼らの関心を引くのに十分だっ
た。
﹁すげー! 先生! もう一回やって!﹂
鼻を垂らした少年がユキリスの手元を覗き込みながら興奮して言っ
た。
﹁え、えぇ⋮⋮﹂
ユキリスはこの状況︱︱恥辱的な行為は無く、単純に生徒にモノを
教えている事に違和感を覚えながらも、講師としての役割を全うす
る。
ゲージの中に入れられたカエルに向けて、微弱な﹃狂奔﹄を放ち、
狂いのダンスを舞わせる。
﹁おおぉ!﹂
﹁踊ってる!﹂
﹁先生もっかい! もっかい!﹂
子ども達は夢中でユキリスに密着しながら騒ぎ、その無邪気な様子
にユキリスは少しだけ心を解き解し、
﹁ダメですよ。これ以上やると、このカエルさんが壊れてしまいま
す﹂
﹃狂奔﹄を解除しながら、子ども達ににこやかな笑みを向けた。
1632
二限はマリューゾワによる、人間学。
西域の者達にとっては餌や玩具でしかない人間にも歴史が有り、こ
の地より進んだ技術や知識が有るという事を教えた。
﹁え、えぇぇぇ。そ、そんな! お芋が一年間も腐らないで保存で
きるだなんて!﹂
﹁算術? 化学? 何それ!﹂
﹁そ、そんな建物が有るの? この里の宮殿よりも大きいの?﹂
瞳を輝かせて自分の言葉に食いついてくる子ども達に、
﹁ふっ。いずれ君達が大人になった時に見に来るが良い。その時は
私が直接案内してやろう﹂
魔剣大公マリューゾワは胸を張って頷いた。
子ども達は無邪気で屈託も無く、ハルビヤニが用意した場に対して
抱いていた警戒心はいつしか薄れていた。
この降臨祭を終え、ゼオムントとの戦いを乗り越えた暁には、故郷
であるロクサスに戻り、領地を回復し、本来の職責に復帰する。
その未来を強固な意志で確信し、ゆるぎない言葉で子ども達に人間
の英知を語り聞かせた。
魔剣大公のその自信は子ども達への論拠へと成り替わり、
﹁すげーっ! 人間って凄いんだね﹂
﹁家に帰ったらお父さんにお話ししなきゃ!﹂
幼い魔物達は新たな知識として受け入れた。
三限はハイネアが教える、作法学。
リネミア神聖国の姫として教育を受けた彼女が手解きしたのは、外
面だけでは無く内側に備えるべき挙措や作法に対する心構えだった。
﹁こ、こう?﹂
﹁こうかな⋮⋮?﹂
1633
歩き方や笑い方、相槌の打ち方に礼の仕方。
﹁そうそう。そうやって手を取って頭を下げると、品が良く見える﹂
ユキリスやマリューゾワと比べ、子ども達と年の近いハイネアの笑
みは、子ども達に未知なる感情を湧き立たせた。
大人達の様に股間では無く、胸に手を当て頬を染め姫公娼を見つめ
る生徒達。
純白のドレスの上に舞う彼女の金髪に見惚れ、華が咲いたように微
笑むそのかんばせに心を揺らされる。
﹁む? そっちの者達はもう少し身を入れて聞いてくれぬか?﹂
ぼーっと見つめているところをハイネアに注意された生徒達は、大
慌てで教えられた作法を実行した。
四限はヴェナによって実践される、護身学。
体育館へと移動し、そこに召喚された魔導機兵を相手に素手で圧倒
していくヴェナの姿に、子ども達は歓声を贈った。
﹁すごいすごい!﹂
﹁あんなに大きくて強そうなのに!﹂
﹁あのお姉ちゃん強いぃぃぃぃ﹂
剣は抜かず、振り下ろされる鉄の拳を回避し、技を駆使してその巨
体を投げ飛ばすヴェナの勇姿に誰も彼もが夢中だった。
﹁大切なのは、己を知り敵を知る事です。敵わないと判断した時は
逃げる算段をつける事を迷ってはいけません﹂
説明の合間にも手を止めず、襲い来る魔導機兵を投げ飛ばしながら、
聖騎士は表情を変えずに語り掛けた。
﹁ぼ、僕も先生みたいになれる?﹂
その質問に、
﹁守るべきものを見つけたならば⋮⋮きっと﹂
ヴェナはそう答えた。
1634
四つの授業を終えると、昼食の時間になった。
給食が用意され、それらは公娼達にも振舞われた。
﹁こっちで一緒に食べようよ! 先生!﹂
﹁だめ! 先生はこっち!﹂
子ども達の間で取り合いになりながら、四人は四か所に分かれて久
方ぶりの穏やかな食事を摂った。
給食を終えると、校庭に出て生徒達と一緒に遊び、
教室に戻るよう促す時計台の上の鐘の音を聞いて一緒に戻って来る。
公娼達の瞳に険は無く、子ども達によって与えられた穏やかな時間
を楽しんでいる様に見えた。
そこに、
﹁さ、それじゃ五限は俺が担当しようか﹂
教壇に立つハルビヤニが号令を放ち、
﹁授業のテーマは、これだ﹂
ニヤついた笑みで黒板を叩いた。
そこに書かれていた文字は、
﹃保健体育﹄
公娼達は皆、唇を噛んでいた。
こうなる事は分かっていた筈だった。
ハルビヤニに連れ出された者達が、どの様な目に遭うのかなど分か
り切った事だった。
それでも、肌を隠せる衣服を与えられ、無垢な子ども達と心温まる
やり取りをしていた事で、その判断がいつしか鈍っていた。
教壇の前に立たされ、机に座る子ども達と正対させられる四人。
ユキリスを慕っていた子どもが、
マリューゾワを尊敬していた子どもが、
ハイネアに憧れていた子どもが、
1635
ヴェナを恐れていた子どもが。
その純粋な瞳で彼女達の事を見つめている。
﹁さて、そこの君、赤ちゃんはどうやって出来るか、知っているか
?﹂
黒板を背にしたハルビヤニが一人の生徒を指名する。
﹁え? えーっと⋮⋮パパとママがキスをしたら?﹂
その答えに、
﹁ふむ。まぁハズレと言ってしまうには勿体無い答えだったな﹂
ハルビヤニは頷いた。
﹁良いか? キスをするのはパパとママじゃぁない﹂
指を立てながら、西域の王は笑顔で西域の未来を支える子ども達へ
と声を向ける。
﹁チンポと子宮だ﹂
そして、そのまま指を鳴らし、四つの影を異空間から召喚した。
﹁うわ!﹂
﹁ひぇぇぇ! あ、ウサギだ﹂
﹁ホントだ! 体は人間なのに⋮⋮﹂
召喚されたのは無論公娼オタクなのだが、彼らの素顔は子ども達に
見せる事が憚られる様なものばかりなので、頭部にはスッポリとウ
サギの被り物が載せられていた。
﹁これが、チンポ!﹂
ハルビヤニの号令に従い、オタクウサギ達は股間を強調したポージ
ングを決める。
﹁うひゃああああ!﹂
﹁おっきぃぃ!﹂
﹁汚い! 汚い!﹂
子ども達は大人が見せる滑稽な姿に大喜びで手を叩いた。
﹁さてじゃあ第二問だ。君、このチンポがキスする﹃子宮﹄はどこ
にあると思う?﹂
指名された子どもは、首を傾げながらマリューゾワを見やった。
1636
﹁えっと⋮⋮マリューゾワ先生達の⋮⋮どこか?﹂
子どもの無垢な答えに、
﹁おぉ、また正解だな。そうだ、こいつらのどこかに﹃子宮﹄は隠
されている。その﹃子宮﹄にチンポでキスをすれば、赤ちゃんが出
来るという事だな﹂
ハルビヤニは満面の笑みで頷いた。
それらのやり取りを、公娼達は無言で聞く。
ユキリスは瞳に薄く涙を湛え、
マリューゾワはハルビヤニを睨みつけ、
ハイネアは唇を噛みしめ、
ヴェナは瞳を閉じ泰然と構えている。
逆らえないのだ。
ハルビヤニに逆らうという事は、未来を失うという事と同義。
﹁子宮がどこに有るか、わかる奴はいるか?﹂
今度は広く全員へと問いかける西域の王。
﹁はい! 僕達には無くて女の人に有るのはおっぱいだから、そこ
に有ると思う!﹂
一人の少年が威勢よく手を挙げ、何人かはそれに対して頷いた。
﹁ふむ。良い着眼点だな。さ、それじゃ答え合せをしてみるか﹂
ハルビヤニがそう言うと、オタクウサギ達が一歩移動し、
﹁くっ⋮⋮﹂
ヴェナの騎士服の胸の袷を引き千切った。
途端、露出する聖騎士の爆乳。
ユキリスの美乳も、マリューゾワの艶乳も、ハイネアの微乳も、全
てが晒される。
﹁う、うわぁぁ大きい!﹂
﹁ハイネア先生の⋮⋮可愛い!﹂
子ども達の目はその白い膨らみと朱色の頂きに釘つけになり、身を
乗り出して観察している。
﹁ウサギさん達、そこに﹃子宮﹄が隠れてないか、よぉく調べてく
1637
れよ﹂
上機嫌のハルビヤニに促され、オタクウサギ達は四人の乳房を揉み
しだく。
﹁あっ、くぅぅ﹂
﹁くそっ! 離せ﹂
﹁んんぅぅぅぅ﹂
﹁ふんっ⋮⋮﹂
ユキリスの乳房は掌で転がされ、
マリューゾワの物は下からタプタプと打ち上げられ、
ハイネアは乳首に円を描く様に掻き回され、
ヴェナの爆乳は男の指で深く握り潰された。
形を変え、跳ね回る四人の乳房を、子ども達は前のめりになって見
つめている。
﹁どうだ? ﹃子宮﹄は見つかったか?﹂
王のその言葉に、
﹁んー、無いでござぴょん﹂
﹁こっちにも無いでござうさ﹂
﹁こっちには隠す場所も無いでござぴょん﹂
﹁どれだけ揉んでも何も出て来ないでござうさ﹂
オタクウサギ達はふざけた口調で答えを返して来た。
その答えを聞いて、ハルビヤニは子ども達へと改めて問いかける。
﹁さて、﹃子宮﹄がどこに有るかわかる子は⋮⋮そうか、それじゃ
あ仕方が無い。答えを教えよう﹂
子ども達から手が上がらなかった為、ハルビヤニはオタクウサギ達
に目配せし、
解答を子ども達の目の前に突きだした。
すなわち、公娼達の股間を覆う衣服を剥ぎ取り、秘所を露わにした
状態で抱え上げたのだ。
﹁うわぁ⋮⋮﹂
﹁すっごい⋮⋮﹂
1638
﹁ピンク色で⋮⋮﹂
晒された陰唇に、無垢な視線が突き刺さる。
﹁やめっ⋮⋮これ以上子ども達を巻き込むのは⋮⋮﹂
水色の髪を振り乱すユキリス。
﹁痴れ者が⋮⋮!﹂
抱え上げられ、開脚ポーズを強いられても尚、魔剣大公のオーラは
弱まらない。
﹁見るな⋮⋮見るでない⋮⋮﹂
捲り上げられたドレスの裾から秘部を覗かせながら、ハイネアは子
ども達に懇願の視線を放った。
﹁良識ある子は、今すぐこの場から立ち去りなさい﹂
ヴェナは芯の籠った声でそう言ったが、子ども達は誰一人として席
を立とうとはしなかった。
﹁見えたか? その部分を﹃マンコ﹄という。マンコをチンポでズ
ボズボしてやるとぉ、その奥にある﹃子宮﹄にキスが出来る。キス
と一緒に愛し合う二人の証明を交換する事で、赤ちゃんが生まれる
というわけだ﹂
ハルビヤニは黒板に何やら書き込みながら、言葉を続けた。
﹁見たいか?﹂
子ども達を見渡す。
﹁先生達が孕ませられる様子を、見てみたいか?﹂
壇上から放たれたその問いに、
﹁見たい!﹂
﹁チンポと子宮のキスが見たい!﹂
﹁先生! 赤ちゃん作って見せて!﹂
子ども達は割れんばかりの歓声で応えた。
﹁そんなっ⋮⋮﹂
絶望するユキリス。
﹁ハルビヤニッ!﹂
激昂するマリューゾワ。
1639
﹁やめよ! そのような事言ってはならん!﹂
子ども達を諌めるハイネア。
﹁外道⋮⋮殿下の御姿を、これ以上汚すなぁ!﹂
血の涙を流し吠えるヴェナ。
それらを無視し、
﹁それじゃーウサギさん達、ヤッちゃって﹂
ハルビヤニは黒板をトン、と叩いた。
﹁ござうさ!﹂
﹁いくぴょん!﹂
オタクウサギ達は銘々頷いて、そのチンポを公娼マンコへと挿し込
んだ。
﹁んぎひぃ!﹂
﹁ふぐぅ!﹂
﹁あふぁ!﹂
﹁おの、れぇぇ﹂
背を向けた駅弁体位で保健体育の実技が始まる。
﹁さぁ今まさにチンポと子宮がキスをしているぞ! もっとこっち
に寄って見に来て良いぞ﹂
ハルビヤニの掛け声に従い、子ども達はワラワラと種付中のヴェナ
達に寄ってくる。
﹁うわーすっごい﹂
﹁変な音してるーグプッグプッって﹂
﹁あ、あとユキリス先生から何か出て来たよー﹂
目敏い子どもが見つめる先に、ユキリスとオタクウサギの結合部が
有り、そこからは透明な液体が滴って来ていた。
﹁ヴェナ先生からも出て来た﹂
別の子が、聖騎士の股間からも溢れているのを報告する。
﹁あーそれはな、ヴェナ先生とユキリス先生が感じているんだ。お
チンポ気持ちいぃぃぃってなった時に、そのお汁が出るんだぞ﹂
ハルビヤニは子ども達の側に移動しながら、説明をする。
1640
﹁くっ! だめ、見ちゃダメ⋮⋮﹂
﹁貴様あああああああ、あぅ﹂
ユキリスとヴェナは手で隠す事も出来ずに、陰唇から愛液を零し続
けている。
﹁おチンポって気持ち良いの?﹂
﹁チンポってオシッコに使う場所だから、汚いじゃん?﹂
子ども達から生まれた素朴な疑問に、
﹁あぁ、でも人間ってのは変態だからな。その中でも特にド淫乱で
チンポ狂いなコイツらは、チンポが臭ければ臭いほど喜んで、汚け
れば汚いほど気持ち良くなるんだ﹂
ハルビヤニは雑に答えた。
﹁へー⋮⋮あっ、凄い。マリューゾワ先生楽器みたい﹂
﹁ほんとだー、パンパングチュグチュズッポズッポって、すごーい、
ウサギさん演奏上手なんだねー﹂
マリューゾワを抱えたオタクウサギは他のウサギと比べても屈強な
体つきをしていて、体力に余力が有る為、挿入中にも子ども達を喜
ばせるための工夫を加えていた。
﹁き、聴くな! お前も! その手を止めろ!﹂
パンパンはマリューゾワの尻肉を叩く音。
グチュグチュは腰の回転で膣肉を掻き回す音。
ズッポズッポは一回のストロークを深く派手にする音。
マリューゾワという楽器を使っての演奏会が開催されていた。
﹁ハイネア先生⋮⋮﹂
﹁うわぁ⋮⋮可愛い⋮⋮﹂
﹁くぅぅぅ、み、見るでない。顔を向けるな⋮⋮﹂
膣内を掻き乱され、子宮口を激しく打ち付けられているハイネアは、
無残なトロ顔を浮かべていた。
その表情を見つめ、一部の生徒達は惚けきった様子を浮かべている。
﹁良いなぁ⋮⋮﹂
﹁僕も、ハイネア先生とチンポでキスしたい﹂
1641
子ども達から生まれたその言葉を、ハルビヤニは聞き逃さなかった。
﹁出来るぞ﹂
王のその呟きに、
﹁え?﹂
﹁ホント?﹂
子ども達は一斉に振り向く。
﹁あぁ、降臨祭の本祭ではこの里にいる全員にその権利が与えられ
る。ハイネア先生だけじゃなく、ユキリス先生も、マリューゾワ先
生も、ヴェナ先生の子宮にも、好きなだけチンポでキスが出来る﹂
宣伝。
子ども達の興味を引き出すと共に、
﹁ただし、君達はまだ子供だから、お父さんと一緒に来る事﹂
その親までも巻き込んで祭に参加させる。
﹁行く!﹂
﹁絶対に行く!﹂
﹁待っててねハイネア先生! 絶対チンポでキスしてあげるからね
!﹂
子ども達は何度目かもわからない絶叫を上げた。
五時間目が終わり、六時間目になる。
この時間は、自習。
﹁それじゃ、俺はちょっと顔を出さないといけない所があるから、
一時間ほど離れる。その間のアイツらの監督を任せるぞ﹂
﹁わかりました。挿入は無しで、自習をさせておけば良いのですね﹂
ハルビヤニとミンチーの会話の向こう側、自習中の教室では陰惨で
滑稽な光景が広がっていた。
﹁これが子宮? こっち?﹂
﹁良く見えないなー。もっと広げて?﹂
﹁あぎひぃぃぃぃぃ、やめ、ガバガバになっちゃ⋮⋮あぐぅぅ﹂
1642
ユキリスをまんぐり返しで床に転がし、数人の子ども達がその股間
に顔を寄せ、三角定規を使って陰唇をこじ開け、中をじっくりと観
察していた。
﹁入り口は狭いけど、膣内ってちょっと広いんだね﹂
﹁どれくらい広いか試してみようよ⋮⋮皆色々持って来て﹂
﹁やめっ⋮⋮やめて!﹂
子ども達は無邪気に、チョークや消しゴムのカスなどをユキリスの
膣内に放り込み始めた。
その隣では、
﹁マリューゾワ先生は楽器だから、今度は笛にしようよ﹂
﹁リコーダーを、えいっ!﹂
﹁んほぉぉぉぉぉぉっ﹂
ソプラノリコーダーを肛門に深く突き立てられ、吹き口以外全て埋
まった状態にされるマリューゾワ。
﹁ふす∼⋮⋮﹂
﹁ダメだね。音しないね﹂
﹁あ、当たり前だ⋮⋮早く、抜け﹂
肛門に顔を寄せてリコーダーを吹く少年がしょんぼりした顔で言う
と、脂汗を垂らしたマリューゾワが居丈高な声を放つ。
﹁あ、じゃあこうしよ!﹂
ぐっぷぐっぷ︱︱
﹁んひぃぃぃぃぃぃ!﹂
マリューゾワはリコーダーを肛門内で出し入れされ、淫猥な音を放
つ楽器へと堕ちた。
更にその隣、
﹁ハイネア先生⋮⋮好き﹂
﹁大好き⋮⋮﹂
数人の子ども達がハイネアの裸身に絡みつき、口づけを与えていた。
﹁やめよ⋮⋮妾は⋮⋮リネミアの⋮⋮んむぅ!﹂
陰唇、肛門、乳首、首筋、腋の下、唇、目、耳。
1643
全身のいたるところに、愛の口づけを浴び、ハイネアは身を捩る。
﹁絶対⋮⋮僕と赤ちゃん作ろうね﹂
﹁俺とだよ? ハイネア先生⋮⋮﹂
﹁たくさん産ませてあげるね⋮⋮﹂
趣味の悪い囁きを耳に与えられながら、ハイネアは汚辱の涙を流し
ていた。
最後にヴェナ、
﹁魔導機兵パーンチ﹂
﹁んぐっ⋮⋮う、あ⋮⋮﹂
ごっこ遊び。
子ども達は正義の味方魔導機兵になりきり、ヴェナを悪役に据えて
退治しようとしていた。
﹁ヴェナ先生は強いけど、ここが弱点だって言う事はもうわかった
からね!﹂
﹁やっちゃえ!﹂
転がされたヴェナの陰唇に割って入る、子どもの細腕。
﹁くらえええええ子宮直撃デコピン!﹂
﹁あがっ! やめなさ⋮⋮い﹂
深々と挿し込まれた腕の先、指でビシバシと子宮口を嬲られ、ヴェ
ナは苦悶に震えている。
四人の公娼がそれぞれに地獄を味わっているのを見て、ハルビヤニ
は踵を返す。
﹁それじゃ、また後で来る﹂
﹁はい、お任せください﹂
ハルビヤニの言葉に、ミンチーが腰を折って応じた。
歩いて行くハルビヤニの背中に、
﹁はーい、皆。後で感想文書いてもらうから、しっかりヴェナ先生
達で自習して頂戴ねー﹂
明るいミンチーの声が聞こえて来た。
1644
ハルビヤニが向かった先は、四城門の外れにある天兵達の詰所。
ロッドマンがそこにラグラジル達を連れて行ったという報告を受け、
少し顔を出してみたくなったのだ。
﹁あそこか。こーんな隅っこに追いやってよぉ⋮⋮﹂
ゆったりと歩くハルビヤニの視界に、掘立小屋丸出しの建物が入っ
て来た。
﹁ラグ達も、同族の天使を蔑ろにしてちゃあなぁ⋮⋮﹂
天兵が堕落したのには、一つにハルビヤニの責任が有った。
彼が魔導機兵の力をもって西域の征服した際に、天兵達はまるで役
に立たなかったにも拘らず同族の天使という事だけで、支配者に近
い場所を与えられていた。
ハルビヤニには王として、民草の非力さや怠惰さを受け入れる度量
が有った。
しかし、ラグラジルやアン・ミサにとってはどうだったか。
魔導機兵がハルビヤニと共に失われ、その穴を埋めるべき天兵達は
ぬるま湯に浸かり切っている。
戦力にはならず、容易に欲望に靡いた。
信頼も、愛も何もかもを失っていると言っても、過言では無かった。
﹁これを機会に、仲直りできると良いけどなぁ⋮⋮﹂
ハルビヤニがそろそろ詰所へ至ろうかと言う時に、その扉が開いた。
﹁あぁ臭ぇ! テメェのケツ穴の匂いが移っちまったじゃねぇか!﹂
男の足で蹴り飛ばされる、裸身。
黒髪の魔天使。
管理者ラグラジル。
ベシャ︱︱と地面に倒れ込む長女と、ハルビヤニは半日ぶりの再会
を果たした。
﹁よぉラグ。どうだった? 仲直りは出来たか?﹂
その問いに、全身精液塗れの魔天使ラグラジルはピクリと反応した
が、無言だった。
1645
﹁アン・ミサ様ぁ⋮⋮本祭では絶対に、絶対に俺が孕ませて差し上
げますから! マンコぬるぬるで待っていて下さいね!﹂
ラグラジルの体の上に、今度はアン・ミサの白い裸身が放り投げら
れる。
次女もまた、全身を雄液で染められていた。
﹁アンも。そろそろ給料以外で天兵に尽くす方法を覚えておいた方
が良かったしな﹂
﹁おと⋮⋮さま⋮⋮﹂
口腔から白濁液を吐き出しながら、智天使アン・ミサはぼやけた視
界で父を捉えた。
更に、
﹁姉達と比べるとボリュームは足んねぇが、その分持ち易くてオナ
ホとしては優秀でしたね、ラクシェ様!﹂
深々と肛門に突き刺していた肉棒を引き抜き、大柄な天兵はラクシ
ェの体をアン・ミサの上へと放り投げる。
幼女の様な体躯のラクシェの全身にも、男達が放ったゼリーがこび
り付いていた。
﹁こ、コロ⋮⋮す﹂
﹁なんだ、元気だなチビ﹂
ハルビヤニはその頭を撫でてやる。
そこに、
﹁ハルビヤニ様、少し宜しいでしょうか?﹂
戸口からロッドマンが顔を覗かせ、ハルビヤニへと問い掛けていた。
﹁ん? 何だ。というかお前、まさかコイツらに本番させてないだ
ろうな?﹂
﹁いえいえ、それだけは本祭まで厳禁と、堅く命じておきました故。
ただアナルの方は認めました。皆さまかなり溜まっていらした様子
でしたので﹂
首を振るロッドマンに、
﹁なら良し﹂
1646
ハルビヤニは頷き、天使三姉妹を戸口に放置したまま、詰所へと入
って行った。
﹁それで?﹂
﹁天兵の代表殿が、ハルビヤニ様にお願いしたい事が有るとかで⋮
⋮﹂
先ほどラクシェをガン掘りしていた天兵に先導され、二人が通され
た場所は、司令官室という札が下げられていた。
﹁これは、ハルビヤニ様! このようなむさくるしい場所へようこ
そおいで下さりました!﹂
肉厚な五十絡みの天兵が腰を折る姿に、
﹁まったくだ。で、何か用か?﹂
ハルビヤニは冗談交じりの笑みを向けて、答えを促す。
﹁率直に申し上げます。この者を、我らにしばらくお預け頂きたい﹂
そう言って、司令官が指差した床の上、裁天使ユラミルティはボロ
雑巾の様に転がっていた。
ヒビの入った眼鏡と貞操帯以外の物は身に着けてはおらず、全身に
赤い腫れと白濁がこびり付いていた。
﹁この者は先の騒動の折、我らに不当な裁きを下し、先代の司令官
他多くの同僚が命を奪われました。我らには強く報復の意思が有り、
この者に厳罰を下したく思います﹂
司令官の言葉を、ハルビヤニは心中で笑いながら受け止めた。
先の騒動とは、クスタンビアの襲撃の事だろう。
その際に職務放棄をした天兵に対し、裁きを司るユラミルティは厳
罰を与えた。
しかし、恩赦の可能性を与えた上での罰であり、今命が有る天兵は
皆、その恩赦によって救われた者ばかりだ。
それにも拘わらず、彼らはユラミルティを許せないと言う。
里の為に何もしなかった男達が、アン・ミサに魔導機兵の欠片を届
け、逆転の切っ掛けを作ったユラミルティを罰しようとしている。
﹁クハハハハハハ﹂
1647
心中だけでは収まりきらず、とうとう声に出して笑ってしまった。
そして、
﹁良いだろう。ただし条件をつける。期間は一週間。命は奪うな。
ついでに処女も奪うな。それが守れるというのなら、お前達にユラ
を与えよう。一週間、好きに罰してやると良い﹂
王の裁可に、司令官を始め天兵達は喜びの表情を浮かべる。
その様子を見て、ハルビヤニは少し考えを改めた。
この天兵達は、生きていたとしても何の役にも立たない連中であり、
ラグラジルやアン・ミサはまだ優しい方で有ったという事を認めた。
﹁⋮⋮祭が終わったら、こっちも綺麗にしてやるか﹂
肩を竦めながら言い、ハルビヤニは踵を返す。
﹁あ、お見送りを︱︱﹂
﹁いらん。玩具で遊んでいれば良いだろう?﹂
ハルビヤニは素気無く返し、ロッドマンと並び立って詰所を出て行
く。
数人の公娼オタクを召喚し、ラグラジル達を運ばせながら、
﹁ま、そんなわけでお前が担当するのはコイツら三人になったなロ
ッドマン﹂
﹁左様ですなぁ⋮⋮あの眼鏡天使は⋮⋮大丈夫でしょうか? 常識
の無い連中でした故に⋮⋮﹂
詰所を振り返るロッドマン。
それに向け、
﹁あぁ、あの貞操帯には無理矢理剥がされた場合や宿主の命の危機
には危険信号を放つように設定しておいた。もしアイツらが無茶を
しようとしたら、詰所の傍に配置しているステルス状態の魔導機兵
が動いて、皆殺しにしてくれるだろう﹂
王はニ、三度頷きながらそう呟いた。
﹁⋮⋮存外、お優しいのですか? 貴方様は﹂
驚きから、不躾な問いを放つロッドマン。
﹁いやなに、ユラは娘みたいなもんだしな。人間なんぞはいくらで
1648
も死ねば良いと思うが、やはり娘や近しい同族ともなれば情も沸く﹂
公娼オタクが抱き運ぶアン・ミサの頭を一撫でしながら、ハルビヤ
ニは慈愛の表情を浮かべた。
﹁それにしては、些か愛情表現が歪んでおられますなぁ﹂
﹁言うな。構ってくれない娘達に対する父の意地悪なのだよ、これ
は﹂
クハハハと笑うハルビヤニは、ロッドマンと共に、宮殿へと帰って
行った。
その夜、
﹁やべっ! 学校に迎えに行くのを忘れた!﹂
宮殿内の寝室で、ハルビヤニはセナを犯している最中にふとそれに
気が付き、
﹁まぁ、大洞窟への出発ついでに明日の朝拾って行けば良いか⋮⋮﹂
﹁うあぁぁ⋮⋮膣内に⋮⋮出てる﹂
即座に諦め、セナの子宮にシャスラハールの精液を注ぎ込んだ。
この夜で降臨祭第一週が終わり、波乱の第二週の幕が上がる。
1649
降臨祭第二週 其の一 南の大洞窟︵前書き︶
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1650
降臨祭第二週 其の一 南の大洞窟
天兵の里を四重に覆う四城門。
その外れに、一台の大型馬車が停まっていた。
西域に住まう凶暴な駿馬、吸血馬を多頭立てにしたそれは、一度に
三十名以上が乗り込める移動式の家とも言えるものだった。
﹁さーて、ちょっと長旅になるぞ。感謝しろよ? 移動手段は俺が
用意してやったんだからな﹂
ハルビヤニは大型馬車の幌に乗りながら、眼下の者達を見下ろした。
十六人の公娼達。
その視線は冷たさの極致に有り、嫌悪の感情に満ち満ちていた。
﹁ハイネア様⋮⋮大丈夫ですか?﹂
その内の一人、リセは主の体を抱き締めている。
﹁⋮⋮うん﹂
弱弱しく頷くリネミアの王女ハイネアは、赤い顔で侍女の体にもた
れ掛っている。
見る者が見れば一瞬でわかる事だが、ハイネアは風邪を引いていた。
ハルビヤニによって学校に性教育用の教材として持ち込まれ、その
まま忘れられたハイネア達四人は、全裸の状態で縛り上げられ、校
庭に放置されていた。
ミンチー先生と生徒達により拘束され、恥辱のポーズで寒風吹き荒
ぶ校庭に並べられていた四人は、ひどく体力を削られていた。
体力のあるヴェナとマリューゾワはともかく、ユキリスは若干不調
に見え、ハイネアに至っては完全に病人だった。
﹁その調子じゃ歩きの旅は無理だろ? やれやれ、遠出するって昨
日ちゃんと言ったじゃないか、体調管理くらい自分でしっかりやっ
ておけよな﹂
呑気な声で言うハルビヤニに、ヘミネとシロエが厳しい表情を向け
1651
る。
来週は南に向かう。
公娼達がそう聞かされたのは一日営業していた娼館喫茶を閉店して
いる時だった。
売上が足らず、本国送りが決定された公娼オタクが泣き叫んでいる
のを背景に、ハルビヤニは遠出の予定を告げて来た。
無論、その場所にハイネアは居ない。
校庭に設置されていた冷たい鉄棒を股間に挟み、宙吊りの状態で拘
束されていた頃の話なのだ。
元より通達に不備が有り、何よりハイネアの不調はハルビヤニに責
任がある。
リネミアの者達を含め、公娼達が怒りを向ける理由は十分以上に有
った。
﹁⋮⋮アン・ミサ達は?﹂
マリューゾワが視線を方々に向けながら、ハルビヤニへと問う。
﹁あん? アイツら天使四人とロッドマンは今回留守番だ。それは
昨日言った⋮⋮あぁ、そうかお前は居なかったよな。皆にはお前が
マンコに蛇口突っ込んで震えてた頃に話をしていたのさ﹂
校庭脇の水場で縛り上げられていたマリューゾワの様子を、ハルビ
ヤニは楽しそうに語る。
﹁⋮⋮ッ!﹂
魔剣大公の苛烈な瞳に怯えの一分子すら見せず、
﹁さ、乗れ乗れ。そろそろ出発するぞ。いくら吸血馬でも、ここか
ら大洞窟までは一日以上かかるからな﹂
ハルビヤニはそう言うと、指を鳴らし、公娼オタクを一人召喚した。
﹁皆順番にクジを引きに来るでござるー﹂
出現したチンポ丸出しオタクが両手で持っているのは、厚紙で出来
た手作り感満載の箱だった。
﹁⋮⋮何、それ?﹂
セナが嫌悪感を示しながら言うと、
1652
﹁ほら、席順だよ。馬車はでかいがそれでも大人数で乗るんだ、あ
んまり自由にあっちこっち座って傾いたりしたら駄目だろ? だか
らあらかじめ場所を決めておくのさ﹂
ハルビヤニは鷹揚に答えた。
﹁チッ⋮⋮﹂
セナは舌打ちを一つ吐き捨て、オタクの持つ箱に手を突っ込んで、
一枚の折り畳まれた紙を引き抜いた。
﹁七⋮⋮って書いて有るわ﹂
開きながら言うと、
﹁入り口から七番目だな。左に入り口が有るから、そこから乗れ。
入ってすぐの左側先頭が一、そこから八までが左の縦列。九から十
六までが右の縦列だ﹂
ハルビヤニが説明した。
幌で覆われた大型馬車の左側に、切れ目の様な入り口が有った。
セナはクジ紙を手にしたまま、そこに入っていく。
すると︱︱。
﹁来たあぁぁぁでござる!﹂
﹁何番でござる? 何番でござる?﹂
﹁セナぁぁぁぁぁ! 拙者は十二番でござるぞぉぉぉぉ﹂
馬車の中には固定された席が十六個、左右八個ずつ設置されていて、
そこにはオタク達がチンポを剥き出しにして座っていた。
﹁は⋮⋮?﹂
呆然とするセナの後ろから、
﹁クハハハハハハハハッ!﹂
﹁第一回! パコパコ馬車ツアーッ! イン、降臨祭っ!﹂
ハルビヤニの爆笑と共に、クジ箱を持つ公娼オタクの声が轟いた。
﹁んっ⋮⋮くぁっ⋮⋮﹂
﹁やめろっ⋮⋮揺らすな⋮⋮﹂
1653
馬車の中では、淫らな音が鳴り響いていた。
﹁クハハハハハ。旅は長いからな、その間の余興はたっぷりと用意
しておいたぞ﹂
ハルビヤニ自身一番の席に座り、そこを引き当てたルルを膝の上に
載せ、性器をぐちゅぐちゅと貫きながら言った。
﹁うぁ⋮⋮アナタという人は⋮⋮﹂
座席の上、ゆったりと腰を落したハルビヤニのチンポの上が、ルル
の席だった。
必然、そこに座る為には陰唇で彼の肉棒を跨ぎ、固定する必要が有
った。
他の座席も、同様だった。
通路を挟んで右隣り、九番の席ではロニアがガンガン突き上げられ
ており、一番のすぐ後ろ、二番の席ではフレアの体が揺れていた。
馬車の揺れだけでは無く、性行為による激しい振動。
﹁うぉえ⋮⋮気持ち、悪い⋮⋮﹂
﹁大丈夫でござるか? ハイネアちゃん!﹂
十番の席でズボズボとセックスしていたハイネアが、口を押えた。
風邪による体調不良、馬車の揺れによる乗り物酔い、そして何より
不潔不細工無知無能な公娼オタクとのセックスによる吐き気が、彼
女を苛んでいたのだ。
﹁吐きそうでござるか? エチケット袋は⋮⋮有ったでござる﹂
紙袋を一つ取り出し、ハイネアの口元に運ぶ公娼オタク。
﹁あぐっ⋮⋮無理えっ⋮⋮くぷぅえ﹂
吐しゃ物を噴き出す為に、ハイネアは紙袋に顔を突っ込んだ。
その瞬間、
﹁むおっ? 今まで体験した事の無い締りが︱︱拙者も無理でござ
るぅぅぅぅ﹂
公娼オタクの持つ紙袋にハイネアは嘔吐し、循環する様に公娼オタ
クはハイネアの膣内に向けて射精した。
﹁ハイネア様ッ⋮⋮せめて、お浄めを⋮⋮﹂
1654
遠く八番の席からそれを目撃し、リセが大きな声を上げるが、
﹁リセたんちゅっちゅーでござるー﹂
﹁んむぅっ!﹂
その唇は公娼オタクの分厚く脂ぎった唇に塞がれてしまった。
﹁一時間したら今出てる連中は引っこんで、また別の十六人を召喚
するからなー。その時ついでに席替えもするぞ。お前達! 今日は
無制限射精許可だ! 一時間の間に好きなだけ味わっておけ!﹂
ハルビヤニの号令に、公娼オタク達は雄たけびを上げて応じた。
皆で歌い、皆で食い、皆で眠り、皆で繋がった。
公娼オタク達にとって楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去り、馬車
ツアーは終焉を迎える。
凡そ三十五時間、走り続けた馬車は、目的の場所へと至った。
南の大洞窟。
雪がちらつく砂漠に、ポッカリと大口を開けた巨大な横穴。
盛り上がった砂地の奥に、何が潜んでいるのか。世界の終りを知ら
せる様な光景に公娼達は体を震わせた。
既に馬車は降り、十六人は砂漠に立っていた。
裸では無く、降車時に手渡された衣服を身に着けている。
ビスチェ、前貼り、網状のグローブにソックス。
衣服、そう呼ぶには些かパーツに分かれすぎているそれは、各部位
ごとに公娼達の体を飾り立てていた。
朱色のビスチェは単に胴体に巻き付いているだけで、下乳から上は
何も隠していない。
黒の前貼りはその名の通りの役割しか果たさず、陰唇をとりあえず
隠し尻の谷間に潜る様にして肛門まで行きついているが、パッと見
ただけでは尻が丸出し状態なのには代わりは無い。
手足のグローブとソックスは、それぞれ肘と腿まで伸びているが、
網の目が粗いため、殆ど素肌に糸が這っている様にしか見えない。
1655
股間からは止めどなく、前貼りの隙間から白濁が零れ続けている。
この三十五時間、延々と注ぎ込まれ続けて来た結果だった。
馬車での移動は肉体では無く、心へと負担を掛けていた。
﹁さて、迎えは無しか⋮⋮アイツめ⋮⋮﹂
ハルビヤニは言葉ほど怒った表情では無く、むしろ楽しげに言うと、
﹁さ、付いて来い﹂
公娼達を率いて大洞窟の入り口へと進入した。
スタスタと歩くハルビヤニの後ろを、セナ達は周囲を警戒してつい
て行く。
﹁何だか⋮⋮不穏な場所ですね﹂
シャロンが息を潜めていうと、
﹁あぁ⋮⋮生物の気配が無い。それに外部は砂だらけなのに、内側
は殆ど鉄素材だ⋮⋮﹂
ステアが小さく頷いた。
﹁灯りが有るのが、奇妙ですね﹂
会話に加わったセナが注目しているのは、洞窟入口から続くランプ
の行列だった。
﹁かなり文化的に発展してるみたいだね﹂
フレアがキョロキョロと見渡しながら言う。
ランプだけでは無く、標識や看板、装飾などが刻まれた壁が延々と
続く大きな一本道。
公娼達は吹き荒ぶ風からは解放されたものの、未知の恐怖に心身を
冷やしながら一歩ずつ歩を重ねた。
そして、
﹁やれやれ。やっとか﹂
巨大な扉の前で、ハルビヤニが立ち止まる。
自然、公娼達も彼に倣う形になった。
ニヤニヤ笑う西域の王の眼前で、扉が左右の壁に引きずり込まれる
様にして割れていく。
ゆっくりと、重々しく。
1656
その向こうに︱︱
﹁なんっ!﹂
﹁警戒を!﹂
﹁魔導士とハイネア王女は私達の後ろに付け!﹂
セナ、ヘミネ、マリューゾワが叫ぶ。
これまでの一本道では無く、両翼に途轍もなく開いた空間が生まれ、
そこに数万匹の豚型の魔物が武器を構えて立っていたのだ。
豚魔。
西域最大の種族であり、文化の担い手。
人の倍はある巨体に、自然と備わった筋力、そして柔軟な思考を持
つ有力種族。
﹁よぉ、久しぶりだな。ブーちゃん﹂
ハルビヤニは笑みを消さないまま、一歩扉の内側へと入って行った。
その視線の先、豚魔の中でも際立って図体のデカい一匹が前へと進
む。
﹁ワシをそう呼ぶなと、何度言えばわかる? ハルビヤニ﹂
大盾を構え、拳を握りしめた巨漢の豚魔。
﹁悪い悪い。しかしこれも俺からの親愛表現だぜ? ジュブダイル﹂
ハルビヤニは彼にその言葉を贈り、
﹁友よ、遊びに来たぜ!﹂
満面の笑みで、そう言い放った。
西域の王ハルビヤニと豚魔の大王ジュブダイルが並び立ち、さらに
奥へと進んでいく。
セナ達はその後ろにつきながら、十重二十重に豚魔達に包囲されて
いた。
﹁だ、大丈夫だよね⋮⋮?﹂
怯えた様子のロニアが言い、
﹁恐らくは⋮⋮﹂
1657
シュトラがその手を握りながら頷いた。
武器が無い状況で、これだけの数の魔物に取り囲まれる。
餌とされ食われるか、肉奴隷として犯されるか。
体と心に緊張が生まれるのは必然だった。
剥き出しの乳房に、豚魔達の好色な視線が突き刺さってくる。
﹁⋮⋮豚魔は人を喰わぬ﹂
荘厳な声が、先頭から降って来る。
﹁暴れでもせぬ限り、命は奪わんよ﹂
大王ジュブダイル直々の言葉だった。
公娼達は警戒しながらも、二人の王の背に続いて行く。
洞窟の中とは思えない程に広がる地下世界に、圧倒され続ける公娼
達。
そして、
﹁座れ﹂
巨大な空間のほぼ中央にあったこれまた巨大な城に通され、その中
の一室でジュブダイルとハルビヤニは向き合って座した。
その部屋は天井が高く、横幅も巨体を持つ豚魔に合わせてかなりの
物だった。
﹁あれって⋮⋮﹂
セナが壁に幾つも設置された、光を反射している四角い平面を見つ
めながら呟くと、
﹁映像装置、ね﹂
アミュスが応じた。
人間が手を広げたくらいの大きさを持つ映像装置が幾つも壁に掛け
られ、部屋中に散らばっていたのだ。
向かい合うハルビヤニとジュブダイルの背に、それぞれ公娼達と豚
魔達が距離を取って並び立つ構図が生まれている。
その時、
﹁あーそう言えば、クスタンビアはどうしてる?﹂
ハルビヤニは椅子の上で足を組みながら、ふと思い出したように尋
1658
ねた。
﹁クスタンビア? ⋮⋮あぁ、そうか。そう言えばあ奴は今この洞
窟で預かっていたのだったな﹂
ジュブダイルは一瞬首を傾げた後、手を打って応じた。
﹁おいおい、流石にボケ過ぎだろう。お前今何歳だっけ? 千は超
えてたよな?﹂
﹁五日前に千十八歳になった。まだボケてはおらん。ただ最近は人
間共の動きを警戒して色々と忙しかっただけだ。クスタンビアの事
は部下に任せておったのでな﹂
そう言うと、ジュブダイルは手を叩き、
﹁おい、クスタンビアの部屋をモニターに出せ﹂
背後に控える部下に命じた。
﹁はっ!﹂
部下の豚魔は敬礼した後、魔力を操作し、映像装置を起動させる。
映し出された映像は、
﹃オラァッ! さっさと飲み干せって言ってんだよ。この雌穴がぁ
!﹄
﹃ブヒヒヒヒッ! 出したて激臭ザーメン一気飲み、ほーら頑張れ
頑張れ﹄
﹃おかわりはどんどん出るからなぁ。お前のマンコの直搾りでよ﹄
十数人の豚魔に囲まれ、全身を極太のベルトで拘束されているクス
タンビアの姿を表示していた。
﹃んぐぅぅぅぅぅぅ﹄
かつて公娼達を圧倒した青髪の親鬼は、その全身に精液を浴びせら
れていて、下半身の二穴には絶えず豚チンポを挿し込まれ、無理矢
理開かされた口には湯気の立つザーメンを柄杓で流し込まれていた。
そして何より、彼女の現状を表す最大の記号は、
﹃三日後には出産だからなぁ! 栄養付けとかないとな!﹄
膨れ上がったその腹部。
ボテ腹。
1659
親鬼クスタンビアは、豚魔の雑兵の仔を孕まされていた。
その映像を、ジュブダイルとハルビヤニは呆然と見守り、
﹁⋮⋮正直、済まなかった。部下に少しくらいは良い思いをしてよ
いとは言っておいたが⋮⋮まさかこれほどとは⋮⋮ちゃんと洗って
返す﹂
視線を逸らしながら言うジュブダイルに、
﹁いや、いい。いらねぇよ、あんなん。好きに使ってくれ、何匹で
も産ませてやれ。体が丈夫なのだけが取り柄の奴だ﹂
ハルビヤニは真顔で言い、
﹁それに、映像だけでも悪臭が伝わって来そうだったしな﹂
そう言葉を繋げた。
その瞬間、
﹁それは貴様がやった事であろうが!﹂
雷撃の様な怒号が、ジュブダイルの口から迸った。
﹁貴様が! ワシを追放する時についでとばかりに付与した呪いが
! 豚魔全体を苦しめておる! 若い奴らはそれで悩み、今でも自
殺する者が出ているのだぞ!﹂
椅子を蹴倒し、立ち上がる豚魔の大王。
﹁んだよー。そんなに怒るなって、別に痛いとか苦しいとかじゃな
いんだろ?﹂
ハルビヤニはせせら笑いながら、首を振った。
その言葉に、更に激昂するジュブダイル。
﹁ふざけおって! 貴様の呪いのせいで! 我らの種族がどれだけ
辛酸を飲んでいるかわかっているのか!﹂
ジュブダイルの背後では、部下の豚魔達もまたハルビヤニを睨みつ
けていた。
﹁そんなに悩むもんかねぇ。ただ単にチンポの臭いを殺人級に引き
上げてやっただけなのに﹂
両手を広げ、ハルビヤニはとぼけている。
ハルビヤニがジュブダイルと些細な喧嘩をし、その結果豚魔へと掛
1660
けられた呪い。
生殖器に最高レベルの悪臭を付与し、そこから放たれる精液及び小
便にも同様の臭いを与えるという、﹃汚根魔術﹄
その匂いは持ち主ですら下着から取り出した時点で気絶の危険を生
み、小用を足した瞬間に意識を失う事も有るという。
便所での気絶は豚魔達には日常の事になっていた。
元より雄しか存在しない豚魔達は、繁殖の為に他種族の雌を半ば強
引に孕ませ、仔を成す。
頑強である豚魔でも耐えきれないレベルの悪臭に、豚魔に劣る種族
の雌では抗しきれるわけも無く、種付作業中にそのあまりの悪臭に
自害する雌が続出したため、一時豚魔達は仔を成す事が出来なくな
っていた。
事態を憂慮したジュブダイルによって、いくつかの有力種族が潰さ
れ、そこの女戦士を捕らえて繁殖奴隷にする事で虎口を凌ぎ、近年、
雌の嗅覚を永久に封印する魔術が完成した為、彼らは安定して仔を
成す事が出来るようになった。
しかしそれでも、相変わらず便所内での気絶事件は絶えず、ズボン
の裾から漏れ出す悪臭で喧嘩が生まれる事も日常茶飯事だった。
苛めが生まれ、争いが生まれ、そして殺し合いが生まれた。
以前は平和であった大洞窟がギスギスとした世界になってしまった
のは、ハルビヤニによって掛けられた呪いが元凶であり、それを解
く事はジュブダイルにとって使命に他ならなかった。
﹁ハルビヤニ! どうせ正面から頼んだとて貴様が解呪しないのは、
長い付き合いで理解している﹂
ジュブダイルは節くれだって指をハルビヤニに突き立て、
﹁勝負をしろ!﹂
叫んだ。
怒号に対し、
﹁いやー勝負って言ってもなー⋮⋮俺暑苦しいのは⋮⋮﹂
ハルビヤニは苦笑を浮かべている。
1661
それに向け、
﹁言ったであろう、貴様の事ならば理解している。単純な力比べや
戦争では貴様は乗って来ない。ならば、この大洞窟で流行する三種
競技でワシが勝てば、呪いを解くのだ!﹂
そう吠え立てた。
それを聞き、ハルビヤニは笑った。
﹁三種競技⋮⋮クハハハハ。あれか! あのお前達の遊びの⋮⋮ク
ハハハハハハッ! 良いぞ、良いぞ友よ! その勝負を受けてやる
! あぁ、やはり持つべき者は趣味を理解してくれる友だな!﹂
席を立ち、ジュブダイルに向き合うハルビヤニ。
公娼達は呆然と、その成り行きを見守っている。
﹁だが待てよ。お前が勝ったら呪いを解く。では逆に俺が勝ったら
どうするんだ?﹂
ハルビヤニの問いに、
﹁何でも望みを言うが良い。ただし、ワシ個人で出来る事に限るぞ。
これ以上部下達を巻き込む事はさせぬ﹂
ジュブダイルは重く答えた。
それを受け、
﹁あぁ。わかったぜジュブダイル。俺が勝ったら︱︱﹂
そこで、ハルビヤニは人懐っこい笑みを浮かべ、
﹁祭に参加してくれ。友よ、一緒に祭を楽しもう﹂
飾り気のない言葉を吐いた。
しばし、室内には唖然とした空気が流れる。
﹁⋮⋮あいわかった。ワシが負けた場合は、お前の祭に参加してや
ろう﹂
ジュブダイルが頷き、決定が下った。
﹁それじゃあ、三種競技の人員を選ばないとな。お前の方はもう揃
っているんだろ?﹂
1662
もう一度席に座した二人の王は、会話を交わす。
﹁あぁ、今季の優勝チームを使う﹂
ハルビヤニが問うと、ジュブダイルが応えた。
﹁三種競技ねぇ⋮⋮。アレとアレとアレだろ? だったら⋮⋮﹂
首を後ろに回し、並び立つ公娼達を見て、
﹁シャロン、マリューゾワと⋮⋮んー⋮⋮マリス﹂
首を傾げるシャロン。
睨みつけるマリューゾワ。
自分の顔を指差すマリス。
﹁ステ⋮⋮いや、フレア、ヘミネ、リセ﹂
姉の顔をちらりと見るフレア。
腕を組んだ姿勢で無言のヘミネ。
未だに体調が戻らないハイネアを気遣うリセ。
﹁ヴェナ、セナ⋮⋮そして、ここはやはりシュトラだな﹂
瞑目するヴェナ。
唇を曲げるセナ。
意味あり気な指名を受け動揺するシュトラ。
﹁こっちからはこの九人で行く﹂
ハルビヤニは視線を戻し、ジュブダイルに告げた。
﹁あいわかった。残りの者達は︱︱﹂
﹁ステア達は移動しろ。ここから先の話は関係者だけで行う﹂
ジュブダイルの言葉を遮り、ハルビヤニはそう言った。
﹁何? 何がしたいの? 説明くらい受けても良いじゃない?﹂
眉根を寄せるアミュス。
﹁ジュブダイル。ゲームはどうせなら真剣に、だ﹂
それを無視し、ハルビヤニは友の顔を見つめた。
﹁⋮⋮よかろう。こちらとしても、分かり易い益が有った方が皆盛
り上がる﹂
ジュブダイルはそう言って、
﹁先ほどハルビヤニに名を呼ばれなかった者達をこの部屋から連れ
1663
出せ﹂
部下達に命じた。
豚魔達は忠実にその命に従い、公娼達の傍に寄る。
﹁な、何を⋮⋮?﹂
怯えるユキリスに、
﹁心配するな。先ほども言った通り、暴れでもせぬ限り命は奪わん﹂
豚魔の大王はそう答えた。
動揺する公娼達の中、
﹁⋮⋮わかった。セナ、シャロン、フレア。それに他の方々も、後
で合流しましょう﹂
武装も無い状態で逆らう事の無意味さを理解しているステアはそう
言って、率先して豚魔の言葉に従った。
﹁⋮⋮皆さんに、幸運を﹂
続いてルル、ハイネアを抱いたシロエ、ロニア、ユキリス、アミュ
スも豚魔の先導で部屋を出て行く。
言い知れぬ不安から互いに顔を見合わせて、室内に残った組みと外
に出された組は別れた。
束の間生まれた静寂。
それを斬り裂く様に、
﹁質問をして良いでしょうか?﹂
シャロンが小さく挙手をし、二人の王へと問い掛けた。
﹁良いぜ。ただし後で一回﹃ギルティ﹄な﹂
その言葉に、ぐむっと喉を唸らせるが、
﹁良い、ワシが応えよう﹂
ジュブダイルから放たれた言葉に、顔の向きを変えてシャロンは問
うた。
﹁三種競技とは何なのでしょうか?﹂
それを受け、
﹁この大洞窟にて流行するスポーツだ。速さ、力強さ、そして美し
さを競う三つの種目を二つの陣営に分かれて勝負し、種目ごとに得
1664
たポイントの合計値を競う。一つの種目に三人ずつ。チームの合計
は九人になるな﹂
ジュブダイルの言葉に、シャロンはマリューゾワと視線を合わせ、
更なる問いを発しようとした時、
﹁大王様、選手団が到着いたしました﹂
ジュブダイルの背後から、豚魔の声が響いた。
﹁よし、ここへ﹂
頷く大王の声と共に、扉が開き、そこから九人の女が姿を現した。
露出の過多の格好。
上半身は緑色のジャケットを着用しているが、前は留められておら
ずに乳房は隠す事無く全部見えている。
下半身には切れ込みの鋭いビキニパンツを穿き、股間に食い込ませ
ていた。
そして公娼達を驚かせたのは︱︱
﹁人間⋮⋮?﹂
﹁は、羽根落ちとかじゃなくて?﹂
彼女達が皆、魔物の特徴を持たず、純粋な人間に見えたからだ。
﹁豚魔はなぁ⋮⋮﹂
動揺するセナ達に、ハルビヤニが語り掛ける。
﹁人間を飼うんだ。喰わずにな。さっきジュブダイルが言っていた
事は嘘じゃない。暴れなければ殺さない。殺さない代わりに、一生
玩具にするんだよ﹂
その言葉を、公娼達は目を見張って受け止めた。
そこに、
﹁﹃媚風﹄のハリアレ、部下二名と共に推参致しました﹂
﹁﹃障壁﹄のニュマここに﹂
﹁﹃洪水﹄のラプシーです、大王様﹂
白の髪を靡かせた妖艶な美女と、黒髪を後ろで縛った鋭い目の美女、
金髪を背に流し微笑んでいる美少女が九人の中から歩み出てきた。
女達に、怖れの表情は無い。
1665
﹁おお、お前達の対戦相手は、そっちの者達だ﹂
鷹揚に頷くジュブダイルに促され、セナ達を見る三人の女。
﹁へぇ⋮⋮﹂
﹃媚風﹄のハリアレは小馬鹿にした笑みを浮かべ、
﹁⋮⋮﹂
﹃障壁﹄のニュマは無言で頭を下げ、
﹁うーん⋮⋮相手になるかな?﹂
﹃洪水﹄のラプシーは首を捻った。
その様子に、公娼達は呆然としていた表情を引き締め、
﹁君達は⋮⋮﹂
代表してマリューゾワが問い掛けた。
それに対し、
﹁私達は競技奴隷。この大洞窟で豚魔の皆様に刺激を与える事を生
業にしている者よ。そこいらへんの繁殖奴隷達とはわけが違うから、
そこだけは覚えておきなさい﹂
ハリアレが見下げた視線で笑った。
﹁ど、奴隷って⋮⋮そんな、可哀そう⋮⋮﹂
眉を落したシュトラの言葉に、
﹁可哀そう? ねぇ? 私達が? アハハハハハ。股間からそんな
汚い液を撒き散らしているアンタ何かに、私のどこが可哀そうに見
えるの?﹂
腹を抱え、ハリアレは笑っている。
﹁貴女達は、繁殖奴隷なの? それじゃ汚いからもうちょっと離れ
て欲しいな﹂
ラプシーが唇に人差し指を当てながら首を傾げた。
﹁な、何だって⋮⋮﹂
フレアが度胆を抜かれていると、
﹁ハリアレ、ラプシー。対戦相手には敬意を持つべきだ。少なくと
も、表面だけでも﹂
ニュマが瞳を閉じた状態で言い放ち、場には更なる緊張が生まれた。
1666
そこに、
﹁あー⋮⋮お前達向けに説明してやるよ。競技奴隷ってのは、豚魔
の主要産業でもある人間繁殖から生まれた存在で、容姿や能力に秀
でた者達を選び抜いて、競技用に仕立て上げた奴らの事を言うんだ。
顔だけ良くて才能が無ければ豚魔用の繁殖奴隷。どっちも無ければ
他種族に食用として出荷されるか、繁殖で奴隷作りに利用されるっ
て寸法さ﹂
ハルビヤニの言葉に、公娼達は衝撃を受けた。
﹁えっ⋮⋮じゃあやっぱり⋮⋮この人達は⋮⋮?﹂
﹁あぁ、正真正銘お前達と同じ人間だ﹂
セナの問いに、ハルビヤニは頷いた。
﹁ま、過酷な生存競争を勝ち抜いたエリートの中でも更に頂点に立
っている私達の相手をさせて貰えるのだから、感謝して欲しいわね﹂
ハリアレは罵倒に似た言葉を吐き、白髪を揺らして笑っている。
その視線はどこまでも悪意的であり、公娼達は不快に思うと共に、
奴隷達の存在の歪さに身を震わせた。
﹁⋮⋮ジュブダイル﹂
ハルビヤニは顎に手を当て、静かに言葉を発した。
﹁コイツら、くれ﹂
﹁やらん。ここまで成長させるのにどれだけ出資したと思っている﹂
王の要求を即座に跳ね除ける大王。
﹁競技の合法賭博で稼がせ、戦えなくなったら繁殖用としてブリー
ダーに胎を売って、最後は名品として他種族に出荷して金を回収す
る。もうコイツらの未来は決まっているのだ。貴様が手を出すな﹂
ジュブダイルの残酷な言葉を聞いても、ハリアレ達は依然余裕の表
情のまま、公娼達を蔑んでいる。
﹁⋮⋮よしわかった。だったら勝負にもう一つ景品を付けよう。俺
が負けたら後ろのコイツらと、さっき移動していった七人も付ける﹂
﹁何を言っている貴様!﹂
ハルビヤニの言葉に、マリューゾワが激昂する。
1667
それを無視し、
﹁コイツらは特別製だぞ? 何て言ったって腐らないからな。不老
魔術が掛かっている。その上人間達の中での逸品揃いだ。豚魔的に
言っても価値が有ると思うがな﹂
商談が続く。
﹁ふむ⋮⋮確かに、見たところ鍛えて有るし、見所も有りそうだな
⋮⋮﹂
ジュブダイルは重々しく頷き、
﹁それで? ワシが負ければこ奴らをお前にくれてやれば良いのか
?﹂
背後のハリアレ達を指差しながら言った。
﹁あぁ。俺の予定では、来週ちょっと人手が足り無くてな。そこの
三人だけで良いから、景品に出してくれよ﹂
ハルビヤニ側は十六人の公娼を全員。
ジュブダイル側はハリアレ、ニュマ、ラプシーの三人だけ。
その条件を聞き、豚魔大王は膝を打って頷いた。
﹁良いだろう。ハルビヤニ、副賞としてこの三人を付けよう﹂
﹁さっすが。話がわかるなブーちゃん﹂
睨みつけるジュブダイルをからかうハルビヤニ。
﹁⋮⋮勝手な事ばかり﹂
セナが怒りの表情でそう呟くと、
﹁勝ちましょう。必ず﹂
ヘミネがその肩を叩いて応じた。
その時、
﹁大王様。案内を完了致しました﹂
先ほどステア達を部屋の外へと連れ出した豚魔が帰って来て、ジュ
ブダイルへと向けて礼をする。
﹁そうか、ご苦労﹂
応じる大王と、
﹁クハハハハ﹂
1668
心の底から楽しそうなハルビヤニ。
﹁なぁ、お前達。このゲームにどれくらい乗り気だ?﹂
後ろを振り返り、セナ達へと問い掛けて来る。
﹁乗り気なわけが無いだろうが! さっさと終わらせる。それだけ
だ﹂
フレアが吠え、
﹁何だかよくわかんないですけどー。あんまり関わりたくは無いで
すねー﹂
マリスが頷いた。
﹁かーぁ。そんなんじゃダメだ。もっとこう、気合を入れろ! 絶
対に勝つ! その心が無いと負けちまうぞ。そこでだ、お前達に気
合を注入してやろう﹂
ニヤつくハルビヤニが視線をジュブダイルに戻す。
﹁⋮⋮モニター、便所﹂
ジュブダイルは億劫そうにそう命じ、部下が新たな魔法を作った。
すると、
﹁えっ⋮⋮﹂
呆然と呟く、シャロンの声。
映像装置が七つ、光を灯した。
そこに映し出されたのは、小便器が立ち並ぶ便所と思われる場所の
壁に埋め込まれた七つの裸体。
腰を直角に折った姿勢で固定され、肩から上を壁に埋め込まれてい
て、顔は見えない。
突き出された尻。
壁に埋まる肩から生えた腕は肘の部分で曲げられ、手首は少し距離
を空けて壁に埋められている。
肩と手首の間を底面にした三角形を作り、まるでレバーの様に腕は
固定されていた。
それは、突き出された下半身を犯す際に、力を籠めやすいように工
夫された、豚魔式肉便器のスタイルだった。
1669
﹁あれって⋮⋮﹂
震えるセナの声。
﹁姉上ッ?﹂
﹁ハイネア様!﹂
一糸纏わぬ裸体では有ったが、察する事は充分出来た。
映像に映し出された七つの肉便器が、元々は何だったのかと言う事
を。
﹁一層から七層までの便所に、それぞれ一体ずつ配置して参りまし
た。最初は抵抗が有ったものの、所詮は武器も無い人間でしたので、
平定は容易でした﹂
帰還した豚魔が紡ぐ言葉に、
﹁貴様らぁ!﹂
﹁彼女達を解放して下さい!﹂
公娼達は叫ぶ。
﹁駄目だ。あ奴らには三種競技が全て終わるまで、あの場所で便器
になってもらう。心配するな、汚根魔術対策に顔は隠して、匂いが
届かない様にはしてある﹂
ジュブダイルの紡いだ言葉に、
﹁そんな事を言っているわけでは無い!﹂
激昂したヘミネが食いついた。
﹁餌の方も問題無いぞ。便所の隣の倉庫に顔だけ出しているから、
そこに係りの者が餌を運ぶ事になっている。まぁ眠れはせんかもし
れんが、死ぬ事はまず無い﹂
事務的口調で言い放つ豚魔の大王の後に、
﹁クハハハ。どうだ? アイツらは三種競技が終わるまで解放され
ない。助けたければ、あの奴隷達相手に真剣に挑み、さっさと倒す
しかないな?﹂
ハルビヤニが愉悦に浸った声を放つ。
﹁⋮⋮最初から、そのつもりです﹂
ヴェナが睨みつけるが、
1670
﹁そうか? だったら良いけどな。あぁそれと、ジュブダイル。日
程はどうなる?﹂
不穏な言葉が、西域の王の口から放たれた。
﹁三種競技は通常、三日に分けて一競技ずつ行われる﹂
豚魔大王はそう答えた。
それを聞き、
﹁三日! そんなっ!﹂
﹁すぐに三つ全部を!﹂
リセが絶望の表情で叫び、シュトラが青褪める。
﹁勝たねばならぬのだろう? 初参加であるお前達が不利である事
は承知している。しっかりと準備をしてから挑まねば、負ければそ
れまでだとワシは思うがな﹂
しかしジュブダイルから発せられた言葉に、口を閉ざす公娼達。
﹁今日、この場で三種競技の一つ目を発表し、明日試合を行う。試
合後に翌日の競技を発表する。その様な形で行こうと考えるが?﹂
﹁あぁ、同意するぜ。俺としてもそっちの三人と、後はお前に祭に
参加して貰う為にも、必ず勝ちたいからな﹂
ジュブダイルとハルビヤニの間で締結した。
﹁それでは、第一競技を発表する﹂
重々しい豚魔大王の声と共に、一つの映像装置が目まぐるしく動き
始めた。
﹃力﹄﹃速﹄﹃美﹄の三文字が、一瞬ごとに切り替わって表示され
て行く。
﹁第一競技は⋮⋮これだ!﹂
映像の点滅が終わり、表示されていたのは、
﹃美﹄
﹁あー、あたしの出番ですねー﹂
﹃洪水﹄のラプシーが微笑み、公娼達を見て、
﹁どなたが相手かわかりませんけど、あたしのチームに勝てると思
わない方が、気負わずに楽ですよ﹂
1671
挑発の言葉を吐いた。
﹁それでは、本日はこれで終了。明日の昼に競技を開始する。ハル
ビヤニ、それまでは用意させた宿舎にてくつろいでくれ﹂
ジュブダイルが言い放ち、席を立つ。
﹁選手決めに、対策にあれやこれやと⋮⋮今夜は大変だなぁ﹂
笑顔のハルビヤニが席を立った時、
﹁あっ⋮⋮あぁ!﹂
映像装置を見つめていたリセが絶望の息を吐いた。
七つの裸体の中、最も体の小さな便器の前に、一体の豚魔が歩み寄
って来たからだ。
この映像装置は、音を届け無いものだった。
だからわからない。
ハイネアが泣いているのか、怒っているのか。
顔が見えない事で、それはわからない。
ただただ、肩から下を壁から生やした少女の膣口に巨大な豚魔が無
遠慮にチンポを押し付けている映像が、静かに流れているだけだっ
た。
1672
降臨祭第二週 其の二 ﹃美﹄ 前編︵前書き︶
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1673
降臨祭第二週 其の二 ﹃美﹄ 前編
ジュブダイルが用意した部屋は賓客を遇するのに充分な、豪華で広
々とした物だった。
ハルビヤニはソファーに座り、寛ぎの表情を浮かべているが、
それに反し、公娼達の放つ気配は凄まじく苛立ち、棘に満ちた物だ
った。
セナ、シャロン、フレア、リセ、ヴェナ、シュトラ、マリス、ヘミ
ネ、マリューゾワ。
ハルビヤニによって三種競技の選手に選ばれたこの九人が、室内で
額を突き合わせている。
それ以外の七人は、今もまさに︱︱
﹁リセさん、今は泣く事よりもやるべき事が有ります﹂
ヴェナは堅い声で少女へと声を掛ける。
﹁ハイネア王女を救う為にも、わたくし達は三種競技とやらで勝た
ねばなりません。その為の対策を立てましょう﹂
床で泣き崩れているリセの肩に手を乗せ、聖騎士は彼女の辛い心境
を慮った。
見渡せば、セナ達リーベルラント組は中核であるステアを失い動揺
を隠せておらず、普段は頼りになるマリューゾワもロニアを攫われ
た事で感情に波が生じていて、ミネア修道院の聡明な魔女たちは三
人とも連れて行かれている事で、冷静に会話が出来る者は今この場
には存在しなかった。
それでも、
﹁リセ、立ちなさい。ハイネア王女もシロエ殿も、アミュスや他の
皆さんも、私達で救うのです﹂
公娼達は立たねばならなかった。
ヘミネに言われ、リセが身を起こす。
1674
﹁⋮⋮はい、ヘミネ様。ヴェナ様も、ありがとうございます﹂
目元を赤く腫らしたリセの背中に、セナの手が乗る。
﹁大丈夫。絶対助けよう﹂
騎士の言葉に、侍女は無言で頷いた。
その時、
﹁さて、そろそろ説明してやろうか﹂
ハルビヤニがおもむろに声を放った。
九人の苛烈な視線が突き刺さっても、彼は小蠅程度にしか気にせず、
語る口を動かした。
﹁三種競技ってのは、さっき説明が有ったがこの大洞窟で流行って
る複合スポーツだ。美を競う物、力を競う物、速さを競う物。その
三つを合わせた物になる。一つの種目に星型のコインが六つ用意さ
れていて、全部で十八個の星をどれだけ集められたかで勝敗が決ま
る﹂
スラスラと、西域の王は語る。
﹁これがなかなかに面白くてな、俺も生前は良く見てたぜ。今は確
か十二チーム存在していた筈で、さっきの連中はその中で首位の奴
らなんだろうな。豚魔達は競技奴隷の育成、指名抽選や引退後の繁
殖奴隷化なんかも含めて、多角的な楽しみ方を見つけているらしい
ぞ﹂
﹃媚風﹄のハリアレ、﹃障壁﹄のニュマ、﹃洪水﹄のラプシーらは
選りすぐりの競技奴隷達の中でも頂点に立つ、スペシャリスト集団
なのだ。
﹁シーズン終了後、九位から最下位までの四チームは全員繁殖奴隷
に格下げ、その次の五位から八位までの四チームはメンバーをシャ
ッフルされ、最下位までを含めた八チームで分配されるって仕組み
だったかな。不足分のメンバーは競技奴隷候補から補充される。上
位の四チームには一回ずつ、一位から順に下位に対しての強制トレ
ードの権限が与えられていて、それらの駆け引きも面白いそうだ﹂
ハルビヤニは異空間から取り寄せたハンドブックに目を通しながら
1675
説明した。
﹁お、さっきのハリアレは十年目かー。十三歳からデビューらしい
が、既にベテランの域だな。ニュマは四年目だが、ここまで無敗⋮
⋮ほぅ、すげぇな。ラプシーはデビュー二年目の新鋭だが、首位を
走るチームに強行トレードで獲得された程の逸材らしいぞ﹂
ハンドブックに記載されている選手名鑑を読みながら、ハルビヤニ
はふむふむと唸っている。
その寛いだ様子を、公娼達は汚物を見る様にして眺め、
﹁そんな情報は必要では無い、聞きたいのは三種類の競技について
よ﹂
マリューゾワは怒りに満ちた声で言い放った。
それに対して苦笑を浮かべながら、
﹁ま、そうだろうな。じゃあ一つ目、明日の種目である﹃美﹄だが、
これは⋮⋮よっと﹂
室内に取り付けられていた映像装置をハルビヤニは起動させる。
そこに映し出されたのは、
﹁何これ⋮⋮﹂
﹁えっ⋮⋮オナっ⋮⋮えっ?﹂
セナとフレアが呆然とした声を漏らす。
視線の先、画面では体を弓なりに逸らした姿勢で盛大に絶頂を迎え
ている美貌の少女が映っていた。
少女の手には極太のバイブが握られ、それを自身の膣口に押し込ん
でいた。
空いた手で胸を揉みしだき、表情を蕩けさせて何度もイっている。
﹁﹃美﹄は正式名称フィギュアオナニー。自由な曲、道具、体勢で
オナニーをして、その美しさを審査員にジャッジさせて点数を競う。
十二人の審査員から最低点と最高点を除外した十個の審査点の合計
が得点になる。持ち時間は三分で、その間に一度もイケない場合は
失格になる。一位に星が三つ、二位に二つ、三位に一つ。それ以下
は無しだ﹂
1676
ハンドブックを読みながら、ハルビヤニは笑みを殺して言い放った。
その説明を聞きながら、画面を食い入る様に見つめている公娼達。
画面の中の少女はアップテンポの曲に合わせて腰を振り、尻を叩き
付けながら何度も潮を噴いている。
顔はトロトロに歪みきって、審査員に膣口を誇示している様子だっ
た。
﹁ちなみに、今映像に映っているのは今季十一位のチームの選手だ。
もう繁殖奴隷として出荷されちまったらしいな﹂
潮を噴き、トロ顔を晒し、陰唇を真っ赤に腫らして喘いでいる彼女
が、十一位。
その言葉を聞き、公娼達は顔を見合わせた。
﹁﹃洪水﹄のラプシーはこのフィギュアオナニーのスペシャリスト。
後の二人も油断ならない連中みたいだぞ? ラプシーが通年総合一
位、ダルリってのが二位、マミーラってのが四位。そいつらが明日
のお前らの相手だ﹂
あの場で前面に出て来ていたラプシーとハリアレ、ニュマは各種目
のトップ選手であり、彼女達の脇を優秀な選手で支える事で、あの
チームは優勝したのだ。
﹁⋮⋮オナニーですか⋮⋮﹂
シャロンのか細い声に、
﹁あんな⋮⋮審判だけじゃなくて観客もいっぱい居る前で⋮⋮﹂
シュトラの絶望した声が続いた。
フィギュアオナニーが行われている会場はかなりの広さを持ってい
たが、そこを覆い尽くさんばかりの豚魔達が、鼻息荒く少女の公開
自慰を見つめていた。
﹁⋮⋮誰が、出る?﹂
フレアの問いに、全員が喉を詰まらせる。
戦いに心得の有る者は多いが、自慰行為の美しさを競うなどと︱︱。
﹁あぁ待て。人選なら俺がする。俺の役割は監督だからな。采配面
で役に立って見せるぜ!﹂
1677
ハルビヤニが楽しげに言い、視線で公娼達の体を嘗め回した。
そして、
﹁シャロン。まずはお前だな﹂
金髪の騎士を、指差した。
﹁⋮⋮何故、ですか?﹂
唾をのみ込みながら問うシャロンに、
﹁だってお前、ラタークのところで歌とかやってただろ? フィギ
ュアオナニーは音楽との親和性も採点基準だから、そう言う面でお
前は経験者だ﹂
ハルビヤニはかつてシャロンが行っていた公娼活動の一つを例に出
し、そう言い放った。
﹁クッ⋮⋮﹂
反論しようにも、自分がここで拒否を示したところで、別の仲間が
恥辱の役目を背負う事になるだけと言う事を理解しているシャロン
は、口を噤んで受け入れた。
﹁そんで次、マリス﹂
﹁はれ?﹂
顔を指差し、首を傾けるマリスに、
﹁表情も大切な採点基準なんだよ。さっきのラプシーを見たろ? ずっと笑ってたぞ。他の連中の笑顔は無理している感が有るが、マ
リスになら自然に笑いながらイク事も出来るんじゃないか?﹂
ハルビヤニは滔々と説明した。
﹁んー⋮⋮いや、マリスだってイキながら自然に笑った経験なんて
無いんですけどねぇ⋮⋮まぁ、了解です﹂
渋々と言った様子で、傭兵公娼は頷いた。
続けて、
﹁最後は魔剣大公。お前の出番だ﹂
ハルビヤニはマリューゾワを下品な笑みで見つめてそう言った。
﹁⋮⋮理由を聞いてあげる﹂
絶対零度の瞳でハルビヤニを睨みつけるマリューゾワに、
1678
﹁演技に使う道具はこっちで用意できる。そこでだ、お前はお前に
しか出来ない方法でイキ狂え。他の奴らがバイブだの指だのでイっ
てる間に、お前はお前の技を使ってイクんだよ﹂
独創性を加える事で、審査員の関心を引く。
その為に、魔剣大公固有の技をもって、公開自慰に挑めと王は命じ
たのだ。
﹁⋮⋮チッ!﹂
眼球に血の線を生みながら、マリューゾワは顔を逸らした。
監督であるハルビヤニからの指示は続く。
﹁さて、それじゃあ三人は別の部屋でトレーニングだ。おい、出て
来い﹂
バチッと指を鳴らし、公娼オタクを三人召喚する。
とある趣味を共有する三人だ。
﹁ござる!﹂
﹁出番でござる?﹂
﹁うほほーい﹂
チンポ丸出しオタク達は一日ぶりの自由に喜びの声を上げる。
﹁お前達三人は⋮⋮ラターク作品の熱狂的信者だったな?﹂
ハルビヤニの問いかけに、
﹁左様でござる! ゾート作品の王道路線も良いでござるが、ラタ
ーク作品の革新スタイルは至高でござるよ!﹂
﹁拙者血を見るのが苦手でござる故、オルソー作品は少し見るのに
気後れするのでござる﹂
﹁その点、ラターク作品は歌と踊りと笑いとエロスに満ち満ちてい
て、見てるとホッコリする日常系凌辱作品なのでござる﹂
オタク感丸出しのトークを展開する男達。
﹁そうかそうか。お前らなら、この三人をどうやってラターク風に
演出する?﹂
ハルビヤニはオタクトークに割り込みながら、シャロンとマリス、
マリューゾワを指差しながら問いを放つ。
1679
﹁なるほど、同人活動でござるな?﹂
﹁拙者、一度はプロデュースをしてみたかったでござる﹂
﹁マリューゾワを拙者にお預け下され、秘策がござる﹂
自信満々な様子の三人に、ハルビヤニは苦笑を浮かべながら頷き、
シャロン達に視線を戻す。
﹁ってなわけだ。コイツらはお前達の事をお前達以上に知り尽くし
ている。フィギュアオナニーでラプシー達に勝つ為に、コイツらと
二人三脚で特訓をして来い﹂
シャロンは額を押さえ、マリスは唇をひん曲げて笑い、マリューゾ
ワは呪いを放つかのようにして睨んだ。
それでも、拒否はしない。
オナニーを演じ、その出来栄えを競う競技において、彼女達自身が
どう考え、足掻こうとも今の映像にあった少女にも叶うとは思えな
い。
それならば一時の恥を受け入れ、この公娼オタク達の知識に身を任
せ、滑稽な人形を演じる事が唯一の活路となるかも知れない。
諦め、乾いた笑いを漏らし、怒り狂いながらも、三人は受け入れた。
﹁行くぞっ!﹂
﹁ほほほーいでござる﹂
怒声を放つマリューゾワの後ろにシャロンとマリスが続き、更にそ
れに公娼オタク達がついて行った。
向かう先は客室の隣に与えられた練習部屋。
そこに籠り、明日の開始時刻までに演技内容を身に沁み込ませる。
﹁さて、暇だな⋮⋮﹂
シャロン達を見送った後、ハルビヤニはそう言ってソファーにもた
れ掛った。
﹁アレでも見るか﹂
そう言い放って魔力を操り、壁に掛けられた七つの映像装置を起動
させた。
わざわざジュブダイルに言って用意させた、七つの映像装置。
1680
﹁ハイネア様!﹂
リセの悲鳴が聞こえる。
七つ、それぞれ細部の作りが異なる便所に首から上を壁に埋め込ま
れた状態で拘束されている七つの肉便器。
絶賛使用中だ。
便所に設置されている撮影装置は音声を回収しないタイプの様で、
無音である。
それ故に、恐ろしく感じられた。
豚魔達が肉便器に変えられた仲間の腕レバーを掴み、がむしゃらに
﹃汚根魔術﹄が付与された悪臭豚チンポで膣口を抉っている光景だ
けが飛び込んで来る。
映像装置の左上には、数字が振られていた。
一から七まで。
それが示すのは階層。
ステア達が肉便器にされているのは、この無秩序に広がった地下世
界の中で、唯一区切りとされる縦の階層にそれぞれ設置されている
便所だった。
恐らく、運ぶのが面倒であっただけと言う理由から、体格の小さい
者から順に、最下層である七層に設置されていた。
肉便器達の顔は見えない。
それでも、肌の感じや胸や尻の特徴から、個人を特定する事は不可
能では無かった。
七層にはハイネア。
六層にはその次に小柄なロニア。
五層はルル。
四層ユキリス。
三層アミュス。
二層ステア。
一層シロエ。
彼女達の叫びは聞こえない。
1681
ただひたすらに、豚共がその秘肉を貪っている様子が見えるだけだ。
彼女達の肉体は、そのすぐ隣に設置されている無機質な小便器と同
じ様に、ただその場所︱︱便所の備品として静かに立ち尽くしてい
るだけだった。
入れ代わり立ち代わり、豚魔達はそのドリルチンポを膣口や肛門に
押し込み、激しく犯している。
一度引き抜けば膨大な量の黄ばんだ精液が零れ落ち、またそれを塞
ぐようにして別のチンポがあてがわれていた。
これから三日間、三種競技が終わるまでの間、彼女達はセナ達の勝
利を信じてずっとあのまま肉便器として役目を果たし続けるしかな
いのだ。
﹁あぁ、そうそう。結構好評みたいだから、お前らが負けた場合肉
便器達は永遠にあのままらしいぞ。お前達は繁殖用。アイツらは排
泄用ってか﹂
ハルビヤニは映像装置を楽しげに見つめながら、そんな言葉を吐い
た。
それを聞き、
﹁ふざけないでよ⋮⋮﹂
セナは全身から怒りのオーラを放出しながら、ハルビヤニを睨みつ
ける。
﹁クハハハ。睨むなよ。もう一つとっておきの情報を追加してやる
からさ。良いか? 豚魔の精子は他種族を孕ませる事に長けた物だ。
ほら、さっきの映像でクスタンビアがボテ腹だったろ? アイツは
この里に囚われてからまだ二ヶ月も経ってない。それなのにあっさ
り妊娠して、出産ももうすぐ。これがどういう意味かは、分かるよ
な?﹂
ハルビヤニの言葉に、全員が凍りついた。
そして視線を再び映像装置に戻す。
四番︱︱ユキリスを犯していた豚魔が射精に体を震わせている光景
が、そこには有った。
1682
もしかするとこの一発でユキリスは、あの豚魔の仔を︱︱
﹁お願いします! 助けて下さい! ハイネア様を! 皆さんを!﹂
リセはハルビヤニの足元に駆け寄ると、土下座で縋り付き慈悲を乞
うた。
﹁クハハハハ。それは無理だな。ああなった以上は便器として孕み、
豚魔の仔を生むしかない﹂
ハルビヤニは素足でリセの頭を撫でながら、
﹁ただし。お前達がキッチリこの勝負に取り組むと誓うのならば、
俺がひとつだけ約束してやろう﹂
グリグリとリセの頭を撫でる西域の王。
騎士達はそれを紅蓮の瞳で見つめながら、次の言葉を待った。
﹁堕胎。それもその事実を無かった事にするという意味での修正を
行ってやる。お前達が、この三種目全てで勝つか引き分ける事が出
来たらな﹂
総合での勝利だけでは無く、全種目で競技奴隷達に負けない事。
それが突き付けられたボーナス条件だった。
﹁出来るの⋮⋮? そんな事﹂
セナが夜叉を思わせる顔でハルビヤニを見据えていると、
﹁あぁ。何たって俺はこの西域の王だ。この地で俺に出来無い事な
んて無い﹂
自信満々にそう言って、足先をリセの口元に運んだ。
そして、親指の先でリセの唇を突く。
その意図を、リセは正しく理解した。
﹁お願いします⋮⋮お願いします⋮⋮はむっ﹂
指の一本一本を舐めしゃぶるように、リセは舌を這わせて行く。
﹁誓約の魔女はここには居ません。それでも、貴方の約束を信じろ
と言うのですか﹂
ヘミネが腕を組んで問うと、
﹁別に約束は信じてくれなくても良いぜ。その結果がどうなろうと、
俺の知った事じゃない。ただし、俺の力は本物だ。俺に掛かれば、
1683
堕胎の事実を根源から消す事が出来る。それだけは本当だ。なんな
ら試してみるか? お前達が今から豚魔と種付セックスをして、俺
が消してやるよ。クハハハハ﹂
ハルビヤニは傲然と笑い、リセの口内に深く足を突き入れた。
翌朝を迎える。
肉便器映像を見てムラムラ来たと言い始めたハルビヤニの夜伽を、
セナ達六人は務めさせられ、到着初日は終了した。
朝を迎え、沈んだ表情でリセとセナが食事を用意している間、それ
以外の四人、フレア、ヘミネ、シュトラ、ヴェナは浴室へと連れて
行かれ、体を使って入浴の補助をさせられている。
﹁シャロンさん達、戻って来ませんでしたね⋮⋮﹂
﹁そうね⋮⋮﹂
フライパンを操るリセと、皿に盛りつけをするセナ。
﹁勝つ為よ⋮⋮﹂
ポテトサラダを掬いながら、セナは呟いた。
﹁騎士長達を助ける為に、ゼオムントに勝つ為に⋮⋮シャロン達は
屈辱を受け入れてる⋮⋮﹂
セナとリセの眼前、映像装置は昨日点けた時から消えずに七つの肉
便器を映し続けている。
二層のステアの尻には、セナ達では読む事の出来ない西域の言語で
落書きがされていて、公衆便所さながらの様相だった。
﹁必ず、必ず勝ちましょう⋮⋮!﹂
七層ハイネアは今まさに新たな精液を子宮に注がれたところで、細
かく痙攣している。
既に両足は踏ん張りが効かない様子で、豚魔達に腰を持ち上げられ、
オナホの様にズボズボと利用されていた。
ルルも、ユキリスも、アミュスも、ロニアも、シロエも似たり寄っ
たりの状況だ。
1684
設置されてから今まで、ひと時も休む事無く犯され、注がれ、打た
れ、汚されている。
﹁一刻も⋮⋮早く⋮⋮っ!﹂
セナが唇を噛んだ瞬間。
﹁あーさっぱりした。さて飯飯﹂
全裸のフレア達を引き連れ、ハルビヤニが浴室から姿を現した。
﹁シャロン!﹂
﹁大丈夫か?﹂
朝食兼昼食が終わってすぐ、部屋にシャロンとマリス、マリューゾ
ワが戻って来た。
セナとフレアは同僚に駆け寄り、その肩を抱く。
﹁えぇ⋮⋮﹂
生気を失った瞳でシャロンは頷き、
﹁問題、有りません⋮⋮﹂
か細い声で応えた。
その隣ではマリスがヘミネに声を掛けられ、マリューゾワは腕を組
んで何者からの声かけも拒む気配を放っていた。
﹁どうだ?﹂
後に続いて入って来た公娼オタク達にハルビヤニが問う。
﹁完璧でござる﹂
﹁拙者達の計画通りに行けば、必ずやこの種目はこちらの勝ちでご
ざる﹂
﹁むふー。マリューゾワ、もう一度拙者の事をコーチと呼ぶでござ
る。濃厚なセックスで師弟関係を深めるでござる﹂
演技指導を果たしたオタク達は胸を張りながら、気持ち悪い笑みを
浮かべている。
その顔に浮かんだ自信と、シャロン達の絶望の色こそが、勝利への
希望。
1685
﹁おっし、じゃあ着替えて会場入りすっか!﹂
ハルビヤニは席を立ち、そう言って動き始めた。
公娼達は昨日と同じく乳出しビスチェと前貼り。
ハルビヤニと三人の公娼オタク達は礼服に袖を通し、大洞窟内の街
路を歩いて行き、
途方も無く巨大なドーム状の建物へと至った。
﹁ここだな⋮⋮。迎えとか案内とか寄越せよなぁあのブーちゃん﹂
愚痴るハルビヤニに続き、セナ達も建物へと入っていく。
その途中。
﹁チケットは完売です!﹂
﹁ニシビラ・ビランコスタ対ハルビヤニ選別のエキシビジョンのチ
ケットはもう有りません!﹂
怒声が聞こえて来た。
そちらに視線を送ると、大量の豚魔がドームの別の入り口に押し寄
せ、係員が叫びながら押し返している様子が見て取れた。
﹁ビランコスタってのが、ハリアレ達のチームの名称な。三季連続
首位、十季連続四位以上の強豪だ﹂
ハルビヤニがそう説明しながら、建物の内側で立ち止まり。
﹁さて、選手と応援は別だ。あと俺も貴賓席に行くから、ここで別
行動だな﹂
行き交う会場スタッフの豚魔達の視線を浴びながら、公娼達は視線
を交わす。
﹁コーチ連中は選手のケアと最終調整に同行しろ﹂
﹁ござるっ!﹂
公娼オタク達の応えを聞き、ハルビヤニは笑う。
﹁おい、そこの豚魔! 止まれ﹂
﹁ぶ、ぶひぃ!﹂
汚根魔術の行使者であるハルビヤニに恨みは有れど、西域の王の恐
ろしさを知る豚魔達はその声に慄き、立ち止まった。
﹁コイツらを応援席にまで連れて行け﹂
1686
﹁は、はいぃぃ﹂
セナ達を指差し、案内役の豚魔に押し付ける。
顔を青褪めさせた豚魔だったが、目の前に並び立つ美女達の剥き出
しの乳房を見て、視線を鋭くした。
﹁うへ、へへ⋮⋮こっちだ。付いて来いよ、お前達はどうせビラン
コスタには勝てない。勝負の後は、しっかりと俺の子種を着床させ
てやるからな﹂
下品な笑みを浮かべて言う豚魔。
それを聞き、ヴェナは目を眇めた。
﹁⋮⋮ハルビヤニ、もしや⋮⋮﹂
﹁あぁ、周知は完了しているらしいぞ。この三種競技の結果がどう
なるかってのはな。ついでに発行された広告にはどの便所に誰が設
置されているかも顔つきで載せられているらしいから、今も大人気
で行列が途切れないみたいだぜ?﹂
その言葉を聞き、公娼達は瞳に怒りを浮かべる。
﹁ま、勝てば良いんだよ勝てば。それが、俺にとってもお前達にと
っても利益になるんだ﹂
しかし西域の王は軽く応じ、歩き始めた。
﹁健闘を祈るぞ、シャロン、マリス、マリューゾワ﹂
出場選手達の名を呼びながら、貴賓席へと向かって行った。
会場は長方形に広がる巨大な白いリンクを囲む様に設置され、リン
クの北側に審査員席、東にセナ達ハルビヤニ側の応援席、南にハル
ビヤニとジュブダイルの貴賓席、西にビランコスタ側の応援席が有
り、更にそれを囲む様にして一般の観客席が用意されていた。
セナ達が応援席に座ると、リンクを挟んだ向かいにハリアレの馬鹿
にした笑みと、眠っているニュマ、そしてその後ろで無機質な表情
を浮かべている美女達の姿が見て取れた。
右手側には厳しい表情の十二体の豚魔がかっちりとした服を着こみ、
1687
座っている。
左手側ではハルビヤニが笑顔でジュブダイルの脳天を叩き、激昂し
たジュブダイルが殴り返している様子が見て取れた。
﹁すぅあああああああああ! それではいよいよ開始したいと思い
ます!﹂
突如すぐ後ろから大声が上がり、セナは身を捻って反応する。
﹁誰っ!﹂
細身の豚魔が、音声拡散装置を手にセナ達の後ろで叫びを上げてい
たのだ。
﹁司会はワタクシ! 三種競技専属司会者! 毎度おなじみブルッ
テンでお送り致しますのでよろしくぅぅぅぅ﹂
ブルッテンと名乗った豚魔は大声を上げると、観客達は波濤の様に
歓声で応えた。
﹁今季も圧倒的なチーム力でぶっちぎったビランコスタに! 何と
何とあのハルビヤニ様が! 選抜チームを率いての殴り込みだぁぁ
ぁ﹂
セナ達を無視し、観客を煽るブルッテン。
﹁即席のチームでビランコスタに勝てるわけねーだろ! っという
ツッコミは大変ごもっとも! まぁでも? ビランコスタがいつも
通りに勝ってくれれば、新しい繁殖奴隷が九個も貰えるんだぜぇぇ
ぇ。ついでに、前払いで肉便器も貰って有る! 肉便器の設置場所
について詳しくは会場内のポスターで確認してくれよな!﹂
その叫びに、観客達は一層盛り上がっている。
﹁ビランコスタが万が一負けたら⋮⋮ハリアレとぉ? ニュマとぉ
ぉ? ラプシーが持って行かれちまうよぉぉぉぉ。皆! 応援して
くれよぉぉぉ! ラプシーの演技! ニュマの戦い、ハリアレの疾
走! お前ら大好きだもんなあああああああ!﹂
﹁ハッリアレ!﹂
﹁ニューマッ!﹂
﹁ラップシー!﹂
1688
怒号の様な声援が飛び、三人のスター選手を讃える。
﹁今日は第一競技! ﹃美﹄を競うフィギュアオナニーの時間だあ
あああああ。それではぁぁぁ選手! にゅうじょぉぉぉぉう!﹂
ブルッテンの声と共に、リンクと会場を仕切る壁の一部が外され、
そこから六人が中へ入って来た。
ビランコスタ側は緑と黒の衣装を身に纏う、﹃洪水﹄のラプシーと
後二人。
公娼側は赤と白の衣装を着た、シャロン、マリス、マリューゾワ。
両陣営共に肌を覆い隠すのは最低限。
乳房を持ち上げ、股間を強調するユニフォームで、両陣営が向かい
合う。
﹃洪水﹄のラプシーの笑顔に対し、公娼達の表情は硬い。
﹁さーて、ではでは運命を左右するコイントスから始めようかー!。
裏表を的中させた陣営に先攻後攻を選ぶ権利が与えられるぞぉぉぉ
ぉ﹂
ブルッテンが声を張り上げると、一人の豚魔がリンク内に入って行
き、盆に載せたコインを一枚、ラプシーへと差し出した。
それを受け取りながら、フィギュアオナニーの王者は微笑む。
﹁先に決めさせてあげる。裏? 表?﹂
その問いかけに、
﹁⋮⋮表で﹂
シャロンが真剣な瞳で応じた。
﹁このコイントス、確実に勝っておきたいですね﹂
セナの近くで、シュトラが呟く。
﹁うん⋮⋮﹂
経験の浅いシャロン達にとって見れば、生で上級者の演技を見て、
少しでもこの競技に対する突破口を見つけておきたいはずだ。
セナは同僚達の心の内を代弁し、頷いた。
﹁はいっと﹂
ラプシーはコインを打ち上げ、その軌道を読む。
1689
フィギュアオナニーにおいて先攻後攻では間違いなく、後攻が有利
になる。
審判の記憶に残り易く、また逆は忘れられ易い。
このコイントスで望んだ面を出す事も、女王たるラプシーの技能の
一つだった。
空中にあるコインが裏面を上にしている事を確認し、素早く右手を
伸ばしてキャッチして、左の手首に押し付ける。
﹁さてさて、どっちかなーっと﹂
答えのわかりきった事を呟きながら、押し付けた右の掌を退かし、
コインの結果を示す。
﹁なっ⋮⋮﹂
﹁やった!﹂
ラプシーの驚愕した声と、マリスの能天気な声。
コインが示していたのは表、シャロン達の勝利だった。
﹁⋮⋮﹂
﹁幸運が、私達に味方したな﹂
ラプシーの技術を上回ったものは、マリューゾワ達に付与された﹃
幸運﹄。
ルルが昨日、別れ際に残してくれた武器。
﹁幸運の魔女の力、流石ですね。私達は後攻を選びます!﹂
シャロンの宣言を受け、ラプシーの笑顔に一瞬翳りが生まれたが、
﹁は、はーい。わかりました。まぁこのくらいのハンデは必要です
よね﹂
弱冠十六歳のオナニー女王は笑顔で頷き、チームメイトに顔を向け
た。
﹁マミーラ先輩。一番手をお願いしますね﹂
﹁わかった﹂
ラプシーに声を掛けられたマミーラは、長い琥珀色の髪の背中に垂
らしている長身の美女。
豊満な乳房に、ツンと上を向いた尻。
1690
年齢はヴェナと同程度に見えた。
﹁マミーラは十八歳でデビューして、今日まで九年間、タイトルの
獲得経験は無いでござるが、常に一線で戦い続けて来たプロでござ
る﹂
いつの間にか現れたコーチ役の公娼オタク達がセナの隣で解説を始
める。
彼はハンドブックと共に西域文字に関する辞書を持ち、そこに大量
の付箋を貼りつけて熟読していた。
﹁⋮⋮まぁ良いわ。続けて﹂
﹁異名は⋮⋮﹃奇術師﹄!﹂
ラプシー達とシャロン達は隅へ移動し、リンクの上にはマミーラ一
人きりの状況になっていた。
リンクの中央に立つ艶やかな女性は両手を広げたポーズを取り、固
まって居る。
﹁⋮⋮何?﹂
﹁始まるでござるぞ!﹂
セナが呟き、公娼オタクが吠える。
﹁それではぁぁぁぁ先攻一番手、﹃マジシャン﹄マミーラぁぁぁぁ
ぁ!﹂
司会進行役のブルッテンのシャウトが響く。
その瞬間、会場内を爆音が包み込んだ。
弦をかき鳴らし、打楽器を打ち鳴らす音が響く。
ハードな音楽だった。
それに合わせ、マミーラは暴れはじめた。
﹁え? えぇ?﹂
困惑するセナ。
それも仕方の無い事だった。
マミーラは自分の衣装を引き千切ると、丸めて全て己の肛門に押し
込み始めたのだ。
露出が多かったとは言え、大人が着こむジャケットにビキニパンツ、
1691
そして丸めたニーソックスまでを肛門に押し込み、その圧迫感に口
をパクパクさせている。
やがて全ての端切れを肛門内に押し込み終えると、
﹁来るでござるぞ! マミーラの奥義が⋮⋮!﹂
ハンドブックを握りしめるオタクの額に汗が浮かぶ。
スルスル︱︱
マミーラは己の菊門に指を突き入れ、中から今入れたばかりの布を
取り出し始めた。
﹁は? えぇぇぇぇ?﹂
驚愕するセナの視線の先、マミーラの肛門から引き摺り出されて来
たものは、
七色の下着達だった。
赤から始まり青、黄色、緑、ピンク、オレンジ、白、黒。
サイドの紐同士を結びあったパンツのアーチが、その肛門から引き
摺り出されてくる。
﹁この技の原理は誰にもわからず、あのパンツ類は最初から仕込ん
で有ったものなのか、それならば後で詰め込んだ端切れがどうして
出て来ないのか⋮⋮マミーラが頑なに口を閉ざしている事で、その
謎を知る者はどこにも居ないとされているでござる!﹂
オタクの解説にも熱が入る。
マミーラは生み出した下着を一枚頭に乗せ、穴開きの物ならばその
豊満な乳房に着け、ゆっくりとオナニーを始めた。
手にパンツを嵌め、その繊維を使って陰核を擦り、膣壁を拭いなが
ら、顔を赤らめていた。
﹁審査員に向けて⋮⋮撮影装置に向けて⋮⋮あんなにじっくり、丁
寧に⋮⋮﹂
セナが声を震わせる横で、
﹁拙者、あれほど上品なオナニーを見た事はないでござる⋮⋮﹂
オタクは感動の涙を流していた。
﹁バイブに頼るオナニーも嫌いではござらぬが、やはり正真正銘、
1692
元祖たるはその指で自らを慰めてこその自慰。う、美しい⋮⋮﹂
うっとりとした声をオタクが放った瞬間、
﹁あんんっ!﹂
マミーラの体が跳ねた。
潮がプシュっと一筋飛び散り、彼女が絶頂に至った事を証明してい
た。
﹁マミーラが﹃奇術師﹄と呼ばれ、尚且つ優れたオナニーテクニッ
クを有するにも関わらずスターになれなかった理由は、あの潮吹き
スキルの無さでござる。セナでもあれ以上にジョボジョボとやれる
でござるよね?﹂
親しげに問い掛けて来るオタクに殺意の視線を向けた時、
﹁あ、終わる⋮⋮﹂
ハードな音楽が終わり、代わりにブザーが鳴ってマミーラの演技時
間が終了した。
そうして、一分間の審査の後、
結果が発表される。
九、十、九、七、七、五、五、五、十、九、八、五。
最高点と最低点が一つずつ除外される事から、マミーラの点数は七
十四点となった。
マミーラの演技が終わり、軽くリンク内の掃除がなされた後、続い
ては後攻の一番手の出番となった。
リンクの上に立つのはシャロン。
彼女は手に何か筒状の物を握りながら、そこに静かに立っていた。
﹁後攻一番手は、リ、リーベ⋮⋮どっかの騎士シャロン!﹂
適当極まりないブルッテンの紹介にセナとフレアがいら立ちを表す
が、誰一人としてそれを気にかけようとはしない。
リンクの上、シャロンは静かに筒状の物︱︱音声拡散装置を口元に
運ぶ。
1693
﹁私の歌⋮⋮聞いて下さい﹂
そしてその囁きと共に、アップテンポの曲が流れ始め、シャロンは
音楽に合わせてリンクの上で踊り始めた。
﹁キタァァァァでござる! オイ! オイ! オイオイオイ!﹂
セナの隣で公娼オタクが狂ったように踊り始めた。
﹁シャロン⋮⋮﹂
セナは友の心中を思い、唇を噛んだ。
ゼオムントで公娼をしていた時、シャロンはセナやフレアよりも人
気が集まり、三人を管理していた商人組合の看板公娼となっていた。
彼女の人気を高めた物の一つが、今リンクの上でやっている事。
歌唱。
調教師達は映像の生放送という仕組みを生み出して以降、知名度の
ある公娼達を使って番組作りを行っていた。
アリスレイン、マリューゾワ、ヘスティア、アルヴァレンシア、ヴ
ェナルローゼ、ルル等人気を博した公娼達と共に、シャロンも無理
矢理それに参加させられていた。
シャロンが担った役割は、歌と踊り。
朝一番で撮影所に入り、生で淫語ソングを歌わされて、時には大き
な会場でファンを集めてのイベントを行っていた。
イベントごとにセナとステアは歌で身動きの取れないシャロンの代
わりに肉穴係りになっていて、そこで彼女の歌を何度か聞いていた。
澄んだ歌声で紡がれる、身の毛がよだつ歌詞。
﹁﹃大好っき♪ チンポ好っき♪ 恋する子宮にクサいの頂戴♪﹄﹂
リンク上を軽やかに舞うシャロンは笑顔を浮かべているように見え
る。
しかしその表情はこの演技の為、ステア達を助け出す為に無理矢理
作っている物だ。
﹁﹃もっと素直にフェラさせてって、言えたら良いのに♪ 馬鹿な
ワタシ♪﹄﹂
シャロンは歌い、観客はその歌声に耳を傾けている。
1694
﹁フゥフゥ! オイッ! オイオイオイ! 何だよキミィ! ノリ
が悪いでござるぞ!﹂
オタクは隣でセナの尻を叩いてくる。
審査員はジッと、シャロンの姿に視線を注いでいる。
﹁マズイわ、もう時間が、シャロン!﹂
ルール説明の中に、時間内に一度もイケなかった場合は失格。
そう有ったはずだ。
セナの声が聞こえていたわけでは無いだろうが、
﹁﹃キミのチンカスの味を覚えたあの日から、ワタシはずっとに・
く・べ・ん・き♪﹄﹂
歌い終えたシャロンは床に体を投げ出し、筒状の音声拡散装置をそ
の膣口に突きこんだ。
グチュグチュと荒く掻き回し、快感を無理矢理引き出そうとしてい
る。
﹁あへっ⋮⋮﹂
ブザーが鳴るのと同時に、シャロンの膣口から小便混じりの愛液が
迸り、どうにか失格は免れた。
そして放心状態のシャロンを放置し、採点が始まる。
審査員が出した結果は、
六、九、九、六、六、四、三、六、八、六、九、七。
﹁そんなっ!﹂
セナはリンクと応援席を隔てる柵に身を乗り出し、叫んだ。
﹁んーむ⋮⋮些か最後が駆け足過ぎたでござるからなぁ⋮⋮。拙者
達のプランでは歌ってる間にシャロンはもう少しビチョビチョにな
る予定だったのでござるが⋮⋮歌への感情移入が足りなかった、そ
れがシャロンの敗因でござるかねぇ﹂
後攻一番手、シャロンの得点は六十七点。
先攻二番手、日焼けした肌の少女、ダルリがリンクに立つ。
1695
﹁むほほ、ダルリちゃんカワユス。拙者のチンポはギンギンでござ
る。セナちょっとマンコこっち向けろでござる﹂
﹁死ね﹂
シャロンの敗戦からのショックが抜け切れないセナはオタクをぞん
ざいに扱う。
﹁おうふっ⋮⋮。まぁ気を取り直して解説を続けるでござる。ダル
リは今季の二位で十七歳。昨季六位チームのエースで、引き抜かれ
た結果今季からビランコスタの選手になった様でござる。異名は︱
︱﹂
ダルリの体の横には、小柄な彼女の肩に届く高さの、中型の酒樽が
置かれていた。
﹁﹃鯨飲﹄﹂
﹁さーてそれでは! ダルリの出番だぁぁぁぁ皆! 手拍子の準備
はオーケーかあああああい?﹂
ブルッテンの叫びの後、音楽が鳴り始める。
それはどこか牧歌的な歌で、酒場などで適当に盛り上がる時に使用
するような曲だった。
ダルリは手にした木製のジョッキを酒樽に突っ込み、そこから中身
を掬い出し、背中を反らして喉へと流し込んだ。
﹁は⋮⋮?﹂
オナニーの美しさを競う演技の筈なのに、彼女が取った行動は一気
飲み。
セナは不思議に思いダルリの顔を良く見つめると、
﹁まさか!﹂
その口の端から零れる白濁に気づいた。
﹁そう、ダルリはこの三分しかない演技時間であの酒樽一杯に集め
られた精液を飲み尽くす事が出来るのでござる!﹂
鯨飲︱︱とはよく言ったもので、ダルリはペースを落す事無く大ジ
ョッキを酒樽に突っ込み続け、その回数分だけ精液を胃に流し込み
続ける。
1696
汚根魔術によって強化された悪臭を放っている筈のそれを、満開の
笑顔でグイグイと飲み干して行くのだ。
観客達はダルリがジョッキを傾ける度に手拍子を与え、会場内に一
体感が沸く。
明らかに消化しきれていない精液が、彼女のつるっとしたお腹を膨
れさせて行くのがわかった。
﹁で、でもこれはオナニーじゃ⋮⋮﹂
﹁見るでござる! ダルリのオマンコを!﹂
セナの震える声に、ハンドブックを握ったオタクの鋭い返事が重な
った。
﹁えっ⋮⋮そんな!﹂
ダルリはパンツすら脱いでいない。
それなのに、彼女の下着からは湯気の立つ愛液が迸り、足元に水溜
りを作っていた。
﹁ダルリは喉で精液を味わうとそれを快楽に変換し、絶頂を味わう
事が出来るのでござる! 飲んだ分だけ出す、精液の分だけ愛液を
出す。バイブも指も必要無い、あれがダルリのオナニーなのでござ
る!﹂
ダルリは酒樽を空にすると、唇を拭い、あどけなく微笑んだ。
﹁みんなーっ! 美味しかったよー﹂
ウワアアアアアアアアアアッ! と会場から雄叫びが上がる。
﹁ダルリの為に、美味しい精液をたくさんたくさんくれてありがと
うねー﹂
酒樽の中の精液は、全て本日来場した観客から搾取した物。
﹁お礼にぃ! ダルリのおマンコ⋮⋮どうぞ?﹂
そう言って、ようやくダルリは自身の下着に手を掛け、剥ぎ取った。
またも会場から怒号の様な歓声が上がる。
﹁ほーら。みんなの精液が美味しいから、おマンコぐちょぐちょー﹂
自らの指でぱっくりと広げ、審査員に、そして観客に膣内を見せつ
ける。
1697
﹁あ、ちょっとだけ残ってた。みんなの精液﹂
大ジョッキの底に淀んで溜まった精液が、量にして一人分ほど残っ
ていた。
﹁んふふー。これは、こっちのお口で味わっちゃおうかなぁ﹂
尻を高く持ち上げ、大ジョッキを股間に宛がい、傾ける。
黄ばんだ汚濁が、ゆっくりとダルリの膣内へと入って行き、
﹁んっ! またイッちゃうぅぅぅぅぅ!﹂
飲み残しの精液を膣口で味わい、ダルリはそれを吹き飛ばす様に激
しく潮を噴いた。
その瞬間、ブザーが鳴ったのだが、その音は観客達の歓声に掻き消
され、大部分の者達の耳には届かなかった。
寝転がった状態で、肩で息をするダルリ。
その彼女を見下ろしながら下された採点は、
十、九、九、七、七、七、九、七、七、九、八、七。
七十九点、暫定首位。
﹁ごめんなさい⋮⋮ごめんなさい﹂
演技終了後、ドーピング検査を受けて戻って来たシャロンが泣き崩
れ、それを支えながらセナは視線をリンクへと向けた。
﹁マリス⋮⋮お願い!﹂
現時点での順位は、一位ダルリ、二位マミーラ、三位シャロン。
ラプシーが評判通りならダルリより上に来る事は間違い無く、最低
でもマミーラの七十四点を越えなければ、セナ達がこの種目で星型
コインを得る事は出来なくなってしまう。
その上、肉便器にされているステア達の妊娠を回避修正する為にも、
ハルビヤニの出したボーナス条件は何としてもクリアしたい。
勝ちか引き分け。
そうするとマリスかマリューゾワに首位になってもらうか、それが
出来ない場合は二人揃って星型コイン獲得圏内の三位までに入って
1698
もらう必要がある。
視線の先、リンクの上でマリスが静かに立っている。
フィギュアオナニーは折り返し地点を迎え、後攻二番手の演技が始
まろうとしていた。
1699
降臨祭第二週 其の三 ﹃美﹄ 後編︵前書き︶
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1700
降臨祭第二週 其の三 ﹃美﹄ 後編
司会の男が何かをがなり立てているのを背中で聞きながら、マリス
は息を吐いた。
荘厳な音楽が鳴り始め、いよいよ演技の時間が到来する。
﹁ごめんね、ラグちゃん。ホントはこういうの、ダメだと思うんだ
けど﹂
口にするのは、贖罪の言葉。
それと共に、マリスの姿は変化していく。
魔天使ラグラジルから眷属化の証に授かった魔力を操作し、背中に
集める。
そこに、翼を生む為。
﹁おぉぉぉぉぉぉぉっ!﹂
観客達がどよめいているのがわかる。
マリスは今両翼で羽ばたき、リンクを飛び立ち、誰にも触れられぬ
高みへ至った。
空中で、身に纏う衣装を脱ぎ捨てて行く。
扇情感を煽る為、わざわざ観客席にそれらを落とし、自分の下着へ
と群がって行く観客達を見下ろしてから。
マリスは演技を始める。
題目は﹃天使の自慰﹄
人間としてのオナニーでラプシー達に敵わないのならば、天使の姿
を借りて箔をつける。
その行為はラグラジル達天使に対しても、そしてマリスの仲間であ
る人間達に対しても、冒涜に近い行為である事を知りながら。
マリスは天使を想像させる重たく響く音楽に乗せ、自らの陰唇に爪
を触れさせた。
1701
﹁凄い⋮⋮﹂
セナは感嘆する。
会場の天井近くにまで舞い上がったマリスが、空中を優雅に流れる
様にして淫靡に喘いでいる。
二本の翼を揺らめかせ、股間と口から滴を零しながら、天使の姿で
悶えていた。
﹁あの翼は⋮⋮!﹂
フレアが声を張る。
﹁そうです、以前フレアがラグラジルから一時的に魔力を付与され
た時に使った技です⋮⋮﹂
マリスの特訓を見てきたシャロンは、複雑な面持ちで応えた。
﹁んー。マリスはかなりの美形で愛嬌も有るでござるが、それだけ
では勝負に勝てないでござる。それ故他との差別化を図るついでに、
西域における支配層、天使人気を利用する形で、この様な演出を用
意したのでござるよ﹂
公娼オタクが胸を反らして言う。
事実、豚魔達は崇拝に近い視線で上空のマリスを見上げ、彼女から
零れ落ちる滴を争い合って求めていた。
暴虐の王たるハルビヤニは嫌っていても、その娘達、天使三姉妹に
対しては恋慕に近い感情を抱くのが、西域の魔者達だ。
マリスは蕩ける様な笑みを浮かべ、会場に愛液と唾液を振りまいて
行く。
その光景を対岸の応援席、ビランコスタ側のハリアレ達は忌々しそ
うに見ていた。
演技として、滑稽さとして、余興として、マリスはマミーラやダル
リには及んでいないのかも知れない。
しかしそれでも、豚魔という地を這う種族に、天使の痴態を見せつ
ける事で圧倒的なまでの注目を集めてみせた。
審査員達もまた、天使に化けたマリスを熱い視線で追っている。
1702
ブザーが鳴り響くその一瞬まで、豚魔達はただひたすら頭上の天使
を仰いでいた。
リンクへと戻ったマリスに向けて放たれる万雷の拍手。
審査結果は、
十、十、九、二、八、十、九、九、四、十、六、九。
八十四点。
天使マリスはここで、公娼達の希望を繋ぐ暫定一位へと躍り出た。
マリスの演技が終わり、会場内はどよめいている。
ビランコスタの二番手ダルリが見ず知らずの選手に敗北したのだ。
当のダルリは応援席でチーム関係者と思しき豚魔に折檻を受け、泣
いている。
その隣ではほぼ間違いなく三位以下が確定したマミーラを囲む、人
垣︱︱いや豚垣が出来ていた。
有志による懲罰行為。
あの豚垣の内側で、マミーラがどの様な目に遭っているのか、ニュ
マがジッと痛ましい視線を向けている事で察する事が出来た。
﹁羨ましいでござる。拙者も向こうに混ざりたいでござる!﹂
公娼オタクが興奮しているのを忌々しげに見つめてから、セナはリ
ンクへと視線を移す。
そこに、金髪の美少女が立っていた。
薄絹を全身に巻き付けた、淫らな姿。
﹃洪水﹄のラプシー。
その演技が、
﹁さぁぁぁて! 予期せぬ事態にはなってしまったがぁぁぁ。本命
のド本命! ラプシーの演技で流れは変わる! 頼むぜぇぇぇ俺ら
の! オナニープリンセス!﹂
始まる。
鍵盤音楽に乗せ、ラプシーは踊り始めた。
1703
その肌から、透明な滴が舞い散るのが見て取れた。
﹁汗⋮⋮?﹂
﹁全身から⋮⋮﹂
セナとシャロンはリンク内を凝視し、飛び散る液体に注目した。
腕、脇、首、谷間、股間。
どの場所からもキラキラと液体が飛び散り、光に反射してラプシー
の踊りを輝かせる。
﹁ラプシーの能力は⋮⋮体液操作でござる﹂
ハンドブックを片手に、公娼オタクがキメ顔で言った。
﹁全身のどの場所からも任意に汗を掻く事が出来、その塩分、糖度
までをも操り、尚且つその汗には強力な催淫作用が含まれているの
でござる﹂
汗の飛沫を受けた最前列の観客達は、うっとりとした表情で固まっ
て居る。
﹁じゃあ何? その汗で審査員を操って高得点を付けさせるってわ
け?﹂
セナの吐き捨てる声に、
﹁否でござる。汗はあくまで前座、ラプシー自身が高みへと至る為
の物でござる。んんっー! 拙者にも汗を頂戴でござるー﹂
公娼オタクは金魚の様に口をパクパクさせながら、リンク上を踊り
まわるラプシーに叫んだ。
ラプシーは妖艶に笑みながら、観客席へと汗を振りまき、自分の奴
隷を作り上げていく。
演技をするラプシー自身が、肌から生まれた催淫汗により昂揚を続
け、操られた観客の叫びに応え、身を横たえた。
首ブリッジの姿勢を取り、陰部を審査員席へと向け、その場所へゆ
っくりと指を這わせた。
クチュクチュ︱︱と淫靡な音が響く。
ラプシーの蜜壺は濡れそぼり、雄ならば誰しもが、彼女のその場所
を蹂躙したくなるような光景だった。
1704
溢れ出る愛液を掬い、体中に塗りたくりながら、何度も何度も、雄
達のチンポを模するかのように、指を蜜穴に突き入れる。
ラプシーのオナニーはマミーラのそれよりも遥かに洗練され、公娼
達の目からしてもすぐに達さない事が不思議であるほどだった。
随分と長い時間を、その自慰行為に費やした。
会場内にはラプシーから生み出される汗による、催淫の霧が渦巻い
ていた。
そして、
﹁く、来るでござるぞ! ラプシーの必殺技が!﹂
昂奮しきった上擦り声で、公娼オタクは吠える。
その視線の先、ラプシーの全身が痙攣し、絶頂の予兆を示した。
﹁食らいなさい⋮⋮私の﹃洪水﹄、ハイドロビーム!﹂
その声と共に、ラプシーの膣口から高圧の水線が迸り、一直線に審
査員達の顔へと襲い掛かった。
﹁は⋮⋮?﹂
並んで座る十二人の審査員達の顔へと掃射されたその水の線を、セ
ナは眉を顰めて見守った。
﹁ラプシーは自らを催淫汗で昂め、至極のオナテクで絶頂を迎える
準備をした後、時間ギリギリまでそれを堪え、最後の最後に必殺技、
超高圧の愛液水線﹃ハイドロビーム﹄を撃つのでござる。ラプシー
の愛液と小便は汗とは比べものにならない程の催淫成分の塊。それ
の直撃を食らった審査員達は皆︱︱﹂
ブザーと共に審査が始まり、
十、十、十、十、十、十、十、十、九、八、九、八。
右手側の審査員から順の掃射であり、左側に進む分だけその水圧が
衰えていた事が点数にも影響していた。
それでも、
﹃洪水﹄のラプシー、九十六点。
1705
現在の順位は、
一位ラプシー、九十六点。
二位マリス、八十四点。
三位ダルリ、七十九点。
残るは一人。
公娼達の希望を背負うのは、
魔剣大公マリューゾワ。
総合勝利に関わる星型コインを得て、尚且つハルビヤニのボーナス
条件をクリアする為には、最低でも三位ダルリに勝つ八十点が必要
とされた。
圧倒的な数値を叩き出したラプシーに追いつく事は、不可能に近い。
マリスとマリューゾワで二位と三位を勝ち取り、一位のラプシーが
得るコイン三枚と引き分けねばならない。
魔剣大公マリューゾワは、一本のレイピアを手にした状態でリンク
の上に仁王立ちしている。
衣装は黒のジャケット姿で、これまでの選手達よりも随分と露出が
少ない。
瞳を閉じ、これから自分が行う恥辱を想像し、全身から怒りのオー
ラを放つ。
それでも、囚われた仲間の為。
遠い故郷の為。
大切な従妹の為。
覚悟を決め、受け入れた。
﹁さぁてラプシーの演技の後で悪いけどなぁぁぁ、オチつけちゃっ
てくれやあああああああ﹂
司会の男の吠える声を無視し、
魔剣大公はその名の証を振り抜いた。
レイピアに魔力を灯し、﹃魔剣﹄を行使する。
途端、控室へと続く通路から、空気を斬り裂き剣の群が飛来した。
マリューゾワの導きに従い、魔剣は彼女へと猛進する。
1706
そして黒のジャケットをズタズタに引き裂き、持ち主を裸に剥く。
マリューゾワが一糸まとわぬ体になったその瞬間、音楽が鳴り始め
た。
﹃ズボチュパ、始まるよ∼♪﹄
セナにとっては耳慣れぬ声。
﹁ヌホホホ、ズボチュパの時間でござる! 日曜朝から股間に精子
チャージでござる!﹂
公娼オタクはひどく興奮していた。
マリューゾワの従妹、アルヴァレンシアが主演として繰り返し汚さ
れた作品。
﹃魔法少女ズボチュパ﹄の前期テーマソング。
それが魔剣大公に与えられた演技用の音楽だった。
﹃ズ∼ボズボに♪ チュ∼パチュパで♪﹄
アルヴァレンシアの甘い声に導かれながら、マリューゾワは魔剣を
操る。
衣服を引き裂くデモンストレーションに使った魔剣はリンクの上に
突き刺し、新たな魔剣を召喚する。
その切っ先には、極太ディルドが装着されていた。
﹁えっ?﹂
﹁ふふふふん。驚いたでござるか? 昨晩拙者達がマリューゾワの
為に工作したのでござる! あのディルドソードを!﹂
仕組みは単純、そこらのディルドにそこらの剣を突き刺しただけの
物だ。
マリューゾワの周りを飛び回るディルドソードは、妙な光沢を放っ
ていた。
白く汚れた輝きを。
﹁ローション漬けにしておいて滑りを良くしたいというマリューゾ
ワからの要望だったでござるが、それだけでは面白くないので、そ
の辺を歩いていた豚魔達に協力してもらって精子漬けにしておいた
のでござる!﹂
1707
乾燥しかけている精子が塗されているディルドーに囲まれ、マリュ
ーゾワはこの時表情を僅かに歪めた。
それでも、
﹃ダメッ! 変身前はただの射精穴∼♪﹄
アルヴァレンシアの歌声に何かを感じた様子で、マリューゾワは表
情を意志の力で無理矢理緩ませ、レイピアを振るった。
途端、旋回していたディルドソードが一斉に魔剣大公を襲った。
殴打の様に何度もぶつかって来て、顔に、喉に、乳房に、尻肉に、
陰唇にそのブヨブヨの切っ先で突っ込んでいく。
観客達はその圧倒的なパフォーマンスに度胆を抜かれている様子で、
ドーピング検査を終えたばかりのラプシーも応援席で目を見開いて
固まって居た。
﹃ズ∼ボズボに♪ チュ∼パチュパで♪﹄
陽気な少女の歌声が示す様に、マリューゾワは下の口をズボズボに、
上の口にチュパチュパで犯されている。
ディルドソードは入れ代わり立ち代わりその役目を果たし、魔剣の
主を犯し続ける。
そして、
﹁う、浮いてる⋮⋮ッ!﹂
セナが動揺した声を放つ。
その視線の先、マリューゾワの体が僅かにリンクの表面から浮かん
でいたのだ。
﹁これぞ、今回の大技! 魔剣飛行でござる!﹂
マリューゾワは喉奥深くに突き入れられた一本と、膣口、そして肛
門に深く潜り込んだ物の、合計三本のディルドソードに支えられ、
空を飛んでいた。
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! と観客席から雄叫びが聞こえる。
魔剣大公は自らが操る魔剣に犯されたまま、その滑稽な姿で空を飛
んで見せた。
まるで円盤型の遊具の様に、クルクルと回転しながら観客席の上を
1708
飛行し、淫らな滴を零して行く。
観客達は大喜びで、
﹁あれは、あれはなんだ!﹂
﹁痴女だ!﹂
﹁未確認飛行物体だ!﹂
﹁えぇい撃ち落とせ! 撃ち落として俺のチンポで確認してやる!﹂
ノリノリだった。
やがて演技終了の時間を向ける。
﹃ズッボチュ∼パッ♪﹄
アルヴァレンシアの可愛く響く声で歌が締められたすぐ後、ブザー
が鳴り、未確認飛行痴的物体だった魔剣大公はリンクの上に両足で
立った。
その顔は屈辱と怒りに震えている。
ディルドソードは命を失った様にバラバラと投げ出されている。
セナ達は勝利の為に魂を削り戦ったマリューゾワを労わり、その痛
ましい姿から目を逸らした。
そして、
九、九、十、九、九、九、十、九、八、九、十、九。
九十二点。
それが魔剣大公マリューゾワの、魂の点数だった。
リンク中央に設置された表彰台に、上位三人が呼ばれた。
ラプシー。
マリューゾワ。
マリス。
一番背の低い場所に立ったマリスに銅のメダルと、星形のコインが
一つ。
その反対側、少し高くなった場所に立つマリューゾワに銀のメダル
とコインが二つ。
1709
中央、そして最も背の高い位置に居るラプシーに金のメダルとコイ
ンを三つ。
審査委員長を名乗る豚魔から直接手渡された。
第一競技﹃美﹄フィギュアオナニーの結果。
両陣営は同数のコインを獲得し、セナ達はハルビヤニとボーナス条
件を辛くもクリアする事になった。
﹁良かった⋮⋮﹂
﹁はい⋮⋮お三方とも、ありがとうございます⋮⋮﹂
セナが呟き、リセが涙を流して頷いた。
その視線の先シャロンは表彰台を逃したダルリ、マミーラと共に並
ばされていた。
ダルリとマミーラはどちらも沈んだ表情を浮かべ、マミーラの肌に
は見慣れた白濁の汚れが付着していた。
懲罰を受けたのだ。
﹁チッ⋮⋮勝っても、気分が悪いわね﹂
﹁仕方ないさ。それでもわたし達は、姉上達を救う為に戦わなくち
ゃいけない﹂
愚痴るセナの肩にフレアの手が乗る。
その時、
﹁見事であった、ラプシー。それに二人の客人よ。よもや初挑戦の
競技でここまでの物を見せてくれるとは、ワシは素直に感心したよ﹂
貴賓席で立ちあがり、ジュブダイルが声を放った。
﹁だがしかし、次の競技ではどうかな?﹂
そう言って、部下の豚魔に目配せをする。
豚魔の魔導士はそれに従い、天井近くに設置された大型の映像装置
を起動させる。
画面の中では﹃力﹄﹃速﹄の二文字が、目まぐるしく回転していた。
ビランコスタ側の応援席で、ハリアレとニュマが真剣な表情でソレ
を見つめている。
第二競技の発表。
1710
人質を救い、ゼオムントに抗う為に突破しなくてはいけない壁。
映像が回転を止め、答えを示した。
﹃力﹄
﹁﹃障壁﹄のニュマよ! お前の﹃力﹄をもって、ハルビヤニの走
狗めらを粉砕して見せよ! 第二競技はパイルドライブマッチに決
定とする!﹂
豚魔大王の吠え猛る声に、黒髪の競技奴隷は腰を直角に折って頷い
た。
セナ達は表彰式から戻って来るシャロン達を迎えようと、会場脇の
通路まで移動して来た。
その通路の先に選手達の控室が有り、そこで着替えを済ませた三人
と合流して明日に向けて対策を立てようと考えていた。
しかし、
﹁取材! お願いします!﹂
﹁こっちに顔向けて! 笑顔ね!﹂
セナ達がその通路に至った時、シャロンとマリスとマリューゾワは
十数体の豚魔に囲まれていた。
手に撮影魔法道具を持った豚魔達は、引っ切り無しに光を焚いてい
る。
﹁やめて下さい! 撮らないで!﹂
﹁むー⋮⋮殺しちゃダメなんです?﹂
シャロンとマリスが口々に言い、光を手で防ぎながら豚魔達を睨み
つける。
シャロン達はまだ控室へ到達しておらず、従って演技で失っている
以上、衣服と呼べる物は何も身に付けてはいない。
例外とするならばマリスとマリューゾワの首に掛かるメダルだけだ。
﹁おーおー。まぁそりゃ寄って来るよなぁ﹂
忍び笑いを浮かべながら、ハルビヤニがセナ達の後方に現れた。
1711
貴賓席でジュブダイルとやりあった結果だろうが、頬を赤く腫らし
ていた。
﹁何、コイツら! 邪魔なんだけど﹂
セナが苛立って問うと、
﹁コイツらは記者さ。豚魔は文化的に発展した種族だ。この大洞窟
内に四つの新聞社と十七の出版社が有る。んでこの通路はそういう
記者連中が引き上げる選手に取材するメディアスペースって奴さ。
ほら、向こうでラプシーも答えてるだろ?﹂
少し離れたところで、﹃洪水﹄のラプシーが満面の笑みで記者達に
応対していた。
シャロン達に群がる連中の様に進路を妨害する事無く、四体の豚魔
が冷静な声で質疑をしていた。
﹁あっちはどうやら大手の新聞屋みたいだな﹂
そうなるとシャロン達を取り囲んでいるのは出版社の記者となる、
その中の一体がズイっと身を乗り出し、
﹁洞窟スポーツ︱︱洞スポの者ですが、マリューゾワさん。質問を
して宜しいでしょうか?﹂
腕章を付けた豚魔の呼びかけに、マリューゾワは疲れた溜息を一つ
吐き、
﹁手短に。そしてそれに答えたらすぐにそこを退いて﹂
早く服を着たい一心で、そう答えた。
﹁ありがとうございます。ではまず一点。先ほどの演技に使われた
音楽なのですが、あれはなんなのでしょう?﹂
アルヴァレンシアが歌う、﹃魔法少女ズボチュパ﹄のテーマソング。
無論、マリューゾワは断固として拒否したが、コーチ役が無理矢理
に捻じ込んだ結果、今日の演技で使わざるを得なくなったのだ。
﹁⋮⋮何でもないわ。もういい?﹂
血を吐く思いで怒鳴るのを堪えた。
従妹のアルヴァレンシアがどういう思いであの歌を歌わされたのか、
それを想像するだけで、マリューゾワの血は湧き立つ。
1712
﹁あ、いえ、では最後にもう一点。アナタと一緒に連れて来られた
肉便器さん達の中で、オススメとか有ったら教えて貰えます? こ
う、仲間内だけで知ってるマンコの特徴とかあったら是非記事にし
たいなと﹂
あまりに下種な質問に、マリューゾワだけでは無くシャロンとマリ
スの視線も烈火の怒りを灯す。
﹁⋮⋮退けっ!﹂
演技に使用したレイピアを翳し、魔剣大公は豚魔達を威圧する。
その本物の殺意に触れ、記者達は恐れをなしてその場を離れて行っ
た。
逃げ散った記者達は三人が控室に入るのを見届けた後、気を取り直
して半数はラプシーの方へ、もう半数は足早に自社に向かって駆け
出した。
その行動の速さにセナが目を剥いていると、
﹁⋮⋮そう言えば、ラプシー以外の二人は⋮⋮?﹂
ヘミネがその隣で、首を傾げた。
﹁んぎひぃぃぃぃぃぃ﹂
﹁ほぉぉら、ダルリちゃん。おマンコで直飲みは美味しい? もっ
とたくさん出るからねー﹂
小柄なダルリは豚魔に抱えられると、まるで玩具の様に扱われてし
まう。
﹁この負け犬! 屑が! 俺の掛け金返せ!﹂
﹁ご、ごめっあぎゅぅぅぅ﹂
立バックの姿勢で犯されながら、喉奥にチンポを突きこまれ、上下
の穴で串刺しにされる。
会場関係者や両陣営のスタッフ達が引き上げた後の会場で、淫靡な
音が鳴り響く。
その近くでは、
1713
﹁もう無理! 何も⋮⋮何もばいでぃまぜん⋮⋮﹂
﹁そう言うなよ、お得意の奇術でパンツに変えればいいんじゃねー
の?﹂
ゴミ拾いが行われていた。
会場内を歩き回り、見つけたゴミをゴミ袋︱︱マミーラの肛門へと
押し込んでいく。
﹁初心者にあっさり負ける様な雑魚はこうなって当たり前だよなぁ
?﹂
﹁ちげぇねぇ! お、今度は瓶だぞ。気合入れろー﹂
﹁ひぎぃぃぃぃぃぃ﹂
片方ずつマミーラの足首を掴んだ二人の男が、ゴミ袋として彼女を
引き摺りながら会場内を歩いていた。
ダルリとマミーラは、名門ビランコスタの歴史に恥を塗ったものと
して、チーム関係者の手によって競技終了後に観客席へと投げ込ま
れた。
いつまで、どれだけ、そう言った言葉は無かった。
事実、会場内から運営スタッフが居なくなり、一部の観客しか残っ
ていない状況になっても、彼女達の事を関係者が迎えに来る様子は
無かった。
﹁あーあ、ダルリちゃん残念。クビみたいだね﹂
﹁さーっすがビランコスタ。こうやって厳しい姿勢を取り続けるか
らこそ、名門なんだねー﹂
﹁あっ⋮⋮いやぁぁぁ。帰らせて! お願い、チームに戻らせて!﹂
全身を精液塗れにしたダルリが泣き喚くが、観客達は笑ってそれを
無視した。
翌朝、
会場脇のゴミ捨て場に、腸内と膣内を屑ゴミで満杯にされたマミー
ラが半死半生の状態で捨てられているのを清掃スタッフが発見する。
マミーラの事は会場運営からビランコスタ側へ連絡されたが、ビラ
ンコスタ側は彼女の事を既にチームの一員では無いと説明し、引き
1714
取りを拒否。
処分に困った運営側はどうせなら、とマミーラを会場内売店の隣に
置き、空き缶入れとして末永く備品として扱う事を決めた。
ダルリの行方は誰も知らない。
その日以降、﹃鯨飲﹄と呼ばれたフィギュアオナニーのスターはど
この表舞台にも出てこなかった。
とある安酒しか置いていない酒場の男子便所で、口の部分しか空い
ていない覆面マスクを付けた少女がその人生が終わるまでの数十年、
その場所で精液と小便を飲み続けた事と関係が有るかは、その酒場
の主人しか知らない秘密だった。
洞スポの号外に道行く豚魔達が足を止め、紙面を眺めて意見を交わ
し合った。
洞スポは信用を度外視した代わりに速報性とネタのマニアックさに
定評のある出版社で、愛読者は非常に多かった。
号外はビランコスタまさかの引き分け、という内容を大きく表示し、
その中でラプシーに次ぐ点数を挙げた相手側の主力選手、マリュー
ゾワへのインタビューが文字にして書き起こされていた。
︱︱先ほどの演技に使われた音楽なのですが、あれはなんなのでし
ょう?︱︱
記者の質問に、マリューゾワ選手は満面の笑みで答えた。
︱︱あれは私のお気に入りの作品で使われている歌なんです。毎晩
口ずさんじゃうほどに、とってもハマってます。作品自体ももの凄
く良いので、是非ここの皆さんにも見て貰いたいです︱︱
彼女の意向を受けたコーチの男性が、インタビュー後にその作品が
収録された映像円盤を手に記者を尋ねて来て下さった。
頂いた映像円盤の内容については後日、吟味した後に記事にさせて
もらう。
1715
︱︱アナタと一緒に連れて来られた肉便器さん達の中で、オススメ
とか有ったら教えて貰えます? こう、仲間内だけで知ってるマン
コの特徴とかあったら︱︱
記者が二つ目の質問をすると、彼女は待ってましたとばかりに大き
く頷き、
︱︱全て。とお答えして良いほど、どれも気に入って頂けると思い
ます。けど、強いて挙げるのならば六層のロニア、五層のルル、そ
して一層のシロエのマンコがオススメです。三人とも締りが良く、
ロニアはアナルでも楽しめますし、ルルは﹃悪運﹄が強いので孕み
難くてその分たっぷり膣内出ししてあげると良いと思います。シロ
エは妊娠願望が強くて︵笑︶、彼女の仲間達がみんな妊娠している
のに自分だけ孕んでない事をいつも気にしているんですよ。どうか
皆さんのチンポで私の友達を孕ませてあげて下さい︱︱
丁寧に答えてくれた後、名残惜しそうにしながら控室へと引き上げ
て行った。
洞スポの記事を読んだ豚魔達はふと顔を上げ、自分が今居る階層表
示を見て、一層、五層、六層の便所へと足を伸ばした。
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幕間 ゼオムント本陣 ※挿絵︵前書き︶
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幕間 ゼオムント本陣 ※挿絵
男はだらしなく寝椅子に体を倒し、寛いでいた。
負傷と激務によりすり減った体力を、小まめに回復させている。
﹁失礼します。元帥閣下﹂
ゼオムント国対西域魔導元帥オビリスの天幕に、禿頭の魔導士ゴダ
ンが入って来る。
﹁⋮⋮ん? 何だ﹂
オビリスは寝椅子から体を起こし、部下を半目で見やった。
﹁参謀部から報告がございます。本陣の西方に出現した魔法鎧達で
すが、対話は不可能と判断、本格的な作戦行動に移る。との結論が
出たようですな﹂
ゴダンは報告書を手に、肩を竦めている。
﹁うむ。まぁわかっていたけどね。彼らとしては何もしないわけに
はいかないんだろうねぇ﹂
十日ほど前、西域遠征を終結させる為に軍事行動に移ったゼオムン
ト軍の前に、突如出現した魔法で動く鋼の鎧の群が襲い掛かり、先
遣隊四万が壊滅した。
﹁ハルビヤニはお楽しみを邪魔されるのを大変嫌う。今はもう降臨
祭が終わるまで静かにしておくしかないよ﹂
そうは言っても、ハルビヤニの事を知るオビリスと彼の側近である
ゴダンを除けば、ゼオムント軍はあの魔導機兵について何も知らな
い。
何の為に現れ、何故先遣隊は皆殺しにされたのか。
療養中のオビリスに断り、何度か将校達が前線に赴き、物言わず壁
を成している二万の魔導機兵へと向き合った。
幾度か矛を交え、幾度か言葉を投げかけ、
そのどちらもで惨敗を喫している。
1718
刃は一筋の傷すら与えられず、声は全て無視された。
﹁まぁ引きこもってても鬱憤が溜まるだけなんだし、適度に運動し
ておきたい気持ちはわかるんだけどさ。無駄に死人を出すのも面白
くないし、どうせ運動するなら、気持ち良い事に体力使った方が良
いと思うんだけどね。俺は﹂
やる気の無い声でハルビヤニは言い、
﹁ごもっともで。近くゾートらに何か企画をさせましょう﹂
ゴダンは笑顔で頷いた。
開拓団陣地を接収したゼオムント軍は、総数約二十万。
魔導機兵により足止めされた彼らは、本国に比べて娯楽の少ないこ
の荒れ果てた陣地で、暇を持て余していた。
そうなると必然、利用が増える。
公娼の利用。
現在この陣地には先の回収作戦により、西域遠征に出て未だ生存し
ているほぼ全ての公娼が収容されている。
総勢で五百五十九名。
出発時から百人以上が死んだ計算となっている。
公娼達の命の有無は、刻印魔術により管理されている為、魔導士な
らば簡単に確認する事が出来た。
ここに収容されていない公娼がまだ居る。
残りの十六名。
聖騎士ヴェナルローゼや魔剣大公マリューゾワらの回収任務が終わ
れば、彼らは故郷に帰れる。
それまでの暇つぶしに、兵士達は列を成して、公娼達を﹃使﹄った
﹁ほーらセリス様︱。股んこ綺麗にするだよー﹂
少年の声がして、
﹁⋮⋮⋮⋮に﹂
女性の声がする。
1719
﹁んー?﹂
﹁に⋮⋮﹂
両者の会話は成立しない。
何故なら。
﹁良いだよ良いだよ。もうセリス様とお話は出来ないってわかって
るだ。ほらほら、それでもセリス様にはまた肉穴としての価値は残
ってるだ。ちゃんと綺麗にして、新しいチンポをお迎えしなきゃ﹂
この女性︱︱リーベルラントの軍神セリスの心は壊れきってしまっ
ているからだ。
今もバケツ頭の少年テビィに便所用のブラシで膣口をグチュグチュ
と磨かれながら、無抵抗でいる。
弱点魔術の効力で、便所ブラシの刺激に合わせてイキ続ける彼女の
目尻からは涙と、口の端から涎を垂らしながら、かつて無敗を誇っ
た軍神は見る影も無い姿を晒していた。
ゴダンにより用意された永劫の凌辱劇。
体感時間で二百年以上を絶頂と汚辱の中で過ごしたセリスは、解放
された時点で心が壊れていた。
恥じらいを失い、誇りを失い、言葉を失い、輝きを失っている。
最早本能と言うしかない反射で、目の前に出された肉棒にしゃぶり
つき、胸を揺らし、突き込まれては喘ぐ事しか出来ない人形に成り
果てていた。
﹁あと一時間で利用時間が来るだ。それまでに飯から何まで済ませ
とくだよ﹂
セリスの人格崩壊に対して、ゾートは始め激怒したと言う。
折角の超一流素材を、ゴダンが復讐の為に仕込みの予定時間を遥か
に超えて凌辱し破壊したのだ。
平謝りするゴダン、宥めるオルソーとラターク。
最終的にオビリスの仲裁が有り、ゾートは何とか怒りを鎮めた。
それと同時に、ゾートはもうこの時点でセリスに対する興味を失っ
ていた。
1720
心の壊れた人形など、調教師の触れる物では無い。
ゾートの言葉を聞き、彼の薫陶を受ける部下達はセリスを無視する
事になった。
結果、あれほど渇望された軍神公娼は誰の手に移ったか。
﹁オラのお人形さん﹂
調教師見習いテビィの練習用の玩具として、セリスは生きる事を許
されたのだ。
テビィの才能を評価するオルソーにより与えられた小さな幕舎が、
テビィとセリスの家となった。
テビィはそこに、インテリアとして往年のセリスの肖像画を飾った。
それは嫌な笑みを浮かべたゴダンから手渡された、彼女の輝かしい
軌跡だった。
リーベルラント時代の物は流石に無かったが、リトリロイと婚儀を
交わし、ゼオムントの中枢に入ってからの彼女を撮影魔法で写し取
った絵が、部屋中に飾られていた。
セリスは時折それらを見上げ、
﹁に⋮⋮﹂
静かに涙を流していた。
剣を握る自分の勇姿。
<i118665|12248>
リトリロイと口づけを交わす式の瞬間。
そのどれもが、現在の彼女からは考え様も無い一瞬だった。
﹁ふぅ∼綺麗になっただ。それじゃ、早速﹂
ズニュリ︱︱。
テビィの包茎チンポがセリスの内側に潜り込み、弱点まみれの軍神
はただそれだけで盛大に快感を爆発させた。
﹁にあっ⋮⋮﹂
﹁やっぱり綺麗にしたてを使えるのはオラの役得だよなー﹂
狭い幕舎の中、テビィとセリスは正常位で繋がっている。
1721
﹁流石にゆるゆるだっけど。その分じっくり味わえるからお得だで
ねー﹂
ズチュズチュと膣口を抉り、胸を握り潰しながらテビィは笑ってい
る。
﹁にっ⋮⋮あぎっ⋮⋮ににぃ﹂
全身に刻まれた弱点が、セリスを否応なく絶頂へと導き、テビィを
楽しませる。
それから三十分の間、テビィは思う存分セリスの膣で遊び、結果を
吐き出した。
﹁んじゃあ準備するべ﹂
スッキリした表情で言うテビィに支えられ、セリスは幕舎の隅へと
移動する。
そこには穴が掘られていた。
﹁ほーれ、しーしーしろい﹂
無理矢理に屈まされ、排尿の姿勢を取ったセリスの尿道口をテビィ
が指で刺激する。
﹁にぅ⋮⋮﹂
ジョボボ︱︱と零れだした黄金水を感情の無い目で追うセリス。
﹁今日のパンツは何色が良いだか? 黒? 紫?﹂
排尿中のセリスの前に二枚の下着を掲げ、テビィが首を捻る。
セリスの視線が一瞬紫のT字下着へ向かった事を確認し、
﹁よしよし、んじゃあこのパンツでオシャレして行くだかねぇ﹂
テビィは手持ちの雑巾でセリスの残尿を払うと、紫のTバックを穿
かせた。
﹁ゴハンは昨日の残りがあるでよ。それ食って行き﹂
カチカチに固まったパンをセリスの口に押し込み、その顎がゆっく
りと咀嚼を始めたのを確認し、テビィは手持ち無沙汰を解消する為
に目の前で揺れる乳房を揉みしだいた。
これがテビィの日常。
そしてセリスの日常。
1722
﹁んだば、出勤するべさ﹂
時間を掛けてパンを飲み込んだセリスの手を、テビィが引く。
Tバック一枚のセリスが連れ出された外の世界は、浅い夜の景色を
浮かべていた。
通常の公娼利用時間は、夕食前までとされている。
日の出と共に解放され、様々な趣向で利用できる公娼達だったが、
セリスの崩壊も有りゾートが制度を厳格にし、陽が落ちた後は一般
公開を禁じる事となった。
それは公娼達の心をギリギリで保つ為の方策であり、既に心が死ん
でいる者達は対象では無かった。
セリスの仕事は、これから始まる。
テビィとセリスが移動した先は、石塀に囲まれた屋根すらない骨格
だけの家の様な建物だった。
﹁おう、テビィ坊﹂
﹁お疲れさん﹂
建物の南側には戸口が有り、そこから入った二人に先客から声が掛
かった。
﹁おっちゃん達もお疲れ様。今夜は星がきれいだね﹂
テビィが気さくに挨拶する先、数人の老人が座っていて、彼らは一
様に星を見上げていた。
﹁あぁ、そうだな。星が明るいと仕事が助かる﹂
テビィを含めた彼らは夜間の作業者だった。
テビィには相変わらず便所掃除の仕事が有り、他の老人達にもゴミ
集め等の役目が与えられていた。
﹁それじゃ、そろそろ仕事に行こうかね。レナイ、また後でな﹂
﹁あー⋮⋮﹂
老人の一人が声を掛けた先、彼の足元には一人の女性が転がってい
た。
意思を感じさせぬ瞳の少女。
かつてセナ達と共に旅をし、マルウスに騙されて酒作りの濾過機に
1723
され、最終的にセリスによって囚われた公娼レナイ。
その他、彼女と同時にこの開拓団陣地に連れて来られたかつてのシ
ャスラハール組の公娼達が、ここに集められていた。
マルウスを壊滅させたユキリスの﹃狂奔﹄と、マルウスから与えら
れた依存性の極めて高い危険な﹃おはな﹄成分が切れた事での禁断
症状により、完全に自我を失ってしまった公娼達。
テビィにセリスが与えられた様に、彼女達もそれぞれゴミ拾いや水
汲みの役割を負った老人達に日中は預けられている。
テビィ達には最低限彼女達を殺さない程度に養えるごく僅かな金が
与えられ、世話役となっていた。
調教師的に言えば生かしておく必要のない彼女達に、どうして僅か
でも金を払うのか。
﹁んだばセリス、オラも行ってくるでな。しっかりチンポのお相手
をするだよ﹂
﹁に⋮⋮﹂
セリスの頭を撫でながらテビィが言い、便所掃除の道具を抱えた。
セリスやレナイ達には役目が有った。
一般の公娼達の営業時間を厳格に定めた事で、一部の者達から不満
が噴出したのだ。
かつてアミュスとヘミネだけだった頃に比べればだいぶ良くなった
物だとテビィは思うが、人間は満たされれば満たされた分だけ我が
儘になる。
そんな声に対応する為に、ゾートが下した判断がこれだった。
﹃使い物にならない公娼ならば、夜の間に好きなだけ使うと良い。
ただしサービスなどは何も期待するな。それはただの便所穴だ﹄
公娼活動が最早できないセリス達を一か所、この無残な建物とも言
えない場所に放置して、使いたい者だけが使える様にして置く事で、
その不満を解消させた。
明日になれば調教師がバリバリに取り仕切る環境で、演出も有りサ
ービスも優れた公娼とセックスする事が出来る。
1724
しかしそれすら我慢できないどうしようもない連中向けに、セリス
達を夜間の緊急避難、味も素っ気もないただの穴として置く事にし
たのだ。
その世話をするのは、夜間に仕事を持つ者達。
テビィ達は夜出勤する前に手持ちの便所穴をこの場所へ連れて来て、
朝寝床に帰る時についでに持ち帰り、飯を食わせて眠らせる。
感情すら上手く表現できず、逃げ出す力すら無い彼女達ならば、老
人や子どもでその仕事は充分に務められる。
そう判断された結果だった。
テビィがゴミ集めの老人と共に歩いていると、明らかに酒に酔って
いる大柄な男とすれ違った。
男が向かう先は、先ほどテビィがセリスを放置してきた建物。
一応注意書きとして持ち帰り厳禁、違反者には厳罰を下す。
とは公娼達の右尻肉に焼印として有るものの、それがどれだけ効果
的なのかはわからない。
明日になればセリスはあの大男に持ち帰られて行方知れずになるか
も知れない。
﹁んーオラももうちょっとだけ遊びたいからなー。せめてあとひと
月は﹂
テビィは不心得者が現れない事を祈りながら、男子便所へと入って
行った。
﹁んーダメっぽいわね。それじゃ次のをお願い﹂
マダム・オルソーは椅子に腰かけながら落ち着いた声で言った。
﹁了解ですマダム。ほら、行け行け﹂
オルソーが見つめる先、地面に直接置かれた檻、その入り口で調教
師の男が動いていた。
キキィ!
調教師は猿型の魔物の尻を蹴飛ばすと、檻の中へと押し込んだ。
1725
﹁いや⋮⋮止めてくださ⋮⋮もう﹂
檻の中には、スピアカントの大騎士マリアザートが黒磁の肌を晒し
てしゃがみ込んでいた。
﹁それでは魔物との交配実験第七回を執り行う﹂
檻に鍵を掛けながら、調教師は言った。
﹁こ、来ないで⋮⋮﹂
猿型の魔物から距離を取る様に、髪を振り乱しながらマリアザート
は尻で床を移動した。
﹁あらぁ? 別に良いじゃない。もう既に六回も色んな魔物とセッ
クスしてるんだし。そろそろ慣れて頂戴よ。この雌豚が﹂
オルソーは声で笑いながら、顔では笑っていなかった。
﹁アンタはもう人間の子どもなら産んでるんだし。二人目は別に魔
物でも良いでしょう? 何でも良いからとりあえず魔物と公娼の間
で赤ちゃんが出来たってなれば話題が集まるのよ。さっさとその猿
に種付してもらいなさい﹂
高齢による不妊に悩むオルソーにとって、子持ち公娼であるマリア
ザートは目にしただけで唾棄したくなる存在だった。
それ故に、彼女がどうしようもなく孕みやすい子作り袋だと世間に
周知させる為の、公開交配実験を行っていた。
オルソーの背後には調教師らに交じり、一般の観覧者が列を成して
いる。
オルソーの隣では魔導士が待機し、公娼刻印を経由してのマリアザ
ートの着床確認を行っている。
これまでにワニやら鳥やらナメクジやら、ちょっと特殊な魔物達を
使ってマリアザートを犯させて来たが、一向に着床が確認されてい
ない。
﹁やっぱり少しは人間に似てないとダメみたいね。とりあえずはそ
の猿と赤ちゃん作ってから、三人目以降は豚や牛とでもヤって頂戴﹂
猿型の魔物には特濃の媚薬を与えている。
下半身をパンパンに腫らした猿が、素早い動作でマリアザートに襲
1726
い掛かる。
﹁いやぁぁ! やめて! 助けて下さい!﹂
乞命刻印の影響も有り、マリアザートは恐慌状態で悲鳴を上げる。
その様子を見て、観衆は笑いを浮かべた。
﹁良いからさっさとその猿のチンポを受け入れなさい。もし実験が
十回続いても孕まない様だったら、アンタの手足を切り落とすわ。
孕むまで没収よ没収﹂
調教師団の中には人体修復に秀でた魔導士が居る。
それ故に、オルソーは気軽にそのような言葉が吐ける。
﹁あぁぁぁっ! いやぁ⋮⋮うあぁぁぁぁ﹂
マリアザートにとってみれば、魔物の仔を孕むか、四肢を失うか。
その選択肢を突き付けられ、答えようの無い質問にただただ涙を零
して抗うしか道は残されていなかった。
小型の猿を相手に組み敷かれ、膣口にそのチンポを突き付けられる。
﹁止めて⋮⋮﹂
希望の見えない中で、マリアザートが最後に慈悲を問うた先は、言
葉の通じる同族である人間達では無く、
知能の無い猿に向けて、悲痛なかすれ声で哀願した。
しかし、
﹁んぎぃふぅぅぅぅぅぅ﹂
猿チンポは容赦なくマリアザートの内側に侵入して来た。
キキィ︱︱
﹁あっ⋮⋮んぎぃぃぃぃ﹂
猿の異常に強い握力で胸を絞られ、母乳を噴出させながら、マリア
ザートは絶望の表情で種付セックスをさせられている。
﹁あはははははははっ! 皆さんどう? あの豚女が孕むまで何日
でもこの実験は続けるわ。魔物のリクエストが有ったら言って下さ
いね。可能な限り集めて来ますから﹂
オルソー自身、マリアザートが簡単に魔物の仔を孕むなどとは思っ
てはいなかった。
1727
ただ観衆を楽しませ、様々な魔物と衆目の中で孕ませセックスをさ
せる事で、マリアザートを汚し、溜飲を下げる事を目的としていた。
﹁まぁ、ホントに孕んじゃってもそれはそれで面白いのだけどねぇ
⋮⋮﹂
子鬼や豚魔の様な他種族を孕ませる事に特化した魔物を宛がわれた
時が、マリアザートの敗北の瞬間となる。
﹁ラターク主任。次の薬剤投与を開始します﹂
とある天幕の内側で、一人の調教師がラタークへと報告する。
﹁おう、わかった。さっさと済ませてくれよ。撮影スケジュールも
押してるんでな﹂
喜劇型調教師ラタークはそう言って部下の報告に頷き、天幕の中央
に置かれた椅子に目を遣る。
﹁どうだ、ピリカ?﹂
声を掛けられた先、しっかりと地面に固定された椅子の上には全裸
のアルヴァレンシアがベルトで縛り付けられていた。
﹁わ⋮⋮ちが⋮⋮う﹂
口の端から涎を零しながら、魔蝶公主は首を振った。
その肌にはきつくベルトが食い込み、身じろぎ一つ出来ない。
﹁ふむ⋮⋮これは存外、まだ時間がかかるかも知れないな﹂
ラタークは机に肘を突きながら言い、先ほど声を掛けて来た部下へ
と視線を送る。
部下は無言で頷き、手にした注射器をアルヴァレンシアの首筋に押
し付け、躊躇なく薬液を注ぎ込んだ。
﹁んあぁぎぃ﹂
涎を撒き散らしながら、アルヴァレンシアは首を振る。
﹁いい加減に諦めろ。そうすれば楽になるぞ﹂
調教師は注射器をしまうと、アルヴァレンシアの乳房に手を這わせ
ながら、
1728
﹁なぁピリカ﹂
彼女を違う名で呼んだ。
ピリカとは、アルヴァレンシアが主演する﹃魔法少女ズボチュパ﹄
での役名である。
﹁ひっ⋮⋮我⋮⋮わた⋮⋮し﹂
今現在アルヴァレンシアが受けている物は、人格矯正。
或いは第二人格の移植措置だった。
ズボチュパの撮影中にアルヴァレンシアの演技に対して不満を持っ
たラタークが発案し、責任者として実行している。
﹃アルヴァレンシア﹄の中に、﹃ピリカ﹄の人格を作りだし、撮影
中はその人格を使う事で、演技をより高いレベルに引き出そうと考
えているのだ。
﹁身も心も完全にピリカになれば、ファン感謝イベントでも有利だ
からな﹂
ラタークは笑いながら言い、
﹁今どのくらいだ?﹂
部下へと問い掛けた。
﹁現状は﹃アルヴァレンシア﹄が六十、﹃ピリカ﹄が四十と言った
ところでしょうか﹂
それは、魂の割合。
少女の一つの体の中に占める、﹃アルヴァレンシア﹄と﹃ピリカ﹄
二つの意思の比重の話。
﹁ふむ。﹃アルヴァレンシア﹄の方は別に無くなっても構わんから、
とりあえず﹃ピリカ﹄が常に前面に出るようにしてくれ﹂
その言葉に、アルヴァレンシアは震えた。
﹁やめっ⋮⋮嫌だ⋮⋮我を⋮⋮亡くしたくない⋮⋮﹂
人格を失うという事は、記憶と過去を消失させるという事。
故郷の事も、大好きな従姉の事も、全てを忘れてしまう。
﹁そうは言ってもなぁ。正直一般の知名度的に言えば﹃アルヴァレ
ンシア﹄という名前よりも﹃ピリカ﹄或いは﹃ズボチュパ﹄の方が
1729
お前を示す記号として認知されているんだ﹂
役に役者が乗っ取られる。
その危機に、アルヴァレンシアは瀕していた。
﹁それに面白いぞ? 魔導士達が協力してくれているから、お前は
﹃アルヴァレンシア﹄の時は今まで通り雷撃蝶を使えるが、﹃ピリ
カ﹄の時はヴァリアブルローションが使えるようになる。人格の使
い分けで魔法が二つに増えたんだ。喜べ﹂
雷撃蝶とは、高熱の擬似蝶々を操り、敵を燃やしつく魔蝶公主の技。
ヴァリアブルローションとは、催淫作用のリスクを背負う代わりに
肉体を超活性化させるローションを召喚するズボチュパの技。
﹁さて、話は長くなったが、とりあえず調整的には﹃アルヴァレン
シア﹄が十、﹃ピリカ﹄が九十で頼む﹂
﹁了解です、主任﹂
調教師の男がまた新たな注射器を取り出したのを見て、
﹁嫌⋮⋮嫌だ⋮⋮お姉ちゃ⋮⋮﹂
魔蝶公主アルヴァレンシアは絶望の涙を流した。
1730
幕間 ゼオムント本陣 ※挿絵︵後書き︶
幕間です。
ちょっとイラストなんかも載せて見ました。
大洞窟で第二競技が終わったら今度はラグラジル達の方へ幕間劇を
見に行こうかと思いますが、そっちにはイラストは用意してありま
せん。
1731
降臨祭第二週 其の四 ﹃力﹄ 前編︵前書き︶
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1732
降臨祭第二週 其の四 ﹃力﹄ 前編
客室へと戻って来たセナ達は早速第二競技について対策会議を開い
た。
﹁それで、﹃力﹄⋮⋮なんて言ってたっけ?﹂
﹁確か、パイルドライブマッチ。でしたか﹂
セナが首を捻ると、シャロンがすかさず応じた。
競技のテーマと名前しか、公娼達は知らない。
そこから先については、この男の言葉に耳を傾ける必要が有った。
口角を上げ、シャスラハールの顔で下品に笑う男。
西域の王ハルビヤニ。
﹁パイルドライブマッチ⋮⋮か。まぁまずは映像を見せてやろう﹂
指を鳴らし映像装置を起動させる。
七つの肉便器映像、その隣の画面が輝き、像を映した。
公娼達は痛ましい思いで視線をそちらへと向ける。
﹁三対三で、向かい合っているな﹂
マリューゾワが腕を組んでいる。
﹁服も着ていますね、レオタードみたいですけど﹂
その隣でシュトラが首を捻る。
映像では真円状の戦場で、競技奴隷が三人ずつ左右の陣営に分かれ
て睨み合っていた。
﹁注目するのはそこじゃねぇな。もっと真ん中だ﹂
ハルビヤニの声に導かれ、公娼達が目にした物は、
﹁⋮⋮バイブ﹂
嫌そうなフレアの声。
﹁三本、それも凄く激しく動いてますね﹂
ヘミネの言葉通り、睨みあう両陣営の中央には地面に突き立つよう
にバイブが置かれ、それらは通常有り得ない程の激しさで振動して
1733
いた。
﹁パイルドライブマッチの肝はあのバイブだ﹂
子どもの頭ほどあるバイブの先端は、その振動で地面を削岩機の様
に掘っている。
﹁あのバイブを突っ込まれた奴は負けで失格、三本すべてが誰かし
らのマンコに入ったらそれで終了だ﹂
ハルビヤニの説明に、公娼達は目を見張った。
画面ではいよいよ両陣営が動きだし、一直線にバイブを拾いに走っ
ていた。
﹁武器の使用は無し。肉弾戦でバイブを奪い合い、相手のマンコに
ぶっ挿す。それだけだ。単純なルールだろ?﹂
映像ではぶつかり合う両陣営は互いを牽制しながらバイブを常に意
識している様子だった。
﹁⋮⋮趣味が悪い﹂
ヴェナが吐き捨て、
﹁でも、これならば﹂
リセが言い放つのは、公娼として武芸に秀でた自分達の有利さだ。
﹁そうね。第一競技よりはいくらかやり易いでしょうね﹂
セナが腰に手を当てそれに続けた。
オナニーの美しさを競う採点競技よりも、肉弾戦で制圧すれば勝ち
となれば、自分達の得意分野的にどちらがやり易いかは明確だった。
﹁クハハハ。そうかそうか﹂
ハルビヤニは手を打って笑い、
﹁ちなみに、生き残った三人にそれぞれコインが二枚ずつ渡される。
つまりこの競技では引き分けは無い。お前達が俺のボーナス条件を
目指すのならば、勝つしかないぞ?﹂
そう付け足した。
﹁当然です﹂
ヴェナはハルビヤニを睨みつけながら言い放つ。
﹁クハハ、そうか。自信が有るのは結構だが⋮⋮油断はするべきじ
1734
ゃぁ無いぜ? 相手の﹃障壁﹄のニュマは全戦全勝だ。この競技を
知り尽くしている。ニュマの部下二人もそれぞれに高ランクの戦士
のようだぞ?﹂
その説明を受け、公娼達は互いを見やる。
視線の意味は、ここは誰が出るか。
﹁わたくし︱︱﹂
﹁人選は俺がやると言っているだろう?﹂
挙手しかけたヴェナに、ハルビヤニが首を振って応じた。
﹁⋮⋮ヴェナ様が出れば、間違いなく勝てる競技なのに﹂
シャロンが唇を尖らせる。
聖騎士ヴェナは肉弾戦闘においても、この中の面子では群を抜いて
いる。
﹁それじゃつまらねぇだろ。だからな、一人目はフレア。お前だ﹂
指名を受けた黒髪の斧騎士は胸を張り、
﹁⋮⋮はんっ! 良いだろう。わたしが出てやるよ﹂
吐き捨てた。
﹁お前の役割は﹃ドライバー﹄だ﹂
そして、続けざまに放たれたハルビヤニの言葉に首を捻る。
﹁ん⋮⋮?﹂
﹁おいおい、さっきの映像をよぉく見てたか? 三対三の中でも、
しっかり役割が別れていただろ?﹂
そう言って、ハルビヤニは映像を巻き戻す。
﹁よぉく見ろ﹂
公娼達は目を皿にして、画面を見つめた。
﹁⋮⋮なるほど、持ち手、攻め手、そして遊軍か﹂
最初に答えを見つけたのはマリューゾワ。
﹁ですね。三人が三人とも同じ動きをしているわけでは無いみたい
です﹂
シャロンがそれに続けて頷いた。
﹁あー⋮⋮おぉ! そう言う事ですか︱﹂
1735
マリスが手を叩き、
﹁バイブを持っているのが持ち手、あえてバイブを持たないのが攻
め手、そしてバイブを持って逃げ回っているのが走り手ですね﹂
そう言うと、
﹁いや、走り手って⋮⋮変よね?﹂
﹁どうでしょう⋮⋮﹂
セナが首を傾けてシュトラを見ると、やんわりと同じ姿勢で返され
た。
そこに、ハルビヤニが専門用語を交えて解説を加えた。
﹁そう。あのバイブはな、持っているとその振動を支えるのだけで
精一杯、とても身を守る事なんて出来ないんだ。だから両陣営は基
本的に一本ずつそれを取り、攻撃役の﹃ドライバー﹄はバイブを保
有し一瞬の好機を待つ事に専念し、﹃アタッカー﹄がそれをサポー
トしながら相手を脱がす、そしてあと一人が遊軍として活動する﹃
シーフ﹄となって牽制しあうのさ﹂
映像の中では中央で両陣営のドライバーとアタッカーの二人ずつが
睨み合い、円状に広がった戦場を残り二人のシーフ達が駆け回って
いた。
シーフ達の内一人の手にはバイブが握られており、もう一人はそれ
を追いかけている様子だ。
﹁ではわたしはそのドライバー、バイブを握って相手に突っ込む役
目なのだな?﹂
心底軽蔑した視線でハルビヤニを睨みながら、フレアが言う。
﹁あぁそうだ、そしてアタッカーはヘミネ、お前だ﹂
指名を受けたのは、リネミアの拳闘貴族ヘミネ。
こと肉弾戦闘に限れば、ヴェナに匹敵できる得る唯一の存在だ。
﹁⋮⋮フレア﹂
﹁あぁ、ヘミネ。アンタとまたチームを組むなんてな﹂
最初の西域遠征組分けで、アミュス、マリスと共に同じ調教師の下
で班を組んでいた二人が、今再び行動を共にする。
1736
﹁わかりました。フレアは私が守ります﹂
腹部に手を遣り、腰を折るヘミネ。
﹁最後のシーフだが、これはリセだな﹂
残っているのはセナ、ヴェナ、シュトラ、そしてリセ。
その中で最速の脚力を持つのは、この投剣メイドに他ならなかった。
﹁⋮⋮全てはハイネア様をお救いする為です﹂
リセは堅い表情で言い、ヘミネと視線を交わす。
﹁えぇ、ハイネア様とシロエ殿、皆さんの為にも必ず勝ちましょう、
リセ﹂
﹁はい、ヘミネ様﹂
第二競技の選手は決まった。
フレア、ヘミネ、リセによるバイブ争奪挿入デスマッチ。
﹁んじゃ、三人は向こうで戦術と陣形の予習な﹂
ハルビヤニは新たに三人のオタクコーチを召喚した。
﹁ほぉら、たっぷり食え﹂
鼻が曲がる、という言葉では表現しきれない悪臭に包まれた狭い地
下室で、食事が始まった。
﹁お前にはこの先ずっと子どもを産んでもらわなきゃいかんからな
ぁ﹂
﹁こんなに丸々と醜いボテ腹晒してよぉ⋮⋮クスタンビア﹂
数体の豚魔が下品な声で笑いながら、床に転がった一人の女の食事
風景を見下ろしていた。
﹁⋮⋮﹂
青髪の親鬼、クスタンビアは何も答えない。
きつく締められた目隠しと全身の拘束により、自由の利かない体を
這って動かし悪臭を辿り料理へと顔を向ける。
﹁お前肉が好きなんだろう? だから用意してやったよ、残飯だけ
どなぁ﹂
1737
﹁味付けは俺らのザーメンソースだ。まぁお前にとっては毎日味わ
ってるもんだから飽きてたらごめんなぁ﹂
足先でクスタンビアの尻肉を蹴り、背中を踏みつけながら、豚魔達
は嘲る。
﹁はぐっ⋮⋮あぐっ﹂
クスタンビアは豚魔達の声に耳を貸さず、ただひたすら皿に盛られ
たザーメン付の肉片を口の中へ収めて行く。
﹁ハハハハッ! がっついてやがるよコイツ﹂
﹁馬鹿だねぇ。誰が父親かもわからないガキを孕ませられておいて、
とうとう狂っちまったか?﹂
口内の肉片を咀嚼し、飲み込んでいるクスタンビアに豚魔達の声が
響く。
﹁ま、こんだけ毎日俺らのチンポで可愛がられてりゃ、そうもなる
わな﹂
﹁おうおう。飯の後はガキが出て来やすくなるようにまたマンコが
ガバガバになるまで穿ってやるからな﹂
天兵の里から逃走中に、ジュブダイルに囚われたクスタンビアはこ
の大洞窟に連行され、この豚魔達に預けられた。
その日から繰り返される、果ての無い凌辱。
どれだけ抵抗しても、雁字搦めに受けた拘束は解けず、かつて西域
を席巻した暴虐の青鬼は豚達の精液タンクに成り果ててしまった。
望まぬ子を孕まされ、それでも尚延々続く凌辱に、クスタンビアの
精神は壊れかけていた。
昨日までは。
昨日、この場所で相変わらず豚チンポを肛門と膣口で受け止めてい
る最中に、クスタンビアは匂いを感じた。
豚魔達の悪臭を放つ精液では無く、クスタンビアが待ちわびた匂い
を。
どれだけ遠く離れていようとも、彼女にはわかった。
ついに、来たのだ。
1738
あの人が︱︱。
﹁はぐっ!﹂
﹁よぉし、食ったな。そんじゃ今度は下の口に御馳走してやろう。
しっかり締めろよ﹂
皿を空にしたクスタンビアに向けて、豚魔達が圧し掛かってくる。
遠慮など微塵も無い動きでクスタンビアの胸を掴み、持ち上げて組
み敷く。
この二ヶ月で、彼女の膣はすっかり豚魔の匂いに汚染されていた。
その時、
﹁フフフ⋮⋮﹂
親鬼クスタンビアの口元が歪んだ。
﹁あ?﹂
﹁とうとう本格的におかしくなったか? この便器﹂
一体の豚魔がその肉棒でクスタンビアを犯し、数体が周囲で囃し立
てている。
ジュブ︱︱
ジュブ︱︱と西域の豪傑の膣に、豚魔のドリル状の肉棒が沈んで行
く。
ガチッ︱︱その途中で、豚魔の腰の動きが停まった。
﹁おいおい、何だ? もう出したのか?﹂
﹁早ぇな、お前﹂
周囲から失笑が漏れる。
﹁い、いや⋮⋮ちがっ⋮⋮動かな⋮⋮﹂
クスタンビアを組み敷いている豚魔が呻いた瞬間、
﹁少しだけ燃料補給出来たわ⋮⋮そろそろ、行かなくちゃ﹂
親鬼が上体を起こした。
相も変わらず豚魔と性器で結合したまま、唯一自由になる口を動か
し、自らの左上腕に添える。
﹁お、おい!﹂
﹁何やってる!﹂
1739
ここしばらくは大人しかったクスタンビアの様子に、豚魔達が動揺
を見せる。
﹁あの人が来ているのなら⋮⋮ワタシは何を失ってでも会いに行か
なくちゃ⋮⋮ねっ!﹂
ゾブリッ︱︱
﹁ひぃぃ!﹂
﹁く、狂ったぞ! 早く薬を! 眠り薬を持ってこい!﹂
クスタンビアは自らの左上腕部の拘束を肉ごと噛み千切り、鮮血を
迸らせていた。
全身に絡みつく拘束は、一か所が破られると途端に脆くなる。
﹁お、押さえろ!﹂
豚魔が叫び、クスタンビアに襲い掛かろうとした時、
﹁ぴぎゃああああああああああっ!﹂
クスタンビアと結合していた一体が狂ったように鳴き、暴れ始めた。
﹁うわっ!﹂
﹁お、おい! それじゃ近づけないだろう!﹂
暴れる豚魔に妨害され、クスタンビアに近づけない周囲の豚達。
﹁ぴぎぃぃぃぃ! 痛いっ! 離せ! 離せぇぇぇ﹂
よくよく見れば、豚魔とクスタンビアの結合部からは深紅の鮮血が
零れていた。
それは、クスタンビアの純潔の証ではもちろん無い。
﹁フフフ。しっかり締めろと言ったのは、貴様だろ?﹂
親鬼クスタンビアはその膣圧で、豚魔の肉棒を締め潰していた。
締め潰しながら、強靭な顎で拘束具を噛み千切って行く。
左腕は骨が露出する程にまで深い傷を負っているが、その分拘束が
緩まり、右腕はすんなり抜け出した。
それがどういう意味を持つか、豚魔達は一瞬で悟った。
親鬼クスタンビアが、その右手の自由を回復したという意味を。
﹁あ、あぁ⋮⋮ジュブダイル様に! 大王様に至急連絡を!﹂
騒ぐ豚魔の顔に、鮮血が降り注いだ。
1740
﹁ジュブダイル⋮⋮? 呼ばなくていい。こっちから会いに行くか
ら﹂
クスタンビアは自由になった右手で、結合中の豚魔の首を捻じ切り、
投げ捨てていた。
足の拘束は右手一本で簡単に引き千切り、両足で立つ。
その瞬間、僅かな希望が消え去った。
豚魔達の運命は決した。
﹁足りなかったわ⋮⋮ひもじかったわ⋮⋮目の前にこれだけ肉が並
んでいるのに、それを食べる事が出来なくて⋮⋮﹂
クスタンビアは双眸に怒りの炎を灯しながら、
﹁豚魔は餌なのよ。分を、弁えなさい﹂
その場に居た十体の豚魔の死は確定していた。
しかしそれでも、彼らの命はすぐには消えなかった。
﹁ハルビヤニ様にお会いする前に、気持ちの整理をつけておきたい
じゃない⋮⋮﹂
クスタンビアは残酷に動いた。
味合わされた屈辱を解き解す様に、豚魔達を痛めつけたのだ。
洞窟の壁で肉をすりおろし、足先から細かく切り刻み、殴り合いの
果ての共食いを演じさせてから、ゆっくりとその肉を味わって行く。
一体を除き、全ての豚魔を残忍な復讐で殺した後、クスタンビアは
生き残りに向けて問う。
﹁⋮⋮堕胎の薬は有る?﹂
自らの膨張した腹部を見やりながら、クスタンビアは赤く光る目で
豚魔の体を睨みつけた。
これからハルビヤニに会いに行くのに、この無様な腹を晒して行け
るわけがない。
恋する乙女にとって、それは有り得ない事だ。
﹁ぷぎ⋮⋮ぷひひひひ! 無ぇよ! 無いよそんなもん! お前は
俺達の誰かに! 今死んだ奴らかもしくは俺に! 孕まされて! 豚みたいなガキを産むのさ! ひゃはあああああ﹂
1741
狂っていた。
生き残りの豚魔は自分の命はどうあっても助からないと悟り、口角
から泡を吹いて笑っていた。
﹁そう。役に立たないわね﹂
グチャ︱︱
クスタンビアは豚魔の首を掴み、一瞬の内に握り潰した。
﹁ハルビヤニ様⋮⋮﹂
体の内側に宿った悍ましい生命に恐怖を感じながらも、彼女には一
縷の希望が有った。
ハルビヤニは時として、クスタンビアが他種族に犯され汚されるの
を眺める事を好んだ。
豚魔の仔を孕まされたことで、むしろ喜んでくれるかも知れない。
﹁恥ずかしいし⋮⋮泣きたいけど⋮⋮それで貴方が喜んで下さるの
ならば﹂
ハルビヤニの興味を引けるのならば、こうやって豚魔に孕まされた
事も無意味では無い。
クスタンビアは気持ちの整理をつけ、ゆっくりと立ち上がった。
﹁行かなきゃ⋮⋮愛する人の元へ﹂
左腕から血を滴らせ、腹部には凌辱の果てに忌子を宿しながら、そ
の口元は可憐な恋する乙女に他ならなかった。
﹃力﹄︱︱パイルドライブマッチの会場は前回の場所とは別だった。
二階建ての作りで、一階は真円状に作られた戦場、そしてそれを取
り囲む様にして二階の観覧席が有った。
観覧席にはいくつかの仕切りが設けられ、貴賓席や応援席がその内
側に置かれた。
セナ達は早くから会場入りし、観覧席を埋めていく豚魔達の好色な
視線を浴びていた。
﹁フレア達は大丈夫でしょうか⋮⋮﹂
1742
﹁この競技なら、こっちに分がある事は間違い無いし、よっぽどの
事が無い限りいけると思うけど﹂
シャロンと隣り合って座り、セナはどこか詰まった声を出す。
﹁君達﹂
セナの隣に座ったマリューゾワが声を掛けて来る。
﹁この会場の仕組みから言って、選手への声かけは自由にやれる筈
だ。そこでだ、声援以外にも私達にはやれる事がある﹂
魔剣大公は足を組みながら、言葉を続けようとする。
﹁そうでござる! 上からの視点により相手の動きを読み取り、そ
れを下の選手達に指示として叫ぶことが出来るのでござるよ!﹂
マリューゾワの隣に出現した公娼オタクが、熱い声で妨害して来た。
このオタクは昨晩みっちりとフレア達に指導をしたコーチ役であり、
前回のオタク同様に辞書とハンドブックを手にしていた。
﹁相手の陣形は﹃障壁﹄のニュマがアタッカー、ドライバーは背の
高い美女イレーネ、シーフは小柄なキュラルという少女でござる﹂
ハンドブックを読みながら、公娼オタクは言葉を作っていた。
﹁⋮⋮そこでだ、私がニュマを観察する。セナはイレーネを、シャ
ロンはキュラルを担当してくれないか?﹂
そちらを一瞥してから、マリューゾワは二人の騎士へと言葉を放っ
た。
﹁了解です﹂
﹁わかりました﹂
頷く二人の向こう側、
﹁ではフレアさんへの伝達はわたくしがやりましょう﹂
﹁ヘミネちゃんはマリスが担当しますねー﹂
﹁リセさんは私ですね﹂
ヴェナ、マリス、シュトラが言い、
﹁これだけの喧騒だ、誰の声に優先して従うべきかがわかっていた
方が良いわよね。お前、すぐに下の三人に今の事を伝えて来い﹂
マリューゾワは三人の返答に深く頷きながら、隣のオタクを睨みつ
1743
けた。
﹁ぐひっ⋮⋮その横柄な態度⋮⋮そそるでござる!﹂
オタクは謎の感動を示しながら席を立ち、決定事項の伝達に向かっ
た。
﹁ラプシーの時はさ⋮⋮﹂
セナは少しだけ声のトーンを落とし、
﹁まだ戦いって感じじゃ無かったけど⋮⋮﹂
ビランコスタ側の応援席、そこに座るラプシーとハリアレに視線を
送る。
﹁今回のは殴り合いになるし、バイブとか⋮⋮そういうの使うしさ
⋮⋮﹂
人間。
ラプシーにしろハリアレにしろ、今回の対戦相手であるニュマにし
ろ、彼女達は皆セナ達と同じく人間であり、公娼と奴隷はその立場
に大きな差異が無い。
﹁⋮⋮わかります。セナの気持ち。でも、それでも私達はここで勝
つしかない。ここで負けたら、あまりに多くのものを失ってしまい
ます。フレア達もそれを承知している筈です。だからセナ、私達は
しっかり、彼女達の戦いを見届ける必要があると思うんです﹂
シャロンはゆっくりと、セナの迷いを解き解し、その背中に手を乗
せて優しく撫でた。
応援席からは、貴賓席に座るハルビヤニとその隣で部下から耳打ち
をされているジュブダイルの姿が見て取れる。
ジュブダイルは一瞬眉を顰めた後、部下に何事かを指示してそのま
まハルビヤニの隣に座った。
会場は既に超満員。
第二競技パイルドライブマッチ開催の時は、すぐそこだった。
﹁フレアさん、ヘミネ様。一先ずは私が仕掛けます﹂
1744
競技の参加者である三人は、開始時刻に合わせ戦場に続く扉の前に
居る。
衣装は赤地に白のラインが入ったレオタード。
股間にきつく食い込むそれを直しながら、フレアは頷いた。
﹁わかった。昨日の作戦通り、まずは二つのバイブを手に入れよう﹂
公娼オタク達と夜通しやった事は、映像を研究とパターン学習だ。
その中でわかった事は、いくら余力が有ろうとも、序盤に三つとも
バイブを手に入れる事は大幅な戦力低下に陥るという事。
﹁あれを持って戦うのが困難と言うのならば、少なくとも私は両手
を空けておく必要が有りますからね。リセが二つ手に入れて一本を
フレアに、もう一本はそのまま持って走って下さい﹂
相手の膣を狙うフレアは、常にバイブを手に持っている必要は無い
が、好機を逃さずいつでも行動が取れるようにバイブを保有し、奪
われないように警戒しておく必要が有った。
そしてアタッカーであるヘミネはフレアに近づく相手を倒し、その
レオタードを引き千切ってバイブの通り道を作る必要がある。
最後にリセは、状況に応じてバイブをいつでも供給できるように確
保しておく事と、場合によっては戦場に飛び込む事を想定して行動
する必要が有った。
﹁それではぁぁぁ第二競技ぃ! パイルドライブマッチの開幕だぁ
ぁぁ!﹂
第一競技と同様に、豚魔の司会者が叫び、両陣営が戦場に呼び寄せ
られる。
フレア達は肩を並べて移動し、大喝采を上げる観衆の視線を集めな
がら、戦場に立った。
向こう側、ビランコスタも入場し、緑と黒が配色されたレオタード
に身を包んだ艶やかな女達が並び立つ。
黒髪ポニーテールの美女﹃障壁﹄のニュマ。
長身のドライバー、イレーネ。
小柄なシーフ、キュラル。
1745
フレア達の対戦相手が揃い踏みし、激しい視線を放っていた。
﹁良い目だね、ニュマって奴﹂
﹁何かに怒っている⋮⋮憎んでいるような目をしています﹂
﹁⋮⋮少なくとも、前回のラプシーの時の様な嘲りの感情は見えま
せんね﹂
ニュマの放つ殺気に、公娼達の体は戦場の昂揚を思い出す。
﹁競技! 開始ぃぃぃぃぃぃ!﹂
司会の吠え立てる声と同時に鐘が鳴り、戦いは始まった。
﹁リセッ!﹂
﹁はいっ!﹂
フレアとヘミネが地面を駆け、更にその数歩先を猛然とリセが走る。
﹁キュラル! 一本で良い﹂
﹁了解!﹂
ビランコスタ側でもニュマが叫び、キュラルが先頭に立ち駆け出し
た。
両陣営のシーフの疾走。
僅かに、リセが上回った。
﹁容赦はできません!﹂
ゴガガガガガ︱︱と振動を続けるバイブに手を掛ける事無く、リセ
はその速度を乗せたまま跳躍し、キュラルに足裏での蹴りを放った。
﹁うぁ!﹂
キュラルは咄嗟に両手でガードし、リセの蹴りの衝撃をそのままに
後ろへと吹っ飛んだ。
﹁ダメージは入りませんでしたか⋮⋮それでもっ!﹂
リセは大地に突き立つバイブを二本同時に掴み、
﹁あ、あぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ﹂
その猛烈な振動に全身を震わせた。
﹁リセッ!﹂
﹁ふ、フレアさん! これ想像以上に凄い振動です!﹂
リセは何とか利き腕の方のバイブをフレアへと投擲し、もう一本を
1746
抱えて飛び退った。
ゴゥ︱︱
﹁チッ﹂
リセが一瞬前まで立っていた場所に、ニュマの拳が飛び込んで来て
いた。
﹁フレアはそのまま一歩下がっていて下さい! 私がニュマを仕留
めます﹂
﹁わ、わわわわわわわかったたたたた﹂
バイブを両手で抱きかかえているフレアは、その振動によって言葉
が上手く作れない。
﹁イレーネ! 二人がかりで仕留めましょう!﹂
﹁わかったわ!﹂
ニュマの背後から、少し遅れていたイレーネが追い付き、コンビネ
ーションを見せながらヘミネへと襲い掛かる。
ヘミネは見る。
迫るニュマの拳とイレーネの手刀。
そのどちらもが、
﹁遅い﹂
掌底でニュマの拳を押し返し、流れるような動作で肘からイレーネ
の体に突進する。
拳闘を極めた公娼ヘミネに対して、競技奴隷達の格闘術は、些か不
釣り合いなほどに劣っていた。
手刀を掻い潜られ、肘鉄を入れられたイレーネは吹き飛ばず、その
場に倒れ込んだ。
ヘミネが彼女のレオタードを摘み、衝撃が抜け飛ぶ事を防いだのだ。
内臓を破壊しかねないダメージを受け、それでも歴戦の競技奴隷イ
レーネは意識を手放さず、地面に伏しながらもがいている。
ただその衝撃により、レオタードは無残に破壊されイレーネの総身
が露わになる。
﹁フレア、今です!﹂
1747
ヘミネがそう言って振り返った時、
﹁違う、まだ﹂
ニュマの声が響いた。
﹁なっ!﹂
﹁直接的な拳闘では敵わない。ならばやり方を変える﹂
ニュマはヘミネの腰と肩を掴み、足を払って大きく投げ飛ばした。
﹁投げ技っ?﹂
フレアはバイブを足元に突き立てた状態で叫んだ。
﹁イレーネ、五秒で起きて。目標を変更、あっちの黒髪を落す﹂
ニュマはヘミネを投げ飛ばすと、倒れているイレーネに一声かけ、
フレアに向けて跳躍した。
フレアは足下のバイブを気にしながら、構えを取りニュマを迎え撃
とうとした。
﹁フレアさん、下がりなさい!﹂
その時、公娼側の応援席からヴェナの怒号が飛ぶ。
﹁へ?﹂
フレアの注意が一瞬逸れた。
﹁あ、馬鹿っ!﹂
思わずセナが叫ぶ。
その瞬間、
﹁こっちは、三秒で終わらせる﹂
ニュマの腕と足が、フレアの体に絡みついた。
﹁絞め技っぁぁ?﹂
首に足を掛けられ、手足の動きを封じられたフレアは苦しげにもが
くが、ニュマの拘束は解けない。
﹁フレアッ!﹂
起き上がったヘミネがフレアの元へ駆け寄ろうとすると、
﹁行かせるものか⋮⋮﹂
イレーネが腹部を押さえながら割って入って来た。
﹁イレーネ、少しだけ抑えていて。こっちを終わらせたら加勢に行
1748
く﹂
ニュマは全身の筋力を使い、フレアを窒息させ、筋を引き千切って
行く。
そこに、
﹁フレアさんを、離して下さい!﹂
﹁ッ!﹂
リセの投擲したバイブが襲い掛かり、ニュマはそれを回避する為に
フレアの拘束を解かざるを得なかった。
﹁キュラル! どうしてそいつを自由にさせている!﹂
ニュマは体勢を取り戻しながら、自軍のシーフへと鋭い声を放つ。
﹁駄目、こ、コイツ早い! 早すぎるよ!﹂
キュラルは必死にリセを追っているが、それでも影すら踏めていな
い。
﹁がはっ! げほっうえ!﹂
気道を潰されかけたフレアは悶絶しながらも立ち上がり、バイブを
拾って一歩後ろに下がった。
しかし見るからにダメージは濃厚で、しばらくは素早い動作が取れ
そうにも無い様子だった。
﹁キュラル! 何としてもそいつの介入を防いで、私がこいつを仕
留めて︱︱﹂
﹁貴女の相手は、私ですよ!﹂
ニュマの横面に、ヘミネの拳が迫って来ていた。
﹁くっ!﹂
何とか身を捻って回避したニュマは、視線を巡らせる。
﹁イレーネ⋮⋮ッ!﹂
自軍のドライバーは、地面に伏して倒れていた。
意識の有無は定かでは無いが、全く動く気配が無い。
この一瞬の間で、ヘミネに沈められたのだろう。
﹁だけど、まだバイブは挿さっていない!﹂
ヘミネもイレーネもバイブを所有していなかった事で、イレーネは
1749
倒されはしたが、失格には至っていなかった。
﹁まだやれる⋮⋮負けられない!﹂
ニュマは構えを取りながら、ヘミネと正対した。
﹁負けられない!﹂
ニュマは奴隷として生を受け、両親を知らぬまま豚魔達に育てられ
た。
幼い日から、いずれは豚魔達の仔を生む胎になる為に生きていると
教えられ、育ってきた。
いずれは、いずれは。
競技奴隷に選ばれ、パイルドライブマッチの覇者にまで君臨する様
になっても、いずれやって来るその運命の日に対しては、茫洋な感
覚でしかなかった。
しかし、昨日見てしまった。
ラプシーは勝った、しかし残り二人はコインを獲得できずに敗北し、
大王様の御前試合で無様を晒した事で、上層部の怒りを買ってチー
ムから除籍された。
せめて最後に一言挨拶しておこうと、ニュマはダルリとマミーラを
探していた。
マミーラは年上の女性で、女らしさを教えてくれた人。
ダルリは少しだけ年下で、たまに甘えて来た可愛い後輩。
除籍されるとどうなるか、それについては多少なりともわかっては
いた。
繁殖奴隷落ち。
豚魔達の仔を成す為の道具にされる。
幼い日から何度も言い含められてきた運命が少し早くやって来るだ
けだ。
後で必ず自分も辿る道。
マミーラとダルリにお別れを言いたかった。
1750
けれど、結局二人は数少ない荷物もそのままに、チームの宿舎には
戻って来なかった。
ハリアレは興味を示さず、ラプシーは訳知り顔で笑って自分の勝利
を誇っていた。
今朝、ニュマはフィギュアオナニーが開催された会場へ赴き、話を
聞いた。
そこで、知らされた。
マミーラとダルリは繁殖奴隷になるのではなく、単純に捨てられた
のだという事を。
マミーラは会場側の人間が保護して、今後は会場の備品︱︱ゴミ箱
として使うのだと。
ダルリは今も見つかっておらず、どこかで誰かに拾われ、新たな場
所で屈辱的な一生を過ごすのだと。
ニュマは愕然とした。
繁殖奴隷にすらなれずに、ゴミ箱やそれ以下の存在に成り果ててし
まう。
あの頼もしかったマミーラが、可愛らしかったダルリが。
繁殖奴隷は運命。
それは受け入れよう。
ずっとずっと、疑いの言葉を吐かずに育ってきた。
けれど、もしニュマが第二競技で敗北したら、マミーラ達と同じ道
を辿る可能性がある。
そう思った瞬間に、寒気がした。
自分だけでは無い、イレーネとキュラルにもその危険は有る。
私達は奴隷。
奴隷として生き、奴隷として死ぬ。
そう信じて来た日々が決壊した。
奴隷として運命に耐え続けても、奴隷として死ぬ事すら出来なくな
る。
その事実を前に、ニュマは決意した。
1751
必ず勝利する。
競技奴隷のニュマとして勝利し、いずれは繁殖奴隷のニュマになる。
その為に、目の前にいる人間達を叩きのめす。
﹃障壁﹄のニュマとして人間達を阻む壁となる。
﹁キュラル! 援護をお願い!﹂
ニュマは構えを取り、目の前のヘミネと向き合う。
﹁わかった、ニュマ気を付けて!﹂
相変わらずリセを追いながら、キュラルは返事した。
﹁リセ、シーフがフレアの方へ向かわないよう、注意して下さい﹂
﹁わかりました、ヘミネ様﹂
ヘミネが放った指示に、リセが即座に応じた。
﹁げほっ⋮⋮っくしょ⋮⋮肩が外れてる⋮⋮﹂
フレアは苦い表情でヘミネとニュマの睨み合いを見つめている。
﹁負けられない!﹂
﹁こちらもです!﹂
ニュマとヘミネは叫び、同時に地面を蹴った。
1752
降臨祭第二週 其の五 ﹃力﹄ 後編︵前書き︶
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1753
降臨祭第二週 其の五 ﹃力﹄ 後編
ヘミネが力で押せば、ニュマが技で返す。
苛烈な戦いは負傷者達に回復する時間を与えた。
﹁こうやって⋮⋮あぐぁっ!﹂
フレアは自分自身の力で肩を嵌め直し、冷や汗を掻きながら腕を回
している。
﹁⋮⋮げほっ⋮⋮くっ⋮⋮﹂
イレーネも意識を取戻し、一度後方の壁際まで下がった。
ダメージの具合で言えば、イレーネは深刻であり、フレアは手負い
であるがまだまだ戦える状況。
現状不利なのは、間違いなくビランコスタ側だった。
﹁リセさん! 今の内に一本回収を!﹂
応援席からシュトラの声が飛び、リセはそれに反応する。
﹁行かせない⋮⋮っ!﹂
リセの妨害を主任務とするキュラルが追って来るが、
﹁キュラル! それは良いから! 私に近づけさせないで!﹂
ニュマがヘミネの拳を避けながら叫んだ。
ただでさえ紙一重でヘミネと戦うニュマにとって、リセの介入こそ
が最も恐れる事態だった。
だが、
﹁フレアさん、リセさんと協力して相手のシーフを捕まえて下さい﹂
聖騎士ヴェナの指示に、ニュマは舌打ちをしたくなった。
﹁削れる戦力から削って行くんですねー。なるほどー。だったらヘ
ミネちゃんはそのままその人を抑えておいて下さいねー﹂
マリスが指示とも言えない言葉を放って、ヘミネはそれに頷きニュ
マへと更に迫った。
1754
﹁向こうのドライバーの方が簡単に仕留められるんじゃないです?﹂
セナが首を捻ると、
﹁まぁ状況的にはそうだけど、イレーネはヘミネの攻撃で少なくと
も骨のニ、三本はやられている筈よ。いざとなればリセやフレア単
独でも戦える相手。ならば現在は未知数のキュラルを手の空いた二
人で倒そうっていう判断ね﹂
マリューゾワが顎に手を乗せ答えた。
﹁そうでござるそうでござる。まったくーセナは馬鹿でござるなぁ﹂
マリューゾワの隣に戻って来た公娼オタクが、彼女の剥き出しの太
ももに手を這わせながら言った。
﹁⋮⋮触れるな﹂
﹁フヒヒ﹂
魔剣大公の一睨みに、公娼オタクは手を離さないまま視線を前へと
向けた。
所詮、現状の契約内容ではマリューゾワにはこれ以上の抵抗が出来
ないという事は、両者ともに深く理解している事だった
﹁はてさて、上手くいくと良いでござるがねぇ﹂
太ももの付け根に指先を伸ばしながら、公娼オタクはニヤついた笑
みを浮かべている。
﹁キュラル!﹂
イレーネは鋭く叫んだ。
﹁壁に逃げるのよ!﹂
先ほどまでと立場が逆転し、キュラルは今リセに追われている。
リセから少し距離を空けてフレアも並走して来ているので、一度捕
捉されれば挟撃される事になってしまう。
それを避けるための、イレーネの指示。
﹁はっ! よっ! とっ!﹂
1755
キュラルは壁に足を突き、その上を走り始めた。
﹁んなっ!﹂
驚愕するフレアに、
﹁私が叩き落とします!﹂
リセが冷静な声を放った。
そしてそのままリセも壁を地面に変え、走り始める。
キュラルが逃げ、リセが追う。
フレアもリセ達から離されない様に壁の傍を並走し、キュラルが落
ちて来るのを待つ。
﹁クッ⋮⋮ニュマ!﹂
傍観するしかないイレーネは苦しげに胸を抑えながら、チームのエ
ースへと縋る様な声を放った。
﹁⋮⋮時間はもう、無いみたいね!﹂
ニュマは一度ヘミネから距離を取ると、新たな構えを取った。
腰を落とし、両腕を広げる。
﹁⋮⋮ッ﹂
ヘミネは無駄な言葉を発さず、拳を振り抜きやすい型を心掛けた。
ヘミネとしてみれば、無駄にニュマの挑発に乗る必要も無く、ここ
で彼女を抑え続け、フレアとリセが結果を出すのを待っても良いの
だ。
しかし、
﹁終わらせる!﹂
ニュマはそれを許さない。
捨て身の動きでヘミネに接近し、技を掛けに来る。
ヘミネはそれを迎え撃ち、
﹁ここです!﹂
強烈なカウンターを、ニュマの胸へと叩き込んだ。
﹁うぐっ﹂
肉を抉る様な重い音が響き、ニュマの体が折れて地面に倒れ伏す。
ヘミネは拳を戻しながらそれを眺め、そしてそのまま地面に突き刺
1756
さっているバイブを手に取って、
﹁⋮⋮御免なさい﹂
ニュマの体を仰向けになる様に蹴り、そのレオタードを指先で引き
千切った。
会場内が一斉にどよめく。
﹃障壁﹄のニュマが倒され、その陰唇が露わになっているのだ。
ヘミネは観客達の声を苛立たしげに聞きながら、ニュマの足の間に
体を持って行き、その秘所に爆音を立てて振動するバイブをあてが
い︱︱
﹁引っ掛かった﹂
全ては一瞬の動作だった。
ヘミネの首にニュマの足が絡みつき、強烈な力で締め上げて来る。
﹁ぐぁ! あっ⋮⋮あなた⋮⋮﹂
﹁油断したね。さっきの一撃は確かに強力だったけど、覚悟を決め
ておけば耐えられないわけじゃない。まぁ骨は何個か折れたけど﹂
ニュマに締められ、フレアは呼吸する事が出来ない。
しかし、
﹁でも、もうこれさえ挿し込めば⋮⋮﹂
目の前に、ピンクの陰唇が有り、そこにバイブを押し込んでしまえ
ばニュマは失格となる。
ヘミネは薄れ行く意識の中で、ニュマの膣口のバイブを押し付ける。
﹁んぁっ!﹂
ニュマは場違いな吐息を零しながら、尚も足の力を緩めない。
﹁くぁ⋮⋮お、おしまいです⋮⋮!﹂
ヘミネは最後の力を振り絞り、バイブを押し込んだ。
しかし、
﹁え⋮⋮っ﹂
振動するバイブの頭部分は、いくら押し込んでもニュマの内側には
入らない。
全て、膣口にほど近い場所で押し返されている。
1757
﹁私は﹃障壁﹄のニュマ。私の処女膜は全てを阻む壁となる﹂
ニュマはこれまで全戦全勝。
そして競技奴隷は繁殖奴隷とは異なり、性的玩具としての務めを負
う事は無い。
﹃障壁﹄のニュマは、特別に鍛え抜いた処女膜を最後の砦とする事
で、このパイルドライブマッチで王者となったのだ。
ヘミネの手から、バイブが落ちる。
気道を完全に塞がれ、意識を喪失したのだ。
﹁フレアさん!﹂
﹁リセさん!﹂
ヴェナとシュトラの指示は、遅すぎた。
ヘミネはニュマに敗れ、
﹁イレーネ!﹂
後方のイレーネのところまで投げ飛ばされ、
﹁とどめを挿してあげて﹂
その隣にはバイブが放り投げられた。
﹁ヘミネッ!﹂
駆け寄るフレアの背中に、
﹁行かせません!﹂
壁から跳躍して来たキュラルの蹴りが飛ぶ。
﹁ぐぁ!﹂
転ぶフレアの隣、リセは猛然とヘミネを目指すが、
﹁行かせない﹂
ニュマが機敏な動きでその進路を塞ぎ、リセの足を止めた。
﹁ヘミネちゃん! 起きて!﹂
マリスの悲痛な叫びが飛ぶ。
しかし、
﹁⋮⋮あんたには二発も貰っちまったからねぇ⋮⋮遠慮はしないよ﹂
イレーネはバイブを掴み取り、大きく押し開いたヘミネの股間に、
渾身の力で振り下ろした。
1758
﹁んぎひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!﹂
貴族であるヘミネが、顔面を崩壊させて泣き叫んだ。
パイルドライブマッチで使われるバイブには、それだけの威力が込
められていたのだ。
ゴリュゴリュと、膣の中で削岩機の様に暴れ回る子供の頭ほどのバ
イブに、ヘミネは息を詰まらせる。
﹁うふふふ。良い様ねぇ⋮⋮ほら、ほらほら!﹂
イレーネは嗜虐的な笑みを浮かべ、ヘミネの股間に突き立っている
バイブを蹴りつける。
もっと奥まで届く様に、子宮を破壊してしまう様に。
﹁やめろっ!﹂
体勢を回復させたフレアが吠えるが、
﹁ふん! どうせお前達ももうすぐこうなるんだよ!﹂
イレーネはバイブを足先でグリグリと押し込みながら、フレアへと
嘲笑を投げかけた。
﹁あが、んがががががいぃぃぃぃぃぃぃぃ﹂
ヘミネは全身で痙攣しながら、泡を吹き、股間からは小便を溢れさ
せていた。
﹁あははははは! みっともなぁい! さっきまであれだけ暴れて
たのに! 今じゃこんなに! おしっこビュービュー飛ばしながら
イッてんのねコイツ!﹂
バイブを蹴りつけながら、イレーネは楽しげな声を上げる。
﹁くそっ!﹂
﹁フレアさん! こっち!﹂
ニュマを振り切ったリセがフレアの手を掴み、一度後方へ退いた。
その手には一つ、バイブが握られていた。
﹁キュラル、こちらも一度体勢を立て直そう﹂
﹁はい!﹂
ニュマとキュラルも下がり、イレーネの位置に移動する。
﹁あはっ! この人あんなに強かったのに、えいえい﹂
1759
キュラルは笑いながら、ヘミネの膣に挿さったバイブを刺激する。
﹁ここのスイッチを押すとですねぇ、このバイブはハイパーモード
になるんですよーっ。ポチッ﹂
キュラルの手がバイブの尻部分に触れた瞬間、
﹁ぎひぃぃぃぃぃぃいぃあ、び、べっ⋮⋮﹂
ヘミネが体を反らしてのた打ち回った。
﹁あはははははっ!﹂
﹁うひゃー素敵な反応ですねー﹂
イレーネとキュラルはヘミネの惨状を見て笑っている。
その間、ニュマはそちらに視線を向けず、ただひたすらにフレアと
リセを見つめていた。
﹁ヘミネっ!﹂
飛び出そうとするフレアの体を、
﹁いけません。何も考えずに突っ込んではダメです!﹂
リセが懸命に押さえ込む。
﹁でもあのままじゃ!﹂
﹁聞いて下さい!﹂
叫ぶフレアに負けない様に、リセは大声を張り、抱き着いた。
そしてフレアの耳元で、作戦を説明する。
一か八かの作戦だった。
﹁⋮⋮わかった﹂
﹁ありがとうございます﹂
二人の公娼は頷き合い、逆転された戦況を更にもう一度覆す為の作
戦を整えた。
﹁ヘミネッ!﹂
セナは応援席の手すりに体を乗せて叫んだ。
﹁まさか⋮⋮あのヘミネが﹂
その隣ではシャロンが両手を口に当て、
1760
﹁んあぁ! ⋮⋮マズいぞ⋮⋮これは﹂﹂
マリューゾワの陰唇には、公娼オタクの指が潜り込んでいる。
﹁ドキドキするでござるな! マリューゾワのマンコも今キューっ
と締まったでござるよ!﹂
絶対服従が求められる契約により、公娼オタクは増長している。
﹁⋮⋮くそっ!﹂
セナはその様子を振り返り、悪態を吐くが、
﹁セナ、今はコイツの事よりも勝負をよく観察して⋮⋮んんっ﹂
魔剣大公は苛烈な怒りを放ちながらも、前を向いていた。
その視線と言葉を受け、騎士達は前を向く。
﹁⋮⋮リセは何をするつもり?﹂
﹁戦力的には二対三ですが、相手の方はイレーネがほぼ戦力外。つ
け入る隙はそこでしょうか﹂
セナが汗を流しながら言い、シャロンが推察する。
﹁武器さえ使えればフレアとリセが負けるはず無いのに⋮⋮!﹂
﹁セナ、それを言っても仕方が有りません︱︱﹂
言い差して、ハッと表情を変えるシャロン。
﹁武器⋮⋮なるほど﹂
深く頷いた瞬間、
﹁お? マリューゾワも何か分かったのでござるか? マンコがそ
んな感じの反応をしたでござるよ?﹂
公娼オタクが湿った声を吐いた。
男の指先で膣内を穿り回されながら、
﹁んはっ⋮⋮はっ⋮⋮投剣メイドの⋮⋮本領発揮⋮⋮だろ﹂
魔剣大公は赤い顔でそう言った。
リセは駆けた。
一本のバイブを握り締め、一直線にニュマ達を目指す。
﹁来る!﹂
1761
ニュマとキュラルは警戒態勢を取り、
﹁おー怖い怖い﹂
﹁ふぎぃぃぃぃぃぃ﹂
イレーネはヘミネの体を盾にしながら更に壁へと密着する様に、後
ろに下がった。
﹁⋮⋮なぜ、一人?﹂
ニュマは首を傾げる。
こちらに向かって来ているのはあくまでリセ単独。
フレアの方は最後のバイブを拾いに向かっていた。
﹁ニュマ、私はあっちに行った方が良い?﹂
﹁いや、二人がかりでシーフを倒す! そうすれば勝ちは確定!﹂
キュラルの言葉に首を振り、ニュマは構えた。
そこに、
﹁しっ!﹂
リセが体を回転させながら、手にした物を投擲して来た。
バイブ。
削岩機を思わせる振動、そしてそれを支える為にかなりの重量を持
つ凶悪な淫具を、腕を振り抜いて投げて来たのだ。
﹁ふんっ!﹂
無理はしない。
ニュマとキュラルは飛来するバイブを回避し、
﹁体勢が崩れたところに奇襲を仕掛けにくる算段、読めている!﹂
瞬時に体の向きをリセへと戻した。
しかし、
﹁リセっ!﹂
別方向から、新たな声が掛かった。
最後のバイブを拾ったフレアが、リセへとそれを投げ渡したのだ。
﹁ありがとうございます、フレアさん!﹂
リセは受け取ったそれをクイックモーションで投げた。
ニュマ達の後方へと向けて、
1762
﹁イレーネ!﹂
咄嗟に叫んだニュマの声に反応し、イレーネは首を捻ってバイブを
回避する。
﹁はん! 力もろくに籠ってないような奴に︱︱﹂
言葉は、最後まで続かなかった。
イレーネの後頭部に、リセが﹃最初﹄に投擲したバイブがめり込ん
でいた。
﹁この距離は、私の射程範囲内です﹂
投剣術を基礎とした戦闘技能。
本来は短剣で行われるそれを、バイブに持ち替えて、リセは披露し
た。
イレーネが身を護る為に後ろに下がっていた事で、壁を利用した跳
ね返りの技が使えたのだ。
昏倒するイレーネに向けて、リセが神速で接近する。
﹁やらせない!﹂
割って入ったニュマを、
﹁こっちの台詞!﹂
今度はフレアが妨害した。
先ほどリセにバイブを投げてから、そのまま一直線に走り込んで来
ていたのだ。
技も何も無い、純粋なタックル。
﹁うぐっ!﹂
ニュマは左手で受け、そのまま流そうとする。
﹁だよね!﹂
フレアはあえて、その動きに乗っかった。
﹁えっ﹂
流されたその先には、ニュマから一瞬遅れて動き出したキュラルが
居た。
﹁とりあえず、さっきの蹴りの分お返しする!﹂
フレアはキュラルへと激しくぶつかり、抱え込みながら転がった。
1763
﹁うわわっ﹂
﹁そしてこのままっ!﹂
フレアは持ち前の剛力でキュラルを抱えたまま立ち上がり、駆け出
した。
﹁キュラルッ?﹂
ニュマがそちらに視線を送った瞬間、
﹁隙有りです﹂
リセがその脇を掻い潜った。
﹁待て! ヅッ︱︱﹂
振り返ってリセを阻もうとしたニュマは、胸に激しい痛みを覚えた。
意識して封印していたヘミネからのダメージが、動揺によって封を
解かれ表面化したのだ。
すぐさま封じ直し、リセを追う。
しかし、
﹁遅かったですね﹂
視線の先、リセは既にバイブを握りしめ、イレーネの股間に押し当
てていた。
﹁イレーネッ! 目を覚ませ!﹂
足と同時に口を動かしたが、
﹁んっ⋮⋮うっ⋮⋮﹂
イレーネはヘミネから二度も気絶級のダメージを受けていた為、素
早い回復が出来ない。
﹁⋮⋮先ほどのヘミネ様に対する行い、償って頂きます!﹂
リセは一切の容赦を見せず、イレーネの膣内に極悪バイブを突っ込
んだ。
﹁ぐひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ﹂
身を悶えさせるイレーネを無視し、リセは素早く動いた。
自身が投擲したバイブの内、最後の一本を拾い上げて、
﹁フレアさん! 後はお願いします! 私はここでニュマを足止め
します﹂
1764
ニュマの頭上を大きく越える様に投げ、
﹁了解!﹂
キュラルを抱えているフレアへと渡した。
グガガガガガガッ︱︱と爆音を鳴らすバイブが近くに落ちた事を確
認し、フレアはキュラルの体を投げ飛ばした。
﹁あぐっ!﹂
壁で背中を強烈に打ち、キュラルが顔を顰める。
﹁さっきは良くもヘミネに酷い事をしてくれたな⋮⋮お返ししてや
るよ﹂
両手を揉みながら、フレアはキュラルとの距離を詰める。
﹁⋮⋮ふんっ! 舐めないでよ!﹂
キュラルは挑戦的に笑うと、壁を蹴ってフレアへと接近した。
﹁アンタも手負いでしょ!﹂
フレアは先ほどニュマによって失神寸前まで追い込まれていた。
まだ肩を中心にダメージが深く残っている。
それならば、シーフである自分にも勝機は有る。
そう確信したキュラルのハイキックは、いとも簡単に掴み取られた。
﹁ニュマの技みたいに出所がわかり難かったり、流されたりしたら、
そりゃ苦戦もしたけどさ⋮⋮お前の蹴り、たぶんゼオムント兵の剣
の動きと同じくらいだな﹂
フレアは片手でキュラルの足首を握り、宙吊りにしながら呟いた。
﹁それに、わたしの戦斧はもっと重い。アレを片手で扱えてからが
ようやく斧騎士なんだ﹂
﹁えっ⋮⋮あの、いや⋮⋮﹂
宙吊りにしたキュラルの体を、ユラユラと動かす。
﹁ふんっ!﹂
﹁いひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ﹂
反動をつけ、高速で腕を回した。
1765
それに釣られて、キュラルの体は回転する。
全身を引き延ばされる様な感覚を味わい、キュラルの体は悲鳴を上
げる。
しかしそれでも、フレアは手を止めない。
キュラルからまったく声がしなくなるまで、回し続けた。
﹁⋮⋮これで終わり﹂
キュラルの体を地面に落とし、バイブを拾いあげる。
後はその膣口に挿し込みさえすれば、フレア達の勝利だ。
そう思った瞬間、
﹁やめろ!﹂
鋭い声が届いた。
セナの声だ。
﹁やめてください!﹂
シャロンの声もそれに続いた。
同僚達の声に導かれ、フレアが振り向いた先で、女が女に絡みつい
ていた。
﹃障壁﹄のニュマが、リセの体に絡みついていたのだ。
両足が首に掛かり、片腕は完全に伸びきっている。
﹁⋮⋮ッ! ⋮⋮ッッ!﹂
リセは声すら出せずに悶えている。
﹁折るわ。コイツの首を﹂
ニュマはひどく冷静な声で、フレアへと語り掛ける。
﹁それが嫌なら、今すぐそのバイブを自分のマンコに突っ込んで﹂
ギュッ︱︱とリセの体を締めながら、ニュマは睨んでいる。
﹁ふざけるな⋮⋮ッ! 今すぐコイツに!﹂
フレアがキュラルの体に手を掛けようとした瞬間、
﹁キュラルに触ったら、そこで交渉は破断。すぐさまコイツの首を
折る。どうする? 試してみる? バイブを挿すのが早いか、首を
折るのが早いか﹂
勝敗はほぼ決していた。
1766
それでも、ニュマは諦めない。
﹁悪いけど、私達にも負けられない事情があるの﹂
いつでも締め落せる状況で、あえてリセの意識を残し、その苦悶の
表情でフレアを脅す。
﹁⋮⋮往生際が悪いぞ⋮⋮っ!﹂
額に険を湛えて睨みつけるフレアに、
﹁何とでも言えばいいわ。早くして、そろそろ死ぬかもよ﹂
ニュマは一切の感情を殺し、言い放った。
フレアは思考する。
ほんの一瞬だけ、考えた。
天秤を作り、そこにリセの命、そして肉便器に変えられた七人の運
命を置く。
どちらも選びようが無かった。
リセの命を守れば、今現在便所に繋がれている七人は孕み、望まぬ
子を産まされる。
その上で自分達も負けられない戦いにおいて不利になり、次戦の結
果次第ではそこで未来が潰えてしまう。
逆にリセの命を無視すれば、七人はハルビヤニの恩恵によって妊娠
という呪いを回避できるが、その代わりにフレアがここまで歩んで
きた騎士の道を全て無視する結果となる。
唇を噛み、そこから血を生みながら、フレアはニュマを睨みつけ︱︱
﹁早くっ!﹂
それに気づいた。
こちらを脅すニュマの体はリセに絡みついている。
技を掛ける為に足を首に巻き付けている以上、反対側、その頭はリ
セの足の上に乗っていた。
故にニュマは気が付かない。
リセの手が、ひっそりとニュマの陰唇に向かっている事を。
苦悶の表情を浮かべながら、リセは唯一自由になる左手を、ニュマ
の陰唇に潜り込ませた。
1767
﹁早︱︱んひっ!﹂
突然の感触に声を上げるニュマ。
その拘束が一瞬緩み、
﹁げほっ! がっ! 鋼の処女膜なのかも知れませんけど、バイブ
じゃなくて、私の指なら!﹂
処女膜とは、厳密に言えば膣内を塞いでいる物では無く、狭めてい
る物でしかない。
バイブの様に幅広の物で有ったのならば、ニュマは極狭の隙間に力
を籠める事で跳ね返す事が出来た。
しかし、リセの細くしなやかな指が文字通り侵入し、解すように押
し開いて行く事で、
﹁やめっ! あっ! んっ!﹂
未知の感触に、ニュマは声を上げた。
﹁貴女が、処女で良かった⋮⋮開きました!﹂
指の先端を通し、続けざまにもう一本の指で空洞を作り出す。
ミチッ︱︱と肉をこじ開ける音がし、ニュマの﹃障壁﹄は開いた。
﹁んひぃぃぃぃぃぃ﹂
破瓜の瞬間、ニュマは意識を全て持って行かれた。
拘束するリセの事も、勝利への執着も全て消え去った。
その瞬間を、フレアは逃さない。
﹁よくやった! リセ!﹂
バイブを握り直し、倒れ伏すキュラルの体からレオタードを剥ぎ取
って、その膣口に押し当てる。
﹁しまっ! やめろっ!﹂
慌ててリセへの拘束を取り戻そうとするニュマだが、
﹁同じ手は食いません﹂
絞め技対策に体を丸め、首を隠したリセには技が掛けられない。
そして、
﹁んぼぉぉぉぉぉぉぉぉっ!﹂
キュラルの絶叫と共に、ブザーが鳴り響き、
1768
第二競技、パイルドライブマッチは終了した。
﹁結果はビランコスタが二枚、客人達が四枚か⋮⋮見事と言うしか
ないな﹂
貴賓席から、ジュブダイルの声が重く響く。
﹁ニュマという壁を突破し、ビランコスタを上回るコインを獲得す
るとは、公娼とやらも中々の物だ﹂
表彰式。
ルールに則り二枚ずつコインを受け取ったフレア、リセ、そしてニ
ュマが戦場の中央に立ち、ジュブダイルの言葉を受け止めている。
﹁はぁ⋮⋮あ、はぁ⋮⋮﹂
その傍では、膣口からバイブを抜き去り、肩で息をするヘミネが居
た。
﹁どべで! どべでぇぇぇぇぇぇ﹂
﹁こ、こわるぅぅぅぅぅ、オマンコが馬鹿になるぅぅぅぅ﹂
戦場の片隅にはイレーネとキュラルがそのまま放置されていて、バ
イブは未だに激しく振動している。
二人にビランコスタ側の豚魔が近づき、バイブの尻の部分を触った。
﹁いやぁぁぁぁぁぁぁ!﹂
﹁許して下さい! ゆるじで!﹂
彼女達がヘミネにそうした様に、ハイパーモードのスイッチを入れ
たのだ。
ニュマは泣き叫ぶ同僚達を見て、目を伏せている。
﹁客人達よ、それでは宴の最後の幕を紹介しよう!﹂
ジュブダイルは両手を広げ、言葉を放つ。
﹁最後の競技は﹃速﹄、メア・リー・レース。ハリアレ、決着をつ
けてやれ﹂
大王の声に、
﹁お任せください。不甲斐無い同僚の尻拭い、この﹃媚風﹄のハリ
1769
アレが綺麗に始末をつけてご覧に入れます﹂
応援席で、口の端を捻じ曲げて笑っている美女、ハリアレが自信満
々に言葉を吐いた。
﹁お疲れ様﹂
引き揚げて来た三人を、セナ達は迎えた。
﹁あぁ⋮⋮皆ボロボロだよ﹂
フレアは苦笑いを浮かべながら、セナの肩に腕を回し、もたれ掛っ
た。
﹁リセさん、大丈夫ですか?﹂
﹁はい、少し痣になってますけど、この程度なら﹂
シャロンが心配そうにリセを見やると、侍女ははにかみながら笑っ
た。
﹁ヘミネちゃんっ! 良かった﹂
外傷はあまり無いが、股間を庇い歩きづらそうにしているヘミネの
元にマリスが駆け寄り、肩を貸した。
﹁ありがとう、マリス﹂
その様子を、ヴェナとマリューゾワ、そしてシュトラが見ている。
﹁これでコインは七つ。相手が五つですから、次の競技もこのまま
引き分け以上で終われれば、総合勝利と共にハルビヤニの条件もク
リアできますね﹂
﹁あぁ、何としてでも条件を突破し、全員無事にこのひと月を乗り
越える。その為には︱︱﹂
聖騎士の言葉に頷きながら、魔剣大公は熱の籠った目でシュトラを
見やった。
ロクサスの大騎士は頷き、
﹁はい。次戦も必ず勝ちます﹂
第三競技メア・リー・レースの参加者は、この時点で出場機会が無
かった三人に確定している。
1770
セナ、ヴェナ、シュトラが明日の競技に挑む事になる。
﹁フレアさん達を休ませつつ、明日の対策を練りましょう﹂
ヴェナの言葉に全員が頷き、貴賓席から降りて来たハルビヤニと合
流し、客室へと帰って行った。
﹃障壁﹄のニュマは土下座していた。
背後に未だバイブで狂わされているイレーネとキュラルを庇いなが
ら、チームスタッフに向けて額づいていた。
﹁この度の敗戦は私にも責任が有ります! どうか、二人には寛大
な御処置を﹂
ラプシーとハリアレの蔑んだ視線を感じながら、ニュマは言葉を紡
いでいく。
﹁如何様な処罰も甘んじて御受けします! 除籍だけは、どうか、
お許しください﹂
第一競技でコインを得る事が出来なかったダルリとマミーラがどう
なったか、それを知るニュマは心の底から怖れていた。
奴隷として生きて来た自分達が、奴隷以下の姿で死んで行く事を。
﹁⋮⋮ふむ﹂
﹁どうします?﹂
﹁少なくともニュマはコインを二枚得ていますからなぁ⋮⋮﹂
チーム首脳陣は囁き合い、
﹁だっさ﹂
ハリアレは吐き捨ててから背を向き歩きだし、
﹁ニュマちゃん別に良いじゃんそんな二人、試合でも全然役に立っ
てなかったのにねー?﹂
ラプシーはイレーネとキュラルを指差しながらニコニコ笑っている。
﹁お願いします、お願いします!﹂
ニュマの必死に嘆願に、
﹁⋮⋮わかった。受け入れよう﹂
1771
首脳陣は結論を告げた。
﹁イレーネとキュラルはこれから次のシーズンまでは補欠扱いとし、
ファンクラブ用の接待穴となれ、避妊は無しだ。妊娠した時点で繁
殖奴隷に降格とする﹂
運が良ければ助かる、と言った程度の沙汰が下された。
﹁ニュマは処女を失った事だし、しばらくは俺らの性処理穴の役目
を命じると共に、もう一つ別の仕事を与える﹂
チーム代表者の言葉に、ニュマは首を傾げた。
洞窟スポーツ︱︱洞スポの号外が、この日も配られた。
通行量の多い場所でばら撒かれる記事に、多くの豚魔が視線を落し
て行く。
洞スポの記事は教養にはならないが、仲間内での話のタネにするに
は持って来いの物なのだ。
誰も、その記事に真理真相を求めてはいない。
面白ければ、それで良い。
小紙記者は、ビランコスタ首脳部からの案内を受け、第一層にある
便所へと向かった。
そこで、事前に耳にしていた通りのものを目撃する。
便所掃除をする﹃障壁﹄のニュマ選手の姿だ。
ビランコスタ側からの説明では、敗戦の責任を取って自発的な清掃
活動を行っているとの話だった。
ニュマ選手は壁に設置された肉便器の尻を水で洗い、膣内にスプー
ンを突っ込み淀んで溜まった精液をほじり出している。
記者が取材を申し込むと、ニュマ選手は明るい表情で頷いた。
︱︱どうして便所掃除を?︱︱
︱︱有り難い事に、自分は今選手として多くの方に注目してもらっ
ています。けれど、本質はここにある肉便器と変わらないんだって
1772
事を胸に刻んで、もっと頑張ろうと誓いを新たにするための儀式な
んです︱︱
そう言って、ニュマ選手は精液を粗方掻き出した膣口に今度は丸め
た雑巾を押し込んだ。
︱︱それにしても、汚いですね︵笑︶︱︱
︱︱えぇ、汚いです︵笑︶。ちゃんと洗剤も持って来てますんで、
それで落ちると良いんですけど︱︱
肉便器の尻部分に書かれた数字や卑猥な言葉を、洗剤をまぶしたス
ポンジで擦るニュマ選手の表情は、真剣そのものだ。
︱︱写真を一枚、撮らせてもらっても良いですか?︱︱
︱︱はい、どうぞ︱︱
肉便器の肛門の内側を小型のブラシで洗っているところを、撮らせ
て頂いた。
︱︱お手伝いしても大丈夫ですか?︱︱
︱︱助かります。穴部分は私がやるので、上半身を磨いて貰って良
いですか?︱︱
記者も袖を捲り、雑巾を手にして肉便器の汚液まみれの体を磨かせ
てもらった。
重力に従い垂れている二つの重たい乳房を揉む様にして磨いている
と、だんだんその先端が大きく尖って来ているのを見て、ニュマ選
手と共に少し笑った。
︱︱感じてますね、コレ︵笑︶︱︱
︱︱肉便器ですから、仕方ないんじゃないでしょうか︱︱
そのまま五分ほど二人で作業していると、便所の入り口に順番待ち
が出来始めたので、大慌てでバケツの水で洗剤を流し、一般の利用
者さん達に肉便器を引き渡した。
︱︱これで終わりですか?︱︱
︱︱いえ、餌やりの方も任せて頂いたので︱︱
ニュマ選手はそう言うと、便所の隣にある清掃員用の扉を開き、中
の掃除用具入れに入って行った。
1773
そこには便所と壁一枚を隔て、体の大部分を向こう側に残し、顔と
手の先だけを出した肉便器が居た。
︱︱こんにちは︱︱
︱︱こんにちは︱︱
記者の挨拶に笑顔で応えてくれたのは、肉便器のシロエさんだ。
ニュマ選手が精液混じりのおかゆを温めている間に、少しだけ話を
聴く事が出来た。
︱︱肉便器とは、どういう気分なのですか?︱︱
︱︱非常にやり甲斐のある仕事だと思っています。私の何の役にも
立たない穴に、皆さんがチンポを挿れて下さり、気持ち良くなって
くれているんだなって思うと、心から満たされます︱︱
笑顔で言うシロエさんの顔と手は、少しずつ揺れていた。
︱︱もしかして今︵笑︶?︱︱
︱︱はい、今チンポを頂いています︵笑︶︱︱
インタビュー中にも肉便器の仕事をこなすシロエさんの熱心な姿勢
に胸を打たれる思いだった。
︱︱肉便器はこれと言った終わりの無い仕事ですけれど、モチベー
ションを保つ方法など有ったら教えて下さい︱︱
︱︱そうですね。やっぱり皆さんのチンポから頂ける精液の量だと
思います。あ、このチンポはこれだけ気持ち良くなってくれたんだ、
次も頑張ろうって思います︱︱
前向きな言葉を放つシロエさんの素敵な笑顔を見て、これが彼女の
天職なのだろうなと、納得した。
︱︱お話していたらちょっと私のチンポが︵笑︶︱︱
︱︱あ、それでしたらどうぞ、口を使って下さい︱︱
遠慮なくシロエさんの口と喉でチンポを扱かせて頂き、記者はひと
段落つく事が出来た。
そこに、おかゆを用意したニュマ選手がやって来て、レンゲに掬っ
たかゆをシロエさんの口に与えて行くのを見守る。
︱︱美味しいですか? ザーメン粥︱︱
1774
︱︱はい、大好きな味付けなので︱︱
心温まる会話を聞きながら、記者は静かに撮影装置を起動させた。
餌やりが終了すると、ニュマ選手は食器を下げて用具入れから出て
行こうとした。
︱︱おや? どこへ?︱︱
︱︱肉便器はまだ六つありますから、今日中に全ての便器を掃除し
ようと思うので︱︱
熱心なニュマ選手の姿勢に胸を打たれ、記者は同行を申し込んだ。
始めは遠慮されたが、やがて頷いてくれた彼女に礼を言ってから。
︱︱それじゃシロエさん、今後とも末永くお仕事頑張って下さい︱︱
︱︱はい、ありがとうございます。今度はマンコの方で再会出来る
と嬉しいです︱︱
肉便器のシロエさんに挨拶し、用具入れから出ると、そこには長蛇
の列が出来ていた。
これからも大忙しになるシロエさんの壁から生えた尻に一礼し、記
者はニュマ選手と共に第二階層の便所へと向かった。
号外の下部には、二枚の写真が載せられていた。
一枚は首から下を壁から突き出した裸の女の肛門に器具を挿入する、
無表情のニュマが写っている。
そしてもう一枚、
そこには激昂しながら吠え、口の中の黄ばんだ粥を吐き捨てている
シロエの様子が、鮮明に写しだされていた。
1775
降臨祭第二週 其の五 ﹃力﹄ 後編︵後書き︶
次回は幕間です。
ラグラジル、アン・ミサ、ラクシェ、ユラミルティの現在の状況を
見に行こうと思います。
1776
幕間 天兵の里︵前書き︶
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1777
幕間 天兵の里
彼女は犬だった。
彼女がそれまでどんな存在で、民衆からどのように怖れ敬われてい
たかなどは忘れ去られ、犬となっていた。
具体的には服を着ておらず、二本歩行をしていない。
全裸で、四つん這いにされて首輪に取り付けられたリードを引かれ
ている。
﹁さ、今日は向こうの方まで散歩しようか﹂
初老の男が、にこやかに笑って言った。
男の手には、小さなスコップと紙袋が握られている。
犬が路上で粗相をした時に必須になる道具だ。
﹁ほーらワンちゃん大好きなお散歩だよー﹂
﹁お散歩が終わったらおやつも有るからねー﹂
リードを引く男の他に、二人の男がそれぞれ撮影用の魔法道具を持
って犬を見下ろしていた。
﹁⋮⋮ッ!﹂
犬は、唇を噛んだ。
血が滲むほどに唇を噛んで、
﹁わん⋮⋮﹂
一つ鳴いた。
力天使ラクシェと呼ばれ絶大な力を宿した少女は今、犬に身を落し
て、自分が庇護して来た民衆の玩具に成り果てていた。
﹁ラクシェ様だ⋮⋮﹂
﹁うわぁ⋮⋮。犬だよ犬だ﹂
四足歩行のラクシェは三人の男に導かれ、大通りを歩く。
1778
突き刺さる視線は、侮蔑と呆れ、そして僅かな羨望。
南側住宅区をぐるりと回り、その痴態を民衆に晒している。
これは、ロッドマンが提案した企画。
力天使ラクシェという存在は、姉二人とは異なり、民衆から純粋に
畏怖の視線で見られている。
それを緩和する為の、飼い犬プレイ。
日替わりで飼い主を定め、全裸のラクシェを散歩させる事で、民衆
から力天使への恐怖を取り除こうとしているのだ。
﹁まさかあのラクシェ様がなぁ⋮⋮﹂
﹁それに、お祭の本番になれば、アン・ミサ様やラグラジル様と一
緒に、セックスさせてくれるんだろう? あの犬﹂
姉達の名前が聞こえて来た瞬間、ラクシェはその声の主を睨みつけ
た。
条件反射で、立ち上がりかけた。
そのラクシェの様子を見て、
﹁ひ、ひぃぃぃ。す、すいません﹂
声の主は腰を抜かして、地面に座り込んでしまった。
周囲の者達も、ラクシェの放った気迫に怯えている。
力天使の威光。
しかし、それはこの企画に有ってはならない物だった。
﹁ごめんなさいねぇ⋮⋮ウチの犬が﹂
飼い主役の男が、頭を下げた。
﹁吠える様な真似しちゃってぇ⋮⋮ほら、謝んなさい﹂
飼い主はラクシェの頭に手を乗せ、軽く押した。
ラクシェは焼ける様な感情を飲み込み、それに従って頭を下げた。
﹁そういえば、そろそろトイレの時間じゃないかね﹂
飼い主には役割が与えられていた。
今の様にラクシェが民衆へ脅しをかけた時、それを無にするという
役割が。
﹁どれ、お尻をこっちに向けなさい﹂
1779
手に、緑色の薬液が詰まった浣腸器具を握っていた。
ラクシェはそれを見て、顔を青褪めさせた。
必死に首を振るが、
﹁我慢は良くないよ、我慢は﹂
飼い主は犬の頭を撫でながら、その肛門に浣腸器具を挿し込んだ。
﹁あっ⋮⋮﹂
ラクシェの喉から、息が漏れる。
薬剤が直腸の襞を濡らす、不快な感覚。
﹁んっ⋮⋮くぅ﹂
ラクシェは目を瞑り、押し寄せる排泄への欲求を塞ぎ込もうとした。
それを優しい目で見守りながら、飼い主は尚も頭を撫でて来る。
﹁しっかり撮るからね﹂
﹁いつでも出して大丈夫だから﹂
撮影道具を構えた二人が穏やかに言った。
民衆からラクシェへの畏怖を取り除く為、ラクシェが民衆を威圧し
た時、飼い主はそのガス抜きをしなくてはならない。
その方法は、辱め。
犬として扱い、恥辱の行為を強制する事で、怯える民衆に力天使ラ
クシェの失墜を思い知らせるのが役目。
震える幼い体躯は、限界を訴えていた。
﹁いや⋮⋮や、トイレ⋮⋮﹂
﹁んーワンちゃんなんて言ったのかなー?﹂
飼い犬プレイのルールとして、ラクシェの意思表示は犬の鳴き声で
しか飼い主には認識されない。
どう哀願しようが、どう懇願しようが、飼い主の耳には届かない。
﹁わ、わんわん!﹂
ひたすらに、吠えるしかないのだ。
﹁あ、もうすぐ出るんだそうですよ。見たい方はどうぞ傍へ寄って
下さい﹂
飼い主の言葉に、観衆は及び腰で近づいて行く。
1780
ラクシェの我慢の決壊は、もうすぐそこにまで来ていた。
突き刺さる視線に、羞恥に狂いながらラクシェは首を振るが、それ
でどうにかなるものでは無い。
全身に汗を浮かべるラクシェ。
その姿を見て、
﹁可愛い﹂
観衆の一人がそう呟いた。
﹁我慢してるラクシェ様︱︱ワンちゃん可愛い。撫でて良いですか
?﹂
その言葉に、
﹁どうぞ。喜びます﹂
飼い主は笑顔で頷いた。
四方から、ラクシェの体に手が伸びる。
頭を撫で、胸を触り、腹を擦り、陰唇を摘み、肛門を突いた。
愛撫。
犬を撫でる行為そのもの。
力天使ラクシェは庇護して来た民衆にその肌を弄られる。
怒りと屈辱で、何もかもが爆発しそうだった。
小指の先でゼオムント兵を駆逐したラクシェにとってみれば、この
連中など羽根の一薙ぎで殺してしまえる。
それをしないのは、全ては姉の為。
人質にされてしまったラグラジルの命の為。
肌を撫でられる不快感と、腹の底から湧き上がる異物感に怯えなが
ら、ラクシェは懸命に怒りを飲み込み続けた。
﹁お、出そうですね﹂
﹁本当だ。ヒクヒクしてる﹂
肛門を突いていた男達が和やかな声を出す。
﹁んっ⋮⋮んんんんんっ!﹂
ラクシェは眉を顰め、必死に耐えようとするが、
﹁我慢は駄目だってワンちゃん﹂
1781
﹁ほら、出しちゃお﹂
二人の男がそれぞれ一本ずつ指でラクシェの肛門を広げ、通り道を
作った。
﹁ひゃぐぅぅぅぅぅ﹂
ただ一つ幸な事は、先ほど注入された浣腸液には特殊な加工がして
あり、力天使の肛門から溢れ出したソレらに膜を掛け、見事異臭を
封じ込める事に成功していた。
ラクシェの肛門から零れ落ちたのは、緑色の膜で覆われた排泄物と、
彼女のプライドそのものだった。
﹁はーいオッケー﹂
北側商業区のど真ん中、大通りに声が響く。
﹁んじゃ次はこっちの衣装を着せてあげて﹂
山羊頭の魔物達が、忙しなく動いていた。
﹁あ、そっちの機材は向うに動かして﹂
山羊頭はゴゥト商会のスタッフ、彼らの後ろには羽落ちの男達が集
まっていた。
その視線が集まる先に、
﹁これを⋮⋮着るんですか?﹂
智天使アン・ミサの怯えた表情が有った。
彼女の体にはペラペラのローブが掛けられ、いつでも着替えに入れ
るようになっており、撮影の合間である事が窺える。
﹁はい、次はアン・ミサ様の蟻の巣渡り︱︱まぁアソコとアナルの
中間ですね、そこを注目して行こうと思っていますので﹂
撮影監督の山羊頭がそう言って、スタッフがアン・ミサに着せよう
としている物を指差す。
﹁⋮⋮そんな⋮⋮﹂
アン・ミサの顔には絶望がよぎる。
スタッフが手にしている物は、どう見てもただのガーターベルトで
1782
しかない。
それも派手なピンク色の、とても知性が感じられない様なモノだ。
﹁まぁまぁ、良いじゃないですかもう既に何枚も撮ってるんですし﹂
山羊頭の言葉通り、アン・ミサ達残留組はハルビヤニ達が出て行っ
た後、ロッドマンとゴゥト商会の主導により、恥辱の撮影を続けて
いた。
裸はもう、飽きるほどに撮られている。
﹁それに、アン・ミサ様が断ればラグラジル様かラクシェ様にお願
いするだけですしね﹂
その言葉が、智天使の心を深く抉る。
﹁お姉様達は⋮⋮無事なのですよね!﹂
﹁さぁ、私はそっちの方は知りません。所属が違いますので﹂
ロッドマンはハルビヤニ不在の一週間、天使達の恥辱行為に関して
一つの法則を設けていた。
相互不干渉。
撮影する人員から何まで完全に組分けを行い、三姉妹はもちろんユ
ラミルティにも別々の場所で娼婦活動を行わせた。
どれだけの恥辱を味あわせても、支え合う仲間が居た場合には心が
堕ち難く、調教のノリが悪くなる。
ロッドマンは公娼を長年見て来た経験に基づき、天使達を切り離し
て管理する事で、一週間での下ごしらえを完成させようとしていた。
この数日間、アン・ミサはラグラジル、ラクシェ、ユラミルティの
顔を見ていない。
﹁お姉様達に会わせて下さい!﹂
どれだけ必死に求めても、
﹁あぁ大丈夫ですよ。元気にやってます。たぶん﹂
軽くあしらわれた。
不安で押し潰されそうになる心を必死に支える物は、姉達への信頼。
それに縋るしか、最早残された道は無かった。
﹁もう良いですか? 撮影スケジュール押してるんですよ﹂
1783
ゴゥト商会のスタッフはそう言って、部下に手で指示をだす。
その指示に従い、男達が一斉に為政者の体に近寄り、
﹁やめっ﹂
山羊頭達の手がアン・ミサの体からローブを剥ぎ取る。
素っ裸にされ、路面に押し倒される。
白い肌が白日の下にさらされ、観衆に智天使の裸を見せつけた。
﹁さ、それじゃあ着けますよ﹂
﹁いや、止めなさい⋮⋮止めてっ﹂
為政者の抗議を無視し、山羊頭達の手はその肌に触れ、ピンク色の
ガーターベルトを腰に通し、そこからフリルの付いたオーバーニー
ソックスを穿かせた。
乳房と陰唇を晒し、無意味にガーターで扇情的な線を作っただけの
姿にされ、アン・ミサは震えている。
そこに、
﹁はい、じゃあ足広げておいてね﹂
撮影監督の山羊頭が、アン・ミサの股の間に体を捻じ込む。
それをサポートする様に、二人の男が足を一本ずつ掴み、押し広げ
ていた。
﹁な、何をするんですか!﹂
﹁いやーですから、蟻の巣渡りをですね。注目してもらわないとい
けないので﹂
男の手には、筆が握られていた。
﹁アン・ミサ様にはこれから毎日、今日の一言って感じでこの場所
にメッセージを書かせてもらって、それを印刷して町中に配る事に
します。まぁ、ここ掲示板ですね﹂
﹃ここ﹄と筆の先で膣口と肛門の間を突きながら、山羊頭は言った。
﹁な、何を言っているのですか貴方は!﹂
﹁今日何にします? アン・ミサ様から告知が有ればそれでも良い
んですけど、無いなら無いでこっちで勝手に決めちゃいますよ﹂
アン・ミサの抗議を無視し、男は掲示板と言い差した部分を撫で、
1784
質感を確かめている。
﹁ひふぅ!﹂
不快感に身を悶えさせるアン・ミサに、
﹁あんまり文字数書けないですし、掲示板の説明だけにしときます
かね、今日は﹂
男はそう言って、膣と肛門の間の狭い場所にサラサラと下書きをし
た。
﹁あ、あぅぅぅぅぅ﹂
﹁あぁ、動かないで下さいよ。困るなぁ、まぁ今のは下書きだった
んでセーフですけど。おい、インクくれ﹂
背後の部下に指示し、インク入りの瓶を受け取る。
﹁お⋮⋮そうだ。どうせなら使わせてもらおうか﹂
男はそう言って、瓶の狭くなった口をアン・ミサの陰唇に押し付け、
一気に中身を流し込んだ。
﹁あ、あああっ! な、何をしたのですか!﹂
﹁いやぁ、どうせなら掲示板の備品になってもらおうかと﹂
黒のインクが流し込まれた膣内に筆を潜り込ませ、その毛先にたっ
ぷりとインクを付ける。
﹁おっと、付けすぎたか﹂
そう言って男は筆の向きを変え、肛門の皺に押し当て、擦り取る様
にして余分なインクを落して行く。
﹁あふぁ!﹂
﹁おぉ、アナルの皺が良い感じにインクを吸い取って行く。アン・
ミサ様流石ですね﹂
そしていよいよ、本番の時を迎えた。
﹁おい、押さえとけよ﹂
周りの部下達に命じ、アン・ミサを押さえ込ませる。
﹁止めなさい! 止めて下さい!﹂
﹁えーっと⋮⋮じゃぁこれで﹂
チュプ︱︱サラサラ︱︱
1785
男がアン・ミサの﹃掲示板﹄に書いた文字は、
﹃膣肛間掲示板、広告募集中﹄
﹁ではラグラジル様、人間族に対する備えはこれで宜しいでしょう
か﹂
﹁食糧問題についてですが、管理者様の御意見を伺いたく存じます﹂
﹁各地に出現している野良の親鬼に対する討伐命令を各部族に通達
したく思うのですが﹂
降臨祭期間中とは言え、各部族の長達には同胞達の暮らしを守る責
務があり、管理者との距離が近まるこの期間、様々な意見交換が行
う必要が有った。
宮殿の玉座の間、荘厳な礼装を身に纏った様々な魔物達が管理者ラ
グラジルを取り囲み、その言葉を待っていた。
魔物達が取り囲む中央に、ラグラジルは居た。
一糸纏わぬ裸体を晒して。
﹁ラグラジル様! ご意見を﹂
﹁こちらにもお願い致します!﹂
詰め寄る族長達の顔には、好色と侮蔑が浮かんでいた。
﹁ラグラジル様、どうぞ﹂
宮仕えの羽根落ち少女が恭しく魔天使に差し出したのは、轟音を立
てて暴れる一本のバイブだった。
﹁⋮⋮﹂
ラグラジルは無言でそれを取り、股間にあてがう。
そして、
﹁んぎひぃぃぃ!﹂
その圧力と振動で息を詰まらせながら、一気に押し込んだ。
飛び散りそうになる意識を掻き集め、自分を取り囲む族長達を睨ん
でから、
﹁聞きなさ⋮⋮あひぃん!。人間族には個別に対応! 戦えない場
1786
合は無理に近づかない事! 食糧問題は流通路の確保が出来ないな
らゴゥトなり豚魔なりから買いなさい! 一時金は貸し出してあげ
る。んあぁぁぁっ! 親鬼は降臨祭終了後にラクシェが駆逐するか
らそれまでは自衛する事!﹂
盛大に悶えながら、魔天使はそう指示を放った。
﹁お言葉、有り難く﹂
﹁しかしラグラジル様、その一時金についてでございますが﹂
﹁野良親鬼の被害が既に出ている地域に関しての護衛の派遣につい
てですが﹂
族長達のニヤけた笑みと質問は止まらない。
﹁おっほぉぉぉぉっ⋮⋮んぐぅ⋮⋮一年分、こちらからゴゥトに金
を渡すから、そこで必要な物資を見繕いなさい! 護衛は派遣でき
ない。自衛よ自衛﹂
顔を上気させながら、ラグラジルは侮蔑の視線に耐えている。
これは、ロッドマンが用意した政策議論の場。
各部族の長には自由な発言権を与えられているが、ラグラジルには
対してはそうでは無い。
彼女が発言できるのは、その膣内に極太バイブが埋まっている時だ
け。
﹁ぁんぐはっ! はっ⋮⋮はっ﹂
話し終えたラグラジルは、バイブを思い切り引き抜く。
身を護る為に分泌された愛液と、少しの小便がこびり付いた凶悪な
ソレは、未だに激しく振動していた。
﹁それでは、次の議題に移りましょうか﹂
﹁そうですな。会議はまだまだ長い﹂
﹁このような場でもないと、ラグラジル様と直接お話しする事も出
来ませんからねぇ﹂
族長達は笑顔で言葉を交わしている。
﹁降臨祭にて、ハルビヤニ様がご降臨されているとお聞きしていま
すが、今はどちらに?﹂
1787
投げかけられた質問に、ラグラジルが口を開こうとすると、
﹁ラグラジル様﹂
宮仕えの羽根落ちが、再びバイブを差し出して来た。
アン・ミサが慈悲で救ったこの羽根落ち達だが、今はロッドマンに
脅され、この役目を押し付けられている。
彼女達はロッドマンの命令に背けば、公娼オタクを召喚され膣内出
しセックスをさせられてしまう。
目の前で怯えている羽根落ちの少女も、一度はロッドマンに抗議し
た後、オタクとのディープな種付を経験し心を折られているのだ。
﹁あぁ、君。これからも会議は続くから、ラグラジル様がずっと発
言できるように支えていてあげなさい﹂
族長の一人がそう命じ、羽根落ちの少女はバイブに目を落すと、
﹁⋮⋮申し訳ございません。ラグラジル様﹂
バイブを握り、ラグラジルの背後に回った。
﹁せめて、気持ち良くなれるように、努力致しますから⋮⋮﹂
消え入るような声でそう言って来るのを、
﹁⋮⋮チッ!﹂
魔天使は舌打ちで受け入れた。
そして、
スブリュ︱︱
﹁グぃ⋮⋮あぁぁぁぁっ!﹂
再び、弾けるような感覚がラグラジルの全身を包み込む。
﹁⋮⋮こちらですか? こちらもですか?﹂
羽根落ちの少女は片手でラグラジルの胸を摘み、もう一方の手で肛
門を弄り回す。
彼女にしてみれば、贖罪の行為。
魔天使の苦しみを僅かにでも取り除くために、快感を作り出そうと
していた。
﹁あふぁ! んんっ! い、いあああああっ。ハルビヤニは! 父
は今ジュブダイルの所へ行っている! 近く帰ってくる。話はそれ
1788
からしなさい﹂
バイブの振動と羽根落ちの手で屈辱の絶頂へと導かれながら、ラグ
ラジルは管理者としての言葉を放った。
会議はその後、数時間延々と続けられた。
夕陽も落ちかけた頃、ロッドマンは一人静かに宮殿前の広場を歩い
ていた。
その場所で、魔物達が固まって人垣を作っている。
﹁失礼しますよ﹂
その壁を掻い潜り、ロッドマンは人垣の中心へと歩みを寄せた。
﹁ご無事ですか?﹂
そこに﹃置かれた﹄人物に、声を掛けた。
﹁⋮⋮﹂
彼女は答えない。
無言で、粗悪な木の板で作られた晒し台の上に、両足を大きく開い
た姿勢で拘束され、置かれている。
裁天使ユラミルティは、常の理知的な風貌を失い魂の無い人形の様
な顔でロッドマンに視線を向けた。
そこには明確な恐怖だけが宿っていた。
﹁随分と荒い扱いをなさる⋮⋮。オルソー作品でもこうはなりませ
んぞ⋮⋮﹂
ユラミルティは天兵連隊による報復を一身に受け、他の天使達とは
別に、彼らの嗜虐心を満足させる為だけに処女のまま肛門を犯され、
弄ばれていた。
ロッドマンは表情に不満を浮かべ、ユラミルティの体をじっくり眺
めまわした。
トレードマークのメガネは付けておらず、顔にはいくつかの裂傷と
赤い腫れが生まれている。
乳首には極太のピアスが撃ち込まれ、赤い血の滴りが生々しく見て
1789
取れた。
そして、股間。
陰唇はハルビヤニの厳命も有り、処女を守る為に荒らされてはいな
いが、その代わりに酷使されたであろう裁天使の肛門は、ズタズタ
だった。
腫れ上がり、擦り切れ、そして粉々にレンズが砕け散った後のメガ
ネフレームが、すっかり馬鹿になったその穴に押し込まれていた。
﹁芸術を知らぬ俗物に、これ以上任せてはおけませんね﹂
放っておけば彼女を殺しかねない。
そう判断し、夜間はユラミルティを宮殿に戻すように天兵連隊には
命じておいたが、このままでは明日にでもユラミルティは拷問に耐
えきれず、命を落すかもしれない。
﹁大丈夫ですよ﹂
ロッドマンは優しく微笑み、ユラミルティの肛門からメガネフレー
ムを取り出す。
﹁んひっ⋮⋮﹂
﹁さぞやお辛かったでしょう⋮⋮でも大丈夫です。私共公娼を愛す
る同志達は、その命を儚みます。貴女は私が守る。そう誓いますよ、
ユラミルティさん﹂
取り出したメガネフレームを、そっと彼女の顔に掛けながら、ロッ
ドマンは言った。
そして、小さく口元で呪文を唱えると、
﹁ござる?﹂
一人の公娼オタクを呼び出した。
﹁君、異空間を通ってハルビヤニ様に連絡を。天兵連隊の行いは危
険すぎる為、ユラミルティは私が直接管理します。尚、天兵連隊か
らの抗議が予想される為、魔導機兵を数体私とユラミルティの警護
に付けて頂けるよう、お願いして来て下さい﹂
ロッドマンの言葉に、
﹁了解でござるー﹂
1790
公娼オタクは素直に頷き、
﹁⋮⋮﹂
﹁あぁ、自分では戻れないのでしたか、それでは﹂
再び呪文を口遊み、公娼オタクを異空間に格納するロッドマン。
そしてそのまま、好々爺然とした笑みでユラミルティの頭を撫で、
﹁よく我慢しましたね。明日からはもっと素敵で愛の有る恥辱を共
に楽しみましょう。今夜はゆっくりお休みなさい﹂
ロッドマンの手はユラミルティの黒髪を撫で、異物で汚れたメガネ
フレームの位置を直し、乳首に突き刺さったピアスを外して、そし
て例外的に清らかなその陰唇を一つ揉んでから、
離れて行った。
﹁それでは、また明日﹂
台の上、拘束されたままのユラミルティを放置して、ロッドマンは
背を向けた。
﹁あっ⋮⋮﹂
黒髪の裁天使は、そこで弱弱しい声を上げる。
先ほどのロッドマンの言葉は﹃救い﹄であったはずだ。
この場所から、彼女を連れ出してくれる︱︱
﹁大丈夫ですよ。じきに魔導機兵が来ます。彼らが居る内は処女を
犯そうとする連中を駆逐してくれますし、貴女に危害を加える者を
許さないでしょう﹂
ロッドマンは魔物の人垣の中に身を潜り込ませながら、
﹁ですので、代わりにお触りや撮影なんかには、素直に応じてあげ
て下さいね﹂
そう言葉を残した。
ロッドマンが人垣を抜け、明日からのユラミルティに対する調教を
思い描きながら宮殿へと戻って行く後ろでは、
先ほどの魔物達が押し合い圧し合い拘束されたユラミルティの体に
纏わりつき、その体を弄び始めていた。
﹁止めて下さ⋮⋮引っ張らないで、これ以上⋮⋮広げないで!﹂
1791
悲痛な叫びを聞き、ロッドマンは頷きながら、
﹁うんうん。そうやって大きな声が出る様なら、明日からも楽しみ
ですね。あんまり暴力に偏り過ぎると、痛みと絶望に慣れ過ぎて言
葉を無くしてしまいますから。そうなっては面白くないですからね
ぇ﹂
ユラミルティが血塗れの乳首を抓まれ、ガバガバの肛門を押し開け
られて再びメガネを挿入され、恥辱と恐怖の中で上げた悲鳴を聞き
ながら、公娼オタク界の重鎮は明日の為に早めの休憩を取ろうと、
宮殿へと向け足を動かした。
1792
降臨祭第二週 其の六 ﹃速﹄ 前編︵前書き︶
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1793
降臨祭第二週 其の六 ﹃速﹄ 前編
﹁んんんぅぅぅぅぅ!﹂
黴の匂いが蔓延する小さな部屋に、一人の女の呻き声が響き渡る。
﹁あっ! あっ⋮⋮んあぁぁぁ﹂
女は涎を撒きながら喘ぎ、疲労の浮かんだ顔を晒している。
晒しているのは顔だけ、女の体はこの部屋には無い。
首から下と手首から向こうは、隣の便所へと残され、汚れきった小
便器の間に並べられているのだ。
﹁んぎぃえ⋮⋮﹂
焦点の合わない目で自分の顔の下に溜まった涎のプールを見つめ、
魔導士ユキリスは記憶を呼び起こす。
﹁あと、一日⋮⋮で﹂
ここに繋がれる際に、豚魔から説明を受けた。
ハルビヤニに選抜された九名がジュブダイルの用意した九名とある
勝負をして、そこに勝てば解放してやると。
勝負の期間は三日間に分けて行われる。
後一日、この場所で耐える必要が有った。
ステアやシロエ、ロニアは刃向ったが、武器が無い状況では戦う事
が出来ず、豚魔にいくつか手傷を負わせた後に制圧され、ハイネア
王女や魔導士達を人質にされて、肉便器になる事を強制された。
﹁んぐぅぅぅ! ま、また⋮⋮﹂
ここに繋がれた日から、ユキリスは自分の首から下を見ていない。
そこは隣の便所に裸で取りつけられ、豚魔達に休む事無く弄ばれ続
けている。
今も、ユキリスの膣内を押し広げて遊んでいる豚魔の肉棒の邪悪な
存在を感じている。
肉便器としての扱いは、想像を絶する物だった。
1794
いつ、どのタイミングでチンポが突き込まれるかを知る事が出来な
いユキリスにとっては、ふと息を抜いた瞬間に極太のそれを押し込
まれ、一気に意識を持って行かれそうになる。
射精のタイミングも分り辛く、チンポが急に太く感じられ、その後
爆発するかのように膣内に温く重たい液体が放出されるのだ。
手慰みで肛門は捲られ、唾を吐き捨てられる。
体勢を支える取っ手として壁に付けられたユキリス自身の曲げた腕
は、豚魔の握力により激しく握り潰され、鈍い痛みを放っている。
重力に引かれた乳房は、豚魔の激しい腰の動きでユキリスの体が揺
れる度にパチパチと暴れている。
限界だった。
あと一日、耐え切らなければならない。
セナ達を、仲間達を信じている。
必ず、勝利して自分達を解放しに来てくれると。
しかしそう願う頭の片隅に、別の思考が恐れを孕み、ドス黒い存在
感を放っていた。
豚魔達がここにユキリスを設置して別れ際に告げた言葉。
豚魔の精子は他種族を容易に孕ませる。
その言葉が、ユキリスの心胆を震えさせるのだ。
﹁あっ! ま、またぁ⋮⋮﹂
今、壁の向こうにある自分の体を犯していた豚魔が、射精の時を迎
えた。
他種族を容易に孕ませる豚魔の精子が、無防備なユキリスの子宮に
押し寄せているのだ。
﹁うぁ、あああああああああああああっ!﹂
絶望。
例え助かったとしても、自分は早晩豚の仔を産む事になるかも知れ
ない。
その想像が、魔導士ユキリスの脳を激しく掻き乱していた。
1795
﹁メア・リー・レースは、仮装競馬だ﹂
帰還した客室で、ソファーに身を沈めたハルビヤニは語る。
﹁牝馬を三頭ずつ出し合い、それを装飾して走らせる。牝馬には人
力車を牽かせそこに一人着飾った操縦者を乗せる﹂
その説明を聞き、彼を取り囲んでいる公娼達の中、顔色を変えたの
が三人。
シャロン、フレア、そしてシュトラ。
シャロンとフレアの視線はシュトラへと向き、青髪の騎士は双眸を
広げて言葉を飲み込んでいる。
﹁メア・リー・レースが競技として完成したのはこの大洞窟でだが、
こいつには起源って物が存在してな。別の場所で育まれた文化を、
豚魔達が娯楽に変えたのさ﹂
ハルビヤニはそこまで言うと、シュトラに視線を合わせ、
﹁そう⋮⋮あのチビたネズミ達のな﹂
シュトラはマルウスの里で、ひと月ほどの間、雌車︱︱ハルビヤニ
の言葉を借りるのならば、メア・リー・レースの起源をやらされて
いた。
かつてラグラジルにその映像を見せられたシャロンとフレアの記憶
には、その無残な姿が克明に刻まれている。
目隠しをされ、全裸で四つん這いになり、四肢と乳房に括りつけら
れた縄で木製の荷台を牽き、肛門に挿し込まれた操縦棒で加速減速
右折左折を指示される。
マルウスの雌車。
﹁⋮⋮シュトラさん?﹂
セナは知らない。
屈辱の記憶が有るのはシュトラだけであり、それを目撃したのはシ
ャロンとフレアのみ。
セナ達にも言葉の上で説明はしてあるが、シュトラの事を慮ったシ
ャロンが言葉を濁していた為、正確には伝わっていない。
1796
﹁クハハハハ。な、俺がお前を選んだ理由。わかるな?﹂
経験者。
第三競技﹃速﹄メア・リー・レースにおいて、公娼達は初めて、経
験を持つ者を得る事になった。
﹁あの里のレース、俺も結構見てたぜー。お前の勝率がダントツ過
ぎて、終盤は賭けになって無かったもんなぁ。期待してるぜ、お前
の走りをな﹂
ハルビヤニの言葉に、シュトラは唇を噛んで俯いている。
﹁雌車はどちらかと言えば荷車としての実用性を追求した物だが、
このメア・リー・レースで使われる物、まぁ﹃メアリー﹄と呼ぶ奴
が多いかな。それは競技性を重視して設計されている﹂
そう言って、ハルビヤニは映像装置を魔法で起動した。
そこに映されていたのは︱︱
﹁⋮⋮﹂
﹁下品な⋮⋮﹂
﹁チッ⋮⋮﹂
目を背けたくなるような内容だった。
両手を背中側で縛られた女性の体に、華美な装飾が施されている。
冠、肩当て、脛当て、チョーカー、リストバンド、乳錠、鎖状のベ
ルト。
そして目隠し。
乳房や陰部などの大事な部分はあえて外す形で、金属を纏った女性
達。
派手な金属で裸体を飾りたて、その背後にはまた装飾過多な人力車
の座席を牽いていた。
背中に回した両腕や太ももに伸縮性のある極太のバンドを括りつけ
人力車へとつなげて、その上で肛門と陰唇に座席から伸びた二本の
棒が突き刺さっている。
座席には正装をした一体の豚魔が座り、取り付けられたハンドルを
握っていた。
1797
ハンドルの直下には、二つのペダルが取り付けられている。
﹁このハンドルとペダルで、操縦者はメアリーを操作する﹂
ハルビヤニの声に、全員が不快気に目線を送った。
﹁良いか、雌車とメアリーの大きな違い。それは取りつけられた女
の役割にある﹂
映像の中、六台の人力車︱︱六人のメアリーが一斉に走り出して行
く。
雌車とは異なり、二足歩行で前のめりになりながらの疾走だ。
人力車の座席に座った豚魔は、右側のペダルを強く踏みしめていた。
﹁右側がアクセルペダル。左側がブレーキペダルだ。これによって
操縦者はメアリーを操作する。クハハ﹂
﹁あれは⋮⋮﹂
﹁そんなっ⋮⋮!﹂
目を凝らして、映像を見つめる公娼達。
彼女達が見た物は︱︱
﹁アクセルペダルを踏むと、肛門の内側に潜り込んでいるアクセル
ロッドが前に伸びる。ロッドの先端は丸くなってるから安心しな。
刺さりはしないさ﹂
メアリー達の股間に繋がった棒が、その奥へと進んでいく様子だっ
た。
メアリーと座席を結ぶバンドは伸び切っており、ロッドが伸びた分
だけ、メアリーが加速した事が窺える。
﹁そして逆にブレーキペダルを踏むと、膣口に入っている方のブレ
ーキロッドが座席側に引き戻され、返しの付いたフックが強制的に
メアリーの体を引っ張る。マンコを掴んで、な﹂
一人のメアリーが顔を顰めて減速している様子を見て、彼女の膣内
でどの様な苦しみが起きたのかを察する公娼達。
﹁あぁ、ブレーキを踏むとアクセルで伸びた分も同時に引き戻され
るから、安心しろ。そして次に、このハンドルが持つ意味を説明し
てやる﹂
1798
ハルビヤニは心底楽しそうに、公娼達の顔を見渡しながら言葉を続
けた。
﹁雌車との大きな違いだ。この座席の車輪は、ハンドルの操作によ
って角度を変える。すなわち、メアリーよりも後輪が先に動くんだ﹂
背後で牽いている座席が急に向きを変えた場合、人力車全体のバラ
ンスが大きく揺らいでしまいかねない。
﹁ハンドルの動きはアクセルロッドとも同期している。動いた瞬間、
肛門内で回転するロッドの動きを素早く読み取り進路の変更をする
事が、メアリーには求められるわけだ﹂
告げられた言葉に、魔剣大公マリューゾワは苦虫を噛んだ表情で疑
問する。
﹁進路の変更など⋮⋮そうそう起きるものなのか?﹂
映像の中、六人のメアリー達は真っ直ぐ走っている。
ほぼ等間隔に並び、直線のコースを突っ走っているのだ。
﹁まぁまぁ、見てな﹂
そうハルビヤニが告げた瞬間、
﹁あっ!﹂
﹁ダメだろ!﹂
﹁そんなっ!﹂
右端に映っていた一人が、コース上に設置されていた大きな水溜ま
りに足を取られ、バランスを崩したのだ。
転がるメアリーの体につられ、人力車の座席、そしてそこから伸び
ている二本のロッドが︱︱
﹁血が⋮⋮﹂
﹁酷い⋮⋮目隠ししているところに水溜りなんて⋮⋮﹂
水溜りで倒れ伏すメアリーは自由にならない体で悶えている。
その股間からは真っ赤な血を零して、泥に汚れた水溜りに新たな色
を注いでいた。
﹁このように、コースには水溜りや草地、起伏が用意されている。
そしてこのレースは直線コースだが、明日の会場は楕円状のトラッ
1799
クになる。進路の変更は必須なんだよ﹂
一拍挟み、
﹁コースを三周し、一着にコインが三枚、二着に二枚、三着に一枚
だ。まぁ、説明はこのくらいだな﹂
ハルビヤニは楽しげに言い、メア・リー・レースの説明を終了させ
た。
そこに、聖騎士ヴェナが重く声を放った。
﹁⋮⋮ハリアレについての情報は?﹂
ジュブダイルが用意したビランコスタの代表者﹃媚風﹄のハリアレ。
﹃洪水﹄のラプシー、﹃障壁﹄のニュマと同程度の脅威が予想され
る以上、彼女についての事前情報を掴んでおきたかった。
﹁ハリアレねぇ⋮⋮まぁ、良いか。アイツの﹃媚風﹄ってのは、そ
の体臭だ。後続が風に乗って運ばれてくるハリアレの香りを嗅ぐと、
レースの事なんざどうでも良くなるぐらいに興奮しちまって、ミス
や戦意喪失してしまうらしい。それぐらい、媚薬めいた風が、アイ
ツの走った後には流れているらしいぜ﹂
ハンドブックを手にしながらの解説に、目を合わせる公娼達。
﹁だったら﹂
セナが口を開く。
﹁ハリアレの前をずっと走れば良いって事?﹂
その言葉に、
﹁まぁそうなるな。だが、ハリアレは走力の方も相当なもんだぜ。
上手く躱して行くくらいの覚悟もしておいた方が良いだろうな﹂
ハルビヤニは含み笑いで応じた。
﹁ハリアレが自分より前方で、尚且つ近くに居る場合は呼吸を止め
るのが効果的でしょうか﹂
シュトラが言い、
﹁そうですね。可能な限りハリアレの前を取り続けますが、いざと
なればその手で行きましょう﹂
ヴェナが頷いた。
1800
メア・リー・レースの概要と強敵になり得るハリアレについての情
報を得た。
現時点で、公娼達は第一競技でコインを三つ、第二競技で四つ。
合計七つ。
競争相手のビランコスタは五つである事から、一着を手にしてしま
えばそれだけで公娼側の勝利は確定する。
﹁⋮⋮行きましょうか、セナさん、シュトラさん﹂
ヴェナはそう言って、二人の騎士を促した。
﹁負けられない⋮⋮騎士長達の為にも、未来の為にも﹂
セナは拳を握り、
﹁あの悪夢の様な経験が、私の力になるだなんて⋮⋮﹂
シュトラは目を伏せ、感情を押し殺した。
﹁さ、例によってコーチは付けてやるからな。それに人力車部分の
飾りつけも必要だし、何より操縦者がいるなぁ⋮⋮今回は多めに、
ほいっと﹂
指を鳴らしたハルビヤニ。
その召喚に従い、
﹁ござる!﹂
﹁我らにお任せでござる!﹂
﹁素敵なメアリーに仕立ててあげるでござるよ!﹂
公娼オタクが三十人ほど、虚空から出現した。
ヘラヘラと笑う彼らをヴェナは睨みつけ、
﹁行きますよ﹂
その言葉と共に二人の騎士を従え、客室を出て行った。
残された公娼達はその背中を見送って、
﹁お願いします⋮⋮セナ、ヴェナ様、シュトラさん。どうか、勝利
を⋮⋮﹂
シャロンは祈り、他の者達もその思いに同調した。
そこに、
﹁さーってそんじゃ暇だし、少し大洞窟内を探検しようぜ。あ、お
1801
前らは全裸な﹂
ハルビヤニの明るい声が響き、シャロン達は一斉に顔を顰めた。
大洞窟内の青果市場。
ハルビヤニはシャロン、フレア、リセ、マリス、ヘミネ、マリュー
ゾワを伴い、散歩へ出て来ていた。
公娼達はそれぞれ色違いの造花付チョーカーを首に巻いただけの痴
態を晒し、豚魔達に視線で犯されながら、西域の王の後をついて歩
く。
﹁お、このバナナ良いな。寄越せ﹂
﹁は、ハルビヤニ様⋮⋮どうぞ﹂
ハルビヤニが笑顔を向ければ、豚魔達は平伏して望むものを差し出
した。
﹁うむ、旨い。良いバナナだ﹂
皮を剥いたバナナをモグモグと咀嚼しながら、ハルビヤニは頷いた。
﹁お前達も何か食うか? 奢ってやろう﹂
その言葉に、
公娼達は荒んだ視線で応じた。
﹁やれやれ⋮⋮良いバナナに感動して少しは寛大な気持ちになった
というのに、そんな奴らには︱︱﹂
﹁ハルビヤニ様、お目に掛かれて光栄でございます﹂
ハルビヤニの言葉を遮る様に、歌う様な声が割り込んで来た。
その場に居合わせた者達は一斉に、そちらを見る。
そこに居たのは、緑色のジャケットと鋭い角度のビキニパンツを穿
いただけの女性。
白髪を揺らし、妖艶に微笑んでいた。
﹁ほう、ハリアレか﹂
明日のメア・リー・レースで対戦する相手、﹃媚風﹄のハリアレが
立っていた。
1802
ハリアレの背後には、同じ格好をした二人の女性がいる。
いずれもメアリーとして明日出場する者達だ。
﹁調整の合間に軽く食事でもしようかと来てみれば、何という幸運
でしょう。この西域の王たる貴方様にお会いする事ができるだなん
て﹂
やや大げさに、ハリアレはハルビヤニに跪いて見せる。
後の二人は慌ててその動きに倣った。
﹁ふむ。臣下の礼か。良いぞ良いぞ﹂
美女に跪かれるのを拒む男は居ない。
ハルビヤニは上機嫌で頷いている。
﹁我が王⋮⋮﹂
潤んで瞳で、ハリアレは王を見上げた。
﹁明日の戦いで私の勇姿をしっかりとご覧下さい。ニュマの様に、
無様な醜態は晒しません。このハリアレ、全身全霊を持ってメアリ
ーとしての全てを貴方に捧げます﹂
本来は敵対しているはずのハルビヤニに対して、ハリアレはその様
な言葉を作った。
﹁ほう⋮⋮。まぁレースが面白くなるに越したことはないな。励む
と良い﹂
ハルビヤニは余裕の笑みを浮かべたまま、頷いた。
﹁しかし殊勝な心がけだな。ジュブダイルにしろ他の豚魔にしろ、
俺を恐れ敵対視するばかりで敬おうとはしない。それに比べてお前
は良く理解しているな﹂
王はそう言って、跪いたハリアレの体を抱き起した。
﹁貴方様はこの西域の支配者、そして私はその奴隷でございます。
望まれるのなら、心を込めてご奉仕させて頂きます﹂
甘い声で、ハリアレは頷いた。
﹁そうかそうか。それじゃ遠慮無く﹂
ハルビヤニの手はハリアレの腰に回り、その股間に食い込むビキニ
パンツの内側に侵入して行った。
1803
﹁あんっ⋮⋮我が王⋮⋮一つお願いが有るのですが﹂
その手を受け入れながら、更に体を密着させてハリアレは熱く囁く。
﹁ほう⋮⋮?﹂
﹁この場所で貴方様に抱かれる⋮⋮とても嬉しいのですが、同時に
少し恥ずかしくも有るのです。ですので、ちょっとだけ皆さんの注
目を逸らす為に、私のお願いを聞いて頂けないでしょうか﹂
そう言って、ハリアレはハルビヤニ首に抱き着き、耳元で囁いた。
ポショポショと、甘く熱の有る言葉で、ハリアレは願いを告げる。
それを聞いたハルビヤニは、
﹁クハハ⋮⋮だよなぁ。お前達からしてみれば、コイツらは許せな
い相手だよなぁ﹂
後を振り返り、シャロン達を見やった。
﹁何ですか⋮⋮?﹂
睨み返すシャロンに、
﹁ここは、どこだ?﹂
ハリアレを抱いたまま、ハルビヤニは優しく問うた。
﹁青果市場だろ!﹂
フレアが吠える。
﹁そうだな。ここに来る奴らは何を求めている?﹂
重ねて問う。
﹁フルーツでしょう⋮⋮﹂
リセが小さく答える。
﹁うんうん。大小さまざまなフルーツがここには有る﹂
深く頷くハルビヤニ。
﹁何が言いたいんですかねー?﹂
首を捻るマリス。
﹁でも、フルーツってそのまま食べると手間だよな。汚れるし﹂
王は更なる言葉を放った。
﹁要領を得ませんね﹂
ヘミネが断じる。
1804
﹁そんなわけでお前達、協力してやれ﹂
視線をハリアレに戻しながら、ハルビヤニは言い捨てた。
﹁何を、言っている⋮⋮?﹂
マリューゾワは王を睨みつけながら、問いただした。
それに対し、
﹁だからね、アンタ達の体で、そのフルーツを食べやすくしてから
皆に配りなさいって。そう言う事よ﹂
ハルビヤニでは無く、その情婦然としたハリアレがそう答えた。
バチンッ︱︱
王の召喚により、公娼オタクが十数人出現する。
﹁うほほーい﹂
﹁ござるござるー﹂
﹁ジュース作りでござるー﹂
ハルビヤニが市場の中央でハリアレと青姦をしている間、その回り
の屋台では、
﹁はーいここはブドウとマスカットでござるよー﹂
﹁んひぃぃぃぃぃぃぃ﹂
マリューゾワが痙攣している。
陰唇にいくつもいくつもブドウとマスカットの粒を入れられ、ギュ
ウギュウに詰まったところで極太ディルドーを挿入され、内側で潰
される。
マリューゾワの膣圧とディルドーの圧搾により、その膣口から零れ
て来たジュースをコップに注ぎ、その屋台の店主達は商売をしてい
るのだ。
公娼オタク達はミキサー役である公娼達の股間に張り付き、その屋
台で売られているフルーツを股間に押し込み続けている。
﹁こっちはリンゴとパインでござるー﹂
﹁ふぁんぁあああああああああ﹂
1805
フレアの陰唇から零れ落ちるジュースを掬い、硬貨のやり取りが有
り、買い取った客の豚魔はそのジュースを一気に喉に流し込む。
﹁くはーっ! うめぇ! 自分で作るジュースと味が全然違うぜ!﹂
﹁それはそうでござろう! 何て言ったってこのミキサーは長年使
われてきた物でござるからな、この膣内に残留する苦みがフルーツ
の味を引き立たせるのでござる﹂
フレアの膣内にリンゴを丸のまま押し込みながら、公娼オタクは誇
らしげに語った。
シャロンは柿と梅。
フレアはリンゴとパイン。
リセはモモとマンゴー。
マリスはキウイとバナナ。
ヘミネはイチゴとブルーベリー。
マリューゾワはブドウとマスカット。
どの屋台にも噂を聞き付けた豚魔達が続々と並び。
その行列を捌く為にシャロン達は膣内でフルーツを砕き続けた。
ハリアレはその様子を、ハルビヤニに後背位で責められながら笑っ
て見つめている。
﹁んはっ! 凄い、ハルビヤニ様⋮⋮あっ!﹂
﹁クハハハ。お前のマンコも中々の物だぞ。これは俄然、明日の勝
負で負けられなくなったなぁ。お前を持ち帰る為にも﹂
﹁そ、そう⋮⋮ですか? それは、嬉しいです⋮⋮でも、勝負には
負けませんから﹂
膣内をシャスラハールの肉棒で貫かれながら、ハリアレは笑う。
惨めな惨めな公娼達を笑う。
どこの世界にマンコでフルーツジュースを作る女が居る。
それをあれだけ大勢に飲まれる女が居る。
そんな奴らは人間では無い。
奴隷以下の、ただのモノでしかない。
ラプシーには油断が有った。
1806
ニュマには緊張が有った。
しかし、ハリアレにはそれは無い。
奴隷として、人間として生きる彼女は、あの様な汚れたモノに成り
下がる気は全く無い。
必ず勝つ。
勝って、アイツらを永遠にジュース搾り機にしてやる。
﹁私は⋮⋮アンタ達とは違うのよ⋮⋮あは、あはははははははっ!﹂
解き放たれた精液を子宮に浴びながら、ハリアレは狂ったように笑
っていた。
一夜明け、第三競技メア・リー・レースの会場に、シャロン達の姿
は有った。
﹁ぅんっ⋮⋮﹂
﹁大丈夫か⋮⋮?﹂
奇妙な声を漏らすシャロンに、応援席の隣に座ったフレアが気遣い
の言葉を放つ。
﹁大丈夫です⋮⋮。まだ少し違和感が⋮⋮何か残ってるような⋮⋮﹂
昨日は結局、夕食時まで延々ミキサーとして膣内にフルーツとその
果汁を浴び続けていた事により、膣内に残留する違和感に公娼達は
誰もが悩まされていた。
客室に戻って風呂場でいくら洗ったところで、凌辱の記憶同様に、
果実の感触は消え去らなかった。
﹁⋮⋮今は、この勝負に集中しましょう﹂
昨日イチゴとブルーベリーのミックスジュースを作り続けていたヘ
ミネも、苦虫を噛み潰しながら二人の会話に交じってくる。
﹁そうだな﹂
フレアは一度座席の前の仕切り壁を蹴りつけてから、呼吸を整える。
﹁結局セナ達には会えませんでしたね﹂
シャロンが漏らす言葉に、フレアとヘミネは顔を曇らせた。
1807
﹁一言応援ぐらいできたら良かったんですけど﹂
ヘミネはそのままの表情でつぶやき、
﹁準備が押してるって話じゃ、どうしようも無いさ⋮⋮﹂
フレアが悔みながら声を放った。
﹁信じましょう﹂
後の席から、リセが芯の籠った声を出す。
﹁そうだな。我々に出来る事はそれだけだ﹂
マリューゾワも同調する。
﹁バリバリ応援しますよーマリスはー﹂
その隣、マリスが中腰の姿勢で言った。
﹁そうですね。信じましょう。セナと、ヴェナ様と、シュトラさん
を﹂
シャロンが頷いた瞬間、
﹁さぁぁぁぁて! それでは! メアリー達の入場だぁぁぁ!﹂
司会の男の吠える声が響いた。
楕円状に作られたトラックを囲う応援席と観客席、そして貴賓席。
超満員の視線が集まる先、入場ゲートにまずは三台、メアリーが入
って来た。
肩と脛に金色のカバーを付け、同色のヘッドギアには羽根飾りを装
備したビランコスタのメアリー達が、両腕を背中側で縛られた姿勢
で金色の人力車を牽き、背後の座席に乗せた小柄な豚魔達と共に入
場して来た。
先頭を行くのは、ハリアレだ。
白髪を揺らし、乳房を揺らし、尻肉を揺らし、視線を一身に浴びな
がら、コースのスタートラインにまで移動する。
その目には既に目隠しが施され、進む方向は操縦者である豚魔がハ
ンドルで指示した結果を肛門で判断し、向きを変えて歩いている。
メア・リー・レース。
汚辱の徒競走。
﹁んんんっー。さっすがビランコスタ! そしてハリアレ! 見て
1808
いるだけで昂って来ちゃうぜぇぇぇ。そんでそんでぇ! お次は幸
運続きで何とか勝ってる! 挑戦者達の登場だぁぁぁ!﹂
司会の声に促され、操縦役に公娼オタクを乗せた、三台のメアリー
が入場ゲートに姿を見せる。
それを見て、応援席の公娼達は唖然とした。
﹁そんな⋮⋮﹂
﹁あれは⋮⋮﹂
視線の先、セナ達の体にはハリアレ達の様な装飾は付いていない。
代わりに、
﹃性交人数一万人突破﹄﹃ケツ穴にもおチンポ下さい﹄﹃走る肉便
器﹄などの文字が肌の上にデカデカと書かれていた。
その上、彼女達が牽引する人力車の車体にはこれまでの公娼活動で
撮影された名場面集が切抜きで貼られていた。
セナの場合は土下座で親戚に膣内出しを懇願している場面。
ヴェナの場合は精液で満たされた浴槽で気持ち良さそうに髪を洗う
場面。
シュトラの場合は牧場内で小作人に農作業用フォークで膣口を掻き
回されている場面。
それぞれの忌むべき記憶を鮮明に写し出され、自分達の牽く車の装
飾にされていた。
辱め。
着飾ったハリアレ達に対して、あまりにもみすぼらしい格好で、更
にはセナ達がかつてどんな存在であったかを示され、観客達は大い
に笑った。
あんな奴ら、倒してしまえと。
もう一度、土下座で膣内出しを懇願させてやろう。
もう一度、精液風呂で湯浴みさせてやろう。
もう一度、農具で滅茶苦茶に犯してやろう。
﹁やってしまえー! ハリアレーッ!﹂
そんな声が飛ぶ。
1809
﹁そんな便所女達に負けるなよー!﹂
ビランコスタへの応援。
そこに込められた最大級の蔑みに、会場内は震えている。
﹁くそっ!﹂
フレアは立ち上がり、
﹁セナーッ! ヴェナ様! シュトラ! 頑張れっ!﹂
吠えた。
その大きな声に、スタートラインに向かっていたセナの目隠しで覆
われた顔が一瞬フレアの方を向き、力強く頷いた。
﹁大丈夫そうですね﹂
シャロンが胸に手を当てて言うと、
﹁えぇ、信じましょう﹂
ヘミネが大きく頷いた。
﹁それではぁぁ、位置についてっ! よぉぉぉぉぉ⋮⋮おぉ⋮⋮?
え⋮⋮?﹂
轟く声でスタートの合図を放とうとした司会の男の声が止まる。
﹁何? 何ですか?﹂
﹁ほえ? スタートしないの?﹂
リセとマリスが首を傾げる隣で、
﹁あれを、見て⋮⋮﹂
マリューゾワが、愕然とした顔で入場ゲートを指差した。
そこに、一人の影が有った。
背の高い女性。
青い髪を靡かせ、総身の肌を晒している。
その上、彼女の腹部はこんもりと盛り上がり、そこに彼女以外の命
が宿っている事を証明していた。
﹁あれは⋮⋮?﹂
ヘミネは首を傾げる。
彼女は知らない。
あの人物がシャロン達を襲った時に、ヘミネはその場所には居なか
1810
ったのだ。
﹁親鬼⋮⋮﹂
その恐怖を知る者の一人、シャロンが震える声を出す。
﹁クスタンビア⋮⋮!﹂
突如現れた親鬼クスタンビア。
その出現に、会場内はどよめいた。
そして、混乱の坩堝へと陥った。
豚魔達は知っていた。
親鬼クスタンビアの末路を。
自分達の手に落ち、繁殖奴隷として飼われる事になった西域の英雄
の惨めな姿を。
その彼女が、何の拘束も無くこの場所に姿を現したのだ。
ゆっくりと、クスタンビアは歩みを進める。
その先に、貴賓席が有った。
シャスラハールの姿を借りたハルビヤニと、その隣には豚魔の大王
ジュブダイル。
ジュブダイルは表情を崩さずクスタンビアを見下ろし、逆にハルビ
ヤニはクスタンビアの腹部を見つめて眉を顰めていた。
﹁ハルビヤニ様⋮⋮﹂
不意に、クスタンビアが声を放った。
﹁ハルビヤニ様⋮⋮御姿は変わっても、ワタシにははっきりとわか
ります。おめでとうございます。ご降臨、おめでとうございます﹂
花の咲いたような笑顔を見せ、クスタンビアは大きなお腹を窮屈そ
うに曲げて地面に額づいた。
﹁⋮⋮﹂
ハルビヤニは反応しない。
﹁ご挨拶が遅れて、申し訳ございません﹂
少しだけ顔を上げたクスタンビアは、それでも笑っている。
1811
﹁お会いできて、本当に嬉しく思います﹂
まるで十代の少女のように、真っ直ぐな感情を見せるクスタンビア。
その肌がズタボロに汚されている事と、腹部に別の種族の命が宿っ
ている事が、表情とのギャップを深刻にしていた。
﹁⋮⋮クスタンビア﹂
ハルビヤニはようやく、口を開いた。
﹁はい、ハルビヤニ様﹂
喜色を浮かべたクスタンビアは、勢いをつけて立ち上がった。
﹁⋮⋮不愉快だ⋮⋮お前の事はもう見たくも無い。よくもそんな腹
を晒して俺に会いに来れたな﹂
ハルビヤニはしかし、残酷な言葉を放った。
クスタンビアが豚魔の仔を宿した原因は、彼の策謀に依るところが
有る。
直接指示を出したわけでもないが、ハルビヤニがクスタンビアを切
り捨てた事により、ジュブダイルの部下が暴走し、この様な事態に
至ったのだ。
﹁申し訳ございます。今すぐ産んで、殺してしまいます﹂
そう言って、クスタンビアは体に力を籠め始めた。
体内で育つ豚魔の仔を、強制的に産み落とそうとしているのだ。
﹁⋮⋮そう言う事を言ってるんじゃない⋮⋮。お前は⋮⋮﹂
ハルビヤニはここに来て初めて、純粋に歪んだ表情を見せた。
﹁もう少し、もう少しお待ちください⋮⋮﹂
クスタンビアは笑顔のまま、丹田に力を送り、仔を押し出して行く。
やがて、彼女の覆い隠す物の無い膣口から豚魔の仔が生まれ落ちそ
うになった瞬間。
﹁くそっ!﹂
ハルビヤニは立ち上がり、魔法を展開した。
一瞬の内にクスタンビアを包み込んだ魔法は、淡く輝き、収束した。
その結果。
﹁ハルビヤニ⋮⋮お前﹂
1812
ジュブダイルが重く呟く。
﹁何も言うな。殺すぞ﹂
ハルビヤニはそう言って、椅子に座り直した。
クスタンビアの大きく膨らんだ腹部は、二か月前に公娼達が目撃し
た時と同じく、恐るべき親鬼の引き締まった腹筋に変わり、そこか
ら生まれ落ちようとしていた豚魔の仔は完全に消え去っていた。
因果の消失。
クスタンビアが孕んでいたという事実を消し去り、そこから生じる
結果を全て無かったものに変えた。
ハルビヤニの大魔導。
それを目撃した公娼達は、かつてハルビヤニが自分達にした約束を
思い出す。
肉便器に変えられているステア達を救出した際に、もし妊娠してい
た場合にはそれを無かった事にする事が出来る。
その言葉は、嘘では無かったのだ。
﹁⋮⋮良かった⋮⋮﹂
クスタンビアは、真っ直ぐな視線で、しかしその目の端から一滴の
涙を零しながら笑っている。
﹁初めては、貴方の子どもが生みたかったから⋮⋮﹂
その言葉に、ハルビヤニは激昂する。
﹁いい加減にしろよこの付き纏いが⋮⋮﹂
再び席を立ち、眼下の親鬼を睨みつける。
﹁クスタンビア、何度も言わせるな。俺はお前にはとっくの昔に飽
きているんだよ。お前から離れたいが為に、世界と同一化し肉体を
消し去ったほどにな﹂
ハルビヤニの吠える声に、
﹁⋮⋮はい。ごめんなさい﹂
クスタンビアは笑顔で謝った。
この二人の歴史は長い。
永遠とも思える時間を、ハルビヤニとクスタンビアは過ごして来た
1813
のだ。
﹁それでも、ワタシは貴方の傍に居ます﹂
親鬼クスタンビアは真剣な目でそう語った。
﹁あくまで、諦めないと言うのか⋮⋮﹂
ハルビヤニは皮肉気に口元を歪めながら、笑った。
﹁はい。絶対に諦めませんよ﹂
クスタンビアもまた、笑う。
そうして、
﹁クハ⋮⋮クハハハハハ。まぁ良い。折角だ、クスタンビア。お前
もどうだ? このレースに参加しないか?﹂
ハルビヤニは再度椅子に腰を下ろしながら、そう言った。
﹁メア・リー・レースですか⋮⋮ジュブダイル達の愚かな遊びです
ね﹂
豚魔の大王を睨みつけながら、クスタンビアは応じた。
﹁あぁ、そうだ。クスタンビア。今俺とコイツは勝負をしている真
っ最中でな。俺が率いる公娼チームが優勢な状況なんだ﹂
そこで言葉を区切ったハルビヤニ。
そうしてクスタンビアは視線を巡らせ。
﹁⋮⋮あぁ、見た事有る顔がちらほら居ますね⋮⋮ふぅん⋮⋮お前
達、ハルビヤニ様に抱かれたの?﹂
唇を噛み裂かんばかりにして、シャロン達を睨みつけて来た。
﹁あぁ、抱いたぞ。たくさん抱いた。何日も何日も、何度も何度も
犯してやった。お前が欲して止まない俺の精液を注いでやったよ。
その子宮にな。だがコイツらはその精液を有ろう事か掻き出しやが
ったんだよなぁ﹂
ハルビヤニはそう嘯く。
﹁ハルビヤニ様の精液を? 掻き出すぅぅ? お前達! 何を考え
ている!﹂
激昂するクスタンビアの様子に、シャロン達は恐れを抱く。
﹁と、当然じゃないですか!﹂
1814
反論するが、
﹁何が当然だ! ワタシならばその精液の一滴だけでどれだけ満た
される事か!﹂
憤怒の表情を浮かべたクスタンビアには話が通じない。
﹁なぁ、クスタンビア。お前にチャンスをやろう。このレースで俺
のチームに勝つ事が出来れば、その時はお前にも俺の精液をやろう。
クハハハ、どうだ?﹂
ハルビヤニの突然の提案に、公娼達は目を剥いた。
﹁貴様! 何を言う!﹂
マリューゾワが吠えると、
﹁ハルビヤニ様に対する言葉遣いを弁えよ! この肉オナホが!﹂
クスタンビアから大喝が返って来た。
﹁良いさ良いさ。それで、どうするクスタンビア? 俺としてはな
ぁ⋮⋮現状ではこっちが有利過ぎてちょっとつまらないんだわ。そ
の上、さっきの因果修正魔法は結構疲れるからよぉ。これが終わっ
た後に七回もやらなくちゃいけないと思うと気が滅入る﹂
ハルビヤニは肩を竦めてそんな言葉を放つ。
それに対し、
﹁畏まりました。貴方の精液をこの身に浴びる為にも、このレース、
参加させて頂きます﹂
親鬼の酋長は恭しく腰を折った。
そして、視線を巡らせる。
﹁コイツらか﹂
大股で歩み寄った先は、ビランコスタの三人がスタンバイしている
スタート地点。
﹁な、何⋮⋮?﹂
目隠しをしているハリアレには、事情が詳しく理解できていない。
クスタンビアはハリアレの様子を一瞥し、
﹁退け﹂
その体からバンドを引き千切り、
1815
﹁んげっ⋮⋮な、何⋮⋮﹂
ハリアレの喉を掴んで持ち上げ、
﹁邪魔﹂
三種競技を行う競技奴隷の最高峰ビランコスタの筆頭走者﹃媚風﹄
のハリアレを、観客席に向けて放り投げた。
轟音を立てて観客席へと叩きつけられたハリアレの体に、正気を取
り戻した豚魔達が群がって行く。
肩当てや脛当てを剥ぎ取り、ただでさえ露出過多なハリアレを一糸
纏わぬ裸体に仕立てて行く。
胸を鷲掴みにし、股間を強制的に割り開く。
衝撃で頭から血を流し、青黒くなった喉を閊えさせているハリアレ
には、抵抗が出来ない。
﹁ハリアレッ!﹂
﹁ありゃー⋮⋮ハリアレ先輩どんまいです﹂
ビランコスタ側の応援席からニュマとラプシーの声がする。
公娼側の応援席は一連の流れに衝撃を受け、固まっている。
強敵と感じていたはずのハリアレが、レース開始前に居なくなって
しまったのだ。
会場に来ていた豚魔達に押し潰される様に、観客席で犯されている。
ニュマは助けに向かおうとしていたが、ビランコスタのスタッフに
止められ、応援席に戻される。
会場の警備員達は、誰も助けに行かない。
﹃媚風﹄のハリアレは、まるでポップコーンを回し食いするかのよ
うに、観客達の間で輪姦されていた。
そうこうしている間に、クスタンビアは豚魔達を威圧し自分の体に
バンドを巻かせ、メアリーとしての準備を整えた。
﹁ご覧下さいまし、ハルビヤニ様。ワタシは必ずこのレースで勝利
致します。貴方様の為に。そしてジュブダイル。全てが終わったら
貴様を殺す。覚悟しておくが良い﹂
スタートラインに並びながら、クスタンビアは目隠しを巻かれた状
1816
態で凄絶に笑った。
﹁ヴェナ様⋮⋮これは?﹂
﹁な、何ですかこの異様な気配は⋮⋮﹂
スタートラインに並んでいるセナとシュトラは、新たに現れた気配
に動揺している。
﹁⋮⋮この気配⋮⋮あの時の親鬼ですか⋮⋮﹂
聖騎士ヴェナの力量をもってしても敵わなかった西域第二の武。
クスタンビアの出現に、選手、観客、そして司会者までもが飲み込
まれている。
そこに、
﹁始めよ。予定時刻はとうに過ぎておるぞ﹂
ジュブダイルの声が響いた。
豚魔の大王は一切の怯みを見せず、クスタンビアを見下ろしている。
﹁は、はいいぃぃぃぃぃ。それでは! メア・リー・レース! よ
ぉぉぉぉぉい! スタァァァァトゥ!﹂
司会の掛け声と共に空砲が鳴り響き、公娼達の運命を決する最後の
競技、メア・リー・レースが始まった。
1817
降臨祭第二週 其の七 ﹃速﹄ 後編︵前書き︶
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1818
降臨祭第二週 其の七 ﹃速﹄ 後編
肛門の内側に捻じり込まれたアクセルロッドが奥へと進むのを襞で
感じ、セナは苛立ちを覚える。
アクセルペダルが踏まれた。
そうすると、自分は全力で前に進まなくてはならない。
両手を後ろで縛られ、目隠しをされ、肌には汚辱の文字を書かれ、
その上で、牝馬として競争をしなければならない。
全ては、仲間達の為。
未来の為。
セナは肛門に伝わる感覚を読み取り、大きく駆けだした。
メア・リー・レースは、動き出したのだ。
﹁クスタンビアが⋮⋮速い⋮⋮﹂
応援席でレース展開を見守るシャロンが声を漏らす。
﹁化物だろ⋮⋮アレ﹂
冷や汗を垂らしながら、フレアが呻く。
二人の視線の先、楕円状のトラックで始まったレースは早くも動き
を見せていた。
﹁しかし、ヴェナ殿も良い位置に来ています﹂
ヘミネが観測する様に、
現在の順位はクスタンビアが首位。
二位にヴェナ。
三位以降に四騎のメアリーが並んでいる状況だった。
メアリー達の疾走。
乳房を揺らし、尻を弾けさせながら走る裸の女達を、観衆は下卑た
視線で追っている。
1819
スタート前に失格したハリアレの事など、今現在彼女を犯している
男くらいしか会場で覚えている者はいない。
クスタンビアが、ヴェナルローゼが、セナが、シュトラが、そして
ビランコスタの残り二騎が駆ける卑猥な姿こそが、この会場に集ま
った者達が求めた物なのだ。
最初のカーブを曲がって、差が浮き彫りになってくる。
クスタンビアとヴェナの差が少し生まれ、そしてヴェナと後続四騎
の差が更に生まれた。
﹁⋮⋮このまま、クスタンビアを無視して二位と三位を取るという
手も有ります﹂
シャロンが呟いた言葉に、
﹁それはそうだが、万が一ってのも⋮⋮﹂
フレアが顔を顰めて応じた。
ハルビヤニのボーナス条件を満たす為には、この競技で負けなけれ
ば良い。
クスタンビアが一位になりコインを三枚得たとしても、こちらは二
位と三位になって合計三枚を得れば負けは無いのだ。
﹁ま、待って下さい! あれは⋮⋮ッ!﹂
ヘミネが叫ぶ。
その視線の先、
﹁あ、あいつらっ! 卑怯だ!﹂
フレアが身を乗り出して吠える。
ヴェナの後ろを走る四騎の内、ビランコスタ側の二騎が、セナの体
を両側から挟み込む様にして、妨害しようとしていたのだ。
﹁な、なにっ⋮⋮?﹂
視覚を奪われているセナには状況が上手く理解できていない。
後ろに牽いた人力車の振動と、周囲に響き渡る車輪が地面を打つ音
で、空間を認識する能力は激しく乱されている。
1820
そのセナの体に、両側から異様なプレッシャーが迫って来ていたの
だ。
﹁うふふふふ﹂
﹁あはははは﹂
声が掛かる。
﹁ウチら姉妹のコンビネーション、とくと味わうが良いよ﹂
﹁ハリアレが居なくなったのには焦ったけど、ウチらはウチらのや
るべき事をやれば良いのよ⋮⋮すなわち︱︱﹂
そこで、左の姉と右の妹が声を合わせる。
﹁﹁ここでアンタを潰す﹂﹂
セナには知りようの無い事だが、ビランコスタが誇るメアリー女王
ハリアレに次ぐ存在、サシェとミシェの姉妹には異名が有った。
﹃轢殺﹄
視界を奪われた状態でも姉妹特有のコンビネーションを発揮し、二
人がかりで競争相手を倒し、轢き潰してしまう事から付いた異名。
﹁な、ちょっ! ヴェナ様! シュトラさん!﹂
セナは声を張る。
狭まる包囲を解く為に、仲間を呼ぼうとしたのだ。
しかし、
﹁うふふふ馬鹿だね﹂
﹁あははは来るわけないじゃん﹂
轢殺姉妹はそれを笑い、尚も車体を寄せて来た。
﹁良い? このメア・リー・レース。主役はウチらメアリーだけど、
速度や方向を決めるのはぜーんぶ後ろの操縦者なのよ﹂
﹁もしアンタの呼ぶ声が聞こえていたって、操縦者がそれに反応し
なければ無駄なの﹂
セナの両足を器用に蹴りつけながら、サシェとミシェは嘲笑う。
﹁く、だったら! ねぇ! 速度を下げて﹂
後背へと声を掛けながら、セナは足を緩めようとするが、
﹁む、無理でござるぅ∼⋮⋮ひぃ∼お助け∼﹂
1821
セナの操縦役である公娼オタクは情けない声を放った。
﹁うふふふふ。ねぇ話聞いてた? 操縦者が、全部決めるのよ﹂
﹁あはははは。ウチらがアンタを潰すのも、ウチらの操縦者がそう
決めたからよ?﹂
公娼オタクの首筋には、サシェの操縦者である豚魔の手から伸びた
槍が迫っていた。
﹁くそっ!﹂
セナは姉妹を振り切る為、更に足の動きを速める。
しかし、
﹁甘い甘い﹂
﹁ほーんと、甘い﹂
サシェとミシェは鍛え抜かれた快足を飛ばし、騎士の逃走を許さな
い。
狭まる包囲に、セナの足がもつれかけたその瞬間、
﹁さ、サシェ! 避けろ!﹂
野太い声が聞こえた。
セナからすれば左後方。
サシェの後ろから聞こえて来たのだ。
その声に一瞬遅れて。
﹁ぐぎゃっ!﹂
肉が肉を打つ重たい音が、飛び込んできた。
﹁な、何っ!﹂
続いて物が壊れる音が響き、動揺するセナ。
﹁い、今でござる! ハイヨー!﹂
公娼オタクはアクセルペダルを強く踏み抜き、同時にハンドルを左
に切った。
﹁うっ、くっ!﹂
肛門の内側でアクセルロッドが回転する悍ましい感触を味わいなが
ら、セナは足先の向きを左に変えた。
﹁え? 何、お姉ちゃん?﹂
1822
セナから少し離れたところで、ミシェの上擦った声が聞こえる。
﹁ミシェ、良いから前に進め。くそっ! あの親鬼め!﹂
ミシェの操縦役の豚魔が苦しげな声で、言った。
﹃クスタンビア! まさかまさかの振り返り攻撃! ヴェナルロー
ゼ騎を蹴り飛ばしたぁぁぁぁっ!﹄
司会の絶叫を、シャロン達は青褪めた表情で聞いている。
﹁い、今のは!﹂
﹁反則だろ! そんなの!﹂
シャロンとフレアの眼前で起きた行為。
急に失速したクスタンビアが、狙い澄ました蹴りの一撃で、追い抜
こうとしたヴェナの体を弾き飛ばしたのだ。
吹き飛んだヴェナの体はセナを挟み撃ちしていた左側のメアリーに
衝突し、二騎はその人力車を含めて山のように積み重なり、コース
上のオブジェに成り果てている。
﹁ヴェナ殿⋮⋮﹂
ヘミネの緊張した声。
その視線の先、ビランコスタの車体に衝突し、グッタリと倒れ伏せ
ているヴェナの姿が有った。
レースは、その衝撃の光景を前にしても止まる気配を見せない。
﹁反則じゃ、無いのか⋮⋮﹂
フレアが息をのむ。
その目の前を、猛然とクスタンビアが通過して行った。
首位はクスタンビア。
そこからかなり離れてシュトラ。
シュトラから少し離れてセナとミシェ。
メアリー達の疾走は止まらない。
1823
シュトラは駆けながら思い出す。
雌車として過ごしていた屈辱の日々を。
純粋な力勝負であれば圧倒的に勝っていたはずのマルウスに薬漬け
にされ、全ての尊厳を奪われた暗黒の時間。
自分一人が助かり、同じ苦しみを味わった仲間達は今も悪夢の続き
を見ている。
彼女達を助けるために、シュトラは覚悟を決めた。
もう一度、あの絶望を思い出そう。
ロクサスの大騎士シュトラでは無く、一頭の雌車に成り果てよう。
姿勢を前傾に変え、速度を上げる。
﹁おっ? おぉぉ? ござる?﹂
操縦役のオタクが困惑の声を上げるのを無視し、シュトラは地面を
蹴り進んだ。
﹁さーっていよいよクスタンビアは三周目に突入だぁぁぁ﹂
司会の男の絶叫を煩わしげに聞きながら、公娼達はレースを真剣な
瞳で見つめている。
順位に変化は無く、クスタンビア、シュトラ、ミシェ、セナの順で
レースは続いている。
ヴェナとサシェが起き上がる様子は無い。
﹁このままだと⋮⋮﹂
シャロンが漏らすのは、一滴の怯え。
﹁大丈夫だって⋮⋮﹂
フレアは強気な言葉を放つが、そこに心が籠っていたかは定かでは
無い。
四騎は間隔を空けていた。
クスタンビアとシュトラにはコーナー一つ分。
シュトラとミシェの間はその半分。
そしてミシェとセナの間が更にその半分。
1824
ハルビヤニのボーナス条件を満たす為には、この勝負での引き分け
以上が求められる。
一着を取れないのならば、二着三着を取らなければならない。
しかし、純粋な力勝負では無く、レースでの技量争いになってしま
えば、セナとミシェの間では途方も無い開きがある。
現状、セナがミシェを追い抜ける要素は見受けられない。
ともすれば、シュトラがクスタンビアを追い抜くしかないのだが、
それはそれで絶望的な状況である。
﹁⋮⋮シュトラさんとセナさんであのメアリーを潰すしか⋮⋮﹂
ヘミネが漏らす言葉こそが、唯一の解答とも思えたが、二人を操縦
する公娼オタク達は前のめりになってハンドルを握り、コース上の
障害物をよける事に精一杯の様子だ。
とても、ミシェに対する攻撃に移れる雰囲気では無かった。
﹁⋮⋮ふ、遅かったな⋮⋮﹂
その時、シャロン達の後ろでマリューゾワが声を漏らした。
﹁あ⋮⋮立った! 立ちましたよ!﹂
リセの上擦った声が響く。
﹁おおぉー。ヴェナ様だー﹂
マリスの能天気な声が示す先。
コース上、最終ラップに突入したクスタンビアの数十歩先に、女人
が一人立ち上がっていた。
後ろ手で縛られ、目隠しをされ、体中から伸びたバンドを人力車に
結び付けられ、その白い肌には転んだ際に泥を塗してある女性。
スピアカントの希望。
聖騎士ヴェナルローゼが、立ち上がっていた。
ゴツッ︱︱。
会場内に響き渡ったのは、肉と肉、骨と骨がぶつかり合う異様な音。
親鬼クスタンビアと聖騎士ヴェナルローゼが、額から衝突した轟音
1825
だった。
いくら目隠しをされているとは言え、歴戦の勇者であるヴェナにと
ってみれば、向かってくる人体の気配を読む事など、容易い事だっ
た。
バチキ。
ヴェナが放ったその一撃をクスタンビアはもろに食らい、たたらを
踏む。
ヴェナの額からは血が垂れているのに対し、クスタンビアは軽く頭
を振っただけで体勢を整え、無傷なのは、人間と親鬼の根本的構造
の違いに他ならない。
それでも、足を止める事が出来た。
快走するクスタンビアの足を止め、頭部にダメージを与える事で方
向感覚を狂わせる事が出来た。
ヴェナは目隠しの下で艶やかに笑う。
﹁ふふふ。さぁシュトラさん! 行きなさい!﹂
吠え立てる声に応じる様に、立ち止まったクスタンビアの脇を一陣
の風が抜けていった。
﹁はいっ!﹂
最速の雌車が、捲り抜いた。
その瞬間、
﹁⋮⋮舐めるな、オナホ風情が!﹂
親鬼クスタンビアの気配が爆発する。
半身を引き、大地から力を吸収して足に込める。
それを、正面に立ちふさがる邪魔な障害物へと叩き込んだ。
﹁がふっ!﹂
ヴェナは内臓を破壊しかねない一撃を受け、括りつけられた人力車
ごと吹き飛んだ。
吹き飛んだ先は、観客席。
破砕音を立てて一部の観客を下敷きに、ヴェナと人力車は観客席に
叩きつけられた。
1826
﹁ハルビヤニ様の御為! 負けられない!﹂
クスタンビアは足を戻し、一気に地面を駆けた。
シュトラが逃げ、クスタンビアが追う。
その遥か後方で、ミシェとセナが競い合う。
観客席に叩き込まれたヴェナの周りには、ハリアレの時同様に男達
が群がり、邪魔なバンドを剥ぎ取っているところだった。
﹁ヴェナ様!﹂
腰を浮かしたリセに、
﹁競技中、出場選手は応援席以外への出入りは禁止だ。ルールを破
れば失格になるぞ﹂
監視役を兼ねた係員の豚魔が冷めた声を放った。
ヴェナを助ける事は出来ない。
ここから、彼女が凌辱される様を見ているしかない。
﹁⋮⋮大丈夫だ。あの目を見ろ﹂
マリューゾワは唇を噛みしめながら、そんな言葉を放つ。
﹁⋮⋮ヴェナ様﹂
﹁流石⋮⋮﹂
シャロンとフレアは、観客達に押し倒されているヴェナの姿を見て、
声を詰まらせた。
ヴェナは押し寄せる観客達の事など歯牙にもかけず、ただコース上
を鋭い目で見つめていた。
乳房を揉み潰され、股間を押し開かれながら、
﹁シュトラさん! 逃げ切りなさい! セナさんはその援護を!﹂
仲間達へ叫んでいた。
その指示を、二人の騎士は聞いていた。
﹁はいっ⋮⋮!﹂
シュトラは懸命に前を向き、追ってくる親鬼から逃げ出した。
﹁⋮⋮了解!﹂
セナは意を決し、
﹁反転するわよ!﹂
1827
﹁ほぇぇぇ?﹂
公娼オタクに一声叫んでから、その体の向きを変えた。
﹁んぎぃぃぃぃぃぃ﹂
膣内と肛内にある二本のロッドが激しく内臓を抉ってくるのを耐え
ながら、向きを反転させる。
﹁はっ⋮⋮はっ⋮⋮﹂
そして、息を吐く間も惜しいと、
﹁行くわよっ!﹂
走り出した。
コースの進路とは反対側。
逆走。
﹁え? えぇぇぇでござる!﹂
呆然とする公娼オタクを無視し、セナは全速力で今来た道を戻る。
トラック。
始まりと終わりが結ばれた円であるという事は、反対方向に向かっ
て走り合う両者はすぐにぶつかる事になる。
ミシェに追いつく事が不可能ならば、シュトラを勝たせる為、セナ
が取るべき唯一の手は、
親鬼クスタンビアを足止めする事だ。
ゴールラインを逆走して割り、コース上を疾走するセナ。
﹁あとどのくらいっ?﹂
操縦役へと鋭く問うと、
﹁え? えぇ? どっちがでござるか?﹂
シュトラとクスタンビア。
始めに接近するのは、
﹁シュトラさん!﹂
﹁あ、それならもうすぐそこでござるよ?﹂
オタクの呑気な声と共に、セナは気配を悟った。
﹁危なっ!﹂
﹁セナさんっ?﹂
1828
間一髪でシュトラとの衝突を回避し、
﹁シュトラさん! 先へ行って! アタシがここで時間を稼ぐから
!﹂
セナの言葉に、
﹁わかりました⋮⋮!﹂
シュトラは頷いた。
そうして、ほんの一瞬だった。
﹁ひっ⋮⋮﹂
セナは未知の恐怖に体を震わせた。
自分の正面に向かって来ている存在の恐ろしさを気配で感じ取った。
それは、騎士長ステアをはるかに凌駕し、聖騎士ヴェナですら敵わ
ない存在。
﹁邪魔っ! なの! よ!﹂
親鬼クスタンビアとの正面衝突。
まず最初にぶつかり合ったのは、両者の豊かな双乳。
乳首同士が押し潰し合い、乳肉のクッションに沈んで行く。
その柔らかさに、人間と親鬼の違いは無かった。
しかし、
ドグゥ︱︱。
セナの腹部にめり込んだクスタンビアの膝。
そこからもたらされる衝撃は、これまでのどの戦いでも経験した事
が無いほどに、彼女の体を痛めつけた。
﹁かはっ⋮⋮﹂
﹁退け!﹂
膝を打ち込まれて浮き上がったセナの体を、クスタンビアは続く攻
撃で蹴り飛ばす。
観客席を狙うのではなく、デタラメに吹き飛ばす結果になったのは、
この時のクスタンビアにはもう僅かな余裕すら無かったからだ。
悶え苦しむセナが崩れている横を、親鬼は走り去る。
セナは血反吐を吐きながら、
1829
﹁クッ⋮⋮あはははっ⋮⋮ざまぁ⋮⋮見ろ﹂
セナが意識を失う間際に見た光景は、
自分の隣を走り去るミシェの姿と、ゴールラインに突入しクスタン
ビアに首の差で競り勝ったシュトラの勇姿だった。
競技終了と共にシャロン達の手で助け出されたヴェナ、そして尚も
気絶中のセナを抱え、メア・リー・レースの一着シュトラと共にト
ラックに設置された表彰式へと九人が出揃った。
公娼達の視線は全て表彰台の向こうに据え置かれた演壇に乗るハル
ビヤニへと向かっている。
﹁やれやれ⋮⋮﹂
ハルビヤニは肩を竦め、
﹁お前達の勝ちだ。な、ジュブダイル?﹂
隣に立つ豚魔の大王へと語り掛けた。
﹁うむ。﹃美﹄で三枚、﹃力﹄で四枚、﹃速﹄で三枚。計十枚のコ
インを獲得した貴様達の勝利だ。結局一戦も勝てなかったビランコ
スタには、制裁が必要だろうな⋮⋮﹂
ジュブダイルの視線を受けているのは、顔を引き攣らせたラプシー
と、グチョグチョに汚されているハリアレに肩を貸したニュマ。
﹁さて、んじゃ約束通り、俺の祭に来てくれるよな? 友よ﹂
背中をバシバシ叩いてくるハルビヤニに、
﹁⋮⋮致し方あるまい。参席しよう﹂
ジュブダイルは苦み走った声で応じた。
﹁そんな事よりも!﹂
リセが割って入り、
﹁今すぐにハイネア様達を解放して下さい!﹂
悲痛な叫びを上げた。
その求めを、
﹁⋮⋮ウム。行け﹂
1830
ジュブダイルは頷き、部下に指示する事で聞きいれた。
会場には一瞬の静寂が流れ、
それを打ち破る様に、女鬼が一歩前へと進み出た。
﹁ハルビヤニ様⋮⋮ワタシは⋮⋮﹂
泣き腫らした目でハルビヤニを見つめるクスタンビア。
レースの決着後、結果を受け入れられずに暴れた彼女を抑えるため
に、百体ほどの豚魔が命を落としていた。
﹁結果は結果だな。クスタンビア。ご褒美のセックスは無しだ﹂
その様子を、冷淡にハルビヤニは見下ろしている。
﹁⋮⋮ぅ⋮⋮﹂
顔を落とし、涙を見せるクスタンビアを無視し、
﹁まぁでもあれだけ女の裸を見せつけられたんだ、早めに帰って一
発抜きたいところだが⋮⋮﹂
その言葉に、クスタンビアはガバッと顔を上げる。
﹁それならば︱︱﹂
﹁ま、それはコイツらにさせるがな﹂
壇上から降り、シャロン達の方に歩み寄るハルビヤニ。
公娼達は不快気にその姿を見やる。
﹁⋮⋮お前達⋮⋮お前達が全員死
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