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実践工業数学 - 鈴鹿工業高等専門学校

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実践工業数学 - 鈴鹿工業高等専門学校
実践工業数学
監修
長瀬治男
著者
白井 達也・柴垣 寛治・箕浦 弘人・吉川 英機
中山 浩伸・和田 憲幸・兼松 秀行
他
監修の言葉
1.本書発刊の経緯について
平成16年度、各高等教育機関が組織を挙げて教育的な取り組みを応募した中から特
に優れたプロジェクトに文部科学省が財政的な支援を行う「現代的教育ニーズプログラ
ム」(いわゆる、現代 GP)に岐阜工業高等専門学校、群馬工業高等専門学校及び本校の
3校が、“単位互換を伴う実践型講義配信事業”を申請し認められた。以後、3カ年にわ
たる e-ラーニングの試験的な製作、実施に乗り出した。初年度は、岐阜工業高等専門学
校の数学科が中心となって製作した“数学アラカルト”に本校からも何名かの教職員が
協力する形でそのプロジェクトに参加し、数名の本校専攻科学生が聴講しその結果単位
を修得した。その過程で、本校中根孝司校長から「本校教員自身の e-ラーニングに関す
るスキルと本校自体の組織的な教育力の向上を図り、現代 GP の意義を生かす方策を打ち
立てるよう」に指示を受け、本校独自の e-ラーニングの教材の作成に取りかかることと
なった。そこで、本書の著者の1人でもある材料工学科の兼松助教授が中心となり、数
学を実際の授業の中で比較的多く用い、その内容が数学の多岐な分野にわたるように専
門各科から人選を進め、それら教員が e-ラーニングの教材を準備し作成した。そのコン
テンツは受講者には別途配信される予定である。
それと同時に校長からの指示により、上記 e-ラーニングの教材を補足する為に本書の
作成を進めた。いずれの章においても、基本的事項の丁寧な説明から始まってそれぞれ
の専門的な話題に触れており、単独の教科書または参考書としても十分に使用できるよ
うに配慮した。
2.本書の内容についてー専門から数学への架け橋
数学、物理及び化学等の一般理科系基礎科目の様々な分野の知識は、高等専門学校や
大学等で工学系専門科目の学習・研究を推し進める際に、欠くことが出来ないと言われ
ている。学習する者にとっては勿論であるが、教える側にとってもこれら理科系基礎科
目の授業を効果的にする為には、これらの知識や原理が具体的に専門科目のどの分野で
どのような形で展開されるかを予め知っていることが大切であるのは言う迄もないこと
である。
最近、本校に於いても低学年学生の動機付け教育の重要性が検討されているところで
あるが、上記のことはこの観点からも重要視されるところである。従来のアンケート調
査・報告(例えば、平成15年度当時の国立高等専門学校協会第2常置委員会による「高
専数学の活用事例」、平成17年度高専教育講演論文集の本校による「高学年の数学の基
礎学力に関する教員の意識」等)では、専門教科に現れる数学の具体的な事例や数学の
分野・項目の羅列であり具体的な授業の中で数学が体系的にどのように使われているか
の報告や調査はなされていない。
この「実践工業数学」では専門の各教員が e-ラーニングを通して実際に授業を行いそ
こで数学が具体的にどのように現れるのかを体系的に説明しているので、自分達が学習
している(または、将来学習する)数学が専門科目の分野で果たす役割を十分に理解出
来るものと思う。更に、本書「実践工業数学」は各教員が時間内で十分に説明できなか
った部分、即ち、具体的な事例の解説、その現象の解明の為に必要な数学的な知識、詳
しい式の導入・変形等が丁寧に説明されているので、e-ラーニングと本書を併用すること
で一層の効果が上がるものと期待している。
それぞれの専門学科の教員が自分の専門とする分野の説明をしているので、最初は馴
染み難いところがあるかも知れない。しかし、どの章も基本的な事項の説明から始まり、
丁寧に式の導入がなされており、読み進むにつれて興味が湧くように展開されているの
で専門の分野で無くとも十分に理解できる。これからの技術者・科学者は、自分の専門
の分野の知識を十分に身に付けることは言うまでもないが、他の分野の知識や学習・研
究の進め方に精通することが求められるので、本書のように専門にとらわれることなく
他の分野の学習・研究に触れることは極めて大切な事と考える。
一般科目として数学の教育に携わる方は是非とも本書を精読の上、各専門分野で取り
上げられている項目を可能な限り授業の中で例題等として活用して、低学年学生が専門
科目に興味を抱くと共に、数学の授業をより効果的に進められることを期待するところ
である。
3.本書の体裁について
著者一覧に掲載した専門科目の教員が最初の原稿を執筆した。その際に、著者一覧に
掲載した数学科(群馬、岐阜の教官を含む。以下同じ)の教員と連絡を取り、採用する
のに適当な例題、数学的に適切な表現、基本となる公式の導入、式の変形等については
その都度相談した。その後、専門科目の教員は数学科の教員の意見をもとにして原稿を
修正・加筆した。更に、それを数学科の教員が検閲し修正すべき個所等を指摘し、専門
科目の教員が再度修正・加筆して最終的な原稿を完成させた。途中で、数学的な記号・
公式等は出来るだけ統一を計った。しかしながら、専門科目の慣例に従った記述の仕方
もあるので、それらの部分に関してはその慣例を優先し敢えて1冊の本として揃えるこ
とはしなかった。
4.最後に
工業高等専門学校の単位見直しが、高等専門学校設置基準において明文化され、また
JABEE などの第三者評価が導入されるようになり、自己学習の重要性が叫ばれている昨
今、本書のような学習参考書の占める重要性は以前よりもさらに増しているものと思う。
そのような意味から、本書が多くの皆さんに活用して頂けたら幸せに思う。
今後は、読者諸氏のご指摘・ご叱責を受けて本書を更に充実させると共に、今回は執
筆して頂かなかった多くの方々にも参加して貰い本書の続編が出版されることを期待し
たい。
本書の発行に際して、色々とご配慮・ご指摘頂いた本校中根校長に深く感謝致します。
また、多忙な中を快く原稿を書いて頂いた著者及びその原稿を精読され、例題の作成、
数学的な表現の確認等に当たられた執筆協力者の皆さんにお礼申し上げます。
目
次
第 1 章 ロボット工学編-多関節ロボットの順運動学・逆運動学(白井達也、碓氷久)
・・・・・1
1.1 ロボットを動かすとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.2 座標変換・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.3 位置と姿勢・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1.4 多関節ロボットの順運動学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.4.1 作業座標空間と関節角度空間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.4.2 水平多関節ロボットの変換行列による表現・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.5 多関節ロボットの逆運動学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
1.6 一般化逆行列(擬似逆行列) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1.7 軌道計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
第 2 章 電気電子工学編-放電現象の物理(柴垣寛治、堀江太郎,中島泉)
・・・・・・・・・・14
2.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
2.2 気体論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
2.2.1 気体の電気的な性質・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
2.2.2 気体に電気が流れる?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
2.2.3 気体放電とプラズマ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
2.2.4 放電の開始・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
2.2.5 放電の持続・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
2.2.6 パッシェンの法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
2.3 放電プラズマの応用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
2.3.1 光源としての応用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
2.3.2 プラズマを使って薄い膜を作る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
2.3.3 プラズマで固体を削る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
2.3.4 核融合プラズマ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
2.4 速度の分布・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
2.4.1 速度空間と速度分布関数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
2.4.2 三次元の速度分布・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
2.4.3 温度の概念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
2.5 最後に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
第 3 章 情報工学編-三次元グラフィックスと三次元位置計測(箕浦弘人,安富真一)
・・・・・37
3.1 三次元グラフィックス・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3.1.1 三次元空間でのアフィン変換・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
3.1.2 アフィン変換と同次座標系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40
3.1.3 透視投影と透視変換行列・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41
3.1.4 任意の平面への投影・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
3.1.5 座標変換の効率化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
3.1.6 三次元グラフィックスの表示・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42
3.2 三次元位置計測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
3.2.1 三次元座標の算出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
3.2.2 最小二乗法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
3.2.3 最小二乗法による三次元座標の推定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
3.2.4 三次元位置計測と連立方程式の幾何学的解釈・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
3.2.5 多視点による精度の向上・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
3.2.6 変換行列の決定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46
第 4 章 通信工学編-代数的符号とその復号法(吉川英機,堀江太郎)
・・・・・・・・・・・・49
4.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
4.2 通信路のモデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49
4.3 線形符号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50
4.4 巡回符号と誤り検出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
4.4.1 巡回符号とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
4.4.2 多項式表現と四則演算・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53
4.4.3 巡回符号の構成法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
4.5 ガロア体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
4.5.1 ガロア体とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
4.5.2 ガロア体のべき表現・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
4.5.3 ガロア体の元と多項式の根・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55
4.5.4 拡大体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・56
4.5.5 生成多項式の根・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57
4.5.6 共役根・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
4.5.7 最小多項式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
4.6 巡回ハミング符号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58
4.7 複数誤りを検出・訂正する符号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
4.7.1 単一誤り訂正・二重検出訂正符号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
4.7.2 2重誤り訂正BCH符号・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62
4.7.3 3重誤り訂正BCH符号への拡張・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65
4.8 身近な話題―QRコード― ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67
第 5 章 生物工学編-生物統計(中山浩伸,堀江太郎,岡田章三)
・・・・・・・・・・・・・・・70
5.1 検定の手順考え方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70
5.2 検定の誤りと危険率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71
5.3 パラメトリックな検定法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72
5.3.1 データの対応・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
5.3.2 t 検定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・73
5.3.3 ウェルチ(Welch) の検定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78
5.3.4 Z 検定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80
5.4 ノンパラメトリックな検定法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
5.4.1 U検定(Mann-Whitney 検定)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81
5.4.2 Χ 2(カイ二乗) 検定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86
5.5 解析上の注意・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87
5.5.1 生物学的有意性と統計学的有意性の違い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87
5.5.2 公式の選定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87
第 6 章 物理化学編-熱力学・量子化学(和田憲幸,深尾武史)
・・・・・・・・・・・・・・・99
6.1 熱力学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99
6.1.1 熱力学第 1 法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99
6.1.2 熱力学第 2 法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100
6.1.3 物質の熱容量・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・100
6.1.4 マックスウェルの関係式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・103
6.1.5 エントロピーの温度依存性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・105
6.1.6 化学ポテンシャル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・107
6.1.7 反応と平衡定数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109
6.2 量子化学・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
6.2.1 シュレーディンガー方程式・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・110
6.2.2 規格化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112
6.2.3 自由粒子(電子) のエネルギー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114
6.2.4 井戸型ポテンシャルと並進運動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・115
6.2.5 調和振動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・119
6.2.6 回転運動・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・124
6.2.6.1 2 次元の回転運動(古典論)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・125
6.2.6.2 2 次元の回転運動(量子論)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・126
6.2.6.3 3 次元の回転運動(量子論)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129
第 7 章 材料工学編-拡散現象(兼松秀行,安富真一)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137
7.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・137
7.2 金属材料中の拡散現象とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・138
7.3 フィックの第一法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・138
7.4 フィックの第二法則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・141
7.5 フィックの第二法則の解法(定常状態,D が一定の場合)
・・・・・・・・・・・・・・142
7.6 フィックの第二法則の解法(非定常状態,D が一定の場合)
・・・・・・・・・・・・・143
7.6.1 拡散距離が比較的短い場合・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・143
7.6.2 有限な長さを持つ系についての解法(変数分離)
・・・・・・・・・・・・・・・・・144
著者一覧
第1章 多関節ロボットの順運動学・逆運動学
1.1. ロボットを動かすとは
1992年12月に本田技研工業株式会社が発表した世界初の完全自律型二足歩行ロボット「P2」を
皮切りに,数多くのヒューマノイドロボットが世に送り出されてきた。年々,動力(モータ)や動力源(バ
ッテリ)の軽量化と高効率化,コントローラ(コンピュータ)の処理速度の向上,カメラ等のセンサの高
分解能化が進んでいる。これらのハードウェア性能の向上に支えられる形で,音声認識や画像認識
といった情報処理技術の向上とノウハウの蓄積により,障害物検知だけではなく個体認識の能力も
格段に向上し,ヒトと対話する技術も実用レベルにかなり近付いた。ヒトと似た身体構造を持つヒュー
マノイドロボットは人間用に整備された環境や道具を用いることができるため,工場内などのロボット
向けに整備された環境だけではなく,病院や家庭内,会社や商店など,ロボット操作の専従者以外
のヒトと接する環境にも活躍の場を広げ始めている。2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発
テロ事件における人命救助活動への貢献を契機に,災害発生現場のようなヒトにとって危険で過酷
な環境への応用も着々と進められている。即座にとは言わないが,近い将来,ロボットは人間社会の
中に溶け込み,家電製品や自動車のように日常生活に無くてはならない存在になるだろう。
ヒューマノイド型以外にも図 1-1 に示すようなロボットが研究・開発されている。これらロボットを動か
す仕組みはどうなっているのか簡単に説明する。ロボットの可動部は回転関節あるいは直動関節に
より構成されている。これらの関節はサーボモータにより駆動される。サーボモータとは図 1-2 に示
すような減速器付モータにセンサが内蔵されたモータの総称である。センサは,主にモータの回転
角度か角速度を計測する目的で内蔵されており,それぞれロータリーエンコーダ,タコジェネレータ
が多く用いられている。サーボモータは単体で用いられることは無く,必ずサーボモータを制御する
サーボモータドライバとセットで用いられる。コントローラは D/A 変換器1などを介してサーボモータド
ライバに対して目標値(回転角速度,角度,トルクなど)を出力する。サーボモータドライバはサーボ
モータに内蔵されたセンサの出力と目標値を比較し,サーボモータが指定された通りに動作するよう
に電流をコントロールする。コントロ
ーラはロボットの関節が望み通りに
動いているか,サーボモータに内
蔵されたセンサあるいは関節に取り
付けたセンサからの出力をパルス
カウンタや A/D 変換器などのインタ
フェースを介して読み取り,サーボ
(a) 多指ロボットハンド
図 1-1
1
(b) 四足歩行ロボット
さまざまなロボット
Digital-Analog converter:デジタル値をアナログ電圧に変換するための電子回路。逆に,外部の制御機器(例えばサーボモータ
ドライバ)からコントローラから出力されるアナログ電圧を入力するには A/D 変換器を用いる。
1
第2章
電気電子工学編
2.1. はじめに
「放電現象」とはいったいどのような現象をいうのだろうか.ここでは,放
電現象について,数学的・物理的に考えてみよう.ところで,放電現象といっ
ても,さまざまな種類や形態があるので,すべてを詳しく解説することは難し
い.したがって,ここでは気体放電現象に絞って解説する.気体放電を利用し
た工業技術を紹介しながら,気体放電で考える数学や物理についてのごく基礎
的な考えかたを記述する.この分野に興味を持ってもらえたら,さらに専門的
な勉強に取り組んでいってほしい.
2.2. 気体論
まず気体放電とはそもそもどういうことなのか考えてみよう.そのためには,
気体と電気の関係についておさらいする必要がある.
2.2.1. 気体の電気的な性質
通常の気体というものは電気を通さない.だから,例えば,私たちが普通に
生活している限り,空気から感電するということは起こらない(起こったら大
変である).当たり前のことではあるが,しかしいったいなぜなのだろうか?
そこで物質をもっと詳しく見てみよう.
物質はすべて原子からできている.ひとつの原子の構造というのは,中心に
原子核というものがあり,その周りを電子という粒子がまわっている.原子の
種類によって電子の数は異なるが,その構造自体はどの原子も同様である.図
2.1に最も単純な水素原子の原子構造のモデルを示す.
原子核と電子はそれぞれ電気的な性質をもっており,原子核は正(+)の電
荷,電子は負(-)の電荷を持っている.正確に言うと,原子核と電子は電気
のもとになる”電荷という属性”を持つのである.大事なことは,原子の中で正の
電荷と負の電荷の量はバランスしており,なおかつ電子は原子核の周りを離れ
ない性質を持つ(電子と原子核は引き合う)ので,原子全体で考えると電気的
には中性(正でも負でもない)である.だから,原子それ自体は電気的な性質
を持たない.
しかし,もし電子が原子核を離れてしまえば,電子は言い換えれば電気のつ
ぶつぶであるから,電子が動くことにより電流が流れることになる.つまり,
物質が電気を通すというのは,物質の中を電子が自由に動いていることを意味
している.
結局,電気を通さない気体中では,電子が原子核の周りを離れないでいる.
つまり,電子は自由に動きまわることができないので,気体は一般的に電気を
通さず,絶縁体なのである.
第3章
三次元グラフィックスと三次元位置計測
本章では,三次元グラフィックス・三次元位置計測の分野で用いられる行列・ベクトル
に関する知識と応用を習得することを目的としている。
3.1
三次元グラフィックス
三次元グラフィックスを描くとことは,物体の位置を三次元空間で計算し,それを指定
した視点から二次元平面に投影することである。実際の三次元グラフィックスの表示には,
多くの座標系と座標変換が利用されている。そのすべてを説明するには紙面が足りないの
で,ここではその基礎となる計算についてのみ言及する。
三次元グラフィックスの計算では直交座標系(Cartesian coordinates)を用い,その計
算過程は,
z
三次元空間でのアフィン変換(affine transformation)
z
三次元座標から二次元座標への透視変換(perspective transformation)
の2つの計算に大別できる。本節ではこれらの変換を表現する変換行列(transformation
matrix)について説明する。
3.1.1
三次元空間でのアフィン変換
アフィン変換では,回転移動・スケーリング(拡大・縮小・反転)
・せん断・平行移動を
表すことができ,元の図形で直線に並ぶ点の集合は変換後も直線に並び,元の図形で平行
な直線は変換後も平行である。
ここでは, P ( x, y , z ) がアフィン変換後に P′( x′, y′, z′) に移動するとして説明する。
T
T
回転移動
z 軸周りに角度 θ だけ回転するとき,
⎛ x ′ ⎞ ⎛ cos θ
⎜ ⎟ ⎜
⎜ y ′ ⎟ = ⎜ sin θ
⎜ z′ ⎟ ⎜ 0
⎝ ⎠ ⎝
− sin θ
cos θ
0
0 ⎞⎛ x ⎞
⎟⎜ ⎟
0 ⎟⎜ y ⎟
1 ⎟⎠ ⎜⎝ z ⎟⎠
である。ここで,
⎛ cosθ
⎜
Rz (θ ) = ⎜ sin θ
⎜ 0
⎝
− sin θ
cosθ
0
0⎞
⎟
0⎟
1 ⎟⎠
とすると,同様に x 軸周り,y 軸周り,
0
⎛1
⎜
Rx (θ ) = ⎜ 0 cosθ
⎜ 0 sin θ
⎝
で表される。
0 ⎞
⎟
− sin θ ⎟ ,
cosθ ⎟⎠
⎛ cosθ
⎜
Ry (θ ) = ⎜ 0
⎜ − sin θ
⎝
0 sin θ ⎞
⎟
1
0 ⎟
0 cosθ ⎟⎠
第4章
通信工学編
~代数学的符号とその復号法~
4.1
はじめに
通信(communication)とは、情報を送り手から受け手に伝えることであり、我々が離
れた相手に情報を伝えるときは、通常、電話、ファックス、電子メールなどの手段が思い
浮かぶ。これらは、音声、映像や文字などの情報を送信する過程で電気信号に変換してい
ることから電気通信(telecommunication)と呼ばれており、現代人の社会活動や生活に大
きな役割を果たしている。電気通信技術の研究目的は、
「情報をいかに速く、かつ、正確に
伝えるか」ということにつきる。ここでは、「情報を正確に伝える」技術について考える。
4.2
通信路のモデル
通信システムのモデル図4.1に示す。ここでは、通信路に送り出す信号は0と1の2
値のディジタル信号である場合を考える。符号器は送信側の情報源から発生する記号を0
と1のビット列に変換する。これを符号化(coding)といい、変換されたビット列を符号語
(codeword)という。つまり、符号語の集合が符号(code)となる。また、受信側では変
換されたビット列を元の情報源記号に復元する。これを復号(decoding)という。
*
…CBA
情報源
...01101
符号器
…CDA
*
通信路
...01001
復号器
受信者
雑音
図4.1
通信システムのモデル
送信したビット列がそのまま受信側に届けばよいが、通信路には雑音などの誤り源が存
在するので、0が1に、もしくは1が0として受け取られる場合がある。このようにビッ
トが反転する確率をpとすると、この通信路は下図のようなモデルで表現できる。
1-p
0
0
p
送信者:X
受信者:Y
p
1
1-p
図4.2
2元対称通信路
1
第5章
生物工学編
本編では,生物学やその応用分野(医学・薬学,農学など)において重要な手法の 1 つとなる統計解
析について紹介する。生物を扱う実験では,通常結果にバラツキがあり,実験結果から結論を導くため
には,科学的推論が必要で,その道具として統計を用いるのである。例えば下の3つの図を参照して欲
しい。青の群と赤の群がそれぞれ,図のような分布をとった場合,どのようにすれば青の群と赤の群に
差があったもしくはなかったと結論付けられるだろう。このようなことを判断する道具として統計的解
析,検定を用いるのである。
検定の手法としては,データが特定の標本分布に従うと仮定するパラメトリックな検定法と特定の分布
を仮定しないノンパラメトリックな検定法がある。いずれの場合も検定手順は同じである。まずは,そ
の手順から紹介していこう。
5.1 検定の手順・考え方
本来なら,仮説を立てて,それを証明するというのが正しい手順といえるが,実際の仮説である対立
仮説を直接証明する計算は不可能である。そのため,統計的検定では,偶然生じると考えるために計算
可能である帰無仮説を否定する(検定では棄却するという)ことにより証明するという手順が取られる。
つまり,ある現象が偶然に生じているとする仮説を立てて,その現象が生じる確率がどの程度であるか
を考え,それを棄却するのである。
手順を示すと,以下のようになる。
① 検定によって否定したい仮説(帰無仮説(null hypothesis),H0)を立てる。
② もし,帰無仮説が棄却されたときに採用される対立仮説(alternative hypothesis),H1 を設定する。
③ 帰無仮説がある確率 α の下で,対立仮説に対して棄却できるかどうかを判断する。
注意をしなければならないのは,帰無仮説は棄却できるかどうかが論点となるので,棄却できなかった
からといって帰無仮説を積極的に支持できるわけではない。なぜなら,検定の基本的な考え方は,得ら
れたデータの統計量について帰無仮説を用いて標準化し,その統計量が従うべき確率分布に照らし合わ
せて帰無仮説を棄却すべきか判断するからである。つまり,帰無仮説を正しいと仮定して,得られたデ
ータ(統計量)の起きる確率を計算し,その確率が小さい場合には,「起こる確率の小さいことが1回
の標本で起きるのはおかしい」とか「実際に起こっている以上,確率は小さくないはずなのに,算出さ
れた確率が小さくなった。つまり,確率計算に用いた仮定がおかしい」と考えることである。帰無仮説
第6章
物理化学偏
はじめに
この章では,物理化学分野の熱力学および量子化学に注目して,それに関わる数学的な知識
を習得することを目的とする.そのため,熱力学と量子化学に絞ってはいるものの,それで
も全ての項目を網羅することは出来ていない.もし,熱力学や量子化学をもっと学びたけれ
ば,その専門書と数学書を用いて頂きたい.その際,数学の知識が少ないと相当な時間を費
やすることになるが,我慢して欲しい.是非,式の誘導をすることで,その分野の内容まで
理解を深めてほしいと思う.
数学的知識は,自然科学の原理,原則を学ぶためには必要不可欠である.言葉で覚えるよ
りも,式を知っていると式によって,その現象を理解できるようになる.さらに,現象を式
によって表現できるようになれば,なお,それに興味がもてるはずである.それには,相当
な苦難が待ち受けているが,出来るようになれば,化学も,物理も,生物も,実験後のデー
タ解析や整理において能力が発揮できるだけでなく,これまで学習してきた様々な知識がつ
ながるはずである.苦難を克服するれば,この章では,下記の事項が習得できる.
(1) 熱力学第 1 法則,第 2 法則を理解し,数式を自由に誘導することで様々な式を誘導できる
こと.
(2) 量子化学の基本のシュレーディンガー方程式から,波動とエネルギーを導くこと.
6.1
熱力学
熱力学には第 1 法則,第 2 法則および第 3 法則があるが,ここでは,第 1 法則,第 2 法則
について定義式を示す.その後,数学的な知識を使って第 1 法則と第 2 法則の結合について
式を誘導することによって理解を深める.
6.1.1
熱力学第 1 法則
特定の空間にある物質(ある系)の全エネルギーのことを,内部エネルギー(internal energy)U
と呼ぶ.内部エネルギーの絶対値を知ることは出来ないが,その変化は次の(1)式によって知
ることが出来る.
ΔU = U f − U i
(1)
UiとUfは,それぞれ変化前と変化後の内部エネルギーを表している.また,Δは変化前後の差
を表す記号である.
熱力学第 1 法則(first low of thermodynamics)は,この内部エネルギーを定義したもので,内
部エネルギーの変化ΔU は,
ΔU = q + w
(2)
である.この式は,系以外に物質が流出しない系(閉じた系)が加熱 q や仕事 w を受けたとき
の内部エネルギー変化を表している.また,加熱や仕事をされない限り一定である(ΔU = 0).
第7章
材料工学編
本編では,数学の材料工学への応用として,拡散現象を取り上げ解説する。具体的には
フィックの第一法則とフィックの第二法則に関連した材料工学におけるトピックを取り上
げ,それらの諸現象が材料工学において数学的にどのように取り扱われているかを紹介す
る。
7.1
はじめに
私たちの生活を支えている鉄は,車や橋,ビルなど様々なところに使われている。鉄は,
炭素が加えられ鋼(steel)と呼ばれるよう
になる。またクロム,モリブデン,チタ
ンなど様々な元素が加えられることもあ
るが,このように他の主として金属元素
が加えられることを合金化(alloying)と
呼ぶが,鋼は合金化されて,さらに加熱されると,その内部構
造が様々に変化して,強くなったり,硬くなったり,柔らかく
なったりする。これは鉄鋼材料(鉄と鋼の総称)が熱を受けてその構造が変化するためで
あり,この現象を変態(transformation)と呼んでいる。これが積極的に実際のプロセスとし
て用いられるとき,熱処理(heat treatment)と呼ばれる材料製造のための一つのプロセスと
なる。このようにして,鉄鋼材料は大変役に立つ材料として用いられて,私たちの文明生
活を支えているのである。
さて,熱を受けたとき,鉄鋼材料の構造が変化するということはすでに述べたが,この
ときにいったい材料内部で何が起こっているのであろうか?金属材料は,原子が一定の規
則に従って整然と配列して結晶(crystal)を形成している。温度が高くなると,原子の運動が
活発になり,様々な原因で結晶の中を原子が移動するようになる。この現象を拡 散
(diffusion)と呼んでいる。すでに述べた熱処理現象やその他様々な材料の熱を受けた際のプ
ロセスには,この原子の移動,いわゆる拡散が関係していることがきわめて多いと考えら
れる。したがって,拡散を理解することは,実際の金属材料の構造や性質を理解するため
に大変重要であると考えられる。
そこで,本章では,拡散を取り扱うための基本であるフィック(Fick)の法則をとりあ
げ,そこに使われている数学を紹介する。
練習問題1
鉄鋼材料の変態にはどのようなものがありますか。調べてみなさい。
練習問題2
鋼の熱処理にはどのようなものがありますか。調べてみなさい。
実践工業数学著者一覧
長瀬治男
鈴鹿工業高等専門学校一般科目教授(監修)
白井達也
鈴鹿工業高等専門学校機械工学科講師(第1章担当)
柴垣寛治
鈴鹿工業高等専門学校電気電子工学科助手(第2章担当)
箕浦弘人
鈴鹿工業高等専門学校電子情報工学科講師(第3章担当)
吉川英樹
鈴鹿工業高等専門学校電子情報工学科講師(第4章担当)
中山浩伸
鈴鹿工業高等専門学校生物応用化学科講師(第5章担当)
和田憲幸
鈴鹿工業高等専門学校材料工学科講師(第6章担当)
兼松秀行
鈴鹿工業高等専門学校材料工学科助教授(第7章担当)
碓氷
群馬工業高等専門学校一般教科助教授(数学部分に関するアドバイザー)
久
岡田章三
岐阜工業高等専門学校一般科目教授(数学部分に関するアドバイザー)
中島
岐阜工業高等専門学校一般科目助教授(数学部分に関するアドバイザー)
泉
深尾武史
岐阜工業高等専門学校一般科目講師(数学部分に関するアドバイザー)
安富真一
鈴鹿工業高等専門学校一般科目助教授(数学部分に関するアドバイザー)
堀江太郎
鈴鹿工業高等専門学校一般科目講師(数学部分に関するアドバイザー)
実践工業数学
平成17年11月発行
鈴鹿工業高等専門学校
〒510-0294
三重県鈴鹿市白子町
TEL
0593-86-1031
URL
http://www.suzuka-ct.ac.jp
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