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風力発電アセスメントにおける鳥類の調査方法と 渡り鳥の飛来予測の検討*
風力発電アセスメントにおける鳥類の調査方法と 渡り鳥の飛来予測の検討 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ * ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ~津軽半島での渡り鳥調査結果~ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ Study of researched method of birds for environmental impact assessment of wind power ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ and forecasting of migratory birds passed through ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ 高橋雅也** 田中和英** 星平祐吾** 見上伸** ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ Masaya Takahashi Kazuhide Tanaka Yugo Hoshihira Shin Mikami ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ 戸谷充雅*** 島田泰夫**** 和田伸久**** 魚崎耕平**** ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ Mitsumasa Toya Yasuo Shimada Nobuhisa Wada Kouhei Uozaki 1. 研究背景と目的 ためには、法アセス手続き中に追加調査や再調査とい 低酸素社会への転換には、再生可能エネルギーの導 う評価を受けないことが重要である。 入が重要である。中でも、必要面積が小さく、相対的 法アセスの手続き中に出される行政意見としては、 に発電コストが低い風力発電設備の導入が期待されて 経済産業大臣勧告、環境大臣意見、県知事意見の 3 つ いる。その一方で、風力発電設備の導入に伴い、騒音、 があり、この中で厳しい意見が出された場合、追加調 鳥類等で周辺環境に影響があるとして、中央環境審議 査や再調査の可能性が出てくる。2014 年 10 月 20 日 会の環境影響評価制度の整理・検討の際、風力発電設 現在、風力発電の法アセスには 97 案件の届出がある。 備が議題に挙がり、2010 年 2 月 22 日に取りまとめら これらに出された行政意見を調査項目毎に区分けする れた「今後の環境影響評価法の在り方について」の中 と、ほとんどの案件で騒音・低周波音、鳥類への意見 で、環境影響評価法の対象事業として風力発電設備の があった。ただし、騒音については、日本工業規格 JIS 追加を検討するべきといった内容が掲載された。それ Z 8731 にその測定方法が定められているが、鳥類につ を受けて、2011 年 11 月、環境影響評価法施行令が改 いては明確な調査方法が記された文献はなく、その知 正され、 10,000 kW 以上の風力発電設備を第 1 種事業、 見等も十分とは言えないのが現状である。従って、現 7,500 kW 以上の同設備を第 2 種事業として、環境影響 在、再調査となる可能性が最も高い項目は、鳥類関係 評価法の対象事業に認定した。そして、2012 年 10 月、 であるといえる。 環境影響評価法施行令が施行され、それ以降、法に基 このような背景から、本報告では、鳥類関係の調査 づく環境影響評価、いわゆる法アセスによる手続きが 1) 方法を検討することを目的とした。具体的には、鳥類 必要となっている 。 の中でも特に渡り鳥に着目し、それが多く飛来すると 法アセスへの移行前は、一部の地方公共団体が策定 される青森県の津軽半島において、従来の目視調査だ した条例に基づく環境影響評価、いわゆる条例アセス けでなく、レーダと集音装置を用いた渡り鳥調査を実 を除き、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合機 施し、それらの調査方法の効果を評価した。また、渡 構が補助金交付に活用するために策定したマニュアル り鳥の飛来の特徴を風速、風向から分析して、その飛 に基づく自主的な環境影響評価、いわゆる自主アセス 来の事前予測の可能性を検討した。 が一般的であった。しかし、自主アセスと法アセスで は、必要となる手続きだけでなく、調査項目・内容が 大きく異なった。そのため、法アセス移行前に、自主 アセスによる方法書や準備書を着手していた案件、い 2. 調査の概要 わゆる移行措置案件の全てにおいて、調査方法の再検 2.1 調査場所 討、環境調査の再実施が必要となった。その結果、今 調査場所を図 1 に示す。渡り鳥の飛来地として有名 なお多くの移行措置案件が次の手続きに進めていない な青森県津軽半島にある十三湖周辺を選定した。 状況となっている 2)。しかしながら、評価書手続きを 終えた移行措置案件が確認されてきていることから、 2.2 使用機材と調査期間 風力発電の導入量はこれから増加すると推測できる。 2.2.1 調査方法の検討 今後、確実に風力発電の普及を迅速に拡大・促進する 1) 使用機材 渡り鳥の飛来の様子を24時間調査するため、古野電 *平成 26 年 11 月 28 日第 36 回風力エネルギー利用シンポジウムにて講演 ** 会員 (株)日立パワーソリューションズ 〒317-0073 茨城県日立市幸町 3-2-2 気製自動物標追跡装置付航海用レーダFAR-2127を用 *** 非会員 くろしお風力発電(株) 〒317-0073 茨城県日立市幸町 3-2-2 いた。また、渡り鳥の声を収集するため、騒音計RION **** 非会員 (一財)日本気象協会 〒170-6065 東京都豊島区東池袋 3-1-1 サンシャイン 60 55 階 製NL-06と録音機SONY製PCM-M10を組み合わせた − 497 − 装置を集音装置とした。 2) 調査期間 2014 年 3 月 12 日~3 月 26 日を調査期間とした。な お、同期間に目視調査も実施した。 3) 調査地点 図 1 中の T1~T4 を集音装置、P1 をレーダ装置の設 置地点とした。 2.2.2 渡り鳥の飛来予測の検討 1) 使用機材 渡り鳥の飛来の様子を 24 時間調査するため、上記と 同様のレーダ装置を適用した。 2) 調査期間 2013 年 3 月 13 日~4 月 19 日を調査期間とした。 3) 調査地点 図 1 中の P2 をレーダ装置の設置地点とした。 4) 使用した予測データ 渡り鳥飛来の特徴を検討するため、十三湖に近く、 飛来する直前の群れが通過する可能性がある五所川原 市の気象庁地域気象観測所(アメダス)の風速及び風向 データを用いた。また、飛来予測をするため、気象庁 が配信する全球数値予報モデル GPV、いわゆる GSM の風速及び風向データを用いた。 5)予測対象の種 予測対象種として、重要な渡り鳥の 1 つであるカモ 目のマガンを選定した。 鳥谷川 馬鹿川 農道 岩木川 図 1 調査地点と各使用機材の設置地点 3. 評価結果 3.1 調査方法の検討結果 3.1.1 データ取得困難な条件 レーダ測定では 0.5 mm 以上の雨天ならびに雪の日 に、集音測定では風速 6 m/s 以上の雨天の日に、デー タを収集することができなかった。これは、レーダ測 定の場合は、その電波が雨や雪で反射し、それらが映 像に現れるため、鳥類の飛来状況を正確に把握できな くなるためである。一方、集音測定の場合は、強風と 雨によるノイズで鳥類の声を正確に把握できなくなる ためである。以上より、強風、雨、雪の日においては、 レーダ測定、集音測定が困難になることがわかった。 3.1.2 調査方法の検討 1) レーダ測定と目視測定の相関性 図 2 に調査期間で比較的飛来の多かった、2014 年 3 月 17 日 16 時~18 時におけるレーダ測定結果、図 3 に同時刻の目視調査結果を示す。なお、この期間のレ ーダ測定は、水平回しの測定範囲 3 km とした。また、 トレースは飛翔数に関係なく、確認されたものを記載 した。目視調査の結果から、この期間で確認された重 要種は、ヒシクイ、オオヒシクイ、マガンのガン類、 およびコハクチョウ、オオハクチョウのハクチョウ類 である。この結果を図 2 のトレースに反映させると、 十三湖湖岸~鳥谷川付近の行動、馬鹿川~農道の行動 が目視調査の結果と概ね一致することから、レーダ測 定結果の有効性を確認することができた。しかし、図 2 から、レーダ測定単独では、重要種以外の一般種も 拾うことは明らかである。例えば、図 2 の岩木川にあ るトレースはほとんどがカモ類である。そのため、種 の特定をするためには、目視測定で補完する必要があ る。さらに、目視観察の可能な、明るい時間帯のみ適 用可能な方法と考える。従って、レーダ測定と目視調 査には相関性はあるものの、明るい時間帯限定で、か つ両調査を同期間に実施することが必要となるため、 調査費用が高くなり、法アセスの手続きを行う風力発 電事業者への負担が大きくなる懸念がある。 2) レーダ測定と集音測定の相関性 図 4 に上記と同期間における、T1 で確認できたガン 類の周波数および騒音レベル変動の一例を示す。録音 されたもののうち、45 dB 以上の声を取り出し、声質、 周波数を分析した結果、ガン類、ハクチョウ類、サギ 類と推定される種、目視調査で確認されたケリ、トビ、 カラスを確認できた。しかし、ガン類でもマガンとヒ シクイ、ハクチョウ類でもオオハクチョウとの明確な 差異までの確認はできなかった。 図 5 に 2014 年 3 月 17 日 14 時から 24 時間のレーダ 測定による時間別のマガンのレーダ頻度と、湖岸に設 置した集音装置(T3)で確認した音頻度の相関を示す。 レーダ頻度には風速についても同時プロットした。結 果、声質からガン類と推定されるが、日の入後~夜半 にかけて、日の出前の数時間の間に水面上から多くの 鳴き声が確認されたが、真夜中は鳴き声がほとんど確 認されなかった。また、この時間帯の風速は 2m/s 以下 と小さかった。これより、湖面をねぐらとして使用す − 498 − るが風速が小さい真夜中の行動はないこと、行動する 時間が日の出前と日の入後の 2 ピークに集中されるこ とが示唆された。レーダ測定単独だけでは、多くの種 を同時に測定するため、種の特定が大きな課題となる が、同時に集音測定もすることで、時間帯に関係なく、 類レベルでの同定やその類の行動を把握することが可 能であることが示唆された。しかし、本方法において も、両調査を同期間に実施するものの、集音測定費用 は目視調査と比較すると、現時点で 10 %ほど低コスト であり、かつ時間帯に関係なく調査可能である。また、 今後、声認識等が自動化されれば、低コスト化も期待 できる。従って、法アセスの手続きを行う風力発電事 業者への負担を小さくできる可能性があると考える。 3) 渡り鳥の調査方法の選定 法アセスの手続き中における追加調査や再調査を低 減させる方法としては、時間帯に関係なく連続調査が 可能で、目視調査と比較して低コストである、レーダ 測定と集音測定を組み合わせた方法が有効と考える。 ただし、目視調査は、その地域特性を把握する有効な 方法であることから、法アセスの調査予算に応じて、 調査の初期段階には適用した方がよいと考える。 図 4 ガン類の周波数および騒音レベル変動 6 5 レーダ頻度 4 3 2 風速 (m/s) 7時以降は欠測 (雨のためノイズ大) 1 0 2014.3.18 音頻度 2014.3.17 14151617181920212223 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1011121314 時刻 (時) 図 5 マガンのレーダ頻度と音頻度 3.2 渡り鳥の飛来予測の検討結果 3.2.1 マガン渡り回数と風速・風向の相関 図 2 レーダ測定結果(2014 年 3 月 17 日 16 時~18 時) 図 3 目視調査結果(2014 年 3 月 17 日 16 時~18 時) 図 6 に 2013 年 3 月 13 日~4 月 19 日を調査期間と したマガンの渡り回数と五所川原のアメダスの風速・ 風向の相関を示す。なお、マガンの渡り回数には 10 分 間の渡り合計回数を用いた。横軸の数字は風向を 16 方 位で表したものであり、1 が北向き~北北東の風、2 が 北北東~北東の風を表し(詳細は表 1 に記述)、17 は静 穏データとした。図 6 より、東南東~南の風かつ風速 2.5 m/s 以下でマガン渡り回数が多くなることが示唆 された。次に、図 6 の結果を確認するため、2013 年 3 月 27 日のレーダ測定による時間別のマガン渡り回数 と風速の相関を評価した。図 7 にその結果を示す。渡 りのピークとなったこの日は、風速が 1~2 m/s 程度の 弱風で、マガンの渡り頻度が最も高い 5~7 時の時間帯 では風向が南南東~南東であったことから、マガンの 渡り回数と風速・風向には相関がある可能性が示唆さ れた。 一方で、風速 2.5 m/s 以下でマガン渡り回数が多く − 499 − なった傾向は、強風時にマガン渡りが少ないことを示 し、風速 6.0 m/s 以上でレーダ測定や集音測定が測定 困難になった結果が大きな問題とならないことを示唆 する。従って、本傾向は、レーダ測定と集音測定を組 み合わせた方法の有効性をさらに高める結果と考える。 の 2 種類だけとしたためと考える。今後、風速の上下 限値、他の気象条件を加えていくことで、その精度を 向上させる予定である。ただし、本予測は、当然のこ とながら、対象地域でマガン渡りが確認された後のみ で、適用可能な予測である。以上の結果から、マガン 渡りの飛来予測の可能性を確認した。 2013.3.13-2013.4.19 渡り回数 (回) 観測結果-飛来個体数 1000 2 900 観測結果(渡りのみ) 1.5 800 飛来予測 1 700 2013.3.20-2013.3.28 600 500 外れ 0 的中 400 0.5 ‐0.5 飛来予測 ON 300 200 ‐1 ‐1.5 飛来予測 OFF 100 0 ‐2 3/20 3/20 3/21 3/21 3/22 3/22 3/23 3/23 3/24 3/24 3/25 3/25 3/26 3/26 3/27 3/27 3/28 3/28 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 0:00 12:00 日日 時時 図 8 マガン渡りの飛来予測結果 表 1 飛来予測シグナルの発信範囲 図 6 マガン渡り回数と風速・風向の相関(アメダス) 250 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 3.0 2013.3.27 2.5 200 2.0 150 1.5 100 1.0 50 平均風速 (m/s) 5:00~7:00 の風向:南南東~南東 渡り回数 (回) No 0.5 0 0.0 4:30 6:30 8:30 10:30 12:30 時刻 (hh:mm) 図 7 時間別のマガン渡り回数と風速の相関 3.2.2 マガン渡りの飛来予測の検討 図 8 に 2013 年 3 月 20 日~3 月 28 日のマガン渡り の飛来予測結果を示す。予測に用いたデータとして、3 時、9 時、15 時、21 時配信の 6 時間分の GSM データ を用い、その時刻になった時、データを更新した。そ して、表 1 に示す各風向の風速範囲になった際、飛来 予測シグナルを発信するシステムとした。また、マガ ン渡り回数には 1 時間の渡り合計回数を用いた。この 結果から、2013 年 3 月 27 日 22 時頃に出した飛来予 測シグナルは、7 時間後のマガン渡りを予測可能であ ることを確認した。 しかし、すべての飛来予測シグナルが的中したので はなく、3 月 27 日 18 時頃のように、飛来しない、外 れのケースも確認された。この要因としては、飛来予 測シグナルの発信パラメータを表 1 に示す風速・風向 風向 北 北北東 北東 東北東 東 東南東 南東 南南東 南 南南西 南西 西南西 西 西北西 北西 北北西 北北東 北東 東北東 東 東南東 南東 南南東 南 南南西 南西 西南西 西 西北西 北西 北北西 北 風速下限 風速上限 (m/s) (m/s) 0.8 1.8 2.5 0.5 0.5 0.8 1 1.2 1.8 2.2 3 1.5 - 3 4 3 3 3 4 6 5.5 9.5 3.5 5 2.5 - 4. 結論 風力発電アセスメントにおける鳥類の調査方法とし ては、レーダ測定と集音測定を組み合わせることが有 効であること、渡り鳥の飛来予測の可能性を確認した。 同時に、解析の自動化による調査の低コスト化への期 待、飛来予測の高精度化の方向性も確認した。 謝辞 十三湖周辺での調査においては、弘前大学農学生命 科学部の東准教授ならびにその研究室の皆様にご協力 をいただきました。ここに感謝の意を表します。 参考文献 1) 環境省ホームページ 風力発電施設に係る環境影響評 価の基本的考え方に関する検討会 検討会報告書資料 2) 日本経済新聞 2014 年 1 月 28 日 − 500 −