...

第1章 拡大した経常収支不均衡と企業部門の貯蓄超過

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

第1章 拡大した経常収支不均衡と企業部門の貯蓄超過
第Ⅰ部
海外経済の動向・政策分析
第1章
拡大した経常収支不均衡と企業部門の貯蓄超過
第Ⅰ部 第1章のポイント
1.世界の経常収支不均衡拡大の現状:米国の赤字拡大と、黒字国の拡大
z
z
世界の経常収支不均衡は拡大している。アメリカの経常収支は1970年代半ば以降赤字基調となり、
05年1∼6月期にはGDP比6.4%となっている。80∼90年代前半までは、アメリカの赤字は現在ほ
どの規模ではなく、また、途上国は一般に赤字であった。2000年代以降は、アメリカの赤字を先進
国だけでなく産油国やアジア諸国の対外余剰によってファイナンスするという新しい資金の流れと
なり、不均衡の規模や範囲が世界に拡大している。
アメリカでは90年代末以降投資率が横ばい傾向になる一方で貯蓄率が大幅に低下し、投資超過が拡
大している。一方、ドイツではITバブル崩壊後、アジア諸国ではアジア危機後投資率が低下した
国が多かったことが、貯蓄超過の要因となっている。中国では高い家計貯蓄率を背景に、90年代以
降投資率を貯蓄率が上回る状況が続いている。産油国が黒字になった背景としては、原油価格上昇
の影響があると考えられる。
2.貯蓄・投資バランス:黒字化傾向がみられる企業部門と、国により異なる家計部門
z
z
各国の貯蓄・投資バランスを制度部門別に90年代前半と比較すると、アメリカの経常収支赤字の背
景には、家計部門及び政府部門の赤字が拡大していることがある。ドイツでは、政府部門の赤字が
安定的に推移する中で、家計部門の貯蓄超過は将来不安等により増加している。日本では、家計部
門は貯蓄超過だが超過幅は縮小しており、政府部門は赤字が続いている。英国、中国、韓国では、
政府部門の動きは安定しているが、英国、韓国では家計部門の貯蓄が縮小、英国では赤字となって
いる。
企業部門は、アメリカ、ドイツ等でITバブル崩壊後投資超過が縮小し、最近では貯蓄超過となっ
ている。韓国、タイでは、アジア危機後投資が抑制され、企業部門の投資超過が縮小し、タイでは
貯蓄超過となっている。一方、中国では、投資超過が02年以降再び拡大している。
3.企業部門の貯蓄超過の現状:ITバブル崩壊後の各国のバランスシート調整の動き
z
z
z
ITバブル崩壊後、アメリカでは、企業の資金調達が急速に減少し投資も縮小した。その結果、バ
ランスシート調整は短期で終了し、投資も03年以降持ち直している。一方、ドイツをはじめとする
欧州では、ITバブル崩壊後も借り入れによる調達が続き、調整が遅れたこともあり、収益が回復
した後も投資の伸びは総じて弱い。アジアでは、97年の通貨危機後投資は大きく減少し、その後増
加に転じているものの、危機以前と比較すると抑制傾向にある。
企業部門の資金余剰の持続性については、アメリカでは資本ストック調整もほぼ終了しており、企
業の資金余剰は早期に縮小していく可能性が高いと考えられる。一方、欧州では当面貯蓄超過の状
態が継続する可能性もある。アジアでは、中国に代表されるように投資意欲は引き続き強く、企業
収益の向上と共に投資が活発化することが期待される。
ITバブル崩壊後の各国の政策対応が同一ではないこと、欧州では99∼2000年にかけて情報通信分
野で巨額の投資が行われたことなどに留意する必要はあるものの、アメリカではキャッシュフロー
を重視した経営を行っていたこと、資金調達が直接金融中心のためバランスシートに調整圧力が働
きやすいことなどから、ITバブルというリスクに対して早期に対応することが可能になったと考
えられる。付加価値重視という時代の要求、技術革新の速度の上昇、グローバル化などの要因によ
って、企業が直面するリスクはより多様化しており、柔軟に対応できる企業経営が求められている。
また、マクロ経済にとっても、企業のリスクへの対応が重要な意味を持つようになってきている。
−2−
第I部
海外経済の動向・政策分析
第1章
拡大した経常収支不均衡と企業部門の貯蓄超過
世 界経 済 は 2003年 後 半 から 着 実 に 回 復 を 続 けて い る も の の 、世 界 の 経 常 収
支 不 均 衡 は 拡 大 し て い る 。 今 回 の 経 常 収 支 不 均 衡 に は 、 (1)ア メ リ カ の 経 常
赤 字 がか つ て な い 水 準 に 達し て お り 、赤 字 国 とし て ア メ リ カ が 大 き な 比 率 を
占 め て い る こ と 、 (2)そ れ を 先 進 国 に 加 え 、 産 油 国 及 び 中 国 や N I E s 等 ア
ジ ア 諸国 が フ ァ イ ナ ン ス して い る(貯 蓄 超 過 国が 増 加 、拡 大 し て いる )こ と、
(3)制 度 部 門 別 に み る と 投 資 低 迷 に よ る 企 業 部 門 の 赤 字 縮 小 ・ 黒 字 化 が 目 立
っ て いる こ と 、と い っ た 特徴 が あ る 。世 界 的 な経 常 収 支 不 均 衡 拡 大 に つ い て
は 、そ の 要 因 と し て 、途 上 国 が投 資 超 過 国 か ら貯 蓄 超 過 国に 転 じ たこ と を 重
視 し 、こ れ を 「 世 界 的 貯 蓄余 剰 (Grobal saving glut 1 )」 と呼 び 、 世 界的 な 長
期 金 利低 迷 の 一 因 と す る 指摘 も あ る 。
本 章で は 、まず 、第 1 節 で 世 界 的 不 均 衡 拡 大 の現 状 を 概 観 す る。第 2 節 で 、
部 門 別貯 蓄・投 資 バ ラ ン スの 動 向 を み る 。そ し て、第 3 節 で 企 業 部 門 に つ い
て 取 り上 げ 、そ の 特 徴 を みる と と も に 、一 部 の国 で み ら れ る 企 業 部 門 に お け
る 資 金余 剰 な い し 投 資 超 過縮 小 の 要 因、現 在 みら れ る 傾 向 の 今 後 の 持 続 性 等
に つ いて 考 察 す る 。
第1節
世界の経常収支不均衡拡大の現状
1 . 世界 に お け る 経 常 収 支不 均 衡 の 拡 大
( 1 )現 状
1
Bernanke (2005)
−3−
● 先 進 国 の 現 状-ア メ リ カ の 経 常 収 支 赤 字 の 拡 大
世 界 の経 常 収 支 不 均 衡 は 拡大 し て い る 。世 界 の経 常 収 支 を ド ル ベ ース で み
る と、ア メ リカ は 、70年 代 半 ば 頃 ま で 経 常 収 支は 黒 字 と な り 、資 本 供 給 国 で
あった。しかし、その後は貯蓄率低下等により経常収支は赤字基調となり、
90年 代 以 降 赤 字 幅 は 拡 大 し 、 2004年 に は G D P 比 5.7% 、 05年 1 ∼ 6 月 期 に
は7,880億 ドル( 年 換 算 )、G D P 比6.4% と 高い 水 準 と な っ て い る( 第1-1-1
表 )。 05 年 9 月 に 公 表 さ れ た I M F の 世 界 経 済 見 通 し ( World Economic
Outlook) で は 、 05年 の ア メ リ カ の 経 常 収 支 赤 字 は 、 G D P 比 6.1% と 予 測
さ れ てい る 。
第1-1-1表 世界の経常収支
(10億ドル)
81∼90年平 91∼95年平 96∼2000年
均
均
平均
05年
(1∼6月期)
01年
02年
03年
04年
-239.2
-389.5
-475.2
-519.7
-668.1
-394.3
-10.0
アメリカ
-85.9
-73.5
ユーロ圏
16.5
-12.6
44.8
7.0
48.5
26.7
46.7
ドイツ
26.4
-25.2
-18.7
3.0
45.5
51.1
103.8
61.9
フランス
-4.4
5.0
31.8
21.5
14.5
7.9
-8.4
-15.4
英国
日本
-12.3
-16.9
-19.5
-31.9
-24.8
-27.4
-42.1
-27.7
47.6
110.9
103.1
87.8
112.6
136.2
172.1
88.1
中国
-0.0
3.4
21.9
17.4
35.4
45.9
68.7 アジアNIEs
14.3
12.0
33.3
50.6
59.3
84.4
90.2
ASEAN4か国
-6.8
-18.7
10.5
21.7
27.2
30.9
27.6
その他アジア
-7.8
-6.2
-7.6
4.5
12.3
11.4
0.7 2.8
14.1
33.4
30.9
35.4
59.9 -14.1
-37.7
-59.6
-53.2
-15.3
7.0
19.1
102.8
ロシア
ラテンアメリカ
中東
-
6.5
-23.6
15.1
37.5
28.9
57.3
-4.3
-15.9
0.3
9.4
11.9
28.1
世界全体
-79.7
-87.1
-92.2
-168.8
-138.1
-75.5
-87.7 先進国
-40.5
8.1
-49.9
-210.8
-222.5
-219.6
-314.0 -39.2
-95.2
-42.4
42.0
84.4
#REF!
#REF!
#REF!
#REF!
(備考)1.IMF“World Economic Outlook Database”より作成。
2.アジアNIEsは、韓国、香港、台湾、シンガポール。
3.ASEAN4か国は、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア。
144.0
#REF!
226.3 #REF!
サウジアラビア
新興国・途上国
51.6 #REF!
一 方 、ド イ ツ 及 び 日 本 で は、経 常 収 支 は 黒 字 とな っ て お り 、2000年以 降 黒
字 幅 が拡 大 し て い る。ド イ ツ では 、90年 代 は 経常 収 支 の 赤 字 基 調 が 続 い た も
の の、01年 以降 再 び 黒 字 が続 い て い る。日 本 は60年 代 後 半 以 降、2 回 の 石油
−4−
危 機 を除 き 黒 字 基 調 と な って い た が 、2000年 以降 黒 字 幅 は 拡 大 し 、04年 に は
経 常 黒字 は 1,720億 ド ル( G D P比 3.7%)と な り、世 界 最 大 の 経 常 収 支 黒 字
国 で ある 。しか し 、日 本 と ド イ ツ の 黒 字 を 合 計し て も、04年 の ア メ リ カ の 経
常 収 支赤 字 の 約 4 割 に 過 ぎな い 。
●黒字拡大基調が続く中国、NIEs、その他アジア
世 界の 経 常 収 支 を み る 上で 最 近 の 着 目 す べ き変 化 と し て、中 国 及 び N I E
s 等 アジ ア 諸 国 に お け る 経常 収 支 の 黒 字 拡 大 があ る 。N IE s の 経 常 収 支 は
90年 代前 半 に は 好 調 な 投 資を 背 景 に 若 干 の 黒 字に と ど ま っ て い た が、97年 に
ア ジ ア金 融 危 機 が 起 こ っ た後 大 幅 黒 字 へ と 転 じた 。中 国 に お い て も 、90年 代
以 降 黒 字 と な る 年 が 多 く な っ て い る 。 中 国 で は 2000年 以 降 黒 字 幅 が 拡 大 し 、
04年 には 日 本 、ド イ ツ に 次い で 世 界 第 3 位 の687億 ドル( G D P 比 4.2%)の
黒 字 を計 上 し 、 ア メ リ カ の 経 常 赤 字 の 約 1 割 の 規 模 を 占 め る に 至 っ て い る 。
●産油国、ロシア、ラテンアメリカ等
中 近東 を 中 心 と す る 産 油途 上 国 は 、70∼80年代 に か け て 経 常 収 支 黒 字 で あ
っ た が、90年 代に は 原 油 価格 低 迷 も あ り 赤 字 基調 と な っ て い た。し か し、2000
年 以 降 、原 油 価 格 上 昇 等 を背 景 に 産 油 途 上 国 が黒 字 に な る と と も に 、産 油 国
で あ るロ シ ア が 黒 字 幅 を 拡大 さ せ て い る 。
ラ テン ア メ リ カ で は 赤 字が 縮 小 し 、03年 以 降黒 字 に 転 じ て い る 。
( 2 )80∼ 90年 代 前 半 ま でと の 比 較
80∼90年代 前 半 ま で は、ア メ リ カ は経 常 収 支 赤 字 で は あ っ た が、現 在 ほ ど
の 規 模 で は な く 、 名 目 G D P 比 で 1.5% 程 度 で あ り 、 赤 字 が ピ ー ク と な り 対
日 貿 易 摩 擦 が 問 題 化 し て い た 87年 で も 同 3.4% に と ど ま っ て い た 。 当 時 は 、
一 般 に途 上 国 は 経 常 収 支 赤字 で あ り 、先 進 国 の赤 字 は 主 と し て 先 進 国 の 黒 字
で フ ァイ ナ ン ス し て い た 。
し か し、ア ジ ア 危 機 を 経 て 2000年 代 以 降 は 、アメ リ カ の 赤 字 を 日 本、ユ ー
ロ 圏( 主 に ドイ ツ )等 の 先 進 国 だ け で な く、産 油 国 及び 東 ア ジ ア 諸 国 の 対 外
余 剰 によ っ て フ ァ イ ナ ン スす る と い う よ う に 、不 均衡 の 規 模 だ け でな く 、そ
の 範 囲が 世 界 に 拡 大 し て おり 、世 界 の資 金 の 流れ が 新 し い 構 図 と な っ て い る
と い える 。経 常 収 支 不 均 衡は 、国 際 資 本 が そ れを フ ァ イ ナ ン ス で き る 限 り 持
−5−
続可能であるが、アメリカの経常収支赤字がかつてない高水準となる中で、
そ の 持続 可 能 性 を め ぐ る 議論 が 盛 ん と な っ て いる 2 。
2 . アメ リ カ に お け る 貯 蓄率 低 下 と 、 そ の 他 諸国 に お け る 投 資 率 の低 下
●先進国−アメリカは貯蓄率が低下
経 常 収支 不 均 衡 拡 大 の 背 景と し て 、投 資 率 、貯蓄 率( 投 資 及 び 貯 蓄 の 名 目
G D P比 )を 各 国 別 に み ると、ア メ リ カ で は 、90年代 に 投 資 率 、貯 蓄 率 と も
に 上 昇し て い た が 、90年 代末 以 降、投 資 率 が 横ば い 傾 向 に な る 一 方で 、貯蓄
率 が 大幅 に 低 下 し 、04年 には 、投 資 率 が 19.6% 、貯 蓄 率 が13.4% とな り 、投
資 超 過が 拡 大 し て い る ( 第1-1-2図)。
ド イツ は 、90年 代 以 降 投資 率 が 緩 や か に 低 下す る 中 で 、貯 蓄 率 は 投 資 率 を
若 干 上回 っ て い た 。2000年以 降 投 資 率 の 低 下 幅が 大 き く な り 、貯 蓄 超 過 が 拡
大 し てい る 。英 国 及 び フ ラン ス で は 、90年 代 以降 投 資 率 が 横 ば い 傾 向 と な っ
て い る中 、英 国 で は 90年 代末 以 降 、フ ラ ン ス では2000年 以 降 貯 蓄 率 が 低 下 し
て い る。
日 本は 、他の 先 進 国 と 比べ 投 資 率、貯 蓄 率 とも に 高 い 水 準 に あ った が 、90
年 代 以降 、投 資 率 、貯 蓄 率と も に 低 下 し た 。貯 蓄超 過 幅 は 、他 の 先 進 国 と 比
べ 安 定し た 動 き と な っ て いる 。
2
経 常 収 支 不 均 衡 の 持 続 性 に つ い て は 、例 え ば 、Obstfeld and Rogoff (2005, 2004) 、Roubini and Setser
(2004)、 Blanchard et al. (2005)、 オ ブ ス ト フ ェ ル ド (2005)ら は 、 何 ら か の 調 整 な し で は 維 持 可 能 で
な い と 主 張 し て い る 。 一 方 で 、 Dooley et al.(2004) は 、 中 国 等 ア ジ ア 諸 国 が 自 国 通 貨 の 増 価 を 回 避
す る た め 為 替 介 入 を 行 う と い う 行 動 が 続 く 限 り 、 今 の よ う な 状 況 が 続 く 、 と 主 張 し た 。 03 年 に は
ア メ リ カ は 国 際 市 場 に お け る 信 用 度 も 高 く 、ア メ リ カ の 経 常 収 支 不 均 衡 は 維 持 可 能 と し て い た グ リ
ー ン ス パ ン F R B 議 長 も 、05 年 2 月 に は 、
「アメリカの経常収支赤字が永遠に拡大を続けることは
で き な い 」 と コ メ ン ト し て い る (Greenspan(2004, 2005))。
−6−
第1-1-2図
(GDP比、%)
25
主要国の貯蓄・投資バランス
(GDP比、%)
35
アメリカ
(GDP比、%)
25
ドイツ
投資率
30
20
20
25
15
貯蓄率
10
15
20
10
経常収支
15
5
5
10
0
0
5
-5
-5
0
-5
-10
70
75
80
85
90
95
00
-10
70
05
75
80
85
90
95
00
(GDP比、%)
フランス
05
70
75
80
85
90
95
(年)
(年)
(GDP比、%)
35
英国
05
(年)
(GDP比、%)
日本
45
00
50
中国
40
30
40
35
25
30
20
30
25
15
20
10
15
20
10
10
5
5
0
0
0
-5
-5
70
75
80
85
90
95
00
05
-10
70
75
80
85
90
95
00
(GDP比、%)
アジアNIEs
70 73 76 79 82 85 88 91 94 97
(年)
(年)
(GDP比、%)
05
ASEAN4か国
(GDP比、%)
40
40
35
35
35
30
30
30
25
25
15
10
20
15
15
10
10
5
5
5
0
0
-5
-5
-10
-10
0
-5
-15
70 73 76 79 82 85 88 91 94 97
00 03
-10
70 73 76 79 82 85 88 91 94 97
(年)
(GDP比、%)
60
ロシア
オーストラリア
25
20
20
00 03
70 73 76 79 82 85 88 91 94 97
(年)
(GDP比、%)
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10
0
0
-10
00 03
(年)
(GDP比、%)
30
中東
00 03
(年)
世界
25
20
15
10
5
0
-20
-10
70 73 76 79 82 85 88 91 94 97
00 03
(年)
70 73 76 79 82 85 88 91 94 97 00 03
70 73 76 79 82 85 88 91 94 97 00 03
(年)
(年)
(備考)1.IMF“World Economic Outlook Database”、 ADB“Key Indicators”、
世界銀行“World Development Indicators”により作成。
2.05年の数値はアメリカ、ドイツ、フランス、日本は1∼6月期、英国は1∼3月期。
−7−
●途上国−アジアではアジア危機後投資率が低下、産油国では貯蓄率上昇
中 国は 、80年 代 以 降 、投 資率 、貯 蓄 率 と も に上 昇 し て い る 。中 国 で は 計 画
経 済 時代 に い わ ゆ る「強 蓄 積」の 下 、高 い 貯 蓄率 が 高 い 投 資 率 へ と 振 り 向 け
ら れ たが 、その 後 の 改 革・解 放 後も そ の 傾 向 は続 い て い る。投 資 率は04年 に
は45.2%に 達 し 、 90年 代 以 降 は 投 資 率 を 貯 蓄 率 が 上 回 る 状 況 が 続 い て い る 。
ア ジア 主 要 国 で も 、中 国 と 同様 高 い 投 資 率 によ り 成 長 を 続 け て いた 。し か
し 、97年 の アジ ア 危 機 の 影 響 を 受 け た ア ジ ア 諸国( 韓 国 、タ イ 、マ レ ー シ ア 、
フ ィ リ ピ ン 、 イ ン ド ネ シ ア ) で は 、 90年 代 以 降 上 昇 基 調 に あ っ た 投 資 率 は 、
危 機 後低 下 が 顕 著 に な っ てお り 、そ の後 ど の 国も97年 の 水 準 に 戻 って い な い。
貯 蓄 率は 、国 に よ り 動 き に相 違 が あ る も の の 、全 体的 な 傾 向 と し て は 若 干 低
下 し、投 資 率よ り は 小 幅 な低 下 か 横 ば い 傾 向 にと ど ま っ た 。そ の 結果 、危機
後 は すべ て の 国 で 貯 蓄 超 過に 転 じ て お り 、そ の 後 も 貯 蓄 超過 が 持 続 し て い る。
中 東・ア フリ カ 圏 で は、投 資 率が 横 ば い 傾 向と な る 中 で、貯 蓄 率が 上 昇 し
て い る 。こ の 要 因 と し て 、サ ウジ ア ラ ビ ア の よう に 原 油 価 格 の 高 騰 に よ り 産
油 国 で貯 蓄 率 を 高 め て い るこ と が 挙 げ ら れ る 。
第2節
制度部門別にみた貯蓄・投資バランスの変化
本 節で は 、得 ら れ る デ ータ に 基 づ き、制 度 部門 別 貯 蓄・投 資 バ ラン ス の 各
国 ・ 地域 別 の 動 向 を み る 。
1 . 先進 国 の 現 状
●アメリカにおける財政部門及び家計部門の赤字拡大
ア メリ カ の 経 常 収 支 赤 字の 背 景 に は、政 府 部門 の 赤 字 が あ る と よ く 指 摘 さ
れ る ( ア メ リ カ の 双 子 の 赤 字 の 問 題 )。 1990年 代 半 ば 以 降 の 経 常 収 支 赤 字 拡
大 過 程を み る と 、家 計 部 門の 貯 蓄 超 過 が 縮 小 し 、99年以 降 は 赤 字 に 転 ず る 一
方 で 、01年 以 降 は 、90年代 に 均 衡化 し98年 以 降は 黒 字 化 し て い た 財 政 収 支 が
再 び 赤 字 に 転 じ た こ と が あ る ( 第 1-2-1(1)図 )。 家 計 部 門 が 赤 字 化 し た 背 景
には住宅価格上昇による消費への資産効果が考えられ、この点については、
第 2 章で 考 察 す る 。
−8−
第1-2-1(1)図 主要国の部門別資金過不足
(GDP比、%)
(GDP比、%)
12
アメリカ
12
10
10
家計
8
非農業非金融企業
6
4
4
2
2
0
0
-2
-2
-4
-4
-6
-6
-8
-8
-10
-10
政府
89
91
(GDP比、%)
93
95
10
99
01
93
95
97
99
2
0
0
-2
-2
-4
-4
-6
-6
-8
非金融法人企業
フランス
家計及び対民間非
営利団体
89
金融機関
非金融法人
企業
政府
-8
-12
91
93
95
97
99
01
85
03
87
89
91
93
95
97
99
(年)
(GDP比、%)
日 本
家計
10
8
6
4
金融機関
2
0
-2
-4
-6
-8
非金融法人
企業
-10
-12
89
91
93
95
97
政府
99
01
01
03
(年)
12
87
03
(年)
-10
政府
85
01
6
4
87
91
8
2
85
89
10
金融機関
-12
非金融法人企業
87
(GDP比、%)
12
4
-10
政府
85
03
(年)
家計及び対民間非
営利団体
8
6
97
英国
12
金融機関
-12
-12
87
家計及び対民間非営利団体
8
6
85
ドイツ
03
(年度)
(備考) アメリカ:FRB“Flow of Funds”より作成。
ドイツ:ドイツ連邦銀行“Financial Accounts for Germany”より作成。
英国:英国統計局“United Kingdom National Accounts-The Blue Book”より作成。
フランス:フランス銀行“Provisional Annual Financial Accounts Simplified Version Year”より作成。
日本:日本銀行「資金循環」より作成。
−9−
企 業 部門 を み る と 、91年 以降 貯 蓄・投 資 バ ラ ンス の 変 動 幅 が 小 さ く な る 傾
向 が ある が 、97年 以 降 し ばら く 投 資 超 過 が 続 いた 後 、01年 以 降 貯 蓄 超 過 と な
っ て いる 。
● ド イ ツ 、 英 国 、フ ラ ン ス 、 日 本
ド イ ツで は 、家 計 部 門 が 安 定 し て 貯 蓄 超 過 と なっ て お り 、2000年 以降 、失
業 率 の高 止 ま り や 年 金 制 度改 革 に 対 す る 将 来 不安 等 か ら 、超 過 幅 が 増 加 し て
い る 。2000年 以 降 は 、家 計 部門 の み な ら ず 企 業(非 金 融 法 人 )部 門 で も 貯 蓄
超 過 が続 く 一 方 で 、財 政 赤字 は G D P 比 3 % を上 回 り 、E U 加 盟 国 に お け る
財 政 規律(「 安 定 成 長 協 定 」
:財 政 赤 字 G D P比 を 3 % 以 下 に と どめ る )は 達
成 で きて い な い も の の 、 安定 的 に 推 移 し て い る 3 。
英 国 では 、98年以 降 政 府 部門 が 貯 蓄 超 過 と な る 一 方 で 、家 計 部 門 が投 資 超
過 と なっ た 。政府 部 門 は 02年以 降 、景 気 が 減 速す る 中 で 再 び 投 資 超過 と な り、
そ の 後も 社 会 保 障 関 連 支 出の 増 大 等 か ら 赤 字 が拡 大 し て い る 。非 金 融 法 人 企
業 部 門は 02年 以 降 貯 蓄 超 過と な っ て い る 。
フ ラ ンス で は 、政 府 部 門 は赤 字 が 続 く 一 方 で 、家 計 部 門 は 貯 蓄 超 過が 続 き、
非 金 融法 人 企 業 部 門 は01年以 降 投 資 超 過 と な って い る 。
日 本 では 、家 計部 門 は 一 貫し て 貯 蓄 超 過 と な っ て い る が、超 過 幅 は90年 代
以 降 緩や か に 縮 小 し て い る。政府 部 門 の 赤 字 は 90年 代 に 拡 大 し 、2000年 以 降
は 横 ばい 傾 向 に あ る 。一 方 、非 金 融 法人 企 業 部門 は98年 度 以 降 貯 蓄 超 過 と な
り 、 その 後 超 過 幅 が 拡 大 傾向 に あ る 。
2 . 中国 及 び N I E s 等 の現 状
●中国
中 国 は、家 計 部 門 が 安 定 した 貯 蓄 超 過 主 体 と なっ て い る( 第1-2-1(2)図)。
非 金 融法 人 企 業 は 投 資 超 過が 続 い て い る が、家 計 部 門 の 貯蓄 が 金 融 機 関 の 仲
介 を 通じ て 企 業 部 門 の 高 投資 を 賄 う パ タ ー ン とな っ て い る 。一 方 、政 府 部 門
は 積 極財 政 政 策 に よ り 98∼99年 に か け て 悪 化 した も の の 、そ の 後 赤 字 は 縮 小
3
95 年 の 大 幅 な 赤 字 は 、 旧 東 ド イ ツ 企 業 の 民 営 化 促 進 業 務 を 担 当 し た 信 託 公 社 の 持 つ 債 務 に 関 し
て 、 政 府 部 門 に よ る 償 還 引 受 け が 含 ま れ て い る た め 。 2000 年 は 、 通 貨 統 合 の た め の 財 政 規 律 強 化
の 動 き が 継 続 し て い た こ と か ら 一 時 的 に 黒 字 化 し た が 、 翌 01 年 に は 、 景 気 減 速 や 減 税 実 施 に よ る
税収不足から、再び赤字に転じた。
−10−
傾 向 にあ る 。
第1-2-1(2)図 主要国の部門別資金過不足
(GDP比、%)
中 国
20
家計
15
(GDP比、%)
20
韓 国
15
家計
10
10
5
政府
5
金融機関
0
0
-5
-5
政府
金融機関
-10
-10
非金融法人
企業
-15
-15
-20
非金融法人企業
-20
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
85
87
89
91
93
95
97
99
01
(GDP比、%)
20
タ イ
台 湾
(GDP比、%)
40
家計
15
03
(年)
(年)
家計
30
10
20
5
0
10
政府
-5
0
一般政府
-10
金融機関
-15
-10
-20
-20
-25
非金融法人企業
-30
-30
85
87
89
91
93
95
97
99
01
金融機関
非金融法人企
業
85
03
87
89
91
93
95
97
(年)
(GDP比、%)
12
オーストラリア
10
家計
8
金融機関
6
4
2
政府
0
-2
-4
-6
-8
非金融法人企業
-10
-12
85
(備考)
87
89
91
93
95
97
99
01
03
(年)
中国:中国人民銀行“The People's Bank of CHINA Quateily Statistical Bulletin”より作成。
韓国:韓国銀行“Flow of Funds”より作成。
タイ:国家経済社会開発庁(NESDB)“Flow-of-Funds Accounts of Thailand”より作成。
台湾:台湾中央銀行“Flow of funds”より作成。
オーストラリア:統計局“Flow of Funds Matrix”より作成。
−11−
99
01
03
(年)
●NIEs、タイ及びオーストラリア
ア ジ ア危 機 の 影 響 を 受 け たア ジ ア 諸 国 の う ち 、韓 国 、タ イ に つ い てみ る と、
韓 国 では 90年 代 以 降 家 計 部門 と 政 府 部 門 が 貯 蓄超 過 と な り、企 業 部 門 が 投 資
超 過 とな っ て い た 。し か し、97年の 危 機 に よ り投 資 が 抑 制 さ れ た ため 、企業
部 門 の投 資 超 過 は 大 幅 に 縮小 し て い る 。一 方 で 、家計 の 貯 蓄 超 過 も 大 幅 に 縮
小 し てい る 。政 府 部 門 は、97年 の危 機 後 、景 気 回 復 のた め の 支 出 が増 加 し た
こ と によ り 、赤 字 が 続 い てい た が 、そ の 後 景 気回 復 に よ る 税 収 の 伸 び に よ り
赤 字 幅は 縮 小 し て い る 。
タ イ は、や は り家 計 部 門 が貯 蓄 超 過 で あ っ た が 、危 機 後は 政 府 部 門が 赤 字
と な る一 方 で 、家 計 部 門 の貯 蓄 超 過 が 拡 大 し 、非 金融 法 人 企 業 部 門 も 貯 蓄 超
過 に 転じ た 。そ の 後 、政 府 部 門 の赤 字 が 縮 小 する と と も に、企 業 部門 及 び 家
計 部 門の 貯 蓄 超 過 も 縮 小 する 傾 向 に あ る 。
台 湾 は、家 計 部門 は 大 幅 な貯 蓄 超 過 を 維 持 し て い る 。政府 部 門 は90年代 末
以 降 赤字 が 続 い て い る が 、緊 縮的 な 財 政 運 営 によ り 支 出 は 削 減 さ れ 、赤 字 幅
は02年以 降 縮 小 し て い る 。企 業 部 門は 投 資 超 過と な っ て い る 。
オ ース ト ラ リ ア は 、97年 以 降に つ い て み る と 、家計 部 門 が 2000年 以 降 赤 字
傾 向 とな る 一 方 で 、 企 業 部門 の投 資 超 過 が 縮 小し て い る 。
3 .90年代 前 半 と の 比 較
●日米で顕著な家計部門の黒字縮小、政府部門の赤字拡大
制 度 部門 別 に み た 貯 蓄・投 資 バ ラ ンス の 状 況 を 、各 国 比 較 及 び 世 界的 不 均
衡 の 観点 か ら み る た め ド ル換 算 し 、アジ ア 危 機の 発 生 す る 以 前 の 90年 代 前 半
平 均 値 か ら 04 年 へ の 変 化 を デ ー タ の 得 ら れ る 主 要 国 に つ い て み る と ( 第
1-2-2図)、ア メ リ カ の 経 常収 支 赤 字 の 背 景に は 、家計 部 門 と 政 府 部門 の 赤 字
拡 大 が存 在 し 、特 に 家 計 部門 の 赤 字 が 大 き く 寄与 し て い る 。日 本 も 家 計 部 門
の 黒 字縮 小 が 一 番 大 き く 、次 いで 政 府 部 門 の 赤字 拡 大 が あ る 一 方 で 、非 金 融
法 人 企業 及 び 金 融 部 門 で は貯 蓄 超 過 方 向に 寄 与し て い る 。
その他のドイツ、英国、中国、韓国については、政府部門の動きは赤字、
黒 字 の相 違 は あ る も の の 、変 化 は 小 さ く 、 安 定し た 動 き と な っ て いる 。
−12−
第1-2-2図 主要国の部門別貯蓄・投資バランスの変化
(91∼95年平均→04年)
(10億ドル)
500
金融機関
400
300
非金融法人
企業
200
100
0
-100
家計
-200
-300
経常収支
-400
政府
-500
-600
-700
-800
アメリカ
ドイツ
英国
日本
中国
韓国
タイ
台湾
(備考) アメリカ:FRB“Flow of Funds”より作成。
ドイツ:ドイツ連邦銀行“Financial Accounts for Germany”より作成。
英国:英国統計局“United Kingdom National Accounts-The Blue Book”より作成。
日本:日本銀行「資金循環」より作成。
中国:中国人民銀行“The People's Bank of China Quateily Statistical Bulletin”より作成。
韓国:韓国銀行“Flow of Funds”より作成。
タイ:国家経済社会開発庁(NESDB)“Flow-of-Funds Accounts of Thailand”より作成。
中国は92∼95年平均から03年、タイは93∼95年平均から03年、台湾は91∼95年平均から03年
への変化。
●貯蓄超過傾向がみられる企業部門、国により異なる家計部門
企 業 部門 は 中 国 を 除 き、04年 は90年代 と 比 べ 貯 蓄・投 資バ ラ ン ス が貯 蓄 超
過 の 傾向 に あ る 。既 に み たよ う に 、ド イ ツ 、英 国 、タ イ で は 企 業 部 門 が 貯 蓄
超 過 とな っ て お り 、韓 国 、台 湾で も 投 資 抑 制 によ り 投 資 超 過 が 縮 小 傾 向 に あ
る 。日 本 で は バ ブ ル 崩 壊 後企 業 部 門 の 投 資 超 過が 縮 小 し 、98年 度 以 降 貯 蓄 超
過 主 体と な り 、 超 過 幅 は 拡大 し て い る 。
家計部門は国により異なるが、アメリカ及び日本の悪化が大きい一方で、
中 国 では 黒 字 の 拡 大 が み られ る 。
第3節
企業部門の貯蓄超過(資金余剰)の現状とその要因
前 節 でみ た よ う に 、近 年 み ら れ る 企 業 部 門 の 特徴 と し て 、ア メ リ カ、ド イ
ツ、日本、タイ等の国々で、企業部門が貯蓄超過となっているほか、韓国、
−13−
オ ー スト ラ リ ア 等 で は 投 資超 過が 縮 小 し て い る。
企業の設備投資額が内部留保等自己資金を超える場合、外部からの調達
( 金 融機 関 か ら の 借 入 れ や株 式・債 券 の 発 行 等)に より 資 金 が 賄 われ 、企業
部 門 の貯 蓄・投資 バ ラ ン スは 投 資 超 過( = 資 金不 足 )とな る 。し か し 、企業
が 外 部か ら 資 金 を 調 達 せ ず内 部 資 金 の 範 囲 内 に投 資 を と ど め 、投 資 よ り も 債
務 返 済を 優 先 し た り 、他 の 金 融 資産 で 運 用 す れば 、企業 は 貯 蓄 超 過( = 資金
余 剰 )と な る 4 。
本 節 では 、各 国 の 得 ら れ る デ ー タ を 用 い て 、アメ リ カ 、ド イ ツ 等 主 要 国 に
お い て、企 業 部 門が 貯 蓄 超過 の 傾 向 に あ る こ とに つ い て の 現 状 及 び そ の 背 景
を 、先 進 国 に つ い て は 主 とし て2000年 の I T バブ ル 崩 壊 以 降 、ア ジ ア に つ い
て は97年の ア ジ ア 危 機 後 の状 況に 着 目 し て み てい く 。
1 . 企業 の 資 金 調 達 に み られ る 各 国 の 特 徴
( 1 )先 進 国 の 現 状
各 国企 業 部 門 の 資 金 調 達の 動 向 を み る と、欧 米 主 要国( こ こ で は、ア メ リ
カ、ド イ ツ 、英 国 、フ ラ ンス )で は、90年 代 後 半 に 投 資 が 拡 大 す る中 で 、外
部 か らの 資 金 調 達 が 大 幅 に増 加 し た( 第 1-3-1図)。2000年 の I T バ ブ ル 崩 壊
後 、調 達 は 大 幅 に 減 少 し たが 、そ の 後 の 回 復 の動 き に は 国 に よ り 相 違 が み ら
れ 、ア メ リ カ で は 調 整 が 速く 進 ん で い る の に 比べ 、ド イ ツ で は 遅 れ が み ら れ
る 。 日本 で は 90年 代 初 の バブ ル 崩 壊 後 、 資 金 調達が 抑 制 さ れ て い る。
4
資金調達市場に情報の非対称性がないという完全な金融資本市場の存在を前提とする伝統的な
モ ジ リ ア ー ニ = ミ ラ ー( M M )命 題 に よ れ ば 、設 備 投 資 決 定 の 問 題 と 資 金 調 達 の 問 題 は 切 り 離 さ れ 、
い わ ゆ る 分 離 定 理 が 成 立 す る 。し か し 、情 報 の 非 対 称 性 が 存 在 す る 場 合 、法 人 税 が 存 在 す る 場 合 な
ど は 、M M 命 題 は 成 立 し な く な る が 、こ の よ う な 場 合 、企 業 が ど の よ う に 資 金 調 達 を す べ き か の 議
論 と し て 、最 適 資 本 構 成 の 理 論 が あ る 。同 理 論 に は 、様 々 な 仮 説( ペ ッ ギ ン グ ・オ ー ダ ー 仮 説 、ガ
バ ナ ン ス 構 造 仮 説 な ど )が あ る が 、例 え ば 、ペ ッ ギ ン グ・オ ー ダ ー 仮 説 に よ れ ば 、経 営 者 は 資 金 調
達 を 、 内 部 留 保 、 負 債 、 増 資 の 順 に 優 先 づ け す る 。 そ の 理 由 と し て は 、 (1)内 部 留 保 は 経 営 者 が 最
も 自 由 に 利 用 で き る と い う 点 で エ ー ジ ェ ン シ ー ・ コ ス ト が 最 も 低 い こ と 、 (2)新 株 発 行 や 社 債 発 行
に は 、 手 数 料 等 の 直 接 な 発 行 費 用 が 必 要 で あ る こ と 、 (3)株 式 や 社 債 を 購 入 す る 投 資 家 よ り も 貸 出
を 行 う 銀 行 の 方 が 、情 報 生 産 を 通 じ て 企 業 に 関 す る 情 報 に 精 通 し て い る た め 、企 業 の 投 資 プ ロ ジ ェ
ク ト を よ り 正 確 に 把 握 で き る と い う 、い わ ゆ る 投 資 家・銀 行 間 に お け る 情 報 の 非 対 称 性 の 問 題 が あ
る。
−14−
第1-3-1図 主要国の資金調達
−先進国−
15
(GDP比、%)
アメリカ
25
(GDP比、%)
ドイツ
株式・出資金
その他
10
20
海外
直投
社債・
CP等
15
その他
10
5
借入
5
0
0
借入
社債
株式
-5
85
87
89
91
(GDP比、%)
-5
93
95
97
99
01
英国
40
85
03
(年)
87
89
91
(GDP比、%)
25
93
95
97
99
01
03
(年)
フランス
35
20
その他
30
25
社債
その他
15
企業間信用
株式・
出資金
20
社債
10
株式・
出資金
15
5
10
借入
5
0
0
借入
-5
85
87
-5
89
91
93
95
97
99
01
85
03
87
89
91
93
95
97
99
(年)
30
日本
(GDP比、%)
25
その他
企業間・貿易信用
20
株式以外の証券
15
株式・出資金
10
5
借入
0
-5
-10
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
(年度)
(備考) アメリカ:FRB“Flow of Funds”より作成。
ドイツ:ドイツ連邦銀行“Financial Accounts for Germany”より作成。
英国:英国統計局“United Kingdom National Accounts-The Blue Book”より作成。
フランス:フランス銀行“Provisional Annual Financial Accounts Simplified Version Year”より作成。
日本:日本銀行「資金循環」、内閣府「国民経済計算」より作成。
−15−
01
03
(年)
●調整を早期に終えるアメリカ企業
ア メリ カ は 、も と も と 資金 調 達 の 手 段 と し て 、社債 等 市 場 か ら 直 接 資 金 を
調 達 する 直 接 金 融 の 比 率 が高 い 国 で あ る が 、I T バブ ル 崩 壊 後 、01年 に は 早
く も 借入 れ が 返 済 超 過 と なり 、直 接 金 融 に よ る調 達 も 大 幅 に 縮 小 した 。そ の
後、借 入 返 済は03年 ま で 続い た が、04年 に は プラ ス と な り、社 債 によ る 調 達
も03年に は 回 復 に 転 じ 、 資金 調 達 は 再 び 増 加 して い る 。
社 債に よ る 調 達 が 早 期 に回 復 に 転 じ た 背 景 の1 つ と し て、企 業 の 財 務 状 況
の 悪 化 に よ り 、 2000∼ 03年 半 ば に か け て 債 券 の リ ス ク ス プ レ ッ ド が 拡 大 し 、
企 業 の社 債 調 達 額 は 一 時 的に 減 少 し た も の の、そ の 後 の 企業 の バ ラ ン ス シ ー
ト 調 整 の 進 展 に 伴 い 03年 半 ば 以 降 リ ス ク ス プ レ ッ ド が 急 速 に 縮 小 し た こ と
が 挙 げら れ る( 第1-3-2図 )。す なわ ち 、債 券 のリ ス ク ス プ レ ッ ド の 拡 大 が 企
業 の バラ ン ス シ ー ト 調 整 に対 し 圧 力 と な る 一 方で 、そ の 後の ス プ レ ッ ド の 縮
小 が 、企 業 の 低 コ ス ト の 資金 調 達 を 可 能 に し 、ア メリ カ 企 業 の さ ら な る バ ラ
ン ス シー ト の 改 善 を 下 支 えし た と 考 え ら れ る。ま た、借 入 れ も、04年 に は 調
達 が ネッ ト で プ ラ ス に 転 じた 。
第1-3-2図 アメリカ社債市場のリスクスプレッド
(%)
2.5
リスクスプレッド:
BBB-格社債と国債との利回り格差
2.0
1.5
1.0
0.5
091
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
(年)
(備考)1.Bloombergより作成。
2.残存5年の債券のデータに基づく。
●借入返済が続くドイツ・日本企業
ド イツ は 、90年 代 後 半 には ア メ リ カ と 同 様 、資 金調 達 の 大 幅 な 拡 大 が み ら
れ 、 I T バ ブ ル 崩 壊 後 、 調 達 は 減 少 し た 。 た だ し 、 ア メ リ カ の 借 入 れ が 01
−16−
年 に は返 済 超 過 と な っ た のに 対 し 、ドイ ツ の 借入 れ が 返 済 超 過 と な っ た の は
03年 であ っ た。04年 に は 借入 返 済 が さ ら に 拡 大し 、株式 、社 債 に よ る 調 達 も
低 迷 が続 い た た め 資 金 調 達全 体 で も マ イ ナ ス とな っ て い る 。
ま た 、ド イ ツ は も と も と間 接 金 融 の 比 率 が 高い 国 で あ っ た が 、90年 代 後 半
以降に政府の金融市場振興策もあって株式等直接金融へのシフトがみられ
た。し か し、2000年 以 降 は 設 備 投 資 の 資 金 需 要が 冷 え 込 み、株 式 市 場 も 低 迷
し た こと か ら 、外 部 資 金 調達 全 体 の 水 準 が 低 下し 、相 対 的 に 間 接 金 融 へ の 回
帰 が みら れ て い る 。
英 国で は 、従 来 か ら 金 融市 場 が 発 達 し て お り 、企業 の 資 金 調 達 は ア メ リ カ
と 並 び直 接 金 融 中 心 と な って い る 。90年代 後 半に は 株 式 や 借 入 れ を 中 心 に 調
達 が 大幅 に 増 加 し た 。2000年 に は 大 手通 信 企 業が ド イ ツの 大 手 通 信企 業 に 対
し て 史 上 最 大 規 模 の 買 収 を 行 う 5等 、 I T 関 連 投 資 が 膨 ん だ こ と か ら 、 調 達
に 顕 著な 増 加 が み ら れ た。I Tバ ブ ル 崩 壊 後 01年に は 、借 入 れ に は 減 少 が み
ら れ なか っ た 一 方 で 、株 式 、社債 に よ る 調 達 が 株式 を 中 心 に 大 幅 に 減少 し た。
そ の 後、借 入れ も 03年 に は減 少 し た が、株 式、社 債 と比 べ る と 安 定し た 動 き
を し てい る 。 直 接 調 達 は 依然 低 迷 し て い る 。
フ ラン ス で は 、01年 以 降は 株 式 、借 入 れ と もに 減 少 し た 。し か し 、03年 以
降 借 入れ を 中 心 に 増 加 に 転じ て い る 。
日 本は 、90年 代 初 以 降 資金 調 達 は 減 少 し 、96年 度以 降 借 入 れ も ネ ッ ト で 返
済 超 過と な り 、98年 度 以 降は 資 金 調 達 全 体 の 水準 が 低 下 し て い た。04年 度 は、
資 金 調達 全 体 と し て は プ ラス と な っ た が 、依 然 借 入 れ は 返済 超 過 と な っ て い
る。
( 2 )ア ジ ア 諸 国 の 現 状
本 節で は 、ア ジ ア 諸 国 とし て デ ー タ の 取 れ る国 の 中 で 、ア ジ ア 危 機 の 影 響
を 受 けた 国 と し て 韓 国 及 びタ イ 、ア ジ ア 危 機 の影 響 は 薄 か っ た が 、99年 に バ
ブ ル が崩 壊 し 、 そ の 後 の 調整 過 程 を 経 験 し た 台湾 、 そ し て 中 国 を みる 。
ア ジア 危 機 国 で は ア ジ ア危 機 後 、資 金 調 達 が抑 制 さ れ た 。そ の 後 の 調 整 過
程 に は時 間 を 要 し て い る 。
5
英国のボーダフォン社がドイツ通信業大手のマンネンスマン社に対して市場最大規模の買収を
行った。
−17−
●アジア危機後資金調達を抑制する韓国、タイ
前 節で み た よ う に 、韓 国 、タ イ は97年の ア ジア 危 機 の 影 響 を 大 き く 受 け た
国 で ある 。韓 国 の 資 金 調 達を み る と 、特 に90年代 以 降 、社 債 発 行・C P 発 行
の 条 件が 緩 和 さ れ る 中 で、財 閥 が 過 剰な投 資 を行 っ た た め 投 資 超 過が 拡 大 し、
資 金 調 達 も 借 入 れ 及 び 社 債 を 中 心 に 高 水 準 が 続 い た ( 第 1-3-3図 )。 し か し 、
危 機 後の 98年 に は 借 入 れ はマ イ ナ ス に 転 じ 、ま た 、企 業 が自 己 資 金 を 増 や す
た め に株 式 発 行 を 増 や す とと も に 、金融 機 関 の貸 出 の 萎 縮 を 背 景 に 社 債 に よ
る 調 達が 増 加 し た 。そ の 後、借 入 れも 再 び 増 加し た が 、調 達 額 全 体と し て は 、
危 機 以前 の 規 模 と 比 べ 低 い水 準 と な っ て い る 。
タ イで は 、ア ジ ア 危 機 後98年 に 債 券 が マ イ ナス に 転 じ 、99年 以 降 は 借 入 れ
も 返 済超 過 と な り 、調 達 全体 で も マ イ ナ ス と なっ た 。タ イ で は、企 業 債 務処
理 に 必要 な 法 制 度 整 備が 遅れ て お り 、98∼99年に 制 度 や 法 整 備 が 行 わ れ た が、
99年 以降 03年 に 至 る も 借 入れ マ イ ナ ス が 続 く など 、企 業 のバ ラ ン ス シ ー ト 調
整 が 長引 く 傾 向 に あ る 。た だ し、99年 以 降、資 金 調 達全 体 が マ イ ナ ス と な る
中 で、株 式 はプ ラ ス 基 調 を続 け 、02年 に は 債 券も プ ラ ス に な る な ど、直 接金
融 に よる 調 達 は 相 対 的 に 堅調 で あ る 。
−18−
第1-3-3図 主要国の資金調達
−アジア−
(GDP比、%)
35
その他
30
タイ
(GDP比、%)
60
韓国
外国債券・債務
50
企業間・
貿易信用
25
40
20
30
債券
直接投資
15
20
10
10
借入
5
その他
債権
借入
株式
0
株式
0
-10
-5
-20
-10
-30
85
87
89
91
93
95
97
01
03
(年)
85
35
台湾
(GDP比、%)
35
87
89
91
(GDP比、%)
93
95
97
30
25
債券
01
03
(年)
直接投資
企業間・貿易信用
25
99
中国
海外資産運用投資
直接投資
30
99
その他
20
20
15
借入
15
借入
10
10
5
株式
債権・
株式
5
0
0
-5
その他
-5
-10
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
85
87
89
91
93
95
97
99
01
03
(年)
(年)
(備考) 韓国:韓国銀行“Flow of Funds”より作成。
タイ:タイ経済社会開発庁“Flow-of-Funds Accounts of Thailand”より作成。
台湾:台湾中央銀行“Flow of funds”より作成。
中国:中国人民銀行“The people's Bank of China Quaterly Statistical Bulletin”より作成。
−19−
●台湾、中国
台 湾は ア ジ ア に お い て アジ ア 危 機 の 影 響 が 小さ か っ た 国 で あ り、資 金 調 達
も03年以 降 回 復 の 兆 し が みら れ て い る 。台 湾 は 、海外 の 短 期 資 金 へ の 依 存 が
低 か った た め 、97年 の ア ジア 危 機 の 際 に は 、株 価 下落 等 の 影 響 は あ っ た も の
の、他 国 の よう な 危 機 的 状況 に は 至 ら な か っ た。資 金調 達 を み る と、韓 国と
同 様 直接 金 融( 特 に 株 式 )から の 調 達 も 多 く なっ て い る 。し か し 、98年 後 半
に 一 部の 金 融 機 関 の 経 営 が行 き 詰 ま り、ア ジ ア経 済 危 機 の 波 及 に よ り 景 気 が
後 退 した た め バ ブ ル が は じけ 、企 業 の破 綻 と 金融 機 関 の 不 良 債 権 問 題 が 生 じ
た 。こ の た め 、99年 以 降 、債券 及 び 株 式 が 減 少し 、企 業 部 門 の 投 資 超 過 も 縮
小 に 向か っ た 。し か し、01、02年は 企 業 の 借 入 れが 返 済 超 過と な っ たも の の 、
比 較 的調 整 が 速 く 進 み 、03年に は 借 入 れ も ネ ット で プ ラ ス に 転 じ てい る 。
中国は企業部門が外部資金に依存する比率が先進国と比べ高くなってい
る が 、資 金 調 達 の 状 況 を みる と 、家 計 部 門 の 黒字 が 金 融 機 関 を 通 じ て 企 業 に
フ ァ イナ ン ス さ れ て お り、調 達 全 体 に占 め る 借入 れ の 比 率 が 高 く な っ て い る。
02年 以降 資 金 不 足 が G D P比 で み て も 増 加 し てい る が 、その 多 く は 借 入 れ に
依 存 して い る 。
2 . 低下 す る 負 債 残 高 G DP 比
90年代( 先 進 国 は 主 と して90年 代 後 半 )に 企 業 が外 部 資 金 に よ り投 資 を 拡
大 し た結 果 、企 業 負 債 残 高は 増 加 し た。し か し、I Tバ ブ ル 崩 壊 やア ジ ア 危
機 後、中 国 を 除き 、各 国 の 企業 部 門 で は 負 債 を 圧縮 す る 行 動 が み ら れて い る。
● I T バ ブ ル 崩 壊 後 、 欧 米 主 要 国 の 負 債 残 高 G D P比 は 低 下
欧 米 主 要 国 の 負 債 残 高 の G D P 比 は 、 90年 代 後 半 に 大 幅 に 増 加 し た ( 第
1-3-4図 )。 2000年 の I T バ ブ ル 崩 壊 後 は 、 01年 を ピ ー ク に 減 少 に 転 じ 、 05
年 1 ∼6 月 期 に は 99年 の 水準 ま で 戻 っ て い る 。ド イツ 、英 国 で も 負 債 残 高 は
減 少 して い る 。
●アジア危機国では、危機後負債残高GDP比が低下
韓 国の 負 債 残 高 G D P 比は 、97年 の ア ジ ア 危機 後98年 に ピ ー ク とな り 、以
後 緩 やか に 減 少 し て い る。タ イ は、2000年 以 降に つ い て み る と、や は り 減 少
−20−
し て いる 。
台 湾は 、99年 を ピ ー ク に減 少 傾 向が み ら れ てい た が 、03年 に は 再 び 上 昇 し
た 。中 国 で は 負 債 残 高 は 増加 し て い る も の の 、高 い名 目 G D P 成 長 率 を 反 映
し て 負債 残 高 G D P 比 は むし ろ わ ず か な が ら 低下 が み ら れ て い る 。
第1-3-4図 企業負債残高GDP比
(%)
(%)
アメリカ
100
300
90
250
ドイツ、英国、フランス
英国
80
200
70
150
フランス
ドイツ
60
100
50
50
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05
(年)
(%)
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
(年)
韓国、タイ、台湾、中国
350
300
台湾
250
韓国
200
150
タイ
100
中国
50
85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
(年)
(備考)
アメリカ:FRB Flow of Funds より作成。
ドイツ:ドイツ連邦銀行 Financial Accounts for Germany より作成。
英国:英国統計局 United Kingdom National Accounts-The Blue Book より作成。
フランス:フランス銀行 Provisional Annual Financial Accounts Simplified Version Year
より作成。
タイ:タイ証券取引所より作成。
台湾:台湾中央銀行より作成。
中国:CEICより作成。
−21−
3 . 企業 収 益 と 設 備 投 資
I Tバ ブ ル 崩 壊 後 、欧 米 主 要 国で は 設 備 投 資は 減 少 し た 。そ の 後、ア メリ
カ 以 外の 国 で は 設 備 投 資 の低 迷 が 続 い て い る 。ま た 、最 近の ア メ リ カ や 英 国
で は 、投 資 家 を 重 視 し 、キ ャ ッシ ュ フ ロ ー の 範囲 内 で 設 備 投 資 を 行 う 傾 向 が
み ら れて い る 。以 下 で は 、デ ータ が 得 ら れ る 限り 企 業 収 益 や キ ャ ッ シ ュ フ ロ
ー と の関 係 に 着 目 し つ つ 、各 国 の 設 備 投 資 の 動向 及 び そ の 背 景 を みる 。
ア メ リカ で は 、I T バ ブ ル崩 壊 後 の 調 整 を 終 了し 、設備 投 資 が 回 復し 、企
業 部 門の 貯 蓄・投 資 が バ ラン ス し て い く 兆 し もみ ら れ る の に 対 し 、ヨ ー ロ ッ
パ や アジ ア で は 調 整 が 遅 れ、弱 い 動 き と な っ てい る 。
( 1 )先 進 国 の 現 状
●アメリカでは設備投資は持ち直すも、キャッシュフローの範囲内に
ア メリ カ の 企 業 部 門 は、既 に みた よ う に01年以 降 貯 蓄 超 過(資 金 余 剰)と
な っ てい る 。こ の 背 景 を みる た め、設 備 投 資 と、資 金循 環 表 か ら 得ら れ る 企
業 の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 関 係 を み る と 、 ア メ リ カ 企 業 は 80年 代 半 ば 以 降 96
年 頃 まで 、キ ャ ッシ ュ フ ロー と 設 備 投 資 の 動 きの 相 関 が 極 め て 高 か っ た こ と
が 分 かる( 第1-3-5図 )。ま た 、設 備投 資 は キャ ッ シ ュ フ ロ ー 以 下 の 水 準 と な
っ て おり 、こ れ が ア メ リ カの 企 業 部 門 の 貯 蓄・投 資バ ラ ン ス の 変 動 幅 が 他 国
と 比 べ小 さ か っ た 一 因 と 考え ら れ る。し か し、97年 半ば 以 降 、キ ャ ッ シ ュフ
ロ ー が減 少 し た に も か か わら ず 、I T関 連 投 資を 中 心 に 設 備 投 資 が 大 幅 に 増
加 し、キ ャ ッ シュ フ ロ ー を 上 回 る よ う に な り、企 業 部 門は 投 資 超 過と な っ た。
2000年3 月 に 株 価 は 下 落に 転 じ 、い わ ゆ る IT バ ブ ル の 崩 壊 に より 、景 気
は 減 速し た 。長 期 に わ た る設 備 投 資 主 導の 経 済成 長 の 反 動 に よ り 、ス ト ッ ク
調 整 色の 強 い 減 速 と な り、設 備 投 資 も 01年 1 ∼3 月 以 降 前 期 比 減 少 に 転 じ た。
「 過 剰資 本 ( capital overhang)」 が懸 念 さ れ るよ う に な り 6 、 R O Aも 大 幅 に
低 下 し ( 第 1-3-6図 )、 01年 10月 の い わ ゆ る 「 エ ン ロ ン 事 件 」 に 象 徴 さ れ る 、
企 業 会計 上 の 不 正 処 理 問 題も 表 面 化 し た 。01年 に は キ ャ ッシ ュ フ ロ ー が 低 迷
す る 中で 設 備 投 資 が 大 幅 に減 少 し た こ と に よ り、企 業 部 門は 貯 蓄 超 過 と な っ
た。
6
Economic Report of the President (2004)
−22−
第1-3-5図 アメリカの設備投資とキャッシュフローの動き
(GDP比、%)
10.5
10.0
設備投資
9.5
9.0
キャッシュフロー
8.5
8.0
7.5
7.0
6.5
6.0
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
(備考)1.アメリカ商務省、FRBより作成。
2.05年は1∼6月期の数値。
第1-3-6図 アメリカのROA
(%)
15
ROA(税引き前当期利益/前期末総資産)
10
5
ROA(経常利益/前期末総資産)
0
197475 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04(年)
(備考)94年までは日本銀行「国際比較統計」、95年以降はアメリカ商務省
Quarterly Financial Report”より作成。
−23−
03
04 05
(年)
そ の後 、02∼05年 に か けて 、金 融 緩 和 に 加 え 、減 価 償 却 の 加 速 度償 却・特
別 償 却を 認 め た こ と 、及 び キ ャッ シ ュ フ ロ ー の回 復 も あ っ て 、設 備 投 資 は02
年 半 ばに 底 を 打 ち 、03年 から 前 年 比 プ ラ ス に 転じ た 。05年 に 入 り 設 備 投 資 は
キ ャ ッシ ュ フ ロ ー の 水 準 に近 づ い て お り 、企 業 の 貯蓄・投 資 は バ ラ ン ス す る
方 向 に向 か っ て い る 。
●設備投資が相対的に低迷する英国、ドイツ
ヨ ーロ ッ パ 各 国 の 資 金 循環 表 で は 、残 念 な がら キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の デ ー タ
は 公 表さ れ て い な い 。そ こ で、ま ず 英 国 に つ いて 、英国 統 計 局 か ら 公 表 さ れ
て い る資 本 収 益 率 を 用 い て設 備 投 資 と の 関 係 をみ る 。英 国 で も 、90年 代 後 半
に 設 備投 資 が 大 幅 に 増 加 した 。資 本 収 益 率 は 、設 備投 資 に 先 行 す る 傾 向 が み
ら れ てい る が 、97年 以 降 資本 収 益 率 が 低 下 す る中 で 、01年 以 降 設 備 投 資 が 減
少 し た 。そ の 後 も ユ ー ロ に対 し て ポ ン ド が 増 価し た こ と 、ユ ー ロ 圏 の 成 長 鈍
化 等 によ り 輸 出 が 鈍 化 し、設 備 投資 も 減 少 傾 向が 続 い た 。特 に、03年 後 半以
降 は 収益 率 が 大 幅 に 改 善 する 中 で 、設備 投 資GD P 比 は 持 ち 直 し て い る も の
の 、 弱い 動 き と な っ て い る( 第 1-3-7図 )。 こ の 理 由 は 必 ず し も 明 確 で な い 。
ド イツ は 、01年に 世 界 的 な 景 気 減 速 の 影 響 を受 け 輸 出 が 鈍 化 し、設 備 投 資、
建 設 投資 と も に 大 幅 に減 少し た こ と か ら 、02年 に 貯蓄 超 過 と な っ た 。ド イ ツ
の 設 備投 資 を G D P 比 で みる と 、2000年 を ピ ーク に 低 下 を 続 け て いる 。ド イ
ツ で は02年 以 降 も 、株 安、企 業 収益 並 び に 景 況感 の 悪 化、消 費 マ イン ド の 低
迷 等 によ り 景 気 は 減 速 し た 。その 後 も 、04年に は 景 況感 は 改 善 し た に も か か
わ ら ず、 建 設 投 資 の 低 迷 等か ら設 備 投 資 は 低 迷し て い る 。
フ ラン ス は 、ほ か の 先 進国 に 比 べ る と 、2000年 のI T バ ブ ル 崩 壊 に よ る 影
響 は 小さ か っ た が 、や は り01年 に は 設 備 投 資 の伸 び に 鈍 化 が み ら れ 、02年 に
は 減 少に 転 じ た 。
●日本
日 本は 、90年 代 初 の バ ブル 崩 壊 後 、雇 用 、設 備 、債 務 の い わ ゆ る 3 つ の 過
剰 問 題も あ っ て 、企 業 部 門は 低 迷 し て い た が 、企 業の バ ラ ン ス シ ー ト 調 整 が
進 展 した こ と も あ り 、3 つ の 過剰 は ほ ぼ 解 消 した と 考 え ら れ る 。設 備 投 資 は
製 造 業で は 93年 頃 以 降 、非 製 造業 で は98年 度 以降 、キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー の 範 囲
内 に とど ま っ て い る が、内 容 と し て は古 い 設 備を よ り 生 産 性 の 高 い 新 設 備 に
−24−
置 き 換え る な ど 、 生 産 性 向上 を 重 視 し た 投 資 を行 っ て い る 7 。
第1-3-7図 欧州の設備投資
ドイツ
(GDP比、%)
(指数)
14
120
設備投資
13
110
12
100
11
90
景況感指数(右目盛)
10
80
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
(年)
フランス
(GDP比、%)
12
(指数)
120
景況感指数(右目盛)
110
11
100
90
10
設備投資
80
9
70
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
(年)
英国
(GDP比、%)
(%)
16
14
13
14
資本収益率(右目盛)
12
11
12
10
9
10
設備投資
8
8
7
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
03
04
05
(年)
(備考)1.ユーロスタット、OECD、INSEE(フランス国立統計経済研究所)、
英国統計局より作成。
2.ドイツの設備投資は、OECDより、総固定投資−(住宅投資+政府固定投資)で算出。
3.ドイツの景況感指数の05年は、1∼9月の平均値。
4.フランス、英国は四半期データを基に作成。
7
内 閣 府「 平 成 17 年 度 年 次 経 済 財 政 報 告 」第 1-1-10 図 参 照 。な お 、日 本 の 企 業 行 動 の よ り 最 近
の 状 況 に つ い て は 、 内 閣 府 「 日 本 経 済 2005-2006」( 05 年 12 月 公 表 予 定 ) で 分 析 さ れ て い る 。
−25−
( 2 )ア ジ ア 諸 国 の 現 状
● 企 業 の 投 資 超 過 縮 小が 続 く 韓 国
韓 国で は 、97年 の ア ジ ア危 機 後 は 、売 上 高 経常 利 益 率( 製 造 業 )も 大 幅 に
低 下 し、設 備投 資も 減 少 した( 第1-3-8図)。その 後 金 融 及 び 企 業 部 門 等 に お
け る 構造 改 革 の 進 展 に よ り 、企業 の 負 債 残 高 も減 少 し 、99年 に は 設 備 投 資 も
増 加 に転 じ た 。02年に は 売上 高 経 常 利 益 率 も 危機 前 の 水 準 を 上 回 る よ う に な
っ た が、企 業の 投 資 は 抑 制さ れ る 傾 向 に あ り、投 資 超過 は 縮 小 し てい る 。こ
の 背 景 と し て 、 通 貨 危 機 後 に 政 府 が 進 め た 企 業 構 造 改 革 ( 負 債 比 率 200% 、
F L C基 準(将 来 の 償 還 能力 を 勘 案 し た 資 産 健全 性 分 類 基 準 )の 導 入 等)に
よ り 、企 業 の 設 備 投 資 行 動が 成 長 重 視 か ら 健 全性・収 益 性 重 視 に 変 化 し た こ
と が ある 。
●タイ
タ イは 、ア ジア危 機 後 97、98年 と大 き く マ イナ ス 成 長 と な っ た もの の 、2000
年 以 降 、設 備 投 資 は 増 加 に転 じ て い る 。企 業 のバ ラ ン ス シ ー ト 調 整 が 長 引 く
傾 向 にあ り 、投 資 回 復 は 遅れ て い る 。04年 の 総固 定 資 本 形 成 は 、危 機 前(96
年)の 約 6 割の 水 準 に と どま っ て い る。た だ し、一 時は マ イ ナ ス であ っ た 売
上 高 経常 利 益 率 に も 改 善 がみ ら れ る 中、総 固 定資 本 形 成 も04年 に は 前 年 比 プ
ラ ス に転 じ た 。
●台湾、中国
台 湾は ア ジ ア に お い て アジ ア 危 機 の 影 響 が 小さ か っ た 国 で あ る。01年 の 減
速 に より 、売上 高 経 常 利 益率( 製造 業 )の 低 下と と も に 総 固 定 資 本 形 成 も マ
イ ナ スに 転 じ 、その 後 利 益率の 回 復 と と も に 総固 定 資 本 形 成 も 改 善 し た も の
の、前 年 比 マイ ナ ス が 続 き投 資 超 過 は 縮 小 し てい た 。た だ し 、04年 に は IT
関 連 の需 要 拡 大 も あ り 、 利 益 率 も 改 善 す る 中 で 設 備 投 資 は プ ラ ス に 転 じ た 。
中 国で は 、先 に み た よ うに 企 業 部 門 は 大 幅 な投 資 超 過 が 続 い て いる が 、家
計部門は大幅黒字であり、企業部門の投資超過をファイナンスしている。
し か し 、 90年 代 半 ば 以 降 、 不 良 債 権 問 題 が 表 面 化 し た 8 。 こ れ は 貸 付 先 で あ
8
中 国 で は 、 95 年 に 商 業 銀 行 法 が 施 行 さ れ 、 そ れ ま で は 専 業 銀 行 ( 85 年 以 降 市 中 銀 行 と し て 設 立
さ れ た 中 国 工 商 銀 行 、中 国 建 設 銀 行 、中 国 銀 行 、中 国 農 村 銀 行 )で あ っ た 市 中 銀 行 の 融 資 対 象 の 制
限 が 外 さ れ る と と も に 、第 2 分 類 銀 行 と 呼 ば れ る 地 域 性 商 業 銀 行 等 が 新 た に 加 わ り 、競 争 が 認 め ら
れる体制となっている。
−26−
る 国 有企 業 の 経 営 悪 化 が 原因 で あ る と 指 摘 さ れて い る 。中国 で は 設 備 投 資 の
外 部 資金 へ の 調 達 比 率 が 高い 上 に 、金融 機 関 から の 借 入 れ へ の 依 存 が 極 め て
高く、不良債権問題が企業の資金調達に与える影響も大きいと考えられる。
も っ とも 、不 良債 権 処 理 は 政 府 の 支 援 も あ り その 後 進 ん で い る( 第1-3-9表 )。
こ の 間、固 定 資 産投 資 も90年代 に 比 べ れ ば01年以 降 利 潤 率 に 連 動 し た 動 き を
示 す よう に な っ て い る 。
−27−
第1-3-8図 アジアの設備投資
韓 国
(%)
(10億ウォン)
90,000
10
設備投資(実質、右目盛)
8
6
60,000
4
2
30,000
0
売上高利益率
(製造業)
-2
-4
1990
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
台 湾
(%)
0
04 (年)
03
(10億台湾元)
2,500
5.5
売上高利益率(製造業)
5.0
4.5
2,000
4.0
総固定資本形成(実質、右目盛)
3.5
1,500
95
96
1997
98
99
00
01
02
03
04
(年)
タ イ
(%)
(10億バーツ)
850
15
売上高利益率(タイ証券取引所上場企業)
10
750
5
650
0
総固定資本形成(実質、右目盛)
-5
2000
01
02
(%)
03
04
550
(10億元)
8,000
中 国
7
6
(年)
7,000
売上高利益率(鉱業及び製造業)
6,000
5
5,000
4
4,000
3
3,000
固定資産投資
(実質、右目盛)
2
1
2,000
1,000
0
1990
91
92
93
94
95
96
97
98
99
(備考)CEIC、タイ証券取引所により作成。
−28−
00
01
02
03
04
05
1-9
(年)
第1-3-9表 アジアの不良債権額
(%)
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
12月
12月
12月
12月
12月
12月
12月
12月
中国 (主要商業銀行)
(中国工商銀行※)
韓国 (商業銀行)
台湾
-
-
-
-
-
-
-
-
2005
17.8
13.2
8.7 (9月)
47.6
34.4
29.5
25.4
21.2
19.0
4.6 (6月)
8.0
17.2
23.2
14.0
7.4
4.1
4.4
(資産管理会社を除く)
6.0
7.3
13.6
8.8
3.3
2.4
2.2
2.0
1.7 (6月)
(国内銀行)
3.7
4.4
4.9
5.3
7.5
6.1
4.3
2.8
2.8 (9月)
-
45.0
41.5
29.7
29.6
34.2
30.6
28.0
26.7 (6月)
-
45.0
39.9
19.5
11.5
18.1
13.9
11.6
10.6 (6月)
タイ (商業銀行)
(資産管理会社を除く)
-
-
(備考)
中国:CEIC、中国工商銀行 Annual Report”より作成。
「中国工商銀行」は中国国内で最大規模の商業銀行で2004年末の資産総額シェアは全銀行の約20%。
韓国・タイ:世界銀行 East Asia Update(2005 November)”より作成。
台湾:台湾中央銀行より作成。
4.I T バ ブ ル 崩壊 後 の 各国 企 業 の バ ラ ン ス シー ト 調 整 − 上 場 企 業 財 務 デ ー
タ に よる 分 析 を 踏 ま え て
上 場企 業 財 務 デ ー タ を 用い て 、キャ ッ シ ュ フロ ー( 営業 キ ャ ッ シュ フ ロ ー)
と 投 資( 投 資 キ ャ ッ シ ュ フロ ー )を デ ー タ の 得ら れ た ア メ リ カ 、ド イ ツ 、英
国、フ ラ ン ス及び 韓 国 に つい て み る と、欧 米 各国 で は、2000年 の IT バ ブ ル
崩 壊 後、ど の 国も 投 資 が 大幅 に 減 少し 、キ ャ ッシ ュ フ ロ ー を 下 回 っ て い る(第
1-3-10図 )。 し か し 、 こ の デ ー タ で み る 限 り 、 ア メ リ カ で は 投 資 の 減 少 が 他
国 に 比べ 相 対 的 に 小 さ く なっ て い る 。
−29−
第1-3-10図 上場企業の投資キャッシュフローと営業キャッシュフロー
ドイツ
アメリカ
(100万ドル)
300
投資CF
250
投資CF(控除)
200
150
100
営業CF(控除)
営業CF
50
0
1995
97
99
01
03(年)
(100万ユーロ)
350
300
投資CF
250
200
150
100
50 営業CF
0
-50 投資CF(控除)
-100
営業CF(控除)
1995
97
99
01
03
(年)
フランス
英国
(100万ユーロ)
500
(100万ポンド)
250
投資CF(控除)
400
200
投資CF
300
150
200
100
0
50
投資CF(控除)
-200
1995
97
営業CF
100
営業CF
-100
投資CF
99
営業CF(控除)
(年)
01
03
0
1995
営業CF(控除)
97
99
01
03(年)
タイ
韓国
(10億バーツ)
600
(10億ウォン)
12
投資CF
10
500
投資CF
400
8
300
6
200
4
100
営業CF
2
営業CF
0
0
-100
1995
97
99
01
03(年)
1995
97
99
01
03(年)
(備考)1.Osirisより作成。
2.全産業、1社の平均。
3.営業CF(控除)、投資CF(控除)は、通信企業の控除を意味する。
4.対象企業は、金融・保険を除いて、連結決算データが取得できる企業としているが、
数は国によって、また年によって異なっているため注意が必要。
アメリカ:総資産2億ドル以上の2,005∼2,466社、ドイツ:196∼585社、
フランス:226∼570社、英国:748∼1,578社、韓国:169∼447社、
タイ:87∼333社。
−30−
● I T バ ブ ル 崩 壊 後 、投 資 は 減 少 す る も 、キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー 増 加 が 持 続 し た
アメリカ
ア メリ カ は 、IT バ ブ ル崩 壊 後 ほ か の 先 進 国と 比 べ 企 業 部 門 の バ ラ ン ス シ
ー ト 調整 が 相 対 的 に 速 い テン ポ で 進 み、設 備 投資 が 持 ち 直 し て い る と 考 え ら
れ る 。こ の 背 景 と し て 、 下記 の 要 因 が 寄 与 し た可 能 性 が 考 え ら れ る。
第 一に 、ア メ リ カ で は IT バ ブ ル 崩 壊 後 、減 税 等政 策 効 果 も あ っ て 消 費 が
比 較 的堅 調 な 動 き と な り、国 内 の 景 気減 速 が 相対 的 に 小 さ く か つ 短 期 に と ど
ま っ た点 で あ る 。上 場 企 業の キ ャ ッ シ ュ フ ロ ーを み て も 、こ の デ ー タ で み る
限 り、欧 州 企業 で は 01年 には ド イ ツ、フ ラ ン ス、英 国す べ て の 国 にお い て 減
少 が みら れ た が 、ア メ リ カ企 業 で は 増 加 基 調 が続 い て い る 。こ う し た 相 対 的
に 豊 富な キ ャ ッ シ ュ フ ロ ーが 、企 業 の債 務 返 済等 バ ラ ン ス シ ー ト 調 整 も 容 易
に し た可 能 性 が あ る 。
第 二に 、ア メ リ カ に お ける 資 金 調 達 の 手 段 とし て 株 式 、債 券 等 直 接 金 融 の
ウ エ イト が 高 い こ と が あ る 。先に み た よ う に 、直 接金 融 に お い て は 企 業 の 信
用 力 が調 達 コ ス ト に 大 き く影 響 す る た め 、企 業 に バ ラ ン スシ ー ト 改 善 を 促 す
力 を 持つ と 考 え ら れ る 。
第 三に 、欧 州 では 情 報 通信 産 業 を 中 心 に 巨 額の 過 剰 投 資 が 行 わ れ て い た 可
能 性 であ る 。特 に 、99∼2000年 に か け て 、欧 州 の情 報 通 信 産 業で は 、過 剰 な
通 信 需要 見 通 し の 下 に、企 業 買 収・合 併 や、次 世 代 携帯 電 話 の 免 許 入 札 等 で
巨 額 の 投 資 を 行 っ た ( 第 1-3-10図 の 破 線 部 分 )。 こ の 結 果 、 資 本 過 剰 の 度 合
い が 相対 的 に ア メ リ カ よ りも 欧 州 の 方 が 厳 し かっ た 可 能 性 が あ る 。
5 . おわ り に
ア ジア 危 機 や I T バ ブ ルの 崩 壊 は 、そ れ ま で外 部 か ら の 資 金 調 達 に よ り 加
熱 し た投 資 を 行 っ て い た 企業 に 調 整 を 強 い る こと に な っ た 。し か し 、そ の 調
整 は 国に よ り 差 が み ら れ てお り 、ア メリ カ で は早 期 に 調 整 を 進 め た の に対 し、
ほ か の国 で は 総 じ て 調 整 が遅 れ て い る。こ の こと が 企 業 部 門 の 貯 蓄 超 過 の 持
続 、 投資 超 過 の 縮 小 の 要 因と な っ て い る と考 えら れ る 。
●企業部門の資金余剰傾向は続くのか
最 後に 、今 回 みら れ た よう な 企 業 部 門 の 資 金余 剰 傾 向 の 持 続 性 に つ い て 考
−31−
え て み る 。 ア メ リ カ の 設 備 投 資 は も と も と 内 部 資 金 へ の 依 存 度 が 高 い 。 90
年 代 後半 に は 借 入 れ や 社 債に よ る 調 達 も 拡 大 した も の の 、過 剰 と い わ れ た 資
本 ス トッ ク は 、01年 以 降 設備 投 資 が マ イ ナ ス に転 じ 、03年 に は ス ト ッ ク 調 整
過 程 を ほ ぼ 終 了 し て お り 、 企 業 の 期 待 成 長 率 を 3.5% と 仮 定 し た 場 合 、 既 に
次 の スト ッ ク 循 環( 投 資 拡大 )へ と向 か っ て いる 。特 にI T 部 門 にお い て2000
∼01年に か け て 急 速 な 調 整が 進 め ら れ た こ と がう か が わ れ る(第 1-3-11図 )。
第1-3-11図 アメリカの資本ストック循環
(1)全産業
(設備投資前年比、%)
20
84
65
15
成長率3.5%、除却率
9%の場合の適正水準
10
04
05(推計)
2000
5
0
-5
-10
75
58
-15
4
6
成長率3%、除却率
6%の場合の適正水
準
8
02
10
12
14
(前年の設備投資/前年末の純資本ストック、%)
(2)IT関連
(設備投資前年比、%)
30
25
成長率:3.5%、
除却率:
91∼95年の平均
20
97
98
99
96
95
00
15
04
成長率:4.5%、
除却率:
96∼2000年の平均
10
91
5
03
0
10
-5
20
30
01
40
02
(前年の設備投資/前年末の純資本ストック、%)
(備考)1.アメリカ商務省より作成。
2.全産業の2005年の値は1∼9月期の前年同期比。
3.(2)のIT関連は、Information Processing equipment and softwareを使用
している。内訳は、Computers and peripheral equipment、Software、
Communication equipment、Medical equipment and instruments、Nonmedical
instruments、Photocopy and related equipment、Office and accounting equipment
の7項目。
4.適正水準を示す曲線の引き方については、内閣府「平成13年度年次経済財政報告」
付注1-1参照。
−32−
50
し たが っ て 、今後 ア メ リカ 企 業 の 貯 蓄 超 過 は縮 小 し て い く 可 能 性 が 高 い と
考 え られ る 。た だ し 、ア メ リ カは も と も と キ ャッ シ ュ フ ロ ー を 重 視 し た 設 備
投資を行っていることを考えると、大幅な投資超過となることは考え難い。
ま た、株 価 が さら に 低 下 し て い く よ う な 場 合 には 、投 資が 一 時 的 に下 振 れ し、
貯 蓄 超過 が 拡 大 す る 可 能 性も 考 え ら れ る 。
一 方 、 ド イ ツ は 、 90年 代 後 半 に 直 接 金 融 の ウ エ イ ト が 高 ま っ た と は い え 、
全 体 とし て は 間 接 金 融 の 比率 が 高 く 、設 備 投 資が 低 調 に 推 移 す る 中で 、ア メ
リ カ に 比 べ る と 01年 以 降 の バ ラ ン ス シ ー ト 調 整 も 緩 や か な も の と な っ て い
る 。 既 に み た 上 場 企 業 の 財 務 デ ー タ に よ り R O A を み る と 、 ド イ ツ で も 01
年 以 降大 幅 な 悪 化 が み ら れた が 、03年以 降 に 限れ ば 緩 や か な 回 復 が み ら れ て
い る (第 1-3-12図 )。 た だ し 、 ド イ ツ で は 、 建 設 投 資 が 低 迷 し 、 05年 に 行 わ
れ た 主要 企 業 ア ナ リ ス ト への ア ン ケ ー ト で は、設 備 投 資 先と し て 海 外 の ウ ェ
イ ト が 高 い と い う 結 果 も あ り 9、 企 業 の 収 益 が 国 内 の 投 資 に 向 か う と は 限 ら
な い 。企 業 部 門 は 当 面 貯 蓄超 過 傾 向 が 続 く 可 能性 も あ ろ う 。
英 国は 、企 業 部 門 が 資 金余 剰 と な っ て い る が 、収益 率 に は 改 善 が み ら れ て
い る こと か ら 、設備 投 資 の増 加 基 調 が 強 ま れ ば黒 字 縮 小 の 可 能 性 が 考 え ら れ
る。
途 上国 で は 、中 国 は 企 業部 門 は 投 資 超 過 が 続く と 見 込 ま れ る。な お、第 2
節 で みた よ う に 、中 国 は 家計 部 門が 貯 蓄 超 過 とな っ て お り 、か つ 人 口 要 因 等
に よ りこ の 家 計 貯 蓄 動 向 は当 面 保 た れ る と 考 えら れ る 。韓 国 、タ イ 等 投 資 超
過 が 縮小 し て い た 国 で は 、収 益率 の 向 上 と と もに 、投 資 も 活 発 化 し て い く こ
と が 期待 さ れ る 。
9
Morgan Stanley (2005)に よ る と 、 企 業 の 資 本 支 出 の う ち 、 西 欧 域 外 に 向 か う ウ エ イ ト は 、 企 業 数
で 単 純 平 均 す る と 42% に 達 す る 。
−33−
第1-3-12図 上場企業のROAと負債残高
米国: ROA
米国: 負債残高/売上
(%)
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
(%)
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
製造業
全産業
1995
96
非製造業
97
98
99
00
01
02
03
04
非製造業
製造業
全産業
1995
96
97
98
99
00
01
02
03
04
(年)
(年)
ドイツ: ROA
ドイツ: 負債残高/売上
(%)
(%)
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
1995
96
97
98
99
00
01
02
03
04
1995
96
97
98
99
00
01
02
03
フランス: ROA
04
(年)
(年)
(%)
(%)
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
1.6
フランス: 負債残高/売上
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
1995
96
97
98
99
00
01
02
03
04
1995
96
97
98
99
00
01
02
03
(年)
04
(年)
英国: ROA
英国: 負債残高/売上
(%)
(%)
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
1995
96
97
98
99
00
01
02
03
04
1995
96
97
98
99
00
01
02
03
02
03
(年)
韓国: ROA
(%)
韓国: 負債残高/売上
(%)
15
1.6
10
1.4
5
1.2
0
1
-5
0.8
-10
0.6
-15
04
(年)
0.4
1995
96
97
98
99
00
01
02
03
04
(年)
(備考)Osirisより作成。
−34−
1995
96
97
98
99
00
01
04
(年)
●技術革新の速い時代に求められるキャッシュフロー重視の企業行動
2000年の I T バ ブ ル 崩 壊に よ る 景 気 減 速 は、欧 米 企 業 に強 い イ ン パ ク ト を
与 え たが 、ア メ リ カ 企 業 部門 は ス ト ッ ク 調 整 を既 に 終 え 、新 た な 成 長 循 環 に
入 っ てい る 。国 によ っ て バブ ル 崩 壊 の 規 模 や 政策 対 応 の 相 違 が あ る こ と に は
留 意 する 必 要 が あ る も の の 、今回 み ら れ た ア メリ カ 企 業 の 調 整 は 、90年 代 初
の バ ブル 崩 壊 後 の 日 本 で みら れ た よ う な 、資 本 ス ト ッ ク が企 業 の 期 待 成 長 率
の 低 下に 伴 い 調 整 を 繰 り 返し 、結 果 とし て02年ま で 設 備 投 資 の 低 迷 を 招 い た
と い う 特 徴や 10 、05年 に 入 っ て も 依 然 設 備 投 資 の 力 強 さ を 欠 く 欧 州 諸 国 と は
対 照 的な 動 き で あ る 。
先 進国 で は 、大 量 生 産 でコ ス ト を 安 く 生 産 する 時 代 か ら 、付 加 価 値 重 視 の
時 代 に変 わ っ た と い わ れ て久 し い 。か つ 、技 術 革新 が 速 く 進 む よ う にな る と、
企業の設備投資決定もある程度リスクを見込んだ成功と失敗のプロセスが
さ ら に求 め ら れ る よ う に なる 。資 本 主義 国 に おけ る 経 済 活 動 に リ ス ク は 避 け
ら れ ない が 、重 要 な の は、そ の 際に い か に リ スク を 処 理 し、リ ス クに 備 え リ
スクを吸収できる体質を事前に作っておくかというリスクマネジメントの
問 題 であ る 。
そ の意 味 で 、I T バ ブ ル崩 壊 も 企 業 が 直 面 した リ ス ク の 1 つ で あり 、シ ョ
ッ ク であ っ た と 解 釈 で き るが 、ア メ リカ 企 業 はキ ャ ッ シ ュ フ ロ ー を 重 視 し た
経 営 を行 い 、ま た資 金 調 達と し て 社 債 等 直 接 金融 に 依 存 す る 部 分 が 比 較 的 大
き か った こ と か ら 、シ ョ ック に 対 し 実 物 面 、金 融 面双 方 に お い て 早 期 に 対 応
し 、調 整 を 進 め る こ と が 容易 に な っ た と 判 断 され よ う 。90年 代 後 半 に は キ ャ
ッシュフローを上回る投資が行われる時期が一定期間続いていた。しかし、
先 に みた よ う に 、消 費 の 下支 え 効 果 な ど も あ って I T バ ブ ル 崩 壊 後 の ア メ リ
カ 経 済は デ フ レ を 回 避 で きた と い う 点 は あ る が 、企業 部 門 で も、
「 過 剰 資 本」
と な って い た ス ト ッ ク の 調整 を 集 中 し て 進 め 、負 債に つ い て も 、01年 に は 借
入 れ 返済 超 過 に 転 ず る な ど早 期 に 返 済 が 行 わ れた 。金 融 面で の 調 整 に つ い て
は、直 接 金 融 の ウエ イ ト が高 い こ と か ら 企 業 のバ ラ ン ス シ ー ト に お い て 償 却
を 進 めや す い ほ か 、債 券 のリ ス ク ス プ レ ッ ド の拡 大 に よ り 投 資 家 が プ レ ミ ア
ム格企業以下の高いリスク水準を受容しなくなったことが企業のバランス
シ ー ト調 整 を 促 す 効 果 を 持 ち 、 03年 半 ば に は リ ス ク ス プ レ ッ ド は 低 下 し た 。
グ ロー バ ル 化 も 進 展 す る中 で 、企 業 の リ ス クも よ り 多 様 化 し て おり 、リ ス
ク に 柔軟 に 対 応 で き る 企 業経 営 が 求 め ら れ て いる 。ま た 、企 業 が リ ス ク に 柔
10
内 閣 府 「 平 成 14 年 度 年 次 経 済 財 政 報 告 」 第 1-2-11 図 。
−35−
軟 に 対応 す る こ と は 、マ ク ロ 経 済 に も重 要 な 意味 を 持 つ も の で あ る と い え よ
う。
コラム:海外直接投資と貯蓄・投資バランス
先 進 国 に お い て は 2000 年 頃 か ら 、企 業 部 門 の 貯 蓄 ・投 資 バ ラ ン ス が 貯 蓄 超 過 に
なっているという状況をみてきました。ここでは、海外直接投資が貯蓄・投資バ
ラ ン ス に 影 響 し て い る 可 能 性 に つ い て 説 明し ま す 。
● 貯蓄・投資バランスと国際収支
まず、貯蓄・投資バランスは、次の式で表すことができます。
経常収支
=
国内総貯蓄(S)
―
国内総投資(I)
これは、
(1)
総国民可処分所得
=
内需(消費+投資)+経常対外収支(経常収支)
(2)
総国民可処分所得
=
消費
+
貯蓄
の関係から導かれる恒等関係です。つまり、貯蓄・投資バランスは、事後的に
は経常収支と一致します。
さらに、国内の部門(家計、企業、政府)を分けて考えると、
民間部門の貯蓄超過
=
政府赤字+経常収支
が成り立ちます。
●海外直接投資と貯蓄・投資バランスの関係
さて、ここで、A国の企業がB国に直接投資を行う場合に、貯蓄・投資バラン
スにどのような影響が生じるかみてみましょう。海外直接投資の資金を現地に送
金する場合、現地で調達する場合、第三国で調達する場合に分けて考えます。
(1)
現地に送金する場合
実物面では、企業の収益は投資に回らず、そのまま貯蓄になります。一方で、
国 内 で 投 資 す る 代 わ り に 海 外 で 投 資 す る と 考 え る と 、国 内 に 投 資 し た 場 合 に 比 べ 、
国内投資は減少することになります。したがって、A国の貯蓄・投資バランスは
改善します。B国においては、貯蓄は変わりませんが、投資が増加し、したがっ
て貯蓄・投資バランスは悪化します。結局、A国の貯蓄・投資バランスの改善と
B国の悪化がバランスします。
金融面では、B国に対する対外純資産が増加し、逆にB国においてはA国から
の負債(直接投資)が増加、すなわち対外純資産が減少することになります。
(2)
現地で調達する場合
実 物 面 で は 、 (1)の 場 合 と 同 じ で す 。
−36−
金融面では、実物資産への投資を控えた分だけ金融資産が手元に残るため、A
国の企業のネットの金融資産が増加します。B国においても、同様に、当該企業
にとっては国内での調達であっても、国内全体でみれば追加的投資に向ける新規
資金はないことから、投資資金は結局海外から調達することになり、対外純資産
の減少になります。
(3)
第三国で調達する場合
実 物 面 で は 、 A 国 、 B 国 に つ い て は (1)の 場 合 と 同 じ で す 。 第 三 国 に つ い て は、
実物面の影響はありません。
金 融 面 で は 、 A 国 に つ い て は (2)と 同 じ で す 。B 国 に お い て は 、 第 三 国 か ら の 負
債が増加(対外純資産が減少)します。第三国については、B国に対する金融資
産が増加しますが、ほかの項目を不変とすれば、資金は結局海外から調達するこ
とになるため、海外からの負債が増加し、したがって対外純資産は不変となりま
す。
結局、海外直接投資が行われると、いずれの場合においても、A国の企業部門
において金融資産は増加しますが、貯蓄は不変で、投資が減少します。貯蓄・投
資バランスについては、A国の改善とB国の悪化がバランスし、対外純資産につ
いても、A国の増加とB国の減少がバランスするのです。
国際収支統計で、直接投資収益受取(企業が直接投資資本を所有することから
生 じ る 所 得 。 利 子 、配 当 金 等 。) の 推 移 を み て み る と 、 ア メ リ カ や 日 本 、 ド イ ツ に
おいては、増加傾向にあることが分かります。先進国において、海外直接投資が
増加している、すなわち国内ではなく海外で投資を行っている状況下では、国民
経済計算における企業部門の貯蓄・投資バランスを貯蓄超過傾向にする力が働く
ことになります。
−37−
アメリカ、日本、ドイツにおける対内直接投資と対外直接投資の推移
(GDP比、%)
(GDP比、%)
35
35
対内直接投資
25
30.3
25
1995年
20
20
15
10
対外直接投資
30
30
2004年
12.6
12.6
5
0.7
10.2
9.4
10
7.6
7.2
17.2
15
7.9
4.5
5
2.1
0
0
日本
アメリカ
アメリカ
ドイツ
日本
ドイツ
アメリカ、日本、ドイツにおける直接投資収益の受取
( 4 四 半 期 平 均 、G D P 比 、% )
4.0
3.5
ドイツ
3.0
2.5
2.0
アメリカ
1.5
1.0
日本
0.5
0.0
1992/Q1
Q3
95/Q1
Q3
参考文献
日 本 銀 行 国 際 収 支 統 計 研 究 会 [2000]
98/Q1
Q3
01/Q1
入門国際収支
−38−
Q3
04/Q1
(年/期)
東洋経済新報社
参考文献
(第Ⅰ部 第1章)
亀田制作・高川泉[2003]「ROAの国際比較分析−わが国企業の資本収益率に関する考察」日
本銀行調査統計局 Working Paper 03-11
経済産業省[2005]「第2章 第4節 東アジアの資金循環、金融環境」『通商白書』
品田直樹[2001]「ストック調整のもとで抑制される米国の設備投資」今月の注目指標 No.10
日本政策投資銀行調査部
嶋谷毅・川井秀幸・馬場直彦[2005]「わが国企業による資金調達方法の選択問題:多項ロジッ
ト・モデルによる要因分析」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.05-J-3
高安雄一[2005]『韓国の構造改革』NTT出版
辻村和佑[2004]『資金循環分析の軌跡と展望』慶応義塾大学出版会
土肥原晋[2005]「資金循環からみる米国経済事情」ニッセイ基礎研レポート 2005.6
内閣府[2001]『平成 13 年度
年次経済財政報告』財務省印刷局
内閣府[2002]『平成 14 年度
年次経済財政報告』財務省印刷局
内閣府[2005]『平成 17 年度
年次経済財政報告』財務省印刷局
日本政策投資銀行[2005]「企業の資金余剰と使途の変化」調査 No.86
日本政策投資銀行[2003]「最近の経済動向−資金循環と金融を中心とする日本経済の中期シナ
リオの検討−」調査 No.59
日本政策投資銀行フランクフルト駐在員事務所[2004]「ドイツにおける一般企業の資金調達と
金融システム」駐在員事務所報告 2004 年2月
モーリス・オブストフェルド[2005]「米国の対外赤字は世界全体の問題か」金融研究 2005.10
日本銀行金融研究所
山下裕司・石崎寛憲[2003]「90 年代後半以降における米国企業の投資活動とコーポレート・ガ
バナンス」日本銀行国際局 International Department Working Paper Series 03-J-6
Bank of England[2005]“Inflation Report, August, 2005”.
Bernanke, Ben S.[2005]“The Global Saving Glut and the U.S. Current Account Deficit, ”March 10,
2005 remarks at the Sandridge Lecture, Virginia Association of Economics, Richmond, Virginia.
BIS[2005]“Chapter II The Global Economy,”75th Annual Report.
Blanchard, O., Giavazzi, F. and Sa, F. [2005]“International Investors, the U.S. Current Account and the
Dollar,” Brooking Papers on Economic Activity 1:2005.
−39−
Council of Economic Advisers[2003]“Economic Report of the President, ”United States Government
Printing Office.
Council of Economic Advisers[2004]“Economic Report of the President, ”United States Government
Printing Office.
Dooley, M. P., Folkerts-Landau, D. and Garber, M. P.[2005]“Savings Gluts and Interest Rates: The
Missing Link to Europe, ”NBER working paper 11520, 2005.
Dooley, M. P., Folkerts-Landau, D. and Garber, P. [2004]“The Revived Bretton Woods System: The
Effects of Periphery Intervention and Reserve Management on Interest Rates & Exchange Rates in Center
Countries, ”NBER Working Paper No. 10332, 2004.
Economist[2005]“The Corporate Savings Glut,”9th July 2005.
Economist[2005]“Is the world experiencing excess saving or excess liquidity?”13th August 2005.
Greenspan, Alan [2004]“Evolving U. S. Payments Imbalance and Its Impact on Europe and the Rest of
the World, ”Cato Journal 24 (spring-summer):1-11.
Greenspan, Alan [2005]Remarks at Advancing Enterprise 2005 Conference, London, England, 4
February 2005.
IMF[2005]“Chapter II Grobal Imbalances: A Saving and Investment Perspective,”World Economic
Outlook(WEO),September 2005.
Kuhnert, Stefan[2005]“Germany's investment gloom: light at the end of the tunnel?”Ecofin Country
Focus, Vol. 2, Issue 17, 2005.
Loeys, J., Mackie, D., Meggyesi, P. and Panigirtzoglou, M.[2005]“Corporates are driving the global
saving glut,” J. P. Morgan Research, 24 June 2005.
Morgan Stanley [2005]“European Quarterly Analyst Survey,” 19th October 2005.
Obstfeld, M. and Rogoff, K.[2004]“The Unsustainable US Current Account Position Revisited,” NBER
Working Paper No. 10869, November 2004.
Obstfeld, M. and Rogoff, K.[2005]“Global Current Account Imbalances and Exchange Rate
Adjustments,”Brooking Papers on Economic Activity 1:2005, Brookings Institution.
Roubini, N. and Setser, B. [2004] “The US and a Net Debtor: The Sustainability of the US External
Imbalances,” Mimeo.
−40−
Fly UP