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第1回フォーラム - 科学技術振興機構

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第1回フォーラム - 科学技術振興機構
第 回フォーラム 人 工 光 合 成
1
第
1 回フォーラム
人工光合成
要旨集
2012 年
科学技術振興機構さきがけ
「光エネルギーと物質変換」領域事務所
1 27
月
日
金
科学技術振興機構東京本部地下 1 階ホール
(東京都千代田区四番町 5-3)
〒 192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1
公立大学法人 首都大学東京 プロジェクト研究棟 302 号室
電話番号:042-653-3415 FAX:042-653-3416
URL:http://www.chem-conv.jst.go.jp/
主催―首都大学東京戦略研究センター、東京大学エネルギー工学連携研究センター、
東京工業大学環境エネルギー研究機構
東京理科大学総合研究機構エネルギー・環境光触媒研究部門、立命館大学グロ-バル・イノベーション研究機構
科学技術振興機構イノベーション推進本部イノベーション企画調整部
後援 ―独立行政法人
ごあいさつ
現代の人類にとって解決すべき喫緊の課題の一つは、地球環境・エネルギー問題とされて
。具体的には、1)エ
います(化学レポート 2008 持続する社会のために:2009 年日本化学会)
、3)地球温暖化、の 3 つの課題が挙げられますが、
ネルギー資源、2)炭素資源(元素資源)
化石資源の枯渇が確実視される状況でエネルギー問題の解決は人類の存亡をかけた最重要課
題となっています。人類にとっての究極の選択肢とされる無尽蔵の太陽光エネルギーを直接
電力に変える太陽光発電や、太陽光エネルギーを用いて二酸化炭素と水を原料とし、水素の
生成や二酸化炭素の化学固定など化学エネルギーに変換する人工光合成を遅くとも数十年後
には本格的に実用化しなければなりません。
かつて窒素の大量固定を化学が可能としアンモニア肥料合成を通じて食糧増産に成功した
ように、光と水と二酸化炭素を原料とした炭素の大量固定の技術も可能にしなければなりま
せん。エネルギー問題は同時に安全保障問題でもあります。エネルギーを奪い合い悲惨な戦
争を繰り返すのではなく、無尽蔵の太陽光エネルギーの利用と固定化法を人類の叡智として
互いに共有することにより豊かな持続する社会を構築する道を選択することを可能にしなけ
ればなりません。
現在、我が国は人工光合成分野の基礎研究で世界を主導する位置にあります。我が国の先
端科学技術の果たす役割は極めて大きいと言えます。人工光合成科学技術について、今後
いっそうの研究推進と人材育成、技術移転を基礎に、国家目標として持続する社会に向けて
太陽光エネルギーの化学エネルギーへの変換(人工光合成)を実現するため、今般、関連分
野の先端研究者、官・産・学・民の有識者の方々と共に語り合うフォーラム 人工光合成 を
開催することといたしました。この分野の研究、技術開発の現状と将来についての国際的視
「官」は施策として何をな
野での調査研究、情報交換、協同研究・開発などを概観しながら、
すべきか? 「産」にとっての巨大なビジネスチャンスとは何か? いつ事業参加するのか?
それまでに何をすべきか? 「学」が解決すべきブレークスルーは何か? 「民」はどのよう
にして科学技術を「選択」するのか? それぞれが何をすべきかについて集中した議論を行
い、社会還元に通じる研究を進めるとともに、社会が選択し得る科学技術の構築に資する
フォーラムを開催いたします。我が国が世界を先導して人工光合成科学技術の実現を目指す
指針をフォーラムから提案します。
是非とも本フォーラムにご参加くださるようお願い申し上げます。
首都大学東京戦略研究センター教授
科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業個人型研究さきがけ
「光エネルギーと物質変換」研究領域研究総括
井上 晴夫
PROGRAM
13:00 〜 13:05
開会挨拶
原島文雄 首都大学東京学長
基調講演
人工光合成の研究推進にあたり、その社会的背景、期待、研究の最前線、展開方向を位置づ
ける。
1. 人工光合成の課題と
人工光合成フォーラムへの期待
13:05 〜 13:45
国内および海外における人工光合成の研究動向、解決すべき課題、さきがけ「光エネルギー
と物質変換」研究領域の研究紹介、将来展望等について、フォーラムの開催趣旨と今後の方
針を含めて概説する。
井上晴夫
首都大学東京戦略研究センター教授
科学技術振興機構さきがけ「光エネルギーと物質変換」研究領域研究総括
2. エネルギー新事情と
ゲームチェンジングな研究の重要性
13:45 〜 14:25
東日本大震災により我が国のエネルギー政策の抜本的な見直しが要請されるなか、我が国の
エネルギー研究と技術開発の現状、解決課題、および今後のあるべき姿について概説して頂く。
北澤宏一 科学技術振興機構顧問 14:25 〜 14:40
休 憩
パネル討論
人工光合成研究への期待と課題
14:40 〜 16:10
基調講演の概説を踏まえ グリーンイノベーション の実現に向け、我が国のエネルギー基礎
研究の現状と問題点について、人材育成を含めて広く議論し、人工光合成研究に取り組む一
層の意識高揚を図るとともに、今後の研究への更なる進展に資する。
パネリスト:
相澤益男 内閣府総合科学技術会議議員
北澤宏一 科学技術振興機構顧問
瀬戸山亨 三菱化学科学技術研究センター合成技術研究所長・領域アドバイザー
橋本和仁 東京大学大学院工学系研究科教授
田口 康 文部科学省研究開発局環境エネルギー課長
福島 洋 経済産業省産業技術環境局研究開発課長
司会:井上晴夫
16:10 〜 16:25
休 憩
ポスター発表と研究交流会
科学技術振興機構さきがけ「光エネルギーと物質変換」研究領域研究者及び人工光合成研究
者などによる人工光合成研究の最前線と取り組みをポスター発表して頂き、参加者との討議
を通した研究交流を行う。
2
ごあいさつ… ……………………………………………………………………………………………………………………………
1
プログラム… ……………………………………………………………………………………………………………………………
2
目 次… ……………………………………………………………………………………………………………………………………
3
基調講演者紹介… ……………………………………………………………………………………………………………………
7
パネリスト紹介… ……………………………………………………………………………………………………………………
8
ポスター発表………………………………………………………………………………………………………………………… 11
1-01 天然光合成の不思議… ……………………………………………………………………………………………………… 12
民秋 均 立命館大学総合理工学院
1-02 人工光合成を実現するための重要課題……………………………………………………………………………… 13
井上晴夫 首都大学東京・戦略研究センター
1-03 人工光合成と光触媒的水素製造―ソーラー水素製造―… ………………………………………………… 14
工藤昭彦 東京理科大学理学部、総合研究機構エネルギー・環境光触媒研究部門
1-04 光エネルギーを用いた CO2 資源化の重要性……………………………………………………………………… 15
石谷 治 東京工業大学大学院理工学研究科
1-05 光機能性巨大π共役系化合物の創製………………………………………………………………………………… 16
荒谷直樹 京都大学大学院理学研究科化学専攻、JST さきがけ
1-06 微生物によるメタン生産と嫌気メタン酸化……………………………………………………………………… 17
嶋 盛吾 マックスプランク陸生微生物学研究所、JST さきがけ
1-07 ペプチド折り紙で人工光合成を創る………………………………………………………………………………… 18
○石田 斉 1, 2、椎名祥己 1、神谷将也 1、倉持悠輔 1 1 北里大院理、2 JST さきがけ
1-08 ナノ構造体の階層的構造制御による光機能性材料の創製………………………………………………… 19
伊田進太郎 九州大学大学院工学研究院
1-09 可視光エネルギーを駆動力とする触媒的分子変換システムの開発…………………………………… 20
稲垣昭子 東京工業大学資源化学研究所
1-10 光合成と酸化還元酵素の新たな組み合わせによる光駆動物質生産系の設計… ………………… 21
伊原正喜 信州大学農学部
1-11 ホスファアルケン系配位子を持つ鉄錯体を触媒とする
二酸化炭素の高効率光還元反応………………………………………………………………………………………… 22
中島裕美子 京都大学化学研究所
研究発表:「人工光合成研究の最前線」
16:25 〜 18:00
CONTENTS
1-12 合成錯体分子による水の酸化光触媒系の構築:配位子修飾による触媒活性制御……………… 23
○八木政行、山
啓智、平原将也 新潟大学大学院自然科学研究科、JST さきがけ
1-13 膜表在性タンパク質による光化学系Ⅱ活性化機構の解析………………………………………………… 24
伊福健太郎 京都大学大学院生命科学研究科、JST さきがけ
3
CONTENTS
1-14 油生産緑藻の葉緑体と細胞全体生理の相関を見る多角的顕微分光分析…………………………… 25
熊崎茂一 京都大学大学院理学研究科、科学技術振興機構さきがけ
1-15 分子性酸化物を用いた高効率な水の完全酸化触媒の創生………………………………………………… 26
定金正洋 広島大学大学院工学研究科応用化学専攻
1-16 光アンテナにナノ粒子や分子を集める・観る・反応させる……………………………………………… 27
坪井泰之 北大院理
1-17 光エネルギー変換過程における固/液界面構造のその場計測… ……………………………………… 28
野口秀典 (独)物質・材料研究機構(NIMS)、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)、
ナノ材料科学環境拠点(GREEN)、北海道大学大学院総合化学院
1-18 籠状分子に内蔵した金属クラスターによる生物模倣型酸素還元触媒の開発… ………………… 29
舩橋靖博 名古屋工業大学大学院工学研究科
1-19 超解像蛍光顕微鏡による珪藻のバイオミネラリゼーションの解析…………………………………… 30
堀田純一 山形大学大学院理工学研究科、JST さきがけ
1-20 光化学的手法による天然有機色素の金属バインディング機能創出…………………………………… 31
村橋哲郎 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻、PRESTO-JST
1-21 太陽光と新規酸素吸収酸化物を用いた燃料生成… …………………………………………………………… 32
Chih-Kai Yang、山崎仁丈、Sossina Haile 科学技術振興機構、カリフォルニア工科大学
1-22 光化学系Ⅱ複合体の酸素発生反応の構造化学的な手法による原理解明…………………………… 33
梅名泰史 大阪市立大学複合先端研究機構
1-23 反応場制御された酸化チタン光触媒による CO2 の還元反応……………………………………………… 34
横野照尚 九州工業大学
1-24 ポルフィリンと金クラスターによるプラトン立体の構築………………………………………………… 35
坂本雅典 筑波大学大学院 数理物質科学研究科
1-25 アリールホウ素化合物による化学的光エネルギー変換への展開……………………………………… 36
作田絵里 北海道大学大学院理学研究院化学部門分析化学研究室
1-26 半導体−錯体複合触媒を用いた水を電子源とした選択的な CO2 光還元反応… ………………… 37
○佐藤俊介 1, 2、荒井健男 1、森川健志 1、上村恵子 1、鈴木登美子 1、田中洋充 1、梶野 勉 1
1
豊田中研、2 JST さきがけ
1-27 カーボンニュートラルエナジーイノベーションを目指した
層状粘土化合物による水中での二酸化炭素の光還元………………………………………………………… 38
寺村謙太郎、田中庸裕 京都大学大学院工学研究科分子工学専攻
1-28 超高速電子移動のドライビング・フォースと反応場の解明……………………………………………… 39
長澤 裕 大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻未来物質領域
1-29 褐藻類の光合成アンテナに結合した色素の構造と機能の解明… ……………………………………… 40
藤井律子 大阪市立大学複合先端研究機構
1-30 二酸化炭素の化学固定に有用なヒドリド化合物の光化学的な生成系の開発… ………………… 41
松原康郎 JST/PRESTO(ブルックヘブン国立研究所(米国))
CONTENTS
1-31 高効率な二酸化炭素還元を目指した新規光触媒の創製… ………………………………………………… 42
森本 樹 東京工業大学大学院理工学研究科
1-32 光励起キャリアーの動きとエネルギー制御……………………………………………………………………… 43
山方 啓 豊田工業大学大学院工学研究科
1-33 光合成初期反応のナノ空間光機能制御……………………………………………………………………………… 44
橋本秀樹 大阪市立大学 複合先端研究機構、CREST/JST
1-34 Crystal structure of Sr-substituted photosystem II
from Thermosynechococcus vulcanus at a 2.1 Å resolution… ……………………………………… 45
Faisal H-M Koua1, Yasufumi Umena2, Keisuke Kawakami2, Nobuo Kamiya2, and Jian-Ren Shen1
1
Division of Bioscience, Graduate School of Natural Science and Technology/Faculty of Science,
Okayama University, Okayama 700-8530, Japan; 2The OCU Advanced Research Institute for Natural Science
and Technology (OCARINA), Osaka City University, 3-3-138 Sugimoto, Sumiyoshi, Osaka 558-8585, Japan
1-35 メソポーラス有機シリカを光捕集系とした人工光合成の構築… ……………………………………… 46
竹田浩之 1,2、大橋雅卓 1,2、後藤康友 1,2、谷 孝夫 1,2、○稲垣伸二* 1,2
1
㈱豊田中央研究所、2JST-CREST2
1-36 ユビキタス金属ポルフィリンによる光酸素化反応シテムの開発……………………………………… 47
○五味祐樹 1、清岡隆一 1、鍋谷悠 2、嶋田哲也 1、立花 宏 1、井上晴夫 2
1
首都大院都市環境、2 首都大・戦略研究センター
1-37 水を原料とする金属ポルフィリンを用いた光水素発生と光酸素化反応…………………………… 48
○栗本和典 1、鍋谷 悠 2、嶋田哲也 1、立花 宏 1、井上晴夫 2
1
首都大院都市環境、2 首都大・戦略研究センター
1-38 CO2 光還元反応における触媒機構の解明:CO2 配位中間体の検出…………………………………… 49
○高 榕輝 1、嶋田哲也 1、鍋谷 悠 2、立花 宏 1、増井 大 1、井上晴夫 2
1
首都大院都市環境、2 首都大・戦略研究センター
1-39 Photosystem Ⅱを利用した人工光合成に向けて… …………………………………………………………… 50
○硯 智史 1、田中絢子 2、麻田俊雄 3、田代隆慶 1、川上恵典 4、
梅名泰史 4、沈 建仁 5、宮原郁子 1、神谷信夫 4
1
大阪市大院・理、2 大阪市大・理、3 大阪府大院・理、4 大阪市大・OCARINA、5 岡山大院・自然科学
1-40 光化学系Ⅱの水分解機構解析と人工光合成への応用………………………………………………………… 51
野口 巧 名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻
1-41 合成錯体分子による水の酸化光触媒系の構築:
ルテニウムアコ錯体の光異性化を利用した革新的合成… ………………………………………………… 52
○平原将也、山
啓智、八木政行 新潟大学大学院自然科学研究科、JST さきがけ
1-42 ソーラー水分解のための BiVO4/SrTiO3:Rh 担持型 Z スキーム光触媒の開発…………………… 53
ジア チンシン 1、齊藤健二 1, 2, 3、工藤昭彦 1, 3
1
東京理科大学理学部、2 PRESTO/JST、3 東京理科大学総合研究機構エネルギー・環境光触媒研究部門
1-43 窒素固定酵素ニトロゲナーゼを利用した水素生産の高効率化と大規模化………………………… 54
北島正治 1、増川 一 2, 3、佐藤 剛 1、櫻井英博 2、井上和仁 1, 2
1
神奈川大学理学部生物科学科、2 神奈川大学光合成水素生産研究所、3 JST さきがけ
1-44 ポリオキソメタレートを基盤とした水の可視光分解反応系の構築…………………………………… 55
田中早弥 1、酒井 健 1, 2 1 九州大学大学院、2WPI-I2CNER
4
5
PROFILE
CONTENTS
2+
1-45 ビオローゲン集積型 Ru(bpy)
3 誘導体の光誘起電子移動過程と
水素生成反応への応用……………………………………………………………………………………………………… 56
○北本享司 1、酒井 健 1, 2 1 九大院理、2 九大 I2CNER
1-46 酸素生成触媒能を有する各種ルテニウム単核錯体の反応機構に関する研究… ………………… 57
○吉田将己
1
、木本彩乃
1, 2
、正岡重行
1, 2
、酒井 健
2, 3
【基調講演者】
井上 晴夫(いのうえ・はるお)
首都大学東京 戦略研究センター教授、工学博士
1, 4
九大院理、2 分子研、3 JST さきがけ、4 九大 I2CNER
1-47 水素生成機能を有する白金錯体触媒の耐久性制御に関する研究……………………………………… 58
○山内幸正 1、酒井 健 1, 2 1 九大院理、2 九大 I2CNER
1-48 メソポーラス有機シリカを用いた光捕集系の構築と CO2 還元反応…………………………………… 59
由井樹人 1, 2、竹田浩之 3, 4、上田裕太郎 1、小池和英 4, 5、稲垣伸二 3, 4、石谷 治 1, 4
1
東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻、2 最先端・次世代研究開発支援プログラム、
3
豊田中央研究所、4 CREST/JST、5 産業技術総合研究所
1-49 超分子錯体による CO2 還元光触媒機能の飛躍的向上………………………………………………………… 60
○玉置悠祐、小池和英、石谷 治 東工大院理工・産総研
1-50 金属錯体−半導体複合系による新規 Z スキーム型 CO2 還元光触媒の開発………………………… 61
略 歴
1969 年東京大学工学部卒、同大学院研究科修了、都立大学助手、助教授を経て 1991
年同教授、2003 年首都大学東京都市環境科学研究科長、2009 年同国際センター長、
2010 年同戦略研究センター教授 現在に至る。
日本化学会筆頭副会長、光化学協会会長、アジア光化学会会長などを歴任。
専 門
光化学、人工光合成、光機能化学 JST 戦略基礎研究(CREST)
、展開研究(SORST)研究代表者
現在、JST さきがけ「光エネルギーと物質変換」研究総括 ○関澤佳太 1、前田和彦 2, 3、小池和英 4、由井樹人 1、堂免一成 2、石谷 治 1, 5
1
東工大院理工、2 東大院工、3 JST さきがけ、4 産総研、5 ALCA/JST
1-51 二酸化炭素をメタノールに変換する人工光合成系の構築………………………………………………… 62
天尾 豊 大分大工、JST さきがけ
北澤 宏一(きたざわ・こういち)
略 歴
1966 年 東京大学理学部化学科卒業 1968 年 工業化学専攻修士修了
1972 年 マサチューセッツ工科大学材料科学専攻博士修了
1972 年 マサチューセッツ工科大学セラミックス部門研究員就任
1982 年 東京大学工学部物理工学科助教授
1987 年 同 工学系研究科工業化学専攻教授、新領域創成科学研究科物質系専攻教授
などを経て
2002 年 特殊法人科学技術振興事業団専務理事就任
2003 年 独立行政法人科学技術振興機構理事
2007 年 独立行政法人科学技術振興機構理事長
2011 年 独立行政法人科学技術振興機構顧問
専 門
物理化学、固体物理、材料科学、磁気科学、超伝導工学、エネルギー。1986 年には
世界の高温超伝導フィーバーの火付け役となる。
主な受賞歴
1988 年日本セラミックス学会セラミックス大賞、日本応用物理学会賞、日本 IBM 科
学賞、2002 年紫綬褒章、2009 年度応用物理学会業績賞など。
著 書
『科学技術者のみた日本・経済の夢(第 4 版)
(アドスリー、2005 年)、
』
『科学技術は日
本を救うのか —「第 4 の価値」を目指して―』
(ディスカヴァー 21、2010 年)など。
日本学術会議連携会員。科学技術による、
「第 4 の価値」すなわち「社会的・精神的な
価値」の実現を通じて、地球環境を守り、日本の産業経済を活性化することが可能と
提唱する。
6
7
PROFILE
PROFILE
【パネリスト】
橋本 和仁(はしもと・かずひと)
相澤 益男(あいざわ・ますお)
内閣府総合科学技術会議議員
略 歴
1966 年、横浜国立大学工学部卒業、1971 年、東京工業大学大学院理工学研究科博士
課程修了(工学博士)後、東京工業大学助手、筑波大学助教授を経て、1986 年、東京
工業大学教授。東京工業大学生命理工学部部長、副学長、2001 年、東京工業大学学
長。2007 年、東京工業大学名誉教授、内閣府総合科学技術会議議員。
専 門
生命工学、バイオエレクトロニクス、バイオセンサ。
日本化学会副会長、電気化学会会長、International Society of Bioluminescence and Chemiluminescence 会長、日本学術会議会員(第 19 期)
、同連携会員(第 20、21 期)。
瀬戸山 亨(せとやま・とおる)
(株)三菱化学グループ科学技術研究センター
合成技術研究所・所長 兼 無機系機能材料研究所・所長
兼 地球快適化 Institute リサーチ director
略 歴
1983 年 東京大学工学系修士課程修了、同年三菱化成に入社以来、触媒開発、無機
材料開発を担当
2001 年 ポーラスマテリアル研究所長
2002 年 不均一触媒研究所所長、2002 年 無機材料研究所長
2007 年 合成技術研究所所長
2009 年 地球快適化 Institute リサーチ director(兼務)
2010 年 無機系機能材料研究所・所長(兼務)
2003 年 メソ多孔体を用いた固体酸による THF の重合触媒で石油学会賞
2008 年 上記技術でグリーンサステイナブルケミストリー賞経済産業大臣賞
専門分野
固体触媒、固体酸、無機材料合成。特に多孔性材料を用いた触媒プロセス開発。液
相酸化反応。
(酸)窒化物合成、ナノ粒子応用
東京大学大学院工学系研究科 教授
略 歴
1978 年 東京大学理学部化学科卒業
1980 年 同大学院理学系研究科修士課程修了
1995 年 理学博士
分子科学研究所技官、助手を経て、1989 年東京大学工学部合成化学科講師。同助教
授を経て 1997 年東京大学先端科学技術研究センター教授。同所長などを経て、2007
年より東京大学大学院工学系研究科教授。
現在、NEDO 循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクトリーダー、JST/ERATO 光
エネルギー変換プロジェクト総括責任者、文部科学省ナノテクノロジーを活用した
環境技術開発プログラムディレクター、JST 先端的低炭素化技術開発事業プログラム
オフィサー、JST さきがけ「エネルギー高効率利用と相界面」研究総括、JST/CREST
「エ
ネルギー高効率利用のための相界面科学」副研究総括を兼任。
専 門
半導体光触媒、有機高分子太陽電池、微生物太陽電池、無機人工光合成材料など、
光エネルギーの変換、環境浄化に関し、基礎原理の追求から実社会への応用まで幅
広く研究を展開している。
受 賞
日本照明賞(1997 年日本照明学会 )、日本 IBM 科学賞(1997 年 IBM 科学財団 )、注目
発明賞(1998 年科学技術庁 )、Innovation in Real Material Award(1998 年国際材料学会)
、
光化学協会賞(1998 年日本光化学協会)
、内閣総理大臣賞(2004 年内閣府)
、日経地球
環境技術賞(2004 年日経新聞社)
、恩賜発明賞(2006 年発明協会)、山崎貞一賞(2006
年材料科学技術振興財団)
、錯体化学貢献賞(2010 年錯体化学会)など。
田口 康(たぐち・やすし)
文部科学省研究開発局環境エネルギー課長
名古屋大学工学部原子核工学科卒業
昭和 61 年 4 月 科学技術庁 入庁
平成 19 年 9 月 研究振興局研究環境・産業連携課長
平成 21 年 7 月 研究開発局原子力計画課長
平成 22 年 4 月 研究開発局環境エネルギー課長
最近の研究テーマ等
石油化学の将来技術(メタンの活用、バイオマスの活用)
機能性無機材料(触媒用途以外への無機材料の展開)
C3 化学品、C4 化学品のかかわる触媒プロセス開発 現在 pilot が二つ動いています。
8
9
PROFILE
福島 洋(ふくしま・ひろし)
経済産業省産業技術環境局研究開発課長
ポスター発表
1985 年 東北大学工学部応用化学科卒業後、1987 年 東北大学大学院工学研究科応
用化学専攻 修了。1987 年通商産業省(現経済産業省)入省、1992 年通商政策局アジ
ア太平洋経済協力室課長補佐、1993 年米国留学(ニューメキシコ大学)
、1994 年基礎
産業局化学兵器・麻薬原料等規制対策室課長補佐、1996 年環境立地局環境指導課課
長補佐、1998 年基礎産業局非鉄金属課課長補佐、2000 年環境立地局環境政策課課長
補佐、2003 年大臣官房総務課課長補佐、2004 年(独)日本貿易振興機構ロスアンゼル
スセンター次長、2007 年製造産業局化学物質管理課化学兵器・麻薬原料等規制対策
室長(併)化学物質リスク評価室長、2008 年製造産業局化学物質管理課長。2010 年 7
月より現職。
10
11
1-01
1-02
天然光合成の不思議
人工光合成を実現するための重要課題
民秋 均
井上晴夫
立命館大学総合理工学院
[email protected]
首都大学東京・戦略研究センター
[email protected]
光合成を行う生物には、水を電子源とするものと、
のが作られていることになる。光合成生物を外からだ
1. 光合成のポイント
有機物や硫化物を電子源とするものがある。前者で
け見ていると、形態的にはほとんど変化がないようだ
緑色植物の営む光合成の化学反応としてのポイント
は、水分子の酸化によって酸素が発生するために、酸
が、微視的な分子レベルで見ると、常に分子の入れ替
は可視光照射により水分子が酸化されて酸素(O2)と
素発生型光合成生物と呼ばれ、後者は酸素を発生させ
えを行って、機能の維持を図っている。
二酸化炭素が還元されてグルコース(
(CH2O)
6)を生成
1)
ないために、酸素非発生型光合成生物と呼ばれる 。
人工光合成を考えるときに、天然の光合成機能を模
することに要約される。つまり、水分子から 4 個の電
酸素分子は、酸化を促進するために、生物を構成す
倣することからまず始められ、これまでの多くの研究
子を取りだし(明反応)段階的に二酸化炭素に移動す
る(超)分子にとって危険な(生命維持を脅かす)分子
によって、その構造と機能については、超分子・分
る(暗反応)点にある。グルコースを代謝・呼吸や完
種となりうる。従って、酸素発生型生物では、酸素活
子・原子レベルでかなりのことまで判ってきている
全燃焼すれば熱エネルギーの放出と共に水分子と二酸
性種から身を守る術を手に入れておかなければならな
が、それは静的な構造と機能を解明したのにとどまっ
化炭素を再生する。つまり光合成はエネルギー変換の
い。勿論、水は地球上ではユビキタスな物質であり、
ている。生物は生き続けて子孫を残すことが重要であ
視点からも、物質循環の視点からも理想的なシステム
これを環境ではなく、電子源として利用できれば、ど
り、今後の人工合成研究の発展のためには、時間軸と
と言える。
こででもどんどん生命活動を続けることが可能にな
いうものを考慮に入れることも大変重要である。なる
り、生物にとって有利な面が優っていたために、進化
べくたやすく手に入る原料を用いて、少ないエネル
の途上で活用が始まったと言える。水分子の酸素へ
ギー投資で系を構築し、常に系の補修を行いつつ、最
人工光合成とは、天然の光合成を、1)学ぶ、2)利
の 4 電子酸化はしづらいので、地球上に降り注ぐ可視
終的には原料に近い廃棄物しか出さない。そんな人工
用する、3)真似る、4)超えるという視点で「可視光」
かであろう。
光のエネルギーで強力な酸化種を作り出す必要が生じ
光合成系の構築には、天然光合成から学ぶことがまだ
を用い、
「水」を原料に水素や二酸化炭素の還元物な
b)光合成を真似て、超えるアプローチ(その 1)
た。このような酸化種を、クロロフィル 2 分子をペプ
まだ多い。
どの「高エネルギー物質」を生成することと定義する。
チド環境下にうまく配置することで、生物は作り出し
ているが 、その安定性はそれほど高くなく、そのよ
2)
うなクロロフィル含有タンパク質は、光合成がフルに
機能しているときには、30 分程度の寿命しかないと
されている。つまり、どんどん壊れて、また新しいも
1) 民秋 均、
「金属錯体の光化学」
、13 章、三共出版(2007)
.
2) 垣谷俊昭、三室 守、民秋 均、「クロロフィル」、裳華房
(2011).
して、暗反応部分を高効率な人工系として全体の高効
率化を図ろうとするアプローチがある。この方法での
2. 人工光合成とは:太陽電池との違い
最大の課題のひとつは、植物体から外に取りだした明
反応部分の活性をいかにして持続させることができる
天然光合成のクロロフィルにヒントを得て、可視光
光照射により物質内の電子を励起して強い還元能を
照射により電荷分離状態を引き起こすことができる色
持った電子(負電荷)と強い酸化能を有する状態(正
素類、金属錯体類(増感剤と呼ぶ)を用いて、水を酸化
電荷)に分離する(電荷分離という)点は太陽電池と
し、水素の発生や、二酸化炭素の還元を図るアプロー
人工光合成は共通している。太陽電池は高いエネル
チがある。酸化側および還元側の反応それぞれで近
ギーを持った電子のエネルギー落差(上図左のΔE)を
年大きいブレークスルーが報告されている。このアプ
電力として取り出すのに対し、人工光合成では電子や
ローチでの最大の課題のひとつは、いかにして水分子
正電荷状態を経由して貯蔵可能な物質に変換すること
から電子を有効に取り出すことができるかであろう。
ができる。例えば強い還元能を持った電子からエネル
c)光合成を真似て、超えるアプローチ(その 2)
ギー貯蔵物質としての水素を生成する。
半導体の二酸化チタンに紫外光照射すると水が分解
され水素と酸素を発生する画期的な発見により近年の
3. 人工光合成へのアプローチと解決すべき課題
a)光合成を利用し、超えるアプローチ
12
人工光合成研究が始まったと言っても過言ではない
(ホンダーフジシマ効果)
。このアプローチでの最大の
天然の光合成では可視光のエネルギーで水から電子
課題は、紫外光ではなく可視光、さらには赤外光をい
を取りだす過程(明反応)は極めて効率が高い。昨年、
かにして有効に利用できるかであろう。近年、我が国
我が国において酸素発生中心の構造解明に成功し画期
において可視光を用いた半導体光触媒が開発され大き
的な成果として注目されている。一方、取り出した
く注目されている。
電子を二酸化炭素まで段階的に移動させる過程(暗反
人工光合成の各アプローチで我が国は世界を先導し
応)の効率は低い。そこで明反応部分はそのまま利用
ている。今後の大きいブレークスルーが予感される。
13
1-03
1-04
人工光合成と光触媒的水素製造
― ソーラー水素製造―
光エネルギーを用いた CO2 資源化の重要性
工藤昭彦
石谷 治
東京理科大学理学部、総合研究機構エネルギー・環境光触媒研究部門
東京工業大学大学院理工学研究科
[email protected]
[email protected]
エネルギー・環境問題の観点から、クリーンエネル
現在、地球の温暖化とエネルギー資源の不足という
ギーである水素をいかに作りだすかが大きな課題と
人類にとって深刻な問題が、一見あまり関係のない課
なっている。もっとも理想的な水素製造法は、自然エ
題として議論されている。自然界では光合成が存在す
ネルギーを利用して水から水素を作ることである。太
るため、CO2 は、太陽光エネルギーのリザーバーとし
陽光エネルギーを使って水から製造された水素などの
て活用され、有機物へと還元固定化されることで化学
燃料は、
「ソーラーフュエル」と呼ばれている。これを
エネルギーも同時に生産蓄積されている。しかしなが
目指した化学的方法として、図 1 に示すような光触媒
ら人類は、光合成由来の資源である石油、石炭、天然
を用いた水分解による水素製造が注目されている。こ
ガスをエネルギー源として大量に消費し、最終的には
燃焼することで大気中に CO2 を大量に放出している。
の水の光分解は、光エネルギーが水素という化学エネ
ルギーに変換されるエネルギー蓄積型の反応(アップ
図 1 粉末光触媒を用いた簡便なソーラー水分解システム
ヒル反応)である。これは、植物が行っている光合成
我々が、太陽光を用いて CO2 を再資源化するプロセス
を持っていないため、このような情況が発現している
の明反応と同じ意味を持つことから、人工光合成と呼
らず、食料問題においても、クリーンに解決できる可
ことを考えれば、上述の 2 つの問題の主因は同じであ
ぶことができる。この反応の特徴は、水が水素源とな
能性がある。このように、光触媒を用いた水の分解反
るといえる。さらに付け加えるべきことは、化石燃料
ること、化石燃料を消費しないこと、二酸化炭素を排
応は、人類にとっての究極的な化学反応である。図 2
の枯渇は、化学原料の不足と直結するという事実であ
出しないこと、常温常圧のプロセスが可能であること
に粉末半導体光触媒を用いた水分解反応のメカニズム
る。図 1 に示すように、日本において消費された石油
である。このように、光触媒を用いた水の分解は、エ
を示す。まず、半導体光触媒にバンドギャップより大
総量の 20%以上が化学原料として使用されている。
ネルギー・環境問題の解決を考える上で、もっとも根
きなエネルギーを持つ光を照射することにより、電子
このように、大気中 CO2 濃度の急上昇、エネルギー
幹にかかわる重要な化学反応である。水素は燃料電
が価電子帯から伝導帯に励起され、価電子帯に正孔が
資源の枯渇、化学原料の不足という人類の将来に影を
池などに用いることができるクリーンエネルギーとし
生じる。ここで、可視光を利用するためには、3 eV よ
落とす 3 つの問題が発生した根本的な原因が同じであ
てだけではなく、化学工業においても重要な基幹原料
り狭いバンドギャップを持つ光触媒の開発が要求され
るため、個別の対応策では限定的な改善しか期待でき
である。安価な水素があれば、二酸化炭素をガソリ
る。次に光照射により生成した電子および正孔が粒子
ず、解決に向けては総合的で新たな技術を見出す必要
ンに転換することができる。また、化学工業において
表面へ移動する。そして、光触媒粒子の表面に到達し
がある。もし人工的な手法で、太陽光をエネルギー源
は、多量の水素が農業に不可欠なアンモニア合成に使
た電子が水を還元して水素、正孔が水を酸化して酸素
として利用し CO2 を有用な化合物に変換する技術が実
われている。今後、光触媒を用いた水分解による水素
を生成する。これらの過程が完結することにより、初
用化すれば、CO2 の固定化、新たな化学エネルギーの
の製造法が確立すれば、エネルギー・環境問題のみな
めてアップヒル反応である水分解活性が発現する。
創製、炭素資源の安定供給が一挙に可能になる。これ
図 1 石油の用途別消費量(石油連盟「今日の石油産業デー
タ集 2009」より)
が、CO2 の光還元固定化が、人工光合成研究における
重要課題となる理由である。
図 2 日本における太陽エネルギー利用戦略
狭く、しかも緑が豊かな日本の国土を考え合わせる
と、太陽エネルギー変換施設を海外の乾燥地帯に敷設
ネルギーにより合成することが望ましい。もし、太陽
し、得られた資源を日本に輸送することを考えなけれ
エネルギーを有効に利用し、CO2 から CO を、また水
ばならない。単位重さ当たりのエネルギー量を電池や
から H2 を得ることができれば、図 2 に示したように
水素ボンベと比べると、石油は 1 桁∼ 2 桁大きな値と
Fisher-Tropsch 反応を適用して人工石油を合成するこ
なる。しかも現状の輸送インフラをそのまま活用で
とが可能になる。この理由からも、日本においてこそ
きることを考えれば、石油のような液体燃料を太陽エ
人工光合成技術は実用化されなくてはならない。
図 2 光触媒による水の分解反応のメカニズム
14
15
1-05
1-06
光機能性巨大π共役系化合物の創製
微生物によるメタン生産と嫌気メタン酸化
荒谷直樹
嶋 盛吾
京都大学大学院理学研究科化学専攻、JST さきがけ
[email protected]
マックスプランク陸生微生物学研究所、JST さきがけ
[email protected]
これまで光合成アンテナモデルや分子デバイス素子
光合成によって生産された有機物の多くは生態系で
メタン代謝系には水素と二酸化炭素からの物質生産
として期待されるポルフィリン多量体の合成と機能評
微生物によって分解される。その分解過程では二酸化
に有効利用できる酵素が多く含まれている。メタン代
価を行ってきた。通常では高分子と呼ばれるようなサ
炭素と水素ガスおよび有機酸が中間体として生成し、
謝系酵素の構造と機能を総合的に理解していき、将来
イズ・分子量の単分散化合物を精密に分子設計して合
これらの物質はメタン生成菌によって代謝されメタン
的にはこれらの酵素の機能を人工的に模倣したエネル
成・単離し、構造の明確な巨大分子として有機合成化
となる。ほとんどのメタン菌は二酸化炭素の水素ガス
ギー・物質生産技術につなげていきたい。
学的にどこまで取り扱えるかの限界にも挑戦してき
。
による還元反応によってメタンを生産できる(式 1)
た。光電変換デバイスの開発において、既存の化合物
この微生物代謝により莫大な量のメタンが地球上で生
による高効率化・長寿命化・低コスト化の研究はすで
産蓄積されている。海底に大量に埋蔵され、将来のエ
に多くの研究者によって進められているが、現代有機
ネルギー源として期待されているメタンハイドレート
化学の手法を駆使して、全く新しい魅力的な光学特性
に含まれるメタンも微生物によって生産されたもので
をもつ革新的有機材料の創出を目指している。
ある。
これまでに構造の明確な環状ポルフィリン多量体
としては世界最大であるポルフィリンリング 32 量体、
一切スペーサーを介さずポルフィリン同士が直接結合
図 1 C60 を内部に取り込んだ筒状ポルフィリン 4 量体の X 線
結晶構造
CO2+4H2 ⇌ CH4+2H2O ΔG° =-131 kJ/mol(式 1)
メタン生成代謝酵素系には 10 種類以上の酵素が含ま
したポルフィリンリングの合成などに成功した。励起
子相互作用が強く、天然のアンテナ系に匹敵する励起
よって変化すると予想される様々な電子・光物性を調
れ、その多くが金属錯体を活性中心に含む金属酵素で
挙動を示す。また、チオフェン架橋環状ポルフィリン
査していきたい。
ある。ヒドロゲナーゼと呼ばれる酵素が水素分子を活
4 量体が溶液中及び固体中で協同的に 2 つの C60 を取り
込むことや、お椀型のベンゾサブポルフィリンが固体
中で C60 を一次元的に配列し、光電流を流すことを明
らかにしている。
また、フラーレンやカーボンナノチューブなどの炭
素材料は非常に優れた光・電子機能を有する化合物群
であるが、有機合成化学的に機能をデザインでき、高
い溶解性を確保できる新たな炭素材料の創出を目指し
ている。π共役系が十分に拡がった化合物の合成とそ
の集積化による高効率の光吸収や電荷輸送の達成によ
り、これまでには用いることができなかった幅広い波
長領域の太陽光エネルギーの獲得と利用が可能とな
る。現在すでに、特異的にフラーレンを内部に取り込
む筒状の化合物の合成に成功している。この筒状の化
合物から、ポルフィリンナノチューブへの展開を図っ
性化分解し、その還元力が二酸化炭素の還元に使われ
【最近の主な論文】
1) Porphyrin–hexaphyrin hybrid tapes, T. Tanaka, N. Aratani,
J. M. Lim, K. S. Kim, D. Kim, A. Osuka, Chem. Sci. 2011, 2,
1414.
2) Aβ -to- β2,5-thienylene-bridged cyclic porphyrin tetramer: its rational synthesis and 1 : 2 binding mode with C60,
る 1)。最終段階でメタン生産を直接触媒する酵素はメ
J. Song, N. Aratani, H. Shinokubo, A. Osuka, Chem. Sci.
2011, 2, 748.
3) A Porphyrin Nanobarrel That Encapsulates C60, J. Song, N.
Aratani, H. Shinokubo, A. Osuka, J. Am. Chem. Soc. 2010,
132, 16356.
4) Directly Pd(II)-Bridged Porphyrin Belts with Remarkable
Curvatures, J. Song, N. Aratani, J. H. Heo, D. Kim, H. Shinokubo, A. Osuka, J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 11868.
5) Porphyrin Lego Block Strategy To Construct Directly
meso - β Doubly Linked Porphyrin Rings, J. Song, N.
Aratani, P. Kim, D. Kim, H. Shinokubo, A. Osuka, Angew.
Chem. Int. Ed. 2010, 49, 3617.
メタン生成を触媒する酵素がその逆反応を触媒してい
チル補酵素 M 還元酵素(MCR)である 2)。硫酸塩など
代表的論文
1) Shima, S., Pilak, O., Vogt, S., Schick, M., Stagni, M.S.,
Meyer-Klaucke, W., Warkentin, E., Thauer, R.K., & Ermler,
U.(2008)The crystal structure of[Fe]-hydrogenase reveals the geometry of the active site. Science, 321, 572-575.
2) Ermler, U., Grabarse, W., Shima, S., Goubeaud, M. &
Thauer, R.K.(1997)Crystal structure of methylcoenzyme
M reductase: the key enzyme of biological methane formation. Science 278, 1457-1462.
3) Krüger, M., Meyerdierks, A., Glöckner, F.O., Amann, R.,
Widdel, F., Kube, M., Reinhardt, R., Kahnt, J., Böcher, R.,
Thauer, R.K. & Shima, S.(2003)An conspicuous nickel
protein in microbial mats that oxidize methane anaerobically. Nature, 426(6968)
: 878-881.
4) Shima, S., Krueger, M., Weinert, T. Demmer, U., Kahnt, J.,
Thauer, R.K. & Ermler, U.(2012)Structure of a methylcoenzyme M reductase from Black Sea mats that oxidize
methane anaerobically. Nature 481, 98–101.
の電子受容体存在下ではメタンはさらに嫌気的に酸化
される(式 2)3)。嫌気メタン酸化代謝はメタン生成代
謝を逆行させたようなもので、少なくとも部分的には
る。最近、結晶構造解析により MCR が嫌気メタン酸化
反応を行っていることを示す重要な証拠が得られた 4)。
CH4+SO42−⇌ HCO3 − +HS − +H2O
Δ G° =−17 kJ/mol (式 2)
ている。中に取り込むフラーレンの性質や筒状の径に
16
17
ペプ チ ド 折 り 紙で人工光合成を創る
( 北里大院理 a ・ JST さ き がけ b ) ○石田
斉 a,b ・ 椎名祥己
1-07
a
・ 神谷将也
a
・ 倉持悠輔
a
ペプチド折り紙で人工光合成を創る
人工光合成は 、 光エネルギー捕集系 ・ 光電荷分離系か ら な る 光反応系 と 、 それに よ り 生
じ た ホールへ電子を供給す る 酸化触媒系 と 分離 さ れた電子を利用 し た還元触媒系な ど か ら
構成 さ れ る ( 図 1 )。 光合成では タ ンパ ク 質が機能性分子 と し て重要な働 き を し てい る こ
と か ら 、 人工光合成 も タ ンパ ク 質 と 同 じ 基本骨格を有す る ペプチ ド 鎖を利用す る こ と に よ
2
1
っ て 、 よ り 効率を高め
る こ と1,が期待で
き る 1。、神谷将也
我々は こ れま
でに ビ ピ 1リ ジ ン骨格を有す る 非
○石田 斉
、椎名祥己
、倉持悠輔
天然ア ミ ノ 酸を導入 し たペプチ1 北里大院理、
ド を配位子 2とJST
すさきがけ
る 機能性金属錯体の設計 ・ 合成を行っ てお
[email protected]
u.ac.jp
り 、 その手法はペプチ ド 折 り 紙 と 名付け ら れてい
る 。 1) 本研究では特に 、 二酸化炭素還元
能や光特性に優れたルテニ ウ ム-ペプチ ド 錯体を用いて 、 人工光合成に利用可能な光電荷
分離系構築や新規な二酸化炭素還元触媒の探索を行 う 。
人工光合成は、光エネルギー捕集系・光電荷分離
ルテニ ウ ム-ビ ピ リ ジ ン錯体は電気化学的
系からなる光反応系と、それにより生じたホールへ電
に二酸化炭素を一酸化炭素あ る いはギ酸へ と
二電子還元す る こ と が知 ら れてお り 、 ルテ
子を供給する酸化触媒系と分離された電子を利用した
2)
。光合成ではタ
還元触媒系などから構成される(図 1)
ニ ウ ム ト リ ス ( ビ ピ リ ジ ン ) 錯体を光増感剤
ンパク質が機能性分子として重要な働きをしているこ
と し て共存 さ せ る と 、 適当な電子供与体の存
在下 、 光化学的に二酸化炭素還元反応を触媒
するペプチド鎖を利用することによって、より効率を
す る こ と も 知 ら れてい る 。 3) 我々は 、 二電子
高めることが期待できる。我々はこれまでにビピリジ
とから、人工光合成もタンパク質と同じ基本骨格を有
還元以上の多電子還元を起 こ すために 、 ペプ
ン骨格を有する非天然アミノ酸を導入したペプチドを
チ ド 配位子を用いて触媒活性部位近傍を酵素
配位子とする機能性金属錯体の設計・合成を行ってお
1)
。
り、その手法はペプチド折り紙と名付けられている
活性中心の よ う にプ ロ ト ン供与性ア ミ ノ
酸側
本研究では特に、二酸化炭素還元能や光特性に優れた
鎖を配置す る こ と に よ り 、 プ ロ ト ン供給を効
ルテニウム−ペプチド錯体を用いて、人工光合成に利
率化 し た還元触媒の開発を目指 し てい る 。 本
図 1人工光合成
人工光合成 .
図1.
用可能な光電荷分離系構築や新規な二酸化炭素還元触
研究ではその準備段階 と し て 、 ビ ピ リ ジ ン骨格を有す る 非天然ア ミ ノ 酸誘導体を配位子 と
水/有機溶媒混合系で検討した。さらに、ペプチド鎖
媒の探索を行う。
す る trans(Cl)-Ru(bpy)(CO)2Cl2型錯体を合成 し 、 その電気化学的な二酸化炭素還元反応につ
ルテニウム−ビピリジン錯体は電気化学的に二酸化
の N 末端に電子受容体であるビオローゲンユニットを
とが知られており 、ルテニウムトリス(ビピリジン)
することによって、新規な光電荷分離系を合成した 。
いて検討 し た と こ ろ 、 こ れ ら が水中において高効率な二酸化炭素還元触媒 と な る こ と を見
接続し、鎖中に電子供与性残基であるチロシンを導入
炭素を一酸化炭素あるいはギ酸へと二電子還元するこ
出 し た 。 ま2)た 、 ルテニ ウ ム ト リ ス ( ビ ピ リ ジ ン ) 錯体を光増感剤 と す る 光化学的二酸化炭
4)
ネルギー製造技術として期待される分野の一つである。物質の光励起によって生成す
る電子やホールの酸化・還元力を利用して水を水素と酸素に分解する方法としては、
光触媒粉末と水の混合溶液に光を照射する手法や、光電気化学的手法などがある。高
効率の光触媒を開発するための材料設計方針としては、高表面積かつ高い結晶性を持
つ材料の作製が挙げられる。例えば、同じ組成の結晶でも作り方によってその性能が
大きく左右される。その他、再結合や逆反応を防ぐため光酸化・還元サイトを分離す
ることも重要な設計方針の一つである。本研究では、このような材料設計を可能にす
る材料としてナノシートという材料に注目して新しい光エネルギー変換材料の開発を
目指している。ナノシートは、厚さ1~2nm 程度、四方の大きさが数百 nm の広さを持
つ単結晶である。厚さ方向は結晶1~3ユニットから構成されているため、ほとんど
表面からなっているとも言える。ナノシートは表面アモルファス層がない単結晶であ
るため、光励起したキャリアなどが散乱されにくく、優れた光電変換材料や光触媒の
開発につながる可能性がある。また、いくつかの半導体ナノシートでは光酸化サイト
と光還元サイトが大きく離れているため、それを有効利用できる異種ナノシート積層
伊田進太郎
構造を設計できれば、高効率で可視光に応答するエネルギー変換材料などを創製でき
九州大学大学院工学研究院
る可能性がある。本研究では様々な禁制帯幅をもつ半導体ナノシートを開発し、異種
[email protected]
ナノシート積層体から紫外から可視光に応答する新しい光エネルギー変換材料を提案
することを目的としている。その他、資源として豊富になり、また安価な鉄やカルシ
ウムを用いた光エネルギー変換材料の提案も目標としている。
1. 研究目的
て、Rh- ド ー プ Ca2Nb3O10
2.研究経過・進捗状況:これまでに、新しい光触媒特性を
ナノシートを開発した。
太陽光エネルギーを利用して水から水素を得る試み
示すナノシートとして、Rh-ドープ Ca 2 Nb 3 O 10 ナノシートを開
この光触媒は助触媒を担
は、クリーンなエネルギー製造技術として期待される
発した。この光触媒は助触媒を担持しなくても、水素生成反
持しなくても、水素生成
分野の一つである。物質の光励起によって生成する電
応において高い量子効率(65%@300nm(犠牲剤存在下)
)を
示すことがわかった。また、図1に示すような厚さ約
2nm の
反応において高い量子効
子やホールの酸化・還元力を利用して水を水素と酸素
ナノシート PN 接合(TiOx ナノシート/NiO
ナノシート接合)
% @ 300 nm( 犠 牲
率(65
に分解する方法としては、光触媒粉末と水の混合溶液
の作製にも成功している。 鉄やカルシウムを用いた光エネ
剤存在下)
)を示すこと
に光を照射する手法や、光電気化学的手法などがある。
ルギー変換材料としては、p 型半導体である CaFe 2 O4 と n
がわかった。また、図 1
高効率の光触媒を開発するための材料設計方針として
型半導体である TiO 2 電極を用いた無バイアス光水分解シ
に示すような厚さ約 2 nm 図
は、高表面積かつ高い結晶性を持つ材料の作製が挙げ
図11. ナノシート
ナノシート
接合
ステムを開発した。
PNPN
接合の
の
AFM
像.
AFM
像
の ナ ノ シ ー ト PN 接 合
られる。例えば、同じ組成の結晶でも作り方によって
3.今後の予定・将来展望:ナノシート PN 接合における電荷分離の状態を詳細に解析し
(TiOx ナノシート /NiO ナ
その性能が大きく左右される。その他、再結合や逆反
水の完全分解を可能とする、異種ナノシートの積層構造を提案する予定である。また、よ
ノシート接合)の作製にも成功している。鉄やカルシ
応を防ぐため光酸化・還元サイトを分離することも重
り広い領域の波長の太陽光を利用できるシートとして、酸窒化物や窒化物ナノシートの開
p 型半
ウムを用いた光エネルギー変換材料としては、
要な設計方針の一つである。本研究では、このような
発を目指す。将来展望としては、様々な禁制帯幅や
pn 特性を持つナノシートの積層膜が開
発されることにより、現在の水分解光触媒の効率を凌ぐ新しい光機能性素子・材料の開発
導体である CaFe2O4 と n 型半導体である TiO2 電極を用
材料設計を可能にする材料としてナノシートという材
につながると考えている。また、鉄、銅、カルシウム、チタンなどの安価な材料・および
いた無バイアス光水分解システムを開発した。
料に注目して新しい光エネルギー変換材料の開発を目
溶液プロセスから太陽電池・光触媒の開発が可能となれば、材料の埋蔵量に影響を受けに
指している。ナノシートは、厚さ 1 ∼ 2 nm 程度、四方
くいエネルギー供給システムへと発展をとげる重要な産業になりうると考える。
3. 今後の予定・将来展望
の大きさが数百 nm の広さを持つ単結晶である。厚さ方
1-08
ナノ構造体の階層的構造制御による光機能性材料の創製
今後は 、 ペプチ ド 折 り 紙の手法に よ り 開発触媒と組み合わせることで人工光合成系の構築を目指
し たルテニ ウ ム錯体触媒を用いて 、 水中での
の多電子還元を起こすために、ペプチド配位子を用い
向は結晶 1 ∼ 3 ユニットから構成されているため、ほ
ナノシート PN 接合における電荷分離の状態を詳細
代表的論文
[1]
S.
Ida,
K.
Yamada,
T.
Matsunaga,
H.
Hagiwara,
Y. Matsumoto, T. Ishihara , J. Am. Chem. Soc.,
とんど表面からなっているとも言える。ナノシートは
に解析し水の完全分解を可能とする、異種ナノシート
2010, 132, 17343.
表面アモルファス層がない単結晶であるため、光励起
の積層構造を提案する予定である。また、より広い領
[2] Y. Okamoto, S.Ida, J. Hyodo, H. Hagiwara, T. Ishihara J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 18034.
したキャリアなどが散乱されにくく、優れた光電変換
域の波長の太陽光を利用できるシートとして、酸窒化
連絡先:[email protected]
材料や光触媒の開発につながる可能性がある。また、
物や窒化物ナノシートの開発を目指す。将来展望とし
光化学的二酸化炭素還元を行 う 予定であ り 、 す。
電荷分離系な ら びに水酸化触媒 と 組み合わせ
て触媒活性部位近傍を酵素活性中心のようにプロトン
いくつかの半導体ナノシートでは光酸化サイトと光還
ては、様々な禁制帯幅や pn 特性を持つナノシートの
供与性アミノ酸側鎖を配置することにより、プロトン
る こ と で人工光合成系の構築を目指す 。
元サイトが大きく離れているため、それを有効利用で
積層膜が開発されることにより、現在の水分解光触媒
きる異種ナノシート積層構造を設計できれば、高効率
の効率を凌ぐ新しい光機能性素子・材料の開発につな
で可視光に応答するエネルギー変換材料などを創製で
がると考えている。また、鉄、銅、カルシウム、チタ
きる可能性がある。本研究では様々な禁制帯幅をもつ
ンなどの安価な材料・および溶液プロセスから太陽電
半導体ナノシートを開発し、異種ナノシート積層体か
池・光触媒の開発が可能となれば、材料の埋蔵量に影
素還元反応を水/有機溶媒混合系で検討 し た 。 さ ら に 、 ペプチ ド 鎖の N 末端に電子受容体
錯体を光増感剤として共存させると、適当な電子供与
今後は、ペプチド折り紙の手法により開発したルテ
であ
る
ビ
オ
ロ
ーゲ
ン
ユニ
ッ
ト
を接続
し
、
鎖中に電子供与性残基であ
る チ ロ シ ン を導入す る
体の存在下、光化学的に二酸化炭素還元反応を触媒
ニウム錯体触媒を用いて、水中での光化学的二酸化炭
4)
3)
こ と に よ っ て 、 新規な光電荷分離系を合成
た。
。我々は、二電子還元以上 し素還元を行う予定であり、電荷分離系ならびに水酸化
することも知られている
1) Ishida, H.; Maruyama, Y.; Kyakuno, M.; Kodera, Y.; Maeda,
供給を効率化した還元触媒の開発を目指している。本
1)
Ishida, H.; Maruyama, Y.; Kyakuno, M.; Kodera,
Y.; Maeda, T.; Oishi, S. ChemBioChem
T.; Oishi, S. Chem Bio Chem 2006, 7, 1567.
研究ではその準備段階として、ビピリジン骨格を有す
2006, 7, 1567.
2) Ishida, H.; Tanaka, K.; Tanaka, T. Organometallics 1987, 6,
-Ru
trans
(
Cl
)
る非天然アミノ酸誘導体を配位子とする
181. 1987, 6, 181.
2) Ishida, H.; Tanaka, K.; Tanaka, T. Organometallics
3
)
Ishida, H.; Terada, T.; Tanaka, K.; Tanaka, T. Inorg. Chem.
(bpy)
(CO)2Cl2 型錯体を合成し、その電気化学的な二
3) Ishida, H.; Terada, T.; Tanaka, K.; Tanaka, T. Inorg.
1990,Chem.
29, 905.1990, 29, 905.
酸化炭素還元反応について検討したところ、これらが
) Shiina,
Y.;in
Oishi,
S.; Ishida, H. Tetrahedron Lett. 2012, in
4) Shiina, Y.; Oishi, S.; Ishida, H. Tetrahedron 4Lett.
2012,
press.
水中において高効率な二酸化炭素還元触媒となること
press.
連絡先 E-mail address: [email protected]
を見出した。また、ルテニウムトリス(ビピリジン)
錯体を光増感剤とする光化学的二酸化炭素還元反応を
ら紫外から可視光に応答する新しい光エネルギー変換
響を受けにくいエネルギー供給システムへと発展をと
材料を提案することを目的としている。その他、資源
げる重要な産業になりうると考える。
として豊富になり、また安価な鉄やカルシウムを用い
た光エネルギー変換材料の提案も目標としている。
2. 研究経過・進 状況
これまでに、新しい光触媒特性を示すナノシートとし
18
代表的論文
1) S. Ida, K. Yamada, T. Matsunaga, H. Hagiwara, Y. Matsumoto, T. Ishihara , J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 17343.
2) Y. Okamoto, S.Ida, J. Hyodo, H. Hagiwara, T. Ishihara J.
Am. Chem. Soc., 2011, 133, 18034.
19
1-09
1-10
可視光エネルギーを駆動力とする
触媒的分子変換システムの開発
光合成と酸化還元酵素の新たな組み合わせによる
光駆動物質生産系の設計
稲垣昭子
伊原正喜
東京工業大学資源化学研究所
[email protected]
信州大学農学部
[email protected]
太陽光は無尽蔵でクリーンなエネルギー源であり、
ることがわかってきた。現在は、パラジウムアセタト
研究目的
ヒドロゲナーゼが存在するが、まずは、その特異性を
しかも供給されるエネルギー量は膨大である。しかし
ユニットを有する触媒によるシンナミルアセテートと
我々の目指すところは、生きた藻類による光駆動バ
NADPH 型へと変換した NADH 依存型ギ酸デヒドロゲ
ながら希薄に存在するために、これを効率的に利用す
アレーン類との炭素−炭素結合生成反応の開発や、可
イオエネルギー生産である。藻類は、水と太陽光と二
ナーゼと、光合成過程で生産される NADPH とを組み
ることは非常に難しく、現在では熱・電気エネルギー
視光増感ユニットをイリジウムシクロメタレート型へ
酸化炭素を利用して増殖可能であることから、低コス
合わせた系を目指す。また、NADH 非依存型ギ酸デヒ
としての利用に留まっている。私どもはこの太陽光の
変更することにより触媒の安定性と溶解性の向上を検
トで広い面積を持つフォトバイオリアクターを構築す
ドロゲナーゼについては、未知の部分が多いために、
主成分である可視光エネルギーを、触媒的有機分子変
討しており、さらにはポルフィリンへと展開してい
ることが可能である。しかし、次世代のエネルギーと
分子生物学的な研究基盤を整える予定である。
換反応へ利用することを目的として研究を進めてい
る。どのような錯体触媒をデザインすれば可視光エネ
して有望な水素の生産においては、水素生成を触媒す
る。
ルギーを効率的に分子変換へ利用しうるか普遍的なシ
るヒドロゲナーゼの酸素感受性が問題となっている。
ステムを確立すると共に、たとえば二酸化炭素や窒素
そこで、我々は以下の二つのアプローチでこの問題に
収しうる色素を含む可視光増感性触媒を開発する必
固定化といった熱ではなしえないチャレンジングな触
迫ろうとしている。
要があり、しかもいかに効率的に光エネルギーを捕
媒反応、を開発することを目指している。
可視光エネルギーを利用するためには、それを吸
集し、反応中心へ移動させうるかが
となることか
ら、触媒デザインが重要となる。現在では、可視光を
吸収しうる色素ユニットとして、ルテニウムトリスビ
ピリジル誘導体を用い、架橋配位子を介して反応中心
である有機金属部位を連結した可視光増感性錯体を合
成した。また、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジ
ウム、ニッケルなど様々な有機金属フラグメントの導
入に成功している。触媒反応についてはパラジウム−
(bpm)PdMe
メチルユニットを導入した錯体[
(bpy)
2Ru
(Me2CO)
] とその誘導体の研究が先行しており、可
3+
視光照射条件下でスチレン類の二量化、オリゴメリ
ゼーション、ポリメリゼーションが触媒を選択するこ
とによって自在に制御しうることを見いだしている。
錯体合成と並行して種々の光物性を系統的に調査する
ことにより、これらの反応性や選択性が触媒の光物性
と励起寿命、エネルギー移動特性に大きく依存してい
代表論文:
1) Enhanced Photocatalytic Activity of alpha- Methylsty-
rene Oligomerization through Effective Metal-to-Ligand
Charge-Transfer Localization on the Bridging Ligand.
Nitadori, H.; Takahashi, T.; Inagaki, A.; Akita, M. Inorg.
Chem., 2012, 51, 51–62.
2) Visible-light Promoted Bimetallic Catalysis. Akiko Inagaki, Munetaka Akita.
Inagaki, A.; Akita, M. Coord. Chem. Rev., 2010, 254, 12201239.
3) Synthesis of Pd Complexes Combined with Photosensitizing of a Ruthenium
(II)Polypyridyl Moiety through a Series
of Substituted Bipyrimidine Bridges. Substituent Effect of
the Bridging Ligand on the Photocatalytic Dimerization of
α -Methylstyrene
Inagaki, A.; Yatsuda, S.; Edure, S.; Suzuki, A.; Takahashi, T.;
Akita, M. Inorg. Chem., 2007, 46, 2432-2445.
研究経過・進
これまでに、一つ目のアプローチに関して、MBH
や RH の組み換え蛋白質発現に成功しており、現在ア
一つ目のアプローチでは、酸素に対して高い耐性
ミノ酸変異ライブラリーと評価系の構築を目指してい
を持つ Ralstonia eutropha 由来の膜結合ヒドロゲナーゼ
る。さらに、シアノバクテリア内発現系用ベクターを
(MBH)と水素センサーヒドロゲナーゼ(RH)を、光
完成させており、シアノバクテリア内への導入を試み
化学系 I(PSI)から電子を効率的に受けるように改良
ている。また、二つ目のアプローチでは、NADH 依存
を加え、藻類に導入することを目指している。MBH
ギ酸デヒドロゲナーゼの NADPH 依存型への変換に成
は、水素分子を酸化してメナキノンを還元する役割を
功しており、また試験管内の光化学系 I 再構築系と、
担っており、膜結合ドメインやメナキノン還元ドメイ
NADPH 依存ギ酸デヒドロゲナーゼを用いた光依存ギ
ンを持っている。また RH は、キナーゼドメインを有
酸生産に成功している。現在は、ヘテロシスト内での
しており、水素分子との反応によってキナーゼ活性を
ギ酸生産、NADH 非依存ギ酸デヒドロゲナーゼ関連遺
発現させ、センサーとして機能している。これら付加
伝子の単離や、NADH 非依存ギ酸デヒドロゲナーゼ蛋
的なドメインは PSI との効率的な電子伝達を実現する
白質の精製を試みている。
ために除去しなければならない。そこで、ドメインを
除去し PSI との効率的な電子伝達のためのアミノ酸変
異導入を行い、同時に、藻類であるシアノバクテリア
内での発現系構築を目指す。
二つ目のアプローチは、嫌気的環境を持つシアノバ
今後の予定・将来展望
今後は、それぞれ世界初となる酸素耐性ヒドロゲ
ナーゼによるシアノバクテリア内水素生産と、ヘテロ
シスト内ギ酸生産系の構築を目指す。
クテリア・ヘテロシスト細胞に、二酸化炭素と還元力
からギ酸を生産するギ酸デヒドロゲナーゼを導入し、
水素に変換可能なギ酸を生産する人工的な系を構築す
ることである。ギ酸デヒドロゲナーゼには、NADH 依
代表的論文
Photochem. Photobiol., 2006, 82, 676-682, Photochem. Photobiol., 2006, 82, 1677-85.
存型ギ酸デヒドロゲナーゼと NADH 非依存型ギ酸デ
20
21
1-11
1-12
ホスファアルケン系配位子を持つ鉄錯体を触媒とする
二酸化炭素の高効率光還元反応
合成錯体分子による水の酸化光触媒系の構築:
配位子修飾による触媒活性制御
合成錯体分子による水の酸化光触媒系の構築:配位子修飾による触媒活性制御
中島裕美子
○八木政行、山
京都大学化学研究所
[email protected]
啓智、平原将也
新潟大学大学院自然科学研究科、
JST さきがけ
新潟大学大学院自然科学研究科・JST-さきがけ
[email protected]
○八木政行・山﨑啓智・平原将也
連絡先: [email protected]
緒 言
鉄錯体は、容易にスピン反転を起こすことから多様
(BPEP)]
(3)の合成にも成功し、これが錯体 2 と同様
な電子配置を取ることが知られており、それに対応し
に三角錐構造を取ることを明らかにした。このような
【緒言】
エネルギー・環境問題ならびに昨今の震災による原発の問題を背景に、クリー
エネルギー・環境問題ならびに昨今の震災による
素発生機構が示唆された。触媒のターンオーバー速度
て他の金属には見られない特異な反応性を示す。一方
特異な電子的特徴に基づいて、これらの錯体はいずれ
原発の問題を背景に、クリーンで安全なエネルギー
(kO2 / s−1)とマンガン核の酸化還元電位(E1/2)の間には
ンで安全なエネルギー供給システムの開発が望まれている。将来有望なエネルギー供給シ
で、鉄錯体の電子制御は極めて困難であることから、
も二酸化炭素に高い反応性を示した。
よい直性関係が得られ、E1/2 が か 30 mV 増大したと
供給システムの開発が望まれている。将来有望なエ
ステムの一つとして、太陽光から化学燃料を生成する「人工光合成」に大きな関心が寄せ
現段階ではその多様な反応性を新規分子変換反応開発
最近、BPEP の窒素類縁体であるビスイミノピリジ
に十分活かせているとは言い難い。本研究では、鉄錯
次に依存し、錯体二分子による協同触媒作用による酸
ネルギー供給システムの一つとして、太陽光から化
き、k が 30 倍増大することが示された。この結果より、
(N2)
(
]が
ン配位子(PDI)を有する鉄 0 価錯体[Fe
2 PDI)
学燃料を生成する「人工光合成」に大きな関心が寄
錯体の
体の電子状態理解に基づき、鉄反応場における二酸化
二酸化炭素と室温で瞬時に反応し、新規錯体へと変換
せられている。人工光合成の構築には、水の酸化能
触媒活性が著しく変化することが分かった。
炭素還元挙動を詳細に解明することで、鉄錯体を用い
されることを見出した。発表では、最近の結果を交え
た二酸化炭素の高効率光還元反応達成の糸口を見出す
てこれら反応について詳しく報告する。
ことを目指す。
ホスファアルケン系配位子は、σ供与性に加えて
強いπ受容性を有し、これらの相乗効果により様々
な電子状態を有する金属中心の安定化が可能となる。
本研究では、まず、PNP- ピンサー型ホスファアルケ
ン系配位子であるビス(ホスファエテニル)ピリジン
(BPEP)を有する種々の鉄錯体を合成し(図 1)、それ
らの電子構造の解明に取り組んだ。錯体 2 は、鉄中心
が強い電子受容性を示す BPEP 配位子と積極的に相互
作用を持つことにより、鉄としては珍しい配位不飽
和鉄(I)中心を有し、三角錐構造という極めて珍し
い幾何構造をとることを見出した。また、反応活性
な Fe- C 結合を有する、鉄(I)アリール錯体[FeMes
かな酸化還元電位の違いで不均一系水の酸化
つ安定な水の酸化触媒の開発が不可欠である。本発表では、二核マンガン錯体および単核
O → O +4H++4e−)を有する高活性かつ安定な水の
一方、単核ルテニウム錯体を用いた水の酸化触媒の
(Hルテニウム錯体を用いた水の酸化触媒の研究成果について報告する。
2
2
を有する
研究では、
N terpy 誘導体および 2, 2 bipyridine
R
OH2
)bpy)OH2]
新規単核ルテニウムアコ錯体(
[Ru(Rterpy(
ンガン錯体および単核ルテニウム錯体を用いた水の酸
光合成酸素発生錯体のモデル錯体
N
O Mn
Mn2+
=
N
(
)
図
2
)
を合成し、水の酸化触媒活性について研究
化触媒の研究成果について報告する。
N
N
N
O
であるジ µ-オキソ二核マンガン錯
N
H2O
NIV)酸化剤を混合
N
N
Nした 4)。水中で錯体と大過剰の
3+
III,IV
Ce(
【結果と考察】 これまで我々は、
酸化触媒の開発が不可欠である。本発表では、二核マ
N
主な論文
1) Synthesis and Coordination Behavior of CuI Bis(phos体([Mn2
O2(terpy)2(H2O)2] , Mn
phaethenyl)pyridine Complexes Nakajima, Y.; Shiraishi,
R = H, MeS, Me, EtO, PrO,
したとき酸素が発生した。エトキシ基を導入した
[Ru
結果と考察
Y.; Tsuchimoto, T.; Ozawa, F. Chem. Commun., 47, 6332dimer,
terpy
=
MeO, BuO, Cl, Pyridyl, Phenyl
2+
(EtOterpy(
)bpy)OH2] の kO2 は[Ru(terpy(
)bpy)OH ]
これまで我々は、光合成酸素発生錯体のモデル錯体
6334(2011).
Figure 1 Chemical structure of di-µ-oxo
manganese copmlexes. 2
2,2’:6’,2’’-terpyridine)(Fig.
1)
を
層
III, IV
2
+
2) Synthesis and Structures of Platinum Diphenylacetylene
[Mn2 O2(terに比べ一桁大きくなり、これまで報告されている最
であるジμ- オキソ二核マンガン錯体(
合成錯体分子による水の酸化光触媒系の構築:配位子修飾による触媒活性制御
and Dithiolate Complexes Bearing Diphosphinidenecy3+
状化合物に吸着させたとき、Mn
dimer
が触媒として働き、水を酸化することを報告した。
py)
(
高の kO2 に匹敵する 1.1x10 −1 s −1 を与えた。
2 H2O)
2] , Mndimer, terpy=2, 2 : 6 , 2 -terpyridine)
clobutene Ligands(DPCB-Y) Nakajima, Y.; Nakatani, M.;
1
水の酸化触媒活性に及ぼす錯体の構造および電子構造による影響を明らかにするために、
)を層状化合物に吸着させたとき、Mn dimer が触
(図 1
Hayashi, K.; Shiraishi, Y; Takita, R.; Okazaki, M.; Ozawa, F.
新潟大学大学院自然科学研究科・JST-さきがけ
1)
New. J. Chem., 34, 1713 1722(2010)
.
参考文献
。水の
媒として働き、水を酸化することを報告した
2,2’:6’,2’’-terpyridine 誘導体を有する新規二核マンガン錯体の合成し、これらを用いて不均
○八木政行・山﨑啓智・平原将也
3) Electronic Structure of Four Coordinate Iron(I)Com
1
) Yagi, M.; Narita, K. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 8084.
2,3
酸化触媒活性に及ぼす錯体の構造および電子構造によ
一系水の酸化反応を研究した。 粘土吸着錯体による不均一系水の酸化反応では、酸素発
plex Supported by a Bis(phosphaethenyl)pyridine Ligand
2) Yamazaki, H.; Nagata, T.; Yagi, M. Photochem. Photobiol.
連絡先:
2, 2 : [email protected]
, 2 -terpyridine 誘
る影響を明らかにするために、
Nakajima, Y.; Nakao, Y.; Sakaki, S.; Tamada, Y.; Ono, T.;
Sci., 2009, 8, 204. 錯体二分子による協同触
生初期速度(vO2 / mol s-1)は粘土中の錯体量に対して二次に依存し、
導体を有する新規二核マンガン錯体の合成し、これら
.
Ozawa, F. J. Am. Chem. Soc, 132, 9934-9936(2010)
3) Yamazaki, H.; Igarashi, S.; Nagata, T.; -1
Yagi, M. Inorg. Chem.
媒作用による酸素発生機構が示唆された。触媒のターンオーバー速度(k
O2 / s )とマンガン
2, 3)
in press.
。粘土
を用いて不均一系水の酸化反応を研究した
【緒言】 エネルギー・環境問題ならびに昨今の震災による原発の問題を背景に、クリー
4) Yagi, M.; Tajima,
S.; Komi,30
M.;mV
Yamazaki,
H. Dalton Trans.,
E1/2 が僅か
増大したとき、
核の酸化還元電位(E1/2) の間にはよい直性関係が得られ、
吸着錯体による不均一系水の酸化反応では、酸素発生
ンで安全なエネルギー供給システムの開発が望まれている。将来有望なエネルギー供給シ
2011, 40, 3802.
30vO2倍増大することが示された。この結果より、錯体の僅かな酸化還元電位の違いで
kO2 が(
/ mol s−1)は粘土中の錯体量に対して二
初期速度
図 1 BPEP を有する種々の鉄錯体
22
られている。人工光合成の構築には、水の酸化能(HO22O → O2 + 4H+ + 4e-)を有する高活性か
ステムの一つとして、太陽光から化学燃料を生成する「人工光合成」に大きな関心が寄せ
不均一系水の酸化触媒活性が著しく変化することが分かった。
られている。人工光合成の構築には、水の酸化能(H2O → O2 + 4H+ + 4e-)を有する高活性か
一方、単核ルテニウム錯体を用いた水の酸化触媒の研究
OH2
つ安定な水の酸化触媒の開発が不可欠である。本発表では、二核マンガン錯体および単核
では、terpy 誘導体および 2,2’-bipyridine を有する新規単核
N
R
N
ルテニウム錯体を用いた水の酸化触媒の研究成果について報告する。
Ru N
2+
ルテニウムアコ錯体([Ru(Rterpy)(bpy)OH2] )(Fig. 2)を合成
N
【結果と考察】 これまで我々は、
4
N
N
N
R水中で錯体と
し、水の酸化触媒活性について研究した。
OH2
光合成酸素発生錯体のモデル錯体
N
O Mn
大過剰の
Ce(IV)酸化剤を混合したとき酸素が発生した。エ
Mn
N
N N N =
O
であるジ µ-オキソ二核マンガン錯
N 2+
O
H
ト
キ
シ
基
を
導
入
し
た
[Ru(EtOterpy)(bpy)OH
N
2
2] N の kO2 は
N
N
3+
III,IV
[Ru(Rterpy)(bpy)OH2]2+
体([Mn2
O2(terpy)2(H2O)2] , Mn
2+
これまで報告
R = H, Cl, Me, MeO, EtO,
[Ru(terpy)(bpy)OH2] に比べ一桁大きくなり、
R = H, MeS, Me, EtO, PrO,
dimer,
terpy
=
MeO, BuO, Cl, Pyridyl,
PrO, C8O, HO, Me2N
-1 -1 Phenyl
1.1x10
s copmlexes.
を与えた。
されている最高の
kO2 に匹敵する
Figure
1
Chemical
structure
of
di-µ-oxo
manganese
2,2’:6’,2’’-terpyridine)(Fig. 1) を 層
図 1 Chemical structure of di m oxo manganese copmlexes.
図Figure
2 Chemical
structure
of mononuclear
2 Chemical
structure
of
【参考文献】
ruthenium
copmlexes.
mononuclear
ruthenium
copmlexes.
状化合物に吸着させたとき、Mn dimer が触媒として働き、水を酸化することを報告した。
1) Yagi, M.; Narita, K. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 8084.
1
水の酸化触媒活性に及ぼす錯体の構造および電子構造による影響を明らかにするために、
23
2) Yamazaki, H.; Nagata, T.; Yagi, M. Photochem. Photobiol. Sci., 2009, 8, 204.
2,2’:6’,2’’-terpyridine 誘導体を有する新規二核マンガン錯体の合成し、これらを用いて不均
3) Yamazaki, H.; Igarashi, S.; Nagata, T.; Yagi, M. Inorg. Chem. in press.
2,3
1-13
1-14
膜表在性タンパク質による光化学系Ⅱ活性化機構の解析
油生産緑藻の葉緑体と細胞全体生理の相関を見る
多角的顕微分光分析
伊福健太郎
熊崎茂一
京都大学大学院生命科学研究科、JST さきがけ
[email protected]
京都大学大学院理学研究科、科学技術振興機構さきがけ
[email protected]
研究目的
の相互作用には PsbP で保存されたヒスチジン残基
研究目的
験的実験においてはフィコビリゾームとクロロフィル
光合成の水分解反応を担う光化学系 II タンパク質複
(His144)が重要であり、PsbP の機能発現には、従来
中性脂肪等のバイオ燃料原料物質を蓄積する藻類に
蛍光において蛍光減衰曲線に 100 ピコ秒程度の明確な
合体(Photosystem II、以下、PSII)は、内包する強い
知られていた N 末端配列を介した特異的結合に加え
注目が集まっているが、多様な藻類が異なる環境で示
差異を見出した。単一細胞内の画素を積算すれば、少
酸化力のため常に損傷を受ける宿命にある。その為、
て、C 末端の His144 残基近傍で PsbE と相互作用する
す多様な生理的活動の詳細が十分明らかになっている
なくとも見かけ上細胞を損なわずに 2 指数関数の蛍光
生体内では損傷した複合体の解体と機能的な複合体の
ことが重要であることが判明した。さらに PsbP と相
わけではない。長期的に藻類の利用を展望するとき、
減衰成分を見出すことができるほど高い s/n を達成で
再構築の動的な平衡によって PSII 機能が維持されて
互作用する PsbQ は、PsbP と PSII との相互作用を強め
個々の藻類の特性をいかに深く理解できるかが物質生
きるが、測定の侵襲度の検査はさらに慎重に見極めね
いる。その過程において、反応を触媒する Mn クラス
る働きを持つことを認めた。
産の可能性・効率性を高めるために欠かせないと考え
ばならない。
ターを含む PSII 複合体の分子構築も迅速、かつ適切な
制御において行われていると考えられるが、その分子
られる。本課題では細胞を生きたまま観察できる顕微
今後の予定、将来展望
分光を多角化・精密化して、葉緑体によるエネルギー
予定・展望
メカニズムは未解明な部分が多い。本研究では、PSII
PsbP と PsbE が直接相互作用することが、PSII 水分
生産活動を捉えると同時に光合成産物の蓄積をも見る
の安定化と制御の役割を担うタンパク質として、緑色
解側における Mn クラスター機能維持、及び、PSII 電
ことで、藻類の生理学の発展に寄与し、有用藻類種の
窒素欠乏下の葉緑体の変化を精査していく。また油脂
植物独自の膜表在性 PSII サブユニットである PsbP タ
子供与側における電子伝達と、どのように関わるのか
探索・観察・検査に役立てることを目指している。
染色色素の蛍光減衰や蛍光異方性変化を見ることで染
ンパク質の機能解析を進めた。
を解明すべく研究を進めている。さらに変異型 PsbP
を植物に導入し、植物体レベルで PSII 活性を人為的に
研究経過・進
改変することを目指す。
フーリエ変換赤外分光(FTIR)法による解析によっ
て、PsbP は PSII と相互作用し、Mn クラスター周辺の
ポリペプチド構造変化を引き起こして PSII 反応の電
子供与側の活性化(コファクターとなる Ca と Cl イ
2+
−
オンの保持)を行うことが示唆されている。そこで化
学架橋剤を用いて PsbP と直接相互作用する PSII サブ
ユニットを同定した結果、PsbP と PSII の Cyt b559 α
サブユニット(PsbE)との相互作用が示唆された。こ
関連論文
・ Ido K et al.(2011)High and low potential forms of the QA
quinone electron acceptor in Photosystem II of Thermosynechococcus elongatus and spinach. J Photochem Photobiol
B 104: 154-157.
・ Ifuku K et al.(2011)Molecular functions of PsbP and PsbQ
proteins in the photosystem II supercomplex. J Photochem
Photobiol B. 104: 158-164. Review.
今後、顕微蛍光寿命測定を主要な解析手段として、
色色素の局所環境を評価して油滴の物理・化学的性質
研究経過・進
の変化についても追及していく。我々独自に開発した
窒素欠乏が誘導する光合成生物の応答について、顕
顕微アンチストークス蛍光測定により、光化学系 I:
微蛍光スペクトル顕分光分析により個々の細胞につい
光化学系 II の比率を見ることも可能であり、顕微蛍光
て調べた。緑藻の一種 Parachlorella kessleri が窒素欠乏
寿命測定と同一の細胞に適用可能である。そのような
条件に置かれ始めて示す葉緑体と蛍光染色された油滴
多角的な顕微分光分析はかつてない個別細胞の精密分
の両者の蛍光スペクトルの変化を数十日にわたって調
光分析を可能とする。平成 24 年度は非染色で脂質分
べた。葉緑体蛍光強度に比して染色された油滴の蛍光
子分析を行うために高速な顕微ラマンスペクトル測定
が増大する時間スケールが決定できた。油滴が多く蓄
も稼働させる予定であり、中性脂肪の分子識別を目指
積されている細胞ほど葉緑体のクロロフィル蛍光スペ
す。測定法の基盤形成に目途を付けた後、遺伝子操作
クトルの強度は弱くなるが、クロロフィル蛍光スペク
の容易な生物種の研究を開始して、より分子レベルの
トルの形状は予想以上に長期間安定しており、再吸収
理解を精密にしていく予定である。
効果で説明できる程度の差異しか観測できなかったと
考えている。一方で、葉緑体内の光化学反応の変化を
直接見るために約 100 ピコ秒の時間分解能で全ての蛍
光画像の画素で蛍光減衰曲線を得られる機能増強を終
えた。これは 2 つの波長における蛍光減衰曲線を得る
ことができ、葉緑体光化学反応のエネルギー移動の変
化等が捉えられる。既にシアノバクテリアに関する試
24
代表的論文(光合成生物の顕微分光限定)
・ S. Kumazaki et al.(2007)Journal of Microscopy, 228, 240
-254.
・ M. Hasegawa et al.(2010)Plant Cell Physiology, 51(2)
225-238.
・ M. Hasegawa et al.(2011)Journal of Physical Chemistry B,
115, 4184-4194.
25
1-15
1-16
分子性酸化物を用いた高効率な水の完全酸化触媒の創生
光アンテナにナノ粒子や分子を
集める・観る・反応させる
定金正洋
坪井泰之
広島大学大学院工学研究科応用化学専攻
[email protected]
北大院理
[email protected]
研究目的
今後の予定
研究目的
太陽光エネルギーを用いて水を水素と酸素に分解す
ポリオキソメタレートの構造と水酸化触媒活性の比
本来、光(光子)と分子の相互作用の確率(吸収の
る反応を効率よく進めるためには水から酸素への酸化
較及び水酸化触媒機構の検討を通して、ポリオキソメ
確率)は大きなものではない。分子はナノメートルの
反応の効率を上げることが今一番の課題です。私は、
タレートを用いた水酸化触媒設計法の構築を目指しま
サイズを持つ一方で、光子はその回折限界のためせい
ポリオキソメタレートとよばれる金属酸化物クラス
す。
ぜい数 100 nm 程度の大きさまでにしか局在できない。
ター(図 1)を用いて水酸化反応触媒の開発を進めてい
ます。ポリオキソメタレートは金属酸化物でありなが
高い効率を持つ「光―物質エネルギー変換システム」
将来展望
を構築するには、この「光と物質の相互作用の初期段
ら分子であり、酸化安定性が非常に高い上に分子構造
将来的には、光吸収材料と還元触媒と組合せ、水か
階」を今一度考える必要がある。本領域の趣旨である
を変化できるという特徴を持っています。この性質を
ら水素を効率よく発生させる光触媒の構築へと繋げま
「光エネルギーの化学変換」に向けて、有力と思われ
利用して優れた水酸化触媒を開発することが私の目標
す。
です。
る。本研究では貴金属ナノギャップに基く光アンテナ
代表的論文
1) Stabilization of high valence ruthenium in silicotungstate
研究経過・進
ルテニウムを分子構造中に有するポリオキソメタ
レートが水酸化触媒活性を示すことを明らかにしまし
た 。ポリオキソメタレートは有機配位子に比べ高原
2)
子価ルテニウムを安定化し、水酸化触媒活性を示す有
機ルテニウム錯体に比べ高い酸化数のルテニウムが簡
単に得られます
。また、ポリオキソメタレートの
1, 2, 3)
構造によりルテニウムの酸化還元電位を変化させるこ
とが可能です 1, 2)。現在、様々な分子構造を有する新
規ルテニウム置換ポリオキソメタレートの合成を行っ
ています。
るアプローチの一つに「高効率な光捕集」が挙げられ
図 1 金ナノ構造上で光捕捉により形成された自己組織化ヘ
キサゴン
ligand. Preparation, structural characterization, and redox
studies of ruthenium(III)substituted α -Keggin-type silicotungstates with pyridine ligands,[SiW11O39RuIII(Py)
]5-,
Chem. Asian- J. 2012, in press, asia.201100853.
2) Preparation and structural characterization of Ru( II )
-DMSO and Ru(III)-DMSO-substituted α-Keggin-type
phosphotungstates,[PW11O39Ru(II)DMSO]5- and[PW11
O39Ru(III)DMSO]4-, and catalytic activity for water oxidation, Z. Anorg. Allgem. Chem. 2011, 637, 1467-1474.
3) Carbonyl-Ruthenium Substituted α-Keggin-TungstosiliII
cate,[α-SiW11O39Ru(
CO)
]6-: Synthesis, Structure, Redox
Studies and Reactivity, Dalton Trans. 2008, 6692-6698.
4) Electrochemical Properties of Polyoxometalates as Electrocatalysts, Chem. Rev. 1998, 98, 219-237.
の増強輻射力を利用して、アンテナに光子だけでなく
では最も安定な構造である。微粒子が電場増強領域に
機能性ナノ粒子や分子を集め、分子・粒子と光子をナ
のみ二次元的に捕捉されることを示している。
ノ空間で直接カップルさせ、エネルギーロスなく反応
に導く、全く新しい概念に基く反応場を提案する。貴
今後の予定
金属ナノギャップ空間(=光ナノアンテナ)に光子ば
上述のように、光捕捉・固定と光反応の効率化に一
かりではなく、そこに分子や触媒微粒子をも捕集・捕
応の達成と目途をみたので、2012 年はこのようなシ
捉して、ナノ空間に「光子」と「分子系・反応物質」を
ステムを人工光合成系に展開していく。
同時に局在させ、両社を直接カップルさせ光反応を起
こす、全く新しい反応場の構築を目指している。
代表的論文
研究経過・進
現在までに達成できたことは、①貴金属ナノアンテ
ナを利用した光化学反応の高効率化、②金ナノ構造上
へのナノ粒子の最密安定固定、③金ナノ構造上への高
分子鎖の捕捉と蛍光観測、④これらに基く自己組織化
、⑤プラズモン励起時に発生
パターンの発見(=図 1)
する諸過程の解明、などである。
一例として、図 1 に示したように、ポリススチレン
ナノ粒子(直径 500 nm)が自己組織化的に 2 次元最密
充填になるよう配列し、六角形ヘキサゴンが形成され
・ Acceleration of a Photochromic Ring-Opening Reaction of
Diarylethene Derivatives by Excitation of Localized Surface
Plasmon
Yasuyuki Tsuboi, Ryosuke Shimizu, Tatsuya Shoji, and
Noboru Kitamura
J. Photochem. Photobiol. A. Chem. Vol.221(2011)250-255.
・ Phase Separation Dynamics of Aqueous Poly[
(2-ethoxy)
ethoxy ethyl vinyl ether]Solutions as Explored by Laser
T-jump Technique Combined with Photometry
Yasuyuki Tsuboi, Kanae Kikuchi, Noboru Kitamura, Hiroaki Shimomoto, and Sadahito Aoshima
Macromolecular Chem. Phys DOI: 10.1002/macp.201100
540(2011).
る現象を発見している。このヘキサゴンは二次元最密
図 1 ポリオキソメタレート分子の構造
26
27
1-17
1-18
光エネルギー変換過程における
固/液界面構造のその場計測
籠状分子に内蔵した金属クラスターによる
生物模倣型酸素還元触媒の開発
野口秀典
舩橋靖博
(独)物質・材料研究機構(NIMS)
、国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)、
ナノ材料科学環境拠点(GREEN)、北海道大学大学院総合化学院
名古屋工業大学大学院工学研究科
[email protected]
[email protected]
研究目的
光エネルギー変換過程の多くは、固体と溶液の界面
子構造の同時計測を半導体光触媒の系に適用し、光照
射下での界面電子構造と吸着種の構造変化のその場追
研究目的
生態系は水素、酸素、炭素、窒素などの低分子量物
で起こっている。このような固/液界面反応の詳細を
跡を行う。また、可視光ポンプ - 赤外プローブ時間分
質を利用して太陽エネルギーを源とするエネルギー循
理解するためには、界面の電子状態さらに吸着分子の
解分光測定を湿式太陽電池の系へ適用し、電池動作環
環を果たしており、本研究では、このユビキタスエネ
構造や配向を、原子・分子スケールの分解能で、しか
境下での固液界面ダイナミクスのその場測定を行い、
ルギー物質を有効活用する手法を開発することを研究
も反応が実際に起こっている溶液中「その場」で知り、
光励起エネルギー変換過程の素過程を明らかにしてい
目的とし、生物模倣型を中心とした分子性触媒開発を
さらにそれらが反応にともなってどう変化するかを時
く。さらに表面増強効果を利用した二酸化チタン表面
行う。低分子量物質を利用する魅力的な生体触媒=金
間的に追跡する必要がある。特に界面電子構造および
の高感度検出法の最適化を行い、その他の光触媒表面
属酵素のなかには、反応部位に貴金属原子を含まず、
電荷移動ダイナミクスに関する知見は、光エネルギー
での高感度化の検討を行う。
平凡な数種類のアミノ酸残基によって保持された卑近
変換プロセスの高効率化に向けた設計指針を与える有
用な情報となる。本研究では、固/液界面の界面電子
図 1 コア - シェル型の構造を持つ生物模倣型触媒
な第一遷移金属中心を持ち、多核の金属クラスター構
将来展望
造を有するものがある。そこで本研究では、
「籠」状の
構造、分子構造の決定を同時に可能とする新規高感度
本研究の実施により対象としてとりあげた光触媒反
分子内部空間に、複数の金属イオンを取り込み、コア -
界面計測システムを構築し、固/液界面における光エ
応、光電気化学反応についての基礎的理解が飛躍的に
シェル型(図 1)の分子性金属クラスター触媒を合成す
ネルギー変換プロセスを界面構造(電子・分子)とい
進むことはもちろん、開発された装置を積極的に他の
ることとした。今回はユビキタスエネルギー物質とし
う観点から詳細に議論、光エネルギー変換プロセスに
研究者との共同研究に公開することによって、基礎・
て酸素分子に着目し、高効率の酸素の 4 電子還元を目
おける真の界面構造を明らかにすることを目指す。
応用の両面での大きな広がりが期待できる。また、本
指した生物模倣型酸素還元触媒の開発について述べる。
計測システムは光エネルギー変換プロセスの解明にと
研究経過・進
どまるものではなく、申請者が思いつくだけでも、ポ
研究経過・進
既有のフェムト秒レーザーを用いるブロードバンド
リマー表面の成分分布の分析、分子素子などの固体表
生体に存在するマルチ銅酸化酵素は、基質の一電子
和周波発生分光装置に可視光波長可変装置を組み込
面の分子配向の局所分析、金属表面の局部腐食など非
酸化反応を触媒すると同時に、その反応によって得ら
常に多様な表面・界面プローブのツールとなり得る用
れた電子を用いて、酸素を水へ還元する機能を持って
構築し性能確認を行った。さらに、表面増強赤外分光
途があり、装置が開発され、公開されると対象は飛躍
いる。まず、籠型配位子 L(図 2)を用いてマルチ銅酵
法(SEIRAS)を応用した二酸化チタン表面構造の高感
的に広がるものと考えられる。
( 図 3)と三核銅
素モデルとなる三核銅(II)錯体[1a]
み、新規二重共鳴和周波発生(DR-SFG)分光装置を
(I)錯体[2a]を合成し、これらに過酸化水素ならびに
度検出法の開発を行った。本手法を用いることで、界
面吸着種由来の赤外吸収信号が増強されることが確認
され、二酸化チタン / 色素界面での色素の配向決定を
行った。また、フェムト秒可視ポンプ赤外プローブ分
光システムを構築し、可視光励起にともなう金属錯体
配位子の振動緩和過程をモニターすることで、光エネ
ルギーの緩和過程の追跡を行った。
今後の予定
今後は、DR-SFG 分光法を使った界面電子構造・分
図 2 籠型配位子 L
代表的論文:
1) Kohei Uosaki, Hidenori Noguchi, Rie Yamamoto, and
Satoshi Nihonyanagi J. Am. Chem. Soc, 132(48), 1727117276(2010).
2) Hidenori Noguchi, Kento Taneda, Hiroshi Minowa, Hideo
Naohara, and Kohei Uosaki J. Phys. Chem. C, 114( 9 ),
3958-3961(2010).
3) Mikio Ito, Hidenori Noguchi, Katsuaki Ikeda, and Kohei Uosaki Phys. Chem. Chem. Phys., 12(13), 3156-3163
(2010)
.
分子状酸素をそれぞれ反応させることにより、二種類
の異なる酸素付加体[1b]ならびに[2b]の生成を確認
した。それらを踏まえて酸素の反応様式について考察
し、マルチ銅中心における酸素の 4 電子還元反応に対
図 3 三核銅(II)錯体[1a]のコア構造
する知見を得つつある。
今後の予定、将来展望
、 三 核 銅(I)錯 体
今 後 は、 三 核 銅(II)錯 体[1a]
、ならびに類似の化合物を用いて、酸素の電気化
[2a]
1) 特願 2006-511769「ケージ状配位子を有する多核金属錯
体」
2) J. Incl. Phenom. Macrocycl. Chem., 66, 171(2010).
学的還元触媒としてカソード電極に適用し、デバイス
化を行う。
28
29
1-19
1-20
超解像蛍光顕微鏡による
珪藻のバイオミネラリゼーションの解析
光化学的手法による
天然有機色素の金属バインディング機能創出
堀田純一
村橋哲郎
山形大学大学院理工学研究科、JST さきがけ
[email protected]
大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻、PRESTO-JST
[email protected]
研究目的
今後の予定
研究目的
珪藻をはじめとする光合成生物を測定可能な 3 次元
超解像蛍光顕微鏡システム(PALM, STORM, STED
ポリエン系化合物は、広く生体系に分布し、その光
的にナノメートルの空間分解能を持つ超解像光学顕微
顕微鏡等)を珪藻(光合成生物)用に最適化して構築
応答性、光吸収特性、エネルギー移動特性などの特徴
鏡の開発を行い、珪藻のシリカ被殻およびその形成に
する。また、珪藻のシリカ被殻形成に関連するタン
を生かした様々な役割を担うことが知られている。ま
関するタンパク質を蛍光ラベルして超解像蛍光顕微鏡
パク質(Sil1, 2, 3, SIT1, 2, 3 等)と光スイッチング蛍光
た、ポリエン系化合物は、π - 共役構造に由来する特
により解析して珪藻におけるバイオミネラリゼーショ
タンパク質の融合タンパク質を珪藻内で発現させるこ
徴を生かした有機分子材料としても期待されている。
ンプロセスを明らかにする。また、創製した蛍光性シ
とにより、それらの局在をナノイメージングする。ま
本プロジェクトでは、ポリエン系色素類が金属をバイ
リカ被殻の記録媒体、発光素子等のナノ光デバイスと
た、蛍光性シリカ被殻の蛍光特性を解析し、光デバイ
ンドする能力を解明することを目指して研究を進めて
しての工学的応用、さらには光エネルギーによる有用
スへの応用の可能性を探る。
いる。カロテノイド類に代表される共役ポリエン系色
素分子は、N 原子や O 原子などのσ供与性ヘテロ原子
資源回収法としての応用について検討する。
将来展望
研究経過・進
珪藻のバイオミネラリゼーションプロセスの理解を
を持たないため、効率的に金属をバインドする能力を
持つとは考えられていなかった。しかし、長鎖共役
図 1 天然有機色素による金属バインドの模式図
珪 藻(Thalassiosira pseudonana)の ゲ ノ ム か ら プ ロ
深めて応用することにより、太陽光によるナノデバイ
ポリエン類は、π - 共役ポリエン部位の各二重結合を
モーター領域とターミネーター領域をクローニングし
スの直接生産、有用金属資源回収、環境浄化、人工光
使って複数の金属原子をバインドする高効率金属バイ
ロテンの金属バインド能について検討を進めている。
て珪藻用発現ベクターを構築した。現在、珪藻のタン
合成システムなどへの展開を目指したい。
ンダーとして機能する可能性があり、これを実証する
また、人工系ポリエンを配位子とする金属鎖錯体のレ
。また、本プロジェクトでは、天
ことを目指す(図 1)
ドックス機能について解明を進め、金属鎖の可逆的開
然系とは置換基の数 ・ 種類が異なる人工系ポリエンを
裂挙動を明らかにした 1)。これは、レドックスにより分
用いた検討も平行して進め、共役ポリエンの金属バイ
子内で金属原子が可逆的に離散・集合することを初め
ンド能に関する知見を深めていくとともに、レドック
て実証する観測結果である。
パク質と各種蛍光タンパク質の融合タンパク質発現ベ
クターを作成し、蛍光タンパク質の発現を指標として
ベクターの各種遺伝子導入法による遺伝子導入効率、
発現効率等について検討している。また、蛍光色素・
蛍光タンパク質の光化学特性の解析から、珪藻を含め
た光合成生物を超解像蛍光顕微鏡で観察するために適
した蛍光色素・蛍光タンパク質のスクリーニングを行
い、クロロフィルによる自家蛍光の影響の少ない蛍光
色素・蛍光タンパク質をスクリーニングした。超解像
蛍光顕微鏡では比較的高強度のレーザー光を照射する
代表的論文
1) J. Hotta, et al.: Spectroscopic rationale for efficient STED
microscopy fluorophores , J. Am. Chem. Soc. 132(14),
5021-5023(2010).
2) P. Dedecker, J. Hofkens, J. Hotta: Diffraction-unlimited
(S1)
, 12-21
(2008)
.
optical microscopy , Materials Today 11
3) P. Dedecker, J. Hotta, et al.: Sub - diffraction imaging
through the selective donut-mode depletion of thermally
stable photoswitchable fluorophores: numerical analysis and
application to the fluorescent protein Dronpa , J. Am. Chem.
(51)
, 16132-16141
(2007)
.
Soc. 129
ス性質などの性状解明をおこなう。
将来展望
進
状況
天然系共役ポリエン色素であるβ - カロテン、およ
び人工系共役ポリエンを用いて 8 核∼ 10 核程度のオリ
オリゴマーサイズの金属鎖化合物の合成を展開する
とともに、新しく見出したレドックス機能も含めて物
性の解明を進めていきたい。
ゴマーサイズの金属鎖化合物が形成されるかどうかに
必要があるため、珪藻への励起光照射時の光毒性等に
ついて検討を行っている。人工系共役ポリエン類を用
ついて検討を行っている。
いた場合に、目的とする金属オリゴマー鎖生成物が生
じることが判明した。さらに、ポリエン間への金属原
子の組み込み反応が、光照射によって劇的に加速され
本さきがけ研究による代表的論文
1) T. Murahashi, K. Shirato, A. Fukushima, K. Takase, T.
Suenobu, S. Fukuzumi, S. Ogoshi, H. Kurosawa, Nature
Chem. 2012, 4, 52.
ることを見出した。これらの知見をもとにして、β-カ
30
31
1-21
1-22
太陽光と新規酸素吸収酸化物を用いた燃料生成
光化学系Ⅱ複合体の酸素発生反応の
構造化学的な手法による原理解明
Chih-Kai Yang、山崎仁丈、Sossina Haile
梅名泰史
科学技術振興機構、カリフォルニア工科大学
[email protected]
大阪市立大学複合先端研究機構
[email protected]
研究目的
て水から多量の水素を製造できることを初めて見いだ
大気中の酸素は植物の葉緑体や藻類のチラコイド膜
持続可能なエネルギー社会の実現に向けての大きな
した 。ペロブスカイト型酸化物による熱化学的水分
に存在する光化学系 II 複合体(以下 PSII)の光化学反
の吸収端波長近傍の 1.89 Å の長波長 X 線であっても、
課題は、太陽光エネルギーを何らかの形で多量に貯蔵
解としては初めての報告である。水素生成量は、現在
応によって供給されている。PSII は光合成の明反応に
個々の Mn 原子を特定できる 2.5 Å 分解能の回折強度
する技術である。本研究では太陽光を熱化学的に利用
最高のエネルギー変換効率を有するセリアとほぼ同等
おいて光エネルギーを電子エネルギーへと変換し、そ
データを収集することができている。また、PSII 結晶
し、水および二酸化炭素から水素、合成ガスおよびメ
である。本ペロブスカイトは白色のセリアとは異なり
の過程で水を分解して分子状酸素を放出している。こ
の X 線吸収スペクトル分析から得られる Mn の吸収端
タンなどへ多量に変換、化学燃料として貯蔵する技術
黒色を示すことから、高い太陽光吸収効率およびそれ
の水分解反応の活性中心には、Mn4 個、Ca1 個からな
波長を用いた、PSII 結晶における異常分散項の電子密
を提案する。太陽光を酸化物に集光することで酸化物
による燃料生成効率の向上が期待できる。
る Mn4Ca クラスターが触媒として存在しており、2011
度を解析したところ、Mn 原子の電子密度がそれぞれ
年に 1.9 Å 分解能の PSII の結晶構造解析によって初め
異なっていることが確認された。この電子密度の差は
てその分子構造が 5 つの酸素原子によって架橋された
各 Mn 原子の価数の違いを反映していると思われる。
2)
を昇温一部還元し、そこに水や二酸化炭素などの原料
ガスを導入することによって原料ガス分子中の酸素を
今後の予定および将来展望
よく調製することができており、減衰の大きい Mn
酸化物が吸収し多種の燃料を製造する。太陽光の全ス
多量水素製造に必要な材料因子をマンガン系ペロブ
Mn4CaO5 クラスター構造であることが明らかになっ
しかし、吸収端の波長は X 線吸収による X 線還元作用
ペクトルが利用可能であり、高価な貴金属触媒は必要
スカイトを例にして解明し、それに基づいた高効率燃
た 1)。また、初めて約 2,800 個もの水分子が同定され、
が大きいため、自然状態の価数を特定することは困難
ない。所属研究室では既にセリアを用い、一サイクル
料製造を目指す。また、今回新規に開発したマンガン
活性中心に反応基質と思われる水分子が見つかった。
である。そのため現在、X 線還元の状態変化を見積も
あたり約 1.5 リットルの合成ガス(水素と一酸化炭素
系ペロブスカイトのエネルギー変換効率を太陽シミュ
しかし、Mn4CaO5 クラスターによる触媒反応を理解す
ることで、測定許容な範囲を想定し、X 線による影響
の混合ガス)や水素の製造に成功している 。現状の
レーターにて測定し、10%の燃料生成効率を実現する
るためには金属原子の価数の情報が必要となってい
を極力低減させた測定方法の開発を行っている。今後
燃料生成効率は 0.8%と最大効率 16 ∼ 19%を大きく下
ために必要な戦略を練っていきたい。
る。これまでの X 線吸収スペクトル分析の研究報告か
の研究計画として、阻害剤によって反応サイクルを固
ら、PSII には III 価と IV 価の Mn 原子が 2 つずつ存在し
定した試料や、光照射によって反応を進行させた反応
ており、反応サイクルに伴って価数が変化することが
中間体の調製を行い、Mn4CaO5 クラスターによる触媒
示唆されているが、個々の Mn 原子の価数を特定する
作用の動的な分析を目指すものである。これらの構造
ことはできていない。一般に金属原子の X 線吸収端の
情報は Mn4CaO5 クラスターをモデル分子とした人工光
1)
回っているため、その高効率化が現在の最優先課題で
ある。本研究では新規酸素吸収酸化物を開発・提案す
ることにより多量の水素製造およびそれに基づく高効
率燃料生成を目指す。
研究経過・進歩
申請者らは最近、マンガン系ペロブスカイトにおい
参考文献
1) Chueh, W. C. et al. High-Flux Solar-Driven Thermochemical Dissociation of CO2 and H2O Using Nonstoichiometric
Ceria. Science 330, 1797-1801, doi:Doi 10.1126/Science.
1197834(2010).
2) Yang, C.-K., Yamazaki, Y. & Haile, S. M. Thermochemical
.
water splitting using advanced perovskite(in preparation)
波長は価数に応じて異なり、また、波長に依存してい
合成研究において、触媒の分子設計の基盤となるもの
る異常分散項の電子密度はこの吸収端前後で大きく変
と期待され、将来の新しいエネルギーの開発に貢献で
化することが知られている。本研究は、吸収端におけ
きるものと思われる。
る異常分散項の電子密度の違いを利用して、各 Mn の
価数を原子レベルで特定し、Mn4CaO5 クラスターによ
る触媒機構の解明を目指すものである。
1) Umena, Y., Kawakami, K., Shen, J.R., Kamiya, N. Nature,
473, 55-60(
, 2011)
これまでの研究で、1 mm 程度の大きい結晶を再現
32
33
1-23
1-24
反応場制御された酸化チタン光触媒による
CO2 の還元反応
ポルフィリンと金クラスターによる
プラトン立体の構築
横野照尚
坂本雅典
九州工業大学
[email protected]
筑波大学大学院 数理物質科学研究科
[email protected]
研究目的
水を電子ドナー・プロトン源として用い、半導体光
触媒上で CO2 を光還元する試みは、CO2 排出問題の解
決策だけではなく、太陽光を用いた次世代のエネル
ギー製造技術となり得ることから、非常に重要な反応
である。これまでわれわれは、半導体光触媒として広
く知られる酸化チタンの表面構造を制御し、特定の結
晶面のみが露出した酸化チタンを調製することによっ
て、反応効率低下の一因である再結合・逆反応を抑制
表 1 Reaction products of CO2 reduction over the pre-
pared TiO2
Cocatalyst
Products /μmol
リン保護金クラスターの大きさが、ポルフィリン 2 枚
ノ材料に異方性を付与する試みは、ナノ材料に新たな
と金クラスター 1 つに相当することが明らかになっ
機能を付与するのみではなく、構築可能な超構造の幅
た。これら一連の結果は、形成されたポルフィリン保
を広げるという観点からも重要な研究である。本研究
護金ナノ粒子が金クラスターを内接球、ポルフィリン
0.006
0.005
1wt% CuO
1.008
0.007
0.006
0.1wt% NiO
1.568
0.062
0.001
0.5wt% NiO
1.285
0.069
0.001
において、我々は、等方的な金クラスターに対して正
)を
を面とする正 6 面体の構造(「ナノプラトン立体」
1wt% NiO
1.561
0.083
0.001
3wt% NiO
方形のポルフィリンを平面的に張り付けることによ
有していることを強く裏付けていると考えられる。
1.612
0.05
0.001
り、金クラスターを内接球、ポルフィリンを面とする
正 6 面体(プラトン立体)を構築することを試みた。
NiO の担持を行ったところ、CuO 担持の効果はあまり
本研究において合成した「ナノプラトン立体」は、
研究経過・進
電子トランジスタや光電変換等の様々な用途において
成量の増加が見られた。この結果より、NiO 担持量の
せるため、アセチルチオ基がポルフィリンの面に対
有望な材料である。今後は、「ナノプラトン立体」の
最適化を行ったところ、3 wt%のときに最適値を示し、
して同一方向に位置する 2 種類のポルフィリン誘導体
光反応性の調査、電子輸送特製の調査、金属ポルフィ
。SC1P および
(SC1P および SC2P)を合成した(図 1a)
リンを用いた「ナノプラトン立体」の構築とその中心
SC2P を保護配位子として金クラスターを作成し、透
金属への軸配位を利用した超構造の構築という三つの
過型電子顕微鏡による観察により、クラスターの粒径
テーマを主眼に研究を進める予定である。
その CH3OH のみかけの量子収率は 1.5%であった。
今後の予定・将来展望
反応機構を明確にするために、GC-TCD を用いた
が 1 nm 程度であることを確認した。吸収スペクトル
O2 の定量、GC-MS を用いた同位体分析、他の中間体
測定および元素分析の結果より、ポルフィリンが金ク
行った後、撹拌しながら 24 時間紫外光照射(365 nm、
の分析を行う。さらに、CH3OH 生成反応の量子収率
ラスターに対して平面的に配位した構造をとることが
0.3 mW cm − 2)することによって行った。反応後、気
相および溶液成分を GC-FID に定量した。
を向上させるために、ブルッカイト型酸化チタンの検
。また、質量分析の結果から金原
推測された(図 1b)
討や助触媒の最適化を行う予定である。将来展望とし
子が 60 個程度のクラスターに対しおよそ 6 枚のポル
反応後の主生成物は液相中の CH3OH であった。他
て、酸化チタンの可視光応答化や他の可視光応答型光
の生成物として気相中に CO および CH4 が検出された
触媒の利用により、可視光下での反応を行う予定であ
が、その生成モル量は CH3OH の約 100 分の 1 程度で
る。
調製された試料は、市販のアナタース型酸化チタン
(石原産業、ST-01)に比べ高い CH3OH 生成量を示し
た。つまり、特定の露出結晶面から構成される酸化チ
超構造構築の足場として期待できるだけではなく、単
金ナノ粒子に対してポルフィリンを平面的に配位さ
の KHCO3(0.2 M)水溶液に分散し CO2 バブリングを
あった。O2 の生成は GC-TCD により検討予定である。
今後の予定、将来展望
見られなかったのに対し、NiO 担持により CH3OH 生
さらに、金属硝酸塩水溶液中で含浸処理後、熱処理
た。 光 触 媒 反 応 は、5 mg の 酸 化 チ タ ン 粉 末 を 5 mL
超構造に影響を与える重要な要素である。等方的なナ
1.052
-
酸化チタンの CO2 光還元反応について検討を行った。
(350 度、1 時間)することによって助触媒の担持を行っ
走査型トンネル顕微鏡による観察結果から、ポルフィ
CH4
ことが示唆された。さらに、助触媒として CuO および
型酸化チタンは既報の水熱合成法により調製した。
ナノ材料において構造は、固有の性質や構築可能な
CO
ている。本研究では、表面構造制御されたアナタース
{101} と {001} 面から構成される十面体アナタース
フィリンが配位していることが示された。さらには、
CH3OH
した結果、優れた有機物分解性能を示すことを報告し
研究経過・進
研究目的
代表的論文:
M. Sakamoto; D. Tanaka; H. Tsunoyama; T. Tsukuda; Y. Minagawa; Y. Majima;, T. Teranishi, J. Am . Chem. Soc., ASAP
代表的論文
N. Murakami, Y. Kurihara, T. Tsubota, T. Ohno, J. Phys. Chem.
C, 113(2009)3062-3069.
タンは CO2 還元反応においても高い光触媒活性を示す
図 1 a:SCnP の構造式。b:SC1P の金クラスター上への配位様式。c:金クラスターを内接球、ポルフィ
リンを面として有するプラトン立体
34
35
1-25
1-26
アリールホウ素化合物による
化学的光エネルギー変換への展開
半導体−錯体複合触媒を用いた
水を電子源とした選択的な CO2 光還元反応
作田絵里
○佐藤俊介 1, 2、荒井健男 1、森川健志 1、上村恵子 1、鈴木登美子 1、田中洋充 1、梶野 勉 1
北海道大学大学院理学研究院 化学部門分析化学研究室
[email protected]
1
豊田中研、2 JST さきがけ
[email protected]
【背景・目的】
近年、エネルギー問題や地球温暖化対策に向けたエ
ネルギー変換技術の開発は緊急の課題であり、多くの
我々は太陽光と水のみを用いて CO2 を選択的に還元
研究者が様々なアプローチから取り組んでいる。しか
するために、半導体光触媒と錯体触媒を組み合わせた
しながら、可視光あるいは太陽光を利用し、効率的な
半導体 - 錯体複合触媒を新規に創製し、選択的な CO2
光エネルギー変換を達成するには多くの問題がある。
光還元反応を実現させた 1)。この新規触媒の特徴は、
本研究では、これまで研究されていないアリールホウ
半導体が光を吸収し、励起された電子が錯体側へとピ
素化合物およびその関連化合物の励起状態の特性を生
コ秒で移動し、還元反応が進行することである 2)。さ
かした光酸化還元反応の詳細を明らかにするととも
らに我々は、この複合触媒のコンセプトを応用し、半
導体と錯体触媒を変更した新しい半導体 - 錯体複合触
に、これを利用した可視光による光エネルギー変換・
物質変換系の構築へと展開する。特に、アリールホウ
な挙動は、アリールホウ素置換基を持たないルテニウ
媒を創製した。この複合触媒を用いて、-0.6V の電気
素化合物の励起物性や光反応性を巧みに利用した新規
ム(II)錯体に関しては観測されなかった。また、実験
バイアスを印加しながら純水中で CO2 光電気化学還元
な二酸化炭素の光固定化・還元反応を目指す。
より求めた CO2 による消光速度定数は溶媒によらずほ
反応にも成功した 3)。あとは電気バイアスによる電子
アリールホウ素化合物およびアリールホウ素を置換
-1
ぼ 1.0 x 10 M cm
6
−1
程度となることから、この消光反
基として有する遷移金属錯体の励起状態は周辺アリー
応は CO2 とアリールホウ素置換基を有するルテニウム
ル基のπ軌道からホウ素原子上の空の p 軌道へほぼ
(II)錯体間で起こっていることが分かった 。従って、
一電子移動した分子内電荷分離状態(π(aryl)-p(B)
3)
これらの結果は空気中で安定なアリールホウ素化合物
CT)に帰属されることをこれまでに明らかにしてき
を用いて CO2 の光固定・還元反応を誘起できることを
た 。したがって、その励起状態自身が親電子性を示
示唆するものであり、より詳細な研究が望まれる。
1)
す CO2 と相互作用し、CO2 の光還元・固定に利用する
現在は以上の実験結果を踏まえ、実際の CO2 光反応
供給源を水へと変更できれば、太陽光と水を用いて、
CO2 を選択的に還元することが実現する。そこで半導
デー効率は約 70%、太陽光変換効率は約 0.04%であっ
光触媒を組み合わせた反応系の構築を検討した。
導体光触媒を組み合わせることで、太陽光と水のみを
体 - 錯体複合触媒と、水から電子を取り出せる半導体
【結果】
半導体には p 型特性を持つリン化インジウム(InP)
ことが可能と期待される。まずはじめに、これまでに
生成物の検討を行っている。最終的には、アリールホ
合成したアリールホウ素化合物を置換基として導入し
ウ素置換基を有する遷移金属錯体による触媒的な CO2
た。錯体触媒を InP の表面に化学重合法を用いて重合
(dimesitylboryl-durylethynyl)phen}] =4BRu 、図 )
2+
2+
2)
に着目し、その励起状態における CO2 との相互作用を
明らかにすることを目的とした。
実際に、4BRu のアセトニトリル(MeCN)溶液お
2+
よびプロピレンカーボネ―ト(PC)溶液を用い、Ar ガ
スまたは CO2 ガス雰囲気下での励起寿命測定を試みた
ところ、各溶媒中の CO2 雰囲気下では、吸収・発光ス
ペクトルの形状は全く変化しないが、発光寿命の短寿
命化と発光量子収量の減少が観測された。このよう
た。以上、半導体 - 錯体複合触媒と水を酸化できる半
用いて CO2 を選択的に還元する事が可能となった。
を、錯体触媒には 2 種の重合する Ru 錯体触媒を用い
[Ru(phen)2{4たルテニウム(II)ポリピリジル錯体(
図 1 水を電子源とした CO2 還元反応システムの概略図
【今後の予定・将来展望】
このシステムは、錯体および半導体を変更すること
で、触媒性能を向上させることが可能である。太陽光
の光固定・還元反応やその他の光化学的な物質変換系
させ、半導体 - 錯体複合触媒を新規に創製した。この
変換効率向上のため、JST さきがけの研究において、
の構築を目指す。
触媒を CO2 還元サイトとし、水から電子を取り出すサ
より高活性な錯体触媒の創製を目指す。太陽光変換効
イトに TiO2 を用いた。CO2 還元生成物が、TiO2 によっ
率が向上し、太陽光による CO2 からの炭素原料および
て再酸化されるのを防ぐために、この 2 つの触媒をプ
エネルギー創製が実用化にまで至れば、炭素循環型社
ロトン交換膜で分離し、銅線で連結させたシステムを
会の実現が期待される。
1) a)Kitamura, N.; Sakuda, E. J. Phys. Chem. A, 2005, 109,
7429.(b)Kitamura, N.; Sakuda, E.; Yoshizawa, T.; Iimori,
T.; Ohta, N. J. Phys. Chem. A, 2005, 109, 7435.
2) Sakuda, E.; Ando, Y.; Ito, A.; Kitamura, N. Inorg. Chem.,
2011, 50, 1603.
3) Sakuda, E.; Tanaka, M.; Ito, A.; Kitamura, N. RSC Adv.,
2012, in press.
。このシステムを用いて、炭酸水素ナ
作製した(図 1)
トリウム水溶液中、擬似太陽光を照射すると、水の酸
化サイトから酸素が、CO2 還元サイトからギ酸が生成
することがわかった 4)。同位体を用いた実験の結果、
発生する酸素は水から、生成するギ酸は CO2 由来であ
【代表的な文献】
1) S. Sato, et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5101.
2) K. Yamanaka, et al. J. phys. chem. C 2011, 114, 18348.
3) T. Arai, et al. Chem. Commun. 2010, 46, 6944.
4) S. Sato, et al. J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 15240.
ることが明らかになった。ギ酸生成におけるファラ
36
37
1-27
1-28
カーボンニュートラルエナジーイノベーションを目指した
層状粘土化合物による水中での二酸化炭素の光還元
超高速電子移動のドライビング・フォースと
反応場の解明
寺村謙太郎、田中庸裕
長澤 裕
京都大学大学院工学研究科分子工学専攻
[email protected]
大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻未来物質領域
[email protected]
研究目的
水溶液に滴下した。得られた懸濁液は一日室温で静置
研究目的
今後の予定
太陽光エネルギーから化学エネルギーを生み出すに
した後、333 K で 24 時間熟成した。その後、濾過・洗
高効率な光エネルギー変換システムを構築するため
来年度は、波長可変 OPA レーザーシステムを購入
あたって、石油や天然ガスなどの化学エネルギーを使
浄を行い、最後に 383 K で 24 時間乾燥した。H2O を還
に、絶対反応速度論を凌駕した超高速の電子移動反応
する予定なので、本格的な実験を始める。まず、既存
用した場合の最終生成物である CO2 と H2O を原料とし
元剤とした CO2 の光還元は閉鎖循環型反応装置を用い
系の理解と構築をめざす。そのためには、超高速の電
のシステムに応用して、固定の発振波長では測定でき
て利用することが環境負荷低減・資源循環の観点から
て行った。水(4 mL)に LDH(0.1 g)を懸濁させ、凍結
子移動が起こる環境を理解し、その中で起こるコヒー
なかったサンプルについての実験を始める。さらに、
最も望ましい。このような背景に基づき、我々は CO2
脱気を行った。気相中及び液相中に含まれる空気をす
レントな核波束運動や溶媒の「慣性応答」といった反
高速マルチチャンネル分光器を導入し、二次元過渡吸
を原料とした太陽光エネルギーからの化学エネルギー
べて排気した後、CO2(500 μmol)を導入し、スター
応のドライビング・フォースとなるダイナミクスを観
収スペクトル測定系の構築を行う。
の製造(カーボンニュートラルエナジーイノベーショ
ラーで溶液を懸濁しながら、200 W Hg-Xe ランプで反
ン)を提案する。
応管上部より光照射を行った。主生成物は CO および
合等のフェムト秒時間分解分光により、ダイナミクス
い CO 生成量を示した。一方、Mg-Ga や Mg-In LDH は
の実時間測定を行う。また、超高速反応に最適化され
電子移動やエネルギー移動は光合成過程の基盤であ
た過渡的な微視環境については、新規なレーザー同期
り、その素過程を理解することは人工光合成の実現へ
型時間分解小角 X 線散乱の手法等を開発することによ
とつながる。溶媒和の効果は電子移動に大きく寄与す
り解明していく。
るが、デバイス等の固体中ではその寄与は望めない。
O2 であった。9 種類の LDH の中で Ni-In LDH が最も高
研究経過・進
我々はこれまで「固体表面上での分子の光活性化」
Ni-In LDH と比べて高い O2 生成量を示した。Mg(OH)2
をメインテーマとして研究を行っており、固体表面
や Al(OH)3 などの単一の金属で構成されている水酸化
上への分子の吸着が光活性化に大きな影響を与えて
物ではほとんど CO が生成しなかったことから、LDH
いることを見出している。H2 を還元剤とした CO2 の
特有の物性が CO2 の光還元に寄与していると結論し
光還元が CO2 の光還元が表面上に塩基点を持つ酸化物
た。
(MgO 、Ga2O3 など)上で進行し、主生成物として
1)
2)
CO が生成することをこれまでに明らかにした。H2O
今後の予定・将来展望
測・制御する必要がある。そのためには縮退四光波混
溶媒和なしでも電子移動が効率的に起こる反応場を構
研究経過・進
1)対称的な分子である 9, 9 -bianthryl(BA)と、電子
供与・受容部からなる非対称分子の 4-(9-anthryl)-N,
N-dimethylaniline(ADMA)について、イオン液体中の
を還元剤とした CO2 の光還元(人工光合成)を実現す
LDH の物性と CO2 の光還元における CO および O2 の
分子内電荷分離反応について時間分解蛍光スペクト
るにあたって、我々は水中で機能する固体塩基触媒と
生成量の関係を明らかにするため、2 価と 3 価の金属
ルを測定し、比較を行なった。その結果、ADMA の
して知られている層状複水酸化物(LDH)に着目した。
イオンの比や調製法などについて検討を行う予定であ
反応は BA よりも若干早く終了することを見出した。
LDH の水酸化物層は 2 価と 3 価の金属イオンで形成さ
る。
ADMA の電気双極子モーメントがあらかじめ溶媒和
れており、様々な 2 価と 3 価の金属イオンの組み合わ
せで LDH を合成することができる。本研究において
は 2 価の金属イオンとして Mg, Zn, Ni, 3 価の金属イオ
ンとして Al, Ga, In を選び、M /M =3 に固定した各
2+
3+
種の LDH を共沈法で調製した。硝酸化物の前駆体を
水に溶解した溶液と 1M NaOH 水溶液を同時に Na2CO3
状態を誘起し、反応に有利な場を提供していると考え
参考文献
1) K. Teramura, T. Tanaka, H. Ishikawa, Y. Kohno, T. Funabiki, J. Phys. Chem. B 2004, 108, 346-354.
2) H. Tsuneoka, K. Teramura, T. Shishido, T. Tanaka, J. Phys.
Chem. C 2010, 114, 8892-8898.
将来展望
られる。2)イオン液体中の色素分子について縮退四
光波混合の測定を行い、コヒーレント振動増幅の温度
依存性を調べた。その結果、室温においてもイオン液
築するためには、コヒーレント分子振動等の超高速ダ
イナミクスの理解は不可欠である。
代表的論文:
1) "Ultrafast solvation dynamics in room temperature ionic
liquids observed by three-pulse photon echo peak shift
measurements." M. Muramatsu, et al., J. Phys. Chem. A,
115[16]3886-3894(2011).
2) "Coherent dynamics and ultrafast excited state relaxation
of blue copper protein; plastocyanin." Y. Nagasawa, et al.,
, 2010)6067-6075
Phys. Chem. Chem. Phys., 12(
3) "Dynamic Stokes Shift of 9,9'-Bianthryl in Ionic Liquids:
A Temperature Dependence Study." Y. Nagasawa, et al., J.
, pp 11868-11876.
Phys. Chem. C., 2009, 113(27)
体中では振動増幅が起こることを確認した。このこと
は、この手法を室温における反応系に応用できること
を示唆する。
38
39
1-29
1-30
褐藻類の光合成アンテナに結合した
色素の構造と機能の解明
二酸化炭素の化学固定に有用なヒドリド化合物の
光化学的な生成系の開発
藤井律子
松原康郎
大阪市立大学複合先端研究機構
[email protected]
JST/PRESTO(ブルックヘブン国立研究所(米国)
)
[email protected]
研究目的
太陽光を利用する上で、効率よく光エネルギーを
集め、反応サイトまで伝達する「光捕獲機能」は極め
できる。そこで、FCP の加熱に際したフコキサンチン
の遊離を評価し、FCP におけるフコキサンチンの結合
状態についての情報を得ることを試みた。
て重要である。光合成生物でこれを担っているのは、
「光合成アンテナ」と呼ばれる色素−タンパク複合体
であり、ありふれた元素で構成される光合成色素が、
はじめに
つ NADPH 型のヒドリド化合物を光化学的な手法によ
ヒドリド化合物とは、2 電子とプロトンの組を単位
とするヒドリド(H-)を比較的自由に放出 / 受容する
ことができる部位をもつ化合物のことで、自然では、
今後の予定
FCP におけるフコキサンチンの機能の本質がフコキ
り生成させることが必要とされている。
本研究
例えば植物の光合成明反応と暗反応を結ぶ中間体とし
筆者らは、二酸化炭素の触媒還元反応の研究にお
。この中間体 NADPH は、光
て利用されている(式 1)
いて代表的な 1 電子還元剤であるトリエチルアミンを
配位子とするルテニウム(II)錯体(1)からヒドリド
み上げられた電子から NADP-Fd 還
タンパクという場にトラップされる事により、光捕獲
サンチンの凝集にあるという作業仮説を実証するため
によって水から
とエネルギー伝達という機能の主体となっている。コ
に、フコキサンチンを様々に凝集させた膜を作成す
元酵素の働きにより、NADP がヒドリド還元される
錯体(2)を光化学的に生成させる反応を手始めとし
ンブ・ワカメ・モズクなどの褐藻類(海藻)が生息す
る。そのためのツールとして、LB 膜を作成する。こ
ことによって生成し、暗反応での炭素固定反応におけ
。この反応で生成するヒドリド錯体
て報告した(式 2)
+
る水深 10 m 付近では、黒体輻射に由来する太陽輻射
の透過率と吸収率の角度依存性を測定できる装置を開
る還元剤として利用される。ここで示した NADPH の
は、二酸化炭素に対して触媒を必要とすること無しに
の内、青緑色領域の光のみが到達できる。これらの生
発し(依頼製作)、フコキサンチンの配向を確認しつ
様なヒドリド化合物は、高い還元力を有する割には、
反応する程高い還元力を有する一方、固体として空気
物は、独特の光合成アンテナ、フコキサンチン−クロ
つ目的の凝集系を創成する。
1 電子還元種のようなラジカルと比較して安定であ
中で保存することができる安定性を持つ。またこの
り、しかも 2 電子を一度に輸送もしくは蓄積すること
反応は可逆であることも明らかになり、式 1 で示した
ができるという特徴を有する。この特徴は、二酸化炭
NADPH での反応と の類似性を検討した結果、最近、
ロフィルタンパク(FCP)に結合した海のカロチン色
素、フコキサンチンを用いて、この青緑色の光を特に
将来展望
効率よく利用している。青緑色を吸収する、すなわち
本研究をとおして、フコキサンチンというπ共役系
素をメタノール等に化学固定する触媒反応系を開発す
NADPH 型のヒドリド化合物を用いても 2 を光化学的
褐色に見えるフコキサンチンは、加熱により容易にタ
分子が複合的に凝集することにより、分子内電荷移動
る上で重要である。というのも、二酸化炭素の偶数電
に生成させることができることを見出した。この発見
ンパクから遊離し、本来の色である黄色になる。これ
状態(ICT)を選択的に生成する系を創成する。これ
子還元体は奇数電子還元体と比較して常に安定で、2
は、二酸化炭素を還元するのに必要十分な還元力を持
は、FCP 中での吸収帯シフトはフコキサンチン同士の
は、電子状態を変えずにエネルギーレベルを制御する
電子ずつ還元することができれば、触媒サイクル中で
つ再生可能なヒドリド化合物を、太陽エネルギーを用
相互作用に依存しており、またタンパクとの結合は、
技術と直結する。すなわち、太陽光を利用する上で重
不必要なエネルギーを浪費することなく、例えばメタ
いて量産する方法論の開拓につながることが期待され
る。
疎水性相互作用のような緩い相互作用である事を示唆
要な課題の一つである利用できる波長領域を拡大する
ノールを生成させることができる可能性があるからで
する。本研究では、フコキサンチン同士の相互作用に
技術につながると確信する。
ある。このような二酸化炭素の還元過程を経る触媒反
着目し、青緑色光利用の仕組みを人工的に再現する複
合凝集系を創成し、FCP における高効率光捕獲機能を
分子の構造の観点から解明する。
研究経過・進
大型になる褐藻類の単藻培養に成功した(株)サウ
スプロダクトからの研究協力により、オキナワモズク
の盤状体(直径 200 μm 程度の種のようなもの)を原料
にして、光合成アンテナである FCP を単離・精製し、
そのアミノ酸配列の一部や、色素組成を決定した 1, 2)。
3 Å の分解能で X 線結晶構造が報告されている高等植
物の光合成アンテナ LHCII との比較から、FCP 内では、
応系はいくつか開発されて来ているが、共通する問題
代表的論文
1) R. Fujii, M. Kita, M. Doe, Y. Iinuma, N. Oka, Y. Takaesu,
T. Taira, M. Iha, T. Mizoguchi, R.J. Cogdell, H. Hashimoto,
"The pigment stoichiometry in a chlorophyll a/c type photosynthetic antenna", Photosynth. Res., Published online: 14
Oct, 2011(DOI:10.1007/s11120-011-9698-1)
2) R. Fujii, M. Kita, Y. Iinuma, N. Oka, Y. Takaesu, T. Taira, M.
Iha, R.J. Cogdell, H. Hashimoto, " Isolation and purification
of the major photosynthetic antenna, fucoxanthin-Chl a/c
protein, from cultured discoid germilings of the brown Alga,
Cladosiphonokamuranus TOKIDA(Okinawa Mozuku)",
Photosynth. Res. Published online 25 Sept, 2011,(DOI:10.
1007/s11120-011-9688-3)
は、NADPH 型ではない(すなわち再生できない)ヒド
リド還元剤を使用している、もしくは使用する還元剤
の還元力を補うために犠牲的な反応過程が盛り込まれ
ていることである。そのため、必要十分な還元力を持
主要文献
1) Matsubara, Y.; Konno, H.; Kobayashi, A.; Ishitani, O. Inorg.
Chem. 2009, 48, 10138.
2) Matsubara, Y.; Koga, K.; Kobayashi, A.; Konno, H.; Sakamoto, K.; Morimoto, T.; Ishitani, O. J. Am. Chem. Soc.
2010, 132, 10547.
フコキサンチン同士が極めて密に存在していると予測
40
41
1-31
1-32
高効率な二酸化炭素還元を目指した新規光触媒の創製
光励起キャリアーの動きとエネルギー制御
森本 樹
山方 啓
東京工業大学大学院理工学研究科
[email protected]
豊田工業大学大学院工学研究科
[email protected]
目 的
光エネルギーを利用して、有用な化学物質を生み出
スフィン配位子が脱離し、最終的にトリカルボニルレ
ドープすると寿命はむしろ長くなることが分かった。
す光触媒の重要性がまずます高まっているものの、 人
ニウム(I)錯体が生成することがわかった。特に、犠
光触媒のエネルギー変換効率は、光励起キャリアー
この光励起キャリアーの反応活性を時間分解赤外分光
工光合成の一端を担う二酸化炭素還元光触媒の研究は
牲還元剤として添加したトリエタノールアミンが、暗
の再結合速度と反応分子への電荷移動速度の比で決ま
法で調べたところ Ni と Cr をドープするといずれの触
発展途上の段階にある。 これまでに均一系・不均一系
反応・光反応の両方において重要な反応中間体・生成
る。したがって、高い反応活性をもつ光触媒を開発す
媒も正孔の反応活性に大きな変化はないが、電子の反
を問わず様々な光触媒系が研究されてきているが、従
物を与えることが強く示唆された。さらに、レニウム
るためには、光励起キャリアーのうごきをリアルタイ
応活性が低下することを見いだした。したがって、反
来の光触媒的二酸化炭素還元反応系には、ターンオー
(I)錯体を環状に配置した多核錯体を光増感剤として
ムで観測し、その動きを制御する必要がある。本研究
応活性を向上させるためには、電子の反応活性を向上
バー頻度が低いことや水中で有効に働かないことな
用いることで、非常に高効率な二酸化炭素還元光触媒
では、光励起電子を直接プローブできる時間分解赤外
させる必要が有る。本研究では、この電子の反応活性
ど、実用化に向けて決定的な問題点が存在する。そこ
反応を実現したので、その詳細についても報告する。
分光法を用いて光励起キャリアーの再結合過程と反応
を向上させるために、さらにもう一段階光励起するこ
でこれらの重大な欠点を打破するために、まず、複数
今回得られた合成手法や反応機構解析の情報を基に
分子への電荷移動過程を測定しながら、光触媒の組
とを考えている。いくつかの構造を持つ光触媒を合成
の錯体光触媒を空間的に規制した位置に固定すること
して、より高性能な光触媒の開発を行っていくととも
成や構造に依存する光励起キャリアーの動きを解明す
し、まずは波長の異なる二つのレーザーパルスを照射
で、二酸化炭素還元反応の中間体を安定化し、また、
に、真の人工光合成を実現する上で不可欠な条件であ
ることで、光触媒の反応活性を高めることを目的とす
し、光励起電子の二光子励起過程と再結合過程を観察
多電子還元反応を促進する新しい光触媒系の開発を目
る水中での光触媒反応を可能にするために、水中で実
る。
する。そして、組成と構造を最適化することで光励起
的とした。
効的に存在する炭酸イオンや炭酸水素イオンに作用す
電子のエネルギーを高めることで定常反応活性を向上
研究経過・進
高いターンオーバー頻度を実現する光触媒の創製を
る新規光触媒の創製も目指す。そして、これらの新し
目指して、剛直な芳香族ユニットであるジベンゾフラ
い光触媒系の開発を通じて、触媒能の向上に必要な設
我々はこれまでに、固相法に比べて錯体重合法を用
ンに、アルキル鎖を介して 2 個のジイミン配位子を導
計指針を明らかにすることで、人工光合成の実現に寄
いて調製した Ni や Cr をドープした SrTiO3 は非常に高
入した多座配位子を架橋部位とするレニウム(I)複核
与していきたいと考えている。
い結晶性をもち、光照射して生成した光励起電子は秒
錯体を合成した(図)。また、架橋部のアルキル鎖の
長さを変化させた複核錯体の合成にも成功した。こ
のレニウム(I)錯体部について、二酸化炭素還元光触
媒反応中における構造変化を各種分析手法によって追
跡したところ、反応の進行とともに、レニウム上のホ
領域に極めて長い寿命を持つことを見いだした。そし
参考論文
1) Morimoto, T.; Ito, M.; Koike, K.; Kojima, T.; Ozeki, T.;
Ishitani, O. Chem. Eur. J. in press.
2) Tamaki, Y.; Watanabe, K.; Koike, K.; Inoue, H.; Morimoto,
T.; Ishitani, O. Faraday Discuss. in press.
て、いずれもキャリアーが長い寿命を持つ触媒はメタ
ノール水溶液中での水素発生効率も高かった。さら
に、Ni をドープしたものは再結合速度に励起波長依存
性が見られ、紫外光より可視光で励起した方が長い寿
命を持つことを見いだした。
今後の予定・将来展望
一般に光触媒に不純物をドープすると、光励起電子
の寿命が短くなるために反応活性が低下すると考えら
れてきた。しかし、光励起電子の寿命を調べた結果、
させることを目的とする。
代表的論文
1) Potential-dependent Recombination Kinetics of Photogenerated Electrons in n-type and p-type GaN Photoelectrodes Studied by Time-resolved IR Absorption Spectroscopy A. Yamakata, M. Yoshida, J. Kubota, M. Osawa and K.
.
Domen, J. Am. Chem. Soc. 133, 11351(2011)
2) Destruction of the hydration shell around tetraalkylammonium ions at the electrochemical interface A. Yamakata, M.
.
Osawa, J. Am. Chem. Soc. 131, 6892(2009)
3) "Photodynamics of NaTaO3 Catalysts for Efficient Water
Splitting" A. Yamakata, T. Ishibashi, H. Kato, A. Kudo, and
, 2003)
.
H. Onishi, J. Phys. Chem. B 107, 14383(
4) "Water- and Oxygen-induced Decay Kinetics of Photogenerated Electrons in TiO2 and Pt/TiO2: A Time-resolved
Infrared Absorption Study" A. Yamakata, T. Ishibashi, and H.
.
Onishi, J. Phys. Chem. B 105, 7258(2001)
図 剛直な芳香族ユニットを架橋とするレニウム(I)複核錯体の合成
42
43
1-33
1-34
光合成初期反応のナノ空間光機能制御
橋本秀樹
大阪市立大学 複合先端研究機構、CREST/JST
[email protected]
Crystal structure of Sr-substituted photosystem II
from Thermosynechococcus vulcanus
at a 2.1 Å resolution
Faisal H-M Koua1, Yasufumi Umena2, Keisuke Kawakami2,
Nobuo Kamiya2, and Jian-Ren Shen1
1
Division of Bioscience, Graduate School of Natural Science and Technology/Faculty of Science, Okayama University,
Okayama 700-8530, Japan; 2The OCU Advanced Research Institute for Natural Science and Technology (OCARINA),
Osaka City University, 3-3-138 Sugimoto, Sumiyoshi, Osaka 558-8585, Japan
[email protected]
光合成細菌の光合成系は、自然が創造した超高速
質二重層膜に任意の比率で配列させた人工光合成膜を
(100 フェムト秒以下)かつ高効率(∼ 100 %)な光エ
創成している。透過型電子顕微鏡(TEM)及び原子間
ネルギー変換機構を解明するための本質的なバイオナ
力顕微鏡(AFM)により膜内での色素蛋白複合体の超
ノデバイスであるばかりでなく、太陽光エネルギーの
分子配列の確認を行いながら、極限の時間分解能と安
有効利用と言う観点から眺めた場合、人類の存亡に関
定性を有するコヒーレント分光計測と時間分解顕微分
わる根源的な問題解決に向けての急務な研究対象であ
光計測を適用することにより、光合成初期過程の真の
る。紅色光合成細菌の光合成初期過程の機能発現に
実時間計測を達成し、世界にさきがけて、個々の色素
は、LH2, LH1 と呼ばれる 2 種類のアンテナ色素蛋白複
蛋白複合体間の位相緩和情報も含めたエネルギー伝達
合体と光反応中心複合体(RC)の合計 3 種類の色素蛋
のメカニズムの本質的な理解を達成することを目標と
ter through the S-state cycle, leading to the generation of
白複合体が関係している。原子間力顕微鏡(AFM)を
して精力的に研究を展開している。講演では、我々の
molecular oxygen, protons and electrons, the mechanism
differences in the atomic coordination distances of the
用いた光合成膜のその場観察により、これら 3 つの色
研究グループにより得られている最新の研究成果を紹
of which is not yet clear. The Ca atom in the cluster can be
Mn4Ca/SrO5 complexes, especially with respect to the Ca-
素蛋白複合体が自己組織化により集積した超分子配列
介する。特に、
『光合成アンテナ系色素タンパク複合
が、機能発現に密接に関係している様相が明らかにさ
体の配列制御』
、および『光合成アンテナ系色素タンパ
tion of the S-state cycle . Since Sr has a higher K-edge
れつつある。本研究では、天然由来の色素蛋白複合体
ク複合体の超光速分光計測』に焦点をあてて解説する。
absorption energy of 16.1 KeV (0.7699Å), it can be easily
及び精密有機合成と分子生物学の技術を駆使して色素
本研究成果が人工光合成による次世代エネルギー開発
detected by the X-ray diffraction method. In the present
および蛋白構造を改変した人工の色素蛋白複合体を脂
のためのマイルストーンとなることを期待している。
study, we replaced the Ca with Sr biosynthetically in the
Oxygen-evolving complex (OEC) of PSII is composed
of hetero -nuclear atoms including four Mn atoms, one
Ca atom and five oxygen atoms forming a tetra-manga-
nese calcium penta-oxygenic cluster (Mn4CaO5) . The
1)
Mn4CaO5 cluster catalyzes light-induced splitting of wa-
replaced by strontium (Sr), resulting in a partial retarda2)
thermophilic cyanobacterium Thermosynechococcus vul-
canus, and purified the PSII dimer from the Sr-substituted
cyanobacterium. The purified PSII retained 50 ~ 60% oxygen-evolving activity of the native Ca-PSII. We crystal-
synchrotron radiation facility SPring-8 of Japan, which was
processed to a resolution of 2.1 Å. The results showed that
the crystal had a same space group and similar unit cell
dimensions with crystals of Ca-PSII. The anomalous diffraction data clearly showed a peak of Sr at the position of
Ca, indicating the effective replacement of Ca by Sr. Slight
H2O and Sr-H2O distances, were observed. We also found
that the PsbY subunit was present in the Sr-PSII with a
low occupancy, which was absent in the Ca-PSII crystals
at the high resolution.
1) Umena Y., Kawakami K., Shen J.-R., Kamiya N. Nature,
473 (2011), 55-60.
2) Boussac A., Rappaport F., Carrier P., Verbavatz J. -M,
Gobin R., Kirilovsky D., Rutherford A. W., Sugiura M. J.
Biol. Chem., 279 (2004), 22809-22819.
lized the Sr-PSII and collected X-ray diffraction data at the
44
45
1-35
1-36
メソポーラス有機シリカを光捕集系とした
人工光合成の構築
ユビキタス金属ポルフィリンによる
光酸素化反応シテムの開発
竹田浩之 1,2、大橋雅卓 1,2、後藤康友 1,2、谷 孝夫 1,2、○稲垣伸二* 1,2
○五味祐樹 1、清岡隆一 1、鍋谷 悠 2、嶋田哲也 1、立花宏 1、井上晴夫 2
1
㈱豊田中央研究所、2JST-CREST2
[email protected]
1
首都大院都市環境、2 首都大戦略研究センター
緒 論
光合成は光捕集アンテナ、反応中心、電子伝達系な
どの有機組織を空間的に精密に配置・連動させ、驚異
当研究室では水を電子源・酸素源とした人工光合成
的な反応効率(量子効率)を達成している。このよう
型物質変換システムの構築を目指しており、水の酸化
な複数の組織の有機的な連動は、人工光合成を構築す
と二酸化炭素の還元とを共役させる事で、2 段階の光
る上で重要であるにも拘わらず、その試みの多くは溶
励起反応によるエネルギー蓄積を目標とする。この系
液・分子系に留まっている。光合成のような高度な機
のうち酸化側末端では、水の酸化と同時に酸素化生成
能を構築するには、より複雑な機能設計が可能な固体
物を得る、可視光誘起酸素化反応が展開されている。
系への展開が不可欠と考える。最近、有機骨格をもつ
本研究では元素戦略を背景に、入手が容易で安価な Al
規則性ナノ空間材料の登場により、有機分子や錯体を
を中心金属としたポルフィリン(図 1)を用いて、人
空間的に配置・連動させることが可能になってきた。
工光合成の酸化側末端の開発に取り組んだ。
図 1 AlTMP
(OH)の構造
表 1 OH−濃度と生成物選択性の相対性
)
PMO, periodic
ここでは、メソポーラス有機シリカ 1(
実 験
mesoporous organosilica)を利用して、光捕集アンテナ
機能と反応中心を連動させた有機系固体光触媒(CO2
還元など)を構築した例を紹介する。
図 1 Light-harvesting PMO photocatalystfor enhanced
CO2 reduction
我々は、先に PMO の優れた光捕集アンテナ機能を
増感剤、電子受容体、基質、塩基を 10 %含水アセ
トニトリルに溶かし、光照射を行った。反応溶液は
、ポル
凍結脱気により溶存酸素を除去し(< 10 −2 Pa)
報告した 2)。約 125 個の骨格ビフェニル基の励起エネ
れた。更に、細孔内に触媒となる白金を担持したとこ
フィリンの Soret 帯に単色光を照射し、GC-MS により
ルギーが細孔内の 1 個のクマリン色素にほぼ 100 %の
ろ、還元剤(NADH)の存在下で、水から水素を生成
生成物を定量した。
量子効率で集約されたため、色素の蛍光が大幅に増
する光触媒作用が確認された。PMO では、高表面積
強された。PMO の細孔半径がフェルスター半径より
な細孔表面に多くのドナー/アクセプター対が形成可
小いため、細孔壁から細孔内色素への効率的なエネル
能であり、固体でありながら高効率な触媒反応系の構
ギー移動が起こった。次に、色素の代わりに CO2 還元
築が可能である。
結果と考察
Al ポルフィリンを用いて可視光誘起酸素化反応を
行ったところ、アルケンのエポキシ化および水酸化
能があるレニウム(Re)錯体を細孔内に固定した(図
PMO の骨格と細孔内には、種々の有機基や金属錯
が進行することを新たに見出し、他金属に比べ錯体が
1)。CO2 と還元剤(トリエタノールアミン)の存在下
体の導入可能である 。また、メソ細孔は分子径より
強固である、中性条件でも反応が進行するなどのメ
で光照射したところ、固体でありながら CO の生成が
一回り大きいため、細孔内に機能物質を導入しても細
リットが存在する事が分かった。また、溶液の pH に
確認された。更に、骨格のビフェニル基を選択励起
孔の閉塞は起こらず、スムースな物質拡散が可能であ
より生成物選択性が大きく変化し、pH の高い条件で
(280 nm)したところ、PMO のアンテナ効果により、
る。PMO は、人工光合成を構築するための土台とし
はアルコール選択性が高く中性条件ではエポキシ選
て大きな可能性を有すると考える。
択性が結果を得た。
(表 1)反応中に吸収波長のピー
Re 錯体の直接励起(365 nm)と比べ活性が 4 倍以上も
5)
向上した 。これは、固体のアンテナ物質を用いて光
クトップが 419 ∼ 427nm へと大幅に変化することか
3)
触媒活性の増強を確認した初めての例であり、人工光
合成の構築に向けた重要な一歩が踏み出せたと考え
る。
また、PMO を利用したドナー/アクセプター型光
触媒の構築も行った 。電子アクセプターのビオロゲ
4)
ンを細孔表面に固定したところ、骨格ビフェニル基
(ドナー)からビオロゲンへの光誘起電荷移動が見ら
46
文 献
1) S. Inagaki et al. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 9611, Nature
2002, 416, 304
2) S. Inagaki et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 40402
3) H. Takeda et al., Inorg. Chem. 2010, 49, 4554
4) M. Ohashi et al., Chem. Eur. J. 2009, 15, 13041
5) N. Mizoshita et al., Chem. Soc. Rev. 2011, 40, 789.
ら、pH によって軸配位子構造が変わっていると考え、
H-NMR、ESI-MS を用いて構造変化を推定した。
(図
1
2)反応溶液中では電子源である H2O を軸配位子とし
図 2 吸収と軸配位子の関係
て上下に抱え込み、pH に従ってプロトンが離脱着す
る。AlTMP(OH)は含水溶媒中で上下に水を配位子と
配位子と、反応活性種の軸配位子は同一であると考え
して抱え込み、pH に従って pKa1=10.1、pKa2=10.7 で
られる事から、軸配位子構造と表 1 に示した生成物選
プロトンが離脱着することがわかった。出発錯体の軸
択性に相関があることを見いだした。
47
1-37
1-38
水を原料とする金属ポルフィリンを用いた
光水素発生と光酸素化反応
CO2 光還元反応における触媒機構の解明:
CO2 配位中間体の検出
○栗本和典 1、鍋谷 悠 2、嶋田哲也 1、立花 宏 1、井上晴夫 2
○高 榕輝 1、嶋田哲也 1、鍋谷 悠 2、立花 宏 1、増井 大 1、井上晴夫 2
1
首都大院都市環境、2 首都大・戦略研究センター
緒 言
1
首都大院都市環境、2 首都大・戦略研究センター
序
当研究室では水を電子源、酸素源とした可視光誘起
当研究グループでは水の光酸化反応と CO2 の光還元
酸素化反応を組み合わせた人工光合成システムの構築
反応が共役した人工光合成システムの構築を目指して
を目指している。これまで金属ポルフィリンを用いて高
いる。既に高効率な水の酸化反応を見出した一方で 1)、
効率かつ高選択的なシクロヘキセンのエポキシ酸化に
Zn ポルフィリン− Re 連結錯体を用いた CO2 の還元反
成功させている。しかし、電子受容体に犠牲試薬であ
応系の触媒効率が低いという課題が残っている。その
る塩化白金酸を用いており、電子を消費してしまって
図 1 Artificial photosynthesis model
機構の一層の解明を目指した。Re ビピリジン錯体に
いることが課題となっている。そこで、電子を水の還
元反応が行える TiO2/Pt に受け渡すことができる系を構
築することによって、水の酸化反応と還元反応を同時
ため、CO2 還元末端の反応効率の向上に向けて、触媒
の 2 点の影響を受け、中性条件で効率が良くなったと
考えられる。
よる CO2 の光還元反応については、Lehn らにより発見
されてから 20 年以上経つが、未だに触媒機構の完全
[膜 系]膜系での蛍光消光実験では 69 %の SnTCPP
解明には至っていない。図 1 に示すような有力な推定
が消光した。この膜系の光反応においても光酸素化
反応機構が提唱されており 2)、1 電子還元種(OER)は
反応と水素発生を同時に起こすことに成功した。しか
CO2 と反応し「COO 錯体」が生成すると言われている
[分散系]中性条件下での光反応では 24 時間照射した
し、膜系においては基質の拡散律速の影響により分散
が、未だに直接検出された報告例がない。本研究では
中で、直線的に水素が発生し続けた。(図 2)この時の
系に比べて反応効率が落ちた。さらに水素発生の効率
CSI-MS および FT-IR を用い、反応中間体の正体を明
SnTCPP の触媒回転数は水素発生では 350 回、酸素化
は分散系の効率の 1/10 程度となった。
らかにすることを目指した。
に行える人工光合成システムの構築を目指した。
(図 1)
結果および考察
では 1288 回と色素が長寿命に反応していることを示
[蛍光寿命]分散系、膜系ともに光酸素化反応と水素発
した。この反応において 24 時間で光反応を止めたが、
生を同時に起こすことに成功したが、最高 E.Y.=31.6%
直線的に水素が発生し続けたことがさらに反応が進行
とまだ効率面の問題がある。そこでピコ秒レーザーに
することを示している。次に pH をコントロールする
よる蛍光寿命測定を行うことによって、電子注入効
ン化法 - 質量分析計(CSI-MS)を用いて反応溶液を直
ことによって反応性にどのような変化が現れるかを見
率を評価した。その結果、約 40 %が TiO2 に電子注入
接観測することにより、反応過程における錯体の変化
た。
(図 3)光酸素化反応は塩基性条件下の方がより効
し、約 60 %が損失していることが分かった。これは
を追跡した。また、CO2 光還元反応が進行しかつ COO
測に成功した初めての例である。続いて、FT-IR を用
率が良いことと。塩基性条件下の方がより TiO2 の CB
SnTCPP の S1 レベルと TiO2 の CB の電位差は 0.19 V しか
伸縮領域において透明な DMSO を反応溶媒として新た
いて COO(カルボキシレート)配位子の吸収領域につ
準位が碑側になるため水素還元力が向上したこと。こ
なく、ほとんどの成分は失活していることを示した。
に見出し CO2 光還元の赤外分光測定(IR)による反応
いて検討を行ったところ、CSI-MS で観測した活性中
追跡を行った。
間体とその動的挙動が極めて良く一致する吸収が観測
図 1 CO2 光還元推定反応機構(2)
実 験
錯体を壊さずに検出可能なコールド・スプレーイオ
拠を得た。また詳細な 13CO2 の実験から、触媒過程に
おいて Re 錯体の 3 つの 12CO 配位子が徐々に 13CO に置
き換わることがわかった。MS により配位子置換の観
された。同じように 13CO2 の実験により吸収スペクト
結果および考察
体は CO2 が配位した「Re-CO2」と帰属できる。今後検
位した錯体」を検出に成功した。この錯体の観測強度
出した中間体を単離し、CO2 還元反応にもたらす効果
変化は CO 発生率の変化と良く一致していることから、
について調べる。
CO の生成に寄与する中間体であると考えられる。ま
た、同位体元素を含む 13CO2 を用いることにより錯体
に配位したのは系中に存在する CO2 である明らかな証
図 2 Hydrogen evolving upon visible light
irradiation
48
ルのシフトを確認した。以上のことから、検出した錯
CSI-MS により、重要な反応中間体である「CO2 が配
1) H. Inoue. et al, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 5734-5740
2) O. Ishitani, et al, J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 2023
図 3 Amount of product in acid condition
49
1-39
1
1-40
Photosystem Ⅱを利用した人工光合成に向けて
光化学系Ⅱの水分解機構解析と人工光合成への応用
○硯 智史 1、田中絢子 2、麻田俊雄 3、田代隆慶 1、川上恵典 4
梅名泰史 4、沈 建仁 5、宮原郁子 1、神谷信夫 4
野口 巧
大阪市大院・理、 大阪市大・理、 大阪府大院・理、 大阪市大・OCARINA、 岡山大院・自然科学
[email protected]
名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻
[email protected]
2
3
4
5
光化学系Ⅱ(PSII)は、光合成反応において水を分
phenolic 系、urea 系に分類される。これらは、QB サイ
光化学系Ⅱは、光合成電子伝達系の酸化側末端に位
解し、分子状酸素を発生する膜タンパク質複合体であ
トに PQ と競争的に結合することで、QA サイトから QB
置し、二酸化炭素還元に必要な電子を光エネルギーを
る。この酸素発生に伴って生じる電子は、活性チロシ
サイトへの電子伝達を阻害し、結果 PSII の酸素発生活
用いて水から取り出す役割を持つ。それは、水の電気
、活性中心クロロフィルダイマー(P680)、クロ
ン(Yz)
性を阻害することが知られている。
分解における陽極の酸素発生反応に相当する。我々の
ロフィル、フェオフィチン、プラストキノン(PQ, QA
今回、これらの阻害剤複合体結晶はソーキング法
研究室では、光合成水分解系の構造および反応を赤外
サイト)の順に PSII の内部を移動し、電子伝達の終端
により作成した。回折強度測定は SPring-8、BL44XU
となる QB サイトに結合した PQ をプラストキノール
で行い、bromacil, terbutryn, bromoxynil, DCMU の各複
行っている。また最近、光化学系Ⅱ蛋白質を用いたハ
PQH2 へと二電子還元する。
合体結晶についてそれぞれ 1.9, 2.0, 2.1, 2.3 Å 分解能の
イブリッド型人工光水分解ナノデバイスの作成を行っ
分光法を用いて原子・分子レベルで解明する研究を
我々は将来的に、QB サイトに強固に結合して PSII
データが得られた。それら 2.3-1.9 Å 分解能データか
から電子を受ける電子受容部、共役鎖からなる電子移
ら、QB サイトにおける各阻害剤の結合様式を結晶構造
動部、その先端に位置して還元反応を実現する触媒部
から明らかにした。これらの阻害剤は QB サイト周辺の
の 3 つを連結した分子を合成し、PSII を利用した人工
アミノ酸残基によって水素結合を形成し、固定されて
光合成水分解系の構造と反応機構
光合成を実現させたいと考えている。本研究では、そ
いる。また、各阻害剤の結合様式に共通して見られる
光誘起フーリエ変換赤外(FTIR)差スペクトル法を
の第 1 段階として、除草剤として知られる電子伝達阻
特徴として、反応中心タンパク質(D1)の His 215 と水
用いて、水分解系の各中間状態遷移(S 状態遷移)の
害剤を QB サイトへ結合させ、それぞれの結合様式を
素結合を形成していることが明らかになった。この結
際の構造変化を観測した 1)。この手法により、水分解
確認して量子化学計算を行うことで、上記の電子受容
合は阻害剤の阻害機構および QB サイトへの強固な結合
系を形成する蛋白質およびアミノ酸側鎖や水分子の
部をデザインし合成するための基礎情報を得ることを
に関して重要な役割を果たしていると推測される。
構造・反応を直接検出することができる。得られた
目標としている。
用いた電子伝達阻害剤は、bromacil, terbutryn, bro-
moxynil, DCMU であり、それぞれ uracil 系、triazine 系、
た。
1. 光化学系Ⅱにおける
図 1 光化学系Ⅱー金ナノ粒子複合体
今回、これらの阻害剤複合体の結合様式の詳細およ
FTIR スペクトルの解析から、水分解マンガンクラス
び、現在 bromacil 複合体で行っている量子化学計算の
ターの配位子や水素結合ネットワークを形成するア
デバイスを陽極として用い、さらに水の完全光分解
現状とその展望を発表する。
ミノ酸側鎖の反応 、プロトン放出パターン 3)、およ
、また二酸化炭素還元による一酸化
(2H2O → O2+2H2)
び基質水分子の反応や挿入過程 についての知見を得
炭素、メタン生成を行う人工光合成ナノシステムの開
た。また、時間分解赤外分光法を用いて、S 状態遷移
発を計画している。
2)
4)
中の蛋白質およびプロトンの動きを検出し、酸素形成
直前の過渡的中間状態の構造を調べた。
2. 人工光水分解ナノデバイスの作成
好熱性シアノバクテリア T. elongatus 由来の光化学
系Ⅱ蛋白質を直径 20 nm の金ナノ粒子に Ni-NTA およ
び His タグを介して結合させ、光化学系Ⅱ- 金ナノ粒
子複合体を作成した 5)。電子吸収および電子顕微鏡解
析より、4 − 5 個の光化学系Ⅱ二量体が 1 つの金ナノ
文 献
1) Noguchi, Coord. Chem. Rev. 252, 336-346(2008); Photosynth. Res. 91, 59-69
(2007)
2) Shimada et al., J. Am. Chem. Soc. 133, 3808–3811(2011);
Biochemistry 48, 6095-6103
(2009)
3) Suzuki et al., J. Am. Chem. Soc. 131, 7849-7857(2009)
4) Noguchi and Sugiura, Biochemistry 41 , 15706 - 15712
( 2002 ); Suzuki et al., Biochemistry 47 , 11024 - 11030
(2008)
5) Noji et al., J. Phys. Chem. Lett. 2, 2448-2452(2011)
。このナノ
粒子表面に結合したことが示された(図 1)
50
51
接触させた新たな担持型 Z スキーム光触媒系の構築に興味が持たれる.本研究では,BiVO 4
を含浸法で Ru/SrTiO 3 :Rh 上に担持させ,その光触媒特性について検討することを目的とし
た.
2,実験方法
1-41
1-42
SrTiO 3 :Rh は固相法にて調製した.SrTiO 3 :Rh 上に Ru 助触媒を担持した後,BiVO 4 を含
浸法で担持した.水の完全分解反応は,Pyrex 製上方照射型反応管および閉鎖循環系反応
合成錯体分子による水の酸化光触媒系の構築:
ルテニウムアコ錯体の光異性化を利用した革新的合成
ソーラー水分解のための
BiVO
またはソーラーシミュレーター(AM1.5)を用いた.生成した気体はガスクロマトグラフ
4/SrTiO3:Rh 担持型 Z スキーム光触媒の開発
装置を用いて行った.必要に応じ,硫酸または水酸化ナトリウム水溶液で反応溶液の pH
を調整した.光源には,カットオフフィルターを付けた 300 W キセノンランプ( λ > 420 nm)
で定量した.光触媒のキャラクタリゼーションには,XRD,DRS,Raman および SEM を
○平原将也、山
啓智、八木政行
用いた.
新潟大学大学院自然科学研究科、JST さきがけ
[email protected]
1
ジア チンシン 1、齊藤健二 1, 2, 3、工藤昭彦 1, 3
3,結果および考察
2
東京理科大学理学部、
PRESTO/JST、3 東京理科大学総合研究機構エネルギー・環境光触媒研究部門
BiVO 4 /SrTiO 3 :Rh 担持型 Zjbスキーム光触媒の
[email protected] パターンは,SrTiO 3 :Rh と酸素生成反
応に高活性なシーライト構造モノクリニック相の BiVO 4 の足し合わせであった
2)
.得られ
して得た。(収率 67%)次に trans-RuLCl を硝酸銀を含
緒 言
人工光合成は、将来有望なエネルギー供給システム
の一つとして期待されている。人工光合成の構築に
は、水の酸化反応を効果的に促進させる酸素発生触媒
- Ru(tpy)
(L)OH2](transむ水溶液中で還流し、trans[
2+
RuLH2O)を得た。trans-RuLH2O の水溶液に可視光を
- Ru(tpy)
(L)OH2]2+
照射して、光異性化反応により cis[
1. 緒 言
認できた.本担持型 Z スキーム光触媒
による疑似太陽光照射下における水の
太陽光の有効利用を目指した水分解光触媒に関する
分解反応を検討したところ,水素およ
研究が広く行われている。その一例として、水素およ
Z スキーム光触媒が
び酸素生成光触媒を組み合わせた
び酸素が定常的かつ化学量論比で生成
の開発が必須である。下図のスキームで示される二核
(cis-RuLH2O)を得た。光異性化反応は 1HNMR およ
ルテニウムアコ(II)錯体(Ru2)は近接したアコ配位
び紫外可視吸収スペクトルにより追跡し、その量子収
Z スキーム光触媒系が、可視
用いた粒子間電子移動型
の担持量や粒子状態に大きく依存する
ロトン共役電子移動により生成するルテニルオキソ
合成した。① cis-RuLH2O に対し一当量の Ru(tpy)Cl3
(RuV=O)種の分子内カップリングによる効果的な水
を加え、マイクロ波加熱により収率 20%で得た。② L
1)
。
光水分解反応に高い活性を示すことを報告してきた
ことがわかった.
その活性は、水素生成光触媒と酸素生成光触媒の分
1) Y. Sasaki, H. Nemoto, K. Saito, A.
の酸化が期待できる。Ru(tpy)Cl3 とアンチリジン環部
および Ru(tpy)Cl3 を含む水溶液を光照射下で 70℃に加
位を有する架橋配位子 L の熱化学反応では、選択的に
熱した後、暗所でマイクロ波加熱して Ru2 をワンポッ
子を有するため、ルテニウムアコ(RuII-OH2)からプ
- Ru(tpy)
trans[
(L)Cl]
(trans-RuLCl)が生成し、tpy 配
+
位子間の立体障害により後続の二核化が進行しないた
率は 4.6 × 10 − 2%であった。Ru2 は以下の二つの方法で
ドで合成した。(収率 16 %)錯体の精製にはシリカゲ
ルクロマトグラフィーおよび Sephadex LH-20 を用い
(下
め、Ru2 を熱化学的に合成することは困難である。
た。Ru2 の ESI-MS では、m/z = 371.98 に三価カチオン
図スキーム)本研究では、最近当研究室で見出したポ
(OH)
(OH2)
]
由来のピークが観測され、[Ru (
2 tpy)
2L
リピリジルルテニウムアコ錯体の光異性化反応 を利
(m/z = 372.05)に帰属された。また、 H NMR の測定
1)
用して二核ルテニウムアコ錯体の合成に挑戦した。
3+
II
1
(OH)
から、cis, cis 型の二核錯体、cis, cis-[Ru (
2 tpy)
2L
(OH2)] であることが示された。
アンチリジン環部位を有する架橋配位子 L を用いて
二核錯体 Ru2 の合成を試みた。配位子 L と Ru(tpy)Cl3
の熱化学反応により、trans-RuLCl を緑色の塩化物と
pH が酸性の場合、
散状態に大きく依存する。水溶液の
Kudo, J. Phys. Chem.
C, 113, 17536
二種類の光触媒が互いに凝集することで、水分解反応
(2009).
1) Yamazaki, H.; Hakamata, T.; Komi, M.; Yagi, M. J. Am.
Chem. Soc. 2011, 133, 8846-8849.
12
Light source: solar simulator (AM-1.5)
Top windows made of Pyrex
Reaction solution: water (120 mL)
10
H2
8
6
O2
4
2
0
0
10
20
30
Time / h
40
50
60
Figure 1. Photocatalytic water splitting over
に高い活性を示すが、中性では、触媒が分散してしま
2) A. Kudo, K. Omori, H. Kato, J. Am. 図 1 Photocatalytic water splitting over BiVO4(250 wt%)
BiVO 4 (250 wt%)/SrTiO 3 :Rh(1%) under
/SrTiO3:Rh(1%)under simulated sunlight irradiation
うため、水分解反応の活性は不十分である。そこで、
Chem. Soc., 121, 11459 (1999).
simulated sunlight irradiation.
BiVO4 と Ru/SrTiO3:Rh 化学的に接触させた新たな担持
型 Z スキーム光触媒系の構築に興味が持たれる。本研
究では、BiVO4 を含浸法で Ru/SrTiO3:Rh 上に担持させ、
その光触媒特性について検討することを目的とした。
3. 結果および考察
BiVO4/SrTiO3:Rh 担持型 Z スキーム光触媒の XRD パ
ターンは、SrTiO3:Rh と酸素生成反応に高活性なシー
ライト構造モノクリニック相の BiVO4 の足し合わせ
II
3+
結果と考察
挙げられる。当研究室では、
した(Figure SrTiO
1).光触媒活性は,BiVO
3:Rh および BiVO4 を 4
Volumes of H2 and O2 evolved / mL
た粒子を SEM で観察したところ,BiVO 4 が SrTiO 3 :Rh の表面上に担持されている様子が確
2. 実験方法
であった 2)。得られた粒子を SEM で観察したところ、
SrTiO3:Rh は固相法にて調製した。SrTiO3:Rh 上に Ru
BiVO4 が SrTiO3:Rh の表面上に担持されている様子が
助触媒を担持した後、BiVO4 を含浸法で担持した。水
確認できた。本担持型 Z スキーム光触媒による疑似太
の完全分解反応は、Pyrex 製上方照射型反応管および
陽光照射下における水の分解反応を検討したところ、
閉鎖循環系反応装置を用いて行った。必要に応じ、硫
水素および酸素が定常的かつ化学量論比で生成した
酸または水酸化ナトリウム水溶液で反応溶液の pH を
。光触媒活性は、BiVO4 の担持量や粒子状態に
(図 1)
調整した。光源には、カットオフフィルターを付けた
300W キセノンランプ(λ >420 nm)またはソーラーシ
ミュレーター(AM1.5)を用いた。生成した気体はガ
スクロマトグラフで定量した。光触媒のキャラクタリ
ゼ ー シ ョ ン に は、XRD、DRS、Raman お よ び SEM を
大きく依存することがわかった。
1) Y. Sasaki, H. Nemoto, K. Saito, A. Kudo, J. Phys. Chem. C,
113, 17536(2009)
2) A. Kudo, K. Omori, H. Kato, J. Am. Chem. Soc., 121, 11459
(1999)
用いた。
52
53
1-43
1-44
1
窒素固定酵素ニトロゲナーゼを利用した
水素生産の高効率化と大規模化
ポリオキソメタレートを基盤とした
水の可視光分解反応系の構築
北島正治 1、増川 一 2, 3、佐藤 剛 1、櫻井英博 2、井上和仁 1, 2
田中早弥 1、酒井 健 1, 2
神奈川大学理学部生物科学科、2 神奈川大学光合成水素生産研究所、3 JST さきがけ
[email protected]
1
九州大学大学院、2WPI-I2CNER
[email protected]
緒 言
ラン藻(シアノバクテリア)は、葉緑体を持つ高等
性が高く、酸素発生を伴う光合成に基づく水素生産を
植物や真核藻類と同様に水を電子供与体として、酸素
行う場合には、いかにして両反応を両立させるかが
発生型の光合成を行う原核生物である。一部のラン藻
課題になる。Anabaena, Nostoc 属等の糸状性ラン藻は、
成分が持つ機能を一分子に複合した触媒分子の構築に
は空気中の N2 をアンモニアへと固定する酵素である
窒素栄養源が欠乏した条件下では、通常の酸素発生型
関する研究が進められている。本研究では新たな単分
水の可視光分解による水素生成反応の研究では、各
ニトロゲナーゼを持つ。ニトロゲナーゼによる N2 固
光合成を行う栄養細胞の一部が、約 10-20 細胞の間隔
定反応では、アンモニア生成に伴う必然的な副産物と
でヘテロシストへと分化し、そこでニトロゲナーゼ反
ウム(II)二核錯体とポリオキソメタレート(POM)を
して水素が発生する。
応を行う。ヘテロシストは窒素固定に特化していて、
連結することで、電子受容と触媒の両機能を有する新
光化学系 I のみを持ち、酸素発生を行う光化学系 II を
規光触媒の構築をしたので報告する。また、水からの
持たず、厚い細胞壁に囲まれているために、細胞内の
酸素発生反応については 4 電子の移動を伴う反応であ
N2+8e +8H +16ATP → H2+2NH3+16
(ADP+Pi)
−
+
子光触媒の開発を試み、分子触媒として機能するロジ
酸素濃度を低く保つことが出来る。ニトロゲナーゼ反
るため、より高エネルギー反応が可能な触媒の開発が
上式では、電子の約 3/4 が N2 還元に、残りの約 1/4
応に必要な電子は、隣接する栄養細胞が光合成によっ
不可欠となる。光増感剤に[Ru(bpy)3]2+、犠牲酸化剤
が水素発生(H+ 還元)に使われる。N2 が存在しない Ar
て合成した糖質から供給され、ヘテロシスト内で糖質
に S2O82−を用いた水からの光酸素発生触媒については
気相下などでは、投入された全ての電子が水素生産に
は分解され、光化学系 I の働きによって強力な還元剤
ルテニウム錯体やコバルト四核構造を活性点に有する
向かう。
である還元型フェレドキシンを生じ、ATP は光化学系
POM が触媒作用を有することが報告されている。今
I 周辺の環状電子伝達系と ATP 合成酵素の働きにより
回は、新たに Co(III)単核、及び二核の POM を用いて
合成される。このように、栄養細胞とヘテロシストと
酸素発生触媒機能評価を行い、それらの安定性につい
いう 2 種類の細胞の分業(空間的分離)により、糸状
ても詳細な研究を行った。
2H +2e +4ATP → H2+4(ADP+Pi)
−
+
また、ラン藻はヒドロゲナーゼも持つが、その反応
は可逆的(2H +2e ↔ H2)である。ニトロゲナーゼと
+
−
図1
図 2 Co 核を有する
POM 触媒
体全体としては酸素発生型光合成を行いながら窒素固
定と水素生産を行うことが出来る。
結果と考察
比較して、ヒドロゲナーゼは反応に ATP を必要とし
我々は、糸状性ラン藻でゲノム配列が明らかにされ
ないので理論的最大エネルギー変換効率が高い。しか
ている Nostoc/Anabaena sp. PCC 7120 株やニトロゲナー
POM を反応させたところ、Cs5[Rh2(O2CCH3)3(O2C-
し、酸素発生型光合成生物のヒドロゲナーゼを利用し
ゼ活性が高い Nostoc sp. PCC 7422 株を遺伝子工学的に
(CH2)2SnSiW11O39)
(1)の 生 成 が 確 認 さ れ た( 図 1)
]
。
て水素生産を行わせる場合は、酵素が正逆両方向の反
改良し、水素生産性が向上した多数の改良株を作成し
錯体 1 にアニオン性の有機色素である EosinYellow を
応を触媒するので夜間や曇天下では水素の再吸収が起
てきた。また、水素を大規模に生産するための培養条
光増感剤として用い、電子伝達剤非存在下で可視光照
と S2O82- 存在下で可視光照射により、約 54%という高
こり、水素生産の省力化、低コスト化、大規模化の点
件の検討も行っている。本発表では、ニトロゲナーゼ
射による水素発生を試みたところ、水素の生成が確
い量子収率で効率的な酸素発生が起こることが確認
でニトロゲナーゼが有利であると我々は考え、研究を
を利用した水素生産の高効率化と大規模化を目指した
認され、触媒回転数は約 3.6 であった。また、錯体 1、
。また、Co 酸化物(CoOx)の前駆体とさ
された(図 3)
行っている。
これまでの我々の研究を紹介し、今後の改良の方向性
Eosin Y、EDTA を含む溶液の光照射時の吸収スペクト
れる[Co(OH2)6]2+ を用いて同様の実験を行った場合、
について議論する。
ル変化を測定したところ、620 nm 付近に POM の還元
酸素発生量が劇的に減少したため、光化学的酸素発生
ニトロゲナーゼはヒドロゲナーゼと同様に酸素感受
ロジウム(II)二核錯体とカルボキシル基を有する
種の生成に由来する吸収帯が確認できた。このことか
2+
(OH2)6]
による光酸素発生
図 3 錯体 2、3 及び[Co
反応における Co コロイドの活性は極めて低いことが
ら、実際に Eosin Y から POM への電子移動が起こり、
。さらに、錯体 2、3 の安定
明らかとなった(図 3;×)
水素が効果的に発生することが確認された。一方、水
性を光散乱測定によって検討したところ、光反応中に
からの光酸素発生触媒開発においては、単核、及び
おける錯体の分解は見られず、分子性触媒として機能
[CoMo6O24H6] (2)
、
二 核 の Co(III)を 有 す る POM(
していることが示唆されたので、詳細を報告する。
3−
)を用いて触媒機能評価を行った
[Co2Mo10O38H4](3)
6−
(図 2)1)。錯体 2、または 3 を含む水溶液を[Ru(bpy)3]2+
54
1) S. Tanaka, M. Annaka and K. Sakai, Chem.Commun., 2012.
55
1-45
1-46
酸素生成触媒能を有する各種ルテニウム単核錯体の
酸素生成触媒能を有する各種ルテニウム単核錯体の
ビオローゲン集積型 Ru
(bpy)32+ 誘導体の
光誘起電子移動過程と水素生成反応への応用









(九大院理
・分子研
・・
さきがけ
・九大

)○吉田
彩乃
(九大院理
・分子研
さきがけ
・九大

)○吉田 将己
将己 ・木本
・木本 彩乃
・・
1,
2
1,
2
2,
3
1,
4


○吉田将己
、正岡重行 、酒井 健
正岡 重行
健  健 、木本彩乃
正岡 ・酒井
重行 
・酒井

○北本享司 1、酒井 健 1, 2
1
酸素生成触媒能を有する各種ルテニウム単核錯体の
反応機構に関する研究
反応機構に関する研究
反応機構に関する研究

九大院理、2 九大 I2CNER
[email protected]
九大院理、


1


2
分子研、3 JST さきがけ、4 九大 I2CNER
[email protected]
【緒言】水の酸化による酸素発生反応は4電
【緒言】水の酸化による酸素発生反応は4電
錯 体 1-3 に 対 し、EDTA 存 在 下、 酢 酸 緩 衝 溶 液 中
EDTA/Ru
(bpy)
/MV (メチルビオローゲン)/Pt(II)
3
2+
2+
2 で可視光照射を行ったところ、図 1 に示す
5.01,)
錯体からなる反応系では、可視光照射により水素生成
(pH=健
(九大院理 1・九大 I2CNER2)○北本享司 1・酒井
が進行する事が知られている。しかし、このような多
ような吸収スペクトルの変化が確認された。360, 530,
成分系システムでは水素生成に通じる電子移動のみを
900 nm 付近の吸収帯の増大から、これらの錯体がビオ
Email:[email protected]
ローゲンカチオンラジカルの 2 量体を選択的に形成し
【緒言】EDTA/Ru(bpy)3 /MV (メチルビオローゲン)/Pt(II)錯体からなる反応系では、可視光
効率的に起こす事は困難である。一方、天然の光合成
2+
2+
ていることが明らかとなった。また、既報の吸収係数
では多電子の貯蔵を利用した高度な電子移動システ
照射により水素生成が進行する事が知られている。しかし、このような多成分系システム
の値(ε 900=3630 M−1cm−1)から錯体 1-3 はそれぞれ
ムが存在している。そこで本研究では光多電子貯蔵機
では水素生成に通じる電子移動のみを効率的に起こす事は困難である。一方、天然の光合
1 分子当たり 3, 5, 8 電子の貯蔵が起こっている事がわ
能を目的として、ビオローゲン部位を複数連結させた
子の放出を伴う多電子過程であり、困難な反
緒 言
子の放出を伴う多電子過程であり、困難な反
応として知られている。当研究室ではこれま
る 。今回、これらの錯体
 の酸素発生触
体分子数が
と  で異なることも見出してい


























媒反応に対してより詳細に比較検討を行った
ので報告する。







を酸化剤
の  水溶
濃度と酸素発生速度の相関について比較した。
4+
Ce
濃度と酸素発生速度の相関について
スを定量し、


その結果、錯体 1 は
はCe
4+濃度に対し酸素発
濃度に対し酸素発生
液に加えて発生する酸素ガスを定量し、
比較した。その結果、錯体





図
錯体 1, 2 の酸素発生触媒反応に対してより詳細に比較
実験と結果
ので報告する。
を酸化剤の IV 水溶
[
ルテニウム触媒 1(0.25 μmol)を酸化剤(NH4)
2 Ce

【実験と結果】
ルテニウム触媒 ()
液に加えて発生する酸素ガスを定量し、











速度が一次の相関を示し、律速段階が
 1
Ce4+1 分子が
生速度が一次の相関を示し、律速段階が
濃度と酸素発生速度の相関について比較した。
分子が関与する反応であることが示された
。一方、錯
関与する反応であることが示された
(図 2)
その結果、錯体
 は 濃度に対し酸素発生


0 次の相関を示
体 2 は触媒濃度に対し酸素発生速度が
(図 )
。一方、錯体  は触媒濃度に対し酸素

速度が一次の相関を示し、律速段階が  1
した。
発生速度が0次の相関を示した。
分子が関与する反応であることが示された
に代えて
また、酸化剤として(NH4)2[CeIV(NO3)6]
また、酸化剤として に代
KHSO
Oxone)を用いた場合、酸素の発生はごく微量
(図
)
。一方、錯体
 は触媒濃度に対し酸素
5(
えて  を用いた場合、酸素の発
【結果・考察】錯体  に対し、EDTA 存在下、酢酸緩衝溶液中(pH = 5.0)で可視光照射を行
しか確認されなかったことから、O-O 結合の生成に
発生速度が0次の相関を示した。
生はごく微量しか確認されなかったことから、






   











各種ルテニウム単核錯体の構造


 






 















 






 

 
図 2 酸素発生初速度の Ce4+
濃度依存性

図

(1M酸素発生初速度の
HClO4 水溶液 2 ml、20
℃、濃度依存性
Ar 雰囲気下) 




 水溶液 、℃、 雰囲気下

 

1) S. Masaoka, K. Sakai,
Chem. Lett., 2009, 38, 182.
種の関与があるとする我々の仮説
の妥当性が示された。
 結合の生成に 




に代
また、酸化剤として
 
 
2) M. Yoshida, S. Masaoka, K. Sakai, 
Chem. Lett., 2009, 38,
3, 4)
CeIII(•OH)種の関与があるとする我々の仮説
の妥


ったところ、Figure.1 に示すような吸収スペクトルの変化が確認された。360, 530, 900 nm 付
近の吸収帯の増大から、これらの錯体がビオローゲンカチオンラジカルの 2 量体を選択的



図  各種ルテニウム単核錯体の構造
図 1 各種ルテニウム単核錯体の構造
3)

と 2 で異なることも見出している
。今回、これらの
【実験と結果】ルテニウム触媒 ()


1
速段階において、反応機構に関与する錯体分子数が
体分子数が  と  で異なることも見出してい
の律速段階において、反応機構に関与する錯
(NO3)6]の 1 M HClO4 水溶液に加えて発生する酸素ガ


1 ∼ 
4)
。また、この反応の律
性を有することを報告した
。また、この反応
を有することを報告した
の律速段階において、反応機構に関与する錯









ア錯体
 を有することを報告した
及び  などが特異的に高い触媒活性
。また、この反応
1 及び 2 などが特異的に高い触媒活
ム単核アクア錯体
媒反応に対してより詳細に比較検討を行った


当研究室ではこれまでに、この反応に対してルテニウ
Pt(II)錯体触媒を用いた水素生成反応につ
移動過程と
当日の発表では、ナノ秒過渡吸収スペクトル測定に
は光多電子貯蔵機能を目的として、
ビオローゲン部位を複数連結させた
Ru(bpy)32+誘導体 


でに、この反応に対してルテニウム単核アク
ア錯体  及び  などが特異的に高い触媒活性

る検討を行ったので報告する。
。今回、これらの錯体  の酸素発生触
討した。

でに、この反応に対してルテニウム単核アク
多電子過程であり、困難な反応として知られている。
2+
成では多電子の貯蔵を利用した高度な電子移動システムが存在している。そこで本研究で
Ru(bpy)
誘導体 1-3 の合成を行い、その光誘起電子
かった。
3
いて検討した。
よる光誘起電子移動過程の解析と Pt(II)錯体を用いた
の合成を行い、その光誘起電子移動過程と Pt(II)錯体触媒を用いた水素生成反応について検
光水素生成反応についても報告する予定である。

応として知られている。当研究室ではこれま
4 電子の放出を伴う
水の酸化による酸素発生反応は

結果・考察
ビオローゲン集積型
ビオローゲン集積型 誘導体の
誘導体の光誘起電子移動
光誘起
電子移動過程
水素生成反応への応用
電子移動過程と
過程と水素生成反応への
への応用
応用

緒 言
図
当性が示された。
酸素発生初速度の  濃度依存性
702.
えて当日は、配位子上に導入した置換基が触媒機構に及
当日は、配位子上に導入した置換基が触媒機構に及ぼす影響についても併せて議論し、
 を用いた場合、酸素の発
3
) M. Yoshida, S.
Masaoka,、℃、
J. Abe, K. Sakai, Chem.
Asian J., 
水溶液
雰囲気下
に形成していることが明らかとなった。また、既報の吸収係数の値(ε900 = 3630 M1cm1)から
各錯体の酸素発生触媒機構について詳細に考察を行う予定である。
生はごく微量しか確認されなかったことから、
ぼす影響についても併せて議論し、各錯体の酸素発生
2010, 5, 2369.
錯体  はそれぞれ 1 分子当たり  電子の貯蔵が起こっている事がわかった。

触媒機構について詳細に考察を行う予定である。
の妥当性が示された。

結合の生成に 種の関与があるとする我々の仮説
Chem. Commun., 2012, 48, 239.

4) A. Kimoto, K. Yamauchi, M. Yoshida, S. Masaoka, K. Sakai,

当日は、配位子上に導入した置換基が触媒機構に及ぼす影響についても併せて議論し、




各錯体の酸素発生触媒機構について詳細に考察を行う予定である。




図 1 Spectral change during the light irradiation(350 W Xe lamp with L37 filter). Solution: 0.1 M aqueous acetate buffer
(0.03 M CH3COOH and 0.07 M CH3COONa; pH=5.0)
containing 30 mM EDTA(2Na)and each Ru-MV complex(0.04 mM).



56
Figure 1. Spectral change during the light irradiation (350 W Xe lamp with L37 filter). Solution:
57
1-47
1-48
水素生成機能を有する白金錯体触媒の
耐久性制御に関する研究
○山内幸正 、酒井 健
1
1
メソポーラス有機シリカを用いた
光捕集系の構築と CO2 還元反応
由井樹人 1, 2、竹田浩之 3, 4、上田裕太郎 1、小池和英 4, 5、稲垣伸二 3, 4、石谷 治* , 1, 4
1, 2
1
九大院理、 九大 I CNER
[email protected]
2
2
東京工業大学大学院理工学研究科化学専攻、2 最先端・次世代研究開発支援プログラム、
3
豊田中央研究所、4 CREST/JST、5 産業技術総合研究所
[email protected]
近年、太陽光をエネルギー源とした水の可視光分解
究室では、多成分系における分子性の水素生成触媒と
太陽光を用いて CO2 を還元する光合成型の反応系
反応(2H2O+4 hν→ 2H2+O2)に大変注目が集まってい
して、白金(II)錯体が高い活性を示すことを報告して
は、CO2 の固定化や新規炭素資源の発掘へ繋がる非常
る。水の分解反応は、還元側(2H +2e → H2)と酸化
きた 。
に有用な反応系と考えられる。しかし太陽光は、非常
−
+
1)
側(2H2O → O2+4H +4e )に分けることができ、還元
また、白金錯体の活性を疑問視する報告が最近複数
に希薄なエネルギーであるため、光反応の効率化には
側の反応で生成する水素ガスは燃焼しても水のみしか
なされたが、我々は電気化学的に調製した MV と白
光エネルギーを効率的に捕集する機能が必須となる。
生成しないクリーンなエネルギーである。この分野に
金錯体を水溶液中で混合し暗反応を評価することによ
メソポーラス有機シリカ(PMO)は、孔径が数ナノ
おいては、その光耐久性から不均一系半導体光触媒の
り、その触媒作用を実証することに成功している 。
+
−
+•
2)
メートルの細孔構造を有し、その細孔壁中に有機官能
実用化が期待されている。一方、自然界は金属酵素を
白金錯体 1-4 の反応と分子状水素の反応を例にとり
用いて優れたエネルギー変換過程を達成しており、均
(図 2)、どのような構造を有する白金錯体が触媒反応
ビフェニレン基(Bp)を有する Bp-PMO(図 1)とクマ
一系錯体触媒を用いた分子レベルでの反応制御は依然
中に、より高い安定度を示すと期待されるかを評価し
リン色素の複合体では、その細孔内で高効率な光エネ
魅力的な研究対象である。
たので報告する 3)。
ルギー集約反応が進行する 1)。本研究では、図 2 に示
水の分解反応の還元側である水素生成反応を、可視
光を駆動力として促進させる光反応系として、EDTA/
/ 白金コロイド
Ru(bpy)
3 / メチルビオローゲン(MV )
2+
2+
(水素生成触媒)の多成分からなる光水素生成系(図
1、以下多成分系と略す)が著名である。一方、当研
1) K. Sakai, H. Ozawa, Coord. Chem. Rev., 251, 2753(2007)
2) K. Yamauchi, S. Masaoka, K. Sakai, J. Am. Chem. Soc., 131,
8404(2009)
3) K. Yamauchi, S. Masaoka, K. Sakai, Dalton Trans., 40,
12477(2011)
図 1 Bp-PMO の構造
基が高密度配列した材料群である。有機官能基として
す超分子金属錯体と PMO からなる複合体の特異的な
光化学挙動について検討した。
直鎖状 Re(I)複核錯体と Ru(II)錯体を連結した超
分子錯体(Ru-Re57+)は、均一溶液中において光捕集
能を有する超分子錯体である 2)。中性界面活性剤存在
下、Bp-PMO と Ru-Re57+ とを MeCN 中で撹拌すると、
Ru-Re5 7+ が 細 孔 に 存 在 す る 複 合 体(Ru-Re57+/Bp-
PMO)が得られた。複合体を構成する Bp 基を選択励
起すると、Bp からの発光が消光され Ru 部位からの発
光のみが認められた。モデル化合物を用いた比較対象
実験から、Bp → Re 部位→ Ru 部位を経由した多段階の
エネルギー移動が進行していると結論した。また、発
図 1 多成分からなる光水素生成触媒系(多成分系)
光量子収率の詳細な解析から、約 350 の Bp 基が吸収
した光を 1 分子の Ru-Re5
7+
に光エネルギーを集約し
ていることを明らかにした。
られ、そのターンオーバー数は約 580 であった。この
性剤を用いること無く錯体 /PMO 複合体が合成可能な
結果は、Acd が吸収・集約した可視光を錯体の Ru 部
ことを見いだし、PMO 細孔内で良好な光エネルギー
位にエネルギー移動した後、分子内電子移動と電荷分
捕集が進行することを確認した。この結果をもとに、
離過程を経て、触媒的に CO2 を CO へと変換したこと、
すなわち天然光合成に類似した反応が進行したことを
と、CO2 光還元触媒として機能する Ru-Re 複核錯体
強く示唆する。
応について検討を行った。複合体および犠牲還元剤を
1) Inagaki et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 4042
2) Ishitani et al. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 11743.
(RuP2-ReBr)との複合化を行い、その光 CO2 還元反
含む DMF/ トリエタノールアミン混合溶媒中で 405 nm
58
の可視光を照射したところ、触媒的な CO 生成が認め
錯体にフォスフォン酸基を導入することで、界面活
可視部に吸収を有するアクリドン PMO(Acd-PMO)
図 2 本研究の概要図
図 2 超分子金属錯体の化学構造
59
1-49
1-50
超分子錯体による CO2 還元光触媒機能の飛躍的向上
金属錯体 - 半導体複合系による
新規 Z スキーム型 CO2 還元光触媒の開発
○玉置悠祐、小池和英、石谷 治
○関澤佳太 1、前田和彦 2, 3、小池和英 4、由井樹人 1、堂免一成 2、石谷 治 1, 5
東工大院理工・産総研
[email protected]
CO2 還元を駆動する光触媒の研究が活発化している。
当研究室ではすでに、光増感部としてルテニウム(II)ト
触媒の真の特性を評価するうえで大きな障害となって
いた。
1
東工大院理工、2 東大院工、3 JST さきがけ、4 産総研、5 ALCA/JST
[email protected]
序
濁・攪拌し可視光(>400 nm)を照射した。その結果、
当研究室ではこれまで、可視光を用いて高効率に
還元生成物としてギ酸、CO および水素が生成した(図
リスジイミン錯体、触媒部としてレニウム(I)ジイミン
この問題を克服するため、犠牲還元剤を BNAH から
CO2 を還元する金属錯体光触媒を開発してきた 。し
2)。光照射 9 時間において、ギ酸生成のターンオー
カルボニル錯体あるいはルテニウム(II)ジイミンカル
ベンズイミダゾリン誘導体(R)に変更した結果、ルテニ
かし、これら金属錯体では酸化力が弱く、アミンなど
バー数は 41 に達した。同時にメタノールの酸化生成
1)
ボニル錯体を有する超分子錯体に可視光を照射すると、
ウム(II)−レニウム(I)超分子錯体(Ru-Re)による光
の強い還元剤が必要であるという、光エネルギー変換
物であるホルムアルデヒドの生成が確認され、その量
CO2 を還元し CO あるいはギ酸 をそれぞれ選択的か
触媒反応では TNCO=2026、ルテニウム(II)−ルテニウ
系としては解決しなければならない課題が残されてい
は還元生成物の総量とほぼ一致した。すなわち、本光
つ触媒的に生成することを報告している(TNCO ∼ 200,
1)
2)
ΦCO=12-15 %;TNHCOOH ∼ 560, Φ HCOOH=4.1 %)
。これ
ム(II)超分子錯体による光触媒反応では TNHCOOH=2555
る。一方で、TaON などの半導体光触媒は、水やメタ
触媒反応の物質・電子収支は次式で表され、メタノー
と、BNAH を用いた系と比べ飛躍的なターンオーバー数
ノールなど弱い還元剤を用いた光触媒反応が可能であ
ルを電子源とした CO2 還元が駆動していることが強く
らの光触媒系では、光増感部の励起状態を還元的に消
の向上を達成した。
るが、CO2 の還元をほとんど駆動することができない。
示唆された。
犠牲還元剤として用いているが、この酸化生成物が光
1)(a)Gholamkhass, B.; Mametsuka, H.; Koike, K.; Tanabe,
T.; Furue, M.; Ishitani, O. Inorg. Chem. 2005, 44, 23262336.(b)Tamaki, Y.; Watanabe, K.; Koike, K.; Inoue, H.;
Morimoto, T.; Ishitani, O. Faraday Discuss. 2012 in press
(C1FD00091H).
2) Tamaki, Y.; Morimoto, T.; Koike, K.; Ishitani, O. Angew.
Chem. Int. Ed. 2012 submitted.
光できる 1-benzyl-1,4-dihydronicotinamide(BNAH)を
触媒反応の阻害要因となっていることを見出した
。
1b, 2)
BNAH は一電子酸化されると脱プロトン化を経て二量
化生成物 BNA2 に定量的に変換される。光触媒反応が
進行するにつれて、蓄積した BNA2 が、BNAH による
光励起された光増感部の還元的消光過程を阻害するた
め、光触媒反応速度は低下してしまう。このことが光
そこで、我々は金属錯体と半導体を組み合わせたハイ
ブリット型光触媒(図 1)を構築し、それぞれを順次
2CO2 + 3CH3OH → HCOOH+H2+CO+H2O+3HCHO
的に光励起することで、金属錯体の高い CO2 還元能と
半導体の強い酸化力を兼ね備えた Z- スキーム型光触
また、Ru2 または Ag/TaON のどちらか一方のみを
媒が可能ではないかと考えた。本研究では、助触媒と
用いた場合、もしくは光を照射しなければ、CO2 の還
して Ag を担持した TaON(Ag/TaON)の表面に CO2 還
元生成物は全く検出されなかった。すなわち、金属
元能を有する Ru 二核錯体(Ru2)を吸着させた複合体
(Ru2-Ag/TaON)を合成し、従来の金属錯体光触媒で
錯体 - 半導体複合系による CO2 還元能は、金属錯体と
TaON の両者を組み合わせたことで発現した光反応で
は還元剤として利用できなかったメタノールを用いた
あり、図 1 に示した Z- スキーム型の機構で光触媒反応
CO2 の光還元を達成したので報告する。
が進行していることが強く示唆された。
結果・考察
1) Ishitani, O. et al. Coord. Chem. Rev. 2010, 254, 346.
Ru2-Ag/TaON を CO2 雰囲気下でメタノール中に懸
図 ルテニウム(II)−レニウム(I)超分子錯体によ
る光触媒反応(犠牲還元剤 BNAH:○;R:●)
図 1 Z- スキーム型複合系光触媒
60
図 2 光触媒反応生成物の経時変化
61
素酵素を用いた二酸化炭素からメタノールへの変換反応に関する研究を行った.具体的
には電子供与体としてトリエタノールアミン(TEOA),光増感剤としてクロロフィル類
似体である亜鉛テトラフェニルポルフィリンテトラスルフォナート(ZnTPPS),電子伝
達体としてメチルビオローゲン (MV2+),触媒としてギ酸脱水素酵素 (FDH),アルデヒ
1-51ド脱水素酵素(AldDH),アルコール脱水素酵素(ADH)および NaHCO3 を含む反応
系に光を照射することによってメタノールの生成を試みた.
二酸化炭素をメタノールに変換する人工光合成系の構築
メタノール生成反応は以下のように行なった.ZnTPPS (0.1 µM),TEOA (0.3M),
MV2+ (0.1mM)を含む pH7.0 の溶液を調製し,
溶存酸素を除くため凍結脱気を行った後,
気相をアルゴン置換し,FDH,AldDH,ADH をそれぞれ 12.5 units および 1mM
NaHCO3 を加え,光照射を行い,反応溶液を採取しガスクロマトグラフによりメタノー
天尾 豊
ルの生成量を定量した(Sorbitol
25%-Gasport
大分大工、JST さきがけB column (2 m × 3 mm i.d., GL
-u.ac.jpgas, N2; flow rate, 21.8 mL min-1).
amao@oita
Sciences),oven temperature:100°C;
carrier
最初に,メタノール生成反応の鍵となる TEOA,ZnTPPS,MV2+系による MV2+の光
還元反応について検討した.その結果,
本研究では二酸化炭素の有効利用法の開発として太
MV2+濃度 0.1mM の時に最も MV2+か
陽光の分布強度が強い可視光領域の光を利用した二酸
ら還元型 MV2+へ変換されることが分か
化炭素からの有用物質生産系の構築を目的として、光
った.以後の実験では,MV2+ 濃度を
増感剤と脱水素酵素を用いた二酸化炭素からメタノー
0.1mM とした. さらに,MV2+の光還
ルへの変換反応に関する研究を行った。具体的には電
元反応に対する NaHCO(
の添加効果を
3 TEOA
)
、光増
子供与体としてトリエタノールアミン
感剤としてクロロフィル類似体である亜鉛テトラフェ
調べた結果,NaHCO3 は反応系に対して
ニルポルフィリンテトラスルフォナート
(ZnTPPS)、
大きな影響を与えないことが分かった.
MV2+2+
)
、触媒
電子伝達体としてメチルビオローゲン
(MV
最後にTEOA,
ZnTPPS,
,
FDH,
、アルデヒド脱水素酵
としてギ酸脱水素酵素(FDH)
AldDH, ADH および NaHCO3 を含む
、 ア ル コ ー ル 脱 水 素 酵 素(ADH)お よ び
素(AldDH)
反応溶液に光照射したときの,メタノー
NaHCO3 を含む反応系に光を照射することによってメ
ル生成の経時変化を図1に示す.光照射
タノールの生成を試みた。
メ タ ノ時間とともにメタノールが生成している
ー ル 生 成 反 応 は 以 下 の よ う に 行 な っ た。
図 1 Time dependence
of methanol
production
with the
2+
Figure
1. Time dependence
of methanol
production
ZnTPPS(ことが分かる.
0.1 μM)
, TEOA(0.光照射
3 M)
, MV240
(0分後のメタノー
.1 mM)を含む
system consisting of TEOA, ZnTPPS, MV 2+, NaHCO 3,
with the system consisting of TEOA, ZnTPPS,
pH7.0 の溶液を調製し、溶存酸素を除くため凍結脱気を
ル生成量は 0.55 µM であった.
FDH, AldDH
2+ and ADH in potassium phosphate buffer(pH
行った後、気相をアルゴン置換し、FDH, AldDH, ADH
をそれぞれ 12.5 units および 1 mM NaHCO3 を加え、光照
射を行い、反応溶液を採取しガスクロマトグラフにより
メタノールの生成量を定量した(Sorbitol 25% -Gasport
、oven temperaB column(2 m × 3 mm i.d., GL Sciences)
ture:100℃ ; carrier gas, N2; flow rate, 21.8 mL min )
。
−1
MV , NaHCO , FDH, AldDH and ADH in
potassium phosphate buffer (pH 8.0) under steady
state irradiation at 30˚C.
3
irradiation at 30° C.
8.0)under steady state
MV2+ の光還元反応に対する NaHCO3 の添加効果を調
べた結果、NaHCO3 は反応系に対して大きな影響を与
えないことが分かった。
最後に TEOA, ZnTPPS, MV2+, FDH, AldDH, ADH およ
と な る TEOA,
び NaHCO3 を含む反応溶液に光照射したときの、メタ
系による MV の光還元反応について
ノール生成の経時変化を図 1 に示す。光照射時間とと
検 討 し た。 そ の 結 果、MV 濃 度 0.1 mM の 時 に 最 も
もにメタノールが生成していることが分かる。光照射
MV から還元型 MV へ変換されることが分かった。
240 分後のメタノール生成量は 0.55 μM であった。
最 初 に、 メ タ ノ ー ル 生 成 反 応 の
ZnTPPS, MV
2+
2+
2+
2+
2+
以後の実験では、MV 濃度を 0.1 mM とした。さらに、
2+
62
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