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高い成長を目指す中国企業

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高い成長を目指す中国企業
まず,日本企業
ヘイグループ ノースイースト・アジア代表
Wayne Chen(ウェイン・チェン)氏
が必須条件になるからです。
の皆さんにとっ
面白いデータがあります。2007年にフィナンシ
て,少し衝撃的か
ャル・タイムズなどが実施した調査によると,調
もしれない事実か
査対象になった優秀な中国人の 55%は,欧米の
らお話ししたいと
MNCで働きたいと回答していましたが,2010年の
思います。
同種の調査によると,その率は18%に大きく低下
ご存知のよう
しています。わずか 3 年という短い期間の変化と
に,現在の中国経
しては驚異的です。今,欧米企業でぜひ働きたい
済は,インフレな
という中国人は 2 割を切っているのです。その背
どの懸念材料を含
景には,中国企業の人気が高まっているのと,転
みながら,急拡大を続けています。当然,各企業
職率の上昇があります。
の成長目標も高いものになります。まず,ほとん
自発的選択としての転職率は,リーマンショッ
どのヨーロッパから来ているMNC(Multinational
クの影響が色濃く残っていた2009年が12%だった
companies)は平均で20%の年間成長率を掲げ,ア
のに比べ,2010年は21%に上昇しています。それ
メリカから中国に来ているMNCは,30∼40%の成
だけ魅力的な仕事への機会が増えたという背景が
長を目標に掲げています。これだけでもかなり高
あり,少しでも良い条件の仕事を求めて転職する
い成長率ですが,中国企業はこれよりはるかに高
人が増えているのです。同時に,中国企業が大き
い成長,拡大を目指しています。最低でも50%,
くなり,職場としても欧米のグローバル企業に劣
できれば100%の成長を目指しているのです。
らないとみられるようになってきているという変
化があります。
高い成長を目指す中国企業
中国企業の多くは,製品の競争力,投資家への
欧米のMNCや中国の大手企業が,どのようなス
利益還元,従業員の待遇改善,経営陣の能力向上
ピードで成長しようとしているのかを理解する上
に努めており,全体としてかなり魅力あるものに
で,非常に大事な数字であることを覚えておいて
なりつつあります。特にタレントと呼ばれる優秀
いただきたいと思います。というのも,中国にお
人材にとっては,中国企業でチャレンジングな仕
ける人材マネジメント,リーダーの確保,育成,
事をすることは,大きな魅力です。こうした変化
さらには労務問題への対処など,いわゆる人材を
の結果,中国の優秀人材が,欧米企業志向から変
巡る競争を議論する前提としては,こうした高い
わりつつあるのです。これは 5 年前には見られな
成長を目指す企業群の存在を常に念頭におくこと
かった現象で,今後はこの傾向に,さらに拍車が
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人事マネジメント 2011.9
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すぐに始められる定型的な仕事への人材供給とは
かかることが予想されます。
違い,すでに見たように,かつては欧米と日本か
人材獲得競争にいかに対処するか
らの進出企業に集中していた優秀人材への需要は,
さて,少し回り道をしましたが,今中国のタレ
中国企業でも年々高まっているのです。優秀人材
ント(優秀人材)たちが,どういう環境に置かれ
に対しては,他社との人材競争に負けないだけの
ているか,お分かりいただけたと思います。完全
報酬体系を提示する必要があります。少なくとも
な売り手市場になっているのです。
今の中国で,いくつかの企業から声がかかるよう
中国での事業を発展させるために,優秀な人材
をどう確保,育成するか。これは日本企業の多く
な優秀人材を確保するには,魅力的な報酬パッケ
ージを用意する必要があります。
にとっても,大事な課題になるはずです。このテ
日本企業で働いてから転職した中国人から聞い
ーマについて,ヘイグループが2010年に中国で実
た話があります。「君は大事な人材だから我が社で
施した調査に,面白い傾向が出ていますので,ご
長く働いてくれ」と言われ,我慢していたが,周
紹介しましょう。図表 1 に掲げた調査結果は,世
りを見ていると,若手が昇進するまで10年もかか
代ごとに会社選びの優先順位が違うことを示して
る。これではとてもこの会社にいることはできな
います。50歳以上は,給与を転職の理由の 1 番目
い,と思ったというのです。暗黙のうちに日本企
に挙げています。40代と30歳以下では 2 番目にな
業のマネジャーは,終身雇用的発想になってしま
っていますが,どの世代でも理由の上位に挙げら
っているのでしょうが,これでは日本以外では通
れています。これには,中国,特に沿海部のイン
じません。さらにこの調査にも出ているように,
フレの影響もあります。日本や欧米と違って,今
若手世代では,その仕事で成長できるか,そのた
の中国では経済の拡大と物価の上昇がいわばセッ
めの機会は提供されているかという要素も,会社
トで進行しています。どうしても,自分の昇給率
選びの優先項目になります。同じ2010年の調査で,
がインフレ率より上にないと不安になります。
会社を辞める理由を聞いた結果は,図表 2 のよう
ほぼすべての世代で,仕事選びの基準として,
になっています。ここでは不適切な給与システム
給与を挙げている背景には,もうひとつ圧倒的な
という項目が,特に若手世代で目立ちます。給与
人材不足があります。簡単なトレーニングのあと
の絶対額というよりも,納得できる評価・昇給制
図表 1 会社選びの優先項目トップ 5
年齢
50歳以上
40代
30代
30歳以下
1
高い給与
挑戦し甲斐のある仕事
高い給与
成長機会が多い
2
挑戦し甲斐のある仕事
高い給与
会社への社会的評価
高い給与
3
会社への社会的評価
ワークライフバランス
成長機会が多い
挑戦し甲斐のある仕事
4
長期的インセンティブ
会社への社会的評価
ワークライフバランス
会社への社会的評価
5
ワークライフバランス
長期的インセンティブ
挑戦し甲斐のある仕事
ワークライフバランス
(C)ヘイグループ
図表 2 会社を辞める理由トップ 5
年齢
50歳以上
40代
30代
30歳以下
1
仕事の将来が不安
直属上司との問題
不適切な給与システム
成長機会がない
2
貢献評価がない
不適切な給与システム
直属上司との問題
仕事量が多すぎる
3
業績評価が不十分
業績評価が不十分
人材評価が一貫しない
不適切な給与システム
4
直属上司との問題
成長機会がない
成長機会がない
貢献評価がない
5
不適切な給与システム
仕事の将来が不安
業績評価が不十分
直属上司との問題
(C)ヘイグループ
2011.9 人事マネジメント
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図表 3 中国企業における日本企業が抱える典型的問題
日系大手企業における状況
典型的問題
日本から来ている財務,経営トップが人事のトップも兼ねてい
ることが多い
人事施策がその場しのぎ的になりがちで,長期戦略が見えない。
賃金交渉,人材育成などで問題発生。
グレードが(仕事内容ではなく)人に付いている
昇進基準が曖昧になり,年功的になりがち。そのためキャリア
上昇志向の人材の離職率が高まる。
昇給カーブがフラットで上位職種に移っても魅力がない
せっかく優秀人材を育成しても他社に引き抜かれるケースが多
くなる。
中国人は,基幹職を担当する日本人の補助業務しか与えられない
業務の中核を担える中国人優秀人材が育たず,その企業の業績
も停滞する。
業績評価結果が日本人だけで決められ,中国人の意見が反映さ
れない
日本語を話すとか,日本人の周辺で働く人間が不当に高い評価
を得ることが多いという印象を生む。
人事部門が採用,育成,人員配置までやっている
優秀人材の育成,活用の方針が不透明で,各現場で求められる
タレントが育たない。
(C)ヘイグループ
度がないという不満です。
会社を選ぶ理由,辞める理由の上位に給与に関
する項目が来ていることは,今の中国の現状とし
て認識しておく必要があります。
リアを積み上げていこうとする人々の離職率が高
まることになるわけです。
3 番目は,給与の上昇カーブが緩やかに設定さ
れており,昇進してもあまり給与が上がらず,魅
力の乏しいものになっている,という認識です。
日本企業独特の課題とは
その結果,せっかく日本企業が力を入れて育成し,
さてここに,中国における日本企業で働く従業
ある程度成長して新しい仕事についても,給料が
員の声を集めた,一覧表があります(図表 3 )。皆
あまり変わらないことに失望し,より魅力的な報
さんの企業に当てはまるかどうか,ぜひご覧いた
酬体系の会社に移ってしまうということが,頻繁
だきたいと思います。ここには,各企業の現場,
に起こるわけです。
職場で何が起こっているかが示されています。特
4 番目は,やりがいに関係してきます。日本企
に,日系大手企業で働く中国人の不満や疑問が具
業では,重要職務はほとんどすべて日本人によっ
体的に示されているといえるでしょう。
て占められていて,中国人はそういう日本人の補
まず左の欄を見てください。 1 番目に挙げられ
助職的な仕事しか与えられないことが多く,その
ているのは,日本から派遣されている日本人の幹
結果,その企業全体の成長が遅れ,より次元の高
部社員が,あまりにも多くの重要職務を兼務して,
い仕事をする機会が訪れない,という問題につな
中国人スタッフにそれらの職務を担当させようと
がります。戦略的にも後れを取ることが多くなり,
しない不満が表れています。財務その他の経営職
そういう会社にいることの意味が薄れてしまうと
務を担う人が,同時に人事の責任者も兼務してい
いう悪循環が始まります。
ることが多く,そのために人事施策が極めて場当
5 番目には,業績評価への疑問が記されていま
たり的,ルーティン化しており,戦略的人材育成
す。中国人の評価も,日本人のエクスパット
などの視点が欠けているというのです。
(Expatriateの略:外国から来ている企業幹部)だけ
2 番目は,職務グレードが多くの会社において
で決められることが多く,中国人はその評価に加
仕事ではなく「人」に張り付いているために,昇
わることができない現実を示しています。その結
進基準が不明瞭になり,勤務年限に影響されやす
果,どういう弊害が起こるか? あまりいい結果
い弊害があると見られています。その結果,キャ
を出していなくても,日本語を話す者や,日本人
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幹部の周辺で仕事をする者がいい評価をもらい,
実質的な権限を持つというやり方)は,非常に変
得をすることが多いと中国人の多くが思うように
わっていると言わざるをえません。
なり,そのことが不公平感につながります。
ところが日本発のMNCにおいては,日本でのや
6 番目の問題には,少し詳しい説明が必要かも
り方をそのまま中国に持ち込み,人事部門がすべ
しれません。人事部門が,採用から育成,さらに
てやろうとするために,疑心を呼び,不満を増大
は人員配置まで細部にわたって横串を刺す一方,
させてしまうのです。
ラインマネジャーにタレントマネジメントの方針
が伝わっておらず,そのために人材育成,特にリ
人事にもジャスト・イン・タイムを
ーダーの育成に成果が上がらないという不満や疑
ではどうするか? 簡単に答えの出る問題では
問です。日本のヘイグループのコンサルタントと
ありませんが,私は少なくとも次の 3 つのことを
もこの点についてはよく話すのですが,私自身も
提案したいと思います。
初めはなぜ日本の会社では人事部門が現場の人員
①中国に赴任する日本からの人材はもっとビジョ
配置にまで関与するのか,なかなか理解できませ
ンを示せるリーダーを(指示命令型ではなくチ
んでした。欧米では,人員計画は現場のマネジャ
ームと議論し,方向をリードしていけるビジョ
ーの専権事項で,人事はそのサポート役です。し
ナリー型の人材を育成し,派遣する)
かし何度かの話を通じて,おそらくこういうこと
だろうという理解に至りました。
日本の大企業は,世界では例を見ない形で,新
②人材のジャスト・イン・タイムを(ものづくり
でジャスト・イン・タイムを世界に広めた日本
企業が,人材に関しては全くそうなっていない。
卒偏重の採用を行い,採用した者がある部門でし
人材の滞貨が多すぎる。より柔軟で,ニーズに
か仕事ができない偏った人材にならないよう,な
即応できる人事運営に転換する)
るべくゼネラリストになるよう教育・研修を行い,
③経営レベルで,より積極的な中国人の優秀人材
配属も決めます。その配属も,本人が営業職希望
の活用を(より激化する人材獲得競争で欧米,
だったら財務や経理,研究職希望だったら製造の
中国企業に負けないためには,中国人タレント
現場などに,意識的に異なった仕事を経験させる
を活用できる度量とシステムが求められる)
こともあると聞きます。育成についても,部門間
この 3 つのポイントが日本企業が中国で発展す
のバランスや年次を考慮して,人事部門から,こ
るための参考になれば,これほど嬉しいことはあ
の人とこの人に研修を受けるようにと指定するケ
りません。
ースが多いといいます。さらに人手が足りなくな
った部署に人員を配置するのも人事部の仕事。現
ヘイジャパンからのコメント
この原稿は,上海,北京,重慶,深 ,香港にあるヘ
場のラインマネジャーは,採用計画を立てたり,
イグループの全拠点を統括する,グレイターチャイナ代
人材斡旋会社にコンタクトして直接採用したりとい
表のウェイン・チェンが,東京を訪れた際に行った講演
う,欧米では当たり前のことができないそうです。
とインタビューをもとにしています。人事にもジャス
ト・イン・タイムの発想をという提案,また日本からの
これは,世界的に見ると,非常に例外的なやり
出向者が財務,営業,人事などの基幹職務の現場を兼務
方です。私自身は,アメリカのグローバル企業の
していることの問題,考え方の違い,業務遂行文化の違
中国法人で長い間働いた経験があり,アメリカで
いなどを指摘しています。中国ビジネスのあり方を考え
も働いたことがありますが,日本のやり方(人事
る上で参考にしていただければ幸いです。
部門が採用,育成,配置といった多くの分野で,
(代表 高野研一)
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