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リース会計と会計認識領域の拡大: アウトソーシングのオンバランス化試論

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リース会計と会計認識領域の拡大: アウトソーシングのオンバランス化試論
Hirosaki University Repository for Academic Resources
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リース会計と会計認識領域の拡大 : アウトソーシン
グのオンバランス化試論
加藤, 久明
人文社会論叢. 社会科学篇. 5, 2001, p.97-118
2001-03-30
http://hdl.handle.net/10129/1027
Rights
Text version
publisher
http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/
リース会計と会計認識領域の拡大
アウトソーシングのオンバランス化試論
加
藤
久
明
Ⅰ. はじめに
Ⅱ. アウトソーシングの概要と現代的特徴
1) 定義と分類
2) 従来型と今日型
3) アウトソーシングの仕組み
4) メリットとディメリット
Ⅲ. アウトソーシングのオンバランス化
1. アウトソーシングとリースの異同点
1) 支払義務
2) 契約期間
3) 契約料
4) 契約対象
5) リスクと便益の帰属
2. リースのオンバランス化の論理
3. リースを軸足としたアナロジー・アプローチ
1) 委託企業の会計処理
2) 受託企業の会計処理
Ⅳ. おわりに
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近年、 会計認識領域の拡大について論じられることが多い。 この文脈における 「認識」 とは、 一
言でいえば、 ある会計的取引が財務諸表本体で適切な科目と金額をもって表現されることを意味す
る1。 この解釈によれば、 貸借対照表で資産・負債として計上されるのも、 また、 損益計算書で費
用・収益として計上されるのも、 共に会計上の認識行為であるということになる。
とりわけ、 財務会計においては、 投資意思決定に有用な情報をその利用者に提供するという観点
から、 それまで損益計算書項目として認識されていたものを貸借対照表項目として認識しなおすケー
スが多く見受けられる。 それがいわゆるオフバランス取引のオンバランス化であり、 リース会計が
その典型であろう。 すなわち、 レッシーが行う伝統的なリース会計においては、 すべてのリースが
費用として処理 (賃貸借処理) されていたが、 今日では、 リスクと便益の移転を伴うリースは資本
化処理され、 リース資産及びリース負債が計上されるのである2。
これを会計認識領域の拡大という観点からみれば、 リース資本化とその理論を当該領域にのみ適
用される個別理論として位置づけるのではなく、 リースと取引内容や経済効果が実質的に等しいも
のに対しては一般的性格を有するものとして、 現行会計の枠組みの中で広く捉えていくことが求め
られよう。 そこで本稿では、 リース会計に期待される理論的課題として、 アウトソーシングを事例
としてそのオンバランス化を検討することにしたい。 従来、 アウトソーシングは、 もっぱら管理会
計上の問題として論じられることが多かったように思われる。 本稿は、 これを財務会計上の問題と
して取り扱うものである。
企業経営を取り巻く環境が大きく変わりつつある中で、 変化に柔軟に対応して競争力を強化する
経営手法として、 アウトソーシング (
) が注目を集めている3。 その定義は様々である
が、 日本においてアウトソーシング・ビジネスを展開する代表的な企業においては、 アウトソーシ
ングとは、 「コスト削減、 コアビジネス (中核事業) への経営資源の集中、 製品や商品の品質向上、
販売促進、 技術や人材不足からくる経営課題の解決などを目的として、 社内のジョブ・プロセスや
機能の一部ないしは全部を、 外部の専門機関に委託させること」4 と理解されている。
もともと、 アウトソーシングといえば情報システムの外部委託を指しており、 それは特に1980年
代後半からアメリカを中心に広く普及したものであった5。 しかし、 今日では、 アウトソーシング
の対象は情報システムにとどまることなく、 生産、 流通、 販売、 人事、 経理などビジネス・プロセ
スのあらゆる局面に及んでいる。 また、 「社内の業務を外部に委託する」 あるいは 「経営資源を外
部に求める」 というアウトソーシングの語源からすれば、 その対象をコンピュータ関連分野に限定
する必要はない6。 このように考えると、 従来から行われてきた下請、 請負、 派遣などもアウトソー
シングの範疇に含まれるであろう7。
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これを踏まえてアウトソーシングの対象業務を分類すれば、 図表1のようになる。 縦軸では、 当
該企業の事業特性によって対象業務を分けている。 ここでは、 企業の事業内容と強く関わりのある
ものをビジネスオリエンテッド、 ある程度はどの企業でも共通して行われているものを業務オリエ
ンテッドと呼んでいる。 横軸では、 これらをさらに対象業務の特殊性によって分けている。 ここで
は、 企業ごとに特有の業務が行われる傾向にある場合を企業特定性が高いものとし、 少なくとも同
じ業界であれば同様の業務が行われる傾向にある場合を企業特定性が低いものとしている8。
ビジネス
オリエンテッド
・物流サービス
・テレマーケティング
業務
オリエンテッド
・人材派遣
低
・製品供給
・商品開発
・技術開発
・情報システム (営業
支援システム、 など)
・専門サービス
・情報システム (会計
システム、 など)
企業特定性
高
(出所) デロイトトーマツコンサルティング編 [1999:93頁] より作成。
また、 取引形態や組織関連性を意識してアウトソーシングを分類すれば、 ①垂直アウトソーシン
グ (下請型)、 ②人材アウトソーシング (派遣型)、 ③機能アウトソーシング (横請型) に分けられ
る9。 垂直アウトソーシングとは、 本社工場は組立作業に専心し、 部品は系列企業、 加工は下請け
加工業に委託するという形態で、 日本の自動車メーカーにその典型をみることができる。 人材アウ
トソーシングとは、 いわゆる人材派遣の形態であり、 コンピュータ・メンテナンスや設計 操
作などの技術者の派遣から事務系要員の派遣まで、 多岐にわたるものである。 機能アウトソーシン
グとは、 受託企業が人材と設備を組織化して委託企業のニーズに応える形態であり、 それにより委
託企業は、 社内の周辺業務の一部ないし全部を丸ごと外部化することができる。 この分類に即して
言えば、 従来のアウトソーシングは①または②のタイプであったが、 今日では③のタイプがクロー
ズアップされている。
従来のアウトソーシングは、 下請や請負の形態をとる場合が多い。 両者とも業務の一部ないし全
部を外部に委託するという点では共通しているが、 下請の場合は、 垂直的な系列関係が前提とされ
ており、 受注側は発注側の企画・設計プランに従って忠実に業務を代行するのが通常である。 請負
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の場合は、 発注側と受注側の契約関係が前提とされるが、 両者の間にそれほど明確な指揮命令関係
があるわけではない。 これらを 「発注=受注」 の関係として広く捉えるならば、 いずれも外注の範
疇に含まれるであろう。
これまでの外注化は、 大企業と中小企業の賃金水準の差異に着目したものや、 本業と直接的な関
わりのない業務のコストを削減するなど、 コスト中心の発想で補助的・定型的な周辺業務を対象に
行われるものという見方が強かった。 それは、 企業経営全体としてみた場合、 部分的な効率化を目
指すアプローチであり、 必ずしもビジネスモデルの再構築を伴うものではない10。
しかし、 1990年代から情報処理やシステム開発の分野でアウトソーシングの活用が本格化し、 経
営手法としてのアウトソーシングが注目されるようになると、 人事、 経理、 総務などの管理部門の
ほか、 研究開発、 経営企画、 営業・販売部門など、 これまでならば自社内で完結していた基本的・
非定型的な基幹業務にまで対象領域が広がるようになった11。 ここにきて、 アウトソーシングは、
その委託企業と受託企業の双方にとって、 従来の外注化の意味を残しながらも、 それとは異なる意
味をもつようになったのである。
まず、 委託企業にとって、 アウトソーシングは戦略性を有するようになった。 すなわち、 今日の
アウトソーシングは、 単なるコスト削減を目的とするにとどまらず、 むしろそれを前提としながら、
外部専門性を活用して自社のコア・コンピタンス (中核となる能力や業務) に経営資源を集中させ
ることで、 競争優位の確立、 付加価値の創出、 企業価値の向上等を目指すなど、 外部との協力関係
を経営戦略の中に組み込んでいくという思考が極めて強くなってきたのである12。 さらに戦略性が
強くなると、 買収や合併のようなハードな結びつきではなく、 ソフトな結びつきとして戦略的提携
(
) が形成される場合もある13。 要するに、 単なる財・サービスの交換関係ではな
く、 受託企業との継続的なパートナーシップによって、 より効率的で競争力の高いビジネスモデル
を構築していくことが、 ここでの本質的な狙いなのである14。
委託企業のこのようなニーズに応じて、 受託企業のアウトソーシングに対する取り組みも変容す
るようになった。 すなわち、 受託企業の事業内容は、 単に委託企業が決めた特定業務を遂行するだ
けでなく、 その専門的知識を活かしながら、 委託企業に対して企画・設計を含めた業務プロセスを
提案するという総合的なサービスにまで発展するに至ったのである。 このように、 今日のアウトソー
シングは、 その機能面においてコンサルタント機能と業務代行機能を併せ持つところに特徴がある
のである15。
以上のことから、 今日のアウトソーシングは戦略指向であり、 従来のそれは請負指向であるとい
うことができる。 この性質の相違に着目して、 今日のアウトソーシングは、 従来のそれと区別する
意味で、 「戦略的アウトソーシング」 とも呼ばれている。
100
アウトソーシング・ビジネスに新規参入する企業も多くあるが、 労働者の派遣事業が最も近い位
置にあるため、 人材派遣会社がこの分野の中心的存在となっている16。 人材派遣とは、 一言でいえ
ば、 「
必要な時に
必要な専門スタッフを
での業務遂行をサポートするシステム」
17
必要とされる期間のみ
派遣し、 その派遣先企業
である。 人材派遣会社がアウトソーシングを受託する場
合、 顧客のニーズや提供するサービスに応じて人材と設備を組織化する。 このとき、 プロジェクト
ごとに適切な人材を募集する場合もあれば、 派遣登録人材のうち稼動していない人材を活用する場
合もある18。
アウトソーシングと人材派遣は、 いずれも就労中の労働者が派遣元企業の契約社員である点で共
通している。 よって、 契約が成立すれば、 委託企業 (派遣先) は受託企業 (派遣元) に対して契約
料を支払い、 受託企業 (派遣元) はその一部をスタッフに給与として支払う。 しかし、 スタッフに
対する指揮命令関係には相違がみられる。 すなわち、 アウトソーシングの場合、 そのスタッフは受
託企業の指示に従うが、 人材派遣の場合は派遣先企業の指示に従うのである。 これを図解すれば図
表2のようになる。
①人材派遣
契約関係
派遣元
派遣先
雇用関係
指揮命令関係
スタッフ
②アウトソーシング
契約関係
受託企業
雇用関係
委託企業
指揮命令関係
スタッフ
また、 アウトソーシングを導入する場合、 今までその業務に従事していた人員をどのように再配
置するのかについては、 ①配置転換方式、 ②人員移籍方式、 ③分社方式、 ④部門売却方式、 ⑤共同
会社方式という5つの方式が確認されている19。
101
配置転換方式は、 対象業務の人員を社内の他部門に配置換えしたり、 子会社・関連会社に出向・
転籍させてからアウトソーシングを導入する方式である。 人員移籍方式は、 対象業務の人員を受託
企業に移籍させてアウトソーシングを導入する方式である20。 分社方式は、 対象業務の人員と設備
を丸ごと別会社として分離させ、 そこにアウトソーシングを委託する方式である。 部門売却方式は、
対象業務の設備を第三者 (あるいは受託企業) に売却すると共に、 人員を受託企業に移籍させてア
ウトソーシングを導入する方式である。 共同会社方式は、 対象業務の遂行に必要な人材や設備につ
いて受託企業と共同出資して会社を設立し、 そこにアウトソーシングを委託する方式である。
その他にも、 アウトソーシングを導入すると、 対象業務の人員と設備は不要となるはずであるか
ら、 これらを丸ごと削減してしまうという方式もあり得る。 これは、 理論上、 費用対収益効果に最
も優れた方式であるが、 アウトソーシングの導入を口実としたあからさまな人員削減であるから、
残された従業員のモラールやロイヤリティが低下し、 かえって労働生産性が低下する可能性がある。
そのため、 現実的には、 この方式はあまり見受けられない。
わが国のアウトソーシングは、 終身雇用制と年功序列賃金制に代表される日本的雇用慣行、 また、
協調的な労使関係や良好な組合関係をできるだけ維持するとの観点から、 配置転換方式が一般的で
ある21。 また、 株式相互持合や役員派遣等による系列関係の形成、 下請企業体制を受け皿とした垂
直的統合などで特徴づけられる日本的経営システムの下では、 分社方式も重要な特徴をなしてい
る22。
一方、 アメリカのアウトソーシングは、 本業に経営資源を集中させるコア・コンピタンス経営の
思考が強く、 産業再生のためのリストラクチャリングの一環、 またはその延長線上で行われてい
る23。 そのため、 とりわけ情報システムのアウトソーシングでは、 コンピュータ関連設備の売却の
みならず、 人員の移籍を伴うケースが多い24。 このことから、 アメリカでは、 人員移籍方式または
部門売却方式が一般的であると言われている25。
委託企業からみたアウトソーシングのメリットとディメリットについて、 その要点を簡単にまと
めておこう26。
まず、 アウトソーシングのメリットについて、 コスト面に焦点を当てると、 ある周辺業務を内部
化している場合、 当該業務を継続させるために人員補充や設備投資が必要とされる。 しかし、 それ
をアウトソーシングすれば、 当該業務に係る人員や設備は余剰となる。 そこで、 設備の売却を行え
ば、 維持費・減価償却費等の経費や固定資産税等の税金を削減することができ、 また、 人員の移籍
や削減を行えば、 人件費・福利厚生費等の労務費を削減することができる。 アウトソーシングの契
約料はこれらの諸費用を下回るケースが多いので、 委託企業はコスト削減を実現できる。 また、 こ
れらの諸費用を契約料という形でひとまとめにすることができるので、 複雑なコスト構造を改善す
ることも可能である。
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経営面に焦点を当てると、 余剰となった人員や設備は貴重な経営資源である。 そこで、 これらの
人的・物的資源を削減せずに、 自社のコア・コンピタンスや高付加価値事業に割り当てて競争力を
強化したり、 あるいは、 新規事業進出のために再組織化して業容を拡大するなど、 既存事業の再構
築を行うことが可能である。 さらに、 アウトソーシングの受託企業は、 専門性の高いスタッフと最
新の設備・技術を有しているので、 たとえ周辺業務のアウトソーシングであっても、 その専門化・
迅速化により全社的なサービス品質が向上することも考えられる。 また、 サービス水準保障付きの
固定価格契約にしておけば、 新規事業への進出や新たな付加価値の創出を行う上でリスクの管理・
分散手法として利用できるなど、 経営環境の変化に柔軟に対応することも可能である。
次に、 アウトソーシングのディメリットについて、 社内の人的・組織的問題に焦点を当てると、
アウトソーシングの導入は、 先述のどの方式によっても現在就労中の従業員について人事異動を伴
う。 そのため、 短期的な問題としては、 異動対象となった従業員がアウトソーシングのスタッフや
受託企業自体に敵対意識をもったり、 また、 その他の従業員が過剰な危機意識を抱くようになると、
それが全社レベルでの心理的動揺をもたらし、 ひいては、 社内のモラールや労働生産性、 さらには
競争力さえも低下させてしまう可能性がある。 中長期的な問題としては、 対象業務に携わっていた
人員の削減や配置換えにより、 社内に蓄積されてきた固有のナレッジやノウハウが発展しないばか
りか、 その継承もなされないため、 社内での人材育成能力や技術開発能力が衰えてしまい、 契約終
了後にそれをアップデートするのにかなりの時間を要することもある。 もちろん、 これらは適切に
対処すれば解決可能であるが、 特に人間心理の問題には慎重な対応を要する。
受託企業との提携関係上の問題に焦点を当てると、 企業経営上、 本来、 中核業務と周辺業務は完
全に相互独立したものとしては存在し得ない。 そのため、 アウトソーシングを導入するほど、 また、
対象業務と中核業務との関連性が強いほど、 受託企業に対する経営上の依存度が高くなる。 例えば、
製造業が生産工程の一部をアウトソーシングした場合に上記の中長期的な問題が生じると、 契約を
打ち切ることが困難になる上に、 受託企業が倒産した場合には共倒れの危険も出てくるのである。
また、 委託企業と受託企業の間でサービス水準に関する評価基準が異なっていたり、 受託企業の提
供するサービス内容そのものが委託企業のニーズを満たしてない場合もあり得る。 その他、 受託企
業が複数の企業とアウトソーシング関係をもっている場合には、 自社固有の技術や従業員の個人情
報が流出したり、 他社のトラブルが自社に影響するなどの問題もある。 このように、 受託企業の財
務的健全性、 サービス提供能力、 企業機密のセキュリティ保守等に関しては、 委託企業が受託企業
を選定する段階から重要なリスクが存在する。 そこで、 委託企業は、 受託企業の行動を管理する権
限を保留するなど契約関係について事前に十分に協議したり、 事後的にはサービス内容の品質チェッ
クやモニタリングを継続的に行う必要がある。
103
Ⅱ章では、 アウトソーシングの概要と現代的特徴を明らかにしてきた。 これを経営的側面からみ
れば、 いわゆる 「(資産を) 持たざる経営」 を実現し、 経営能率を改善するための有効な一手段で
あると言えよう。 しかし、 これを会計的側面から捉えてみると、 アウトソーシングの請負性や戦略
性に関わりなく、 委託企業は、 料金支払時点でその契約料を費用として処理する。 アウトソーシン
グ関係がなければ企業経営が成り立たない状況であったとしても、 委託企業にとって契約料は単な
る費用にすぎないのである。
アウトソーシングが、 有形・無形のかたちで将来収益への貢献性を期待して行われるものであり、
また、 それに対して一定期間にわたる固定的な支払義務が生じるのであれば、 委託企業はそれを資
産及び負債として認識するのが妥当ではないだろうか。 しかも、 今日のアウトソーシングは、 これ
まで以上に経営戦略における重要性を高めてきており、 その収益貢献力や支払義務に関する情報は、
財務諸表利用者の意思決定にとって有用であると考えられる。 このような問題意識から、 アウトソー
シングのオンバランス化について検討することにしたい。 それにあたっては、 リース会計を理論的
な拠り所としていくことにする。 このようなアプローチをとるのは、 アウトソーシングとリースの
間には類似する点が少なくないからであり、 アウトソーシングを人材あるいは部門のリースと考え
ることができれば、 そのオンバランス化の可能性も見えてくるからである。 そこでまず、 アウトソー
シングとリースの異同点についてまとめておきたい。
アウトソーシングとリースは共に、 契約主体 (委託企業、 レッシー) が一定期間にわたる収益貢
献性を期待して、 契約客体 (受託企業、 レッサー) に対して所定の契約料を継続的に支払うという
点で同一である。 したがって、 いずれの取引形態であっても、 その契約主体は、 契約期間にわたっ
て契約料の支払義務を負うことになる。
リースの場合は、 その期間が2年から6年の長期に及ぶことで知られている。 アウトソーシング
の場合は、 対象業務や系列関係等によって契約期間は異なるが27、 その性質上、 継続性と長期性を
有しており、 とりわけ情報システムのアウトソーシングの場合には、 少なくとも5年以上の期間を
もたせなければ意味がないとさえ言われている28。 また、 戦略的アウトソーシングの場合には、 ア
ライアンス (提携) としての意味があるので、 受託企業は長期継続的なパートナーシップを前提と
して投資その他の活動を行う。 そのため、 対象業務の性質によって大規模な投資を伴うようなケー
スになると、 アライアンスの意思を確認する意味も含めて、 一定の解約不能期間が設定されること
もある。 したがって、 契約期間に関して、 アウトソーシングとリースに重要な相違はない。
104
ファイナンス・リースはフルペイアウトを基本的な要件としているので、 レッサーが投下資金と
その運用益をリース期間中に全額回収できるようにリース料が設定される。 つまり、 レッサーは、
レッシーの希望する物件の購入代金を立替払いしているのであるから、 最低限、 その購入代金と物
件の所有権者として支払いを要する保険料・維持費・固定資産税その他の諸経費を回収する必要が
あるのである。 それに加えて、 レッサーは、 購入代金に係るリース期間中の利息も回収することを
望む。 これは、 レッサーがリース取引によって得る利益 (運用益) であり、 投下資金に対する収益
率に相当するものである。 したがって、 レッサーが一回のリース取引によって利益を得るためには、
レッシーからこれらの合計額を回収しなければならないので、 そのようなリース料を設定すると共
に、 原則的に中途解約を禁止するか、 あるいは、 残リース料の全額を一括して即時に支払えば解約
可能という契約条項を付すのである。
これに対して、 アウトソーシングの場合にどのように料金設定がなされているのかは必ずしも明
確ではない。 契約期間や系列関係等によって料金体系 (固定価格方式、 変動価格方式、 あるいは両
者を組み合わせた方式など) は異なる29。 しかし、 一般的に言えば、 受託企業は、 最低限、 当該ア
ウトソーシングのために特別に要した支出額と30、 契約期間にわたって支払いを要する人件費その
他の諸経費を回収する必要がある。 また、 委託企業の特殊なニーズに合わせて汎用性の乏しい設備
を購入した場合、 あるいは、 契約期間が長期に及ぶため契約終了後の再利用が困難であると予想さ
れる設備を購入した場合には、 その設備投資額についても受託企業は回収を望むであろう。 その上
で、 受託企業がアウトソーシングにより利益を得るためには、 一定の利益率を見込まなければなら
ない31。 したがって、 受託企業の組織化したアウトソーシング部門が複数企業と契約関係をもたな
い (一部門一契約制) とすれば、 受託企業はこれらの合計額を回収できるように契約料を設定する
であろう。 このようにみると、 アウトソーシングの契約料は、 リースと同様のフルペイアウトか、
あるいはそれに近似する要件を備えていると考えられる。
契約対象の性質については、 その汎用性・特殊性に関わらず、 契約主体が需要するものであると
いう点でアウトソーシングとリースは同一である。 しかし、 契約対象そのものは両者で異なり得る。
すなわち、 リースにおける契約対象はリース物件である。 これに対して、 商品・製品など財の安定
的な供給を約したアウトソーシングであれば、 契約対象が有形であるという点でリースと同じであ
るが、 情報システムの運営などサービスの安定的な提供を約したアウトソーシングであれば、 契約
対象が無形であるという点でリースとは異なるのである。 しかし、 いずれも将来収益に貢献するこ
とが期待されているのであり、 しかも契約上、 それを特定の実体が支配していることは明らかであ
る。 そこで、 その外見に関わりなく契約対象の資産性を認めるのであれば、 アウトソーシングとリー
スが類似することに変わりはなく、 資産形態の相違は会計処理または貸借対照表の表示区分におい
105
て反映させるべき問題となろう。
現行制度上、 レッシーは、 リスクと便益の移転を生ぜしめるリースをファイナンス・リースとし
て資本化処理する。 そこで、 契約対象の運用に係るリスクと便益の帰属先について検討してみると、
便益部分については、 アウトソーシングとリースのいずれにおいても、 契約主体が契約料の支払義
務を履行する限り、 それから得られる便益をすべて享受することができる。 ところが、 リスク部分
については、 リースの場合は物件の運用がレッシーに一任されており、 しかも、 その便益を享受す
るのもレッシーであるから、 それに係るリスクはすべて同一主体 (レッシー) に帰属する。 これに
対して、 アウトソーシングの場合は、 契約対象の物的・質的特徴に関わらず、 その遂行が受託企業
に委ねられるので、 少し事情が複雑である。
アウトソーシングにみられるような 「委託=受託」 の関係においては32、 対象業務の遂行につい
て権限委譲の関係が生じており、 プリンシパルである委託企業は形式的権限を、 エージェントであ
る受託企業は実質的権限をそれぞれ有している。 委託企業が業務の遂行を受託企業に委ねる理由に
ついては、 数多くの部門を運営する上で生じる管理範囲の限界 (
) に対処するとい
うこともあるが、 とりわけ戦略的アウトソーシングの場合にはそれ以上に、 「たとえ決定権限があっ
たとしても、 より専門的な知識や情報をもった主体に決定を任せた方が、 より適切な決定が行われ
る」33という視点で考えることが重要である。
ただし、 このような情報の非対称性を前提とする以上、 受託企業の選択が委託企業にとって常に
望ましいものであるとは限らない。 受託企業が委託企業の利益を最大化するような意思決定を常時
行うとは限らず、 時にはそれが結果的にマイナスになる可能性すら否定できないのである。 そこで、
委託企業は受託企業の行動を否定したり、 状況の変化に応じて最適な指示を出すために形式的な権
限を保留し、 業務遂行などの実質的な権限を受託企業に委譲するのである。 このようにみると、 委
託企業は、 社内業務をアウトソーシングすることによって、 自社で対象業務を遂行する場合に生じる
リスクを分散させ、 しかも、 形式的権限を留保することでそのリスクを管理していると考えられる34。
こうしたリスク・マネジメントの視点からみると、 契約主体がリスクを管理しているという点で
アウトソーシングとリースは共通すると言えよう。 ところが、 アウトソーシングにおいては、 業務
の遂行と便益の享受がそれぞれ別主体によって行われることでリスクの分散が生じるが、 リースに
おいては両者が同一主体によって行われるために、 そのような現象が生じないのである。
しかし、 これをリスクの帰属先の問題としてみるならば、 より利益性の高い代替案が選択されな
かった場合、 あるいは、 結果的に利益がマイナスになった場合の機会損失は、 最終的に委託企業に
帰することになる。 また、 リスクが現実化した場合、 実際の業務遂行に支障をきたすのは委託企業で
あり、 その影響も契約対象が重要であるほど深刻になるのである。 このようにみるならば、 リスクの
帰属先について、 アウトソーシングとリースに実質的な相違はないと考えて差し支えないであろう35。
106
前節では、 アウトソーシングとリースの異同点について検討し、 多くの点において両者が類似し
ていることを指摘した。 そこで次に、 アウトソーシングのオンバランス化の理論的な拠り所として、
リース資本化の論理について検討することにしたい。
どのようなリースをどのような論理で資本化処理するべきか。 この問題については、 アメリカに
おいて 50 年以上も前から議論されている。 その歴史を概観してみると、 リース資本化論争は、 リー
スを資本化処理することがレリバントな状況 (資本化範囲) を識別し、 その具体的なメルクマール
(分類規準) を明示するという形で展開されてきた。 リース資本化の概念的基礎が資本化範囲であ
り、 その実践的形態が分類規準であると言うこともできる。 よって、 リース資本化論争を分類する
ためには、 資本化範囲と分類規準の相違に着目するのが妥当であろう。 それによれば、 リース資本
化の論理は、 割賦購入説、 財産使用権取得説、 未履行契約取引説に分類することができる。 これら
の学説を要約して示すと、 以下のようになる36。
割賦購入説は、 リースと割賦購入の取引形態が類似する場合に、 レッシーは当該リースを資本化
処理すべきであるとする学説である。 よって、 資本化範囲は 「実質的に割賦購入」 と画定され、 そ
の分類規準も所有権移転の確実性という観点が重視される。 これを概念的に拡大した学説が拡大割
賦購入説である。 この学説においては、 リースと割賦購入の取引形態が類似する場合はもちろん、
両者の経済効果が類似する場合にも、 レッシーは当該リースを資本化処理すべきであると結論され
る。 よって、 その資本化範囲は 「リスクの便益の移転」 へと拡大され、 分類規準も所有権移転の確
実性に拘束されることはない。 しかし、 両学説は、 リース資本化の論理をリースと割賦購入の類似
性に求め、 割賦購入を軸足としたアナロジー・アプローチを展開する点で共通している。
財産使用権取得説は、 割賦購入説と対峙される学説である。 この学説においては、 リース物件の
支配を可能にする財産使用権の取得の対価としてリース料を支払う場合に、 レッシーは当該リース
を資本化処理すべきであると結論される。 つまり、 将来の経済的便益を支配して一定の支払義務を
負うのであれば、 当該リースは資産及び負債を生ぜしめると考えるのである。 よって、 資本化範囲
は 「財産使用権の移転」 と画定される。 また、 その分類規準は、 経済的便益の支配と経済的義務の
発生という観点、 具体的には、 それが確実視される期間を示唆するものとしてリースの解約不能性
が重視される。
未履行契約取引説は、 財産使用権取得説を土台とし、 いわゆる契約会計 (
)
への発展性を有する学説である37。 この学説においては、 たとえリースが未履行契約 (
) であるとしても38、 その貸借対照表能力を認めて、 当該契約により生じる権利と義務を
資本化処理すべきであると結論される。 よって、 資本化範囲は 「契約上の権利・義務の確定」 と画
定される。 また、 その分類規準は、 契約の確定性という観点、 具体的には、 リースの解約不能性が
それを裏付ける状況証拠の一つとなる。 この学説の特徴は、 リース契約の効力が発生する最も早い
時点 (契約締結時点) での認識を想定し39、 リースを含めた未履行契約全般をその論理の適用範囲
107
とするところにある。 これに対して、 (拡大) 割賦購入説と財産使用権取得説では、 リースの履行
性を強調することで、 現行の実現概念と整合する物件受渡時点での認識を想定し、 また、 リースと
その他の未履行契約を区別することで、 その論理の適用範囲をリースに限定している。
以上の諸学説のうち、 1940年代後半にアメリカにおいて初めて制度化された学説は割賦購入説で
あったが、 1970年代中頃以降は拡大割賦購入説へと発展し、 現在ではそれが国際的にも広く制度化
されるに至っている。 割賦購入を軸足としたアナロジー・アプローチは50年余りの歴史をもち、 し
かも、 それに対して国際的な合意が確立されていると言えよう。 このようにアナロジー・アプロー
チが広く会計界に定着したのは、 ある取引事象を分析するにあたって、 経済的に同一の効果をもた
らす既存の標準的な取引事象をもってその経済的実質とし、 それに基づいて会計的対応を検討する
ということが、 これまで一般に行われてきたからであろう40。 アナロジー・アプローチは、 まさに
実質優先思考の一機能面を表すものなのである。 そこでここでは、 (拡大) 割賦購入説の論理を現
行会計の全体的な枠組みの中で広く捉えて、 軸足を割賦購入からリースにスライドさせることを提
案したい。 すなわち、 リースを軸足としたアナロジー・アプローチである。
このアプローチは、 未履行契約取引説と似て非なるものである。 すなわち、 オンバランス化の範
囲について、 後者はリースを含む未履行契約全般のオンバランス化を指向しているのに対して、 前
者はあくまでリースとの類似性が確認される契約のオンバランス化を主眼としている。 しかし、 両
者とも、 契約の履行性・未履行性問題にこだわることなくそのオンバランス化を提言する点では共
通する。 未履行契約取引説を契約会計の段階的適用とするならば、 このアプローチは、 未履行契約
取引説の段階的適用ということもできる。 昨今、 未履行契約から生じる権利及び義務の認識が会計
上の重要課題になっていることに鑑みれば、 ここでの提案はその要請に応える一つの手がかりとな
るであろう。
リースを軸足としたアナロジー・アプローチが容認されるのであれば、 アウトソーシングとリー
スの類似性に鑑み、 アウトソーシングを人材あるいは部門のリースと考え、 そのオンバランスを論
理化することができるであろう。 しかし、 アウトソーシングはリースの範疇に含まれるものではな
く、 それに対してリース会計基準が適用されることもない。 そもそも、 レッシーは契約対象の運用
主体であるが、 委託企業はそうではないのである。 したがって、 この重要な相違は会計処理に反映
させる必要があろう。 そこで、 現行のリース会計基準を参考にしながら、 サービスの提供を目的と
したアウトソーシングについて委託企業と受託企業の会計処理案を提示すれば、 以下のようにな
る41。 なお、 アウトソーシングの契約料とは別に、 その発生のつど契約料に加算される諸経費はな
いものとする。
108
(借方) アウトソーシング用役発注
(1
1)
(貸方) アウトソーシング契約支払 (借方) アウトソーシング契約支払
支払利息
(貸方) 現金預金
(1
2)
(借方) アウトソーシング支払契約料 (貸方) アウトソーシング用役発注 (1
3)
委託企業ははじめに、 アウトソーシングにより得られる将来の経済的便益とその対価に相当する
支払義務を、 資産 (アウトソーシング用役発注勘定) 及び負債 (アウトソーシング契約支払勘定)
として認識する (1
1)。 測定属性は、 リースの場合と同様に契約料総額の現在価値とし、 利息の期
間配分に利息法を適用する。 また、 認識のタイミングは、 現行のリース会計と同様に処理するので
あれば、 契約締結時点 (契約ベースの認識) ではなく、 契約期間の開始時点 (受渡ベースの認識)
とするのが妥当である。
契約料を支払う都度、 委託企業は (1
2) の処理を行う。 貸方には実際の契約料支払額を計上し、
借方にはその内訳を示す。 現在価値計算によって契約料総額が元本部分と利息部分に分割されるの
で、 利息部分の支払額は支払利息として毎期逓減的に計上され、 元本部分の返済額は、 (1
1) のア
ウトソーシング契約支払勘定を契約終了までに全額相殺するように毎期逓増的に計上される。
最後に、 (1
1) のアウトソーシング用役発注勘定について、 当期のサービス費消分を費用 (アウ
トソーシング支払契約料勘定) に振り替える (1
3)。 その金額は、 当期の契約料支払額から利息部
分を控除した元本部分、 すなわち、 (1
2) のアウトソーシング契約支払勘定の金額と同額である。
これにより、 (1
1) のアウトソーシング用役発注勘定は、 その全額が契約終了までに相殺される。
なお、 リースの場合、 レッシーは、 リース物件を購入したと仮定して会計処理を行うので、 リー
ス資産の減価償却を行わなければならない。 しかし、 アウトソーシングの場合に委託企業が購入す
るのは、 受託企業のアウトソーシング部門が産出した財・用役である。 つまり、 委託企業は受託企
業のアウトソーシング部門それ自体を購入したわけではないので、 その購入処理も減価償却も行わ
ない。
(借方) 機械・設備
(貸方) 現金預金
(2
1)
(借方) 人的資産
(貸方) 給与支払義務
(2
2)
(借方) 組織形成費
(貸方) 現金預金
(2
3)
(借方) アウトソーシング部門
(貸方) 機械・設備
(2
4)
人的資産
組織形成費
109
(借方) アウトソーシング契約受取 (貸方) アウトソーシング用役受注
(2
5)
(貸方) アウトソーシング契約受取
(2
6)
(借方) 現金預金
アウトソーシング収益
(借方) アウトソーシング用役受注 (貸方) アウトソーシング受取契約料
(2
7)
(借方) アウトソーシング部門償却 (貸方) アウトソーシング部門
(2
8)
(貸方) 現金預金
(2
9)
(貸方) アウトソーシング部門
(2
10)
(借方) 給与支払義務
支払利息
(借方) 機械・設備
(借方) 貯蔵品
(貸方) 機械・設備
(2
11)
受託企業は、 委託企業の特殊なニーズに合わせるための初期投資として、 汎用性の低い機械・設
備等の償却性資産を購入した場合に (2
1) の処理を行う。 また、 アウトソーシングにおいては、
その部門を運営する人材が特に重要である。 そこで、 労働用役の対価に基づいて人的資産の価値を
測定する (2
2)。 つまり、 契約期間中の給与支払総額の現在価値を当該期間中における人材のサー
ビス・ポテンシャルとみなして、 前者を負債 (給与支払義務勘定)、 後者を資産 (人的資産勘定)
として認識するのである。
これらの物的資源と人的資源を組織化してアウトソーシング部門が形成されるのであるから、
(2
1) の機械・設備と (2
2) の人的資産の評価額をアウトソーシング部門の形成原価 (アウトソー
シング部門勘定) とする (2
4)。 なお、 当該部門の形成に諸種の支出を伴う場合には、 これらの支
出がなされる都度、 組織形成費勘定に累積的に記帳していき (2
3)、 最終的にはその全額をアウト
ソーシング部門勘定に振り替える (2
4)。
契約の開始と共に、 受託企業は、 契約料総額の現在価値を資産 (アウトソーシング契約受取勘定)、
サービスの提供義務を負債(アウトソーシング用役受注勘定)として認識する(2
5)。 このとき、 契
約料総額の現在価値がアウトソーシング部門の形成原価と等しくなるような割引率、 すなわち、 ア
ウトソーシング部門の運用利回りが適用される。 それは、 受託企業がこの取引から利益を得るため
には、 レッサーによるリース料の設定と同様に、 アウトソーシング部門の形成原価とそれに運用利
回りを乗じた金額 (運用益) の合計額を、 契約期間中に回収できるように契約料を設定すると仮定
されるからである。 現在価値計算により、 契約料総額は元本部分と利息部分に分割され、 前者が当
該アウトソーシングに対する純投資額 (アウトソーシング部門の形成原価)、 後者がその運用益を
それぞれ示すことになり、 運用益の期間配分には利息法が適用される。
契約料を受け取る都度、 受託企業は (2
6) の処理を行う。 借方には実際の契約料受取額を計上
し、 貸方にはその内訳を示す。 契約料総額のうち利息部分は運用益であるから、 当期分の相当額を
アウトソーシング収益などの収益勘定の科目をもって毎期逓減的に計上していく。 元本部分の回収
額は、 (2
5) のアウトソーシング契約受取勘定を契約終了までに全額相殺するように毎期逓増的に
110
計上される。
(2
5) のアウトソーシング用役発注勘定については、 当期のサービス提供分を収益 (アウトソー
シング受取契約料勘定) に振り替える (2
7)。 その金額は、 当期の契約料受取額から利息部分を控
除した元本部分、 すなわち、 (2
6) のアウトソーシング契約受取勘定の金額と同額である。 これに
より、 (2
5) のアウトソーシング用役受注勘定は、 その全額が契約終了までに相殺される。
(2
4) のアウトソーシング部門勘定は、 機械・設備、 人的資産、 組織形成費をまとめた一種の
集合勘定であるが、 それは受託企業の資産であり、 契約期間にわたって償却される (2
8)。 すなわ
ち、 機械・設備部分については有形固定資産 (償却資産) と同様の根拠で、 また、 組織形成費部分
については繰延資産と同様の根拠で償却される。 人的資産部分についても、 その評価額は人材の本
質的価値ではなく、 当該人材が契約期間中に提供可能なサービス総計を意味するものであるから、
それは契約期間の経過と共に徐々に減少していくと考えられるのである42。
なお、 アウトソーシング部門の償却にあたっては、 契約終了までにアウトソーシング部門の構成
要素は、 内在するすべてのサービスを提供し尽くすとみなし、 残存価値をゼロとして償却するのが
妥当である。 ただし、 機械・設備部分についてその残存価値が見込まれる場合は、 これを控除して
償却を行う。 そして、 契約終了時に、 当該機械・設備をアウトソーシング部門での稼動状態から開
放すると共に (2
10)、 その後の保有目的に応じて貯蔵品などの勘定科目に振り替える (2
11)。
最後に、 アウトソーシング部門を運営する人材に給与を支払う都度、 受託企業は (2
9) の処理
を行う。 貸方には実際の給与支払額を計上し、 借方にはその内訳を示す。 (2
2) の給与支払義務勘
定は現在価値で測定されているので、 給与支払総額は元本部分と利息部分に分割される。 利息部分
の支払額は支払利息として毎期逓減的に計上され、 元本部分の返済額は、 (2
2) の給与支払義務勘
定を契約終了までに全額相殺するように毎期逓増的に計上される。
以上、 アウトソーシングをオンバランス化した場合の会計処理について、 委託企業と受託企業の
両サイドから検討してきた。 しかし、 多くの課題も残されている。 例えば、 リースとのアナロジー
に理論的根拠を求めるならば、 契約期間が1年未満でその更新が確実視されない場合や、 違約金の
設定がなく随時任意に解約可能である場合、 また、 一部門一契約制をとっていない場合には、 それ
をオンバランス化することに問題がないわけではない。 したがって、 オンバランス化の条件につい
て具体的に検討する必要があろう。
また、 受託企業が人的資産と給与支払義務を両建計上することについても43、 十分な説明がなさ
れていない。 しかし、 企業が物的資源と人的資源の集合体であり、 現代の企業経営では機械・設備
等の物的資源のみならず、 知識や技術等の人材に蓄積された無形の資産が重視されていることを理
解するならば、 人的資産をオンバランス化することには重要な意義があるように思われる。 これに
ついては、 労働力のリースとみなして論理化することも考えられるが44、 その詳細な検討は今後の
課題としておきたい。
111
本稿では、 会計認識領域の拡大という観点から、 リース会計の理論的枠組みを参考にしながらア
ウトソーシングのオンバランス化について試論を展開してきた。 今日のアウトソーシングは、 従来
の外注化の意味を残しながらも、 外部専門性の活用、 コア・コンピタンスへの経営資源の集中、 競
争力の強化、 付加価値の創出、 企業価値の向上などが強く意識され、 「 (資産を) 持たざる経営」
を実現するための経営手法として戦略的な色彩を濃くしている。 その行きつく先は、 複数企業が互
恵的で平等なパートナーとしてアウトソーシング関係を形成し、 経営資源を相互補完的に利用する
コソーシング、 そして、 高度な企業間ネットワークの形成によるいわゆるバーチャル・コーポレー
ション (仮想事業体) の出現であろう。
しかし、 これを会計的側面からみれば、 アウトソーシングの契約料は委託企業にとって単なる費
用として把握されるにすぎない。 例えば、 内部化していた情報システムをアウトソーシングに切り
替えた場合、 その運営効率に違いはあったとしても、 経営目的上、 委託企業が従来と同様に情報シ
ステムを利用可能であるという点に違いはないのである。 それにも関わらず、 アウトソーシングの
契約料を当期の費用としてのみ認識するのであれば、 社内業務のアウトソーシングを積極的に推し
進めるほど経営能率が向上する一方、 委託企業の貸借対照表は空洞化していき、 遂には有用な財務
分析が困難になるという事態に陥ることになろう。 また、 アウトソーシングを活用している企業と
そうでない企業の間で、 財務諸表の比較可能性が損なわれるという問題もある。
これについては、 必ずしも連結会計制度で対応することができるとは限らない。 確かに、 アウト
ソーシングの性質上、 委託企業は受託企業の営業方針の決定に重要な影響を与えることができる。
しかし、 それはアウトソーシング関係のある一部門に限定されるものであって、 受託企業全体に及
ぶわけではない。 そのため、 受託企業は委託企業の連結範囲外とされるのである。 もちろん、 両者
に一定の資本関係がある場合には、 受託企業は委託企業の子会社・関連会社に含まれることになろ
う。 この場合には、 受託企業の財政状態と経営成績は委託企業の連結財務諸表に反映されるので、
アウトソーシング関係を含めたグループ経営の実態を明らかにすることができる。 しかし、 会計手
続上、 委託企業は、 その契約料の受け渡しをグループ内部の損益取引として相殺消去し、 受託企業
の業績を全体として連結するので、 個別部門ごとの収益貢献性は明らかにされない。 マネジメント・
アプローチ等によるセグメント別のレポーティングであれば当該情報を提供することも可能であろ
うが、 そのオンバランス化ということになると、 会社単位での連結会計制度は部門単位でのアウト
ソーシングに十分対応しているわけではないのである。
このように、 現行の会計制度は、 アウトソーシングの進展とその先に見える企業のバーチャル化
に対応することに限界がある。 しかし、 それが進むほど、 まさにバーチャルの字義通りに、 企業の
外側から経営実態を観察し難くなるのである。 本稿において検討したアウトソーシングのオンバラ
ンス化、 そして、 その理論的根拠として提案したリースを軸足としたアナロジー・アプローチは、
21世紀の経営と会計を対応させていく上で重要な意義があるように思われる。
112
1
アメリカの財務会計基準審議会 () によれば、 認識とは、 「ある項目を資産、 負債、 収益、 費用または
これらに類するものとして、 企業の財務諸表に正式に記録するかまたは記載するプロセスである。 認識は、 あ
る項目を文字と数値の両者を用いて表現し、 かつ、 その項目の数値が、 財務諸表の合計数値の一部に含められ
ること」 ( [1984:
6]) を意味する。 ここにおいて認識概念は、 費用・収益の期間帰属の決定という
伝統的な意味からはなれて、 「(1)会計上のすべての項目にまで拡張され、 (2)さらに、 財務諸表本体に開示さ
れる情報と財務諸表本体以外の財務報告手段に開示される情報との境界を区分するための概念」 (津守 [1998:
5頁]) として機能している。
2
の基準書13号によれば、 リスクと便益の移転が生じる場合とは、 ①リース物件の所有権がレッシーに
移転する場合 (所有権移転規準)、 ②レッシーに対してリース物件の割安購入選択権が認められている場合
(割安購入選択権規準)、 ③リース期間がリース物件の耐用年数の75%以上である場合 (耐用年数規準)、 ④最
低リース料の現在価値がリース物件の公正価値の90%以上である場合 (現在価値規準) をいう ( [1976:
7])。 レッシーは、 これらのいずれかを満たすリースを資本化処理しなければならないが、 それ以外のリー
スは賃貸借処理することが認められる。 以下、 本稿では、 前者をファイナンス・リース、 後者をオペレーティ
ング・リースと呼ぶ。 また、 リース取引における物件の賃借人をレッシー (
)、 賃貸人をレッサー (
)
と呼ぶことにする。
3
日本経済新聞 [1999
]。 なお、 わが国のアウトソーシングの実態を調査した労働省委託調査 [1997:17−
18頁] によれば、 アンケートの回答企業263社 (有効回収率17
1%) のうち、 6割近く (151社) がアウトソー
シングを行っているとの結果が示されている。
4 労働省委託調査 [1997:3頁]。
5
特に、 イーストマン・コダック社の事例が有名である。 同社は、 鉄道から発電所まで自営する自前主義で知
られていたが、 1989年に 社その他と5年から10年にわたる情報システムのアウトソーシング契約を結び、
初めの3年間で、 情報システムのコスト削減やサービス品質の向上、 さらにはリストラクチャリング (事業再
構築) に大きな成果をあげたと言われている (島田編 [1995:21−24頁]、 花岡 [1993:145−153頁])。
6 齋藤 [1997:203頁]。
7
下請加工や人材派遣がアウトソーシングとは別枠であるといった定義づけは、 アメリカのアウトソーシング
業界には見られないと言われている (牧野・武藤 [1998:13−14頁])。
8 デロイトトーマツコンサルティング編 [1999:92頁]。
9 牧野 [1997:13−20頁]。
10 デロイトトーマツコンサルティング編 [1999:7頁、 91−92頁]。
11
日本経済新聞
[1999
]。 なお、 このようなアウトソーシングの普及について、 島田達巳教授は、 委託企
業側では、 「市場の成熟化、 過剰生産能力 (過当競争体質)、 高費用体質、 価格革命、 加えて不確実性が高く変
化の激しい経営環境のもとで企業が生き残るためには、 何でも自社に抱え込む
自前主義
ではリスクが大き
く、 経営のフレキシビリティ (機動性) に欠ける。 そこで、 外部の経営資源を用いて活路を開こうとする」、
また、 受託企業側では、 「単に委託企業のニーズがあるだけでなく、“サービスの経済化”が進みそれを担う受
託企業が増えたことも見逃せない」 と分析しておられる (島田 [1996:27頁])。
12 デロイトトーマツコンサルティング編 [1999:92頁]、 日本経済新聞 [1999
]。
13
島田 [1996:32頁]。 なお、 戦略的提携には様々な定義がみられるが、 その目的とプロセスを簡潔に述べれ
ば、 「個々の企業は、 その将来に対して経営戦略を組むが、 その時に自己の足らざる経営資源を補おうとして、
その経営資源をもつが同様に不足経営資源を求める他企業と連合体を形成すること」 (奥村 [1988:89頁]) と
表現できる。
14 デロイトトーマツコンサルティング編 [1999:59頁]。
113
15 労働省委託調査 [1997:4頁]。
16
日本経済新聞
[1999
]。 なお、 人材派遣会社がアウトソーシング・ビジネスに参入する動機については、
齋藤 [1997] を参照。
17 日本人材派遣協会編 [2000:15頁]。
18 齋藤 [1997:206頁]。
19
日本経済新聞
20
[1999
]、
日本経済新聞 [1999
]。
配置転換方式と人員移籍方式では、 余剰となった設備は、 委託企業が別の目的で再利用したり、 受託企業が
業務遂行のためにそのまま活用することもある。 なお、 余剰設備を売却することもあり得るが、 人員移籍方式
でこれを行った場合は部門売却方式と同じである。
21
日本経済新聞
[1999
]。 なお、 労働省委託調査 [1997:86頁] によれば、 アウトソーシングの導入に伴
う人事異動について複数回答を認めたところ、 「社内で配置転換をした」 と答えた企業が42
6%と最も多く、
続いて、 「特になかった」 が35
1%、 「出向・転籍をした」 が28
4%などの順番になっている。 また、 「解雇をし
た」 と答えた企業はなかった。 このことから、 わが国では、 解雇というドライな人員整理を避け、 配置転換を
中心とした穏健的な人事異動を行っていることがわかる。
22 島田 [1996:30頁]。
23 島田 [1996:30頁]。
24
例えば、 イーストマン・コダック社の事例では、 同社は、 社に対して、 自社保有の汎用コンピュータを
売却すると共に、 その関連要員の一部 (360人) を移籍させている (島田編 [1995:23頁])。
25
日本経済新聞
[1999
]。
26 以下の叙述は、 主に次の文献に基づいている。 島田編 [1995:16−17頁]、 島田 [1996:28頁]、 牧野 [1998:
94頁]、 デロイトトーマツコンサルティング編 [1999:46−47頁、 52−59頁]。
27 島田編 [1995:87 頁、 302頁]。
28
内布 [1997
:36−37頁]。 もちろん、 提携関係における柔軟性を確保したり、 受託企業を競争環境におくこ
とで高いベネフィットを得るという観点からみれば、 委託企業は長期契約を避け、 短期契約を更新する方が良
いということになろう。 しかし、 戦略的アウトソーシングのように、 中長期的なパートナーシップにより継続
的にベネフィットを得ようとする場合には、 それ相応の契約期間を設定する必要がある。 また、 受託企業側か
らみれば、 提供するサービスが汎用性に乏しく、 委託企業の特殊なニーズに合わせたものである場合がそうで
あるように、 あまりに短期間の契約では初期投資の回収ができず、 ビジネスとして成り立たないケースもある
(デロイトトーマツコンサルティング編 [1999:115頁]、 内布 [1997
:39頁注8])。
29
島田編 [1995:85−88頁]。 なお、 対象業務の性質によっては、 受託企業が支払いを要する諸経費も異なっ
てくる。 例えば、 情報システムのアウトソーシングでは、 コンピュータの運用費 (コンピュータ本体の維持費、
その稼働環境を維持するための光熱費や回線使用料、 アプリケーション・ソフトや記録メディアの購入費用な
ど) が生じるが、 それはこの種のアウトソーシングに特有のものである。
30
アウトソーシング部門を組織化するための支出や、 今回に限って特別に行った人材の募集・訓練のための支
出など、 当該アウトソーシング以外に今後の収益性を期待できないものを指す。
31
例えば、 通商産業省委託調査 [1998:20頁] では、 情報システムのアウトソーシングのコスト削減効果を分
析するにあたって、 ヒアリング調査に基づき、 受託企業のコンピュータ運用費に20%増しのチャージ料金等が
かかるとして試算している。 このチャージ料金は、 受託企業がアウトソーシングによって得る利益 (運用益)
に相当する。
32 エージェンシー理論については、 ウォーレス著/千代田邦夫他訳 [1991:13−21頁] を参照。
33 柳川 [2000:66頁]。
34
[1997:
2−3
8−9] が指摘するように、 情報の非対称性下においては、 情報優位に
114
ある受託企業が決定案を提示しても、 委託企業はそれよりも利益性の高い代替案を発見できるだけの情報を有
していない可能性が高い。 その結果、 委託企業は受託企業の決定に盲目的に従わざるを得ず、 委託企業の保留
した形式的権限が現実的に有効に機能するケースは少ないと考えることも可能である。
しかし、 受託企業の決定案が自己利益をマイナスにするものであることが明らかな場合には、 委託企業はそ
れを否定しなければならない。 また、 経営環境の変化、 法令の改正、 私的情報の入手等により、 委託企業が今
後の方針を変更する必要がある場合には、 それを受託企業の意思決定に反映させるよう要請しなければならな
い。 さらに、 委託企業がアウトソーシングを成功させる上で契約管理は極めて重要であり、 そのためには、 受
託企業の行動に対するハイレベルのモニタリング能力が必要であるとも言われている (牧野・武藤 [1998:129−
131頁]、 デロイトトーマツコンサルティング編 [1999:116頁])。 このようにみると、 委託企業が形式的権限
を有していることには重要な意義がある。
35
アウトソーシングによってリスクを有効に分散させるためには、 契約上、 リスクの現実化に備えて、 受託企
業が委託企業の実際損失額を財務的に補償するような特約を付しておくことも考えられる。 しかし、 これと同
様の特約はリースの場合にもみられる。 すなわち、 リース契約上、 将来における特定事象 (売上高に対する一
定割合、 リース物件の使用頻度、 利子率や物価指数の変化など) によってリース料を変動させるような特約が、
基本リース料とは別に付されていることがある。 これを偶発賃借料 (
) という。
例えば、 偶発賃借料が、 平均的な売上高に対する一定割合を変数として設定されているとする。 このとき、
当期の売上高が平均値を上回れば、 その一定割合が基本リース料に上乗せされ、 逆に、 当期の売上高が平均値
を下回れば、 その一定割合が基本リース料から控除されるとする。 このような偶発賃借料は、 その発生の時期
及びその可能性を特定できないという意味で偶発性が高いものであるから、 会計上、 取引当初からその発生を
前提とした認識・測定は行われない。 すなわち、 リース会計では、 基本リース料のみをファイナンス・リース
に該当するか否かの判定基礎、 ならびに、 リース資産及び負債の測定基礎とし、 リース開始日以降に生じる偶
発賃借料は、 それが発生したときに損益計算に反映させるのである ( [1979:
11])。
ここでいう基本リース料から控除される偶発賃借料は、 現実化したリスク (リース物件の運用により採算が
とれなかったことなど) に対して、 レッサーがレッシーに財務的な補償をしたのと実質的に同じである。 レッ
サーによる財務的補償は、 レッシーにとってリスク分散の効果を有しているが、 リース会計上は、 ファイナン
ス・リースの判定及びその資本化処理にあたって、 そのような補償はないものとされるのである。 したがって、
契約上の財務的補償は、 リスクの帰属先について、 アウトソーシングとリースの本質的な相違をもたらすもの
ではない。
36 詳しくは、 加藤 [1999
]、 加藤 [1999] を参照。
37 契約会計については、 井尻 [1976:190−208頁]、 [1980] を参照。
38 未履行契約とは、 当事者双方の義務の全部または一部が未履行の状態にある事象を意味する。 これに対して、
履行契約とは、 少なくとも当事者のいずれか一方の義務が完全に履行済みの状態にある事象を意味する。
39
リース契約は、 当事者双方の合意のみで成立する諾成契約であるから、 リース物件の引渡以前でも、 リース
契約の締結という形で意思の合致があれば、 それだけでリース契約の法的効力が発生すると解される。 したがっ
て、 リース契約上の義務 (レッシー側では料金支払義務、 レッサー側では物件引渡義務) は、 契約締結時点で
当事者双方に発生していることになるが、 通常は、 物件の搬入・検収によってリース期間が開始し、 その時点
からレッシーはリース料を支払うとする契約条項があるため、 レッサーによる物件引渡義務の履行まではレッ
シーの料金支払義務は停止していると考えられている (渡辺 [1998:51−52頁])。
[1976]、 川口 [1976]。
40
41 仕訳の勘定科目は、 井尻雄士教授が考案された契約会計の勘定科目を参考にしている (井尻 [1976:197頁])。
なお、 ここでは、 情報システムのアウトソーシングのように、 契約内容がサービスの提供である場合を想定し
ている。 しかし、 契約内容が財の供給である場合には、 委託企業のアウトソーシング用役発注勘定はアウトソー
115
シング商品発注勘定で、 また、 受託企業のアウトソーシング用役受注勘定はアウトソーシング商品受注勘定で
処理する。 さらに、 (1
3) のアウトソーシング支払契約料勘定は商品勘定で、 (2
7) のアウトソーシング受取
契約料勘定は製品 (または商品) 勘定で処理することが考えられる。
42
ここで、 アウトソーシング部門勘定を有形資産と無形資産のいずれに分類するかが問題となる。 これについ
ては、 当該勘定に占める設備・機械の割合が高い場合は有形資産、 低い場合は無形資産とする方法か、 あるい
は、 受託企業がアウトソーシングを専業とするのであれば、 貸借対照表上にアウトソーシング部門勘定を集約
する区分を新設する方法も考えられよう。
43
これは、 アメリカを中心に展開された人的資源会計論、 また、 近年の中国において展開を期待されている労
働者持分会計の問題領域と近接するものである。 前者については若杉 [1973] 及び若杉 [1979]、 後者につい
ては水野 [1998] を参照。
44
人的資源会計論では、 様々な測定方法が提案されているが、 支出原価法による限り、 反対勘定に負債・資本
を伴わない繰延資産と同様の思考に基づいて、 人的資産がオンバランス化される。 これに対して、 労働者持分
会計では、 人的資産の反対勘定を資本とする点に特徴がある。 しかし、 労働力のリースとみなし、 リースとの
類似性に理論的根拠を求めるのであれば、 労働用役の対価に基づいて人的資産がオンバランス化されることに
なる。 この場合は、 (2
2) のように人的資産の反対勘定は負債となる。
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