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1970年代プレイバック、イラン制裁解除後の原油

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1970年代プレイバック、イラン制裁解除後の原油
リサーチ TODAY
2016 年 1 月 8 日
1970年代プレイバック、イラン制裁解除後の原油価格に注目
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
読者の皆様のなかに『アルゴ』(ARGO)と題する映画をご覧になったかたはおられるだろうか。筆者はこ
の年末年始は映画三昧で過ごしたが、ここ数年に見た映画のなかで最も印象的だったのが『アルゴ』だっ
た。同映画は、1979年から1980年にかけて起きたイランのアメリカ大使館人質事件を題材としている。ベン・
アフレック監督・主演による2012年の米国映画であり、第85回アカデミー賞作品賞を受賞している。1979年
のイラン革命で亡命したパフラヴィー国王を米国が受け入れたことに反発したイランの反米デモ隊が米国
大使館を占拠し米国大使館員を人質に取った。そうしたなか、カナダ大使公邸に匿われた6人を米国CIA
が救出すべく、『アルゴ』という架空のSF映画をでっち上げ、その6人をロケハンのスタッフに偽装して救出
させた実話がベースだ。当時の世界の雰囲気が鮮明に映し出され、映画館で息もつかずに2時間があっと
いう間に過ぎた。同事件から36年が経過した2015年7月、イランと主要6か国が核開発問題に関する協議で
最終合意したことを受け、2016年には段階的にイランに対する経済制裁が解除される見通しになった。み
ずほ総合研究所は、イランの国際社会復帰に関するリポートを発表している1。イランと米国の関係悪化は
先述の1979年の人質事件に遡るため、今日の状況は、当時の雰囲気を知る筆者のような世代にとって極
めて感慨深いものがある。
■図表:イランの実質GDP成長率とインフレ率
10
(前年比、%)
(前年比、%)
8
40
35
6
30
4
25
2
20
0
15
-2
10
-4
-6
実質GDP
5
インフレ率(右目盛)
-8
2000
01
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06
07
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(注)2015 年は IMF 予測。
(資料)IMF よりみずほ総合研究所作成
1
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0
15 (年)
リサーチTODAY
2016 年 1 月 8 日
先の図表に示されるように、イランは経済制裁強化後(2012~2013年)にマイナス成長を続け、同時に通
貨リヤルの暴落によりインフレも進行する危機的状況にあった。今年制裁解除になれば、2000~2010年の
平均が5.3%であった成長率の加速は、ほぼ確実となる。今後、原油・天然ガスプロジェクトは外資参加で
活発化が見込まれる。また、イランは消費市場としても将来有望である。イランが人口8,000万人弱の人口
を有する国であることも意外と知られていないのではないか。
イランの国際社会復帰による当面の注目点は、原油・天然ガスプロジェクトの活発化と原油増産である。
経済制裁が段階的に解除されることを受けて、既にイラン政府は1年以内に100万バレル/日(世界産油量
の約1%)増産する意向を示している。その結果、国際的な石油需給にも大きな影響が及ぶことになる。
■図表:イランの原油生産量
(万バレル/日)
400
350
280
300
250
200
150
100
50
0
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11
12
13
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15
(年)
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
過去1年余り、原油相場の低迷が続いている。2015年10月に入ってWTI原油が50ドル台に反発する局
面も見られた。しかし、新興国経済の減速が意識される中、原油相場は相変わらず軟調な地合いを続けて
おり、2015年11月以降、40ドル台前半での推移となり、12月には30ドル台に入った。2015年当初は原油価
格が下落しても2015年末にかけて相応の水準まで戻るとの見方が一般的だった。みずほ総研が1年前に
発表した「とんでも予想」のなかには、「原油価格30ドル台へ下落」を入れたが、これが現実のものとなって
しまった。OPECはサウジアラビアを中心に、米国のシェールオイル生産の縮小を促す狙いからシェアを維
持する戦略をとっており、供給過剰な需給バランスが続く現在でも、昨年より100万バレル以上の増産状態
を維持している。さらに、米国で1975年の第一次石油危機以来となる原油輸出解禁が決まったことも、原油
の需給に大きな影響を与えることから、今年はWTIで30ドル割れの可能性もあるだろう。今年は年初からイ
ランとサウジの緊張関係が高まっている。2016年の石油相場を占うにはイランを中心にした地政学的な要
因から目が離せない。同時に、サウジアラビアも含めた中東諸国の情勢が緊張を高めそうだ。
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山本康雄 「イラン国際社会復帰の影響」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 12 月 22 日)
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
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