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ベルリン日独センター機関紙jdzb echo112号
交流事業 日独若手専門家交流に参加して(2015年6月25日~7月6日) 酒井恭輔、北海道大学電子科学研究所 15年以上の歴史をもつ日独の若手専門家 (特 交流の2015年度版が「再生可能エネルギー に発電)分野」 をテーマとして開催された。 日 本からの参加者は計6名。 その所属は、大学、 国立研究開発法人、エネルギー財団、企業と 多様であり、各分野独自の視点から多角的 ここでは、参加メン に情報交換が行われた。 バーの一人として、今回の訪問で感じ、発見 したドイツのエネルギー政策の転換(Energiewende)に関する情報を紹介したい。 まず驚かされたのが、何処に行っても語 られる長期目標である。 「2050年には、’90 年比でCO2排出量を80パーセント上削減す る」。広く認識された目標と合理的な計画が 印象的だった。 その戦略は緻密に設計され、初めて耳に した場合でも納得できる明快なものであっ た。簡単に紹介すると、①省エネ、②効率的 なエネルギー利用、③再生可能エネルギー (再エネ)の導入を三本柱とし、エネルギー 消費を半減させ再エネの割合を高めるとい うものである。 寒さの厳しいドイツでは、 電力や輸送燃料 に加えて、熱もエネルギー消費の大きな要素 である。熱として失われているエネルギーの有 効利用が重要で、建物断熱の強化(省エネ)や 発電施設の熱電併給への転換(効率的なエ ネルギー利用)が進められている。 また、市街 地での車やバスのエネルギー利用効率が低 いことに着目し、自転車や電気自動車、路面 電車への転換を進めている点も興味深かっ た。訪問先のひとつでは、 こうした転換に係 る経済的負担を計算し、化石燃料を使いつ づける場合の半分程度になると試算してい た。 この経済合理性も、 ドイツのエネルギー 政策の転換の特徴であろう。 合理的な計画は、研究活動にも見られた。 研究予算は、 社会への還元が早く大きいエネ ルギー技術から優先的に傾斜配分されてい た。応用研究の枠組みでは、企業との共同研 究が前提とされ、 社会への還元を明確に意識 していた。一方、未来の技術に関しては、基礎 研究の枠組みで別予算が充てられる仕組み になっていた。課題解決と基礎科学とが、予 算上は明確に区別されている印象を受けた。 応用研究の代表施設であるフラウンホー ファー応用研究振興協会所属の各研究所 では、非常に実践的な内容の研究が行われ ていた。太陽電池の量産ラインの歩留まり 向上の研究や洋上風力発電の基礎(土台)へ 波が与えるダメージの研究など、製品開発 に直結した内容である。技術の成熟に不可 欠だが、個別の組織ではコストが掛かりす ぎるこうした研究に国の予算を配分し、関係 各者が協力して取り組む姿勢に、 日本も学ぶ ものがあると感じた。明快な長期目標と戦略 の共有が、 こうした協力体制の基盤となって いるのだろう。 訪問先には、研究施設に加えて、エネルギー 政策の転換を進める非営利団体(NPO)や 送電会社、まちづくり現場も含まれ、変化を 生み出す活動を肌で感じる機会に恵まれた。 地域に根付いたNPOは現在、持続可能社 会の実現を目指すリーダーとして、欧州連合 (EU)や連邦政府、自治体へコンサルタン ト業務を行い、技術と社会を結ぶ架け橋と なっている。自治体は、その意見を参考にし ながら、関係各者と密に協力し「まちづくり」 を行っていた。いくつかのまちづくり現場の 視察で気付いたのは、環境に配慮し住民を 幸せにする思想を根底にもつ点である。通 勤時間の短いコンパクトシティ、身近な公共 交通、車を気にせず遊べる道路、水と緑あふ れる憩いの場やカフェ・レストランの充実。 パッシブハウスや地域暖房などエコ・エネ ルギーは、 こうした「まちづくり」の一環であ る。見学した町の人々の活気や明るい雰囲 気が非常に印象的であった。 こうした町は 地域の資産であり、地域の銀行には安心な 投資先、不動産や店舗には優良なビジネス 地域、自治体には安定した税収源になると いう。良い「まちづくり」は、地域全体を幸せ にするのである。 55 発送電の分離したドイツでは、送電会社 は送電システムの安定化と再エネ電力の買 い取り補償を業務とする。 ドイツ東部を管轄 する会社では、再エネ割合は42パーセント まで達したという(2014年)。今後も増加を続 ける再エネ割合に関して、80パーセントに なっても安定運用は可能だと言い切る担当 者の意気込みに、日本における発送電分離 の必要性を強く感じた。 例年同様、非常にタイトなスケジュールの 中、七都市を踏破した濃密な交流事業となっ た。訪問地は、 フライブルクやハイデルベル クの開発地区、独連邦教育研究省、 フラウン ホーファー応用研究所を始めとする研究施 設・大学六 ヶ所、環境エネルギーNPO二ヶ 所、 フォルクスワーゲン社、 50ヘルツ社と多岐 にわたり、 いずれの訪問地においても温かい 歓迎を受け、 よく準備された説明や我々の質 問に対する丁寧かつ明快な回答に、 ドイツの 方々の真摯さと人柄の良さを感じ、充実した 時間を送ることができた。文化的な要素も随 所にちりばめられており、旧市街や川辺の散 策、ビールやワインとドイツ料理の数々が疲 れた体を回復させ、ベルリンオペラは新た な刺激を与えてくれた。研究・文化両面を実 体験し大満足である。 最後に、非常に有意義かつ貴重な経験の できる本事業を企画・運営する日独両政府 の関係各位、ベルリン日独センターの皆さ ま、我々の訪問を快く受け入れて下さった 機関の皆さま、思い出深き本旅行に同行し ていただいた皆さま、我々を温かく送り出し てくれた日本の皆さま、そしてドイツ滞在中 に出会ったすべての方々に対し、心からの 敬意と感謝を申し上げるとともに、本事業の 継続を祈念して、本報告を終了する。