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3.アレルゲン性試験
3.アレルゲン性試験 食物アレルギーの治療や防御のためには,アレ ルギーを引き起こす原因物質である抗原(アレル ゲン)を特定することは重要である. アレルゲンを特定するための一般的試験とし て,①問診,②血液,皮膚試験によるアレルゲン のしぼり込み,③疑わしいアレルゲンを除いた食 事でのアレルギーの消失や,症状軽減の有無を みる食物除去試験,④アレルゲンを含む食物の 負荷によるアレルギー発症の有無をみる食物負 荷試験がある. ❶血液検査 (1)IgE抗体測定試験 食物アレルギーなどのI型アレルギーは,マスト 細胞上に高親和性IgE受容体を介して結合した IgEに対して,再び侵入したアレルゲンが架橋さ れることによって発症する.それゆえ,血液中の IgE量やその変動および特定IgEの検出を行うこ とは,アレルギー診断に有効である.ヒト血液中 のIgE量はIgG量の1/10万程度と,他の免疫グロ ブリン(IgG, IgA, IgM, IgD)に比較して極めて低 いことから,ラジオアイソトープ(RI)で標識した抗 体あるいは抗原を用いる方法が使用される. ① IgE-RIST (radio-immunosorbent test) 血液中の総IgE量を測定する方法. 抗IgE抗体を吸着させたセファデックス粒子 に,RI標識(125I)したIgE抗体と,患者血清中の IgE抗体を加え反応させ,その競合度から血清 中の総IgE値を求める.すなわち,患者血清中の IgE濃度が高ければ,抗IgE抗体との結合が増し, 反対に標識IgEと抗IgE抗体との結合は減少する ので,結合する放射活性の減少から,患者血清 中のIgEを測定する. ② IgE-RAST (radio-allergosorbent test) 卵白,牛乳,ダニなど,特定のアレルゲンに対 するIgE値を測定する方法である. アレルゲンをペーパーディスクなどの固相に結 合させ,患者血清IgE抗体と反応させると,アレ ルゲンは血清中のIgEと特異的に反応する.遠 沈によりペーパーディスクに結合したIgEを分離 後,RI(125I)標識の抗IgE抗体を加え反応させる と,ペーパーディスク上にアレルゲン-IgE-抗IgE 抗体複合体が形成される.洗浄後,複合体の放 射能を測定することにより,特定のアレルゲンに 対するIgE値を測定することができる. 最近は,取り扱い上の問題もあり,アイソトープ を使わない,酵素標識した抗体を使う酵素免疫 測定法(enzyme-linked immunoosrbent assay, ELISA)が利用される場合が多い. 乳児期には,食物アレルギーの重症度と比較 的良好な相関を示すが,1歳を過ぎ,徐々に食 物の耐性を獲得していくと,血液検査が陽性で あっても,当のアレルゲンで症状が出るとはかぎ らない.また,アレルギーがIgE以外の免疫グロ ブリン抗体やT細胞の反応でおきている場合に は,この検査は無効である. (2)ヒスタミン遊離試験 IgE抗体測定と同様,血液を用いて試験管内で 行うアレルギー診断法の1つである. ヒスタミン遊離試験は,好塩基球に結合したIgE 抗体がアレルゲンの架橋により,好塩基球から 遊離するヒスタミンを測定するものである.遊離 したヒスタミン量は蛍光誘導体に導き,安定化剤 を加えた後,蛍光強度を測定する. 血液を用いたIgEの測定やヒスタミン量の測定 は,採取した血液を試験管内で反応させることか ら,患者にショックやアレルギー誘発などの危険 がないことなどの利点がある. ❷皮膚試験 (1)プリック試験 アレルゲンを皮膚に侵入させるため,プ リック針で,出血しないように皮膚に軽く傷 をつけて,そこにアレルゲンを含む溶液を 塗布し,15 30分後に紅斑や膨疹の程 度を測定するものである.異なった各抗原 ををたらし,赤くはれ上がる反応を示した 抗原が,アレルゲンの可能性が高い. (2)皮内試験 希釈したアレルゲンを皮内に注射し,プ リック試験と同様,15分後に注射部位の 発赤や膨疹の径を測定し判定する.この 皮内試験はアナフィラキシーショックを起こ す場合があるので,プリック試験を最初に 行い,その状況をみてから実施する.これ らの検査はいずれもI型アレルギーに対し てのものであり,T細胞が関与する遅延型 アレルギーには無効である. (3)パッチ試験 アレルゲンを,パッチ用絆創膏で皮膚表 面に貼付け,48時間,72時間後の発赤, 浮腫,水泡などの様子を観察する.接触皮 膚炎,金属アレルギーなどの遅延型アレ ルギーに有効な試験法である. ❸食物除去試験と食物負荷試験 血液検査や皮膚試験により,疑わしいアレ ルゲンをしぼりこんだのち,推定したアレルゲ ンを含む食物を除いた食事を一定期間摂取し, アレルギー症状を観察する.この処置により症 状が消失,あるいは軽減した場合は,原因と考 えられる食物を除去試験とは逆に徐々に追加 していき,アレルギー症状がどこで現れるかを 観察する.ただし,負荷試験の場合,追加食事 成分により,アナフィラキシーショックを伴う危 険があるので,その対応として,病院に入院し て検査を受けるなどの配慮が必要である. 食品衛生法関連法規の改訂により,2002(平成 14)年から食物アレルギーを起こす可能性の高い特 定原材料5品目(卵,乳,小麦,ソバ,ピーナッツ)と, これらを含む加工食品についての表示が義務づけら れた.このことを踏まえ,加工食品中へのこれら原材 料の混入,あるいは製造工程でのキャリーオーバー などによる混入の有無を検査するため,「アレルギー 物質を含む食品の検査法について」特定5品目の公 定法が通知された.スクリーニング検査法として ELISA法,確認試験としてウエスタンブロッド法(卵, 牛乳), PCR-電気泳動法(小麦,ソバ,ピーナッツ) が採用されている. ❹食物アレルギーに対する処置 アレルゲンの特定ができたならば,アレル ギーに対する対策は,アレルゲンとの接触を できるだけ回避すること,またアレルギが発 症した場合は,その症状を抑えるのに適した 薬や関連する機能性を有した食品等の摂取 による対症治療法が基本となる.アレルゲン を含む食品の回避には,アレルゲンを除去し た食品を摂取する除去食療法が有効である. 表示義務が課せられている食品原材料5品目を はじめ,表示を推奨する19品目について,対応する アレルゲンがあるならば,加工食品購入時にそれら の表示に注意を払うとともに,それら主要な食物アレ ルゲンを低減化した代替食品の利用が考えられる. 代替食品の低アレルゲン化には,①アレルゲンの除 去,②アレルゲンの加熱,化学処理による変成,③ 酵素処理してペプチドにするアレルゲンの低分子化, の方法がある.また,窒素源としてアミノ酸を用いる ことで,アレルゲンとなるタンパク質含有していない 食品の開発が行われている. 現在,抗アレルギー薬として,マスト細 胞からのヒスタミンやロイコトリエンなどの 化学伝達物質の放出や産生を阻害したり, 臓器の化学伝達物質のレセプターを遮断 する機構の薬物がよく利用されている.さ らに,薬ではなく,茶などに含まれるフラボ ノイド成分が抗アレルギー作用を示すこと が報告され,ペットボトル飲料として摂取す るような機能性を有した食品の開発も進め られている.