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JPEC 世界製油所関連最新情報

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JPEC 世界製油所関連最新情報
2014 年 3 月 28 日(金)
JPEC 世界製油所関連最新情報
2014年3月号
(2014 年 2 月以降の情報を集録しています)
一般財団法人 石油エネルギー技術センター
調査情報部
目 次
概
況
1. 北 米
4 ページ
(1) カリフォルニア州で原油の鉄道輸送が急増
(2) Valero のカナダ産原油の再輸出申請と米国産原油輸出の現状
(3) EPA が公表した Tier3 規制について
2. ヨーロッパ
(1) イタリア Eni の精製能力削減計画について
(2) Preem の「Evolution Diesel」に関する情報
(3) Milford Haven 製油所の売却関係情報
10 ページ
3. ロシア・NIS諸国
(1) Transneft が計画する ULSD 輸出体制
(2) カザフスタンの新製油所建設に向けた動き
13 ページ
4. 中 東
15 ページ
(1) イラクの Karbala 製油所が建設開始
(2) イランが炭素取引市場の開設を検討
(3) クウェート Shuaiba 製油所閉鎖の計画
(4) オマーンの Khazzan 天然ガス(タイトガス)精製プラントの状況
(次ページに続く)
1
5. アフリカ
(1) アルジェリアの石油・石油化学・天然ガス関連の情報
(2) 南アフリカ共和国の石油下流事業の概況
18 ページ
6. 中 南 米
22 ページ
(1) ブラジル Petrobras の業績と中・長期期計画の概要-精製部門投資が漸減
1) 2013 年の業績
2)中期、長期事業計画における精製事業
(2) ブラジルの石油化学企業 Braskem の業績と事業戦略
7. 東南アジア
(1) インド IOC、カナダからの原油・天然ガスの輸入に取り組む
(2) インドネシアの製油所新設プロジェクト
(3) インドネシアで新規なバイオ燃料の製造を検討
28 ページ
8. 東アジア
(1) 中国国務院がエネルギー政策の刷新を検討
(2) 中国、米国・英国と共同で環境改善の取り組みの動き
31 ページ
9. オセアニア
(1) Shell、Geelong 製油所を Vitol に売却
(2) オーストラリア Caltex が燃料小売り事業を拡大
34 ページ
※ この「世界製油所関連最新情報」レポートは、2014 年 2 月以降直近に至る
インターネット情報をまとめたものです。当該レポートは石油エネルギー技術
センターのホームページから閲覧および検索することができます。
 http://www.pecj.or.jp/japanese/overseas/refinery/refinery.html
2
概 況
1.北米
・カリフォルニア州の製油所の処理原油は従来の州内産、アラスカ産、輸入原油に代わ
り、鉄道輸送による安価なカナダ、ノースダコタ産原油の供給の増加が続いている。
・米国では国産原油が原則禁止されているが、独立系精製企業 Valero はカナダ産原油
を傘下の英国 Pembroke 製油所への輸出を計画している。
・EPA は、自動車の有害排出物、ガソリン品質の新基準 Tier3 の最終案を公表した。規
制の影響は自動車では軽微であるが、ガソリンについては精製業の負担増は大きい。
2.ヨーロッパ
・イタリア Eni は、精製能力が過剰であるとして精製能力を削減し、稼働率アップを図
る計画を発表した。
・スェーデンの精製企業 Preem は、製紙工場の副産物トールオイルを製油所で精製しバ
イオディーゼルを製造しているが、その生産量を倍増する計画を発表した。
・米国 Murphy Oil は、英国子会社 Murco の製油所と SS を投資ファンドへ売却すること
を検討している。
3.ロシア・NIS 諸国
・ロシア国営パイプライン会社 Trans Neft は、超低硫黄ディーゼルの輸送量を大幅に拡
大する計画である。これが実現すると主力輸出先の欧州の精製業はさらに厳しい状況に
晒されることが懸念される。
・カザフスタンでは、既存の 3 製油所の拡張工事に加えて、第 4 となる大型製油所を建
設し将来の国内需要増を賄う計画である。余剰分は周辺国への輸出を見据えている。
4.中東
・イラクの Karbala 製油所建設プロジェクトで韓国 Hyundai E&C が建設を受注し、定礎
式が挙行された
・イランは環境改善・CO2 排出削減を進めるために、CO2 排出取引市場の導入の検討を始
めている。
・製油所近代化、製油所増設プロジェクトを進めているクウェートでは Shuaiba 製油所
が将来閉鎖される計画が発表された。
・オマーンの非在来型天然ガス開発 Khazzan 天然ガスプロジェクトが前進し、設備建設
のフェーズに移行している。
5.アフリカ
・アルジェリアから、石油・天然ガス事業の上流・下流事業部門概況と計画が伝えられ
ている。エネルギー保障の改善、LNG プロジェクト、石油化学等が重視されている。
・南アフリカ共和国からは、GTL/CTL 製油所・原油製油所の等のダウンストリーム事業を
中心に最近の状況が伝えられている。
6.中南米
・ブラジル国営 Petrobras の 2013 年の業績は概ね好調であった。また 2030 年までの長
3
期計画が示され、原油生産の拡大・製品自給率の改善が示されている。一方、中期計画
では、下流事業への投資額が前期計画に比べ大幅に削減されている。
・ブラジルの世界的な石化企業 Braskem の昨年の業績が発表された。内外の諸施策の効
果に、北米のシェールガス増産が同社に追い風になっていると分析されている。
7.東南アジア
・インド IOC は、精製コスト改善の為にカナダ産オイルサンド原油の調達を検討してい
る。また同社はインドの天然ガス需要増加に応えるために北米からの LNG 輸入を目指し、
JV への出資を進めている。
・石油製品の輸入増対策が課題であるインドネシアに自国企業とイラン企業が JV で西ジ
ャワ州に大規模な製油所を建設する計画が発表された。
・インドネシアでは、ディーゼル代替燃料として、パーム油等とは別に食糧生産と競合
しない新たなバイオ燃料の原料が注目されている
8.東アジア
・化石燃料の需要増・輸入依存度の拡大と環境汚染・CO2 排出の問題に対処するために、
中国国務院の研究機関が将来の上・下流分野でのエネルギー政策の展望を発表している。
・中国は、環境対策を進めるために国外との連携を進めているが、米国・英国それとの
2 国間の共同プロジェクトの推進が確認されている。
9.オセアニア
・石油精製事業の再構築が進むーストラリアでは、Shell の Geelong 製油所を含む下流
事業の石油トレーダーVitol への売却が発表された。その一方で Caltex は、ローカルの
燃料製品販売企業を傘下に収めた。
1. 北 米
(1) カリフォルニア州で原油の鉄道輸送が急増
カリフォルニア州の石油精製能力は、テキサス州及びルイジアナ州についで米国第 3
位にあり、その合計精製能力は 163 万 BPD になっている。このカリフォルニア州にカナ
ダ及びノースダコタ州から原油が鉄道輸送され、これまで処理されてきたカリフォルニ
ア州産原油、アラスカ州産原油及びコスト高の輸入原油が次第にその処理量を減らして
いる。
カリフォルニア州で原油の鉄道輸送が急増している理由は、これまで処理されてきた
各種原油の生産能力に陰りが見えて、アウトプットが減少してきているため、他の調達
先を検討しなくてはならない状態になっていることのほかに、各製油所が輸送費を加味
してもなお安価な原油の処理を求めている状況がある。
ノースダコタ州の非在来型原油である Bakken 原油に代表される軽質原油のカリフォ
4
ルニア州を含む米国西部への輸送量は、アラスカ州やその他の生産量の減少とも相まっ
て、2015 年には 50 万 BPD になるものとみられている。
カナダから鉄道輸送されてくる原油量は、
Bakken 原油以上の急激な伸びを示しており、
2013 年 12 月の単月を見ると約 71 万バレル、通年平均でみると約 29 万バレル/月にのぼ
り、最近ではカリフォルニア州に鉄道輸送されてくる原油の 67%を占めるまでになって
いる。
カリフォルニア州のエネルギー委員会(California Energy Commission)のデータに
よると、同州に鉄道輸送されてくる原油は、2009 年時点では 4.5 万バレルに過ぎなかっ
たが、2013 年には 617 万バレルに達し、4 年間で 135 倍になっている。増加割合も図 1
に示す通り、次第に増加してきた訳ではなく、2013 年に急増していることが分かる。
図 1.カリフォルニア州に鉄道輸送されている原油量
(出典:
「California Energy Commission」の下記資料)
原油の入手先もこの 4 年間で多様化しており、2009 年時点で鉄道輸送していたのは 3
州だけであったが、2013 年には 5 州に加えてカナダからの輸送となっている。また、2013
年の単年をみても 1 月時点では約 15.6 万バレルであった輸送量が年末には 100 万バレル
を超えるなど、12 カ月で 7 倍に膨らんでおり、その急増ぶりが見て取れる。
この様に鉄道輸送される原油量が急増していることが分かるが、それでも現状ではそ
の輸送量はカリフォルニア州の石油精製能力との関係においてみると、精製能力の 1%程
度に過ぎない。
本サイトにおいて、2013 年 7 月号第 1 項で「ワシントン州の鉄道輸送による原油受入
れ設備設置情報」としてワシントン州で原油の鉄道輸送が増強されている状況を報告し
たが、カリフォルニア州においても鉄道輸送が急増し、原油積み下ろし設備の建設計画
が活発に動いていることを示している。
これ等の原油積み下ろし設備建設計画をみると、下表に示す Valero、Phillips 66、
5
Plains All American Pipeline LP などの 6 プロジェクトが展開されている。この 6 プ
ロジェクトが全て設計能力で稼働すると、
2016 年には最大で約 1.5 億バレル/年となり、
鉄道輸送される原油量は合計精製能力の 25%を上回るとされている。
表 1.カリフォルニア州の原油積み下ろし設備建設プロジェクト
設備能力
企 業
製油所/場所 (万バレ
備
考
ル/日)
カナダ産ビチューメン
Valero Energy
Wilmington
6
計 画 Alon
USA
Bakersfield
15
Energy
WesPac
2014 年中の着工が想
Energy-Pittsburg Pittsburg
37.5
定される
LLC
All
着 工 待 Plains
当初の取扱量は 1/2 と
American
Bakersfield
14
ち
想定
Pipeline LP
Santa
2015 年稼働予定
Phillips 66
5.7
Maria
2015 年第 1 四半期稼
建設中 Valero Energy
Benicia
7
働予定
<参考資料>
 http://business.financialpost.com/2014/02/26/california-refineries-take-in
-record-volumes-of-canadian-crude/?__lsa=71b4-2338
 http://seuc.senate.ca.gov/sites/seuc.senate.ca.gov/files/02-24-14%20Backgr
ound.pdf
 2013 年 7 月号第 1 項「ワシントン州の鉄道輸送による原油受入れ設備設置情報」
(2) Valero のカナダ産原油の再輸出申請と米国産原油輸出の現状
Valero Energy Corp.が、カナダから輸入している原油を、米国メキシコ湾岸からヨー
ロッパあるいはその他の第 3 国に再輸出するための許可申請を行っていることが明らか
になった。
米国から原油を輸出する場合のライセンスは、商務省産業安全保障局(BIS:Bureau of
Industry and Security, Department of Commerce)が発行しているが、同局が今年 2 月
に外国産原油のヨーロッパ向け再輸出を許可した旨の発表をしていた。発表時点では詳
細が分からずに今日に至ったが、Valero のカナダ産原油の再輸出事項が当該許可と同一
のものと思われる。
Valero は、カナダに持っている同社の Jean Gaulin 製油所(26.5 万 BPD、別名:Quebec
製油所)で安価な原油を処理すべく、既に米国産原油を同製油所向けに輸出する許可を
得ているが、今回の原油再輸出申請は、同社が英国に持っている Pembroke 製油所(21
6
万 BPD)向けにカナダ産軽質原油を再輸出するものであり、米国産原油の輸出の申請に
はなっていない。
Valero が輸入原油の再輸出申請を行った背景としては、カナダ以外の海外への米国産
原油の輸出禁止措置が敷かれている現状で、少しでも安価な原油を処理すべく米国産原
油に代わるカナダ産原油の再輸出に至ったものと思われる。
英国の Pembroke 製油所では、高価格な Brent 原油に頼らなければならない状況になっ
ているものの、Valero の説明によると差し迫った問題ではない模様である。また、現状
では容量的にも大量の輸出は考慮しておらず、同社の Bill Klesse CEO も「現状では、
原油の再輸出は経済的に成り立たない可能性がある。
」と示唆していることから分かるよ
うに、経済的な方策であると考えられていない。
非在来型原油生産量が飛躍的に伸び、世界的にも主要原油生産国になった米国では、
現在、国内産原油の輸出禁止解除を巡って産業界・政界を巻き込んだ論議が行われてい
るが、概して精製事業に携わる企業は、ディーゼルをはじめとする製品輸出が順調に伸
びていることをバックに、製品輸出の有利性から米国産原油の輸出には反対の立場を取
り、原油生産業者は輸出に賛成の立場を取っている。
原油の輸出禁止措置が取られている米国であるが、ある一定の条件を満たす場合には
輸出が許可される例外措置が取られており、これまでにもアラスカ原油の輸出とカナダ
への国内産原油の輸出が、その対象として認可されている。
米国産原油の輸出の現状を、エネルギー情報局(EIA)のデータで調べてみると、昨年
11 月-12 月実績として約 20 万 BPD であることが分かる。その内訳を調べると、2000 年
以降の実績として抜粋した図 2 に示す通り、合計輸出量とカナダへの輸出量が殆ど重な
っており、米国産原油の海外輸出は全量カナダ向けであるとしても過言でないことが分
かる。
図 2.米国の 2000 年以降の国内原油輸出状況
(出典:米国 EIA サイト「Petroleum & Other Liquids」
)
7
専門家が想定する直近の動向としては、カナダへの輸出量は年末までには現状の 2 倍
程度になる可能性があり、アラスカ原油の輸出量は同様に 10 万 BPD 程度になるのではな
いかとみられている。
今回、Valero がカナダ産原油の再輸出申請を行った事例にみられるように、海外に製
油所を持つ米国企業が、安価な原油調達の手段として、且つ米国産原油の輸出禁止措置
が解禁されるまでの一時的措置として、米国産原油を含む原油の米国からの輸出の動き
を強めることも想定される。
<参考資料>
 http://www.cnbc.com/id/101466349
 http://www.bizjournals.com/sanantonio/blog/2014/03/valero-applies-for-lice
nse-to-ship-out-imported.html
 http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/5/5151/1401_out_us_washington_monthly.
pdf
(3) EPA が公表した Tier3 規制について
米国環境保護庁(EPA)は、自動車の有害物質排出規制並びにガソリン中の硫黄分規制
に関わる第 3 次燃料規制基準(Tier 3)案をとりまとめ、2013 年 3 月に公表して広くパ
ブリックコメントを募集していた。寄せられた意見は、EPA の想定以上の数に上った模
様であるが、これらの内容を加味して基準に反映した結果を 3 月 3 日に公表した。
新排出基準は、ガソリン中の硫黄分や物性のほか、有害物質排出規制として窒素酸化
物、揮発性有機化合物、粒子状物質等その他の物質に関する規制もなされているが、こ
れらの規制値に関しては、自動車の重量や型式等により異なるため、一概に記載するこ
とはできない。詳細については、下記掲載の EPA ホームページの該当サイトを参照願い
たい。
各種ある規制値の中で、ガソリン中の硫黄含有量について記載すると、EPA が 2013 年
3 月に示した Tier 3 案では、2017 年以降の規制値として、年間平均値としてのガソリン
中の硫黄分含有量は 10ppm 以下とした上で、流通する前段階(製油所出口)で 50ppm 以
下、販売店入口段階で 65ppm 以下に規制するとした表 2 中の「Cap Option 2」が提案さ
れていた。
しかし、数多く寄せられたパブリックコメントとしての意見を集約・検討した結果、
「Cap Option 1」での規制値、つまり年間平均値としての硫黄分含有量は 10ppm 以下と
する点は変わりなく、これまで通り超えてはならない数値としての流通する前段階(製
油所出口)での数値は 80ppm、また販売店入口段階での数値は 95ppm の規制値が採用さ
れることになっている。両数値が EPA の当初提案値より緩められた形になっている。
8
表 2.Tier 3 におけるガソリン中の硫黄分規制
(出典:
「Green Car Congress」の HP より転載)
今回提示された Tier 3 規制は、2017 年 1 月からの正式発効になるが、自動車からの
排出ガス規制面及びガソリン性状面の両面で、これまで独自に規制を行ってきたカリフ
ォルニア州を含め、米国連邦全体が統一された一つの基準の下で規制されることになり、
ヨーロッパや日本、韓国及びカリフォルニア州での規制値と同一レベルになったことに
なる。
EPA によると、新基準に対応するコストは、自動車1台当り 72 ドル上昇するものの燃
費向上による燃料費削減や、2018 年時点及び 2020 年時点では表 3 に示す多くの有害物
質が削減され、大気汚染が改善される効果として医療費削減が期待でき、最大で 67 億~
190 億ドル/年の経済効果があるとしている。
大手自動車メーカーも新基準の導入には「経営への悪影響は少ない」として容認の姿
勢を取っている様であるが、石油精製業者にとっては硫黄を除去するための大型設備投
資を伴う結果になり、環境面での利点との相殺には問題が残るとして更なる検討を要求
している。
表 3. Tier 3 規制による有害物質等の年間排出量削減効果
(出典:下記掲載の EPA 資料)
9
<参考資料>
 http://www.epa.gov/otaq/tier3.htm
 http://www.epa.gov/otaq/documents/tier3/tier-3-fr-preamble-regs-3-3-14.pdf
 2013 年 4 月号第 1 項「米国環境保護庁、ガソリン排出基準(Tier 3)案を発表」
2. ヨーロッパ
(1) イタリア Eni の精製能力削減計画について
イタリアの政府系石油会社の Eni SPA が「2014-2017 短期戦略(計画)
」を発表した。
この中の精製事業及び販売事業に関しては、地中海地域では精製能力が過剰状況にある
ことに鑑み、2017 年までに:
① 国内精製能力を削減し、残る製油所の稼働率を向上させること
② 製品流通分野の合理化
③ 調達原油取引における積極的価格差享受など、更なる最適化
に努めるとしている。
同社の過去数年間における精製能力削減状況は図 3 に示す通りで、過去 3 年間でみて
も精製能力を 64 万 BPD から 55 万 BPD に約 13%削減している。イタリアが位置する地中
海地域の精製事業及び販売事業はかなり厳しいため、Eni では更に今後 3 年間で保有精
製能力の 22%を削減し、43 万 BPD 程度にする予定である。2011 年時点で稼働させていた
精製能力と比較すると実に 1/3 以上を削減することになる。(図 4)
図 3.2010 年以降の Eni の保有精製能力推移
(出典:Eni の HP ほか)
Eni では精製能力を削減することで、製油
所の稼働率を向上させる意向で、2017 年時点
での稼働率を 80%にする計画である。
Ebi が過去 3 年間に精製能力を削減してき
10
図 4.Eni のイタリア国内製油所
(精製能力)
た状況を見ると:
① Venice 郊外の Porto Marghera にある Venice 製油所(8.4 万 BPD)を、2014 年第 2
四半期完成を目指した、バイオディーゼル製造基地としてのバイオリファイナリー化
(2012 年 10 月号第 2 項で報告)
② イタリア北部の Po Valley にある Sannazzaro 製油所(20 万 BPD)での 2014 年第 4
四半期完成を目標とする設備の最適化及び各種技術開発プロジェクトの展開
③ シチリア島南部にある Gela 製油所(10.5 万 BPD)のガソリン製造装置の運転停止を
含む精製能力の削減(2013 年 8 月号第 3 項で報告)
などが実施されてきている。
<参考資料>
 http://www.ogj.com/articles/2014/02/eni-plans-refining-capacity-cuts.html
 http://www.eni.com/en_IT/attachments/media/press-release/2014/02/PR-Strate
gy-2014-2017.pdf
(2) Preem の「Evolution Diesel」に関する情報
スウェーデンの Preem AB は、国内に Gothenburg 製油所(10.6 万 BPD)と Lysekil 製
油所(21 万 BPD)を所有し、スウェーデンにおける合計石油精製能力の約 80%のシェア
を持つ大手石油会社である。同社の Gothenburg 製油所では、約 4.5 億ドルを投資して再
生可能燃料の生産量を倍増するプロジェクトを展開している。
このプロジェクトでは、再生可能燃料としての“グリーン・ディーゼル”の生産量拡
張のみならず水素化処理装置(GHT:Green Hydrotreater)のアップグレードも同時に進
めており、工事完了は 2015 年秋になっている。Preem の“グリーン・ディーゼル”は
「Evolution Diesel(ED)
」の銘柄で販売され、再生可能ディーゼルが 1/3 含まれている
点で特徴ある商品になっている。
ED に含まれている再生可能ディーゼルの由来は、
クラフト法による製紙工程で使われる木材チップ
で、パルプ(木材繊維)を取り出す際に副生する黒
液(Black Liquor)を酸で中和し、分離される樹脂
と脂肪酸を主成分とするトールオイル(tall oil)
を原料としており、林業の盛んなスウェーデンでは
大量に副産されている資源である。(図 5)
トールオイルは、スウェーデン最北端の
Norrbotten 県の都市 Piteå から同国南部の港湾都
市で製油所のある Gothenburg まで船舶輸送され、
製油所設備で化石燃料と共に処理してディーゼル
が製造されている。
木材チップ
薬品溶融(蒸解)
副生する黒液(Black Liquor)
(リグニン・樹脂成分と薬品が混じった
濃縮液体物)
酸による中和
トールオイル(Tall Oil)
(樹脂と脂肪酸が主成分)
図 5.トールオイルの説明図
11
現在、トールオイルを原料とするディーゼル生産量は約 40 万トン/年であるが、この
生産量を倍増させ 80 万トン/年にする計画が、今回の Preem のプロジェクトの中核であ
る。
Preem がトールオイルをディーゼル原料として使用を開始したのは 2010 年であるが、
同社のプロセスは化石燃料と同時に処理することを一つの特徴としており、トールオイ
ルのほか通常の菜種油をはじめとする各種植物性の油や獣脂も原料化できるとしている。
ED は製油所で製造された後、スウェーデン各地に船舶輸送されているほか、近距離は
トラック等で陸上輸送されているが、現状では市場はスウェーデン国内に限られている。
Preem では、製油所での製造能力の拡張と共に国外への輸出も視野に入れた展開を検討
することにしている。
<参考資料>
 http://www.preem.se/upload/Corral/Preem%20invests%20SEK%20300%20million%20
in%20new%20biofuel%20capacity.pdf
(3) Milford Haven 製油所の売却関係情報
米国の Murphy Oil Corp.は、英国子会社の Murco が経営する Wales の Milford Haven
製油所(13.5 万 BPD)と英国内販売店網の売却を数年来検討してきているが、適当な売
却先が見当たらない状態で今日に至っている。しかし、ここにきて運転を継続する前提
での売却が或る株式ファンドとの間で進められているとの情報が流れている。
企業名はロンドンに籍を置く「Greybull Capital」で、同社は取り敢えず Milford Haven
製油所が今後迎える点検・保守作業に関わる費用を、ある一定上限金額を設定した上で
融資することで合意に至っていると言われている。
しかし、Greybull が買収する場合には、同社には石油精製並びに販売に関わるノウハ
ウが備わっていないと考えられることから、石油製品流通事業関係企業や銀行の支援が
必要ではないかと言われている上に、事業の継続には「Murco」のブランド並びに Murco
が持つ物流システムは必須と考えられている。
Murco は英国内に製油所と鉄道輸送システムで連結されている貯蔵・配送ターミナル
を 3 ヵ所持ち、400 ヵ所の販売店を通じ年間石油取扱量も 200 万トンに上るとされてい
るだけに、
Murco に蓄積されている情報は製油所売買には欠かせないものとなっている。
関係者の間では、製油所の将来に関わる結論が出されるのは近いのではないかとされ
ている一方で、点検・保守作業に関わる費用の融資は、政府補助金の獲得や他の買収機
関から資産を守る際に取られる常套手段でもある、とされているだけに予断を許さない
状況にあると思われる。
<参考資料>
12


http://www.reuters.com/article/2014/03/18/britain-refinery-idUSL6N0MF2BR20
140318
2013 年 11 月号第 2 項「Milford Haven 製油所のターミナル化情報」
3. ロシア・NIS 諸国(New Independent States)
(1) Transneft が計画する ULSD 輸出体制
ロシアでは多くの国内各製油所が近代化工事を実施中であるが、これらの工事が最終
段階を迎える 2016 年以降に時期を合わせて、ロシアの国営パイプライン会社の
Transneft は、バルト海に面した Primorsk 港からの ULSD(超低硫黄ディーゼル)の輸出
量を、現在の約 800 万トン/年から 3 倍に近い 2,300 万トン/年(47 万 BPD)に拡張する
計画である、と伝えられている。
ただし現状では、ULSD の製造・輸出余力はあるものの製品パイプラインの輸送能力が
不足しているため、当面は Primorsk 港まで 2 系列敷設されている原油パイプラインとし
ての「Baltic Pipeline System(BTS)
」の一系列を製品輸送ラインとして転用するとさ
れている。
必要となる新設パイプラインについては、精製企業の Surgutneftegas が所有する
Kirishi 製油所(約 40 万 BPD)で製造される ULSD を Primorsk まで輸送することを前提
としたパイプライン設計を今春に開始し、2015 年の第 4 四半期には出荷を開始できる態
勢にしたいとしている。
Primorsk 港から出荷される ULSD の主要輸出先はヨーロッパであるが、これまでもロ
シアのみならず米国やアジアからのディーゼル流入で窮地に立たされているヨーロッパ
精製企業にとっては、今回の計画に基づくロシアからの急激な流入は、大変な圧力とし
て捉えられている。
輸出元となるロシアとしても、ULSD の Primorsk への集中が Ust-Luga 港やロシア国内
製油所 15 箇所及びラトビアやハンガリーの製油所を結んでいる製品輸送パイプライ
ン・システムがラトビアの Ventspils 港へ連結されている関係から、同じバルト海に面
した地理的にも Primorsk に近い Ust-Luga 港と Ventspils 港を含め、これらの積出港に
は重質燃料としての黒物製品が集中し、ULSD 製品が不足する原因になりかねない要素を
含んでいる(図 6 及び 2012 年 8 月号第 2 項参照)
。
13
図 6.ULSD 積出港と Kirishi 製油所の位置関係
ロシアの製油所の近代化工事が進むにつれ付加価値の高い製品が製造されるようにな
り、国内市場が十分に形成されていない製品については、国外に市場を求める動きにな
っている。特に、高品質ディーゼルに関しては国内需要が十分ではなく余剰が予測され
ているが、想定される余剰量は 2020 年時点で 6,500 万トン/年に達するのではないかと
言われている。
製油所近代化工事が進展するに従いロシアからの原油の輸出量が減少する恐れと相ま
って、ヨーロッパの製油所にとっては頭の痛い問題になりそうである。
<参考資料>
 http://www.reuters.com/article/2014/03/06/russia-diesel-idUSL6N0M33YC20140
306
 2012 年 8 月号第 2 項「ロシアのヨーロッパ向け高品質ディーゼル輸出についての情
報」
(2) カザフスタンの新製油所建設に向けた動き
カザフスタン国営石油会社の KazMunaiGas は、傘下に 3 製油所を持っているが、いず
れも老朽化が進み改造・近代化工事を必要としているため、Pavlodar 製油所は 14 万 BPD
に、Symkent 製油所は 12 万 BPD に、また Atyrau 製油所は 10 万 BPD への拡張工事を含む
近代化を進めている。
一方、同国では現在 12 万〜14 万 BPD の石油製品を輸入しているが、既存 3 製油所の
近代化工事が終了する 2016 年第 2 四半期には、国内需要を賄うだけの精製能力を持つこ
とになる。しかし、その後の国内需要の上昇、国内産原油の生産量アップを考慮すると、
既存3製油所のみでの対応では不安材料が残り、何らかの措置が望まれている。
14
この様な好況を受けて KazMunaiGas では、同国 4 番目となる製油所建設に向けた動き
を取っているが、これまでに明らかになってきている事項を列記すると以下の通りであ
る。
① 製油所建設には 5〜6 年を要する。
② 5〜6 年後の国内需要対応を考慮しただけの、10〜12 万 BPD 以下の製油所では経
済性がない。
③ 従って、大規模製油所建設を前提としているが、
余剰製品の輸出は避けられない。
④ ヨーロッパをはじめとする西欧諸国への輸出を前提にすると、流通経路が複雑に
なることが想定される。
⑤ 現在考えられる最適輸出先はウズベキスタン、タジキスタン、キルギス、アフガ
ニスタン等の中央アジア諸国であるが、これらの国々へは既にロシアが市場に浸
透しており、難しい競争を強いられることが想定される。
⑥ 更に輸出先では労働コストが低い中国との競合も避けられそうにない。
上記の各要素を念頭に、新製油所建設が推進されることになるが、未だ最終結論は報
道されておらず、KazMunaiGas がどのような結論を得て同国 4 番目となる製油所建設に
向けた動きをとるのか注目される。
<参考資料>
 http://en.tengrinews.kz/markets/KazMunaiGas-Head-on-the-4th-oil-refinery-2
6464/
 2013 年 10 月号第 1 項「習近平国家主席の中央アジア訪問と製油所関連事項」(1)カ
ザフスタンで話合われた製油所関連事項
4. 中 東
(1) イラクの Karbala 製油所が建設開始
イラクのカルバラ県で、Karbala 製油所の建設の定礎式が 2 月下旬に Nuri al-Maliki
首相により執り行われたことが国営メディア National Iraqi News Agency 等から報道さ
れた。Karbala 製油所プロジェクトは、これまでも報告してきたとおり(2013 年 6 月号第
1 項参照)、イラク中部のカルバラ県に精製能力 14 万 BPD の製油所を建設するもの。
定礎式に先立つ 2 月 19 日、イラク国営 State Company for Oil Projects (SCOP)は、
韓国の Hyundai E&C が率いる 4 企業(Hyundai E&C、GS E&C、SK E&C、Hyundai Engineering)
のコンソーシアムに Karbala 製油所の建設を、契約額 60.4 億ドルで発注したことを発表
されている。発表によると工期は 54 ヶ月で、今回の定礎式から数えると、完成は 2018
年半ばになる計算になる。
Karbala 製油所プロジェクトでは、2009 年 2 月にフランスのエンジニアリング企業
Technip が基本設計業務(FEED)を受注し、さらに 2013 年 6 月に Technip は、設計・資材
15
調達・建設業務(EPC)フェーズのプロジェクトマネジメント契約を SCOP と締結している。
<参考資料>
 http://en.hdec.kr/cyberpr/companynews_view.asp?intPage=1&strSearch=&strSearchText=&i
ntIDX=527

http://iraq-jccme.jp/pdf/20100715_2.pdf
(2) イランが炭素取引市場の開設を検討
イランで、CO2 取引市場の導入が検討されている。2012 年のイランの CO2 排出量は、4.1
億トン/年(日本の 1/3)で世界 15 位、
一人当たりの排出量は 5.3 トン/年(日本の 1/2)で、
石油・天然ガス・石油化学産業および自動車・トラックが主な排出源になっている。
2 月中旬、
イラクの省エネルギー政策推進機関 Fuel Conservation Organization (IFCO)
のエネルギー効率部門の責任者 Mehdi Sharif 氏は、政府及び議会に計画を提出すること
を前提に CO2 排出権取引制度を研究していると、イラン石油省の通信社 Shana に伝えて
いる。その中で、Mehdi Sharif 氏はエネルギー消費と CO2 排出は表裏一体で、CO2 排出権
取引市場を通じて得られた資金を、CO2 排出量の削減を遂行できる産業に振り向けるとし
ている。
IFCO は、CO2 取引制度の導入に際して、国内のエネルギーサービス産業を育成する為
に、開発途上国の環境政策を支援する国際機関 Global Environment Facility(GEF)と連
携して資金調達を進めたい意向を明らかにしている。
<参考資料>
 http://www.shana.ir/en/newsagency/212592
(3) クウェート Shuaiba 製油所閉鎖の計画
クウェートの国営 Kuwait National Petroleum Company(KNPC)の製油所関連プロジェ
クトについては、2014 年 2 月号第 1 項で Clean Fuel Project(CFP)の進捗を報告したと
ころであるが、
同国で 3 番目の規模(最小)の Shuaiba 製油所の閉鎖の計画が報道された。
国営メディア Kuna は、Shuaiba 製油所を CFP が稼働する 2017 年末までに閉鎖する計
画であるとの KNPC の Mutlaq Al-Azmi 副 CEO の発言を伝えている。
CFP 稼働後、Shuaiba 製油所は貯蔵施設に転換される計画である。これに関連して
Al-Azmi 副 CEO は、New Refinery Project(NRP)による新設 Al Zour 製油所要員は、KNPC
の従業員から少なくとも 2,000 人を充てる計画であると説明しており、Shuaiba 製油所
からの配置転換の可能性を示唆している。
Suaiba 製油所は、1968 年 4 月に稼働した中東地域で国営石油企業が建設した初めての
製油所で、Kuwait City の南 50km の Shuaiba Industrial Area に所在している。また、
プロセス的にみると、精製に用いる水素の全量を天然ガスから製造する、世界初の“all
16
hydrogen Refinery”に位置付けられている。
<参考資料>
 http://www.kuna.net.kw/ArticlePrintPage.aspx?id=2360999&language=en
 http://www.knpc.com.kw/en/Refineries/Pages/ShuaibaRefinery.aspx
(4) オマーンの Khazzan 天然ガス(タイトガス)精製プラントの状況
オマーンの Khazzan 天然ガスプロジェクトが前進し、天然ガス精製プラント関連で新
たな動きが伝えられている。
2000 年頃に BP により発見された、オマーン北西部のザーヒラ地方(Ad Dhahirah
Governorate)の Khazzan 天然ガス田は、中東地域で最大規模の非在来型タイトガスを埋
蔵し、BP は 2007 年にオマーン政府との間で Block 61 鉱区の EPSA(Exploration and
Production Sharing Agreement)契約を締結し開発を進めてきた。さらに昨年末、BP は
オマーン政府と天然ガスの販売と生産分与に合意し、プロジェクトが前進した。
Khazzan 天然ガス田の確認埋蔵量で 100 兆 cf(2.8 兆 m3)の天然ガスとコンデンセート
を埋蔵している。BP は Block 61 鉱区において 15 年の間に 300 井を掘削し、定常状態で
10 億 cf/日(2,830 万 m3/年)の天然ガスとコンデンセート 2.5 万 BPD を生産する計画で、
開発総投資額は 160 億ドルと公表されている。
プロジェクトは、具体的な設備建設フェーズに入り、2 月下旬に BP は、英国のエンジ
ニアリング企業 Petrofac に天然ガス中央処理施設(central processing facility:CPF)
の設計・調達・建設業務(EPC)を 12 億ドルで発注している。
CPF は、1 系列当たり能力 5.25 億 scf の天然ガス処理設備 2 トレーンから成り立ち、
EPC の対象には CPF 本体に加えて随伴コンデンセート処理設備、発電プラント、廃水処
理設備、ユーティリティー、インフラ設備が含まれている。さらに、今回の EPC 対象設
備以外に輸出パイプラインの建設が計画されている。
プロジェクトは、
これまで通り2017
年に完了の予定と発表されている。
<参考資料>
 http://www.petrofac.com/media/news/2014/february/20/petrofac-awarded-khazz
an-cpf-project-in-sultanate-of-oman.aspx
 http://www.bp.com/en/global/corporate/press/press-releases/the-governmentof-the-sultanate-of-oman-gives-the-go-ahead-to-bp.html
 http://core.theenergyexchange.co.uk/agile_assets/1601/2._Jonathan_Evans.pd
f#search='khazzan+project'
17
5. アフリカ
(1) アルジェリアの石油・石油化学・天然ガス関連の情報
第 43 回石油・天然ガスの国有化記念式典が挙行された、アルジェリアから石油・天然
ガス関連のニュースが相次いで報道されている。
・アルジェリアの石油天然ガス事業の概況
1971 年 2 月 24 日のアルジェリアによる石油・天然ガス資源国有化後、国営 Sonatrach
は上流から下流部門までの総合エネルギー企業として成長した。
記念式典に向けたメッセージの中で、Bouteflika 大統領はアルジェリアが石油・天然
ガス資源を完全に支配下に収めており、法制度と適確な政策により主権を完全に保って
いると表明するとともに、資源国営化と労働者連合(General Union of Algerian
Workers:UGTA)設立記念日を祝している。
大統領は、大規模な油田の発見、原油・天然ガス田の開発、天然ガス処理設備、LNG
プラントの建設が実現し、天然ガスパイプラインの建設や製油所の精製能力の増強など
中・下流事業の整備も実現できたと成果を強調した。同社は 2013 年に、生産を進めなが
らの埋蔵量増加を示す指標 RRR(Reserve Replacement Ratio)で高い成績を示すなど優
れた業績を達成している。
・資源開発の安全保障
アフリカの石油産業にとって資源セキュリティーは最重要課題に位置付けられるが、
Youcef Yousfi エネルギー鉱業相は、2013 年 1 月にテロ攻撃を受けた Tiguentourine 天
然ガスコンプレックス(Illizi)の生産現場で勤務している国外技術者、作業員や企業は
安全な状態に保たれていると述べ、治安部隊の人員・装備を拡充して従業員および設備
の安全を保障する方針を改めて表明している。
・天然ガス処理設備、LNG プラント
首都アルジェの南 800km で 2009 年後半から、Sonatrach と日揮により建設が進められ
ていた Gassi Touil 天然ガス処理設備が完成し試運転が始まった。これによりアルジェ
リアの天然ガス処理能力は 36 億 cf/年(約 1 億 m3/年)拡大する。
Gassi Touil プラントの投資額は 1,070DZD(約 14 億ドル)で、52 井から送られる天然
ガス 1,200 万 cf/日を処理する計画であるが、当初は 44 井でスタートする。同プラント
は今後 12-15 年間操業する計画である。
また、Skikda の液化能力 60 億 cf/年(1.7 億 m3/年)の天然ガス液化トレーンが最近稼
働を始めたことで、アルジェリアの LNG 製造能力は 120 億 cf/年(3.4 億 m3/年)になる。
・石油化学事業への投資計画
2 月下旬、Youcef Yousfi エネルギー鉱業相は、第 43 回石油・天然ガスの国有化記念
18
式典に際して、同国の石油化学発展計画の実現には 200 億ドルを超える投資が必要であ
ると語った。
石油化学産業発展計画は、製品輸入の削減を図り、関連する工業を発展させ、さらに
は国際市場に参入しようとするもので、海外企業からの技術移転を進める方針が示され
ている。
参考までに、アルジェリアの石油・天然ガスの概況を表 4 に示す。
表 4.アルジェリアのエネルギー基礎データ
年
原油確認埋蔵量
原油生産量
原油+NGL 生産量
天然ガス確認埋蔵量
2013.1.1
数量
年
122 億バレル
原油輸出量
2012
125 万 BPD
石油消費量
2012
187 万 BPD
精製能力
2012
56.2 万 BPD
2013.1.1
159.1 兆 cf
天然ガス輸出量
2011
1.8 兆 cf
LNG 輸出量
2011
1,300 万トン
天然ガス生産量
2011
6.7 兆 cf
同 (再注入・フレア除き)
2011
3.5 兆 cf
2012
数量
80 万 BPD
32.8 万 BPD
シェールオイル埋蔵量
シェールガス可採埋蔵量埋蔵
量
発電量
707 兆 cf
2011
463kWh
EIA,Country Analysis(2013.5.20)より
<参考資料>
 http://www.aps.dz/en/economy/search?searchword=natural+gas&categories=194%
2C199%2C204%2C209%2C214%2C219%2C224%2C229 等の一連のニュース
 http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=AG
(2) 南アフリカ共和国の石油下流事業の概況
米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)が、2 月末日に発行した南アフリカ共和国の
カントリーレヴュー(Country Analysis)の最新版を中心に同国の下流事業を概観するこ
とにする。
1)南アフリカのエネルギー環境
南アフリカ共和国(以下南ア)は、1 次エネルギー源の比率は、2012 年の数字で石炭
(72%)、原油(22%)、天然ガス(3%)、原子力(3%)で水力を主体とする再生可能エネルギー
源(1%)になっている。このように南アは、石炭への依存率が高く、2011 年には世界第 14
位、アフリカで最大の CO2 排出国になっている。
原油の埋蔵量は 2013 年末の時点で 1,500 万バレルに過ぎないが、石炭や天然ガスから
の合成原油(Coal to Liquid: CTL、Gas to Liquid: GTL)の生産量は、2013 年に 16 万 BPD
に達し、国内原油類の供給量 18 万 BPD の 90%を賄っていることになる。(南アのエネル
ギー基礎データを表 5 に示す)
19
表 5.南アフリカ共和国のエネルギー基礎データ
原油確認埋蔵量
年
数量
2013.12 末
1,500 万バレル
原油輸入量
年
原油類(合成原油含む)生産量
2013
18 万 BPD
石油消費量
CTL + GTL 生産量
2013
16 万 BPD
精製能力
数量
2012
37.8 万 BPD
2013
61.8 万 BPD
2014.1
48.5 万 BPD
石油製品輸入量
2012
11 万 BPD
天然ガス確認埋蔵量
2012
5,700 億 cf
天然ガス消費量
2012
1,660 億 cf
天然ガス生産量
2011
390 億 cf
天然ガス輸入量
2012
1,270 億 cf
発電能力
2011
44.28GW
シェールガス可採埋蔵量
発電量
2013(EIA)
2010
390 兆 cf
2,419 億 kWh
EIA,Country Analysis(2014.2.28)より
2)精製事業
2013 年の南アの石油消費量は 61.6 万 BPD であるが、国内の原油精製、CTL・GTL プラン
トからの製品供給量では賄いきれず、
2012 年には 11 万 BPD の石油製品を輸入している。
同国の“原油”製油所の精製能力は 2014 年 1 月時点で 4 製油所を合わせて 48.5 万 BPD
である。南ア政府は、2017 年までに燃料品質規格の引き上げと、新設パイプライン建設
資金の捻出を目的に、石油製品パイプライン使用料金の引き上げを計画しているため、
精製・販売コストの上昇が懸念されている。さらに新たな品質規格を満足させるには精
製設備の近代化投資を要するが、精製企業の動きは緩慢である。
・製油所新設計画
国営石油天然ガス企業 PetroSA は、南部の東ケープ州の Port Elizabeth の Coega 工業
ゾーン(Coega Industrial Development Zone: IDZ)に Coega 製油所を新設するプロジェ
クト“Project Mthombo”を計画中である。PetroSA によると同製油所の原油精製能力は
40 万 BPD で、燃料製品は新たな品質規格を満足し、既設の製油所で精製能力の増強が実
施されない場合でも、ディーゼルとガソリンの国内供給量の不足分を満たすことができ
るとしている。Project Mthombo は中国の Sinopec と共同で事業化の検討が進められて
いるところである。(2013 年 1 月号第 1 項参照)
・CTL・GTL 製油所
南アのダウンストリームで特徴的なものは、GTL/CTL(Fischer-Tropsch プロセス)で
あるが、Sasol の Secunda CTL プラントでは、石炭から燃料製品と化学製品を製造して
いる。現在の生産能力は原油換算で 16 万 BOED であるが同社は、3 万 BOED の増強を計画
するとしている。また Sasol では北東部のリンポポ州に 8 万 BOED の新プラントを建設す
る Mafutha プロジェクトも計画されていたが、中断したと伝えられている。
PetroSA は、Mossel Bay GTL プラント(4.5 万 BOED)を操業しているが、既存の天然ガ
ス田の枯渇に備えて天然ガスの確保に注力しており、既存の F-O 天然ガス田の供給量の
維持、Ibhubesi 天然ガス田の開発、さらにはモザンビーク、ナミビアからの天然ガス輸
入を目指している。この内、Ibhubesi 天然ガス田の生産は 2016 年を予定している。さ
20
らに同社は、洋上再ガス化設備の建設も視野に入れている模様である。
南アの原油精製、GTL/CTL プラントの経済性、環境影響を横並びで総合的に分析した
ものとして、University of Cape Town の Energy Research Centre の Systems Analysis
& Planning グループによる検討結果が 2013 年に発表されている。その結果を簡単にま
とめたものが表 6 で、CTL プラントは温室効果ガス(GHG)の排出量が多い反面、製造コス
トが低いことを改めて理解することができる。CTL プラントからの大量の GHG 排出の問
題は、発電セクターからの GHG 排出量の取り扱いとともに南アの重大な課題といえる。
表 6. 南アフリカ共和国の既設・計画製油所の比較
単位
Secunda
タイプ
規模
総合効率
投資額
Mafutha
MosselBay
内陸製油所
沿岸製油所
MthomboPJ
CTL(既設)
CTL(計画)
GTL(既設)
原油(既設)
原油(既設)
原油 (計画)
万 BPD
15
(8.0)
4.5
10.8
40.5
(40)
%
44
78
78
93
95
97
百万 R/[GJ/y]
既設
305
製造コスト*
R/GJ
57
80
CO2 排出量
Kt/PJ
118.88
118.88
CH4 排出量
Kt/PJ
1.49
1.49
既設
既設
95
既設
66
128
121
129
low
6.87
2.9
6.18
low
0
0
0
University of Cape Town 2013/3 “ENERGY MODELLING FOR LIQUID FUELS/GAS SUPPLY A summary of the SATI Mmethodology”抜粋
ジンバブエ
ジンバブエ
● 製油所(CTL/GTL/crude)
ナミビア
★
ボツワナ
シェールフォーメーション
モザンビーク
スワジランド
Sasolburg,National petroleum
Refiners (crude): 8.8 万 BPD ●
南アフリカ共和国
●Secunda,Sasol(CTL) :15 万 BPD
レソト
● Durban,Shell/BP (crude) :16.9 万 BPD、
Engen (crude) :11.8 万 BPD
Collingham
Capetown,Chevron
(crude): 11 万 BPD●
Whitehill
★
★
★Prince Albert
● Coega(Mthombo),PetroSA(crude):40
● Mossel Bay,PetroSA(GTL) :4.5 万 BPD
万 BPD(計画)
図 7. 本文中に示した製油所の所在地およびシェールガス埋蔵地域
3)シェールガス
関心の高いシェールガスであるが、EIA の 2013 年 6 月のレポートによると南アの技術
21
的に回収可能なシェールガス埋蔵量は 390 兆 cf(11 兆 m3)で、世界第 8 位にランクされて
いる。
シェールガスは、
同国南部の西ケープ州 Whitehill (埋蔵量 211 兆 cf)および Prince
Albert (96 兆 cf)、東ケープ州 Collingham (82 兆 cf)の Karoo Basin に含まれる 3 フ
ォーメーションに埋蔵している。
南ア政府は、シェールガス開発に用いられる水圧破砕法が環境へ与える影響への懸念
から、シェールガスの探査を 2011 年 4 月に暫定的に禁止していたが、2012 年に取り下
げ、南ア政府は 2013 年 10 月にシェールガスの探査と水圧破砕法の基準を含む新たな資
源探査規則を提案している。
南アのシェールガス探査に関心を示している企業としては、
これまでにFalcon Oil and
Gas Ltd、Bundu Gas & Oil have Shell、Chevron 等の名前が挙がっている。
原油を殆ど埋蔵せず、石炭への依存度が高い南アにとり、将来の化石エネルギー源と
してシェールガスに対する期待は高い。
<参考資料>
 http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=SF

http://www.mapsprogramme.org/wp-content/uploads/SATIM-Liquid-fuels-and-gas.pdf#searc
h='Mafutha+project
Sasol Secunda CTL 拡張プロジェクト
 http://www.sasol.co.za/media-centre/media-releases/sasol-orders-new-reacto
r-part-synfuels-expansion-meet-sa-growing-demand
PetroSA の Mthombo 製油所プロジェクト
 http://www.petrosa.co.za/building_futures/Pages/Project-Mthombo.aspx
PetroSA Project Ikhwezi
 http://www.petrosa.co.za/building_futures/Pages/Project-Ikhwezi.aspx
6.中南米
(1) ブラジル Petrobras の業績と中・長期期計画の概要-精製部門投資が漸減
ブラジル国営石油・天然ガス企業 Petrobras は、2 月下旬に 2013 年の業績報告を発表
するとともに中・長期事業計画を発表した。同社の現状と、ダウンストリーム部門の事
業計画について概要をまとめる。
1)2013 年の業績
① 2013 年の利益、生産量
 当期純利益は 235 億 7,000 万レアル(100 億ドル)で、2012 年に比べ 11%増加した。
22







ディーゼル(20%)・ガソリン(11%)の値上げ、増産、コスト改善、資産売却益、為替リ
スクヘッジによる為替変動の緩和により EBITDA (利払い前・税引き前・減価償却前・
その他償却前利益)は 629 億 6700 万レアル(268 億ドル)で、前年比で 18%増加した。
新設の 5 プラットフォームが稼働した。
プレソルトからの原油生産量は、2013 年 12 月 24 日に過去最高の 37.1 万 BPD を記録
した。
石油・天然ガス生産量は、253.9 万 BOED(原油換算)。2013 年第 4 四半期の生産量は
253.4 万 BOED で前期比で 1%増。
石油製品の製造量は 212.4 万 BPD で 2012 年比で 6%増。
Campos 海盆の増産プログラム (Programa de Aumento da Eficiência Operacional da
Bacia de Campos:PROEF)で 6.3 万 BPD の増産を達成した。
企業売却・分割による利益は 85 億レアル(36 億ドル)。
② 探査・開発
 石油の確認埋蔵量は、166 億 BOE(原油換算)で、RRR(reserves replacement ratio)
は 22 年連続で、100%を上回った。新発見油田の主なものは Sergipe- Alagoas と Rio
Grande do Norte。
 ブラジルの探査成功率は業界平均の 30%を上回る 75%(プレソルトは 100%)で、2013
年 1 月から 2014 年 2 月の 14 ヶ月の発見件数は 46 で、その内海洋油田が 24 ヶ所で
プレソルトが 14 件の内訳になった。
 2013 年の原油生産量は 193.1 万 BPD。
③ 石油製品供給
 石油製品の販売量は 4%増、製造量は 6%増で、なかでもディーゼルが 8.6%、ガソリン
が 12.1%増加しで製品輸入必要量の削減に寄与できた。
 2013 年にディーゼルは 3 回、ガソリンは 2 回値上げを実施し、値上げ幅は累計でデ
ィーゼルが 20%、ガソリンが 10%を記録した。
④ 天然ガス・電力
 水不足による水力発電量の減少を補うために、発電用燃料需要が 52%増え、輸入 LNG
とボリビアからの天然ガスで不足分を補った。
因みにブラジルは発電量の大半を水力発電で賄っている。2011 年の発電量は 5,310 億
kWh、で水力発電による電力は、4,240 億 MWh で全体の 80%を占めている。化石燃料によ
る火力発電は全体の 17%になっている。また、2 基の原発 ANGRA 1(657MW)と ANGRA
2(1,350MW)が稼働している。
ブラジルは再生可能クリーンエネルギーである水力発電の割合が高いことを誇ってき
たが、水不足時の供給力に問題があることや電力需要の増加に応えるために、発電源の
多様化を検討しており、天然ガス火力発電を増やす方針に則って LNG 輸入能力の拡大な
ど天然ガス供給源の多様化を進めている(2013 年 2 月号第 2 項参照)。
23
⑤ 構造改革プログラム
Petrobras は、コスト改善(Optimization Program Operating Costs: Procop )、 資
産売却・分割(Program Divestitures:PRODESIN )、操業効率改善( Program for Increasing
Operational Efficiency : Proef ) プロジェクトを展開し、夫々43 億レアル、33 億レ
アル、21 億レアル合計 97 億レアル(利益の 41%)を引き上げたと評価している。
<参考資料>
 http://www.petrobras.com.br/fatos-e-dados/veja-os-destaques-dos-nossos-res
ultados-de-2013.htm
 http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=BR
2)Petrobras の中期、長期事業計画における精製事業
① 長期計画“Strategic Plan (SP 2030)”
Petrobras は、2013 年の業績発表と同時期に 2030 年に向けた“Strategic Plan (SP
2030)”を公表している。Petrobras によると 2008 年の世界規模の経済危機や米国のシ
ェールガス・タイトオイルの増産による世界の石油・天然ガス事情の変化、ブラジル政
府によるエネルギー規制政策の見直し影響を考慮して 2007 年版に対して大幅な変更に
なったとしている。
主要な事業目標は、政府の鉱区入札計画を前提に置き、全ブラジル(Petrobras+その他
企業+政府)の 2020 年から 2030 年の原油生産量を平均 520 万 BPD と置いて、同期間内の
Petrobras の原油生産目標を平均 400 万 BPD に設定している。また精製能力は 2030 年ま
でに 390 万 BPD まで引き上げる計画としている。また、天然ガスは国内市場向けに増産
を目指す。
② 中期計画(2014 年-2018 年)
さらに Petrobras は中期 5 か年計画(2014 年-2018 年)も発表しているが、前期(2013
年-2017 年)に比べて総額で 6.8%減少し、内訳ではアップストリームが増額した一方、ダ
ウンストリームへの投資額、配分比率とも大幅に削減されていることが注目される。
表 7 に今年と 2013 年の投資計画の比較を示した。
2014 年-2018 年の投資額は、2013 年-2017 年計画に比べ総額で 161 億ドル減少してい
るものの、探査・開発(E&P)事業は投資額で 64 億ドル増加し、配分率も 8%増えて 70%に達
している。これに対して、下流部門の投資額は、261 億ドル減少し減少率は 40%に及んで
いる、配分率は 9%減少し 18%と 20%を割り込んでいる。その他では国外事業分が増加し、
バイオ燃料が減少している他は、額・配分率とも大きな差は認められない。
24
表 7. Petrobras の 2013 年-2017 年投資計画と 2014 年-2018 年投資計画の比較
単位
探査・開発
下流事業
天然ガス・電力
国外
バイオ燃料
物流
エンジニアリング
その他
合計
2014-2018(A)
億ドル
1,539
387
101
97
23
27
22
10
2,206
配分
%
70
18
5
4
1
1
1
0.5
100
2013-2017(B)
億ドル
1,475
648
99
51
29
32
23
10
2,367
配分
%
62
27
4
2
1
1
1
0.4
100
(A)-(B)
億ドル
64
-261
2
46
-6
-5
-1
0
-161
(A)-(B)
%
8
-9
1
2
0
0
0
0.1
-
・中、長期計画における精製部門
ダウンストリーム部門の投資の主なものは、
Abreu e Lima 製油所(RNEST:23 万 BPD)
プロジェクト、Comperj 製油所プロジェクトのフェーズ 1(6.5 万 BPD)、原油・石油製
品輸送船 45 艘の建造プロジェクト(Promef)で、Premium I・Premium II 製油所は入
札段階にある(Petrobras の製油所関連プロジェクトの概要は 2013 年 7 月号第 1 項
等参照)。
Petrobras はダウンストリーム投資の削減について理由を明確に記述していない。
2013 年-2017 年にも製油所関連投資額が、前期 2012 年-2016 年計画から削減された
が、その際は、製油所新増設プロジェクトが進捗に伴い投資額を削減したと説明し
ている。5 ヶ年の投資計画であり、大幅な減少は後年度の製油所建設プロジェクト
の減速に繋がるものと懸念される。
2014 年第 4 四半期の稼働を目指す Abreu e Lima 製油所の建設の進捗度は 2013 年
末時点で計画の 87%に対して 84%、投資額は計画の 152.5 億ドルに対し、148.4 億ド
ルで計画投資総額 185.8 億ドルの 79.8%になっている。また 2016 年に稼働予定の
Comperj 製油所プロジェクトは、2013 年末時点で、計画の 67%に対して 66%、投資額
は計画の 78.8 億ドルに対し、75.7 億ドルで計画投資総額 136 億ドルの 55.7%になっ
ている。
ブラジルは 2020 年に石油製品の自給体制を確立する目標を掲げているが、
SP 2030
によると、
2020 年のブラジルの石油製品需要は 330 万 BPD で、
2014 年の Abreu e Lima
製油所が稼働、2016 年に Comperj 製油所が稼働し、現時点では着工に至っていない
PremiumⅠの稼働が計画通り 2018 年に稼働した点では国内精製能力は需要に追い付
かず、同じく未着工の PremiumⅡ製油所が 2019 年に稼働して初めて 2020 年に精製
能力が需要量に追い付くことになる。これにエタノール(2012 年の生産量 40.5 万
BPD)などのバイオ燃料が加わるので、製品自給が実現することになる。
SP 2030 では 2020 年から 2030 年の平均需要量を 340 万 BPD とみており、
Petrobras
のブラジルでの原油生産量を平均 370 万 BPD と置いている。
なお、この間アップストリームへの重点投資により、原油生産量は 2017 年に需要
25
に追いついて、2018 年以降は原油の増産が加速し、2020 年の原油+NGL 生産量は 420
万 BPD になる計画で、これにより需要量を 90 万 BPD 上回ることになる。
Petrobras が、今後もアップストリームへの投資を優先して確保しながら、2020
年 330 万 BPD、2030 年に精製能力目標 390 万 BPD と設定された目標達成に必要な製
油所への投資を継続するためには、それに見合った資金調達を実現させる精製部門
の採算性の改善が必要で、現在の製品輸入価格と国内製品販売価格の逆ザヤ解消な
どの政策が必要となるものと見られる。
<参考資料>
 http://www.petrobras.com.br/en/news/2013-net-income-of-r-23-57-billion.htm
 http://investidorpetrobras.com.br/en/business-management-plan/2030-strateg
ic-plan-and-2014-2018-business-and-management-plan-press-release.htm
 http://investidorpetrobras.com.br/en/business-management-plan/2030-strateg
ic-plan-and-2014-2018-business-and-management-plan-presentation.htm
(2) ブラジルの石油化学企業 Braskem の業績と事業戦略
ブラジル最大で、世界的な石油化学企業 Braskem が 2 月中旬に 2013 年の業績と今後の
計画の概要を発表した。増産、増益を達成しているが、その理由の一つには、北米のシ
ェールガス増産の恩恵があることを窺うことができる。
① 2013 年の業績
2013 年は世界的に景気回復の兆しが認められる中で、ブラジルの経済成長率は予想を
下まわる約 2%に止まったにもかかわらず、ブラジル国内の食品包装・自動車用材料・建
設業・アグリビジネス用途の堅調なニーズに支えられて、2013 年の熱可塑性プラスティ
ックの需要は、2012 年に比べて 8%の増加を記録している。
また、ブラジル政府が石油化学原料購入時の社会統合計画(Social Integration
Program:PIS)、社会保険融資負担(Social Security Financing Contribution:COFINS)
税を廃止したことも、業績に有利に働いた。
さらに Braskem が関連産業との連携で、Plastic Chain Competitiveness Incentive
Plan(PIC)の構築したことも有効に働いている。
Braskem の 2013 年のエチレン製造量は過去最高の 340 万トンを達成し、ポリエチレン
の製造量は 260 万トンを記録した。また、樹脂製品の販売量は前年比で 6%増加し、370
万トンを記録した。これには、運転効率の改善・技術投資・設備拡張計画の前倒しの寄
与も大きいと同社は自己評価している。
2013 年の Braskem の収益は前年比 13%増の 410 億レアル(175 億ドル)で、
EBITDA(金利・
税金・償却前利益)は前年比 22%増の 48 億レアル(20.5 億ドル)に、2013 年第 4 四半期の
純利益は 1,500 万レアル、2013 年の純利益は 5.7 億レアルになった。国内の増販、石油
26
化学原料と樹脂製品の価格差の拡大、免税策、ブラジルレアルの下落が今回の業績の要
因になったと、同社は分析している。
② 投資
2013 年の投資額は前年比 58%増の 27 億レアルで、内訳は資産維持費が 50%、メキシコ
の Idesa との JV 大型石油化学コンプレックスの建設(2012 年 11 月号第 1 項)への投資が
40%に上っている。同コンプレックス建設の進捗度は 58%で、2015 年に稼働の予定である。
2013 年にはポリ塩化ビニル(PVC)メーカーの Indupa を買収したことにより Braskem の
PVC 製造能力は 42%増加し、南北アメリカで 4 番目にランクされることになった。また、
苛性ソーダの製造能力も 89 万トン/年に 60%拡大することになる。
③ 米国のシェールガスの活用
既存事業におけるシェールガス増産による天然ガス価格下落の恩恵に加えて、シェー
ルガスを積極的に活用する新たな事業として、Braskem は米国ウェストバージニア州で
のエチレン製造について FS を続けている。このエチレンプロジェクトは“Ascent”
(Appalachian Shale Cracker Enterprise)と称し、好ましい FS 結果が出た場合は、役員
会に提案される運びとなっている。
④ドイツ Styrolution との JV
Braskem は、ドイツの Styrolution との間で、石油化学 JV プロジェクトの事業性を検
討する事に合意している。プロジェクトはスチレンスペシャリティ製品と
ABS(acrylonitrile butadiene styrene)・SAN(styrene-acrylonitrile)ポリマーをブラジ
ル国内で生産し、輸入品からの置き換えを目指すもので、製品は住宅産業や自動車産業
に供給されることになる。
同社の起業部門リーダーの Carlos Fadigas 氏は Braskem の近年の業績拡大は、北米の
安価なシェールガスのおかげで、石油化学製品の製造とコストの両立が実現できたと分
析している。
Braskem の基礎情報を示すと、同社は南北アメリカで最大級の合成樹脂メーカーで、
ブラジル・米国・ドイツに 36 製造プラントを有し、熱可塑性樹脂等の総製造量は年間
1,600 万トンに上っている。同社はまた、世界最大級のバイオポリマーの製造者でもあ
りサトウキビ由来のエタノールから年間 20 万トンのバイオディーゼルポリエチレンを
製造している。
<参考資料>
 http://www.odebrecht.com.br/en/press-room/press-releases?id=20417
 https://www.styrolution.com/portal/en_US/web/guest/-/styrolution-and-brask
em-to-explore-abs-joint-venture-in-brazil
27
7. 東南アジア
(1) インド IOC、カナダからの原油・天然ガスの輸入に取り組む
1)カナダ産オイルサンド原油の輸入
インド国営 Indian Oil Corp (IOC)のウェブサイトにインドの精製企業が、カナダの
アルバータ州産オイルサンド原油の処理を目指しているという記事 (情報源は The
Financial Express: FE)が掲載されている。
2012 年-2013 会計年度のインドの原油輸入代金は、前年の 1549.6 億ドルから 9.22%増
の 1692.5 億ドルで、2013 年-2014 年度の原油輸入量は、2012 年-2013 年の 1 億 8,479 万
トン/(370 万 BPD)から約 1 億 9,600 万トン(392 万 BPD)に増加すると予測されている。
カナダ原油の価格は、
インドの平均購入原油価格 104 ドル/バレル(2014 年 2 月第 2 週)
に比べて現時点で 14%低く、今後カナダでパイプラインの建設が進めばさらに安価にな
ると見られている。
カナダのアルバータ産オイルサンド原油は、110 万 BPD まで増産予定で、
年間 386 万 BPD
もの原油を輸入しているインドにとって、この数量は中国や日本との競合は避けらない
ものとしても魅力的で、輸入できれば原油代を大幅に削減することができる。
こうした中、カナダ高等弁務官 Stewart Beck 氏は FE 紙に対し、国営 IOC や民間石油
企業の Reliance Industries(RIL)が、現在世界の平均原油価格より 20-25 ドル/バレル
ディズカウントされたオイルサンド原油に興味を示していると伝えている。現時点では、
アルバータ産原油を輸入するには、アルバータ州からカナダ東部の輸出ターミナルへの
鉄道輸送コストが 11-12 ドル/バレルが掛かることから、インドが購入する場合のディス
カウントは 14-15 ドル/バレルになる。
重質原油処理をする場合は、精製設備の対応が必要であるが、IOC は重質原油対応を
進めてきており(2013 年 7 月号第 1 項参照)
、建設中の新設 Paradip 製油所では当初か
ら重質原油処理を前提とした装置構成、機器仕様が採用されている。
カナダでパイプラインの整備が進み、東海岸への原油輸送が便利になる予定の 2018 年
までには、オイルサンド自体も増産される計画である。
2)カナダ産天然ガスの輸入
インドは天然ガスの需要増に応えるために、天然ガスの輸入拡大を図っているが、IOC
からカナダの天然ガスの輸入に関わる動きが報じられている。
3 月上旬、IOC のカナダの子会社 IndOil Montney Ltd が、マレーシア国営 Petronas の
子会社 Progress Energy Canada Ltd.、PETRONAS Carigali Canada BV(PCC BV)との間で
Progress Energy Canada が保有するブリティッシュコロンビア州北東部天然ガス資源お
よびカナダ西部に建設を計画している LNG 輸出基地 Pacific Northwest LNG Ltd.(PNW
28
LNG)プロジェクトの権益の 10%を購入する契約を締結した。IOC は、PNW LNG の製造能力
の 10%に相当する LNG 120 万トン/年を 20 年間に亘って引き取ることになる。
プロジェクトの天然ガス埋蔵量は最大 50 兆 cfe(天然ガス換算)で、IOC の持ち分は 5
兆 cf になる。因みに Progress Energy のブリティッシュコロンビア州北東部での天然ガ
ス生産量は現在 4 億 cfe/日で、カナダ国内市場に向けて供給されている。
PNW LNG は、2014 年末までに最終投資判断が下される予定で、2018 年に LNG 輸出が始
まる。LNG 製造能力は 2 トレーンで各 600 万トン/年で、オプションで第 3 トレイン(600
万トン/年)が計画されている。
今回の契約は、政治・経済的に安定したカナダから大量の天然ガス供給を確保したこ
とでインド国内の天然ガス供給に貢献できるものであると IOC はその意義を評価してい
る。
<参考資料>
 http://www.iocl.com/aboutus/NewsDetail.aspx?NewsID=30403&tID=7
 https://www.iocl.com/aboutus/NewsDetail.aspx?NewsID=30822&tID=8
 https://www.iocl.com/aboutus/press_release.aspx
(2) インドネシアの製油所新設プロジェクト
イランの国営石油・天然ガス企業 National Iranian Oil Company(NIOC)は、イランの
石油企業 Nakhle Barani Pardis とインドネシアのエネルギー・鉱業企業 PT Kreasindo
との間で、製油所の建設に合意したことを伝えている。
発表によると、建設地はバンテン州あるいは西ジャワ州で、精製能力は 30 万 BPD。投
資額は 30 億ドルで Kreasindo が 70%、Nakhle Barani Pardis が 30%を出資すると報じら
れている。またイランは、同製油所の処理原油の全量、或いは一部を供給することにな
る。
プロジェクトは、未だ FS のフェーズにあるが、順調に進めば 2015 年に建設が始まり、
完成は 2018 年になる計画である。
今回の契約は、西側諸国との核開発問題に関する合意後、国外企業との関係修復を進
めるイランと国内精製能力拡大を望むインドネシアの間で開催されたインドネシア-イ
ランビジネスフォーラムに合わせて調印された。
因みに、PT Kreasindo はインドネシアの Mining and Energy Foundation 傘下の企業
のホールディングカンパニーとして 2009 年に設立された、鉱業、石油天然ガス、エネル
ギー、資産運用などを事業分野する企業で、インドネシア国営石油・天然ガス企業 PT
Pertamina を主要取引先としている。また、Nakhle Barani Pardis Co はイランのビチュ
ーメン製品の製造・販売企業でアスファルトプラント、輸送設備、貯蔵設備を保有し、
29
国際市場に各種グレードのビチューメンを輸出している。
<参考資料>
 http://en.nioc.ir/Portal/Home/ShowPage.aspx?Object=News&CategoryID=9d32c83
9-2930-4ee6-9321-782d4ac9484a&WebPartID=062c91e4-d388-4544-88c4-8fc3f25ff4
5a&ID=a07651a6-5823-4b75-8bf2-81f6653c7b8a
 http://www.kemlu.go.id/Lists/EmbassiesNews/DispForm.aspx?ID=15151&ContentT
ypeId=0x0100A22360F7421F8A4D84626A7B988A7816
(3) インドネシアで新規なバイオ燃料の製造を検討
エネルギー鉱物資源省次官の発言によると、インドネシアでは、油田の老朽化が進み
原油の生産量が漸減する一方で、経済成長に伴い燃料油の需要が増加している。そのた
め政府は不足分の輸入を強いられ、2014 年には原油・ディーゼル・重油を約 80 万 BPD
輸入が必要になると予測されている。燃料油の価格を 125 ドル/バレルに置いた場合、80
万 BPD 分の輸入代金は 1.2 億ドル/日に上ることになる。
ディーゼルに関してみると、このまま策を講ずることが無ければ、今後輸入量 12 万
BPD 増やす必要が出てくるが、バイオディーゼルへの代替を進めることで輸入増の抑制
が可能になる。現在、インドネシアにはパーム粗油(Crude Palm Oil: CPO)の 8 万 BPD か
ら 10 万 BPD の供給能力があるが、CPO 以外の次世代原料からの燃料製造も検討する価値
がある。
こうした状況の下で、農業省の研究機関“Research Agency of Industrial and
Refreshing Plants:Balittri”はナッツの一種“Kemiri Sunan”を原料にバイオディー
ゼルを製造する技術を開発し、燃料油の輸入削減に役立てることを目指している。
Balittri では Kemiri Sunan をバイオディーゼルの原料としてナンヨウアブラギリ
(Jatropha curcas)等に比べて有望であると評価している。Kemiri Sunan からはバイオ
原油が 40-50%の収率で製造可能で、精製処理によりバイオディーゼルを 88%-92%で得る
ことができる。
農務省の研究機関“Plants Research and Development”(以下 PRD)によると Kemiri
Sunan は、他の食糧作物生産と競合せず、作付け後 4 年で収穫が可能で、8 年目には 1ha
当たりバイオディーゼル 6-8 トンに相当する 15 トンの収量が期待できる。
加えて Kemiri
Sunan の栽培は、① 1ha 当たり 150 本の植樹で済み、他の作物と併せて耕作することが
可能で、② 一般的に耕作に最適でない土地でも生育できる、③ バーム油のような大掛
かりな処理設備を必要としない、などの優れた特徴を有しているため、多くの農家で開
発できると PRD では評価している。
インドネシアでは、燃料製品の輸入量削減が重要課題で、前項の製油所建設が第一の
手段であるが、それ以外にもパーム油系バイオ燃料の使用拡大に加えて、Kemiri Sunan
の様な食糧生産と競合しない新規なバイオ原料の利用が注目される。
30
<参考資料>
 http://www.esdm.go.id/index-en/83-energy/6699-the-vice-minister-of-emr-kem
iri-sunan-is-effective-to-reduce-imported-bbm-.html
8. 東アジア
(1) 中国国務院がエネルギー政策の刷新を検討
中国国務院の発展研究センター(Development Research Center:DRC)は、2 月中旬に
将来のエネルギー開発の展望“Foreseeing and Analyzing China's Future Energy
Development”を人民日報に発表した。
発表に際して DRC の Li Wei センター長は、「中国が 2030 年までにエネルギーの保障・
クリーン化・効率の改善に取り組まない場合は不安定なエネルギー供給や克服すること
ができない環境問題に直面することになる」と危機意識を表明している。
当該レポートは、Shell・米国のハーバード大学・精華大学等からの専門家 70 名の支援
を受けた DRC による 2 年間の研究に基づくものでエネルギー供給と環境リスクおよび今
後取るべき施策を論じている。
1)エネルギー供給
中国では、経済成長の鈍化のおかげもあり需要の増加が従来の予測から抑制される見
通しであるが、輸入原油・天然ガスへの依存度が増すことには変わりなく、2030 年まで
に中国は原油の消費量の 75%を輸入で賄うことになると予測されている。天然ガスにつ
いても同様で、エネルギー保障の観点からは憂慮すべき状況にあると見ている。
また、世界のエネルギー供給についてこれまでの見方と大きな変化は無いが、新興国
の工業発展で需要は拡大し、同時にエネルギー供給は西半球で、消費は東半球で増加す
るという方向に向かうとしている。
その結果、2030 年まで世界の原油需要増の 50%を中国とインドが占めることになる。
その一方で、2020 年までに米国が原油供給の中心の座を占め、原油・天然ガス価格の決
定権を獲得することになる。しかしながら米国はエネルギーの自立を達成しても、中東
の原油資源を手放すとは考えていないと見ている。
こうした中で、中国のエネルギー供給保障は複雑かつ変化の激しい地政学的な環境下
で難しい局面を迎えるリスクがあり、特に原油・天然ガス輸送ルートの安定確保はこれ
まで通り重要であるとしている。
2)環境リスクとエネルギー保障
中国の化石燃料消費量は、2020 年までに 60 億トン/年、2030 年には 80 億トン/年まで
31
増えることになり、適切な対策が講じられない場合の環境への悪影響は極めて深刻なも
のになる。
供給・環境面の課題に対して DRC は、確実・環境適応・高効率なエネルギーシステムをエ
ネルギー生産と消費の両面に適用することが必要であるとしている。
原油供給保障面では、原油輸入先の多様化とマラッカ海峡ルートを回避することが望
ましく、一方で中国企業が国外で資源開発や精製事業への投資を進めるべきであるとし
ている。
また、エネルギーの自給率の急落を回避するには、新エネルギーと天然ガスの開発が
不可欠で、国産原油生産を維持し、石炭や石炭化学系の原料からの燃料製品の増産を図
るべきであるとしている。
原油の埋蔵量拡大の為には、全産業の協力による油田開発システムの進歩が望まれ、
開発を促す目的では、原油先物市場の拡大を提案している。
3)省エネルギー・環境対策
DRC は、
石炭の消費量拡大を 2020 年までに 30 億トン/年に抑え込み、
原油消費量も 2020
年までに 5.5 億トン/年、2030 年までに 6.5 億トン/年に制限することを提案している。
国際水準のエネルギー効率を実現させて、一人当たりの GDP 基準のエネルギー消費量を
2020 年に比べて 30%の削減を目指す。
また、エネルギー消費に由来する CO2 排出量は、2030 年までに総量で 100 億トン/年以
下に、人口一人あたりではヨーロッパと同水準の 7 トン/人・年を目指すとしている。
中国では 2030 年までに都市化が 65%まで進み、都市部の人口が 3 億人増えると予測し
ている。都市部の一人あたりのエネルギー消費量は農村部の 3 倍になるとされているが、
そのままでは石炭消費量換算で 6000 万トン/年の増加に繋がってしまう。
それを防止するには、低炭素条件の都市“コンパクトシティー”化を進めることが肝
要で、政府は都市の領域を明確に設定し、都市の無計画な周辺部への拡大を抑える政策
をとるべきであると提言している。
研究者達は、上記の多くの目標を達成・実現させるためには、市場原理に基づいた施
策が重要性であると強調している。
<参考資料>
 http://news.xinhuanet.com/english/china/2014-02/13/c_133112237.htm
(2) 中国、米国・英国と共同で環境改善の取り組みの動き
気候変動による環境悪化とそれに関連する化石燃料燃焼による環境汚染に対処する為
32
に米国と中国は、2013 年に U.S.-China Climate Change Working Group (CCWG)を立ち上
げ、2020 年以降の温室効果ガス(GHG)削減目標を含めた政策協議を進めることに合意し
ていた(2013 年 5 月号第 2 項参照)。
両国は GHG 排出削減、環境汚染物質排出削減を進める計画を協議し、5 件の施策
(initiatives)を CCWG の下で進めることを 2 月中旬に発表した。5 件の内訳は、① 大型
車などからの排出削減、② スマートグリッド、③ CO2 回収の有効利用および貯蔵、④ GHG
排出量のモニタリングと管理、⑤ 工業、建造物のエネルギー効率改善。今後 2014 年の
第 6 回米中戦略経済対話(U.S.-China Strategic Economic Dialogue)に向け検討作業が
行われることになる。
続いて、英国と中国が、低炭素技術研究を共同で進めることに合意したことが 3 月上
旬に発表されている。英国下院科学技術委員会(Research Councils)の物理科学研究委員
会( Engineering and Physical Sciences Research Council:EPSRC)と中国の国家自然
科学基金委員会(National Natural Science Foundation of China:NSFC)は、英国の
Gregory Barker 気候変動相の臨席の下、環境改善へ取り組みに関する了解覚書(MoU)に
ロンドンで調印した。
EPSRC と NSFC は、① 製造プロセスの低炭素化技術の開発、② 低炭素型都市、③ 洋
上再生可能発電 の各分野で共同研究を進めることになる。必要な資金は、英国と中国
がそれぞれ 3 年間で 1,000 万ポンド(1,660 万ドル)ずつ出資することになり、年間研究
予算は 670 万ポンド/年(1,100 万ドル/年)
両国は、過去 5 年にエネルギー分野で共同研究を進めており、その成果が今回の合意
に繋がったとしている。英国は中国との共同プロジェクトに 2,900 万ポンド(4,800 万
ドル)を投資したと気候変動相は述べている。
EPSRC センター長の David Delpy 教授は、人間の活動の負荷を削減しながら都市部の
生活・エネルギー生産における低炭素技術を開発することは、両国に共通な重要課題で
あるとし、両国の優れた科学者が成果を上げることに期待していると述べ、両国が環境
汚染物質の排出削減しながらエネルギー供給を満足させ、同時に長期的な経済成長を実
現する為にはイノベーションや科学への投資は欠かせないとし、プログラムへの期待を
表明している。
<参考資料>
 http://en.ndrc.gov.cn/newsrelease/201402/t20140218_579304.html
 http://www.epsrc.ac.uk/NEWSEVENTS/NEWS/2014/Pages/lowcarboninnovation.aspx
33
9. オセアニア
(1) Shell、Geelong 製油所を売却
Shell は、オーストラリアの製油所がアジアの新鋭・大型製油所に比べて競争力が劣っ
ていることから、ニューサウスウェールズ州の Clyde 製油所の閉鎖に続き、2013 年 4 月
にはビクトリア州の Geelong 製油所の売却を発表するなど精製事業の見直しを進めてい
たが、2 月下旬、スイスの石油トレーダーVitol に Geelong 製油所とダウンストリーム事
業を売却すると発表した。
プレスリリースによると、売却の対象は Geelong 製油所、SS 870 ヶ所、重油・ビチュ
ーメン・化学品のバルク販売事業、潤滑油事業の一部で、売却額は 29 億豪ドル(26 億ド
ル)と発表されている。これにはブランド使用料および潤滑油製品のオーストラリア内の
独占販売権が含まれている。なお Vitol は、Shell の製品ブランドを引き継ぐことにな
る。関係当局の承認などを経て、取引は 2014 年内に完了する予定。
Shell のダウンストリーム事業の内では、航空燃料事業と貯蔵・配送施設への転換が
予定されているクィ-ンズランド州 Brisbane の潤滑油ブレンダーとグリースプラントは、
売却対象から外されている。アップストリーム事業への影響は無く、Shell は今後も投
資を行う方針で、LNG 事業の強化を進めていく方針を確認している。
Vitol は、Shell から製油所(約 450 名)やダウンストリーム事業の要員を引き継ぐこと
になり、Geelong 製油所の従業員が今回の決定を歓迎しているとも報じられている。
Shell の Ben van Beurden CEO はリリースの中で、オーストラリアの重要性は認識し
ているもの同社の全体の競争力を強化するための、厳しいポートフォリオ選択を下した
としている。
なお Shell は近年、英国・ドイツ・フランス・ノルウェー・チェコの製油所、エジプ
ト・スペイン・ギリシャ・スウェーデンのダウンストリーム事業の売却やアフリカで JV
化を進めている。
オーストラリアとほぼ同時に、Shell はイタリアで展開している小売り・物流・航空燃
料事業を、クウェート国営 Kuwait Petroleum International(KPI)に売却することで KPI
と合意したことを発表している。売却対象には、潤滑油・船舶燃料・ガス・発電および
上流事業は含まれず、潤滑油事業は Shell Italia Oil Products が、ガス・発電事業は
Shell Energy Italia が引き継ぐ。なお、イタリアでは Shell の製品ブランドは KPI の
“Q8”に変わること報じられている。
Geelong 製油所の、経営が Vitol に変わったことで同製油所の稼働や設備近代化投資
計画等について今後の報道に注視していきたい。
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<参考資料>
 http://www.shell.com/global/aboutshell/media/news-and-media-releases/2014/
shell-agrees-sale-of-downstream-businesses-in-australia-to-vitol.html
 http://www.shell.com/global/aboutshell/media/news-and-media-releases/2014/
agreement-kuwait-petroleum-international-italy.html
(2) オーストラリア Caltex が燃料小売り事業を拡大
Caltex のオーストラリア法人 Caltex Australia (Caltex)が、石油流通企業 Scott
Petroleum の燃料油事業を 9,500 万豪ドル(8,500 万ドル)で買収することが発表された。
Scott Petroleum 燃料事業部門は、南オーストラリア州の南東部、ビクトリア州西部
を拠点とする Scott's Agencies、およびノーザンテリトリーと南オーストラリア州の北
部で事業を展開している Sabadin Petroleum の 2 社から成り立ち、両社合わせて販売店
28 ヶ所と 18 ヶ所の貯蔵所を保有している。Caltex はオーストラリアにおいてサプライ
チェーンの強化を図る方針で、南オーストラリア州の Pelican Point で 8,500 万豪ドル
(7,600 万ドル)を投資して貯蔵ターミナルを建設中である。
今回の事業買収で、Caltex はオーストラリアでの燃料事業へのコミットメントを継続
する方針を明らかにしている。
<参考資料>
 http://www.caltex.com.au/LatestNews/Pages/NewsItem.aspx?ID=13431
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編集責任:調査情報部 ([email protected] )
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