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ワクチン不足通知を踏まえて修正ノート付スライド

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ワクチン不足通知を踏まえて修正ノート付スライド
日本プライマリ・ケア連合学会ワクチンに関するワーキンググループから,医療従事者
の皆さまに風疹の封じ込め対策についてお伝えいたします.
風疹封じ込めの唯一の手段であるワクチンについて,具体的な接種法や注意点などを
解説しています.
風疹封じ込めには数多くの人々・組織の努力が必要です.
我々プライマリ・ケア従事者は,まさにプライマリ・ケアの現場でこそ風疹封じ込めに尽
力しましょう.
すなわち,1人でも多くの人にワクチン接種を行うことです.
なおこの解説は医療従事者向けです.専門用語が多数使われていますので,一般の
方には分かりづらい内容です.
一般の方はご自分のかかりつけ医・地域の診療所や開業医等にご相談いただきます
ようお願い申し上げます.
※この文章の内容は平成25年6月18日に作成しました.
同年6月14日に厚生労働省からMRワクチンの不足に関する通知が発出されたことを
踏まえ,先に公開した動画(同年5月18日製作)の内容に一部修正を加える形で文章を
構成しています.ワクチン供給が再度安定する等状況が変化した場合には,この文章
ないし動画の修正を検討致します.
厚生労働省通知 [ 健感発0614第1号平成25年6月14日 ] 「風しんの任意の予防接種の取扱いについて(協力依頼)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku‐kansenshou21/dl/130614.pdf
(PDFファイル;最終アクセス平成25年6月18日)
1
風疹は2008年より全数報告疾患となっています.
このグラフは国立感染症研究所の集計による全風疹患者数です.
(国立感染症研究所感染症疫学センター 感染症発生動向調査週報2013年 第17週
速報号(2013年5月1日)より許諾を得て転載)
下の方にある黄緑や青色のグラフが例年の報告数です.非常に少ない数字で留まっ
ています.
しかし,黄色のグラフの2012年が第23週頃(平成24年6月上旬)から右肩上がりになっ
ています.
そして,赤色のグラフの2013年はそれ以上のスピードで急激な上昇を示し,2013年17
週(今年5月上旬)の時点で 5,000 例を超えています.
このグラフは年の境でいったん0にリセットされていますが,2012年の右肩上がり時点
の昨年6月からの今年5月までの累積でカウントすれば,1年足らずで実に合計9,000例
に達しています.
最新動向は国立感染症研究所のサイトで確認出来ます.
http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella‐m‐111/2132‐rubella‐top.html
※ページ内の「疫学情報」→「感染症発生動向調査(IDWR)」の「速報グラフ(PDF)」から
プルダウンして最新の週をクリック.
この文章を作成した6月18日時点では2013年のみでも既に10,000例を超え,わずか
1ヶ 月間で2倍になっています.
2
風疹の流行によって妊婦の風疹罹患も増え,その結果として先天性風疹症候
群に罹患する胎児が増加します.
風疹アウトブレイクがなぜ深刻な問題であるか,それは先天性風疹症候群が増
加するからに他なりません.
3
風疹には特異的な治療法は全くなく,妊婦が風疹に罹患した場合に先天性風疹
症候 群を防ぐ手段もまた一切ありません.
妊婦を風疹から守り,胎児を先天性風疹症候群から守るには,ワクチンで社会
全体が 風疹免疫を獲得し風疹の発生自体を封じ込めるしかありません.
先天性風疹症候群を防ぐ唯一の手段が,広く国民にワクチンを接種することな
のです.
このポスターは啓発を目的に国立感染症研究所が作成したものです.
(国立感染症研究所感染症情報センターウェブサイト
http://www.nih.go.jp/niid/ja/rubella‐poster2013.html より許諾を得て転載)
4
風疹に対する免疫は血中の風疹HI抗体価によって確認出来ます.
種々の研究により,HI抗体価が32倍以上の値を示す場合に風疹の感染を阻止
出来る と考えられています.
このグラフはHI抗体価が8倍以上を示す割合の年齢別グラフです.
(国立感染症研究所感染症疫学センター 病原微生物検出情報2013年4月 通
巻43号p.105‐107・図2より許諾を得て転載)
オレンジ色の丸で囲った部分から分かる通り,20代~50代の男性で抗体保有
率が激減しています.
5
風疹封じ込めの唯一の手段がワクチン接種である以上,全国民がワクチンを接
種することが理想です.
中でも,先天性風疹症候群を防ぐという観点からは特にこれらの人々へのワク
チン接 種を受けることが必須です.
しかし6月14日の厚労省通知を受け,6月18日本文章作成時点でも既にMRワクチンの
入荷に制限がかかり始めた地域もあります.
現状では,妊娠希望のある女性とその配偶者(パートナー)の男性を最優先とし,その
他の人々に対しては各医療機関でのMRワクチン入荷状況と照らし合わせながら臨機
応変に接種順位を決める他ありません.
ワクチン供給が改善したならば,スライドに示した3群の人々を中心に幅広く全ての成
人に接種できるよう努めて下さい.
6
国内で認可されている風疹のワクチンには,風疹単独ワクチンと麻疹風疹混合
ワクチ ン(以下,MRワクチン)があります.
しかし風疹単独ワクチンは元々流通量が少ないため,動画作成時点の5月18日
で既にどの医療機関でもほぼ入手不可能となっていました.
一方MRワクチンは小児の定期予防接種用に大量に流通しているため,少なくと
も5月18日時点では入手に問題はありませんでした.
従って風疹対策としてMRワクチンを選択することになります.
風疹予防を目的としてMRワクチンを接種することには何ら問題はありません.
仮に麻疹免疫を十分有している状態(麻疹ワクチンを2回接種済みまたは麻疹
の罹患歴がある)でMRワクチンを接種しても,重篤な副反応などの有害事象は
増加しません.
しかし6月14日の厚労省通知によると,早ければ本年8月にはMRワクチンの在
庫が払底し供給不能となることが予測されています.
各ワクチンメーカーに増産協力を依頼しているとのことですが,本文章作成の6
月18日時点では供給見通しの改善は発表されていません.
7
接種希望者についてこれらの項目を確認してください.
特に風疹のワクチン接種歴または罹患歴については注意が必要です.
接種歴は母子手帳等の公的な記録によって正確な接種期日と接種ワクチンの
種別が確認出来ない限りは,信頼出来ません.「確かに打った記憶があると親
が言っていた」 などの情報では接種したと確定することは困難です.
従って,母子手帳等で記録が確認出来ない場合は「接種歴がない」と見なすべ
きです.
罹患歴についても,血液検査で風疹HI抗体価等を測定した記録が確認出来な
い限り は,信頼出来ません.風疹は時に誤診が生じうる疾患であるため,罹患
の記憶や記録 だけでは確定困難です.
従って,検査記録が確認出来ない場合は「罹患歴がない」と見なすべきです.
接種する事情を参考までにカルテ等に記録しておくと良いでしょう.
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続いて確認すべき事項です.
これらは接種の安全性確保や接種スケジュールを確認するために必要です.
女性の場合は現在妊娠していないことを確実に確認する必要があります.
最終月経,最近の性交渉の有無,避妊の有無とその方法なども必要に応じて
適切に聴取し,病歴上妊娠が否定出来ることを確認して下さい.
接種スケジュール立案の上で,最近4週間以内に他のワクチンを接種していな
いかの確認が必要です.
接種している場合はどういうワクチンであったかも併せて確認して下さい.
MRワクチンは麻疹生ワクチンと風疹生ワクチンの混合製剤であるため,過去に
それらの接種による重篤な副反応やアナフィラキシーショックの既往がないかも
確認して下さ い.
また,生ワクチンであるために,免疫抑制状態の方には接種が禁忌です.弱毒
化したウイル スが免疫抑制下で活性化され疾患を引き起こすおそれがあるた
めです.
さらに,3ないし6ヶ月以内にガンマグロブリン製剤の投与を受けている場合は,
血中に残存する製剤の抗体成分とワクチンが干渉して免疫が獲得されないお
それがあります.
9
最近4週間以内に他のワクチンの接種歴がない場合は特にスケジュールに気を
配る必要はなく,即日すぐにでも接種出来ます.
4週間以内に接種歴がある場合は,日本の添付文書上のルールで不活化ワク
チン6日以上・生ワクチン27日以上の間隔を空ける必要があります.
先の接種日を確認した上 で必要な間隔を空けてMRワクチンの接種日を決めて
下さい.
5月18日の動画作成時点の方針として,麻疹風疹混合ワクチンを選択するから
には麻 疹免疫の強化も同時に図ることも目的に含めていました.
近年は麻疹の発生はかなり少数に抑えられていますが,現在の風疹と同じくつ
い数年前までアウトブレイクを繰り返していたためです.直近では 2007 年の麻
疹アウトブレイクが記憶に新しいところです.
麻疹免疫を強化するためには,全ての人が麻疹生ワクチンを2回接種している
必要が あります.
しかし6月14日付の厚労省通知を踏まえ,MRワクチンが不足する現状では麻疹
免疫強化も同時に図ることは結果的にワクチン消費量を増やすことになるため,
優先順位を下げざるを得ません.麻疹免疫強化よりも,1人でも多くの人にMRワ
クチンが行き渡ることを優先せねばなりません.
すなわち,現状では「MRワクチン1回のみ接種」という選択をとらざるを得ません.
また現状では,日本の風疹ワクチン株(松浦株,高橋株,TO‐336株)による成人
10
での1回接種のエビデンスが未確立であることに関しても,海外の風疹ワクチン
株(RA27/3株)でのエビデンスを参考にして1回で大丈夫であろうと期待する他あ
りません.
なお,ワクチン供給が改善したならば,上述の通り麻疹免疫強化も同時に図ることを目
的として,必要な方にはMRワクチン2回接種を行うべきです.
その際の詳細については,先に公開した動画(後半)で解説してあります.
10
MRワクチンは生ワクチンであるため皮下接種が最も望ましい投与経路です.ま
た添付 文書上も皮下接種のみで認可されています.
成人での皮下接種は上腕三角筋部の皮下,もしくは上腕伸側の下3分の1の皮
下が望 ましいでしょう.
上腕伸側の中3分の1には上腕神経が走行しているため,神経損傷を避けるた
めに同部位への接種は行うべきではありません.
筋注にならないよう,接種部位の皮下組織を指でつまみ上げて針を刺入するの
が良い でしょう.
アナフィラキシーショックの発生頻度は添付文書上は0.1%未満(1000分の1未
満)とされていますが,接種後30分間は慎重に観察し,発生時には即座に処置
を開始出来る 体制を準備しておくべきです.
接種当日の入浴に制限は不要です.
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前述の通り,5月の動画作成時点ではMRワクチン接種で麻疹免疫の強化(=状
況によって2回接種)も意図していました. しかしMRワクチン不足の見通しを受
けて,2回接種を要することのあるその方針は一 旦保留せざるを得ないと考えら
れます.
すなわち,風疹の封じ込めのみを方針とし,接種回数も1人1回で十分とする方
針を提案致します.
なお,ワクチン供給が改善したならば,上述の通り麻疹免疫強化も同時に図ることを目
的として,必要な方にはMRワクチン2回接種を行うべきです.
その際の詳細については,先に公開した動画(後半)で解説してあります.
12
風疹の罹患歴ないしワクチン接種歴に応じた接種の要否の早見表です.
表の左側・オレンジ色部分の分類は,上2段が風疹の罹患歴がない・不明・曖昧
のいずれかの場合を示します.これには抗体検査等によって罹患歴が明確に
確定されていない(記憶だけのもの,医師の臨床診断だけによるもの)も含みま
す.
そのうち,風疹ワクチンの接種歴もないまたは不明の場合には,MRワクチンを1
回接種してください.接種歴の記憶はあるが母子手帳等で確認出来ない場合も
「不明」と見 なして接種するのが望ましいです.
風疹の確定された罹患歴はないが,過去に風疹ワクチンもしくはMRワクチンを1
回以上接種している場合は,今回MRワクチン接種は不要と言えます.
ただし,ワクチンによる免疫が年月と共に低下している方も一部おられます.そ
の点をよく相談され,希望者には風疹抗体をIgG‐EIA法で検査すると良いでしょう.
検査の結果IgG‐EIA価が8.0未満の場合は,MRワクチンの1回接種が必要です.
風疹の罹患歴が抗体検査等によって確定されている場合もMRワクチン接種は
不要です.
一般にワクチンによる免疫よりも罹患による免疫の方が強く長く獲得されます.
よって抗体検査も不要と考えられますが,強く希望される場合には風疹抗体
IgG‐EIA法を測定する と良いでしょう.
なお,風疹HI抗体価は検査試薬の供給不足のため,IgG‐EIA法の優先使用が厚労省か
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ら事務連絡として発出されています.
「妊娠初期の風しん抗体検査をEIA法で行う場合の取り扱いについて」
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/korosho_20130307.pdf
13
風疹ワクチンは弱毒化生ワクチンであるため,妊娠中の女性に接種したり接種
直後に妊娠が判明した場合には,弱毒ワクチン株による先天性風疹症候群の
理論的リスクが 懸念されています.
従って,女性の場合は,接種前に確実に妊娠していないことを確認し,接種後
2ヶ月間もま た確実な避妊をしていただくよう指導する必要があります.
ただし,万が一誤接種した場合でも,過去に世界で風疹ワクチンを誤接種した
妊婦の追跡調査の結果,ワクチン株による先天性風疹症候群は1例も報告があ
りません.
また動画作成後の 5月20日付で,厚生労働省研究班による見解として,妊娠中
に風疹 ワクチンを誤まって接種しても人工妊娠中絶は行う必要がないという声
明が発表されました.
同声明は日本産婦人科医会のウェブサイトから閲覧可能です.
日本産婦人科医会
http://www.jaog.or.jp/
「妊娠中に風疹含有ワクチン(麻しん風しん混合ワクチン、風しんワクチン)を
誤って接種した場合の対応について」
http://www.jaog.or.jp/medical/document/rubella_vaccine.pdf
なお不妊治療中のカップルの場合は,2ヶ月間の避妊よりも妊娠チャンスの優先
を希望される場合もあるため,先に風疹抗体IgG‐EIA法を検査し8.0以上あれば
接種不要と判断 するのも選択肢です.
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これらの免疫抑制状態においては弱毒ワクチン株の活性化による疾病発症の
おそれがあるため,生ワクチンは接種出来ません.
接種の可否について判断を迷う場合は,当該疾患の主治医に連絡をとり生ワク
チン接種が安全に可能かどうかを確認して下さい.
なお,接種出来ない場合でも,風疹抗体IgG‐EIA法の検査を行って8.0以上であ
ることが確認出来れば発症阻止が期待出来ます.
ガンマグロブリン製剤の投与後は血中に残存した抗体成分とワクチンが干渉し,
十分な免疫獲得が為されないおそれがあります.
そのため,MRワクチン接種においては,通常量のガンマグロブリン投与後は最
終投与から3ヶ月以上,体重当たり 200mg 以上の高用量のガンマグロブリン投
与後は最終投与から6ヶ月以上空けて,接種する必要があります.
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MRワクチンによる重篤な副反応には,アナフィラキシーショック,血小板減少性
紫斑病, 急性散在性脊髄脳炎(ADEM)が報告されていますが,極めてまれです.
接種を受ける方には無用に不安を煽ることのないよう適切に情報提供し,万が
一体調変化があれば速やかに受診するようお伝え下さい.
軽微な副反応には,弱毒株による風疹様もしくは麻疹様の症状がありますが,
伝染性はありません.接触した妊婦での先天性風疹症候群も生じません.特に
治療や隔離は不要ですが,受診があった場合は他疾患との鑑別も含めて十分
診療を行って下さい.
接種部位の腫脹・硬結は通常無治療のまま数日で自然軽快します.
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