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地球生態系とシロアリ・木材保存 Author(s)
Title Author(s) Citation Issue Date URL <総説>地球生態系とシロアリ・木材保存 角田, 邦夫 木材研究・資料 (1998), 34: 22-29 1998-12-01 http://hdl.handle.net/2433/51407 Right Type Textversion Departmental Bulletin Paper publisher Kyoto University 総 説 ( Re vi e w) 地球生態系 とシロア リ ・木材保存* 角 田 邦 夫 ** Gl obalecos ys t em andt er mi t es /woodpr es er vat i on Kuni oTsUNODA ( 平成 1 0 年 9月1 6日受理) 1. は じ め に WWF( Wor l dWi deFundForNat ur e)と SI PC( Shel lI nt e r nat i onalPe t r ol e um CompanyLi mi t e d) が協力 して開始 された " Tr e ePl ant at i onRe vi e w〟 と題 す る調査 の結果報告が,一連 の冊子 にま とめ ら れてい る。 その 1つ に St udyNo. 3" I ndus t r i alWood( I W) 〟が あ り,I W を製材 か ら種々の木質系材料 の原料 や紙 ・パル プ製造原料 として利用 され る全 ての木材 と定義 し,薪炭材 と対 をなす もの として位置 付 けてい る。St udyNo. 31)の要約 の中か ら,幾つかの興味 ある点 を拾 ってみ よう1)。 a) 地球規模 での森林面積 は約 4 0 億 haで あ り,全地表面積 の3 0% に相 当す る。現実的な商業林 は約 2 2 億 haであ る とされ,開発 国 と開発途上 国 とにほぼ均等 に分布 してい る。 b) 植林面積 は約 1億 haで あ り,商業林 の 5% に も満 たない。 C) 木材 ( I W )の年間生産量 は1 7 億 m3であ り,丸太 として収穫 された全量 の4 8% に過 ぎない。残 りは薪炭 材 として消費 され る。 d) 森林資源 の分布状態 とは異 な り,木材 ( 用材)生産 は北半球温帯域 の開発 国 [ 北 アメ リカ,CI S( 旧ソ 0% を占め る。 ビエ ト), ヨー ロッパ な ど] に集 中 し,全生産量 の約 8 e) 開発国人 口の世界人 口に占める割合 は約 2 5%であるに もかかわ らず,全木材 ( 用材) 供給量 の約 7 5% を消費 す る。 f ) 未利用森林面積 が大 き く,生長量 と伐採量 との関係 か らは将来的 な需要拡大 に対応 で きるように忠 えるが,経済的見地 を加味すれ ば単純 には結論 を導 けない。 g) 将来的木材需要 は増加 す るが, その割合 は緩慢 で比較的安定 す る と予測 され る。主要供給源 は,北 半球 の温帯域 に存在 す る天然林 であ り,不足分 を人工林 に依存 す る。 h) 人工林 の約 2 5% を占める早生樹林 が今後増大 す る。 これ は,森林経常 として採算が合 うと考 え られ るか らである。 マ ツ及 びユーカ リが主要樹種 である。 i ) 中華人民共和 国 と CI S( 旧 ソビェ ト)での新規植林 が多 く,世界全体 で は年間7 0 0 万 ha前後 で あ る。 これ らは,林産学研究 に携わ る者 の基本 的知識 として銘記 してお きたい ものである。人工林 か らの生産 *第 5 3回木研公開講座 ( 平成 1 0 年 5月2 2日,宇治)において講演。 **劣化制御分野 (LaboratoryofDeteriorationControl) Ke ywor ds:Gl o bale c o s ys t e m, Gl o balwa r mi ng, Te r mi t e s , WoodPr e s e r vat i o n, Envi r onme nt ali mpa c t , Li f ec yc l eas s e s s me nt - 2 2- 角田 :地球生態系 とシロア リ ・木材保存 は収穫であ り,天然林 か らのそれは採集である。 いずれ にせ よ,計画的な伐採 と合理的な経営が森林資 源の恒続的生産 を可能 にす ると理解 してお くべ きである。 森林資源の用途 に想像 を絶す るような変化がない限 り,上述の ように,供給 され る資源の質的変化 は あるものの,将来的 に枯渇す る事態 には至 らない と楽観的に構 えていていいのだ ろうか ?植林が旺盛 に 実施 されている反面,過去の土地利用 は林地 は農耕地へ と転換 され,林地面積 は減少 して きた ことを物 語 っている2 ) 。森林資源の分布 と利用地域 との不一致,熱帯地域 での天然林 の過伐,早生樹植林 の増加 な どを考慮すれば,森林資源 をいかに有効 に利用す るかは重要な研究課題 であると言わ ざるを得 ない。 本報では,防除の対象 となるシロア リ,地球生態系 とシロア リ及 び地球生態系の保全 に果たす木材保 存 の役割 について概説す る。 2 . 害 虫 と してのシ ロア リ 地球上 に出現,生存 して きた歴史か らすれば, シロア リに とっては人類が侵入者 なのであろう。人類 が居 を構 え,材料や道具 を製造す るようになる と,人類 に とってはシロア リが害敵 となって しまった。 シロア リによる被害 は,セル ロース系材料か らなる建造物や家具,樹木 ( 特 に,植林 されたユーカ リや ゴムノキな ど) は もちろんの こと農作物 ( サ トウキ ビ, コー ヒーな ど) にまで及ぶ。 これ までに記載 さ れている2, 0 0 0 種以上の シロア リの内,5 %前後が食材性 とされている3 , 4 ) 。全地表面の 3分の 2にシロア リは生息 し,熱帯地域 での分布密度が高 く,食害行動が旺盛である。 シロア リによる被害額 あるいは予 防/駆除処理 に要す る費用 を算定す ることは困難であるが, アメ リカ合衆国の例 ではデータは少々古い が年間 1億か ら3 5 億 ドル を被害箇所の修理や薬剤処理 に費 や してい る5 ) 。発見 され ない被害や被害が放 置 されている場合 を含 めると,膨大 な経済的損失 になることはまちがいな く,火災 による被害額 と同程 度 になるとも言われている。 したが って, シロア リ防除 には懸命の努力 をして きたわ けである。 建造物の シロア リ防除 は,建造前の予防 と被害が発生 してか ら実施す る駆除 ・予防がある。建造前の 予防処理 には, シロア リが摂食す る物質 の敷地内 ( 特 に床下部分)か らの除去 と床下の乾燥, また,木 部及 び土壌 の薬剤処理が含 まれ る。建造後 にシロア リ被害が発生すれば,被害箇所 の交換,薬剤 による 駆除 ( 予防 も兼ね る)処理 な どを行 うのが普通である。 この ように,従来の シロア リ防除 は薬剤 に依存 していた。最近 になって,薬剤 による環境汚染 な ど様々な弊害が顕在化す るようになった。有機塩素系 防蟻剤使用禁止後の代替薬剤の効力持続性が低 い こと,製材 に利用 され る溶剤 に起 因す る V O Cの揮散 や空気中の微量物質 な どによる健康障害 な どが報告 され るようになった。 クロルデ ンに代表 され る有機 塩素系,有機 リン系, カーバ メー ト系,合成 ピレスロイ ド系な ど多種多様 な化合物が防蟻剤 として登場 して きて, よ り低毒性 の薬剤へ と代わって きた。 しか しなが ら,環境への負荷や人間への影響 を配慮 し, 薬剤 に依存 してきた防蟻の概念の変換が求 め られている。 新規防蟻法 として可能性のあるもの として,次の 3つが考 えられ る。 bai ts ys t e m):一般 に,シロア リ社会 はエサを採集で きる個体 と採集で きない個体 1)ベイ トシステム ( で構成 されてお り,食物交換が行われている。 そ こで, シロア リ自身が感知す るのが困難 な化学物 質 をエサ と共 に摂食 させれば,摂食個体 か らコロニーの構成員すべてに化学物質が行 き渡 ることが 期待で きる。被害現場 の シロア リの活動範囲内に化学物質 を含んだエサ ( ベ イ トステー ション) を 設置 し,少量の化学物質 によってコロニーの根絶や被害箇所 の駆除 を図 るものである。利用す る化 学物質 は,遅効性であることが望 ましく,生理作用阻害剤や昆虫生長制御剤 な どが実用の可能性 を 示唆 されている6 ) 。利用す る化学物質量が少な くてすむ ことや他生物への影響が少 ない ことを利点 として挙 げることがで きる一方, シロア リ活動のモニタ リングによってベ イ トステー シ ョンの設置 場所 をきめる必要のあることや処理の完遂 までに数 カ月以上 を要す る7 ことを忘れてはな らない。 9) 効果の発現 はシロア リの生態 に左右 され るため, シロア リの種類別 にベ イ トシステムの適用性 を検 -2 3- 木材研究 ・資料 第3 4 号( 1 9 9 8 ) 討 す る必要が あろう。 2 )フィジカルバ リア ( p hy s i c alba r r i e r ):物理的防除法 として,砕石 を利用す る方法 10 とステ ンレ 13) ススチール網 を利用す る方法 14-16)が考案 されてい る。後者 の場合 には, シロア リの侵入 を阻止す る 0. 6 6×0. 4 5 mm)の網 目を有す る腐食 しに くい高品質 のステ ンレススチール製網 をシロア リ サイズ ( の進入路 に敷設 す る ことによって食害対 象物 を保護 す る ことがで きる。砕石 による方法 は,玄武岩 あるいは花 園岩か ら作 った一定サイズの砕石 を用 い る。砕石 のサイズ は, シロア リが砕石間のスペ ースを自由に通過で きる程大 き くな く, かつ, シロア リが運搬 で きる程小 さ く ( 軽 く) ない範 囲で なけれ ばな らない。 したが って, シロア リの種類 によって侵入 を阻止 で きる砕石サイズは異 な る。 ここに紹介 した 2つの防蟻 方法 は,オース トラ リアで はすで に規格化 17)されてい る。原理的 には,冒 本産地下 シロア リであるイエ シロア リやヤマ トシロア リに も適用可能 であ り, 日本 の建築工法 に応 じた設置方法 を検討 すべ きである。 3 )バ イオ ロジカル コン トロール ( bi ol o iC g al c o nt r ol ):生物的防除 は,物理的防除 と同様 に まった く化 t ar hi z i um ani s o学物質 を使用 しない手段 で ある。アメ リカ合衆 国で は,昆虫寄生菌 の 1種 であ る Me phi aeを利 用 して,シロア リコロニーの構成員 を死 に至 らしめる方法が環境庁 に登録 されてい る。し たが って,処理効果 は如何 に して シロア リを昆虫寄生菌 に感染 させ,感染個体 の死亡前 に如何 に効 率 よ く二次感染 を引 き起 こす ことがで きるか にかか ってい る18)。 日本 で はまだ実用 されて はいない が,将来的 には検討 に値 す る安全 な手段 で あろう。 これ らの シロア リ防除方法 は," 化学物質離れ〟を実現で きるばか りでな く,環境 負荷 の軽減 に貢献 し なが ら,防蟻 目的 を達成 で きる点 は高 く評価 され る。一方,処理 その ものが熟練 された者 によって実施 されなければ想定す る効果が得 られ ない と思われ ることや,処理 の確実性 ( 信頼性) に問題 はないだ ろ うか ?な どが懸念 され る。将来的 には,床下環境 の住宅木質部材 の劣化 に及 ぼす影響 19・20)と,防蟻 にお け る住宅 のメ ンテナ ンスの重要性 の認識 に基 づいて,住居 の維持管理 の一環 として防蟻が組 み込 まれ, 様々 ト2 3 ) 。 さらに,世界 的 に見れ ば,地域 によって防除 の対 な防蟻手法 を駆使 す ることになる と予想 され る2 3 ) ,各 シロア リの生態や生理 な どに関す る基礎 的研究 象 にな るシロア リ属 あるいは種 が異 なる ことか ら2 は不可欠であ る。 さて,樹木や農作物への シロア リによる食害 の対策が厄介である。 日本 で は,立木 の被害例 はさほ ど 多 くないが,熱帯地域 で は移入種 が食害 の対 象 にな ることが報告 されている25-27)。植林 された ゴム ノキ やユーカ リな どが シロア リに食害 され,経済的 に大打撃 を被 ることが珍 し くない。 カナダの トロン トの よ うな寒冷地 で あって も,街路樹 や公 園 に植 え られた樹木 が シロア リに攻撃 された こ とが知 られ て い る2 8 ) 。食害 を受 けた樹木 の駆除処理 は,関与 す る巣 の存在場所 な どを配慮 して行 って初 めて成功 す るが, 植林 された苗木 をシロア リの攻撃 か ら保護 す ることは困難 である。薬剤処理 をユーカ リの苗木 の保護 に 適用 したが,期待 した成果が得 られなか った ことが報告 されてい る2 9 ) 。遺伝 的形質 の相違が耐蟻性 に影 響 す ることは当然であろうが3 0 ) ,耐蟻性種 を選別 して高耐蟻性樹種 を育種 す るには長年月 を要す る。 農作物 の シロア リ被害 も無視 で きない。被害 の発生 はシロア リの活動が旺盛 な熱帯域 に発生す ること が多 く,サ トウキ ビ, トウモ ロコシ,キャ ッサバ,落花生,コー ヒーな どが食害 され る4 ・ 2 7 ) 。植林 された 苗木や農作物 の保護 は,対象面積 が広 い上 に保護対 象物 を特定 で きない こともあって,薬剤施用 は賢明 な手段 とは言 いがたい。他生物への影響 が ほ とん どないであろう前 出のベ イ トシステム は,処理面積 の 大小 に関係 な く効果 を発揮 で きる保護手段 として一考 の価値 が あろう。 3 . 地球生態系 とシ ロア リ 前節で はシロア リを害虫 として捉 え防除方法 を中心 に論 を進 めて きたが, シロア リが地球生態系 に と って重要 な役割 を担 ってい ることを忘れてはな らない。森林 にお けるシロア リは, リタ一類 ( 枯死木, - 2 4- 角田 :地球生態系 とシロア リ ・木材保存 表 1 出 シロア リによるメタン生成量 ( 室内での測定) 平均メタン生成量 シロアリの種類 典 Zi mmer manetal .( 1 982)3 3 ) Ras mus s enandKhal i l( 1 983) 3 4 ) Zi mmer manandGr eenber g( 1983)3 5 ) ( nmol /t er mi t e/ hr) Re t i c ul i i e r me st i b i al i sBanks 1. 1 07 Gnat hami t e r me spe ゆI e xu sBanks 1. 034 Zo ot e r mo ps i sau gus t i c o l l i s( Hagen) Zo ot e r mo ps i sau gus t i c o l l i s( Hagen) 2. 344 6. 25 ( 20 o C) 1 4. 84 ( 25 o C) Mes s erandLee ( 1 989) 3 6 ) Si nzat oetal .( 1 992)3 7 ) Ts unodaetal .( 1 993)3 8 ) Zo o t e r mo ps i sne t , ade ns i s( Hagen) Zo o t e r mo ps i sau gu s t i c ol l i s( Hagen) Ne ot e r me sko s hune ns i s( Shi raki ) 20. 31 ( 25 o C) Na s ut i t e r me st a k a s a go e ns i s( Shi raki ) 0. 53 Odo nt ot e r me sf o r mo s anus ( Shi r aki ) 0. 20 Re t i c ul i t e r me ss pe 7 1 at uS ( Kol be) 0. 38 1 0. 3 2. 24 pt o i e r me sf or mo s anusShi r aki Co 0. 50 Co pt o t e r me sf or mo s anu sShi r aki 0. 41 8( 26 o C) 0. 689 ( 30 o C) 表2 シロア リによる温室効果気体の生成量 [ Khal i lら( 1990)か ら改変] 出 典 Zi mmer manetal .( 1 982) 3 3 ) メタン( 1 06トン/ 午) 推定値 範 囲 1 50 75-300 Ras mus s en & Khal i l( 1 983)3 4 ) 50 1 0∼90 Col l i ns& W ood ( 1 984)3 9 ) 二酸化炭素 ( 1 06トン/ 午) 推定値 50, 000 1 5 <34 5, 000 Sei l eretal .( 1 984)4 0 ) 4 2-5 6, 000 Fras eretal .( 1 986) 4 1 ) 1 4 6-42 Khal i letat .( 1 990) 4 2 ) 1 2 2-20 4, 000 範 囲 25, 000-75, 000 2, 000-1 2, 000 落枝,落葉,倒木 な ど) と呼 ばれ る植物 や小動物遺骸 の分解 を通 して,森林土壌 の肥 沃化 に役立 ってお り,森林生産 を促進 している。反対 に農作物 に とっては,収穫後 の残漆が シロア リに食害 されれば,土 ) か らすればシロア リによる土 壌 の肥 沃 さが低下 して しまう。 サバ ンナや熱帯雨林 での シロア リ現存量 31 壌改変が如何 に重要であるかが認識 で きよう。 シロア リと地球生態系 との関係 と言 えば, この ような事 柄が記 され ることが ほ とん どであったが,地球温暖化が顕在化 す るにつれて, シロア リによるメタンの 放 出が取 り沙汰 され るようになった。 シロア リが,総体的 に炭素や水素 を多量 に含有す る木材 な どの リグノセル ロース物質 を食料 として利 CH4) として体外 に排 出 しなけれ ば生理機能 を維持 す 用す る場合,過剰 に摂取 した炭素 と水素 をメタ ン ( る ことがで きない。 メタンは種々の物質 の微生物分解,バ イオマスの燃焼,反趨動物 の腸 内発酵や シロ ア リによる生成 な どによって大気中 に放 出 され る。 シロア リな どの ような生物 によるメタン生成 は, メ タン生成細菌 の関与が あって初 めて可能 である とされ る。 シロア リ消化管 内に古細菌であるメタン生成 細菌3 2 ) の存在が確認 されてい る。 日本産 イエ シロア リの後腸 内原生動物 の 1種 に寄生す るメタ ン生成細 菌が蛍光顕微鏡下 で観察 されてい る。室 内条件下 でイエ シロア リ職蟻 のメタン生成量 を測定 した ところ, 供試個体数,試験容器寸法,飼育温 ・湿度,飼育時間,飼育期間中の食物 な どによって異 なるが,飼育 - 25- 木材研究 ・資料 第3 4 号( 1 9 9 8 ) 初期 に最大値 を示 し,検 出 された メタ ン量 は,0 . 2 5 -0. 7 6 n mo l / t e r mi t e / hrで あった。シロア リの種類 に よって もメタ ン生成量 は異 な り( 表 1参照),温湿度 や雨量 の季節的変動 に伴 うメタン生成量 の変化 も無 視 で きない。 シロア リによる年間 メタ ン生成量 の算 出には,世界 の シロア リ生存数 の推定 と各種 シロア リのメタ ン生成量測定値 を合わせ て考 えなけれ ばな らないため,誤差が大 き く信頼性 に欠 けることは否 3 -1 2. 5 めない。これ まで に提 出 された推定値 は表 2に示 した ように,地球全体 の年間 メタ ン生成量 の0. % に相 当す る。 メタ ンの大気 中濃度 は1 . 7 p pm で,大気 中に約 4 0 -5 0 億 トン存在 してい る とされ,新 た に大気 中 に放 出 2 億 トンが地球 の温暖化 を助長 してお り,年間約 0 . 0 1 5 ppmず つ大気 中濃度 が上昇 してい され る年間約 1 る。二酸化炭素 と比較 す る と量的 には少 な く,半減期 は1 0 年 と短 かい ものの温室効果 は約 2 0 倍高 いため にその温暖化への影響 は無視 で きない ものである43)。一方,視点 を変 えてみれ ば,メタ ンは天然 ガスの構 成成分 であ り,エネルギー源 として利 用可能 であ る ところか ら, メタ ン生成細菌 を利用 した メタ ン製造 工場 の建設 を夢見 る科学者や技術者がいて もおか し くはない。や は り,夢物語 に終 わ って しまうのだ ろ うか ? シロア リは共生関係 を研究す る者 に とって格好 の対 象であった。共生が もた らす利点 に関 しては必ず しも全 てが理解 されてい るわ けで はないが, シロア リの木材分解能 と関与 す る酵素系 な どに関す る知見 は確実 に増大 してい る。 シロア リ自身がセル ラーゼ を分泌 で きた として も腸 内共生動物 の助 けがなけれ ば栄養源 として活用で きない ことや4 4 ) ,腸 内に原生動物 を保有 している下等 シロア リで は,特定 の原生動 物 にメタ ン生成細菌が寄生 してい ることな どは興味 ある事実である。二者間だ けでな く複雑 な共生関係 が示唆 されてい るようで,今後 の研究成果が待 たれ る ところである。 4 . 地球生態系 と木材保存 地球環境 に係わ る深刻 な問題 の 1つ は,環境汚染 の軽減及 び温暖化 とも関連 す る化石燃料 の代替 エネ ルギーの確保 が挙 げ られ る。化石燃料 の供給 が永遠 に続 くことはあ りえない ことか ら,環境 に とって安 全 なェネルギー生産技術 の開発 が,将来 にわた って現在 の生活水準 を維持 してい く上 には緊要で ある。 地球生態系保全 のために木材保存が果 たす役割 に関 して検討 したい。 保存処理木材や木質材料 は長期 間の実用が可能 であ ることか ら,多量 の森林資源 の節約 に直結す る と ) 。その報告 の考 えが古 くか ら存在 し,データを集 めて解析 した事例 が アメ リカ合衆国で報告 されてい る45 9 1 0 年 にアメ リカ木材保存協会が林野庁 と協力 して ま とめた ところ の中で次 の ように言及 されてい る。1 9 0 9 年 には6 4 の保存処理工場 か ら7 , 5 5 0 万f t 3( -約 2 1 4 万 m3) の保存処理木材が生産 されてい による と,1 たが, アメ リカ合衆 国全土 に敷設 された約 8億本 のマ タラ木 の内わずか に 3%が保存処理 されていた に 0 4 本/マイル ( -1 9 0 本/ km)の割合 で交換 され,7, 9 0 0 万本以上 のマ タ 過 ぎなか った。 そのため,毎年 3 9 6 3 年 には,鉄道路線距離が3 2 万 5千 マイル (-5 2 万k m)に達 したが ,1 9 5 0 年代 に ラ木 を必要 とした。1 3 本/マイル (-約 5 2 本/ km)にな り,年間7, 1 8 2 万 5千本 保存処理 マ. クラ木が定着 して以来,交換率 は8 のマ クラ木が節約 で き, その量 は2 6 億 ボー ドフィー ト ( -6 1 4 万 m3) に相 当す る と述べ られてい る。 日本 での年間の保存処理木材生産量 ( 5 0 万 m3),耐用年数 ( 5 0 年,無処理 は1 0 年),製品歩留 り( 5 0 %) , 1 0 0 m3/ ha) ,単位森林面積 当 りの二酸化炭素吸収量 ( 6. O t o n/ ha)な どを仮定 し,環境 コス 森林蓄積量 ( 0 年毎 に2 0 0 万 m3 ( 森林面積 4万 h aに相 当)にな り,2 4 トをゼ ロ として森林資源 の節約量 を算出す る と5 万t o nもの二酸化炭素 を吸収 で きる面積 に匹敵 す る4 6 ) 。同様 に,世界全体 での森林資源節約量 を算出す る 0 倍以上 に達す るであろう47 ) 0 と, 日本 の場合 の5 環境 コス トが どれ位必要か は,薬剤 の種類 や処理工場 の設備 とも密接 に関係 す るため一概 には言 えな い。木材保存が薬剤 に依存 す る以上,処理製品の製造 か ら廃棄 に至 るあ らゆる過程 において土壌,水質, 大気汚染 の可能性 は否定 で きないが, その程度 は悲観 す る程深刻で はな く,人類 の英知 によって克服 で - 2 6- 角田 :地球生態系 とシロア リ ・木材保存 きるレベルである と考 えられている。木材保存産業 に起因す る環境汚染 とその制御への関心 は世界的 に 増大 してお り,国際 シンポジウムや会議 な どで しば しば論議 されている。今後 も検討すべ き事項 を列記 してみる と, ( 1)環境負荷が少 な く安全 な木材保存薬剤の開発 , ( 2) 処理木材か らの薬剤の溶脱防止 ・ 木材中での薬剤固着の増進 , ( 3) 排出物 を可能 な限 り少量 にす るための保存処理方法の開発 , ( 4) 環境 汚染防止のための処理工場及 び廃棄物 の管理 , ( 5) 化学修飾 による保存処理 , ( 6) 木質材料及 び木質系 複合材料 の保存処理技術 , ( 7) 廃棄保存処理木材製品の回収 ・再利用 ・再生利用及 び処理 , ( 9) ライフ サイクルアセスメン ト ( LCA) による木材及び保存処理木材 と他材料 との比較 な どである。 地球気象モデルや過去の気温 と大気中の温室効果気体 に関す る研究か ら,地球 の温暖化が さらに温室 効果気体 の大気中濃度の上昇 を助長す ることが知 られている4 8 ) 。林地の再生や植林 は二酸化炭素 の大気 中濃度 を下 げることに貢献 で きるが, それ は樹木が生長 し続 ける期間に限定 され る。木材が今 なお世界 の広範囲で燃料源 として利用 されている事実か らすれば,何 らかのエネルギー革命がなければ,木材が 他材料 に取 って代わ られ る可能性 は極 めて低 く,将来的 には,早生樹林 を拡大 して世界での木材の需給 バ ランスを保 つ ことになるのであろう49 ) 。すでに述べた ように,人工林面積 は収穫可能 な森林面積のわず か 5%に も満たない ことか ら,森林資源供給潜在力 は高い と捉 えがちであるが,それほ ど楽観視 で きる ものではない1)。したが って,林地生産 を恒続的な ものにす るために森林資源か ら得 られた林産物 を可能 な限 り長期間利用す ることが求 め られ,環境負荷の少 ない保存処理が必要である。 二酸化炭素の年間放出量 は 7- 9bmt ,その内訳 は化石燃料の消費 によって5. 6 bmt ,森林 の伐採 によ って1. 5 -3. O bmtと推定 されている4 8 ) 。大気中の二酸化炭素濃度の上昇 は,急速 な工業化 と人 口増加 に よると一般 に考 えられている。 したがって,化石燃料消費の大幅 な削減,森林 の伐採停止,森林再生 ・ 植林 の推進 な どが現実の ものにな らなければ,地球温暖化防止 は達成 されない。木材保存産業が林産業 の一部であ り,林産業 は林業 に支 えられている との認識 に立 てば,今一度森林 の役割 を熟慮 し,木材保 存の地球生態系保全への貢献 を評価すべ き時機であろう。植林や再生 を包含 した恒続的森林経営か ら生 産 され る森林資源 に,要求 され る耐用年数 を付与 した製品 を有効 に使用す ることが肝要である。林木か らの製品の生産,製品の実用,実用後 の処理 ( 再使用や廃棄 な ど)な どの全過程 に係わ る環境 コス トを 軽減す るために,上述の課題 に関す る研究の発展が望 まれ る。 石油の ように特定の国あるいは地域 にその存在が偏れば,1 9 7 0 年代初 めの石油危機がいつ再現 され る か も知れない。全 ての国々が共有で きる資源か ら代替エネルギーを獲得す る技術が確立 され ることを願 って止 まない。太陽や風 な ど自然の恩恵 を利用 したエネルギー生産 の進展 は期待で きようが,水か ら作 る水素エネルギー技術 の確立 50・51)が待たれ る ところである。 5 . お わ り に 原料/材料及びェネルギー源 としての森林資源への人々の関心 は著 しく増大 している. それ は,森林 資源 が更新 可能 ( r e ne wabl e)で 恒 続 的 供 給 が 可 能 ( s us t ai nabl e)な 資 源 で あ り,再 使 用 可 能 ( r e us abl e) ,再生利用可能 ( r e cycl abl e) ,かつ生分解性 ( bi ode gr adabl e)の原料/材料であることと 無縁で はない。環境汚染や温暖化 な どが人類 の活動 ( 工業化 や人 口増加)に原因があ り,問題解決の光 明が見出せないな ら,世界各地 に偏在す る資源 をいかに有効 に利用す るか を苦心せ ざるをえない。人 口 増加 の抑制や資源の保全 は一国の問題 に止 どまらず,ある地域 あるいは世界全体 の問題 として対処 しな ければな らない時機 にきている。先進国が国際 ・世界規準 に沿 って模範 を示 し,開発途上国が同様 の こ とを成就で きるように支援す ることが求 め られている。種々の製品 に関す る規格 の国際化が進行す る中, 保存処理木材 に関 して もいずれ は統一規格が定 め られ るであろう。 環境負荷の少 ない処理法で生産 され る保存処理木材が,安全 な長期耐用 を保証す るな らば,木材保存 が森林伐採量 を減少 させ,森林資源ひいては地球生態系の保全 に貢献す ることが正 し く認識 され る時の - 2 7- 木材研究 ・資料 第 34号 ( 1998) 到来 はそ う遠 い こ とで はない と信 じたい。 引 用 文 献 1 )M.D.BAZ E TT:Tr e ePl ant at i onRe vi ew St udyNo.3 ∫ ndus t r i alW ood,Shel l / WW F,11 2 pp.( 1 99 3) 2)∫.F.RI CHARDS:Landt r ans f or mat i on [ I n]Theear c ht r ans f or medbyhumanact i onGl obalandr e gi onal change si nt hebi os phe r eovert hepas t3 00year s ( e d. byB.L.Tur nerI Iandot her s ),Cambr i dgeUni ve r s i t y Pr es s ,Cambr i dge,Uni t edKi ngdom,1 6 3-1 7 8( 1 990) 3)T,G. 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