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超分子ローター構造を用いた熱伝材料の開発

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超分子ローター構造を用いた熱伝材料の開発
The Murata Science Foundation
超分子ローター構造を用いた熱伝材料の開発
Thermal Conducting Materials Based on Supramolecular Rotators
A81101
代表研究者 芥 川 智 行 北海道大学 電子科学研究所 准教授
Tomoyuki Akutagawa
Associate Professor, Research Institute for Electronic Science, Hokkaido University
Solid state molecular rotators have been attracted much attention from the viewpoints of the
artificial molecular motors with high energy conversion efficiency and molecular mechanical
devices. The supramolecular assembly of organic ammonium - crown ethers is one of the
candidates to construct the functional molecular rotators in the solid state. We developed the
controllable molecular rotator using the outer electric filed for realizing the new ferroelectric and/
or thermal conducting materials. Herein, we reported the formation of novel ferroelectric function
arising from the two-fold flip-flop motion of m-fluoroanilinium (m-FAni+) cation in the metaldithiolates coordination compound of [Ni(dmit)2]- anion, where the rotation of m-FAni+ cation
yielded the dipole inversion and ferroelectric - paraelectric transition at 346 K.
The orientation of m-FAni+ in the solid state was fixed at the temperatures below the phase
transition, whereas the thermally activated orientational changes of m-FAni+ cations occurred above
346 K. The potential energy barrier in the double-wall minimum potential energy curve for the
two-fold flip-flop motion determined the phase transition temperature. The orientation of m-FAni+
cation in the solid could be controllable by the application of the outer DC electric filed. The
crystal polarity was modulated by the population change of the two orientations for the m-FANi+
cations in the crystal.
We demonstrated that the supramolecular rotator structures could be combined with the
ferroelectric function. Since the [Ni(dmit)2]- anion in the molecular rotators has one S = 1/2 spin
on the molecule, the crystal possessed the magnetic properties. The two-dimensional magnetic
layer of [Ni(dmit)2]- anions was alternatively arranged through the supramolecular rotators layer,
where the coupling between the dipole moment of m-FAni+ and magnetic spin of [Ni(dmit)2]anion was suggested as the new phase transition mechanism in the molecular solid. The molecular
materials have a potential to apply the flexible multiferroic devices between the ferroelectricity and
ferromagnetism.
子形状が等方的な化合物が形成する柔粘性結
研究目的
晶において古くから知られている。この様な
本提案では、分子性固体中で分子回転が可
分子回転(分子ローター)を、材料設計の観
能な超分子ローター構造に着目し、新規な熱
点から強誘電体や熱伝導材料へ適用するには、
伝導材料や強誘電材料の開発を試みた。固体
その回転運動の制御が重要である。分子性固
中の分子回転は、アダマンタンやC 60 などの分
体中に設計した分子ローターの回転周波数・
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Annual Report No.24 2010
対称性・ポテンシャルエネルギー障壁などを
に実現できれば、エネルギー・環境問題に多
化学的に設計し、さらに回転運動を外場によ
大な貢献が可能な新材料が創成できる。以上
り制御する事で、新材料としての道筋が達成
の背景から、人工分子モーターの実現に関す
される。
る研究開発が活発に行われている。多くの研
一般に、結晶中の分子は再密充填構造を取
究成果は、溶液中に分散した分子ローターの
り、分子の回転運動に必要な結晶空間の確保
動作特性に関する基礎研究であるのに対し、
が最大の問題点となる。申請者がこれまでに
我々は将来のデバイス化を考慮した固相分子
開発してきた有機アンモニウム−クラウンエー
モーターの開発を重要と考え研究を行ってい
テル超分子構造は、結晶中における回転運動
る。固相での分子回転が可能な超分子ロー
空間の実現が可能なユニークなシステムであ
ター構造に着目し(生物分子モーターの様な
る。そこで、anilinium(crown ethers)やada-
仕事を行う”モーター”は、人工的には開発
mantylammonium(crown ethers)などの超分
されておらず、分子”ローター(回転子)
”の
子カチオン構造に着目して、分子ローターの
呼称が適切である。)、その作製と回転自由度
回転運動の外場制御を目的とした研究を行っ
(回転周波数、対称性、エネルギー障壁など)
た。既に、先の超分子構造に代表される幾つ
の制御の観点から、その材料化に関する基礎
かの分子集合体において、結晶中における分
研究を試みた。特に回転運動の外場による制
子回転運動の存在を確認している。分子回転
御に注目し、分子ローター構造を強誘電体や
の周波数や対称性は、ローター構造の分子形
熱−電変換材料などの機能性材料へ発展させ
状に依存して変化し、aniliniumの様なパイ平
る検討を試みた。
面型分子では二回対称性のフリップ−フロッ
固相分子ローターの実現には、超分子化学
プ運動が生じる、一方、adamantylammonium
のアプローチが有効であり、様々な形態の超
の様な等方的な分子形状では、低い回転ポテ
分子構造を分子間相互作用の設計から実現し
ンシャルエネルギー障壁で、三回対称性の回
た。特に、有機アンモニウム−クラウンエー
転運動が熱的に励起される。しかしながら、
テル型の分子集合体を、超分子ローター構造
これらの分子回転運動は、始状態と終状態の
として着目し、anilinium(crown ethers)や
分子構造が同一であり、巨視的には大きな物
adamantylammonium(crown ethers)の様な
性変化をもたらさない。そこで、分子回転に
超分子構造を、S = 1/2スピンを有するジチオ
よる分子構造の変化が可能で、バルク物性に
レン系の金属錯体アニオンである[Ni(dmit) 2]
応答が可能な分子ローター構造の開発を行っ
分子と複合化した。結晶中で、a n i l i n i u mや
た。分子ローター構造に双極子モーメントを
adamantylammoniumカチオンは、熱的に励起
導入し、分子回転による双極子反転場を実現
された分子回転運動を実現する事が、結晶構
し新規な強誘電体を開発した。
造解析・誘電率・固体NMR測定から実証済み
である。しかしながら、これらの系では、回
概 要
転に対する始状態と終状態の分子形状が同一
生物分子モーターは、100 %に近い高効率
であり、バルク物性には大きな応答性や機能
なエネルギー変換が実現可能な究極の分子機
性が出現しない。一方、回転運動の制御の観
械である。生物分子モーターの機能を人工的
点から、aniliniumとadamantylammoniumカチ
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The Murata Science Foundation
オンの回転運動は興味深く、前者が二回対象
誘体から強誘電体への転移(双極子反転)を
の180度反転型のflip-flop運動行うのに対して、
引き起こしたと結論できる。
後者は三回対称性の非常に小さな回転エネル
結晶中の分子回転が可能な分子ローター構
ギー障壁で運動を行う。本研究では、前者の
造を利用し、新規な分子性強誘電体を開発し
180度flip-flop運動に着目し、分子ローターを
た。これは、分子回転とバルク物性の融合を
用いた新規な分子性強誘電体の開発を行った。
実証した研究例である。また、分子配列の検
強誘電性の発現には、結晶中での双極子
討と電子スピン共鳴の測定から、
[Ni(dmit) 2]
モーメントの反転が必修である。そこで、分
アニオン上に存在するS = 1/2スピンが、強誘
子回転運動を行う分子ローターに双極子モー
電体相における双極子モーメントの配列に重
メントを導入し、分極反転場の実現を試みた。
要である事が示唆された。強誘電体では、一
著者らにより、Aniliniumのflip-flop回転が確認
般に双極子−双極子相互作用による双極子
されている(anilinum)
(dibenzo[18]crown-6)
モーメント配列が相転移の駆動力となるが、
[Ni(dmit) 2]結晶(1)を出発点として、ani-
結晶2では、フッ素基の双極子モーメントが
liniumカチオンのmeta位にフッ素基の導入を
[Ni(dmit)2]アニオン上のS = 1/2スピンと相互
行ったm-fluoroanilinium(m-FAni )カチオン
作用している事が示唆された。これは、強誘電
を導入した(m-FAni )
(dibenzo[18]crown-6)
状態における、双極子−スピン間の相互作用の
+
+
[Ni(dmit)2]結晶(2)を新規に作製し、その
存在を示唆し、分子系材料における強磁性と
結晶構造と誘電物性を中心に検討した。
強誘電性が交差するマルチフェッロイック材料
結晶1と2のX線結晶構造解析の結果は、両
の開発に向けた出発点と期待される。
結晶が同形である事を示し、超分子ローター
と磁性を担う[Ni(dmit) 2]アニオンが互いに
層状構造を形成し、結晶中で交互に配列して
いた。m-FAni+カチオンの分子反転は、分子の
C-NH3+ 結合方向で生じ、カチオン層内で起こ
ると期待される。X線結晶構造解析の温度変
化では、フッ素基の配向にディスオーダーが
観測され、分子回転運動の存在が示唆された。
そこで、サイズ∼1 mm程度の単結晶試料を用
いて、誘電率の異方性を結晶のa, b, c-軸方向
に測定したところ、m-FAni +カチオンの回転軸
に垂直な方向で誘電相転移(346 K)が確認
された。結晶構造およびab-initio計算による
回転ポテンシャルエネルギーから、346 K以上
の温度領域ではm-FAni+カチオンの回転運動が
熱的に励起され、結晶中のフッ素基の双極子
モーメントの配向に変化が生じていた。その
結果、m - FA n i + カチオンの反転運動が、常強
─ 83 ─
−以下割愛−
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