...

実験的検証:全生物の共通の祖先は 超好熱菌のようだ

by user

on
Category: Documents
26

views

Report

Comments

Transcript

実験的検証:全生物の共通の祖先は 超好熱菌のようだ
38
実験的検証:全生物の共通の祖先は
超好熱菌のようだ
Experimental test suggested that the universal common ancestor
was a hyperthermophile.
渡辺敬子、岩端寿子、横堀伸一、大島泰郎、○山岸明彦
(東京薬科大学・生命科学部)
K. Watanabe, H. Iwahata, S. Yokobori, T. Oshima, and A. Yamagishi
Department of Molecular Biology, Tokyo University of Pharmacy and Life Science
様々な生物の 16SrRNA 遺伝子の配列と双子の遺伝子の解析から、全生物の共通の
祖先は真正細菌と古細菌の間から分岐し、後に古細菌から真核生物が派生したという
系統樹が Woese らによって提案されている。Woese は真正細菌と古細菌の系統樹の中
で、短い枝を持つものが好熱菌であることから、好熱性が原核生物の祖先的な性質で
あるという指摘を行った(1)。その後、超好熱菌が系統樹の根本付近から分岐すること
に基づいて、共通の祖先が超好熱菌であるという提案がされた(2,3)。我々も、系統樹
に生物の至適生育温度を入れると、系統樹の根本から離れるに従って生育温度が下が
る事からその仮説を支持した(4)。
しかし、この仮説に対して様々な立場からの反対論が提出されている。Miller らは
生体関連物質の安定性を調べて、生命の起原は高温ではあり得ないとした(5)。ただし、
彼も述べているように、これは生命の共通の祖先とは独立に議論することができる。
Forterre は系統樹の根本付近に超好熱菌が集まっているとしてもそれは後に超好熱菌
が選択されれば良く、共通の祖先が超好熱菌であることを意味しないと指摘した(6)。
さらに、Galtier は共通の祖先の rRNA 遺伝子の G+C 含量を推定し、推定された G+C
含量は共通の祖先が超好熱菌であることに反するとした(7)。
しかし、このような議論はいずれも理論的な検討であり、実験的に得られたもの
ではない。そこで我々は実験的に検証する方法を考案し実験を行った。まず、双子
の酵素イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素(IPMDH)とイソクエン酸脱水素酵素(ICDH)
の系統樹を作成し、倹約法で共通の祖先の持つアミノ酸配列を推定した。3つの酵
素(Sulfolobus IPMDH, Thermus IPMDH, Caldococcus ICDH)を出発材料として、それぞ
れの酵素に祖先型のアミノ酸残基を1ないし7つ含む祖先型変異酵素を作成した。
それらの祖先型変異酵素を大腸菌内で大量発現し、精製した酵素に付いて耐熱性を
もとのそれぞれの野生型酵素と比較した。その結果、かなりの確率で酵素の耐熱性
が上昇する結果が得られた。この結果は共通の祖先超好熱菌仮説を支持している
(8)。
参考文献 (1) Woese, C. R. (1987) Microbiol. Rev. 51, 221-271. (2) Pace, N. R. (1991) Cell 65, 531-533. (3)
Nisbet, E. G. and Fowler, C. M. R. (1996) Nature 382, 404-405. (4) Yamagishi, A., Kon, T., Takahashi, G., and
Oshima, T. (1998) in Thermophiles: The keys to molecular evolution and the origin of life? (Wiegel, J. & Adams,
M. W. W. eds.), pp. 287-295, Taylor & Francis Ltd., London. (5) Miller, S. L. & Lazcano, A. (1995) J. Mol. Evol.
41, 689-692. (6) Forterre, P. (1996) Cell 85, 789-792. (7) Galtier, N., Taurasse, N. & Gouy, M. (1999) Science
283, 220-221. (8) J. Miyazaki, S. Nakaya, T. Suzuki, M. Tamakoshi, T. Oshima, and A. Yamagishi (2001) J.
Biochem. 129, 777-782.
Fly UP