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全身用X線CTスキャナ TCT

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全身用X線CTスキャナ TCT
Vol.44 No.6 (1989)
UDC 616-073.756.8-71
全身用X線CTスキャナ TCT-700S/SORREL
Whole-Body X-Ray Scanner, TCT-700S/SORREL
阿部 勝英<1> 関 泰宏<1>
Katsuhide Abe* Yasuhiro Seki*
当社は,全身用X線CTスキャナの高級機としてTCT-900S,実用機としてTCT-60A, TCT-70A,普及機としてTCT-300を
ラインアップしている。今回,市場の高級機指向に対応して, TCT-700S/SORRELを開発した。
この装置は,高画質,高スループットに主眼を置いている。画質は300ビュー/秒の高速データ収集,および当社独自の
シフト機構により空間分解能0.4mmを実現した。スループットについては, 2MHU大容量X線管球の採用により待ち時間
の短縮,および高速再構成装置の開発によりスキャンサイクル12秒を達成し,操作性では録音型ボイスアンドスキャンシ
ステムなども新しく開発した。
Toshiba has already marketed the top-of-the-line TCT-900S whole-body X-ray CT scanner, a standard series comprising
the TCT-600S and TCT-600, and a basic scanner, the TCT-300S. Now, a new model has recently been developed, the
TCT-600XT, in response to market demand for further enhanced models.
The main considerations in the development of the TCT-600XT were improvements in image quality and patient
throughput in order to maximize practical utility. With regard to image quality, a spatial resolution of 0.4mm has been
achieved through the use of high-speed data acquisition (300 views per second) and by the adoption of Toshiba's
proprietary X-ray tube/detector array shifting mechanism. In respect of patient throughput, a scan cycle of 12 seconds has
been realized by shortening waiting time through the utilization of a 2 MHU X-ray tube and by the development of a highspeed reconstruction unit.
In addition to the above improvements, Toshiba has developed a new recordable voice and scan system to maximize
operational flexibility.
[1] まえがき
当社のX線CTスキャナは, EMIスキャナの国産化と全社プロジェクトによるTCT-60Aの開発以来,順調な発展を遂げて
きた。
X線CT市場は初期の頭部専用機から全身用が主流となり,性能面も普及機から実用機,高級機と広範囲にわたってい
る。また,初期のX線CTスキャナが更新の時期に入っており需要が活発となっている。
ここで述べるTCT-700S/SORREL (図1)は,最近のX線CT市場の要求に対応し開発されたもので,次のような特長をも
っている。
(1)高速スキャン
最短1.2秒(ハーフスキャン), 2.0秒(360°スキャン)が可能である。
(2)高分解能
当社独自のシフト機構により空間分解能0.4mmを実現した。
(3)高スループット
大容量2MHU X線管の採用による管球冷却待ち時間の短縮,高速画像再構成装置の開発によるスキャンサイク
ルタイム12秒を可能とした。
図1. TCT-700S/SORRELの架台・寝台の外観
Exterior of gantry and patient couch
[2] 性能
2.1 撮影時間
撮影時間を短縮することにより,被検体の動きによる画質への悪影響が減少し,画質の向上が図れる。腹部撮影時の
蠕動(ぜんどう)運動,外傷を負った患者や小児の無意識な動きなどに対して特に有効である。このシステムでは360°回
転で2秒, 218°回転では1.2秒という高速な撮影時間を達成した。
撮影時間を短縮するために,システムとして必要な機構系,電気系の各要素について述べる。
2.1.1架台制御 このシステムは撮影速度の高速化を図るため,有限要素法などの解析手法を用いて回転部の慣性
モーメントの低減,回転駆動部の減速効率の向上,回転指示部の剛性の向上などの改良が加えられ,現在の第三世代
R/R (ローテート/ローテート)方式のX線CT装置として世界トップクラスの性能を実現した。図2に有限要素法の解析モデ
ル例を示す。
図2. 有限要素法による解析モデル
Mode for FEM
架台の回転部,回転支持部を有限要法で解析したときの解析モデル。
2.1.2 X線発生 最新技術の高周波用パワースイッチング素子を取り入れた高周波インバータ方式を採用した。スイ
ッチング特性に優れ安定したフラットピーク出力が得られる。最大出力120kV200mA連続(24kW)と世界のトップクラスの
仕様であり,短時間撮影でも高画質の画像が得られる。図3に主回路の構成を示す。
図3. X線高電圧装置 主回路の基本構成概念を示す。
High-voltage X-ray generator
2.1.3 データ収集 収集データ数は画質を決める重要な要素である。撮影時間を短縮し,さらに従来以上の画質を得
るためには単位時間当たりのデータ量を多く集める必要がある。このシステムは300ビュー/秒の高速データレートを可
能とし,高速撮影時で高画質を得ることができた。
2.1.4 検出器の検出効率 このシステムでは,検出器の各種改良を行い検出効率を向上させた。これにより,高速デー
タ収集においても単位データ当たりの検出器出力が大きく,画質を向上させている。
2.2 分解能
2.2.1 空間分解能 高い解像力を実現するために,当社独自のシフト機構を生かしたクローズアップ方式と小焦点X線
管球を採用した。
X線CTスキャナの基本的解像力はX線管焦点サイズ(F),検出器の有効開口幅(α),撮影倍率(M),サンプリングピッチ(S)の
諸要素により決定される(図4)。
図4. 第三世代CTスキャナの原理 X線管,被検体,検出器の幾何学的配置を示す。
Principle of third-generation CT scanner
このシステムは, X線利用角度38°, 512チャネルXe検出器, 0.9mm×0.9mm小焦点X線管を基本ベースとし,シフト機構
を最大限に生かし,拡大倍率Mを約1.5~2.1まで可変できる機構とした(図5)。これにより0.4mmまでの解像度が得られる。
図6にシステムで測定した空間解像力特性(MTF曲線)を示す。また,高コントラスト分解能測定ファントムによる測定例を7
図に示す。クローズアップ関数使用により0.4mmの小孔が識別可能である。
図5. シフト動作の原理 シフト動作により撮影倍率,サンプリングピッチが変化する原理を示している。
Principle of shift mechanism
図6. MTF曲線
MTF curves
頭部,腹部モードのMTF曲線。
図7. 高コントラスト分解能 0.4mmの小穴が検出可能である。
High-contrast detectability
2.2.2 低コントラスト検出能 低コントラスト検出能は周辺との密度差(コントラスト)の低いところで,いかに小さい物体
を識別できるかということであり,このシステムは0.5% 2mmの検出能をもっている。この能力は脳の中の白質/灰白質の
識別や,肝蔵の中の腫瘍などの診断に有効である。
2.3 患者スループット
診断装置の重要な性能として患者のスループットがあげられる。X線CTスキャナによる検査も現在ではルーチンとし
て使用されている。そのためには,患者処理能力の高いものが望まれる。
2.3.1 大容量2MHUX線管球の採用 世界でも最大クラスの大容量X線管を採用している。大容量X線管の利点は,注
入熱容量が大きいため,連続撮影時でも管球冷却待ちが発生しない。特に,ダイナミックスキャン(造影剤使用して連続撮
影)に大きなメリットとなる。
2.3.2 スキャンサイクルの高速化 スキャンサイクルとは,撮影から画像表示・格納処理までを一つのサイクルとして
表したものである。
今回のシステムは高速再構成装置(AFRU)の採用と高度なソフトウェア技術により,スキャンサイクルタイム12秒を達成
した。
2.3.3 豊富な撮影モード 各種撮影モードを標準装備しているので,状況に応じて組み合わせて使用することができ
る。撮影前にスライス数を指定することにより,自動的に指定スライス分を撮影するマルチスキャンが可能である。
寝台のスライド制御を,スキャノグラムから計画するオートインデックスプラン,さらに時間計画を付加したラビッドシーケ
ンスプラン,ズーミング位置・大きさを計画するターゲットトラッキングなどがある。マルチスキャンと天板の自動送りを組
み合わせることにより,高速で連続スライスの撮影を行うスーパラビッドモードが可能であり, 7スキャン/29秒(2秒スキャ
ン,天板10mm送り)が実現できる(図8)。
図8. スーパラピッドモード
Super-rapid mode
撮影と寝台の天板位置移動を連続して行うことにより,短時間で連続スライス撮影する。
2.3.4 ボイスアンドスキャンシステム 従来のものは固定された音声種に限定されていたが,このシステムでは録音録
方式であり,任意の音声種を登可能とした。患者により撮影時の音声指示内容,タイミングは変える場合がある。録音/
消去が任意にできることにより,患者に最適な音声指示を与えることができる。
また,患者呼吸のタイミングに合わせた音声指示とマルチスキャンと連動させることにより,腹部撮影で自動化が可能で
ある。図9に操作パネルを示す。
音声種
10種類(任意録音可能)
録音再生時間 32秒(倍長モード64秒)
図9. ボイスアンドスキャンパネル
Exterior of voice and scan panel
[3] 仕様
TCT-700S/SORRELの仕様を以下に示す。
撮影方式
R/R(第三世代)方式
シフト機構
撮影時間
1.2, 2, 2.7, 4.6秒
撮影領域
180, 240, 300, 350, 430mmφ
スライス厚
1, 2, 5, 10mm
架台傾斜角
前傾 25°~後傾25°
架台開口径
600mmφ
X線発生
連続X線
X線管電圧
120kV
X線管電流
55, 80, 110, 140, 170, 200mA
X線管熱容量
2MHU(ヒートユニット)
検出器
Xeガス検出器 512ch+較正用
画像再構成
512×512マトリックス
画像再構成時間
SVモード12~18秒
画像記憶容量
磁気ディスク 約1,800枚
フロッピーディスク 最大4枚
寝台
天板幅 400mm
最低天板高さ 300mm
空間解像力
0.4mm
低コントラスト検出能 0.5%mm
[4] 臨床例
TCT-700S/SORRELで得られた臨床例について示す。図10は頭部を4秒で撮影したものであり,脳実質のコントラスト
差の低い部分が明瞭に表現されている。
図11は腹部を2.7秒で撮影したものであり,各臓器の差がよく表現されている。図12は,肺野を1.2秒で撮影したものであ
り,微細な部分まで鮮明に表現されている。
クローズアップ関数を用いており, CT値レンジは4倍となっている。
図10. 頭部の臨床例
Brain image
頭部内のコントラスト差の低い部分も鮮明に見られる。
図11. 腹部の臨床例
Abdomen image
高速撮影により,体動によるアーティファクトは,ほとんど見られず,各蔵器がよくわかる。
図12. 肺野の臨床例
Lung image
1, 2秒の高速撮影である。肺野の微細な粒状撮影も鮮明に描出されている。
[5] あとがき
高級実用形X線CTスキャナTCT-700S/SORRELについて,高速撮影,高解像力,高スループットなどの技術ポイント,新し
い機能を述べるとともに臨床例を紹介した。このシステムは, 1989年2月に1号機を出荷し,海外においてもTCT-600XTの
名称で出荷されている。このクラスのX線CT スキャナの市場需要は多くなっており,このシステムにより,国内トップシェア
の維持,海外でのシェア拡大を進めていく。
謝
辞
この装置の開発にご協力いただいた医療法人祥和会,大田記念病院の関係各位に深く感謝の意を表するしだいであ
る。
文
献
(1)朝比奈清敬,ほか:全身用CTスキャナTCT-700A,東芝レビュー, 39, 11, pp.979-982 (昭59)
(2)荒館 博,ほか:全身用CTスキャナTCT-60A/60,東芝レビュー, 40, 9, pp.769-774 (昭60)
(3)岩井喜典,ほか:医用画像診断装置-CT, MRIを中心として-,コロナ社
<1>那須工場CT技術部
*Nasu Works
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