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アメリカ医療 Now 医療現場で活躍する NP、PA

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アメリカ医療 Now 医療現場で活躍する NP、PA
アメリカ医療
Now 医療現場で活躍する NP、PA
医師と看護師だけでは到底、
カバー不可能になった患者ケア
医療行為が行える NP、PA の存在なくして
医師は臨床診療に専念できぬ現実
津田 武 アルフレッド・デュポン小児病院循環器専門医
トーマス・ジェファーソン大学医学部小児科准教授
ナースプラクティショナー(NP)、フィジシャンアシスタント(PA)の役割 フェロークラスの医師の職務を見事に代行
私たちの心臓病センターでは、
NursePractitioner(NP)や Physician Assistant(PA)が、私た
ち医師の監督の下に、若手の医師
と対等もしくはそれ以上の機能を
果たしている。
このポジションは、
大学病院のような教育病院では、
おそらくレジデント(3年間の卒
後研修)を終えたフェロー(専門
医を目指すための研修コース)ク
ラスの医師が担う役割だが、私た
ちのセンターでは、NP や PA が
実に見事にこの職務を果たしてい
る。
アメリカの指導医は、いわゆる
「雑用」はしたがらないし、しな
い。実際、医師に雑用を強いるよ
うな環境には、有能な指導医・専
門医は集まって来ないし、また経
医師のするべき仕事とは、患者
の生命が脅かされている際、的確
な判断を下し危険を最小限に抑え
ること(riskmanagement)、患者
の病態生理を的確に理解し、最良
の治療選択のための高度な判断を
すること、難解な病態や病状を明
解で簡潔な「言葉」でスタッフや
患者、その家族に伝えること、そ
して Co︲medicalstaff らを教育・
指導すること──などが挙げられ
る。
そして、最終的な責任 Responsibility を常に問われるのが、チー
ム・リーダーである医師である。
NP や PA が決して医師の「聖域」
に踏み込んでこないのは、その責
任が取れないからである。
ナースプラクティショナーの報酬 しての本来の仕事に専心できるの
である。
優秀な人材には当然、それに見
合った報酬が支払われる。実際、
彼女たちがどれくらい報酬を得て
いるのかは不明だが、NP の年俸
は全米では、$70,234~$90,639
(約568~約734万円、1ドル81円換
算)くらいだと推定されており(専
門色の強いものほど高額になる傾
向にある)、間違いなく彼女たち
は、平均よりはかなり高い報酬を
90th%
$78,101
$84,479
$98,817
$105,493
期間が長い(8年間)、(2)学費
が非常に高い(MedicalSchool の
年間学費は、州立でも最低2万ド
ルはかかるし、私立なら4~5万
ドルが相場である(https://services.aamc.org/tsfreports/select.cfm?year_of_study=2011 参
照)。そして(3)成績以外にも医
師としての適性が常に厳しく審査
される。医科大学進学を目指すも
のは、学士期間も真面目に勉強し
て良い成績を保たねばならず、学
生たちはほとんど遊べないようで
ある。
アメリカでは、医師は社会と個
この4年の学士課程の後、さらに
4年の博士課程(MedicalSchool)
を修了することが必要である。
アメリカで医師になるのは、日
本で医師になるより難しい。難し
人の貴重な共同投資の結果、生ま
れたもので(もちろん個人の甚大
な努力は間違いなく評価される)、
社会に医師としての役割が役立つ
限り非常に大切にされるのが常で
い理由は、
(1)医師になるまでの
ある。
アメリカでは NP や PA は、医
師ができる医療行為はほとんどで
された厳しいフェローシップ(研
修プログラム)を無事修了し、然
きると言っても過言ではない。し
るべき認定を受けた者(医師)だ
日本でもアメリカでも相対的な
かし医師の存在・協力なくして独
自に開業することはできないし
(州により異なるが、NP は独自に
開業することも可能)、また専門医
の特殊技能とも言える心臓外科手
けが実施することを許されるので
ある。しかしながら彼女たちは、
開心術後の乳幼児の ICU での一
般管理(当直も含め)など見事に
こなし(もちろん医師の監視の下
医師不足には変わりない。あらゆ
る国で、医学・医療技術の発展に
伴う診断と医療の複雑化と老人人
口の増加により、医療に携わる人
間の数的にも質的にも膨大な需要
術、乳幼児の心臓麻酔、心カテ、
に)、彼女らの存在は私たちのセン
が生まれ、医師に求められる役割
を払って雇っている医師に、雑用
などされたら病院としても大変な
損失になる。医師は、医師にしか
出来ない重要な仕事をする。
心エコー検査などを独自でするこ
とはなく、またそれは能力的にも
実行不可能である。
これらの手技は、全米で標準化
ターの「誇り」でもあるし、適切
な教育と訓練により人が、いかに
成長できるかという重要な証明で
もある。彼女たちのお陰で私たち
も著しく変化してきた。
NP は、 正 看 護 師(Registered
Nurse)の経歴を持つ者が、医療
の中でより責任のある職務を目指
2010年12月号
75th%
して、さらに2年から3年の大学
院教育 Graduate Education を修
了して得られる資格である。PA
は、4年間の医学進学過程(Pre︲
MedCourse)か、もしくは Human
Biology の学士課程を修了したも
のが、さらに2年間の Physician
Assistant のコースを修了するこ
とにより認定される(大学の修士
課程のものが最近は多くなってい
る)。どちらかと言うと、医師と同
じ医学・科学的なバックグラウン
ドを共有する、文字通り医師の助
手として機能する。
ちなみに医師になるためには、
営的な観点からしても、高い賃金
38
25th%
得ていると考えられる(http://
www.payscale.com/research/
US/Job=Nurse_Practitioner_
(NP)/Salary 参照)。
PA も概して同様の額の報酬を
得ていると考えて良い。医師は好
むと好まずとにかかわらず、経営
者の立場にある。NP や PA には、
若手の訓練途上の医師(フェロー)
の2倍近い報酬を支払っているこ
とになる。それでも、彼女たちの
存在は、私たちのセンターを運営
していく上で、必要不可欠なもの
として認識されている。
現在、NP や PA が活躍してい
る分野には、主に(1)特殊専門
分野(ICU、外科診療、循環器科
診療、がん治療、人工透析、慢性
疾患、臓器移植など)、(2)一般
外来診療(プライマリー・ケア、
ER の一部)、そして(3)僻地医
療(医師の少ない地域での診療)
──などが挙げられる。
年収7万~9万ドルで専門性高まると高額に
NP の平均年俸
10th%
Proportion of Incumbents
連載9
医師は十分な休息が取れ、医師と
Delaware 州 Wilmington 市における Nurse Practitioner の年俸の分布(http://www1.salary.
com/Nurse︲Practitioner︲salary.html)
。全国平均よりもやや高い水準にある。A.I.duPont 小児病
院は、Wilmington 市での最大の医療機関である
NP、PA に求められる資質 自立性と責任、
意思疎通の能力、
優先順位の判断力
私たちの仲間を二人ほど紹介し
疾患の ICU の看護師を勤めなが
たい。
Elaine は、卒業後経験25年のベ
テランであるが、大学で看護学を
ら、1996 年 に Pediatric Nurse
Practitioner Acute/Chronic
Tract の学位(修士)をとり、以
修了したあと9年間、フィラデル
フィア小児病院で、特に先天性心
降は NP として主に先天性心疾患
の術後の ICU 管理を中心とした
2010年12月号
39
病棟勤務をしている。以前、彼女
に「なぜ NP になったのか?」と
尋ねたところ、以下のような返事
をしてくれ、それが今でも非常に
印象に残っている。
から高い信頼を得ている。彼女は、
大学(看護学)を終えたあと1年
間、NICU(Neonatal Intensive
Care Unit =新生児特定集中治療
室)で働いた後、3年かけて働き
である。
そのために、医療スタッフ間や
医療スタッフと患者・家族の間で
の正確で明解で時宜を得た情報交
換は必須であり、そのための技量
ながら NP の修士を獲得した。彼
skill の獲得が、今日のアメリカで
“As I learned more about the
care of children with congenital
heart disease, the advanced practice role seemed to be the next
logical step. I wanted more re-
女もこの複雑な医療環境の中で、
医師・看護スタッフ・患者のより
良い関係を補助する Mediator と
しての機能の大切さを認識してい
る一人である。
の医療に関わるあらゆる分野での
教育・研修の大きな到達目標にも
なっている。それが「現代」の医
療の偽らざる姿なのである。
アメリカで医療訴訟が多かった
sponsibility and more autonomy
while maintaining my involve-
NP は、病棟で入院患者を診察
して、日々のチャートを記入し、
のは(今でも多いが)、医師の不誠
実や明らかな過誤が必ずしも多か
ment of direct patient care”.
「(看護師として)先天性心疾患
を持つ子供たちのケアをこれまで
学んできたことで、自分が実際の
医療の現場で更に進んだ役割を担
うことがより相応しいと思えてき
ました。私が目指したものは、こ
れまでどおりの患者への親密なケ
アを維持しつつ、医療従事者とし
て更なる『責任』と『自立性』を
確立することでした」
指示出しや検査依頼をしたり、処
方せんを書いたり、医師のできる
こと(= 医療行為)はほとんど全
て代行できる。また週1回の入退
院患者の症例検討カンファレンス
では、順番に症例を提示する役割
もある。
彼らに求められるのは、日常診
療における臨床能力の他に、(1)
「自立性 autonomy」と「責任 responsibility」の絶妙なバランス感
覚、
(2)卓越たるコミュニケーシ
ョン能力と、
(3)物の軽重・優先
順位 priority を妥当に判断できる
能力──などが挙げられる。また
彼女たちは、医師間(循環器医、
心臓外科医、心臓麻酔医、ICU 担
当医師)の議論にも積極的に参加
ったわけではなく、やはり患者や
その家族が共有できる正しい情報
が著しく制限されていたことが、
一因となっていたと考えられた。
患者ケアにおいて、医師と看護師
だけではカバーしきれない領域が
生まれ、その領域をカバーできる
ような職種が必要となってくるの
は極めて当然の道理であると言え
よう。
アメリカでは、NP や PA が医
療現場における新しい Mediator
(媒介者)として、極めて自然に受
け入れられた。ただし、複雑な病
態を持つ患者や高度な判断を要す
る例に関しては、私たちのセンタ
ーでは必ず担当する医師の承認が
求められる。責任の所在を常に明
ている。
「医療費削減」という課題は、医
療の現状を考えれば現実的には実
行不可能である。これを推し進め
るなら、医療はますます疲弊・衰
退していくであろう。大切なこと
べく、今こそ日本の将来を見据え
た医療・医学のための教育改革が
必要であろう。医療の中心とも言
える「医学」教育の質を高めない
限り、その周囲を囲むさまざまな
関連分野の発展も望めないであろ
Sandy は、3年ほど前に私たち
し、そこから学ぶことでプロフェ
ッショナルとしての成長を自覚で
き、それが働く喜びに繋がってい
るのだろうと思われる。彼女たち
らかにするためである。
日本でなぜ、この職種が生まれ
てこないのか、不思議である。日
本の看護師は、アメリカのそれに
は、限られた財源をいかに有効に
使うかという議論であり、いかに
支出を最低限に留めるかという政
策であろう。
う。
医学教育の質を高める議論をす
ることなしに、ただ医師の総数を
増やすことのみを云々するのは、
のプログラムで働き始めたが、若
いながら非常に優秀で、医師たち
とて人間、金だけのために働いて
いるのではない。
比べても遜色のないほど優秀であ
る。
教育は「国家百年の計」と言わ
れる。時代は確実に変わってきて
姑息な手段であるばかりか極めて
危険な発想であると考えるべきで
問題は、その人材を更に育てる
べき教育・研修システムが存在し
ないことと、その人材を研修後、
有効に使える場所がないのだと思
いる。現代の医療の変化に応える
ある。
NP になっても自分の原点を忘
れない心に、私は彼女の看護師と
しての「誇り」と「気概」を感じ
た。それでは、
「10年後には何をし
ていると思うか?」と質問したと
ころ、
(当直のない)成人先天性心
疾患の外来管理をしていきたい、
と回答してくれた。
日本で新たな医療職が生まれぬ背景 医師法が医療に関わる職種の成長を妨げている
40
2010年12月号
病棟で勤務する NP たち。私たちの心
臓病センターでは、NP や PA はほと
ん ど 医 師 と 同 等 の 仕 事 を こ な す。
Elaine(右)と Sandy(左)
。優秀な
NP や PA は、人間的にも魅力に満ち
ており、医師たちからも高い信頼を得
ている
(次号につづく)
津田 武 Takeshi Tsuda, MD, FAAP, FACC. ●小児循環器専門医。米国デラウェア州
ウィルミントン市にあるアルフレッド・デュポン小児病院勤務(トーマス・ジェファーソ
医療環境が複雑化するなか、残
念ながら私たち医師と患者との距
一方、医師が下さなければなら
ない高度な医学的判断とそれに伴
う。諸悪の根源は、前号でも述べ
たが60年以上も前に制定された医
ン大学の小児科本部、写真)。現在トーマス・ジェファーソン大学医学部小児科准教授。
離は、ますます遠くなるばかりで
ある。しかし患者が医師に求める
ものは、変わらないどころか、今
まで以上に高くなってきている。
う責任 liability も、時代とともに
ますます重大になるばかりであ
る。実際の臨床診療の中での責任
の分散は、医療側の不可避の対応
師法だと確信している。この時代
遅れの法律により、医師ばかりで
なく、医療に関わる多くの職種に
おける人材の然るべき成長を妨げ
1993年米国小児科専門医、1996年小児循環器科専門医資格を取得。その後、フィラデルフ
1984年信州大学医学部卒業。母校の小児科学教室に5年間在籍後、臨床留学のため渡米。
フィラデルフィア小児病院で小児科レジデンシー、小児循環器科フェローシップを修了、
ィア小児病院、トーマス・ジェファーソン大学で心臓の基礎研究に従事。現在、小児病院
でスタッフ循環器医として臨床、教育、基礎研究に携わる。ペンシルベニア州、デラウェ
ア州、ニュージャージー州の3州での医師免許を持つ。Email:[email protected]
2010年12月号
41
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