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肺葉切除を実施した先天性肺葉性肺気腫の犬一例
演 題 番 演 題 発 表 者 氏 発 表 者 所 号:14 名:肺葉切除を実施した先天性肺葉性肺気腫の犬一例 名:○瀬戸田 正弘 1 )、谷浦 督規 2 )、杉山 晶彦 3 )、日笠 喜朗 4 ) 属:1)せとだ動物病院(広島県)、2)谷浦動物病院(広島県)、3)鳥取大学・獣医臨床検査、 4)鳥取大学・獣医内科 1. はじめに 肺葉性肺気腫は、気管支の病変により check valve 機序が生じたために air trapping が始まることに起因する。先天性あるいは 後天性にも発生するが、ヒトにおいては乳幼児に特有の疾患である。犬での発生は極めて稀であるが、先天性肺葉性肺気腫は、 バセットハウンド、ヨークシャテリア、シーズー、ジャックラッセルテリア、ペキニーズなどで報告されている。このたび、ジ ャックラッセルテリアの幼犬において呼吸様式が急速に悪化する症例に遭遇した。胸部単純レントゲン検査やCT検査所見より、 右肺葉に生じた肺葉性肺気腫と診断され、外科治療により改善したので報告する。 2. 症 例 ジャックラッセルテリア・オス・37日齢 (1.7 kg) で、2日前から努力性呼吸、今朝から急に呼吸困難な状態になり来院。 胸部レントゲン写真、CT画像などから肺気腫と診断した。ICU 内で酸素吸入を行いながら対症療法を続けたが、ICU を退出す ると 12 時間程度で呼吸困難に陥るため、ICU 内で体力が増加した時点で手術を行うこととした。生後 73 日目に ICU 内で体重 が 1.7 kg から 2.7 kg になり体力が蓄えられた状態で右肺葉切除術を実施した。 3.成 績 調節呼吸による全身麻酔下にて、右肺葉切除を行う事により、圧迫萎縮していた左肺が拡張した。術中 EtCO 2 は右肺葉摘出直後 に急上昇したが調節呼吸の気道内圧を上昇させることによりその後速やかに正常値に回復した。術後は、ICU 内で酸素吸入を行 いながら、2日間リカバーリーを行い、胸腔内ドレインを除去後、ICU を退出した。術後 7 日目に退院した。摘出肺の病理組織 学的所見では肺葉全域にわたり、肺胞、細気管支および気管支の拡張が認められた。気管支腺や平滑筋線維層を有しているにも 関わらず、気管支軟骨を有さない気管支が散見され、「先天性肺葉性肺気腫」と診断された。術後 146 日目に身体検査のため来 院したが、胸部レントゲン写真にて左肺の拡張が認められ、血液一般検査においても異常は認められず、PO 2 を含む血液ガス所 見においても動・静脈血ともに正常範囲内にあった。現在、若干の運動不耐性がみられるものの、日常生活を過ごすことには何 ら問題はない。 4. まとめ 今回の先天性肺葉性肺気腫の病理発生機序については、気管支軟骨の異形成、低形成、欠損が関与していると考えられるが、真 の原因因子は不明である。今回の症例は、生後 37 日より呼吸状態が悪化し、生後 73 日目に ICU 内で体力が蓄えられた時点に おいて右肺葉切除術を実施したところ、術後経過は良好で以後呼吸状態の改善が認められた。本症例の治験例については、演者 らの知る限り、本品種では初めての治験例である。