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公 民 企業をつくろう 1 2
教科書の 特色を生かした 授業案 中 学生 の 公 民 � 企業をつくろう 東京都渋谷区立中学校教諭 「企業を作ろう」の意義 望ましい勤労観・職業観を育成し、生徒1 人ひとりの将来の生き方や進路選択に関わる 支援、指導の充実をはかるキャリア教育の推 進が求められている。このことを受けて、多 くの中学校では職場体験学習が盛んに行われ 「中学生の公民 初訂版」p.48 ている。この教科書では、各学校で総合的な 学習の時間や特別活動などで取り組まれてい る作業的・体験的な活動を生かし、経済活動 を広くとらえられるように構成されている。 � 指導計画の工夫 生徒は興味関心を持ち、おもしろいと感じ 実際の指導は指導書140ページの「指導マ たり、自分との関わりが見えてくると主体的 ニュアル」に沿って授業を進めた。実際に指 に学習を行う。この教科書では、生徒の既存 導をしていく中で次のことに留意・工夫して の体験と関わらせながら、実際に企画書を作 行った。 成していく疑似体験を取り入れている。それ によって生徒は、経済の学習を自分の将来に も関係する身近な問題としてとらえられるよ うになっている。そして株式会社のしくみや 金融の説明なども企画書の作成のプロセスの 中に位置づけられているために、自らの生き 方に関わる必要な学習であると実感し、意欲 的に学習に取り組むように作成されている。 さらに、キャリア教育の視点では勤労体験 だけでなく起業家教育も求められさまざまな 取り組みも進められているが、この「企業を 作ろう」はそうした要望にも対応することが できている。 18 「指導書」p.140 中学生の 公 民 (1)身近な地域での会社設立 (2)投資ゲームの設定 起業家教育では「よい企業をつくる」側面 つくりたい企業の企画書を書いてみよう。 と「よい企業を判断し投資する」側面がある。 企 業 名 企 業 名 キャッチコピー キャッチコピー 企 業 の 拠 点 企 業 の 拠 点 事 業 の 元 手 (資 本 事 業 の 元 手 金) (資 本 の学習での思考・判断力を評価するうえで重 金) 事 業 内 容 事 業 内 容 従 業 員 数 従 業 員 数 社 会 的な役 割 社会科の学習の中ではこの投資の側面は経済 社 会 的な役 割 要な要素であると考える。そこで11時間目の 発表会を投資ゲームとして、プレゼンテーシ 公 民 ョンによってクラスの仲間から投資してもら いその投資額によって企業が設立できるかど うかということにした。 「企業を作ろう」のような作業的・体験的 な学習を重ねてくると、生徒も活動に対して 「中学生の公民 初訂版」p.49 新鮮な感覚が薄れ、やや取り組みに真剣さが 企業を設立する際にどこに作るかはとても 欠けてくる傾向も見られる。こうした際にこ 重要な問題である。企画書作成の中で「企業 の投資ゲームを行うと、生徒は仲間から評価 の拠点」を生徒の自由な発想を大切にして制 されるということでとても意欲的になり、授 限を設けない方法もあるが、企画書の吟味を 業を活性化させる効果が見られる。とくにデ する場合に、誰も行ったこともない土地に設 ィベートなどの討論活動を経験してきている 立した企業についてはその妥当性を評価する 生徒ほど活動の意義を理解して意欲的に取り ことができない。また、多くの学校では2年 組む傾向が見られる。 生までの間で身近な地域での職場体験学習を 経験しており、自分たちの住んでいる地域の 経済的なメリットやデメリットについて体験 的に把握している。この2点の理由から生徒 の思考・判断の力を見るために「企業の拠 点」は原則として自分たちの住んでいる学区 域周辺とした。 また、自分たちの住んでいる地域に限定す ることで、生徒は経済的な視点から地域を捉 え直すことができ、自分たちに何ができるの 次に投資ゲーム成立の条件をまとめる。 かに気づき、自らも地域の一員である意識を ①ルール 養うことができると考える。 ジグソー学習法を取り入れた。5班6名の ただし、地域の特性を考えたときに、自分 場合では各班ごとに企業を作り班員全員が説 の作ってみたい企業と合わないと判断した場 明できるように準備をする。発表は各班から 合は条件の合う地域を設定してもよいことと 1名ずつ出てあらたに6つのグループを作り、 した。 そのグループ内で発表と投資を行う。 19 1班 2班 3班 2 プレゼンテーション時間(30分) A D A D A D ①各班A∼Eのカードを選ぶ。 B E B E B E ②Aのカードをもった人のグループ C F C F C F (Aグループ)からEのカードをもっ た人のグループ(Eグループ)に分か Aグループ Bグループ Cグループ 1班のA 1班のB 1班のC 2班のA 2班のB 2班のC 3班のA 3班のB 3班のC 生徒には次のような説明書を作り伝えた。 1 1人ひとりが広報担当となって、自 ③A∼Eのグループで1班から順番に プレゼンテーションを行う。 発表の開始、終了質疑応答の開始等 は先生が合図を出すので一斉に行う。 早く終わってしまったところは先に 社の設立資金を獲得するためにプレゼ 進まずにワークシートの記入等を行う。 ンテーション(発表)を行う。 ④発表4分。質疑応答2分。 2 会社設立には1000万円集めることが 条件。 3 作戦タイム(5分) どこに投資するか考えよう。そして 3 自分の会社には投資ができない。 ワークシートに記入。 4 投資する側も十分検討をしよう。設 ・1人400万円 立できない会社へ投資をしたら、財産 が減ってしまう。 実際に行ってみると、1人400万円を持た せ、6人でグループを作った場合に会社設立 の1000万円という条件はほとんどの班の会社 が成立することができた。1500万円ぐらいの 設定にするとよい企画とそうでないものとの 差が出ておもしろいように思われた。 ②外部講師の活用 ・100万円単位で投資可能。 投資は自分のところ以外の3グルー プまで可。 4 投資タイム(5分) それぞれが投資を行う。 5 集計タイム(5分) 各班に戻って資金を集計し、結果を 報告する。 6 まとめ(3分) 企画をより現実的な目で吟味するために外 この授業でのポイントは時間で区切ること 部講師を各グループごとに1名参加してもら である。質疑に熱が入ると班によって進度の った。講師は地域や保護者で会社経営に関わ 差が出てしまい次の活動に移れなくなってし っている方にきてもらう。この単元は講師に まうので、時間を設定することは有効である。 とっても日頃行っている活動から意見が言え また、生徒1人ひとりに持たせる金額の基 るために講師の依頼が行いやすい単元である。 準はあまり多くのお金を渡すと全員に均等の より効果的な学習にするためにこの単元では 投資をする生徒も出てしまい、適切な選択能 是非外部講師を活用するようにしたい。 力を見ることができない。そこで、全部の班 ③プレゼンテーションの進め方 に均等に投資できないようにすることを基準 1 講師の先生の紹介 20 れる。 にして金額を設定した。 中学生の 公 民 驚かされた。 ④準備 ア プレゼンテーション資料集 ・この授業で学んだことをこれからの学 公立学校では生徒の学力には大きなひらき 習に役立ててもっと自分をのばしたい があり、発表の要旨をまとめられない生徒も と思った。現実的に考えられる大人の 見うけられる。そのため、発表の時間の学習 意見が聞けてよかったし、参考になっ 内容がわかるように各班のプレゼンテーショ た。 ン資料をあらかじめ集め、授業の際に配布す るようにした イ 小道具のお金 � 公 民 まとめと評価 100万円の証書を作成するが、時間的な余 (1)単元のまとめ 裕があれば少し凝って作るとより効果的であ 単元のまとめは、授業の成果をふまえ再度 る。今回の実践では10万円札を作り、10枚の 企画書を作成させた。評価については企画書 束にして、400万円分を封筒に入れて生徒に の中に講師の先生やグループの指摘を受けて 渡した。以前に100万円の証書を作ったとき 改善できているかどうかで思考判断の中心的 比べ「投資タイム」や「集計タイム」での生 な判断材料とした。 徒の反応は格段に違い、とても生き生きとし ていた。 10万円札 授業を行った生徒の感想 ・会社を作ることの難しさや大変さが改 めてわかった。 ・会社を経営するにはお金や人材などす べてにおいて計画を立てないといけな いので、とても大変なことだと思った。 企画書A ・実際に資金をもらう(授業ではプレゼ ンテーション)ための宣伝では自分の 会社のアピールの大変さがわかった。 聞き手の興味をひくことや、自分の会 社を信頼してもらえるかなどアピール の仕方によってそれが変わっていくと わかり、プレゼンテーションの深さに 21 (2)評価規準について 生徒の活動をどのように観点別に評価する のか難しい点はあるが基本的な考え方は、生 徒の頑張ったことは積極的に認めていく姿勢 であると考え次のような規準で評価を行った。 関心・意欲 グループ活動 まとめ 評価方法 観察・ワークシートの記入・自 己評価と相互評価・まとめの意 識調査 Bの評価 活動に参加していることが自己 評価・相互評価からも認められ、 規準 ワークシートの記入からも経済 学習の大切さが具体的な記述で 書かれている。 評価場面 企画書B 授業をやってどこを工夫したのか書 きましょう(Aと評価した生徒の記述) ・本だけだと売れないと言われたので少 しだけゲームやCDなども売ることにし た。そして、場所は最初は原宿Bookoffのとなりだったが、激戦区だし、ま だ無名な会社だということもあるので ライバル店のない渋谷で通勤や遊びに 来やすい駅前に立てることにした。お 金を他のことに使いたいので営業時間 を短くして本の仕入れにたくさん使う ことにした。 ・Book-offには勝てないとか売れないと いわれたのでまずは人が来るように立 ち読みOKでイスを置くようにした。 そうやってお客様に満足していただけ ればいいと思う。そして、本のすばら しさを知っていただき、本を読む人が 増えればいいと思う。 ・マンガ喫茶は必要ないと言われたので なくした。そのかわり机だけは配置す 思考・判断 評価場面 学習課題の設定・講師との話し 合い・まとめ 評価方法 発言・ワークシートの記入・ま とめの企画書 Bの評価 投資ゲームで適切に判断し投資 をすることができた。(設立で 規準 きない企業に投資をして資金を 減らすことがなかった。)再度 の企画書でさらに工夫をして作 成することができた。 資料活用の技能表現 評価場面 投資ゲーム・プレゼンテーショ ン資料の作成 評価方法 発表・自己評価・相互評価 Bの評価 投資ゲームで他の人から投資を 受けることができた。相互評価 規準 でプレゼンテーションが評価さ れている。 ることにした。 ・最初はお金を稼ごうと考えていたが、 授業をやりお客様のこと(サービスの こと)もしっかり考えないといけない と分かった。 22 評価場面 評価方法 Bの評価 規準 知識・理解 毎時間の授業・まとめ(企画書) ワークシートの記入 「株式会社」や「金融」などき ちんと理解して活用することが できているか。