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港湾24時間フルオープン化による効果に関するシミュレーション
港湾24時間フルオープン化による効果に関するシミュレーション* Simulation Analysis on the Effect of 24 hours and 7 days a week operation in Container Terminals* 辻 俊昭**・工藤憲一***・黒田勝彦****・永井一浩***** By Toshiaki Tsuji**・Kenichi Kudo***・Katsuhiko Kuroda****・Kazuhiro Nagai***** 本シミュレーションでは表−1に示す4つの検討 1.はじめに ケースを設定した。また、想定貨物量を現状貨物量 平成13年4月の港湾労使の春闘合意や11月の 労使間合意により、わが国の港湾コンテナターミナ ルにおける荷役作業時間やゲート時間が延長されフ ルオープン化に向けて大きく前進した。 (貨物量1.0倍)、貨物量1.25倍、1.5倍、2.0倍別 にシミュレーションを実施した。 なお、ケース3は横浜港や博多港等で行われてい るストックヤード設置のケースを取り上げた。この 本研究では、わが国における港湾ターミナルのフ ケースでは荷役時間やゲートオープン時間は現状の ルオープン化に対して、その効果や今後の課題等を ままであるが、トラックにとってはストックヤード 明らかにするためモデルを構築しシミュレーション を24時間利用できることからフルオープンに準じ を行ったものである。 たケース(準フルオープンパターン)となる。 表−1 2.シミュレーションの考え方 設定 ケース (1)シミュレーションの概要 港湾ターミナルのフルオープン化による岸壁荷役 時間の延長やゲートオープン時間の延長が起因とな り、配船スケジュールの変更やトラック到着分布の 平準化が起こるものと考え、図−1に示す流れに基 づきシミュレーションモデルを構築した。 岸壁荷役時間 ゲートオープン時間 荷役時間 ゲート オープン 時間 ストック ヤード 検討ケース (ケース 1) (ケース 2) (ケース 3) (ケース 4) H13 年 4 月 5 日 H13 年 11 月 29 日 フルオープンパ ストックヤード 春闘合意前 労使合意パターン 設 置 準 フ ル オ ー プ ターン パターン ンパターン 平日・土休日 0:00-24:00 平日・土曜 8:30-4:00 (船舶スケジュールに合わせて人員を配置) 日 祝 8:30-16:30 平日・土休日 8:30-20:00 平日・土休日 平日 0:00-24:00 8:30-11:30 (16:30 以降及び日曜日は予約が必要) 13:00-16:30 土曜 8:30-11:30 なし なし ストックヤード 設置 平日・土休日 0:00-24:00 (2)条件の設定 (a) モデルターミナルの諸元 船舶到着 モデル 岸壁サービス モデル ゲートサービス モデル トラック到着 モデル 東京港大井埠頭3・4号バース、横浜港南本牧バ ース、神戸港六甲4・5号バースを参考に、標準的 なモデルターミナルを設定した。 表−2 ①トラック費用 ②オペレーション費用 ③ターミナル費用 ④社会的費用(①+②+③) 図−1 シミュレーションの流れ *キーワーズ:港湾計画,物流計画 **正会員,㈱野村総合研究所社会情報コンサルティング部 (〒100-0004 東京都千代田区大手町 2-2-1 TEL 03-5255-0424 FAX 03-5203-0764) ***㈱野村総合研究所e−ビジネスソリューション部 ***フェロー会員,神戸大学工学部建設学科 ****国土交通省海事局港運課 モデルターミナルの諸元 ターミナル 施設規模 連続2バース(公社方式)、水深15m、延長700 m、奥行500m、グランドスロット数4,991TEU 取扱貨物量 44万TEU/年(事例ターミナルの取扱平均) 荷役機器及 び人員の配 置 ・ガントリークレーン6基(3人/基) ・トランスファークレーン16基(2人/基) ・ゲートクラーク・チェックマン16人 等 ・荷役処理 ガントリークレーン35本/時 トランファクレーン30本/時 ・入口ゲート8レーン、出口ゲート4レーン 等 (b) 船舶到着モデル ターミナルへの船舶の曜日別揚積割合は、現状の (c) トラック到着モデル アジアの他大港湾における航路別揚積割合(図− 2)をもとに、土日割増料金、日曜寄港制限を考慮 を用いて、曜日別揚積量を曜日別搬出入台数に配分 し次式(1)より推計した。 (P A SRD PSRD = e d SD sat ∑ (P A SRi i = sun : PS R D ) a Ped 横浜港の寄港日前後の搬出入実績分布(図−4) ( FD ) e aF d SD a d e ε SRD ・・(1) e d Si ) a Ped ( Fi ) a F e d Si ad e ε SRi した。曜日別の搬出入台数は式(3)より求めた。 ∞ 7 ∞ 6 = τ ∑ PSR ( D + j ) rE ∑ f E (7i + j ) + ∑ PSR ( D + j ) (1 − rE )∑ f I (7i + 7 − j ) i =0 j =1 i =0 j =0 τD + goD + ετ D 日 本 大 港 湾 に お け る 航 路 Rの 全 曜 日 に 対 す る 曜 日 Dの 揚 積 割 合 P S AR D : ア ジ ア 大 港 湾 に お け る 航 路 Rの FD : 曜 日 D に お け る 料 金 水 準 ( 平 日 1 ,土 日 1 . 6 ) d : 曜 日 Dに お け る 寄 港 制 約 ダ ミ ー ・・・(3) 全 曜 日 に 対 す る 曜 日 Dの 揚 積 割 合 SD ( ケ ー ス 1 : 平 日 土 曜 1 ,日 曜 0 , τD τ ケ ー ス 2 − 4 : 全 て の 曜 日 に お い て 1) rE ε SRD : 曜 日 D , 航 路 Rに お け る 誤 差 項 a P ed , a F , a d : 回 帰 係 数 輸出比率 ( PSR ( D + j ) rEは曜日( D + j )の輸出量, : PSR ( D + j ) (1 − rE )は曜日( D + j )の搬入量 ) 25% 20% 20% 基幹航路 近海 中・長距離 i =0 曜日( D + j )の輸出貨物が曜日 Dに搬入される確率 ) ∞ f I (k ) : ある日の輸入貨物が k日後に搬出される割合 ( ∑ f I (7 i + 7 − j )は oD ετ D : : 曜日 Dのゲートオープン時間 曜日 Dの誤差項 g : 定数 i =0 曜 日( D + j )の輸入貨物が曜日 Dに搬出される確率 ) 15% 基幹 近海 その他 10% 5% ある日の輸出貨物が k日前に搬入される割合 ( ∑ f E (7 i + j )は f E (k ) : (日本大港湾) 25% 10% 曜日 Dにおけるトラック搬出入台数 ∞ (アジア大港湾) 15% : : 週間トラック搬出入台数 5% 搬入(輸出) 0% 搬出(輸入) 図−4 業体制、夜間割増料金を加味し次式(2)により確 23 i=0 S RT = c SR ・・・・・・・・・・(2) 25.0% 17% 10.0% 24 22 19% 17% 17% 15.0% d ST + c + ε SR T FT 23% 20% 20.0% 16% 16% 15% 16% 12% 8% 春闘合意前 フルオープン 5.0% 航 路 Rの 1 日 の 全 揚 積 量 に 対 し て : 20 ドレージ到着曜日分布 Ri 4% 0% 0.0% PSR T 18 日別搬出入の変化を示したものである。 S RT ∑S 横浜港の搬出入割合 図−5は、式(3)を用い推計したトラックの曜 率の高い順から割りふった。 PSRT = 16 0% 14 5% 0% 8 10% 5% 12 15% 10% 10 20% 15% 6 ては、モデルターミナルのデータをもとに、荷役作 20% 4 さらに、各曜日の時間別荷役スケジュールについ 25% 当日 現在のアジア、日本大港湾の曜日別揚積割合 25% 24 Sat 22 Fri 20 Thu 18 Wed 16 Tue 14 Mon 12 Sun 8 Sat 6 Fri 10 Thu 4 図−2 Wed 2 Tue 当日 Mon 2 0% Sun 日 月 火 水 木 金 土 時刻T時台に荷役を開始する揚積割合 S RT : 時 刻 T 時 台 に 荷 役 を 開 始 す る 航 路 Rの 揚 積 量 d ST : 時刻T時台における荷役時間ダミー 図−5 また、現状のトラック時間別到着割合については、 (ケ ー ス1: 8,19 時 台 で 1, そ の 他 0 ケ ー ス 2 - 4 : 0, 8,16 時 台 で 1, そ の 他 0) FT ε SR T c SR , c : : : 時 刻 T 時 台 に お け る 料 金 水 準 (5 - 18時 台 で 1, そ の 他 1.3) 時 刻 T 時 台 , 航 路 Rの 誤 差 項 回帰係数 図−3は、現状のケースと上記式を用い試算した 火 水 木 金 土 潜在的な企業活動( 早朝、午前、午後の搬入ニーズ、 電力需要からみた時間帯活動ニーズ)がゲートオー プン時間によって制約されていると考え、オープン ケース2∼4の場合の荷役スケジュールである。 時間延長後は搬出入時間の制約が解除されるとし式 (現状:ケース1) (4)により推計した。 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00 月 トラックの曜日別搬出入割合 基幹 1,763TEU 近海399TEU その他462TEU 基幹433TEU 基幹757TEU その他394TEU 基幹 1,345TEU その他482TEU 基幹 915TEU その他152TEU 日 0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 0:00 月 火 その他243TEU 基幹 588TEU (ケース2∼4)) 近海477TEU 水 木 金 土 日 図−3 基幹 1,628TEU 近海398TEU その他410TEU 基幹310TEU PτT = hPear PearT + hPmor PmorT + hPaft PaftT + hdPele dτT PeleT + ετT ・・・・・・・(4) その他204TEU 基幹 630TEU その他378TEU 近海428TEU 基幹 1,219TEU 基幹458TEU その他437TEU 基幹 811TEU その他114TEU 基幹 745TEU : Pe a r T Pm o r T Pa f t T : : : 時 刻 T時 台 の 早 朝 搬 出 入 パ タ ー ン 時 刻 T時 台 の 午 前 搬 出 入 パ タ ー ン 時 刻 T時 台 の 午 後 搬 出 入 パ タ ー ン dτT : 時 刻 T時 台 の 搬 出 入 制 約 ダ ミ ー P e le T : 時 刻 T時 台 の 電 力 需 要 分 布 ετT : : 時 刻 T時 台 の 誤 差 項 回 帰 係 数 時 刻 T時 台 の 到 着 割 合 (将 来 は 1) その他240TEU 荷役スケジュール(貨物量1.0倍) 1日 の ト ラ ッ ク 到 着 台 数 に 対 す る Pτ T (企 業 活 動 の 代 替 指 標 ) h P e a r , h P m o r , h P a ft , h d P e le 図−6は、現状と式(4)によって推計した時間 別到着割合を示したものである。 (b) トラック費用シミュレーション結果 図−10に示したように、トラック費用(待ち時 間損失)は、ケース4でどの貨物量に対しても大き 16% 春闘合意前 ケ ー ス 2∼ 4 14% 12% 10% な減少が見られる。ケース3においては、待ち時間 損失にストックヤード費用を加えたものがトラック 8% 6% 費用となるが、取扱貨物量1.0倍のとき大きな減少 4% がみられるものの、ゲートが夜間にクローズされる 2% 0% 0 :0 0 2 :0 0 4 :0 0 6 :0 0 図−6 8 :0 0 1 0 :0 0 1 2 :0 0 1 4 :0 0 1 6 :0 0 1 8 :0 0 2 0 :0 0 2 2 :0 0 0 :0 0 トラックの時間別到着割合 ため、貨物量の増加とともにトラックの待ち時間費 用は増加することがわかった。 (d) 岸壁・ゲートサービスモデル 30,000 25,000 を到着要素、ガントリークレーンを窓口要素とした 20,000 待ち行列シミュレーションを行い、最適なガントリ (円/TEU) 岸壁サービスモデルにおいては、コンテナ揚積量 ークレーン数をケース別曜日別時間別に設定した。 27,149 23,343 11,372 10,000 5,897 6,142 3,386 5,000 ゲートサービスモデルにおいては、トラックを到 ケース1 ケース2 ケース3 ケース4 15,000 2,733 630 303 0 着要素、ゲートとトランスファークレーンを窓口要 春闘合意前 素とした待ち行列シミュレーションを行い、最適な 図−8 3,384 1,408 1倍 1.25倍 1.5倍 2倍 コンテナ1TEUあたりトラック費用 ゲート数とトランスファークレーン数をケース別曜 日別時間別に設定した。ここでは紙数の都合上、詳 (2)オペレーション料金のシミュレーション結果 細は省く。 (a) 必要人員のシミュレーション結果 図−9に示したように、必要人員は貨物量1.0倍 3.シミュレーションの結果 においてケース4では春闘合意前の1.2倍となるが、 (1)トラック費用のシミュレーション結果 それ以上の貨物量ではケース4の必要人員の増加率 (a) トラック待ち時間シミュレーション結果 は貨物量の増加率より小さい。 図−7に示すように貨物量1.0倍ではケース3 (準フルオープン)、ケース4(フルオープン)と ケース3では深夜の荷役やゲート処理がないため、 ケース4より人員が少なくなる。 もトラック総待ち時間を比べると春闘合意前より大 なお、作業体制については労働時間の制約条件に 幅に減少する結果となった。さらに1.25倍までは春 収まる範囲で残業で対応した場合と交代制を導入し 闘合意前より待ち時間が減っている。しかし、1.5 た場合のコストを比較し、コストが低い方の体制と 倍では夜間ターミナルゲートが閉じている分、トラ している。 ックを処理しきれずケース3では大幅な待ち時間増 450 となり、2.0倍ではケース4でもトラックを処理し 407 400 366 350 きれず大幅な待ち時間増となる結果となった。 (人) 90,000 83,503 (時/週) ケース1 ケース2 ケース3 ケース4 244 200 100 71,553 50 60,000 46,638 50,000 40,000 30,000 20,000 250 303 302 319 318 150 80,000 70,000 315 282 279 300 336 6,943 0 春闘合意前 1,101 621 1倍 図−7 0 春闘合意前 1倍 1.25倍 図−9 15,742 12,091 10,000 ケース1 ケース2 ケース3 ケース4 6,803 3,609 1.25倍 2倍 必要人員 (b) オペレーション料金のシミュレーション結果 1,048 1.5倍 1.5倍 2倍 トラックの総待ち時間 図−10に示したように、ターミナルオペレータ ーが船社に提示する20ftコンテナ1本(1REUi)あた りオペレーション料金は、ケース4では、取扱貨物 量1.0倍のとき春闘合意前ケースに比べ28%増加し、 社会的費用等が大きく減少しその有効性が確認され それ以上の貨物量では増加とともに費用が逓減する た。 結果となった。 さらに、ケース3やケース4の方がより社会的費 ケース3では深夜の荷役やゲート処理が発生しな 用等の観点から有効であることが明らかとなった。 いためケース4より費用が低くなることがわかった。 現状の貨物量ではストックヤードを設置した準フル オープンタイプが、増加した貨物量に対してはフル 12,000 11,230 9,951 10,000 (円/REU) オープンタイプが最も有効となった。 9,863 8,512 8,440 8,772 9,570 8,000 8,506 7,382 7,342 7,221 6,000 4,000 ケース1 ケース2 ケース3 ケース4 このことから、貨物量が1.0倍程度の現状ならば ケース3を実施し、今後の経済成長や貨物の集約化 等により貨物量が増加(1.25倍以上)してきた場合、 2,000 フルオープンが最も望ましいと考えられる。逆に言 0 春闘合意前 1倍 図−10 1.25倍 1.5倍 2倍 えば、フルオープンが有効となるためにはある程度 オペレーション料金 の貨物量を取扱うことが前提となると考えられる。 (3)ターミナル費用のシミュレーション結果 船社のターミナル費用は公社ターミナルの実績を 5.終わりに 参考に、連続2バースで21億円/年と仮定した。した がって、取扱いコンテナ1個当りのターミナル費用 本シミュレーションの結果では、現在、進められ は、取扱いコンテナ数に反比例する。 ている本格的なフルオープン化に向けた取り組みの (4)社会的費用のシミュレーション結果 意義が確認できた。今後、貨物の集荷等の課題に対 ケース1からケース4に対する社会的費用をシミ ュレーションした。社会的費用としてコンテナ1本 処しながら、フルオープン化を一層進めて行くこと が重要と考えられる。 当りのオペレーション料金、船社のターミナル費用 また、本シミュレーションについても、フルオー 及びトラック費用を加えた総費用の結果は図−11 プン後のトラックの到着分布や配船スケジュール等 の通りである。 が結果に影響を与えることから、今後、これらのモ ケース2では取扱い貨物量が1.0倍、1.25倍では デルをより精緻にする課題を有している考える。 春闘合意前よりも社会的費用は少なくなる。現状の なお、本シミュレーションは、「平成13年度港 貨物量1.0倍で最も社会的費用が小さくなるのはケ 湾物流効率化推進調査」(国土交通省海事局港運 ース3であり、また、貨物量が1.25倍以上となると 課)において実施したものである。その際、港運事 ケース4が最小となることがわかった。 業者、船社、荷主、港湾管理者、関係行政機関等の 方々よりのご指導・協力を賜った。ここに記して謝 40,000 36,321 35,000 意を表したい。 32,483 (円/TEU) 30,000 25,000 20,000 17,799 15,000 19,611 16,869 16,239 13,402 13,412 14,188 12,989 13,463 ケース1 ケース2 ケース3 ケース4 参考文献 10,000 1) 渡辺逸郎:コンテナターミナルの理論と計画, 5,000 (社)日本コンテナ協会,1996 0 春闘合意前 図−11 1倍 1.25倍 1.5倍 2倍 社会的費用のシミュレーション結果 4.シミュレーション結果についての考察 平成13年の春闘合意、労使間合意により、現在 の状況であるケース2においても春闘合意前に比べ i 20ft 1 本は 1REU、40ft 1 本は 1.5REU