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アルジェリア:特別利潤税の内容を 発表、懸念される投資環境の悪化
アルジェリア:特別利潤税の内容を 発表、懸念される投資環境の悪化 ①アルジェリアは2006年12月3日付の官報で、2005年新炭化水素法の改正令で導入を明らかにしてい た特別利潤税の内容を発表。 ②そ れによると、特別利潤税は、外国石油会社との契約の種類によって、その税率や課税方法が異 なっているが、その多くは生産量が多くなるにつれ税率が上昇するようになっている。しかし、実 際の運用方法については依然不透明な部分もあり、今後、細則や税務当局等との交渉等のなかで明 らかになっていくであろうと考えられる。 ③2005年新炭化水素法の制定により、外資導入が促進されるかと一度は思われたアルジェリアであっ たが、2006年に入ってからの一連の施策はこれに逆行するものであり、その背景には原油価格高騰 により、同国における民族主義の動きが活発になってきたことや、将来のために石油資源を温存す べきであるとの考え方が出てきたこと、ブーテフリカ大統領の大統領3選をにらんだ同国労働組合 (もともと2005年新炭化水素法には反対していた)との協調路線への転換などがあるものと見られ ている。 ④これら一連の改革は、同国で活動する外国石油会社にとっては、事業の経済性を悪化させるもので あり、今後同国における外国石油会社による投資が鈍化する可能性がある。今回のこのような動き に対して、現在同国で活動している外国石油会社のなかには事業の撤退を検討しているところも出 てきていると伝えられる。 アルジェリアは、2006年7月30日付の 官報第48号で、2005年新炭化水素法 1.特別利潤税の内容 (2005年4月28日発効)の改正令第06-10 約によっては多少の派生形があるとされ る)、利権契約(新炭化水素法により規 定されている)の他、リスク・サービス 号を発表(概要についてはJOGMECホー 2005年新炭化水素法の改正令では、特 契約(Ohanet鉱区におけるBHP Biliton ムページ、石油天然ガス資源情報「アル 別利潤税は、1986年8月19日発効の旧 を操業者とする事業他計2事業に適用さ ジェリア:期待された上流への外資導入 炭化水素法や既述の新炭化水素法に れているとされる)によって、石油生産 促進新法が反転-資源ナショナリズムが 基づき、アルジェリア国営石油会社 活動等を実施している。 背景に(?)-」 〈2006/7/20〉を参照)、 Sonatrach(改正令により、すべての契 特別利潤税は、この各事業形態により 10月14日には同国の国民議会において全 約において最低51%の権益所有を規定さ 異なるシステムとなっている。 会一致で可決、発効した。 れている)と外国企業との間で締結され この改正令に基づき、2006年12月3日 た共同操業契約に適用されるとしてい 付の官報第78号で、特別利潤税(TPE: る。 外国会社のコスト回収部分と報酬部分 Taxe sur les Profits Exceptionnels)の また、同税はPlatt's Crude Market との間に区別のない生産物分与契約の場 施行令第06-440号を発表した(図参照) 。 Wire(Platt'sの発効する原油価格情報 合(これは1986年旧炭化水素法が制定さ 本稿では、当該利益税の概要とその背 サービス)におけるブレント原油の月間 れた当時の契約方法とされ、1980年代末 景、そして今後のアルジェリアにおける 平均価格が1バレルあたり30ドルを超過 にENIやAnadarkoが締結した契約はこ 石油探鉱・開発活動等への影響等につい する場合に、生産される液体及び気体炭 の方式であるとされる) :当該月におけ て述べることにしたい。 化水素に対して適用されるとしている。 る外国会社の液体及び気体炭化水素の生 アルジェリアでは、契約時期に応じて 産物取り分の平均により課税率が決定さ 生産物分与契約(現在のアルジェリアで れる(表1参照)。 の契約の大部分に適用されているが、契 81 石油・天然ガスレビュー (1)<ケース1> 出所:アルジェリア民主人民共和国官報第78号 図 特別利潤税に関するアルジェリア政府の発表文書(一部) (2)<ケース2> 外国会社の報酬部分を算出する特定の 均により課税率が決定される(表2参 湾岸戦争以降にCepsaやAnadarkoが締 照) 。 結した契約はこの方式であるとされ 方式を含む条項があり、価格上限が定め られていない生産物分与契約の場合(小 る) :課税率は以下のように産出する指 (3)<ケース3> 数αに応じて定める(表3参照) 。 油田にのみ適用される契約方式であると 外国会社の報酬部分を算出する特定の される) :当該月における外国会社の液 方式を含む条項があり、かつ価格上限制 体及び気体炭化水素の生産物取り分の平 のある生産物分与契約の場合(1991年の 表1 特別利潤税の税率(ケース1) 炭化水素生産取り分 日量5,000バレル以下 PBn×Pn>30ドル/バレルの場合 PBn−PCn α= PCn 表2 特別利潤税の税率(ケース2) 課税率(%) 5 炭化水素生産取り分 課税率(%) 日量1,000バレル以下 15 日量5,001バレル以上日量1万バレル以下 15 日量1,001バレル以上日量3,000バレル以下 25 日量1万1バレル以上日量2万5,000バレル以下 25 日量3,001バレル以上日量5,000バレル以下 35 日量2万5,001バレル以上日量4万バレル以下 35 日量5,001バレル以上日量7,000バレル以下 45 日量4万1バレル以上 50 日量7,000バレル超 50 2007.3 Vol.41 No.2 82 ここで、 水素の生産物取り分の平均により課税率 特別利潤税)の総額をカバーするのに不 PBn:ブレント1バレルあたりの原 が決定される(表5参照)。 足する場合、不足額は、支払うべき遡及 なお、当該施行令は2006年8月1日に 特別利潤税の残額が全額支払い終わるま さかのぼって適用される。また、 で、連続する翌月以降に繰り越される。 Sonatrachは以下の措置を講ずる。 なお、特別利潤税がリスク・サービス ① Sonatrachは、当該月に支払うべ 契約に適用されるのかどうかということ 油価格。 PCn:当 該契約に定める月nの価格 上限値。 Pn:当該共同操業契約に定める月n の価格上限指数。 き特別利潤税額に相当する液体と を含め、施行令の実際の適用については、 気体炭化水素の数量を、各外国会 必ずしも明確でない場合もあり、このよ 社の液体及び気体炭化水素の生産 うな点については、具体的には、今後制 物取り分から先取りする。 定される可能性のある細則や、アルジェ ② Sonatrachは、いわゆる遡 及 特別 リア税務当局またはSonatrachとの協議 利潤税(2006年8月1日から当該 のなかで明らかになっていくであろうと 施行令公布月の翌月(つまり2007 思われる。 表3 特別利潤税の税率(ケース3) αの値 課税率(%) α≦0.2 5 そ きゅう 0.2<α≦0.5 10 0.5<α≦1.0 15 1.0<α≦1.5 20 年1月)までの期間に、同国で操 1.5<α≦2.0 30 業する外国会社が支払うべき特別 2.0<α≦2.5 40 利潤税)として支払うべき金額を 2.5<α 50 カバーするのに必要な液体及び気 2.新 炭化水素法反転の背 景:ナショナリズム的 な動きの台頭 体炭化水素の数量を、各外国会社 (4)<ケース4> の液体及び気体炭化水素の生産物 アルジェリアは、いったんは2005年に 取り分から先取りする。 新炭化水素法を制定し、Sonatrachの権 いわゆるRファクター(累計収入と累 限の縮小(参画比率が以前の最低51%の 計資本投資の割合)による生産分与契約 国庫に特別利潤税を納付するため、 義務から新規発見油・ガス田に対する20 の場合(1998年以降の契約において適用 Sonatrachは、最大で以下を先取りする ~30%の先買権となり、外国会社の された契約がこの方式であるとされてお ものとする。 Sonatrachとの提携義務も免除された) り、2000年代に入ってから実施された鉱 ① 当該月における各外国会社の液体 が盛り込まれるなどしていたことから、 区入札を通じて相当数の契約が締結され 及び気体炭化水素の生産物取り分 外資導入が促進されるのではないかと期 ている) :当該月における外国会社の液 が8万バレル/日以上の場合には 待された。 体及び気体炭化水素の生産物取り分の平 その取り分の85%。 しかし、実際には具体的に運用される 均により課税率が決定される(表4参 ② 当該月における各外国会社の液体 照)。 (5)<ケース5> ことなく改正され、再びSonatrachの参 及び気体炭化水素の生産物取り分 画比率が最低51%に義務付けられた他、 が8万バレル/日以下の場合には 特別利潤税が導入されるなど、以前と比 その取り分の65%。 べて外国石油会社にとっては活動条件が ぬぐ 資本参加方式による契約の場合:当該 これら徴収される生産物の上限だけで 悪化してしまった印象が拭えない。 月における外国会社の液体及び気体炭化 は特別利潤税(当該月特別利潤税と遡及 この背景には何があるのか。 表4 特別利潤税の税率(ケース4) 炭化水素生産取り分 日量2万バレル以下 表5 特別利潤税の税率(ケース5) 課税率(%) 5 炭化水素生産取り分 日量2万バレル以下 課税率(%) 5 日量2万1バレル以上日量4万バレル以下 15 日量2万1バレル以上日量4万バレル以下 15 日量4万1バレル以上日量6万バレル以下 25 日量4万1バレル以上日量6万バレル以下 25 日量6万1バレル以上日量8万バレル以下 35 日量6万1バレル以上日量8万バレル以下 35 日量8万1バレル以上日量10万バレル以下 45 日量8万1バレル以上日量10万バレル以下 45 日量10万バレル超 50 日量10万バレル超 50 83 石油・天然ガスレビュー まず、原油価格の高騰が挙げられる。 月26日に「新炭化水素法は間違いであっ 年12月1日にはSonatrach幹部が、2010 これにより、与党であるアルジェリア民 た」旨の演説を行っている。 年の原油生産目標を当初予定の日量200 族解放戦線(FLN)の民族主義派が勢 いづき、外国企業のアルジェリアでの活 3.今後の見通し 動に伴う、原油価格高騰による利益増大 万バレルから日量150万~160万バレルへ と下方修正する意向であることを明らか にしたとの情報が流れた。 をよしとしない姿勢を示すようになった 今回の新炭化水素法の改正令をめぐる その後12月9日には、ヘリル(Khelil) と言われている。 一連の動きについては、特別利潤税が同 エネルギー・鉱業大臣が、同国の石油生 また、同国経済は石油や天然ガス輸出 国で活動する外国石油会社の経済性を低 産目標は依然として2010年時点で日量 収入に大きく依存、同国の国内総生産の 下させることもあり、Anadarko等の会 200万バレルであると述べた。 40%程度を占めている。それ以外の産業 社が不満の意を表明していたと伝えられ しかし、同国の将来の石油生産目標の の成長が遅れていることから、ブーテフ た。 下方修正は、これまでに述べてきた一連 リカ(Bouteflika)大統領は、当面の間、 そして最近ではConocoPhillipsが、 の石油・天然ガス行政の流れと一致して 同国は石油・天然ガス生産に係る収入に Burlington Resources買収(2006年3月 いるものであり、業界関係者のなかには、 大きく依存せざるを得ず、したがって、 31日買収完了)の際に同社から引き継い この下方修正による見通しを現実的なも 将来の世代にまで石油と天然ガス資源を だMenzel Lejmat North油田のある405A のであるとする指摘もある。 温存しておく必要性を感じるようになっ 鉱区(ハシメサウド近くのBerkine盆地、 なお、2005年に実施予定だった第7次 たとも言われている。 権益保有比率65%)とOurhoud油田(権 鉱区入札(10鉱区が開放されると伝えら 以上のような要因により、ブーテフリ 益保有比率3.73%)といったアルジェリ れる)は、新炭化水素法に係る改正令策 カ大統領は、石油収入増大が本当に必要 アでのすべての資産を、間もなく売却す 定や、鉱区入札を管理する新規機関設立 になるまでは、新炭化水素法による外資 るのではないかと伝えられる。 に際して支障が生 導入政策に消極的になったものと見られ ConocoPhillipsは、2003年にも同国で じたことから、延 る。 の資産を売却しており、この売却にあ 期されており、 その他に、現在はアルジェリア憲法で たっては、Burlingtonを買収した 2006年11月27日に は大統領は最大2期までの任期となって ConocoPhillipsの戦略に基づく同社資産 は、同国エネル いるが、2009年に2期目の任期が終了す の整理であるとも考えられるが、今回の ギー省幹部は2007 るブーテフリカ大統領は3期へと任期を 特別利潤税の導入といったこともまた一 年第1四半期に当 延長すべく、憲法の改正を考えている。 因であるとの指摘もある。 該鉱区入札を実施 その関係で、労働組合(もともと新炭化 今後も、経済性の低下に伴い、撤退を する方針であると明らかにしている。し 水素法の導入には反対であった)の支持 検討したり、特別利潤税を抑制すべく生 かし、業界関係者の中には、第7次鉱区 を取り付けるべく、新炭化水素法による 産量を減少させる外国石油会社が出てき 入札実施は2007年第2四半期までずれ込 諸施策を後退させたことも一因である、 たりする可能性も否定できない。 むおそれがある、と見る向きもある。 と見る向きもある。 アルジェリアでは、現在日量135万バ なお、ブーテフリカ大統領は2006年12 レル程度の原油を生産しているが、2006 (野神 隆之) 2007.3 Vol.41 No.2 84