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6 琵琶湖における外来魚駆除技術の開発と内湖における 駆除効果の評価

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6 琵琶湖における外来魚駆除技術の開発と内湖における 駆除効果の評価
6
琵琶湖における外来魚駆除技術の開発と内湖における
駆除効果の評価
要旨
琵琶湖で現在操業されている漁法の中で、秋以降に北湖の沿岸帯で操業される沖曳網(底曳網の一
種)と河口付近で操業される刺網のオオクチバスの CPUE が高かった。既存漁法を補完するオオクチバ
スの捕獲技術として、南湖の沿岸帯におけるトロール漁法を検討したところ、トロール網の開口部の
拡大が捕獲能力の向上に効果的であった。電気ショッカーボートの外来魚捕獲特性を評価したところ、
相対的にブルーギルよりオオクチバスの捕獲能力が高かった。内湖における駆除試験において、オオ
クチバスの抑制には、全ての体長を捕獲対象とする駆除を行うことで抑制ができるものと考えられた。
ブルーギルは、2 歳魚の生息数の 1/2 程度の駆除に加え、1 歳魚も重点的に駆除する必要があることが
示された。ブルーギルの再生産曲線の解析結果から、カネヒラ、オイカワ、ブルーギル 1 歳魚はブル
ーギルの繁殖抑制要因になる可能性があると考えられた。
1. 研究の目的
琵琶湖のように広大な水域において外来魚を効果的に駆除するためには、外来魚の種類やサイズ、
または生息水域に適した駆除法を効率的に組み合わせる必要がある。また、駆除に投入可能な努力量
や経費も限られることから、投入努力あたりの外来魚の抑制効果をいかに高めるかが重要となる。そ
こで、本課題では、現在実施されている既存漁法のなかで特にオオクチバスの捕獲に優れた漁法の捕
獲特性を評価するとともに、沿岸帯において広範囲に適用できるトロール漁法の開発および湖岸域に
おける効率的な捕獲技術として電気ショッカーボートの捕獲特性を検討した。また、外来魚が優占す
る内湖(曽根沼)における 9 年間の外来魚駆除データ等から、オオクチバス、ブルーギルの繁殖抑制
に効果のある駆除手法について、投入した努力量の観点から検討した。
2. 琵琶湖における既存漁法の外来魚捕獲特性
(1) 外来魚駆除の概要
滋賀県では、外来魚駆除促進事業として滋賀県漁業協同組合連合会(以下、県漁連)が様々な漁法
により外来魚の駆除を行っている。2008 年 4 月から翌年 3 月までの駆除日報のデータを用いて南湖と
北湖別に漁法毎の駆除量の割合を求めた(図 1)
。2008 年度の駆除量 420 トンのうち、南湖では 285 ト
ンでその 95%が刺網およびエリやます網といった小型定置網であった。これらの漁法で捕獲される外
来魚の 9 割はブルーギルであることから、南湖ではブルーギル中心の駆除となっている。一方、北湖
の駆除量は 135 トンで、その 85%を沖曳網、刺網、小型定置網が同程度の割合で占めた。このうち、
沖曳網と刺網については、捕獲される外来魚の7~9 割がオオクチバスであり、北湖ではオオクチバス
を中心とした駆除であった。 駆除重量を漁法別に出漁日数で除して、 1 操業あたりの外来魚駆除量
(CPUE)の経月変化を求めたところ、南湖では 4 月から 7 月にかけて高い一方、北湖では 10 月から 12
月が高かった(図 2)
。この結果は南湖と北湖では駆除の特徴が大きく異なることを示す。
- 57 -
CPUE(kg/操業・日)
100
沖曳き網
刺網
小型定置網
北湖
50
0
4月
6月
8月
CPUE(kg/操業・日)
100
10月
12月
2月
操業月
刺網
小型定置網
南湖
50
0
4月
6月
8月
10月
12月
2月
操業月
図 1 2008 年度の南湖・北湖別、漁法別外来魚駆除量の割合
図 2 南湖と北湖の漁法別外来魚 CPUE(kg/操業)の経月変化
(2) オオクチバス捕獲能力の高い既存漁法
ア
刺網(一枚網)
琵琶湖におけるオオクチバスを対象とした一枚網
におけるブルーギルを対象とした三枚網の操業に比
べると少ない。湖西地方の漁協に所属するある漁業者
は、産卵遡上するアユ群を追うオオクチバスを対象と
し、秋季から冬季(9~12 月)に主要河川の河口を中
心に刺網を積極的に操業している。2010 年 9 月から
1操業あたり駆除量(kg)
はほとんどが北湖で操業されているが、その数は南湖
300
200
100
0
9月
翌年 1 月に当該漁法の捕獲状況、網の設置方法、水域
の水深等を把握するため、操業に同行して標本調査を
55mm
個体数
設置方法は、アンカーを使用せずに河口の水深 4m 以
0
当たり駆除量)を求めたところ、9 月当初から 150kg
140
160
180
200
220
240
260
280
標準体長(mm)
図 4 刺網の目合(55,63,84mm)ごとのオオクチバスの
体長組成
を超え、11 月には 271kg と非常に高くなり、12 月には 99kg まで減少した(図 3)。
- 58 -
84mm
20
10
期間の駆除量及び出漁日数の記録から、CPUE(一操業
63mm
30
翌朝に揚網する方法で、従事者は 2 名であった。網の
浅を岸に沿うように刺網を連ねる方法であった。この
12月
40
体重、雌雄および胃内容物を調査した。刺網は一枚網
の目合をそれぞれ 10~15 把使用し、夕方に投網して
11月
図 3 9~12 月のオオクチバス CPUE(1 操業あたりの
駆除量)の推移
行い、刺網の目合毎に羅網したオオクチバスの体長、
(ナイロンテグス製、網丈 1.2m、長さ約 30m)で数種
10月
目合毎の捕獲魚の体長組成(図 4)から、使用目合の約 3 倍の体長(全長では 3.7 倍)が捕獲対象と
なった。10 月に安曇川河口で捕獲された個体の胃内
オオクチバス, 0.2%
容物はほとんどが魚類であり、餌料重要度指数の割
合(%IRI)では 67%をアユが占めていた(図 5)。
これらからこの時期の河口付近にはアユを捕食す
フナ, 0.5%
コイ科不明魚,
3.9%
ヒガイ, 0.1%
ブルーギル, 0.06%
テナガエビ, 0.04%
カネヒラ, 6.4%
るためにオオクチバスが高密度に生息しており、こ
れらの捕獲に刺網が適しているといえる。このよう
同定不可魚,
21.3%
な操業形態の漁業者は他にはほとんどいないが、当
該手法のオオクチバスの CPUE は同時期の南湖の三
アユ, 67.4%
枚網や他の漁法と比較しても突出しており、オオク
チバス成魚の駆除において貢献度は非常に高い。し
かし、網から魚を外す作業に相当な労力がかかるた
図 5 10 月安曇川河口で捕獲されたオオクチバスの餌
料重要度指数の百分率(%IRI)(N=105)
めに普及していない点が課題である。
イ
外来魚沖曳網
沖曳網は、碇で固定した船に網を引き寄せる底曳 網の一種で、専用のラインホーラーとネットホー
ラーを艤装した総トン数 3.5~4.9 トンの動力漁船を用いて通常 2 名で操業する。当該漁法は本来水深
30~70m の水域でホンモロコやスジエビなどを対象に操業され、滋賀県漁業調整規則により 8 月~翌年
4 月の北湖のみで操業が許可される。この漁法を水深 8m 以浅の水草帯を曳網できるように漁業者が独
自に改良したのが外来魚沖曳網である(図 6)
。2008 年度の外来魚駆除量 420 トンのうち北湖の駆除量
は 135 トンであり、漁法別では沖曳網によるものは 28.3%を占め、刺網 29.5%の次に多かった(図 1)
。
沖曳網の CPUE は 8 月~10 月は約 30kg で、11 月以降に増加しはじめ、12 月には他の漁法よりも多い
88kg とピークとなり、1 月以降は 51~26kg まで減少した(図 2)
。沖曳網で捕獲された外来魚の体長は、
7~12 月はオオクチバスで
は 120mm 未満、ブルーギルで
ブイ
水草混入防止の網
50mm 未満の当歳魚を中心と
した小型魚が個体数で約 9
曳網
割を占め、翌年 3 月には体長
アンカー
袋網の目合 1mm
300mm を超える大型魚が捕
図 6 外来魚沖曳網の漁具仕様
琵琶湖の漁法で唯一、当歳魚
の捕獲圧が高い漁法といえ
オオクチバス 3 月
N=300
平均 122.7mm
10
標準体長(mm)
図 7 沖曳網により捕獲されたオオクチバスの体長組成
る。
- 59 -
430
500
290
360
0
150
220
430
500
360
290
0
20
10
80
10
150
ルが約 56 万尾と推定された。
オオクチバス 12 月
N=308
平均 99.4mm
10
80
バスが約 64 万尾、ブルーギ
頻
度
(%)
された当歳魚数は、オオクチ
20
220
獲されるようになった(図
7)。7 月~翌 3 月までに駆除
50m
(3) 既存漁法による外来魚駆除の課題
前述のとおり、オオクチバスの捕獲能力が高い漁法の多くは北湖で行われおり、南湖では、小型定
置網とブルーギルを対象とした三枚網が大半を占め、オオクチバスの 駆除量は多くない。加えて、沖
曳網が行われない南湖では、タモ網による稚魚の捕獲が終了してからは、ブルーギルも含めて当歳魚
の駆除法がほとんどなく、小型定置網の中でも網目の細かいエリで若干捕獲される程度である。また、
全湖的に港湾やヨシ帯前面などの湖岸域 での駆除は、遮光型カゴ網、投網および釣りが行われている
が、それらの駆除量は全体の 7.7%と少ない。これは琵琶湖が広大であるがゆえに沿岸帯を広くカバー
できる比較的規模の大きい漁法が発達したことも影響していると思われる。
以上から、既存漁法を補足する手法としては、 南湖におけるオオクチバスの当歳魚から成魚までを
捕獲できる技術や湖岸域で効果的に適用できる捕獲技術が求められる。
3. オオクチバスの効率的捕獲技術の開発
(1) 南湖の沿岸帯におけるトロール漁法
ア
ビームトロール網の改良
i 改良効果の確認
2006 年までに沈水植物帯の外来魚を効率的に捕獲する漁具として小型ビームトロール網が考案され
ているが、ビーム長(開口幅)が 3m までのビームトロール網(以下、従来型)は、オオクチバスにつ
いては 2 歳魚以上が捕獲されないため(井出,2007)、2007 年より成魚を捕獲対象とするために開口部
を拡げたビーム長 4m のトロール網(以下、改良型)を作製し、その外来魚捕獲能力を評価した。
調査は同年 4 月から 5 月にかけて、琵琶湖南湖の沿岸帯(水深 1~3m)において、小型動力船の船尾
にビームトロール網を長さ 30m のロープで連結し曳網することにより行った。曳網速度は 0.27m 毎秒
(約 0.5 ノット)を目安とし、曳網時間は 3 分間を原則とした。曳網開始点と終了点はハンディーGPS
でポイント登録し、正確な距離と時間を割り出
した。捕獲魚については標準体長と体重を測定
表 1 曳網 100 ㎡当たり捕獲数量の比較
(*、**は Mann-Whitney U test p<0.05、p<0.01 を示す)
した。曳網面積 100 ㎡当たりの捕獲尾数(重量)
は、オオクチバスでは従来型が 0.64 尾(21g)
であったのに対し、改良型は 1.33 尾(364g)
従来型(a)
改良型(b)
b/a
オオクチバス
ブルーギル
採捕尾数 重量(g) 採捕尾数 重量(g)
0.64
21
33.6
358
**1.33
**364
40.52
*669
2.1
17.3
1.2
1.9
であり、尾数で従来型の 2.1 倍、重量で 17.3
倍と有意に向上した(Mann-Whitney U test、尾
N=20
改良型網
20
15
N=67
10
5
400
440
240
280
320
360
0
標準体長(mm)
オオクチバスは、
従来型では捕獲されなかっ
た体長 24cm 以上の中・大型魚が改良型では捕
従来型網
80
120
160
200
差はなかった(表 1)
。
10
8
6
4
2
0
0
40
は尾数で 1.2 倍、
重量で 1.9 倍となったが有意
度
数
#
尾
%
0
40
80
120
160
200
240
280
320
360
400
440
数 P<0.01、重量 P<0.05)
。同比較でブルーギル
標準体長(mm)
従来型網と改良型網で捕獲されたバスの体長組成.
図 8 図2
従来型網と改良型網で捕獲されたオオクチバスの体長組成
獲され、全捕獲魚 67 個体中で 18 個体(27%)
を占めた(図 8)。ブルーギルについては、改良型では 1 歳、2 歳魚の捕獲効率の向上が見られた。
- 60 -
イ
オッタートロール網の検討
i カイト式の開口装置の作製と開口能力の評価
前述の試験結果から、トロール網によるオオクチバスの捕獲能力向上には開口幅の拡大(大型化)
が最も寄与していると考えられるが、開口部をビームで確保する方法では、投網 と揚網時において作
業性が悪くなるため使用する網の規模はビーム長におのずと制限される。そこで、2009 年からはビー
ムにかわる開口装置を使用したオッタートロール網の検討を 行った(装置の構造などは駆除マニュア
ルを参照)。当該装置の開口能力を評価するため、
オッタートロール網の速度を変えながら曳網して、
網の開口幅と開口高を測定した。なお、使用したト
ロール網は 4m ビームトロール網のものと同様とし
た。オッタートロール網は、曳網速度が 1.8km 毎時
(約 1 ノット)前後では開口幅 8m、開口高 2m であ
ったが、曳網速度 3.3km 毎時(1.8 ノット)に達す
ると最大 10m まで開口したものの、開口高は 1m 未
満となった(図 9)。南湖の水草帯の水深は 2~3m
程度であり、その水深を考慮すると曳網速度1ノッ
ト前後での曳網が妥当であると判断した。この速度
での実際の水草帯を曳網した場合では、開口装置や
グランドロープなどが水草による抵抗を受け、開口
幅は約 4~8m までと変動し、平均は約 6m であった。
図 9 オッタートロール網の曳網速度別の開口状態
ⅱ ビームトロール網との外来魚捕獲能力の比較
捕獲能力を比較した。調査は 2009 年 4 月に大津市地先
の琵琶湖沿岸帯において、5 分間の曳網をそれぞれ 10
回ずつ行い、曳網 5 分間あたりの外来魚捕獲重量を求め、
それぞれの平均捕獲重量を図 10 に示した。平均捕獲重
量はオオクチバスではそれぞれ 148g、1,039g であり、
これらの間には有意差が認められた(Mann-Whitney U
test P=0.03)。ブルーギルではそれぞれ 1,033g、1,078g
平均捕獲量(g/5 分間曳網)
4mビームトロール網とオッタートロール網の外来魚
1500
4mビームトロール
オッタートロール
1000
500
0
オオクチバス
ブルーギル
図 10 4m ビームトロール網とオッタートロール網
の曳網 5 分間あたりの外来魚捕獲重量の比較
となり有意差はなかった(同検定、P=0.72)
。
本調査により、比較的小規模な開口装置 であっても十分な開口能力を有することがわかった。 開口
装置を使用することで従来のようにビーム長に制限されることなくトロール網の大型化が図られ、今
後の南湖におけるトロール漁法の捕獲能力向上が期待できる。また、4mビームトロール網に比べて
オッタートロール網は、オオクチバスの捕獲能力が有意に向上したことから、この点でも効果的な漁
法と考えられる。
ウ
南湖におけるトロール漁法と他漁法との捕獲特性の比較
- 61 -
トロール漁法(代表して 4m ビーム
オオクチバス
170
140
110
80
170
170
170
170
140
140
140
140
110
110
110
110
80
80
80
80
50
50
50
50
20
500
400
80
釣り
60
(採捕無し)
40
20
した。オオクチバスではトロール網の
0
一操業あたりの CPUE は 15.3kg であり、
30
他の漁法で一番高い刺網 2.1kg の約 7
400
300
20
トロール網 10
200
0
0
捕獲魚の体長組成では、トロール網は
500
400
300
200
釣りの 16.3kg に対してのみ上回った。
100
100
トロール網の CPUE が 28.0kg であり、
0
倍に相当した。また、ブルーギルでは
50
20
500
400
300
0
20
って、その漁法を代表する体長組成と
200
20
0
体を無作為に抽出し(満たないものは
全数)、標準体長を測定することによ
100
40
1
20
た。また、漁法別にそれぞれ約 300 個
60
2
20
ます網
80
3
500
×20 回の場合とし、他の漁法と比較し
4
400
2 分+曳網 3 分+取込 2 分+選別 10 分)
300
CPUE は、1 日当たり 1 曳網 17 分(網入
300
エリ
分の資料を採用した。トロール網の
100
80
60
40
20
0
200
エリ 163、マス網 151、釣り 103 操業
5
4
3
2
1
0
200
事業日報(県漁連)より、刺網 594、
100
既存漁法については、外来魚駆除促進
100
刺網
0
る既存漁法との捕獲特性を比較した。
ブルーギル
100
80
60
40
20
0
0
(4,5 月)の同じ水域(南湖)におけ
25
20
15
10
5
0
0
トロール網)を試験操業した同じ時期
図 11 トロール網と他の漁法で捕獲されたバスとブルーギルの体
長組成 横軸は標準体長(mm)、縦軸は度数(尾)
既存漁法と比較すると漁獲選択性が
低く、オオクチバス、ブルーギルともに当歳魚から高齢魚まで幅広く捕獲できる傾向にあった(図 11)。
春季の南湖では刺網、釣りともにブルーギル中心の駆除となっており、オオクチバスの駆除が少ない。
その意味でトロール網はブルーギルに加え、オオクチバスも捕獲できる漁具として有効である。
(1) 湖岸域における電気ショッカーボートによる捕獲
ア
i
琵琶湖の蝟集水域での捕獲効果
CPUE およびその釣りとの比較
彦根市にある彦根旧港湾には下水道処理施設の 処理水が排出されることにより、 秋から冬にかけて
琵琶湖水より水温が高くなり外来魚の蝟集が認められる( 大山,2006)。一般に冬季の外来魚の駆除が
停滞する中、このような蝟集水域を駆除の拠点とする上で効率的な捕獲法を確立することが重要であ
る。このため、2010 年 2 月 1 日に電気ショッカーボート(スミスルート社製 2.5GPP 搭載、以下 EFB
という)による捕獲調査を行った。なお、本調査は北海道立水産孵化場(現さけます・内水面試験場)
と共同で行い、同場所有の EFB を使用した。
- 62 -
調査では、電気ショッカーの設定値を主として
AC モード、
電圧 50~700V、
出力 40~50%に維持し、
図 12 に示した進路で EFB を航行して連続的に通電
して行った。調査時の天候は曇りのち雪、気温は
1.7~4.3℃、水温は 15.1~16.6℃、電気伝導度は
54.5~56.5mS/m であり、調査時間 4 時間でブルー
彦根旧港湾湾奥部
ギル 388 尾(25.3kg)、
オオクチバス 900 尾(286.5kg)
計 1,288 尾(311.8kg)を捕獲した。EFB による駆
×8周
除作業効率の指標として、作業員 6 名(EFB4 名+
50m
回収補助船 2 名)が捕獲に要した作業時間から CPUE
(1 人 1 時間あたりの捕獲尾数および重量)を求め
図 12 彦根旧港湾の位置と調査地点(矢印は EFB の進路)
た。また、同水域で実施された外来魚集散状況把
握調査(緊急雇用創出特別対策事業)の釣り(4.5m
表 2 CPUE 比較に使用した EFB と釣りの捕獲概要
延べ竿、浮き、餌として活スジエビ使用)による
漁法 人数
のべ 108 時間(6 時間×9 日×2 人)の釣獲尾数と
EFB
釣り
重量から同様の CPUE を算出し比較した(表 2)。CPUE
6
2
ブルーギル
実施 オオクチバス
時間 尾数 重量(kg) 尾数 重量(kg)
4
54
900
168
286.5
39.9
388
798
25.3
58.3
は釣りに比べて EFB が特にオオクチバスで高かっ
CPUE(尾/人・時)
た一方、ブルーギルについてはオオクチバスのよ
うに顕著な差はなかった(図 13)。この要因として、
現場での目視結果から、ブルーギルは感電しても
オオクチバスほど顕著に浮かばず、湾奥部におい
て大量に見られた水草に阻まれ捕獲しづらかった
未満、310mm 以上のオオクチバスが捕獲されやすか
EFB
釣り
30
20
10
0
ことが考えられた。捕獲魚の体長では、EFB は釣り
に比べて体長 85mm 未満のブルーギルと体長 110mm
40
オオクチバス
ブルーギル
図 13 EFB と釣りの CPUE(1 人 1 時間当たりの捕獲尾数)の
比較
った。
ii
初期生息尾数と駆除率の推定
EFB で捕獲したブルーギルとオオクチバスを体長から当歳魚と 1 歳以上に区別し、周回ごとに得られ
た そ れ ら の 捕 獲 尾 数 の デ ー タ を 用 い て 資 源 量 推 定 公 開 プ ロ グ ラ ム Capture に よ る Pollock &
Otto(1983)に基づく推定法を利用して各々の生息尾数を推定し、本調査による外来魚駆除率を算出し
た。ブルーギルとオオクチバス当歳魚の捕獲尾数は周回ごとに減少したが、オオクチバス 1 歳以上魚
だけは減少しなかった。調査開始前の推定生息尾数(95%信頼区間)は、ブルーギル当歳魚 72 尾(62-110
尾)、ブルーギル 1 歳魚以上 540 尾(474-636 尾)、オオクチバス当歳魚 526 尾(478-604 尾)、オオクチ
バス 1 歳以上魚 1,123 尾(1,000-1,277 尾)となり、捕獲調査終了後はそれぞれ、14 尾、210 尾、126 尾、
623 尾が生息していると推定され、EFB による駆除率はそれぞれ 81%、61%、76%、44%となった。最
も低い駆除率となったオオクチバス 1 歳以上魚については、調査水域につながる水路からの加入があ
り、今回の努力量では周回ごとに減少しなかった ことが考えられ、生息尾数推定も過小評価となって
いる可能性がある。
- 63 -
イ
試験池で評価した EFB の捕獲効率
15m
これまで EFB の捕獲効率は天然水域での捕獲デー
タから推測するしかなかった。また、EFB の捕獲デー
タを利用した除去法およびその拡張モデルによる初
期生息尾数推定値は、その精度に関する知見はほと
40m
んどない。そこで、外来魚個体数が既知である試験
*実線矢印
は通電した
区間
池において、当手法の捕獲効率を評価した上で生息
尾数推定法の精度を検証した。
EFB
ⅰ 試験池の概要と方法
図 14 試験池(600 ㎡)の概要
1回目 2回目
池(600 ㎡、図 14)において、EFB(スミスルート社
150
ない 1 号」
)を使用し水深 1m で魚種別に捕獲試験を
個体数(尾)
製 2.5GPP 搭載の全国内水面漁業協同組合所有「ぜん
水深 1.0m オオクチバス
行った。なお、ブルーギルについては水深を 0.5m ま
電流が 4A となるように出力を調整した。この一連の
デ ル お よ び ③ 同 プ ロ グ ラ ム に よ る Pollock &
Otto(1983)に基づく推定法の 3 モデルにより各々の
個体数(尾)
モデル)
、②プログラム Capture による M(bh)除去モ
14.0%
15.3%
10%
50
1.2%
3.6%
2.5%
0%
750
3.4%
250
750
20%
9.8%
500
0
1000
作業を 5~7 回実施した。周回ごとに得られたそれら
の捕獲尾数のデータを用いて、①デルーリ法(第一
100
水深 1.0m ブルーギル
個体数(尾)
タモ網で回収した。電気ショッカーは交流モードで
20%
10.6%
0
1000
で下げた場合も行った。EFB は、図 14 に示した進路
で通電しながら航行し、感電した外来魚を船上より
21.3%
10%
5.3%
3.5%
0.6%
2.8%
捕獲率
200
2.1%
0%
1回目 2回目
3回目 4回目 5回目
21.6%
22.1%
19.2%
6回目 7回目
水深 0.5m ブルーギル
14.5%
20%
9.2%
500
10%
250
捕獲率
ブルーギル(854 尾、SL27~157mm)を収容した試験
収容数
捕獲数
捕獲率
3回目 4回目 5回目 6回目 7回目
捕獲率
2010 年 12 月にオオクチバス(164 尾、
SL92~383mm)
、
未実施
0
0%
1回目
2回目 3回目
4回目 5回目
図 15 捕獲回数別の収容尾数、捕獲尾数および捕獲率の推移
生息尾数を推定し、その精度について比較した。
30%
**
ⅱ
結果
試験中は水温 9.4±2.8℃、電気伝導度 14.8±
2.2mS/m および透視度 81±7cm であった。回数ごとの
収容尾数、捕獲尾数とそれらから求めた捕獲率を図
15 に示す。
捕獲効率平均値
**
20%
10%
0%
水深 1m の場合のオオクチバスとブルーギルの 5 回
分の捕獲率について、回数による変動要因と、魚種
オオクチバス
ブルーギル
ブルーギル
水深1.0m
水深1.0m
水深0.5m
図 16 捕獲 5 回分の捕獲率の平均値と標準偏差
による変動要因を二元配置分散分析により検定した
ところ、魚種による変動には有意差が認められ(F= 13.33、P= 0.022)
、オオクチバスはブルーギルよ
り有意に捕獲率が高かった。また、ブルーギルについて、水深別の 5 回分の捕獲率を用いて同様に検
定したところ、水深による変動には有意差が認められ(F= 44.17、P= 0.0027)
、水深 0.5m において 1m
- 64 -
の場合よりも有意に捕獲率が高かった(図 16)。
収容魚
30
個体数(尾)
体長ごとの捕獲率を図 17 に示す。オオクチバス
は特に体長約 160mm を超えると捕獲率が高く推
捕獲魚
捕獲率
1
水深 1.0m オオクチバス
捕獲率
捕獲 5 回分の資料を用いた捕獲魚と収容魚の
15
0.5
移した。同水深時のブルーギルは体長 55mm から
0
95mm にかけて捕獲率が急激に下がった。水深
0
100
0.5m 時では、いずれの体長も捕獲率が高かった
140
捕獲魚
340
380
捕獲率
1
捕獲率
水深 1.0m
ブルーギル
個体数(尾)
った。
220
260
300
標準体長(mm)
収容魚
100
が、特に体長 55mm から 110mm の捕獲率が高くな
180
50
0.5
努力回数ごとの捕獲尾数のデータを用いて、
0
除去法による生息尾数推定のうち、①デルーリ
0
25
法(第一モデル)
、②プログラム Capture による
45
100
65
85
105
標準体長(mm)
収容魚
捕獲魚
125
145
捕獲率
1
個体数(尾)
M(bh)除去モデルおよび③同プログラムによる
Pollock & Otto(1983)に基づく推定法の 3 モデ
捕獲率
水深 0.5m ブルーギル
50
0.5
ルを用いて初期生息尾数を推定した(図 18)。モ
0
水深 1m のオオクチバスで 98 尾(59.7%)
、水深
的に過小評価となった。特にブルーギルは水深
45
65
85
105
標準体長(mm)
125
145
図 17 収容魚および捕獲魚の体長組成と漁獲選択性
1m のブルーギルで 296 尾(34.7%)
、水深 0.5m
のブルーギルで 497 尾(77.3%)となり、全体
0
25
デル③の推定尾数(絶対値に対する割合)は、
絶対数
DeluryⅠ
Capture(Mbh)
200
1000
150
750
100
500
50
250
Capture(P&O)
により推定結果が大きく異なり、水深 0.5m では
モデル①、③で推定誤差が 30%以内に収まった
が、水深 1m ではすべてのモデルで推定値が絶対
値の 3 分の 1 程度となり、著しい過小評価とな
0
0
水深1m バス
った。
水深1m ギル
水深0.5m ギル
図 18 3 モデルによる推定値の比較
バーは 95%信頼区間の上限と下限を示す
ウ
ブルーギルが獲れにくい原因の解明
電極
電極
3.0 m
ⅰ ブルーギルに対する感電強度の評価
0.5m
前述の試験において、ブルーギルの捕獲効率
1.0m
が低かった原因を探るため水中でのブルーギル
の感電状況を観察した。水深が 1m となるように
琵琶湖水を注水した生態観察池(3.3m×9.5m×
1.8m)に電気ショッカーを図 19 のように設置し、
2 段カゴ
図 19 ブルーギル感電試験の設定の概要
池の側面から感電状況を観察した。供試魚のブ
ルーギルは収容器(1m×0.5m×0.5m)の上段および下段にそれぞれ 10 尾を収容し、水深別(水深 0.5m
および 1m)にブルーギルに対する感電強度(指標として通電により横臥したブルーギルが、通電終了
から正常な姿勢に戻るまでに要した時間、以下回復時間)を個体別に記録した。
- 65 -
通電時には上段および下段の全てのブルーギルが感電により横臥した が、その中で浮上する個体は
認められず、全て沈降していった。通電時間 30 秒での水深別の回復時間では、水深 0.5m 以浅(上段)
の平均 504 秒に対し、水深 0.5m~1m(下段)は平均 183 秒となり、下段では上段より有意に回復時間
が短くなった(図 20、Mann-Whitney U test,P<0.01)
。下段における感電時間別のブルーギル 10 尾の
回復時間は、感電時間が 40 秒の場合のみが他の感電時間(5~20 秒)に対し回復時間が有意に長かっ
た(Scheffe test,P<0.01)
(図 21)
。感電する範囲が電極から進行方向に 3m と仮定すると、EFB の航
行速度が平均で 0.35m/s であることから、感電範囲内に入った個体の感電時間は平均 9 秒程度と推測
され、水深 1m 近くの個体の場合は十数秒で回復してい
ると考えられる。
回復時間(秒)
800
ⅱ 透視度別の魚体視認深度の測定
水の濁りが捕獲(魚体の視認)に与える影響を確認す
400
るため、透視度別の魚体視認深度を測定した。試験は 2
トンの FRP 水槽に琵琶湖水を 1m まで注水し、濁りはカ
0
上段
(水深0.5m以浅)
オリンを一定量添加して 5 段階に変化させた。魚体視認
深度は、水槽上部から水面を見下ろし、濁りの段階毎に
オオクチバス(体長 340mm)またはブルーギル(体長
図 20 上段と下段におけるブルーギルの回復時間
の平均値 バーは標準偏差を示す
バーは標準偏差を示す.
80mm)の魚体(横臥した姿勢)が視認可能となる深度に
測定した(図 22)。これらの値は全体に有意差があり、
体長 80mm のブルーギルは体長 340mm のオオクチバスよ
りも視認深度は有意に浅くなった(重複測定分散分析、
600
魚種:F=8.06、df=1、P=0.047,透視度: F=93.63、df=5、
0
5
P<0.01)。透視度が 100cm をこえる時以外は、魚種の判
別は不可能であったことから、この差は魚種より体長の
**
1,200
回復時間(秒)
ついて 1cm 刻みで読み取り、測定員 3 名によりそれぞれ
下段
(水深0.5~1.0m)
10
20
感電時間(秒)
40
図 21 感電時間別の回復時間の平均値
バーは標準偏差を示す
違いによるものと考えられる。なお、同一魚種に対する
100
偏光グラス使用の有無による魚体視認深度について有
バス(SL340mm)
ⅲ 考察
前述の結果から、ブルーギルの捕獲効率が著しく低か
魚体視認深度(cm)
ギル(SL80mm)
意な差はなかった。
80
y = 0.8653x + 22.499
R2 = 0.9494
y = 0.7351x + 22.805
R2 = 0.9838
60
った要因を考察すると、ブルーギルの遊泳層が深く感電
強度が低くなったこと、あるいは麻痺状態にはあっても
試験池の透視度が 80cm 程度であったことから捕獲者か
ら視認されず捕獲行為に至らなかったことが考えられ
る。このことは、水深 1m 付近には EFB による捕獲効果
40
20
40
60
80
100
透視度(cm)
図 22 オオクチバスとブルーギルの透視度別魚体
視認深度の平均値 バーは最大値と最小値
が及んでおらず、その捕獲データから得た生息尾数推定値も かなり過小評価となったと考えられる。
オオクチバスの捕獲効率が相対的に高くなったのは、体長の違いによる視認深度の違いも要因の一つ
と考えられる。捕獲効率評価試験の全ての試験について、努力回数ごとに捕獲率が減少していった。
- 66 -
これらの捕獲データを用いて生息尾数推定を行ったことも推定値が過小評価となった要因である。こ
の捕獲率の減少の要因として、捕獲行為を短期間に繰り返すことで底の泥が巻き上げられる ことによ
る透視度の低下や、魚が次第に感電を避けて逃避している可能性も考えられる。以上から実際に天然
水域で生息尾数推定を行う場合には、これらを考慮して数日の間隔をあけながら、なるべく外来魚の
遊泳層が浅い(捕獲効率の高い)時期のデータを使用することが精度向上に寄与すると考えられる。
4. 内湖における外来魚駆除の効果
(1)
内湖の概要
曽根沼は琵琶湖周辺に点在する内湖の一つで、彦根市
三津屋町に位置する水域面積 21.6ha の沼である(図 23)。
水深は最大でも 2.5m であり、全体的に浅い。年間を通
図 23 調査湖沼の曽根沼
じた水温は夏季では 27℃前後となり、冬季は 2℃まで下
150
がる。本内湖も県内各地の外来魚の増加に伴いブルーギ
釣り
者により外来魚の駆除が開始された。また、同時に当場
による魚類相調査や駆除調査を継続的に行っており、現
駆除量(kg)
ルが魚類相での優占種となっていたが、2003 年より漁業
カゴ網・小型定置網・投網
EFB
100
50
在まで約 9 年間の駆除データが蓄積した。本課題では、
それらのデータを基に投入した努力量の観点から魚種
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
別に駆除による抑制効果を検討した。
(2)
図 24 オオクチバス駆除量の推移
300
オオクチバスの駆除と繁殖抑制効果
250
投網
釣り
2005 年
個体数
200
ア
駆除体制と駆除量の推移
定置網
150
100
9 年間を通じたオオクチバスの駆除の状況は 2003~
50
2007 年と 2008~2011 年の 2 期に大別される。2007 年ま
0
では、小型定置網やブルーギルを対象とした釣りで捕獲
140
される小型~中型魚の駆除が主体であり(図 25 上段)、
120
20 60 100 140 180 220 260 300 340 380 420
標準体長(mm)
EFB 遮光型カゴ網
それに伴い駆除量も多かったが、2005 年には釣りによる
個体数
い。2003 年、2004 年は投入した努力量が非常に多く、
定置網
2010 年
100
タモ網による稚魚の捕獲などの繁殖抑制も行っていな
釣り
80
60
40
20
0
駆除量が非常に少なくなった(図 24)
。
20 60 100 140 180 220 260 300 340 380 420
2008 年からはオオクチバス中心の駆除を開始し、繁殖
抑制としては、産卵期前後の電気ショッカーボート(以
標準体長(mm)
図 25 2005 年と 2010 年のオオクチバス駆除魚の
体長組成
下、EFB)での親魚の駆除を中心として、その後浮上し
た稚魚群のタモ網による駆除も行った。また、年間を通じて小型定置網による小型魚の駆除、遮 光型
カゴ網による中型魚の駆除を行い、全てのサイズを駆除対象とした(図 25 下段)
。
- 67 -
イ
繁殖抑制の効果
繁殖抑制の効果を検討するため、指標として 6~12 月
1000
に計 12 回実施した小型定置網によるオオクチバス当歳
捕獲個体数
800
魚捕獲尾数の推移を検討すると(図 26)、2002 年から年々
増加傾向が見られ、2008 年に最も高くなった。この年は
600
400
EFB を初めて実施した年であったが、EFB での駆除中にす
200
でに浮上稚魚群が多数みられていたために、かえって稚
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
図 26 6~12 月の小型定置網1統によるオオクチ
バス当歳魚の捕獲尾数の推移
魚への成魚による捕食圧が低減したことも要因の一つと
思われる。これらを防ぐために 2010 年、2011 年は産卵
期前(4 月中旬)に EFB を集中的におこなった。その結果、タモ網による稚魚の捕獲尾数は、2009 年
は 93,900 尾であったが、2011 年は 42,500 尾と半数以下となり、また当歳魚の発生レベルも調査開始
以来、最も低い水準で抑制されていた(図 26)。曽根沼でのオオクチバスの繁殖可能体長は約 180mm
であり、これらは 2 歳に相当する。よって、3 年連続で稚魚の発生レベルを抑制していることから、現
ウ
オオクチバスに対する各手法の駆除効率
オオクチバスに対する駆除作業の効率性を検討するた
め、2010 年度の各漁法の駆除量および投入した努力量(釣
り 471 時間、カゴ網および定置網 314 時間、EFB 4 人 20 時
CPUE(kg/人・時間)
在の駆除方法により繁殖抑制が可能であると考えられる。
1.2
0.8
0.4
0
間)から、CPUE(一人 1 時間当たりの駆除重量)を算出し
釣り
た(図 27)。最も効率が高かったのは EFB で、カゴ網およ
カゴ網
定置網
EFB
図 27 オオクチバスに対する各手法による
CPUE の比較
び定置網の約 8 倍に相当した。釣りについては、ブルーギ
ルを対象とした仕掛けであるために非常に低くなったが、餌として活スジエビや活き魚を活用する(片
野・坂野, 2010)などオオクチバス向けの仕掛けにした場合は向上すると考えられる。
(3)
ブルーギルの駆除と繁殖抑制効果
ア
ブルーギルの駆除量とVPAによる生息尾数推定
ブルーギルの駆除はほとんどが漁業者による釣りで
の駆除である。駆除量は、駆除開始当初の 2003 年には
駆除量(kg)
4000
釣り
カゴ網・小型定置網・投網
EFB
3000
2000
1000
4 トンを超えたが、2005 年には 253kg まで減少し、以降
0
は 1 トン前後の駆除量となっている(図 28)
。
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
9 年間に駆除した全てのブルーギルの体長、体重デー
図 28 ブルーギルの漁法別駆除量の推移
タから VPA(Virtual Population Analysis)により月別、年齢別の生息尾数を推定した(図 29)。推定
にあたっては、自然死亡率を一定とし、6 月 1 日にその年生まれの年級が一度に加入すると仮定した。
- 68 -
60
3歳+
2歳
1歳
0歳
生息尾数(万尾)
50
40
30
20
10
0
6月
6月
2003
6月
2004
6月
2005
6月
2006
6月
2007
6月
2008
6月
2009
6月
2010
図 29 VPA で推定した年齢別ブルーギル生息尾数の推移
また、月別年齢別漁獲尾数は、体長組成から推定した。ブルーギルの生息尾数は、2003 年から2005
年にかけて著しく減少し、2006 年以降は微増傾向にあった。この間の年齢別の推定駆除率を図 30 に示
す。当歳魚の駆除率は平均で 3%程度と最も低く、2 歳以上魚の駆除率は 2006 年を除き 50%前後であ
った。最も年変動の大きかったのは 1 歳魚の駆除率
100%
0+
であり、2003 年と 2004 年は 69%、83%と非常に高
これらの結果から、ブルーギルを「駆除」により抑
駆除率
かったが、2005 年以降は、平均で 8.4%と低くなった。
2+以上
50%
制させるためには、成熟魚である 2 歳以上魚の半数
25%
程度の駆除に加えて、親魚候補となる 1 歳魚の駆除
0%
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
率をいかに向上させるかが重要と考えられた。
イ
1+
75%
図 30 ブルーギル年齢別の駆除率の推移
ブルーギル 1 歳魚の抑制効果
1500
による月別駆除量を図 31 に、またそれらを努力量で除し
た CPUE(一人一時間あたりの駆除重量)を図 32 に示す。
2004 年 11 月と 12 月の釣りの駆除量は 2,056kg であり、
駆除量(kg)
1 歳魚の駆除率が 83%と最も高かった 2004 年度の釣り
1000
0
年間の駆除量の約 58.2%を占めた。CPUE も 11 月に 3.02kg
られる。これは、その当時(2003 年と 2004 年の 11 月か
ら 12 月にかけて)に、ブルーギルの蝟集が曽根沼南端の
流入水路付近で認められており、漁業者の努力量が集中し
たことによる。大山・井出(2002)は、2001 年に当該水
路付近でブルーギル当歳魚の蝟集を確認しており、その要
因が沼中心部との水温差であることを指摘していること
から、1 歳魚においても同様の原因によることが考えられ
る。しかし、2005 年以降は流入水量の減少などから蝟集
5
6
7
8
9
10
11
12
1
図 31 2004 年度の釣りによる月別のブルーギル
駆除量
6
CPUE(kg/人・時間)
となり、最も高かった。同様の傾向は、2003 年にも認め
500
4
2
0
5
6
7
8
9
10
11 12
1
図 32 2004 年度の釣りによる月別のブルーギル
CPUE
現象が認められず、11 月以降の釣りでの駆除は行われていない。よって、蝟集場所の特定や集中的な
駆除ができるかどうかが、翌年以降のブルーギルの生息量の抑制に非常に重要になると考えられる。
- 69 -
ブルーギルに対する各手法の駆除効率
ブルーギルに対する駆除作業の効率性を検討するため、
2010 年度の各漁法による駆除量及び投入した努力量(2のウ
と同様)を算出した(図 33)。最も効率が高かったのは釣り
で、他の手法の約 3 倍に相当し、前述のオオクチバスに対す
CPUE(kg/人・時間)
ウ
2
1.5
1
0.5
0
る結果と大きく異なった。しかし、定置網や EFB は当歳魚の
捕獲が可能であるなど、釣りには無い捕獲特性もあるため、
駆除対象とする魚種やサイズによって、駆除手法や投入する
釣り
カゴ網
定置網
EFB
図 33 ブルーギルに対する各手法による
CPUE の比較
努力量を決定することが必要である。
エ
ブルーギル再生産抑制要因の解析
VPA で得た各年 6 月の 2 歳以上魚の生息量と当歳魚の生息尾数からベバートン・ホルト型の再生産曲
線をあてはめ、この再生産曲線による推定値と実測値との残差を説明でき る要因を次に示す変数から
重回帰分析で探索した。説明変数としては、4~12 月(外来魚は 6~12 月)の小型定置網の魚種別 CPUE
(オオクチバス当歳魚、ブルーギル 1 歳以下魚および 2 歳以上魚、カネヒラ、オイカワ、フナ類、コ
イ、ホンモロコ、スジエビの各捕獲尾数) およびブルーギルの産卵床破壊数を用いた。なお、 最良重
回帰式は、変数増減法により赤池の情報量基準(AIC)が最小となるモデルを求めた。その結果、残差
と表 3 に示す変数との有意な負の関連性が示された。今回用いたデータは 8 年分と少なく、また相関
関係があるからといって因果関係があるとはいえないため、この結果は慎重に取り扱う必要があるが、
オイカワによるブルーギルの浮上前仔魚の捕食は井出( 2004)により確認されており、ブルーギル 1
歳魚とカネヒラ成魚によるブルーギルの浮上後仔魚の捕食も確認されている(上垣,未発表)ことから、
これらの魚種は、ブルーギルの抑制要因となる可能性がある。一方、繁殖抑制として毎年実施してい
るブルーギル産卵床の砂掛けによる破壊数は抑制要因として採択されなかった。目視による産卵床の
破壊は水域の透視度に大きく左右されるとともに多くを破壊しても見逃した少数から大量の稚魚が発
生する可能性があること等を考えると、投入する努力量に見合う実際の効果を再度、正確に評価する
必要がある。
表 3 ブルーギル再生産曲線からの残差と説明変数との関連性(重回帰分析)
変数
ブルーギル1歳以下魚CPUE
カネヒラCPUE
オイカワCPUE
定数項
(4)
偏回帰係数
標準化
偏回帰係数
-46.406
-438.592
-54.337
80482.116
-0.8925
-0.6598
-0.3436
0.0010
t値
12.4225
9.1894
5.0616
12.1343
P値
0.0002
0.0008
0.0072
0.0072
VIF
1.12
1.12
1.00
自由度
修正済みR2
0.9678
F値
71.09
P値
0.0006
在来種の推移
各魚種の資源水準の指標として、4 月から翌年 1 月の間に月 2 回実施した小型定置網による主要魚種
別の捕獲尾数を図 34 に示す。なお、フナ類については種査定を行っていない。2005~2006 年において
は、いずれの魚種も増加したが、2008 年以降は、若干の増減はあるもののいずれも低水準に留まって
いる。これは、未だにブルーギルが 優占する環境下においては、オオクチバスの生息密度を数年間抑
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制しても即座には在来魚が回復しない事を示している
カネヒラ
と考えられる。在来魚種間の 9 年間の増減関係を検討し
ホンモロコ
コイ
フナ類
スジエビ
800
エビの資源水準と有意な正の相関を示し(ホンモロコ
r=0.83,P=0.005、フナ類 r=0.71,P=0.03)、同様の出現傾
向を示した。その他の外来魚を含めた魚種間の資源水準
600
400
200
0
に有意な相関は認められなかった。
(5)
捕獲個体数
たところ、ホンモロコおよびフナ類の資源水準は、スジ
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
図 34 4~1 月の小型定置網での各魚種捕獲個体数
の経年変化
まとめと今後の課題
電気ショッカーボートの登場により産卵前のオオクチバス成魚を効率良く駆除することが可能とな
り、タモ網による稚魚の捕獲をあわせて行うことで、継続して生息量を抑制できること が示された。
ブルーギルの生息量を抑制するには、2 歳魚の 5 割程度の駆除に加え、1 歳魚についても 7 割以上を駆
除する必要があることが示されたが、一方で、ブルーギルの 1 歳魚が、ブルーギルの再生産を抑制す
る可能性も示された。このことから、1 歳魚はある程度共食いをさせた後の 11 月以降に集中的に駆除
を行うのが良いと思われる。しかし、これを実現するためには、冬季の蝟集条件の解明や、そこで利
用できる効率的な捕獲技術の開発が重要となる。在来魚については、2011 年現在で回復傾向に至って
いない。曽根沼においてオオクチバスの抑制が可能となったのは近年のことであり、今後オオクチバ
スが抑制されている環境下での在来魚の動態を 産卵や仔稚魚期を含めて詳細に把握 する必要がある。
また、あわせて在来魚の生息密度がどの程度になれば、ブルーギルを抑制しうるのかを天然水域で確
認することが更に重要となってくる。
5. 引用文献
Pollock, K. H. and M. C. Otto. 1983. Robust estimation of population size in closed animal
populations from capture-recapture experiments. Biometrics, 39: 1035-1049.
大山明彦・井出充彦. 2002. 曽根沼におけるブルーギル稚魚の蝟集について. 平成 13 年滋賀県水産試
験場事業報告: 128.
井出充彦. 2004. 在来魚によるブルーギルの卵または浮上前仔魚の捕食. 平成 15 年滋賀県水産試験場
事業報告: 100.
大山明彦. 2006. 冬季における外来魚の分布特性-水温との関係. 平成 17 年滋賀県水産試験場事業報
告: 53.
井出充彦. 2007. 小型ビームトロール網で推定した琵琶湖の外来魚の生息状況. 平成 18 年度滋賀県水
産試験場事業報告: 50.
片野
修・坂野博之. 2010. 生き魚を餌として用いるオオクチバスの釣り方とその駆除効果.保全生
態学研究, 15: 183-191.
上垣 雅史・金辻
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宏明・西森 克浩(滋賀県水産試験場)
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