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アメリカのアジア政策−アジアはどう変わったか
2005 年度第 1 期 アジア理解講座「アメリカのアジア政策−アジアはどう変わったか」 アメリカのアジア政策−アジアはどう変わったか 毎週水曜日 全7回(5月18日∼6月29日) 国際交流基金国際会議場 ●コーディネーターからのメッセージ 21 世紀の世界は、自由と民主主義を軸に世界を変革するというヴィジョンを掲げ 2001 年に誕生し たブッシュ政権の外交を軸にして、全く新しい時代に突入した観があります。同年 9 月 11 日の対米 テロ攻撃は、ブッシュ政権の使命感に具体的な形を与えました。2005 年からブッシュ政権の二期目 がスタートしたことにより、アメリカの世界戦略はどのような展開を示すことになるでしょうか。 以上のことは、今日世界中の人々にとって他人事ではない重要な問題で、私達アジア人ももちろ ん例外ではありません。しかし、ブッシュ政権の関心はかなりの程度グローバルな次元にとどまって おり、いわゆる地域政策と呼べるものがどれほどあるのか、日常的にあまりよく伝わってきません。本 講座では、今日のアメリカのアジア政策を理解する手立てとして、じっくりと戦後の展開を概観し、そ の鳥瞰図を描いてみたいと思います。 第二次世界大戦後、そして冷戦中のアメリカの地域研究とその成果を反映した地域政策には、濃 密な詳細と壮大な体系が備わっていました。それが、良い意味でも悪い意味でも、私達アジアの現 実を様々に形作ってきたことは周知のとおりです。本講座でアメリカの一連のアジア政策を振り返り、 今日のアジアを考える一助としていただければ幸いです。 (添谷芳秀) 第 1 回 5 月 18 日(水) 導入−アジア政策全般 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 添谷 芳秀 戦後アメリカの外交が東アジアをどのように変えてきたのかを概観します。考察の視角としては、常 に世界戦略の一環として東アジアを捉えてきたアメリカの思惑と、東アジア諸国の独自の衝動との間 のギャップに注目したいと思います。戦後東アジア地域および諸国に存在する様々な葛藤は、かなり の程度そのギャップに由来するといえます。 限られた時間でやや駆け足的にならざるを得ませんが、アメリカの政策によって東アジアの構造変 動が引き起こされた時期を中心に、以下のようなテーマを時系列的に取り上げる予定です。(1)戦後構 想のなかの東アジア、(2)冷戦の発生と東アジアの分断、(3)米中和解の意図と影響、(4)「ポスト・ベトナ ム戦争」の東アジア、(5)冷戦の終焉と天安門事件の影響、(6)過渡期としての「ポスト冷戦」。 第 2 回 5 月 25 日(水) アメリカ外交をめぐる国内政治 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 久保 文明 アメリカの外交を理解しようとする際には、その国内政治をまず理解することが不可欠である。世論 の影響力が強く、また議会の発言権が大きい。条約の批准に上院議員の三分の二の賛成が必要とさ れているのは、その代表例であろう。さらに、予算面から、外交に影響力を行使することもできる。大統 領候補ですら選挙を意識せざるをえない。利益団体は、政党・議会を通じて影響力を発揮することが できる。逆に見ると、国務省がわが国の外務省ほど大きな力をもっていないことにもなる。 近年、アメリカの二大政党はそのイデオロギー的な違いを鮮明にしつつあり、それにともなって民 主・共和両党の外交政策も相違を大きくしてきた。また、たとえばアメリカの対中国政策を理解するた 1 2005 年度第 1 期 アジア理解講座「アメリカのアジア政策−アジアはどう変わったか」 めには、まず国内のさまざまな利益団体や外交専門家たちがどのような立場をとっているかを把握す る必要がある。本講義では、これらの点について解説していきたい。 第 3 回 6 月 1 日(水) アメリカの対中政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 高木 誠一郎 第2次大戦終結により国民党と共産党の協力体制が綻び始めると、米国は中国を安定勢力とし、ソ連 の影響力のアジアへの伸張を防止する為に、両者の関係を調停した。しかし1946年には国共の内戦が 再発し、その間欧州では米ソの冷戦が本格化した。従って、内戦が共産党の勝利に終わり、1949年10 月に共産党主導下の中華人民共和国が成立しても、米国は台湾に逃走した国民党政権を全中国の正 当政府として承認し続け、1950年代には安全保障条約ネットワーク等による中国封じ込めを図った。し かし、1960年代中頃から中ソ対立が深刻化していく中で、ベトナム戦争泥沼化からの脱却と対ソ・デタン ト遂行上のテコを模索していた米国は1970年代に入ると対中接近に転換した。その後米ソのデタントが 破綻する中で中国は米国にとって「暗黙の同盟国」となった。ところが、1980年代末から90年代初めに かけて相次いで起きた大変動により、中国は米国対外戦略の基本目標である、安全保障、経済的繁栄、 人権擁護・民主化促進の全てにとって深刻な問題を提起することとなった。すなわち、天安門事件は中 国を人権状況・民主化に関して容認しがたい存在とした。それに続く冷戦体制の崩壊により「暗黙の同 盟国」の必要性は消滅した。1992年以降の中国の高度成長は市場および投資対象としての中国の重 要性を大幅に高めた。これら3つの要因をどの様に組み合わせていくかが冷戦後の米国の対中政策の 中心的課題となったのである。そして9.11テロ以降この3つの要因のバランスに更に新たな変化が生じ ている。 第 4 回 6 月 8 日(水) 朝鮮半島政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 村田 晃嗣 主として安全保障問題の観点から、ブッシュ政権一期目のアジア政策を朝鮮半島問題を中心に論 じた上で、二期目の政策との継続性や変化の可能性について検討する。さらに、朝鮮半島問題と日 本との関係、日本の対応についても議論したい。また、日米同盟と米韓同盟の構造や性格の相違に ついても理解を深めたい。 第 5 回 6 月 15 日(水) 東南アジア政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 藤原 帰一 第二次大戦後、植民地帝国の後退と入れ替わるようにして東南アジア地域に勢力を拡大したアメリ カは、植民地として統治することなく、しかしイギリスと比べてもはるかに大きな軍事的・政治的影響力 をこの地域にふるうことになる。そして、すでに国民国家の形成を終えた地域で展開したヨーロッパの 冷戦とは異なり、東・東南アジアでは植民地からの独立と国民国家の形成が課題となっていただけに、 支配する相手が誰なのか、それ自体が問われてしまう。冷戦の展開はナショナリズムの高揚と不可分 の関係に立ち、国民国家のモデルを何にとるか、社会主義をモデルとし、中国・ソ連との政治的連携 を重視するのか、あるいは資本主義経済を維持し、アメリカ、並びに旧宗主国との関係を重視するの かが、中国革命が各地に波及する過程において各国国内で争われることになる。このアメリカの進出 と各国における国民国家形成の蹉跌の交錯する地点からアメリカと東南アジアの関わりを考えてみた い。 2 2005 年度第 1 期 アジア理解講座「アメリカのアジア政策−アジアはどう変わったか」 第 6 回 6 月 22 日(水) アメリカの対欧州政策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 岩間 陽子 アメリカ文明は、紛れもなくヨーロッパ文明の落とし子であるのだが、その出自からヨーロッパ文明に 強く反発し、それへのアンチテーゼとして自己のアイデンティティを確立してきた。外交政策に関して も、「旧世界」とはまったく異なる新世界を建設しようとする願望を内在していた。20 世紀に入りヨーロッ パにおいて大戦が起こり、アメリカは「旧世界」に呼び戻された。しかしアメリカは、古いゲームのルー ルに従うのではなく、新しい世界政治の原理を打ちたて、アメリカ大陸を自らの原理に基づき征服し、 民主化してきたように、外部世界をもまた、「民主化」ミッションの対象にしようとしていった。20 世紀のヨ ーロッパは、アメリカにとっては「軍国主義」、「秘密外交」、「勢力均衡」、「ファシズム」、「共産主義」と 戦い、民主化を達成する過程であった。このミッションがヨーロッパ大陸においてほぼ完了された今、 アメリカの目は世界の他の部分へと向き始めている。 第 7 回 6 月 29 日(水) 対日政策および総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 添谷 芳秀 ブッシュ政権誕生後、とりわけ2001年の「9・11テロ」後のアメリカ外交とその東アジアへのインパクトに ついて考えます。ブッシュ政権は、過渡期の冷戦後こそ、アメリカの価値と利益に沿って、しかもアメリカ の力を最大限に使って世界を変革する好機だという認識で登場しました。その認識こそ、「ネオコン」外 交の特徴だといえます。ブッシュ政権は、最初は手探り状況にあったものの、「9・11テロ」後は、世界戦 略上の明確な目標を定めたようにみえます。 東アジアへの対応は、ある意味見事に世界戦略の一環として位置付けられています。そして、そのこ とが、東アジア固有の諸条件との間に新たな葛藤や矛盾を生み出しています。最終回の講義では、米 中関係、北朝鮮問題を中心とする朝鮮半島情勢、日米同盟、「アセアン+3」を中核とする東アジア地域 主義を取り上げ、ブッシュ政権下のアメリカ外交と東アジア情勢の関係を考えたいと思います。 3 2005 年度第 1 期 アジア理解講座「アメリカのアジア政策−アジアはどう変わったか」 講師紹介 添谷 芳秀(そえや よしひで) (講座コーディネーター) 慶應義塾大学法学部教授 1975 年上智大学外国語学部卒、1987 年米国ミシガン大学で博士号取得。(財)平和安全保障研究所 研究員、慶應義塾大学法学部専任講師、同助教授を経て、1995 年より現職。故小渕恵三首相下の 「21世紀日本の構想懇談会」メンバー、米国東西センター/シンガポール東南アジア研究所/韓国延 世大学/オーストラリア国立大学の訪問教授・研究員等を歴任。現在、日本国際政治学会理事、産業 構造審議会委員、防衛施設中央審議会委員等も務める。専門は東アジアの国際関係と日本外交。著 書に『日本外交と中国』(慶應義塾大学出版会)、Japan s Economic Diplomacy with China (Oxford University Press), 『日本の「ミドルパワー」外交』(ちくま新書)、編著に『日本の東アジア構想』(慶應 義塾大学出版会)等があり、その他日英両語の共著・論文多数。 久保 文明(くぼ ふみあき) 東京大学法学部教授 1956 年東京生。東京大学法学部卒。筑波大学助教授、慶應義塾大学教授、コーネル大学、ジョン ズホプキンズ大学、ジョージタウン大学各客員研究員などを経て 2003 年より現職。アメリカ政治、アメ リカ政治外交史専攻。法学博士(東京大学)。アメリカ学会常務理事。著書に『ニューディールとアメリ カ民主政』(東大出版会)、『現代アメリカ政治と公共利益』(東大出版会)、『アメリカと東アジア』(慶大 出版会)、『G.W.ブッシュ政権とアメリカの保守勢力』(日本国際問題研究所)、『国際社会研究 I 現代 アメリカの政治』(放送大学教育振興会)、『米国民主党の研究: 2008 年政権奪回へ向けての戦略と 課題』(仮題、近刊、日本国際問題研究所)など。総理大臣私的諮問機関「首相公選制を考える会」 委員。 高木 誠一郎(たかぎ せいいちろう) 青山学院大学国際政治経済学部教授 東京大学教養学部卒。スタンフォード大学大学院留学(Ph.D.、政治学)。埼玉大学大学院政策科学 研究科教授、政策研究大学院大学教授、防衛庁防衛研究所第2研究部部長を経て、2003 年 4 月より 現職。専攻は国際政治学、研究分野は中国の外交と政治、アジア太平洋地域の国際関係と安全保障。 最近の主な著作は「中国『和平崛起』論の現段階」(『国際問題』2005 年 3 月)、「中国の『新安全保障 観』」(『防衛研究所紀要』2003 年 3 月)、「米中関係の基本構造」(岡部達味編『中国をめぐる国際環 境』、岩波書店、2001 年所収)、 『脱冷戦期の中国外交とアジア・太平洋』(編著 日本国際問題研究 所、2000 年)。 村田 晃嗣(むらた こうじ) 同志社大学法学部教授 1964 年生まれ。同志社大学法学部卒業。米国ジョージ・ワシントン大学留学を経て、神戸大学大学院 博士課程修了。現在、同志社大学法学部教授。博士(政治学)。専攻はアメリカ外交。著書に『大統領 の挫折』『アメリカ外交』など。サントリー学芸賞、吉田茂賞、アメリカ学会清水博賞、読売論壇新人賞を 受賞。 4 2005 年度第 1 期 アジア理解講座「アメリカのアジア政策−アジアはどう変わったか」 藤原 帰一(ふじわら きいち)東京大学法学部・大学院法学政治学研究科教授 1984 年 3 月東京大学大学院博士課程単位取得中退。東京大学社会科学研究所助手、千葉大学法 経学部助教授、東京大学社会科学研究所助教授を経て 1999 年より現職。著作に『戦争を記憶する − 広島・ホロコ−ストと現在』(講談社 2001 年)、『デモクラシーの帝国 − アメリカ・戦争・現代世 界』(岩波書店 2002 年)、『平和のリアリズム』(岩波書店 2004 年)。 岩間 陽子(いわま ようこ) 政策研究大学院大学助教授 1964 年生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程修了。京都大学博士。1989 年から 1991 年までベルリン自由大学留学。京都大学助手、在ドイツ日本大使館専門調査員などを経て、2000 年 から現職。専門はヨーロッパ、特にドイツの政治外交史、ヨーロッパ安全保障、国際安全保障。最近の 研究テーマは、21世紀の米欧関係、アメリカの同盟関係の将来、21 世紀の国際安全保障のあり方な ど。著書に『ドイツ再軍備』(中央公論社 1993 年)、共著に『ヨーロッパ国際関係史』(有斐閣)論文に 「NATO・EU拡大とドイツ安全保障政策」『国際問題』2004 年 12 月号(No. 537)、「米国の同盟システ ムの新しいかたち−『脅威基盤』から『能力基盤』へ」『外交フォーラム』No. 190(2004 年 5 月)、「国際安 全保障における多国間主義」,『国際政治』133 号(2003 年 8 月)、「浮かび上がる『世代交代』の軌跡 ―ドイツからみたアメリカ像」,アステイオン 59 号(2003 年 7 月)などがある。 5