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DNA鑑定による おうとう果実とその加工品の品種識別
DNA鑑定による おうとう果実とその加工品の品種識別 (農水省受託プロジェクト平成18~20年度) 山形県農業総合研究センター 園芸試験場 バイオ育種科 研究員 髙橋由信 おうとう品種の海外流出問題(平成17年) ① オーストラリアへの「紅秀峰」違法流出 県内の果樹農家から入手した「紅秀峰」の 枝がオーストラリアに持ち出され、日本に 輸入されそうになった (他者への譲渡や販売は禁止) タスマニア産 輸入「佐藤錦」 ② 中国への違法流出 中国でも県育成の品種が流出し、 苗が栽培され、販売まで行われていた 中国の苗木販売業者HP(現在は閉鎖) 違法流出したおうとうの逆輸入差し止めや、品種偽装防止のため におうとうの品種識別技術を開発する必要がでてきた おうとうの形態比較 「山形美人」 「佐藤錦」 「高砂」 食味はもちろん、色の付き方、果実や核の形など、それぞれ の品種は形態的に異なる ・・・ が、一般的には形態だけから識別 するのは非常に難しい DNAの違いを利用した品種識別法を開発 試験期間後半(平成19年~20年度)での成果 <試験期間前半で達成> ○ おうとう80品種のDNA品種識別技術確立 ○ おうとう生果実の品種識別マニュアルを作成 <試験期間後半で達成> ○ DNA品種識別に用いる領域の塩基配列を解読 ○ 生果実の品種識別法を改良し、果実加工品でも 品種識別できる方法を開発 果実加工品の例 → ドライチェリー、シロップ付け、ジャム・・・etc DNA品種識別の方法(通常検査) おうとうには、品種によってDNAの長さが異なる領域が存在する → 領域周辺をPCRという方法で増幅して、品種間で比較する ・・・増幅範囲 対象領域 分析例 佐藤錦 A 紅秀峰 A B ・・・「佐藤錦」ではピークAが検出 ・・・「紅秀峰」はピークAの他、 ピークBも検出 このような領域を10領域分調査すると80品種分の識別が可能 DNA品種識別の方法(最終精密検査) 係争の際の最終かつ最大の証拠・・・10領域のDNA配列 佐藤錦 ……CTCACGCTATTT CTCGGTCGCTTCCTCACACT CACACCTCCACACACACACACACAC ACACACACACACACACTCGCTTTATAT CTCGTCGTCTTCAATCTATCTAGGGTTT TATAAATTCGGACCCAAATTCGATTTG AGCTCCCAATTCGCCATCGCCTTGATT GAATTGTGTATGTGTATCAAGATGG AGTCTGATAATTCGTGGAGC AGTCTCTTCTCGAGCT CTTCGTCGAGG …… 紅秀峰 品種識別に用いる10領域のDNA配列を解読したことで、 係争の際の有力な証拠として提出が可能 おうとう果実加工品からのDNA抽出 果実加工品の品種識別は難しい ・ 添加物(特に糖)によるDNA抽出の阻害 ・ 果実が新鮮でない ・ DNAが加工過程で破壊、流出 ○ DNA抽出方法の検討 図 加工品から抽出したDNA 1-4:ドライフルーツ 5-6:チョコレート系 7:フリーズドライ 8-10:シロップ漬け 果実加工品からも 安定的にDNAを抽出 できる方法を見出した おうとう果実加工品のDNA品種識別 ○ さらなる問題 果実加工品のDNAは加工過程で壊れており、 対象領域を増幅できないことが多い 改良 増幅範囲を短くし、壊れたDNAでの増幅を可能にした <従来> 対象領域 <改良> ・・・増幅範囲 おうとう果実加工品のDNA品種識別 増幅する範囲を短くすることで、加工品のピークが検出できる 今後の展望① 品種識別マニュアル完全版の作成 品種識別技術が、 「手引書(マニュアル)通りに解析を行えば、 きちんとした実験結果がでる」 ことをISO認定機関に認証してもらう <参考> 認証審査中のおうとう品種識別マニュアル 1. 適用範 囲 SSR マーカー名(マーカー略称):BPPCT012 日本国内におけるおうとう(P.avium L.)生産量は約 18,000tあり、このうち約 7 割が山 SS R マー カ ーに よる お う とう の品 種識 別 マニ ュ アル DDBJ アクセッション番号:AB476767 形県(12,000t、71%、H20 年度)で生産されている。一方、おうとうの輸入は平成 19 年 至適アニーリング温度:55℃ 度に 9,374tあり、99%以上がアメリカ産で品種は「ビング」が大部分を占める。山形県で フォワードプライマー:ACTTCCATTGTCAGGCATCA 栽培されているおうとう品種の栽培面積を表1に示す。「佐藤錦」が7割以上を占めるが、 リバースプライマー*:gtttcttGGAGCAACGATGGAGTGC 近年「佐藤錦」を補完する品種として、山形県育成の登録品種である、 「紅秀峰」 、 「紅さや プライマーの由来:Peach か」などの新品種の作付けが増加している。 佐藤錦基準対立遺伝子サイズ(A):152 + 8* bp 近年問題となっている品種偽装表示や登録品種の海外流出は、おうとう産地に大きな影 響をおよぼしている。そこで、消費者に対する食の安全・安心と産地保護のため、DNA マ 佐藤錦基準反復モチーフ:(CT)18(CA)12 参考文献:Dirlewanger et al. (2002) Development of microsatellite markers in peach ーカーを利用し果実1粒からでも品種識別できる技術を開発した。本技術を用いることで、 [Prunus persica (L.) Batsch] and their use in genetic diversity analysis in 国内品種及び海外からの輸入おうとうなど、表2に示した 80 品種の識別が可能である。 peach and sweet cherry (Prunus avium L.). Theor. Appl. Genet. 105:127-138 塩基配列**: 表1 平成18年度おうとう品種別栽培面積 品種 佐藤錦 ナポレオン 紅秀峰 高砂 紅さやか 香夏錦 ジャボレー 紅てまり 南陽 大将錦 その他 合計 栽培面積(ha) 2292.0 292.8 249.8 70.1 55.9 20.6 18.2 18.0 15.4 12.8 54.4 3100.0 ACTTCCATTGTCAGGCATCAAAATGGGTTGATTTTGCACCTCTCTCTCTCTCTCTCTCTC 比率(%) 73.9 9.4 8.1 2.3 1.8 0.7 0.6 0.6 0.5 0.4 1.8 100 TCTCTCTCTCTCTCTCACACACACACACACACACACACATACAGACACACAAGACAACA CTAACCTTCAGTTTGGCACTCCATCGTTGCTCC 佐藤錦と紅秀峰の波形図: 154 (平成 18 年度特産果樹生産動態等調査より) 山形県 農業総合研究センター (髙橋由 信 園芸試験 場 高品善) 2009 年 8 月 表2.識別可能品種 1 佐藤錦 2 紅秀峰 3 紅きらり 4 紅さやか 5 紅てまり 6 紅ゆたか 7 寿錦 8 大富一号 9 月山錦 10 黄玉 11 蔵王錦 12 ジャンボ錦 13 秀雅錦 14 正光錦 15 大将錦 16 高砂 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 天香錦 南陽 八興錦 富士山 芳玉 北光 マドンナの瞳 山形C3号 山形C6号 山形C8号 山形C9号 紅灯 紅蜜 佳紅 コンパクトステラ ジャボレー 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 セネカ ナポレオン バン ビング レーニア Adriana Alpha Bada Bell Agatha Burlat Celesta Copas White Du Righi Emperor Francis Giorgia Inge Glorious Stark Gold 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 Hedelfingen Hederfinger Riesen Kent Bigarroau Korkovanyi Csersznye Merton Glory Moreau Norwegian Peggy Rivers Red Glory Rodmershaw Seedling Rustina Sapikisa Spaulding Starking Sue Sweet Heart 152 佐藤錦 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 Uta Gaiant Vega Velvet Victor Vitoria Victoria White Elton Yellow Spanish 11w-26-50 11w-26-58 13s-41-55 C3-5 C3-91 V66161 V69068 V690620 紅秀峰 152 154 * gtttctt は、波形を安定させるためのテイル配列である。 ** 赤文字は反復のモチーフ、太字下線はプライマーを示す。 今後の展望② 多検体分析、県オリジナル品種識別 ○多量の検体を識別する場合 (1つ1つ解析するのはコスト面 から現実的でない場合) 何検体かまとめて分析しても 異常個体を検出できるか検討中 ○おうとう以外にも県で育成したオリジナル園芸品種はたくさんある 県単事業 「県オリジナル品種のDNA品種識別技術の開発」(H20-22) 図 いちご「おとめ心」や「サマーティアラ」の品種識別 図 りんご「ファーストレディ」の品種識別 本研究は農林水産省受託プロジェクト 「食品・農産物の表示の信頼性確保と機能性解析のための基盤 技術の開発 」 の一環として、平成18年から20年にかけて行いました。 今後も、県産園芸品種の権利保護のために試験を進めて参ります。 ご清聴ありがとうございました。