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マダム・マロリーと魔法のスパイス

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マダム・マロリーと魔法のスパイス
フランス英語
小林めぐみ
映画タイトル
The Hundred-Foot Journey(マダム・マロリーと魔法のスパイス)
DVD 情報
日本で入手可/英語字幕あり (122 分)
製作年
2014 年 (アメリカ)
監督
ラッセ・ハルストレム
映画について
スティーブン・スピルバーグ監督とアメリカでトークショーの司会者と
して有名なオプラ・ウィンフリーらが製作
主要キャスト
ヘレン・ミレン(マダム・マロリー役)
、オム・プリ(パパ役)
、マニシ
ュ・ダヤル(ハッサン役)
、シャルロット・ルボン(マルグリット役)
、
ミシェル・ブラン(町長役)ほか
あらすじ
故郷ムンバイを離れ、ヨーロッパでレストラン開業を目指すカダム一家
は、南フランスの片田舎で車の故障で困っているところを地元のレスト
ランで働くマルグリットに助けられ、この地でインド料理店を始めるこ
とを決意する。しかし店の向かいには格式あるフランス老舗料理店があ
り、女主人マダム・マロリーらはカダム一家のレストランにあの手この
手で嫌がらせを仕掛ける。そんな中カダム家の次男で料理の名人である
ハッサンは、マルグリットと交流を深め、フランス料理に没頭していく。
そしてハッサンの才能を認めたマダム・マロリーはハッサンを自分のレ
ストランで雇うことにするが…
英語の特徴
スウェーデン人監督がメガホンをとり、イギリスの大女優ミレン、イン
発音・文法・語
ドの往年の俳優プリ、アメリカ生まれのダヤル、カナダ(ケベック)出
彙
身のルボン、その他フランス人、インド人俳優など、国際色豊かなキャ
ストを迎え、フランスを舞台としながらも英語を主とした台詞で構成さ
れた興味深い作品です。そのため、フランス英語だけでなく、インド英
語もたくさん聞くことができますが、ここではフランス英語に焦点を当
てて紹介します。
マダム・マロリー役のミレンは、フランス語が堪能で、本人はフラ
ンス語で映画を撮ることを希望していたそうですが、ディズニーが製作
会社ということもあり、結局ほとんどの台詞はフランス語の混じった英
語となったそうです。したがってマダム・マロリーの英語は、英語のネ
イティブ・スピーカーであるミレンがわざとフランス語のアクセントを
取り入れて話しているものです。そのためオーセンティックなフランス
英語とはいえませんが、逆にフランス英語の特徴が意識的に表現されて
(c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会
http://eureka.kpu.ac.jp/~myama/worldenglishes/
いて、フランス英語の特徴が浮き彫りになっているともいえます。特に
these and that’s など th (/θ /、/ ð /)の発音があまりにも zees and dats にな
らないように注意したそうですが、裏を返せば英語の/ θ /、/ ð / を[z]や
[d]などで代用してしまうことがフランス英語の代表的な特徴として認
識されていることがわかります。映画の予告編にも出てくる次のシーン
(しなびたアスパラガスを出したことについてスタッフを叱責するシ
ーン)の台詞でその他の音声の特徴も見てみましょう。
“Last night, we served this. … In this restaurant, the cuisine is not an old,
tired marriage. It is a passionate affair!” (昨晩こんなものをお客様にお出し
しました。… このレストランでは、料理とは老いて疲れ切った結婚生
活ではないのですよ。料理とは情熱の証です!)
フランス語の/r/の発
音は、有声口蓋垂摩擦音[ʁ]ですが、この音が marriage の/r/で表現され
ています。restaurant については、
「レストラーン」と rant の部分が鼻音
化し、語末の/t/はフランス語に則って省略されています。
映画のみどこ
外国の食べ物を味わうというのは異文化体験の一つでもありますが、こ
ろ
の映画ではフランスとインドの食の接触を通して人と人が結びつく様
子が描かれています。
(ハルストレム監督は 2000 年の映画『ショコラ』
でも食べ物を通して人との垣根の取り払っていくという同じようなテ
ーマを扱っています。
)もちろん異文化同士の接触に摩擦はつきもので、
マダム・マロリー(老舗フランス料理店)とカダム家父(新参インド料
理店)は、真っ向から対立し、子どもじみた争いを繰り広げます。後味
の悪い事件も起こりますが、マダム・マロリーとカダム父の争い自体は、
両名優の魅力もあって、この映画の最大のスパイスになっています。双
方の争いに巻き込まれた市長さんが、仲裁役をしながら、ちゃっかり料
理を楽しんでいるところも微笑みを誘います。
衝突の雪解けは、カダム家次男ハッサンが作ったインドのスパイスを
利かせたオムレツで象徴的に表現されています。(天才的な料理の才能
を持つというハッサンのオムレツを実際に試食できないのが残念なと
ころです!)フランス料理とインド料理を融合させたこのオムレツをき
っかけにハッサンはマダム・マロリーの店で修業を始め、200 年を誇る
フランス料理の伝統的レシピにインド風のスパイスを加えてミシュラ
ンの 2 つ星を獲得するという成功を収めます。ハッサンが道を隔てた向
かいのレストランに修行に向かうシーンはやや大げさですが、原題「100
フィートの旅」のとおり「異国」への旅立ちとして象徴的な場面です。
(c) 世界の英語を映画で学ぶ研究会
http://eureka.kpu.ac.jp/~myama/worldenglishes/
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