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ウェブ上の掲示板を用いた英語指導

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ウェブ上の掲示板を用いた英語指導
ウェブ上の掲示板を用いた英語指導
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ウェブ上の掲示板を用いた英語指導
福 田 哲 哉
English Activities Using the Bulletin Board on the Web
Tetsuya Fukuda
〈要旨〉
大学における英語科目において、インターネット上の掲示板で発言をする課題を出したところ、一般の掲
示板を利用した年よりも大学の掲示板を利用した年の方が、発言回数が減少してしまった。学生は大学のサ
イトを訪れる機会は多いはずなので、大学の掲示板には馴染みを持ちやすいだろうし、またセキュリティの
面でも安心感を持つはずである。こういった利点にも関わらず発言数が減少したのには、掲示板の使用開始
時期、アクセスする際の難しさや手間が大きく関わっているのではないかと考えられる。
〈キーワード〉
英語、ライティング、リーディング、ウェブ掲示板(BBS)
1.はじめに
筆者は獨協大学全学共通カリキュラムにおい
て担当している、2006年度と2007年度の英語講読
(Basic Reading Strategies)の一部で、インターネッ
ト上に各クラス専用に設けた掲示板に英語で書き
込みをするという課題を課している。この研究報
告では、その活動の概要と両年度における学生の
取り組みの差異について論じたい。
2.概要
2.1 活動の概要
筆者は獨協大学において全学共通カリキュラ
ムの非常勤講師として英語科目を担当している
が、2006年度と2007年度の一部のクラスで、イン
ターネット上の掲示板において英語で話し合う課
題を出している。両年度で共通する三クラスを、
比較の便宜上A, B, Cと呼び、この論考において
は2006A、2007Bといったように表記することと
する。なお両年度のA, B, Cのクラスは全て、学
部学科やレベルは共通しており、例えば2006Cと
2007Cは、同じ学部で設定も同一である。また各
クラスの学生数は以下の通りで、2006年度と2007
年度において大きな差はなかった。
表1 掲示板の英語ライティング活動を行ったクラスの学生数
2006年度
2007年度
クラスA
24
27
クラスB
28
30
クラスC
27
27
筆者がインターネットの掲示板上でのライティ
ング活動を取り入れることにしたのは、授業時間
以外にも英語の読み書きの機会を提供するため
であり、それもクラスメートとのディスカッショ
ンにすればよい動機づけになると期待したもので
ある。獨協大学の全学共通カリキュラムの英語科
目においてはアルクネットアカデミーによるリー
ディングの自習課題が用意されているが、この掲
示板上の課題はそれに加えて、自学自習による
リーディング力とライティング力の向上を目指し
ている。
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情報科学研究
これらのクラスでは授業内でも、ライティング
力の向上を目指して、二週に一回10∼15分程度の
時間を取り、テーマに基づいた作文を課してそ
れを添削するという活動を行っている。リーディ
ングの授業においても、一部の時間をライティン
グやプレゼンテーションといったアウトプット活
動に充てた方が英語力全体の伸びが期待できる
し、アウトプット活動によって培われる英文に対
する注意力がリーディング力向上につながるこ
とも自明であろう。しかしこういった添削によっ
て誤りを正すやり方だけではライティング力は
伸びないことは、既に1960年代には指摘されてい
た(Peregoy and Boyle, 2001, p.203)1)。また英語学
習においては、学習者がある程度英語を使ってコ
ミュニケーションができるという印象を持つとい
う「有能さ」(competence)
、学習者がある程度自
分の行動を自分自身でコントロールしながら学習
を進める「自己決定性・自律性」
(self-determination
/ autonomy)
、教師、親、友人など「重要な他者」
との関係を求める内発的な社会的欲求である「関
係性」(relatedness)が重要であるということ(村
2)
野井, 2006, pp.119-121)
を考慮すると、発言の方
法や内容に自由さがあり、クラスメートとの関係
性も持てる掲示板を用いたライティング活動は、
有効な学習法であると言えるだろう。また他の学
生の明らかな間違いを含んだ英文を読むことによ
り、英文を書く際の心理的障壁を低くすることも
狙っている。
具体的には、まず春学期の第一回目の授業にお
いて「自己紹介」を英文にて書く活動を行う。学
生が実際に書き始める前に、講師は配付資料にて
自分を自己紹介した見本を示し、また学生が英語
で自己紹介を行うのに役立つ表現を二十ほど示す。
さらに英文でパラグラフを構成する際の基本ルー
ルについても、簡単に指導する。その後学生は各
自で、授業時間の中で15分の制限時間以内に英語
で自己紹介を書く。講師はそれらの自己紹介を回
収し、翌週までに全てを添削して返却する。
学生は添削された自己紹介を読み、自分でもさ
らに書き直しをした上で、インターネット上の各
クラス専用掲示板にアクセスし、打ち込む。こ
れらの掲示板にはパスワードの設定等により当該
クラス以外の者はアクセスできないようになって
いるが、それでも詳しい住所や電話番号、写真そ
の他の個人情報に類するものはアップしないよう
に注意した。その数週間後に、多くの学生が自己
紹介を掲示板上にアップした頃合いを見計らって、
再び掲示板にアクセスして、クラスメートの自己
紹介を読み、自分との共通点やコメントしたい点
が見つかったら、それに対して返信するように促
す。この際にも、講師が見本を示す。あくまで英
語の練習としての掲示板なので、批判めいた発言
をすることは慎むように指導した。ただし当報告
のデータとしては、自己紹介をアップした学生数
のみを対象としている。
2.2 掲示板の概要
2006年度に用いた掲示板はteacupという業者の
無料掲示板である。このような無料掲示板の業者
はいくつかあるのだが、筆者が以前勉強会の連絡
に用いた際に特に問題がなかったし、大学生がク
ラスで使う際に好ましくない広告もない、という
理由で選択した。無料の掲示板は保存される発言
の回数が少ない、ツリー状の表示にするのには料
金がかかる、その他カスタマイズできる範囲が限
られる、などという欠点があるのだが、英語の練
習として用いる分には無料のものでも十分にその
役目を果たしたと思う。なお現在これらのクラス
で用いた掲示板はいずれも、過去ログは保存して
あるものの、ウェブ上では閉鎖の状態にしてある。
この報告を書いている時点で2007年度のクラス
で用いている掲示板は、獨協大学のウェブサイト
上の「講義支援システム」のものを利用している。
この掲示板は大学が運営しているので講師にとっ
ても学生にとってもセキュリティの面で安心でき
るだけでなく、各項目ごとにツリー状に表示され
るので発言もしやすいし、後で改めて特定の発言
を探して読もうとする際にも探しやすい。しかし
同サイトの「講師紹介」によれば2007年9月20日
現在、全学共通カリキュラムに属している語学の
非常勤講師でこれを利用しているのは、筆者だけ
である。
3.分析
大学の掲示板を用いることには既述したような
メリットがあると考えられるものの、実際には一
ウェブ上の掲示板を用いた英語指導
般の掲示板を使用した2006年よりも大学の掲示板
を用いた2007年の方が、どのクラスにおいても発
言の量は減少してしまった。図1は2006年の、図
2は2007年の、それぞれ掲示板が利用できるよう
になってからの発言数の推移である。両年度では
掲示板に発言がアップできるようになった時期が
異なるので、発言が可能になった日の翌週の金曜
日を一週間後とし、以下一週経過したごとの発言
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数の累計を示した。また図3は、各年度の三クラ
スをまとめて、自己紹介をした学生のクラス登録
者に占める割合の推移を示した。このデータから、
2006年度と比べると2007年度は一週目から多くの
学生が自己紹介をアップしているが、増加の割合
が早い時期に鈍化し、その後頭打ち状態になって
いることが分かる。
図1 2006年各クラスの自己紹介をした人数の累計の推移
図2 2007年各クラスの自己紹介をした人数の累計の推移
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情報科学研究
図3 2006年度と2007年度の発言者の割合の推移
このように2007年度の方が発言数が減少したこ
ラスにおいては授業が行われる教室がパソコン教
とに対する要因として予想されるものを、以下に
室である点を利用して、スクリーンにパソコン画
列挙することにする。
面を映し出して、筆者が実際にそのクラスのサイ
(1)掲示板にアクセスできるようになる時期が遅
トにアクセスする様子を示した。さらに各クラス
い。
で、VPN(仮想プライベートネットワーク)接
業者の掲示板については、ウェブ上に掲示板を
続を利用すれば、自宅のパソコンからも講義支援
設定したらすぐに使い始めるのが可能なので、講
システムを利用できる旨も説明した。筆者もこの
師があらかじめ掲示板を用意しておきさえすれば、 接続方法を用いて、自宅のパソコンから大学の講
既に四月の第一回目の授業で、学生に使い方を説
義支援システムにアクセスしているが、わずかな
明することができる。それに比べると大学のサイ
IT知識があれば、設定に手間取るというほどでは
トは履修科目が確定してからしかアクセスできな
ないように思われる。また数は確認していないが、
いので、学生が授業内で自己紹介を書いて添削を
実際に学生の側でも、VPN接続を利用して自宅か
受けてからやや時間が経ち、記憶や意欲が多少あ
ら掲示板に発言した、という声があった。しかし
せている可能性がある。また履修科目が確定する
VPN接続が多くの学生に、難しすぎるとか手間が
五月には、すでにクラス内でうち解けた雰囲気も
かかるといった理由で敬遠された可能性は否めな
あり、英語の授業における活動の一部とはいえ自
い。
己紹介をする動機が薄れているということも考え
(3)掲示板にアクセスするまでの手間がかかる。
られるだろう。
2006年度の場合には、掲示板のウェブサイトの
(2)学内のパソコンからしかアクセスできない。
アドレスさえ分かっていれば、あとはパスワード
業者の掲示板には学外でも自宅等のパソコンか
を打ち込むだけで、自分のクラスの掲示板にアク
ら容易にアクセスできるが、大学の掲示板の場合
セスすることができた。しかし2007年度には、さ
には、基本的には学内のパソコンルームからア
らにいくつかのステップが必要になった。より具
クセスしなければならない。筆者もこういったこ
体的には、自分のクラスの掲示板に至るまでの段
とが物理的にも心理的にも障害になる可能性があ
階は、2006年度には二段階であったのに、2007年
ることは予見していたので、2007年度の各クラス
度には六段階のステップが必要になった。
においてはクラスのサイトにアクセスする手順を、 2006年度…2段階
資料を配布して詳しく説明した。また2007Aのク
・掲示板のサイトにアクセスする
ウェブ上の掲示板を用いた英語指導
・パスワードを打ち込む
2007年度…6段階
・大学のサイトにアクセスする
・「授業関連」という項目をクリックする
・「講義支援システムトップページ」に行く
・パスワードを打ち込む(初回は設定が必要)
・自分のクラスのサイトに行く
・そのクラスの掲示板に行く
もちろんこれら以外にも、講師の説明の分かり
やすさの差があった、クラスメートの間で積極的
にこの活動に参加しようという機運が異なってい
たなど、サイトの使い勝手以外の要素が影響を及
ぼした可能性は十分ある。しかし使用開始時期や
サイトにアクセスする手間暇などのサイトそのも
のに関する要因が、クラスの生徒数やレベル等の
条件は変化がなかったにもかかわらず、2007年度
には掲示板の発言が大幅に減少した事実に、何ら
注
1) Peregoy, S.F. and Boyle, O.F. : Reading, Writing, &
Learning in ESL, Addison Wesley Longman, New York
(2001).
2) 村野井仁:第二言語習得研究から見た効果的な英
語学習法・指導法,大修館書店(2006)
.
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かの関与をしたと考えるのは合理的であろう。
4.結論
業者の掲示板よりは大学の掲示板の方が、安全
で、見やすく、かつツリー状で使いやすいという
明らかな利点があるにもかかわらず、実際には大
学の掲示板を使った年の方が、いずれのクラスも
発言回数は大幅に減少してしまった。これには使
用開始時期、サイトにアクセスする手間などの要
因が関与しているように思われる。
しかし学生の個人情報保護がより期待できる点
や、無料でツリー状の掲示板を使える点を考えれ
ば、これからも大学の掲示板を利用する意義は
大きい。これらはアクセス方法の説明等を改善し、
それによって学生の発言の意欲に変化が見られる
かどうかを観察していきたい。
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