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中核方式の日本地誌の授業開発とその問題点

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中核方式の日本地誌の授業開発とその問題点
1
滋賀大学教育学部紀要 人文科学・社会科学
No. 61, pp. 1-14, 2011
中核方式の日本地誌の授業開発とその問題点
松 田 隆 典
A new model of regional study of Japan
in the grade of the junior high school
Takanori MATSUDA
1. 問題の所在
新学習指導要領1)の中学校社会科地理的分野において、新たに登場した学習内容として中核方式の
日本地誌がある。中核方式の日本地誌は事象間の関連性を考察しながら、「日本の諸地域」について
学ぶことを目的とする。中学校社会科に地理的分野などの区分が登場する昭和 30 年(1955)改訂以
降の 20 世紀後半の日本地誌学習は概ね網羅的であり、静態地誌的であったのに対して、新しい中核
方式の日本地誌は事象間の関連性を重視して動態地誌的に学ぶ。10 年前の地誌学習の内容に戻った
と安易に考えるのは明らかに誤りである。
地理的分野の「目標」の中で事象間の関連性について言及されてきたが、今まで「内容」の中でそ
れが具体的な方法を示して展開されたことはなかった。静態地誌から動態地誌への転換は、むしろ
21 世紀初頭のゆとり教育の時代に方法知重視の地理教育を経験したことを通じて、今次の改訂に反
映されているかのように思える。
筆者は教員養成課程において中学校社会科の授業を念頭に置いた授業科目「地誌学」を開講し、そ
の中で 2009 年度から中核方式の日本地誌の意義について解説したあと、受講生に実際に「日本の諸
地域」の授業開発を求めている。昨年度も同様の講義計画を立てたが、受講生が中核方式の考え方を
理解する段階から授業開発を実施する段階へ向けてスムーズにステップアップできることに配慮して、
具体的な教材開発の手順について説明した。
また、前稿の近江路 57 号(2010)₂)において、地理(的分野)と歴史(的分野)との連携について
学年縦断的に検討し、その例示として「歴史的背景を中核とした考察」について言及した。本稿では
その具体的な授業開発例として、「歴史的背景を中核とした関西地方の考察」に加えて、「他地域との
結びつきを中核とした四国地方の考察」「環境問題・環境保全を中核とした中央高地の考察」につい
て提案するとともに、授業開発を進める際の問題点について論及したい。
2. 学習指導要領の変遷からみた中核方式の日本地誌
授業開発の事例を提案する前に、新学習指導要領における中核方式=動態地誌の導入について、学
習指導要領にみる地理教育の変遷からその意味を少し考えてみたい。
2
松 田 隆 典
₃)
岩田一彦(2003)
によると、戦後(1947 〜 55)の経験主義的な社会科は 1955 年改訂以後内容主
義的な静態地誌に転換し、中学校地理については平成元年(1989)改訂時に事例主義と方法主義(調
₄)
はこれを一部修正して、方法主義の導入を 21 世
べ学習など)が導入されたという。吉田剛(2008)
紀初頭のゆとり教育以降としている。ゆとり教育の時代は事例主義を継承するとともに、「学び方を
学ぶ」方法知重視の地誌学習を志向した。新指導要領における中核方式はこの方法主義を継承しつつ、
網羅的な地誌学習(内容主義)に復帰したといえる。
ところで、新学習指導要領における 7 つの中核となる事象のうち「環境保全」をのぞく 6 つは、
1955 年改訂以降の静態地誌の時期にもみられた。これらの項目は静態地誌的な日本地誌の学習の項
目であって、新学習指導要領における中核となる地理的事象とは趣旨が異なるけれども、そもそも「地
理的事象」とは何かを考える際の有効な指標となると思われる。
昭和 30 年改訂版における「日本の諸地域」の内容には「位置と歴史的背景」「資源と産業」「自然
環境の特色」「交通・集落・人口」「他地域との関係」「地図・統計・資料」の 6 項目が示され、昭和
33 年版・昭和 44 年(1969)版・昭和 52 年(1977)版においても、項目の立て方の違いこそあれ、「地
図・統計・資料」をのぞいて概ね踏襲されている₅)。
事例主義の先鞭をつけた平成元年改訂の学習指導要領の中の「日本の諸地域」においても、「自然
と人々」
「産業と地域」
「居住と生活」
「地域の結びつきと変化」という項目として取り上げられている。
そして、周知のごとく平成 10 年の改訂の日本地誌は数県を選択して学習する事例主義となったが、
日本全体の地域的特色を学習する「世界と比べてみた日本」における 5 つの項目として継承されてい
る。
₇つの事象のうち「環境問題・環境保全」という事象は、「持続可能な社会の構築のために」とい
う説明にもみられるように、明らかに最近の関心動向を反映している。平成 10 年改訂の中学校学習
指導要領にはみえず、おそらく平成元年改訂の高校地理 B の「世界の環境問題」や現代社会の「環
境保全と倫理」などという事項が初出だと思われる。従来から取り上げられてきた公害や産業廃棄物
問題に加えて、最近ユネスコの世界自然遺産にスポットがあてられていることにも影響を受けている
と思われる。
もう 1 つの「歴史的背景」という事象は、用語としては昭和 52 年改訂までの「位置と歴史的背景」
という事項にみられ、なぜか平成元年改訂版において項目としては姿を消す。そして、平成 20 年改
訂の学習指導要領において「日本の諸地域」を考察するための項目として再登場する。昭和 52 年改
訂版まで「位置と歴史的背景」として諸項目の中で最初に掲げられたことは、
「位置」と「歴史的背景」
とが他の項目に前置きされる地誌的記述スタイルを想起させる。したがって今回の改訂で、「歴史的
背景」が特別な意味をもつ「位置」と切り離されて、しかも「自然環境」のあとに地理的事象として
列挙されたことは、動態地誌に歴史地理学的な考察が求められていると考えるべきであろう。
3. 中核方式日本地誌の授業開発の手順
文部科学省による新学習指導要領への解説書₆)の中でも、「歴史的背景を中核とした北海道地方の
特色」と「産業を中核とした中部地方の特色」の 2 つの学習展開例について解説されている。両事例
とも〈地域の特色を示す地理的事象を見いだす段階〉、〈中核とした地理的事象を他の事象と関連づけ
て追究する段階〉、〈追究の過程や結果を表現する段階〉に分けて説明されている。本稿では教員が授
業案をつくる過程を意識して、次の 4 つの段階を想定した。
第 1 段階 地域区分を決定する
通常は北海道・東北・関東・中部・近畿・中四国・九州の7区分を用いるが、学習指導要領ではそ
れ以外の地域区分の可能性を認めている。7 つの中核となる事象を地域ごとに1つずつ選択すること
が示されているから、7 つ以上の地域区分をすることになる。ただし、「日本の諸地域」という大単
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元は 40 〜 50 時間とすると、7 〜 10 のまとまりのある地域を設定することが望ましい。「地誌学」の
授業では 10 地域区分を採用し、1 地域あたりの学習時間を 4 〜 8 時間と考える。10 地域区分のうち
例示した関西と中央高地をのぞく 8 地域から 3 地域を選択し、授業案のためのレポートを作成する。
第₂段階 地域的特色を網羅的・並列的に列挙する
網羅的・並列的な地域的特色は学習指導要領の 7 つの事象を基準にするが、7 つの事象を一部細分
化または統合してもよい。授業で取り上げる特色ある地域は選択した地域よりも小さくなる。
関西地方を例にとって説明しよう。「自然環境」のうち地形は中国山地から続くゆるやかな丹波高地、
四国山地から続く紀伊山地、それらの間の低地群などなり、気候は丹波高地以北の日本海岸気候、紀
伊山地以南の太平洋岸気候、中央部の低地の瀬戸内気候となる。「歴史的背景」は古都京都・奈良な
どの多くの文化財や世界遺産群がある。「産業」は阪神工業地帯や滋賀県などの内陸工業地域との対比、
農業では播磨平野や近江盆地の穀倉地帯、淡路島などの近郊農業が考えられる。「環境保全」は「近
畿の水がめ」といわれる琵琶湖の水質保全などのテーマが想定される。「人口や都市・村落」では京
阪神大都市圏と丹波高地・紀伊山地の過疎地域との対比をあげることができる。「生活・文化」につ
いては関西地域の古い歴史などを背景として、多くの重要伝統的建築群保存地区や伝統地場産業をも
ち、全国的によく知られた祭礼も少なくない。「他地域との結びつき」(本稿では「地域間結合」と略
す)については、京阪神大都市圏の発達した交通網や国の内外を結ぶ高速交通機関を有する。
参考資料として 10 年以上前の(ゆとり教育の時代ではない)旧教科書などを用いるとよいが、21
世紀の現代的な事象をとりあげることも考えねばならない。とくに、地図帳など₇)に掲載されている
主題図はたいへん有効である。
第₃段階 中核となる事象と他の事象を関連付ける
関西地方などの地域の特色を追究するために、中核となる事象を決定し、その他の事象と関連づけ
た授業開発案を作成する。モデル A は「歴史的背景を中核とした関西地方の特色」である。なお、
このモデルの場合は中核となる「歴史的背景」の中に重要伝統的建築群保存地区のような「生活・文
化」に関する事象も含まれている。7 つの事象そのものが互いに排他的に構成されているわけではな
いので、中核となる事象を厳密に定義する必要はないが、7 つの事象以外の新しい事項を加えること
はできない。授業開発案を作成するとき、中核となる事象は選択した地域で異なる事象を選ばなくて
はならないが、関連づける事象は残りの 6 つすべてであることは求められていない。
モデル A では「自然環境」のうち主として地形、「地域間結合」のうち交通ネットワーク、「人口
や都市・村落」のうち城下町や伝建地区など、「産業」のうち主として観光機能を選択して取り扱っ
ている。「環境問題・環境保全」に関する項目は全く関連づけていないし、「生活・文化」は前述のよ
うにその一部を中核となる事象の「歴史的背景」の中に含めている。「産業」の中でも農業や工業を
関連づけることはしていない。中核方式の地域的特色の追究(=動態地誌)は事象間を関連づけて説
明することに主たる目的があって、網羅的な事象の記述は重要ではないといえる。
第 4 段階 生徒が身に付けるべき能力や態度を考える
生徒が身に付けるべき能力や態度を評価するために、単元内の項目ごとに課題を設定する。いずれ
の課題も資料活用をふまえて設定されるのが社会科の特徴である。資料は教科書扱いとなった地図帳
が中心となるが、それ以外に特別に授業のために準備されなければならない資料もある。
「歴史的背景を中核とした関西地方の考察」の授業開発モデルに例をとると、課題 1・5 は白地図と
いう資料や地図帳を活用した表現活動に相当し、「地理的な見方」の基礎を培う。課題 4・10 は地図
帳などの文献やネット検索など(調べ学習)をふまえた知識・理解、課題 3・11 は地形図という資料
を用いた思考・判断、課題 9 は調べ学習による思考・判断を評価するための課題である。課題 9 の後
段および課題 16 は近年教育現場で問題となっている生徒の言語活動(書くことと話すこと)の育成
を含んでいる。資料による関心・態度に対する客観的な評価が難しいことは周知のとおりであるが、
関心・態度のための資料を準備することは容易である。
4
松 田 隆 典
4. 中核方式の日本地誌授業の課題 まず、授業開発を試みる前に予見的に指摘しうる、前章でも言及した地域区分の問題である。新学
習指導要領によると、中核となる 7 つの事象をいずれかの地方で扱わなければならないとされている
ので、日本を 7 つ以上の地域に区分することになる。典型的な 7 地域区分をとると、対象地域と中核
事象との対応関係は 1:1 に固定されてしまう。教員ができるだけ自由に授業を考えるという立場か
らすると、対応関係に弾力性をもたせるのが適切ではないかと思われる。本稿では上述のように 10
地域区分を採用した。
次に、実際に授業開発をおこなってみて気付いた、解説書などのモデルに示されていない問題点で
ある。「歴史的背景を中核とした関西地方の特色」を授業開発のモデルとして提示して、受講生に日
本の諸地域について授業開発のためのレポートを作成させた結果として、見出した問題点をいくつか
にまとめて述べてみたい。
中核方式の日本地誌の授業はそもそもどの程度理解されるかという問題を考えてみたい。こうした
問題意識は本稿の目的の前提をなすからである。
表 3.学生レポートにみる地域区分と中核事象との組み合わせ
地域
自然
環境
環境
保全
人口
産業
地域間
結合
歴史的
背景
生活
文化
合計
九州
3
0
0
5
1
9
0
18
四国
2
0
0
1
2
1
1
7
中国
0
0
4
1
0
1
0
6
東海
1
0
0
7
0
2
0
10
北陸
1
1
0
1
0
0
0
3
関東
0
0
7
1
1
4
0
13
東北
6
0
0
4
1
1
0
12
北海道
10
1
0
3
0
2
1
17
合計
23
2
11
23
5
20
2
86
注)関西と中央高地はレポートの対象地域から除いた。
レポート提出者 29 名₈)の内訳は、1 回生 6 名と 2 回生 15 名とまだ教育実習を経験していない学生
が大半を占め、残りの 8 名が教育実習を経験した 3 回生以上(大学院生 1 名を含む)である。3 回生
以上は事例主義的な日本地誌の授業を経験しているが、その経験が徒をなしたとは思えない。レポー
トの内容から判断すると、教育実習の経験に関係なく、静態地誌に相当する第 2 段階までしっかりと
教材開発ができた学生は第 3・4 段階へスムーズに移行している。逆に、第 2 段階までで十分な作業
ができていない学生は、第 3 段階の事象間の関連づけに苦労したり、第 4 段階で十分に目的や効果を
吟味した課題を設定できなかったりする。
また、「地誌学」を卒業要件(必修)とする社会科教育コース 16 名のほか、必ずしも卒業要件でな
い教員養成課程の他コース 2 名、情報教育課程 3 名、環境教育課程 7 名、大学院生 1 名がいるが、彼
らはほとんどが免許取得のために社会科での教育実習の履修者ないし履修予定者である。社会科教育
コースの学生だから優れたレポートが多いというわけでもなく、結局は教材開発にどれだけ意欲的に
取り組むかどうかで決まると思われる。
現職教員についてはわからないが、以上のことから、静態地誌の授業を経験している 30 歳代以上
の教員については、事象間の関連づけを意識して授業を考えることができればあまり心配はないであ
ろう。むしろ、ゆとり教育時代に事例主義の日本地誌の授業をしてきた 20 歳代の若い教員が苦労す
るかもしれない。教材開発を中心に組織的に研修を積む必要性があるかもしれない。
中核方式の日本地誌の授業開発とその問題点
5
中核方式の日本地誌の授業を考えるとき、対象地域でどのような中核となる事象を選定するかは最
も重要な関心事である。「地誌学」の受講生がレポートで選定した対象地域と中核となる事象を集計
したのが表 3 であり、結びつきやすい地域と事象の関係が読み取れる。
まず、全体的に扱いやすいと判断された中核事象は「自然環境」「産業」「歴史的背景」である。「自
然環境」と「産業」は従来の静態地誌においても必ず扱われてきた事項であることからこの結果は妥
当と思われる。特定の地域に集中した事象は、北海道・東北地方の「自然的環境」、東海・九州地方
の「産業」などである。中京工業地帯や東海工業地域を擁する東海地方は、文科省の解説書にも事例
として取り上げられている。
「歴史的背景」が多く選ばれたのは関西地方でモデルを紹介したことに影響されているかもしれな
い。「歴史的背景」が九州・関東地方に集中しているのも関西地方との対比で「歴史的背景」を考え
たのであろうが、内容的には中核に据えるほど資料は多くなく、地理的な関連性というより、歴史的
説明に終始したレポートも少なくなかった。また、文科省の解説書で取り上げられた北海道地方があ
まり選ばれなかったのは、北海道開拓という特徴的な近代史に対する関心の希薄さに起因していると
思われる。単に歴史教育の問題と考えずに地理教育との連携が機能するとすれば、考察に値する設定
である。
やや意外なのは「人口と都市・村落」があまり選ばれていない点である。人文地理的な事象として
は伝統的に「産業」と並んで主要なテーマであるから、日本の地理教育に内在する問題点を示唆して
いるようにも思えるが、ここではあまり深く考察することは差し控えたい。また、首都圏の過密がイ
メージされる関東地方、中国山地の過疎がイメージされる中国地方に選択が限られたのは特徴的であ
る。
一方、扱いにくいと判断された「環境問題・保全」「地域間結合」「生活・文化」は資料を見つけに
くい事項であることから、この結果も十分に理解される。モデル C「環境問題・環境保全を中核とし
た中央高地の考察」の例をのぞいて「環境保全」は対象地域内にそれに関わる事象は多くなく、中核
となるほど一般的な事項ではないといわざるをえない。私見では「自然的環境」に含めて 6 つの中核
事象で考察するほうが望ましいと考える。
「地域間結合」は「人口と都市・村落」や「産業」すなわち人と物の移動を指標として考察される
ので、普遍的な事象と思われるが、地図帳などに示された資料はやはり多いとはいえない。また、
「生
活・文化」は文化地理的な事象を示す重要な事項であるが、やはり教材化のできる資料が少ないのが
問題である。もっとも、「歴史的背景」との境界性が曖昧な事象であり、例えば前述の北海道地方な
どは、「生活・文化」に中核事象を代えるだけで関連性が明確になる。
最後に、中核方式の日本地誌に内在する問題として、中核となる事象と関連づける過程で漏れてし
まう重要な事項をどのように扱うかという点がある。例えば、滋賀県などの内陸工業地域は「歴史的
背景を中核とした関西地方」という設定で授業案を考えると、なかなか結びつきにくい。「近畿の水
がめ」というポピュラーなテーマも原子力発電とともにライフラインとして位置づけたが、「歴史的
背景」と関連づけて教材化できていない。結局のところ、中核方式という地誌記述の論理を重視する
か、論理を犠牲にして事象の網羅性を重視するかという二律背反の側面は否めない。新しい学習指導
要領は前者の立場に重心を置いているように見える。
注および参考文献
₁)文部科学省『中学校学習指導要領・解説─社会編─』大阪書籍,2009 年。
₂)松田隆典(2010):地理と歴史との連携─ 21 世紀の時間割(その 6)─,近江路,57 号,1 〜 14 頁。
₃)岩田一彦(2003):地理教育の歩み,村山祐司編『21 世紀の地理 新しい地理教育』,朝倉書店,1 〜 25 頁。
₄)吉田剛(2008):中学校学習指導要領社会における地理的見方・考え方の潮流,宮城教育大学紀要,43,43
6
松 田 隆 典
〜 59 頁
₅) 平 成 元 年 改 訂 以 前 の 学 習 指 導 要 領 に つ い て は, 教 育 情 報 ナ シ ョ ナ ル セ ン タ ー(NICER:National
Information Center for Educational Resources)が開設しているウェブサイトの中に掲載されている「過去
の学習指導要領」(http://www..nicer.go.jp/guideline/old)を参照した。
₆)前掲 1),54 〜 56 頁。
₇)「地誌学」の授業では,次の地図帳を教科書として指定した。浮田典良ほか編『新編中学校社会科地図帳・
初訂版』帝国書院,2009 年 10 月。
₈)「地誌学」の受講生は受講登録の時点で 42 名であり,うち期末試験受験者は 32 名である。このことからレポー
トを提出した 29 名が意欲的に取り組んだ学生であることが伺われる。なお,総数 86 はうち 1 名が 2 地域の
みレポートを提出した結果である。
付属資料:中核方式の日本地誌の具体的な授業開発例
モデルA:歴史的背景を中核とした関西地方の特色
Ⅰ 歴史・文化遺産を生んだ自然環境[₂時間]
⑴ 南北に多様な自然環境
中部は琵琶湖・淀川水系と大和川水系の流域に近江盆地・京都盆地・奈良盆地・大阪平野が形成さ
れ、加古川・市川・揖保川などの流域に播磨平野が形成されている。近江盆地北部をのぞくこれら中
部の低地および淡路島は、瀬戸内海と同様に日本列島で最も降水量の少ない地域に属し、溜池が多く
見られる。本州と淡路島の間の明石海峡を標準時子午線の東経 135 度が通る。なお、北緯 35 度(世
界測地系)は滋賀大学附属学校園の正門前を通る。
北部は緩やかな高原状の中国山地(概ね標高 800 m)とその東に続く丹波高地の間を、円山川や由
良川などが谷底平野(盆地)を刻む。最北端は日本海に面する丹後半島経ヶ岬。日本海岸に面する地
域や近江盆地北部は北陸地方から続いて、大陸からの北西の季節風の影響によって、冬季降水量が多
く、夏季降水量を超えることもある。
南部は急峻な紀伊山地を水源として紀ノ川や熊野川などが流れる。最南端は太平洋に面する紀伊半
島潮岬。太平洋沿岸の紀伊山地は南東の季節風などの影響によって夏季降水量が日本で最も多く、年
間 2000mm を超える。
【課題₁】地図帳で上記の太字の地名を確認して、白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
⑵ 紀伊山地の霊場と参詣道─自然環境と一体化した歴史・文化遺産
原始山岳信仰は平安時代の密教のフィルターを通して中近世の修験道へ発展した。山岳霊場とそれ
に至るための参詣道は日本人の自然信仰の歴史・文化遺産である。紀伊山地の大峰山・吉野山、太平
洋側の熊野三山は典型的な山岳霊場である。真言宗の聖地である高野山も、天台宗の聖地比叡山など
とともに山岳霊場と考えられた。
【課題₂】なぜ熊野古道や高野山町石道などの山岳霊場への参詣道も世界遺産に含まれているか考え
る。〔思考判断〕
⑶ 近江八景─自然環境と人間の営為とが融合した景観描写
中国の瀟湘八景(洞庭湖南部)を模して、琵琶湖西岸の佳景が寛永(江戸時代初期)の三筆の一人
である関白近衛信尹(ほかは本阿弥光悦・松花堂昭乗)によって和歌に詠まれ、幕末には歌川広重に
よって浮世絵に描かれた。これらと現代の地形図を教材として江戸時代の琵琶湖西岸の景観を読み取
る。
【課題₃】歌川広重の近江八景を描いた地点を地形図中に示す。また、「矢橋帰帆」と「粟津晴嵐」に
描かれた湖舟の経路、および「急がば回れ」の経路を地形図中に示す。〔資料活用→思考判断〕
【課題₄】近江八景のように、自然環境の景観描写を通じて歴史・文化遺産となった場所は他にどこ
があるか調べる。〔資料→知識理解〕
中核方式の日本地誌の授業開発とその問題点
7
Ⅱ 歴史・文化遺産を結びつける交通ネットワーク[₃時間]
⑴ 京阪神大都市圏の交通ネットワークとライフライン
関西地方では、大阪(2008 年現在 252 万人)・神戸(150 万人)・京都(139 万人)という 3 つの大
都市を中心市とする複合的な都市圏を構成している。東京大都市圏にも東京のほか、横浜 ・ 川崎 ・ さ
いたまという 4 つの大都市が含まれるが、東京の影響力(中心性)は卓越している。ほかはいずれも
単独の大都市を核として大都市圏を構成する。
中心市内の地下鉄やバス、郊外電車(JR・阪急・阪神・京阪・近鉄・南海)など、京阪神大都市
圏内の近距離交通は東京大都市圏と並んでよく整備されている。都市内の高速道路網は阪神高速道路
以外発達していない。東海道・山陽新幹線などの遠距離鉄道、名神・第二名神高速道路、山陽・中国
自動車道などの国土軸に沿った高速交通体系はよく発達している。舞鶴・阪和自動車道など、北部 ・
南部への高速交通体系も整備されつつある。また、関西国際空港 ・ 伊丹空港・神戸空港など国内外を
結ぶ空の玄関口も揃っている。
京阪神大都市圏のうち淀川水系の流域の大部分は、琵琶湖の水が供給されている。近江盆地や播磨
平野などの穀倉地帯や淡路島などの野菜産地があるが、全体として食糧は外国からの輸入も含めて、
域外に依存している。電力の大半は若狭湾の敦賀 ・ 美浜 ・ 大飯 ・ 高浜の原子力発電所から供給され、
原子力の比率の最も高い地方である。
【課題₅】関西地方の主要都市と交通網を白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
⑵ 奈良盆地─日本最大の歴史・文化遺産群の形成と交通利便性(都市性)の低さとの矛盾
畿内を中心に最初の統一国家を形成し大和朝廷は、4・5 世紀に巨大古墳を築くとともに、祖先尊
崇を母体とする神道が成立した。6 〜 8 世紀に仏教文化の影響を受けた古代文化(飛鳥文化・白鳳文化・
天平文化)が栄え、律令国家体制の下で都城(藤原京や平城京)が建設された。
奈良盆地は「法隆寺地域(斑鳩)の仏教建造物」と「古都奈良(平城京)の文化財」という 2 つの
世界遺産が登録されたほか、飛鳥の古代遺跡群や橿原の大和三山・藤原京跡など多くの寺社・史跡が
広範に分布する。しかし、京都とは違って国土軸上に位置していないから、近畿地方の域外からは大
阪や京都を経由して往来するしかない。
【課題₆】斑鳩の法隆寺のように 8 世紀に再建された現存最古の建造物、奈良の興福寺のように何度
も焼失して再建され今日に至る建造物、現存しない飛鳥の史跡群と、なぜ様々な歴史・文化遺産があ
るのか考える。〔思考判断〕
⑶ 京都─歴史・文化遺産の宝庫と交通ネットワークの発達を関連付け
平安遷都後、比叡山や高野山などで密教が発展するとともに、神仏習合が定着して多くの寺社が建
造された。摂関期・院政期には京洛外の鴨東や宇治・鳥羽に離宮が建設された。鎌倉・室町時代の武
家政権下でも、禅宗や念仏宗などが京都に本拠地(本山)を置いた。応仁の乱によって京都の寺社の
多くが廃塵に帰したが、豊臣政権や徳川幕府の庇護によって再建・拡張されたものも少なくない。徳
川幕府によって京都の政治都市化が牽制された代わりに、皇室関係の寺社は厚く保護された。また豊
臣政権後も、大坂とともに上方文化の中心となった。
【課題₇】地図帳 65 〜 70 頁から宮崎市・山口県下関市・香川県丸亀市・兵庫県豊岡市・姫路市・和
歌山市・大阪府吹田市・滋賀県高島市・三重県松阪市・岐阜県多治見市・富山市・千葉市・宇都宮市・
仙台市・旭川市から京都観光をする場合、それぞれどのような交通機関を利用すると考えるか。〔資
料→思考判断〕
【課題₈】地図帳 89 〜 90 頁に図示された京都府南部(山城)にある歴史・文化遺産を古代(平安時代)、
中世(鎌倉 ・ 室町時代)、近世(安土桃山 ・ 江戸時代)に分類する。但し、古代の平安遷都以前と明
治維新以後の歴史・文化遺産は除外する。〔資料活用→知識理解〕
【課題₉】古代・中世・近世の各時期の歴史文化遺産を₆ヶ所ずつ以上含むように、京都駅からバス・
地下鉄と徒歩で巡回・見学して京都駅に戻るプランを立てる。また、古代・中世・近世のうち 1 つを
8
松 田 隆 典
表 1.関西地方の歴史的景観(滋賀県・京都府)〔再掲〕
府県
ユネスコ世界遺産(太字:世界遺産登録の文化財)、◎:重要伝統的建造物群保存地区
[旧国] 地域
滋賀県
有名寺社(下線:国宝建造物)⇒伝統行事、史跡・名勝(★:国特別指定)
国宝建造物:22 件、国指定史跡 ・ 名勝:48 件
[近江] 湖西
湖北
湖東
甲賀
野洲・栗太
大津
京都府
[山城] 上京
下京
松尾・桂
太秦・嵯峨
三尾・北山
紫野
賀茂・高野
吉田・岡崎
祇園
清水山麓
東山七条
月輪
鳥羽・伏見
山科・醍醐
宇治
木津川流域
乙訓
[丹波]
[丹後]
清水山城館跡[高島氏]、旧秀隣院庭園[朽木氏]、藤樹書院跡[中江藤樹](1648)
竹生島、都久生須麻神社、宝厳寺[行基](724):唐門、上平寺城跡[京極氏]、小谷城跡[浅井氏]
姉川古戦場(1570)、長浜城跡[羽柴秀吉](1574)⇒曳山祭、賎ヶ岳古戦場(1583)
湖東三山:百済寺[聖徳太子](607)
・金剛輪寺[行基](737)
・西明寺[三修](834)
:本堂 / 三重塔、
多賀大社⇒多賀祭、彦根城★[井伊直継](1606):天守閣等(大津城より)・ 玄宮楽々園(三の丸)
苗村神社(969):西本殿(1308)、観音寺城跡[六角氏]、安土城跡★(1576)、八幡商家群◎、紫香
楽宮跡[聖武天皇](742)、垂水斎王頓宮跡(886)、水口城跡[小堀遠州 / 加藤氏(1682 〜)]
常楽寺(西寺)[良弁](和銅年間→ 1151 再興):本堂 / 三重塔、長寿寺(東寺)(天平)年間[良弁]
善水寺(和銅寺)、三上山 ・ 御神神社(717 移建)、兵主神社(718):庭園、大笹原神社(1414)芦浦
観音寺跡、金勝寺[良弁](733)、狛坂磨崖仏、草津宿本陣跡(1625)、旧和中散本舗
大津宮(錦織遺跡)[天智天皇](667)、石山寺[良弁](762):本堂 / 多宝塔[源頼朝](1194)
比叡山延暦寺(822)[最澄]:根本中堂[良源](978 再建)、坂本(延暦寺門前町)◎、日吉大社:西
宮本殿 / 東宮本殿⇒山王祭、園城(三井)寺[円珍]
(859)
:金堂 / 新羅善神堂、逢坂関越、義仲寺(1553)、
膳所城跡[戸田一西](1601)、琵琶湖疏水(1894)
古都京都の文化財[世界遺産]、国宝建造物:46 件、国指定史跡・名勝:98 件
平安宮跡(794):内裏跡 / 大極殿跡 / 豊楽院跡、北野天満宮(959)、大報恩寺(千本釈迦堂)(1227)
妙顕寺[日像](1321 → 1590 移転)、本法寺[日親](1436 → 1587 移転)、相国寺[足利義満](1382)
土御門内裏[光厳天皇](1331)→禁裏(京都御所)(1591 修造)、御土居跡[豊臣秀吉](1591)
二条城(1603):二の丸御殿★、仙洞御所[後水尾上皇](1630)、古義堂跡[伊藤仁斎](1662)
六角堂(頂法寺)[聖徳太子]、壬生寺[鑑真](761)⇒壬生狂言、因幡薬師[橘行平](997)
長講堂[後白河法皇](1184)、高瀬川[角倉了以](1614)、先斗町(1669)、新京極通(1872)
羅城門跡、教王護国寺(東寺)(796)
:金堂 / 五重塔(883 → 1644 再建)/ 大師堂、島原遊郭跡(1640)
西本願寺(1591):唐門 / 飛雲閣(伏見城より移築)/ 大書院庭園★、東本願寺[教如](1602)
松尾大社(701)⇒松尾祭、西芳寺(苔寺)[夢窓疎石](1339 再興)、桂離宮[八条宮智仁](1615)
広隆寺(蜂岡寺)[秦河勝](603):桂宮院(1251)⇒牛祭、法金剛院★[待賢門院](1130)
愛宕神社(大宝年間)、鳥居本(門前町)◎、小倉山二尊院[円仁]、時雨亭跡[藤原定家]
大覚寺[正子皇后 ・ 恒寂法親王](876):名古曽滝跡 ・ 大覚寺統御所、天龍寺★[夢窓疎石](1345)
神護寺[空海 ・ 真済](824)←高雄寺、西明寺[智泉](天長年間)、高山寺[明恵](1206):石水院、
仁和寺(御室御所[宇多天皇(888)]:金堂(紫宸殿を移築)、妙心寺[花園上皇](1337)
鹿苑寺(金閣寺)★[足利義満](1397)←西園寺家北山第(1224)、龍安寺★[細川勝元](1450)
船岡山、雲林院[僧正遍昭](884)、今宮神社(1001)⇒夜須礼祭、光悦寺[本阿弥光悦](1615)
大徳寺[妙超](1315):唐門 / 方丈★ / 大仙院★[六角政頼](1513)/ 総見院[羽柴秀吉](1582)
下鴨(賀茂御祖)神社:東 / 西本殿、上賀茂(賀茂別雷)神社:本殿 / 権殿⇒葵祭、上賀茂社家町◎
鞍馬寺(770)⇒火祭、貴船神社(1055 移転)、円徳院(梶井門跡)[最雲法親王](1086)→三千院
曼殊院[良尚法親王](1656)、修学院離宮[後水尾上皇](1659)、府立植物園(1924)
吉田神社(859)、真如堂[東三条院](992)、聖護院[増誉](修験道本山派)(1090)、六勝寺跡 永
観堂[真紹](853)、南禅寺[亀山法皇](1291):山門 / 方丈 / 金地院庭園★、水路閣(1894) 慈照
寺(銀閣寺)★[足利義政](1483)、詩仙堂[石川丈山](1641)、平安神宮(1895)⇒時代祭
青蓮院[行玄](1150)
:旧仮御所(粟田御所)、知恩院[源智](1234)
:御影堂 / 三門[尊照](1619)
祇園社(八坂神社)(876)⇒祇園祭(1500 復活)、祇園新橋(茶屋町)◎ ・ 祇園歌舞練場(1872)
清水寺[坂上田村麻呂](805):本堂(1633 再建)/ 清水坂 / 三年坂(産寧坂)◎(808)/ 五条坂 八坂塔[聖徳太子]、西光寺(六波羅密寺)[空也](963)、建仁寺[栄西](1202)、高台寺(1606)
蓮華王院:三十三間堂[平清盛](1164 → 1266 再建)、妙法院(新日吉門跡)(1184)
:庫裏←法住寺殿、
方広寺[豊臣秀吉]:大仏殿(1595 → 1798 焼失)/ 石塁 / 梵鐘(1612)、豊国神社(1599):唐門(伏
見城)
泉涌寺(御寺)[後鳥羽上皇 ・ 俊仍](1218)、東福寺[九条道家 ・ 弁円](1236):三門(応永年間)
伏見稲荷大社(711)・ 荷田春満旧宅、鳥羽離宮跡[白河上皇](1086)、伏見城跡[豊臣秀吉](1594)
山階寺跡[藤原鎌足](669)、天智天皇陵、安祥寺[藤原順子](848)、毘沙門堂(1195 → 1665 移転)
醍醐寺[聖宝](876):薬師堂(907)/ 金堂(926)/ 五重塔(951)、 三宝院★[勝覚](1115):唐門
/ 表書院、勧修寺[醍醐天皇](900)、随心院[仁海](991)、法界寺[日野資業](1051):阿弥陀堂、
山科本願寺[蓮如]
(1478 〜 1532)
:土塁跡 / 濠跡→山科(東西)別院(1732)、岩屋寺(大石良雄閑居)
平等院[藤原頼通](1052):鳳凰堂、宇治上神社:拝殿 / 本殿、太閤堤跡、万福寺[隠元](1654)
椿井大塚山古墳、海住山寺[良弁](735)
:五重塔(1214)、恭仁京跡[聖武天皇](740) 岩船寺(729)、
浄瑠璃寺★(1047)
:九体阿弥陀堂(1107)/ 三重塔(1178)、笠置寺[後醍醐天皇]、石清水八幡宮[行
教](859)⇒石清水祭、松花堂跡[松花堂昭乗](1630 頃→ 1891 移築)
長岡京跡[藤原種継](784)、光明寺(法然廟所)(1198):仁王門、天王山古戦場(1582) 保津峡、亀山城跡[明智光秀(1579)]、福知山城跡[明智光秀(1589)]、美山(萱葺き集落)◎
天橋立★、宮津城跡[細川忠興]、郷村断層→丹後大地震(1927)、海軍鎮守府跡(1901)
中核方式の日本地誌の授業開発とその問題点
9
表 2.関西地方の歴史的景観(兵庫県・大阪府・奈良県・和歌山県)〔再掲〕
府県
[旧国] 地域
兵庫県
ユネスコ世界遺産(太字:世界遺産登録の文化財)、◎:重要伝統的建造物群保存地区
有名寺社(下線:国宝建造物)⇒伝統行事、史跡・名勝(★:国特別指定)
国宝建造物:11 件、国指定史跡 ・ 名勝:45 件
[但馬]
玄武洞、城崎温泉(養老年間)、豊岡城跡[…京極氏(1688 〜)]、出石城跡[…仙石氏(1706 〜)]
香住海岸、御火浦、生野銀山[山名氏](天文年間)、村岡陣屋跡[山名氏]
[丹波]
黒井城跡(興禅寺)[赤松氏](1335)、八上城跡[波多野氏](永正年間)、篠山城跡[松平康重]1609
(987)、英賀御堂[蓮如]
(1475)→亀山本徳寺[羽柴秀吉]
(1580) 姫路城★[池
[播磨] 姫路 書写山円教寺[性空]
田輝政(1608)…酒井氏(1749 〜)]:大天守他 4
龍野・赤穂 觜崎の屏風岩、赤穂城跡[池田政綱(1615)…浅野氏(1661)…森氏(1702 〜)]
加古川流域 鶴林寺[秦河勝]:太子堂、一乗寺(651):三重塔(1171)、浄土寺[重源](1192):阿弥陀堂
[淡路〜播磨] 野島断層、太山寺[定恵]、明石城跡[小笠原忠真](1617)、標準時子午線(1886)
[摂津]
有馬温泉、鵯越 ・ 一ノ谷古戦場(1184)、湊川古戦場(1336)、西宮神社⇒十日戎
神戸旧居留地(1867 〜 99)、北野異人館街◎、宝塚歌劇団(1914)、甲子園球場(1924)
大阪府
国宝建造物:5件、国指定史跡 ・ 名勝:68 件
[摂津] 北摂 高槻城[和田惟政](1569)、箕面有馬電気鉄道[小林一三](1910)、千里山住宅地(1920)
上町 四天王寺[聖徳太子](593)⇒聖霊会、難波宮跡[孝徳天皇](645 〜 86)、生国魂神社、天王寺公園
石山本願寺跡[顕如](1496 〜 1580)→大阪城跡★[豊臣秀吉](1583 〜 1615 → 1931 天守閣再建)
天満・浪速 大坂天満宮⇒天神祭、今宮戎神社⇒十日戎、東本願寺 ・ 西本願寺別院、安治川[河村瑞賢](1684)
天保山(1831)、適塾[緒方洪庵](1838)、川口居留地(1868 〜 99)、通天閣・新世界(1912)
住吉・平野 住吉大社⇒住吉祭、大念仏寺(融通念仏宗)[良忍](1127)、円珠庵[契沖]
[和泉] 大仙陵古墳(仁徳天皇陵)、南宗寺(千利休 ・ 武野紹鴎墓所)[三好長慶](1556)、旧堺燈台(1879)
慈眼院(日根荘遺跡)(673)、孝恩寺[行基](726)、岸和田城跡[…岡部氏(1640 〜)]⇒檀尻祭
[役小角]
(655)、雲心寺(金剛山麓)
[役小角]
(701)→観心寺[空海 ・ 実恵]
(815)
[河内] 弘川寺(葛城山麓)
金剛寺[行基]→天野行宮[後村上天皇](1354 〜 59)、千早城跡(1392 落城)、富田林(寺内町)◎
百済寺跡★、鴻池新田会所跡[鴻池善右衛門](1707)、枚方パーク(1912)
奈良県
古都奈良の文化財[世界遺産]、法隆寺地域の仏教建造物[世界遺産]、国宝建造物:62 件、国指定史
跡・名勝:119 件
[大和] 斑鳩 法隆寺[聖徳太子](607:現存最古):西院の金堂 / 五重塔 / 東院の夢殿(739)⇒聖霊会 / 他 15
藤ノ木古墳(6 世紀)、中宮寺[聖徳太子]、法起寺(池後寺):三重塔、法輪寺(御井寺)
平城京 平城宮跡★(710)、大安寺跡(673 → 710 移建)、薬師寺(法相宗)(680 → 719 移建):東院堂 ・ 東塔
左京三条二坊宮跡庭園★、海龍王寺[光明皇后](天平年間):五重小塔、法華寺[光明后](741)
西大寺[孝謙天皇](756)、唐招提寺(律宗)[鑑真](759):金堂 / 講堂 / 経蔵 / 宝蔵 / 鼓楼
外京 興福寺(法相宗)[藤原不比等](山階寺→ 710 移建):五重塔 / 三重塔 / 東金堂 / 北円堂
元興寺(極楽房)[智光](飛鳥寺→ 718 移建):本堂 / 五重小塔 / 禅室、聖武天皇陵(756)、奈良町
◎
奈良公園 春日山原始林、春日大社⇒若草山焼、新薬師寺[光明皇后](747)、円成寺[命禅](1026)
東大寺(華厳宗)[聖武天皇](745):南大門 / 転害門 / 法華堂 / 大仏殿 / 正倉院 / 二月堂⇒御水取 /
他3
奈良山 般若寺[蘇我日向](654):楼門、秋篠寺[光仁天皇](780)、不退寺[在原業平](847)←萱の御所
天理・郡山 石上神宮(布留社):出雲建雄神社拝殿、慈光院庭園、郡山城跡[柳沢氏(1724 〜)]
桜井・宇陀 三輪山 ・ 大神神社、箸墓古墳(倭迹迹日百襲姫命)、山田寺跡★[蘇我石川倉山田麻呂](643)
室生寺[役小角]
(681)
:金堂 / 五重塔(800 頃)/ 灌頂堂(1308)、長谷寺(686)、宇太水分神社(1302)
明日香 飛鳥寺(法興寺)[蘇我馬子](588)、橘寺[聖徳太子](606)、石舞台古墳★、酒船石遺跡
伝飛鳥板葺宮跡[皇極天皇](642 〜 45)、川原寺跡(655)、大官大寺跡←飛鳥岡本宮跡[斉明天皇]
岡寺[義淵](663)、高松塚古墳★(婦人像 ・ 四神像)、キトラ古墳★
橿原 大和三山:耳成山 ・ 香具山 ・ 畝傍山、藤原宮跡★(694 〜 710)、今井(寺内町)◎、橿原神宮(1889)
紀伊山地の霊場と参詣道[世界遺産]
葛城・御所 金剛山、当麻寺[麻呂子皇子](612):東塔 / 西塔 / 曼荼羅堂(1161 再建)/ 中之房庭園
五条 栄山寺[藤原武智麻呂](719):八角堂、賀名生梅林、賀名生行宮[後村上天皇](1348 〜 54)
吉野 吉野山、金峯山寺[役小角]:仁王門 / 蔵王堂、吉水院[役小角]→後醍醐行宮→吉水神社(1874)
金峯神社、吉野水分神社、如意輪寺(延喜年間)→後醍醐天皇塔屋陵、吉野神宮(1889)
大峯山 仏経岳原始林、大峰山寺、大峯奥駆道
和歌山県
国宝建造物:7件、近畿2府4県計 153 件(73%)、国指定史跡 ・ 名勝:26 件、近畿2府4県計 404
[紀伊] 熊野
高野山
紀ノ川流域
和歌山・海南
日高・西牟婁
那智原始林 ・ 那智大滝 ・ 熊野那智大社⇒那智火祭、青岸渡寺、補陀洛山寺、熊野鬼ヶ城(三重県) 瀞八丁★、熊野本宮大社、熊野速玉大社⇒御燈祭、熊野古道:中辺路 ・ 小辺路 ・ 大辺路 ・ 伊勢路
高野山金剛峯寺[空海](816):不動堂 ・ 根本大塔、金剛三昧院:多宝塔[北条政子](1211) 慈尊
院 ・ 丹生官省符神社(816)、丹生都比売神社、高野山町石道(1285)
粉河寺(770)、根来寺(新義真言宗)[覚鑁](1130 → 1288 移建):多宝塔
和歌の浦、紀三井寺[為光](770)、長保寺[性空](1000)
:本堂 / 多宝塔 / 大門、和歌山城跡(1585)
橋杭岩、道成寺[紀道成](701)、白浜温泉、広村堤防[浜口梧陵](1858)、湯浅◎
注₁)一部の天皇陵をのぞく古墳は対象外。₂)建造年代は現存の建造物ではなく、記録された最古の年代。
₃)国宝指定が本堂・本殿のみの場合は、寺社名に下線。出典:文化庁HP:国指定文化財データベースなど
10
松 田 隆 典
選んで巡回・見学を実践し、その結果を「旅行記」の形でレポートにまとめる。〔資料活用→思考判断・
表現〕
Ⅲ 歴史・文化遺産の形成に関連する都市と村落[₂時間]
⑴ 地方都市と過疎農山村の歴史・文化遺産
姫路・和歌山・彦根といった江戸時代の大藩の城下町が京阪神大都市圏とは独立した都市圏を構成
している。一方、和歌山と同じ奈良や大津といった県庁所在地は、それぞれ大阪や京都の衛星都市と
なっている。紀伊山地の横たわる南部、丹波高原から中国山地にかけての北部では、河谷の中山間や
沿海部に 10 万人未満の小都市があり、平成の大合併でそれらに含まれることになった山間部の過疎
地域が広がっている。
【課題 10】関西地方の城下町・門前町を都道府県別に列挙する。〔資料活用→知識理解〕
⑵ 城下町の歴史景観─都市の空間構造に対する歴史・文化遺産の影響
日本の府県庁所在地の多くは旧城下町であり、維新後に破却された城郭の跡地は公共用地となった。
城下町の中には市民の保存運動によって城郭が残った都市も少ない。国特別史跡に指定され、天守閣
が国宝である姫路城(世界遺産)・彦根城がその例である。二条城(世界遺産の構成要素)も国特別
史跡に指定され、二の丸御殿が国宝になっているが、破却されず歴史遺産として残り、府 ・ 市の公共
用地や陸軍の師団 ・ 連隊などに利用されなかった。
【課題 11】姫路または彦根の城下絵図(プリント)と近現代の地形図(プリント)を読図し、城下町
の空間構造やその近代的変化について考える。〔資料活用→思考判断〕
【課題 12】なぜ二条城が破却されなかったか調べる。また姫路(1897 年に師団・連隊を設置)のよう
に、のちに陸軍の師団や連隊がなぜ城郭の内外に置かれなかったか。 ※伏見に連隊(1888)、師団
(1907)〔資料活用→思考判断〕
⑶ 天下の台所大坂から近代都市大阪へ
日本の都市の多くは城下町を起源としている。大阪もかつて城下町として形成されたが、冬の陣・
夏の陣による大坂落城以後は「天下の台所」=日本経済の中心地として繁栄してきた。近世の大坂三
郷を骨格として大阪は近代産業都市として肉付けされてきた。
【課題 13】近世の大坂城と堀割・河川、米市場・青物市場・魚市場を白地図に記入する。〔資料→表現〕
【課題 14】各種の問屋街(郊外移転も含めて)を白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
【課題 15】江戸時代の大阪の市街地と鉄道ターミナルとの位置関係は?〔資料活用→知識理解〕
【課題 16】工業地帯(臨海部と内陸部)を業種別に白地図に記入して近代産業の成立条件について考
える。〔資料活用→思考判断〕
⑷ 重要伝統的建造物群保存地区(重伝建地区)─消えゆく歴史・文化遺産を保存する意義
伝建地区は都市的開発などにより保存すべき伝統的建造物群が失われる可能性がある場合指定され
る。
【課題 17】伝建地区にはどのような例があるか調べる。関西地方以外について調べる。〔資料→知識
理解〕
Ⅳ 歴史・文化遺産を生かした関西経済の発展:観光機能の強化や他分野との連携[1時間]
京都は古代から中世にかけて経済的中心地として、多くの物産を生む源泉として発展した。近世に
は京や大坂で生産される物産は「下りもの」として珍重され、とくに大坂は「天下の台所」として経
済の中心地として繁栄した。明治以降も近代工業の集積地として発展し、戦後の重厚長大産業の時代
までしばらく京浜工業地帯と並ぶ工業生産の拠点であった。しかし 1970 年代以降、サービス経済化
に伴う非生産部門の東京一極集中とともに、関西経済も相対的に衰退を余儀なくされた。
【課題 18】関西経済復興のため豊富な歴史・文化遺産をいかに活かすべきか討論する。〔知識→表現〕
中核方式の日本地誌の授業開発とその問題点
11
Ⅴ 補足
【課題 19】各単元Ⅰ〜Ⅳの導入のための資料(教材)を考える。〔関心態度〕
例:10 円玉、せんとくん
モデルB:他地域との結びつきを中核とした四国地方の特色
(このモデルは昨年度「地誌学」の受講生の玉造佳奈さんの優秀授業案を加筆・修正したもので
ある。)
Ⅰ 海峡を隔てて他地域と結び付く自然環境[₂時間]
四国は阿波国(徳島県)
・讃岐国(香川県)
・伊予国(愛媛県)
・土佐国(高知県)で構成されている。
徳島県は鳴門海峡・紀伊水道を隔てて近畿地方と、香川県は愛媛県とともに瀬戸内海を隔てて中国地
方と相対している。鳴門海峡には大鳴門橋(本州と淡路島との間の明石海峡大橋)、香川県と岡山県
の間には瀬戸大橋、愛媛県と広島県の間にはしまなみ海道といった連絡橋が架かっている。また、愛
媛県は豊予海峡・豊後水道を隔てて九州地方と相対し、高知県は太平洋に面している。
北部の香川県と愛媛県は降水量の少ない瀬戸内式気候であるが、南部の高知県と徳島県は降水量の
多い太平洋式気候に属する。中央部を急峻な四国山地が横たわり、高知県西部に日本最後の清流と呼
ばれる四万十川が流れ、四国山地と讃岐山脈との間には豊富な流量をもつ吉野川が流れる。吉野川流
域と讃岐平野の間には香川用水が造成された。
【課題₁】地図帳で上記の太字の地名を確認して、白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
【課題₂】各々の本四連絡橋が架けられた背景と現状の効果について調べる。〔資料活用→知識理解〕
Ⅱ 他地域と結び付く農業[1時間]
降水量の少ない瀬戸内海沿岸のうち、香川県は農業生産額でも耕地面積でも稲作の割合が四国の中
で最も大きい。これは吉野川流域から讃岐平野に引かれた香川用水によるところが大きい。同様に降
水量の少ない愛媛県西部は山がちな地形を利用し、和歌山県と並んで全国でも有数のかんきつ類の生
産地として知られている。一方、太平洋岸の高知平野は温暖で降水量の多い気候に適した野菜栽培な
どがさかんである。
【課題₃】讃岐山脈にトンネルを掘り香川用水が造成された理由(気候条件)について考える。〔思考
判断〕
【課題₄】地図帳 78 頁の図から愛媛県のかんきつ類の栽培が昔と比べて多様化した理由について考え
る。〔思考判断〕
【課題₅】地図帳 82 頁の図から高知県の野菜の出荷時期が関東地方と異なる理由について考える。〔思
考判断〕
Ⅲ 他地域と結び付く民俗─新旧₂つの盆踊りを例に─[₁時間]
阿波踊りは 400 年前の徳島藩を発祥とする全国でも最も知られた盆踊りである。数十人が連といわ
れる組をつくり、阿波よしこの節と急調の三味線と囃子に合わせて姿態をくねらせて練り踊る。徳島
市の阿波踊りは 26 万人の人口に 135 万人が集まるという規模を誇る。また、高知市のよさこい祭り
は戦後武政英策が楽曲「よさこい鳴子踊り」に合わせて鳴子を持って鳴らしながら踊ることを提案し
た新しい盆踊りである。1992 年札幌市で YOSAKOI ソーラン祭りが開催されて以来、全国各地に広
まった。
【課題₆】全国に広がる阿波踊りについて調べ、白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
【課題₇】全国に広がるヨサコイについて調べ、白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
12
松 田 隆 典
Ⅳ.四国を結び付ける歴史─八十八箇所巡礼─[₁時間]
四国八十八箇所霊場は 1,200 年前に弘法大師が修行した場所やその足跡を辿り、彼の霊力による奇
蹟を求めて歩き始めたことが起源とされる。全行程約 1,440km、発心の道場(阿波 23 ヵ寺)、修行の
道場(土佐 16 ヵ寺)、菩提の道場(伊予 26 ヵ寺)、涅槃の道場(讃岐 23 ヵ寺)と四国を一周する遍
路巡拝は同行二人、つまり大師様とともに心身を磨き、88 の煩悩を一つひとつ取り除き、大自然の
中で生かされている自分自身を見つめ直す修行の旅である。徒歩の場合は約 40 日を要するが、近年
の観光バスや自動車を利用する観光化した巡礼の場合は約 10 日で巡回する。
【課題₇】四国八十八箇所霊場の位置について調べ、白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
【課題₈】近畿地方の西国三十三箇所巡りや関東地方の坂東三十三箇所巡りについて調べ、四国遍路
との違いを考える。〔資料活用→知識理解→思考判断〕
資料1 「よさこい節」(高知県民謡)
₁.土佐の高知の はりまや橋で 坊さん かんざし 買うを見た ヨサコイ ヨサコイ
₂.御畳瀬見せましょ 浦戸をあけて 月の名所は 桂浜 ヨサコイ ヨサコイ
₃.土佐の名物 珊瑚に鯨 紙に 生糸に 鰹節 ヨサコイ ヨサコイ
₄.孕の廻し打 日暮れに帰る 帆傘船 年に二度とる 米もある ヨサコイ ヨサコイ
₅.わしの情人は 浦戸の沖で 雨にしょんぼり濡れて 鰹つる ヨサコイ ヨサコイ
₆.土佐はよい国 南をうけて 薩摩おろしが そよそよと ヨサコイ ヨサコイ
資料₂ 「よさこい鳴子踊り」(武政英策作詞・作曲)
₁.よっちょれよ よっちょれよ よっちょれ よちょれ よっちょれよ よっちょれ
よちょれ よっちょれよ
高知の城下へ 来てみいや(ソレ)じんばも ばんばも よう踊る よう踊る 鳴子両手によ
う踊る よう踊る(※)
土佐のー(ヨイヤサノ サノ サノ)高知のはりまや橋で(ヨイヤサノ サノ サノ)
坊さん かんざし買うをみた(ソレ)よさこい よさこい(ホイ ホイ)
₂.(※繰り返し)
みませ(ヨイヤサノ サノ サノ)みせましょ 浦戸を開けて(ヨイヤサノ サノ サノ)
月の名所は桂浜(ソレ)よさこい よさこい(ホイ ホイ)
₃.(※繰り返し)
土佐のー(ヨイヤサノ サノ サノ)名物 さんごに鯨(ヨイヤサノ サノ サノ)
紙に 生糸に かつお節(ソレ)よさこい よさこい(ホイ ホイ)
₄.(※繰り返し)
言うたち(ヨイヤサノ サノ サノ)いかんちゃ おらんくの池にゃ(ヨイヤサノ サノ サノ)
潮吹く 魚が 泳ぎよる(ソレ)よさこい よさこい(ホイ ホイ)
モデルC:環境問題・環境保全を中核とした中央高地の特色
Ⅰ 日本の屋根と山間盆地[₁/₂時間]
中央高地の中央部の飛騨山脈(北アルプス)・木曽山脈(中央アルプス)・赤石山脈(南アルプス)
は「日本の屋根」と称される。標高 3000 mを超える山々は北アルプスの槍ヶ岳・穂高岳・乗鞍岳・
御嶽山など、南アルプスには白根山・赤石岳などが連なる。中央高地の西端を両白山地、東端を越後
山脈・関東山地そして富士山が囲んでいる。
これらの山間を流れる河川の流域に形成された盆地が人々の主要な居住地である。木曽川支流の飛
騨川流域に高山盆地、本流沿いに木曽谷、千曲川(信濃川)流域に長野盆地とその上流の佐久盆地、
中核方式の日本地誌の授業開発とその問題点
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千曲川支流の犀川流域に松本盆地、天竜川流域の伊那盆地、富士川流域に甲府盆地、その支流釜無川
上流に諏訪盆地がある。
【課題₁】地図帳で上記の太字の地名を確認して、白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
【課題₂】童謡「アルプス 1 万尺」の歌詞を調べて、その意味を考える。〔資料活用→表現〕
Ⅱ 冷涼な気候を利用した農牧業[₁/₂時間]
中央高地の気候は標高が高いため冷涼で、季節風の影響が小さいため降水量が少ない。そのため高
原野菜や果樹の栽培がさかんである。全国一の収穫量を誇る農産物としては長野県のレタス、山梨県
のブドウとモモ、長野県はリンゴの生産が青森に次ぐ。レタスの産地は八ヶ岳山麓の野辺山、浅間山
南麓(長野県側)、菅平、戸隠山麓など。浅間山北麓(群馬県側)の嬬恋はキャベツの産地である。
【課題₃】長野県産のレタスの出荷時期が茨城県産(第 2 位)や兵庫県産(第 3 位)と異なる理由を
自然条件と市場という点から考える。〔思考判断〕
Ⅲ 自然景勝地の宝庫[₁時間]
中央高地には標高 1,000 〜 2,000 mの高原地帯特有の高層湿原や高山動植物などの景勝地が多い。
飛騨山脈東麓の上高地・乗鞍高原・開田高原は日本アルプスの登山基地として早くから開発されてき
た。上信越高原の志賀高原・菅平・斑尾高原には観光資本が進出してスキー場などとして開発されて
いる。軽井沢や清里高原は早くから避暑地として開発された。中信高原の蓼科高原・霧ヶ峰・美ヶ原
を結ぶビーナスラインの無料開放によってこれらの景勝地を気軽に楽しむことができるようになった。
また、木曽川上流の寝覚の床、天竜川中流の天竜峡、富士川上流の御嶽昇仙峡という峡谷の景勝地は
いずれも花崗岩の岩盤を侵食した奇岩景観である。これらは国の名勝として指定されている。
一方、立山黒部アルペンルートは自然保護のためにほぼマイカー乗入禁止区間である。長野県大町
扇沢─黒部ダム間と大観峰─室堂間はトンネルトロリーバス(無軌条電車)やケーブルカーなどで繋
いでいる。
国の特別名勝にも指定されている上高地も、1970 年代にいち早くマイカー規制によって積極的に
自然保護に乗り出した。2003 年から乗鞍高原を走る乗鞍スカイライン(岐阜県側)や乗鞍エコーラ
イン(長野県側)も自然保護のためにマイカー規制を開始した。富士山スカイライン(静岡県側)富
士スバルライン(山梨県側)も夏季のみマイカー規制しているが、マイカー規制のない初夏や秋(冬
季は通行止め)の週末は渋滞が発生することもあり、富士山の自然保護が徹底しない要因ともなって
いる。
【課題₄】一大スキー場として開発された志賀高原や避暑地としての軽井沢のように、上信越高原の
開発が目立つ理由について交通と市場という点から考える。〔思考判断〕
【課題₅】マイカー規制をすることが高原の自然保護に具体的にどのように役立つか考える。〔思考判
断〕
Ⅳ 重要伝統的建築物群[1時間]
重要伝統的建築物群(重伝建)は周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している文化財であ
る。全国 91 地区のうち中央高地では、飛騨の白川郷(世界遺産)、高山の商家群、木曽谷の妻籠宿・
奈良井宿、漆工町の木曽平沢、善光寺街道の海野宿、白馬の青鬼集落(山村)、赤沢の身延山参拝の
講中宿が指定されている。
【課題₆】8ヵ所の重要伝統的建築物群保存地区を白地図に記入する。〔資料活用→表現〕
【課題₇】東日本の中では中央高地は多くの重伝建が指定されている理由について考える。
〔思考判断〕
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松 田 隆 典
資料1 「アルプス一万尺」(原曲はアメリカ民謡・作詞者不明)
₁:アルプス一万尺 小槍 1)の上でアルペン踊りを さあ踊りましょ
ランラララ ラ ランラララ ラララ ランララララララ ランランランランラーン(※)
₂:昨日見た夢 でっかいちいさい夢だよ のみがリュックしょって 富士登山(※繰り返し)
₃:岩魚釣る子に 山路を聞けば 雲のかなたを 竿で指す(※繰り返し)
₄:お花畑で 昼寝をすれば 蝶々が飛んできて キスをする(※繰り返し)
₅:雪渓₂)光るよ 雷鳥₃)いずこに エーデルヴァイス₄) そこかしこ(※繰り返し)
₆:一万尺に テントを張れば 星のランプに 手が届く(※繰り返し)
₇:キャンプサイトに カッコウ鳴いて 霧の中から 朝が来る(※繰り返し)
₈:染めてやりたや あの娘の袖を お花畑の 花模様(※繰り返し)
₉:蝶々でさえも 二匹でいるのに なぜに僕だけ 一人ぼち(※繰り返し)
10:トントン拍子に 話が進み キスする時に 目が覚めた(※繰り返し)
11:山のこだまは 帰ってくるけど 僕のラブレター 返ってこない(※繰り返し)
12:キャンプファイヤーで センチになって 可愛いあのこの 夢を見る(※繰り返し)
13:お花畑で 昼寝をすれば 可愛いあのこの 夢を見る(※繰り返し)
14:夢で見るよじゃ ほれよが浅い ほんとに好きなら 眠られぬ(※繰り返し)
15:雲より高い この頂で お山の大将 俺一人(※繰り返し)
16:チンネ₅)の頭に ザイルをかけて パイプ吹かせば 胸が湧く(※繰り返し)
17:剣のテラス6)に ハンマー振れば ハーケン歌うよ 青空に(※繰り返し)
18:山は荒れても 心の中は いつも天国 夢がある(※繰り返し)
19:槍や穂高は かくれて見えぬ 見えぬあたりが 槍穂高(※繰り返し)
20:命捧げて 恋するものに 何故に冷たい 岩の肌(※繰り返し)
21:ザイル担いで 穂高の山へ 明日は男の 度胸試し(※繰り返し)
22:穂高のルンゼに ザイルを捌いて ヨーデル唄えば 雲が湧く(※繰り返し)
23:西穂に登れば 奥穂が招く まねくその手が ジャンダルム₇)(※繰り返し)
24:槍はムコ殿 穂高はヨメ御 中で吝気の 焼が岳(※繰り返し)
25:槍と穂高を 番兵において お花畑で 花を摘む₈)(※繰り返し)
26:槍と穂高を 番兵に立てて 鹿島めがけて キジを撃つ₉)(※繰り返し)
27:槍の頭で 小キジを撃てば 高瀬と梓10)と 泣き別れ(※繰り返し)
28:名残りつきない 大正池 またも見返す 穂高岳(※繰り返し)
29:まめで逢いましょ また来年も 山で桜の 咲く頃に(※繰り返し)
注₁)小槍…槍ヶ岳付近の小峰(3,030m) ₂)雪渓…白馬大雪渓
₃)雷鳥…日本アルプスに生息するキジ目の鳥、特別天然記念物 ₄)エーデルヴァイス…高山植物ウスユキソウ
₅)チンネ…大きな岩壁をもつ尖峰(剣岳三の窓の東側)
₆)ルンゼ…岩壁に食い込む急な岩溝
₇)ジャンダルム…前衛峰(奥穂高嶽の西南西のドーム型の岩稜)
₈)花を摘む…大便の意味 ₉)キジを撃つ…小便の意味 10)高瀬と梓…高瀬川と梓川
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