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平成28年 2月 変化しつつある台湾の日本食マーケット
変化しつつある台湾の日本食マーケット 公益財団法人交流協会台北事務所(研修生) 後藤 俊治 世界中で人気となっている日本食。台湾へも多くの日本食レストランが進 出しているが、味覚や食習慣など日本人と台湾人の違いには注意が必要だ。 近年、台湾の日本食マーケットは変化しつつあり、成功するためには、台湾 の現状をしっかりと把握し、それらにどう対応していくかが重要となる。 1.はじめに 2013 年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、あらためてその価値 にスポットが当てられたこともあり、世界中で日本食の人気が高まっている。 多くの訪日外国人旅行客も、日本で和食を食べることが旅行の大きな目的の一 つとなっている。 台湾においては、日本統治時代の食文化の影響や近年の健康志向の高まりな どを背景に、以前から日本料理・日式料理の人気は高く、馴染み深いものとな っている。また、台湾の特徴として、他の東アジア各国・地域と同様の傾向で はあるが、好きな日本料理が特定のものに偏るのではなく、様々なメニューが 万遍なく受け入れられていることが挙げられる(図1)。 図1 日本食品に対する海外消費者意識アンケート調査(2013 年 3 月) (出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)) 1 台湾での日本食に対するイメージは、 「高級」、 「高品質」、 「おしゃれ」といっ たポジティブなものである。台湾人は総じて食に対する関心が高く、新しいも の好きであるため、若干高額であっても十分集客は可能である。中には、日本 産ではないにも関わらず、パッケージにあえて日本語を使うことでイメージア ップを図っている製品まである。 2.日本食レストラン進出の現状 近年、多くの日本食レストランが新 店舗名 (店舗数) 店舗名 (店舗数) たなマーケットを求めて海外展開を行 吉野家 (52) CoCo壹番屋 (29) っており、ここ台湾へも続々と進出し ている。主な例として、 「吉野家」や「す すき家 (5) くら寿司 (3) やよい軒 (5) 一風堂 (9) き家」などの牛丼店、 「やよい軒」など の定食店、「くら寿司」などの寿司店、 焼肉乾杯 (25) 一幸舎 (3) 牛角 (16) 丸亀製麺 (16) ワタミ (14) 富士そば (4) 「一風堂」や「一幸舎」などのラーメ さぼてん (29) ロイヤルホスト (14) ン店、 「丸亀製麺」などのうどん店など 大戸屋 (26) モスバーガー (246) が挙げられる(表1)。 中でもラーメン店の進出が活発であ 表1 台湾に進出している日本食店の例 (店舗数は 2016.2 月時点の各社 HP より) り、台湾中央社の記事によると、2013〜14 年の2年間に 19 社、54 店舗が台湾 へ進出したと言われている。前述のとおり日本食が受け入れられやすい環境を 備えた台湾は、第三国への展開を考える上で のテストマーケットの場としても選ばれてい ると推測される。 一般的に、こうした日本食レストランの価 格は日本と同じか高めに設定する傾向が強い が、日本で知名度のあるレストランのオープ ン時には、長蛇の列ができることが多く、し ばらくは平日でも行列が続く。 すき家のオープン時の様子 3.日本との違いについて 食に関する日本人と台湾人の違いについては、特に「味覚・味付け」と「食 習慣」の二つの点で注意が必要である。 まず味覚について、台湾料理は一般的に塩味が薄くあっさりとしたものが多 く、塩辛いもの、甘すぎるものはあまり好まれない。また、台湾では食事の時 にスープを一緒に注文することが多く、スープは飲み干すものという認識があ るため、ラーメンのスープなども同様に飲み干そうとする。そのため、日本と 同じ濃さの味付けでは、台湾人にとっては少々濃過ぎるということになりかね ない。 2 次に食習慣についてみると、台湾では食事中には飲酒をせず、食事と飲酒を はっきり分ける場合が多い。日本の居酒屋や「熱炒」と呼ばれる海鮮居酒屋で は、平日・週末を問わず学生や会社員が飲酒している姿を見るが、その他のレ ストランでは、飲酒している姿を見かけることはほとんどない。 「熱炒」の様子 冷蔵庫のビールはセルフサービス また、台湾で飲まれる酒はビールが多く、40%という高い輸入関税がかかる日 本酒や焼酎は少ない。それらは日本料理店で提供されるか、高級スーパーや百 貨店などで販売されている程度である。居酒屋の店員であっても、日本酒と焼 酎の違いを見分けられない人がいるなど、基本的な知識も十分ではない。しか し近年、日本全国の蔵元を集めた日本酒イベントが賑わいをみせるなど、日本 の酒に対する注目度は高まってきており、今後の拡がりに期待したい。 ちなみに、台湾では酒を含む飲料の持ち込みが可能なレストランが多く、中 には持込料を取らない店舗もある。この点も日本の料理店とは異なる特徴と言 えるだろう。 その他の習慣として、カップル客はテーブル席であっても隣同士に座ること が多いため、店づくりの際にカウンター席を増やすことなどを考慮する必要が ある。 4.最近感じられる変化 日本食レストランの台湾進出は相変わらず続いているものの、ここ数年、若 干傾向に変化が見られるように感じている。 まず、台湾人の味覚の変化である。日本料理を台湾人に合うようにアレンジ した「日式料理」に加え、日本と同じ味である「日本料理」がこれまで以上に 広く受け入れられつつある。これは、訪日旅行者の増加に伴い、旅行先の日本 で本来の味に慣れ親しむ人々が増えてきたことと無関係ではないだろう。台湾 に戻っても、日本で食べたものと同じ味を求める層が増え、進出するレストラ ン側もそういった顧客をターゲットにした味付けで展開を進めていると思われ る。 3 次に、出店する飲食店の分野が専門化されてきていることである。これまで のような居酒屋や定食屋といった様々な種類の料理が食べられる店に加え、特 定の料理を提供する専門店や特色ある店が増えている。最近オープンした大阪 の串かつ店「だるま」はその一例である。ちなみに同店では、ソースの二度づ けを禁止するという日本と同様のルールを採用する一方、瓶入りのソースを別 に準備するなどの配慮をしている。その他にも、健康志向の高まりを受け、こ だわりの素材を使う店も人気がある。宮崎の「九州パンケーキ」は、九州産の 材料のみを使ったパンケーキとして人気を博しており、連日大勢の客で賑わっ ている。店内では生産者の映像が流れ、商品に対する生産者の思いが伝えられ ている。昨年末には台湾2号店をオープン。一過性のブームで終わらせず、長 く顧客に愛されるようサービスの質を保つと同時に、著名人にパンケーキの粉 を送り、実際に食べた感想を発信してくれるよう取り組むなど工夫を凝らして いる。 三つ目は、アウトレットモール等郊外の大型複合商業施設への出店の増加で ある。2016 年 1 月に台湾北部最大級のアウトレットモールとしてオープンした 「三井アウトレットパーク台湾林口」では、台湾初出店を含む飲食店が計 52 店 舗あり、そのうち日本食店が 23 店舗を占めている。ここでもほとんどの飲食店 で行列ができているといい、こうしたアウトレットへの出店も選択肢の一つと 捉えられる。 5.まとめ 台湾の日本食マーケットで成功するためには、前述した変化にいかに対応し ていくかが重要となってくる。日本食のベース部分の味は保ちつつも、スープ は飲み干せる程度に塩分を控えるなど、台湾人の嗜好に合わせた改良は必要に なるだろう。 また、健康志向と食に対する安全意識も今後ますます高まるだろう。素材に こだわった安心・安全な料理を提供していくため、産地表示等により安全性を アピールすることも重要となる。 台湾では、朝食も外で買う文化がある。共働きの核家族が多い都市部では、 毎日1食以上を外食で済ますという人が約 330 万人に上る。また、午前中のみ 営業する朝食店が約2万店あるとされ、朝食マーケットへの参入も大きなチャ ンスである。台湾市場で成功することにより培ったノウハウは、中国をはじめ とする華僑市場へ展開する可能性を広げ、大きな武器となり得るため、世界展 開への第一歩として台湾を考えてみてはいかがだろうか。 4