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飼養環境調査と参加型検討会によるブロイラー農場改善サポート
下越家畜保健衛生所
森田笑子
渡邉章子
阿部隆司
市村有理
濱崎尚樹
佐藤將典
石井清衛
伊藤由美
五十嵐利男
が増加し 、導入羽数に対する死亡・淘汰率が 、0.
はじめに
近年ブロイラーは高度に育種改良され、成長
7%以上に達する週が度々みられた(表1)。
が早く密飼状態になりやすいことから、生産者
には鶏の快適性と生産性のバランスがとれた飼
表1
養管理が求められる。
えた回数(H18∼H20年度)
今回、死亡率が高い傾向がみられるブロイラ
ー農場において飼養環境調査と参加型検討会に
よる農場改善サポートを実施したのでその概要
導入月
H18
H19
H20
計
導入月別の死亡・淘汰率が0.7%を超
5月
7月
9月
12月
2月
計
3(7,9,10)
3(3,6,7)
3(7,8,9)
11
2(7,8)
2(2,9)
2(6,7)
11
2(7,10)
2(6,7)
0
6
0
1(10)
0
1(7)
7
8
10
9
※()は導入後の週を示す
を報告する。
3
取り組みの経緯
1
3(6,7,8)
3(6,7,8)
10
病性鑑定
死亡率が1%を超えた時に病性鑑定を実施した
対象農場の概要
鶏舎構造はウインドウレス、2棟2階建て4鶏舎
で、1鶏舎当たり15,000∼18,000羽収容し、温水
ところ、鶏大腸菌症および鶏ブドウ球菌症がみ
られた(表2)。
ボイラーにより床温度を調節している。換気は
表2
陰圧換気で鶏舎側面に排気扇35台を設置し、稼
働台数と回転数で換気量を制御している。鶏は
鶏舎を3区画に分け雌雄別飼され、中抜きを36∼
40日齢、体重1.75kgを目安に雌約6,500羽で実施
し、その後雌雄混合飼育となる(図1)。
ボイラー室
1
3
2
4
換気扇側
♀
♂
検査日齢
32日齢
31∼38日齢
38日齢
41日齢
診断名
鶏大腸菌症
鶏大腸菌症
鶏大腸菌症
鶏ブドウ球菌症
上記のとおり数年にわたり死亡・淘汰率の上
〈全鶏舎断面図〉
入口
年月
H19.11
H20.1
H20.6
H21.6
病性鑑定実施状況
認されたことから、これらの発症誘因が農場の
♀
〈鶏舎平面図〉
昇がみられ、鶏大腸菌症や鶏ブドウ球菌症が確
入気側
飼養環境にあると推察し、飼養環境改善につい
て指導し、農場担当者や経営者の一定の理解は
図1
農場模式図
得られたが、死亡率の低減はみられなかった。
数回にわたる聞き取りから、農場作業に関わる
2 家畜伝染病予防法第52条に基づく報告
本県では、家畜伝染病予防法第52条に基づく
報告を、100羽以上飼養している養鶏農場から週
人々の間で、飼養管理に対する考えの相違を認
めた こ と から 、「 人」の 問 題 の調 整も 必 要と判
断した。
1回義務づけている。今回取り組みを実施した
そこで飼養環境調査を実施し、調査結果を農
農場では、数年にわたり、導入から出荷までの1
場に関わる全員が出席する参加型検討会で提示
クールの中で、導入後約6週以降になると死亡鶏
し、農場の問題点を共有し対策に取り組んだ。
環境調査
1
(℃)
40
調査項目および方法
(1)定点温度計測(床・舎内)
ア測定期間:平成21年5月∼7月(入雛∼出荷
中抜き
床:指標
35
床:実測
30
まで)に1回目を、平成21年10月∼11月(7日齢
∼出荷まで)に2回目を実施した。
イ測定方法:自動温度測定器を用い、鶏舎内
25
舎内:指標
舎内:実測
20
温度は鶏の高さ(床上約30cm)に設置し、床面
温度は周囲を囲んだ枠内に設置した。鶏の出荷
15
0
6
13
20
27
34
41
48(日齢)
後に温度計を回収し、結果は寒暖の差が大きい
図2
地域で鶏舎内環境を判断するときに用いられる 、
床・舎内温度測定結果
オペレーション温度〔( 舎内最高温度-舎内最低
温度)×2/3+舎内最低温度〕を算出した [6]。
(羽)
(℃)
1階舎内温度
30
気側、中央、入気側 )、排気扇電圧(200V、140
V )、入気口の開き、入気板の角度など各条件毎
に煙の流れを観察し、鶏舎断面模式図に記入し
た。
(3)床表面温度計測
赤外線温度計を用いて、鶏舎床面を60区画に
分け6、13、20、27、34、41日齢で測定した。
60
2階舎内温度
(2)換気輪道試験
空舎時に 、花火の煙玉を用い 、煙玉の位置( 排
70
中抜き
25
基準舎内温度
50
40
20 外気温
1階死亡淘汰数
30
15
20
2階死亡淘汰数
10
10
0
5
6
図3
13
20
27
34
41
48
(日齢)
1 階と 2 階の舎内温度と死亡・淘汰羽数
(4)飼養面積比率の確認
入り口側雌区画、中央雄区画、奥雌区画の各
飼養面積を測定した。
(5)H20年度の死亡・淘汰状況の分析
H20年度の徴求による報告から鶏舎別・日齢別
(2)換気輪道試験
排気側、入気側には風が届かない部分が観察
された 。電圧140Vでは入気側に戻る流れができ 、
鶏舎上部に煙が滞留した。200V、入気口全開で
死亡・淘汰羽数を集計した。
入気板の角度をつけることで鶏の高さの空気が
(6)死亡分布図の分析
流れた。
20∼39日齢(中抜き)までの鶏の死亡分布の
記入を農場に依頼し結果をとりまとめた。
(3)床表面温度計測
保温管理が必要とされる6日齢より、27日齢の
床面で33℃以上の高温域が多くみられた(図4)。
2
結果
(1)定点温度計測(床・舎内)
第1回測定結果の舎内温度は、10日齢頃から農
場の指標温度より高い日が続き、過剰温度の除
6日齢
去が必要といわれる21日齢以降も低下せず推移
した。床温度も30度前後で推移し、中抜き直前
に再度上昇した(図2)。
第2回測定結果は、1階と2階の舎内温度は中抜
きまで1階が高い傾向にあり、死亡・淘汰羽数
も1階で多かった(図3)。
27日齢
30 31 31
32 30
31 30
30
27
32 34 32
34 34
36 34
34
34
31 31 31
32 31
30 31
30
31
32 32 32
32 32
31 30
31
30
30 34 34
34 34
34 32
31
32
28 34 34
35 35
34 32
31
32
33
33
27
35
34
37
33
32
32
31
30
31
31
34
33
35
32
35
29
28
33
30
31
34
32
34
35
30
32
30
26
31
31
33
36
34
31
28
31
33
28
32
33
34
32
32
32
32
32
26
31
34
32
35
34
33
35
32
30
28
図4
鶏舎内床表面温度
(4)飼養面積比率の確認
全ての人が確認できるようにした。
飼養面積は、入り口側雌区画は52.9坪、中央
第1回検討会では農場の問題を抽出し、第2回
雄区画は103.64坪、奥雌区画は54.64坪、合計は
検討会では出された問題に対する具体策につい
211.18坪であり、今まで225坪と考えられていた
て話し合った。参加者から出された主な意見を
面積は前室を含めた広さであることが判明し、
表3で示した。多くの意見が出され、対策の①∼
坪羽数は想定羽数より約5羽多い状態と考えられ
④は現在実行中である。
た。導入羽数16,750羽(雄8,375羽雌手前4,187
羽、奥4,188羽 )、38日齢農場基準体重雄2,242g
雌1,946gを用いて坪羽数・坪重量を換算すると 、
入り口側雌区画は79.1羽/坪(153.9kg/坪 )、中
央雄区画は80.8羽/坪(181.1kg/坪)、奥雌区画は
76.6羽/坪(149.0kg/坪)であり、雄で特に密飼状
態になると考えられた。
(5)H20年度の鶏舎別・日齢別死亡・淘汰状況
27日齢以降死亡・淘汰数が急増し、1階の鶏舎
表3
出された主な問題と対策
主な問題
(第1回検討会)
対策
(第2回検討会)
温度:基準より高
温で推移
風:特に流れの悪
い場所がある
①換気表の見直し
(21日齢以降の設定)
②すきま風防止対策
(ビニールシートで補修)
③鶏の観察力強化(チェックシート記入)
④雌雄区画の設定変更
(坪重量を加味し設定)
区画:雌雄不均衡
(雄の死亡多数、
坪重量大)
密度:高い
⑤導入羽数の検討
(インテ検討:71∼75羽/坪)
で死亡が多くなっていた(図5)。
(羽)
300
取り組み期間中の死亡・淘汰羽数推移
中抜き
36∼40日齢
今回の取り組みがはじまった 平成21年5月か
250
ら、平成22年1月における41日齢までの死亡・淘
200
汰羽数の推移を図6に示した。200羽以上の突出
150
は抑えられたが中抜き前の死亡はまだみられた 。
5月以降導入羽数に対する死亡割合は徐々に下
100
がっていたが、12月導入鶏で再度上昇した。
50
0
0
6
20
27
34
41
48(日齢)
200
5月
7月
検討会
H20 年度農場の死亡・淘汰羽数
《H21.5∼H22.1:41日齢までの死亡・淘汰羽数》
(羽)
検討会
図5
13
9月
12月
150
100
(6)舎内の死亡分布図
50
0
死亡場所は、鶏舎の両はじと中央に多く分布
し、特に雄の区画で死亡が多くなっていた。
参加型検討会
環境調査の結果を経営者自宅において参加型
検討会で発表した。検討会は、平成21年8月10日
0 6 13 20 27 34 41 0 6 13 20 27 34 41 0 6 13 20 27 34 41 0 6 13 20 27 34 41
(日齢)
《導入羽数に対する21-41日齢の死亡・淘汰羽数割合》
導入月
5月
7月
9月
12月
H21
2.21%
1.96%
1.64%
2.08%
前年比
-0.24%
-0.66%
+0.99%
-0.72%
図6
死亡淘汰羽数推移
( 第1回環境調査後 )および平成21年12月2日( 第
2回環境調査後)の2回にわたり行った。参集範
まとめおよび課題
囲は経営者、従業員、アドバイザーとして、イ
ブロイラー飼養鶏舎内の温熱管理は、鶏の体
ンテグレーター 、薬品会社学術部 、管理獣医師 、
温調節機能が確立される21日齢以降は、過剰温
進行役として家保3名が参加した。
度の除去が必須となり、舎内温度は21℃以下の
方法は、付せんを各自に配付し、結果から読
管理が求められる [6]。飼養密度については、20
み取れる意見を記入してもらった後回収し、意
06年の資料では、日本のウインドウレスやシス
見の要点をホワイトボードや模造紙に転記し、
テム鶏舎での現状は55∼80羽/坪となっており、
2004年のブロイラー実績調査では、出荷重量は1
71kg/坪と報告されている
[1]
。高密度飼育は利
益を多く得る反面、換気量、温度、換気輪道な
どを適切に管理しなければ生産性が大きく低下
する。
今回の調査結果から、本農場は舎内温度管理
が基準より高いこと、ウインドウレスでありな
がら鶏舎内環境を一定に保つことが困難である
こと、高密度であることなどが判明した。今回
改善策を実施した12月導入のロットでは、前年
比では死亡・淘汰割合は減少しているものの、
いまだ中抜き前の死亡がみられ、現状の改善策
では、冬期の対策には追いつかない状況と考え
られ課題が残った。
今回の取組により漠然としていた農場の問題
点が「みえる化」され問題の共有がなされた。
その問題について農場に関わる人が意見を出し
合うことで合意形成が促され、参加型検討会は
有意義な場であった。
今後も生産者の対策意欲を維持し、鶏の能力
を十分発揮させ、安全安心な鶏肉を安定的に生
産する手助けができるよう取り組んでいきたい 。
謝辞
最後に今回の取り組みにあたり、ご指導ご協
力いただいた㈱アグロジャパン学術部長日名守
利先生に深謝いたします。
参考文献
[1](社)全国家畜畜産物衛生指導協会,養鶏にお
ける生産システムと疾病の防除対策,48-56,(2
006)
[2](社)畜産技術協会,アニマルウェルフェアの
考え方に対応したブロイラーの飼養管理指針( 素
案 ),1ー8,(2009)
(3)(社)中央畜産会,日本飼養標準家禽(2004年
版),52-53,(2004)
[4]中村陽二:畜産コンサルタント ,2,44-48( 2
010)
(5)(株)日本チャンキー,チャンキーブロイラー
管理マニュアル,14,55-72,岡山(2009)
[6]日名守利:平成21年度春季鶏病技術研修会資
料
最近のブロイラー管理に於ける問題点(温
熱環境管理 ),1-9,(2009)
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