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地域の農林水産物を活用した加工品づくり!
たくみ 青森県産業技術センターの匠のお話あれこれ⑧ 地域の農林水産物を活用した加工品づくり! 地方独立行政法人 青森県産業技術センター 富田 秀弘 農産物加工研究所 (元下北ブランド研究所) 1 .400品以上の加工品を開発 下北ブランド研究所は、平成13年に開設さ 2 .商品開発の事例 ( 1 )地域の特産物を活用した加工品づくり れて以来12年が過ぎ、この間、県内の農林水 産物を原料に、418品目の加工品を開発し、現 海峡サーモンは、北彩漁業生産組合(むつ市 在54品が販売されています(H24年度末)。開 大畑町)が、ドナルドソン系ニジマスを波の荒 発した加工品は、約20%が販売されますが、 「期 い津軽海峡で養殖したものです。販売当初は、 間限定商品として活用」「原料が調達できなく 鮮魚の販売が主体で、加工品は「甘塩切り身」 なった」「廃業した」「企業の担当者が替わって などの簡単なものだけでした。そこで、ライン 製造できなくなった」などの様々な事情から、 ナップの充実を図るため、「吟醸粕漬け」、 「西 製造中止になる場合が多く、定着するものは約 京漬け」や「香味スモークサーモン」などの開 12%ほどです(図 1 ) 。 発を行って、その製造技術を移転しました。 また、鮭には伝統的な「山漬け」という加工 品があります。山漬けとは、鮭をたっぷりの塩 で漬け込み、山のように積み上げて(名前の由 来)、水分を絞り出すとともに、漬け込み中に タンパク質が分解され、熟成された風味が生じ ます。海峡サーモンは、脂がのっているために 乾燥工程で脂がしたたるなどの問題がありまし たが、これを解決し、海峡サーモン山漬けとし 図 1 年次別の開発状況 て販売されています。 品目別に見ると、スルメイカ、ホタテ、海峡 一方、海峡サーモンには鮮度保持技術も投入 サーモン、サケ等の水産物が約60%を占めて しています。 “活きじめ処理” (延髄の破壊)と、 います。 “脱血処理” (動脈の切断と血抜き)です(写 真1) 。 魚の鮮度は、身の固さで判断するので、死後 の身の硬直の推移が鍵であり、この 2 つの方 27 法により、時間が経っても鮮度が保持されるこ 穫後の品質変化や加工方法を研究し、甘く、解 とを明らかにしました。 凍した時ちょうど良い食感の枝豆が味わえる加 工技術を開発しました。毛豆品種「あおもり福 丸」の産地である横浜町で商品化されています (写真 2 ) 。 写真 1 機械化した活きじめ処理とその製品 まず、水揚げしてすぐに活きじめ処理と脱血 処理を行い、死後硬直を遅らせます(図 2 ) 。 脱血には鮮やかな身の色を保ち、生臭さを低減 写真 2 冷凍エダマメの加工技術 させる効果もあります。さらに、活きじめ処理 は、うま味のもととなるATP(アデノシン三 ( 2 )地域と地域を結ぶ加工品作り リン酸)の減少を抑制するので、うま味成分が 保持されます。これらの処理をしたサーモンは、 「活〆海峡サーモン」として、通常より約12% 高い価格で販売しています。 地域で生産される農水産物を活用するだけで は、加工品の種類が限られてしまいます。そこ で、他の地域との連携も大切です。 「ほたて魚醤」は、むつ湾産のホタテを魚醤 に仕上げたものです。 魚醤は、生臭いのが欠 硬直指数 点ですが、県特産のり んご果汁を配合して醸 造することで、生臭さ を消すことに成功しま した。この製法は特許 経過時間 [時間] を取得し、横浜町で商 図 2 海峡サーモンの硬直指数の変化 品化されています(写 写真 3 ホタテ魚醤 真3) 。 話は変わって、青森県には、「毛豆」という ボン・サーブの「飲むヨーグルト」は、コク 莢に茶色の毛が生えた食味の良い枝豆がありま があるヨーグルトです。これと津軽地域のりん す。枝豆は、鮮度低下が早く、収穫後 1 日で、 ご果汁を組み合わせ、爽やかな飲み口にしたり 甘味となる糖は半減、うま味となるアミノ酸は んご入り飲むヨーグルトを開発しました(写 約 2 / 3 に減少するので、獲りたての味を生 真 4 左) 。 産地以外で味わうことは困難です。そこで、収 また、「嶽きみ」は、糖度が高く、とても甘 28 れぢおん青森 2013・5 いスイートコーンのブランドです。これと下北 域産品の活用、価格、内容量、パッケージサイ の牛乳をマッチングさせ、嶽きみアイスを開発 ズ、常温流通などの条件があり、乾燥品やカレ しました(写真 4 右)。双方とも、素材の味わ ーや炊き込みご飯の素などのレトルトパウチ食 いを活かすようにした配合がポイントです。 品の開発を行いました。 最初は、加圧加熱すると、加熱臭が出て、製 品の味が似てくるなどの問題があり、個性的な 味作りが課題でした。しかし、調味料の種類や 配合を吟味し、時にはカレー粉をブレンドする などの結果、原材料の良さを活かした各種商品 を開発できました(写真 6 ) 。 写真 4 津軽地域のりんご、スイートコーン と下北の牛乳の組み合わせ ( 3 )消費者の多様なニーズを商品化 今日、包丁などの調理器具を持たない世帯や 一人暮らし世帯が増加し、調理の簡略化が求め られています。このような世帯向けに開発した のが、「海峡サーモンちゃんちゃん焼き」です 写真 6 各種の加圧加熱食品 (写真5)。この商品は、魚と野菜、調味料を組 み合わせ、1 人前パックにしてあり、レンジで 4 .まだまだある加工技術 加熱するだけで、食べることができる「いつで も、簡単に」を商品にしたものです。 現在は、海峡サーモン以外の鮮度保持技術と して、キアンコウ、アイナメ、ナマコなどを対 象に研究しています。特にキアンコウについて は、開発した技術を風間浦村に普及・移転して いるところです。 一方、未利用・低利用資源の開発も進めてい ます。ハマナスから見つけた植物性乳酸菌を利 写真5 冷凍のちゃんちゃん焼きパック 用したヨーグルト、新しいパン酵母の開発に向 けた酵母の採集や選抜、製パン特性の研究も行 ( 4 )地域産品をお土産に っています。 今後も、 「地域の農林水産物を活用した加工 東北新幹線新青森駅の開業に合わせて、お土 品づくり」を進めることで、地域振興の役に立 産品の開発が求められました。お土産品は、地 ちたいと考えています。 29