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15秒間スピーチ「友達ほめほめスピーチ」から広がる友達理解
■15秒間スピーチ「友達ほめほめスピーチ」から広がる友達理解 IT 活用中川塾1期生 砺波市立出町小学校 水 木 靖 1 実践の説明 (1)15秒間スピーチとは 「15秒間スピーチ」というのは、自分が担任する学級で2学期から続けてきた朝の会のスピー チである。Aさん→Bさん→Cさんと15秒ごとにスピーチし、全員が行う。 ○ スピーチを始める前の子どもたちの実態 ・ 1 分間スピーチを行ってきたが、その後のアンケートから「一分間は長い」 「緊張する」とど ちらかというと「スピーチは苦手だ」と答える子どもが多い。 ・ 話し合いで発表する子どもが限られている。 ・ 話し合いで子どもたちの発表がつながっていかない。 ○ 「なぜ15秒間スピーチなのか」…担任の願いとねらい 「子どもたち全員が話し合いに参加できる教室にしたい。 」 → 話す実際の場面を想定できるスピーチにする。 ・話す緊張に慣れる。 ・「理由は~」や「僕と比べて~」といった話し方に慣れる。 ・友達の話を聞き自分の発表に生かす。 ○ 2学期までの取り組み 条件の工夫 ・声量を考える。 ・15秒いっぱい話す ・前の人の意見と比べて話す「私は健くんと違って~」 ・今までで出て来ていない意見をいうこと 聞くための工夫 ・聞いた後に内容に関する問題を出す ・前の人の意見を聞いていないとこたえられないような条件を出す テーマの工夫 ・「鳥」と「魚」生まれ変わるとしたらどっち? ・旅行に行くなら、飛行機がいいか、電車がいいか ・学習の中の意見交換 (2)「友達ほめほめスピーチ」とは 15秒間スピーチの一環として行ったもの。一人の友達のよさを全員がスピーチする。 ○ 子どもたちの実態 ・ 遊び友達の固定化(特に女子に見られる) ・ 友達同士のあいさつができない(おはよう、ありがとうなど) ・ 荒っぽい言葉遣い(特に男子に見られる) ・ 友達のよさよりも悪いところの方が目につく。 ・ 自分よさをすぐに見つけられない ○ 「なぜ友達ほめほめスピーチなのか」…担任の願いとねらい 「学級の友達一人一人を見つめ、もっと友達のよさを知って欲しい」 「自分のよさを知り自信をもってほしい」 → 友達のよさを知ることで、お互いに認め合い、信頼し合う態度を育てる。 「みんなによさを知ってもらえた」と学級での自分の存在を実感する。 2 実践してみて 普段のスピーチの様子や道徳の時間の話し合いを通して、「子どもたちの話す力は伸びたか。」「自 分や友達の理解につながったか。」ということを考えた。 (1)授業記録「友達ほめほめスピーチについて感想を話そう」 この道徳の学習は、スピーチがある程度進んだ2月10日に行った。 ①「友達のよいところをもっと見つけていきたい。 」…学級の友達と進んでかかわること ②「自分のよさをもっと増やしていきたい。」…自信をもち、これからの目標をもつこと この二点を子どもたちから引き出して、後のスピーチや日常生活にも目当てをもって取り組んで 欲しいと考えた。 T :1月中旬から友達ほめほめスピーチを毎日続けてきたよね。友達ほめたりほめられたりしてきて いるわけですけど、さっき感想を書いてもらったのでその感想をみんなに話してほしいなと思い ます。友達ほめほめスピーチをやってどう? 田島:どうって? T :感想だけど 佐藤:言ってもらった感想?言った感想? T :どっちでもいいよ。 高橋:私はスピーチで言ったことなんだけど、後で思い出すとスピーチをすると友達のよいこと見つけ をすることがだんだん楽しくなってきました。わけは、友達の悪いところを見つけるのだったら、 友達が傷ついてしまうかもしれないけど、友達のいいところだったらその友達が自分にこんなと ころがあったんだなと前の時のデータを再生することができるからです。 ・データって何や? T :自分が友達のいいところを言ってあげることで「こんなところあったんだな」って友達が思って くれたら、高橋さんならどう思う? 高橋:うれしい。 T :どうして? 高橋:うそのことだったら「そんなことなかったよ。」と思うかもしれないけど、本当のことだったら その人もそういうことがあったんだ」と思ってくれるから。 佐藤:自分の知らないことや知っていたことが分かった。元気とか負けず嫌いとか言われて、元気が自 分でも思っていたけど、負けず嫌いは自分では思っていなかったからです。 飯田:友達にいいところを言ってもらえると、自分では気づかなかったいいところが分かって、まだま だいいところを増やしていきたいと思った。 T :たくさん手が挙がってにぎやかになってきたぞ。 米原:私は、最初はみんなと同じことばかり言っていたけど、だんだん見つけることが上手になってき たし、詳しく話すことができるようになってきた。 T:それってスピーチがうまくなってきたと言うことかな。 山本:私は米原さんと違って、友達のよいところを見つけるといい気持ちになりました。何でかという と友達の悪いことを言うのではないからです。悪いことを言うと気持ち暗くなるけど、いいこと をいうと心がきれいになって明るいふうになるからです。 T :それは米原さんと違うのかな?違うという言い方にもいろいろあるね。米原さんと全然違うのか な。白と黒くらい? ・ 茶色と黒くろくらいかな。 T :ちょっとちがうけど全然違っているのではないよね。どんな言い方がいいか考えていけるといい ね。 T:(山本さんに)友達のいいとこを見つけるといい気持ちになるといい気持ちになる・・・誰が?自 分? 山本:そうです。他に、 「友達が気づかなかったことがあります。」と言われてすっきりしました。わけ は友達の新しいことを教えてあげるとすっきりしました。悪いことだと友達も私も心が傷つくか らです。 田島:僕は米原さんに付け加えで、スピーチがうまくなってきただけじゃなくてもっとうまくなってき たと思います。 T :へえ、もっとがつくんだね。例えばどんなところ? 田島:えっとね、人の言うことを真似しないでいろいろなことを言うことができるようになってきた。 T :田島くんのように自分のスピーチがうまくなってきたなと思う人いる?たくさんいるねえ。どん なところがうまくなってきたと思う?・・・あら、どうしてスピーチがうまくなってきたのに、 手を下げてしまうのかな。 ・だって急に言われても・・・ T:例えば、こんなところ少しできるようになってきたと言うことでもいいよ。 増本:私は最初わけをいうことができなかったけど、だんだんわけを言えるようになってきました。 ・同じです。 河合:僕もスピーチがうまくなってきました。わけは、最初の時は何十回に1回しか言わなかったけど、 最近は5回に4回くらいはやるようになってきました。 T :確立がよくなってきたんだね。みんな気づいてる?最近河合くんが話せなくなって、おもしろい ポーズでごまかすことが少なくなってきたの。 増田:私がうまくなってきたのは、最初はわけが短かったけど、慣れてくると長く言えるようになって きました。 江田:スピーチがうまくなってきたと思うことは、詳しく話すことです。ずっと前スピーチは少し嫌い で、詳しく話すことが少し苦手だったからからです。 T :今いいこと聞いちゃった。正直言って、スピーチ嫌いだったという人・・・うわあ、すばらしく ピンと手を挙げていますね。人数数えようかな。1人、2人・・・24人。すごい嫌いな人の数 だね。 ・だけど… T :だけど、今は嫌いじゃなくなってきた人? ・前から嫌いじゃなかったよ。 T :前から嫌いじゃなかった人も手を挙げて。1人、2人…30人あれ?岩川さんは? 岩川:前は題名が色々変わっていて考えるのが楽しかったけど、友達をほめるスピーチで今は題名が同 じだからおもしろくない。 T :いつも一緒だからね。こんな人もいた。嫌いとまでは言わないけど・・・(板書) ・ に・が・て。苦手 ・ 苦手でもあるな。 佐藤:難しい人もいる。 岩川:私はよく遊んでいる人は普段からいるからよく分かるんだけど、あんまり遊んでいない人はなわ とびとかみんなでやるやつしかやらないから、少しでも近くにしかいないから、本当にストーカ ーみたいにやらないといえないこともある。本当にしたことはないけど。本当になったときにし か分からないいいところもあるから、そういうことを分かりたい。 佐藤:分かるよ! T :何が?分かるように言って? 佐藤:だってさあ、クラス一緒だから。 松島:近い 佐藤:それに遊ぶやん。 増田:でも、遊ぶときに見かけない人もいる。 佐藤:授業中見かけるやん。運動会だってあるでしょ。発表会だって。だからさあ… (少し声が聞こえなくなる) T :みんな、友達のよさをどうやって見つけているの? 佐藤:何かね・・ T :いつも先生はつっこみを入れているけど、本当は感心しているんだよ。よく毎日続くなあと思っ て。よく全員言えるなあと。どうやって見つけているの? メモしたり ・ 僕、飯田と一年生から一緒。 T ・ :ストーカーしたりとか 則島:席が近くなったらしゃべって、そのときによく分かる。 ・ T 河原となったときに少し。 :遊んでいる人となら分かるよね 田島:男子だったら全員分かる。 T :男子女子もあるのか。 (声が聞き取れないくらい、がやがやとしてくる。) 岩川:自分からみたら悪いところばっかりだったらさあ… T :みんな今の発言聞こえた?岩川さん、もう一度言ってください。 岩川:一緒に遊んでいる人はよいところより悪いところの方が少なく感じるんだけど、あんまり遊ばな いし、少しいじめられている人は、自分からみたら悪いところが多いから、あまりいいところの イメージがわかないことが多い。 T :自分というのは岩川さんのことですか 岩川:私の友達には悪い人がいないと思っているから、そういうことはよく分かるんだけど、毎日いじ られている人から見たら、その人は悪いところがたくさん見えて、いいところは数えきれるくら いしか見えない。 T :岩川さんは誰の気持ちになって考えているか分かる? ・ ??? T:岩川さんは今自分でない人の気持ちを考えているんだね。誰の気持ちだろう?今までは「自分」 「友達」のこといっていたけど、このクラスにいるか分からないけど、いつもたたかれたりしている人 は、そのたたいている人のよいところなんてみえないんじゃないのということかな。そこらへんはどう 思う?そうだなと思う? (この先はほとんど教師の声しか聴き取ることができなかったので割愛します。 ) ○ 話すことについて ・ 毎日全員がスピーチすることで、少しずつ話すことに慣れてきた 話し合いの中でもあったように、スピーチが苦手だと思っている子どもが24人いたが、最近 は30人の子どもが嫌いじゃなくなってきたと答えている。実際に様子を見ていても、スピーチ を楽しんでしている子どもたちも多くなってきた。例えば、始めは15秒間の中でほんの5、6 秒くらいしか話せない子どももいたが、少しずつ言葉の数が多くなり、最後の方では「○○さん のいいところは、元気なところです。 わけは…」と理由をつけて話すこと ができるようになった。 毎日同じような形で、全員がスピ ーチを行ってきたことでその緊張 感に慣れてきた。また、話すのが苦 手な子どもにとっては、友達の内容 や話し方などを真似しながら、少し ずつ話すことの壁を低くしていっ たと考える。 ・ 「わけは~」 「僕と比べて~」という言い方を一人一人が身につけることで話す内 容が増えてきた 友達のよいところを探す経験が少ない子どもたちにとって、毎日のスピーチを考えるのは一苦労。 始めのうちは、「○○くんのいいところは元気なところです。」と言って後、残りの時間を沈黙で過 ごしてしまう子どもも多かった。そこで、スピーチの時間が余る子どもに対して、「わけは?」「ど んなことがあったの?」など簡単に聞き返すことを続けた。また、理由が分かりやすい子どものス ピーチを取り上げてほめることでよさを広げていった。最近では、ほぼ全員がスピーチ時はもちろ ん、話し合いの時にも、自分の理由を話そうとしている。 ある子どもの友達のよいところ見つけのメモである。 〔スピーチはじめのころのメモ〕 〔スピーチ終了時〕 始めのころは、「バスケがうまい。」「おもしろい」「明るい」などよさを並べた程度のメモだった。 しかし、スピーチ終了時には、わけをしっかりと考えてスピーチに臨む姿が見られるようになった。 また、場面や回数など具体的に表し、友達のよさを分かりやすく発表しようと努力している。 全体での話す量も増えてきている。スピーチで出てきた友達のよさを学級だよりにまとめて、家の 人に伝えているのだが、その内容もスピーチが進むごとに増え、また分かりやすくなっている ○ 1番 みんな同じ ように考えて くれたから、 これからも元 気にしたい。 ○17番 はやく声がかれて いるのを治して、大 きな声で話せるよう にしたい。 ・すごく元気いっぱい ・運動がすごい(走るのが速い、バスケがうまい) ・いつも一緒に遊んでくれる(誘ってくれる) ・楽しい話でおもしろい ・物知り ・すぐにあきらめない ・いつも笑顔でいる。 ・何にでもがんばっている。 ・みんなを楽しませてくれる。笑わせてくれる。 ・いつも大きな声を出すー顔が真っ赤になるくらい 健康観察や遊びの中で ・友達を誘うのがうまい・百人一首を百枚覚えている ・勇気があるー先生にも意見を言える ・いろいろな賞状をもらっている ・がんばっているー学習発表会のボディパーカッション では赤くはれるくらいにがんばって足をたたいた。 例えば、「がんばっている」というよさでも、1番の子どものものに比べて、17番の子どものも のは「学習発表会のボディパーカッションでは赤くはれるくらいにがんばって足をたたいた。」とよ り具体的に理由をいうことができるようになっている。 「わけは~」「僕と比べて~」という時、具体的な場面を伝えないと友達に理解してもらえないた め子どもたちは普段から友達のよさを見つけるようになってきた。そうなってきたのは、毎日のスピ ーチの場で、言われている本人や教師から問い直されて考えたり、ほめられた友達のスピーチを参考 にして考えたりしたことで、子どもたちの話す力がついてきたのだろう。 ○友達や自分の理解について ・ 友達のよさを知り教え合うことで、友達を見る目がかわる。 前述のメモや子どもたちのスピーチのまとめを読んでも分かるように、友達のよさを「元気」 「がんばり屋」と一言で終わらせるのではなく、「欠席がほとんどないほど元気。」「顔が真っ赤 になるくらい大きな声でがんばって歌っている。」など具体的に見つけ、理解を深めている。自 分が教えてあげたよさに対して喜んでもらえるようにがんばりたいなど、相手の反応を楽しみに しながらスピーチをする子どもも出てきた。 本人が知らなかったよさを「かくれた才能」としてほめてあげる子どももいた 何人かの子どもは具体的によさを発表した。そのことをスピーチ後に取り上げて例として示す ことで、他の子どもたちにも友達の見方が広がっていった。いろいろな友達の見方を知ることで 子どもたちの理解も深まり、「友達にやさしく接することができるようになった。」「嫌なことも あったけど、好きになった人の方が多い。」など友達との関係も少しずつよくなっている。 ・ 友達にほめられる喜びを感じることで、自信や次の目標につながっていった。 ほめられる直前になると子どもたちは、 「どんなことを言ってもらえるのかな。 」と期待と不安 でそわそわしてくる。しかし、ほめられてうれしくない子どもはいない。どの子どもたちも恥ず かしさで顔がうつむいてきたが、感想では「こんなにほめられたことはないからうれしい。 」 「今 まで気づかなかったぼくのよさが分かってよかった。」と喜んでいる。 話し合いの中に、「一緒に遊んでいる友達じゃないとよさが見えてこない」という意見もあっ たが、これまで運動会、総合的な学習の時間、なわとび大会、学習発表会などの行事や日々の生 活から子どもたちはお互いのよさを見つけてきた。そのよさをお互いに出し合うことで、子ども たちは友達とのつながりを感じ、 「3年1組の一員でよかったなあ」と所属感を高めに違いない。 それが、自信になりスピーチや他の活動にも「もっと僕のいいところを知ってもらいたい。」と 目当てをもって取り組むようになってきた。 3 実践を終えて ある先生から「子どもたちによさを出させても深く響く意見は出ない。よさを見つけるのがうま くなる反面、悪いところを見ない子どもに育つのではないか」と指摘を受けたことがある。しかし、 このスピーチから、「ほめてもらっても同じことばかりだったらうれしくない。」「もっといろいろ なよさを見つけてあげたい。」と子どもたちなりに友達のことを、自分のことをもっと知りたいと 思っていることが確信できた。友達関係は、お互いのよさを知り合うことから始まる。子どもたち は確実にその一歩を踏み出したと考える。 スピーチに関しては、別の話題で進行中である。しかし、この先もずっと15秒間だけでいいの かという問題は今も自分の中で解決していない。スピーチに関してはこれからも実践を続けていき たい。