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第18回いたばし国際絵本翻訳大賞 英語部門(The Ice Bear)
第 18 回いたばし国際絵本翻訳大賞 英語部門講評 選考は、まず前半で 20 のチェックポイントを設けて第一次選考を行い、後半で 20 のチェックポイ ントを設けて第二次選考を行い、残った 40 弱の応募作品のなかから最終的に優れた作品を何点 か選びました。 今回の絵本は文章も長く、あちらこちらに詩的な表現や、見慣れない表現があったせいでしょう か、応募数は例年よりも少なめでした。 とくにこの作品のバックに流れるイヌイット的な感性に戸惑った方も多かったのではないでしょう か。イヌイット(エスキモー)の人々の民話や伝説の多くにはアミニズム的な考えが色濃く表れてい て、それがこの絵本の魅力にもなっています。 冒頭の"In the beginning of time people and animals lived together on the earth and there was no difference between them."という 1 文に、それが凝縮されています。これはイヌイットだけでなく、 アメリカ大陸の先住民すべての伝統的な世界観です。 そんなわけで、今回は、現代的な感覚とはまったく相容れない世界の物語をいかに語ってみせ るか、という、その点がなにより大きなチェックポイントになりました。つまり、文体です。常体(です ます)がふさわしいのか、敬体(だ、だった)がふさわしいのか、ということではありません。それは どちらでもよいのです。問題は、使う単語と言い回しと全体の雰囲気です。この絵本も翻訳が出る と思うので、ぜひ読んでみてください。 その他、細かいチェックポイントをいくつかあげておきましょう(読みやすいよう漢字を多用してあ ります)。 A word spoken in a chance ふと(偶然に)口にした言葉。 Raven tricked her. ここは「だました、あざむいた」ではなく、思い切って、「子グマをこっそり盗みだ した、連れていった」くらいのほうがいいでしょう。 He could smell the storm coming, the scent of snow on the knife-edge of the wind. 嵐(吹雪)が くるのが鼻でわかった。風にさすような(ナイフの刃のような)においがある。なるべく、前後がひっ くり返らないように訳すのがこつです。 to last 「最後」ではなく、「持続する」という意味。 She lined it with the fur of the white wolf... 白いオオカミの毛皮で裏打ちした。 A piece of amber, smoothed by the oceans, coloured clear and beautiful, like a fragment of fire, washed ashore from a far-off place. 琥珀のかけらがひとつ、海で磨かれ、すきとおるように美しく、 炎のかけらのようになって、遠く離れた地から岸に打ち上げられていた。 A seal's length away アザラシ1頭分、離れたところ。 さて、前回も前々回も書いたのですが、次回もまた挑戦しようと思っている方のためにいくつか アドバイスを。 ・誤訳をできるだけ少なくする(わからない箇所、気になる部分はちゃんと調べる。また、何人かで 勉強会などをして、お互いに指摘し合うと、誤訳は減ります)。 ・文章はあまり固くならないように。また漢字をどのくらい使うかについては、作品を読んで、よく考 える。図書館などでいろんな絵本を読んで、参考にするといいでしょう。 ・何度も読み直し、できれば音読して、作者のメッセージ、意図などをくみとる(訳しあがったら、必 ずだれかに読んでもらいましょう)。 ・絵をよく見て、それを訳文に反映させる(絵にはいろんなヒントが隠されているものです)。 英語部門審査員 金原 瑞人