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特集:デジタルイメージング技術 面発光型半導体レーザアレイ素子を使った 露光装置 Light Exposure System Using A Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser Diode Array 要 旨 光源に 32 ビーム VCSEL アレイを搭載した世界初の 露光装置を開発し、電子写真方式では業界初の解像度 2,400dpi を実現した。本稿では今回新規に開発した VCSEL-ROS について、とりわけその要となる部品で ある VCSEL アレイを中心に、その構造的特徴や生産 工程、さらにそこで実現された画質等を紹介する。 我々は日本発の半導体発光素子である VCSEL をそ の特長である 2 次元アレイ化が容易な点を活かして複 写機の高速・高画質化の鍵を握る主要部品に採用し、 世界に先駆けて製品化した。VCSEL-ROS は電子写真 式複写機の高解像度化、高速化の技術潮流に一石を投 じ、複写機をまた一歩、印刷機に近づける発明、技術 であるといえよう。 Abstract Fuji Xerox developed a novel light exposure system using a vertical-cavity surface-emitting laser diode 執筆者 植木 市川 池田 手塚 太田 伸明 (Nobuaki Ueki)* 順一 (Jun-ichi Ichikawa)** 周穂 (Chikaho Ikeda)*** 弘明 (Hiroaki Tezuka)**** 明 (Akira Ota)***** * 光システム事業開発部 (Optical System Business Development) ** 技術開発本部 マーキングプラットフォーム開発部 (Marking Platform Development, Technology Development Group) *** 技術開発本部 基盤技術開発部 (Key Technologies Development, Technology Development Group) **** モノ作り技術本部 電子デバイス・部品技術部 (Electrical Device Engineering, Production Technology Group) ***** オフィスプロダクト事業本部 画像制御システム開発部 (Image Control System Development, Office Products Business Group) 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 (VCSEL) array with 32 lasing spots, and realized the world first true 2,400-dpi resolution raster output scanner (ROS) for copy machines and multi-functional printer products. In this report, we described a newly developed VCSEL-ROS mainly focusing on a VCSEL array with reference to structural features, manufacturing process, and the quality of the printed image. We have adopted a VCSEL, which is a Japanoriginated semiconductor light emitting device and easy to fabricate in 2-D arrays, as a light source supporting high-speed and high-quality performance in our product. We are the first company in the world to launch VCSEL-based copy machines and printers into market. We believe that VCSEL-ROS technology should change the trend of electro-photography systems from the viewpoint of speed and resolution enhancement, and bring about innovation to eliminate the boundary between a copy machines and printing machines. 11 特集:デジタルイメージング技術 面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置 1. はじめに オフィスドキュメントにおけるカラー化の進 展は目を見張るものがある。この市場要求に対 応すべく各社がしのぎを削る状況は新規技術の 導入を促し、市場拡大にも繋がっている。ひと ころは画質のインクジェット、スピードの電子 写真といった色分けもあったが、昨今は両者と もウィークポイントの解消に努め、以前に比べ 両者の差は縮まってきている。電子写真の高画 質化について見れば、現像用トナー粒子径の小 径化や形状制御、階調再現性を高めた現像技術、 忠実な画像再生のための転写技術の改善、そし て露光装置の高解像度化など、様々な技術がカ ラー化の進展を支えている。 さらにこれらの技術は、その市場をオフィス からオンデマンド・パブリッシングに代表され るデジタル印刷市場へと本格展開させる契機と もなっている。印刷市場の中心は今後もオフ セット印刷が握るものと見られるが、少量多品 種の製品で作製されるカタログやちらしといっ た軽印刷の分野では版下の要らないカラー複写 機への期待は高く、米国では既に印刷全体の 数%を占める市場規模となっている。印刷機に 求められるスピードと画質の実現が、この市場 でのシェア拡大の要件となる。 電子写真式プリンターの高速化、高解像度化 の鍵を握る技術の一つが、レーザ ROS(Raster Output Scanner)と呼ばれる露光装置である (図 1) 。ROS はレーザビームをポリゴンミラー (回転多面鏡)によって偏向し、f-θレンズ系を 介して感光体面上を走査露光するための装置で ある。今回我々は光源にマルチスポット化が容 易 な 面 発 光 型 半 導 体 レ ー ザ 素 子 VCSEL ( Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser VCSEL Monitor Photodiode Polygon Mirror f-Θ Lens Photoreceptor Main Scanning Direction 図 1. 12 露光装置の模式図 An illustration of raster output scanner (light exposure system). diode)を採用し、少ない走査回数で高密度の走 査 線 書 き 込 み が 可 能 な 新 し い レ ー ザ ROS (VCSEL-ROS) を開発した。この VCSEL-ROS によって複写機・複合機の高速・高画質化を図 り、オフィスでの高品質カラードキュメントの 提供、あるいはデジタル印刷市場への展開を図 ることがその狙いである。 本稿では今回新規に開発した VCSEL-ROS について、とりわけその要となる部品である VCSEL を中心に、構造的特徴や生産工程、さ らにそこで実現された画質等を紹介する。 2. VCSEL-ROS の主要技術 今回の VCSEL-ROS で新規に開発した 3 つの 要素、すなわち光源(半導体レーザ素子)、光学 系(レンズ)、駆動系(ASIC)について、それ ぞれの特徴を記す。 2.1 VCSEL アレイ VCSEL は東京工業大学・伊賀健一教授(現 名誉教授)が発案し、1988 年に世界で初めて室 温連続動作を達成した日本発の半導体発光素子 である[1,2]。1996 年に米国のメーカー(旧 Honeywell 社)が市場導入を果たし、これまで 主に短距離トランシーバ・モジュールの光源と して利用されてきた。既に年間 1,000 万個が消 費される市場にまで成長したが、これ以外への 応用は検討段階のものが多く、商品化されたも のは非常に少ない。我々はこの VCSEL の特徴 である 2 次元アレイ化が容易な点を活かして電 子写真式プリンターの光源に用いれば、従来に ない高密度かつ高速な ROS を実現できるので はないかと考えた。 今回 ROS 用に新たに開発した VCSEL が、図 2 に示す 780nm 帯 8×4 シングルモード VCSEL アレイである。本素子は 2,400dpi の解像度を実 現するため、狭ピッチ(<50µm)斜め配列を採 用し、各発光スポットとも 2mW 超の光出力(室 温)を得ている。 ROS は前述のとおり感光体ドラム面上を レーザビームで露光走査するためのものだが、 従来この目的で用いられてきた端面発光型レー ザを用いた場合と走査の様子を比較したものが 図 3 である。発光スポットが増えることによっ て、より少ない走査回数で多くの走査線を書き 込むことができる。本素子を用いた ROS では 1 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 特集:デジタルイメージング技術 面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置 スキャンで 32 本の走査線書き込みが可能であ る。これによって高速化、高解像度化に寄与で きることは容易にわかるが、現実にはビーム数 の増加に伴い、それに合わせた光学系や駆動系 を新規開発することが必要になった。 感光体間に、走査方向のみパワーを有する f-θ レンズ系と副走査方向のみパワーを有する 2 枚 のシリンドリカルミラーを用いることで、複数 ビ ー ムに よる 走 査線 間の 並行 度 差ゼ ロ、 デ フォーカスによるビーム間隔(走査線間隔)変 動ゼロを実現した。 また VCSEL は端面発光レーザと異なり、 レーザの後端面からビームを出力させることが できない。そこで、レーザから射出されたビー ムをレーザとポリゴンミラー間に配置したハー フミラーによりその一部を分離し、フォトダイ オードで検出して光量制御を行なっている(図 1 参照)。 2.3 ドライバーIC 図 2. 780nm 帯 8×4 シングルモード VCSEL アレイ A picture of 8 by 4 single-mode VCSEL array at 780-nm wavelength. VCSEL は構造上、内部抵抗 R が 200Ω程度 にもなり、端面発光型レーザ(10Ω以下)に比 べ非常に高い。このため端面発光型レーザで通 常用いられる電流駆動方式をそのまま使用した のではプリンターで要求される変調速度を得る 1st scan current 2nd scan 1st scan 3rd scan voltage 4th scan τ=C・R 5th scan 6th scan 2nd scan laser power (a) Current drive 8th scan (a) 2400 dpi by 32 beams (b) 600 dpi by 2 beams 図 3. τ=C・R 7th scan current マルチビームレーザを使った走査露光の比較 Comparison of scanning methods in ROS based on multi-spot laser diode. voltage 2.2 新光学系 laser power 2 次元アレイ発光源を用いる VCSEL-ROS に はレーザとポリゴンミラー間、並びにポリゴン ミラーと感光体間を共にアフォーカル系とする 新光学系を採用した(図 4) 。ポリゴンミラーと Polygon Col.L f-θ Lens (b) Voltage drive current voltage drive Cyl.M2 current drive voltage drive voltage laser power Cyl.L VCSEL 図 4. Cyl.M1 VCSEL-ROS 用新光学系(アフォーカルレンズ系) optical lens system for VCSEL-ROS (afocal lens system). 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 (c) Voltage / current complementary drive DRUM 図 5. 3 種類の駆動方式による電流、電圧、および光量波形 Wave patterns of current, voltage, and optical response by three different driving methods. 13 特集:デジタルイメージング技術 面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置 ことができない。電流駆動方式で VCSEL を駆 動した場合の電流・電圧・光量の各波形を図 5(a) に示す。矩形の電流波形に対し、光量はレーザ 素子の内部抵抗 R と寄生容量 C の積である時定 数τで立ち上がるため、高い R の影響で鈍って しまう。これに対し図 5(b)に示す電圧駆動方式 (矩形の電圧波形を入力)では R によらず、立 ち上がりを速くすることができる。ところがこ の駆動方式は点灯時の自己発熱によりレーザの 電圧-電流特性が変化するため、光量が徐々に 増大してしまう欠点があった。 我々は図 5(c)に示す電圧電流駆動方式のドラ イバーIC を新たに開発し、立ち上がり時のみ電 圧駆動させ、その後は電流駆動に切り替えるこ とで光量を安定化させることに成功した。 3.1 シングルモード高出力化 ROS 用 VCSEL に求められる光出力特性は、 室温で 2mW を超える基本横モード発振である。 我々が作製した選択酸化型 VCSEL の構造断面 図を図 6 に示す(作製方法については次章で詳 述)。酸化アパーチャ径(Dox)を十分狭く(~ 3µm)すれば高次モードがカットオフされ、基 本横モード発振のみ得られる。しかし、活性層 体積が減少すれば光出力の低下は避けられない。 これまでこの波長帯で得られていた VCSEL の 基本横モード光出力は 1mW 程度だった。そこ で我々は電流注入時に電極として用いられる金 属層(電極アパーチャ)を横モード制御に利用 以上のように、32 ビームスポットを有する 8 ×4 アレイ、アフォーカル光学系、並びに電圧 電流駆動方式のドライバーIC を開発すること で走査線密度 2,400 dpi、プリント速度 100 枚/ 分を達成可能な VCSEL-ROS が誕生した。 3. ROS 用 VCSEL の開発 しかしこの新規 ROS に用いられる VCSEL に関しては配列の特異性の他に、電気-光学特 性上の課題が残されていた。感光体、光学系と の関係から、波長 780nm 帯における「基本横 モードの高出力化」 、さらには「偏光制御」とい う技術課題である。 (a) 図 7. 14 図 6. 選択酸化型 VCSEL の断面模式図 Schematic cross-sectional structure of an oxide-confined VCSEL. (b) (a) 電極アパーチャ構造を有する選択酸化型 VCSEL の光出力特性,(b)電極アパーチャ径 4 µm 時の発振スペクトル Optical output power of an oxide-confined VCSEL as s function of metal-aperture size and lasing spectrum of the oxide-confined VCSEL with metal-aperture size of 4 µm. 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 特集:デジタルイメージング技術 面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置 し、基本横モード光出力を引き上げる試みを行 なった[3]。 図 7(a) は 酸 化 ア パ ー チ ャ 径 一 定 ( Dox = 3.5µm)時に、電極アパーチャ径(Dm)をパラ メータとして、高次横モードを含む最大光出力、 並びに基本横モード成分の光出力を表したグラ フ、図 7(b)は Dm = 4µm 時の発振スペクトルを 示したものである。Dm の最適化によって 3mW を超える基本横モード出力が得られ、副モード 抑圧比(SMSR)は 30dB に達していることが わかる。これはモード間の周回損失差を利用し た“空間モードフィルタリング効果”によるも のである。 径の最適化により基本横モード性が向上した素 子は、2 度オフ基板のわずかな異方性に対して も、しきい値利得の差を発現し易くなるものと 考えられる[6]。 こうして ROS 向け仕様を満足する 780nm 帯 シングルモード VCSEL を安定的に作製するこ とができるようになった。 3.2 偏光制御 ROS 用光学系には偏光依存性を有するミ ラー等が含まれているため、偏光方向(電界ベ クトルの向き)が定まらないと光量バラツキの 原因となる。端面発光型レーザは基板平面に水 平な方向に偏光しているが、基板垂直方向に出 射する VCSEL は直線偏光特性を示すものの、 その偏光方向は通常基板平面内で定まらない。 傾斜基板を用いた偏光制御法は報告されていた が[4,5]、特殊基板のためコスト高になるという 欠点があった。 我々は VCSEL の偏光特性と横モード特性と の関係に着目し、電極アパーチャによる空間 モードフィルタリング効果と傾斜基板の有する 利得の異方性を組み合せた偏光制御を試みた。 実験では低転位基板として入手しやすい 2 度オ フ GaAs 基板(図 8)を用いた。 図 9. 偏光分離光出力-注入電流特性、並びに偏光モード抑圧比 Polarization resolved L-I curves of oxide-confined VCSEL. PMSR is calculated from two orthogonal L-I data. 4. ものづくり技術としてのVCSEL生産 今回開発した VCSEL-ROS に関しては、主要 部品である光源の VCSEL を自社開発、自社生 産していることが特筆される。半導体素子であ る VCSEL を自社内のクリーンルーム、あるい は生産フロアで一貫生産することは、例えば素 子構造に関係する仕様変更等に迅速な対応が可 能となるほか、生産ノウハウの蓄積の観点から も数多くの利点が期待できる。 4.1 特性の均一化 図 8. 傾斜 GaAs 基板の結晶方位に対する素子配置 Device configuration against a crystal orientation of misoriented GaAs substrate. 図 9 は図 7(b)の条件における光出力を、グラ ン・トムソンプリズムを使って[01-1]および [011]の各方向成分に分離した偏光 L-I 特性であ る。偏波モード抑圧比(PMSR)は最大 17dB に達し、本素子の偏光特性が[01-1]方向に強く 制御されていることがわかる。電極アパーチャ 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 半導体レーザ素子において効率の良い発振を 得るには、狭い領域に高い利得分布を形成する ための電流狭窄が必要である。我々はエッチン グにより形成した柱状構造物の側壁部から、露 出した高 Al 組成層を高温の水蒸気雰囲気下で 部分的に酸化し、高抵抗領域(電流狭窄部)を 得る選択酸化型 VCSEL 構造を採用している (図 6 参照)。酸化領域の屈折率( (AlXGa1-X) O ) :~1.6)は電流経路である非酸化領域の屈 2 3 折率(AlYGa1-YAs:3~3.5)の半分以下と低い ため、電流狭窄と同時に光閉じ込めも行なわれ、 発振効率が高まる。しかし選択酸化型 VCSEL の特性はこの酸化アパーチャ径に非常に敏感で、 この径の制御が素子の歩留りを左右するといっ 15 特集:デジタルイメージング技術 面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置 ても過言ではない。 また、レーザを 2 次元アレイ化しても、チッ プ(=半導体素子)内の発光ビット間、チップ 間、あるいは異なるウエハ間で特性にばらつき があっては応用上好ましくない。プロセスは通 常ウエハ単位で行なわれるから、 「ウエハ面内、 あるいはウエハ間での特性均一化」という特別 な施策が必要となる。特性均一化のためには上 述した酸化の制御性を高めることが重要で、そ の指標として「酸化速度の把握」と「終点の検 出」が挙げられる。しかし酸化現象は機密封止 された石英管の中で行なわれるため、顕微鏡を 使ってこれらを直接に観察したり、計測したり することは難しい。 そこで我々は図 10 に示す OPTALO(Optical Probing Technique for AlAs Lateral Oxidation) 観察法を新たに開発した[7]。OPTALO 法はウ エハ内に設けた周期的パターンに白色光を照射 し、その反射スペクトルの変化から酸化の状態 をその場観察する方法であり、この手法によっ て±0.5µm 以内の酸化開口径の制御が可能と なった。 図 11. 図 12. 典型的な 8×4 VCSEL アレイの光出力-注入電流- 印加電圧特性 L-I-V characteristics of a typical 8 by 4 VCSEL array. 典型的な 8×4 VCSEL アレイの広がり角分布 Distribution of beam divergence angle of a typical 8 by 4 VCSEL array. 4.2 チップの製造 図 10. 酸化制御に用いられる OPTALO 法の模式図 Schematic diagram of an OPTALO method for precise control of oxidation depth. OPTALO 法を使用して作製された VCSEL (8 ×4 アレイ)の光出力―電流―電圧特性を図 11 に示す。同一電流値に対する光出力値は±5%以 内にあり、均一性は非常に高い。また典型的な 8×4 アレイについて、遠視野像に基づく一定光 出力時の広がり角(半値全幅)の分布データを 図 12 に示す。最大 13.74 度、最小 13.20 度と、 ほぼ 0.5 度以内に全 32 ビットの特性が収まって おり、酸化開口径が十分制御されていることを 示している。OPTALO 法によりウエハ歩留りは 飛躍的に向上した。 16 クリーンルームでの半導体プロセスを経て作 製された VCSEL ウエハは、図 13 に示す検査・ 実装工程に回される[8]。ウエハ上には数千個の チップが整然と並んでおり、検査工程では各々 のチップに対して電気-光学特性の測定が行な われる。端面発光型レーザと異なり、VCSEL はウエハレベルでデバイス評価ができることか ら、実装工程を待つことなく、つまり破壊検査 なしで素子の良否についての判定が可能である。 これが VCSEL の高歩留り、高生産性に繋がる。 検査の結果、各特性値、32 ビット間の特性ばら つき等が予め決められたスペックを満たしてい れば実装工程を経てパッケージ化される。LCC (Leaded Chip Carrier)パッケージ上に実装さ れたチップの外観写真を図 14 に示す。 実装工程では最後にロット番号やチップ番号 等、必要な情報を QR コードと呼ばれるマト 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 特集:デジタルイメージング技術 面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置 リックス型二次元コードの形式でパッケージ本 体に印字している。その後の工程においてチッ プはこのコードで管理され、トレーサビリティ (製造履歴)が確保される。 部 品 と共 に PWBA ( Printed Wiring Board Assemblies)化され(図 16)、他の光学部品と 共に ROS に組み上げられた後、調整・検査工 程に送られる。 Break down voltage Die Collet Pin Chip Capillary Applied Voltage (V) 図 15. Wire Pad (on PKG) 図 13. Output Power (mW) Emitting region n = 16 直接帯電モデルに基づくシングルモード VCSEL の 静電耐圧試験の結果 ESD test result for a single-mode VCSEL based on a machine model. Chip 検査工程・実装工程の流れ Process flow of testing and assembling of VCSEL fabrication for ROS. Lot No VCSEL QR code 図 16. Chip No Driver IC 新開発した駆動用 IC が VCSEL と共に実装された PWBA PWBA with a newly developed driver IC and a packaged VCSEL. 5. VCSEL-ROS の完成 図 14. 表面実装型パッケージにされた実装されたチップの 外観写真と、パッケージ上に印字された QR コード Picture of a VCSEL mounted onto LCC package and image of QR-code marked on package. VCSEL は端面発光型レーザに比べ静電気耐 性が低く、取り扱いによって特性劣化や静電破 壊を引き起こし易い。図 15 は直接帯電モデルで の静電耐圧試験の結果だが、電圧負荷 50V 程度 で光量低下を生じていることがわかる。製造工 程では作業環境・方法・設備など様々な観点か ら静電気対策を講じている。さらに信頼性保証 項目として寿命(通電)試験の他、ヒートサイ クル、低温・高温高湿試験等の保存試験、落下・ 振動試験等、各種項目を確認している。 合格判定されたチップは駆動用 IC 等の電子 富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006 VCSEL-ROS による高解像度化のメリットと しては線画品質の改善、スクリーン自由度向上 による階調再現性の改善、画像処理でのカラー レジ補正による補正精度および安定性の改善の 3 点が挙げられる[9]。 線画品質の改善事例を図 17 に示す。従来は線 画品質の改善のため、パルス幅変調や強度変調 によるスムージング処理といったレーザ素子の 変調技術に依存した手法が取られてきたが、 2400dpi の VCSEL-ROS ではこのような方法を 用いることなく、スムーズな線画を得ることが できる。また、600dpi 等では途切れてしまう小 さな文字も良好に再現することが可能である。 また、副走査方向の露光位置の自由度が増え るので、従来よりも画像を再現するためのスク 17 特集:デジタルイメージング技術 面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置 リーン(網点)構造の自由度が増え、電子写真 プロセスの階調特性に適したスクリーン設計が 可能となる。これにより高いスクリーン線数に おいても滑らかな階調再現ができるようになっ た。 4 つの感光体を用いたいわゆるタンデムカ ラープリンターではミラーやレンズを機械的に 動かしてカラーレジを合わせることが一般的に 行なわれている。一方、2400dpi では画像処理 により画像位置をずらしてもその段差(10µm) が視認されなくなるほど小さい。このためカ ラーレジ補正を全て電子化することができ、こ れが補正精度および安定性の改善に繋がった。 こうして完成した VCSEL-ROS はデジタル カラー複写機 DocuColor 1256 GA(図 18)に 搭載され、2003 年 8 月に市場導入された。本製 品は VCSEL を使った世界初のプリンターであ り、その特長を生かした高速(プリント速度: カラー12.5 枚/分、モノクロ 55 枚/分) 、高画質 (2,400 dpi)機である。 6. まとめ 光源に 32 ビーム VCSEL アレイを搭載した世 界初の露光装置を開発し、電子写真方式では業 界初の解像度 2,400dpi を実現した。本装置はデ ジタルカラー複写機 DocuColor 1256 GA を皮 切りに、毎分 80 枚の印刷速度を誇るカラー・ オ ン デマ ンド ・ パブ リッ シン グ ・シ ステ ム DocuColor 8000 Digital Press 、 ApeosPort C7550 I 等、高画質性・高生産性を求められる 領域を中心に多数の機種に採用され、国内外の 市場で高い評価を受けている。 8×4=32 ビームという、他に類例を見ない多 点発光のレーザを使いこなし、かつこの半導体 レーザ素子を高い品質で量産するに至るまでに は、部門を横断して多数の技術者の共同作業が 欠かせなかった。主要部品を自社開発・自社生 産するという、メーカーの原点とも言うべき「も のづくり」に取り組み、世界に先駆けてこれを 製品化したことは、高画質へ拘りの一端を示す ものである。 VCSEL-ROS は電子写真式複写機の高解像度 化、高速化の技術潮流に一石を投じ、複写機を また一歩、印刷機に近づける発明、技術である といえよう。 7. 参考文献 a) 600 dpi 図 17. 従来 ROS(600dpi)により作成されたプリントサンプル と VCSEL-ROS(2400dpi)によるそれとの比較 Comparison of the printed images between a conventional ROS (600 dpi) and a VCSEL-ROS (2400 dpi). 図 18. 18 b) 2400 dpi 世界初の VCSEL 搭載デジタルカラー複写機 “DocuColor 1256 GA” "DocuColor 1256 GA", world first digital color multi-function printer utilizing VCSEL. 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