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特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った
露光装置
Light Exposure System Using A Vertical-Cavity
Surface-Emitting Laser Diode Array
要
旨
光源に 32 ビーム VCSEL アレイを搭載した世界初の
露光装置を開発し、電子写真方式では業界初の解像度
2,400dpi を実現した。本稿では今回新規に開発した
VCSEL-ROS について、とりわけその要となる部品で
ある VCSEL アレイを中心に、その構造的特徴や生産
工程、さらにそこで実現された画質等を紹介する。
我々は日本発の半導体発光素子である VCSEL をそ
の特長である 2 次元アレイ化が容易な点を活かして複
写機の高速・高画質化の鍵を握る主要部品に採用し、
世界に先駆けて製品化した。VCSEL-ROS は電子写真
式複写機の高解像度化、高速化の技術潮流に一石を投
じ、複写機をまた一歩、印刷機に近づける発明、技術
であるといえよう。
Abstract
Fuji Xerox developed a novel light exposure system
using a vertical-cavity surface-emitting laser diode
執筆者
植木
市川
池田
手塚
太田
伸明 (Nobuaki Ueki)*
順一 (Jun-ichi Ichikawa)**
周穂 (Chikaho Ikeda)***
弘明 (Hiroaki Tezuka)****
明 (Akira Ota)*****
*
光システム事業開発部
(Optical System Business Development)
** 技術開発本部 マーキングプラットフォーム開発部
(Marking Platform Development, Technology
Development Group)
*** 技術開発本部 基盤技術開発部
(Key Technologies Development, Technology
Development Group)
**** モノ作り技術本部 電子デバイス・部品技術部
(Electrical Device Engineering, Production Technology
Group)
***** オフィスプロダクト事業本部 画像制御システム開発部
(Image Control System Development, Office Products
Business Group)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
(VCSEL) array with 32 lasing spots, and realized the
world first true 2,400-dpi resolution raster output
scanner (ROS) for copy machines and multi-functional
printer products. In this report, we described a newly
developed VCSEL-ROS mainly focusing on a VCSEL
array with reference to structural features,
manufacturing process, and the quality of the printed
image.
We have adopted a VCSEL, which is a Japanoriginated semiconductor light emitting device and easy
to fabricate in 2-D arrays, as a light source supporting
high-speed and high-quality performance in our product.
We are the first company in the world to launch
VCSEL-based copy machines and printers into market.
We believe that VCSEL-ROS technology should
change the trend of electro-photography systems from
the viewpoint of speed and resolution enhancement,
and bring about innovation to eliminate the boundary
between a copy machines and printing machines.
11
特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置
1. はじめに
オフィスドキュメントにおけるカラー化の進
展は目を見張るものがある。この市場要求に対
応すべく各社がしのぎを削る状況は新規技術の
導入を促し、市場拡大にも繋がっている。ひと
ころは画質のインクジェット、スピードの電子
写真といった色分けもあったが、昨今は両者と
もウィークポイントの解消に努め、以前に比べ
両者の差は縮まってきている。電子写真の高画
質化について見れば、現像用トナー粒子径の小
径化や形状制御、階調再現性を高めた現像技術、
忠実な画像再生のための転写技術の改善、そし
て露光装置の高解像度化など、様々な技術がカ
ラー化の進展を支えている。
さらにこれらの技術は、その市場をオフィス
からオンデマンド・パブリッシングに代表され
るデジタル印刷市場へと本格展開させる契機と
もなっている。印刷市場の中心は今後もオフ
セット印刷が握るものと見られるが、少量多品
種の製品で作製されるカタログやちらしといっ
た軽印刷の分野では版下の要らないカラー複写
機への期待は高く、米国では既に印刷全体の
数%を占める市場規模となっている。印刷機に
求められるスピードと画質の実現が、この市場
でのシェア拡大の要件となる。
電子写真式プリンターの高速化、高解像度化
の鍵を握る技術の一つが、レーザ ROS(Raster
Output Scanner)と呼ばれる露光装置である
(図 1)
。ROS はレーザビームをポリゴンミラー
(回転多面鏡)によって偏向し、f-θレンズ系を
介して感光体面上を走査露光するための装置で
ある。今回我々は光源にマルチスポット化が容
易 な 面 発 光 型 半 導 体 レ ー ザ 素 子 VCSEL
( Vertical-Cavity Surface-Emitting Laser
VCSEL
Monitor Photodiode
Polygon Mirror
f-Θ Lens
Photoreceptor
Main Scanning Direction
図 1.
12
露光装置の模式図
An illustration of raster output scanner
(light exposure system).
diode)を採用し、少ない走査回数で高密度の走
査 線 書 き 込 み が 可 能 な 新 し い レ ー ザ ROS
(VCSEL-ROS)
を開発した。この VCSEL-ROS
によって複写機・複合機の高速・高画質化を図
り、オフィスでの高品質カラードキュメントの
提供、あるいはデジタル印刷市場への展開を図
ることがその狙いである。
本稿では今回新規に開発した VCSEL-ROS
について、とりわけその要となる部品である
VCSEL を中心に、構造的特徴や生産工程、さ
らにそこで実現された画質等を紹介する。
2. VCSEL-ROS の主要技術
今回の VCSEL-ROS で新規に開発した 3 つの
要素、すなわち光源(半導体レーザ素子)、光学
系(レンズ)、駆動系(ASIC)について、それ
ぞれの特徴を記す。
2.1 VCSEL アレイ
VCSEL は東京工業大学・伊賀健一教授(現
名誉教授)が発案し、1988 年に世界で初めて室
温連続動作を達成した日本発の半導体発光素子
である[1,2]。1996 年に米国のメーカー(旧
Honeywell 社)が市場導入を果たし、これまで
主に短距離トランシーバ・モジュールの光源と
して利用されてきた。既に年間 1,000 万個が消
費される市場にまで成長したが、これ以外への
応用は検討段階のものが多く、商品化されたも
のは非常に少ない。我々はこの VCSEL の特徴
である 2 次元アレイ化が容易な点を活かして電
子写真式プリンターの光源に用いれば、従来に
ない高密度かつ高速な ROS を実現できるので
はないかと考えた。
今回 ROS 用に新たに開発した VCSEL が、図
2 に示す 780nm 帯 8×4 シングルモード VCSEL
アレイである。本素子は 2,400dpi の解像度を実
現するため、狭ピッチ(<50µm)斜め配列を採
用し、各発光スポットとも 2mW 超の光出力(室
温)を得ている。
ROS は前述のとおり感光体ドラム面上を
レーザビームで露光走査するためのものだが、
従来この目的で用いられてきた端面発光型レー
ザを用いた場合と走査の様子を比較したものが
図 3 である。発光スポットが増えることによっ
て、より少ない走査回数で多くの走査線を書き
込むことができる。本素子を用いた ROS では 1
富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置
スキャンで 32 本の走査線書き込みが可能であ
る。これによって高速化、高解像度化に寄与で
きることは容易にわかるが、現実にはビーム数
の増加に伴い、それに合わせた光学系や駆動系
を新規開発することが必要になった。
感光体間に、走査方向のみパワーを有する f-θ
レンズ系と副走査方向のみパワーを有する 2 枚
のシリンドリカルミラーを用いることで、複数
ビ ー ムに よる 走 査線 間の 並行 度 差ゼ ロ、 デ
フォーカスによるビーム間隔(走査線間隔)変
動ゼロを実現した。
また VCSEL は端面発光レーザと異なり、
レーザの後端面からビームを出力させることが
できない。そこで、レーザから射出されたビー
ムをレーザとポリゴンミラー間に配置したハー
フミラーによりその一部を分離し、フォトダイ
オードで検出して光量制御を行なっている(図
1 参照)。
2.3 ドライバーIC
図 2. 780nm 帯 8×4 シングルモード VCSEL アレイ
A picture of 8 by 4 single-mode VCSEL array
at 780-nm wavelength.
VCSEL は構造上、内部抵抗 R が 200Ω程度
にもなり、端面発光型レーザ(10Ω以下)に比
べ非常に高い。このため端面発光型レーザで通
常用いられる電流駆動方式をそのまま使用した
のではプリンターで要求される変調速度を得る
1st scan
current
2nd scan
1st
scan
3rd scan
voltage
4th scan
τ=C・R
5th scan
6th scan
2nd
scan
laser power
(a) Current drive
8th scan
(a) 2400 dpi by 32 beams (b) 600 dpi by 2 beams
図 3.
τ=C・R
7th scan
current
マルチビームレーザを使った走査露光の比較
Comparison of scanning methods in ROS
based on multi-spot laser diode.
voltage
2.2 新光学系
laser power
2 次元アレイ発光源を用いる VCSEL-ROS に
はレーザとポリゴンミラー間、並びにポリゴン
ミラーと感光体間を共にアフォーカル系とする
新光学系を採用した(図 4)
。ポリゴンミラーと
Polygon
Col.L
f-θ Lens
(b) Voltage drive
current
voltage
drive
Cyl.M2
current
drive
voltage
drive
voltage
laser power
Cyl.L
VCSEL
図 4.
Cyl.M1
VCSEL-ROS 用新光学系(アフォーカルレンズ系)
optical lens system for VCSEL-ROS (afocal lens
system).
富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
(c) Voltage / current complementary drive
DRUM
図 5.
3 種類の駆動方式による電流、電圧、および光量波形
Wave patterns of current, voltage, and optical response
by three different driving methods.
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特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置
ことができない。電流駆動方式で VCSEL を駆
動した場合の電流・電圧・光量の各波形を図 5(a)
に示す。矩形の電流波形に対し、光量はレーザ
素子の内部抵抗 R と寄生容量 C の積である時定
数τで立ち上がるため、高い R の影響で鈍って
しまう。これに対し図 5(b)に示す電圧駆動方式
(矩形の電圧波形を入力)では R によらず、立
ち上がりを速くすることができる。ところがこ
の駆動方式は点灯時の自己発熱によりレーザの
電圧-電流特性が変化するため、光量が徐々に
増大してしまう欠点があった。
我々は図 5(c)に示す電圧電流駆動方式のドラ
イバーIC を新たに開発し、立ち上がり時のみ電
圧駆動させ、その後は電流駆動に切り替えるこ
とで光量を安定化させることに成功した。
3.1 シングルモード高出力化
ROS 用 VCSEL に求められる光出力特性は、
室温で 2mW を超える基本横モード発振である。
我々が作製した選択酸化型 VCSEL の構造断面
図を図 6 に示す(作製方法については次章で詳
述)。酸化アパーチャ径(Dox)を十分狭く(~
3µm)すれば高次モードがカットオフされ、基
本横モード発振のみ得られる。しかし、活性層
体積が減少すれば光出力の低下は避けられない。
これまでこの波長帯で得られていた VCSEL の
基本横モード光出力は 1mW 程度だった。そこ
で我々は電流注入時に電極として用いられる金
属層(電極アパーチャ)を横モード制御に利用
以上のように、32 ビームスポットを有する 8
×4 アレイ、アフォーカル光学系、並びに電圧
電流駆動方式のドライバーIC を開発すること
で走査線密度 2,400 dpi、プリント速度 100 枚/
分を達成可能な VCSEL-ROS が誕生した。
3. ROS 用 VCSEL の開発
しかしこの新規 ROS に用いられる VCSEL
に関しては配列の特異性の他に、電気-光学特
性上の課題が残されていた。感光体、光学系と
の関係から、波長 780nm 帯における「基本横
モードの高出力化」
、さらには「偏光制御」とい
う技術課題である。
(a)
図 7.
14
図 6.
選択酸化型 VCSEL の断面模式図
Schematic cross-sectional structure of
an oxide-confined VCSEL.
(b)
(a) 電極アパーチャ構造を有する選択酸化型 VCSEL の光出力特性,(b)電極アパーチャ径 4 µm 時の発振スペクトル
Optical output power of an oxide-confined VCSEL as s function of metal-aperture size and lasing spectrum of
the oxide-confined VCSEL with metal-aperture size of 4 µm.
富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置
し、基本横モード光出力を引き上げる試みを行
なった[3]。
図 7(a) は 酸 化 ア パ ー チ ャ 径 一 定 ( Dox =
3.5µm)時に、電極アパーチャ径(Dm)をパラ
メータとして、高次横モードを含む最大光出力、
並びに基本横モード成分の光出力を表したグラ
フ、図 7(b)は Dm = 4µm 時の発振スペクトルを
示したものである。Dm の最適化によって 3mW
を超える基本横モード出力が得られ、副モード
抑圧比(SMSR)は 30dB に達していることが
わかる。これはモード間の周回損失差を利用し
た“空間モードフィルタリング効果”によるも
のである。
径の最適化により基本横モード性が向上した素
子は、2 度オフ基板のわずかな異方性に対して
も、しきい値利得の差を発現し易くなるものと
考えられる[6]。
こうして ROS 向け仕様を満足する 780nm 帯
シングルモード VCSEL を安定的に作製するこ
とができるようになった。
3.2 偏光制御
ROS 用光学系には偏光依存性を有するミ
ラー等が含まれているため、偏光方向(電界ベ
クトルの向き)が定まらないと光量バラツキの
原因となる。端面発光型レーザは基板平面に水
平な方向に偏光しているが、基板垂直方向に出
射する VCSEL は直線偏光特性を示すものの、
その偏光方向は通常基板平面内で定まらない。
傾斜基板を用いた偏光制御法は報告されていた
が[4,5]、特殊基板のためコスト高になるという
欠点があった。
我々は VCSEL の偏光特性と横モード特性と
の関係に着目し、電極アパーチャによる空間
モードフィルタリング効果と傾斜基板の有する
利得の異方性を組み合せた偏光制御を試みた。
実験では低転位基板として入手しやすい 2 度オ
フ GaAs 基板(図 8)を用いた。
図 9.
偏光分離光出力-注入電流特性、並びに偏光モード抑圧比
Polarization resolved L-I curves of oxide-confined VCSEL.
PMSR is calculated from two orthogonal L-I data.
4. ものづくり技術としてのVCSEL生産
今回開発した VCSEL-ROS に関しては、主要
部品である光源の VCSEL を自社開発、自社生
産していることが特筆される。半導体素子であ
る VCSEL を自社内のクリーンルーム、あるい
は生産フロアで一貫生産することは、例えば素
子構造に関係する仕様変更等に迅速な対応が可
能となるほか、生産ノウハウの蓄積の観点から
も数多くの利点が期待できる。
4.1 特性の均一化
図 8.
傾斜 GaAs 基板の結晶方位に対する素子配置
Device configuration against a crystal orientation of
misoriented GaAs substrate.
図 9 は図 7(b)の条件における光出力を、グラ
ン・トムソンプリズムを使って[01-1]および
[011]の各方向成分に分離した偏光 L-I 特性であ
る。偏波モード抑圧比(PMSR)は最大 17dB
に達し、本素子の偏光特性が[01-1]方向に強く
制御されていることがわかる。電極アパーチャ
富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
半導体レーザ素子において効率の良い発振を
得るには、狭い領域に高い利得分布を形成する
ための電流狭窄が必要である。我々はエッチン
グにより形成した柱状構造物の側壁部から、露
出した高 Al 組成層を高温の水蒸気雰囲気下で
部分的に酸化し、高抵抗領域(電流狭窄部)を
得る選択酸化型 VCSEL 構造を採用している
(図 6 参照)。酸化領域の屈折率(
(AlXGa1-X)
O
)
:~1.6)は電流経路である非酸化領域の屈
2 3
折率(AlYGa1-YAs:3~3.5)の半分以下と低い
ため、電流狭窄と同時に光閉じ込めも行なわれ、
発振効率が高まる。しかし選択酸化型 VCSEL
の特性はこの酸化アパーチャ径に非常に敏感で、
この径の制御が素子の歩留りを左右するといっ
15
特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置
ても過言ではない。
また、レーザを 2 次元アレイ化しても、チッ
プ(=半導体素子)内の発光ビット間、チップ
間、あるいは異なるウエハ間で特性にばらつき
があっては応用上好ましくない。プロセスは通
常ウエハ単位で行なわれるから、
「ウエハ面内、
あるいはウエハ間での特性均一化」という特別
な施策が必要となる。特性均一化のためには上
述した酸化の制御性を高めることが重要で、そ
の指標として「酸化速度の把握」と「終点の検
出」が挙げられる。しかし酸化現象は機密封止
された石英管の中で行なわれるため、顕微鏡を
使ってこれらを直接に観察したり、計測したり
することは難しい。
そこで我々は図 10 に示す OPTALO(Optical
Probing Technique for AlAs Lateral Oxidation)
観察法を新たに開発した[7]。OPTALO 法はウ
エハ内に設けた周期的パターンに白色光を照射
し、その反射スペクトルの変化から酸化の状態
をその場観察する方法であり、この手法によっ
て±0.5µm 以内の酸化開口径の制御が可能と
なった。
図 11.
図 12.
典型的な 8×4 VCSEL アレイの光出力-注入電流-
印加電圧特性
L-I-V characteristics of a typical 8 by 4 VCSEL array.
典型的な 8×4 VCSEL アレイの広がり角分布
Distribution of beam divergence angle of a typical 8
by 4 VCSEL array.
4.2 チップの製造
図 10.
酸化制御に用いられる OPTALO 法の模式図
Schematic diagram of an OPTALO method for
precise control of oxidation depth.
OPTALO 法を使用して作製された VCSEL
(8
×4 アレイ)の光出力―電流―電圧特性を図 11
に示す。同一電流値に対する光出力値は±5%以
内にあり、均一性は非常に高い。また典型的な
8×4 アレイについて、遠視野像に基づく一定光
出力時の広がり角(半値全幅)の分布データを
図 12 に示す。最大 13.74 度、最小 13.20 度と、
ほぼ 0.5 度以内に全 32 ビットの特性が収まって
おり、酸化開口径が十分制御されていることを
示している。OPTALO 法によりウエハ歩留りは
飛躍的に向上した。
16
クリーンルームでの半導体プロセスを経て作
製された VCSEL ウエハは、図 13 に示す検査・
実装工程に回される[8]。ウエハ上には数千個の
チップが整然と並んでおり、検査工程では各々
のチップに対して電気-光学特性の測定が行な
われる。端面発光型レーザと異なり、VCSEL
はウエハレベルでデバイス評価ができることか
ら、実装工程を待つことなく、つまり破壊検査
なしで素子の良否についての判定が可能である。
これが VCSEL の高歩留り、高生産性に繋がる。
検査の結果、各特性値、32 ビット間の特性ばら
つき等が予め決められたスペックを満たしてい
れば実装工程を経てパッケージ化される。LCC
(Leaded Chip Carrier)パッケージ上に実装さ
れたチップの外観写真を図 14 に示す。
実装工程では最後にロット番号やチップ番号
等、必要な情報を QR コードと呼ばれるマト
富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置
リックス型二次元コードの形式でパッケージ本
体に印字している。その後の工程においてチッ
プはこのコードで管理され、トレーサビリティ
(製造履歴)が確保される。
部 品 と共 に PWBA ( Printed Wiring Board
Assemblies)化され(図 16)、他の光学部品と
共に ROS に組み上げられた後、調整・検査工
程に送られる。
Break down
voltage
Die Collet
Pin
Chip
Capillary
Applied Voltage (V)
図 15.
Wire
Pad (on PKG)
図 13.
Output Power (mW)
Emitting region
n = 16
直接帯電モデルに基づくシングルモード VCSEL の
静電耐圧試験の結果
ESD test result for a single-mode VCSEL based
on a machine model.
Chip
検査工程・実装工程の流れ
Process flow of testing and assembling of
VCSEL fabrication for ROS.
Lot No
VCSEL
QR code
図 16.
Chip No
Driver IC
新開発した駆動用 IC が VCSEL と共に実装された PWBA
PWBA with a newly developed driver IC and a
packaged VCSEL.
5. VCSEL-ROS の完成
図 14.
表面実装型パッケージにされた実装されたチップの
外観写真と、パッケージ上に印字された QR コード
Picture of a VCSEL mounted onto LCC package
and image of QR-code marked on package.
VCSEL は端面発光型レーザに比べ静電気耐
性が低く、取り扱いによって特性劣化や静電破
壊を引き起こし易い。図 15 は直接帯電モデルで
の静電耐圧試験の結果だが、電圧負荷 50V 程度
で光量低下を生じていることがわかる。製造工
程では作業環境・方法・設備など様々な観点か
ら静電気対策を講じている。さらに信頼性保証
項目として寿命(通電)試験の他、ヒートサイ
クル、低温・高温高湿試験等の保存試験、落下・
振動試験等、各種項目を確認している。
合格判定されたチップは駆動用 IC 等の電子
富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
VCSEL-ROS による高解像度化のメリットと
しては線画品質の改善、スクリーン自由度向上
による階調再現性の改善、画像処理でのカラー
レジ補正による補正精度および安定性の改善の
3 点が挙げられる[9]。
線画品質の改善事例を図 17 に示す。従来は線
画品質の改善のため、パルス幅変調や強度変調
によるスムージング処理といったレーザ素子の
変調技術に依存した手法が取られてきたが、
2400dpi の VCSEL-ROS ではこのような方法を
用いることなく、スムーズな線画を得ることが
できる。また、600dpi 等では途切れてしまう小
さな文字も良好に再現することが可能である。
また、副走査方向の露光位置の自由度が増え
るので、従来よりも画像を再現するためのスク
17
特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置
リーン(網点)構造の自由度が増え、電子写真
プロセスの階調特性に適したスクリーン設計が
可能となる。これにより高いスクリーン線数に
おいても滑らかな階調再現ができるようになっ
た。
4 つの感光体を用いたいわゆるタンデムカ
ラープリンターではミラーやレンズを機械的に
動かしてカラーレジを合わせることが一般的に
行なわれている。一方、2400dpi では画像処理
により画像位置をずらしてもその段差(10µm)
が視認されなくなるほど小さい。このためカ
ラーレジ補正を全て電子化することができ、こ
れが補正精度および安定性の改善に繋がった。
こうして完成した VCSEL-ROS はデジタル
カラー複写機 DocuColor 1256 GA(図 18)に
搭載され、2003 年 8 月に市場導入された。本製
品は VCSEL を使った世界初のプリンターであ
り、その特長を生かした高速(プリント速度:
カラー12.5 枚/分、モノクロ 55 枚/分)
、高画質
(2,400 dpi)機である。
6. まとめ
光源に 32 ビーム VCSEL アレイを搭載した世
界初の露光装置を開発し、電子写真方式では業
界初の解像度 2,400dpi を実現した。本装置はデ
ジタルカラー複写機 DocuColor 1256 GA を皮
切りに、毎分 80 枚の印刷速度を誇るカラー・
オ ン デマ ンド ・ パブ リッ シン グ ・シ ステ ム
DocuColor 8000 Digital Press 、 ApeosPort
C7550 I 等、高画質性・高生産性を求められる
領域を中心に多数の機種に採用され、国内外の
市場で高い評価を受けている。
8×4=32 ビームという、他に類例を見ない多
点発光のレーザを使いこなし、かつこの半導体
レーザ素子を高い品質で量産するに至るまでに
は、部門を横断して多数の技術者の共同作業が
欠かせなかった。主要部品を自社開発・自社生
産するという、メーカーの原点とも言うべき「も
のづくり」に取り組み、世界に先駆けてこれを
製品化したことは、高画質へ拘りの一端を示す
ものである。
VCSEL-ROS は電子写真式複写機の高解像度
化、高速化の技術潮流に一石を投じ、複写機を
また一歩、印刷機に近づける発明、技術である
といえよう。
7. 参考文献
a) 600 dpi
図 17.
従来 ROS(600dpi)により作成されたプリントサンプル
と VCSEL-ROS(2400dpi)によるそれとの比較
Comparison of the printed images between a
conventional ROS (600 dpi) and a VCSEL-ROS
(2400 dpi).
図 18.
18
b) 2400 dpi
世界初の VCSEL 搭載デジタルカラー複写機
“DocuColor 1256 GA”
"DocuColor 1256 GA", world first digital color
multi-function printer utilizing VCSEL.
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富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
特集:デジタルイメージング技術
面発光型半導体レーザアレイ素子を使った露光装置
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筆者紹介
植木 伸明
光システム事業開発部に所属。半導体レーザ素子の研究開発に従事。
電子情報通信学会会員。専門分野:半導体工学
市川 順一
技術開発本部 マーキングプラットフォーム開発部に所属。マーキン
グシステム全般に亘る研究開発に従事。品質工学会会員
池田 周穂
技術開発本部 基盤技術開発部に所属。半導体レーザ駆動回路の研究
開発に従事。電子情報通信学会会員。専門分野:半導体回路
手塚 弘明
モノ作り技術本部 電子デバイス・部品技術部に所属。半導体プロセ
ス技術の開発に従事
太田 明
オフィスプロダクト事業本部 画像制御システム開発部に所属。
レーザ走査光学系の開発に従事。日本画像学会、精密工学会会員
富士ゼロックス テクニカルレポート No.16 2006
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