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守護聖人の名前

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守護聖人の名前
10 月 15 日(土)16:20-17:00【研究発表 1 分科会 C】
忠誠と礼讃―カルパッチョ作「スラヴ人会」絵画連作を例として―
東北大学
森田優子
「スラヴ人会」連作とは、画家ヴィットーレ・カルパッチョが一六世紀初期に手掛けた絵
画連作のことで、彼がヴェネツィアの「スラヴ人会」から依頼を受け制作したものである。
オスマン帝国の隆盛によりダルマティア地方の沿岸部からヴェネツィアへ逃れてきた人々に
よって、一五世紀中頃にこの会は設立された。会館の壁を飾る絵画連作は九作品からなり、
今日も「スラヴ人会」会館にある。
「スラヴ人会」の守護聖人はゲオルギウス、トリフォニウ
ス、ヒエロニムスであり、作品にも各聖人の逸話が描かれている。先行研究においては、連
作にその姿が投影されていると考えられる人物についてさまざまに論じられてきた。例えば、
研究者ジェンティーリは「スラヴ人会」に聖遺物を寄贈したパオロ・ヴァッラレッソなる人
物について調査し、聖ゲオルギウスを扱った物語画の資金を出した依頼主であり、作品にも
影響を及ぼしているとする。また、連作のほかの聖人を描いた作品ついても、投影されてい
ると考えられる人物の名前が挙がっている。
しかし、
「スラヴ人会」自体と連作の関係が論じられることは、これまでほとんどなかった
といってよい。ゲオルギウスやヒエロニムスといった聖人については会員たちにも馴染みの
聖人であり、
「スラヴ人会」に描かれた理由も納得できる。しかし、アウグスティヌスが描か
れている理由について納得のいく説明ができているとは言い難く、そもそもなぜこの聖人が
大きく扱われるのか問われてはこなかった。同主題の作品と比較しても、この作品がたんに
主題の流行に沿って描かれたわけではないことがわかる。
「スラヴ人会」絵画連作に描かれた
アウグスティヌスの書斎の細部を見ると、画家がこの主題の中心について考慮していたこと
は明らかである。
「スラヴ人会」会員の出身地はダルマティア地方だが、作品には彼らの故郷の光景や風俗
はほとんど描かれていない。これはなぜか。会員たちの出身地を見てみると、北はイストリ
アから、南はコトル湾にいたる幅広い地域であり、いわゆるヴェネツィア文化圏であると言
える。そのため、これまでの研究において、無条件にヴェネツィア美術の中で想定されるよ
うな鑑者・注文主の枠内で「スラヴ人会」の会員たちを捉えてきたのではないだろうか。こ
うした暗黙の前提を取り払って作品を眺めると、様相は一変する。会員たちの多様性をもと
に、連作に選ばれた主題を考察すると、漠然とした聖人伝の絵画連作と思えていたものが別
の趣旨を伝えていると見えてくるのである。つまり、会員たちを内実通りヴェネツィア社会
における他者としてとらえ、連作にもかれらの視線が影響しているという視点である。こう
した視点は、先行研究において看過されてきたといえよう。
「スラヴ人会」絵画連作には、
「他
者」としてヴェネツィア社会を見たさいの忠誠と称賛が投影されていたのである。
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