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リバースモーゲージ普及に向けて

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リバースモーゲージ普及に向けて
JRI news release
金融レポートNo.2007-3
リバースモーゲージ普及に向けて
∼官民連携のリスクマネジメントで市場創造を∼
2008年3月12日
株式会社 日本総合研究所
調査部 金融ビジネス調査グループ
http://www.jri.co.jp/
*本資料は、金融記者クラブ、財政研究会、経済研究会 にて配布しております。
(会社概要)
株式会社 日本総合研究所は、三井住友フィナンシャルグループのグループIT会社であり、
情報システム・コンサルティング・シンクタンクの3機能により顧客価値創造を目指す「知識
エンジニアリング企業」です。システムの企画・構築、アウトソーシングサービスの提供に加
え、内外経済の調査分析・政策提言等の発信、経営戦略・行政改革等のコンサルティング活
動、新たな事業の創出を行うインキュベーション活動など、多岐にわたる企業活動を展開して
おります。
(ご案内)
当社は、主として三井住友フィナンシャルグループ関連企業以外のお客さまに向けたITソ
リューション提供力の一層の強化を図るため、「お客さま向けIT事業」に特化する100%子会
社「株式会社日本総研ソリューションズ」を、会社分割により2006年7月に設立いたしま
した。
名 称:株式会社 日本総合研究所(http//www.jri.co.jp)
創 立:1969年2月20日
資本金:100億円
従業員:1,600名 連結 4,400名
社 長:木本 泰行
理事長:門脇 英晴
東京本社:〒102-0082 東京都千代田区一番町16番
大阪本社:〒550-0013 大阪市西区新町1丁目5番8号
TEL 03-3288-4700(代)
TEL 06-6534-5111(代)
本件に関する照会等は調査部・星あて(Tel:03-3288-5053)お願いいたします。
要
旨
1.潜在ニーズが高まるリバースモーゲージ市場
近年、経済環境が悪化するなか、わが国の高齢者世帯では恒常的な日常生活費の不足に
加え、入院や介護施設入居・在宅介護といった不測の事態に対する備えを確保することが
困難なケースも少なくない。もっとも、高齢者世帯の約8割は住宅を所有していることか
ら、多くの場合、リバースモーゲージの利用によって、そのような経済的な困難を解消す
ることが可能である。今後を展望しても、老後資金不足が懸念される高齢者は一段と増加
すると見込まれ、リバースモーゲージの必要性は、低所得層のみならず、下位中間層など
保有金融資産の少ない世帯を中心に高まる公算が大きい。
しかしながら、今日のわが国におけるリバースモーゲージの普及度合いをみると、国や
一部の地方自治体のほか、少数の金融機関によって提供されているにすぎない。サービス
内容は限定的なうえ、サービスの提供対象者も都市部居住者や高額の住宅資産保有者など
にとどまっている。
2.連邦政府によるリスクマネジメントが米市場を拡大
翻って、リバースモーゲージの先進国といわれる米国をみると、80 年代半ばまでは、長
生きリスク、金利上昇リスク、評価額下落リスクといった、リバースモーゲージ特有の事
業リスクを十分に管理できなかったため、事業として普及せず、高齢者が必ずしも利用で
きなかった。こうした状況を打開するため、連邦政府は、民間金融機関がサービスを提供
する一方、住宅都市開発省を中心とする政府関連機関が一元的に事業リスクをマネジメン
トしサービス提供企業をサポートするといった官民連携のシステムを整備した。同システ
ムでは政府関連機関が複数のヘッジ手法を用いて事業リスクを全面的にヘッジすることか
ら、貸出機関がリスク管理に係るコストを節減できるうえにほぼ全ての事業リスクを回避
できるため、民間サイドでも積極的に利用者拡大が図られた。こうした取組を経て、米国
のリバースモーゲージ市場は着実に拡大した。
3.わが国でもリスクマネジメントで市場創造を
わが国では、老後資金に不安を抱える高齢者の増加に伴いリバースモーゲージの必要性
が一層高まると見込まれるなか、リバースモーゲージの普及は喫緊の課題であり、事業化
の阻害要因となっているリスクのマネジメント体制を早急に整備する必要がある。そうし
てみると、米国における取組は、同国において住宅市場が変調を来しており今後システム
の見直される可能性があるものの、未だリバースモーゲージ市場が同国の数百分の一にす
ぎないわが国にとって大きな示唆になろう。具体的には、現行の国の制度にサービス提供
者として民間金融機関を取り込むとともに、政府機関の下にそれらの債権を集約して一元
的にマネジメントすることが必要である。もっとも、少子高齢化の進展を背景に住宅市場
の伸び悩みから不動産価格が低迷する可能性は否めず、融資限度額に対する評価額の掛け
目を低くする、定期的に評価額を見直すといったこれまでの手法も継続すべきである。
1
1.わが国の現状
(1)増大する老後資金不足への不安
近年、公的年金受給額の伸び悩みや社会保障負担の増加など、高齢者を取り巻く経済環
境が悪化するなか、恒常的な日常生活費の不足に加え、入院や介護施設入居・在宅介護と
いった不測の事態に対する備えを確保することも困難な高齢者世帯が増加している。多く
の場合、生活資金の不足や臨時支出は、高齢者が保有する預貯金などの金融資産の取り崩
しによって補てんされているのが実情である。
もっとも、こうした方法での生活費の補てんでは、将来、金融資産が底をつき、生活費
を賄うことが困難になる懸念は否定できない。例えば、世帯主が 65 歳の無職の夫婦のみ世
帯では、物価水準および公的年金の受給水準を現在と同一と仮定しても、生活資金の年間
不足額は 84 万円、生涯に亘る不足額は 1,680 万円と試算される(図表1)
。すなわち、老後
を不足なく生活するには、公的年金などの収入のほかに、最低でも約 1,700 万円の金融資産
が必要となる。しかしながら、世帯主の年齢が 65 歳以上の高齢者世帯における貯蓄残高の
分布状況をみると、過半数の世帯で 1,500 万円未満となっており、収入と保有金融資産のみ
で生活費を賄うことできる高齢者世帯は半数程度にすぎない(図表2)
。
(図表1) 高齢者世帯(無職)における老後資金の不足額
年間の不足額:4.5 万円(毎月の不足分)×12 カ月+30 万円(平均臨時支出)=84 万円
生涯に亘る不足額:84 万円×20 年(65 歳における平均余命)=1,680 万円
※物価水準および公的年金の受給水準を現在と同一と仮定、世帯主が 65 歳の高齢者世帯を想定し、家計
調査を基に日本総合研究所が試算。
※臨時支出:冷蔵庫、テレビ、洗濯機などの家電の購入費、自家用自動車の維持にかかる費用、住宅補
修(建具、水回り、光熱設備などの補修)にかかる費用など
(図表2) 貯蓄残高別の世帯分布
必要とされる老後の最低金融資産額(1,700万円)
(%)
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
金融資産のみでは将来の生活費に不足が生じる可能性大
∼
150
150
∼
300
300
∼
450
450
∼
600
600
∼
750
750
∼
900
900 1,200 1,500 2,000 3,000 4,000(万円)
∼
∼
∼
∼
∼
∼
1,200 1,500 2,000 3,000 4,000
貯蓄残高
(資料)総務省「全国消費実態調査(2004 年)
」を基に日本総合研究所作成
(注)世帯主 65 歳以上、配偶者 60 歳以上の無職の世帯
2
(2)高まるリバースモーゲージの必要性
このように老後資金不足が懸念される高齢者世帯が増加するなか、高齢者の資金調達手
段としてリバースモーゲージが注目されている。リバースモーゲージとは、債務者は契約
終了まで担保物件に居住できる一方、金融機関は居住用不動産を担保にその評価額を基準
に融資限度額を設定し、契約期間中に一括あるいは分割して資金を貸し出し、契約終了時
に担保物件を売却し、債権を一括清算、回収する金融サービスである。資産価値のある住
宅に居住しているものの収入や保有する金融資産の取り崩しでは老後資金が不足する高齢
者世帯にとっては、有効な資産活用法である。
老後資金不足が懸念される高齢者世帯においても約8割は住宅を所有している。そのう
え、貯蓄残高が 150 万円未満の低額金融資産世帯でも保有する住宅および宅地の評価額は
平均 1,800 万円以上と、生涯に亘って不足すると見込まれる金額を上回っている。すなわち、
低所得・低額金融資産世帯でも、リバースモーゲージを活用することによって経済的な困
難を解消することが可能である(図表3)
。
今後を展望しても、老後資金に不安を抱く高齢者は一段と増加すると見込まれるなか、
住宅資産を金融資産(キャッシュフロー)に変換することができるリバースモーゲージの
必要性は、低所得層のみならず、下位中間層など保有金融資産の少ない世帯を中心に高ま
る公算が大きい。
(図表3) リバースモーゲージの潜在需要
90
9,000
78
7,000
(万円)
80
90
94
90
81
95
(%)
100
96
95
92
80
69
60
住宅・土地資産額(左目盛)
持ち家率(右目盛)
5,000
40
3,000
20
1,000
0
∼
150
150
∼
300
300
∼
450
450
∼
600
600
∼
750
750 900 1,200 1,500 2,000 3,0004,000(万円)
∼
∼
∼
∼
∼
∼
∼
900 1,200 1,500 2,000 3,000 4,000
貯蓄残高階層
リバースモー
ゲージの利用
により生活費
の不足を解消
できる高齢者
世帯(注2)
37%
現在の貯蓄残
高で老後の生
活資金を賄う
ことが可能な
高齢者世帯
54%
(資料)総務省「全国消費実態調査(2004 年)
」および「家計調査」を基に日本総合研究所作成
(注1)世帯主 65 歳以上、配偶者 60 歳以上の無職の世帯
(注2)世帯主の年齢階層ごとの平均余命と預貯金の平均取り崩し額から生活費の不足が見込まれる世帯
3
割合を算出し、それに夫婦のみ世帯の平均持ち家率を乗じた
(3)わが国の既存サービスの利用者は限定的
しかしながら、その必要性が高まっているにもかかわらず、現在、リバースモーゲージ
は、少数の公的機関や民間金融機関によって提供されているにとどまり、本サービスを必
要とする高齢者が広く活用する状況には未だ至っていないのが実情である(図表4)
。
公的機関のサービスをみると、低所得者(住民税非課税)に対する生活資金の補てんを
目的としているものの、利用資格として所有する土地の評価額がおおむね 1,500 万円以上で
あり、実際に利用できる高齢者は限定される。2007 年7月における各地域の平均所有面積
と住宅地価から算出した土地評価額でみると、
1,500 万円以上の地域は都市部に限定される。
低所得者や中間層における住宅土地資産額を勘案すると、現行サービスで老後の資金不足
を解消できる世帯は多くない。さらに、内容をみても、資金使途が福祉や医療に限定され
ているサービスが多いほか、融資の途中打ち切りや住宅からの退居を求められるケースも
あるなど、必ずしも使い勝手が良くない。
一方、民間金融機関によるサービスは、公的サービスとは異なり、高齢者用住宅へのリ
フォームや住み替え、旅行、趣味、教育・娯楽などに充てる、いわゆる余裕資金の提供を
主な目的とし、おおむね東京、名古屋、大阪といった大都市圏で提供されている。対象条
件をみると、担保物件を土地付き戸建てに限定し、その土地の評価額を 2,000 万∼4,000 万
円以上とする金融機関が多い。さらに、運用資産残高が数千万円以上の既存の顧客、ある
いは遺言信託契約者など、利用対象を高額資産の保有者に限定する金融機関もある。この
ように、民間金融機関のサービスは、大都市圏の上位中間層やアッパー・ミドルの一部を
対象に実施されている。
(図表4) 主な利用対象者の範囲
超 富 裕 層
富 裕 層
ア ッパ ー
ミドル
民 間 サ ー ビ ス
中 間 層
公 的 サ ー ビ ス
リ バ ー ス モ ー ゲ ー ジ を
必 要 とす る 高 齢 者
低 所 得 者
(住 民 税 非 課 税 )
(資料)日本総合研究所作成
4
(4)限定的なサービスの背景に事業リスクの存在
わが国においてリバースモーゲージが普及していない背景には、次のような事業化を阻
害する要因の存在が挙げられる。
リバースモーゲージでは、一般のローンと異なり、事業開始から長期間、貸出機関は融
資にかかる運転資金が流出する一方で、利用者の死亡時まで債権の回収が進まない。この
ため、運転資金が確保できず、新たな融資が実施できない事態に陥るばかりか、収支バラ
ンスが大きく崩れ、事業が維持できなくなるおそれがある。
そのうえ、図表5に示した通り、リバースモーゲージには特有の三つのリスクがある。
第1は、借り手が想定以上に長生きすることによって、存命中に元本と利息を合わせた融
資総額が担保不動産の評価額に達するリスクである(図表5の①)
。第2は、融資期間中に
金利が上昇し、融資総額が契約終了(借り手死亡)前に担保不動産の評価額に達するリス
クである(図表5の②)
。第3は、担保不動産の評価額が下落し、契約終了時に融資総額が
担保評価額を上回るリスクである(図表5の③)
。すなわち、これらのリスクが発生した場
合、貸出機関サイドには損失が発生することとなる。
こうしたリスクをマネジメントする体制がないため、個々の貸出機関は、対象不動産を
高額資産に限定し評価額に対する掛け目を低く設定するとともに、1∼3年ごとに定期的
に評価額を見直し融資総額が評価額を上回った時点で融資を打ち切り融資総額全額の返済
を求めるなど、借り手がリスクを負担する方法をとっている。
(図表5) リバースモーゲージに特有の三つのリスク
(金額)
②金利上昇リスク
融資総額(元利)
②
①
担保不動産評価額
③
③評価額下落リスク
契約開始
T0
契約終了時 ①長生きリスク
T1’
T1
(資料)内閣府資料を基に日本総合研究所作成
5
(時間)
2.米国の動向
(1)政府が一元的にリスクマネジメントする米国
翻って、米国をみると、80 年代までは、現在のわが国と同様に、必要性が高まっていた
にもかかわらず、事業リスクが阻害要因となってリバースモーゲージの事業化は進まなか
った。そうした状況を打開するため、連邦政府は、民間金融機関がサービスを提供する一
方、住宅都市開発省を中心とする政府関連機関が一元的にリスクをマネジメントしサービ
ス提供企業をサポートする官民連携のシステム Home Equity Conversion Mortgage(HECM)を
整備した。HECM では政府関連機関が複数のヘッジ手法を用いて事業リスクを全面的にヘ
ッジすることから、貸出機関がリスク管理に係るコストを節減できるうえにほぼ全ての事
業リスクを回避できるため、民間サイドでも積極的に利用者拡大が図られた。
もっとも、このようなシステムにおいては、デフォルトの危険性があるにもかかわらず
融資契約を締結するなど、貸出機関のモラルハザードが招来されかねない。HECM では、
こうしたモラルハザードを防止するため、貸出機関の経営基盤や融資状況のほか、個々の
融資案件についても徹底した管理が実施されている。
現在、HECM でとられているヘッジ手法には、住宅都市開発省傘下の連邦住宅庁(FHA)
による支払保険と、政府支援機関である連邦住宅抵当公庫(ファニーメイ)による債権買
取制度がある。このほか、新たなヘッジ手法として、08 年から同省傘下の政府抵当金庫(ジ
ニーメイ)の下でリバースモーゲージ債権の証券化が実施されることが決定した(図表7)
。
それぞれのヘッジ手法の概要は次の通り。
○支払保険(FHA 保険)
FHA 保険は通常住宅ローンの利用者の信用を保証する制度であるものの、HECM では、
長生き、金利上昇、あるいは評価額下落で生じる担保割れによる損失から貸出機関を保護
する役割を担っている。
HECM の全債権に FHA 保険が付いており、
担保割れした場合には、
同保険から担保割れで生じた損失、すなわち融資総額と当初設定された融資限度額の差額
が貸出機関に支給される。もっとも、保険のカバー範囲は地域ごとに設定されている融資
上限額までとなっているため、上限額を超えた部分は貸出機関の負担となる。なお、当保
険の適用を受ける場合は、担保割れとなる前に住宅都市開発省に申請する必要がある。こ
のほか、HECM 独自の保証として、利用者に対して貸出機関が倒産や資金不足に陥った場
合でも約定通り融資が続行される。
○債権買取制度
ファニーメイは利息分を含む買取日までの融資残高に FHA 保険料などの立替金額を加算
した金額でリバースモーゲージ債権を買い取るため、貸出機関はそれまでの融資資金全額
を回収し、それを新たな融資資金として活用することができる。さらに、買取により当該
案件の全ての権限がファニーメイに移管するため、貸出機関は資金調達のみならず、間接
的に長生き、金利上昇、評価額下落によって生じる損失も回避できる。一方、ファニーメ
6
イは買い取った債権が担保割れしても、上限額の範囲内であれば、上述の FHA 保険を利用
することで損失をカバーできる。なお、ファニーメイが買い取る債権は適用金利が変動金
利の債権のみである。
○債権の証券化
一般に、住宅ローンの証券化には、i)ファニーメイが買い取った債権を証券化し発行する
買取型と、ii)貸出機関自らが証券を発行する一方、保険料をジニーメイに支払いジニーメイ
がプールされた保険料を基に証券の投資家への元利払いを保証する保証型がある。HECM
では、保証型の証券化のみが実施される予定である。もっとも、一般の住宅ローン担保証
券と異なり、CDO など派生商品は組成されず、一次証券化にとどめられることとなってい
る。こうした保証型の証券化によって、少ないコストで市場から資金を調達できるため、
貸出機関は、長生き、金利上昇、あるいは評価額下落による損失をカバーすることができ
るうえ、原債権のデフォルトによる配当の不履行の回避も可能となる。
これまでは、住宅価格の上昇を背景にした保険金の十分な積み増しや買取資金の確保が
可能だったことから、上記システムによって、事業リスクを十分にカバーすることができ
た。しかしながら、現行のリスクマネジメント体制は堅調な住宅市況を想定して設計され
ているため、全米で住宅価格の下落傾向が持続すると見込まれるなか、一般の住宅ローン
のみならずリバースモーゲージにおいてもデフォルトが増加することによって、政府によ
るリスク負担が増加し、FHA 保険やファニーメイによる債権買取が維持できないおそれが
あるほか、予定されている債権の証券化が遅れる、あるいは見送られる可能性がある。こ
うしたことを踏まえると、今後、政府関連機関によるリスク負担のあり方やヘッジ手法に
ついて見直される公算が大きい。
(図表6) HECM におけるリスクヘッジシステム
FHA
ジニーメイ
住宅都市開発省
保険
FHA保険
支払保証
保険
利
用
者
融資
返済
担保割保証 貸H
出E
機C
関M
債権買取
保険料
HECM証券発行
購入代金
買取代金
債権買取制度
ファニーメイ
(資料)日本総合研究所作成
7
配当(元利)保証
投
資
家
HECM債権の証券化
(2)リスクマネジメント体制が奏効し、リバースモーゲージ市場が成長
政府関連機関の下での一元的なリスクマネジメントが奏効し、リバースモーゲージは市
場として着実に成長してきた。住宅都市開発省の資料をみると、サービス開始時には 195
件にすぎなかった HECM の新規加入件数は、住宅価格の大幅な上昇が追い風となった部分
はあるものの、02 年度に1万件を超えて以降急増し、07 度には 107,558 件に達した(図表
7)
。65 歳以上の住宅所有者に占める HECM の加入者の割合も、97 年度までの 1,000 人中
1人未満から、05 年度には 1,000 人中7人まで増加している。民間機関が提供する他のサ
ービスを含めると、米国におけるリバースモーゲージの加入総数は、すでに累積で約 40 万
件、住宅所有者に占める利用者数は 1,000 人中 15 人前後に達したと推計される。さらに、
加入者の居住地域にも広がりがみられ、不動産価格が比較的高いカリフォルニアやフロリ
ダなどばかりでなく、アラスカ、テキサス、ネバダなどでも広く利用されている。
こうした状況下、リバースモーゲージをビジネスの柱の一つに位置づけようとする民間
金融機関もでてきた。HECM のシステムを参考に金融機関独自のサービスプランが相次い
で開発されているほか、リバースモーゲージ事業に参入する金融機関も年々増加している。
例えば、HECM にサービス提供機関として参画する金融機関はサービス開始時の4社から
07 年には約 1,500 社まで増加した。
今後についても、高齢者世帯の増加が見込まれるうえに、未だ利用者が住宅を保有する
高齢者世帯の1%程度であることを勘案すると、米国のリバースモーゲージ市場がさらに
拡大する余地は大きいとみられる。
(図表7) HECM の新規加入者数の推移
(件)
120,000
(人)
100,000
80,000
新規加入件数
8
住宅所有者1,000人当たり加入者(累計 )
7
6
1990∼2007年度 延べ加入件数=346,212件
5
60,000
4
3
40,000
2
20,000
1
0
0
1990 91
92
93
94
95
96
97
98
99 2000 01
02
03
04
05
06
07
(年度)
(資料)住宅都市開発省資料および 2005 年国勢調査を基に日本総合研究所作成
8
3.わが国への示唆
一元的なリスクマネジメントで市場創造を
わが国では、老後資金に不安を抱える高齢者の増加に伴いリバースモーゲージの必要性
が一層高まると見込まれることから、リバースモーゲージの普及は喫緊の課題であり、事
業化の阻害要因となっているリスクのマネジメント体制を早急に整備する必要がある。そ
うしてみると、米国における一元的なリスクマネジメントは、同国において住宅市場が変
調を来すなか今後システムの見直される可能性があるものの、未だリバースモーゲージ市
場が同国の数百分の一にすぎないわが国にとって大きな示唆になろう。
具体的には、以下の点に留意しつつ、全国展開している国の制度にサービス提供者とし
て民間金融機関を取り込むとともに、政府機関の下にそれらの債権を集約して一元的にマ
ネジメントすることが必要である。
(図表8)。
まず、支払保険では、担保割れリスクのほか、金融機関の倒産リスクもカバーすること
を勘案すると、金融機関による保険料の一部負担も検討すべきである。
次に、債権買取制度については、貸出機関のモラルハザード防止のためには、買い取る
債権のみならず、買取先の金融機関についても限定する必要がある。
一方、債権の証券化については、債権数が極めて少ない現状を踏まえると、米国で採用
された保証型のみならず、買取機関が金融機関から買い取った債権から証券を組成する買
取型の証券化も導入すべきである。もっとも、昨今の世界的な証券化市場の混乱を勘案す
ると、暫く、導入の時期を見定める必要がある。
加えて、少子高齢化の進展を背景に住宅市場の伸び悩みから不動産価格が低迷する可能
性は否めず、融資限度額に対する評価額の掛け目を低くする、定期的に評価額を見直すと
いったこれまでの手法も継続すべきである。
(図表8) リスクマネジメント体制整備の課題
マネジメント方法
支払保険
債権買取制度
債権の証券化
導入にあたっての検討事項
・担保割れリスクのみならず、金融機関のリスクもカバーすることを勘案すると、金
融機関による保険料の一部負担も検討すべき。
・全国に幅広くサービスを提供するには預金量の裏付けのある銀行のみならず、住宅
金融会社やローン会社を取り込む必要があり、そのためには、それら企業の資金調達
をサポートする債権買取制度は必要不可欠。
・買取にあたっては、貸し手のモラルハザードを防止するために、買い取る債権を限
定する必要あり。買取の基準としては、i)預金残高に占めるリバースモーゲージ融資
残高が一定割合を超えた金融機関の持つ債権、ii) リバースモーゲージ融資残高に占
める回収金額が一定割合以下の金融機関の持つ債権、iii)融資枠に対する融資残高の比
率が高い(例えば 90%以上)の債権、など。
・リバースモーゲージ債権の証券化を視野に入れ、体制を整備する必要あり。
・単独で証券を発行できない金融機関があるとみられるため、米国で用いられている
貸出機関の発行する証券の購入者に対して保証機関が元利の支払いを保証する方法
のみならず、債権買取制度で買い取った債権を原債権として買取機関が証券を発行す
る方法も導入すべき。
・証券化は一次証券化までとし、原債権の組成状況の明示が必須。
(資料)日本総合研究所作成
9
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